本発明は、主として携帯電話機などの移動体通信用のアンテナ装置と、それを備えた無線通信装置に関する。
携帯電話機等の移動体通信無線装置の小型化、薄型化が急速に進んでいる。また、携帯無線通信装置は、従来の電話機として使用されるのみならず、電子メールの送受信やWWW(ワールドワイドウェブ)によるウェブページの閲覧などを行うデータ端末機に変貌を遂げている。取り扱う情報も従来の音声や文字情報から写真や動画像へと大容量化を遂げており、通信品質のさらなる向上が求められている。また、携帯無線通信装置は、電話としての音声通話、ウェブページの閲覧のためのデータ通信、テレビジョン放送の視聴など、さまざまなアプリケーションに対処することが求められている。このような状況にあって、それぞれのアプリケーションに係る無線通信を行うために、幅広い周波数で動作できるアンテナ装置が必要である。
従来、複数の周波数帯域をカバーするアンテナ装置として、例えば、特許文献1及び2に記載のアンテナ装置があった。
特許文献1は2周波共用アンテナを開示し、この2周波共用アンテナは、誘電体基板の表面にプリント化して形成された給電線路、該給電線路に接続する内側放射素子、および外側放射素子と、誘電体基板表面にプリント化して形成された内側放射素子と外側放射素子との間隙で両放射素子を接続するインダクタと、誘電体基板の裏面にプリント化して形成された給電線路、該給電線路に接続する内側放射素子、および外側放射素子と、誘電体基板裏面にプリント化して形成された内側放射素子と外側放射素子との間隙で両放射素子を接続するインダクタとを備えることを特徴とする。特許文献1の2周波共用アンテナは、内側放射素子と外側放射素子との間隙にインダクタを挿入したことにより、素子間の寄生容量と挿入したインダクタとで並列共振回路を形成する。アンテナの給電部から見た場合、並列共振回路は特定の周波数において開放になるので、その周波数では内側放射素子のみ(すなわち給電線路から並列共振回路までの部分)が励振し、その他の周波数では、内側放射素子及び外側放射素子の両方(すなわち並列共振回路の両側の部分)が励振する。これによって、特許文献1の2周波共用アンテナではマルチバンド特性が得られる。
特許文献2のマルチバンドアンテナは、LC並列共振回路の両端に第1及び第2の放射エレメントを接続したアンテナ素子を備えてなるマルチバンドアンテナにおいて,前記LC並列共振回路はインダクタ自身の自己共振によって構成されていることを特徴とする。特許文献2のマルチバンドアンテナでは、放射エレメント自身の自己共振によって構成されるLC並列共振回路によりマルチバンド特性が得られる。
特開2001−185938号公報。
特開平11−55022号公報。
最近になって、通信容量を増大させて高速通信を実現するために、複数のチャンネルの無線信号を空間分割多重により同時に送受信するMIMO(Multi−Input Multi−Output)技術を採用したアンテナ装置が登場している。MIMO通信を実行するアンテナ装置は、空間分割多重を実現するために、指向性又は偏波特性などを相違させることにより、互いに低相関である複数の無線信号の送受信を同時に実行する必要がある。
特許文献1及び2の構成では、複数の共振周波数で動作することができるものの、給電部が1つだけであるので、MIMO無線通信装置、ダイバーシチ方式を用いた無線通信装置、またアダプティブアレーに利用できないという課題を有していた。
本発明の目的は、以上の問題点を解決し、簡単な構成でありながら、互いに低相関である複数の無線信号の送受信を同時に実行可能であり、かつ複数の周波数で動作可能であるアンテナ装置、及びそのようなアンテナ装置を備えた無線通信装置を提供することにある。
本発明の第1の態様に係るアンテナ装置によれば、
アンテナ素子上の所定の各位置にそれぞれ設けられた第1及び第2の給電ポートを備えたアンテナ装置において、
上記アンテナ素子は、上記第1及び第2の給電ポートにそれぞれ対応した第1及び第2のアンテナ部として同時に動作するように、上記第1及び第2の給電ポートを介してそれぞれ同時に励振され、
上記アンテナ装置は、
上記アンテナ素子上において上記第1及び第2の給電ポートの間に設けられたスリットと、
上記スリットに沿って上記スリットの開口部から所定距離の位置に設けられ、所定の共振周波数において実質的に短絡され、上記共振周波数から離隔した周波数では実質的に開放される共振回路と、
上記共振回路の共振周波数に一致する第1のアイソレーション周波数と、上記第1のアイソレーション周波数よりも低い所定の第2のアイソレーション周波数とにおいて上記アンテナ装置を動作させる制御手段とを備え、
上記アンテナ装置が上記第1のアイソレーション周波数で動作するとき、上記共振回路が実質的に短絡されることにより上記スリットの開口部から上記共振回路までの区間のみが共振して、上記第1のアイソレーション周波数において上記第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成し、上記アンテナ装置が上記第2のアイソレーション周波数で動作するとき、上記共振回路が実質的に開放されることにより上記スリット全体が共振して、上記第2のアイソレーション周波数において上記第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成することを特徴とする。
上記アンテナ装置において、上記共振回路は、直列接続されたキャパシタ及びインダクタを含むことを特徴とする。
また、上記アンテナ装置は、上記スリットに沿って上記スリットの開口部から互いに異なる所定距離の位置にそれぞれ設けられた複数の共振回路を備え、上記複数の共振回路のそれぞれは、互いに異なる所定の共振周波数において実質的に短絡され、当該共振回路の共振周波数から離隔した周波数では実質的に開放され、
上記制御手段は、上記各共振回路の共振周波数のいずれかに一致する複数の第1のアイソレーション周波数において上記アンテナ装置を動作させ、
上記アンテナ装置が上記複数の第1のアイソレーション周波数のうちのいずれか1つの第1のアイソレーション周波数で動作するとき、上記複数の共振回路のうちで上記1つの第1のアイソレーション周波数に一致する共振周波数を有する共振回路が実質的に短絡されることにより上記スリットの開口部から当該共振回路までの区間のみが共振して、上記1つの第1のアイソレーション周波数において上記第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成することを特徴とする。
さらに、上記アンテナ装置において、上記スリットに設けられたリアクタンス素子をさらに備えたことを特徴とする。
またさらに、上記アンテナ装置は、上記スリットに設けられた可変リアクタンス素子をさらに備え、
上記制御手段は、上記可変リアクタンス素子のリアクタンス値を変化させることを特徴とする。
また、上記アンテナ装置は、上記第1及び第2の給電ポートにそれぞれ接続され、上記制御手段の制御下で上記アンテナ素子の動作周波数を上記第1又は第2のアイソレーション周波数に一致させるインピーダンス整合手段をさらに備えたことを特徴とする。
さらに、上記アンテナ装置は、第1のアンテナ素子及び第2のアンテナ素子を備えたダイポールアンテナとして構成され、
上記第1の給電ポートは、上記第1及び第2のアンテナ素子が対向した第1の位置において設けられ、
上記第2の給電ポートは、上記第1の位置とは異なる位置であって、上記第1及び第2のアンテナ素子が対向した第2の位置において設けられ、
上記第1及び第2のアンテナ素子の少なくとも1つに、少なくとも1つのスリット及び少なくとも1つの共振回路が設けられたことを特徴とする。
本発明の第2の態様に係るアンテナ装置によれば、
アンテナ素子上の所定の各位置にそれぞれ設けられた第1及び第2の給電ポートを備えたアンテナ装置において、
上記アンテナ素子は、上記第1及び第2の給電ポートにそれぞれ対応した第1及び第2のアンテナ部として同時に動作するように、上記第1及び第2の給電ポートを介してそれぞれ同時に励振され、
上記アンテナ装置は、
上記アンテナ素子上において上記第1及び第2の給電ポートの間に設けられたスロットと、
上記スロットに沿って上記スロットの所定位置に設けられ、所定の共振周波数において実質的に短絡され、上記共振周波数から離隔した周波数では実質的に開放される共振回路と、
上記共振回路の共振周波数に一致する第1のアイソレーション周波数と、上記第1のアイソレーション周波数よりも低い所定の第2のアイソレーション周波数とにおいて上記アンテナ装置を動作させる制御手段とを備え、
上記アンテナ装置が上記第1のアイソレーション周波数で動作するとき、上記共振回路が実質的に短絡されることにより上記スロットの一端から上記共振回路までの区間のみが共振して、上記第1のアイソレーション周波数において上記第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成し、上記アンテナ装置が上記第2のアイソレーション周波数で動作するとき、上記共振回路が実質的に開放されることにより上記スロット全体が共振して、上記第2のアイソレーション周波数において上記第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成することを特徴とする。
本発明の第3の態様に係る無線通信装置によれば、複数の無線信号を送受信する無線通信装置において、本発明の第1及び第2の態様に係るアンテナ装置のいずれかを備えたことを特徴とする。
以上説明したように、本発明に係るアンテナ装置及びそれを備えた無線通信装置によれば、所定の動作周波数においてアンテナ素子を共振させるとともに給電ポート間のアイソレーションを高く確保することができ、低結合で動作するMIMOアンテナ装置を実現することができる。複数の給電ポートをもつアンテナ素子にスリットを設けることで、アンテナ素子の共振周波数を変化させる。また、スリットは、2つの給電ポート間のアイソレーションを高くする役目も果たす。さらにスリットに沿った所定の位置に設けた共振回路により、給電ポート間のアイソレーションを高く確保しながら複数の異なる周波数で動作するマルチバンド化を実現する。
複数の給電ポートを同時に用いて通信するためには、動作させようとする所定の周波数においてアンテナ素子が共振し、かつ、給電ポート間のアイソレーションが高くなければならない。本発明のアンテナ装置及びそれを備えた無線通信装置は、アンテナ素子の共振周波数とアイソレーションが高くなる周波数を同一周波数に調整するために、各給電ポートに接続された整合回路を備えて構成される。本発明によれば、アンテナ素子の少なくとも2つの動作周波数を調整することができ、少なくとも2つの動作周波数において2つの給電ポート間のアイソレーションを高くすることができるので、複数の周波数で複数の無線信号の送受信を同時に実行可能な無線通信装置を提供することができる。
本発明によれば、アンテナ素子数は1つのままでありながら、当該アンテナ素子を少なくとも2つの周波数で複数のアンテナ部として動作させることができ、それとともに、複数のアンテナ部の間のアイソレーションを確保することができる。アイソレーションを確保してMIMOアンテナ装置の複数のアンテナ部を互いに低結合にすることにより、各アンテナ部を用いて、互いに低相関である複数の無線信号の送受信を同時に実行することができる。また、アンテナ素子の動作周波数を調整することができ、異なる周波数を使用する複数のアプリケーションの中から少なくとも2つのアプリケーションにも対応することができる。
本発明の実施形態に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。
図1の直列共振回路14を示す回路図である。
図1のスリットS1の動作原理を説明するためのアンテナ装置の概略構成を示す図である。
