本明細書において、単離された若しくは合成の完全長蛋白質;単離された若しくは合成の完全長ポリペプチド;または単離された若しくは合成の完全長オリゴペプチドを意味する総称的用語として「蛋白質」という用語を使用することがある。ここで蛋白質、ポリペプチド若しくはオリゴペプチドは最小サイズが2アミノ酸である。以降、アミノ酸を表記する場合、1文字または3文字にて表記することがある。
本発明は、7回膜貫通ドメインを有する機能的膜蛋白質受容体として機能する蛋白質および該蛋白質をコードするDNAに関する。より詳しくは、本発明は、G蛋白質共役型受容体として機能する蛋白質および該蛋白質をコードするDNAに関する。
「膜蛋白質受容体」とは、生体膜の脂質二重層を貫通するドメインを持つ蛋白質からなり、細胞膜に存在して、各種生理活性物質を特異的に認識し、その作用を伝達し発現する蛋白質を意味する。ここで、蛋白質は、糖蛋白質を含む。「機能的膜蛋白質受容体」とは、リガンドの作用により、細胞内情報伝達を介した細胞応答を惹き起こす機能を有する膜蛋白質受容体を意味する。膜蛋白質受容体は、リガンドと相互作用する細胞外ドメイン、生体膜の脂質二重層を貫通するドメイン、および細胞内情報伝達を介する細胞内ドメインを有する。
「G蛋白質共役型受容体(GPCR)」とは、リガンドにより刺激を受けると、細胞内に存在するG蛋白質と結合し、G蛋白質を活性化する膜蛋白質受容体を意味する。「G蛋白質」とは、GPCRと共役する蛋白質であり、GDP/GTP交換反応によりGDP結合型G蛋白質からGTP結合型G蛋白質に移行し、細胞内情報伝達因子として数々の細胞応答を惹き起こす蛋白質を意味する。「G蛋白質を活性化する」とは、GDP/GTP交換反応を誘導および/または促進することにより、GDP結合型G蛋白質からGTP結合型G蛋白質への移行を誘導および/または促進し、その結果、G蛋白質が共役しているGPCRが関与する数々の細胞応答を誘導および/または促進することを意味する。
「リガンド」とは、膜蛋白質受容体に特異的に相互作用する生理活性物質を意味する。
「相互作用」とは、例えば2つの同種あるいは別種の蛋白質が、特異的に作用し合い、その結果、一方のあるいは両方の機能が変化する、例えば亢進する、または低減することを意味する。特異的に作用するとは、その作用に関わる蛋白質以外の蛋白質に比べて、より選択的に作用することを意味する。相互作用には例えば、2つの別種の蛋白質の結合あるいは一方の蛋白質による他方の蛋白質の活性化等が含まれる。
「細胞内情報伝達」とは、受容体に対するリガンドの作用により細胞内でセカンドメッセンジャーの形成、細胞内イオン濃度の変化、および蛋白質のリン酸化等の変化が生じる一連の反応を意味し、「細胞内情報伝達経路」とは該一連の反応の過程を意味する。
本発明において用いるDNAは、より具体的には、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNA、またはそのホモログDNAである。本明細書中、「ホモログDNA」とは、対象のDNAと配列相同性を有しかつ該DNAによりコードされる蛋白質と構造的特徴や生物学的機能の類似性等を有する蛋白質をコードするDNAをいう。
本発明において用いるDNAによりコードされる蛋白質は、好ましくは、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質またはそのホモログ蛋白質である。本明細書中、「ホモログ蛋白質」とは、対象の蛋白質と配列相同性を有し、構造的特徴や生物学的機能の類似性等を有する蛋白質をいう。
本発明において、DNAおよび蛋白質はヒト由来のDNAおよび蛋白質であることが好ましいが、該ヒト由来のDNAおよび蛋白質と同質の機能を有し、かつ構造的相同性を有する哺乳動物由来のDNAおよび蛋白質、例えばマウス、ウマ、ヒツジ、ウシ、イヌ、サル、ネコ、クマ、ラットまたはウサギ等のDNAおよび蛋白質であることができる。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAは、7回膜貫通ドメインを有する機能的膜蛋白質受容体として機能する蛋白質をコードするDNAである。配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質として、より具体的には、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質が好ましく例示できる。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質は構造的特徴として、3個のTSP−Iドメイン、1個のGPS(GPCR proteolytic site)ドメインおよび1個の7回膜貫通ドメインを有する(図1−Aおよび図1−B参照)。7回膜貫通ドメインはGPCRファミリー2ドメインとも呼ばれ、GPSドメインと共に、G蛋白質共役型受容体に特徴的な構造である。TSP−Iドメインは、トロンボスポンジンに認められる特徴のあるドメインであり、トロンボスポンジンの細胞外マトリックスへの関与およびその血管新生阻害能に重要な機能ドメインであることが知られている。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAの遺伝子産物は、実際、膜蛋白質受容体としての機能を示した。具体的には、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAを発現させた動物細胞において、細胞膜上に該DNAによりコードされる蛋白質が発現すること、およびリガンド刺激、例えばCCK−8S(配列番号14)刺激により細胞内情報伝達を介した細胞応答が生じることが観察された。
また、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAの遺伝子産物はそのC末端領域において、MAGUKファミリー関連蛋白質であるDLG2、DLG3およびDLG4や、AIP1、MAGI3等と相互作用することが観察された。MAGUKファミリー関連蛋白質は、蛋白質間相互作用において標的蛋白質の最もC末端のアミノ酸配列を認識するPDZドメインを有し、細胞膜に局在して受容体やイオンチャネル等の膜蛋白質と相互作用することにより、これら膜蛋白質からの情報伝達に関与し、細胞間接着等に寄与していると考えられている。また、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAと配列相同性を有するhBAI2遺伝子の遺伝子産物とMAGUKファミリー関連蛋白質との相互作用も同様に認められた。一方、hBAI2のホモログであるhBAI1が、MAGUKファミリー関連蛋白質の1つであるBAP1(BAI1−associated protein1)と、hBAI1の末端領域の部分配列(QTEV:配列番号3)を介して結合することが報告されている(シラツチ(Shiratsuchi,T.)ら、「バイオケミカル アンド バイオフィジカル リサーチ コミュニケーションズ(Biochemical and Biophysical Research Communications)」、1998年、第247巻、p.597−604)。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質および該遺伝子と配列相同性を有するhBAI2遺伝子(配列番号21)によりコードされる蛋白質はいずれも、そのC末端領域に配列番号3に記載のアミノ酸配列(QTEV)が保存されていることから、この配列部分においてPDZドメインを持つ蛋白質と相互作用すると発明者らは考えている。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAのホモログDNAは、好ましくは、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAと配列相同性を有し、かつCCK−8S(配列番号14)の作用によりGPCRと同質の機能を示す蛋白質をコードするDNAである。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAのホモログDNAとして、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAのスプライシングバリアントが好ましく例示される。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質と構造的特徴や生物学的機能の類似性等を有する蛋白質として、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質のスプライシングバリアントが好ましく例示される。
「スプライシングバリアント」とは、真核生物における遺伝子の発現において、ゲノムから転写されたある遺伝子のmRNA前駆体の選択的スプライシングにより生成される2種類以上の成熟mRNA、該成熟mRNAの相補的DNA、または該成熟mRNAから翻訳される蛋白質のいずれかを意味する。真核生物における遺伝子の発現は、ゲノム上に分散して存在するエキソンとエキソンの間に存在するイントロンとからなる領域から転写されたmRNA前駆体からスプライシングにより成熟mRNAが形成されることにより行われる。さらに、該成熟mRNAの翻訳により蛋白質が生成される。スプライシングとは、mRNA前駆体からイントロンがスプライス部位(イントロンとエキソンの境界点)で切り出され、成熟mRNAが形成される過程を意味する。スプライシングの際、スプライス部位の位置や組み合わせが変化して2種類以上の成熟mRNAが生成する、いわゆる選択的スプライシングが起こることがある。選択的スプライシングの結果、1つの遺伝子から2種以上の蛋白質が生成されることが多い。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAのスプライシングバリアントは、該DNAからなる遺伝子のゲノムから転写されたmRNA前駆体の選択的スプライシングにより生成される2種類以上の成熟mRNAまたは該成熟mRNAの相補的DNAであり得る。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAのスプライシングバリアントとして、配列番号15、17、19および21に記載の塩基配列のうちいずれか1の塩基配列で表されるDNAが好ましく例示できる。
配列番号19に記載の塩基配列で表わされるDNAは、配列番号1、15、17、19および21に記載の塩基配列のうちいずれか1の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質のうち最長のアミノ酸配列を有する蛋白質をコードしている。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAのスプライシングバリアントは、上記例示したスプライシングバリアントに限らず、該DNAと配列相同性を有し、該DNAの構造的特徴を有し、さらに該DNAによりコードされる蛋白質と同質の生物学的機能を有する蛋白質をコードするDNAである限りにおいて、いずれのDNAも含む。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質のスプライシングバリアントは、ゲノムから転写された該蛋白質をコードする遺伝子のmRNA前駆体の選択的スプライシングにより生成される2種類以上の成熟mRNAから翻訳される蛋白質である。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質のスプライシングバリアントとして、配列番号15、17、19および21に記載の塩基配列のうちいずれか1の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質が好ましく例示できる。
配列番号15、17、19および21に記載の塩基配列のうちいずれか1の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質として、配列番号16、18、20、および22に記載のアミノ酸配列のうちいずれか1のアミノ酸配列で表される蛋白質が好ましく例示できる。
配列番号20に記載のアミノ酸配列で表わされる蛋白質は、配列番号2、16、18、20および22に記載のアミノ酸配列で表わされる蛋白質のうち最長のアミノ酸配列を有する蛋白質である。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質のスプライシングバリアントは、上記例示したスプライシングバリアントに限らず、該蛋白質と配列相同性を有し、該蛋白質の構造的特徴を有し、さらに該DNAによりコードされる蛋白質と同質の生物学的機能を有する蛋白質である限りにおいて、いずれの蛋白質も含む。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質のスプライシングバリアントは、言い換えれば、配列番号2に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質と配列相同性を有し、該蛋白質の構造的特徴を有し、さらに該蛋白質と同質の生物学的機能を有する蛋白質である限りにおいて、いずれの蛋白質も含む。
本明細書中、「配列相同性」とは、通常、塩基配列またはアミノ酸配列の全体で50%以上、好ましくは少なくとも70%であることが適当である。より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上、またさらにより好ましくは95%以上であることが適当である。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAと配列相同性を有するDNAには、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAの塩基配列において1個以上、例えば1〜100個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1個〜数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加または挿入といった変異が存する塩基配列で表されるDNAが含まれる。好ましくは、このようなDNAであって、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAの生物学的機能と同質の機能を有する蛋白質をコードするDNAが望ましい。変異の程度およびそれらの位置等は、該変異を有するDNAが配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAと同様の構造的特徴を有し、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質と同質の生物学的機能を有するものである限り特に制限されない。
変異を有するDNAは、天然に存在するものであってよく、また天然由来の遺伝子に基づいて変異を導入して得たものであってもよい。変異を導入する手段は自体公知であり、例えば、部位特異的変異導入法、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法またはポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCRと略称する)等を単独でまたは適宜組合せて使用できる。例えば成書に記載の方法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー;村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社)に準じて、あるいはそれらの方法を改変して実施することができ、ウルマーの技術(ウルマー(Ulmer,K.M.)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666−671)を利用することもできる。
