JPWO2010067869A1 - 抗ウイルス剤および抗ウイルス用組成物 - Google Patents

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Abstract

本発明は、エンベロープウイルスに対する効果に優れかつ人体に対する安全性も高い抗ウイルス剤、およびこの抗ウイルス剤を含有し上記ウイルスの消毒や感染予防のために有用な抗ウイルス用組成物を提供することを目的とする。本発明の抗ウイルス剤は、タンニンを含有するカキノキ属(Diospyros)の植物の果実の搾汁または抽出液を加熱またはアルコールで処理することによりその中に含有されていた当該カキノキ属の植物に由来する酵素を失活させて得られたカキ抽出物処理物を有効成分とすることを特徴とする。また、本発明の抗ウイルス用組成物は、上記抗ウイルス剤と、アルコール、界面活性剤、または抗菌剤を含有することを特徴とし、さらにビタミンC類を含有することが好ましい。

Description

本発明は、エンベロープウイルス(たとえばヒト型インフルエンザウイルス、トリ型インフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルス1型、ニューカッスル病ウイルス、水疱性口内炎ウイルスなどのヒトまたは家畜の病原ウイルスや、ウイルス性出血性敗血症ウイルスなどの魚病ウイルス)に対する効果に優れかつ人体に対する安全性も高い、タンニンを含有するカキノキ属の植物の抽出物、カテキン類、ワットルタンニン、ペンタガロイルグルコース、コーヒータンニン、ピロガロール、没食子酸、五倍子タンニンなど有効成分とする抗ウイルス剤、およびこの抗ウイルス剤を含有し上記ウイルスの消毒や感染予防のために有用な抗ウイルス用組成物に関する。
一般的にウイルス病は、抗生物質などが効果を示さないため治療が困難であり、ヒトや家畜などの動物に対して大きな問題となっている。近年、SARSや鳥インフルエンザが話題となったことは記憶に新しいところである。また、養殖魚でもウイルス病が大きな問題となっているが、有効な治療法がなく、ワクチンによる予防が主な対策となっている。
ところで、柿の実の抽出液を発酵して得られる「柿渋」は、古くから中国において血圧降下等のために漢方薬として用いられ、日本においても民間薬として親しまれているものである。この柿渋はタンニンを豊富に含有し、収斂性(タンパク質等と結合して組織を引き締める性質)のほか、抗菌作用や消臭作用を有するといわれている。なお、カキノキに含有されるタンニン(縮合型タンニン)の構造や精製方法に関しては下記の2つの学術論文(Matsuo and Itoo, 1981a/1981b:非特許文献1および2)を参照することができる。
このような柿渋ないし柿のタンニンを含有する組成物としては、たとえば、柿渋抽出物をさらに取り扱い性や抗菌性を向上させるためにシクロデキストリンで包含した上で配合した抗菌性歯科用組成物(特開2005−232043号公報:特許文献1)、霊芝胞子に含まれるペプチド多糖類などの成分にさらに柿渋を添加混合した制癌剤および抗肺炎ビールス剤(特開2004−331641号公報:特許文献2)が提案されている。
また、特開2006−206558号公報(特許文献3)には、タンニン物質、脂肪酸エステル類、キレート剤などを含有する抗菌性組成物が記載されており([請求項1])、当該タンニン物質としてはタンニン酸、ピロカテキン、没食子酸、柿タンニン、茶タンニン、五倍子タンニンなどが挙げられている([請求項4])。しかしながら、この抗菌性組成物の有効性は、タンニン酸を用いた場合における大腸菌および黄色ブドウ球菌に対してのものしか実証されておらず([実施例])、上記タンニン物質、特に柿タンニンが顕著なエンベロープウイルスに対する抗ウイルス性を有すること、したがって抗ウイルス用組成物の成分として極めて有用であることは何ら具体的に開示されていない。
特開2006−306836号公報(特許文献4)には、特定のフェノール誘導体が各種非エンベロープまたはエンベロープウイルスの不活性化剤として有効であると記載されており、フェノール誘導体としては没食子酸アルキルエステル、(n−プロピルガレート、n−オクチルガレート、カテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピカテキンガレート等)が例示されている。しかしながら実施例では、単純ヘルペスウイルス1型(HSV−1)および水疱性口内炎ウイルス(VSV)に対してn−オクチルガレートが抗ウイルス活性を有することは具体的に示されているものの、緑茶タンニンに含まれるカテキンガレート等が抗ウイルス活性を有するかどうかは実証されていない。
特表2004−529889号公報(特許文献5)には、C1〜C3アルコール(たとえばエタノール)またはC2〜C4ジオールと、組成物のpHを4.6以下に調整するために十分な量の酸(たとえば有機酸)を含有する組成物がエンベロープウイルスの不活性化作用を有することが記載されている。しかしながら実施例では、口唇ヘルペスウイルス(HSV−1)に対してエタノールと塩酸、グリコール酸またはコハク酸とを含有する溶液が抗ウイルス活性を有することしか具体的に示されていない。
なお、本発明者らはこれまでに、カキ抽出物を用いた、食中毒および感染性胃腸炎の原因となるノロウイルスに対する抗ウイルス剤およびこれを用いた抗ノロウイルス性組成物(PCT/JP2008/060705)、ならびにカキ抽出物およびその他特定のタンニンないしタンニン様物質を用いた、非エンベロープウイルスに対する抗ウイルス剤およびこれを用いた抗ウイルス用組成物(PCT/JP2009/056635)を出願している。また、杉山ら(非特許文献3)は、柿渋タンニンが強い抗ノロウイルス性作用を示すことや、これを消毒剤(エタノール製剤)に用いることの可能性を記載している。
特開2005−232043号公報 特開2004−331641号公報 特開2006−206558号公報 特開2006−306836号公報 特表2004−529889号公報
MATSUO, Tomoaki and ITOO, Saburo (1981a): Comparative Studies of Condensed Tannins from Several Young Fruits. J. Japan. Soc. Hort. Sci., 50(2), 262-269. MATSUO, Tomoaki and ITOO, Saburo (1981b): A Simple and Rapid Purification Method of Condensed Tannins from Several Young Fruits. Agric. Biol. Chem., 45(8), 1885-1887. 杉山裕, 中井義昭, 辻徹, 島本整, 植物由来成分の抗ノロウイルス作用の検討と新規エタノール製剤の開発, 日本食品微生物学会学術総会講演要旨集, 2007, Vol.28th, p.56
本発明は、エンベロープウイルスの不活性化作用に優れかつ人体に対する安全性も高い抗ウイルス剤、およびこの抗ウイルス剤を含有しそれらのウイルスの消毒や感染予防のために有用な抗ウイルス用組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため、食品あるいは食品添加物として認められている物質や植物成分、すなわち口にしても安全な素材の中から抗ウイルス活性を有する物質の探索を行ったところ、タンニンを含有するカキノキ属の植物の抽出物が広範なエンベロープウイルスに対する顕著な抗ウイルス活性を有することを見出し、またその他のタンニンないしタンニン様物質や、クエン酸および/またはその塩などもエンベロープウイルスに対する抗ウイルス活性を有すること見出したことにより、本発明を完成させるに至った。
