本発明は、固体高分子電解質型燃料電池に関し、特に、燃料電池の電極−膜−枠接合体の構造およびその製造方法に関する。
固体高分子電解質型燃料電池(以下、「PEFC」という場合もある。)は、水素を含有する燃料ガスと空気など酸素を含有する酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、電力と熱を同時に発生させる装置である。
固体高分子電解質型燃料電池の最も代表的なものは、周縁部にガスをシールするためのガスケットを配した枠体で支持された高分子電解質膜と、この電解質膜の一方の面にアノードが接合されかつ電解質膜の他方の面にカソードが接合されて構成される膜電極接合体(MEA)と、MEAを挟むアノード側導電性セパレータ板及びカソード側導電性セパレータ板から構成され、アノード及びカソードにそれぞれ燃料ガス及び酸化剤ガスを供給するガス供給部が、セパレータ板の内のMEAと当接する中央部の周縁に形成されている。
このような従来の固体高分子電解質型燃料電池の構成としては、例えば特許文献1に開示されている。具体的には、図14に示すように、MEAの周縁部が枠体300の内部にて支持されたMEA303を、それぞれのセパレータ301にて挟み込むような構成が開示されている。
また、このようなMEAは枠体の厚みのほぼ中央に組み込まれており、その接合方法として接着剤や機械的クランプなどが採用されている。
特開2005−100970号公報
国際公開第2006/040994号パンフレット
しかしながら、高分子電解質膜の接着剤による接合方法では、高分子電解質膜に接着剤の揮発成分による性能低下を招く可能性があり、適用できる条件が限られる。また、機械的クランプによる接合方法では、高分子電解質膜と枠体の微小な隙間からクロスリークが発生し易いという問題が発生する。ここで、クロスリーク現象とは、図14において、枠体300の内縁と電極302との間に生じる僅かな隙間を、電池内に供給されたガスの一部が通ってアノード側又はカソード側の一方から他方へとガスがリークしてしまうという現象である。燃料電池における発電効率を向上させるためには、このようなクロスリークを低減する必要がある。
このようなクロスリーク現象の発生を抑制するための1つの方法として、MEAの周縁部が枠体内部に配置されるように、枠体を射出成型により形成するという方法が考えられる。このような方法によれば、枠体とMEAの周縁部との密着性を向上させて、クロスリークを低減させることが可能となる。このような方法は、例えば、特許文献2においても開示されている。
具体的には、図15Aに示すように、予め射出成型等により枠状に形成された第1の枠部材311を準備する。次に、図15Bに示すように、アノードとカソードが電解質膜313の両面に配置された電極314の周縁部、すなわち電解質膜313の周縁部313aを、第1の枠部材311上に位置決めして配置する。その後、図15Cに示すように、電解質膜313の周縁部313aが配置された状態の第1の枠部材311の上面に、射出成型により樹脂材料を注入して第2の枠部材312を形成する。このように射出成型により第2の枠部材312を第1の枠部材311と一体的に接合して形成することにより、その間に挟まれた状態の電解質膜313の周縁部313aを、より密着させた状態で保持することができる。
しかしながら、このような射出成型による形成方法では、次のような問題がある。図16Aに示すように、第2の枠部材312の射出成型による形成時において、高温高圧の樹脂材料Pが金型(図示せず)内に注入されると、第1の枠部材311の上面に配置されている電解質膜313の周縁部313aが、樹脂材料Pの流動抵抗により樹脂材料中に浮き上がって、第1の枠部材311の上面からめくれ上がった状態となる場合がある。このような状態において樹脂材料Pが硬化されると、図16Bに示すように、電解質膜313の周縁部313aが第2の枠部材312の内部において完全に浮き上がった状態にて電極314の保持が行われることになる。
このような場合にあっては、枠体310により電極314の保持を十分に行えないような場合や、電解質膜313を損傷させるような場合などが生じ得、クロスリークを十分に低減できない。特に、MEAは比較的高価な部材であり、燃料電池製造において高い歩留まり(生産性)を実現することが望まれる。また、このような燃料電池製造における生産性の向上とともに、燃料電池における発電効率等の性能を向上することも求められ続けている。
従って、本発明の第1の目的は、上記問題を解決することにあって、固体高分子電解質型燃料電池の電極−膜−枠接合体において、高分子電解質膜と枠体との間のクロスリーク現象を効果的に抑制するとともに、その製造において高い歩留まりを実現することができる燃料電池用の電極−膜−枠接合体及びその製造方法、並びに電極−膜−枠接合体を備えた高分子電解質型燃料電池を提供することにある。
さらに、本発明の第2の目的は、固体高分子電解質型燃料電池において、その発電効率等の性能を向上させることができる燃料電池用の電極−膜−枠接合体及びその製造方法、並びに電極−膜−枠接合体を備えた高分子電解質型燃料電池を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
本発明の第1態様によれば、高分子電解質膜と、上記高分子電解質膜の周縁部より内側の両表面に配置された一対の電極層とを有する膜電極接合体と、
上記膜電極接合体の周縁部を保持する樹脂により形成された枠体と、
上記膜電極接合体の周縁部において、上記膜電極接合体の表裏面間の連通を封止する弾性部材とを備え、
上記枠体は、
上記高分子電解質膜の周縁部に沿って配置された枠体本体部と、
上記枠体本体部の内縁より枠体中央側に向けて突出しかつ上記内縁沿いに配列され、上記高分子電解質膜の表面側を保持する複数の第1保持部と、
上記枠体本体部の内縁より枠体中央側に向けて突出しかつ上記内縁沿いに配列され、上記高分子電解質膜の裏面側を保持する複数の第2保持部とを備え、
上記第1保持部による上記高分子電解質膜のそれぞれの保持位置と、上記第2保持部による上記高分子電解質膜のそれぞれの保持位置が、上記高分子電解質膜の周縁部に沿って交互に配置されるように、上記それぞれの第1保持部及び第2保持部が配列され、
上記弾性部材は、隣接するそれぞれの上記第1保持部の間における上記高分子電解質膜の表面上に配置された複数の表面側弾性部材と、隣接するそれぞれの上記第2保持部の間における上記高分子電解質膜の裏面上に配置された複数の裏面側弾性部材とを備える、高分子電解質型燃料電池用の電極−膜−枠接合体を提供する。
本発明の第2態様によれば、それぞれの上記表面側弾性部材及び裏面側弾性部材は、上記枠体のセパレータ側表面よりも隆起して形成されている、第1態様に記載の高分子電解質型燃料電池用の電極−膜−枠接合体を提供する。
本発明の第3態様によれば、それぞれの上記表面側弾性部材及び裏面側弾性部材が、上記高分子電解質膜の表面及び裏面において、上記枠体本体部の内縁から上記電極層の外縁に接する位置にまで延在して配置されている、第1態様に記載の高分子電解質型燃料電池用の電極−膜−枠接合体を提供する。
本発明の第4態様によれば、隣接するそれぞれの表面側弾性部材が互いに連結されて形成され、隣接するそれぞれの裏面側弾性部材が互いに連結されて形成されている、第3態様に記載の高分子電解質型燃料電池用の電極−膜−枠接合体を提供する。
本発明の第5態様によれば、上記第1保持部に対向して配置された一の上記裏面側弾性部材と、上記一の裏面側弾性部材に隣接する上記第2保持部に対向して配置された一の上記表面側弾性部材とが、上記高分子電解質膜の周縁部沿いにおいて、上記高分子電解質膜上への互いの配置領域の一部に重なり領域を有している、第1態様に記載の高分子電解質型燃料電池用の電極−膜−枠接合体を提供する。
本発明の第6態様によれば、上記第1保持部および第2保持部は、上記枠体本体部側の幅よりも、枠体中央側への突出先端側の幅が大きく形成されている、第1態様に記載の高分子電解質型燃料電池用の電極−膜−枠接合体を提供する。
本発明の第7態様によれば、上記枠体本体部の内縁と、上記高分子電解質膜の周縁部の端面との間に、隙間が設けられている、第1態様に記載の高分子電解質型燃料電池用の電極−膜−枠接合体を提供する。
本発明の第8態様によれば、第1態様から第7態様のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体と、上記電極−膜−枠接合体を挟むように配置された一対のセパレータとを有する単電池モジュールを、1又は複数積層して備える、高分子電解質型燃料電池を提供する。
本発明の第9態様によれば、膜電極接合体の周縁部に沿って配置された複数の第1支持部にて上記膜電極接合体をその表面側から支持し、上記周縁部沿いにおいて上記複数の第1支持部と交互に配置され、かつ上記膜電極接合体の周縁部に沿って配置された複数の第2支持部にて上記膜電極接合体をその裏面側から支持するように、射出成型用金型内に上記膜電極接合体を配置して、上記膜電極接合体の周縁部に沿って枠状に配置された枠状流路と、上記枠状流路と連通されかつ隣接するそれぞれの上記第1支持部の間にて上記膜電極接合体の周縁部における表面と接して配置された第1流路と、上記枠状流路と連通されかつ隣接するそれぞれの上記第2支持部の間にて上記膜電極接合体の周縁部における裏面と接して配置された第2流路とを形成し、
それぞれの上記第1支持部及び第2支持部により上記膜電極接合体の周縁部を保持した状態にて、それぞれの上記流路内に樹脂を注入して充填し、
上記充填された樹脂を硬化させることにより、上記枠状流路にて形成された枠体本体部と、上記第1流路にて上記枠体本体部の内縁より枠体中央側に向けて突出しかつ上記内縁沿いに配列され、上記膜電極接合体の表面側を保持する複数の第1保持部と、上記第2流路にて上記枠体本体部の内縁より枠体中央側に向けて突出しかつ上記内縁沿いに配列され、上記膜電極接合体の裏面側を保持する複数の第2保持部とを備える枠体を形成し、
隣接するそれぞれの上記第1保持部の間における上記膜電極接合体の表面上に配置された複数の表面側弾性部材と、隣接するそれぞれの上記第2保持部の間における上記膜電極接合体の裏面上に配置された複数の裏面側弾性部材とを形成する、高分子電解質型燃料電池用の電極−膜−枠接合体の製造方法を提供する。
本発明によれば、膜電極接合体における高分子電解質膜の周縁部を樹脂材料により形成される枠体により保持させる構成において、枠体本体部の内縁より枠体中央側に向けて突出しかつ内縁沿いに配列され、高分子電解質膜の表面側を保持する複数の第1保持部と、同様な構成にて高分子電解質膜の裏面側を保持する複数の第2保持部とにより枠体を構成する。さらに、枠体において、第1保持部による高分子電解質膜のそれぞれの保持位置と、第2保持部による高分子電解質膜の保持位置が、高分子電解質膜の周縁部に沿って交互に配置されるように、それぞれの第1保持部及び第2保持部が形成されている。このような構成が採用されていることにより、樹脂を用いて、枠体を射出成型により形成する際に、高分子電解質膜の表面側と裏面側にて交互に配置されたそれぞれの保持部の間にて、金型により高分子電解質膜をその表裏面より確実に保持した状態にて樹脂を注入して、枠体を形成することができる。よって、射出成型時に高分子電解質膜の浮き上がり等の不良が生じることがなく、クロスリーク現象を効果的に抑制することができる。さらに、このような枠体の射出成型による形成は、一工程にて行うことが可能となるため、その生産性を向上させることができる。
また、このように高分子電解質膜の表裏面にて交互に配置されたそれぞれの保持部の間における高分子電解質膜の表面および裏面上に、枠体よりも弾性力の高い弾性部材を配置させることにより、弾性部材が高分子電解質膜の表面に接して両者の間を封止することができる部分を確保することができ、枠体と高分子電解質膜との間の封止効果を高めることができ、クロスリーク現象の発生をさらに効果的に抑制することができる。また、このような弾性部材をそれぞれの保持部の間に配置させることで、保持部の先端と電極層の外縁との距離を少なくすることができる。したがって、枠体外形をコンパクトにしながら、発電処理に寄与する電極層の面積を効率的に確保することができ、燃料電池における発電効率を向上させることができる。
本発明のこれらの態様と特徴は、添付された図面についての好ましい実施形態に関連した次の記述から明らかになる。この図面においては、
図1は、本発明の第1実施形態にかかる燃料電池の概略構成を示す模式構成図であり、
図2は、図1の燃料電池が備える燃料電池用スタックの模式分解図であり、
図3は、図2の燃料電池用スタックが備える電極−膜−枠接合体の部分模式図(弾性部材なしの状態)であり、
図4は、図2の燃料電池用スタックが備える電極−膜−枠接合体の部分模式図(弾性部材ありの状態)であり、
図5Aは、図4の電極−膜−枠接合体のA−A線模式断面図であり、
図5Bは、図4の変形例にかかる電極−膜−枠接合体のA−A線模式断面図であり、
図6Aは、第1実施形態の電極−膜−枠接合体の製造工程(枠体成型工程)図であって、金型の構成を示す図であり、
図6Bは、第1実施形態の電極−膜−枠接合体の製造工程(枠体成型工程)図であって、下部金型にMEAが載置された状態を示す図であり、
図6Cは、第1実施形態の電極−膜−枠接合体の製造工程(枠体成型工程)図であって、金型の型締めが行われた状態の図であり、
図6Dは、第1実施形態の電極−膜−枠接合体の製造工程(枠体成型工程)図であって、樹脂材料が注入されている状態の図であり、
図6Eは、第1実施形態の電極−膜−枠接合体の製造工程(枠体成型工程)図であって、MEAを保持した状態の枠体が完成した状態を示す図であり、
図7Aは、第1実施形態の電極−膜−枠接合体の製造工程(弾性部材成型工程)図であって、金型の構成を示す図であり、
図7Bは、第1実施形態の電極−膜−枠接合体の製造工程(弾性部材成型工程)図であって、下部金型にMEAを保持した状態の枠体が載置された状態を示す図であり、
図7Cは、第1実施形態の電極−膜−枠接合体の製造工程(弾性部材成型工程)図であって、金型の型締めが行われた状態の図であり、
