JPWO2015033986A1 - 唾液中のアディポネクチン量の評価方法及び唾液中のアディポネクチン量の測定キット - Google Patents
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Abstract
Description
すなわち、唾液中アディポネクチン定量に関し、血液のコンタミネーションによる影響を無視できないという問題があった。
(1)この発明の唾液中のアディポネクチンの評価方法は、唾液中のアディポネクチン量を、280kDa以上の多量体アディポネクチン量で評価するようにしたことを特徴とする。
本発明者は、唾液中のヒト多量体アディポネクチンの分子量分布は、280kDa未満の中分子量(MMW)アディポネクチン及び低分子量(LMW)アディポネクチンの発現の多い血液とは異なり、主に高分子量(HMW)アディポネクチン(280kDa以上)が発現されることを見出した。
そして、潜血陽性を判別された唾液サンプル(血液のコンタミネーション)のアディポネクチンは、潜血の影響を受けることで、280kDa以上の高分子量(HMW)アディポネクチンではなく、中分子量(MMW)アディポネクチン及び低分子量(LMW)アディポネクチンの発現が増加していることを見出した。また、唾液中の280kDa以上の多量体アディポネクチン量は、唾液中の総アディポネクチン量との相関が見出された。
ストローによって、唾液サンプルを採取することにより、サリペット採取やガーゼ採取に比べ口内のストレスを抑えることができ、より一層潜血の影響を受けず正確に唾液中のアディポネクチン量を評価することが可能となる。
所定の抗アディポネクチン抗体によって唾液を反応させて、280kDa以上の多量体アディポネクチンによる前記所定の抗アディポネクチン抗体の反応強度を定量化(例えばHMW反応値)し、また、280kDa未満の多量体アディポネクチンによる前記所定の抗アディポネクチン抗体の反応強度を定量化(例えばMMW及びLMWの反応値)し、各定量化した値の比率(例えばHMW反応値/MMW及びLMWの反応値)を求めることによって、唾液中のアディポネクチン量を評価してもよい。
唾液サンプルを、非変性条件下におけるWestern Blotting法にて、280kDa以上のヒト多量体アディポネクチンと、280kDa未満のヒト多量体アディポネクチンとに分画して、280kDaの上下限を超えるバンド領域を抽出し、特定の抗アディポネクチン抗体に反応させたときの、280kDa以上のバンド領域における反応の強さを定量化したHMW定量値と、280kDa未満のバンド領域のそれぞれにおける反応の強さを定量化したMMW・LMW定量値と、をそれぞれ算出したとき、
前記HMW定量値が有意に評価できる値であり、かつ前記MMW・LMW定量値が前記HMW定量値の1/10以下または0となる、抗アディポネクチン抗体を選択し、
前記選択した抗アディポネクチン抗体による反応強度によって、唾液中のアディポネクチン量を評価してもよい。
〔HMW、MMW、LMWの定義〕
アディポネクチンは脂肪細胞から特異的に分泌されるインスリン感受性ホルモンであり、血中に比較的高濃度(5〜10μg/mL)存在している。血中においてヒト多量体アディポネクチンは3量体、6量体、12量体またはそれ以上の多量体という異なる多量体構造で混在する(図1参照)。これらは高分子量(280kDa以上、主として300kDa付近)、中分子量(150kDa以上280kDa未満、主として160kDa付近)、低分子量(0kDa以上150kDa未満)の3区分に区別できる。このうち、280kDa以上の高分子量域で形成されるものを、本発明において多量体アディポネクチン又はHMWと表記する。なお、この多量体アディポネクチンは12量体、18量体またはそれ以上の多量体からなる。また中分子量のアディポネクチンは6量体からなり、低分子量のアディポネクチンは3量体からなる。
多量体アディポネクチンを特異的に形成できなくなる変異を有するヒトは糖尿病になる傾向があり、さらに肥満・インスリン抵抗性においては高分子量のアディポネクチンがとくに低下している。多量体アディポネクチン比は総アディポネクチンに比べ、インスリン抵抗性の予測に有用である。
アディポネクチンを測定する従来方法として、測定サンプルをドデシル硫酸ナトリウム(SDS)変性処理や熱変性処理した後、免疫学的に測定をする方法が挙げられる。この方法は立体構造上隠れている、抗体の認識部位を前記処理により露出させて免疫学的にアディポネクチンの総量を測定しようとする方法であり、種々の多量体を分別して測定することはできない。
