以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
本実施形態に係る生体物質捕獲システムではフィルターによるフィルトレーションを行う。フィルトレーションを行うための装置構成は特に限定されないが、一例としてフィルターを備えた生体物質捕獲カートリッジを用いる場合について説明する。生体物質捕獲カートリッジ100は、図1に示すように、生体物質を含む試料液が流入する流入管125が接続された流入口130と、生体物質を含む試料液が流出する流出管135が接続された流出口140とを有する筐体120と、筐体120内に配置され、試料液に含まれる生体物質を捕捉する捕捉領域を有するフィルター105(生体物質捕獲用フィルター)とを備える。
生体物質捕獲システムにおける捕獲対象である「生体物質」とは、生体試料に含まれる特定種類の細胞を指す。このような生体物質としては、例えば、生体中の細胞が挙げられる。生体中の細胞としては、例えば血液中の細胞が挙げられる。血液中の細胞のうち、捕獲対象となり得る細胞としては、例えば、血中循環癌細胞(CTC:Circulating Tumor Cell)、及び、循環血管内皮細胞(CEC:Circulating Endothelial Cell)が挙げられる。CTCは、血液中のがん(癌)細胞である。血液中の細胞が捕獲対象である場合、細胞が生きている場合であっても捕獲対象とすることができる。生体物質捕獲システムは、CTCを始めとする血液中のがん細胞の捕獲に好適に用いられる。また、CECは、血管の内皮細胞であり、代謝によって血管壁から剥がれ落ちた成熟細胞となるものである。CTCは、循環器系の疾患(心筋梗塞等)などの病態で増加すると言われている。生体物質捕獲システムでは、CTC及びCEC等のように生体試料に含まれる特定種類の細胞を選択的に捕獲する機能を有する。なお、CTCやCECが捕獲対象である場合、生体物質が含まれる試料液として、血液又は血液に対して緩衝液等の添加剤を添加した液体を用いることができる。
筐体120は、フィルター105を保持するための部材であり、上部部材110及び下部部材115から構成される。筐体120の形状は直方体又は円筒等であってよく、特に制約はない。
流入管125の上流には、例えば、試料液又は洗浄液等の処理液等が接続される。また、流出管135の下流に、ポンプPが接続することで、ポンプPの駆動により、流入管125から筐体120の内部に試料液等が供給され。その後、流出管135から外部に排出される。
フィルター105には貫通孔106が形成されている。試料液として血液を生体物質捕獲カートリッジ100内に導入すると、血液の赤血球等は貫通孔106を通過するが、捕獲対象の生体物質である血中希少細胞は貫通孔106を通過できず、フィルター105表面に滞留する。これにより、血中希少細胞を回収することができる。なお、フィルター105は、金、白金、パラジウム、又はこれらの合金から成る金属フィルター105Aと、当該金属フィルターの表面に化学結合された生体適合性ポリマー105Bとを有する。この点は後述する。
なお、生体物質捕獲カートリッジ100の形状は上記に限定されない。フィルターによるフィルトレーションによって、生体物質を捕捉することができるのであれば、その装置構成は特に限定されない。
次に、図2及び図3を参照しながら、本実施形態に係る生体物質捕獲用のフィルターの基材となる金属フィルター105A(図1参照)の作製方法を例示すると共に、金属フィルターの説明を行う。
図2は、MCLにピーラブル銅箔(銅めっきを行う場合はNi箔)を貼り合わせた基板を使用し、金属製薄膜フィルターを製造する方法を示す概略断面図である。
図2(A)は、MCL1上にピーラブル銅箔2(銅めっきを行う場合はNi箔)が積層された基板を示している。まずこの基板を準備する。
フィルターを作製するための基板として使用する材料は銅(めっきが銅の場合はニッケル)が好ましい。銅は薬液による化学的溶解で容易に除去可能であり、フォトレジストとの密着力においても他の材料に比べると優れている。
次に、図2(B)に示すように、基板のピーラブル銅箔2上にフォトレジスト3を形成する。このフォトレジストの厚みは後の導体の厚みの1.0倍〜2.0倍が好ましい。この厚みが薄いと、後にレジスト剥離が困難になり、厚いと回路形成性が困難になる。具体的には15μm〜50μmの厚みが好ましい。次に、フォトマスクを重ねてフォトレジスト露光を行う。次に、アルカリ溶液等で未露光部のフォトレジスト現像除去を行う。次にパターン電気めっきによりフォトレジストに覆われていない部分にめっきを行う。このめっきの部分がフィルターの材質となる。フォトレジストである感光性樹脂組成物としてはネガ型感光性樹脂組成物が好ましい。ネガ型感光性樹脂組成物は少なくともバインダー樹脂、不飽和結合を有する光重合性化合物、光重合開始剤を含むものが好ましい。
次に、図2(C)に示すように、フォトレジスト3上にフォトマスク4を重ねた後にフォトレジスト露光を行う。これにより、フォトマスク4が重ねられていない領域に露光部3aが形成される。
次に、図2(D)に示すように、アルカリ溶液等で未露光部3bのフォトレジスト現像除去を行う。これにより、フィルターの貫通孔に対応する位置に露光部3aが残る。
次に、図2(E)に示すように、フォトレジストで覆われていない部分への電解めっきを行うことで、めっき層5を形成する。このめっきの部分がフィルターの材質となる。
次に、図2(F)に示すように、MCL1から、電解めっきによりめっき層5が形成された施したピーラブル銅箔2を剥離する。
次に、図2(G)に示すように、薬液による化学的溶解により、ピーラブル銅箔2を除去し、露光部3a及びめっき層5により形成される自立膜を取り出す。
次に、図2(H)に示すように、自立膜内に残ったフォトレジストによる露光部3aを除去し、めっき層5に対して貫通孔6を形成する。
次に、図2(I)に示すように、無電解金めっきを行い、フィルター表面に金めっき層7を形成する。以上により、生体物質捕獲カートリッジ100に用いられるフィルター105を製造することができる。
図3は、銅板(銅めっきを行う場合はNi板)を使用して金属製薄膜フィルターを製造する方法を示す概略断面図である。
図3に示す方法では、図2に示す方法におけるMCL1とピーラブル銅箔2に代えて銅板(又はNi板)2’を使用している点以外は、図2に示す製造方法と同じである。
すなわち、図3(A)は基板として使用する銅板2’を準備する工程を示している。
