JPWO2006129881A1 - 骨・関節疾患の予防・治療剤およびそのスクリーニング方法 - Google Patents
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Abstract
本発明は、新規作用機序を有する、骨芽細胞または軟骨細胞分化の調節剤、あるいは骨・関節疾患の予防または治療剤を提供する。より詳細には、本発明は、nrf2の発現または機能を調節する物質を含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化の調節剤、あるいは骨・関節疾患の予防または治療剤;被験物質がnrf2の発現または機能を調節し得るか否かを評価することを含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化を調節し得る物質、あるいは骨・関節疾患を予防または治療し得る物質のスクリーニング方法;骨芽細胞または軟骨細胞分化に変化をもたらすnrf2変異の同定方法;骨芽細胞または軟骨細胞分化に対する動物の生体状態の診断剤;骨芽細胞または軟骨細胞分化効率の診断剤;nrf2の発現が調節された骨芽細胞または軟骨細胞などを提供する。
Description
本発明は、細胞分化調節剤、細胞分化を調節し得る物質のスクリーニング方法、細胞分化に変化をもたらす多型等の変異の同定方法、細胞分化に対する動物の生体状態または細胞分化効率の判定方法、遺伝子発現が調節された骨・軟骨形成能を有する細胞などを提供する。
p45 NF−E2関連因子2(Nrf2)は、塩基性ロイシンジッパー転写因子であり、ヘムオキシゲナーゼ−1(HO−1)、ペルオキシレドキシンI(Prx−1,MSP23としても知られる)、A170などのストレス応答関連遺伝子の転写調節を担う因子として知られている。Nrf2は、アクチン結合タンパク質であるKeap1と結合した状態で細胞質に留まっているが、酸化ストレスによりKeap1から解離して核内に移行し、Mafとヘテロダイマーの形成後、ARE(antioxidant response element)に結合することにより、その標的遺伝子の転写を開始する。Nrf2はまた、酸化ストレスにより安定化され、そのタンパク質レベルが劇的に増加する。
nrf2と骨芽細胞または骨との関連を示す知見として、これまでに以下が知られている。
Beck et al.,Cell Growth & Differentiation vol.12:61−83(2001)には、588個のcDNAが固定化されたマウス遺伝子アレイパネルを用いて、MC3T3−E1細胞株の骨芽細胞様表現型への分化の間における遺伝子発現の変化を解析した結果、酸化ストレスにより誘導されるA170およびその転写因子nrf2の発現上昇が観察されたことが記載されている。
Aono et al.,Biochemical and Biophysical Research Communications vol.305:271−277(2003)には、MC3T3−E1細胞において、ヒ素がnrf2を活性化し、引き続いてその標的遺伝子であるHO−1、Prx−1およびA170の転写を活性化させたことが記載されている。
Experimental Cell Research vol.288:288−300(2003)には、MC3T3−E1細胞において、ホスフェートの上昇により正に調節される複数の遺伝子の一つにnrf2があること、ならびにホスフェートの上昇により調節される複数の遺伝子が骨芽細胞分化と関連し得ることが記載されている。一方で、骨芽細胞分化におけるnrf2の発現上昇は、ミネラル化(mineralization)の進行に伴い生じる過酷な環境に対する応答(即ち、細胞保護応答)であり得ることが記載されている。
しかしながら、nrf2が骨芽細胞、軟骨細胞への分化を抑制し得る因子であること、ならびにnrf2が、骨芽細胞および軟骨細胞分化のマスターレギュレーターであるrunx2の作用に干渉し得る因子であることなどについては何ら報告がない。
nrf2と骨芽細胞または骨との関連を示す知見として、これまでに以下が知られている。
Beck et al.,Cell Growth & Differentiation vol.12:61−83(2001)には、588個のcDNAが固定化されたマウス遺伝子アレイパネルを用いて、MC3T3−E1細胞株の骨芽細胞様表現型への分化の間における遺伝子発現の変化を解析した結果、酸化ストレスにより誘導されるA170およびその転写因子nrf2の発現上昇が観察されたことが記載されている。
Aono et al.,Biochemical and Biophysical Research Communications vol.305:271−277(2003)には、MC3T3−E1細胞において、ヒ素がnrf2を活性化し、引き続いてその標的遺伝子であるHO−1、Prx−1およびA170の転写を活性化させたことが記載されている。
Experimental Cell Research vol.288:288−300(2003)には、MC3T3−E1細胞において、ホスフェートの上昇により正に調節される複数の遺伝子の一つにnrf2があること、ならびにホスフェートの上昇により調節される複数の遺伝子が骨芽細胞分化と関連し得ることが記載されている。一方で、骨芽細胞分化におけるnrf2の発現上昇は、ミネラル化(mineralization)の進行に伴い生じる過酷な環境に対する応答(即ち、細胞保護応答)であり得ることが記載されている。
しかしながら、nrf2が骨芽細胞、軟骨細胞への分化を抑制し得る因子であること、ならびにnrf2が、骨芽細胞および軟骨細胞分化のマスターレギュレーターであるrunx2の作用に干渉し得る因子であることなどについては何ら報告がない。
遺伝子の機能解析は、種々の疾患に対する新たな作用機序を有する医薬、または試薬の開発などにつながる。本発明は、nrf2の機能解析により得られた知見に基づき、種々の疾患に対し新たな作用機序を有する医薬、または試薬を提供すること、ならびに医薬または試薬の開発などに有用な手段を提供することなどを目的とする。
本発明者らは、鋭意検討した結果、nrf2は骨・軟骨組織においても発現が認められること、ならびに骨・軟骨分化を負に調節し得ることを見出した。本発明者らはまた、nrf2がrunx2(骨芽細胞および軟骨細胞分化のマスターレギュレーター)依存的にオステオカルシン転写活性を抑制し得ることから、nrf2による骨・軟骨分化の負の調節は、nrf2によるrunx2の阻害に起因し得るものであることなどを見出した。従って、nrf2の発現または機能の調節により、骨芽細胞、軟骨細胞を始めとする骨・軟骨形成能を有する細胞の分化、あるいは骨・軟骨形成を調節することが可能になると考えられる。また、nrf2の発現または機能を調節する物質のスクリーニングは、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化調節能を有する、ならびに/あるいは骨・軟骨形成の異常に起因する疾患に対する医薬および研究用試薬の開発などに有用であると考えられる。
以上に基づき、本発明者らは、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は下記の通りである:
〔1〕nrf2の発現または機能を調節する物質を含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化の調節剤;
〔2〕nrf2の発現または機能を調節する物質が、nrf2タンパク質またはnrf2発現ベクターである、上記〔1〕の剤;
〔3〕nrf2の発現または機能を調節する物質が、アンチセンス核酸、リボザイム、RNAi誘導性核酸、デコイ核酸、ターゲティングベクター、nrf2抗体、nrf2ドミナントネガティブ変異体、およびそれらの発現ベクターからなる群より選ばれる、上記〔1〕の剤;
〔4〕骨芽細胞または軟骨細胞分化の抑制剤である、上記〔2〕の剤;
〔5〕骨芽細胞または軟骨細胞分化の促進剤である、上記〔3〕の剤;
〔6〕nrf2の発現または機能を調節する物質を含む、骨・関節疾患の予防または治療剤;
〔7〕被験物質がnrf2の発現または機能を調節し得るか否かを評価することを含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化を調節し得る物質のスクリーニング方法;
〔8〕被験物質およびnrf2の発現を測定可能な細胞を用いて、被験物質が該細胞におけるnrf2の発現を調節し得るか否かを評価することを含む方法である、上記〔7〕の方法;
〔9〕被験物質および非ヒト動物を用いて、被験物質が該動物におけるnrf2の発現を調節し得るか否かを評価することを含む方法である、上記〔7〕の方法;
〔10〕被験物質およびnrf2の機能を測定可能な再構成系を用いて、被験物質が該再構成系においてnrf2の機能を調節し得るか否かを評価することを含む方法である、上記〔7〕の方法;
〔11〕被験物質およびnrf2発現細胞を用いて、被験物質が該細胞においてnrf2の機能を調節し得るか否かを評価することを含む方法である、上記〔7〕の方法;
〔12〕発現または機能の調節が発現または機能の促進である、上記〔7〕の方法;
〔13〕発現または機能の調節が発現または機能の抑制である、上記〔7〕の方法;
〔14〕被験物質がnrf2の発現または機能を調節し得るか否かを評価することを含む、骨・関節疾患を予防または治療し得る物質のスクリーニング方法;
〔15〕被験物質がnrf2の発現または機能を調節し得るか否かを評価することを含む、runx2リクルートまたはオステオカルシン発現を調節し得る物質のスクリーニング方法;
〔16〕nrf2の特定の変異が骨芽細胞または軟骨細胞分化に及ぼす影響を解析することを含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化に変化をもたらすnrf2変異の同定方法;
〔17〕変異が多型である、上記〔16〕の方法;
〔18〕nrf2の発現量の測定用試薬を含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化に対する動物の生体状態の診断剤;
〔19〕nrf2の多型の測定用試薬を含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化に対する動物の生体状態の診断剤;
〔20〕nrf2の発現または機能を調節する物質を含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化効率の診断剤;
〔21〕以下(a)および(b)を含む、キット:
(a)nrf2の発現または機能を調節する物質、ならびに/あるいはnrf2の発現量または多型の測定用試薬;
(b)骨芽細胞または軟骨細胞の同定用試薬、ならびに/あるいは骨芽細胞または軟骨細胞の分化調節用試薬(但し、(a)の物質を含む試薬を除く);
〔22〕nrf2の発現が調節された骨芽細胞または軟骨細胞;
〔23〕骨芽細胞または軟骨細胞が、nrf2安定発現骨芽細胞株または軟骨細胞株である、上記〔22〕の細胞;
〔24〕骨芽細胞または軟骨細胞特異的なnrf2発現ベクター;
〔25〕nrf2の発現または機能を調節する物質の有効量を被験体に投与することを含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化の調節方法;
〔26〕nrf2の発現または機能を調節する物質の有効量を被験体に投与することを含む、骨・関節疾患の予防または治療方法;
〔27〕骨芽細胞または軟骨細胞分化の調節剤の作製における、nrf2の発現または機能を調節する物質の使用;
〔28〕骨・関節疾患の予防または治療剤の作製における、nrf2の発現または機能を調節する物質の使用。
本発明の調節剤は、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化調節、ならびに骨・関節疾患の予防・治療などに有用であり得る。本発明のスクリーニング方法は、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化調節剤、ならびに骨・関節疾患に対する予防・治療剤の開発などに有用である。本発明の診断剤は、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化に対する動物の生体状態の評価を可能とするため、あるいは骨・関節疾患の患者の治療に際して、nrf2の発現または機能を調節する物質の当該患者における治療効果の予測を可能とするため、有用である。
本発明者らは、鋭意検討した結果、nrf2は骨・軟骨組織においても発現が認められること、ならびに骨・軟骨分化を負に調節し得ることを見出した。本発明者らはまた、nrf2がrunx2(骨芽細胞および軟骨細胞分化のマスターレギュレーター)依存的にオステオカルシン転写活性を抑制し得ることから、nrf2による骨・軟骨分化の負の調節は、nrf2によるrunx2の阻害に起因し得るものであることなどを見出した。従って、nrf2の発現または機能の調節により、骨芽細胞、軟骨細胞を始めとする骨・軟骨形成能を有する細胞の分化、あるいは骨・軟骨形成を調節することが可能になると考えられる。また、nrf2の発現または機能を調節する物質のスクリーニングは、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化調節能を有する、ならびに/あるいは骨・軟骨形成の異常に起因する疾患に対する医薬および研究用試薬の開発などに有用であると考えられる。
以上に基づき、本発明者らは、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は下記の通りである:
〔1〕nrf2の発現または機能を調節する物質を含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化の調節剤;
〔2〕nrf2の発現または機能を調節する物質が、nrf2タンパク質またはnrf2発現ベクターである、上記〔1〕の剤;
〔3〕nrf2の発現または機能を調節する物質が、アンチセンス核酸、リボザイム、RNAi誘導性核酸、デコイ核酸、ターゲティングベクター、nrf2抗体、nrf2ドミナントネガティブ変異体、およびそれらの発現ベクターからなる群より選ばれる、上記〔1〕の剤;
〔4〕骨芽細胞または軟骨細胞分化の抑制剤である、上記〔2〕の剤;
〔5〕骨芽細胞または軟骨細胞分化の促進剤である、上記〔3〕の剤;
〔6〕nrf2の発現または機能を調節する物質を含む、骨・関節疾患の予防または治療剤;
〔7〕被験物質がnrf2の発現または機能を調節し得るか否かを評価することを含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化を調節し得る物質のスクリーニング方法;
〔8〕被験物質およびnrf2の発現を測定可能な細胞を用いて、被験物質が該細胞におけるnrf2の発現を調節し得るか否かを評価することを含む方法である、上記〔7〕の方法;
〔9〕被験物質および非ヒト動物を用いて、被験物質が該動物におけるnrf2の発現を調節し得るか否かを評価することを含む方法である、上記〔7〕の方法;
〔10〕被験物質およびnrf2の機能を測定可能な再構成系を用いて、被験物質が該再構成系においてnrf2の機能を調節し得るか否かを評価することを含む方法である、上記〔7〕の方法;
〔11〕被験物質およびnrf2発現細胞を用いて、被験物質が該細胞においてnrf2の機能を調節し得るか否かを評価することを含む方法である、上記〔7〕の方法;
〔12〕発現または機能の調節が発現または機能の促進である、上記〔7〕の方法;
〔13〕発現または機能の調節が発現または機能の抑制である、上記〔7〕の方法;
〔14〕被験物質がnrf2の発現または機能を調節し得るか否かを評価することを含む、骨・関節疾患を予防または治療し得る物質のスクリーニング方法;
〔15〕被験物質がnrf2の発現または機能を調節し得るか否かを評価することを含む、runx2リクルートまたはオステオカルシン発現を調節し得る物質のスクリーニング方法;
〔16〕nrf2の特定の変異が骨芽細胞または軟骨細胞分化に及ぼす影響を解析することを含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化に変化をもたらすnrf2変異の同定方法;
〔17〕変異が多型である、上記〔16〕の方法;
〔18〕nrf2の発現量の測定用試薬を含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化に対する動物の生体状態の診断剤;
〔19〕nrf2の多型の測定用試薬を含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化に対する動物の生体状態の診断剤;
〔20〕nrf2の発現または機能を調節する物質を含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化効率の診断剤;
〔21〕以下(a)および(b)を含む、キット:
(a)nrf2の発現または機能を調節する物質、ならびに/あるいはnrf2の発現量または多型の測定用試薬;
(b)骨芽細胞または軟骨細胞の同定用試薬、ならびに/あるいは骨芽細胞または軟骨細胞の分化調節用試薬(但し、(a)の物質を含む試薬を除く);
〔22〕nrf2の発現が調節された骨芽細胞または軟骨細胞;
〔23〕骨芽細胞または軟骨細胞が、nrf2安定発現骨芽細胞株または軟骨細胞株である、上記〔22〕の細胞;
〔24〕骨芽細胞または軟骨細胞特異的なnrf2発現ベクター;
〔25〕nrf2の発現または機能を調節する物質の有効量を被験体に投与することを含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化の調節方法;
〔26〕nrf2の発現または機能を調節する物質の有効量を被験体に投与することを含む、骨・関節疾患の予防または治療方法;
〔27〕骨芽細胞または軟骨細胞分化の調節剤の作製における、nrf2の発現または機能を調節する物質の使用;
〔28〕骨・関節疾患の予防または治療剤の作製における、nrf2の発現または機能を調節する物質の使用。
本発明の調節剤は、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化調節、ならびに骨・関節疾患の予防・治療などに有用であり得る。本発明のスクリーニング方法は、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化調節剤、ならびに骨・関節疾患に対する予防・治療剤の開発などに有用である。本発明の診断剤は、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化に対する動物の生体状態の評価を可能とするため、あるいは骨・関節疾患の患者の治療に際して、nrf2の発現または機能を調節する物質の当該患者における治療効果の予測を可能とするため、有用である。
図1は、骨におけるnrf2の発現を示す。(A)生後一日齢のddYマウス脛骨のヘマトキシリン・エオシン染色(B)生後一日齢のddYマウス脛骨におけるインサイチュハイブリダイゼーション 上パネルは全体像を、下パネルは骨組織の拡大を示す。
図2は、軟骨細胞におけるnrf2の発現を示す。発現は、E15.5マウス脛骨を用いてインサイチュハイブリダイゼーションにより確認した。
図3は、MC3T3−E1細胞におけるnrf2/mafシグナル伝達分子の発現を示す。発現はRT−PCRにより確認した。パネル下の数値は、MC3T3−E1細胞の培養日数を示す。
図4は、ATDC5細胞におけるnrf2/mafシグナル伝達分子の発現を示す。発現はRT−PCRにより確認した。パネル下の数値は、ATDC5細胞の培養日数を示す。
図5は、樹立されたMC3T3−E1およびATDC5細胞におけるnrf2発現の確認を示す(Wtは野生型(wild type)を示す。以下同様。)(A)RT−PCR(B)イムノブロッティング(C)HO−1プロモーターを用いたレポーターアッセイ(n=4,**P<0.01)
図6は、nrf2の過剰発現によるATDC5細胞の軟骨細胞への分化の阻害を示す。(A)アルシアンブルー染色(B)RT−PCR(C)アルカリフォスファターゼ(ALP)活性(n=4,**P<0.01)(D)アルシアンブルー染色の定量(n=4,**P<0.01)
図7は、nrf2の過剰発現によるATDC5細胞の軟骨細胞への分化の阻害を示す。(A)アルカリフォスファターゼ活性の経時的変化(n=4,**P<0.01)(B)経時的なアルシアンブルー染色の定量(n=4,**P<0.01)
図8は、nrf2の過剰発現による、ATDC5細胞における軟骨細胞分化マーカーの発現の阻害を示す。(A)半定量RT−PCR(B)ATDC細胞培養28日後におけるRT−PCRによる各マーカーの定量(n=4,**P<0.01)
図9は、nrf2の過剰発現によるMC3T3−E1細胞の骨芽細胞への分化の阻害を示す。(A)アリザリンレッド染色(B)RT−PCR(C)アルカリフォスファターゼ(ALP)活性(n=4,**P<0.01)(D)Ca2+含量(n=4,**P<0.01)
図10は、nrf2の過剰発現によるMC3T3−E1細胞の骨芽細胞への分化の阻害を示す。(A)アルカリフォスファターゼ活性の経時的変化(n=4,**P<0.01)(B)Ca2+含量の経時的変化(n=4,**P<0.01)
図11は、nrf2の過剰発現による、MC3T3−E1細胞における骨芽細胞分化マーカーの発現の阻害を示す。(A)半定量RT−PCR(B)MC3T3−E1細胞培養28日後におけるRT−PCRによる各マーカーの定量(n=4,**P<0.01)
図12は、nrf2によるrunx2依存的OG2レポーター活性の阻害を示す。(A)COS7細胞を用いたレポーター活性の測定(n=4,**P<0.01)(B)MC3T3−E1細胞を用いたレポーター活性の測定(n=4,**P<0.01)
図13は、nrf2の過剰発現によるrunx2の核局在の非変化を示す。(A)は、COS7細胞においてrunx2とnrf2を共発現した時の両転写因子の細胞内局在を示す。(B)は、MC3T3−E1細胞においてnrf2を発現させた時のrunx2の細胞内局在を示す。
図14は、MC3T3−E1細胞におけるnrf2の過剰発現によるrunx2リクルートの低減を示す。(A)は、MC3T3−E1細胞においてnrf2とrunx2を共発現させた時のオステオカルシンプロモーター上へのrunx2のリクルートを示す。(B)は、(A)の結果を定量化した結果を示す(n=4,**P<0.01)
図15は、オステオカルシンプロモーター中のARE様2配列に対するNrf2の結合を示す。(A)オステオカルシンプロモーターのヌクレオチド配列(B)オステオカルシンプロモーター上に存在する2箇所のARE様配列をプローブとしてゲルシフトを行った結果を示す。
図16は、nrf2によるOG2レポーター活性の阻害を示す。(A)アッセイに用いたOG2レポーター(野生型、変異型)のヌクレオチド配列(B)COS7細胞を用いたレポーター活性の測定(n=4,**P<0.01)(C)MC3T3−E1細胞を用いたレポーター活性の測定(n=4,**P<0.01)
図17は、nrf2によるrunx2依存的6×OSE2レポーター活性の阻害を示す。(A)COS7細胞を用いたレポーター活性の測定(n=4,**P<0.01)(B)MC3T3−E1細胞を用いたレポーター活性の測定(n=4,**P<0.01)
図18は、OVXマウスの骨におけるnrf2の発現上昇を示す。(A)マイクロCTによる骨密度測定(B)半定量RT−PCRによるnrf2の発現(n=3,*P<0.05)(C)インサイチュハイブリダイゼーション法による骨組織におけるnrf2の発現
図19は、MC3T3−E1細胞でのnrf2の過剰発現による増殖阻害およびアポトーシスの非誘導を示す。(A)BrdU取り込み(n=4,**P<0.01)(B)サイクリンD1プロモーター活性(n=4,**P<0.01)(C)TUNEL染色による陽性細胞の割合(n=4)
図2は、軟骨細胞におけるnrf2の発現を示す。発現は、E15.5マウス脛骨を用いてインサイチュハイブリダイゼーションにより確認した。
図3は、MC3T3−E1細胞におけるnrf2/mafシグナル伝達分子の発現を示す。発現はRT−PCRにより確認した。パネル下の数値は、MC3T3−E1細胞の培養日数を示す。
図4は、ATDC5細胞におけるnrf2/mafシグナル伝達分子の発現を示す。発現はRT−PCRにより確認した。パネル下の数値は、ATDC5細胞の培養日数を示す。
図5は、樹立されたMC3T3−E1およびATDC5細胞におけるnrf2発現の確認を示す(Wtは野生型(wild type)を示す。以下同様。)(A)RT−PCR(B)イムノブロッティング(C)HO−1プロモーターを用いたレポーターアッセイ(n=4,**P<0.01)
図6は、nrf2の過剰発現によるATDC5細胞の軟骨細胞への分化の阻害を示す。(A)アルシアンブルー染色(B)RT−PCR(C)アルカリフォスファターゼ(ALP)活性(n=4,**P<0.01)(D)アルシアンブルー染色の定量(n=4,**P<0.01)
図7は、nrf2の過剰発現によるATDC5細胞の軟骨細胞への分化の阻害を示す。(A)アルカリフォスファターゼ活性の経時的変化(n=4,**P<0.01)(B)経時的なアルシアンブルー染色の定量(n=4,**P<0.01)
図8は、nrf2の過剰発現による、ATDC5細胞における軟骨細胞分化マーカーの発現の阻害を示す。(A)半定量RT−PCR(B)ATDC細胞培養28日後におけるRT−PCRによる各マーカーの定量(n=4,**P<0.01)
図9は、nrf2の過剰発現によるMC3T3−E1細胞の骨芽細胞への分化の阻害を示す。(A)アリザリンレッド染色(B)RT−PCR(C)アルカリフォスファターゼ(ALP)活性(n=4,**P<0.01)(D)Ca2+含量(n=4,**P<0.01)
図10は、nrf2の過剰発現によるMC3T3−E1細胞の骨芽細胞への分化の阻害を示す。(A)アルカリフォスファターゼ活性の経時的変化(n=4,**P<0.01)(B)Ca2+含量の経時的変化(n=4,**P<0.01)
図11は、nrf2の過剰発現による、MC3T3−E1細胞における骨芽細胞分化マーカーの発現の阻害を示す。(A)半定量RT−PCR(B)MC3T3−E1細胞培養28日後におけるRT−PCRによる各マーカーの定量(n=4,**P<0.01)
図12は、nrf2によるrunx2依存的OG2レポーター活性の阻害を示す。(A)COS7細胞を用いたレポーター活性の測定(n=4,**P<0.01)(B)MC3T3−E1細胞を用いたレポーター活性の測定(n=4,**P<0.01)
図13は、nrf2の過剰発現によるrunx2の核局在の非変化を示す。(A)は、COS7細胞においてrunx2とnrf2を共発現した時の両転写因子の細胞内局在を示す。(B)は、MC3T3−E1細胞においてnrf2を発現させた時のrunx2の細胞内局在を示す。
図14は、MC3T3−E1細胞におけるnrf2の過剰発現によるrunx2リクルートの低減を示す。(A)は、MC3T3−E1細胞においてnrf2とrunx2を共発現させた時のオステオカルシンプロモーター上へのrunx2のリクルートを示す。(B)は、(A)の結果を定量化した結果を示す(n=4,**P<0.01)
図15は、オステオカルシンプロモーター中のARE様2配列に対するNrf2の結合を示す。(A)オステオカルシンプロモーターのヌクレオチド配列(B)オステオカルシンプロモーター上に存在する2箇所のARE様配列をプローブとしてゲルシフトを行った結果を示す。
図16は、nrf2によるOG2レポーター活性の阻害を示す。(A)アッセイに用いたOG2レポーター(野生型、変異型)のヌクレオチド配列(B)COS7細胞を用いたレポーター活性の測定(n=4,**P<0.01)(C)MC3T3−E1細胞を用いたレポーター活性の測定(n=4,**P<0.01)
