JPWO2018074164A1 - フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板およびその製造方法 - Google Patents

フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板およびその製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JPWO2018074164A1
JPWO2018074164A1 JP2017567271A JP2017567271A JPWO2018074164A1 JP WO2018074164 A1 JPWO2018074164 A1 JP WO2018074164A1 JP 2017567271 A JP2017567271 A JP 2017567271A JP 2017567271 A JP2017567271 A JP 2017567271A JP WO2018074164 A1 JPWO2018074164 A1 JP WO2018074164A1
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
hot
rolling
content
rolled
steel sheet
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Granted
Application number
JP2017567271A
Other languages
English (en)
Other versions
JP6304469B1 (ja
Inventor
正崇 吉野
正崇 吉野
光幸 藤澤
光幸 藤澤
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
JFE Steel Corp
Original Assignee
JFE Steel Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by JFE Steel Corp filed Critical JFE Steel Corp
Priority claimed from PCT/JP2017/034949 external-priority patent/WO2018074164A1/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP6304469B1 publication Critical patent/JP6304469B1/ja
Publication of JPWO2018074164A1 publication Critical patent/JPWO2018074164A1/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Landscapes

  • Heat Treatment Of Steel (AREA)

Abstract

十分な耐食性を有するとともに、厚肉のフランジへの打ち抜き加工する際の割れを抑制可能なフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板およびその製造方法を提供すること。質量%で、C:0.001〜0.020%、Si:0.05〜1.00%、Mn:0.05〜1.00%、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Al:0.001〜0.100%、Cr:10.0〜24.0%、Ni:0.01〜0.60%、Ti:0.10〜0.40%、N:0.001〜0.020%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、限界応力拡大係数KICが20MPa・m1/2以上であることを特徴とするフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板。

