JP2015232558A - 被検物質測定fret分子センサー - Google Patents

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Abstract

【課題】 従来の一分子型(分子内型)センサーと比較して、被検物質結合部の配列の長さや被検物質が被検物質結合部に結合して生じる構造変化の影響を受けることなく、かつ極めて感度を向上させた、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用して被検物質を測定するFRET分子センサーを提供する。
【解決手段】 蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用して被検物質を測定するFRET分子センサーであって、蛍光物質および被検物質結合部を有する蛍光被検物質センサー、ならびに被検物質と競合して被検物質結合部と結合ないし解離する蛍光競合物質を備え、かつ蛍光物質および蛍光競合物質が引き起こすFRETを利用する。
【選択図】 図13

Description

本発明は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用して被検物質を測定するFRET分子センサー、すなわち、被検物質測定FRET分子センサーに関し、特に、蛍光物質および被検物質結合部を有する蛍光被検物質センサー、ならびに被検物質と競合して被検物質結合部と結合ないし解離する蛍光競合物質を備え、かつ蛍光物質および蛍光競合物質が引き起こすFRETを利用する被検物質測定FRET分子センサーに関する。
近年、創薬分野、医療分野、あるいは食品分野などのポストゲノム関連技術分野において、被検物質を定量するためのタンパク質分子センサーの開発が盛んに行われている。そのようなタンパク質分子センサーとして、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用した分子センサーも多数開発されている。FRETとは、蛍光エネルギー供与体であるドナーチャネル(ドナー分子あるいはドナー蛍光分子)および蛍光エネルギー受容体であるアクセプターチャネル(アクセプター分子あるいはアクセプター蛍光分子)という2つの蛍光物質が近接した位置に存在する場合において、ドナーチャネルを光励起することによりそのエネルギーがアクセプターチャネルへ無輻射的に移動し、アクセプターチャネルが発光する非放射的なエネルギー移動現象をいう。
FRETを利用した分子センサーとして、従来、ドナーチャネルおよびアクセプターチャネルが立体的に分離されている二分子型(分子間型)の分子センサーとドナーチャネルおよびアクセプターチャネルが立体的に一体化されている一分子型(分子内型)の分子センサーに大別される(特許文献1)。二分子型(分子間型)センサーは主に分子間相互作用を検出するものであり、一分子型(分子内型)センサーは主に分子の構造変化(FRETに影響を及ぼすような構造変化)を検出するものである。一分子型(分子内型)センサーの場合、ドナーチャネルとアクセプターチャネルの量が原則として同じになることから、アクセプター蛍光タンパク質検出チャネルへの漏れ込みやアクセプター蛍光タンパク質のFRETによらない直接励起などの二分子型(分子間型)センサーにおける問題点が改善され、FRETの効率の増減は、ドナーチャネルとアクセプターチャネルの蛍光量比をとるだけで十分評価することができるものであることから、現在のFRETを利用した分子センサーの多くは一分子型(分子内型)センサーとなっている。
従来のFRETを利用した分子センサーとしては、例えば、ドナーチャネル、複数のアクセプターチャネル、およびドナーチャネルとアクセプターチャネルとの間に連結され構造変化領域とを有する分子センサー(特許文献2)や、ドナーチャネルが結合している化合物、アクセプターチャネルが結合している化合物、ならびにドナーチャネルおよびアクセプターチャネルのいずれも結合していない化合物を共重合させた分子センサー(特許文献3)、ドナー蛍光タンパク質と、アクセプター蛍光分子と、ドナー蛍光タンパク質とアクセプター蛍光分子との間に接続され、特異的生体分子認識領域とを含む分子センサー(特許文献4)を挙げることができる。また、本発明者らは、以前、FRETを利用した一分子型(分子内型)センサーである細胞内イノシトール1,4,5三リン酸(IP)測定用分子センサーについて特許出願を行い、特許取得している(特許文献5)。
国際公開第2012/043477号パンフレット 特開2010−233491号公報 特開2011−201943号公報 特開2014−055777号公報 特許第4803976号公報
しかしながら、従来の二分子型(分子間型)センサーはもちろんのこと、一分子型(分子内型)センサーであっても、ドナーチャネルとアクセプターチャネルとの間に存在する被検物質結合部が長鎖の配列を有する場合や、被検物質が被検物質結合部に結合して生じる構造変化の程度や態様などによっては、アクセプター蛍光タンパク質検出チャネルへ漏れ込み、アクセプター蛍光タンパク質のFRETによらない直接励起、あるいはFRETに影響を及ぼさないような構造変化の感知不能などの問題が発生してしまい、結果としてセンサーの役割を果たし得ないものも存在していた。
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、従来の一分子型(分子内型)センサーと比較して、被検物質結合部の配列の長さや被検物質が被検物質結合部に結合して生じる構造変化の影響を受けることなく、かつ極めて感度を向上させた、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用して被検物質を測定するFRET分子センサーを提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意研究の結果、蛍光物質および被検物質結合部を有する蛍光被検物質センサー、ならびに被検物質と競合して被検物質結合部と結合ないし解離する蛍光競合物質、詳述すれば、ドナーチャネルまたはアクセプターチャネルのいずれか一方である蛍光物質および被検物質結合部を有し、かつ前記蛍光物質がドナーチャネルの場合はアクセプターチャネルを有さず前記蛍光物質がアクセプターチャネルの場合はドナーチャネルを有さない蛍光被検物質センサー、ならびに被検物質と競合して被検物質結合部と結合ないし解離する蛍光競合物質であって蛍光被検物質センサーがドナーチャネルを有する場合はアクセプターチャネルであり、蛍光被検物質センサーがアクセプターチャネルを有する場合はドナーチャネルである前記蛍光競合物質とを備えたFRET分子センサーとすることで、センサーの態様は二分子型(分子間型)に包含され得るものの、蛍光競合物質が被検物質結合部に結合した際、被検物質結合部の配列の長さや被検物質が被検物質結合部に結合して生じる構造変化の影響を受けることなくドナーチャネルとアクセプターチャネルとが近接でき、その結果、従来の一分子型(分子内型)センサーと比較して、センサーとしての感度が極めて向上することを見出し、下記の各発明を完成した。
(1)蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用して被検物質を測定するFRET分子センサーであって、蛍光物質および被検物質結合部を有する蛍光被検物質センサー、ならびに被検物質と競合して前記被検物質結合部と結合ないし解離する蛍光競合物質を備え、かつ前記蛍光物質および前記蛍光競合物質が引き起こすFRETを利用する前記FRET分子センサー。
(2)蛍光被検物質センサーが、前記蛍光物質がドナーチャネルの場合はアクセプターチャネルを有さず前記蛍光物質がアクセプターチャネルの場合はドナーチャネルを有さない前記蛍光被検物質センサーであり、ならびに蛍光競合物質が、蛍光被検物質センサーがドナーチャネルを有する場合はアクセプターチャネルであり蛍光被検物質センサーがアクセプターチャネルを有する場合はドナーチャネルである前記蛍光競合物質である、(1)に記載のFRET分子センサー。
(3)蛍光被検物質センサーが、ドナーチャネルである蛍光物質および被検物質結合部を有する前記蛍光被検物質センサーであり、ならびに蛍光競合物質がアクセプターチャネルである前記蛍光競合物質である、(1)または(2)に記載のFRET分子センサー。
(4)蛍光物質が蛍光タンパク質またはタンパク質蛍光標識物質である、(1)から(3)のいずれか一項に記載のFRET分子センサー。
(5)被検物質結合部がイノシトール1,4,5三リン酸(IP)受容体のリガンド結合部であり、蛍光競合物質が9−[5−Deoxy−5−[N−[[1−[5−[[3’,6’−dihydroxy−3−oxospiro(isobenzofuran−1,9’−xanthen)−5−yl]amino]thioxomethyl]amino]propyl]−1H−1,2,3−triazol−4−yl]−(3,4−di−O−phosphoryl−α−D−glucopyranosyl)−2−O−phosphoryl−β−D−ribo−pentofuranosyl]adenine(F−ADA)または(2R,3R,4S)−4−O−phosphoryl−2−[N−[[1−[5−[[3’,6’−dihydroxy−3−oxospiro(isobenzofuran−1,9’−xanthen)−5−yl]amino]thioxomethyl]amino]propyl]−1H−1,2,3−triazol−4−yl]methyl−tetrahydrofuran−3−yl−3,4−di−O−phosphoryl−α−D−glucopyranoside(F−LL)である、(1)から(4)のいずれか一項に記載のFRET分子センサー。
(6)被検物質結合部が抗体のパラトープ含有ポリペプチド部分であって、蛍光競合物質が前記抗体のパラトープ含有ポリペプチド部分と特異的に結合ないし解離しかつ蛍光修飾された物質である、(1)から(4)のいずれか一項に記載のFRET分子センサー。
(7)蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用して被検物質を測定するFRET分子センサーであって、蛍光物質および被検物質結合部を有して担体に固定化された蛍光被検物質センサー、ならびに被検物質と競合して前記被検物質結合部と結合ないし解離する蛍光競合物質を備え、かつ前記蛍光物質および前記蛍光競合物質が引き起こすFRETを利用する担体固定化被検物質測定FRET分子センサー。
(8)(1)から(6)のいずれか一項に記載の被検物質測定FRET分子センサーまたは(7)の担体固定化被検物質測定FRET分子センサーと対象とを接触させる工程と、励起光を照射して生じた蛍光を測定する工程とを有する、蛍光の強度を指標として対象中の被検物質を測定する方法。
(9)9−[5−Deoxy−5−[N−[[1−[5−[[3’,6’−dihydroxy−3−oxospiro(isobenzofuran−1,9’−xanthen)−5−yl]amino]thioxomethyl]amino]propyl]−1H−1,2,3−triazol−4−yl]−(3,4−di−O−phosphoryl−α−D−glucopyranosyl)−2−O−phosphoryl−β−D−ribo−pentofuranosyl]adenine(F−ADA)または(2R,3R,4S)−4−O−phosphoryl−2−[N−[[1−[5−[[3’,6’−dihydroxy−3−oxospiro(isobenzofuran−1,9’−xanthen)−5−yl]amino]thioxomethyl]amino]propyl]−1H−1,2,3−triazol−4−yl]methyl−tetrahydrofuran−3−yl−3,4−di−O−phosphoryl−α−D−glucopyranoside(F−LL)の、(1)または(2)に記載のFRET分子センサーにおける蛍光競合物質としての使用。
本発明に係る被検物質測定FRET分子センサーによれば、被検物質結合部の配列の長さや被検物質が被検物質結合部に結合して生じる構造変化の影響を受けることなく、被検物質を精度高く定量することができ、従って微量の被検物質についても定量することができ、従来のFRETを利用した分子センサーを用いた定量法と比較して極めて感度を向上させた定量法を確立させることができる。
化合物1を出発物質とした化合物2〜7の作成フローを示す図である。 FITCからの化合物12の作成フローを示す図である。 化合物7と化合物12とからのF−ADA(化合物13)の作成フローおよび化合物11と化合物12とからのF−LL(化合物14)の作成フローを示す図である。 化合物2を出発物質とした化合物8〜11の作成フローを示す図である。 細胞内ストア内のCa2+濃度変化を解析することによりIP、F−ADAおよびF−LLのIP受容体を介するCa2+放出の効力を算定した図である。図中、縦軸は算定したCa2+放出の効力を示し、横軸はIP、F−ADAまたはF−LLの濃度を示す。 蛍光IPセンサーLIBRAvIIS(LvIIS)の構成を示す図である。図中、「P」は細胞膜局在シグナルを示し、「ECFP」は青色蛍光タンパク質ECFPを示し、「L1」および「L2」はいずれもリンカーを示し、「IPR2(1−604)with R440Q」はラット2型IP受容体のN末端から1〜604番のアミノ酸配列からなるペプチドであってその配列の440番のアルギニン(R)をグルタミン(Q)へ変異させたペプチドを示し、「Venus」は黄色蛍光タンパク質Venusを示す。 蛍光競合物質F−ADAと蛍光IPセンサーLIBRAvIISの特異性を解析した図である。図中、AaおよびAbの画像は30nMのF−ADAを作用させる前の時点(Bの矢印1の時点)の蛍光像を示す図であり、AcとAdの画像は30nMのF−ADAを作用させた後の時点(Bの矢印3の時点)の蛍光像を示す図であり、Bは蛍光競合物質F−ADAの添加による蛍光変化を示す図であり、Cは細胞を含む領域の蛍光からBG領域の蛍光を引いた場合の蛍光変化を示す図である。BおよびCの縦軸は蛍光強度を示し、横軸は経過時間を示す。また、Dは蛍光比480nm/535nmを示す図であり、Dの縦軸は蛍光比480nm/535nmの値を示し、横軸は経過時間を示す。 蛍光IPセンサーLIBRAvI(LvI)、LIBRAvII(LvII)、LIBRAvIII(LvIII)、LIBRAvN(LvN)、LIBRAvIIS(LvIIS)およびMP−LIBRAvIIS(MP−LvIIS)の構成を示す図である。図中、「P」は細胞膜局在シグナルを示し、「MP」は小胞体局在シグナルを示し、「ECFP」は青色蛍光タンパク質ECFPを示し、「Cerulean」は青色蛍光タンパク質Ceruleanを示し、「L1」、「L1H1」、「L2」および「L2−6」はいずれもリンカーを示し、「IPR1(1−604)」はラット1型IP受容体アミノ酸配列のN末端から1〜604番のアミノ酸配列からなるペプチドを示し、「IPR2(1−604)」はラット2型IP受容体アミノ酸配列のN末端から1〜604番のアミノ酸配列からなるペプチドを示し、「IPR2(1−604)with R440Q」はラット2型IP受容体のN末端から1〜604番のアミノ酸配列からなるペプチドであってその配列の440番のアルギニン(R)をグルタミン(Q)へ変異させたペプチドを示し、「IPR3(1−604)with K507A」はラット3型IP受容体アミノ酸配列のN末端から1〜604番のアミノ酸配列からなるペプチドであってその配列の507番のリシン(K)をアラニン(A)へ変異させたペプチドを示し、「Venus」は黄色蛍光タンパク質Venusを示す。 LIBRAvIISVm(LvIISVm)遺伝子の作成手順を示す図である。図中、「→」はベクター遺伝子の一部を示し、「MT」は膜結合配列を示し、「ECFP」は青色蛍光タンパク質ECFPの配列を示し、「LBD」はIP受容体のリガンド結合部の配列を示し、「Venus」は黄色蛍光タンパク質Venusを示し、「Venus(m)」は無発色タンパク質Venus mutantを示す。 蛍光IPセンサーLIBRAvIISVm(LvIISVm)の構成を示す図である。図中、「P」は細胞膜局在シグナルを示し、「ECFP」は青色蛍光タンパク質ECFPを示し、「L1」および「L2」はリンカーを示し、「IPR2(1−604)with R440Q」はラット2型IP受容体のN末端から1〜604番のアミノ酸配列からなるペプチドであってその配列の440番のアルギニン(R)をグルタミン(Q)へ変異させたペプチドを示し、「Venus mutant」は無発色タンパク質Venus mutantを示す。 F−ADAを作用させた場合の、蛍光IPセンサーLIBRAvI(LvI)、LIBRAvII(LvII)、LIBRAvIII(LvIII)、LIBRAvN(LvN)、LIBRAvIIS(LvIIS)およびMP−LIBRAvIIS(MP−LvIIS)の、480nmの蛍光および535nmの蛍光の蛍光比を示す図である。図中、縦軸は蛍光比480nm/535nmの値を示し、横軸は経過時間を示す。また、図中の「10」および「30」の値ならびに横棒は、それぞれ、作用させたF−ADAの濃度(nM)、およびF−ADAが作用した時間帯を示す。 LIBRAvIISVd(LvIISVd)遺伝子の作成手順を示す図である。図中、「→」はベクター遺伝子の一部を示し、「MT」は膜結合配列を示し、「ECFP」は青色蛍光タンパク質ECFPの配列を示し、「LBD」はIP受容体のリガンド結合部の配列を示し、「Venus」は黄色蛍光タンパク質Venusを示す。 蛍光IPセンサーLIBRAvIISVd(LvIISVd)の構成を示す図である。