図17は、nrf2によるrunx2依存的6×OSE2レポーター活性の阻害を示す。(A)COS7細胞を用いたレポーター活性の測定(n=4,**P<0.01)(B)MC3T3−E1細胞を用いたレポーター活性の測定(n=4,**P<0.01)
図18は、OVXマウスの骨におけるnrf2の発現上昇を示す。(A)マイクロCTによる骨密度測定(B)半定量RT−PCRによるnrf2の発現(n=3,*P<0.05)(C)インサイチュハイブリダイゼーション法による骨組織におけるnrf2の発現
図19は、MC3T3−E1細胞でのnrf2の過剰発現による増殖阻害およびアポトーシスの非誘導を示す。(A)BrdU取り込み(n=4,**P<0.01)(B)サイクリンD1プロモーター活性(n=4,**P<0.01)(C)TUNEL染色による陽性細胞の割合(n=4)
(1.分化調節剤、予防・治療剤)
本発明は、nrf2の発現または機能を調節する物質を含む、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化調節剤、runx2リクルートまたはオステオカルシン発現の調節剤、あるいは骨・関節疾患の予防・治療剤を提供する。また、必要に応じて、本発明は、nrf2の発現または機能を調節する物質自体も提供する。
nrf2(p45 NF−E2関連因子2)は、ヒトnrf2(例えば、GenBankアクセッション番号:NM_006164参照)またはそのオルソログ、あるいはそれらの変異体(SNP、ハプロタイプを含む)であり得る。nrf2のオルソログは特に限定されず、例えば哺乳動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、サル、ウサギ、ラット、ハムスター、モルモット、マウス)等の動物に由来するものであり得る。nrf2は、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化調節、または骨・関節疾患の予防・治療に有用な程度にその機能を保持し得る限り、あるいはrunx2リクルートを十分に低減し得る限り、またはnrf2結合部位(例えば、ARE様2、OSE2)に十分に結合し得る限り、そのコードするアミノ酸配列(例えば、配列番号4で表されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列、あるいは配列番号5で表されるアミノ酸配列)において1以上のアミノ酸の変異(例えば、欠失、置換、付加、挿入)を有していてもよい。なお、通常、nrf2は遺伝子を、Nrf2はタンパク質を示すが、本明細書ではこれらは交換可能に使用される。
一実施形態では、nrf2の発現または機能を調節する物質は、nrf2の発現を促進する物質であり得る。
nrf2の発現とは、nrf2からの翻訳産物(即ち、蛋白質)が産生され且つ機能的な状態でその作用部位に局在することをいう。従って、nrf2の発現を促進する物質は、nrf2の転写、転写後調節、翻訳、翻訳後修飾、局在化および蛋白質フォールディング等の、いかなる段階で作用するものであってもよい。なお、本明細書で使用される場合、nrf2の発現の促進としては、nrf2(蛋白質)自体の補充をも含むものとする。
nrf2の発現を促進する物質の例は、nrf2(タンパク質)、またはnrf2をコードする核酸を含む発現ベクター(nrf2発現ベクター)、チオール・チオン系化合物(例えば、1,2−ジチオール−3−チオン(D3T);Mol.Cell.Biol.vol.22:2883−2892(2002)参照)であり得る。
nrf2は、天然蛋白質または組換え蛋白質であり得る。nrf2は、自体公知の方法により調製でき、例えば、a)nrf2を含む生体試料(例えば、骨、軟骨)からnrf2を回収してもよく、b)宿主細胞(例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞)にnrf2発現ベクター(後述)を導入することにより形質転換体を作製し、該形質転換体により産生されるnrf2を回収してもよく、c)ウサギ網状赤血球ライセート、コムギ胚芽ライセート、大腸菌ライセート等を用いる無細胞系によりnrf2を合成してもよい。nrf2は、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィー、nrf2抗体の使用などの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;これらを組合せた方法などにより適宜精製される。
別の実施形態では、nrf2の発現または機能を調節する物質は、nrf2の発現を抑制する物質であり得る。nrf2の発現を抑制する物質は、nrf2の転写、転写後調節、翻訳、翻訳後修飾、局在化および蛋白質フォールディング等の、いかなる段階で作用するものであってもよい。
nrf2の発現を抑制する物質の例は、nrf2の転写産物、詳細にはmRNAもしくは初期転写産物に対するアンチセンス核酸である。アンチセンス核酸とは、標的mRNA(初期転写産物)を発現する細胞の生理的条件下で該標的mRNA(初期転写産物)とハイブリダイズし得る塩基配列からなり、且つハイブリダイズした状態で該標的mRNA(初期転写産物)にコードされるポリペプチドの翻訳を阻害し得るポリヌクレオチドをいう。アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。また、天然型のアンチセンス核酸は、細胞中に存在する核酸分解酵素によってそのリン酸ジエステル結合が容易に分解されるので、本発明のアンチセンス核酸は、分解酵素に安定なチオリン酸型(リン酸結合のP=OをP=Sに置換)や2’−O−メチル型等の修飾ヌクレオチドを用いて合成もできる。アンチセンス核酸の設計に重要な他の要素として、水溶性および細胞膜透過性を高めること等が挙げられるが、これらはリポソームやマイクロスフェアを使用するなどの剤形の工夫によっても克服できる。アンチセンス核酸の長さは、nrf2の転写産物と特異的にハイブリダイズし得る限り特に制限はなく、短いもので約15塩基程度、長いものでmRNA(初期転写産物)の全配列に相補的な配列を含むような配列であってもよい。合成の容易さや抗原性の問題等から、例えば約15塩基以上、好ましくは約15〜約30塩基、より好ましくは約18塩基〜約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。さらに、アンチセンス核酸は、nrf2の転写産物とハイブリダイズして翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAと結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、mRNAへの転写を阻害し得るものであってもよい。
nrf2の発現を抑制する物質の別の例は、nrf2の転写産物、詳細にはmRNAもしくは初期転写産物を、コード領域の内部(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)で特異的に切断し得るリボザイムである。リボザイムとは核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、最近では当該酵素活性部位の塩基配列を有するオリゴDNAも同様に核酸切断活性を有することが明らかになっているので、本発明では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いるものとする。リボザイムとして最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。また、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res.,29(13):2780−2788(2001)]。
nrf2の発現を抑制する物質の別の例は、RNAi誘導性核酸である。RNAi誘導性核酸とは、細胞内に導入されることにより、RNAi効果を誘導し得るポリヌクレオチドをいい、好ましくはRNAである。RNAi効果とは、mRNAと同一のヌクレオチド配列(またはその部分配列)を含む2本鎖構造のRNAが、当該mRNAの発現を抑制する現象をいう。RNAi効果を得るには、例えば、少なくとも20以上の連続する標的mRNAと同一のヌクレオチド配列(またはその部分配列)を有する2本鎖構造のRNAを用いることが好ましい。2本鎖構造は、異なるストランドで構成されていてもよいし、一つのRNAのステムループ構造によって与えられる2本鎖であってもよい。RNAi誘導性核酸としては、例えばsiRNA、stRNA、miRNAなどが挙げられる。
nrf2の発現を抑制する物質の別の例は、デコイ核酸である。デコイ核酸とは、転写調節因子が結合する領域を模倣するポリヌクレオチドをいい、nrf2の発現を抑制する物質としてのデコイ核酸は、nrf2に対する転写活性化因子が結合する領域を模倣する核酸分子を含むものであり得る。デコイ核酸は、nrf2に対する転写活性化因子が結合する領域を含むものである限り限定されないが、例えば、遺伝子上流約2kbpを含むものであり得る。デコイ核酸としては、例えば、リン酸ジエステル結合部分の酸素原子を硫黄原子で置換したチオリン酸ジエステル結合を有するオリゴヌクレオチド(S−オリゴ)、またはリン酸ジエステル結合を電荷を持たないメチルホスフェート基で置換したオリゴヌクレオチド等、生体内でオリゴヌクレオチドが分解を受けにくくするために改変したオリゴヌクレオチド等が挙げられる。デコイ核酸は転写活性化因子が結合する領域と完全に一致していてもよいが、nrf2に対する転写活性化因子が結合し得る程度の同一性を保持していればよい。デコイ核酸の長さは転写活性化因子が結合する限り特に制限されない。また、デコイ核酸は、同一領域を反復して含んでいてもよい。
nrf2の発現を抑制する物質の別の例は、ターゲティングベクターである。本発明で用いられるターゲティングベクターは、nrf2遺伝子の相同組換えを誘導し得るnrf2遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチドおよび第二のポリヌクレオチド、ならびに必要に応じて選択マーカーを含む。第一および第二のポリヌクレオチドは、nrf2を含むゲノムDNAに対して、相同組換えを生じるのに十分な程度の配列同一性および長さを有するポリヌクレオチドである。第一および第二のポリヌクレオチドは、nrf2遺伝子を含むゲノムDNAにおいて、第一および第二のポリヌクレオチドに対して相同な2つの領域の間に存在するゲノムDNA部分領域が欠失すると、nrf2遺伝子の機能的欠損がもたらされるように選択される。選択マーカーとしては、ポジティブ選択マーカー(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(BPH)遺伝子、ブラスティシジンSデアミナーゼ遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子)、ネガティブ選択マーカー(例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)のチミジンキナーゼ(tk)遺伝子、ジフテリア毒素Aフラグメント(DTA)遺伝子)などが挙げられる。ターゲティングベクターは、ポジティブ選択マーカー、ネガティブ選択マーカーのいずれか一方、または両方を含むことができる。ターゲティングベクターはまた、2以上のリコンビナーゼ標的配列(例えば、バクテリオファージP1由来のCre/loxPシステムで用いられるloxP配列、酵母由来のFLP/FRTシステムで用いられるFRT配列)を含んでいてもよい。
別の実施形態では、nrf2の発現または機能を調節する物質は、nrf2の機能を抑制する物質であり得る。nrf2の機能を抑制する物質としては、nrf2の作用を妨げ得る物質である限り特に限定されないが、nrf2阻害タンパク質(例えば、nrf2ドミナントネガティブ変異体、nrf2抗体、Keap1(Genes Dev.13(1):76−86(1999))、nrf2結合部位(例えば、ARE様2、OSE2)を含むデコイ核酸、これらをコードする核酸を含む発現ベクターが例示される。
nrf2に対する抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよく、周知の免疫学的手法により作製できる。また、該抗体は、抗体のフラグメント(例えば、Fab、F(ab’)2)、組換え抗体(例えば、単鎖抗体)であってもよい。
例えば、ポリクローナル抗体は、nrf2あるいはそのフラグメント(必要に応じて、ウシ血清アルブミン、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)等のキャリア蛋白質に架橋した複合体とすることもできる)を抗原として、市販のアジュバント(例えば、完全または不完全フロイントアジュバント)とともに、動物の皮下あるいは腹腔内に2〜3週間おきに2〜4回程度投与し(部分採血した血清の抗体価を公知の抗原抗体反応により測定し、その上昇を確認しておく)、最終免疫から約3〜約10日後に全血を採取して抗血清を精製することにより取得できる。抗原を投与する動物としては、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、モルモット、ハムスターなどの哺乳動物が挙げられる。
また、モノクローナル抗体は、細胞融合法(例えば、渡邊武、細胞融合法の原理とモノクローナル抗体の作成、谷内昭、高橋利忠編、「モノクローナル抗体とがん−基礎と臨床−」、第2−14頁、サイエンスフォーラム出版、1985年)により作成することができる。例えば、マウスに該因子を市販のアジュバントと共に2〜4回皮下あるいは腹腔内に投与し、最終投与の約3日後に脾臓あるいはリンパ節を採取し、白血球を採取する。この白血球と骨髄腫細胞(例えば、NS−1,P3X63Ag8など)を細胞融合して該因子に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。細胞融合はPEG法[J.Immunol.Methods,81(2):223−228(1985)]でも電圧パルス法[Hybridoma,7(6):627−633(1988)]であってもよい。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、周知のEIAまたはRIA法等を用いて抗原と特異的に結合する抗体を、培養上清中から検出することにより選択できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養は、インビトロ、またはマウスもしくはラット、好ましくはマウス腹水中等のインビボで行うことができ、抗体はそれぞれハイブリドーマの培養上清および動物の腹水から取得できる。
しかしながら、ヒトにおける治療効果と安全性を考慮すると、本発明の抗体は、キメラ抗体、ヒト化またはヒト型抗体であってもよい。キメラ抗体は、例えば「実験医学(臨時増刊号),Vol.6,No.10,1988」、特公平3−73280号公報等を、ヒト化抗体は、例えば特表平4−506458号公報、特開昭62−296890号公報等を、ヒト抗体は、例えば「Nature Genetics,Vol.15,p.146−156,1997」、「Nature Genetics,Vol.7,p.13−21,1994」、特表平4−504365号公報、国際出願公開WO94/25585号公報、「日経サイエンス、6月号、第40〜第50頁、1995年」、「Nature,Vol.368,p.856−859,1994」、特表平6−500233号公報等を参考にそれぞれ作製することができる。
nrf2のドミナントネガティブ変異体とは、nrf2に対する変異の導入によりその活性が低減したものをいう。該ドミナントネガティブ変異体は、天然のnrf2と競合することで間接的にその活性を阻害することができる。該ドミナントネガティブ変異体は、nrf2をコードする核酸に変異を導入することによって作製することができる。変異としては、例えば、機能性部位における、当該部位が担う機能の低下をもたらすようなアミノ酸の変異(例えば、1以上のアミノ酸の欠失、置換、付加)が挙げられる。ドミナントネガティブ変異体は、PCRや公知のキットを用いる自体公知の方法により作製できる。nrf2の機能性部位としては、例えば、DNA結合ドメインであるNeh1ドメインが挙げられる。
nrf2の発現または機能を調節する物質が、核酸分子または蛋白質分子である場合、本発明の剤は、核酸分子または蛋白質分子をコードする核酸分子を含む発現ベクターを有効成分とすることもできる。当該発現ベクターは、上記の核酸分子をコードするオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドが、投与対象である哺乳動物の細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されていなければならない。使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物で機能し得るものであれば特に制限されず、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター、ならびにβ−アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーターなどが挙げられる。また、使用されるプロモーターとしては、骨・軟骨形成能を有する細胞(例えば、骨芽細胞、軟骨細胞)に特異的なプロモーターを用いてもよい。このようなプロモーターは、骨・軟骨形成能を有する細胞に特異的に発現している任意の遺伝子のプロモーターであり得るが、例えば、骨芽細胞特異的プロモーターとしては、I型コラーゲン、オステオカルシン遺伝子由来プロモーターを、軟骨細胞特異的プロモーターとしては、II型コラーゲン遺伝子由来プロモーターを使用できる。本発明はまた、このようなプロモーターを有する発現ベクターを提供する。
発現ベクターは、好ましくは核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含む。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含むこともできる。
発現ベクターとして使用される基本骨格のベクターは、プラスミドまたはウイルスベクターであり得るが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、エプスタイン・バー・ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
本発明の剤は、nrf2の発現または機能を調節する物質に加え、任意の担体、例えば医薬上許容され得る担体を含むことができる。医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水のような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤または錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤、あるいは散剤、顆粒剤等である。
非経口的な投与(例えば、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
本発明の剤の投与量は、有効成分の活性や種類、投与様式(例えば、経口、非経口)、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001mg〜約2.0gである。
本発明の剤は、例えば、医薬または研究用試薬として有用である。本発明の剤が医薬または研究用試薬として使用される場合、例えば、骨または軟骨の癌、骨または軟骨の形成異常、骨粗鬆症(例えば、閉経後骨粗鬆症)、慢性関節リウマチ、関節炎、滑膜炎、変形性関節症、骨大理石病などの骨・関節疾患の予防・治療剤、または該疾患モデルの誘発剤として使用することができる。詳細には、本発明の剤がnrf2の発現または機能を促進する物質を含む場合、骨・軟骨形成能を有する細胞(例えば、骨芽細胞、軟骨細胞)の分化抑制剤として有用である。本発明者らは、nrf2が骨・軟骨形成能を有する細胞の分化を抑制し得る因子であることを見出した。従って、nrf2の発現または機能を促進する物質は、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化を抑制し、以ってその細胞数の減少、あるいは骨・軟骨形成の抑制を引き起こし得ると考えられる。この場合、本発明の剤は、骨・軟骨形成の抑制が所望される疾患の予防・治療、骨・軟骨形成能を有する細胞数の減少、あるいは骨・軟骨形成が抑制された疾患モデル(例えば、細胞、動物)の作製(本明細書中以下、必要に応じて「骨・軟骨形成の抑制が所望される疾患の予防・治療など」と省略する。)のために使用され得る。骨・軟骨形成の抑制が所望される疾患としては、例えば、骨または軟骨の癌、骨または軟骨の形成異常、骨大理石病が挙げられる。骨・軟骨形成が抑制された疾患モデルにおける骨・軟骨形成が抑制された疾患は、骨・軟骨形成の促進が所望される後述の疾患と同様であり得る。
一方、本発明の剤がnrf2の発現または機能を抑制する物質を含む場合、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化促進剤として有用であり得る。本発明者らは、nrf2が骨・軟骨形成能を有する細胞の分化を抑制し得る因子であることを見出した。従って、nrf2の発現または機能を抑制する物質を用いることで、nrf2による骨・軟骨形成能を有する細胞の分化抑制を解除し(即ち、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化を促進し)、以ってその細胞数の増加、あるいは骨・軟骨形成の促進を引き起こし得ると考えられる。この場合、本発明の剤は、骨・軟骨形成の促進が所望される疾患、骨・軟骨形成能を有する細胞数の増加、あるいは骨・軟骨形成が促進された疾患モデル(例えば、細胞、動物)の作製(本明細書中以下、必要に応じて「骨・軟骨形成の促進が所望される疾患の予防・治療など」と省略する。)に使用され得る。骨・軟骨形成の促進が所望される疾患としては、例えば、骨粗鬆症(例えば、閉経後骨粗鬆症)、慢性関節リウマチ、関節炎、滑膜炎、変形性関節症が挙げられる。骨・軟骨形成が促進された疾患モデルにおける骨・軟骨形成が促進された疾患は、骨・軟骨形成の抑制が所望される上述の疾患と同様であり得る。
本発明の剤が、nrf2の発現または機能を調節する上述の物質に加え、有効成分として他の物質(例えば、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化調節薬、骨・関節疾患の予防・治療薬)を含む場合、それらは一緒になった形態(例えば、同一容器中に混合物として格納)、あるいは互いに隔離された形態(例えば、異なる容器に格納)で提供され得る。
本発明はまた、本発明の剤のインビトロ使用の一形態であり得る、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化調節方法を提供する。本方法は、例えば、nrf2の発現または機能を調節する物質を用いて、骨・軟骨形成能を有する細胞におけるnrf2の発現または機能を調節するように培養することを含む。
骨・軟骨形成能を有する細胞は、任意の動物、例えば鳥類、哺乳動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、サル、ヒト、ウサギ、ラット、ハムスター、モルモット、マウス)に由来する細胞であり得る。該細胞は、胚性幹細胞、体性幹細胞等の幹細胞から分化誘導される細胞であり得る。また、本発明の方法により得られる細胞の移植を意図する場合、移植が意図される動物と同種動物由来の細胞を用いることで、同種移植に好適な細胞が得られ、移植が意図される個体由来の細胞を用いることで、同種同系移植に好適な細胞が得られる。該細胞は、マーカー分子(後述)を利用する自体公知の方法(例えば、FACS)により入手できる。
細胞培養に用いられる培地は、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化に適切である限り特に限定されず適宜選択されるが、例えば、最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、F12培地またはRPMI1640培地、あるいはそれらの混合培地を基本培地として含むものなどである。培地への添加剤としては、例えば、各種アミノ酸、各種無機塩、各種ビタミン、各種抗生物質、緩衝剤などが挙げられる。培養条件もまた適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃である。培地は、血清を含んでも含まなくともよいが、細胞移植を意図する場合、未同定成分の混入の防止、感染リスクの軽減などの観点から、無血清培地が好ましい。なお、本発明の方法により得られた細胞は、細胞治療(移植)に用いることができるが、この場合、培養で使用する物質、材料は、同種移植という観点から、細胞治療を受ける被験体と同種動物由来の物質、材料で統一するのが好ましい。
本発明の調節方法は、骨・軟骨形成能を有する細胞から分化調節された細胞(例えば、分化が促進または抑制された細胞)を単離することをさらに含むことができる。細胞の単離は、細胞マーカーを利用する自体公知の方法等により行うことができる。
本発明の調節方法はまた、骨・軟骨形成能を有する細胞から分化誘導された細胞をさらに分化調節することを含むこともできる。骨・軟骨形成能を有する細胞から分化誘導された細胞をさらに分化させる方法は特に限定されるものではないが、例えば、nrf2の発現または機能を調節する物質と他の分化調節物質との共存下で細胞を培養する方法、nrf2の発現または機能を調節する物質の存在下での骨・軟骨形成能を有する細胞の培養後に他の分化調節物質を使用する方法が挙げられる。
本発明の調節方法は、例えば、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化を調節することができるため、あるいは骨・軟骨形成能を有する細胞以外の細胞を幹細胞からより特異的に分化させる際に、骨・軟骨形成能を有する細胞への分化を抑制することによりその分化効率を高めることができるため有用である。
(2.スクリーニング方法)
本発明は、被験物質がnrf2の発現または機能を調節し得るか否かを評価することを含む、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化を調節し得る物質、runx2リクルートまたはオステオカルシン発現を調節し得る物質、あるいは骨・関節疾患を予防・治療し得る物質のスクリーニング方法、ならびに当該スクリーニング方法により得られる物質、および当該物質を含む分化調節剤あるいは予防・治療剤を提供する。
スクリーニング方法に供される被験物質は、いかなる公知化合物および新規化合物であってもよく、例えば、核酸(例えば、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド)、糖質(例えば、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖)、脂質(例えば、飽和または不飽和の直鎖、分岐鎖および/または環を含む脂肪酸)、アミノ酸、蛋白質(例えば、オリゴペプチド、ポリペプチド)、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
