JPWO2014199486A1 - 嚥下障害改善用医薬品 - Google Patents
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Abstract
サブスタンスP分解酵素であるアンジオテンシン変換酵素の阻害作用物質を、血圧に影響しない用量を局所に投与することを特徴とする嚥下障害改善用組成物、ならびに該組成物を含む嚥下障害改善用の医薬品。
Description
本発明は、嚥下障害の改善と誤嚥性肺炎の予防のための、医薬品組成物に関する。
嚥下障害は、飲食時における嚥下が困難となり、ひいては口からの飲食物の摂取、栄養摂取を断念せざるを得なくなる場合も多く、QOLの観点において大きな問題である。と同時に、飲食を介護する者にとっても、精神的、身体的ストレスは過大である。また、高齢者における死亡原因で、肺炎による割合が急激に増加するが、その殆どが嚥下障害に起因する誤嚥性肺炎であると考えられている。
嚥下障害の発症は、脳血管障害、パーキンソン病、加齢、抗精神病薬の過剰投与等による大脳基底核の障害に起因することが多い。この部位の黒質線条体ドパミン神経の活動低下に伴い、ドパミン神経によって促進的に制御されているサブスタンスP合成が減少する。合成されたサブスタンスPは、迷走神経および舌咽神経知覚枝の神経末端から放出されることで嚥下反射を誘発する。従って、サブスタンスP量の減少は、嚥下反射を低下させて誤嚥を生じさせるきっかけとなり、特に不顕性誤嚥により口腔内の細菌が肺に入り込むと誤嚥性肺炎を引き起こす。従って、嚥下反射の改善は、飲食における不自由を強いられる嚥下障害保有者のQOL向上および介護者の負担軽減、さらには、誤嚥性肺炎を予防する上で極めて重要である。
従来、嚥下障害の治療法としては、リハビリテーションが行われてきた。しかし、リハビリテーションは対象者に過大な努力を強いる場合もあり、また、症状によっては適応できない場合もある。下記の非特許文献、および特許文献によれば、薬物等を用いた対策としては、辛味成分であるカプサイシンが、神経終末からのサブスタンスP放出を促進することで嚥下反射を改善することが従来例として報告されている(特許文献1)が、カプサイシンの慢性的な使用はサブスタンスPの枯渇を誘発することも指摘されている。また、レボドパやアマンタジンといったパーキンソン病治療に用いる製剤も、黒質線条体におけるドパミン神経に作用することで嚥下障害を改善することが示唆されている(非特許文献1)が、副作用の面から慎重な投与とせざるを得ない。一方、アンジオテンシン変換酵素は、アンジオテンシンI同様にサブスタンスPをも基質とし、その分解に関与しており、アンジオテンシン変換酵素阻害剤の服用により、サブスタンスP分解が抑制されて嚥下障害が改善されると推察され、肺炎の発症が抑制されることが報告されている(非特許文献1)。しかし、経口投与でアンジオテンシン変換酵素の作用を阻害するためには、アンジオテンシン変換酵素阻害剤は、降圧剤としての投与量そのままに用いられることから、正常血圧や低血圧の者であろうとも、その血圧を下げてしまう為に使用に際しては注意を要する。特に高齢者の場合、過度の血圧低下は、目眩や立ちくらみ、不眠、疲労感のみならず、脳内への血流量も低下することから、様々な悪影響が生じる可能性がある。さらには、降圧剤としての投与量であったとしても、アンジオテンシン変換酵素阻害剤の経口投与では、嚥下障害の改善は、数週間以上の長期の投与によってのみ観察されており、即時的な有効性は確認されていない。
大類 孝 高齢者誤嚥性肺炎の現状と対策 第52回日本老年医学会学術集会記録 日老医誌 (2010) 47: 558-560
