JPWO2007013679A1 - 試料溶液中のアルブミンの分析方法 - Google Patents
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Abstract
Description
生体内のアルブミンについては、還元型及び酸化型アルブミン、糖化アルブミンなどの不均一性の存在が知られている。特に、糖尿病では一般にアルブミンの糖化が進行すると報告されており(Suzuki E.,Diabetes Res.18(3),153−158,1992)、糖が結合して生成する糖化アルブミンは、ヘモグロビンA1cと同様に血糖状態をモニターするマーカーとして、糖尿病臨床の場で注目されている。
一方、生体内における還元型アルブミン(Alb(red))及び酸化型アルブミン(Alb(ox))の存在についても生体の疾患と関連があることが知られ、最近注目されている。N末端から34番目のシステインのSH基が遊離であるAlb(red)に対し、34番目のシステインのSH基にシステインなどの含硫生体内化合物がジスルフィド結合で付加したAlb(ox)が血中に存在していることが知られている(Era S, Int. J. Peptide Protein Res. 31, 435−422, 1988)。
ジスルフィド結合は、短時間で可逆的に結合・解離することができるため、Alb(red)とAlb(ox)は、生体内で動的な平衡状態を保っていることになる。従って、血漿内のAlb(red)とAlb(ox)の存在比は、血中の酸化還元状態を反映していることになる。つまり、何らかの酸化ストレスを受けた場合、Alb(ox)の存在比が増加する。具体的には、高齢者、ネフローゼ症候群、人工透析、肝疾患などの患者でAlb(ox)が増加していることが知られている(Sogami M., J. Chromatogr., 332,19−27, 1985; 渡辺明治, Phama Medica, 19, 195−204, 2001; Suzuki E, Diabetes Res Clin Pract, 18, 153−158, 1992)。また、糖尿病では、血中酸化産物の増加や抗酸化酵素活性の低下、微少血管障害に関するフリーラジカルの生成から考えて、患者は酸化ストレス状態にあると考えられる(Oberley LW, Free Radical Biol. Med., 5, 113−124, 1988)。
酸化ストレス状態は、生体の酸化反応と抗酸化反応のバランスが崩れ、酸化反応に傾いた生体に好ましくない状態である。酸化ストレスにより、細胞のDNA、細胞膜上のリン酸脂質、蛋白、糖質が傷害を受け、血管傷害が進行し、健康状態が悪化すると言われている。このように酸化ストレスは、老化や様々な病気を引き起こすと言われており、ポリフェノールなどの抗酸化作用をもつ物質が健康に良いことが知られている。従って、生体内の酸化状態を簡便にモニターできるようになれば、健康状態のモニターや、薬物や健康素材のスクリーニングが可能となる。
酸化型アルブミンが増加する代表的な疾患としては、肝硬変が知られている。肝硬変患者は、肝臓でのアルブミン生産能が低下することにより、血中のアルブミン量が低下する。この低アルブミン血症の治療として、ヒト血漿アルブミン製剤や分岐鎖アミノ酸製剤が使われる。肝硬変などの肝疾患においては、アルブミン量の低下と共に、酸化型アルブミンが増加する(Watanabe A, Netrition 20, 351−357, 2004)。
また、腎機能障害(Terawaki H., Kidney Int. 65(5), 1988−1993, 2004)、糖尿病(Suzuki E., Diabetes Res. 18(3),153−158,1992)、リウマチ(Narazaki R., Arch. Toxicol. 14, 351−353, 1998)あるいは加齢(Era S., Biochim. Biophys. Acta., 1247(1), 12−16, 1995)などによっても酸化ストレスによる酸化・還元バランスの変動が生じる。
このようにアルブミンは、自ら還元体・酸化体を形成することにより、生体の酸化・還元の緩衝能を果たしている。従って、酸化型アルブミンと還元型アルブミンの存在比は生体の酸化・還元状態を反映していると考えることができるため、生体内血中の還元型・酸化型アルブミン比を正確に求めることができれば、酸化ストレスに起因する疾患の進行状況や治療効果、あるいは健康状態を鋭敏にモニターすることが可能となる。すなわち、生体内血中の酸化型/還元型アルブミン比を容易に求めることができれば、疾患の進行度や治療効果、健康状態を容易に判定することができる。
Alb(red)とAlb(ox)の比を求める方法には、いくつかの方法がある。一つ目は、アルブミンの定量法である色素結合法を応用したものである。色素結合法に使われる色素には、ブロムクレゾールグリーン(BCG)とブロムクレゾールパープル(BCP)の二種類が用いられている。BCP法は、Alb(red)とAlb(ox)に対する反応性が異なるため、BCP法とBCG法で求めたアルブミン定量値の差は、Alb(ox)の存在比を反映していると考えられる。しかしながら、本方法は著しく定量性に乏しい。
また、エルマン試薬などの遊離SH基定量試薬を用いて、Alb(red)由来のSH基を定量する方法もある(Sogami M, Int. Pept. Protein Res., 24(2), 96−103, 1984)。しかし、この方法は、アルブミン以外のSH基を有する物質と区別することはできない。
現在最も優れた方法は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いる方法である(Sogami M., J. Chromatogr., 332, 19−27, 1985;特開昭61−155397;特公平2−4863)。HPLCによる血清アルブミンの分析では、還元型アルブミン(Alb(red))と酸化型アルブミン(Alb(ox))とを分離して検出することができる。分離したクロマトグラム上におけるピーク面積比から、Alb(red)とAlb(ox)の総量に対するAlb(red)量の比率(Alb(red)%=Alb(red)のピーク面積/(Alb(red)のピーク面積+Alb(ox)のピーク面積)×100)を求めることができる。
しかしながら、現状のHPLC法にはいくつかの問題点がある。一つ目の問題点は、試料の安定性である。血漿中の還元型アルブミンは非常に不安定であり、−20℃の保存状態であっても自然酸化により酸化型アルブミンが増加し、Alb(red)%値が低下してしまう。この反応は温度の上昇に比例している。従って、血漿の保存は少なくとも−70℃以下でなくてはならないと言われている(村本良三, 医学の歩み, 198(13), 972−976, 2001)。HPLC法での測定では、−70℃以下で保存した血漿を、融解後直ちにHPLC測定に供さなくてはならない。二つ目の問題点は、Alb(red)とAlb(ox)の分離が不十分なことである。Alb(red)とAlb(ox)の構造上の差異は非常に小さいため、HPLCでこれらを完全に分離することは非常に困難であり、クロマトグラム上でベースライン分離することができない(安川恵子, 臨床検査, 44(8), 907−910, 2000)。三つ目の問題点は、酸化型アルブミンの構造情報が乏しいことである。Alb(ox)は、アルブミンのN末端から34残基目のシステインに、ジスルフィド結合により、システインやグルタチオンなどの含硫化合物が結合したものであるが、HPLC法で検出されるAlb(ox)がどのような構造であるかは、HPLC法では具体的に知ることができない。
上記二つ目と三つ目の問題点を解決する可能性のある方法として、質量分析計を用いたアルブミンの分析方法が最近報告された(安川恵子, 臨床検査, 44(8), 907−910, 2000)。近年の質量分析法の進歩は目覚しく、分子量の大きなタンパク質でも精度良く、高い質量分解能で測定できるようになってきた。Alb(ox)は、付加した化合物(例えばシステイン)の質量分、Alb(red)よりも重くなる。従って、十分な質量分解能を有する質量分析計で測定することにより、Alb(red)とAlb(ox)を分離して検出することが可能となる。上記文献において、安川らは、健常者と糖尿病患者のアルブミンをエレクトロスプレーイオン化法質量分析計(ESI−MS)で測定し、Alb(red)とAlb(ox)の検出、さらには糖化アルブミンの検出を行っている。
