JP2014095643A - 炎症性疾患治療薬のスクリーニング方法、並びに炎症性疾患の治療及び検査 - Google Patents

炎症性疾患治療薬のスクリーニング方法、並びに炎症性疾患の治療及び検査 Download PDF

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卓志 城
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宏延 塚本
Shigeki Higashiyama
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Abstract

【課題】TNF-αの放出のメカニズムの詳細を明らかにすることにより、副作用の少ない炎症性疾患の治療法の確立に資する技術を提供することを課題とする。
【解決手段】
炎症性疾患の治療に有効な化合物をスクリーニングするために、アネキシンA2とADAM17の結合に対する阻害活性を指標として利用する。
【選択図】なし

Description

本発明は炎症性疾患の治療に有効な化合物のスクリーニング方法、炎症性疾患治療薬、炎症性疾患の疾患活動性検査法などに関する。
TNF-αは炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)の進展・増悪に重要な役割を果たしている重要な炎症性サイトカインであり、その制御が炎症性腸疾患治療の中心となっている。通常、抗TNFα療法では抗TNFα抗体を用いてTNFαの作用を抑制する(非特許文献1)。この治療法の有効性は確立されているものの(非特許文献2、3)、無効例や効果減弱による2次無効例(抗TNFα抗体に対する中和抗体の産生に起因する)が問題となっている(非特許文献4)。一方、他の抗サイトカイン療法や白血球の遊走を抑制する治療法が現在開発されつつあるが、抗TNFα療法を超える効果は得られていない。
TNF-αはTNFスーパーファミリーに属し、様々な炎症反応に関与する。例えば、IL-1β、IL-6及びIL-8とともに腸管の炎症を引き起こし、上記の通り、炎症性腸疾患(IBD)の発症・進展に関与する。ADAM(a disintegrin and metalloproteinase)の作用によって膜結合型TNF-α(TNF-α前駆体とも呼ばれる)から可溶性TNF-α(sTNF-α)が生ずる。TNF-α変換酵素としても知られているADAM17は各種膜タンパク質の放出に関与する(非特許文献5、6)。1型膜結合タンパク質(例えばアンフィレギュリン(AREG)やHB-EGF)のC末端は細胞質内に存在する(非特許文献7、8)。対照的に2型膜結合タンパク質(例えばTNF-α)ではそのN末端が細胞質内にある。1型膜結合タンパク質及び2型膜結合タンパク質をADAM17が切断するメカニズムの詳細は不明である。最近になって、アネキシン(ANX)、特にアネキシンA2、アネキシンA8、アネキシンA9(以下、それぞれ、「ANX A2」、「ANX A8」、「ANX A9」と略称することがある)がEGFRリガンド(HB-EGF、AREGなど)の放出に関与することが明らかになった(非特許文献9)。
Van Deventer SJ. Tumour necrosis factor and Crohn's disease. Gut. 1997;40:443-448 Hanauer SB, Sandborn WJ, Rutgeerts P, et al. Human anti-tumor necrosis factor monoclonal antibody (adalimumab) in Crohn's disease: the CLASSIC-I trial. Gastroenterology. 2006;130:323-333 Rutgeerts P, Sandborn WJ, Feagan BG, et al. Infliximab for induction and maintenance therapy for ulcerative colitis. The New England journal of medicine. 2005;353:2462-2476 Billioud V, Sandborn WJ, Peyrin-Biroulet L. Loss of response and need for adalimumab dose intensification in Crohn's disease: a systematic review. The American journal of gastroenterology. 2011;106:674-684 Moss ML, Jin SL, Milla ME, et al. Cloning of a disintegrin metalloproteinase that processes precursor tumour-necrosis factor-alpha. Nature. 1997;385:733-736 Black RA, Rauch CT, Kozlosky CJ, et al. A metalloproteinase disintegrin that releases tumour-necrosis factor-alpha from cells. Nature. 1997;385:729-733 Asakura M, Kitakaze M, Takashima S, et al. Cardiac hypertrophy is inhibited by antagonism of ADAM12 processing of HB-EGF: metalloproteinase inhibitors as a new therapy. Nature medicine. 2002;8:35-40 Tanida S, Joh T, Itoh K, et al. The mechanism of cleavage of EGFR ligands induced by inflammatory cytokines in gastric cancer cells. Gastroenterology. 2004;127:559-569 Nakayama H, Fukuda S, Inoue H, et al. Cell surface annexins regulate ADAM-mediated ectodomain shedding of proamphiregulin. Molecular biology of the cell. 2012;23:1964-1975
炎症性疾患の治療戦略においてTNF-αは重要且つ有力な標的分子である。TNF-αの放出を特異的に抑制できれば、副作用の少ない治療が可能となる。そこで本発明の課題は、TNF-αの放出のメカニズムの詳細を明らかにすることにより、副作用の少ない炎症性疾患の治療法の確立に資する技術(リサーチツール、治療薬など)の提供にある。また、本発明は、炎症性疾患の診断に有用な技術を提供することも課題とする。
上記の通り、TNF-αの放出にADAM17が重要な役割を果たす。従って、TNF-αの放出を抑制するための標的としてADAM17は有力な候補となる。しかしながら、ADAM17はTNF-αの放出だけでなく、EGFファミリーであるHB-EGFやAREGの放出にも関与することから、ADAM17の阻害はこれらEGFファミリー分子の放出も阻害し、副作用が起きやすい。TNF-αの放出のみ(HB-EGFやAREGの放出には影響を与えない)を抑制できる手段が見出されれば、新たな治療法の開発が可能になる。このような視点に立ち、本発明者らは、ADAM17によるTNF-α放出のメカニズムの詳細を明らかにすべく研究を進めた。具体的には、主に単球や大腸上皮細胞株で発現を認めるANX A2に注目し、TNF-α放出におけるその関与を詳細に調べた。その結果、ANX A2がADAM17を活性化し、単球や大腸上皮細胞におけるTNF-αの放出を制御しているというエビデンスが得られた。また、特に重要な事実として、ANX A2の阻害によってEGFファミリー分子(HB-EGF、AREG)の放出がむしろ増加する傾向を認め、ANX A2の作用を受けて活性化したADAM17は特異的にTNF-αを放出することが明らかになった。従って、ANX A2とADAM17の結合を阻害することは抗炎症効果と修復効果を同時に発揮し、炎症性疾患の有効な治療戦略になる。ANX A2とADAM17の結合に対して阻害活性を示す物質を同定できれば、炎症性疾患に対する医薬及びそれを用いた新規治療法の提供が可能である。従って、ANX A2とADAM17の結合に対して阻害活性を示す物質を同定するためのアッセイ、即ち、ANX A2とADAM17の結合に対する阻害活性を指標にしたスクリーニングは、炎症性疾患を標的とした創薬における有効なツール(リサーチツール)となる。
一方、ANX A2はCa2+を介して細胞膜に結合する蛋白であり、TNF-αの切り出しに関与していることから、炎症が増悪しているとき(疾患活動性の高い時)は、ANX A2がTNF-αを持続的に高いレベルで切り出している。逆に炎症が寛解時(疾患活動性が低い時)はANX A2によるTNF-αの切り出しが治まっている。この事実に鑑みれば、ANX A2の発現は疾患活動性と関連しており、疾患活動性のバイオマーカーとしてANX A2が有用であるといえる。
以下の本発明は、主として以上の成果及び考察に基づく。
[1]アネキシンA2とADAM17の結合に対する阻害活性を指標にした、炎症性疾患の治療に有効な化合物のスクリーニング方法。
[2]以下のステップ(1)及び(2)を含む、[1]に記載のスクリーニング方法:
(1)アネキシンA2とADAM17の結合部位を特定するステップ;
(2)被験物質が前記結合部位に対して阻害活性を示すか否かをアッセイするステップ。
[3]ステップ(2)において、阻害活性を示したときに被験物質が有効であると判定する、[2]に記載のスクリーニング方法。
[4]炎症性疾患が、TNF-αの過剰な放出が原因又は進行に関与する炎症性疾患である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
