JPWO2007136025A1 - 感染症の検出方法 - Google Patents

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Abstract

血液検体におけるTLR2の各種の疾病に対する性質を、臨床検査分野における指標として活用することが期待されている。本発明者らは、フローサイトメーターにより、被験者の血液検体における単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量を行い、当該定量値を、病原体感染の指標とすることにより、各種の感染症についての重要な判断指標を得られることを見出し、本発明を完成した。当該定量値は、TLR2の既知かつ異なる量が担持された2種以上のビーズへの標識された当該TLR2に対する抗体の結合量とフローサイトメーターにて測定することにより得られた蛍光強度との検量線を作成し、さらに、標識されたTLR2に対する抗体を、被験者の血液検体に由来する被験細胞に反応させてフローサイトメーターにて測定を行い得られた蛍光強度と、前記検量線との比較換算により数値化されることにより最適な指標として用いることができる。

Description

本発明は、各種の感染症の検出方法に関する発明である。より具体的には、トール様受容体(TLR, toll like receptor)タンパク質のうち、TLR2及び/又はTLR1の定量値を指標として用いる、簡便かつ鋭敏な感染症の検出方法に関する発明である。すなわち、当該トール様受容体の定量を行うことにより、医療分野において種々の指標が提供される。
トール様受容体( toll like receptor:略称TLRs)は、最初ショウジョウバエにおいて真菌感染の防御に働くレセプタータンパク質として見出され、トール受容体と命名された(LemaitreらCell, 86:973-, 1996)。その後、ヒトにおいて、その類似タンパク質(ヒトホモログ)として見いだされたのものが、トール様受容体である。生体の免疫系には、抗原特異的な抗体産生のように、遺伝子の再構成を必要として、細菌、ウイルス、真菌等の病原体に対する特異性を作り出す獲得免疫系と、遺伝子再構成を必要とせず病原体を認識し、速やかに働く自然免疫系とに分けられる。TLRsは、自然免疫を担い、病原体成分を「パターン認識」する受容体であると同時に、免疫の初期応答と、それに続く獲得免疫を惹起する重要な役割を担っている。TLRsは、本出願時までに12種類が報告されており(非特許文献1)、TLRs(トール様受容体)とは、これらのレセプター(TLR1〜12)の総称である。これらのうち、TLR2は、TLR1若しくはTLR6とヘテロダイマーを形成し、それぞれグラム陽性菌、真菌の菌体成分をそのリガンドとして認識する。TLR4は、グラム陰性菌のリポポリサッカライド(エンドトキシン)を認識し、TLR5は、細菌の鞭毛を構成するタンパク質フラジェリンを認識する。TLR3とTLR7とTLR8は、それぞれにウイルスの2本鎖RNAとウイルス由来の1本鎖RNAを認識する。非メチル化CpG DNAは、TLR9によって認識される(以上、非特許文献1)。
トール様受容体に関連する感染症の検出方法についての関連技術については、下記の特許文献1〜2を挙げることができる。
特許文献1には、ヒトの静脈血液の採取により、単球、マクロファージ、樹状細胞上のレセプター分子群を、連続して、安定的に、しかも正確な測定値が得られる、TLRs、CD14分子及び主要組織適合分子複合体の連続的測定方法が記載されている。当該先行技術は、フローサイトメーターを用いて実際に検体測定されるまでの血液検体の処理方法についての技術が実質的な内容であり、TLRsによる感染症の検出そのものを基本的な内容とするものではない。そして、この連続的な測定により感染症の鑑別を行うことが可能であることが記載されているが、トール様受容体単独、特に、TLR2及び/又はTLR1により当該鑑別が可能であることについては、実施例を含めて開示されていない。
特許文献2には、TLR2の定量値を指標とする感染症の検出方法が開示されているが、フローサイトメーターを用いている態様であっても、蛍光強度を指標としており、本願発明のような恒常的な信頼性を伴う手段は開示されていない。現実に感染症についての臨床的な判断を行う場合、後述するように非常にデリケートな数値上の判断を伴うものであり、特許文献2に開示の技術では、実用性に乏しい面がある。特許文献2に実際にTLR2の定量値による具体的な感染症の傾向が記載されている疾患は限定されており、他の疾患については、漠然とした例示列挙がなされているに過ぎない。また、特許文献2にて具体的に示された結果が、本願発明に関わる結果と異なっている部分も存在する。なお、特許文献2には、TLR1についての具体的な知見は全く開示されていない。
特開2006−46977号公報 特表2006−520588号公報 Barton and Medzhitov: Toll-like receptors and their ligands. Corr. Top. Microbial. Immunol. 2002, 270:81-92
感染症は、細菌、ウイルス、真菌等の病原体が、宿主に侵入し、増殖することで病原体(もしくは病原体の保持する毒素)による宿主側の細胞破壊が進行し、また、炎症反応が惹起される結果として、宿主臓器に障害がもたらされる疾患の総称である。特に、易感染宿主(高齢者、糖尿病患者、癌化学療法中あるいは臓器移植後で免疫抑制剤使用中の患者、ステロイド長期内服中の患者、後天性免疫異常患者等)では、その致死率も高いことから、治療においては、薬剤の選択、薬剤変更のタイミング及びその中止時期に関し、細心の注意が必要とされる。
診断は、白血球数(WBC)、C反応性タンパク質(CRP)等の血液検査における炎症所見;臓器症状(身体所見、理学所見);病原体の同定;の必要3項目の総合的な結果に基づき判断される(ただし、起因菌の同定に際しては、分離された検体が本来無菌的か否かについて考慮する必要がある)。このうち、病原体の同定は、治療方針を左右するという観点からも非常に重要な意味をもつが、以下に述べるような要因で、実際には、病原体の同定ができず、原因が不明のまま経過する症例も数多く存在している。例えば、患者の自覚症状に乏しく、感染臓器を特定できない場合、このようなケースでの病原体の同定は、ほとんど不可能に近く、予測もつけ難い。感染臓器が明らかに特定できる場合であっても、感染症の原因となる病原体は、細菌、ウイルス、真菌等が存在していることから、いずれの病原体によって発症した感染症なのか把握できないことも少なくない。特に、細菌性以外の感染症の場合には、この傾向が強い。真菌やウイルス感染症の診断に際しては、まずは、それらの感染症の可能性を疑うことが前提であり、それぞれ、診断確定のために、血液や咽頭ぬぐい液等の検体を、その病原体のみの検出に限定された、より特異性の高い検査に供する必要が生じる。例えば、真菌感染では、血清診断において、β−Dグルカン等の測定を行い、ウイルス感染では、ペア血清を用いた特定のウイルスに対する抗体価の測定等を行う場合が多い。しかしながら、これらの特定の病原体検出を目的とする検査自体においても問題があり、特に、ウイルス感染症診断のためのペア血清を用いた、ある種のウイルス抗体価測定では、その感度において優れておらず、陰性結果が認められたとしても、ウイルス感染症の可能性を完全に否定できるわけではない。また、深在性真菌症の場合、血中β−Dグルカンの感度は、カンジダ症約90%、アスペルギルス症約60〜80%とされる。これらの検査感度の問題も、確実な診断に至らない要因の一つに挙げられている。当然、それぞれの病原体に起因する感染症において、血液検査の炎症所見(WBC、CRP)の様相は異なり、このことが、病原体同定の大きな指針を与えることにもつながるが、治療薬の使用の有無、病期のタイミングによっては、感染症としての典型的所見が認められず、さらには、WBCの値(白血球分画)に、相当の個人差が認められることも手伝って、感染症の診断が難しくする。その他、短期のうちに、正確に病原体を同定することが極めて困難となる事例として、複数種類の病原体が、同一あるいは複数の臓器において感染する混合感染等が挙げられる。さらに、従来の血液炎症マーカーでは、非感染性炎症疾患自体にも反応を示すことから、感染症であることの指摘すら困難な事例も認められ、まして、病原体を推測することは極めて困難であった。
次に、感染症の治療に関して、病原体の種類、罹患病巣、宿主要因、重症度等を踏まえ、各種の抗生剤、抗ウイルス薬、抗真菌剤のうちから、有効と予想される薬剤が選択され、投与される。病原体の特定を行い、その薬剤感受性を確認した上で、抗生剤の選択を行っても、当該抗生剤を実際に患者に投与し、一週間以上の経過観察を行わなければ、有効性の有無の判断がつかない事例も少なくない。このような抗生剤の投与の途上で、事後的に有効性なしとなれば、感染症の重篤化は免れないことになる。このような状況下、病期、抗生剤投与間中、その有効性に関して速やかに判断できる手段の提供が望まれている。
また、抗生剤投与期間に関しての決定、判断は難しい。感染症の治癒段階での薬剤投与の中止のタイミングについては、血液炎症所見(WBC、CRP)を参考にして、臨床経過の注意深い観察を通じて、医師の経験に従って判断されている。抗生剤の薬剤投与の長期化により、腎機能障害、偽膜性腸炎、薬剤性肝障害等の副作用の危険性を増し、特に、易感染患者においては、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、薬剤耐性緑膿菌等の、薬剤耐性菌の宿主への感染を招いてしまうおそれがある。それ故、薬剤投与期間は、可能な限り短期間にすることが望ましい。しかしながら、逆に、薬剤投与期間が短すぎ、感染力が強い状態での薬剤の中止は、その後の感染症再燃を必発させ、その結果、入院期間の延長や再入院の必要が生ずることになり、患者の精神的、経済的負担をかえって増大させることになる。よって、感染症の再燃を予測し得る手段の提供が切望されている。
このような技術的な要望に対して、上述したように、TLR2の定量値を指標とする感染症の検出方法が提供されているが、未だ臨床の現場で求められているデリケートな治療指針の決定に貢献するような信頼性を伴った、単球上のTLR2発現量に関する指標は明らかにされていない。
本発明者は、上記の課題の解決に向けて検討を行った結果、TLR2の定量値を、「単球あたりのトール様受容体タンパク質2(TLR2)に対する抗体の認識サイト数」(site/cell)として取得することにより、定量値自体の信頼性が向上し、感染症に関する即時的な指標としても、経時的な指標としても、極めて有用であることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、フローサイトメーターにより、被験者の血液検体における単球あたりの「TLR2に対する抗体」(以下、「TLR2抗体」又は「抗TLR2抗体」ともいう)の認識サイト数(site/cell)で表記される定量を行い、当該定量値をして、病原体感染の即時的又は経時的な指標とすることを特徴とする検出方法(以下、本感染検出方法ともいう)を提供する発明である。
ここで、「即時的な指標」とは、例えば、はじめて自己の血液検体における単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数を定量する検体提供者が、その時点での病原体感染の指標とする場合を示すものである。本感染検出方法により即時的に提供されるTLR2のsite/cell定量値を指標として、当該検体提供者における感染症罹患(不顕性感染を含む)の有無、感染症の種類等を鑑別することができる。また、「経時的な指標」とは、例えば、経時的に自己の血液検体における単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数を定量して、当該定量値の変化により、感染症の状態を経時観察する場合のモニタリング指標であることを示している。例えば、感染症の再燃の可能性、外科手術等の感染症以外の疾患の治療行為の前後における感染症の発症の可能性等を、本感染検出方法により把握することができる。
〔定量方法〕
細胞表層タンパク質に対する特異的抗体を用いたフローサイトメーター解析は、方法自体は非常に簡便である。
例えば、血液から比重遠心法によって白血球を分離し、調べたいタンパク質に特異的な蛍光ラベル抗体で反応させたのちフローサイトメーターにかけ、目的とする細胞画分のゲートの中にある細胞に結合している蛍光抗体の蛍光強度の測定によって目的タンパク質の発現を調べることができる。比較的多数の検体処理にも対応可能で、細胞表層の抗原の有無を調べ、その陽性率を求める検査法として広く使われている。しかし、発現強度の強弱による発現量の比較は、比較するもの同士を同時に測定することによってある程度可能であるものの、例えば、測定日が変わってしまうと気温の変化によるフローサイトメーターの光電子管の感度の変化、標識抗体の劣化やロット間格差による力価の違いによる結果数値の変化等が認められるため、測定のセッティングを、前日と全く同じくしても、日を違えて経時的な変化を調べたり、測定ごとの結果を比較したりすることは困難である。したがって、単球におけるTLR2を平均蛍光吸光度(MFI)で定量値を求めたとしても、蛍光強度からなるその数値は、原理的に信頼性という観点から、臨床応用が可能なまでに洗練された測定系にはなり得ない。このように、当該定量値をもっての被験者の感染症についてのデリケート判断は困難である。これについては、後述する実施例にて説明する。
単球あたりのTLR2のsite/cell定量値を、フローサイトメーターにより求めることが可能な一般的な手法は、すでにいくつか提供されており、これらの手法を本感染検出方法において適用することも可能である。
例えば、(1)蛍光物質が定着している4種類のビーズを測定日ごとに測って検量線を作成し、測定した被検体の蛍光強度を蛍光物質の分子数に変換することにより、測定日ごとの機器の感度変化による蛍光強度のずれを補正して経時的な比較を可能とする手法(BD社のQuantiBrite)や、(2)既知量のマウスIgGが固定されている4種類のビーズが用意されており、蛍光ラベルされた抗マウスIgG抗体での二次抗体反応を、そのビーズとマウスIgG一次抗体で反応させた被検体と同時に行い、測定することにより、マウスIgGの量に換算して測定ごとのずれを補正して経時的な比較を可能とする手法(DAKO社のQIFIKIT)、が提供されている。これらのいずれの手法によっても、ある程度の前記フローサイトの信頼度を上げ、さらに、(2)の手法によっては、測定数値の単位上は、site/cell定量数値として求めることができる。しかしながら、前者(1)の手法は、抗体の劣化等、機器以外の要因の変化があった場合には、これが大きな誤差(不正確性)の要因となる。また、後者の(2)の手法は、機器と二次抗体に関しての補正は効くが、調べる抗原を認識する一次抗体の劣化等があった場合に、起こる測定結果の不正確性に対処した方法にはなっていない。
本感染検出方法において用いる最も好適な、単球あたりのTLR2のsite/cell定量値を、フローサイトメーターにおいて求める手法として、TLR2の既知かつ異なる量が担持された2種以上のビーズへの標識された当該TLR2に対する抗体の結合量を、フローサイトメーターにて測定することにより得られた蛍光強度と、前記TLR2の既知量の数値との間における検量線を作成し、さらに、標識されたTLR2に対する抗体を、被験者の血液検体に由来する被験細胞に反応させてフローサイトメーターにて測定を行い得られた蛍光強度と、前記検量線との比較換算により数値化されることにより、単球あたりのTLR2のsite/cell定量値を測定する方法が挙げられる。この定量方法は、本発明者らが、今般、はじめて提供する画期的な手法であり、具体的には、以下に記載する。
この手法の前提として、TLR2の異なる量が担持された2種以上のビーズ(標準ビーズ)を作成して、それぞれのTLR2の分子数に相当する量の決定を行うことで、ビーズにおけるTLR2量を既知とすることが、上記の検量線を作成するために必要である。なお、当該2種以上のビーズとは、例えば、同一のビーズ群のうち、一つの群は、TLR2を1倍(ある量)担持させ、他の群はTLR2を、その10倍量担持させ、残りの群はTLR2を、その100倍量担持させる等、TLR2の担持量が特定されているTLR2の担持ビーズを、2種以上、好適には4種以上の担持量にて用いることを意味する。なお、TLR2とビーズ量、あるいは反応液量等の反応条件を変えることによって、TLR2の結合量が異なったビーズを作ることが可能となる。