また、図3(B)は銅板2’へのフォトレジスト3のラミネートする工程を示している。また、図3(C)はフォトマスク4を重ねてのフォトレジスト露光を示している。また、図3(D)は未露光部3bのフォトレジストの現像除去を示している。また、図3(E)はフォトレジストの露光部3aで覆われていない部分への電解めっきによりめっき層を形成する工程を示している。また、図3(F)は薬液による化学的溶解(ケミカルエッチング)によって銅板2’ を除去し、露光部3a及びめっき層5により形成される自立膜を取り出す工程を示している。また、図3(G)は自立膜内に残ったフォトレジストによる露光部3aを除去し、めっき層5に対して貫通孔6を形成する工程を示している。また、図3(H)は無電解金めっきを行い、フィルター表面に金めっき層7を形成する工程を示している。
このように、図2に示す方法及び図3に示す方法の何れを用いても生体物質捕獲カートリッジ100に用いられるフィルター105における金属フィルター105Aを製造することができる。
フィルター105における金属フィルター105Aの材質は金属である。金属の主成分としては、ニッケル、銀、パラジウム、銅、イリジウムのいずれかが好ましい。以上の金属は電気めっき可能である。
また、金属の主成分としては、ニッケル、銀、パラジウム、銅、イリジウムのいずれか、もしくはこれらの合金が好ましい。以上の金属は電気めっき可能である。なお、「主成分」とは、金属フィルター105Aの総重量に対する当該成分の重量割合が50%以上であることを示す。
パラジウム及びイリジウムは酸化還元電位が高く、難溶性で特性良好だが、高価である欠点がある。ニッケルは水素よりも酸化還元電位が低いため、溶解しやすいが、安価である。銀及びパラジウムは貴金属であり、イリジウムに比べると比較的安価である。
フィルターを作製するための基板(銅板2’:図3参照)として使用する材料は銅(フィルターの材質が銅である場合はニッケル)が好ましい。銅は薬液による化学的溶解で容易に除去可能であり、フォトレジストとの密着力においても他の材料に比べると優れている。なお、MCL1に対して積層する金属箔2(図2参照)についても、銅(フィルターの材質が銅である場合はニッケル)が好ましい。
また、図2(E)及び図3(E)に示すめっき層5の形成は電解めっきにより行われる。例えば、電解ニッケルめっきとしてはワット浴(硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸が主成分)、スルファミン酸浴(スルファミン酸ニッケル、ホウ酸が主成分)、ストライク浴(塩化ニッケル、塩化水素が主成分)などが挙げられる。
電解銀めっきとしては、シアン化銀カリウム又は酒石酸カリウムを主成分とする浴が挙げられる。
電解パラジウムめっきとしては、水溶性パラジウム塩とナフタレンスルホン酸化合物よりなる浴が挙げられる。
電解イリジウムめっきとしては、ハロゲンを含む可溶性イリジウム塩およびアルコール類を含有する浴が挙げられる。
電解銅めっきとしては、硫酸銅と硫酸、塩化物イオンを主成分とする浴が挙げられる。
これらのめっき浴を用いて、電解めっきを行う。電解めっきの際の電流密度は、0.3〜4A/dm2の範囲がよく、0.5〜3A/dm2の範囲であることがより好ましい。電流密度を4A/dm2以下とすることで、ざらつきの発生を抑制でき、電流密度を0.3A/dm2以上とすることで、金属の結晶粒が充分に成長し、バリア層としての効果が高まるため、本実施形態の効果が良好に得られるようになる。
めっきを行う際のレジストの箇所が貫通孔の箇所となる。貫通孔の開口形状として円、楕円、正方形、長方形、角丸長方形、多角形等が例示できる。効率良く対象とする成分を捕獲できる観点からは円、長方形又は角丸長方形が好ましい。また、フィルターの目詰まり防止の観点からは角丸長方形が特に好ましい。
貫通孔6の孔径は捕獲対象とする成分のサイズに応じて設定される。本明細書において開口形状が楕円、長方形、多角形等の円以外の形状における孔径とは、それぞれの貫通孔を通過できる球の直径の最大値とする。例えば開口形状が長方形又は角丸長方形の場合、図4に示すように、短辺側の短孔径と、長辺側の長孔径とを定義することができるが、貫通孔6の孔径は短孔径となる。また、開口形状が多角形の場合、その多角形の内接円の直径となる。開口形状が長方形又は角丸長方形の場合、捕獲対象とする成分が貫通孔6に捕獲された状態であっても開口部において開口形状の長辺方向に隙間ができる。この隙間を通して液体が通過可能であるため、フィルターの目詰まりを防止することができる。フィルターの短孔径の長さは5μm〜15μmが好ましく、7μm〜9μmがさらに好ましい。
フィルター105における金属フィルター105Aの貫通孔の平均開口率は3%〜50%が好ましく、3%〜20%がより好ましく、3%〜10%が特に好ましい。ここで、開口率とは、フィルターとして機能する領域の面積に対する貫通孔が占める面積の割合をいう(図4参照)。即ち、フィルターとして機能する領域の面積とは、フィルターに含まれる複数の貫通孔のうち、貫通孔の最外部を結んで得られる領域(図4において破線で囲まれた領域A1)である。開口率が高すぎると白血球にかかる圧力が低下し、白血球残が増加する。開口率が低いと流せる血液量が低下する。なお、フィルター105の開口率は、後述の生体適合性ポリマーの付着により金属フィルター105Aよりも小さくなるが、誤差程度と考えることができる。
フィルター105における金属フィルター105Aの厚さは3μm〜50μmであることが好ましく、5μm〜30μmであることがより好ましく、8μm〜20μmであることが特に好ましい。金属フィルター105Aの膜厚が3μm未満の場合はフィルターの強度が低下し、取り扱い性が困難になる場合がある。逆に、50μmを超えると加工時間が長くなることによる生産性低下、必要以上の材料消費によるコスト的な不利や微細加工そのものが困難になることが懸念される上、白血球が抜けにくくなる。なお、フィルター105の厚さは、後述の生体適合性ポリマーの付着により金属フィルター105Aよりも大きくなるが、誤差程度と考えることができる。
以上回路形成後、樹脂層を剥離し銅箔をエッチングする(図2)か、又は銅板を除去する(図3)ことで、図2(H)又は図3(G)に示すように、めっき層5によるフィルターが完成する。
次に、フィルターに残っているレジスト(露光部3a)を強アルカリにより除去する。強アルカリとしては、0.1wt%〜10wt%のNaOH又はKOH水溶液が好ましい。剥離を促進するためにモノエタノールアミン(1vol%〜20vol%)等を添加しても良い。剥離が困難な場合は過マンガン酸ナトリウム又は過マンガン酸カリウム等にアルカリ(0.1wt%〜10wt%のNaOH又はKOH)を加えた液でレジストを除去することもできる。
レジストを除去したフィルターに対しては貴金属めっきを行うと良い。
貴金属めっきとしては、金、パラジウム、白金、ルテニウム、インジウムなどが望ましい。
貴金属めっきの中でも金は前出の様に全ての金属の中で最も酸化還元電位が高く、細胞毒性がないとされている。長期保存での変色等も殆どない。以下の実施形態では、金めっきを行う場合のめっき方法について説明する。