本発明の概要は下記のとおりである。
[1]タンニンを含有するカキノキ属(Diospyros)の植物の果実の搾汁または抽出液を加熱またはアルコールで処理することによりその中に含有されていた当該カキノキ属の植物に由来する酵素を失活させて得られた、カキ抽出物処理物を有効成分とする、エンベロープウイルスに対する抗ウイルス剤。
[2]前記カキ抽出物処理物が少なくとも縮合型タンニンを含有するものである、[1]に記載の抗ウイルス剤。
[3]前記カキノキ属の植物がカキノキ(Diospyros kaki)である、[1]または[2]に記載の抗ウイルス剤。
[4]さらに、カテキン類、ワットルタンニン、ペンタガロイルグルコース、コーヒータンニン、ピロガロール、没食子酸、五倍子タンニン、および有機酸および/またはその塩(前記カキ抽出物処理物中のものを除く。)からなる群から選ばれた少なくとも1種を有効成分として含有する、[1]〜[3]のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
[5]前記エンベロープウイルスとして、A型インフルエンザウイルス属、ベシクロウイルス属、単純ウイルス属、アビュラウイルス属、またはノビラブドウイルス属に属するエンベロープウイルスを対象とする、[1]〜[4]のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
[6]前記エンベロープウイルスとして、ヒト型インフルエンザウイルス、トリ型インフルエンザウイルス、水疱性口内炎ウイルス、単純ヘルペスウイルス1型、ニューカッスル病ウイルス、またはウイルス性出血性敗血症ウイルスを対象とする、[5]に記載の抗ウイルス剤。
[7]少なくとも[1]〜[6]のいずれかに記載の抗ウイルス剤とアルコールとを含有する、抗ウイルス用アルコール製剤。
[8]少なくとも[1]〜[6]のいずれかに記載の抗ウイルス剤と界面活性剤とを含有する、抗ウイルス洗浄用組成物。
[9]少なくとも[1]〜[6]のいずれかに記載の抗ウイルス剤と抗菌剤(エタノール、有機酸およびその塩を除く。)とを含有する、抗ウイルス消毒用組成物。
[10]前記抗ウイルス剤中のカキ抽出物処理物(固形分換算)を組成物全体に対して0.01〜5重量%の割合で含有する、[7]〜[9]のいずれかに記載の抗ウイルス用組成物。
[11]有機酸および/またはその塩を組成物のpHが6.0〜2.0となる量で含有する、[7]〜[10]のいずれかに記載の抗ウイルス用組成物。
[12]さらにビタミンC類を含有する、[7]〜[11]のいずれかに記載の抗ウイルス用組成物。
本発明の抗ウイルス剤を構成するカキ抽出物としては、カキノキ属の植物の果実の搾汁または抽出液を、加熱またはアルコールで処理することにより、その中に含有されていた当該カキノキ属の植物に由来する酵素を失活させて得られたもの(カキ抽出物処理物)が望ましく、また、少なくとも縮合型タンニンを含有するもの、たとえばカキノキ(Diospyros kaki)から得られるものが好ましい。
また、本発明の抗ウイルス剤としては、対象とするエンベロープウイルスによっては、カキ抽出物の他、カテキン類(カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等)、ワットルタンニン、ペンタガロイルグルコース、コーヒータンニン、ピロガロール、没食子酸、五倍子タンニンなどを有効成分として使用することもできる。さらに、有機酸および/またはその塩(前記カキ抽出物またはその処理物中のものを除く。)を抗ウイルス剤の有効成分として使用することもできる。これらの抗ウイルス剤の有効成分は、それぞれ1種単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。
このような抗ウイルス剤は、アルコール、界面活性剤、抗菌剤(エタノール、有機酸およびその塩を除く。)、保湿剤、化粧品用油脂類などと組み合わせた組成物の、エンベロープウイルスに対する有効成分として使用することが好適である。
すなわち、本発明の抗ウイルス用組成物は、上記抗ウイルス剤と、アルコール、界面活性剤、抗菌剤、保湿剤および化粧品用油脂類からなる群より選ばれた少なくとも1種とを含有することを特徴とする。このような抗ウイルス用組成物は、前記抗ウイルス剤(固形分換算)を組成物全体に対して0.01〜5重量%の割合で含有することが好ましい。また、有機酸および/またはその塩を組成物のpHが6.0〜2.0となる量で含有することも好ましい。さらに上記の抗ウイルス用組成物は、ビタミンC類を含有することも好ましい。
たとえば、本発明の抗ウイルス用組成物は、少なくとも前記抗ウイルス剤とアルコールとを含有する抗ウイルス用アルコール製剤、少なくとも前記抗ウイルス剤と界面活性剤とを含有する抗ウイルス洗浄用組成物、少なくとも前記抗ウイルス剤と抗菌剤とを含有する抗ウイルス消毒用組成物として提供される。
換言すれば、本発明は、上述のような成分を含有する物質である抗ウイルス剤または抗ウイルス用組成物を、エンベロープウイルスによる汚染の可能性がある場所に噴霧、塗布等するなど、エンベロープウイルスの消毒または感染予防のために使用する方法を提供する。
さらに、本発明の抗ウイルス剤は、エンベロープウイルスに起因する感染症の治療剤または予防剤の有効成分として使用することもできる。すなわち、本発明のエンベロープウイルスに対する感染症の治療剤または予防剤は、上記抗ウイルス剤を有効成分として含有することを特徴とする。
本発明の抗ウイルス剤として用いるカキ抽出物、カテキン類、ワットルタンニン、ペンタガロイルグルコース、コーヒータンニン、ピロガロール、没食子酸、五倍子タンニン、あるいは有機酸および/またはその塩の、エンベロープウイルスに対する効果は、一般的な抗菌剤等と比較して格段に優れており、それらのウイルスを99%以上消滅させることも可能である。通常、ウイルスはその種類の違いによって、その構造が異なるため、種類ごとに、化学物質や薬品等に対する挙動もしくは耐性が異なるものとされているが、特にカキ抽出物を少なくとも用いた抗ウイルス剤にあっては、そのウイルスの種類によらず、広い範囲のウイルスに対しても効果があるという特徴を有する。また、このような抗ウイルス剤は、そのまま単独で使用することができる物質であるのみならず、アルコール製剤、洗浄用組成物、ハンドソープ、消毒用組成物、ローション、乳液、クリーム等の組成物、あるいはエンベロープウイルスに対する医薬品などの有効成分としても極めて有用である。そして、本発明の抗ウイルス剤またはそれを含有する組成物を、対象とするエンベロープウイルスが付着しているまたは付着している可能性のある場所(一般的には非生体および生体の表面であるが、組成物が医薬品である場合は生体の体内である場合もある)に接触させるようにして、消毒または感染予防のために用いることができる。
また、カキ抽出物(カキタンニン)などは食品添加物として認められているため、本発明の抗ウイルス用組成物の全ての成分を食品または食品添加物で構成し、食品・食器類に付着して口にされても問題にならない組成物とすることが可能となる。このようなカキ抽出物などを有効成分とする本発明の抗ウイルス用組成物を用いることにより、食品を取り扱う状況下や医療機関などにおいて、エンベロープウイルスの消毒や感染予防を効率的に行うことができるようになり、それらのウイルスに起因する疾患の発生を大幅に抑制することができるものと期待される。