図中、「P」は細胞膜局在シグナルを示し、「ECFP」は青色蛍光タンパク質ECFPを示し、「L1」はリンカーを示し、「IPR2(1−604)with R440Q」はラット2型IP受容体のN末端から1〜604番のアミノ酸配列からなるペプチドであってその配列の440番のアルギニン(R)をグルタミン(Q)へ変異させたペプチドを示す。 F−ADAを作用させた場合の、蛍光IPセンサーLIBRAvIISVd(LvIISVd)の蛍光強度(上段)ならびに480nmの蛍光および535nmの蛍光の蛍光比(下段)を示す図である。図中、縦軸は蛍光強度(上段)または蛍光比480nm/535nmの値(下段)を示し、横軸は経過時間(上段および下段)を示す。また、図A中の「30」および「100」の値、ならびに横棒は、作用させたF−ADAの濃度(nM)およびF−ADAが作用した時間帯を示す。 F−LLを作用させた場合の、蛍光IPセンサーLIBRAvIISVd(LvIISVd)の蛍光強度(上段)ならびに480nmの蛍光および535nmの蛍光の蛍光比(下段)を示す図である。図中、縦軸は蛍光強度(上段)または蛍光比480nm/535nmの値(下段)を示し、横軸は経過時間(上段および下段)を示す。また、図A中の「30」および「100」の値、ならびに横棒は、作用させたF−LLの濃度(nM)およびF−LLが作用した時間帯を示す。 F−ADAを作用させた後にIPを作用させた場合の、蛍光IPセンサーLIBRAvIISVd(LvIISVd)の蛍光比480nm/535nmを示す図である。図中、縦軸は蛍光比480nm/535nmの値を示し、横軸は経過時間を示す。また、図中の「30」および「100」の値、ならびに横棒は、作用させたF−ADAの濃度(nM)およびF−ADAが作用した時間帯を示し、「10」の値、ならびに横棒は、作用させたIPの濃度(μM)およびIPが作用した時間帯を示す。 F−LLを作用させた後にIPを加えた場合の、蛍光IPセンサーLIBRAvIISVd(LvIISVd)の蛍光比480nm/535nmを示す図である。図中、縦軸は蛍光比480nm/535nmの値を示し、横軸は経過時間を示す。また、図中の「100」の値、ならびに横棒は、作用させたF−LLの濃度(nM)およびF−LLが作用した時間帯を示し、「0.1」、「1」および「10」の値、ならびに横棒は、作用させたIPの濃度(μM)およびIPが作用した時間帯を示す。 cyLIBRAvIISVd(cyLvIISVd)遺伝子の作成手順を示す図である。図中、「ERT」は小胞体結合配列を示し、「HisTag」は6個の連続するヒスチジン(His;H)残基からなる精製用のタグペプチドを示し、「Cerulean」は青色蛍光タンパク質Ceruleanを示し、「LBD」はIP受容体のリガンド結合部の配列を示し、「Venus」は黄色蛍光タンパク質Venusを示し、「ECFP」は青色蛍光タンパク質ECFPの配列を示す。 蛍光IPセンサーcyLIBRAvIISVd(cyLvIISVd)の構成を示す図である。図中、「6H」は6個の連続するヒスチジン(His;H)残基からなる精製用のタグペプチドを示し、「Cerulean」は青色蛍光タンパク質Ceruleanを示し、「L1H1」はリンカーを示し、「IPR2(1−604)with R440Q」はラット2型IP受容体のN末端から1〜604番のアミノ酸配列からなるペプチドであってその配列の440番のアルギニン(R)をグルタミン(Q)へ変異させたペプチドを示す。 蛍光IPセンサーcyLIBRAvIISVd(cyLvIISVd)結合ビーズの蛍光像を示す図(A)、および蛍光IPセンサーcyLIBRAvIISVd(cyLvIISVd)結合ビーズにそれぞれ10nM、30nM、100nMまたは300nMのF−LL、F−ADAまたはFITCを作用させた場合のそれぞれの蛍光変化率を示す図(B、CおよびD)である。図B、CおよびD中、縦軸は蛍光変化率を示し、横軸は濃度(nM)を示す。 F−LLを作用させた後にIPを作用させた場合の、担体固定化蛍光IPセンサーcyLIBRAvIISVd(cyLvIISVd)の蛍光比480nm/535nm(A)および蛍光変化率(B)を示す図である。図中、縦軸は蛍光比480nm/535nmの値を示し、横軸は経過時間を示す。また、図中の「100」の値、ならびに横棒は、作用させたF−LLの濃度(nM)およびF−LLが作用した時間帯を示し、「0.1」、「1」および「10」の値、ならびに横棒は、作用させたIPの濃度(μM)およびIPが作用した時間帯を示す。 OP1−ma(EN)−S遺伝子、OP1−ma(EN)−E遺伝子、およびOP1−ma(EN)−E−S遺伝子の作成手順を示す図である。図中、「→」はベクター遺伝子の一部を示し、「MT」は膜結合遺伝子配列を示し、「FLAG」はFLAGタグの遺伝子配列を示し、「LT」および「LT」はLumioTagの遺伝子配列を示し、「E1」はScaI切断サイトを示し、「E2」はEco47III切断サイトを示し、「1−82−E1−LT−E1−83−140−E2−LT−E2−141−604」、「1−82−E1−LT−E1−83−140−E2−141−604」、「1−82−E1−83−140−E2−LT−E2−141−604」および「1−82−E1−83−140−E2−141−604」はIP受容体のリガンド結合部の改変タンパク質の遺伝子配列を示し、「Hx6」は6個の連続するヒスチジン(His;H)残基からなるタグペプチドの遺伝子配列を示す。 F−ADAを作用させた場合の、蛍光IPセンサーOP1−ma(EN)−S、OP1−ma(EN)−E、およびOP1−ma(EN)−E−Sの蛍光強度(上段)ならびに480nmの蛍光および535nmの蛍光の蛍光比(下段)を示す図である。図中、縦軸は蛍光強度(上段)または蛍光比480nm/535nmの値(下段)を示し、横軸は経過時間(上段および下段)を示す。また、上段図中の白抜きの横棒はDACMが作用した時間帯を示し、黒に塗りつぶした横棒はF−ADAが作用した時間帯を示す。 OP1S−cpC157遺伝子、OP1S−cpC173遺伝子およびOP1S−cpC229遺伝子の作成手順を示す図である。図中、「→」はベクター遺伝子の一部を示し、「MT」は膜結合遺伝子配列を示し、「FLAG」はFLAGタグの遺伝子配列を示し、「E1」はScaI切断サイトを示し、「E2」はEco47III切断サイトを示し、「1−82−E1−83−140−E2−141−604」はIP受容体のリガンド結合部の改変タンパク質の遺伝子配列を示し、「Hx6」は6個の連続するヒスチジン(His;H)残基からなるタグペプチドの遺伝子配列を示し、「cpSECFP157」、「cpSECFP173」および「cpSECFP229」はそれぞれECFPの円順列置換体である蛍光タンパク質cpSECFP157、cpSECFP173、およびcpSECFP229の遺伝子配列を示し、「1−82−cpSECFP157−83−140−E2−141−604」、「1−82−cpSECFP173−83−140−E2−141−604」、および「1−82−cpSECFP229−83−140−E2−141−604」はそれぞれECFPの円順列置換体である蛍光タンパク質cpSECFP157、cpSECFP173、およびcpSECFP229をIP受容体のリガンド結合部の改変タンパク質へ挿入した遺伝子配列を示す。 F−ADAを作用させた場合の、蛍光IPセンサーOP1S−cpC157、OP1S−cpC173、およびOP1S−cpC229の蛍光強度(上段)ならびに480nmの蛍光および535nmの蛍光の蛍光比(下段)を示す図である。図中、縦軸は蛍光強度(上段)または蛍光比480nm/535nmの値(下段)を示し、横軸は経過時間(上段および下段)を示す。また、上段図中の黒に塗りつぶした横棒はF−ADAが作用した時間帯を示す。 蛍光競合物質F−CT2−18および被検物質CT2−18を作用させた場合の、リン酸緩衝液で洗浄したアガロースビーズ結合蛍光ABsII−CT2−18センサーの480nmの蛍光および535nmの蛍光の蛍光比(A)および洗浄しないアガロースビーズ結合蛍光ABsII−CT2−18センサーの480nmの蛍光および535nmの蛍光の蛍光比(B)を示す図である。図中、縦軸は蛍光比480nm/535nmの値を示し、横軸は蛍光競合物質F−CT2−18および被検物質CT2−18の濃度を示す。 DACMでラベルされた抗c−Myc抗体固相化Protein GビーズとFITCでラベルされたc−Mycペプチドとを備えたFRET分子センサーの425nmの励起による480nmと535nmの蛍光比と、これにラベルされていないc−Mycを共存させたときの蛍光比の変化を示す。 DACMでラベルされた抗DYK抗体固相化Protein GビーズとFITCでラベルされたDYKペプチドとを備えたFRET分子センサーの425nmの励起による480nmと535nmの蛍光比と、これにラベルされていないDYKペプチドを共存させたときの蛍光比の変化を示す。 DACMでラベルされた抗IP受容体抗体固相化Ni−NTA錯体化Protein GビーズとFITCでラベルされたHisタグ付ペプチド(DYKペプチド)とを備えたFRET分子センサーの425nmの励起による480nmと535nmの蛍光比と、これにラベルされていないDYKペプチドを共存させたときの蛍光比の変化を示す。 DACMでラベルされたProtein GビーズとFITCでラベルされた抗体とを備えたFRET分子センサーの425nmの励起による480nmと535nmの蛍光比と、これにラベルされていない抗体を共存させたときの蛍光比の変化を示す。
以下、本発明に係る被検物質測定FRET分子センサーについて詳細に説明する。本発明に係る被検物質測定FRET分子センサーは、蛍光物質および被検物質結合部を有する蛍光被検物質センサー、ならびに被検物質と競合して前記被検物質結合部と結合ないし解離する蛍光競合物質を備え、かつ蛍光物質および蛍光競合物質が引き起こすFRETを利用する分子センサーである。
本発明に係る被検物質測定FRET分子センサーは、蛍光被検物質センサーおよび蛍光競合物質という二分子型(分子間型)の分子センサーであって、かつ、蛍光被検物質センサーに含まれる蛍光物質および蛍光競合物質のいずれか一方がドナーチャネル(ドナー分子)であり、他方がアクセプターチャネル(アクセプター分子)であってもよい。すなわちその場合、蛍光物質がドナーチャネルの場合、蛍光被検物質センサーはアクセプターチャネルを有さず、かつ蛍光競合物質はアクセプターチャネルであり、蛍光物質がアクセプターチャネルの場合、蛍光被検物質センサーはドナーチャネルを有さず、かつ蛍光競合物質はドナーチャネルである。なお、本実施例においては、蛍光物質がドナーチャネルであって、蛍光被検物質センサーはアクセプターチャネルを有さず、かつ蛍光競合物質はアクセプターチャネルである事例を示しているが、本発明はこれに限定されない。
本発明における蛍光被検物質センサーが有する「蛍光物質」は、FRETにおけるドナーチャネル(ドナー分子)またはアクセプターチャネル(アクセプター分子)となり得る蛍光物質であれば特に限定されず、そのような蛍光物質としては、例えば、蛍光タンパク質やタンパク質蛍光標識物質を挙げることができる。そのような蛍光タンパク質としては、例えば、CFP、YEP、GFP、RFP、BFP、DsRedなどの蛍光タンパク質を挙げることができ、これら蛍光タンパク質の変異体などを利用してもよい。そのような変異体としては、ECFP、EYFP、EGFP、ERFP、EBFPおよびこれらの円順列置換体(円順列変異体)などを挙げることができる。
また、「タンパク質蛍光標識物質」としては低分子蛍光物質を挙げることができ、例えば、ドナーチャネル(ドナー分子)としての低分子蛍光物質である1,5−IAEDANS、IAANS、MIANSなどのナフタレン誘導体;ピレンマレイミド、ピレンヨードアセタミドなどのピレン誘導体;CPM、DCIA、DACIA、DACM、MDCC、IDCCなどのクマリン誘導体;フルオロセインイソチオシアネート(FITC)、フルオレセインマレイミド、5−ヨードアセタミドフルオレセイン、5−ブロモメチルフルオレセイン、オレゴングリーン488マレイミド、オレゴングリーン488ヨードアセタミドなどのフロレセイン誘導体;アレクサ488マレイミド、アレクサ532マレイミド、アレクサ546マレイミド、アレクサ568マレイミド、アレクサ594マレイミド、アレクサ555マレイミドなどのアレクサ誘導体;BODIPY493/503ブロモメチル、BODIPY499/508マレイミド、BODIPY507/545ヨードアセタミド、BODIPY530/550ヨードアセタミドなどのBODIPY誘導体;テトラメチルローダミンマレイミド、テトラメチルローダミンヨードアセタミド、ローダミンレッドマレイミドなどのローダミン誘導体;テキサスレッドマレイミド、テキサスレッドヨードアセタミドなどのテキサスレッド誘導体;などを挙げることができ、アクセプターチャネル(アクセプター分子)としての低分子蛍光物質であるフルオロセインイソチオシアネート(FITC)、フルオレセインマレイミド、5−ヨードアセタミドフルオレセイン、5−ブロモメチルフルオレセイン、オレゴングリーン488マレイミド、オレゴングリーン488ヨードアセタミドなどのフロレセイン誘導体;アレクサ488マレイミド、アレクサ532マレイミド、アレクサ546マレイミド、アレクサ568マレイミド、アレクサ594マレイミド、アレクサ555マレイミド、アレクサ633マレイミド、アレクサ647マレイミド、アレクサ660マレイミド、アレクサ680マレイミドなどのアレクサ誘導体;BODIPY493/503ブロモメチル、BODIPY499/508マレイミド、BODIPY507/545ヨードアセタミド、BODIPY530/550ヨードアセタミド、BODIPY577/618マレイミド、BODIPY630/650マレイミドなどのBODIPY誘導体;テトラメチルローダミンマレイミド、テトラメチルローダミンヨードアセタミド、ローダミンレッドマレイミドなどのローダミン誘導体;テキサスレッドマレイミド、テキサスレッドヨードアセタミドなどのテキサスレッド誘導体;などを挙げることができる。
本発明における蛍光被検物質センサーが有する「被検物質結合部」とは、被験物質との間で特異的な結合を形成することができる物質又はその一部をいい、例えば、被検物質がイノシトール1,4,5三リン酸(IP)の場合はIP受容体又はそのリガンド結合部、被検物質がアセチルコリンであればアセチルコリン受容体又はそのリガンド結合部、被検物質が抗原であれば、その抗原に対する抗体又はそのパラトープ含有ポリペプチド部分、ヒスチジンタグ配列に対する金属−NTA錯体、イムノグロブリンに対するプロテインA、G及びL、アビジンに対するビオシン、酵素反応の基質に対する酵素(例えばグルタチオンに対するグルタチオン−S−トランスフェラーゼ)などをそれぞれ挙げることができる。
IP受容体のリガンド結合部としては、例えば、ラット、マウス、ウシ、ウサギ、ニワトリ、ヒト、アフリカツメガエル、ショウジョウバエ、ヒトデ、線虫などの広範な生物種のものを用いてもよい。例えば、ラットのIP受容体アイソタイプ1のアミノ酸配列のうち第224〜579番目(配列番号1)、ラットのIP受容体アイソタイプ2のアミノ酸配列のうち第224〜579番目(配列番号2)、ラットのIP受容体アイソタイプ3のアミノ酸配列のうち第225〜579番目(配列番号3)、マウスのIP受容体アイソタイプ1のアミノ酸配列のうち第224〜579番目(配列番号4)、マウスのIP受容体アイソタイプ2のアミノ酸配列のうち第224〜579番目(配列番号5)、マウスのIP受容体アイソタイプ3のアミノ酸配列のうち第225〜579番目(配列番号6)、ウシのIP受容体アイソタイプ1のアミノ酸配列のうち第224〜579番目(配列番号7)、ウシのIP受容体アイソタイプ2のアミノ酸配列のうち第224〜579番目(配列番号8)、ウシのIP受容体アイソタイプ3のアミノ酸配列のうち第225〜579番目(配列番号9)、ウサギのIP受容体アイソタイプ1のアミノ酸配列のうち第224〜579番目(配列番号10)、ウサギのIP受容体アイソタイプ2のアミノ酸配列のうち第270〜625番目(配列番号11)、ウサギのIP受容体アイソタイプ3のアミノ酸配列のうち第378〜739番目(配列番号12)、ニワトリのIP受容体アイソタイプ1のアミノ酸配列のうち第224〜579番目(配列番号13)、ニワトリのIP受容体アイソタイプ2のアミノ酸配列のうち第236〜591番目(配列番号14)、ニワトリのIP受容体アイソタイプ3のアミノ酸配列のうち第225〜579番目(配列番号15)、ヒトのIP受容体アイソタイプ1のアミノ酸配列のうち第224〜579番目(配列番号16)、ヒトのIP受容体アイソタイプ2のアミノ酸配列のうち第224〜579番目(配列番号17)、ヒトのIP受容体アイソタイプ3のアミノ酸配列のうち第225〜579番目(配列番号18)を用いることができる。
また、本発明における「被検物質結合部」には、上述したIP受容体又はそのリガンド結合部そのものの他、それらのホモログ、人為的改変体または保存的変異を有するタンパク質も包含される。本明細書において、当該ホモログ、人為的改変体、または保存的変異を有するタンパク質を、保存的バリアントという。保存的バリアントとしては、1もしくは数個から数十個のアミノ酸の置換、欠失、挿入または付加などを含む配列を有するタンパク質を挙げることができる。
「1もしくは数個から数十個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、具体的には1〜50個、好ましくは1〜40個、より好ましくは1〜30個、さらに好ましくは1〜20個、よりさらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜5個を意味する。また、保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。
