JPWO2007007609A1 - 微生物担体、微生物担体の製造方法、廃水処理方法、及び廃水処理システム - Google Patents

微生物担体、微生物担体の製造方法、廃水処理方法、及び廃水処理システム Download PDF

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Abstract

微生物担体は、グラニュール汚泥中の微生物を失活または活性を低下させたものである。或いは、グラニュール汚泥中のメタン生成菌を失活または活性を低下させたものである。或いは、グラニュール汚泥中の特定の微生物の活性を優位にしたものである。この微生物担体は、例えばメタン発酵槽20から抜き出したグラニュール汚泥を、加熱処理装置16で加熱処理することで得られる。この微生物担体は、元々微生物が凝集した塊であるため、その構造は微生物が増殖するに適した条件を備えており、微生物の固定化が良好になされる。また、微生物由来の担体であるため、使用後の廃棄も容易であり、環境負荷も小さい。

Description

本発明は、微生物担体、微生物担体の製造方法、廃水処理方法、及び廃水処理システムに関する。
嫌気性廃水処理装置として、酸生成槽と、UASB型メタン発酵槽(上向流嫌気性汚泥床:Upflow Anaerobic Sludge Blanket)より構成される2相式のものが実用化されている。酸生成槽は、主に微生物により廃水中の有機物を有機酸にするためのものであって、UASB型メタン発酵槽でのメタン発酵を容易にするために設置される。
このような酸生成槽には酸生成菌が存在し、有機物を低級脂肪酸に変換している。酸生成菌としては、炭水化物分解菌としてClostridium属、Bacillus属、Streptococcus属など、繊維素分解菌としてPlectridium spumarum、Caduceus cellosaehydrogenicus、タンパク質分解菌としてClostridium属、Proteus属、 Bacterium属、 Bacillus属、脂肪分解菌としてClostridium kluyveriなどが知られており、これらを総称して酸生成菌と呼んでいる。
酸生成槽の下流にあるメタン発酵槽では、生育速度の遅いメタン生成菌を効率よく運転・管理するために、嫌気性菌からなる汚泥を反応槽内に固定することにより、高負荷・高効率プロセスを実現することが試みられており、UASB(上向流嫌気性汚泥床)、AF(下向流嫌気性ろ床)、AFF(上向流嫌気性固定床)、AFFEB(嫌気性固定膜膨張床)、FB(嫌気性固定膜流動床)、EGSB(膨張汚泥床:Expanded Granular Sludge Bed)などがこれまで実用化されている。
特に、UASB型メタン発酵槽では、グラニュール汚泥と呼ばれる直径0.5〜3mm程度の微生物の造粒物を使用する。このグラニュール汚泥は、嫌気性微生物群の自己固定化作用(Self-immobilization)を利用した微生物塊であり、沈降速度が大きく(20〜40m/h)、MLSS濃度を50000mg/L以上にすることができ、COD負荷量として20〜30kg/m/d以上の高負荷処理が可能である。このグラニュール汚泥の作用により、高い菌体濃度が維持され、酸生成槽で変換された低級脂肪酸のメタン発酵の高速化と安定化とが図られている。
しかしながら、効率的な運転・管理を行うためにメタン生成菌の固定化が行われているメタン発酵槽に比べ、その上流側に位置する酸生成槽では、酸生成菌が浮遊状態で運転・管理されることが多く、廃水の条件や環境要因によって簡単に微生物相の死滅や系外への流出などが発生していた。そのため、酸生成槽においてもハンドリングが容易で、廃水の条件や環境(温度等)の影響を受けにくい固定化された酸生成菌の使用が望まれる。
一方、微生物固定化法による水処理については、その担体として活性炭(木炭)、樹脂系中空担体、プラスチック担体、多孔質体吸水性ゲルなどを用いる複数の方法が実用化されている。そして、例えば特許文献1には、ゲル状担体を用いて酸生成菌を固定化する技術が開示されている。
特開昭63−24678号公報
しかしながら、上記した従来の担体を用いて微生物を固定化したのでは、使用後の廃棄について課題が多く、環境負荷が高いものであった。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、微生物の固定化が良好になされ、且つ、廃棄時における環境負荷の小さい微生物担体を提供することを課題とする。
