本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
本明細書中において、アミノ酸配列の「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(KarlinS,Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoringschemes”Proc Natl Acad Sci USA.87:2264−2268(1990)、KarlinS,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high−scoring segments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873−7(1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたblastpと呼ばれるプログラムやtblastnと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェエブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。また、塩基配列の「同一性」も上記に準じて定義される。
本明細書中において、「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ−分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
本発明のゲノム編集技術の対象である「植物」は、CRISPR/Casシステムによるゲノム編集が可能な植物である限り特に制限されない。植物としては、例えばコケ植物、シダ植物、裸子植物、被子植物のモクレン類、単子葉類、真正双子葉類(バラ類I、バラ類II、キク類I、キク類II及びそれらの外群)を含む広い範囲の植物を挙げることができる。植物のより具体的な例としては、トマト、ピーマン、トウガラシ、ナス、タバコ等のナス類; キュウリ、カボチャ、メロン、スイカ等のウリ類; キャベツ、ブロッコリー、ハクサイ等の菜類; セルリー、パセリー、レタス等の生菜・香辛菜類; ネギ、タマネギ、ニンニク等のネギ類; ダイズ、ラッカセイ、インゲン、エンドウ、アズキ等の豆類; イチゴ、メロン等のその他果菜類; ダイコン、カブ、ニンジン、ゴボウ等の直根類; サトイモ、キャッサバ、ジャガイモ、バレイショ、サツマイモ、ナガイモ等のイモ類; イネ、トウモロコシ、コムギ、ソルガム、オオムギ、ライムギ、ミナトカモジグサ、ソバ等の穀類; ダイズ、アズキ、リョクトウ、ササゲ、インゲンマメ、ラッカセイ、エンドウ、ソラマメ等のマメ類; アスパラガス、ホウレンソウ、ミツバ等の柔菜類; トルコギキョウ、ストック、カーネーション、キク等の花卉類; ベントグラス、コウライシバ等の芝類; ナタネ、ラッカセイ、セイヨウアブラナ、ナンヨウアブラギリ等の油料作物類; ワタ、イグサ等の繊維料作物類; クローバー、デントコーン、タルウマゴヤシ等の飼料作物類; リンゴ、ナシ、ブドウ、モモ等の落葉性果樹類; ウンシュウミカン、オレンジ、レモン、グレープフルーツ等の柑橘類; サツキ、ツツジ、スギ、ポプラ、パラゴムノキ等の木本類等が挙げられる。
1.ポリヌクレオチド
本発明は、その一態様として、RPS5Aプロモーター、及び該プロモーターの制御下に配置されたCasタンパク質コード配列を含む、ポリヌクレオチド(本明細書において、「本発明のポリヌクレオチド」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
RPS5Aプロモーターは、RPS5A(Ribosomal Protein S5 A)遺伝子のプロモーターである限り特に制限されない。
RPS5A遺伝子は、本発明のゲノム編集技術の対象である植物由来のRPS5A遺伝子であれば、特に制限されない。各種植物由来のRPS5A遺伝子は公知であり、該遺伝子の例としては、イネ(Oryza sativa)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_015617601)、ミナトカモジグサ(Brachypodium distachyon)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XM_003578781)、ソルガム(Sorghum bicolor)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:KXG32157)、トウモロコシ(Zea mays)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:NP_001131862)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_006363855)、トマト(Solanum lycopersicum)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_004250715)、ブドウ(Vitis vinifera)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:CBI29956)、ワタ(Gossypium raimondii)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_012466959)、ダイズ(Glycine max)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_003533901)、キャッサバ(Manihot esculenta)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:OAY40679)、ポプラ(Populus trichocarpa)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_002309278)、インゲンマメ(Phaseolus vulgaris)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_007149885)、リンゴ(Malus domestica)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_008359524)、タルウマゴヤシ(Medicago truncatula)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_013450311)、オレンジ(Citrus sinensis)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_006481676)、セイヨウアブラナ(Brassica napus)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_013689010)、メロン(Cucumis melo)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_008463640)、タバコ(Nicotiana tabacum)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_016481473)、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:ADR71286)、ナンヨウアブラギリ(Jatropha curcas)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_012090867)等が挙げられる。
プロモーターは、通常、転写開始点、その上流(5’側)の配列、及び必要に応じてその下流(3’側)の配列を含む。RPS5Aプロモーターとしては、RPS5A遺伝子の転写開始点の塩基を+1、その下流(3´側)が正の値、その上流(5´側)が0又は負の値とした場合、例えば−10000〜+500、好ましくは−5000〜+200、より好ましくは−2000〜+150のDNA領域内の、転写開始点を含む任意のDNA領域が挙げられる。なお、転写開始点が複数存在する場合は、最も転写量の多い転写開始点を選択することができる。RPS5Aプロモーターの長さ(塩基対数:bp)は、例えば500〜10000 bp、好ましくは1000〜5000 bp、より好ましくは1500〜3000 bpの範囲の長さが挙げられる。