保存的置換とは、生じる分子の生理学的活性を変化させることなく一般的になされ得る範囲、すなわち保存的置換の範囲で認められるもの(Watson et al.,Molecular Biology of Geneなど)であり、例えば、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSerまたはThrへの置換、ArgからGln、HisまたはLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、HisまたはAspへの置換、AspからAsn、GluまたはGlnへの置換、CysからSerまたはAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、AspまたはArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、LysまたはAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、ArgまたはTyrへの置換、IleからLeu、Met、ValまたはPheへの置換、LeuからIle、Met、ValまたはPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、HisまたはArgへの置換、MetからIle、Leu、ValまたはPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、IleまたはLeuへの置換、SerからThrまたはAlaへの置換、ThrからSerまたはAlaへの置換、TrpからPheまたはTyrへの置換、TyrからHis、PheまたはTrpへの置換、およびValからMet、IleまたはLeuへの置換を挙げることができる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位などには、遺伝子が由来する微生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutantまたはvariant)によって生じるものも含まれる。
さらに、上記のような保存的変異を有するタンパク質は、アミノ酸配列全体に対して、例えば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、よりさらに好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有し、かつ野生型タンパク質と同等の機能を有するタンパク質であってもよい。なお、本明細書において、「相同性」(homology)」は、「同一性」(identity)を指すことがある。
「抗体のパラトープ含有ポリペプチド部分」とは、被検物質である抗原(免疫原)のエピトープと結合する抗体の抗原結合部分すなわちパラトープを含むポリペプチド部分をいい、例えば、抗体そのものの他、Fab、Fab’、F(ab’)2およびF(v)などを挙げることができる。FabおよびF(ab’)2部分はそれぞれ、当技術分野で公知の方法によって実質的に完全形の抗体分子をパパインおよびペプシンでタンパク質分解反応させることによって作製できる。Fab’抗体分子部分も当技術分野で公知であり、2つのH鎖部分を連結しているジスルフィド結合をメルカプトエタノールで還元し、次いで得られたタンパク質メルカプタンをヨードアセトアミドのような試薬でアルキル化することによってF(ab’)2部分から作製される。また、抗原に対し免疫原性の存否は問われず、抗原にはハプテンが含まれる。さらに、抗体が、ある特定の抗原に対し「結合する」とは、当該特定抗原に対して結合性があることが明らかであればよい。当該特定抗原に対し「結合する」とは、他の抗原と全く結合しない場合も含むが、他の抗原と結合するとともに当該特定抗原に対し結合する場合も含む。
また、本発明において、抗体は任意の種々の方法によって調製することができる。例えば、被検物資である抗原性フラグメントを動物に投与してポリクローナル抗体を含有する血清の産生を誘導する方法の他、動物(好ましくは、マウス)を被検物質により免疫した後、脾臓細胞を抽出し、適切なミエローマ細胞株と融合させることによりハイブリドーマを作製してモノクローナル抗体(またはその被検物質結合性フラグメント)を調製する方法などを挙げることができる。
ヒスチジン残基は、ニッケル、コバルト、銅、亜鉛などの金属イオンとキレート結合して錯体を形成することが知られており、これらの金属イオンを利用することで、ヒスチジンタグなどのヒスチジン残基を含有する被験物質を検出することができる。これらの金属イオンは、例えば、蛍光被検物質センサーのアミノ基にIsothiocyanobenzyl−NTAを反応させ、次いで当該金属イオンを含む溶液を加えることで、NTAとの錯体として蛍光被検物質センサーに導入することができる。
プロテインA及びGはイムノグロブリン、特にIgGのFc領域と特異的に結合することが知られており、これを被験物質結合部として用いることで、IgG又はそのFcフラグメントを被験物質として検出することができる。また、プロテインLはイムノグロブリンのκ軽鎖と特異的に結合することが知られており、これを被験物質結合部として用いることで、IgG、IgA、IgMなど、又はそれらのFab、F(ab’)2若しくはscFvフラグメントを被験物質として検出することができる。
蛍光物質である蛍光タンパク質と被検物質結合部は、直接結合して配列していても、リンカーを介して結合して配列されていてもよい。そのようなリンカーとしては特に限定されず、当技術分野において用いられているペプチド配列、通常2〜20アミノ酸程度の長さのペプチド配列を用いることができる。
タンパク質蛍光標識物質を蛍光物質とするときは、蛍光被検物質センサーのアミノ酸残基との間における非ペプチド結合によって蛍光被検物質センサーに導入してもよい。例えば蛍光被検物質センサーがシステイン残基を含んでいる場合には、マレイミド基を有するタンパク質蛍光標識物質とシステイン残基とを反応させることによって、タンパク質蛍光標識物質を蛍光被検物質センサーに導入することができる。このようにしてタンパク質蛍光標識物質が導入された蛍光被験物質センサーは、後に説明する「蛍光競合物質」との結合によってFRETが生じ、FRET分子センサーとして機能する。なお、タンパク質蛍光標識物質の導入は、被験物質結合部のリガンドに対する結合能を妨げない限り、任意のアミノ酸残基に対して行ってもよい。
蛍光被検物質センサーは、必要に応じて局在化シグナルを有してもよい。蛍光被検物質センサーにおける局在化シグナルの結合位置はN末端またはC末端のいずれでもよく、局在化部位としては、細胞膜、ミトコンドリア、細胞骨格、核、小胞体などを挙げることができる。さらに、蛍光被検物質センサーはタグを有していてもよい。そのようなタグとしては例えば、FLAGタグ(FLAG−tag)、ヒスチジン(His;H)残基からなる精製用のタグペプチド(ヒスチジンタグ、His−tag)、strep−tag、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)−tag、HA(へマグルチニンペプチド)−tag、Myc−tagなどを挙げることができる。
蛍光被検物質センサーは適当な担体に固定化されていてもよい。蛍光被験物質センサーを担体に固定する方法としては、前記タグを介して固定する方法の他に、例えば、分子センサーに結合性を持つ分子(抗体、プロテインA、プロテインG)を固定化した担体を用いる方法の他、分子センサーをビオチン化してアビジンあるいはストレプトアビジンなどを固定化した担体に結合させる方法、蛍光被検物質センサーの官能基(NH基、COOH基、フェノール基など)に反応性をもつNH基、COOH基、エポキシ基、OH基を固定化した担体に結合させる方法などを挙げることができる。
本発明における蛍光被検物質センサーを固定化する担体としては、例えば、スチレン系重合性モノマー、アクリル系重合性モノマー、メタクリル系重合性モノマーおよびビニル系重合性モノマーなどの重合性モノマーが重合されてなる有機高分子化合物;磁性微粒子;金属酸化物;金属;半導体化合物;アガロース;セファロース;木板;ガラス板;シリコン基板;植物繊維、動物繊維、鉱物繊維および食物繊維などの天然繊維;合成繊維、半合成繊維、再生繊維、ガラス繊維、炭素繊維および人造鉱物繊維などの化学繊維;などを挙げることができる。
本発明において、「蛍光競合物質」とは、FRETにおけるドナーチャネル(ドナー分子)またはアクセプターチャネル(アクセプター分子)となり得る蛍光物質そのもの、あるいはそのような蛍光物質で修飾された、被検物質と競合して被検物質結合部と結合ないし解離する物質であって、例えば受容体に対するリガンドそれ自体又はそのアナログに相当する物質、又は被験物質結合部に対する特異的な結合能を有する物質などを意味する。例えば、被験物質結合部がIP受容体であるときは蛍光物質で修飾されたIP、9−[5−Deoxy−5−[N−[[1−[5−[[3’,6’−dihydroxy−3−oxospiro(isobenzofuran−1,9’−xanthen)−5−yl]amino]thioxomethyl]amino]propyl]−1H−1,2,3−triazol−4−yl]−(3,4−di−O−phosphoryl−α−D−glucopyranosyl)−2−O−phosphoryl−β−D−ribo−pentofuranosyl]adenine(F−ADA)、(2R,3R,4S)−4−O−phosphoryl−2−[N−[[1−[5−[[3’,6’−dihydroxy−3−oxospiro(isobenzofuran−1,9’−xanthen)−5−yl]amino]thioxomethyl]amino]propyl]−1H−1,2,3−triazol−4−yl]methyl−tetrahydrofuran−3−yl−3,4−di−O−phosphoryl−α−D−glucopyranoside(F−LL)などを蛍光競合物質として用いることができる。F−ADAの構造を下記式(I)に、F−LLの構造を下記式(II)に、それぞれ示す。
Figure 2015232558
Figure 2015232558
被験物質結合部に対する競合物質を蛍光物質で標識する方法は、当業者に広く知られた方法で行うことができる。例えば競合物質がタンパク質であるときは、先に例示したタンパク質蛍光標識物質を、それぞれについて知られた方法でタンパク質に導入すればよい。競合物質が低分子化合物であれば、被験物質結合部との特異的な結合能を妨げない範囲で、有機合成化学的手法によって蛍光物質で修飾すればよい。
なお、本発明において、「結合」は「作用」、「相互作用」、「特異的な相互作用」、「選択的な相互作用」「反応」、「認識」と交換可能に用いられる場合がある。
本発明においては、FRET分子センサーを細胞内で用いることもできる。蛍光被検物質センサーまたは蛍光競合物質を細胞内に導入するには、公知のいかなる方法を用いてもよく、蛍光被検物質センサーまたは蛍光競合物質を直接細胞に導入する方法の他、例えば、蛍光タンパク質と被験物質結合部との融合タンパク質である蛍光被検物質センサーをコードするDNAを細胞に導入して発現させた後に蛍光競合物質を導入してもよい。このような蛍光被検物質センサーをコードするDNAを細胞に導入して発現させる方法としては、例えば、かかる蛍光被検物質センサーをコードするDNAを適当なベクターに組み込むことにより、各種細胞や動物や植物を形質転換することができる。その場合のベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクター、アグロバクテリウムなどを挙げることができる。ベクターを細胞に導入する方法としては、例えば、リポフェクション法、リン酸カルシウム法、マイクロインジェクション法、プロプラスト融合法、エレクトロポレーション法、DEAEデキストラン法、Gene Gunによる遺伝子導入などの方法を用いることができる。
融合タンパク質の細胞内発現の方法としては、例えば、融合タンパク質遺伝子が染色体DNAに組込まれた遺伝子を動物または植物へ導入してトランスジェニック動物またはトランスジェニック植物を作出する方法を挙げることができる。トランスジェニック動物またはトランスジェニック植物の作出は公知の方法により行うこともでき、その作出において、融合遺伝子は染色体DNAの任意の部位に挿入されてもよい。このようなトランスジェニック動物またはトランスジェニック植物と蛍光競合物質とを用いれば、in vivoの系で被検物質の定量が可能であり、被検物質やその受容体の機能の解明、治療や診断法の確立、薬剤のスクリーニングなどに利用することができる。また、これらのトランスジェニック動物やトランスジェニック植物から得られた細胞は薬剤のスクリーニングなどにも利用することができ、蛍光競合物質と併せて被検物質測定キットや被検物質測定機器を作成することもできる。
次に、本発明における蛍光の強度を指標として対象中の被検物質を測定する方法は、下記の(I)、(II)の工程を有している。
(I)被検物質測定FRET分子センサーまたは担体固定化被検物質測定FRET分子センサーと対象とを接触させる工程(対象接触工程)、
(II)励起光を照射して生じた蛍光を測定する工程(照射測定工程)。
対象接触工程(I)とは、蛍光競合物質が結合した蛍光被検物質センサーと被検物質を含むまたは被検物質を含むであろうと推測される対象(対象物)とを接触させる工程、または蛍光競合物質が結合していない蛍光被検物質センサーと被検物質を含むまたは被検物質を含むであろうと推測される対象(対象物)とを接触させた後に蛍光競合物質を導入する工程のいずれかである。
照射測定工程(II)において、励起光を照射するとは、所望の光源を用いて、ドナーチャネルの励起極大波長又はその近傍の波長を含む範囲の光を照射することをいい、光源としては、ブロードな紫外光や可視光をフィルターや分光器を用いて所望の波長範囲とした光源の他、レーザーなどの単色光を用いてもよい。レーザー光源としては、ヘリウムカドミウムレーザー(442nm)の他、ブルーダイオードレーザー(405nm)、アルゴンイオンレーザー(457nm)、LD励起固体レーザー(diode−pumped solid−state laser)(430nm)などを用いることができ、二光子励起法の場合は800nm付近のパルスレーザーを用いることができる。
また、蛍光を測定するとは、ドナーチャネル及び/又はアクセプターチャネルの蛍光極大波長又はその近傍の波長を含む範囲、例えば200〜800nm、好ましくは300〜700nm、より好ましくは400〜600nm、さらにより好ましくは460〜550nmの範囲における、FRETによるそれらの蛍光強度の変化を測定することをいう。
対象中の被験物質の定量は、既知濃度の被験物質を用いて予め検量線を作成しておくことで算出することができ、典型的には以下の手順で算出することができる。最初に被験物質が存在しない条件下で蛍光被検物質センサーと蛍光競合物質とを接触させてFRETを生じさせた後、これらのドナーチャネル及び/又はアクセプターチャネルが有する蛍光極大波長又はその近傍の波長範囲における蛍光強度を測定する。次いで、既知濃度の被験物質をこの系に添加し、蛍光競合物質と被験物質との間で蛍光被験物質センサーに対する結合の競合を起こした状態で、蛍光強度を測定する。被験物質の濃度を変化させて同様の測定を行い、ドナーチャネルとアクセプターチャネルの蛍光強度の比と被験物質濃度とをプロットすることで検量線を作成する。その後、対象を用いて上記の対象接触工程(I)および蛍光照射工程(II)を行い、得られた蛍光強度比から対象中の被験物質量を算出する。
本発明の測定方法の好ましい態様の一つは、蛍光顕微鏡用のガラスプレート等の適当な支持体上で、担体に固定化された蛍光被験物質センサー及び蛍光競合物質を備えたFRET分子センサーと対象とを接触させる工程、及び蛍光顕微鏡を用いて励起光を照射して生じた蛍光を測定する工程を含む。また本発明の測定方法の好ましい別の態様は、蛍光測定が可能な素材からなるマイクロ流路又はこれを載せたマイクロチップ内で、担体に固定化された蛍光被験物質センサー及び蛍光競合物質を備えたFRET分子センサーと対象とを接触させる工程、及び励起光を照射して生じた蛍光を測定する工程を含む。いずれの場合も、FRETが生じる反応場を担体表面に凝縮すること、および短い光路を介してFRETにより生じる蛍光を測定することにより、検出感度を高めることができる。
以下、本発明に係る被検物質測定FRET分子センサーについて、実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
<実施例1>IP受容体のリガンド結合部と結合する蛍光競合物質の作成
被験物質結合部としてイノシトール1,4,5三リン酸(IP)受容体のリガンド結合部と、これに結合する蛍光競合物質を作成した。
(1)F−ADAの作成
9−[5−Deoxy−5−[N−[[1−[5−[[3’,6’−dihydroxy−3−oxospiro(isobenzofuran−1,9’−xanthen)−5−yl]amino]thioxomethyl]amino]propyl]−1H−1,2,3−triazol−4−yl]−(3,4−di−O−phosphoryl−α−D−glucopyranosyl)−2−O−phosphoryl−β−D−ribo−pentofuranosyl]adenine(F−ADA)を下記の手順に従って作成した。
[1−1]9−[5−Deoxy−5−ethynyl−(3,4−di−O−phosphoryl−α−D−glucopyranosyl)−2−O−phosphoryl−β−D−ribo−pentofuranosyl]adenineの作成