本発明に係る微生物担体は、グラニュール汚泥中の微生物を失活または活性を低下させたことを特徴とする。ここで、微生物を失活させたとは、汚泥中の主要な微生物であるメタン生成菌、酸生成菌の活性がなくなったことを言う。すなわち、メタン生成活性が0g−COD/g−VSS/d以下となりメタン生成が行われない状態であり、かつ糖のような有機物を基質とした培地により一日培養しても消費されない状態になったことを言う。また、微生物の活性を低下させたとは、メタン生成活性が0.1g−COD/g−VSS/d以下となり、メタン生成がほとんど行われない状態であり、かつ糖のような有機物を基質とした培地により一日培養してもほとんど消費されない状態になったことを言う。
この微生物担体は、元々微生物が凝集した塊であるため、その構造は微生物が増殖するに適した条件を備えており、微生物の固定化が良好になされる。また、微生物由来の担体であるため、使用後の廃棄も容易であり、環境負荷も小さい。
本発明に係る微生物担体では、当該微生物担体に微生物を付着したことを特徴としてもよい。特に、付着する微生物が酸生成菌であることを特徴としてもよい。このようにすれば、酸生成菌を種菌として利用して固定化することができる。
本発明に係る微生物担体は、グラニュール汚泥中の自己固定化作用を有するメタン生成菌を失活または活性を低下させたことを特徴とする。ここで、メタン生成菌を失活させたとは、汚泥中のメタン生成菌の活性がなくなったことを言う。すなわち、メタン生成活性が0g−COD/g−VSS/d以下となりメタン生成が行われない状態になったことを言う。また、メタン生成菌の活性を低下させたとは、メタン生成活性が0.1g−COD/g−VSS/d以下となりメタン生成がほとんど行われない状態になったことを言う。
この微生物担体は、元々微生物が凝集した塊であるため、その構造は微生物が増殖するに適した条件を備えており、特にメタン生成菌を失活または活性を低下させたものであるため、微生物として酸生成菌の固定化が良好になされる。また、微生物由来の担体であるため、使用後の廃棄も容易であり、環境負荷も小さい。なお、加熱処理により微生物ないしメタン生成菌を失活または活性を低下させると好ましい。
本発明に係る微生物担体は、グラニュール汚泥中の特定の微生物の活性を優位にしたことを特徴とする。ここで、特定の微生物の活性を優位にしたとは、通常の汚泥では元々優勢であるメタン生成菌の活性を低下させること、すなわちメタン生成活性を低下させることにより、他の微生物の活性を優位にすることを言う。
この微生物担体は、元々微生物が凝集した塊であるため、その構造は微生物が増殖するに適した条件を備えており、特に特定の微生物の活性を優位にしたものであるため、当該特定の微生物の固定化が良好になされる。また、微生物由来の担体であるため、使用後の廃棄も容易であり、環境負荷も小さい。
本発明に係る微生物担体では、特定の微生物が酸生成菌であることを特徴としてもよい。このようにすれば、酸生成菌の固定化が良好になされる。なお、加熱処理により特定の微生物の活性を優位にすると好ましい。
本発明に係る微生物担体では、当該微生物担体に微生物を固定化させたことを特徴としてもよい。このようにすれば、固定化された微生物により菌体濃度を高めることができる。
本発明に係る微生物担体の製造方法は、メタン生成菌と酸生成菌とを混在させた状態でグラニュール汚泥を形成し、このグラニュール汚泥中のメタン生成菌を失活または活性を低下させることを特徴とする。この方法によれば、酸生成菌がグラニュールの深部まで分布しているため、酸生成菌を完全に失活させなければ、新たに酸生成菌を付着させる必要がない。
本発明に係る廃水処理方法は、酸生成槽とメタン発酵槽とを含むメタン発酵装置により廃水を処理する方法であって、上記した微生物担体を酸生成槽に添加することを特徴とする。このようにすれば、酸生成槽内で酸生成菌を固定化することができ、効率的な運転・管理が可能となる。
このとき、酸生成槽は、本体槽と微生物担体を収容し本体槽と流体循環可能な担体槽とを含み、微生物担体を担体槽に添加することを特徴としてもよい。このようにすれば、担体槽内で酸生成菌を固定化して酸生成の効率化を図ることができる。
そして、酸生成槽への微生物担体の添加量は、酸生成槽の全容量100容量%に対して5容量%以上であることを特徴としてもよい。このようにすれば、酸生成の効率化を図ることができる。
