JP5305903B2 - 感染症の検出方法 - Google Patents

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Description

本発明は、各種の感染症の検出方法に関する発明である。より具体的には、トール様受容体(TLR, toll like receptor)タンパク質のうち、TLR2及び/又はTLR1の定量値を指標として用いる、簡便かつ鋭敏な感染症の検出方法に関する発明である。すなわち、当該トール様受容体の定量を行うことにより、医療分野において種々の指標が提供される。

トール様受容体( toll like receptor:略称TLRs)は、最初ショウジョウバエにおいて真菌感染の防御に働くレセプタータンパク質として見出され、トール受容体と命名された(LemaitreらCell, 86:973-, 1996)。その後、ヒトにおいて、その類似タンパク質(ヒトホモログ)として見いだされたのものが、トール様受容体である。生体の免疫系には、抗原特異的な抗体産生のように、遺伝子の再構成を必要として、細菌、ウイルス、真菌等の病原体に対する特異性を作り出す獲得免疫系と、遺伝子再構成を必要とせず病原体を認識し、速やかに働く自然免疫系とに分けられる。TLRsは、自然免疫を担い、病原体成分を「パターン認識」する受容体であると同時に、免疫の初期応答と、それに続く獲得免疫を惹起する重要な役割を担っている。TLRsは、本出願時までに12種類が報告されており(非特許文献1)、TLRs(トール様受容体)とは、これらのレセプター(TLR1〜12)の総称である。これらのうち、TLR2は、TLR1若しくはTLR6とヘテロダイマーを形成し、それぞれグラム陽性菌、真菌の菌体成分をそのリガンドとして認識する。TLR4は、グラム陰性菌のリポポリサッカライド(エンドトキシン)を認識し、TLR5は、細菌の鞭毛を構成するタンパク質フラジェリンを認識する。TLR3とTLR7とTLR8は、それぞれにウイルスの2本鎖RNAとウイルス由来の1本鎖RNAを認識する。非メチル化CpG DNAは、TLR9によって認識される(以上、非特許文献1)。

トール様受容体に関連する感染症の検出方法についての関連技術については、下記の特許文献1〜2を挙げることができる。

特許文献1には、ヒトの静脈血液の採取により、単球、マクロファージ、樹状細胞上のレセプター分子群を、連続して、安定的に、しかも正確な測定値が得られる、TLRs、CD14分子及び主要組織適合分子複合体の連続的測定方法が記載されている。当該先行技術は、フローサイトメーターを用いて実際に検体測定されるまでの血液検体の処理方法についての技術が実質的な内容であり、TLRsによる感染症の検出そのものを基本的な内容とするものではない。そして、この連続的な測定により感染症の鑑別を行うことが可能であることが記載されているが、トール様受容体単独、特に、TLR2及び/又はTLR1により当該鑑別が可能であることについては、実施例を含めて開示されていない。

特許文献2には、TLR2の定量値を指標とする感染症の検出方法が開示されているが、フローサイトメーターを用いている態様であっても、蛍光強度を指標としており、本願発明のような恒常的な信頼性を伴う手段は開示されていない。現実に感染症についての臨床的な判断を行う場合、後述するように非常にデリケートな数値上の判断を伴うものであり、特許文献2に開示の技術では、実用性に乏しい面がある。特許文献2に実際にTLR2の定量値による具体的な感染症の傾向が記載されている疾患は限定されており、他の疾患については、漠然とした例示列挙がなされているに過ぎない。また、特許文献2にて具体的に示された結果が、本願発明に関わる結果と異なっている部分も存在する。なお、特許文献2には、TLR1についての具体的な知見は全く開示されていない。
特開2006−46977号公報 特表2006−520588号公報 Barton and Medzhitov: Toll-like receptors and their ligands. Corr. Top. Microbial. Immunol. 2002, 270:81-92

感染症は、細菌、ウイルス、真菌等の病原体が、宿主に侵入し、増殖することで病原体(もしくは病原体の保持する毒素)による宿主側の細胞破壊が進行し、また、炎症反応が惹起される結果として、宿主臓器に障害がもたらされる疾患の総称である。特に、易感染宿主(高齢者、糖尿病患者、癌化学療法中あるいは臓器移植後で免疫抑制剤使用中の患者、ステロイド長期内服中の患者、後天性免疫異常患者等)では、その致死率も高いことから、治療においては、薬剤の選択、薬剤変更のタイミング及びその中止時期に関し、細心の注意が必要とされる。