用いられるビーズは、臨床検査分野において汎用されているビーズであれば、特に限定されるものではなく、例えば、ラテックスビーズ等を用いることができる。担持されるTLR2は、天然のタンパク質を用いてもよいが、現実的には、遺伝子組み換えにより得られる組換えタンパク質であることが好適、かつ、現実的である。
TLR2のビーズへの結合は、常法により行うことができる。例えば、市販のアミノ基がついたラテックスビーズをグルタルアルデヒドあるいはカルボジイミド処理してビーズにタンパク質をつける方法や、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドによってカルボキシ結合させる方法、ビス(サルフォサクシニミジル)サベレートやジサクシニミジルサベレート等のリンカーを用いて結合させる方法、市販のカルボキシル基がついたラテックスビーズをカルボジイミド処理してタンパク質をつける方法、市販のストレプトアビジンをコートしたラテックスビーズにビオチンラベルしたタンパク質を結合させる方法や、市販の抗マウス抗体ラベル磁気ビーズに抗Hisタグ抗体を作用させHisタグのついたTLR2を反応させて作る方法等が挙げられ、これら以外にもさまざまな方法がある。
このビーズにおけるTLR2の担持量の決定方法は特に限定されるものではなく、一般的なタンパク定量によって求めることが可能である。例えば、TLR2に対する抗体などの、TLR2に特異的に結合する物質において、放射性同位体、蛍光色素、発色色素等により標識を行った当該TLR2結合物質と、標識されていない当該TLR2結合物質を準備し、順次異なる割合で混合し、標識された当該TLR2結合物質が、ビーズに担持されたTLR2に結合する数量を、選択された上記標識を検出し得る方法にてカウントし、当該カウントにより得られた数値群と標識又は非標識の当該TLR2結合物質の割合から作成された検量線を基に(標識又は非標識の当該TLR2結合物質を混合する割合に応じて、その間で起こる競合作用の原理から標識された当該TLR2結合物質の結合量は異なってくる)、異なるTLR2量が担持された2種以上のビーズにおけるTLR2分子のそれぞれの数量が決定できる(実際のTLR2分子数ではなく、それに相当する値であるが、便宜上、以下、TLR2分子数と表記する)。
このようにして製造されるTLR2が担持されたビーズの保存方法は特に限定されず、液体窒素等による極低温保存、凍結乾燥保存、−20℃程度の低温保存、4℃程度の低温保存、常温保存等を行うことができる。その保存安定性と簡便性の双方を考慮すると凍結乾燥保存を行うことが、特に好適である。
続いて、フローサイトメーターにより、TLR2が異なる既知量にて担持された2種以上のビーズの測定を、TLR2に対する蛍光標識抗体(ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよい:常法により製造した抗体であっても、市販品であってもよい)を用いて行うことができる。当該2種以上のビーズと蛍光標識TLR2抗体のそれぞれの結合量(当該結合量は、抗体でとらえるために抗原量としても表記できる)に関して、各種ビーズ1個あたりのTLR2分子数とフローサイトメーターで得られたそれぞれの蛍光強度結果の関係をプロットして測定毎に検量線を作成し、当該検量線により、同じくフローサイトメーターにて測定された、被験細胞におけるTLR2抗原−抗体結合量に応じた蛍光強度を、TLR2分子数に換算して、被験細胞(1細胞)あたりのTLR2抗体認識部位数(site/cell)として数値化し、普遍化することができる。
上記に記した如く、測定毎に検量線を作成するに際しては、上記のTLR2の既知かつ異なる量が担持された2種以上のビーズを蛍光標識されたTLR2抗体に反応させ、フローサイトメーターで得られたそれぞれの蛍光強度結果の関係をプロットし検量線を描き、続いて、被験細胞のTLR2定量を行うことによる、検量線の作成と被験細胞のTLR2発現量測定は独立させる方法、あるいは、TLR2の既知かつ異なる量が担持された2種以上のビーズと被験細胞を共存させ、そこに蛍光標識されたTLR2に対する抗体を加えて反応させ分析することで、検量線の作出と被験細胞におけるTLR2に対する抗体結合量に関する蛍光強度の結果を、同一のフローサイトメーター測定系において得る方法のいずれをも選択できる。以下、この最も好適な定量方法を「本定量方法」ともいう。
本定量方法は、簡便性にも優れ、高い感度で、しかも、経時的観点からの普遍性や共通の基準設定(測定者、フローサイトメーターが変わることを想定した場合にも対応可能)をもって、TLR2の抗原量を単球膜における特異的抗体の認識サイト数として測定結果を表現可能とするものである。
本感染検出方法は、すでに述べた通り、恒常性に優れた定量方法により明らかにされたTLR2の単球上での変動の性質を指標として用いるものであり、本明細書に開示された具体値に準じて本感染検出方法を行うことが可能である。ただし、慎重を期するという面を重要視するならば、改めて追試を行うことが好適である。追試を行う場合の症例数は、統計学に耐えられる患者数、健常者数とも、好適には10症例以上、さらに好適には30症例以上、最も好適には50症例以上であることが望ましい。
上記の追試は、本感染検出方法を、各種の態様で、例えば、各測定施設間で使用されるTLR2抗体の種類が異なる場合、フローサイトメーターも製造会社により、かなりの差異が認められる場合などを想定して、臨床応用するに際しては、現実に本感染検出方法を行う状況に応じて標準値を設定することが好適である、という考えに基づくべきものである。そのためには、単球あたりのTLR2のsite/cellで表記された定量数値の各種の臨床状態、例えば、全く感染症の認められない健常人、ウイルスに急性感染している患者などについて、検体測定数を重ねた上での統計的な数値が重要となる。例えば、単一又は複数の医療施設において、健常者を含め非感染症患者、感染症患者から採取された血液検体から単球あたりのTLR2のsite/cell定量値を統計学的処理可能範囲まで測定検体を積み上げることにより、すなわち、本明細書に開示された要領で追試し、当該追試で与えられる値を本感染検出方法に当てはめることにより、容易に上記の統計的な数値を得ることが好適である。
次に、従来技術を、本感染症検出方法と同様の目的を達成するために行う場合の実施困難性について例示する。
例えば、単球におけるTLR2を平均蛍光吸光度(MFI)で定量値を求めても、当該定量値は、検体提供者の感染症の有無を判断する臨床応用には耐えられない。また、このような定量に際しての細胞処理では、単球を識別するための蛍光標識CD14抗体とTLR2の定量を行うための蛍光標識TLR2抗体を用いる場合が多く、その場合、被験細胞を異種抗体で2重染色する関係で、まずは、それぞれの抗体がそれぞれの細胞膜上抗原に対して十分に結合できないこと、次に、フローサイトメトリー解析においては、異種蛍光同士のそれぞれの強度への加算的影響が懸念されること、この二点において、測定されたTLR2の定量数値に信頼性を欠く結果となってしまう。また、例えば、基準を欠く従来の測定方法では、フローサイトメーターの設定(感度)は各自の任意に任され、各々が変化する危険性を孕む独自の基準を設けた上での測定作業が行われてきた(特異的抗体を用いたフローサイトメトリー解析:Harterら、Shock 2004; 22;403-409)。その結果、TLR2の発現量のMFI値は、当然に普遍性のない数値となり、例えば、敗血症などの重症感染症病態における循環血液中の単球細胞膜上でのTLR2の発現傾向をみるという研究レベルとしての域を出るものではなかった。例えば、同一患者の何ヶ月にも及ぶ病期の経時的変化を追い、比較検討するといった臨床応用を考えた場合には、測定毎、その条件に、フローサイトメーターの感度変化、特異的抗体の劣化、ロット差が生じることによる誤差が生じやすいTLR2の発現量のMFI値によっては、信頼性を得る結果を得ることが困難であった。すなわち、様々な疾患における単球上TLR2の発現量変化の性質、あるいは、その経時的変化の規則性を、TLR2の発現量のMFI値において見出すことはできず、また、多施設間で測定した数値結果を比較することも、困難な状況にあった。
その他、ウエスタンブロットによる定量方法も考えられるが、微妙な差異の比較、あるいは、経時的な変動の経過をみる上で、その手技は困難を極め、定量の正確性にも乏しい方法である。また、細胞膜上に発現したTLR2ではなく、単球におけるTLR2のmRNAを定量化し、敗血症患者における臨床病態、あるいは、その起炎菌のグラム陽性、陰性に区別しての感染者と健常者との間での量的な違いを明らかにしようとした試みもみられるが(Armstrongら、Clin. Exp. Immunol. 136: 312-319, 2004)、本定量方法で得られる細胞膜上のTLR2タンパク量変化に相当するだけのmRNAレベルでの大きな量的変化は認められず(敗血症患者の中には、値的に正常域にとどまるものも含まれる)、現実的臨床検査の手段として成立するか否かに関しては、疑問である。さらに、多数の臨床検体に対応することを前提に、mRNAレベルの定量における手技は、細胞内からmRNAを抽出する過程だけでも、煩雑であり、手技的にmRNA量のロスも生じ、しかも、正確性と普遍性をもたせた上で、定量化することは、極めて困難な作業といえる。
[本感染検出用キット]
本発明では、本感染検出方法を、本定量方法を用いて行うための検出用キット(以下、本感染検出用キットともいう)を提供する。
本感染検出用キットは、上述した本感染検出方法を行うために必須の、又は、選択的に必要な要素を含んで構成されるものである。
具体的には、本感染検出用キットには、少なくともTLR2の既知かつ異なる量が担持された2種以上のビーズが構成要素として含有される。そして、標識されたTLR2に対する抗体を用いて、上述した本感染検出方法を、本定量方法を用いて行うことができる。無論、本感染検出用キットにおいて、上記2種以上のビーズと当該標識TLR2抗体の双方を構成要素として含有させることも可能である。
また、その他、希釈用溶媒、コントロール抗体、洗浄液、白血球分離液、反応チューブ等を構成要素として含有させることも可能である。
本検出用キットにより、本感染検出方法を、本定量方法に従って効率的に行うことがさらに容易となる。
本発明において、血液検体における単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数(site/cell)定量値を指標とすることにより、当該血液検体の提供者の罹患している疾病が病原体感染か否かの鑑別、さらに、病原体感染である場合、いかなる種類の病原体微生物感染であるのか、具体的には、細菌性、ウイルス性又は真菌性のいずれの感染であるのか、の鑑別を行うことができる。また、感染症治療薬剤投与後の血液検体におけるTLR2に対する抗体の認識サイト数(site/cell)の定量値を指標としてモニタリングを行うことにより、当該感染症治療剤の有効性や、疾病の再燃の可能性の有無についての検出を行うことができる。
さらに、本発明において、TLR1のフローサイトメーターにおける定量検出を行うことにより、検体提供者のウイルス感染を検出することができる。
精製段階ごとのサンプルについてのSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動像を示す図である。 4つの異なったTLR2量を結合させたビーズを作成し、これを標識抗体と反応させた結果を、フローサイトメーターにて解析した結果を示す図である。 IgGの平均分子量150000をTLR2抗体の分子量としてビーズに結合した抗体のモル数を算出して得られるスキャッチャードプロットを示す図である。 本定量方法による解析例を示した図である。 本発明のTLR2標準ビーズを用いた検量線を示した図である。 TLR2標準ビーズの保存安定性について検討した結果を示した図である。 細菌感染症患者と健常人の単球上のTLR2分子数を比較して示した図である。 感染症(細菌性、ウイルス性、真菌性)患者群発症時と健常者群との単球上のTLR2発現定量数値における比較検討の結果を示した図である。 この分布グラフ上の感染症患者群TLR2定量数値は、それぞれの疾患におけるその発症時に検体採取して調べた値である。 感染症患者群(抗生剤投与治療中)と健常者群との単球上のTLR2発現定量数値における比較検討の結果を示した図である。 この分布グラフ上の感染症患者群TLR2定量数値は、抗生剤投与治療中、治療後を通してそれぞれの病期間中で認められた、それぞれの最大値を示したものである。 90歳未満の感染症患者群(難治性重症者)、ウイルス感染患者群、健常者群における単球上のTLR2発現の定量数値における比較検討の結果を示した図である。 この分布グラフ上の感染症患者群のTLR2定量数値は、その臨床症状は非常に厳しい致命的な状態にあり、もちろん、その時点で使用されていた抗生剤も効果が認められない状況下における検査数値である。 細菌感染症患者における抗生剤の有用性とTLR2分子数の関係を、WBC、CRP、TLR2発現量をそれぞれ治癒患者と再燃患者とに分けて示した図である。抗生剤著効例とは、その抗生剤を投与して2〜3日以内にWBCの正常範囲までの下降、CRPの顕著な下降あり、臨床症状としても、その発熱の速やかな低下が認められた症例である。抗生剤の弱い効果例とは、抗生剤投与以降、CRP、WBC、臨床症状のいずれに関しても、揺らぎをみせつつ経過し、一週間程度の経過を追った結果として、WBC、CRPの低下、症状の改善傾向が認められた症例群である。抗生剤無効例とは、抗生剤投与下にあっても、WBC、CRPの検査所見、臨床症状のいずれにおいても増悪傾向を認めた症例群である。 細菌性感染症患者の病期間中のTLR2定量数値に関するフォローアップを行った結果を示す図である。(a)細菌感染症にて入院となり、抗生剤治療により一旦は寛解した37名の患者に関して、抗生剤中止時点の前後3週間にわたりTLR2数値の経過を追ったものである。抗生剤を中止して以後3週間の間にその再燃を認めず完治した症例24名と抗生剤中止以後3週間の間に感染の再燃を認めた13名に分けてグラフ化したものである。(b)完治群と再燃群に分けた上で、抗生剤中止時点でのWBC、CRP、TLR2値のそれぞれの数値をプロットして示した。 インフルエンザ感染患者群(発症時)と健常者群のTLR2定量数値における比較検討の結果を示す図である。 この分布グラフ上には、インフルエンザ感染症発症時のTLR2定量数値が示された。 普通感冒における重症度別の、単球上におけるTLR2定量数値との関連性を検討した結果を示す図である。普通感冒(ウイルス疾患)をその臨床症状(熱、全身倦怠感、食欲、咳、鼻水、補液治療の必要性の有無)で、軽症例と重症例に分けて、それぞれのTLR2値の分布状況を示したグラフ図である。 インフルエンザ感染患者群におけるTLR2定量数値のフォローアップの結果を示す図である。インフルエンザ感染者群24名について、Open Circle(23名)として、インフルエンザ感染症発症から、その治療薬 Oseltamivir (タミフル)内服後の経過に関して典型的なTLR2数値の治癒パターンが示された。一方、Solid Circle (1名)で、その経過過程において、異常な症状(近位筋の脱力)を呈した一例を示した。 心房細動不整脈患者群と健常者群のTLR2定量数値における比較検討の結果を示す図である。心房細動不整脈を患う患者のTLR2数値とその患者群にage-matched、sex-matchedさせた健常者群を抽出し、その健常者の有するTLR2数値をプロットした分布図で、両者を比較検討したものである。 冠動脈有意狭窄罹患枝数とTLR2定量数値の関係を検討した結果を示す図である。心臓冠動脈疾患を有する患者を、その冠動脈有意狭窄をもつ動脈枝数で患者を3群にわけて、それぞれのTLR2定量数値をプロットし、比較検討したものである。 ウイルス感染症における顆粒球と単球のTLR1のフローサイトメーターにおける発現パターンについて示した図面である。 インフルエンザ患者の血液検体に対して、TLR1発現量に関するフローサイトメーター解析を行った結果を示した図である。フローサイトメーターによるTLR1発現量の解析を単球細胞集団に敢えてゲートをかけず(限定した細胞集団での解析とせず)、全血液浮遊細胞をターゲットに解析を行った場合についての検討を行った。ウイルス性感染患者の一部の検体で、TLR1が比較的強く発現してくる細胞集団(単球)と比較的弱く発現している細胞集団(リンパ球)に分かれることを見出し、全細胞のTLR1発現分布状況を表したヒストグラム上で細胞集団分布が2峰性を示した代表的なヒストグラムを示した(上図)。さらに、その患者の回復期においては、そのTLR1発現2峰性分布が消失することを示した。
