JPWO2006123497A1 - 摺動部材 - Google Patents
摺動部材 Download PDFInfo
- Publication number
- JPWO2006123497A1 JPWO2006123497A1 JP2006529395A JP2006529395A JPWO2006123497A1 JP WO2006123497 A1 JPWO2006123497 A1 JP WO2006123497A1 JP 2006529395 A JP2006529395 A JP 2006529395A JP 2006529395 A JP2006529395 A JP 2006529395A JP WO2006123497 A1 JPWO2006123497 A1 JP WO2006123497A1
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- sliding
- martensite
- sliding member
- ferrite
- cast iron
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Pending
Links
Images
Classifications
-
- C—CHEMISTRY; METALLURGY
- C22—METALLURGY; FERROUS OR NON-FERROUS ALLOYS; TREATMENT OF ALLOYS OR NON-FERROUS METALS
- C22C—ALLOYS
- C22C37/00—Cast-iron alloys
- C22C37/06—Cast-iron alloys containing chromium
-
- C—CHEMISTRY; METALLURGY
- C22—METALLURGY; FERROUS OR NON-FERROUS ALLOYS; TREATMENT OF ALLOYS OR NON-FERROUS METALS
- C22C—ALLOYS
- C22C37/00—Cast-iron alloys
- C22C37/10—Cast-iron alloys containing aluminium or silicon
Landscapes
- Chemical & Material Sciences (AREA)
- Engineering & Computer Science (AREA)
- Materials Engineering (AREA)
- Mechanical Engineering (AREA)
- Metallurgy (AREA)
- Organic Chemistry (AREA)
- Pistons, Piston Rings, And Cylinders (AREA)
- Heat Treatment Of Articles (AREA)
- Sliding-Contact Bearings (AREA)
Abstract
油圧ポンプ、モータ等の油圧機器のシリンダ内面やエンジンピストンリング等に用いる鋳鉄製の摺動部材200において、その摺動面S1を含む表面部分の金属組織を、黒鉛23と、この黒鉛23の輪郭をブルズアイ状に取り囲むマルテンサイト24(第1マルテンサイト)と、この第1マルテンサイト24の外側に位置するフェライト21及び通常のマルテンサイト25(第2マルテンサイト)とから構成させるものとする。これにより、摺動面上に早期に油溜まりを形成可能とし、潤滑特性に優れた鋳鉄製の摺動部材を提供することができる。
Description
本発明は鋳鉄製の摺動部材に係り、特に油圧ポンプ、モータ等の油圧機器のシリンダ内面やエンジンピストンリング等に適用する鋳鉄製の摺動部材に関する。
油圧ポンプ、モータ等の油圧機器のシリンダ内面やエンジンピストンリング等には鋳鉄製の摺動部材が用いられている。この鋳鉄製の摺動部材には耐摩耗性と潤滑油保持性(保油性)が求められている。鋳鉄製の摺動部材に耐摩耗性と保油性を持たせる技術として特開昭60−21355号公報に記載の技術がある。この技術は、摺動面の金属組織がパーライト、フェライト及び黒鉛からなるように鋳造した後、その摺動面をレーザにより急熱急冷処理して表面焼入れし、摺動面のフェライトの実質的に全量を黒鉛の輪郭をブルズアイ状に取り囲み硬度が極めて高いマルテンサイト(第1マルテンサイト)に変態させ、パーライト部分を通常のマルテンサイト(第2マルテンサイト)に変態させるものであり、このように鋳鉄材の摺動面を第1マルテンサイトと第2マルテンサイトという硬度差を持った組織で構成することで、摺動時に摩耗差を生じさせ、この摩耗差により、摺動面に窪み(凹部)を形成し、この凹部を油溜まりとして機能させることで、保油性を持たせ摺動特性を向上させている。