図3のアンテナ装置に係るスリットS1の長さD1及び周波数に対する反射係数のパラメータS11を示すグラフである。
図3のアンテナ装置に係るスリットS1の長さD1及び周波数に対する通過係数のパラメータS21を示すグラフである。
図3のアンテナ装置に係るスリットS1の長さD1に対する周波数の特性を示すグラフである。
本発明の実施形態の第1の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。
本発明の実施形態の第2の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。
本発明の実施形態の第3の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。
本発明の実施形態の第4の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。
本発明の実施形態の第5の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。
本発明の実施形態の第6の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお、同様の構成要素については同一の符号を付している。
図1は、本発明の実施形態に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。本実施形態のアンテナ装置は、異なる2つの給電点1a,1bを備えた長方形形状のアンテナ素子1を備え、給電点1aを介してアンテナ素子1を第1のアンテナ部として励振させると同時に、給電点1bを介してアンテナ素子1を第2のアンテナ部として励振させることにより、単一のアンテナ素子1を2つのアンテナ部として動作させる。
通常、単一のアンテナ素子に複数の給電ポート(又は給電点)を設けた場合、給電ポート間のアイソレーションを確保することができず、異なるアンテナ部間の電磁結合が高くなるので、信号間の相関が高くなってしまう。従って、例えば受信時には、各給電ポートから同一の受信信号が出力される。このような場合、ダイバーシチやMIMOの良好な特性を得ることが出来ない。本実施形態では、アンテナ素子1の給電点1a,1b間にスリットS1を備え、かつスリットS1に沿った所定の位置に直列共振回路14を備え、これらスリットS1及び直列共振回路14を備えたことにより、給電点1a,1b間にアイソレーションを高く確保できる周波数を複数個もたらすことを特徴とする。
図1において、アンテナ装置は、長方形形状の導体板にてなるアンテナ素子1と、長方形形状の導体板にてなる接地導体2とを備え、アンテナ素子1と接地導体2とは、それぞれの一辺を対向させて、所定距離だけ離隔して並置されている。アンテナ素子1及び接地導体2の互いに対向した一対の辺の両端において、給電ポートがそれぞれ設けられる。一方の給電ポートは、アンテナ素子1上において、接地導体2に対向した辺の一端(図1ではアンテナ素子1の左下の端部)に設けられた給電点1aと、接地導体2上において、アンテナ素子1に対向した辺の一端(図1では接地導体2の左上の端部)に設けられた接続点2aとを含む。他方の給電ポートは、アンテナ素子1上において、接地導体2に対向した辺の他端(図1ではアンテナ素子1の右下の端部)に設けられた給電点1bと、接地導体2上において、アンテナ素子1に対向した辺の他端(図1では接地導体2の右上の端部)に設けられた接続点2bとを含む。アンテナ素子1はさらに、2つの給電ポート間、すなわち給電点1a,1b間に、アンテナ部間の電磁結合を調整し、給電ポート間の所定のアイソレーションを確保するためのスリットS1を備える。スリットS1は所定幅及び長さを有し、その一端は給電点1a,1b間の辺に開口部を有することにより開放端として構成される。アンテナ装置はさらに、スリットS1に沿ってその開口部から所定距離の位置において、スリットS1の実効長を変化させるための直列共振回路14を備える。図2は、図1の直列共振回路14を示す回路図である。直列共振回路14は、直列接続されたキャパシタC及びインダクタLから構成され、スリットS1の両側の導体にわたって接続される。直列共振回路14は、所定の共振周波数のみにおいて共振してそのインピーダンスが0になり(すなわち、実質的に短絡され)、この共振周波数から離隔した他の周波数では実質的に開放される。従って、直列共振回路14は、この共振周波数ではスリットS1の開口部から直列共振回路14までの区間のみを共振させ、この共振周波数から離隔した他の周波数ではスリットS1全体を共振させる。
給電点1a及び接続点2aは、信号線F3a,F3b(以下、総称して給電線F3で表す。)を介してインピーダンス整合回路11(以下、整合回路11という。)に接続され、整合回路11は給電線F1を介してMIMO通信回路10に接続される。同様に、給電点1b及び接続点2bは、信号線F4a,F4b(以下、総称して給電線F4で表す。)を介してインピーダンス整合回路12(以下、整合回路12という。)に接続され、整合回路12は給電線F2を介してMIMO通信回路10に接続される。給電線F1,F2は、例えば、50Ωの特性インピーダンスを有する同軸ケーブルにてそれぞれ構成される。同様に、給電線F3,F4は、例えば、50Ωの特性インピーダンスを有する同軸ケーブルにてそれぞれ構成され、この場合、各信号線F3a,F4aは同軸ケーブルの内部導体としてアンテナ素子1と整合回路11,12とをそれぞれ接続し、各信号線F3b,F4bは同軸ケーブルの外部導体として接地導体2と整合回路11,12とをそれぞれ接続する。それに代わって、給電線F3,F4はそれぞれ、平衡給電線路として構成されてもよい。また、MIMO通信回路10は、MIMO通信方式に係る複数のチャンネル(本実施形態では2チャンネル)の無線信号をアンテナ素子1により送受信させる。
本実施形態では、以上の構成を備えたことにより、一方の給電ポート(すなわち給電点1a)を介してアンテナ素子1を第1のアンテナ部として励振させると同時に、他方の給電ポート(すなわち給電点1b)を介してアンテナ素子1を第2のアンテナ部として励振させることにより、単一のアンテナ素子1を2つのアンテナ部として動作させることができる。このとき、所望の動作周波数においてアンテナ素子1を共振させるとともに給電ポート間のアイソレーションを高く確保することができ、低結合で動作するMIMOアンテナ装置を実現することができる。
アンテナ素子1にスリットS1及び直列共振回路14を設けることによる効果は、以下の通りである。スリットS1を設けることにより、アンテナ素子1自体の共振周波数は低下する。さらに、スリットS1は、その実効長に応じた所定の共振周波数を有する共振器として動作する。スリットS1はアンテナ素子1自体と電磁的に結合するので、アンテナ素子1の共振周波数は、スリットS1を持たない場合と比較して、スリットS1の共振周波数に従って変化している。スリットS1を設けることにより、アンテナ素子1の共振周波数が変化するとともに、所定の周波数において給電ポート間のアイソレーションを高くすることができる。従って、給電ポート間においてアイソレーションを高く確保できる周波数(以下、アイソレーション周波数という。)は、スリットS1の実効長に応じて変化する。直列共振回路14のインピーダンスが0になったとき、直列共振回路14の位置においてスリットS1が実質的に短絡され、スリットS1の実効長はスリットS1の開口部から直列共振回路14までの区間の長さになる。スリットS1の実効長が短くなって、その共振周波数は高くなり、このときのアイソレーション周波数は、スリットS1全体が共振するときよりも高くなる。所定の周波数において直列共振回路14の短絡とアイソレーションの確保とに同時に行うために、アイソレーション周波数を直列共振回路14の共振周波数に一致させるように、直列共振回路14の位置をスリットS1に沿って調整する(すなわち、スリットS1の実効長を調整する)。
なお、アイソレーション周波数は、一般には、アンテナ素子1の共振周波数とは一致しない。従って、本実施形態では、アンテナ素子1の動作周波数(すなわち所望信号を送受信する周波数)を、スリットS1により変化された共振周波数からアイソレーション周波数にシフトさせるために、各給電ポートとMIMO通信回路10との間に整合回路11,12を設けている。整合回路11,12を設けることは、アンテナ素子1の共振周波数とアイソレーション周波数との両方に影響するが、主に、共振周波数を変化させるように寄与する。整合回路11を設けたことにより、MIMO通信回路10側の端子(すなわち給電線F1に接続された側の端子)において、当該端子からアンテナ素子1をみたときのインピーダンスは、当該端子からMIMO通信回路10を見たときのインピーダンス(すなわち給電線F1の50Ωの特性インピーダンス)に一致する。同様に、整合回路12を設けたことにより、MIMO通信回路10側の端子(すなわち給電線F2に接続された側の端子)において、当該端子からアンテナ素子1をみたときのインピーダンスは、当該端子からMIMO通信回路10を見たときのインピーダンス(すなわち給電線F2の50Ωの特性インピーダンス)に一致する。
スリットS1の実効長は、アンテナ素子1の動作周波数が直列共振回路14の共振周波数に一致するか否かに応じて変化する。一致するときには、スリットS1の実効長はスリットS1の開口部から直列共振回路14までの区間の長さになり、そうでないときには、スリットS1の実効長はスリットS1全体の長さになる。従って、本実施形態のアンテナ装置は、アンテナ素子1の動作周波数を変化させてスリットS1の実効長を変化させることにより、互いに異なる共振周波数を実現するとともに、互いに異なる周波数において給電ポート間のアイソレーションを確保するように構成される。本実施形態では、アンテナ素子1の動作周波数を変化させてスリットS1の実効長を変化させることにより、異なる2つのアイソレーション周波数を実現することができる。詳しくは、コントローラ13は、直列共振回路14の共振周波数に一致する第1のアイソレーション周波数と、第1のアイソレーション周波数よりも低い所定の第2のアイソレーション周波数とにおいてアンテナ装置を動作させる。アンテナ装置が第1のアイソレーション周波数で動作するとき、直列共振回路14が実質的に短絡されることによりスリットS1の開口部から直列共振回路14までの区間のみが共振して、第1のアイソレーション周波数において第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成し、アンテナ装置が第2のアイソレーション周波数で動作するとき、直列共振回路14が実質的に開放されることによりスリットS1全体が共振して、第2のアイソレーション周波数において第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成する。ここで、コントローラ13は、MIMO通信回路10及び整合回路11,12の動作周波数を調整することにより、アンテナ素子1の動作周波数を2つのアイソレーション周波数のいずれかに選択的にシフトさせる。本実施形態では、以上の構成により、アンテナ装置の多周波化(マルチバンド化)が可能になる。
以下、図3〜図6を参照して、本実施形態のアンテナ装置の動作原理について説明する。図3は、図1のスリットS1の動作原理を説明するためのアンテナ装置の概略構成を示す図である。図3のアンテナ装置では、スリットS1の長さD1に依存して、アンテナ素子1の共振周波数と、アイソレーション周波数とが変化することを示す。