本発明のスクリーニング方法は、被験物質がnrf2の発現または機能を調節し得るか否かを評価可能である限り、如何なる形態でも行われ得る。例えば、本発明のスクリーニング方法は、1)nrf2の発現を測定可能な細胞を用いたnrf2の発現量の測定、2)非ヒト動物を用いたnrf2の発現量の測定、3)nrf2の機能を測定可能な再構成系(非細胞系)を用いたnrf2の機能の測定、4)nrf2発現細胞を用いたnrf2の機能の測定などに基づき行われ得る。
上記1)において、nrf2の発現を測定可能な細胞を用いるスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)被験物質とnrf2の発現を測定可能な細胞とを接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞におけるnrf2の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるnrf2の発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、nrf2の発現量を調節する被験物質を選択する工程。
上記方法の工程(a)では、被験物質がnrf2の発現を測定可能な細胞と接触条件下におかれる。nrf2の発現を測定可能な細胞に対する被験物質の接触は、培地中で行われ得る。
nrf2の発現を測定可能な細胞とは、nrf2の産物(例えば、転写産物、翻訳産物)の発現レベルを直接的または間接的に評価可能な細胞をいう。nrf2の産物の発現レベルを直接的に評価可能な細胞は、nrf2発現細胞であり得、一方、nrf2の産物の発現レベルを間接的に評価可能な細胞は、nrf2転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞であり得る。nrf2の発現を測定可能な細胞は、動物細胞、例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サル、ヒト等の哺乳動物細胞であり得る。
nrf2発現細胞は、nrf2を潜在的に発現するものである限り特に限定されない。かかる細胞は、当業者であれば容易に同定でき、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株などを使用できる。また、nrf2発現細胞としては、骨・軟骨形成能を有する細胞(例えば、骨芽細胞、軟骨細胞)を使用することもまた好ましい。
nrf2転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、nrf2転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子を含む細胞である。nrf2転写調節領域、レポーター遺伝子は、発現ベクター中に挿入され得る。nrf2転写調節領域は、nrf2の発現を制御し得る領域である限り持に限定されないが、例えば、転写開始点から上流約2kbpまでの領域、あるいは該領域の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つnrf2の転写を制御する能力を有する領域などが挙げられる。レポーター遺伝子は、検出可能な蛋白質または検出可能な物質を生成する酵素をコードする遺伝子であればよく、例えばGFP(緑色蛍光蛋白質)遺伝子、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、LUC(ルシフェラーゼ)遺伝子、CAT(クロラムフェニコルアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子等が挙げられる。
nrf2転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子が導入される細胞は、nrf2転写調節機能を評価できる限り、即ち、該レポーター遺伝子の発現量が定量的に解析可能である限り特に限定されない。しかしながら、nrf2に対する生理的な転写調節因子を発現し、nrf2の発現調節の評価により適切であると考えられることから、該導入される細胞としては、nrf2発現細胞が好ましい。
被験物質とnrf2の発現を測定可能な細胞とが接触される培地は、用いられる細胞の種類などに応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件もまた、用いられる細胞の種類などに応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
上記方法の工程(b)では、先ず、被験物質を接触させた細胞におけるnrf2の発現量が測定される。発現量の測定は、用いた細胞の種類などを考慮し、自体公知の方法により行われ得る。例えば、nrf2の発現を測定可能な細胞として、nrf2発現細胞を用いた場合、発現量は、nrf2の産物、例えば、転写産物または翻訳産物を対象として自体公知の方法により測定できる。例えば、転写産物の発現量は、細胞からtotal RNAを調製し、RT−PCR、ノザンブロッティング等により測定され得る。また、翻訳産物の発現量は、細胞から抽出液を調製し、免疫学的手法により測定され得る。免疫学的手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol.70:419−439(1980))、蛍光抗体法などが使用できる。一方、nrf2の発現を測定可能な細胞として、nrf2転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞を用いた場合、発現量は、レポーターのシグナル強度に基づき測定され得る。
また、nrf2を発現可能な細胞を用いた場合、核内nrf2量(即ち、細胞質から核内に移行したnrf2量)を測定してもよい。細胞内局在は、自体公知の方法により測定できる。例えば、レポーター遺伝子と融合させたnrf2を適切な細胞に導入し、被験物質の存在下において培地中で培養した後、共焦点顕微鏡により細胞内または核内における蛍光シグナルまたはそれらのシグナル比を測定すればよい。また、nrf2抗体を用いる免疫染色によっても、nrf2の細胞内局在を測定できる。
次いで、被験物質を接触させた細胞におけるnrf2の発現量が、被験物質を接触させない対照細胞におけるnrf2の発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質を接触させない対照細胞におけるnrf2の発現量は、被験物質を接触させた細胞におけるnrf2の発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
上記方法の工程(c)では、nrf2の発現量を調節する被験物質が選択される。例えば、nrf2の発現量を増加させる(発現を促進する)被験物質は、骨・軟骨形成の抑制が所望される疾患の予防・治療などのために使用され得る。一方、nrf2の発現量を減少させる(発現を抑制する)被験物質は、骨・軟骨形成の促進が所望される疾患の予防・治療などのために使用され得る。
上記2)において、非ヒト動物を用いる本発明のスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含む:
(a)被験物質を動物に投与する工程;
(b)被験物質を投与した動物におけるnrf2の発現量を測定し、該発現量を被験物質を投与しない対照動物におけるnrf2の発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、nrf2の発現量を調節する被験物質を選択する工程。
上記方法の工程(a)では、動物として、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サル等の非ヒト哺乳動物、およびニワトリ等の鳥類などの動物が使用される。動物としてはまた、骨・関節疾患モデル動物が使用され得る。被験物質の動物への投与は自体公知の方法により行われ得る。
上記方法の工程(b)では、nrf2の発現量は、自体公知の方法により測定され得る。例えば、nrf2の発現量として、骨または軟骨組織における発現量が測定される。本工程(b)における発現量の比較および上記方法の工程(c)は、nrf2の発現を測定可能な細胞を用いるスクリーニング方法と同様に行われ得る。
上記3)において、nrf2の機能を測定可能な再構成系とは、nrf2(タンパク質)およびその他の因子を含む、被験物質によるnrf2の機能調節能を評価可能な非細胞系をいう。nrf2の機能を測定可能な再構成系を用いるスクリーニング方法は、種々の形態で行われ得る。例えば、このようなスクリーニング方法としては、3a)nrf2およびその共役因子を含む複合体の形成を被験物質が調節し得るか否かを評価することを含む方法、3b)nrf2とnrf2標的遺伝子の上流に存在するシス作用性エレメントを含むDNAとの結合を被験物質が調節し得るか否かを評価することを含む方法、3c)PKCδによるnrf2のリン酸化を被験物質が調節し得るか否かを評価することを含む方法が挙げられる。
詳細には、上記3a)の方法は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)被験物質ならびにnrf2およびその共役因子を接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた場合に形成された、nrf2およびその共役因子を含む複合体量を測定し、該複合体量を被験物質を接触させない場合に形成された複合体量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、複合体の形成を調節する被験物質を選択する工程。
上記方法の工程(a)では、nrf2共役因子として、例えば、Keap1、Maf(例えば、MafF、MafG、MafK)、CBP(CREB結合タンパク質)が使用できる。接触は、複合体の形成を可能とするような溶液中で行われ得る。
上記方法の工程(b)では、先ず、被験物質を接触させた場合に形成された複合体量が測定される。複合体量の測定は、例えば、表面プラズモン共鳴を利用する方法(例えば、Biacoreの使用)、免疫学的方法(例えば、免疫沈降法)、水晶振動子マイクロバランス(Quartz Crystal Microbalance:QCM)法、エナジートランスファーを検出する方法が挙げられる。
次いで、被験物質を接触させた場合に形成された複合体量が、被験物質を接触させない場合における複合体量と比較される。複合体量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質を接触させない場合における複合体量は、被験物質を接触させた場合における複合体量の測定に対し、事前に測定した複合体量であっても、同時に測定した複合体量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した複合体量であることが好ましい。
上記方法の工程(c)では、複合体量を調節する被験物質が選択される。例えば、nrf2とMaf等のnrf2共役因子とを含む複合体量を増加させる(複合体形成を促進する)、あるいはnrf2とKeap1、CBP等のnrf2共役因子とを含む複合体量を減少させる(複合体形成を抑制する)被験物質は、骨・軟骨形成の抑制が所望される疾患の予防・治療などのために使用され得る。一方、nrf2とKeap1、CBP等のnrf2共役因子とを含む複合体量を増加させる、あるいはnrf2とMaf等のnrf2共役因子とを含む複合体量を減少させる被験物質は、骨・軟骨形成の促進が所望される疾患の予防・治療などのために使用され得る。
上記3b)の方法は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)被験物質ならびにnrf2およびnrf2標的遺伝子の上流に存在するシス作用性エレメントを含むDNAを接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた場合に形成された、nrf2および該DNAを含むタンパク質−DNA複合体量を測定し、該複合体量を被験物質を接触させない場合に形成された複合体量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、複合体の形成を調節する被験物質を選択する工程。
上記方法の工程(a)では、シス作用性エレメントとして、例えば、本発明者らが見出したnrf2標的遺伝子であるオステオカルシンの上流に存在するARE様2およびOSE2が使用できる。また、ARE様2またはOSE2とnrf2との結合を阻害する物質はしばしば、他のnrf2標的遺伝子のシス作用性エレメントとnrf2との結合をも阻害し得ると考えられるため、シス作用性エレメントとしてHO−1、Prx−1、A170、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GSTs)、NAD(P)H:キノンオキシドレダクターゼI等の遺伝子上流に見出されるnrf2結合部位もまた使用できる(例えば、Advances in Pharmacology 38,293−328,1997、Free Radical Research 31,273−300,1999参照)。しかし、作用点に対する影響を直接的に評価することがより適切であるため、シス作用性エレメントとしてはARE様2およびOSE2が好ましい。接触は、タンパク質−DNA複合体の形成を可能とするような溶液中で行われ得る。
上記方法の工程(b)では、タンパク質−DNA複合体量の測定、比較は、nrf2とnrf2共役因子とを含む複合体量の測定と同様の方法論により行われ得るが、測定の他の方法論としては、例えば、EMSA(Electrophoretic Mobility Shift Assay)またはゲルシフトアッセイが挙げられる。なお、シス作用性エレメントとしてARE様2および/またはOSE2を使用する場合、被験物質の中からより特異性が高い物質を選択するため、ARE様2および/またはOSE2にのみ結合し、それ以外のnrf2結合部位には結合しないことを確認してもよい。
上記方法の工程(c)では、タンパク質−DNA複合体量を調節する被験物質が選択される。例えば、複合体量を増加させる(複合体形成を促進する)被験物質は、骨・軟骨形成の抑制が所望される疾患の予防・治療などのために使用され得る。一方、複合体量を減少させる被験物質は、骨・軟骨形成の促進が所望される疾患の予防・治療などのために使用され得る。
上記3c)の方法は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)被験物質、ならびにnrf2(タンパク質)およびPKCδを接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた場合のリン酸化nrf2量を測定し、該量を被験物質を接触させない場合の量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、PKCδによるnrf2のリン酸化を調節する被験物質を選択する工程。
上記方法の工程(a)では、PKCδによるnrf2のリン酸化が可能であるアッセイ系において、被験物質、nrf2およびPKCδが接触される。nrf2は、40番目のSerがプロテインキナーゼCδ(PKCδ)によりリン酸化されると、Keap1からの解離が促進される。本アッセイ系は、PKCδの触媒活性に必要な補因子を含んで構成される。
上記方法の工程(b)では、リン酸化レベルの測定は、自体公知の方法、例えば、抗リン酸化セリン抗体を用いる免疫学的手法により測定される。本工程(b)におけるリン酸化レベルの比較は、上記1)または3a)の方法と同様に行われ得る。
上記方法の工程(c)では、リン酸化nrf2量を調節する被験物質が選択される。例えば、リン酸化nrf2量を増加させる(リン酸化を促進する)被験物質は、Keap1からのnrf2の解離の促進を通じて、runx2依存的なオステオカルシン発現を抑制し得る。従って、このような被験物質は、骨・軟骨形成の抑制が所望される疾患の予防・治療などのために使用され得る。一方、リン酸化nrf2量を減少させる(リン酸化を抑制する)被験物質は、runx2依存的なオステオカルシン発現の抑制を解除(即ち、オステオカルシン発現を促進)し得ることから、骨・軟骨形成の促進が所望される疾患の予防・治療などのために使用され得る。
上記4)において、nrf2発現細胞を用いるスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)被験物質とnrf2発現細胞とを接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞におけるnrf2の機能レベルを測定し、該機能レベルを被験物質を接触させない対照細胞における機能レベルと比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、nrf2の機能レベルを調節する被験物質を選択する工程。
上記方法の工程(a)では、被験物質がnrf2発現細胞と接触条件下におかれる。nrf2発現細胞に対する被験物質の接触は、培地中で行われ得る。ここで用いられるnrf2発現細胞は、タンパク質レベルでのnrf2のアッセイが可能な程度にnrf2を発現し得る細胞であり得る。
上記方法の工程(b)では、先ず、被験物質を接触させた細胞におけるnrf2の機能レベルが測定される。nrf2の機能レベルは、例えば、細胞におけるリン酸化nrf2量、runx2リクルートの程度、オステオカルシン発現量またはそのプロモーター活性を指標にして測定、評価できる。これらの測定は、自体公知の方法により行うことができ、例えば、リン酸化nrf2量は抗リン酸化セリン抗体を用いた免疫学的手法により、runx2リクルートの程度はChIPアッセイにより、オステオカルシン発現量は免疫学的手法、PCR法、ノザンブロッティングにより、プロモーター活性はレポーターアッセイにより測定できる。なお、本工程(b)における機能レベルの比較は、上述した比較と同様に行われ得る。
上記方法の工程(c)では、機能レベルを調節する被験物質が選択される。例えば、リン酸化nrf2量を増加させる(促進する)、あるいはrunx2リクルートの程度、オステオカルシン発現量またはそのプロモーター活性を減少させる(抑制する)被験物質は、骨・軟骨形成の抑制が所望される疾患の予防・治療などのために使用され得る。一方、これらの反対の作用を有する被験物質は、骨・軟骨形成の促進が所望される疾患の予防・治療などのために使用され得る。
本発明のスクリーニング方法は、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化を調節し得る物質、骨・関節疾患を予防・治療し得る物質、あるいはrunx2リクルートまたはオステオカルシン発現を調節し得る物質などのスクリーニングを可能とする。従って、本発明のスクリーニング方法は、医薬または研究用試薬の開発などに有用である。
(3.nrf2変異の同定方法)
本発明は、nrf2の特定の変異が骨・軟骨形成能を有する細胞の分化に及ぼす影響、あるいは骨・関節疾患の発症リスクに及ぼす影響を解析することを含む、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化に変化をもたらす、あるいは骨・関節疾患の発症リスクに変化をもたらすnrf2変異の同定方法、当該方法により同定されるnrf2変異を含むタンパク質・核酸分子を提供する。
nrf2変異は、nrf2における任意の変異であり、nrf2の多型、nrf2の人工変異を含む。nrf2の多型とは、ある母集団において、nrf2遺伝子を含むゲノムDNAに一定頻度で見出されるヌクレオチド配列の変異を意味し、nrf2遺伝子を含むゲノムDNAにおける1以上のDNAの置換、欠失、付加(例えば、SNP、ハプロタイプ)、ならびに該ゲノムDNA中の部分領域の反復、逆位、転座などであり得る。本発明の方法により同定されるnrf2の多型のタイプは、nrf2における全てのタイプの多型のうち、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化効率に変化をもたらし得るヌクレオチド配列の変異、あるいは所定の疾患(例えば、骨・関節疾患)に罹患した動物と罹患していない動物との間で頻度が異なるヌクレオチド配列の変異であり得る。なお、nrf2多型の解析対象となる動物は上述の通り特に限定されないが、ヒトが好ましい。
解析は、自体公知の方法により行われ得る。例えば、連鎖解析等の解析方法の結果、疾患(例えば、骨・関節疾患)の発症頻度、重症度に応じて特定の多型の保有頻度に有意差が認められたとき、そのタイプの多型は、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化、あるいは骨・関節疾患の発症リスクに変化をもたらす多型であると判定され得る。また、解析はインビトロで行うことも可能である。例えば、特定の変異(例えば、多型)を含むnrf2発現ベクターを導入した骨・軟骨形成能を有する細胞を培養し、その分化効率を、対照nrf2発現ベクターを導入した対照細胞での効率と比較することで、変異が解析され得る。
本発明の同定方法は、哺乳動物由来の生体試料から調製されたDNAサンプルをシークエンシング(sequencing)に供し、nrf2多型の新たなタイプを決定する工程、あるいはヌクレオチド変異の導入によりnrf2変異体を人工的に作製する工程をさらに含むこともできる。生体試料は、nrf2の発現組織(例えば、骨、軟骨)または細胞(例えば、骨芽細胞、軟骨細胞)あるいはその他の試料(例えば、血液)のみならず、毛髪、爪、皮膚、粘膜等のゲノムDNAを含む任意の組織も使用できる。入手の容易性、人体への負担等を考慮すれば、生体試料は、毛髪、爪、皮膚、粘膜、血液、血漿、血清、唾液などが好ましい。多型の決定は、由来が異なる生体試料に含まれるゲノムまたは転写産物のヌクレオチド配列を多数解析し、決定されたヌクレオチド配列中に一定頻度で見出される変異を同定することで行われ得る。
本発明の同定方法は、例えば、所定の疾患の発症リスクに影響を及ぼし得る多型の同定、あるいはnrf2変異体(例えば、分化調節能または特定の活性が増強または抑制された変異体)の作製などに有用である。
(4.判定方法および診断剤)
(4.1.発現量の測定に基づく判定方法および診断剤)
本発明は、nrf2の発現量の測定に基づく、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化(ならびに/あるいは骨・関節疾患)に対する動物の生体状態の判定方法を提供する。
一実施形態では、本発明の判定方法は、以下の工程(a)、(b)を含む:
(a)動物から採取された生体試料においてnrf2の発現量を測定する工程;
(b)nrf2の発現量に基づき、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化(ならびに/あるいは骨・関節疾患)に対する動物の生体状態を評価する工程。
上記方法の工程(a)では、動物から採取した生体試料においてnrf2の発現量が測定される。動物は上述の通り特に限定されないが、ヒトが好ましい。生体試料は、nrf2の発現量を測定可能な試料である限り特に限定されず、例えば骨、軟骨が挙げられる。nrf2の発現量の測定は、本発明のスクリーニング方法と同様に行われ得る。
上記方法の工程(b)では、nrf2の発現量に基づき、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化に対する動物の生体状態が評価され得る。詳細には、先ず、測定されたnrf2の発現量が、該分化の異常を伴わない動物または正常動物におけるnrf2の発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行われる。該分化の異常を伴わない動物または正常動物におけるnrf2の発現量は、自体公知の方法により決定できる。
次いで、nrf2の発現量の比較結果より、動物が骨・軟骨形成能を有する細胞の分化の異常を有している可能性があるか否か、あるいは所定の疾患に罹患している可能性があるか否か、または将来的に罹患する可能性が高いか低いかが判断され得る。本実施例の結果より、nrf2の発現量が高い場合には骨・軟骨形成能を有する細胞の分化がより抑制され、一方、nrf2の発現量が低い場合には骨・軟骨形成能を有する細胞の分化がより促進され得ると考えられる。また、特定の疾患の発症前後に、当該疾患に関連する特定の遺伝子の発現量の変化がしばしば観察されることが知られている。例えば、後述の実施例でも、閉経後骨粗鬆症モデル動物においてnrf2の発現上昇が確認されている。従って、nrf2の発現量の解析より、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化の異常、ならびに/あるいは所定の疾患の発症または発症リスクを判定することが可能であると考えられる。
本発明はまた、nrf2の発現量の測定用試薬を含む、上記判定を可能とする診断剤を提供する。
nrf2の発現量の測定用試薬は、nrf2の発現を定量可能である限り特に限定されないが、例えば、上述したnrf2に対する抗体、nrf2転写産物に対する核酸プローブ、またはnrf2転写産物を増幅可能な複数のプライマーを含むものであり得る。これらは、標識用物質で標識されていても標識されていなくともよい。標識用物質で標識されていない場合、本発明の診断剤は、該標識用物質をさらに含むこともできる。標識用物質としては、例えば、FITC、FAM等の蛍光物質、ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン等の発光物質、3H、14C、32P、35S、123I等の放射性同位体、ビオチン、ストレプトアビジン等の親和性物質などが挙げられる。
nrf2転写産物に対する核酸プローブは、DNA、RNAのいずれでもよいが、安定性等を考慮するとDNAが好ましい。また、該プローブは、1本鎖または2本鎖のいずれであってもよい。該プローブのサイズは、nrf2の転写産物を検出可能である限り特に限定されないが、好ましくは約15〜1000bp、より好ましくは約50〜500bpである。該プローブは、マイクロアレイのように基板上に固定された形態で提供されてもよい。
nrf2を増幅可能な複数のプライマー(例えば、プライマー対)は、検出可能なサイズのヌクレオチド断片が増幅されるように選択される。検出可能なサイズのヌクレオチド断片は特に限定されないが、例えば約100bp以上、好ましくは約200bp以上、より好ましくは約400bp以上の長さを有し得る。プライマーのサイズは、nrf2を増幅可能な限り特に限定されないが、好ましくは約15〜100bp、より好ましくは約18〜50bp、さらにより好ましくは約20〜30bpであり得る。nrf2転写産物を定量可能な手段がプライマーである場合、本発明の診断剤は、逆転写酵素をさらに含むことができる。
本発明の上記判定方法および診断剤は、例えば、所定の被験体における骨・軟骨形成能を有する細胞の分化異常、骨・関節疾患の発症または発症リスクなどを判定し得るため、あるいは所定の被験体における該異常または疾患がnrf2の発現の抑制または促進に起因するものであると判定し得るため、該被験体における所定の疾患に対する治療指針の決定、あるいは所定の疾患等の予防を目的とする生活習慣改善などに有用である。
(4.2.多型の測定に基づく判定方法および診断剤)
本発明は、nrf2の多型の測定に基づく、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化(ならびに/あるいは骨・関節疾患)に対する動物の生体状態の判定方法を提供する。
一実施形態では、本発明の判定方法は、以下の工程(a)、(b)を含む:
(a)動物から採取された生体試料においてnrf2の多型を測定する工程;
(b)nrf2の多型に基づき、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化に対する動物の生体状態を評価する工程。