Description

本発明は、フランジ等への適用に好適な加工性に優れたフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板およびその製造方法に関するものである。
近年、自動車における排気ガスに関する法規制の強化が進んでおり、燃費の向上が急務となっている。そこで、自動車エンジンから生じた排気ガスを再度エンジンの吸気として用いる排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation、EGR)システムの適用が進んでいる。エンジンから生じた排気ガスは、ガス温度を下げるためのEGRクーラーを通過した後に再度エンジンに供給される。排気ガスを循環させるにあたって、各排気系部品は排気ガスの漏洩を防ぐためにフランジを介して締結される。このような排気系部品に適用されるフランジは十分な剛性を有する必要がある。このことから、このような排気系部品には厚肉(例えば板厚で5mm以上)のフランジが適用されている。
従来、厚肉のフランジには普通鋼が用いられてきた。しかし、EGRシステムのような高温の排気ガスが通過する部品に適用するフランジには十分な耐食性が求められる。そのため、普通鋼に比べて耐食性に優れるステンレス鋼、特に熱膨張率が比較的小さく熱応力が発生しにくいフェライト系ステンレス鋼の適用が検討されており、厚肉のフランジに適用可能な板厚の大きい(例えば板厚で5mm以上)フェライト系ステンレス鋼板が強く求められている。
このような市場要求に対し、例えば、特許文献1には、質量%で、C:0.015%以下、Si:0.01〜0.4%、Mn:0.01〜0.8%、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cr:14.0〜18.0%未満、Ni:0.05〜1%、Nb:0.3〜0.6%、Ti:0.05%以下、N:0.020%以下、Al:0.10%以下、B:0.0002〜0.0020%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、Nb、CおよびNの含有量がNb/(C+N)≧16を満たし、0℃におけるシャルピー衝撃値が10J/cm以上であり、板厚が5.0〜9.0mmであるフェライト系ステンレス熱延鋼板が開示されている。
国際公開第2014/157576号
しかし、本発明者らが特許文献1に記載されるフェライト系ステンレス熱延鋼板を用いてバーリング加工部を有する厚肉のフランジ形状への加工を試みたところ、上記の鋼板が十分なシャルピー衝撃値を有していたにも関わらず、バーリング加工部の特に板厚中央部に割れが生じ、所定のフランジ形状を得ることができない場合があり、厚肉のフランジに適用するには十分ではないことが明らかとなった。
本発明は、かかる課題を解決し、十分な耐食性を有するとともに、厚肉のフランジへの打ち抜き加工をする際の割れを抑制可能なフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、課題を解決するために詳細な検討を行った。その結果、板厚が5.0mmを超える厚肉の鋼板を、割れを発生させることなくバーリング加工部を有する厚肉のフランジへ成形する場合、その加工性は、従来用いられてきたシャルピー衝撃値では正確な評価ができないが、厚板分野の靭性評価指標である限界応力拡大係数(Threshold Stress Intensity Factor)KICで正確に評価できることを見出した。これは、板厚が5.0mm未満の薄鋼板では、加工時の打ち抜き端面部近傍の塑性変形領域が板厚に対して大きいために、成形に伴う破壊現象を破壊力学的な取り扱いで一義的に整理できないのに対し、板厚が5.0mm以上の厚肉の鋼板では、加工時の打ち抜き端面近傍部の塑性変形領域が板厚に対して十分に小さくなる小規模降伏状態を十分に満足するために、所定の加工に伴う破壊現象を破壊力学的な定量指標である応力拡大係数で扱うことができ、特にその限界値、すなわち限界応力拡大係数KICで正確に評価できるためと考えられる。
以上のことから、本発明者らは所定形状のフランジへ加工した場合の割れの発生有無と限界応力拡大係数KICとの関係を詳細に調査した。その結果、限界応力拡大係数KICを20MPa・m1/2以上にすることで、バーリング加工部を有する厚肉フランジへ加工する際のバーリング加工部での割れの発生を効果的に抑制することができ、バーリング加工部を有する厚肉のフランジへ十分に実用化できることを知見した。
そして、適切な成分のフェライト系ステンレス鋼に対して、特に3パス以上の多パスからなる仕上熱間圧延工程における最終3パスの累積圧下率(=100−(最終板厚/最終3パスの圧延開始前の板厚)×100[%])を適切に制御して得られた熱延鋼板に対して、適切な温度で熱延板焼鈍を行うことにより、限界応力拡大係数KICが向上することを知見した。
本発明は以上の知見に基づいてなされたものであり、以下を要旨とするものである。
[1]質量%で、C:0.001〜0.020%、Si:0.05〜1.00%、Mn:0.05〜1.00%、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Al:0.001〜0.100%、Cr:10.0〜24.0%、Ni:0.01〜0.60%、Ti:0.10〜0.40%、N:0.001〜0.020%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
限界応力拡大係数KICが20MPa・m1/2以上であることを特徴とするフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板。
[2]成分組成として、質量%で、さらにCu:0.01〜1.00%、Mo:0.01〜2.00%、W:0.01〜0.20%、Co:0.01〜0.20%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする前記[1]に記載のフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板。
[3]成分組成として、質量%で、さらに、V:0.01〜0.20%、Nb:0.01〜0.10%、Zr:0.01〜0.20%、REM:0.001〜0.100%、B:0.0002〜0.0025%、Mg:0.0005〜0.0030%、Ca:0.0003〜0.0030%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする前記[1]または[2]に記載のフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかに記載のフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板の製造方法であって、3パス以上の仕上圧延を行う熱間圧延工程で、仕上圧延の最終3パスを温度範囲800〜1100℃、且つ前記最終3パスの累積圧下率を25%以上として熱延鋼板を得て、該熱延鋼板に対してさらに800〜1100℃で熱延板焼鈍を行うことを特徴とするフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板の製造方法。
ここで、限界応力拡大係数KICは、板幅中央部からASTM E399に準拠したCT(Compact Tension)試験片を、疲労予き裂が圧延直角方向、応力軸が圧延平行方向となるように採取し、ASTM E399に準拠して試験することにより得られる応力拡大係数のことを指す。
本発明によれば、十分な耐食性を有するとともに、厚肉のフランジへの打ち抜き加工をする際の割れを抑制可能な加工性に優れるフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板が得られる。
なお、本発明における十分な耐食性とは、評価する表面を#600エメリーペーパーにより研磨仕上げした後に端面部をシールした鋼板にJIS H 8502に規定された塩水噴霧サイクル試験(塩水噴霧(5質量%NaCl、35℃、噴霧2hr)→乾燥(60℃、4hr、相対湿度40%)→湿潤(50℃、2hr、相対湿度≧95%))を1サイクルとする試験)を5サイクル行った場合の鋼板の評価面における発錆面積率(=発錆面積/鋼板全面積×100[%])が25%以下であることを意味する。
また、厚肉のフランジへの打ち抜き加工をする際の割れを抑制可能な加工性に優れるとは、板幅中央部から、ASTM E399に準拠したCT試験片を、疲労予き裂が圧延直角方向、応力軸が圧延平行方向となるように採取し、ASTM E399に準拠して試験することにより得られる限界応力拡大係数KICが20MPa・m1/2以上であることを指す。
