JPWO2018079793A1 - 嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養装置及び共培養方法 - Google Patents

嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養装置及び共培養方法 Download PDF

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Abstract

嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う手段を提供するため、嫌気性細菌などの1種又は複数種の細胞から構成される第1の細胞群を、上皮細胞などの1種又は複数種の細胞から構成される第2の細胞群で形成された細胞層または組織と嫌気条件下で共培養する第1培養槽と、好気状態の培養液を貯留する第2培養槽と、前記第1培養槽と前記第2培養槽とを接続するように配される1又は複数の物質交換構造と、前記物質交換構造の第1培養槽側の表面を覆うように配される前記細胞層または組織と、を有することを特徴とする、1種又は複数種の細胞から構成される第1の細胞群を、それとは異なる1種又は複数種の細胞から構成される第2の細胞群で形成された細胞層または組織と共培養するための培養システムとする。

Description

本開示は、嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養装置および当該装置を用いた嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養方法に関するものであり、特に、嫌気チェンバー内に静置された状態で嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養装置及び当該装置を用いた共培養方法に関するものである。
腸内細菌は、ヒトや動物の腸内に共生しながら常時存在する細菌類の総称である。腸内細菌の数や種類は大変多く、ヒトにおいては、糞便1gあたり約1000億超もの腸内細菌が存在し、その種類は少なくとも約100種程度はあり、未同定の菌も数多く存在するといわれている。腸内が嫌気性条件下にあることから、それら腸内細菌の多くは嫌気性細菌であると考えられている。
これら腸内細菌は、腸内に存在する様々な物質を吸収し、ヒトや動物にとっては有用な代謝物を腸内へと排出することで、摂取した食物の消化における補助的役割を果たしている。また、腸内細菌は、腸内に常在して安定した腸内細菌叢を構成することで、ヒトや動物の腸内に侵入する外来の病原菌の生育を妨げ、それら病原菌に起因する疾患の発生を防ぐ役割を担っていると考えられている。その一方で、腸内細菌は、その代謝物として、毒性物質や発癌物質などのような、ヒトや動物の生存に悪影響を与える有害物を産生することもある。これら有害物がヒトや動物の腸内に直接作用し、さらには腸から吸収され血流を通じて全身に運搬されて作用すると様々な障害や疾患が引き起こされることなり、ヒトや動物の健康が損なわれてしまう。
このように、腸内に共生する数や種類が様々な腸内細菌と、それら腸内細菌より形成される腸内細菌叢は、ヒトや動物が健康な状態を保ちながら生存し続けるために必須の存在となっているとともに、疾患を引き起こす原因ともなっており、ヒトや動物において、その健康の善し悪しを左右する極めて重要な存在であると考えられている。
一方で、腸内細菌の数や種類、並びに腸内細菌叢の具体的構成は、各個人・個体ごとに異なり、また、同一の個人・個体であっても、食環境や生活環境などの外的要因や体調などの内的要因の変化により、構成する腸内細菌の種類や比率が随時変動するとされている。そのため、腸内細菌叢の具体的構成がヒトや動物の健康状態に及ぼす影響も、日々変化し続けているものと考えられている。
近年、このような腸内細菌や腸内細菌叢の存在とヒトや動物の健康状態に及ぼす影響との関連の重要性が大きな注目を集めている。そして、腸内細菌と腸内細菌叢が有するであろう健康に寄与する要因や健康に悪影響を及ぼす要因を解明し、腸内細菌によるヒトや動物の健康増進と、各種疾患の治療および予防方法の確立を図ろうとする機運が非常に高まっている。そこで、腸内細菌叢の全貌を解明すべく、ヒトや動物の腸内から腸内細菌を採取して単離培養するとともに、種類や特性を同定する試みがなされ、好気性の条件下でも培養可能な一部の腸内細菌については、解析が進められ、腸上皮細胞との共存下における特性の確認試験も行われている。しかし、腸内細菌は、絶対嫌気性である場合が多く、またその半数以上が培養困難であることから、菌の同定や特性の確認が未だなされていないものが多い。そのため、腸内細菌の種類や比率の変動に与える外的要因、内的要因との関係についても、正確に把握されるには至っていない。
そこでまず、腸内細菌が、ほぼ無酸素の絶対嫌気性条件下の腸内にて生息していることを踏まえ、培養液を入れた培養皿を無酸素チェンバー内に保持して腸内の無酸素条件を再現することで、絶対嫌気性である腸内細菌を培養する方法が提案され利用されている。この方法は、培養液中で増殖する一部の腸内細菌には有効である。しかし、この方法では、培養液の組成を菌に合わせて至適化する必要があり、他方、至適化すると一部の種類の腸内細菌のみが増え、腸内細菌叢を構成しているその他の難培養性の嫌気性腸内細菌を同時に増殖させることは困難となるため、改善が求められていた。
そこで、腸内細菌は、腸内にて腸管の上皮細胞と接しながら生存していることを考慮し、腸内細菌を、単に培養液中で培養するのではなく、腸内と同様に、腸管の上皮細胞と共存させるよう、腸管の上皮細胞もしくはそれと同等の細胞による単層膜を作成し、または、細胞培養インサートを用いた細胞培養システムのフィルター上に腸管の上皮細胞もしくはそれと同等の細胞の単層膜を作成したシステムを構築することが試みられた。しかし、腸管の上皮細胞もしくはそれと同等の細胞の単層膜は、無酸素状態にして腸内の環境を再現すると、作成された単層膜における細胞間のタイトジャンクションが1日で壊れ、48時間以内には細胞が死滅し単層膜が剥離してしまうので、腸内細菌を腸管の上皮細胞と共存させて培養することはできない(特許文献1)。
そこで、より天然の腸の状態を模倣するようにして腸上皮細胞と腸内細菌との同時培養を可能とするものとして、一層の腸上皮細胞を備えた多孔膜により上下に分割されたマイクロ流路を有し、該上下に分割されたマイクロ流路に異なる流体供給源から培養液が供給され続けるようにし、マイクロ流路の両側に設けた真空チャンバにより該一層の腸上皮細胞を備えた多孔膜を伸張させるようにした、腸内細菌と腸上皮細胞の培養システムが提案されている(特許文献1)。
特表2014−506801号公報
本開示が解決しようとする課題は、上皮細胞またはそれと同視し得る細胞による単層膜に培養液を流し込みながら同時に該単層膜を伸縮させるという特殊な培養環境を用いることなく、絶対嫌気性の難培養性細菌などの細菌を、上皮細胞またはそれと同視し得る細胞との共生関係を保持しながら、容易かつ簡便に、効率よく増殖させることができ、低コストな、嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養システムおよび当該共培養システムを用いた培養方法の新たな手段を提供することである。そしてまた、当該培養システム及び培養方法を用いて、生体内における未同定の嫌気性細菌を始めとする細菌を単離増殖し、菌の同定や特性の確認を進めることである。
また、本開示が解決しようとする課題は、上記新たな嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養システムおよび当該共培養システムを用いた培養方法において、細菌の限界希釈に対応し、さらには、マルチウェル化や汎用ロボットを用いた細菌培養や継代の自動化にも対応可能な手段を提供することである。
加えて、本開示が解決しようとする課題は、上記新たな嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養システムおよび当該共培養システムを用いた培養方法において、上皮細胞またはそれと同視し得る細胞との共生関係を保持しながら、絶対嫌気性の難培養性細菌などの細菌の混合培養を、単離した細菌の培養区画の組み合わせにより模擬的に実現することが可能な手段を提供することである。
そして、本開示が解決しようとする更なる課題は、嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞とによる共生機構を解明し、それら細菌の種類や比率の変動に与える外的要因、内的要因との関係を明らかにするとともに、それら細菌、細菌叢、およびその代謝物が有する健康に寄与する要因や健康に悪影響を及ぼす要因を解明して、ヒトや動物の健康増進と、各種疾患の治療および予防方法の確立を図ることにある。
上記の課題を解決するための本開示の第1の手段は、1種又は複数種の細胞から構成される第1の細胞群を、それとは異なる1種又は複数種の細胞から構成される第2の細胞群で形成された細胞層または組織と共培養するための培養システムであって、前記第1の細胞群を、前記第2の細胞群で形成された細胞層または組織と嫌気条件下で共培養する第1培養槽と、好気条件で培養液を貯留する第2培養槽と、前記第1培養槽と前記第2培養槽とを接続するように配される1又は複数の物質交換構造体であって、その第1培養槽側の表面を覆うように前記細胞層または組織を保持する物質交換構造体と、を有する、培養システムである。
上記の課題を解決するための本開示の第2の手段は、前記物質交換構造体を除き、前記第2培養槽の内部が閉鎖状態となるように、当該第2培養槽と前記第1培養槽との間で開放されている部分を閉じた状態とし、前記第1培養槽と前記第2培養槽との接続部にガス非透過性の封止部材を備える、本開示の第1の手段に記載の培養システムである。
上記の課題を解決するための本開示の第3の手段は、前記第2培養槽が、当該第2培養槽において外部に開放されている部分を密封するガス透過性の保湿部材を備え、当該保湿部材で密封された部分の他に外部に開放されてない、本開示の第1の手段または第2の手段に記載の培養システムである。
上記の課題を解決するための本開示の第4の手段は、本開示の第1の手段から第3の手段までのいずれか1の手段に記載の培養システムであって、前記第1培養槽が、その内部に複数の部分構造と、前記物質交換構造体とは別の物質交換構造体とを備え、当該部分構造の各々が、培養槽として機能し、当該部分構造の各々が、前記別の物質交換構造体によって相互に接続され、当該複数の部分構造のそれぞれが、前記第2培養槽に接続している、培養システムである。
上記の課題を解決するための本開示の第5の手段は、本開示の第1の手段から第4の手段までのいずれか1の手段に記載の培養システムであって、嫌気チェンバー内の環境に配置して使用される、培養システムである。
上記の課題を解決するための本開示の第6の手段は、第1培養槽と、第2培養槽とを有する、細菌を、上皮細胞から形成される細胞層との共培養を行う培養システムであって、前記第1培養槽は、その底面に設けられた1又は複数の物質交換構造体と、前記細胞層がその物質交換構造体の頂面を覆うようにして配されたものであり、前記第2培養槽は、好気条件の培養液を貯留する槽であって、前記第1の培養槽がその槽内に挿入されるための開口部を有し、前記第1培養槽が前記第2培養槽の開口部から、前記第1培養槽の底面に配された物質交換構造体がその槽に貯留された前記好気条件の培養液に浸漬するよう挿入され、前記物質交換構造体を除き、前記第2培養槽の内部が閉鎖状態となるように、当該第2培養槽と前記第1培養槽との間で開放されている部分を閉じた状態とし、前記第1培養槽と前記第2培養槽との接続部にガス非透過性の封止部材を備え、前記第2培養槽の頂面にある外部に開放されている部分を密閉するように設けられるガス透過性の保湿部材を備え、前記第1培養槽が嫌気条件下となる、培養システムである。
本開示において培養システムとして記載された実施形態を参照して、当業者は、本開示が、キット、装置、培養方法などの態様も実施可能であることが理解され、本明細書は、そのような別の態様もその開示の範囲とする。
本開示の培養装置を、嫌気チェンバー内に静置するという簡便な操作を行うのみで、従来の共培養・共生環境を再現する系において必要とされていた腸上皮細胞培養面の溶液を培養中に循環させ流速のある環境を実現する溶液循環機構や、また、共培養する腸上皮細胞の層が保持される膜の圧力を操作して該膜を伸縮させる伸縮機構といった、腸内環境を模する特殊な機構を備えた培養環境を準備することなく、嫌気性条件下での上皮細胞層を良好な状態のままに保持するとともに、嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を実現し、さらには効率良く嫌気性細菌などの細菌を増殖させることが可能となり、従来実現することが出来なかった生体内から採取された混合細菌叢を、上皮細胞と共培養しながら嫌気条件下にて混合培養しながら難培養性細菌を増殖させ、かつ、難培養性細菌を単離することが可能となる。