健康チェックステーションで85名の被験者からサクソン原法を用いてガーゼ中に唾液を採取し、遠心分離処理後に唾液を抽出、凍結保存した。パーキンエルマー社 AlphaLISA(商標)法により、各採取サンプルの唾液中アディポネクチン量を測定した。唾液中アディポネクチン量の測定値の全平均は平均6.64ng/mlであった。また唾液中アディポネクチン測定に及ぼす潜血反応の影響を確認すべく、各採取サンプルにおいて、潜血反応試験紙による潜血反応の有無を調べ、採取サンプルを潜血陽性群と潜血陰性群とに分類した。
・潜血陽性(33名)平均9.36ng/ml
・潜血陰性(52名)平均4.91ng/ml
潜血の有無で比較すると、潜血陽性群サンプル平均9.36ng/ml、潜血陰性群サンプル4.91ng/mlと著明な差が認められた。これはAlphaLISA(商標)法によってアディポネクチン量を測定した場合、唾液内に潜血があった場合の影響が大きいことを示す。このようにAlphaLISA(商標)法では、使用する抗体によって潜血の有無による影響を受けてしまい、唾液中のアディポネクチン量を正確に評価することが難しい場合がある。
上記従来方法に対し、本発明の第一の定量化方法として、血液サンプル及び唾液サンプルにおけるヒト多量体アディポネクチンの分子量分布をWestern Blotting法によって評価した。具体的には、採取したサンプルをポリアクリルアミド(3〜8%)によるSDS−PAGE電気泳動にて分離し、PVDFメンブレンに転写し、モノクローナル抗体に反応させて、反応強度を示すバンド画像を検出した(Western Blotting法、図1〜図4)。
非変性・非還元性条件下のWestern Blotting法による血液サンプルのバンド画像例を、図1に示す。血液中のアディポネクチンは高濃度で存在するため、血液サンプルは100分の1、300分の1、500分の1でそれぞれ希釈して比較検討した。抗アディポネクチン抗体として、マウスIgG1抗体であるMillipore社 MAB3604を用いた。
また非変性・非還元性条件下のWestern Blotting法による唾液サンプルのバンド画像例を図2(図2の右5Lane)に示す。また比較のため、血液サンプルのバンド画像例を図2の左2Laneに併記する。唾液サンプル(図2の右5Lane)では280kDa以上のHMWが有意に強く発現しており、280kDa未満のMMWやLMWは前記HMWと比べてわずかしか発現していない。また血液サンプル(図2の左2Lane)では280kDa未満のMMWやLMWは、280kDa以上のHMWと同程度かそれよりも強く発現している。このことから、唾液サンプルのアディポネクチンの分子量分布を、280kDaを閾値としてその上下各域に区切ってヒト多量体アディポネクチンの分子量分布を比較したとき、唾液中の分子量分布は、血液中の分子量分布と異なり、280kDa以上のHMWが、280kDa未満のMMW及びLMWよりも多く存在しているといえる。
血液サンプル、血液の混入した潜血ありの唾液サンプル、潜血なしの唾液サンプル、のそれぞれについて、非変性条件下のWestern Blotting法によるバンド画像(図3上図、図4A上図)と、変性条件下のWestern Blotting法によるバンド画像(図3下図、図4下図)を形成した。変性条件として2−メルカプトエタノールを混入し、かつ95℃で10分の加熱を行った。図3、図4に示すバンド画像で使用した抗アディポネクチン抗体は、マウスIgG1抗体である、Millipore社のMAB3604である。本抗体では、血液サンプルで中分子量、低分子量のアディポネクチンが多く反応し、これらの中分子量、低分子量のアディポネクチンの反応が変性条件でも顕著に表れるものとなっている。
前記280kDa以上の多量体アディポネクチン量を用いて唾液中のアディポネクチンを評価するのに好適な抗体の選択方法として、非変性条件下で所定の抗アディポネクチン抗体を用いてWestern Blotting法により分画し、280kDa上下限の分子量バンドのみを抽出し、当該280kDa上下限の分子量バンドのバンド画像を画像濃度の分子量分布のグラフをプロファイルプロットすることで定量化する定量化方法を用いる。
このようにして得られた280kDa以上のアディポネクチン多量体の定量値と280kDa未満アディポネクチン多量体の定量値を比較し、280kDa未満のMMW及びLMW量が、280kDa以上のHMW量に対して、少なくとも1未満、好ましくは1/10の比率となるような抗体を選択する。
4種類の抗体について、上述する抗体選択方法を用いて好適な280kDa以上のアディポネクチン多量体への抗アディポネクチン抗体を評価した。4種類の抗体として、オリエンタル社製APNIgG(ラビットIgG)、Millipore社製MAB3604(マウスIgG1)、オリエンタル社製APN8B3(マウスIgG1K)、RSD社製MAB10652(マウスIgG2B)を用いた。
