JPWO2012026005A1 - 内燃機関の拡散燃焼開始時期推定装置及び拡散燃焼開始時期制御装置 - Google Patents

内燃機関の拡散燃焼開始時期推定装置及び拡散燃焼開始時期制御装置 Download PDF

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Abstract

燃焼室内に噴射された燃料の蒸発速度及び酸化速度を算出し、これら燃料蒸発速度と燃料酸化速度とが乖離している状態から一致する状態になった時点を拡散燃焼開始時期と推定する。この推定された拡散燃焼開始時期が適正時期から乖離している場合には、その拡散燃焼開始時期を適正時期に一致させるように燃料噴射圧力の調整及びスワールコントロールバルブの開度調整を行う。

Description

本発明は、ディーゼルエンジンに代表される圧縮自着火式内燃機関の拡散燃焼開始時期を推定する装置、及び、その拡散燃焼開始時期の推定結果を利用して拡散燃焼開始時期を制御する装置に係る。
自動車等に搭載されるディーゼルエンジンの燃焼は、主として予混合燃焼及び拡散燃焼により成り立つことが知られている。具体的には、インジェクタから燃焼室内への燃料噴射が開始されると、先ず、燃料の気化拡散により可燃混合気が生成される(着火遅れ期間)。次に、この可燃混合気が燃焼室の数ヶ所でほぼ同時に自己着火し、急速に燃焼が進む(予混合燃焼)。そして、この予混合燃焼によって十分に温度上昇した燃焼室内に対し、燃料噴射が継続され、または、所定のインターバル(燃料噴射停止期間)を経て燃料噴射が開始されることで拡散燃焼が行われる。その後、燃料噴射が終了した後にも未燃燃料が存在するため、しばらくの間、熱発生が続けられる(後燃え期間)。
ところで、近年、自動車の排気エミッション規制の強化(Euro6等)に伴い、環境変化や運転過渡等に起因して燃焼室内の圧力、温度、熱伝達状態等が変化する状況になっても、混合気の燃焼開始時期を適正に維持することでNOx等の有害物質の発生量を規制範囲内に抑えることが要求されている。
混合気の燃焼開始時期の制御に関する従来技術として、下記の特許文献1〜特許文献3が提案されている。
特許文献1及び特許文献2では、燃料噴射時期、吸気酸素濃度、エンジン回転速度等のパラメータを引数として使用した着火時期予測モデルを用いて予測着火時期を求めるようにしている。
また、特許文献3では、パイロット噴射が行われないと仮定したときの、主噴射による燃料の着火時期における筒内温度を予測し、この予測された筒内温度に基づいてパイロット噴射の形態を設定して、主噴射による燃料の着火を適正に設定するようにしている。
特開2007−92583号公報 特開2008−261312号公報 特開2001−254645号公報
上記各特許文献にも開示されているように、これまでの混合気の燃焼開始時期の制御は、予混合燃焼の着火時期を適正化することで、燃焼室内での燃焼の安定化を図るものであった。
ところが、上記予混合燃焼は、燃焼室内の温度、圧力、酸素濃度等の状態量によって、その着火時期や燃焼量(発生熱量)が大きく変動するため、特に環境が変化したり運転過渡時などにあっては、その着火時期を適正に制御することが難しく、それに伴って、排気エミッションを大きく左右する拡散燃焼の開始時期も適正に得られなくなる可能性がある。このため、予混合燃焼の着火時期の制御は、燃焼安定性や排気エミッションの面で制御性に限界があった。
特に、排気エミッション規制の強化に対応するべく予混合燃焼用の燃料噴射量(所謂パイロット噴射量)を多くしたりEGR(Exhaust Gas Recirculation)量を多くしたりする(燃焼温度を低く抑えてNOxの発生量を抑制する)状況では、燃焼室内の状態量の変化(上記環境変化や運転過渡に起因する状態量の変化)に応じて予混合燃焼の着火遅れ量が大きく変動したり、燃焼量(発生熱量)が大きく変動する可能性が高く、その制御性は益々悪化していく傾向にある。また、高地でのエンジン運転時や低セタン価燃料の使用によって混合気の着火性が悪化している状況においても同様に、予混合燃焼の着火遅れ量が大きく変動したり、燃焼量が大きく変動する可能性が高くなる。
本発明の発明者は、この点に鑑み、拡散燃焼の開始時期を高い精度で推定できれば、予混合燃焼の着火時期を制御する場合に比べて、燃焼安定性や排気エミッションの大幅な改善に役立てることが可能であることに着目した。
一般に、拡散燃焼は、燃焼室内温度が着火可能温度(例えば1000K)に達した状態で燃料が噴射されることで、この燃料噴射タイミングと同時に燃焼が開始されるものとされていた。ところが、実際には、たとえ燃焼室内温度が着火可能温度に達していたとしても、燃焼室内に噴射された燃料が蒸発して可燃混合気を生成するまでの期間中、拡散燃焼は開始されない。そして、この期間は燃料の蒸発速度に応じて変動する。つまり、拡散燃焼開始時期は、燃焼室内での燃料蒸発速度によって左右される。このため、これを考慮して拡散燃焼開始時期を推定し、それに基づいて拡散燃焼開始時期を制御する必要があることを本発明の発明者は見出した。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、圧縮自着火式内燃機関における拡散燃焼開始時期を高い精度で推定可能とする内燃機関の拡散燃焼開始時期推定装置、及び、その拡散燃焼開始時期の推定結果を利用して拡散燃焼開始時期を制御する拡散燃焼開始時期制御装置を提供することにある。
−課題の解決原理−
上記の目的を達成するために講じられた本発明の解決原理は、燃焼室内に噴射された燃料の蒸発速度及び酸化速度を算出し、これら燃料蒸発速度と燃料酸化速度とが一致した時点、つまり、燃料酸化速度が燃料蒸発速度に追い付いた時点を拡散燃焼の開始時期であると推定するようにしている。また、この推定された拡散燃焼開始時期が適正時期から乖離している場合には、その拡散燃焼開始時期を適正時期に一致させるような制御(燃料蒸発速度の補正制御等)を行うようにしている。
−解決手段−
具体的に、本発明は、混合気の予混合燃焼が開始された後に燃焼室内に対して燃料噴射弁から噴射された燃料が拡散燃焼を開始する拡散燃焼開始時期を推定する圧縮自着火式内燃機関の拡散燃焼開始時期推定装置を対象とする。この拡散燃焼開始時期推定装置に対し、燃料蒸発速度算出手段、燃料酸化速度算出手段、拡散燃焼開始時期推定手段を備えさせている。燃料蒸発速度算出手段は、上記燃料噴射弁から燃焼室内に噴射された燃料の蒸発速度を、予め規定された基準蒸発速度に対して環境条件及び運転条件のうち少なくとも何れか一方に応じた補正を行うことによって算出する。燃料酸化速度算出手段は、上記燃焼室内での蒸発によって混合気を生成した燃料の酸化速度を、予め規定された基準酸化速度に対して環境条件及び運転条件のうち少なくとも何れか一方に応じた補正を行うことによって算出する。拡散燃焼開始時期推定手段は、上記燃料蒸発速度算出手段によって算出された燃料蒸発速度と上記燃料酸化速度算出手段によって算出された燃料酸化速度とが乖離している状態から、これら両者が一致する状態となった時点を混合気の拡散燃焼開始時期として推定する。
この特定事項により、上記燃料蒸発速度算出手段によって算出された燃料蒸発速度と上記燃料酸化速度算出手段によって算出された燃料酸化速度とが乖離している状態から、これら両者が一致する状態となった時点が混合気の拡散燃焼開始時期であると推定され、この推定された拡散燃焼開始時期が適正に得られているか否かを高い精度で検証することが可能になる。つまり、従来の如く予混合燃焼の着火時期の制御によって混合気の燃焼開始時期の適正化を図る場合、燃焼室内の温度、圧力、酸素濃度等の状態量によって予混合燃焼の着火時期や燃焼量(発生熱量)が大きく変動してしまい、その着火時期を適正に制御することが難しく、燃焼安定性や排気エミッションの面で制御性に限界があった。これに対し、本解決手段によれば、排気エミッションを大きく左右する拡散燃焼の開始時期を直接的に推定し、これに対する補正動作が可能になるため、制御性が改善され、排気エミッションの改善を図ることができる。更には、燃料蒸発速度を、予め規定された基準蒸発速度に対して環境条件や運転条件に応じた補正を行うことによって算出し、燃料酸化速度を、予め規定された基準酸化速度に対して環境条件や運転条件に応じた補正を行うことによって算出するようにしている。つまり、これら基準蒸発速度及び基準酸化速度を内燃機関の実験段階において取得することが可能であるため、これら基準蒸発速度及び基準酸化速度を取得するためのセンサ類(例えば筒内圧センサ)を内燃機関(実機)に搭載しておく必要がなくなり、内燃機関の構成の簡素化及びコストの低廉化を図ることができる。
上記燃料蒸発速度算出手段の構成として具体的には、筒内を基準圧力及び基準温度と仮定して作成したクランク角度毎の燃料蒸発速度を表す燃料蒸発速度定常マップのマップ値に対して、実際の筒内圧力及び筒内温度に応じた補正係数を乗算することにより燃料蒸発速度を算出するようにしている。
また、上記燃料酸化速度算出手段の構成として具体的には、筒内を基準圧力、基準温度及び基準酸素濃度と仮定して作成したクランク角度毎の燃料酸化速度を表す燃料酸化速度定常マップのマップ値に対して、実際の筒内圧力、筒内温度及び筒内酸素濃度に応じた補正係数を乗算することにより燃料酸化速度を算出するようにしている。
これらの特定事項により、実際の燃料蒸発速度及び燃料酸化速度を高い精度で算出でき、推定される拡散燃焼開始時期も高い精度で得ることが可能になる。また、マップから読み出したマップ値に対して補正係数を乗算するといった比較的簡素な演算により燃料蒸発速度や燃料酸化速度を算出できるため、これらの算出タイミング(算出タイミング間のインターバル)の短縮化を図ることができて、これによっても高い精度での拡散燃焼開始時期の推定が可能になる。