本発明に係る廃水処理方法は、酸生成槽とメタン発酵槽とを含むメタン発酵装置により廃水を処理する方法であって、メタン発酵槽からグラニュール汚泥を取り出し、取り出したグラニュール汚泥を加熱処理して少なくともメタン生成菌を失活または活性を低下させ、加熱処理したグラニュール汚泥を酸生成槽に添加することを特徴とする。このようにすれば、酸生成槽内で酸生成菌を固定化することができ、効率的な運転・管理が可能となる。特に、グラニュール汚泥はメタン発酵槽から取り出したものであるため、グラニュール汚泥の有効利用が図られる。
このとき、酸生成槽は、本体槽と本体槽と流体循環可能な担体槽とを含み、加熱処理したグラニュール汚泥を担体槽に添加することを特徴としてもよい。このようにすれば、担体槽内で酸生成菌を固定化して酸生成の効率化を図ることができる。
そして、酸生成槽への加熱処理したグラニュール汚泥の添加量は、酸生成槽の全容量100容量%に対して5容量%以上であることを特徴としてもよい。このようにすれば、酸生成の効率化を図ることができる。
本発明に係る廃水処理システムは、酸生成槽、及びメタン発酵槽を有するメタン発酵装置と、グラニュール汚泥を加熱処理する加熱処理装置と、を備えることを特徴とする。
この廃水処理システムでは、加熱処理装置においてグラニュール汚泥を加熱処理することで、グラニュール汚泥中の微生物が失活または活性を低下された微生物担体を得ることができる。或いは、グラニュール汚泥中のメタン生成菌が失活または活性を低下された微生物担体を得ることができる。或いは、グラニュール汚泥中の特定の微生物の活性が優位にされた微生物担体を得ることができる。そして、得られた微生物担体を酸生成槽に添加することができる。
本発明によれば、微生物の固定化が良好になされ、且つ、廃棄時における環境負荷の小さい微生物担体を提供することができる。
実施形態に係る廃水処理システムの構成を模式的に示す図である。 グラニュール汚泥を異なる時間だけ加熱処理したときのメタン生成菌の活性を示すグラフである。 加熱処理してメタン生成菌を失活させたグラニュール汚泥の添加による糖消費の結果を示すグラフである。 加熱処理してメタン生成菌を失活させたグラニュール汚泥の添加による有機酸生成の結果を示すグラフである。 加熱処理して微生物を失活させたグラニュール汚泥について、メタン生成菌が失活していることを確認する試験の結果を示すグラフである。 加熱処理して微生物を失活させたグラニュール汚泥について、酸生成菌が失活していることを確認する試験の結果を示すグラフである。 加熱処理して微生物を失活させたグラニュール汚泥の添加による糖消費の結果を示すグラフである。 担体添加量を変化させたときの、回分培養における培養時間とマルトース濃度との関係を示すグラフである。 担体添加量を変化させたときの、培地を連続供給したときの滞留時間と全糖濃度との関係を示すグラフである。 酸生成槽の変形例として本体槽と担体槽の二槽構造を示す図である。 担体添加量を変化させたときの、酸生成により生成した揮発性脂肪酸(VFA)濃度(Total Organic Carbon換算)の経時変化を示すグラフである。
符号の説明
10 廃水処理システム
12 調整槽
14 メタン発酵装置
16 加熱処理装置
18 酸生成槽
20 メタン発酵槽
22 本体槽
24 担体槽
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明においては、同一の要素には同一の符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
本実施形態に係る微生物担体は、グラニュール汚泥中の微生物を失活させたものである。グラニュール汚泥は、メタン発酵に関連する微生物群からなるメタン発酵汚泥を自己造粒させたものであり、メタン生成菌の他、酸発酵などを行う通性嫌気性菌が高濃度に集塊されたものである。あるいは、微生物担体は、グラニュール汚泥中のメタン生成菌を失活させたものである。
ここで、グラニュール汚泥は、例えばUASB型メタン発酵槽から回収することで得ることができる。また、グラニュール汚泥中の微生物、或いはメタン生成菌の失活は、温度やpHなどの生育条件を制御することで行うことができる。pHの制御では、pHを4〜6の範囲で調整する。ただし、pHの制御では後でpHを中性に戻す必要があり面倒であるため、温度制御が好適である。