上記したように、現時までの誤嚥性肺炎の予防及び嚥下障害の改善のための組成物又は処置は、いずれも、副作用を必然的に伴うものであった。そこで本発明者は、副作用の少ない誤嚥性肺炎の予防及び嚥下障害の改善のための医薬の開発を第1の課題とする。更に、血圧低下などの副作用を伴うことなく、誤嚥性肺炎の予防及び嚥下障害の改善を図る、特定の投与法で適用するアンジオテンシン変換酵素阻害作用剤を有効成分とする医薬の開発を第2の課題とする。また、経口投与では投与後短時間での嚥下障害改善効果を期待できないが、投与後速やかに嚥下障害改善を図る特定の投与法で適応するアンジオテンシン変換酵素阻害作用剤を有効成分とする医薬の開発を第3の課題とする。
本発明者らは、上記を鑑みて種々の検討を行った結果、アンジオテンシン変換酵素阻害作用物質を咽喉頭局所に直接投与することで、降圧作用を呈することなく、嚥下障害の強い改善作用が得られることを見出した。
上記の知見に基づいて完成された、本発明の嚥下障害改善用医薬は、咽喉頭部へ局所投与される、アンジオテンシン変換酵素阻害作用成分を有効成分とすることを特徴とする。
本願発明の嚥下障害改善用薬には、嚥下障害の治療剤、嚥下障害の予防剤を包含している。
本発明によれば、アンジオテンシン変換酵素阻害作用物質を、血圧に影響しない投与方法及び/又は投与量を用いることにより、嚥下障害の改善および誤嚥性肺炎の予防を期待できる医薬組成物が提供される。さらに、本願発明は、経口投与では効果を発現しない時期に嚥下障害を改善できる、つまり、即効性である。
1.嚥下障害改善薬:アンジオテンシン変換酵素阻害作用物質
アンジオテンシン変換酵素阻害作用物質は、アンジオテンシンIをアンジオテンシンIIへ変換する酵素の阻害物質であり、一般的に高血圧の治療に用いられる。アンジオテンシン変換酵素は、基質選択性が低くサブスタンスPをも基質とし分解する。アンジオテンシン変換酵素阻害作用物質の服用により、サブスタンスPの分解を阻害することによりサブスタンスPの体内濃度を高め、嚥下障害を改善することができる。
アンジオテンシン変換酵素阻害作用物質は、アンジオテンシンIをアンジオテンシンIIへ変換する酵素の阻害物質であり、一般的に高血圧の治療に用いられる。アンジオテンシン変換酵素は、基質選択性が低くサブスタンスPをも基質とし分解する。アンジオテンシン変換酵素阻害作用物質の服用により、サブスタンスPの分解を阻害することによりサブスタンスPの体内濃度を高め、嚥下障害を改善することができる。
本発明において、アンジオテンシン変換酵素阻害作用物質とは、主として、カプトプリル、リシノプリル、エナラプリル、ベナゼプリル、イミダプリル、アラセプリル、ペリンドプリル、キナプリル、テモカプリル、トランドラプリル、シラザプリル、デラプリル等、ならびにそれらの活性代謝物である。
2.投与の態様:投与経路
本発明のアンジオテンシン変換酵素阻害作用物質を有効成分とする嚥下障害改善薬は、その有効成分を局所投与することができる。より具体的には、本願発明の嚥下障害改善薬には、有効成分のアンジオテンシン変換酵素阻害作用物質を口腔内、咽頭部、喉頭部および気道から選択される少なくとも1の部位へ局所投与する嚥下障害改善薬を包含する。上記のように、咽頭部、喉頭部および気道から選択される少なくとも1の部位へ局所投与することにより、アンジオテンシン変換酵素阻害作用物質による血圧低下作用を生じることなく、即効性をもって嚥下障害を改善することができ、これにより、誤嚥性肺炎を予防することができる。
本発明のアンジオテンシン変換酵素阻害作用物質を有効成分とする嚥下障害改善薬は、その有効成分を局所投与することができる。より具体的には、本願発明の嚥下障害改善薬には、有効成分のアンジオテンシン変換酵素阻害作用物質を口腔内、咽頭部、喉頭部および気道から選択される少なくとも1の部位へ局所投与する嚥下障害改善薬を包含する。上記のように、咽頭部、喉頭部および気道から選択される少なくとも1の部位へ局所投与することにより、アンジオテンシン変換酵素阻害作用物質による血圧低下作用を生じることなく、即効性をもって嚥下障害を改善することができ、これにより、誤嚥性肺炎を予防することができる。
より好適には、本願発明の嚥下障害改善薬には、有効成分のアンジオテンシン変換酵素阻害作用物質を咽頭部へ局所投与する嚥下障害改善薬を包含する。局所投与としては、例えば、咽頭部粘膜へ直接塗布せしめる態様で用いることができる。