上記燃料酸化速度定常マップは、上記燃料噴射弁から燃焼室内に燃料が噴射された時点での燃料蒸発速度を「0」とし、燃焼行程における筒内圧力変化に基づいて規定した拡散燃焼開始時期での蒸発速度定常マップ上の燃料蒸発速度に等しい燃料酸化速度まで、上記燃料が噴射された時点から燃料酸化速度が一定加速度で上昇していくと仮定した直線近似により作成されたものである。
これによれば、実際にはクランク角度が進むに従って加速度が変化していく燃料酸化速度を直線近似して(一定の加速度で燃料が酸化していくと扱うようにして)燃料酸化速度定常マップを作成することにより、燃料酸化速度定常マップの作成が容易になる。
上述した各解決手段のうち何れか一つの内燃機関の拡散燃焼開始時期推定装置によって推定される拡散燃焼開始時期を制御する拡散燃焼開始時期制御装置の構成としては以下のものが挙げられる。つまり、目標とする拡散燃焼開始時期に対して上記推定された拡散燃焼開始時期の偏差を算出し、この偏差に基づき、上記推定される拡散燃焼開始時期が目標とする拡散燃焼開始時期に一致するように拡散燃焼開始時期の補正動作を行う拡散燃焼開始時期補正手段を備えさせたものである。
この拡散燃焼開始時期補正手段の構成として具体的には、燃焼室内に噴射された燃料の蒸発速度を可変とする制御パラメータを変更することにより拡散燃焼開始時期の補正動作を行うようにしている。または、上記目標とする拡散燃焼開始時期が得られる目標燃料蒸発速度と、上記推定された拡散燃焼開始時期に対応する実燃料蒸発速度との偏差に応じて、燃料の蒸発速度を可変とする制御パラメータを変更することにより拡散燃焼開始時期の補正動作を行うようにしている。
より具体的には、燃焼室内に噴射された燃料の蒸発速度を可変とする制御パラメータは燃料噴射圧力であって、目標とする拡散燃焼開始時期に対して上記推定された拡散燃焼開始時期が進角側にある場合、その偏差が大きいほど燃料噴射圧力を高く設定するものである。または、上記目標燃料蒸発速度に対して上記実燃料蒸発速度が低い場合、その偏差が大きいほど燃料噴射圧力を高く設定するものである。
燃料噴射圧力を高く設定した場合、燃料噴射弁から噴射される燃料の粒径は小さくなり、その結果、燃料蒸発速度は上昇することになる。このため、目標とする拡散燃焼開始時期に対して上記推定された拡散燃焼開始時期が進角側にある場合には、その偏差が大きいほど燃料噴射圧力を高く設定して燃料蒸発速度を高め、燃料酸化速度が燃料蒸発速度に達するタイミングを遅角側に移行させる。これにより、拡散燃焼開始時期を目標とする拡散燃焼開始時期に近付けることが可能になる。
また、燃焼室内に噴射された燃料の蒸発速度を可変とする制御パラメータとしては、燃焼室内におけるスワール流速も挙げられる。この場合、目標とする拡散燃焼開始時期に対して上記推定された拡散燃焼開始時期が進角側にある場合、その偏差が大きいほどスワール流速を高く設定するようにする。または、上記目標燃料蒸発速度に対して上記実燃料蒸発速度が低い場合、その偏差が大きいほどスワール流速を高く設定するようにする。
スワール流速を高く設定した場合、燃焼室内での燃料蒸発速度は上昇することになる。このため、目標とする拡散燃焼開始時期に対して上記推定された拡散燃焼開始時期が進角側にある場合には、その偏差が大きいほどスワール流速を高く設定して燃料蒸発速度を高め、燃料酸化速度が燃料蒸発速度に達するタイミングを遅角側に移行させる。これにより、拡散燃焼開始時期を目標とする拡散燃焼開始時期に近付けることが可能になる。
また、上記燃焼室内に噴射された燃料の蒸発速度を可変とする制御パラメータとして燃料噴射圧力及びスワール流速を併用する場合の動作として具体的には、目標とする拡散燃焼開始時期に対して上記推定された拡散燃焼開始時期が進角側にある場合、その偏差が大きいほど燃料噴射圧力を高く設定し、この燃料噴射圧力を補正限界まで補正しても目標とする拡散燃焼開始時期に対して上記推定された拡散燃焼開始時期が進角側にある場合には、その偏差が大きいほどスワール流速を高く設定するようにする。または、上記目標燃料蒸発速度に対して上記実燃料蒸発速度が低い場合、その偏差が大きいほど燃料噴射圧力を高く設定し、この燃料噴射圧力を補正限界まで補正しても目標燃料蒸発速度に対して実燃料蒸発速度が低い場合には、その偏差が大きいほどスワール流速を高く設定するようにする。
このようにして複数の制御パラメータにより燃料蒸発速度を可変とすることで拡散燃焼開始時期の制御可能範囲が拡大し、目標とする拡散燃焼開始時期を得ることができる。
上記燃焼室内に噴射された燃料の蒸発速度を可変とする制御パラメータとしては吸気バルブのバルブタイミングとしてもよい。この場合、目標とする拡散燃焼開始時期に対して上記推定された拡散燃焼開始時期が進角側にある場合、その偏差が大きいほど吸気バルブが開放するバルブタイミングを遅角側に設定することになる。または、上記目標燃料蒸発速度に対して上記実燃料蒸発速度が低い場合、その偏差が大きいほど吸気バルブが開放するバルブタイミングを遅角側に設定することになる。
本発明では、燃焼室内に噴射された燃料の蒸発速度及び酸化速度を算出し、これら燃料蒸発速度と燃料酸化速度とが一致した時点、つまり、燃料酸化速度が燃料蒸発速度に追い付いた時点を拡散燃焼の開始時期であると推定するようにしている。また、この推定された拡散燃焼開始時期が適正時期から乖離している場合には、その拡散燃焼開始時期を適正時期に一致させるような制御を行うようにしている。このため、排気エミッションを大きく左右する拡散燃焼の開始時期を直接的に推定し、これに対する補正動作が可能になるため、制御性が改善され、排気エミッションの改善を図ることができる。
図1は、実施形態に係るエンジン及びその制御系統の概略構成を示す図である。 図2は、ディーゼルエンジンの燃焼室及びその周辺部を示す断面図である。 図3は、ECU等の制御系の構成を示すブロック図である。 図4は、燃焼室内での燃焼形態の概略を説明するための吸排気系及び燃焼室の模式図である。 図5は、燃料噴射時における燃焼室及びその周辺部を示す断面図である。 図6は、燃料噴射時における燃焼室の平面図である。 図7は、膨張行程時の熱発生率(クランクシャフトの単位回転角度当たりの熱発生量)の変化及び燃料噴射率(クランクシャフトの単位回転角度当たりの燃料噴射量)の変化をそれぞれ示す波形図である。 図8は、拡散燃焼開始時期推定動作の手順を示すフローチャート図である。 図9は、インジェクタから噴射された燃料の蒸発状態及び各燃料状態領域の変化を説明するための図である。 図10(a)は、燃料蒸発速度マップ上における拡散燃焼開始時期を示す図であり、図10(b)は、拡散燃焼開始時期と、燃料蒸発速度及び燃料酸化速度との関係を示す図である。 図11は、燃料酸化速度を算出するための補正係数を求めるマップであって、図11(a)は温度補正係数マップ、図11(b)は圧力補正係数マップ、図11(c)は酸素濃度補正係数マップを示す図である。 図12(a)は、燃料蒸発速度が基準蒸発速度よりも低い場合における、エンジンのクランク角度と、燃料蒸発速度及び燃料酸化速度との関係を示す図であり、図12(b)は、燃料蒸発速度が基準蒸発速度よりも高い場合における、エンジンのクランク角度と、燃料蒸発速度及び燃料酸化速度との関係を示す図である。 図13は、拡散燃焼開始時期制御動作の手順を示すフローチャート図である。 図14は、実燃料蒸発速度が目標燃料蒸発速度に対して乖離している場合における拡散燃焼開始時期と、燃料蒸発速度及び燃料酸化速度との関係を示す図である。 図15は、スワール量とスワールコントロールバルブ操作量との関係を示す操作量設定マップを示す図である。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車に搭載されたコモンレール式筒内直噴型多気筒(例えば直列4気筒)ディーゼルエンジン(圧縮自着火式内燃機関)に本発明を適用した場合について説明する。
−エンジンの構成−
先ず、本実施形態に係るディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)の概略構成について説明する。図1は本実施形態に係るエンジン1及びその制御系統の概略構成図である。また、図2は、ディーゼルエンジンの燃焼室3及びその周辺部を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るエンジン1は、燃料供給系2、燃焼室3、吸気系6、排気系7等を主要部とするディーゼルエンジンシステムとして構成されている。
燃料供給系2は、サプライポンプ21、コモンレール22、インジェクタ(燃料噴射弁)23、遮断弁24、燃料添加弁26、機関燃料通路27、添加燃料通路28等を備えて構成されている。
上記サプライポンプ21は、燃料タンクから燃料を汲み上げ、この汲み上げた燃料を高圧にした後、機関燃料通路27を介してコモンレール22に供給する。コモンレール22は、サプライポンプ21から供給された高圧燃料を所定圧力に保持(蓄圧)する蓄圧室としての機能を有し、この蓄圧した燃料を各インジェクタ23に分配する。インジェクタ23は、その内部に圧電素子(ピエゾ素子)を備え、適宜開弁して燃焼室3内に燃料を噴射供給するピエゾインジェクタにより構成されている。このインジェクタ23からの燃料噴射制御の詳細については後述する。
また、上記サプライポンプ21は、燃料タンクから汲み上げた燃料の一部を、添加燃料通路28を介して燃料添加弁26に供給する。添加燃料通路28には、緊急時において添加燃料通路28を遮断して燃料添加を停止するための上記遮断弁24が備えられている。
また、上記燃料添加弁26は、ECU100による添加制御動作によって排気系7への燃料添加量が目標添加量(排気A/Fが目標A/Fとなるような添加量)となるように、また、燃料添加タイミングが所定タイミングとなるように開弁時期が制御される電子制御式の開閉弁により構成されている。つまり、この燃料添加弁26から所望の燃料が適宜のタイミングで排気系7(排気ポート71から排気マニホールド72)に噴射供給される構成となっている。