本発明において用いるDNAには、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAおよび該DNAのスプライシングバリアントにストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションするDNAが含まれる。ハイブリダイゼーションの条件は、例えば成書に記載の方法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー)等が採用できる。具体的には、「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、6×SSC、0.5% SDSおよび50% ホルムアミドの溶液中で42℃にて加温した後、0.1×SSC、0.5% SDSの溶液中で68℃にて洗浄する条件をいう。これらDNAは配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAおよび該DNAのスプライシングバリアントにハイブリダイゼーションするDNAであれば相補的配列を有するDNAでなくてもよい。好ましくは、コードする蛋白質が、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質の生物学的機能と同質の機能を有するDNAであることが望ましい。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質と配列相同性を有する蛋白質として、例えば、配列番号2に記載のアミノ酸配列において1個以上、例えば1〜100個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1個〜数個のアミノ酸の欠失、置換、付加または挿入といった変異を有するアミノ酸配列からなり、かつ配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質の生物学的機能と同質の機能を有する蛋白質が例示できる。アミノ酸の変異の程度およびそれらの位置等は、該変異を有する蛋白質が、配列番号2に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質と同質の機能を有するものである限り特に制限されない。
変異を有する蛋白質は、天然において例えば突然変異や翻訳後の修飾等により生じたものであってよく、また天然由来の遺伝子に基づいて変異を導入して取得したものであってもよい。変異を導入する手段は自体公知であり、例えば、部位特異的変異導入法、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法またはPCR等を単独でまたは適宜組合せて使用できる。例えば成書に記載の方法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー;村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社)に準じて、あるいはそれらの方法を改変して実施することができ、ウルマーの技術(ウルマー(Ulmer,K.M.)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666−671)を利用することもできる。変異の導入において、当該蛋白質の基本的な性質(物性、機能、生理活性または免疫学的活性等)を変化させないという観点からは、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸および芳香族アミノ酸等)の間での相互の置換は容易に想定される。
構造的特徴として、DNAについては7回膜貫通ドメインコード領域やTSP−Iドメインコード領域を例示できる。また、該DNAによりコードされる蛋白質については、構造的特徴として、7回膜貫通ドメインやTSP−Iドメインを例示できる。このようなドメインや領域における配列相同性が、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上、またさらにより好ましくは95%以上であるDNAまたは蛋白質が好ましい。さらに、これらドメインがその機能、例えば該ドメインを含む蛋白質を膜に局在させる機能あるいは血管新生阻害機能を保持しているドメインであることがより好ましい。
また構造的特徴として、DNAについては3´末端領域に配列番号3に記載のアミノ酸配列(QTEV)をコードする領域が保存されていることが挙げられる。該DNAによりコードされる蛋白質については、C末端領域に配列番号3に記載のアミノ酸配列(QTEV)が保存されていることが挙げられる。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質の生物学的機能と同質の機能として、膜蛋白質受容体としての機能を例示できる。「膜蛋白質受容体としての機能」とは、動物細胞で発現させたときに膜蛋白質として発現され、リガンドの作用により細胞内情報伝達を促進し、細胞応答を誘発させる機能を意味する。例えば、GPCRと同質の機能が挙げられる。「GPCRと同質の機能」とは、リガンドの作用によりG蛋白質に結合してこれを活性化させ、細胞内情報伝達を促進し、細胞応答を誘発する機能をいう。
細胞応答として具体的には、細胞膜電位の変化あるいは細胞内カルシウム濃度の変化を例示できる。細胞膜電位の変化あるいは細胞内カルシウム濃度の変化は自体公知の方法で測定できる。細胞膜電位の変化は、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞に配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAまたは該DNAのスプライシングバリアントを発現させ、リガンド刺激の存在下または非存在下で、膜蛋白質受容体特異的に発生する電流量を測定し、その電流量を比較することにより検出できる。細胞内カルシウム濃度の変化は、例えば、カルシウムイオンと結合し得る蛍光色素を細胞内に取り込ませ、リガンド刺激の存在下または非存在下で、励起光により蛍光現象を惹き起こし、その蛍光量を比較することにより検出できる。
リガンドとして、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAまたは該DNAのスプライシングバリアントの発現が認められた細胞または生体組織から調製した試料を例示できる。試料の調製は、例えば細胞または組織を自体公知の方法で培養し、その培養上清を遠心処理等により得る方法や、細胞または組織を自体公知の方法で破砕あるいは溶解する方法により実施できる。リガンドは、これら試料から自体公知の蛋白質精製方法、例えばゲルろ過クロマトグラフィー等により精製して用いることもできる。リガンドとして具体的には、本実施例に用いたHeLa細胞株の培養上清を例示できるがこれに限定されず、細胞に発現した本DNAの遺伝子産物に作用して細胞応答を誘発させ得るものであればいずれを用いてもよい。
リガンドとしてCCK−8S(配列番号14)をより好ましく例示できる。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質の生物学的機能と同質の機能としてまた、グアニル酸キナーゼ活性および/または細胞接着機能を有する蛋白質、例えばMAGUKファミリー関連蛋白質と相互作用する機能を例示できる。MAGUKファミリー関連蛋白質として具体的には、DLG2、DLG3およびDLG4や、AIP1、MAGI3を例示できる。
上述のように、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAおよび該DNAのスプライシングバリアントは、7回膜貫通ドメインを有する機能的膜蛋白質受容体として機能する蛋白質をコードするDNAである。本DNAによりコードされる蛋白質は構造的特徴として、数個、好ましくは2個〜4個のTSP−Iドメイン、1個のGPSドメインおよび1個の7回膜貫通ドメインを有する(図1−Aおよび図1−B参照)。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAは、シグナル配列と予測される部分(N末端より20アミノ酸残基)を有する1518アミノ酸残基(配列番号2)をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含む4557bpの塩基配列からなる。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質として、配列番号2に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質を好ましく挙げられる。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質は、シグナル配列と予測される部分(N末端より20アミノ酸残基)を有する1518アミノ酸残基からなり、そのアミノ酸配列に3個のTSP−Iドメインの他、GPSドメインおよび7回膜貫通ドメイン(7回膜貫通ドメイン)を有する(図1−Aおよび図1−B参照)。本蛋白質のアミノ酸配列は、配列番号19に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質のアミノ酸配列と比較して、N末端側の1個のTSP−Iドメインを含む55アミノ酸残基が欠失している以外は同一である。欠失している55アミノ酸残基は、配列番号20に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質のアミノ酸配列において、第296番目のグリシン(G)から第350番目のプロリン(P)に相当する。3個のTSP−Iドメインはそれぞれ、配列番号2に記載のアミノ酸配列における第297番目のヒスチジン(His)から第350番目のプロリン(Pro)までの領域;第352番目のグルタミン酸(Glu)から第405番目のプロリン(Pro)までの領域;および第408番目のアスパラギン酸(Asp)から第461番目のプロリン(Pro)までの領域からなる。7個の膜貫通ドメインはそれぞれ、配列番号2に記載のアミノ酸配列における第870番目のバリン(Val)から第890番目のフェニルアラニン(Phe)までの領域;第899番目のセリン(Ser)から第919番目のグリシン(Gly)までの領域;第928番目のバリン(Val)から第948番目のロイシン(Leu)までの領域;第970番目のアルギニン(Arg)から第990番目のトレオニン(Thr)までの領域;第1012番目のアラニン(Ala)から第1032番目のフェニルアラニン(Phe)までの領域;第1087番目のロイシン(Leu)から第1107番目のアラニン(Ala)までの領域;および第1114番目のバリン(Val)から第1134番目のバリン(Val)までの領域からなる。
配列番号15に記載の塩基配列で表されるDNAは、シグナル配列と予測される部分(N末端より20アミノ酸残基)を有する1463アミノ酸残基(配列番号16)をコードするORFを含む4389bpの塩基配列からなる。
配列番号15に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質として、配列番号16に記載のアミノ酸配列で表わされる蛋白質が挙げられる。
配列番号15に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質は、シグナル配列と予測される部分(N末端より20アミノ酸残基)を有する1463アミノ酸残基からなり、そのアミノ酸配列に7回膜貫通ドメイン、2個のTSP−Iドメインおよび1個のGPSドメインを有する(図1−B参照)。本蛋白質のアミノ酸配列は、配列番号19に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質のアミノ酸配列と比較して、N末端側の2個のTSP−Iドメインを含む110アミノ酸残基が欠失している以外は同一である。欠失している110アミノ酸残基は、配列番号20に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質のアミノ酸配列において、第296番目のグリシン(G)から第405番目のプロリン(P)に相当する。
配列番号17に記載の塩基配列で表されるDNAは、シグナル配列と予測される部分(N末端より20アミノ酸残基)を有する1518アミノ酸残基(配列番号18)をコードするORFを含む4554bpの塩基配列からなる。
配列番号17に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質として、配列番号18に記載のアミノ酸配列で表わされる蛋白質が挙げられる。
配列番号17に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質は、シグナル配列と予測される部分(N末端より20アミノ酸残基)を有する1518アミノ酸残基(配列番号18)からなり、そのアミノ酸配列に7回膜貫通ドメイン、3個のTSP−Iドメインおよび1個のGPSドメインを有する(図1−B参照)。本蛋白質のアミノ酸配列は、配列番号19に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質のアミノ酸配列と比較して、N末端側から2番目のTSP−Iドメイン1個を含む55アミノ酸残基が欠失している以外は同一である。欠失している55アミノ酸残基は、配列番号20に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質において、第351番目のバリン(V)から第405番目のプロリン(P)に相当する。
配列番号19に記載の塩基配列で表されるDNAは、7tmHR(seven transmembrane herix receptor)遺伝子(GenBank、アクセッション番号:AB065648)と称される。本DNAは、シグナル配列と予測される部分(N末端より20アミノ酸残基)を有する1573アミノ酸残基(配列番号20)をコードするORFを含む4719bpの塩基配列からなる。
配列番号19に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質として、配列番号20に記載のアミノ酸配列で表わされる蛋白質が挙げられる。
配列番号19に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質は、7tmHR(GenBank、アクセッション番号:AB065648)と称される。本蛋白質は、1573アミノ酸残基からなり、そのアミノ酸配列に7回膜貫通ドメイン、4個のTSP−Iドメインおよび1個のGPSドメインを有する(図1−B参照)。
配列番号21に記載の塩基配列で表されるDNAは、公知ヒトDNAであり、hBAI2遺伝子(GenBank、アクセッション番号:AB005298)と称される。本DNAは、シグナル配列と予測される部分(N末端より20アミノ酸残基)を有する1572アミノ酸残基(配列番号22)をコードするORFを含む5399bpの塩基配列からなる。
配列番号21に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質として、配列番号22に記載のアミノ酸配列で表わされる蛋白質が挙げられる。
配列番号21に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質は、公知ヒト蛋白質であり、hBAI2(GenBank、アクセッション番号:AB005298)と称される。本蛋白質は、1572アミノ酸残基からなり、そのアミノ酸配列に7回膜貫通ドメイン、4個のTSP−Iドメインおよび1個のGPSドメインを有する(図1−A参照)。本蛋白質のアミノ酸配列は、配列番号19に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質のアミノ酸配列と比較して、C末端領域において第1461番目のリジンに相当する1アミノ酸残基が欠失している以外は同一である。
配列番号1、15、17、19および21に記載の塩基配列のうちいずれか1の塩基配列で表されるDNAおよび該DNAによりコードされる蛋白質は、このように、互いに相同性を有し、TSP−Iドメイン、GPSドメインおよび7回膜貫通ドメインを保存している。
配列番号1、15、17、19および21に記載の塩基配列のうちいずれか1の塩基配列で表されるDNAおよび該DNAによりコードされる蛋白質は、配列の相同性および構造的特徴の類似性から、スプライシングバリアントであると発明者らは考えている。