3.投与剤型
本願発明の嚥下障害改善薬は、口腔内粘膜、咽喉頭部粘膜および気道粘膜吸収せしめるための形態にて適応される。より具体的には、有効成分であるアンジオテンシン変換酵素阻害作用物質を含有するスプレー、フィルム製剤、口腔・咽頭内貼付剤、ネブライザー、直接塗布等の液剤とすることができる。
本願発明の嚥下障害改善薬は、口腔内粘膜、咽喉頭部粘膜および気道粘膜吸収せしめるための形態にて適応される。より具体的には、有効成分であるアンジオテンシン変換酵素阻害作用物質を含有するスプレー、フィルム製剤、口腔・咽頭内貼付剤、ネブライザー、直接塗布等の液剤とすることができる。
(1) フィルム製剤又は口腔・咽頭内貼付剤に用いる可食性で水溶性のフィルム基剤としては、例えば、ゼラチン、ペクチン、アラビノキシラン、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、プルラン、ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、水溶性ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等を使用することができる。
(2) 吸入剤(ネブライザー)又は噴霧剤(スプレー)に用いる担体としては、糖類、糖アルコール類、アミノ酸類および/又は無機塩類を用いることができる。糖類としては、乳糖、ブドウ糖、蔗糖、マルトース、トレハロース、マルトデキストリン、デキストラン等が挙げられる。糖アルコール類としては、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、ソルビトール、アラビトール、キシロースなどが挙げられる。アミノ酸類としては、ロイシン、イソロイシン、リジン、バリン、スレオニン、メチオニン、システイン、シスチン、フェニルアラニン、トリプトファン、グリシン等が挙げられる。無機塩類としては、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、リン酸カルシウム等が挙げられる。好適には、乳糖を用いることができる。
(3) 直接塗布用の液剤には、必要に応じ、乳化剤、懸濁化剤、又は保存剤を添加することができる。乳化剤としては、ポリソルベート80、ラウロマクロゴール、モノステアリン酸グリセリン、ラウリル硫酸ナトリウム、レシチン等が挙げられ、懸濁化剤としては、ポリビニルアルコール、ポピドン、カルメロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム等が挙げられる。
4.投与対象
本発明の嚥下障害改善薬は、嚥下障害患者や、嚥下障害をわずらう可能性のある、高齢者、脳血管障害患者、パーキンソン病患者、または抗精神病薬の投与を受けている者に投与することができる。
本発明の嚥下障害改善薬は、嚥下障害患者や、嚥下障害をわずらう可能性のある、高齢者、脳血管障害患者、パーキンソン病患者、または抗精神病薬の投与を受けている者に投与することができる。
なお、スプレー、ネブライザー、又は直接塗布は、唾液の嚥下動作を要求しない方法であるから、嚥下機能障害の程度に関係なく用いることが出来る投与である。したがって、重度の嚥下障害については、スプレー、ネブライザー、又は直接塗布により投与することが望ましい。
5.投与時期・回数
本発明の嚥下障害改善薬は、咽頭部、喉頭部および/又は気道に、単回局所投与することができる。単回局所投与とは、1日に複数回投与、または反復投与して使用するような場合、その初回投与を意味し、投与回毎に嚥下障害改善作用を得ることができる。なお、本願発明は、経口投与したときに効果発現を示さない時期に嚥下障害を改善することが出来る。つまり、即効性であるから、好適には、例えば毎食事前および/又は就寝前に、より好ましくは、その30分前にアンジオテンシン変換酵素阻害成分を、咽頭部粘膜へ直接塗布することができる。
