JPWO2010058559A1 - 放射検出器および放射検出方法 - Google Patents

放射検出器および放射検出方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、高い検出感度を有する放射検出器を提供する。本発明に係る放射検出器は、Al2O3基板と、Al2O3基板上に積層されたFe2O3薄膜と、Fe2O3薄膜上に積層され、CoO2面がAl2O3基板表面に対して傾斜して並んでいるCaxCoO2(ただし、0.15<x<0.55)薄膜と、CaxCoO2薄膜上に配置された第1電極と、CaxCoO2薄膜上であって、CoO2面が傾斜して並んでいる方向について、第1電極と対向する位置に配置された第2電極とを具備する。

Description

本発明は、異方熱電効果を利用した、放射検出器およびそれを用いた放射検出方法に関する。
熱電変換材料の両端に温度差が生じると、その温度差に比例して起電力(熱起電力)が発生する。熱電変換材料において、熱エネルギーが電気エネルギーに変換される現象は、ゼーベック効果として知られている。発生する起電力Vは、温度差ΔTと、材料固有のゼーベック係数Sとを用いて、V=SΔTで表される。
等方的な物性を示す熱電変換材料において、ゼーベック効果によって発生する起電力は、温度差が生じた方向にのみ生じる。一方、電気輸送特性に異方性を示す熱電変換材料は、結晶軸の傾斜配置により、温度差が生じた方向と直交する方向に起電力が発生する。なお、電気輸送特性とは、電荷をもつ電子や正孔が物質中を移動する振舞いをいう。このように、材料の結晶軸の傾斜配置により、温度差が生じた方向(熱流方向)とは異なる方向に起電力が発生する現象を、異方熱電効果あるいは非対角熱電効果という。
図13は、異方熱電効果を説明するための座標系の図である。図13に示すように、試料101の結晶軸abcが、空間軸xyzに対して傾斜している。試料101において、z軸に沿った方向に温度差ΔTzを与えると、z軸と直交する方向であるx軸に沿った方向に、起電力Vxが発生する。起電力Vxは、式(1)により表わされる。
Figure 2010058559
ただし、lは試料101の幅、dは試料101の厚さ、αは試料101の表面(xy面)に対するab面の傾斜角度、ΔSはc軸方向のゼーベック係数Scとab面内方向のゼーベック係数Sabとの差(異方性による差)を表す。
従来、異方熱電効果を利用した放射検出器として、YBa2Cu37-d(以下、YBCOという)の傾斜積層薄膜を用いた放射検出器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。傾斜積層薄膜とは、基板に積層された薄膜であって、結晶軸が、基板の表面に対して傾斜し、複数の層が積層された構造の薄膜をいう。YBCO薄膜は、電気伝導性を有するCuO2層、絶縁性を有するY層およびBaO層が、c軸方向に沿って交互に積層された異方的な結晶構造を有する。このYBCO薄膜を、適当な基板表面上に、c軸が基板表面に対して傾斜するように積層(傾斜積層)した場合、図13と同様の系が成り立つ。CuO2面は、図13におけるab面に対応する。この傾斜積層されたYBCO薄膜の表面に電磁波が入射すると、YBCO薄膜の表面と垂直な方向に温度差が生じる。その結果、異方熱電効果により、YBCO薄膜の表面と平行な方向に起電力が発生する。この起電力を読み取ることで、YBCO薄膜の表面に入射した電磁波を検出することができる。このYBCO薄膜を用いた放射検出器では、約100mV/Kの感度で電磁波の検出が可能である。
式(1)より、異方熱電効果によって発生する起電力Vxは、ゼーベック係数の異方性による差ΔS、試料のアスペクト比l/d、および傾斜角度αの2倍の角度の正弦値sin2αに比例する。YBCO薄膜は、ΔSが10μV/Kよりも小さく、CuO2面の傾斜角度αが単一の角度に保たれる上限は、約10〜20°に制限される(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。したがって、YBCO薄膜を用いた放射検出器では、実用化するためには感度が十分とはいえない。傾斜積層薄膜を用いた放射検出器の感度を向上させるには、ΔSがより大きい材料を用いる、薄膜の傾斜角度αをできるだけ45度に近づける等の方法がある。傾斜積層薄膜における傾斜角度αの範囲は、薄膜材料と、当該薄膜材料が積層される基板材料との組み合わせに依存するため、傾斜角度αを45°付近まで幅広く制御できるように、適切な基板材料を選ぶことが好ましい。
特許文献1には、Prが一部ドープされたYBCO薄膜を用いる放射検出器が開示されている。特許文献1によると、この放射検出器は、ノンドープのYBCO薄膜を用いた放射検出器に比べて、約20倍の感度を有する。そして、この理由は、PrドープによってYBCO薄膜のゼーベック係数が増加するためである、と示唆されている。しかし、非特許文献3には、PrドープされたYBCO薄膜において、ab面内方向のゼーベック係数は増加するが、c軸方向のゼーベック係数は変化しないことが記載されている。また、非特許文献3には、特許文献1の放射検出器に用いられるYBCO薄膜におけるPrドープ範囲では、ΔSが小さくなると記載されている。そこで、特許文献1において使用されている波長248nmの光とは異なる波長(308nm)の光を使用して、非特許文献3と同様の実験方法により、PrドープされたYBCO薄膜の光照射に対する応答を、実際に測定した。その結果、異方熱電効果によって発生する起電力は、PrドープされたYBCO薄膜の方が小さくなることが確認された。
PrドープされたYBCO薄膜を用いた、放射検出器の感度が向上した原因は、おそらく、Prドープにより、波長248nmの光に対するYBCO薄膜の吸収係数が増加したためであると考えられる。つまり、特許文献1の放射検出器は、波長248nmの光に対しては高感度であるが、他の波長域については、検出感度が向上するとは言い切れない。
特開平8−247851号公報
H. S. Kwok, J. P. Zheng, "Anomalous photovoltaic response in YBa2Cu3O7", The American Physical Society, PHYSICAL REVIEW B, (1992),VOLUME 46, NUMBER 6, 3692 Physica C 377 (2002) 26-35, Elsevier Science B. V. 15th International Conference on Thermoelectrics (1996), IEEE, pp. 494-498
本発明は、上述の事情に鑑みてなされた発明であり、その目的は、より検出感度の高い放射検出器および放射検出方法を提供することである。
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の放射検出器は、Al23基板と、前記Al23基板上に積層されたFe23薄膜と、前記Fe23薄膜上に積層され、CoO2面が前記Al23基板表面に対して傾斜して並んでいるCaxCoO2(ただし、0.15<x<0.55)薄膜と、前記CaxCoO2薄膜上に配置された第1電極と、前記CaxCoO2薄膜上であって、前記CoO2面が傾斜して並んでいる方向について、前記第1電極と対向する位置に配置された第2電極と、を具備する。
また、本発明の放射検出方法は、放射検出器を用いて電磁波を検出する放射検出方法であって、前記放射検出器が、Al23基板と、前記Al23基板上に積層されたFe23薄膜と、前記Fe23薄膜上に積層され、CoO2面が前記Al23基板表面に対して傾斜して並んでいるCaxCoO2(ただし、0.15<x<0.55)薄膜と、前記CaxCoO2薄膜上に配置された第1電極と、前記CaxCoO2薄膜上であって、前記CoO2面が傾斜して並んでいる方向において、前記第1電極と対向する位置に配置された第2電極と、を具備し、前記CaxCoO2薄膜に入射する電磁波によって、前記CaxCoO2薄膜内で生じる温度差に基づき、前記第1電極と前記第2電極との間に発生する熱起電力を取り出し、前記熱起電力に基づき、前記電磁波を検出する。