配列番号2、16、18、20および22に記載のアミノ酸配列のうちいずれか1のアミノ酸配列で表される蛋白質は、互いに相同性を有し、TSP−Iドメイン、GPSドメインおよび7回膜貫通ドメインを保存している。配列の相同性および構造的特徴の類似性から、これら蛋白質はスプライシングバリアントであると発明者らは考えている。
配列番号15、17および19に記載の塩基配列のうちいずれか1の塩基配列で表されるDNAの遺伝子産物は、実際、膜蛋白質受容体としての機能を示した。具体的には、該遺伝子産物を発現させた動物細胞において、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAの遺伝子産物を発現させた動物細胞と同様に、CCK−8S(配列番号14)刺激により細胞内情報伝達を介した細胞応答が生じることが観察された。
本発明において用いるDNAは、上記DNA、例えば配列番号1、15、17、19および21に記載の塩基配列のうちいずれか1の塩基配列を含有する塩基配列で表されるDNAであることができる。
また本発明において用いるDNAは、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAまたは該DNAのスプライシングバリアントの指定された領域に存在する部分塩基配列で表されるDNA断片であることができる。このようなDNA断片は、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAまたは該DNAのスプライシングバリアントを検出するためのプライマーやプローブ、あるいは本DNAを製造するためのプライマーとして使用できるため有用である。プライマーは、好ましくは15個〜30個、より好ましくは20個〜25個のヌクレオチドからなる。プローブは、好ましくは8個〜50個のヌクレオチド、より好ましくは17個〜35個のヌクレオチド、さらに好ましくは17個〜30個のヌクレオチドからなる。プライマーやプローブの長さが適当な長さより長いと、偽ハイブリダイゼーションが増加するために特異性が低下する。また、長さが適当な長さより短いとミスマッチが生じるために特異性が低下する。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAまたは該DNAのスプライシングバリアントの指定された領域として、該DNAによりコードされる蛋白質の断片であってリガンドが作用する部位を含む断片をコードする領域が好ましく挙げられる。リガンドが作用する部位を含む断片をコードする領域に存在する部分塩基配列で表されるDNA断片は、リガンドが作用する部位を含む断片の製造に使用できる。リガンドが作用する部位を含む断片は、本発明において用いる蛋白質に対するリガンドの作用、例えば本蛋白質とリガンドとの結合の検出、また該作用を促進するまたは阻害する化合物の同定に有用である。あるいは、本蛋白質に対してリガンドと同様の作用を有する化合物、すなわちアゴニストの同定に有用である。このようなDNA断片は、その最小単位として好ましくは該領域において連続する5個以上のヌクレオチド、より好ましくは10個以上、より好ましくは20個以上のヌクレオチドからなる。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAまたは該DNAのスプライシングバリアントの指定された領域に存在する部分塩基配列で表されるDNA断片はまた、蛋白質をコードするセンス鎖に相補的なDNA断片であるとき、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAまたは該DNAのスプライシングバリアントの発現を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチドとして有用である。一般的に20個前後のヌクレオチドからなるDNA断片が、遺伝子の発現を阻害できることが知られていることから、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくは15個以上、より好ましくは20個以上のヌクレオチドからなる。
これらDNA断片は、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAまたは該DNAのスプライシングバリアントの塩基配列情報に従って、目的の配列を有するものを設計し、自体公知の化学合成法により製造できる。簡便には、DNA/RNA自動合成装置を用いて製造できる。
本発明において用いる蛋白質は、上記蛋白質、例えば配列番号2、16、18、20および22に記載のアミノ酸配列のうちいずれか1のアミノ酸配列を含有するアミノ酸配列で表される蛋白質であることができる。
また本発明において用いる蛋白質は、該蛋白質の指定された領域に存在する部分アミノ酸配列で表される断片であることができる。本蛋白質の断片は、本蛋白質に対する抗体を作製するための抗原として使用できるため有用である。
本発明において用いる蛋白質の指定された領域として、本蛋白質においてリガンドが作用する部位が好ましく挙げられる。リガンドが作用する部位を含む断片は、本蛋白質に対するリガンドの作用、例えば本蛋白質とリガンドとの結合の検出、また該作用を促進するまたは阻害する化合物の同定に有用である。リガンドが作用する部位を含む断片は、本蛋白質に対するリガンドの作用、例えば本蛋白質とリガンドとの結合の検出、また該作用を促進するまたは阻害する化合物の同定に有用である。あるいは、本蛋白質に対してリガンドと同様の作用を有する化合物、すなわちアゴニストの同定に有用である。また、リガンドが作用する部位を含む断片のうち、リガンドと本蛋白質の相互作用を阻害する断片は、リガンドの作用による本蛋白質の機能の誘導を阻害する化合物として有用である。
本発明において用いる蛋白質の指定された領域に存在する部分アミノ酸配列で表される断片は、その最小単位として好ましくは5個以上、より好ましくは8個以上、さらに好ましくは12個以上、とくに好ましくは15個以上の連続するアミノ酸からなるものである。これら断片は、本蛋白質のアミノ酸配列情報に従って、目的の配列を有するものを設計し、例えば自体公知の化学合成法により製造できる。
本発明において用いる蛋白質は、本蛋白質をコードする遺伝子を遺伝子工学的手法で発現させた細胞や生体試料から調製したもの、無細胞系合成産物または化学合成産物であってよく、あるいはこれらからさらに精製されたものであってもよい。また、本蛋白質は、本蛋白質をコードする遺伝子を含む細胞において発現しているものであり得る。該細胞は、本蛋白質をコードする遺伝子を含むベクターをトランスフェクションして得られた形質転換体であり得る。
本発明において用いる蛋白質はさらに、その構成アミノ基またはカルボキシル基等を、例えばアミド化修飾する等、機能の著しい変更を伴わない限りにおいて改変できる。また、N末端側やC末端側に別の蛋白質等を、直接的にまたはリンカーペプチド等を介して間接的に遺伝子工学的手法等を用いて付加することにより標識化したものであってもよい。好ましくは、本蛋白質の基本的な性質が阻害されないような標識化が望ましい。付加する蛋白質等として、例えばGST、β−ガラクトシダーゼ、HRPまたはALP等の酵素類、His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tag等のタグペプチド類、フルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate)またはフィコエリスリン(phycoerythrin)等の蛍光色素類、マルトース結合蛋白質、免疫グロブリンのFc断片あるいはビオチン等を例示できるが、これらに限定されない。また、放射性同位元素により標識することもできる。標識化に用いる物質は、1つまたは2つ以上を組合せて付加できる。これら標識化に用いた物質自体、またはその機能を測定することにより、本蛋白質を容易に検出または精製でき、また、例えば本発明において用いる蛋白質と他の蛋白質との相互作用を検出できる。
(DNAの取得)
本発明において用いるDNAは、当該DNAの配列情報に基づいて、公知の遺伝子工学的手法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー;村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社等を参照)により容易に取得できる。例えば、配列表の配列番号1、15、17、19および21に記載の塩基配列で表されるDNAは、その配列情報基づいて、公知の遺伝子工学的手法により取得できる。
本発明において用いるDNAの取得は、具体的には、本DNAの発現が確認されている適当な起源から、常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、該ライブラリーから、該DNAに特有の適当なプローブやプライマーを用いて所望のクローンを選択することにより実施できる。cDNAの起源として、本DNAの発現が確認されている各種の細胞や組織、またはこれらに由来する培養細胞等を例示できる。配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAおよび該DNAのスプライシングバリアントの起源として、例えば、ヒトの脳組織や脳細胞を例示できる。
起源からの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニング等はいずれも常法に従って実施できる。また、市販されているヒト脳、胎児脳、および脳海馬由来のpolyA+RNAからcDNAライブラリーを構築して使用できる。所望のクローンをcDNAライブラリーから選択する方法も特に制限されず、慣用の方法を使用できる。例えば、目的のDNA配列に選択的に結合するプローブを用いたプラークハイブリダイゼーション法、コロニーハイブリダイゼーション法等やこれらを組合せた方法等を例示できる。ここで用いるプローブとして、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAまたは該DNAのスプライシングバリアントの塩基配列に関する情報に基づいて化学合成されたDNA等が一般的に使用できる。また、本DNAの塩基配列情報に基づき設計したセンスプライマー、アンチセンスプライマーをこのようなプローブとして使用できる。
cDNAライブラリーからの目的クローンの選択は、例えば公知の蛋白質発現系を利用して各クローンについて発現蛋白質の確認を行い、その生物学的機能を指標にして実施できる。
DNAの取得にはその他、PCR(ウルマー(Ulmer,K.M.)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666−671;エールリッヒ(Ehrlich,H.A.)編、「PCRテクノロジー,DNA増幅の原理と応用」、1989年、ストックトンプレス;サイキ(Saiki R.K.)ら、「サイエンス(Science)」、1985年、第230巻、p.1350−1354))によるDNA/RNA増幅法が好適に利用できる。cDNAライブラリーから全長のcDNAが得られ難いような場合には、RACE法(「実験医学」、1994年、第12巻、第6号、p.615−618)、特に5´−RACE法(フローマン(Frohman M.A.)ら、「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Proceedings of The National Academy of Sciences of The United States of America)」、1988年、第85巻、第23号、p.8998−9002)等の採用が好適である。PCRに使用するプライマーは、DNAの塩基配列情報に基づいて適宜設計でき、常法に従って合成により取得できる。増幅させたDNA/RNA断片の単離精製は、常法により実施できる。例えばゲル電気泳動法等によりDNA/RNA断片の単離精製を実施できる。
DNAの塩基配列の決定は、常法、例えばジデオキシ法(「プロシーディングス オブ ザ ナショナル アカデミー オブ サイエンシズ オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Proceedings of The National Academy of Sciences of The United States of America)」、1977年、第74巻、p.5463−5467)やマキサム−ギルバート法(「メソッズ イン エンザイモロジー(Methods in Enzymology)」、1980年、第65巻、p.499−560)等により、また簡便には市販のシーケンスキット等を用いて実施できる。
DNAは、その機能、例えばコードする蛋白質の発現や、発現された蛋白質の機能が阻害されない限りにおいて、5´末端側や3´末端側に、例えばグルタチオン S−トランスフェラーゼ(GST)、β−ガラクトシダーゼ、ホースラディッシュパーオキシダーゼ(HRP)またはアルカリホスファターゼ(ALP)等の酵素類、His−tag、Myc−tag、あるいはHA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tag等のタグペプチド類等の遺伝子が、1つまたは2つ以上付加されたDNAであることができる。これら遺伝子の付加は、慣用の遺伝子工学的手法により行うことができ、遺伝子やmRNAの検出を容易にするため有用である。
(ベクター)
本発明において用いるDNAを適当なベクターDNAに挿入することにより、該DNAを含む組換えベクターが得られる。組換えベクターは、該DNAが組込まれている組換えベクターである限りにおいて、いずれの組換えベクターであってもよい。
ベクターDNAは宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、宿主の種類および使用目的により適宜選択される。ベクターDNAは、天然に存在するものを抽出したもののほか、複製に必要な部分以外のDNAの部分が一部欠落しているものでもよい。代表的なものとして、プラスミド、バクテリオファージおよびウイルス由来のベクターDNAを例示できる。プラスミドDNAとして、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミド等を例示できる。バクテリオファージDNAとして、λファージ等を例示できる。ウイルス由来のベクターDNAとして、例えばレトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、パポバウイルス、SV40、鶏痘ウイルス、および仮性狂犬病ウイルス等の動物ウイルス由来のベクター、あるいはバキュロウイルス等の昆虫ウイルス由来のベクターを例示できる。その他、トランスポゾン由来、挿入エレメント由来、酵母染色体エレメント由来のベクターDNA等を例示できる。あるいは、これらを組合せて作成したベクターDNA、例えばプラスミドおよびバクテリオファージの遺伝学的エレメントを組合せて作成したベクターDNA(コスミドやファージミド等)を例示できる。また、目的により発現ベクターやクローニングベクター等、いずれを用いることもできる。
ベクターには、目的遺伝子の機能が発揮されるように遺伝子を組込むことが必要であり、少なくとも目的遺伝子配列とプロモーターとをその構成要素とする。これら要素に加えて、所望によりさらに、複製そして制御に関する情報を担持した遺伝子配列、例えば、リボソーム結合配列、ターミネーター、シグナル配列、エンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、および選択マーカー等から選択した1つまたは複数の遺伝子配列を自体公知の方法により組合せてベクターDNAに組込むことができる。選択マーカーとして、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等を例示できる。
ベクターDNAに目的遺伝子配列を組込む方法は、自体公知の方法を適用できる。例えば、目的遺伝子配列を適当な制限酵素により処理して特定部位で切断し、次いで同様に処理したベクターDNAと混合し、リガーゼによって再結合する方法が用いられる。あるいは、目的遺伝子配列に適当なリンカーをライゲーションし、これを目的に適したベクターのマルチクローニングサイトへ挿入することによっても、所望の組換えベクターが得られる。
