以下に、本発明の実施の形態にかかる基地局、中継機、移動体通信システムおよび遅延補正方法を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態.
図1は、本発明の実施の形態にかかる移動体通信システム7の構成例を示す図である。移動体通信システム7は、親局である基地局1と、子局である中継機2a,2b,2c,2dと、を備える。基地局1は、光ファイバ3a,3b,3c,3dを介して、中継機2a,2b,2c,2dと接続している。基地局1は、光ファイバ3a〜3dおよび中継機2a〜2dを介して移動体である端末4と通信を行う。端末4の移動経路に沿って配置された中継機2a〜2dは、基地局1と端末4との間の通信を中継する。中継機2a〜2dは、基地局1とは光ファイバ3a〜3dを介して光通信を行い、端末4とは無線通信を行う。移動体通信システム7において、端末4は、線路上を移動する列車または道路上を移動する自動車など、予め既知の移動経路上を移動する。
中継機2aは、通信エリア5aの範囲で端末4と通信を行う。中継機2bは、通信エリア5bの範囲で端末4と通信を行う。中継機2cは、通信エリア5cの範囲で端末4と通信を行う。中継機2dは、通信エリア5dの範囲で端末4と通信を行う。干渉エリア6abは、通信エリア5aおよび通信エリア5bが重なる範囲であり、中継機2a,2bが端末4と通信を行うことができるエリアである。干渉エリア6bcは、通信エリア5bおよび通信エリア5cが重なる範囲であり、中継機2b,2cが端末4と通信を行うことができるエリアである。干渉エリア6cdは、通信エリア5cおよび通信エリア5dが重なる範囲であり、中継機2c,2dが端末4と通信を行うことができるエリアである。移動体通信システム7は、複数の中継機2a〜2dを用いることで、端末4に対して線形の広い通信エリアを提供することができる。
図1において、中継機2a〜2dはアンテナ25を含む。以降の説明において、中継機2a〜2dを区別しないときは中継機2と称し、光ファイバ3a〜3dを区別しないときは光ファイバ3と称し、通信エリア5a〜5dを区別しないときは通信エリア5と称し、干渉エリア6ab,6bc,6cdを区別しないときは、干渉エリア6と称する。
図2は、本実施の形態にかかる基地局1の構成例を示すブロック図である。基地局1は、送受信部11a,11b,11c,11dと、変調部12と、復調部13と、選択部14と、を備える。また、送受信部11a〜11dは、各々、下り遅延補正部111と、フレーム生成部112と、遅延測定部113と、E/O(Electrical to Optical)部114と、O/E(Optical to Electrical)部115と、フレーム終端部116と、上り遅延補正部117と、を備える。図2では省略しているが、送受信部11b〜11dは、送受信部11aと同様の構成を備えているものとする。基地局1は、中継機2a〜2dと同数の送受信部11a〜11dを備える。送受信部11a〜11dは、各々1つの中継機2と接続している。具体的に、送受信部11aは光ファイバ3aを介して中継機2aと接続し、送受信部11bは光ファイバ3bを介して中継機2bと接続し、送受信部11cは光ファイバ3cを介して中継機2cと接続し、送受信部11dは光ファイバ3dを介して中継機2dと接続する。以降の説明において、送受信部11a〜11dを区別しないときは送受信部11と称する。各送受信部11および各中継機2は、1対1で対応して接続している。
変調部12は、デジタル化された無線データを生成して送受信部11a〜11dへ出力する。復調部13は、選択部14から入力された無線データを復調する。変調部12および復調部13は、例えば、モデムによって構成される。
選択部14は、送受信部11a〜11dから入力された無線データを復調部13へ出力する。選択部14は、送受信部11a〜11dのうち複数の送受信部11から無線データが入力された場合、1つの無線データを選択して出力してもよいし、複数の無線データを合成して出力してもよい。選択部14は、例えば、スイッチ回路または合成回路などによって構成される。
送受信部11a〜11dは、変調部12から入力された無線データに下り遅延補正処理を行い、無線データを含む伝送フレームを電気信号から光信号に変換し、光ファイバ3a〜3dを介して中継機2a〜2dへ送信する。また、送受信部11a〜11dは、光ファイバ3a〜3dを介して中継機2a〜2dから受信した光信号を電気信号に変換し、検出した伝送フレームから抽出した無線データに上り遅延補正処理を行って選択部14へ出力する。
下り遅延補正部111は、変調部12から入力された無線データに下り遅延補正処理を行ってフレーム生成部112へ出力する。下り遅延補正部111は、遅延測定部113が保持する遅延情報を用いて下り遅延補正時間を算出し、下り遅延補正時間を用いて、下りRoF(Radio on Fiber)フレームに格納される無線データを遅延させる。下りRoFフレームは、通信経路の一部に光ファイバを用いた無線通信で使用される下り伝送フレームである。詳細な動作については後述する。
フレーム生成部112は、中継機2へ送信する下りRoFフレームを生成し、E/O部114へ出力する。下りRoFフレームは、同期パターン、ヘッダ、およびペイロードから構成される。フレーム生成部112は、下り遅延補正部111から無線データが入力されていた場合、下りRoFフレームのペイロードに無線データを格納する。
遅延測定部113は、送受信部11から下りRoFフレームを送信してから、中継機2から上りRoFフレームを受信するまでの往復遅延時間RTT(Round Trip Time)を測定する。上りRoFフレームは、通信経路の一部に光ファイバを用いた無線通信で使用される上り伝送フレームである。遅延測定部113は、送受信部11と送受信部11が接続する中継機2との通信で発生する遅延を測定することで、送受信部11と送受信部11が接続する中継機2との通信で発生する遅延の情報を取得し、また、送受信部11が接続する中継機2と端末4との通信で発生する遅延の情報、および基地局1と端末4との通信で許容される遅延時間の情報を取得し、取得した情報を保持する。詳細な動作については後述する。
E/O部114は、フレーム生成部112から入力された電気信号の下りRoFフレームを光信号に変換し、中継機2へ送信する。E/O部114は、例えば、電気光変換回路によって構成される。