図3において、アンテナ素子1及び接地導体2はそれぞれ、45×90mmの大きさを有する片面銅張基板を用いて作成された。アンテナ素子1の幅方向の中央からは、幅1mmにわたって完全に導体が除去され、この導体が除去された部分に銅テープを貼り付けることにより、所望の長さD1を有するスリットS1を形成した。スリットS1の長さD1を調節することにより、アンテナ装置の周波数特性の変化を調べた。また、アンテナ装置の2つの給電ポート(すなわち、給電点1a及び接続点2aからなる給電ポートと、給電点1b及び接続点2bからなる給電ポート)にはそれぞれ、長さ50mmを有するセミリジッドケーブルを給電線F3,F4として接続した。各セミリジッドケーブルの内部導体は、長さ5mmにわたって、アンテナ素子1を構成する基板にハンダ付けされ、各セミリジッドケーブルの外部導体は、長さ40mmにわたって、接地導体2を構成する基板にハンダ付けされた。さらに、給電線F3,F4はそれぞれ、図3ではP1,P2として概略的に示した信号源に接続した。
次に、図4及び図5を参照して、スリットS1の長さD1を変化させたときに2つの給電ポートに係るSパラメータS11,S21の周波数特性がどのように変化するかを示す。図4は、図3のアンテナ装置に係るスリットS1の長さD1及び周波数に対する反射係数のパラメータS11を示すグラフであり、図5は、図3のアンテナ装置に係るスリットS1の長さD1及び周波数に対する通過係数(すなわち給電ポート間のアイソレーションの特性)のパラメータS21を示すグラフである。図3のアンテナ装置は対称構造を有するので、パラメータS12はS21と同じであり、パラメータS22はS11と同じである。図4及び図5より、スリットS1の長さD1を変えることにより、アンテナ素子1の共振周波数及びアイソレーション周波数が変化していることがわかる。
次に、スリットS1の長さD1(単位:mm)を変化させたときにおけるアンテナ素子1の共振周波数(単位:GHz)の変化とアイソレーション周波数(単位:GHz)の変化との関係を、以下の表に示す。
上の表1の関係を、図6のグラフにも示す。図6は、図3のアンテナ装置に係るスリットS1の長さD1に対する周波数の特性を示すグラフである。表1及び図6によれば、スリットS1が長くなるにつれて、アンテナ素子1の共振周波数及びアイソレーション周波数が低くなることがわかる。パラメータS21に関しては、給電点1aから給電点1bまでの迂回経路が長くなったことが原因でアイソレーション周波数が下がったと考えられる。周波数が推移する範囲は、パラメータS11に関しては960MHz〜2.6GHzになり、パラメータS21に関しては730MHz〜2.7GHzになった。
図3〜図6によれば、スリットS1の長さD1を変えることにより、アンテナ素子1の共振周波数及びアイソレーション周波数が変化することがわかる。本実施形態のアンテナ装置では、前述のように、アンテナ素子1の動作周波数が直列共振回路14の共振周波数に一致するときには、スリットS1の実効長はスリットS1の開口部から直列共振回路14までの区間の長さになり、そうでないときには、スリットS1の実効長はスリットS1全体の長さになる。本実施形態のアンテナ装置は、アイソレーション周波数を変化させるためにスイッチ等の回路素子を必要とせず、アンテナ素子1の動作周波数を変化させるだけでよい。以上説明したように、本実施形態のアンテナ装置は、単一のアンテナ素子1を2つのアンテナ部として動作させるとき、簡単な構成でありながら複数のアイソレーション周波数で給電ポート間のアイソレーションを確保することができ、複数の無線信号の送受信を同時に実行することができる。
なお、図1に例示するように接地導体2がアンテナ素子1と同じような大きさの場合には、このアンテナ装置は、アンテナ素子1及び接地導体2からなるダイポールアンテナとみなすことができる。接地導体2は、一方の給電ポート(すなわち接続点2a)を介して第3のアンテナ部として励振されると同時に、他方の給電ポート(すなわち接続点2b)を介して第4のアンテナ部として励振され、これにより、接地導体2もまた2つのアンテナ部として動作する。このとき、接地導体2には、スリットS1のイメージ(鏡像)が形成されるので、第3及び第4のアンテナ部に関しても、給電ポート間のアイソレーションを確保することができる。以上の構成を備えたことにより、一方の給電ポートを介して第1及び第3のアンテナ部を第1のダイポールアンテナ部として励振させると同時に、他方の給電ポートを介して第2及び第4のアンテナ部を第2のダイポールアンテナ部として励振させることにより、単一のダイポールアンテナ(すなわちアンテナ素子1及び接地導体2)を2つのダイポールアンテナ部として動作させることができる。本実施形態のアンテナ装置によれば、単一のダイポールアンテナを2つのダイポールアンテナ部として動作させるとき、簡単な構成でありながら給電ポート間のアイソレーションを確保することができ、複数の無線信号の送受信を同時に実行することができる。
以下、図7〜図12を参照して、本発明の実施形態の変形例に係るアンテナ装置について説明する。
図7は、本発明の実施形態の第1の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。図1の実施形態ではアンテナ素子1の側にスリットS1及び直列共振回路14を設けたが、これに代えて、接地導体2の側にスリットS2及び直列共振回路14Aを設けてもよい。
図7において、接地導体2は、2つの給電ポート間、すなわち接続点2a,2b間に、給電ポート間の所定のアイソレーションを確保するように電磁結合調整のためのスリットS2を備える。スリットS2は所定幅及び長さを有し、その一端は接続点2a,2b間の辺に開口部を有することにより開放端として構成される。アンテナ装置はさらに、スリットS2に沿ってその開口部から所定距離の位置において、図1の直列共振回路14と同様に構成され、スリットS2の実効長を変化させるための直列共振回路14Aを備える。ここで、所定の周波数において直列共振回路14Aの短絡とアイソレーションの確保とに同時に行うために、アイソレーション周波数を直列共振回路14Aの共振周波数に一致させるように、直列共振回路14Aの位置をスリットS2に沿って調整する。また、給電線F3,F4はそれぞれ、平衡給電線路として構成される。図1及び図7に例示するように接地導体2がアンテナ素子1と同じような大きさの場合にはこのアンテナ装置はダイポールアンテナとなるので、本変形例においても、図1の場合と同様にアイソレーションの確保及び多周波化を実現することができる。
以上説明したように、本変形例のアンテナ装置は、単一のアンテナ素子1を2つのアンテナ部として動作させるとき、簡単な構成でありながら複数のアイソレーション周波数で給電ポート間のアイソレーションを確保することができ、複数の無線信号の送受信を同時に実行することができる。
図8は、本発明の実施形態の第2の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。本変形例のアンテナ装置は、図1のアンテナ装置の構成に加えて、接地導体2上にスリットS2及び直列共振回路14Aを備えたことを特徴とする。
図8において、アンテナ素子1は、図1の場合と同様のスリットS1及び直列共振回路14を備え、接地導体2は、図7の場合と同様のスリットS2及び直列共振回路14Aを備える。好ましくは、スリットS2は、例えばその長さをスリットS1とは相違させることにより、スリットS1を設けたことによってアンテナ素子1及び接地導体2が共振する周波数とは異なる周波数においてアンテナ素子1及び接地導体2を共振させるとともに、スリットS1とは異なる周波数において給電ポート間のアイソレーションを確保するように構成される。さらに、好ましくは、直列共振回路14及び直列共振回路14Aの共振周波数と、スリットS1の開口部から直列共振回路14までの区間の長さ及びスリットS2の開口部から直列共振回路14Aまでの区間の長さとは、それぞれ互いに異なるように構成される。ここで、前述したように、所定の周波数において直列共振回路14の短絡とアイソレーションの確保とに同時に行うために、アイソレーション周波数を直列共振回路14の共振周波数に一致させるように、直列共振回路14の位置をスリットS1に沿って調整する。同様に、別の周波数において直列共振回路14Aの短絡とアイソレーションの確保とに同時に行うために、アイソレーション周波数を直列共振回路14Aの共振周波数に一致させるように、直列共振回路14Aの位置をスリットS2に沿って調整する。これにより、直列共振回路14Aが共振してそのインピーダンスが0になるとき、直列共振回路14が共振してそのインピーダンスが0になるときにアンテナ素子1及び接地導体2が共振する周波数とは異なる周波数においてアンテナ素子1及び接地導体2を共振させるとともに、直列共振回路14が共振してそのインピーダンスが0になるときとは異なる周波数において給電ポート間のアイソレーションを確保するように構成される。本変形例では、2つのスリットS1,S2及び2つの直列共振回路14,14Aを備えたことにより、好ましくは異なる4つのアイソレーション周波数を実現することができる。また、給電線F3,F4はそれぞれ、平衡給電線路として構成される。コントローラ13は、MIMO通信回路10及び整合回路11,12の動作周波数を調整することにより、アンテナ素子1及び接地導体2の動作周波数を複数のアイソレーション周波数のいずれかに選択的にシフトさせる。
このように、本変形例では、複数のスリットS1,S2と複数の直列共振回路14,14Aとを備えたことにより、それぞれ異なる共振周波数を実現できるとともに、それぞれ異なるアイソレーション周波数を実現することができる。言い換えると、スリットS1,S2はそれぞれの異なる周波数でアンテナ素子1及び接地導体2と電磁的に結合するので、アンテナ素子1及び接地導体2の共振周波数は複数個になり、アイソレーション周波数もまた複数個になり、アンテナ素子1及び接地導体2の動作周波数をこれらのアイソレーション周波数のいずれかに選択的にシフトさせることにより、アンテナ装置の多周波化が可能になる。
本変形例では、スリットS1,S2を互いに異なる長さに構成することに代えて、スリットS1,S2を等長に構成することにより同一のアイソレーション周波数を実現してもよい。同様に、直列共振回路14及び直列共振回路14Aの共振周波数と、スリットS1の開口部から直列共振回路14までの区間の長さ及びスリットS2の開口部から直列共振回路14Aまでの区間の長さとをそれぞれ相違させることに代えて、これらを同一周波数及び同一長さに構成することにより同一のアイソレーション周波数を実現してもよい。これにより、アンテナ装置の構成上の自由度を増大させることができる。
以上説明したように、本変形例のアンテナ装置は、単一のアンテナ素子1を2つのアンテナ部として動作させるとき、簡単な構成でありながら複数のアイソレーション周波数で給電ポート間のアイソレーションを確保することができ、複数の無線信号の送受信を同時に実行することができる。
図9は、本発明の実施形態の第3の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。本変形例のアンテナ装置は、複数のアイソレーション周波数で給電ポート間のアイソレーションを確保するために、図1のスリットS1に設けられた単一の直列共振回路14に代えて、複数の直列共振回路14B,14Cを設けたことを特徴とする。