吸気系6は、シリンダヘッド15(図2参照)に形成された吸気ポート15aに接続される吸気マニホールド63を備え、この吸気マニホールド63に、吸気通路を構成する吸気管64が接続されている。また、この吸気通路には、上流側から順にエアクリーナ65、エアフローメータ43、スロットルバルブ(吸気絞り弁)62が配設されている。上記エアフローメータ43は、エアクリーナ65を介して吸気通路に流入される空気量に応じた電気信号を出力するようになっている。
また、この吸気系6には、燃焼室3内でのスワール流(水平方向の旋回流)を可変とするためのスワールコントロールバルブ66が備えられている(図2参照)。具体的に、上記吸気ポート15aとしては、ノーマルポート及びスワールポートの2系統が各気筒毎に備えられており、そのうち図2に示されているノーマルポート15aに、開度調整可能なバタフライバルブで成るスワールコントロールバルブ66が配置されている。このスワールコントロールバルブ66には図示しないアクチュエータが連繋されており、このアクチュエータの駆動によって調整されるスワールコントロールバルブ66の開度に応じてノーマルポート15aを通過する空気の流量が変更できるようになっている。そして、スワールコントロールバルブ66の開度が大きいほど、ノーマルポート15aから気筒内に吸入される空気量が増加する。このため、スワールポート(図2では図示省略)により発生したスワールは相対的に弱まり、気筒内は低スワール(スワール流速が低い状態)となる。逆に、スワールコントロールバルブ66の開度が小さいほど、ノーマルポート15aから気筒内に吸入される空気量が減少する。このため、スワールポートにより発生したスワールは相対的に強められ、気筒内は高スワール(スワール流速が高い状態)となる。
排気系7は、シリンダヘッド15に形成された上記排気ポート71に接続される排気マニホールド72を備え、この排気マニホールド72に対して、排気通路を構成する排気管73,74が接続されている。また、この排気通路には、NOx吸蔵触媒(NSR触媒:NOx Storage Reduction触媒)75及びDPNR触媒(Diesel Paticulate−NOx Reduction触媒)76を備えたマニバータ(排気浄化装置)77が配設されている。以下、これらNSR触媒75及びDPNR触媒76について説明する。
NSR触媒75は、吸蔵還元型NOx触媒であって、例えばアルミナ(Al2O3)を担体とし、この担体上に例えばカリウム(K)、ナトリウム(Na)、リチウム(Li)、セシウム(Cs)のようなアルカリ金属、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)のようなアルカリ土類、ランタン(La)、イットリウム(Y)のような希土類と、白金(Pt)のような貴金属とが担持された構成となっている。
このNSR触媒75は、排気中に多量の酸素が存在している状態においてはNOxを吸蔵し、排気中の酸素濃度が低く、かつ還元成分(例えば燃料の未燃成分(HC))が多量に存在している状態においてはNOxをNO2若しくはNOに還元して放出する。NO2やNOとして放出されたNOxは、排気中のHCやCOと速やかに反応することによってさらに還元されてN2となる。また、HCやCOは、NO2やNOを還元することで、自身は酸化されてH2OやCO2となる。即ち、NSR触媒75に導入される排気中の酸素濃度やHC成分を適宜調整することにより、排気中のHC、CO、NOxを浄化することができるようになっている。本実施形態のものでは、この排気中の酸素濃度やHC成分の調整を上記燃料添加弁26からの燃料添加動作によって行うことが可能となっている。
一方、DPNR触媒76は、例えば多孔質セラミック構造体にNOx吸蔵還元型触媒を担持させたものであり、排気ガス中のPMは多孔質の壁を通過する際に捕集される。また、排気ガスの空燃比がリーンの場合、排気ガス中のNOxはNOx吸蔵還元型触媒に吸蔵され、空燃比がリッチになると、吸蔵したNOxは還元・放出される。さらに、DPNR触媒76には、捕集したPMを酸化・燃焼する触媒(例えば白金等の貴金属を主成分とする酸化触媒)が担持されている。
ここで、ディーゼルエンジンの燃焼室3及びその周辺部の構成について、図2を用いて説明する。この図2に示すように、エンジン本体の一部を構成するシリンダブロック11には、各気筒(4気筒)毎に円筒状のシリンダボア12が形成されており、各シリンダボア12の内部にはピストン13が上下方向に摺動可能に収容されている。
ピストン13の頂面13aの上側には上記燃焼室3が形成されている。つまり、この燃焼室3は、シリンダブロック11の上部にガスケット14を介して取り付けられたシリンダヘッド15の下面と、シリンダボア12の内壁面と、ピストン13の頂面13aとにより区画形成されている。そして、ピストン13の頂面13aの略中央部には、キャビティ(凹陥部)13bが凹設されており、このキャビティ13bも燃焼室3の一部を構成している。
尚、このキャビティ13bの形状としては、その中央部分(シリンダ中心線P上)では凹陥寸法が小さく、外周側に向かうに従って凹陥寸法が大きくなっている。つまり、図2に示すようにピストン13が圧縮上死点付近にある際、このキャビティ13bによって形成される燃焼室3としては、中央部分では比較的容積の小さい狭小空間とされ、外周側に向かって次第に空間が拡大される(拡大空間とされる)構成となっている。
上記ピストン13は、コネクティングロッド18の小端部18aがピストンピン13cにより連結されており、このコネクティングロッド18の大端部はエンジン出力軸であるクランクシャフトに連結されている。これにより、シリンダボア12内でのピストン13の往復移動がコネクティングロッド18を介してクランクシャフトに伝達され、このクランクシャフトが回転することでエンジン出力が得られるようになっている。また、燃焼室3に向けてグロープラグ19が配設されている。このグロープラグ19は、エンジン1の始動直前に電流が流されることにより赤熱し、これに燃料噴霧の一部が吹きつけられることで着火・燃焼が促進される始動補助装置として機能する。
上記シリンダヘッド15には、燃焼室3へ空気を導入する上記吸気ポート15aと、燃焼室3から排気ガスを排出する上記排気ポート71とがそれぞれ形成されていると共に、吸気ポート15aを開閉する吸気バルブ16及び排気ポート71を開閉する排気バルブ17が配設されている。これら吸気バルブ16及び排気バルブ17はシリンダ中心線Pを挟んで対向配置されている。つまり、本エンジン1はクロスフロータイプとして構成されている。また、シリンダヘッド15には、燃焼室3の内部へ直接的に燃料を噴射する上記インジェクタ23が取り付けられている。このインジェクタ23は、シリンダ中心線Pに沿う起立姿勢で燃焼室3の略中央上部に配設されており、上記コモンレール22から導入される燃料を燃焼室3に向けて所定のタイミングで噴射するようになっている。
更に、図1に示す如く、このエンジン1には、過給機(ターボチャージャ)5が設けられている。このターボチャージャ5は、タービンシャフト51を介して連結されたタービンホイール52及びコンプレッサホイール53を備えている。コンプレッサホイール53は吸気管64内部に臨んで配置され、タービンホイール52は排気管73内部に臨んで配置されている。このためターボチャージャ5は、タービンホイール52が受ける排気流(排気圧)を利用してコンプレッサホイール53を回転させ、吸気圧を高めるといった所謂過給動作を行うようになっている。本実施形態におけるターボチャージャ5は、可変ノズル式ターボチャージャであって、タービンホイール52側に可変ノズルベーン機構(図示省略)が設けられており、この可変ノズルベーン機構の開度を調整することにより、エンジン1の過給圧を調整することができる。
吸気系6の吸気管64には、ターボチャージャ5での過給によって昇温した吸入空気を強制冷却するためのインタークーラ61が設けられている。
このインタークーラ61よりも更に下流側に設けられた上記スロットルバルブ62は、その開度を無段階に調整することができる電子制御式の開閉弁であり、所定の条件下において吸入空気の流路面積を絞り、この吸入空気の供給量を調整(低減)する機能を有している。
また、エンジン1には、吸気系6と排気系7とを接続する排気還流通路(EGR通路)8が設けられている。このEGR通路8は、排気の一部を適宜吸気系6に還流させて燃焼室3へ再度供給することにより燃焼温度を低下させ、これによってNOx発生量を低減させるものである。また、このEGR通路8には、電子制御によって無段階に開閉され、同通路を流れる排気流量を自在に調整することができるEGRバルブ81と、EGR通路8を通過(還流)する排気を冷却するためのEGRクーラ82とが設けられている。これらEGR通路8、EGRバルブ81、EGRクーラ82等によってEGR装置(排気還流装置)が構成されている。
−センサ類−
エンジン1の各部位には、各種センサが取り付けられており、それぞれの部位の環境条件や、エンジン1の運転状態に関する信号を出力する。
例えば、上記エアフローメータ43は、吸気系6内のスロットルバルブ62上流において吸入空気の流量(吸入空気量)に応じた検出信号を出力する。吸気温センサ49は、吸気マニホールド63に配置され、吸入空気の温度に応じた検出信号を出力する。吸気圧センサ48は、吸気マニホールド63に配置され、吸入空気圧力に応じた検出信号を出力する。A/F(空燃比)センサ44は、排気系7のマニバータ77の下流において排気中の酸素濃度に応じて連続的に変化する検出信号を出力する。排気温センサ45は、同じく排気系7のマニバータ77の下流において排気ガスの温度(排気温度)に応じた検出信号を出力する。レール圧センサ41はコモンレール22内に蓄えられている燃料の圧力に応じた検出信号を出力する。スロットル開度センサ42はスロットルバルブ62の開度を検出する。