上記方法の工程(a)では、動物から採取された生体試料においてnrf2の多型が測定される。動物は上述の通り特に限定されないが、ヒトが好ましい。生体試料は、本発明の同定方法で上述したものと同様であり得る。
多型のタイプの測定は、自体公知の方法により行われ得る。例えば、TaqMan PCR法、インベーダー法、RFLP(制限酵素切断断片長多型)法、PCR−SSCP(一本鎖DNA高次構造多型解析)法、ASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法、ダイレクトシークエンス法、ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法などが使用できる。
上記方法の工程(b)では、nrf2の多型に基づき、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化に対する動物の生体状態が評価され得る。詳細には、動物が細胞分化異常(例えば、過剰な促進または抑制)を有している可能性があるか否か、あるいは所定の疾患に将来的に罹患する可能性が高いか低いかが判断され得る。本実施例の結果より、nrf2がその機能を増強させるような多型を含む場合には骨・軟骨形成能を有する細胞の分化がより抑制され、一方、nrf2がその機能を低下させるような多型を含む場合には分化がより促進され得ると考えられる。また、特定の疾患を発症しやすい動物では、当該疾患に関連する遺伝子に特定のタイプの多型をしばしば有することが知られている。従って、nrf2の機能を増強または低下させるような多型を含む動物は、骨・関節疾患を発症する可能性が相対的に高いと考えられる。従って、多型の解析より、所定の疾患の発症可能性を判断することが可能であると考えられる。なお、例えば、オープンリーディングフレーム(ORF)内に含まれるnrf2の多型として、配列番号4で表されるヌクレオチド配列において、327番目のアデニンがグアニンに置換されたもの、1663番目のアデニンがグアニンに置換されたものが報告されており(JBIRC H−Invitational Database参照)、測定対象となり得る多型はこのような多型であり得る。また、測定対象となり得る多型は、例えば、本発明の同定方法により得られたものであり得る。
本発明はまた、nrf2の多型の測定用試薬を含む、上記判定を可能とする診断剤を提供する。
nrf2の多型の測定用試薬は、多型のタイプを決定可能である限り特に限定されず、多型部位を含む部分ペプチドに対する特異的な抗体、特定のタイプの多型を有するnrf2を特異的に測定可能である核酸プローブ、あるいは特定のタイプの多型を有するnrf2を特異的に増幅可能である複数のプライマーを含むものであり得る。核酸プローブ、プライマーは、nrf2を含むゲノムDNAまたはnrf2転写産物に対するものであり得る。該試薬は、標識用物質で標識されていてもよい。また、該試薬が標識用物質で標識されていない場合、本発明の診断剤は、該標識用物質をさらに含むこともできる。本発明の診断剤はまた、核酸プローブ、プライマー、転写産物またはゲノムDNAの抽出用試薬を含んでいてもよい。
多型部位を含む部分ペプチドに対する特異的な抗体は、該多型を含まないnrf2よりも、該多型を含むnrf2をより選択的に認識するものである限り特に限定されない。多型部位を含む部分ペプチドに対する特異的な抗体の作製は、抗原として使用する部分ペプチドを適切に選択することにより行われ得る。例えば、特定の多型に対する認識性を高めるため、多型部位を含むサイズがより短い部分ペプチドが好ましく使用される。部分ペプチドのサイズは、免疫原性を有する限り特に限定されず、例えば8、10または12以上の連続するアミノ酸からなるペプチドであり得る。また、多型部位を含むサイズがより短い部分ペプチドについてハプテン化し、免疫原性を持たせることも可能であるため、部分ペプチドのサイズは、必ずしも上記サイズに限定されるものではない。
特定のタイプの多型を有するnrf2を特異的に測定可能である核酸プローブは、特定のタイプの多型を有するnrf2を選別可能である限り特に限定されない。該プローブはDNA、RNAのいずれでもよいが、安定性等を考慮するとDNAが好ましい。また、該プローブは、1本鎖または2本鎖のいずれであってもよい。例えば、多型がSNPである場合、該プローブのサイズは、所定のSNPを有するnrf2を選別可能とするため短ければ短いほどよく、例えば、約15〜30bpのサイズであり得る。該プローブにより、例えばASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法が可能となる。
特定のタイプの多型を有するnrf2を特異的に増幅可能である複数のプライマー(例えば、プライマー対)は、測定可能なサイズのヌクレオチド断片が増幅されるように選択される。このような複数のプライマーは、例えば、いずれか一方のプライマーの3’末端に多型部位を含むように設計される。測定可能なサイズのヌクレオチド断片、プライマーのサイズは、上述と同様であり得る。nrf2の多型を測定し得る手段がnrf2転写産物に対する複数のプライマーである場合、本発明の診断剤は、逆転写酵素をさらに含むことができる。
また、nrf2の多型の測定用試薬として、特定の多型部位を認識する制限酵素を含むものを挙げることもできる。このような試薬によれば、RFLPによる多型解析が可能となる。
本発明の上記判定方法および診断剤は、例えば、所定の被験体における骨・軟骨形成能を有する細胞の分化異常、骨・関節疾患の発症リスクなどを判定し得るため、あるいは所定の被験体における該異常または疾患がnrf2の発現の抑制または促進に起因するものであると判定し得るため、該被験体における所定の疾患に対する治療指針の決定、あるいは所定の疾患等の予防を目的とする生活習慣改善などに有用である。
(4.3.nrf2の発現または機能を調節する物質を用いる判定方法および診断剤)
本発明は、nrf2の発現または機能を調節する物質を用いる、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化効率の判定方法を提供する。
一実施形態では、本発明の判定方法は、以下の工程(a)、(b)を含む:
(a)nrf2の発現または機能を調節する物質を用いて、動物から採取された骨・軟骨形成能を有する細胞を培養する工程;
(b)培養された該細胞の形質に基づき、該細胞の分化効率を評価する工程。
上記方法の工程(a)では、nrf2の発現または機能を調節する物質の存在下において、動物から採取された骨・軟骨形成能を有する細胞(例えば、骨芽細胞、軟骨細胞等の骨または軟骨由来細胞)が、培地中で培養され得る。nrf2の発現または機能を調節する物質は上述の通りであり得るが、nrf2発現ベクターが好ましい。動物もまた上述の通りであり得るが、好ましくは、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化効率の判定が所望される被験体(例えば、nrf2の発現または機能を調節する物質による治療が検討されている被験体)から採取された細胞が使用され得る。
上記方法の工程(b)では、nrf2の発現または機能を調節する物質を用いて培養された細胞の形質の解析結果に基づき、分化効率が評価され得る。細胞の形質の解析は、骨・軟骨形成能を有する細胞を特徴付けることができる限り特に限定されず、例えば、酸性ムコ多糖量、沈着Ca2+量、アルカリフォスファターゼ活性、骨芽細胞特異的なマーカー分子(例えば、I型コラーゲン、オステオカルシン)、軟骨細胞特異的なマーカー分子(例えば、アグレカン(aggrecan)、II型コラーゲン、X型コラーゲン)等の骨・軟骨形成能を有する細胞に特異的なマーカー分子の発現量の測定によりなされ得る。また、分化効率の評価は、nrf2の発現または機能を調節する物質を用いる所定の疾患の予防・治療の有用性を肯定する程度に十分なものであるか否かの観点から行われてもよい。さらに、必要に応じて、nrf2の発現または機能を調節する物質を用いて培養された細胞の分化効率は、該物質を用いて培養された対照細胞(例えば、正常細胞)の分化効率と比較されてもよい。分化効率の比較は、例えば、形質についてのパラメータの有意差の有無に基づいて行なわれる。対照細胞の分化効率は、動物から採取され、且つ該物質を用いて培養された細胞の分化効率の測定に対し、事前に測定した効率であっても、同時に測定した効率であってもよい。
本発明はまた、nrf2の発現または機能を調節する物質を含む、上記判定を可能とする診断剤を提供する。
本発明の上記判定方法および診断剤は、例えば、所定の被験体における骨・軟骨形成能を有する細胞の分化異常を判定し得るため、あるいは所定の被験体にnrf2の発現または機能を調節する物質を用いる予防・治療の効果を予測し得るため、該被験体における所定の疾患に対する治療指針の決定などに有用である。
(5.キット)
本発明は、本明細書中で言及した任意の物質、試薬等の構成要素を含むキット(構成要素のセットまたは組合せ)を提供する。
一実施形態では、本発明のキットは、以下(a)、(b)を含む:
(a)nrf2の発現または機能を調節する物質、ならびに/あるいはnrf2の発現量または多型の測定用試薬;
(b)骨・軟骨形成能を有する細胞の形質解析用試薬、ならびに/あるいは骨・軟骨形成能を有する細胞の分化調節用試薬。
上記キットの構成要素(a)において、nrf2の発現または機能を調節する物質、nrf2の発現量または多型の測定用試薬は、上述の通りである。
上記キットの構成要素(b)において、骨・軟骨形成能を有する細胞の形質解析用試薬は、該細胞特異的な形質の解析を可能とする成分を含むものである限り特に限定されず、例えば、骨・軟骨形成能を有する細胞の染色用試薬(例えば、アリザリンレッド染色、アルシアンブルー染色、沈着Ca2+量の定量を可能とする成分を含む試薬)、あるいは骨・軟骨形成能を有する細胞に特異的な活性(例えば、アルカリフォスファターゼ活性)の測定用試薬、骨・軟骨形成能を有する細胞の同定用試薬(例えば、上述した骨芽細胞または軟骨細胞特異的なマーカー分子に対する抗体、あるいは該マーカー分子を検出または定量可能な核酸プローブまたは複数のプライマーを含む試薬)が挙げられる。
骨・軟骨形成能を有する細胞の分化調節用試薬は、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化を調節し得る物質(例えば、上述した骨芽細胞または軟骨細胞の分化を調節し得る物質)を含むものであり得る。
本発明のキットは、本発明の剤の作製、ならびに本発明の判定方法などを簡便に行い得るため有用である。
(6.細胞)
本発明は、nrf2の発現が調節された、骨・軟骨形成能を有する細胞を提供する。
本発明の細胞は、骨・軟骨形成能を有する任意の細胞であり得、例えば、骨芽細胞、軟骨細胞が挙げられる。本発明の細胞はまた、例えば、nrf2の発現または機能を調節する物質(例えば、nrf2発現ベクター)が導入されたnrf2発現細胞であり得る。本発明の細胞はさらに、例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、サル、ヒト等の哺乳動物、ニワトリ等の鳥類などの動物に由来する細胞であり得るが、なかでも哺乳動物由来の細胞が好ましい。本発明の細胞はまた、例えば初代培養細胞または細胞株(例えば、初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株)であり得るが、好ましくは細胞株である。
本発明では、骨・軟骨形成能を有する細胞として、骨芽細胞株、軟骨細胞株が好ましい。骨芽細胞株としては、例えばMC3T3−E1細胞、SV−HFO細胞、TE−85細胞、U2OS細胞が挙げられるが、なかでもMC3T3−E1細胞が好ましい。遺伝子が導入される軟骨細胞株としては、例えばATDC5細胞、HCS−2/8細胞、C20/A4細胞が挙げられるが、なかでもATDC5細胞が好ましい。
本発明の細胞は、例えば、上述の遺伝子を一過的または安定発現し得る細胞であるが、好ましくは安定発現し得る細胞であり得る。なお、「安定発現」とは、目的遺伝子の発現が一過性ではないことをいい、詳細には、細胞の培養(例えば継代)後、および/または細胞の凍結保存後でも、目的遺伝子の活性レベルが保持されることを意味する。
本発明の細胞は、その分化が抑制または促進されたものであり得、特異的な種々の形質を示す。例えば、本発明の細胞は、骨芽細胞への分化が抑制または促進され得、酸性ムコ多糖量、沈着Ca2+量、アルカリフォスファターゼ活性、上述のマーカー分子の発現量が減少または増加し得る。また、本発明の細胞は、軟骨細胞への分化が抑制または促進され得、酸性ムコ多糖量、アルカリフォスファターゼ活性、上述のマーカー分子の発現量が減少または増加し得る。
本発明の細胞は、自体公知の方法、例えば上述の培養方法により作製できる。
本発明の細胞は、例えば、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化を調節し得る物質、あるいは骨・関節疾患を予防・治療し得る物質のスクリーニング(上述)に有用である。本発明の細胞はまた、骨・関節疾患の病態マーカー遺伝子のスクリーニング、骨および/または軟骨細胞マーカー遺伝子のスクリーニング、骨・関節疾患の病態メカニズムの解析、骨および/または軟骨細胞の分化メカニズムの解析などに有用である。これらは、例えば、マイクロアレイ、プロテインチップ(例えば、抗体チップ、またはサイファージェン社製チップ等の非抗体チップ)等を用いた発現プロファイル解析により行われ得る。
本明細書中で挙げられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
本発明は、nrf2の発現または機能を調節する物質を含む、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化調節剤、runx2リクルートまたはオステオカルシン発現の調節剤、あるいは骨・関節疾患の予防・治療剤を提供する。また、必要に応じて、本発明は、nrf2の発現または機能を調節する物質自体も提供する。
nrf2(p45 NF−E2関連因子2)は、ヒトnrf2(例えば、GenBankアクセッション番号:NM_006164参照)またはそのオルソログ、あるいはそれらの変異体(SNP、ハプロタイプを含む)であり得る。nrf2のオルソログは特に限定されず、例えば哺乳動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、サル、ウサギ、ラット、ハムスター、モルモット、マウス)等の動物に由来するものであり得る。nrf2は、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化調節、または骨・関節疾患の予防・治療に有用な程度にその機能を保持し得る限り、あるいはrunx2リクルートを十分に低減し得る限り、またはnrf2結合部位(例えば、ARE様2、OSE2)に十分に結合し得る限り、そのコードするアミノ酸配列(例えば、配列番号4で表されるヌクレオチド配列によりコードされるアミノ酸配列、あるいは配列番号5で表されるアミノ酸配列)において1以上のアミノ酸の変異(例えば、欠失、置換、付加、挿入)を有していてもよい。なお、通常、nrf2は遺伝子を、Nrf2はタンパク質を示すが、本明細書ではこれらは交換可能に使用される。
一実施形態では、nrf2の発現または機能を調節する物質は、nrf2の発現を促進する物質であり得る。
nrf2の発現とは、nrf2からの翻訳産物(即ち、蛋白質)が産生され且つ機能的な状態でその作用部位に局在することをいう。従って、nrf2の発現を促進する物質は、nrf2の転写、転写後調節、翻訳、翻訳後修飾、局在化および蛋白質フォールディング等の、いかなる段階で作用するものであってもよい。なお、本明細書で使用される場合、nrf2の発現の促進としては、nrf2(蛋白質)自体の補充をも含むものとする。
nrf2の発現を促進する物質の例は、nrf2(タンパク質)、またはnrf2をコードする核酸を含む発現ベクター(nrf2発現ベクター)、チオール・チオン系化合物(例えば、1,2−ジチオール−3−チオン(D3T);Mol.Cell.Biol.vol.22:2883−2892(2002)参照)であり得る。
nrf2は、天然蛋白質または組換え蛋白質であり得る。nrf2は、自体公知の方法により調製でき、例えば、a)nrf2を含む生体試料(例えば、骨、軟骨)からnrf2を回収してもよく、b)宿主細胞(例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞)にnrf2発現ベクター(後述)を導入することにより形質転換体を作製し、該形質転換体により産生されるnrf2を回収してもよく、c)ウサギ網状赤血球ライセート、コムギ胚芽ライセート、大腸菌ライセート等を用いる無細胞系によりnrf2を合成してもよい。nrf2は、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィー、nrf2抗体の使用などの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;これらを組合せた方法などにより適宜精製される。
別の実施形態では、nrf2の発現または機能を調節する物質は、nrf2の発現を抑制する物質であり得る。nrf2の発現を抑制する物質は、nrf2の転写、転写後調節、翻訳、翻訳後修飾、局在化および蛋白質フォールディング等の、いかなる段階で作用するものであってもよい。
nrf2の発現を抑制する物質の例は、nrf2の転写産物、詳細にはmRNAもしくは初期転写産物に対するアンチセンス核酸である。アンチセンス核酸とは、標的mRNA(初期転写産物)を発現する細胞の生理的条件下で該標的mRNA(初期転写産物)とハイブリダイズし得る塩基配列からなり、且つハイブリダイズした状態で該標的mRNA(初期転写産物)にコードされるポリペプチドの翻訳を阻害し得るポリヌクレオチドをいう。アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。また、天然型のアンチセンス核酸は、細胞中に存在する核酸分解酵素によってそのリン酸ジエステル結合が容易に分解されるので、本発明のアンチセンス核酸は、分解酵素に安定なチオリン酸型(リン酸結合のP=OをP=Sに置換)や2’−O−メチル型等の修飾ヌクレオチドを用いて合成もできる。アンチセンス核酸の設計に重要な他の要素として、水溶性および細胞膜透過性を高めること等が挙げられるが、これらはリポソームやマイクロスフェアを使用するなどの剤形の工夫によっても克服できる。アンチセンス核酸の長さは、nrf2の転写産物と特異的にハイブリダイズし得る限り特に制限はなく、短いもので約15塩基程度、長いものでmRNA(初期転写産物)の全配列に相補的な配列を含むような配列であってもよい。合成の容易さや抗原性の問題等から、例えば約15塩基以上、好ましくは約15〜約30塩基、より好ましくは約18塩基〜約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。さらに、アンチセンス核酸は、nrf2の転写産物とハイブリダイズして翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAと結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、mRNAへの転写を阻害し得るものであってもよい。
nrf2の発現を抑制する物質の別の例は、nrf2の転写産物、詳細にはmRNAもしくは初期転写産物を、コード領域の内部(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)で特異的に切断し得るリボザイムである。リボザイムとは核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、最近では当該酵素活性部位の塩基配列を有するオリゴDNAも同様に核酸切断活性を有することが明らかになっているので、本発明では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いるものとする。リボザイムとして最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。また、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res.,29(13):2780−2788(2001)]。
nrf2の発現を抑制する物質の別の例は、RNAi誘導性核酸である。RNAi誘導性核酸とは、細胞内に導入されることにより、RNAi効果を誘導し得るポリヌクレオチドをいい、好ましくはRNAである。RNAi効果とは、mRNAと同一のヌクレオチド配列(またはその部分配列)を含む2本鎖構造のRNAが、当該mRNAの発現を抑制する現象をいう。RNAi効果を得るには、例えば、少なくとも20以上の連続する標的mRNAと同一のヌクレオチド配列(またはその部分配列)を有する2本鎖構造のRNAを用いることが好ましい。2本鎖構造は、異なるストランドで構成されていてもよいし、一つのRNAのステムループ構造によって与えられる2本鎖であってもよい。RNAi誘導性核酸としては、例えばsiRNA、stRNA、miRNAなどが挙げられる。
nrf2の発現を抑制する物質の別の例は、デコイ核酸である。デコイ核酸とは、転写調節因子が結合する領域を模倣するポリヌクレオチドをいい、nrf2の発現を抑制する物質としてのデコイ核酸は、nrf2に対する転写活性化因子が結合する領域を模倣する核酸分子を含むものであり得る。デコイ核酸は、nrf2に対する転写活性化因子が結合する領域を含むものである限り限定されないが、例えば、遺伝子上流約2kbpを含むものであり得る。デコイ核酸としては、例えば、リン酸ジエステル結合部分の酸素原子を硫黄原子で置換したチオリン酸ジエステル結合を有するオリゴヌクレオチド(S−オリゴ)、またはリン酸ジエステル結合を電荷を持たないメチルホスフェート基で置換したオリゴヌクレオチド等、生体内でオリゴヌクレオチドが分解を受けにくくするために改変したオリゴヌクレオチド等が挙げられる。デコイ核酸は転写活性化因子が結合する領域と完全に一致していてもよいが、nrf2に対する転写活性化因子が結合し得る程度の同一性を保持していればよい。デコイ核酸の長さは転写活性化因子が結合する限り特に制限されない。また、デコイ核酸は、同一領域を反復して含んでいてもよい。
nrf2の発現を抑制する物質の別の例は、ターゲティングベクターである。本発明で用いられるターゲティングベクターは、nrf2遺伝子の相同組換えを誘導し得るnrf2遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチドおよび第二のポリヌクレオチド、ならびに必要に応じて選択マーカーを含む。第一および第二のポリヌクレオチドは、nrf2を含むゲノムDNAに対して、相同組換えを生じるのに十分な程度の配列同一性および長さを有するポリヌクレオチドである。第一および第二のポリヌクレオチドは、nrf2遺伝子を含むゲノムDNAにおいて、第一および第二のポリヌクレオチドに対して相同な2つの領域の間に存在するゲノムDNA部分領域が欠失すると、nrf2遺伝子の機能的欠損がもたらされるように選択される。選択マーカーとしては、ポジティブ選択マーカー(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(BPH)遺伝子、ブラスティシジンSデアミナーゼ遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子)、ネガティブ選択マーカー(例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)のチミジンキナーゼ(tk)遺伝子、ジフテリア毒素Aフラグメント(DTA)遺伝子)などが挙げられる。ターゲティングベクターは、ポジティブ選択マーカー、ネガティブ選択マーカーのいずれか一方、または両方を含むことができる。ターゲティングベクターはまた、2以上のリコンビナーゼ標的配列(例えば、バクテリオファージP1由来のCre/loxPシステムで用いられるloxP配列、酵母由来のFLP/FRTシステムで用いられるFRT配列)を含んでいてもよい。
別の実施形態では、nrf2の発現または機能を調節する物質は、nrf2の機能を抑制する物質であり得る。nrf2の機能を抑制する物質としては、nrf2の作用を妨げ得る物質である限り特に限定されないが、nrf2阻害タンパク質(例えば、nrf2ドミナントネガティブ変異体、nrf2抗体、Keap1(Genes Dev.13(1):76−86(1999))、nrf2結合部位(例えば、ARE様2、OSE2)を含むデコイ核酸、これらをコードする核酸を含む発現ベクターが例示される。
nrf2に対する抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよく、周知の免疫学的手法により作製できる。また、該抗体は、抗体のフラグメント(例えば、Fab、F(ab’)2)、組換え抗体(例えば、単鎖抗体)であってもよい。
例えば、ポリクローナル抗体は、nrf2あるいはそのフラグメント(必要に応じて、ウシ血清アルブミン、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)等のキャリア蛋白質に架橋した複合体とすることもできる)を抗原として、市販のアジュバント(例えば、完全または不完全フロイントアジュバント)とともに、動物の皮下あるいは腹腔内に2〜3週間おきに2〜4回程度投与し(部分採血した血清の抗体価を公知の抗原抗体反応により測定し、その上昇を確認しておく)、最終免疫から約3〜約10日後に全血を採取して抗血清を精製することにより取得できる。抗原を投与する動物としては、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、モルモット、ハムスターなどの哺乳動物が挙げられる。
また、モノクローナル抗体は、細胞融合法(例えば、渡邊武、細胞融合法の原理とモノクローナル抗体の作成、谷内昭、高橋利忠編、「モノクローナル抗体とがん−基礎と臨床−」、第2−14頁、サイエンスフォーラム出版、1985年)により作成することができる。例えば、マウスに該因子を市販のアジュバントと共に2〜4回皮下あるいは腹腔内に投与し、最終投与の約3日後に脾臓あるいはリンパ節を採取し、白血球を採取する。この白血球と骨髄腫細胞(例えば、NS−1,P3X63Ag8など)を細胞融合して該因子に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。細胞融合はPEG法[J.Immunol.Methods,81(2):223−228(1985)]でも電圧パルス法[Hybridoma,7(6):627−633(1988)]であってもよい。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、周知のEIAまたはRIA法等を用いて抗原と特異的に結合する抗体を、培養上清中から検出することにより選択できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養は、インビトロ、またはマウスもしくはラット、好ましくはマウス腹水中等のインビボで行うことができ、抗体はそれぞれハイブリドーマの培養上清および動物の腹水から取得できる。