[5]炎症性疾患が、炎症性腸疾患、関節リウマチ又はベーチェット病である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
[6]炎症性腸疾患が潰瘍性大腸炎又はクローン病である、[5]に記載のスクリーニング方法。
[7]以下のステップ(i)及び(ii)を含む、炎症性疾患治療用抗体の作製方法:
(i)アネキシンA2とADAM17の結合部位を特定するステップ;
(ii)前記結合部位に特異的な抗体を調製するステップ。
[8]アネキシンA2とADAM17の結合を阻害する抗体を有効成分とする炎症性疾患治療薬。
[9]アネキシンA2遺伝子の発現を抑制する化合物を有効成分とする炎症性疾患治療薬。
[10]前記化合物が以下の(a)〜(d)からなる群より選択される化合物である、[9]に記載の炎症性疾患治療薬:
(a)アネキシンA2遺伝子を標的とするsiRNA;
(b)アネキシンA2遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する核酸コンストラクト;
(c)アネキシンA2遺伝子の転写産物を標的とするアンチセンス核酸;
(d)アネキシンA2遺伝子の転写産物を標的とするリボザイム。
[11][8]〜[10]のいずれか一項に記載の炎症性疾患治療薬を、炎症性疾患の患者に投与するステップ、を含む炎症性疾患治療法。
[12]アネキシンA2からなる、炎症性疾患の疾患活動性マーカー。
[13]アネキシンA2の検体中レベルを指標とした、炎症性疾患の疾患活動性検査法。
[14]以下のステップ(I)〜(III)を含む、[13]に記載の検査法:
(I)被検者由来の検体を用意するステップ;
(II)前記検体中のアネキシンA2を検出するステップ;及び
(III)検出結果に基づいて、炎症性疾患の疾患活動性を判定するステップであって、アネキシンA2の検出値が高いことが疾患活動性の高いことの指標となる、ステップ。
[15]ステップ(II)で得られた検出値と対照検体の検出値との比較に基づきステップ(III)の判定を行う、[14]に記載の検査法。
[16]ステップ(II)で得られた検出値と、同一の被検者から過去に採取された検体中の検出値との比較に基づきステップ(III)の判定を行う、[14]に記載の検査法。
[17]前記検体が血液、血漿、血清、尿又は炎症部位の生検組織である、[14]〜[16]のいずれか一項に記載の検査法。
(A)ウエスタン解析の結果。ADAM17、TNF-α、ANX A2、ANX A8、ANX A9、TNF-R1、TNF-R2及びβ-アクチンの発現を検出した。レーン1: HCT116、レーン2: HT29、レーン3: U937細胞。(B)HCT116細胞株における、ANX A2とADAM17の結合。全長ADAM17をコードした発現ベクターをトランスフェクションし、IgG及び抗ANX A2抗体で免疫沈降後、抗ADAM17抗体にてブロットした。 APアッセイを用いたTNF-α切り出しの定量化。(A)HCT116細胞株におけるIL-1β刺激時のTNF-α切り出しの定量化。APで標識したTNF-α前駆体(proTNF-α)を強発現し、20ng/mL IL-1βで60分刺激後、上澄み液内のAPを測定した。(B)HCT116細胞株におけるIL-1β刺激時のTNF-α切り出しの定量化。APで標識したTNF-α前駆体を強発現し、100nM TPAで60分刺激後、上澄み液内のAPを測定した。 (A)及び(B)HCT116細胞株におけるKB-R7785及びADAM17欠失時のTPA刺激時TNF-α切り出し効果。APで標識したTNF-α前駆体を強発現した細胞を10μM KB-R7785又はADAM17を標的としたsiRNAで処理した後、100nM TPAで60分刺激し、上澄み液内のAPを測定した。*P<0.05 コントロールに対する刺激効果、**P<0.05 抑制効果。(C)及び(D)HCT116細胞株におけるANX A2欠失時のIL-1β刺激時TNF-α切り出し効果。ANX A2を標的としたsiRNAで処理した後、20 ng/mL IL-1βで60分刺激し、上澄み液内のTNF-αをELISAで測定した。*P<0.05 コントロールに対する刺激効果、**P<0.05 抑制効果。(E)TNF-α前駆体の時間的発現推移。HCT116細胞株にFLAGで標識したTNF-α前駆体発現ベクターをトランスフェクションし、100nM TPA刺激後、抗FLAG抗体にてウエスタン解析した。(F)TNF-α前駆体の時間的発現推移。HCT116細胞株にFLAGで標識したTNF-α前駆体発現ベクターをトランスフェクションし、ANX A2欠失後に100nM TPAで刺激し、抗FLAG抗体にてウエスタン解析した。 (A)HCT116細胞株におけるTNF-α放出の時間的推移。HCT116細胞株を20 ng/mL IL-1β、100 nM TPA又は100 ng/mL LPSで刺激し、ELISAにてTNF-α放出濃度を測定した。*P<0.05 コントロールに対する刺激効果。(B)HCT116細胞株におけるTNF-α mRNAレベルの時間的推移。HCT116細胞株を20 ng/mL IL-1β、100 nM TPAで刺激し、リアルタイムPCRにてTNF-α mRNAレベルを測定した。*P<0.05 コントロールに対する刺激効果。(C)U937細胞株におけるTNF-α放出の時間的推移。U937細胞株を20 ng/mL IL-1β、100 nM TPA又は100 ng/mL LPSで刺激し、ELISAにてTNF-α放出濃度を測定した。*P<0.05 コントロールに対する刺激効果。(D) HCT116細胞株におけるKB-R7785及びADAM17欠失時のIL-1β刺激時TNF-α放出効果。10μM KB-R7785又はADAM17を標的としたsiRNAで細胞を処理後、20 ng/mL IL-1βで刺激し、上澄み液内のTNF-αをELISAで測定した。*P<0.05 コントロールに対する刺激効果、**P<0.05抑制効果。 (A)及び(B)HCT116細胞株におけるANX A2欠失時のIL-1β刺激時TNF-α放出効果。ANX A2を標的としたsiRNAで細胞を処理後、20 ng/mL IL-1βで刺激し、上澄み液内のTNF-αをELISAで測定した。*P<0.05 コントロールに対する刺激効果、**P<0.05 抑制効果。(C)及び(D) HT29細胞株におけるANXA2欠失時のIL-1β刺激時TNF-α放出効果。ANX A2を標的としたsiRNAで細胞を処理後、20 ng/mL IL-1βで刺激し、上澄み液内のTNF-αをELISAで測定した。*P<0.05 コントロールに対する刺激効果、**P<0.05 抑制効果。(E)及び(F)U937細胞株におけるANX A2欠失時のIL-1β刺激時TNF-α放出効果。ANX A2を標的としたsiRNAで細胞を処理後、100 nM TPAで刺激し、上澄み液内のTNF-αをELISAで測定した。*P<0.05 コントロールに対する刺激効果、**P<0.05 抑制効果。 HCT116細胞株におけるANX A2欠失時のTPA刺激時AREG及びHB-EGF切り出し効果。APで標識したAREG前駆体(proAREG)又はHB-EGF前駆体(proHB-EGF)を強発現し、ANX A2を標的としたsiRNAで処理後、100nM TPAで60分刺激し、上澄み液内のAPを測定した。*P<0.05 コントロールに対する刺激効果、**P<0.05 抑制効果。(A)AREG切り出し、(B)HB-EGF切り出し。 ANXsにより制御されたADAM17を介したTNF-α又はEGFRリガンド放出メカニズム。(A)ANX A2の発現が高い時、ANX A2はADAM 17を介したTNF-αの切り出しを惹起する。(B)ANX A8 及び9の発現が高い時、ANX A8及びANX A9はADAM 17を介したEGFRリガンドの切り出しを惹起する。
1.炎症性疾患治療用薬剤のスクリーニング方法
本発明の第1の局面は、炎症性疾患の治療に有効な化合物(薬剤)をスクリーニングする方法に関する。本発明のスクリーニング方法で選抜された化合物は炎症性疾患治療薬の有効成分として、或いは炎症性疾患治療薬のリード化合物としてその利用・応用が期待される。
本発明において「炎症性疾患」とは、炎症性サイトカインであるTNF-αの過剰な放出がその原因又はその進行に関与する疾患をいう。本発明のスクリーニング方法で選抜された化合物は、ANX A2とADAM17の結合の阻害を介してADAM17によるTNF-αの放出を抑制することでその薬効を発揮する。炎症性疾患の具体例を挙げれば、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など)、関節リウマチ、ベーチェット病である。
本発明のスクリーニング方法では、ANX A2とADAM17の結合に対する阻害活性を指標として化合物をスクリーニングする。換言すれば、ANX A2とADAM17の結合に対して阻害活性を示すものを有効な化合物として選抜する。
ANX A2はアネキシンファミリーに属する。アネキシンファミリーのメンバー、特に、ANX A2、ANX A8、ANX A9がEGFRリガンド(HB-EGF、AREGなど)の放出に関与することが報告されている。尚、ANX A2のアミノ酸配列を配列番号1(アイソフォーム1:DEFINITION: annexin A2 isoform 1 [Homo sapiens]. ACCESSION: NP_001002858)、配列番号2(アイソフォーム2)に示し、同遺伝子配列を配列番号3(アイソフォーム1をコードする転写バリアント1)、配列番号4(アイソフォーム2をコードする転写バリアント2)、配列番号5(アイソフォーム2をコードする転写バリアント3)、配列番号6(アイソフォーム2をコードする転写バリアント4)に示す。
一方、ADAM17は、AREGやHB-EGFのような、細胞内にC末端をもつ1型膜蛋白やTNF-αのような細胞内にN末端をもつ2型膜蛋白を切り出す。本発明者らの検討の結果、ADAM17がANX A2と直接結合し、TNF-αを切り出すことが明らかとなった。