金めっきは無電解で行うことも出来るし、電解で行うことも出来る。電解で行う場合は厚みばらつきが大きくなり、フィルター105の孔径精度に影響出やすい為、無電解で行うことが望ましい。但し、電解金めっきは被覆率を向上できる。
金めっきは置換めっきで行うだけでも効果があるが、置換めっきと還元めっきを組み合わせた方が、効果が大きい。
金めっき前のフィルターは表面が酸化していることがある。そこで、酸化皮膜の除去を行うのであるが、ここでは金属イオンと錯体を形成する化合物の入った水溶液で洗浄すると良い。
具体的にはシアン類、EDTA類又はクエン酸類の入った水溶液がよい。
中でもクエン酸類は金めっきの前処理として最適である。具体的にはクエン酸の無水物、クエン酸の水和物、クエン酸塩あるいはクエン酸塩の水和物であればよく、具体的には、クエン酸無水物、クエン酸一水和物、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム等を使用することができる。その濃度は0.01mol/L〜3mol/Lであることが好ましく、0.03mol/L〜2mol/Lであることがより好ましく、0.05mol/L〜1mol/Lの範囲であることが特に好ましい。0.01mol/L以上とすることで、無電解金めっき層とフィルターの密着性が向上する。また、3mol/Lを超えた場合、効果が向上しない上、経済的に好ましくない。
クエン酸を含む溶液への浸漬は、70℃〜95℃で、1〜20分間行うと良い。
クエン酸を含む溶液は、発明の効果が得られる範囲でめっき液などに含まれる還元剤、pH調整剤等の緩衝剤を加えることも可能であるが、還元剤、pH調整剤などは少量が望ましく、クエン酸のみの水溶液が最も好ましい。クエン酸を含む溶液のpHは、好ましくは5〜10であり、より好ましくは6〜9である。
pH調整剤としては、酸又はアルカリであれば特に限定されず、酸としては、塩酸、硫酸、硝酸などが使用でき、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物溶液が挙げられる。前述したように、クエン酸の効果を阻害しない範囲で使用することができる。また、クエン酸を含む溶液に、硝酸を100ml/Lといった高濃度で含有させると、クエン酸のみを含む溶液で処理した場合と比較して、接着性を改善する効果が低下する。
還元剤としては、還元性のあるものであれば特に限定されず、次亜リン酸、ホルムアルデヒド、ジメチルアミンボラン、水素化ホウ素ナトリウムなどが挙げられる。
次に、置換金めっきを行う。置換金めっきにはシアン浴と非シアン浴があるが、環境負荷又は残存時の細胞毒性を考えると非シアン浴が望ましい。非シアン浴に含まれる金塩としては、塩化金酸塩、亜硫酸金塩、チオ硫酸金塩、チオリンゴ酸金塩が例示可能である。金塩は一種類のみ用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いても良い。
さらに、シアン系の浴は、金属を溶解する効果が強すぎるため、金属によっては溶解してピンホールが発生しやすい。上記のように前処理を十分に行う場合は非シアン系のめっき浴が好ましい。
金の供給源としては亜硫酸金が特に好ましい。亜硫酸金としては、亜硫酸金ナトリウム、亜硫酸金カリウム、亜硫酸金アンモニウム、などがよい。
金濃度は0.1g/L〜5g/Lの範囲が好ましい。0.1g/L未満では金が析出しにくく、5g/Lを超えると液が分解しやすくなる。
置換金めっき浴には金の錯化剤としてアンモニウム塩又はエチレンジアミンテトラ酢酸塩が入っているとよい。アンモニウム塩としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウムが挙げられ、エチレンジアミンテトラ酢酸塩としては、エチレンジアミンテトラ酢酸、エチレンジアミンテトラ酢酸ナトリウム、エチレンジアミンテトラ酢酸カリウム、エチレンジアミンテトラ酢酸アンモニウムを使用する。アンモニウム塩の濃度は、7×10−3mol/L〜0.4mol/Lの範囲で使用することが好ましく、アンモニウム塩の濃度がこの範囲外だと液が不安定になる傾向がある。エチレンジアミンテトラ酢酸塩の濃度は、2×10−3mol/L〜0.2mol/Lの範囲で使用することが好ましく、アンモニウム塩の濃度がこの範囲外だと液が不安定になる傾向がある。
液を安定に保つために0.1g/L〜50g/Lの亜硫酸塩が入っているとよい。亜硫酸塩としては亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム又は亜硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
pH調整剤としてpHを下げる場合には、塩酸或いは硫酸を使用するのが好ましい。また、pHを上げる場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又はアンモニア水を使用することが好ましい。pHは6〜7に調整するとよい。この範囲外では液の安定性又はめっきの外観に悪影響を与える。
置換めっきは液温30度〜80度で使用することが好ましく、この範囲外では液の安定性又はめっきの外観に悪影響を与える。
以上のようにして置換めっきを行うわけであるが、置換めっきでは完全に金属を覆うのが難しい。そこで、次に還元剤の入った還元型の金めっきを行う。置換めっきの厚みは0.02μm〜0.1μmの範囲が好ましい。
還元型の金めっきの金塩としては、亜硫酸金塩および及びチオ硫酸塩が好ましく、その含有量は金として1g/L〜10g/Lの範囲であることが好ましい。金の含有量が1g/L未満であると、金の析出反応が低下し、10g/Lを超えると、めっき液の安定性が低下すると共に、めっき液の持ち出しにより金消費量が多くなるため、好ましくない。含有量は2g/L〜5g/Lにすることがより好ましい。
還元剤としては次亜リン酸、ホルムアルデヒド、ジメチルアミンボラン、水素化ホウ素ナトリウムなどが挙げられるが、フェニル化合物系還元剤がより好ましい。例えば、フェノール、o−クレゾール、p−クレゾール、o−エチルフェノール、p−エチルフェノール、t−ブチルフェノール、o−アミノフェノール、p−アミノフェノール、ヒドロキノン、カテコール、ピロガロール、メチルヒドロキノン、アニリン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、o−トルイジン、o−エチルアニリン、p−エチルアニリン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることが出来る。
還元剤の含有量は、0.5〜50g/Lであることが好ましい。還元剤の含有量が0.5g/L未満であると、実用的な析出速度を得ることが困難となる傾向があり、50g/Lを超えると、めっき液の安定性が低下する傾向がある。還元剤の含有量は2〜10g/Lとすることがより好ましく、2〜5g/Lであることが特に望ましい。
