JPWO2005099784A1 - 人工組織およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

本発明は、細胞や組織の活動維持に必要な栄養を運搬可能な人工組織を提供することを主目的としている。上記目的を達成するために、本発明は、少なくとも2本の隣り合う血管と、前記血管間に配置された細胞とを有する血管含有組織層を含む人工組織であって、前記血管含有組織層内の、前記2本の隣り合う血管の間隙が、前記細胞が壊死しないような栄養供給可能距離に形成されていることを特徴とする人工組織を提供する。

Description

本発明は、再生医療等の分野で用いられる人工組織に関するものである。
現在、いろいろな動物や植物の細胞培養が行われており、また、新たな細胞の培養法が開発されている。細胞培養の技術は、細胞の生化学的現象や性質の解明、有用な物質の生産などの目的で利用されている。さらに、培養細胞を用いて、人工的に合成された薬剤の生理活性や毒性を調べる試みがなされている。また、医療等の分野においては、生体から取り出した細胞、たんぱく質、糖質、脂質等を細胞工学等の手法により再組織化し、人工的に組織や臓器を作り出す試みもなされている。
ここで、一般的な動物細胞は、栄養等を供給されなければ死滅してしまうため、培養された細胞を人工組織等として用いる場合には、人工組織中に毛細血管を配し、その中に血液を流し、血管によって酸素や栄養分等を供給したり、老廃物を運び出すこと等が必要である。従来より例えば、非特許文献1〜3に示されるような手法で、人工的に毛細血管の形成が試みられているが、いずれも無秩序に血管様の組織(キャピラリ)が形成されるのみで、人工組織の機能維持に必要な量の血液を所望の場所に送液できる毛細血管を形成することは困難であった。また、非特許文献4または5に示されるように、人工的な材料により血管を形成する方法も研究されているが、細い血管を形成することは困難であり、このような人工組織に用いることが可能なものとすることはできなかった。
一方、本発明者らは、細胞接着性または細胞接着阻害性を有する層の表面を、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により変化させて、細胞接着部および細胞接着阻害部からなるパターンを形成し、この細胞接着部のみに高精細に細胞を接着させて、細胞をパターン状に培養させる方法を提案している。このパターニング方法によれば、細胞接着部および細胞接着阻害部の境界で細胞が刺激され、その結果、パターン状に接着した細胞を配向したり、伸展状態への形態変化を強く促すことができる。また目的とするパターン状に容易に細胞を培養することができることから、所望のパターンに沿った血管組織の形成を容易に行うことができ、また細い血管を形成することも可能となった。しかしながら、この血管を利用した人工組織は、まだ発明されていなかった。
D.E. Ingber 他,The Journal of Cell Biology (1989) p.317- B. J. Spargo 他, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (1994) p.11070- R. Auerbach 他, Clinical Chemistry (2003) p.32- C.B. Weinberg他,Science (1986) p.397- N.L´Heureux 他, The FASEB Journal (1998) vol.12 p.47-
以上のことから、人工的な組織、臓器の構築には、その機能を維持する為に必要な酸素や栄養素を供給したり、老廃物を送り出すことが不可欠であり、そのような物質運搬機構を伴った人工組織の提供が望まれている。
本発明は、少なくとも2本の隣り合う血管と、上記血管間に配置された細胞とを有する血管含有組織層を含む人工組織であって、上記血管含有組織層内の、上記2本の隣り合う血管の間隙が、上記細胞が壊死しないような栄養供給可能距離に形成されていることを特徴とする人工組織を提供する。
本発明によれば、上記血管含有組織層内において、2本の隣り合う血管が、細胞が壊死しないような栄養供給可能距離に形成されていることから、人工組織内の細胞が、血管を通じて酸素や栄養等を供給されるものとすることができる。したがって、上記細胞として種々のものを用いることにより、例えば臓器等として用いること等も可能な人工組織とすることができる。
上記発明においては、上記血管含有組織層が少なくとも2層以上積層されているものとすることができる。これにより、立体的に血管や上記細胞が配置されたものとすることができ、より複雑な人工組織とすることができるからである。
また、本発明は、少なくとも2本の隣り合う血管と、上記血管間に配置された細胞とを有する血管含有組織層を有する人工組織の製造方法であって、上記2本の隣り合う血管を、上記細胞が壊死しないような栄養供給可能距離に配置する血管配置工程と、上記細胞を含有する細胞含有層と、上記血管とを接触させる細胞接触工程とを有することを特徴とする人工組織の製造方法を提供する。
本発明によれば、上記血管配置工程において、隣り合う2本の血管を上記栄養供給可能距離に配置することから、細胞接触工程により接触された細胞に栄養を供給することが可能となる。したがって、形成された人工組織中で細胞が壊死等することがなく、種々の人工組織を製造することができる。
上記発明においては、上記血管配置工程を、上記栄養供給可能距離より広い距離を有するように血管細胞培養基板上に少なくとも2本以上の上記血管を形成し、前記血管間に位置する上記血管細胞培養基板の一部を除去する工程としてもよく、また上記血管配置工程が、伸縮性を有する血管細胞培養基板上に、上記血管細胞培養基板を引き伸ばした状態で少なくとも2本以上の上記血管を形成し、前記血管間の距離を縮めるように上記血管細胞培養基板を縮める工程としてもよい。ここで、複数の血管を血管細胞培養基板上で形成する際、隣接する血管を形成する血管形成用細胞の距離が近いと、近接する血管形成用細胞どうしが擬足を介して接触等してしまう。その結果、血管細胞を刺激し、血管組織を形成する際に隣接する血管間で癒着が生じ、所望する形状の血管を形成することができない。したがって、通常、上記栄養供給可能距離となるように複数の血管を一つの血管細胞培養基板上で形成することができない。
そこで本発明においては上記血管配置工程を上記のように、上記栄養供給可能距離以上の間隙をあけて血管を形成し、その後隣接する血管が上記栄養供給可能距離となるように血管を配置する工程とすることが好ましい。
本発明によれば、組織内の細胞が壊死等することのない人工組織とすることができ、上記細胞として種々のものを用いることにより、例えば臓器等として用いることも可能な人工組織とすることができる、という利点を有する。
本発明の血管含有組織層の一例を示す平面図である。 本発明の血管含有組織層を説明するための概略断面図である。 本発明に用いられる光触媒含有層側基板の一例を示す概略断面図である。 本発明に用いられる光触媒含有層側基板の他の例を示す概略断面図である。 本発明に用いられる光触媒含有層側基板の他の例を示す概略断面図である。 本発明の血管細胞培養基板の細胞接着部および細胞接着阻害部の形成方法の一例を示す説明図である。
符号の説明
1 … 血管
2 … 細胞
3 … 血管含有組織層
本発明は、再生医療等の分野で用いられる人工組織、およびその製造方法に関するものである。以下、それぞれについて詳しく説明する。
A.人工組織
まず、本発明の人工組織について説明する。本発明の人工組織は、生体から取り出した各種機能を有する細胞を細胞工学等の手法により人工的に再組織化したものであり、少なくとも2本の隣り合う血管と、上記血管間に配置された細胞とを有する血管含有組織層を含む人工組織であって、
上記血管含有組織層内の、上記2本の隣り合う血管の間隙が、上記細胞が壊死しないような栄養供給可能距離に形成されているものである。
本発明の人工組織は、例えば図1に示すように、少なくとも2本の隣り合う血管1の間の距離aが、それらの血管1間に配置されている細胞2が壊死しないような距離とされている血管含有組織層3を含むものである。
本発明によれば、上記血管含有組織層内において、上記血管が上記細胞に酸素や栄養等を供給したり、細胞から排出される老廃物を運び出す等の役割を果たすことができる。また、隣接する上記血管の距離が、上記栄養供給可能距離とされていることから、人工組織内の全ての細胞が、血管によって酸素や栄養等を供給されるものとすることができる。したがって、上記細胞として、種々の細胞を用いることにより、例えば臓器等として用いることも可能な人工組織とすることができる。ここで、本発明における栄養とは生体の活動維持、更には細胞の生存に必要とされる物質のことで、糖質、脂質、タンパク質、更にはこれらの物質と反応する酸素等も含むものとし、通常このような栄養を運搬する媒体は生体内では血液であり、細胞培養系においては培養液(培地)である。
以下、本発明の人工組織について、各構成ごとに詳しく説明する。
1.血管含有組織層
まず、本発明の人工組織における血管含有組織層について説明する。本発明の人工組織における血管含有組織層は、少なくとも2本の隣り合う血管と、上記血管間に配置された細胞とを有するものであり、2本の隣り合う血管の間隙が、上記細胞が壊死しないような栄養供給可能距離に形成されているものであれば、特に限定されるものではない。
ここで、上記細胞が壊死しない栄養供給可能距離とは、隣接する2本の血管間に配置された細胞すべてに、血管から酸素や栄養等を供給することが可能な距離である。このような栄養供給可能距離としては、その血管の栄養供給能や、細胞の種類等によって大きく異なるものであり、目的とされる人工組織ごとに適宜選択される。ここで、一つの血管から栄養を供給可能な範囲としては、通常血管の中心から半径600μm以下、特に300μm以下とすることができ、下限としては特に限定されるものではないが、例えば隣り合う血管どうしが接合しない距離とすることが好ましく、例えば10μm以上、中でも30μm以上とすることができる。そこで本発明においては、上記栄養供給可能距離は、上記一つの血管から栄養供給可能な範囲の2倍の距離とすることができる。
ここで本発明において、少なくとも2本以上の血管は、実質的に平行なライン状に配置されているものとすることができる。実質的に平行なライン状とは、ある領域において2本のラインが交差していなければよく、例えばジグザグ状のライン等、ラインが交わらずに存在する状態も含まれるものとする。上記ライン間の距離が、栄養供給可能距離とされるのである。またこの際、例えば網状構造のように血管が交差や分岐しているものとしてもよい。この場合、上記網状構造のうち、血管が交差や分岐していない部分における血管どうしの距離が、上記栄養供給可能距離とされることとなる。
また、上記血管含有組織の形状についても特に限定されるものではなく、目的とする人工組織の形状等に合わせて適宜選択される。ここで、上記血管含有組織においては、例えば図2(a)に示すように、隣接する血管1間に細胞2が配置されているものであってもよく、また例えば図2(b)に示すように、血管1上にシート状の細胞2が配置されているもの等であってもよい。