本発明のスクリーニング方法では、典型的には、以下のステップ(1)及び(2)を行う。尚、一度、ANX A2とADAM17の結合部位を特定できれば、ステップ(1)を省略することができる。
(1)ANX A2とADAM17の結合部位を特定するステップ
(2)被験物質が前記結合部位に対して阻害活性を示すか否かをアッセイするステップ
ステップ(1)では、ANX A2とADAM17の結合部位、即ち、これら二つの分子の複合体の形成に関与する部位を特定する。結合部位の特定には各種方法を適用可能である。例えば、結晶構造解析、プルダウンアッセイ等を利用できる。結晶構造解析を利用する場合には、典型的には、ANX A2、ADAM17、及びANX A2がADAM17に結合した時のタンパク質(ANX A2とADAM17の複合体)を精製し、結晶構造解析(例えば、X線結晶構造解析)に供する。
プルダウンアッセイは、比較的簡便な操作で結合部位を特定できる方法である。以下、一例として、GSTプルダウンアッセイを利用し、ANX A2とADAM17の結合部位を特定する方法を示す。ANX A2の細胞外ドメインは、AnnexinリピートI〜IVで形成されている。まず、AnnexinリピートのI〜IV領域をコードする遺伝子群の各領域に対応する部分を欠失させた変異ANX A2遺伝子(ANX A2ΔI、ANX A2ΔII、ANX A2ΔIII、ANX A2ΔIV)を作製し、それぞれ、FLAG標識発現ベクターpcDNA3.1 (Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)に組み込む。次に、ADAM17細胞外ドメインであるシステインリッチドメイン(CR)及びディスインテグリンドメイン(D)をコードする遺伝子をそれぞれ発現ベクターpGEX6P-1(GE Healthcare, Little Chalfont, U.K.)にサブクローニングし、GSTが結合したリコンビナントCR(GST-CR)及びD(GST-D)を調製する。調製したGST-CR及びGST-Dをグルタチオンセファロースビーズに結合させておく(CR結合ビーズ及びD結合ビーズ)。一方、FLAG標識変異ANX A2遺伝子(ANX A2ΔI、ANX A2ΔII、ANX A2ΔIII、ANX A2ΔIV)発現ベクターを単球系細胞株や大腸上皮細胞株に強発現させた後、細胞を氷上で溶解し、遠心処理し、ライセート(細胞溶解物)を得る。ライセートにCR結合ビーズ及びD結合ビーズを混合し、4℃で2時間反応させた後、上清をSDS-PAGEに供する。続いて、抗FLAG抗体を使い、ウエスタン解析を行う。解析結果より、AnnexinリピートI〜IVの中でどの領域がADAM17との複合体形成に必要であるかを明らかにする。
ステップ(2)における、阻害活性を示すか否かの判定・評価には、各種結合アッセイを利用できる。即ち、ANX A2とADAM17との結合を検出できるアッセイ系において、被験物質の存在によって当該結合が阻害されるか否か、及び/又は阻害の程度を調べればよい。利用可能なアッセイ系の例として、免疫沈降反応を用いたアッセイ、プルダウンアッセイ、酵母ツーハイブリッド法、近接効果(proximity effect)を利用した各種アッセイ法(例えば、AlphaScreen(登録商標)法やFRET(Fluorescence resonance energy transfer)法)を挙げることができる。好ましいアッセイ法の一つはアルファスクリーン法である。アルファスクリーン法とは、2種のビーズ(ドナービーズ、アクセプタービーズ)の近接効果を利用したアッセイ法であり、光の照射によってドナービーズから生じた一重項酸素がアクセプタービーズに到達することで発光が生じる原理を利用する(例えば、A. Von Leoprechting et al., J. Biomol. Screen., 9, 719 (2004)を参照)。アルファスクリーン法に使用可能な試薬やキットなどが市販されており(パーキンエルマー社)、それらを利用することができる。以下、アルファスクリーン法を用いて阻害活性を判定・評価する方法の一例を示す。
PerkinElmer社が提供するAlphaScreen system(登録商標)を使用する。プルダウンアッセイの欄に説明した方法で調製した、ADAM17結合部位にGSTを結合させたリコンビナントGST-CR及びGST-Dとビオチン化したANX A2の結合部位(ビオチン化ANX A2結合断片)を準備する。リコンビナントGST-CR及びGST-D(例えば1.25μg/mLを5μL)とビオチン化ANX A2結合断片(例えば1.25μg/mLを2.5μL)を混合して所定時間(例えば30分間)インキュベーションする。続いて、抗GST抗体(例えば1.8μg/mLを2.5μL)を加え、さらに所定時間(好ましくは1時間以上)インキュベーションする。その後、ストレプトアビジンでコートしたドナービーズ(例えば5μL)と抗GST IgG結合アクセプタービーズ(例えば5μL)を加え、暗所で所定時間(例えば2時間)インキュベーションする。専用のバッファー(例えば、25 mM HEPES, 1 mM MgCl2, 20 mM NaCl, pH 7.4, 0.1 % BSA)を使用し、加温下(例えば23℃)、マイクロプレートリーダー(例えばEnVision microplate reader(Perkin-Elmer社))によりAlphaScreenシグナルを測定する。
FRET法とは、2種類の蛍光物質、蛍光蛋白質等が空間的に近接した場合に生じる蛍光ドナーから蛍光アクセプターへの蛍光共鳴エネルギー転移(Fluorescence Resonance Energy Transfer)を利用したアッセイ法である。様々な蛍光ドナーと蛍光アクセプターの組み合わせを用いることができる。組合せの例を挙げれば、フルオレセイン(Fluorescein)とテトラメチルローダミン(Tetramethylrhodamine)、テトラメチルローダミンとテキサスレッド(Texas Red)、EuキレートとCy5、アロフィコシアニン(Allophycocyanine)又はAlexaFluor 647、Tbキレートとフルオレセイン、ローダミン、BODIPY-TMR又はBODIPY-FLである。
本発明のスクリーニング法に供する被験物質(試験化合物)としては様々な分子サイズの有機化合物又は無機化合物を用いることができる。有機化合物の例として、核酸、ペプチド、タンパク質、脂質(単純脂質、複合脂質(ホスホグリセリド、スフィンゴ脂質、グリコシルグリセリド、セレブロシド等)、プロスタグランジン、イソプレノイド、テルペン、ステロイド、ポリフェノール、カテキン、ビタミン(B1、B2、B3、B5、B6、B7、B9、B12、C、A、D、E等)を例示できる。被験物質は天然物由来であっても、或いは合成によるものであってもよい。後者の場合には例えばコンビナトリアル合成の手法を利用して効率的なスクリーニング系を構築することができる。尚、植物抽出液、細胞抽出液、培養上清などを被験物質として用いてもよい。また、既存の薬剤を被験物質としてもよい。2種類以上の被験物質を同時に添加することにより、被験物質間の相互作用、相乗作用などを調べることにしてもよい。
結合アッセイの結果に基づき被験物質の有効性を判定し、有効な被験物質を選抜する。本発明では、ANX A2とADAM17の結合に対する阻害活性を示した場合に被検物質が有効であると判定する。複数の被験物質を用いた場合には、阻害の程度に基づき、各被験物質の有効性を比較評価することができる。
通常は、比較対象として、被験物質非存在下(その他の条件は同一とする)でアッセイした群(コントロール群)を用意し、その検出結果と試験群の検出結果を比較することによって、被験物質が阻害活性を有するか否か或いはその程度を判定する。このようにコントロール群との比較によって被験物質の有効性を判定すれば、より信頼性の高い判定結果が得られる。試験群及びコントロール群のサンプル数は特に限定されない。一般に使用するサンプルが多くなるほど信頼性の高い結果が得られるが、多数のサンプルを同時に取り扱うことは主に操作の面で困難を伴う。そこで例えば各群に含まれるサンプル数を1〜50、好ましくは2〜30、さらに好ましくは3〜20とする。
選抜された化合物(候補化合物)の効果の確認のため、TNF-αの放出(shedding)を測定できるアッセイ系(TNF-α放出測定系)において、TNF-αの放出を阻害するか否か或いは阻害の程度を調べることにしてもよい。TNF-α放出測定系の具体例及びそれを用いて候補化合物の効果を確認する方法の具体例を以下に示す。
まず、アルカリフォスファターゼ(AP)標識TNF-α前駆体発現ベクター(プラスミド)を単球系細胞(例えばU937細胞)や大腸上皮細胞(HT29細胞、HCT116細胞、SW480細胞など)に遺伝子導入する。具体的には、培養皿(例えば6cmφのディッシュ)に所定数(例えば5×106個)の細胞を撒き、24時間培養後、予め調製しておいたAP-TNF-α前駆体発現ベクターをリポフェクタミン(Invitrogen Life Technology)に混合後、トランスフェクションする。48〜72時間後にG418(500μg/ml)の濃度に調整した培養液で培養し、形質転換体を選択する。培地を交換して培養を継続し、10細胞程度に増殖してきたコロニーを顕微鏡下にクローニングする。ある程度増殖したところで、培養上清のAPを測定し、最終的に十分量のAPが発現している細胞を選別する。このようにして樹立した安定発現株(stable cell line)をアッセイに使用する。TNF-αの放出の誘導には、例えば、12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate(TPA:60 nM)又はIL-1β(10μg/mL)を使用する。96穴プレートに安定発現株を播種し、48時間培養後にTPA又はIL-1βで1時間刺激後、上澄100μLを採取し65℃で20分間インキュベーションする。続いて、2´APバッファー(2mol/L ジエタノールアミン、pH9.8、1mmol/L MgCl2、20mmol/L L-ホモアルギニン、24mmol/L p-ニトロフェニルリン酸)を加えた後、405nmの吸光度を測定し、AP活性を算出する。候補化合物のTNF-α放出抑制効果を評価するためには、予め候補化合物で処理した細胞を使用した場合のAP活性又は候補化合物の存在下でTNF-αの放出を誘導した場合のAP活性を求め、これらのAP活性とコントール(候補化合物による前処理も、TNF-α放出誘導時の候補化合物の添加をしないもの)のAP活性を比較する。
