JPWO2010061547A1 - 眼に関するシミュレーション装置 - Google Patents
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Abstract
変視症のシミュレーション装置において、変視症患者の網膜の変形及びそれにより起こる視神経の配列の乱れを数値的にシミュレート可能とする。本発明の変視症シミュレーション装置は、網膜の変形量を確率密度関数に基づいた式により数値化する方法により、視細胞の移動量を求め、該視細胞の移動量から、変視症患者が観察している画像の歪みを求めることにより課題を解決した。
Description
眼疾患者の症状を解析するために網膜の変形量に基づいて眼疾患者の観察する画像の歪みをシミュレートする技術に関するものである。
眼球では図1に示すように光が角膜11を通過し,水晶体13によって焦点を合わせて網膜15に画像を投影する。網膜15に投影された光は網膜15上に複数存在する視細胞19によって捉えられ,これを視神経21によって脳に伝達して画像を認識する。したがって脳で認識する画像はひとつひとつの視細胞19によって認識された離散的なデータを合成したものであり,情報処理という観点からするとデジタル処理が行われていると考えられる。
網膜15の中央部鼻側には脳につながる視神経21が束となった視神経乳頭があり,その近傍には図1に示すように黄斑17と呼ばれる部位がある。黄斑部17は幅0.5mm程度,深さ0.3mm程度のクレータ状の凹形状をしており,網膜の中ではこの部分の視細胞の密度が他の箇所に比べて飛びぬけて高く,視力の中枢をなす箇所であると考えられている。したがって,何らかの疾患によって黄斑部17に異常をきたすと,見ようとする物体の形状が変形して見えるという現象が起こる。この現象は変視症と呼ばれる眼疾患の症状である。この疾患の原因としては黄斑上膜,黄斑円孔,加齢黄斑変性,中心性漿液性脈絡網膜症などが知られており,これらの疾患を患う患者数は少なくない。
黄斑部に異常をきたした場合には,眼底写真を撮ることによって黄斑部の形状の異常を定量的に測定することができるため,上述した疾患についての診断は可能である。しかしながら,この疾患を患っている患者自身が画像をどのように認識しているかについては,定量的に判断するのは難しく,医療の現場ではアムスラーテストが行われている。
アムスラーテストとは図2に示すようなアムスラーチャートを用いて次のようにして行うテスト方法である。
図2に示す格子状のチャートを準備する。このチャートの格子の数は21本ずつで,その間隔は5mmである。このチャートを30cmの位置から診断しようとする側の片目で観察し,観察した患者にこれがどのように見えるのかをこのチャート上に描いてもらうという方法である。この方法では片眼に疾患がない患者の場合では患者が画像をどのように認識しているかを判断できるが,両眼に異常がある場合は,この方法では患者が認識している画像を医師が知ることはできない。また,片眼に異常がない患者の場合においても患者が認識している画像を正確に描くことは不可能に近いので,この方法はあくまでも画像の変形を定性的にしか判断できない。
また、従来技術として、所定の長さの複数本の点線からなり、これらの点線は、点間隔が最も狭い点線と、点間隔が最も広い点線と、これらの点線の点間隔の中間に属する点間隔を有する複数本の点線とからなることを特徴とする変視症用テストチャートがある(特許文献1参照)。
また、中心の固視標2から、上下方向および左右方向にそれぞれ視角20度の範囲において、視角1度毎に縦方向および横方向の直線が表示されることによって正方形の格子が碁盤目状に形成され、網膜が浮腫等の影響で変形している場合には、網膜に映る像が歪むことによって、直線が歪んで見えるので、被検者が固視標2の正面から片眼ずつ垂直方向に検査用チャート1を見て、直線が歪んで見えるところがあるかどうか、また歪みの程度等を調べることによって、変視症を診断する複数の直線が格子縞を形成するように配置された変視症検査用チャートがある(特許文献2参照)。