RPS5Aプロモーターの具体例としては、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来RPS5A遺伝子のプロモーターの一例として配列番号1で示される塩基配列を含むプロモーター、イネ(Oryza sativa)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_015617601)のプロモーターの一例として配列番号2で示される塩基配列を含むプロモーター、ミナトカモジグサ(Brachypodium distachyon)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XM_003578781)のプロモーターの一例として配列番号3で示される塩基配列を含むプロモーター、ソルガム(Sorghum bicolor)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:KXG32157)のプロモーターの一例として配列番号4で示される塩基配列を含むプロモーター、トウモロコシ(Zea mays)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:NP_001131862)のプロモーターの一例として配列番号5で示される塩基配列を含むプロモーター、ジャガイモ(Solanum tuberosum)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_006363855)のプロモーターの一例として配列番号6で示される塩基配列を含むプロモーター、トマト(Solanum lycopersicum)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_004250715)のプロモーターの一例として配列番号7で示される塩基配列を含むプロモーター、ブドウ(Vitis vinifera)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:CBI29956)のプロモーターの一例として配列番号8で示される塩基配列を含むプロモーター、ワタ(Gossypium raimondii)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_012466959)のプロモーターの一例として配列番号9で示される塩基配列を含むプロモーター、ダイズ(Glycine max)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_003533901)のプロモーターの一例として配列番号10で示される塩基配列を含むプロモーター、キャッサバ(Manihot esculenta)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:OAY40679)のプロモーターの一例として配列番号11で示される塩基配列を含むプロモーター、ポプラ(Populus trichocarpa)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_002309278)のプロモーターの一例として配列番号12で示される塩基配列を含むプロモーター、インゲンマメ(Phaseolus vulgaris)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_007149885)のプロモーターの一例として配列番号13で示される塩基配列を含むプロモーター、リンゴ(Malus domestica)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_008359524)のプロモーターの一例として配列番号14で示される塩基配列を含むプロモーター、タルウマゴヤシ(Medicago truncatula)由来RPS5A遺伝子(NCBI Accession Number:XP_013450311)のプロモーターの一例として配列番号15で示される塩基配列を含むプロモーター等が挙げられる。
RPS5Aプロモーターは、細胞内において内在性RPS5A遺伝子の発現を制御しているプロモーターと同等程度の発現制御能を有する限りにおいて、塩基配列の変異(例えば、置換、欠失、挿入、付加等)を有していてもよい。この場合、変異を有するプロモーターの塩基配列は、細胞内において内在性RPS5A遺伝子の発現を制御しているプロモーターの対応塩基配列と、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有する。変異の部位は、例えば公知の発現制御エレメント(例えば基本転写因子結合領域、各種アクチベーター結合領域等)以外の部位であることが望ましい。なお、発現制御エレメントのコンセンサス配列は既に公知であり、各種データベース上で容易に探索することができる。このようなデータベースとしては、例えばplantpromoterdb(http://ppdb.agr.gifu-u.ac.jp/ppdb/cgi-bin/index.cgi)等が挙げられる。
Casタンパク質コード配列は、Casタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列である限り特に制限されない。
Casタンパク質は、CRISPR/Casシステムにおいて用いられるものであれば特に制限されず、例えばガイドRNAと複合体を形成した状態でゲノムDNAの標的部位に結合し、該標的部位を切断できるものを各種使用することができる。Casタンパク質としては、各種生物由来のものが知られており、例えばS. pyogenes由来のCas9タンパク質(II型)、S. solfataricus由来のCas9タンパク質(I-A1型)、S. solfataricus由来のCas9タンパク質(I-A2型)、H. walsbyl由来のCas9タンパク質(I-B型)、E. coli由来のCas9タンパク質(I-E型)、E. coli由来のCas9タンパク質(I-F型)、P. aeruginosa由来のCas9タンパク質(I-F型)、S. Thermophilus由来のCas9タンパク質(II-A型)、S. agalactiae由来のCas9タンパク質(II-A型)、S. aureus由来のCas9タンパク質、N. meningitidis由来のCas9タンパク質、T. denticola由来のCas9タンパク質、F. novicida由来のCpf1タンパク質(V型)等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはCas9タンパク質が挙げられ、より好ましくはストレプトコッカス属に属する細菌が内在的に有するCas9タンパク質が挙げられる。各種Casタンパク質のアミノ酸配列、及びそのコード配列の情報は、NCBI等の各種データベース上で容易に得ることができる。
Casタンパク質は、野生型の2本鎖切断型Casタンパク質であってもよいし、ニッカーゼ型Casタンパク質であってもよい。2本鎖切断型Casタンパク質は、通常、標的鎖の切断に関与するドメイン(RuvCドメイン)及び非標的鎖の切断に関与するドメイン(HNHドメイン)を含む。ニッカーゼ型Casタンパク質としては、例えば2本鎖切断型Casタンパク質のこれら2つのドメインの内のいずれかのドメインにおいて、その切断活性を損なわせる(例えば、その切断活性を1/2、1/5、1/10、1/100、1/1000以下にする)変異を有するタンパク質が挙げられる。このような変異としては、例えば2本鎖切断型Casタンパク質がS. pyogenes由来のCas9タンパク質(アミノ酸配列は配列番号16)である場合であれば、例えばN末端から10番目のアミノ酸(アスパラギン酸)のアラニンへの変異(D10A:RuvCドメイン内の変異)、N末端から840番目のアミノ酸(ヒスチジン)のアラニンへの変異(H840A:HNHドメイン内の変異)、N末端から863番目のアミノ酸(アスパラギン)のアラニンへの変異(N863A:HNHドメイン内の変異)、N末端から762番目のアミノ酸(グルタミン酸)のアラニンへの変異(E762A:RuvCIIドメイン内の変異)、N末端から986番目のアミノ酸(アスパラギン酸)のアラニンへの変異(D986A:RuvCIIIドメイン内の変異)等が挙げられる。