しかしながら、上記一つ目の問題点はESI−MS法においても依然同様に深刻な問題である。−70℃以下でないと血漿中の酸化型アルブミンの割合は保存中に増加してしまうため、サンプルの保存管理が厳しい。また、凍結保存した血漿を溶解し、測定に至るまでに、酸化型アルブミンの割合は刻々と増加してしまうため、測定値の変動を引き起こしてしまう。従って、従来の方法では、−70℃以下で保存した血漿を融解後、直ちにHPLC測定あるいはESI−MS測定に供しなくてはならない。測定までの時間や室温が、Alb(red)%値のバラつきを引き起こしてしまう。また、分析の精度を高めるための標準物質を安定に保存することもできないため、分析精度を管理することが極めて困難である。さらには、オートインジェクターを用いた自動分析や測定の自動化・省力化が困難である。このため、還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在比の測定は、未だ一般には普及しておらず、特定の研究機関でのみ実施されているのが現状である。さらに、現在用いられている血清アルブミン定量法は、主に色素結合法であるが、酸化型と還元型アルブミンの反応差があるために正確な定量ができないことが問題となっている(村本良三, 臨床検査, 48(5), 537−544, 2004)。
また、標準試料は、分析全般において、分析の精度と確度を保証するために重要である。酸化型アルブミンは、システインやグルタチオンなどのチオール基を有する化合物と反応させることにより、試験管内で作成する方法が知られている(Gabaldon M., Arch. Biochem. Biophys. 431, 178−188, 2004)。しかしながら、上記の通り、この反応は可逆的であることから、酸化型アルブミンが還元型アルブミンに容易に変換するという問題点を有している。このようなことから、精度の高い分析を行うために常に、酸化型と還元型アルブミン比が長期間一定である標準試料が望まれていた。
本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 試料溶液をpH4〜9に調整して質量分析又は液体クロマトグラフィーに供することを特徴とする、試料中のアルブミンを分析する方法。
〔2〕 pHの調整が緩衝液によるものである、上記〔1〕に記載の方法。
〔3〕 試料溶液が、試料を緩衝液によって50〜100000倍に希釈したものである、上記〔1〕に記載の方法。
〔4〕 試料溶液を0〜100時間インキュベートした後に、pH調整し、希釈した試料溶液を質量分析又は液体クロマトグラフィーに供することを特徴とする、上記〔3〕に記載の方法。
〔5〕 緩衝液が、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、ヘペス緩衝液及びコハク酸緩衝液からなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記〔2〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕 試料が被検体から採取した血液又は血漿である、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕 インキュベート温度が4〜60℃である、上記〔4〕に記載の方法。
〔8〕 質量分析又は液体クロマトグラフィーの前に限外ろ過処理を行う、上記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕 質量分析又は液体クロマトグラフィーの前にクロマトグラフィー精製を含む、上記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の方法。
〔10〕 クロマトグラフィーが、高速液体クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー及び疎水クロマトグラフィーからなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記〔9〕に記載の方法。
〔11〕 質量分析が、エレクトロスプレーイオン化−飛行時間型質量分析計、四重極型質量分析計、イオントラップ型質量分析計、フーリエ変換イオンサイクロトロン型質量分析計、マトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型質量分析計、磁場型質量分析計及びタンデム型四重極型質量分析計からなる群から選ばれる少なくとも1種の装置によって行われる、上記〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の方法。
〔12〕 試料中の還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在量及び/又は還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在比を分析するものである、上記〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の方法。
〔13〕 試料が、肝疾患、腎疾患、糖尿病、リウマチ、脳疾患、疲労、加齢、酸化ストレス、心疾患及び肺疾患からなる群から選択される少なくとも1種の状態にあるか該状態にあることが危惧される被検体から採取したものである、上記〔12〕に記載の方法。
〔14〕 肝疾患、腎疾患、糖尿病、リウマチ、脳疾患、疲労、加齢、酸化ストレス、心疾患及び肺疾患からなる群から選択される少なくとも1種の状態にあるか該状態にあることが危惧される被検体から採取した血液又は血漿中の還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在量及び/又は還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在比を上記〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の方法により分析することを含む、肝疾患、腎疾患、糖尿病、リウマチ、脳疾患、疲労、加齢、酸化ストレス、心疾患及び肺疾患からなる群から選択される少なくとも1種の状態にあるか該状態にあることが危惧される被検体から採取した血液又は血漿の分析方法。
〔15〕 被験物質投与時と非投与時のそれぞれにおける被検体試料中の還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在量及び/又は還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在比を上記〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の方法により測定すること、
被験物質投与時に得られた該存在量及び/又は存在比と、被験物質非投与時に得られた該存在量及び/又は存在比とを比較すること、並びに
被験物質非投与時に比べ被験物質投与時の還元型アルブミンの存在量及び/又は存在比が大きくなったものを選択すること
を含む、被験物質のスクリーニング方法。
〔16〕 被験物質が抗酸化物質である、上記〔15〕に記載の方法。
〔17〕 精製により低分子物質を除去し、pHを調整することを含む、アルブミン定量分析の精度管理用の還元型又は酸化型アルブミン標準試料の作製方法。
〔18〕 アルブミン定量分析が、分析試料中に含まれる還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在量又は存在比の分析である、上記〔17〕に記載の方法。
〔19〕 pHを4〜9に調製する、上記〔17〕又は〔18〕に記載の方法。
〔20〕 pHの調整が、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、ヘペス緩衝液及びコハク酸緩衝液からなる群から選ばれる少なくとも1種の緩衝液を用いて行われる、上記〔17〕〜〔19〕のいずれかに記載の方法。
〔21〕 精製が限外ろ過又はクロマトグラフィーによるものである、上記〔17〕又は〔18〕に記載の方法。
〔22〕 システイン又はホモシステインを付加させた後、限外ろ過又はクロマトグラフィー精製により低分子物質を除去し、pHを調整することを含む、アルブミン定量分析の精度管理用の酸化型アルブミン標準試料の作製方法。
〔23〕 アルブミン定量分析が、分析試料中に含まれる還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在量又は存在比の分析である、上記〔22〕に記載の方法。
〔24〕 pHを4〜9に調製する、上記〔22〕又は〔23〕に記載の方法。
〔25〕 pHの調整が、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、ヘペス緩衝液及びコハク酸緩衝液からなる群から選ばれる少なくとも1種の緩衝液を用いて行われる、上記〔22〕〜〔24〕のいずれかに記載の方法。
〔26〕 上記〔17〕〜〔21〕のいずれかに記載の方法によって得られた、アルブミン定量分析の精度管理用の還元型又は酸化型アルブミン標準試料。