しかし、これらは、変視症を検査するテストチャートについて、それらを用いることにより変視症の程度を簡易に測定することしかできない。
変視症患者が見る画像の変形は上述したように黄斑部で発生するため,患者の視野の中央部で発生する。したがって,上述した疾患に基づく画像の変形がどの程度であるのかを医師が知ることができれば眼疾患のみならず,これに起因する精神的な不安等についてもケアーすることが可能になると考えられ,医師が定量的に患者の認識している画像を認識可能とすることは変視症の治療において非常に重要となる。
眼に関するシミュレーション装置において、眼疾患者の網膜の変形及びそれにより起こる視神経の配列の乱れを数値的にシミュレートすることができなかった点である。
本発明の眼に関するシミュレーション装置は、網膜の変形後の形状に基づいて前記網膜の変形前の形状に対する変形量を数学的に解析する網膜変形解析部と、前記網膜変形解析部が解析した前記網膜の変形量に基づいて前記網膜の変形前後での視細胞の移動量を数学的に解析する視細胞移動解析部とを有することを特徴とする。
また、本発明の眼に関するシミュレーション装置は、前記視細胞移動解析部が解析した前記視細胞の移動量に基づいて、眼疾患者が観察している画像のゆがみを再現して出力する変視画像再現部を有してもよい。
また、本発明の眼に関するシミュレーション装置の前記網膜変形解析部は、前記網膜変形解析部は、視線方向を前記網膜の上下方向とすると共に視線直交方向を前記網膜の横方向として、前記網膜の上下方向の移動量をZ、変形した網膜の最大値をA、原点からの横方向の距離をx、確率密度関数における標準偏差をσとした場合に、確率密度関数に基づいた以下の(式1)
によって、前記眼疾患者の網膜の変形量を近似してもよい。
本発明の眼に関するシミュレーション装置は、網膜の変形後の形状に基づいて前記網膜の変形前の形状に対する変形量を数学的に解析する網膜変形解析部と、前記網膜変形解析部が解析した前記網膜の変形量に基づいて前記網膜の変形前後での視細胞の移動量を数学的に解析する視細胞移動解析部とを有するため、眼疾患者の網膜の変形及びそれにより起こる視神経の配列の乱れを数値的にシミュレートすることを可能とする。
また、本発明の眼に関するシミュレーション装置は、前記視細胞移動解析部が解析した前記視細胞の移動量に基づいて、眼疾患者が観察している画像のゆがみを再現して出力する変視画像再現部を有するため、眼疾患者が観察している画像のゆがみを確認可能となる。
また、本発明の眼に関するシミュレーション装置の前記網膜変形解析部は、前記網膜変形解析部は、視線方向を前記網膜の上下方向とすると共に視線直交方向を前記網膜の横方向として、前記網膜の上下方向の移動量をZ、変形した網膜の最大値をA、原点からの横方向の距離をx、確率密度関数における標準偏差をσとした場合に、確率密度関数に基づいた以下の(式1)
によって、前記眼疾患者の網膜の変形量を近似するため、眼疾患者の網膜の変形量を確率密度関数に基づいた数式を用いてシミュレートすることが可能となり、網膜の変形量を数値的に表すことが可能となる。
眼に関するシミュレーション装置において、眼疾患者の網膜の変形及びそれにより起こる視神経の配列の乱れを数値的にシミュレートすることができないという問題点を眼疾患者の網膜の変形量及び網膜の変形前後での視細胞の移動量を数式によりシミュレートして解析することにより解決した。
本発明の眼に関するシミュレーション装置の実施例としての変視症シミュレーション装置について以下に説明する。
[構成]
図3に本発明実施例の変視症シミュレーション装置101の機能ブロック図を示す。
図3に本発明実施例の変視症シミュレーション装置101の機能ブロック図を示す。
変視症シミュレーション装置101は、入力部111、網膜変形解析部113、視細胞移動解析部115、変視画像再現部117の機能ブロックを有する。