Casタンパク質は、その活性を損なわない限りにおいて、アミノ酸配列の変異(例えば、置換、欠失、挿入、付加等)を有していてもよい。この観点から、Casタンパク質は、野生型2本鎖切断型Casタンパク質、又は該野生型2本鎖切断型Casタンパク質に基づくニッカーゼ型Casタンパク質のアミノ酸配列と、例えば85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つその活性(ガイドRNAと複合体を形成した状態でゲノムDNAの標的部位に結合し、該標的部位を切断する活性)を有するタンパク質であってもよい。或いは、同様の観点から、Casタンパク質は、野生型2本鎖切断型Casタンパク質、又は該野生型2本鎖切断型Casタンパク質に基づくニッカーゼ型Casタンパク質のアミノ酸配列に対して1若しくは複数個(例えば2〜100個、好ましくは2〜50個、より好ましくは2〜20個、さらに好ましくは2〜10個、よりさらに好ましくは2〜5個、特に好ましくは2個)のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入(好ましくは保存的置換)されたアミノ酸配列からなり、且つその活性(ガイドRNAと複合体を形成した状態でゲノムDNAの標的部位に結合し、該標的部位を切断する活性)を有するタンパク質であってもよい。なお、上記「活性」は、in vitro又はin vivoにおいて、公知の方法に従って又は準じて評価することができる。
Casタンパク質は、上記「活性」を有する限りにおいて、公知のタンパク質タグ、シグナル配列、酵素タンパク質等のタンパク質が付加されたものであってもよい。タンパク質タグとしては、例えばビオチン、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグ等が挙げられる。シグナル配列としては、例えば核移行シグナル等が挙げられる。酵素タンパク質としては、例えば、各種ヒストン修飾酵素、脱アミノ酵素等が挙げられる。
本発明のポリヌクレオチドにおいて、Casタンパク質コード配列は、RPS5Aプロモーターの制御下に配置されている。換言すれば、Casタンパク質コード配列は、該配列の転写がRPS5Aプロモーターによって制御されるように配置されている。具体的な配置の態様としては、例えばRPS5Aプロモーターの3´側直下にCasタンパク質コード配列が配置されている態様(例えば、RPS5Aプロモーター3´末端の塩基からCasタンパク質コード配列の5´末端の塩基までの間の塩基対数(bp)が、例えば100 bp以下、好ましくは50 bp以下である態様)が挙げられる。
本発明のポリヌクレオチドは、さらにレポータータンパク質発現カセットを含むことが好ましい。本発明のポリヌクレオチドがレポータータンパク質発現カセットを含む場合、該レポーター由来のシグナルの有無に基づき、該ポリヌクレオチドが含まれていない植物体や種子を簡便且つ効率的に選抜することが可能になる。
レポータータンパク質発現カセットは、本発明のゲノム編集技術の対象である植物内でレポータータンパク質を発現可能なポリヌクレオチドである限り特に制限されない。該発現カセットの典型例としては、プロモーター、及び該プロモーターの制御下に配置されたレポータータンパク質コード配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
レポータータンパク質発現カセットのプロモーターとしては、特に制限されず、例えばCaMV35Sプロモーター、UBQ(ユビキチン)プロモーター、NOSプロモーター等の器官非特異的な恒常性プロモーター; OLE1プロモーター等の器官特異的プロモーター等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはOLE1プロモーター等の種子特異的プロモーターが挙げられ、より好ましくはOLE1プロモーターが挙げられる。
レポータータンパク質コード配列は、レポータータンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列である限り特に制限されない。
レポータータンパク質としては、特に制限されず、例えば特定の基質と反応して発光(発色)する発光(発色)タンパク質、或いは励起光によって蛍光を発する蛍光タンパク質等が挙げられる。発光(発色)タンパク質としては、例えばルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、βグルクロニダーゼ等が挙げられ、蛍光タンパク質としては、例えばGFP、Azami-Green、ZsGreen、GFP2、HyPer、Sirius、BFP、CFP、Turquoise、Cyan、TFP1、YFP、Venus、ZsYellow、Banana、KusabiraOrange、RFP、DsRed、AsRed、Strawberry、Jred、KillerRed、Cherry、HcRed、mPlum等が挙げられる。また、レポータータンパク質には、発光(発色)タンパク質や蛍光タンパク質と、他のタンパク質(例えば種子特異的タンパク質)との融合タンパク質や、発光(発色)タンパク質や蛍光タンパク質に公知のタンパク質タグ、公知のシグナル配列等が付加されてなるタンパク質も包含される。
「プロモーターの制御下に配置されたレポータータンパク質コード配列」の態様としては、例えばプロモーターの3´側直下にレポータータンパク質コード配列が配置されている態様(例えば、プロモーター3´末端の塩基からレポータータンパク質コード配列の5´末端の塩基までの間の塩基対数(bp)が、例えば100 bp以下、好ましくは50 bp以下である態様)が挙げられる。
本発明のポリヌクレオチドは、Casタンパク質コード配列の下流に、該コード配列からの転写の終結シグナルを含むことが好ましい。これにより、Casタンパク質をより効率的に発現させることが可能となり、ひいてはゲノム編集効率をより高めることが可能となる。
終結シグナルは、Casタンパク質コード配列からの転写を終結させ(好ましくは、さらにCasタンパク質コード配列から転写されるmRNAにpolyA配列を付加でき)ることができる塩基配列である限り特に制限されない。終結シグナルとしては、例えば、ヒートショックタンパク質終結シグナル(HspT: Heat shock protein Terminator)、NosT (Noparin synthase Terminator)、35sT (CaMV35S Terminator)等が挙げられる。これらの中でも、ゲノム編集効率の観点から、好ましくはヒートショックタンパク質終結シグナルが挙げられる。
「Casタンパク質コード配列の下流に」とは、特に制限されないが、例えばCasタンパク質コード配列の3´末端の塩基から終結シグナルの5´末端の塩基までの間の塩基対数(bp)が、例えば500 bp以下、好ましくは200 bp以下である態様が挙げられる。
本発明のポリヌクレオチドは、さらにガイドRNA発現カセットを含むことが好ましい。Casタンパク質発現カセットとガイドRNA発現カセットが同一分子(ポリヌクレオチド)内に存在していることによって、両方とも細胞内に導入する効率をより高めることができ、ひいてはゲノム編集効率をより高めることが可能である。
ガイドRNA発現カセットは、本発明のゲノム編集技術の対象である植物内でガイドRNAを発現させる目的で用いられるポリヌクレオチドである限り特に制限されない。該発現カセットの典型例としては、プロモーター、及び該プロモーターの制御下に配置されたガイドRNA全体又は一部のコード配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
ガイドRNA発現カセットのプロモーターとしては、特に制限されず、pol II系プロモーターを使用することもできるが、比較的短いRNAの転写をより正確に行わせるという観点から、pol III系プロモーターが好ましい。pol II系プロモーターとしては、例えばCaMV35Sプロモーター、RPS5Aプロモーター、UBQプロモーター、NOSプロモーター等が挙げられる。pol III系プロモーターとしては、例えばU6-snRNA(例えばU6.1-snRNA、U6.26-snRNA等)プロモーター、U3-snRNAプロモーター等が挙げられる。
ガイドRNAコード配列は、ガイドRNAをコードする塩基配列である限り特に制限されない。
ガイドRNAは、CRISPR/Casシステムにおいて用いられるものであれば特に制限されず、例えばゲノムDNAの標的部位に結合し、且つCasタンパク質と結合することにより、Casタンパク質をゲノムDNAの標的部位に誘導可能なものを各種使用することができる。
本明細書において、標的部位とは、PAM(Proto-spacer Adjacent Motif)配列及びその5´側に隣接する17〜30塩基長(好ましくは18〜25塩基長、より好ましくは19〜22塩基長、特に好ましくは20塩基長)程度の配列からなるDNA鎖(標的鎖)とその相補DNA鎖(非標的鎖)からなる、ゲノムDNA上の部位である。