本発明の嚥下障害改善薬は、咽頭部、喉頭部および/又は気道に、単回局所投与することができる。単回局所投与とは、1日に複数回投与、または反復投与して使用するような場合、その初回投与を意味し、投与回毎に嚥下障害改善作用を得ることができる。なお、本願発明は、経口投与したときに効果発現を示さない時期に嚥下障害を改善することが出来る。つまり、即効性であるから、好適には、例えば毎食事前および/又は就寝前に、より好ましくは、その30分前にアンジオテンシン変換酵素阻害成分を、咽頭部粘膜へ直接塗布することができる。
6.投与用量
1回の投与量は、血圧降下を示さない量、かつ、嚥下障害を改善する量であればよく、血圧降下に必要な量より非常に少ない量で嚥下障害を改善することはできる。より具体的には、1回の投与量は、血圧降下作用が期待される最低投与量未満であり、好ましくは、その1/10量であり、より好ましくは1/100量である。例えばリシノプリルの場合、1回の投与量は、ヒトに投与した際に血圧降下作用が期待される最低投与量(2.5 mg)未満であり、好ましくは、その1/10量である250μgであり、より好ましくは25μgであり、以下の実施例に準じれば1μgにまで減量できる。すなわち、実施例にて用いたアンジオテンシン阻害作用物質において、より高い阻害活性を保持するリシノプリルの場合、以下実施例にて得られた嚥下障害改善作用用量を体重換算すると5 ng/kgであり、一般的なヒトの体重を60 kgとすると、300 ng以上/回の投与量であれば嚥下障害改善作用を得ることが出来る。
1回の投与量は、血圧降下を示さない量、かつ、嚥下障害を改善する量であればよく、血圧降下に必要な量より非常に少ない量で嚥下障害を改善することはできる。より具体的には、1回の投与量は、血圧降下作用が期待される最低投与量未満であり、好ましくは、その1/10量であり、より好ましくは1/100量である。例えばリシノプリルの場合、1回の投与量は、ヒトに投与した際に血圧降下作用が期待される最低投与量(2.5 mg)未満であり、好ましくは、その1/10量である250μgであり、より好ましくは25μgであり、以下の実施例に準じれば1μgにまで減量できる。すなわち、実施例にて用いたアンジオテンシン阻害作用物質において、より高い阻害活性を保持するリシノプリルの場合、以下実施例にて得られた嚥下障害改善作用用量を体重換算すると5 ng/kgであり、一般的なヒトの体重を60 kgとすると、300 ng以上/回の投与量であれば嚥下障害改善作用を得ることが出来る。
以下、本発明を実施例等にて詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって何ら限定して解釈されるものではない。
先述のとおり、ハロペリドールのようなドパミン神経の作用を抑制する抗精神病薬の投与等によって、大脳基底核障害に起因した嚥下障害が発症することが知られている。そこで、本発明者等は、ハロペリドールの反復過剰投与によって誘発した嚥下機能の障害動物モデルを構築し、薬効評価を行った。
[実験例1]
入荷後1週間慣化飼育した6週齢Hartley系雌性モルモット(330〜390g)に、生理食塩水、あるいはハロペリドール溶液を1mg/kgの投与量で、約12時間おきに1日2回、7日間皮下に注射した。その後、モルモットの四肢を固定し、ゾンデにて咽頭直前部に500μlの蒸留水を約5秒かけて注入して、注入10秒後までと30秒後までの嚥下回数を、咽頭部の筋肉の動きを基に測定した。そして、その後再度、生理食塩水、あるいはハロペリドール溶液を注射した(1mg/kg)。
入荷後1週間慣化飼育した6週齢Hartley系雌性モルモット(330〜390g)に、生理食塩水、あるいはハロペリドール溶液を1mg/kgの投与量で、約12時間おきに1日2回、7日間皮下に注射した。その後、モルモットの四肢を固定し、ゾンデにて咽頭直前部に500μlの蒸留水を約5秒かけて注入して、注入10秒後までと30秒後までの嚥下回数を、咽頭部の筋肉の動きを基に測定した。そして、その後再度、生理食塩水、あるいはハロペリドール溶液を注射した(1mg/kg)。