〔各種の疾患への本感染検出方法の適用〕
(a)感染症における病原体の種類(細菌性、ウイルス性、真菌性)の鑑別
本感染検出方法では、単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値が、統計的な健常者の範囲を超えて高値である場合に、当該高値をもって感染性炎症疾患有無判断の指標とすることができる。また、重症細菌感染症に罹患していない被験者の場合で、かつ、当該TLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値が、統計的な非重症細菌感染症の範囲を超えて高値である場合に、当該高値をもってウイルス感染症又は真菌感染症有無判断の指標とすることが可能である。さらに、炎症疾患に罹患している被験者の場合で、かつ、当該TLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値が、統計的な健常者の範囲内である場合に、当該健常値を、非感染性炎症疾患の指標にすることも可能である。非感染性炎症疾患としては、例えば、薬剤性臓器障害、虚血性もしくは低酸素性臓器障害、外科的侵襲を含む外傷、膠原病、自己免疫疾患、アレルギー疾患、癌疾患、非感染性の血液疾患等が挙げられる。
感染症の病原体を迅速、かつ正確に特定することの必要性は、そのことが、当該感染症に対する有効な治療薬剤の選択に直結するからであり、当該感染症をできる限り速やかに治癒に向かわせるための重要なステップともいえる。特に、易感染者の感染症の場合には、その病原体が、細菌、ウイルス、真菌にまたがる混合感染である場合も少なくなく、一般的な血液炎症所見であるWBC、白血球の分画、CRPの動きからでは、その病原体の同定は、かなり難しい症例もある。胸部レントゲン、胸部CT所見などの画像も参考に、専門的知識と経験を備え、病原体に特徴的な所見を指摘できたとしても、迅速診断(病原体の特定に)至る例は、むしろ数少ない。それぞれに、更なる病原体に特異的な検査(真菌感染の場合は、血中β-Dグルカン、ウイルス感染などの場合は、ペア血清の抗体価など)を重ねて、診断基準に照らし、十分な証拠となり得る結果が集まってはじめて、診断が確定される。実際の臨床現場では、例えば、試験的に投与した抗生剤が効き完治したことによって、治療後に、細菌性であったとの確証を得る場合も少なくない。逆に、最も頻度が高い細菌性感染症にとらわれるばかりに、他の病原体による感染である可能性を疑うことすらせず、抗生剤の効果がないことで、はじめて、他の病原体による感染の可能性を考え、ようやく特異的な検査を行う場合も稀でない。その間、当然、適切な薬剤の投与はできず、病原体に対して、ただ増殖の機会を与えるのみとなり、その結果として、感染症の重篤化を招く。
本感染検出方法を適用すると、TLR2の発現量の上昇程度に応じて、各病原体による差異が認められることにより、細菌感染に加え、真菌、あるいは、ウイルス感染の合併が考えられるのか、それとも細菌だけが感染している状態なのか、等の判断が、比較的容易になり、また、そのことによって、ある病原体感染の疑いをもち、その検出を目的とする特異的検査を実施し易くもなる。具体的には、ウイルスの感染(ただし、普通感冒などで認められる軽症のウイルス感染症は除く。一般的には、ウイルス感染は発症とともにそのウイルス特有の強い症状を呈し、新たな合併症に発展しない限り、その重症度幅は比較的狭い疾患である)、あるいは真菌感染の急性期(未治療の段階)においては、末梢循環単球膜上の蛍光標識抗TLR2抗体処理単球細胞の一細胞あたりの抗体認識部位数の定量値は、およそ7000sites/cell〜10000 sites/cellという高値を示す。一方、細菌感染症のみの場合には、その発症時の急性期(未治療の段階)において、単球膜上のTLR2の当該定量値は、およそ5500 sites/cell 〜7000sites/cellの範囲に入る。ただし、細菌感染症が長期化しその重症度は高くなり、しかも、ほとんど抗生剤の有効性がない場合に、およそ7000 sites/cell〜10000 sites/cellという高値を示す。この性質を活用すれば、感染発症時において、患者の末梢単球膜上でのTLR2の当該定量値を測定した結果、およそTLR2<7000 sites/cellであれば、細菌感染症のみを疑い、およそTLR2>7000 sites/cellの場合には、ウイルス単独感染である可能性、真菌単独感染である可能性、あるいは細菌に加えて、真菌、ウイルスの混合感染である可能性を検討すべきとの、およその見当がつく。なお、健常者が示すTLR2の数値は、およそ2000 sites/cell〜6000 sites/cellの範囲に入る。もちろん、ウイルス感染では、一般的にWBCの数値が、ほとんど変動せず(低下する傾向もあり)、細菌感染や真菌感染では、WBCの上昇、好中球分画の上昇が認められる従来の知見も、併せて参考にすべきことは、言うまでもない。
ただし、前述したように、ここに記載した一細胞あたりのTLR2抗体認識サイト数は、実際上の一細胞あたりのTLR2分子の絶対数ではない。粒子の大きさやTLR2の結合方法を変えた標準ビーズを用いた場合、あるいは認識部位が異なる抗TLR2抗体を用いた場合、その換算値としてのTLR2サイト数は異なってくる。したがって、本発明は記載された数値に限定されるものではなく、また、必要に応じて健常者の基準値の再設定および異常値レベル程度の設定がなされるべきものである。
(b)感染症に対する薬剤の有効性の検討
本感染検出方法では、血液検体が感染症治療薬投与開始後の被験者の血液検体であり、単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値が統計的な健常者の範囲内へと減少した場合に、当該感染症治療薬が被験者に対して有効であることの指標とし、かつ、当該定量値が統計的な健常者の範囲を超えて高値である場合には、当該感染症治療薬の被験者に対する著効性を否定する指標とすることができる。
自覚症状、または、他覚所見から肺炎、腸炎、腎盂腎炎など、速やかに感染臓器が特定できるような場合には、それぞれ痰、便、尿などのサンプルを採取し、細菌培養、真菌培養にて、病原体を同定でき、その薬剤感受性を調べることで、現在投与中、あるいは、まだ投与していない各種抗生剤、抗真菌剤の効果を予測することが可能となる。しかし、薬剤感受性試験の結果から有効とされる薬剤が選択投与されても、実際、感染症患者においてその薬剤の効果がほとんど認められない場合もある。その理由としては、サンプルが、起炎菌を確実に捉えられていない可能性が一つには考えられ、また、薬剤投与による菌交代現象の結果として新たな起炎菌、耐性菌が、短期間のうちに次から次へと出現してくるような場合に、上記現象は起こり得る。感染症患者における薬剤効果の有無の判断は、現状では、患者の自覚、熱、心拍数の正常化を含む身体所見、血液炎症所見(WBC、CRP等)の経時的変化などを総合的にみて判断されている。
発明者は、末梢血液単球膜上のTLR2発現の測定結果が、現在投与中の薬剤効果を判断するための有用な指標になることを見出した。具体的には、治療薬投与中の血液検体において、およそTLR2>7000 sites/cellであれば、その時点での、薬剤の効果がほとんどないものと考えられ、実際、発明者は、このような場合に、それより数日後の血液炎症所見(WBC、CRP)において上昇傾向が認められる事実を明らかにした。また、およそ6000 sites/cell<TLR2<7000 sites/cellの場合には、現在投与中の薬剤の効果は、ある程度、期待でき、およそTLR2<6000 sites/cellの場合には、当該薬剤の著効を表す範囲であることを見出した。血液炎症所見(WBC、CRP)を参考に抗生剤の検討を行ってきた従来の方針と比較して、適宜、TLR2等の発現量を調べ、その結果を指標に、治療方針の決定(薬剤の選択、あるいは、変更)を行っていけば、治療過程において、患者が、発熱をはじめとする、その他の感染症状を不必要に自覚することもなく、有効性無い抗生剤から有効性有る抗生剤へと速やかに変更でき、感染症を治癒方向へと導き得る。
ただし、前述したように、ここに記載した一細胞あたりのTLR2抗体認識サイト数は、実際上の一細胞あたりのTLR2分子の絶対数ではない。粒子の大きさやTLR2の結合方法を変えた標準ビーズを用いた場合、あるいは認識部位が異なる抗TLR2抗体を用いた場合、その換算値としてのTLR2サイト数は異なってくる。したがって、本発明は記載された数値に限定されるものではなく、また、必要に応じて健常者の基準値の再設定および異常値レベル程度の設定がなされるべきものである。
(c)不顕性感染症の検出
長期化している感染症の病態は、TLR2の定量値に鋭敏に反映されているため、当該定量値の増加を検出することにより、潜在的なレベルでの感染症(不顕性感染)の検出を行うことが可能である(ここでいう潜在的とは、ウイルス感染症の場合のウイルスキャリアー、細菌感染症の場合の保菌者などを指しているものではなく、病原体に対して宿主側の防御反応が最大限に働き、ようやく病原体の増殖が抑制されているような状態をいい、自覚、他覚所見、従来の一般的検査所見においても炎症反応がほとんど検出できない不顕性感染状態を指す)。ただし、単球膜上TLR2発現異常が関与する免疫異常、免疫耐性の状態にある特殊なケースを除く。
(i)感染症の「再燃」のモニタリング
血液検体が感染症治療薬剤投与後の感染寛解期の薬剤中止時期における被験者の血液検体であり、単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値の当該薬剤中止時期からの経時的な増加を、感染再燃の肯定的な指標とすることができる。この肯定的な数値所見として、単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値が、健常者の統計的な当該定量値の平均値に標準偏差の2倍を加算した値を超えて高値となる場合として規定することで、感染再燃のさらなる確実な指標とすることも可能である。また、本感染検出方法において、単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値の当該薬剤中止時期からの当該定量値の経時的な最大値が、健常者の統計的な当該定量値の平均値よりも低値であることを、感染再燃の否定的な指標とすることも可能である。
上述したように、抗生剤等の感染症治療剤を投与している感染症患者に対して、適宜、TLR2の本感染検出方法を行い、モニタリングし、単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値が一定の値以下になった時点で、当該感染症治療剤の投与を中止したならば、潜んでいた病原体による感染症再燃のケースを著しく低下させられる事実を、発明者は、具体的な感染症例を積み上げ実証している。そして、その細菌感染症の再燃率が、そのTLR2の数値の上昇とともに増加するという、統計学的な依存性があることも証明している。かかる事項については、実施例の欄にて記載する。ただし、感染再燃を検討する上でのTLR2等の定量値による経時的モニタリングの際には、従来から行われている血液炎症所見(WBC、CRP)の数値も併せて検討する必要があり、TLR2の定量検査単独で、薬剤中止時期の判断指標になり得るというものではない。
(ii)手術等の感染症以外の疾患の治療前後における感染症の早期検出
本感染検出方法は、血液検体(被験者)が感染症以外の疾患の治療、例えば、手術を含む外科治療、放射線治療、薬物化学療法及び/又は理学物理療法、前後の血液検体(被験者)である場合にも、的確に、潜在的感染症の有無を検出することができる。
手術等の感染症以外の疾患の治療前にその患者において潜在しているような感染症(不顕性感染)が存在している場合、例えば、手術による侵襲や、放射線照射によるダメージ、抗癌剤等の薬物化学療法等により著しく患者の体力が失われると、感染に対する抵抗力が減じられる結果、不顕性感染症が顕在化し、術後の感染症が発症してしまうようなケースも存在する。このことを防ぐ目的から、潜在している感染症の有無、あるいは、その顕在化する勢い、増殖程度を推し量る目的で、本感染検出方法を術前検査の一つとして施行することが推奨される。単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値は、長期にわたる感染症であれば、不顕性であっても、極めて鋭敏に検出できるため、このような術前の不顕性感染の検出には、従来の炎症マーカー以上に優れている。
また、上記の感染症以外の疾患の治療後において(治療後は、感染はなくとも、細菌感染予防を目的とした抗生剤の投与が行われている)、手術侵襲等自体の要因により、従来の炎症マーカー(WBC、CRP等)は、上昇変動を示すことから、術後1〜3週の期間に、感染症が起こった場合には、従来の炎症マーカーをもって、感染を早期に見出すという作業は、極めて困難となる。このような場合にも、本感染検出方法は、手術侵襲による変動がほとんどなく、感染症を極めて特異的にとらえることから、術後感染症をモニタリングする目的で、優れた指標となり得る。
手術が、ペースメーカー、ICD(電気的除細動器)、人工弁のような人体埋め込み式の医療機器・器具などを使用する場合、特に、これら医療機器・器具が感染源となって発症する感染症(敗血症、感染性心内膜炎など)に対しては、厳重な注意が必要とされる。なぜならば、このような感染症が、発症した場合には、適切なタイミングで再度の手術を行い、感染源である医療機器・器具を取り出し、抗生剤投与によって感染を完治させ、後日、再々手術によって新たに同じ当該機器を患者に植え込む手順を踏むことになる(感染源となっている医療機器・器具を残した上での抗生剤使用のみでは、ほとんどの場合、完治が期待できない)。このことによる患者の身体的、経済的負担、そして、医療費負担は莫大なものがある。感染患者の埋め込み手術を行うタイミングを検討する上で、あるいは、植え込み式医療機器が感染源となって感染症が発症しているような場合の再手術を行うタイミングを検討する上でも、本感染検出方法は有用性が高い検査となる。感染程度が強い時期の手術は、再感染の危険性がそれだけ高くなり、可能な限り、抗生剤などの薬剤使用により、感染を抑え込んだ状態にすることが望ましく、潜在する感染の勢いをとらえ得る当該検査は、繰り返す手術を避けるためにも、従来の検査以上に有用なものとなる。
(d)感染症と非感染性疾患との鑑別
上述したように、本感染検出方法では、単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値が、統計的な健常者の範囲を超えて高値である場合に、当該高値を感染性炎症疾患の指標とすることができる。また、重症細菌感染症に罹患していない被験者の場合で、かつ、当該TLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値が、統計的な非重症細菌感染症の範囲を超えて高値である場合に、当該高値をウイルス感染症又は真菌感染症の指標とすることが可能である。さらに、炎症疾患に罹患している被験者の場合に、かつ、当該TLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値が、統計的な健常者の範囲内である際、当該健常値を、非感染性炎症疾患の指標とすることも可能である。
人体に何らかの炎症(組織破壊)が起こっている場合、その原因が病原体によるものか、それとも、感染症以外の炎症性疾患に基づくものなのか、この二つの鑑別が容易でないケースも、数多く存在する。どのような炎症であれ、その原因を早期に突き止め、適切な治療方針を立てることは、臨床上、極めて重要なことである。しかしながら、従来の血液炎症所見(WBC、白血球分画、CRP等)のみでは、非感染性炎症に対しても広く反応してしまい、感染症に対しての特異的な指標とは成り得ない。例えば、以下のような場合には、炎症が感染に基づくものか否かを判断することが難しいにもかかわらず、その判断が、患者にとって極めて重要な意義を有することが多い。本感染検出方法を適用することにより、これらの原疾患に合併して発症する感染症を早期の段階で的確に捉えることが可能になり、また、これら非感染性炎症疾患を有する患者の感染症合併に対して治療を行った際、単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の正常化でもって感染治癒を判断することも可能になる。
(i)肝臓障害(ウイルス性、薬剤性、鬱血性、ショック時に起こる低酸素性など)
