本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば以下の通りである。なお、本明細書において、数値範囲をA〜Bと表記した場合、その数値範囲に下限Aおよび上限Bの値は含まれるものとする。
本実施形態の光学フィルムの製造方法は、溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法であって、シクロオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂のいずれかの樹脂と、溶媒とを含むドープを支持体上に流延し、乾燥させて流延膜を形成する流延工程と、前記流延膜を前記支持体から剥離する剥離工程とを含む。前記流延工程では、前記流延膜の幅手方向の中央部の剥離位置から上流側に5m以内で、前記流延膜の幅手方向の端部に、良溶媒と貧溶媒との混合溶媒を噴霧する。前記混合溶媒における前記貧溶媒の比率が、16質量%以下である。なお、上記の上流側とは、支持体の移動方向(回転方向)または流延膜の搬送方向における上流側を指す。
混合溶媒に対して貧溶媒の比率が低いと(良溶媒の比率が高いと)、混合溶媒を流延膜に噴霧したときに流延膜中の樹脂が良溶媒に溶解するため、流延膜が柔らかくなる。逆に、混合溶媒に対して貧溶媒の比率が高いと(良溶媒の比率が低いと)、混合溶媒を流延膜に噴霧したときに流延膜がゲル化して硬くなる。
流延工程では、貧溶媒の比率が16質量%以下と少ない混合溶媒を、流延膜の幅手方向の端部に噴霧することにより、流延膜の端部が柔らかくなるため、支持体に対する流延膜端部の密着力、すなわち支持体からの剥離力を非噴霧時に比べて上げることができる(剥がれにくくすることができる)。しかも、流延膜の中央部の剥離位置から上流側に5m以内では、流延されたドープは支持体上で乾燥されて、膜としての強度を有する流延膜となっているため、混合溶媒の噴霧により、膜(流延膜の端部)を柔らかくする効果を確実に発揮させることができる。
したがって、シクロオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂のいずれかの樹脂を用いて光学フィルムを製膜する場合でも、上記のようにして流延膜の端部の支持体に対する密着力を上げることにより、流延膜の支持体からの剥離を安定させることができ、幅手方向において剥離位置が搬送方向にばらつく剥離ムラを低減することができる。また、剥離ムラが低減されることで、剥離後の流延膜を搬送する際に、剥離後の流延膜の幅手方向の端部と中央部とで、剥離時の張力によって引っ張られる時間を同等にすることができる。これにより、流延膜の端部と中央部とで分子の配向方向がばらつくのを低減することができ、流延膜の幅手方向において位相差ムラが生じるのを低減することができる。
ここで、混合溶媒の噴霧により、流延膜の端部を確実に柔らかくして、支持体に対する密着力を確実に上げる観点から、前記混合溶媒における前記貧溶媒の比率は、10質量%以下であることが望ましい。
また、ドープの固形分濃度が低すぎると、流延膜を剥離するまでに揮発する溶媒が多くなり、支持体上での乾燥時により大きな収縮力が流延膜に生じる。このため、混合溶媒の噴霧によって流延膜の端部の支持体に対する密着力を上げることで、流延膜の剥離を安定させる効果が小さくなる。一方、ドープの固形分濃度が高すぎると、流延膜端部に噴霧した混合溶媒が支持体側まで浸透しないため、流延膜の支持体に対する密着力を上げる効果が得られにくくなる。以上の点から、前記ドープの固形分濃度は、10質量%以上35質量%以下であることが望ましく、15質量%以上30質量%以下であることがさらに望ましい。
なお、ドープの固形分濃度D(%または質量%)は、以下の式によって定義される。
D={(A+B)/(A+B+C)}×100
ここで、
A:樹脂の質量(g)
B:添加剤の質量(g)
C:溶剤の質量(g)
である。
ドープに含まれる樹脂が、シクロオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂のいずれかである場合、混合溶媒に含まれる前記良溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)またはジクロロメタンであることが望ましく、混合溶媒に含まれる前記貧溶媒は、エタノールであることが望ましい。なお、使用する樹脂を単独で溶解するものを良溶媒とし、上記樹脂を単独で膨潤するか、または溶解しないものを貧溶媒とする。
〔溶液流延製膜法〕
以下、本実施形態の光学フィルムの製造方法について具体的に説明する。図1は、本実施形態の光学フィルムの製造装置1の概略の構成を示す説明図である。また、図2は、光学フィルムの製造工程の流れを示すフローチャートである。本実施形態の光学フィルムの製造方法は、溶液流延製膜法によって光学フィルムを製造する方法であり、図2に示すように、攪拌調製工程(S1)、流延工程(S2)、剥離工程(S3)、第1乾燥工程(S4)、延伸工程(S5)、第2乾燥工程(S6)、切断工程(S7)、エンボス加工工程(S8)、巻取工程(S9)を含む。以下、各工程について説明する。
<攪拌調製工程>
攪拌調製工程では、攪拌装置100の攪拌槽101にて、少なくとも樹脂および溶媒を攪拌し、支持体3(エンドレスベルト)上に流延するドープを調製する。ここでは、上記樹脂として、シクロオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂のいずれかを用いる。溶媒としては、良溶媒および貧溶媒の混合溶媒を用いる。
<流延工程>
流延工程では、攪拌調製工程で調製されたドープを、加圧型定量ギヤポンプ等を通して、導管によって流延ダイ2に送液し、無限に移送する回転駆動ステンレス鋼製エンドレスベルトよりなる支持体3上の流延位置に流延ダイ2からドープを流延する。そして、流延したドープを支持体3上で乾燥させて、流延膜5(ウェブ)を形成する。
支持体3は、一対のロール3a・3bおよびこれらの間に位置する複数のロール(不図示)によって保持されている。ロール3a・3bの一方または両方には、支持体3に張力を付与する駆動装置(不図示)が設けられており、これによって支持体3は張力が掛けられて張った状態で使用される。
流延工程では、支持体3上に流延されたドープにより形成された流延膜5を、支持体3上で加熱し、支持体3から剥離ロール4によって流延膜5が剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる。溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法や、支持体3の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があり、適宜、単独であるいは組み合わせて用いればよい。
ここで、図3は、図1の主要部を拡大して示す説明図であり、図4は、流延膜5の平面図である。図3に示すように、製造装置1は、噴霧装置200を備えている。噴霧装置200は、流延膜5の中央部5aの支持体3からの剥離位置Pから、支持体移動方向の上流側5m以内で、流延膜5の幅手方向の端部5bに、良溶媒と貧溶媒との混合溶媒を噴霧する。このとき、混合溶媒における貧溶媒の比率は、16質量%以下である。
なお、流延膜5の端部5bとは、図4に示すように、流延膜5の幅手方向の両端から内側にWmmの幅の領域である。端部5bの幅Wとしては、流延膜5の全幅W0の10%以下を想定することができる。流延膜5の幅手方向の中央部5aは、流延膜5において端部5b以外の領域であり、幅手方向において2つの端部5b・5bで挟まれて一続きに構成されている。
流延工程では、流延膜5の中央部5aの剥離位置Pよりも上流側で、噴霧装置200によって流延膜5の端部5bに上記混合溶媒を噴霧することにより、シクロオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂のどの樹脂を用いた製膜においても、流延膜5の支持体3からの剥離を安定させて、幅手方向における位相差ムラを低減することができる。その理由は、上述の通りである。噴霧装置200は、図示しない駆動機構により、剥離位置Pから上流側に5m以内の範囲で移動可能となっており、これによって、剥離位置Pから上流側に5m以内(望ましくは2m以内)の範囲で、流延膜5の端部5に混合溶媒を噴霧することができる。
<剥離工程>
上記の流延工程にて、支持体3上で流延膜5が剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化あるいは冷却凝固させた後、剥離工程では、流延膜5を、自己支持性を持たせたまま剥離ロール4によって剥離する。
なお、剥離時点での支持体3上での流延膜5の残留溶媒量は、乾燥の条件の強弱、支持体3の長さ等により、50〜120質量%の範囲であることが望ましい。残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、流延膜5が柔らか過ぎると剥離時平面性を損ね、剥離張力によるシワや縦スジが発生しやすいため、経済速度と品質との兼ね合いで剥離時の残留溶媒量が決められる。なお、残留溶媒量は、下記式で定義される。
残留溶媒量(質量%)=(ウェブの加熱処理前質量−ウェブの加熱処理後質量)/(ウェブの加熱処理後質量)×100
ここで、残留溶媒量を測定する際の加熱処理とは、115℃で1時間の加熱処理を行うことを表す。
<第1乾燥工程>
支持体3から剥離された流延膜5は、乾燥装置6にて乾燥される。乾燥装置6内では、側面から見て千鳥状に配置された複数の搬送ロールによって流延膜5が搬送され、その間に流延膜5が乾燥される。乾燥装置6での乾燥方法は、特に制限はなく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等を用いて流延膜5を乾燥させる。簡便さの点から、熱風で流延膜5を乾燥させる方法が好ましい。なお、第1乾燥工程は、必要に応じて行われればよい。
<延伸工程>
延伸工程では、乾燥装置6にて乾燥された流延膜5を、テンター7によって延伸する。このときの延伸方向としては、フィルム搬送方向(MD方向;Machine Direction)、フィルム面内で上記搬送方向に垂直な幅手方向(TD方向;Transverse Direction)、これらの両方向、のいずれかである。延伸工程では、流延膜5の両側縁部をクリップ等で固定して延伸するテンター方式が、フィルムの平面性や寸法安定性を向上させるために好ましい。なお、テンター7内では、延伸に加えて乾燥を行ってもよい。延伸工程において、流延膜5をMD方向およびTD方向の両方向に延伸することにより、流延膜5をMD方向およびTD方向に対して斜めに交差する方向に延伸(斜め延伸)することもできる。
<第2乾燥工程>
テンター7にて延伸された流延膜5は、乾燥装置8にて乾燥される。乾燥装置8内では、側面から見て千鳥状に配置された複数の搬送ロールによって流延膜5が搬送され、その間に流延膜5が乾燥される。乾燥装置8での乾燥方法は、特に制限はなく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等を用いて流延膜5を乾燥させる。簡便さの点から、熱風で流延膜5を乾燥させる方法が好ましい。
流延膜5は、乾燥装置8にて乾燥された後、光学フィルムFとして巻取装置11に向かって搬送される。
<切断工程、エンボス加工工程>