しかしながら、ヒトにおける治療効果と安全性を考慮すると、本発明の抗体は、キメラ抗体、ヒト化またはヒト型抗体であってもよい。キメラ抗体は、例えば「実験医学(臨時増刊号),Vol.6,No.10,1988」、特公平3−73280号公報等を、ヒト化抗体は、例えば特表平4−506458号公報、特開昭62−296890号公報等を、ヒト抗体は、例えば「Nature Genetics,Vol.15,p.146−156,1997」、「Nature Genetics,Vol.7,p.13−21,1994」、特表平4−504365号公報、国際出願公開WO94/25585号公報、「日経サイエンス、6月号、第40〜第50頁、1995年」、「Nature,Vol.368,p.856−859,1994」、特表平6−500233号公報等を参考にそれぞれ作製することができる。
nrf2のドミナントネガティブ変異体とは、nrf2に対する変異の導入によりその活性が低減したものをいう。該ドミナントネガティブ変異体は、天然のnrf2と競合することで間接的にその活性を阻害することができる。該ドミナントネガティブ変異体は、nrf2をコードする核酸に変異を導入することによって作製することができる。変異としては、例えば、機能性部位における、当該部位が担う機能の低下をもたらすようなアミノ酸の変異(例えば、1以上のアミノ酸の欠失、置換、付加)が挙げられる。ドミナントネガティブ変異体は、PCRや公知のキットを用いる自体公知の方法により作製できる。nrf2の機能性部位としては、例えば、DNA結合ドメインであるNeh1ドメインが挙げられる。
nrf2の発現または機能を調節する物質が、核酸分子または蛋白質分子である場合、本発明の剤は、核酸分子または蛋白質分子をコードする核酸分子を含む発現ベクターを有効成分とすることもできる。当該発現ベクターは、上記の核酸分子をコードするオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドが、投与対象である哺乳動物の細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されていなければならない。使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物で機能し得るものであれば特に制限されず、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター、ならびにβ−アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーターなどが挙げられる。また、使用されるプロモーターとしては、骨・軟骨形成能を有する細胞(例えば、骨芽細胞、軟骨細胞)に特異的なプロモーターを用いてもよい。このようなプロモーターは、骨・軟骨形成能を有する細胞に特異的に発現している任意の遺伝子のプロモーターであり得るが、例えば、骨芽細胞特異的プロモーターとしては、I型コラーゲン、オステオカルシン遺伝子由来プロモーターを、軟骨細胞特異的プロモーターとしては、II型コラーゲン遺伝子由来プロモーターを使用できる。本発明はまた、このようなプロモーターを有する発現ベクターを提供する。
発現ベクターは、好ましくは核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含む。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含むこともできる。
発現ベクターとして使用される基本骨格のベクターは、プラスミドまたはウイルスベクターであり得るが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、エプスタイン・バー・ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
本発明の剤は、nrf2の発現または機能を調節する物質に加え、任意の担体、例えば医薬上許容され得る担体を含むことができる。医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水のような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤または錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤、あるいは散剤、顆粒剤等である。
非経口的な投与(例えば、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
本発明の剤の投与量は、有効成分の活性や種類、投与様式(例えば、経口、非経口)、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001mg〜約2.0gである。
本発明の剤は、例えば、医薬または研究用試薬として有用である。本発明の剤が医薬または研究用試薬として使用される場合、例えば、骨または軟骨の癌、骨または軟骨の形成異常、骨粗鬆症(例えば、閉経後骨粗鬆症)、慢性関節リウマチ、関節炎、滑膜炎、変形性関節症、骨大理石病などの骨・関節疾患の予防・治療剤、または該疾患モデルの誘発剤として使用することができる。詳細には、本発明の剤がnrf2の発現または機能を促進する物質を含む場合、骨・軟骨形成能を有する細胞(例えば、骨芽細胞、軟骨細胞)の分化抑制剤として有用である。本発明者らは、nrf2が骨・軟骨形成能を有する細胞の分化を抑制し得る因子であることを見出した。従って、nrf2の発現または機能を促進する物質は、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化を抑制し、以ってその細胞数の減少、あるいは骨・軟骨形成の抑制を引き起こし得ると考えられる。この場合、本発明の剤は、骨・軟骨形成の抑制が所望される疾患の予防・治療、骨・軟骨形成能を有する細胞数の減少、あるいは骨・軟骨形成が抑制された疾患モデル(例えば、細胞、動物)の作製(本明細書中以下、必要に応じて「骨・軟骨形成の抑制が所望される疾患の予防・治療など」と省略する。)のために使用され得る。骨・軟骨形成の抑制が所望される疾患としては、例えば、骨または軟骨の癌、骨または軟骨の形成異常、骨大理石病が挙げられる。骨・軟骨形成が抑制された疾患モデルにおける骨・軟骨形成が抑制された疾患は、骨・軟骨形成の促進が所望される後述の疾患と同様であり得る。
一方、本発明の剤がnrf2の発現または機能を抑制する物質を含む場合、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化促進剤として有用であり得る。本発明者らは、nrf2が骨・軟骨形成能を有する細胞の分化を抑制し得る因子であることを見出した。従って、nrf2の発現または機能を抑制する物質を用いることで、nrf2による骨・軟骨形成能を有する細胞の分化抑制を解除し(即ち、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化を促進し)、以ってその細胞数の増加、あるいは骨・軟骨形成の促進を引き起こし得ると考えられる。この場合、本発明の剤は、骨・軟骨形成の促進が所望される疾患、骨・軟骨形成能を有する細胞数の増加、あるいは骨・軟骨形成が促進された疾患モデル(例えば、細胞、動物)の作製(本明細書中以下、必要に応じて「骨・軟骨形成の促進が所望される疾患の予防・治療など」と省略する。)に使用され得る。骨・軟骨形成の促進が所望される疾患としては、例えば、骨粗鬆症(例えば、閉経後骨粗鬆症)、慢性関節リウマチ、関節炎、滑膜炎、変形性関節症が挙げられる。骨・軟骨形成が促進された疾患モデルにおける骨・軟骨形成が促進された疾患は、骨・軟骨形成の抑制が所望される上述の疾患と同様であり得る。
本発明の剤が、nrf2の発現または機能を調節する上述の物質に加え、有効成分として他の物質(例えば、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化調節薬、骨・関節疾患の予防・治療薬)を含む場合、それらは一緒になった形態(例えば、同一容器中に混合物として格納)、あるいは互いに隔離された形態(例えば、異なる容器に格納)で提供され得る。
本発明はまた、本発明の剤のインビトロ使用の一形態であり得る、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化調節方法を提供する。本方法は、例えば、nrf2の発現または機能を調節する物質を用いて、骨・軟骨形成能を有する細胞におけるnrf2の発現または機能を調節するように培養することを含む。
骨・軟骨形成能を有する細胞は、任意の動物、例えば鳥類、哺乳動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、サル、ヒト、ウサギ、ラット、ハムスター、モルモット、マウス)に由来する細胞であり得る。該細胞は、胚性幹細胞、体性幹細胞等の幹細胞から分化誘導される細胞であり得る。また、本発明の方法により得られる細胞の移植を意図する場合、移植が意図される動物と同種動物由来の細胞を用いることで、同種移植に好適な細胞が得られ、移植が意図される個体由来の細胞を用いることで、同種同系移植に好適な細胞が得られる。該細胞は、マーカー分子(後述)を利用する自体公知の方法(例えば、FACS)により入手できる。
細胞培養に用いられる培地は、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化に適切である限り特に限定されず適宜選択されるが、例えば、最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、F12培地またはRPMI1640培地、あるいはそれらの混合培地を基本培地として含むものなどである。培地への添加剤としては、例えば、各種アミノ酸、各種無機塩、各種ビタミン、各種抗生物質、緩衝剤などが挙げられる。培養条件もまた適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃である。培地は、血清を含んでも含まなくともよいが、細胞移植を意図する場合、未同定成分の混入の防止、感染リスクの軽減などの観点から、無血清培地が好ましい。なお、本発明の方法により得られた細胞は、細胞治療(移植)に用いることができるが、この場合、培養で使用する物質、材料は、同種移植という観点から、細胞治療を受ける被験体と同種動物由来の物質、材料で統一するのが好ましい。
本発明の調節方法は、骨・軟骨形成能を有する細胞から分化調節された細胞(例えば、分化が促進または抑制された細胞)を単離することをさらに含むことができる。細胞の単離は、細胞マーカーを利用する自体公知の方法等により行うことができる。
本発明の調節方法はまた、骨・軟骨形成能を有する細胞から分化誘導された細胞をさらに分化調節することを含むこともできる。骨・軟骨形成能を有する細胞から分化誘導された細胞をさらに分化させる方法は特に限定されるものではないが、例えば、nrf2の発現または機能を調節する物質と他の分化調節物質との共存下で細胞を培養する方法、nrf2の発現または機能を調節する物質の存在下での骨・軟骨形成能を有する細胞の培養後に他の分化調節物質を使用する方法が挙げられる。
本発明の調節方法は、例えば、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化を調節することができるため、あるいは骨・軟骨形成能を有する細胞以外の細胞を幹細胞からより特異的に分化させる際に、骨・軟骨形成能を有する細胞への分化を抑制することによりその分化効率を高めることができるため有用である。
(2.スクリーニング方法)
本発明は、被験物質がnrf2の発現または機能を調節し得るか否かを評価することを含む、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化を調節し得る物質、runx2リクルートまたはオステオカルシン発現を調節し得る物質、あるいは骨・関節疾患を予防・治療し得る物質のスクリーニング方法、ならびに当該スクリーニング方法により得られる物質、および当該物質を含む分化調節剤あるいは予防・治療剤を提供する。
スクリーニング方法に供される被験物質は、いかなる公知化合物および新規化合物であってもよく、例えば、核酸(例えば、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド)、糖質(例えば、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖)、脂質(例えば、飽和または不飽和の直鎖、分岐鎖および/または環を含む脂肪酸)、アミノ酸、蛋白質(例えば、オリゴペプチド、ポリペプチド)、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
本発明のスクリーニング方法は、被験物質がnrf2の発現または機能を調節し得るか否かを評価可能である限り、如何なる形態でも行われ得る。例えば、本発明のスクリーニング方法は、1)nrf2の発現を測定可能な細胞を用いたnrf2の発現量の測定、2)非ヒト動物を用いたnrf2の発現量の測定、3)nrf2の機能を測定可能な再構成系(非細胞系)を用いたnrf2の機能の測定、4)nrf2発現細胞を用いたnrf2の機能の測定などに基づき行われ得る。
上記1)において、nrf2の発現を測定可能な細胞を用いるスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)被験物質とnrf2の発現を測定可能な細胞とを接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞におけるnrf2の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるnrf2の発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、nrf2の発現量を調節する被験物質を選択する工程。
上記方法の工程(a)では、被験物質がnrf2の発現を測定可能な細胞と接触条件下におかれる。nrf2の発現を測定可能な細胞に対する被験物質の接触は、培地中で行われ得る。
nrf2の発現を測定可能な細胞とは、nrf2の産物(例えば、転写産物、翻訳産物)の発現レベルを直接的または間接的に評価可能な細胞をいう。nrf2の産物の発現レベルを直接的に評価可能な細胞は、nrf2発現細胞であり得、一方、nrf2の産物の発現レベルを間接的に評価可能な細胞は、nrf2転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞であり得る。nrf2の発現を測定可能な細胞は、動物細胞、例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サル、ヒト等の哺乳動物細胞であり得る。
nrf2発現細胞は、nrf2を潜在的に発現するものである限り特に限定されない。かかる細胞は、当業者であれば容易に同定でき、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株などを使用できる。また、nrf2発現細胞としては、骨・軟骨形成能を有する細胞(例えば、骨芽細胞、軟骨細胞)を使用することもまた好ましい。
nrf2転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、nrf2転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子を含む細胞である。nrf2転写調節領域、レポーター遺伝子は、発現ベクター中に挿入され得る。nrf2転写調節領域は、nrf2の発現を制御し得る領域である限り持に限定されないが、例えば、転写開始点から上流約2kbpまでの領域、あるいは該領域の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つnrf2の転写を制御する能力を有する領域などが挙げられる。レポーター遺伝子は、検出可能な蛋白質または検出可能な物質を生成する酵素をコードする遺伝子であればよく、例えばGFP(緑色蛍光蛋白質)遺伝子、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、LUC(ルシフェラーゼ)遺伝子、CAT(クロラムフェニコルアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子等が挙げられる。
nrf2転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子が導入される細胞は、nrf2転写調節機能を評価できる限り、即ち、該レポーター遺伝子の発現量が定量的に解析可能である限り特に限定されない。しかしながら、nrf2に対する生理的な転写調節因子を発現し、nrf2の発現調節の評価により適切であると考えられることから、該導入される細胞としては、nrf2発現細胞が好ましい。
被験物質とnrf2の発現を測定可能な細胞とが接触される培地は、用いられる細胞の種類などに応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件もまた、用いられる細胞の種類などに応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
上記方法の工程(b)では、先ず、被験物質を接触させた細胞におけるnrf2の発現量が測定される。発現量の測定は、用いた細胞の種類などを考慮し、自体公知の方法により行われ得る。例えば、nrf2の発現を測定可能な細胞として、nrf2発現細胞を用いた場合、発現量は、nrf2の産物、例えば、転写産物または翻訳産物を対象として自体公知の方法により測定できる。例えば、転写産物の発現量は、細胞からtotal RNAを調製し、RT−PCR、ノザンブロッティング等により測定され得る。また、翻訳産物の発現量は、細胞から抽出液を調製し、免疫学的手法により測定され得る。免疫学的手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol.70:419−439(1980))、蛍光抗体法などが使用できる。一方、nrf2の発現を測定可能な細胞として、nrf2転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞を用いた場合、発現量は、レポーターのシグナル強度に基づき測定され得る。
また、nrf2を発現可能な細胞を用いた場合、核内nrf2量(即ち、細胞質から核内に移行したnrf2量)を測定してもよい。細胞内局在は、自体公知の方法により測定できる。例えば、レポーター遺伝子と融合させたnrf2を適切な細胞に導入し、被験物質の存在下において培地中で培養した後、共焦点顕微鏡により細胞内または核内における蛍光シグナルまたはそれらのシグナル比を測定すればよい。また、nrf2抗体を用いる免疫染色によっても、nrf2の細胞内局在を測定できる。
次いで、被験物質を接触させた細胞におけるnrf2の発現量が、被験物質を接触させない対照細胞におけるnrf2の発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質を接触させない対照細胞におけるnrf2の発現量は、被験物質を接触させた細胞におけるnrf2の発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
上記方法の工程(c)では、nrf2の発現量を調節する被験物質が選択される。例えば、nrf2の発現量を増加させる(発現を促進する)被験物質は、骨・軟骨形成の抑制が所望される疾患の予防・治療などのために使用され得る。一方、nrf2の発現量を減少させる(発現を抑制する)被験物質は、骨・軟骨形成の促進が所望される疾患の予防・治療などのために使用され得る。
上記2)において、非ヒト動物を用いる本発明のスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含む:
(a)被験物質を動物に投与する工程;
(b)被験物質を投与した動物におけるnrf2の発現量を測定し、該発現量を被験物質を投与しない対照動物におけるnrf2の発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、nrf2の発現量を調節する被験物質を選択する工程。
上記方法の工程(a)では、動物として、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サル等の非ヒト哺乳動物、およびニワトリ等の鳥類などの動物が使用される。動物としてはまた、骨・関節疾患モデル動物が使用され得る。被験物質の動物への投与は自体公知の方法により行われ得る。
上記方法の工程(b)では、nrf2の発現量は、自体公知の方法により測定され得る。例えば、nrf2の発現量として、骨または軟骨組織における発現量が測定される。本工程(b)における発現量の比較および上記方法の工程(c)は、nrf2の発現を測定可能な細胞を用いるスクリーニング方法と同様に行われ得る。
上記3)において、nrf2の機能を測定可能な再構成系とは、nrf2(タンパク質)およびその他の因子を含む、被験物質によるnrf2の機能調節能を評価可能な非細胞系をいう。nrf2の機能を測定可能な再構成系を用いるスクリーニング方法は、種々の形態で行われ得る。例えば、このようなスクリーニング方法としては、3a)nrf2およびその共役因子を含む複合体の形成を被験物質が調節し得るか否かを評価することを含む方法、3b)nrf2とnrf2標的遺伝子の上流に存在するシス作用性エレメントを含むDNAとの結合を被験物質が調節し得るか否かを評価することを含む方法、3c)PKCδによるnrf2のリン酸化を被験物質が調節し得るか否かを評価することを含む方法が挙げられる。
詳細には、上記3a)の方法は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)被験物質ならびにnrf2およびその共役因子を接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた場合に形成された、nrf2およびその共役因子を含む複合体量を測定し、該複合体量を被験物質を接触させない場合に形成された複合体量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、複合体の形成を調節する被験物質を選択する工程。
上記方法の工程(a)では、nrf2共役因子として、例えば、Keap1、Maf(例えば、MafF、MafG、MafK)、CBP(CREB結合タンパク質)が使用できる。接触は、複合体の形成を可能とするような溶液中で行われ得る。
上記方法の工程(b)では、先ず、被験物質を接触させた場合に形成された複合体量が測定される。複合体量の測定は、例えば、表面プラズモン共鳴を利用する方法(例えば、Biacoreの使用)、免疫学的方法(例えば、免疫沈降法)、水晶振動子マイクロバランス(Quartz Crystal Microbalance:QCM)法、エナジートランスファーを検出する方法が挙げられる。
次いで、被験物質を接触させた場合に形成された複合体量が、被験物質を接触させない場合における複合体量と比較される。複合体量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質を接触させない場合における複合体量は、被験物質を接触させた場合における複合体量の測定に対し、事前に測定した複合体量であっても、同時に測定した複合体量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した複合体量であることが好ましい。
上記方法の工程(c)では、複合体量を調節する被験物質が選択される。例えば、nrf2とMaf等のnrf2共役因子とを含む複合体量を増加させる(複合体形成を促進する)、あるいはnrf2とKeap1、CBP等のnrf2共役因子とを含む複合体量を減少させる(複合体形成を抑制する)被験物質は、骨・軟骨形成の抑制が所望される疾患の予防・治療などのために使用され得る。一方、nrf2とKeap1、CBP等のnrf2共役因子とを含む複合体量を増加させる、あるいはnrf2とMaf等のnrf2共役因子とを含む複合体量を減少させる被験物質は、骨・軟骨形成の促進が所望される疾患の予防・治療などのために使用され得る。
上記3b)の方法は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)被験物質ならびにnrf2およびnrf2標的遺伝子の上流に存在するシス作用性エレメントを含むDNAを接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた場合に形成された、nrf2および該DNAを含むタンパク質−DNA複合体量を測定し、該複合体量を被験物質を接触させない場合に形成された複合体量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、複合体の形成を調節する被験物質を選択する工程。
上記方法の工程(a)では、シス作用性エレメントとして、例えば、本発明者らが見出したnrf2標的遺伝子であるオステオカルシンの上流に存在するARE様2およびOSE2が使用できる。また、ARE様2またはOSE2とnrf2との結合を阻害する物質はしばしば、他のnrf2標的遺伝子のシス作用性エレメントとnrf2との結合をも阻害し得ると考えられるため、シス作用性エレメントとしてHO−1、Prx−1、A170、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GSTs)、NAD(P)H:キノンオキシドレダクターゼI等の遺伝子上流に見出されるnrf2結合部位もまた使用できる(例えば、Advances in Pharmacology 38,293−328,1997、Free Radical Research 31,273−300,1999参照)。しかし、作用点に対する影響を直接的に評価することがより適切であるため、シス作用性エレメントとしてはARE様2およびOSE2が好ましい。接触は、タンパク質−DNA複合体の形成を可能とするような溶液中で行われ得る。
上記方法の工程(b)では、タンパク質−DNA複合体量の測定、比較は、nrf2とnrf2共役因子とを含む複合体量の測定と同様の方法論により行われ得るが、測定の他の方法論としては、例えば、EMSA(Electrophoretic Mobility Shift Assay)またはゲルシフトアッセイが挙げられる。なお、シス作用性エレメントとしてARE様2および/またはOSE2を使用する場合、被験物質の中からより特異性が高い物質を選択するため、ARE様2および/またはOSE2にのみ結合し、それ以外のnrf2結合部位には結合しないことを確認してもよい。
上記方法の工程(c)では、タンパク質−DNA複合体量を調節する被験物質が選択される。例えば、複合体量を増加させる(複合体形成を促進する)被験物質は、骨・軟骨形成の抑制が所望される疾患の予防・治療などのために使用され得る。一方、複合体量を減少させる被験物質は、骨・軟骨形成の促進が所望される疾患の予防・治療などのために使用され得る。
上記3c)の方法は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)被験物質、ならびにnrf2(タンパク質)およびPKCδを接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた場合のリン酸化nrf2量を測定し、該量を被験物質を接触させない場合の量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、PKCδによるnrf2のリン酸化を調節する被験物質を選択する工程。
上記方法の工程(a)では、PKCδによるnrf2のリン酸化が可能であるアッセイ系において、被験物質、nrf2およびPKCδが接触される。nrf2は、40番目のSerがプロテインキナーゼCδ(PKCδ)によりリン酸化されると、Keap1からの解離が促進される。本アッセイ系は、PKCδの触媒活性に必要な補因子を含んで構成される。