〔27〕 上記〔22〕〜〔25〕のいずれかに記載の方法によって得られた、アルブミン定量分析の精度管理用の酸化型アルブミン標準試料。
〔28〕 N末端より34番目の遊離システイン残基が修飾を受けていないアルブミンと、アルブミン以外のチオール化合物がN末端より34番目の遊離システイン残基にジスルフィド結合を介して結合したアルブミンとを含む、分析試料中に含まれる還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在比の測定用標準試料。
〔29〕 チオール化合物が、システイン、ホモシステイン又はグルタチオンである、上記〔28〕に記載の標準試料。
〔30〕 血液より調製されたアルブミンを用いて作製された、上記〔28〕に記載の標準試料。
〔31〕 遺伝子組み換え技術により調製されたアルブミンを用いて作製された、上記〔28〕に記載の標準試料。
〔32〕 pHが4〜9に調整された、上記〔28〕に記載の標準試料。
〔33〕 リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、ヘペス緩衝液及びコハク酸緩衝液からなる群から選ばれる少なくとも1種の緩衝液に溶解された溶液である、上記〔28〕に記載の標準試料。
〔34〕 N末端より34番目の遊離システイン残基が修飾を受けていないアルブミン以外のチオール化合物が含まれていない、上記〔28〕に記載の標準試料。
図2は、ラット由来の試料溶液をpH6に調整した場合のAlb(red)%値の時間推移を示すグラフである(実施例1)。
図3は、ヒト由来の試料溶液を様々なpHに調整した場合のAlb(red)%値の時間推移を示すグラフである(実施例1)。
図4は、ラット由来の試料溶液の希釈率が異なる場合のAlb(red)%値の時間推移を示すグラフである(実施例1)。
図5は、ヒト由来の試料溶液の希釈率が異なる場合のAlb(red)%値の時間推移を示すグラフである(実施例1)。
図6は、実施例2の結果を示すグラフである。
図7は、実施例3の結果を示すクロマトグラムである。
図8は、実施例4の結果を示すマススペクトルである。上から順に、糖尿病モデルマウスの血漿を凍結融解後37℃で2時間インキュベートした場合に得られたデータ、糖尿病モデルマウスの血漿を凍結融解後インキュベートしない場合に得られたデータ、正常モデルマウスの血漿を凍結融解後37℃で2時間インキュベートした場合に得られたデータ、正常モデルマウスの血漿を凍結融解後インキュベートしない場合に得られたデータを示している。Alb−Cysはシステイン付加酸化型アルブミン、Alb−GSHはグルタチオン付加酸化型アルブミン、Alb−glcは糖化アルブミンのピークを示している。
図9は、実施例5の結果を示すグラフである。
図10は、実施例6の結果を示すグラフである。
図11は、実施例8の結果を示すグラフである。
図12は、実施例9のHPLC−ESI−TOFMS測定の結果を示すチャートである。
発明の詳細な説明
本発明のアルブミンの分析方法は、質量分析又は液体クロマトグラフィーに試料溶液を供する前に、試料溶液をpH4〜9に調整することを特徴とする。pHを5.8〜6.2に調整するのがさらに好ましい。試料溶液のpHが4より小さいか又は9より大きい場合には、試料溶液の作製中にも還元型アルブミンから酸化型アルブミンへの酸化が促進されてしまうため、アルブミンを安定に分析することが困難となる。
pHの調整方法としては、例えば、緩衝液への溶解、弱酸溶液あるいは弱塩基溶液の添加などが挙げられる。
なかでも、後述する希釈を同時に行うことができることから緩衝液を用いてpHを調整するのが好ましい。用いられうる緩衝液としては、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、ヘペス塩酸緩衝液、コハク酸緩衝液などの慣用の緩衝液が挙げられるが、特にクエン酸緩衝液及びリン酸緩衝液が好ましい。
本発明は、特に、被検体から採取した血液又は血漿試料の分析に適している。
本発明においては、試料中の酸化還元バランスをモニターする際には、pH調整や希釈の前、さらには限外ろ過又はクロマトグラフィー処理する際にはその前に、血液又は血漿試料を、0〜100時間、好ましくは2〜12時間インキュベートし、還元型アルブミンの酸化反応を促進させることが好ましい。このインキュベートにより試料中の還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在量及び/又は存在比の差異がより明確になるため、試料中の酸化還元バランスをより簡便にモニターすることができる。
インキュベート温度としては、4〜60℃、好ましくは25〜40℃が挙げられる。
試料を希釈溶媒によって50〜100000倍に希釈したものを試料溶液として使用するのが好ましい。50倍よりも希釈度が小さい場合には、低分子物質と還元型アルブミンの接触頻度が高いことから、還元型アルブミンから酸化型アルブミンへの変換率が高くなる。また、この場合に緩衝液を希釈液として用いた場合には、緩衝液のpH緩衝能が失われてしまう。一方、100000倍よりも希釈度が大きい場合には、アルブミン濃度が装置の検出感度以下になりうるが、この場合には、希釈率を大きくしてもその分試料注入量を増大することで検出可能となる。
希釈溶媒としては、緩衝液、水、アセトニトリル、メタノール、ギ酸溶液などが挙げられるが、上述のように、pHの調整も同時に行えることから緩衝液が好ましい。緩衝液としてはpHの調製で例示したものが挙げられるが、なかでも、リン酸緩衝液が特に好ましい。
アルブミンの酸化反応を抑制するためには、試料に含まれうる低分子物質を除去することが好ましい。
低分子物質を除去する手段としては、限外ろ過処理、あるいは、高速液体クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー精製が挙げられる。
なかでも、アルブミン吸着能の高いアフィニティーカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィーによる精製が好ましい。試料をアフィニティーカラムに付し、試料中のアルブミンをカラム樹脂に吸着させる。リン酸緩衝液でアルブミンを保持させた条件でカラム内を洗浄し、低分子物質を除去する。洗浄終了後、塩濃度が高いリン酸緩衝液をアルブミン溶出溶液としてカラムに流すと、アルブミンは樹脂から剥離し、低分子物質が除去された試料が得られる。
ここで、低分子物質とは、分子量2000以下、好ましくは1000以下、より好ましくは500以下の物質を意味する。そのような物質としては、例えば、上記分子量以下のアミノ酸、有機酸、糖類、脂肪酸、脂質、核酸、ヌクレオチド、ヌクレオシド、金属イオン、ステロイド化合物、ペプチドなどが挙げられ、より具体的にはシステイン、シスチン、ホモシステイン、ホモシスチン、還元型グルタチオン、酸化型グルタチオンが挙げられる。
限外ろ過を用いる場合は、ろ過フィルターの孔径は、通常、分子量カット1000Da〜60000Daであり、10000Da〜30000Daの孔径のフィルターを使用するのが好ましい。
低分子物質の除去は、通常、質量分析又は液体クロマトグラフィーの直前に実施するが、血液や血漿などの試料採取時に、ゲルを内封した採取具やpH調整用希釈溶媒を内封した採取具を使用するなどして、前もって処理することも可能である。例えば、プラスミノーゲンアクティベーターアッセイ用のBiopool社の採血管(米国特許第5175087号)は、クエン酸緩衝液を使用していることから、これを用いることにより、採血時にpH調整ができ、アルブミンを安定化することができる。
また、アルブミン以外の夾雑成分によるピークの発生を防止するために、質量分析の前にクロマトグラフィー精製を行うか、LC−MSを用いるのが好ましい。
クロマトグラフィーとしては、上述の低分子物質の除去で例示したものが挙げられるが、なかでも、LC−MSとして質量分析との接続が容易な逆相高速液体クロマトグラフィーが好ましい。
血液や血漿中の還元型アルブミンは非常に不安定であるので、通常、試料溶液が血液(全血)である場合には、凍結により赤血球が破壊され赤血球中のヘモグロビンが測定に影響を及ぼすため凍結処理を行うのは好ましくない。従って、採血後直ちにpH調整又は希釈を行い、好ましくはその後限外ろ過処理を行い、測定装置に付すのがよい。pH調整用希釈溶媒を内封した採取管などのpHが調製できる採血管を用いるのがさらに好ましい。また、試料溶液が血漿である場合には、採血後に血漿分離を行った後、液体窒素を用いた迅速凍結後、−70℃以下にて冷凍保存してもよい。