乾燥装置8と巻取装置11との間には、切断部9およびエンボス加工部10がこの順で配置されている。切断部9では、製膜された光学フィルムFを搬送しながら、その幅手方向の両端部を、スリッターによって切断する切断工程が行われる。光学フィルムFにおいて、両端部の切断後に残った部分は、フィルム製品となる製品部を構成する。一方、光学フィルムFから切断された部分は、シュータにて回収され、再び原材料の一部としてフィルムの製膜に再利用される。
切断工程の後、光学フィルムFの幅手方向の両端部には、エンボス加工部10により、エンボス加工(ナーリング加工)が施される。エンボス加工は、加熱されたエンボスローラーを光学フィルムFの両端部に押し当てることにより行われる。エンボスローラーの表面には細かな凹凸が形成されており、エンボスローラーを光学フィルムFの両端部に押し当てることで、上記両端部に凹凸が形成される。このようなエンボス加工により、次の巻取工程での巻きズレやブロッキング(フィルム同士の貼り付き)を極力抑えることができる。
<巻取工程>
最後に、エンボス加工が終了した光学フィルムFを、巻取装置11によって巻き取り、光学フィルムFの元巻(フィルムロール)を得る。すなわち、巻取工程では、光学フィルムFを搬送しながら巻芯に巻き取ることにより、フィルムロールが製造される。光学フィルムFの巻き取り方法は、一般に使用されているワインダーを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の張力をコントロールする方法があり、それらを使い分ければよい。光学フィルムFの巻長は、1000〜7200mであることが好ましい。また、その際の幅は1000〜3200mm幅であることが望ましく、膜厚は10〜60μmであることが望ましい。
〔樹脂〕
本実施形態において、光学フィルムの製造に用いる樹脂、すなわち、ドープに含まれる樹脂としては、シクロオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂のいずれかの樹脂を用いることができる。
<シクロオレフィン樹脂>
シクロオレフィン樹脂(シクロオレフィンポリマー)としては、下記一般式(S)に示す構造を有する単量体の重合体又は共重合体が挙げられる。
式中、R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、炭化水素基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アシルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基、又は極性基(すなわち、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アシルオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルコキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、若しくはシリル基)で置換された炭化水素基である。
ただし、R1〜R4は、二つ以上が互いに結合して、不飽和結合、単環又は多環を形成していてもよく、この単環又は多環は、二重結合を有していても、芳香環を形成してもよい。R1とR2とで、又はR3とR4とで、アルキリデン基を形成していてもよい。p及びmは0以上の整数である。
上記一般式(S)中、R1及びR3が表す炭化水素基は、炭素数1〜10が好ましく、さらに好ましくは1〜4、特に好ましくは1〜2の炭化水素基である。
R2及びR4が水素原子又は1価の有機基であって、R2及びR4の少なくとも一つは水素原子及び炭化水素基以外の極性を有する極性基を示すことが好ましく、mは0〜3の整数、pは0〜3の整数であり、より好ましくはm+p=0〜4、さらに好ましくは0〜2、特に好ましくはm=1、p=0である。
m=1、p=0である特定単量体は、得られるシクロオレフィン樹脂のガラス転移温度が高く、かつ、機械強度も優れたものとなる点で好ましい。なお、ここでいうガラス転移温度とは、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS K 7121−2012に準拠した方法により求められる値である。
上記特定単量体の極性基としては、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基、アミノ基、アミド基、シアノ基などが挙げられ、これら極性基はメチレン基などの連結基を介して結合していてもよい。
また、カルボニル基、エーテル基、シリルエーテル基、チオエーテル基、イミノ基など極性を有する2価の有機基が連結基となって結合している炭化水素基なども極性基として挙げられる。
これらの中では、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基又はアリルオキシカルボニル基が好ましく、特にアルコキシカルボニル基又はアリルオキシカルボニル基が好ましい。
さらに、R2及びR4の少なくとも一つが式−(CH2)nCOORで表される極性基である単量体は、得られるシクロオレフィン樹脂が、高いガラス転移温度と低い吸湿性、各種材料との優れた密着性を有するものとなる点で好ましい。
上記の特定の極性基にかかる式において、Rは炭素原子数1〜12、さらに好ましくは1〜4、特に好ましくは1〜2の炭化水素基、好ましくはアルキル基である。
共重合性単量体の具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、ジシクロペンタジエンなどのシクロオレフィン樹脂を挙げることができる。
シクロオレフィンの炭素数としては、4〜20が好ましく、さらに好ましいのは5〜12である。
本実施形態において、シクロオレフィン樹脂は、1種単独で、又は2種以上を併用することができる。
シクロオレフィン樹脂の好ましい分子量は、固有粘度〔η〕inhで0.2〜5cm3/g、さらに好ましくは0.3〜3cm3/g、特に好ましくは0.4〜1.5cm3/gであり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、8000〜100000、さらに好ましくは10000〜80000、特に好ましくは12000〜50000であり、重量平均分子量(Mw)は20000〜300000、さらに好ましくは30000〜250000、特に好ましくは40000〜200000である。
固有粘度〔η〕inh、数平均分子量及び重量平均分子量が上記範囲にあることにより、シクロオレフィン樹脂の耐熱性、耐水性、耐薬品性、機械的特性と、本実施形態の光学フィルムの成形加工性とが良好となる。
シクロオレフィン樹脂のガラス転移温度(Tg)としては、通常、110℃以上、好ましくは110〜350℃、さらに好ましくは120〜250℃、特に好ましくは120〜220℃である。Tgが110℃以上の場合が、高温条件下での使用、又はコーティング、印刷などの二次加工により変形が起こりにくいため、好ましい。
一方、Tgが350℃以下とすることで、成形加工が困難になる場合を回避し、成形加工時の熱によって樹脂が劣化する可能性を低くすることができる。
シクロオレフィン樹脂には、本実施形態の効果を損なわない範囲で、例えば特開平9−221577号公報、特開平10−287732号公報に記載されている、特定の炭化水素系樹脂、又は公知の熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、ゴム質重合体、有機微粒子、無機微粒子などを配合してもよく、特定の波長分散剤、糖エステル化合物、酸化防止剤、剥離促進剤、ゴム粒子、可塑剤、紫外線吸収剤などの添加剤を含んでもよい。
また、シクロオレフィン樹脂としては、市販品を好ましく用いることができる。市販品の例としては、JSR(株)からアートン(ARTON:登録商標)G、アートンF、アートンR、及びアートンRXという商品名で発売されている。また、日本ゼオン(株)からゼオノア(ZEONOR:登録商標)ZF14、ZF16、ゼオネックス(ZEONEX:登録商標)250又はゼオネックス280という商品名で市販されており、これらを使用することができる。
<ポリイミド樹脂>
ポリイミドとしては、下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有するポリイミド(以下、ポリイミド(A)と称する)を用いることができる。ポリイミド(A)は、下記一般式(I′)で表される繰り返し単位を有するポリアミド酸(以下、ポリアミド酸(A′)と称する)をイミド化することによって得ることができる。
一般式(I)中、Rは、芳香族炭化水素環若しくは芳香族複素環、又は、炭素数4〜39の4価の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基である。Φは、炭素数2〜39の2価の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、又はこれらの組み合わせからなる基であって、結合基として、−O−、−SO2−、−CO−、−CH2−、−C(CH3)2−、−OSi(CH3)2−、−C2H4O−及び−S−からなる群から選ばれる少なくとも一つの基を含有していても良い。
Rで表される芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ビフェニル環、ナフタレン環、アズレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環、トリフェニレン環、o−テルフェニル環、m−テルフェニル環、p−テルフェニル環、アセナフテン環、コロネン環、フルオレン環、フルオラントレン環、ナフタセン環、ペンタセン環、ペリレン環、ペンタフェン環、ピセン環、ピレン環、ピラントレン環、アンスラアントレン環等が挙げられる。
また、Rで表される芳香族複素環としては、例えば、シロール環、フラン環、チオフェン環、オキサゾール環、ピロール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、インドール環、ベンズイミダゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズオキサゾール環、キノキサリン環、キナゾリン環、フタラジン環、チエノチオフェン環、カルバゾール環、アザカルバゾール環(カルバゾール環を構成する炭素原子の任意の一つ以上が窒素原子で置き換わったものを表す)、ジベンゾシロール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、ベンゾチオフェン環やジベンゾフラン環を構成する炭素原子の任意の一つ以上が窒素原子で置き換わった環、ベンゾジフラン環、ベンゾジチオフェン環、アクリジン環、ベンゾキノリン環、フェナジン環、フェナントリジン環、フェナントロリン環、サイクラジン環、キンドリン環、テペニジン環、キニンドリン環、トリフェノジチアジン環、トリフェノジオキサジン環、フェナントラジン環、アントラジン環、ペリミジン環、ナフトフラン環、ナフトチオフェン環、ナフトジフラン環、ナフトジチオフェン環、アントラフラン環、アントラジフラン環、アントラチオフェン環、アントラジチオフェン環、チアントレン環、フェノキサチイン環、ジベンゾカルバゾール環、インドロカルバゾール環、ジチエノベンゼン環等が挙げられる。
Rで表される炭素数4〜39の4価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、ブタン−1,1,4,4−トリイル基、オクタン−1,1,8,8−トリイル基、デカン−1,1,10,10−トリイル基等の基が挙げられる。