本発明のスクリーニング方法によって選択された物質が十分な薬効を有する場合には、当該物質をそのまま炎症性疾患治療薬の有効成分として使用することができる。一方、十分な薬効を有しない場合又は薬効の向上が望まれる場合には、化学的修飾などの改変を施してその薬効を高めた上で、炎症性疾患治療薬の有効成分として使用することができる。勿論、十分な薬効を有する場合であっても、更なる薬効の増大を目的として同様の改変を施してもよい。
2.炎症性疾患治療剤及び治療法
本発明の更なる局面は炎症性疾患治療薬(以下、「本発明の医薬」とも称する)に関する。
本発明者らの検討の結果、ANX A2とADAM17の結合を阻害することが、炎症性疾患の有効な治療戦略になることが判明した。この知見に基づき、本発明の一態様では、有効成分として、ANX A2とADAM17の結合を阻害する抗体(抗ANX A2抗体又は抗ADAM17抗体)を有効成分とする。ADAM17の生理的役割の重要度を考慮すると、好ましくはANX A2の結合部位に対する抗体(抗ANX A2抗体/ANX A2中和抗体)を有効成分とする。
本発明の有効成分として用いられる抗ANX A2抗体又は抗ADAM17抗体は以下の方法で作製することができる。まず、ADAM17とANX A2の結合部位を特定した後(ステップ(i))、そのアミノ酸配列を解析する。次に、結合部位に特異的な抗体(典型的には、結合部位のアミノ酸配列をエピトープとしたモノクローナル中和抗体)を作製する(ステップ(ii))。例えば、結合部位のアミノ酸配列を含むオリゴペプチドないしはポリペプチドを抗原として、公知の方法によりモノクローナル抗体を得る。具体例を示すと、まず、上記抗原を調製し、これを動物(マウス、ウサギ、ヤギ等)に免疫する。その後、免疫された動物から抗体産生細胞を摘出し、これと骨髄腫細胞とを融合してハイブリドーマ細胞を得る。続いて、このハイブリドーマをモノクローナル化した後、上記結合部位に高い特異性を有する抗体を産生するクローンを選択する。得られた抗体に対して種々の修飾、改変、変換(キメラか、ヒト化など)を施すことができる。本発明の有効成分である抗体は、例えば、マウス、ラットなどの非ヒト動物の抗体、一部の領域を他の動物(ヒトを含む)のものに置換したキメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体として提供される。また、抗体のクラスも特に限定されないが、好ましくはIgGクラスの抗体である。例えば、ヒト抗体のサブクラスIgG1、IgG2、IgG3、IgG4に属する抗体である。
他の一態様では、本発明の医薬は、ANX A2遺伝子の発現を抑制することにより、間接的にANX A2とADAM17の結合を阻害する。本発明の有効成分となる、ANX A2遺伝子の発現を抑制する化合物とは、ANX A2遺伝子の発現過程(転写、転写後調節、翻訳、翻訳後調節を含む)を抑制する化合物である。当該化合物の例は次の通りである。尚、本発明における「発現の抑制」は一過的抑制及び恒常的抑制のいずれでもよい。
(a)ANX A2遺伝子を標的とするsiRNA
(b)ANX A2遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する核酸コンストラクト
(c)ANX A2遺伝子の転写産物を標的とするアンチセンス核酸
(d)ANX A2遺伝子の転写産物を標的とするリボザイム
上記(a)及び(b)は、いわゆるRNAi(RNA interference;RNA干渉)による発現抑制に利用される化合物である。換言すれば、上記(a)又は(b)の化合物を有効成分とする本発明の医薬によればRNAiによりANX A2の発現を抑制することができる。RNAiは真核細胞内で引き起こすことが可能な、配列特異的な転写後遺伝子抑制のプロセスである。哺乳動物細胞に対するRNAiでは、標的mRNAの配列に対応する配列の短い二本鎖RNA(siRNA)が使用される。通常、siRNAは21〜23塩基対である。哺乳動物細胞は二本鎖RNA(dsRNA)の影響を受ける2つの経路(配列特異的経路及び配列非特異的経路)を有することが知られている。配列特異的経路においては、比較的長いdsRNAが短い干渉性のRNA(即ちsiRNA)に分割される。他方、配列非特異的経路は、所定の長さ以上であれば配列に関係なく、任意のdsRNAによって惹起されると考えられている。この経路ではdsRNAが二つの酵素、即ち活性型となり翻訳開始因子eIF2をリン酸化することでタンパク質合成のすべてを停止させるPKRと、RNAase L活性化分子の合成に関与する2',5'オリゴアデニル酸シンターゼが活性化される。この非特異的経路の進行を最小限に留めるためには約30塩基対より短い二本鎖RNA(siRNA)を使用することが好ましい(Hunter et al. (1975) J Biol Chem 250: 409-17; Manche et al. (1992) Mol Cell Biol 12: 5239-48; Minks et al. (1979) J Biol Chem 254: 10180-3; 及び Elbashir et al. (2001) Nature 411: 494-8を参照されたい)。
標的特異的なRNAiを生じさせるためには標的遺伝子のmRNA配列の一部と相同なセンスRNA及びこれに相補的なアンチセンスRNAからなるsiRNAを細胞内に導入するか、又は細胞内で発現させればよい。上記(a)は前者の方法に対応する化合物であり、同様に上記(b)は後者の方法に対応する化合物である。
標的遺伝子(本発明の場合はANX A2遺伝子)を標的とするsiRNAは、通常、当該遺伝子のmRNAの配列における連続する領域と相同な配列からなるセンスRNAとその相補配列からなるアンチセンスRNAがハイブリダイズした二本鎖RNAである。ここでの「連続する領域」の長さは通常15〜30塩基、好ましくは18〜23塩基、より好ましくは19〜21塩基である。
末端に数塩基のオーバーハングを有する二本鎖RNAが高いRNAi効果を発揮することが知られている。そこで本発明においても、そのような構造のsiRNAを採用することが好ましい。オーバーハングを形成する塩基の長さは特に限定されないが、好ましくは2塩基(例えばTT、UU)である。
修飾したRNAからなるsiRNAを用いることにしてもよい。ここでの修飾の例としてホスホロチオエート化、修飾塩基(例えば蛍光標識塩基)の使用が挙げられる。
siRNAの設計及び調製は常法で行うことができる。siRNAの設計には通常、標的配列に固有の配列(連続配列)が利用される。尚、適当な標的配列を選択するためのプログラム及びアルゴリズムが開発されている。
上記(b)の「siRNAを細胞内で生成する核酸コンストラクト」とは、それを細胞に導入すると細胞内でのプロセスによって所望のsiRNA(標的遺伝子に対するRNAiを引き起こすsiRNA)が生ずる核酸性分子をいう。当該核酸コンストラクトの一つの例はshRNA(short hairpin RNA)である。shRNAは、センスRNAとアンチセンスRNAがループ構造部を介して連結された構造(ヘアピン構造)を有し、細胞内でループ構造部が切断されて二本鎖siRNAとなり、RNAi効果をもたらす。ループ構造部の長さは特に限定されないが、通常は3〜23塩基である。
核酸コンストラクトの別の例は、所望のsiRNAを発現し得るベクターである。このようなベクターとしては、後のプロセスによってsiRNAに変換されるshRNAを発現する(shRNAをコードする配列がインサートされた)ベクター(ステムループタイプ又はショートヘアピンタイプと呼ばれる)、センスRNAとアンチセンスRNAを別々に発現するベクター(タンデムタイプと呼ばれる)が挙げられる。これらのベクターは当業者であれば常法に従い作製することができる(Brummelkamp TR et al.(2002) Science 296:550-553; Lee NS et al.(2001) Nature Biotechnology 19:500-505; Miyagishi M & Taira K (2002) Nature Biotechnology 19:497-500; Paddison PJ et al.(2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:1443-1448; Paul CP et al.(2002) Nature Biotechnology 19 :505-508; Sui G et al.(2002) Proc Natl Acad Sci USA 99(8):5515-5520; Paddison PJ et al.(2002) Genes Dev. 16:948-958等が参考になる)。現在、種々のRNAi用ベクターが利用可能である。このような公知のベクターを利用して本発明のベクターを構築することにしてもよい。この場合、所望のRNA(例えばshRNA)をコードするインサートDNAを用意した後、ベクターのクローニングサイトに挿入し、RNAi発現ベクターとする。
尚、標的遺伝子に対するRNAi作用を発揮するsiRNAを細胞内で生じさせるという機能を有する限り、ベクターの由来や構造は限定されるものではない。従って、各種ウイルスベクター(アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、センダイウイルスベクター等)、非ウイルスベクター(リポソーム、正電荷型リポソーム等)等を用いることができる。ベクターに利用可能なプロモーターの例を示すと、U6プロモーター、H1プロモーター、tRNAプロモーターである。これらのプロモーターはRNAポリメラーゼIII系のプロモーターであり、高い発現効率を期待できる。