このような血管含有組織層は、例えば上記栄養供給可能距離に配置された血管の間で細胞を培養したり、上記栄養供給可能距離に配置された血管および、血管とは別に培養された細胞の層を、貼り合わせること等により形成することができる。
以下、上記血管含有組織層に用いられる血管および細胞について詳しく説明する。
<血管>
まず、本発明に用いられる血管について説明する。本発明において用いられる血管は後述する細胞に、酸素や栄養分等を供給したり、血管間の他の細胞が産生する老廃物を輸送すること等が可能なものであれば、、特に限定されるものではない。
このような血管は、培養されて血管を組織する血管形成用細胞をパターン状に培養した後、血管形成用細胞の血管化を促す成長因子を追加すること等により、形成することができる。このような血管を組織する血管形成用細胞とは、例えば各生物、特にヒトや動物より得られた血管内皮細胞、ペリサイト、平滑筋細胞、血管内皮前駆細胞、平滑筋前駆細胞を意味し、特に血管内皮細胞等を用いることができる。また、血管内皮細部とペリサイトとの共培養や血管内皮細胞と平滑筋細胞との共培養等の複数の種類の細胞の共培養とすることもできる。
また、通常、上記細胞接着部上で目的とするパターン状に形成した後、培地にbFGFやVEGF等の血管細胞の血管化を促す成長因子を追加すること等により、血管とすることができる。このような成長因子から受ける刺激によって、血管細胞は増殖を停止して分化し血管化すると考えられる。細胞接着部上にコンフルエントに接着させた血管細胞を血管化する際の培地としては上記のような成長因子を含む液体培地の他、上記のような成長因子を含むゲル状の培地やゲル状の培地と液体培地を組み合わせた上記のような成長因子入り培地を用いることができる。ゲル状の培地としては、コラーゲン、フィブリンゲル、マトリゲル(商品名)、合成ペプチドハイドロゲルなどを用いることができる。
ここで、複数の血管を一つの血管細胞培養基板上でパターニングして形成する場合、隣接する血管を形成する血管形成用細胞が近接している場合には、それらの血管形成用細胞が擬足を介して接触等してしまい、その血管隣接する血管どうしが癒着、変形等して目的とする形状を維持したまま血管を形成することができない。一方、血管どうしの癒着、変形等を防ぐことが可能な程度に、血管間の距離を長くすると、各々の血管から周囲の細胞に栄養等を供給できる距離を越えてしまい、周囲の細胞に栄養供給を行うことが困難であった。
そこで、本発明においては、上記血管を、上記栄養供給可能距離以上に間隙を開けて血管細胞培養基板上で形成した後、形成された血管を移動させて上記栄養供給可能距離に配置して用いること等ができる。また、例えば上記血管を、上記栄養供給可能距離以上に間隙を開けて血管細胞培養基板上で形成し、隣接する血管間の血管細胞培養基板の一部を除去して、上記栄養供給可能距離に配置して用いてもよい。またさらに、伸縮性を有する血管細胞培養基板を予め伸ばしておき、その血管細胞培養基板上に上記栄養供給可能距離以上に間隙を開けて血管細胞培養基板上で形成した後、血管細胞培養基板を縮めることにより、上記栄養供給可能距離に配置して用いること等もできる。
なお、上記血管形成用細胞をパターン状に培養する方法としては、例えば基材上に血管形成用細胞と接着性を有し、かつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性される細胞接着材料を含有する細胞接着層、または血管形成用細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害性を有し、かつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性される細胞接着阻害材料を含有する細胞接着阻害層を形成し、パターン状にエネルギー照射に伴う光触媒の作用を及ぼすことによって、血管形成用細胞を培養するパターンのみ細胞接着性を有するものとし、血管形成用細胞をパターン状に培養する方法を用いることが好ましい。
この方法によれば、血管形成用細胞を培養する領域以外の領域は、細胞接着阻害性を有するものとすることができ、容易に目的とするパターン状に血管形成用細胞を形成することが可能となるからである。またさらに、細胞接着性を有する領域と細胞接着阻害性を有する領域との間で、上記血管形成用細胞が刺激を受け、組織を形成するための細胞の形態変化等が容易に生じるものとすることができ、血管を容易に形成することが可能となるからである。
ここで、上記細胞接着性を有する細胞接着部を用いて上記血管を形成する際には、細胞接着部のラインパターンと同じ方向に一軸方向のずり応力を加えることが効果的である。これにより血管細胞の接着形態が長細い紡錘型になり、それぞれの血管細胞が互いに上記一軸方向に配向したように見える状態で接着することが可能となるからである。血管を形成するには、血管細胞接着の際に、血管細胞の接着形態が長細い形で互いに同じ方向を向いているような状態でコンフルエントに接着することが重要である。ここで、上記一軸方向のずり応力を加える方法としては、培養皿をシェーカーや振とう機に置いて培養する方法や培養液を一方向に流しながら培養する方法などが挙げられる。特に幅が5000μmを超える血管を作るには、一軸方向のずり応力は不可欠である。
以下、このエネルギー照射に伴う光触媒の作用を利用した血管形成用細胞を培養するための細胞接着層または細胞接着阻害層を有する血管細胞培養基板について詳しく説明する。
(血管細胞培養基板)
本発明に用いられる、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により細胞との接着性が変化する細胞接着層または細胞接着阻害層を有する血管細胞培養基板としては、例えば以下の2つの態様が挙げられる。それぞれの態様ごとに詳しく説明する。
(1)第1の態様
まず、第1の態様としては、基材上に少なくとも血管形成用細胞と接着性を有しかつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性される細胞接着材料を含有する細胞接着層が形成されており、上記細胞接着阻害部は、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により、上記細胞接着材料が分解または変性されているものである。
本態様においては、例えば基材上に形成された細胞接着層と、光触媒を含有する光触媒含有層を有する光触媒含有層側基板とを対向させて配置し、細胞接着阻害部を形成するパターン状にエネルギーを照射することにより、光触媒含有層中の光触媒の作用により、細胞接着層中の細胞接着材料が分解または変性されて、細胞接着阻害部を形成することが可能となるのである。
また、本態様によれば、上記血管細胞培養基板上の細胞接着部に血管形成用細胞を付着させて血管を形成する際、上記細胞接着阻害部を形成する領域に、上記光触媒含有層を用いてエネルギー照射することにより、上記細胞接着阻害部に付着した血管形成用細胞を光触媒の作用により除去等することができ、高精細なパターン状に培養された血管形成用細胞を維持できる、という利点も有する。
なお、本態様においては、隣接する細胞接着部間の距離、すなわち細胞接着阻害部の距離は、通常200μm〜600μm程度、中でも300μm〜500μm程度とすることが好ましい。これにより、隣接する細胞接着部間で血管形成用細胞が擬足を介して接触しないものとすることができるからである。
また、細胞接着部の形状は、ライン状に形成されるものであれば特に限定されるものではなく、目的とする血管の形状に合わせて適宜選択されるが、通常上記細胞接着部のラインの幅は、10μm〜5000μm、中でも20μm〜100μm、特に40μm〜60μm程度とされる。ライン幅が10μm未満である場合には、血管細胞が接着しにくくなることから好ましくない。一方、ライン幅が5000μmを超える場合には、ほとんど全ての血管細胞が拡がった形態で細胞接着部に接着することとなることから、培養された血管細胞を、血管の形状にすることが困難となり、好ましくない。
なお本態様においては、良好な血管を作るために、特に上記細胞接着部内に細胞接着補助部を有することが好ましい。上記細胞接着補助部とは、上記細胞接着部に微細なパターン状に形成された、血管細胞と接着性を有しない領域をいうこととする。上記細胞接着補助部は、上記細胞接着部上に血管細胞を接着させた際、細胞接着部内での血管細胞どうしの結合を阻害しない程度、すなわち上記細胞接着補助部上でも血管細胞どうしが結合し得る程度、微細なパターン状に形成される。
一般的に細胞接着部に血管細胞を付着させて血管細胞を培養し、組織を形成する場合、血管細胞は細胞接着部の外側から内側にかけて徐々に配列する。また組織の形成の際には、個々の血管細胞が形態変化をして配列することが必要であり、この血管細胞の形態変化についても、細胞接着部の端部から中央部にかけて徐々に行われるものである。そのため、細胞接着部の幅が太い場合には、細胞接着部の中央部での血管細胞の配列性が悪く、組織が形成されない場合や、細胞接着部の中央部に血管細胞が接着しない場合等がある。また、細胞接着部の中央部における血管細胞の形態変化性が悪い場合がある。そこで、上記細胞接着補助部を形成することにより、細胞接着補助部の端部からも血管細胞を配列させたり、形態変化をさせることが可能となるため、欠けや形態変化不良等を生じさせることがなく、血管細胞を培養することができるのである。また、上記細胞接着補助部は、細胞接着補助部を挟んで隣り合う血管細胞どうしの接着を阻害しないように形成されることから、最終的に培養される血管細胞の幅としては、上記細胞接着部の幅と同様の幅とすることができるのである。
上記細胞接着補助部は、上記細胞接着部内でライン状に形成されることが好ましい。また、ラインの形状は特に限定されるものではなく、例えば直線状、曲線状、点線状、破線状等とすることができる。上記細胞接着補助部のライン幅は、0.5μm〜10μm、中でも1μm〜5μmの範囲内とすることが好ましい。上記範囲より幅が広い場合は、細胞接着補助部を挟んで隣接する血管細胞どうしが細胞接着補助部上で相互作用することが困難となるので好ましくないからである。また上記範囲より幅が狭い場合は、本態様におけるパターン形成技術を用いて形成することが難しいからである。
また、上記細胞接着補助部は、例えばジグザグ状等、面内で凹凸パターンを有するように形成されていてもよい。ここで面内とは基材表面またはこれに準じる面をいうこととする。この際、上記凹凸パターンの凹部端から凸部端までの距離の平均値は、前記細胞接着部に血管細胞を接着させた際に、血管細胞が細胞接着部のライン方向と同様の方向に整列する距離であればよいが、特に0.5μm〜30μmの範囲内であることが好ましい。なお、上記凹凸を有するパターンの凹部端から凸部端までの距離の平均の測定は、細胞接着補助部の端部の長さ200μmの範囲における各凹凸の最底部から最頂部までの距離を測定し、その平均を算出した値とする。上記細胞接着補助部の形成方法としては、細胞接着阻害部の形成方法と同様とすることができる。
以下、本態様に用いられる細胞接着層、光触媒含有層側基板、およびその光触媒含有層側基板を用いて細胞接着阻害部を形成する方法について説明する。
a.細胞接着層
まず、本態様に用いられる細胞接着層について説明する。本態様に用いられる細胞接着層は、少なくとも血管形成用細胞との接着性を有する細胞接着材料を有する層であり、一般的に血管形成用細胞との接着性を有する層として用いられる層を用いることができる。