上記従来技術の摺動部材において、摺動面に窪みを形成するためには、レーザで熱処理を行った後に研磨加工を行う必要がある。ここで、本発明者らの測定によると、第1マルテンサイトの硬度は、Hv750〜850であるのに対して、凹部となる第2マルテンサイトの硬度は、Hv600〜750であり、両者の硬度差は比較的小さい。その結果、両者の摩耗の速度差も小さくなり、油溜まりとなる凹部を持つ形状に加工するには、研磨加工を長期的に行う必要がある。これは、摺動部材のコストアップの要因となる。
また、上記の研磨工程を省いて凹部が無い状態の摺動部材を製品に組み込み、ならし運転時に相手材との摺動によって発生する摩耗により凹部を形成することも考えられる。しかしながら、上記の研磨工程の場合と同様に、第1マルテンサイトと第2マルテンサイトとの摩耗の速度差が小さいために、油溜まりとなる凹部を持つ形状とするには長期的な摺動が必要となり、早期に高潤滑状態が得られないという問題がある。
本発明の目的は、早期に油溜まりを形成可能とし、潤滑特性に優れた鋳鉄製の摺動部材を提供することにある。
(1)本発明は、上記目的を達成するために、摺動面の金属組織を、黒鉛と、前記黒鉛の輪郭を取り囲む第1マルテンサイトと、前記第1マルテンサイトの外側に位置するフェライト及び第2マルテンサイトとで構成するものとする。
このように構成した摺動面を持つ摺動部材に研磨加工をすると、黒鉛、第1マルテンサイト(硬度:Hv750〜850)及び第2マルテンサイト(硬度:Hv600〜750)と比較して硬度の低いフェライト(硬度:Hv50〜150)が選択的に容易に摩耗されるので、早期に摺動面に凹部を設けることが可能になる。また、この摺動部材を上記の研磨加工を省いて凹部の無い状態で油圧機器等の製品に組み込み、ならし運転時に相手材との摺動によって発生する摩耗により凹部を設けることも可能になる。このように形成した凹部は摺動部材の油溜まりとして機能し、摺動時において早期から高潤滑な状態を得ることが可能になる。
(2)また、本発明は、上記目的を達成するために、摺動面の金属組織を、黒鉛と、前記黒鉛の輪郭を取り囲む第1マルテンサイトと、前記第1マルテンサイトの外側に位置するフェライト及び第2マルテンサイトとで構成し、前記摺動面のフェライト部分に油溜まりを形成するものとする。
このように構成した摺動面を持つ摺動部材を油圧機器等の製品に組み込むと、摺動面のフェライト部分に形成された油溜まりにより、摺動時において早期から高潤滑な状態を得ることが可能になる。
(3)上記(1)又は(2)において、好ましくは、前記摺動面の前記黒鉛を除いた表面積に対する前記フェライトの面積率を、10%〜90%の範囲としたものとする。
これにより、製品組み込み前の研磨加工やならし運転による摺動などの工程を省略しても利用可能となり、安定した潤滑特性を有する摺動部材を得ることが可能になる。
(4)上記(1)又は(2)において、好ましくは、前記摺動面の前記黒鉛を除いた表面積に対する前記フェライトの面積率を、13%〜87%の範囲としたものとする。
これにより、製作工程中に発生する品質のバラツキに影響されることなく、製品組み込み前の研磨加工やならし運転による摺動などの工程を省略しても利用可能となり、さらに確実に安定した潤滑特性を有する摺動部材を得ることが可能になる。
本発明によれば、早期に高潤滑な状態が得られ、加工コストが低く高性能な鋳鉄製の摺動部材を得ることができる。
S1 摺動面
S2 表面
S3 摺動面
21 フェライト
21a フェライト
22 パーライト
23 黒鉛
24 第1マルテンサイト
25 第2マルテンサイト
26 油溜まり
100 鋳鉄材
200 摺動部材
300 摺動部材(加工済)
S2 表面
S3 摺動面
21 フェライト
21a フェライト
22 パーライト
23 黒鉛
24 第1マルテンサイト
25 第2マルテンサイト
26 油溜まり
100 鋳鉄材
200 摺動部材
300 摺動部材(加工済)
以下、本発明に係わる鋳鉄製の摺動部材の実施の形態を図面を用いて説明する。