上記(c)はアンチセンス法による発現抑制に利用される化合物である。換言すれば、上記(c)の化合物を有効成分とする本発明の医薬によれば、アンチセンス法によりANX A2の発現を抑制することができる。アンチセンス法による発現阻害を行う場合には例えば、標的細胞内で転写されたときに、ANX A2をコードするmRNAの固有の部分に相補的なRNAを生成するアンチセンス・コンストラクトが使用される。このようなアンチセンス・コンストラクトは例えば、発現プラスミドの形態で標的細胞に導入される。一方、アンチセンス・コンストラクトとして、標的細胞内に導入されたときに、ANX A2をコードするmRNA/又はゲノムDNA配列とハイブリダイズしてその発現を阻害するオリゴヌクレオチド・プローブを採用することもできる。このようなオリゴヌクレオチド・プローブとしては、好ましくは、エキソヌクレアーゼ及び/又はエンドヌクレアーゼなどの内因性ヌクレアーゼに対して抵抗性であるものが用いられる。
アンチセンス核酸としてDNA分子を使用する場合、ANX A2をコードするmRNAの翻訳開始部位(例えば-10〜+10の領域)を含む領域に由来するオリゴデオキシリボヌクレオチドが好ましい。
アンチセンス核酸と、標的核酸との間の相補性は厳密であることが好ましいが、多少のミスマッチが存在していてもよい。標的核酸に対するアンチセンス核酸のハイブリダイズ能は一般に両核酸の相補性の程度及び長さの両方に依存する。通常、使用するアンチセンス核酸が長いほど、ミスマッチの数が多くても、標的核酸との間に安定な二重鎖(又は三重鎖)を形成することができる。当業者であれば、標準的な手法を用いて、許容可能なミスマッチの程度を確認することができる。
アンチセンス核酸はDNA、RNA、若しくはこれらのキメラ混合物、又はこれらの誘導体や改変型であってもよい。また、一本鎖でも二本鎖でもよい。塩基部分、糖部分、又はリン酸骨格部分を修飾することで、アンチセンス核酸の安定性、ハイブリダイゼーション能等を向上させることなどができる。また、アンチセンス核酸に、細胞膜輸送を促す物質(例えば Letsinger et al., 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86:6553-6556; Lemaitre et al., 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. 84:648-652; PCT Publication No. W088/09810, published December 15, 1988を参照されたい)や、特定の細胞に対する親和性を高める物質などを付加してもよい。
アンチセンス核酸は例えば市販の自動DNA合成装置(例えばアプライド・バイオシステムズ社等)を使用するなど、常法で合成することができる。核酸修飾体や誘導体の作製には例えば、Stein et al.(1988), Nucl. Acids Res. 16:3209やSarin et al., (1988), Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:7448-7451等を参照することができる。
標的細胞内におけるアンチセンス核酸の作用を高めるために、pol IIやpol IIIといった強力なプロモーターを利用することができる。即ち、このようなプロモーターの制御下に配置されたアンチセンス核酸を含むコンストラクトを標的細胞に導入すれば、当該プロモーターの作用によって十分な量のアンチセンス核酸の転写を確保できる。
アンチセンス核酸の発現は、哺乳動物細胞(好ましくはヒト細胞)で機能することが知られている任意のプロモーター(誘導性プロモーター又は構成的プロモーター)によって行うことができる。例えば、SV40初期プロモーター領域 (Bernoist and Chambon, 1981, Nature 290:304-310)、ラウス肉腫ウィルスの3'末端領域由来のプロモーター(Yamamoto et al., 1980, Cell 22:787-797)、疱疹チミジン・キナーゼ・プロモーター(Wagner et al., 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 78:1441-1445)等のプロモーターを使用することができる。
本発明の一態様では、リボザイムによる発現抑制を利用する(上記(d)の化合物の場合)。部位特異的認識配列でmRNAを開裂させるリボザイムを用いて標的mRNAを破壊することもできるが、好ましくはハンマーヘッド・リボザイムを使用する。ハンマーヘッド・リボザイムの構築方法については例えばHaseloff and Gerlach, 1988, Nature, 334:585-591を参考にすることができる。
アンチセンス法を利用する場合と同様に、例えば安定性やターゲット能を向上させることを目的として、修飾されたオリゴヌクレオチドを用いてリボザイムを構築してもよい。効果的な量のリボザイムを標的細胞内で生成させるために、例えば、強力なプロモーター(例えばpol IIやpol III)の制御下に、当該リボザイムをコードするDNAを配置した核酸コンストラクトを使用することが好ましい。
本発明の医薬の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、ジエチリン亜硫酸塩、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。
製剤化する場合の剤型も特に限定されない。剤型の例は錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、及び座剤である。本発明の医薬には、期待される治療効果(又は予防効果)を得るために必要な量(即ち治療上有効量)の有効成分が含有される。本発明の医薬中の有効成分量は一般に剤型によって異なるが、所望の投与量を達成できるように有効成分量を例えば約0.1重量%〜約95重量%の範囲内で設定する。本発明の医薬はその剤型に応じて経口投与又は非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜など)によって対象に適用される。これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる(例えば、経口投与と同時に又は所定時間経過後に静脈注射等を行う等)。核酸コンストラクトを有効成分とした場合(例えばRNAiを利用する態様)、in vivo投与に限らず、ex vivo投与を採用することもできる。
本発明の医薬を投与する「対象」は特に限定されず、ヒト及びヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ニワトリ、ウズラ等である)を含む。好ましい一態様では本発明の医薬はヒトに対して適用される。投与量は患者の症状、年齢、性別、及び体重などによって異なるが、当業者であれば適宜適当な投与量を設定することが可能である。投与スケジュールの設定においては、患者の症状や医薬の効果持続時間などを考慮することができる。
以上の記述から明らかな通り本出願は、炎症性疾患の患者に対して本発明の医薬を治療上有効量投与することを特徴とする、炎症性疾患の治療法も提供する。
3.炎症性疾患の疾患活動性検査法
本発明の第3の局面は、後述の実施例に示した実験結果を踏まえた考察、即ち、「ANX A2の発現が疾患活動性と関連しており、疾患活動性のバイオマーカーとしてANX A2が有用であること」に基づき、炎症性疾患の疾患活動性を検査する方法(以下、「本発明の検査法」とも呼ぶ)を提供する。本発明の検査法は、炎症性疾患の疾患活動性を判定するための手段として、或いは炎症性疾患の活動性をモニターする手段として有用である。疾患活動性とは、炎症の状態ないし程度を表す指標である。疾患活動性によれば、炎症が憎悪しているか(又は憎悪傾向にあるか)、炎症が緩解しているか(又は寛解傾向にあるか)など、治療に有益な情報が得られる。
本発明の検査法では、被検者由来の検体中における、ANX A2のレベルが利用される。ここでの「レベル」は、典型的には「量」ないし「濃度」を意味する。但し、慣例及び技術常識に従い、検出対象の分子を検出できるか否か(即ち見かけ上の存在の有無)を表す場合にも用語「レベル」が用いられる。
本発明の検査法では以下のステップを行う。
(I)被検者由来の検体を用意するステップ;
(II)前記検体中のANX A2を検出するステップ;及び
(III)検出結果に基づいて、炎症性疾患の疾患活動性を判定するステップであって、ANX A2の検出値が高いことが疾患活動性の高いことの指標となる、ステップ。
ステップ(I)では被検者由来の検体を用意する。検体としては被検者の血液、血漿、血清、尿(蓄尿でもよい)又は炎症部位の生体組織等を用いることができる。血液、血漿、血清又は尿などを検体とした検査は操作が簡便である。
典型的には炎症性疾患を罹患ないし発症した者、即ち炎症性疾患の患者が被検者となる。本発明の検査法によれば、ANX A2のレベルという客観的な指標に基づいて疾患活動性を評価することができる。評価結果は、より適切な治療方針の決定に有益であり、治療効果の向上や患者のQOL(Quality of Life、生活の質)の向上を促す。
ステップ(II)では検体中のANX A2を検出する。ANX A2のレベルを厳密に定量することは必須でない。即ち、後続のステップ(III)において疾患活動性が判定可能となる程度にANX A2のレベルを検出すればよい。例えば、検体中のANX A2のレベルが所定の基準値を超えるか否かが判別可能なように検出を行うこともできる。
ANX A2の検出方法は特に限定されないが、好ましくは免疫学的手法を利用する。免疫学的手法によれば迅速且つ感度のよい検出が可能である。また、操作も簡便である。免疫学的手法による測定では、ANX A2に特異的結合性を有する物質を使用する。当該物質としては通常は抗体が用いられるが、ANX A2に特異的結合性を有し、その結合量を測定可能な物質であれば抗体に限らず採用できる。尚、市販の抗体に限らず、免疫学的手法、ファージディスプレイ法、リボソームディスプレイ法などを利用して新たに調製した抗体を使用してもよい。