診断は、白血球数(WBC)、C反応性タンパク質(CRP)等の血液検査における炎症所見;臓器症状(身体所見、理学所見);病原体の同定;の必要3項目の総合的な結果に基づき判断される(ただし、起因菌の同定に際しては、分離された検体が本来無菌的か否かについて考慮する必要がある)。このうち、病原体の同定は、治療方針を左右するという観点からも非常に重要な意味をもつが、以下に述べるような要因で、実際には、病原体の同定ができず、原因が不明のまま経過する症例も数多く存在している。例えば、患者の自覚症状に乏しく、感染臓器を特定できない場合、このようなケースでの病原体の同定は、ほとんど不可能に近く、予測もつけ難い。感染臓器が明らかに特定できる場合であっても、感染症の原因となる病原体は、細菌、ウイルス、真菌等が存在していることから、いずれの病原体によって発症した感染症なのか把握できないことも少なくない。特に、細菌性以外の感染症の場合には、この傾向が強い。真菌やウイルス感染症の診断に際しては、まずは、それらの感染症の可能性を疑うことが前提であり、それぞれ、診断確定のために、血液や咽頭ぬぐい液等の検体を、その病原体のみの検出に限定された、より特異性の高い検査に供する必要が生じる。例えば、真菌感染では、血清診断において、β−Dグルカン等の測定を行い、ウイルス感染では、ペア血清を用いた特定のウイルスに対する抗体価の測定等を行う場合が多い。しかしながら、これらの特定の病原体検出を目的とする検査自体においても問題があり、特に、ウイルス感染症診断のためのペア血清を用いた、ある種のウイルス抗体価測定では、その感度において優れておらず、陰性結果が認められたとしても、ウイルス感染症の可能性を完全に否定できるわけではない。また、深在性真菌症の場合、血中β−Dグルカンの感度は、カンジダ症約90%、アスペルギルス症約60〜80%とされる。これらの検査感度の問題も、確実な診断に至らない要因の一つに挙げられている。当然、それぞれの病原体に起因する感染症において、血液検査の炎症所見(WBC、CRP)の様相は異なり、このことが、病原体同定の大きな指針を与えることにもつながるが、治療薬の使用の有無、病期のタイミングによっては、感染症としての典型的所見が認められず、さらには、WBCの値(白血球分画)に、相当の個人差が認められることも手伝って、感染症の診断が難しくする。その他、短期のうちに、正確に病原体を同定することが極めて困難となる事例として、複数種類の病原体が、同一あるいは複数の臓器において感染する混合感染等が挙げられる。さらに、従来の血液炎症マーカーでは、非感染性炎症疾患自体にも反応を示すことから、感染症であることの指摘すら困難な事例も認められ、まして、病原体を推測することは極めて困難であった。

次に、感染症の治療に関して、病原体の種類、罹患病巣、宿主要因、重症度等を踏まえ、各種の抗生剤、抗ウイルス薬、抗真菌剤のうちから、有効と予想される薬剤が選択され、投与される。病原体の特定を行い、その薬剤感受性を確認した上で、抗生剤の選択を行っても、当該抗生剤を実際に患者に投与し、一週間以上の経過観察を行わなければ、有効性の有無の判断がつかない事例も少なくない。このような抗生剤の投与の途上で、事後的に有効性なしとなれば、感染症の重篤化は免れないことになる。このような状況下、病期、抗生剤投与間中、その有効性に関して速やかに判断できる手段の提供が望まれている。

また、抗生剤投与期間に関しての決定、判断は難しい。感染症の治癒段階での薬剤投与の中止のタイミングについては、血液炎症所見(WBC、CRP)を参考にして、臨床経過の注意深い観察を通じて、医師の経験に従って判断されている。抗生剤の薬剤投与の長期化により、腎機能障害、偽膜性腸炎、薬剤性肝障害等の副作用の危険性を増し、特に、易感染患者においては、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、薬剤耐性緑膿菌等の、薬剤耐性菌の宿主への感染を招いてしまうおそれがある。それ故、薬剤投与期間は、可能な限り短期間にすることが望ましい。しかしながら、逆に、薬剤投与期間が短すぎ、感染力が強い状態での薬剤の中止は、その後の感染症再燃を必発させ、その結果、入院期間の延長や再入院の必要が生ずることになり、患者の精神的、経済的負担をかえって増大させることになる。よって、感染症の再燃を予測し得る手段の提供が切望されている。

このような技術的な要望に対して、上述したように、TLR2の定量値を指標とする感染症の検出方法が提供されているが、未だ臨床の現場で求められているデリケートな治療指針の決定に貢献するような信頼性を伴った、単球上のTLR2発現量に関する指標は明らかにされていない。

本発明者は、上記の課題の解決に向けて検討を行った結果、TLR2の定量値を、「単球あたりのトール様受容体タンパク質2(TLR2)に対する抗体の認識サイト数」(site/cell)として取得することにより、定量値自体の信頼性が向上し、感染症に関する即時的な指標としても、経時的な指標としても、極めて有用であることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、フローサイトメーターにより、被験者の血液検体における単球あたりの「TLR2に対する抗体」(以下、「TLR2抗体」又は「抗TLR2抗体」ともいう)の認識サイト数(site/cell)で表記される定量を行い、当該定量値をして、病原体感染の即時的又は経時的な指標とすることを特徴とする検出方法(以下、本感染検出方法ともいう)を提供する発明である。

ここで、「即時的な指標」とは、例えば、はじめて自己の血液検体における単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数を定量する検体提供者が、その時点での病原体感染の指標とする場合を示すものである。本感染検出方法により即時的に提供されるTLR2のsite/cell定量値を指標として、当該検体提供者における感染症罹患(不顕性感染を含む)の有無、感染症の種類等を鑑別することができる。また、「経時的な指標」とは、例えば、経時的に自己の血液検体における単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数を定量して、当該定量値の変化により、感染症の状態を経時観察する場合のモニタリング指標であることを示している。例えば、感染症の再燃の可能性、外科手術等の感染症以外の疾患の治療行為の前後における感染症の発症の可能性等を、本感染検出方法により把握することができる。