本発明のフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板は、質量%で、C:0.001〜0.020%、Si:0.05〜1.00%、Mn:0.05〜1.00%、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Al:0.001〜0.100%、Cr:10.0〜24.0%、Ni:0.01〜0.60%、Ti:0.10〜0.40%、N:0.001〜0.020%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、限界応力拡大係数KICが20MPa・m1/2以上である。
限界応力拡大係数KICは、板幅中央部からASTM E399に準拠したCT試験片を、疲労予き裂が圧延直角方向、応力軸が圧延平行方向となるように採取し、ASTM E399に準拠して試験することにより得られる応力拡大係数のことを指す。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者らは、板厚5.0mmの各種フェライト系ステンレス鋼板を用いて、30mmφのフランジ孔部をブランクまま(打ち抜いたまま)の鋼板表面から10mm持ち上げるバーリング加工部を有するフランジへ成形した際に割れが発生した原因について詳細に検討した。その結果、割れが発生した上記の鋼板では、打ち抜き端面の板厚中央部近傍に生じた微小亀裂がバーリング加工において著しく進展したために割れが生じていることを突き止めた。
本発明者らは、この微小亀裂の著しい進展と材料特性の関係を詳細に検討した。その結果、微小亀裂の進展は鋼板の限界応力拡大係数KICが小さいほど生じやすい傾向があることを突き止めた。そこで、種々のフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板(板厚5.0mm)を用いて該フランジへの成形を試みた結果、微小亀裂の進展による割れは、所定の測定方法で得られる限界応力拡大係数KICが20MPa・m1/2を下回った鋼板で特に生じやすいことを知見した。
さらに、本発明者らは、該フランジへの成形時に割れが生じた鋼板の限界応力拡大係数KICが小さい原因を明らかにするため、上記の鋼板の割れ部を詳細に調査した。その結果、割れが生じた鋼板では、打ち抜き端面の板厚中央部近傍に発生した亀裂が板厚中央部近傍の結晶粒界において著しく進展していることを突き止めた。
そして、上記の鋼板の組織をSEM(Scanning Electron Microscopy)/EBSD(Electron Backscatter Diffraction)法により調査および解析した結果、亀裂が著しく進展した部位の結晶粒は、それぞれが独立した結晶粒ではあるものの、隣接する結晶粒とほぼ同じ結晶方位を有する、いわゆるコロニー(類似結晶方位を有する結晶粒群)を形成していることを突き止めた。一般に、結晶粒は隣接する結晶粒と異なる結晶方位を有しており、亀裂が粒界上を進展するに際して方位の異なる粒界が亀裂進展の障害として機能する。しかし、コロニーでは隣接する結晶粒の結晶方位がほぼ等しいために、コロニー内の各結晶粒間の粒界による亀裂進展の抑制効果が小さくなることで、コロニーが形成されている鋼板では限界応力拡大係数KICが低下し、該フランジへの成形時に割れが生じたことを突き止めた。
そこで、本発明者らは、フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板において限界応力拡大係数KICを向上させる手法について鋭意検討した。その結果、適切な成分のフェライト系ステンレス鋼に対して、特に多パスからなる仕上圧延を行う熱間圧延工程の最終3パスを800〜1100℃の温度範囲で、かつ最終3パスの累積圧下率(=100−(最終板厚/最終3パスの圧延開始前の板厚)×100[%])が25%以上となるように適切に制御して得られた熱延鋼板に対して、800〜1100℃で熱延板焼鈍を行うことにより、コロニーが効果的に破壊され、20MPa・m1/2以上の限界応力拡大係数KICが得られることを知見した。
なお、本発明のフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板の板厚は、特に限定されないが、厚肉のフランジに適用できる板厚であることが望ましいため、5.0mm以上が好ましく、7.0mm以上がより好ましい。また、前記板厚は、特に限定されないが、15.0mm以下が好ましく、10.0mm以下がより好ましい。
上記手法によりコロニーの破壊が促進される理由について以下に説明する。
フェライト系ステンレス鋼の熱間圧延前のスラブの板厚中央部には、粗大かつ展伸したコロニー(類似結晶方位を有する結晶粒群)が鋳造方向に沿って連なって分布している。一方、鋼板を圧延した場合、鋼板は表層部から変形して伸長する。そのため、圧下率が小さい場合には板厚中央部の変形量が小さくなり、板厚中央部に圧延ひずみがほとんど導入されない。
そのため、従来技術による熱間圧延では、鋼板の板厚中央部の展伸粒に圧延ひずみが十分に導入されず、その後の熱延板焼鈍における再結晶サイトが不足し、熱延板焼鈍時に板厚中央付近では再結晶は生じるもののコロニーが分断されずに残存しやすく、本発明が必要とする20MPa・m1/2以上の限界応力拡大係数KICが得られない。
さらに、フェライト系ステンレス鋼は熱間圧延において動的再結晶(加工変形中における再結晶を言う)がほとんど生じず、圧延による加工ひずみの回復が生じやすい傾向がある。そのため、従来技術による熱間圧延では圧延によって導入された加工ひずみの過度な回復が生じて加工ひずみを熱間圧延後まで効果的に維持することができない。その結果、再結晶サイトが不十分となり次工程の熱延板焼鈍においてコロニーが効果的に破壊されず、所定の限界応力拡大係数KICが得られない。
そこで本発明者らは、熱間圧延工程において鋼板の全厚にわたって圧延加工ひずみを効果的にかつ十分に導入する手法について鋭意検討した。その結果、仕上熱間圧延の最終3パスを適切な温度範囲に管理したうえで大きな累積圧下率で圧延を行うことにより、圧延加工ひずみの回復を抑制しつつ、圧延加工ひずみが板厚の中央部まで十分にかつ効果的に導入され、次工程の熱延板焼鈍における再結晶サイトとなる圧延加工ひずみを十分に残した熱延板組織を得ることができ、次工程の熱延板焼鈍においてコロニーが効果的に破壊されることを知見した。
具体的には、3パス以上からなる仕上熱間圧延工程の最終3パスを800〜1100℃の温度範囲で、かつ最終3パスの累積圧下率(=100−(最終板厚/最終3パスの圧延開始前の板厚)×100[%])が25%以上となるように適切に制御して熱間圧延を行うことを考案した。
また、本発明者らは、次工程の熱延板焼鈍の好適な条件についても鋭意検討した。熱延板焼鈍は熱間圧延によって形成された加工組織を再結晶させる工程である。そのため、十分な再結晶が生じる温度で焼鈍を行う必要がある。しかし、過度な高温で熱延板焼鈍を行った場合、再結晶は生じるものの再結晶粒の著しい粗大化が生じる。この著しく粗大な再結晶粒は独立した単一の結晶粒であるが、粒界長さが著しく長くなるため、コロニーが存在していた場合と同様に方位の異なる粒界による亀裂進展の抑制効果が低下し、所定の限界応力拡大係数KICが得られなくなることを知見した。
そこで本発明者らは、再結晶粒の粒径と焼鈍温度の関係について詳細に調査した。その結果、熱延板焼鈍温度を1100℃以下に抑えることによって、限界応力拡大係数KICが顕著に低下するほどの粗大な再結晶粒の生成を抑制できることを見出した。
次に、本発明のフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板の成分組成について説明する。
以下、特に断らない限り、成分組成を示す%は質量%を意味する。
C:0.001〜0.020%
Cを0.020%超えて含有すると、加工性の低下および溶接部の耐食性低下が顕著になる。C含有量が少ないほど耐食性および加工性の観点では好ましいが、C含有量を0.001%未満にするためには精錬に時間がかかり製造上好ましくない。そのため、C含有量は0.001〜0.020%の範囲とする。C含有量は、好ましくは0.003%以上であり、より好ましくは0.004%以上である。また、C含有量は、好ましくは0.015%以下であり、より好ましくは0.012%以下である。
Si:0.05〜1.00%
Siは溶接時に形成される酸化皮膜に濃縮して溶接部の耐食性を向上させる効果があるとともに、製鋼工程における脱酸元素としても有用な元素である。これらの効果は0.05%以上のSiの含有により得られ、含有量が多いほどその効果は大きくなる。しかし、1.00%を超えてSiを含有すると、熱間圧延工程における圧延荷重の増大と顕著なスケールの生成、焼鈍工程においては鋼板表層でのSi濃化層の形成による酸洗性の低下がそれぞれ生じ、表面欠陥の増加や製造コストの上昇を誘引するため好ましくない。そのため、Si含有量は0.05〜1.00%とする。Si含有量は、好ましくは0.10%以上である。また、Si含有量は、好ましくは0.60%以下であり、より好ましくは0.40%以下である。