測定法として、ラテックス凝集法、蛍光免疫測定法(FIA法)、酵素免疫測定法(EIA法)、放射免疫測定法(RIA法)、ウエスタンブロット法を例示することができる。好ましい測定法としては、FIA法及びEIA法(ELISA法を含む)を挙げることができる。これらの方法によれば高感度、迅速且つ簡便に検出可能である。FIA法では蛍光標識した抗体を用い、蛍光をシグナルとして抗原抗体複合体(免疫複合体)を検出する。一方、EIA法では酵素標識した抗体を用い、酵素反応に基づく発色ないし発光をシグナルとして免疫複合体を検出する。
ELISA法は検出感度が高いことや特異性が高いこと、定量性に優れること、操作が簡便であること、多検体の同時処理に適することなど、多くの利点を有する。ELISA法を利用する場合の具体的な操作の一例を以下に示す。まず、抗ANX A2抗体を不溶性支持体に固定化する。具体的には例えばマイクロプレートの表面を抗ANX A2モノクローナル抗体で感作する(コートする)。このように固相化した抗体に対して検体を接触させる。この操作の結果、固相化した抗ANX A2抗体に対する抗原(即ち、ANX A2)が検体中に存在していれば免疫複合体が形成される。洗浄操作によって非特異的結合成分を除去した後、酵素を結合させた抗体を添加することで免疫複合体を標識し、次いで酵素の基質を反応させて発色させる。そして、発色量を指標として免疫複合体を検出する。非競合法に限らず、競合法(検体とともに抗原を添加して競合させる方法)を用いることにしてもよい。また、検体中のANX A2を標識化抗体で直接検出する方法を採用しても、或いはサンドイッチ法を採用してもよい。サンドイッチ法では、エピトープの異なる2種類の抗体(捕捉用抗体及び検出用抗体)が用いられる。尚、ELISA法の詳細については数多くの成書や論文に記載されており、各方法の実験手順や実験条件を設定する際にはそれらを参考にできる。
プロテインアレイやプロテインチップ等、多数の検体を同時に検出可能な手段を用いることにしてもよい。プローブには例えば標的であるANX A2特異的な抗体が用いられる。
ステップ(III)では、検出結果に基づいて、炎症性疾患の疾患活動性を判定する。精度のよい判定を可能にするため、ステップ(II)で得られた検出値を対照検体(コントロール)の検出値と比較した上で判定を行うとよい。疾患活動性の判定は定性的、定量的のいずれであってもよい。例えば、所定の閾値を境界として疾患活動性の高低を判定する場合の「閾値」や、疾患活動性の高低に係る区分に関連づける「ANX A2のレベル範囲」は、多数の検体を用いた統計的解析によって決定することができる。統計処理を利用して解析する場合には、一般に、疾患活動性が高い群と疾患活動性が低い群を設定することが有効である。前者の群としては例えば、増悪状態又は増悪傾向にある炎症性疾患患者の集団が該当し、後者の群としては例えば、寛解状態又は寛解傾向にある炎症性疾患患者或いは健常者の集団が該当する。
本発明では、原則として、以下の基準が採用される。即ち、検出値が高いことが疾患活動性の高いことを示す(検出値と疾患活動性が正の相関関係にある)。尚、ここでの判定は、その判定基準から明らかな通り、医師や検査技師など専門知識を有する者の判断によらずとも自動的/機械的に行うことができる。
定性的判定と定量的判定の例を以下に示す。判定に用いる基準値やカットオフ値は、使用する検体、区別すべき疾患活動性のレベル、要求される精度(信頼度)などを考慮して決定すればよい。
(定性的判定の例1)
基準値よりも検出値(ANX A2レベル)が高いときに「疾患活動性が高い」と判定し、基準値よりも検出値が低いときに「疾患活動性が低い」と推定する。
(定性的判定の例2)
反応性が認められた(陽性の)ときに「疾患活動性が高い」と推定し、反応性が認められない(陰性の)ときに「疾患活動性が低い」と推定する。
(定量的判定の例)
以下に示すように検出値の範囲毎に疾患活動性(グレード又はステージ)を予め設定しておき、検出値から疾患活動性を推定する。
測定値<a:活動性が低度(グレードI又はステージIとしてもよい)
a≦測定値<b:活動性は低中等度(グレードII又はステージII)
b≦測定値<c:活動性は中等度(グレードIII又はステージIIIとしてもよい)
c≦測定値<d:活動性は高中等度(グレードIV又はステージIVとしてもよい)
d<測定値:活動性は高度(グレードV又はステージVとしてもよい)
この例では5段階に区分したが、区分数は任意に設定できる。区分数の例は2〜10、好ましくは3〜6である。
本発明の一態様では、同一の被検者について、ある時点で測定されたANX A2のレベルと、過去に測定されたANX A2のレベルとを比較し、ANX A2のレベルの増減の有無及び/又は増減の程度を調べる。その結果得られる、ANX A2のレベル変化に関するデータは疾患活動性の変化・変動をモニターするために有用な情報となる。即ち、ANX A2のレベル変動を根拠として、前回の検査から今回の検査までの間に疾患活動性が高くなった又は低くなった或いは変化がないとの判定を行うことができる。このような評価を炎症性疾患の治療と並行して行えば、治療効果の確認が行えることはもとより、炎症性疾患の増悪の兆候を事前に把握することができる。これによって、より適切な治療方針の決定が可能となる。このように本発明は、治療効果の最大化及び患者のQOL(生活の質)向上に多大な貢献をし得る。
本発明はさらに、炎症性疾患の疾患活動性を検査するためのキットも提供する。本発明のキットは、ANX A2を検出するための試薬を含む。当該試薬は、ANX A2に特異的結合性を示す物質(以下、「結合分子」と呼ぶ)からなる。結合分子の例として、ANX A2を特異的に認識する抗体、核酸アプタマー及びペプチドアプタマーを挙げることができる。結合分子は、ANX A2に対する特異的結合性を有する限り、その種類や由来などは特に限定されない。また、抗体の場合、ポリクローナル抗体、オリゴクローナル抗体(数種〜数十種の抗体の混合物)、及びモノクローナル抗体のいずれでもよい。ポリクローナル抗体又はオリゴクローナル抗体としては、動物免疫して得た抗血清由来のIgG画分のほか、抗原によるアフィニティー精製抗体を使用できる。Fab、Fab'、F(ab')2、scFv、dsFv抗体などの抗体断片であってもよい。
結合分子は常法で調製すればよい。市販品が入手可能であれば、当該市販品を用いても良い。例えば、抗体であれば免疫学的手法、ファージディスプレイ法、リボソームディスプレイ法などを利用して調製することができる。
結合分子として標識化抗体を使用すれば、標識量を指標に結合抗体量を直接検出することが可能である。従って、より簡便な検査法を構築できる。その反面、標識物質を結合させた抗体を用意する必要があることに加えて、検出感度が一般に低くなるという問題点がある。そこで、標識物質を結合させた二次抗体を利用する方法、二次抗体と標識物質を結合させたポリマーを利用する方法など、間接的検出方法を利用することが好ましい。ここでの二次抗体とは、ANX A2に特異的な抗体に対して特異的結合性を有する抗体である。例えば、ANX A2に特異的な抗体をウサギ抗体として調製した場合には抗ウサギIgG抗体を二次抗体として使用することができる。ウサギやヤギ、マウスなど様々な種の抗体に対して使用可能な標識二次抗体が市販されており(例えばフナコシ株式会社やコスモ・バイオ株式会社など)、本発明における試薬に応じて適切なものを適宜選択して使用することができる。
標識物質の例は、ペルオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びグルコース−6−リン酸脱水素酵素などの酵素、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)及びユーロピウムなどの蛍光物質、ルミノール、イソルミノール及びアクリジニウム誘導体などの化学発光物質、NADなどの補酵素、ビオチン、並びに131I及び125Iなどの放射性物質である。
一態様では、本発明における試薬はその用途に合わせて固相化されている。固相化に用いる不溶性支持体は特に限定されない。例えばポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコン樹脂、ナイロン樹脂等の樹脂や、ガラス等の水に不溶性の物質からなる不溶性支持体を用いることができる。不溶性支持体への抗体の担持は物理吸着又は化学吸着によって行うことができる。
本発明のキットには、通常、取り扱い説明書が添付される。検査法を実施する際に使用するその他の試薬(緩衝液、ブロッキング用試薬、酵素の基質、発色試薬など)及び/又は装置ないし器具(容器、反応装置、吸光度計や蛍光リーダーなど)をキットに含めてもよい。また、標準試料として、ANX A2分子又はその断片をキットに含めることが好ましい。
主に単球や大腸上皮細胞株で発現を認めるANX A2について、TNF-αの放出における関与を調べた。
1.材料と方法
(1)材料
抗ANX A2モノクローナル抗体及びADAM17の細胞質内ドメインに対する抗体はBDバイオサイエンス社及びAbcam社からそれぞれ購入した。抗ANX A8抗体及び抗ANX A9抗体は株式会社医学生物学研究所及びAbnova社からそれぞれ購入した。抗TNF-R1ポリクローナル抗体及び抗TNF-R2ポリクローナル抗体はSanta Cruz Biotechnology社から購入した。組換えヒトIL-1β及びリポポリサッカライドはPeproTech社及びSigma Aldrich社からそれぞれ購入した。12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate (TPA)はCell Signaling社から購入した。
(2)メタロプロテアーゼ阻害剤
KB-R7785はADAMファミリーに対する阻害剤である。KB-R7785の有効投与量(10μmol/L)は、既報の方法(参考文献7)で決定した。
(3)プラスミド