〔定量方法〕
細胞表層タンパク質に対する特異的抗体を用いたフローサイトメーター解析は、方法自体は非常に簡便である。

例えば、血液から比重遠心法によって白血球を分離し、調べたいタンパク質に特異的な蛍光ラベル抗体で反応させたのちフローサイトメーターにかけ、目的とする細胞画分のゲートの中にある細胞に結合している蛍光抗体の蛍光強度の測定によって目的タンパク質の発現を調べることができる。比較的多数の検体処理にも対応可能で、細胞表層の抗原の有無を調べ、その陽性率を求める検査法として広く使われている。しかし、発現強度の強弱による発現量の比較は、比較するもの同士を同時に測定することによってある程度可能であるものの、例えば、測定日が変わってしまうと気温の変化によるフローサイトメーターの光電子管の感度の変化、標識抗体の劣化やロット間格差による力価の違いによる結果数値の変化等が認められるため、測定のセッティングを、前日と全く同じくしても、日を違えて経時的な変化を調べたり、測定ごとの結果を比較したりすることは困難である。したがって、単球におけるTLR2を平均蛍光吸光度(MFI)で定量値を求めたとしても、蛍光強度からなるその数値は、原理的に信頼性という観点から、臨床応用が可能なまでに洗練された測定系にはなり得ない。このように、当該定量値をもっての被験者の感染症についてのデリケート判断は困難である。これについては、後述する実施例にて説明する。

単球あたりのTLR2のsite/cell定量値を、フローサイトメーターにより求めることが可能な一般的な手法は、すでにいくつか提供されており、これらの手法を本感染検出方法において適用することも可能である。

例えば、(1)蛍光物質が定着している4種類のビーズを測定日ごとに測って検量線を作成し、測定した被検体の蛍光強度を蛍光物質の分子数に変換することにより、測定日ごとの機器の感度変化による蛍光強度のずれを補正して経時的な比較を可能とする手法(BD社のQuantiBrite)や、(2)既知量のマウスIgGが固定されている4種類のビーズが用意されており、蛍光ラベルされた抗マウスIgG抗体での二次抗体反応を、そのビーズとマウスIgG一次抗体で反応させた被検体と同時に行い、測定することにより、マウスIgGの量に換算して測定ごとのずれを補正して経時的な比較を可能とする手法(DAKO社のQIFIKIT)、が提供されている。これらのいずれの手法によっても、ある程度の前記フローサイトの信頼度を上げ、さらに、(2)の手法によっては、測定数値の単位上は、site/cell定量数値として求めることができる。しかしながら、前者(1)の手法は、抗体の劣化等、機器以外の要因の変化があった場合には、これが大きな誤差(不正確性)の要因となる。また、後者の(2)の手法は、機器と二次抗体に関しての補正は効くが、調べる抗原を認識する一次抗体の劣化等があった場合に、起こる測定結果の不正確性に対処した方法にはなっていない。

本感染検出方法において用いる最も好適な、単球あたりのTLR2のsite/cell定量値を、フローサイトメーターにおいて求める手法として、TLR2の既知かつ異なる量が担持された2種以上のビーズへの標識された当該TLR2に対する抗体の結合量を、フローサイトメーターにて測定することにより得られた蛍光強度と、前記TLR2の既知量の数値との間における検量線を作成し、さらに、標識されたTLR2に対する抗体を、被験者の血液検体に由来する被験細胞に反応させてフローサイトメーターにて測定を行い得られた蛍光強度と、前記検量線との比較換算により数値化されることにより、単球あたりのTLR2のsite/cell定量値を測定する方法が挙げられる。この定量方法は、本発明者らが、今般、はじめて提供する画期的な手法であり、具体的には、以下に記載する。

この手法の前提として、TLR2の異なる量が担持された2種以上のビーズ(標準ビーズ)を作成して、それぞれのTLR2の分子数に相当する量の決定を行うことで、ビーズにおけるTLR2量を既知とすることが、上記の検量線を作成するために必要である。なお、当該2種以上のビーズとは、例えば、同一のビーズ群のうち、一つの群は、TLR2を1倍(ある量)担持させ、他の群はTLR2を、その10倍量担持させ、残りの群はTLR2を、その100倍量担持させる等、TLR2の担持量が特定されているTLR2の担持ビーズを、2種以上、好適には4種以上の担持量にて用いることを意味する。なお、TLR2とビーズ量、あるいは反応液量等の反応条件を変えることによって、TLR2の結合量が異なったビーズを作ることが可能となる。

用いられるビーズは、臨床検査分野において汎用されているビーズであれば、特に限定されるものではなく、例えば、ラテックスビーズ等を用いることができる。担持されるTLR2は、天然のタンパク質を用いてもよいが、現実的には、遺伝子組み換えにより得られる組換えタンパク質であることが好適、かつ、現実的である。