一般的に、メタン生成菌は、中温菌と高温菌とが存在し、至適温度は35〜55℃と言われている。従って、メタン生成菌を失活させるには、60℃以上の温度で24時間以上グラニュール汚泥を加熱する。また、さらに酸生成菌を含めて微生物を失活させるには、121℃程度の温度で1時間以上グラニュール汚泥を加熱する。なお、加熱の方法については、ヒータなどを用いた直接加熱、蒸気加熱、ホットバス等での湯浴、電磁波による加熱などが挙げられる。
ここで、グラニュール汚泥は微生物が集塊した造粒物であるため、過加熱状態では炭化してしまう。炭化してしまった場合、強度的に弱くなり、微生物担体として利用できないため、加熱温度や加熱方法、加熱時間は、グラニュール汚泥の微生物(少なくともメタン生成菌)を失活させるが、グラニュール汚泥を炭化させない範囲で選択する。
上記したグラニュール汚泥中の微生物を全て失活させた微生物担体は、そのままメタン発酵装置の酸生成槽に添加することで、酸生成菌を固定化することができるが、当該微生物担体に酸生成菌を付着させてから酸生成槽に添加してもよい。このようにすれば、付着させた酸生成菌を種菌として利用することができる。
また、上記したグラニュール汚泥中のメタン生成菌を失活させた微生物担体は、グラニュール汚泥中の酸生成菌の活性が優位にされているため、そのままメタン発酵装置の酸生成槽に添加することで、酸生成菌を固定化することができる。
この微生物担体は、元々微生物が凝集した塊であり、その主成分は微生物菌体の主成分であるセルロース等である。このように微生物が形成した塊であるため、その構造は微生物が増殖するに適した条件を備えており、微生物の固定化が良好になされて担体として有効に機能する。また、微生物由来の担体であるため、使用後の廃棄も容易であり、環境負荷も小さい。
図1は、上記した微生物担体を利用した廃水処理システム10の構成を模式的に示す図である。図1に示すように、廃水処理システム10は、調整槽12、メタン発酵装置14、及び加熱処理装置16を備えている。
調整槽12は、ラインL1を通して導入された廃水を一時貯留することで、廃水の流量や濃度等の変動幅を小さくし、廃水処理システム10の運転管理を容易にする。メタン発酵装置14は、酸生成槽18とメタン発酵槽20を有している。酸生成槽18は、ラインL2を通して調整槽12から送られてきた廃水を、酸生成菌により酸発酵処理して低級有機酸を生成する。メタン発酵槽20は、ラインL3を通して送られてきた低級有機酸を含む処理液をメタン生成菌によりメタン発酵し、ラインL4を通して処理液を排出する。
メタン発酵槽20としては、UASBやEGSBといった上向流式メタン発酵槽や、固定床型メタン発酵槽を用いることができる。特に、メタン発酵汚泥を自己造粒させたグラニュール汚泥を利用してメタン発酵処理するUASBやEGSBは、高効率な処理が可能であるため好ましい。
加熱処理装置16は、グラニュール汚泥に加熱処理を施す。加熱処理装置16としては、貯留槽に貯留されたグラニュール汚泥をヒータにより直接加熱するものであってもよく、蒸気加熱するものであってもよい。また、ホットバス等の湯浴により加熱するものであってもよく、電磁波により加熱するものであってもよい。この加熱処理装置16は、ラインL5を介してメタン発酵槽20と接続されており、メタン発酵槽20内のグラニュール汚泥を取り出して、加熱処理装置16に直接供給できるようになっている。また、加熱処理装置16は、ラインL6を介して酸生成槽18と接続されており、加熱処理されたグラニュール汚泥を、微生物担体として酸生成槽18に直接供給できるようになっている。
次に、上記した廃水処理システム10を利用した廃水処理方法について説明する。
まず、有機性廃水を、ラインL1を通して調整槽12に投入する。そして、調整槽12において、廃水の流量や濃度等を調整する。一方、メタン発酵槽20からグラニュール汚泥を一部抜き出し、ラインL5を通して加熱処理装置16に投入する。そして、加熱処理装置16でグラニュール汚泥を60℃以上の温度で24時間以上加熱し、メタン生成菌を失活させる。そして、メタン生成菌が失活されたグラニュール汚泥を微生物担体として、ラインL6を通して酸生成槽18に添加する。或いは、加熱処理装置16でグラニュール汚泥を121℃程度で1時間以上加熱することにより、酸生成菌をも含めて全ての微生物を失活させてもよい。そして、微生物が失活されたグラニュール汚泥を微生物担体として、ラインL6を通して酸生成槽18に添加してもよい。