O/E部115は、中継機2から受信した光信号を電気信号に変換し、フレーム終端部116へ出力する。O/E部115は、例えば、光電気変換回路によって構成される。
フレーム終端部116は、電気信号から同期パターンを検出することによって上りRoFフレームを検出する。また、フレーム終端部116は、上りRoFフレームのヘッダを確認し、上りRoFフレームのペイロードに無線データが格納されていた場合は無線データを抽出し、上り遅延補正部117へ出力する。
上り遅延補正部117は、フレーム終端部116から入力された無線データに上り遅延補正処理を行って選択部14へ出力する。上り遅延補正部117は、遅延測定部113が保持する遅延情報を用いて上り遅延補正時間を算出し、上り遅延補正時間を用いて上りRoFフレームに格納されていた無線データを遅延させる。詳細な動作については後述する。
図3は、本実施の形態にかかる中継機2aの構成例を示すブロック図である。中継機2a〜2dは同様の構成のため、中継機2aを例にして説明する。中継機2aは、O/E部21と、フレーム終端部22と、D/A(Digital to Analog)部23と、RF(Radio Frequency)送信フロントエンド24と、アンテナ25と、RF受信フロントエンド26と、A/D(Analog to Digital)部27と、フレーム生成部28と、E/O部29と、を備える。
O/E部21は、基地局1から受信した光信号を電気信号に変換し、フレーム終端部22へ出力する。O/E部21は、例えば、光電気変換回路によって構成される。
フレーム終端部22は、電気信号から同期パターンを検出することによって下りRoFフレームを検出する。また、フレーム終端部22は、下りRoFフレームのヘッダを確認し、下りRoFフレームのペイロードに無線データが含まれていた場合は無線データを抽出してD/A部23へ出力する。また、フレーム終端部22は、基地局1から送信された下りRoFフレームの同期パターンを検出したタイミングをフレーム生成部28へ通知する。
D/A部23は、デジタル信号の無線データをアナログ信号の無線データに変換する。D/A部23は、例えば、デジタルアナログ変換回路によって構成される。
RF送信フロントエンド24は、アナログ信号の無線データに対して符号化および変調などの処理を行って、無線データの無線通信区間における信号である無線信号を生成し、アンテナ25経由で通信エリアへ無線信号を放射する。RF送信フロントエンド24は、例えば、無線信号送信用のインタフェースカードによって構成される。
アンテナ25は、端末4との間で無線信号を送受信する。アンテナ25は、例えば、指向性を有するアンテナ素子によって構成される。
RF受信フロントエンド26は、アンテナ25経由で受信した無線信号に対して復調および復号などの処理を行って得られた無線データを、A/D部27へ出力する。RF受信フロントエンド26は、例えば、無線信号受信用のインタフェースカードによって構成される。
A/D部27は、アナログ信号の無線データをデジタル信号の無線データに変換する。A/D部27は、例えば、アナログデジタル変換回路によって構成される。
フレーム生成部28は、同期パターン、ヘッダ、およびペイロードから構成される上りRoFフレームを生成し、E/O部29へ出力する。フレーム生成部28は、A/D部27から無線データが入力されていた場合、上りRoFフレームのペイロードに無線データを格納する。また、フレーム生成部28は、フレーム終端部22から通知されたタイミングで上りRoFフレームを生成する。
E/O部29は、フレーム生成部28から入力された電気信号の上りRoFフレームを光信号に変換し、基地局1へ送信する。E/O部29は、例えば、電気光変換回路によって構成される。
つづいて、基地局1における、中継機2a〜2dへ無線データを送信する際の下り遅延補正処理、および中継機2a〜2dから無線データを受信した際の上り遅延補正処理について説明する。図4は、本実施の形態にかかる基地局1の遅延補正処理を示すフローチャートである。まず、基地局1の送受信部11a〜11dの各遅延測定部113が、下り遅延補正処理および上り遅延補正処理において、中継機2a〜2dへ送信する無線データに対する下り遅延補正時間DTa〜DTd、および中継機2a〜2dから受信した無線データに対する上り遅延補正時間UTa〜UTdを算出するために必要な遅延情報を取得する(ステップS1)。
下り遅延補正時間DTa〜DTdおよび上り遅延補正時間UTa〜UTdの算出に必要な遅延情報とは、下り片方向遅延時間DLa〜DLd、上り片方向遅延時間ULa〜ULd、無線伝搬遅延時間差、指定下り遅延時間Ddn、および指定上り遅延時間Dupである。下り片方向遅延時間DLa〜DLdは、送受信部11a〜11dから中継機2a〜2dへの下り方向の通信で発生する遅延時間である。上り片方向遅延時間ULa〜ULdは、中継機2a〜2dから送受信部11a〜11dへの上り方向の通信で発生する遅延時間である。無線伝搬遅延時間差は、ある中継機2から端末4へ無線信号を送信したときの無線伝搬遅延時間と基準となる中継機2から端末4へ無線信号を送信したときの無線伝搬遅延時間との差分である。指定下り遅延時間Ddnは、基地局1から端末4への下り方向の通信で許容される時間である。指定上り遅延時間Dupは、端末4から基地局1への上り方向の通信で許容される時間である。
まず、図4のフローチャートに示すステップS1の処理において、基地局1の送受信部11a〜11dの遅延測定部113が、下り片方向遅延時間DLa〜DLdおよび上り片方向遅延時間ULa〜ULdを算出するために必要な、中継機2a〜2dとの間の往復遅延時間RTTa〜RTTdを測定する動作について説明する。一例として、基地局1の送受信部11aの遅延測定部113が、送受信部11aと送受信部11aに接続する中継機2aとの間の往復遅延時間RTTaを測定する場合について説明する。なお、送受信部11b〜11dの遅延測定部113は、同様の方法で中継機2b〜2dとの間の往復遅延時間RTTb〜RTTdを測定することとする。図5は、本実施の形態にかかる基地局1が中継機2aとの間の往復遅延時間RTTaを算出する方法を示す図である。