アルカリフォスファターゼで標識したTNF-αの発現用プラスミドはストップコドンを欠失させたヒトTNF-α cDNAをpEYFP-N1 (Clontech Laboratories社)にサブクローニングして作製した。完全長ヒトTNF-α cDNAをpME18S-FLAGにクローニングし、pME18S-hTNF-α-FLAGを得た。アルカリフォスファターゼで標識したEGFRリガンド前駆体の発現ベクターは既報の方法で作製した(参考文献10)。
(4)細胞培養
単球細胞株U937は、10%ウシ胎仔血清(FBS)及び1%アンピシリン−ストレプトマイシンを添加したRPMI 1640培地を使用し、5% CO2の条件で培養した。大腸上皮細胞株HCT116及びHT29は、10%ウシ胎仔血清(FBS)及び1%アンピシリン−ストレプトマイシンを添加したMcCoy’s5A培地(Sigma Chemical社)を使用し、5% CO2の条件で培養した。
(5)トランスフェクション
24ウェルプレートを使用し、24時間、細胞を培養した。pTNF-α-APのHCT116細胞及びHT29細胞への一過性トランスフェクションにはLipofectamine 2000(Invitrogen社)を使用した。
(6)免疫沈降及びウエスタンブロット
サブコンフルエントの細胞を無血清培地に移し、48時間培養した。その後、IL-1β又はTPAで所定時間、処理した。刺激を加える前に、細胞にKB-R7785を添加した(60分間)。溶解バッファーで細胞を溶解した後、上清を回収し、1μgの抗ADAM17抗体を添加し4℃、1時間、転倒型回転器を使用してインキュベートした。既報の方法(参考文献8)に従い、免疫沈降及びウエスタンブロットを行った。抗ANX A2抗体を1次抗体に使用し、HRP結合抗マウスIgG 抗体(Cell Signaling Technology社)を2次抗体に使用した。処理後のメンブレンをECL western blotting detection system(Amersham Biosciences社)で解析した。
(7)ELISAによるTNF-αタンパク質の測定
コンフルエントの細胞を無血清培地に移し、20 ng/mLのIL-1βで、37℃、所定時間、処理した。所定時間経過後に培養上清を回収し、TNF-αタンパク質をhuman TNF-alpha Quantikine ELISA Kit (R&D Systems社)で測定した。
(8)siRNAのトランスフェクション
ANX A2及びADAM17をノックダウンするためのsiRNA(short interfering RNA)をInvitrogen社から購入した。細胞を24ウェルプレートに播種し、サブコンフルエントの条件下、24時間培養した。HCT116細胞の一過性トランスフェクションにはLipofectamine RNAiMAX (Invitrogen社)を使用した。また、Nucleofector 2 (Lonza社)を使用したエレクトロポレーションでU937細胞の一過性トランスフェクションを行った。トランスフェクション処理の48時間後にアッセイを行った。
(9)TNF-αの放出量の定量
細胞を24ウェルプレートに播種し、サブコンフルエントの条件下、AP標識プロTNF-αを発現するプラスミドでトランスフェクトした。その後、更に24時間インキュベートした。細胞をPBS(-)で洗浄した後、1μmol/LのL-homoarginineを添加して10分間、インキュベートした。続いて、TPA(50μmol/L)を添加することで放出を誘導し、37℃で所定時間、インキュベートした。次に、100μLの培養液を96ウェルプレートに移し、65℃で20分間処理して内在性アルカリフォスファターゼを失活させた。等量の2´APバッファー(2 mol/L ジエタノールアミン、pH 9.8、1 mmol/L MgCl2、20 mmol/L L-homoarginine及び24 mmol/L p-nitrophenylphosphate) を各ウェルに添加し、ポジティブコントロールのウェルで発色がはっきりと認められるまで、室温にて穏やかに混合した。マイクロプレートリーダーで405 nmの吸光度を測定し、AP活性を求めた。
(10)リアルタイムPCR解析
TNF-α mRNAの発現レベルをリアルタイムRT-PCRで測定した。まず、細胞を50μmol/LのIL-1βで前処理した(コントロールは未処理)。RNeasy Protect Mini Kit (Qiagen社)を使用して全RNAを抽出した。High-Capacity cDNA Reverse Transcription kit (Applied Biosystems社)を用い、2μgのRNAから相補的DNA(cDNA)を合成した。ヒトTNF-α用のプライマーはApplied Biosystems社(TNF-α Mm00443258_m1)から購入した。リアルタイムRT-PCRにはABI 7500 Fast Real-Time PCR system (Applied Biosystems社)を使用した。各実験は、18μLのTaqMan Fast Universal PCR Master Mix (Applied Biosystems)、1μLのcDNA及び1μLのプライマーを含む、全量20μLの反応液を使用して行った。増幅産物の溶解曲線を解析することによって、均一な増幅を確認した。全ての反応を3回行い、データの再現性を確認した。内部コントロールに対するTNF-α mRNA量としてデータを表した。
(11)統計処理
平均±SEMでデータを表した。また、Mann-Whitney U検定で分析した。P値 < 0.05の場合を統計的に有意と判断した。
2.結果
TNF-αは単球で産生、放出されると報告されている。そこで、単球細胞株U937及び大腸上皮細胞株(HCT116、HT29)において、ADAM17、ANX A2、ANX A8、ANX A9、TNF-α受容体タイプ1(TNF-R1)及びTNF-α受容体タイプ2(TNF-R2)の内因性発現をウエスタン解析にて調べた。解析の結果、ANX A2、ANX A8、ANX A9、ADAM17、TNF-R1及びTNF-R2の発現が観察された。TNF-αの発現レベルはU937で高く、HCT116やHT29では非常に低いレベルであった(図1A)。これまでの報告により、繊維芽細胞ではANX A2とADAM17が結合することが分かっている(参考文献9)。HCT116細胞を用いてADAM17を強制発現させ、ANX A2とADAM17の結合の有無を免疫沈降後にウエスタン解析にて調べたところ、ADAM17とANX A2の直接的な結合が認められた(図1B)。
TPA(フォルボールエステル)はADAM12やADAM17を活性化することが分かっている(参考文献7、8)。IL-1β(図2A)やTPA(図2B)による、TNF-αの細胞膜からの切り出しを解析した。アルカリフォスファターゼ(AP)で標識したTNF-α前駆体をHCT116細胞に強発現し、20 ng/mL IL-1β又は100 nM TPAで刺激し、TNF-αの細胞膜からの切り出しを定量化した。APアッセイは、TNF-αの細胞膜からの切り出しを直接的に評価できる優れた方法である(参考文献7、8)。AP活性は、IL-1β刺激時よりTPA刺激時の方が有意に高かった。大腸上皮細胞では、TPAはIL-1βより多くのTNF-αを切り出す(図2)。
主にADAM17によってTNF-αの切り出しは制御されている(参考文献11)。そこで、ADAM 阻害剤KB-R7785の投与時及びADAM17欠失時のTNF-αの切り出しを調べた(図3B)。KB-R7785を投与すると、或いはADAM17を欠失させると、TPA刺激時のTNF-αの切り出しは劇的に抑制された(図3A)。上記の通り、ADAM17とANX A2が直接結合することが判明したため、次にANX A2をsiRNAにて欠失させた時のTNF-αの切り出しを調べた。HCT116細胞株においてANX A2を欠失させると(図3D)、TPA刺激時のTNF-αの切り出しは有意に抑制された(図3C)。次に、TPA刺激時の細胞膜上に存在するTNF-α前駆体の発現を解析した。FLAGで標識したTNF-α前駆体を強発現したHCT116細胞株をTPAで刺激した。細胞膜上に存在するTNF-α前駆体は30分〜60分で減少した(図3E)。また、ANX A2を欠失させると、その減少は抑制された(図3F)。
種々のサイトカインによってTNF-αの放出が生ずる。IL-1β、TPA又はLPSで0時間、1時間、2時間又は4時間刺激したときのTNF-αの放出をELISA法でも確認した。HCT116細胞株をIL-1βで刺激したときの培養上清中のTNF-α量は10.7 pg/mL(1時間)、29.6 pg/mL(2時間)、44.0 pg/mL(4時間)であった。一方、TPA又はLPSで刺激した時のTNF-αの放出量はごくわずかであった(図4A)。次に、リアルタイムPCRにてIL-1β刺激時のTNF-α mRNAレベルを調べた。その結果、1時間後には38倍に増加し、4時間後には刺激前のレベルに戻った。TPA刺激による、TNF-α mRNAレベルの増加は認められなかった(図4B)。U937細胞株についても、IL-1β、TPA又はLPSで0時間、1時間、2時間又は4時間刺激したときのTNF-αの放出をELISA法でも確認した。TPA刺激後のTNF-α量は74.0 pg/mL(1時間)、122.8 pg/mL(2時間)、129.5 pg/mL(4時間)であった。IL-1β又はLPSで刺激した時のTNF-αの放出量はごくわずかであった(図4C)。次に、KB-R7785の投与時及びADAM17の欠失時のTNF-αの放出を調べた。HCT116細胞株において、KB-R7785の投与時及びADAM17の欠失時には、IL-1β刺激によるTNF-αの放出が抑制された(図4D)。
次にANX A2欠失時のTNF-αの放出を検討した。HCT116(図5A)、HT29(図5C)及びU937細胞株(図5E)の内因性ANX A2を欠失させ、TNF-αの放出をELISA法でも確認した。HCT116(図5B)及びHT29細胞株(図5D)でANX A2を欠失させると、IL-1β刺激によるTNF-αの放出は有意に抑制された。U937細胞株(図5F)でも、TPA刺激によるTNF-αの放出は同様に有意に抑制された。