入力部111は、変視症患者(眼疾患者)が観察したテストチャートの画像の入力を受け付ける。テストチャートについての元画像と変視症患者が観察した画像との違いの例については詳細を後述する。
網膜変形解析部113は、眼底写真の撮影等により得られた画像に基づく変視症患者の網膜の変形後の形状について解析を行い、網膜の変形前の形状に対する変形量を確率密度関数に基づいた式(式1;詳細後述)により表して近似する。
さらに、網膜変形解析部113は、後述の視細胞移動解析部115が求めた変視症患者の網膜の変形前後での視細胞の移動量である通常の位置からのずれ量に基づいて前記網膜の変形量を解析する機能をも有する。
視細胞移動解析部115は、網膜変形解析部113が解析した網膜の変形量から、変視症患者の視細胞の通常の位置からのずれ量を解析する。
さらに、視細胞移動解析部115は、入力部が受け付けた変視症患者が観察したテストチャートの画像に基づいて、視細胞の通常の位置からのずれ量(移動量)を解析する機能をも有する。
変視画像再現部117は、前記視細胞移動解析部115が解析した変視症患者の視細胞の通常の位置からのずれ量(移動量)に基づいて、変視症患者が観察している画像のゆがみを再現して出力する。
変視症シミュレーション装置101は、変視症患者の網膜の変形量から視細胞の通常の位置からのずれ量を求め、そのずれ量に基づいて変視症患者の観察している画像の歪みを再現する機能を有する。また、変視症シミュレーション装置101は、その逆の過程として、変視症患者が観察するテストチャートの画像の歪みから、視細胞の通常の位置からのずれ量を求め、そのずれ量に基づいて網膜の変形量を求める機能の両方を有する。
[視覚による画像の認識−視細胞での図形の認識]
視覚による画像の認識は次のようにして行われる。図4は視覚によって認識しようとする形状の例を示しており,この場合は簡単のために黒い四角形とした。なお,実際の眼球は画像の明暗のみならず色彩を感じる機能を持っているが,ここで扱う変視症は色彩とは深い関係が無いものと考え,ここでは画像を白黒と単純化して扱うことにした。この四角形の形状は,上述した図1のように角膜11を通過し,水晶体13によって焦点を合わせて網膜15にこの形状が投影される。網膜15の黄斑部17近傍には多数の視細胞19が存在し,その配列はランダムであろうと想像されるが,ここではこれらが網膜上で図5に示すようにXY平面状に規則正しく配列しているものと仮定している。なお,同図中の直線はそれぞれ網膜上のX,Y軸を表しており,両者が交差する原点は黄斑部17の中心であると仮定している。
視覚による画像の認識は次のようにして行われる。図4は視覚によって認識しようとする形状の例を示しており,この場合は簡単のために黒い四角形とした。なお,実際の眼球は画像の明暗のみならず色彩を感じる機能を持っているが,ここで扱う変視症は色彩とは深い関係が無いものと考え,ここでは画像を白黒と単純化して扱うことにした。この四角形の形状は,上述した図1のように角膜11を通過し,水晶体13によって焦点を合わせて網膜15にこの形状が投影される。網膜15の黄斑部17近傍には多数の視細胞19が存在し,その配列はランダムであろうと想像されるが,ここではこれらが網膜上で図5に示すようにXY平面状に規則正しく配列しているものと仮定している。なお,同図中の直線はそれぞれ網膜上のX,Y軸を表しており,両者が交差する原点は黄斑部17の中心であると仮定している。
網膜15上に投影された図4の形状を,これを認識する視細胞の配列を示す図5と重ね合わすことにより,各視細胞に入力される画像情報を図6のように表すことができる。これは図4に示した形状の黒い所は黒,白い所は白という単純な2値化情報である。実際の網膜に存在する視細胞の密度は図5に示した密度に比べるとはるかに高いが,ここでは説明のために視細胞の密度を低いものと仮定して作図している。