本態様の細胞接着層に含有される細胞接着材料は、血管形成用細胞と接着性を有しかつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性されるものであれば、その種類等は特に限定されるものではない。ここで、血管形成用細胞と接着性を有するとは、血管形成用細胞と良好に接着することをいい、血管形成用細胞との接着性が、血管形成用細胞の種類によって異なる場合等には、目的とする血管形成用細胞と良好に接着することをいう。
本態様に用いられる細胞接着材料は、このような血管形成用細胞との接着性を有しており、エネルギー照射に伴う光触媒の作用によって分解または変性されて、血管形成用細胞との接着性を有しなくなるものや、血管形成用細胞との接着を阻害する細胞接着阻害性を有するものに変化するもの等が用いられる。
ここで、上記のような血管形成用細胞と接着性を有する材料には、物理化学的特性により血管形成用細胞と接着性を有する材料と、生物化学的特性により血管形成用細胞と接着性を有する材料との2種類がある。
物理化学的特性により血管形成用細胞と接着性を有する材料の、血管形成用細胞との接着性を決定する物理化学的な因子としては、表面自由エネルギーや、静電相互作用等が挙げられる。例えば血管形成用細胞との接着性が材料の表面自由エネルギーにより決定される場合には、材料が所定の範囲内の表面自由エネルギーを有すると血管形成用細胞と材料との接着性が良好となり、その範囲を外れると血管形成用細胞と材料との接着性が低下することとなる。このような表面自由エネルギーによる細胞の接着性の変化としては、例えば資料CMC出版 バイオマテリアルの最先端 筏 義人(監修)p.109下部に示されるような実験結果が知られている。このような因子により血管形成用細胞との接着性を有する材料としては、例えば親水化ポリスチレン、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)等が挙げられる。このような材料を用いた場合、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により、例えば上記材料の表面の官能基が置換等されたり、分解されること等によって、表面自由エネルギーが変化し、血管形成用細胞との接着性を有しないもの、または細胞接着阻害性を有するものとすることができる。
また、静電相互作用等により血管形成用細胞と材料との接着性が決定される場合、例えば材料が有する正電荷の量等によって血管形成用細胞との接着性が決定されることとなる。このような静電相互作用により血管形成用細胞との接着性を有する材料としては、例えばポリリジン等の塩基性高分子、アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等の塩基性化合物およびそれらを含む縮合物等が挙げられる。このような材料を用いた場合、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により、上記材料が分解または変性されることによって、例えば表面に存在する正電荷量を変化させることができ、血管形成用細胞との接着性を有しないもの、または細胞接着阻害性を有するものとすることができる。
また、生物学的特性により血管形成用細胞と接着性を有する材料としては、特定の血管形成用細胞と接着性が良好なもの、または多くの血管形成用細胞と接着性が良好なもの等が挙げられ、具体的には、フィブロネクチン、ラミニン、テネイシン、ビトロネクチン、RGD(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸)配列含有ペプチド、YIGSR(チロシン−イソロイシン−グリシン−セリン−アルギニン)配列含有ペプチド、コラーゲン、アテロコラーゲン、ゼラチン、およびこれらの混合物、例えばマトリゲル等が挙げられる。このような材料を用いた場合、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により、例えば上記材料の構造の一部を破壊したり、主鎖を破壊すること等によって、血管形成用細胞との接着性を有しないもの、または細胞接着阻害性を有するものとすることができる。
このような細胞接着材料は、上記材料の種類等によって異なるものであるが、細胞接着層中に通常0.01重量%〜95重量%、中でも1重量%〜10重量%含有されることが好ましい。これにより、細胞接着材料を含有する領域を血管形成用細胞との接着性が良好な領域とすることができるからである。
また本態様においては、細胞接着層中に、上記細胞接着材料だけでなく、必要に応じて例えば、強度や耐性等を向上させるバインダ等を含有するものであってもよい。本態様においては、特にバインダとして、少なくともエネルギー照射された後に、血管形成用細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害性を有する材料が用いられることが好ましい。これにより、エネルギー照射された領域である細胞接着阻害部の血管形成用細胞との接着性を低いものとすることができるからである。このような材料としては、例えばエネルギー照射される前から上記細胞接着阻害性を有するものであってもよく、エネルギー照射に伴う光触媒の作用によって、細胞接着阻害性を有するものとなるものであってもよい。
本態様においては、特にエネルギー照射に伴う光触媒の作用によって、細胞接着阻害性を有するものとなる材料をバインダとして用いることが好ましい。これにより、エネルギー照射される前の領域においては、上記細胞接着材料の血管形成用細胞との接着性を阻害することがなく、エネルギー照射された領域のみを、血管形成用細胞との接着性が低いものとすることができるからである。
このようなバインダとして用いられる材料としては、例えば主骨格が上記の光触媒の光励起により分解されないような高い結合エネルギーを有するものであって、光触媒の作用により分解されるような有機置換基を有するものが好ましく、例えば、(1)ゾルゲル反応等によりクロロまたはアルコキシシラン等を加水分解、重縮合して大きな強度を発揮するオルガノポリシロキサン、(2)撥水牲や撥油性に優れた反応性シリコーンを架橋したオルガノポリシロキサン等を挙げることができる。
上記の(1)の場合、一般式:
SiX(4−n)
(ここで、Yはアルキル基、フルオロアルキル基、ビニル基、アミノ基、フェニル基もしくはエポキシ基、またはこれらを含む有機基であり、Xはアルコキシル基、アセチル基またはハロゲンを示す。nは0〜3までの整数である。)
で示される珪素化合物の1種または2種以上の加水分解縮合物もしくは共加水分解縮合物であるオルガノポリシロキサンであることが好ましい。なお、ここでYで示される有機基の炭素数は1〜20の範囲内であることが好ましく、また、Xで示されるアルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基であることが好ましい。
また、上記の(2)の反応性シリコーンとしては、下記一般式で表される骨格をもつ化合物を挙げることができる。
Figure 2005099784
ただし、nは2以上の整数であり、R,Rはそれぞれ炭素数1〜20の置換もしくは非置換のアルキル、アルケニル、アリールあるいはシアノアルキル基であり、モル比で全体の40%以下がビニル、フェニル、ハロゲン化フェニルである。また、R、Rがメチル基のものが表面エネルギーが最も小さくなるので好ましく、モル比でメチル基が60%以上であることが好ましい。また、鎖末端もしくは側鎖には、分子鎖中に少なくとも1個以上の水酸基等の反応性基を有する。上記のような材料を用いることによって、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により、エネルギー照射された領域の表面を高い親水性を有するものとすることができる。これにより、血管形成用細胞との接着が阻害され、エネルギー照射された領域には血管形成用細胞が接着しないものとすることができるからである。
また、上記のオルガノポリシロキサンとともに、ジメチルポリシロキサンのような架橋反応をしない安定なオルガノシリコン化合物をバインダに混合してもよい。
上記材料を細胞接着阻害材料として用いる場合、エネルギーが照射される前の水との接触角が15°〜120°、中でも20°〜100°の範囲内となるものであることが好ましい。これにより、上記細胞接着材料の血管形成用細胞との接着性を阻害することのないものとすることができるからである。
また、この細胞接着阻害材料にエネルギーが照射された場合には、水との接触角が10°以下となるものであることが好ましい。上記範囲とすることにより、高い親水性を有するものとすることができ、血管形成用細胞との接着性を低いものとすることができるからである。
なお、ここでいう水との接触角は、水、もしくは同等の接触角を有する液体との接触角を接触角測定器(協和界面科学(株)製CA−Z型)を用いて測定(マイクロシリンジから液滴を滴下して30秒後)し、その結果から、もしくはその結果をグラフにして得たものである。
また、本態様においては、エネルギーが照射された領域の濡れ性の変化を起こさせること等により、血管形成用細胞との接着性が低下する、もしくはそのような変化を補助する分解物質等を含有するものであってもよい。
このような分解物質としては、例えばエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解等されて、親水性となること等により、血管形成用細胞との接着性が低下する界面活性剤等を挙げることができる。具体的には、日光ケミカルズ(株)製NIKKOL BL、BC、BO、BBの各シリーズ等の炭化水素系、デュポン社製ZONYL FSN、FSO、旭硝子(株)製サーフロンS−141、145、大日本インキ化学工業(株)製メガファックF−141、144、ネオス(株)製フタージェントF−200、F251、ダイキン工業(株)製ユニダインDS−401、402、スリーエム(株)製フロラードFC−170、176等のシリコーン系の非イオン界面活性剤を挙げることができ、また、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤を用いることもできる。
また、界面活性剤の他にも、ポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、アクリル樹脂、ポリエチレン、ジアリルフタレート、エチレンプロピレンジエンモノマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリイミド、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ナイロン、ポリエステル、ポリブタジエン、ポリベンズイミダゾール、ポリアクリルニトリル、エピクロルヒドリン、ポリサルファイド、ポリイソプレン等のオリゴマー、ポリマー等を挙げることができる。
本態様においては、このようなバインダは、細胞接着層中に5重量%〜95重量%、中でも40重量%〜90重量%、特に60重量%〜80重量%の範囲内含有されることが好ましい。
b.基材
次に、本態様の血管細胞培養基板に用いられる基材について説明する。本態様に用いられる基材としては一般的な細胞培養基板の基材として用いることが可能なものを用いることができる。具体的には、ガラスや金属、シリコン等の無機材料、およびプラスチックで代表される有機材料等を用いることができる。