TLR2のビーズへの結合は、常法により行うことができる。例えば、市販のアミノ基がついたラテックスビーズをグルタルアルデヒドあるいはカルボジイミド処理してビーズにタンパク質をつける方法や、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドによってカルボキシ結合させる方法、ビス(サルフォサクシニミジル)サベレートやジサクシニミジルサベレート等のリンカーを用いて結合させる方法、市販のカルボキシル基がついたラテックスビーズをカルボジイミド処理してタンパク質をつける方法、市販のストレプトアビジンをコートしたラテックスビーズにビオチンラベルしたタンパク質を結合させる方法や、市販の抗マウス抗体ラベル磁気ビーズに抗Hisタグ抗体を作用させHisタグのついたTLR2を反応させて作る方法等が挙げられ、これら以外にもさまざまな方法がある。

このビーズにおけるTLR2の担持量の決定方法は特に限定されるものではなく、一般的なタンパク定量によって求めることが可能である。例えば、TLR2に対する抗体などの、TLR2に特異的に結合する物質において、放射性同位体、蛍光色素、発色色素等により標識を行った当該TLR2結合物質と、標識されていない当該TLR2結合物質を準備し、順次異なる割合で混合し、標識された当該TLR2結合物質が、ビーズに担持されたTLR2に結合する数量を、選択された上記標識を検出し得る方法にてカウントし、当該カウントにより得られた数値群と標識又は非標識の当該TLR2結合物質の割合から作成された検量線を基に(標識又は非標識の当該TLR2結合物質を混合する割合に応じて、その間で起こる競合作用の原理から標識された当該TLR2結合物質の結合量は異なってくる)、異なるTLR2量が担持された2種以上のビーズにおけるTLR2分子のそれぞれの数量が決定できる(実際のTLR2分子数ではなく、それに相当する値であるが、便宜上、以下、TLR2分子数と表記する)。

このようにして製造されるTLR2が担持されたビーズの保存方法は特に限定されず、液体窒素等による極低温保存、凍結乾燥保存、−20℃程度の低温保存、4℃程度の低温保存、常温保存等を行うことができる。その保存安定性と簡便性の双方を考慮すると凍結乾燥保存を行うことが、特に好適である。

続いて、フローサイトメーターにより、TLR2が異なる既知量にて担持された2種以上のビーズの測定を、TLR2に対する蛍光標識抗体(ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよい:常法により製造した抗体であっても、市販品であってもよい)を用いて行うことができる。当該2種以上のビーズと蛍光標識TLR2抗体のそれぞれの結合量(当該結合量は、抗体でとらえるために抗原量としても表記できる)に関して、各種ビーズ1個あたりのTLR2分子数とフローサイトメーターで得られたそれぞれの蛍光強度結果の関係をプロットして測定毎に検量線を作成し、当該検量線により、同じくフローサイトメーターにて測定された、被験細胞におけるTLR2抗原−抗体結合量に応じた蛍光強度を、TLR2分子数に換算して、被験細胞(1細胞)あたりのTLR2抗体認識部位数(site/cell)として数値化し、普遍化することができる。

上記に記した如く、測定毎に検量線を作成するに際しては、上記のTLR2の既知かつ異なる量が担持された2種以上のビーズを蛍光標識されたTLR2抗体に反応させ、フローサイトメーターで得られたそれぞれの蛍光強度結果の関係をプロットし検量線を描き、続いて、被験細胞のTLR2定量を行うことによる、検量線の作成と被験細胞のTLR2発現量測定は独立させる方法、あるいは、TLR2の既知かつ異なる量が担持された2種以上のビーズと被験細胞を共存させ、そこに蛍光標識されたTLR2に対する抗体を加えて反応させ分析することで、検量線の作出と被験細胞におけるTLR2に対する抗体結合量に関する蛍光強度の結果を、同一のフローサイトメーター測定系において得る方法のいずれをも選択できる。以下、この最も好適な定量方法を「本定量方法」ともいう。

本定量方法は、簡便性にも優れ、高い感度で、しかも、経時的観点からの普遍性や共通の基準設定(測定者、フローサイトメーターが変わることを想定した場合にも対応可能)をもって、TLR2の抗原量を単球膜における特異的抗体の認識サイト数として測定結果を表現可能とするものである。

本感染検出方法は、すでに述べた通り、恒常性に優れた定量方法により明らかにされたTLR2の単球上での変動の性質を指標として用いるものであり、本明細書に開示された具体値に準じて本感染検出方法を行うことが可能である。ただし、慎重を期するという面を重要視するならば、改めて追試を行うことが好適である。追試を行う場合の症例数は、統計学に耐えられる患者数、健常者数とも、好適には10症例以上、さらに好適には30症例以上、最も好適には50症例以上であることが望ましい。

上記の追試は、本感染検出方法を、各種の態様で、例えば、各測定施設間で使用されるTLR2抗体の種類が異なる場合、フローサイトメーターも製造会社により、かなりの差異が認められる場合などを想定して、臨床応用するに際しては、現実に本感染検出方法を行う状況に応じて標準値を設定することが好適である、という考えに基づくべきものである。そのためには、単球あたりのTLR2のsite/cellで表記された定量数値の各種の臨床状態、例えば、全く感染症の認められない健常人、ウイルスに急性感染している患者などについて、検体測定数を重ねた上での統計的な数値が重要となる。例えば、単一又は複数の医療施設において、健常者を含め非感染症患者、感染症患者から採取された血液検体から単球あたりのTLR2のsite/cell定量値を統計学的処理可能範囲まで測定検体を積み上げることにより、すなわち、本明細書に開示された要領で追試し、当該追試で与えられる値を本感染検出方法に当てはめることにより、容易に上記の統計的な数値を得ることが好適である。