図1は、本実施の形態に係わる鋳鉄製の摺動部材の摺動面を含む表面部分の金属組織を示す図である。
図1において、符号200は本実施の形態に係わる鋳鉄製の摺動部材であり、その摺動面S1を含む表面部分の金属組織は、黒鉛23と、この黒鉛23の輪郭をブルズアイ状に取り囲むマルテンサイト24(第1マルテンサイト)と、この第1マルテンサイト24の外側に位置するフェライト21及び通常のマルテンサイト25(第2マルテンサイト)とから構成されており、これらの成分の下側にはベース金属としてパーライト22が位置している。なお、この金属組織におけるフェライトは、図1の左側に示したフェライト21のように常に第1マルテンサイト24を取り囲むように構成されるものではなく、図1の右側に示すフェライト21aのように部分的に第2マルテンサイト25が第1マルテンサイト24の方に入り込むように構成される場合もある。
図2は、本実施の形態の摺動部材200を得るための素材である鋳鉄材の表面S2を含む表面部分における金属組織を示す図である。図中、図1と同じ部分には同じ符号を付す。
図2において、符号100は本実施の形態の摺動部材200を得るための素材である鋳鉄材であり、その表面S2を含む表面部分の金属組織は、黒鉛23と、この黒鉛23の外側に位置するフェライト21と、このフェライト21の外側に位置するパーライト22とから構成されている。
本実施の形態の摺動部材200は、図2に示した金属組織から構成された鋳鉄材100に対して、レーザ焼入れ等の急熱急冷処理(熱処理)をすることにより得られる。鋳鉄材100を加熱すると、黒鉛23は通常はフェライト21の結晶粒界に沿って拡散してゆくが、この加熱を急速に行うと、黒鉛23はフェライト21の粒子中に直に拡散してゆき、次いでこれを急冷するとフェライト21が第1マルテンサイト24に変態する。この際、第1マルテンサイト24は残留した黒鉛23を取り囲むように形成され、これを顕微鏡観察すると、黒い黒鉛を第1マルテンサイトが取り囲み、その外観があたかも眼球のよう(ブルズアイ状)に見える。また、本実施の形態においては、加熱時の入熱量を制御することにより、フェライト21の黒鉛23の輪郭付近に位置する部分のみが第1マルテンサイト24に変態し、他の部分はそのままこの第1マルテンサイト24の外側にフェライト21として残存する。一方、鋳鉄材100のパーライト22の表面部分は、加熱冷却の熱履歴を受けると、第2マルテンサイト25に変態する。この第2マルテンサイト25は、通常の焼入れ処理などによって生じるものと同じものであり、ブルズアイ状に形成される第1マルテンサイト24と比較して硬度が低い。
図3は、図1に示した本実施の形態の摺動部材200に、研磨加工または摺動を施した後の摺動部材の摺動面を含む表面部分金属組織を示す図である。図中、既出の図と同じ部分には同じ符号を付す。図3において、研磨加工または摺動を施した後の摺動部材300は、その摺動面S3に凹部である油溜まり26が形成されている。この油溜まり26の凹部は、黒鉛23、第1マルテンサイト24(硬度:Hv750〜850)及び第2マルテンサイト25(硬度:Hv600〜750)などから構成される金属組織の中で、特に硬度が低いフェライト21(硬度:Hv50〜150)が選択的に摩耗されて形成されたものである。この油溜まり26は摺動部材200が製品に組み込まれた際、ここに潤滑油が保持されることで保油性を発揮し、摺動部材の潤滑特性を向上させる。
次に、鋳鉄材100に焼入れを施して摺動部材200を得るのに用いる装置の一例として、レーザ焼入れ装置の構成を図4を用いて説明する。図4において、レーザ焼入れ装置50は、レーザ1を発振するレーザ発振器9と、レーザ1を発振するために必要な電力を供給するレーザ電源部10と、発振されるレーザ1を導くベンディングミラー12aと、このベンディングミラー12aによって導かれたレーザ1を集光して照射する上下移動可能な加工ヘッド5と、レーザ焼入れされるワーク6を載置する水平移動可能なXYテーブル16と、このXYテーブル16上にワーク6を固定するワーク固定治具15と、レーザ発振器9の制御と加工ヘッド5及びXYテーブル16の位置制御等を行うコントローラ11とを備えている。