上記方法の工程(b)では、リン酸化レベルの測定は、自体公知の方法、例えば、抗リン酸化セリン抗体を用いる免疫学的手法により測定される。本工程(b)におけるリン酸化レベルの比較は、上記1)または3a)の方法と同様に行われ得る。
上記方法の工程(c)では、リン酸化nrf2量を調節する被験物質が選択される。例えば、リン酸化nrf2量を増加させる(リン酸化を促進する)被験物質は、Keap1からのnrf2の解離の促進を通じて、runx2依存的なオステオカルシン発現を抑制し得る。従って、このような被験物質は、骨・軟骨形成の抑制が所望される疾患の予防・治療などのために使用され得る。一方、リン酸化nrf2量を減少させる(リン酸化を抑制する)被験物質は、runx2依存的なオステオカルシン発現の抑制を解除(即ち、オステオカルシン発現を促進)し得ることから、骨・軟骨形成の促進が所望される疾患の予防・治療などのために使用され得る。
上記4)において、nrf2発現細胞を用いるスクリーニング方法は、例えば、下記の工程(a)〜(c)を含み得る:
(a)被験物質とnrf2発現細胞とを接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞におけるnrf2の機能レベルを測定し、該機能レベルを被験物質を接触させない対照細胞における機能レベルと比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、nrf2の機能レベルを調節する被験物質を選択する工程。
上記方法の工程(a)では、被験物質がnrf2発現細胞と接触条件下におかれる。nrf2発現細胞に対する被験物質の接触は、培地中で行われ得る。ここで用いられるnrf2発現細胞は、タンパク質レベルでのnrf2のアッセイが可能な程度にnrf2を発現し得る細胞であり得る。
上記方法の工程(b)では、先ず、被験物質を接触させた細胞におけるnrf2の機能レベルが測定される。nrf2の機能レベルは、例えば、細胞におけるリン酸化nrf2量、runx2リクルートの程度、オステオカルシン発現量またはそのプロモーター活性を指標にして測定、評価できる。これらの測定は、自体公知の方法により行うことができ、例えば、リン酸化nrf2量は抗リン酸化セリン抗体を用いた免疫学的手法により、runx2リクルートの程度はChIPアッセイにより、オステオカルシン発現量は免疫学的手法、PCR法、ノザンブロッティングにより、プロモーター活性はレポーターアッセイにより測定できる。なお、本工程(b)における機能レベルの比較は、上述した比較と同様に行われ得る。
上記方法の工程(c)では、機能レベルを調節する被験物質が選択される。例えば、リン酸化nrf2量を増加させる(促進する)、あるいはrunx2リクルートの程度、オステオカルシン発現量またはそのプロモーター活性を減少させる(抑制する)被験物質は、骨・軟骨形成の抑制が所望される疾患の予防・治療などのために使用され得る。一方、これらの反対の作用を有する被験物質は、骨・軟骨形成の促進が所望される疾患の予防・治療などのために使用され得る。
本発明のスクリーニング方法は、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化を調節し得る物質、骨・関節疾患を予防・治療し得る物質、あるいはrunx2リクルートまたはオステオカルシン発現を調節し得る物質などのスクリーニングを可能とする。従って、本発明のスクリーニング方法は、医薬または研究用試薬の開発などに有用である。
(3.nrf2変異の同定方法)
本発明は、nrf2の特定の変異が骨・軟骨形成能を有する細胞の分化に及ぼす影響、あるいは骨・関節疾患の発症リスクに及ぼす影響を解析することを含む、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化に変化をもたらす、あるいは骨・関節疾患の発症リスクに変化をもたらすnrf2変異の同定方法、当該方法により同定されるnrf2変異を含むタンパク質・核酸分子を提供する。
nrf2変異は、nrf2における任意の変異であり、nrf2の多型、nrf2の人工変異を含む。nrf2の多型とは、ある母集団において、nrf2遺伝子を含むゲノムDNAに一定頻度で見出されるヌクレオチド配列の変異を意味し、nrf2遺伝子を含むゲノムDNAにおける1以上のDNAの置換、欠失、付加(例えば、SNP、ハプロタイプ)、ならびに該ゲノムDNA中の部分領域の反復、逆位、転座などであり得る。本発明の方法により同定されるnrf2の多型のタイプは、nrf2における全てのタイプの多型のうち、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化効率に変化をもたらし得るヌクレオチド配列の変異、あるいは所定の疾患(例えば、骨・関節疾患)に罹患した動物と罹患していない動物との間で頻度が異なるヌクレオチド配列の変異であり得る。なお、nrf2多型の解析対象となる動物は上述の通り特に限定されないが、ヒトが好ましい。
解析は、自体公知の方法により行われ得る。例えば、連鎖解析等の解析方法の結果、疾患(例えば、骨・関節疾患)の発症頻度、重症度に応じて特定の多型の保有頻度に有意差が認められたとき、そのタイプの多型は、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化、あるいは骨・関節疾患の発症リスクに変化をもたらす多型であると判定され得る。また、解析はインビトロで行うことも可能である。例えば、特定の変異(例えば、多型)を含むnrf2発現ベクターを導入した骨・軟骨形成能を有する細胞を培養し、その分化効率を、対照nrf2発現ベクターを導入した対照細胞での効率と比較することで、変異が解析され得る。
本発明の同定方法は、哺乳動物由来の生体試料から調製されたDNAサンプルをシークエンシング(sequencing)に供し、nrf2多型の新たなタイプを決定する工程、あるいはヌクレオチド変異の導入によりnrf2変異体を人工的に作製する工程をさらに含むこともできる。生体試料は、nrf2の発現組織(例えば、骨、軟骨)または細胞(例えば、骨芽細胞、軟骨細胞)あるいはその他の試料(例えば、血液)のみならず、毛髪、爪、皮膚、粘膜等のゲノムDNAを含む任意の組織も使用できる。入手の容易性、人体への負担等を考慮すれば、生体試料は、毛髪、爪、皮膚、粘膜、血液、血漿、血清、唾液などが好ましい。多型の決定は、由来が異なる生体試料に含まれるゲノムまたは転写産物のヌクレオチド配列を多数解析し、決定されたヌクレオチド配列中に一定頻度で見出される変異を同定することで行われ得る。
本発明の同定方法は、例えば、所定の疾患の発症リスクに影響を及ぼし得る多型の同定、あるいはnrf2変異体(例えば、分化調節能または特定の活性が増強または抑制された変異体)の作製などに有用である。
(4.判定方法および診断剤)
(4.1.発現量の測定に基づく判定方法および診断剤)
本発明は、nrf2の発現量の測定に基づく、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化(ならびに/あるいは骨・関節疾患)に対する動物の生体状態の判定方法を提供する。
一実施形態では、本発明の判定方法は、以下の工程(a)、(b)を含む:
(a)動物から採取された生体試料においてnrf2の発現量を測定する工程;
(b)nrf2の発現量に基づき、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化(ならびに/あるいは骨・関節疾患)に対する動物の生体状態を評価する工程。
上記方法の工程(a)では、動物から採取した生体試料においてnrf2の発現量が測定される。動物は上述の通り特に限定されないが、ヒトが好ましい。生体試料は、nrf2の発現量を測定可能な試料である限り特に限定されず、例えば骨、軟骨が挙げられる。nrf2の発現量の測定は、本発明のスクリーニング方法と同様に行われ得る。
上記方法の工程(b)では、nrf2の発現量に基づき、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化に対する動物の生体状態が評価され得る。詳細には、先ず、測定されたnrf2の発現量が、該分化の異常を伴わない動物または正常動物におけるnrf2の発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行われる。該分化の異常を伴わない動物または正常動物におけるnrf2の発現量は、自体公知の方法により決定できる。
次いで、nrf2の発現量の比較結果より、動物が骨・軟骨形成能を有する細胞の分化の異常を有している可能性があるか否か、あるいは所定の疾患に罹患している可能性があるか否か、または将来的に罹患する可能性が高いか低いかが判断され得る。本実施例の結果より、nrf2の発現量が高い場合には骨・軟骨形成能を有する細胞の分化がより抑制され、一方、nrf2の発現量が低い場合には骨・軟骨形成能を有する細胞の分化がより促進され得ると考えられる。また、特定の疾患の発症前後に、当該疾患に関連する特定の遺伝子の発現量の変化がしばしば観察されることが知られている。例えば、後述の実施例でも、閉経後骨粗鬆症モデル動物においてnrf2の発現上昇が確認されている。従って、nrf2の発現量の解析より、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化の異常、ならびに/あるいは所定の疾患の発症または発症リスクを判定することが可能であると考えられる。
本発明はまた、nrf2の発現量の測定用試薬を含む、上記判定を可能とする診断剤を提供する。
nrf2の発現量の測定用試薬は、nrf2の発現を定量可能である限り特に限定されないが、例えば、上述したnrf2に対する抗体、nrf2転写産物に対する核酸プローブ、またはnrf2転写産物を増幅可能な複数のプライマーを含むものであり得る。これらは、標識用物質で標識されていても標識されていなくともよい。標識用物質で標識されていない場合、本発明の診断剤は、該標識用物質をさらに含むこともできる。標識用物質としては、例えば、FITC、FAM等の蛍光物質、ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン等の発光物質、3H、14C、32P、35S、123I等の放射性同位体、ビオチン、ストレプトアビジン等の親和性物質などが挙げられる。
nrf2転写産物に対する核酸プローブは、DNA、RNAのいずれでもよいが、安定性等を考慮するとDNAが好ましい。また、該プローブは、1本鎖または2本鎖のいずれであってもよい。該プローブのサイズは、nrf2の転写産物を検出可能である限り特に限定されないが、好ましくは約15〜1000bp、より好ましくは約50〜500bpである。該プローブは、マイクロアレイのように基板上に固定された形態で提供されてもよい。
nrf2を増幅可能な複数のプライマー(例えば、プライマー対)は、検出可能なサイズのヌクレオチド断片が増幅されるように選択される。検出可能なサイズのヌクレオチド断片は特に限定されないが、例えば約100bp以上、好ましくは約200bp以上、より好ましくは約400bp以上の長さを有し得る。プライマーのサイズは、nrf2を増幅可能な限り特に限定されないが、好ましくは約15〜100bp、より好ましくは約18〜50bp、さらにより好ましくは約20〜30bpであり得る。nrf2転写産物を定量可能な手段がプライマーである場合、本発明の診断剤は、逆転写酵素をさらに含むことができる。
本発明の上記判定方法および診断剤は、例えば、所定の被験体における骨・軟骨形成能を有する細胞の分化異常、骨・関節疾患の発症または発症リスクなどを判定し得るため、あるいは所定の被験体における該異常または疾患がnrf2の発現の抑制または促進に起因するものであると判定し得るため、該被験体における所定の疾患に対する治療指針の決定、あるいは所定の疾患等の予防を目的とする生活習慣改善などに有用である。
(4.2.多型の測定に基づく判定方法および診断剤)
本発明は、nrf2の多型の測定に基づく、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化(ならびに/あるいは骨・関節疾患)に対する動物の生体状態の判定方法を提供する。
一実施形態では、本発明の判定方法は、以下の工程(a)、(b)を含む:
(a)動物から採取された生体試料においてnrf2の多型を測定する工程;
(b)nrf2の多型に基づき、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化に対する動物の生体状態を評価する工程。
上記方法の工程(a)では、動物から採取された生体試料においてnrf2の多型が測定される。動物は上述の通り特に限定されないが、ヒトが好ましい。生体試料は、本発明の同定方法で上述したものと同様であり得る。
多型のタイプの測定は、自体公知の方法により行われ得る。例えば、TaqMan PCR法、インベーダー法、RFLP(制限酵素切断断片長多型)法、PCR−SSCP(一本鎖DNA高次構造多型解析)法、ASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法、ダイレクトシークエンス法、ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法などが使用できる。
上記方法の工程(b)では、nrf2の多型に基づき、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化に対する動物の生体状態が評価され得る。詳細には、動物が細胞分化異常(例えば、過剰な促進または抑制)を有している可能性があるか否か、あるいは所定の疾患に将来的に罹患する可能性が高いか低いかが判断され得る。本実施例の結果より、nrf2がその機能を増強させるような多型を含む場合には骨・軟骨形成能を有する細胞の分化がより抑制され、一方、nrf2がその機能を低下させるような多型を含む場合には分化がより促進され得ると考えられる。また、特定の疾患を発症しやすい動物では、当該疾患に関連する遺伝子に特定のタイプの多型をしばしば有することが知られている。従って、nrf2の機能を増強または低下させるような多型を含む動物は、骨・関節疾患を発症する可能性が相対的に高いと考えられる。従って、多型の解析より、所定の疾患の発症可能性を判断することが可能であると考えられる。なお、例えば、オープンリーディングフレーム(ORF)内に含まれるnrf2の多型として、配列番号4で表されるヌクレオチド配列において、327番目のアデニンがグアニンに置換されたもの、1663番目のアデニンがグアニンに置換されたものが報告されており(JBIRC H−Invitational Database参照)、測定対象となり得る多型はこのような多型であり得る。また、測定対象となり得る多型は、例えば、本発明の同定方法により得られたものであり得る。
本発明はまた、nrf2の多型の測定用試薬を含む、上記判定を可能とする診断剤を提供する。
nrf2の多型の測定用試薬は、多型のタイプを決定可能である限り特に限定されず、多型部位を含む部分ペプチドに対する特異的な抗体、特定のタイプの多型を有するnrf2を特異的に測定可能である核酸プローブ、あるいは特定のタイプの多型を有するnrf2を特異的に増幅可能である複数のプライマーを含むものであり得る。核酸プローブ、プライマーは、nrf2を含むゲノムDNAまたはnrf2転写産物に対するものであり得る。該試薬は、標識用物質で標識されていてもよい。また、該試薬が標識用物質で標識されていない場合、本発明の診断剤は、該標識用物質をさらに含むこともできる。本発明の診断剤はまた、核酸プローブ、プライマー、転写産物またはゲノムDNAの抽出用試薬を含んでいてもよい。
多型部位を含む部分ペプチドに対する特異的な抗体は、該多型を含まないnrf2よりも、該多型を含むnrf2をより選択的に認識するものである限り特に限定されない。多型部位を含む部分ペプチドに対する特異的な抗体の作製は、抗原として使用する部分ペプチドを適切に選択することにより行われ得る。例えば、特定の多型に対する認識性を高めるため、多型部位を含むサイズがより短い部分ペプチドが好ましく使用される。部分ペプチドのサイズは、免疫原性を有する限り特に限定されず、例えば8、10または12以上の連続するアミノ酸からなるペプチドであり得る。また、多型部位を含むサイズがより短い部分ペプチドについてハプテン化し、免疫原性を持たせることも可能であるため、部分ペプチドのサイズは、必ずしも上記サイズに限定されるものではない。
特定のタイプの多型を有するnrf2を特異的に測定可能である核酸プローブは、特定のタイプの多型を有するnrf2を選別可能である限り特に限定されない。該プローブはDNA、RNAのいずれでもよいが、安定性等を考慮するとDNAが好ましい。また、該プローブは、1本鎖または2本鎖のいずれであってもよい。例えば、多型がSNPである場合、該プローブのサイズは、所定のSNPを有するnrf2を選別可能とするため短ければ短いほどよく、例えば、約15〜30bpのサイズであり得る。該プローブにより、例えばASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法が可能となる。
特定のタイプの多型を有するnrf2を特異的に増幅可能である複数のプライマー(例えば、プライマー対)は、測定可能なサイズのヌクレオチド断片が増幅されるように選択される。このような複数のプライマーは、例えば、いずれか一方のプライマーの3’末端に多型部位を含むように設計される。測定可能なサイズのヌクレオチド断片、プライマーのサイズは、上述と同様であり得る。nrf2の多型を測定し得る手段がnrf2転写産物に対する複数のプライマーである場合、本発明の診断剤は、逆転写酵素をさらに含むことができる。
また、nrf2の多型の測定用試薬として、特定の多型部位を認識する制限酵素を含むものを挙げることもできる。このような試薬によれば、RFLPによる多型解析が可能となる。
本発明の上記判定方法および診断剤は、例えば、所定の被験体における骨・軟骨形成能を有する細胞の分化異常、骨・関節疾患の発症リスクなどを判定し得るため、あるいは所定の被験体における該異常または疾患がnrf2の発現の抑制または促進に起因するものであると判定し得るため、該被験体における所定の疾患に対する治療指針の決定、あるいは所定の疾患等の予防を目的とする生活習慣改善などに有用である。
(4.3.nrf2の発現または機能を調節する物質を用いる判定方法および診断剤)
本発明は、nrf2の発現または機能を調節する物質を用いる、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化効率の判定方法を提供する。
一実施形態では、本発明の判定方法は、以下の工程(a)、(b)を含む:
(a)nrf2の発現または機能を調節する物質を用いて、動物から採取された骨・軟骨形成能を有する細胞を培養する工程;
(b)培養された該細胞の形質に基づき、該細胞の分化効率を評価する工程。
上記方法の工程(a)では、nrf2の発現または機能を調節する物質の存在下において、動物から採取された骨・軟骨形成能を有する細胞(例えば、骨芽細胞、軟骨細胞等の骨または軟骨由来細胞)が、培地中で培養され得る。nrf2の発現または機能を調節する物質は上述の通りであり得るが、nrf2発現ベクターが好ましい。動物もまた上述の通りであり得るが、好ましくは、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化効率の判定が所望される被験体(例えば、nrf2の発現または機能を調節する物質による治療が検討されている被験体)から採取された細胞が使用され得る。
上記方法の工程(b)では、nrf2の発現または機能を調節する物質を用いて培養された細胞の形質の解析結果に基づき、分化効率が評価され得る。細胞の形質の解析は、骨・軟骨形成能を有する細胞を特徴付けることができる限り特に限定されず、例えば、酸性ムコ多糖量、沈着Ca2+量、アルカリフォスファターゼ活性、骨芽細胞特異的なマーカー分子(例えば、I型コラーゲン、オステオカルシン)、軟骨細胞特異的なマーカー分子(例えば、アグレカン(aggrecan)、II型コラーゲン、X型コラーゲン)等の骨・軟骨形成能を有する細胞に特異的なマーカー分子の発現量の測定によりなされ得る。また、分化効率の評価は、nrf2の発現または機能を調節する物質を用いる所定の疾患の予防・治療の有用性を肯定する程度に十分なものであるか否かの観点から行われてもよい。さらに、必要に応じて、nrf2の発現または機能を調節する物質を用いて培養された細胞の分化効率は、該物質を用いて培養された対照細胞(例えば、正常細胞)の分化効率と比較されてもよい。分化効率の比較は、例えば、形質についてのパラメータの有意差の有無に基づいて行なわれる。対照細胞の分化効率は、動物から採取され、且つ該物質を用いて培養された細胞の分化効率の測定に対し、事前に測定した効率であっても、同時に測定した効率であってもよい。
本発明はまた、nrf2の発現または機能を調節する物質を含む、上記判定を可能とする診断剤を提供する。
本発明の上記判定方法および診断剤は、例えば、所定の被験体における骨・軟骨形成能を有する細胞の分化異常を判定し得るため、あるいは所定の被験体にnrf2の発現または機能を調節する物質を用いる予防・治療の効果を予測し得るため、該被験体における所定の疾患に対する治療指針の決定などに有用である。
(5.キット)
本発明は、本明細書中で言及した任意の物質、試薬等の構成要素を含むキット(構成要素のセットまたは組合せ)を提供する。
一実施形態では、本発明のキットは、以下(a)、(b)を含む:
(a)nrf2の発現または機能を調節する物質、ならびに/あるいはnrf2の発現量または多型の測定用試薬;
(b)骨・軟骨形成能を有する細胞の形質解析用試薬、ならびに/あるいは骨・軟骨形成能を有する細胞の分化調節用試薬。
上記キットの構成要素(a)において、nrf2の発現または機能を調節する物質、nrf2の発現量または多型の測定用試薬は、上述の通りである。
上記キットの構成要素(b)において、骨・軟骨形成能を有する細胞の形質解析用試薬は、該細胞特異的な形質の解析を可能とする成分を含むものである限り特に限定されず、例えば、骨・軟骨形成能を有する細胞の染色用試薬(例えば、アリザリンレッド染色、アルシアンブルー染色、沈着Ca2+量の定量を可能とする成分を含む試薬)、あるいは骨・軟骨形成能を有する細胞に特異的な活性(例えば、アルカリフォスファターゼ活性)の測定用試薬、骨・軟骨形成能を有する細胞の同定用試薬(例えば、上述した骨芽細胞または軟骨細胞特異的なマーカー分子に対する抗体、あるいは該マーカー分子を検出または定量可能な核酸プローブまたは複数のプライマーを含む試薬)が挙げられる。
骨・軟骨形成能を有する細胞の分化調節用試薬は、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化を調節し得る物質(例えば、上述した骨芽細胞または軟骨細胞の分化を調節し得る物質)を含むものであり得る。
本発明のキットは、本発明の剤の作製、ならびに本発明の判定方法などを簡便に行い得るため有用である。
(6.細胞)
本発明は、nrf2の発現が調節された、骨・軟骨形成能を有する細胞を提供する。
本発明の細胞は、骨・軟骨形成能を有する任意の細胞であり得、例えば、骨芽細胞、軟骨細胞が挙げられる。本発明の細胞はまた、例えば、nrf2の発現または機能を調節する物質(例えば、nrf2発現ベクター)が導入されたnrf2発現細胞であり得る。本発明の細胞はさらに、例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、サル、ヒト等の哺乳動物、ニワトリ等の鳥類などの動物に由来する細胞であり得るが、なかでも哺乳動物由来の細胞が好ましい。本発明の細胞はまた、例えば初代培養細胞または細胞株(例えば、初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株)であり得るが、好ましくは細胞株である。
本発明では、骨・軟骨形成能を有する細胞として、骨芽細胞株、軟骨細胞株が好ましい。骨芽細胞株としては、例えばMC3T3−E1細胞、SV−HFO細胞、TE−85細胞、U2OS細胞が挙げられるが、なかでもMC3T3−E1細胞が好ましい。遺伝子が導入される軟骨細胞株としては、例えばATDC5細胞、HCS−2/8細胞、C20/A4細胞が挙げられるが、なかでもATDC5細胞が好ましい。
本発明の細胞は、例えば、上述の遺伝子を一過的または安定発現し得る細胞であるが、好ましくは安定発現し得る細胞であり得る。なお、「安定発現」とは、目的遺伝子の発現が一過性ではないことをいい、詳細には、細胞の培養(例えば継代)後、および/または細胞の凍結保存後でも、目的遺伝子の活性レベルが保持されることを意味する。
本発明の細胞は、その分化が抑制または促進されたものであり得、特異的な種々の形質を示す。例えば、本発明の細胞は、骨芽細胞への分化が抑制または促進され得、酸性ムコ多糖量、沈着Ca2+量、アルカリフォスファターゼ活性、上述のマーカー分子の発現量が減少または増加し得る。また、本発明の細胞は、軟骨細胞への分化が抑制または促進され得、酸性ムコ多糖量、アルカリフォスファターゼ活性、上述のマーカー分子の発現量が減少または増加し得る。
本発明の細胞は、自体公知の方法、例えば上述の培養方法により作製できる。
本発明の細胞は、例えば、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化を調節し得る物質、あるいは骨・関節疾患を予防・治療し得る物質のスクリーニング(上述)に有用である。本発明の細胞はまた、骨・関節疾患の病態マーカー遺伝子のスクリーニング、骨および/または軟骨細胞マーカー遺伝子のスクリーニング、骨・関節疾患の病態メカニズムの解析、骨および/または軟骨細胞の分化メカニズムの解析などに有用である。これらは、例えば、マイクロアレイ、プロテインチップ(例えば、抗体チップ、またはサイファージェン社製チップ等の非抗体チップ)等を用いた発現プロファイル解析により行われ得る。
本明細書中で挙げられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
[1]試薬
ddYマウスは三協ラボサービス(東京)より購入した。MC3T3−E1細胞およびATDC5細胞は理化学研究所バイオリソースセンター(筑波)より購入した。ECLTM検出試薬、ペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG抗体は、いずれもAmersham Life Science(Buckinghamshire,England)より購入した。Taqポリメラーゼ、各種制限酵素はTakara Biochemical(大津)より購入した。Quantum Prep Freeze DNA Gel抽出スピンカラムおよびBio−Radタンパク質アッセイ試薬は、Bio−rad Laboratories(Hercules,CA,USA)より購入した。DIG RNA標識キットおよび抗DIG抗体はRoche Diagnostics(Mannheim,Germany)より購入した。Plus試薬およびリポフェクタミン試薬はInvitrogen(San Diego,CA,USA)より購入した。pRL−TK、pRL−SV40およびデュアル−ルシフェラーゼレポーターアッセイシステムはPromega(Madison,WI,USA)より購入した。α−最小必須培地(α−MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、最小必須培地(MEM)、Opti−MEM1低減血清培地、ダルベッコ改変イーグル培地/栄養混合ハムF−12=1:1、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)およびエチジウムブロマイド溶液はGibco BRL(Gaithersburg,MD,USA)より購入した。オリゴヌクレオチドはシグマジェノシスジャパン(北海道)より購入した。トランスフェリン、インスリン、亜セレン酸ナトリウムはSigma Aldrich(St.Louis,MO,USA)より購入した。ISOGENは和光純薬工業(大阪)より購入した。その他の化合物は市販の特級品を用いた。