Mn:0.05〜1.00%
Mnは鋼の強度を高める効果があり、また、脱酸剤としての作用もある。その効果を得るためには0.05%以上のMnの含有が必要である。しかし、Mn含有量が1.00%を超えると、腐食の起点となるMnSの生成が促進され、耐食性が低下する。そのため、Mn含有量は0.05〜1.00%とする。Mn含有量は、好ましくは0.10%以上である。また、Mn含有量は、好ましくは0.60%以下であり、より好ましくは0.30%以下である。
P:0.04%以下
Pは鋼に不可避的に含まれる元素であるが、耐食性および加工性に対して有害な元素であるので可能な限り低減することが好ましい。特に、P含有量が0.04%を超えると固溶強化により加工性が顕著に低下する。よって、P含有量は0.04%以下とする。好ましくは、P含有量は0.03%以下である。
S:0.01%以下
SもPと同様に鋼に不可避的に含まれる元素であるが、耐食性および加工性に対して有害な元素であるので可能な限り低減するのが好ましい。特に、S含有量が0.01%を超えると耐食性が顕著に低下する。よって、S含有量は0.01%以下とする。好ましくは、S含有量は0.008%以下である。より好ましくは、S含有量は0.003%以下である。
Al:0.001〜0.100%
Alは有効な脱酸剤である。さらに、Alは窒素との親和力がCrよりも強いため、溶接部に窒素が侵入した場合に、窒素をCr窒化物ではなくAl窒化物として析出させて、鋭敏化を抑制する効果がある。これらの効果は、Alを0.001%以上含有することで得られる。しかし、0.100%を超えるAlを含有すると、溶接時の溶け込み性が低下して溶接作業性が低下するので好ましくない。そのため、Al含有量は0.001〜0.100%の範囲とする。Al含有量は、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.010%以上である。また、Al含有量は、好ましくは0.060%以下であり、より好ましくは0.040%以下である。
Cr:10.0〜24.0%
Crはステンレス鋼の耐食性を確保するために最も重要な元素である。その含有量が10.0%未満では、自動車排気ガス雰囲気において十分な耐食性が得られない。一方、24.0%を超えてCrを含有すると、σ(シグマ)相の生成により靭性が著しく低下し、本発明では、所定の限界応力拡大係数KICを得ることができない。そのため、Cr含有量は10.0〜24.0%の範囲とする。Cr含有量は、好ましくは14.0%以上であり、より好ましくは16.0%以上であり、さらに好ましくは17.0%以上である。また、Cr含有量は、好ましくは21.5%以下であり、より好ましくは19.5%以下であり、さらに好ましくは18.5%以下である。
Ni:0.01〜0.60%
Niはステンレス鋼の耐食性を向上させる元素であり、不動態皮膜が形成されず活性溶解が生じる腐食環境において腐食の進行を抑制する元素である。また、Niは強いオーステナイト生成元素であり、溶接部でのフェライト生成を抑制し、Cr炭窒化物の析出による鋭敏化を抑制する効果がある。この効果は、Niを0.01%以上含有することで得られ、Niの含有量が多いほど高くなる。しかし、Ni含有量が0.60%を超えると、加工性が低下することに加えて、応力腐食割れが発生しやすくなる。さらには、Niは高価な元素であるため、Niの含有量の増大は製造コストの増大を招くため好ましくない。そのため、Ni含有量は0.01〜0.60%とする。Ni含有量は、好ましくは0.10%以上である。また、Ni含有量は、好ましくは0.50%以下であり、より好ましくは0.40%以下である。
Ti:0.10〜0.40%
本発明においてTiは極めて重要な元素である。Tiは、CおよびNと優先的に結合して、Cr炭窒化物の析出を抑制し、再結晶温度を低下させるとともにCr炭窒化物の析出による鋭敏化に起因した耐食性の低下を抑制する効果がある。これらの効果を得るためには0.10%以上のTiの含有が必要である。しかし、Ti含有量が0.40%を超えると固溶Ti量が過度に増加するために再結晶温度が逆に上昇してしまい、本発明の技術を適用することができない。また、0.40%超のTiの含有は、鋳造工程において粗大なTi炭窒化物が生成し、表面欠陥を引き起こすため製造上も好ましくない。そのため、Ti含有量は0.10〜0.40%とする。Ti含有量は、好ましくは0.15%以上であり、より好ましくは0.20%以上である。また、Ti含有量は、好ましくは0.35%以下であり、より好ましくは0.30%以下である。なお、溶接部耐食性の観点では式:Ti/(C+N)≧8(なお、該式中、Ti、C、Nは各元素の含有量(質量%)である。)を満たすTi含有量とすることが好ましい。
N:0.001〜0.020%
N含有量が0.020%を超えると、加工性の低下および溶接部の耐食性の低下が顕著になる。耐食性の観点からN含有量は低いほど好ましいが、N含有量を0.001%未満にまで低減するには長時間の精錬が必要となり、製造コストの上昇および生産性の低下を招くため好ましくない。よって、N含有量は0.001〜0.020%の範囲とする。N含有量は、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.007%以上である。また、N含有量は、好ましくは0.015%以下であり、より好ましくは0.012%以下である。
本発明は、上記必須成分を含有し残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼である。さらに、必要に応じて、Cu、Mo、WおよびCoのうちから選ばれる1種または2種以上、あるいは/さらに、V、Nb、Zr、REM、B、MgおよびCaのうちから選ばれる1種または2種以上を、下記の範囲で含有することができる。
Cu:0.01〜1.00%
Cuは水溶液中や弱酸性の水滴が付着した場合の母材および溶接部の耐食性を向上させるのに特に有効な元素である。この効果は0.01%以上の含有により得られ、その効果はCu含有量が多いほど高くなる。しかし、1.00%を超えてCuを含有すると、熱間加工性が低下して表面欠陥を誘引する場合がある。さらには焼鈍後の脱スケールが困難となる場合もある。そのため、Cuを含有する場合は、Cu含有量は0.01〜1.00%の範囲とすることが好ましい。Cu含有量は、より好ましくは0.10%以上であり、さらに好ましくは0.30%以上である。また、Cu含有量は、より好ましくは0.60%以下であり、さらに好ましくは0.45%以下である。
Mo:0.01〜2.00%
Moはステンレス鋼の耐食性を顕著に向上させる元素である。この効果は0.01%以上の含有によって得られ、その効果は含有量が多いほど向上する。しかし、Mo含有量が2.00%を超えると、熱間圧延時の圧延負荷が大きくなり製造性が低下したり、鋼板強度の過度な上昇が生じたりする場合がある。また、Moは高価な元素であることから、多量の含有は製造コストを増大させる。そのため、Moを含有する場合は、Mo含有量は0.01〜2.00%とすることが好ましい。Mo含有量は、より好ましくは0.10%以上であり、さらに好ましくは0.30%以上である。また、Mo含有量は、より好ましくは1.40%以下であり、さらに好ましくは0.90%以下である。
W:0.01〜0.20%
WはMoと同様に耐食性を向上させる効果がある。この効果は0.01%以上のWの含有により得られる。しかし、0.20%を超えてWを含有すると強度が上昇し、圧延荷重の増大等による製造性の低下を招く場合がある。そのため、Wを含有する場合は、W含有量は0.01〜0.20%の範囲とすることが好ましい。W含有量は、より好ましくは0.05%以上である。また、W含有量は、より好ましくは0.15%以下である。
Co:0.01〜0.20%
Coは靭性を向上させる元素である。この効果は0.01%以上のCoの含有によって得られる。一方、Co含有量が0.20%を超えると加工性が低下する場合がある。そのため、Coを含有する場合は、Co含有量は0.01〜0.20%の範囲とすることが好ましい。Co含有量は、より好ましくは0.10%以下である。
V:0.01〜0.20%
VはC、Nと炭窒化物を形成し、溶接時の鋭敏化を抑制して溶接部の耐食性を向上させる。この効果はV含有量が0.01%以上で得られる。一方、V含有量が0.20%を超えると加工性および靭性が顕著に低下する場合がある。そのため、V含有量は0.01〜0.20%とすることが好ましい。V含有量は、より好ましくは0.03%以上である。また、V含有量は、より好ましくは0.10%以下であり、さらにより好ましくは0.05%以下である。
Nb:0.01〜0.10%