また、Rで表される炭素数4〜39の4価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロブタン−1,2,3,4−テトライル基、シクロペンタン−1,2,4,5−テトライル基、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトライル基、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトライル基、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトライル基、3,3′,4,4′−ジシクロヘキシルテトライル基、3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2,4,5−テトライル基、3,6−ジフェニルシクロヘキサン−1,2,4,5−テトライル基等の基が挙げられる。
Φで表される上記結合基を有する又は有さない炭素数2〜39の2価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、下記構造式で表される基が挙げられる。
上記構造式において、nは、繰り返し単位の数を表し、1〜5が好ましく、1〜3がより好ましい。また、Xは、炭素数1〜3のアルカンジイル基、つまり、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロパン−1,2−ジイル基であり、メチレン基が好ましい。
Φで表される上記結合基を有する又は有さない炭素数2〜39の2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、下記構造式で表される基が挙げられる。
Φで表される上記結合基を有する又は有さない炭素数2〜39の2価の芳香族炭化水素基としては、例えば、下記構造式で表される基が挙げられる。
Φで表される脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基の組み合わせからなる基としては、例えば、下記構造式で示される基が挙げられる。
Φで表される基としては、結合基を有する炭素数2〜39の2価の芳香族炭化水素基、又は該芳香族炭化水素基と脂肪族炭化水素基の組み合わせであることが好ましく、特に、以下の構造式で表される基が好ましい。
前記一般式(I)で表される繰り返し単位は、全ての繰り返し単位に対して好ましくは10〜100モル%、より好ましくは50〜100モル%、更に好ましくは80〜100モル%、特に好ましくは90〜100モル%である。また、ポリイミド(A)1分子中の一般式(I)の繰り返し単位の個数は、10〜2000、好ましくは20〜200であり、この範囲において、更にガラス転移温度が230〜350℃であることが好ましく、250〜330℃であることがより好ましい。
ポリイミド(A)は、芳香族、脂肪族若しくは脂環式テトラカルボン酸又はその誘導体と、ジアミン又はその誘導体とを反応させてポリアミド酸(A′)を調製し、当該ポリアミド酸(A′)をイミド化させることにより得られる。
脂肪族若しくは脂環式テトラカルボン酸の誘導体としては、例えば、脂肪族若しくは脂環式テトラカルボン酸エステル類、脂肪族若しくは脂環式テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。なお、脂肪族若しくは脂環式テトラカルボン酸又はその誘導体のうち、脂環式テトラカルボン酸二無水物が好ましい。
ジアミンの誘導体としては、例えば、ジイソシアネート、ジアミノジシラン類等が挙げられる。ジアミン又はその誘導体のうち、ジアミンが好ましい。
脂肪族テトラカルボン酸としては、例えば、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等が挙げられる。脂環式テトラカルボン酸としては、例えば、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,4,5−シクロペンタンテトラカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸等が挙げられる。
脂肪族テトラカルボン酸エステル類としては、例えば、上記脂肪族テトラカルボン酸のモノアルキルエステル、ジアルキルエステル、トリアルキルエステル、テトラアルキルエステルが挙げられる。脂環式テトラカルボン酸エステル類としては、例えば、上記脂環式テトラカルボン酸のモノアルキルエステル、ジアルキルエステル、トリアルキルエステル、テトラアルキルエステルが挙げられる。なお、アルキル基部位は、炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜3のアルキル基であることがより好ましい。
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物等が挙げられる。特に好ましくは、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物である。一般に、脂肪族ジアミンを構成成分とするポリイミドは、中間生成物であるポリアミド酸とジアミンが強固な塩を形成するため、高分子量化するためには塩の溶解性が比較的高い溶媒(例えばクレゾール、N,N−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン等)を用いることが好ましい。ところが、脂肪族ジアミンを構成成分とするポリイミドでも、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物を構成成分としている場合には、ポリアミド酸とジアミンの塩は比較的弱い結合で結ばれているので、高分子量化が容易で、フレキシブルなフィルムが得られ易い。
芳香族テトラカルボン酸としては、例えば、4,4′−ビフタル酸無水物、4,4′−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、2,3,3′,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4′−オキシジフタル酸無水物、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,4′−オキシジフタル酸無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(ピグメントレッド224)、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル)プロパン二無水物、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)−フェニル]フルオレン無水物等が挙げられる。
他にも、例えば、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−テトラメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、トリシクロ[6.4.0.02,7]ドデカン−1,8:2,7−テトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物等を用いることができる。
芳香族、脂肪族若しくは脂環式テトラカルボン酸又はその誘導体は、1種を単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。また、ポリイミドの溶媒可溶性、フィルムのフレキシビリティ、熱圧着性、透明性を損なわない範囲で、他のテトラカルボン酸又はその誘導体(特に二無水物)を併用しても良い。
かかる他のテトラカルボン酸又はその誘導体としては、例えば、ピロメリット酸、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3′,4′−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2′,3,3′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、4,4−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸、4,4−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン等の芳香族系テトラカルボン酸及びこれらの誘導体(特に二無水物);エチレンテトラカルボン酸等の炭素数1〜3の脂肪族テトラカルボン酸及びこれらの誘導体(特に二無水物)等が挙げられる。
ジアミンは、芳香族ジアミン、脂肪族ジアミン又はこれらの混合物のいずれでも良い。なお、本実施形態において「芳香族ジアミン」とは、アミノ基が芳香族環に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、その他の置換基(例えば、ハロゲン原子、スルホニル基、カルボニル基、酸素原子等。)を含んでいても良い。「脂肪族ジアミン」とは、アミノ基が脂肪族炭化水素基又は脂環式炭化水素基に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に芳香族炭化水素基、その他の置換基(例えば、ハロゲン原子、スルホニル基、カルボニル基、酸素原子等。)を含んでいても良い。
芳香族ジアミンとしては、例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、ベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、オクタフルオロベンジジン、3,3′−ジヒドロキシ−4,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジメトキシ−4,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジクロロ−4,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジフルオロ−4,4′−ジアミノビフェニル、2,6−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,4′−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4′−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4′−ビス(2−メチル−4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4′−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4′−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、ビス(4−(2−メチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、ビス(4−(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−メチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(2−メチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−エチル−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、α,