JPWO2011007882A1 - インスリン産生細胞誘導剤、グルコース取込み促進剤および糖尿病または糖尿病合併症の治療薬 - Google Patents

インスリン産生細胞誘導剤、グルコース取込み促進剤および糖尿病または糖尿病合併症の治療薬 Download PDF

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Abstract

エストロゲンやエストラジオールなどのエストロゲン物質を有効成分とするインスリン産生細胞誘導剤、筋肉へのグルコース取込み促進剤、糖尿病または糖尿病合併症のための治療薬を提供する。本発明によれば、膵管においてインスリン産生細胞が誘導されるので、インスリン産生細胞の機能を回復することができ、また血液中のグルコースを有効に筋肉に取り込ませることができるので、血糖値を速やかに低下することができ、糖尿病や糖尿病合併症を予防または治療することができる。

Description

本発明は、インスリン産生細胞誘導剤、グルコース取込み促進剤および糖尿病または糖尿病合併症の治療薬に関する。
本発明者は、糖尿病の主な原因である、相対的・絶対的なインスリン不足を解消するため、膵臓のインスリン産生細胞に焦点を当て、既存のβ細胞におけるインスリン産生機序(インスリン遺伝子の転写調節機構)について研究を行ってきた。
これまでの本発明者の研究で、β細胞には転写活性化因子と転写抑制因子が存在し、これらは競合しながらインスリン合成(転写)を行なっていることが明らかになっている(非特許文献1)。また、これらが正常に作用している場合は良いが、何かの影響で転写抑制因子ICER(Inducible cAMP Early Repressor)の発現が亢進した場合、活性化因子の働きが阻害され、インスリン合成とβ細胞の増殖が抑制され、その結果、インスリン不足から糖尿病を発症することをin vitro とin vivo(マウス)において明らかにしている(非特許文献2)。また、転写抑制因子ICERの発現は糖尿病状態になると亢進し、その結果、ますますインスリン産生が低下して糖尿病が悪化することも明らかにしている(非特許文献3)。
そしてこれらの結果をもとに、シングルラインで十分な効果が得られる糖尿病モデルマウスを確立した(特許文献1)。このモデルマウスは転写因子ICERをβ細胞に過剰発現することで、インスリン合成とβ細胞の増殖の両方が抑制されるので、生後2週目より高血糖をきたし、インスリン分泌不全から重度の糖尿病を発症する。高血糖状態は死ぬまで安定して持続し、このため合併症(糖尿病性腎症)を引き起こす。
WO2004/072282
The Journal of Biological Chemistry 1999, 274 (30): 21095-21103 Molecular and Cellular Biology 2004, 24 (7): 2831-2841 Biochemical and Biophysical Research Communication 1998, 253(3): 712-718
本発明の目的は、糖尿病に対する新たな治療薬または治療方法を提供することである。
また、本発明の目的は、糖尿病の進行や悪化によって生じた糖尿病性腎症の硬化した組織を修復し、健常な腎臓組織を再生するために有効な治療薬または治療方法を提供することである。
さらに、本発明は、血糖値を速やかに低下させるために有効な治療薬または治療方法を提供することを目的とする。
特許文献1のモデルマウスではICERがβ細胞に過剰発現することによって、インスリン合成とβ細胞の増殖が抑制されて、インスリン分泌不全から重度の糖尿病を発症するという明確な糖尿病発症メカニズムを有している。
本発明者は、この糖尿病モデルマウスに対し、エストロゲンを投与したところ、意外にも膵管においてインスリン産生細胞が誘導されることを見出した。また、糖尿病性腎症を発症後にエストロゲンを投与すると、硬化した腎臓(糸球体)組織がもとの糸球体に再生されることを見出した。さらに、エストロゲン投与によって、グルコースの取り込みに関わる分子(AKTやGlut4等)の発現が亢進し、筋肉細胞へのグルコースの取り込みが促進されることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施態様を包含する。
(I)インスリン産生細胞誘導剤、及び誘導方法
(I-1)エストロゲン物質を有効成分とするインスリン産生細胞誘導剤。
(I-2)エストロゲン物質が、エストラジオール又はそのエステル、エストロン、エストリオール又はそのエステル、エキリン、エチニルエストラジオール、結合型エストロゲン、スチルベストロール及びヘキセストロールからなる群から選ばれる少なくとも1種である(I-1)に記載するインスリン産生細胞誘導剤。
(I-3)エストロゲン物質が、エストラジオール又はそのエステルである(I-1)に記載するインスリン産生細胞誘導剤。
(I-4)糖尿病または糖尿病合併症の患者に対して、エストロゲン物質をインスリン産生細胞誘導のための有効量投与する工程を有するインスリン産生細胞誘導方法。
(I-5)エストロゲン物質が、エストラジオール又はそのエステル、エストロン、エストリオール又はそのエステル、エキリン、エチニルエストラジオール、結合型エストロゲン、スチルベストロール及びヘキセストロールからなる群から選ばれる少なくとも1種である(I-4)に記載するインスリン産生細胞誘導方法。
(I-6)エストロゲン物質が、エストラジオール又はそのエステルである(I-4)に記載するインスリン産生細胞誘導方法。
(I-7)糖尿病合併症が糖尿病腎症である、(I-4)乃至(I-6)のいずれかに記載するインスリン産生細胞誘導方法。
(I-8)糖尿病または糖尿病合併症の予防または治療に対して、インスリン産生細胞誘導剤として用いられるエストロゲン物質。
(I-9)エストロゲン物質がエストラジオール又はそのエステル、エストロン、エストリオール又はそのエステル、エキリン、エチニルエストラジオール、結合型エストロゲン、スチルベストロール及びヘキセストロールからなる群から選ばれる少なくとも1種である(I-8)に記載するエストロゲン物質。
(I-10)エストロゲン物質がエストラジオール又はそのエステルである(I-8)に記載するエストロゲン物質。
(II)筋肉へのグルコース取込み促進剤、及び促進方法
(II-1)エストロゲン物質を有効成分とする筋肉へのグルコース取込み促進剤。
(II-2)エストロゲン物質が、エストラジオール又はそのエステル、エストロン、エストリオール又はそのエステル、エキリン、エチニルエストラジオール、結合型エストロゲン、スチルベストロール及びヘキセストロールからなる群から選ばれる少なくとも1種である(II-1)に記載するグルコース取込み促進剤。
(II-3)エストロゲン物質が、エストラジオール又はそのエステルである(II-1)に記載するグルコース取込み促進剤。
(II-4)糖尿病または糖尿病合併症の患者に対して、エストロゲン物質を筋肉へのグルコース取込み促進のための有効量投与する工程を有する、筋肉へのグルコース取込み促進方法。
(II-5)エストロゲン物質が、エストラジオール又はそのエステル、エストロン、エストリオール又はそのエステル、エキリン、エチニルエストラジオール、結合型エストロゲン、スチルベストロール及びヘキセストロールからなる群から選ばれる少なくとも1種である(II-4)に記載するグルコース取込み促進方法。