PAM配列は、利用するCasタンパク質の種類によって異なる。例えば、S. pyogenes由来のCas9タンパク質(II型)に対応するPAM配列は5´-NGGであり、S. solfataricus由来のCas9タンパク質(I-A1型)に対応するPAM配列は5´-CCNであり、S. solfataricus由来のCas9タンパク質(I-A2型)に対応するPAM配列は5´-TCNであり、H. walsbyl由来のCas9タンパク質(I-B型)に対応するPAM配列は5´-TTCであり、E. coli由来のCas9タンパク質(I-E型)に対応するPAM配列は5´-AWGであり、E. coli由来のCas9タンパク質(I-F型)に対応するPAM配列は5´-CCであり、P. aeruginosa由来のCas9タンパク質(I-F型)に対応するPAM配列は5´-CCであり、S. Thermophilus由来のCas9タンパク質(II-A型)に対応するPAM配列は5´-NNAGAAであり、S. agalactiae由来のCas9タンパク質(II-A型)に対応するPAM配列は5´-NGGであり、S. aureus由来のCas9タンパク質に対応するPAM配列は、5´-NGRRT又は5´-NGRRNであり、N. meningitidis由来のCas9タンパク質に対応するPAM配列は、5´-NNNNGATTであり、T. denticola由来のCas9タンパク質に対応するPAM配列は、5´-NAAAACである。
ガイドRNAはゲノムDNAの標的部位への結合に関与する配列(crRNA(CRISPR RNA)配列といわれることもある)を有しており、このcrRNA配列が、非標的鎖のPAM配列相補配列を除いてなる配列に相補的(好ましくは、相補的且つ特異的)に結合することにより、ガイドRNAはゲノムDNAの標的部位に結合することができる。
なお、「相補的」に結合とは、完全な相補関係(AとT、及びGとC)に基づいて結合する場合のみならず、ストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係に基づいて結合する場合も包含される。ストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に教示されるように、複合体或いはプローブを結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。かかる条件で洗浄してもハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件として「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。
具体的には、crRNA配列の内、標的配列に結合する配列は、標的鎖と例えば90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、特に好ましくは100%の同一性を有する。なお、ガイドRNAの標的部位への結合には、crRNA配列の内、標的配列に結合する配列の3´側の12塩基が重要であるといわれている。このため、crRNA配列の内、標的配列に結合する配列が、標的鎖と完全同一ではない場合、標的鎖と異なる塩基は、crRNA配列の内、標的配列に結合する配列の3´側の12塩基以外に存在することが好ましい。
ガイドRNAは、Casタンパク質との結合に関与する配列(tracrRNA(trans-activating crRNA)配列といわれることもある)を有しており、このtracrRNA配列が、Casタンパク質に結合することにより、Casタンパク質をゲノムDNAの標的部位に誘導することができる。
tracrRNA配列は、特に制限されない。tracrRNA配列は、典型的には、複数(通常、3つ)のステムループを形成可能な50〜100塩基長程度の配列からなるRNAであり、利用するCasタンパク質の種類に応じてその配列は異なる。tracrRNA配列としては、利用するCasタンパク質の種類に応じて、公知の配列を各種採用することができる。
ガイドRNAは、通常、上記したcrRNA配列とtracr RNA配列を含む。ガイドRNAの態様は、crRNA配列とtracr RNA配列を含む一本鎖RNA(sgRNA)であってもよいし、crRNA配列を含むRNAとtracrRNA配列を含むRNAとが相補的に結合してなるRNA複合体であってもよい。
「プロモーターの制御下に配置されたガイドRNA全体又は一部のコード配列」の態様としては、例えばプロモーターの3´側直下にガイドRNA全体又は一部のコード配列が配置されている態様(例えば、プロモーター3´末端の塩基からレポータータンパク質コード配列の5´末端の塩基との間の塩基対数(bp)が、例えば100 bp以下、好ましくは50 bp以下である態様)が挙げられる。
ガイドRNAの発現カセットの具体例としては、例えばガイドRNAがcrRNA配列とtracr RNA配列を含む一本鎖RNA(sgRNA)である場合は、プロモーター、並びにそのプロモーターの制御下に配置されたcrRNAコード配列挿入用サイト及び該サイトの下流に配置されたtracrRNAコード配列を含むポリヌクレオチドや、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置されたsgRNAコード配列を含むポリヌクレオチド等が挙げられる。別の例として、ガイドRNAがcrRNA配列を含むRNAとtracrRNA配列を含むRNAとが相補的に結合してなるRNA複合体である場合は、ガイドRNAの発現カセットの典型例としては、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置された「crRNA配列を含むRNA」コード配列(或いは、crRNAコード配列挿入用サイト)を含む発現カセット(crRNA発現カセット)と、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置された「tracrRNA配列を含むRNA」コード配列を含む発現カセット(tracrRNA発現カセット)との組合せが挙げられる。
crRNAコード配列挿入用サイトは、任意のcrRNAコード配列を含むポリヌクレオチドの挿入に適した配列を有する限りにおいて特に制限されない。該サイトとしては、例えば1又は複数の制限酵素サイトを含む配列が挙げられる。
本発明のポリヌクレオチドは、上記以外にも、RPS5Aプロモーターの制御下でのCasタンパク質の発現を著しく妨げない限りにおいて、他の配列を含んでいてもよい。他の配列としては、特に制限されず、発現ベクターが含み得る公知の配列を各種採用することができる。このような配列の一例としては、例えば複製起点、薬剤耐性遺伝子等が挙げられる。
薬剤耐性遺伝子としては、例えばクロラムフェニコール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
本発明のポリヌクレオチドをアグロバクテリウム法により植物体又は植物細胞に導入する場合、本発明のポリヌクレオチドは、通常、上述の各配列(RPS5Aプロモーター及び該プロモーターの制御下に配置されたCasタンパク質コード配列、並びに必要に応じてレポータータンパク質発現カセット、転写の終結シグナル、ガイドRNA発現カセット、他の配列等)を含む配列Aに加えて、左境界領域及び右境界領域を含む。左境界領域は配列Aの左側に配置され、右境界領域は配列Aの右側に配置される。
ゲノム編集効率等の観点からは、ガイドRNA発現カセットは、右境界領域の直近に配置されていないことが望ましい。具体的には、ガイドRNA発現カセットの3´末端の塩基から、右境界領域の5´末端の塩基までの塩基長は、例えば50bp、好ましくは100bp、より好ましくは200bp、さらに好ましくは500bpである。
本発明のポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法に従って容易に作製することができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術、in vitro転写技術等を利用して作製することができる。
本発明のポリヌクレオチドはベクターを構成していてもよい。ベクターの種類としては、特に制限されず、例えばアグロバクテリウムベクター; タバコモザイクウイルス、キュウリモザイクウイルス、アフリカキャッサバモザイクウイルス、リンゴ小球形潜在ウイルス、オオムギ斑葉モザイクウイルス、Bean pod mottle virus、Beet curly top virus、Brome mosaic virus、Cabbage leaf curl virus、Cotton leaf crumple virus、シンビジュームモザイクウイルス、ブドウAウイルス、Pea early browning virus、Poplar mosaic virus、ジャガイモXウイルス、Rice tungro bacilliform virus、サテライトタバコモザイクウイルス、Tobacco curly shoot virus、タバコ茎えそウイルス等の植物ウイルスベクター等が挙げられる。また、上記のベクターのように、植物体又は植物細胞への導入に適したベクター以外にも、このようなベクターに本発明のポリヌクレオチドを移し替えるためのベクター(例えば、ゲートウェイ(登録商標)のエントリークローンベクター等)も一例として挙げることができる。
2.植物ゲノム編集方法、ゲノム編集された植物体又は植物細胞の製造方法