図1は、実施例1におけるヒト型インフルエンザウイルスに対する各種薬剤の抗ウイルス活性を示す。 図2は、実施例1におけるトリ型インフルエンザウイルスに対する各種薬剤の抗ウイルス活性を示す。 図3は、実施例1における水疱性口内炎ウイルスに対する各種薬剤の抗ウイルス活性を示す。 図4は、実施例1における単純ヘルペスウイルス1型に対する各種薬剤の抗ウイルス活性を示す。 図5は、実施例1におけるニューカッスル病ウイルスに対する各種薬剤の抗ウイルス活性を示す。 図6は、実施例4におけるトリ型インフルエンザウイルスに対する各種薬剤の抗ウイルス活性を示す。 図7は、実施例5におけるヒト型インフルエンザウイルスに対する各種薬剤の抗ウイルス活性を示す。
− エンベロープウイルス −
本発明の抗ウイルス剤および抗ウイルス用組成物は、広範なエンベロープウイルスに対して適用することができる。たとえば、ヒトまたは家畜(ほ乳類・鳥類)の病原ウイルスとして知られている、表1の各種エンベロープウイルスに適用することができる。
また、魚病ウイルスとしては、たとえば次の各種エンベロープウイルスに適用できる。
(1)ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)、1本鎖RNAウイルス、砲弾型
ノビラブドウイルス属(Novirhabdoviridae)
ウイルス性出血性敗血症ウイルス(Viral hemorrhagic septicemia virus)…淡水魚では主にサケ科魚類、海産魚ではヒラメ等にウイルス性出血性敗血症を起こす。
(2)ヘルペスウイルス科(Herpesviridae)、2本鎖DNAウイルス、球形
イクタルリウイルス属(Ictalurivirus)
アメリカナマズヘルペスウイルス(Ictalurid herpesvirus 1)…アメリカナマズウイルス病の原因体/コイヘルペスウイルス(Koi herpesvirus)(属不明、未分類)…コイヘルペスウイルス病の原因体。近年、非常に問題となっているウイルス。
(3)レオウイルス科(Reoviridae)、2本鎖RNAウイルス、球形
アクアレオウイルス属(Aquareovirus)
種不明…金魚の転覆病。
(4)ニマウイルス科(Nimaviridae)、2本鎖DNAウイルス、長球形
ウィスポウイルス属(Whispovirus)
ホワイトスポット症候群ウイルス(White spot syndrome virus)…エビ類のホワイトスポット症候群の原因体。
(5)ロニウイルス科(Roniviridae)、1本鎖DNAウイルス、長球形
オカウイルス属(Okavirus)
イエローヘッド病ウイルス(Yellow head virus)…エビ類のイエローヘッド病の原因体。
(6)バキュロウイルス科(Baculoviridae)、2本鎖DNAウイルス、不定形。
ヌクレオポリヘドロウイルス属(Nucleopolyhedrovirus)
モノドン型バキュロウイルス(Penaeus monodon NPV)…モノドン型バキュロウイルス感染症の原因体。
− 抗ウイルス剤 −
本発明の抗ウイルス剤の有効成分は、対象とするエンベロープウイルスに応じて、カキ抽出物、カテキン類、ワットルタンニン、ペンタガロイルグルコース、コーヒータンニン、ピロガロール、没食子酸、五倍子タンニンなどの中から適切なものを選択することができる。
・カキ抽出物
本発明では、広範なエンベロープウイルスに対する抗ウイルス剤の有効成分として、タンニンを含有するカキノキ属の植物の抽出物、すなわちカキ抽出物(柿シブタンニンとよばれることもある。)を用いる。なお、このカキ抽出物は、タンニンを含有するカキノキ属の植物に由来する物質のみならず、これを抽出するために用いた溶媒等を含有していてもよい。
カキ抽出物の原料は特に限定されるものではないが、カキタンニン(特に縮合型タンニン)を豊富に含む渋柿(たとえばカキノキの蜂屋、平種無などの品種)の未成熟果を用いると効率的かつ経済的である。また、同様の成分からなるカキ抽出物が得られるのであれば、カキノキ属の植物の葉や樹皮など果実以外の部位を原料としてもよい。
このような原料からカキ抽出物を調製する方法も特に限定されるものではないが、一般的には、蔕を除去した渋柿を、粉砕、圧搾して搾汁を回収する方法、または適度な大きさに切断してからミキサーにかけて液状にし、さらに遠心分離機にかけて上澄み液を回収する方法、あるいは水または水系溶媒で抽出して抽出液を回収する方法などが用いられる。
・加熱、アルコールおよびその他の処理
本発明のカキ抽出物としては、上述のようなカキノキ属の植物の果実の搾汁や抽出液をそのまま用いることもできるが、それらの加熱またはアルコールによる処理物(以下「カキ抽出物処理物」とよぶこともある。)を用いることが望ましい。加熱またはアルコール処理によりカキ抽出物の抗ウイルス性は一層高まり、あわせて抗ウイルス性を検証するための測定が阻害されることを防止できるようになる。このようなカキ抽出物処理物は比較的容易に調製することができ、かつ組成物の成分として使用する上で色や臭気がほとんど問題にならないという利点を有し、発酵に時間がかかる上に色や臭気の点で使用しにくい面のある柿渋(後述)よりも工業的に利用しやすい。また、上記のように加熱またはアルコール処理により、長期間保存しておいても、変色や沈殿等といったことが生じることはない。
加熱処理の温度および時間条件は、搾汁等に含有されているカキノキ属の植物に由来する酵素を失活させることができる程度の条件であればよく、植物の酵素を失活させるための一般的な条件を採用することができる。すなわち、温度は通常60〜130℃、時間は通常5秒〜30分であり、たとえば、120℃〜130℃で5〜10秒間、あるいは約85℃で5〜15分間などの条件で加熱処理を行えばよい。また、加熱処理工程の態様は特に限定されるものではなく、たとえば搾汁を殺菌する工程における加熱や、粉末化する工程における加熱、あるいは柿渋(詳細は後述)を製造するための発酵開始前の加熱などによって当該処理を行うことができる。
一方、アルコール処理は、通常30〜100%、好ましくは50〜100%のエタノール等のアルコール類を用いて行うことができる。たとえば、カキ絞汁液に95v/v%エタノールを同量程度添加するように処理し、その後は密閉遮光容器内で保存することが好ましい(通常淡褐色の液となる)。また、アルコール処理工程の態様も特に限定されるものではなく、たとえばエタノール等のアルコール系溶媒を用いて抽出をする工程は当該アルコール処理工程に相当するほか、典型的には本発明の抗ウイルス用組成物としてのアルコール製剤を製造するための一工程として、必要に応じて上記の加熱処理が施されたカキ抽出物にアルコールを添加して混合することにより行うこともできる。なお、このようなアルコール処理は、カキ抽出物自体に含有される雑菌を殺菌する作用も併せ持つ。
本発明のカキ抽出物については、上記のような処理の他に、あるいは上記のような処理に加えて、発明の効果を阻害しない範囲で必要に応じて、濃縮、乾燥または凍結乾燥による固形化ならびに粉砕による粉末化(凍結乾燥粉末は通常微黄色である)、あるいはイオン交換樹脂等を用いた精製などの処理を施してもよい。カキ抽出物はポリフェノールを多く含有し、液状のままでは着色等の変質が起こりやすいため、凍結乾燥法を用いて固形状態で冷凍保存することが望ましい。これらの操作は、カキ抽出物に含有されるカキタンニンやその他の成分が分解されないような、温和な条件下で行うことが好ましい。