基地局1の送受信部11aにおいて、フレーム生成部112は、下りRoFフレームを生成する。フレーム生成部112は、図5に示すように、先頭に位置する既知のビット配列の同期パターンと、制御信号を格納するヘッダと、無線データを格納するペイロードと、から構成される下りRoFフレームを生成する。フレーム生成部112は、ここではペイロードには有効な無線データを含めない。図6は、本実施の形態にかかる送受信部11aのフレーム生成部112の動作を示すフローチャートである。フレーム生成部112は、下りRoFフレームを生成すると(ステップS11)、生成した下りRoFフレームの同期パターンの先頭のタイミングを遅延測定部113へ通知する(ステップS12)。遅延測定部113は、フレーム生成部112から通知されたタイミングを記憶する。フレーム生成部112は、生成した下りRoFフレームをE/O部114へ出力する。E/O部114は、フレーム生成部112で生成された下りRoFフレームを光信号に変換して光ファイバ3aを介して中継機2aへ送信する。
中継機2aでは、図5に示すように、基地局1より送信されてから光ファイバ3aによる伝搬遅延分遅れて、光信号の下りRoFフレームを受信する。中継機2aにおいて、O/E部21は、光ファイバ3aを介して基地局1から受信した光信号を電気信号に変換し、フレーム終端部22へ出力する。図7は、本実施の形態にかかる中継機2aのフレーム終端部22の動作を示すフローチャートである。フレーム終端部22は、電気信号から既知のビット配列の同期パターンを検出することによって、同期パターンを先頭とする下りRoFフレームを検出する(ステップS21)。フレーム終端部22は、下りRoFフレームの同期パターンを検出したタイミングをフレーム生成部28へ通知する(ステップS22)。図8は、本実施の形態にかかる中継機2aのフレーム生成部28の動作を示すフローチャートである。フレーム生成部28は、フレーム終端部22から下りRoFフレームの同期パターンの検出タイミングの通知を受ける(ステップS31)。フレーム生成部28は、下りRoFフレームの同期パターンの検出タイミングに合わせて、通知された検出タイミングを先頭とし、先頭に位置する既知のビット配列の同期パターンと、制御信号を格納するヘッダと、無線データを格納するペイロードと、から構成される上りRoFフレームを生成し(ステップS32)、E/O部29へ出力する。E/O部29は、フレーム生成部28で生成された上りRoFフレームを光信号に変換して光ファイバ3aを介して基地局1へ送信する。
基地局1では、図5に示すように、中継機2aより送信されてから光ファイバ3aによる伝搬遅延分遅れて、光信号の上りRoFフレームを受信する。基地局1の送受信部11aにおいて、O/E部115は、光ファイバ3aを介して中継機2aから受信した光信号を電気信号に変換し、フレーム終端部116へ出力する。図9は、本実施の形態にかかる送受信部11aのフレーム終端部116の動作を示すフローチャートである。フレーム終端部116は、電気信号から既知のビット配列の同期パターンを検出することによって、同期パターンを先頭とする上りRoFフレームを検出する(ステップS41)。フレーム終端部116は、上りRoFフレームの同期パターンを検出したタイミングを遅延測定部113へ通知する(ステップS42)。
図10は、本実施の形態にかかる遅延測定部113が下り片方向遅延時間DLおよび上り片方向遅延時間ULを算出する動作を示すフローチャートである。遅延測定部113は、フレーム生成部112から下りRoFフレームの同期パターンの先頭タイミングの通知を受け(ステップS51)、フレーム終端部116から上りRoFフレームの同期パターンの検出タイミングの通知を受ける(ステップS52)。遅延測定部113は、上りRoFフレームの同期パターンの検出タイミングと下りRoFフレームの同期パターンの先頭タイミングとの差分から、送受信部11aと送受信部11aに接続する中継機2aとの間の往復遅延時間RTTaを算出する(ステップS53)。また、遅延測定部113は、求めた往復遅延時間RTTaから、基地局1から中継機2aへ送信する無線データの遅延時間である下り片方向遅延時間DLaを算出し(ステップS54)、中継機2aから基地局1へ送信する無線データの遅延時間である上り片方向遅延時間ULaを算出する(ステップS55)。なお、「往復遅延時間RTTa=下り片方向遅延時間DLa+上り片方向遅延時間ULa」となる。
遅延測定部113は、例えば、光ファイバ3aが2つの芯線で構成され、基地局1と中継機2aが用いる光波長が等しい場合、下り片方向遅延時間DLaおよび上り片方向遅延時間ULaは往復遅延時間RTTaの1/2として算出することができる。
また、遅延測定部113は、例えば、光ファイバ3aが1つの芯線で構成され、基地局1の送信波長と中継機2aの送信波長を異ならせてWDM(Wavelength Division Multiplex)カプラを用いて波長多重して伝送する場合、ITU(International Telecommunication Union)−T G.984.3のFigure VII.1に示すように、上りおよび下りの波長によって異なる伝搬遅延を加味した値を往復遅延時間RTTaに乗算して、下り片方向遅延時間DLaおよび上り片方向遅延時間ULaを算出することができる。上りおよび下りの波長によって異なる伝搬遅延を加味した値とは、1/2に近い値である。
同様に、基地局1では、送受信部11bの遅延測定部113が、送受信部11bと中継機2bとの間の往復遅延時間RTTbを算出し、下り片方向遅延時間DLbおよび上り片方向遅延時間ULbを算出する。また、送受信部11cの遅延測定部113が、送受信部11cと中継機2cとの間の往復遅延時間RTTcを算出し、下り片方向遅延時間DLcおよび上り片方向遅延時間ULcを算出する。また、送受信部11dの遅延測定部113が、送受信部11dと中継機2dとの間の往復遅延時間RTTdを算出し、下り片方向遅延時間DLdおよび上り片方向遅延時間ULdを算出する。
つぎに、図4のフローチャートに示すステップS1の処理において、基地局1の送受信部11a〜11dの各遅延測定部113が、無線伝搬遅延時間差を算出する動作について説明する。図11は、本実施の形態にかかる遅延測定部113が無線伝搬遅延時間差を算出する動作を示すフローチャートである。ここでは、送受信部11bの遅延測定部113が、図1において、中継機2aを基準とした中継機2bの無線伝搬遅延時間差Dbaを算出する動作について説明する。無線伝搬遅延時間差Dbaは、送受信部11bが接続する中継機2bから端末4への無線信号の無線伝搬遅延時間と、基準となる中継機2aから端末4への無線信号の無線伝搬遅延時間との差分である。送受信部11bの遅延測定部113は、移動体通信システム7の運用者などからの情報の入力を受け付けて中継機2aおよび中継機2bの位置情報を取得する(ステップS61)。