(II-6)エストロゲン物質が、エストラジオール又はそのエステルである(II-4)に記載するグルコース取込み促進方法。
(II-7)糖尿病合併症が糖尿病腎症である、(II-4)乃至(II-6)のいずれかに記載するグルコース取込み促進方法。
(II-8)糖尿病または糖尿病合併症の予防または治療に対して、筋肉へのグルコース取込み促進剤として用いられるエストロゲン物質。
(II-9)エストロゲン物質がエストラジオール又はそのエステル、エストロン、エストリオール又はそのエステル、エキリン、エチニルエストラジオール、結合型エストロゲン、スチルベストロール及びヘキセストロールからなる群から選ばれる少なくとも1種である(II-8)に記載するエストロゲン物質。
(II-10)エストロゲン物質がエストラジオール又はそのエステルである(II-8)に記載するエストロゲン物質。
(III)糖尿病または糖尿病合併症の治療薬、及び治療方法
(III-1)エストロゲン物質を有効成分とする糖尿病または糖尿病合併症の治療薬。
当該発明は、「上記(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載するインスリン産生細胞誘導剤、または(II-1)乃至(II-3)のいずれかに記載するグルコース取込み促進剤を、必要に応じて薬学的に許容される担体または添加剤とともに含有する、糖尿病または糖尿病合併症の治療薬。」と言い換えることもできる。
(III-2)エストロゲン物質が、エストラジオール又はそのエステル、エストロン、エストリオール又はそのエステル、エキリン、エチニルエストラジオール、結合型エストロゲン、スチルベストロール及びヘキセストロールからなる群から選ばれる少なくとも1種である(III-1)に記載する治療薬。
(III-3)エストロゲン物質が、エストラジオール又はそのエステルである(III-1)に記載する治療薬。
(III-4)糖尿病合併症が糖尿病腎症である、(III-1)乃至(III-3)のいずれかに記載する治療薬。
(III-5)糖尿病または糖尿病合併症の患者に対して、エストロゲン物質を糖尿病または糖尿病合併症の治療有効量投与する工程を有する糖尿病または糖尿病合併症の治療方法。
(III-6)エストロゲン物質が、エストラジオール又はそのエステル、エストロン、エストリオール又はそのエステル、エキリン、エチニルエストラジオール、結合型エストロゲン、スチルベストロール及びヘキセストロールからなる群から選ばれる少なくとも1種である(III-5)に記載する治療方法。
(III-7)エストロゲン物質が、エストラジオール又はそのエステルである(III-5)に記載する治療方法。
(III-8)糖尿病合併症が糖尿病腎症である、(III-5)乃至(III-7)のいずれかに記載する治療方法。
(III-9)糖尿病または糖尿病合併症の治療に対して用いられるエストロゲン物質。
(III-10)糖尿病合併症が糖尿病腎症である、(III-9)に記載するエストロゲン物質。
糖尿病を発症した場合、運動療法や食事療法、薬物療法などで血糖値をコントロールするが、高血糖の状態が長期になると、β細胞はインスリン産生の圧力を常に求められることになるため、β細胞の機能低下と数の減少が起こり、糖尿病は悪化する。
本発明によれば、膵管においてインスリン産生細胞が誘導されるので、インスリン産生細胞の機能を回復することができる。
また、本発明によれば、血液中のグルコースを有効に筋肉に取り込ませることができるので、血糖値を速やかに低下することができる。
さらに、本発明では、糖尿病性腎症により硬化した糸球体がもとのような弾力のある組織に再生されるので、従来、治療困難とされてきた糖尿病性腎症を根本的に治療することも可能になる。
実験例1の結果を示す。(1)に、エストラジオール投与群(Tx+E群)の血中グルコース濃度の推移(図中、実線で示す)とコントロール群(Tg群)の血中グルコース濃度の推移(図中、点線で示す)、及び野生型マウス(WT群)の血中グルコース濃度(図中、Dで示す)を示す。(2)に、各マウス(A:Tg群(48-55週齢)、B:エストラジオール投与から1週間後のTx+E群(24週齢)、C:エストラジオール投与から36-43週間後のTx+E群(48-55週齢)、D:WT群(48-55週齢))の膵島におけるインスリン産生細胞(図中、緑色に染色)及びグルカゴン産生細胞の存在状況を示す。(2)においてインスリン産生細胞は緑色(左欄)、グルカゴン産生細胞は赤色(中央欄)で染色されている。(2)の右欄はインスリン産生細胞とグルカゴン産生細胞を重ね合わせて表示したものである。(3)は、エストラジオール投与群(Tx+E群)のB時点(エストラジオール投与から1週間後)での膵臓を抗インスリン抗体で免疫染色した結果を示す画像であり、矢印で示す茶色に染色された細胞は膵管上皮中に発現しているインスリン産生細胞である。(4)は、17β-エストラジオール(E)を投与する前(図中、●で示す)と投与した後(図中、○で示す)の各Tg23マウスの血糖値をそれぞれ示す(図中、●及び○は個々のマウスを示す。但し、同じ数値の場合は、何匹でも○は1つとして表される)。 実験例2の結果を示す。(1)は各群のマウス(Tg群、Tx+E(Treatment)群、WT)の糸球体組織をPAS染色した結果を示す。(2)は各マウス(WT 、Tg群、Tx+E(Treatment)群)の糸球体組織を抗コラーゲンIV抗体で免疫染色した結果を示す。糸球体内のコラーゲンIVの発現強度を半定量し、その強度(Intensity)を平均Pixel強度として示した結果を最下段に示す。(3)に各群のマウス(Tg群、Tx+E(Treatment)群、WT)の糸球体濾過量(μL/min)、(4)に各群マウスの尿中アルブミン量/尿酸クリアランス(Ualb/Cr)(μg/mg/dL)、(5)に各群マウスの腎臓重量(g)の推移(週)、(6)に各群マウスの尿中グルコース濃度(mg/dL)、及び(7)に各マウスの一日あたりの尿量(mL)を示す。 実験例3の結果を示す。Bは、WTマウスのCt群(WT:−)及びTx+E群(WT:+)、並びにTgマウスのCt群(Tg:−)及びTx+E群(Tg:+)について、インスリン非存在下でのグルコース取り込み量に対するインスリン存在下でのグルコース取り込み量の相対比(fold)を示す。Cは、WTマウスのCt群(WT:−)及びTx+E群(WT:+)、並びにTgマウスのCt群(Tg:−)及びTx+E群(Tg:+)について、筋肉中でのactin、P-IRβ、AKT、P-AKT及びGlut4の発現量(actinの発現量に対する相対比)を測定したウエスタンブロッティング画像であり、D、F、G及びEは各分子(P-IRβ、AKT、P-AKT及びGlut4)の発現強度を各マウス群間で対比した結果である。Hは、WTマウスのCt群(WT)、並びにTgマウスのCt群(Tg)及びTx+E群(Tx+E)について、筋肉組織におけるGlut4の存在を抗Glut4抗体を用いて免疫染色して観察した画像であり、その画像の下段にGlut4の発現強度を半定量した結果を、ピクセルに対する強度として「Intensity/Pixel」で示す。Iは、グルコース取り込みに関するシグナル伝達を示す模式図である。