図9において、本変形例のアンテナ装置は、スリットS1に沿ってその開口部から所定距離の位置において直列共振回路14Bを備え、さらに、直列共振回路14Bよりも開口部から離れた位置においてもう1つの直列共振回路14Cを備える。直列共振回路14Bは、所定の共振周波数のみにおいて共振してそのインピーダンスが0になり(すなわち、実質的に短絡され)、直列共振回路14Cは、直列共振回路14Bの共振周波数よりも低い所定の共振周波数のみにおいて共振してそのインピーダンスが0になり(すなわち、実質的に短絡され)、直列共振回路14B,14Cのそれぞれは、対応する共振周波数から離隔した他の周波数では実質的に開放される。従って、直列共振回路14Bの共振周波数ではスリットS1の開口部から直列共振回路14Bまでの区間のみが共振し、直列共振回路14Cの共振周波数ではスリットS1の開口部から直列共振回路14Cまでの区間のみが共振し、これらの共振周波数から離隔した他の周波数ではスリットS1全体が共振する。すなわち、スリットS1の実効長が3段階に変化し、3つのアイソレーション周波数を確保できる。詳しくは、コントローラ13は、直列共振回路14Bの共振周波数に一致する第1のアイソレーション周波数と、直列共振回路14Cの共振周波数に一致する第2のアイソレーション周波数と、第1及び第2のアイソレーション周波数よりも低い所定の第3のアイソレーション周波数とにおいてアンテナ装置を動作させる。アンテナ装置が第1のアイソレーション周波数で動作するとき、直列共振回路14Bが実質的に短絡されることによりスリットS1の開口部から直列共振回路14Bまでの区間のみが共振して、第1のアイソレーション周波数において第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成し、アンテナ装置が第2のアイソレーション周波数で動作するとき、直列共振回路14Bが実質的に開放されかつ直列共振回路14Cが実質的に短絡されることによりスリットS1の開口部から直列共振回路14Cまでの区間のみが共振して、第2のアイソレーション周波数において第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成し、アンテナ装置が第3のアイソレーション周波数で動作するとき、直列共振回路14B及びCが実質的に開放されることによりスリットS1全体が共振して、第3のアイソレーション周波数において第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成する。
本変形例によれば、同様に3つ以上の直列共振回路を設けてもよい。このとき、複数の直列共振回路は、スリットS1に沿ってスリットS1の開口部から互いに異なる所定距離の位置にそれぞれ設けられ、各直列共振回路は、互いに異なる所定の共振周波数において実質的に短絡され、当該直列共振回路の共振周波数から離隔した周波数では実質的に開放される。コントローラ13は、各直列共振回路の共振周波数のいずれかに一致する複数のアイソレーション周波数においてアンテナ装置を動作させる。アンテナ装置が複数のアイソレーション周波数のうちのいずれか1つのアイソレーション周波数で動作するとき、複数の直列共振回路のうちで1つのアイソレーション周波数に一致する共振周波数を有する直列共振回路が実質的に短絡されることによりスリットS1の開口部から当該直列共振回路までの区間のみが共振して、1つのアイソレーション周波数において第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成する。本変形例では、複数の直列共振回路を用いることで、給電ポート間のアイソレーションを高く確保しながら3つ以上の異なる周波数で動作する多周波化を実現する。
以上説明したように、本変形例のアンテナ装置は、単一のアンテナ素子1を2つのアンテナ部として動作させるとき、簡単な構成でありながら複数のアイソレーション周波数で給電ポート間のアイソレーションを確保することができ、複数の無線信号の送受信を同時に実行することができる。
図10は、本発明の実施形態の第4の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。本変形例のアンテナ装置は、図1のスリットS1に代えて、アンテナ素子1の辺に開口部を持たないスロットS4を備えたことを特徴とする。
アンテナ装置が直列共振回路14Dの共振周波数に一致する第1のアイソレーション周波数で動作するとき、直列共振回路14Dが実質的に短絡されることによりスロットS3の一端から直列共振回路14Dまでの区間のみが共振して、第1のアイソレーション周波数において第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成する。アンテナ装置が第1のアイソレーション周波数よりも低い所定の第2のアイソレーション周波数で動作するとき、直列共振回路14Dが実質的に開放されることによりスロットS3全体が共振して、第2のアイソレーション周波数において第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成する。
スロットの個数は1つに限らず、アンテナ素子1及び接地導体2のそれぞれに1つずつのスロットを設けてもよい。アンテナ素子1と接地導体2との大きさがほぼ同じ(ダイポールアンテナ)であり、給電線F3,F4がそれぞれ平衡給電線路である場合には、第3の実施形態と同様に、アンテナ素子1上にスロットS4を設けることなく、接地導体2上にのみスロットを備えるように構成されてもよい。本変形例の構成によれば、アンテナ装置の構成上の自由度を増大させることができる。
このような構成によっても、単一のアンテナ素子1を2つのアンテナ部として動作させるとき、簡単な構成でありながら複数のアイソレーション周波数で給電ポート間のアイソレーションを確保することができ、複数の無線信号の送受信を同時に実行することができる。
図11は、本発明の実施形態の第5の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。本変形例のアンテナ装置は、アンテナ素子1の共振周波数とアイソレーションを確保できる周波数とを調整するために、図1のようにスリットS1の長さを変化させるだけでなく、スリットS1に沿った所定の位置にリアクタンス素子15を設けたことを特徴とする。
図11において、本変形例のアンテナ装置は、図1の構成に加えて、スリットS1に沿ってスリットS1の開口部から所定距離の位置にリアクタンス素子15を備える。アンテナ素子1の共振周波数とアイソレーションを確保できる周波数とは、スリットS1の長さに依存して変化するので、スリットS1の長さはこれらの周波数を調整するように決定される。本変形例ではさらに、これらの周波数を調整するために、スリットS1に沿った所定の位置に、所定のリアクタンス値を有するリアクタンス素子15(すなわちキャパシタ又はインダクタ)を設ける。また、これらの周波数は、リアクタンス素子15がスリットS1に設けられる位置にも依存して変化するので、リアクタンス素子15の位置はこれらの周波数を調整するように決定される。周波数の調整量(推移量)は、リアクタンス素子15がスリットS1の開口部に設けられたときに最大になる。このことから、リアクタンス素子15のリアクタンス値を決定した後に、その実装位置をずらすことによって、アンテナ素子1の共振周波数とアイソレーションを確保できる周波数とを微調整することが可能である。
以上説明したように、本変形例のアンテナ装置は、単一のアンテナ素子1を2つのアンテナ部として動作させるとき、簡単な構成でありながら複数のアイソレーション周波数で給電ポート間のアイソレーションを確保することができ、複数の無線信号の送受信を同時に実行することができる。
図12は、本発明の実施形態の第6の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。本変形例のアンテナ装置は、第5の変形例のリアクタンス素子15に代えて、コントローラ13Aの制御下でリアクタンス値が変化する可変リアクタンス素子15Aを備えたことを特徴とする。これにより、本変形例のアンテナ装置は、第2及び第3の変形例のように複数のスリット及び/又は複数の直列共振回路を設けることなく、可変リアクタンス素子15Aを備えた単一のスリットS1を設けることにより、複数のアイソレーション周波数で給電ポート間のアイソレーションを確保することができる。
図12において、本変形例のアンテナ装置は、スリットS1に沿ってスリットS1の開口部から所定距離の位置に可変リアクタンス素子15Aを備える。可変リアクタンス素子15Aには、容量性のリアクタンス素子として例えばバラクタダイオードなどの可変容量素子を用いることができ、可変リアクタンス素子15Aのリアクタンス値は、コントローラ13Aから印加される制御電圧に従って変化する。本変形例のアンテナ装置は、可変リアクタンス素子15Aのリアクタンス値を変化させることにより、アンテナ素子1の異なる共振周波数を実現するとともに、異なる周波数において給電ポート間のアイソレーションを確保するように構成される。コントローラ13Aは、可変リアクタンス素子15Aのリアクタンス値を変化させるとともに、MIMO通信回路10及び整合回路11,12の動作周波数を調整することにより、アンテナ素子1の動作周波数を、可変リアクタンス素子15Aのリアクタンス値によって決まるアイソレーション周波数にシフトさせる。本変形例では、以上の構成により、アンテナ装置の多周波化が可能になる。
本変形例では、可変リアクタンス素子15Aのリアクタンス値を適応的に変化させて、使用するアプリケーションに応じてアンテナ素子1の動作周波数を変化させることができる。
以上説明したように、本変形例のアンテナ装置は、単一のアンテナ素子1を2つのアンテナ部として動作させるとき、簡単な構成でありながら複数のアイソレーション周波数で給電ポート間のアイソレーションを確保することができ、複数の無線信号の送受信を同時に実行することができる。
さらなる変形例として、アンテナ素子1及び接地導体2の形状は、長方形に限定されるものではなく、例えば他の多角形、円形、楕円形などであってもよい。また、説明した各変形例を組み合わせたアンテナ装置を構成することも可能であり、例えば、第5の変形例のリアクタンス素子15又は第6の変形例の可変リアクタンス素子15Aを、第1〜第3の変形例のアンテナ装置のいずれかにおける少なくとも1つのスリットに設けてもよい。同様に、第5の変形例のリアクタンス素子15又は第6の変形例の可変リアクタンス素子15Aを、第4の変形例のアンテナ装置における少なくとも1つのスロットS3に設けてもよい。このような組み合わせのアンテナ装置を実施する場合、複数の共振周波数を、スリット長又はスロット長、リアクタンス素子のリアクタンス値、リアクタンス素子の実装位置によって調整することが可能になり、周波数調整の自由度があがる。例えば、第3の変形例と第5又は第6の変形例とを組み合わせる場合、リアクタンス素子又は可変リアクタンス素子は、スリットS1の開口部と、直列共振回路14B,14Cの間と、直列共振回路14Cより奥の位置との少なくとも1つに設けることができる。第4の変形例と第5又は第6の変形例とを組み合わせる場合、リアクタンス素子又は可変リアクタンス素子は、例えばスロットS3の長手方向のほぼ中央に設けることができる。また、第3の変形例と第4の変形例とを組み合わせて、スロットに複数の直列共振回路を設けることもできる。さらに、MIMO通信回路10に代えて、独立した2つの無線信号の変復調を実行する無線通信回路を設けてもよく、この場合、実施形態のアンテナ装置は複数のアプリケーションに係る無線通信を同時に実行したり、複数の周波数帯での無線通信を同時に実行したりすることが可能になる。
本発明のアンテナ装置及びそれを備えた無線通信装置によれば、例えば携帯電話機として実装することができ、あるいは無線LAN用の装置として実装することもできる。このアンテナ装置は、例えばMIMO通信を行うための無線通信装置に搭載することができるが、MIMOに限らず、複数のアプリケーションのための通信を同時に実行可能(マルチアプリケーション)な無線通信装置に搭載することも可能である。
1…アンテナ素子、
1a,1b…給電点、
2a,2b…接続点、
2…接地導体、
10…MIMO通信回路、
11,12…インピーダンス整合回路、
13,13A…コントローラ、
14,14A,14B,14C,14D…直列共振回路、
15…リアクタンス素子、
16…可変リアクタンス素子、
S1,S2…スリット、
S3…スロット、
F1,F2,F3,F4…給電線、
F3a,F3b,F4a,F4b…信号線、
C…キャパシタ、