図6に示した各視細胞の白黒の情報はそれぞれ視神経を経由して脳に送られ,脳では予め準備された図5に示したものと同じ視細胞の配列を考慮して画像情報を再処理し,結果的に図4に示した形状を認識する。
以上が視覚によって画像を認識する機能の概略である。
[変視症による画像の認識]
さて,以上に示した機能に基づいて黄斑部に疾患が生じた場合に,どのようにして変視症が発生するのかについて以下に述べる。
さて,以上に示した機能に基づいて黄斑部に疾患が生じた場合に,どのようにして変視症が発生するのかについて以下に述べる。
上述した加齢黄斑変性等が発病すると,網膜の黄斑部近傍の形状が変化し,この変形に起因して図5に示した網膜上の視細胞の配列が変化してしまう。実際の配列の変化は大変に複雑であるため,ここでは簡単のために図7に示すように配列がみだれたものと仮定する。図7は図5と同様な図であるが,X,Y軸上に規則正しく配列している視細胞のみが左右上下方向に移動した場合を示している。
このような状態で図4に示した黒い四角形を網膜上に投影して得た各視細胞の情報を示したのが図8である。ただし,この場合も図6と同様に図4と図7を重ね合わせて得た結果である。同図はほぼ図6と同様であるが,視細胞が移動したX,Y軸上の情報が若干変化している。すなわち,X軸上のプラスの方向(右側)の視細胞が示す情報は,図6では中心方向から白,白,黒,黒,黒,白と黒が3つつながっているが,視細胞の位置が変化した図8の場合では,白に続く黒の数が3つから2つに減少している。この現象はX軸のマイナスの方向でも生じており,またY軸のプラス・マイナスの両方向でも同じことが起こっている。
このようにして得られた各視細胞の情報は図6の場合と同様に脳に送られることになる。脳は視細胞から送られてきたデータに基づいて画像を再処理することになるが,脳は加齢黄斑変性等の疾患によって移動した視細胞の新たな配列に関する情報を持っていないため,図5に示した視細胞の配列に基づいて画像情報を再処理することになる。図8のデータに基づいて再処理し,認識した図形形状を図9に示す。同図には図8に示したようにX,Y軸上の視細胞が移動しているため,これに伴ってX,Y軸上の両端部が黒から白に変化するという変形した画像が現れている。
上述した例は理解を助けるために,X,Y軸上の視細胞のみを移動した単純な場合を示したが,実際に疾患が生じた場合には図7よりもより多くの視細胞がより複雑に移動するため,これに起因して画像が変形する変視症という症状が起こるものと考えられる。なお,網膜の変形と視細胞の移動との関係は以下で説明する。
以上で説明した変視症が発生する手順をフローチャートとしてまとめたのが図10である。先ず,黄斑部に疾患が発生(S1)すると網膜の形状が変化し(S3),これによって網膜内に存在する視神経の配列にみだれが生じる(S5)。この配列がみだれた視神経によって画像を捉えると,各視神経の2値化情報にみだれが発生する(S7)。このようにしてみだれた2値化情報が脳に送られて,みだれる前の視神経の配列に基づいて画像を再処理する(S9)と,画像がもとの画像から変形する(S11)という変視症が生じる。
本発明の変視症シミュレーション装置101は以上に示した変視症発生のメカニズムに基づいて変視症が生じている患者が認識する画像を定量的に再現するというシミュレーション方法ならびにシミュレータを提案している。
さらに、本フローチャートを逆方向にたどることも可能である。すなわち、入力部111に変視症患者の観察するテストチャートの画像を入力し、それに基づいて視細胞の移動量を解析し、それに基づいて網膜の変形量を求めることも可能である。
[網膜形状の変形]
加齢黄斑変性等の疾患が生じると,図1に示した黄斑部の網膜の形状が変化する。図11はこの変形の様子を示す黄斑部近傍の網膜の断面図を示している。同図において,直線AOCは変形前の網膜の表面形状を示しており,この場合は簡単のため図1に示した網膜の曲率は考えていないが,この曲率を考えた場合でも考え方は同じである。