先ず、5’modified adenophostin誘導体合成の前駆体(化合物1、α−disaccharide triflate;T.Mochizuki et al.,Org.Lett.8:1455−1458,2006)を出発物質として、9−[5−Deoxy−5−ethynyl−(3,4−di−O−phosphoryl−α−D−glucopyranosyl)−2−O−phosphoryl−β−D−ribo−pentofuranosyl]adenine(化合物7)を作成した。
ジイソプロピルアミン(1.88mL,13.4mmol)とHMPA(2.33mL,13.4mmol)をTHF(100mL)に溶かし、−78℃にて1.66Mのn−ブチルリチウムヘキサン溶液(5.03mL,13.4mmol)を加えた。0℃まで昇温させて30分間撹拌し、再び−78℃にてトリメチルシリルアセチレン(1.85mL,13.4mmol)を加えた後、化合物1(2.98g,3.83mmol)のTHF(50mL)溶液を加えてさらに1時間撹拌した。続いて、飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて酢酸エチルで希釈した後、飽和塩化アンモニウム水溶液と分液し、続いて水と分液した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。ろ過後、ろ液を減圧下にて溶媒留去し、残渣をメタノール(150mL)に溶解した後、炭酸カリウム(632mg,4.60mmol)を加えて3時間撹拌した。反応液の溶媒を減圧下にて濃縮後、ジエチルエーテルを用いて希釈し、水と分液した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。ろ過後、減圧下にて溶媒留去して、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(hexane:AcOEt=4:1)により精製して、無色非結晶性固体の化合物2(2.35g,3.58mmol,94%)を得た。
続いて、化合物2(1.00g,1.53mmol)の80%トリフルオロ酢酸水溶液(50mL)を30分間撹拌した後、反応液の溶媒を減圧下にて留去し、トルエンを用いて残渣を共沸した。残渣をアセトニトリル(33mL)に溶かし、ジメチルアミノピリジン(2.24g,18.3mmol)、トリエチルアミン(2.56mL,18.3mmol)およびイソ酪酸無水物(2.03mL,12.2mmol)を加えて2時間撹拌した。反応液に飽和重曹水と酢酸エチルを加えて分液後、有機層を水で洗浄し、続いて飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥して濾過した後、ろ液の溶媒を減圧下にて留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(hexane:AcOEt=4:1)により精製して、無色非結晶性固体の化合物3(1.08g,1.38mmol,2steps 90%)を得た。
続いて、N−ベンゾイルアデニン(1.44g,6.39mmol)をHMDS/ピリジン(2/1)の混合溶液(50mL)に懸濁して、反応液が透明になるまで加熱しつつ還流した。反応液の溶媒を留去した後、トルエンを用いて共沸し、残渣に化合物3(1.02g,1.28mmol)のアセトニトリル溶液(20mL)を加えた。生じた混合溶液に、氷冷下、四塩化スズ(1.81mL,7.68mmol)を滴下した後、同温度で1時間、さらに室温で2時間撹拌した。反応液に飽和重曹水と酢酸エチルを加えて分液後、有機層を水で洗浄し、続いて飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸ナトリウムを用いて有機層を乾燥、濾過後、ろ液を減圧下にて溶媒留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(hexane:AcOEt=4:1)により精製して、白色非結晶性固体の化合物4(906mg,0.971mmol,76%)を得た。
続いて、化合物4(100mg,0.107mmol)のメタノール(2mL)溶液に28%ナトリウムメトキサイド(21.0μL,0.107mmol)を加え、室温で24時間撹拌した。反応液をWK212(H)カラムを用いて精製して、白色非結晶性固体の化合物5(64.9mg,0.113mmol,quant.)を得た。
続いて、化合物5(50.2mg,0.0811mmol)のテトラヒドロフラン(4mL)溶液にイミダゾリウムトリフレート(58.5mg,0.266mmol)およびジベンジルジイソプロピルホスホアミダイト(80.2μL,0.365mmol)を加え、室温で24時間撹拌した。少量の水を加えた後、−78℃にてmCPBA(62.9mg,0.365mmol)を加え、室温で30分間撹拌した。飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液とクロロホルムを加えて分液後、有機層を重曹水で洗浄し、続いて水で洗浄し、さらに食塩水で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下にて溶媒留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(chloroform:methanol=99:1)により精製して、白色非結晶性固体の化合物6(104mg,0.0745mmol,92%)を得た。
続いて、化合物6(64.2mg,0.0458mmol)をトルエンで3回共沸後、ジクロロメタン(4mL)に溶解し、−78℃にて1Mのトリブロモボランジクロロメタン溶液(424,μL,0.424mmol)を加えた。同温度で10時間撹拌し、28%アンモニア水溶液を加えた後、減圧下にて溶媒を留去した。残渣をAG resinカラム(水→150mMのTFA水溶液)により精製して、白色定形状結晶の化合物7(25mg,0.0369mmol,81%)を得た。化合物1を出発物質とした化合物2〜7の作成フローを図1に示し、化合物7のNMRスペクトルデータを下記に示す。
化合物7のNMRスペクトルデータ
m.p.158−159℃;H−NMR(DO 400MHz)δ8.47,8.38(each s, each 1H,H−2,H−8),6.33(d,1H,H−1’,J=4.98Hz),5.39(dd,1H,H−2’,J=4.98Hz,4.53Hz),5.24(d,1H,H−1’’,J=3.62Hz),4.70(t,1H,H−4’,J=4.98Hz),4.51(dd,1H,H−3’,J=9.06Hz),4.44(m,1H,H−3’’),4.13(t,1H,H−4’’,J=9.51Hz),3.84−3.73(m,4H,H−6’’a,6’’b,2’’,5’’),2.78(m,2H,H−5’a,5’b),2.41(s,1H,alkyne);13CNMR(DO 100MHz)δ150.49,148.96,145.02,143.86,119.44,98.33,88.25(J=2.40Hz),88.02,80.24,78.63(J=8.40Hz),75.80(J=3.60Hz),75.36,73.48,72.87,72.00,70.94,60.65,47.25;31P NMR(DO 162MHz)δ0.81,0.54,0.00;ESI−LRMS m/z 676(M+H);ESI−HRMS calcd for C182517 676.01176,found 676.01126(M+H),HPLC purity:RT 7.982,98.11%
[1−2]N−(3−azidepropyl)−N−(3’,6’−hydroxy−3−oxospiro[isobenzofuran−1(3H),9’−[9H]xanthen]−5−yl)−thioureaの作成
次に、フルオロセインイソチオシアネート(FITC)からN−(3−azidepropyl)−N−(3’,6’−hydroxy−3−oxospiro[isobenzofuran−1(3H),9’−[9H]xanthen]−5−yl)−thiourea(化合物12)を作成した。
FITC(20.2mg,0.0514mmol)を飽和重曹水(2mL)に溶解して、3−アジドプロピルアミン(30.8mg,0.308mmol)を加えて3時間撹拌し、減圧下にて溶媒を留去した後、C18逆層クロマトグラフィー(溶出溶媒;アセトニトリル:水=1:3,1:2,1:1)により精製して、赤色定形状結晶の化合物12(24.2mg,0.0491mmol,96%)を得た。FITCからの化合物12の作成フローを図2に示し、NMRスペクトルデータを下記に示す。
化合物12のNMRスペクトルデータ
m.p.185−186℃;H−NMR(CDOD,400MHz)δ7.98(d,1H,H−12,J=1.81Hz),7.69(dd,1H,H−10,J=1.81Hz,6.34Hz),7.19(d,1H,H−9,J=8.16Hz),7.10(d,2H,H−4,5,J=9.06Hz),6.62−6.59(m,H−1,2,7,8,4H),3.71(dd,2H,J=6.34Hz,6.80Hz),3.42(dd,2H,J=6.80Hz,6.34Hz),1.92(m,2H);13C−NMR(CDOD 125MHz)δ182.26,179.59,173.67,159.58,158.47,141.54,141.19,132.56,131.21,130.83,125.49,125.08,122.96,114.39,104.18,43.02,38.23,29.34,28.00;ESI−LRMS m/z 488(M+H);ESI−HRMS calcd for 488.10341 C2418S,found 488.10429(M+H),HPLC purity:RT 15.127,99.053%
[1−3]F−ADAの作成
次に、本実施例1(1)[1−1]において作成した化合物7と本実施例1(1)[1−2]において作成した化合物12からF−ADA(化合物13)を作成した。
化合物7(7.00mg,0.0103mmol)のリン酸ナトリウム緩衝液(0.2M,pH=7.0,700μL)溶液に化合物12(7.07mg,0.0145mmol)、硫酸銅(1.65mg,0.0103mmol)およびアスコルビン酸ナトリウム(8.19mg,0.0412mmol)を加え、室温で5時間撹拌した後、反応液をC18逆相カラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;アセトニトリル:水=1:3,1:2,1:1)により精製して、黄色定形状結晶のF−ADA(化合物13;10.1mg,0.00850mmol,83%)を得た。F−ADAの構造を下記式(I)に、化合物7と化合物12とからのF−ADA(化合物13)の作成フローを図3に、NMRスペクトルデータを下記に、それぞれ示す。
Figure 2015232558
F−ADA(化合物13)のNMRスペクトルデータ
m.p.294−295℃(dec.);H−NMR(CDCl 400MHz)δ7.94,7.89(each s,each 1H,H−2,8),7.48(s,1H,triazole),7.35(s,1H,fluorescein−H−12),7.27(s,1H,fluorescein−H−10),7.12(m,3H,fluorescein−H−9,4,5),6.45(m,4H,fluorescein−H−1,2,7,8),6.19(m,1H,H−1’),5.15(m,2H,H−1’’,2’),4.49(m,1H,H−3’’),4.40(m,1H,H−3’),4.19(m,3H,H−4’’,triazole−CH),3.93(m,4H,H−4’,6’’a,6’’B,2’’),3.87(m,1H,H−5’’,3.35,2H,H−5’a,H−5’b),3.05(m,CHNH),1.90(m,CHCHCH);31P−NMR(CDCl 202MHz)δ5.23,4.67,4.42;ESI−LRMS m/z 1165(M+H);ESI−HRMS calcd for C42452210 165.15652,found 1165.15385(M+H),HPLC purity:RT 11.480,92.150%
(2)F−LLの作成
(2R,3R,4S)−4−O−phosphoryl−2−[N−[[1−[5−[[3’,6’−dihydroxy−3−oxospiro(isobenzofuran−1,9’−xanthen)−5−yl]amino]thioxomethyl]amino]propyl]−1H−1,2,3−triazol−4−yl]methyl−tetrahydrofuran−3−yl−3,4−di−O−phosphoryl−α−D−glucopyranoside(F−LL)を下記の手順に従って作成した。
[2−1](2R,3R,4S)−4−O−phosphoryl−2−ethynylmethyl−tetrahydrofuran−3−yl−3,4−di−O−phosphoryl−α−D−glucopyranosideの作成
先ず、本実施例1(1)[1−1]における反応中間体である化合物2(5−Deoxy−5−ethynyl−3−O−[2,6−di−O−benzyl−3,4−O−(2,3−dimethoxybutan−2,3−diyl)−α−D−glucopyranosyl]−1,2−O−isopropylidene−D−ribo−pentofuranose)を出発物質として、(2R,3R,4S)−4−O−phosphoryl−2−ethynylmethyl−tetrahydrofuran−3−yl−3,4−di−O−phosphoryl−α−D−glucopyranoside(化合物11)を作成した。
化合物2(50.0mg,0.0761mmol)を90%トリフルオロ酢酸水溶液(5mL)に溶かし、室温で5分間撹拌した後、反応液を減圧下にて濃縮し、残渣を水(x3)およびエタノールで共沸した。残渣をピリジン(2mL)に溶かして無水酢酸(422μL,4.51mmol)を加え、室温で12時間撹拌した後、溶媒を減圧下にて留去した。残渣を酢酸エチルと飽和重曹水(10mLx2)で分液後、有機層を水(10mL)、飽和食塩水(10mL)で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥して濾過した後、ろ液を減圧下にて濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(hexane:AcOEt=8:1)により精製して、白色非結晶性固体の化合物8(44.1mg,0.0674mmol,2 steps 87%)を得た。
続いて、0℃にて化合物8(20.0mg,28.2μmol)とトリエチルシラン(13.0μL,56.3μmol)のジクロロメタン溶液(500μL)にTMSOTf(10.2μL,56.6μmol)を滴下し、同温下にて20分間撹拌した後、室温に昇温させて30分間撹拌した。飽和重曹水とクロロホルムを加えて分液後、有機層を水(4mL)で洗浄し、続いて飽和食塩水(4mL)で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥して濾過した後、ろ液を減圧下にて留去し、白色固体を得た。この固体をMeOH(1mL)に溶解し、NaOMe(28% in MeOH,30μL)を加えた後、室温で12時間撹拌した。WK212(H)カラムで精製して、白色非結晶性固体の化合物9(8mg,0.0171mmol,quant.)を得た。
続いて、本実施例1(1)[1−1]における反応中間体である化合物6を作成した手法に従い、化合物9(22.2mg,40.2μmol)、1H−tetrazol(25.3mg,360μmol)、Dibenzyl diethylphosphoamidite(58.4mg,240μmol)およびmCPBA(41.1mg,240μmol)を用いて、白色非結晶性固体の化合物10(47.3mg,37.5μmol,92%)を得た。
続いて、化合物10(36.0mg,0.0281mmol)をトルエン共沸(x3)した後、ジクロロメタン(2mL)に溶解し、−78℃にて1Mのトリブロモボランジクロロメタン溶液(450μL,0.451mmol)を加え、同温度下7時間撹拌した。少量のエタノールを加えた後、減圧下にて溶媒を留去した。水を溶出溶媒としてC18逆相カラムにより残渣を精製して、白色定形状結晶の化合物11(13.1mg,0.0241mmol,86%)を得た。化合物2を出発物質とした化合物8〜11の作成フローを図4に示し、化合物11のNMRスペクトルデータを下記に示す。
化合物11のNMRスペクトルデータ
m.p.143−144℃;H−NMR(D0,500MHz)δ5.08(d,1H,H−1’,J=3.43Hz),4.76(m,1H,H−2),4.36(dd,1H,H−3’,J=8.59Hz,9.16Hz),4.21(t,1H,H−3,J=5.73Hz),4.05−3.91(m,4H,H−6’a,6’b,1a,1b),3.71−3.63(m,4H,H−4,4’,5’,2’),2.60−2.46(m,2H,H−5a,5b),2.30(s,1H,alkyne);13C−NMR(DO,125MHz)δ97.59,80.65,78.49,77.44(J=6.00Hz),73.38,72.59,72.30,71.96,71.93(J=4.80),71.05,70.99(J=2.40),60.63,22.29;31P−NMR(DO,202MHz)δ0.70,0.48,0.13;ESI−LRM m/z 543(M+H);ESI−HRMS calcd for C132217 543.00753,found 543.00846(M+H)
[2−2]F−LLの作成
次に、本実施例1(1)本実施例1(2)[2−1]において作成した化合物11と[1−2]において作成した化合物12からF−LL(化合物14)を作成した。