レーザ発振器9により発振されたレーザ1は、ベンディングミラー12a、12bにより加工ヘッド5内の放物面鏡13に誘導され、この放物面鏡13によりレーザ1はワーク6の表面に集光され、照射される。ワーク6は、XYテーブル16上にワーク固定治具15により固定されており、XYテーブル16の動作は、NC等のコントローラ11により制御される。また、このコントローラ11は、レーザ発振9およびレーザ電源部10のコントロールも行う。さらに、加工ヘッド5は、図示しないZ軸(垂直軸)に固定されており、ワーク6に対して、上下方向に移動することが可能であり、その動作は、上記コントローラ11により制御される。
レーザ照射により、ワーク6の加熱領域は温度上昇することにより活性しやすい状態にある。このため、レーザ焼入れ装置には、レーザ照射領域の酸化抑制を目的として、ワーク6のレーザ照射領域にシールドガスを吹き付けるためのノズル4が配置されており、このノズル4からシールドガスとしてアルゴン、ヘリウム、窒素等をワーク6に噴射することが可能である。
本実施の形態の摺動部材をレーザ焼入れにて製造する際のワーク6の素材は、球状黒鉛鋳鉄やねずみ鋳鉄などの鋳鉄材である。この鋳鉄材の金属組成の一例を次の表に表す。
レーザ焼入れは、レーザ照射によりワーク6の表面がA1変態点以上に加熱された後、ワーク6の内部に熱が拡散することによって、ワーク6の表面は冷却され、焼入れ層を形成することが可能である。レーザスポット径と、このレーザスポット径に投入するレーザ出力と、ワーク6とレーザ1を相対移動させる際の速度(レーザ走査速度)とを設定することで、ワーク6表面の入熱量を制御することが可能である。
このレーザ入熱量による摺動部材200中のフェライト残存量の制御方法について、図5を用いて説明する。ここでいうフェライト残存率とは、レーザ焼入れ前のフェライト量を100%とし、これに対してレーザ焼入れ後に残存したフェライト量を百分率で表したものとする。図5は、ワーク6へのレーザ入熱量と焼入れ後のフェライト残存率との関係を表す図である。ここにおいて例えば、焼入れ後の摺動部材200に焼入れ前の約45%のフェライトを残存させたいとする。この場合、図5を参照すれば必要なレーザ入熱量は、1000J/cm2であるということが分かる。レーザ入熱量を1000J/cm2とするためには、例えばレーザ照射条件をレーザスポット径10mm、レーザ出力2kW、レーザ走査速度2m/minと設定することで可能である。このようにレーザ入熱量を調整して、摺動部材200中のフェライト残存量を所望の量に制御することができる。
図6及び図7に本実施の形態に係わる鋳鉄材の表面の顕微鏡写真を示す。図6は、本実施の形態の摺動部材を得るための素材である鋳鉄材の表面の顕微鏡写真であり、図中、図2と同じ部分には同じ符号を付している。図7は、本実施の形態に係わる鋳鉄製の摺動部材の熱処理後の表面の顕微鏡写真であり、図中、図1と同じ部分には同じ符号を付している。これは、図6に示した鋳鉄材の焼入れ後の表面の顕微鏡写真である。
図6において、黒鉛23の輪郭を取り囲むようにフェライト21が位置しており、その外側にパーライト22が位置している。図7において、黒鉛23の輪郭をブルズアイ状に取り囲むように第1マルテンサイト24が形成されており、その外側にはフェライト21が残存している。また、パーライト22は通常のマルテンサイトである第2マルテンサイト25に変態している。
次に、図8及び図9を用いて、従来技術である特開昭60−21355号公報記載の鋳鉄製のシリンダライナと本実施の形態との比較を行いながら、本実施の形態の効果について述べる。
図8は、従来技術を用いて焼入れされた摺動部材の摺動面を含む表面部分の金属組織を示す図であり、図9は、図8で示した摺動部材に、研磨加工を施した後の摺動面を含む表面部分の金属組織を示す図である。図中、既出の図と同じ部分には同じ符号を付す。
図8において、従来技術による摺動部材400の摺動面S4を含む表面部分の金属組織は、黒鉛23と、この黒鉛23の輪郭を取り囲む第1マルテンサイト24と、この第1マルテンサイト24の外側に位置する第2マルテンサイト25とから構成されている。
従来技術は、本実施の形態と同様に、図2に示した鋳鉄材100を素材とし、この鋳鉄材100の表面部分を急熱急冷処理して表面焼入れすることにより、フェライト21の実質的に全量を第1マルテンサイト24に変態させ、その結果、図8のような摺動部材400を得る。
次いで、以上のようにして得た摺動部材400に研磨加工を行うと、第1マルテンサイト24と第2マルテンサイト25との硬度差のため、第2マルテンサイト25部分の摩耗速度は、第1マルテンサイト24部分の摩耗速度より速くなる。その結果、摩耗差が生じて、図9に示すように第2マルテンサイト25の表面部分に凹部が形成され、この凹部が良好な油溜まり26になり、摺動面S5の保油性を高める機能を発揮する。