本発明者等は、様々な条件を検討し、最適化することにより、CaxCoO2薄膜、Fe23薄膜、Al23基板の3層構造を有する積層体において、Al23基板の表面に対して、結晶軸が大きく傾斜したCaxCoO2薄膜を作製することが可能であることを見出した。この3層構造を有する積層体を備えた放射検出器によれば、傾斜積層薄膜であるCaxCoO2薄膜の結晶軸の傾斜角度を大きくすることができる。したがって、傾斜角度を45°に近づけることもでき、それにより、放射検出器の検出感度(起電力)を大きくすることができる。
本発明によれば、より検出感度の高い放射検出器および放射検出方法を提供することができる。
本発明に係る放射検出器の一形態の断面図 CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜のθ−2θスキャンXRDパターンを示す図 CaxCoO2/Al23−r薄膜のθ−2θスキャンXRDパターンを示す図 CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜のポールフィギュアを示す図 CaxCoO2/Fe23/Al23−r積層体の3層断面像 CaxCoO2/Fe23界面近傍の断面像 CaxCoO2薄膜内の高分解能像 起電力測定用の放射検出器の構成を示す斜視図 電磁波の入射および遮断による起電力の経時変化を示すグラフ CaxCoO2/Fe23/Al23−n薄膜のポールフィギュアを示す図 CaxCoO2/Fe23/Al23−S薄膜のポールフィギュアを示す図 放射検出器におけるsin2αと傾斜整列方向についての電圧との関係を示すグラフ 異方熱電効果を説明するための座標系の図
図1は、本発明に係る放射検出器の一形態の断面図である。図1に示すように、放射検出器10は、Al23基板(サファイア基板)11と、Al23基板11上に積層されたFe23薄膜12と、Fe23薄膜12上に積層されたCaxCoO2薄膜13と、CaxCoO2薄膜13上に配置された第1電極14および第2電極15とを備えている。ただし、CaxCoO2薄膜13は、作製条件により組成ずれを生じることがあるが、xは0.15<x<0.55であればよい。
CaxCoO2薄膜13は傾斜積層薄膜であって、CoO2層とCaxブロック層とが交互に積層した層状構造を有する。CaxCoO2薄膜13において、CoO2面16内方向のゼーベック係数Sabと、その垂直方向であるCaxCoO2薄膜13のc軸方向のゼーベック係数Scとは異なる値であり、CaxCoO2薄膜13は異方性を示す。
CaxCoO2薄膜13において、複数のCoO2面16は、Al23基板11表面に対して傾斜していて、互いに平行に、並んで配置されている。第2電極15は、第1電極14に対して起電力取り出し方向17に離間して配置されている。つまり、起電力取出し方向は、第1電極14と第2電極15とが対向する方向である。起電力取出し方向17は、CoO2面16とCaxCoO2薄膜13の表面との交線(紙面に対して垂直方向の線)に対して垂直であって、かつCaxCoO2薄膜13の表面に平行な方向であり、CoO2面16が傾斜して並んでいる方向である。CoO2面16は、起電力取出し方向17に対して、傾斜角度αで傾斜している。また、CoO2面16は、Al23基板11の表面に対しても、傾斜角度αで傾斜している。
放射検出器10は、CaxCoO2薄膜13、Fe23薄膜12、Al23基板11からなる3層構造を有している。この3層構造の積層体において、Al23基板11の表面に対して、結晶軸が大きく傾斜した構造を持つ傾斜積層薄膜(CaxCoO2薄膜13)を作製することが可能である。したがって、傾斜角度αを、従来の放射検出器の傾斜積層薄膜の傾斜角度よりも大きくすることができる。放射検出器10においては、傾斜角度αは、10°以上80°以下であればよく、好ましくは25°以上65°以下である。これにより、検出感度の高い放射検出器10を実現できる。式(1)からもわかるように、放射検出器10において、傾斜角度αは45°であることが特に好ましい。放射検出器10においては、傾斜角度αをより45°に近づけることができる。
放射検出器10において、CaxCoO2薄膜13に電磁波が入射すると、電磁波はCaxCoO2薄膜13に吸収される。これにより、CaxCoO2薄膜13において、薄膜面間方向18に温度勾配が生じる。薄膜面間方向18は、CaxCoO2薄膜13の表面に対して垂直である方向であり、起電力取出し方向17に対して直交する。CaxCoO2薄膜13内に温度差が生じることで、異方熱電効果により、CaxCoO2薄膜13には、起電力取出し方向17に起電力が発生する。発生した起電力は、第1電極14および第2電極15を介して外部に出力される。第1電極14および第2電極15を介して出力される起電力を検出することで、CaxCoO2薄膜13に入射した電磁波を検出することができる。
本発明の放射検出器10は、Al23基板11上に、Fe23薄膜12、CaxCoO2薄膜13を順次積層し、CaxCoO2薄膜13上に、第1電極14および第2電極15を設置することで作製することができる。Fe23薄膜12およびCaxCoO2薄膜13を積層する方法は特に限定されない。例えば、スパッタ法、蒸着法、レーザーアブレーション法、化学的気相成長法などの気相成長によるもの、あるいは液相からの成長など、種々の方法を適用すればよい。Fe23薄膜12およびCaxCoO2薄膜13の膜厚は、共に単位格子層以上であれば、特に限定されるものではなく、具体的には、50nm〜200nm程度とすればよい。なお、この範囲以外の厚さであっても、問題はない。
CaxCoO2薄膜13のCoO2面16の傾斜角度αは、Al23基板11の表面とAl23基板11の(0001)面19との傾斜角度βの値により決定される。したがって、放射検出器10を作製する際に、所望とする傾斜角度αの値に応じた傾斜角度βを有する、Al23基板11を用意すればよい。なお、αは、β±15°程度の値となるが、作製条件によって、αの値はこの範囲以外にも変動する。
第1電極14および第2電極15は、電気伝導性の高い材料であれば特に限定されない。具体的には、Cu、Ag、Mo、Al、Ti、Cr、Au、Pt、In等の金属、TiN等の窒化物、またはスズ添加酸化インジウム(ITO)、SnO2等の酸化物を用いればよい。また、はんだ、導電性ペースト等を用いて、第1、第2電極14、15を作製してもよい。CaxCoO2薄膜13上に、第1、第2電極14、15を作製する方法は、特に限定されない。例えば、蒸着法、スパッタ法などの気相成長による方法の他に、導電性ペーストの塗布、めっき、溶射、はんだによる接合など、様々な方法を用いることができる。なお、第1電極14および第2電極15の構成材料は、Cu、Ag、AuまたはAlが好ましく、Cu、AgまたはAuがさらに好ましく、CuまたはAgが特に好ましい。
なお、放射検出器10の製造方法は、Al23基板11、Fe23薄膜12、CaxCoO2薄膜13からなる3層構造を実現し、CaxCoO2薄膜13上に第1、第2電極14、15を設置することができる方法であればよく、特に上記方法に限定されるものではない。
放射検出器10は、作製の際に、Al23基板11の(0001)面19の傾斜角度βを制御することで、傾斜角度αを制御できるため、幅広い範囲で傾斜角度αを制御することができる。それにより、従来のYBCO薄膜に比べて、約4倍程度大きいΔSを有するCaxCoO2薄膜13において、従来のYBCO薄膜のCuO2面の傾斜角度を大きく上回るCoO2面の傾斜角度を実現できる。したがって、従来の、傾斜積層薄膜を用いた放射検出器の性能を大きく超える放射検出器の実現が可能である。本発明は、熱と電気とのエネルギー変換の応用を促進させるものであり、本発明の工業的価値は高い。
なお、傾斜積層薄膜としてCaxCoO2薄膜を用いたが、代わりにSrxCoO2薄膜を用いても、同様の効果を奏すると考えられる。