図7Dは、第1実施形態の電極−膜−枠接合体の製造工程(弾性部材成型工程)図であって、樹脂材料が注入されている状態の図であり、
図7Eは、第1実施形態の電極−膜−枠接合体の製造工程(弾性部材成型工程)図であって、弾性部材が形成された電極−膜−枠接合体が完成した状態を示す図であり、
図8は、第1実施形態の変形例にかかる弾性部材の配置構造を示す模式図であり、
図9は、本発明の第2実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の構造を示す部分模式斜視図(弾性部材なしの状態)であり、
図10は、本発明の第2実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の構造を示す部分模式斜視図(弾性部材ありの状態)であり、
図11は、第2実施形態の電極−膜−枠接合体における寸法例を示す模式説明図であり、
図12は、本発明の変形例にかかる電極−膜−枠接合体の構造を示す模式図であり、
図13は、本発明の別の変形例にかかる電極−膜−枠接合体の構造を示す模式図であり、
図14は、従来の燃料電池のMEAとセパレータの分解断面図であり、
図15Aは、従来の燃料電池のMEAの製造方法の模式説明図であり、
図15Bは、従来の燃料電池のMEAの製造方法の模式説明図であり、
図15Cは、従来の燃料電池のMEAの製造方法の模式説明図であり、
図16Aは、従来のMEAの製造方法における膜のめくれ上がり現象の模式説明図であり、
図16Bは、従来のMEAの製造方法における膜のめくれ上がり現象の模式説明図であり、
図17は、本発明の第3実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の構造を示す部分模式斜視図(弾性部材なしの状態)であり、
図18は、本発明の第3実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の構造を示す部分模式斜視図(弾性部材ありの状態)であり、
図19Aは、図18の第3実施形態の電極−膜−枠接合体のB−B線断面図であり、
図19Bは、図18の第3実施形態の電極−膜−枠接合体のC−C線断面図であり、
図20は、本発明の第3実施形態の変形例にかかる電極−膜−枠接合体の構造を示す部分模式斜視図(弾性部材なしの状態)であり、
図21は、本発明の第3実施形態の変形例にかかる電極−膜−枠接合体の構造を示す部分模式斜視図(弾性部材ありの状態)である。
本発明の記述を続ける前に、添付図面において同じ部品については同じ参照符号を付している。
以下に、本発明にかかる実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態にかかる燃料電池用スタックを備える高分子電解質型燃料電池(PEFC)の概略構成を示す模式構成図を図1に示す。また、図1に示す燃料電池101が備える燃料電池用スタック(以降、スタックという。)の模式分解図を図2に示す。
燃料電池101は、例えば水素を含有する燃料ガスと、空気など酸素を含有する酸化剤ガスとを、電気化学的に反応させることで、電力、熱、及び水を同時に発生させるものである。図1に示すように、燃料電池101には、アノード及びカソードの一対の極を備える燃料電池セル(あるいは単セル又は単電池モジュール)が複数個直列に接続された積層構造を有するスタック30と、燃料ガスから水素を取り出す燃料処理器31と、燃料処理器31にて取り出された水素を含む燃料ガスを加湿することで発電効率を向上させるアノード加湿器32と、酸素含有ガス(酸化剤ガス)に対しての加湿を行うカソード加湿器33と、燃料ガスと酸素含有ガスとをそれぞれ供給するためのポンプ34、35とが備えられている。すなわち、燃料処理器31、アノード加湿器32、及びポンプ34により燃料ガスをスタック30の各セルに供給する燃料供給装置が構成されており、また、カソード加湿器33とポンプ35とにより酸化剤ガスをスタック30の各セルに供給する酸化剤供給装置が構成されている。なお、このような燃料供給装置や酸化剤供給装置は、燃料や酸化剤の供給を行う機能を備えていればその他様々な形態を採用し得るが、本実施形態においては、スタック30が備える複数のセルに対して、共通して燃料や酸化剤を供給する供給装置であれば、後述する本実施形態の効果を好適に得ることができる。
また、燃料電池101には、発電の際にスタック30にて発生される熱を効率的に除去するための冷却水を循環供給するためのポンプ36と、この冷却水(例えば、導電性を有さない液体、例えば純水が用いられる。)により除去された熱を、水道水等の流体に熱交換するための熱交換器37と、熱交換された水道水を貯留させる貯湯タンク38とが備えられている。さらに、燃料電池101には、このようなそれぞれの構成部を互いに関連付けて発電のための運転制御を行う運転制御装置40と、スタック30にて発電された電気を取り出す電気出力部41とが備えられている。
また、図2に示すように、この燃料電池101が備えるスタック30は、基本単位構成である単セル(単電池モジュール)20を複数個積層し、集電板21、絶縁板22、端板23で両側から所定の荷重で締結して構成されている。それぞれの集電板21には、電流取り出し端子部21aが設けられており、発電時にここから電流、すなわち電気が取り出される。それぞれの絶縁板22は、集電板21と端板23の間を絶縁するとともに、図示しないガスや冷却水の導入口、排出口が設けられている場合もある。それぞれの端板23は、複数枚積層された単セル20と集電板21、絶縁板22を図示しない加圧手段によって所定の荷重で締結し、保持している。
図2に示すように、単セル20は、MEA(膜電極接合体)15を一対のセパレータ5b,5cで挟み込むようにして構成されている。MEA15は、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜部材の一例である高分子電解質膜1aのアノード面側に、白金−ルテニウム合金触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒層(アノード側触媒層)112を形成し、カソード面側には、白金触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒層(カソード側触媒層)113を形成し、これらの触媒層112及び113の外面に、燃料ガスあるいは酸化剤ガスの通気性と、電子導電性を併せ持つガス拡散層114を配置して構成されたものである。高分子電解質膜1aは、プロトン導電性を示す固体高分子材料、例えば、パーフルオロスルホン酸膜(デュポン社製ナフィオン膜)が一般に使用される。なお、以下では、アノード側触媒層112とガス拡散層114とを合わせてアノード電極(アノード電極層)1bと呼び、カソード側触媒層113とガス拡散層114とを合わせてカソード電極(カソード電極層)1cと呼ぶものとする。
セパレータ5b、5cは、ガス不透過性の導電性材料であれば良く、例えば樹脂含浸カーボン材料を所定の形状に切削したもの、カーボン粉末と樹脂材料の混合物を成形したものが一般的に用いられる。セパレータ5b、5cにおけるMEA15と接触する部分には凹状の溝部が形成されており、この溝部がガス拡散層114と接することで、電極面に燃料ガスあるいは酸化剤ガスを供給し、余剰ガスを運び去るためのガス流路が形成される。ガス拡散層114は、その基材として一般的に炭素繊維で構成されたものを用いあることができ、このような基材としては例えば炭素繊維織布を用いることができる。
ここでこのような単セル20のMEA15の端部近傍における模式部分斜視図を図3に拡大して示す。
図3に示すように、MEA15は、高分子電解質膜1aの片方の面にアノード電極1bが接合され、高分子電解質膜1aの他方の面にカソード電極1cが接合されて形成されている。また、高分子電解質膜1aはアノード電極1b及びカソード電極1cよりも一回大きく形成されており、アノード電極1bとカソード電極1cの間から高分子電解質膜1aの周縁部1dが露出されている。MEA15の高分子電解質膜1aの周縁部1dは、熱可塑性樹脂により形成された枠体2により保持されている。このように枠体2によりMEA15が保持された一体的な構造が、電極−膜−枠接合体10となっている。
図3に示すように、枠体2は、高分子電解質膜1aの周縁部1dに沿って配置された枠体本体部3と、この枠体本体部3の内縁より枠体中央側(すなわちMEA15の中央側)に向けて突出しかつ内縁沿いに配列して形成され、高分子電解質膜1aのアノード側(すなわち、図示表面側)を保持する複数の第1保持部11と、この枠体本体部3の内縁より枠体中央側(すなわちMEA15の中央側)に向けて突出しかつ内縁沿いに配列して形成され、高分子電解質膜1aのカソード側(すなわち、図示裏面側)を保持する複数の第2保持部12とを備えている。また、第1保持部11による高分子電解質膜1aのそれぞれの保持位置と、第2保持部12による高分子電解質膜1aのそれぞれの保持位置とは、高分子電解質膜1aの周縁部1dに沿いに交互に配置されるように、それぞれの第1保持部11及び第2保持部12が形成されている。すなわち、枠体本体部3の内縁におけるカソード側には、略方形状の突起部である第1保持部11が、例えば一定の間隔ピッチにて形成されて、内縁に沿って連続する凹凸構造が形成されており、同様に枠体本体部3の内縁におけるアノード側には、略方形状の突起部である第2保持部12が、例えば上記一定の間隔ピッチと同じ間隔ピッチにて形成されて、内縁に沿って連続する凹凸構造が形成されている。また、第1保持部11による凹凸構造と第2保持部12による凹凸構造は、その凹凸の位置がアノード側とカソード側にて交互となるように配置されている。すなわち、隣接する第1保持部11の間の第1凹部11aが形成されている位置と、第2保持部12の形成位置とは、高分子電解質膜1aの周縁部1dを介して互いに対向して配置されている。同様に、隣接する第2保持部12の間の第2凹部12aが形成されている位置と、第1保持部11の形成位置とは、高分子電解質膜1aの周縁部1dを介して互いに対向して配置されている。なお、高分子電解質膜1aの周縁部1dの端部は、枠体本体部3の内縁に接するようにそれぞれの第1保持部11と第2保持部12との間に配置された状態で保持されている。
次に、このような構造を有する電極−膜−枠接合体10に、さらにクロスリーク現象の発生を抑制するための弾性部材が備えられた状態の模式部分斜視図を図4に示す。
図4に示すように、枠体2のそれぞれの第1凹部11aにおける高分子電解質膜1a上には、第1凹部11aの内側空間を埋めるように弾性材料により形成されたアノード側弾性部材(表面側弾性部材)13が配置されている。また、それぞれの第2凹部12aにおける高分子電解質膜1a上には、第2凹部12aの内側空間を埋めるように弾性材料により形成されたカソード側弾性部材(裏面側弾性部材)14(図5A参照)が配置されている。それぞれのアノード側弾性部材13は、第1凹部11aの内側空間を埋めるとともに、枠体中央側に向かって高分子電解質膜1a上に延在して、アノード電極1bの外縁端面を覆うように配置されている。図4においては図示を省略しているが、それぞれのカソード側弾性部材14は、第2凹部12aの内側空間を埋めるとともに、枠体中央側に向かって高分子電解質膜1a上に延在して、カソード電極1cの外縁端面を覆うように配置されている。また、それぞれのアノード側弾性部材13は略直方体形状に形成されており、その平坦な上面が、第1保持部11の上面よりも上方に隆起するように形成されている。それぞれのカソード側弾性部材14も同様に、その上面(図4においては下面)が第2保持部12よりも隆起して形成されている。
ここで、図4の電極−膜−枠接合体10におけるA−A線断面図を図5Aに示す。図5Aに示すように、それぞれの第1保持部11と第2保持部12は、高分子電解質膜1aを挟んで交互に配列されており、同様に、それぞれのアノード側弾性部材13とカソード側弾性部材14は、高分子電解質膜1aを挟んで交互に配列されている。また、図5Aに示すように、第1保持部11に対向して配置された1つのカソード側弾性部材14と、この1つのカソード側弾性部材14に隣接する第2保持部12に対向して配置された1つのアノード側弾性部材13とが、それぞれの高分子電解質膜1a上への配置領域の一部に重なり領域Rを有している。すなわち、高分子電解質膜1aの周縁部1d沿いにおいて、アノード側弾性部材13とカソード側弾性部材14とのそれぞれの配置領域が、その一部においてオーバーラップするように、高分子電解質膜1aの表裏面にそれぞれの弾性部材13、14が配置されている。
なお、本第1実施形態においては、図5Aに示すように、アノード側弾性部材13とカソード側弾性部材14の互いの配置領域の一部に、重なり領域Rが生じるような場合について説明するが、本実施形態はこのような場合についてのみ限定されるものではない。このような場合に代えて、例えば、図5Bの模式断面図に示すように、それぞれの弾性部材13、14の配置領域に重なり領域Rを有さず、アノード側弾性部材13の端部位置と、カソード側弾性部材14の端部位置とが一致するような配置構成が採用されるような場合であってもよい。
このような弾性部材13、14の配置構成が採用されることにより、高分子電解質膜1aの周縁部1dに沿って、その表裏面のいずれかの面にて弾性部材13若しくは14により、高分子電解質膜1aの周縁部1dにおけるその表裏面間の連通を封止することができるため、クロスリーク現象の発生を効果的に抑制することができる。特に、図5Aに示すように、弾性部材13、14の配置領域の重なり領域Rを形成することにより、弾性部材13、14の配置位置に製造時における位置ずれが生じるような場合であっても、この位置ずれを重なり領域Rにて吸収して、その影響による封止漏れ箇所が生じないようにすることができ、より確実な封止を実現することができる。