次に、従来技術を、本感染症検出方法と同様の目的を達成するために行う場合の実施困難性について例示する。

例えば、単球におけるTLR2を平均蛍光吸光度(MFI)で定量値を求めても、当該定量値は、検体提供者の感染症の有無を判断する臨床応用には耐えられない。また、このような定量に際しての細胞処理では、単球を識別するための蛍光標識CD14抗体とTLR2の定量を行うための蛍光標識TLR2抗体を用いる場合が多く、その場合、被験細胞を異種抗体で2重染色する関係で、まずは、それぞれの抗体がそれぞれの細胞膜上抗原に対して十分に結合できないこと、次に、フローサイトメトリー解析においては、異種蛍光同士のそれぞれの強度への加算的影響が懸念されること、この二点において、測定されたTLR2の定量数値に信頼性を欠く結果となってしまう。また、例えば、基準を欠く従来の測定方法では、フローサイトメーターの設定(感度)は各自の任意に任され、各々が変化する危険性を孕む独自の基準を設けた上での測定作業が行われてきた(特異的抗体を用いたフローサイトメトリー解析:Harterら、Shock 2004; 22;403-409)。その結果、TLR2の発現量のMFI値は、当然に普遍性のない数値となり、例えば、敗血症などの重症感染症病態における循環血液中の単球細胞膜上でのTLR2の発現傾向をみるという研究レベルとしての域を出るものではなかった。例えば、同一患者の何ヶ月にも及ぶ病期の経時的変化を追い、比較検討するといった臨床応用を考えた場合には、測定毎、その条件に、フローサイトメーターの感度変化、特異的抗体の劣化、ロット差が生じることによる誤差が生じやすいTLR2の発現量のMFI値によっては、信頼性を得る結果を得ることが困難であった。すなわち、様々な疾患における単球上TLR2の発現量変化の性質、あるいは、その経時的変化の規則性を、TLR2の発現量のMFI値において見出すことはできず、また、多施設間で測定した数値結果を比較することも、困難な状況にあった。

その他、ウエスタンブロットによる定量方法も考えられるが、微妙な差異の比較、あるいは、経時的な変動の経過をみる上で、その手技は困難を極め、定量の正確性にも乏しい方法である。また、細胞膜上に発現したTLR2ではなく、単球におけるTLR2のmRNAを定量化し、敗血症患者における臨床病態、あるいは、その起炎菌のグラム陽性、陰性に区別しての感染者と健常者との間での量的な違いを明らかにしようとした試みもみられるが(Armstrongら、Clin. Exp. Immunol. 136: 312-319, 2004)、本定量方法で得られる細胞膜上のTLR2タンパク量変化に相当するだけのmRNAレベルでの大きな量的変化は認められず(敗血症患者の中には、値的に正常域にとどまるものも含まれる)、現実的臨床検査の手段として成立するか否かに関しては、疑問である。さらに、多数の臨床検体に対応することを前提に、mRNAレベルの定量における手技は、細胞内からmRNAを抽出する過程だけでも、煩雑であり、手技的にmRNA量のロスも生じ、しかも、正確性と普遍性をもたせた上で、定量化することは、極めて困難な作業といえる。

[本感染検出用キット]
本発明では、本感染検出方法を、本定量方法を用いて行うための検出用キット(以下、本感染検出用キットともいう)を提供する。

本感染検出用キットは、上述した本感染検出方法を行うために必須の、又は、選択的に必要な要素を含んで構成されるものである。

具体的には、本感染検出用キットには、少なくともTLR2の既知かつ異なる量が担持された2種以上のビーズが構成要素として含有される。そして、標識されたTLR2に対する抗体を用いて、上述した本感染検出方法を、本定量方法を用いて行うことができる。無論、本感染検出用キットにおいて、上記2種以上のビーズと当該標識TLR2抗体の双方を構成要素として含有させることも可能である。

また、その他、希釈用溶媒、コントロール抗体、洗浄液、白血球分離液、反応チューブ等を構成要素として含有させることも可能である。

本検出用キットにより、本感染検出方法を、本定量方法に従って効率的に行うことがさらに容易となる。

本発明において、血液検体における単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数(site/cell)定量値を指標とすることにより、当該血液検体の提供者の罹患している疾病が病原体感染か否かの鑑別、さらに、病原体感染である場合、いかなる種類の病原体微生物感染であるのか、具体的には、細菌性、ウイルス性又は真菌性のいずれの感染であるのか、の鑑別を行うことができる。また、感染症治療薬剤投与後の血液検体におけるTLR2に対する抗体の認識サイト数(site/cell)の定量値を指標としてモニタリングを行うことにより、当該感染症治療剤の有効性や、疾病の再燃の可能性の有無についての検出を行うことができる。