以下、本発明のより具体的な実施例を説明する。
(実施例1、比較例)
実施例1では、(0001)面から約57°傾斜した(1−102)面を表面にもつAl23−r面基板上に、Fe23薄膜を積層し、さらにFe23薄膜上に、CaxCoO2薄膜を積層して、3層構造の積層体を作製した。以降、この積層体におけるCaxCoO2薄膜を、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜と表記する。なお、この場合の傾斜角度βは、57°である。以下における薄膜の作製には、すべて、高周波(RF:Radio Frequency)マグネトロンスパッタを使用した。
Fe23薄膜(膜厚100nm)は、Fe23ターゲットを使用して、Al23−r面基板(10mm×10mm、厚さ:0.5mm)上に作製した。成膜チャンバー内を1.0×10-3Pa以下まで排気した後、アルゴンガスを導入しながら、チャンバー内のガス圧を1Paに保ち、ヒーター加熱をせずにスパッタを行った。スパッタ時のRFパワーは100Wとした。
CaxCoO2薄膜(膜厚150nm)の作製には、Ca、Coのモル比が1:1になるように混合したターゲットを使用した。成膜チャンバー内を1.0×10-3Pa以下まで排気した後、アルゴン(96%)、酸素(4%)の混合ガスを導入しながら、抵抗加熱ヒーターによりFe23/Al23−r積層体を加熱した。CaxCoO2薄膜を作製するための最適な条件を選定するため、成膜条件として、ガス圧を5Paに固定した状態で、Fe23/Al23−r積層体の温度を400〜600℃に変化させた。スパッタ時のRFパワーは100Wに固定した。薄膜の堆積後は、アルゴン(96%)、酸素(4%)の混合ガスを導入し、チャンバー内のガス圧を5Paに保ちながら、60分かけて室温まで冷却した。CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜の陽イオン組成比をエネルギー分散型X線分析装置で評価したところ、Ca、Coの組成比は、略1:2であった。したがって、x≒0.5である。
また、比較例として、Al23−r面基板上にCaxCoO2薄膜を積層して、2層構造の積層体を作製した。以降、この積層体におけるCaxCoO2薄膜を、CaxCoO2/Al23−r薄膜と表記する。
CaxCoO2薄膜(膜厚150nm)は、Ca、Coのモル比が1:1になるように混合したターゲットを使用して、Al23−r面基板(10mm×10mm、厚さ:0.5mm)上に作製した。成膜チャンバー内を1.0×10-3Pa以下まで排気した後、アルゴン(96%)、酸素(4%)の混合ガスを導入しながら、抵抗加熱ヒーターによりAl23−r面基板を加熱した。CaxCoO2薄膜を作製するための最適な条件を選定するため、成膜条件として、ガス圧を5Paに固定した状態で、Al23−r面基板の温度を400〜600℃に変化させた。スパッタ時のRFパワーは100Wに固定した。薄膜の堆積後は、アルゴン(96%)、酸素(4%)の混合ガスを導入し、チャンバー内のガス圧を5Paに保ちながら、60分かけて室温まで冷却した。CaxCoO2/Al23−r薄膜の陽イオン組成比をエネルギー分散型X線分析装置で評価したところ、Ca、Coの組成比は、略1:2であった。したがって、x≒0.5である。
図2は、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜のθ−2θスキャンX線回折(XRD:X‐ray diffraction)パターンを示す図である。図2は、CaxCoO2薄膜の積層時の温度が500℃であった、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜の測定結果である。図2に示すように、Al23−r面基板およびFe23薄膜の(1−102)面による回折ピーク以外に、2θ≒75°において、回折ピークが1つ観測された。この角度は、ブラッグの条件から求めたCaxCoO2薄膜の(022)回折ピークが現れる角度と略一致している。そのため、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜では、(00l)面であるCoO2面が、Al23基板の表面に対して傾斜積層していることが示唆された。
図3に、CaxCoO2/Al23−r薄膜のθ−2θスキャンXRDパターンを示す。図3は、CaxCoO2薄膜の積層時の温度が500℃であった、CaxCoO2/Al23−r薄膜の測定結果である。図3に示すように、Al23−r面基板の(1−102)面による回折ピーク以外に、CaxCoO2/Al23−r薄膜の(00l)面(l=1,2,3,4)に回折ピークが観測された。CaxCoO2/Al23−r薄膜において、(00l)面はCoO2面に対応している。したがって、CaxCoO2/Al23−r薄膜では、CoO2面がAl23基板の表面に対して平行に積層していることがわかった。つまり、傾斜積層構造は実現されていなかった。
次に、θ−2θスキャンXRDにより示唆された、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜におけるCoO2面の傾斜積層構造を確認するため、ポールフィギュアXRD測定を行った。ポールフィギュア測定では、ある特定の結晶面の、基板表面に対する傾きや、その整列方向に関する情報を得ることができる。測定条件は、測定目的とする結晶面が水平面と平行になる配置において、X線の入射および検出角度(θ−2θ)をブラッグの条件を満たす角度に固定する。この状態で、基板平面を水平方向から傾け(ψ=0〜90°)、さらに面内方向に回転させる(φ=0〜360°)。検出される散乱X線は、目的とする結晶面が水平面と平行になったときにのみ強め合う。ψ及びφを変化させ、検出される散乱光の強度分布を測定することで、その結晶面の傾斜角度(ψの値)や整列方向(φの値)を知ることができる。
CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜の(001)回折ピークが現れる角度に2θを固定して、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜のポールフィギュアXRD測定を行った。その結果を図4に示す。図4より、ψ≒60°、φ≒180°に最大値を持つ、1つの回折ピークが現れていることがわかる。これは、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜の(001)面が、Al23基板の表面に対して約60°傾いていることを表している。したがって、傾斜角度αは約60°である。この角度は、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜において、(011)面と(00l)面とがなす角度とほぼ一致している。また、このポールフィギュアにおいて、(001)回折ピークが1つしか観測されなかったことから、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜において、CoO2面は単一方向に傾斜積層していることがわかった。
CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜におけるCoO2面の傾斜積層構造をさらに確認するため、断面透過電子顕微鏡による評価を行った。図5は、CaxCoO2/Fe23/Al23−r積層体の3層断面像であり、図6は、CaxCoO2/Fe23界面近傍の断面像であり、図7は、CaxCoO2薄膜内の高分解能像である。図5〜7に示すように、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜内において、約60°傾斜した一様なストライプ構造が明瞭に観察された。一様なCoO2層の傾斜積層構造が、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜において実際に形成されていて、傾斜角度αが約60°である。これは、ポールフィギュア測定で得られた結果と一致している。以上より、Al23基板上にFe23薄膜をバッファ層として積層し、その上にCaxCoO2薄膜を積層することで、Al23基板表面に対して、CoO2面が傾斜積層したCaxCoO2薄膜を作製できることがわかる。