上記pH調整、希釈、限外ろ過、クロマトグラフィーは、血漿試料を冷凍保存する前に行ってもよいし、保存前には行わず、冷凍保存されていた血漿試料を凍結融解した後に行ってもよい。冷凍保存の前、あるいは採血時に、ゲルを内封した採取具やpH調整用希釈溶媒を内封した採取具を使用するなどして、前もって処理することも可能である。これにより、より高い保存温度でも安定に長期間保存できるようになる。
本発明で使用されうる質量分析装置としては、エレクトロスプレーイオン化−飛行時間型質量分析計(ESI−TOFMS)、四重極型質量分析計、イオントラップ型質量分析計、フーリエ変換イオンサイクロトロン型質量分析計、マトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型質量分析計(MALDI−TOFMS)、磁場型質量分析計、タンデム型四重極型質量分析計などが挙げられる。なかでも、簡易性、質量高分解能、高感度の点から、ESI−TOFMSが好ましい。
本発明のアルブミンの分析方法によれば、試料溶液中の還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在量及び/又は還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在比、糖化アルブミンの存否、数種類存在する酸化型アルブミンの同定などの分析を行うことができる。
本発明において、還元型アルブミンとは、N末端より34番目の遊離システイン残基が修飾を受けていないアルブミンを意味する。
本発明において、酸化型アルブミンとは、N末端より34番目の遊離システイン残基にアルブミン以外の生体内のチオール化合物がジスルフィド結合を介して結合したアルブミンを意味する。
肝疾患、腎疾患、糖尿病、リウマチ、脳疾患、疲労、加齢、酸化ストレス、心疾患及び肺疾患からなる群から選択される少なくとも1種の状態にあるか該状態にあることが危惧される被検体から採取した血液又は血漿中の還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在量及び/又は還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在比を本発明のアルブミンの分析方法により分析することにより、肝疾患、腎疾患、糖尿病、リウマチ、脳疾患、疲労、加齢、酸化ストレス、心疾患及び肺疾患からなる群から選択される状態に被検体があるかどうかを判定することもできる。
血液又は血漿試料を採取しうる被検体としては、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)が挙げられる。
肝疾患、腎疾患、糖尿病、リウマチ、脳疾患、疲労、加齢、酸化ストレス、心疾患、肺疾患などの状態は、酸化ストレスを生じることが公知の状態であり、被検体の酸化還元バランスに乱れを生じさせる疾患である。すなわち、被検体はこれらの状態になると被検体中の酸化型アルブミンと還元型アルブミンの総量に対する酸化型アルブミンの割合が大きくなる。従って、この状態を分析することにより、被検体がこれらの状態になっていないかどうかの判定をすることができる。
肝疾患としては、例えば、C型肝炎、B型肝炎、肝硬変、肝性悩症、原発性胆汁性肝硬変、肝癌などが挙げられる。
腎疾患としては、例えば、腎不全、糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、腎盂腎炎、痛風腎が挙げられる。
脳疾患としては、例えば、脳卒中、脳梗塞、肝性脳症、クモ膜下出血などが挙げられる。
心疾患としては、例えば、狭心症、心筋梗塞、不整脈、先天性心疾患などが挙げられる。
肺疾患としては、例えば、肺炎、肺気腫、ぜんそく、気管支炎などが挙げられる。
本発明のアルブミンの分析方法を用いれば、還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在量及び/又は還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在比を指標とした、被験物質のスクリーニングも可能である。該スクリーニングは、被験物質投与時と非投与時の被検体内の還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在量及び/又は還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在比を本発明のアルブミンの分析方法により測定すること;被験物質投与時に得られた該存在量及び/又は存在比と、被験物質非投与時に得られた該存在量及び/又は存在比とを比較すること;及び、被験物質非投与時に比べ被験物質投与時の還元型アルブミンの存在量及び/又は存在比が大きくなったものを選択することを含む。
被験物質としては、抗酸化物質、アルブミンと結合性の物質など、各種薬物や健康素材などが挙げられる。ここでいう健康素材とは、健康維持・向上に効果がある食品素材及びこれを含む食品を意味する。薬物としては、肝疾患、腎疾患(特に、ネフローゼ症候群)、糖尿病、心疾患、老化の予防・治療薬などが挙げられる。また、健康素材としては、抗酸化物質、ビタミン、アミノ酸、ミネラル、炭水化物、脂肪酸、酵素などの栄養源/栄養補助剤などが挙げられる。
被験物質非投与時に比べ、被験物質投与時に、還元型アルブミンの存在量が0.1mg/mL程度、好ましくは0.2mg/mL程度大きくなったものが、薬物及び健康素材として有用な候補物質となりうる。また、存在比の場合には、被験物質非投与時に比べ、被験物質投与後に、全アルブミン中に占める還元型アルブミンの存在比が投与前と比較して2%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上、増加したものが、薬剤及び健康素材として有用な候補物質となりうる。
本発明のアルブミンの分析方法で用いている試料溶液の前処理方法は、pH調整と、好ましくは希釈及び/又は限外ろ過やクロマトグラフィーによる低分子物質の除去により、血液や血漿中のアルブミンの酸化反応を著しく抑制することができる。これにより、試料溶液の保存管理及び輸送管理が著しく容易になる。また、本前処理方法を利用した本発明のアルブミンの分析方法は、従来のHPLC法よりも、アルブミン自然酸化による測定結果への影響を極力抑えて、安定したAlb(red)%値が得られる。さらに、本発明のアルブミンの分析方法を用いれば、従来の血清アルブミン定量法とは異なり、正確なアルブミンの定量が実現できる。
本発明においては、質量分析又は液体クロマトグラフィーを分析手法として用いるが、特に、LC−MSによる分析が、感度、分離能及び検出法の点でより効果的である。質量分析を用いる場合には、1回の測定に消費される試料が従来のHPLC法では10μLであるのに対して、最小0.2nL程度の試料から測定が可能である。また、液体クロマトグラフィーに比べて質量分析の方が一般的に高感度であるため、試料溶液の十分な希釈が可能となり、pHが特定範囲に設定しやすい上、希釈率を高くできるなど、試料溶液中でAlb(red)と反応し得る化合物との接触を軽減できる。ここで、分離能とはAlb(red)とAlb(ox)の分離能であるが、質量分析を用いた場合には、液体クロマトグラフィーを用いた場合よりも分離能が高いこともあり、Alb(red)とAlb(ox)に関してベースライン分離が達成できる。さらに、質量分析を用いた場合には、m/z値によって検出されるため、得られたマススペクトル上のピークからAlb(red)%値に加えて、必要に応じ、構造情報を得ることができる。
アルブミンは非常に不安定で、インキュベーション時間に伴い、自然酸化により酸化型アルブミンが増加する。実際に、血漿を一定時間インキュベートした後に、pH調整、希釈した試料溶液を質量分析又は液体クロマトグラフィーに供した場合、Alb(red)%は試料に応じて変化速度が異なる。すなわちアルブミンが血漿中の酸化還元状態を反映するプローブの役割を担うことを示す。
一方、創薬手法のアプローチのひとつに、大規模なコンビナトリアル合成を中心とする探索研究がある。本発明の方法は、非常に簡便であること、測定時間が1検体あたり35分という迅速測定であること、試料を凍結融解後すぐに分析に供さなくてもよいためオートインジェクターによる自動分析が可能であることから、薬物効果のスクリーニングを簡便にかつ迅速に行うことができる。
本発明はさらに、精製により低分子物質を除去し、pHを調整することを含む、アルブミン定量分析の精度管理用の還元型又は酸化型アルブミン標準試料の作製方法を提供する。
本発明において、アルブミン標準試料とは、還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在比が安定なアルブミン溶液を意味する。アルブミン標準試料のうち、溶液中に、酸化型アルブミンに対して還元型アルブミンが多く存在するもの(還元型アルブミンと酸化型アルブミンを合わせた全体の好ましくは50%超、より好ましくは70%以上が還元型アルブミンであるもの)を還元型アルブミン標準試料といい、還元型アルブミンに対して酸化型アルブミンが多く存在するもの(還元型アルブミンと酸化型アルブミンを合わせた全体の好ましくは50%超、より好ましくは70%以上が酸化型アルブミンであるもの)を酸化型アルブミン標準試料という。