なお、枠体2、すなわち枠体本体部3、第1保持部11、及び第2保持部12の具体的な材料の例としては、株式会社プライムポリマーのR−250G又は350Gであり、セパレータの具体的な材料の例としては、外寸120mm×120mm、厚み3.0mmの樹脂含浸黒鉛板(東海カーボン(株)製グラッシーカーボン)が挙げられる。
次に、このような構成を有する電極−膜−枠接合体10を射出成型により形成する方法について、図6A〜図6Eに示す模式説明図を用いて説明する。
まず、図6Aに示すように、MEA15が配置される上部金型(第1金型)50と下部金型(第2金型)60とを準備する。下部金型60は、その上面にMEA15が配置されるとともに、枠体2となる所定の流路を形成するための凹凸部である下部流路形成面61が形成されている。さらに下部金型60には、成形された樹脂とともにMEA15を下部流路形成面61から分離させる棒状の突き上げ部材62が備えられている。上部金型50は、その下面にてMEA15の上面を覆うとともに、枠体2となる所定の流路を形成するための凹凸部である上部流路形成面51が形成されている。なお、下部流路形成面61には、MEA15の周縁部1dをその下方側から受けるように支持する複数の第2支持部61a(下部金型60の一部)が形成されており、上部流路形成面51には、MEA15の周縁部1dをその上方側から押さえるように支持する複数の第1支持部51a(上部金型50の一部)が形成されている。それぞれの第1支持部51aは、その後の射出成型により形成される枠体2において第1凹部11aを形成する部分に相当し、第2支持部61aは、第2凹部12aを形成する部分に相当する。すなわち、それぞれの第1支持部51aと第2支持部61aは、その形成位置が交互になるように配置されている。さらに、この上部流路形成面51には樹脂注入口である複数のゲート52が形成されており、それぞれのゲート52は、上部金型50の上面に形成された凹部である樹脂導入部53に連通されている。また、上部金型50には、上部金型50と下部金型60とを位置決めした状態で型締めを行う型締め部材54が備えられている。
次に、図6Bに示すように、下部金型60の下部流路形成面61にMEA15を載置して、それぞれの第2支持部61aによりMEA15の周縁部1dが支持された状態とする。その後、図6Cに示すように、MEA15が載置された下部金型60に対して、上部金型50を型締め部材54により型締めを行う。このように型締めが行われた状態において、MEA15の周縁部1dが、それぞれの第1支持部51aと第2支持部61aによりその表裏面から支持されて保持された状態とされる。さらに、MEA15の周囲には、枠体本体部3となる第3樹脂流路(枠状流路)P3と、この第3樹脂流路P3の内縁と連通され、かつそれぞれの第1支持部51aの間に形成されて周縁部1dの表面と接する第1樹脂流路(第1流路)P1と、この第3樹脂流路P3の内縁と連通され、かつそれぞれの第2支持部61aの間に形成されて周縁部1dの裏面と接する第2樹脂流路(第2流路)P2とが形成される。なお、第1樹脂流路P1は、枠体2における第1保持部11に相当する部分であり、第2樹脂流路P2は、枠体2における第2保持部12に相当する部分である。
次に、図6Dに示すように、金型内に樹脂材料Pを射出して注入する。具体的には、上部金型50の樹脂導入部53に射出注入された樹脂材料Pが、それぞれのゲート52を通して、第3樹脂流路P3に注入されて、第3樹脂流路P3内に充填される。さらに第3樹脂流路P3内に注入された樹脂材料Pが、連通されている第1樹脂流路P1及び第2樹脂流路P2へ流れ込み、充填される。この射出成型においては、樹脂材料Pが高温高圧の状態で第1から第3樹脂流路P1、P2、P3内に注入されることになるが、樹脂流路内において高分子電解質膜1aの周縁部1dは、それぞれの第1支持部51a及び第2支持部61aによりその表裏面側から保持されて固定された状態とされているため、高分子電解質膜1aの周縁部1dが浮き上がる、あるいは、まくれ上がることを確実に防止することができる。
それぞれの樹脂流路P1〜P3内への樹脂材料Pの充填が完了すると、樹脂の硬化が行われる。その後、図6Eに示すように、上部金型50と下部金型60との型締めが解除され、突き上げ部材62により、樹脂流路に相当する位置に枠体2が形成されたMEA15が、下部金型60より離脱される。これで射出成型が完了する。
この射出成型が行われた結果、図3に示すように、電解質膜1aの周縁部1dが第1保持部11と第2保持部12によりその表裏面より保持された枠体2が形成される。
次に、このように形成された電極−膜−枠接合体10において、射出成型により弾性部材13、14を形成する。具体的には、図7Aに示すように、電極−膜−枠接合体10が配置される上部金型70と下部金型(第2金型)80とを準備する。下部金型80は、その上面に電極−膜−枠接合体10が配置されるとともに、カソード側弾性部材14となる所定の流路(第5樹脂流路P5)を形成するための凹凸部である下部流路形成面81が形成されている。さらに下部金型80には、成形された樹脂を下部流路形成面81から分離させる棒状の突き上げ部材82が備えられている。上部金型70は、その下面にて電極−膜−枠接合体10の上面を覆うとともに、アノード側弾性部材13となる所定の流路(第4樹脂流路P4)を形成するための凹凸部である上部流路形成面71が形成されている。具体的には、第4樹脂流路P4は、第1凹部11aに相当する部分に形成されており、第5樹脂流路P5は、第2凹部12aに相当する部分に形成されている。さらに、この上部流路形成面71には樹脂注入口である複数のゲート72が形成されており、それぞれのゲート72は、上部金型70の上面に形成された凹部である樹脂導入部73に連通されている。また、上部金型70には、上部金型70と下部金型80とを位置決めした状態で型締めを行う型締め部材84が備えられている。
次に、図7Bに示すように、下部金型80の下部流路形成面81に電極−膜−枠接合体10を載置する。その後、図7Cに示すように、電極−膜−枠接合体10が載置された下部金型80に対して、上部金型70を型締め部材74により型締めを行う。このように型締めが行われた状態において、それぞれの第1凹部11aに相当する位置に第4樹脂流路P4が形成され、それぞれの第2凹部12aに相当する位置に第5樹脂流路P5が形成される。なお、図7Cに示すように、枠体本体部3には、貫通孔3aが形成されており、この貫通孔3aにより第4樹脂流路P4と第5樹脂流路P5とが互いに連通された状態とされている。
次に、図7Dに示すように、金型内に弾性部材を形成するための樹脂材料P’を射出して注入する。具体的には、上部金型70の樹脂導入部73に射出注入された樹脂材料P’が、それぞれのゲート72を通して、第4樹脂流路P4に注入されて、第4樹脂流路P4内に充填される。さらに第4樹脂流路P4内に注入された樹脂材料P’が、貫通孔3aを通して連通されている第5樹脂流路P5へ流れ込み、充填される。
それぞれの樹脂流路P4及びP5内への樹脂材料P’の充填が完了すると、樹脂の硬化が行われる。その後、図7Eに示すように、上部金型70と下部金型80との型締めが解除され、突き上げ部材82により、樹脂流路に相当する位置に弾性部材13、14が形成された電極−膜−枠接合体10が、下部金型80より離脱される。これで射出成型が完了する。
この射出成型が行われた結果、図4に示すように、アノード側弾性部材13及びカソード側弾性部材14が形成された電極−膜−枠接合体10が形成される。
このように製造される本第1実施形態の電極−膜−枠接合体10によれば、以下のような種々の効果を得ることができる。
まず、図3に示すように、枠体本体部3の内縁より交互に突出された第1保持部11と第2保持部12との間において、高分子電解質膜1aの周縁部1dを保持させるような構造が採用されていることにより、射出成型による製造時において、MEA15の周縁部1dを、隣接する第1保持部11間の第1凹部11aに相当する金型の部分である第1支持部51aと、隣接する第2保持部12間の第2凹部12aに相当する金型の部分である第2支持部61aとにより確実に保持して固定させた状態にて、樹脂材料Pの注入を行うことができる。したがって、射出成型時において、高温高圧の樹脂材料の注入による高分子電解質膜1aの浮き上がりやまくれ上がりを確実に防止することができ、その歩留まり率を向上させることができる。
また、MEA15を保持する枠体2を1回の射出成型工程にて製造することができ、さらにその後、弾性部材13、14を形成するための射出成型工程を1回行うことにより、弾性部材13、14を有する電極−膜−枠接合体10を製造することができる。したがって、電極−膜−枠接合体の製造工程における生産性を高めることができる。
また、図4に示すように、電極−膜−枠接合体10におけるそれぞれの第1凹部11a及び第2凹部12aを埋めるようにアノード側弾性部材13及びカソード側弾性部材14が、高分子電解質膜1aの表裏面においてその周縁部1dに沿って交互に配置されていることにより、高分子電解質膜1aの表裏面の連通を確実に封止することができ、クロスリーク現象の発生を抑制することができる。特に、図5Aの模式断面図に示すように、アノード側弾性部材13の配置領域と、カソード側弾性部材14の配置領域との間に、重なり領域Rが存在していることにより、より確実な封止を実現することができる。
また、このような弾性部材13、14は、図4において、第1凹部11a及び第2凹部12aの内側の空間を埋めるように、S1で示される部分に配置されていれば、高分子電解質膜1aの表裏面の連通を封止する効果を得ることができ、クロスリーク現象の発生を効果的に抑制することができる。したがって、本第1実施形態の弾性部材13、14の配置構造は、図4に示す形態に限定されることなく、例えば、図4において、S1にて示される部分、すなわちそれぞれの第1凹部11a及び第2凹部12aの内側空間を埋めるようにアノード側弾性部材13及びカソード側弾性部材14が配置されるような配置構造を採用することもできる。
一方、図4に示す本第1実施形態の弾性部材13、14の配置構造では、それぞれの弾性部材13、14が、枠体本体部3の内縁から、アノード電極1b及びカソード電極1cの端部を覆う位置にまで延在して配置されている。すなわち、図4におけるS1及びS2にて示される部分において弾性部材13、14が配置されている。このような配置構造が採用されていることにより、枠体2の内縁と、アノード電極1b及びカソード電極1cの外縁端部との間に存在する図示D方向の空間を、それぞれの弾性部材13、14により分断して封止することができる。したがって、燃料ガスがアノード電極1bの表面に接触することなく図示D方向の上記空間をショートカットすること、及び酸化剤ガスがカソード電極1cの表面に接触することなく図示D方向の上記空間をショートカットすることを防止することができる。よって、燃料電池における発電効率を向上させることができる。また、それぞれの弾性部材13、14が、枠体本体部3の内縁にまで延在して配置されていることにより、高分子電解質膜1aの外縁端まで確実にそれぞれの弾性部材13、14を接触させた状態とすることができ、上述したようにクロスリーク現象の発生を効果的に抑制することができる。
本第1実施形態の電極−膜−枠接合体10によれば、部分S1において弾性部材13、14によるクロスリーク現象抑制のための封止を行っている。そのため、図4における枠体2の内縁と、アノード電極1b及びカソード電極1cの端部との間の空間、すなわち部分S2は、枠体2と電極1b、1cの製作寸法の誤差等を考慮した範囲において、最小限の寸法に抑えることができる。すなわち、枠体2の内縁と電極1b及び1cの端部との間の距離を近づけることができる。したがって、電極−膜−枠接合体10において、電極1b及び1cを占める面積を効率的に確保することができ、燃料電池のコンパクト化を図りながらその発電効率を向上させることができる。
なお、本第1実施形態の電極−膜−枠接合体10では、図4に示すように、それぞれのアノード側弾性部材13が互いに独立して配置されるとともに、それぞれのカソード側弾性部材14が互いに独立して配置されるような配置構造が採用されているが、本第1実施形態はこのような配置構造にのみ限定されるものではない。このような場合に代えて、例えば、図8の模式斜視図に示す変形例にかかる弾性部材90のように、それぞれのアノード側弾性部材13が枠体2の内縁において互いに連結されて一体的に形成されるような配置構造が採用される場合であってもよい。このような弾性部材90では、枠体2の内縁と電極1b及び1cの端部との間の空間全体を弾性部材により埋めることができるため、燃料ガス等のショートカット抑制効果をさらに高めることができる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態にかかる電極−膜−枠接合体210の構造について、図9及び図10に示す模式斜視図を用いて以下に説明する。なお、本第2実施形態の電極−膜−枠接合体210において、上記第1実施形態の電極−膜−枠接合体10と同じ構成部分には同じ参照番号を付してその説明を省略する。
図9に示すように、本第2実施形態の電極−膜−枠接合体210は、枠体202において第1保持部211及び第2保持部212の形状が略台形状となっており、この点において、上記第1実施形態と異なる構造を有している。
具体的には、図9に示すように、第1保持部211は、その突出先端側(上辺側)が短く、かつ左右対称の台形形状の形成されており、第2保持部212も第1保持部211と同じ形状に形成されている。それぞれの第1保持部211と第2保持部212は均等な間隔ピッチにて配列されており、第1保持部211の配置と第2保持部212の配置とが交互となるように配置されている。隣接する第1保持部211の間には、第1保持部211とは逆向きの台形形状を有する第1凹部211aが配置されており、同様に隣接する第2保持部212の間にも、逆向きの台形形状を有する第2凹部212aが配置されている。
さらに、図10に示すように、それぞれの第1凹部211a及び第2凹部212aの内側の空間を埋めるように、アノード側弾性部材213及びカソード側弾性部材214が配置されている。なお、それぞれのアノード側弾性部材213とカソード側弾性部材214とは、それぞれにおいて一体的に連結して形成されている。
