JPWO2004031386A1 - アトピー性皮膚炎の検査方法 - Google Patents
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Abstract
アトピー性皮膚炎患者および乾癬患者において、皮疹部と無疹部の間で発現レベルに差が見られる遺伝子を見出した。またこれらの疾患の無疹部と健常者の間で発現レベルに差が見られる遺伝子を見出した。そしてこれらの遺伝子が、アトピー性皮膚炎あるいは乾癬の検査や治療薬のスクリーニングにおいて指標として有用であることを明らかにした。すなわち本発明は、こうして見出された指標遺伝子の発現レベルの比較に基づく、アトピー性皮膚炎または乾癬の検査方法、およびこれらの疾患の治療のための化合物のスクリーニング方法を提供する。
Description
本発明は、アトピー性皮膚炎の検査方法に関する。
アトピー性皮膚炎等のアレルギー性疾患は、多因子性の病気(multifactorial diseases)と考えられている。これらの病気は多くの異なる遺伝子の発現の相互作用によって起こり、これらの個々の遺伝子の発現は、複数の環境要因によって影響を受ける。このため、特定の病気を起こす特定の遺伝子を解明することは、非常に困難である。
またアレルギー性疾患には、変異や欠陥を有する遺伝子の発現や、特定の遺伝子の過剰発現や発現量の減少が関わっていると考えられている。病気に関して遺伝子発現が果たしている役割を解明するためには、遺伝子が発症にどのように関わり、薬剤などの外的な刺激が遺伝子発現をどのように変化させるのかを理解する必要がある。
さて、現在アレルギー性疾患の診断においては、一般に、問診、家族歴、そして本人の既往症の確認が重要な要素となっている。またアレルギーをより客観的な情報に基づいて診断するために、血液を試料とする試験方法や、アレルゲンに対する患者の免疫学的な応答を観察する方法も実施されている。前者の例として、アレルゲン特異的IgE測定、白血球ヒスタミン遊離試験、あるいはリンパ球幼若化試験等が挙げられる。アレルゲン特異的IgEの存在は、そのアレルゲンに対するアレルギー反応の証明である。しかし患者によっては、必ずしもアレルゲン特異的なIgEを検出できるとは限らない場合もある。また、その測定原理上、診断に必要なアレルゲンの全てに対して、試験を実施しなければならない。白血球ヒスタミン遊離試験やリンパ球幼若化試験は、免疫システムのアレルゲンに対する反応をin vitroで観察する方法である。これらの方法は、操作が煩雑である。
一方、患者を実際にアレルゲンに接触させたときに観察される免疫応答をアレルギーの診断に役立てる方法(後者)も公知である。プリック・テスト、スクラッチ・テスト、パッチ・テスト、皮内反応、あるいは誘発試験等が、この種の試験に含まれる。これらの試験では、患者のアレルギー反応を直接診断することができる反面、実際に被検者をアレルゲンに曝露する侵襲を伴う検査であると言うことができる。
この他、アレルゲンに関わらず、アレルギー反応の関与を証明するための試験方法も試みられている。たとえば、血清IgE値が高値である場合、その患者にはアレルギー反応が起きていると推定することができる。血清IgE値は、アレルゲン特異IgEの総量に相当する情報である。アレルゲンの種類に関わらずIgEの総量を決定することは容易であるが、非アトピー型気管支炎喘息等の疾患を持つ患者では、IgEが低値となる場合がある。
従って、アレルゲンに関わらず、アレルギー患者の病態の把握や治療方針の決定に役立てることができる診断指標が求められていた。さらに、患者に対する侵襲が小さく、しかも診断に必要な情報を容易に得ることができるアレルギー性疾患のマーカーが提供されれば有用である。このようなマーカーは、アレルギー性疾患の発症に深く関与していると考えられるので、診断のみならず、アレルギー症状のコントロールにおいても、重要な標的となる可能性がある。
またアレルギー性疾患には、変異や欠陥を有する遺伝子の発現や、特定の遺伝子の過剰発現や発現量の減少が関わっていると考えられている。病気に関して遺伝子発現が果たしている役割を解明するためには、遺伝子が発症にどのように関わり、薬剤などの外的な刺激が遺伝子発現をどのように変化させるのかを理解する必要がある。
さて、現在アレルギー性疾患の診断においては、一般に、問診、家族歴、そして本人の既往症の確認が重要な要素となっている。またアレルギーをより客観的な情報に基づいて診断するために、血液を試料とする試験方法や、アレルゲンに対する患者の免疫学的な応答を観察する方法も実施されている。前者の例として、アレルゲン特異的IgE測定、白血球ヒスタミン遊離試験、あるいはリンパ球幼若化試験等が挙げられる。アレルゲン特異的IgEの存在は、そのアレルゲンに対するアレルギー反応の証明である。しかし患者によっては、必ずしもアレルゲン特異的なIgEを検出できるとは限らない場合もある。また、その測定原理上、診断に必要なアレルゲンの全てに対して、試験を実施しなければならない。白血球ヒスタミン遊離試験やリンパ球幼若化試験は、免疫システムのアレルゲンに対する反応をin vitroで観察する方法である。これらの方法は、操作が煩雑である。