α′−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン(ビスアニリンP)、α,α′−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(3−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン(ビスアニリンM)、α,α′−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(3−アミノフェニル)−1,3−ジイソプロピルベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)4−メチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)ノルボルナン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)ノルボルナン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)ノルボルナン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)アダマンタン、1,1−ビス(2−メチル−4−アミノフェニル)アダマンタン、1,1−ビス(2,6−ジメチル−4−アミノフェニル)アダマンタン、1,4−フェニレンジアミン、3,3′−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、3−アミノベンジルアミン、9,9−ビス(4−アミノ−3−フルオロフェニル)フルオレン、2,2−ビス(3−アミノ−4−メチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、1,3−ビス[2−(4−アミノフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、ビス(2−アミノフェニル)スルフィド、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、4,4′−ジアミノ−3,3′−ジメチルジフェニルメタン、3,3′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−エチレンジアニリン、4,4′−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、5,5′−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジ−o−トルイジン、2,2′-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、4,4′−ジアミノオクタフルオロビフェニル、レソルシノールビス(3−アミノフェニル)エーテル、レソルシノールビス(4−アミノフェニル)エーテル、ビス(3−アミノフェニル)スルホン、ビス(4−アミノフェニル)スルホン(商品名:SEIKACURE−S、セイカ(株)製)、4,4′−チオジアニリン、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、3,4′−ジアミノジフェニルメタン、2,7−ジアミノフルオレン、2,5−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、4,4′−メチレンビス(2−エチル−6−メチルアニリン)、2,3,5,6−テトラメチル−1,4−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、2,2′−ビス(トリフルオロメチル)−4,4′−ジアミノビフェニル、4,4′−ジアミノ−3,3′,5,5′−テトライソプロピルジフェニルメタン、3,3−ジアミノジフェニルスルホン、1−(4−アミノフェニル)−2,3−ジヒドロ−1,3,3−トリメチル−1H−インデン−5−アミン、1,4−ビス(2−アミノ−イソプロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−アミノ−イソプロピル)ベンゼン等が挙げられる。
脂肪族ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ポリエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、ポリプロピレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(cis体及びtrans体の混合物)、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(cis体及びtrans体の混合物)、イソフォロンジアミン、ノルボルナンジアミン、シロキサンジアミン、4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、3,3′−ジエチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、3,3′,5,5′−テトラメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、2,3−ビス(アミノメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,2−ビス(4,4′−ジアミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4,4′−ジアミノメチルシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン(異性体混合物)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタンジメタンアミン(異性体混合物)、4,4′−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)(異性体混合物)、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)(異性体混合物)等が挙げられる。
ジアミン誘導体であるジイソシアネートとしては、例えば、上記芳香族又は脂肪族ジアミンとホスゲンを反応させて得られるジイソシアネートが挙げられる。
また、ジアミン誘導体であるジアミノジシラン類としては、例えば上記芳香族又は脂肪族ジアミンとクロロトリメチルシランを反応させて得られるトリメチルシリル化した芳香族又は脂肪族ジアミンが挙げられる。
以上のジアミン及びその誘導体は任意に混合して用いても良いが、それらの中におけるジアミンの量が50〜100モル%となることが好ましく、80〜100モル%となることがより好ましい。
ポリアミド酸は、適当な溶媒中で、前記テトラカルボン酸類の少なくとも1種類と、前記ジアミン類の少なくとも1種類を重合反応させることにより得られる。
また、ポリアミド酸エステルは、前記テトラカルボン酸二無水物を、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール等のアルコールを用いて開環することによりジエステル化し、得られたジエステルを適当な溶媒中で前記ジアミン化合物と反応させることにより得ることができる。更に、ポリアミド酸エステルは、上記のように得られたポリアミド酸のカルボン酸基を、上記のようなアルコールと反応させることによりエステル化することによっても得ることができる。
前記テトラカルボン酸二無水物と、前記ジアミン化合物との反応は、従来知られている条件で行うことができる。テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物の添加順序や添加方法には特に限定はない。例えば、溶媒にテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを順に投入し、適切な温度で撹拌することにより、ポリアミド酸を得ることができる。
ジアミン化合物の量は、テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、通常0.8モル以上、好ましくは1モル以上である。一方、通常1.2モル以下、好ましくは1.1モル以下である。ジアミン化合物の量をこのような範囲とすることにより、得られるポリアミド酸の収率が向上し得る。
溶媒中のテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の濃度は、反応条件やポリアミド酸溶液の粘度に応じて適宜設定する。例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との合計の質量は、特段の制限はないが、全溶液量に対し、通常1質量%以上、好ましくは5質量%以上であり、一方、通常70質量%以下、好ましくは30質量%以下である。反応基質の量をこのような範囲とすることにより、低コストで収率良くポリアミド酸を得ることができる。
反応温度は、特段の制限はないが、通常0℃以上、好ましくは20℃以上であり、一方、通常100℃以下、好ましくは80℃以下である。反応時間は、特段の制限はないが、通常1時間以上、好ましくは2時間以上であり、一方、通常100時間以下、好ましくは24時間以下である。このような条件で反応を行うことにより、低コストで収率良くポリアミド酸を得ることができる。
この反応で用いられる重合溶媒としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びメシチレン等の炭化水素系溶媒;四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン及びフルオロベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メトキシベンゼン、アルキレングリコールモノアルキルエーテル及びアルキレングリコールジアルキルエーテル等のエーテル系溶媒;アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド及びN−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン等の非プロトン系極性溶媒;ピリジン、ピコリン、ルチジン、キノリン、イソキノリン、スルホラン等の複素環系溶媒;フェノール及びクレゾール等のフェノール系溶媒;アルキルカルビトールアセテート及び安息香酸エステル等のその他の溶媒等が挙げられるが、特に限定されるものではない。重合溶媒としては、1種のみを用いることもできるし、2種類以上の溶媒を混合して用いることもできる。
ポリアミド酸の末端基は、重合反応時のテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物のいずれか一方を過剰に用いることによって、酸無水物基とアミノ基を任意に選ぶことができる。
末端基を酸無水物末端とした場合には、その後の処理を行わず酸無水物末端のままでも良く、加水分解させてジカルボン酸としても良い。また、炭素数が4以下のアルコールを用いてエステルとしても良い。更に、単官能のアミン化合物及び/又はイソシアネート化合物を用いて末端を封止しても良い。ここで用いるアミン化合物及び/又はイソシアネート化合物としては、単官能の第一級アミン化合物及び/又はイソシアネート化合物であれば、特に制限はなく用いることができる。例えば、アニリン、メチルアニリン、ジメチルアニリン、トリメチルアニリン、エチルアニリン、ジエチルアニリン、トリエチルアニリン、アミノフェノール、メトキシアニリン、アミノ安息香酸、ビフェニルアミン、ナフチルアミン、シクロヘキシルアミン、フェニルイソシアナート、キシリレンイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、メチルフェニルイソシアネート、トリフルオロメチルフェニルイソシアネート等を挙げることができる。