また、本態様においては、上記基材が、細胞接着部と同じパターン状に遮光部を有していてもよい。これにより、後述する光触媒含有層側基板と、上記細胞接着層とを対向させて配置した後、基材側からエネルギーを照射することにより、遮光部が形成された領域は細胞との接着性が変化せず、遮光部が形成されていない領域のみ細胞接着阻害性を有するものとすることができるからである。このような遮光部としては、後述する細胞接着阻害部を形成する際に照射されるエネルギーを遮蔽するものであれば、特に限定されるものではなく、一般的に用いられる遮光部と同様とすることができるので、ここでの詳しい説明は省略する。
c.光触媒含有層側基板
まず、本態様に用いられる光触媒を含有する光触媒含有層を有する光触媒含有層側基板について説明する。本態様に用いられる光触媒含有層側基板としては、通常、光触媒を含有する光触媒含有層を有するものであり、通常、基体と、その基体上に光触媒含有層が形成されているものである。この光触媒含有層側基板は、例えばパターン状に形成された光触媒含有層側遮光部やプライマー層等を有していてもよい。以下、本態様に用いられる光触媒含有層側基板の各構成について説明する。
(i)光触媒含有層
まず、光触媒含有層側基板に用いられる光触媒含有層について説明する。本態様に用いられる光触媒含有層は、光触媒含有層中の光触媒が、近接する細胞接着層中の細胞接着材料を分解または変性させるような構成であれば、特に限定されるものではなく、光触媒とバインダとから構成されているものであってもよく、光触媒単体で製膜されたものであってもよい。また、その表面の特性は特に親液性であっても撥液性であってもよい。
また本態様において用いられる光触媒含有層は、基体上に全面に形成されたものであってもよいが、例えば図3に示すように、基体11上に光触媒含有層12がパターン上に形成されたものであってもよい。
本態様で用いられる光触媒としては、光半導体として知られる例えば二酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化タングステン(WO)、酸化ビスマス(Bi)、および酸化鉄(Fe)を挙げることができ、これらから選択して1種または2種以上を混合して用いることができる。
本態様においては、特に二酸化チタンが、バンドギャップエネルギーが高く、化学的に安定で毒性もなく、入手も容易であることから好適に使用される。二酸化チタンには、アナターゼ型とルチル型があり本発明ではいずれも使用することができるが、アナターゼ型の二酸化チタンが好ましい。アナターゼ型二酸化チタンは励起波長が380nm以下にある。
このようなアナターゼ型二酸化チタンとしては、例えば、塩酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(石原産業(株)製STS−02(平均粒径7nm)、石原産業(株)製ST−K01)、硝酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(日産化学(株)製TA−15(平均粒径12nm))等を挙げることができる。
光触媒の粒径は小さいほど光触媒反応が効果的に起こるので好ましく、平均粒径が50nm以下であることが好ましく、20nm以下の光触媒を使用するのが特に好ましい。
本態様における光触媒含有層は、上述したように光触媒単独で形成されたものであってもよく、またバインダと混合して形成されたものであってもよい。
ここで、光触媒のみからなる光触媒含有層を用いた場合には、上記細胞接着層中の細胞接着材料の分解または変性に対する効率が向上し、処理時間の短縮化等のコスト面で有利である。一方、光触媒とバインダとからなる光触媒含有層を用いた場合には、光触媒含有層の形成が容易であるという利点を有する。
光触媒のみからなる光触媒含有層の形成方法としては、例えば、スパッタリング法、CVD法、真空蒸着法等の真空製膜法を用いる方法を挙げることができる。真空製膜法により光触媒含有層を形成することにより、均一な膜でかつ光触媒のみを含有する光触媒含有層とすることが可能であり、これにより細胞接着材料を均一に分解または変性させることが可能であり、かつ光触媒のみからなることから、バインダを用いる場合と比較して効率的に細胞接着材料を分解または変性させることが可能となる。
また、光触媒のみからなる光触媒含有層の形成方法の他の例としては、例えば光触媒が二酸化チタンの場合は、基体上に無定形チタニアを形成し、次いで焼成により結晶性チタニアに相変化させる方法等が挙げられる。ここで用いられる無定形チタニアとしては、例えば四塩化チタン、硫酸チタン等のチタンの無機塩の加水分解、脱水縮合、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラメトキシチタン等の有機チタン化合物を酸存在下において加水分解、脱水縮合によって得ることができる。次いで、400℃〜500℃における焼成によってアナターゼ型チタニアに変性し、600℃〜700℃の焼成によってルチル型チタニアに変性することができる。
また、バインダを用いる場合は、バインダの主骨格が上記の光触媒の光励起により分解されないような高い結合エネルギーを有するものが好ましく、例えばこのようなバインダとしては、上述した細胞接着層の項で用いられるオルガノポリシロキサン等を挙げることができる。
このようにオルガノポリシロキサンをバインダとして用いた場合は、上記光触媒含有層は、光触媒とバインダであるオルガノポリシロキサンを必要に応じて他の添加剤とともに溶剤中に分散して塗布液を調製し、この塗布液を基体上に塗布することにより形成することができる。使用する溶剤としては、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系の有機溶剤が好ましい。塗布はスピンコート、スプレーコート、ディップコート、ロールコート、ビードコート等の公知の塗布方法により行うことができる。バインダとして紫外線硬化型の成分を含有している場合、紫外線を照射して硬化処理を行うことにより光触媒含有層を形成することができる。
また、バインダとして無定形シリカ前駆体を用いることができる。この無定形シリカ前駆体は、一般式SiX4で表され、Xはハロゲン、メトキシ基、エトキシ基、またはアセチル基等であるケイ素化合物、それらの加水分解物であるシラノール、または平均分子量3000以下のポリシロキサンが好ましい。
具体的には、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラメトキシシラン等が挙げられる。また、この場合には、無定形シリカの前駆体と光触媒の粒子とを非水性溶媒中に均一に分散させ、基体上に空気中の水分により加水分解させてシラノールを形成させた後、常温で脱水縮重合することにより光触媒含有層を形成できる。シラノールの脱水縮重合を100℃以上で行えば、シラノールの重合度が増し、膜表面の強度を向上できる。また、これらの結着剤は、単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。
光触媒含有層中の光触媒の含有量は、5〜60重量%、好ましくは20〜40重量%の範囲で設定することができる。また、光触媒含有層の厚みは、0.05〜10μmの範囲内が好ましい。
また、光触媒含有層には上記の光触媒、バインダの他に、上述した細胞接着層に用いられる界面活性剤等を含有させることもできる。
(ii)基体
次に、光触媒含有層側基板に用いられる基体について説明する。通常、光触媒含有層側基板は、少なくとも基体とこの基体上に形成された光触媒含有層とを有するものである。この際、用いられる基体を構成する材料は、後述するエネルギーの照射方向や、得られるパターン形成体が透明性を必要とするか等により適宜選択される。
また本態様に用いられる基体は、可撓性を有するもの、例えば樹脂製フィルム等であってもよいし、可撓性を有しないもの、例えばガラス基板等であってもよい。これは、エネルギー照射方法により適宜選択されるものである。
なお、基体表面と光触媒含有層との密着性を向上させるために、基体上にアンカー層を形成するようにしてもよい。このようなアンカー層としては、例えば、シラン系、チタン系のカップリング剤等を挙げることができる。
(iii)光触媒含有層側遮光部
本態様に用いられる光触媒含有層側基板には、パターン状に形成された光触媒含有層側遮光部が形成されたものを用いても良い。このように光触媒含有層側遮光部を有する光触媒含有層側基板を用いることにより、エネルギー照射に際して、フォトマスクを用いたり、レーザ光による描画照射を行う必要がない。したがって、光触媒含有層側基板とフォトマスクとの位置合わせが不要であることから、簡便な工程とすることが可能であり、また描画照射に必要な高価な装置も不必要であることから、コスト的に有利となるという利点を有する。
このような光触媒含有層側遮光部を有する光触媒含有層側基板は、光触媒含有層側遮光部の形成位置により、下記の二つの態様とすることができる。
一つが、例えば図4に示すように、基体11上に光触媒含有層側遮光部14を形成し、この光触媒含有層側遮光部14上に光触媒含有層12を形成して、光触媒含有層側基板とする態様である。もう一つは、例えば図5に示すように、基体11上に光触媒含有層12を形成し、その上に光触媒含有層側遮光部14を形成して光触媒含有層側基板とする態様である。
いずれの態様においても、フォトマスクを用いる場合と比較すると、光触媒含有層側遮光部が、上記光触媒含有層と細胞接着層との配置部分の近傍に配置されることになるので、基体内等におけるエネルギーの散乱の影響を少なくすることができることから、エネルギーのパターン照射を極めて正確に行うことが可能となる。
ここで、本態様においては、図5に示すような光触媒含有層12上に光触媒含有層側遮光部14を形成する態様である場合には、光触媒含有層と細胞接着層とを所定の位置に配置する際に、この光触媒含有層側遮光部の膜厚をこの間隙の幅と一致させておくことにより、上記光触媒含有層側遮光部を上記間隙を一定のものとするためのスペーサとしても用いることができるという利点を有する。
すなわち、所定の間隙をおいて上記光触媒含有層と細胞接着層とを対向させた状態で配置する際に、上記光触媒含有層側遮光部と細胞接着層とを密着させた状態で配置することにより、上記所定の間隙を正確とすることが可能となり、そしてこの状態でエネルギーを照射することにより、細胞接着層と光触媒含有層側遮光部とが接触している部分の細胞接着層は、細胞接着材料が分解または変性されないことから、細胞接着阻害部を精度良く形成することが可能となるのである。
このような光触媒含有層側遮光部の形成方法は、特に限定されるものではなく、光触媒含有層側遮光部の形成面の特性や、必要とするエネルギーに対する遮蔽性等に応じて適宜選択されて用いられ、一般的に用いられる遮光部と同様のものとすることができるので、ここでの詳しい説明は省略する。
なお、上記説明においては、光触媒含有層側遮光部の形成位置として、基体と光触媒含有層との間、および光触媒含有層表面の二つの場合について説明したが、その他、基体の光触媒含有層が形成されていない側の表面に光触媒含有層側遮光部を形成する態様も採ることが可能である。この態様においては、例えばフォトマスクをこの表面に着脱可能な程度に密着させる場合等が考えられ、細胞接着阻害部のパターンを小ロットで変更するような場合に好適に用いることができる。