また、本発明におけるカキ抽出物としては、未成熟の渋柿の搾汁したのち長期間(1〜3年程度)発酵、熟成させて得られる液体であって、数パーセント程度の固形分(カキタンニン)および発酵により生成した有機酸などを含有する「柿渋」を利用してもよい。この柿渋は従来民間薬や塗料などとして利用されており、たとえば「柿渋」(冨山柿渋製造場)などの商品として一般的に市販されている。あるいは、カキ絞汁液にカキ由来の酵母培養液を加え、20〜25℃で1〜3ヶ月間発酵させて得られる発酵物を用いることもでき(通常赤褐色の液となる)、その後は密閉容器内で保存することが好ましい。
なお、日本の食品衛生法に基づく「既存添加物名簿収載品目リスト」に「柿タンニン」(品名/別名=柿渋、柿抽出物。基原・製法・本質=カキ科カキ Diospyros kaki THUNB. の実より、搾汁したもの、又は水若しくはエタノールで抽出して得られたものである。主成分はタンニン及びタンニン酸である。)として記載されている添加物を、本発明におけるカキ抽出物として利用することもできる。
・カキタンニン
カキノキ属(Diospyros)の植物、特にその果実には、収斂性や金属イオンと結合するなど所定の性質を有し、渋味を感じさせるもととなる物質、いわゆるタンニンと総称される化合物が豊富に含まれている。このようなカキタンニンには、多くの場合、カテキン、ガロカテキンおよびこれらの没食子酸エステルが結合してなる、下記推定構造式(I)で表される「カキ縮合型タンニン」が主要な成分として含まれていることが特徴的である。たとえば、カキノキ属の植物のうち、中国原産で日本をはじめ世界的に広く栽培されているカキノキ(Diospyros kaki)の果実に含まれているカキ縮合型タンニンは、カテキン、カテキンガレート、ガロカテキンおよびガロカテキンガレートがおよそ1:1:2:2の比率で炭素−炭素結合で縮合している高分子化合物である(Matsuo & Itoo (1981a):前出非特許文献1参照)。
また、カキタンニンには、上記「カキ縮合型タンニン」以外にも、カテキンや加水分解型タンニンなどその他のタンニン性化合物が含まれていることもある。
なお、加水分解型タンニンは、アルコール(グルコース等)とカルボン酸(没食子酸等)とのエステルまたはそのオリゴマーであって、加水分解により低分子化されるのに対し、カキ縮合型タンニンは加水分解によって低分子化しないため(重合体の基本骨格の炭素−炭素結合は加水分解されない)加水分解型タンニンと区別することができ、たとえばMatsuo & Itoo (1981b)(前出非特許文献2)に記載された方法などにより精製、定量することも可能である。
本発明におけるエンベロープウイルスに対する抗ウイルス性の発現のためには、カキ抽出物中に少なくともカキ縮合型タンニンが含まれていることが好ましいと推測されるが、カキ抽出物中のその他の成分の寄与の可能性は何ら排除されるものではない。カキノキの果実を用いて後述のような調製方法により得られるカキ抽出物等には、通常自ずとカキ縮合型タンニンが含まれており、本発明の抗ウイルス剤は、そのようなカキ抽出物等を原料として用いて製造することが好適であると推測される。
・カテキン類
本発明の抗ウイルス剤が、A型インフルエンザウイルス属(ヒト型インフルエンザウイルス、トリ型インフルエンザウイルス等)、ベシクロウイルス属(水疱性口内炎ウイルス等)、単純ウイルス属(単純ヘルペスウイルス1型等)、アビュラウイルス属(ニューカッスル病ウイルス等)、ノビラブドウイルス属(ウイルス性出血性敗血症ウイルス等)などのエンベロープウイルスを対象とする場合、カテキン類を有効成分として使用することもできる。
カテキン類は、インド産のマメ科アカシア属の低木であるカテキュー(ガンビールとも呼ばれる。学名Acacia catechu)やチャノキ(茶の木、学名:Camellia sinensis)等の植物に含有される、3,5,7,3′,4′−ペンタヒドロキシフラバン(狭義のカテキン)、3,5,7,3′,4′,5′−ヘキサヒドロキシフラバン(ガロカテキン)およびそれらの3−ガロイル誘導体の総称であり、これらの立体異性体も含まれる。たとえばカテキューから分離される(+)-カテキンは、下記構造式(2)を有する。
また、チャノキに含有されるカテキン類(「緑茶タンニン」とよばれることもある。)は、エピカテキン[epicatechin、構造式(3)]とそのヒドロキシ体のエピガロカテキン [epigallocatechin、構造式(4)]、それらの没食子酸エステルであるエピカテキンガレート[epicatechin gallate、構造式(5)]およびエピガロカテキンガレート[epigallocatechin gallate、構造式(6)]を主成分とするが、これらの化合物は加熱処理により異性化することもある。
カテキン類はその他の植物にも含有されている。本発明では、カテキン類を含有する植物からこれらの化合物を単離して利用しても、カテキン類を含有する植物の抽出物を利用してもよい。また、カテキン類は、いずれか1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。チャノキに含有されるカテキン類を利用することが最も好都合である。
・ワットルタンニン
本発明の抗ウイルス剤が、A型インフルエンザウイルス属(ヒト型インフルエンザウイルス、トリ型インフルエンザウイルス等)、ベシクロウイルス属(水疱性口内炎ウイルス等)、単純ウイルス属(単純ヘルペスウイルス1型等)、アビュラウイルス属(ニューカッスル病ウイルス等)、ノビラブドウイルス属(ウイルス性出血性敗血症ウイルス等)などのエンベロープウイルスを対象とする場合、さらにワットルタンニンを有効成分として使用することもできる。
ワットルタンニンはアカシア属の植物の樹皮、葉、莢などから抽出されるタンニンであり、たとえばAcacia pycnantha(Golden Wattle), Acacia decurrens(Tan Wattle), Acacia dealbata(Silver Wattle、ミモザワットルとよばれることもある。), Acacia mearnsii (Black Wattle)などに由来するものが挙げられる。
・ペンタガロイルグルコース
本発明の抗ウイルス剤が、A型インフルエンザウイルス属(ヒト型インフルエンザウイルス、トリ型インフルエンザウイルス等)、単純ウイルス属(単純ヘルペスウイルス1型等)、アビュラウイルス属(ニューカッスル病ウイルス等)、ノビラブドウイルス属(ウイルス性出血性敗血症ウイルス等)などのエンベロープウイルスを対象とする場合、さらにペンタガロイルグルコースを有効成分として使用することもできる。
ペンタガロイルグルコースは、グルコースの水酸基(1,2,3,4および6位)に没食子酸がエステル結合した化合物であり、たとえば五倍子タンニンを原料として分解、精製することにより得られる。
・コーヒータンニン
本発明の抗ウイルス剤が、ノビラブドウイルス属(ウイルス性出血性敗血症ウイルス等)などのエンベロープウイルスを対象とする場合、さらにコーヒータンニンを有効成分として使用することもできる。
コーヒータンニンは、コーヒー豆等から抽出されるタンニン(ないしタンニン様物質)であり、主としてクロロゲン酸類(キナ酸の水酸基(3,4または5位のいずれか1つ以上)にカフェ酸がエステル結合した化合物)が含まれている。
・ピロガロール