最近の報告によれば、表皮角化細胞においてANX A2はAREGやHB-EGFの切り出しに関与することが分かっている(参考文献9)。そこで、大腸上皮細胞及び単球細胞においても同様のことがいえるか確認した。APで標識したAREG前駆体及びHB-EGF前駆体を強発現させたHCT116細胞株をTPAで刺激すると、時間の経過とともにAREG及びHB-EGFは切り出された。このAREG(図6A)及びHB-EGF(図6B)の切り出しは、ANX A2を欠失させた時、有意に増加した。
3.考察
本研究では、単球及び大腸上皮細胞においてTNF-α発現レベルの違いや、L-1βやTPAによるTNF-αの切り出し様式の違いを明らかにした。また、ANX A2がADAM17を介したTNF-αの切り出しに関与することを明らかにした。
大腸上皮細胞株HCT116ではTNF-α発現レベルは低い(図1A)。IL-1β刺激後1時間でTNF-α mRNAレベルはピークとなり、引き続いてTNF-αの放出が惹起される(図4A, B)。TPAは、IL-1βと比較して、TNF-α強発現させたHCT116細胞株において多くの量のTNF-αを切り出す(図2A, B)。単球細胞株U937では、構成的に高レベルでTNF-αが発現している(図1A)。TNF-αの放出はTPAで起こるが、IL-1βでは惹起されない。これらのことから、IL-1βは、大腸上皮細胞膜上にTNF-α前駆体の発現を惹起し、TPAのような別の刺激物質が、IL-1βより早くTNF-αの切り出しを誘導すると考えられる。また、単球細胞と大腸上皮細胞ではTNF-α前駆体発現とTNF-α切り出し様式に違いがある事が明確となった。
クローン病の発生に食事抗原や腸管内細菌叢に対する単球やリンパ球といった炎症性細胞の過剰反応や制御不能な免疫反応が関与していると考えらえている。クローン病では、IL-1βのような炎症性サイトカインが放出され、腸管粘膜内に単球細胞やリンパ球の遊走・浸潤が起こると悪化する(参考文献12)。つまり、炎症の起こっている微小環境ではサイトカインネットワークが形成され、そして細胞間反応を促進させて炎症が悪化していく。この概念は、活性化したU937細胞がIL-1β(参考文献12)やTNF-αのようなサイトカインを放出し、さらに、放出されたIL-1βが大腸上皮細胞HCT116細胞膜上にTNF-α前駆体産生を惹起し、TNF-αの切り出しを促進させるという、今回得られた結果に一致する。
APで標識したTNF-α前駆体を強発現したHCT116細胞株を使ったAPアッセイにおいて、KB-R7785及びADAM 17欠失によって、TPAにより誘導されるTNF-αの切り出しが抑制された。これは、ADAM 17がTNF-αの切り出しに関与していることを示している。このことは、これまで単球やリンパ球において、TNF-αの切り出しが主にADAM17により制御されている事実(参考文献5、6)と符合する。
ADAM17の発現がクローン病活動期に腸管上皮で上昇していることが報告されている(参考文献13、14)。ADAM17遺伝子欠損マウスは致死である。EXITS(exon-induced translational stop)法による、ADAM17発現をかなり抑えたマウスを使った炎症性腸疾患モデルではEGFRリガンド放出も抑制してしまうため、腸管粘膜再生機序が抑制され、腸管粘膜障害が残ったままである(参考文献15)。このような事実から、ADAM17は修復、増殖、炎症に関与している(参考文献16)。さらに、ADAM17は、AREGやHB-EGFのような、細胞内にC末端をもつ1型膜蛋白やTNF-αのような細胞内にN末端をもつ2型膜蛋白を切り出す。しかしながら、これまで1型膜蛋白と2型膜蛋白を切り分けるメカニズムは不明であった。
最近の研究では、ANX A8やANX A9はADAMを介してAREGやHB-EGFを切り出すこと、逆にANX A2はAREGやHB-EGFの切り出しを抑制することが明らかにされている(参考文献9)。このことは、ANX A2がTNF-αの切り出しに関与している可能性を示している。本研究によって、ADAM17はANX A2と直接結合することが示された(図1B)。また、APで標識したTNF-α前駆体を強発現したHCT116細胞株を使ったAPアッセイにおいてANX A2を欠失させると、TNF-αの切り出しが抑制されたことから、ANX A2がTNF-αの切り出しを惹起していることが明らかになった(図3C)。ANX A2の欠失は、TNF-αの切り出しの抑制を介して腸管粘膜の炎を軽減させるとともに、AREGやHB-EGFの切り出しを促進させることで細胞増殖、粘膜修復に促進的に働くと考えられる。
ANXsは細胞膜のコレステロールやリン脂質に結合し、脂質ラフト(lipid raft)を形成している(参考文献17)。さらに、開口分泌や細胞取り込みにも関与している(参考文献18、19)。また、細胞接着(参考文献20、21)、細胞膜・細胞骨格分子との結合にも関与している(参考文献22〜24)。興味深いことに、ANX A2の欠失はEGFRリガンドの切り出しを増加させ、ANX A8やANX A9の欠失はEGFRリガンドの切り出しを抑制する(参考文献9)。ANX A8又はANX A9を強発現した細胞をIL-1β刺激するとTNF-αの切り出しは抑えられる。これらのことから、ANX A2、ANX A8及びANX A9は1型膜蛋白及び2型膜蛋白の切り出しに重要な役割を果たしていると考えられる。さらに、TNF-α、AREG及びHB-EGFの切り出しを制御するメカニズムはANX蛋白の構造変化によるものだと推測できる。つまり、ANX A2の発現が高い時、ANX A2はADAM17を介した2型膜蛋白TNF-αの切り出しを惹起する。その一方で、ANX A8及びANX 9の発現が高い時には、ANX A8及びANX A9がADAM17を介した1型膜蛋白EGFRリガンドの切り出しを惹起する(図7)。このようなメカニズムに基づき、ANX A2はクローン病治療に役立つ分子標的分子になると考えられる。
4.結論
ADAM17はANX A2と結合し、大腸上皮細胞や単球細胞において、TPA刺激によりTNF-αを切り出す。ANX A2は、TPA刺激によるTNF-α切り出しに重要な役割を果たしている。また、ANX A2の抑制は、クローン病活動期炎症の際に起こっているTNF-αの切り出しの抑制をもたらすものであり、新たな治療戦略として有効と考えられる。
本発明は炎症性疾患、特に炎症性腸疾患の治療及び診断に有用である。本発明のスクリーニング方法で選抜された化合物には、炎症性疾患治療薬の有効成分として、或いは炎症性疾患治療薬のリード化合物としてその利用・応用が期待される。
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
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Claims (17)

  1. アネキシンA2とADAM17の結合に対する阻害活性を指標にした、炎症性疾患の治療に有効な化合物のスクリーニング方法。
  2. 以下のステップ(1)及び(2)を含む、請求項1に記載のスクリーニング方法:
    (1)アネキシンA2とADAM17の結合部位を特定するステップ;
    (2)被験物質が前記結合部位に対して阻害活性を示すか否かをアッセイするステップ。
  3. ステップ(2)において、阻害活性を示したときに被験物質が有効であると判定する、請求項2に記載のスクリーニング方法。
  4. 炎症性疾患が、TNF-αの過剰な放出が原因又は進行に関与する炎症性疾患である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
  5. 炎症性疾患が、炎症性腸疾患、関節リウマチ又はベーチェット病である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
  6. 炎症性腸疾患が潰瘍性大腸炎又はクローン病である、請求項5に記載のスクリーニング方法。
  7. 以下のステップ(i)及び(ii)を含む、炎症性疾患治療用抗体の作製方法:
    (i)アネキシンA2とADAM17の結合部位を特定するステップ;
    (ii)前記結合部位に特異的な抗体を調製するステップ。
  8. アネキシンA2とADAM17の結合を阻害する抗体を有効成分とする炎症性疾患治療薬。
  9. アネキシンA2遺伝子の発現を抑制する化合物を有効成分とする炎症性疾患治療薬。
  10. 前記化合物が以下の(a)〜(d)からなる群より選択される化合物である、請求項9に記載の炎症性疾患治療薬:
    (a)アネキシンA2遺伝子を標的とするsiRNA;
    (b)アネキシンA2遺伝子を標的とするsiRNAを細胞内で生成する核酸コンストラクト;
    (c)アネキシンA2遺伝子の転写産物を標的とするアンチセンス核酸;
    (d)アネキシンA2遺伝子の転写産物を標的とするリボザイム。
  11. 請求項8〜10のいずれか一項に記載の炎症性疾患治療薬を、炎症性疾患の患者に投与するステップ、を含む炎症性疾患治療法。
  12. アネキシンA2からなる、炎症性疾患の疾患活動性マーカー。
  13. アネキシンA2の検体中レベルを指標とした、炎症性疾患の疾患活動性検査法。
  14. 以下のステップ(I)〜(III)を含む、請求項13に記載の検査法:
    (I)被検者由来の検体を用意するステップ;
    (II)前記検体中のアネキシンA2を検出するステップ;及び
    (III)検出結果に基づいて、炎症性疾患の疾患活動性を判定するステップであって、アネキシンA2の検出値が高いことが疾患活動性の高いことの指標となる、ステップ。
  15. ステップ(II)で得られた検出値と対照検体の検出値との比較に基づきステップ(III)の判定を行う、請求項14に記載の検査法。
  16. ステップ(II)で得られた検出値と、同一の被検者から過去に採取された検体中の検出値との比較に基づきステップ(III)の判定を行う、請求項14に記載の検査法。
  17. 前記検体が血液、血漿、血清、尿又は炎症部位の生検組織である、請求項14〜16のいずれか一項に記載の検査法。
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