アルゴン雰囲気下、化合物11(13.5mg,0.0242mmol)と化合物12(16.0mg,0.0331mmol)をジメチルスルホキシド(0.8mL)とリン酸ナトリウム緩衝液(0.2M,pH=7.0,0.2mL)の混合溶液に溶かした後、硫酸銅(19.2mg,0.121mmol)およびアスコルビン酸ナトリウム(95.1mg,0.482mmol)の水溶液(500μL)を加え室温で5時間撹拌した。反応液をC18逆相カラムクロマトグラフィー[溶出溶媒:アセトニトリル/トリエチルアンモニウムアセテート緩衝液(5mM,pH7.0)]により精製後、キレックス100カラム(K型、溶出溶媒:水)を通して、黄色定形状結晶のF−LL(化合物14;5.02mg,0.00491mmol,単離収率20%)を得た。F−LLの構造を下記式(II)に、化合物11と化合物12とからのF−LL(化合物14)の作成フローを図3に、NMRスペクトルデータを下記に、それぞれ示す。
Figure 2015232558
F−LL(化合物14)のNMRスペクトルデータ
m.p.298−299℃(dec.);H−NMR(DO,500MHz)δ7.80(m,1H,fluorescein−H−12),7.52(s,1H,triazole),7.42(m,1H,fluorescein−H−10),7.12(m,3H,fluorescein−H−9,4,5),6,47(m,4H,fluorescein−H−1,2,7,8),5.07(m,1H,H−1’),4.53(m,1H,H−2),4.38(m,3H,H−4,triazole−CH),4.19(m,1H,H−5’),4.09(m,1H,H−3’),3.92(1H,H−3),3.80(m,3H,H−1a,1b,4’),3.70(m,1H,H−4),3.62(m,1H,H−2’),3.36(m,2H,H−5a,5b),3.25(m,2H,H−6’a,6’b),3.10(m,2H,CHN),2.01(m,2H,CHCHCH31P−NMR(DO,202MHz)δ5.15,4.51,4.32;ESI−LRMS m/z 1032(M+H);ESI−HRMS calcd for C374122 1032.11767,found 1032.11795(M+H),HPLC purity:RT 10.680,90.679%
(3)細胞内Ca2+貯蔵部位からのCa2+放出試験
本実施例1(1)で得られたF−ADAおよび同(2)で得られたF−LLがIP受容体のリガンド結合部と結合する蛍光競合物質になり得るかどうかの確認試験を行うべく、先ずは細胞内Ca2+貯蔵部位(Ca2+ストア)からCa2+が放出されるか否かの確認試験を行った。IPはCa2+シグナルを誘導する細胞内メッセンジャーであり、IPがCa2+チャネルであるIP受容体のリガンド結合部と結合すると、IP受容体が活性化して小胞体等の細胞内Ca2+貯蔵部位(Ca2+ストア)から細胞質にCa2+が放出される。この原理を利用した確認試験を行った。
[3−1]細胞内にmag−fura−2を取り込ませたサポニン穿孔COS−7細胞の作成
容量が約100μLの実験チャンバーの中においてCOS−7細胞(RIKEN gene bank)を培養し、細胞を含む実験チャンバー内において10μMのmag−fura−2を含むHanks−Hepes液を30分間作用させることにより細胞の細胞内小器官内にmag−fura−2を取り込ませ、100μg/mLのサポニンを含む細胞内溶液様緩衝液(ICM;124mM KCl,25mM NaCl,1mM EGTA,330μM CaCl,pH7.3)に細胞を約3分間暴露することによりチャンバー内の細胞をサポニンで穿孔してサポニン穿孔細胞を得た後、チャンバー内を1mM ATPと1mM MgClを含むICMに置換した。
[3−2]蛍光イメージング法による小胞体内Ca2+ストア内のCa2+濃度変化の解析
本実施例1(3)[3−1]で得られたサポニン穿孔細胞に対し、様々な濃度のIP、F−ADAおよびF−LLを作用させ、蛍光イメージング法により小胞体内Ca2+ストア内のCa2+濃度の変化を解析した。蛍光イメージング法は、蛍光倒立顕微鏡TE2000(ニコンインステック社)と、EM−CCDカメラC9100−13、高速波長切り替え装置U7773、W−View光学系および画像解析ソフトウェアAQUACOSMOSから構成されるイメージングシステム(浜松ホトニクス社)を用いて行った。具体的には、様々な濃度のIP、F−ADAおよびF−LLを作用させたサポニン穿孔細胞を蛍光倒立顕微鏡TE2000(ニコンインステック社)にセットして345nmまたは380nmの光を照射し、蛍光フィルターを用いて535±12.5の蛍光を抽出した。得られた蛍光をEM−CCDカメラで同時記録して、画像解析ソフトウェアを用いて蛍光比を算出し、蛍光比の変化から、細胞内ストア内のCa2+濃度変化を解析することにより、IP、F−ADAおよびF−LLのIP受容体を介するCa2+放出の効力を算定した。その結果を図5に示す。
図5に示すように、IP、F−ADAおよびF−LLのいずれも、Ca2+放出による濃度依存的な蛍光変化が確認され、そのEC50値はIPの334nMに対して、F−ADAは2.4nM、F−LLは158nMであった。このことから、F−ADAおよびF−LLによっても、IPと同様にIP受容体を介して細胞内Ca2+ストアからCa2+が放出させることができることが明らかとなった。
(4)蛍光競合物質と蛍光IPセンサーとの特異性の解析
次に、蛍光IPセンサーLIBRAvIIS発現細胞に対するF−ADAの特異性を、次の手順に従って解析した。
[4−1]蛍光IPセンサー発現細胞の作成
既報(Tanimura et al.,J.Biol.Chem.,284:8910−8917,2009)に掲載されているLIBRAvIIS(LvIIS)発現プラスミドを細胞内に導入して、既存の蛍光IPセンサーLIBRAvIIS(LvIIS)が発現した細胞を作成した。具体的には、容量が約100μLの実験チャンバーの中においてCOS−7細胞(RIKEN gene bank)を培養し、リポフェクトアミン2000(Life Technologies Corporation社)を用いて細胞にLIBRAvIIS(LvIIS)の遺伝子(配列番号19)を導入することにより、蛍光IPセンサーLIBRAvIIS(LvIIS)が発現した細胞を得た。図6に蛍光IPセンサーLIBRAvIIS(LvIIS)の構成を示す。図6中、「P」は細胞膜局在シグナルを示し、「ECFP」は青色蛍光タンパク質ECFPを示し、「L1」および「L2」はリンカーを示し、「IPR2(1−604)with R440Q」はラット2型IP受容体のリガンド結合部に親和性を高めるアミノ酸変異R440Qを入れたペプチド、すなわちラット2型IP受容体のN末端から1〜604番のアミノ酸配列からなるペプチドであってその配列の440番のアルギニン(R)をグルタミン(Q)へ変異させたペプチドを示し、「Venus」は黄色蛍光タンパク質EYFPのミュータントであってEYFP配列の46番のフェニルアラニン(F)をロイシン(L)へ、64番のフェニルアラニン(F)をロイシン(L)へ、153番のメチオニン(M)をトレオニン(T)へ、163番のバリン(V)をアラニン(A)へ、175番のセリン(S)をグリシン(G)へ、それぞれ変異させた黄色蛍光タンパク質Venus(T.Nagai et al.,Nat.Biotechnol.,20(1):87−90,2002)を示す。
[4−2]蛍光IPセンサー発現サポニン穿孔細胞の作成
細胞の細胞内小器官内にmag−fura−2を取り込ませることを除く他は、本実施例1(3)[3−1]と同様の手法に基づいて、同(4)[4−1]で得られた蛍光IPセンサーLIBRAvIIS(LvIIS)が発現した細胞から蛍光IPセンサーLIBRAvIIS(LvIIS)発現サポニン穿孔細胞を得た。
[4−3]蛍光イメージング法による解析
得られた蛍光IPセンサーLIBRAvIIS(LvIIS)発現サポニン穿孔細胞にF−ADAを反応させ、本実施例1(3)[3−2]のイメージングシステム(浜松ホトニクス社)を用いて、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を蛍光イメージング法にて解析した。具体的には、蛍光IPセンサーLIBRAvIIS(LvIIS)発現サポニン穿孔細胞に対しF−ADAを作用させた後、蛍光倒立顕微鏡TE2000(ニコンインステック社)にセットして435nmの光を照射し、試料からの蛍光をW−View光学系485nmのダイクロイックミラーを用いて2光路に分離した後、それぞれの光路に取り付けた蛍光フィルターを用いて480±15nmおよび535±12.5nmの蛍光を抽出した。それぞれの蛍光をEM−CCDカメラで同時記録して、画像解析ソフトウェアを用いて480nmの蛍光と535nmの蛍光の蛍光比を算出した。
蛍光IPセンサーLIBRAvIIS(LvIIS)発現サポニン穿孔細胞を、蛍光競合物質(F−ADA 30nM)を含むICMと置換すると、当該細胞のみならずバックグラウンドの蛍光のわずかな上昇が認められたことから、当該細胞の蛍光強度からバックグラウンド蛍光を減算することによって、蛍光競合物質F−ADAと蛍光IPセンサーLIBRAvIISの特異性を解析した。その結果を図7に示す。
図7中、AaおよびAbの画像は30nMのF−ADAを作用させる前の時点(Bの矢印1の時点)の蛍光像を示す図であり、AcとAdの画像は30nMのF−ADAを作用させた後の時点(Bの矢印1の時点)の蛍光像を示す図であり、Bは蛍光競合物質F−ADAの添加による蛍光変化を示す図である。また、Cは蛍光競合物質F−ADAと蛍光IPセンサーLIBRAvIISとの反応による蛍光成分を抽出するための、細胞を含む領域の蛍光からBG領域の蛍光を引いた場合の蛍光変化を示す図であり、Dはその蛍光比480nm/535nmを示す図である。図7に示すように、蛍光IPセンサー発現細胞を含む領域と含まない領域(BG)の蛍光変化を比較したところ、蛍光IPセンサー発現細胞を含む領域では、F−ADAを添加した時点(矢印2)でCFP蛍光を主に含む480nmの蛍光が低下し、Venusと蛍光競合物質F−ADAの蛍光を含む535nmの蛍光が上昇したことが認められ、細胞を含まないBG領域では、F−ADAの蛍光である535nmの蛍光のみがわずかに上昇したことが認められた。これらのことから、蛍光競合物質と蛍光IPセンサーとの反応によって、蛍光比(480nm/535nm)が低下することが明らかとなり、作成した蛍光競合物質は蛍光IPセンサーの特異性を有すること、すなわちIP受容体のリガンド結合部と結合してCFPとFRETを引き起こすことが明らかとなった。
<実施例2>蛍光IPセンサーにおける蛍光タンパク質の検討
従来の蛍光IPセンサーは、蛍光物質としてCFP(ECFP)およびYFP(Venus)の2つの蛍光タンパク質を有しているが、実施例1(4)の結果より、IP受容体のリガンド結合部、蛍光物質として1つの蛍光タンパク質を備えていれば、F−ADAまたはF−LLといった蛍光競合物質とともに蛍光IPセンサーとして十分機能するのではないかとの知見が得られたことから、これを確認する試験を行った。
(1)既存の各種蛍光IPセンサー発現細胞の作成
実施例1(4)[4−1]と同様の手法に基づいて、既報(Tanimura et al.,J.Biol.Chem.,284:8910−8917,2009)に掲載されている既存の蛍光IPセンサーであるLIBRAvI(LvI)(配列番号20)、LIBRAvII(LvII)(配列番号21)、LIBRAvIII(LvIII)(配列番号22)、LIBRAvN(LvN)(配列番号23)、LIBRAvIIS(LvIIS)(配列番号19)およびMP−LIBRAvIIS(MP−LvIIS)(配列番号24)の各プラスミドをそれぞれの細胞内に導入して、蛍光IPセンサーLIBRAvI(LvI)、LIBRAvII(LvII)、LIBRAvIII(LvIII)、LIBRAvN(LvN)、LIBRAvIIS(LvIIS)およびGeneScript社に依頼して合成したMP−LIBRAvIIS(MP−LvIIS)が発現した細胞をそれぞれ作成した。それぞれの蛍光IPセンサーの構成を図8に示す。図8中、「P」は細胞膜局在シグナルを示し、「MP」は小胞体局在シグナルを示し、「ECFP」は青色蛍光タンパク質ECFPを示し、「Cerulean」は青色蛍光タンパク質Ceruleanを示し、「L1」、「L1H1」、「L2」および「L2−6」はいずれもリンカーを示し、「IPR1(1−604)」はラット1型IP受容体アミノ酸配列のN末端から1〜604番のアミノ酸配列からなるペプチドを示し、「IPR2(1−604)」はラット2型IP受容体アミノ酸配列のN末端から1〜604番のアミノ酸配列からなるペプチドを示し、「IPR2(1−604)with R440Q」はラット2型IP受容体のN末端から1〜604番のアミノ酸配列からなるペプチドであってその配列の440番のアルギニン(R)をグルタミン(Q)へ変異させたペプチドを示し、「IPR3(1−604)with K507A」はラット3型IP受容体アミノ酸配列のN末端から1〜604番のアミノ酸配列からなるペプチドであってその配列の507番のリシン(K)をアラニン(A)へ変異させたことを示し、「Venus」は黄色蛍光タンパク質Venusを示す。
(2)黄色蛍光タンパク質が発光しない蛍光IPセンサー発現細胞の作成
[2−1]黄色蛍光タンパク質が発光しない蛍光IPセンサーLIBRAvIISVm(LvIISVm)遺伝子の作成
次に、蛍光IPセンサーLIBRAvIIS(LvIIS)のVenusを蛍光発色させないように変異させた蛍光IPセンサーLIBRAvIISVm(LvIISVm)を下記の手順に従って作成した。
先ず、Venus発現プラスミドをテンプレートとし、QuikCange II XL site−directed mutagenesis kit(Strategene社)、ならびに次のPCRプライマー、Venus mutFP(フォワードプライマー)およびVenus mutRP(リバースプライマー)を用いて、黄色蛍光タンパク質Venusの発色団のアミノ酸を変異させた無発色タンパク質Venus mutant(Venus配列の65番のグリシン(G)をバリン(V)へ、66番のチロシン(Y)をアスパラギン(N)へ、67番のグリシン(G)をアルギニン(R)へ、それぞれ変異させたmutant)発現プラスミドを作成した。
Venus mutFP:GTG ACC ACC CTG GTC AAC CGC CTG CAG TGC TTC(配列番号25)
Venus mutRP:GAA GCA CTG CAG GCG GTT GAC CAG GGT GGT CAC(配列番号26)
次に、蛍光IPセンサーLIBRAvIIS(LvIIS)遺伝子の黄色蛍光タンパク質Venus遺伝子と、作成した無蛍光発色タンパク質Venus mutant遺伝子とを入れ替えた。具体的には、LIBRAvIIS(LvIIS)発現プラスミドを制限酵素EcoRIとNotIにより切断し、Venus mutant発現プラスミドをLIBRAvIIS(LvIIS)発現プラスミドに挿入することによってLIBRAvIISVm(LvIISVm)遺伝子(配列番号27)を作成した。LIBRAvIISVm(LvIISVm)遺伝子の作成手順を図9に示す。図9中、「→」はベクター遺伝子の一部を示し、「MT」は膜結合遺伝子配列を示し、「ECFP」は青色蛍光タンパク質ECFPの遺伝子配列を示し、「LBD」はIP受容体のリガンド結合部の遺伝子配列を示し、「Venus」は黄色蛍光タンパク質Venusの遺伝子配列を示し、「Venus(m)」は無発色タンパク質Venus mutantの遺伝子配列を示す。
[2−2]蛍光IPセンサーLIBRAvIISVm(LvIISVm)発現細胞の作成
次に、実施例1(4)[4−1]と同様の手法に基づいて、LIBRAvIISVm(LvIISVm)発現プラスミドを細胞内に導入して、蛍光IPセンサーLIBRAvIISVm(LvIISVm)が発現した細胞を作成した。蛍光IPセンサーLIBRAvIISVm(LvIISVm)の構成を図10に示す。図10中、「P」は細胞膜局在シグナルを示し、「ECFP」は青色蛍光タンパク質ECFPを示し、「L1」および「L2」はリンカーを示し、「IPR2(1−604)with R440Q」はラット2型IP受容体のN末端から1〜604番のアミノ酸配列からなるペプチドであってその配列の440番のアルギニン(R)をグルタミン(Q)へ変異させたペプチドを示し、「Venus mutant」は無発色タンパク質Venus mutantを示す。
(3)蛍光IPセンサー発現サポニン穿孔細胞の作成および蛍光イメージング法による解析
続いて、実施例1(4)[4−2]と同様の手法に基づいて、本実施例2(1)および(2)で得られた蛍光IPセンサーLIBRAvI(LvI)、LIBRAvII(LvII)、LIBRAvIII(LvIII)、LIBRAvN(LvN)、LIBRAvIIS(LvIIS)およびMP−LIBRAvIIS(MP−LvIIS)が発現した細胞からそれぞれの蛍光IPセンサー発現サポニン穿孔細胞を得て、終濃度が10nMまたは30nMとなるようにF−ADAを作用させた他は、実施例1(4)[4−3]と同様の手法に基づいて、それぞれの蛍光IPセンサー発現サポニン穿孔細胞における480nmの蛍光と535nmの蛍光の蛍光比を算出した。その結果を図11に示す。