さらに、本発明において、TLR1のフローサイトメーターにおける定量検出を行うことにより、検体提供者のウイルス感染を検出することができる。

精製段階ごとのサンプルについてのSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動像を示す図である。 4つの異なったTLR2量を結合させたビーズを作成し、これを標識抗体と反応させた結果を、フローサイトメーターにて解析した結果を示す図である。 IgGの平均分子量150000をTLR2抗体の分子量としてビーズに結合した抗体のモル数を算出して得られるスキャッチャードプロットを示す図である。 本定量方法による解析例を示した図である。 本発明のTLR2標準ビーズを用いた検量線を示した図である。 TLR2標準ビーズの保存安定性について検討した結果を示した図である。 細菌感染症患者と健常人の単球上のTLR2分子数を比較して示した図である。 感染症(細菌性、ウイルス性、真菌性)患者群発症時と健常者群との単球上のTLR2発現定量数値における比較検討の結果を示した図である。 この分布グラフ上の感染症患者群TLR2定量数値は、それぞれの疾患におけるその発症時に検体採取して調べた値である。 感染症患者群(抗生剤投与治療中)と健常者群との単球上のTLR2発現定量数値における比較検討の結果を示した図である。 この分布グラフ上の感染症患者群TLR2定量数値は、抗生剤投与治療中、治療後を通してそれぞれの病期間中で認められた、それぞれの最大値を示したものである。 90歳未満の感染症患者群(難治性重症者)、ウイルス感染患者群、健常者群における単球上のTLR2発現の定量数値における比較検討の結果を示した図である。 この分布グラフ上の感染症患者群のTLR2定量数値は、その臨床症状は非常に厳しい致命的な状態にあり、もちろん、その時点で使用されていた抗生剤も効果が認められない状況下における検査数値である。 細菌感染症患者における抗生剤の有用性とTLR2分子数の関係を、WBC、CRP、TLR2発現量をそれぞれ治癒患者と再燃患者とに分けて示した図である。抗生剤著効例とは、その抗生剤を投与して2〜3日以内にWBCの正常範囲までの下降、CRPの顕著な下降あり、臨床症状としても、その発熱の速やかな低下が認められた症例である。抗生剤の弱い効果例とは、抗生剤投与以降、CRP、WBC、臨床症状のいずれに関しても、揺らぎをみせつつ経過し、一週間程度の経過を追った結果として、WBC、CRPの低下、症状の改善傾向が認められた症例群である。抗生剤無効例とは、抗生剤投与下にあっても、WBC、CRPの検査所見、臨床症状のいずれにおいても増悪傾向を認めた症例群である。 細菌性感染症患者の病期間中のTLR2定量数値に関するフォローアップを行った結果を示す図である。(a)細菌感染症にて入院となり、抗生剤治療により一旦は寛解した37名の患者に関して、抗生剤中止時点の前後3週間にわたりTLR2数値の経過を追ったものである。抗生剤を中止して以後3週間の間にその再燃を認めず完治した症例24名と抗生剤中止以後3週間の間に感染の再燃を認めた13名に分けてグラフ化したものである。(b)完治群と再燃群に分けた上で、抗生剤中止時点でのWBC、CRP、TLR2値のそれぞれの数値をプロットして示した。 インフルエンザ感染患者群(発症時)と健常者群のTLR2定量数値における比較検討の結果を示す図である。 この分布グラフ上には、インフルエンザ感染症発症時のTLR2定量数値が示された。 普通感冒における重症度別の、単球上におけるTLR2定量数値との関連性を検討した結果を示す図である。普通感冒(ウイルス疾患)をその臨床症状(熱、全身倦怠感、食欲、咳、鼻水、補液治療の必要性の有無)で、軽症例と重症例に分けて、それぞれのTLR2値の分布状況を示したグラフ図である。 インフルエンザ感染患者群におけるTLR2定量数値のフォローアップの結果を示す図である。インフルエンザ感染者群24名について、Open Circle(23名)として、インフルエンザ感染症発症から、その治療薬 Oseltamivir (タミフル)内服後の経過に関して典型的なTLR2数値の治癒パターンが示された。一方、Solid Circle (1名)で、その経過過程において、異常な症状(近位筋の脱力)を呈した一例を示した。 心房細動不整脈患者群と健常者群のTLR2定量数値における比較検討の結果を示す図である。心房細動不整脈を患う患者のTLR2数値とその患者群にage-matched、sex-matchedさせた健常者群を抽出し、その健常者の有するTLR2数値をプロットした分布図で、両者を比較検討したものである。 冠動脈有意狭窄罹患枝数とTLR2定量数値の関係を検討した結果を示す図である。心臓冠動脈疾患を有する患者を、その冠動脈有意狭窄をもつ動脈枝数で患者を3群にわけて、それぞれのTLR2定量数値をプロットし、比較検討したものである。 ウイルス感染症における顆粒球と単球のTLR1のフローサイトメーターにおける発現パターンについて示した図面である。 インフルエンザ患者の血液検体に対して、TLR1発現量に関するフローサイトメーター解析を行った結果を示した図である。フローサイトメーターによるTLR1発現量の解析を単球細胞集団に敢えてゲートをかけず(限定した細胞集団での解析とせず)、全血液浮遊細胞をターゲットに解析を行った場合についての検討を行った。ウイルス性感染患者の一部の検体で、TLR1が比較的強く発現してくる細胞集団(単球)と比較的弱く発現している細胞集団(リンパ球)に分かれることを見出し、全細胞のTLR1発現分布状況を表したヒストグラム上で細胞集団分布が2峰性を示した代表的なヒストグラムを示した(上図)。さらに、その患者の回復期においては、そのTLR1発現2峰性分布が消失することを示した。