肝臓機能障害(肝臓疾患を主病名とする症例、合併症として肝臓障害が認められる症例など)をきたす患者の数は、非常に多く、また、その原因に関しても、多様に存在している。実際、肝機能異常が認められた場合、それらの原因となり得る要因が重なって存在していることも、珍しいことではなく、明確な原因がつかめない場合も多い。例えば、慢性心不全の患者が細菌性肺炎を起こし、入院したようなケースで、抗生剤使用中に、肝臓の機能障害が認められた場合には、抗生剤による薬剤性肝障害、心不全による鬱血性肝障害、仮に、心不全が重症のケースであれば、心原性ショックによる低酸素性肝障害も、その鑑別疾患として挙げられる。加えて、ウイルス性の鑑別はもちろん必要となり、実際、A型、B型、C型肝炎の可能性は調べられたとしても、その他ウイルスによる肝障害の可能性は否定できないまま残る。この問題に、本感染検出方法は、急性ウイルス性肝障害とその他の肝障害を鑑別できる情報を与えることが可能であり(慢性ウイルス性肝障害を含めて急性ウイルス性以外の肝障害では、単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値の上昇は認められない。この理由として、慢性肝炎では、そのウイルス増殖が極めて少ないからであると推測される)、肝障害の原因を絞る検査の一助となり得る。
(ii)心筋梗塞、脳梗塞など臓器虚血壊死に合併する感染症
虚血による臓器障害が、発症した場合、臓器壊死により、それ自体でも従来の血液炎症所見(WBC、白血球分画、CRPなど)の上昇が認められる。このような重篤疾患の急性期の段階では、肺炎、腸炎等の細菌感染症が合併してくる率も高い。虚血臓器障害の急性期段階と重なり、WBC、CRPはその疾患自体で上昇しており、この場合の感染症のモニタリングとして、従来の炎症マーカーを用いては、感染症発症の指摘が困難であった。本感染検出方法における単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値は、虚血性臓器壊死により生じる炎症に対しては上昇しない一方で、感染に対しては上昇する性質をもつことから、このような場合にも、本感染検出方法を経時的に適用することで、抗生剤開始の時期、抗生剤変更の時期について、適切かつ迅速な対応ができるようになる。
(iii)膠原病などの疾患に合併する感染症
感染症に罹患していないにもかかわらず、CRPの上昇や発熱は、膠原病などを有する患者の場合には、その疾患の活動度に応じて認められる。したがって、このような患者に感染症が発症した際(膠原病では、低用量ステロイドの長期内服を行っている患者も多く、このような患者は易感染状態にある)、患者本人が、異常として気づくのも遅れ、病院受診後の診断、治療もまた遅くなる傾向にある。本感染検出方法における単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値は、膠原病に基づく炎症では上昇しないことも、本発明者によって明らかにされた。膠原病患者で、本感染検出方法を行うことで、従来、遅れがちになっていた感染症診断に関して、その早期段階での的確な検出が可能となり、問題は解決される。また、膠原病を有する患者に感染が発症し、治療過程、治療後における感染症完治の判断にも、本感染検出方法は有用である。
(iv) 腫瘍に伴う感染症、腫瘍と感染症との鑑別
腫瘍、特に、悪性腫瘍の場合には、免疫バリアの破壊から腫瘍組織に重複したかたちでの感染症が起こる頻度が高い状態にある。このような場合、悪性腫瘍(上皮性癌)自体でも発熱、CRPの上昇は起こり得るため、感染症が合併しているのか否かを判断することが困難となる。しかしながら、原則として本感染検出方法における単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値は、癌自体によっては(特殊な癌を除き)、その上昇が認められず、この定量値でもって感染症の有無の判断、モニタリングができ、もし、感染症が起こった場合には、それに対する薬剤を、適切なタイミングで、適切な期間、投与することも可能になる。さらに、癌に対する治療方針を立てる上でも、感染症という合併症のコントロールを十分に行っていれば、癌の広がりに関する画像診断も、比較的容易になる。また、その治療として、外科手術が選択された場合、予め、できる限り、薬剤によって、合併感染症を抑え込んでおけば、術後を含めた手術の成績を向上させることにもつながる。腫瘍組織の感染合併が十分に抑え込まれた状態か否かの判断に際して、本感染検出方法は、内科的にも外科的にも有用な情報を与えるものとなる。なお、上記の特殊な癌とは、感染症類似の物質、例えば、サイトカイン、ケモカイン類の分泌を自ら行う癌である。
また、癌の診断においても、胸部X線や胸部CT検査の結果から正確に行える場合などは、稀であり、通常は、精査のための非常に専門的な技術、あるいは、PETなど高度医療機関における高額な検査を必要とする場合が多い。例えば、胸部X線検査にて、肺に腫瘍が疑われる異常陰影が存在した場合、急性感染症(例えば、クリプトコッカス真菌感染など)との鑑別が必要なケースもしばしば認められ、本感染検出方法によって、急性期感染症の有無判断が可能となり、癌の診断が比較的容易になる(ただし、本感染検出方法における単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値は、陳旧性肺結核を含む陳旧性瘢痕や感染症以外の変性性疾患などに関しては、正常値範囲に留まり、これら疾患と癌との間での鑑別が、依然、必要ではある)。
(v)血液疾患に合併する感染症
例えば、白血病や骨髄異型性症候群においては、その疾患自体でも、また、治療(化学療法、骨髄移植)によっても、WBCは、大きく変動し、特に、WBCは、感染症の重症度の指標として使用できなくなる。しかしながら、本感染検出方法における単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値に関しては、例えば、G−CSF製剤を使用し(血液疾患の治療時に繁用される)、好中球数を増加させた場合にでも、感染症が認められない限り、ほとんどその数値に変動がない。したがって、このような血液疾患患者において、感染症が合併した場合のその検出およびモニタリングにおいて、本感染検出方法は、有用性が非常に高い検査となる。
(e)ウイルス感染による重篤疾患合併のモニタリング
インフルエンザ感冒の迅速診断キットが、一般的に院内で使用可能となってから、その診断は、容易になり、その検査のおかげで、適切な治療薬が選択できるようになった。しかしながら、インフルエンザ、普通感冒を含め、ウイルス感染症を広くとらえ、また、その重症度を客観的に推し量るための手段となる検査は、未だに開発されていない。また、ウイルス感染の場合には、有効な治療方法がない場合も多い。稀な重篤ウイルス性疾患を除き、ほとんど成人の場合には、時間の経過とともに、治癒が見込めるため、ウイルス感染の重症度をモニターできる新たな指標が必ずしも必要とされてきた訳ではない。しかしながら、患者が新生児、小児、易感染者である場合や、あるいは、ウイルス種によっては、事情は全く異なる。この場合のウイルス感染症は、それ自体、重症化を招き、脳脊髄炎、心筋炎、肝臓障害、副腎炎、睾丸・卵巣炎などに発展し、致命的重症疾患に移行することもある。病状を把握し、治療効果をみる上でも、ウイルス感染の重症度をモニタリングできる本感染検出方法は、その有用性が高いといえる。
例えば、100000人中およそ8人の割合で発症するとされるウイルス性心筋炎という疾患の場合、心筋梗塞と同様、その急性期には、致命的な病態に陥り、診断においても心筋梗塞との鑑別がつかないケースも多々存在する(心臓カテーテル血管造影検査を行う設備を整えていない病院では、特に、鑑別が困難となる)。このようなウイルス性心筋炎の診断においても、ウイルスの活動度をみる上で、本感染検出方法は、非常に有用な検査手段となる。さらに、最近では、ウイルス感染をきっかけに、心筋組織での炎症が慢性的に持続し、拡張型心筋症へと移行してしまうようなinflammatory cardiomyopathyと呼ばれる病態の存在も明らかになってきた。後者のケースでは、将来的に慢性心不全状態に入る可能性高く、適切な時期に、慢性心不全に対する継続的内服治療を開始する必要性が生じてくる。また、心筋内での炎症は、致命的な不整脈発作の原因にもなり、不整脈予防の対処が必要になることもある。このような、ウイルス感染をきっかけとして(感染類似の)炎症が持続的に認められるようになるケースでは、経過観察が重要となり、十分な感度でその炎症をとらえることのできる本感染検出方法は、その病態進行のスピードを予測するという観点からも、有用な検査となる。
その他、脳脊髄炎やウイルス性肝炎をはじめとするウイルス性重症感染症に関しても、その重症度、ウイルス増殖程度について、本感染検出方法による、ウイルス感染症の客観的指標をもっての経過観察、随時のモニタリングすることは、その治癒経過、治療効果の把握を含めて重要なことである。本感染検出方法における単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値は、従来の血液炎症所見、血中逸脱酵素や細胞マトリックス成分の測定、あるいは、ウイルス抗原、抗体価の検出(検査可能ならば)とともに病態の重要な情報を与える。
また、本発明は、ウイルス性感染に対しての更なる指標を提供する。すなわち、本発明者らは、フローサイトメーターによるTLR1の定量を行い、一部のウイルス性感染患者において、その発現上昇が起こる事実を見出した(ほとんどの細菌感染症、真菌感染症の場合には、この現象は認められない)。この現象の有無を検討することは、ウイルス感染症であるか否か鑑別を行う上で、また一つの重要な指標になり得る。また、ウイルス感染が認められる場合の、MFIによるTLR1蛍光強度のパターンは、2峰性を示すことも、本発明者らは見出した。
(f)虚血性疾患の危険因子(動脈硬化病変進展の重症度の推測)として
動脈硬化の要因、危険因子に関しては、今までに、遺伝的素因、環境素因、生活習慣、性差(ホルモン関連)にまたがり、甚大な数の多岐にわたる報告が存在する。この報告数からみても、動脈硬化病態には、非常に多様な因子が関与し、それらが複雑に絡み合い、動脈壁における動脈硬化プラーク形成の進展速度を変化させていることは確かであり、動脈硬化進展抑制のためのターゲットは絞り難いといえる。四大危険因子として、臨床上、高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙のように確立されたものもあるが、一方では、古くから唱えられてきてはいるものの、今尚、議論が続く問題も多い。このような状況の中、動脈硬化の成因として、クラミジア、サイトメガロウイルス、ピロリ菌の感染なども関与しているとの報告も続いている(Ramirezら、Ann Intern Med. 1996; 125:979-82、Saikkuら、Lancet 1988;2:98-6、Kuoら、J Infect Dis. 1993;167:841-9、Melnickら、Eur Heart J. 1999;34:1738-43、Zhuら、J Am Coll Cardiol. 1999;34:1738-43、Farsakら、J Clin Microbiol. 2000;38:4408-11、Hoffmeisterら、Arterioscler Thromb Vasc Biol 2001;21:427-32、Oshimaら、J Am Coll Cardiol. 2005 19;45:1219-22)。これら報告を支持する見解として、本発明者は、動脈硬化病変が強く進んだ患者は、健常者と比較して、末梢循環単球細胞上においての本感染検出方法における単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量数値が高い傾向を示すことを見出した(急性期感染症ほど顕著な増加ではないが)。よって、本感染検出方法は、全身動脈硬化の重症度を推し量る目的で有用な検査となる。また、TLR2から単球細胞核に伝わるシグナルは、単球の活性化を促進することが分かっており、動脈硬化病変の成り立ちを考えれば、本感染検出方法における単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値が高値であることは、逆に、動脈硬化進展の独立した危険因子になっているともみなせる。今後、単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値を低下させる方向での治療が、動脈硬化進展を予防する治療に発展する可能性もあり、本感染検出方法は、虚血性疾患の一次予防という観点から有用な検査手段となり得る。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、これらの記載により、本発明が限定されるものではない。
[実施例1] TLR2発現ベクターの構築
TLR2はデータベース情報をもとにPCR法にてクローニングした。プライマーは、
F5’-tttcccggtacccactggacaatgccacatactttgt (配列番号1)
R5’-gggaaagcggccgcgcctgtgacattccgacaccgaga (配列番号2)
で、TLR2の細胞外領域部分をコードしている遺伝子に、上流にXbaIサイト、下流に6個のヒスチジンタグ(Hisタグ)とEcoRIサイトを導入した。テンプレートは、同意を得た健常人ボランティア血液サンプルから磁気ビーズ標識された抗CD14抗体を用いて単球を分離し、常法にてRNAを抽出し、oligo dT またはランダムプライマーを用いて逆転写したものを用いた。増幅したDNA断片を市販の発現ベクターpRC/CMVに組み込み、配列を確認したものを、TLR2発現ベクターとして用いた。
[実施例2] TLR2タンパク質の精製
実施例1で作成したTLR2発現プラスミドを293細胞に、エレクトロポレーション法にて導入した。10% FBSを含むDMEM培地にジェネティシン(濃度0.8 mg/ml)を加えて培養することにより、TLR2発現プラスミドが細胞染色体に組み込まれ恒常的にTLR2を発現する細胞を得た。さらに限界希釈法によって、細胞をクローン化して、TLR2の発現量が多い細胞を選んだ。それを293F培地で撹拌培養し、5〜7日後に培養液を回収した。回収した培養液は、濃縮後、リコンビナントTLR2に結合させたHisタグに対する親和性を持つNi−NTAカラム、陰イオン交換カラムMonoQカラム、再度Hisタグに対する親和性を持つTALON Metal Affinity Resinカラムを用いて精製をおこなった。図1は、精製段階ごとのサンプルをSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけた後、CBBによってタンパク質を染色した図である。図に示すように、約76 Kd のTLR2リコンビナントタンパク質を高純度で精製できた。7リットルの培養液から、1.5 mgのTLR2リコンビナントタンパク質を回収した。
[実施例3] TLR2タンパク質のビーズへの結合
アミノ基がコートされた市販のラテックスビーズにTLR2リコンビナントタンパク質をグルタルアルデヒド法によって結合させて作成した。具体的には、PolyScience社より購入した直径6ミクロンのポリスチレン製アミノビーズをPBSにて3回洗浄後、8%グルタルアルデヒドを加え室温で1時間転倒混和した。PBSにて5回洗浄後、100 mM HEPES (9.0)/PBS溶液中にて3〜0.1mg/mlの範囲で4段階に希釈したTLR2タンパク質(希釈率は、Lowビーズが0.1mg/ml、Low−mediumビーズが0.6mg/ml、mediumビーズが1.6mg/ml、Highビーズが1.7mg/ml)と室温にて二時間転倒混和した。エタノールアミン添加により反応を停止し、0.1% BSA/PBSによるブロッキングで反応を終了させた。この方法により、異なったTLR2量を結合させた4種類のビーズを作成した。ビーズ1x10個をそれぞれ0.1% BSA/PBS 中で3μg/mlの PE結合抗TLR2モノクローナル抗体(クローン名T2.1:eBioscience社製)と反応させ、フローサイトメーターを用いて解析した結果が図2で、TLR2タンパク質のビーズへの結合と抗TLR2抗体との反応性を確認した。ビーズを凍結保存しても値はほとんど変化なかった。
[実施例4] TLR2標準ビーズの抗体認識サイト数の定量