[2]MC3T3−E1細胞およびATDC5細胞の培養
MC3T3−E1細胞は、10%FBSを含むαMEM中、2.5×103細胞/cm2の密度で各プレートに播種し、37℃、5%CO2条件下で培養した。翌日、培地を50μg/mLアスコルビン酸および5mM β−グリセロホスフェートを含む10%FBS−αMEMに交換し、この時点を培養0日目とした。培地は2日おきに交換し、各日数培養した。
ATDC5細胞は、5%FBSを含むDMEM/F12(1:1)中、2.5×103細胞/cm2の密度で各プレートに播種し、37℃、5%CO2条件下で培養した。翌日、培地を、10μg/mLインスリン、10μg/mLトランスフェリン、3×10−8M亜セレン酸ナトリウムを含む5%FBS−DMEM/F12に交換し、この時点を培養0日目とした。培地は2日おきに交換し、各日数培養した。
[3]RT−PCR
各日数培養したMC3T3−E1細胞およびATDC5細胞はGPBSを用いて2回洗浄した。その後、ISOGENを用いてトータルRNAを抽出した。細胞および組織から抽出したトータルRNA 1μgに対し、DNase(1u/μL、Promega)1μL、10xDNaseバッファー1μL、RNaseインヒビター(40u/μL、Promega)0.5μLを加え、37℃で20分間反応させた。その後、0.2M EDTA(pH8.0、Promega)を1μL加え、反応を停止させた。そこに、オリゴ(dT)18プライマー(50μM、sigma genosys)1μL、10mM dNTPミックス(Takara Bio)3.6μL、DEPC水2.4μLを加え、65℃、5分間加熱し、すぐに氷令した。そこに5×First−Strandバッファー(invitrogen)6μL、0.1M DTT(invitrogen)3μL、RNaseインヒビター1.5μL、M−MLV逆転写酵素(200u/μL、invitrogen)1.5μLを加え、37℃、50分間反応させた。続いて70℃、15分間加熱することにより、逆転写酵素を失活させた。
逆転写反応で得られたcDNAをPCRに用いた。PCR用チューブに10×バッファー(Takara)(500mM KCl、15mM MgCl2を含む100mM Tris−HCl〔pH8.3〕緩衝液)2.5μL、dNTPミックス2μL、cDNA 1μL、10μMのセンスプライマーおよびアンチセンスプライマーをそれぞれ1μL、5u/μL組換えTaq DNAポリメラーゼ(Takara)0.125μL加えて総量25μLになるよう超純水を加えてPCRを行った。PCR産物は2%アガロース/TBEゲルで電気泳動を行い、エチジウムブロマイドにより染色し、UVでDNAを検出した。
[4]レポーターアッセイ
MC3T3−E1細胞を4×104細胞/mL密度で24ウェルプレートに播種し、37℃、5%CO2条件下で培養し24時間後トランスフェクションに用いた。導入するプラスミドDNAをOpti−MEMで希釈しPLUS試薬と混和後15分間室温で静置した。その後Opti−MEMで希釈したリポフェクタミンと混和し15分間室温で静置した。Opti−MEMで洗浄した細胞にプラスミドDNA−リポフェクタミン複合体を添加し適当時間トランスフェクトした。その後、血清を含む培地に交換し、20時間培養した。
刺激後の細胞は冷GPBSで2回洗浄後、Passive lysisバッファー(Promega)を用いて回収し、測定まで−80℃で保存した。ルシフェラーゼ活性はデュアルルシフェラーゼレポーターアッセイシステム(Promega)を用いて測定した。
[5]イムノブロッティング
特定期間培養した細胞を冷PBSで2回洗浄して冷PBSで細胞を回収し、8000g、5分間遠心した。沈殿にバッファーC{50mM Tris−HCl〔pH7.5〕、400mM NaCl、1mM EDTA、1mM EGTA、10%グリセロール、および1μg/mL各種プロテアーゼインヒビター〔(p−アミジノフェニル)メタンスルフォニルフルオリド、ベンズアミジン、ロイペプチン、アンチパイン(antipain)〕、フォスファターゼンヒビター(5mM DTT、10mM NaF、10mM β−グリセロフォスフェート)}45μLおよび10% NonidetP40 5μLを加え、超音波破砕機で懸濁し、氷上で30分間静置後、20000g、5分間遠心分離した。得られた上清を細胞全可溶画分として回収し、Bradford法により蛋白定量後、−80℃で凍結保存した。
調製した細胞全可溶画分に、SDS処理用緩衝液{10%グリセロール、2%SDS、0.01%ブロモフェノールブルーおよび5% 2−メルカプトエタノールを含む10mM Tris−HCl緩衝液(pH6.8)}を容量比4:1で添加して100℃、10分間加熱した。ついでポリアクリルアミドゲル(濃縮用ゲル濃度4.5%、分離用ゲル濃度7.5%)を用いて室温で電気泳動(15mA/プレート)した。
SDS電気泳動後のゲルを、予め100%メタノールで活性化したPVDF膜に、95mAで30分間ブロッティングした。ブロッティング終了後、同膜を5%スキムミルク{137mM NaClおよび0.05% Tween20を含む20mM Tris−HCl緩衝液(TBST)(pH7.5)に溶解}中で1時間ブロッキングを行った。このPVDF膜を、1%スキムミルク(TBSTに溶解)で希釈した抗nrf2抗体を1次抗体として、4℃で一晩静置した。翌日、TBSTを用いて5分間ずつ3回洗浄した。次に、ペルオキシダーゼ標識された抗ウサギIgG抗体を1%スキムミルク(TBSTに溶解)で希釈したものを、2次抗体として室温で1時間反応させたのち、TBSTを用いて10分ずつ3回洗浄した。このPVDF膜をECLTM検出用試薬と1分間反応させたのち、X線フィルムに感光させて抗体陽性ブロットを検出した。
[6]インサイチュハイブリダイゼーション
ddYマウス脛骨を4%パラホルムアルデヒドで固定し、次いで20%EDTAのPBSで脱灰し、30%スクロースのPBSで脱水した。脱水後、ドライアイスで凍結させ、クライオスタットを用いて5μmの厚さの切片を作製し、シランコーティングしたスライドガラスに貼り付けた。この切片を4%パラホルムアルデヒド(PBT中)により10分間固定したのち、PBT{0.1Mホスフェートバッファー(PB)、0.1% Tween}で5分間、2回洗浄した。次いでProK(10μg/mL ProK in PBT)で10分間処理し、PBTで5分間、2回洗浄した。さらに4%パラホルムアルデヒドで5分間固定し、PBTで5分間、2回洗浄した。次にTEA/0.25%無水酢酸で15分間処理し、PBTで5分間、2回洗浄した。最後にDEPC水で軽くすすぎ、室温で30分間風乾した。100ng/μLの濃度のプローブ1.5μLをハイブリダイゼーションバッファー300μLで希釈し、切片を風乾させている間に85℃、10分間加熱し、その後急冷した。これを風乾させた切片に滴下し、50%ホルムアミド、5xSSCで湿らせた湿箱中に置き、65℃で一晩放置した。翌日、切片を5×SSC(65℃、2分)、1×SSC、50%ホルムアミド(65℃、30分)、TNEバッファー(37℃、10分)、2×SSC(65℃、20分)、0.2×SSC(65℃、20分)、TNEバッファー(37℃、10分)、RNaseA(10mg/mL RNaseA in TNEバッファー、37℃、30分)、TNEバッファー(37℃、10分)、2×SSC(65℃、20分)、0.2×SSC(65℃、20分)、1×MABTバッファー(室温、5分)、ブロッキング試薬(1.5% in 1×MABTバッファー、室温、2時間)、1×MABTバッファー(室温、2分)の順に反応させた。その後、アルカリフォスファターゼ標識された抗DIG抗体(1000倍希釈、0.15%ブロッキング試薬 in 1×MABTバッファー)と4℃で16時間反応させた。この反応させた切片をMABTバッファー(室温、5分)を2回、レバミゾール(levamisole)入りNTMTバッファー(室温、10分)で反応させ、NBT/BCIPをレバミゾール入りNTMTバッファーで50倍に希釈した溶液を切片上に滴下し発色させた。発色後、NTMTバッファーで室温、3分反応させ、PBSで軽く洗浄後、50%グリセロールで封入し、顕微鏡下で観察した。
[7]安定発現細胞株の樹立
MC3T3−E1細胞およびATDC5細胞を4×104/mLの濃度で6ウェルシャーレに播種し、37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。24時間後に80−90%コンフルエントになった細胞を以下の遺伝子導入に用いた。
FBS非含有opti−MEM培地500μLにDNA 2μgとPlus試薬8μLを加え混和し、室温で15分間放置し、リポフェクタミン12μLを含む500μLのopti−MEM培地を混合し、さらに15分間放置した。これを6ウェルシャーレ上に培養した細胞に加え、37℃、1時間培養した。その後培地を各細胞の通常培地に交換し、48時間後に、0.25%トリプシンを細胞で5分間処理した。回収した細胞を100、200および400倍に希釈してディッシュに播き直し、37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。24時間後にG418(最終濃度600μg/mL)を加え、これを約2週間さらに培養した。
約2週間後に顕微鏡下でコロニーを確認し、その位置に印を付けた。単一コロニーにペニシリンキャップを付け、0.25%トリプシンを加え、細胞を回収し、10%FBSを含む各培養液に移し、G418存在下で培養した。
コンフルエントに達した細胞をさらに6ウェルシャーレに播き直し、6ウェルに播き直した細胞からタンパク質を調製し、抗nrf2抗体を用いてイムノブロッティングによりタンパク質の発現を検討することによりスクリーニングを行った。
[8]免疫細胞化学法
細胞をPBSで2回洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで10分間、細胞を固定した。PBSで2回洗浄したのち、ブロッキング溶液(1%TritonX−100を含む10%BSA)で細胞をブロッキングした。1時間後に10倍希釈のブロッキング溶液に希釈した一次抗体を4℃で一晩反応させた。翌日10倍希釈のブロッキング溶液に希釈した蛍光標識二次抗体を室温で一時間反応させたのち、共焦点レーザー顕微鏡によって観察した。
[9]ChIPアッセイ
クロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイキット(Upstate biotechnology)を用いた。細胞に10%ホルムアルデヒト/PBSを1/10量添加し、終濃度1%で37℃、15分間固定した。15分後に培地を捨て、氷冷PBS(1mM PMSF,1μg/mlアプロチニン)で洗浄した。10cmディッシュに1ml PBSを加え、細胞をかき取って1.5mlチューブで700×g,4℃、3分間遠心した。上清を捨て、ライシス(Lysis)バッファー(1%SDS,10mM EDTA,50mM Tris−HCl,pH8.1,1mM PMSF,1μg/mlアプロチニン)150μlを加え、ボルテックスで撹拌し、氷上で10分間した。サンプルを氷上に置き、10秒ソニケートした後20秒間隔を取り、合計4回ソニケートした。サンプルをChIP希釈バッファー(0.01%SDS,1.1%TritonX−100,1.2mM EDTA,16.7mM Tris−HCl,pH8.1,167mM NaCl,1mM PMSF,1μg/mlアプロチニン)で10倍希釈した。これに40mlプロテインAアガロース(1.5mlビーズ with 600μgのソニケートしたサケ精子DNA,1.5mg BSA,4.5mg組換えプロテインA/1.5mlバッファー;10mM Tris−HCl,pH8.0,1mM EDTA,0.05%アジ化ナトリウム)を加え、4℃,30分間インキュベートした。遠心1500rpm,15秒,4℃で上清を移し、抗体1μg(200μg/mlの場合5μl)を入れ、4℃で6時間から一晩インキュベートした。また、目的タンパク質がIgGに非特異的に結合する可能性があるので、ネガティブコントロールとして同一サンプルをIgGとインキュベートした。翌日、50μlプロテインAアガロースを加え、4℃で1時間インキュベートした。次にプロテインAアガロースを、4段階かけて洗浄した。それぞれ、4℃で3分間インキュベートした。(1)低塩(Low Salt)バッファー(0.1%SDS,1%TritonX−100,2mM EDTA,20mM Tris−HCl,pH8.1,150mM NaCl)、(2)高塩(High Salt)バッファー(0.1%SDS,1%TritonX−100,2mM EDTA,20mM Tris−HCl,pH8.1,500mM NaCl)、(3)LiClバッファー(0.25M LiCl,1%NP40,1%デオキシコレート,1mM EDTA,10mM Tris−HCl,pH8.1)、(4)TEバッファー(10mM Tris−HCl,1mM EDTA,pH8.0)×2回。洗浄後、50μl溶出バッファー(10mM DTT,1%SDS,0.1M NaHCO3),常温,15分で溶出した。遠心で上清を取り、レジンに再び50μl溶出バッファーを加えてもう一度くり返した。サンプル(100μl)に対し4μl 5M NaClを加え、65℃,6時間インキュベートした。2μl 0.5M EDTA,4μl 1M Tris−HCl,pH6.5,0.6μl 6mg/mlプロテイナーゼKを加え、45℃で1時間インキュベートした。フェノール−クロロホルム法によりDNAを抽出し、50μlの精製水で溶出した。このうちの10μlをPCRに用いた。
[10]ゲルシフトアッセイ
プローブとして、オステオカルシンプロモーター上のARE配列を含む合計22塩基対の合成2本鎖オリゴヌクレオチドを作製した。このプローブを、DNAポリメラーゼIのクレノーフラグメントを用いて[α−32P]デオキシ−CTPで放射標識後、スピンカラムを用いて精製した。標品(2〜5μgタンパク質)を、放射性プローブ(20fmol、1〜2×105cpm)、1μgポリ(dI−dC)、160mM KCl、1mM EDTA、1mM EGTA、10%グリセロール、5mM DTT、10mM NaF、10mM b−GPおよび1μg/mL各種蛋白質分解酵素阻害剤を含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)中で、25℃、30分間反応させた。反応後、6%ポリアクリルアミドゲルを用いて、プローブ/蛋白質複合体と遊離プローブを泳動用緩衝液[50mM Tris、0.38Mグリシン、2mM EDTA、pH8.5]中で、80V定電圧、4℃、1.5〜2.5時間泳動分離した。泳動後、ゲルをゲルドライヤーで乾燥し、ゲル中の放射能をオートラジオグラム法により検出した。
[実施例1]骨および軟骨でのnrf2の発現
骨組織および軟骨組織におけるnrf2/Mafシグナリング機構の存在確認のため、骨および軟骨でのnrf2の発現を検討した。
結果を図1、2に示す。軟骨細胞層にnrf2のmRNA発現が認められるとともに、骨梁表面に存在する骨芽細胞においても発現が認められた。
以上より、骨および軟骨においてnrf2が発現していることが示された。
[実施例2]MC3T3−E1およびATDC5細胞でのnrf2/Mafシグナル伝達分子の発現
骨芽細胞および軟骨細胞におけるnrf2/Mafシグナリング機構の存在の確認のため、MC3T3−E1およびATDC5細胞でのnrf2/Mafシグナル伝達分子の発現を、RT−PCRにより検討した。
結果を図3、4に示す。骨芽細胞株MC3T3−E1細胞と軟骨細胞株ATDC5細胞においてはnrf2、Keap1、MafF、MafG、MafKのnrf2/Mafシグナリング分子の発現が認められた。
以上より、骨芽細胞および軟骨細胞ともにnrf2/Mafシグナリング機構が存在することが示された。
[実施例3]nrf2安定発現MC3T3−E1およびATDC5細胞株の樹立
RT−PCR法により発現の確認されたnrf2が骨・軟骨細胞分化に及ぼす影響を検討するため、EFプロモーターを有するnrf2発現プラスミドを作製し、上述の方法によりnrf2安定発現MC3T3−E1およびATDC5細胞株を樹立した。
結果を図5に示す。樹立した細胞株では、nrf2 mRNAおよびタンパク質が発現していた(図5(A)、(B))。また、これらの細胞株では、nrf2によるHO−1プロモーターに対する転写調節活性が確認された(図5(C))。
以上より、樹立した細胞株においてnrf2が発現かつ機能していることが示された。
[実施例4]nrf2安定(過剰)発現ATDC5細胞の解析
nrf2が軟骨細胞の増殖、分化または成熟に及ぼす影響について検討するため、nrf2安定発現ATDC5細胞を解析した。解析は、アルシアンブルー染色、アルカリフォスファターゼ活性測定、および半定量RT−PCR法により行った。
結果を図6〜8に示す。nrf2安定発現細胞株ではアルシアンブルー染色性の低下(図6(A)、(D)、図7(B))が認められただけでなく、アルカリフォスファターゼ活性の低下(図6(C)、図7(A))も認められた。さらにコラーゲンII、コラーゲンX、オステオポンチンの発現低下が認められた(図6(B)、図8(A)、(B))。
以上より、nrf2は、軟骨細胞分化を阻害する因子であることが示唆された。
[実施例5]nrf2安定(過剰)発現MC3T3−E1細胞の解析
nrf2が軟骨細胞の増殖、分化または成熟に及ぼす影響について検討するため、nrf2安定発現MC3T3−E1細胞を解析した。
結果を図9〜11に示す。nrf2安定発現細胞株ではアリザリンレッド染色性の低下(図9(A))が認められただけでなく、アルカリフォスファターゼ活性の低下(図9(C)、図10(A))も認められた。また、カルシウム蓄積量の低下も同時に認められた(図9(D)、図10(B))。さらにコラーゲンI、オステオカルシンの発現低下が認められた(図9(B)、図11(A)、(B))。
以上より、nrf2は、骨芽細胞分化を阻害する因子であることが示唆された。
[実施例6]OG2プロモーターへのnrf2の影響の解析
骨芽細胞特異的な遺伝子であるオステオカルシンのプロモーターは骨芽細胞分化のマスターレギュレーターであるrunx2によってその活性が有意に上昇する。したがって、runx2依存的な骨芽細胞分化に対するnrf2の影響について解析するため、nrf2がrunx2依存的にOG2の発現を調節し得るか否かをレポーターアッセイにより検討した。
結果を図12に示す。COS7およびMC3T3−E1の両細胞においてrunx2によるOG2プロモーターの活性上昇をnrf2は有意に抑制した。
以上より、nrf2は、runx2依存的にOG2の発現を阻害することが示唆された。
[実施例7]runx2の細胞内局在に対するnrf2の影響
nrf2の骨芽細胞分化抑制作用がnrf2によるrunx2の細胞内局在変化に起因するか検討するため、nrf2の発現がrunx2の核への局在に影響を及ぼすか否かをCOS7細胞およびMC3T3−E1細胞を用いた免疫細胞化学法により検討した。
結果を図13に示す。COS7細胞においてはnrf2とrunx2の共発現により両遺伝子の細胞内局在変動は認められなかった(図13(A))。また、MC3T3−E1細胞においてもnrf2の過剰発現により内在性のrunx2の細胞内局在に変化は認められなかった(図13(B))。
以上より、nrf2は、runx2の核への局在に影響を及ぼさないことが示唆された。
[実施例8]オステオカルシンプロモーター上へのrunx2の結合へのnrf2の影響
nrf2によるrunx2依存的なOG2活性上昇の抑制がrunx2のオステオカルシンプロモーター上への結合抑制に起因するかを検討するため、ChIPアッセイによりrunx2のオステオカルシンプロモーター上への結合を検討した。
結果を図14に示す。nrf2とrunx2の共発現によりrunx2のオステオカルシンプロモーター上への結合は有意に抑制された。
以上より、nrf2は、runx2リクルートを低減させる因子であることが示唆された。
[実施例9]nrf2のオステオカルシンプロモーター上への結合能の解析
nrf2による骨芽細胞分化抑制作用がnrf2のDNA結合能に起因するかを検討するため、オステオカルシンプロモーター上に存在するnrf2結合様サイトをプローブとしたゲルシフトアッセイ法によりnrf2のオステオカルシンプロモーター上へのDNA結合能を検討した。
結果を図15に示す。オステオカルシンプロモーター上にはARE様1とARE様2の二箇所のnrf2結合様サイトが認められた(図15(A))。そのうちARE様2へのnrf2の結合が認められた(図15(B))。
以上より、nrf2は、オステオカルシンプロモーターのARE(antioxidant responsive element)に結合することが示された。
[実施例10]nrf2によるrunx2依存的OG2活性上昇抑制作用のARE様2の関与の検討
nrf2のrunx2依存的なオステオカルシンプロモーター活性上昇に対する抑制効果がオステオカルシンプロモーター上に存在するnrf2結合サイトのARE様2を介する反応であるかを検討するため、ARE様2変異型OG2を用いてrunx2依存的OG2活性上昇に対するnrf2の影響を検討した。
結果を図16に示す。COS7細胞およびMC3T3−E1細胞ともに変異型OG2のrunx2依存的活性上昇はnrf2により完全に阻害されなかった。
以上より、nrf2によるrunx2依存的OG2活性上昇抑制作用は一部分はオステオカルシンプロモーター上に存在するnrf2結合サイトARE様2へのnrf2の結合が関与していることが示された。
[実施例11]OSE2レポーター活性に対するnrf2の関与
runx2依存的なオステオカルシンプロモーター活性上昇に対するnrf2の抑制効果がオステオカルシンプロモーター上に存在するrunx2結合サイトOSE2を介する反応であるかを検討するため、runx2結合配列であるOSE2のレポーターベクターを用いてrunx2依存的OSE2活性上昇に対するnrf2の影響を検討した。
結果を図17に示す。COS7細胞およびMC3T3−E1細胞ともにOSE2レポーターのrunx2依存的活性上昇はnrf2により一部分阻害された。
以上より、nrf2によるrunx2依存的OG2活性上昇抑制作用は一部分はオステオカルシンプロモーター上に存在するnrf2結合サイトOSE2が関与していることが示された。
[実施例12]卵巣摘出モデルマウスの骨組織におけるnrf2発現解析
閉経後骨粗鬆症モデルマウスである卵巣摘出マウスの骨組織におけるnrf2の発現を検討するため、半定量RT−PCR法およびインサイチュハイブリダイゼーション法によりnrf2のmRNA発現を検討した。
結果を図19に示す。卵巣摘出マウスではマイクロCT解析により骨梁の減少が認められた(図19(A))。この条件下においてnrf2のmRNA発現は卵巣摘出マウスにおいては有意に上昇していることが確認された(図19(B)、(C))。
以上より、卵巣摘出マウスにおける骨芽細胞分化抑制機構にnrf2発現上昇が関与している可能性が示された。
[実施例13]nrf2の骨芽細胞増殖性および細胞死への影響
nrf2の骨芽細胞の増殖性あるいは細胞死に対する影響を検討するため、BrdU取り込み、サイクリンD1プロモーター活性およびTUNEL染色へのnrf2の影響を検討した。
結果を図20に示す。nrf2によりBrdU取り込み(図20(A))およびサイクリンD1プロモーター活性(図19(B))は有意に減少することが明らかとなった。一方、nrf2はTUNEL染色陽性を示す細胞数には影響を与えなかった。
以上より、nrf2は細胞死誘導作用を示さなかったのに対して、細胞増殖性を抑制することが示された。
(結論)
以上の結果により、nrf2は骨・軟骨組織においても発現が認められ、runx2による骨芽・軟骨細胞の分化作用を調節することにより、骨・軟骨分化を負に制御することが示唆された。
ddYマウスは三協ラボサービス(東京)より購入した。MC3T3−E1細胞およびATDC5細胞は理化学研究所バイオリソースセンター(筑波)より購入した。ECLTM検出試薬、ペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG抗体は、いずれもAmersham Life Science(Buckinghamshire,England)より購入した。Taqポリメラーゼ、各種制限酵素はTakara Biochemical(大津)より購入した。Quantum Prep Freeze DNA Gel抽出スピンカラムおよびBio−Radタンパク質アッセイ試薬は、Bio−rad Laboratories(Hercules,CA,USA)より購入した。DIG RNA標識キットおよび抗DIG抗体はRoche Diagnostics(Mannheim,Germany)より購入した。Plus試薬およびリポフェクタミン試薬はInvitrogen(San Diego,CA,USA)より購入した。pRL−TK、pRL−SV40およびデュアル−ルシフェラーゼレポーターアッセイシステムはPromega(Madison,WI,USA)より購入した。α−最小必須培地(α−MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、最小必須培地(MEM)、Opti−MEM1低減血清培地、ダルベッコ改変イーグル培地/栄養混合ハムF−12=1:1、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)およびエチジウムブロマイド溶液はGibco BRL(Gaithersburg,MD,USA)より購入した。オリゴヌクレオチドはシグマジェノシスジャパン(北海道)より購入した。トランスフェリン、インスリン、亜セレン酸ナトリウムはSigma Aldrich(St.Louis,MO,USA)より購入した。ISOGENは和光純薬工業(大阪)より購入した。その他の化合物は市販の特級品を用いた。
[2]MC3T3−E1細胞およびATDC5細胞の培養
MC3T3−E1細胞は、10%FBSを含むαMEM中、2.5×103細胞/cm2の密度で各プレートに播種し、37℃、5%CO2条件下で培養した。翌日、培地を50μg/mLアスコルビン酸および5mM β−グリセロホスフェートを含む10%FBS−αMEMに交換し、この時点を培養0日目とした。培地は2日おきに交換し、各日数培養した。
ATDC5細胞は、5%FBSを含むDMEM/F12(1:1)中、2.5×103細胞/cm2の密度で各プレートに播種し、37℃、5%CO2条件下で培養した。翌日、培地を、10μg/mLインスリン、10μg/mLトランスフェリン、3×10−8M亜セレン酸ナトリウムを含む5%FBS−DMEM/F12に交換し、この時点を培養0日目とした。培地は2日おきに交換し、各日数培養した。
[3]RT−PCR