また、送受信部11bの遅延測定部113は、例えば、端末4が中継機2aの通信エリア5aと中継機2bの通信エリア5bの干渉エリア6abの中心にいる場合を想定し、干渉エリア6abの中心の位置情報を取得する。送受信部11bの遅延測定部113は、干渉エリア6abの中心の位置情報について、移動体通信システム7の運用者などからの情報の入力を受け付けて取得してもよいし、中継機2a,2bの位置情報および端末4の移動経路の情報に基づいて算出してもよい。送受信部11bの遅延測定部113は、中継機2a,2bの位置情報および干渉エリア6abの中心位置の情報を用いて、中継機2aと干渉エリア6abの中心位置との距離Labaおよび中継機2bと干渉エリア6abの中心位置との距離Labbを算出する(ステップS62)。
端末4が干渉エリア6abの中心にいる場合、中継機2aを基準とすると、中継機2aから送信された無線信号が端末4に到達するまで伝搬時間と、中継機2bから送信された無線信号が端末4に到達するまで伝搬時間との差分である無線伝搬遅延時間差Dbaは、式(1)によって表すことができる。ただし、cは空気中での光の速度である。なお、無線伝搬遅延時間Dbaは正負いずれの符号も取り得る。送受信部11bの遅延測定部113は、式(1)より無線伝搬遅延時間差Dbaを算出する(ステップS63)。
Dba=(Labb−Laba)/c …(1)
同様に、基地局1の送受信部11cの遅延測定部113は、中継機2b,2cなどの位置情報を取得すると、中継機2bの通信エリア5bと中継機2cの通信エリア5cの干渉エリア6bcの中心の端末4に対する中継機2b,2cとの距離Lbcb,Lbccを算出し、中継機2bを基準とした中継機2cの無線伝搬遅延時間差Dcbを算出する。また、基地局1の送受信部11dの遅延測定部113は、中継機2c,2dなどの位置情報を取得すると、中継機2cの通信エリア5cと中継機2dの通信エリア5dの干渉エリア6cdの中心の端末4に対する中継機2c,2dとの距離Lcdc,Lcddを算出し、中継機2cを基準とした中継機2dの無線伝搬遅延時間差Ddcを算出する。なお、干渉エリア6は隣接しない中継機2の影響すなわち干渉を受けないため、無線伝搬遅延時間Dba,Dcb,Ddcに相関関係は無い。
ここで、中継機2a〜2dが、指向性の高いンテナ25を用いて端末4と通信を行う、具体的に図1の例では、左方向に高い指向性を有するアンテナ25を用いて端末4と通信を行う場合、無線伝搬遅延時間差は、通信エリア5に沿った中継機2同士の距離情報から求めることも可能である。この場合、中継機2aを基準として、前述の式(1)を用いて無線伝搬遅延時間差Dba,Dca,Ddaを算出することができる。「Dca=Dcb+Dba」となり、「Dda=Ddc+Dcb+Dba」となる。すなわち、送受信部11a〜11dの遅延測定部113は、各々の送受信部11が接続する中継機2および基準となる中継機2の位置情報を用いて、各々の送受信部11が接続する中継機2から端末4への無線信号の無線伝搬遅延時間と、基準となる中継機2から端末4への無線信号の無線伝搬遅延時間との差分である無線伝搬遅延時間差を算出することができる。具体的に、送受信部11dの遅延測定部113は、送受信部11dが接続する中継機2dおよび基準となる中継機2aの位置情報を用いて、送受信部11dが接続する中継機2dから端末4への無線信号の無線伝搬遅延時間と、基準となる中継機2aから端末4への無線信号の無線伝搬遅延時間との差分である無線伝搬遅延時間差Ddaを算出することができる。
なお、移動体通信システム7では、中継機2a〜2dが設置されると各中継機2の位置関係および距離は変化しない。そのため、各無線伝搬遅延時間差の情報については、基地局1で算出せず、移動体通信システム7の運用者が中継機2a〜2dを設置した段階で各無線伝搬遅延時間差を算出し、算出した各無線伝搬遅延時間差の情報を各送受信部11a〜11dの遅延補正部113に設定してもよい。移動体通信システム7の運用者が各無線伝搬遅延時間差を算出する場合でも、算出には前述の式(1)を用いる。
つぎに、図4のフローチャートに示すステップS1の処理において、基地局1の送受信部11a〜11dの各遅延測定部113が、指定下り遅延時間Ddnおよび指定上り遅延時間Dupの情報を取得する。図12は、本実施の形態にかかる遅延測定部113が指定下り遅延時間Ddnおよび指定上り遅延時間Dupの情報を取得する動作を示すフローチャートである。基地局1の送受信部11a〜11dの各遅延測定部113は、移動体通信システム7の運用者などの設定により、移動体通信システム7の下り方向の通信において許容される指定下り遅延時間Ddnの情報を取得し(ステップS71)、移動体通信システム7の上り方向の通信において許容される指定上り遅延時間Dupの情報を取得する(ステップS72)。指定下り遅延時間Ddnは、例えば、移動体通信システム7において許容される下り方向の最大遅延時間とすることができるが、これに限定されるものではない。また、指定上り遅延時間Dupは、例えば、移動体通信システム7において許容される上り方向の最大遅延時間とすることができるが、これに限定されるものではない。
以上の説明により基地局1の送受信部11a〜11dの各遅延測定部113では、図4に示すステップS1の処理が完了する。
図4のフローチャートの説明に戻る。基地局1は、ステップS1の処理で取得された遅延情報を用いて、下り方向および上り方向の通信で使用する遅延補正時間を算出して遅延補正処理を行う。まず、下り方向の通信における下り遅延補正処理について説明する。
基地局1は、端末4へ中継機2a〜2d経由で無線データを送信する際の下り方向における下り遅延補正時間DTa〜DTdを算出する(ステップS2)。
基地局1では、ステップS1の処理で取得された指定下り遅延時間Ddn、無線伝搬遅延時間差Ddc,Dcb,Dba、および下り片方向遅延時間DLa〜DLdを用いて、下り遅延補正時間DTa〜DTdを算出する。
具体的に、基地局1の送受信部11aの下り遅延補正部111は、遅延測定部113において保持する前述のステップS1の処理で取得された遅延情報、すなわち、指定下り遅延時間Ddn、および下り片方向遅延時間DLaを用いて、式(2)より中継機2aへ送信する無線データに対する下り遅延補正時間DTaを算出する。
DTa=Ddn−DLa …(2)