TLR2標準ビーズへの抗体結合量の定量は、スキャッチャードプロット法と呼ばれる反応における結合量と未結合量の関係式より求めた。具体的には、以下のようにしておこなった。まず、市販の非標識TLR2抗体をクロラミンT法にて125Iでラベルした。ラベルした抗体はELISA法にて濃度を定量した。次いで、実施例3記載の要領で、100mM HEPES(9.0)/PBS溶液中にて希釈されたTLR2タンパク質を、アミノ基がコートされた市販のラテックスビーズ接触させることにより、異なる密度でTLR2タンパク質が結合したビーズを調製した。具体的には、上記ラテックスビーズ0.5x10〜5x10個に対して、125I標識TLR2抗体を3μg/ml〜6.2ng/mlの間で希釈して加えて反応させた(当該希釈率は、0.1%BSA/PBS溶液中において、1500ng/ml、500ng/ml、167ng/ml、55.6ng/ml、18.5ng/ml、6.2ng/mlである)。30分間の反応後、ビーズを洗浄し、ガンマーカウンターにて、結合した抗体のカウントをおこなった。同時にコントロールとして、非標識TLR2抗体を100μg/ml加えて反応させて、ビーズに結合しているTLR2をブロックしてから、125I標識TLR2抗体を加えて測定した値を非特異的結合とし、両者の差をとって特異的結合量を求めた。IgGの平均分子量150000をTLR2抗体の分子量としてビーズに結合した抗体のモル数を算出(bound[B])するとともに反応に添加した全標識抗体量から結合量の差をとって非結合量(Free[F])を求めた。X軸を[B]、Y軸を[B]/[F]として算出した値をプロットしたものが、図3で示すスキャッチャードプロットである。[F]が無限大であるy=0の時のXの値が単位ビーズあたりの抗体最大結合量で、抗体で認識される数になる。図3で示したプロットの例では、Lowビーズ1個あたり334サイト、Low−Mediumビーズ1229サイト、Mediumビーズ3437サイト、Highビーズ13461サイトと計算された。この測定を複数回行って平均を求めた結果、今回作成したTLR2標準ビーズのビーズ1個あたりの抗体結合サイト数は、Lowビーズ364、Low−Mediumビーズ1229、Mediumビーズ3320、Highビーズ14067となり、以下の測定ではこの値を使用した。
[実施例5] TLR2標準ビーズを用いた検体測定
同意を得た感染症患者のヘパリン採血血液検体からフィコールを用いた比重遠心法にて、リンパ球と単球を主に含んだ単核球画分を分離精製した。単核球は、0.1% BSA/PBS に懸濁し、3本のチューブに分注した。それぞれ、3μg/mlのPE(Phycoerythrin)標識抗TLR2抗体、PE標識コントロール(マウスIgG2a)抗体、PE標識抗CD14抗体にて30分間反応させた。
前2者には、実施例4にて用いた、Low〜Highの4種類のビーズ各1x10個を加えて、同時に反応させた。細胞およびビーズは0.1% BSA/PBSにて2回洗浄後、フローサイトメーターにて解析した。図4は、その解析例を示す。CD14は単球の表層マーカーで、PE標識抗CD14抗体の染色を指標に、単球の画分、R1にゲートを設定することができる。そのゲートを用いて、単球のTLR2のMFI(平均蛍光強度)とコントロール抗体のMFIを求めることができる。
一方、ビーズは細胞とは重ならない位置(R2)に存在し、容易にゲートをかけることができる。TLR2の染色では、4つのピークがみられ、それぞれのMFIを求めることができる。これをグラフにして近似曲線を引いたものが図5であり、この検量線を用いて、図4で測定した単球のDelta MFI[抗TLR2抗体に対するMFI(104.31)とコントロール抗体に対するMFI(11.71)の差分]が92.6であったことから、TLR2サイト数は5031と求めることができた。
[実施例6] 測定条件を変えた時の検体測定におけるTLR2標準ビーズの有用性の検証
本定量方法と、既存の方法であるQuantiBrite(QB)法との比較を行った。ここで、QB法とは、異なる既知量の蛍光物質が付いたビーズについて、そのMFIをプロットすることにより作成した検量線を基として、蛍光標識抗体と反応させた被験物質のMFIより結合した蛍光抗体量を求め、標識される抗原量を測定する方法である(PannらCytometry45:250-258,2001)。
実施例5と同様の方法で単球のTLR2を測定し、本ビーズでTLR2の抗体認識サイト数を求めるとともに、QB法にて蛍光物質の量を換算した。表1は、フローサイトメーターの感度設定を変えることによって、異なる日の測定で機器の感度に大きなずれがおこった場合を3検体(検体1〜3)に対して再現した。
Figure 2007136025
QB法と本定量方法は、測定値の意味が異なるため同じ値にはならない。FL534とFL634は機器の感度設定であり、3例とも、後者の方が高感度になりMFIも高くなる。しかし、QB法と本定量方法は感度の変化があっても±5%以内の変化に収まっておりどちらの方法も機器感度の変化に対する対策として有用であることが証明された。次に検体を変えて〔別個の3検体(検体1〜3)〕、抗体の劣化や測定時の抗体希釈のずれを再現するために添加するPE標識抗TLR2抗体の濃度を大きく変えて同様に測定し、結果を表2にまとめた。
Figure 2007136025
表2において、QB法では±20%の誤差がみられたが、本定量方法では、3例とも±5%以内に収まっており、本法の有用性が確認された。
次に、本感染検出方法において、測定者、フローサイトメーターが変わることを想定した場合、一致した定量結果が得られるか否か、つまり、普遍性に関しての試験を行った。同じサンプルのうち2つについて測定機器を変えて測定したが、誤差は±5%以内であった。その結果を表3に示す。
Figure 2007136025
さらに、異なる5台のフローサイトメーターを使用して、同一検体にて、同一の値が得られるかどうかを検討した。下記表4に、同一検体で同一測定値が得られた結果が示されており、本定量方法における普遍性が実証された。
Figure 2007136025
[実施例7] TLR2標準ビーズを用いた測定法での日差再現性
本定量方法を用いて、異なる日に同じ検体を測定しても同様の測定結果が得られるかどうかを調べた。血液検体はそのままでは凍結で保存できないため、全く同じ検体を、日にちを変えて得ることは不可能である。そこで同意の得られた健常人ボランティアの血液検体から、実施例5に示した方法により単核球画分を分離し、10% ジメチルフォルムアミドを加えた牛胎児血清中マイナス80℃で凍結し、液体窒素で1か月以上ストックした後、日にちを変えて融解後、実施例5の方法で測定し、表5に結果をまとめた。
Figure 2007136025
表5に示すように、3検体について実験を行い、いずれも変動率10%以下で良好な結果が得られた。
[実施例8] TLR2標準ビーズの保存安定性
作製したTLR2標準ビーズの保存条件を検討した。液体窒素保存(−200℃)したビーズをそれぞれの条件(−20℃、4℃、室温、凍結乾燥)で保存後測定し、測定毎同時に液体窒素保存ビーズも測定し、その値を基準とした比(%)で表した(図6)。凍結乾燥は、10%スクロース添加0.1% BSA/PBSに懸濁した状態で行い、測定時に一度洗浄をおこなった後に用いた。凍結乾燥では、最初に10%程度の低下が見られたもののその後は安定であった。よって、TLR2標準ビーズは、凍結乾燥保存を行うことが好適であることが明らかになった。
また、-80℃保存においては、少なくとも半年間安定であることをスキャッチャードプロット解析にて確認した。
[実施例9] 本感染検出方法(一単球あたりのTLR2抗体認識サイト数表記、site/cell)と従来のTLR2細胞膜抗原定量系(平均蛍光強度MFIでの数値表記)の、被験者(細菌感染症患者)の臨床経過からみた比較検討
前述したように、フローサイトメーターの感度変化、特異的抗体の劣化、ロット差により、測定毎、機器条件にずれが生じる従来のフローサイトメトリー測定系(MFI数値)を用いて、測定日が異なる2つ以上の数値間の比較を行い、経時的な患者の臨床経過を正確に追うことは困難であった。また、同時に測定していない健常者群との比較はもちろんのこと、多施設間で測定した数値結果を比較することは、不可能な状況にあった。本発明者は、標準を設定した上で、単球膜上のTLR2量を特異的モノクローナル抗体の認識サイト数として表記する定量方法の開発を行い、単球におけるTLR2抗原量を測定する方法を確立し、経時的普遍性の獲得と共通の単位設定という2つの問題を同時に解決した(測定者、フローサイトメーターが変わることを想定した場合にも対応可能)。
大部分の症例で、MFI数値と一細胞あたりの抗体認識サイトの数値は、パラレルな動きをみせるが、以下の表6では、それら数値が相反した動きを示した細菌感染症患者の一部、4症例を提示した。それぞれ経過を追い、その臨床経過が、MFIの数値の動き、あるいは、開発した定量方法の数値の動きのいずれに順ずるかを比較した。患者の自覚症状、他覚所見、採血データ(WBC、CRP等)を含めた臨床像としては、症例1から3では、明らかに回復傾向が認められ、症例4では、安定、もしくは、やや増悪傾向がそれぞれの測定日間(1から2週間の間隔をあけての測定)、または、それ以降の数週間において認められた。下記の表から、このような微妙な患者の状態変化を捉えるには、本定量方法が極めて好適であることが明らかになった。
Figure 2007136025
[実施例10−1] TLR2標準ビーズを用いた健常人と感染症患者検体のTLR2発現測定
健常人ボランティア13名と感染症患者36名(細菌感染症25名、ウイルス感染症10名、真菌感染症1名)からそれぞれに使用の同意を得て、採血を行い、実施例4で示した方法でTLR2サイト数の定量をおこなった。その結果、図7に示すように、健常人群では平均2370±581だったのに対して患者群では細菌感染症患者で6493±733、ウイルス感染症患者で8784±1469と有意に患者群でのTLR2サイト数が多く、感染症患者でのTLR2サイト数の増加を確認した。また、細菌感染症よりウイルス感染症患者で高値を示した。
[実施例10−2]感染症における病原体の種類(細菌性、ウイルス性、真菌性)の鑑別
図8は、細菌感染症、ウイルス感染症、真菌感染症のいずれの感染症においても、その発症時(感染症状を自覚し間もなく病院受診した際)の、単球上のTLR2定量数値を示したものである。細菌感染症(抗生剤投与ない時点)においては、その発現量は上昇傾向を示すが、まだ、正常域に留まるケースも多かった。一方、ウイルス感染症の場合、その症状自覚した時点で、既に、正常域を大幅に超え、かなりの高値を認めた。真菌感染症の2例に関しても、ウイルス感染と同様の傾向を示した。この発症時点で、従来の炎症マーカーから、明らかに細菌感染症、真菌感染症とウイルス感染症を区別できる典型像(細菌、真菌感染の場合には、WBCの上昇、続くCRP上昇が見られるケースが多い一方で、アデノウイルス感染以外のウイルス感染では、WBCの上昇、CRPの著明上昇は、ほとんどのケースで認められない)を示す症例も認められたが、少なからず、WBC、CRPがそれらの正常域に留まり、感染疾患に罹患しているのかさえもわからない症例やウイルス感染でありながら細菌感染の可能性も否定できない症例も認められた。ここに、上記の単球上TLR2発現量の増加程度に関する特徴を十分に把握した上で、感染発症から時間経過がほとんどない患者の、本感染検出方法による末梢血単球上のTLR2定量数値の検討は、「ウイルス性感冒を考え、細菌感染あるいは膠原病等(膠原病の実施例は後述)を疑う余地はないのか」、「疾患は細菌感染のみに絞り込めるのか」、「混合感染の可能性はないのか」等の疑問にある程度の指針を提供し、発症早期の段階で、診断の一助となり得る情報を与えた。発症時における、WBC、白血球分画、CRPの数値に加えた単球上TLR2発現量数値の検討は、客観的根拠に基づいた確かな診断につながることが実証された。
図9は、健常者の本感染検出方法により与えられるTLR2定量数値と細菌感染症における抗生剤投与治療中および寛解期に測定されたうちの各患者のTLR2定量数値の最大値の比較を行った結果を示した図である。
ここで、使用した細菌感染者のTLR2定量数値は、すべて抗生剤投与中もしくは数週間の抗生剤投与を終えた時期に末梢血のサンプリングが為され、測定されたものである。細菌感染者に対してその治療を開始した時点より、寛解期に入り抗生剤を中止し、その後の経過(抗生剤中止後の3週間目まで)をみて、細菌感染症の完治した症例、あるいは、再燃を起こした症例、もしくは、寛解期に入ることなく病期中、軽快と増悪を繰り返した症例、増悪し更なる重症細菌感染状態へ発展した症例51名を含む。各々随時、本感染検出方法によるTLR2発現の定量測定を行ったものの中から、それぞれの病期間中(寛解期が認められた症例では、完治あるいは再燃が確認されるまで)のTLR2定量数値の最大値を選び出し、そのものと正常者TLR2定量数値との間における比較検討を行った。その結果、細菌感染者では、その病期間中において、当該TLR2定量数値は、統計学的有意差をもって正常範囲を超える可能性あることが、図9に示された。ここに、比較的TLR2定量数値が高値をとる症例がある一方で、病期間中、正常者範囲に留まる症例も認められた。それら症例の臨床像における違いは、前者には、50歳以上90歳未満の比較的若い年齢層に集中して細菌感染症が長引いた(およそ1週間以上、重篤状態が続いた)患者が多く含まれ、後者には、第一選択の抗生剤で速やかに軽快、治癒した患者が多く含まれていた。図8とそれぞれの臨床像との関係は、続く図11と実施例11における感染症に対する抗生剤の有効性検討、さらに、図12、実施例12の再燃(再発)の検討という別表現で言い表され、抗生剤投与中の単球膜上TLR2定量数値の臨床上意味するところが明らかにされる。
図10は、健常者、50歳以上90歳未満で重症細菌感染症(病期が長く重症化した感染症)症例や敗血症/敗血症ショックを起こした症例における感染症状ピーク時のTLR2定量数値とウイルス感染症患者における発症時のTLR2定量数値の比較を行った結果を示す図である。
50歳以上90歳未満で重症細菌感染症(病期が長く重症化した感染症で治療困難)症例や敗血症/敗血症ショックを起こした症例8名のかなり病状が厳しくなった(もちろん、投与されている抗生剤の効果が期待できない状況)患者を抽出し、TLR2の定量値に関して、健常者群、発症時ウイルス感染者群との間における多重比較解析を行った。その結果、治療困難患者群では、健常人との間で明らかなTLR2の定量値の違いを示すが、この時点では、もはやウイルス感染者(真菌感染者)との区別は付け難いことが示された。
しかしながら、上記の治療困難症例の感染症重症化のピークの時点からその後を考えた場合、例えば、抗生剤の変更投与等により、他の画像的所見、血液マーカー等をして、いずれかの方法を用いて所見の改善を示すことができた時、その際、もしTLR2定量数値が高値を取り続けたならば、細菌感染症と診断した中で、ウイルス、真菌感染症の混合感染をきたしていた可能性や、さらに、ウイルス感染、真菌感染症が細菌感染の病期の中で新たに合併してきた可能性が指摘され得る。診断を考え直す機会、混合感染の情報を提供してくれるTLR2の定量値の臨床的意義は大きい。実際に、発明者等は、上記に記した内容の如く、抗生剤治療を介入させた上で、胸部X線写真上、肺炎像が軽快しているにもかかわらず、TLR2発現量の定量値が高値のまま変化しない事実をもって、真菌性カンジダ肺炎の合併を指摘できた症例を経験している。上記の観点から、本感染検出方法をもっての感染症における臨床経過のモニタリングが如何に有用な患者情報をもたらすかが理解されるであろう。
なお、およそ90歳以上の患者で、細菌性感染症が重症化した症例や重症敗血症にまで至った症例においても、TLR2の定量数値は、およそ90歳未満の患者に比べると、いくぶんその上昇が少ない傾向が認められた(これら高齢者患者では、図8において、およそ8000sites/cellをその上限としていた)。
[実施例11] 細菌感染症における薬剤の有効性の検討
経時変化を解析した治療薬投与中の細菌感染症患者検体39例において、抗生剤の効果の観点から解析をおこなった結果を図11に示す。測定の1−3日後に速やかな軽快、劇的な治療に対する反応性を示した症例は、抗生剤「著効群」に分類し、その他、抗生剤の効果が弱いながらも有効性を示した症例は、抗生剤有効性の見地から「弱い効果群」に分類される。「弱い効果群」の定義は、動揺を示しながらも、一週間程度の経過観察から結果的に、炎症マーカー(WBC、CRP等)の低下、全身状態の緩徐な改善が認められた症例である。「無効群」は、抗生剤を投与し1週間後も改善の傾向がみられなかった例で、前記の実施例10−2における重症細菌感染症(病期が長く重症化した感染症)症例や敗血症/敗血症ショックを起こした難治例は、抗生剤治療に対する反応面から、その時点で投与されていた抗生剤の有効性がほとんど認められなかった無効群として分類できる。いずれも抗生剤の有効性が判断される前の細菌感染症各患者のTLR2の定量値を示した(その抗生剤投与開始2日目以降1週間目までの間に採血された検体での測定値結果である)。