(形質転換体)
本発明に用いるDNAを組込んだベクターDNAを宿主に導入することにより、形質転換体が得られる。ベクターDNAとして発現ベクターを使用すれば、本DNAを発現させることができ、さらに該DNAによりコードされる蛋白質を製造できる。該形質転換体には、本DNA以外の所望の遺伝子を組込んだベクターDNAの1つまたは2つ以上をさらに導入することもできる。
宿主として、原核生物および真核生物のいずれも使用できる。原核生物として、例えば大腸菌(エシェリヒアコリ(Escherichia coli))等のエシェリヒア属、枯草菌等のバシラス属、シュードモナスプチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウムメリロティ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌を例示できる。真核生物として、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセスポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母、Sf9やSf21等の昆虫細胞、あるいはサル腎由来細胞(COS細胞、Vero細胞)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH3細胞、ヒトFL細胞や293EBNA細胞、アフリカツメガエル卵母細胞等の動物細胞を例示できる。好ましくは動物細胞を用いる。
ベクターDNAの宿主細胞への導入は、自体公知の手段が応用でき、例えば成書に記載されている標準的な方法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー)により実施できる。より好ましい方法として、遺伝子の安定性を考慮するならば染色体内へのインテグレート法が挙げられるが、簡便には核外遺伝子を利用した自律複製系を使用できる。具体的な方法として、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、マイクロインジェクション、陽イオン脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープ負荷(scrape loading)、バリスティック導入(ballistic introduction)および感染等が挙げられる。
動物細胞を宿主とする場合は、組換えベクターが該細胞中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、RNAスプライス部位、目的遺伝子、ポリアデニル化部位、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、所望により複製起点が含まれていてもよい。プロモーターとして、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター等を用いることができ、また、サイトメガロウイルスの初期遺伝子プロモーター等を用いてもよい。動物細胞への組換えベクターの導入方法として、好ましくは例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等を例示できる。
原核生物を宿主とする場合は、組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、目的遺伝子、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
細菌を宿主として用いる場合、プロモーターとして、大腸菌等の宿主中で発現できるものであれば特に限定されず、いずれを用いてもよい。例えば、trpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター等の、大腸菌やファージに由来するプロモーターが例示できる。tacプロモーター等の人為的に設計改変されたプロモーターを用いてもよい。細菌への組換えベクターの導入方法は、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されない。好ましくは例えば、カルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等を例示できる。
酵母を宿主とする場合、プロモーターとして、酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、いずれを用いてもよい。例えば、gal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショック蛋白質プロモーター、MFα1プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOX1プロモーター等が例示できる。酵母への組換えベクターの導入方法は、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、好ましくは例えば、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等を例示できる。
昆虫細胞を宿主とする場合は、組換えベクターの導入方法として、好ましくは例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法等を例示できる。
配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAを含むベクターDNAをトランスフェクションして得られた形質転換体として、具体的には、HA−ph01207#10−6細胞株が挙げられる。HA−ph01207#10−6細胞株は、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAのORFのうち、シグナル配列(配列番号2に記載のアミノ酸配列のN末端より20アミノ酸残基)をコードすると予測される部分を除いた塩基配列で表されるDNAをN末端HA−tag融合蛋白質として発現させるベクターを、CHO−K1細胞株にトランスフェクションすることにより樹立した細胞株である。HA−ph01207#10−6細胞株は、該N末端HA−tag融合蛋白質を安定的に発現している。本細胞株の具体的な作製方法は、実施例2に詳述する。
HA−ph01207#10−6細胞株は、受託番号 FERM BP−10101号として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に平成16年8月19日付けで寄託した。本細胞株の生存は、前記寄託センターにおいて平成16年9月22日に実施された試験により確認されている。
(蛋白質の製造方法)
本発明において用いる蛋白質の取得は、例えば本蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列情報に基づいて一般的遺伝子工学的手法(サムブルック(Sambrook)ら編、「モレキュラークローニング,ア ラボラトリーマニュアル 第2版」、1989年、コールドスプリングハーバーラボラトリー;村松正實編、「ラボマニュアル遺伝子工学」、1988年、丸善株式会社;ウルマー(Ulmer,K.M.)、「サイエンス(Science)」、1983年、第219巻、p.666−671;エールリッヒ(Ehrlich,H.A.)編、「PCRテクノロジー,DNA増幅の原理と応用」、1989年、ストックトンプレス等を参照)により実施できる。例えば、本蛋白質をコードする遺伝子の発現が確認されている各種の細胞や組織、またはこれらに由来する培養細胞、例えばヒトの脳組織から常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、該遺伝子に特有の適当なプライマーを用いて該遺伝子を増幅し、得られた遺伝子を公知の遺伝子工学的手法により発現誘導することにより取得できる。
具体的には例えば、上記DNAを含むベクターDNAをトランスフェクションした形質転換体を培養し、次いで得られる培養物から目的とする蛋白質を回収することにより本蛋白質を製造できる。形質転換体の培養は、各々の宿主に最適な自体公知の培養条件および培養方法で実施できる。培養は、形質転換体により発現される本蛋白質自体またはその機能を指標にして実施できる。あるいは、宿主中または宿主外に産生された本蛋白質自体またはその蛋白質量を指標にして培養してもよく、培地中の形質転換体量を指標にして継代培養またはバッチ培養を行ってもよい。
目的とする蛋白質が形質転換体の細胞内あるいは細胞膜上に発現する場合には、形質転換体を破砕して目的とする蛋白質を抽出する。また、目的とする蛋白質が形質転換体外に分泌される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離処理等により形質転換体を除去した培養液を用いる。
本発明において用いる蛋白質はまた、一般的な化学合成法により製造できる。例えば、蛋白質の化学合成方法として、固相合成方法や液相合成方法等が知られているがいずれを用いることもできる。このような蛋白質合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させて鎖を延長させていくいわゆるステップワイズエロンゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメントコンデンセーション法とを包含し、本蛋白質の合成は、そのいずれによっても実施できる。上記蛋白質合成において用いられる縮合法も、常法に従うことができ、例えば、アジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシサクシンアミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等)法、ウッドワード法等を例示できる。化学合成により得られた蛋白質は、さらに上記のような慣用の各種精製方法に従って、適宜精製を実施できる。
本発明において用いる蛋白質は適当なペプチダーゼを用いて切断することにより断片化することができ、その結果、本蛋白質の断片が取得できる。
蛋白質は、所望により、その物理的性質、化学的性質等を利用した各種分離操作方法により精製および/または分離できる。分離および/または精製は、本蛋白質の機能を指標にして実施できる。分離操作方法として、例えば硫酸アンモニウム沈殿、限外ろ過、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、透析法等を単独でまたは適宜組合せて使用できる。好ましくは、本蛋白質のアミノ酸配列情報に基づき、これらに対する特異的抗体を作成し、該抗体を用いて特異的に吸着する方法、例えば該抗体を結合させたカラムを利用するアフィニティクロマトグラフィーを用いることが推奨される。
(抗体)
本発明において用いる蛋白質またはその断片を抗原として用いることにより、該蛋白質に対する抗体を作製できる。抗原として用いる蛋白質またはその断片は、少なくとも8個、好ましくは少なくとも10個、より好ましくは少なくとも12個、さらに好ましくは15個以上のアミノ酸で構成される。本発明において用いる蛋白質および/またはその断片に特異的な抗体を作製するためには、該蛋白質またはその断片に固有なアミノ酸配列で表される領域を用いることが好ましい。この領域のアミノ酸配列は、必ずしも本発明において用いる蛋白質またはその断片のものと相同または同一である必要はなく、その立体構造上の外部への露出部位が好ましく、露出部位のアミノ酸配列が一次構造上で不連続であっても、該露出部位について連続的なアミノ酸配列であればよい。抗体は免疫学的に本発明において用いる蛋白質および/またはその断片を特異的に結合または認識する限り特に限定されない。この結合または認識の有無は、公知の抗原抗体結合反応によって決定できる。
抗体の産生には、自体公知の抗体作製法を利用できる。例えば、抗原をアジュバントの存在下または非存在下で、単独でまたは担体に結合して動物に投与し、体液性応答および/または細胞性応答等の免疫誘導を行うことにより抗体が得られる。担体はそれ自体が宿主に対して有害作用を示さずかつ抗原性を増強せしめるものであれば特に限定されず、例えばセルロース、重合アミノ酸、アルブミンおよびキーホールリンペットヘモシアニン等が例示できる。アジュバントは、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、Ribi(MPL)、Ribi(TDM)、Ribi(MPL+TDM)、百日咳ワクチン(Bordetella pertussis vaccine)、ムラミルジペプチド(MDP)、アルミニウムアジュバント(ALUM)、およびこれらの組み合わせが例示できる。免疫される動物は、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウマ等が好適に用いられる。
ポリクローナル抗体は、抗原を投与された動物の血清から自体公知の抗体回収法によって取得できる。好ましい抗体回収手段として免疫アフィニティクロマトグラフィー法が挙げられる。
モノクロ−ナル抗体は、抗原を投与された動物から抗体産生細胞(例えば、脾臓またはリンパ節由来のリンパ球)を回収し、自体公知の永久増殖性細胞(例えば、P3−X63−Ag8株等のミエローマ株)を用いた形質転換手段を導入することにより生産できる。例えば、抗体産生細胞と永久増殖性細胞とを自体公知の方法で融合させてハイブリドーマを作製してこれをクローン化し、本発明において用いる蛋白質を特異的に認識する抗体を産生するハイブリドーマを選別し、該ハイブリドーマの培養液から抗体を回収する。
本発明において用いる蛋白質を認識し結合し得るポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体は、本蛋白質の精製用抗体、試薬または標識マーカー等として利用できる。特に本蛋白質の機能を阻害する抗体、あるいは本蛋白質に結合して本蛋白質のリガンド様作用を示す抗体は、本蛋白質の機能調節に使用できる。これら抗体は、本蛋白質およびその機能の異常に起因する各種疾患の解明、防止、改善および/または治療のために有用である。
(膜蛋白質受容体の機能)
本発明において用いる蛋白質は、膜蛋白質受容体として機能する蛋白質であり、動物細胞において発現させたときにCCK−8S(配列番号14)による細胞応答を誘発することができた。すなわち、CCK−8S(配列番号14)は本蛋白質からなる膜蛋白質受容体のリガンドの1つである。以下、本蛋白質からなる膜蛋白質受容体を本発明に係る膜蛋白質受容体と称することがある。
本発明において用いる蛋白質を発現させた動物細胞においてCCK−8S(配列番号14)により惹き起こされた細胞応答は、具体的には、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAを安定的に発現させた上記HA−ph01207#10−6細胞株において観察された。より具体的には、HA−ph01207#10−6細胞株において、CCK−8S(配列番号14)の作用により細胞内カルシウム濃度の上昇が認められた(実施例5参照)。1nMのCCK−8S(配列番号14)による該細胞株における細胞内カルシウム濃度の上昇の程度は、ポジティブコントロールであるカルシウムイオノファA23187によるものとほぼ同等であった。本DNAを発現させていないCHO−K1細株胞では、CCK−8S(配列番号14)によるこのような細胞内カルシウム濃度の上昇は認められなかった。一方、HA−ph01207#10−6細胞株は、CCK−8S(配列番号14)と同じアミノ酸配列で表されるCCKオクタペプチドであってもC末端から7番目のチロシン残基が硫酸化されていないペプチド(CCK−8 Nonsulfated form、以下、CCK−8NSと称する)に対しては応答しなかった。また、CCK−8S(配列番号14)のC末端から4番目までのアミノ酸残基からなるテトラペプチド(CCK−4)に対しても応答しなかった。具体的には、1nMのCCK−8NSまたは1nMのCCK−4による細胞内カルシウム濃度の上昇は認められなかった。これらから、HA−ph01207#10−6細胞株は、CCK−8S(配列番号14)に対して特異的に応答し、膜蛋白質受容体として機能することが判明した。また、HA−ph01207#10−6細胞株が、CCK−8S(配列番号14)に応答したがCCK−8NSには応答しなかったことから、CCK−8S(配列番号14)のリガンド作用には、CCK−8S(配列番号14)のアミノ酸配列のC末端から7番目のチロシン残基が硫酸化されていることが重要であると発明者らは考えている。