また、末端基をアミン末端とした場合には、単官能の酸無水物によって、末端アミノ基を封止することで、アミノ基が末端に残ることを回避できる。ここで用いる酸無水物としては、加水分解した際にジカルボン酸又はトリカルボン酸となる単官能の酸無水物であれば、特に制限なく用いることができる。例えば、マレイン酸無水物、メチルマレイン酸無水物、ジメチルマレイン酸無水物、コハク酸無水物、ノルボルネンジカルボン酸無水物、4−(フェニルエチニル)フタル酸無水物、4−エチニルフタル酸無水物、フタル酸無水物、メチルフタル酸無水物、ジメチルフタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ナフタレンジカルボン酸無水物、7−オキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、4−オキサトリシクロ[5.2.2.02,6]ウンデカン−3,5−ジオン、オクタヒドロ−1,3−ジオキソイソベンゾフラン−5−カルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、ジメチルシクロヘキサンジカルボン酸無水物、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、メチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物等を挙げることができる。
ここで、ポリイミドは、ポリアミド酸溶液を加熱してポリアミド酸をイミド化させる方法(熱イミド化法)、又は、ポリアミド酸溶液に閉環触媒(イミド化触媒)を添加してポリアミド酸をイミド化させる方法(化学イミド化法)により得ることができる。
熱イミド化法においては、上記重合溶媒中のポリアミド酸を、例えば80〜300℃の温度範囲で1〜200時間加熱処理してイミド化を進行させる。また、上記温度範囲を150〜200℃とすることが好ましく、150℃以上とすることにより、イミド化を確実に進行させて完了させることができ、一方、200℃以下とすることにより、溶媒や未反応原材料の酸化、溶剤溶媒の揮発による樹脂濃度の上昇を防止することができる。
更に、熱イミド化法においては、イミド化反応により生成する水を効率良く除去するために、上記重合溶媒に共沸溶媒を加えることができる。共沸溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ等の芳香族炭化水素や、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素等を用いることができる。共沸溶媒を使用する場合は、その添加量は、全有機溶媒量中の1〜30質量%程度、好ましくは5〜20質量%である。
一方、化学イミド化法においては、上記重合溶媒中のポリアミド酸に対し、公知の閉環触媒を添加してイミド化を進行させる。閉環触媒としては、通常、ピリジンを用いれば良いが、これ以外にも例えば、置換若しくは非置換の含窒素複素環化合物、含窒素複素環化合物のN−オキシド化合物、置換若しくは非置換のアミノ酸化合物、ヒドロキシ基を有する芳香族炭化水素化合物又は芳香族複素環状化合物が挙げられ、特に1,2−ジメチルイミダゾール、N−メチルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、5−メチルベンズイミダゾール等の低級アルキルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾール等のイミダゾール誘導体、イソキノリン、3,5−ジメチルピリジン、3,4−ジメチルピリジン、2,5−ジメチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、4−n−プロピルピリジン等の置換ピリジン、p−トルエンスルホン酸等を好適に使用することができる。閉環触媒の添加量は、ポリアミド酸のアミド酸単位に対して0.01〜2倍当量、特に0.02〜1倍当量程度であることが好ましい。閉環触媒を使用することによって、得られるポリイミドの物性、特に伸びや破断抵抗が向上する場合がある。
また、上記熱イミド化法又は化学イミド化法においては、ポリアミド酸溶液中に脱水剤を添加しても良く、そのような脱水剤としては、例えば、無水酢酸等の脂肪族酸無水物、フタル酸無水物等の芳香族酸無水物等が挙げられ、これらを単独又は混合して使用することができる。また、脱水剤を用いると、低温で反応を進めることができ好ましい。なお、ポリアミド酸溶液に対し脱水剤を添加するのみでもポリアミド酸をイミド化させることが可能ではあるが、反応速度が遅いため、上記したように加熱又は閉環触媒の添加によりイミド化させることが好ましい。
また、ポリイミドは、ポリアミド酸溶液を流延したフィルムに対して加熱処理を行う(熱イミド化法)か、又は、閉環触媒を混合したポリアミド酸溶液を支持体上に流延してイミド化させる(化学イミド化法)ことにより、フィルムの状態で得ることもできる。閉環触媒の具体例としては、トリメチルアミン、トリエチレンジアミン等の脂肪族第3級アミン及びイソキノリン、ピリジン、ピコリン等の複素環式第3級アミン等が挙げられるが、複素環式第3級アミンから選ばれる少なくとも1種のアミンを使用することが好ましい。ポリアミド酸に対する閉環触媒の含有量は、閉環触媒の含有量(モル)/ポリアミド酸の含有量(モル)が、0.5〜8.0となる範囲が好ましい。
上記のようにして構成されるポリアミド酸又はポリイミドは、フィルムを形成する観点から、重量平均分子量30000〜1000000のものが用いられる。
また、上記したようにポリアミド酸をイミド化させて得たポリイミドを流延する場合においては、流延時のポリアミド酸のイミド化率として10〜100%であることが好ましい。ここで、イミド化率としては、フーリエ変換赤外分光法により得られたピークから下記式で求めることができる。
式(A):(C/D)×100/(E/F)
上記式(A)中、Cは、ポリアミド酸又はポリイミドのドープの1370cm-1の吸収ピーク高さを表し、Dは、ポリアミド酸又はポリイミドのドープの1500cm-1の吸収ピーク高さを表し、Eは、ポリイミドフィルムの1370cm-1の吸収ピーク高さを表し、Fは、ポリイミドフィルムの1500cm-1の吸収ピーク高さを表す。
流延時のポリアミド酸のイミド化率を10〜100%とすることで、イミド化率0%のポリアミド酸を用いて流延膜を形成した後にイミド化させる方法よりも、低弾性率のポリイミドフィルムを得ることができる。
<ポリアリレート樹脂>
ポリアリレート樹脂は、少なくとも芳香族ジアルコール成分単位と芳香族ジカルボン酸成分単位とを含む。
(芳香族ジアルコール成分単位)
芳香族ジアルコール成分単位を得るための芳香族ジアルコールは、好ましくは下記式(1)で表されるビスフェノール類、より好ましくは下記式(1’)で表されるビスフェノール類である。
一般式(1)及び(1’)のLは、2価の有機基である。2価の有機基は、好ましくは単結合、アルキレン基、−S−、−SO−、−SO2−、−O−、−CO−又は−CR1R2−(R1とR2は互いに結合して脂肪族環又は芳香族環を形成する)である。
アルキレン基は、好ましくは炭素数1〜10のアルキレン基であり、その例には、メチレン基、エチレン基、イソプロピリデン基等が含まれる。アルキレン基は、ハロゲン原子やアリール基等の置換基をさらに有してもよい。
−CR1R2−のR1及びR2は、それぞれ互いに結合して脂肪族環又は芳香族環を形成している。脂肪族環は、好ましくは炭素数5〜20の脂肪族炭化水素環であり、好ましくは置換基を有してもよいシクロヘキサン環である。芳香族環は、炭素数6〜20の芳香族炭化水素環であり、好ましくは置換基を有してもよいフルオレン環である。置換基を有してもよいシクロヘキサン環を形成する−CR1R2−の例には、シクロヘキサン−1,1−ジイル基、3,3,5−トリメチルシクロヘキサン−1,1−ジイル基等が含まれる。置換基を有してもよいフルオレン環を形成する−CR1R2−の例には、下記式で表されるフルオレンジイル基が含まれる。
一般式(1)及び(1’)のRは、独立して炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基でありうる。nは、独立して0〜4の整数、好ましくは0〜3の整数である。
Lがアルキレン基であるビスフェノール類の例には、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−メチル−2−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA)、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPC)、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(TMBPA)等が含まれる。中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA)、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPC)、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(TMBPA)等のイソプロピリデン含有ビスフェノール類が好ましい。
Lが−S−、−SO−又は−SO2−であるビスフェノール類の例には、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン(TMBPS)、ビス(3,5−ジエチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3,5−ジエチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、2,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン等が含まれる。Lが−O−であるビスフェノール類の例には、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルが含まれる。Lが−CO−であるビスフェノール類の例には、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトンが含まれる。
Lが−CR1R2−であり、かつR1とR2が互いに結合して脂肪族環を形成するビスフェノール類の例には、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(BPZ)、及び1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(BPTMC)等のシクロヘキサン骨格を有するビスフェノール類が含まれる。
Lが−CR1R2−であり、かつR1とR2が互いに結合して芳香族環を形成するビスフェノール類の例には、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BCF)、9,9−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BXF)等のフルオレン骨格を有するビスフェノール類が含まれる。