−ECU−
ECU100は、図3に示すように、CPU101、ROM102、RAM103及びバックアップRAM104などを備えている。ROM102は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU101は、ROM102に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて各種の演算処理を実行する。RAM103は、CPU101での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。バックアップRAM104は、例えばエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
以上のCPU101、ROM102、RAM103及びバックアップRAM104は、バス107を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース105及び出力インターフェース106と接続されている。
入力インターフェース105には、上記レール圧センサ41、スロットル開度センサ42、エアフローメータ43、A/Fセンサ44、排気温センサ45、吸気圧センサ48、吸気温センサ49が接続されている。さらに、この入力インターフェース105には、エンジン1の冷却水温に応じた検出信号を出力する水温センサ46、アクセルペダルの踏み込み量に応じた検出信号を出力するアクセル開度センサ47、及び、エンジン1の出力軸(クランクシャフト)が一定角度回転する毎に検出信号(パルス)を出力するクランクポジションセンサ40などが接続されている。
一方、出力インターフェース106には、上記サプライポンプ21、インジェクタ23、燃料添加弁26、スロットルバルブ62、スワールコントロールバルブ66、及び、EGRバルブ81などが接続されている。また、出力インターフェース106には、その他に、上記ターボチャージャ5の可変ノズルベーン機構に備えられたアクチュエータ(図示省略)も接続されている。
そして、ECU100は、上記した各種センサからの出力、その出力値を利用する演算式により求められた演算値、または、上記ROM102に記憶された各種マップに基づいて、エンジン1の各種制御を実行する。
例えば、ECU100は、インジェクタ23の燃料噴射制御として、パイロット噴射(副噴射)とメイン噴射(主噴射)とを実行する。
上記パイロット噴射は、インジェクタ23からのメイン噴射に先立ち、予め少量の燃料を噴射する動作である。また、このパイロット噴射は、メイン噴射による燃料の着火遅れを抑制し、安定した拡散燃焼に導くための噴射動作であって、副噴射とも呼ばれる。また、本実施形態におけるパイロット噴射は、上述したメイン噴射による初期燃焼速度を抑制する機能ばかりでなく、気筒内温度を高める予熱機能をも有するものとなっている。つまり、このパイロット噴射の実行後、燃料噴射を一旦中断し、メイン噴射が開始されるまでの間に圧縮ガス温度(気筒内温度)を十分に高めて燃料の自着火温度(例えば1000K)に到達させるようにし、これによってメイン噴射で噴射される燃料の着火性を良好に確保するようにしている。
上記メイン噴射は、エンジン1のトルク発生のための噴射動作(トルク発生用燃料の供給動作)である。このメイン噴射での噴射量は、基本的には、エンジン回転数、アクセル操作量、冷却水温度、吸気温度等の運転状態に応じ、要求トルクが得られるように決定される。例えば、エンジン回転数(クランクポジションセンサ40の検出値に基づいて算出されるエンジン回転数)が高いほど、また、アクセル操作量(アクセル開度センサ47により検出されるアクセルペダルの踏み込み量)が大きいほど(アクセル開度が大きいほど)エンジン1のトルク要求値としては高く得られ、それに応じてメイン噴射での燃料噴射量としても多く設定されることになる。
尚、上述したパイロット噴射及びメイン噴射の他に、アフタ噴射やポスト噴射が必要に応じて行われる。アフタ噴射は、排気ガス温度を上昇させるための噴射動作である。具体的には、供給された燃料の燃焼エネルギがエンジン1のトルクに変換されることなく、その大部分が排気の熱エネルギとして得られるタイミングでアフタ噴射は実行される。また、ポスト噴射は、排気系7に燃料を直接的に導入して上記マニバータ77の昇温を図るための噴射動作である。例えば、DPNR触媒76に捕集されているPMの堆積量が所定量を超えた場合(例えばマニバータ77の前後の差圧を検出することにより検知)、ポスト噴射が実行されるようになっている。
また、ECU100は、エンジン1の運転状態に応じてEGRバルブ81の開度を制御し、吸気マニホールド63に向けての排気還流量(EGR量)を調整する。このEGR量は、上記ROM102に予め記憶されたEGRマップに従って設定される。具体的に、このEGRマップは、エンジン回転数及びエンジン負荷をパラメータとしてEGR量(EGR率)を決定するためのマップである。尚、このEGRマップは、予め実験やシミュレーション等によって作成されたものとなっている。つまり、上記クランクポジションセンサ40の検出値に基づいて算出されたエンジン回転数及びスロットル開度センサ42によって検出されたスロットルバルブ62の開度(エンジン負荷に相当)とをEGRマップに当て嵌めることでEGR量(EGRバルブ81の開度)が得られるようになっている。
更に、ECU100は、上記スワールコントロールバルブ66の開度制御を実行する。このスワールコントロールバルブ66の開度制御としては、燃焼室3内に噴射された燃料の噴霧の単位時間当たり(または単位クランク回転角度当たり)における気筒内の周方向の移動量を変更するように行われる。
また、後述するように、燃料蒸発速度制御の実行時にもスワールコントロールバルブ66の開度は変更される。この燃料蒸発速度制御におけるスワールコントロールバルブ66の開度制御の詳細については後述する。
−燃料噴射圧−
燃料噴射を実行する際の燃料噴射圧は、コモンレール22の内圧により決定される。このコモンレール内圧として、一般に、コモンレール22からインジェクタ23へ供給される燃料圧力の目標値、即ち目標レール圧は、エンジン負荷(機関負荷)が高くなるほど、及び、エンジン回転数(機関回転数)が高くなるほど高いものとされる。即ち、エンジン負荷が高い場合には燃焼室3内に吸入される空気量が多いため、インジェクタ23から燃焼室3内に向けて多量の燃料を噴射しなければならず、よってインジェクタ23からの噴射圧力を高いものとする必要がある。また、エンジン回転数が高い場合には噴射可能な期間が短いため、単位時間当たりに噴射される燃料量を多くしなければならず、よってインジェクタ23からの噴射圧力を高いものとする必要がある。このように、目標レール圧は一般にエンジン負荷及びエンジン回転数に基づいて設定される。尚、この目標レール圧は例えば上記ROM102に記憶された燃圧設定マップに従って設定される。つまり、この燃圧設定マップに従って燃料圧力を決定することで、インジェクタ23の開弁期間(噴射率波形)が制御され、その開弁期間中における燃料噴射量を規定することが可能になる。
また、後述するように、燃料蒸発速度制御の実行時には目標とする燃料蒸発速度に応じて目標レール圧が変更される。この燃料蒸発速度制御における目標レール圧の変更動作の詳細については後述する。
尚、本実施形態では、エンジン負荷等に応じて燃料圧力が30MPa〜200MPaの間で調整されるようになっている。つまり、燃料圧力の制御範囲として、下限値が30MPaであり、上限値が200MPaとなっている。
上記パイロット噴射やメイン噴射などの燃料噴射パラメータについて、その最適値はエンジン1や吸入空気等の温度条件によって異なるものとなる。
例えば、上記ECU100は、コモンレール圧がエンジン運転状態に基づいて設定される目標レール圧と等しくなるように、即ち燃料噴射圧が目標噴射圧と一致するように、サプライポンプ21の燃料吐出量を調量する。また、ECU100はエンジン運転状態に基づいて燃料噴射量及び燃料噴射形態を決定する。具体的には、ECU100は、クランクポジションセンサ40の検出値に基づいてエンジン回転速度を算出するとともに、アクセル開度センサ47の検出値に基づいてアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を求め、このエンジン回転速度及びアクセル開度に基づいて総燃料噴射量(パイロット噴射での噴射量とメイン噴射での噴射量との和)を決定する。
−燃焼形態の概略説明−
次に、本実施形態に係るエンジン1における燃焼室3内での燃焼形態の概略について説明する。
図4は、エンジン1の一つの気筒に対して吸気マニホールド63及び吸気ポート15aを経てガス(空気)が吸入され、燃焼室3内へインジェクタ23からの燃料噴射によって燃焼が行われると共に、その燃焼後のガスが排気ポート71を経て排気マニホールド72へ排出される様子を模式的に示した図である。
この図4に示すように、気筒内に吸入されるガスには、吸気管64からスロットルバルブ62を介して吸入された新気と、上記EGRバルブ81が開弁された場合にEGR通路8から吸入されるEGRガスとが含まれる。吸入される新気量(質量)と吸入されるEGRガス量(質量)との和に対するEGRガス量の割合(即ち、EGR率)は、運転状態に応じて上記ECU100により適宜制御されるEGRバルブ81の開度に応じて変化する。