本発明のポリヌクレオチドや該ポリヌクレオチドを含むベクターを植物体又は植物細胞に導入する工程を含む方法により、これらの植物体又は植物細胞のゲノムを編集することができる。該方法には、本発明のポリヌクレオチドがガイドRNA発現カセットを含まない場合であれば、ガイドRNA発現カセットを含むポリヌクレオチドや該ポリヌクレオチドを含むベクターを導入する工程が含まれていてもよく、また必要に応じてCRISPR/Casシステムにおいて用いられるドナーポリヌクレオチドや該ポリヌクレオチドを含むベクターを導入する工程が含まれていてもよい。
導入対象は、植物体又は植物細胞である。植物体における導入部位としては、例えば花(特に、花の中の、卵細胞、花粉等)、葉、根等が挙げられる。ゲノム編集による変異を次世代に伝えるべく、生殖細胞においてより効率的にゲノム編集を行うという観点から、導入対象としては、好ましくは花が挙げられる。
導入方法は、特に制限されず、導入する物の種類や導入対象に応じて、適宜選択することができる。導入方法としては、例えばフローラル・ディップ法、フローラル・スプレー法等のアグロバクテリウム法; パーティクル・ガン法; ウイルス媒介性核酸送達等が挙げられる。これらの中でも、簡便性や安全性等の観点から、好ましくはアグロバクテリウム法が挙げられる。
導入対象が植物体である場合は、上記導入工程で得られた植物体(T0世代)から種子を得て、その種子の中から、本発明のポリヌクレオチド等の導入が成功した種子を選抜し、選抜された種子(T1世代)を栽培することにより、より高い効率で(より多くの細胞、組織において)ゲノム編集された植物体を得ることができる。なお、本発明のポリヌクレオチド等の導入が成功した種子は、本発明のポリヌクレオチドが薬剤耐性遺伝子を含む場合であれば、対応する薬剤により選抜することができるし、或いは本発明のポリヌクレオチドがレポーター遺伝子を含む場合であれば、レポーターシグナルの有無に基づいて選抜することができる。
本発明のゲノム編集技術によれば、このT1世代において、より高い効率で(より多くの細胞、組織において)ゲノム編集された植物体を得ることができ、生殖細胞においてもより高いゲノム編集効率が得られるので、ゲノム編集による変異をより高い効率で次世代に伝えることができる。
このため、例えばT1世代の植物体から種子を得て、その種子の中から、レポーターシグナルの有無等に基づいて本発明のポリヌクレオチドを含まない種子を選抜し、選抜された種子(T2世代)を栽培し、必要に応じて目的のゲノム編集が起こっていることを確認することにより、既にゲノム編集されており且つ本発明のポリヌクレオチドを含まない(すなわち、CRISPR/Casシステムが機能しない状態の、ひいてはオフターゲット効果が抑制された状態の)植物体を、簡便且つ効率的に得ることが可能である。
3.植物ゲノム編集用組成物、植物ゲノム編集用キット
本発明のポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドを含むベクターは、植物ゲノム編集用組成物として利用することもできるし、或いは植物ゲノム編集用キットとして利用することもできる。
植物ゲノム編集用組成物は、本発明のポリヌクレオチドを含有する限りにおいて特に制限されず、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、薬学的に許容される成分であれば特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。本発明のポリヌクレオチドがガイドRNA発現カセットを含まない場合であれば、植物ゲノム編集用組成物は、必要に応じて、ガイドRNA発現カセットを含むポリヌクレオチドを含んでいてもよい。また、必要に応じて、ドナーポリヌクレオチドを含んでいてもよい。ドナーポリヌクレオチドにより、CRISPR/Casシステムによるノックインが可能となる。
ゲノム編集用キットは、本発明のポリヌクレオチドが含まれている限りにおいて特に制限されず、必要に応じて核酸導入試薬、緩衝液等、本発明のゲノム編集方法の実施に必要な他の材料、試薬、器具等を適宜含んでいてもよい。本発明のゲノム編集方法の実施に必要な他の材料としては、本発明のポリヌクレオチドがガイドRNA発現カセットを含まない場合であれば、ガイドRNA発現カセットを含むポリヌクレオチドが挙げられ、また必要に応じてドナーポリヌクレオチドが挙げられる。ドナーポリヌクレオチドにより、CRISPR/Casシステムによるノックインが可能となる。
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
比較例1:p35S-Cas9ベクターの作製
35Sプロモーターの制御下にFLAG-NLS-Cas9コード配列が配置されているベクター(p35S-Cas9ベクター:構造の模式図を図1に示す。)を、次のようにして作製した。
N末端にFLAGタグが付加され、且つN末端及びC末端に核移行シグナルが付加されたS. pyogenes由来Cas9タンパク質(FLAG-NLS-Cas9:配列番号17)のコード配列(配列番号18)を含むDNAを、プライマーとしてTOPOサイト挿入用配列が付加されたプライマー(Cas9_F(cacc)(配列番号19)及びCas9_R(+stop)(配列番号20))を用い、且つ鋳型DNAとしてpX330-U6-Chimeric_BB-CBh-hSpCas9ベクター(Addgene plasmid # 42230)を用いてPCRにより増幅した。得られたDNA断片を、pENTR/D-TOPO (Thermo Fisher Scientific社製)のTOPOサイトに挿入した。得られたベクター(pENTR/D-TOPO Cas9ベクター)から、FLAG-NLS-Cas9コード配列を含むDNA断片を、ゲートウェイシステムのLR反応により、pFAST-R02ベクター(国際公開第2009/145180号)へと移して、p35S-Cas9ベクターを得た。
比較例1A:p35S-Cas9 PDS3ベクターの作製
p35S-Cas9ベクターに、さらにPHYTOENE DESATURASE 3(PDS3)遺伝子を標的としたガイドRNA発現カセットが組み込まれてなるベクター(p35S-Cas9 PDS3ベクター)を、次のようにして作製した。
U6.26プロモーターを含むDNA(DNA断片1)を、プライマーとしてHindIII認識配列が付加されたフォワードプライマー(U6.26p_F+Hind3+linkr(配列番号21))、及び配列Aが付加されたリバースプライマー(PDS3sgRNA_R(配列番号22))を用い、且つ鋳型DNAとしてU6.26プロモーターを含むベクターをもちいてPCRにより増幅した。
これとは別に、PDS3遺伝子を標的としたガイドRNAコード配列を含むDNA(DNA断片2)を、プライマーとして配列Bが付加されたフォワードプライマー(PDS3sgRNA_F(配列番号23))、及びHindIII認識配列が付加されたリバースプライマー(sgRNA_R+Hind3+linkr(配列番号24))を用い、且つ鋳型DNAとしてPDS遺伝子を標的としたsgRNAコード配列を含むベクターをもちいてPCRにより増幅した。なお、配列A及び配列Bは互いに相補配列の関係にある。
DNA断片1及びDNA断片2の混合物を鋳型DNAとして、プライマーとしてHindIII認識配列が付加されたフォワードプライマー(U6.26p_F+Hind3+linkr(配列番号21))、及びHindIII認識配列が付加されたリバースプライマー(sgRNA_R+Hind3+linkr(配列番号24))を用いて、PCRを行った。これにより、配列A及び配列Bの相補性に基づいて、DNA断片1及びDNA断片2が連結してなるDNA断片が増幅される。得られたDNA断片(U6.26p::PDS3sgRNA)を、p35S-Cas9ベクターのHindIIIサイトに挿入して、p35S-Cas9 PDS3ベクターを得た。
比較例2:pX2-Cas9ベクターの作製
WOX2プロモーターの制御下にFLAG-NLS-Cas9コード配列が配置されているベクター(pX2-Cas9ベクター:構造の模式図を図1に示す。)を、次のようにして作製した。
WOX2プロモーター(配列番号25:Dev. Cell, 2010, 20: 264-270.)を含むDNAを、プライマーとして制限酵素(NotI、NcoI)認識配列が付加されたプライマー(WOX2p_FWD(配列番号26)及びWOX2p_RVS(配列番号27))を用い、且つ鋳型DNAとしてWOX2プロモーターを含むベクター(MU14)を用いて、PCRにより増幅した。得られたDNA断片を、比較例1の中間産物であるpENTR/D-TOPO Cas9ベクターへ、NotIサイト及びNcoIサイト(いずれも(FLAG-NLS-Cas9コード配列の5´側に隣接して存在)を利用して組み込んだ。得られたベクターのAscIサイト(FLAG-NLS-Cas9コード配列の3´側に隣接して存在)へ、ヒートショックタンパク質18.2終結シグナル(Plant Cell Physiol. 2010. 51: 328-332.)をギブソンアセンブリーにより挿入した。得られたベクターから、WOX2プロモーター、FLAG-NLS-Cas9コード配列、及びヒートショックタンパク質18.2終結シグナルを含むDNA断片を、ゲートウェイシステムのLR反応により、pFAST-R01ベクター(国際公開第2009/145180号)へと移して、pX2-Cas9ベクターを得た。