図11に示すように、1型〜3型IP受容体のリガンド結合部を含む蛍光IPセンサーLIBRAvI(LvI)、LIBRAvII(LvII)およびLIBRAvIII(LvIII)とF−ADAとの反応では、いずれも480nmの蛍光が低下するとともに535nmの蛍光が上昇し、その結果、いずれも480nm/535nmの蛍光比は低下した。2型IP受容体のリガンド結合部に親和性を高めるアミノ酸変異(R440Q)を入れたLIBRAvIIS(LvIIS)においても同様の蛍光比の低下が認められた。さらにLIBRAvIIS(LvIIS)の細胞膜局在配列を小胞体局在配列に置換したMP−LIBRAvIIS(MP−LvIIS)や蛍光タンパク質のアミノ酸置換によって蛍光を発しないVenus mutantを用いたLIBRAvIISVm(LvIISVm)でも同様の蛍光比の変化が認められた。一方、3型IP受容体のリガンド結合部においてIPが結合するために必須なアミノ酸の1つを変異(K507A)させたLIBRAvN(LvN)では蛍光変化が全く起こらなかった。
これらのことから、これらの蛍光変化は蛍光IPセンサーと蛍光競合物質の特異的反応によって起こることが明らかになった。発明者らによるこれまでの研究では、LIBRAvI(LvI)、LIBRAvII(LvII)、LIBRAvIIS(LvIIS)およびLIBRAvIII(LvIII)とIPとの結合は、480nm/535nmの蛍光比を上昇させることが明らかにされている(Tanimura et al.,J.Biol.Chem.,284:8910−8917,2009)。発明者らは、これらの蛍光変化が、IPの結合によってIP受容体のリガンド結合部の立体構造が変化し、IP受容体のリガンド結合部のN末端とC末端に連結したCFP(ECFP)とYFP(Venus)の間におけるFRETの効率の低下によるものであると考えている。これに対し、本実施例2における蛍光IPセンサーと蛍光競合物質との反応では蛍光比が低下したことから、全く異なる原理が働いていることが明らかになった。すなわち、LIBRAvIIS(LvIIS)のFRETアクセプターであるVenusを無蛍光無発色のVenus mutantに置換したLIBRAvIISVm(LvIISVm)を用いても、蛍光競合物質F−ADAとの反応によって大きな蛍光変化が観察されたことから、蛍光IPセンサーと蛍光競合物質の反応にはYFPの蛍光が必要ではないことが示された。
<実施例3>1つの蛍光タンパク質を備えた蛍光IPセンサーの検討
次に、1つの蛍光タンパク質を備えた蛍光IPセンサーについて、次の手順に従って検討した。
(1)1つの蛍光タンパク質を備えた蛍光IPセンサーの作成
蛍光IPセンサーLIBRAvIIS(LvIIS)遺伝子からVenus遺伝子を除去した蛍光IPセンサーLIBRAvIISVd(LvIISVd)発現ベクターを作成した。具体的には、LIBRAvIIS(LvIIS)発現プラスミドおよびECFP−C1発現プラスミド(Clontech社;配列番号28)を制限酵素NheIとEcoRIにより切断し、LIBRAvIIS(LvIIS)発現プラスミドから精製したECFPとラット2型IP受容体のリガンド結合部遺伝子を含むDNA断片をECFP−C1発現プラスミドのNheI/EcoRI切断サイトに挿入することによりLIBRAvIISVd(LvIISVd)遺伝子(配列番号29)を作成した。LIBRAvIISVd(LvIISVd)遺伝子の作成手順を図12に示す。図12中、「→」はベクター遺伝子の一部を示し、「MT」は膜結合遺伝子配列を示し、「ECFP」は青色蛍光タンパク質ECFPの遺伝子配列を示し、「LBD」はIP受容体のリガンド結合部の遺伝子配列を示し、「Venus」は黄色蛍光タンパク質Venusの遺伝子配列を示す。
(2)蛍光IPセンサーLIBRAvIISVd(LvIISVd)発現細胞の作成
次に、実施例1(4)[4−1]と同様の手法に基づいて、LIBRAvIISVd(LvIISVd)発現プラスミドを細胞内に導入して、蛍光IPセンサーLIBRAvIISVd(LvIISVd)が発現した細胞を作成した。蛍光IPセンサーLIBRAvIISVd(LvIISVd)の構成を図13に示す。図13中、「P」は細胞膜局在シグナルを示し、「ECFP」は青色蛍光タンパク質ECFPを示し、「L1」はリンカーを示し、「IPR2(1−604)with R440Q」はラット2型IP受容体のN末端から1〜604番のアミノ酸配列からなるペプチドであってその配列の440番のアルギニン(R)をグルタミン(Q)へ変異させたペプチドを示す。
(3)蛍光IPセンサー発現サポニン穿孔細胞の作成および蛍光イメージング法による解析
続いて、実施例1(4)[4−2]と同様の手法に基づいて、本実施例3(2)で得られた蛍光IPセンサーLIBRAvIISVd(LvIISVd)が発現した細胞から蛍光IPセンサー発現サポニン穿孔細胞を得て、終濃度が30nMまたは100nMとなるように蛍光競合物質F−ADAまたはF−LLを作用させた他は、実施例1(4)[4−3]と同様の手法に基づいて、それぞれ蛍光競合物質F−ADAまたはF−LLを作用させた蛍光IPセンサーLIBRAvIISVd(LvIISVd)発現サポニン穿孔細胞における480nmの蛍光および535nmの蛍光の蛍光比を算出した。その結果を図14および図15に示す。
図14に示すように、蛍光IPセンサーLIBRAvIISVd(LvIISVd)が発現したサポニン穿孔細胞に100nMのF−ADAを作用させることにより、480nm蛍光が約20%低下するとともに535nm蛍光が70%上昇(1.7倍に上昇)し(図14A)、その結果、480nm/535nm蛍光比が約50%低下した(図14B)。また、図15に示すように、F−LLでも同様の蛍光比の変化が認められ(図15A)、100nMのF−LLによる480nm/535nm蛍光比が約20%低下した(図15B)。蛍光IPセンサーLIBRAvIIS(LvIIS)とIPとの反応による蛍光比の変化は約15%である(Tanimura et al.,J.Biol.Chem.,284:8910−8917,2009)のに対し、蛍光IPセンサーLIBRAvIISVd(LvIISVd)とF−ADAとの反応による蛍光比の変化は約150%(1.5倍)であった(図14B)。これらのことから、一種類の蛍光タンパク質(ECFP)およびIP受容体のリガンド結合部を有する蛍光IPセンサー、ならびに蛍光競合物質を備えた、蛍光タンパク質(ECFP)および蛍光競合物質が引き起こすFRETを利用するIP測定FRET分子センサーを構築できることが示された。
<実施例4>蛍光競合物質が被検物質IPと競合してIP受容体のリガンド結合部と結合ないし解離するか否かの検討
蛍光競合物質が被検物質IPと競合してIP受容体のリガンド結合部と結合ないし解離するか否かを確認する試験を、下記の手順に従って行った。
実施例3(3)で作成した蛍光IPセンサーLIBRAvIISVd(LvIISVd)が発現したサポニン穿孔細胞に、終濃度が30nMもしくは100nMとなるように蛍光競合物質F−ADAを作用させた後に10μMのIPを作用させ、または、終濃度が100nMとなるように蛍光競合物質F−LLを作用させた後に終濃度が0.1μM、1μMないし10μMとなるように段階的にIPを作用させた他は、実施例1(4)[4−3]と同様の手法に基づいて、それぞれ蛍光競合物質F−ADAおよびIP、ならびにF−LLおよびIPを作用させた蛍光IPセンサーLIBRAvIISVd(LvIISVd)発現サポニン穿孔細胞における480nmの蛍光および535nmの蛍光の蛍光比を算出した。その結果を図16および図17に示す。
図16に示すように、親和性がIPの約150倍である蛍光競合物質F−ADAを作用させると、F−ADAが結合して480nm/535nm蛍光比が下降した。その後、実験チャンバー内を洗浄したが、F−ADAの解離が極めて遅いため、480nm/535nm蛍光比の変化はごくわずかであった。続いて、IPを添加することによりF−ADAの解離が促進され、その結果、480nm/535nm蛍光比は急速に上昇した。一方、図17に示すように、親和性が低い蛍光競合物質F−LLを作用させた場合において、F−LLの存在下でIPを添加することによってF−LLおよびIPの競合が起こり、IPの濃度に依存して480nm/535nm蛍光比は上昇した。これらの結果から、蛍光競合物質が被検物質IPと競合してIP受容体のリガンド結合部と結合ないし解離することが示された。
<実施例5>担体固定化IP測定FRET分子センサーの検討
実施例3において、一種類の蛍光タンパク質およびIP受容体のリガンド結合部を有する蛍光IPセンサー、ならびに蛍光競合物質を備えた、蛍光タンパク質(ECFP)および蛍光競合物質が引き起こすFRETを利用するIP測定FRET分子センサーを構築できることが示された。そこで、当該蛍光IPセンサーを担体に固定化し、これと蛍光競合物質との組み合わせにより、担体に固定化したIPを測定したFRET分子センサーを構築できるか否かを検討した。
(1)担体固定化蛍光IPセンサーの作成
[1−1]蛍光IPセンサーcyLIBRAvIISVd(cyLvIISVd)遺伝子の作成
先ず、実施例2(1)のMP−LIBRAvIIS(MP−LvIIS)(図8)発現プラスミド(配列番号24)を制限酵素SacIにより切断し、小胞体局在ドメインMPを除去した後に再結合させて、細胞質型蛍光IPセンサーであるcyLIBRAvIIS(cyLvIIS)発現プラスミド(配列番号30)を作成した。続いて、作成したcyLIBRAvIIS(cyLvIIS)発現プラスミドを制限酵素SmaIとHincIIにより切断、再結合させてVenus遺伝子を除去することにより、1つの蛍光タンパク質を備えた細胞質型蛍光IPセンサーであるcyLIBRAvIISVd(cyLvIISVd)遺伝子(配列番号31)を作成した。cyLIBRAvIISVd(cyLvIISVd)遺伝子の作成手順を図18に示す。図18中、「ERT」は小胞体結合遺伝子配列を示し、「HisTag」は6個の連続するヒスチジン(His;H)残基からなるタグペプチドの遺伝子配列を示し、「Cerulean」は青色蛍光タンパク質Ceruleanの遺伝子配列を示し、「LBD」はIP受容体のリガンド結合部の遺伝子配列を示し、「Venus」は黄色蛍光タンパク質Venusの遺伝子配列を示し、「ECFP」は青色蛍光タンパク質ECFPの遺伝子配列を示す。
[1−2]ビーズ固定化蛍光IPセンサーcyLIBRAvIISVd(cyLvIISVd)の作成
次に、実施例1(4)[4−1]と同様の手法に基づいて、cyLIBRAvIISVd(cyLvIISVd)発現プラスミドを細胞内に導入して、蛍光IPセンサーcyLIBRAvIISVd(cyLvIISVd)が発現した細胞を作成した。蛍光IPセンサーcyLIBRAvIISVd(cyLvIISVd)の構成を図19に示す。図19中、「6H」は6個の連続するヒスチジン(His;H)残基からなる精製用のタグペプチドを示し、「Cerulean」は青色蛍光タンパク質Ceruleanを示し、「L1H1」はリンカー(Glu−Ala−Ala−Ala−Arg−Ser−Arg(EAAARSR);配列番号32)を示し、「IPR2(1−604)with R440Q」はラット2型IP受容体のリガンド結合部に親和性を高めるアミノ酸変異R440Qを入れたペプチド、すなわちラット2型IP受容体のN末端から1〜604番のアミノ酸配列からなるペプチドであってその配列の440番のアルギニン(R)をグルタミン(Q)へ変異させたペプチドを示す。
続いて、実施例1(4)[4−2]と同様の手法に基づいて、得られた蛍光IPセンサーcyLIBRAvIISVd(cyLvIISVd)が発現した細胞をサポニンで穿孔し、その上清にTalonビーズ(タカラバイオ社)を加えて2時間インキュベートすることによりビーズ固定化蛍光IPセンサーcyLIBRAvIISVd(cyLvIISVd)を作成した。さらに、セルタックを塗布した実験チャンバーにこのビーズ固定化蛍光IPセンサーLIBRAvIISVd(cyLvIISVd)を接着させ、蛍光倒立顕微鏡TE2000(ニコンインステック社)およびEM−CCDカメラC9100−13を用いて蛍光像を撮影した後、終濃度が10nM、30nM、100nMまたは300nMとなるように蛍光競合物質F−ADA、蛍光競合物質F−LLまたはFITCを作用させ、実施例1(3)[3−2]のイメージングシステム(浜松ホトニクス社)を用いて蛍光変化率を算出した。その結果を図20に示す。
図20に示すように、F−LLまたはF−ADAを作用させた場合、濃度依存的な蛍光比の変化が認められ、F−LLおよびF−ADAによる最大蛍光変化率はそれぞれ60%(1.6倍)と75%(1.75倍)であった(図20AおよびB)。これらに対し、IP受容体と結合しないFITCを加えても蛍光変化率は0に近い値であった(図20D)。これらのことから、担体固定化蛍光IPセンサーであるビーズ固定化蛍光IPセンサーcyLIBRAvIISVd(cyLvIISVd)は、蛍光競合物質との特異的な結合によって480nm/535nm蛍光比が変化することが明らかになった。さらにこの定量的解析によって、従来の蛍光IPセンサーLIBRAvIIS(LvIIS)およびIPによる480nm/535nm蛍光比の変化の約10倍という大きな反応が起こることが明らかになった。
(2)蛍光競合物質が被検物質IPと競合して担体固定化蛍光IPセンサーのIP受容体のリガンド結合部と結合ないし解離するか否かの検討
蛍光競合物質が被検物質IPと競合して担体固定化蛍光IPセンサーのIP受容体のリガンド結合部と結合ないし解離するか否かを確認する試験を、下記の手順に従って行った。
本実施例5(1)で作成した担体固定化蛍光IPセンサーcyLIBRAvIISVd(cyLvIISVd)に、終濃度が100nMとなるように蛍光競合物質F−LLを作用させた後に終濃度が0.1μM、1μMないし10μMとなるように段階的にIPを作用させた他は、実施例1(4)[4−3]と同様の手法に基づいて、F−LLおよびIPを作用させた担体固定化蛍光IPセンサーcyLIBRAvIISVd(cyLvIISVd)における480nmの蛍光と535nmの蛍光の蛍光比および蛍光変化率を算出した。その結果を図21に示す。
図21に示すように、ビーズ固定化蛍光IPセンサーcyLIBRAvIISVd(cyLvIISVd)に100nMのF−LLを作用させると480nm/535nm蛍光比が低下し、その後IPを加えるとF−LLおよびIPの競合によってビーズ固定化蛍光IPセンサーcyLIBRAvIISVd(cyLvIISVd)およびF−LLの結合が阻害され、IP濃度に依存して480nm/535nm蛍光比が上昇した(図21A)。すなわち、F−LLおよびIPを含む試料をビーズ固定化蛍光IPセンサーcyLIBRAvIISVd(cyLvIISVd)に作用させた場合に、480nm/535nm蛍光比の上昇率からIP濃度を測定できることが示された。競合するリガンドの結合はそれぞれの濃度に依存することから、F−LL濃度を低下させることによってより低濃度のIP測定が可能になると考えられ、30nMのF−LLおよび100nMのF−LLをそれぞれ作用させ、さらにIPを作用させることにより比較したところ、その通りに、すなわち低濃度のF−LLを作用させ、さらにIPを作用させることによりIPによる蛍光変化率は大きくなった(図21B)。これらの結果から、担体固定化蛍光IPセンサーおよび蛍光競合物質を有する担体固定化IP測定FRET分子センサーによれば、精度の高いIP測定が可能になることが示された。
<実施例6>IP受容体のリガンド結合部のアミノ酸配列改変の検討および蛍光IPセンサーにおける蛍光物質の検討
IP受容体のリガンド結合部のアミノ酸配列に1〜十数個のアミノ酸が付加、挿入等されたアミノ酸配列を有するタンパク質がIP受容体のリガンド結合部として機能するか否か、および蛍光IPセンサーにおいて、蛍光タンパク質の代わりに有機蛍光化合物を蛍光物質として用いることができるか否かを同時に検討した。
(1)IP受容体のリガンド結合部の改変タンパク質発現遺伝子の作成
蛍光タンパク質の代わりにシステイン結合性蛍光有機化合物であるN−[4−メチル−7−(ジメチルアミノ)クマリン−3−イル]マレインイミド(DACM)を用いることを目的として、マウス1型IP受容体のリガンド結合部の上流に位置するアミノ酸82番と83番との間にLumioTag(LT、CCPGCC、配列番号33)を挿入したOP1−ma(EN)−E、ラット1型IP受容体のリガンド結合部の上流に位置するアミノ酸140番と141番との間にLumioTagを挿入したOP1−ma(EN)−S、および当該挿入したLumioTagを除去したOP1−ma(EN)−E−Sを、以下の手順に従ってそれぞれ作成した。
[1−1]Lhb−ma遺伝子の作成
先ず、膜結合ドメイン、FLAGタグ、ヒスチジンタグおよびLumioTagを含む12個のアミノ酸からなるペプチド鎖をマウス1型IP受容体のリガンド結合部に付加または挿入したLhb−ma(配列番号34)を作成した。具体的には、膜結合ドメイン、FLAGタグおよびヒスチジンタグを付加し、かつLumioTagをマウス1型IP受容体のリガンド結合部の上流に位置するアミノ酸82番と83番との間、およびアミノ酸140番と141番との間に挿入した遺伝子配列を有するLhb−1プラスミド(配列番号35)をGeneScript社に依頼して合成し、得られたLhb−1プラスミドおよび実施例2(1)のLIBRAvIII(LvIII)プラスミド(配列番号22)を制限酵素NheIおよびNotIにより切断した後、Lhb−1遺伝子を含むDNA断片をLIBRAvのベクターに挿入することによりLhb−ma遺伝子を作成した。
[1−2]OP1−ma(EN)遺伝子の作成
本実施例6(1)[1−1]で得られたLhb−ma遺伝子を制限酵素EcoRVおよびNru1により切断した後、再結合することにより、マウス1型IP受容体のリガンド結合部上流のLumioTagを除去した。これによって、マウス1型IP受容体のリガンド結合部のアミノ酸82番と83番との間、およびアミノ酸140番と141番との間にLumioTagを含むOP1−ma(EN)遺伝子が得られた。
[1−3]OP1−ma(EN)−S遺伝子、OP1−ma(EN)−E遺伝子、およびOP1−ma(EN)−E−S遺伝子の作成