このような本第2実施形態の電極−膜−枠接合体210の構造によれば、図9に示すように、第1保持部211の台形形状211bの斜辺端部と、第2保持部212の台形形状の斜辺端部212bとが、その厚み方向から見た場合に必ず交差させることができる。そのため、第1凹部211aを埋めるように配置されるアノード側弾性部材213の配置領域と、第2凹部212aを埋めるように配置されるカソード側弾性部材214の配置領域との間に、台形形状の斜辺の交差により生じる重なり領域Rが確実に形成される。したがって、それぞれの弾性部材213及び214により、高分子電解質膜1aの周縁部1d沿いに確実な封止を実現することができ、クロスリーク現象抑制効果を確実に発揮することができる。特に、このような台形形状の構造による重なり領域Rを確保するという手法によれば、製作誤差などにより枠体202の製作寸法に多少の位置ずれが生じるような場合であっても、重なり領域Rを確実に形成することができるという利点がある。
このような台形形状の構造の寸法例としては、図11に示すように、保持部211及び212の短辺側の幅寸法Wが、実用上1mm以上15mm以内とすることが好ましい。この幅寸法Wが狭すぎると成型品にて樹脂材料の充填不良が生じやすく、また、金型加工にてコスト上昇が生じることになるからである。逆に幅寸法Wが広すぎると、弾性部材213、214による高分子電解質膜1aの押さえ効果、すなわち封止効果が低くなるからである。
また、保持部211及び212の奥行き寸法Lは、実用上1mm以上8mm以内とすることが好ましい。奥行き寸法Lが狭すぎると高分子電解質膜1aの押さえ効果が低くなり、逆に広すぎると高分子電解質膜1aの周縁部1dにおいて無駄な面積が増えることになるからである。
上記それぞれの実施形態では、第1保持部及び第2保持部の平面形状が方形あるいは台形状であるような場合について説明したが、その他様々な形状を採用することができる。例えば、図12の模式図に示すように、第1保持部311及び第2保持部312を大略円形状の突起部分として形成し、その間を埋めるように配置される弾性部材313と第1保持部311とを高分子電解質膜1aの表面沿いの方向において互いに係合させるような構造とすることができる。また、図13の模式図に示すように、第1保持部411及び第2保持部412を略三角形状の突起部分として形成することにより、上記第2実施形態の台形形状と略類似した効果を得ることもできる。このような保持部の平面的な形状としては、その他半円形状や多角形形状など様々な形状を採用することができる。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態にかかる電極−膜−枠接合体510の構造について、図17及び図18に示す模式斜視図を用いて以下に説明する。なお、本第3実施形態の電極−膜−枠接合体510において、上記第1実施形態の電極−膜−枠接合体10と同じ構成部分には同じ参照番号を付してその説明を省略する。
図17に示すように、本第3実施形態の電極−膜−枠接合体510は、枠体502において第1保持部511及び第2保持部512の形状が、平面視大略T字形状のいわゆるハンマーヘッド形状を有しており、この点において、上記第1および第2実施形態と異なる構造を有している。
具体的には、図17に示すように、第1保持部511は、枠体502の中央側への突出先端部分として形成され、かつ高分子電解質膜1aの周縁部1d沿いの方向をその長手方向とする略直方体形状に形成された突出先端部551と、高分子電解質膜1aの周縁部1d沿いの方向における突出先端部551の幅寸法W1よりも、小さな幅寸法W2を有し、突出先端部551を枠体本体部503に連結する連結部552とにより構成された左右対称形状を有している。また、第2保持部512も、第1保持部511と同じ形状に形成されている。それぞれの第1保持部511と第2保持部512は均等な間隔ピッチにて配列されており、第1保持部511の配置と、第2保持部512の配置とが交互となるように配置されている。
また、図17に示すように、隣接する第1保持部511の間には、第1保持部511とは逆向きの大略T字形状を有する第1凹部511aが配置されており、同様に隣接する第2保持部512の間にも、逆向きの大略T字形状を有する第2凹部512aが配置されている。
さらに、図18に示すように、それぞれの第1凹部511a及び第2凹部512aの内側の空間を埋めるように、アノード側弾性部材513およびカソード側弾性部材514が配置されている。なお、それぞれのアノード側弾性部材513とカソード側弾性部材514とは、それぞれにおいて一体的に連結して形成されている。
ここで、図18の電極−膜−枠接合体510におけるB−B線断面図を図19Aに示し、C−C線断面図を図19Bに示す。すなわち、図19Aは、第1保持部511の突出先端部551の形成位置に相当する断面を示す図であり、図19Bは、第1保持部511の連結部552の形成位置に相当する断面を示す図である。
図19A及び図19Bに示すように、第1保持部511の突出先端部551の幅寸法(突出先端側の幅)W1は、連結部552の幅寸法(枠体本体部側の幅)W2よりも大きい。第2保持部512の突出先端部561と連結部562の幅寸法についても同様な関係にある。また、図19Aに示すように、第1保持部511の突出先端部551の端部と、第2保持部512の突出先端部561の端部とは、互いに略一致するように、それぞれの突出先端部551及び561が交互に配置されている。また、図19Bに示すように、第1保持部511のそれぞれの連結部552の間に位置される第1凹部511a内に配置されたアノード側弾性部材513と、第2保持部512のそれぞれの連結部562の間に位置される第2凹部512a内に配置されたカソード側弾性部材514とは、互いにオーバーラップされた重なり領域Rを有している。
このような配置構成が採用されていることにより、高分子電解質膜1aの周縁部1dにおいて、外端縁近傍にて弾性部材513及び514を配置させる面積を大きく確保することができる。したがって、高分子電解質膜1aの表裏面の連通を封止する効果を高めることができ、クロスリーク現象の発生を効果的に抑制することができる。
また、電極−膜−枠接合体510の製造工程において、枠体502を成型する際に、高分子電解質膜1aの周縁部1dを、金型により押さえて保持する領域を、大きく確保することができる。したがって、枠体502の成型時に高分子電解質膜1aの周縁部1dが浮き上がる、あるいは、まくれ上がることを、さらに確実に防止することができる。このような観点からは、本第3実施形態の構造は、特に、高分子電解質膜1aが強度的に弱い仕様を有している場合などに有効である。
また、図18に示すように、本第3実施形態の構造では、高分子電解質膜1aの周縁部1dの外端面と枠体本体部503の内縁との間に、隙間Sが設けられている。この隙間Sは、例えば0.4mm程度に設定されている。このように隙間Sを設けることで、枠体502を成型する際に、高分子電解質膜1aの周縁部1dの外端面が、高温にて流動する樹脂に接触することを防止することができる。特に、このような高分子電解質膜1aの外端面部分は、高温や高圧環境において、損傷を受けやすい部分でもあるため、枠体502の成型時に高分子電解質膜1aが浮き上がる、あるいはまくれ上がるなどして変形することを抑制する効果を高めることができる。また、このような隙間Sを設ける構成は、本第3実施形態のみに限られず、上記それぞれの実施形態の構造にも適用することができる。
なお、本第3実施形態の電極−膜−枠接合体510の構造において、第1保持部511の突出先端部551及び第2保持部512の突出先端部561の幅寸法W1は、例えば、1mm以上、15mm以内の範囲とすることが好ましい。この幅寸法W1が狭すぎると成型品にて樹脂材料の充填不良が生じやすく、また、金型加工にてコスト上昇が生じることになるからである。逆に幅寸法W1が広すぎると、弾性部材513、514による高分子電解質膜1aの押さえ効果、すなわち封止効果が低くなるからである。
また、保持部511及び512の奥行き寸法Dは、実用上1mm以上8mm以内とすることが好ましい。奥行き寸法D1が狭すぎると高分子電解質膜1aの押さえ効果が低くなり、逆に広すぎると高分子電解質膜1aの周縁部1dにおいて無駄な面積が増えることになるからである。
また、第1保持部511の連結部552及び第2保持部512の連結部562の幅寸法W2は、例えば、1mm以上、10mm以内の範囲とすることが好ましい。幅寸法W2が広すぎると、弾性部材513、514による高分子電解質膜1aの押さえ効果、すなわち封止効果が低くなるからである。幅寸法W2が狭すぎると成型品にて樹脂材料の充填不良が生じやすくなる場合があるからである。
また、第1保持部511の突出先端部551及び第2保持部512の突出先端部561における枠体502の内外縁方向沿いの幅寸法W3は、例えば1mm以上、5mm以下の範囲とすることが好ましい。幅寸法W3が広すぎると、弾性部材513、514による高分子電解質膜1aの押さえ効果、すなわち封止効果が低くなるからである。幅寸法W3が狭すぎると成型品にて樹脂材料の充填不良が生じやすくなる場合があるからである。
本第3実施形態では、枠体502の内外縁沿いの方向(すなわち、高分子電解質膜1aの周縁部1dに直交する方向)において、内縁側の幅寸法が外縁側の幅寸法よりも大きな形態を有する大略T字形状に形成された保持部511および512を備える電極−膜−枠接合体510について、一例として説明したが、本第3実施形態の構造は、このような構造についてのみ限られるものではない。
このような場合に代えて、例えば、図20および図21に示す電極−膜−枠接合体610ように、その長辺側が枠体の中心側に配置されるような略台形状の保持部を備える構造を採用することもできる。
具体的には、図20に示すように、第1保持部611は、その突出先端側が長く、かつ左右対称の台形形状の形成されており、第2保持部612も第1保持部611と同じ形状に形成されている。それぞれの第1保持部611と第2保持部612は均等な間隔ピッチにて配列されており、第1保持部611の配置と第2保持部612の配置とが交互となるように配置されている。隣接する第1保持部611の間には、第1保持部611とは逆向きの台形形状を有する第1凹部611aが配置されており、同様に隣接する第2保持部612の間にも、逆向きの台形形状を有する第2凹部612aが配置されている。
さらに、図20に示すように、それぞれの第1凹部611a及び第2凹部612aの内側の空間を埋めるように、アノード側弾性部材613及びカソード側弾性部材614が配置されている。なお、それぞれのアノード側弾性部材613とカソード側弾性部材614とは、それぞれにおいて一体的に連結して形成されている。
このような本第3実施形態の変形例にかかる電極−膜−枠接合体610の構造によれば、上述した電極−膜−枠接合体510と略同様な効果を得ることができる。電極−膜−枠接合体510に比べて、変形例にかかる電極−膜−枠接合体610の構造では、それぞれの保持部611および612への樹脂の流動性がわずかに良好となるが、金型の加工性の点では、電極−膜−枠接合体510の方が良好となる。したがって、使用される樹脂材料の仕様や金型の加工性などを考慮して、いずれの構造を採用するか決めることが好ましい。
また、上記それぞれの実施形態における保持部の端部には、枠体の厚み方向に傾斜面が設けられた構造を採用することもできる。傾斜面の向きにより保持部と弾性部材との厚み方向の係合性を向上させることができる。
また、上記それぞれの実施形態では、それぞれの第1保持部が同じ間隔ピッチで配置され、それぞれの第2保持部も同じ間隔ピッチで配置されるような場合について説明しているが、それぞれの第1保持部の配置間隔が一定でないような場合であってもよい。ただし、このような場合であっても、アノード側弾性部材の配置領域とカソード側弾性部材の配置領域との間の重なり領域Rが形成される程度に、第1保持部の配置に対して交互配置となるように第2保持部の配置が決定されることが好ましい。
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
本発明は、添付図面を参照しながら好ましい実施形態に関連して充分に記載されているが、この技術の熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した請求の範囲による本発明の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。
2007年10月12日に出願された日本国特許出願No.2007−266566号の明細書、図面、及び特許請求の範囲の開示内容は、全体として参照されて本明細書の中に取り入れられるものである。
本発明は、固体高分子電解質型燃料電池に関し、特に、燃料電池の電極−膜−枠接合体の構造およびその製造方法に関する。
固体高分子電解質型燃料電池(以下、「PEFC」という場合もある。)は、水素を含有する燃料ガスと空気など酸素を含有する酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、電力と熱を同時に発生させる装置である。
固体高分子電解質型燃料電池の最も代表的なものは、周縁部にガスをシールするためのガスケットを配した枠体で支持された高分子電解質膜と、この電解質膜の一方の面にアノードが接合されかつ電解質膜の他方の面にカソードが接合されて構成される膜電極接合体(MEA)と、MEAを挟むアノード側導電性セパレータ板及びカソード側導電性セパレータ板から構成され、アノード及びカソードにそれぞれ燃料ガス及び酸化剤ガスを供給するガス供給部が、セパレータ板の内のMEAと当接する中央部の周縁に形成されている。
このような従来の固体高分子電解質型燃料電池の構成としては、例えば特許文献1に開示されている。具体的には、図14に示すように、MEAの周縁部が枠体300の内部にて支持されたMEA303を、それぞれのセパレータ301にて挟み込むような構成が開示されている。