図11では、新たな抗生剤を投与して後、2日目以降に患者のTLR2の定量測定を行えば、その後のWBC、CRPを含む患者の臨床状態の推移がある程度予測できることが示されている。ここで、最も、臨床上問題になっているのが、病原体が薬剤抵抗性起炎菌の場合であり、弱い効果であったとしても、有効性を示す薬剤の数が限られており、特定の抗生剤を使用せざるを得ない。それ故、薬剤の効果判定が、一週間以上の経過をみて、はじめて判断できるという症例も数多い。この判断までの期間、薬剤効果がほとんど無ければ、一週間の間、菌の増殖機会を与えるのみの結果となり、患者は致命的な状態に陥る。このため、投与された抗生剤の開始から間もない期間(2日目から1週間目の間)での薬剤有効性の速やかな判定は、大変に重要となる。
また、図11では、抗生剤投与後間もない段階において、測定されたTLR2の定量値は、抗生剤の有効性を判断する指標になり得ることが示された。
具体的に、本感染検出方法の適用が有用であった1症例について記載する。当該患者は、他院で、誤嚥性肺炎の治療を終え、十分な様子観察の時期を経て、完治したものと判断されていた。この時点で、発明者等の医療機関にリハビリ目的で転院となった患者であった。当該患者においては、入院して間もなく発症した細菌性肺炎に対して、セフェム系の抗生剤を投与し、3日後にTLR2定量数値が高いことを確認し(TLR2=7499 sites/cell)、抗生剤の有効性が認められないと判断し、カルバペネム系の抗生剤へと変更し、その3日後測定のTLR2測定にて、5197 sites/cellへと低下していたことを確認した。そして、その後、速やかな全身状態の改善が得られた。本症例は、結果として、一般市中肺炎ではなく、誤嚥性肺炎の再燃と診断された。TLR2の定量値を経時的にモニタリングすることにより、それ以降の抗生剤の有効性を判断する上で極めて重要なことであり、結果、細菌感染症に対する無効な抗生剤の投与を、極めて少なく抑えることが可能であり、患者が発熱を含む必要以上の症状を自覚する以前に、有効な抗生剤投与へと速やかなる変更が可能となり、完治するまでの期間も短縮することもできる。
[実施例12]TLR2標準ビーズを用いた細菌感染症患者検体の経時測定による不顕性感染の検出
<再燃(再発)の予測>
検体使用の同意を得られた細菌感染症患者に治療を施し、寛解期にまで至った症例37名の細菌感染症患者(男性21名、女性16名、年齢幅30〜95歳)に関しては、抗生剤投与中から投与中止後の第3週目まで全病期間を通じて本定量方法にて行い、抗生剤投与中止後の再燃の有無検討を目的とした経過観察を行っている。37名のすべての患者は、一旦、寛解期に入り、抗生剤の中止が可能であると判断されていた。寛解の判断は、TLR2定量数値を考慮せず、身体所見、WBC、CRP等の血液検査の結果を用いて行い、抗生剤投与の中止時点でのWBCはその正常域にあり、CRPはほぼ正常化している状態にあった。ただし、抗生剤投与開始後から、可能ならば、抗生剤中止後3週目まで一週間に一度、単球上TLR2発現量の測定を行った。抗生剤投与中止後の経過は、抗生剤投与後の細菌感染症の寛解期にある患者は、「完治」群(15名の男性と9名の女性、計24名、年齢幅30から92歳、平均65歳)と「再燃」群(6名の男性と7名の女性、計13名:35.1%、年齢幅78から95歳、平均88歳)に分けられた。
これら再燃患者では、感染している細菌の増殖力が抑止できずに残った状態で抗生剤が打ち切られたため、再度、細菌が増殖し始め、悪化したものや、抗生剤投与による菌交代現象に伴う起炎菌の変化の関与が考えられる。WBCの正常範囲は、男性で9700/μl以下、女性では9300/μl以下をその上限とした。また、CRPの正常範囲は、0.5mg/dl未満とした。上記の37名の患者に関して、抗生剤を中止した時点で、すべての患者のWBCは正常域にあったが、幾人かの患者でCRP値は、正常範囲を超えていた。そのCRP値をもって感染再燃の予測因子となるかどうかを試す目的で、CRP値に従って37名の患者を3つのグループに分け、再燃のリスクとCRPの関係を検討した結果を示した表が、表7である。その結果、正常CRP値を有した23人中6人(26.1%)で再燃が確認された。CRP値が0.5mg/dl以上1.0 mg/dl未満の患者では、10人中5人(50.0%)が再燃し、CRPが1.0以上を示した患者の4人中2人(50.0%)で再燃した。全体の再燃発症率は、37人中13人(35.1%)を示した。Fisher’s exact test (extended) を用いた統計解析の結果、再燃発症率は、CRP値に依存したものではなかった(P=0.351)。抗生剤中止時点でのWBC正常化の基づいたCRP値は、細菌感染症からの完全なる治癒を予期する指標としては不十分であった。
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一方、抗生剤中止時のTLR2定量数値は、健常者群での平均値 (4395 sites/cell)、平均値+1×標準偏差(5179 sites/cell)、平均値+2×標準偏差 (5964 sites/cell) の値で区切られ、37人の患者群が区分された。この時のTLR2値が、健常者の平均未満を示した場合、再燃率は、6.7%(1/15)であり、平均値+2×標準偏差以上のTLR2定量数値をもった患者は、非常に高い再燃率 (100%)を示した。平均値以上で平均値+1×標準偏差未満にあてはまる患者、平均値+1×標準偏差以上で平均値+2×標準偏差未満にあてはまる患者では、それぞれ、27.3%(3/10)、66.7%(4/6) の再燃率を示した(表8)。Fisher’s exact test (extended) は、細菌感染再燃率が統計的有意に抗生剤中止時点のTLR2定量数値に依存して、その上昇とともにリスクが大きくなることを示した(P<0.001)。結論として、抗生剤中止時点の単球上TLR2定量数値は、感染症治療後の「完治」、「再燃」のいずれかの転帰を予測し得る重要な予測因子になっていることが判った。
Figure 2007136025
図12(a)は、細菌感染症患者の治療中、治療後のフォローアップを患者毎の単球上TLR2値の経時的変化として表した図である。単球上TLR2値は、それぞれ患者でかなりの異なった変動が認められた。正常者62(男女とも31名、年齢幅30〜94歳 平均60歳)のTLR2定量数値の平均値(4395 sites/cell)+2×標準偏差(5964 sites/cell)を正常上限(正常者の97.5%がこの値以下のTLR2発現の定量数値を有する)に設定し、TLR2定量数値の変化推移パターンの特徴を分析した。
「完治」群においては、高値をとっていたTLR2定量数値も速やかに正常範囲に減少し、もしくは、抗生剤投与後の最初に測定されたTLR2定量数値は、すでに正常範囲にあり、そのレベルを保ったまま、抗生剤中止後の3週間を経過した。一方、「再燃」群においては、TLR2値は高い状態のまま推移し、また、従来の炎症マーカーであるWBC、CRPは低下しているにもかかわらず、抗生剤を中止した時点で高値に向かって変遷した症例も多く認められた。この13名の再燃患者に対しては、抗生剤中止後3週の間で感染が再燃したと判断された時点で速やかに抗生剤の再投与が為され、その後のTLR2定量数値の低下も図12(a)にプロットされている。
上記の結果について、WBC、CRP、TLR2サイト数をそれぞれ治癒患者と再燃患者とに分けて示したのが図12(b)である。治癒、再燃群において、WBCに関して、この時点では「完治」群、「再燃」群の間での有意差は認められなかった。CRPに関しては、二つの群間でわずかな有意差が認められたが(P=0.031)、それは、「再燃」群に転移性肝臓癌や膠原病の基礎疾患を有する患者が含まれていたことによるものと考えられ、細菌感染症とは無関係な持続的CRP上昇が有意差を出した理由と解釈された。これら従来の炎症パラメーターに対して、抗生剤中止した時点でのTLR2の数値は、「完治」群に比較して「再燃」群で有意に高く(P<0.001)、身体所見、WBC、CRPなどの血液炎症所見の正常化で抗生剤中止のタイミングを判断して、TLR2定量数値が基準値以上であれば、再燃の可能性が高いことが示された。抗生剤投与を継続するか、抗生剤の変更を行うことで、TLR2定量数値が基準値以下へと低下する症例もあり、その場合の再燃率は低く抑えられる可能性が高い。このように、注意深くTLR2定量数値の経過推移を追うことによって、再燃の防止あるいは迅速な処置が期待される一方で、不必要な抗生剤長期投与がなくなり、薬剤耐性菌出現を最小限に抑えられ、結果、医原性に感染症の重症化を招いてしまうような症例を少なくできることも期待できる。これは、本定量方法を用いたTLR2のサイト数の定量解析が、感染症患者の治療判断において、既存の検査法に勝る重要なデータを提供するということを示すものである。
[実施例13]手術時におけるTLR2定量数値
手術前後の検体の本測定結果と臨床データを表9にまとめた。
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手術後においては、従来の炎症マーカーでは、症例2の術後や症例4のように判断材料にはなりえない。TLR2定量数値を指標として用いた場合は、例えば、発熱等の感染症症状を呈した症例1において鋭敏に反応する等、測定値が患者の病態と一致しており、本検査が術後感染症のモニタリングに有用であることを示している。
[実施例14−1] TLR2発現量による感染症と非感染症の鑑別(1)
表10ではウイルス性以外の肝機能障害、表11では臓器虚血壊死、表12では慢性心不全患者、表13では膠原病患者、表14では癌患者の検体を用いて、それぞれ本感染検出方法を行った。なお、表10の症例4、6は、それぞれ、後述する表16の症例3、1と同一の症例である。また、表11の症例2は、表17の症例2と同一の症例である。また、表13の症例3は、表18の症例1と同一の症例である。
Figure 2007136025
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TLR2定量数値はいずれも、感染症状があったときは高く、感染症状が認められない時には正常値を示すことが確認され、これら患者において感染症を検出できることが示された。感染症以外の基礎疾患に罹患した患者が、感染症を併発した場合、従来のマーカーでは検出不可能な場合が多かったが、本測定において迅速な対応が可能となり、適切な処置をおこなうことにより、生命の危険を回避することができる。
[実施例14−2] 感染性炎症疾患と非感染性炎症疾患の鑑別(2)
以下に示すような非感染性炎症性疾患の場合、従来の炎症マーカーのWBC、CRPはそれ自体の疾患に反応し、感染性炎症疾患との区別が付け難い症例にしばしば遭遇する。しかしながら、単球上のTLR2定量数値は、これらの非感染性炎症にほとんど反応せず、その上昇を来たさない特徴を有する。この単球上TLR2定量数値に関する性質により、臨床上極めて有用な情報がもたらされることになる。このことに関して、以下、実証例を具体的に挙げながら、記述する。
(1)手術前後における感染症の検出
Figure 2007136025
外科手術適応となった患者に関して、入院から細菌感染症完治に至る詳細な経過を記載し、ここに、TLR2定量測定が、外科的医療分野においても、従来の検査では得られなかった有用な患者情報をもたらす実例(表15)を、以下に記載した。
症例1は、2006年1月28日、身体所見として発熱、著明な腹部膨満を呈し、入院となった患者である。WBC:26300/μl、CRP:27.4mg/dlと著明に血液炎症所見の上昇あり。腹部X線写真上、大腸ガス、小腸ガスが著明に貯留。腸管イレウス、細菌性腸炎の診断とした。強力に腸管蠕動運動改善薬を投与開始するとともに、細菌性腸炎に対しては、抗生剤が投与された。絶食、中心静脈栄養管理として、数日後には、腸管運動の改善傾向が認められた。2006年3月7日、発熱ない状態へと落ち着き、腸管イレウス、細菌性腸炎ともに、ほぼ寛解期に入ったと判断された(WBC:5500/μl、CRP:1.1mg/dl)。この間、2剤の抗生剤注射投与を使用し、内服抗生物質薬投与も併用された。2006年3月8日、細菌感染症に関して、ほぼ完治したものと判断されたことより、腸管イレウスの原因(腸管内腫瘍等を疑い)に対する精査目的にて消化器専門病院へ搬送転院となった。そこで、虫垂炎に罹患していることが判明し、緊急手術となり、開腹後さらに子宮瘤膿腫に罹患していることが分かったため、この部分の切除も同時に行われた。2006年3月24日、外科手術を終え、症状安定したことにより、当院へ搬送。WBC:7700/μl、CRP:7.7 mg/dlとCRP高値を示し、手術外科侵襲による血液炎症所見の上昇と細菌感染症残存の可能性が考えられた。2006年3月28日、WBC:5600/μl、CRP:1.9 mg/dlと尚も、軽度の血液炎症所見が続き、細菌感染症の残存の可能性も完全には否定できない状態であった。2006年4月4日、WBC:4100/μl、CRP:0.4mg/dl、全身状態の改善あり、感染症完治と判断された。
細菌感染症に関しては、従来の血液炎症マーカーの減少傾向、患者の臨床状態からして、ほぼ完治したと判断された2006年3月8日、TLR2定量数値の測定の結果は、正常範囲を超え感染領域の値を示し(6095sites/cell)、一週間前のその数値よりも上昇を認め、感染症が決して完全に治癒しておらず、将来の増悪を予測する結果を示していた。事実、他院での精査の結果、外科手術適応範囲の虫垂炎が残存し、開腹後に子宮瘤膿腫(感染症)が証明された。さらに、術後の2006年3月28日、WBC:5600/μl、CRP:1.9mg/dl と従来の炎症所見は、術後のほぼ20日後もやや血液炎症所見を残し、手術外科侵襲による血液炎症所見の上昇と細菌感染症残存の可能性の両者の鑑別は困難であった。しかし、この時点でのTLR2定量数値は、4909sites/cellと正常値を示しており、外科侵襲による炎症の影響は受けないTLR2定量数値は、細菌感染症の完全な治癒の情報をもたらした。その後の転帰は、患者の状態、あるいは従来の血液炎症所見ともに完治する方向に向かったことで、TLR2定量数値を用いることの有用性が実証された。
症例2は、狭心症に対する冠動脈バイパス開胸手術後の2週間目の患者であった。従来の炎症マーカー(WBC、CRP)は、明らかに高値を示しているのに対して、TLR2定量数値は、3834sites/cellと正常領域を示し、この時点で、抗生剤投与を行っていないことを考慮すると(TLR2の定量数値は、細菌感染症であっても、その際使用されている抗生剤の有効性に影響されることは前述した通り)、感染症が起こっていない状態であると判断し得た。事実、その後の患者の状態も感染症罹患の経過を示さなかった。
逆に、症例3として、2度にわたる手術治療後に炎症所見(WBC、CRP)の上昇をあり、その原因が外科侵襲的(植え込み型医療機器に対するアレルギーを含めて)要素によるものではなく、感染によるものであった症例が提示されている。患者は、拡張型心筋症と僧房弁閉鎖不全症による重症心不全状態にあり、2006年9月26日に手術施行された。手術は、僧房弁閉鎖不全に対する弁形成術および拡張型心筋症に対する左室縮小形成術であり、その左室形成にタンパク質コーティングのパッチが使用された。続いて、2006年12月13日、重症心不全の改善を目的に両室ペーシング機能付除細動器(CRTD)の植込み手術が施行された。2007年1月15日、WBC、CRPの上昇が認められ、易感染者であるため、即、抗生剤を使用されたが、診断は確定されずにいた。この2007年1月15日の時点では、WBCの上昇は認められたが、末梢血像として細菌感染の診断には典型的な結果が得られていなかった(好中球の増加なく、好酸球の増加が認められていた)。したがって、感染症、外科侵襲、植え込み型医療機器に対するアレルギーなどが鑑別疾患として挙げられた。同日のTLR2定量数値としては、5927sites/cellの値が得られ、限りなく、感染症に近い数値を示していた。その後、一週間の抗生剤注射投与を終え、症状安定。抗生剤の効果が認められたことより感染症の可能性が疑われた。続く、2007年2月15日の時点では、WBC、CRPは、ほとんど正常範囲を示した。しかし、この時点のTLR2定量数値は、5636sites/cellsであり、前述の細菌感染症の再燃率の検討(実施例12)の表8から考えれば、高率(66.7%)に再燃する可能性が示唆されていた。2007年2月27日、WBC、CRPの再上昇が認められ、TLR2定量数値は、感染症範囲の高値を示した(7922sites/cells)。この時点で、血液培養検査が行われ、後日、グラム陽性菌が検出、細菌感染症(菌血症)が検出され、臨床的にも再燃が確認された。