比較例2A:pX2-Cas9 PDS3ベクターの作製
pX2-Cas9ベクターに、さらにPHYTOENE DESATURASE 3(PDS3)遺伝子を標的としたガイドRNA発現カセットが組み込まれてなるベクター(pX2-Cas9 PDS3ベクター)を、次のようにして作製した。
比較例1Aの中間産物であるDNA断片(U6.26p::PDS3sgRNA)を、pUC19ベクターのHindIIIサイトに挿入した。このDNA断片を、得られたベクターを鋳型DNAとして用い、且つプライマーとしてギブソンアセンブリー用配列が付加されたプライマー(U6.26p_F_GbAs(Sbf1)(配列番号28)及びsgRNA_R_GbAs(Sbf1)(配列番号29))を用いて、PCRにより増幅した。得られたDNA断片を、pX2-Cas9ベクターのSbfIサイトへ、ギブソンアセンブリ−により挿入して、pX2-Cas9 PDS3ベクターを得た。
実施例1:p5A-Cas9(pKIR1.0)ベクターの作製
RPS5Aプロモーターの制御下にFLAG-NLS-Cas9コード配列が配置されているベクター(p5A-Cas9(pKIR1.0)ベクター:構造の模式図を図1に示す。)を、次のようにして作製した。
RPS5Aプロモーター(配列番号30:Dev. Cell, 2013, 25: 317-323.)を含むDNAを、プライマーとして制限酵素(NotI、NcoI)認識配列が付加されたプライマー(RPS5Ap_FWD(配列番号31)及びRPS5Ap_RVS(配列番号32))を用い、且つ鋳型DNAとしてRPS5Aプロモーターを含むベクター(DKv39)を用いて、PCRにより増幅した。得られたDNA断片を、比較例1の中間産物であるpENTR/D-TOPO Cas9ベクターへ、NotIサイト及びNcoIサイト(いずれもFLAG-NLS-Cas9コード配列の5´側に隣接して存在)を利用して組み込んだ。得られたベクターのAscIサイト(FLAG-NLS-Cas9コード配列の3´側に隣接して存在)へ、ヒートショックタンパク質18.2終結シグナル(Plant Cell Physiol. 2010. 51: 328-332.)をギブソンアセンブリーにより挿入した。得られたベクター(pENTR/D-TOPO RPS5Ap-Cas9-hspTベクター)から、RPS5Aプロモーター、FLAG-NLS-Cas9コード配列、及びヒートショックタンパク質18.2終結シグナルを含むDNA断片を、ゲートウェイシステムのLR反応により、pFAST-R01ベクター(国際公開第2009/145180号)へと移して、p5A-Cas9(pKIR1.0)ベクターを得た。
実施例1A:pKIR1.0 PDS3ベクターの作製
pKIR1.0ベクターに、さらにPHYTOENE DESATURASE 3(PDS3)遺伝子を標的としたガイドRNA発現カセットが組み込まれてなるベクター(pKIR1.0 PDS3ベクター)を、次のようにして作製した。
比較例1Aの中間産物であるDNA断片(U6.26p::PDS3sgRNA)を、pUC19ベクターのHindIIIサイトに挿入した。このDNA断片を、得られたベクターを鋳型DNAとして用い、且つプライマーとしてギブソンアセンブリー用配列が付加されたプライマー(U6.26p_F_GbAs(Sbf1)(配列番号28)及びsgRNA_R_GbAs(Sbf1)(配列番号29))を用いて、PCRにより増幅した。得られたDNA断片を、pKIR1.0ベクターのSbfIサイトへ、ギブソンアセンブリ−により挿入してpKIR1.0 PDS3ベクターを得た。
実施例1B:pKIR1.0 AGベクターの作製
pKIR1.0ベクターに、さらにAGAMOUS(AG)遺伝子を標的としたガイドRNA発現カセットが組み込まれてなるベクター(pKIR1.0 AGベクター)を、実施例1Aと同様にして作製した。本実施例においては、DNA断片1(比較例1A)に対応するDNA断片を増幅するリバースプライマーとしてAG_sgRNA_R(配列番号33)を用い、DNA断片2(比較例1A)に対応するDNA断片を増幅するフォワードプライマーとしてAG_sgRNA_F(配列番号34)を用いた。
実施例1C:pKIR1.0 DUO1ベクターの作製
pKIR1.0ベクターに、さらにDUO POLLEN 1(DUO1)遺伝子を標的としたガイドRNA発現カセットが組み込まれてなるベクター(pKIR1.0 DUO1ベクター)を、実施例1Aと同様にして作製した。本実施例においては、DNA断片1(比較例1A)に対応するDNA断片を増幅するリバースプライマーとしてDUO1sgRNA_RVS(配列番号35)を用い、DNA断片2(比較例1A)に対応するDNA断片を増幅するフォワードプライマーとしてDUO1sgRNA_FWD(配列番号36)を用いた。
実施例1D:pKIR1.0 ADH1-1ベクターの作製
pKIR1.0ベクターに、さらにALCOHOL DEHYDROGENASE 1(ADH1)遺伝子を標的としたガイドRNA(ADH1-1)発現カセットが組み込まれてなるベクター(pKIR1.0 ADH1-1ベクター)を、実施例1Aと同様にして作製した。本実施例においては、DNA断片1(比較例1A)に対応するDNA断片を増幅するリバースプライマーとしてADH1sgRNA1_RVS(配列番号37)を用い、DNA断片2(比較例1A)に対応するDNA断片を増幅するフォワードプライマーとしてADH1sgRNA1_FWD(配列番号38)を用いた。
実施例1E:pKIR1.0 ADH1-2ベクターの作製
pKIR1.0ベクターに、さらにALCOHOL DEHYDROGENASE 1(ADH1)遺伝子を標的としたガイドRNA(ADH1-2:実施例1DのADH1-1とは異なる部位を標的とするガイドRNA)発現カセットが組み込まれてなるベクター(pKIR1.0 ADH1-2ベクター)を、実施例1Aと同様にして作製した。本実施例においては、DNA断片1(比較例1A)に対応するDNA断片を増幅するリバースプライマーとしてADH1sgRNA2_RVS(配列番号39)を用い、DNA断片2(比較例1A)に対応するDNA断片を増幅するフォワードプライマーとしてADH1sgRNA2_FWD(配列番号40)を用いた。
実施例2:pKI1.0ベクターの作製
crRNAコード配列挿入用サイト(AarI認識配列を2つ含むサイト)、及び該サイトの下流に配置されたtracrRNAコード配列を含むガイドRNA発現カセットが、実施例1の中間産物であるpENTR/D-TOPO RPS5Ap-Cas9-hspTベクターに組み込まれてなるベクター(pKI1.0ベクター)を、次のようにして作製した。
U6.26プロモーターを含むDNA(DNA断片3)を、プライマーとしてNotI認識配列が付加されたフォワードプライマー(U6.26p_FWD+NotI(配列番号41))、及び配列Cが付加されたリバースプライマー(U6.26p_R_(Aar1)(配列番号42))を用い、且つ鋳型DNAとしてU6.26プロモーターを含むベクターをもちいてPCRにより増幅した。
これとは別に、crRNAコード配列挿入用サイト、及び該サイトの下流に配置されたtracrRNAコード配列を含むDNA(DNA断片4)を、プライマーとして配列Dが付加されたフォワードプライマー(sgRNA_F_(Aar1)(配列番号43))、及びNotI認識配列とpolyTシグナルが付加されたリバースプライマー(sgRNA+polyT+NotI_RVS(配列番号44))を用い、PCRにより増幅した。なお、配列C及び配列Dは互いに相補配列の関係にある。
DNA断片3及びDNA断片4の混合物を鋳型DNAとして、プライマーとしてNotI認識配列が付加されたフォワードプライマー(U6.26p_FWD+NotI(配列番号41))、及びNotI認識配列とpolyTシグナルが付加されたリバースプライマー(sgRNA+polyT+NotI_RVS(配列番号44))を用いて、PCRを行った。これにより、配列C及び配列Dの相補性に基づいて、DNA断片3及びDNA断片4が連結してなるDNA断片が増幅される。得られたDNA断片(NotI-U6.26p::2×AarI:sgRNA)を、pENTR/D-TOPO RPS5Ap-Cas9-hspTベクターのNotIサイト(RPS5Aプロモーターの5´側に隣接して存在)へ挿入して、pKI1.0ベクターを得た。
実施例3:pKIR1.1ベクターの作製