また、本開示の培養装置及び該培養装置を用いた培養方法は、細胞培養インサート内で嫌気性細菌などの細菌を増殖させるものであるため、装置上部からピペッター等を細胞培養インサート内に挿入するだけで、共培養環境において増殖した嫌気性細菌などの細菌を、簡便かつ容易に分取することが可能となり、作業性が格段に向上するとともに、混合状態で培養する嫌気性細菌などの細菌を限界希釈して単離する作業も容易になる。そして、本開示の培養装置は、マルチウェル化することも容易であるため、さらにマルチピペッター、分注機、分注ロボットを利用した従来システムを用いることでハイスループット化および自動化することも可能であり、混合状態で培養する嫌気性細菌などの細菌を大量に限界希釈して、嫌気性細菌などの細菌を、より簡便かつ迅速に単離することが可能となる。
そして、本開示の培養装置及び該培養装置を用いた培養方法において、複数の細胞培養インサートを培養槽中の第1の培養液に浸漬するように挿入したものとすることで、各細胞培養インサートの多孔性膜上に保持された上皮細胞の層を良好な状態で保持しつつ、各細胞培養インサートの多孔性膜の下面を同じ第1の培養液に接触させることで、生体内環境を模擬的に再現する培養系が容易に作成できるものとなる。また、本開示の培養装置及び該培養装置を用いた培養方法において、底面に多孔性膜を有する細胞培養インサート内を、多孔性膜を有する隔壁にて分割して複数の区画を有するものとすることで、上記各区画で難培養性細菌などの細菌をそれぞれ上皮細胞と嫌気条件下にて共培養しながら、複数種類の細菌を混合培養している状態を模擬的に再現する培養系が容易に作成できるものとなる。
加えて、本開示の培養装置は、第1の培養液および第2の培養液の交換作業も容易であり、培養中の上皮細胞や細菌を分取してそれらの状態を確認することが容易な構造を有している。そのため、各培養液の組成を様々に変更することができ、細胞培養インサート内の多孔性膜上に保持される上皮細胞の層や細胞培養インサートで培養される嫌気性細菌などの細菌の維持や増殖に必要となる因子や、維持や増殖を阻害する因子、及び、上皮細胞とそれら細菌の共生における必須因子や阻害因子の探索が容易であり、新たな細菌培養法の開発、共生メカニズムの解明、共生因子の単離同定や生体内で作用する食品・薬剤の評価を行うにあたり、大変作業効率の良いシステムとなっている。
そして、本開示の培養装置及び該培養装置を用いた培養方法を用いることにより、生体から分取した細菌叢を簡便に増殖し、そこから細菌を単離して解析するとともに、多検体の解析をも容易に実現することができるため、それら解析結果を利用する生体内環境の診断方法としての応用も可能となっている。
図1は、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システムと生体における腸内の環境との関連性を説明する図である。 図2は、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム用の培養装置の構造の一態様について説明する図である。 図3は、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム用の培養装置において、培養槽が複数連接された状態のものについての一例を説明する図である。 図4は、本開示の嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム用の培養装置において、1つの培養槽に複数の開口部と該開口部に挿入される複数の細胞培養インサートを配するものの一態様について説明する図である。 図5は、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システムにおいて、共培養を行う際の状態の一態様について説明する図である。 図6は、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム用の培養装置において、培養槽が複数連接された状態のものを用いて、嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う際の状態の一態様について説明する図である。 図7は、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム用の培養装置において、1つの培養槽に複数の開口部と該開口部に挿入される複数の細胞培養インサートを配するものを用いて、嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う際の状態の一態様について説明する図である。 図8は、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム用の培養装置において、1つの培養槽に複数の開口部と該開口部に挿入される複数の細胞培養インサートを配するもので、特に多数の開口部と細胞培養インサートとが配するもので、嫌気チェンバー内に静置しても第1の培養液のガス飽和度が保持されて嫌気状態にならないよう培養槽の容積を増やした培養装置の状態の一態様について説明する図である。 図9は、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム用の培養装置において、培養槽の上面部に第1の培養液を注入・交換するため、および/または、細胞培養インサートを挿入して細胞培養インサート底面に配された多孔性の膜の下面を第1の培養液に浸漬させた状態にするための1つ以上の開口部と、さらに任意に第1の培養液を注入するための1つ以上の開口部を有しているものの一態様について説明する図である。本開示における培養槽に第1の培養液を注入・交換するために設けられる1つ以上の開口部にもそれぞれ封止部剤が栓をするように配されるので、当該培養槽の内部は、ガス非透過の閉鎖状態を保持できるようになる。 図10は、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム用の培養装置において、上面に少なくとも一層の上皮細胞を備え下面が前記培養槽の開口部から挿入され第1の培養液中に浸漬された状態になる多孔性の膜を底面に有し、膜上方に第2の培養液が貯留される槽を有する細胞培養インサートが、さらに該多孔性の膜を底面に有する第2の培養液が貯留される槽を多孔性膜を有する隔壁にて分割して複数の区画を有するものなっているものの構造の一態様について説明する図である。 図11は、図10の多孔性の膜を底面に有する第2の培養液が貯留される槽を多孔性膜を有する隔壁にて分割して複数の区画を有する細胞培養インサートを用いる本開示の嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム用の培養装置により、複数種類の細菌が同時に上皮細胞と共生している状態を模擬的に再現する状態の一態様について説明する図である。多孔性膜を有する隔壁にて分割された各区画に異なる種類の細菌が入れられ、上皮細胞との共培養が行われている。 図12は、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム(I-GOEMON)と、従来の嫌気条件での培養システム(Anaero(嫌気条件))、及び好気条件での培養システム(Aero(好気条件))を説明する図である。本開示のI-GOEMONでは、嫌気チェンバー内に静置後、培養槽の第1の培養液の酸素飽和度が平常時の60%程度に保たれるが、従来の嫌気条件での培養システム(Anaero)は酸素飽和度が0%となってしまうものであることが説明される。 図13は、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム(I-GOEMON)と、従来の嫌気条件での培養システム(Anaero(嫌気条件))、及び好気条件での培養システム(Aero(好気条件))を用い、嫌気性腸内細菌と腸上皮細胞との共培養を行う場合の実験手順を説明する図である。 図14は、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム(I-GOEMON)と、従来の嫌気条件での培養システム(Anaero(嫌気条件))、及び好気条件での培養システム(Aero(好気条件))を用いた場合における、酸素濃度の変化を測定した結果を説明する図である。 図15は、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム(I-GOEMON)と、従来の嫌気条件での培養システム(Anaero(嫌気条件))、及び好気条件での培養システム(Aero(好気条件))を用いた場合における経上皮電気抵抗(TER)測定結果を示す図である。 図16は、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム(I-GOEMON)と、従来の嫌気条件での培養システム(Anaero(嫌気条件))、及び好気条件での培養システム(Aero(好気条件))を用いた場合における細胞外LDHの測定結果を示す図である。 図17は、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム(I-GOEMON)と、従来の嫌気条件での培養システム(Anaero(嫌気条件))、及び好気条件での培養システム(Aero(好気条件))を用いた場合における細胞内LDHの測定結果を示す図である。 図18は、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム(I-GOEMON)と、従来の嫌気条件での培養システム(Anaero(嫌気条件))、及び好気条件での培養システム(Aero(好気条件))を用いた長期培養時における経上皮電気抵抗(TER)測定結果を示す図である。 図19は、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム(I-GOEMON)と、従来の嫌気条件での培養システム(Anaero(嫌気条件))、及び好気条件での培養システム(Aero(好気条件))を用いた長期培養時における細胞外LDHの測定結果を示す図である。 図20は、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム(I-GOEMON)と、従来の嫌気条件での培養システム(Anaero(嫌気条件))、及び好気条件での培養システム(Aero(好気条件))を用いた長期培養時における細胞外LDHの測定結果(累積値)を示す図である。 図21は、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システムを用いることによる各種腸内細菌の生育結果及び腸上皮細胞の層の状態を確認する経上皮電気抵抗(TER)測定結果を示す図である。 図22は、未培養腸内細菌並びに難培養腸内細菌の単離に向けた細胞培養インサート内に用いる第2の培養液の検討のため、細胞培養インサート内の第2の培養液の組成を変更した場合の経上皮電気抵抗(TER)測定結果を示す図である。 図23は、未培養腸内細菌並びに難培養腸内細菌の単離に向けた細胞培養インサート内に用いる第2の培養液の検討のため、細胞培養インサート内の第2の培養液の組成を変更した場合の細胞外LDHの測定結果を示す図である。 図24は、未培養腸内細菌並びに難培養腸内細菌の単離に向けた共培養試験において、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム(I-GOEMON)を用いた糞便から採取した嫌気性腸内細菌の増殖結果と共培養を行った腸上皮細胞の層の状態を確認する経上皮電気抵抗(TER)測定結果を示す図である。 図25は、本開示の一実施態様であるI-GOEMONによる培養システムを用い、菌用培地のみの従来の培養方法と比して、顕著にFaecalibacterium prausnitziiを増殖させることができたことを確認した試験結果を示す図である。 図26は、本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)と共培養対象となるCaco-2細胞用の培養液を用いた共培養試験を行い、本開示の手段が、菌に好適な培養液を用いずとも、共培養対象の細胞に依存して、より長期に渡り、Faecalibacterium prausnitziiの顕著な増殖を可能とするものである点を確認した試験結果を示す図である。 図27は、本開示の手段における培養システムからCaco-2細胞の細胞層を除外すると、培養槽を、腸上皮細胞の層の血管側の環境と同様の好気環境に保つことが不可能となってしまう点を確認した試験結果を示す図である。 図28は、難培養の腸内細菌の増殖を良好に行うことが可能であることが確認されている本開示の培養システムにおいて、細胞培養インサートと培養槽の開口部を封止するガス非透過性の封止部材が、細胞培養インサートの下層すなわち培養槽の酸素飽和度を長期間高く保持し続ける。 図29は、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム(I-GOEMON)と、従来の嫌気条件での培養システム(Anaero(嫌気条件))、及び好気条件での培養システム(Aero(好気条件))を用いた場合におけるタイトジャンクションの状態を確認した免疫組織染色の結果を示す図である。