無電解金めっき液は重金属塩を含んでいても良い。析出速度を促進する観点から、重金属塩はタリウム塩、鉛塩、砒素塩、アンチモン塩、テルル塩及びビスマス塩からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
タリウム塩としては、硫酸タリウム塩、塩化タリウム塩、酸化タリウム塩、硝酸タリウム塩等の無機化合物塩、マロン酸二タリウム塩等の有機錯体塩が挙げられ、鉛塩としては、硫酸鉛塩、硝酸鉛塩等の無機化合物塩、酢酸塩等の有機酢酸塩が挙げられる。
また、砒素塩としては、亜砒素塩、砒酸塩三酸化砒素等の無機化合物塩又は有機錯体塩が挙げられ、アンチモン塩としては、酒石酸アンチモニル塩等の有機錯体塩、塩化アンチモン塩類、オキシ硫酸アンチモン塩、三酸化アンチモン等の無機化合物塩類が挙げられる。
テルル塩としては、亜テルル酸塩、テルル酸塩等の無機化合物塩、又は有機錯体塩が挙げられ、ビスマス塩としては、硫酸ビスマス(III)、塩化ビスマス(III)、硝酸ビスマス(III)等の無機化合物塩、シュウ酸ビスマス(III)等の有機錯体塩が挙げられる。
上述の重金属塩は、1種類又はそれ以上用いることが出来るが、その添加量の合計はめっき液全容量を基準として1ppm〜100ppmが好ましく、1ppm〜10ppmがより好ましい。1ppm未満では、析出速度向上効果が十分でない場合があり、100ppmを越す場合はめっき液安定性が悪くなる傾向にある。
無電解金めっき液は硫黄系化合物を含んでいても良い。フェニル化合物系還元剤及び重金属塩を含む無電解金めっき液中に、硫黄化合物を更に含有させることにより、液温60〜80℃程度の低温であっても十分な析出速度が得られ、被膜外観も良好である上、めっき液の安定性が特に優れるようになる。
硫黄系化合物としては、硫化物塩、チオシアン酸塩、チオ尿素化合物、メルカプタン化合物、スルフィド化合物、ジスルフィド化合物、チオケトン化合物、チアゾール化合物、チオフェン化合物等が挙げられる。
硫化物塩としては、例えば、硫化カリウム、硫化ナトリウム、多硫化ナトリウム、多硫化カリウム等が挙げられ、チオシアン酸塩としては、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、ジチオシアン酸カリウム等が挙げられ、また、チオ尿素化合物としては、チオ尿素、メチルチオ尿素、ジメチルチオ尿素等が挙げられる。
メルカプタン化合物としては、1,1−ジメチルエタンチオール、1−メチル−オクタンチオール、ドデカンチオール、1,2−エタンジチオール、チオフェノール、o−チオクレゾール、p−チオクレゾール、o−ジメルカプトベンゼン、m−ジメルカプトベンゼン、p−ジメルカプトベンゼン、チオグリコール、チオジグリコール、チオグリコール酸、ジチオグリコール酸、チオリンゴ酸、メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトベンゾオゾイミダゾール、2−メルカプト1−メチルイミダゾール、2−メルカプト−5−メチルベンゾイミダゾール等が例示できる。
スルフィド化合物としては、ジエチルスルフィド、ジイソプロピルスルフィド、エチルイソプロピルスルフィド、ジフェニルスルフィド、メチルフェニルスルフィド、ローダニン、チオジグリコール酸、チオジプロピオン酸等が例示でき、ジスルフィド化合物としては、ジメチルジスルフィド、ジエチルジスルフィド、ジプロピルジスルフィド等が例示できる。
更に、チオケトン化合物としては、チオセミカルバジド等が例示でき、チアゾール化合物としてはチアゾール、ベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、6−エトキシ−2−メルカプトベンゾチアゾール、2−アミノチアゾール、2,1,3−ベンゾチアジアゾール、1,2,3−ベンゾチアジアゾール、(2−ベンゾチアゾリルチオ)酢酸、3−(2−ベンゾチアゾリルチオ)プロピオン酸等が例示でき、チオフェン化合物としては、チオフェン、ベンゾチオフェン等が例示できる。
硫黄系化合物は、単独で用いてもよく、2種類以上を用いても良い。硫黄系化合物の含有量は1ppm〜500ppmであることが好ましく、1ppm〜30ppmであることがより好ましく、1ppm〜10ppmであることが特に好ましい。硫黄系化合物の含有量が1ppm未満では、析出速度が低下し、めっき付きまわり不良が生じ、皮膜外観が悪化する。500ppmを超えると、濃度管理に困難を生じ、めっき液が不安定になる。
無電解金めっき液には、上述の金塩、還元剤、重金属塩及び硫黄系化合物に加えて、錯化剤、pH緩衝剤及び金属イオン隠蔽剤の少なくとも1つを含有することが好ましく、これ等すべてを含有することがより好ましい。
本発明の無電解金めっき液には、錯化剤を含有させることが好ましい。具体的には亜硫酸塩、チオ硫酸塩、チオリンゴ酸塩等の非シアン系錯化剤が挙げられる。錯化剤の含有量は、めっき液の全容量を基準として1g/L〜200g/Lが好ましい。錯化剤の含有量が1g/L未満である場合、金錯化力は低下し、安定性が低下する。200g/Lを超えると、めっき安定性は向上するが、液中に再結晶が発生し、経済的に芳しくない。錯化剤の含有量は20g/L〜50g/Lとすることがより好ましい。
無電解金めっき液には、pH緩衝剤を含有させることが好ましい。pH緩衝剤により析出速度を一定値に保ち、めっき液を安定化させる効果がある。緩衝剤は複数のものを混ぜても良い。pH緩衝剤としては、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、硼酸塩、クエン酸塩、硫酸塩等が挙げられ、これ等の中では硼酸、硫酸塩が特に好ましい。
pH緩衝剤の含有量は、めっき液の全容量を基準として1g/L〜100g/Lであることが好ましい。pH緩衝剤の含有量が1g/L未満であると、pHの緩衝効果がなく、100g/Lを超えると再結晶化してしまう恐れがある。より好ましい含有量は20g/L〜50g/Lである。
金めっき液には隠蔽剤を含有させることが好ましい。隠蔽剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物を用いることができ、ベンゾトリアゾール系化合物としては、例えばベンゾトリアゾールナトリウム、ベンゾトリアゾールカリウム、テトラヒドロベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾール、ニトロベンゾトリアゾール等が例示できる。
金属イオン隠蔽剤の含有量は、めっき液の全容量を基準として0.5g/L〜100g/Lであることが好ましい。金属イオン隠蔽剤の含有量が0.5g/L未満であると、不純物の隠蔽効果が少なく、十分な液安定性を確保できない傾向がある。一方、100g/Lを超えると、めっき液中で再結晶化が生じる場合がある。コスト及び効果を鑑みると、2g/L〜10g/Lの範囲がもっとも好ましい。