CCK−8S(配列番号14)による細胞応答の惹起はまた、配列番号15に記載の塩基配列で表されるDNA、配列番号17に記載の塩基配列で表されるDNA、または配列番号19に記載の塩基配列で表されるDNAを発現させた細胞のいずれにおいても観察された。より具体的には、これら細胞において、1nMのCCK−8S(配列番号14)の作用により細胞内カルシウム濃度の上昇が認められた(実施例8参照)。これに対して、配列番号15に記載の塩基配列で表されるDNA、配列番号17に記載の塩基配列で表されるDNA、または配列番号19に記載の塩基配列で表されるDNAを発現させていないCHO−K1細株胞では、CCK−8S(配列番号14)によるこのような細胞内カルシウム濃度の上昇は認められなかった。
配列番号1、15、17および19に記載の塩基配列から選ばれるいずれか1の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質は、そのアミノ酸配列においてN末端細胞外領域のTSP−Iドメインのリピート数が異なるが、該ドメイン以外のアミノ酸配列はほぼ同一である(図1−B)。配列番号1、15、17および19に記載の塩基配列から選ばれるいずれか1の塩基配列で表されるDNAを発現させた細胞のいずれにおいてもCCK−8S(配列番号14)による細胞応答が惹起された(実施例5、実施例8および実施例9)。したがって、配列番号1、15、17および19に記載の塩基配列から選ばれるいずれか1の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質とCCK−8Sとの結合および該結合により生じる細胞内シグナル伝達には、TSP−Iドメインは大きく関与していないと発明者らは考えている。
CCK−8S(配列番号14)が1nMという低濃度で、HA−ph01207#10−6細胞株、および配列番号15、配列番号17または配列番号19に記載の塩基配列で表されるDNAを発現させた細胞の細胞応答を惹き起こしたことから、CCK−8S(配列番号14)は生体内で実際に、該DNAによりコードされる蛋白質を介して細胞応答を惹き起こしていると考えられる。つまり、CCK−8S(配列番号14)は、GPCRと予想された本発明に係る機能性膜蛋白質受容体の生体内リガンドの1つであると発明者らは考えている。また、本膜蛋白質受容体は、アフリカツメガエル卵母細胞において、HeLa細胞培養上清をリガンド供給源として用いたときに膜電位の変化といった細胞応答を示した。
本発明に係る膜蛋白質受容体のリガンドの範囲には、CCK−8S(配列番号14)以外に、CCK−8S(配列番号14)のアミノ酸配列において、1個〜数個のアミノ酸の欠失、置換、付加または挿入といった変異を有するアミノ酸配列からなり、かつCCK−8Sと同質の機能を有するペプチドが含まれる。「CCK−8Sと同質の機能」とは、本発明に係る膜蛋白質受容体の生物学的機能を誘導する機能、より具体的には、本膜蛋白質受容体を発現している細胞において、細胞内カルシウム濃度の上昇や膜電位の変化等の細胞応答を惹き起こす機能をいう。CCK−8S(配列番号14)においてC末端から7番目のチロシン残基が硫酸化されていることが、CCK−8S(配列番号14)のリガンド作用に重要であると考えられることから、本膜蛋白質受容体のリガンドは、該硫酸化されたチロシン残基が保存されていることが好ましい。変異を有する蛋白質は、天然において例えば突然変異や翻訳後の修飾等により生じたものであってよく、また天然由来の遺伝子に基づいて変異を導入して得たものであってもよい。変異を導入する手段は自体公知であり、上述の方法を利用できる。当該蛋白質の基本的な性質(物性、機能、生理活性または免疫学的活性等)を変化させないという観点からは、例えば、同族アミノ酸(極性アミノ酸、非極性アミノ酸、疎水性アミノ酸、親水性アミノ酸、陽性荷電アミノ酸、陰性荷電アミノ酸および芳香族アミノ酸等)の間での相互の置換は容易に想定される。また、CCK−8S(配列番号14)、またはCCK−8S(配列番号14)のアミノ酸配列において1個〜数個の変異を有するアミノ酸配列からなりかつCCK−8Sと同質の機能を有するペプチドを含むペプチドも、本膜蛋白質受容体のリガンドの範囲に含まれる。このようなペプチドにおいて、CCK−8SのC末端から7番目に存在する硫酸化チロシン残基が保有されていることが好ましい。
CCKの組織発現は、脳組織、特に大脳皮質、海馬、扁桃体や視床下部に多く認められる(表3参照)。
本発明において用いる蛋白質をコードするDNAの組織発現は、具体的には、大脳皮質、海馬および扁桃体で著しく強く認められることを発明者らは見出した(実施例10および表3参照参照)。本発明において用いる蛋白質をコードするDNAとCCKの発現分布が一致することからも、本膜蛋白質受容体のリガンドがCCK、例えばCCK−8S(配列番号14)であると発明者らは考えている。
本発明に係る膜蛋白質受容体のリガンドの1つが、上記のようにCCK−8S(配列番号14)であることから、CCK−8S(配列番号14)が関与すると考えられている記憶の保持といった神経機能に、本発明に係る膜蛋白質受容体が関与していると発明者らは考えている。CCK−8S(配列番号14)の量および/または機能の低下や消失により、記憶を意識レベルに呼び戻して行動に移すことが困難になる等の病的症状が現れる。このような神経機能に対するCCK−8S(配列番号14)の作用は、本膜蛋白質受容体を介していると発明者らは考えている。したがって、このような記憶機能の障害を伴う疾患や症状を、本膜蛋白質受容体のアゴニストにより緩和することができる。このような疾患として、記憶等の神経機能の障害を伴う疾患、具体的には例えば痴呆やアルツハイマー病等が挙げられる。
これらから、これまでにCCKの関与が想定されている、不安、鎮痛、鎮静、摂食抑制、記憶、学習といった生理機能に、CCK受容体として本膜蛋白質受容体が関与していると発明者らは考えている。さらに、CCKは、消化器官で数々の作用を示すことが報告され、また満腹感を脳のニューロンに与える信号物質と考えられている。このことから、CCKのファミリーであるCCK−8Sも、脳のニューロンに満腹感を与える信号物質として作用すると発明者らは考えている。CCK−8Sの量的および機能的な低下は、満腹感の低下による肥満を惹き起こすと発明者らは考えている。このような肥満に、CCK受容体として本膜蛋白質受容体が関与していると発明者らは考えている。また、CCK−8Sを糖尿病患者に投与するとインスリン量の増加が促進され、食後のグルコース量の増加が抑制されたことが報告されている(ボー(BO A.)ら、「ザ ジャーナル オブ クリニカル エンドクリノロジー アンド メタボリズム(The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism)」、2000年、第85巻、p.1043−1048)。このことから、本機能的膜蛋白質受容体が糖尿病と関連している可能性がある。したがって、本膜蛋白質受容体に対するアゴニスト、アンタゴニストは、このような生理機能の障害を伴う疾患や症状を緩和することができる。すなわち、本膜蛋白質受容体に対するアゴニスト、アンタゴニストは、抗不安薬、鎮痛剤、あるいは様々な中枢神経系の異常により惹き起こされる疾患に対する予防および/または治療剤の有効成分として使用できる。このような疾患として、具体的には、痴呆、パーキンソン病、パニック症候群、薬物依存症、肥満、糖尿病等の疾患が挙げられる。
より具体的には、本膜蛋白質受容体は、該受容体蛋白質をコードするDNAの発現分布および該DNAのスプライシングバリアントのノックアウトマウスを用いた実験結果から、神経性疾患、例えばうつ病に関与すると発明者らは考えている。
「うつ病」は、抑うつ症とも呼ばれ、悲哀感等の感情障害、思考制止等の思考障害、意欲低下、行動抑制、睡眠障害、抑うつ状態の日内変動等を主症状とする情動性精神障害である。うつ病の原因は、脳内の神経伝達物質の減少であるといわれている。また、その発症には、生物学的な要因、心理的な要因、社会・環境的な要因が関わっていると考えられている。
「抑うつ状態」とは、うつ病において一般的に認められる症状、例えば悲哀感等の感情障害、思考制止等の思考障害、意欲低下、行動抑制、睡眠障害等を意味する。
本発明において用いる蛋白質をコードするDNAの発現は、上記のように、大脳皮質、海馬、扁桃体で強い発現が認められた(実施例10および表3参照参照)。扁桃体はうつ病に関与するという報告がある(ウェイレン(Whalen P.J.)ら、「セミナーズ イン クリニカル ニューロサイカイアトリー(Seminars in Clinical Neuropsychiatry)」、2002年、第7巻、第4号、p.234−242;ドレベッツ(Drevets W.C.)ら、「エンルズ オブ ザ ニューヨーク アカデミー オブ サイエンシズ(Annals of the New York Academy of Sciences)」、2003年、第985巻、p.420−444;ネスラー(Nestler E.J.)ら、「ニューロン(Neuron)」、2002年、第34巻、第1号、p.13−25)。
BAI2遺伝子のノックアウトマウスを用いた尾懸垂試験において、該マウスが抗うつ様の表現型を示すことが観察された(実施例11参照)。BAI2遺伝子は、本発明において用いる蛋白質をコードするDNAのスプライシングバリアントである。尾懸垂試験は、うつ病の表現型を調べる試験法として一般的に用いられている手法であり、抗うつ薬の評価等、うつ病との関連性を調べる試験系として用いられている(ステル(Steru L.)ら、「サイコファーマコロジー(Psychopharmacology(Berl))」、1985年、第85巻、第3号、p.367−370;クラウリー(Crowley J.J.)ら、「ファーマコロジー バイオケミストリー アンド ビヘイビア(Pharmacological Biochemical Behavior」、2004年、第78巻、第2号、p.269−274;ニールセン(Nielsen D.M.)ら、「ヨーロピアン ジャーナル オブ ファーマコロジー(European Journal of Pharmacology)」、2004年、第499巻、第1−2号、p.135−146 )。
BAI2遺伝子のノックアウトマウスでは、尾懸垂試験において抗うつ様の表現型が認められた以外には、その他の行動学的検査において行動活性の上昇は観察されなかった。その他、本ノックアウトマウスは、生理学的検査、病理学的検査、解剖学的検査等多くの検査項目において野生型マウスと比較して有意な差は観察されなかった。
BAI2遺伝子のノックアウトマウスでは、BAI2遺伝子が破壊されているため、BAI2遺伝子およびそのスプライシングバリアントは発現されない。すなわち、BAI2遺伝子およびそのスプライシングバリアントの遺伝子産物が欠損したマウスにおいて、抗うつ状態が誘導された。これらの結果から、BAI2遺伝子およびそのスプライシングバリアントの遺伝子産物がうつ病に関与していると発明者らは考えている。
ヒトにおいても、BAI2遺伝子およびそのスプライシングバリアント、すなわち本発明において用いる蛋白質をコードするDNAおよびそのスプライシングバリアントがうつ病に関与していると発明者らは考えている。
一方、CCK受容体として、CCK−A受容体(CCK1受容体とも呼称される)およびCCK−B受容体(CCK2受容体とも呼称される)の2種類のGPCRが報告されている(ヘランツ(Herranz,R.)、「メディカル リサーチ レビューズ(Medicinal Research Reviews)」、2003年、第23巻、第5号、p.559−605、レビュー)。これらはいずれもクラスA(ロドプシン類;rhodopsin like)に属するGPCRである。
本膜蛋白質受容体は、CCK−A受容体およびCCK−B受容体と比較して、リガンド親和性および発現分布が異なることから、CCK−A受容体およびCCK−B受容体とは異なる生理作用を担っていると発明者らは考えている。具体的には、本膜蛋白質受容体は、CCK−A受容体とリガンド親和性が類似しているが発現分布が異なり、CCK−B受容体と発現分布が類似しているがリガンド親和性が異なる。
本発明において用いる蛋白質をコードするDNAの発現が脳組織で特異的に高いことから、該蛋白質からなる本膜蛋白質受容体は、脳組織における発現が低いCCK−A受容体と比較して、CCKの中枢神経系での作用に関与していると発明者らは考えている。また、脳組織で発現しているCCK−B受容体と比較して、リガンド親和性が異なることから、本発明に係る膜蛋白質受容体は脳内でCCK−B受容体と異なる生理活性を示すと発明者らは考えている。
また、本膜蛋白質受容体は、上記のように、その遺伝子のノックアウトマウスにおいて抗うつ状態が観察された。それに対して、CCK−A受容体遺伝子のノックアウトマウス、CCK−B受容体遺伝子のノックアウトマウス、並びにCCK−A受容体遺伝子およびCCK−B受容体遺伝子のダブルノックアウトマウスの表現型が報告されており、CCK−B受容体遺伝子のノックアウトマウスにおいて行動活性が亢進しているという報告があるが、これらノックアウトマウスとうつ病との関連を示す報告はない。
本膜蛋白質受容体、CCK−A受容体およびCCK−B受容体はいずれもCCKに応答する受容体であるが、組織発現分布およびノックアウトマウスの表現型から、これら受容体の中で本膜蛋白質受容体のみがうつ病と関連する膜蛋白質受容体であると発明者らは考え、さらに、CCK−A受容体は脳組織においてはその発現が低いため、脳組織におけるCCKの生理活性には関与していないと考えられる。CCK−B受容体は脳組織において発現しているが、CCK−B受容体蛋白質をコードする遺伝子のノックアウトマウスの表現型とうつ病との関連を示唆する報告はない。
CCK−A受容体は主に消化器官で強く発現しており、脳組織では一部で発現が認められる。CCK−A受容体のリガンド親和性については、CCK−8S>>CCK−8NS、ガストリン>CCK−4の順に強い。CCK−A受容体はCCK−8S(配列番号14)に強く応答するが、CCK−A受容体のリガンドに対する特異性は認められない。
一方、CCK−B受容体は消化器官に加えて脳組織でも広く発現している。CCK−B受容体のリガンド親和性についてはCCK−8S≧CCK−8NS、ガストリン>CCK−4の順で強く、CCK−A受容体よりも選択性が低い。
CCK−A受容体のノックアウトマウスの表現型については、胆石、膵酵素分泌および胆嚢収縮等の異常といった消化器系における機能異常の他には、体温調節等のホメオスタシスの異常(ノモト(Nomoto S.)ら、「アメリカン ジャーナル オブ フィジオロジー レギュレイトリー インテグレイティブ アンド コンパラティブ フィジオロジー(American journal of physiology. Regulatory, integrative and comparative physiology)」、2004年、第287巻、第3号、R556−61)、行動活性の上昇(ミヤサカ(Miyasaka K.)ら、「ニューロサイエンス レターズ(Neuroscience Letters)」、2002年、第335巻、第2号、p.115−118)、および食欲調節の異常(ビ(Bi S.)ら、「ニューロペプタイズ(Neuropeptides)」、2002年、第36巻、第2−3号、p.171−181)が報告されている。