本発明の抗ウイルス剤が、A型インフルエンザウイルス属(ヒト型インフルエンザウイルス、トリ型インフルエンザウイルス等)、ベシクロウイルス属(水疱性口内炎ウイルス等)、単純ウイルス属(単純ヘルペスウイルス1型等)、ノビラブドウイルス属(ウイルス性出血性敗血症ウイルス等)などのエンベロープウイルスを対象とする場合、さらにピロガロール(1,2,3-トリヒドロキシベンゼン)を有効成分として使用することもできる。
・没食子酸
本発明の抗ウイルス剤がノビラブドウイルス属(ウイルス性出血性敗血症ウイルス等)などのエンベロープウイルスを対象とする場合、有効成分として没食子酸を使用することもできる。
・五倍子タンニン
本発明の抗ウイルス剤がノビラブドウイルス属(ウイルス性出血性敗血症ウイルス等)などのエンベロープウイルスを対象とする場合、有効成分として、五倍子(ヌルデの虫こぶ)に由来する、五倍子タンニンを使用することもできる。
・有機酸および/またはその塩
本発明の抗ウイルス剤が、A型インフルエンザウイルス属(ヒト型インフルエンザウイルス、トリ型インフルエンザウイルス等)、ベシクロウイルス属(水疱性口内炎ウイルス等)、単純ウイルス属(単純ヘルペスウイルス1型等)、ノビラブドウイルス属(ウイルス性出血性敗血症ウイルス等)などのエンベロープウイルスを対象とする場合、カキ抽出物に含まれているもの以外の有機酸および/またはその塩を有効成分として使用することもできる。
なお、有機酸および/またはその塩は、細菌類に対する抗菌性にも優れた物質で、食品添加物としても認められており、タンニンの溶解性を高めるほか、タンニンが鉄と接触したときの着色を防止するキレート剤としても作用する。そのような観点から、本発明の抗ウイルス用組成物に有機酸および/またはその塩を配合することも好ましい。
有機酸および/またはその塩としては、炭素原子数2〜10の有機酸および/またはその塩が好ましく、炭素原子数2〜10のヒドロキシル基を含有する有機酸および/またはその塩がより好ましい。さらに具体的には、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、サリチル酸、コハク酸、フマル酸およびイタコン酸からなる群から選ばれた少なくとも1種の有機酸および/またはその塩が好ましく、とくにクエン酸またはその塩が好ましい。また、有機酸の塩としては、上記有機酸のナトリウム塩、カリウム塩等が好ましい。
本発明の抗ウイルス用組成物に、特定のエンベロープウイルスに対する有効成分としておよび/または上記のようなその他の目的のために、有機酸および/またはその塩を配合する場合、有機酸および/またはその塩の割合は、抗ウイルス用組成物全体(溶媒等を含む。)に対して、0.05〜5.0重量%が好ましく、0.1〜2.0重量%がより好ましい。あるいは、抗ウイルス用組成物のpHが、通常は6.0〜2.0となる量で、好ましくは5.0〜2.0となる量で、より好ましくは4.8〜2.0となる量で、さらに好ましくは4.0〜2.0となる量で配合すればよい。水溶液のpHは、一般的なpHメーター(たとえばベックマン・コールター株式会社製のpHメーター)を使用して測定すればよい。
なお、有機酸および/またはその塩を有効成分とする抗ウイルス剤を単独で用いる場合は当該抗ウイルス剤自体のpHを上記範囲で調整することが好ましいが、抗ウイルス剤を抗ウイルス用組成物に配合して(希釈して)用いる場合は、当該組成物の最終的なpHが上記好ましい範囲となるよう、必要に応じて抗ウイルス剤自体のpHはあらかじめ上記範囲よりも低い範囲で調整しておいてもよい。
− 抗ウイルス用組成物 −
本発明の抗ウイルス用組成物は、エンベロープウイルスに対する有効成分としての抗ウイルス剤と、アルコール、界面活性剤、抗菌剤、保湿剤、または化粧品用油脂類のいずれか1種以上の成分とを含有し、必要に応じてさらにクエン酸および/またはその塩やビタミンC類を含有する組成物である。その態様は特に限定されるものではないが、代表的には以下のようなものが挙げられる。
・ 少なくとも抗ウイルス剤とアルコールとを含有するアルコール製剤
・ 少なくとも抗ウイルス剤と界面活性剤とを含有する洗浄用組成物
・ 少なくとも抗ウイルス剤と抗菌剤とを含有する消毒用組成物
・ 少なくとも抗ウイルス剤と保湿剤および/または化粧品用油脂類とを含有するローション、乳液またはクリーム
洗浄用組成物は、食品、食器、調理器具、魚類等の飼育器具類や飼育水槽、作業者の手指や着衣などの汚れを落とすとともにエンベロープウイルスを消毒することができる態様の組成物であり、たとえば液状または固形状の洗剤として提供される。アルコール製剤および消毒用組成物は、食品、食器、調理器具、魚類等の飼育器具類や飼育水槽、作業者の手指、あるいは患者の汚物を取り扱った器具などに付着したエンベロープウイルスおよび細菌類を不活性化するために使用される態様の組成物であり、たとえば従来のエタノール製剤と同様の噴霧剤として提供される。これらの洗浄用組成物ないし消毒用組成物は、魚類等の卵、稚仔魚または親魚に感染したウイルスを消毒するための態様とすることもできる。ローション、クリームおよび乳液は、水仕事等で荒れやすい作業者の手指に塗ってスキンケアをするとともにエンベロープウイルスを消毒することができる態様の組成物(基礎化粧品)である。
なお、本発明の抗ウイルス用組成物において、アルコール、界面活性剤、抗菌剤、保湿剤、および化粧品用油脂類は当然ながら2種以上を組み合わせて用いてもよい。たとえばアルコール製剤については、抗菌性をより高めるために脂肪酸エステル等の界面活性剤をさらに配合することも好ましい。また、上記洗浄用組成物は、界面活性剤に加えて抗菌剤やアルコールを配合したハンドソープなどの態様をとることができ、上記クリームは、手肌を保護する成分と共に手肌を清浄に保つための抗菌剤やアルコールを配合した態様をとることができる。
さらに、本発明の抗ウイルス用組成物には、本明細書中で具体的に説明している成分以外にも、所望の性能を賦与し各組成物の品質を高めるための各種成分、たとえば増粘剤(キサンタンガム、ローカストビーンガム、ポリアクリル酸ナトリウム等)、酸化防止剤、香料、色素など、またローション等の化粧品にあっては肌荒れ防止剤、消炎剤などを、適宜配合することができる。
・抗ウイルス剤の含有量
本発明の抗ウイルス用組成物における抗ウイルス剤の含有量は、エンベロープウイルスに対する抗ウイルス性が発現される範囲において、組成物の成分構成や使用方法等の態様に応じて適宜調整することができるが、抗ウイルス剤、より具体的には抗ウイルス剤中のカキ抽出物などの有効成分が、抗ウイルス用組成物全体に対して好ましくは0.01〜5重量%、より好ましくは0.1〜2重量%となるような量にすればよい。
なお、上記の抗ウイルス剤の含有量は「固形分」に基づくものであり、柿の実の抽出液のような液状物を製造原料として用いる場合には、その液状物中の固形分(乾燥または凍結乾燥により得られる粉末)の重量が上記範囲内となるよう、液状物の配合量を調節すればよい。柿の実の搾汁には、通常5〜10%程度の固形分が含有されている。
・ビタミンC類
本発明の抗ウイルス用組成物には、上述した抗ウイルス剤に加えて、食品等に添加される酸化防止剤として知られているビタミンC類を配合することが好ましい。ここで「ビタミンC類」とは、一般的にビタミンCと呼ばれているL−アスコルビン酸のほか、DL−アスコルビン酸や、アスコルビン酸エステル(パルミチン酸エステルなど)などを含む総称である。ビタミンC類を配合することによりカキ抽出物(特にカキタンニン)の酸化が抑制され、ウイルスに対する効果が安定的、持続的に発揮されるようになり、あわせて酸化による赤色の発色を抑制することもできる。