金めっき液のpHは5〜10の範囲であることが好ましい。めっき液のpHが5未満の場合、めっき液の錯化剤である亜硫酸塩や、チオ硫酸塩が分解し、毒性の亜硫酸ガスが発生する恐れがある。pHが10を超える場合、めっき液の安定性が低下する傾向がある。還元剤の析出効率を向上させ、速い析出速度を得るために、無電解金めっき液のpHは8〜10の範囲とすることが好ましい。
無電解めっきの方法としては、置換金めっきが終了したフィルターを浸漬して金めっきを行う。
めっきの液温は50℃〜95℃がよい。50℃未満では析出効率が悪く、95℃以上では液が不安定になりやすい。
このようにして形成される最外層の金めっき層7は、99重量%以上の純度の金からなることが好ましい。金めっき層7の金の純度が99重量%未満であると、接触部の細胞毒性が高くなる。信頼性を高める観点からは、金層の純度は、99.5重量%以上であることがより好ましい。
また、金めっき層7の厚さは、0.005μm〜3μmとすることが好ましく、0.05μm〜1μmとすることがより好ましく、0.1μm〜0.5μmとすることが更に好ましい。金層の厚さを0.005μm以上とすることで、金属の溶出をある程度抑制できる。一方、3μmを超えても、それ以上効果が大きく向上しないため、経済的な観点からも3μm以下とすることが好ましい。
以上のように形成した金属フィルター105Aの金表面(金属表面)は細胞毒性がなく、大気中又は血液を含む殆どの水溶液中で安定である。しかしながら、金表面は比較的疎水性であり、生体適合性が低いので、生体適合性を向上させる処理が施される。以下、生体適合性を向上させるために、金属フィルター105Aの表面に生体適合性ポリマー105Bを化学結合するための処理の一例を示す。
血液中の成分である白血球、赤血球、血小板は異物に対して拒絶反応を示す。したがって、金属表面に前処理を施すのがよい。この場合、生体適合性のポリマーを金属フィルター105Aの表面(金めっき層7の表面)に対して化学的に強固に吸着させるのが良い。
生体適合性ポリマーとしては、脊椎動物のアルブミン又は人口合成ポリマーが挙げられるが、フィルターの保存性やポリマーの特性のロット差を鑑みると、人口合成ポリマーが好ましい。脊椎動物のアルブミンを用いる場合は、血液処理直前にフィルター処理を行う必要があり、作業が煩雑になる。特に血球細胞が固定化されている場合(生物的に死んでいる場合)は、人工合成ポリマーの方が特性がよい。
人工合成ポリマーとしてはシリコーン、各種ポリウレタン、ポリフォスファゼン等が挙げられるが、特に優れているのが2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(略称: MPC)のホモポリマー、もしくはMPCを含む共重合体である。以下にその構造式を示す。
なお、上記化学式はMPCポリマーを示すものであるが、Rには、アルキル基、水素、アミノ基、ヒドロキシアルキル基等を適用することができる。
市販のMPCポリマーを用いることもできる。市販のMPCポリマーとしては、Biolipidure103、Biolipidure203、Biolipidure206、Biolipidure405、Biolipidure502、Biolipidure702、Biolipidure802、Biolipidure1002、Biolipidure1201、Biolipidure1301等が挙げられる。
なかでも、MPCポリマーのうち、化学式においてRが水素である場合やアミノ基を含むものは、フィルターとの結合性が向上するので好ましい。即ち、生体適合性ポリマーはアミノ基やカルボキシル基を含有していると、静電吸着を用いた交互積層法が用いることができる上、細胞毒性が少ない。
また、フィルターの金めっき層7の表面(金属フィルター105Aの表面)と生体適合性ポリマーとは、アミド結合により結合されていることが好ましい。なお、金めっき層7と生体適合性ポリマーとの間にアミド結合を形成するには、まず、金めっき層7を、メルカプト基(チオール基)を有する化合物で処理をする。これにより、金めっき層7表面にメルカプト基が形成される。この金めっき層7表面のメルカプト基に対して、生体適合性ポリマーのうち、その末端にアミド基を有する構造単位を含むものを反応させる。これにより、金めっき層7の表面と生体適合性ポリマーとの間がアミド結合により結合される。この場合、両者間の結合性が向上する。
ここで、例えば、カルボキシル基やアミノ基を有するポリマーをフィルター105の金めっき層7の表面(金属フィルター105Aの表面:パラジウム又は白金等の他の材料でも同じ)に形成する方法を示す。
金に対して配位結合を形成するメルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基のいずれかを有する化合物で金表面を改質することができる。
具体的には、金表面の改質に用いられる化合物としては、2−アミノエタンチオール、o−フルオロベンゼンチオール、m−ヒドロキシベンゼンチオール、2−メトキシベンゼンチオール、4−アミノベンゼンチオール、システアミン、システイン、ジメトキシチオフェノール、フルフリルメルカプタン、チオ酢酸、チオ安息香酸、チオサリチル酸、又は、ジチオジプロピオン酸等が挙げられる。
上記化合物を用いて金表面を改質処理する方法としては特に限定しないが、メタノールやエタノール等の有機溶媒中にメルカプト酢酸等の化合物を10mmol/L〜100mmol/L程度分散し、その中に金表面を有する導電粒子を分散させる。
次に被覆率を高めるため、高分子等を被覆するのが望ましい。高分子は静電的相互作用を用いて被覆するのが良い。
このような方法は、交互積層法(Layer−by−Layer assembly)と呼ばれる。交互積層法は、G.Decherらによって1992年に発表された有機薄膜を形成する方法である(Thin Solid Films, 210/211, p831(1992))。この方法では、正電荷を有するポリマー電解質(ポリカチオン)と負電荷を有するポリマー電解質(ポリアニオン)の水溶液に、基材を交互に浸漬することで基板上に静電的引力によって吸着したポリカチオンとポリアニオンの組が積層して複合膜(交互積層膜)が得られるものである。
交互積層法では、静電的な引力によって、基材上に形成された材料の電荷と、溶液中の反対電荷を有する材料が引き合うことにより膜成長するので、吸着が進行して電荷の中和が起こるとそれ以上の吸着が起こらなくなる。したがって、ある飽和点までに至れば、それ以上膜厚が増加することはない。