本発明はまた、システイン、ホモシステイン又はグルタチオンを付加させた後、限外ろ過又はクロマトグラフィー精製により低分子物質を除去し、pHを調整することを含む、アルブミン定量分析の精度管理用の酸化型アルブミン標準試料の作製方法を提供する。
これらのアルブミン標準試料の作製方法を用いて得られた安定なアルブミン標準試料も本発明の範囲に包含される。特に、上記アルブミン標準試料はAlb(red)%の測定における精度を管理するのに適している。
pHの調整や低分子物質の除去に関しては、本発明のアルブミンの分析方法に関して上述したとおりである。
本発明はまた、N末端より34番目の遊離システイン残基が修飾を受けていないアルブミン(還元型アルブミン)と、アルブミン以外のチオール化合物がN末端より34番目の遊離システイン残基にジスルフィド結合を介して結合した酸化型アルブミンとを含む、分析試料中に含まれる還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在比の測定用標準試料を提供する。ここで、アルブミン以外のチオール化合物の具体例としては、システイン、ホモシステイン及びグルタチオンが挙げられる。
上記標準試料は、血液より調製されるか、又は、遺伝子組み換え技術により調製されたアルブミンを用いて作製することが好ましい。
血液からアルブミンを調製する方法は、特に限定されず、血液からアルブミンを調製するのに当該分野で通常使用されている方法を適宜用いることができるが、例えば、採血した試料をクロマトグラフィーに供し、アルブミンを分離・精製する方法が挙げられる。この場合、標準試料の溶液中のアルブミン(還元型アルブミン+酸化型アルブミン)濃度は、0.1〜50mg/mlが好ましい。
遺伝子組み換え技術によりアルブミンを調製する方法も、特に限定されず、遺伝子組み換えによりアルブミンを調製するのに当該分野で通常使用されている方法を適宜用いることができる。酵母を発現系として産生した遺伝子組み換えヒト血清アルブミンが報告されており(Fleer R. et al, Biotechnology (NY). 1991 Oct;9(10):968−75)、例えば、この文献に記載の方法を用いることができる。
上記標準試料のpHは、還元型及び酸化型アルブミンの安定性の点から、4〜9に調整することが好ましい。
上記標準試料が、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、ヘペス緩衝液及びコハク酸緩衝液からなる群から選ばれる少なくとも1種の緩衝液に溶解された溶液であることが好ましい。
さらに、上記標準試料には、還元型アルブミン以外のチオール化合物が含まれていないことが好ましい。
本発明によれば、試料溶液中の還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在量及び/又は存在比を簡便に精度よく測定することができるので、被検体の酸化還元バランスをモニターすることができる。これにより、酸化ストレス状態や、酸化型アルブミンが増加する肝疾患、腎疾患、糖尿病、リウマチ、脳疾患、疲労、加齢、心疾患、肺疾患などの状態に被検体がなっていないかどうかの判定が可能である。また、本発明によれば、肝疾患、腎疾患、糖尿病、リウマチ、脳疾患、疲労、加齢、酸化ストレス、心疾患、肺疾患などの状態の予防・治療用の薬物のスクリーニングを行うことができる。健康素材となる抗酸化物質のスクリーニングも可能である。さらに、薬物投与時の酸化ストレス状態をモニターすることにより、既存又は新規の薬物の適用疾患の探索も可能である。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
−80℃に凍結保存した上記正常ラット血漿試料を氷浴上で融解後、50mM NaH2PO4/Na2HPO4(pH6.0)を用いて試料を100倍希釈した。次いで、HPLC−ESI−TOFMSで分析を行った。
ヒト血漿試料は以下のように作製した。ヒト被検体からヘパリン入り真空採血管に採血し、ポリプロピレン製遠心用チューブに移した。これを4℃、3000rpm、20分間遠心処理し、上清画分を血漿成分とした。
HPLC−ESI−TOFMSは、高速液体クロマトグラフィー装置(HPLC:Ultimate Plus Capillary/Nano LC System、Dionex Corporation、USA)とエレクトロイオンスプレー式−飛行時間型質量分析計(ESI−TOFMS:microTOFTM、BRUKER Daltonics Inc.、USA)を連結したシステムで行った。HPLC装置は、マイクロオートインジェクター(FAMOS)とスプリット方式マイクロ流量ポンプ(Ultimate)及びスイッチングバルブ搭載ポンプ(Switchos)の3つのモジュールから構成される。
試料中のアルブミンの分離・濃縮は、トラップカラム(MonoCap濃縮カラム:GL Science Inc.,内径0.2mm、長さ150mm)と分離カラム(MonoCap for Fast−flow:内径0.2mm、長さ50mm)を用いて行った。
HPLC用溶離液は、アセトニトリル/水(Milli−Q)(25:75 v/v)混合液1Lにギ酸を1mL加えたものを(A)液、アセトニトリル/水(Milli−Q)(90:10 v/v)混合液1Lにギ酸を1mL加えたものを(B)液とした。オートインジェクターのサンプルトレイは4℃に設定し、サンプルバイアルは常に冷却される状態にした。
トラップカラムは(A)液を流速0.05mL/min、分離カラムは(B)液を流速15μL/min(ポンプ設定流速0.125mL/min、スプリット流路により実流速15μL/min)送液することで、それぞれ平衡化した。
上記希釈及びろ過処理をした溶液をバイアルに移し、サンプルトレイにセットした後、測定を開始した。試料注入量は2μLとし、測定開始0分から10分までは、Swichosから(A)液を0.05mL/minで送液した。この間、試料中の塩や夾雑成分はトラップカラムを素通りし、アルブミンはトラップカラムに吸着されることで、脱塩・濃縮が達成された。測定開始10分から15分までは、スイッチングバルブにより流路を切替えてトラップカラムと分離カラムが連結される流路とした。このときUltimateから(B)液を流速15μL/min送液することで、トラップカラムに吸着されたアルブミンは分離カラムに移行し、分離カラムに保持された。測定開始15分から35分までは、再び流路を切替えてトラップカラムと分離カラムを別流路とした。この間、Ultimateから(B)液が流速15μL/minで送液され、アルブミンを含む他の夾雑成分を粗分離した。一方、測定開始15分から25分まではSwitchosから(B)液を流速0.07μL/min送液することで、トラップカラムに保持された残存試料を溶出した。測定開始25分から35分までは、Switchosから(A)液を流速0.07μL/min送液することで、トラップカラムを(A)液で初期化した。
分離カラムから溶出したアルブミンは、高速液体クロマトグラフィーと質量分析装置のインターフェースとなるエレクトロスプレーイオンソース部でイオン化後、質量分析装置によって検出した。全てのマススペクトルはイオン化及びイオン検出パラメーターを最適化したメソッドを適用した。質量分析装置の検出質量範囲はm/z 50〜3000とし、ポジティブイオンに多価帯電したアルブミンを検出した。イオン化パラメーター条件は下記の値を設定した。
End Plate Offset:−500V、Capillary:−5000V、Neblizer Gas:0.4Bar、Dry Gas:5.0L/min、Dry Temp:200℃。
質量分析計制御ソフトウェア:microTOF Controlによりイオン化したアルブミンを検出した。最適化した条件は、Capillary Exit:150乃至250V、Skimmer 1:50乃至100V、Hexapole 1:24乃至36V、Skimmer 2:25乃至35V、Hexapole 2:18乃至24V、Hexapole RF:500乃至800V、Transfer Time:30乃至50μs、Pre Puls Storage:20乃至40μs、Lens 1 Storage:30乃至60V、Lens 1 Extraction:18乃至24V、Lens 2:−15乃至+15V、Lens 3:−70乃至−10V、Lens 4:−15乃至+15V、Lens 5:−60乃至+20V、Detector:1400乃至1600V、Rolling Average:3、Summation:20000、Pulser Push/Pull:380乃至400V、Corrector Fill:40乃至50V、Corrector Extract:800乃至1000V、Flight Tube:9000V、Reflector:1300V、TOF Detector:1800乃至2000Vとした。