ビタミンC類の添加量は、抗ウイルス用組成物全体(溶媒等を含む。)に対して、0.01〜5.0重量%の割合が好ましく、0.05〜2.0重量%の割合がより好ましい。
・アルコール
アルコールとしては、一般的なアルコール製剤と同様のものを用いることができるが、細菌類に対する優れた抗菌性を有し食品添加物としても認められているエタノールおよび/またはプロパノールが好ましい。これらのアルコールの濃度は一般的なアルコール製剤と同程度であればよく、抗菌性を考慮しながら調整することができるが、アルコール製剤全体に対して10〜80%程度とすることが好ましい。なお、アルコールは溶剤としてアルコール製剤以外の組成物に用いられることもあり、また肌への収斂性や防腐性をもたらす成分として化粧品等に配合することもできる。
・界面活性剤
界面活性剤には、カチオン系、アニオン系、両イオン系および非イオン系のものがあるが、カキ縮合型タンニン(ポリフェノール)などの化学的性質を考慮すると、本発明ではアニオン系界面活性剤および/または非イオン系界面活性剤を用いることが好ましい。
アニオン系界面活性剤としては、たとえば、石けん(高級脂肪酸のアルカリ塩)、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩などが挙げられる。
非イオン系界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、多価アルコール(グリセリン、糖アルコール等)の脂肪酸部分エステル、脂肪酸ジエタノールアミドなどが挙げられる。
これらの界面活性剤のうち、グリセリン脂肪酸部分エステル、ソルビタン脂肪酸部分エステル、ショ糖脂肪酸部分エステルなど食品添加物として認められているものは、食品、食器、調理器具に付着しても問題にならない点で本発明における好ましい界面活性剤である。
なお、上記のような界面活性剤には細菌類の細胞膜やウイルスのエンベロープを破壊する作用もあり、たとえばグリセリンの炭素数6〜18の脂肪酸(炭素数10のカプリン酸など)との部分エステルはエンベロープウイルスに対する抗ウイルス性および大腸菌や黄色ブドウ球菌に対する抗菌性に優れているため、前述の抗ウイルス剤に有効成分として、あるいはアルコール製剤などの組成物にこれらの界面活性剤を配合することも好適である。また、界面活性剤はクリームや乳液において油相と水相とを混和するための成分としても用いられる。
・抗菌剤
本発明で用いることのできる、前述のエタノール、クエン酸等の有機酸およびその塩以外の抗菌剤(殺菌剤、除菌剤とよばれる物質を含む。)は特に限定されるものではないが、公知の抗生物質や合成抗菌剤など、たとえば食品加工の際の感染あるいは院内感染が問題となる大腸菌、黄色ブドウ球菌、MRSA、サルモネラ、腸炎ビブリオ、緑膿菌などに対して有効であるものが好適である。なかでも、イソプロピルメチルフェノール、ブチルパラヒドロキシベンゾエート、トリクロサンなどの合成抗菌剤は、抗菌作用に優れている点およびカキ抽出物との相溶性の点で本発明における好ましい抗菌剤である。なお、上記のような抗菌剤として用いられる物質は、前述のエタノール製剤に配合してもよく、化粧品等において防腐剤として利用されることもある。
・保湿剤
本発明で用いることのできる保湿剤(湿潤剤)は、一般的なローション、乳液、クリーム等の化粧品に用いられているものと同様であり、たとえば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、セラミド、アロエエキスなどが挙げられる。これらの保湿剤のうち、アロエエキスなど食品または食品添加物として認められているものは、食品、食器、調理器具に付着しても問題にならない点で本発明における好ましい保湿剤である。
・化粧品用油脂類
化粧品用油脂類は、皮膚面に被膜を形成して皮膚の保護や柔軟性、滑沢性の賦与などの役割を果たし、また化粧品に適度な使用感を持たせるための成分である。本発明では、一般的な乳液、クリーム等の化粧品に用いられているものと同様の化粧品用油脂類を用いることができ、たとえば下記のようなものが挙げられる。
・ 油脂(高級脂肪酸とグリセリンのエステル)…植物性油脂、動物性油脂またはこれらの水素添加物(部分水添ナタネ油等)、合成トリグリセリド(トリ(カプリル/カプリン酸)グリセリル等)など;
・ ロウ(高級脂肪酸と高級アルコールの常温で固体のエステル)…植物性ロウ、動物性ロウ(蜜蝋、ラノリン等)など;
・ 炭化水素…鉱物性炭化水素(流動パラフィン、ワセリン、パラフィン等)、動物性炭化水素(スクワラン等)など;
・ 高級脂肪酸…ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸など;
・ 高級アルコール…セタノール、ステアリルアルコール、ラノリンアルコールなど;
・ エステル(ロウ類以外の、脂肪酸とアルコールとのエステル)…ミリスチン酸ミリスチル、ジオレイン酸プロピレングリコール、乳酸セチルなど。
これらの化粧品用油脂類のうち、蜜蝋など食品または食品添加物として認められているものは、食品、食器、調理器具に付着しても問題にならない点で本発明における好ましい化粧品用油脂類である。
・製造方法
本発明の抗ウイルス用組成物の製造方法は、製造原料の一つとして抗ウイルス剤(カキ抽出物)を配合し、必要に応じてさらにビタミンC類を配合し、これらのことにあわせて適宜調整を施すこと以外は、従来のアルコール製剤、洗浄剤、消毒剤、ローション、乳液、クリーム等の製造方法と同様である。すなわち、それらの従来品の一般的な(または必要に応じて微調整した)製造原料に加えて抗ウイルス剤を配合し、従来品と同様(または必要に応じて微調整した)製造工程により、本発明の抗ウイルス用組成物を製造することができる。たとえば、クリームの態様をとるのであれば、精製水に抗ウイルス剤やその他の成分を添加して水相部を調製し、一方で化粧品用油脂類などからなる油相部を調製し、これらを所定の割合で混合するようにして製造すればよい。
また、本発明の抗ウイルス用組成物の使用方法も、従来のアルコール製剤、洗浄剤、消毒剤、ローション、乳液、クリーム等と同様である。さらに、たとえば洗浄剤であれば使用時に希釈して用いるような濃縮型のものにしたり、アルコール製剤や消毒剤であればスプレー型のほか、不織布に含浸させて拭き取り型のものにしたりするなど、本発明の抗ウイルス用組成物は使用方法に応じて適宜好ましい態様で製品化することもできる。
なお、本発明の抗ウイルス剤または抗ウイルス用組成物に有機酸および/またはその塩を配合する場合は、それらの水溶液のpHが好ましくは5.0〜2.0、より好ましくは4.8〜2.0となる量で、さらに好ましくは4.0〜2.0となる量の有機酸および/またはその塩を添加することが好適である。
− 医薬品等 −
本発明の抗ウイルス剤は、エンベロープウイルスに起因する感染症の治療剤または予防剤の有効成分として使用することができる。このような医薬品の剤型は、たとえば液剤、シロップ剤、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤などの経口摂取型、あるいは注射剤といった中から適宜選択することができ、必要に応じて賦形剤(たとえば乳糖やその他の糖類)、結合材(たとえば澱粉、メチルセルロース、ポリビニルアルコール)、安定化剤(たとえばアスコルビン酸)、保存剤(たとえばパラオキシ安息香酸エステル)、甘味料、溶剤など各種の添加剤を併用し、一般的な製剤方法に従って製造することができる。また、これらの医薬品の有効投与量は、患者の年齢、体重、症状、薬剤の投与経路、投与スケジュール、製剤形態、素材の阻害活性の強さなどに応じて適宜決定することができ、医薬品中の抗ウイルス剤の含有量もそれらの条件に応じて調節すればよい。