次に、ラインL2を通して調整槽12から送られてきた廃水を、酸生成槽18において酸発酵処理し、低級有機酸を生成する。このとき、酸生成槽18には微生物担体が添加されているため、酸生成槽18内で酸生成菌を固定化することができ、効率的な運転・管理が可能である。そして、ラインL3を通して送られてきた低級有機酸を含む処理液を、メタン発酵槽20においてグラニュール汚泥を用いてメタン発酵処理する。そして、ラインL4を通して排出される処理水に必要に応じて高度処理を施した後、公共下水道などへ放流する。
次に、本実施形態に係る微生物担体、廃水処理方法、及び廃水処理システムの作用及び効果について説明する。
安定的な嫌気性廃水処理を行うためには、廃水がメタン発酵槽20に流入するまでに廃水の有機物が十分に酸生成していることが重要である。これは、メタン発酵を行う主体であるグラニュール汚泥中のメタン生成菌は、メタン発酵の基質として酢酸以外の有機体炭素を利用することができず、廃水中の有機物が酢酸として生成されるのは酸生成槽18であり、酸生成槽18での有機物の分解が十分でないと、下流のメタン発酵槽20において十分なメタン発酵が進行しないばかりか、グラニュール汚泥の浮上を招いてしまうことになるからである。
十分なメタン発酵を進行させるためにも、酸生成槽18における微生物的安定は必須であるが、従来の酸生成槽では、酸生成菌が浮遊した状態で存在することが多く、廃水の成分やその他環境要因により酸生成菌の死滅や活性低下が発生し易く、その微生物相の回復にも時間がかかり、微生物的安定が図れていなかった。
これに対し、本実施形態では、グラニュール汚泥中のメタン生成菌が失活された微生物担体、或いはグラニュール汚泥中の全ての微生物が失活された微生物担体が酸生成槽18に添加されている。この微生物担体は、元々微生物が凝集した塊であるため、その構造は微生物が増殖するに適した条件を備えており、酸生成菌を固定化することができる。従って、酸生成槽18内での菌体濃度を高めることができ、且つ菌体が系外へ流出するのも防止でき、酸生成槽18を小型化することができる。また、浮遊微生物を槽内で増殖させるには時間がかかり、ハンドリングも煩雑であるが、この微生物担体は加熱処理により1日以内に製造することができ、固定化により流出する微生物による微生物相の破壊が無くなると同時に、微生物担体に固定化されている酸生成菌はpHや温度、生育阻害物質などの環境要因に左右されることが少なくなり、安定的に酸生成槽18を運転・管理できるようになる。また、微生物由来の担体であるため、安価に製造することができ、使用後の廃棄も容易であり、環境負荷も小さい。特に、グラニュール汚泥はメタン発酵槽20から取り出したものであるため、グラニュール汚泥の有効利用が図られる。
次に、本実施形態に係る微生物担体について、実施例を挙げて更に詳細に説明する。
まず、グラニュール汚泥中のメタン生成菌を失活させた微生物担体について説明する。この実施例では、UASB型メタン発酵槽より採取したグラニュール汚泥150mlをコニカル瓶に入れ、ホットバスでフラスコ内のグラニュールの中心温度が60℃になるまで昇温した。そして、60℃に温度を保持したまま、2時間、4時間、6時間、24時間、それぞれ加熱した場合の複数のグラニュール汚泥を生成した。
加熱後、35℃まで冷却したグラニュール汚泥のメタン生成活性を、メタン比活性分析装置(関東化学社製)により測定した。この測定では、グラニュール汚泥を密閉された測定容器内で嫌気培養し、発生するメタン量をガスの圧力として測定して、メタン生成菌の活性の指標とする。具体的には、測定容器内にグラニュール汚泥50mlと反応液450mlを入れ、それにNaOH(20%)溶液を200ml加えて測定容器を密閉し、恒温槽で反応させメタンガスを発生させる。反応させながら測定容器内の圧力を経時的に測定し、経過時間に対する圧力のグラフの傾きをメタン生成活性の指標とする。メタン生成活性が高いグラニュール汚泥の場合、反応初期からメタンガスが多く発生するため、グラフの傾きは大きくなる。一方、メタン生成活性が低い場合または失活している場合、グラフの傾きは緩やかか或いは全く傾きが出ない(ガス発生量がゼロ)こととなる。この1時間当たりのメタンガス発生量[gCOD/h]を測定に用いた全汚泥量[gVSS]で除算して、1単位当たりのグラニュール量における1日当たりのメタンガス量を算定し、1日当たりのメタン生成活性量[gCOD/gVSS/d]をメタン生成活性とする。