データ解析は質量分析計データ解析ソフトウェアmicroTOF Dataanalysisを用いた。エレクトロスプレーイオン化法によりイオン化されたアルブミンは多価イオンを形成し、複数のピークとして検出された(図1(1))。マススペクトルはスムージング処理(Gaussアルゴリズム:m/z幅=0.1、Cycle=1)、ベースライン処理を行った後、Deconvolution機能から同じ価数を示すピークを決定した。同価数を示すピークは各々2つ検出され、m/zの小さいものをAlb(red)、大きいものをAlb(ox)とみなした(図1(2))。m/z 1220乃至1410の範囲に検出されるピークは46価乃至53価に多価チャージしたアルブミンに由来する。各価数のピーク強度(高さ)から、Alb(red)%={Alb(red)のピーク強度(高さ)/(Alb(red)ピーク強度(高さ)+Alb(ox)のピーク強度(高さ))}×100を求め、平均値を算出した。
試料中では自然酸化反応によってAlb(red)が占める割合は減少するためAlb(red)%値は時間とともに減少する傾向がある。そこで、緩衝液を用いて血漿試料を100倍に希釈・ろ過し、試料のpH制御を行った。
ラット血漿については、50mMリン酸緩衝液(pH6.0)を希釈溶液に用いた場合、若干減少傾向はあるものの、処理後24時間でも安定したAlb(red)%値が得られた(図2)。
また、ヒト血漿についてpH範囲を拡大してAlb(red)の安定性試験を行った。希釈用緩衝液は、50mM 酢酸緩衝液(pH3.0、pH4.0及びpH5.0)、50mM リン酸緩衝液(pH6.0、pH7.0及びpH8.0)、0.1M 炭酸緩衝液(pH9.0及びpH10.0)を用いた。酸性側のpH適用範囲を確認した結果、pH3.0ではマススペクトル上でアルブミン由来のシグナルが観測されなかったが、pH4.0からpH7.0の範囲では、サンプルトレイ上での放置後48時間経過しても安定したAlb(red)%値が得られた(図3(1))。同様にアルカリ性側の適用範囲を確認した結果、pH6.0からpH9.0の範囲ではサンプルトレイ上での放置後24時間経過しても安定したAlb(red)%値が得られた。しかし、pH10.0では放置時間の経過とともにAlb(red)%値の増加傾向が確認された(図3(2))。このようにヒト血漿はpH4.0乃至pH9.0の希釈用緩衝液を適用することにより安定したAlb(red)%測定が可能である。
このように、本発明の方法により処理した試料溶液は、サンプルトレイ上に24時間放置してもAlb(red)%値が安定であるため、オートインジェクターによる測定の自動化が可能となる。
また、50mMリン酸緩衝液(pH6.0)により、希釈率を10倍、20倍、50倍、100倍と変化させた場合の希釈率がAlb(red)%に与える影響も検討した。
ラット血漿の場合、希釈率100倍処理したところ、希釈・ろ過処理後24時間経過後にも安定したAlb(red)%値が得られた。しかしながら、希釈率10倍、20倍及び50倍の場合には、サンプルトレイ上の放置2時間でAlb(red)%値に減少が確認され、傾向は時間経過とともに進行した(図4)。
ヒト血漿の場合、希釈率50倍又は100倍処理したところ、希釈・ろ過処理後24時間経過後にも安定したAlb(red)%値が得られた。しかしながら、希釈率10倍又は20倍の場合には、サンプルトレイ上での放置後3時間でAlb(red)%値に減少が確認され、その後さらに低下し、6時間以降はほぼ一定値となった(図5)
SD系ラットに週2回、四塩化炭素(CCl4)とオリーブオイルを当量混合したものを1mL/kg皮下投与し、肝疾患を誘発させたモデルラットを作成した。CCl4投与開始より、1ヶ月おきにエーテル麻酔下、鎖骨下大静脈より1mL採血した。同時にコントロール群として正常ラットの採血を行った。採血した血液は、直ちに氷浴し、1時間以内に遠心分離することにより血漿分離を行った。分離した血漿は、直ちに液体窒素で凍結し、−80℃で保存した。保存した試料は測定前に融解し、下記(1)又は(2)の処理を施し、正常ラット及び肝疾患モデルラット(CCl4投与開始後22週)の血漿サンプルについてそれぞれのAlb(red)%値を求めた。
(1)凍結融解後、直ちに50mMリン酸緩衝液(pH6.0)により100倍希釈した。次いで、その溶液をバイアルに移し設定温度4℃のオートサンプラーにセットし、HPLC−ESI−TOFMSで分析した。
(2)凍結融解後、血漿を37℃、2時間インキュベーションした。インキュベーション終了後は、(1)の凍結融解後に行った処理と同様の処理を行った。
HPLC−ESI−TOFMSとAlb(red)%値の算出は実施例1と同様に行った。
処理(1)の場合、Alb(red)%値はそれぞれ正常ラット(80.8±1.1)、肝疾患モデルラット(82.8±2.3)を示した。一方、処理(2)の場合、Alb(red)%値はそれぞれ正常ラット(65.2±3.7)、肝疾患モデルラット(54.2±5.6)を示した(表1及び図6)。
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)装置は、AKTAexplorer 10S(GE Healthcare(formerly Amersham Biosciences AB), Sweden)システムを用いた。HPLC用溶離液は、0.15M 硫酸ナトリウムを含む30mM リン酸緩衝液(pH6.85)を流速0.8mL/minで使用した。分離カラムはShodex Asahipak GS−520 7Eを用いた。測定シグナルはUV検出(検出波長280nm)でモニターした。
−80℃に凍結保存した正常ラット血漿試料を氷浴上で融解後、50mM リン酸緩衝液(pH6.0)を用いて試料を5倍希釈した。5倍希釈した試料を、直ちにHPLC装置に付した場合と、室温で2時間のプレインキュベーション処理を行った場合について分析を行った。その結果、クロマトグラム上で10.5分付近に還元型アルブミン由来のピークが観測された。プレインキュベーション処理の前後でもクロマトグラムパターンの変化がみられないことから、ラット血漿中のアルブミンはpH6.0の緩衝液を用いることで安定していることが確認された(図7)。
(1)凍結融解後、直ちに50mMリン酸緩衝液(pH6.0)により100倍希釈した。次いで、その溶液をバイアルに移し設定温度4℃のオートサンプラーにセットし、HPLC−ESI−TOFMSで分析した。
(2)凍結融解後、血漿を37℃、2時間インキュベーションした。インキュベーション終了後は、(1)の凍結融解後に行った処理と同様の処理を行った。 HPLC−ESI−TOFMSとAlb(red)%値の算出は実施例1と同様に行った。
処理(1)の場合、Alb(red)%はそれぞれ、正常マウス(80.3%)、糖尿病モデルマウス(80.1%)を示した。一方、処理(2)の場合、Alb(red)%値はそれぞれ、正常マウス(72.4±0.8)、糖尿病モデルマウス(68.9±1.7)を示した。このように、プレインキュベーション処理によりサンプル間のAlb(red)%の差が顕著になった。
また、還元型アルブミン及び酸化型アルブミンに加えて、糖化アルブミンのピークが確認された(図8)。全アルブミン中に糖化アルブミンが占める割合は、正常マウスが9.9%、糖尿病マウスが13.9%であり、糖尿病マウスにより多くの糖化アルブミンが認められた。
〈サンプル処理〉
健常人より血液(N=3)を採取し、1)ヘパリンを添加、2)0.5M クエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.3)を血液の1/9量添加、3)75mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH6)を血液の9倍量添加、のいずれかの方法で処理を行い、冷蔵(4℃)保管した。
処理直後、3、6、24、30、48時間後に、各処理血液から一定量を分取し、遠心分離して血漿成分を得た。血漿は、採取直後に液体窒素で凍結し、測定まで、冷凍庫(−80℃)で保管した。
〈測定方法〉
処理血液1)、2)については、希釈液(50mM リン酸ナトリウム緩衝液、pH6.0)にて100倍、処理血液3)については、同希釈液にて10倍希釈した後、実施例1記載のHPLC−ESI−TOFMSに従って、酸化型アルブミン比率及び還元型アルブミン比率を算出した。
〈測定結果〉