Aは、各マウス(WT及びTgマウス)のエストラジオール投与群(図3A中「Tx+E:+」と表示)及びコントロール群(図3A中「Tx+E:−」と表示)について、筋肉(ヒラメ筋)をインスリンの存在下(図3A中「Ins:+」と表示)または非存在下(図3A中「Ins:−」と表示)で1mM 2-deoxy-D-[3H]グルコース(1.5μCi/ml)および7mM D-[14C]マンニトール(0.3μCi/ml)を含む30℃のKRB緩衝液で10分間インキュベーションし、筋肉へのグルコース取り込み量(μmol/g/h)を測定した結果である。 実験例4の結果を示す。Aは、E only群、Tx only群、Tx+E群及びTg群、並びに野生型マウス(WT)について、エストラジオール(またはエストラジオールを含まないペレット)を投与した後の血中グルコース濃度(mg/dl)の経時変化を示す。またB〜Gは、Tx+E群、Tg群、及び野生型マウス(WT)について測定した、血清インシュリン濃度(pg/mL)、血清グルカゴン濃度(pg/mL)、血液尿素窒素(BUN)濃度(mg/dL)、総血清コレステロール値(g/dL)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)/アラニン・アミノトランスフェラーゼ(ALT)、及び1日当たりの餌摂取量(g/day)である。H及びIは、Tx+E群、Tg群、及び野生型マウス(WT)に経口ブドウ糖負荷試験を行った後に測定した血中のグルコース濃度と血清インシュリン濃度の経時変化である。 実験例5の結果を示す。Aに、Tx+E群の血中グルコース濃度の推移(図中、実線で示す)とTg群の血中グルコース濃度の推移(図中、点線で示す)、及び野生型マウス(WT群)の血中グルコース濃度(図中、Dで示す)を示す。またB及びCに、各マウスの血中グルコース濃度測定時点(A:Tg群(55週齢)、B:エストラジオール投与から1週間後のTx+E群(24週齢)、C:エストラジオール投与から43週間後のTx+E群(55週齢)、D:WT群(55週齢))における膵臓組織1切片断面上のβ細胞の面積(μm)及びβ細胞の面積が5001μm以上の膵島の数を示す。Dの画像はいずれも、Tx+E群のB時点(エストラジオール投与から1週間後)での膵臓を抗インスリン抗体を用いて免疫染色した結果を示す画像であり、膵菅上皮細胞中のインスリン産生細胞を茶色で示す。Eは、Tx+E群及びTg群(いずれも23-24週齢)について、膵菅上皮細胞に新生したインスリン産生細胞の数を対比した結果を示す。5Fは、Tx+E群及びTg群(いずれも23-24週齢)の膵臓を抗Pdx-1抗体を用いて免疫染色し、Pdx-1(Pancreas duodenum homobox 1)の発現を観察した結果を、またGはTx+E群及びTg群(いずれも23-24週齢)について、膵菅上皮細胞中のPdx-1の数を対比した結果を示す。 実験例5において、Tx+E群(Treatment)及びTg群のマウス、並びに野生型マウス(WT)(いずれも48週齢)の膵臓組織について切片を調製し、電子顕微鏡で観察した結果を示す。 実験例5において、Tx+E群(Treatment)及びTg群のマウス、並びに野生型マウス(WT)(いずれも48週齢)について、糸球体のPAS陽性面積(pixel)を対比した結果(A)、及び尿細管の細胞組織をPAS染色した結果(B)を示す。
本明細書において、「エストロゲン物質(estrogenic compound)」は、エストロゲンと同様な卵胞ホルモン作用を有するものを包含し、ステロイド性エストロゲンと合成エストロゲンの両方を含む。ステロイド性エストロゲンとしては、エストラジオール、エストラジオールのエステル(例えばエストラジオールの安息香酸エステル、エストラジオールのプロピオン酸エステル、エストラジオールの吉草酸エステルなどを含む)、エストロン、エストリオール、エストリオールのエステル(例えばエストリオールの酢酸エステル、プロピオン酸エステル、安息香酸エステルなどのエステルを含む)、エキリン、エチニルエストラジオール、結合型エストロゲン(エストロンとエクイリンの結合型製剤)などが挙げられる。また、合成エストロゲンとしては、スチルベストロール、ヘキセストロールなどが挙げられる。これらは一種単独で使用してもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。好ましくは、エストラジオール、またはそのエステルである。
エストロゲン物質により誘導されるインスリン産生細胞とは、膵ランゲルハンス島の70〜80%を占めるインスリン分泌細胞を意味する。インスリン産生細胞はインスリンを貯留しているβ顆粒が電子顕微鏡により観察され、グルコースによる分泌刺激により開口放出でインスリンを分泌する。本発明では、エストロゲン物質により、膵管においてインスリン産生細胞が誘導される。膵管には本来インスリン産生細胞は存在しないが、エストロゲン物質の作用により膵管の一部の細胞がインスリン産生細胞に変えられる。膵β細胞の機能と数が低下するとインスリンの産生量が低下するが、本発明によれば、たとえβ細胞の機能が完全に失われインスリン注射が必要な患者であっても膵管においてインスリン産生細胞が誘導され得るため、膵管からのインスリン放出により、インスリン注射の回数(または投与量)が低減できるか、または不要になる。
「糖尿病」には、膵臓のランゲルハンス島でインスリンを分泌するβ細胞が死滅することに基づいて発症する1型糖尿病と、インスリン分泌低下と感受性低下を原因として発症する2型糖尿病の2種類が存在する。本発明で対象とする「糖尿病」にはこれらの型のいずれもが含まれる。特に本発明では、エストロゲン物質により、膵管においてインスリン産生細胞が誘導され、β細胞の機能を代替できることに鑑みれば、1型糖尿病の患者に対してより有効に適用することができる。
「糖尿病合併症」には、急性合併症〔糖尿病昏睡(ケトン性昏睡、非ケトン性高浸透圧性昏睡、乳酸アシドーシス、低血糖性昏睡)、急性感染症〕と慢性合併症〔細小血管障害(糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害)、大血管障害(脳血管障害、虚血性心疾患、糖尿性壊疽)、その他(高脂血症、慢性感染症、胆石症、白内障など)〕が挙げられる。本発明で対象とする「糖尿病合併症」にはこれらのいずれもが含まれるが、好ましくは慢性合併症である。より好ましくは糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症及び糖尿病性神経障害等の細小血管障害であり、特に好ましくは糖尿病性腎症である。
「糖尿病性腎症」は、糖尿病患者において、タンパク尿、糸球体硬化症、間質性変化、血管病変等の腎臓の異常な組織変化、又は減少する糸球体濾過率によって、特徴付けることができる。糖尿病性腎症が発症すると、従来これを完治することは困難であり、進行を遅らせることしかできなかったが、本発明によれば、糸球体硬化、間質性変化、血管病変などの器質性変化において明らかな改善が見られ、糖尿病性腎症を完治することが可能になる。糖尿病性腎症が進行すると多額の医療費がかかる腎臓透析が必要になるので、糖尿病性腎症が治療できることは、医療経済上も極めて重要である。
エストロゲン物質は、筋肉へのグルコース取込み促進作用を有することが本発明により見出された。筋肉はヒトを含む哺乳動物において大きな割合を占めるため、筋肉におけるグルコースの取り込みが促進されれば、血中グルコース濃度は速やかに低下することになる。