本実施例6(1)[1−2]で得られたOP1−ma(EN)遺伝子を制限酵素ScaIで切断した後、再結合することにより、マウス1型IP受容体のリガンド結合部のアミノ酸82番と83番との間のLumioTagを除去した。これによって、マウス1型IP受容体のリガンド結合部のアミノ酸140番と141番との間にLumioTagを含むOP1−ma(EN)−S遺伝子(配列番号36)が得られた。
次に、本実施例6(1)[1−2]で得られたOP1−ma(EN)遺伝子を制限酵素Eco47IIIで切断した後、再結合することにより、マウス1型IP受容体のリガンド結合部のアミノ酸140番と141番との間のLumioTagを除去した。これによって、マウス1型IP受容体のリガンド結合部のアミノ酸82番と83番との間にLumioTagを含むOP1−ma(EN)−E(配列番号37)遺伝子が得られた。
続いて、得られたOP1−ma(EN)−E遺伝子を制限酵素ScaIで切断した後、再結合することにより、マウス1型IP受容体のリガンド結合部のアミノ酸82番と83番との間のLumioTagを除去した。これによって、マウス1型IP受容体のリガンド結合部にLumioTagを含まないOP1−ma(EN)−E−S遺伝子(配列番号38)が得られた。OP1−ma(EN)−S遺伝子、OP1−ma(EN)−E遺伝子、およびOP1−ma(EN)−E−S遺伝子の作成手順を図22に示す。図22中、「→」はベクター遺伝子の一部を示し、「MT」は膜結合遺伝子配列を示し、「FLAG」はFLAGタグの遺伝子配列を示し、「LT」および「LT」はLumioTagの遺伝子配列を示し、「E1」はScaI切断サイトを示し、「E2」はEco47III切断サイトを示し、「1−82−E1−LT−E1−83−140−E2−LT−E2−141−604」、「1−82−E1−LT−E1−83−140−E2−141−604」、「1−82−E1−83−140−E2−LT−E2−141−604」および「1−82−E1−83−140−E2−141−604」はIP受容体のリガンド結合部の改変タンパク質の遺伝子配列を示し、「Hx6」は6個の連続するヒスチジン(His;H)残基からなるタグペプチドの遺伝子配列を示す。
(2)蛍光IPセンサーOP1−ma(EN)−S、OP1−ma(EN)−E、およびOP1−ma(EN)−E−S発現サポニン穿孔細胞の作成および蛍光イメージング法による解析
続いて、実施例1(4)[4−1]と同様の手法に基づき、OP1−ma(EN)−S、OP1−ma(EN)−E、およびOP1−ma(EN)−E−Sのそれぞれの発現プラスミドを細胞内に導入することによりOP1−ma(EN)−S、OP1−ma(EN)−E、およびOP1−ma(EN)−E−Sがそれぞれ発現した細胞を作成した後、実施例1(4)[4−2]と同様の手法に基づき、OP1−ma(EN)−S、OP1−ma(EN)−E、およびOP1−ma(EN)−E−Sがそれぞれ発現した細胞からそれぞれのサポニン穿孔細胞を得た。得られたそれぞれのサポニン穿孔細胞に対し、システイン結合性蛍光有機化合物であるN−[4−メチル−7−(ジメチルアミノ)クマリン−3−イル]マレインイミド(DACM)2μMにて処理を2分間行い、DACMが結合した蛍光IPセンサーOP1−ma(EN)−S、OP1−ma(EN)−E、およびOP1−ma(EN)−E−Sを細胞膜上に発現させた。これら蛍光IPセンサーOP1−ma(EN)−S、OP1−ma(EN)−E、およびOP1−ma(EN)−E−S発現サポニン穿孔細胞に対し、終濃度が100nMとなるように蛍光競合物質F−ADAを作用させた他は、実施例1(4)[4−3]と同様の手法に基づいて、それぞれ蛍光競合物質F−ADAを作用させた蛍光IPセンサーOP1−ma(EN)−S、OP1−ma(EN)−E、およびOP1−ma(EN)−E−S発現サポニン穿孔細胞における480nmの蛍光および535nmの蛍光の蛍光強度、ならびに480nm/535nm蛍光比を算出した。その結果を図23に示す。
図23に示すように、DACMから蛍光競合物質F−ADAへのFRETによって、480nmの蛍光が3〜5倍に増加し、480nm/535nm蛍光比が大きく低下した。このことから、IP受容体のリガンド結合部のアミノ酸配列に1〜数十個のアミノ酸が付加、挿入等されたアミノ酸配列を有するタンパク質がIP受容体のリガンド結合部として機能し、かつ蛍光IPセンサーにおいて、蛍光タンパク質の代わりに有機蛍光化合物を蛍光物質として用いることができることが示された。
DACMはシステインに結合することによって蛍光物質に変化する化合物であり、また、LumioTagは4個のシステイン残基を含むペプチドであることから、DACMはLumioTagに結合し得る。しかし、LumioTagを除去したOP1−ma(EN)−E−Sにおいても反応が見られたことから、F−ADAとのFRETに関与するDACMは、挿入したLumioTagを除くIP受容体のリガンド結合部中のシステインに結合したことが示された。また、OP1−ma(EN)−E−Sには、マウス1型IP受容体のリガンド結合部の253番,292番,326番,394番,530番,553番および556番に該当する、計7個のシステイン残基が存在する(Bosanac et al.,Nature,420:696−700,2002)ことが知られていることから、これらに有機蛍光化合物を結合させても蛍光IPセンサーとしての機能が失われないことが示された。
さらに、IP受容体では、そのN末端側700個程度のアミノ酸によってリガンド結合部が構成されている。例えば、N末端の734個のアミノ酸と比較して、そのN末端側の1〜31番,1〜62番,1〜146番,1〜162番,1〜183番,1〜199番,1〜215番のアミノ酸を除去した場合のIP結合能は大きく低下するが消失はしない。さらに1〜220番,1〜223番,1〜225番のアミノ酸を除去すると結合能が回復するが、1〜228番,1〜238番,1〜261番,1〜283番,1〜307番のアミノ酸を除去すると結合能が消失する。また、579〜649番のアミノ酸を除去しても結合能は変化しないが、568〜649番のアミノ酸を除去すると結合能は消失する。さらに、224〜579番のペプチド鎖のIP結合親和性は1〜734番のペプチド鎖のIP結合親和性と比較して約10倍であることが知られており(Yoshikawa et al.,J.Biol.Chem.271:18277−18284,1996)、アミノ酸224〜579番がリガンド結合部として必須であり、coreドメインと呼ばれている。また、241番のアルギニン(241R)、249番のリシン(249K)、265番のアルギニン(265R)、269番のアルギニン(269R)、504番のアルギニン(504R)、506番のアルギニン(506R)、508番のリシン(508K)、511番のアルギニン(511R)、568番のアルギニン(568R)、および569番のリシン(569K)の10個のアミノ酸が必須であり、これらを変異させることによってIP結合能が消失することが知られている(Bosanac et al.,Nature,420:696−700,2002;およびYoshikawa et al.,J.Biol.Chem.271:18277−18284,1996)。
一方、それ以外のアミノ酸は置換が可能であり、これまでに、100番のリシンをグルタミンへ置換(K100Q)、101番のリシンをグルタミンへ置換(K101Q)、235番のリシンをグルタミンへ置換(K235Q)、257番のアルギニンをグルタミンへ、258番のリシンをグルタミンへ、および259番のリシンをグルタミンへ置換(R257Q/K258Q/K259Q)、293番のアルギニンをグルタミンへ置換(R293Q)、304番のアルギニンをグルタミンへ、および306番のリシンをグルタミンへ置換(R304Q/K306Q)、350番のリシンをグルタミンへ置換(K350Q)、376番のアルギニンをグルタミンへ置換(R376Q)、412番のリシンをグルタミンへ置換(K412Q)、424番のリシンをグルタミンへ置換(K424Q)、427番のリシンをグルタミンへ置換(K427Q)、459番のリシンをグルタミンへ置換(K459Q)、470番および471番のアルギニンをグルタミンへ置換(R470Q/R471Q)、501番のリシンをグルタミンへ置換(K501Q)、537番のアルギニンをグルタミンへ置換(R537Q)、545番のアルギニンをグルタミンへ置換(R545Q)、554番のアルギニンをグルタミンへ置換(R554Q)、561番のアルギニンをグルタミンへ置換(R561Q)、576番のリシンをグルタミンへ置換(K576Q)、603番のアルギニンをグルタミンへ、および604番のリシンをグルタミンへ置換(R603Q/K604Q)、623番のアルギニンをグルタミンへ、および624番のリシンをグルタミンへ置換(R623Q/K624Q)、626番のアルギニンをグルタミンへ置換(R626Q)、629番のアルギニンをグルタミンへ置換(R629Q)することによってはIP結合の活性は大きく変化しないことが知られている(Bosanac et al.,Mol.Cell,17:193−203,2005)。
さらにN末端の604個のアミノ酸で構成されるIP受容体のリガンド結合部において調べた場合、30番のロイシンをリシンへ置換(L30K)、32番のロイシンをリシンへ置換(L32K)、33番のバリンをリシンへ置換(V33K)、34番のアスパラギン酸をリシンへ置換(D34K)、36番のアルギニンをグルタミン酸へ置換(R36E)、54番のアルギニンをグルタミン酸へ置換(R54E)、127番のリシンをグルタミン酸へ置換(K127E)、54番のアルギニンをグルタミン酸へ、および127番のリシンをグルタミン酸へ置換(R54E/K127E)、ならびに67〜108番の除去することによってIP結合親和性が上昇し、Kd値が30〜90%低下するのに対し、35番のアスパラギン酸をリシンへ置換(D35K)、51番のリシンをグルタミン酸へ置換(K51E)、52番のリシンをグルタミン酸へ置換(K52E)、97番のアスパラギン酸をリシンへ置換(D97K)、99番のグルタミン酸をリシンへ置換(E99K)、104番のグルタミン酸をリシンへ置換(E104K)、106番のグルタミン酸をリシンへ置換(E106K)、97番のアスパラギン酸および99番のグルタミン酸をいずれもリシンへ置換(D97A/E99A)、104番および106番のグルタミン酸をリシンへ置換(E104K/E106K)することによっては、IP結合親和性は50〜80%に低下する。
以上のように、241番のアルギニン(241R)、249番のリシン(249K)、265番のアルギニン(265R)、269番のアルギニン(269R)、504番のアルギニン(504R)、506番のアルギニン(506R)、508番のリシン(508K)、511番のアルギニン(511R)、568番のアルギニン(568R)、および569番のリシン(569K)の10個の必須アミノ酸以外については、アミノ酸の除去や置換を行ってもIP受容体のリガンド結合部の機能が損なわれないといえる。さらに、マウス1型IP受容体のリガンド結合部の441番のアルギニンをグルタミンへ置換すること(R441Q)は、IP結合親和性を大きく高めるが、同じ置換(R441Q)をマウス2型IP受容体のリガンド結合部の441番で行っても、同様の親和性の上昇が起こることから(Tanimura et al.,J.Biol.Chem.,284:8910−8917,2009)、IP受容体のサブタイプや動物種にかかわらず、10個の必須アミノ酸以外は変異が可能であると考えられる。
<実施例7>IP受容体のリガンド結合部にECFPの円順列置換体を挿入した蛍光IPセンサーの検討
実施例6の結果から、IP受容体のリガンド結合部の内部にペプチド鎖を挿入しても、IP受容体のリガンド結合部の機能は損なわれなかったことから、IP受容体のリガンド結合部の内部に蛍光タンパク質であるECFPの円順列置換体を挿入した蛍光IPセンサーについて検討するとともに、蛍光競合物質との組み合わせにより担体固定化IP測定FRET分子センサーの構築可能か否かについて検討した。
(1)蛍光IPセンサーOP1S−cpC157、OP1S−cpC173、およびOP1S−cpC229の作成
実施例6(1)[1−3]で作成したOP1−ma(EN)−E−Sのリガンド結合部のアミノ酸82番と83番との間に、ECFPの円順列置換体である蛍光タンパク質cpSECFP157、cpSECFP173、およびcpSECFP229(Nagai et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,101:10554−10559,2004)を挿入した。具体的には、cpSECFP157、cpSECFP173、およびcpSECFP229を発現するベクター(配列番号39〜41)を制限酵素EcoRVおよびXca1(SnaI)で切断して各蛍光タンパク質遺伝子を精製した。精製した各蛍光タンパク質遺伝子を、ScaIで切断したOP1−ma(EN)−E−S発現プラスミドに挿入して、蛍光IPセンサーOP1S−cpC157,OP1S−cpC173およびOP1S−cpC229発現プラスミド(配列番号42〜44)を作成した。OP1S−cpC157遺伝子,OP1S−cpC173遺伝子およびOP1S−cpC229遺伝子の作成手順を図24に示す。図24中、「→」はベクター遺伝子の一部を示し、「MT」は膜結合遺伝子配列を示し、「FLAG」はFLAGタグの遺伝子配列を示し、「E1」はScaI切断サイトを示し、「E2」はEco47III切断サイトを示し、「1−82−E1−83−140−E2−141−604」はIP受容体のリガンド結合部の改変タンパク質の遺伝子配列を示し、「Hx6」は6個の連続するヒスチジン(His;H)残基からなるタグペプチドの遺伝子配列を示し、「cpSECFP157」、「cpSECFP173」および「cpSECFP229」はそれぞれECFPの円順列置換体である蛍光タンパク質cpSECFP157、cpSECFP173、およびcpSECFP229の遺伝子配列を示し、「1−82−cpSECFP157−83−140−E2−141−604」、「1−82−cpSECFP173−83−140−E2−141−604」、および「1−82−cpSECFP229−83−140−E2−141−604」はそれぞれECFPの円順列置換体である蛍光タンパク質cpSECFP157、cpSECFP173、およびcpSECFP229をIP受容体のリガンド結合部の改変タンパク質へ挿入した遺伝子配列を示す。
(2)蛍光IPセンサーOP1S−cpC157,OP1S−cpC173、およびOP1S−cpC229発現サポニン穿孔細胞の作成および蛍光イメージング法による解析
続いて、実施例1(4)[4−1]と同様の手法に基づき、蛍光IPセンサーOP1S−cpC157、蛍光IPセンサーOP1S−cpC173、および蛍光IPセンサーOP1S−cpC229のそれぞれの発現プラスミドを細胞内に導入することにより蛍光IPセンサーOP1S−cpC157,OP1S−cpC173、およびOP1S−cpC229がそれぞれ発現した細胞を作成した後、実施例1(4)[4−2]と同様の手法に基づき、蛍光IPセンサーOP1S−cpC157,OP1S−cpC173、およびOP1S−cpC229がそれぞれ発現した細胞からそれぞれのサポニン穿孔細胞を得た。終濃度が100nMとなるように蛍光競合物質F−ADAを作用させた他は、実施例1(4)[4−3]と同様の手法に基づいて、それぞれ蛍光競合物質F−ADAを作用させた蛍光IPセンサーOP1S−cpC157,OP1S−cpC173、およびOP1S−cpC229発現サポニン穿孔細胞における480nmの蛍光および535nmの蛍光の蛍光強度、ならびに480nm/535nm蛍光比を算出した。その結果を図25に示す。
図25に示すように、これら蛍光IPセンサーOP1S−cpC157,OP1S−cpC173、およびOP1S−cpC229が機能することが確認された。このことから、蛍光タンパク質をIP受容体のリガンド結合部の内部に挿入することが可能であることが示された。なお、ラット1型IP受容体のリガンド結合部の場合は、ループを形成しているN末端側の1〜13番,23〜24番,30〜36番,40〜51番,61〜66番,76〜86番,109〜119番,126〜129番,140〜146番,153〜156番,160番,166〜180番,187〜192番,200〜206番,212〜216番,225番,229〜238番,245〜248番,257〜259番,266〜277番,281番,287〜301番,308〜312番,319〜352番,359〜363番,366番,373〜386番,393〜396番,406〜414番,422〜430番,435〜436番,463〜466番,485〜503番,513〜514番,524〜551番,564〜567番,573〜579番のアミノ酸において、蛍光タンパク質を挿入できることが示唆される(Bosanac et al.,Nature,420:696−700,2002;Bosanac et al.,Mol.Cell,17:193−203,2005;およびTanimura et al.,J.Biol.Chem.271:30904−30908,1996)。
<実施例8>蛍光物質および抗体のパラトープ含有ポリペプチド部分を有する蛍光被検物質センサー、ならびに被検物質と競合して対象とする抗体のパラトープ含有ポリペプチド部分と特異的に結合ないし解離しかつ蛍光修飾された物質を備えた被検物質測定FRET分子センサーの構築、および競合的蛍光抗原アッセイ(Competitive Fluorescence Antigen Assay:CFAA)の構築