また、基地局1の送受信部11bの下り遅延補正部111は、遅延測定部113において保持する前述のステップS1の処理で取得された遅延情報、すなわち、指定下り遅延時間Ddn、無線伝搬遅延時間差Dba、および下り片方向遅延時間DLbを用いて、式(3)より中継機2bへ送信する無線データに対する下り遅延補正時間DTbを算出する。
DTb=Ddn−DLb−Dba …(3)
また、基地局1の送受信部11cの下り遅延補正部111は、遅延測定部113において保持する前述のステップS1の処理で取得された遅延情報、すなわち、指定下り遅延時間Ddn、無線伝搬遅延時間Dcb,Dba、および下り片方向遅延時間DLcを用いて、式(4)より中継機2cへ送信する無線データに対する下り遅延補正時間DTcを算出する。なお、式(4)については式(4´)のように表すことができる。
DTc=Ddn−DLc−Dcb−Dba …(4)
DTc=Ddn−DLc−Dca …(4´)
また、基地局1の送受信部11dの下り遅延補正部111は、遅延測定部113において保持する前述のステップS1の処理で取得された遅延情報、すなわち、指定下り遅延時間Ddn、無線伝搬遅延時間差Ddc,Dcb,Dba、および下り片方向遅延時間DLdを用いて、式(5)より中継機2dへ送信する無線データに対する下り遅延補正時間DTdを算出する。なお、式(5)については式(5´)のように表すことができる。
DTd=Ddn−DLd−Ddc−Dcb−Dba …(5)
DTd=Ddn−DLd−Dda …(5´)
具体的に、基地局1が端末4へ無線データを送信する場合の送受信部11における下り遅延補正処理について説明する。図13は、本実施の形態にかかる基地局1の送受信部11a,11bの下り遅延補正処理および端末4が無線信号を受信するまでの無線データのタイミングチャートを示す図である。ここでは、基地局1の送受信部11a,11b、中継機2a,2b、および端末4の動作を中心に説明する。
まず、基地局1の変調部12が、端末4宛てにデジタル化された無線データを生成し、送受信部11a〜11dに同じ無線データを配信する。
送受信部11aにおいて、下り遅延補正部111は、変調部12から受信した無線データに、式(2)より算出した下り遅延補正時間DTaの遅延を加算する下り遅延補正処理を行う(ステップS3)。下り遅延補正部111は、無線データを、下り遅延補正時間DTaだけ遅延させてフレーム生成部112へ出力する。フレーム生成部112は、下り遅延補正部111で下り遅延補正処理された無線データを下りRoFフレームのペイロードに格納し、ペイロードの格納位置の情報を含む制御信号をヘッダに格納して出力する。E/O部113は、下りRoFフレームを光信号に変換して光ファイバ3aを介して中継機2aへ送信する。
同様に、送受信部11bにおいて、下り遅延補正部111は、変調部12から受信した無線データに、式(3)より算出した下り遅延補正時間DTbの遅延を加算する下り遅延補正処理を行う(ステップS3)。下り遅延補正部111は、無線データを、下り遅延補正時間DTbだけ遅延させてフレーム生成部112へ出力する。フレーム生成部112は、遅延補正部111で下り遅延補正処理された無線データを下りRoFフレームのペイロードに格納し、ペイロードの格納位置の情報を含む制御信号をヘッダに格納して出力する。E/O部113は、下りRoFフレームを光信号に変換して光ファイバ3bを介して中継機2bへ送信する。
基地局1は、送受信部11a,11bから、遅延補正時間が異なる無線データを長さの異なる光ファイバ3a,3bを介して送信する。
中継機2aは、送受信部11aの送信タイミングから下り片方向遅延時間DLaだけ遅延された下りRoFフレーム、すなわち、送受信部11aの下り遅延補正部111で下り遅延補正処理された下り片方向遅延時間DLaの遅延が相殺された下りRoFフレームを受信する。中継機2aのO/E部21は、受信した光信号を電気信号に変換する。フレーム終端部22は、電気信号から同期パターンを検出することによって下りRoFフレームを検出し、ヘッダに格納された制御情報に基づいて無線データを抽出する。D/A部23は、デジタル信号の無線データをアナログ信号の無線データに変換する。RF送信フロントエンド24は、アナログ信号の無線データに符号化および変調などの処理を行って無線信号を生成し、アンテナ25から無線信号を放射する。
また、中継機2bは、送受信部11bの送信タイミングから下り片方向遅延時間DLbだけ遅延された下りRoFフレーム、すなわち、送受信部11bの下り遅延補正部111で下り遅延補正処理された下り片方向遅延時間DLbの遅延が相殺された下りRoFフレームを受信する。中継機2bのO/E部21は、受信した光信号を電気信号に変換する。フレーム終端部22は、電気信号から同期パターンを検出することによって下りRoFフレームを検出し、ヘッダに格納された制御情報に基づいて無線データを抽出する。D/A部23は、デジタル信号の無線データをアナログ信号の無線データに変換する。RF送信フロントエンド24は、アナログ信号の無線データに符号化および変調などの処理を行って無線信号を生成し、アンテナ25から無線信号を放射する。
中継機2aおよび中継機2bが無線信号を放射するタイミングは、図13では、正の値である無線伝搬遅延時間Dbaの分だけ中継機2aよりも中継機2bの方が早くなっている。
ここで、端末4が中継機2aと中継機2bとの干渉エリア6abの中心にいる場合、端末4から中継機2aのアンテナ25との伝送距離および端末4から中継機2bのアンテナ25との伝搬距離に差がある。しかしながら、中継機2bが、端末4への中継機2a,2bの距離の差を考慮して算出された無線伝搬遅延時間Dbaだけタイミングを早めて無線信号を放射している。そのため、中継機2bが放射した無線信号が無線通信区間(2b→4)を経由して端末4に到着するタイミングは、中継機2aが放射した無線信号が無線通信区間(2a→4)を経由して端末4に到着するタイミングと等しくなる。なお、無線通信区間(2b→4)は中継機2bから端末4までの無線通信区間を示し、無線通信区間(2a→4)は中継機2aから端末4までの無線通信区間を示すものとする。また、中継機2aおよび中継機2bのアンテナ25が指向性の高いアンテナの場合、端末4では、干渉エリア6abの中心から外れていても無線通信区間の伝搬距離の差は変わらないため、中継機2aおよび中継機2bから無線信号が到着するタイミングは等しくなる。