本発明の糖尿病または糖尿病合併症の治療薬、インスリン産生細胞誘導剤、およびグルコース取込み促進剤は、エストロゲン物質の有効量を、それを必要とする被験体(哺乳動物、好ましくはヒト)に、薬学的に許容される担体とともに医薬組成物として投与することができる。
また、本発明のエストロゲン物質は、他の糖尿病治療薬と組み合わせて投与することもできる。
「有効量」とは、それを必要とする被験体(哺乳動物、好ましくはヒト(患者))において、処置すべき症状(糖尿病または糖尿病合併症の病態、インスリン産生細胞の数及び機能の低下、高血糖)に応じて設定することができ、これらの症状を軽減ないし寛解させるのに必要な量を意味する。
具体的な投与量は、エストロゲン物質の種類やその効力、被験体の年齢、体重、性別、症状の重篤度などにより異なるが、一般的に成人1日あたり0.01mg〜100mg程度、好ましくは0.1mg〜50mg程度であり、これを1日に1回又は2〜4回に分けて投与される。
本発明の医薬組成物(糖尿病または糖尿病合併症の治療薬、インスリン産生細胞誘導剤、およびグルコース取込み促進剤)は、エストロゲン物質を有効成分とするものであり、この投与形態は、特に限定されず治療目的に応じて適宜選択することができる。例えば、経口用固形製剤、経口用液体製剤、経鼻投与剤、経肺投与剤、注射剤、点滴剤、坐剤、外用剤、貼付剤のいずれでもよく、これらの投与形態は、薬学的に許容される担体を配合し、当業者に公知慣用の製剤方法により製造できる。
経口用固形製剤を調製する場合は、エストロゲン物質に賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。そのような添加剤としては、当該分野で一般的に使用されているものでよく、例えば、賦形剤としては、乳糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、微結晶セルロース、珪酸等を、結合剤としては、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ゼラチン液、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等を、崩壊剤としてはカンテン末、炭酸水素ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド等を、滑沢剤としては精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等を、着色剤としては、β−カロチン、黄色三二酸化鉄、カルメラ等を、矯味剤としては白糖、橙皮等を例示できる。
経口用液体製剤を調製する場合は、エストロゲン物質に矯味剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。そのような添加剤としては、当該分野で一般的に使用されているものでよく、例えば矯味剤としては白糖等が、緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはトラガント等が、保存剤としてはパラオキシ安息香酸エステル等が挙げられる。
注射剤を調製する場合は、エストロゲン物質にpH調節剤、安定化剤、等張化剤等を添加し、常法により皮下、筋肉及び静脈内注射剤を製造することができる。そのような添加剤としては、当該分野で一般的に使用されているものでよく、例えばpH調節剤としては、リン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはピロ亜硫酸ナトリウム等が、等張化剤としては、塩化ナトリウム、等が例示できる。
坐薬を調製する場合は、エストロゲン物質に担体、界面活性剤を加えて常法により製造することができる。そのような添加剤としては、当該分野で一般的に使用されているものでよく、例えば、担体としてはポリエチレングリコール、ハードファット等を、界面活性剤としてはポリソルベート80等を例示できる。
外用剤を調製する場合は、エストロゲン物質に基剤、水溶性高分子、溶媒、界面活性剤、保存剤等を加えて、常法により液剤、クリーム剤、ゲル剤、軟膏剤、硬膏剤等を製造することができる。基剤としては、流動パラフィン、白色ワセリン、精製ラノリン等が、水溶性高分子としてはカルボキシビニルポリマー等が、溶媒としてはグリセリン、水等が、界面活性剤としてはポリオキシエチレン脂肪酸エステル等が、保存剤としては、パラオキシ安息香酸エステル等が挙げられる。
貼付剤を調製する場合は、エストロゲン物質に粘着剤、溶媒、架橋剤、界面活性剤等を加えて常法により含水型貼付剤、プラスター貼付剤等を製造することができる。そのような添加剤としては、当該分野で一般的に使用されているものでよく、例えば、粘着剤としてはポリアクリル酸部分中和物、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸2−エチルヘキシル、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体等を、溶媒としてはグリセリン、水等を、架橋剤としては、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、乾燥水酸化アルミニウムゲル等を、界面活性剤としては、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等を例示できる。
以下、本発明を、実験例を用いてより詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
なお、各実験例で示す各種測定値は、下記の方法に従って測定した。
(A)実験手法
(1)血中グルコース濃度(血糖値)
血中のグルコース濃度は、被験動物の尾部静脈から採取した全血に対して、ONE TOUCH UltraVue (Johnson & Johnson K.K.)を用いた酵素電極法により測定した。
(2)HbA1c
HbA1cは、被験動物の尾部静脈から採取した全血に対して、DCA2000アナライザー(Bayer Medical社製)を使用して測定した。
(3)その他の血液パラメーター
臓器を採取する直前に、ネンブタノール麻酔下で心臓から採取した血液を用いて、下記の各種方法または測定キットを用いて、血液パラメーターを測定した。
(a)クレアチニン:高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、
(b)アルブミン:BCG法、
(c)血液尿素窒素(BUN):ウレアーゼUV法、
(d)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびアラニン・アミノトランスフェラーゼ(ALT):JSCC標準化対応法、
(e)血清インスリン濃度:酵素結合免疫吸着測定キット(Morinaga Institute of Biological Science)、
(f)血清グルカゴン濃度:YK142 Mouse GLP-2 EIA キット (Yanaihara Institute Inc.)、
(g)総血清コレステロール値:酵素アッセイ試薬(和光純薬工業製)、
(h)血清エストラジオール濃度:ラジオイムノアッセイ試薬(DPC-TKTTI; Diagnostic Products Co.,)、