また、このようなMEAは枠体の厚みのほぼ中央に組み込まれており、その接合方法として接着剤や機械的クランプなどが採用されている。
特開2005−100970号公報
国際公開第2006/040994号パンフレット
しかしながら、高分子電解質膜の接着剤による接合方法では、高分子電解質膜に接着剤の揮発成分による性能低下を招く可能性があり、適用できる条件が限られる。また、機械的クランプによる接合方法では、高分子電解質膜と枠体の微小な隙間からクロスリークが発生し易いという問題が発生する。ここで、クロスリーク現象とは、図14において、枠体300の内縁と電極302との間に生じる僅かな隙間を、電池内に供給されたガスの一部が通ってアノード側又はカソード側の一方から他方へとガスがリークしてしまうという現象である。燃料電池における発電効率を向上させるためには、このようなクロスリークを低減する必要がある。
このようなクロスリーク現象の発生を抑制するための1つの方法として、MEAの周縁部が枠体内部に配置されるように、枠体を射出成型により形成するという方法が考えられる。このような方法によれば、枠体とMEAの周縁部との密着性を向上させて、クロスリークを低減させることが可能となる。このような方法は、例えば、特許文献2においても開示されている。
具体的には、図15Aに示すように、予め射出成型等により枠状に形成された第1の枠部材311を準備する。次に、図15Bに示すように、アノードとカソードが電解質膜313の両面に配置された電極314の周縁部、すなわち電解質膜313の周縁部313aを、第1の枠部材311上に位置決めして配置する。その後、図15Cに示すように、電解質膜313の周縁部313aが配置された状態の第1の枠部材311の上面に、射出成型により樹脂材料を注入して第2の枠部材312を形成する。このように射出成型により第2の枠部材312を第1の枠部材311と一体的に接合して形成することにより、その間に挟まれた状態の電解質膜313の周縁部313aを、より密着させた状態で保持することができる。
しかしながら、このような射出成型による形成方法では、次のような問題がある。図16Aに示すように、第2の枠部材312の射出成型による形成時において、高温高圧の樹脂材料Pが金型(図示せず)内に注入されると、第1の枠部材311の上面に配置されている電解質膜313の周縁部313aが、樹脂材料Pの流動抵抗により樹脂材料中に浮き上がって、第1の枠部材311の上面からめくれ上がった状態となる場合がある。このような状態において樹脂材料Pが硬化されると、図16Bに示すように、電解質膜313の周縁部313aが第2の枠部材312の内部において完全に浮き上がった状態にて電極314の保持が行われることになる。
このような場合にあっては、枠体310により電極314の保持を十分に行えないような場合や、電解質膜313を損傷させるような場合などが生じ得、クロスリークを十分に低減できない。特に、MEAは比較的高価な部材であり、燃料電池製造において高い歩留まり(生産性)を実現することが望まれる。また、このような燃料電池製造における生産性の向上とともに、燃料電池における発電効率等の性能を向上することも求められ続けている。
従って、本発明の第1の目的は、上記問題を解決することにあって、固体高分子電解質型燃料電池の電極−膜−枠接合体において、高分子電解質膜と枠体との間のクロスリーク現象を効果的に抑制するとともに、その製造において高い歩留まりを実現することができる燃料電池用の電極−膜−枠接合体及びその製造方法、並びに電極−膜−枠接合体を備えた高分子電解質型燃料電池を提供することにある。
さらに、本発明の第2の目的は、固体高分子電解質型燃料電池において、その発電効率等の性能を向上させることができる燃料電池用の電極−膜−枠接合体及びその製造方法、並びに電極−膜−枠接合体を備えた高分子電解質型燃料電池を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
本発明の第1態様によれば、高分子電解質膜と、上記高分子電解質膜の周縁部より内側の両表面に配置された一対の電極層とを有する膜電極接合体と、
上記膜電極接合体の周縁部を保持する樹脂により形成された枠体と、
上記膜電極接合体の周縁部において、上記膜電極接合体の表裏面間の連通を封止する弾性部材とを備え、
上記枠体は、
上記高分子電解質膜の周縁部に沿って配置された枠体本体部と、
上記枠体本体部の内縁より枠体中央側に向けて突出しかつ上記内縁沿いに配列され、上記高分子電解質膜の表面側を保持する複数の第1保持部と、
上記枠体本体部の内縁より枠体中央側に向けて突出しかつ上記内縁沿いに配列され、上記高分子電解質膜の裏面側を保持する複数の第2保持部とを備え、
上記第1保持部による上記高分子電解質膜のそれぞれの保持位置と、上記第2保持部による上記高分子電解質膜のそれぞれの保持位置が、上記高分子電解質膜の周縁部に沿って交互に配置されるように、上記それぞれの第1保持部及び第2保持部が配列され、
上記弾性部材は、隣接するそれぞれの上記第1保持部の間における上記高分子電解質膜の表面上に配置された複数の表面側弾性部材と、隣接するそれぞれの上記第2保持部の間における上記高分子電解質膜の裏面上に配置された複数の裏面側弾性部材とを備える、高分子電解質型燃料電池用の電極−膜−枠接合体を提供する。
本発明の第2態様によれば、それぞれの上記表面側弾性部材及び裏面側弾性部材は、上記枠体のセパレータ側表面よりも隆起して形成されている、第1態様に記載の高分子電解質型燃料電池用の電極−膜−枠接合体を提供する。
本発明の第3態様によれば、それぞれの上記表面側弾性部材及び裏面側弾性部材が、上記高分子電解質膜の表面及び裏面において、上記枠体本体部の内縁から上記電極層の外縁に接する位置にまで延在して配置されている、第1態様に記載の高分子電解質型燃料電池用の電極−膜−枠接合体を提供する。
本発明の第4態様によれば、隣接するそれぞれの表面側弾性部材が互いに連結されて形成され、隣接するそれぞれの裏面側弾性部材が互いに連結されて形成されている、第3態様に記載の高分子電解質型燃料電池用の電極−膜−枠接合体を提供する。
本発明の第5態様によれば、上記第1保持部に対向して配置された一の上記裏面側弾性部材と、上記一の裏面側弾性部材に隣接する上記第2保持部に対向して配置された一の上記表面側弾性部材とが、上記高分子電解質膜の周縁部沿いにおいて、上記高分子電解質膜上への互いの配置領域の一部に重なり領域を有している、第1態様に記載の高分子電解質型燃料電池用の電極−膜−枠接合体を提供する。
本発明の第6態様によれば、上記第1保持部および第2保持部は、上記枠体本体部側の幅よりも、枠体中央側への突出先端側の幅が大きく形成されている、第1態様に記載の高分子電解質型燃料電池用の電極−膜−枠接合体を提供する。
本発明の第7態様によれば、上記枠体本体部の内縁と、上記高分子電解質膜の周縁部の端面との間に、隙間が設けられている、第1態様に記載の高分子電解質型燃料電池用の電極−膜−枠接合体を提供する。
本発明の第8態様によれば、第1態様から第7態様のいずれか1つに記載の電極−膜−枠接合体と、上記電極−膜−枠接合体を挟むように配置された一対のセパレータとを有する単電池モジュールを、1又は複数積層して備える、高分子電解質型燃料電池を提供する。
本発明の第9態様によれば、膜電極接合体の周縁部に沿って配置された複数の第1支持部にて上記膜電極接合体をその表面側から支持し、上記周縁部沿いにおいて上記複数の第1支持部と交互に配置され、かつ上記膜電極接合体の周縁部に沿って配置された複数の第2支持部にて上記膜電極接合体をその裏面側から支持するように、射出成型用金型内に上記膜電極接合体を配置して、上記膜電極接合体の周縁部に沿って枠状に配置された枠状流路と、上記枠状流路と連通されかつ隣接するそれぞれの上記第1支持部の間にて上記膜電極接合体の周縁部における表面と接して配置された第1流路と、上記枠状流路と連通されかつ隣接するそれぞれの上記第2支持部の間にて上記膜電極接合体の周縁部における裏面と接して配置された第2流路とを形成し、
それぞれの上記第1支持部及び第2支持部により上記膜電極接合体の周縁部を保持した状態にて、それぞれの上記流路内に樹脂を注入して充填し、
上記充填された樹脂を硬化させることにより、上記枠状流路にて形成された枠体本体部と、上記第1流路にて上記枠体本体部の内縁より枠体中央側に向けて突出しかつ上記内縁沿いに配列され、上記膜電極接合体の表面側を保持する複数の第1保持部と、上記第2流路にて上記枠体本体部の内縁より枠体中央側に向けて突出しかつ上記内縁沿いに配列され、上記膜電極接合体の裏面側を保持する複数の第2保持部とを備える枠体を形成し、
隣接するそれぞれの上記第1保持部の間における上記膜電極接合体の表面上に配置された複数の表面側弾性部材と、隣接するそれぞれの上記第2保持部の間における上記膜電極接合体の裏面上に配置された複数の裏面側弾性部材とを形成する、高分子電解質型燃料電池用の電極−膜−枠接合体の製造方法を提供する。
本発明によれば、膜電極接合体における高分子電解質膜の周縁部を樹脂材料により形成される枠体により保持させる構成において、枠体本体部の内縁より枠体中央側に向けて突出しかつ内縁沿いに配列され、高分子電解質膜の表面側を保持する複数の第1保持部と、同様な構成にて高分子電解質膜の裏面側を保持する複数の第2保持部とにより枠体を構成する。さらに、枠体において、第1保持部による高分子電解質膜のそれぞれの保持位置と、第2保持部による高分子電解質膜の保持位置が、高分子電解質膜の周縁部に沿って交互に配置されるように、それぞれの第1保持部及び第2保持部が形成されている。このような構成が採用されていることにより、樹脂を用いて、枠体を射出成型により形成する際に、高分子電解質膜の表面側と裏面側にて交互に配置されたそれぞれの保持部の間にて、金型により高分子電解質膜をその表裏面より確実に保持した状態にて樹脂を注入して、枠体を形成することができる。よって、射出成型時に高分子電解質膜の浮き上がり等の不良が生じることがなく、クロスリーク現象を効果的に抑制することができる。さらに、このような枠体の射出成型による形成は、一工程にて行うことが可能となるため、その生産性を向上させることができる。
また、このように高分子電解質膜の表裏面にて交互に配置されたそれぞれの保持部の間における高分子電解質膜の表面および裏面上に、枠体よりも弾性力の高い弾性部材を配置させることにより、弾性部材が高分子電解質膜の表面に接して両者の間を封止することができる部分を確保することができ、枠体と高分子電解質膜との間の封止効果を高めることができ、クロスリーク現象の発生をさらに効果的に抑制することができる。また、このような弾性部材をそれぞれの保持部の間に配置させることで、保持部の先端と電極層の外縁との距離を少なくすることができる。したがって、枠体外形をコンパクトにしながら、発電処理に寄与する電極層の面積を効率的に確保することができ、燃料電池における発電効率を向上させることができる。
本発明の記述を続ける前に、添付図面において同じ部品については同じ参照符号を付している。
以下に、本発明にかかる実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態にかかる燃料電池用スタックを備える高分子電解質型燃料電池(PEFC)の概略構成を示す模式構成図を図1に示す。また、図1に示す燃料電池101が備える燃料電池用スタック(以降、スタックという。)の模式分解図を図2に示す。
燃料電池101は、例えば水素を含有する燃料ガスと、空気など酸素を含有する酸化剤ガスとを、電気化学的に反応させることで、電力、熱、及び水を同時に発生させるものである。図1に示すように、燃料電池101には、アノード及びカソードの一対の極を備える燃料電池セル(あるいは単セル又は単電池モジュール)が複数個直列に接続された積層構造を有するスタック30と、燃料ガスから水素を取り出す燃料処理器31と、燃料処理器31にて取り出された水素を含む燃料ガスを加湿することで発電効率を向上させるアノード加湿器32と、酸素含有ガス(酸化剤ガス)に対しての加湿を行うカソード加湿器33と、燃料ガスと酸素含有ガスとをそれぞれ供給するためのポンプ34、35とが備えられている。すなわち、燃料処理器31、アノード加湿器32、及びポンプ34により燃料ガスをスタック30の各セルに供給する燃料供給装置が構成されており、また、カソード加湿器33とポンプ35とにより酸化剤ガスをスタック30の各セルに供給する酸化剤供給装置が構成されている。なお、このような燃料供給装置や酸化剤供給装置は、燃料や酸化剤の供給を行う機能を備えていればその他様々な形態を採用し得るが、本実施形態においては、スタック30が備える複数のセルに対して、共通して燃料や酸化剤を供給する供給装置であれば、後述する本実施形態の効果を好適に得ることができる。
また、燃料電池101には、発電の際にスタック30にて発生される熱を効率的に除去するための冷却水を循環供給するためのポンプ36と、この冷却水(例えば、導電性を有さない液体、例えば純水が用いられる。)により除去された熱を、水道水等の流体に熱交換するための熱交換器37と、熱交換された水道水を貯留させる貯湯タンク38とが備えられている。さらに、燃料電池101には、このようなそれぞれの構成部を互いに関連付けて発電のための運転制御を行う運転制御装置40と、スタック30にて発電された電気を取り出す電気出力部41とが備えられている。
また、図2に示すように、この燃料電池101が備えるスタック30は、基本単位構成である単セル(単電池モジュール)20を複数個積層し、集電板21、絶縁板22、端板23で両側から所定の荷重で締結して構成されている。それぞれの集電板21には、電流取り出し端子部21aが設けられており、発電時にここから電流、すなわち電気が取り出される。それぞれの絶縁板22は、集電板21と端板23の間を絶縁するとともに、図示しないガスや冷却水の導入口、排出口が設けられている場合もある。それぞれの端板23は、複数枚積層された単セル20と集電板21、絶縁板22を図示しない加圧手段によって所定の荷重で締結し、保持している。