上記方法により複数のグラニュール汚泥について測定を行った。図2に示すように、加熱処理をしなかったグラニュール汚泥(ラインG1)、及び、2時間加熱処理したグラニュール汚泥(ラインG2)では、メタンガスが発生することによりガス圧が上昇し、グラニュール汚泥中のメタン生成菌が失活していないことが分かる。また、加熱処理を4時間行ったグラニュール汚泥(ラインG3)、及び6時間行ったグラニュール汚泥(ラインG4)では、メタンガスの発生が緩やかであることから、メタン生成菌の活性が低下あるいはメタン生成菌の一部が失活していることが分かる。一方、加熱処理を24時間行ったグラニュール汚泥(ラインG5)は、ガス圧がほとんど上昇せず、グラニュール汚泥を添加しないもの(ラインG6)と同様のガス圧力を示した。よって、メタン生成活性がゼロであり、グラニュール汚泥内のメタン生成菌は失活したものと思われる。このように、グラニュール汚泥を添加しない測定結果を基準として、メタン生成菌の失活を判断する指標とした。なお、表1に、それぞれのグラニュール汚泥のメタン生成活性を示す。
Figure 2007007609
次に、上記した60℃で24時間加熱処理を行ったグラニュール汚泥を用いて、酸生成反応の試験を行った。この試験では、まず、表2に示す組成の培地を2個生成した。なお、表2に(注1)として示す微量金属溶液の組成を、表3に示す。
Figure 2007007609
Figure 2007007609
次に、酸生成菌の植菌を目的に、既設廃水処理設備の酸生成槽からの処理水を、これら培地に添加して培養を行った。その後、表2に示す組成の培地を連続供給した。このとき、一方はそのまま連続供給により培養を行ったが、他方には途中で60℃において24時間加熱処理を行ったグラニュール汚泥を10%(v/v)添加した。そして、反応液の糖濃度と有機酸濃度とから、加熱したグラニュール汚泥の添加による酸生成反応の差異を調べた。その結果を、図3及び図4に示す。図3は、加熱処理したグラニュール汚泥の添加による糖消費の結果を示すグラフである。また図4は、加熱処理したグラニュール汚泥の添加による有機酸生成の結果を示すグラフである。
図3及び図4に示すように、加熱処理したグラニュール汚泥を添加しなかった系では、培地の連続供給を開始すると処理水中の全糖濃度は上昇し、有機酸濃度は減少した。一方、加熱処理したグラニュール汚泥を添加した系では、グラニュール汚泥を添加するまでは、培地の連続供給を開始すると全糖濃度は上昇し、有機酸濃度が減少した。しかし、添加後は全糖濃度は再び減少し、有機酸濃度の減少は止まった。これは、加熱したグラニュール汚泥を添加することにより、酸生成速度が速くなったことを示している。このことから、グラニュール汚泥を加熱処理してメタン生成菌を失活させたものは、酸生成菌を固定化する微生物担体として有効に機能することが分かる。
次に、グラニュール汚泥中の微生物を失活させた微生物担体について説明する。この実施例では、UASB型メタン発酵槽より採取したグラニュール汚泥150mlと水150mlを500mlビーカーに入れ、オートクレーブにより121℃で1時間加熱し、グラニュール汚泥中の微生物菌体を滅菌した。加熱後、35℃まで冷却したグラニュール汚泥のメタン生成活性を、メタン比活性分析装置(関東化学社製)により測定した。
その結果、図5に示すように、メタン生成活性は0[gCOD/gVSS/d]であり、グラニュール汚泥中のメタン生成菌は失活したものと考えられる。また、このグラニュール汚泥50mlを、前述した表2に示す酸生成用の培地450mlにより嫌気培養した。その結果、図6に示すように、糖が消費されなかったことから、酸生成菌を含めてグラニュール汚泥中の微生物は完全に死滅して失活したと思われる。
次に、マルトースを基質とした表2に示す酸生成用の培地により、微生物が失活したグラニュール汚泥が10%(v/v)となるようにジャーファメンターに添加し、酸生成菌を混在させ回分培養による馴養を行った。その後、連続培養により培養を行った。その結果、図7に示すように、滞留時間が48時間ではグラニュール汚泥の添加の有無に関わらず、糖をほとんど消費し尽した。滞留時間を24時間、15時間と短くしていくと、グラニュール汚泥を添加したものは糖をほとんど消費し尽したのに対し、添加しなかったものは滞留時間24時間では約400mg/Lの糖を残し、滞留時間15時間では処理しきれなくなった。