加齢黄斑変性等の疾患が生じると,図1に示した黄斑部の網膜の形状が変化する。図11はこの変形の様子を示す黄斑部近傍の網膜の断面図を示している。同図において,直線AOCは変形前の網膜の表面形状を示しており,この場合は簡単のため図1に示した網膜の曲率は考えていないが,この曲率を考えた場合でも考え方は同じである。
図11においては何らかの疾患によって網膜が図1の硝子体18側すなわち内側に変形した様子を曲線ADCで示している。網膜の形状変化は三次元的に発生するので,図11のZ軸を中心にこの図を回転すれば変形前後の網膜表面の三次元形状を求めることができる。なお,簡単のためにこの場合は変形の中心をZ軸上に置き,左右対称である場合を示しているが,変形が対称でない場合も同じように考えることができる。
網膜上には規則正しく視細胞が配列していることについては図5で示したとおりであり,網膜の形状が変形しようとしまいと視細胞の数は増減しない。また,隣り合う視細胞の間隔は等しいものと考えると,次のような考え方ができる。図12は図11に示した変形前後の網膜の形状の一部を示しており,そこには等間隔に視細胞が配置されている。まず,変形前では隣り合う視細胞の間隔はTで表しており,X1,X2,X3,X4の4つの細胞が存在すると仮定する。次に網膜が図11と同様に変形した場合を示しているが,図12では簡単のために左端は変形せず右側が盛り上がっている様子を示した。この場合X1からX4の視細胞は上向きのZ軸方法に移動するが,X1とX4の視細胞が左右方向に移動しないと仮定すると,X2,X3の視細胞はそれぞれ右方向に移動することになる。これは隣り合う視細胞間の間隔がTで一定であったものを変形後はこの間隔がT’と変化して一定に保った結果である。
ここで示したように図11の変形前の網膜上AOCに存在した視細胞は変形後のADC上に移動する際にZ軸方向のみならず,左右方向(X軸方向)にも移動することになる。また,Z軸を中心に回転させた三次元的な視細胞の配列は図12で説明した原理によってそれぞれ移動することになり,図7で説明した視細胞の配列のみだれが視野全体で起こることになる。
[網膜形状のシミュレーション]
本発明実施例の変視症シミュレーション装置101では網膜変形解析部113が図11に示した網膜の形状を数学的に表現することにより,図11,12で示した原理に基づいたシミュレーション方法を提案している。
本発明実施例の変視症シミュレーション装置101では網膜変形解析部113が図11に示した網膜の形状を数学的に表現することにより,図11,12で示した原理に基づいたシミュレーション方法を提案している。
図13は本発明で使用する座標系を示している。ここでは図11に示した変形の中心を原点として上向きにZ軸,横軸にX軸とY軸を取っており,網膜が三次元的に変形している様子を示している。図13のXZ断面すなわち図11に示した変形後のX軸とZ軸との関係を以下の(式1)のように確率密度関数を変形した数式で仮定した。
ただし,(式1)において、視線方向を前記網膜の上下方向とすると共に視線直交方向を網膜の横方向として、Zは上下方向の移動量,xは原点からの距離であるが,この場合ではこの距離を長さの単位ではなく図12に示した視細胞の間隔Tの整数倍で示している。Aは変形した網膜の最大値で,図11におけるODの長さに相当する。またσは確率密度関数では標準偏差を示すが,これは図11の山形状の幅を意味しており,これが大きいと山の幅が大きくて滑らかな形状となり,これが小さいと中心部が鋭いピークを持った形状となる。図14は(式1)を用いて計算した変形した網膜の断面形状の例を示している。ただし,縦横軸の数値は視細胞の間隔を1としてその倍数で表している。これらの計算例より,(式1)のAならびにσを代入することによって疾患によって黄斑部に発生した網膜の変形形状を数値的に表現できる。