従来の嫌気性条件にした培養液を用いる培養手段や、腸内細菌と腸管の上皮細胞との共培養による培養手段では、難培養性の絶対嫌気性腸内細菌を良好な状態で単離増殖することや腸管の上皮細胞を嫌気状態で保持しながら腸管の上皮細胞との共生関係を解析することは困難な状況にあったことから、上記特許文献1にて提案された腸内細菌と腸上皮細胞の培養システムにより、嫌気性の条件下でも上皮細胞の単層膜における細胞間のタイトジャンクションが破壊されないようにすることで天然の腸の状態を模倣し、嫌気性腸内細菌を上皮細胞の単層膜と共存させながら培養することを可能にしたものとして、提案されている。
しかし、その詳細を検討したところ、上記特許文献1にて提案の培養システムは、天然の腸の状態を模倣するために、多孔膜の上下に設けられたマイクロ流路や専用の異なる流体供給源、並びに、マイクロ流路の両側に設けた真空チャンバといった、極めて特殊な構成を特別に備えた装置として製作する必要があり、上皮細胞の単層膜における細胞間のタイトジャンクションは良好に保持されるため、腸管での薬物動態などの評価系としては有用であるものの、多種多様な腸内細菌を培養するには、汎用性や拡張性に乏しく、その製造や運用においても大変にコストのかかるものであることが判明した。
さらに、上記特許文献1にて提案の培養システムは、腸内細菌との共培養を行う際には、腸内細菌をマイクロ流路内の培養液中に投入する。そのため、投入した腸内細菌がマイクロ流路内にて増殖しても、そこに新たな培養液が流体として供給され続けるので、多孔膜上の腸上皮細胞に付着できずに浮遊する腸内細菌は、培養液とともに共培養が行われる部位の外へ流出てしまい、効率良く増殖できる菌の種類は、多孔膜上の腸上皮細胞に付着しやすいものに限られるなど汎用性に劣ると判断されるものであった。また、共培養中のマイクロ流路から外に流出した腸内細菌は、既に腸上皮細胞との共培養環境からは外れてしまった状態となってしまうため、腸内細菌と腸上皮細胞との共生関係を正確に反映させた状況でそれら菌の特性を確認することが出来ず、共生関係の解析に支障が生じると判断されるものであった。
加えて、上記特許文献1にて提案の培養システムは、共培養が行われる部位がマイクロ流路により閉じられた環境になっており、解析のために増殖した共培養中の腸内細菌や上皮細胞の一部をそれぞれマイクロ流路中から取り出すことや、マイクロ流路に各種の測定機器を挿入することが難しい。そのため、腸管内における腸内細菌同士の共生に関わる機構や腸内細菌と腸管の上皮細胞との共生に関わる機構の詳細の解明が行いにくく、また、当該培養システムを用いての腸内細菌の限界希釈や、汎用ロボットを用いた腸内細菌培養や継代の自動化も困難なものであった。
難培養性の絶対嫌気性細菌は従来の嫌気培養系では増殖しにくく、また、上皮細胞と共培養しても、絶対嫌気性細菌が生息する嫌気条件下に保持すると上皮細胞が死滅するため、培養は出来ていなかった。特許文献1に記載されるように、天然の腸の状態を模倣するよう、腸上皮細胞に接する培養液を流動させ、さらに腸上皮細胞で構成された膜を伸縮させると、細胞間のタイトジャンクションを良好に保持できるようになるが、難培養性の絶対嫌気性細菌の単離増殖には適しておらず、依然として培養が困難な状況であった。
本願の発明者らは、生体内における未同定の嫌気性細菌を単離して菌の同定や特性の確認を行うべく、様々に培養条件等を変更していたところ、驚くべきことに、腸内細菌と共培養する細胞を多孔性の膜上に培養し、細胞の上面側の培養液層を、0% O2、85% N2、5% H2、10% CO2の嫌気性環境下に保持し、その上でさらに、細胞の底面側の培養液層をガス非透過の状態で密封するようにして培養すると、細胞の底面側の培養液層の酸素濃度を良好に保持できることを発見した。そして、この培養条件を採用することで、細胞の上面側の培養液層が嫌気性環境下に保持されていても、腸内の上皮細胞の更新期間である5日間を超える期間にわたり、腸上皮細胞層のタイトジャンクションを良好な状態で保持し続けることが可能であることを見出した。そして、嫌気性環境下に保持された上記細胞の上面側の培養液層にて、嫌気性の腸内細菌を共培養することで、通常の培養条件では増殖が難しいバクテロイデス科真正細菌(Alistipes putredinis)などの腸内細菌が、大変効率良く生育できるようになることを見出し、本開示のものを完成させた。また、さらに、共培養時に用いる培養液の組成を変更することで、難培養性の嫌気性腸内細菌に好適な組成や不適となる組成や、それに貢献する因子の探索も可能であることを見出し、本開示のものを完成させた。またさらに、嫌気状態で上皮細胞との共培養を行っても増殖させることは困難であることが知られるヒトや動物、家禽類などの有用腸内細菌であるFaecalibacterium prausnitziiをも、嫌気状態での共培養により極めて顕著に増殖させることが可能である点も見出した。
本開示の手段について、適宜図面を参照しつつ以下に説明する。
本明細書中において使用される場合、「嫌気条件」とは、媒体中の酸素が低濃度で存在するか又は全くない条件をいう。別の実施形態においては、「嫌気条件」で設定される酸素濃度は、そこで取り扱われる細胞の種類との関係で、他の範囲を取り得るものであり、当業者により適宜特定され得るものである。例えば、本開示のいくつかの実施形態においては、「嫌気条件」は、気体中の酸素濃度が0%〜5%未満となる状態にあることをいうが、これに限定されない。他方、本明細書において使用される場合、「好気条件」とは、媒体中の酸素が高濃度で存在するか又は媒体全てが酸素である条件をいう。別の実施形態においては、「好気条件」で設定される酸素濃度は、そこで取り扱われる細胞の種類との関係で、他の範囲を取り得るものであり、当業者により適宜特定され得るものである。例えば、本開示のいくつかの実施形態において、「好気条件」は、培養液中の溶存酸素濃度が60%飽和である状態で達成されているものがあるが、これはあくまで例示的なものであって、これに限定されない。繰り返しになるが、本開示の培養システムを用いる当業者が、その目的に応じて、適宜、本明細書の開示を参照して酸素濃度等の諸条件を決定し得る。
本明細書中において使用される場合、「1種又は複数種の細胞から構成される第1の細胞群」とは、1種又は複数種の細胞から構成される細胞の群であって、絶対嫌気性細菌、嫌気条件下(例えば、0%〜5%未満の酸素濃度)において生存可能な嫌気性細菌および好気性細菌のほか、嫌気条件下(例えば、0%〜5%未満の酸素濃度)において生存可能な様々な細胞が包含される。
本明細書中において使用される場合、「それとは異なる1種又は複数種の細胞から構成される第2の細胞群」とは、本開示の手段における培養システムにおいて、上記第1の細胞群と共培養される細胞層又は組織を構成する細胞群をいう。このような細胞群は、1種又は複数種の細胞から構成される細胞の群であり、それを構成する細胞は、例えば、上皮を形成している細胞の他、Caco-2細胞、HT29細胞、T84細胞、初代腸管上皮細胞、濾胞細胞、M細胞(microfold cell)、杯細胞(粘液産生)、内分泌細胞、粘膜分泌細胞、陰窩細胞、パネート細胞、腸管上皮幹細胞などや、iPS細胞、ES細胞やその他の細胞から分化誘導することにより、腸上皮を形成している細胞の機能が発揮されるようにした細胞、腸上皮細胞、口腔上皮細胞、膣上皮細胞などの各種の上皮細胞、iPS細胞、ES細胞やその他の細胞から分化誘導することにより上皮を形成している細胞の機能が発揮されるようにした細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書中において使用される場合、「第1培養槽」とは、前述した第1の細胞群を、第2の細胞群で形成された細胞層または組織と嫌気条件下で共培養するための培養槽をいう。第1培養槽の槽中には、前述した第1の細胞群と第2の細胞群で形成された細胞層または組織とが、嫌気条件の培養液および/または嫌気条件の気体と共に含有される。ここで、本明細書における他の記載からも明らかになるが、用語「細胞培養インサート」とは、上述の「第1培養槽」に対応し、その例示的な具体的形状は、図1から図11において示される(各図において、この部材は、細胞培養インサート(2)として示される)。また、この「細胞培養インサート」は、その底面部において、後述の「物質交換構造体」として機能してもよい。
本明細書中において使用される場合、「第2培養槽」とは、好気条件の培養液を貯留する培養槽をいう。いくつかの実施形態において、このような培養槽は、所定の酸素飽和度以上の好気条件を有する培養液を貯留するための槽である。ここで、酸素飽和度は、例えば、上皮細胞(例えば、腸上皮細胞、口腔上皮細胞、膣上皮細胞)の近傍に存在する毛細血管中における酸素飽和度に相当する量である。そして、その好気条件の培養液に含有されている成分または溶存ガス成分(例えば、酸素など)は、物質交換構造体(例えば、多孔性の膜(3))を介して、第1培養槽側に移動し得る状態となる。本開示における例示的な実施形態においては、物質交換構造体の第1培養槽側の表面に細胞層又は組織が配されているので、この細胞層等は、第2培養槽との間で、物質(溶存成分)交換を行うことができる。
本明細書中において使用される場合、「物質交換構造体」とは、第1の細胞群と、第2の細胞群で形成された細胞層または組織とを共培養する第1培養槽と第2培養槽の空間を隔てる構造体であって、それら隔てた空間の部分空間(区画)の間で、培養液や培養液に溶解している成分、溶存ガス、細胞層または組織に由来する生体成分の交換を行うことができる構造体のことをいう。具体的には、物質交換構造体は、前記第1の培養槽において形成されている細胞層または組織を、当該構造体の表面上にて、該細胞層や組織の有する機能を保持するのに十分な形状を保ったまま増殖しつつ(例えば、細胞が二次元的に延伸して本来の細胞の形状を損なうことを回避しつつ増殖し得る構造を有しつつ)、当該構造体によって隔てられた空間の区画間で、培養液や培養液に溶解している成分、溶存ガス、細胞層または組織に由来する生体成分の交換を行うことができる構造体のことをいう。より詳細には、物質交換構造体は、前記第2培養槽中に貯留する好気条件の培養液に含有されている成分や溶存ガス成分を物質交換構造体を介して接続された第1の培養槽において物質交換構造体の表面を覆うよう形成されている細胞層または組織へと浸潤させて受け渡し、または、第1の培養槽において形成されている細胞層または組織から分泌される生体成分や溶存ガス成分を、物質交換構造体の表面を覆うよう形成されている細胞層または組織から物質交換構造体を介して接続された第2培養槽中に貯留する好気条件の培養液へと浸潤させて受け渡す構造体のことをいう。この構造体は、上述した条件を満たす限りにおいて、如何なる形状であってもよく、例えば、壁、膜、薄膜、フィルムを包含し得る。さらに、この構造体には、前記第1の培養槽における細胞層または組織を保持可能な程度の大きさの孔を有し得る。このような構造体は、いくつかの実施形態においては、多孔性の膜状の構造体であって、ポリテトラフロロエチレンなどの樹脂から製造されるものが挙げられるが、これに限定されるものではない。この多孔性構造体の孔の大きさは、いくつかの実施形態においては、約0.2μm〜10μmであり、また別の実施形態では、0.2μm〜0.5μmであり、さらに別の実施形態では、0.4μmであるが、これらに限定されない。添付の図面においては、物質交換構造体の一例として多孔性の膜(3)を開示する。
本明細書中において使用される場合、「タイトジャンクション」とは、細胞の最も頂端部側にある細胞間結合をいう。
本明細書中において使用される場合、「ガス非透過性の封止部材」とは、気体(ガス)が通ることが可能な間隙、空間を封止する目的で使用される部材をいう。本開示のいくつかの実施形態では、第2培養槽と第1培養槽との間で開放されている部分(例えば、それらの槽間の壁に意図的に設けられた穴などのみならず、前記第1培養槽と前記第2培養槽の開口部との接続部に生じてしまう、ガスが透過可能な隙間など)に、封止部材が適用されることで、当該開放された部分を封止し、第2培養槽の内部を閉鎖状態にすることに用いられ得る。上述の封止部材としては、例えば、塗布して用いるガス非透過性のコーキング剤やシリコーングリス、パッキンや栓として用いるバイトンフッ素ゴムのようなフッ化ビニリデン系(FKM)のゴムが挙げられるが、これに限定されるものではない。