L…インダクタ、
P1,P2…信号源。
本発明は、主として携帯電話機などの移動体通信用のアンテナ装置と、それを備えた無線通信装置に関する。
携帯電話機等の移動体通信無線装置の小型化、薄型化が急速に進んでいる。また、携帯無線通信装置は、従来の電話機として使用されるのみならず、電子メールの送受信やWWW(ワールドワイドウェブ)によるウェブページの閲覧などを行うデータ端末機に変貌を遂げている。取り扱う情報も従来の音声や文字情報から写真や動画像へと大容量化を遂げており、通信品質のさらなる向上が求められている。また、携帯無線通信装置は、電話としての音声通話、ウェブページの閲覧のためのデータ通信、テレビジョン放送の視聴など、さまざまなアプリケーションに対処することが求められている。このような状況にあって、それぞれのアプリケーションに係る無線通信を行うために、幅広い周波数で動作できるアンテナ装置が必要である。
従来、複数の周波数帯域をカバーするアンテナ装置として、例えば、特許文献1及び2に記載のアンテナ装置があった。
特許文献1は2周波共用アンテナを開示し、この2周波共用アンテナは、誘電体基板の表面にプリント化して形成された給電線路、該給電線路に接続する内側放射素子、および外側放射素子と、誘電体基板表面にプリント化して形成された内側放射素子と外側放射素子との間隙で両放射素子を接続するインダクタと、誘電体基板の裏面にプリント化して形成された給電線路、該給電線路に接続する内側放射素子、および外側放射素子と、誘電体基板裏面にプリント化して形成された内側放射素子と外側放射素子との間隙で両放射素子を接続するインダクタとを備えることを特徴とする。特許文献1の2周波共用アンテナは、内側放射素子と外側放射素子との間隙にインダクタを挿入したことにより、素子間の寄生容量と挿入したインダクタとで並列共振回路を形成する。アンテナの給電部から見た場合、並列共振回路は特定の周波数において開放になるので、その周波数では内側放射素子のみ(すなわち給電線路から並列共振回路までの部分)が励振し、その他の周波数では、内側放射素子及び外側放射素子の両方(すなわち並列共振回路の両側の部分)が励振する。これによって、特許文献1の2周波共用アンテナではマルチバンド特性が得られる。
特許文献2のマルチバンドアンテナは、LC並列共振回路の両端に第1及び第2の放射エレメントを接続したアンテナ素子を備えてなるマルチバンドアンテナにおいて,前記LC並列共振回路はインダクタ自身の自己共振によって構成されていることを特徴とする。特許文献2のマルチバンドアンテナでは、放射エレメント自身の自己共振によって構成されるLC並列共振回路によりマルチバンド特性が得られる。
特開2001−185938号公報。
特開平11−55022号公報。
最近になって、通信容量を増大させて高速通信を実現するために、複数のチャンネルの無線信号を空間分割多重により同時に送受信するMIMO(Multi−Input Multi−Output)技術を採用したアンテナ装置が登場している。MIMO通信を実行するアンテナ装置は、空間分割多重を実現するために、指向性又は偏波特性などを相違させることにより、互いに低相関である複数の無線信号の送受信を同時に実行する必要がある。
特許文献1及び2の構成では、複数の共振周波数で動作することができるものの、給電部が1つだけであるので、MIMO無線通信装置、ダイバーシチ方式を用いた無線通信装置、またアダプティブアレーに利用できないという課題を有していた。
本発明の目的は、以上の問題点を解決し、簡単な構成でありながら、互いに低相関である複数の無線信号の送受信を同時に実行可能であり、かつ複数の周波数で動作可能であるアンテナ装置、及びそのようなアンテナ装置を備えた無線通信装置を提供することにある。
本発明の第1の態様に係るアンテナ装置によれば、
アンテナ素子上の所定の各位置にそれぞれ設けられた第1及び第2の給電ポートを備えたアンテナ装置において、
上記アンテナ素子は、上記第1及び第2の給電ポートにそれぞれ対応した第1及び第2のアンテナ部として同時に動作するように、上記第1及び第2の給電ポートを介してそれぞれ同時に励振され、
上記アンテナ装置は、
上記アンテナ素子上において上記第1及び第2の給電ポートの間に設けられたスリットと、
上記スリットに沿って上記スリットの開口部から所定距離の位置に設けられ、所定の共振周波数において実質的に短絡され、上記共振周波数から離隔した周波数では実質的に開放される共振回路と、
上記共振回路の共振周波数に一致する第1のアイソレーション周波数と、上記第1のアイソレーション周波数よりも低い所定の第2のアイソレーション周波数とにおいて上記アンテナ装置を動作させる制御手段とを備え、
上記アンテナ装置が上記第1のアイソレーション周波数で動作するとき、上記共振回路が実質的に短絡されることにより上記スリットの開口部から上記共振回路までの区間のみが共振して、上記第1のアイソレーション周波数において上記第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成し、上記アンテナ装置が上記第2のアイソレーション周波数で動作するとき、上記共振回路が実質的に開放されることにより上記スリット全体が共振して、上記第2のアイソレーション周波数において上記第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成することを特徴とする。
上記アンテナ装置において、上記共振回路は、直列接続されたキャパシタ及びインダクタを含むことを特徴とする。
また、上記アンテナ装置は、上記スリットに沿って上記スリットの開口部から互いに異なる所定距離の位置にそれぞれ設けられた複数の共振回路を備え、上記複数の共振回路のそれぞれは、互いに異なる所定の共振周波数において実質的に短絡され、当該共振回路の共振周波数から離隔した周波数では実質的に開放され、
上記制御手段は、上記各共振回路の共振周波数のいずれかに一致する複数の第1のアイソレーション周波数において上記アンテナ装置を動作させ、
上記アンテナ装置が上記複数の第1のアイソレーション周波数のうちのいずれか1つの第1のアイソレーション周波数で動作するとき、上記複数の共振回路のうちで上記1つの第1のアイソレーション周波数に一致する共振周波数を有する共振回路が実質的に短絡されることにより上記スリットの開口部から当該共振回路までの区間のみが共振して、上記1つの第1のアイソレーション周波数において上記第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成することを特徴とする。
さらに、上記アンテナ装置において、上記スリットに設けられたリアクタンス素子をさらに備えたことを特徴とする。
またさらに、上記アンテナ装置は、上記スリットに設けられた可変リアクタンス素子をさらに備え、
上記制御手段は、上記可変リアクタンス素子のリアクタンス値を変化させることを特徴とする。
また、上記アンテナ装置は、上記第1及び第2の給電ポートにそれぞれ接続され、上記制御手段の制御下で上記アンテナ素子の動作周波数を上記第1又は第2のアイソレーション周波数に一致させるインピーダンス整合手段をさらに備えたことを特徴とする。
さらに、上記アンテナ装置は、第1のアンテナ素子及び第2のアンテナ素子を備えたダイポールアンテナとして構成され、
上記第1の給電ポートは、上記第1及び第2のアンテナ素子が対向した第1の位置において設けられ、
上記第2の給電ポートは、上記第1の位置とは異なる位置であって、上記第1及び第2のアンテナ素子が対向した第2の位置において設けられ、
上記第1及び第2のアンテナ素子の少なくとも1つに、少なくとも1つのスリット及び少なくとも1つの共振回路が設けられたことを特徴とする。
本発明の第2の態様に係るアンテナ装置によれば、
アンテナ素子上の所定の各位置にそれぞれ設けられた第1及び第2の給電ポートを備えたアンテナ装置において、
上記アンテナ素子は、上記第1及び第2の給電ポートにそれぞれ対応した第1及び第2のアンテナ部として同時に動作するように、上記第1及び第2の給電ポートを介してそれぞれ同時に励振され、
上記アンテナ装置は、
上記アンテナ素子上において上記第1及び第2の給電ポートの間に設けられたスロットと、
上記スロットに沿って上記スロットの所定位置に設けられ、所定の共振周波数において実質的に短絡され、上記共振周波数から離隔した周波数では実質的に開放される共振回路と、
上記共振回路の共振周波数に一致する第1のアイソレーション周波数と、上記第1のアイソレーション周波数よりも低い所定の第2のアイソレーション周波数とにおいて上記アンテナ装置を動作させる制御手段とを備え、
上記アンテナ装置が上記第1のアイソレーション周波数で動作するとき、上記共振回路が実質的に短絡されることにより上記スロットの一端から上記共振回路までの区間のみが共振して、上記第1のアイソレーション周波数において上記第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成し、上記アンテナ装置が上記第2のアイソレーション周波数で動作するとき、上記共振回路が実質的に開放されることにより上記スロット全体が共振して、上記第2のアイソレーション周波数において上記第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成することを特徴とする。
本発明の第3の態様に係る無線通信装置によれば、複数の無線信号を送受信する無線通信装置において、本発明の第1及び第2の態様に係るアンテナ装置のいずれかを備えたことを特徴とする。
以上説明したように、本発明に係るアンテナ装置及びそれを備えた無線通信装置によれば、所定の動作周波数においてアンテナ素子を共振させるとともに給電ポート間のアイソレーションを高く確保することができ、低結合で動作するMIMOアンテナ装置を実現することができる。複数の給電ポートをもつアンテナ素子にスリットを設けることで、アンテナ素子の共振周波数を変化させる。また、スリットは、2つの給電ポート間のアイソレーションを高くする役目も果たす。さらにスリットに沿った所定の位置に設けた共振回路により、給電ポート間のアイソレーションを高く確保しながら複数の異なる周波数で動作するマルチバンド化を実現する。
複数の給電ポートを同時に用いて通信するためには、動作させようとする所定の周波数においてアンテナ素子が共振し、かつ、給電ポート間のアイソレーションが高くなければならない。本発明のアンテナ装置及びそれを備えた無線通信装置は、アンテナ素子の共振周波数とアイソレーションが高くなる周波数を同一周波数に調整するために、各給電ポートに接続された整合回路を備えて構成される。本発明によれば、アンテナ素子の少なくとも2つの動作周波数を調整することができ、少なくとも2つの動作周波数において2つの給電ポート間のアイソレーションを高くすることができるので、複数の周波数で複数の無線信号の送受信を同時に実行可能な無線通信装置を提供することができる。
本発明によれば、アンテナ素子数は1つのままでありながら、当該アンテナ素子を少なくとも2つの周波数で複数のアンテナ部として動作させることができ、それとともに、複数のアンテナ部の間のアイソレーションを確保することができる。アイソレーションを確保してMIMOアンテナ装置の複数のアンテナ部を互いに低結合にすることにより、各アンテナ部を用いて、互いに低相関である複数の無線信号の送受信を同時に実行することができる。また、アンテナ素子の動作周波数を調整することができ、異なる周波数を使用する複数のアプリケーションの中から少なくとも2つのアプリケーションにも対応することができる。
本発明の実施形態に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。
図1の直列共振回路14を示す回路図である。
図1のスリットS1の動作原理を説明するためのアンテナ装置の概略構成を示す図である。