図8は、起電力測定用の放射検出器の構成を示す斜視図である。図8に示すように、放射検出器20は、順次積層された、Al23基板11、Fe23薄膜12、CaxCoO2薄膜13と、CaxCoO2薄膜13上に設置された第1電極対21および第2電極対22とを備える。第1電極対21は、CoO2面16の傾斜整列方向23に沿って離間して配置された一対の電極であり、第2電極対22は、傾斜整列方向23に垂直な方向に沿って離間して配置された一対の電極である。なお、傾斜整列方向23は、起電力取出し方向と同一である。第1電極対21の各電極間を結んだ線分と、第2電極対22の各電極間を結んだ線分との交点が、互いの線分の中心位置であるように、第1電極対21および第2電極対22を配置した。なお、第2電極対22は、傾斜整列方向23と垂直な方向に起電力が発生するか否かを確認するためのものであり、実際の放射検出器においては、配置しなくてもよい。
CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜を用いて、図8に示す構造の放射検出器を作製した。CaxCoO2/Fe23/Al23−r積層体において、CaxCoO2薄膜の表面に、真空蒸着法により、第1電極対および第2電極対となる、Auからなる2組の電極対を形成した。各電極対における、それぞれの電極間の幅は6mmにした。なお、実際の放射検出器において、電極幅は6mmに限定されるわけではなく、用途や設置場所などに応じて、適宜最適化すればよい。
作製した放射検出器の表面に対して、赤外線ランプ(波長800〜2000nm)から発生させた電磁波を、スポット径が8mmとなるように入射させた。具体的には、赤外線ランプから480mWの電磁波を出力し、CaxCoO2薄膜表面の中心位置に入射させ、傾斜整列方向に生じる起電力V1と、傾斜整列方向に対して垂直方向に生じる起電力V2とを測定した。その測定結果を図9に示す。図9は、電磁波の入射および遮断による起電力の経時変化を示すグラフである。赤外線ランプからの電磁波が、放射検出器に入射していない場合は、起電力V1およびV2は生じていない。そして、赤外線ランプをOnとして電磁波を入射すると、起電力V1は急激に増加し、定常的に約140μVの値を示した。一方、起電力V2は、顕著な増減を示さなかった。その後、赤外線ランプをOFFとして電磁波を遮断すると、起電力V1は急激に減少し、ゼロに戻った。一方、起電力V2は、顕著な増減を示さなかった。したがって、放射検出器において、起電力が生じる方向は、傾斜整列方向のみである。起電力の発生方向が、CoO2面の傾斜整列方向に依存していることから、V1の起電力の発生が、異方熱電効果に由来することがわかる。
この放射検出器のCaxCoO2薄膜層の表裏面に生じている温度差ΔTzは、式(1)より、0.2mK程度と見積もられる。なお、式(1)における各値は、ΔS=35μV/K、d=150nm、l=6mm、α=60°、Vx=140μVである。したがって、傾斜整列方向の検出感度は600mV/Kに達する。これは、従来のYBCO傾斜積層薄膜を用いた放射検出器の検出感度(100mV/K)と比較すると、約6倍である。
(実施例2)
実施例2では、(0001)面から約61°傾斜した(11−23)面を表面にもつAl23−n面基板上に、実施例1と同様にして、Fe23薄膜およびCaxCoO2薄膜を順次積層して3層構造の積層体を作製した。以降、この積層体におけるCaxCoO2薄膜をCaxCoO2/Fe23/Al23−n薄膜と表記する。なお、Al23−n面基板の傾斜角度βは、61°である。
また、実施例2では、(0001)面から約72°傾斜した(10−11)面を表面にもつAl23−S面基板上に、実施例1と同様にして、Fe23薄膜およびCaxCoO2薄膜を順次積層して3層構造の積層体も作製した。以降、この積層体におけるCaxCoO2薄膜をCaxCoO2/Fe23/Al23−S薄膜と表記する。なお、Al23−S面基板の傾斜角度βは、72°である。
CaxCoO2/Fe23/Al23−n薄膜およびCaxCoO2/Fe23/Al23−S薄膜について、ポールフィギュアXRD測定を行った結果を、図10および図11に示す。図10に示すように、CaxCoO2/Fe23/Al23−n薄膜では、CoO2面はAl23基板の表面に対して約75°傾斜していることがわかる。したがって、CaxCoO2/Fe23/Al23−n薄膜の傾斜角度αは約75°である。また、図11に示すように、CaxCoO2/Fe23/Al23−S薄膜では、CoO2面はAl23基板の表面に対して約80°傾斜していることがわかる。したがって、CaxCoO2/Fe23/Al23−S薄膜の傾斜角度αは約80°である。以上より、Al23基板の表面に対するAl23基板の(0001)面の傾斜角度βを制御することにより、CaxCoO2/Fe23/Al23積層体における、CaxCoO2薄膜のCoO2面の傾斜角度αを制御可能であることが確認できた。
実施例1と同様に、CaxCoO2/Fe23/Al23−n薄膜上、およびCaxCoO2/Fe23/Al23−S薄膜上に、それぞれ2組のAu電極対を作製して、図8に示す構造の放射検出器を作製した。そして、実施例1と同様に、これらの放射検出器についても、赤外線ランプからの電磁波を入射させて、傾斜整列方向の起電力V1および傾斜整列方向と垂直方向の起電力V2とを測定した。
実施例2のCaxCoO2/Fe23/Al23−n薄膜およびCaxCoO2/Fe23/Al23−S薄膜を用いた、それぞれの放射検出器は、実施例1の放射検出器と同様に、電磁波が入射していない場合には、起電力V1およびV2は生じていない。そして、赤外線ランプがOnになり、電磁波が入射されると、いずれの放射検出器においても、起電力V1が急激に増加し、定常的に約80μVの値を示した。一方、起電力V2は、いずれの放射検出器においても、顕著な増減を示さなかった。その後、赤外線ランプがOFFになり、電磁波が遮断されると、いずれの放射検出器においても、起電力V1が急激に減少し、ゼロに戻った。一方、起電力V2は、いずれの放射検出器においても、顕著な増減を示さなかった。
図12は、放射検出器において、sin2αと傾斜整列方向についての電圧との関係を示すグラフであって、縦軸は放射検出器における傾斜整列方向についての起電力であり、横軸はsin2αである。図12には、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜、CaxCoO2/Fe23/Al23−n薄膜およびCaxCoO2/Fe23/Al23−S薄膜を、それぞれ用いた放射検出器による測定結果が示されている。図12より、式(1)に示されたように、起電力がsin2αに対してほぼ線形に変化することがわかる。また、式(1)に示されるように、傾斜角度αが45°に近いほど、放射検出器の感度が高くなることも、図12より確認できた。
本発明に係る放射検出器は、優れた放射検出特性を有しており、温度センサーや、レーザー光のパワーメーターなど、電磁波の放射を伴う各種対象物の検出に利用可能である。
本発明は、異方熱電効果を利用した、放射検出器およびそれを用いた放射検出方法に関する。
熱電変換材料の両端に温度差が生じると、その温度差に比例して起電力(熱起電力)が発生する。熱電変換材料において、熱エネルギーが電気エネルギーに変換される現象は、ゼーベック効果として知られている。発生する起電力Vは、温度差ΔTと、材料固有のゼーベック係数Sとを用いて、V=SΔTで表される。
等方的な物性を示す熱電変換材料において、ゼーベック効果によって発生する起電力は、温度差が生じた方向にのみ生じる。一方、電気輸送特性に異方性を示す熱電変換材料は、結晶軸の傾斜配置により、温度差が生じた方向と直交する方向に起電力が発生する。なお、電気輸送特性とは、電荷をもつ電子や正孔が物質中を移動する振舞いをいう。このように、材料の結晶軸の傾斜配置により、温度差が生じた方向(熱流方向)とは異なる方向に起電力が発生する現象を、異方熱電効果あるいは非対角熱電効果という。