本明細書中において使用される場合、「ガス透過性の保湿部材」とは、第2培養槽において外部(環境)に開放されている部分を密閉しつつ所定のガスのみ透過させる部材である。この部材が設けられることで、第1培養槽内を嫌気状態に保持するとともに、第1培養槽内の乾燥を防ぎ、保湿して、第1培養槽中に保持される前記第1の細胞群ならびに前記第2の細胞群で形成された細胞層または組織の形状や機能の保持に寄与する。本開示のいくつかの実施形態において、この保湿部材は、当該保湿部材を適用する部分(すなわち、当該保湿部材により密閉されつつ所定ガスは透過する部分)の他には外部(環境)に開放されていない状態で使用され得る。ガス透過性の保湿部材としては、例えば、ガス透過性保湿バリアシールのような粘着性のフィルム素材や、培養プレート用の保湿プレートカバーが挙げられるが、これに限定されるものではない。
また、本開示における好気条件の培養液を貯留する第2培養槽は、添付の図面においては、培養槽(1)に対応する構造体である。例示的な実施形態では、培養槽(1)は、開口部(1a)を備える。そのような開口部は、その細胞培養インサート(2)を受容する機能を有するものの他に、設けられてもよい(例えば、図9参照)。
本開示の嫌気チェンバー内に静置された状態で嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システムの形状、構成および素材について。
本開示の一実施態様である、嫌気チェンバー内に静置された状態で嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞とのの共培養を行う培養システムは、図1に示すように、開口部(1a)を有する培養槽(1)すなわち好気条件の培養液を貯留する第2培養槽と、底面に多孔性の膜(3)すなわち物質交換構造体が配された、細胞培養インサート(2)すなわち、細胞培養インサートの多孔性の膜上に配される少なくとも一層の上皮細胞(6)、ガス非透過性の封止部材(4)と、ガス透過性の保湿部材(5)とを有するものであり、嫌気チェンバー内に静置して用いられる。
培養槽(1)は、ガス非透過性素材からなり、槽の内部に好気条件の培養液(7)をガス非透過の閉鎖条件下にて貯留させるための槽と、その上面部には、好気条件の培養液を注入・交換するため、および/または、細胞培養インサートを挿入して細胞培養インサート底面に配された多孔性の膜の下面を好気条件の培養液に浸漬させた状態にするための開口部(1a)が、少なくとも1つ以上配されている(図1〜図11)。好気条件の培養液の注入・交換と、細胞培養インサートの挿入は、1つの開口部を併用するようにしても良く、また、別の開口部を設けたもの(図9〜図11)としても良い。またさらに任意に好気条件の培養液を注入・交換するための1つ以上の開口部を設けたものとしても良い。
培養槽(1)は、汎用の細胞培養インサートを挿入可能な開口部の大きさを有し、槽自体の大きさは、開口部よりも大きくなるように設定する(図1)。培養液を注入する開口部が別に設けられる場合には、槽自体の大きさはさらに大きく設定される(図9)。
また、図3に示すように多数の槽を連結してなるものとしても良く、この場合にはマルチプレートの形状とすると、扱い易く、自動化作業にも対応できるものとなり好ましい。多数連結すると、図6に示すように細菌を混合培養するものから、限界希釈を行う際に、隣接する細胞培養インサートに細菌を希釈して播種する作業が行い易くなり、好ましい。
さらに、図4や図8に示すように、培養槽(1)は、複数の細胞培養インサート(2)が挿入される形状のものとしても良い。このようにすることで、異なる種類の細菌を同時に培養しながらも、培養槽(1)が共通することで、生体内における細菌叢の生存状況を模擬的に再現する系を構築することが可能となる。さらに、培養槽(1)には好気条件の培養液と共にスターラーバーを入れてマグネチックスターラーにてそっと混ぜて、好気条件の培養液や、多孔性の膜の孔から漏出する上皮細胞由来成分が培養槽内で均一に分布するようにしても良い。このようにすることで、本開示の培養システムを、生体内における細菌叢と上皮細胞との共生状態をより反映させるようにして模擬的に再現した共培養・共生環境を整えることが可能となる。
培養槽(1)に用いる材料は特に限定されないが、細胞培養のための部材において一般的に用いられる材料を使用することができ、例えば、ポリスチレン、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ナイロンなどのポリアミド類などの樹脂材料であってガス非透過性を保持できる厚みを有するもの、およびSUS304を含むステンレス鋼などの各種の金属を用いることができる。また、樹脂材料の厚みが少なく、そのままでは酸素が透過されてしまうものについては、酸化珪素、酸化アルミ、アルミニウム等を蒸着したフィルム、アルミ箔、又はポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニリデン、エチレンビニル共重合体、ポリビニルアルコールなどの樹脂フィルムを層成分として積層したものとしてガス非透過性の処理を施したものを用いることができる。
また、細胞培養インサート(2)には、上面に少なくとも一層の上皮細胞を備え下面が前記培養槽の開口部から挿入され好気条件の培養液中に浸漬された状態になる多孔性の膜(3)を、底面に配するものとしている(図1〜図10)。この多孔性の膜は、ポリテトラフロロエチレンなどの樹脂から製造され、上面に備える上皮細胞を保持可能な程度の大きさの孔を有し、約0.2μm〜10μm、好ましくは0.2μm〜0.5μm、より好ましくは0.4μmの大きさの孔を有するものとする。
細胞培養インサート(2)は、さらに任意に、その多孔性の膜を底面に有する第2の培養液が貯留される槽が、多孔性の膜(ここでは、底面に設けられた多孔性の膜とは異なるポアサイズを設けことができる)を有する隔壁にて分割して複数の区画を有するものとしても良い(図10、図11)。こちらの多孔性の膜は、ポリテトラフロロエチレンなどの樹脂から製造され、培養する腸内細菌を透過させずに保持できる程度の大きさの孔を有し、約0.1μm〜0.5μm、好ましくは0.2μmの大きさの孔を有するものとすることが好ましい。このようにすることで、異なる腸内細菌を同時に培養しながらも、培養槽(1)が共通し、かつ、細菌を培養する細胞培養インサート内の第2の培養液が、多孔性の膜(3)を通じて拡散可能となるため、生体内における細菌叢の環境と上皮細胞の層との共生環境とを模擬的に再現する系を構築することが可能となるため、好ましい。
また、細胞培養インサートの多孔性の膜上には、少なくとも一層の上皮細胞(6)が備わる。本開示の手段における上皮細胞の層は、上皮を形成している細胞から構成される少なくとも1層の細胞シートからなるものであれば、特に限定されない。
本開示の手段に用いる上記の細胞は、Caco-2細胞、HT29細胞、T84細胞、初代腸管上皮細胞、濾胞細胞、M細胞(microfold cell)、杯細胞(粘液産生)、内分泌細胞、粘膜分泌細胞、陰窩細胞、パネート細胞、腸管上皮幹細胞などや、iPS細胞、ES細胞やその他の細胞から分化誘導することにより、腸上皮を形成している細胞の機能が発揮されるようにした細胞を用いることができる。また、腸上皮細胞の他、口腔上皮細胞、膣上皮細胞などの各種の上皮細胞を用いることもでき、iPS細胞、ES細胞やその他の細胞から分化誘導することにより、上皮を形成している細胞の機能が発揮されるようにした細胞を用いることができる。そして、これらの細胞を一種類のみ培養してもよく、またさらに、これら細胞を二種類以上混合して共培養してなるものを用いても良い。
これらの細胞は、予め通常の方法で培養させ、トリプシン処理等で処理し、培養液中に再懸濁して、培養用プレートに播種するなどして継代することができる。培養液としては、当技術分野で通常用いられる細胞培養用培地であれば特に制限なく用いることができ、さらに、培養や分化に至適化された培地を用いても良い。例えば、用いる細胞の種類に応じて、MEM培地、BME培地、DMEM培地、αMEM培地、IMDM培地、ES培地、DM-160培地、Fisher培地、F1培地、WE培地およびRPMI1640培地等の基礎培地を用いることができる。さらに、基礎培地に血清(ウシ胎児血清等)、各種増殖因子、抗生物質、アミノ酸などを加えてもよい。また、無血清培地を用いることもできる。
ガス非透過性の封止部材(4)は、ガス非透過性素材からなり、培養槽の開口部(1a)および培養槽の開口部(1a)と細胞培養インサート(2)との間に形成される隙間に、培養槽(1)の内部がガス非透過の閉鎖状態になるよう配される。ガス非透過性素材としては、通常入手可能なガス非透過性素材であれば特に制限はないが、バスコークN クリア(半透明)(セメダイン株式会社、日本)のようなコーキング剤やシリコーングリスなどを塗布して用いても良く、また、バイトンフッ素ゴム(ケマーズ社、米国)のようなフッ化ビニリデン系(FKM)のゴムをパッキンや栓として用いると、作業性が良く、好ましい。
また、細胞培養インサートの上面または開口部に細胞培養インサートが挿入された培養槽の上面には、任意に、細胞培養インサートの上面または開口部に細胞培養インサートが挿入された培養槽の上面を覆うようにして、保湿部材(5)を配し、細胞培養インサートに貯留されている第2の培養液の蒸発が防止された状態となるようにする。保湿部材としては、ガス透過性保湿バリアシール(4titude社、英国)のような粘着性のフィルム素材や、培養プレート用の保湿プレートカバーを用いることができる。フィルム素材を用いることで、継代作業時のエアロゾルの発生により、隣接する細胞培養インサートや培養システムへ、培養中の細菌が混入する事故を防止することも可能となる。また、フィルムを貼付したままであっても、金属製のピッカーなどを用いることで、細胞培養インサート内の培養中の細菌を取り出すことができるため、自動化処理時にも対応できるものとなる。なお、嫌気チェンバー内の湿度を高く保持して、細胞培養インサートに貯留されている第2の培養液の蒸発が防止できる場合には、保湿部材(5)を用いずに、嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行うことが可能である。
そして、本開示の培養システムは、嫌気チェンバー内に静置された状態で嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行うものであるため、使用時には、嫌気チェンバーを用意する必要がある。嫌気チェンバーは、低酸素および無酸素状態にすることが可能なガス混合システム(一例としては、I-CO2N2IC(ラスキン社))を備えたハイポキシア(低酸素)ワークステーション INVIVO2 400(ラスキン社、英国)など、この分野において汎用される嫌気チェンバーを使用することができる。嫌気チェンバーにおける酸素濃度は、いくつかの実施形態において、0%〜5%未満とし、別の実施形態において、0%〜4%であり、さらに、別の実施形態においては、0%〜3%であり、さらに別の実施形態においては、0%〜2%であり、さらに別の実施形態においては0%〜1%であり、そしてまた、さら別の実施形態においては、0%であってもよい。
本開示のいくつかの実施形態において、その培養システムは、細胞以外の構成を予め滅菌された状態で提供される。培養液は、濾過滅菌やオートクレーブ滅菌などこの分野で広く使用される滅菌手法を用いることができる。また、細菌培養用容器を滅菌する方法は特に限定されないが、細胞培養用容器を滅菌する方法として一般に用いられる方法が採用され、例えば、エチレンオキサイドガス滅菌、γ線照射滅菌、電子線滅菌、放射線滅菌、紫外線照射滅菌、過酸化水素滅菌、エタノール滅菌の方法を用いることができる。そして、製造の容易性やコスト低減を考慮し、該滅菌方法として、好ましくは、エチレンオキサイドガス滅菌、電子線滅菌又はγ線照射滅菌を用いる。電子線滅菌は細菌培養用容器を劣化させない程度にて行い、また、γ線照射滅菌におけるγ線の照射エネルギーは、腸内細菌培養用容器を劣化させない程度にて滅菌することができるよう、5kGy〜30kGy程度の範囲までとすることが好ましい。
本開示における嫌気性細菌などの細菌には、ヒトおよび動物の体内において共生している細菌および共生することが可能な細菌であって、絶対嫌気性細菌のほか、0%〜5%未満の嫌気条件下において生存可能な嫌気性細菌および好気性細菌が包含される。
本開示の嫌気チェンバー内に静置された状態で嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システムを用いて、嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養方法について。
上述した本開示の嫌気チェンバー内に静置された状態で嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システムを用いることで、嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行うことができる。その手順は、以下のようになる。