(i)血清テストステロン濃度:ラジオイムノアッセイ試薬(DPC-KE2D1; Diagnostic Products Co.,) 。
(4)尿パラメーター
下記の各種方法または測定キットを用いて、尿パラメーターを測定した。
(a)アルブミン濃度:Albuwellキット(Exocell社)
(b)クレアチニン:高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、
(c)クレアチニン・クリアランス(Ccr):次式によって計算した。
Figure 2011007882
(5)組織染色(免疫染色)
膵臓を10%のホルマリンで固定し、パラフィンに包理し、2μm幅に薄切りにした。これを下記に示す各種の一次抗体を含む希釈液にて4℃で一晩インキュベートして免疫染色した。
一次抗体:抗インシュリン抗体(希釈率1:500; DAKO)、抗グルカゴン抗体(希釈率1:500; Linco Reasearch社)、抗DBA抗体(希釈率1:300; Vector Laboratories)、抗-Pdx-1抗体(希釈率1:1000;Chris V.E. Wright氏から供与、Vanderbilt大学)、抗コラーゲン・タイプIV工程(希釈率1:250; PROGEN Biotechnik)、抗Glut 4抗体(希釈率1:1000; Chemicon)。
一次抗体は、Alexa 488若しくはAlexa 568(1:200; Molecular Probes)が結合した二次抗体、またはビオチン標識された二次抗体とストレプトアビジンAlexa 488若しくはAlexa 568(1:800; Vector Laboratories)が結合した三次抗体で、免疫蛍光標識するか、あるいはビオチン標識された二次抗体を用いて免疫ペルオキシダーゼ染色法によって検出した。染色は、ジアミノベンジジンを用いて視覚化した。切片はヘマトキシリンン染色することで対比染色した。画像は、BZ9000顕微鏡(Keyence)上で、あるいはLSM 510 META共焦点顕微鏡(Carl Zeiss)上の共焦点モードで検出した。免疫蛍光強度はLSM Zeissソフトウェアを使用して、無作為の部位(n=30/切片)について測定した。また、結果は平均ピクセル強度として示した。
(6)膵臓切片におけるβ-細胞、α-細胞および膵島の数と領域の測定
1つの膵臓切片中に存在する膵島、グルカゴン陽性細胞およびインスリン陽性細胞のすべてを、Keyence Biorevo microscopeで撮影した。1つの膵臓について少なくとも150μm離れた領域に相当する5〜7つの切片について評価した(1群に5-8匹の雄と6-9匹の雌を含む)。image joint and dynamic cell count software (Keyence)を使用して、各切片についてβ-細胞と膵島の面積を測定した。
(7)経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)
16時間断食した後、グルコース(1g/kg体重)を強制経口投与した。経口投与から0、15、30、60、90および120分後に尾部静脈から採血し、血中のグルコース濃度を測定した。また経口投与から0、15および30分後に同様に尾部静脈から採血し、血清インスリン濃度を測定した。
(8)餌摂取量と水摂取量の測定
対象とするマウスを個々に代謝ゲージに4日間収容し、餌摂取量(g/24h)および水摂取量(ml/24h)を測定した。なお、測定期間中、自由に餌と水を摂取させた。測定は、各群について3回繰り返して実施した。
(9)電子顕微鏡検査
マウスから採取した臓器(膵臓および腎臓)を、定法に従って、2%のグルタルアルデヒド(0.05mol/Lのリン酸緩衝液)で固定化した後、段階的濃度のエタノールで脱水し、エポキシ樹脂の中に包理した。これを、Reichert-Nissei Ultracuts microtome (Leica Microsystems, Wetzlar, Germany)の上に載せて、ガラスナイフでカットして切片を調製した。調製した切片を、酢酸ウラニルとクエン酸鉛で二重染色して、日立H7100電子顕微鏡(日立株式会社、東京(日本))で観察した。
(10)糸球体の表面積、PAS-陽性面積、および糸球体の数の測定
各マウスについて、50個の糸球体を分析した。糸球体の総面積は、Image-Pro Plus (Media Cybernetics,)を使用して、切片をPAS染色することによって測定した。PAS陽性のエリア画分は、糸球体切片の断面積に対するPAS陽性面積の比率として計算された。糸球体の数は、各マウスの左腎臓の中央の横断面について糸球体をすべて数えることにより測定した。
(11)In vitroでの筋肉インキュベーション
マウスを殺し、長指伸筋(EDL)筋及びヒラメ筋を速やかに取り出して処理した。各筋肉の両端を縫合糸(絹4-0)で結び、インキュベーション装置に供した。まず筋肉を、2mMピルビン酸塩を含む6mlのクレブス−リンガー・重炭酸塩(KRB)緩衝液(117mM NaCl、4.7mM KCl、2.5mM CaCl2、1.2mM KH2PO4、1.2mM MgSO4、24.6mM NaHCO3、pH 7.5)中で、20分間プレインキュベーションした。次いで、インシュリン存在下または非存在下のKRB緩衝液中でインキュベーションした。
(12)筋肉内におけるグルコース輸送の測定(In vitro)
筋肉をインキュベーションした後、緩衝液を直ちに1mM 2-deoxy-D-[3H]グルコース(1.5μCi/ml)および7mM D-[14C]マンニトール(0.3μCi/ml)( PerkinElmer Life Sciences)を含む30℃のKRB緩衝液に替え、再度10分間インキュベーションした。インスリンを使用する時は、インシュリンを含む緩衝液を用いて上記と同様にインキュベートした。
筋肉を4℃で80μmol/LのサイトカラシンBを含むKRB緩衝液に浸漬することによりグルコース輸送を停止させ、次いで筋肉を液体窒素で凍らせた。筋肉の重量を測定し、250μlの1M NaOH中で10分間80℃、インキュベートすることにより消化した。消化物は250μlの1M HClを用いて中和した。次いでこれを13,000×gで5分間遠心分離することでまた、微粒子を沈殿させた。消化した筋肉の一部について、2重ラベル用液体シンチレーション計数によって放射能を測定した。また、細胞外及び細胞内の空洞を計算した。
(13)筋肉中のグリコーゲン濃度の測定
筋肉は、70℃の30%KOHおよび5%Na2SO4 を用いて15分間処理することで溶解した。その後、3倍容量の無水アルコールと混合することにより、グリコーゲンを沈殿させ、-20℃で終夜保存した。沈殿物は5分間13,000gで遠心分離によって集められた。グリコーゲンは6N H2SO4の中で100℃で45分間処理して加水分解し、次いで冷却した。得られた試料を1N NaOHで中和し、グルコース(HK)試薬(シグマ・ケミカル)を使用してグルコースを測定した。
(14)ウェスタンブロット分析