このような高分子としては、ポリエチレングリコール、ポリメタクリル酸2ヒドロキシルエチル、ポリアクリル酸、ポリエチレンイミン、又はポリアリルアミン等があり、特に限定しない。ポリマーにはアクリル酸やメタクリル酸を共重合させても良い。電荷密度とコストの観点から、カチオンであればポリエチレンイミンが、アニオンであればポリアクリル酸が好ましい。
これらの高分子は、種類により一概には定めることができないが、一般に、500〜1,000,000程度のものが好ましく、5,000〜200,000の範囲がより好ましい。なお、ポリマー電解質の水溶液中の高分子電解質の濃度は、一般に、0.01%〜10%(重量)程度が好ましい。また、高分子電解質溶液のpHは、特に限定されない。
なお、高分子電解質薄膜の種類や分子量、濃度を調整することにより被覆率をコントロールすることが出来る。ポリマー電解質の水溶液中のポリマーの濃度は0.1%〜5.0%の範囲が好ましい。
このようにカチオン性或いはアニオン性のポリマーを被覆した後、最後にカルボキシル基或いはアミノ基を有する生体適合性ポリマーを被覆すると良い。
フィルター表面がアミノ基を有するポリマーで被覆されている場合は、カルボキシル基を有する生体適合性ポリマーを被覆すると良い。逆にフィルター表面がカルボキシル基を有するポリマーで被覆されている場合は、アミノ基を有する生体適合性ポリマーを被覆すると良い。
生体適合性ポリマーの吸着厚みを増やす場合、アミノ基を有する生体適合性ポリマーの上にカルボキシル基を有する生体適合性ポリマーを被覆しても良い。
こうしてできた生体適合性ポリマーの厚みは20Å(オングストローム)以上であることが望ましい。生体適合性ポリマーの厚みは処理濃度や処理回数などでコントロールすることができる。
生体適合性ポリマーの厚みが20Å以下であると効果が不十分になりやすい。
生体適合性ポリマーの厚みの上限は特に無いが、0.1μmを超えるとフィルターの孔径に影響を与え、白血球が抜けにくくなるので好ましくない。
生体適合性ポリマーを処理することで、金属表面の水の接触角が減少する。接触角はJIS R3265「基板ガラス表面の濡れ性試験方法」に準拠した装置で測定を行うとよい。生体適合性ポリマーにより処理を行った後のフィルター表面における接触角は90度以下が好ましく、60度以下がさらに好ましい。
一般的に純水の接触角は90度を下回ると濡れる状態といわれるが、完全ではない。濡れ性が悪い状態でフィルトレーションを行うと、気泡が発生し、フィルターの一部が使用不能の状態になりやすい。
生体適合性ポリマーは、フィルターの金属表面を完全に覆った状態にするのがよい。具体的には、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy:X線光電子分光装置)により分析を行った場合、表面金属(Au、Pd、Pt)の割合が低いほどよく、10at%(原子の割合)以下であることが望ましく、5at%以下であることが更に望ましい。表面金属の割合が高い場合、生体適合性ポリマーの被覆率が低いことになり、効果が減少する。
XPSによる測定結果も測定装置等により厳密には異なる。したがって、本実施形態においては表1に示す条件で測定するものとする。
こうして生体適合性ポリマーを処理したフィルターに血液を流す(フィルトレーション)。血液の採血管としては細胞を生きたまま保存するEDTA採血管や固定型の採血管が挙げられるが、固定型の採血管が好ましい。このような採血管として、Cyto−Chex、Cell−Free−DNA、(Streck社製、商品名)などがある。本発明においてはEDTA採血管にくらべ固定型の採血管は採血後、長時間使用できることから固定型の採血管を用いるのが好ましい。
フィルトレーションとしては、フィルター105を生体物質捕獲カートリッジ100のような装置に対して取り付けて血液を通過させる。血液はフィルターの下方から陰圧で処理しても、フィルターの上方から加圧で処理しても、遠心分離のように遠心力で処理しても構わない。いずれの方法においても血液がフィルターの孔を通過する線速度をコントロールすることが重要になる。
血液がフィルターの孔を通過する線速度(血液の体積/孔の総面積)は0.5cm/min〜100cm/minの範囲であることが望ましく、cm/min5〜20cm/minの範囲であることが更に望ましい。
以上のようにして濃縮したCTC等の希少細胞を濃縮できる。生体適合性ポリマーを化学的に強固にフィルターに被覆することで、赤血球、白血球、血しょう板といった成分を除外することが可能になる。
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
(フィルター1)
感光性樹脂組成物(PHOTEC RD−1225:厚さ25μm、日立化成株式会社製)を250mm角の基板(MCL−E679F:MCLの表面にピーラブル銅箔を貼り合わせた基板、日立化成株式会社製)の片面にラミネートした。ラミネート条件はロール温度90℃、圧力0.3MPa、コンベア速度2.0m/分で行った。
次に、光の透過部の形状が角丸長方形、サイズが8.8×30μmでそのピッチが短軸及び長軸方向いずれも60μmとしたガラスマスクを基板のフォトレジストラミネート面に静置した。本実施例においては同一の方向を向いた角丸長方形が長軸及び短軸方向に一定のピッチで整列したガラスマスクを使用した。続いて、600mmHg以下の真空下において、ガラスマスクを載置した基板上部から紫外線照射装置によって露光量30mJ/cm2の紫外線を照射した。
次に、1.0%炭酸ナトリウム水溶液で現像を行い、基板上に長方形のフォトレジストが垂直に立ったレジスト層を形成した。このレジスト付き基板の銅露出部分にpHが4.5になるように調整したニッケルめっき液中温度55℃、約20分間厚さが約20μmとなるようにめっきを行った。ニッケルめっき液の組成を表2に示す。
次に、得られたニッケルめっき層を基板のピーラブル銅箔とともに剥離し、このピーラブル銅箔を温度40℃で約120分間、攪拌処理での薬液による化学的溶解(メックブライトSF−5420B、メック株式会社)によって除去することにより金属フィルターとなる自立膜(20mm×20mm)を取り出した。
最後に、自立膜内に残ったフォトレジストを温度60℃で約40分間、超音波処理でのレジスト剥離(P3 Poleve、Henkel)によって除去し、微細貫通孔を有する金属フィルターを作製した。
これによって、シワ・折れ・キズ・カール等のダメージはなく、十分な精度の貫通孔を有する金属フィルターを作製した。
次に、酸性脱脂液Z−200(ワールドメタル製:商品名)に金属フィルターを浸漬し、金属フィルター上の有機物の除去を行った(40℃3分)。
水洗後、非シアン系の無電解AuめっきであるHGS―100(日立化成製商品名)から金供給源である亜硫酸金を抜いた液により80℃10分の条件で置換金めっき前処理を行った。