端末4が中継機2bと中継機2cとの干渉エリア6bc、または中継機2cと中継機2dとの干渉エリア6cdにいる場合も同様である。基地局1において、送受信部11bの下り遅延補正部111が下り遅延補正時間DTbを加算して下り遅延補正処理を行い、送受信部11cの下り遅延補正部111が下り遅延補正時間DTcを加算して下り遅延補正処理を行い、送受信部11dの下り遅延補正部111が下り遅延補正時間DTdを加算して下り遅延補正処理する。その結果、端末4では、隣接中継機2からの無線信号の到着タイミングは等しくなる。具体的に、端末4には、基地局1の変調部12が配信してから「指定下り遅延時間Ddn+無線通信区間(2b→4)の伝搬時間」経過後に隣接中継機2から遅延が揃った状態で無線信号が到着する。
なお、実際には、中継機2a〜2dのアンテナ25と端末4との距離は最も近くても0にはならない。そのため、無線伝搬遅延時間を算出する際には、端末4と中継機2のアンテナ25の最短距離も考慮する必要がある。この場合、例えば、前述の指定下り遅延時間Ddnの値を変更するなどによって対応することが可能である。
図14は、本実施の形態の基地局1の送受信部11の下り遅延補正部111による下り遅延補正処理の動作を示すフローチャートである。下り遅延補正部111は、遅延測定部113が保持する遅延情報を取得すると(ステップS81)、取得した遅延情報を用いて下り遅延補正時間を算出し(ステップS82)、無線データを下り遅延補正時間だけ遅延させる下り遅延補正処理を行う(ステップS83)。
図4のフローチャートの説明に戻る。つぎに、上り方向の通信における上り遅延補正処理について説明する。
基地局1は、端末4から中継機2a〜2d経由で無線データを受信した際の上り方向における上り遅延補正時間UTa〜UTdを算出する(ステップS4)。
基地局1では、ステップS1の処理で取得された指定上り遅延時間Dup、無線伝搬遅延時間差Ddc,Dcb,Dba、および上り片方向遅延時間ULa〜ULdを用いて、上り遅延補正時間UTa〜UTdを算出する。
具体的に、基地局1の送受信部11aの上り遅延補正部117は、遅延測定部113において保持する前述のステップS1の処理で取得された遅延情報、すなわち、指定上り遅延時間Dup、および上り片方向遅延時間ULaを用いて、式(6)より選択部14へ出力する無線データに対する上り遅延補正時間UTaを算出する。
UTa=Dup−ULa …(6)
また、基地局1の送受信部11bの上り遅延補正部117は、遅延測定部113において保持する前述のステップS1の処理で取得された遅延情報、すなわち、指定上り遅延時間Dup、無線伝搬遅延時間差Dba、および上り片方向遅延時間ULbを用いて、式(7)より選択部14へ出力する無線データに対する上り遅延補正時間UTbを算出する。
UTb=Dup−ULb−Dba …(7)
また、基地局1の送受信部11cの上り遅延補正部117は、遅延測定部113において保持する前述のステップS1の処理で取得された遅延情報、すなわち、指定上り遅延時間Dup、無線伝搬遅延時間Dcb,Dba、および上り片方向遅延時間ULcを用いて、式(8)より選択部14へ出力する無線データに対する上り遅延補正時間UTcを算出する。なお、式(8)については式(8´)のように表すことができる。
UTc=Dup−ULc−Dcb−Dba …(8)
UTc=Dup−ULc−Dca …(8´)
また、基地局1の送受信部11dの上り遅延補正部117は、遅延測定部113において保持する前述のステップS1の処理で取得された遅延情報、すなわち、指定上り遅延時間Dup、無線伝搬遅延時間差Ddc,Dcb,Dba、および上り片方向遅延時間ULdを用いて、式(9)より選択部14へ出力する無線データに対する上り遅延補正時間UTdを算出する。なお、式(9)については式(9´)のように表すことができる。
UTd=Dup−ULd−Ddc−Dcb−Dba …(9)
UTd=Dup−ULd−Dda …(9´)
具体的に、基地局1が端末4から無線データを受信する場合の送受信部11における上り遅延補正処理について説明する。図15は、本実施の形態にかかる基地局1の送受信部11a,11bの上り遅延補正処理および基地局1の選択部14が無線データを受信するまでの無線データのタイミングチャートを示す図である。ここでは、端末4が中継機2a,2bへ無線信号を送信したときの基地局1の送受信部11a,11b、中継機2a,2b、および端末4の動作を中心に説明する。
まず、端末4が、基地局1宛ての無線信号を中継機2a,2bへ送信する。中継機2aおよび中継機2bは、ともに端末4の送信タイミングから遅延して無線信号を受信する。図15では、端末4が送信した無線信号が無線通信区間(4→2a)を経由して中継機2aに到着するタイミングは、端末4が送信した無線信号が無線通信区間(4→2b)を経由して中継機2bに到着するタイミングよりも、端末4への中継機2a,2bの距離の差を考慮して算出された正の値である無線伝搬遅延時間Dbaの分だけ早い。なお、無線通信区間(4→2a)は端末4から中継機2aまでの無線通信区間を示し、無線通信区間(4→2b)は端末4から中継機2bまでの無線通信区間を示すものとする。
中継機2aにおいて、RF受信フロントエンド26は、アンテナ25で受信した無線信号に復調および復号などの処理を行って無線データを得る。A/D部27は、アナログ信号の無線データをデジタル信号の無線データに変換する。フレーム生成部28は、デジタル信号の無線データを上りRoFフレームのペイロードに格納し、ペイロードの格納位置の情報を含む制御信号をヘッダに格納して出力する。E/O部29は、上りRoFフレームを光信号に変換して光ファイバ3aを介して基地局1へ送信する。
同様に、中継機2bにおいて、RF受信フロントエンド26は、アンテナ25で受信した無線信号に復調および復号などの処理を行って無線データを得る。A/D部27は、アナログ信号の無線データをデジタル信号の無線データに変換する。フレーム生成部28は、デジタル信号の無線データを上りRoFフレームのペイロードに格納し、ペイロードの格納位置の情報を含む制御信号をヘッダに格納して出力する。E/O部29は、上りRoFフレームを光信号に変換して光ファイバ3bを介して基地局1へ送信する。
基地局1の送受信部11aは、中継機2aの送信タイミングから上り片方向遅延時間ULaだけ遅延された上りRoFフレームを受信する。基地局1の送受信部11aでは、O/E部115が、光ファイバ3aから受信した光信号を電気信号に変換する。フレーム終端部116が、電気信号から同期パターンを検出することによって上りRoFフレームを検出し、ヘッダに格納された制御情報に基づいて無線データを抽出する。そして、上り遅延補正部117は、抽出された無線データに式(6)より算出した上り遅延補正時間UTaの遅延を加算する上り遅延補正処理を行う(ステップS5)。すなわち、上り遅延補正部117は、無線データを、上り遅延補正時間UTaだけ遅延させて選択部14へ出力する。