この結果から、微生物が失活したグラニュール汚泥に、浮遊している酸生成菌が再付着し、グラニュール汚泥内に定着して固定化され、増殖していると思われる。このように、グラニュール汚泥を加熱処理して微生物を失活させたものは、酸生成菌を固定化する微生物担体として有効に機能することが分かる。これにより、図1に示すような廃水処理システムの酸生成槽にこの微生物担体を添加することで、酸生成を安定的、且つ効率的に運転・管理することができる。
次に、酸生成槽に添加する微生物担体の量について検討する。表4に示すように、微生物担体として熱処理グラニュールの添加量が異なる6つのサンプル排水を用意した。
Figure 2007007609
嫌気処理水としては、1日静置後の上澄み液を使用した。熱処理グラニュールは、300mlポリ容器にグラニュール約100mlを用意し、60℃恒温機にて1昼夜放置し、その後防臭のため氷で冷却した。マルトース溶液は、全量5ml中にマルトースが500mg含まれるように調製した。
これらを用いて、マルトース溶液を5mlとし、全量でサンプル排水200mlとなるように、嫌気処理水と熱処理グラニュールの量を種々に変更しながら、熱処理グラニュールの添加量の異なる6種類のサンプル排水を用意した。
実験手順としては、まず、6種類のサンプル排水をそれぞれ300ml容三角フラスコに入れ、35℃恒温水槽に入れて攪拌した。このとき、1NのNaOH水溶液を添加し、pHが6〜8を保持するようにした。そして、1時間毎にサンプリング(フィルター通し)し、糖濃度を測定した(フェノール硫酸法)。なお、サンプルはフィルターを通した後、測定までの期間は冷凍保存した。
糖濃度の測定においては、フェノール硫酸法によるマルトースの検量線を作成し、検量線に基づいて吸光度からマルトース濃度を測定した。図8は、このようにして測定した回分培養における培養時間とマルトース濃度との関係を示すグラフである。なお、図8においては、参考までに担体として熱処理グラニュールを添加しなかった場合(0容量%)も示している。図8に示すように、担体添加量は基質消費速度に影響を及ぼしており、5容量%以上で基質消費速度が高くなって、酸生成の効率が高くなることが分かる。
また図9は、培地を連続供給したときの滞留時間と全糖濃度との関係を示すグラフである。図9に示すように、担体として熱処理グラニュールを1容量%添加した系では、培地の連続供給を開始すると、滞留時間が15時間を下回ると全糖濃度は上昇し、有機酸濃度は減少した。一方、熱処理グラニュールを5容量%添加した系では、培地の連続供給を開始すると、滞留時間が10時間を下回ると全糖濃度は上昇し、有機酸濃度が減少した。しかし、全糖濃度は400mg/lでほぼ一定の値を保ち、有機酸濃度の減少は止まった。
これら図8及び図9の結果から、熱処理グラニュールを5容量%以上添加すると、酸生成を効率的に行うことができることが分かる。
次に、本実施形態に係る微生物担体をビール排水に添加したときの効果を、実際のテストプラントで検証した結果を示す。なお、このテストプラントでは、図10に示すように、酸生成槽18を本体槽22と担体槽24との二槽式の構造とした。担体槽24には、微生物担体が酸生成槽18の全容量100容量%に対して5容量%収容されており、本体槽22と担体槽24とは、流体循環可能であった。そして、本体槽22と担体槽24の容量は、それぞれ600Lと200Lであった。このように酸生成槽18を二槽式の構造とすることで、酸生成槽18からの微生物担体の流出を抑制し、結果として酸生成の効率化を図った。
酸生成槽18に流入される原水としてのビール排水は、F−CODが約3000mg/Lであり、流量を400L/hと100L/hと2段階に調整した。従って、酸生成槽18での滞留時間は、それぞれの流量に応じて2時間と8時間であった。
一方、比較のために酸生成槽18に微生物担体を添加しない場合について、同様に検証を行った。このとき、酸生成槽18は容量で800Lの単槽構造とした。その他の条件は、上記と同様である。
図11は、酸生成により生成した揮発性脂肪酸(VFA)濃度(Total Organic Carbon換算)の経時変化を示すグラフである。図11に示すように、流量が100L/hでは、担体を添加しない場合にVFA濃度が30〜50mg/Lであるのに対し、担体を添加した場合にはVFA濃度が150mg/L程度となり、担体の添加により酸生成が促進されることが分かる。また、流量を400L/hとした場合でも、担体を添加しない場合にVFA濃度が100mg/L程度であるのに対し、担体を添加した場合にはVFA濃度が150mg/L程度となり、担体添加による効果が大きいことが分かる。