次に非シアン系の置換型無電解AuめっきであるHGS―100(日立化成製商品名)に80℃20分浸漬し、置換金めっきを行った。置換金めっきの厚みは0.05μmであった。
水洗後、非シアン系還元型無電解AuめっきであるHGS―5400(日立化成製商品名)に65℃10分浸漬し、金めっきを行い、水洗後乾燥を行った。金めっきのトータル厚みは0.2μmであった。これにより、金属フィルターが作成される。
(表面処理)
分子内にカルボキシル基を有するジチオジプロピオン酸8mmolをメタノール200mLに溶解させて反応液を作製した。次に金めっき後の金属フィルターを上記反応液に加え、室温で2時間反応させた後、メタノールで洗浄することで表面にカルボキシル基を有するフィルターを作製した。
分子内に多数のアミノ基を有する分子量7万のポリエチレンイミン0.3wt%水溶液に上記カルボキシル基を有する金属フィルターに15分浸漬し、洗浄することで、表面にアミノ基を有するフィルターを作製した。
MPCモノマーとカルボキシル基を有するモノマーの共重合体ポリマーのBL405(日油株式会社製:商品名)を0.3wt%含むメタノール溶液に上記表面にアミノ基を有するフィルターを15分浸漬し、洗浄を行い、最後に真空乾燥機にて80℃30分処理を行うことで、カルボキシル基とアミノ基の脱水縮合を促し、金属フィルターの表面に生体適合性ポリマーが強固に化学結合している生体物質捕獲用のフィルター1を作製した。
(フィルター2)
BL405の処理濃度を0.1wt%にした以外はフィルター1と同様の条件で生体物質捕獲用のフィルター2を作製した。
(フィルター3)
BL405の処理濃度を0.03wt%にした以外はフィルター1と同様の条件で生体物質捕獲用のフィルター3を作製した。
(フィルター4)
表面処理の工程を以下に示す方法に変更した以外はフィルター1と同様の条件で生体物質捕獲用のフィルター4を作製した。
(フィルター4の表面処理)
分子内にアミノ基を有する2−アミノエタンチオール8mmolをメタノール200mLに溶解させて反応液を作製した。次に金めっき後の金属フィルターを上記反応液に加え、室温で2時間反応させた後、メタノールで洗浄することで表面にアミノ基を有するフィルターを作製した。
分子内に多数のカルボキシル基を有する分子量10万のポリアクリル酸0.3wt%水溶液に上記カルボキシル基を有する金属フィルターに15分浸漬し、洗浄することで、表面にカルボキシル基を有するフィルターを作製した。
MPCモノマーとアミノ基を有するモノマーの共重合体ポリマーのBL502(日油株式会社製:商品名)を0.3wt%含むメタノール溶液に上記表面にカルボキシル基を有するフィルターを15分浸漬し、洗浄を行い、最後に真空乾燥機にて80℃30分処理を行うことで、カルボキシル基とアミノ基の脱水縮合を促し、フィルター表面に生体適合性ポリマーが強固に化学結合している生体物質捕獲用のフィルター4を作製した。
(フィルター5)
2段階の金めっきの代わりに1段階の無電解白金めっきを行った以外はフィルター1と同様にフィルターを作製した。無電解白金めっき液にはレクトレスPt100(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製:商品名)を用いた。白金の厚みは0.1μmであった。
(フィルター6)
2段階の金めっきの代わりに1段階の無電解パラジウムめっきを行った以外はフィルター1と同様にフィルター6を作製した。無電解パラジウムめっき液にはパラデックスストライク3(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製:商品名)を用いた。パラジウムの厚みは0.1μmであった。
(フィルター7)
電気Niめっきの変わりに電気パラジウムめっきを用いた以外はフィルター1と同様にフィルター7を作製した。電気パラジウムめっき液はパラディックスLF−5(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社:商品名)を用いた。めっき温度は50℃、電流密度1A/dm2の条件でめっきを行い、約4.2分/μmの条件で約20μmとなるように電気めっきを行った以外はフィルター1と同様の条件でめっきを行った。
(フィルター8)
MCLのピーラブル銅箔の代わりにピーラブルニッケル箔を用いた(電気めっき後はニッケル箔を除去)。さらに電気Niめっきの変わりに電気銅めっきを用いた以外はフィルター1と同様に表面処理フィルター8を作製した。電気銅めっき液はミクロファブCu200(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社:商品名)を用いた。めっき温度は25℃、電流密度3A/dm2の条件でめっきを行い、約1.5分/μmの条件で約20μmとなるように電気めっきを行った以外はフィルター1と同様の条件でめっきを行った。
(フィルター9)
表面処理を行わなかったこと以外はフィルター1と同様にフィルター9を作製した。
(フィルター10)
金めっきを行わなかったこと以外はフィルター1と同様にフィルター10を作製した。
(フィルター11)
BL405の代わりに疎水性で反応性の官能基を有さないMPC含有ポリマーであるCM5206(日油株式会社製:商品名)を用いた以外はフィルター1と同様にフィルター11を作製した。
(フィルター12)
ジチオジプロピオン酸処理を省略した以外はフィルター1と同様にフィルター12を作製した。
(フィルター13)
ジチオジプロピオン酸処理とポリエチレンイミン処理を省略した以外はフィルター1と同様にフィルター13を作製した。
(フィルター14)
BL405の代わりに疎水性で反応性の官能基を有さない純粋なMPCポリマーであるBL203(日油株式会社製:商品名)を用いた以外はフィルター1と同様にフィルター14を作製した。
(実験)
(非小細胞癌細胞株の調整)
非小細胞癌細胞株であるNCI−H358細胞を10%、ウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI−1640培地にて、37℃、5%CO2条件下にて静置培養した。トリプシン処理により培養皿から細胞を剥離させて回収し、リン酸緩衝液(Phosphate buffered saline、PBS)を用いて洗浄した後に、10μM CellTracker Red CMTPX(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)にて37℃、30分間静置させることで、NCI−H358細胞を染色した。その後、PBSにて洗浄し、トリプシン処理にて37℃にて3分間静置させることで、細胞塊を解離させた。その後、培地にてトリプシン処理を停止させ、PBSにて洗浄後、2mMEDTA及び0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBS(以下2mM EDTA−0.5% BSA−PBSという。)に懸濁した。尚、PBSはリン酸緩衝生理食塩水であり和光純薬工業製製品コード166−23555を用いた。BSAはSIGMA−ALDRICH社製(Product Name : Albumin from bovine serum−Lyophilized powder, Bio Reagent for cell culture)のものを用いた。EDTAは2Na(エチレンジアミン−N,N,N’,,N’−4酢酸二ナトリウム塩二水和物)(和光純薬工業製製品コード345−01865)を用いた。