Nbは結晶粒を微細化させるとともに、母相中に固溶することにより鋼板の靭性を向上させる効果がある。これらの効果は0.01%以上のNbの含有で得られる。一方、Nbは再結晶温度を上昇させる効果もあり、Nb含有量が0.10%を超えると熱延板焼鈍にて十分な再結晶を生じさせるために必要な焼鈍温度が過度に高温となって、焼鈍中に結晶粒径が最大で300μm以上となるほどの再結晶粒の著しい粗大化が生じ、所定の限界応力拡大係数KICを得ることができなくなる場合がある。そのため、Nbを含有させる場合には、Nb含有量は0.01〜0.10%の範囲とすることが好ましい。Nb含有量は、より好ましくは0.02%以上である。また、Nb含有量は、より好ましくは0.05%以下である。
Zr:0.01〜0.20%
Zrは、CおよびNと結合して鋭敏化を抑制する効果がある。この効果は0.01%以上のZrの含有により得られる。一方、0.20%を超えてZrを含有すると加工性が顕著に低下する場合がある。そのため、Zrを含有する場合、Zr含有量は0.01〜0.20%の範囲とすることが好ましい。Zr含有量は、より好ましくは0.02%以上である。また、Zr含有量は、より好ましくは0.10%以下であり、さらにより好ましくは0.05%以下である。
REM:0.001〜0.100%
REM(Rare Earth Metals:希土類金属)は耐酸化性を向上させる効果があり、溶接部の酸化皮膜(溶接テンパーカラー)形成を抑制して酸化皮膜直下におけるCr欠乏領域の形成を抑制する。この効果は、REMを0.001%以上含有することで得られる。一方、0.100%を超えてREMを含有すると冷延焼鈍時の酸洗性などの製造性を低下させる場合がある。そのため、REMを含有する場合、REM含有量は0.001〜0.100%の範囲とすることが好ましい。REM含有量は、より好ましくは0.010%以上である。また、REM含有量は、より好ましくは0.050%以下である。
B:0.0002〜0.0025%
Bは成形後の耐二次加工脆性を改善するために有効な元素である。この効果はBの含有量を0.0002%以上にすることで得られる。一方、0.0025%を超えてBを含有すると加工性と靭性が低下する場合がある。そのため、Bを含有する場合、B含有量は0.0002〜0.0025%の範囲とすることが好ましい。B含有量は、より好ましくは0.0003%以上である。また、B含有量は、より好ましくは0.0006%以下である。
Mg:0.0005〜0.0030%
Mgはスラブの等軸晶率を向上させ、加工性や靭性の向上に有効な元素である。さらに、本発明のようにTiを含有する鋼においては、Ti炭窒化物が粗大化すると靭性が低下するが、MgはTi炭窒化物の粗大化を抑制する効果も有する。これらの効果は、0.0005%以上のMgを含有することで得られる。一方で、Mg含有量が0.0030%を超えると、鋼の表面性状を悪化させてしまう場合がある。したがって、Mgを含有する場合、Mg含有量は0.0005〜0.0030%の範囲とすることが好ましい。Mg含有量は、より好ましくは0.0010%以上である。また、Mg含有量は、より好ましくは0.0020%以下である。
Ca:0.0003〜0.0030%
Caは、連続鋳造の際に発生しやすいTi系介在物の晶出によるノズルの閉塞を防止するのに有効な成分である。その効果は0.0003%以上のCaを含有することで得られる。しかし、0.0030%を超えてCaを含有すると、CaSの生成により耐食性が低下する場合がある。従って、Caを含有する場合、Ca含有量は0.0003〜0.0030%の範囲とすることが好ましい。Ca含有量は、より好ましくは0.0005%以上である。また、Ca含有量は、より好ましくは0.0015%以下であり、さらに好ましくは0.0010%以下である。
限界応力拡大係数KIC:20MPa・m1/2以上
本発明のフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板は、限界応力拡大係数KICが20MPa・m1/2以上であることで、厚肉のフランジへの打ち抜き加工をする際の割れを抑制することができる。限界応力拡大係数KICは、好ましくは25MPa・m1/2以上、さらに好ましくは30MPa・m1/2以上である。なお、厚肉のフランジとは、特に限定されないが、例えば板厚5.0mm以上のフランジが挙げられる。前記フランジとしては、例えば板厚5.0〜15.0mmのフランジが好ましく、板厚5.0〜10.0mmのフランジがより好ましい。
次に、本発明のフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板の製造方法について説明する。なお、以下の説明において、特に断らない限り、温度は、鋼スラブ、熱延鋼板等の表面温度計等で測定した表面温度とする。
本発明のフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板は、上記成分組成を有する鋼スラブを用い、粗圧延および3パス以上の仕上げ圧延からなる熱間圧延において、仕上圧延の最終3パスの圧延を温度範囲800〜1100℃、且つ最終3パスの累積圧下率25%以上として熱延鋼板を得て、該熱延鋼板に対してさらに800〜1100℃で熱延板焼鈍を行うことによって得られる。
まずは、上記した成分組成からなる溶鋼を、転炉、電気炉、真空溶解炉等の公知の方法で溶製し、連続鋳造法あるいは造塊−分塊法により鋼素材(スラブ)とする。
このスラブを、1100〜1250℃で1〜24時間加熱するか、あるいは加熱することなく鋳造後1100〜1250℃の温度になった段階で、熱間圧延に供する。本発明では粗圧延については特に限定すべき点はないが、仕上熱間圧延前に鋳造組織を効果的に破壊しておいた場合、その後の仕上熱間圧延における結晶粒の微細化に優位に働くため、粗圧延における累積圧下率を65%以上とすることが好ましい。その後、仕上熱間圧延により所定板厚まで圧延するが、仕上圧延の最終3パスの圧延を800〜1100℃の温度範囲とし、累積圧下率を25%以上として行う。
仕上熱間圧延の最終3パスの圧延温度範囲:800〜1100℃
仕上熱間圧延の最終3パスの累積圧下率:25%以上
仕上げ圧延前の粗圧延において粗大な鋳造組織は破壊されているが、当該組織における結晶粒は著しく粗大である。熱延板焼鈍後に所定の限界応力拡大係数KICを得るためには、仕上熱間圧延の最終3パスの圧延の温度および累積圧下率を適切に制御することによって、圧延中の過度の回復を抑制しつつ、特に板厚中央部へ圧延ひずみを効果的に付与する必要がある。
次工程である熱延板焼鈍において所定の金属組織を得るために十分な再結晶サイトを導入するためには、仕上熱間圧延の最終3パスの圧延温度を800〜1100℃の範囲とし、かつ最終3パスの累積圧下率(=100−(最終板厚/最終3パスの圧延開始前の板厚)×100[%])を25%以上として、最終3パスによって付与される圧延ひずみが回復によって解消されることを防ぎつつ、圧延ひずみを板厚中央に効果的に付与することが必要である。
仕上熱間圧延の最終3パスの累積圧下率が25%未満では、板厚中央への圧延ひずみが効果的に付与されないため、次工程の熱延板焼鈍でコロニーが残存してしまい、所定の限界応力拡大係数KICを得ることができない。そのため、最終3パスの累積圧下率を25%以上とする。好ましくは、累積圧下率は30%以上である。さらに好ましくは、累積圧下率は35%以上である。なお、累積圧下率の上限は特に限定されないが、累積圧下率を過度に大きくすると圧延負荷が上昇して製造性が低下するとともに、圧延後に表面肌荒れが発生する場合があるため、60%以下とすることが好ましい。
仕上熱間圧延の最終3パスの圧延温度を800℃未満とした場合、鋼板温度の低下に伴って圧延荷重が著しく上昇するため製造上好ましくない。また、低温での圧延により鋼板表面の肌荒れが発生して表面品質が低下する場合がある。一方、最終3パスの圧延温度が1100℃を超えると、圧延によって付与したひずみの回復が生じて、次工程の熱延板焼鈍後における再結晶サイトが不足するため、熱延板焼鈍後にコロニーが残存してしまい、所定の限界応力拡大係数KICを得ることができない。そのため、最終3パスの圧延温度は800〜1100℃の範囲とする。好ましくは、最終3パスの圧延温度は800〜1050℃の範囲とする。より好ましくは、最終3パスの圧延温度は850〜1000℃の範囲とする。
なお、仕上熱間圧延の最終3パスにおける特定パスで過度の圧延負荷がかかることを防ぐため、最終3パスのうち、第1パス目の圧延温度範囲を950〜1100℃、この第1パスの次に行われる第2パス目の圧延温度範囲を925〜1075℃、この第2パス目の次に行われる第3パス目の圧延温度範囲を875〜1050℃とすることが好ましい。