crRNAコード配列挿入用サイト(AarI認識配列を2つ含むサイト)、及び該サイトの下流に配置されたtracrRNAコード配列を含むガイドRNA発現カセットが、pKIR1.0ベクターに組み込まれてなるベクター(pKIR1.1ベクター:構造の模式図を図6Aに示す。)を、次のようにして作製した。
U6.26プロモーターを含むDNA(DNA断片5)を、プライマーとしてギブソンアセンブリー用配列が付加されたフォワードプライマー(U6.26p_F_GbAs(Sbf1)(配列番号45))、及び配列Cが付加されたリバースプライマー(U6.26p_R_(Aar1)(配列番号42))を用い、且つ鋳型DNAとしてU6.26プロモーターを含むベクターをもちいてPCRにより増幅した。
これとは別に、crRNAコード配列挿入用サイト、及び該サイトの下流に配置されたtracrRNAコード配列を含むDNA(DNA断片6)を、プライマーとして配列Dが付加されたフォワードプライマー(sgRNA_F_(Aar1)(配列番号43))、及びギブソンアセンブリー用配列とpolyTシグナルが付加されたリバースプライマー(sgRNA_R_GbAs(Sbf1)(配列番号46))を用い、PCRにより増幅した。なお、配列C及び配列Dは互いに相補配列の関係にある。
DNA断片5及びDNA断片6の混合物を鋳型DNAとして、プライマーとしてギブソンアセンブリー用配列が付加されたフォワードプライマー(U6.26p_F_GbAs(Sbf1)(配列番号45))、及びギブソンアセンブリー用配列とpolyTシグナルが付加されたリバースプライマー(sgRNA_R_GbAs(Sbf1)(配列番号46))を用いて、PCRを行った。これにより、配列C及び配列Dの相補性に基づいて、DNA断片5及びDNA断片6が連結してなるDNA断片が増幅される。得られたDNA断片(GbAs-U6.26p::2×AarI:sgRNA)を、pKIR1.0ベクターのSbfIサイトへ、ギブソンアセンブリーにより挿入して、pKIR1.1ベクターを得た。
pKIR1.1ベクターは、図6Bに示されるように、crRNAコード配列挿入用サイト(AarI×2)に任意の標的配列を挿入することにより、任意の遺伝子のゲノム編集(例えば、該遺伝子の破壊)に用いることができる。
試験例1:ゲノム編集試験1(PDS3遺伝子)
p35S-Cas9 PDS3ベクター(比較例1A)、pX2-Cas9 PDS3ベクター(比較例2A)、又はp5A-Cas(pKIR1.0) PDS3ベクター(実施例1A)を、エレクトロポレーション法によりアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens GV3101)内に導入した。得られたアグロバクテリウムを用いてフローラルディップ法によりシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana accession Columbia (Col-0))を形質転換した(T0世代)。T0世代から種子(T1世代)を採取し、赤色蛍光を発する種子を選抜した。選抜された種子を発芽させ、定法に従って栽培した。ある細胞においてゲノム編集が成功してPDS3遺伝子が破壊されていれば、その細胞は色素が合成できず、白色を呈する。
まず、T1世代植物体の明視野像及び自家蛍光像を観察したところ、ほぼ全てが緑色である場合(図2Aの左側の写真)、一部のみが緑色である場合(図2Aの中央の写真)、及び全てが白色である場合(図2Aの右側の写真)に分けられた。
次に、子葉、第一葉、及び第二葉それぞれにおいて、対を成す2枚の葉の全体が白色である植物体の割合を測定した。結果を図2Bに示す。
図2Bに示されるように、比較例1Aや2Aのベクターを用いて35SプロモーターやWOX2プロモーターでCasタンパク質を発現させた場合(図2B中、p35S-Cas9及びpX2-Cas9)に比べて、実施例1Aのベクターを用いてRPS5AプロモーターでCasタンパク質を発現させた場合(図2B中、p5A-Cas9)の方が、対を成す2枚の葉の全体が白色である植物体の割合が高かった。その差は、より成長が進んだ部位(第一葉及び第二葉)においてより顕著であった。
続いて、さらに成長が進んだ部位(花序:inflorescence)における3種の色素の量を測定した。具体的には次のように行った。T1世代植物体を、抽だいを促進するために1.0 mg/LのジベレリンA3を含有する培地に移した。抽だい後、第1花序を集め、その重さを測定した。集めた花序を1 mLのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に浸し、4℃で一晩の間、暗所下に放置した。得られた溶液について、分光光度計(DeNovix社製)を用いて、3種の色素(クロロフィルa、クロロフィルb、カロテノイド)それぞれを検出する波長(480 nm、647 nm、664 nm)の吸光度を測定した。吸光度から、文献(J. Plant Physiol. 1994. 144: 307-313.)に記載の方法に従って、各色素の量を算出した。結果を図2Cに示す。
図2Cに示されるように、比較例1Aや2Aのベクターを用いて35SプロモーターやWOX2プロモーターでCasタンパク質を発現させた場合(図2C中、p35S-Cas9及びpX2-Cas9)に比べて、実施例1Aのベクターを用いてRPS5AプロモーターでCasタンパク質を発現させた場合(図2C中、p5A-Cas9)の方が、花序における色素量が顕著に少なかった。
以上より、RPS5AプロモーターでCasタンパク質を発現させることにより、T1世代において、より高い効率で(より多くの細胞、組織において)ゲノム編集された植物体を得られることが示された。
試験例2:ゲノム編集試験2(AG遺伝子)
pKIR1.0 AGベクター(実施例1B)を、エレクトロポレーション法によりアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens GV3101)内に導入した。得られたアグロバクテリウムを用いてフローラルディップ法によりシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana accession Columbia (Col-0))を形質転換した(T0世代)。T0世代から種子(T1世代)を採取し、赤色蛍光を発する種子を選抜した。選抜された種子を発芽させ、定法に従って栽培した。ある花芽分裂組織においてゲノム編集が成功してAG遺伝子が両方のアレルで破壊されていれば、花の中にさらに花が出てくる(double flower)。
その結果、栽培した13個の植物体の内、1つは開花前に成長が止まってしまったが、12個は、全ての花がdouble flowerであった(図3)。このことから、RPS5AプロモーターでCasタンパク質を発現させることにより、T1世代において、花においても非常に高い効率でゲノム編集された植物体を得られることが示された。
試験例3:ゲノム編集試験3(DUO1遺伝子)
pKIR1.0 DUO1ベクター(実施例1C)を、エレクトロポレーション法によりアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens GV3101)内に導入した。得られたアグロバクテリウムを用いてフローラルディップ法によりシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana qrt1-2 (ABRC stock name: CS8846) mutant)を形質転換した(T0世代)。T0世代から種子(T1世代)を採取し、赤色蛍光を発する種子を選抜した。選抜された種子を発芽させ、定法に従って栽培した。
シロイヌナズナのような被子植物においては、花粉母細胞が花粉四分子に減数分裂し、4つの小胞子それぞれにおいて有糸分裂が起こり、2つの精細胞を有する花粉が形成される。本試験例の形質転換の元となる株(qrt1-2 mutant)においては、花粉4分子が、成熟しても互いに離れることが無い。そして、本試験例のゲノム編集が成功してDUO1遺伝子が破壊されれば、雄原細胞から2つの精細胞への有糸分裂が起こらない。よって、
互いに連結した花粉4分子を観察し、2つの精細胞が観察される成熟花粉の数(na)と、1つの精細胞様細胞しか観察されない花粉の数(nb)とを計測することにより、花粉母細胞においてDUO1遺伝子の破壊が両方のアレルで起きているのか(na=0, nb=4)、片方のアレルでしか起きていないのか(na=2, nb=2)、或いはどちらのアレルにおいても破壊が起きていないのか(na=4, nb=0)を調べることができる。具体的には次のようにして調べた。