図3のアンテナ装置に係るスリットS1の長さD1及び周波数に対する反射係数のパラメータS11を示すグラフである。
図3のアンテナ装置に係るスリットS1の長さD1及び周波数に対する通過係数のパラメータS21を示すグラフである。
図3のアンテナ装置に係るスリットS1の長さD1に対する周波数の特性を示すグラフである。
本発明の実施形態の第1の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。
本発明の実施形態の第2の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。
本発明の実施形態の第3の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。
本発明の実施形態の第4の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。
本発明の実施形態の第5の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。
本発明の実施形態の第6の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお、同様の構成要素については同一の符号を付している。
図1は、本発明の実施形態に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。本実施形態のアンテナ装置は、異なる2つの給電点1a,1bを備えた長方形形状のアンテナ素子1を備え、給電点1aを介してアンテナ素子1を第1のアンテナ部として励振させると同時に、給電点1bを介してアンテナ素子1を第2のアンテナ部として励振させることにより、単一のアンテナ素子1を2つのアンテナ部として動作させる。
通常、単一のアンテナ素子に複数の給電ポート(又は給電点)を設けた場合、給電ポート間のアイソレーションを確保することができず、異なるアンテナ部間の電磁結合が高くなるので、信号間の相関が高くなってしまう。従って、例えば受信時には、各給電ポートから同一の受信信号が出力される。このような場合、ダイバーシチやMIMOの良好な特性を得ることが出来ない。本実施形態では、アンテナ素子1の給電点1a,1b間にスリットS1を備え、かつスリットS1に沿った所定の位置に直列共振回路14を備え、これらスリットS1及び直列共振回路14を備えたことにより、給電点1a,1b間にアイソレーションを高く確保できる周波数を複数個もたらすことを特徴とする。
図1において、アンテナ装置は、長方形形状の導体板にてなるアンテナ素子1と、長方形形状の導体板にてなる接地導体2とを備え、アンテナ素子1と接地導体2とは、それぞれの一辺を対向させて、所定距離だけ離隔して並置されている。アンテナ素子1及び接地導体2の互いに対向した一対の辺の両端において、給電ポートがそれぞれ設けられる。一方の給電ポートは、アンテナ素子1上において、接地導体2に対向した辺の一端(図1ではアンテナ素子1の左下の端部)に設けられた給電点1aと、接地導体2上において、アンテナ素子1に対向した辺の一端(図1では接地導体2の左上の端部)に設けられた接続点2aとを含む。他方の給電ポートは、アンテナ素子1上において、接地導体2に対向した辺の他端(図1ではアンテナ素子1の右下の端部)に設けられた給電点1bと、接地導体2上において、アンテナ素子1に対向した辺の他端(図1では接地導体2の右上の端部)に設けられた接続点2bとを含む。アンテナ素子1はさらに、2つの給電ポート間、すなわち給電点1a,1b間に、アンテナ部間の電磁結合を調整し、給電ポート間の所定のアイソレーションを確保するためのスリットS1を備える。スリットS1は所定幅及び長さを有し、その一端は給電点1a,1b間の辺に開口部を有することにより開放端として構成される。アンテナ装置はさらに、スリットS1に沿ってその開口部から所定距離の位置において、スリットS1の実効長を変化させるための直列共振回路14を備える。図2は、図1の直列共振回路14を示す回路図である。直列共振回路14は、直列接続されたキャパシタC及びインダクタLから構成され、スリットS1の両側の導体にわたって接続される。直列共振回路14は、所定の共振周波数のみにおいて共振してそのインピーダンスが0になり(すなわち、実質的に短絡され)、この共振周波数から離隔した他の周波数では実質的に開放される。従って、直列共振回路14は、この共振周波数ではスリットS1の開口部から直列共振回路14までの区間のみを共振させ、この共振周波数から離隔した他の周波数ではスリットS1全体を共振させる。
給電点1a及び接続点2aは、信号線F3a,F3b(以下、総称して給電線F3で表す。)を介してインピーダンス整合回路11(以下、整合回路11という。)に接続され、整合回路11は給電線F1を介してMIMO通信回路10に接続される。同様に、給電点1b及び接続点2bは、信号線F4a,F4b(以下、総称して給電線F4で表す。)を介してインピーダンス整合回路12(以下、整合回路12という。)に接続され、整合回路12は給電線F2を介してMIMO通信回路10に接続される。給電線F1,F2は、例えば、50Ωの特性インピーダンスを有する同軸ケーブルにてそれぞれ構成される。同様に、給電線F3,F4は、例えば、50Ωの特性インピーダンスを有する同軸ケーブルにてそれぞれ構成され、この場合、各信号線F3a,F4aは同軸ケーブルの内部導体としてアンテナ素子1と整合回路11,12とをそれぞれ接続し、各信号線F3b,F4bは同軸ケーブルの外部導体として接地導体2と整合回路11,12とをそれぞれ接続する。それに代わって、給電線F3,F4はそれぞれ、平衡給電線路として構成されてもよい。また、MIMO通信回路10は、MIMO通信方式に係る複数のチャンネル(本実施形態では2チャンネル)の無線信号をアンテナ素子1により送受信させる。
本実施形態では、以上の構成を備えたことにより、一方の給電ポート(すなわち給電点1a)を介してアンテナ素子1を第1のアンテナ部として励振させると同時に、他方の給電ポート(すなわち給電点1b)を介してアンテナ素子1を第2のアンテナ部として励振させることにより、単一のアンテナ素子1を2つのアンテナ部として動作させることができる。このとき、所望の動作周波数においてアンテナ素子1を共振させるとともに給電ポート間のアイソレーションを高く確保することができ、低結合で動作するMIMOアンテナ装置を実現することができる。
アンテナ素子1にスリットS1及び直列共振回路14を設けることによる効果は、以下の通りである。スリットS1を設けることにより、アンテナ素子1自体の共振周波数は低下する。さらに、スリットS1は、その実効長に応じた所定の共振周波数を有する共振器として動作する。スリットS1はアンテナ素子1自体と電磁的に結合するので、アンテナ素子1の共振周波数は、スリットS1を持たない場合と比較して、スリットS1の共振周波数に従って変化している。スリットS1を設けることにより、アンテナ素子1の共振周波数が変化するとともに、所定の周波数において給電ポート間のアイソレーションを高くすることができる。従って、給電ポート間においてアイソレーションを高く確保できる周波数(以下、アイソレーション周波数という。)は、スリットS1の実効長に応じて変化する。直列共振回路14のインピーダンスが0になったとき、直列共振回路14の位置においてスリットS1が実質的に短絡され、スリットS1の実効長はスリットS1の開口部から直列共振回路14までの区間の長さになる。スリットS1の実効長が短くなって、その共振周波数は高くなり、このときのアイソレーション周波数は、スリットS1全体が共振するときよりも高くなる。所定の周波数において直列共振回路14の短絡とアイソレーションの確保とに同時に行うために、アイソレーション周波数を直列共振回路14の共振周波数に一致させるように、直列共振回路14の位置をスリットS1に沿って調整する(すなわち、スリットS1の実効長を調整する)。
なお、アイソレーション周波数は、一般には、アンテナ素子1の共振周波数とは一致しない。従って、本実施形態では、アンテナ素子1の動作周波数(すなわち所望信号を送受信する周波数)を、スリットS1により変化された共振周波数からアイソレーション周波数にシフトさせるために、各給電ポートとMIMO通信回路10との間に整合回路11,12を設けている。整合回路11,12を設けることは、アンテナ素子1の共振周波数とアイソレーション周波数との両方に影響するが、主に、共振周波数を変化させるように寄与する。整合回路11を設けたことにより、MIMO通信回路10側の端子(すなわち給電線F1に接続された側の端子)において、当該端子からアンテナ素子1をみたときのインピーダンスは、当該端子からMIMO通信回路10を見たときのインピーダンス(すなわち給電線F1の50Ωの特性インピーダンス)に一致する。同様に、整合回路12を設けたことにより、MIMO通信回路10側の端子(すなわち給電線F2に接続された側の端子)において、当該端子からアンテナ素子1をみたときのインピーダンスは、当該端子からMIMO通信回路10を見たときのインピーダンス(すなわち給電線F2の50Ωの特性インピーダンス)に一致する。
スリットS1の実効長は、アンテナ素子1の動作周波数が直列共振回路14の共振周波数に一致するか否かに応じて変化する。一致するときには、スリットS1の実効長はスリットS1の開口部から直列共振回路14までの区間の長さになり、そうでないときには、スリットS1の実効長はスリットS1全体の長さになる。従って、本実施形態のアンテナ装置は、アンテナ素子1の動作周波数を変化させてスリットS1の実効長を変化させることにより、互いに異なる共振周波数を実現するとともに、互いに異なる周波数において給電ポート間のアイソレーションを確保するように構成される。本実施形態では、アンテナ素子1の動作周波数を変化させてスリットS1の実効長を変化させることにより、異なる2つのアイソレーション周波数を実現することができる。詳しくは、コントローラ13は、直列共振回路14の共振周波数に一致する第1のアイソレーション周波数と、第1のアイソレーション周波数よりも低い所定の第2のアイソレーション周波数とにおいてアンテナ装置を動作させる。アンテナ装置が第1のアイソレーション周波数で動作するとき、直列共振回路14が実質的に短絡されることによりスリットS1の開口部から直列共振回路14までの区間のみが共振して、第1のアイソレーション周波数において第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成し、アンテナ装置が第2のアイソレーション周波数で動作するとき、直列共振回路14が実質的に開放されることによりスリットS1全体が共振して、第2のアイソレーション周波数において第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成する。ここで、コントローラ13は、MIMO通信回路10及び整合回路11,12の動作周波数を調整することにより、アンテナ素子1の動作周波数を2つのアイソレーション周波数のいずれかに選択的にシフトさせる。本実施形態では、以上の構成により、アンテナ装置の多周波化(マルチバンド化)が可能になる。
以下、図3〜図6を参照して、本実施形態のアンテナ装置の動作原理について説明する。図3は、図1のスリットS1の動作原理を説明するためのアンテナ装置の概略構成を示す図である。図3のアンテナ装置では、スリットS1の長さD1に依存して、アンテナ素子1の共振周波数と、アイソレーション周波数とが変化することを示す。