また、本発明のフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板の製造方法では、3パス以上からなる仕上熱間圧延の最終3パスにおいて温度範囲を制御したうえで大きな圧下を加えることを特徴としている。大きな圧下を加える圧延を最終の4パス以上にわたって行うと、同じ累積圧下率であっても圧下率が各パスに分散されてしまうため板厚中央へのひずみ付与が不十分になるとともに、各パス間の累積搬送時間が増加するために、各パス間を搬送している間の回復が助長され、ひずみ付与の効果が低下する。また、仕上げ圧延の圧延温度および累積圧下率の制御を最終の2パス以下とすると、2パスで累積圧下率25%以上の大圧下を行うために圧延負荷が著しく上昇し製造性が低下する場合があるため好ましくない。よって、本発明のフェライト系ステンレス熱延鋼板の製造方法では、仕上げ圧延の最終の3パスの圧延温度および累積圧下率を制御する。
なお、本発明のフェライト系ステンレス熱延鋼板の製造方法では、仕上熱間圧延の最終の3パスの圧延温度および累積圧下率を制御することが肝要であり、3パス以上の仕上げ圧延であれば、何パスの仕上げ圧延を行ってもよいが、最大パス数が15パスよりも多くなると、圧延ロールとの接触回数の増加による鋼板温度の低下が生じやすくなり、鋼板温度を所定温度範囲内に維持するために外部からの加熱が必要になる等の製造性の低下または製造コストの増加を招く場合があるため、最大パス数は15パス以下とすることが好ましい。より好ましくは、最大パス数は10パス以下である。
仕上熱間圧延後は鋼板の冷却を行い、ついで鋼板の巻取処理を行い熱延鋼帯とする。本発明において巻取温度は特に限定されないが、巻取温度を450℃超〜500℃未満とした場合、475℃脆化に起因した脆化が生じる場合がある。そのため、巻取温度は450℃以下もしくは500℃以上とすることが好ましい。
熱延板焼鈍温度:800〜1100℃
本発明では上記熱間圧延工程終了後に熱延板焼鈍を行う。熱延板焼鈍において、熱間圧延工程で形成させた圧延加工組織を再結晶させる。本発明では熱間圧延工程において効果的に圧延ひずみを付与し、再結晶サイトを増加させることによって熱延板焼鈍におけるコロニーの破壊を促進させる。この効果を得るためには熱延板焼鈍を800〜1100℃の範囲で行う必要がある。焼鈍温度が800℃未満では再結晶が不十分となり、所定の限界応力拡大係数KICを得ることができない。一方、焼鈍温度が1100℃を超えると、再結晶粒は、その結晶粒径が最大で300μm以上となるほどの著しい粗大化が生じ、所定の限界応力拡大係数KICを得ることができない。そのため、熱延板焼鈍温度は800〜1100℃の範囲とする。かかる熱延板焼鈍がされた熱延鋼板は、上述の成分組成を有し、20MPa・m1/2以上の限界応力拡大係数KICを有する。好ましくは、熱延板焼鈍温度は800〜1050℃の範囲である。さらに好ましくは、熱延板焼鈍温度は850〜1000℃の範囲である。なお、熱延板焼鈍の保持時間および手法に特に限定はなく、箱焼鈍(バッチ焼鈍)、連続焼鈍のいずれで実施してもかまわない。
得られた熱延焼鈍鋼板には、必要に応じてショットブラストや酸洗による脱スケール処理を行ってもよい。さらに、表面性状を向上させるために、研削や研磨等を施してもよい。また、本発明が提供する熱延焼鈍鋼板はその後、冷間圧延および冷延板焼鈍を行ってもよい。
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
表1に示す化学組成を有するステンレス溶鋼を容量150tonの転炉と強攪拌・真空酸素脱炭処理(SS−VOD)の精錬で溶製し、連続鋳造により幅1000mm、厚さ200mmの鋼スラブとした。No.31以外は該スラブを1200℃で1h加熱後に、熱間圧延として3段のスタンドを用いたリバース式の粗圧延を行って約40mmの鋼板とし、ついで7パスからなる仕上げ圧延の最終3パス(5パス目、6パス目、7パス目)を表2に記載の条件で行い熱延鋼板とした。No.31は該スラブを1300℃で1h加熱した後に熱間圧延に供した。得られた熱延鋼板について同じく表2に記載の条件で箱焼鈍による熱延板焼鈍を行い、熱延焼鈍板を得た。
得られた熱延焼鈍鋼板について、以下の評価を行った。
(1)限界応力拡大係数KICの評価
板幅中央部から、ASTM E399に準拠したCT試験片を、疲労予き裂が圧延直角方向、応力軸が圧延平行方向となるように採取した。該試験片について、ASTM E399に準拠して限界応力拡大係数KICを求めた。限界応力拡大係数KICが20MPa・m1/2以上を合格、20MPa・m1/2未満を不合格とした。
(2)耐食性の評価
熱延焼鈍鋼板から、60×100mmの試験片を採取し、評価する表面を#600エメリーペーパーにより研磨仕上げした後に端面部をシールした試験片を作製し、JIS H 8502に規定された塩水噴霧サイクル試験に供した。塩水噴霧サイクル試験は、塩水噴霧(5質量%NaCl、35℃、噴霧2hr)→乾燥(60℃、4hr、相対湿度40%)→湿潤(50℃、2hr、相対湿度≧95%)を1サイクルとして、5サイクル行った。塩水噴霧サイクル試験を5サイクル実施後の試験片の評価面を写真撮影し、画像解析により試験片の評価面の発錆面積を測定し、試験片全面積との比率から発錆率((試験片中の発錆面積/試験片全面積)×100 [%])を算出した。発錆率10%以下を特に優れた耐食性で合格(◎)、10%超25%以下を合格(○)、25%超を不合格(×)とした。
試験結果を熱間圧延および熱延板焼鈍条件と併せて表2に示す。
Figure 2018074164
Figure 2018074164
鋼成分、熱間圧延条件および熱延板焼鈍条件が本発明の範囲を満たすNo.1〜26は、所定の熱間圧延および熱延板焼鈍によってコロニーが効果的に破壊された結果、所定の限界応力拡大係数KICが得られていた。さらに得られた熱延焼鈍板の耐食性を評価した結果、いずれも発錆率は25%であり十分な耐食性も有していることが確認された。
特に、Moを含有させた鋼E、F、G、Jを用いたNo.5〜7とNo.10、およびCuを含有させた鋼HとIを用いたNo.8および9では発錆率が10%以下(◎)と一層優れた耐食性が得られた。
最終3パスの圧延温度が本発明の範囲を上回るNo.27では、所定の累積圧下率で圧延したものの、圧延温度が過度に高温であったために加工ひずみの回復が生じて再結晶サイトが不十分となったために熱延板焼鈍後にもコロニーが残存し、所定の限界応力拡大係数KICが得られなかった。
最終3パスの累積圧下率が本発明の範囲を下回るNo.28では、板厚中央部への圧延加工ひずみの導入が不十分であったために、熱延板焼鈍後にも板厚中央部にコロニーが残存した結果、所定の限界応力拡大係数KICが得られなかった。
熱延板焼鈍温度が本発明の範囲を上回るNo.29では、生成した再結晶粒の著しい粗大化が生じた結果、所定の限界応力拡大係数KICが得られなかった。
熱延板焼鈍温度が本発明の範囲を下回るNo.30では、再結晶が不十分であったためにコロニーが破壊されずに残存した結果、所定の限界応力拡大係数KICが得られなかった。
No.31はスラブを1300℃で1h加熱した後に熱間圧延に供し、仕上げ熱間圧延の最終3パスの圧延温度範囲をいずれも1100℃超えとした例である。No.31では、最終3パスの圧延実施中に過度の加工ひずみの回復が生じて再結晶サイトが不十分となったために熱延板焼鈍後にもコロニーが残存し、所定の限界応力拡大係数KICが得られなかった。
最終3パスの圧延温度範囲が3パスともに本発明の範囲を下回るNo.32では、圧延荷重が著しく上昇し、最終3パス目の圧延実施時に荷重が装置許容範囲を超過したために圧延を完了することができず、所定の評価を行うことができなかった。
Ti含有量が本発明の範囲を上回る鋼Vを用いたNo.33では、過剰なTi含有によって再結晶温度が上昇し、所定の熱延板焼鈍を行っても十分な再結晶が生じずにコロニーが残存した結果、所定の限界応力拡大係数KICが得られなかった。一方、Ti含有量が本発明の範囲を下回る鋼Wを用いたNo.34では、熱延板焼鈍時にCr炭窒化物が多量に析出したことによる鋭敏化が生じ、所定の耐食性を得ることができなかった。また、Ti含有量が本発明の範囲を下回り、かつNb含有量が本発明の範囲を上回る鋼Zを用いたNo.35では、Nb含有量が過剰であったために、熱延板焼鈍において十分な再結晶組織を得るために過度の高温焼鈍が必要となった結果、熱延板焼鈍によって生成した再結晶粒の著しい粗大化に起因した著しい靭性低下が生じたために所定の限界応力拡大係数KICが得られなかった。さらにTi含有量が不十分であったために、熱延板焼鈍時にCr炭窒化物が多量に析出したことによる鋭敏化が生じ、所定の耐食性を得ることもできなかった。
本発明で得られるフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板は、高い加工性と耐食性が要求される用途、例えばバーリング加工部を有するフランジ等への適用に特に好適である。