しかし、前述のように第1マルテンサイトの硬度は、Hv750〜850であるのに対して、凹部となる第2マルテンサイトの硬度は、Hv600〜750であり、両者の硬度差は比較的小さい。その結果、両者の摩耗の速度差も小さくなり、第2マルテンサイト部を摩耗させて摺動部材400に油溜まりとなる凹部を持つ形状を設けるには、研磨加工を長期的に行う必要がある。また、上記研磨加工を省略して摺動部材400を製品に組み込み、ならし運転により摩耗させる場合も、研磨加工と同様に両者の摩耗の速度差が小さいため、油溜まりとなる凹部を持つ形状を形成するには長期的な摺動が必要となる。これは、摺動部材のコストアップの要因や、早期から高潤滑状態が得られないという問題を発生させる。
これに対して、本実施の形態の摺動部材200の摺動面S1において、凹部となるフェライト21の硬度は前述のようにHv50〜150であり、第1マルテンサイト24(Hv750〜850)及び第2マルテンサイト25(Hv600〜750)と比較して非常に柔らかく、硬度差は非常に大きい。このため研磨加工時などには、このフェライト21部分が選択的に摩耗されて摺動面S2に凹部が形成され、早期から保油性を有し潤滑特性に優れた摺動部材を得ることが可能である。また、摩耗速度の向上により研磨加工に要する時間も短縮することが可能になり、加工効率が向上し、摺動部材のコストダウンを図ることも可能になる。
また、従来技術において、ならし運転等での摺動を利用して摺動部材に凹部を形成する場合、摺動面S4の第2マルテンサイト25を摩耗して凹部を形成するが、相手材の表面硬度はこの第2マルテンサイト25より高い必要があり、相手材は第2マルテンサイト25より硬度の高いものに限定されていた。
しかし、本実施の形態によれば、摺動時の相手材は比較的硬度の低いフェライトより硬度の高いものであれば、凹部を形成することができる。このため、第1マルテンサイト24や第2マルテンサイト25よりも硬度が低い材質(例えばソルバイト組織なような調質材)でも、摺動による凹部の形成が可能である。これにより、相手材として採用可能な材質の選択肢が増え、さらに摺動部材のコストダウンを図ることが可能になる。
なお、本実施の形態における鋳鉄への焼入れは、便宜上レーザ焼入れを用いて説明したが、この他、高周波焼入れ、電子ビーム焼入れ、炎焼入れ等の急加熱が可能な方法においても実施することが可能である。
次に、フェライト残存量と摺動回数と摩擦係数の変化との関係を定量的に分析した結果について、実験データに基づいて図10〜図12を用いて説明する。本実験は、油中環境であるが固体潤滑と流体潤滑が共存する境界潤滑で実施し、フェライト面積率の異なる複数の摺動部材に対し、窒化材を相手材として一定面圧下で摺動を複数回実施し、その際の摺動回数と摩擦係数の変化を摺動部材ごとに計測したものである。本実験において、フェライト面積率とは、摺動部材の摺動面の黒鉛を除いたフェライトとマルテンサイトの表面積に対するフェライトの面積率を意味し、マルテンサイト面積率とは、摺動部材の摺動面の黒鉛を除いたフェライトとマルテンサイトの表面積に対する第1マルテンサイトと第2マルテンサイトとの総和の面積率を意味する。
図10は、フェライト面積率の異なる摺動部材31〜39(後述)に対して、本実験を実施した際の摺動回数と摩擦係数の変動の結果を摺動部材ごとに折れ線グラフに示すものである。グラフの横軸を摺動回数、縦軸を摩擦係数とし、図中の折れ線には、摺動部材31〜39の符号を付した。図10では、図の見易さのため摺動部材34及び36の分析結果は省略している。また、図11は、本実験の結果を摺動部材31〜39のフェライト面積率と摺動開始時の摩擦係数(初期摩擦係数)との関係に置き換えて示すものである。
摺動部材31〜39は、それぞれ次のようなものである。
摺動部材31:フェライト面積率 0%、マルテンサイト面積率100%;
摺動部材32:フェライト面積率 5%、マルテンサイト面積率 95%;
摺動部材33:フェライト面積率10%、マルテンサイト面積率 90%;
摺動部材34:フェライト面積率20%、マルテンサイト面積率 80%;
摺動部材35:フェライト面積率40%、マルテンサイト面積率 60%;
摺動部材36:フェライト面積率60%、マルテンサイト面積率 40%;