同様に、基地局1の送受信部11bは、中継機2bの送信タイミングから上り片方向遅延時間ULbだけ遅延された上りRoFフレームを受信する。基地局1の送受信部11bでは、O/E部115が、光ファイバ3aから受信した光信号を電気信号に変換する。フレーム終端部116が、電気信号から同期パターンを検出することによって上りRoFフレームを検出し、ヘッダに格納された制御情報に基づいて無線データを抽出する。そして、上り遅延補正部117は、抽出された無線データに式(7)より算出した上り遅延補正時間UTbの遅延を加算する上り遅延補正処理を行う(ステップS5)。すなわち、上り遅延補正部117は、無線データを、上り遅延補正時間UTbだけ遅延させて選択部14へ出力する。
このように、送受信部11aが無線データを上り遅延補正時間UTaだけ遅延させて送信し、送受信部11bが無線データを上り遅延補正時間UTbだけ遅延させて送信する。その結果、選択部14では、送受信部11aから無線データが到着するタイミングおよび送受信部11bから無線データが到着するタイミングは等しくなる。具体的に、選択部14には、端末4が送信してから「無線通信区間(4→2a)の伝搬時間+指定上り遅延時間Dup」経過後に送受信部11a,11bから遅延が揃った状態で無線データが到着する。
選択部14は、例えば、4つの送受信部11a〜11dから無線データの入力を受けた場合、1つの無線データを選択して復調部13へ出力してもよい。選択部14は、出力する無線データを選択する方法として、例えば、送受信部11a〜11dから入力された無線データの受信電力を算出し、受信電力の強度が強い無線データを選択する。また、選択部14は、送受信部11a〜11dから入力された4つの無線データを加算してもよいし、受信電力の強度が規定された閾値を超える無線データだけを使用して加算してもよい。通常、線形の通信エリアにおいて1つの端末4からの有効な無線データは、多くても2つの中継機2のみで受信される。基地局1では、前述の方法によって2つの中継機2からの無線データの遅延を揃えることができることから、選択部14は、信号源が同じ無線データの受信電力の比較、または加算などを行うことができる。いずれの方法でも、基地局1では、選択部14に無線データが入力された段階では、無線データの遅延が揃っていることから、2つの中継機2経由のマルチパスに起因する干渉は生じない。
なお、下り遅延補正処理および上り遅延補正処理の前に往復遅延時間RTTa〜RTTdを測定する方法について説明したが、上りの無線データまたは下りの無線データの伝送中であっても、基地局1の送受信部11a〜11dの各遅延測定部113では、往復遅延時間RTTa〜RTTdを常時測定できる。そのため、光ファイバ3a〜3dの温度変化に伴い伝搬遅延の変動が発生した場合でも、基地局1では、往復遅延時間RTTa〜RTTdを常時測定して更新することで、変動を吸収して遅延量を一定に保つことが可能である。
下り遅延補正処理の場合と同様、実際には、中継機2a〜2dのアンテナ25と端末4との距離は最も近くても0にはならない。そのため、無線伝搬遅延時間を算出する際には、端末4と中継機2のアンテナ25との最短距離も考慮する必要がある。この場合、例えば、前述の指定上り遅延時間Dupの値を変更するなどによって対応することが可能である。
図16は、本実施の形態にかかる基地局1の送受信部11の上り遅延補正部117による上り遅延補正処理の動作を示すフローチャートである。上り遅延補正部117は、遅延測定部113が保持する遅延情報を取得すると(ステップS91)、取得した遅延情報を用いて上り遅延補正時間を算出し(ステップS92)、無線データを上り遅延補正時間だけ遅延させる上り遅延補正処理を行う(ステップS93)。
つづいて、基地局1のハードウェア構成について説明する。前述のように、変調部12および復調部13はモデム、選択部14はスイッチ回路または合成回路、送受信部11のE/O部114は電気光変換回路、O/E部115は光電気変換回路によって構成することができる。図17は、本実施の形態にかかる基地局1の送受信部11の下り遅延補正部111、フレーム生成部112、遅延測定部113、フレーム終端部116、および上り遅延補正部117を実現する処理回路90の構成例を示す図である。処理回路90は、メモリ92に格納されたプログラムを実行するプロセッサ91と、プロセッサ91が実行するプログラムなどの情報を記憶するメモリ92と、他の構成からデータなどが入力される入力インタフェース回路93と、他の構成へデータなどを出力する出力インタフェース回路94を備え、プロセッサ91、メモリ92、入力インタフェース回路93、出力インタフェース回路94がシステムバス95で接続されている。
処理回路90は、専用のハードウェアであってもよい。処理回路90が専用のハードウェアである場合、処理回路90は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものが該当する。各部の機能それぞれを処理回路90で実現してもよいし、各部の機能をまとめて処理回路90で実現してもよい。
基地局1の送受信部11の下り遅延補正部111、フレーム生成部112、遅延測定部113、フレーム終端部116、および上り遅延補正部117の機能は、処理回路90により実現される。すなわち、基地局1は、下り遅延補正時間および上り遅延補正時間を算出するために必要な遅延情報を取得し、下り遅延補正時間および上り遅延補正時間を算出し、下り遅延補正処理および上り遅延補正処理を行うための処理回路90を備える。処理回路90において、メモリ92に格納されるプログラムを実行するのはCPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、およびDSP(Digital Signal Processor)などであってもよい。