ポリアリレートを構成する芳香族ジアルコール成分は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
これらの中でも、樹脂の溶剤に対する溶解性を高めたり、フィルムの金属との密着性を高めたりする観点では、例えば主鎖中に硫黄原子(−S−、−SO−又は−SO2−)を含有するビスフェノール類が好ましい。フィルムの耐熱性を高める観点では、例えば主鎖中に硫黄原子を含有するビスフェノール類や、シクロアルキレン骨格を有するビスフェノール類が好ましい。フィルムの複屈折を低減したり、耐摩耗性を高めたりする観点では、フルオレン骨格を有するビスフェノール類が好ましい。
シクロヘキサン骨格を有するビスフェノール類やフルオレン骨格を有するビスフェノール類は、イソプロピリデン基を含有するビスフェノール類と併用することが好ましい。その場合、シクロヘキサン骨格を有するビスフェノール類又はフルオレン骨格を有するビスフェノール類と、イソプロピリデン基を含有するビスフェノール類との含有比率は、10/90〜90/10(モル比)、好ましくは20/80〜80/20(モル比)としうる。
ポリアリレートは、本実施形態の効果を損なわない範囲で、芳香族ジアルコール成分以外の芳香族多価アルコール成分単位をさらに含んでもよい。芳香族多価アルコール成分の例には、特許4551503号公報の段落〔0015〕に記載の化合物が含まれる。具体的には、トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、4,4’−[1−[4−[1−(4−ヒドロキシフェニル)−1−メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノール、2,3,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、4−[ビス(4−ヒドロキシフェニル)メチル]−2−メトキシフェノール、トリス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン等が含まれる。これらの芳香族多価アルコール成分単位の含有割合は、求められる特性に応じて適宜設定されうるが、芳香族ジアルコール成分単位及びそれ以外の芳香族多価アルコール成分単位の合計に対して例えば5モル%以下としうる。
(芳香族ジカルボン酸成分単位)
芳香族ジカルボン酸成分単位を構成する芳香族ジカルボン酸は、テレフタル酸、イソフタル酸又はそれらの混合物でありうる。
フィルムの機械特性を高める等の観点から、テレフタル酸とイソフタル酸の混合物が好ましい。テレフタル酸とイソフタル酸の含有比率は、好ましくはテレフタル酸/イソフタル酸=90/10〜10/90(モル比)、より好ましくは70/30〜30/70、さらに好ましくは50/50である。テレフタル酸の含有比率が上記範囲であると、十分な重合度を有するポリアリレートが得られやすく、十分な機械的特性を有するフィルムが得られやすい。
ポリアリレートは、本実施形態の効果を損なわない範囲で、テレフタル酸及びイソフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位をさらに含んでもよい。そのような芳香族ジカルボン酸成分の例には、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェン酸、4、4’−ジカルボキシジフェニルエーテル、ビス(p−カルボキシフェニル)アルカン、4,4’−ジカルボキシフェニルスルホン等が含まれる。テレフタル酸及びイソフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸成分単位の含有割合は、求められる特性に応じて適宜設定されうるが、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分単位及びそれら以外の芳香族ジカルボン酸成分単位の合計に対して例えば5モル%以下としうる。
(ガラス転移温度)
ポリアリレートのガラス転移温度は、260℃以上350℃以下であることが好ましく、265℃以上300℃未満であることがより好ましく、270℃以上300℃未満であることがさらに好ましい。
ポリアリレートのガラス転移温度は、JIS K7121(1987)に準拠して測定されうる。具体的には、測定装置としてセイコーインスツル(株)製DSC6220を用いて、ポリアリレートの試料10mg、昇温速度20℃/分の条件で測定することができる。
ポリアリレートのガラス転移温度は、ポリアリレートを構成する芳香族ジアルコール成分の種類等によって調整されうる。ガラス転移温度を高めるためには、例えば芳香族ジアルコール成分単位として「主鎖に硫黄原子を含有するビスフェノール類由来の単位」を含むことが好ましい。
(固有粘度)
ポリアリレートの固有粘度は、0.3〜1.0dl/gであることが好ましく、0.4〜0.9dl/gがより好ましく、0.45〜0.8dl/gがさらに好ましく、0.5〜0.7dl/gであることがさらに好ましい。ポリアリレートの固有粘度が0.3dl/g以上であると、樹脂組成物の分子量が一定以上となりやすく、十分な機械的特性や耐熱性を有するフィルムが得られやすい。ポリアリレートの固有粘度が1.0dl/g以下であると、製膜時の溶液粘度が過剰に高まるのを抑制しうる。
固有粘度は、ISO1628−1に準拠して測定されうる。具体的には、1,1,2,2−テトラクロロエタンに対し、ポリアリレート試料を濃度1g/dlとなるように溶解させた溶液を調製する。この溶液の25℃における固有粘度を、ウベローデ型粘度管を用いて測定する。
ポリアリレートの製造方法としては、公知の方法であってよく、好ましくは水と相溶しない有機溶剤に溶解させた芳香族ジカルボン酸ハライドとアルカリ水溶液に溶解させた芳香族ジアルコールとを混合する界面重合法(W.M.EARECKSON,J.Poly.Sci.XL399,1959年、特公昭40−1959号公報)でありうる。
ポリアリレートの含有量は、ポリアリレートフィルム全体に対して50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上でありうる。
〔溶媒〕
本実施形態において、流延するドープに含まれる溶媒、および上述した噴霧装置によって噴霧される溶媒は、良溶媒および貧溶媒を含む。良溶媒としては、シクロオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂を溶解するものであれば、制限なく用いることができる。
例えば、塩素系有機溶媒としては、ジクロロメタン(塩化メチレン、メチレンクロライド)、非塩素系有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−ヘキサフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等を挙げることができる。例えば主たる溶媒としては、ジクロロメタン、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトンを好ましく使用することができ、ジクロロメタン又は酢酸エチルであることが特に好ましい。
貧溶媒としては、シクロオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂を単独で膨潤するか、または溶解しないものであれば、制限なく用いることができる。例えば、貧溶媒として、炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールを用いることができる。炭素原子数1〜4の直鎖又は分岐鎖状の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールを挙げることができる。これらのうち、ドープの安定性、沸点も比較的低く、乾燥性もよいこと等から、メタノール及びエタノールを用いることが好ましい。また、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等の貧溶媒を併せて使用してもよい。
本実施形態のように、ドープにシクロオレフィン樹脂等が含まれる場合、ドープ中の混合溶媒または流延膜端部に噴霧する混合溶媒に対して、貧溶媒の比率が多くなると、流延膜がゲル化し、支持体に対する密着力(剥離力)が低下して、剥離が不安定になる。このため、混合溶媒に対する貧溶媒の比率は、16質量%以下であることが望ましく、10質量%以下であることがさらに望ましい。なお、混合溶媒に対する貧溶媒の比率(%または質量%)は、以下の式によって定義される。
貧溶媒比率={b/(a+b)}×100
ここで、
a:混合溶媒中の良溶媒の質量(g)
b:混合溶媒中の貧溶媒の質量(g)
である。
なお、調製するドープに含まれる混合溶媒と、流延工程で流延膜の端部に噴霧する混合溶媒とで、良溶媒および貧溶媒は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
〔添加剤〕
本実施形態の光学フィルムの製造において、ドープに含有させる添加剤として、微粒子、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、糖エステル化合物、位相差調整剤、光安定剤、帯電防止剤、剥離剤、増粘剤などを用いてもよい。以下、主要な添加剤についてのみ説明する。
<微粒子(マット剤)>
本実施形態の光学フィルムには、製膜時にフィルム表面に凹凸を付与し、すべり性を確保し、安定な巻取り形状を達成するためにマット剤を含有させることが望ましい。マット剤を含有することにより、作製された光学フィルムがハンドリングされる際に、傷が付いたり、搬送性が悪化するのを抑制することもできる。
マット剤としては、無機化合物の微粒子や樹脂の微粒子が挙げられる。無機化合物の微粒子の例として、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウム等を挙げることができる。微粒子はケイ素を含むものが、濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化ケイ素が好ましい。
微粒子の一次粒子の平均粒径は、5〜400nmの範囲内が好ましく、さらに好ましいのは10〜300nmの範囲内である。これらは主に粒径0.05〜0.3μmの範囲内の二次凝集体として含有されていてもよく、平均粒径80〜400nmの範囲内の粒子であれば、凝集せずに一次粒子として含まれていることも好ましい。
光学フィルム中のこれらの微粒子の含有量は、0.01〜3.0質量%の範囲内であることが好ましく、特に0.01〜2.0質量%の範囲内であることが好ましい。
二酸化ケイ素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル株式会社製)の商品名で市販されており、使用することができる。
酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル株式会社製)の商品名で市販されており、使用することができる。
樹脂の微粒子の例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましい。例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上東芝シリコーン株式会社製)の商品名で市販されており、これらを使用することができる。