(iv)プライマー層
次に、本態様の光触媒含有層側基板に用いられるプライマー層について説明する。本態様において、上述したように基体上に光触媒含有層側遮光部をパターン状に形成して、その上に光触媒含有層を形成して光触媒含有層側基板とする場合においては、上記光触媒含有層側遮光部と光触媒含有層との間にプライマー層を形成してもよい。
このプライマー層の作用・機能は必ずしも明確なものではないが、光触媒含有層側遮光部と光触媒含有層との間にプライマー層を形成することにより、プライマー層は光触媒の作用による細胞接着材料の分解または変性を阻害する要因となる光触媒含有層側遮光部および光触媒含有層側遮光部間に存在する開口部からの不純物、特に、光触媒含有層側遮光部をパターニングする際に生じる残渣や、金属、金属イオン等の不純物の拡散を防止する機能を示すものと考えられる。したがって、プライマー層を形成することにより、高感度で細胞接着材料の分解または変性の処理が進行し、その結果、高精細に形成された細胞接着阻害部を得ることが可能となるのである。
なお、本態様においてプライマー層は、光触媒含有層側遮光部のみならず光触媒含有層側遮光部間に形成された開口部に存在する不純物が光触媒の作用に影響することを防止するものであるので、プライマー層は開口部を含めた光触媒含有層側遮光部全面にわたって形成されていることが好ましい。
本態様におけるプライマー層は、光触媒含有層側基板の光触媒含有層側遮光部と光触媒含有層とが接触しないようにプライマー層が形成された構造であれば特に限定されるものではない。
このプライマー層を構成する材料としては、特に限定されるものではないが、光触媒の作用により分解されにくい無機材料が好ましい。具体的には無定形シリカを挙げることができる。このような無定形シリカを用いる場合には、この無定形シリカの前駆体は、一般式SiXで示され、Xはハロゲン、メトキシ基、エトキシ基、またはアセチル基等であるケイ素化合物であり、それらの加水分解物であるシラノール、または平均分子量3000以下のポリシロキサンが好ましい。
また、プライマー層の膜厚は、0.001μmから1μmの範囲内であることが好ましく、特に0.001μmから0.1μmの範囲内であることが好ましい。
d.細胞接着阻害部の形成方法
次に、本態様における細胞接着阻害部の形成方法について説明する。本態様においては、例えば図6に示すように、基材4上に形成された細胞接着層8と、光触媒含有層側基板13の光触媒含有層12とを、所定の間隙をおいて配置し、例えばフォトマスク5等を用いて、エネルギー6を所定の方向から照射する(図6(a))。これにより、エネルギー照射された領域の細胞接着材料が分解または変性されて、血管形成用細胞と接着性を有しない細胞接着阻害部9が形成されるのである(図6(b))。この際、細胞接着阻害部は、例えば上記細胞接着材料がエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解されるものである場合には、細胞接着阻害部中にはその細胞接着材料が少量含有されている、または細胞接着材料の分解物等が含有されている、もしくは細胞接着層が完全に分解除去されて基材が露出すること等となる。また、上記細胞接着材料がエネルギー照射に伴う光触媒の作用により変性されるものである場合には、細胞接着阻害部中にはその変性物等が含有されていることとなる。
上記の配置とは、実質的に光触媒の作用が細胞接着層表面に及ぶような状態で配置された状態をいうこととし、実際に物理的に接触している状態の他、所定の間隔を隔てて上記光触媒含有層と細胞接着層とが配置された状態とする。この間隙は、200μm以下であることが好ましい。
本態様において上記間隙は、パターン精度が極めて良好であり、光触媒の感度も高く、したがって細胞接着層中の細胞接着材料の分解または変性の効率が良好である点を考慮すると特に0.2μm〜10μmの範囲内、好ましくは1μm〜5μmの範囲内とすることが好ましい。このような間隙の範囲は、特に間隙を高い精度で制御することが可能である小面積の細胞接着層に対して特に有効である。
一方、例えば300mm×300mm以上といった大面積の細胞接着層に対して処理を行う場合は、接触することなく、かつ上述したような微細な間隙を光触媒含有層側基板と細胞接着層との間に形成することは極めて困難である。したがって、細胞接着層が比較的大面積である場合は、上記間隙は、10〜100μmの範囲内、特に50〜75μmの範囲内とすることが好ましい。間隙をこのような範囲内とすることにより、パターンがぼやける等のパターン精度の低下の問題や、光触媒の感度が悪化して細胞接着材料を分解または変性させる効率が悪化する等の問題が生じることなく、さらに細胞接着材料の分解または変性にムラが発生しないといった効果を有するからである。
このように比較的大面積の細胞接着層をエネルギー照射する際には、エネルギー照射装置内の光触媒含有層側基板と細胞接着層との位置決め装置における間隙の設定を、10μm〜200μmの範囲内、特に25μm〜75μmの範囲内に設定することが好ましい。設定値をこのような範囲内とすることにより、パターン精度の大幅な低下や光触媒の感度の大幅な悪化を招くことなく、かつ光触媒含有層側基板と細胞接着層とが接触することなく配置することが可能となるからである。
このように光触媒含有層と細胞接着層表面とを所定の間隔で離して配置することにより、酸素と水および光触媒作用により生じた活性酸素種が脱着しやすくなる。すなわち、上記範囲より光触媒含有層と細胞接着層との間隔を狭くした場合は、上記活性酸素種の脱着がしにくくなり、結果的に細胞接着材料を分解または変性させる速度を遅くしてしまう可能性があることから好ましくない。また、上記範囲より間隔を離して配置した場合は、生じた活性酸素種が細胞接着層に届き難くなり、この場合も細胞接着材料の分解または変性の速度を遅くしてしまう可能性があることから好ましくない。
このような極めて狭い間隙を均一に形成して光触媒含有層と細胞接着層とを配置する方法としては、例えばスペーサを用いる方法を挙げることができる。そして、このようにスペーサを用いることにより、均一な間隙を形成することができると共に、このスペーサが接触する部分は、光触媒の作用が細胞接着層表面に及ばないことから、このスペーサを上述した細胞接着部と同様のパターンを有するものとすることにより、スペーサの形成されていない部分のみの細胞接着材料を分解または変性させることができ、高精細に細胞接着阻害部を形成することができるのである。また、このようなスペーサを用いることにより、光触媒の作用により生じた活性酸素種が拡散することなく、高濃度で細胞接着層表面に到達することから、効率よく高精細な細胞接着阻害部を形成することができる。
本態様においては、このような光触媒含有層側基板の配置状態は、少なくともエネルギー照射の間だけ維持されればよい。
ここで、本態様でいうエネルギー照射(露光)とは、エネルギー照射に伴う光触媒の作用によって、細胞接着材料を分解または変性させることが可能ないかなるエネルギー線の照射をも含む概念であり、光の照射に限定されるものではない。
通常このようなエネルギー照射には、通常400nm以下の紫外光が用いられる。これは、上述したように光触媒として用いられる好ましい光触媒が二酸化チタンであり、この二酸化チタンにより光触媒作用を活性化させるエネルギーとして、上述した波長の光が好ましいからである。
このようなエネルギー照射に用いることができる光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマランプ、その他種々の光源を挙げることができる。
上述したような光源を用い、フォトマスクを介したパターン照射により行う方法の他、エキシマ、YAG等のレーザを用いてパターン状に描画照射する方法を用いることも可能である。また、上述したように、基材が細胞接着部と同じパターン状に遮光部を有する場合には、基材側からエネルギーを全面に照射することにより、行うことができる。この場合、フォトマスク等が必要なく、位置あわせ等の工程が必要ない、という利点を有する。
また、エネルギー照射に際してのエネルギーの照射量は、光触媒の作用によって細胞接着材料が分解または変性されるのに必要な照射量とする。
この際、光触媒が含有される層を加熱しながらエネルギー照射することにより、感度を上昇させることが可能となり、効率的に細胞接着材料を分解または変性させることができる点で好ましい。具体的には30℃〜80℃の範囲内で加熱することが好ましい。
なお、本態様におけるフォトマスクを介して行うエネルギー照射の方向は、上述した基材が透明である場合は、基材側および光触媒含有層側基板のいずれの方向からエネルギー照射を行っても良い。一方、基材が不透明な場合は、光触媒含有層側基板側からエネルギー照射を行う必要がある。
(2)第2の態様
またさらに、第2の態様としては、上記基材上に、少なくとも血管形成用細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害層を有しかつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性される細胞接着阻害材料を含有する細胞接着阻害層が形成されており、上記細胞接着部は、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により、上記細胞接着阻害材料が分解または変性されているものである。
本態様においては、上記細胞接着阻害層中に、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性される細胞接着阻害材料が含有されていることから、細胞接着阻害層と光触媒含有層とを対向させて配置し、細胞接着部のパターン状にエネルギーを照射することにより、光触媒含有層中の光触媒の作用により、細胞接着阻害層中の細胞接着阻害材料が分解または変性されて、血管形成用細胞との接着性を有する細胞接着部を形成することができるのである。この際、エネルギーが照射されていない領域については、細胞接着阻害材料が残存することから、血管形成用細胞との接着性を有しないものとすることができ、細胞接着阻害部として用いることができるのである。
ここで、上記細胞接着阻害材料が分解または変性されているとは、上記細胞接着阻害材料が含有されていない、もしくは上記細胞接着阻害部に含有される細胞接着阻害材料の量と比較して、細胞接着阻害材料が少ない量含有されていることをいう。例えば上記細胞接着阻害材料がエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解されるものである場合には、細胞接着部中にはその細胞接着阻害材料が少量含有されている、または細胞接着阻害材料の分解物等が含有されている、または細胞接着阻害材料が完全に分解されて基材が露出すること等となる。また、上記細胞接着阻害材料がエネルギー照射に伴う光触媒の作用により変性されるものである場合には、細胞接着部中にはその変性物等が含有されていること等となる。本態様においては、上記細胞接着部に、少なくともエネルギー照射された後に、血管形成用細胞との接着性を有する細胞接着物質が含有されていることが好ましい。これにより、細胞接着部の血管形成用細胞との接着性をより高いものとすることができ、上記細胞接着部のみに、高精細に血管形成用細胞を接着させることが可能となるからである。