各日数培養したMC3T3−E1細胞およびATDC5細胞はGPBSを用いて2回洗浄した。その後、ISOGENを用いてトータルRNAを抽出した。細胞および組織から抽出したトータルRNA 1μgに対し、DNase(1u/μL、Promega)1μL、10xDNaseバッファー1μL、RNaseインヒビター(40u/μL、Promega)0.5μLを加え、37℃で20分間反応させた。その後、0.2M EDTA(pH8.0、Promega)を1μL加え、反応を停止させた。そこに、オリゴ(dT)18プライマー(50μM、sigma genosys)1μL、10mM dNTPミックス(Takara Bio)3.6μL、DEPC水2.4μLを加え、65℃、5分間加熱し、すぐに氷令した。そこに5×First−Strandバッファー(invitrogen)6μL、0.1M DTT(invitrogen)3μL、RNaseインヒビター1.5μL、M−MLV逆転写酵素(200u/μL、invitrogen)1.5μLを加え、37℃、50分間反応させた。続いて70℃、15分間加熱することにより、逆転写酵素を失活させた。
逆転写反応で得られたcDNAをPCRに用いた。PCR用チューブに10×バッファー(Takara)(500mM KCl、15mM MgCl2を含む100mM Tris−HCl〔pH8.3〕緩衝液)2.5μL、dNTPミックス2μL、cDNA 1μL、10μMのセンスプライマーおよびアンチセンスプライマーをそれぞれ1μL、5u/μL組換えTaq DNAポリメラーゼ(Takara)0.125μL加えて総量25μLになるよう超純水を加えてPCRを行った。PCR産物は2%アガロース/TBEゲルで電気泳動を行い、エチジウムブロマイドにより染色し、UVでDNAを検出した。
[4]レポーターアッセイ
MC3T3−E1細胞を4×104細胞/mL密度で24ウェルプレートに播種し、37℃、5%CO2条件下で培養し24時間後トランスフェクションに用いた。導入するプラスミドDNAをOpti−MEMで希釈しPLUS試薬と混和後15分間室温で静置した。その後Opti−MEMで希釈したリポフェクタミンと混和し15分間室温で静置した。Opti−MEMで洗浄した細胞にプラスミドDNA−リポフェクタミン複合体を添加し適当時間トランスフェクトした。その後、血清を含む培地に交換し、20時間培養した。
刺激後の細胞は冷GPBSで2回洗浄後、Passive lysisバッファー(Promega)を用いて回収し、測定まで−80℃で保存した。ルシフェラーゼ活性はデュアルルシフェラーゼレポーターアッセイシステム(Promega)を用いて測定した。
[5]イムノブロッティング
特定期間培養した細胞を冷PBSで2回洗浄して冷PBSで細胞を回収し、8000g、5分間遠心した。沈殿にバッファーC{50mM Tris−HCl〔pH7.5〕、400mM NaCl、1mM EDTA、1mM EGTA、10%グリセロール、および1μg/mL各種プロテアーゼインヒビター〔(p−アミジノフェニル)メタンスルフォニルフルオリド、ベンズアミジン、ロイペプチン、アンチパイン(antipain)〕、フォスファターゼンヒビター(5mM DTT、10mM NaF、10mM β−グリセロフォスフェート)}45μLおよび10% NonidetP40 5μLを加え、超音波破砕機で懸濁し、氷上で30分間静置後、20000g、5分間遠心分離した。得られた上清を細胞全可溶画分として回収し、Bradford法により蛋白定量後、−80℃で凍結保存した。
調製した細胞全可溶画分に、SDS処理用緩衝液{10%グリセロール、2%SDS、0.01%ブロモフェノールブルーおよび5% 2−メルカプトエタノールを含む10mM Tris−HCl緩衝液(pH6.8)}を容量比4:1で添加して100℃、10分間加熱した。ついでポリアクリルアミドゲル(濃縮用ゲル濃度4.5%、分離用ゲル濃度7.5%)を用いて室温で電気泳動(15mA/プレート)した。
SDS電気泳動後のゲルを、予め100%メタノールで活性化したPVDF膜に、95mAで30分間ブロッティングした。ブロッティング終了後、同膜を5%スキムミルク{137mM NaClおよび0.05% Tween20を含む20mM Tris−HCl緩衝液(TBST)(pH7.5)に溶解}中で1時間ブロッキングを行った。このPVDF膜を、1%スキムミルク(TBSTに溶解)で希釈した抗nrf2抗体を1次抗体として、4℃で一晩静置した。翌日、TBSTを用いて5分間ずつ3回洗浄した。次に、ペルオキシダーゼ標識された抗ウサギIgG抗体を1%スキムミルク(TBSTに溶解)で希釈したものを、2次抗体として室温で1時間反応させたのち、TBSTを用いて10分ずつ3回洗浄した。このPVDF膜をECLTM検出用試薬と1分間反応させたのち、X線フィルムに感光させて抗体陽性ブロットを検出した。
[6]インサイチュハイブリダイゼーション
ddYマウス脛骨を4%パラホルムアルデヒドで固定し、次いで20%EDTAのPBSで脱灰し、30%スクロースのPBSで脱水した。脱水後、ドライアイスで凍結させ、クライオスタットを用いて5μmの厚さの切片を作製し、シランコーティングしたスライドガラスに貼り付けた。この切片を4%パラホルムアルデヒド(PBT中)により10分間固定したのち、PBT{0.1Mホスフェートバッファー(PB)、0.1% Tween}で5分間、2回洗浄した。次いでProK(10μg/mL ProK in PBT)で10分間処理し、PBTで5分間、2回洗浄した。さらに4%パラホルムアルデヒドで5分間固定し、PBTで5分間、2回洗浄した。次にTEA/0.25%無水酢酸で15分間処理し、PBTで5分間、2回洗浄した。最後にDEPC水で軽くすすぎ、室温で30分間風乾した。100ng/μLの濃度のプローブ1.5μLをハイブリダイゼーションバッファー300μLで希釈し、切片を風乾させている間に85℃、10分間加熱し、その後急冷した。これを風乾させた切片に滴下し、50%ホルムアミド、5xSSCで湿らせた湿箱中に置き、65℃で一晩放置した。翌日、切片を5×SSC(65℃、2分)、1×SSC、50%ホルムアミド(65℃、30分)、TNEバッファー(37℃、10分)、2×SSC(65℃、20分)、0.2×SSC(65℃、20分)、TNEバッファー(37℃、10分)、RNaseA(10mg/mL RNaseA in TNEバッファー、37℃、30分)、TNEバッファー(37℃、10分)、2×SSC(65℃、20分)、0.2×SSC(65℃、20分)、1×MABTバッファー(室温、5分)、ブロッキング試薬(1.5% in 1×MABTバッファー、室温、2時間)、1×MABTバッファー(室温、2分)の順に反応させた。その後、アルカリフォスファターゼ標識された抗DIG抗体(1000倍希釈、0.15%ブロッキング試薬 in 1×MABTバッファー)と4℃で16時間反応させた。この反応させた切片をMABTバッファー(室温、5分)を2回、レバミゾール(levamisole)入りNTMTバッファー(室温、10分)で反応させ、NBT/BCIPをレバミゾール入りNTMTバッファーで50倍に希釈した溶液を切片上に滴下し発色させた。発色後、NTMTバッファーで室温、3分反応させ、PBSで軽く洗浄後、50%グリセロールで封入し、顕微鏡下で観察した。
[7]安定発現細胞株の樹立
MC3T3−E1細胞およびATDC5細胞を4×104/mLの濃度で6ウェルシャーレに播種し、37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。24時間後に80−90%コンフルエントになった細胞を以下の遺伝子導入に用いた。
FBS非含有opti−MEM培地500μLにDNA 2μgとPlus試薬8μLを加え混和し、室温で15分間放置し、リポフェクタミン12μLを含む500μLのopti−MEM培地を混合し、さらに15分間放置した。これを6ウェルシャーレ上に培養した細胞に加え、37℃、1時間培養した。その後培地を各細胞の通常培地に交換し、48時間後に、0.25%トリプシンを細胞で5分間処理した。回収した細胞を100、200および400倍に希釈してディッシュに播き直し、37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。24時間後にG418(最終濃度600μg/mL)を加え、これを約2週間さらに培養した。
約2週間後に顕微鏡下でコロニーを確認し、その位置に印を付けた。単一コロニーにペニシリンキャップを付け、0.25%トリプシンを加え、細胞を回収し、10%FBSを含む各培養液に移し、G418存在下で培養した。
コンフルエントに達した細胞をさらに6ウェルシャーレに播き直し、6ウェルに播き直した細胞からタンパク質を調製し、抗nrf2抗体を用いてイムノブロッティングによりタンパク質の発現を検討することによりスクリーニングを行った。
[8]免疫細胞化学法
細胞をPBSで2回洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで10分間、細胞を固定した。PBSで2回洗浄したのち、ブロッキング溶液(1%TritonX−100を含む10%BSA)で細胞をブロッキングした。1時間後に10倍希釈のブロッキング溶液に希釈した一次抗体を4℃で一晩反応させた。翌日10倍希釈のブロッキング溶液に希釈した蛍光標識二次抗体を室温で一時間反応させたのち、共焦点レーザー顕微鏡によって観察した。
[9]ChIPアッセイ
クロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイキット(Upstate biotechnology)を用いた。細胞に10%ホルムアルデヒト/PBSを1/10量添加し、終濃度1%で37℃、15分間固定した。15分後に培地を捨て、氷冷PBS(1mM PMSF,1μg/mlアプロチニン)で洗浄した。10cmディッシュに1ml PBSを加え、細胞をかき取って1.5mlチューブで700×g,4℃、3分間遠心した。上清を捨て、ライシス(Lysis)バッファー(1%SDS,10mM EDTA,50mM Tris−HCl,pH8.1,1mM PMSF,1μg/mlアプロチニン)150μlを加え、ボルテックスで撹拌し、氷上で10分間した。サンプルを氷上に置き、10秒ソニケートした後20秒間隔を取り、合計4回ソニケートした。サンプルをChIP希釈バッファー(0.01%SDS,1.1%TritonX−100,1.2mM EDTA,16.7mM Tris−HCl,pH8.1,167mM NaCl,1mM PMSF,1μg/mlアプロチニン)で10倍希釈した。これに40mlプロテインAアガロース(1.5mlビーズ with 600μgのソニケートしたサケ精子DNA,1.5mg BSA,4.5mg組換えプロテインA/1.5mlバッファー;10mM Tris−HCl,pH8.0,1mM EDTA,0.05%アジ化ナトリウム)を加え、4℃,30分間インキュベートした。遠心1500rpm,15秒,4℃で上清を移し、抗体1μg(200μg/mlの場合5μl)を入れ、4℃で6時間から一晩インキュベートした。また、目的タンパク質がIgGに非特異的に結合する可能性があるので、ネガティブコントロールとして同一サンプルをIgGとインキュベートした。翌日、50μlプロテインAアガロースを加え、4℃で1時間インキュベートした。次にプロテインAアガロースを、4段階かけて洗浄した。それぞれ、4℃で3分間インキュベートした。(1)低塩(Low Salt)バッファー(0.1%SDS,1%TritonX−100,2mM EDTA,20mM Tris−HCl,pH8.1,150mM NaCl)、(2)高塩(High Salt)バッファー(0.1%SDS,1%TritonX−100,2mM EDTA,20mM Tris−HCl,pH8.1,500mM NaCl)、(3)LiClバッファー(0.25M LiCl,1%NP40,1%デオキシコレート,1mM EDTA,10mM Tris−HCl,pH8.1)、(4)TEバッファー(10mM Tris−HCl,1mM EDTA,pH8.0)×2回。洗浄後、50μl溶出バッファー(10mM DTT,1%SDS,0.1M NaHCO3),常温,15分で溶出した。遠心で上清を取り、レジンに再び50μl溶出バッファーを加えてもう一度くり返した。サンプル(100μl)に対し4μl 5M NaClを加え、65℃,6時間インキュベートした。2μl 0.5M EDTA,4μl 1M Tris−HCl,pH6.5,0.6μl 6mg/mlプロテイナーゼKを加え、45℃で1時間インキュベートした。フェノール−クロロホルム法によりDNAを抽出し、50μlの精製水で溶出した。このうちの10μlをPCRに用いた。
[10]ゲルシフトアッセイ
プローブとして、オステオカルシンプロモーター上のARE配列を含む合計22塩基対の合成2本鎖オリゴヌクレオチドを作製した。このプローブを、DNAポリメラーゼIのクレノーフラグメントを用いて[α−32P]デオキシ−CTPで放射標識後、スピンカラムを用いて精製した。標品(2〜5μgタンパク質)を、放射性プローブ(20fmol、1〜2×105cpm)、1μgポリ(dI−dC)、160mM KCl、1mM EDTA、1mM EGTA、10%グリセロール、5mM DTT、10mM NaF、10mM b−GPおよび1μg/mL各種蛋白質分解酵素阻害剤を含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)中で、25℃、30分間反応させた。反応後、6%ポリアクリルアミドゲルを用いて、プローブ/蛋白質複合体と遊離プローブを泳動用緩衝液[50mM Tris、0.38Mグリシン、2mM EDTA、pH8.5]中で、80V定電圧、4℃、1.5〜2.5時間泳動分離した。泳動後、ゲルをゲルドライヤーで乾燥し、ゲル中の放射能をオートラジオグラム法により検出した。
[実施例1]骨および軟骨でのnrf2の発現
骨組織および軟骨組織におけるnrf2/Mafシグナリング機構の存在確認のため、骨および軟骨でのnrf2の発現を検討した。
結果を図1、2に示す。軟骨細胞層にnrf2のmRNA発現が認められるとともに、骨梁表面に存在する骨芽細胞においても発現が認められた。
以上より、骨および軟骨においてnrf2が発現していることが示された。
[実施例2]MC3T3−E1およびATDC5細胞でのnrf2/Mafシグナル伝達分子の発現
骨芽細胞および軟骨細胞におけるnrf2/Mafシグナリング機構の存在の確認のため、MC3T3−E1およびATDC5細胞でのnrf2/Mafシグナル伝達分子の発現を、RT−PCRにより検討した。
結果を図3、4に示す。骨芽細胞株MC3T3−E1細胞と軟骨細胞株ATDC5細胞においてはnrf2、Keap1、MafF、MafG、MafKのnrf2/Mafシグナリング分子の発現が認められた。
以上より、骨芽細胞および軟骨細胞ともにnrf2/Mafシグナリング機構が存在することが示された。
[実施例3]nrf2安定発現MC3T3−E1およびATDC5細胞株の樹立
RT−PCR法により発現の確認されたnrf2が骨・軟骨細胞分化に及ぼす影響を検討するため、EFプロモーターを有するnrf2発現プラスミドを作製し、上述の方法によりnrf2安定発現MC3T3−E1およびATDC5細胞株を樹立した。
結果を図5に示す。樹立した細胞株では、nrf2 mRNAおよびタンパク質が発現していた(図5(A)、(B))。また、これらの細胞株では、nrf2によるHO−1プロモーターに対する転写調節活性が確認された(図5(C))。
以上より、樹立した細胞株においてnrf2が発現かつ機能していることが示された。
[実施例4]nrf2安定(過剰)発現ATDC5細胞の解析
nrf2が軟骨細胞の増殖、分化または成熟に及ぼす影響について検討するため、nrf2安定発現ATDC5細胞を解析した。解析は、アルシアンブルー染色、アルカリフォスファターゼ活性測定、および半定量RT−PCR法により行った。
結果を図6〜8に示す。nrf2安定発現細胞株ではアルシアンブルー染色性の低下(図6(A)、(D)、図7(B))が認められただけでなく、アルカリフォスファターゼ活性の低下(図6(C)、図7(A))も認められた。さらにコラーゲンII、コラーゲンX、オステオポンチンの発現低下が認められた(図6(B)、図8(A)、(B))。
以上より、nrf2は、軟骨細胞分化を阻害する因子であることが示唆された。
[実施例5]nrf2安定(過剰)発現MC3T3−E1細胞の解析
nrf2が軟骨細胞の増殖、分化または成熟に及ぼす影響について検討するため、nrf2安定発現MC3T3−E1細胞を解析した。
結果を図9〜11に示す。nrf2安定発現細胞株ではアリザリンレッド染色性の低下(図9(A))が認められただけでなく、アルカリフォスファターゼ活性の低下(図9(C)、図10(A))も認められた。また、カルシウム蓄積量の低下も同時に認められた(図9(D)、図10(B))。さらにコラーゲンI、オステオカルシンの発現低下が認められた(図9(B)、図11(A)、(B))。
以上より、nrf2は、骨芽細胞分化を阻害する因子であることが示唆された。
[実施例6]OG2プロモーターへのnrf2の影響の解析
骨芽細胞特異的な遺伝子であるオステオカルシンのプロモーターは骨芽細胞分化のマスターレギュレーターであるrunx2によってその活性が有意に上昇する。したがって、runx2依存的な骨芽細胞分化に対するnrf2の影響について解析するため、nrf2がrunx2依存的にOG2の発現を調節し得るか否かをレポーターアッセイにより検討した。
結果を図12に示す。COS7およびMC3T3−E1の両細胞においてrunx2によるOG2プロモーターの活性上昇をnrf2は有意に抑制した。
以上より、nrf2は、runx2依存的にOG2の発現を阻害することが示唆された。
[実施例7]runx2の細胞内局在に対するnrf2の影響
nrf2の骨芽細胞分化抑制作用がnrf2によるrunx2の細胞内局在変化に起因するか検討するため、nrf2の発現がrunx2の核への局在に影響を及ぼすか否かをCOS7細胞およびMC3T3−E1細胞を用いた免疫細胞化学法により検討した。
結果を図13に示す。COS7細胞においてはnrf2とrunx2の共発現により両遺伝子の細胞内局在変動は認められなかった(図13(A))。また、MC3T3−E1細胞においてもnrf2の過剰発現により内在性のrunx2の細胞内局在に変化は認められなかった(図13(B))。
以上より、nrf2は、runx2の核への局在に影響を及ぼさないことが示唆された。
[実施例8]オステオカルシンプロモーター上へのrunx2の結合へのnrf2の影響
nrf2によるrunx2依存的なOG2活性上昇の抑制がrunx2のオステオカルシンプロモーター上への結合抑制に起因するかを検討するため、ChIPアッセイによりrunx2のオステオカルシンプロモーター上への結合を検討した。
結果を図14に示す。nrf2とrunx2の共発現によりrunx2のオステオカルシンプロモーター上への結合は有意に抑制された。
以上より、nrf2は、runx2リクルートを低減させる因子であることが示唆された。
[実施例9]nrf2のオステオカルシンプロモーター上への結合能の解析
nrf2による骨芽細胞分化抑制作用がnrf2のDNA結合能に起因するかを検討するため、オステオカルシンプロモーター上に存在するnrf2結合様サイトをプローブとしたゲルシフトアッセイ法によりnrf2のオステオカルシンプロモーター上へのDNA結合能を検討した。
結果を図15に示す。オステオカルシンプロモーター上にはARE様1とARE様2の二箇所のnrf2結合様サイトが認められた(図15(A))。そのうちARE様2へのnrf2の結合が認められた(図15(B))。
以上より、nrf2は、オステオカルシンプロモーターのARE(antioxidant responsive element)に結合することが示された。
[実施例10]nrf2によるrunx2依存的OG2活性上昇抑制作用のARE様2の関与の検討
nrf2のrunx2依存的なオステオカルシンプロモーター活性上昇に対する抑制効果がオステオカルシンプロモーター上に存在するnrf2結合サイトのARE様2を介する反応であるかを検討するため、ARE様2変異型OG2を用いてrunx2依存的OG2活性上昇に対するnrf2の影響を検討した。
結果を図16に示す。COS7細胞およびMC3T3−E1細胞ともに変異型OG2のrunx2依存的活性上昇はnrf2により完全に阻害されなかった。
以上より、nrf2によるrunx2依存的OG2活性上昇抑制作用は一部分はオステオカルシンプロモーター上に存在するnrf2結合サイトARE様2へのnrf2の結合が関与していることが示された。
[実施例11]OSE2レポーター活性に対するnrf2の関与
runx2依存的なオステオカルシンプロモーター活性上昇に対するnrf2の抑制効果がオステオカルシンプロモーター上に存在するrunx2結合サイトOSE2を介する反応であるかを検討するため、runx2結合配列であるOSE2のレポーターベクターを用いてrunx2依存的OSE2活性上昇に対するnrf2の影響を検討した。
結果を図17に示す。COS7細胞およびMC3T3−E1細胞ともにOSE2レポーターのrunx2依存的活性上昇はnrf2により一部分阻害された。
以上より、nrf2によるrunx2依存的OG2活性上昇抑制作用は一部分はオステオカルシンプロモーター上に存在するnrf2結合サイトOSE2が関与していることが示された。
[実施例12]卵巣摘出モデルマウスの骨組織におけるnrf2発現解析
閉経後骨粗鬆症モデルマウスである卵巣摘出マウスの骨組織におけるnrf2の発現を検討するため、半定量RT−PCR法およびインサイチュハイブリダイゼーション法によりnrf2のmRNA発現を検討した。
結果を図19に示す。卵巣摘出マウスではマイクロCT解析により骨梁の減少が認められた(図19(A))。この条件下においてnrf2のmRNA発現は卵巣摘出マウスにおいては有意に上昇していることが確認された(図19(B)、(C))。
以上より、卵巣摘出マウスにおける骨芽細胞分化抑制機構にnrf2発現上昇が関与している可能性が示された。
[実施例13]nrf2の骨芽細胞増殖性および細胞死への影響
nrf2の骨芽細胞の増殖性あるいは細胞死に対する影響を検討するため、BrdU取り込み、サイクリンD1プロモーター活性およびTUNEL染色へのnrf2の影響を検討した。
結果を図20に示す。nrf2によりBrdU取り込み(図20(A))およびサイクリンD1プロモーター活性(図19(B))は有意に減少することが明らかとなった。一方、nrf2はTUNEL染色陽性を示す細胞数には影響を与えなかった。
以上より、nrf2は細胞死誘導作用を示さなかったのに対して、細胞増殖性を抑制することが示された。
(結論)
以上の結果により、nrf2は骨・軟骨組織においても発現が認められ、runx2による骨芽・軟骨細胞の分化作用を調節することにより、骨・軟骨分化を負に制御することが示唆された。
本発明の調節剤は、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化調節、ならびに骨・関節疾患の予防・治療などを可能とする。本発明のスクリーニング方法は、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化調節剤、ならびに骨・関節疾患に対する予防・治療剤の開発などを可能とする。本発明の診断剤は、骨・軟骨形成能を有する細胞の分化に対する動物の生体状態の評価を可能とし、また、骨・関節疾患の患者の治療に際して、nrf2の発現または機能を調節する物質の当該患者における治療効果の予測を可能とする。
本出願は、2005年6月3日に日本で出願された特願2005−164860を基礎としており、その内容は本明細書中に援用される。
[配列表]
本出願は、2005年6月3日に日本で出願された特願2005−164860を基礎としており、その内容は本明細書中に援用される。
[配列表]
Claims (28)
- nrf2の発現または機能を調節する物質を含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化の調節剤。
- nrf2の発現または機能を調節する物質が、nrf2タンパク質またはnrf2発現ベクターである、請求項1記載の剤。
- nrf2の発現または機能を調節する物質が、アンチセンス核酸、リボザイム、RNAi誘導性核酸、デコイ核酸、ターゲティングベクター、nrf2抗体、nrf2ドミナントネガティブ変異体、およびそれらの発現ベクターからなる群より選ばれる、請求項1記載の剤。
- 骨芽細胞または軟骨細胞分化の抑制剤である、請求項2記載の剤。
- 骨芽細胞または軟骨細胞分化の促進剤である、請求項3記載の剤。
- nrf2の発現または機能を調節する物質を含む、骨・関節疾患の予防または治療剤。
- 被験物質がnrf2の発現または機能を調節し得るか否かを評価することを含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化を調節し得る物質のスクリーニング方法。
- 被験物質およびnrf2の発現を測定可能な細胞を用いて、被験物質が該細胞におけるnrf2の発現を調節し得るか否かを評価することを含む方法である、請求項7記載の方法。
- 被験物質および非ヒト動物を用いて、被験物質が該動物におけるnrf2の発現を調節し得るか否かを評価することを含む方法である、請求項7記載の方法。
- 被験物質およびnrf2の機能を測定可能な再構成系を用いて、被験物質が該再構成系においてnrf2の機能を調節し得るか否かを評価することを含む方法である、請求項7記載の方法。
- 被験物質およびnrf2発現細胞を用いて、被験物質が該細胞においてnrf2の機能を調節し得るか否かを評価することを含む方法である、請求項7記載の方法。
- 発現または機能の調節が発現または機能の促進である、請求項7記載の方法。
- 発現または機能の調節が発現または機能の抑制である、請求項7記載の方法。
- 被験物質がnrf2の発現または機能を調節し得るか否かを評価することを含む、骨・関節疾患を予防または治療し得る物質のスクリーニング方法。
- 被験物質がnrf2の発現または機能を調節し得るか否かを評価することを含む、runx2リクルートまたはオステオカルシン発現を調節し得る物質のスクリーニング方法。
- nrf2の特定の変異が骨芽細胞または軟骨細胞分化に及ぼす影響を解析することを含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化に変化をもたらすnrf2変異の同定方法。
- 変異が多型である、請求項16記載の方法。
- nrf2の発現量の測定用試薬を含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化に対する動物の生体状態の診断剤。
- nrf2の多型の測定用試薬を含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化に対する動物の生体状態の診断剤。
- nrf2の発現または機能を調節する物質を含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化効率の診断剤。
- 以下(a)および(b)を含む、キット:
(a)nrf2の発現または機能を調節する物質、ならびに/あるいはnrf2の発現量または多型の測定用試薬;
(b)骨芽細胞または軟骨細胞の同定用試薬、ならびに/あるいは骨芽細胞または軟骨細胞の分化調節用試薬(但し、(a)の物質を含む試薬を除く)。 - nrf2の発現が調節された骨芽細胞または軟骨細胞。
- 骨芽細胞または軟骨細胞が、nrf2安定発現骨芽細胞株または軟骨細胞株である、請求項22記載の細胞。
- 骨芽細胞または軟骨細胞特異的なnrf2発現ベクター。
- nrf2の発現または機能を調節する物質の有効量を被験体に投与することを含む、骨芽細胞または軟骨細胞分化の調節方法。
- nrf2の発現または機能を調節する物質の有効量を被験体に投与することを含む、骨・関節疾患の予防または治療方法。
- 骨芽細胞または軟骨細胞分化の調節剤の作製における、nrf2の発現または機能を調節する物質の使用。
- 骨・関節疾患の予防または治療剤の作製における、nrf2の発現または機能を調節する物質の使用。
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