〔各種の疾患への本感染検出方法の適用〕
(a)感染症における病原体の種類(細菌性、ウイルス性、真菌性)の鑑別
本感染検出方法では、単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値が、統計的な健常者の範囲を超えて高値である場合に、当該高値をもって感染性炎症疾患有無判断の指標とすることができる。また、重症細菌感染症に罹患していない被験者の場合で、かつ、当該TLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値が、統計的な非重症細菌感染症の範囲を超えて高値である場合に、当該高値をもってウイルス感染症又は真菌感染症有無判断の指標とすることが可能である。さらに、炎症疾患に罹患している被験者の場合で、かつ、当該TLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値が、統計的な健常者の範囲内である場合に、当該健常値を、非感染性炎症疾患の指標にすることも可能である。非感染性炎症疾患としては、例えば、薬剤性臓器障害、虚血性もしくは低酸素性臓器障害、外科的侵襲を含む外傷、膠原病、自己免疫疾患、アレルギー疾患、癌疾患、非感染性の血液疾患等が挙げられる。

感染症の病原体を迅速、かつ正確に特定することの必要性は、そのことが、当該感染症に対する有効な治療薬剤の選択に直結するからであり、当該感染症をできる限り速やかに治癒に向かわせるための重要なステップともいえる。特に、易感染者の感染症の場合には、その病原体が、細菌、ウイルス、真菌にまたがる混合感染である場合も少なくなく、一般的な血液炎症所見であるWBC、白血球の分画、CRPの動きからでは、その病原体の同定は、かなり難しい症例もある。胸部レントゲン、胸部CT所見などの画像も参考に、専門的知識と経験を備え、病原体に特徴的な所見を指摘できたとしても、迅速診断(病原体の特定に)至る例は、むしろ数少ない。それぞれに、更なる病原体に特異的な検査(真菌感染の場合は、血中β-Dグルカン、ウイルス感染などの場合は、ペア血清の抗体価など)を重ねて、診断基準に照らし、十分な証拠となり得る結果が集まってはじめて、診断が確定される。実際の臨床現場では、例えば、試験的に投与した抗生剤が効き完治したことによって、治療後に、細菌性であったとの確証を得る場合も少なくない。逆に、最も頻度が高い細菌性感染症にとらわれるばかりに、他の病原体による感染である可能性を疑うことすらせず、抗生剤の効果がないことで、はじめて、他の病原体による感染の可能性を考え、ようやく特異的な検査を行う場合も稀でない。その間、当然、適切な薬剤の投与はできず、病原体に対して、ただ増殖の機会を与えるのみとなり、その結果として、感染症の重篤化を招く。

本感染検出方法を適用すると、TLR2の発現量の上昇程度に応じて、各病原体による差異が認められることにより、細菌感染に加え、真菌、あるいは、ウイルス感染の合併が考えられるのか、それとも細菌だけが感染している状態なのか、等の判断が、比較的容易になり、また、そのことによって、ある病原体感染の疑いをもち、その検出を目的とする特異的検査を実施し易くもなる。具体的には、ウイルスの感染(ただし、普通感冒などで認められる軽症のウイルス感染症は除く。一般的には、ウイルス感染は発症とともにそのウイルス特有の強い症状を呈し、新たな合併症に発展しない限り、その重症度幅は比較的狭い疾患である)、あるいは真菌感染の急性期(未治療の段階)においては、末梢循環単球膜上の蛍光標識抗TLR2抗体処理単球細胞の一細胞あたりの抗体認識部位数の定量値は、およそ7000sites/cell〜10000 sites/cellという高値を示す。一方、細菌感染症のみの場合には、その発症時の急性期(未治療の段階)において、単球膜上のTLR2の当該定量値は、およそ5500 sites/cell 〜7000sites/cellの範囲に入る。ただし、細菌感染症が長期化しその重症度は高くなり、しかも、ほとんど抗生剤の有効性がない場合に、およそ7000 sites/cell〜10000 sites/cellという高値を示す。この性質を活用すれば、感染発症時において、患者の末梢単球膜上でのTLR2の当該定量値を測定した結果、およそTLR2<7000 sites/cellであれば、細菌感染症のみを疑い、およそTLR2>7000 sites/cellの場合には、ウイルス単独感染である可能性、真菌単独感染である可能性、あるいは細菌に加えて、真菌、ウイルスの混合感染である可能性を検討すべきとの、およその見当がつく。なお、健常者が示すTLR2の数値は、およそ2000 sites/cell〜6000 sites/cellの範囲に入る。もちろん、ウイルス感染では、一般的にWBCの数値が、ほとんど変動せず(低下する傾向もあり)、細菌感染や真菌感染では、WBCの上昇、好中球分画の上昇が認められる従来の知見も、併せて参考にすべきことは、言うまでもない。