これらの中でも、アエロジル200V、アエロジルR972V、アエロジルR812が、光学フィルムのヘイズを低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため、特に好ましく用いられる。
<可塑剤>
光学フィルムに添加する可塑剤として、ポリエステル樹脂を用いることができる。ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸とジオールを重合することにより得られ、ジカルボン酸構成単位(ジカルボン酸に由来する構成単位)の70%以上が芳香族ジカルボン酸に由来し、かつジオール構成単位(ジオールに由来する構成単位)の70%以上が脂肪族ジオールに由来する。
芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位の割合は70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。脂肪族ジオールに由来する構成単位の割合は70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。ポリエステル樹脂は、2種以上を併用してもよい。
芳香族ジカルボン酸として、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸、4,4′−ビフェニルジカルボン酸、3,4′−ビフェニルジカルボン酸等及びこれらのエステル形成性誘導体が例示できる。
ポリエステル樹脂には、本発明の目的を損なわない範囲で、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸や安息香酸、プロピオン酸、酪酸等のモノカルボン酸を用いることができる。
脂肪族ジオールとして、エチレングリコール、1,3−プロピレンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオール等及びこれらのエステル形成性誘導体が例示できる。
ポリエステル樹脂には、本実施形態の目的を損なわない範囲で、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール等のモノアルコール類や、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール類を用いることもできる。
ポリエステル樹脂の製造には、公知の方法である直接エステル化法やエステル交換法を適用することができる。ポリエステル樹脂の製造時に使用する重縮合触媒としては、公知の三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン化合物、酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物、酢酸チタン等のチタン化合物、塩化アルミニウム等のアルミニウム化合物等が例示できるが、これらに限定されない。
好ましいポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート−イソフタレート共重合樹脂、ポリエチレン−1,4−シクロヘキサンジメチレン−テレフタレート共重合樹脂、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキレート樹脂、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート−テレフタレート共重合樹脂、ポリエチレン−テレフタレート−4,4′−ビフェニルジカルボキシレート樹脂、ポリ−1,3−プロピレン−テレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート樹脂等がある。
より好ましいポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート−イソフタレート共重合樹脂、ポリエチレン−1,4−シクロヘキサンジメチレン−テレフタレート共重合樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート樹脂が挙げられる。
ポリエステル樹脂の固有粘度(フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン=60/40質量比混合溶媒中、25℃で測定した値)は、0.7〜2.0cm3/gの範囲内が好ましく、より好ましくは0.8〜1.5cm3/gの範囲内である。固有粘度が0.7cm3/g以上であると、ポリエステル樹脂の分子量が充分に高いために、これを使用して得られるポリエステル樹脂組成物からなる成形物が、成形物として必要な機械的性質を有するとともに、透明性が良好となる。固有粘度が2.0cm3/g以下の場合、成形性が良好となる。他の可塑剤としては、特開2013−97279号公報の段落〔0056〕〜〔0080〕の一般式(PEI)及び一般式(PEII)に記載の化合物を用いてよい。
〔実施例〕
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるわけではない。
<光学フィルム1の作製>
(ポリイミドAの合成)
乾燥窒素ガス導入管、冷却器、トルエンを満たしたDean−Stark凝集器、撹拌機を備えた4口フラスコに、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物25.59g(57.6mmol)をN,N−ジメチルアセトアミド(134g)に加え、窒素気流下、室温で撹拌した。それに4,4′−ジアミノ−2,2′−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル19.2g(60mmol)を加え、80℃で6時間加熱撹拌した。その後、外温を190℃まで加熱して、イミド化に伴って発生する水をトルエンとともに共沸留去した。6時間加熱、還流、撹拌を続けたところ、水の発生は認められなくなった。引き続き、トルエンを留去しながら7時間加熱し、さらにトルエン留去後にメタノールを投入して再沈殿し、下記式で表されるポリイミドAを得た。
(ドープの調製)
下記組成の主ドープを調製した。まず、加圧溶解タンクに混合溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)とエタノール(EtOH)を添加した。なお、混合溶媒中のTHFの含有量は99質量%とした。当該混合溶媒の入った加圧溶解タンクに、上記調製したポリイミドAを撹拌しながら投入した。これを加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した後、残りの成分を添加し、撹拌して溶解させて、主ドープを調製した。
〈主ドープの組成〉
ポリイミドA 250.0質量部
テトラヒドロフラン 720質量部
エタノール 80質量部
微粒子:日本アエロジル(株)R812(一次粒径7nm)
2.63質量部
(流延工程)
次いで、無端ベルト流延装置を用い、ドープを温度30℃、1500mm幅でステンレスベルト支持体上に均一に流延した。ステンレスベルトの温度を30℃に制御し、ステンレスベルト支持体上で、残留溶媒量が75%になるまで溶媒を蒸発させ、支持体上に流延膜を形成した。そして、流延膜の幅手中央部の剥離位置から上流側に2m離れた位置にある流延膜の両端部に、噴霧装置により混合溶媒(貧溶媒比率10質量%)を噴霧した。ここで、噴霧する混合溶媒としては、ドープの溶媒と同じTHFおよびエタノールの混合溶媒を用いた。
(剥離工程)
次いで、剥離張力180N/mで、流延膜をステンレスベルト支持体上から剥離した。そのときの残留溶媒量は22質量%であった。
(乾燥工程)
剥離した流延膜を、搬送張力100N/m、乾燥時間15分間として、残留溶媒量が0.1質量%未満となる乾燥温度で乾燥させ、乾燥膜厚25μmのフィルムを得た。そして、得られたフィルムを巻き取り、赤外線ヒーターにより300℃で5分間加熱処理を行い、1500mm幅のポリイミドフィルムである光学フィルム1を得た。
<光学フィルム2の作製>
流延工程において、流延膜の両端部に噴霧する混合溶媒の貧溶媒比率を16質量%に変更した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム2を作製した。
<光学フィルム3の作製>
流延工程において、流延膜の両端部に噴霧する混合溶媒の噴霧位置を、流延膜の中央部の剥離位置から上流側に5m離れた位置とした以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム3を作製した。
<光学フィルム4の作製>
支持体上に流延するドープの固形分濃度を10質量%に変更した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム4を作製した。
<光学フィルム5の作製>
支持体上に流延するドープの固形分濃度を15質量%に変更した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム5を作製した。
<光学フィルム6の作製>
支持体上に流延するドープの固形分濃度を30質量%に変更した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム6を作製した。
<光学フィルム7の作製>
支持体上に流延するドープの固形分濃度を35質量%に変更した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム7を作製した。
<光学フィルム8の作製>
支持体上に流延するドープの良溶媒をジクロロメタンに変更するとともに、流延工程において、流延膜の両端部に噴霧する混合溶媒に含まれる良溶媒をジクロロメタンに変更した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム8を作製した。
<光学フィルム9の作製>
ドープに含まれる樹脂をポリアリレート樹脂に変更し、フィルムの作製条件を若干変更した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム9を作製した。以下、ポリアリレート樹脂の作製方法および光学フィルム1とは異なる作製条件について説明する。
(ポリアリレート樹脂の作製)
反応容器中に、水2514重量部を添加した後、水酸化ナトリウム22.7重量部、芳香族ジアルコール成分として9,9−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BCF)35.6重量部、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(TMBPA)18.5重量部、分子量調節剤としてp−tert−ブチルフェノール(PTBP)0.049重量部を溶解させ、0.34重量部の重合触媒(トリブチルベンジルアンモニウムクロライド)を添加し、撹拌した。
一方、芳香族ジカルボン酸成分としてテレフタル酸クロライドとイソフタル酸クロライドの等量混合物26.8重量部を秤量し、945重量部の塩化メチレンに溶解させた。この塩化メチレン溶液を、前述で調製したアルカリ水溶液に撹拌下に添加し、重合を開始させた。重合反応温度は15℃以上20℃以下になるように調整した。重合は2時間行い、その後、系内に酢酸を添加して重合反応を停止させ、有機相と水相を分離した。