図13は、異方熱電効果を説明するための座標系の図である。図13に示すように、試料101の結晶軸abcが、空間軸xyzに対して傾斜している。試料101において、z軸に沿った方向に温度差ΔTzを与えると、z軸と直交する方向であるx軸に沿った方向に、起電力Vxが発生する。起電力Vxは、式(1)により表わされる。
Figure 2010058559
ただし、lは試料101の幅、dは試料101の厚さ、αは試料101の表面(xy面)に対するab面の傾斜角度、ΔSはc軸方向のゼーベック係数Scとab面内方向のゼーベック係数Sabとの差(異方性による差)を表す。
従来、異方熱電効果を利用した放射検出器として、YBa2Cu37-d(以下、YBCOという)の傾斜積層薄膜を用いた放射検出器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。傾斜積層薄膜とは、基板に積層された薄膜であって、結晶軸が、基板の表面に対して傾斜し、複数の層が積層された構造の薄膜をいう。YBCO薄膜は、電気伝導性を有するCuO2層、絶縁性を有するY層およびBaO層が、c軸方向に沿って交互に積層された異方的な結晶構造を有する。このYBCO薄膜を、適当な基板表面上に、c軸が基板表面に対して傾斜するように積層(傾斜積層)した場合、図13と同様の系が成り立つ。CuO2面は、図13におけるab面に対応する。この傾斜積層されたYBCO薄膜の表面に電磁波が入射すると、YBCO薄膜の表面と垂直な方向に温度差が生じる。その結果、異方熱電効果により、YBCO薄膜の表面と平行な方向に起電力が発生する。この起電力を読み取ることで、YBCO薄膜の表面に入射した電磁波を検出することができる。このYBCO薄膜を用いた放射検出器では、約100mV/Kの感度で電磁波の検出が可能である。
式(1)より、異方熱電効果によって発生する起電力Vxは、ゼーベック係数の異方性による差ΔS、試料のアスペクト比l/d、および傾斜角度αの2倍の角度の正弦値sin2αに比例する。YBCO薄膜は、ΔSが10μV/Kよりも小さく、CuO2面の傾斜角度αが単一の角度に保たれる上限は、約10〜20°に制限される(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。したがって、YBCO薄膜を用いた放射検出器では、実用化するためには感度が十分とはいえない。傾斜積層薄膜を用いた放射検出器の感度を向上させるには、ΔSがより大きい材料を用いる、薄膜の傾斜角度αをできるだけ45度に近づける等の方法がある。傾斜積層薄膜における傾斜角度αの範囲は、薄膜材料と、当該薄膜材料が積層される基板材料との組み合わせに依存するため、傾斜角度αを45°付近まで幅広く制御できるように、適切な基板材料を選ぶことが好ましい。
特許文献1には、Prが一部ドープされたYBCO薄膜を用いる放射検出器が開示されている。特許文献1によると、この放射検出器は、ノンドープのYBCO薄膜を用いた放射検出器に比べて、約20倍の感度を有する。そして、この理由は、PrドープによってYBCO薄膜のゼーベック係数が増加するためである、と示唆されている。しかし、非特許文献3には、PrドープされたYBCO薄膜において、ab面内方向のゼーベック係数は増加するが、c軸方向のゼーベック係数は変化しないことが記載されている。また、非特許文献3には、特許文献1の放射検出器に用いられるYBCO薄膜におけるPrドープ範囲では、ΔSが小さくなると記載されている。そこで、特許文献1において使用されている波長248nmの光とは異なる波長(308nm)の光を使用して、非特許文献3と同様の実験方法により、PrドープされたYBCO薄膜の光照射に対する応答を、実際に測定した。その結果、異方熱電効果によって発生する起電力は、PrドープされたYBCO薄膜の方が小さくなることが確認された。
PrドープされたYBCO薄膜を用いた、放射検出器の感度が向上した原因は、おそらく、Prドープにより、波長248nmの光に対するYBCO薄膜の吸収係数が増加したためであると考えられる。つまり、特許文献1の放射検出器は、波長248nmの光に対しては高感度であるが、他の波長域については、検出感度が向上するとは言い切れない。
特開平8−247851号公報
H. S. Kwok, J. P. Zheng, "Anomalous photovoltaic response in YBa2Cu3O7", The American Physical Society, PHYSICAL REVIEW B, (1992),VOLUME 46, NUMBER 6, 3692 Physica C 377 (2002) 26-35, Elsevier Science B. V. 15th International Conference on Thermoelectrics (1996),IEEE, pp. 494-498
本発明は、上述の事情に鑑みてなされた発明であり、その目的は、より検出感度の高い放射検出器および放射検出方法を提供することである。
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の放射検出器は、Al23基板と、前記Al23基板上に積層されたFe23薄膜と、前記Fe23薄膜上に積層され、CoO2面が前記Al23基板表面に対して傾斜して並んでいるCaxCoO2(ただし、0.15<x<0.55)薄膜と、前記CaxCoO2薄膜上に配置された第1電極と、前記CaxCoO2薄膜上であって、前記CoO2面が傾斜して並んでいる方向について、前記第1電極と対向する位置に配置された第2電極と、を具備する。
また、本発明の放射検出方法は、放射検出器を用いて電磁波を検出する放射検出方法であって、前記放射検出器が、Al23基板と、前記Al23基板上に積層されたFe23薄膜と、前記Fe23薄膜上に積層され、CoO2面が前記Al23基板表面に対して傾斜して並んでいるCaxCoO2(ただし、0.15<x<0.55)薄膜と、前記CaxCoO2薄膜上に配置された第1電極と、前記CaxCoO2薄膜上であって、前記CoO2面が傾斜して並んでいる方向において、前記第1電極と対向する位置に配置された第2電極と、を具備し、前記CaxCoO2薄膜に入射する電磁波によって、前記CaxCoO2薄膜内で生じる温度差に基づき、前記第1電極と前記第2電極との間に発生する熱起電力を取り出し、前記熱起電力に基づき、前記電磁波を検出する。
本発明者等は、様々な条件を検討し、最適化することにより、CaxCoO2薄膜、Fe23薄膜、Al23基板の3層構造を有する積層体において、Al23基板の表面に対して、結晶軸が大きく傾斜したCaxCoO2薄膜を作製することが可能であることを見出した。この3層構造を有する積層体を備えた放射検出器によれば、傾斜積層薄膜であるCaxCoO2薄膜の結晶軸の傾斜角度を大きくすることができる。したがって、傾斜角度を45°に近づけることもでき、それにより、放射検出器の検出感度(起電力)を大きくすることができる。
本発明によれば、より検出感度の高い放射検出器および放射検出方法を提供することができる。
本発明に係る放射検出器の一形態の断面図 CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜のθ−2θスキャンXRDパターンを示す図 CaxCoO2/Al23−r薄膜のθ−2θスキャンXRDパターンを示す図 CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜のポールフィギュアを示す図 CaxCoO2/Fe23/Al23−r積層体の3層断面像 CaxCoO2/Fe23界面近傍の断面像 CaxCoO2薄膜内の高分解能像 起電力測定用の放射検出器の構成を示す斜視図 電磁波の入射および遮断による起電力の経時変化を示すグラフ CaxCoO2/Fe23/Al23−n薄膜のポールフィギュアを示す図 CaxCoO2/Fe23/Al23−S薄膜のポールフィギュアを示す図 放射検出器におけるsin2αと傾斜整列方向についての電圧との関係を示すグラフ 異方熱電効果を説明するための座標系の図