このようにして気筒内に吸入された新気及びEGRガスは、吸気行程において開弁している吸気バルブ16を介し、ピストン13(図4では図示省略)の下降に伴って気筒内に吸入されて筒内ガスとなる。この筒内ガスは、エンジン1の運転状態に応じて決定されるバルブ閉弁時にて吸気バルブ16が閉弁することにより筒内に密閉され(筒内ガスの閉じ込め状態)、その後の圧縮行程においてピストン13の上昇に伴って圧縮される。そして、ピストン13が上死点近傍に達すると、上述したECU100による噴射量制御によって所定時間だけインジェクタ23が開弁されることで燃料を燃焼室3内に直接噴射する。具体的には、ピストン13が上死点に達する前に上記パイロット噴射が実行され、燃料噴射が一旦停止された後、所定のインターバルを経て、ピストン13が上死点近傍に達した時点で上記メイン噴射が実行されることになる。
図5は、この燃料噴射時における燃焼室3及びその周辺部を示す断面図であり、図6は、この燃料噴射時における燃焼室3の平面図(ピストン13の上面を示す図)である。図6に示すように、本実施形態に係るエンジン1のインジェクタ23には、周方向に亘って等間隔に8個の噴孔が設けられており、これら噴孔からそれぞれ均等に燃料が噴射されるようになっている。尚、この噴孔数としては8個に限るものではない。
そして、この各噴孔から噴射された燃料の噴霧A,A,…は略円錐状に拡散していく。また、各噴孔からの燃料噴射(特に、メイン噴射)は、ピストン13が圧縮上死点近傍に達した時点で行われるため、図5に示すように、各燃料の噴霧A,A,…は上記キャビティ13b内で拡散していくことになる。
このように、インジェクタ23に形成されている各噴孔から噴射された燃料の噴霧A,A,…は、時間の経過に伴って筒内ガスと混ざり合いながら混合気となって筒内においてそれぞれ円錐状に拡散していき、自己着火によって燃焼する。つまり、この各燃料の噴霧A,A,…は、それぞれ筒内ガスと共に略円錐状の燃焼場を形成し、その燃焼場(本実施形態では8箇所の燃焼場)でそれぞれ燃焼が開始されることになる。
そして、この燃焼により発生したエネルギは、ピストン13を下死点に向かって押し下げるための運動エネルギ(エンジン出力となるエネルギ)、燃焼室3内を温度上昇させる熱エネルギ、シリンダブロック11やシリンダヘッド15を経て外部(例えば冷却水)に放熱される熱エネルギとなる。
そして、燃焼後の筒内ガスは、排気行程において開弁する排気バルブ17を介し、ピストン13の上昇に伴って排気ポート71及び排気マニホールド72へ排出されて排ガスとなる。
−熱発生率波形−
ディーゼルエンジン1においては、NOx発生量を削減することによる排気エミッションの改善、燃焼行程時の燃焼音の低減、エンジントルクの十分な確保といった各要求を連立することが重要である。これら要求を連立するための手法として、燃焼行程時における気筒内での熱発生率の変化状態(熱発生率波形で表される変化状態)を適切にコントロールすることが有効である。
図7の上段に示す波形は、横軸をクランク角度、縦軸を熱発生率とし、パイロット噴射及びメイン噴射それぞれで噴射された燃料の燃焼に係る理想的な熱発生率波形(Euro6に代表されるような高い排気エミッション規制に対応可能な熱発生率波形)を示している。図中のTDCはピストン13の圧縮上死点に対応したクランク角度位置を示している。また、図7の下段に示す波形は、インジェクタ23から噴射される燃料の噴射率(クランクシャフトの単位回転角度当たりの燃料噴射量)波形を示している。
これら熱発生率波形及び燃料噴射率波形に示すように、本実施形態では、高い排気エミッション規制に対応するために、パイロット噴射量を比較的多く設定して(例えば、パイロット噴射での噴射量とメイン噴射での噴射量との和である総燃料噴射量に対してパイロット噴射での噴射量を30%程度に設定して)予混合燃焼量を増大させ且つEGR率を高く設定することで燃焼温度を低く抑えてNOxの発生量を抑制できるようにしている。
尚、この図7に示す熱発生率波形は、熱発生率の変化の理解を容易にするために、メイン噴射で噴射された燃料の燃焼(拡散燃焼)がピストン13の圧縮上死点(TDC)において開始された場合を例示している。尚、この図7における二点鎖線はパイロット噴射で噴射された燃料の燃焼による熱発生率の変化の一部(パイロット噴射による熱発生率波形の後半部分)を示している。また、一点鎖線はメイン噴射で噴射された燃料の燃焼による熱発生率の変化の一部(メイン噴射による熱発生率波形の前半部分)を示している。つまり、この一点鎖線で示す熱発生率波形の基端部(熱発生率「0」であるクランク角度軸との交点)が拡散燃焼開始時期となっている。
この図7に示す熱発生率波形では、ピストン13の圧縮上死点後の所定ピストン位置(例えば、圧縮上死点後10度(ATDC10°)の時点)で熱発生率が極大値(ピーク値)に達し、更に、圧縮上死点後の所定ピストン位置(例えば、圧縮上死点後25度(ATDC25°)の時点)で上記メイン噴射において噴射された燃料の燃焼が終了するようになっている。このような熱発生率の変化状態で混合気の燃焼を行わせるようにすれば、高い熱効率でエンジン1を運転させることが可能となる。これら値はこれに限定されるものではなく、適宜設定可能である。
尚、上記パイロット噴射で噴射された燃料の燃焼ではピストン13の圧縮上死点(TDC)において所定量(例えば30[J/°CA])の熱発生率となっており、これにより、メイン噴射の噴射タイミングにあっては、燃焼室内温度が混合気の着火可能温度(例えば1000K)以上に達しており、メイン噴射で噴射された燃料の安定した拡散燃焼が実現されることになる。これらの値も、これに限定されるものではない。また、複数回のパイロット噴射を行う場合もあり、この場合には気筒内温度をよりいっそう高めてメイン噴射で噴射される燃料の着火性を良好に確保することができる。
以上のようにして本実施形態では、パイロット噴射によって気筒内の予熱が十分に行われる。この予熱により、メイン噴射が開始された場合、このメイン噴射で噴射された燃料は、その噴射後に自着火温度以上の温度環境下に晒されて熱分解が進み、拡散燃焼が開始されることになる。
−拡散燃焼開始時期の推定動作−
次に、本実施形態の特徴の一つである拡散燃焼開始時期の推定動作について説明する。この拡散燃焼開始時期の推定動作は、上記メイン噴射で噴射された燃料により生成された混合気による燃焼状態が所謂低温酸化反応の燃焼状態(燃料蒸発速度に比べて燃料酸化速度が低い状態での燃焼)から拡散燃焼状態に移行したタイミング(そのタイミングでのクランクシャフトの回転角度位置)を推定するものである。
この拡散燃焼開始時期の推定動作の手順の概略について図8のフローチャートを用いて説明する。このフローチャートに示す拡散燃焼開始時期の推定動作は、燃焼行程を迎えた気筒でのメイン噴射が開始されることで実行され、その気筒での拡散燃焼開始時期の情報が取得されるまで(拡散燃焼開始時期の推定が完了するまで)図8のルーチンを繰り返し、拡散燃焼開始時期の情報が取得された時点で一旦終了する(対象としていた気筒の拡散燃焼開始時期の推定動作については終了する)。その後、次に燃焼行程を迎える気筒でのメイン噴射が開始されることで、その気筒での拡散燃焼開始時期の推定を行い、拡散燃焼開始時期の情報が取得されるまで上記ルーチンを再び繰り返し、拡散燃焼開始時期の情報が取得された時点で、その気筒に対する拡散燃焼開始時期の推定動作については終了する。このような動作を燃焼行程を迎えた気筒に対して順次行っていくことで、各燃焼行程毎に拡散燃焼開始時期が推定されることになる。以下、具体的な動作手順について説明する。
先ず、クランクシャフトの回転に伴い、そのクランク角度位置(ピストン13の圧縮上死点に対応するクランク角度を「0°CA」としたクランク角度位置)が拡散燃焼開始時期推定動作の実行位置に達したか否かを判定する(ステップST1)。この実行位置は、例えば、インジェクタ23からメイン噴射が噴射された時点でのクランク角度位置、及び、そのクランク角度位置から所定回転角度(例えば1°CA)だけ進んだクランク角度位置毎に設定されている。つまり、メイン噴射が噴射されてからクランク角度が所定回転角度だけ進む毎にステップST1でYES判定され、拡散燃焼開始時期の情報が取得されるまで(後述するステップST4でYES判定されて拡散燃焼開始時期が推定されるまで)、そのルーチンを繰り返すことになる。尚、クランク角度位置が上記拡散燃焼開始時期推定動作の実行位置に達したか否かの判定動作として具体的には、現在のエンジン回転数(メイン噴射が実行される直前に求められたエンジン回転数)に基づいてクランク角度が所定回転角度(例えば1°CA)だけ進むのに要する時間を算出し、その時間の経過タイミング毎に上記ステップST1でYES判定され、以下に述べる拡散燃焼開始時期推定動作が実行されることになる。尚、クランク角度位置が拡散燃焼開始時期推定動作の実行位置に達したか否かの判定動作は、これに限られるものではない。
クランク角度位置が拡散燃焼開始時期推定動作の実行位置に達したことによりステップST1でYES判定されると、ステップST2に移り、その際における燃料の蒸発速度を算出する(ステップST2)。この燃料蒸発速度とは、噴射された燃焼の単位時間当たりに蒸発する量(質量)である。この燃料蒸発速度の算出動作の詳細については後述する。
また、この蒸発した燃料の酸化速度を算出する(ステップST3)。この酸化速度とは、上記燃焼室3内で蒸発した燃料噴霧が燃焼室3内の酸素と化学反応(酸化反応)を起こして燃焼する速度であって、単位時間当たりに酸化反応を起こした(燃焼に寄与した)燃料の量(質量)である。この燃料酸化速度の算出動作の詳細についても後述する。
そして、このようにして算出した燃料蒸発速度と燃料酸化速度とが一致したか否かを判定する(ステップST4)。燃焼室3内に噴射された燃料は、燃焼室3内の熱を受けて蒸発した後、燃焼(酸化反応)することになるので、インジェクタ23から燃料が噴射された初期時には、燃料酸化速度が燃料蒸発速度に対して低くなっており、その後、燃料の蒸発が進み、その蒸発燃料が高温環境下に晒されることで酸化速度が急速に高まっていく。つまり、酸化速度が蒸発速度に近付いていくことになる。未だ酸化速度が蒸発速度に一致しておらずステップST4でNO判定された場合には混合気の拡散燃焼は未だ開始されていないとしてそのままリターンされる。即ち、メイン噴射で噴射された燃料の燃焼状態は上記低温酸化反応の燃焼状態であるとしてリターンされる。この場合、クランク角度が次回の拡散燃焼開始時期推定動作の実行位置に達するまで(ステップST1でYES判定されるまで)、拡散燃焼開始時期推定動作が停止されることになる(ステップST1でNO判定されている期間中は拡散燃焼開始時期推定動作が停止されることになる)。