なお、本態様においては、上記細胞接着阻害部の表面距離は、通常200μm〜1000μm程度、中でも300μm〜500μm程度とすることができる。これにより、隣接する細胞接着部間で血管形成用細胞が擬足を介して接触しないものとすることができるからである。
また、本態様においても、上記細胞接着部内に、細胞接着補助部が形成されていることが好ましい。
ここで、本態様に用いられる基材、光触媒含有層側基板およびその配置やエネルギーの照射方法、細胞接着部の形状や細胞接着補助部等については、上記第1の態様で説明したものと同様であるので、ここでの詳しい説明は省略し、以下、本態様に用いられる細胞接着阻害層について説明する。
本態様に用いられる細胞接着阻害層は、血管形成用細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害性を有しかつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性される細胞接着阻害材料を含有するものであれば特に限定されるものではない。
本態様においては、このような層が形成可能であれば、その形成方法等は特に限定されるものではなく、例えば、上記細胞接着阻害材料を含有する細胞接着阻害層形成用塗工液を、一般的な塗布方法により上記光触媒含有層上に塗布することにより、形成することができる。また、このような細胞接着阻害層の膜厚は、血管細胞培養基板の種類等によって適宜選択されるものであるが、通常0.01μm〜1.0μm程度、中でも0.1μm〜0.3μm程度とすることができる。
本態様に用いられる細胞接着阻害材料は、血管形成用細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害性を有し、かつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性されるものであれば、その種類等は特に限定されるものではない。
ここで、上記細胞接着阻害性を有するとは、血管形成用細胞が細胞接着阻害材料と接着することを阻害する性質を有することをいい、血管形成用細胞との接着性が血管形成用細胞の種類によって異なる場合等には、目的とする血管形成用細胞との接着を阻害する性質を有することをいう。
本態様に用いられる細胞接着阻害材料は、このような細胞接着阻害性を有しており、エネルギー照射に伴う光触媒の作用によって分解または変性されて、細胞接着阻害性を有しなくなるものや、血管形成用細胞との接着性が良好となるものが用いられる。
このような細胞接着阻害材料としては、例えば水和能の高い材料を用いることができる。水和能の高い材料は、周りに水分子が集まった水和層が形成され、通常、このような水和能の高い物質は水分子との親和性の方が血管形成用細胞との親和性より高いことから、血管形成用細胞は上記水和能の高い材料と接着することができず、血管形成用細胞との接着性が低いものとなるのである。ここで、上記水和能とは、水分子と水和する性質をいい、水和能が高いとは、水分子と水和しやすいことをいうこととする。
上記水和能が高く細胞接着阻害材料として用いられる材料としては、例えばポリエチレングリコールや、ベタイン構造等を有する両性イオン材料、リン脂質含有材料等が挙げられる。このような材料を上記細胞接着阻害材料として用いた場合、後述するエネルギー照射工程においてエネルギーが照射された際、光触媒の作用によって、上記細胞接着阻害材料が分解または変質等され、表面の水和層が離れることにより、上記細胞接着阻害性を有しないものとすることができるのである。
また、本態様においては、上記細胞接着阻害材料として、光触媒の作用により分解されるような、撥水性または撥油性の有機置換基を有する界面活性剤も用いることができる。このような界面活性剤としては、例えば、日光ケミカルズ(株)製NIKKOL BL、BC、BO、BBの各シリーズ等の炭化水素系、デュポン社製ZONYL FSN、FSO、旭硝子(株)製サーフロンS−141、145、大日本インキ化学工業(株)製メガファックF−141、144、ネオス(株)製フタージェントF−200、F251、ダイキン工業(株)製ユニダインDS−401、402、スリーエム(株)製フロラードFC−170、176等のフッ素系あるいはシリコーン系の非イオン界面活性剤を挙げることができ、また、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤を用いることもできる。
このような材料を細胞接着阻害材料として用いて細胞接着阻害層を形成した際に、表面に上記細胞接着阻害材料が偏在することとなる。これにより、表面の撥水性や撥油性を高いものとすることができ、血管形成用細胞との相互作用が小さく、血管形成用細胞との接着性が低いものとすることができるのである。また、この層にエネルギー照射工程において、エネルギーが照射された場合には、光触媒の作用によって、容易に分解されて上記光触媒が露出し、上記細胞接着阻害性を有しないものとすることができるのである。
本態様においては、上記細胞接着阻害材料として、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により血管形成用細胞との接着性が良好となるものが用いられることが特に好ましく、このような細胞接着阻害材料としては、例えば撥油性や撥水性を有する材料が挙げられる。
細胞接着阻害材料として、上記撥水性または撥油性を有する材料を用いた場合には、細胞接着阻害材料の撥水性または撥油性によって、血管形成用細胞と細胞接着阻害材料との間における、例えば疎水性相互作用等の相互作用が小さく、血管形成用細胞との接着性を低いものとすることができる。
このような撥水性または撥油性を有する材料としては、例えば骨格が光触媒の作用により分解されないような高い結合エネルギーを有するものであって、光触媒の作用により分解されるような撥水性または撥油性の有機置換基を有するもの等を挙げることができる。
骨格が光触媒の作用により分解されないような高い結合エネルギーを有するものであって、光触媒の作用により分解されるような撥水性または撥油性の有機置換基を有するものとしては、例えば、上述した第1の態様にバインダ等として用いられる(1)ゾルゲル反応等によりクロロまたはアルコキシシラン等を加水分解、重縮合して大きな強度を発揮するオルガノポリシロキサン、(2)反応性シリコーンを架橋したオルガノポリシロキサン等を挙げることができる。
このような物質は、第1の態様においてバインダとして用いられる場合には、上記オルガノポリシロキサン等の側鎖等をエネルギー照射に伴う光触媒の作用により、高い割合で分解または変性させて、超親水性とすることにより、細胞接着阻害性を有する材料として用いられるが、本態様においては、上記オルガノポリシロキサン等の側鎖等は、エネルギー照射に伴う光触媒の作用により完全には分解または変性等されない程度、エネルギーを照射することによって、エネルギーが照射された領域を血管形成用細胞との接着性を有するものとすることができる。また、上記のオルガノポリシロキサン等とともに、ジメチルポリシロキサンのような架橋反応をしない安定なオルガノシリコン化合物を別途混合してもよい。
上記撥水性や撥油性を有する材料を細胞接着阻害材料として用いる場合、通常、水との接触角が80°以上、中でも100°〜130°範囲内である材料を細胞接着阻害材料として用いることが好ましい。これにより、エネルギー照射される前の細胞接着阻害層を、血管形成用細胞との接着性を低いものとすることができるからである。なお、上記角度の上限は、平坦な基材上での細胞接着阻害材料の水との接触角の上限であり、例えば凹凸を有するような基材上での上記細胞接着阻害材料の水との接触角を測定した場合には、例えば、資料ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス、パート2、32巻、L614〜L615、1993年 Ogawaら、に示されるように上限が160°程度となる場合もある。
また、この細胞接着阻害材料にエネルギーを照射し、血管形成用細胞との接着性を有するものとする場合には、水との接触角が10°〜40°、中でも15°〜30°の範囲内とするようにエネルギーが照射されることが好ましい。これにより、エネルギー照射された後の細胞接着阻害層の血管形成用細胞との接着性を高いものとすることができるからである。なお、ここでいう水との接触角は、上述した方法により得られるものである。
このような細胞接着阻害材料は、細胞接着阻害層中に0.01重量%〜95重量%、中でも1重量%〜10重量%の範囲内含有されることが好ましい。これにより、細胞接着阻害材料を含有する領域を血管形成用細胞との接着性が低い領域とすることができるからである。
なお、上記細胞接着阻害材料は、界面活性を有することが好ましい。例えば、上記細胞接着阻害材料を含有する細胞接着阻害層形成用塗工液等を塗布した後、乾燥させる際等に、塗膜表面に偏在する割合が高まり、結果として良好な細胞接着阻害性を得られるからである。
また、本態様の細胞接着阻害層には、例えば層を形成する際の塗工性や、層を形成した際の強度や耐性等、必要とされる特性に合わせてバインダ等が含有されていてもよい。また、上記細胞接着阻害材料が上記バインダとしての機能を果たすものであってもよい。
このようなバインダとしては、例えば主骨格が上記光触媒の作用により分解されないような高い結合エネルギーを有するものを用いることができる。具体的には、有機置換基を有しない、もしくは接着性に影響を与えない程度の有機置換基を有するポリシロキサン等を挙げることができ、これらはテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等を加水分解、重縮合することにより得ることができる。
本態様においては、このようなバインダは、細胞接着阻害層中に5重量%〜95重量%、中でも40重量%〜90重量%、特に60重量%〜80重量%の範囲内含有されることが好ましい。これにより、細胞接着阻害層の形成を容易としたり、細胞接着阻害層に強度を付与する等、特性を発揮することが可能となるからである。
また、本態様においては特に、上記細胞接着阻害層中に、少なくともエネルギー照射された後に、血管形成用細胞と接着性を有する細胞接着材料が含有されることが好ましい。これにより、細胞接着阻害層が、エネルギーが照射された領域である細胞接着部の血管形成用細胞との接着性をより良好なものとすることができるからである。このような細胞接着材料としては、上記バインダとして用いられるものであってもよく、また、バインダと別に使用されるものであってもよい。また例えば、エネルギー照射される前から血管形成用細胞と良好な接着性を有するものであってもよく、エネルギー照射に伴う光触媒の作用によって、血管形成用細胞と良好な接着性を有するものとなるものであってもよい。ここで、上記血管形成用細胞と接着性を有するとは、血管形成用細胞と良好に接着することをいい、血管形成用細胞との接着性が血管形成用細胞の種類によって異なる場合等には、目的とする血管形成用細胞と良好に接着することをいう。