[結果]
測定は、1分間のインターバルで計4回実施した。結果を図1に示す。図1から明らかなように、ハロペリドール反復投与群の飲水回数は、生理食塩水を反復投与していたモルモット群と比べて、有意に低下していた。この結果を基に、ハロペリドール反復投与誘発モルモット嚥下障害モデルとして、以下の実験における薬剤有効性評価に用いた。
測定は、1分間のインターバルで計4回実施した。結果を図1に示す。図1から明らかなように、ハロペリドール反復投与群の飲水回数は、生理食塩水を反復投与していたモルモット群と比べて、有意に低下していた。この結果を基に、ハロペリドール反復投与誘発モルモット嚥下障害モデルとして、以下の実験における薬剤有効性評価に用いた。
[実施例1]カプトプリル局所投与の効果
実験例1と同様に6週齢Hartley系雌性モルモット(330〜390g)に1mg/kgのハロペリドール溶液を反復投与し、8日目に、上記同様に飲水反射を測定し、これをプレ値とした。プレ値測定翌日に、蒸留水あるいはカプトプリル50mM、50μMおよび50nM水溶液(pH 7.0)、100μlを、噴霧式ゾンデを用いて、モルモットの咽頭粘膜に単回直接噴霧した。噴霧30分後にプレ値測定同様に飲水反射を測定した(測定値)。
実験例1と同様に6週齢Hartley系雌性モルモット(330〜390g)に1mg/kgのハロペリドール溶液を反復投与し、8日目に、上記同様に飲水反射を測定し、これをプレ値とした。プレ値測定翌日に、蒸留水あるいはカプトプリル50mM、50μMおよび50nM水溶液(pH 7.0)、100μlを、噴霧式ゾンデを用いて、モルモットの咽頭粘膜に単回直接噴霧した。噴霧30分後にプレ値測定同様に飲水反射を測定した(測定値)。
結果を図2に示す。図2から明らかなように、蒸留水噴霧群は飲水回数に有意な変化は観られなかったが、カプトプリル50mMおよび50μM水溶液噴霧群では、有意に飲水回数の増加が観察された。
[実施例2]リシノプリル局所投与の効果
実施例1同様に、ハロペリドール反復投与誘発モルモット嚥下障害モデルを作製し、リシノプリル0.5nM〜500μM水溶液(pH 7.0)、100μlを、噴霧式ゾンデを用いて、モルモットの咽頭粘膜に単回直接噴霧することで、飲水反射への影響を測定した。
実施例1同様に、ハロペリドール反復投与誘発モルモット嚥下障害モデルを作製し、リシノプリル0.5nM〜500μM水溶液(pH 7.0)、100μlを、噴霧式ゾンデを用いて、モルモットの咽頭粘膜に単回直接噴霧することで、飲水反射への影響を測定した。
結果を図3に示す。図3から明らかなように、蒸留水噴霧群は飲水回数に有意な変化は観られなかったが、リシノプリル水溶液噴霧群では、用量依存的に飲水回数の増加が観察され、50nM以上ではカプトプリル50μM水溶液噴霧投与群同様に、有意な飲水回数の増加であった。
[実施例3]サブスタンスPの関与・嚥下障害予防
モルモットの咽頭部にサブスタンスP受容体拮抗作用物質であるFK888(10μM 50μl/モルモット)を、噴霧式ゾンデにて局所投与し、実験1同様に飲水反射回数を測定した。
モルモットの咽頭部にサブスタンスP受容体拮抗作用物質であるFK888(10μM 50μl/モルモット)を、噴霧式ゾンデにて局所投与し、実験1同様に飲水反射回数を測定した。
結果を図4に示す。図4から明らかなように、FK888の咽頭部単回局所投与により、嚥下反射の低下が観察された。さらに、FK888投与30分前に実施例1同様にカプトプリル水溶液を噴霧式ゾンデにて咽頭部へ単回局所投与したところ、FK888投与による嚥下反射の低下が抑制された。
[実施例4]サブスタンスPの関与・嚥下障害改善作用機序
ハロペリドール反復投与誘発モルモット嚥下障害モデルを作製し、リシノプリル50nM水溶液100μlを、噴霧式ゾンデを用いて咽頭粘膜に単回直接噴霧した後、嚥下反射に影響しない下限用量である10nM、100μlのサブスタンスP受容体拮抗作用物質であるFK888を、噴霧式ゾンデを用いて咽頭粘膜に局所投与し、実験例1同様に飲水回数を測定した。