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C:0.001〜0.020%、
    Si:0.05〜1.00%、
    Mn:0.05〜1.00%、
    P:0.04%以下、
    S:0.01%以下、
    Al:0.001〜0.100%、
    Cr:10.0〜24.0%、
    Ni:0.01〜0.60%、
    Ti:0.10〜0.40%、
    N:0.001〜0.020%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
    限界応力拡大係数KICが20MPa・m1/2以上であることを特徴とするフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板。
  2. 成分組成として、質量%で、さらに
    Cu:0.01〜1.00%、
    Mo:0.01〜2.00%、
    W:0.01〜0.20%、
    Co:0.01〜0.20%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板。
  3. 成分組成として、質量%で、さらに、
    V:0.01〜0.20%、
    Nb:0.01〜0.10%、
    Zr:0.01〜0.20%、
    REM:0.001〜0.100%、
    B:0.0002〜0.0025%、
    Mg:0.0005〜0.0030%、
    Ca:0.0003〜0.0030%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載のフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板の製造方法であって、
    3パス以上の仕上圧延を行う熱間圧延工程で、仕上圧延の最終3パスを温度範囲800〜1100℃、且つ前記最終3パスの累積圧下率を25%以上として熱延鋼板を得て、
    該熱延鋼板に対してさらに800〜1100℃で熱延板焼鈍を行うことを特徴とするフェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板の製造方法。
JP2017567271A 2016-10-17 2017-09-27 フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板およびその製造方法 Active JP6304469B1 (ja)