4種類の抗体では、280kDaのアディポネクチン多量体に好適な抗アディポネクチン抗体は、Millipore社製MAB3604(マウスIgG1)、オリエンタル社製APN8B3(マウスIgG1K)である。いずれもアイソタイプIgG1の抗体(マウスIgG1)であり、少なくともIgG1の抗体であれば唾液中のHMW量の特定ないし評価に好ましいといえる。
Western Blotting法以外の第二の定量化方法として、ELISA法に代表されるような抗原抗体反応を用いた手法を用いることが出来る。本発明者は第二の定量化方法として、マイクロウェルの各ウェルに唾液サンプルあるいは唾液サンプルに血液をコンタミネーションさせた潜血サンプルを滴下し、5、000倍に希釈したMillipore社製MAB3604(マウスIgG1)、オリエンタル社製APN8B3(マウスIgG1K)を一次抗体として加え、その後発光基質で修飾した2次抗体を加え蛍光プレートリーダーによる発光強度の測定を行った。その結果を図7A、図7Bに示す。
図8に示すように採取方法の相違による影響を検討したところ、前記唾液サンプルは、ストローによって分泌腺からの分泌液を直接採取した唾液サンプルであることが好ましいことが判明した。
本発明者はサリペット採取、ガーゼ採取、及びストロー採取からなる3種の採取方法でそれぞれ人体の唾液サンプルを採取し、各採取方法による唾液サンプルを用いて非変性条件下のWestern Blotting法で分画を行った。また比較サンプルとして、300倍希釈血液、500倍希釈の血液サンプルも同様に分画した。その結果を図8A、図8Bに示す。図8Aは、非変性条件下のWestern Blotting法による各サンプルのバンド画像を示している。各バンド領域のバンド濃度の、分子量分布軸におけるプロファイルプロットのグラフを図8Bに示す。図8Bの最下部のプロファイルプロットグラフは、ストロー採取による唾液サンプルの検出反応の強さの分子量分布を示す。他のグラフと比較して、このストロー採取による唾液サンプルは、280kDa以上のHMWの検出反応が最も大きく、かつ280kDa未満のMMW及びLMWの検出反応が最も小さいことが判別できる。またMMW及びLMWの検出反応は、HMWの検出反応の半分以下であることが判別できる。
具体的には、まず第1の定量化方法で、280kDa以上のアディポネクチン量を定量化する。第1の定量化方法は、非変性条件下でWestern Blotting法を用いることにより、唾液サンプルにおけるアディポネクチン多量体の分子量分布を得たのち、280kDa以上のバンド領域を抽出し、画像濃度の分子量分布のグラフをプロファイルプロットして、グラフのピーク部分の面積を算出することで280kDa以上のアディポネクチン量を定量化する。また第2の定量化方法で、唾液中の総アディポネクチン量を定量化する。第2の定量化方法は、変性条件下でWestern Blotting法を用いることにより、非分画である唾液サンプルにおける総アディポネクチン多量体のバンド領域を抽出し、画像濃度の分子量分布のグラフをプロファイルプロットすることでグラフのピーク部分の面積を算出することで総アディポネクチン量を定量化する。
また本発明は、上記唾液中のアディポネクチン量の評価方法を用いる、唾液中のアディポネクチン量の測定キットとして成り立つ。本発明の唾液中のアディポネクチン量の評価を行うための測定キットは、唾液サンプル中の280kDa以上の多量体アディポネクチンと特異的に反応する抗アディポネクチン抗体の試薬を少なくとも含んで構成され、前記試薬によって、唾液中のアディポネクチン量を、280kDa以上の多量体アディポネクチン量で評価することができる。
本測定キットの各構成を用いて、前記採取手段によって採取した唾液サンプルを、前記反応プレートの抗アディポネクチン抗体に反応させる。また前記評価セットの各構成を用いて、前記測定手段によって、当該抗アディポネクチン抗体による唾液サンプルへの反応強度を測定して定量化し、唾液中のアディポネクチン量を、前記定量化によって得られた280kDa以上の多量体アディポネクチン量で評価する。
今回、オフィスワーカーを対象に、非侵襲的検査(カウンセリング、体組成測定、唾液採取)を月1回行い、Good diet sheetを用いた食生活の評価を行い個々人に適した機能性食品を選択し、3ヶ月間の服用による介入を行った。3ヶ月間介入を行った男性37名のうち、大豆ゲニスティン抽出物(GCP)を服用した8名について唾液のHMW アディポネクチンを非変性条件下のWestern Blotting法(第1の定量化方法)で検出した。なお大豆ゲニスティン抽出物(GCP)は、ヒト多量体アディポネクチンを上昇させることが判明しているイソフラボンを含むものである。