(血液サンプル中のCTCの濃縮)
(評価例1)
フィルター1をカートリッジにセットしたCTC回収装置:CT6000(日立化成製商品名)を用いて実験を行った。CTC回収装置は血液サンプルや試薬を導入するための流路を備えており、流路の入り口は、シリンジを加工して作製したリザーバーに接続した。フィルターがセットされたカートリッジは、上記実施形態における生体物質捕獲システムに相当する。このリザーバーに、血液サンプルや試薬を順次投入していくことで、CTCの捕捉、染色、洗浄などの操作を連続的に容易に行えるようにした。
CTC回収装置に血液サンプルを導入して癌細胞を濃縮した。血液サンプルとして細胞安定液を含む真空採血管であるCell Free DNA(Streck社製:商品名)に採血した健常者血液に、血液1mLあたり1000個の癌細胞を含有させたサンプルを用いた。癌細胞としては、上記のヒト非小細胞肺癌細胞株NCI−H358を使用した。尚、血液は採血後6時間のものを用いた。
リザーバーに、2mM EDTA−0.5% BSA−PBS 1mL(以下洗浄液)を導入し、フィルター上を満たした。連続して、ぺリスタルティックポンプを使用して流速200μL/分で送液を開始した。その後、血液1mLを投入した。約5分後、リザーバーに2mLの2mM EDTA−0.5% BSA−PBSを導入して細胞の洗浄を行った。
次に洗浄液に4%PFAを溶かした液をカートリッジに入れ、細胞を15分浸した。
洗浄後、洗浄液に0.2%TritonXを溶かした液をカートリッジに入れ、細胞を15分浸した。
さらに10分後、ポンプ流速を20μL/分に変更し、リザーバーに600μLの細胞染色液(Hoechst33342:30μl、Wash buffer:300mL)を導入し、フィルター上の癌細胞または白血球を蛍光染色した。フィルター上に捕捉された細胞に対して30分間染色を行った後、リザーバーに1mLの2mM EDTA−0.5% BSA−PBSを導入して細胞の洗浄を行った。
続いて、コンピューター制御式電気ステージ及び冷却デジタルカメラ(DP70、オリンパス株式会社)を装備した蛍光顕微鏡(BX61、オリンパス株式会社)を使用してフィルターを観察し、フィルター上の癌細胞及び白血球の数をカウントした。
Hoechst 33342及びCellTracker Red CMTPX由来の蛍光を観察するために、それぞれWU及びWIGフィルター(オリンパス株式会社)を用いて画像を取得した。画像取得及び解析ソフトにはLumina Vision(三谷商事株式会社)を用いた。結果を表1に示す。細胞回収率(%)=フィルターに回収された癌細胞数/血液サンプルに混合した癌細胞数×100%。白血球の数はHoechst 33342で染色された細胞数からがん細胞数を引くことで算出した。以上の方法で評価例1に係る実験を行った。
(評価例2〜14)
評価例1で使用したフィルター1の代わりにフィルター2〜14を用いた以外は評価例1と同様の条件で評価例2〜14に係る実験を行った。
(XPSの測定)
表3に示す条件で、フィルター1について表面の元素分析を行った。その測定結果例を表4に示す。表4に示すように、ほぼAuが覆われていることが確認できた。以下Auに注目してフィルター2〜14の測定を行った。
(接触角)
評価例1〜14それぞれについて、フィルターの接触角の測定を行った。測定はJIS R3265 「基板ガラス表面の濡れ性試験方法」に準拠した装置(DM701 協和界面科学株式会社製、商品名)で行った。液滴の大きさは2μL、液滴投下から測定までの時間は30秒とした。
(結果)
結果を表5及び表6に示す。表5では、各評価例に係るフィルターの種類、材質、表面処理1〜3に係る情報を示し、表6では、接触角、Auに係る元素分析の結果、白血球数、NCI−H358の回収率及び気泡に係る評価の結果を示している。なお、気泡に係る「A」とは、カートリッジ内にほとんど気泡が発生しなかったことを示す。また、「B」とはカートリッジ内の一部(5体積%未満)に気泡が発生したことを示す。また、「C」とは結果Bよりも多く(カートリッジ内の5体積%以上)気泡が発生したことを示している。
評価例1に示すように、金めっきフィルター(金属フィルター)上に生体適合性ポリマーを化学的結合させるべく処理すると、白血球数が比較的少なく、がん細胞の回収率も高い。この場合、ポリマーの金属フィルターに対する被覆率も高い(金の元素比率が低い)。接触角も低いので、気泡発生が抑制できる。
評価例2〜3ではBL405処理時のポリマー濃度を薄くし、生体適合性ポリマーによる吸着厚を薄くしている。この場合、ポリマーの被覆率が低い(金の元素比率が高い)。金の元素比率が5at%を超えると、白血球数が増え回収率が低下する(評価例3)。
評価例4ではカチオンとアニオンの処理順を変更し、金めっきフィルター上に生体適合性ポリマーを化学的結合させている。この場合も評価例1同様に白血球数が比較的少なく、がん細胞の回収率も高い。
評価例5、6は金めっきの代わりにPt、Pdめっきを行っている。Pt、Pdの場合もAuめっきに近い効果が得られる。
評価例7、8はバルクの金属をNiからPd、Cuに変更している。バルクの金属がPd、Cuの場合、Niよりもやや特性が良好である。
評価例9は金属フィルターの表面処理を行わなかった場合である。この場合、白血球数が増え回収率が低下する。疎水性も高く、気泡が発生した。
評価例10はAuめっきを行わなかった場合である。この場合、Ni酸化皮膜の影響でポリマーの被覆率が低く(金の元素比率が高い)、白血球数が増え回収率が低下する。評価例11は反応性官能基を有さないMPCポリマー(CM5206)を被覆した場合である。この場合、接触角が極端に高くなり、気泡が発生しやすくなる。白血球数が増え回収率が低下する。
評価例12、13はそれぞれ表面処理の一部或いは複数を省略した場合である。特に評価例13は化学吸着性が低く、ポリマーが剥離しやすくなるので、特性が低下する。評価例14はMPCのホモポリマーを用いた場合である。若干フィルターとの化学反応性が低下し、ポリマーの被覆率が低く(金の元素比率が高い)なった。
以上示したように、貴金属表面に生体適合性ポリマーを化学的に反応させることで、従来のフィルターよりも特性が向上することが確認された。