T1世代植物体12個それぞれについて、第1花序から3つの花を採取した。各花を100μLの4',6-diamidino-2-phenylindole(DAPI)染色バッファー(1μg/mL DAPI, 0.1% Triton X-100, 1 mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA), 0.1 M リン酸ナトリウム(pH 7.0))に浸漬した。短時間の撹拌後、遠心して、沈殿した花粉4分子をスライドガラス上に移した。花粉4分子を顕微鏡(オリンパス社製、BX51N)で観察し、染色像を顕微鏡カメラ(ZEISS社製、Axiocam 506 color)で取得した。
観察された花粉4分子の4つのパターンを図4A−Eに示す。na及びnbが奇数のパターン(図4B及び図4D)は、DUO1遺伝子の破壊とは関係なく、雄原細胞から2つの精細胞への有糸分裂が失敗した場合を示すと考えられる。図4A−Eの各パターンの割合を計測した結果を図4Fに示す。図4示されるように、生殖細胞においてもDUO1遺伝子の破壊が起こっていた。特に、#7と#10の植物体については、採取した3つの花全ての花粉4分子において、非常に高い割合でDUO1遺伝子が破壊されていた。
また、野生株(Arabidopsis thaliana accession Columbia (Col-0))と#7又は#10の植物体とを正逆交配した結果、#10の植物体の方は100%不稔であった(図4G)。このことは、#10の植物体は、DUO1遺伝子が機能していない変異体であることを意味する。
さらに、#10の植物体の第1茎生葉を採取し、DUO1遺伝子中のガイドRNA標的部位の配列を調べた結果、一塩基(T)の挿入が起こっていることが明らかとなった(図4H)。また、メインピーク以外に有意差のあるピークが検出されなかったことから、#10の植物体の第1茎生葉はモザイク状ではないことが示された。
以上より、RPS5AプロモーターでCasタンパク質を発現させることにより、T1世代において、生殖細胞においてもゲノム編集された植物体を得られることが示された。
試験例4:ゲノム編集試験4(ADH1遺伝子)
pKIR1.0 ADH1-1ベクター(実施例1D)又はpKIR1.0 ADH1-2ベクター(実施例1E)を、エレクトロポレーション法によりアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens GV3101)内に導入した。得られたアグロバクテリウムを用いてフローラルディップ法によりシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana accession Columbia (Col-0))を形質転換した(T0世代)。T0世代から種子(T1世代)を採取し、赤色蛍光を発する種子を選抜した。選抜された種子を発芽させ、定法に従って栽培し、種子(T2世代)を得た。種子を文献(Biochem. Genet. 1988. 26: 105-122.)に記載の方法に従って25 mMアリルアルコールで処理した。その後、種子を蒔き、定法に従って栽培した。種子を蒔いてから7日後に、生存の有無を確認し、生存率を算出した。
ADH1タンパク質は、アリルアルコールをアクロレインと呼ばれる毒性物質に変換する酵素である。よって、試験に供したT2世代の種子においてADH1遺伝子が両方のアレルで破壊されていれば、その種子はアリルアルコール処理後も生存することができる。一方、試験に供したT2世代の種子においてADH1遺伝子が破壊されずに残っていれば、その種子はアリルアルコール処理により生存できなくなる。
結果を図5に示す。図5に示されるように、pKIR1.0 ADH1-1ベクターを導入した方のT2世代種子は43%の生存率を、pKIR1.0 ADH1-2ベクターを導入した方のT2世代種子は81%の生存率を示した。一方、野生株の種子の生存率は0%であり、adh1 変異体(GABI-Kat line ID: 924D03.3)の種子の生存率は96%であった。この結果より、RPS5AプロモーターでCasタンパク質を発現させることにより、ゲノム編集による変異を、高い効率で次世代(T2世代)に伝えられることが示された。
実施例4:pKI1.1Rベクターの作製
pKIR1.1ベクター(図6A)を基に、ガイドRNA発現カセットをRPS5Aプロモーターの上流側に配置したベクター(pKI1.1Rベクター:構造の模式図を図7に示す。)を、次のようにして作製した。
RPS5AプロモーターでCas9タンパク質を発現させるための発現カセット(RPS5Aプロモーターの制御下にFLAG-NLS-Cas9コード配列及びヒートショックタンパク質18.2終結シグナルを持つ)と、ガイドRNA発現カセットの両方を、pENTR/D-TOPO上に持つベクター(pKI1.1)を作製し、それをゲートウェイシステムのLR反応により、pFAST-R01ベクターに移して、pKI1.1Rを作製した。
pKI1.1の作製では、crRNAコード配列挿入用サイト(AarI認識配列を2つ含むサイト)、及び該サイトの下流に配置されたtracrRNAコード配列を含むガイドRNA発現カセットをもつベクターを鋳型として、NotI認識配列が付加されたフォワードプライマー(U6.26p_FWD+NotI)及びリバースプライマー(sgRNA+polyT+NotI_RVS)を用い、PCRにより増幅した。このPCR産物を、ベクターpENTR/D-TOPO RPS5Ap-Cas9-hspTのNotI部位に挿入することで、ガイドRNA発現カセットをpENTR/D-TOPO RPS5Ap-Cas9-hspT内のRPS5Aプロモーターの上流に挿入し、その産物をpKI1.1とした。
U6.26p_FWD+NotI: CATCGAGCGGCCGCTCGTTGAACAACGGAAACTCGAC(配列番号49)
sgRNA+polyT+NotI_RVS: CATCGAGCGGCCGCAAAAAAAAAAAGCACCGACTCGGT(配列番号50)
pKI1.1Rベクターは、pKIR1.1ベクターと同様には、図6Bに示されるように、crRNAコード配列挿入用サイト(AarI×2)に任意の標的配列を挿入することにより、任意の遺伝子のゲノム編集(例えば、該遺伝子の破壊)に用いることができる。
実施例4A:pKI1.1R ADH1-2ベクターの作製
ADH1遺伝子を標的としたガイドRNA(ADH1-2:実施例1E)が発現するように、pKI1.1RベクターのcrRNAコード配列挿入用サイト(AarI×2)に標的配列を挿入して、pKI1.1R ADH1-2ベクターを得た。
実施例4B:pKI1.1R GCS1-1755ベクターの作製
トマトGCS1遺伝子を標的としたガイドRNAが発現するように、pKI1.1RベクターのcrRNAコード配列挿入用サイト(AarI×2)に標的配列(target1755:gaacatctgcatcagttggg(配列番号47))を挿入して、pKI1.1R GCS1-1755ベクターを得た。
実施例4C:pKI1.1R GCS1-1967ベクターの作製
トマトGCS1遺伝子を標的としたガイドRNAが発現するように、pKI1.1RベクターのcrRNAコード配列挿入用サイト(AarI×2)に標的配列(target1967:gaagtcataagaatgagcca(配列番号48))を挿入して、pKI1.1R GCS1-1967ベクターを得た。
試験例5:ゲノム編集試験5(ADH1遺伝子)
pKI1.1R ADH1-2ベクター(実施例4A)を用いる以外は、試験例4と同様にして試験した。
結果を図8に示す。また、図8に、比較対象として、pKIR1.0 ADH1-2ベクター(実施例1E)を用いた場合の結果(図5)も並べて示す。図8に示されるように、pKI1.1R ADH1-2ベクターを導入した方のT2世代種子は94%の生存率を示した。一方、pKIR1.0 ADH1-2ベクターを導入した方のT2世代種子は81%の生存率であった。このことから、pKI1.1R ADH1-2ベクターのように、ガイドRNA発現カセットが境界領域に隣接していない方が、ゲノム編集効率が高いことが示唆された。
試験例6:ゲノム編集試験6(GCS1遺伝子)
pKI1.1R GCS1-1755ベクター(実施例4B)又はpKI1.1R GCS1-1967ベクター(実施例4C)を、エレクトロポレーション法によりアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens GV3101)内に導入した。一方で、トマトの葉の断片を採取した。得られたアグロバクテリウムを葉の断片に感染させた後、葉の断片をカルス化させ、そこからシュート(芽)を発生させた。複数の個体(pKI1.1R GCS1-1755ベクターを用いた場合は4個体、pKI1.1R GCS1-1967ベクターを用いた場合は3個体)について、標的部位周辺の塩基配列を調べた結果、全ての個体において、標的配列以降、複数のピークが観察された(一例を図9に示す。)。これは、標的配列内でCasタンパク質による切断が起こり、ランダムな削り込みや付加等が起こったために、標的配列以降は、細胞により塩基配列が異なっていること、すなわちゲノム編集が起こっていることを示す。