上記3症例を挙げ、具体的に、従来の一般的な検査をもってしては、手術後の感染症の有無の判断が、いかに困難であるかの記載とともに、このような術後の経過観察においても、TLR2定量数値が有用な指標であることを示した。
(2)肝臓障害
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表16には、感染症がない状態での肝臓障害あるいはウイルスの増殖活動性のない状態である肝炎ウイルスキャリアーの患者、さらには、ウイルスの増殖が極めて低い慢性肝炎の患者を提示した。肝臓障害はあっても感染がない場合、また、肝炎ウイルスキャリアー、慢性肝炎の場合、TLR2定量数値の上昇は認められない事実が示された。このことより、TLR2定量数値は、これら患者においても急性感染症が発症した場合には、その病態をモニタリングできる有用な指標になり得ることが確認された。なお、上述したように、本表16の症例1、3は、前記表10の症例6、4と同一の症例である。
(3)心筋梗塞、脳梗塞等の臓器虚血壊死
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表17に示した症例1〜3は、急性虚血性臓器壊死をきたした症例である。単球上TLR2発現量は臓器虚血壊死には反応せず、正常範囲を示した。また、症例4におけるその疾患の発症は、2005年12月10日であり、発症後数日間にわたりTLR2定量数値のフォローアップを行ったが、いずれも正常範囲に留まり、感染症を併発しない限り、単球上TLR2定量数値は、臓器虚血壊死には反応しない特徴を有することが示された(2005年12月26日にTLR2定量数値が7228 sites/cellと高値を示して、後の2006年1月2日、細菌性肺炎を発症)。虚血臓器壊死それ自体で上昇をきたす従来の炎症マーカー(WBC、CRP)とは異なるTLR2定量数値の特徴が示された。このことを利用して、併発する感染症を早期に識別することが可能である。なお、上述したように、本表17の症例2は、前記表11の症例2と同一の症例である。
(4)膠原病
Figure 2007136025
表18には、膠原病に属する疾患を有する患者が列記されている。膠原病はその疾患自体でも従来の炎症マーカーCRPはもちろんのこと、発熱症状、関節痛など感染症状類似の自覚症状をきたす疾患である。中には、症例4に示したように、WBCの上昇をきたす病態も存在している。膠原病と感染症の鑑別を行う上での一つの指標は、CRPとWBCの乖離であり、CRPの上昇の割には、WBCの上昇がほとんど認められないことを手がかりとするが、すべての症例、場面で、このことをもって対応できているわけではない。また、これらの患者は、低用量ステロイド、免疫抑制薬等を常時服用しているケースも多く、易感染者でもある。膠原病患者に感染症が併発した場合、その持続的、従来の炎症マーカーの上昇が、感染症の迅速な診断を困難にするが、さらに、これら患者の感染症の寛解期における治癒の判断は、医者の経験に基づいてなされているのが現状である。客観的指標をもっての感染症完治を判断するためにもTLR2定量数値は有用な指標となる。なお、本表18の症例1は、前記表13の症例3と同一の症例である。
(5)悪性腫瘍
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表19には、癌疾患患者を列記した。症例1は、癌の末期であり、専門医の判断にて、癌に対する積極的な治療はできないターミナルステージの患者と判断されていた。腫瘍熱で常に38℃近くの発熱を繰り返し、CRPも常に高値の状態であったため、感染症併発の見極めがかなり困難を極めた患者であった。例えば、発熱を指標に試験的に抗生剤を投与しても、その解熱する様子なく、そこで、はじめて細菌感染症の関与が低いと判断された。このように、抗生剤投与を試験的に行い、その他覚所見、自覚症状の経過をみて、感染症の有無の判断を行わざるを得なかった。感染症の増悪と寛解を示す客観的指標がないために、本症例において、TLR2発現の定量測定を開始したところ、感染が無く抗生剤投与の中止が可能であると判断される時期にはTLR2定量数値が正常範囲に留まっていた。38℃近くの腫瘍熱は、間欠的には認められたが、発熱が数日間持続することはなくなった。TLR2定量数値が上昇を示した時、間欠的な発熱は、持続的な発熱へと変わり、感染症有りと判断された時期に一致し、抗生剤の投与を行い、持続熱は消失した。腫瘍熱を有する患者でも、TLR2定量数値が、その感染合併に関する有用情報をもたらすことが実証された一例であった。TLR2定量数値の指標に従うことで、患者の発熱は、腫瘍熱以外の感染による発熱をきたすことを最低限に抑えられ、この点で患者の苦痛を軽減できる。
症例2は、大腸癌で、同じく細菌性腸炎を合併して、入院となったが、癌の拡がりを精査する上で、感染症による患者の状態悪く、不可能であった。そこで、まず、感染症に対しての治療を行った上での精査、癌に対する治療を計画した。この場合、2005年6月7日、TLR2定量数値でみても、他覚所見からみても、感染症は十分に抑えられていると考えられる時点で、精査を行い、外科手術の適応、開腹手術により癌組織、リンパ節の切除が行われた(可能な限り切除し、不完全切除に終わったが)。術後は、感染症を起こすことなく順調に経過し、退院となった。
上記2症例が示すように、特殊な癌を除き、一般的な癌によっては、TLR2定量数値の上昇は認められず、診断の上でも、また、その外科手術を含めての治療においてもTLR2発現の定量測定の医療上の意義は大きいと考えられた。特殊な癌とは、癌疾患は多種多様であり、感染類似の炎症をきたす何らかの癌の存在が高い確率で予測され、その癌疾患においては、TLR2定量数値も上昇をきたす可能性強いため、すべての癌においてという意味でないことを強調すべく記述した。
(6)血液疾患
Figure 2007136025
表20において、症例1として挙げられた例は、骨髄異型性症候群の基礎疾患をもち、難治性敗血症および難治性肺炎に罹患して各種抗生剤長期投与にもかかわらず、完治困難であった患者を示した。2006年1月7日、細菌性肺炎が発症し、抗生剤MINOを開始した。2006年1月10日、WBC:1900/μl、CRP:1.0mg/dl、貧血、血小板低下もあり、汎血球減少認められた。この原因は、骨髄異形成症候群を基礎疾患としてもっていたことによる。この場合、胸部X線写真に、肺炎像が強く現れていたにもかかわらず、その時点のWBC(=1900/μl)からは、その細菌感染重症であることの把握は不可能であった。全身状態からは、抗生剤MINOの効果はないと判断され、一方、この時点のTLR2定量数値(=7020sites/cell)は高値を示していた。
この翌日の1月11日より、抗生剤MINOをCLDM、FOMの2剤併用へ変更し、1月18日、高熱は消失したものの、微熱が続いていた。そのため、抗生剤CAZ、ISPの2剤投与へと変更し、細菌性肺炎に対しての治療を行った。結果、症状は軽快に向かい、残存していた肺炎像も消失傾向を認めた。
上記の骨髄異型性症候群(血液疾患)症例が示したように、このような患者においては、WBCの数値はその疾患自体に影響されており、もはや細菌性感染の重症度の指標とはなり得ない。しかしながら、このように基礎疾患により白血球が異常減少をきたした場合にでも、1月10日のTLR2定量数値(=7020sites/cell)はその時点での感染の重症度、および、その時点で使用されていた抗生剤MINOの有効性がないことをとらえていた。このような血液疾患患者においても、既に、TLR2定量数値を指標とした抗生剤の有効性の検討を行うことにより示された、当該定量値の有効性が実証された。
骨髄異型性症候群に対する白血球減少に対処するために、1月11日より、白血球増加因子であるG−CSF(治療量範囲)注射投与を開始した。このため、骨髄異型性症候群およびG−CSFに影響を受けたWBC数値は、さらに細菌感染症の重症度指標として使用不可能となった。2006年1月20日頃より、体温は36℃台の平熱で推移し、寛解期した寛解期に入ったものと判断された。2006年1月22日、WBC:5400/μl、CRP:0.4mg/dlで抗生剤投与を中止、経過観察を行った。しかし、この時点でのTLR2定量数値は6393sites/cellと高値を示し、将来においての再燃率が高いことを示していた。2月1日、37℃台微熱が認められ、頻呼吸状態となり、細菌感染の再燃が認められた(この時、WBC:5400/μl、CRP:0.7mg/dl)。
基礎疾患として骨髄異型性症候群による汎血球減少傾向をきたしている状態に加え、さらに、治療量のG−CSF投与により、WBCが全く感染の重症度を表す指標にならない状況下でも、TLR2定量数値は、前述した「再燃の指標」として働いていることが実証された。
症例2では、成人T細胞白血病(ATL)が発症した際のTLR2定量数値を示した。WBC=6500/μl(末血像としては、好酸球:0.0%、好塩基球:2.0%、桿状好中球:1.5%、分葉好中球:39.0%、リンパ球:13.5%、単球:9.0%、異常リンパ球:34.5%)、CRP=0.1を示していた。HTLV−Iウイルスキャリアー状態、さらには、ATL発症においても、TLR2定量数値は反応しない特徴を有することが、この症例において実証された(ATL発症においてもTLR2定量数値が反応しなかった理由として、ATLは、ウイルスが原因で発症する血液癌疾患であり(このウイルスは宿主のヘルパーT細胞(Th1)に感染し、宿主DNA内に取り込まれてプロウイルス化する)、通常のウイルス感染とは異なり、ウイルスの異常な増殖による細胞組織破壊はなく、ATL細胞の異常増殖がその病態の本質であるからと推測される。症例3として、ATLが発症した後、その放射線治療中、サイトメガロウイルス感染を併発した患者が提示されている。2006年12月14日、放射線治療施行中であり、感染の合併は無いものと判断されていた。2006年12月20日の時点で、発熱、上気道感染症状を認め(TLR2定量数値=7689sites/cellと高値を示した)、その後に、サイトメガロウイルス肺炎と診断された。サイトメガロウイルス感染に対して、ガンシクロビル投与が行われ、そのウイルス感染は速やかに軽快した患者であった。2006年12月26日のTLR2定量数値は、3805sites/cellと低下した。このように、TLR2定量数値によって、ウイルス感染治療のモニタリングが可能であることが実証された。症例2と症例3によって、血液疾患の一つATL(成人T細胞白血病)においても、その癌疾患自体ではTLR2定量数値の変化は認められないこと、そこに感染が併発してはじめて、当該定量値の上昇が認められることが示された。
ここに提示した実施例は、従来の炎症マーカーであるWBC、さらにはCRPの値が、その血液疾患自体によって大きく影響を受けるがため、感染のマーカーとしてはもはや全く役立たなくなるケースとして、特にとりあげた症例である。このような場合にも、単球膜上のTLR2定量数値は前述の性質が認められ、前記の「悪性腫瘍」の実施例にて実証されたことと同様、TLR2定量数値によって、早期段階における感染状態が判断され、さらには、その治療に対する反応性をモニタリングできることが実証された。
(7) アレルギー性疾患
Figure 2007136025
表21には、喘息発作、細菌感染症で喘息発作が重積した症例、薬剤(フサン)による重症アレルギー症状でアナフィラキシーショックをきたした症例、薬剤によるアレルギー性発疹をきたした症例を列記した。
症例1は、喘息発作時で、治癒経過からみて細菌感染含めて感染症の併発がないと判断された時点でのTLR2定量数値である。当該定量値は、正常範囲に入っており、上昇は認められなかった。
症例2は、喘息発作と細菌感染症を合併して入院となった患者であった。細菌感染が併発している際、TLR2定量数値を測定した結果、6290sites/cellと上昇していた。抗生剤投与継続により、2週間後には感染症に関しては完全に治癒したが、この時点でも喘息発作を繰り返し認めていた。上記2例の検討の結果、喘息発作において、単球上TLR2定量数値は上昇しない特徴をもつことが示された。
症例3は、アナフィラキシーショックをきたし、心停止にまで至った症例であった。採血を行い、その後にステロイド投与が行われた。結果、WBCは著明に上昇きたしていたが、ステロイド投与前のTLR2定量数値においても、その上昇は認められなかった(パルス投与などのステロイドを多量に使用する場合には、TLR2定量数値の発現量は抑制される:Pons J, et al. Respir Res 2006; 7:64.)。
症例4は、抗生剤内服のアレルギーによる発疹が出現し、軽度CRPの上昇を認め、その時点でのTLR2定量数値の測定結果を示した。このような薬疹でも当該定量値の上昇は認められないことが確かめられた。
アレルギー疾患においては、TLR2定量数値が上昇しないという特徴を利用すれば、そこに併発している、または、合併してくる感染症をより特異的に識別することができ、アレルギー疾患分野においても当該定量値は、感染症を見極める上で、有用な指標になることが実証された。
(8)甲状腺疾患
Figure 2007136025
甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌され血液中の甲状腺ホルモンが高値を保った状態で、そのために代謝が亢進して様々な症状(動悸、体重減少、手指振戦など)が出現する。バセドウ病、プランマー病、亜急性甲状腺炎などの疾患に分けられる。バセドウ病は、甲状腺機能亢進症の大部分を占める代表的な疾患で、甲状腺細胞の甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体に対する抗体ができ、甲状腺刺激物質となって発症し、甲状腺は瀰漫性に大きくなる。これには遺伝的素因が関係していることが明らかにされている。プランマー病は、過機能性腺腫による疾患であり、孤立性の腺腫ができる。亜急性甲状腺炎も甲状腺機能亢進症を示す疾患である。この場合の原因はウイルス感染で、甲状腺組織破壊の結果、発熱や甲状腺の痛みとともに一過性の甲状腺中毒症状を起こす。この三疾患の鑑別は非常に困難とされている。
上記の表22に示したように、甲状腺機能亢進症をきたす疾患には、ウイルス感染が原因で起こる亜急性甲状腺炎の場合、TLR2定量数値が7578sites/cellと高値を示し、この特徴をもって亜急性甲状腺炎の鑑別が可能である。バセドウ病は、自己免疫疾患に分類され、上述した膠原病と同じく、TLR2定量数値の上昇をみないことが示された。
[実施例15] ウイルス性感染症のモニタリング
<インフルエンザウイルス感染症>
図13に示したように、図8にて示したウイルス感染症患者と同じく、インフルエンザA、B感染症ばかりを集めた42名の患者群(男性18人、女性24人 年齢幅9−93歳、平均年齢42歳)と健常者群を比べた場合、インフルエンザ発症時(患者本人が感染症状自覚して間もなく来院した際)に測定した、単球上TLR2定量数値は、健常者レベルとの間に偽陰性がほとんどないカットオフ値を設定できる程、高い数値を示した。なお、インフルエンザ感染症の診断には、免疫クロマトグラフィー迅速キットが使用された。前記図8には、インフルエンザウイルス以外のウイルス感染症を加えて、その発症時のTLR2数値がプロットされている。図14にて示されたように、普通感冒の場合にも、インフルエンザウイルス感染症と同じく非常に高いTLR2定量数値が認められた。
次に、インフルエンザA型およびB型感染症において、1ヶ月程度のフォローアップを行った。インフルエンザ感染発症時、インフルエンザ感染発症後5日目から14日目までを回復期、インフルエンザ感染発症後の15日目以降を治癒期と定義して、それぞれの患者で、できる限りTLR2定量数値の測定を行い、その数値経過を図15に示した。発症後、ほとんどの症例でタミフルの3日間から5日間の投与がなされ、回復期には、一部の患者では、咳症状、軽い倦怠感などを残していたが、ほとんどの症例で自覚症状なく完治に近い状態にあった。続く、治癒期では、完全にインフルエンザ感染症の症状を残していない状態であった。また、それぞれのTLR2測定時に、WBC、白血球分画、CRP数値、生化学データが調べられ、他の合併症ないかの確認とともに、自覚症状の有無に関しても確かめられた。発症時のTLR2定量数値より、その一週間後さらなる上昇を認めた例外症例を除き、ほとんどの症例で回復期のTLR2定量数値は正常範囲まで下降した。この回復期にTLR2定量数値の低下を示さなかった(発症期に比べて逆に上昇)。例外症例として、WBC、CRPは全く正常範囲に留まっていたものの、他覚身体所見で近位筋優位の筋力の低下を認めた例が挙げられる。インフルエンザウイルス感染をもとに発症する疾患が疑われ、精査したところ、封入体筋炎と診断された。その後、ステロイド投与により、症状は軽快し、同時にTLR2定量数値の低下が治癒期で確認された。このように、ウイルス疾患における重症度、治癒の経過をモニタリングできることはもちろん、それより進展した重症疾患に関してもTLR2定量数値の高値をもって指摘できることが示された。この意味でも、TLR2発現量定量測定のウイルス感染症における臨床的意義は大きい。TLR2定量数値によるウイルス感染重症度モニタリングは、新型インフルエンザにも十分対応可能であると考えられる(新型インフルエンザもインフルエンザA、Bと同じクラスVに分類され、同じ生体防御反応を示すであろうことをその根拠とする)。