ハロペリドール反復投与誘発モルモット嚥下障害モデルを作製し、リシノプリル50nM水溶液100μlを、噴霧式ゾンデを用いて咽頭粘膜に単回直接噴霧した後、嚥下反射に影響しない下限用量である10nM、100μlのサブスタンスP受容体拮抗作用物質であるFK888を、噴霧式ゾンデを用いて咽頭粘膜に局所投与し、実験例1同様に飲水回数を測定した。
結果を図5に示す。図5から明らかなように、リシノプリル50nM水溶液100μlの投与30分後に観察された飲水回数の増加は、リシノプリル投与15分後のFK888(10nM、100μl)の投与によってほぼ完全に抑制された。
[比較例1]カプトプリル局所投与の優位性
アンジオテンシン変換酵素阻害作用物質による嚥下障害改善作用について、経口投与(胃内への投与、p.o.)と噴霧式ゾンデを用いた咽頭粘膜への局所投与(s.i.)とで、飲水回数の変化を比較した。実施例1同様に、ハロペリドール反復投与誘発モルモット嚥下障害モデルを作製し、カプトプリル50μM水溶液、または50mM水溶液を噴霧式ゾンデを用いて咽頭粘膜へ100μ単回l局所投与、あるいは同用量のカプトプリルを経口投与(胃内への投与)した。投与30分後に飲水回数の測定を行った。
アンジオテンシン変換酵素阻害作用物質による嚥下障害改善作用について、経口投与(胃内への投与、p.o.)と噴霧式ゾンデを用いた咽頭粘膜への局所投与(s.i.)とで、飲水回数の変化を比較した。実施例1同様に、ハロペリドール反復投与誘発モルモット嚥下障害モデルを作製し、カプトプリル50μM水溶液、または50mM水溶液を噴霧式ゾンデを用いて咽頭粘膜へ100μ単回l局所投与、あるいは同用量のカプトプリルを経口投与(胃内への投与)した。投与30分後に飲水回数の測定を行った。
結果を図6に示す。図6から明らかなように、カプトプリル50μM水溶液、50mM水溶液ともに、100μlの単回局所投与によって、投与後30分という早期に嚥下障害の改善作用を示したのに対し、経口投与では何れの用量も影響を及ぼさなかった。
[比較例2]リシノプリル局所投与の優位性
比較例1同様に、リシノプリルによる嚥下障害改善作用について、経口投与(胃内への投与、p.o.)と咽頭粘膜への局所投与(s.i.)とで、飲水回数の変化を比較した。ハロペリドール反復投与誘発モルモット嚥下障害モデルを作製し、リシノプリル50mM水溶液100μlを噴霧式ゾンデを用いて咽頭粘膜へ局所投与、または同用量のリシノプリルを経口投与(胃内への投与)した。投与2時間後(経口投与において血中濃度が最大となる時間)に飲水回数の測定を行った。
比較例1同様に、リシノプリルによる嚥下障害改善作用について、経口投与(胃内への投与、p.o.)と咽頭粘膜への局所投与(s.i.)とで、飲水回数の変化を比較した。ハロペリドール反復投与誘発モルモット嚥下障害モデルを作製し、リシノプリル50mM水溶液100μlを噴霧式ゾンデを用いて咽頭粘膜へ局所投与、または同用量のリシノプリルを経口投与(胃内への投与)した。投与2時間後(経口投与において血中濃度が最大となる時間)に飲水回数の測定を行った。
結果を図7に示す。図7から明らかなように、リシノプリル50mM水溶液、100μlの局所投与によって、投与2時間後でも嚥下障害の改善作用を示したのに対し、経口投与では影響を及ぼさなかった。
[比較例3]アンジオテンシンI誘発血圧上昇に及ぼす効果
実施例1および実施例2において嚥下障害の改善を示した、カプトプリル50μM水溶液100μlまたはリシノプリル5μM水溶液100μlという用量の、血圧に及ぼす影響についてSD系雄性ラット(350〜400g)を用いて解析した。各用量のカプトプリル、またはリシノプリル水溶液を経口的に投与し、1時間後に血圧を測定した。その後アンジオテンシンIを静脈内投与(300ng/kg)することで血圧上昇を誘発し、平均血圧の変化を測定した。