Applications Claiming Priority (3)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2016203348 2016-10-17
JP2016203348 2016-10-17
PCT/JP2017/034949 WO2018074164A1 (ja) 2016-10-17 2017-09-27 フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板およびその製造方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP6304469B1 JP6304469B1 (ja) 2018-04-04
JPWO2018074164A1 true JPWO2018074164A1 (ja) 2018-10-18

Family

ID=61828484

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2017567271A Active JP6304469B1 (ja) 2016-10-17 2017-09-27 フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板およびその製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP6304469B1 (ja)

Families Citing this family (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN114686751B (zh) * 2022-04-11 2023-05-12 甘肃酒钢集团宏兴钢铁股份有限公司 一种高铬铁素体不锈钢防脆断生产方法
KR20240096251A (ko) * 2022-12-19 2024-06-26 주식회사 포스코 충격인성이 향상된 페라이트계 스테인리스강 및 그 제조방법

Family Cites Families (8)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2000265215A (ja) * 1999-03-16 2000-09-26 Kawasaki Steel Corp 加工性の優れたフェライト系Cr含有鋼板の製造方法
JP2001181798A (ja) * 1999-12-20 2001-07-03 Kawasaki Steel Corp 曲げ加工性に優れたフェライト系ステンレス熱延鋼板およびその製造方法ならびに冷延鋼板の製造方法
JP2001181742A (ja) * 1999-12-27 2001-07-03 Kawasaki Steel Corp フェライト系ステンレス冷延鋼板の製造方法およびこの方法に用いるステンレス熱延鋼板
JP2009035755A (ja) * 2007-07-31 2009-02-19 Nisshin Steel Co Ltd 二輪車排ガス経路部材用Al系めっき鋼板および部材
JP2012167298A (ja) * 2011-02-09 2012-09-06 Nakayama Steel Works Ltd フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法
TWI548757B (zh) * 2013-03-14 2016-09-11 新日鐵住金不銹鋼股份有限公司 時效熱處理後之強度增加小的肥粒鐵系不鏽鋼板及其製造方法
JP6306353B2 (ja) * 2014-01-21 2018-04-04 Jfeスチール株式会社 フェライト系ステンレス冷延鋼板用スラブの製造方法およびフェライト系ステンレス冷延鋼板の製造方法
WO2017013850A1 (ja) * 2015-07-17 2017-01-26 Jfeスチール株式会社 フェライト系ステンレス熱延鋼板および熱延焼鈍板、ならびにそれらの製造方法

Also Published As

Publication number Publication date
JP6304469B1 (ja) 2018-04-04

Similar Documents

Publication Publication Date Title
KR102201004B1 (ko) 페라이트계 스테인리스 열연 어닐링 강판 및 그 제조 방법
JP6384640B1 (ja) フェライト系ステンレス熱延鋼板およびその製造方法
JP6432720B1 (ja) フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板およびその製造方法
WO2015064128A1 (ja) 低温靭性に優れたフェライト−マルテンサイト2相ステンレス鋼およびその製造方法
JP6112273B1 (ja) フェライト系ステンレス熱延鋼板および熱延焼鈍板、ならびにそれらの製造方法
KR102603113B1 (ko) 페라이트계 스테인리스 강판 및 그의 제조 방법
JP6304469B1 (ja) フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板およびその製造方法
JP6411881B2 (ja) フェライト系ステンレス鋼およびその製造方法
JP5217617B2 (ja) フェライト系ステンレス冷延鋼板およびその製造方法
KR101980470B1 (ko) 강판
JP7038799B2 (ja) フェライト系ステンレス熱延焼鈍鋼板およびその製造方法
CN113950536B (zh) 罐用钢板及其制造方法
JP2005008925A (ja) Mo含有オ−ステナイト系ステンレス鋼とその鋼材の製造法

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20171227

A871 Explanation of circumstances concerning accelerated examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A871

Effective date: 20171227

A975 Report on accelerated examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971005

Effective date: 20180125

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20180206

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20180219

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 6304469

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250