まず、上述した本開示の嫌気チェンバー内に静置された状態で嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システムにおける細胞培養インサート(2)の底面に配された多孔性の膜(3)の上面に、上皮細胞(6)を培養液と共に播種して、少なくとも一層の上皮細胞を、当該多孔性の膜(3)の上面に形成させる。
次いで、上述した本開示の嫌気チェンバー内に静置された状態で嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システムにおける培養槽(1)の開口部(1a)から好気条件の培養液(7)を注入する。
次いで、少なくとも一層の上皮細胞が多孔性膜の上面に形成された、細胞培養インサートを培養槽(1)の開口部に、多孔性膜の下面が、好気条件の培養液に浸漬するように置く。
次いで、ガス非透過性の封止部材(4)で、この培養システムにおける培養槽(1)が閉鎖状態になるようにする。そして、上記培養システム全体を、嫌気チェンバーに入れる。
さらに、細胞培養インサート内の培地を、第2の培養液(この培養液をあらかじめ嫌気処理していたもの)に入れ替える。この細胞培養インサート内の第2の培養液(8)中に嫌気性細菌などの細菌を添加する。
前段落の操作は、嫌気性細菌を第2の培養液(8)に懸濁したもので、上記細胞培養インサート(2)内の培地を入れ替える操作によってもよい。
この後、ガス透過性の保湿部材(5)を上記培養槽の外部環境に露出した部位に貼ることで、水分の蒸発を防止する。
以下に、本開示の嫌気チェンバー内に静置された状態で、嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行い得る培養システムを製造し使用した実施例を示す。本開示はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
発明を実施するための形態の項で説明するように、本開示の嫌気チェンバー内に静置された状態で嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システムを製造する。本開示の一実施態様のものとして、第1培養槽と、物質交換構造体と、上皮細胞と、第2培養槽と、ガス非透過性の封止部材と、ガス透過性の保湿部材とを有する、(嫌気チェンバー内に静置された状態で)細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システムであって、前記第1培養槽は、底面に設けられた1又は複数の物質交換構造体と、該物質交換構造体の上面を覆うようにして配された前記上皮細胞の細胞層を少なくとも1層有するものであり、前記第2培養槽は、好気条件の培養液を貯留する槽と、該槽の上面部に、該好気条件の培養液を該槽へと添加・交換して貯留し、および/または、前記第1の培養槽を該槽へと挿入するための1又は複数の開口部を有し、前記第1の培養槽が前記第2培養槽の開口部から、前記第1の培養槽の底面に配された物質交換構造体が該槽に貯留された該好気条件の培養液に浸漬するよう挿入され、前記挿入された第1培養槽と第2培養槽とが接する部位に形成される隙間と、前記第2培養槽に設けられる好気条件の培養液の添加・交換用の開口部には、ガス非透過性の封止部材が、該槽内部がガス非透過の閉鎖状態になるようにして備えられ、前記第1の培養槽が挿入された前記第2培養槽の開口部には、共培養の間、ガス透過性の保湿部材が開口部を密封するようにして備えられ、該第1の培養槽を嫌気条件下とすることを特徴とする培養システムとして、SUS304のステンレス鋼を培養槽の素材として採用したものを、ワケンビーテック株式会社(日本)に委託し、製造した(図1、図2)。細胞培養インサートの底面に備える多孔性の膜については、孔径が0.4μmの大きさのもの(ThinCertTMTissue Culture Inserts for Multiwell Plates (12 well), Cat.No.665 641, Greiner社、ドイツ)を用いた。ガス非透過性の封止部剤は、バスコークN クリア(半透明)(セメダイン株式会社、日本)を用いた。ガス透過性の保湿部材としては、ガス透過性保湿バリアシール(4titude社、英国)を用いた。嫌気チェンバーは、ガス混合システム(I-CO2N2IC(ラスキン社))を備えるハイポキシア(低酸素)ワークステーション INVIVO2 400(ラスキン社、英国)を用い、0% O2、85% N2、5% H2、10% CO2の嫌気性環境に設定して試験に用いた。
上記で製作した嫌気チェンバー内に静置された状態で嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システムは、人体や動物における、腸内の環境を反映させるよう、企図したものである。嫌気性環境(一例としては、0% O2、85% N2、5% H2、10% CO2といった構成をとる環境が挙げられるが、これらに限定されない)にした嫌気チェンバーは、腸管内の腸内腔における嫌気的環境を模しており、上面に少なくとも一層の上皮細胞を備え下面が前記培養槽の開口部から挿入され好気条件の培養液中に浸漬された状態になる多孔性の膜を底面に有し、膜上方に第2の培養液が貯留される槽を有し、さらに任意に該多孔性の膜を底面に有する第2の培養液が貯留される槽を多孔性膜を有する隔壁にて分割して複数の区画を有するものとした、1またはそれ以上の細胞培養インサートと細胞培養インサートの多孔性の膜上に配される少なくとも一層の上皮細胞は、細胞の一方の面が嫌気的環境にあり、粘膜固有層側が、血管に接する一定程度の好気的環境が保持された状態を再現するものとなる。そして、ガス非透過性素材からなり、前記培養槽の開口部および前記培養槽の開口部と前記細胞培養インサートとの間に形成される隙間に、前記培養槽の内部がガス非透過の閉鎖状態になるよう配されるガス非透過性の封止部材と、ガス非透過性素材からなり、槽の内部にガス非透過の閉鎖条件下にて第1の培養液を貯留させるための槽と、その上面部には好気条件の培養液を注入するため、および/または、細胞培養インサートを挿入して細胞培養インサート底面に配された多孔性の膜の下面を好気条件の培養液に浸漬させた状態にするための1つ以上の開口部とを有している培養槽にて、一定程度の好気的環境が保持された血管側の環境を模することを企図している(図1)。
そこで、本発明者らは、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との培養システムを、Intestinal germs on enterocytes-monitoring chamberと命名し、略称としてI-GOEMON-chamberまたはI-GOEMONと呼称することとし、本開示の一実施態様であるI-GOEMONの培養システムが、想定通りの共生環境を模する共培養システムとして利用することができることについて、確認を行った。
[試験例1]
本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム(I-GOEMON)と、従来の嫌気条件での培養システム(Anaero(嫌気条件))、及び好気条件での培養システム(Aero(好気条件))を用いた酸素濃度の変化の確認。
図13に例示される手順により、細胞培養インサート底面に配された多孔性の膜の上面にCaco-2細胞を播種し、Caco-2細胞が極性分化して略単層となり、タイトジャンクションが形成された状態となるようにする。まず、本開示の培養システム(I-GOEMON)の細胞培養インサート内に、単層化Caco-2細胞のDMEM (high Glc)培地 (10% FBS +P/S) を用い、Caco-2細胞を2x105cells/wellで播種し、該細胞培養インサートを培養用シャーレにセットし、細胞培養用CO2インキュベーター内で培養した。2〜3日毎に細胞培養インサート内および培養用シャーレ内の単層化Caco-2細胞のDMEM (high Glc)培地 (10% FBS +P/S) を交換する。Caco-2細胞が極性分化して略単層となり、タイトジャンクションが形成された状態となるようにし、通常培養していた単層化Caco-2細胞のDMEM (high Glc)培地 (10% FBS +P/S) を、抗生物質非含有の同培地に交換した。
その後、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム(I-GOEMON)と、培養槽が密封されない従来の嫌気条件での培養システム(Anaero(嫌気条件))、及び好気条件での培養システム(Aero(好気条件))を用い、それぞれの培養槽に、Caco-2細胞の層が形成された上記細胞培養インサートをセットし、I-GOEMONについては、ガス非透過性の封止部材で培養槽をガス非透過な状態にして、0% O2、85% N2、5% H2、10% CO2の嫌気性環境にした嫌気チェンバーに保持した。さらに、保湿部材を第2培養槽の頂部に配する。その後、培養槽と細胞培養インサート内の培養液の酸素濃度を、非破壊ニードル式酸素濃度計 Microx TX3 (Micro fiber optic oxygen transmitter、PreSens)を用いて計測した。
その結果、驚くべきことに、図14に示すように、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム(I-GOEMON)を用いる場合には、培養槽の好気条件の培養液の酸素濃度は少なくとも5日間、60%飽和で保たれていた。他方、嫌気環境に晒されている培養液は、いずれも1日以内で酸素が0.1-0.3%飽和にまで減少していた。
このことから、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム(I-GOEMON)を用いることで、嫌気チェンバー内に当該培養システムを静置するのみで、5日間もの間、簡便に細胞培養インサート内を、腸管内の腸内腔と同様の嫌気環境に、かつ、培養槽を、腸上皮細胞の層の血管側の環境と同様の、好気環境に保つことができる、新たな嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システムとなり得る条件を備えているものであることが明らかとなった。
[試験例2]
さらに、本開示の一実施態様であるI-GOEMONを用いて培養した際の腸上皮細胞の状態を評価する試験を行った。
本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム(I-GOEMON)と、培養槽が密封されない従来の嫌気条件での培養システム(Anaero(嫌気条件))、及び好気条件での培養システム(Aero(好気条件))を用い、上記試験例と同様にして細胞を細胞培養インサート内の多孔性の膜上に播種して層とし、それぞれの培養槽にセットして、I-GOEMON及びAnaeroの培養システムは嫌気チェンバー内にて、Aeroの培養システムはCO2インキュベーター内にて培養を行った。その後、経上皮電気抵抗(TER)測定、細胞外LDH(乳酸デヒドロゲナーゼ)活性測定、および、細胞内LDH活性測定をそれぞれ行った。
経上皮電気抵抗(TER)測定では、細胞のタイトジャンクションによるバリア機能の保持の程度を評価することができる。細胞培養インサートに単層培養した上皮細胞に相当する細胞の管腔面と基底面に測定機器の電極を挿入することにより、経上皮電気抵抗(TER)を測定する。腸管上皮細胞などの上皮細胞では、タイトジャンクションによって管腔側と基底膜側との間でイオンの透過が制限されるため、TERが生じるため、このTERの値をタイトジャンクションによるバリア機能を評価する指標として用いることができる。
TERの測定値が十分に高ければ、細胞培養インサートに単層培養した上皮細胞に相当する細胞のバリア機能は良好に保持されていると判断できる。一方、TERの測定値が低くなった場合には、細胞培養インサートに単層培養した上皮細胞に相当する細胞のバリア機能が、何らかの要因により損なわれた状態となっていると判断できる。ここでは、経上皮電気抵抗(TER)測定装置のMilicell ERS(ミリポア社)を使用し、経上皮電気抵抗を測定した。
また、細胞外LDH(乳酸デヒドロゲナーゼ)活性の測定は、細胞培養インサート内の培養液を回収し、Cytotoxicity LDH Assay Kit(株式会社 同仁化学研究所、日本)を用いて、測定した。細胞の状態が良好であれば測定値が低く、細胞が障害を受けた場合には測定値が高くなる。
さらに、細胞内LDH活性の測定は、Caco-2細胞を回収してPBSで洗浄後、Cytotoxicity LDH Assay Kit(株式会社 同仁化学研究所、日本)に添付の溶解溶液を用いて溶解して測定した。細胞の状態が良好であれば測定値が高く、細胞が障害を受けた場合には測定値が低くなる。
上記各測定については、培養開始日を「0 Days」として、それを5連(Biological replicates)、培養開始後1日毎に「1, 2, 3, 4, 5 Days」として、各条件につき5連(Biological replicates)のサンプルについて、測定を行った。