図2に示すように、単セル20は、MEA(膜電極接合体)15を一対のセパレータ5b,5cで挟み込むようにして構成されている。MEA15は、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜部材の一例である高分子電解質膜1aのアノード面側に、白金−ルテニウム合金触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒層(アノード側触媒層)112を形成し、カソード面側には、白金触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒層(カソード側触媒層)113を形成し、これらの触媒層112及び113の外面に、燃料ガスあるいは酸化剤ガスの通気性と、電子導電性を併せ持つガス拡散層114を配置して構成されたものである。高分子電解質膜1aは、プロトン導電性を示す固体高分子材料、例えば、パーフルオロスルホン酸膜(デュポン社製ナフィオン膜)が一般に使用される。なお、以下では、アノード側触媒層112とガス拡散層114とを合わせてアノード電極(アノード電極層)1bと呼び、カソード側触媒層113とガス拡散層114とを合わせてカソード電極(カソード電極層)1cと呼ぶものとする。
セパレータ5b、5cは、ガス不透過性の導電性材料であれば良く、例えば樹脂含浸カーボン材料を所定の形状に切削したもの、カーボン粉末と樹脂材料の混合物を成形したものが一般的に用いられる。セパレータ5b、5cにおけるMEA15と接触する部分には凹状の溝部が形成されており、この溝部がガス拡散層114と接することで、電極面に燃料ガスあるいは酸化剤ガスを供給し、余剰ガスを運び去るためのガス流路が形成される。ガス拡散層114は、その基材として一般的に炭素繊維で構成されたものを用いあることができ、このような基材としては例えば炭素繊維織布を用いることができる。
ここでこのような単セル20のMEA15の端部近傍における模式部分斜視図を図3に拡大して示す。
図3に示すように、MEA15は、高分子電解質膜1aの片方の面にアノード電極1bが接合され、高分子電解質膜1aの他方の面にカソード電極1cが接合されて形成されている。また、高分子電解質膜1aはアノード電極1b及びカソード電極1cよりも一回大きく形成されており、アノード電極1bとカソード電極1cの間から高分子電解質膜1aの周縁部1dが露出されている。MEA15の高分子電解質膜1aの周縁部1dは、熱可塑性樹脂により形成された枠体2により保持されている。このように枠体2によりMEA15が保持された一体的な構造が、電極−膜−枠接合体10となっている。
図3に示すように、枠体2は、高分子電解質膜1aの周縁部1dに沿って配置された枠体本体部3と、この枠体本体部3の内縁より枠体中央側(すなわちMEA15の中央側)に向けて突出しかつ内縁沿いに配列して形成され、高分子電解質膜1aのアノード側(すなわち、図示表面側)を保持する複数の第1保持部11と、この枠体本体部3の内縁より枠体中央側(すなわちMEA15の中央側)に向けて突出しかつ内縁沿いに配列して形成され、高分子電解質膜1aのカソード側(すなわち、図示裏面側)を保持する複数の第2保持部12とを備えている。また、第1保持部11による高分子電解質膜1aのそれぞれの保持位置と、第2保持部12による高分子電解質膜1aのそれぞれの保持位置とは、高分子電解質膜1aの周縁部1dに沿いに交互に配置されるように、それぞれの第1保持部11及び第2保持部12が形成されている。すなわち、枠体本体部3の内縁におけるカソード側には、略方形状の突起部である第1保持部11が、例えば一定の間隔ピッチにて形成されて、内縁に沿って連続する凹凸構造が形成されており、同様に枠体本体部3の内縁におけるアノード側には、略方形状の突起部である第2保持部12が、例えば上記一定の間隔ピッチと同じ間隔ピッチにて形成されて、内縁に沿って連続する凹凸構造が形成されている。また、第1保持部11による凹凸構造と第2保持部12による凹凸構造は、その凹凸の位置がアノード側とカソード側にて交互となるように配置されている。すなわち、隣接する第1保持部11の間の第1凹部11aが形成されている位置と、第2保持部12の形成位置とは、高分子電解質膜1aの周縁部1dを介して互いに対向して配置されている。同様に、隣接する第2保持部12の間の第2凹部12aが形成されている位置と、第1保持部11の形成位置とは、高分子電解質膜1aの周縁部1dを介して互いに対向して配置されている。なお、高分子電解質膜1aの周縁部1dの端部は、枠体本体部3の内縁に接するようにそれぞれの第1保持部11と第2保持部12との間に配置された状態で保持されている。
次に、このような構造を有する電極−膜−枠接合体10に、さらにクロスリーク現象の発生を抑制するための弾性部材が備えられた状態の模式部分斜視図を図4に示す。
図4に示すように、枠体2のそれぞれの第1凹部11aにおける高分子電解質膜1a上には、第1凹部11aの内側空間を埋めるように弾性材料により形成されたアノード側弾性部材(表面側弾性部材)13が配置されている。また、それぞれの第2凹部12aにおける高分子電解質膜1a上には、第2凹部12aの内側空間を埋めるように弾性材料により形成されたカソード側弾性部材(裏面側弾性部材)14(図5A参照)が配置されている。それぞれのアノード側弾性部材13は、第1凹部11aの内側空間を埋めるとともに、枠体中央側に向かって高分子電解質膜1a上に延在して、アノード電極1bの外縁端面を覆うように配置されている。図4においては図示を省略しているが、それぞれのカソード側弾性部材14は、第2凹部12aの内側空間を埋めるとともに、枠体中央側に向かって高分子電解質膜1a上に延在して、カソード電極1cの外縁端面を覆うように配置されている。また、それぞれのアノード側弾性部材13は略直方体形状に形成されており、その平坦な上面が、第1保持部11の上面よりも上方に隆起するように形成されている。それぞれのカソード側弾性部材14も同様に、その上面(図4においては下面)が第2保持部12よりも隆起して形成されている。
ここで、図4の電極−膜−枠接合体10におけるA−A線断面図を図5Aに示す。図5Aに示すように、それぞれの第1保持部11と第2保持部12は、高分子電解質膜1aを挟んで交互に配列されており、同様に、それぞれのアノード側弾性部材13とカソード側弾性部材14は、高分子電解質膜1aを挟んで交互に配列されている。また、図5Aに示すように、第1保持部11に対向して配置された1つのカソード側弾性部材14と、この1つのカソード側弾性部材14に隣接する第2保持部12に対向して配置された1つのアノード側弾性部材13とが、それぞれの高分子電解質膜1a上への配置領域の一部に重なり領域Rを有している。すなわち、高分子電解質膜1aの周縁部1d沿いにおいて、アノード側弾性部材13とカソード側弾性部材14とのそれぞれの配置領域が、その一部においてオーバーラップするように、高分子電解質膜1aの表裏面にそれぞれの弾性部材13、14が配置されている。
なお、本第1実施形態においては、図5Aに示すように、アノード側弾性部材13とカソード側弾性部材14の互いの配置領域の一部に、重なり領域Rが生じるような場合について説明するが、本実施形態はこのような場合についてのみ限定されるものではない。このような場合に代えて、例えば、図5Bの模式断面図に示すように、それぞれの弾性部材13、14の配置領域に重なり領域Rを有さず、アノード側弾性部材13の端部位置と、カソード側弾性部材14の端部位置とが一致するような配置構成が採用されるような場合であってもよい。
このような弾性部材13、14の配置構成が採用されることにより、高分子電解質膜1aの周縁部1dに沿って、その表裏面のいずれかの面にて弾性部材13若しくは14により、高分子電解質膜1aの周縁部1dにおけるその表裏面間の連通を封止することができるため、クロスリーク現象の発生を効果的に抑制することができる。特に、図5Aに示すように、弾性部材13、14の配置領域の重なり領域Rを形成することにより、弾性部材13、14の配置位置に製造時における位置ずれが生じるような場合であっても、この位置ずれを重なり領域Rにて吸収して、その影響による封止漏れ箇所が生じないようにすることができ、より確実な封止を実現することができる。
なお、枠体2、すなわち枠体本体部3、第1保持部11、及び第2保持部12の具体的な材料の例としては、株式会社プライムポリマーのR−250G又は350Gであり、セパレータの具体的な材料の例としては、外寸120mm×120mm、厚み3.0mmの樹脂含浸黒鉛板(東海カーボン(株)製グラッシーカーボン)が挙げられる。
次に、このような構成を有する電極−膜−枠接合体10を射出成型により形成する方法について、図6A〜図6Eに示す模式説明図を用いて説明する。
まず、図6Aに示すように、MEA15が配置される上部金型(第1金型)50と下部金型(第2金型)60とを準備する。下部金型60は、その上面にMEA15が配置されるとともに、枠体2となる所定の流路を形成するための凹凸部である下部流路形成面61が形成されている。さらに下部金型60には、成形された樹脂とともにMEA15を下部流路形成面61から分離させる棒状の突き上げ部材62が備えられている。上部金型50は、その下面にてMEA15の上面を覆うとともに、枠体2となる所定の流路を形成するための凹凸部である上部流路形成面51が形成されている。なお、下部流路形成面61には、MEA15の周縁部1dをその下方側から受けるように支持する複数の第2支持部61a(下部金型60の一部)が形成されており、上部流路形成面51には、MEA15の周縁部1dをその上方側から押さえるように支持する複数の第1支持部51a(上部金型50の一部)が形成されている。それぞれの第1支持部51aは、その後の射出成型により形成される枠体2において第1凹部11aを形成する部分に相当し、第2支持部61aは、第2凹部12aを形成する部分に相当する。すなわち、それぞれの第1支持部51aと第2支持部61aは、その形成位置が交互になるように配置されている。さらに、この上部流路形成面51には樹脂注入口である複数のゲート52が形成されており、それぞれのゲート52は、上部金型50の上面に形成された凹部である樹脂導入部53に連通されている。また、上部金型50には、上部金型50と下部金型60とを位置決めした状態で型締めを行う型締め部材54が備えられている。
次に、図6Bに示すように、下部金型60の下部流路形成面61にMEA15を載置して、それぞれの第2支持部61aによりMEA15の周縁部1dが支持された状態とする。その後、図6Cに示すように、MEA15が載置された下部金型60に対して、上部金型50を型締め部材54により型締めを行う。このように型締めが行われた状態において、MEA15の周縁部1dが、それぞれの第1支持部51aと第2支持部61aによりその表裏面から支持されて保持された状態とされる。さらに、MEA15の周囲には、枠体本体部3となる第3樹脂流路(枠状流路)P3と、この第3樹脂流路P3の内縁と連通され、かつそれぞれの第1支持部51aの間に形成されて周縁部1dの表面と接する第1樹脂流路(第1流路)P1と、この第3樹脂流路P3の内縁と連通され、かつそれぞれの第2支持部61aの間に形成されて周縁部1dの裏面と接する第2樹脂流路(第2流路)P2とが形成される。なお、第1樹脂流路P1は、枠体2における第1保持部11に相当する部分であり、第2樹脂流路P2は、枠体2における第2保持部12に相当する部分である。
次に、図6Dに示すように、金型内に樹脂材料Pを射出して注入する。具体的には、上部金型50の樹脂導入部53に射出注入された樹脂材料Pが、それぞれのゲート52を通して、第3樹脂流路P3に注入されて、第3樹脂流路P3内に充填される。さらに第3樹脂流路P3内に注入された樹脂材料Pが、連通されている第1樹脂流路P1及び第2樹脂流路P2へ流れ込み、充填される。この射出成型においては、樹脂材料Pが高温高圧の状態で第1から第3樹脂流路P1、P2、P3内に注入されることになるが、樹脂流路内において高分子電解質膜1aの周縁部1dは、それぞれの第1支持部51a及び第2支持部61aによりその表裏面側から保持されて固定された状態とされているため、高分子電解質膜1aの周縁部1dが浮き上がる、あるいは、まくれ上がることを確実に防止することができる。
それぞれの樹脂流路P1〜P3内への樹脂材料Pの充填が完了すると、樹脂の硬化が行われる。その後、図6Eに示すように、上部金型50と下部金型60との型締めが解除され、突き上げ部材62により、樹脂流路に相当する位置に枠体2が形成されたMEA15が、下部金型60より離脱される。これで射出成型が完了する。
この射出成型が行われた結果、図3に示すように、電解質膜1aの周縁部1dが第1保持部11と第2保持部12によりその表裏面より保持された枠体2が形成される。
次に、このように形成された電極−膜−枠接合体10において、射出成型により弾性部材13、14を形成する。具体的には、図7Aに示すように、電極−膜−枠接合体10が配置される上部金型70と下部金型(第2金型)80とを準備する。下部金型80は、その上面に電極−膜−枠接合体10が配置されるとともに、カソード側弾性部材14となる所定の流路(第5樹脂流路P5)を形成するための凹凸部である下部流路形成面81が形成されている。さらに下部金型80には、成形された樹脂を下部流路形成面81から分離させる棒状の突き上げ部材82が備えられている。上部金型70は、その下面にて電極−膜−枠接合体10の上面を覆うとともに、アノード側弾性部材13となる所定の流路(第4樹脂流路P4)を形成するための凹凸部である上部流路形成面71が形成されている。具体的には、第4樹脂流路P4は、第1凹部11aに相当する部分に形成されており、第5樹脂流路P5は、第2凹部12aに相当する部分に形成されている。さらに、この上部流路形成面71には樹脂注入口である複数のゲート72が形成されており、それぞれのゲート72は、上部金型70の上面に形成された凹部である樹脂導入部73に連通されている。また、上部金型70には、上部金型70と下部金型80とを位置決めした状態で型締めを行う型締め部材84が備えられている。