図1は、本発明に係る放射検出器の一形態の断面図である。図1に示すように、放射検出器10は、Al23基板(サファイア基板)11と、Al23基板11上に積層されたFe23薄膜12と、Fe23薄膜12上に積層されたCaxCoO2薄膜13と、CaxCoO2薄膜13上に配置された第1電極14および第2電極15とを備えている。ただし、CaxCoO2薄膜13は、作製条件により組成ずれを生じることがあるが、xは0.15<x<0.55であればよい。
CaxCoO2薄膜13は傾斜積層薄膜であって、CoO2層とCaxブロック層とが交互に積層した層状構造を有する。CaxCoO2薄膜13において、CoO2面16内方向のゼーベック係数Sabと、その垂直方向であるCaxCoO2薄膜13のc軸方向のゼーベック係数Scとは異なる値であり、CaxCoO2薄膜13は異方性を示す。
CaxCoO2薄膜13において、複数のCoO2面16は、Al23基板11表面に対して傾斜していて、互いに平行に、並んで配置されている。第2電極15は、第1電極14に対して起電力取り出し方向17に離間して配置されている。つまり、起電力取出し方向は、第1電極14と第2電極15とが対向する方向である。起電力取出し方向17は、CoO2面16とCaxCoO2薄膜13の表面との交線(紙面に対して垂直方向の線)に対して垂直であって、かつCaxCoO2薄膜13の表面に平行な方向であり、CoO2面16が傾斜して並んでいる方向である。CoO2面16は、起電力取出し方向17に対して、傾斜角度αで傾斜している。また、CoO2面16は、Al23基板11の表面に対しても、傾斜角度αで傾斜している。
放射検出器10は、CaxCoO2薄膜13、Fe23薄膜12、Al23基板11からなる3層構造を有している。この3層構造の積層体において、Al23基板11の表面に対して、結晶軸が大きく傾斜した構造を持つ傾斜積層薄膜(CaxCoO2薄膜13)を作製することが可能である。したがって、傾斜角度αを、従来の放射検出器の傾斜積層薄膜の傾斜角度よりも大きくすることができる。放射検出器10においては、傾斜角度αは、10°以上80°以下であればよく、好ましくは25°以上65°以下である。これにより、検出感度の高い放射検出器10を実現できる。式(1)からもわかるように、放射検出器10において、傾斜角度αは45°であることが特に好ましい。放射検出器10においては、傾斜角度αをより45°に近づけることができる。
放射検出器10において、CaxCoO2薄膜13に電磁波が入射すると、電磁波はCaxCoO2薄膜13に吸収される。これにより、CaxCoO2薄膜13において、薄膜面間方向18に温度勾配が生じる。薄膜面間方向18は、CaxCoO2薄膜13の表面に対して垂直である方向であり、起電力取出し方向17に対して直交する。CaxCoO2薄膜13内に温度差が生じることで、異方熱電効果により、CaxCoO2薄膜13には、起電力取出し方向17に起電力が発生する。発生した起電力は、第1電極14および第2電極15を介して外部に出力される。第1電極14および第2電極15を介して出力される起電力を検出することで、CaxCoO2薄膜13に入射した電磁波を検出することができる。
本発明の放射検出器10は、Al23基板11上に、Fe23薄膜12、CaxCoO2薄膜13を順次積層し、CaxCoO2薄膜13上に、第1電極14および第2電極15を設置することで作製することができる。Fe23薄膜12およびCaxCoO2薄膜13を積層する方法は特に限定されない。例えば、スパッタ法、蒸着法、レーザーアブレーション法、化学的気相成長法などの気相成長によるもの、あるいは液相からの成長など、種々の方法を適用すればよい。Fe23薄膜12およびCaxCoO2薄膜13の膜厚は、共に単位格子層以上であれば、特に限定されるものではなく、具体的には、50nm〜200nm程度とすればよい。なお、この範囲以外の厚さであっても、問題はない。
CaxCoO2薄膜13のCoO2面16の傾斜角度αは、Al23基板11の表面とAl23基板11の(0001)面19との傾斜角度βの値により決定される。したがって、放射検出器10を作製する際に、所望とする傾斜角度αの値に応じた傾斜角度βを有する、Al23基板11を用意すればよい。なお、αは、β±15°程度の値となるが、作製条件によって、αの値はこの範囲以外にも変動する。
第1電極14および第2電極15は、電気伝導性の高い材料であれば特に限定されない。具体的には、Cu、Ag、Mo、Al、Ti、Cr、Au、Pt、In等の金属、TiN等の窒化物、またはスズ添加酸化インジウム(ITO)、SnO2等の酸化物を用いればよい。また、はんだ、導電性ペースト等を用いて、第1、第2電極14、15を作製してもよい。CaxCoO2薄膜13上に、第1、第2電極14、15を作製する方法は、特に限定されない。例えば、蒸着法、スパッタ法などの気相成長による方法の他に、導電性ペーストの塗布、めっき、溶射、はんだによる接合など、様々な方法を用いることができる。なお、第1電極14および第2電極15の構成材料は、Cu、Ag、AuまたはAlが好ましく、Cu、AgまたはAuがさらに好ましく、CuまたはAgが特に好ましい。
なお、放射検出器10の製造方法は、Al23基板11、Fe23薄膜12、CaxCoO2薄膜13からなる3層構造を実現し、CaxCoO2薄膜13上に第1、第2電極14、15を設置することができる方法であればよく、特に上記方法に限定されるものではない。
放射検出器10は、作製の際に、Al23基板11の(0001)面19の傾斜角度βを制御することで、傾斜角度αを制御できるため、幅広い範囲で傾斜角度αを制御することができる。それにより、従来のYBCO薄膜に比べて、約4倍程度大きいΔSを有するCaxCoO2薄膜13において、従来のYBCO薄膜のCuO2面の傾斜角度を大きく上回るCoO2面の傾斜角度を実現できる。したがって、従来の、傾斜積層薄膜を用いた放射検出器の性能を大きく超える放射検出器の実現が可能である。本発明は、熱と電気とのエネルギー変換の応用を促進させるものであり、本発明の工業的価値は高い。
なお、傾斜積層薄膜としてCaxCoO2薄膜を用いたが、代わりにSrxCoO2薄膜を用いても、同様の効果を奏すると考えられる。
以下、本発明のより具体的な実施例を説明する。
(実施例1、比較例)
実施例1では、(0001)面から約57°傾斜した(1−102)面を表面にもつAl23−r面基板上に、Fe23薄膜を積層し、さらにFe23薄膜上に、CaxCoO2薄膜を積層して、3層構造の積層体を作製した。以降、この積層体におけるCaxCoO2薄膜を、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜と表記する。なお、この場合の傾斜角度βは、57°である。以下における薄膜の作製には、すべて、高周波(RF:Radio Frequency)マグネトロンスパッタを使用した。
Fe23薄膜(膜厚100nm)は、Fe23ターゲットを使用して、Al23−r面基板(10mm×10mm、厚さ:0.5mm)上に作製した。成膜チャンバー内を1.0×10-3Pa以下まで排気した後、アルゴンガスを導入しながら、チャンバー内のガス圧を1Paに保ち、ヒーター加熱をせずにスパッタを行った。スパッタ時のRFパワーは100Wとした。