蛍光物質および抗体のパラトープ含有ポリペプチド部分を有する蛍光被検物質センサー、ならびに被検物質と競合して対象とする抗体のパラトープ含有ポリペプチド部分と特異的に結合ないし解離しかつ蛍光修飾された物質を備えた被検物質測定FRET分子センサーを構築して、競合的蛍光抗原アッセイ(Competitive Fluorescence Antigen Assay:CFAA)の構築を試みた。
(1)FITCによりCT2−18を蛍光修飾して得られる蛍光ペプチドF−CT2−18の作成
ヒトIP受容体のパラログであるヒト2型IP受容体(ヒトIP3R2)のC末端、2685〜3001番の18アミノ酸CGFLGSNTPHVNHHMPPHで構成されるペプチドであるCT2−18(配列番号45)をFITCにより蛍光修飾して得られる蛍光ペプチド(F−CT2−18)は、CT2−18と競合し、かつCT2−18を抗原として作成した抗体(ABsII)のパラトープ含有ポリペプチド部分と特異的に結合する蛍光競合物質である。抗体の作成に使用した抗原ペプチドCT2−18およびCT2−18のN末端にFITCによりラベルした蛍光ペプチドF−CT2−18を、United Biosystems Inc.のDr.CabinJohn,MD(USA)に依頼することにより合成した。
(2)蛍光物質でラベルした抗体ABsII結合アガロースビーズの作成
既報(Tanimura et al.,J.Biol.Chem.,275:27488−27493,2000)に記載されているCT2−18を抗原として作成した抗体ABsIIに対し、200μMのDACMを30分間作用させることにより、蛍光物質DACMでラベルしたABsIIを有する蛍光ABsII−CT2−18センサーを作成した。具体的には、約10μgのABsIIおよび0.05%のウシ血清アルブミンを含むリン酸緩衝液(pH7.4)1000μLに10μMのDACMを加え、4℃で2時間静置した後、10μLのProtein Gアガロースビーズを加え、さらに4℃で2時間静置することによりアガロースビーズに蛍光ABsII−CT2−18センサーを結合させた後、リン酸緩衝液で洗浄した。蛍光ABsII−CT2−18センサーを結合させたアガロースビーズを100μLのリン酸緩衝液に分散し、AからDのチューブに20μLずつ分注した。Aのチューブにはリン酸緩衝液を、Bのチューブには1μMの蛍光競合物質F−CT2−18を、Cのチューブには1μMの蛍光競合物質F−CT2−18および1μMの被検物質CT2−18を、Dのチューブには1μMの蛍光競合物質F−CT2−18および10μMの被検物質CT2−18を、それぞれ100μL加え、2時間静置した。
(3)蛍光イメージング法による解析
これらのアガロースビーズ結合蛍光ABsII−CT2−18センサーおよび蛍光競合物質F−CT2−18の作用による蛍光を、実施例1(3)[3−2]のイメージングシステム(浜松ホトニクス社)を用いて測定して、480nm/535nm蛍光比を算出した。その結果を図26に示す。図26Aはアガロースビーズ結合蛍光ABsII−CT2−18センサーをリン酸緩衝液で洗浄後に蛍光測定を行った結果であり、図26Bはアガロースビーズ結合蛍光ABsII−CT2−18センサーを洗浄せずに蛍光測定を行った結果である。
図26Aに示すように、蛍光ABsII−CT2−18センサーにおけるDACMおよび蛍光競合物質F−CT2−18のFRETにより、480nm/535nm蛍光比が85%低下した。このFRETによる蛍光変化はCT2−18の濃度に依存して回復し、蛍光競合物質F−CT2−18の10倍量に該当する被検物質CT2−18の添加により蛍光比が5倍に増大した。また、図26Bに示すように、アガロースビーズ結合蛍光ABsII−CT2−18センサーを洗浄せずに同様の蛍光測定を行った場合、溶液中の蛍光の影響を受けるため、蛍光ABsII−CT2−18センサーにおけるDACMおよび蛍光競合物質F−CT2−18の蛍光変化は若干小さくなるものの、被検物質CT2−18の添加による480nm/535nm蛍光比の回復を十分に確認することができた。
以上の結果から、蛍光物質および抗体のパラトープ含有ポリペプチド部分を有する蛍光被検物質センサー、ならびに被検物質と競合して対象とする抗体のパラトープ含有ポリペプチド部分と特異的に結合ないし解離しかつ蛍光修飾された物質を備えた被検物質測定FRET分子センサーを構築して、競合的蛍光抗原アッセイ(Competitive Fluorescence Antigen Assay:CFAA)を構築することができることが示された。
<実施例9>蛍光物質でラベルしたニコチン性アセチルコリン受容体およびFITCによりラベルしたニコチン性アセチルコリンの組み合わせからなるFRET分子センサーの検討
細胞膜表面のニコチン性アセチルコリン受容体を蛍光物質でラベルし、FITCによりラベルしたニコチン性アセチルコリンである蛍光競合物質を用いることにより、生体内のアセチルコリン濃度を測定することができる。
<実施例10>抗c−Myc抗体を用いた固相化FRET分子センサー
(1)蛍光被験物質センサーの作製
Protein Gビーズ(SANTA CRUS社製 protein G agalose)溶液100μLに、抗cMycモノクローナル抗体(1mg/mL)25μLを加え、4℃で2時間インキュベートして、ビーズに抗体を結合させた。リン酸緩衝液(PBS)で抗体ビーズを洗浄後、400μLの抗体ビーズ溶液に対して8μLの10mM DACMを加えて4℃で30分間インキュベートした(最終濃度200μM)。その後、50μMのシステインを加えて反応を停止して、DACMでラベルされた抗c−Myc抗体がビーズに固相化された蛍光被験物質センサーを作製した。
(2)FITCでラベルされたc−Mycペプチドの作製
2mMのc−Mycペプチド(アミノ酸配列:EQKLISEEDL、配列番号46)溶液100μL(240μg)にFITCラベル試薬(Dojindo社製 Fluorescein Labeling Kit−NH)5μLを加え、4℃、10分間のインキュベーションによりペプチドをFITCラベルした。その後、10%ウシ血清アルブミン(BSA)を5μL(500μg)加え、20分間のインキュベーションによって、余剰のラベル試薬をBSAと反応させた。その後、限外濾過によって分子量<50Kdの蛍光ペプチド(FITC−cMyc)を回収することで、蛍光競合物質を作製した。
(3)非固相化蛍光被験物質センサーの作製
25μgの抗cMycモノクローナル抗体を含むPBS 400μLに対して8μLの10mM DACMを加えて4℃で30分間インキュベートした。その後、50μMのシステインで反応を停止して、限外濾過によって分子量<50Kdの画分を除去し、DACMでラベルされた抗c−Myc抗体である蛍光被験物質センサーを作製した。
(4)蛍光イメージング法による解析
0.01%BSAを含むPBSに(1)及び(3)で作製した蛍光被験物質センサーをそれぞれ加え、(2)で作製した蛍光競合物質20μMを、または蛍光競合物質20μMと被験物質(FITCでラベルされていないc−Mycペプチド)400μMとを加え、2時間反応させた。それぞれの反応溶液5μLをカバーガラスに滴下し、×20の対物レンズを装着した蛍光イメージング・システム(実施例1、(4)、[4−3]参照)を用いて、425nmの励起による、480nmと535nmの蛍光イメージを記録し、その蛍光比(480nm/535nm)を測定した。その結果を図27に示す。左のグラフが固相化された蛍光被験物質センサーを用いたときの、右のグラフが固相化されていない蛍光被験物質センサーを用いたときの蛍光比である。
図27に示すように、DACMからFITCへのFRETによる480nm/535nmの蛍光比は、被験物質の存在により上昇した。特に、固相化された蛍光被験物質センサーを備えるFRET分子センサーの方が明確に上昇する、すなわち感度が優れることが確認された。
<実施例11>抗DYK抗体を用いたFRET分子センサー
(1)蛍光被験物質センサーの作製
実施例10の(1)と同様にして、DACMでラベルされた抗DYK抗体がビーズに固相化された蛍光被験物質センサーを作製した。
(2)FITCでラベルされたDYKペプチドの作製
United Peptide社に依頼して、FITCでラベルされたDYKペプチド(アミノ酸配列:GDYKDDDDKCCPGCCGGGGGGGGGHHHHHH、配列番号47、FT1と表す)を蛍光競合物質として作製した。また被験物質として蛍光ラベルされていないDYKペプチド(FT2)を作製した。
(3)蛍光イメージング法による解析
実施例10の(4)と同様にして、DACMでラベルされた抗DYK抗体がビーズに固相化された蛍光被験物質センサーと蛍光競合物質であるFT1 0.4μM、またはFT1 0.4μMと被験物質4.0μMとを反応させ、蛍光イメージング・システムを用いて蛍光比(480nm/535nm)を測定した。その結果を図28に示す。
図28に示すように、DACMからFITCへのFRETによる480nm/535nmの蛍光比は、被験物質の存在により上昇した。
実施例10及び実施例11の結果から、特異抗体を被験物質結合部とする固相化された蛍光被験物質センサーおよび蛍光競合物質を備えたFRET分子センサーは、その抗体の特異的抗原の検出に利用することができることが確認された。
<実施例12>ヒスチジンタグ付タンパク質検出用FRET分子センサー
(1)蛍光被験物質センサーの作製
Protein Gビーズ(SANTA CRUS社製 protein G agalose)溶液100μLに、抗タイプ2 IP受容体抗体(ABsII)を加え4℃で2時間インキュベートし、抗体ビーズを作成した。リン酸緩衝液(PBS)で抗体ビーズを洗浄後、400μLの抗体ビーズ溶液に対して8μLの10mM DACMを加えて(最終濃度200μM)4℃で30分間インキュベートした。その後、50μMのシステインで反応を停止させた。さらに、8μLの10mMのIsothiocyanobenzyl−NTA(Dojindo社製)(最終濃度200μM)を加えて4℃で30分間インキュベートした。その後、50μMのシステインで反応を停止させ、さらに10mMのNiClを加えて30分間インキュベーションすることで、DACMで標識され、Ni−NTA錯体を有する蛍光被験物質センサーを作製した。
(2)蛍光イメージング法による解析
実施例10の(4)と同様にして、0.01%BSAを含むPBSに(1)で作製した蛍光被験物質センサーを加え、実施例11の(2)で作製したFT1 100μM、又はFT1 100μMと被験物質(FT1と競合するペプチド)であるFT2 100μMとを反応させ、蛍光イメージング・システム(対物レンズの倍率は×10)を用いて蛍光比(480nm/535nm)を測定した。その結果を図29に示す。
図29に示すように、DACMからFITCへのFRETによる480nm/535nmの蛍光比は、被験物質であるFT2の存在により上昇した。FT1及びFT2は、いずれもヒスチジンタグを有するペプチドであってNi−NTA錯体と結合する一方、ABsIIとは結合しない。このことから、上記の蛍光比の上昇は、FT1及びFT2と蛍光被験物質センサーに含まれるNi−NTA錯体との結合によるものであり、このことはかかる蛍光被験物質センサー及びヒスチジンタグを有するペプチドである蛍光競合物質を備えたFRET分子センサーが、ヒスチジンタグを有するペプチドの検出、定量さらには分離精製にも利用可能であることを意味する。
<実施例13>抗体分子検出用FRET分子センサー
(1)DACMでラベルされたビーズの作製
Protein Gビーズ(SANTA CRUS社製 protein G agalose)溶液400μLに対して8μLの10mM DACMを加えて(最終濃度200μM)4℃で30分間インキュベートした。その後、50μMのシステインを加えて反応を停止して、DACMでラベルされたProtein Gビーズ(DACM−PG)を蛍光被験物質センサーとして作製した。
(2)FITCでラベルされた抗タイプ2 IP受容体抗体(ABsII)の作製
100μgの抗タイプ2 IP受容体抗体(ABsII)を含むPBS溶液にFITCラベル試薬(Dojindo社製 Fluorescein Labeling Kit−NH)5μLを加え、4℃、10分間のインキュベーションによりABsIIをFITCラベルした。その後、限外濾過によって分子量<50Kdの画分を除去し、FITCでラベルされたABsII(FITC−ABsII)を回収することで、蛍光競合物質を作製した。
(3)蛍光イメージング法による解析
0.01%BSAを含むPBSに(1)で作製した蛍光被験物質センサーを加え、(2)で作製した蛍光競合物質0.1μg/mLを、または蛍光競合物質0.1μg/mLと被験物質(FITCでラベルされていないABsII)0.1μg/mLまたは1.0μg/mLとを加え、2時間反応させた。それぞれの反応溶液5μLをカバーガラスに滴下し、×10の対物レンズを装着した蛍光イメージング・システム(実施例1、(4)、[4−3]参照)を用いて、425nmの励起による、480nmと535nmの蛍光イメージを記録し、その蛍光比(480nm/535nm)を測定した。その結果を図30に示す。
図30に示すように、DACMからFITCへのFRETによる480nm/535nmの蛍光比は、被験物質の量に依存して上昇した。このことから、DACMでラベルされた抗体結合用ビーズである蛍光被験物質センサーおよび蛍光ラベルされた任意の抗体である蛍光競合物質を備えたFRET分子センサーは、被験試料中の抗体分子の検出を検出に利用可能であることが確認された。

Claims (7)

  1. 蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用して被検物質を測定するFRET分子センサーであって、蛍光物質および被検物質結合部を有する蛍光被検物質センサー、ならびに被検物質と競合して前記被検物質結合部と結合ないし解離する蛍光競合物質を備え、かつ前記蛍光物質および前記蛍光競合物質が引き起こすFRETを利用する前記FRET分子センサー。
  2. 蛍光物質が蛍光タンパク質またはタンパク質蛍光標識物質である、請求項1に記載のFRET分子センサー。
  3. 被検物質結合部がイノシトール1,4,5三リン酸(IP)受容体のリガンド結合部であり、蛍光競合物質が9−[5−Deoxy−5−[N−[[1−[5−[[3’,6’−dihydroxy−3−oxospiro(isobenzofuran−1,9’−xanthen)−5−yl]amino]thioxomethyl]amino]propyl]−1H−1,2,3−triazol−4−yl]−(3,4−di−O−phosphoryl−α−D−glucopyranosyl)−2−O−phosphoryl−β−D−ribo−pentofuranosyl]adenine(F−ADA)または(2R,3R,4S)−4−O−phosphoryl−2−[N−[[1−[5−[[3’,6’−dihydroxy−3−oxospiro(isobenzofuran−1,9’−xanthen)−5−yl]amino]thioxomethyl]amino]propyl]−1H−1,2,3−triazol−4−yl]methyl−tetrahydrofuran−3−yl−3,4−di−O−phosphoryl−α−D−glucopyranoside(F−LL)である、請求項1または請求項2に記載のFRET分子センサー。
  4. 被検物質結合部が抗体のパラトープ含有ポリペプチド部分であって、蛍光競合物質が前記抗体のパラトープ含有ポリペプチド部分と特異的に結合ないし解離しかつ蛍光修飾された物質である、請求項1または請求項2に記載のFRET分子センサー。
  5. 蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用して被検物質を測定するFRET分子センサーであって、蛍光物質および被検物質結合部を有して担体に固定化された蛍光被検物質センサー、ならびに被検物質と競合して前記被検物質結合部と結合ないし解離する蛍光競合物質を備え、かつ前記蛍光物質および前記蛍光競合物質が引き起こすFRETを利用する担体固定化被検物質測定FRET分子センサー。
  6. 請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の被検物質測定FRET分子センサーまたは請求項5の担体固定化被検物質測定FRET分子センサーと対象とを接触させる工程と、
    励起光を照射して生じた蛍光を測定する工程と
    を有する、蛍光の強度を指標として対象中の被検物質を測定する方法。
  7. 9−[5−Deoxy−5−[N−[[1−[5−[[3’,6’−dihydroxy−3−oxospiro(isobenzofuran−1,9’−xanthen)−5−yl]amino]thioxomethyl]amino]propyl]−1H−1,2,3−triazol−4−yl]−(3,4−di−O−phosphoryl−α−D−glucopyranosyl)−2−O−phosphoryl−β−D−ribo−pentofuranosyl]adenine(F−ADA)または(2R,3R,4S)−4−O−phosphoryl−2−[N−[[1−[5−[[3’,6’−dihydroxy−3−oxospiro(isobenzofuran−1,9’−xanthen)−5−yl]amino]thioxomethyl]amino]propyl]−1H−1,2,3−triazol−4−yl]methyl−tetrahydrofuran−3−yl−3,4−di−O−phosphoryl−α−D−glucopyranoside(F−LL)の、請求項1または請求項2に記載のFRET分子センサーにおける蛍光競合物質としての使用。

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