マウスを殺し、EDL、前脛骨筋および腓腹筋筋肉を採取して、液体窒素を用いて急速冷凍した。破砕した筋肉を、プロテアーゼインヒビターカクテル(Sigma)およびホスファターゼインヒビターカクテル(Sigma)を含む、氷冷ラジオイムノ沈降緩衝液(50mM Tris-HCl(pH 7.4)、150mM NaCl、1% Triton X-100、1%のデオキシコール酸ナトリウム、0.1% SDS、22mM EDTA)の中で、ポリトロンを用いてホモジナイズした。遠心分離によって不溶残渣を除去した後、上澄み(40μg)を12.5%のSDS-PAGEに供し、ニトロセルロース膜(Millipore Corp.,)に転写した。膜はリン酸緩衝生理食塩水を溶媒とする5%のスキムミルクでブロックし、次に、1次抗体として、抗-Akt抗体(1:1000; Cell Signaling Technology)、抗-Ser473-phosphorylated Akt抗体(1:2000; Cell Signaling Technology)、抗Glut4抗体(1:1000; Chemicon)、抗-アクチン抗体(1:3000; Sigma)、または抗-Tyr972-phosphorylated IRβ抗体(1:1000; Calbiochem)とともに、4℃で終夜インキュベートした。その後、得られた膜を、室温で1時間、ホースラディシュ・ペルオキシダーゼを結合した抗ウサギIgG抗体(抗アクチン抗体以外の個々の1次抗体については1:2000の割合で、抗アクチン抗体については1:5000の割合で使用;Molecular Probe)とともにインキュベートした。これらの各ステップ後に、5%のTween 20/リン酸緩衝生理食塩水で10分間かけて3回洗浄した。ECLプロトコール(Amersham Pharmacia Biotech)の記載に従って、検出を行った。膜を除去緩衝液 (100mMの2-メルカプトエタノール、2% SDS、62.5mM Tris-HCl, pH 6.7)(55℃)で30分間処理することで、膜から抗体を除去し、次いで第2のイムノプロービングを実施し、内部コントロールとしてアクチンを検出した。免疫ブロット実験を3回以上繰り返した。
タンパク質レベルはNIHイメージを使用して定量した。シグナル強度はスライド・スキャナーによってPICTファイルとして取得した。
(B)被験動物の作製
糖尿病モデル動物(ICERIγトランスジェニックマウス)の作製
特許文献1(WO2004/072282)の実施例1に記載する方法に従って、純系C57BL/6J(日本SLC社)からICERIγトランスジェニックマウス(雄性)を作製した。作製した62匹のマウスから3匹のトランスジェニックマウス(Tg7、Tg12、Tg23マウス:以後、これらを総称して「Tgマウス」という)を取得した。これらのマウス(Tg7、Tg12、Tg23マウス)に導入されたICERIγ遺伝子のコピー数はそれぞれ4,4及び6であった。これらのTgマウスは、ICERIγがβ細胞に過剰発現することによって、インスリン合成とβ細胞の増殖が抑制されて、インスリン分泌不全から血糖値が高く重度の糖尿病を発症するという明確な糖尿病発症メカニズムを有している。そこで、以下の実験では当該Tgマウス(Tg12及びTg23マウス)を糖尿病モデルマウスとして用いた。
また対照実験には遺伝子組換えをしていない野生型マウス(WTマウス)を使用した。
これらのマウスは、室温24±2℃、湿度50±10%(相対湿度)、12時間の明/暗サイクルの下、マイクロアイソレーター中で飼育した。また、水及び餌(標準のげっ歯動物餌(CE-2; CLEAジャパン社)は、任意に供給した。マウスはすべて、九州大学の動物実験用のガイドラインに従って扱った。
実験例1 エストラジオール投与の影響
Tg23マウス(11週齢)を、エストラジオール投与群(n=24)とコントロール群(n=57)の2群に分け、エストラジオール投与群に対しては、性腺除去手術(Tx)をした後に17β-エストラジオール(E)の錠剤一粒(E含有量0.72mg/pellet、90日間放出、1日あたりのエストラジオールの最大放出量:0.008mg。以下の実験例でも同じ。)を襟首に皮下投与(埋め込み)し、またコントロール群に対しては性腺除去の偽手術をした後17β-エストラジオールを含まないビヒクルからなる錠剤(Innovative Research of America)一粒を襟首に皮下投与した。その後、これらのTgマウス及び野生型マウス(WT)(n=81)について血中グルコース濃度及び体重を毎週測定し、43週間後に解剖した。
図1(1)に、エストラジオール投与群(Tx+E群)の血中グルコース濃度の推移(図中、実線で示す)とコントロール群(Tg群)の血中グルコース濃度の推移(図中、点線で示す)、及び野生型マウス(WT群)の血中グルコース濃度(図中、Dで示す)を示す。また図1(2)に、各マウスの血中グルコース濃度測定時点(A:Tg群(48週齢)、B:エストラジオール投与から1週間後のTx+E群(24週齢)、C:エストラジオール投与から36週間後のTx+E群(48週齢)、D:WT群(48週齢))での膵島におけるインスリン産生細胞(図中、緑色に染色)及びグルカゴン産生細胞の存在状況を示す。この図1(2)においてインスリン産生細胞は緑色(左欄)、グルカゴン産生細胞は赤色(中央欄)で染色されている。図1(2)の右欄はインスリン産生細胞とグルカゴン産生細胞を重ね合わせて表示したものである。図1(3)は、エストラジオール投与群(Tx+E群)のB時点(エストラジオール投与から1週間後)での膵臓を抗インスリン抗体を用いて免疫染色した結果を示す画像であり、矢印で示す茶色に染色された細胞はインスリン産生細胞である。図1(4)は、17β-エストラジオール(E)を投与する前(図中、●で示す)と投与した後(図中、○で示す)の各Tg23マウスの血糖値をそれぞれ示す(図中、●及び○は個々のマウスを示す。但し、同じ数値の場合は、何匹でも○は1つとして表される)。
この結果から、糖尿病モデルマウス(Tgマウス)にエストラジオールを投与したエストラジオール投与群(Tx+E群)は、血糖値が正常マウス(野生型マウス)と同じレベルまで低下するとともに、膵臓の膵管上皮細胞にインスリン産生細胞が誘導されることが認められた。このことから、糖尿病の被験動物にエストラジオールを投与することにより、β細胞が急激に新生・増殖して血糖値が正常化することが確認された。なお、この低下した血糖値はその後死ぬまで持続した。
実験例2 糖尿病性腎症の第2期(早期腎症期)〜第3期(中期)に対するエストラジオールの影響
Tg23マウスにおいて腎機能の低下・腎病変が見られる20−35週齢の時点で、17β-エストラジオールのペレットを一粒皮下投与し、エストラジオールによる影響を調べた。なお、Tgマウスの上記週齢時点は、糖尿病性腎症の第2期(早期腎症期)〜第3期(中期)に相当し、通常、この時期を過ぎると血糖値を正常化しても腎病変は正常には戻らないと言われている。
具体的には、Tg23マウス(24週齢)を、エストラジオール投与群とコントロール群の2群に分け、エストラジオール投与群(Tx+E群:Treatment群ともいう)に対しては、性腺除去手術(Tx)をするとともに17β-エストラジオール(E)のペレット一粒を襟首に皮下投与し、またコントロール群(Tg群)に対しては性腺除去手術(Tx)の偽手術をした後17β-エストラジオールを含まないビヒクルからなるペレット一粒を襟首に皮下投与した。その後、これらのTx+E群及びTg群、並びに野生型マウス(WT)について、糸球体濾過量(GFR)(μL/min)、尿中アルブミン量/尿酸クリアランス(Ualb/Cr)(μg/mg/dL)、腎臓重量(g)、尿中グルコース濃度(mg/dL)及び尿量(mL)を測定した。