摺動部材37:フェライト面積率80%、マルテンサイト面積率 20%;
摺動部材38:フェライト面積率90%、マルテンサイト面積率 10%;
摺動部材39:フェライト面積率95%、マルテンサイト面積率 5%;
摩擦係数は、摺動面の摩擦の状態を把握するための指標の1つである。油圧部品において、例えば油圧ピストン、シリンダなどが境界潤滑下で要求される摩擦係数は、一般的に0.15以下である。この値を目標摩擦係数と呼ぶ。
摺動部材31:フェライト面積率 0%、マルテンサイト面積率100%;
摺動部材32:フェライト面積率 5%、マルテンサイト面積率 95%;
摺動部材33:フェライト面積率10%、マルテンサイト面積率 90%;
摺動部材34:フェライト面積率20%、マルテンサイト面積率 80%;
摺動部材35:フェライト面積率40%、マルテンサイト面積率 60%;
摺動部材36:フェライト面積率60%、マルテンサイト面積率 40%;
摺動部材37:フェライト面積率80%、マルテンサイト面積率 20%;
摺動部材38:フェライト面積率90%、マルテンサイト面積率 10%;
摺動部材39:フェライト面積率95%、マルテンサイト面積率 5%;
摩擦係数は、摺動面の摩擦の状態を把握するための指標の1つである。油圧部品において、例えば油圧ピストン、シリンダなどが境界潤滑下で要求される摩擦係数は、一般的に0.15以下である。この値を目標摩擦係数と呼ぶ。
図10及び図11において、フェライト面積率10%〜90%の摺動部材33〜38は、摺動開始直後から0.15以下の摩擦係数を示している。つまり、これらの摺動部材は製品として用いる前の研磨加工や摺動のためのならし運転を必要としない。これに対して、フェライト面積率が0%及び5%の摺動部材31、32は、摺動初期の摩擦係数が約0.2と高く、摺動回数を増すごとに徐々に摩擦係数が低減し、摺動回数4000回程度で摩擦係数が0.15以下となる。これより、この範囲にフェライト面積率を有する摺動部材は、製品として用いる前に、ある程度の研磨加工や摺動のためのならし運転が必要となる。一方、フェライト面積率が90%より大の摺動部材39は、摺動回数を重ねても摩擦係数が0.3近辺から変化しない。これは、フェライト面積率が90%より大きくなると、摺動面上のフェライト21が選択的に容易に摩耗されて十分な油溜まり26が形成されるが、その一方で相手材との接触が黒鉛23の周囲に形成されている硬質な第1マルテンサイト24に限定されてしまい、摺動面が高面圧下で相手材を引っ掻くような状態であるアブレッシブ摩耗が発生すると考えられるからであり、この条件範囲では、摺動回数を重ねても摩擦係数が常に高く製品としては不適である。
また、フェライト面積率が10%未満、90%より大きい摺動部材にあっては、初期摩擦係数が0.15より大きいため、摺動部材に働く動力が摩擦力として消費され、エネルギーロスが高い状態にある。このような高摩擦係数の摺動部材を用いる場合、摩擦によって消費されるエネルギーロスを補完するために、例えばエンジンを高回転で回転させる、或いは、より高出力のエンジンやモータに変更するなどの対応が必要になる。このため、ユニットとして燃費の低下や、スペック強化によるコストアップ、またはユニット形状の肥大化などの弊害が起こる場合も考えられる。よって、この意味でも、フェライト面積率が10%未満、あるいは90%より大きい摺動部材は、製品には不適である。
図12は、上記実験と同様の条件下で摺動部材31〜39について、なじみが完了する状態に至るまでに必要な摺動回数を測定した結果を示している。なじみの完了とは、摩擦係数が目標摩擦係数の0.15以下となり、かつ摺動回数を重ねても摩擦係数の上下変動が微少な安定状態になることを意味する。
図12において、フェライト面積率が10〜90%の摺動部材は早期になじみを完了し、摩擦係数が0.15以下の安定した状態となる。よってこれらの摺動部材は製品組み込みに際して、事前の研磨加工やならし運転による摺動を省略しても潤滑特性を発揮する。一方、フェライト面積率が10%未満の摺動部材は、なじみ完了までに約4000回の摺動回数を要し、研磨加工やならし運転による摺動が必要である。また、フェライト面積率が95%の摺動部材は、摺動面の摩擦係数が0.15以下になることはなく、製品に用いるには不適である。