1994年世界保健機構(WHO)の世界保健デーのメインテーマは「健やかライフに寄与する口腔保健」であった。健やかな生活の基本は口腔の健康であることははっきりしている。寿命が延びるに従って、歯を喪失する原因が歯周病となっている。アメリカ歯科医師会は、アメリカでは65歳以上の80%もが歯周病であることを発表している。さらなる問題は、歯周病は糖尿病、呼吸器疾患、妊娠トラブル、心疾患に重要な関わりを持っていることである。
歯周病の予防は、メタボリックシンドローム対策のひとつである。歯周病はメタボリックシンドロームの原因である糖尿病へ悪影響を及ぼす要因である。歯周病は自覚症状が出にくいため、歯から知らない間に菌が体内に運ばれることになる。今日、メタボリックシンドロームと歯周病との関わり合いが指摘されている。そのメカニズムの中で重要な働きをしているのがサイトカインと呼ばれる物質である。サイトカインは、リンパ球などが産生するタンパク質で、恒常性を維持するためにはたらいている。しかし、細菌感染などで過剰に産生されると、それらは生体にマイナスに作用するようになる。唾液中に含まれるリゾチーム、ヒスタチン、シスタチンなどの抗菌性タンパク質は、細菌の繁殖や毒性を抑えたり、免疫系を調節したりして感染防御にはたらいている。
唾液腺より直接分泌され、唾液中に多く含まれるHMWアディポネクチンは、血液中HMWと同様に口腔内のヘルシーマーカーとして有用となりうる可能性が有ると考えられる。
脂肪細胞から分泌されるHMWはMMWやLMWに比べて、高機能であることが示唆されているが、将来ヒト唾液腺細胞の培養が可能となった際には、分泌されるHMWアディポネクチンが極めて有用なリコンビナント蛋白になる可能性が有る。
その他、上記各実施例では唾液中のヒト多量体アディポネクチンの特定又は評価を行っているが、ヒトに基づく多量体アディポネクチン量だけに限られず、唾液腺を有する生体物(ペット又は家畜として飼育される動物)の唾液サンプルを再出することで、広く生体物の唾液中のアディポネクチンの量の特定又は評価を行うことができる。
Claims (6)
- 唾液中のアディポネクチン量を、280kDa以上の多量体アディポネクチン量で評価するようにしたことを特徴とする、唾液中のアディポネクチン量の評価方法。
- 唾液サンプル中の280kDa以上のアディポネクチン多量体と特異的に反応する抗体とを反応させて前記反応の強さを定量化した定量値を用いる、請求項1記載の唾液中のアディポネクチン量の評価方法。
- 前記唾液サンプルはストローによって採取した唾液サンプルである、請求項1または2に記載の唾液中のアディポネクチン量の評価方法。
- 所定の抗アディポネクチン抗体によって唾液を反応させて、
280kDa以上の多量体アディポネクチンによる前記所定の抗アディポネクチン抗体の反応強度を定量化し、
また、280kDa未満の多量体アディポネクチンによる前記所定の抗アディポネクチン抗体の反応強度、或いは前記唾液に含まれるすべての分子量の多量体アディポネクチンによる前記所定の抗アディポネクチン抗体の反応強度、のいずれかを定量化し、
各定量化した値の比率によって、唾液中のアディポネクチン量を評価する、請求項1、2、3の何れか1項に記載の唾液中のアディポネクチン量の評価方法。 - 唾液中のアディポネクチン量の評価方法であって、
唾液サンプルを、非変性条件下におけるWestern Blotting法にて、280kDa以上のヒト多量体アディポネクチンと、280kDa未満のヒト多量体アディポネクチンとに分画して、280kDaの上下限を超えるバンド領域を抽出し、特定の抗アディポネクチン抗体に反応させたときの、280kDa以上のバンド領域における反応の強さを定量化したHMW定量値と、280kDa未満のバンド領域のそれぞれにおける反応の強さを定量化したMMW・LMW定量値と、をそれぞれ算出したとき、
前記HMW定量値が有意に評価できる値であり、かつ前記MMW・LMW定量値が前記HMW定量値の1/10以下または0となる、抗アディポネクチン抗体を選択し、
前記選択した抗アディポネクチン抗体による反応強度によって、唾液中のアディポネクチン量を評価する、唾液中のアディポネクチン量の評価方法。 - 採取した唾液中の280kDa以上の多量体アディポネクチンと特異的に反応する抗アディポネクチン抗体の試薬を含み、前記試薬によって、唾液中のアディポネクチン量を、280kDa以上の多量体アディポネクチン量で評価することを特徴とする、唾液中のアディポネクチン量の測定キット。
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