その結果、従来の嫌気条件での培養システム(Anaero(嫌気条件))では、3日目以降は単層化されたCaco-2細胞のタイトジャンクションによるバリア機能が破壊され、細胞自体も損傷を受けるものであることが明らかとなった。一方、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム(I-GOEMON)を用いることで、それを単に嫌気チェンバー内に当該培養システムを静置するのみで、5日間もの間、単層化されたCaco-2細胞のタイトジャンクションによるバリア機能を、好気条件での培養と同程度に良好な状態に保持し続けながら、培養することができていた(図15〜図17)。
[試験例3]
そこで、さらに、12日間という長期にわたりI-GOEMONを用いて培養した際の腸上皮細胞の状態を評価する試験を行った。
上記試験例2と同様にして、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム(I-GOEMON)と、培養槽が密封されない従来の嫌気条件での培養システム(Anaero(嫌気条件))、及び好気条件での培養システム(Aero(好気条件))を用い、上記試験例と同様にして細胞を細胞培養インサート内の多孔性の膜上に播種して層とし、それぞれの培養槽にセットして、I-GOEMON及びAnaeroの培養システムは嫌気チェンバー内にて、Aeroの培養システムはCO2インキュベーター内にて培養を行った。4日毎に、細胞培養インサート内と培養槽内の培養液を交換した。その後、経上皮電気抵抗(TER)測定、細胞外LDH(乳酸デヒドロゲナーゼ)活性測定の測定をそれぞれ行った。
その結果、従来の嫌気条件での培養システム(Anaero(嫌気条件))では、4日目までに単層化されたCaco-2細胞のタイトジャンクションによるバリア機能が破壊され、細胞自体も損傷を受けるものであることが明らかとなった。一方、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム(I-GOEMON)を用いることで、それを単に嫌気チェンバー内に当該培養システムを静置するのみで、12日間もの間、単層化されたCaco-2細胞のタイトジャンクションによるバリア機能を、好気条件での培養と同程度に良好な状態に保持し続けながら、培養することができていることが明らかとなった(図18〜図20)。
これらの結果から、本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム(I-GOEMON)は、長期にわたり、腸上皮細胞を0% O2、85% N2、5% H2、10% CO2のような嫌気性環境に保持し続けても、細胞のタイトジャンクションによるバリア機能を良好に保持し、腸内の環境を良好に模しているものであることが明らかとなった。そこで、さらに、このI-GOEMONの培養システムが、嫌気性細菌などの細菌との共培養において、有用なものであるか、確認を行う試験を実施した。
[試験例4]
本開示の一実施態様である嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム(I-GOEMON)を用いた嫌気性菌との共培養試験を行った。
国立研究開発法人理化学研究所バイオリソースセンター(筑波、日本)より、腸内細菌を入手した。入手したものは、Bacteroides uniformis (JCM5828)、Alistipes putredinis (JCM16772)、Parabacteroides merdae (JCM9497)、Bacteroides thetaiotaomicron (JCM5827)、Lactococcus lactis (JCM5805)、およびBifidobacterium breve (JCM1192)である。
まず、共培養1日前に、通常培養していた単層化Caco-2細胞のDMEM (high Glc)培地 (10% FBS +P/S) を、抗生物質非含有の同培地に交換した。
共培養1日前に、GAM液体培地(ニッスイ、日本)を用い、37℃、12時間、嫌気条件下にて、各菌を前培養した。
本開示の一実施態様であるI-GOEMONの培養システムにおける培養槽内の培養液をDMEM (high Glc)培地 (10% FBS) とし、単層化Caco-2細胞を播種している細胞培養インサートをセットした。
嫌気性細菌の前培養液(OD600 = 2.0 (約109 cells/ml))を、嫌気DMEM (high Glc)培地 (10% FBS)で102 cells/ml 程度にまで希釈した。
希釈した細菌培養液500μlを、I-GOEMONの培養システムにおける細胞培養インサート内に添加し、37℃で2日間、0% O2、85% N2、5% H2、10% CO2の嫌気条件にした嫌気チェンバー内で培養した。また、コントロールとして、通常のプラスチックウェル内でも細菌を培養した。
その後、細菌培養液を回収した。I-GOEMONの培養システムにおいては、細胞培養インサート内の単層化Caco-2細胞の経上皮電気抵抗(TER)の値を測定した。
GAM培地で100、102、104倍に希釈し、100μlをGAM寒天プレートへ撒種し、37℃、嫌気条件にて培養し、各菌について、Colony-forming unit (CFU)を算出した。
さらに、一部のコロニーから16S rDNAをPCRで増幅し、シーケンス解析によりコンタミネーションが無いことを確認した。
その結果、I-GOEMONを用いることで、通常の培養条件では増殖が難しい難培養性のバクテロイデス科真正細菌(Alistipes putredinis)を始めとする複数の腸内細菌種の大幅な生育促進が確認された(図21)。また、これらの腸内細菌が存在しても、少なくとも2日間は、Caco-2細胞のバリア機能が良好な状態で保持されていたことが明らかとなった。
培養条件が至適化されていない上記試験において、本開示の一実施態様であるI-GOEMONの培養システムを用いて、単に嫌気培養条件下に静置培養するという操作のみで、通常の培養条件では増殖が難しいバクテロイデス科真正細菌などを始めとする複数種類の腸内細菌が、いずれも大変効率良く生育できるようになることが見出されたことは、驚くべきことである。
[試験例5]
未培養腸内細菌並びに難培養腸内細菌の単離に向けた細胞培養インサート内に用いる第2の培養液の検討
これまで第2の培養液として、DMEM (high Glc) (10% FBS)を使用していた。しかし、同培養液が最適な組成を有するものであるかは、確認がされていなかった。そこで、これに加え、新たに、DMEM (high Glc)、DMEM (no Glc) (10% FBS)、DMEM (no Glc)およびPBSを検討対象として、細胞培養インサート内に培養する腸上皮細胞の保持のために好ましい培養液組成を検討することとした。
1.手順
試験1日前に、通常培養していた単層化Caco-2細胞のDMEM (high Glc)培地 (10% FBS +P/S) を、抗生物質非含有の同培地に交換した。
試験1日前に、本開示の一実施態様であるI-GOEMONの培養システムを用いて検討する、DMEM (high Glc) (10% FBS)、DMEM (high Glc)、DMEM (no Glc) (10% FBS)、DMEM (no Glc)およびPBSを、嫌気状態に保持した。
試験開始日に、I-GOEMONの培養槽にDMEM (high Glc) (10% FBS)を注入し、細胞培養インサートをセットした。そして、DMEM (high Glc) (10% FBS)、DMEM (high Glc)、DMEM (no Glc) (10% FBS)、DMEM (no Glc)およびPBS各々500 μl (嫌気処理済)を、各細胞培養インサートへと添加した。
0% O2、85% N2、5% H2、10% CO2の嫌気性環境嫌気チェンバー内で、37℃で2日間培養し、その後、経上皮電気抵抗(TER)の抵抗値と細胞外LDHを測定した。
2.結果
従来の嫌気培養法では、当初第2の培養液として使用していたDMEM (high Glc) (10% FBS)を用いると、腸内の上皮細胞の平均更新期間である5日には、腸上皮細胞を良好な状態で保持することは不可能な状態となった(図22及び図23)。
しかしながら、本開示の一実施態様であるI-GOEMONの培養システムを用いる場合には、DMEM (high Glc) (10% FBS)使用時にも、腸上皮細胞とその層が、共に良好な状態で保持されていることが明らかとなった。また、組成の異なるDMEM (high Glc)、DMEM (no Glc) (10% FBS)、DMEM (no Glc)の培養液であっても、同様に、腸上皮細胞とその層が、共に良好な状態で保持されていることが明らかとなった(図22及び図23)。
また、驚くべきことに、本開示の一実施態様であるI-GOEMONの細胞培養インサート内に用いる第2の培養液としては、PBSなどの無機塩緩衝液も使用可能であることが分かった(図22及び図23)。
本開示の嫌気チェンバー内に静置された状態で嫌気性細菌などの細菌と上皮細胞との共培養を行う培養システム及び培養方法を用いれば、細胞培養インサート内に用いる第2の培養液として無機塩緩衝液を用いても上皮細胞及びその層が良好な状態に保持されることから、細菌の共培養において、必須となる要素や、培養を阻害する要素の単離同定も容易になり、各種作用メカニズム探索が行い易い大変に優れた培養システムおよび培養方法であることが明らかとなった。
[試験例6]
未培養腸内細菌並びに難培養腸内細菌の単離に向けた共培養試験。
1.糞便ストックの作成
学内の倫理委員会の承認を受けた後、健常なボランティアより、糞便の供与を受けた。採取した糞便は嫌気的に冷蔵保存し、採取から数時間以内に、嫌気20%グリセロールに懸濁した。懸濁した糞便を分注し、−80℃の極低温条件下にて保存した。
嫌気20%グリセロールに懸濁した糞便を、GAMプレートで2日間培養した。その結果、1〜15×1011CFU程度の菌数が含まれるものであることを確認した。
2.共培養
本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)の細胞培養インサート内にCaco-2細胞を播種して、単層化Caco-2細胞とした。共培養試験1日前に、細胞培養インサート内のDMEM (high Glc) 培地(10% FBS + P/S) を、抗生物質非含有の同培地に交換した。
共培養1日前に、DMEM (high Glc)培地(10% FBS)を0% O2、85% N2、5% H2、10% CO2の嫌気性環境にした嫌気チェンバー内に静置して、培養液を嫌気状態にした。
共培養を開始する。本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)の培養槽に、DMEM (high Glc)培地(10% FBS)を注入し、上記の細胞培養インサートをセットした。また、コントロールとして、通常の培養シャーレにDMEM (high Glc)培地(10% FBS)を注入した。
糞便ストックを細胞培養インサート内にてに使用するDMEM (high Glc)培地(10% FBS)で1/106希釈し、希釈した糞便サンプル500 μlを、セットした細胞培養インサートと、コントロールの上記培養シャーレ内に、それぞれ添加し、嫌気チェンバー内に静置して、37℃で1日間培養した。また、DMEM (high Glc) (10% FBS)に換えて、DMEM (high Glc)、DMEM (no Glc) (10% FBS)、DMEM (no Glc)、DMEM (no Glc)+0.5%ブタ胃ムチンおよびPBS各々500 μl (嫌気処理済)を用い、上記と同様に、各細胞培養インサートへと添加して、嫌気チェンバー内に静置して、37℃で1日間培養した。
本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)の細胞培養インサート内と、コントロールの培養シャーレの試験培地を懸濁し、それぞれ回収した。
回収した培地を、1/103希釈し、新たにセットした本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)の細胞培養インサート内と、コントロールの培養シャーレに添加し、37℃で1日間継代培養した。
本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)の細胞培養インサート内のCaco-2細胞の層の経上皮電気抵抗値を測定した。
さらに、本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)の細胞培養インサート内で培養した細菌をCaco-2細胞ごと回収した。また、コントロールの培養シャーレ内で培養した細菌を回収した。
3.16S rDNA増幅の確認、菌叢解析