本態様においては、少なくともエネルギー照射された後に、上記細胞接着材料が血管形成用細胞と良好な接着性を有するものであれば、血管形成用細胞との接着が、例えば疎水性相互作用や、静電的相互作用、水素結合、ファンデルワールス力等の物理的相互作用により良好なものとされるものであってもよく、生物学的特性により、良好なものとされるものであってもよい。
本態様においては、このような細胞接着材料は、細胞接着阻害層中に0.01重量%〜95重量%、中でも1重量%〜10重量%の範囲内含有されることが好ましい。これにより、細胞接着阻害層が、エネルギー照射された領域である細胞接着部の血管形成用細胞との接着性をより良好なものとすることができるからである。また、エネルギー照射される前から血管形成用細胞と良好な接着性を有する材料を細胞接着材料として用いる場合には、エネルギー照射されない領域、すなわち細胞接着阻害部となる領域における上記細胞接着阻害材料の細胞接着阻害性を阻害しない程度含有されることが好ましい。
(3)その他
本発明においては、上記の2つの態様に限定されるものではなく、例えば基材上に少なくとも光触媒を含有する光触媒含有層を形成し、その上に上記細胞接着層または細胞接着阻害層を形成し、エネルギー照射を行うことによって、上記細胞接着部および上記細胞接着阻害部を形成した血管細胞培養基板としてもよい。また、例えば上記細胞接着材料または細胞接着阻害材料を光触媒と混合した層を形成し、この層にエネルギーを照射することによって、上記細胞接着部および上記細胞接着阻害部を形成した血管細胞培養基板としてもよい。なおこれらの血管細胞培養基板に用いられる光触媒や、細胞接着層、細胞接着阻害層、細胞接着材料、細胞接着阻害材料等については、上述した2つの態様と同様とすることができるので、ここでの詳しい説明は省略する。
<細胞>
次に、本発明に用いられる細胞について説明する。本発明に用いられる細胞としては、上記血管から酸素や栄養分等の供給を受けて活性となり、人工組織を構成することが可能なものであれば、特に限定されるものではなく、例えば肝実質細胞、ランゲルハンス島細胞等の代謝機能を有する細胞種、あるいは脳細胞や神経細胞等、情報伝達系の細胞種等が挙げられる。なお、上記血管含有組織層に用いられる上記細胞としては、1種類に限定されるものではなく、複数種類の細胞を組み合わせて用いられるものであってもよい。
このような細胞を、上記血管間に配置する方法としては、上述したように、例えば培地等の上に上記血管を、隣接する血管の距離が上記栄養供給可能距離となるように配置し、上記血管間の培地に上記細胞を播種し、培養をして組織化させる方法が挙げられる。また、上記細胞を、上記血管とは別に、培地上で培養して組織化させ、シート状等としたものを、上記栄養供給可能距離に配置された上記血管上に配置する方法等とすることもできる。
なお、上記細胞を培養する培地等は、目的とする細胞により適宜選択されるものであり、一般的な細胞の培養に用いられるものを用いることができるので、ここでの詳しい説明は省略する。
2.人工組織
次に、本発明の人工組織について説明する。本発明の人工組織は、上記血管含有組織層を有するものであれば、特に限定されるものではなく、上記血管含有組織層が1層のみからなるものであってもよく、また2層以上積層されたものとしてもよい。2層以上重ねることにより、立体的に上記血管や細胞を配置することができ、より複雑な構造の人工組織とすることができるからである。
上記血管含有組織層が積層される場合、積層される層数としては、目的とする人工組織の種類や大きさ等によって、大きく異なるものであるが、通常2層〜100層程度、中でも2層〜10層程度とされる。
なお、本発明における上記人工組織には、上述した血管や細胞以外にも、必要に応じて適宜他の部材を有していてもよい。
ここで、本発明の人工組織としては、例えば人工肝臓、人工膵臓、人工神経回路、人工網膜等とすることができる。
B.人工組織の製造方法
次に、本発明の人工組織の製造方法について説明する。本発明の人工組織の製造方法は、少なくとも2本の隣り合う血管と、上記血管間に配置された細胞とを有する血管含有組織層を有する人工組織の製造方法であって、
2本の隣り合う血管を、上記細胞が壊死しないような栄養供給可能距離に配置する血管配置工程と、
上記細胞を含有する細胞含有層と、上記血管とを接触させる細胞接触工程と
を有するものである。ここで、上記栄養供給可能距離とは、上述した「A.人工組織」で説明した栄養供給可能距離と同様である。
本発明によれば、上記血管配置工程において、血管を上記栄養供給可能距離に配置することから、血管を通じて細胞接触工程により接触された細胞に栄養を供給することが可能となる。したがって、形成された人工組織中で細胞が壊死等することがなく、例えば臓器等としても用いることが可能な種々の人工組織とすることができる。
以下、本発明の人工組織の製造方法の各工程について説明する。
1.血管配置工程
まず、本発明の人工組織の製造方法の血管配置工程について説明する。本発明における血管配置工程は、少なくとも2本の隣り合う血管を、上記細胞が壊死しないような栄養供給可能距離に配置する工程である。
ここで、血管を配置する方法としては、同一基板上で隣接する2本の血管間の距離が、上記栄養供給可能距離となるように、血管を形成することが可能であれば、その基板上で形成された血管をそのまま用いることが可能である。しかしながら、一般的には上述したように、隣接する血管を近い距離で形成することが困難である。したがって、本工程は、少なくとも2本の血管を、上記栄養供給可能距離以上の間隙をあけて形成し、その後上記栄養供給可能距離に配置する工程であることが好ましい。
このような距離に上記血管を配置する方法としては、例えば上記血管を、上記栄養供給可能距離以上に間隙を開けて血管細胞培養基板上で形成し、形成された血管を血管細胞培養基板から取り外し、上記栄養供給可能距離に配置する方法が挙げられる。
また、例えば上記血管を、上記栄養供給可能距離以上に間隙を開けて血管細胞培養基板上で形成し、隣接する血管間の血管細胞培養基板の一部を除去する方法も挙げられる。この場合、例えば血管形成後、血管細胞培養基板の一部を切断する方法としてもよいが、例えば上記血管を複数のプレートからなる血管細胞培養基板上で形成し、血管を形成した後、隣接する血管間のプレートを取り外す方法等とすることもできる。
またさらに、伸縮性を有する血管細胞培養基板を伸ばしておき、その血管細胞培養基板上に上記栄養供給可能距離以上に間隙を開けて血管細胞培養基板上で形成した後、血管細胞培養基板を縮めることにより、血管を上記栄養供給可能距離に配置する方法も用いることができる。この際、用いられる血管細胞培養基板としては、例えばシリコンゴムや、その表面処理品等が挙げられる。
また、本発明においては、後述する細胞接触工程後、血管配置工程を行うことも可能である。この場合、例えば上記栄養供給可能距離以上に間隙を開けて、少なくとも2本の血管を血管細胞培養基板上で形成し、形成された血管と細胞とを接触させる細胞接触工程を行う。その後、血管に血液等を流し、上記血管間で血管から供給される栄養や酸素が届かず、細胞が壊死した部分の細胞を除去することにより、上記血管を栄養供給可能距離に配置することができる。
なお、上記血管を形成する方法としては、上述したように、例えば基材上に細胞と接着性を有し、かつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性される細胞接着材料を含有する細胞接着層、または細胞と接着することを阻害する細胞接着阻害性を有し、かつエネルギー照射に伴う光触媒の作用により分解または変性される細胞接着阻害材料を含有する細胞接着阻害層を形成し、パターン状にエネルギー照射に伴う光触媒の作用を及ぼすことによって、血管形成用細胞を培養するパターンのみ細胞接着性を有するものとする方法を用いることが好ましい。この方法によれば、血管形成用細胞を培養する領域以外の領域は、細胞接着阻害性を有するものとすることができ、容易に目的とするパターン状に血管形成用細胞を形成することが可能となるからである。またさらに、細胞接着性を有する領域と細胞接着阻害性を有する領域との間で、上記血管形成用細胞が刺激を受け、組織を形成するための細胞の形態変化等が容易に生じるものとすることができ、血管を容易に形成することが可能となるからである。この場合、上記細胞接着層または細胞接着阻害層を有する基板が、上記血管細胞培養基板として用いられる。
なお、本工程に用いられる血管の材料や、血管細胞培養基板等については、上述した「A.人工組織」の血管の項で説明したものと同様とすることができるので、ここでの詳しい説明は省略する。
2.細胞接触工程
次に、本発明の細胞接触工程について説明する。本発明の細胞接触工程は、上記細胞を含有する細胞含有層と、上記血管とを接触させる工程である。
このような細胞を、上記血管と接触させる方法としては、例えば細胞を培養可能な培地上に上記血管を、隣接する血管の距離が上記栄養供給可能距離となるように配置し、その後、上記血管間の培地上に細胞を播種、培養する方法が挙げられる。この際、例えば上記血管を形成した培地をそのまま利用してもよい。また上記血管が、細胞と接着阻害性を有する細胞接着阻害層にエネルギー照射に伴う光触媒の作用を及ぼして細胞との接着性が良好な領域を形成し、この表面の細胞の接着性の差を利用して形成されたものである場合には、細胞を播種する際、再度細胞接着阻害層にエネルギー照射に伴う光触媒の作用を及ぼし、血管間の領域の細胞との接着性を良好なものとして、細胞を培養してもよい。
また、上記細胞を、血管とは別に、培地等の上で培養し、細胞組織がシート状等とされたものを、上記栄養供給可能距離に配置された上記血管上に配置し、血管と細胞とを接触させてもよい。また、例えば上記シート状等とされた細胞上に、上記血管を、隣接する血管間の距離が上記栄養供給可能距離となるように配置し、細胞を接触させてもよい。この場合、上記細胞接触工程と上記血管配置工程とが同時に行われることとなる。
ここで、本工程で用いられる細胞等については、上述した「A.人工組織」の細胞の項で説明したものと同様であるので、ここでの詳しい説明は省略する。
3.その他
本発明においては、上述した血管配置工程および細胞接触工程を行うことにより形成される血管含有組織を、積層する工程等、必要な工程を適宜有していてもよい。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
<実施例1>
(遮光層を有する血管細胞培養用基板の形成)
細胞接着部としてガラス部40μm、細胞接着阻害部として金属遮光部300μmのストライプパターンを有する石英フォトマスクを作成した。
次に、イソプロピルアルコール30gとトリメトキシメチルシランTSL8114(GE東芝シリコーン)4gとフルオロアルキルシランTSL-8233(GE東芝シリコーン)1gと光触媒無機コーティング剤ST-K03(石原産業)15gとを混合し、100℃で20分間攪拌した。これをイソプロピルアルコールにより10倍希釈し、光触媒含有血管細胞接着層用組成物とした。
前記光触媒含有血管細胞接着層用組成物を、フォトマスク基板の遮光層裏面にスピンコーターにより塗布し、150℃で10分間の乾燥処理を行うことにより、光触媒を含有する透明な光触媒含有血管細胞接着層を有する血管細胞培養基板を形成した。
(基板のパターニング)
この血管細胞培養基板の遮光層面側から水銀ランプにより6J/cmのエネルギー量で紫外線露光を行い、未露光部が血管細胞接着阻害性で露光部が血管細胞接着性にパターン化された細胞接着性表面を有する血管細胞パターニング培養基板を得た。