ただし、前述したように、ここに記載した一細胞あたりのTLR2抗体認識サイト数は、実際上の一細胞あたりのTLR2分子の絶対数ではない。粒子の大きさやTLR2の結合方法を変えた標準ビーズを用いた場合、あるいは認識部位が異なる抗TLR2抗体を用いた場合、その換算値としてのTLR2サイト数は異なってくる。したがって、本発明は記載された数値に限定されるものではなく、また、必要に応じて健常者の基準値の再設定および異常値レベル程度の設定がなされるべきものである。

(b)感染症に対する薬剤の有効性の検討
本感染検出方法では、血液検体が感染症治療薬投与開始後の被験者の血液検体であり、単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値が統計的な健常者の範囲内へと減少した場合に、当該感染症治療薬が被験者に対して有効であることの指標とし、かつ、当該定量値が統計的な健常者の範囲を超えて高値である場合には、当該感染症治療薬の被験者に対する著効性を否定する指標とすることができる。

自覚症状、または、他覚所見から肺炎、腸炎、腎盂腎炎など、速やかに感染臓器が特定できるような場合には、それぞれ痰、便、尿などのサンプルを採取し、細菌培養、真菌培養にて、病原体を同定でき、その薬剤感受性を調べることで、現在投与中、あるいは、まだ投与していない各種抗生剤、抗真菌剤の効果を予測することが可能となる。しかし、薬剤感受性試験の結果から有効とされる薬剤が選択投与されても、実際、感染症患者においてその薬剤の効果がほとんど認められない場合もある。その理由としては、サンプルが、起炎菌を確実に捉えられていない可能性が一つには考えられ、また、薬剤投与による菌交代現象の結果として新たな起炎菌、耐性菌が、短期間のうちに次から次へと出現してくるような場合に、上記現象は起こり得る。感染症患者における薬剤効果の有無の判断は、現状では、患者の自覚、熱、心拍数の正常化を含む身体所見、血液炎症所見(WBC、CRP等)の経時的変化などを総合的にみて判断されている。

発明者は、末梢血液単球膜上のTLR2発現の測定結果が、現在投与中の薬剤効果を判断するための有用な指標になることを見出した。具体的には、治療薬投与中の血液検体において、およそTLR2>7000 sites/cellであれば、その時点での、薬剤の効果がほとんどないものと考えられ、実際、発明者は、このような場合に、それより数日後の血液炎症所見(WBC、CRP)において上昇傾向が認められる事実を明らかにした。また、およそ6000 sites/cell<TLR2<7000 sites/cellの場合には、現在投与中の薬剤の効果は、ある程度、期待でき、およそTLR2<6000 sites/cellの場合には、当該薬剤の著効を表す範囲であることを見出した。血液炎症所見(WBC、CRP)を参考に抗生剤の検討を行ってきた従来の方針と比較して、適宜、TLR2等の発現量を調べ、その結果を指標に、治療方針の決定(薬剤の選択、あるいは、変更)を行っていけば、治療過程において、患者が、発熱をはじめとする、その他の感染症状を不必要に自覚することもなく、有効性無い抗生剤から有効性有る抗生剤へと速やかに変更でき、感染症を治癒方向へと導き得る。

ただし、前述したように、ここに記載した一細胞あたりのTLR2抗体認識サイト数は、実際上の一細胞あたりのTLR2分子の絶対数ではない。粒子の大きさやTLR2の結合方法を変えた標準ビーズを用いた場合、あるいは認識部位が異なる抗TLR2抗体を用いた場合、その換算値としてのTLR2サイト数は異なってくる。したがって、本発明は記載された数値に限定されるものではなく、また、必要に応じて健常者の基準値の再設定および異常値レベル程度の設定がなされるべきものである。

(c)不顕性感染症の検出
長期化している感染症の病態は、TLR2の定量値に鋭敏に反映されているため、当該定量値の増加を検出することにより、潜在的なレベルでの感染症(不顕性感染)の検出を行うことが可能である(ここでいう潜在的とは、ウイルス感染症の場合のウイルスキャリアー、細菌感染症の場合の保菌者などを指しているものではなく、病原体に対して宿主側の防御反応が最大限に働き、ようやく病原体の増殖が抑制されているような状態をいい、自覚、他覚所見、従来の一般的検査所見においても炎症反応がほとんど検出できない不顕性感染状態を指す)。ただし、単球膜上TLR2発現異常が関与する免疫異常、免疫耐性の状態にある特殊なケースを除く。

(i)感染症の「再燃」のモニタリング
血液検体が感染症治療薬剤投与後の感染寛解期の薬剤中止時期における被験者の血液検体であり、単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値の当該薬剤中止時期からの経時的な増加を、感染再燃の肯定的な指標とすることができる。この肯定的な数値所見として、単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値が、健常者の統計的な当該定量値の平均値に標準偏差の2倍を加算した値を超えて高値となる場合として規定することで、感染再燃のさらなる確実な指標とすることも可能である。また、本感染検出方法において、単球あたりのTLR2に対する抗体の認識サイト数の定量値の当該薬剤中止時期からの当該定量値の経時的な最大値が、健常者の統計的な当該定量値の平均値よりも低値であることを、感染再燃の否定的な指標とすることも可能である。

上述したように、抗生剤等の感染症