CaxCoO2薄膜(膜厚150nm)の作製には、Ca、Coのモル比が1:1になるように混合したターゲットを使用した。成膜チャンバー内を1.0×10-3Pa以下まで排気した後、アルゴン(96%)、酸素(4%)の混合ガスを導入しながら、抵抗加熱ヒーターによりFe23/Al23−r積層体を加熱した。CaxCoO2薄膜を作製するための最適な条件を選定するため、成膜条件として、ガス圧を5Paに固定した状態で、Fe23/Al23−r積層体の温度を400〜600℃に変化させた。スパッタ時のRFパワーは100Wに固定した。薄膜の堆積後は、アルゴン(96%)、酸素(4%)の混合ガスを導入し、チャンバー内のガス圧を5Paに保ちながら、60分かけて室温まで冷却した。CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜の陽イオン組成比をエネルギー分散型X線分析装置で評価したところ、Ca、Coの組成比は、略1:2であった。したがって、x≒0.5である。
また、比較例として、Al23−r面基板上にCaxCoO2薄膜を積層して、2層構造の積層体を作製した。以降、この積層体におけるCaxCoO2薄膜を、CaxCoO2/Al23−r薄膜と表記する。
CaxCoO2薄膜(膜厚150nm)は、Ca、Coのモル比が1:1になるように混合したターゲットを使用して、Al23−r面基板(10mm×10mm、厚さ:0.5mm)上に作製した。成膜チャンバー内を1.0×10-3Pa以下まで排気した後、アルゴン(96%)、酸素(4%)の混合ガスを導入しながら、抵抗加熱ヒーターによりAl23−r面基板を加熱した。CaxCoO2薄膜を作製するための最適な条件を選定するため、成膜条件として、ガス圧を5Paに固定した状態で、Al23−r面基板の温度を400〜600℃に変化させた。スパッタ時のRFパワーは100Wに固定した。薄膜の堆積後は、アルゴン(96%)、酸素(4%)の混合ガスを導入し、チャンバー内のガス圧を5Paに保ちながら、60分かけて室温まで冷却した。CaxCoO2/Al23−r薄膜の陽イオン組成比をエネルギー分散型X線分析装置で評価したところ、Ca、Coの組成比は、略1:2であった。したがって、x≒0.5である。
図2は、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜のθ−2θスキャンX線回折(XRD:X‐ray diffraction)パターンを示す図である。図2は、CaxCoO2薄膜の積層時の温度が500℃であった、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜の測定結果である。図2に示すように、Al23−r面基板およびFe23薄膜の(1−102)面による回折ピーク以外に、2θ≒75°において、回折ピークが1つ観測された。この角度は、ブラッグの条件から求めたCaxCoO2薄膜の(022)回折ピークが現れる角度と略一致している。そのため、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜では、(00l)面であるCoO2面が、Al23基板の表面に対して傾斜積層していることが示唆された。
図3に、CaxCoO2/Al23−r薄膜のθ−2θスキャンXRDパターンを示す。図3は、CaxCoO2薄膜の積層時の温度が500℃であった、CaxCoO2/Al23−r薄膜の測定結果である。図3に示すように、Al23−r面基板の(1−102)面による回折ピーク以外に、CaxCoO2/Al23−r薄膜の(00l)面(l=1,2,3,4)に回折ピークが観測された。CaxCoO2/Al23−r薄膜において、(00l)面はCoO2面に対応している。したがって、CaxCoO2/Al23−r薄膜では、CoO2面がAl23基板の表面に対して平行に積層していることがわかった。つまり、傾斜積層構造は実現されていなかった。
次に、θ−2θスキャンXRDにより示唆された、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜におけるCoO2面の傾斜積層構造を確認するため、ポールフィギュアXRD測定を行った。ポールフィギュア測定では、ある特定の結晶面の、基板表面に対する傾きや、その整列方向に関する情報を得ることができる。測定条件は、測定目的とする結晶面が水平面と平行になる配置において、X線の入射および検出角度(θ−2θ)をブラッグの条件を満たす角度に固定する。この状態で、基板平面を水平方向から傾け(ψ=0〜90°)、さらに面内方向に回転させる(φ=0〜360°)。検出される散乱X線は、目的とする結晶面が水平面と平行になったときにのみ強め合う。ψ及びφを変化させ、検出される散乱光の強度分布を測定することで、その結晶面の傾斜角度(ψの値)や整列方向(φの値)を知ることができる。
CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜の(001)回折ピークが現れる角度に2θを固定して、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜のポールフィギュアXRD測定を行った。その結果を図4に示す。図4より、ψ≒60°、φ≒180°に最大値を持つ、1つの回折ピークが現れていることがわかる。これは、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜の(001)面が、Al23基板の表面に対して約60°傾いていることを表している。したがって、傾斜角度αは約60°である。この角度は、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜において、(011)面と(00l)面とがなす角度とほぼ一致している。また、このポールフィギュアにおいて、(001)回折ピークが1つしか観測されなかったことから、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜において、CoO2面は単一方向に傾斜積層していることがわかった。
CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜におけるCoO2面の傾斜積層構造をさらに確認するため、断面透過電子顕微鏡による評価を行った。図5は、CaxCoO2/Fe23/Al23−r積層体の3層断面像であり、図6は、CaxCoO2/Fe23界面近傍の断面像であり、図7は、CaxCoO2薄膜内の高分解能像である。図5〜7に示すように、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜内において、約60°傾斜した一様なストライプ構造が明瞭に観察された。一様なCoO2層の傾斜積層構造が、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜において実際に形成されていて、傾斜角度αが約60°である。これは、ポールフィギュア測定で得られた結果と一致している。以上より、Al23基板上にFe23薄膜をバッファ層として積層し、その上にCaxCoO2薄膜を積層することで、Al23基板表面に対して、CoO2面が傾斜積層したCaxCoO2薄膜を作製できることがわかる。
図8は、起電力測定用の放射検出器の構成を示す斜視図である。図8に示すように、放射検出器20は、順次積層された、Al23基板11、Fe23薄膜12、CaxCoO2薄膜13と、CaxCoO2薄膜13上に設置された第1電極対21および第2電極対22とを備える。第1電極対21は、CoO2面16の傾斜整列方向23に沿って離間して配置された一対の電極であり、第2電極対22は、傾斜整列方向23に垂直な方向に沿って離間して配置された一対の電極である。なお、傾斜整列方向23は、起電力取出し方向と同一である。第1電極対21の各電極間を結んだ線分と、第2電極対22の各電極間を結んだ線分との交点が、互いの線分の中心位置であるように、第1電極対21および第2電極対22を配置した。なお、第2電極対22は、傾斜整列方向23と垂直な方向に起電力が発生するか否かを確認するためのものであり、実際の放射検出器においては、配置しなくてもよい。
CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜を用いて、図8に示す構造の放射検出器を作製した。CaxCoO2/Fe23/Al23−r積層体において、CaxCoO2薄膜の表面に、真空蒸着法により、第1電極対および第2電極対となる、Auからなる2組の電極対を形成した。各電極対における、それぞれの電極間の幅は6mmにした。なお、実際の放射検出器において、電極幅は6mmに限定されるわけではなく、用途や設置場所などに応じて、適宜最適化すればよい。