(血管細胞の播種、組織化)
10%ウシ胎児血清を加えたDMEM培地中に基板を浸漬し、ラット静脈内皮細胞を播種した。37℃、5%二酸化炭素環境下で24時間培養し、血管細胞を細胞接着部に接着した。
基板に接着した血管細胞を観察し、血管細胞が細胞接着分中全領域に沿う方向に配向し、更に伸展形状を示すこと、細胞接着部間に擬足の接触が無い事を確認した。更にDMEM培地を、bFGF(シグマ社) 10ng/mlの濃度で加えたものに交換、37℃、5%二酸化炭素環境下で24時間培養を継続し、血管細胞が連続した再生血管組織を形成したことを確認した。
(組織評価)
コラーゲンType Iスポンジ(日本ハム社)を予め培地で膨潤させ、ラット肝実質細胞を播種後、24時間培養し、肝実質細胞をスポンジに固定した。この肝細胞播種スポンジの上下面に対し、上記再生血管を有する血管細胞培養用パターニング基板の再生血管面との接触させ、樹脂容器内に密封した。密封した細胞組織に対し、再生血管に酸素分圧を調整した培地を1時間循環させ、密封状態を解き、肝実質細胞を観察したところ、細胞の生存が確認された。
<比較例1>
実施例1と同様の実験を、フォトマスクを細胞接着部40μm/細胞接着阻害部1000μmのストライプパターンに交換し行った。その結果、形成させた擬似細胞組織内の肝実質細胞が死滅している事が確認された。
<比較例2>
実施例1と同じ手順でフォトマスクを細胞接着部40μm/細胞接着阻害部150μmのストライプパターンに交換し血管細胞培養用基板を作成し、更に同様の手順でラット静脈内皮細胞を播種したところ、血管内皮細胞はパターニングされたが、隣接するライン間に擬足の形成が確認された。
更にDMEM培地を、bFGF(シグマ社) 10ng/mlの濃度で加えたものに交換、37℃,5%二酸化炭素環境下で24時間培養を継続し観察したところ、隣接した再生血管組織が癒着していた。
<実施例2>
(光触媒含有層を有するフォトマスクの形成)
細胞接着部として金属遮光部40μm、細胞接着阻害部としてガラス部1000μmのストライプパターンを有する石英フォトマスクを作成した。
トリメトキシメチルシランTSL8114(GE東芝シリコーン)5gと0.5規定塩酸2.5gとを混合し、8時間攪拌した。これをイソプロピルアルコールにより10倍に希釈し、プライマー層用組成物とした。上記プライマー層用組成物をフォトマスクのパターン面上にスピンコーティング法により塗布し、その基板を150℃の温度で10分間乾燥することにより、プライマー層を有するフォトマスクを得た。
次に、イソプロピルアルコール30gとトリメトキシメチルシランTSL8114(GE東芝シリコーン)3gと光触媒無機コーティング剤ST-K03(石原産業)20gとを混合し、100℃で20分間攪拌した。これをイソプロピルアルコールにより3倍希釈し、光触媒含有層用組成物とした。
前記光触媒含有層用組成物を、プライマー層が形成されたフォトマスク基板上にスピンコーターにより塗布し、150℃で10分間の乾燥処理を行うことにより、透明な光触媒含有層を有するフォトマスクを形成した。
(血管細胞接着層を有する血管細胞培養用パターニング基板の作成)
オルガノシランTSL-8114(GE東芝シリコーン)5.0g、アルキルシランLS-5258(信越化学)0.7g、および0.005N塩酸2.36gを混合し、24時間攪拌した。
この溶液をイソプロピルアルコールで100倍希釈の上、スピンコーティング法により予めアルカリ処理をしたソーダガラス基板に塗布し、その基板を150℃の温度で10分間乾燥することにより、加水分解、重縮合反応を進行させ、膜厚0.2μmの血管細胞接着性材料層を有する血管細胞培養用基板を得た。
(血管細胞培養用基板のパターニング)
上記血管細胞培養用基板の血管細胞接着性材料層と前述の光触媒含有層を有するフォトマスクの光触媒含有層を対向させ、フォトマスク越しに水銀ランプにより6J/cm2のエネルギー量で紫外線露光を行い、露光部が血管細胞接着阻害性で未露光部が血管細胞接着性にパターン化された血管細胞接着性表面を有する血管細胞培養基板を得た。
(血管細胞の播種、組織化)
実施例1と同様の手順で基板に対し血管細胞を播種した。血管細胞培養用基板に接着した血管細胞を観察し、血管細胞が細胞培養領域中全領域に沿う方向に配向し、更に伸展形状を示す事、細胞接着部間に擬足の接触が無い事を確認した。
更に実施例1と同様の手順で細胞の組織化を行い、細胞が連続した再生血管組織を形成した事を確認した。
(血管細胞培養基板の一部除去)
血管の形成された基板の血管と血管の間にある細胞接着阻害部を阻害部の中央部から幅700μm除去した後、血管の形成された基板を並べなおし血管間距離を1000μmから300μmに縮めた。
(組織の評価)
実施例1と同様の組織評価実験を行い、肝実質細胞が壊死しないことを確認した。
<比較例3>
実施例2と同様の手順で細胞の播種、組織化までを行った。次に基板スペース部の除去工程を行わず、基板上の血管間距離を1000μmのまま組織の評価を行った結果、肝実質細胞の壊死が確認された。
<実施例3>
(遮光層を有する血管細胞培養用基板の形成および基板のパターニング)
細胞接着部としてガラス部70μm、細胞接着阻害部として金属遮光部300μmのストライプパターンを有する石英フォトマスクを作成した。続いて、上記石英フォトマスクを用いた以外は、実施例1と同様にして血管細胞培養用基板を形成した。その後、実施例1と同様に血管細胞培養用基板のパターニングを行い、血管細胞パターニング培養基板を得た。
(血管細胞パターニング培養基板の表面処理)
コラーゲンコート用のタイプIコラーゲン(新田ゼラチン、TypeI−C)をpH3の酸性溶液で20倍量に希釈した溶液を調製した。この溶液に上記血管細胞パターニング培養基板を、ストライプパターンの方向に沿って浸漬し、次いで、ゆっくりと垂直に引き上げた。この操作により、上記血管細胞パターニング培養基板の細胞接着部にのみ、コラーゲン溶液のラインが形成された。それ以外の部分には、接着阻害部の撥水性のためにコラーゲン溶液が付かなかった。この血管細胞パターニング培養基板を室温で乾燥させ、細胞接着部のみがコラーゲンコートされた血管細胞パターニング培養基板を作成した。
(血管細胞の播種、組織化)
10%ウシ胎児血清を加えたDMEM培地中に上記血管細胞パターニング培養基板を浸漬し、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を播種した。37℃、5%二酸化炭素環境下で36時間培養し、HUVECを細胞接着部に接着した。HUVECが細胞接着部中全領域に沿う方向に配向し、更に伸展形状を示すこと、細胞接着部間に擬足の接触がないことを確認した。更にDMEM培地を、bFGF(シグマ社)10ng/mlの濃度で加えたものに交換し、37℃、5%二酸化炭素環境下で48時間培養を継続し、HUVECが連続した再生血管組織を形成したことを確認した。
(組織の評価)
実施例1と同様の組織評価実験を行い、肝実質細胞が壊死しないことを確認した。
<実施例4>
(遮光層を有する血管細胞培養用基板の形成および基板のパターニング)
細胞接着部としてガラス部150μm、細胞接着阻害部として金属遮光部300μmのストライプパターンを有する石英フォトマスクを作成した。続いて、上記石英フォトマスクを用いた以外は、実施例1と同様にして血管細胞培養用基板を形成した。その後、実施例1と同様に血管細胞培養用基板のパターニングを行い、血管細胞パターニング培養基板を得た。
(血管細胞パターニング培養基板の表面処理)
実施例3と同様の処理を行い、細胞接着部のみがコラーゲンコートされた血管細胞パターニング培養基板を作成した。
(血管細胞の播種、組織化)
10%ウシ胎児血清を加えたDMEM培地が入っている培養皿中に血管細胞パターニング培養基板を浸漬し、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を播種した。この培養皿をインキュベータ内に設置された振とう機上に振とう方向が基板のストライプ方向と一致するように配置した。37℃、5%二酸化炭素環境下で36時間培養し、HUVECを細胞接着部に接着した。この培養期間中、培養皿をゆっくりと振とうし続けた。顕微鏡により、HUVECが細胞接着部中全領域に沿う方向に配向し、更に伸展形状を示すこと、細胞接着部間に擬足の接触がないことを確認した。更にDMEM培地を、bFGF(シグマ社)10ng/mlの濃度で加えたものに交換し、37℃、5%二酸化炭素環境下で48時間培養を継続し、HUVECが連続した再生血管組織を形成したことを確認した。
(組織評価)
実施例1と同様の組織評価実験を行い、肝実質細胞が壊死しないことを確認した。
<実施例5>
(遮光層を有する血管細胞培養用基板の形成および基板のパターニング)
細胞接着部としてガラス部70μm、金属遮光部5μm、ガラス部70μm、金属遮光部5μm、ガラス部70μmの細胞接着補助部を有する合計幅220μmのストライプパターン、細胞接着阻害部として金属遮光部300μmのストライプパターンを有する石英フォトマスクを作成した。続いて、上記石英フォトマスクを用いた以外は、実施例1と同様にして血管細胞培養用基板を形成した。その後、実施例1と同様に血管細胞培養用基板のパターニングを行い、血管細胞パターニング培養基板を得た。
(血管細胞の播種、組織化)
上記血管細胞パターニング培養基板上に、ラット静脈内皮細胞を実施例4と同様の培養条件で培養し、再生血管組織を形成したことを確認した。ただし、培養時間は実施例1と同様とした。
(組織評価)
実施例1と同様の組織評価実験を行い、肝実質細胞が壊死しないことを確認した。

Claims (5)

  1. 少なくとも2本の隣り合う血管と、前記血管間に配置された細胞とを有する血管含有組織層を含む人工組織であって、
    前記血管含有組織層内の、前記2本の隣り合う血管の間隙が、前記細胞が壊死しないような栄養供給可能距離に形成されていることを特徴とする人工組織。
  2. 前記血管含有組織層が少なくとも2層以上積層されていることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の人工組織。
  3. 少なくとも2本の隣り合う血管と、前記血管間に配置された細胞とを有する血管含有組織層を有する人工組織の製造方法であって、
    前記2本の隣り合う血管を、前記細胞が壊死しないような栄養供給可能距離に配置する血管配置工程と、
    前記細胞を含有する細胞含有層と、前記血管とを接触させる細胞接触工程と
    を有することを特徴とする人工組織の製造方法。
  4. 前記血管配置工程が、前記栄養供給可能距離より広い距離を有するように血管細胞培養基板上に少なくとも2本以上の前記血管を形成し、前記血管間位置する前記血管細胞培養基板の一部を除去する工程であることを特徴とする請求の範囲第3項に記載の人工組織の製造方法。
  5. 前記血管配置工程が、伸縮性を有する血管細胞培養基板上に前記血管細胞培養基板を引き伸ばした状態で少なくとも2本以上の前記血管を形成し、前記血管間の距離を縮めるように、前記血管細胞培養基板を縮める工程であることを特徴とする請求の範囲第3項に記載の人工組織の製造方法。

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