以上のような燃料蒸発速度の算出動作(ステップST2)、燃料酸化速度の算出動作(ステップST3)、燃料蒸発速度と燃料酸化速度との比較動作(ステップST4)が、酸化速度が蒸発速度に一致するまで、所定期間毎に(本実施形態の場合にはクランク角度が所定回転角度だけ進む毎に)繰り返される。
そして、酸化速度が蒸発速度に一致し、ステップST4でYES判定された場合には混合気の拡散燃焼が開始されたとしてステップST5に移り、現在のクランク角度位置を拡散燃焼開始時期として出力する。これにより、今回の燃焼行程における拡散燃焼開始時期が推定されたことになる。
ここで、燃焼室3内における燃料の蒸発及び酸化の状態について図9を用いて説明する。図9は、インジェクタ23から噴射された燃料の蒸発状態及び各燃料状態領域の変化を模式的に示した図である。ここではインジェクタ23の1つの噴孔から噴射された燃料について説明する。尚、図9に示す各燃料噴射領域のうち実線で示す領域(実線の内側の領域)は燃料の液滴が存在する(空気中に燃料の液滴が存在する)液滴領域であり、破線で示す領域(実線と破線との間の領域)は上記液滴領域から蒸発した蒸発燃料が存在する(空気と蒸発燃料とが混在する)蒸発燃料領域であり、この蒸発燃料領域の温度が所定の着火可能温度(例えば1000K)に達すると、その領域で混合気の拡散燃焼が開始されることになる。
先ず、図9(a)に示す燃料噴射の開始初期時には、燃料噴射領域の略全域が上記液滴領域となっている。この液滴領域の温度は例えば350K程度であって、未だ拡散燃焼は行われていない状態である。
燃料噴射が進行し、図9(b)に示す状態になると、液滴領域にあった液滴燃料の一部(液滴領域の外縁部に存在していた液滴燃料)が筒内の熱量を受けることで蒸発を開始し、この液滴領域の外側に蒸発燃料領域を生成していく。この状態での蒸発燃料領域の温度は例えば600K程度であって、未だ拡散燃焼は行われていないが、所謂低温酸化反応による燃焼が開始され、この反応場の温度上昇に寄与することになる。この状態では、燃料の蒸発速度(液滴領域から蒸発燃料領域に移行する燃料の単位時間当たりの質量)は比較的高いものの、その酸化速度(蒸発燃料領域において燃焼に寄与する燃料の単位時間当たりの質量)は蒸発速度に比べて低くなっている。
更に燃料噴射が進行して、図9(c)に示す状態になると、液滴領域の外縁部に存在している液滴燃料の蒸発が進み、また、上記低温酸化反応による燃焼も進むことになるので、この液滴領域の外側に生成される蒸発燃料領域が拡大し、この状態での蒸発燃料領域の温度は例えば1000Kに達する。これにより、この蒸発燃料領域に存在している燃料(混合気)は拡散燃焼を開始することになる。そして、この状態では、燃料の酸化速度が燃料の蒸発速度に一致した状態となっている。つまり、上記液滴領域から蒸発燃料領域に移行する燃料の単位時間当たりの質量と、蒸発燃料領域に存在する燃料のうち燃焼に寄与する燃料の単位時間当たりの質量とが一致した状態となる。
以下、上述した拡散燃焼開始時期の推定動作において実行される燃料蒸発速度の算出動作、燃料酸化速度の算出動作、これら燃料蒸発速度と燃料酸化速度との比較動作について具体的に説明する。
(燃料蒸発速度の算出動作)
先ず、燃料蒸発速度の算出動作(図8に示したフローチャートのステップST2の動作)について説明する。この燃料蒸発速度の算出動作は、予め作成された燃料蒸発速度定常マップ上における現在のクランク角度位置でのマップ値(本発明でいう基準蒸発速度)を読み取り、そのマップ値に対してエンジン1の環境条件や運転条件等に応じた補正係数を乗算することにより行われる(燃料蒸発速度算出手段による燃料蒸発速度の算出動作)。
具体的には、例えばエンジン1の性能実験装置での実験によって、燃焼行程においてエンジン1のクランク角度毎(例えばクランク角度が1°CA進む毎)に下記の式(1)及び式(2)によって燃料蒸発速度(dmv/dt)を算出し、その算出された各クランク角度毎の燃料蒸発速度をマップ化することで燃料蒸発速度定常マップを作成する。ここで作成される燃料蒸発速度定常マップは、筒内圧力及び筒内温度を予め規定した基準圧力及び基準温度として作成された定常マップ(クランク角度毎の燃料蒸発速度を表すマップ)である。これら基準圧力及び基準温度の値は任意に設定可能である。そして、この燃料蒸発速度定常マップに対して、エンジン1の環境条件や運転条件等に応じた補正係数(実測または推定された筒内圧力に応じた補正係数及び実測または推定された筒内温度に応じた補正係数)を乗算することでクランク角度毎の蒸発速度を算出する(下記の式(3))。尚、この補正係数としては、上記筒内圧力に応じた補正係数及び筒内温度に応じた補正係数に加えて、実測されたエンジン回転数に応じた補正係数を使用してもよい。
Figure 2012026005
Figure 2012026005
燃料蒸発速度=燃料蒸発速度定常マップ上のマップ値
×筒内圧力補正係数×筒内温度補正係数 …(3)
上記式(2)におけるスワール速度Vswやスキッシュ速度Vsqは、エンジン形状(特に燃焼室3の形状)及びエンジン回転数に応じて決定される値である。また、この場合のスワール速度Vswは、例えば燃焼室3内における外周縁部周辺でのスワール速度である。また、定数Aはエンジン1の種類毎に予め実験等によって決定された値である。更に、混合気の動粘性係数は温度に依存する値である。
より具体的には、上述の如く作成した燃料蒸発速度定常マップを上記ROM102に予め記憶させておき、自動車の実際の運転中における環境条件や運転条件等に応じた補正係数(筒内圧力や筒内温度に応じて設定された補正係数)を、上記蒸発速度定常マップから取得した蒸発速度値に対して乗算して補正することで現在のクランク角度位置での燃料蒸発速度を算出することになる(上記ステップST2の動作)。
尚、上記筒内圧力補正係数及び筒内温度補正係数は、実験やシミュレーション等によって予め作成された2次元マップより取得される。
(燃料酸化速度の算出)
次に、燃料酸化速度の算出(図8に示したフローチャートのステップST3の動作)について説明する。この燃料酸化速度の算出動作は、上述した燃料蒸発速度の算出動作と同タイミングで実行される。また、この燃料酸化速度の算出動作は、予め作成された燃料酸化速度定常マップ上における現在のクランク角度位置でのマップ値(本発明でいう基準酸化速度)を読み取り、そのマップ値に対してエンジン1の環境条件や運転条件等に応じた補正係数を乗算することにより行われる(下記の式(4):燃料酸化速度算出手段による燃料酸化速度の算出動作)。
燃料酸化速度=燃料酸化速度定常マップ上のマップ値×筒内温度補正係数
×筒内圧力補正係数×筒内酸素濃度補正係数 …(4)
上記クランク角度毎の酸化速度定常マップ値を取得するための上記酸化速度定常マップの作成手法について以下に説明する。エンジンの性能実験装置での実験において、燃焼室内での燃焼工程時における筒内圧力を圧力センサ(指圧計)によって計測し、それにより得られた筒内圧力の変化を燃焼室3内での熱発生率の変化としてみなす。これにより、例えば図7に実線で示すような熱発生率波形を得ることができる。そして、メイン噴射で噴射された燃料の燃焼波形(拡散燃焼波形)を図中の一点鎖線で示すようにして求め、この波形(拡散燃焼波形)の開始点(クランク角度軸との交点)を拡散燃焼開始時期として規定する。
そして、図10(a)に示すように、上記燃料の蒸発速度の算出動作によって得られた蒸発速度定常マップ上での拡散燃焼開始時期(拡散燃焼開始時点での燃料の蒸発速度)を求め(図10(a)における点X)、図10(b)に示すように、この拡散燃焼開始時点での燃料の蒸発速度(点X)と燃料の酸化速度が「0」である点(図10(a)における点Y)とを結ぶ直線を酸化速度定常マップとする(図10(b)を参照)。実際には、図10(b)に破線で示すように、燃料酸化速度は3次曲線となるが、これを直線近似したものを酸化速度定常マップとして求めている。
このようにして求められた酸化速度定常マップと上記図7に示す熱発生率波形との関係について説明すると、メイン噴射の開始タイミング(図7ではピストン13の圧縮上死点(TDC)よりも進角側)が図10における点Yに対応し、拡散燃焼開始時期が(図7ではピストン13の圧縮上死点(TDC))が図10における点Xに対応することになる。
このようして規定した酸化速度定常マップ上での値に対し、筒内温度補正係数、筒内圧力補正係数、筒内酸素濃度補正係数をそれぞれ乗算することでクランク角度毎の酸化速度が得られる。これら筒内温度補正係数、筒内圧力補正係数、筒内酸素濃度補正係数は、図11に示す補正マップにより得られる。図11(a)は筒内温度補正マップであって、上記基準温度でのマップ値がA1であり、実際の筒内温度におけるマップ値がA2である場合には、筒内温度補正係数は「A2/A1」となる。また、図11(b)は筒内圧力補正マップであって、上記基準圧力でのマップ値がB1であり、実際の筒内圧力におけるマップ値がB2である場合には、筒内圧力補正係数は「B2/B1」となる。更に、図11(c)は筒内酸素濃度補正マップであって、予め規定された基準酸素濃度でのマップ値がC1であり、実際の筒内酸素濃度におけるマップ値がC2である場合には、筒内酸素濃度補正係数は「C2/C1」となる。