CCK−B受容体のノックアウトマウスの表現型については、胃酸分泌異常、胃粘膜の形成異常といった消化器系の異常の他、不安、痛み、記憶等、中枢系の表現型に関する報告等、数多くの報告がある(ノーブル(Noble F.)ら、「ニューロペプタイズ(Neuropeptides)」、2002年、第36巻、第2−3号、p.157−170)。より具体的には、不安行動の抑制(ホリノウチ(Horinouchi Y.)ら、「ヨーロピアン ニューロサイコファーマコロジー(European Neuropsychopharmacology)、2004年、第14巻、第2号、p.157−161)、不安行動の亢進(ミヤサカ(Miyasaka K.)ら、「ニューロサイエンス レターズ(Neuroscience Letters)」、2002年、第335巻、第2号、p.115−118)、行動活性の上昇や記憶障害(ダウジ(Dauge V.)ら、「ニューロサイコファーマコロジー(Neuropsychopharmacology)、2001年、第25巻、第5号、p.690−698)、痛覚の異常およびオピオイドシステムとの相関(クリコフ(Kurrikoff K.)ら、「ザ ヨーロピアン ジャーナル オブ ニューロサイエンス(The European Journal of Neuroscience)、2004年、第20巻、第6号、p.1577−1586)等が報告されている。
また、CCK−A受容体およびCCK−B受容体のダブルノックアウトマウスの表現系についても報告されているが、ダブルノックアウトマウスに特徴的な表現型は報告されていない(ミヤサカ(Miyasaka K.)ら、「ニューロサイエンス レターズ(Neuroscience Letters)」、2002年、第335巻、第2号、p.115−118)。
本発明において用いる蛋白質をコードするDNA、すなわち配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAおよび該DNAのスプライシングバリアントは、うつ病に関与していると発明者らは考えている。例えば、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAまたは該DNAのスプライシングバリアントの発現が増加するといった異常により、抑うつ状態およびうつ病が誘導されると発明者らは考えている。
配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAおよび該DNAのスプライシングバリアントがうつ病に関与していると考えられることから、該DNAによりコードされる蛋白質と該蛋白質のスプライシングバリアントとからなる群から選ばれるいずれか1の蛋白質の機能および/または発現を阻害することにより、抑うつ状態を改善し、うつ病を回復させることができる。
本発明は、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質と該蛋白質のスプライシングバリアントとからなる群から選ばれるいずれか1の蛋白質の機能および/または発現を阻害することを手段とする抑うつ状態の改善方法に関する。
「抑うつ状態の改善」とは、抑うつ状態を改善する方法を実施する前と比較して、抑うつ状態が軽減または回復されることをいう。例えば、感情障害、思考障害、意欲低下、行動抑制、睡眠障害等が軽減または回復することをいう。
本発明において用いる蛋白質の機能および/または発現を阻害することは、例えば、本蛋白質の機能および/または発現を阻害する化合物により実施できる。
本発明書において、「本発明において用いる蛋白質の機能を阻害する化合物」と「本蛋白質のアンタゴニスト」という用語は交換可能に使用される。本発明書において、「アンタゴニスト」とは、本発明において用いる蛋白質の機能を阻害する化合物であればよく、例えば、受容体に結合してアゴニストの効果を阻害するがそれ自体は受容体と結合してもアゴニストが示す効果を発揮できない化合物、リガンドの受容体への結合を阻害する化合物、または本蛋白質に対してインバースアゴニスト(逆作動薬)として作用する化合物が挙げられる。近年、GPCRのような受容体がリガンドの作用とは関係なく活性型から不活性型に、若しくは不活性型から活性型に変換されることが知られている。ここで、GPCRのような受容体がリガンドの作用とは関係なく不活性型から活性型に変換される工程を阻害する物質は、インバースアゴニストと呼ばれている。本蛋白質のインバースアゴニストも本発明において用いる蛋白質の機能を阻害すると考えられる。
本発明において用いる蛋白質のアンタゴニストは、本蛋白質からなる膜蛋白質受容体に結合してリガンドの効果を阻害する。本蛋白質をコードするDNAの発現の増加といった異常により抑うつ状態およびうつ病が誘導されると考えられることから、本蛋白質のアンタゴニストにより本蛋白質からなる受容体へのリガンドの作用を阻害すれば、抑うつ状態およびうつ病を改善できると発明者らは考えている。
このように、本発明において用いる蛋白質のアンタゴニストは、抗うつ作用を有すると考える。「抗うつ作用」とは、抑うつ状態を改善する効果を意味する。
本発明において用いる蛋白質の機能を阻害する化合物、例えば本蛋白質のアンタゴニストは、好ましくは、本蛋白質からなる膜蛋白質受容体においてCCK−8Sにより惹き起こされる機能を阻害するアンタゴニストであることが好ましい。また、本アンタゴニストは、本蛋白質からなる膜蛋白質受容体においてCCK−8Sと同質の機能を有するペプチドにより惹き起こされる機能を阻害するアンタゴニストであることができる。
本発明において用いる蛋白質のアンタゴニストは、後述する化合物の同定方法により取得できる。本蛋白質のアンタゴニストとして、本蛋白質からなる膜蛋白質受容体のリガンドが蛋白質であるとき、該リガンドの部分ペプチドであって、該膜蛋白質受容体とは結合するがリガンドが示す効果を発揮できない物質を使用できる。該膜蛋白質受容体のリガンドの部分ペプチドは、該リガンドを同定した後、そのアミノ酸配列から数々の部分ペプチドを設計して合成し、後述する化合物の同定方法により、合成した部分ペプチドからアンタゴニストとしての活性を有するものを選択することにより取得できる。
本発明において用いる蛋白質のアンタゴニストとして、後述する化合物の同定方法により同定した3種類の化合物(式(I)、(II)および(III))が例示できる(実施例12参照)。
式(I):
式(II):
式(III):
また、本発明は、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質と該蛋白質のスプライシングバリアントとからなる群から選ばれるいずれか1の蛋白質の機能および/または発現を阻害する化合物を含む抑うつ状態の改善剤を提供することができる。以下、抑うつ状態の改善剤を抗うつ剤と称することがある。
「抑うつ状態の改善剤」あるいは「抗うつ剤」は、抑うつ状態を改善する効果を有する薬剤を意味する。
(化合物の同定方法)
本発明において用いる蛋白質の機能を阻害する化合物の同定方法は、本蛋白質、DNA、組換えベクター、形質転換体または抗体のうち少なくともいずれか1つを用いて、自体公知の医薬品スクリーニングシステムを利用して実施できる。本同定方法により、該蛋白質の立体構造に基づくドラッグデザインによる拮抗剤の選別、蛋白質合成系を利用した遺伝子レベルでの発現の阻害剤または促進剤の選別、または抗体を利用した抗体認識物質の選別等が実施できる。
本発明において用いる蛋白質の機能を阻害する化合物の同定方法は、抗うつ作用を有する化合物の同定方法として使用できる。より好ましくは、本同定方法を、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質と該蛋白質のスプライシングバリアントとからなる群から選ばれるいずれか1の蛋白質のアンタゴニストである抗うつ作用を有する化合物の同定方法として使用できる。本化合物が抗うつ作用を示すか否かの確認は、一般的に用いられている抗うつ作用の試験方法、例えばマウスを用いた尾懸垂試験や強制水泳試験を用いて実施できる。具体的には、マウスに本化合物を投与し、尾懸垂試験において、化合物を投与していないマウスと比較して、無動時間が短縮されれば、本化合物が抗うつ作用を有すると判定できる。このような化合物は、抗うつ剤として有用である。
本発明において用いる蛋白質の機能を阻害する化合物の同定は、具体的には例えば、本蛋白質の機能を測定することのできる実験系を用いて実施できる。本実験系において、該蛋白質と調べようとする化合物(以下、被検化合物と称する)の相互作用を可能にする条件下で、該蛋白質と被検化合物とを共存させてその機能を測定し、ついで、被検化合物の非共存下での測定結果との比較における蛋白質の機能の変化(低減、増加、消失または出現)を検出することにより、本同定方法を実施できる。被検化合物を共存させた場合の本蛋白質の機能を、被検化合物を共存させなかった場合の本蛋白質の機能と比較することにより、該被検化合物が本蛋白質の機能に及ぼす効果を判定できる。例えば、被検化合物を共存させた場合の本蛋白質の機能が、被検化合物を共存させなかった場合の本蛋白質の機能と比較して減少した場合、該被検化合物には本蛋白質の機能を阻害する作用があると判定できる。
本発明において用いる蛋白質の機能として、本蛋白質が膜蛋白質受容体として機能することから、リガンドとの結合、細胞内情報伝達機構の活性化、細胞応答の誘発が例示される。より具体的には、CCK−8S(配列番号14)との結合やMAGUKファミリー関連蛋白質との相互作用等が例示できる。
本発明において用いる蛋白質と該蛋白質のリガンドとの結合を阻害する化合物の同定方法は、本蛋白質と該蛋白質のリガンドとを被検化合物の存在下および非存在下で反応させ、本蛋白質とリガンドとの結合を測定することにより実施できる。本同定方法に用いる蛋白質は、本蛋白質をコードするDNAを含む細胞の細胞膜に発現した蛋白質であり得る。該細胞は、本蛋白質をコードするDNA含むベクターをトランスフェクションして得られた形質転換体であり得る。本蛋白質と該蛋白質のリガンドとの結合の測定は、一般的な医薬品スクリーニングシステムで用いられている様々な結合解析方法を利用して実施できる。例えば、リガンドと本蛋白質との結合反応を行い、本蛋白質とリガンドとの結合により形成される複合体と、結合していない遊離のリガンドおよび本蛋白質を分離し、該複合体をイムノブロッティング等の公知の方法によって検出することにより実施できる。また、例えば、リガンドと本蛋白質との結合反応を行い、その後、本蛋白質に結合したリガンドを、抗リガンド抗体を用いて測定することにより、結合の測定が実施できる。リガンドに結合した抗リガンド抗体は、HRPやビオチン等で標識した二次抗体を用いて検出できる。あらかじめHRPやビオチン等で標識化した抗リガンド抗体を用いて、本蛋白質に結合したリガンドを検出することもできる。あるいは、本蛋白質との結合反応に用いるリガンドとして、あらかじめ所望の標識物質で標識化したリガンドを用いて上記同定方法を行い、該標識物質を検出することにより、本蛋白質に結合したリガンドを測定できる。標識物質として、一般的な結合解析方法で用いられている物質がいずれも利用でき、GST、His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tag等のタグペプチド類、あるいは蛍光色素等が例示できる。簡便には、放射性同位体元素が利用できる。
本発明において用いる蛋白質と該蛋白質のリガンドとの結合を阻害する化合物の同定方法で得られた化合物は、本蛋白質が膜蛋白質受容体であることから、本膜蛋白質受容体の機能を阻害する化合物であり得る。
本発明において用いる蛋白質と該蛋白質のリガンドとの結合を阻害し、本蛋白質からなる膜蛋白質受容体の機能を阻害する化合物は、該膜蛋白質受容体のアンタゴニストとして使用できる。該化合物が、本発明に係る膜蛋白質受容体の機能を阻害する化合物であるか否かは、該化合物の存在下および非存在下で、リガンドにより惹き起こされる本膜蛋白質受容体の機能の変化を測定することにより決定できる。化合物により本膜蛋白質受容体の機能変化が生じない場合は、該化合物は、本膜蛋白質受容体に結合するが該膜蛋白質受容体を介する細胞応答を誘導しない化合物であるか、または、リガンドに作用してリガンドと該膜蛋白質受容体の結合を阻害する化合物であると判定できる。それに対して、化合物による本膜蛋白質受容体の機能変化が、リガンド、例えばCCK−8S(配列番号14)により本膜蛋白質受容体に生じる機能変化と同質であれば、該化合物は、本膜蛋白質受容体に結合して該膜蛋白質受容体を介する細胞応答を誘導するアゴニストであると判定される。
本発明において用いる蛋白質の機能の測定方法として、本蛋白質を発現させた形質転換体を用いた実験系において、該形質転換体と被検化合物とを接触させた後に、または被検化合物の共存下で、該蛋白質に対するリガンドを作用させ、形質転換体に発生する細胞応答の変化を測定することを含む方法を例示できる。
上記蛋白質の機能の測定方法は、本蛋白質の機能、例えば細胞内情報伝達機構の活性化や細胞応答の誘発を阻害する化合物の同定方法の実施に利用できる。被検化合物の非存在下での測定結果との比較における機能の変化(低減、増加、消失または出現)を検出することにより、本蛋白質の機能を阻害する化合物を選択できる。本蛋白質を発現させた形質転換体に発生する細胞応答の変化として、例えば細胞膜電位の変化や細胞内カルシウム濃度の変化等が挙げられる。被検化合物により、該形質転換体の細胞膜電位の変化が低減する、または細胞内カルシウム濃度が低減する等の変化が惹き起こされた場合、該被検化合物は、本蛋白質の機能を阻害すると判定できる。細胞膜電位の変化や細胞内カルシウム濃度の変化の測定は、周知の方法を用いて実施できる。また、本蛋白質の機能の測定を、MAGUKファミリー関連蛋白質との相互作用を測定することにより実施できるMAGUKファミリー関連蛋白質との相互作用の変化やG蛋白質との結合変化の測定は、周知の方法を用いて実施できる。
実際に、配列表の配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAを含むベクターでトランスフェクションした細胞を用いて細胞応答を測定する実験系を用い、該細胞応答に対して阻害効果を示す化合物の同定を実施した(実施例12参照)。本実験系においては、上記細胞にCCK−8Sを作用させて細胞応答を誘導し、細胞応答の測定は細胞内カルシウム濃度変化を測定することにより行った。被検化合物として、化合物ライブラリーであるソフトフォーカス ジーピーシーアール ターゲットダイレクティッド ライブラリー(SoftFocus GPCR Target−Directed Library、BioFocus社製)を用いた。その結果、上記細胞のCCK−8Sに対する細胞応答を阻害する化合物が3種類同定できた(上記式(I)、(II)および(III))。これら化合物は、配列番号1に記載の塩基配列で表されるDNAによりコードされる蛋白質のアンタゴニストとして作用していると発明者らは考えている。
この結果から、本蛋白質を発現させた形質転換体を用いた実験系、例えば該形質転換体を用いた細胞内カルシウム濃度変化測定系により、本蛋白質のリガンド、例えばCCK−8Sに対する応答を阻害するアンタゴニストを同定できると発明者らは考えている。
また、本発明において用いる蛋白質とMAGUKファミリー関連蛋白質との相互作用に影響を与え得る化合物の同定方法は、例えば、単離した本蛋白質とMAGUKファミリー関連蛋白質とを用いて、公知の蛋白質結合解析方法により本蛋白質とMAGUKファミリー関連蛋白質との結合の検出を行うことにより実施できる。具体的には、例えばMAGUKファミリー関連蛋白質を遺伝子工学的手法によりGST−tag融合蛋白質として発現させ、その後グルタチオンセファロースに結合させ、これに結合する本蛋白質の量を、本蛋白質に対する抗体、例えばHRPやALP等の酵素、放射性同位元素、蛍光色素またはビオチン等で標識した抗体を用いて定量できる。または、タグペプチドを融合した本蛋白質を用いれば、抗タグ抗体を用いて定量することもできる。勿論、本蛋白質を上記酵素、放射性同位元素、蛍光色素、ビオチン等で直接標識してもよい。あるいは、上記酵素、放射性同位元素、蛍光色素、ビオチン等で標識した二次抗体を用いてもよい。あるいは本蛋白質をコードするDNAとMAGUKファミリー関連蛋白質をコードするDNAとを適当な細胞を用いて共発現させ、プルダウン法により両者の結合を検出することにより、両者の相互作用を測定できる。