網膜が変形した場合は、図12で示したように網膜上に存在する視細胞はZ方向のみならず横方向であるX軸上でも移動する。この移動量は図14に示したように変形した網膜上に視細胞が等間隔に存在するという条件の下で計算することが可能である。このような考え方のもと,視細胞移動解析部115が図14のように変形した網膜上に存在する視細胞の横方向の移動量を計算したのが図15である。同図には図14の計算例に応じた視神経の横移動量を計算したものを視細胞が原点から離れるすなわち視細胞間の間隔が広がる方向に移動したものをプラスとして表現している。例えば,図15に示したA=50,σ=20の場合では,中心の視細胞は移動せずに変形前と同じ位置に存在するが,そのすぐ外側の視細胞は互いの間隔が広がる方向に移動し,細胞数が20程度の位置から視細胞の間隔が狭まる方向に移動する傾向を示している。このようにして求めた視細胞の移動量は網膜の変形を示すAとσの値によって異なることがわかる。
図8及び図9で示したように,視細胞の位置が移動すると,この状態で認識した画像は脳で再処理する段階で形状が変形し,変視症につながる。
そこで、変視画像再現部117により、前記した視細胞の移動量に基づいて、変視症患者が観察している画像の歪みを再現して出力する。
以上の結果を図10に示したフローチャートに従って、変視画像再現部117が変視症の患者が認識する画像を再現したシミュレーション結果の例を図16に示す。ただし,これらの図は図2に示したアムスラーチャートと同様な縦横の格子模様を認識した場合の例を示している。ここでは図14と15に示した3つの場合(図14及び図15の(A),(B),(C))の例を示しているが,視細胞の移動に起因してそれぞれ変形した画像を再現できることが確認できる。ここに示したように本発明によるシミュレータを用いることによって網膜の変形量を示すAならびにσの値を与えることによって変視症の患者が認識する画像を再現することが可能となる。また,全く同じ方法で変視画像再現部117が文字についての歪みをシミュレートした結果の例を図17に示す。ただし,これらは図14と15における4つ目(図14及び図15の(D))と5つ目(図14及び図15の(E))の条件で再現したものである。両者(図17(A)及び(B))とも黒で示した再現した画像は灰色で示した元の画像に比べて変形している。また。両者とも再現した画像はもとのそれと比べて小さくなっているが,これは黄斑部の変形によって生じた画像の変形と共に画像が小さく見えるという患者の証言に合致したもので,本発明で提案したシミュレーションの正しさを証明するものであると考えられる。
[本シミュレーションの応用]
本発明では疾病により黄斑部に生じた形状の変形を数値化し,これに基づいて生じる変視症患者が認識する画像の変形(ゆがみ)を再現する方法について提案している。ここでは黄斑部の変形を左右対称あるいはZ軸周りに回転させた形状を例に示しているが,本シミュレーションはこればかりでなく非対称な場合についても同様に扱うことができる。すなわち,図14では(式1)に示した確率密度関数を変形した数式にて黄斑部の変形を示したが,この変形はこの限りではなく,例えば黄斑部近傍の網膜の変形を中心部から周辺に広がる放射状に所定の角度毎に分割し、それぞれに異なるA、σを有する式にて定義する方法等によって,本発明で提案したシミュレーション手法をそのまま適応することが可能である。このような観点からすると,上述したように現在では眼底写真を撮ることによって黄斑部の形状の異常を定量的に測定することが可能であるため,この測定結果を数値化して本シミュレーションに適応できる。
本発明では疾病により黄斑部に生じた形状の変形を数値化し,これに基づいて生じる変視症患者が認識する画像の変形(ゆがみ)を再現する方法について提案している。ここでは黄斑部の変形を左右対称あるいはZ軸周りに回転させた形状を例に示しているが,本シミュレーションはこればかりでなく非対称な場合についても同様に扱うことができる。すなわち,図14では(式1)に示した確率密度関数を変形した数式にて黄斑部の変形を示したが,この変形はこの限りではなく,例えば黄斑部近傍の網膜の変形を中心部から周辺に広がる放射状に所定の角度毎に分割し、それぞれに異なるA、σを有する式にて定義する方法等によって,本発明で提案したシミュレーション手法をそのまま適応することが可能である。このような観点からすると,上述したように現在では眼底写真を撮ることによって黄斑部の形状の異常を定量的に測定することが可能であるため,この測定結果を数値化して本シミュレーションに適応できる。