つまり、実験により求められた拡散燃焼開始時期と上記燃料蒸発速度の算出動作によって得られた蒸発速度定常マップとに基づいて基準状態での酸化速度変化を表す酸化速度定常マップを作成し、これに対して各補正係数(筒内温度補正係数、筒内圧力補正係数、筒内酸素濃度補正係数)をそれぞれ乗算して補正することで現在のクランク角度位置での燃料酸化速度を算出することになる(上記ステップST3の動作)。
(拡散燃焼開始時期の推定)
上述した如く、拡散燃焼開始時期は、上記燃料酸化速度が燃料蒸発速度に一致した(燃料酸化速度が燃料蒸発速度に追い付いた)時点として規定している。このため、上述したクランク角度毎の燃料蒸発速度と、それに対応したクランク角度毎の燃料酸化速度とを比較していき、燃料蒸発速度に対して燃料酸化速度の方が未だ低い場合には、拡散燃焼は開始されていないと判断し、燃料酸化速度が燃料蒸発速度に一致した時点(一致した時点でのクランク角度位置)で拡散燃焼が開始されたと判断するようにしている(拡散燃焼開始時期推定手段による拡散燃焼開始時期の推定動作)。この際、予めメイン噴射の開始タイミング(メイン噴射が開始されたクランク角度位置)を記憶しておき、そのクランク角度位置から拡散燃焼開始時期の推定位置までのクランク回転角度を求め、それによって拡散燃焼開始時期でのクランク角度位置を算出することになる。
より詳しくは、上述した燃料蒸発速度の算出動作によって得られた蒸発速度定常マップ上の燃料蒸発速度に対して、実際の燃料蒸発速度は筒内圧力及び筒内温度の補正分だけ変動している。また、同様に、上述した燃料酸化速度の算出動作によって得られた酸化速度定常マップ上の燃料酸化速度に対して、実際の燃料酸化速度は筒内温度、筒内圧力及び筒内酸素濃度の補正分だけ変動している。このように変動している燃料蒸発速度と燃料酸化速度とが一致する時点でのクランク角度が、その燃焼行程における拡散燃焼開始時期であると推定されることになる。例えば、図12(a)に示すものでは、実際の燃料蒸発速度が上記燃料蒸発速度定常マップにおける燃料蒸発速度よりも低くなっており、拡散燃焼開始時期が進角側に移行した場合における燃料蒸発速度及び燃料酸化速度の変化を示している。逆に、図12(b)に示すものでは、実際の燃料蒸発速度が上記燃料蒸発速度定常マップにおける燃料蒸発速度よりも高くなっており、拡散燃焼開始時期が遅角側に移行した場合における燃料蒸発速度及び燃料酸化速度の変化を示している。
尚、上述した拡散燃焼開始時期の推定動作では、この推定が完了した時点で燃料蒸発速度の算出動作及び燃料酸化速度の算出動作を終了するようにしていた。これに限らず、予め設定された期間(クランク開度範囲)の全期間に亘って燃料蒸発速度及び燃料酸化速度を算出しておき、各クランク角度毎に燃料蒸発速度と燃料酸化速度とを比較して拡散燃焼開始時期を推定するようにしてもよい。例えば、一般に拡散燃焼開始時期を迎えると考えられているメイン噴射の開始タイミングから圧縮上死点後10°CAのクランク角度位置まで、所定期間毎(例えばクランク角度で1°CA毎)に燃料蒸発速度及び燃料酸化速度を算出して拡散燃焼開始時期を推定する場合などが挙げられる。
−拡散燃焼開始時期の制御−
次に、本実施形態のもう一つの特徴である拡散燃焼開始時期の制御(拡散燃焼開始時期補正手段による拡散燃焼開始時期の補正)について説明する。この拡散燃焼開始時期の制御は、上述した如く推定された拡散燃焼開始時期が目標とする拡散燃焼開始時期(例えばピストン13の圧縮上死点(TDC)に対応するクランク角度位置:以下、目標拡散燃焼開始時期と呼ぶ)に対して乖離している場合に行われる。具体的には、推定された拡散燃焼開始時期が目標拡散燃焼開始時期に対して乖離している場合、この拡散燃焼開始時期の推定を行った気筒の次に燃焼行程を迎える気筒での拡散燃焼開始時期を、この乖離の量に応じて調整し、拡散燃焼開始時期を目標拡散燃焼開始時期に近付けるようにする。つまり、次に燃焼行程を迎える気筒に対してのフィードバック制御として拡散燃焼開始時期の制御を行う。また、この拡散燃焼開始時期の制御を実行する場合、上述した拡散燃焼開始時期の推定動作を上記目標拡散燃焼開始時期まで、または、その目標拡散燃焼開始時期から所定量だけ遅角した位置まで(例えば、上述した如く、一般に拡散燃焼開始時期を迎えると考えられている圧縮上死点後10°CAのクランク角度位置まで)実行することになる。つまり、少なくとも目標拡散燃焼開始時期での実燃料蒸発速度が求められるようにする。
この拡散燃焼開始時期の制御の概略について図13のフローチャートを用いて説明する。先ず、目標拡散燃焼開始時期(クランク角度位置)において、上述した推定動作により算出された燃料蒸発速度(以下、実燃料蒸発速度と呼ぶ)と、目標拡散燃焼開始時期において、上記燃料蒸発速度定常マップのマップ値(以下、目標蒸発速度と呼ぶ)との偏差を算出する(ステップST11)。
この偏差の算出動作について図14を用いて具体的に説明すると、燃料蒸発速度定常マップを目標蒸発速度として規定し、目標拡散燃焼開始時期での実蒸発速度が蒸発速度定常マップ上の蒸発速度(目標蒸発速度)よりも低い場合、目標とする拡散燃焼開始時期(例えばピストン13の圧縮上死点(TDC))での偏差が図中の「Δdmv/dt」として求められる。つまり、この偏差「Δdmv/dt」分だけ燃料蒸発速度を上昇させれば燃焼室3内における燃料蒸発速度を目標蒸発速度まで高めることで、拡散燃焼開始時期を目標拡散燃焼開始時期に一致させることが可能になる。
そして、上記実燃料蒸発速度と目標燃料蒸発速度との偏差に応じた燃料噴射圧力を設定する(ステップST12)。ここで設定される燃料噴射圧力は、実燃料蒸発速度が目標蒸発速度に比べて低い場合には、その偏差が大きいほど燃料噴射圧力を高く設定する。つまり、目標とする拡散燃焼開始時期に対して上記推定された拡散燃焼開始時期が進角側にある場合には、その偏差が大きいほど燃料噴射圧力を高く設定することになる。これは、燃料噴射圧力を高く設定した場合、上記液滴領域における燃料の粒径が小さくなり、燃料蒸発速度が高くなるためである。尚、燃料噴射圧力と燃料の粒径(液滴粒径Dd)との関係は以下の式(5)によって与えられる。
Figure 2012026005
このため、この式(5)を上記式(1)に代入することで燃料噴射圧力を変更した後の燃料蒸発速度を求めることが可能となる。逆に、実燃料蒸発速度が目標蒸発速度に比べて高い場合には、その偏差が大きいほど燃料噴射圧力を低く設定する。これら燃料噴射圧力の調整は、ECU100によるサプライポンプ21の燃料吐出量の調量制御により行われる。
このようにして燃料噴射圧力を設定して燃料噴射を実行した後、ステップST13において、実燃料蒸発速度が目標蒸発速度に一致したか否かを判定する。
実燃料蒸発速度が目標蒸発速度に一致した場合には、ステップST13でYES判定され、現在の燃料噴射圧力を維持する。一方、実燃料蒸発速度が目標蒸発速度に一致しておらず、ステップST13でNO判定された場合には、ステップST14に移り、吸気操作量の調整を行う。つまり、上記燃料噴射圧力の調整のみでは実燃料蒸発速度を目標蒸発速度に一致させることができず、この燃料噴射圧力の調整量が限界値(上記上限値または下限値)に達した場合に、吸気操作量の調整によって燃料蒸発速度を調整するようにする。具体的には、上記スワールコントロールバルブ66の開度調整を行う。つまり、実燃料蒸発速度が目標蒸発速度に比べて低い場合には、その偏差が大きいほどスワールコントロールバルブ66の開度を小さくしてスワール流速を高く設定する。即ち、目標とする拡散燃焼開始時期に対して上記推定された拡散燃焼開始時期が進角側にある場合には、その偏差が大きいほどスワール流速を高く設定することになる。逆に、実燃料蒸発速度が目標蒸発速度に比べて高い場合には、その偏差が大きいほどスワールコントロールバルブ66の開度を大きくしてスワール流速を低く設定する。これにより、燃料蒸発速度を調整し、実燃料蒸発速度を目標蒸発速度に近付けるようにする。
このスワール流速の調整は、図15に示すスワール流速調整マップに従って行われる。このスワール流速調整マップは、必要なスワール流速と、そのスワール流速を得るためのスワールコントロールバルブ66の操作量との関係を規定するものであり、実燃料蒸発速度を目標蒸発速度に一致させるために必要なスワール流速を求め、それをスワール流速調整マップに当て嵌めることでスワールコントロールバルブ66の操作量を求めることができる。
−他の実施形態−
以上説明した実施形態では、自動車に搭載される直列4気筒ディーゼルエンジンに本発明を適用した場合について説明した。本発明は、自動車用に限らず、その他の用途に使用されるエンジンにも適用可能である。また、気筒数やエンジン形式(直列型エンジン、V型エンジン、水平対向型エンジン等の別)についても特に限定されるものではない。
また、燃料蒸発速度の調整動作として上述したスワール流速の調整に代えて、または、それに加えてVVT(Variable Valve Timing)機構による吸気バルブ16の開弁時期の調整を行うようにしてもよい。つまり、実燃料蒸発速度が目標蒸発速度に比べて低い場合には、その偏差が大きいほど吸気バルブ16の開弁時期を遅角させて吸気流速を高く設定するものである。つまり、目標とする拡散燃焼開始時期に対して上記推定された拡散燃焼開始時期が進角側にある場合には、その偏差が大きいほど吸気バルブ16の開弁時期を遅角させて吸気流速を高く設定するものである。
また、上記実施形態では、マニバータ77として、NSR触媒75及びDPNR触媒76を備えたものとしたが、NSR触媒75及びDPF(Diesel Paticulate Filter)を備えたものとしてもよい。
また、本発明は、分割メイン噴射を実行するディーゼルエンジンに対しても適用が可能である。
また、上述した実施形態では、通電期間においてのみ全開の開弁状態となることにより燃料噴射率を変更するピエゾインジェクタ23を適用したエンジンについて説明したが、本発明は、可変噴射率インジェクタを適用したエンジンへの適用も可能である。