図3において、アンテナ素子1及び接地導体2はそれぞれ、45×90mmの大きさを有する片面銅張基板を用いて作成された。アンテナ素子1の幅方向の中央からは、幅1mmにわたって完全に導体が除去され、この導体が除去された部分に銅テープを貼り付けることにより、所望の長さD1を有するスリットS1を形成した。スリットS1の長さD1を調節することにより、アンテナ装置の周波数特性の変化を調べた。また、アンテナ装置の2つの給電ポート(すなわち、給電点1a及び接続点2aからなる給電ポートと、給電点1b及び接続点2bからなる給電ポート)にはそれぞれ、長さ50mmを有するセミリジッドケーブルを給電線F3,F4として接続した。各セミリジッドケーブルの内部導体は、長さ5mmにわたって、アンテナ素子1を構成する基板にハンダ付けされ、各セミリジッドケーブルの外部導体は、長さ40mmにわたって、接地導体2を構成する基板にハンダ付けされた。さらに、給電線F3,F4はそれぞれ、図3ではP1,P2として概略的に示した信号源に接続した。
次に、図4及び図5を参照して、スリットS1の長さD1を変化させたときに2つの給電ポートに係るSパラメータS11,S21の周波数特性がどのように変化するかを示す。図4は、図3のアンテナ装置に係るスリットS1の長さD1及び周波数に対する反射係数のパラメータS11を示すグラフであり、図5は、図3のアンテナ装置に係るスリットS1の長さD1及び周波数に対する通過係数(すなわち給電ポート間のアイソレーションの特性)のパラメータS21を示すグラフである。図3のアンテナ装置は対称構造を有するので、パラメータS12はS21と同じであり、パラメータS22はS11と同じである。図4及び図5より、スリットS1の長さD1を変えることにより、アンテナ素子1の共振周波数及びアイソレーション周波数が変化していることがわかる。
次に、スリットS1の長さD1(単位:mm)を変化させたときにおけるアンテナ素子1の共振周波数(単位:GHz)の変化とアイソレーション周波数(単位:GHz)の変化との関係を、以下の表に示す。
上の表1の関係を、図6のグラフにも示す。図6は、図3のアンテナ装置に係るスリットS1の長さD1に対する周波数の特性を示すグラフである。表1及び図6によれば、スリットS1が長くなるにつれて、アンテナ素子1の共振周波数及びアイソレーション周波数が低くなることがわかる。パラメータS21に関しては、給電点1aから給電点1bまでの迂回経路が長くなったことが原因でアイソレーション周波数が下がったと考えられる。周波数が推移する範囲は、パラメータS11に関しては960MHz〜2.6GHzになり、パラメータS21に関しては730MHz〜2.7GHzになった。
図3〜図6によれば、スリットS1の長さD1を変えることにより、アンテナ素子1の共振周波数及びアイソレーション周波数が変化することがわかる。本実施形態のアンテナ装置では、前述のように、アンテナ素子1の動作周波数が直列共振回路14の共振周波数に一致するときには、スリットS1の実効長はスリットS1の開口部から直列共振回路14までの区間の長さになり、そうでないときには、スリットS1の実効長はスリットS1全体の長さになる。本実施形態のアンテナ装置は、アイソレーション周波数を変化させるためにスイッチ等の回路素子を必要とせず、アンテナ素子1の動作周波数を変化させるだけでよい。以上説明したように、本実施形態のアンテナ装置は、単一のアンテナ素子1を2つのアンテナ部として動作させるとき、簡単な構成でありながら複数のアイソレーション周波数で給電ポート間のアイソレーションを確保することができ、複数の無線信号の送受信を同時に実行することができる。
なお、図1に例示するように接地導体2がアンテナ素子1と同じような大きさの場合には、このアンテナ装置は、アンテナ素子1及び接地導体2からなるダイポールアンテナとみなすことができる。接地導体2は、一方の給電ポート(すなわち接続点2a)を介して第3のアンテナ部として励振されると同時に、他方の給電ポート(すなわち接続点2b)を介して第4のアンテナ部として励振され、これにより、接地導体2もまた2つのアンテナ部として動作する。このとき、接地導体2には、スリットS1のイメージ(鏡像)が形成されるので、第3及び第4のアンテナ部に関しても、給電ポート間のアイソレーションを確保することができる。以上の構成を備えたことにより、一方の給電ポートを介して第1及び第3のアンテナ部を第1のダイポールアンテナ部として励振させると同時に、他方の給電ポートを介して第2及び第4のアンテナ部を第2のダイポールアンテナ部として励振させることにより、単一のダイポールアンテナ(すなわちアンテナ素子1及び接地導体2)を2つのダイポールアンテナ部として動作させることができる。本実施形態のアンテナ装置によれば、単一のダイポールアンテナを2つのダイポールアンテナ部として動作させるとき、簡単な構成でありながら給電ポート間のアイソレーションを確保することができ、複数の無線信号の送受信を同時に実行することができる。
以下、図7〜図12を参照して、本発明の実施形態の変形例に係るアンテナ装置について説明する。
図7は、本発明の実施形態の第1の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。図1の実施形態ではアンテナ素子1の側にスリットS1及び直列共振回路14を設けたが、これに代えて、接地導体2の側にスリットS2及び直列共振回路14Aを設けてもよい。
図7において、接地導体2は、2つの給電ポート間、すなわち接続点2a,2b間に、給電ポート間の所定のアイソレーションを確保するように電磁結合調整のためのスリットS2を備える。スリットS2は所定幅及び長さを有し、その一端は接続点2a,2b間の辺に開口部を有することにより開放端として構成される。アンテナ装置はさらに、スリットS2に沿ってその開口部から所定距離の位置において、図1の直列共振回路14と同様に構成され、スリットS2の実効長を変化させるための直列共振回路14Aを備える。ここで、所定の周波数において直列共振回路14Aの短絡とアイソレーションの確保とに同時に行うために、アイソレーション周波数を直列共振回路14Aの共振周波数に一致させるように、直列共振回路14Aの位置をスリットS2に沿って調整する。また、給電線F3,F4はそれぞれ、平衡給電線路として構成される。図1及び図7に例示するように接地導体2がアンテナ素子1と同じような大きさの場合にはこのアンテナ装置はダイポールアンテナとなるので、本変形例においても、図1の場合と同様にアイソレーションの確保及び多周波化を実現することができる。
以上説明したように、本変形例のアンテナ装置は、単一のアンテナ素子1を2つのアンテナ部として動作させるとき、簡単な構成でありながら複数のアイソレーション周波数で給電ポート間のアイソレーションを確保することができ、複数の無線信号の送受信を同時に実行することができる。
図8は、本発明の実施形態の第2の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。本変形例のアンテナ装置は、図1のアンテナ装置の構成に加えて、接地導体2上にスリットS2及び直列共振回路14Aを備えたことを特徴とする。
図8において、アンテナ素子1は、図1の場合と同様のスリットS1及び直列共振回路14を備え、接地導体2は、図7の場合と同様のスリットS2及び直列共振回路14Aを備える。好ましくは、スリットS2は、例えばその長さをスリットS1とは相違させることにより、スリットS1を設けたことによってアンテナ素子1及び接地導体2が共振する周波数とは異なる周波数においてアンテナ素子1及び接地導体2を共振させるとともに、スリットS1とは異なる周波数において給電ポート間のアイソレーションを確保するように構成される。さらに、好ましくは、直列共振回路14及び直列共振回路14Aの共振周波数と、スリットS1の開口部から直列共振回路14までの区間の長さ及びスリットS2の開口部から直列共振回路14Aまでの区間の長さとは、それぞれ互いに異なるように構成される。ここで、前述したように、所定の周波数において直列共振回路14の短絡とアイソレーションの確保とに同時に行うために、アイソレーション周波数を直列共振回路14の共振周波数に一致させるように、直列共振回路14の位置をスリットS1に沿って調整する。同様に、別の周波数において直列共振回路14Aの短絡とアイソレーションの確保とに同時に行うために、アイソレーション周波数を直列共振回路14Aの共振周波数に一致させるように、直列共振回路14Aの位置をスリットS2に沿って調整する。これにより、直列共振回路14Aが共振してそのインピーダンスが0になるとき、直列共振回路14が共振してそのインピーダンスが0になるときにアンテナ素子1及び接地導体2が共振する周波数とは異なる周波数においてアンテナ素子1及び接地導体2を共振させるとともに、直列共振回路14が共振してそのインピーダンスが0になるときとは異なる周波数において給電ポート間のアイソレーションを確保するように構成される。本変形例では、2つのスリットS1,S2及び2つの直列共振回路14,14Aを備えたことにより、好ましくは異なる4つのアイソレーション周波数を実現することができる。また、給電線F3,F4はそれぞれ、平衡給電線路として構成される。コントローラ13は、MIMO通信回路10及び整合回路11,12の動作周波数を調整することにより、アンテナ素子1及び接地導体2の動作周波数を複数のアイソレーション周波数のいずれかに選択的にシフトさせる。
このように、本変形例では、複数のスリットS1,S2と複数の直列共振回路14,14Aとを備えたことにより、それぞれ異なる共振周波数を実現できるとともに、それぞれ異なるアイソレーション周波数を実現することができる。言い換えると、スリットS1,S2はそれぞれの異なる周波数でアンテナ素子1及び接地導体2と電磁的に結合するので、アンテナ素子1及び接地導体2の共振周波数は複数個になり、アイソレーション周波数もまた複数個になり、アンテナ素子1及び接地導体2の動作周波数をこれらのアイソレーション周波数のいずれかに選択的にシフトさせることにより、アンテナ装置の多周波化が可能になる。
本変形例では、スリットS1,S2を互いに異なる長さに構成することに代えて、スリットS1,S2を等長に構成することにより同一のアイソレーション周波数を実現してもよい。同様に、直列共振回路14及び直列共振回路14Aの共振周波数と、スリットS1の開口部から直列共振回路14までの区間の長さ及びスリットS2の開口部から直列共振回路14Aまでの区間の長さとをそれぞれ相違させることに代えて、これらを同一周波数及び同一長さに構成することにより同一のアイソレーション周波数を実現してもよい。これにより、アンテナ装置の構成上の自由度を増大させることができる。
以上説明したように、本変形例のアンテナ装置は、単一のアンテナ素子1を2つのアンテナ部として動作させるとき、簡単な構成でありながら複数のアイソレーション周波数で給電ポート間のアイソレーションを確保することができ、複数の無線信号の送受信を同時に実行することができる。
図9は、本発明の実施形態の第3の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。本変形例のアンテナ装置は、複数のアイソレーション周波数で給電ポート間のアイソレーションを確保するために、図1のスリットS1に設けられた単一の直列共振回路14に代えて、複数の直列共振回路14B,14Cを設けたことを特徴とする。