実施例1および実施例2において嚥下障害の改善を示した、カプトプリル50μM水溶液100μlまたはリシノプリル5μM水溶液100μlという用量の、血圧に及ぼす影響についてSD系雄性ラット(350〜400g)を用いて解析した。各用量のカプトプリル、またはリシノプリル水溶液を経口的に投与し、1時間後に血圧を測定した。その後アンジオテンシンIを静脈内投与(300ng/kg)することで血圧上昇を誘発し、平均血圧の変化を測定した。
結果を図8に示す。図8から明らかなように、アンジオテンシンI投与による昇圧反応を、カプトプリル50mM水溶液100μlまたはリシノプリル5mM水溶液100μlの投与は抑制するが、カプトプリル50μM水溶液100μlまたはリシノプリル5μM水溶液100μlの投与では影響しなかった。
ハロペリドールの過剰投与は、ヒト臨床においても血中サブスタンスP量の低下と共に、嚥下反射の低下を誘発することが知られており、本発明において用いたハロペリドール反復投与誘発モルモット嚥下障害モデルは、ヒト臨床状態を反映していると考えられた。
実施例1、実施例2、及び比較例3により、血圧に影響しない用量のアンジオテンシン変換酵素阻害作用物質を、咽頭部へ単回局所投与することで、嚥下反射低下が改善されることが明らかとなった。
実施例3より、アンジオテンシン変換酵素阻害作用物質の咽頭部への単回局所投与は、咽頭部組織中のサブスタンスP分解を抑制することで、サブスタンスP受容体拮抗作用物質による嚥下障害を予防的に抑制したと考えられる。また、実施例4よりアンジオテンシン変換酵素阻害作用物質の咽頭部への単回局所投与は、咽頭部組織中のサブスタンスP分解を抑制することで、サブスタンスPによる嚥下反射惹起を亢進し、ハロペリドール反復投与誘発モルモット嚥下障害モデルの障害を改善したと考えられる。
実施例1、実施例2、比較例1、比較例2、および比較例3より、アンジオテンシン変換酵素阻害物質を単回局所に投与することで、血圧に影響しない低用量で嚥下障害を改善することのみならず、経口投与では得られない早期の嚥下障害の改善作用が得られると判断された。比較例1におけるカプトプリル水溶液50mM、100μlの投与量は、種々の動物モデルにおいて優位な血圧降下作用を呈する用量である。また、比較例2におけるリシノプリル水溶液50mM、100μlの投与量は、体重換算によればヒトの高血圧治療薬としての臨床用量とほぼ同量であり、ヒトおよび動物において、十分な血圧降下作用を呈する用量であるが、血中濃度が最も高い時点においても経口投与では嚥下障害改善作用は観察されなかった。即ち、ヒト臨床において高血圧治療に用いられる用量を、経口的に服用しても、局所投与様の嚥下障害の早期の改善作用は得られないと判断された。以上のことから、アンジオテンシン変換酵素阻害作用物質の咽頭部への単回局所投与は、神経終末からのサブスタンスP枯渇を誘発することなく、また、経口でのドパミン製剤やアンジオテンシン変換酵素阻害作用物質の服用のように、血圧低下等の種々の副作用を伴うことなく、投与後早期に薬効を示すことが可能な嚥下障害改善薬として、優れた使用方法であると判断された。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
Claims (4)
- アンジオテンシン変換酵素阻害作用物質を有効成分として含む、口腔内、咽喉頭部および気道から選択される少なくとも1の部位への局所投与用嚥下障害改善薬であって、単回投与することを特徴とする前記局所投与用嚥下障害改善薬。
- 投与量が、血圧降下を示さない投与量であって、かつ、嚥下障害を改善する投与量であることを特徴とする請求項1に記載の嚥下障害改善薬。
- 経口投与では効果を発現しない時期に嚥下障害を改善することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の嚥下障害改善薬。
- アンジオテンシン変換酵素阻害作用物質がカプトリル又はリシノプリルである、請求項1〜3いずれか1項に記載の嚥下障害改善薬。
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