本発明において用いる蛋白質とMAGUKファミリー関連蛋白質との相互作用に影響する化合物の同定方法はまた、例えば、ツーハイブリッド(two−hybrid)法を用いて、本蛋白質とDNA結合蛋白質を融合蛋白質として発現するプラスミド、MAGUKファミリー関連蛋白質と転写活性化蛋白質を融合蛋白として発現するプラスミド、および適切なプロモーター遺伝子に接続したlacZ等レポーター遺伝子を含有するプラスミドを酵母や真核細胞等に導入し、被検化合物を共存させた場合のレポーター遺伝子の発現量を被検化合物非存在下でのレポーター遺伝子の発現量とを比較することにより実施できる。被検化合物を共存させた場合のレポーター遺伝子の発現量が被検化合物非存在下でのレポーター遺伝子の発現量と比較して減少した場合には、該被検化合物には本蛋白質とMAGUKファミリー関連蛋白質との結合を阻害する作用があると判定できる。一方、被検化合物を共存させた場合のレポーター遺伝子の発現量が被検化合物非存在下でのレポーター遺伝子の発現量と比較して増加した場合には、該被検化合物には本蛋白質とMAGUKファミリー関連蛋白質との結合を安定化する作用があると判定できる。
本発明において用いる蛋白質とMAGUKファミリー関連蛋白質との相互作用に影響する化合物の同定は、ビアコアシステム(BIACORE system)等の表面プラズモン共鳴センサーを用いて実施することもできる。
本発明において用いる蛋白質とMAGUKファミリー関連蛋白質との相互作用に影響する化合物の同定はまた、シンチレーションプロキシミティアッセイ法(Scintillation proximity assay、SPA)や蛍光共鳴エネルギー転移(Fluorescence resonance energy transfer、FRET)を応用した方法を用いて実施できる。
本発明に係る同定方法において用いるMAGUKファミリー関連蛋白質として具体的には、DLG2、DLG3およびDLG4や、AIP1、MAGI3を例示できる。MAGUKファミリー関連蛋白質は、本発明において用いる蛋白質との相互作用に影響がない限りにおいて、一部を欠損したものであってよく、あるいは別の蛋白質等の標識物質が付加されたものであってもよい。
本発明において用いる蛋白質の発現を阻害する化合物の同定方法は、本DNA、組換えベクター、形質転換体のうち少なくともいずれか1つを用いて、自体公知の医薬品スクリーニングシステムを利用して実施できる。
本発明において用いる蛋白質の発現を阻害する化合物の同定方法は、抗うつ作用を有する化合物の同定方法として使用できる。すなわち、本同定方法により得られる化合物は、抗うつ作用を有すると考えられるため、抗うつ剤として使用できる。
本発明において用いる蛋白質の発現を阻害する化合物の同定方法は、該DNAの発現を測定できる実験系において、該DNAと被検化合物とを共存させてその発現を測定し、ついで、被検化合物の非存在下での測定結果との比較における発現の変化(低減または消失)を検出することにより実施できる。発現の測定は、DNAによりコードされる蛋白質の直接的な検出により実施できるし、例えば発現の指標となるシグナルを実験系に導入して該シグナルを検出することにより実施できる。シグナルとして、GST、His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tag、Xpress−tag等のタグペプチド類、あるいは蛍光色素等を使用できる。
本発明において用いる蛋白質の発現を阻害する化合物の同定方法は、具体的には、該DNAを含む発現ベクターをトランスフェクションした形質転換体を用いて本蛋白質を発現させる実験系において、該形質転換体と被検化合物とを接触させた後に、発現された蛋白質を測定することによって実施できる。被検化合物の非共存下での測定結果との比較における発現の変化(低減または消失)を検出することにより、本蛋白質の発現を阻害する化合物を選択できる。蛋白質の発現の有無または変化の検出は、公知の蛋白質検出法、例えばウエスタンブロッティング等により実施できる。また、蛋白質の発現の有無または変化の検出は、発現される蛋白質の生物学的機能や該蛋白質を介した細胞応答、例えばリガンドを作用させたときに発生するMAGUKファミリー関連蛋白質との相互作用、細胞膜電位の変化、細胞内カルシウム濃度の変化を指標にして実施できる。
本発明において用いる蛋白質の発現を阻害する化合物の同定方法はまた、例えば該DNAを含む遺伝子のプロモーター領域の下流に、該DNAの代わりにレポーター遺伝子を連結したベクターを作成し、該ベクターを導入した細胞、例えば真核細胞等と被検化合物とを接触させ、レポーター遺伝子の発現の有無および変化を測定することにより実施できる。レポーター遺伝子として、レポーターアッセイで一般的に用いられている遺伝子を使用でき、例えば、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼまたはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ等の酵素活性を有する遺伝子を例示できる。レポーター遺伝子の発現の検出は、その遺伝子産物の活性、例えば、上記例示したレポーター遺伝子の場合は酵素活性を検出することにより実施できる。
上記同定方法に使用する実験系や測定系を利用することにより、本発明において用いる蛋白質の機能や発現を促進する化合物の同定方法を実施できる。例えば、本蛋白質と該蛋白質のリガンドとの結合を測定する実験系、本蛋白質の機能の測定方法、本蛋白質とMAGUKファミリー関連蛋白質との結合を測定する実験系を利用して、本蛋白質の機能を促進する化合物の同定方法を実施できる。また、本発明において用いるDNAの発現を測定できる実験系を利用して、本蛋白質の発現を促進する化合物の同定方法を実施できる。このような実験系や測定系において、被検化合物により本蛋白質の機能や発現が増加または発生した場合、該被検化合物は本蛋白質の機能や発現を促進すると判定できる。
また、上記同定方法に使用する実験系や測定系を利用することにより、本発明に係る膜蛋白質受容体のアゴニストの同定方法を実施できる。本発明に係る膜蛋白質受容体のアゴニストの同定方法として、例えば、本蛋白質を発現させた形質転換体を用いた実験系において、該形質転換体と被検化合物とを接触させた後に、または被検化合物の共存下で、形質転換体に発生する機能変化を測定することを含む方法を例示できる。被検化合物の非存在下での測定結果との比較における本膜蛋白質受容体機能の変化、例えば低減、増加、消失、出現等を検出することにより、本膜蛋白質受容体のアゴニストが選択できる。より好ましくは、本膜蛋白質受容体のリガンド、例えばCCK−8S(配列番号14)による該膜蛋白質受容体の機能変化を測定し、該機能変化と比較することにより、アゴニストが選択できる。アゴニストは、リガンド、例えばCCK−8S(配列番号14)により本膜蛋白質受容体に生じる機能変化と同質の機能変化を該膜蛋白質受容体にもたらす化合物であることが好ましい。アゴニストによる本膜蛋白質受容体に生じる機能変化は、リガンド、例えばCCK−8S(配列番号14)により本膜蛋白質受容体に生じる機能変化と同質であればよく、量的に差異があってもよい。例えば、アゴニストによる本膜蛋白質受容体に生じる機能変化がリガンド、例えばCCK−8S(配列番号14)により本膜蛋白質受容体に生じる機能変化より弱くてもよい。好ましくは、同等の機能変化を惹き起こすアゴニストを選択することが好ましい。本膜蛋白質受容体の機能変化は、形質転換体の該膜蛋白質受容体を介する細胞応答の変化を指標にして測定できる。したがって、リガンド、例えばCCK−8S(配列番号14)により本膜蛋白質受容体に生じる機能変化と同質の機能変化として、例えば、形質転換体における該膜蛋白質受容体を介する細胞内カルシウム濃度の上昇が挙げられる。細胞内カルシウム濃度の変化の測定は、周知の方法を用いて実施できる(実施例5参照)。その他、リガンド、例えばCCK−8S(配列番号14)により本膜蛋白質受容体に生じる機能変化と同質の機能変化として、形質転換体における該膜蛋白質受容体を介する膜電位の変化が挙げられる。膜電位の変化の測定は、周知の方法を用いて実施できる(実施例3参照)。リガンドは、リガンドを含む試料、または上記リガンドの同定方法により得たリガンド自身のいずれも使用できる。CCK−8S(配列番号14)が、本蛋白質の生体内リガンドであると考えられることから、好ましくはCCK−8S(配列番号14)をリガンドとして用いることが好ましい。CCK−8S(配列番号14)は、一般的な化学合成法により製造できる。また、市販のペプチド合成装置によっても合成できる。
本発明に係る膜蛋白質受容体のアゴニストの同定方法は、本膜蛋白質受容体に結合する化合物の同定方法により得られた化合物について、上記同定方法を用いて本膜蛋白質受容体の機能変化を誘導するか否かを決定することにより実施することもできる。
上記同定方法に使用する実験系や測定系を利用することにより、また、本発明において用いる蛋白質からなる膜蛋白質受容体のリガンドの同定を実施できる。例えば、調べようとする物質(以下、被検物質と称する)と該蛋白質の結合を自体公知の結合解析方法により検出することにより実施できる。あるいは、本蛋白質を発現する細胞を用いた同定方法において、被検物質を該蛋白質に接触させたときに誘発される該細胞の細胞応答を測定することにより実施できる。被検物質を該蛋白質に接触させたときの細胞応答が、接触させなかったときと比較して変化(促進、発生、低減または消失)した場合、該被検物質はリガンドである、またはリガンドを含むと判定できる。細胞応答として具体的には、細胞膜電位の変化または細胞内カルシウム濃度の変化を例示できる。細胞膜電位または細胞内カルシウム濃度の測定は自体公知の方法により実施できる。あるいは、本蛋白質を発現する細胞を用いた同定方法において、細胞応答の指標として、本蛋白質とMAGUKファミリー関連蛋白質との相互作用を測定することにより、目的とするリガンド得ることもできる。被検物質を該蛋白質に接触させたときの細胞における本蛋白質とMAGUKファミリー関連蛋白質との相互作用が、接触させなかったときと比較して変化(促進または発生)した場合、該被検物質はリガンドである、またはリガンドを含むと判定できる。本蛋白質とMAGUKファミリー関連蛋白質との相互作用は、イムノブロッティング等の自体公知の方法により検出できる。
リガンドを同定する対象となる被検物質として、例えば本発明において用いるDNAの発現が認められた細胞または生体組織から調製した試料を例示できる。あるいは、天然物由来あるいは合成された各種化合物を対象とすることもできる。
このような同定方法は、試料中にリガンドが含まれているか否かの判定に有用である他、リガンドが含有されていると判明した試料からリガンドを精製する過程においても、有効に使用できる。例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー等を用いて試料を分画し精製する場合に、該分画物にリガンドが含まれているか否かを判定できる。
(化合物)
本発明に係る同定方法により取得された化合物は、本発明において用いる蛋白質の機能、例えば、リガンドとの結合、細胞内情報伝達の活性化、細胞応答の誘発等の機能の阻害剤、拮抗剤、促進剤または安定化剤等として利用できる。また、本発明において用いる蛋白質に対する遺伝子レベルでの発現阻害剤または発現促進剤として利用できる。これら化合物は、生物学的有用性と毒性のバランスを考慮してさらに選別することにより医薬として調製できる。またこれら化合物は、本蛋白質の機能および/または該蛋白質をコードするDNAの発現の異常に起因する各種病的症状の防止効果および/または治療効果を期待できる。
(医薬組成物)
本発明において用いる蛋白質、DNA、組換えベクター、形質転換体、抗体、リガンドまたは化合物は、本蛋白質の機能および/または発現を阻害する、拮抗する、または促進することに基づく医薬または医薬組成物の有効成分として有用である。
本発明に係る医薬または医薬組成物は、本発明において用いる蛋白質の機能および/または該蛋白質をコードするDNAの発現の異常に起因する疾患の防止および/または治療剤として使用できる。また、当該疾患の防止および/または治療方法に使用できる。
本発明において用いる蛋白質の機能および/または該蛋白質をコードするDNAの発現が過剰な場合、1つの方法として該蛋白質の機能および/または該DNAの発現を阻害する有効量の阻害剤を医薬上許容される担体とともに対象に投与して、該蛋白質の機能を阻害し、そのことにより異常な症状を改善できる。さらに、発現ブロック法を用いて内在性の該蛋白質をコードするDNAの発現を阻害してもよい。例えば本DNAの断片をアンチセンスオリゴヌクレオチドとして遺伝子治療に用い、本蛋白質をコードするDNAの発現を阻害できる。アンチセンスオリゴヌクレオチオドとして用いるDNA断片は、本DNAの翻訳領域のみでなく、非翻訳領域に対応するものであっても有用である。本DNAの発現を特異的に阻害するためには、該DNAに固有な領域の塩基配列を用いることが好ましい。
本発明において用いる蛋白質の機能および/または該蛋白質をコードするDNAの発現の異常に起因する疾患として、神経性疾患、例えばうつ病が好ましく挙げられる。本蛋白質の発現は、脳組織、特に大脳皮質、海馬および扁桃体で強く認められ、本蛋白質からなる機能的膜蛋白質受容体のリガンドであるCCKの発現分布と一致している。CCKは、不安、鎮痛、鎮静、摂食抑制、記憶、学習といった生理機能に関与していることが知られている。また、BAI2遺伝子のノックアウトマウスを用いた尾懸垂試験において、該マウスは抗うつ様の表現型を示した。BAI2遺伝子は、本蛋白質をコードするDNAのスプライシングバリアントである。すなわち、本蛋白質をコードするDNAのスプライシングバリアントは、うつ病に関与していると発明者らは考えている。例えば、本蛋白質をコードするDNAまたは該DNAのスプライシングバリアントの発現が増加するといった異常により、うつ病が誘導されると発明者らは考えている。
本発明において用いる蛋白質の機能および/または発現の阻害剤、例えば本蛋白質からなる膜蛋白質受容体のアンタゴニスト、および該阻害剤を有効量含む医薬組成物は、うつ病の緩和、改善、防止および/または治療に有効であると発明者らは考えている。本発明に係る医薬または医薬組成物は、うつ病の防止および/または治療方法に使用できる。具体的には、本医薬または医薬組成物は、本蛋白質機能および/または発現の阻害剤、例えば本蛋白質からなる膜蛋白質受容体のアンタゴニストを有効成分として、その有効量含んでなるうつ病の防止および/または治療剤であり得る。言い換えれば、本医薬または医薬組成物は、上記抗うつ剤を有効成分として、その有効量含んでなるうつ病の防止および/または治療剤であり得る。上記抗うつ剤を適用することにより、うつ病の防止および/または治療方法を実施できる。
本発明において用いる蛋白質の機能および/または該蛋白質をコードするDNAの発現の異常に起因する疾患として、その他、本蛋白質がアミノ酸配列中にTSP−Iドメインを有することから、血管新生阻害に起因する疾患や血管新生阻害を伴う疾患が挙げられる。TSP−Iドメインは、血管新生阻害機能を担うドメインであることが報告されていることから、本蛋白質は、血管新生阻害機能を有すると考えられる。したがって、血管新生阻害に起因する疾患や血管新生阻害を伴う疾患に、本蛋白質が関与している可能性がある。このような疾患においては、血管新生を促進することにより治療が可能になるため、本蛋白質の機能や発現を阻害することが好ましい。このような疾患として例えば脳挫傷や脳梗塞が例示できる。
本発明において用いる蛋白質の機能および/または該蛋白質をコードするDNAの発現の減少や欠失等に関連する異常な症状の治療には、1つの方法として該蛋白質の機能および/または該DNAの発現を促進するまたは安定化する有効量の促進剤を医薬上許容される担体とともに投与し、そのことにより異常な症状を改善することを特徴とする方法が挙げられる。あるいは、遺伝子治療を用いて、対象中の細胞内で該蛋白質を生成せしめてもよい。本DNAを利用した遺伝子治療は、公知の方法が利用できる。例えば、本DNAまたは該DNAの転写産物であるRNAを組込んだ複製欠損レトロウイルスベクターを作製し、該ベクターを用いたエクスビボ(ex vivo)において対象由来の細胞を処理し、次いで、細胞を対象に導入することもできる。
本発明に係る医薬は、上記蛋白質、DNA、組換えベクター、形質転換体、抗体、リガンドまたは化合物のうち少なくともいずれか1つを有効成分としてその有効量含む医薬となしてもよいが、通常は、1種または2種以上の医薬用担体を用いて医薬組成物を製造することが好ましい。