図14では、普通感冒例のTLR2定量数値レベルをその重症度別に分けてグラフ化した。ウイルス感染症の場合、インフルエンザ感染を含めて、その発症時には、急激な強い症状を呈し、いずれのウイルス感染症においても、細菌感染症のように、その重症度を臨床的に評価することが難しい。しかし、普通感冒は、同じウイルス感染症でありながら、他のウイルス感染症と比較して、重症度別に分けることが可能な病態を示す数少ないウイルス感染症である。図14として、改めて、普通感冒例のみ提示した理由は、TLR2定量数値が、ウイルス感染症の重症度に従って上昇程度が異なるか否かを明らかにするためである。つまり、軽症のウイルス感染では、TLR2定量数値の上昇程度は少なく、重症であれば、TLR2定量数値の上昇程度が大きくなるか否かを見極めることが可能であることを示している。表23は、図14における被験者9名のプロフィールを示している。
Figure 2007136025
ここに示した普通感冒の実証例によって、ウイルス感染症においても、臨床的重症度に応じてTLR2定量数値の増加程度が異なることが明らかになり、さらに前述の知見により、インフルエンザ感染の回復に従ったTLR2定量数値が減少し、当該定量値を指標として、ウイルス感染の重症度、治療に伴う回復度がモニタリングできることが示された。臨床的重症度は、ウイルスの増殖活動性に相関するとみられる。
[実施例16] 心筋症(心サルコイドーシスを含めて)
サルコイドーシスの病因は、未だ不明とされているが、その中で感染説も提唱されている。「アクネ菌の内因性感染が原因となり過敏性免疫反応を惹起する結果として本症が発症する」とする「アクネ菌病因説」がある。初期感染(不顕性感染)後に宿主の細胞内で冬眠状態にある細胞壁欠失型(L型)のアクネ菌がストレスなどの環境要因を背景に内因性に活性化することが、サルコイドーシスという全身性肉芽腫疾患の発症をトリガーしている可能性がある疾患である。心サルコイドーシスでは、1型ヘルパーT細胞関連サイトカイン(IL−1α、Il−2、IL−12p40、INF−γ)の発現が亢進しているとする報告もある。
また、心筋症(拡張型、肥大型を含めて)の中には、インフルエンザ等のウイルス感染をトリガーとして心筋炎などの劇症型とならずに、不顕性感染のかたちをとり、何らかの自己免疫機序の異常により炎症が遷延化するinflammatory cardiomyopathyが相当数含まれていることが明らかになってきた。すなわち、病原体はもはや残っていないにもかかわらず、感染類似の炎症が遷延化しているとされる炎症性心筋炎の存在とその末期状態の拡張型心筋症が存在するとされる。
これらの心筋症は、臨床症状として、心不全、心筋電導障害、致死的不整脈などをもたらす難治性重篤疾患である。
下記表24において、症例1は、心サルコイドーシスであり、この場合、単球上のTLR2定量数値が異常高値を示すことが示された。
症例2は、心筋症患者であり、感染症状、血液炎症所見が認められないにもかかわらず、TLR2定量数値は、感染領域を示した。このことにより、本症例は、上記のinflammatory cardiomyopathyである可能性が示唆された。
感染病原体が関連する心筋症において、単球上のTLR2定量数値レベルを指標とすることにより、その病態の病因に迫れる可能性を見出した。サルコイドーシスの心臓を含めた全身性炎症の活動性指標として、また、inflammatory cadiomyopathyの心筋炎症の活動性指標として、TLR2定量数値を指標として、本感染検出方法を適用可能であることが明らかとなった。
Figure 2007136025
[実施例17] 心房細動不整脈
心房細動不整脈は、最も頻繁に認められる不整脈の一つであり、大きく分類して、弁膜性心房細動と非弁膜性心房細動の二つに分けられる。弁膜性心房細動の原因は、多くの場合、僧房弁の狭窄、閉鎖不全(弁膜症)に基づく心房筋への負荷、心房拡大によって洞結節から房室結節への正常伝導路が乱される結果、引き起こされる不整脈と考えられる。この場合、慢性弁膜症の原因の一つは、既往歴としての小児期リウマチ熱(溶連菌感染)であるとされている(他に動脈硬化の関与も考えられている)。一方、非弁膜性心房細動では、心房筋での炎症が原因とされ、心筋へのウイルス感染が引き金になるとする学説もある。いずれの心房細動不整脈のおいても、感染症の関与が示唆されている。
図16は、心房細動不整脈患者群と健常者群(年齢、男女比を一致させた)の間で単球上TLR2サイト数の定量値の比較検討を行ったものである。図16に示したように、統計的有意差をもって、心房細動患者群のTLR2定量数値は高値を示した(ただし、通常の感染症ほど高いレベルにはない)。この結果より、TLR2定量数値を指標として、心房細動不整脈患者における心筋および弁での炎症程度が、血液検体(単球)にて把握可能であり、当該定量値が、炎症程度を測る指標となり得、不整脈治療における有用な情報を提供し得ることが実証された。
[実施例18] 心臓冠動脈の動脈硬化の重症度の推測
動脈硬化は、その進展速度において多要因が複雑に絡み合い関与する病態であると考えられてきた。その中で、クラミジア細菌、サイトメガロウイルス、歯周菌などの感染症が動脈硬化の促進因子となっているとする報告も多数みられる。ここに、発明者等は、冠動脈硬化病変重症度とTLR2定量数値の関係を明らかにした(図17)。検討対象とした患者は、安定狭心症患者群(すなわち心筋虚血による心筋細胞壊死の影響がないと考えられる狭心症患者群)に限定した。冠動脈硬化の有意狭窄が存在する罹患枝数が、1枝病変、2枝病変、3枝病変と増すにつれて、動脈硬化の重症度が強いと定義した場合、その重症度に従ってTLR2定量数値が上昇する傾向を見出した。この臨床研究により、心筋壊死の影響を取り除いた上での真の動脈硬化病変のみに応じて、TLR2定量数値による評価がなされ、重症度の高い冠動脈3枝病変を有する患者の血液検体には、TLR2定量数値が大きい単球が存在する可能性が、統計的にみて高いことが示された。また、逆に、TLR2定量測定検査を行うことで、その高値をもって、動脈硬化病変がより進展、重症化する危険性を指摘し得る。同時に、その危険性を低下させる薬剤(高脂血症薬剤スタチン製剤、レニン−アンギオテンシン阻害薬、アンギオテンシンII受容体阻害薬など)の介入により動脈硬化進展、虚血イベントが抑制されるとするこれまでの大規模臨床知見を鑑み、TLR2定量測定という簡単な血液検査で、動脈硬化の進展をモニタリングできる臨床的意義は大きい。
[実施例19] TLR1のフローサイトメーターパターンによるウイルス感染の鑑別
ウイルス感染症発症時には、細菌感染発症時と比べて、単球上TLR2発現が高値をとることで、感染病原体の推測を立てる以外に、本発明者は、フローサイトメーターにより単球細胞集団のTLR1発現量の解析を行ったところ、ウイルス性感染症の一部の患者で、TLR1発現の上昇を見出した。このようにTLR1発現量に関する上昇の有無を検討することが(この場合、検査感度は低いが、ウイルス感染症以外では認められず、特異度は高い)、ウイルス感染症かどうかを鑑別するための、別の独立した指標になることを見出した。
図18は、A−Eそれぞれにおいて、上段は単球にゲートをかけた場合(限定した細胞集団での解析とせず)のTLR1の、フローサイトメーターの発現パターンで、下段はゲートをかけずにTLR1の当該発現パターンをみたものである。
ゲートなしの健常人のTLR1の発現パターンは、染色されていない大きなピークの右に発現細胞の存在を示すピークがある。このピークには主に単球と顆粒球が含まれている。細菌感染症や真菌感染症においても似たような図が得られる。しかし、ウイルス感染症であるインフルエンザの急性期における、ゲートなしのフローサイトメーターチャート(TLR1発現分布状況を示したヒストグラム)においては、上記量ピークの中間に位置するピークの出現が確認され、2峰性パターンとなっていることがわかる。しかし、1週間後の治癒時には、健常人と同様のフローサイトメーターのパターンとなっている。上記の中間に位置するピークはおもに顆粒球によるもので、単球と顆粒球において、ウイルス感染においてのみTLR1の発現量に違いが生じているということを示している。ウイルス感染症と細菌感染症では、治療に用いる薬が異なり、似た症状を示す場合には、両者の鑑別が必要である場合が多いことは、上述した通りである。ここに示したように、フローサイトメーターによるTLR1の測定により、ウイルス感染を検出することが可能であり、治療方針の決定に大いに役立てることが可能である。
なお、図19は、上記のTLR1のフローサイトメーター解析パターンにおいて、急性期のインフルエンザ感染症例(上図)と回復期の症例(下図)について、改めて上記図18の結果を得た試験を、さらに行った結果を示している。上記インフルエンザ患者の血液検体の白血球画分に対してフローサイトメーターを施した場合に提供される解析データのパターンにおいて、急性期における2峰性がより明確にとなっていることがわかる。この2峰性は、ウイルス性感染患者の一部の検体で、TLR1が比較的強く発現してくる細胞集団(単球)と比較的弱く発現している細胞集団(リンパ球)に分かれることを意味していると考えられる。
よって、TLR1についてのフローサイトメーター解析により、ウイルス感染を的確に検出可能であることが明らかとなった。

Claims (16)

  1. フローサイトメーターにより、被験者の血液検体における単球あたりのトール様受容体タンパク質2(TLR2)に対する抗体の認識サイト数(site/cell)の定量を行い、当該定量値を、病原体感染の即時的又は経時的な指標とすることを特徴とする、感染症の検出方法。
  2. 前記検出方法において、単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数(site/cell)の定量が、TLR2の既知かつ異なる量が担持された2種以上のビーズへの標識された当該TLR2に対する抗体の結合量を、フローサイトメーターにて測定することにより得られた蛍光強度と、前記TLR2の既知量の数値との間における検量線を作成し、さらに、標識されたTLR2に対する抗体を、被験者の血液検体に由来する被験細胞に反応させてフローサイトメーターにて測定を行い得られた蛍光強度と、前記検量線との比較換算により数値化されることにより行われることを特徴とする、請求項1記載の感染症の検出方法。
  3. 前記検出方法において、TLR2の既知かつ異なる量が担持された2種以上のビーズと被験者の血液検体に由来する被験細胞を共存させて、蛍光標識されたTLR2に対する抗体と反応させ、これらをフローサイトメーターにて測定することにより得られた下記(1)及び(2)を、同一のフローサイトメーターの測定系において得ることを特徴とする、請求項2記載の感染症の検出方法。
    (1)ビーズにおける蛍光強度と前記TLR2の既知量の数値との間における検量線
    (2)被験細胞における蛍光強度
  4. 前記検出方法において、TLR2の既知かつ異なる量が担持された2種以上のビーズが凍結乾燥にて保存されたビーズであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の感染症の検出方法。
  5. 単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値が、統計的な健常者の範囲を超えて高値である場合に、当該高値を感染性炎症疾患の指標とすることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の感染症の検出方法。
  6. 血液検体が重症細菌感染症に罹患していない被験者の血液検体であり、かつ、単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値が、統計的な非重症細菌感染症の範囲を超えて高値である場合に、当該高値をウイルス感染症又は真菌感染症の指標とすることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の感染症の検出方法。
  7. 血液検体が炎症疾患に罹患している被験者の血液検体であり、かつ、単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値が、統計的な健常者の範囲内である場合に、当該健常値を、非感染性炎症疾患の指標とすることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の感染症の検出方法。
  8. 非感染性炎症疾患が、薬剤性臓器障害、虚血性もしくは低酸素性臓器障害、外科的侵襲を含む外傷、膠原病、自己免疫疾患、アレルギー疾患、癌疾患、又は、非感染性の血液疾患であることを特徴とする、請求項7記載の感染症の検出方法。
  9. 血液検体が感染症治療薬投与開始後の被験者の血液検体であり、単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値が統計的な健常者の範囲内へと減少した場合に、当該感染症治療薬が被験者に対して有効であることの指標とし、かつ、当該定量値が統計的な健常者の範囲を超えて高値である場合には、当該感染症治療薬の被験者に対する有効性が低いことを表す指標とすることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の感染症の検出方法。
  10. 血液検体が感染症治療薬剤投与後の感染寛解期の薬剤中止時期における被験者の血液検体であり、単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値の当該薬剤投与の中止時期、また、それ以降の経時的な増加を、感染再燃の肯定的な指標とすることを特徴とする、請求項1〜4記載の感染症の検出方法。
  11. 単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値の当該薬剤投与の中止時期、また、それ以降の経時的な増加により、当該定量値が、健常者の統計的な当該定量値の平均値に標準偏差の2倍を加算した値を超えて高値となる場合を、感染再燃の肯定的な指標とすることを特徴とする、請求項10記載の感染症の検出方法。
  12. 単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値の当該薬剤中止時期からの当該定量値の経時的な最大値が、健常者の統計的な当該定量値の平均値よりも低値であることを、感染再燃の否定的な指標とすることを特徴とする、請求項10記載の感染症の検出方法。
  13. 血液検体が感染症以外の疾患の治療前後の血液検体であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかの請求項記載の感染症の検出方法。
  14. 感染症以外の疾患の治療が、手術を含む外科治療、放射線治療、薬物化学療法及び/又は理学物理療法、であることを特徴とする、請求項13記載の感染症の検出方法。
  15. フローサイトメーターにより、被験者の血液検体におけるトール様受容体タンパク質1(TLR1)の定量を行い、当該定量値の統計的な健常者の範囲を超えて高値である場合、又は、当該定量値の経時的な上昇を指標として、ウイルス感染症を鑑別する指標とすることを特徴とする、感染症の検出方法。
  16. 被験者の血液検体におけるTLR1のフローサイトメーターによる検出を、ゲートをかけずに行い、当該フローサイトメーターの蛍光強度のパターンが2峰性を示すことを、当該被験者におけるウイルス感染の指標とすることを特徴とする、請求項15記載の感染症の検出方法。
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