なお、本発明の抗ウイルス剤およびこれを含有する医薬品は、ヒトに対して投与する態様のみならず、ほ乳類や魚類などエンベロープウイルスが感染しうるヒト以外の動物に対して投与する態様をもとりうる。たとえば魚類については、抗ウイルス剤ないしこれを含有する医薬品を餌料に混合して経口投与することができるほか、注射器などを用いて強制的に経口投与する方法や、飼育水に抗ウイルス剤を添加して一定時間あるいは常時魚を飼う“薬浴”などの方法をとることもできる。
さらに、本発明の抗ウイルス剤は、たとえば適度な濃度になるよう水で希釈した上でうがい液または口腔用スプレーとして用いてもよく、用途は特に限定されるものではない。
[実施例1]
表2に示す配合組成に従った薬剤を調製し、ヒト型インフルエンザウイルス、トリ型インフルエンザウイルス、水疱性口内炎ウイルスについてはそのまま、単純ヘルペスウイルス1型およびニューカッスル病ウイルスについてはさらに水で半分に希釈して、以下の実施例に用いた。対照としてはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いた。なお、柿渋FD末(カキ抽出物)は、十分に殺菌(NaClO)、洗浄、変色防止(ビタミンC)等の処理をした、蔕を切除した柿の未成熟果をダイス状にカットして潰し、得られた果実・果汁溶液を200メッシュ篩にかけ、遠心分離し、高温殺菌処理(120〜130℃、7〜10秒)をした後、フリーズドライ処理をして調製したものを用いた。
上記表3に示した試験ウイルスそれぞれのウイルス液と、上記表2に示した薬剤または対照それぞれとを当量ずつ(各35μL)混和して、室温で3分間反応させた後、DMEM (Sulbecco's modified minimun essential medium)で10倍段階希釈列を調製した。希釈したウイルス液を96穴プレートの単層培養細胞に接種し(100μL/well)、培養した。4日後以降にCPEが広がったところで固定・染色し、Behrens-Kaerber法を用いて50%感染量(単位:50% tissue culture infections dose [TCID50])を算出し、ウイルス感染価を測定した。結果は表4および図1〜5に示す通りである。
上記5種類のウイルスはいずれも、20%または10%(w/w)エタノールではほとんど影響を受けない一方、さらに柿渋FD末、ワットルタンニン、または緑茶タンニンを配合した場合に感染価が大きく低下し、抗ウイルス活性が確認された。この結果は、これらの物質がそれぞれが単独で、広範なエンベロープウイルスに対する優れた有効成分となることを示している。
また、ペンタガロイルグルコースは、水疱性口内炎ウイルスに対してはやや弱いものの、各ウイルスに対する抗ウイルス活性が確認された。ピロガロールも、ニューカッスル病ウイルスを除く4種のウイルスに対する抗ウイルス活性が確認された。さらに、グリセリンモノカプレートは上記5種のウイルス全てに対して、クエン酸・クエン酸三ナトリウムはニューカッスル病ウイルスを除く4種のウイルスに対して、抗ウイルス活性が確認された。
一方、コーヒータンニンについては、上記5種のいずれのウイルスに対しても抗ウイルス活性をほとんど示さなかった。プロピルガレートは、ウイルスの種類によって多少の抗ウイルス活性を示した。
[実施例2]
ウイルス性出血性敗血症ウイルス(VHSV)は、マス類に出血性敗血症をもたらすが、近年ヒラメ等でも本病が確認されている(Takano et al., 2001)。
被検試薬を表5に示す。各被検試薬は、Hanks' balanced salt solution (日水)(HBSS)を用いて0.2%の濃度に調整した。その試薬50 μLに対し、各種ウイルス液50 μLを混合し(試薬終濃度0.1%)、常温で2分間静置した。その後、9.9 mLのHBSSを加えて反応を止め、さらにこれらサンプルの10倍の希釈系列をHBSSを用いて作製した。
ウイルス力価測定試験は、まずFHM魚類培養細胞(Pimephales promelas由来)を96穴プレート(IWAKI)に80% confluentとなるように播き、培地を各wellに90 μLずつ加えて24時間培養した。なお、培地はMEMを使用した。その後、先に作製した希釈系列液を各wellに10 μLずつ接種し、さらに10日間培養を行って細胞変性効果(ウイルス感染の指標)の出現を確認した。細胞変性効果が見られなくなる限界希釈点を確認し、Reed and Muench (1938)の方法に従ってウイルス力価を測定した。コントロール区のウイルス力価(100%)に対する試験区のウイルス力価の割合を計算し、抗ウイルス活性を評価した(表6)。
ウイルス性出血性敗血症ウイルスに対しては、発酵柿渋液(カキ抽出物)、ペンタガロイルグルコース、ワットルタンニン、緑茶タンニン(カテキン類)、ピロガロールが高い効果を示し、これらが優れた有効成分となりうることが示されている。また、没食子酸、五倍子タンニンもこれらに近い効果を示し、コーヒータンニンも一定の効果を示した。
[実施例3]
以下の成分を撹拌混合することにより、エタノール製剤、手洗いフォーム剤およびハンドローションを調製することができた。
エタノール製剤(HA-72A):柿渋FD末0.3重量部/エタノール50重量部/クエン酸1.6重量部/クエン酸三ナトリウム0.5%重量部/グリセリンモノカプレート0.5重量部/水(残部)。
エタノール製剤:柿渋FD末0.3重量部/エタノール50重量部/クエン酸1.6重量部/クエン酸三ナトリウム0.5重量部/グリセリンモノカプレート0.5重量部/ビタミンC0.5%重量部/水(残部)。
手洗いフォーム剤:イソプロピルメチルフェノール0.1重量部/柿渋FD末0.5重量部/95%エタノール20重量部/マイドール12(花王(株)製。ラウリルグルコシド)7.0重量部/グリセリン15.0重量部/クエン酸1.0重量部/グリセリンモノカプレート0.3重量部/精製水56.1重量部。
手洗いフォーム剤(KSF15-2):イソプロピルメチルフェノール0.1重量部/柿渋FD末0.5重量部/95%エタノール18重量部/マイドール12(花王(株)製。ラウリルグルコシド)7.0重量部/グリセリン15.0重量部/クエン酸1.0重量部/グリセリンモノカプレート0.3重量部/精製水58.1重量部。
ハンドローション:アラントイン0.1重量部/グリチルリチン酸二カリウム0.1重量部/柿渋FD末0.3重量部/95%エタノール54.0重量部/グリセリン2.0重量部/クエン酸0.7重量部/クエン酸三ナトリウム0.3重量部/グリセリンモノカプレート0.3重量部/精製水42.0重量部。
[実施例4]
(1)使用薬剤
実施例3に従って調製されたHA-72AおよびKSF15-2、および対照としてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)
(2)使用ウイルス
鳥インフルエンザウイルス A/swan/Shimane/499/83(H5N3)
(3)細胞
MDCK(+) cells
(イヌ腎尿細管上皮細胞由来:Noma K et al. Arch. Virol. 143:1893-1909, 1998.)