なお、本発明は上記した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、グラニュール汚泥中の全ての微生物を失活させた微生物担体に、酸生成菌を固定化する場合について説明したが、この担体は他の菌の担体としても使用することができる。
また、上記実施形態では、微生物担体としてグラニュール汚泥中の微生物を失活させたもの、或いはグラニュール汚泥中のメタン生成菌を失活させたものについて説明したが、微生物担体は60℃以上の温度で6時間以上グラニュール汚泥を加熱するなどして、失活させないまでも、グラニュール汚泥中のメタン生成菌の活性を0.1g−COD/g−VSS/d以下に低下させたものであってもよい。
また、グラニュール汚泥は、例えばUASB型メタン発酵槽から回収することで得る場合について説明したが、自己固定化作用を有するメタン生成菌を槽内で造粒させたものであってもよい。このとき、メタン生成菌と酸生成菌とを混在させた状態でグラニュール汚泥を形成し、このグラニュール汚泥中のメタン生成菌を失活または活性を低下させて微生物担体を製造してもよい。このように酸生成菌を混在させたものによれば、酸生成菌がグラニュールの深部まで分布しているため、酸生成菌を完全に失活させなければ、新たに酸生成菌を付着させる必要がない。

Claims (17)

  1. グラニュール汚泥中の微生物を失活または活性を低下させたことを特徴とする微生物担体。
  2. 当該微生物担体に微生物を付着したことを特徴とする請求項1に記載の微生物担体。
  3. 付着する微生物が酸生成菌であることを特徴とする請求項2に記載の微生物担体。
  4. グラニュール汚泥中の自己固定化作用を有するメタン生成菌を失活または活性を低下させたことを特徴とする微生物担体。
  5. 加熱処理により失活または活性を低下させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の微生物担体。
  6. グラニュール汚泥中の特定の微生物の活性を優位にしたことを特徴とする微生物担体。
  7. 前記特定の微生物が酸生成菌であることを特徴とする請求項6に記載の微生物担体。
  8. 加熱処理により活性を優位にすることを特徴とする請求項6又は7に記載の微生物担体。
  9. 当該微生物担体に微生物を固定化させたことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の微生物担体。
  10. メタン生成菌と酸生成菌とを混在させた状態でグラニュール汚泥を形成し、このグラニュール汚泥中のメタン生成菌を失活または活性を低下させることを特徴とする微生物担体の製造方法。
  11. 酸生成槽とメタン発酵槽とを含むメタン発酵装置により廃水を処理する方法であって、
    請求項1〜10のいずれかに記載の微生物担体を前記酸生成槽に添加することを特徴とする廃水処理方法。
  12. 前記酸生成槽は、本体槽と前記微生物担体を収容し該本体槽と流体循環可能な担体槽とを含み、
    前記微生物担体を前記担体槽に添加することを特徴とする請求項11に記載の廃水処理方法。
  13. 前記酸生成槽への前記微生物担体の添加量は、該酸生成槽の全容量100容量%に対して5容量%以上であることを特徴とする請求項11又は12に記載の廃水処理方法。
  14. 酸生成槽とメタン発酵槽とを含むメタン発酵装置により廃水を処理する方法であって、
    前記メタン発酵槽からグラニュール汚泥を取り出し、
    取り出したグラニュール汚泥を加熱処理して少なくともメタン生成菌を失活または活性を低下させ、
    加熱処理したグラニュール汚泥を前記酸生成槽に添加する、
    ことを特徴とする廃水処理方法。
  15. 前記酸生成槽は、本体槽と該本体槽と流体循環可能な担体槽とを含み、
    前記加熱処理したグラニュール汚泥を前記担体槽に添加することを特徴とする請求項14に記載の廃水処理方法。
  16. 前記酸生成槽への前記加熱処理したグラニュール汚泥の添加量は、該酸生成槽の全容量100容量%に対して5容量%以上であることを特徴とする請求項14又は15に記載の廃水処理方法。
  17. 酸生成槽、及びメタン発酵槽を有するメタン発酵装置と、
    グラニュール汚泥を加熱処理する加熱処理装置と、
    を備えることを特徴とする廃水処理システム。
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