以上のように、フェライト面積率が10%未満の摺動部材は、製品として用いる前の研磨加工やならし運転による摺動を施す必要があり、フェライト面積率が90%より大きくなると、摺動初期から摩擦係数が0.15以上と高く、その後摺動回数を重ねても0.15以下に低減することもないため、製品としての使用は不適切であるのに対して、フェライト面積率が10%〜90%の摺動部材では、摺動初期から摩擦係数は0.15以下で、その後比較的早期に安定状態に移り、なじみが完了するため、製品として用いる前の研磨加工やならし運転による摺動は不要で、焼入れ後、即製品として用いることが可能である。また、摺動初期からなじみまでの時間を短絡的にすることが可能になるため、摺動による摩耗粉の発生を低減することが可能となり、これによる2次的な摩擦や摩耗を減少させることが可能になる。
なお、上述のフェライト面積率は、部位や、焼入れの際の熱処理条件等により実際にはバラツキが±3%存在する。そのため、本発明の効果をより確実に得るためには、より好ましくはフェライト面積率は13〜87%とすることが望ましい。
Claims (4)
- 摺動面(S1)の金属組織を、
黒鉛(23)と、
前記黒鉛(23)の輪郭を取り囲む第1マルテンサイト(24)と、
前記第1マルテンサイト(24)の外側に位置するフェライト(21,21a)及び第2マルテンサイト(25)とで構成したことを特徴とする鋳鉄製の摺動部材(200)。 - 摺動面(S3)の金属組織を、
黒鉛(23)と、
前記黒鉛(23)の輪郭を取り囲む第1マルテンサイト(24)と、
前記第1マルテンサイト(24)の外側に位置するフェライト(21,21a)及び第2マルテンサイト(25)とで構成し、前記摺動面(S3)のフェライト部分(21,21a)に油溜まり(26)を形成したことを特徴とする鋳鉄製の摺動部材(300)。 - 請求項1又は2記載の鋳鉄製摺動部材(200,300)において、
前記摺動面(S1,S3)の前記黒鉛(23)を除いた表面積に対する前記フェライト(21,21a)の面積率を、10%〜90%の範囲としたことを特徴とする鋳鉄製の摺動部材(200,300)。 - 請求項1又は2記載の鋳鉄製摺動部材(200,300)において、
前記摺動面(S1,S3)の前記黒鉛(23)を除いた表面積に対する前記フェライト(21,21a)の面積率を、13%〜87%の範囲としたことを特徴とする鋳鉄製の摺動部材(200,300)。
Applications Claiming Priority (3)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2005145526 | 2005-05-18 | ||
JP2005145526 | 2005-05-18 | ||
PCT/JP2006/308126 WO2006123497A1 (ja) | 2005-05-18 | 2006-04-18 | 摺動部材 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JPWO2006123497A1 true JPWO2006123497A1 (ja) | 2008-12-25 |
Family
ID=37431077
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2006529395A Pending JPWO2006123497A1 (ja) | 2005-05-18 | 2006-04-18 | 摺動部材 |
Country Status (2)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JPWO2006123497A1 (ja) |
WO (1) | WO2006123497A1 (ja) |
Families Citing this family (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP5655115B1 (ja) | 2013-06-28 | 2015-01-14 | 株式会社リケン | 球状黒鉛鋳鉄 |
Family Cites Families (4)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JPS61266520A (ja) * | 1985-05-20 | 1986-11-26 | Brother Ind Ltd | 鋳鉄製品の製造方法 |