(4)ウイルス感染価測定法
ウイルス液と薬剤を等量ずつ(各35μL)混和して、室温で3 分間反応させたのち、DMEM (Dulbecco's modified minimum essential medium)で10 倍段階希釈列を調製した。希釈したウイルス液を96 穴プレートの単層培養細胞に接種し(100μL/well)、培養した。4 日後以降にCPE が広がったところで固定・染色し、Behrens-Kaerber 法を用いて50%感染量(単位:50% tissue culture infectious dose[TCID50])を算出し、ウイルス感染価を測定した。
処理時間の検討のためには、ウイルス液と薬剤を混合して、所定の時間(10, 30,60 秒)後にDMEM で500 倍に希釈して薬剤との反応を停止させ、同様に感染価を測定した。得られた感染価は500 倍にして補正した。
(5)結果
薬剤の作用:
HA-72AおよびKSF15-2ともに3分間の処理でウイルス活性が検出限界以下に低下した。両薬剤ともに細胞に対して、ある程度傷害性があるので、結果の「3.2E+03 TCID50/ml」というのはウイルスの作用が検出できる限界である。
処理時間の効果:
500 倍に希釈しているために1.6.E+04 TCID50/ml がウイルス活性の検出限界であるので、10 秒間の処理で、すでにウイルス活性が検出できないほど低下していると考えられる。以上、両試薬とも、鳥インフルエンザウイルスを検出できないほど不活化(約3000 倍以上)する。また、少なくとも10 秒の処理で有効であると考えられる。
[実施例5]
(1)使用薬剤
実施例3に従って調製されたHA-72AおよびKSF15-2、および対照としてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)
(2)使用ウイルスおよび細胞
(3)ウイルス感染価測定法
ウイルス液と薬剤を等量ずつ(各35μL)混和して、室温で3分間反応させたのち、PBSで10倍段階希釈列を調製した。希釈したウイルス液を96穴プレートの単層培養細胞に接種し(50μL/well)、30分間ウイルス吸着を行った。その後、ウイルス接種液を吸引除去し、DMEM, 20μg/mlトリプシン(100μL/well)を加えた。6日後にCPEが広がったところで固定・染色し、Behrens-Kaerber法を用いて50%感染量(単位:50% tissue culture infectious dose [TCID50])を算出し、ウイルス感染価を測定した。
(4)結果および考察
HA-72AおよびKSF15-2ともに、H1N1ウイルスを高度に不活化した。元のウイルスの感染価がそれほど高くなかったので、0.06%以下に抑制したという結果であるが、実際にはこれよりも高度に不活化している可能性がある。
[実施例6]
(1)水性搾汁液の製造法
原料青柿(千葉産県百目柿,2009年8月22日採取)330gを洗浄乾燥し蔕を除去した後、約2センチ角に切断すると同時に種を取り除いた(280g)。これをミキサーに取り、L−アスコルビン酸(ビタミンC)2.8g(1%)と精製水280mlと共に約3分間かけて十分に粉砕した。これを不織布で数回に分けて搾り70〜80℃で約30分加熱滅菌すると淡黄色液が得られた(460g)。この水性搾汁液(カキ抽出物処理物)を密閉容器に入れて常温に置いたところ、長期間(少なくとも3ヶ月間)、異臭、変色、沈殿を生じることなく保存可能であった。
柿果肉の糖度 9.4%(糖度計 ATAGO Pal−1)
タンニン含有量 2.2%(定量法 Folin−Denis法)
(2)エタノール性絞汁液の製造法
原料青柿(千葉県産百目柿,2009年8月22日採取)300gを洗浄乾燥し蔕を除去した後、約2センチ角に切断すると同時に種を取り除いた(260g)。これをミキサーに取り、L−アスコルビン酸(ビタミンC)2.6g(1%)と95%エタノール260ml(210g)と共に約3分かれて十分に粉砕した。これを不織布で数回に分けて搾ると淡黄緑色液が得られた(430g)。このエタノール性搾汁液(カキ抽出物処理物)を密閉容器に入れて常温に置いたところ、長期間(少なくとも3ヶ月間)、異臭、変色、沈殿を生じることなく保存可能であった。
柿果肉の糖度 9.5%(糖度計 AYAGO Pal−1)
タンニン含有量 2.4%(定量法 Folin−Denis法)

Claims (12)

  1. タンニンを含有するカキノキ属(Diospyros)の植物の果実の搾汁または抽出液を加熱またはアルコールで処理することによりその中に含有されていた当該カキノキ属の植物に由来する酵素を失活させて得られた、カキ抽出物処理物を有効成分とする、エンベロープウイルスに対する抗ウイルス剤。
  2. 前記カキ抽出物処理物が少なくとも縮合型タンニンを含有するものである、請求項1に記載の抗ウイルス剤。
  3. 前記カキノキ属の植物がカキノキ(Diospyros kaki)である、請求項1または2に記載の抗ウイルス剤。
  4. さらに、カテキン類、ワットルタンニン、ペンタガロイルグルコース、コーヒータンニン、ピロガロール、没食子酸、五倍子タンニン、および有機酸および/またはその塩(前記カキ抽出物処理物中のものを除く。)からなる群から選ばれた少なくとも1種を有効成分として含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
  5. 前記エンベロープウイルスとして、A型インフルエンザウイルス属、ベシクロウイルス属、単純ウイルス属、アビュラウイルス属、またはノビラブドウイルス属に属するエンベロープウイルスを対象とする、請求項1〜4のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
  6. 前記エンベロープウイルスとして、ヒト型インフルエンザウイルス、トリ型インフルエンザウイルス、水疱性口内炎ウイルス、単純ヘルペスウイルス1型、ニューカッスル病ウイルス、またはウイルス性出血性敗血症ウイルスを対象とする、請求項5に記載の抗ウイルス剤。
  7. 少なくとも請求項1〜6のいずれかに記載の抗ウイルス剤とアルコールとを含有する、抗ウイルス用アルコール製剤。
  8. 少なくとも請求項1〜6のいずれかに記載の抗ウイルス剤と界面活性剤とを含有する、抗ウイルス洗浄用組成物。
  9. 少なくとも請求項1〜6のいずれかに記載の抗ウイルス剤と抗菌剤(エタノール、有機酸およびその塩を除く。)とを含有する、抗ウイルス消毒用組成物。
  10. 前記抗ウイルス剤中のカキ抽出物処理物(固形分換算)を組成物全体に対して0.01〜5重量%の割合で含有する、請求項7〜9のいずれかに記載の抗ウイルス用組成物。
  11. 有機酸および/またはその塩を組成物のpHが6.0〜2.0となる量で含有する、請求項7〜10のいずれかに記載の抗ウイルス用組成物。
  12. さらにビタミンC類を含有する、請求項7〜11のいずれかに記載の抗ウイルス用組成物。
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