得られた有機相を、1回の洗浄毎に有機相の2倍量のイオン交換水で洗浄した後、有機相と水相に分離する操作を繰り返した。洗浄水の電気伝導度が50μS/cm未満となった時点で洗浄を終了した。50℃でホモミキサーを装着した温水槽中に洗浄後の有機相を投入して塩化メチレンを蒸発させて、粉末状のポリマーを得た。さらに脱水・乾燥を行い、ポリアリレート樹脂を得た。
(フィルム作製条件)
ポリアリレート樹脂を含むドープを、ベルト流延装置のステンレスベルト上に均一に流延した。ステンレスベルトの長さは20mのものを用いた。ステンレスベルトの表面温度は35℃とし、かつ流延膜に35℃の風を当てて、残留溶媒量が38%となるまで溶剤を蒸発させた後、ステンレスベルトから剥離して流延膜を得た。
得られた流延膜を、ロール間の周速差を利用してMD方向に170℃で1.2倍に延伸した後、テンターでTD方向に230℃で1.2倍に延伸した。
延伸後の流延膜(フィルム)を、125℃の乾燥装置内を多数のロールで搬送させながら30分間乾燥させた後、フィルムの幅方向両端部に幅15mm、高さ10μmのナーリング加工を施して、ポリアリレートフィルムとして膜厚40μm、幅1500mmの光学フィルム9を得た。
<光学フィルム10の作製>
ドープに含まれる樹脂をシクロオレフィン樹脂に変更し、フィルムの作製条件を若干変更した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム10を作製した。以下、シクロオレフィン樹脂の作製方法および光学フィルム1とは異なる作製条件について説明する。
(シクロオレフィン樹脂の作製)
下記構造式で表される8−メトキシカルボニル−8−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン50g、分子量調節剤の1−へキセン2.3g及びトルエン100gを、窒素置換した反応容器に仕込み、80℃に加熱した。これにトリエチルアルミニウム(0.6モル/L)のトルエン溶液0.09ml、メタノール変性WCl6のトルエン溶液(0.025モル/L)0.29mlを加え、80℃で3時間反応させることにより重合体を得た。次いで、得られた開環共重合体溶液をオートクレーブに入れ、さらにトルエンを100g加えた。水添触媒であるRuHCl(CO)[P(C6H5)]3をモノマー仕込み量に対して2500ppm添加し、水素ガス圧を9〜10MPaとし、160〜165℃にて3時間の反応を行った。反応終了後、多量のメタノール溶液に沈殿させることにより水素添加物を得た。得られた開環重合体の水素添加物であるシクロオレフィン樹脂は、ガラス転移温度(Tg)=167℃、重量平均分子量(Mw)=13.5×104、分子量分布(Mw/Mn)=3.06であった。
(フィルム作製条件)
(光学フィルムの製膜)
シクロオレフィン樹脂を含むドープを、ベルト流延装置を用い、温度22℃、2m幅でステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体で、残留溶剤量が30%になるまで溶媒を蒸発させ、得られた流延膜を剥離張力162N/mでステンレスバンド支持体上から剥離した。
次いで、剥離した流延膜を35℃で溶媒を蒸発させ、テンター延伸で幅手方向(TD方向)に1.25倍延伸しながら、160℃の乾燥温度で乾燥させた。ゾーン延伸による延伸を開始したときの残留溶媒量は10.0%、テンターによる延伸を開始したときの残留溶媒量は5.0%であった。
テンターで延伸した後、160℃で5分間の緩和処理を施した後、120℃の乾燥ゾーンを多数のローラーで搬送させながら乾燥を終了させた。得られたフィルムを1.5m幅にスリットし、フィルム両端に幅10mm、高さ5μmのナーリング加工を施した後、コアに巻取り、シクロオレフィンフィルムとしての光学フィルム10を得た。光学フィルム7の膜厚は40μm、巻長は4000m、幅は1500mmであった。
<光学フィルム11の作製>
流延工程において、流延膜の両端部に噴霧する混合溶媒の噴霧位置を、流延膜の中央部の剥離位置から上流側に8m離れた位置とした以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム11を作製した。
<光学フィルム12の作製>
流延工程において、流延膜の両端部に噴霧する混合溶媒の貧溶媒比率を20質量%に変更した以外は、光学フィルム1の作製と同様にして、光学フィルム12を作製した。
<評価>
(剥離安定性の評価)
剥離工程において、支持体から流延膜が剥離される位置をデジタルビデオカメラで撮影し、撮影した画像から図5に示す剥離線Tを求めた。なお、剥離線Tは、流延膜の幅手方向の剥離位置をつなげた線である。次に、求めた剥離線Tから、流延膜の幅手中央部の剥離位置Pと幅手端部の剥離位置Qとの間の距離L2(mm)を算出した。そして、流延膜の幅、つまり、幅手方向の長さL1(mm)と、距離L2とから、以下の式で示される、剥離ムラを示す指標aを算出し、以下の評価基準に基づいて剥離安定性を評価した。
a=(L2/L1)×100
《評価基準》
◎・・・aの値が1以下であり、剥離が非常に安定している。
○・・・aの値が1よりも大きく4以下であり、剥離がかなり安定している。
△・・・aの値が4よりも大きく6以下であり、剥離が安定している。
×・・・aの値が6よりも大きく、剥離が不安定である。
(位相差ムラの評価)
剥離工程において、流延膜を支持体から剥離した後に流延膜を切断するとともに、流延膜の幅手方向の中央部と端部とを切り出し、自動複屈折率計アクソスキャン(Axo Scan Mueller Matrix Polarimeter:アクソメトリックス社製)を用い、23℃55%RH(相対湿度)の環境下、590nmの波長において、三次元屈折率測定を行い、得られた平均屈折率nx、ny、nzを下記式(i)及び(ii)に代入して、面内方向のリタデーションRoおよび厚さ方向のリタデーションRthを求めた。
式(i):Ro=(nx−ny)×d(nm)
式(ii):Rth={(nx+ny)/2−nz}×d(nm)
〔式(i)及び式(ii)において、nxは、膜の面内方向において屈折率が最大になる方向xにおける屈折率を表す。nyは、膜の面内方向において、前記方向xと直交する方向yにおける屈折率を表す。nzは、膜の厚さ方向zにおける屈折率を表す。dは、膜の厚さ(nm)を表す。〕
そして、流延膜の中央部の厚さ方向のリタデーションRth1と、流延膜の端部の厚さ方向のリタデーションRth2とから、リタデーションの差ΔRth(=Rth1−Rth2)を求め、以下の評価基準に基づいて位相差ムラを評価した。
《評価基準》
◎・・・ΔRthが1nm未満であり、位相差ムラが全くない。
○・・・ΔRthが1nm以上3nm未満であり、位相差ムラがほとんどない。
△・・・ΔRthが3nm以上5nm未満であり、位相差ムラが少しあるが、問題のない程度である。
×・・・ΔRthが5nm以上であり、位相差ムラがかなりある。
各光学フィルム1〜13についての評価の結果を表1に示す。なお、表1において、PIはポリイミド樹脂、PARはポリアリレート樹脂、COPはシクロオレフィン樹脂、THFはテトラヒドロフラン、EtOHはエタノールをそれぞれ示す。
表1より、比較例1および2では、剥離が不安定であり、位相差ムラも低減されていないことがわかる。比較例1のように、流延膜の中央部の剥離位置から上流側に8m離れた位置では、ドープ中の溶媒が十分に乾燥されておらず、膜としての強度がない状態で混合溶媒が流延膜の端部に噴霧されているため、混合溶媒の噴霧により膜を柔らかくする効果が十分に発揮されず、その結果、流延膜端部の支持体に対する密着力が向上せず、剥離が不安定になっているものと考えられる。また、剥離が不安定であり、流延膜の端部が中央部よりも先に剥がれやすくなる結果、剥離時に中央部が端部よりも長く引っ張られるため、幅手方向において分子の配向にムラが生じ、位相差ムラが生じているものと考えられる。
比較例2では、噴霧する混合溶媒における貧溶媒の比率が20質量%と高いため、流延膜において噴霧された部分がゲル化して硬くなり、このため、流延膜の支持体に対する密着力を上げることができず、剥離が不安定になっているものと考えられる。また、剥離が不安定であるため、比較例1と同様の理由で位相差ムラが生じているものと考えられる。
これに対して、実施例1〜10では、流延膜の幅手方向の中央部の剥離位置から上流側に5m以内で、流延膜の幅手方向の端部に対して、貧溶媒比率が16質量%以下の混合溶媒を噴霧している。つまり、貧溶媒比率の少ない混合溶媒を、剥離位置から上流側に5m以内で膜としての強度を持つ流延膜の端部に噴霧している。これにより、流延膜の端部の支持体に対する密着力を上げて、流延膜の支持体からの剥離を安定させることができ、剥離ムラを低減できているものと考えられる。また、剥離ムラが低減されることで、剥離後の流延膜の幅手方向の端部と中央部とで、剥離時の張力によって引っ張られる時間を同等にすることができ、これによって、流延膜の端部と中央部とで分子の配向方向がばらつくのを低減して位相差ムラを低減できているものと考えられる。
特に、実施例1および2の結果より、混合溶媒に対する貧溶媒比率が10質量%以下とさらに少ないほうが、剥離を安定させ、位相差ムラを低減する効果が高くなると言える。また、実施例4〜7の結果より、支持体上に流延するドープの固形分濃度が低すぎても高すぎても、剥離を安定させる効果および位相差ムラを低減する効果が小さいことから、上記固形分濃度は、15質量%以上30質量%以下であるほうが望ましいと言える。
なお、実施例1と同様のドープを調製し、流延工程において、支持体上にドープを流延し、その後、流延膜の端部に混合溶媒を噴霧せずに流延膜の剥離を試みたところ、流延膜の剥離がかなり不安定となり、流延膜の端部が剥離した後、剥離した位置を起点として流延膜が破断することがわかった。したがって、流延工程において、流延膜端部に所定の貧溶媒比率の混合溶媒を噴霧する各実施例の手法は、流延膜の剥離を安定化させて流延膜の破断を防止する点でも非常に有効であると言える。
〔補足〕
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。
以上で説明した本実施形態の光学フィルムの製造方法は、以下のように表現することができる。
1.溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法であって、
シクロオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂のいずれかの樹脂と、溶媒とを含むドープを支持体上に流延し、乾燥させて流延膜を形成する流延工程と、
前記流延膜を前記支持体から剥離する剥離工程とを含み、
前記流延工程では、前記流延膜の幅手方向の中央部の剥離位置から上流側に5m以内で、前記流延膜の幅手方向の端部に、良溶媒と貧溶媒との混合溶媒を噴霧し、
前記混合溶媒における前記貧溶媒の比率が、16質量%以下であることを特徴とする光学フィルムの製造方法。
2.前記混合溶媒における前記貧溶媒の比率が、10質量%以下であることを特徴とする前記1に記載の光学フィルムの製造方法。
3.前記ドープの固形分濃度は、15質量%以上30質量%以下であることを特徴とする前記1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
4.前記良溶媒は、テトラヒドロフランまたはジクロロメタンであることを特徴とする前記1から3のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
5.前記貧溶媒は、エタノールであることを特徴とする前記1から4のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。