[実施例の効果]
本発明実施例のシミュレーション装置101により以下のことが可能となる。
本発明実施例のシミュレーション装置101により以下のことが可能となる。
網膜変形解析部113による変視症患者の網膜の変形の解析及びそれに基づく視細胞移動解析部115による視神経の配列の乱れを数値的にシミュレートすることが可能となる。
さらに、前記数値シミュレートに基づいて、変視画像再現部117が変視症患者が観察している画像のゆがみを出力するため、変視症患者が観察している画像の歪みを医師や健常者等が認識することが可能となる。
また、前記網膜変形解析部113は変視症患者の網膜の変形量を確率密度関数に基づいた数式(式1)を用いて近似することが可能となるため、視細胞の移動量の解析等や変視再現画像の取得において、上記式に基づいて簡易に前記解析や前記画像の取得が可能となり、また高速にこれらの値を演算可能となる。
また、シミュレーション装置101は、上記の逆の流れによるシミュレーションすなわち、変視症患者が観察している画像の歪みに基づいて視細胞の通常の位置からのずれ量(移動量)及び網膜の変形量の解析が可能となる。
以上の結果,本シミュレーションを用いれば眼底写真で得られた黄斑部の変形と,このときに患者が認識するゆがんだ画像との関係を1対1に対応して捉えることが可能となる。これによって患者が画像をどのように認識しているのかを医師が具体的に理解することが可能となり,肉体的な疾患に加えて精神的な苦痛をも共有し,肉体的な疾患に起因する精神的な不安等についてもケアーすることが可能になると考えられる。
[その他]
本発明実施例においては、眼疾患の中でも特に変視症についての説明を行ったが、本発明実施例の変視症シミュレーション装置101は、変視症以外の他の眼疾患であっても応用可能である。
本発明実施例においては、眼疾患の中でも特に変視症についての説明を行ったが、本発明実施例の変視症シミュレーション装置101は、変視症以外の他の眼疾患であっても応用可能である。
101 変視症シミュレーション装置(眼に関するシミュレーション装置)
111 入力部
113 網膜変形解析部
115 視細胞移動解析部
117 変視画像再現部
111 入力部
113 網膜変形解析部
115 視細胞移動解析部
117 変視画像再現部
Claims (3)
- 網膜の変形後の形状に基づいて前記網膜の変形前の形状に対する変形量を数学的に解析する網膜変形解析部と、
前記網膜変形解析部が解析した前記網膜の変形量に基づいて前記網膜の変形前後での視細胞の移動量を数学的に解析する視細胞移動解析部とを有する
ことを特徴とする眼に関するシミュレーション装置。 - 請求項1の眼に関するシミュレーション装置であって、
前記視細胞移動解析部が解析した前記視細胞の移動量に基づいて、眼疾患者が観察している画像のゆがみを再現して出力する変視画像再現部を有する
ことを特徴とする眼に関するシミュレーション装置。 - 請求項1又は2の眼に関するシミュレーション装置であって、
前記網膜変形解析部は、視線方向を前記網膜の上下方向とすると共に視線直交方向を前記網膜の横方向として、前記網膜の上下方向の移動量をZ、変形した網膜の最大値をA、原点からの横方向の距離をx、確率密度関数における標準偏差をσとした場合に、確率密度関数に基づいた以下の(式1)
ことを特徴とする眼に関するシミュレーション装置。
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