本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)の細胞培養インサート内で培養されたCaco-2細胞ごと回収した細菌と、コントロールの培養シャーレ内で培養した細菌を、それぞれビーズ破砕後、フェノール/クロロホルム抽出を行い、さらにエタノール沈殿してゲノムを抽出した。その後、16S rDNAに対するプライマー(U16SRT-F及びU16SRT-R(Clifford RJら、PLoS One 7:e48558 (2012) C3-C4 region)を使用したPCRを行い、16S rDNAが増幅されたか否かを確認した。
また、本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)の細胞培養インサート内で培養されたCaco-2細胞ごと回収した細菌について、菌叢解析を行った。
4.結果
図24に示すように、本開示の一実施態様であるI-GOEMONによる培養システムを用いることで、いずれの場合も糞便細菌の増殖促進が見られた。また、PBSを上層として使用した場合においても、細菌の増殖が観察された。また、Caco-2細胞のバリア機能も良好であった。また、細菌の増殖と、16S rDNAコピー数の増加の程度は相関しており、確かに細菌が増殖しているものであることが確認された。
さらに、図24にも示すように、DMEM (no Glc)の培養液にさらに0.5%ブタ胃ムチンをさらに添加した場合には、より良好な細菌の増殖と、より良好な腸上皮細胞のバリア機能の保持が共に確認された。本開示の一実施態様であるI-GOEMONによる培養システムを用いることで、細菌の良好な培養や、細菌と共存する上皮細胞のバリア機能の保持に関与する因子の探索が容易となることが理解され、本開示の一実施態様であるI-GOEMONによる培養システムと、それを用いた培養方法は、生体内細菌叢と上皮細胞との共生関係のメカニズムを解明する有効な手段となり得るものであることが明らかとなった。
[試験例7]
培養増殖が困難な腸内細菌の共培養試験(1)
腸内細菌のFaecalibacterium prausnitziiは、ヒトや動物、家禽類などの消化管内において生息し、抗炎症作用が報告されている有用な腸内細菌である。そして、極端に酸素に敏感な細菌であり、その生育には嫌気状態が必要となる。ところが、嫌気状態で上皮細胞との共培養を行っても、増殖させることは困難であることが報告されている(Cellular Microbiology (2015), 17(2), 226-240)。
一方、上記各試験例で示されるように、本開示の手段およびその一実施態様であるI-GOEMONによる培養システムは、腸内の嫌気条件下で生育する腸内細菌を大変効率良く増殖させることを実現可能としたものである。そこで、本開示の一実施態様であるI-GOEMONによる培養システムを利用することで、従来増殖が困難であったFaecalibacterium prausnitziiの増殖についても、実現可能であることを確認する試験を行った。
1.菌の入手。
国立研究開発法人理化学研究所バイオリソースセンター(筑波、日本)より、腸内細菌のFaecalibacterium prausnitzii DSM 17677(JCM31915)を入手した。
2.共培養
本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)の細胞培養インサート内にCaco-2細胞を播種して、単層化Caco-2細胞とし、細胞培養インサートの膜上を覆うようにした。共培養試験1日前に、細胞培養インサート内のDMEM (high Glc) 培地(10% FBS + P/S) を、抗生物質非含有の同培地に交換した。
共培養1日前に、DMEM (high Glc)培地(10% FBS)を0% O2、85% N2、5% H2、10% CO2の嫌気性環境にした嫌気チェンバー内に静置して、培養液を嫌気状態にした。
本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)の培養槽に、DMEM (high Glc)培地(10% FBS)を注入し、上記の細胞培養インサートをセットした。
また、共培養1日前に、Faecalibacterium prausnitzii用の培地であるMedium1130液体培地(1130 YCFA MEDIUM)を用い、37℃、12時間、嫌気条件下にて、Faecalibacterium prausnitziiの前培養を開始した。
共培養試験を開始する。前培養したFaecalibacterium prausnitziiをGAM液体培地(ニッスイ、日本)もしくはMedium1130液体培地で希釈し、本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)の、上記Caco-2細胞を播種した細胞培養インサート(+cell条件)へ添加し、嫌気チェンバー内で、37℃、12時間、嫌気条件下にて培養し、Caco-2細胞と菌を回収した。なお、希釈したFaecalibacterium prausnitziiをGAM液体培地およびMedium1130液体培地に添加したものをコントロールとした(-cell条件)。
3.16S rDNA増幅の確認、解析
本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)の細胞培養インサート内で培養されたCaco-2細胞ごと回収したFaecalibacterium prausnitzii菌体と、コントロールのFaecalibacterium prausnitziiを培養してから抽出条件を同じにするためにCaco-2細胞を添加して回収した菌体を、それぞれビーズ破砕後、内部標準としてpUC19プラスミドを添加した後、フェノール/クロロホルム抽出を行い、さらにエタノール沈殿してゲノムを抽出した。その後、16S rDNAに対するプライマー(U16SRT-F及びU16SRT-R(Clifford RJら、PLoS One 7:e48558 (2012) C3-C4 region)を使用したPCR、及び、pUC19プラスミドを検出するプライマーセットを用いたPCRを行い、16S rDNAのコピー数およびpUC19プラスミドのコピー数をそれぞれ定量した。そして、total 16S rDNAのコピー数を算出し、pUC19回収率により補正した後、比較した。
4.結果
図25に示すように、本開示の一実施態様であるI-GOEMONによる培養システムを用い、Caco-2細胞を播種して単層化Caco-2細胞とし、細胞培養インサートの膜上を覆うようにしたもの(+cell条件)で嫌気条件下、でFaecalibacterium prausnitzii用の培地であるMedium1130液体培地を用いてFaecalibacterium prausnitziiを共培養すると、Caco-2細胞との共培養を行わない場合(-cell条件)すなわち、M1130液体培地のみの従来の培養方法と比して、顕著にFaecalibacterium prausnitziiを増殖させることができたことが確認された。
さらに、細胞培養インサート内にCaco-2細胞を播種して、単層化Caco-2細胞とし、細胞培養インサートの膜上を覆うようにしたもの(+cell条件)に、培養条件が至適化されていない汎用のGAM液体培地で希釈されたFaecalibacterium prausnitziiを添加した場合であっても、嫌気条件下での培養において、Caco-2細胞との共培養を行わない場合(-cell条件)と比して、顕著にFaecalibacterium prausnitziiが増殖したことが確認された(図25)。未同定菌の培養を行う場合や、培養対象となる菌が少量しかない場合には、菌の培養条件を至適化した実験条件を揃えることは困難である。しかし、本開示の一実施態様であるI-GOEMONによる培養システムは、予め培養条件を至適化するという作業をせずとも、汎用のGAM液体培地を用いることで菌を増殖させることが可能になるという、顕著な効果を発揮するものであることも同時に明らかとなった。
本開示の手段は、同定済みの菌を探索対象とする場合に、その菌数を従来得られない程度に効果的に増やす手段を提供し、かつ、菌と上皮細胞との共生関係のメカニズムを解明する有効な手段となり得る、極めて有用なものであることが理解される。また、本開示の手段は、未同定菌や、培養対象となる菌が少量のものを探索対象とする場合に、その菌数を極めて効果的に増やす手段を提供し、かつ、それらの菌と上皮細胞との共生関係のメカニズムを解明する有効な手段となり得る、極めて有用なものであることが理解される。
[試験例8]
培養増殖が困難な腸内細菌の共培養試験(2)
腸内細菌のFaecalibacterium prausnitziiは、嫌気状態で上皮細胞との共培養を行っても、増殖させることは困難であり、共培養中にFaecalibacterium prausnitziiが死滅していくことが報告されている(Cellular Microbiology (2015), 17(2), 226-240)。
一方、試験例7で確認されたように、本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)を用いることにより、嫌気条件下での培養が難しいFaecalibacterium prausnitziiを、従来に比して顕著に増殖させることが可能になるものである点を確認した。そこで、さらに、本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)と共培養対象となるCaco-2細胞用の培養液を用いた共培養試験を行い、本開示の手段が、菌に好適な培養液を用いることなく、共培養対象の細胞に依存して、より長期に、Faecalibacterium prausnitziiの顕著な増殖を可能とするものである点を確認する試験を行った。
1.菌の準備。
試験例8と同様、腸内細菌のFaecalibacterium prausnitzii DSM 17677(JCM31915)を用いる。
2.共培養
本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)の細胞培養インサート内にCaco-2細胞を播種して、単層化Caco-2細胞とし、細胞培養インサートの膜上を覆うようにした。共培養試験1日前に、細胞培養インサート内のDMEM (high Glc) 培地(10% FBS + P/S) を、抗生物質非含有の同培地に交換した。
共培養1日前に、DMEM (high Glc)培地(10% FBS)を0% O2、85% N2、5% H2、10% CO2の嫌気性環境にした嫌気チェンバー内に静置して、培養液を嫌気状態にした。
本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)の培養槽に、DMEM (high Glc)培地(10% FBS)を注入し、上記の細胞培養インサートをセットした。
また、共培養1日前に、Faecalibacterium prausnitzii用の培地であるMedium1130液体培地(1130 YCFA MEDIUM)を用い、37℃、12時間、嫌気条件下にて、Faecalibacterium prausnitziiの前培養を開始した。
共培養試験を開始する。前培養したFaecalibacterium prausnitziiを、FBSおよび抗生物質非含有のDMEM (high Glc)培地で希釈し、本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)の、上記Caco-2細胞を播種した細胞培養インサートへ添加し、嫌気チェンバー内で、37℃、嫌気条件下にて培養した。培養開始の直後、8時間後および48時間後に、Caco-2細胞と菌を回収した。
3.16S rDNA増幅の確認、解析
前記Caco-2細胞ごと回収したFaecalibacterium prausnitziiを、ビーズ破砕後、内部標準としてpUC19プラスミドを添加した後、フェノール/クロロホルム抽出を行い、さらにエタノール沈殿してゲノムを抽出した。その後、16S rDNAに対するプライマー(U16SRT-F及びU16SRT-R(Clifford RJら、PLoS One 7:e48558 (2012) C3-C4 region)を使用したPCR、及び、pUC19プラスミドを検出するプライマーセットを用いたPCRを行い、16S rDNAのコピー数およびpUC19プラスミドのコピー数をそれぞれ定量した。そして、total 16S rDNAのコピー数を算出し、pUC19回収率により補正した後、比較した。
4.結果