図9において、本変形例のアンテナ装置は、スリットS1に沿ってその開口部から所定距離の位置において直列共振回路14Bを備え、さらに、直列共振回路14Bよりも開口部から離れた位置においてもう1つの直列共振回路14Cを備える。直列共振回路14Bは、所定の共振周波数のみにおいて共振してそのインピーダンスが0になり(すなわち、実質的に短絡され)、直列共振回路14Cは、直列共振回路14Bの共振周波数よりも低い所定の共振周波数のみにおいて共振してそのインピーダンスが0になり(すなわち、実質的に短絡され)、直列共振回路14B,14Cのそれぞれは、対応する共振周波数から離隔した他の周波数では実質的に開放される。従って、直列共振回路14Bの共振周波数ではスリットS1の開口部から直列共振回路14Bまでの区間のみが共振し、直列共振回路14Cの共振周波数ではスリットS1の開口部から直列共振回路14Cまでの区間のみが共振し、これらの共振周波数から離隔した他の周波数ではスリットS1全体が共振する。すなわち、スリットS1の実効長が3段階に変化し、3つのアイソレーション周波数を確保できる。詳しくは、コントローラ13は、直列共振回路14Bの共振周波数に一致する第1のアイソレーション周波数と、直列共振回路14Cの共振周波数に一致する第2のアイソレーション周波数と、第1及び第2のアイソレーション周波数よりも低い所定の第3のアイソレーション周波数とにおいてアンテナ装置を動作させる。アンテナ装置が第1のアイソレーション周波数で動作するとき、直列共振回路14Bが実質的に短絡されることによりスリットS1の開口部から直列共振回路14Bまでの区間のみが共振して、第1のアイソレーション周波数において第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成し、アンテナ装置が第2のアイソレーション周波数で動作するとき、直列共振回路14Bが実質的に開放されかつ直列共振回路14Cが実質的に短絡されることによりスリットS1の開口部から直列共振回路14Cまでの区間のみが共振して、第2のアイソレーション周波数において第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成し、アンテナ装置が第3のアイソレーション周波数で動作するとき、直列共振回路14B及びCが実質的に開放されることによりスリットS1全体が共振して、第3のアイソレーション周波数において第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成する。
本変形例によれば、同様に3つ以上の直列共振回路を設けてもよい。このとき、複数の直列共振回路は、スリットS1に沿ってスリットS1の開口部から互いに異なる所定距離の位置にそれぞれ設けられ、各直列共振回路は、互いに異なる所定の共振周波数において実質的に短絡され、当該直列共振回路の共振周波数から離隔した周波数では実質的に開放される。コントローラ13は、各直列共振回路の共振周波数のいずれかに一致する複数のアイソレーション周波数においてアンテナ装置を動作させる。アンテナ装置が複数のアイソレーション周波数のうちのいずれか1つのアイソレーション周波数で動作するとき、複数の直列共振回路のうちで1つのアイソレーション周波数に一致する共振周波数を有する直列共振回路が実質的に短絡されることによりスリットS1の開口部から当該直列共振回路までの区間のみが共振して、1つのアイソレーション周波数において第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成する。本変形例では、複数の直列共振回路を用いることで、給電ポート間のアイソレーションを高く確保しながら3つ以上の異なる周波数で動作する多周波化を実現する。
以上説明したように、本変形例のアンテナ装置は、単一のアンテナ素子1を2つのアンテナ部として動作させるとき、簡単な構成でありながら複数のアイソレーション周波数で給電ポート間のアイソレーションを確保することができ、複数の無線信号の送受信を同時に実行することができる。
図10は、本発明の実施形態の第4の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。本変形例のアンテナ装置は、図1のスリットS1に代えて、アンテナ素子1の辺に開口部を持たないスロットS3を備えたことを特徴とする。
アンテナ装置が直列共振回路14Dの共振周波数に一致する第1のアイソレーション周波数で動作するとき、直列共振回路14Dが実質的に短絡されることによりスロットS3の一端から直列共振回路14Dまでの区間のみが共振して、第1のアイソレーション周波数において第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成する。アンテナ装置が第1のアイソレーション周波数よりも低い所定の第2のアイソレーション周波数で動作するとき、直列共振回路14Dが実質的に開放されることによりスロットS3全体が共振して、第2のアイソレーション周波数において第1及び第2の給電ポートの間にアイソレーションを生成する。
スロットの個数は1つに限らず、アンテナ素子1及び接地導体2のそれぞれに1つずつのスロットを設けてもよい。アンテナ素子1と接地導体2との大きさがほぼ同じ(ダイポールアンテナ)であり、給電線F3,F4がそれぞれ平衡給電線路である場合には、第3の実施形態と同様に、アンテナ素子1上にスロットS3を設けることなく、接地導体2上にのみスロットを備えるように構成されてもよい。本変形例の構成によれば、アンテナ装置の構成上の自由度を増大させることができる。
このような構成によっても、単一のアンテナ素子1を2つのアンテナ部として動作させるとき、簡単な構成でありながら複数のアイソレーション周波数で給電ポート間のアイソレーションを確保することができ、複数の無線信号の送受信を同時に実行することができる。
図11は、本発明の実施形態の第5の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。本変形例のアンテナ装置は、アンテナ素子1の共振周波数とアイソレーションを確保できる周波数とを調整するために、図1のようにスリットS1の長さを変化させるだけでなく、スリットS1に沿った所定の位置にリアクタンス素子15を設けたことを特徴とする。
図11において、本変形例のアンテナ装置は、図1の構成に加えて、スリットS1に沿ってスリットS1の開口部から所定距離の位置にリアクタンス素子15を備える。アンテナ素子1の共振周波数とアイソレーションを確保できる周波数とは、スリットS1の長さに依存して変化するので、スリットS1の長さはこれらの周波数を調整するように決定される。本変形例ではさらに、これらの周波数を調整するために、スリットS1に沿った所定の位置に、所定のリアクタンス値を有するリアクタンス素子15(すなわちキャパシタ又はインダクタ)を設ける。また、これらの周波数は、リアクタンス素子15がスリットS1に設けられる位置にも依存して変化するので、リアクタンス素子15の位置はこれらの周波数を調整するように決定される。周波数の調整量(推移量)は、リアクタンス素子15がスリットS1の開口部に設けられたときに最大になる。このことから、リアクタンス素子15のリアクタンス値を決定した後に、その実装位置をずらすことによって、アンテナ素子1の共振周波数とアイソレーションを確保できる周波数とを微調整することが可能である。
以上説明したように、本変形例のアンテナ装置は、単一のアンテナ素子1を2つのアンテナ部として動作させるとき、簡単な構成でありながら複数のアイソレーション周波数で給電ポート間のアイソレーションを確保することができ、複数の無線信号の送受信を同時に実行することができる。
図12は、本発明の実施形態の第6の変形例に係るアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。本変形例のアンテナ装置は、第5の変形例のリアクタンス素子15に代えて、コントローラ13Aの制御下でリアクタンス値が変化する可変リアクタンス素子16を備えたことを特徴とする。これにより、本変形例のアンテナ装置は、第2及び第3の変形例のように複数のスリット及び/又は複数の直列共振回路を設けることなく、可変リアクタンス素子16を備えた単一のスリットS1を設けることにより、複数のアイソレーション周波数で給電ポート間のアイソレーションを確保することができる。
図12において、本変形例のアンテナ装置は、スリットS1に沿ってスリットS1の開口部から所定距離の位置に可変リアクタンス素子16を備える。可変リアクタンス素子16には、容量性のリアクタンス素子として例えばバラクタダイオードなどの可変容量素子を用いることができ、可変リアクタンス素子16のリアクタンス値は、コントローラ13Aから印加される制御電圧に従って変化する。本変形例のアンテナ装置は、可変リアクタンス素子16のリアクタンス値を変化させることにより、アンテナ素子1の異なる共振周波数を実現するとともに、異なる周波数において給電ポート間のアイソレーションを確保するように構成される。コントローラ13Aは、可変リアクタンス素子16のリアクタンス値を変化させるとともに、MIMO通信回路10及び整合回路11,12の動作周波数を調整することにより、アンテナ素子1の動作周波数を、可変リアクタンス素子16のリアクタンス値によって決まるアイソレーション周波数にシフトさせる。本変形例では、以上の構成により、アンテナ装置の多周波化が可能になる。
本変形例では、可変リアクタンス素子16のリアクタンス値を適応的に変化させて、使用するアプリケーションに応じてアンテナ素子1の動作周波数を変化させることができる。
以上説明したように、本変形例のアンテナ装置は、単一のアンテナ素子1を2つのアンテナ部として動作させるとき、簡単な構成でありながら複数のアイソレーション周波数で給電ポート間のアイソレーションを確保することができ、複数の無線信号の送受信を同時に実行することができる。
さらなる変形例として、アンテナ素子1及び接地導体2の形状は、長方形に限定されるものではなく、例えば他の多角形、円形、楕円形などであってもよい。また、説明した各変形例を組み合わせたアンテナ装置を構成することも可能であり、例えば、第5の変形例のリアクタンス素子15又は第6の変形例の可変リアクタンス素子16を、第1〜第3の変形例のアンテナ装置のいずれかにおける少なくとも1つのスリットに設けてもよい。同様に、第5の変形例のリアクタンス素子15又は第6の変形例の可変リアクタンス素子16を、第4の変形例のアンテナ装置における少なくとも1つのスロットS3に設けてもよい。このような組み合わせのアンテナ装置を実施する場合、複数の共振周波数を、スリット長又はスロット長、リアクタンス素子のリアクタンス値、リアクタンス素子の実装位置によって調整することが可能になり、周波数調整の自由度があがる。例えば、第3の変形例と第5又は第6の変形例とを組み合わせる場合、リアクタンス素子又は可変リアクタンス素子は、スリットS1の開口部と、直列共振回路14B,14Cの間と、直列共振回路14Cより奥の位置との少なくとも1つに設けることができる。第4の変形例と第5又は第6の変形例とを組み合わせる場合、リアクタンス素子又は可変リアクタンス素子は、例えばスロットS3の長手方向のほぼ中央に設けることができる。また、第3の変形例と第4の変形例とを組み合わせて、スロットに複数の直列共振回路を設けることもできる。さらに、MIMO通信回路10に代えて、独立した2つの無線信号の変復調を実行する無線通信回路を設けてもよく、この場合、実施形態のアンテナ装置は複数のアプリケーションに係る無線通信を同時に実行したり、複数の周波数帯での無線通信を同時に実行したりすることが可能になる。
本発明のアンテナ装置及びそれを備えた無線通信装置によれば、例えば携帯電話機として実装することができ、あるいは無線LAN用の装置として実装することもできる。このアンテナ装置は、例えばMIMO通信を行うための無線通信装置に搭載することができるが、MIMOに限らず、複数のアプリケーションのための通信を同時に実行可能(マルチアプリケーション)な無線通信装置に搭載することも可能である。
1…アンテナ素子、
1a,1b…給電点、
2a,2b…接続点、
2…接地導体、
10…MIMO通信回路、
11,12…インピーダンス整合回路、
13,13A…コントローラ、
14,14A,14B,14C,14D…直列共振回路、
15…リアクタンス素子、
16…可変リアクタンス素子、
S1,S2…スリット、
S3…スロット、
F1,F2,F3,F4…給電線、
F3a,F3b,F4a,F4b…信号線、
C…キャパシタ、
L…インダクタ、
P1,P2…信号源。