これら各マウス(48週齢)の糸球体組織をPAS染色した結果を図2(1)に、抗コラーゲン・タイプIV抗体を用いて免疫染色した結果を図2(2)に示す。糸球体内のコラーゲンIVの発現強度をLSM Zeissソフトウェアを用いて半定量した結果を、図2(2)の最下段に示す。なお、当該発現強度は、糸球体の無作為の部位(n=30/切片)について測定した結果であり、平均ピクセル(pixel)強度として示す。
図2(3)に各群のマウス(Tg群、WT、Tx+E群(Treatment))(40週齢)の糸球体濾過量(μL/min)、図2(4)に各群マウス(10週齢、40週齢)の尿中アルブミン量/尿酸クリアランス(Ualb/Cr)(μg/mg/dL)、図2(5)に各群マウスの腎臓重量(g)の推移(週)、図2(6)に各群マウス(10週齢、40週齢)の尿中グルコース濃度(mg/dL)、及び図2(7)に各マウス(8週齢、35週齢)の一日あたりの尿量(mL)を示す。
図2(1)及び(2)の結果から、エストラジオールを投与したTgマウス(Treatmentマウス)の糸球体は、野生型マウス(WT)と変わらない程度まで硬化が緩解していることが確認された。また図2(3)〜(7)の結果から、糖尿病性腎症の第2期(早期腎症期)の状態でもエストラジオールを投与することで、腎機能及び腎組織が劇的に改善されることが確認された。一方、エストラジオール未投与のTgマウスでは、早期腎症期の時点からさらに経時的に糸球体硬化が進行し(図2(1)及び(2)参照)、糖尿病性腎症の悪化が認められた(図2(3)、(4)及び、(7)等参照)。
従来、糖尿病性腎症は、ターニングポイントである第2期(早期腎症期)を過ぎると、その回復(治療)は非常に困難であるとされてきた。これに対して、第2期(早期腎症期)を過ぎても、エストラジオールを投与することにより腎機能及び腎組織が劇的に改善されたことを示す上記結果は注目に値する。
実験例3
野生型マウス(雄)及びTg23マウス(雄)を、それぞれ2群(エストラジオール投与群(n=6〜10)とコントロール群(n=6〜10)に分けた。なお、Tg23マウス(11週齢)は、高血糖・低インスリンのため、糖の取り込みが悪化している。
各マウス(WT及びTgマウス)のエストラジオール投与群(Tx-E群)については、11週齢の時点で、性腺除去手術(Tx)をするとともに17β-エストラジオール(E)のペレット一粒を襟首に皮下投与した。また各マウス(WT及びTgマウス)のコントロール群(Ct群)に対しては性腺除去手術(Tx)の偽手術をした後17β-エストラジオールを含まないビヒクルからなるペレット(Innovative Research of America)一粒を襟首に皮下投与した。投与から1週間後、TgマウスのTx+E群(Tg:+)及びCt群(Tg:−)並びにWTマウスのTx+E群(WT:+)及びCt群(WT:−)について、筋肉(ヒラメ筋)へのグルコース(2-deoxy-D-glucose)取り込み量(筋肉へのグルコース輸送量)、筋肉中でのactin、P-IRβ、AKT、P-AKT及びGlut4の発現・生成量(actinの発現量に対する相対比)を測定した。これらP-IRβ、AKT、P-AKT及びGlut4はグルコース取り込みに関係する分子である。結果を図3に示す。なお、図3Bの結果は、WTマウスのCt群(図中「WT:−」で示す。)及びTx+E群(WT:+)、並びにTgマウスのCt群(Tg:−)及びTx+E群(Tg:+)について、インスリン非存在下でのグルコース取り込み量に対するインスリン存在下でのグルコース取り込み量の割合(fold)を示す。
図3Cは、WTマウスのCt群(WT:−)及びTx+E群(WT:+)、並びにTgマウスのCt群(Tg:−)及びTx+E群(Tg:+)について、筋肉中でのactin、P-IRβ、AKT、P-AKT及びGlut4の発現量(actinの発現量に対する相対比)を測定したウェスタンブロッティング画像である。図3D、F、G及びEは各分子(P-IRβ、AKT、P-AKT及びGlut4)の発現強度を、各マウス群間で対比した結果である。図3Hは、WTマウスのCt群(WT)、並びにTgマウスのCt群(Tg)及びTx+E群(Tx+E)について、筋肉組織におけるGlut4の発現を、抗Glut4抗体を用いて免疫染色した結果を示す。筋肉組織におけるGlut4の発現強度をLSM Zeissソフトウェアを用いて半定量した結果を、図3Hの最下段に示す。なお、当該発現強度は、筋肉組織の無作為の部位(n=30/切片)について測定した結果であり、1ピクセル(pixel)あたりの強度(Intensity)として示す。
図3Iは、グルコース取り込みに関するシグナル伝達を示す模式図である。これに示すように、グルコース取り込みに関する分子であるAKT及びGlut4の発現が増大し活性化すると、グルコース取り込みが亢進することがわかる。
これらの結果からわかるように、糖尿病モデルマウス(Tgマウス)において17β-エストラジオール(E)を投与していないCt群の筋肉へのグルコース取り込み量と比較して、17β-エストラジオール(E)を投与したTx-E群の筋肉へのグルコース取り込み量は、投与から20〜40週後において、有意に増加することが確認された。また、TgマウスのTx-E群は筋肉細胞においてグルコース輸送体(Glut4)も増加し、細胞内のシグナリングも良好であった。このことから、エストラジオールを投与することで筋肉中のAKTとGlut4の発現が亢進し、その結果、筋肉への糖の取り込みが促進することが確認された。
図3Aは、各マウス(WT及びTgマウス)のエストラジオール投与群(図3A中「Tx-E:+」と表示)及びコントロール群(図3A中「Tx-E:−」と表示)のそれぞれについて、筋肉(ヒラメ筋)をインスリンの存在下(図3A中「Ins:+」と表示)または非存在下(図3A中「Ins:−」と表示)で1mM 2-deoxy-D-[3H]グルコース(1.5μCi/ml)および7mM D-[14C]マンニトール(0.3μCi/ml)( PerkinElmer Life Sciences)を含む30℃のKRB緩衝液で10分間インキュベーションし、筋肉へのグルコース取り込み量(μmol/g/h)を測定した結果である。いずれのマウスも、インスリンの存在下(+)でグルコースの取り込み量が上昇していることから実験がうまくいっていることがわかる。
実験例4 エストラジオール投与の影響(その2)
Tg23マウス(11週齢)を、エストラジオール投与群(E only群)、性腺除去手術群(Tx only群)、性腺除去手術及びエストラジオール投与群(Tx+E群)、コントロール群(Tg群)の4群(各群:n=4〜10)に分け、E only群に対しては、性腺除去手術(Tx)の偽手術をした後17β-エストラジオール(E)のペレット一粒を襟首に皮下投与し、Tx only群に対しては、性腺除去手術をした後17β-エストラジオールを含まないビヒクルからなるペレット一粒を襟首に皮下投与し、Tx+E群に対しては、性腺除去手術をした後17β-エストラジオールのペレット一粒を襟首に皮下投与し、Tg群には性腺除去手術の偽手術をした後17β-エストラジオールを含まないビヒクルからなるペレット一粒を襟首に皮下投与した。