本発明に係る医薬製剤中に含まれる有効成分の量は、広範囲から適宜選択されるが、通常約0.00001〜70重量%、好ましくは0.0001〜5重量%程度の範囲とするのが適当である。
医薬用担体として、製剤の使用形態に応じて通常使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤等の希釈剤や賦形剤等を例示できる。これらは得られる製剤の投与形態に応じて適宜選択使用される。
例えば水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース等が挙げられる。これらは、剤形に応じて適宜1種類または2種類以上を組合せて使用される。
所望により、通常の蛋白質製剤に使用され得る各種の成分、例えば安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤等を適宜使用して調製することもできる。
安定化剤としては、例えばヒト血清アルブミンや通常のL−アミノ酸、糖類、セルロース誘導体等を例示でき、これらは単独でまたは界面活性剤等と組合せて使用できる。特にこの組合せによれば、有効成分の安定性をより向上させ得る場合がある。上記L−アミノ酸は、特に限定はなく、例えばグリシン、システイン、グルタミン酸等のいずれでもよい。糖類も特に限定はなく、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、果糖等の単糖類、マンニトール、イノシトール、キシリトール等の糖アルコール、ショ糖、マルトース、乳糖等の二糖類、デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸等の多糖類等およびそれらの誘導体等のいずれでもよい。セルロース誘導体も特に限定はなく、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のいずれでもよい。界面活性剤も特に限定はなく、イオン性および非イオン性界面活性剤のいずれも使用できる。これには、例えばポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエ−テル系、ソルビタンモノアシルエステル系、脂肪酸グリセリド系等が包含される。
緩衝剤として、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ε−アミノカプロン酸、グルタミン酸および/またはそれらに対応する塩(例えばそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)等を例示できる。
等張化剤として、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリン等を例示できる。
キレート剤として、例えばエデト酸ナトリウム、クエン酸等を例示できる。
本発明に係る医薬および医薬組成物は、溶液製剤として使用できる他に、これを凍結乾燥化し保存し得る状態にした後、用時、水や生埋的食塩水等を含む緩衝液等で溶解して適当な濃度に調製した後に使用することもできる。
医薬組成物の用量範囲は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無等)、および担当医師の判断等応じて適宜選択される。一般的には適当な用量は、例えば対象の体重1kgあたり約0.01μg〜100mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度の範囲であることが好ましい。しかしながら、当該分野においてよく知られた最適化のための一般的な常套的実験を用いてこれらの用量を変更できる。上記投与量は1日1回〜数回に分けて投与することができ、数日または数週間に1回の割合で間欠的に投与してもよい。
本発明に係る医薬組成物を投与するときには、該医薬組成物を単独で使用してもよく、あるいは治療に必要な他の化合物または医薬と共に使用してもよい。
投与経路は、全身投与または局所投与のいずれも選択できる。この場合、疾患、症状等に応じた適当な投与経路を選択する。例えば、非経口経路として、通常の静脈内投与、動脈内投与の他、皮下、皮内、筋肉内等への投与が挙げられる。あるいは経口経路で投与できる。さらに、経粘膜投与または経皮投与も実施できる。癌疾患に用いる場合は、腫瘍に注射等により直接投与することが好ましい。
投与形態は、各種の形態が目的に応じて選択できる。その代表的なものは、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤等の固体投与形態や、水溶液製剤、エタノール溶液製剤、懸濁剤、脂肪乳剤、リポソーム製剤、シクロデキストリン等の包接体、シロップ、エリキシル等の液剤投与形態が含まれる。これらは更に投与経路に応じて経口剤、非経口剤(点滴剤、注射剤)、経鼻剤、吸入剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、点眼剤、点耳剤、軟膏剤、クリーム剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤等に分類され、それぞれ通常の方法に従い、調合、成形、調製することができる。
本発明に係る医薬組成物を遺伝子治療剤として用いる場合は、一般的には、注射剤、点滴剤、あるいはリポソーム製剤として調製することが好ましい。遺伝子治療剤が、遺伝子が導入された細胞を含む形態に調製される場合は、該細胞をリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)、リンゲル液、細胞内組成液用注射剤中に配合した形態等に調製することもできる。また、プロタミン等の遺伝子導入効率を高める物質と共に投与されるような形態に調製することもできる。遺伝子治療剤として用いる場合、本医薬組成物は、1日に1回または数回に分けて投与でき、また、1日から数週間の間隔で間歇的に投与できる。投与の方法は、一般的な遺伝子治療法で用いられている方法に従って実施できる。
(診断方法)
本発明において用いる蛋白質、DNA、組換えベクター、形質転換体、抗体または化合物は、それ自体を、診断マーカーや診断試薬等の疾患診断手段として使用できる。
本発明において用いるDNAを含む遺伝子の、個体若しくは各種組織における異常の有無あるいは発現の有無をの特異的な検出が、本発明により、例えば本DNAの一部または全部の塩基配列を利用することにより実施できる。本DNAの検出により、該遺伝子に起因する疾患の易罹患性、発症、および/または予後の診断が実施できる。該遺伝子に起因する疾患とは、該遺伝子の量的異常および/または機能異常等に起因する疾患を意味する。本遺伝子に起因する疾患として、神経性疾患、例えばうつ病等が挙げられる。
遺伝子の検出による疾患の診断は、例えば被検試料について、該遺伝子に相応する核酸の存在を検出すること、その存在量を決定すること、および/またはその変異を同定することによって実施できる。正常な対照試料との比較において、目的遺伝子に対応する核酸の存在の変化、その量的変化を検出できる。また、正常遺伝子型との比較において、目的遺伝子に対応する核酸を公知の手法により増幅した増幅生成物について、例えばサイズ変化を測定することにより欠失および挿入を検出できる。また増幅DNAを、例えば標識した本発明において用いるDNAとハイブリダイゼーションさせることにより点突然変異を同定できる。このような変化および変異の検出により、上記診断を実施できる。
被検試料中の目的とする遺伝子の定性的または定量的な測定方法、または該遺伝子の特定領域の変異の定性的または定量的な測定方法も、本発明により実施できる。
被検試料は、目的遺伝子および/またはその変異遺伝子の核酸を含むものである限り特に制限されず、例えば、細胞、血液、尿、唾液、髄液、組織生検または剖検材料等の生体生物由来の生物学的試料を例示できる。あるいは所望により生物学的試料から核酸を抽出して核酸試料を調製して用いることもできる。核酸は、ゲノムDNAを検出に直接使用してもよく、あるいは分析前にPCRまたはその他の増幅法を用いることにより酵素的に増幅してもよい。RNAまたはcDNAを同様に用いてもよい。核酸試料は、また、標的配列の検出を容易にする様々な方法、例えば変性、制限酵素による消化、電気泳動またはドットブロッティング等により調製してもよい。
検出方法は、公知の遺伝子検出法を用いることができ、例えばプラークハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション、サザンブロット法、ノザンブロット法、Nucleic Acid Sequence−Based Amplification(NASBA)法、またはRT−PCR等が挙げられる。また、in situ RT−PCRや in situ ハイブリダイゼーション等を利用した細胞レベルでの測定を用いることもできる。目的遺伝子の検出に用いることのできる方法は上記方法に限定されず、自体公知の遺伝子検出法がいずれも使用できる。
このような遺伝子検出法において、目的遺伝子またはその変異遺伝子の同定および/またはその増幅の実施に、本発明において用いるDNAの断片であってプローブとしての性質を有するものまたはプライマーとしての性質を有するものが有用である。プローブとしての性質を有するDNA断片とは、目的のDNAのみに特異的にハイブリダイゼーションできる該DNA特有の配列からなるものを意味する。プライマーとしての性質を有するものとは本DNAのみを特異的に増幅できる該DNA特有の配列からなるものを意味する。また、増幅できる変異遺伝子を検出する場合には、遺伝子内の変異を有する箇所を含む所定の長さの配列を持つプライマーあるいはプローブを作成して用いる。プローブまたはプライマーは、塩基配列長が一般的に5〜50ヌクレオチド程度であるものが好ましく、10〜35ヌクレオチド程度であるものがより好ましく、15〜30ヌクレオチド程度であるものがさらに好ましい。プローブは、通常は標識したプローブを用いるが、非標識であってもよく、直接的または間接的に標識したリガンドとの特異的結合によって検出してもよい。プローブおよびリガンドを標識する方法は、数々の方法が知られており、例えばニックトランスレーション、ランダムプライミングまたはキナーゼ処理を利用する方法等を例示できる。適当な標識物質として、放射性同位体、ビオチン、蛍光色素、化学発光物質、酵素、抗体等が挙げられる。
遺伝子検出法は、PCRが感度の点から好ましい。PCRは、目的遺伝子を特異的に増幅することのできるDNA断片をプライマーとして用いる方法である限り特に制限されず、従来公知の方法、例えばRT−PCRが例示されるが、当該分野で用いられる数々の変法を適用できる。
PCRにより、遺伝子の検出の他に、目的遺伝子および/またはその変異遺伝子のDNAの定量も実施できる。このような分析方法として、Multi−channel Simplex Stimulated Annealing(MSSA)法のごとき競合的定量法、または一本鎖DNAの高次構造の変化に伴う移動度の変化を利用した突然変異検出法として知られるPCR−SSCP法を例示できる。
個体若しくは各種組織における該蛋白質およびその機能の異常の有無を特異的な検出が、本発明により、例えば本発明において用いる蛋白質を利用することにより、実施できる。本蛋白質およびその機能の異常の検出により、該遺伝子に起因する疾患の易罹患性、発症および/または予後の診断が実施できる。
蛋白質の検出による疾患の診断は、例えば被検試料について、該蛋白質の存在を検出すること、その存在量を決定すること、および/またはその変異を検出することによって実施できる。すなわち、本蛋白質および/またはその変異体を定量的あるいは定性的に測定する。正常な対照試料との比較において、目的蛋白質の存在の変化、その量的変化を検出できる。正常蛋白質との比較において、例えばアミノ酸配列を決定することによりその変異を検出できる。このような変化および変異の検出により、上記診断を実施できる。被検試料は、目的蛋白質および/またはその変異体を含むものである限り特に制限されず、例えば、血液、血清、尿、生検組織等の生体生物由来の生物学的試料を例示できる。
本発明において用いる蛋白質および変異を有する該蛋白質の測定は、本蛋白質、例えば配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列で表される蛋白質、または該蛋白質のアミノ酸配列において1個若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入または付加されたアミノ酸配列、これらの断片、または該蛋白質やその断片に対する抗体を用いることにより実施できる。
蛋白質の定量的あるいは定性的な測定は、この分野における慣用技術による蛋白質検出法あるいは定量法を用いて実施できる。例えば、目的蛋白質のアミノ酸配列分析により変異蛋白質の検出ができるが、さらに好ましくは、抗体(ポリクローナルまたはモノクローナル抗体)を用いて、目的蛋白質の配列の相違、または目的蛋白質の有無を検出できる。
被検試料中の本発明において用いる蛋白質の定性的または定量的な測定方法、または該蛋白質の特定領域の変異の定性的または定量的な測定方法が、本発明により実施できる。
具体的には、被検試料について、目的蛋白質に対する特異抗体を用いて免疫沈降を行い、ウェスタンブロット法またはイムノブロット法で目的蛋白質の解析を行うことにより、上記検出が実施できる。また、目的蛋白質に対する抗体により、免疫組織化学的技術を用いてパラフィンまたは凍結組織切片中の目的蛋白質を検出できる。
目的蛋白質またはその変異体を検出する方法の好ましい具体例として、モノクローナル抗体および/またはポリクローナル抗体を用いるサンドイッチ法を含む、酵素免疫測定法(ELISA)、放射線免疫検定法(RIA)、免疫放射線検定法(IRMA)、および免疫酵素法(IEMA)等が挙げられる。その他、ラジオイムノアッセイや競争結合アッセイ等を利用することもできる。
(試薬および試薬キット)
本発明において用いる蛋白質、DNA、組換えベクター、形質転換体、および抗体はいずれも、それ自体を単独で、試薬等として使用でき、例えば、本発明に係る化合物の同定方法、あるいは発明に係る蛋白質および/またはDNAの測定方法に使用するための試薬として使用できる。該試薬は本蛋白質またはDNAが関与する細胞情報伝達経路の解明、並びに該蛋白質および/またはDNAの異常に起因する疾患等に関する基礎的研究等に有用である。
具体的には、本発明に係る試薬キットとして、配列表の配列番号1、15および17に記載の塩基配列のうちいずれか1の塩基配列で表されるDNA、該DNAを含む組換えベクター、該組換えベクターを導入されてなる形質転換体、該DNAによりコードされる蛋白質、および該蛋白質を認識する抗体のうち、少なくともいずれか1つを含有してなる試薬キットが例示できる。より具体的には、配列表の配列番号1、15および17に記載の塩基配列のうちいずれか1の塩基配列で表されるDNA、該DNAを含む組換えベクター、該組換えベクターを導入されてなる形質転換体、配列番号2、16および18に記載のアミノ酸配列のうちいずれか1のアミノ酸配列で表される蛋白質および該蛋白質を認識する抗体のうち、少なくともいずれか1つを含有してなる試薬キットが例示できる。
これらは試薬であるとき、緩衝液、塩、安定化剤、および/または防腐剤等の物質を含んでいてもよい。なお、製剤化にあたっては、各性質に応じた自体公知の製剤化手段を導入すればよい。
本発明において用いる蛋白質、DNA、組換えベクター、形質転換体、および抗体のうちの少なくともいずれか1つを含んでなる試薬キットが、本発明により提供される。これらは試薬キットであるとき、本蛋白質やDNAを検出するための標識物質、標識の検出剤、反応希釈液、標準抗体、緩衝液、洗浄剤および反応停止液等、測定の実施に必要とされる物質を含むことができる。標識物質として、上述の標識用蛋白質、および化学修飾物質等が挙げられるが、予め該標識物質が本蛋白質あるいはDNAに付加されていてもよい。
本発明に係る試薬キットは、上記同定方法および測定方法に使用できる。さらに本発明は、前記測定方法を用いる検査方法に、検査剤並びに検査用キットとして使用できる。また、前記測定方法を用いる診断方法にも、診断剤並びに診断用キットとして使用できる。
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。