還元型アルブミン比率(Alb(red)%)の残存率を算出したところ、処理血液1)については、保管時間の経過と共に残存率が低下し、48時間後で95%となった。一方、処理血液2)、3)については、保管48時間後の残存率は100〜101%であり、変動が見られなかった(図10)。従って、pH調整又は希釈により、還元型アルブミン比率の変動を抑制できることがわかった。
〈サンプル処理〉
健常人より血液(N=5、試料1〜5)を採取し、0.5M クエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.3)を採取した血液の1/10量添加して冷蔵(4℃)保管した。
処理直後、24、72時間後に、処理血液から一定量を分取し、遠心分離して血漿成分を得た。
〈測定方法〉
血漿を50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)にて50倍希釈し、HPLCサンプルとした。
HPLC条件
カラム: ES−502N 7.6mm i.d. × 100mm DEAE−form (Shodex)
カラム温度 : 35℃
Solvent A: 50mM 酢酸ナトリウム−400mM 硫酸ナトリウム (pH 4.85)
Solvent B: エタノール
Gradient: A/B = 100/0 →5min→ 100/0 →25min→ 95/5 →5min→ 100/0 →5min→ 100/0
Flow: 1.0mL/min
検出: 蛍光 ex. 280nm em.340nm
サンプル注入量: 20μL
〈測定結果〉
保管72時間後における還元型アルブミン比残存率は99.4〜100.4%であり、処理直後に比べて変動が見られなかった。この結果から、採血後72時間までの還元型アルブミンの安定性を確認することができ、病院から分析機関までの分析試料の輸送が可能であることが保証された。
〈サンプル処理〉
健常人より血液(N=3、A〜C)を採取し、1)ヘパリンを添加、2)0.5M クエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.3)を血液の1/9量添加、のいずれかの方法で処理を行い、遠心分離して血漿成分を得た。
〈固相抽出〉
1. 血漿20μLに対し、50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)1980uLを添加した。
2. 固相抽出カラム(Bond Elut−C18 EWP 200mg/3cc)の活性化、平衡化を行った。活性化は0.1%ギ酸を含む90%アセトニトリル 2mL、平衡化は水1mLで行った。
3. 1のサンプルを2の固相抽出カラムにアプライした。
4. 0.1%ギ酸を含む10%アセトニトリル 2mLで洗浄し、0.1%ギ酸を含む90%アセトニトリル 1mLで溶出した。
5. 4の溶出液をそのまま、測定サンプルとした。
〈ESI−TOFMS測定条件〉
溶離液:0.1%ギ酸を含む90%アセトニトリルを流速15μL/minで流し、オートサンプラーを用いて、測定サンプル1μLをフローインジェクション法でESI−TOFMSに注入した。MS条件については、実施例1記載のHPLC−ESI−TOFMSのMS部分と同一条件で測定を行った。
〈測定結果〉
上記に従って、ヒト血液を処理して調製した血漿を固相抽出して得られた試料について、ESI−TOFMS測定のオートサンプラー中での安定性をみた。初日、1日後及び2日後に測定をした時の還元型アルブミン比残存率(%)を以下の表に示した。
処理血液1)、2)いずれについても、オートサンプラー中では2日間安定であった。従って、どちらの採血法であっても、その後、クロマトグラフィーとして固相抽出することにより、分析に至るまでの2日間安定であった。この結果から、クロマトグラフィーにより、血漿中の低分子物質を除去することにより、酸化型アルブミンの生成が抑制され、安定した分析が可能となることがわかる。本実施例の結果は、本発明の分析方法の安定性を保証するものである。
さらに、病院などでの実際の採血を想定し、血漿保存安定性の確認を固相抽出法で行った。
〈サンプル処理〉
健常人より血液(N=3)を採取し、1)ヘパリンを添加、2)0.5M クエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.3)を血液の1/9量添加、のいずれかの方法で処理を行い、遠心分離して血漿成分を得た。
得られた血漿を、血漿分離直後、冷蔵保管1日後、冷蔵保管2日後に、上記と同様にして、固相抽出した後にESI−TOFMS測定を行った。
〈測定結果(図11)〉
還元型アルブミン比率の残存率を算出したところ、処理血液1)については、保管時間の経過と共に残存率が低下し、2日後で92〜94%となった。一方、処理血液2)、3)については、保管2日後の残存率は100〜101%であり、処理直後に比べて変動が見られなかった。この結果から、pH調整処理により、冷蔵で2日間は還元型アルブミンが安定に存在することが確認できた。また、固相抽出とESI−MSを組み合わせたフローインジェクション法では、MSの測定時間が5分以下と、測定時間を大幅に短縮することができる。
健常人より血液を採取し、血漿分離したヒト血漿サンプルを、実施例5で示した手順に準じて、アフィニティークロマトグラフィーによるアルブミン精製に供した。精製した溶出液を、1.5M 塩化カリウムを含む50mM リン酸緩衝液(pH6.0)で4mg/mLに希釈した(これを還元型アルブミン標準試料とした)。この溶液に、チオール基含有低分子物質として、システインとその酸化体であるシスチン、ホモシステインとその酸化体であるホモシスチン、又は、還元型グルタチオンとその酸化体である酸化型グルタチオンのいずれかを添加して酸化型アルブミン標準試料の調製を行った。
生体内に存在する酸化型アルブミンとして、システイン付加型アルブミン、ホモシステイン付加型アルブミン及びグルタチオン付加型アルブミンの3種類を、以下のようにしてそれぞれ調製した。
システイン付加型アルブミン調製の場合、4mg/mL 精製アルブミン溶液120mLに0.6mM システイン(シグマ社製)水溶液を12mL及び0.6mM シスチン(シグマ社製)水溶液を108mL混合した。
ホモシステイン付加型アルブミン調製の場合、4mg/mL 精製アルブミン溶液120mLに3mM ホモシステイン(シグマ社製)水溶液を8mL及び3mM ホモシスチン(シグマ社製)水溶液を72mL混合した。
グルタチオン付加型アルブミン調製の場合、4mg/mL 精製アルブミン溶液120mLに3mM 還元型グルタチオン(和光純薬社製)水溶液を8mL及び3mM 酸化型グルタチオン(和光純薬社製)水溶液を72mL混合した。
調製したすべての溶液は、ファルコンチューブ(50ccサイズ)数本に分け、チューブ内にはアルゴンガスを充填した。チューブを37℃インキュベーター内(横置き)に48時間放置した。反応終了後、限外ろ過法により、マイクロコンYM−30(500μLサイズ:MILLIPORE製)によって、過剰のチオール基含有低分子物質とその酸化体を除去し、溶液を濃縮した。2000rpmの遠心処理を行い、0.9w/v% 塩化ナトリムを含む50mM リン酸緩衝液(pH7.3)でバッファー交換を行った。(1)アルブミン溶液濃縮、(2)ろ過液除去、(3)0.9w/v% 塩化ナトリムを含む50mM リン酸緩衝液(pH7.3)の充填という(1)から(3)までの工程を15回以上繰り返すことにより、調製した溶液中のチオール基含有低分子物質とその酸化体の除去を達成した。
本調製法によって得られた酸化型アルブミン標準試料(3種類)の還元型又は酸化型アルブミン純度(%)(還元型アルブミンと酸化型アルブミンを合わせた全体に占める還元型又は酸化型アルブミンの割合)を実施例1記載のHPLC−ESI−TOFMS測定によって確認した(図12)。その結果、システイン付加型アルブミン(図12の[B])、ホモシステイン付加型アルブミン(図12の[C])、グルタチオン付加型アルブミン(図12の[D])の酸化型アルブミン純度はそれぞれ、95%、96%、65%であった。一方、還元型アルブミン標準試料(図12の[A])の還元型アルブミン純度は78%であった。
上記の方法で調製した還元型アルブミン標準溶液及び各種酸化型アルブミン標準試料を、4℃、−20℃及び−80℃で保存した際の安定性の評価を行った。定期的にサンプリングを行い、実施例1記載のHPLC−ESI−TOFMSを用いて純度の変化率を測定した。
その結果、いずれの温度でも酸化型アルブミン標準試料の純度についてはほとんど変化がなく、酸化型アルブミン標準試料の保存安定性が示された。
また、調製した標準試料を用いて、実施例7に記載のHPLC法に従いアルブミンの分析を行ったところ、分析によって得られた還元型アルブミン、システイン付加型アルブミン、グルタチオン付加型アルブミンの純度の分析値は、より分析精度の高いESI−TOFMSで測定した値とよく一致した。このことから、本発明のアルブミン標準試料を用いて、HPLC法の分析精度を保証することができた。