図26に示すように、本開示の一実施態様であるI-GOEMONによる培養システムを用いると、共培養開始から8時間後に、Faecalibacterium prausnitziiの顕著な増殖が確認された。そして、共培養開始から48時間後には、さらにFaecalibacterium prausnitziiの顕著な増殖が確認された。本開示の手段を用いることで、Faecalibacterium prausnitziiが、共培養した細胞に依存して、より長期にわたり、盛んに増殖し続けることが可能になるという、極めて顕著な効果を奏するものであることが確認された。腸内細菌のFaecalibacterium prausnitziiは、嫌気状態での上皮細胞との共培養中に死滅していく旨が報告されていた(Cellular Microbiology (2015), 17(2), 226-240)ことからみても驚くべきことであり、本開示の極めて高い有用性が裏付けられる試験結果である。
[試験例9]
細胞培養インサート内の細胞層が溶存酸素濃度に与える影響について
本開示の培養システムは、嫌気チェンバー内に当該培養システムを静置するのみで、5日間もの間、簡便に細胞培養インサート内を、腸管内の腸内腔と同様の嫌気環境に、かつ、培養槽を、腸上皮細胞の層の血管側の環境と同様の、好気環境に保つことができる点は、試験例1で確認されている。この点、細胞層の上層の溶存酸素濃度が低くかつ下層の溶存酸素濃度が高く良好な状態に保持されているのは、本開示の培養システムの仕組みによるものであるが、その点をさらに確認するため、本開示の手段における培養システムからCaco-2細胞の細胞層を除外すると、培養槽を、腸上皮細胞の層の血管側の環境と同様の好気環境に保つことが不可能となってしまう点を確認した。
本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)において、Caco-2細胞を播種せずに細胞培養インサートのみを装着した場合、および、細胞培養インサートを装着しない場合にし、それ以外は試験例1と同様にして、0% O2、85% N2、5% H2、10% CO2の嫌気性環境にした嫌気チェンバーに保持した。その後、培養槽ならびに細胞培養インサート内の培養液の酸素濃度を、非破壊ニードル式酸素濃度計 Microx TX3 (Micro fiber optic oxygen transmitter、PreSens)を用いて計測した。
試験例1によると、本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)にて、Caco-2細胞を細胞培養インサートを覆うように播種した場合には、細胞培養インサートの下層の溶存酸素濃度が高く保持できていた(図14)。
これに対し、試験例9にて細胞培養インサートを装着しない場合には、試験開始2時間で培養槽の溶液の酸素飽和度は20%程度に低下し、6時間後には0%となり、さらに、Caco-2細胞を播種せずに細胞培養インサートのみを装着した場合であっても、細胞培養インサートの下層すなわち培養槽の溶液の酸素飽和度は、一貫して低下し続け、12時間でほぼ0%となってしまうことが明らかとなった(図27)。
また、試験例1によると、本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)にて、Caco-2細胞を細胞培養インサートを覆うように播種した場合には、細胞培養インサートの上層の溶存酸素濃度は、1%未満の低い状態が保持できていた(図14)。
これに対し、試験例9にてCaco-2細胞を播種せずに細胞培養インサートのみを装着した場合は、細胞培養インサート装着時の上層、すなわち、細胞培養インサート内の溶液の酸素飽和度は、一端10%程度まで上昇することが明らかとなった(図27)。
難培養の腸内細菌の増殖を良好に行うことが可能であることが確認されている本開示の培養システムでは、播種されたCaco-2細胞の層が、細胞培養インサートの下層すなわち培養槽の酸素飽和度を長期間高く保持し続けるとともに、細胞培養インサートの上層の酸素飽和度を低く保持することに寄与していることが理解される。
[試験例10]
細胞培養インサートと培養槽の開口部を封止するガス非透過性の封止部材が溶存酸素濃度に与える影響について
さらに、本開示の培養システムにおいて、細胞培養インサートと培養槽の開口部を封止するガス非透過性の封止部材が溶存酸素濃度に与える影響について確認する試験を行った。
本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)において、細胞培養インサートと培養槽の開口部を封止するガス非透過性の封止部材を装着せず、それ以外は試験例1と同様にして、0% O2、85% N2、5% H2、10% CO2の嫌気性環境にした嫌気チェンバーに保持した。その後、培養槽ならびに細胞培養インサート内の培養液の酸素濃度を、非破壊ニードル式酸素濃度計 Microx TX3 (Micro fiber optic oxygen transmitter、PreSens)を用いて計測した。
試験例1によると、本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)にて、細胞培養インサートと培養槽の開口部を封止するガス非透過性の封止部材を用いている場合には、細胞培養インサートの下層すなわち培養槽内の溶存酸素濃度が5日間にわたり高く保持できていた(図14)。
これに対し、試験例10にて細胞培養インサートと培養槽の開口部を封止するガス非透過性の封止部材を装着しなかった場合には、細胞培養インサートの上層すなわち細胞培養インサート内の溶存酸素濃度はほぼ0%であるものの、細胞培養インサートの下層すなわち培養槽内の溶存酸素濃度は一貫して低下し続け、ほぼ24時間後には60%に低下し、36時間後には10%程度以下、48時間後にはほぼ0%にまで低下してしまうことが明らかとなった(図28)。
難培養の腸内細菌の増殖を良好に行うことが可能であることが確認されている本開示の培養システムでは、細胞培養インサートと培養槽の開口部を封止するガス非透過性の封止部材が、細胞培養インサートの下層すなわち培養槽の酸素飽和度を長期間高く保持し続ける。
[試験例11]
本開示の一実施態様であるI-GOEMONを用いて培養した際の腸上皮細胞の状態を評価する試験を行い、5日間もの間、単層化されたCaco-2細胞のタイトジャンクションによるバリア機能を、通常のCaco-2培養時の好気条件での環境下における培養時と同程度に、良好な状態を保持していることを、試験例2の経上皮電気抵抗(TER)測定、細胞外LDH(乳酸デヒドロゲナーゼ)活性測定、および、細胞内LDH活性測定において、確認している。
そこで、試験例11において、さらに、免疫組織染色により、単層化されたCaco-2細胞のタイトジャンクションによるバリア機能が5日間もの間良好に保持されていることを確認する試験を行った。
試薬として、PBS-MC(1mM MgCl2, 0.1mM CaCl2を含むPBS)、Blocking One(ナカライテスク、日本)、抗体希釈液[PBS-MC : Blocking One =1:3]、ProLong褪色防止用封止材(antifade)(Thermo Fisher)、DAPI(Invitrogen-Thermo Fisher Scientific)、抗体として、anti-Claudin 2 antibody(Life Technologies-Thermo Fisher Scientific)125倍希釈、anti-rabbit IgG (goat) (Alexa 488)(Molecular Probe-Thermo Fisher Scientific)1000倍希釈、anti-goat IgG (rabbit) (Alexa 488)(Molecular Probe-Thermo Fisher Scientific)500倍希釈を用意した。
試験例2と同様にして、本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)と、培養槽が密封されない従来の嫌気条件での培養システム(Anaero(嫌気条件))、及び好気条件での培養システム(Aero(好気条件))を用い、試験例2と同様にして細胞を細胞培養インサート内の多孔性の膜上に播種して層とし、それぞれの培養槽にセットして、I-GOEMON及びAnaeroの培養システムは嫌気チェンバー内にて、Aeroの培養システムはCO2インキュベーター内にて培養を行った。
単層培養Caco-2細胞をPBS-MCで3回洗浄した。氷冷したメタノールを用い、20分間、−20℃で細胞を固定した。PBS-MCで1回洗浄し、メンブレンをカットして細胞培養インサートから外した。その後、メンブレンを、Blocking Oneを用い、1時間、室温でインキュベートした。抗体希釈液で希釈した一次抗体(anti-Claudin 2 antibody)を一晩、4℃で反応させた。PBS-MCで3回洗浄したのち、抗体希釈液で希釈した二次抗体(anti-rabbit Alexa 488)を1時間、室温で反応させた。PBS-MCで3回洗浄したのち、抗体希釈液で希釈した三次抗体(anti-goat Alexa 488)と0.1μg/ml DAPIを1時間、室温で反応させた。PBS-MCで3回洗浄したのち、ProLong褪色防止用封入剤で封入した。その後、共焦点顕微鏡(Nikon, A1Rsi)で観察した。結果を図29に示す。
従来の嫌気条件での培養システム(Anaero(嫌気条件))では、5日目には、単層化されたCaco-2細胞が損傷を受け、タイトジャンクションも失われていることが確認された(図23)。他方、本開示の一実施態様である培養システム(I-GOEMON)は、通常の好気条件での培養システム(Aero(好気条件))の条件下と同様に、5日間という長期に渡り嫌気条件下に置かれていても、単層化されたCaco-2細胞は良好な状態となっており、細胞間のタイトジャンクションも全体において保持されていた(図29)。
1 培養槽
1a 開口部
2 細胞培養インサート
3 多孔性の膜
4 ガス非透過性の封止部材
5 ガス透過性の保湿部材
6 上皮細胞
7 好気状態の培養液
8 第2の培養液
10 嫌気性細菌などの細菌
11 核
12 タイトジャンクション

Claims (6)

  1. 1種又は複数種の細胞から構成される第1の細胞群を、それとは異なる1種又は複数種の細胞から構成される第2の細胞群で形成された細胞層または組織と共培養するための培養システムであって、
    前記第1の細胞群を、前記第2の細胞群で形成された細胞層または組織と嫌気条件下で共培養する第1培養槽と、
    好気条件で培養液を貯留する第2培養槽と、
    前記第1培養槽と前記第2培養槽とを接続するように配される1又は複数の物質交換構造体であって、その第1培養槽側の表面を覆うように前記細胞層または組織を保持する物質交換構造体と、
    を有する、培養システム。
  2. 前記物質交換構造体を除き、前記第2培養槽の内部が閉鎖状態となるように、当該第2培養槽と前記第1培養槽との間で開放されている部分を閉じた状態とし、前記第1培養槽と前記第2培養槽との接続部にガス非透過性の封止部材を備える、請求項1に記載の培養システム。
  3. 前記第2培養槽が、当該第2培養槽において外部に開放されている部分を密封するガス透過性の保湿部材を備え、当該保湿部材で密封された部分の他に外部に開放されてない、請求項1または2に記載の培養システム。
  4. 請求項1から3までのいずれか1項に記載の培養システムであって、
    前記第1培養槽が、
    その内部に複数の部分構造と、
    前記物質交換構造体とは別の物質交換構造体と
    を備え、
    当該部分構造の各々が、培養槽として機能し、
    当該部分構造の各々が、前記別の物質交換構造体によって相互に接続され、
    当該複数の部分構造のそれぞれが、前記第2培養槽に接続している、培養システム。
  5. 請求項1から4までのいずれか1項に記載の培養システムであって、
    嫌気チェンバー内の環境に配置して使用される、培養システム。
  6. 第1培養槽と、第2培養槽とを有する、細菌を、上皮細胞から形成される細胞層との共培養を行う培養システムであって、
    前記第1培養槽は、その底面に設けられた1又は複数の物質交換構造体と、前記細胞層がその物質交換構造体の頂面を覆うようにして配されたものであり、
    前記第2培養槽は、好気条件の培養液を貯留する槽であって、前記第1の培養槽がその槽内に挿入されるための開口部を有し、
    前記第1培養槽が前記第2培養槽の開口部から、前記第1培養槽の底面に配された物質交換構造体がその槽に貯留された前記好気条件の培養液に浸漬するよう挿入され、
    前記物質交換構造体を除き、前記第2培養槽の内部が閉鎖状態となるように、当該第2培養槽と前記第1培養槽との間で開放されている部分を閉じた状態とし、前記第1培養槽と前記第2培養槽との接続部にガス非透過性の封止部材を備え、
    前記第2培養槽の頂面にある外部に開放されている部分を密閉するように設けられるガス透過性の保湿部材を備え、前記第1培養槽が嫌気条件下となる、培養システム。
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