JPS63280961A (ja) * | 1987-05-12 | 1988-11-17 | Mitsubishi Heavy Ind Ltd | 摺動部材の製造方法 |
JPH01230746A (ja) * | 1988-03-09 | 1989-09-14 | Hitachi Ltd | 摺動部品及びその製造法 |
DE19637464C1 (de) * | 1996-09-13 | 1997-10-09 | Fraunhofer Ges Forschung | Verschleißbeständige Nockenwelle und Verfahren zu ihrer Herstellung |
-
2006
- 2006-04-18 JP JP2006529395A patent/JPWO2006123497A1/ja active Pending
- 2006-04-18 WO PCT/JP2006/308126 patent/WO2006123497A1/ja active Application Filing
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
WO2006123497A1 (ja) | 2006-11-23 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
JP2007131907A (ja) | 冷間加工性に優れる高周波焼入れ用鋼及びその製造方法 | |
Zammit et al. | Discrete laser spot hardening of austempered ductile iron | |
JP2019136799A (ja) | 工具材の製造方法及び工具材 | |
JPWO2007102280A1 (ja) | 変態を起こす金属の表面硬化処理方法 | |
JP5472630B2 (ja) | 摺動部材とその製造方法 | |
CN112831638A (zh) | 高精度金属表面复合强化加工方法及装置 | |
KR101453237B1 (ko) | 복합 강 부품 및 그 제조 방법 | |
JPH01190907A (ja) | 再溶融チルカムシャフト | |
JP2010100881A (ja) | 摺動部品 | |
JPWO2006123497A1 (ja) | 摺動部材 | |
JPH055125A (ja) | 耐摩耗性の優れた摺動部材の製造法 | |
JP2002256336A (ja) | 高周波焼入れ方法および鋼部品 | |
CN114774639B (zh) | 一种激光回火淬火方法 | |
JP3093123B2 (ja) | 鋳鉄歯車の製造方法 | |
CN105803161B (zh) | 工件的制造方法 | |
CN109578442A (zh) | 滚子轴承用滚道圈及其制造方法以及滚针轴承 | |
JP2007238965A (ja) | クランクシャフト | |
KR20060115912A (ko) | 초미세결정층 생성방법, 그 초미세결정층 생성방법에 의해생성된 초미세결정층을 구비한 기계부품 및 그 기계부품을제조하는 기계부품 제조방법, 나노결정층 생성방법, 그나노결정층 생성방법에 의해 생성된 나노결정층을 구비한기계부품 및 그 기계부품을 제조하는 기계부품 제조방법 | |
Zohuri et al. | Laser surface processing | |
US10337089B2 (en) | Process for producing a component made of heat-treated cast iron | |
KR100592757B1 (ko) | 가스 침탄 방법 | |
US20170130285A1 (en) | Method for processing a metal component | |
JPH07138613A (ja) | 熱処理鉄系焼結合金部品の製造方法 | |
Tillmann et al. | Investigation of joints from laser powder fusion processed and conventional material grades of 18MAR300 nickel maraging steel | |
Grum | Residual stresses in induction hardened steels |