以上、本発明の具体的な態様のいくつかを詳細に説明したが、当業者であれば示された特定の態様には、本発明の教示と利点から実質的に逸脱しない範囲で様々な修正と変更をなすことは可能である。従って、そのような修正及び変更も、すべて後述の請求の範囲で請求される本発明の精神と範囲内に含まれるものである。
本出願は、日本で出願された特願2005−217993を基礎としており、それらの内容は本出願にすべて包含されるものである。
Claims (34)
- 試料溶液をpH4〜9に調整して質量分析又は液体クロマトグラフィーに供することを特徴とする、試料中のアルブミンを分析する方法。
- pHの調整が緩衝液によるものである、請求項1に記載の方法。
- 試料溶液が、試料を緩衝液によって50〜100000倍に希釈したものである、請求項1に記載の方法。
- 試料溶液を0〜100時間インキュベートした後に、pH調整し、希釈した試料溶液を質量分析又は液体クロマトグラフィーに供することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
- 緩衝液が、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、ヘペス緩衝液及びコハク酸緩衝液からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
- 試料が被検体から採取した血液又は血漿である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
- インキュベート温度が4〜60℃である、請求項4に記載の方法。
- 質量分析又は液体クロマトグラフィーの前に限外ろ過処理を行う、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
- 質量分析又は液体クロマトグラフィーの前にクロマトグラフィー精製を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
- クロマトグラフィーが、高速液体クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー及び疎水クロマトグラフィーからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項9に記載の方法。
- 質量分析が、エレクトロスプレーイオン化−飛行時間型質量分析計、四重極型質量分析計、イオントラップ型質量分析計、フーリエ変換イオンサイクロトロン型質量分析計、マトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型質量分析計、磁場型質量分析計及びタンデム型四重極型質量分析計からなる群から選ばれる少なくとも1種の装置によって行われる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
- 試料中の還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在量及び/又は還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在比を分析するものである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
- 試料が、肝疾患、腎疾患、糖尿病、リウマチ、脳疾患、疲労、加齢、酸化ストレス、心疾患及び肺疾患からなる群から選択される少なくとも1種の状態にあるか該状態にあることが危惧される被検体から採取したものである、請求項12に記載の方法。
- 肝疾患、腎疾患、糖尿病、リウマチ、脳疾患、疲労、加齢、酸化ストレス、心疾患及び肺疾患からなる群から選択される少なくとも1種の状態にあるか該状態にあることが危惧される被検体から採取した血液又は血漿中の還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在量及び/又は還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在比を請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法により分析することを含む、肝疾患、腎疾患、糖尿病、リウマチ、脳疾患、疲労、加齢、酸化ストレス、心疾患及び肺疾患からなる群から選択される少なくとも1種の状態にあるか該状態にあることが危惧される被検体から採取した血液又は血漿の分析方法。
- 被験物質投与時と非投与時のそれぞれにおける被検体試料中の還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在量及び/又は還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在比を請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法により測定すること、
被験物質投与時に得られた該存在量及び/又は存在比と、被験物質非投与時に得られた該存在量及び/又は存在比とを比較すること、並びに
被験物質非投与時に比べ被験物質投与時の還元型アルブミンの存在量及び/又は存在比が大きくなったものを選択すること
を含む、被験物質のスクリーニング方法。 - 被験物質が抗酸化物質である、請求項15に記載の方法。
- 精製により低分子物質を除去し、pHを調整することを含む、アルブミン定量分析の精度管理用の還元型又は酸化型アルブミン標準試料の作製方法。
- アルブミン定量分析が、分析試料中に含まれる還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在量又は存在比の分析である、請求項17に記載の方法。
- pHを4〜9に調製する、請求項17又は18に記載の方法。
- pHの調整が、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、ヘペス緩衝液及びコハク酸緩衝液からなる群から選ばれる少なくとも1種の緩衝液を用いて行われる、請求項17〜19のいずれか1項に記載の方法。
- 精製が限外ろ過又はクロマトグラフィーによるものである、請求項17又は18に記載の方法。
- システイン又はホモシステインを付加させた後、限外ろ過又はクロマトグラフィー精製により低分子物質を除去し、pHを調整することを含む、アルブミン定量分析の精度管理用の酸化型アルブミン標準試料の作製方法。
- アルブミン定量分析が、分析試料中に含まれる還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在量又は存在比の分析である、請求項22に記載の方法。
- pHを4〜9に調製する、請求項22又は23に記載の方法。
- pHの調整が、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、ヘペス緩衝液及びコハク酸緩衝液からなる群から選ばれる少なくとも1種の緩衝液を用いて行われる、請求項22〜24のいずれか1項に記載の方法。
- 請求項17〜21のいずれか1項に記載の方法によって得られた、アルブミン定量分析の精度管理用の還元型又は酸化型アルブミン標準試料。
- 請求項22〜25のいずれか1項に記載の方法によって得られた、アルブミン定量分析の精度管理用の酸化型アルブミン標準試料。
- N末端より34番目の遊離システイン残基が修飾を受けていないアルブミンと、アルブミン以外のチオール化合物がN末端より34番目の遊離システイン残基にジスルフィド結合を介して結合したアルブミンとを含む、分析試料中に含まれる還元型アルブミンと酸化型アルブミンの存在比の測定用標準試料。
- チオール化合物が、システイン、ホモシステイン又はグルタチオンである、請求項28に記載の標準試料。
- 血液より調製されたアルブミンを用いて作製された、請求項28に記載の標準試料。
- 遺伝子組み換え技術により調製されたアルブミンを用いて作製された、請求項28に記載の標準試料。
- pHが4〜9に調整された、請求項28に記載の標準試料。
- リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、炭酸緩衝液、ヘペス緩衝液及びコハク酸緩衝液からなる群から選ばれる少なくとも1種の緩衝液に溶解された溶液である、請求項28に記載の標準試料。
- N末端より34番目の遊離システイン残基が修飾を受けていないアルブミン以外のチオール化合物が含まれていない、請求項28に記載の標準試料。
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