次に、図7Bに示すように、下部金型80の下部流路形成面81に電極−膜−枠接合体10を載置する。その後、図7Cに示すように、電極−膜−枠接合体10が載置された下部金型80に対して、上部金型70を型締め部材74により型締めを行う。このように型締めが行われた状態において、それぞれの第1凹部11aに相当する位置に第4樹脂流路P4が形成され、それぞれの第2凹部12aに相当する位置に第5樹脂流路P5が形成される。なお、図7Cに示すように、枠体本体部3には、貫通孔3aが形成されており、この貫通孔3aにより第4樹脂流路P4と第5樹脂流路P5とが互いに連通された状態とされている。
次に、図7Dに示すように、金型内に弾性部材を形成するための樹脂材料P’を射出して注入する。具体的には、上部金型70の樹脂導入部73に射出注入された樹脂材料P’が、それぞれのゲート72を通して、第4樹脂流路P4に注入されて、第4樹脂流路P4内に充填される。さらに第4樹脂流路P4内に注入された樹脂材料P’が、貫通孔3aを通して連通されている第5樹脂流路P5へ流れ込み、充填される。
それぞれの樹脂流路P4及びP5内への樹脂材料P’の充填が完了すると、樹脂の硬化が行われる。その後、図7Eに示すように、上部金型70と下部金型80との型締めが解除され、突き上げ部材82により、樹脂流路に相当する位置に弾性部材13、14が形成された電極−膜−枠接合体10が、下部金型80より離脱される。これで射出成型が完了する。
この射出成型が行われた結果、図4に示すように、アノード側弾性部材13及びカソード側弾性部材14が形成された電極−膜−枠接合体10が形成される。
このように製造される本第1実施形態の電極−膜−枠接合体10によれば、以下のような種々の効果を得ることができる。
まず、図3に示すように、枠体本体部3の内縁より交互に突出された第1保持部11と第2保持部12との間において、高分子電解質膜1aの周縁部1dを保持させるような構造が採用されていることにより、射出成型による製造時において、MEA15の周縁部1dを、隣接する第1保持部11間の第1凹部11aに相当する金型の部分である第1支持部51aと、隣接する第2保持部12間の第2凹部12aに相当する金型の部分である第2支持部61aとにより確実に保持して固定させた状態にて、樹脂材料Pの注入を行うことができる。したがって、射出成型時において、高温高圧の樹脂材料の注入による高分子電解質膜1aの浮き上がりやまくれ上がりを確実に防止することができ、その歩留まり率を向上させることができる。
また、MEA15を保持する枠体2を1回の射出成型工程にて製造することができ、さらにその後、弾性部材13、14を形成するための射出成型工程を1回行うことにより、弾性部材13、14を有する電極−膜−枠接合体10を製造することができる。したがって、電極−膜−枠接合体の製造工程における生産性を高めることができる。
また、図4に示すように、電極−膜−枠接合体10におけるそれぞれの第1凹部11a及び第2凹部12aを埋めるようにアノード側弾性部材13及びカソード側弾性部材14が、高分子電解質膜1aの表裏面においてその周縁部1dに沿って交互に配置されていることにより、高分子電解質膜1aの表裏面の連通を確実に封止することができ、クロスリーク現象の発生を抑制することができる。特に、図5Aの模式断面図に示すように、アノード側弾性部材13の配置領域と、カソード側弾性部材14の配置領域との間に、重なり領域Rが存在していることにより、より確実な封止を実現することができる。
また、このような弾性部材13、14は、図4において、第1凹部11a及び第2凹部12aの内側の空間を埋めるように、S1で示される部分に配置されていれば、高分子電解質膜1aの表裏面の連通を封止する効果を得ることができ、クロスリーク現象の発生を効果的に抑制することができる。したがって、本第1実施形態の弾性部材13、14の配置構造は、図4に示す形態に限定されることなく、例えば、図4において、S1にて示される部分、すなわちそれぞれの第1凹部11a及び第2凹部12aの内側空間を埋めるようにアノード側弾性部材13及びカソード側弾性部材14が配置されるような配置構造を採用することもできる。
一方、図4に示す本第1実施形態の弾性部材13、14の配置構造では、それぞれの弾性部材13、14が、枠体本体部3の内縁から、アノード電極1b及びカソード電極1cの端部を覆う位置にまで延在して配置されている。すなわち、図4におけるS1及びS2にて示される部分において弾性部材13、14が配置されている。このような配置構造が採用されていることにより、枠体2の内縁と、アノード電極1b及びカソード電極1cの外縁端部との間に存在する図示D方向の空間を、それぞれの弾性部材13、14により分断して封止することができる。したがって、燃料ガスがアノード電極1bの表面に接触することなく図示D方向の上記空間をショートカットすること、及び酸化剤ガスがカソード電極1cの表面に接触することなく図示D方向の上記空間をショートカットすることを防止することができる。よって、燃料電池における発電効率を向上させることができる。また、それぞれの弾性部材13、14が、枠体本体部3の内縁にまで延在して配置されていることにより、高分子電解質膜1aの外縁端まで確実にそれぞれの弾性部材13、14を接触させた状態とすることができ、上述したようにクロスリーク現象の発生を効果的に抑制することができる。
本第1実施形態の電極−膜−枠接合体10によれば、部分S1において弾性部材13、14によるクロスリーク現象抑制のための封止を行っている。そのため、図4における枠体2の内縁と、アノード電極1b及びカソード電極1cの端部との間の空間、すなわち部分S2は、枠体2と電極1b、1cの製作寸法の誤差等を考慮した範囲において、最小限の寸法に抑えることができる。すなわち、枠体2の内縁と電極1b及び1cの端部との間の距離を近づけることができる。したがって、電極−膜−枠接合体10において、電極1b及び1cを占める面積を効率的に確保することができ、燃料電池のコンパクト化を図りながらその発電効率を向上させることができる。
なお、本第1実施形態の電極−膜−枠接合体10では、図4に示すように、それぞれのアノード側弾性部材13が互いに独立して配置されるとともに、それぞれのカソード側弾性部材14が互いに独立して配置されるような配置構造が採用されているが、本第1実施形態はこのような配置構造にのみ限定されるものではない。このような場合に代えて、例えば、図8の模式斜視図に示す変形例にかかる弾性部材90のように、それぞれのアノード側弾性部材13が枠体2の内縁において互いに連結されて一体的に形成されるような配置構造が採用される場合であってもよい。このような弾性部材90では、枠体2の内縁と電極1b及び1cの端部との間の空間全体を弾性部材により埋めることができるため、燃料ガス等のショートカット抑制効果をさらに高めることができる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態にかかる電極−膜−枠接合体210の構造について、図9及び図10に示す模式斜視図を用いて以下に説明する。なお、本第2実施形態の電極−膜−枠接合体210において、上記第1実施形態の電極−膜−枠接合体10と同じ構成部分には同じ参照番号を付してその説明を省略する。
図9に示すように、本第2実施形態の電極−膜−枠接合体210は、枠体202において第1保持部211及び第2保持部212の形状が略台形状となっており、この点において、上記第1実施形態と異なる構造を有している。
具体的には、図9に示すように、第1保持部211は、その突出先端側(上辺側)が短く、かつ左右対称の台形形状の形成されており、第2保持部212も第1保持部211と同じ形状に形成されている。それぞれの第1保持部211と第2保持部212は均等な間隔ピッチにて配列されており、第1保持部211の配置と第2保持部212の配置とが交互となるように配置されている。隣接する第1保持部211の間には、第1保持部211とは逆向きの台形形状を有する第1凹部211aが配置されており、同様に隣接する第2保持部212の間にも、逆向きの台形形状を有する第2凹部212aが配置されている。
さらに、図10に示すように、それぞれの第1凹部211a及び第2凹部212aの内側の空間を埋めるように、アノード側弾性部材213及びカソード側弾性部材214が配置されている。なお、それぞれのアノード側弾性部材213とカソード側弾性部材214とは、それぞれにおいて一体的に連結して形成されている。
このような本第2実施形態の電極−膜−枠接合体210の構造によれば、図9に示すように、第1保持部211の台形形状211bの斜辺端部と、第2保持部212の台形形状の斜辺端部212bとが、その厚み方向から見た場合に必ず交差させることができる。そのため、第1凹部211aを埋めるように配置されるアノード側弾性部材213の配置領域と、第2凹部212aを埋めるように配置されるカソード側弾性部材214の配置領域との間に、台形形状の斜辺の交差により生じる重なり領域Rが確実に形成される。したがって、それぞれの弾性部材213及び214により、高分子電解質膜1aの周縁部1d沿いに確実な封止を実現することができ、クロスリーク現象抑制効果を確実に発揮することができる。特に、このような台形形状の構造による重なり領域Rを確保するという手法によれば、製作誤差などにより枠体202の製作寸法に多少の位置ずれが生じるような場合であっても、重なり領域Rを確実に形成することができるという利点がある。
このような台形形状の構造の寸法例としては、図11に示すように、保持部211及び212の短辺側の幅寸法Wが、実用上1mm以上15mm以内とすることが好ましい。この幅寸法Wが狭すぎると成型品にて樹脂材料の充填不良が生じやすく、また、金型加工にてコスト上昇が生じることになるからである。逆に幅寸法Wが広すぎると、弾性部材213、214による高分子電解質膜1aの押さえ効果、すなわち封止効果が低くなるからである。
また、保持部211及び212の奥行き寸法Lは、実用上1mm以上8mm以内とすることが好ましい。奥行き寸法Lが狭すぎると高分子電解質膜1aの押さえ効果が低くなり、逆に広すぎると高分子電解質膜1aの周縁部1dにおいて無駄な面積が増えることになるからである。
上記それぞれの実施形態では、第1保持部及び第2保持部の平面形状が方形あるいは台形状であるような場合について説明したが、その他様々な形状を採用することができる。例えば、図12の模式図に示すように、第1保持部311及び第2保持部312を大略円形状の突起部分として形成し、その間を埋めるように配置される弾性部材313と第1保持部311とを高分子電解質膜1aの表面沿いの方向において互いに係合させるような構造とすることができる。また、図13の模式図に示すように、第1保持部411及び第2保持部412を略三角形状の突起部分として形成することにより、上記第2実施形態の台形形状と略類似した効果を得ることもできる。このような保持部の平面的な形状としては、その他半円形状や多角形形状など様々な形状を採用することができる。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態にかかる電極−膜−枠接合体510の構造について、図17及び図18に示す模式斜視図を用いて以下に説明する。なお、本第3実施形態の電極−膜−枠接合体510において、上記第1実施形態の電極−膜−枠接合体10と同じ構成部分には同じ参照番号を付してその説明を省略する。
図17に示すように、本第3実施形態の電極−膜−枠接合体510は、枠体502において第1保持部511及び第2保持部512の形状が、平面視大略T字形状のいわゆるハンマーヘッド形状を有しており、この点において、上記第1および第2実施形態と異なる構造を有している。
具体的には、図17に示すように、第1保持部511は、枠体502の中央側への突出先端部分として形成され、かつ高分子電解質膜1aの周縁部1d沿いの方向をその長手方向とする略直方体形状に形成された突出先端部551と、高分子電解質膜1aの周縁部1d沿いの方向における突出先端部551の幅寸法W1よりも、小さな幅寸法W2を有し、突出先端部551を枠体本体部503に連結する連結部552とにより構成された左右対称形状を有している。また、第2保持部512も、第1保持部511と同じ形状に形成されている。それぞれの第1保持部511と第2保持部512は均等な間隔ピッチにて配列されており、第1保持部511の配置と、第2保持部512の配置とが交互となるように配置されている。
また、図17に示すように、隣接する第1保持部511の間には、第1保持部511とは逆向きの大略T字形状を有する第1凹部511aが配置されており、同様に隣接する第2保持部512の間にも、逆向きの大略T字形状を有する第2凹部512aが配置されている。
さらに、図18に示すように、それぞれの第1凹部511a及び第2凹部512aの内側の空間を埋めるように、アノード側弾性部材513およびカソード側弾性部材514が配置されている。なお、それぞれのアノード側弾性部材513とカソード側弾性部材514とは、それぞれにおいて一体的に連結して形成されている。
ここで、図18の電極−膜−枠接合体510におけるB−B線断面図を図19Aに示し、C−C線断面図を図19Bに示す。すなわち、図19Aは、第1保持部511の突出先端部551の形成位置に相当する断面を示す図であり、図19Bは、第1保持部511の連結部552の形成位置に相当する断面を示す図である。
図19A及び図19Bに示すように、第1保持部511の突出先端部551の幅寸法(突出先端側の幅)W1は、連結部552の幅寸法(枠体本体部側の幅)W2よりも大きい。第2保持部512の突出先端部561と連結部562の幅寸法についても同様な関係にある。また、図19Aに示すように、第1保持部511の突出先端部551の端部と、第2保持部512の突出先端部561の端部とは、互いに略一致するように、それぞれの突出先端部551及び561が交互に配置されている。また、図19Bに示すように、第1保持部511のそれぞれの連結部552の間に位置される第1凹部511a内に配置されたアノード側弾性部材513と、第2保持部512のそれぞれの連結部562の間に位置される第2凹部512a内に配置されたカソード側弾性部材514とは、互いにオーバーラップされた重なり領域Rを有している。