作製した放射検出器の表面に対して、赤外線ランプ(波長800〜2000nm)から発生させた電磁波を、スポット径が8mmとなるように入射させた。具体的には、赤外線ランプから480mWの電磁波を出力し、CaxCoO2薄膜表面の中心位置に入射させ、傾斜整列方向に生じる起電力V1と、傾斜整列方向に対して垂直方向に生じる起電力V2とを測定した。その測定結果を図9に示す。図9は、電磁波の入射および遮断による起電力の経時変化を示すグラフである。赤外線ランプからの電磁波が、放射検出器に入射していない場合は、起電力V1およびV2は生じていない。そして、赤外線ランプをOnとして電磁波を入射すると、起電力V1は急激に増加し、定常的に約140μVの値を示した。一方、起電力V2は、顕著な増減を示さなかった。その後、赤外線ランプをOFFとして電磁波を遮断すると、起電力V1は急激に減少し、ゼロに戻った。一方、起電力V2は、顕著な増減を示さなかった。したがって、放射検出器において、起電力が生じる方向は、傾斜整列方向のみである。起電力の発生方向が、CoO2面の傾斜整列方向に依存していることから、V1の起電力の発生が、異方熱電効果に由来することがわかる。
この放射検出器のCaxCoO2薄膜層の表裏面に生じている温度差ΔTzは、式(1)より、0.2mK程度と見積もられる。なお、式(1)における各値は、ΔS=35μV/K、d=150nm、l=6mm、α=60°、Vx=140μVである。したがって、傾斜整列方向の検出感度は600mV/Kに達する。これは、従来のYBCO傾斜積層薄膜を用いた放射検出器の検出感度(100mV/K)と比較すると、約6倍である。
(実施例2)
実施例2では、(0001)面から約61°傾斜した(11−23)面を表面にもつAl23−n面基板上に、実施例1と同様にして、Fe23薄膜およびCaxCoO2薄膜を順次積層して3層構造の積層体を作製した。以降、この積層体におけるCaxCoO2薄膜をCaxCoO2/Fe23/Al23−n薄膜と表記する。なお、Al23−n面基板の傾斜角度βは、61°である。
また、実施例2では、(0001)面から約72°傾斜した(10−11)面を表面にもつAl23−S面基板上に、実施例1と同様にして、Fe23薄膜およびCaxCoO2薄膜を順次積層して3層構造の積層体も作製した。以降、この積層体におけるCaxCoO2薄膜をCaxCoO2/Fe23/Al23−S薄膜と表記する。なお、Al23−S面基板の傾斜角度βは、72°である。
CaxCoO2/Fe23/Al23−n薄膜およびCaxCoO2/Fe23/Al23−S薄膜について、ポールフィギュアXRD測定を行った結果を、図10および図11に示す。図10に示すように、CaxCoO2/Fe23/Al23−n薄膜では、CoO2面はAl23基板の表面に対して約75°傾斜していることがわかる。したがって、CaxCoO2/Fe23/Al23−n薄膜の傾斜角度αは約75°である。また、図11に示すように、CaxCoO2/Fe23/Al23−S薄膜では、CoO2面はAl23基板の表面に対して約80°傾斜していることがわかる。したがって、CaxCoO2/Fe23/Al23−S薄膜の傾斜角度αは約80°である。以上より、Al23基板の表面に対するAl23基板の(0001)面の傾斜角度βを制御することにより、CaxCoO2/Fe23/Al23積層体における、CaxCoO2薄膜のCoO2面の傾斜角度αを制御可能であることが確認できた。
実施例1と同様に、CaxCoO2/Fe23/Al23−n薄膜上、およびCaxCoO2/Fe23/Al23−S薄膜上に、それぞれ2組のAu電極対を作製して、図8に示す構造の放射検出器を作製した。そして、実施例1と同様に、これらの放射検出器についても、赤外線ランプからの電磁波を入射させて、傾斜整列方向の起電力V1および傾斜整列方向と垂直方向の起電力V2とを測定した。
実施例2のCaxCoO2/Fe23/Al23−n薄膜およびCaxCoO2/Fe23/Al23−S薄膜を用いた、それぞれの放射検出器は、実施例1の放射検出器と同様に、電磁波が入射していない場合には、起電力V1およびV2は生じていない。そして、赤外線ランプがOnになり、電磁波が入射されると、いずれの放射検出器においても、起電力V1が急激に増加し、定常的に約80μVの値を示した。一方、起電力V2は、いずれの放射検出器においても、顕著な増減を示さなかった。その後、赤外線ランプがOFFになり、電磁波が遮断されると、いずれの放射検出器においても、起電力V1が急激に減少し、ゼロに戻った。一方、起電力V2は、いずれの放射検出器においても、顕著な増減を示さなかった。
図12は、放射検出器において、sin2αと傾斜整列方向についての電圧との関係を示すグラフであって、縦軸は放射検出器における傾斜整列方向についての起電力であり、横軸はsin2αである。図12には、CaxCoO2/Fe23/Al23−r薄膜、CaxCoO2/Fe23/Al23−n薄膜およびCaxCoO2/Fe23/Al23−S薄膜を、それぞれ用いた放射検出器による測定結果が示されている。図12より、式(1)に示されたように、起電力がsin2αに対してほぼ線形に変化することがわかる。また、式(1)に示されるように、傾斜角度αが45°に近いほど、放射検出器の感度が高くなることも、図12より確認できた。
本発明に係る放射検出器は、優れた放射検出特性を有しており、温度センサーや、レーザー光のパワーメーターなど、電磁波の放射を伴う各種対象物の検出に利用可能である。

Claims (6)

  1. Al23基板と、
    前記Al23基板上に積層されたFe23薄膜と、
    前記Fe23薄膜上に積層され、CoO2面が前記Al23基板表面に対して傾斜して並んでいるCaxCoO2(ただし、0.15<x<0.55)薄膜と、
    前記CaxCoO2薄膜上に配置された第1電極と、
    前記CaxCoO2薄膜上であって、前記CoO2面が傾斜して並んでいる方向について、前記第1電極と対向する位置に配置された第2電極と、を具備する、放射検出器。
  2. 前記CaxCoO2薄膜に入射する電磁波によって、前記CaxCoO2薄膜内で生じる温度差に基づき、前記第1電極と前記第2電極との間に発生する熱起電力を取り出し、前記熱起電力に基づき、前記電磁波を検出する、請求項1に記載の放射検出器。
  3. 前記CoO2面が、前記第1電極と前記第2電極とが対向する方向に対して、傾斜角度αで傾斜していて、
    前記傾斜角度αは、10°以上80°以下である、請求項1に記載の放射検出器。
  4. 前記第1電極および前記第2電極が、Cu、Ag、AuまたはAlからなる、請求項1に記載の放射検出器。
  5. 放射検出器を用いて電磁波を検出する放射検出方法であって、
    前記放射検出器が、Al23基板と、前記Al23基板上に積層されたFe23薄膜と、前記Fe23薄膜上に積層され、CoO2面が前記Al23基板表面に対して傾斜して並んでいるCaxCoO2(ただし、0.15<x<0.55)薄膜と、前記CaxCoO2薄膜上に配置された第1電極と、前記CaxCoO2薄膜上であって、前記CoO2面が傾斜して並んでいる方向について、前記第1電極と対向する位置に配置された第2電極と、を具備し、
    前記CaxCoO2薄膜に入射する電磁波によって、前記CaxCoO2薄膜内で生じる温度差に基づき、前記第1電極と前記第2電極との間に発生する熱起電力を取り出し、前記熱起電力に基づき、前記電磁波を検出する、放射検出方法。
  6. 前記CoO2面が、前記第1電極と前記第2電極とが対向する方向に対して、傾斜角度αで傾斜していて、
    前記傾斜角度αは、10°以上80°以下である、請求項5に記載の放射検出方法。
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