本発明は、自動車に搭載されるコモンレール式筒内直噴型多気筒ディーゼルエンジンにおいて拡散燃焼開始時期の適正化を図るための制御に適用可能である。
1 エンジン(内燃機関)
3 燃焼室
21 サプライポンプ
23 インジェクタ(燃料噴射弁)
66 スワールコントロールバルブ
クランク角度位置が拡散燃焼開始時期推定動作の実行位置に達したことによりステップST1でYES判定されると、ステップST2に移り、その際における燃料の蒸発速度を算出する(ステップST2)。この燃料蒸発速度とは、噴射された燃料の単位時間当たりに蒸発する量(質量)である。この燃料蒸発速度の算出動作の詳細については後述する。
Figure 2012026005
燃料酸化速度=燃料酸化速度定常マップ上のマップ値×筒内温度補正係数
×筒内圧力補正係数×筒内酸素濃度補正係数 …(4)
上記クランク角度毎の酸化速度定常マップ値を取得するための上記酸化速度定常マップの作成手法について以下に説明する。エンジンの性能実験装置での実験において、燃焼室内での燃焼行程時における筒内圧力を圧力センサ(指圧計)によって計測し、それにより得られた筒内圧力の変化を燃焼室3内での熱発生率の変化としてみなす。これにより、例えば図7に実線で示すような熱発生率波形を得ることができる。そして、メイン噴射で噴射された燃料の燃焼波形(拡散燃焼波形)を図中の一点鎖線で示すようにして求め、この波形(拡散燃焼波形)の開始点(クランク角度軸との交点)を拡散燃焼開始時期として規定する。
尚、上述した拡散燃焼開始時期の推定動作では、この推定が完了した時点で燃料蒸発速度の算出動作及び燃料酸化速度の算出動作を終了するようにしていた。これに限らず、予め設定された期間(クランク角度範囲)の全期間に亘って燃料蒸発速度及び燃料酸化速度を算出しておき、各クランク角度毎に燃料蒸発速度と燃料酸化速度とを比較して拡散燃焼開始時期を推定するようにしてもよい。例えば、一般に拡散燃焼開始時期を迎えると考えられているメイン噴射の開始タイミングから圧縮上死点後10°CAのクランク角度位置まで、所定期間毎(例えばクランク角度で1°CA毎)に燃料蒸発速度及び燃料酸化速度を算出して拡散燃焼開始時期を推定する場合などが挙げられる。

Claims (15)

  1. 混合気の予混合燃焼が開始された後に燃焼室内に対して燃料噴射弁から噴射された燃料が拡散燃焼を開始する拡散燃焼開始時期を推定する圧縮自着火式内燃機関の拡散燃焼開始時期推定装置であって、
    上記燃料噴射弁から燃焼室内に噴射された燃料の蒸発速度を、予め規定された基準蒸発速度に対して環境条件及び運転条件のうち少なくとも何れか一方に応じた補正を行うことによって算出する燃料蒸発速度算出手段と、
    上記燃焼室内での蒸発によって混合気を生成した燃料の酸化速度を、予め規定された基準酸化速度に対して環境条件及び運転条件のうち少なくとも何れか一方に応じた補正を行うことによって算出する燃料酸化速度算出手段と、
    上記燃料蒸発速度算出手段によって算出された燃料蒸発速度と上記燃料酸化速度算出手段によって算出された燃料酸化速度とが乖離している状態から、これら両者が一致する状態となった時点を混合気の拡散燃焼開始時期として推定する拡散燃焼開始時期推定手段とを備えていることを特徴とする内燃機関の拡散燃焼開始時期推定装置。
  2. 請求項1記載の内燃機関の拡散燃焼開始時期推定装置において、
    上記燃料蒸発速度算出手段は、筒内を基準圧力及び基準温度と仮定して作成したクランク角度毎の燃料蒸発速度を表す燃料蒸発速度定常マップのマップ値に対して、実際の筒内圧力及び筒内温度に応じた補正係数を乗算することにより燃料蒸発速度を算出するよう構成されていることを特徴とする内燃機関の拡散燃焼開始時期推定装置。
  3. 請求項2記載の内燃機関の拡散燃焼開始時期推定装置において、
    上記燃料酸化速度算出手段は、筒内を基準圧力、基準温度及び基準酸素濃度と仮定して作成したクランク角度毎の燃料酸化速度を表す燃料酸化速度定常マップのマップ値に対して、実際の筒内圧力、筒内温度及び筒内酸素濃度に応じた補正係数を乗算することにより燃料酸化速度を算出するよう構成されていることを特徴とする内燃機関の拡散燃焼開始時期推定装置。
  4. 請求項3記載の内燃機関の拡散燃焼開始時期推定装置において、
    上記燃料酸化速度定常マップは、上記燃料噴射弁から燃焼室内に燃料が噴射された時点での燃料蒸発速度を「0」とし、燃焼行程における筒内圧力変化に基づいて規定した拡散燃焼開始時期での蒸発速度定常マップ上の燃料蒸発速度に等しい燃料酸化速度まで、上記燃料が噴射された時点から燃料酸化速度が一定加速度で上昇していくと仮定した直線近似により作成されたものであることを特徴とする内燃機関の拡散燃焼開始時期推定装置。
  5. 上記請求項1〜4のうち何れか一つに記載の内燃機関の拡散燃焼開始時期推定装置によって推定される拡散燃焼開始時期を制御する拡散燃焼開始時期制御装置であって、
    目標とする拡散燃焼開始時期に対して上記推定された拡散燃焼開始時期の偏差を算出し、この偏差に基づき、上記推定される拡散燃焼開始時期が目標とする拡散燃焼開始時期に一致するように拡散燃焼開始時期の補正動作を行う拡散燃焼開始時期補正手段を備えていることを特徴とする内燃機関の拡散燃焼開始時期制御装置。
  6. 請求項5記載の内燃機関の拡散燃焼開始時期制御装置において、
    上記拡散燃焼開始時期補正手段は、燃焼室内に噴射された燃料の蒸発速度を可変とする制御パラメータを変更することにより拡散燃焼開始時期の補正動作を行う構成とされていることを特徴とする内燃機関の拡散燃焼開始時期制御装置。
  7. 請求項5記載の内燃機関の拡散燃焼開始時期制御装置において、
    上記拡散燃焼開始時期補正手段は、上記目標とする拡散燃焼開始時期が得られる目標燃料蒸発速度と、上記推定された拡散燃焼開始時期に対応する実燃料蒸発速度との偏差に応じて、燃料の蒸発速度を可変とする制御パラメータを変更することにより拡散燃焼開始時期の補正動作を行う構成とされていることを特徴とする内燃機関の拡散燃焼開始時期制御装置。
  8. 請求項6記載の内燃機関の拡散燃焼開始時期制御装置において、
    燃焼室内に噴射された燃料の蒸発速度を可変とする制御パラメータは燃料噴射圧力であって、目標とする拡散燃焼開始時期に対して上記推定された拡散燃焼開始時期が進角側にある場合、その偏差が大きいほど燃料噴射圧力を高く設定することを特徴とする内燃機関の拡散燃焼開始時期制御装置。
  9. 請求項7記載の内燃機関の拡散燃焼開始時期制御装置において、
    燃焼室内に噴射された燃料の蒸発速度を可変とする制御パラメータは燃料噴射圧力であって、上記目標燃料蒸発速度に対して上記実燃料蒸発速度が低い場合、その偏差が大きいほど燃料噴射圧力を高く設定することを特徴とする内燃機関の拡散燃焼開始時期制御装置。
  10. 請求項6記載の内燃機関の拡散燃焼開始時期制御装置において、
    燃焼室内に噴射された燃料の蒸発速度を可変とする制御パラメータは燃焼室内におけるスワール流速であって、目標とする拡散燃焼開始時期に対して上記推定された拡散燃焼開始時期が進角側にある場合、その偏差が大きいほどスワール流速を高く設定することを特徴とする内燃機関の拡散燃焼開始時期制御装置。
  11. 請求項7記載の内燃機関の拡散燃焼開始時期制御装置において、
    燃焼室内に噴射された燃料の蒸発速度を可変とする制御パラメータは燃焼室内におけるスワール流速であって、上記目標燃料蒸発速度に対して上記実燃料蒸発速度が低い場合、その偏差が大きいほどスワール流速を高く設定することを特徴とする内燃機関の拡散燃焼開始時期制御装置。
  12. 請求項6記載の内燃機関の拡散燃焼開始時期制御装置において、
    燃焼室内に噴射された燃料の蒸発速度を可変とする制御パラメータは燃料噴射圧力及び燃焼室内におけるスワール流速であって、目標とする拡散燃焼開始時期に対して上記推定された拡散燃焼開始時期が進角側にある場合、その偏差が大きいほど燃料噴射圧力を高く設定し、この燃料噴射圧力を補正限界まで補正しても目標とする拡散燃焼開始時期に対して上記推定された拡散燃焼開始時期が進角側にある場合には、その偏差が大きいほどスワール流速を高く設定することを特徴とする内燃機関の拡散燃焼開始時期制御装置。
  13. 請求項7記載の内燃機関の拡散燃焼開始時期制御装置において、
    燃焼室内に噴射された燃料の蒸発速度を可変とする制御パラメータは燃料噴射圧力及び燃焼室内におけるスワール流速であって、上記目標燃料蒸発速度に対して上記実燃料蒸発速度が低い場合、その偏差が大きいほど燃料噴射圧力を高く設定し、この燃料噴射圧力を補正限界まで補正しても目標燃料蒸発速度に対して実燃料蒸発速度が低い場合には、その偏差が大きいほどスワール流速を高く設定することを特徴とする内燃機関の拡散燃焼開始時期制御装置。
  14. 請求項6記載の内燃機関の拡散燃焼開始時期制御装置において、
    燃焼室内に噴射された燃料の蒸発速度を可変とする制御パラメータは吸気バルブのバルブタイミングであって、目標とする拡散燃焼開始時期に対して上記推定された拡散燃焼開始時期が進角側にある場合、その偏差が大きいほど吸気バルブが開放するバルブタイミングを遅角側に設定することを特徴とする内燃機関の拡散燃焼開始時期制御装置。
  15. 請求項7記載の内燃機関の拡散燃焼開始時期制御装置において、
    燃焼室内に噴射された燃料の蒸発速度を可変とする制御パラメータは吸気バルブのバルブタイミングであって、上記目標燃料蒸発速度に対して上記実燃料蒸発速度が低い場合、その偏差が大きいほど吸気バルブが開放するバルブタイミングを遅角側に設定することを特徴とする内燃機関の拡散燃焼開始時期制御装置。
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