このような配置構成が採用されていることにより、高分子電解質膜1aの周縁部1dにおいて、外端縁近傍にて弾性部材513及び514を配置させる面積を大きく確保することができる。したがって、高分子電解質膜1aの表裏面の連通を封止する効果を高めることができ、クロスリーク現象の発生を効果的に抑制することができる。
また、電極−膜−枠接合体510の製造工程において、枠体502を成型する際に、高分子電解質膜1aの周縁部1dを、金型により押さえて保持する領域を、大きく確保することができる。したがって、枠体502の成型時に高分子電解質膜1aの周縁部1dが浮き上がる、あるいは、まくれ上がることを、さらに確実に防止することができる。このような観点からは、本第3実施形態の構造は、特に、高分子電解質膜1aが強度的に弱い仕様を有している場合などに有効である。
また、図18に示すように、本第3実施形態の構造では、高分子電解質膜1aの周縁部1dの外端面と枠体本体部503の内縁との間に、隙間Sが設けられている。この隙間Sは、例えば0.4mm程度に設定されている。このように隙間Sを設けることで、枠体502を成型する際に、高分子電解質膜1aの周縁部1dの外端面が、高温にて流動する樹脂に接触することを防止することができる。特に、このような高分子電解質膜1aの外端面部分は、高温や高圧環境において、損傷を受けやすい部分でもあるため、枠体502の成型時に高分子電解質膜1aが浮き上がる、あるいはまくれ上がるなどして変形することを抑制する効果を高めることができる。また、このような隙間Sを設ける構成は、本第3実施形態のみに限られず、上記それぞれの実施形態の構造にも適用することができる。
なお、本第3実施形態の電極−膜−枠接合体510の構造において、第1保持部511の突出先端部551及び第2保持部512の突出先端部561の幅寸法W1は、例えば、1mm以上、15mm以内の範囲とすることが好ましい。この幅寸法W1が狭すぎると成型品にて樹脂材料の充填不良が生じやすく、また、金型加工にてコスト上昇が生じることになるからである。逆に幅寸法W1が広すぎると、弾性部材513、514による高分子電解質膜1aの押さえ効果、すなわち封止効果が低くなるからである。
また、保持部511及び512の奥行き寸法Dは、実用上1mm以上8mm以内とすることが好ましい。奥行き寸法D1が狭すぎると高分子電解質膜1aの押さえ効果が低くなり、逆に広すぎると高分子電解質膜1aの周縁部1dにおいて無駄な面積が増えることになるからである。
また、第1保持部511の連結部552及び第2保持部512の連結部562の幅寸法W2は、例えば、1mm以上、10mm以内の範囲とすることが好ましい。幅寸法W2が広すぎると、弾性部材513、514による高分子電解質膜1aの押さえ効果、すなわち封止効果が低くなるからである。幅寸法W2が狭すぎると成型品にて樹脂材料の充填不良が生じやすくなる場合があるからである。
また、第1保持部511の突出先端部551及び第2保持部512の突出先端部561における枠体502の内外縁方向沿いの幅寸法W3は、例えば1mm以上、5mm以下の範囲とすることが好ましい。幅寸法W3が広すぎると、弾性部材513、514による高分子電解質膜1aの押さえ効果、すなわち封止効果が低くなるからである。幅寸法W3が狭すぎると成型品にて樹脂材料の充填不良が生じやすくなる場合があるからである。
本第3実施形態では、枠体502の内外縁沿いの方向(すなわち、高分子電解質膜1aの周縁部1dに直交する方向)において、内縁側の幅寸法が外縁側の幅寸法よりも大きな形態を有する大略T字形状に形成された保持部511および512を備える電極−膜−枠接合体510について、一例として説明したが、本第3実施形態の構造は、このような構造についてのみ限られるものではない。
このような場合に代えて、例えば、図20および図21に示す電極−膜−枠接合体610ように、その長辺側が枠体の中心側に配置されるような略台形状の保持部を備える構造を採用することもできる。
具体的には、図20に示すように、第1保持部611は、その突出先端側が長く、かつ左右対称の台形形状の形成されており、第2保持部612も第1保持部611と同じ形状に形成されている。それぞれの第1保持部611と第2保持部612は均等な間隔ピッチにて配列されており、第1保持部611の配置と第2保持部612の配置とが交互となるように配置されている。隣接する第1保持部611の間には、第1保持部611とは逆向きの台形形状を有する第1凹部611aが配置されており、同様に隣接する第2保持部612の間にも、逆向きの台形形状を有する第2凹部612aが配置されている。
さらに、図20に示すように、それぞれの第1凹部611a及び第2凹部612aの内側の空間を埋めるように、アノード側弾性部材613及びカソード側弾性部材614が配置されている。なお、それぞれのアノード側弾性部材613とカソード側弾性部材614とは、それぞれにおいて一体的に連結して形成されている。
このような本第3実施形態の変形例にかかる電極−膜−枠接合体610の構造によれば、上述した電極−膜−枠接合体510と略同様な効果を得ることができる。電極−膜−枠接合体510に比べて、変形例にかかる電極−膜−枠接合体610の構造では、それぞれの保持部611および612への樹脂の流動性がわずかに良好となるが、金型の加工性の点では、電極−膜−枠接合体510の方が良好となる。したがって、使用される樹脂材料の仕様や金型の加工性などを考慮して、いずれの構造を採用するか決めることが好ましい。
また、上記それぞれの実施形態における保持部の端部には、枠体の厚み方向に傾斜面が設けられた構造を採用することもできる。傾斜面の向きにより保持部と弾性部材との厚み方向の係合性を向上させることができる。
また、上記それぞれの実施形態では、それぞれの第1保持部が同じ間隔ピッチで配置され、それぞれの第2保持部も同じ間隔ピッチで配置されるような場合について説明しているが、それぞれの第1保持部の配置間隔が一定でないような場合であってもよい。ただし、このような場合であっても、アノード側弾性部材の配置領域とカソード側弾性部材の配置領域との間の重なり領域Rが形成される程度に、第1保持部の配置に対して交互配置となるように第2保持部の配置が決定されることが好ましい。
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
本発明は、添付図面を参照しながら好ましい実施形態に関連して充分に記載されているが、この技術の熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した請求の範囲による本発明の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。
2007年10月12日に出願された日本国特許出願No.2007−266566号の明細書、図面、及び特許請求の範囲の開示内容は、全体として参照されて本明細書の中に取り入れられるものである。
図1は、本発明の第1実施形態にかかる燃料電池の概略構成を示す模式構成図である。
図2は、図1の燃料電池が備える燃料電池用スタックの模式分解図である。
図3は、図2の燃料電池用スタックが備える電極−膜−枠接合体の部分模式図(弾性部材なしの状態)である。
図4は、図2の燃料電池用スタックが備える電極−膜−枠接合体の部分模式図(弾性部材ありの状態)である。
図5Aは、図4の電極−膜−枠接合体のA−A線模式断面図である。
図5Bは、図4の変形例にかかる電極−膜−枠接合体のA−A線模式断面図である。
図6Aは、第1実施形態の電極−膜−枠接合体の製造工程(枠体成型工程)図であって、金型の構成を示す図である。
図6Bは、第1実施形態の電極−膜−枠接合体の製造工程(枠体成型工程)図であって、下部金型にMEAが載置された状態を示す図である。
図6Cは、第1実施形態の電極−膜−枠接合体の製造工程(枠体成型工程)図であって、金型の型締めが行われた状態の図である。
図6Dは、第1実施形態の電極−膜−枠接合体の製造工程(枠体成型工程)図であって、樹脂材料が注入されている状態の図である。
図6Eは、第1実施形態の電極−膜−枠接合体の製造工程(枠体成型工程)図であって、MEAを保持した状態の枠体が完成した状態を示す図である。
図7Aは、第1実施形態の電極−膜−枠接合体の製造工程(弾性部材成型工程)図であって、金型の構成を示す図である。
図7Bは、第1実施形態の電極−膜−枠接合体の製造工程(弾性部材成型工程)図であって、下部金型にMEAを保持した状態の枠体が載置された状態を示す図である。
図7Cは、第1実施形態の電極−膜−枠接合体の製造工程(弾性部材成型工程)図であって、金型の型締めが行われた状態の図である。
図7Dは、第1実施形態の電極−膜−枠接合体の製造工程(弾性部材成型工程)図であって、樹脂材料が注入されている状態の図である。
図7Eは、第1実施形態の電極−膜−枠接合体の製造工程(弾性部材成型工程)図であって、弾性部材が形成された電極−膜−枠接合体が完成した状態を示す図である。
図8は、第1実施形態の変形例にかかる弾性部材の配置構造を示す模式図である。
図9は、本発明の第2実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の構造を示す部分模式斜視図(弾性部材なしの状態)である。
図10は、本発明の第2実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の構造を示す部分模式斜視図(弾性部材ありの状態)である。
図11は、第2実施形態の電極−膜−枠接合体における寸法例を示す模式説明図である。
図12は、本発明の変形例にかかる電極−膜−枠接合体の構造を示す模式図である。
図13は、本発明の別の変形例にかかる電極−膜−枠接合体の構造を示す模式図である。
図14は、従来の燃料電池のMEAとセパレータの分解断面図である。
図15Aは、従来の燃料電池のMEAの製造方法の模式説明図である。
図15Bは、従来の燃料電池のMEAの製造方法の模式説明図である。
図15Cは、従来の燃料電池のMEAの製造方法の模式説明図である。
図16Aは、従来のMEAの製造方法における膜のめくれ上がり現象の模式説明図である。
図16Bは、従来のMEAの製造方法における膜のめくれ上がり現象の模式説明図である。
図17は、本発明の第3実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の構造を示す部分模式斜視図(弾性部材なしの状態)である。
図18は、本発明の第3実施形態にかかる電極−膜−枠接合体の構造を示す部分模式斜視図(弾性部材ありの状態)である。
図19Aは、図18の第3実施形態の電極−膜−枠接合体のB−B線断面図である。
図19Bは、図18の第3実施形態の電極−膜−枠接合体のC−C線断面図である。
図20は、本発明の第3実施形態の変形例にかかる電極−膜−枠接合体の構造を示す部分模式斜視図(弾性部材なしの状態)である。
図21は、本発明の第3実施形態の変形例にかかる電極−膜−枠接合体の構造を示す部分模式斜視図(弾性部材ありの状態)である。
しかしながら、このような射出成型による形成方法では、次のような問題がある。図16Aに示すように、第2の枠部材312の射出成型による形成時において、高温高圧の樹脂材料Pが金型(図示せず)内に注入されると、第1の枠部材311の上面に配置されている電解質膜313の周縁部313aが、樹脂材料Pの流動抵抗により樹脂材料中に浮き上がって、第1の枠部材311の上面からめくれ上がった状態となる場合がある。このような状態において樹脂材料Pが固化されると、図16Bに示すように、電解質膜313の周縁部313aが第2の枠部材312の内部において完全に浮き上がった状態にて電極314の保持が行われることになる。
本発明の第9態様によれば、膜電極接合体の周縁部に沿って配置された複数の第1支持部にて上記膜電極接合体をその表面側から支持し、上記周縁部沿いにおいて上記複数の第1支持部と交互に配置され、かつ上記膜電極接合体の周縁部に沿って配置された複数の第2支持部にて上記膜電極接合体をその裏面側から支持するように、射出成型用金型内に上記膜電極接合体を配置して、上記膜電極接合体の周縁部に沿って枠状に配置された枠状流路と、上記枠状流路と連通されかつ隣接するそれぞれの上記第1支持部の間にて上記膜電極接合体の周縁部における表面と接して配置された第1流路と、上記枠状流路と連通されかつ隣接するそれぞれの上記第2支持部の間にて上記膜電極接合体の周縁部における裏面と接して配置された第2流路とを形成し、
それぞれの上記第1支持部及び第2支持部により上記膜電極接合体の周縁部を保持した状態にて、それぞれの上記流路内に樹脂を注入して充填し、
上記充填された樹脂を固化させることにより、上記枠状流路にて形成された枠体本体部と、上記第1流路にて上記枠体本体部の内縁より枠体中央側に向けて突出しかつ上記内縁沿いに配列され、上記膜電極接合体の表面側を保持する複数の第1保持部と、上記第2流路にて上記枠体本体部の内縁より枠体中央側に向けて突出しかつ上記内縁沿いに配列され、上記膜電極接合体の裏面側を保持する複数の第2保持部とを備える枠体を形成し、
隣接するそれぞれの上記第1保持部の間における上記膜電極接合体の表面上に配置された複数の表面側弾性部材と、隣接するそれぞれの上記第2保持部の間における上記膜電極接合体の裏面上に配置された複数の裏面側弾性部材とを形成する、高分子電解質型燃料電池用の電極−膜−枠接合体の製造方法を提供する。
それぞれの樹脂流路P1〜P3内への樹脂材料Pの充填が完了すると、樹脂の固化が行われる。その後、図6Eに示すように、上部金型50と下部金型60との型締めが解除され、突き上げ部材62により、樹脂流路に相当する位置に枠体2が形成されたMEA15が、下部金型60より離脱される。これで射出成型が完了する。