その後、これらのE only群、Tx only群、Tx+E群及びTg群、並びに野生型マウス(WT)について、毎週血中グルコース濃度(mg/dl)を測定した。また、Tx+E群、Tg群、及び野生型マウス(WT)については、血清インスリン濃度(pg/mL)、血清グルカゴン濃度(pg/mL)、血液尿素窒素(BUN)濃度(mg/dL)、総血清コレステロール値(g/dL)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)/アラニン・アミノトランスフェラーゼ(ALT)、及び1日当たりの餌摂取量(g/day)を測定した。また、経口ブドウ糖負荷試験を行い、血中のグルコース濃度と血清インスリン濃度の経時変化を測定した。
結果を図4A〜Iに示す。この結果から、Tx+EだけでなくE onlyも血糖値降下に効果的であった。Tx+Eマウスでは、血糖インスリン値も大幅に増え、グルカゴン、BUN、総コレステロール、AST/ALT、餌摂取量すべて正常に戻っていた。経口ブドウ糖負荷試験においても、180分時点で血糖値はbasal levelに戻り、インスリン分泌も増加していた。これらのことから血糖値及び血中パラメーターが正常化されていることがわかる。
実験例5 エストラジオール投与の影響(その3)
Tg23マウス(23-24週齢)を、エストラジオール投与群とコントロール群の2群(各群:n=4〜10)に分け、エストラジオール投与群(Tx+E群)に対しては、性腺除去手術(Tx)をするとともに17β-エストラジオール(E)のペレット一粒を襟首に皮下投与し、またコントロール群(Tg群)に対しては性腺除去手術の偽手術をした後17β-エストラジオールを含まないビヒクルからなるペレット(Innovative Research of America)一粒を皮下投与した。その後、これらのマウスの血中グルコース濃度を毎週測定した。その結果を図5Aに示す。
図5Aに、Tx+E群の血中グルコース濃度の推移(図中、実線で示す)とTg群の血中グルコース濃度の推移(図中、点線で示す)、及び野生型マウス(WT群)の血中グルコース濃度(図中、Dで示す)を示す。また図5B及びCに、各マウスの血中グルコース濃度測定時点(A:Tg群(55週齢)、B:エストラジオール投与から1週間後のTx+E群、C:エストラジオール投与から31〜23週間後のTx+E群(55週齢)、D:WT群(55週齢))における膵臓組織1切片断面上のβ細胞の面積(μm)及びβ細胞の面積が5001μm以上の膵島の数を示す。
図5Dの画像はいずれも、Tx+E群のB時点(エストラジオール投与から1週間後)での膵臓を抗インスリン抗体を用いて免疫染色した結果を示す画像であり、膵菅上皮細胞中に観察される茶色に染色された細胞はインスリン産生細胞である。
図5Eに、Tx+E群及びTg群(いずれも23〜24週齢)について、膵菅上皮細胞に新生したインスリン産生細胞の数を対比した結果を示す。
また図5Fに、Tx+E群及びTg群(いずれも23〜24週齢)の膵臓を抗Pdx-1抗体を用いて免疫染色し、Pdx-1(Pancreas duodenum homobox 1)(図中、白の矢印で示す)の生成を観察した結果を示す。図中「d」は膵菅上皮細胞(duct)を意味する。また図5GにTx+E群及びTg群(いずれも23〜24週齢)について、膵臓中のPdx-1の数を対比した結果を示す。
これらの結果、特に図5EとFの結果から、エストラジオールを投与した群(Tx+E群)では、β細胞の新生(neogenesis)が亢進されていることがわかる。
また、Tx+E群(Treatment)及びTg群のマウス、並びに野生型マウス(WT)(いずれも48週齢)の膵臓組織について切片を調製し、電子顕微鏡で観察した。結果を図6に示す。この結果からわかるように、Tx+E群(Treatment)についてはインスリン分泌顆粒の存在が見られた。つまり、Treatment群では、野生型マウス(WT)と同様にインスリン顆粒がきちんと生成されていることから、成熟したβ細胞が形成されていることがわかる。
またTx+E群(Treatment)及びTg群のマウス、並びに野生型マウス(WT)(いずれも48週齢)について、糸球体及び尿細管をPAS染色した。糸球体のPAS陽性面積(pixel)を対比した結果を図7のAに、尿細管の細胞組織をPAS染色した画像を図7のBに示す。

Claims (12)

  1. エストロゲン物質を有効成分とするインスリン産生細胞誘導剤。
  2. エストロゲン物質がエストラジオール又はそのエステル、エストロン、エストリオール又はそのエステル、エキリン、エチニルエストラジオール、結合型エストロゲン、スチルベストロール及びヘキセストロールからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のインスリン産生細胞誘導剤。
  3. エストロゲン物質を有効成分とする筋肉へのグルコース取込み促進剤。
  4. エストロゲン物質がエストラジオール又はそのエステル、エストロン、エストリオール又はそのエステル、エキリン、エチニルエストラジオール、結合型エストロゲン、スチルベストロール及びヘキセストロールからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項3に記載のグルコース取込み促進剤。
  5. 請求項1若しくは2に記載するインスリン産生細胞誘導剤を、インスリン産生細胞を誘導する有効量含有するか、または請求項3若しくは4に記載するグルコース取込み促進剤を筋肉へのグルコース取込みを促進する有効量含有する、糖尿病または糖尿病合併症のための治療薬。
  6. 糖尿病合併症が糖尿病性腎症である請求項5に記載する治療薬。
  7. 糖尿病または糖尿病合併症の患者に対して、請求項1若しくは2に記載するインスリン産生細胞誘導剤をインスリン産生細胞を誘導する有効量投与する工程を有する、糖尿病または糖尿病合併症の患者におけるインスリン産生細胞の誘導方法。
  8. 糖尿病または糖尿病合併症の患者に対して、請求項3若しくは4に記載するグルコース取込み促進剤を筋肉へのグルコース取込みを促進する有効量投与する工程を有する、糖尿病または糖尿病合併症の患者における筋肉へのグルコース取込み促進方法。
  9. 糖尿病または糖尿病合併症の患者に対して、請求項1若しくは2に記載するインスリン産生細胞誘導剤をインスリン産生細胞を誘導する有効量投与するか、または請求項3若しくは4に記載するグルコース取込み促進剤を筋肉へのグルコース取込みを促進する有効量投与する工程を有する、糖尿病または糖尿病合併症の治療方法。
  10. 糖尿病または糖尿病合併症の予防または治療に用いられるエストロゲン物質。
  11. エストロゲン物質がエストラジオール又はそのエステル、エストロン、エストリオール又はそのエステル、エキリン、エチニルエストラジオール、結合型エストロゲン、スチルベストロール及びヘキセストロールからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項10に記載のエストロゲン物質。
  12. 糖尿病合併症が糖尿病性腎症である請求項10に記載するエストロゲン物質。
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