基地局1の送受信部11の下り遅延補正部111、フレーム生成部112、遅延測定部113、フレーム終端部116、および上り遅延補正部117の機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアまたはファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ92に格納される。処理回路90では、プロセッサ91がメモリ92に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、基地局1の送受信部11の下り遅延補正部111、フレーム生成部112、遅延測定部113、フレーム終端部116、および上り遅延補正部117の機能を実現する。すなわち、基地局1は、処理回路90により実行されるときに、下り遅延補正時間および上り遅延補正時間を算出するために必要な遅延情報を取得するステップ、下り遅延補正時間および上り遅延補正時間を算出するステップ、下り遅延補正処理および上り遅延補正処理を行うステップが結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ92を備える。また、これらのプログラムは、基地局1の送受信部11の下り遅延補正部111、フレーム生成部112、遅延測定部113、フレーム終端部116、および上り遅延補正部117の手順または方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。ここで、メモリ92とは、例えば、RAM、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)などの、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、およびDVD(Digital Versatile Disc)などが該当する。
なお、下り遅延補正部111、フレーム生成部112、遅延測定部113、フレーム終端部116、および上り遅延補正部117の各機能について、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。例えば、フレーム生成部112およびフレーム終端部116ついては専用のハードウェアとしての処理回路90でその機能を実現し、下り遅延補正部111、遅延測定部113、および上り遅延補正部117については処理回路90がメモリに格納されたプログラムを読み出して実行することによってその機能を実現することが可能である。
このように、処理回路90は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。
基地局1の送受信部11の下り遅延補正部111、フレーム生成部112、遅延測定部113、フレーム終端部116、および上り遅延補正部117の構成について説明したが、中継機2a〜2dのフレーム生成部22およびフレーム終端部28についても、図17に示す処理回路90により実現される。
以上説明したように、本実施の形態によれば、基地局1において、各送受信部11の遅延補正部113は、下り遅延補正時間DTa〜DTdおよび上り遅延補正時間UTa〜UTdの算出に必要な遅延情報を取得し、下り遅延補正部111は、遅延補正部113で取得された遅延情報を用いて下り遅延補正時間DTa〜DTdを算出して下り遅延補正処理を行い、上り遅延補正部117は、遅延補正部113で取得された遅延情報を用いて上り遅延補正時間UTa〜UTdを算出して上り遅延補正処理を行うこととした。これにより、基地局1では、基地局1から端末4へ送信する下り方向の無線データについて、複数の中継機2が端末4へ無線データである無線信号を送信する場合に、各中継機2から送信された無線信号が端末4に到着するタイミングを揃えることができ、また、端末4から基地局1へ送信する上り方向の無線信号について、複数の中継機2が端末4から無線信号である無線データを受信した場合に、各中継機2から送信された無線データが基地局1の選択部14に到着するタイミングを揃えることができる。このように、移動体通信システム7において、基地局1は、中継機2a〜2dと光ファイバ3a〜3dを介して接続する場合に、光ファイバ3a〜3dの長さを高精度で揃えることなく、中継機2a〜2dを経由した端末4との通信において伝搬遅延を均一にすることができる。また、基地局1は、端末4と各中継機2との間の無線通信区間の伝搬時間を考慮して遅延補正を行うことから、干渉波の影響を回避することができる。
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の基地局は、端末の移動経路に沿って配置され端末と無線通信を行う複数の中継機と接続し、中継機経由で端末と通信を行う基地局である。基地局は、各々が1つの中継機と接続して通信を行う送受信部を複数の中継機と同数備える。各送受信部は、中継機へ送信する下り伝送フレームを生成するフレーム生成部を備える。また、各送受信部は、中継機から送信された上り伝送フレームを検出するフレーム終端部を備える。また、各送受信部は、自送受信部と自送受信部が接続する中継機との通信で発生する遅延を測定し、自送受信部が接続する中継機と端末との通信で発生する遅延の情報、および基地局と端末との通信で許容される遅延時間の情報を取得し、取得した情報を保持する遅延測定部を備える。また、各送受信部は、遅延測定部が保持する遅延情報を用いて下り遅延補正時間を算出し、下り遅延補正時間を用いて下り伝送フレームに格納される無線データを遅延させる下り遅延補正部を備える。また、各送受信部は、遅延測定部が保持する遅延情報を用いて上り遅延補正時間を算出し、上り遅延補正時間を用いて上り伝送フレームに格納されていた無線データを遅延させる上り遅延補正部を備え、遅延測定部は、自送受信部と自送受信部に接続する中継機との間の往復遅延時間を測定し、往復遅延時間を用いて下り片方向遅延時間を算出し、また、自送受信部が接続する中継機から端末への無線データの無線通信区間における信号である無線信号の無線伝搬遅延時間と、基準となる中継機から端末への無線信号の無線伝搬遅延時間との差分である無線伝搬遅延時間差を算出し、また、基地局から端末への下り通信で許容される指定下り遅延時間の情報を取得し、下り遅延補正部は、指定下り遅延時間、無線伝搬遅延時間差、および下り片方向遅延時間を用いて下り遅延補正時間を算出し、複数の中継機が各々指向性を有するアンテナを用いて端末と通信を行う場合、遅延測定部は、自送受信部が接続する中継機および基準となる中継機の位置情報を用いて、自送受信部が接続する中継機から端末への無線信号の無線伝搬遅延時間と、基準となる中継機から端末への無線信号の無線伝搬遅延時間との差分である無線伝搬遅延時間差を算出する、ことを特徴とする。