一方、患者を実際にアレルゲンに接触させたときに観察される免疫応答をアレルギーの診断に役立てる方法(後者)も公知である。プリック・テスト、スクラッチ・テスト、パッチ・テスト、皮内反応、あるいは誘発試験等が、この種の試験に含まれる。これらの試験では、患者のアレルギー反応を直接診断することができる反面、実際に被検者をアレルゲンに曝露する侵襲を伴う検査であると言うことができる。
この他、アレルゲンに関わらず、アレルギー反応の関与を証明するための試験方法も試みられている。たとえば、血清IgE値が高値である場合、その患者にはアレルギー反応が起きていると推定することができる。血清IgE値は、アレルゲン特異IgEの総量に相当する情報である。アレルゲンの種類に関わらずIgEの総量を決定することは容易であるが、非アトピー型気管支炎喘息等の疾患を持つ患者では、IgEが低値となる場合がある。
従って、アレルゲンに関わらず、アレルギー患者の病態の把握や治療方針の決定に役立てることができる診断指標が求められていた。さらに、患者に対する侵襲が小さく、しかも診断に必要な情報を容易に得ることができるアレルギー性疾患のマーカーが提供されれば有用である。このようなマーカーは、アレルギー性疾患の発症に深く関与していると考えられるので、診断のみならず、アレルギー症状のコントロールにおいても、重要な標的となる可能性がある。
本発明はこのような状況に鑑みて為されたものであり、その目的は、アトピー性皮膚炎の検査を可能とする新しい指標を提供することにある。さらに本発明は、該指標に基づくアトピー性皮膚炎の検査方法、およびアトピー性皮膚炎治療薬候補化合物のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行った。すなわち、アトピー性皮膚炎患者の皮疹部と同一の患者における無疹部、およびアトピー性皮膚炎患者の無疹部と健常者の皮膚との間で発現レベルに差が見られる遺伝子を明らかにし、アトピー性皮膚炎反応との関連性を明らかにすることにより、アトピー性皮膚炎治療の新たな標的を見出すことができると考えた。
このような考えに基づき、本発明者らは、アトピー性皮膚炎患者の皮疹部と同一の患者における無疹部、およびアトピー性皮膚炎患者の無疹部と健常者の皮膚との間で発現状態の違う遺伝子を探索した。遺伝子の発現状態を比較する生体試料としては、被検者の皮膚組織を選択した。実際に炎症が起きている皮膚組織検体には病態形成に重要なリンパ球などが多く浸潤しており、皮膚局所における遺伝子発現解析を行えばアトピー性皮膚炎の病態の解明につながると考えられる。
本発明者らは、アトピー性皮膚炎患者の皮疹部と同一の患者における無疹部並びに健常者の皮膚で発現している遺伝子について、ジーンチップを用いて発現プロファイルを比較した。2倍以上の発現変動のあった遺伝子を選別し、遺伝子の発現レベルを測定した。そして、以下のa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択された指標遺伝子の発現が変動していることを確認した。更に本発明者らは、これらの指標遺伝子のマウスカウンターパートについて、マウス皮膚炎モデルにおける発現レベルを解析し、マウスの皮膚炎に関連する指標遺伝子としてA)〜D)のいずれかの群に記載の指標遺伝子を選択した。
a)〜d)、並びにc’)およびd’)、そしてA)〜D)のいずれかに記載した各指標遺伝子の塩基配列は既知である。a)〜d)の各指標遺伝子によってコードされる蛋白質の機能は、後に記載するデータ1〜データ4のReferenceの項に示した論文に記載されている。加えて、c’)およびd’)の各指標遺伝子によってコードされる蛋白質の機能は、後に記載するデータ7およびデータ8のReferenceの項に示した論文に記載されている。またA)およびB)の各指標遺伝子によってコードされる蛋白質の機能は、データ5およびデータ6の、そしてC)およびD)の各指標遺伝子によってコードされる蛋白質の機能は、データ13およびデータ14のReferenceの項に示した論文にそれぞれ記載されている。あるいは本発明による乾癬の検査方法における乾癬指標遺伝子i)〜iv)の塩基配列、および該指標遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は公知である。本発明の各指標遺伝子の公知の塩基配列のGenBankアクセション番号は、下記データ9〜データ12(ヒト)に記載したとおりである。更にi)〜iv)の各指標遺伝子によってコードされる蛋白質の機能は、後に記載するデータ9〜データ12のReferenceの項に示した論文に記載されている。これらの遺伝子群の中にはアトピー性皮膚炎との直接的な関連性について報告されている遺伝子もあるが、多くの遺伝子についてはアレルギー性疾患との関連を示す報告はない。また、アトピー性皮膚炎との関連性が報告されている遺伝子についても、同じタイミングで共発現変動する他の遺伝子との組み合わせという観点では報告はない。同様に乾癬の指標遺伝子についても、その検査や治療剤のスクリーニングの指標として有用であることは報告されていない。
アトピー性皮膚炎患者の皮疹部と同一の患者における無疹部、およびアトピー性皮膚炎患者の無疹部と健常者との間において、指標遺伝子の発現レベルに変動が観察されたという事実は、本発明の指標遺伝子とアトピー性皮膚炎症状との深い結びつきを表している。また、ダニアレルゲン感作マウスの耳介皮膚とダニアレルゲン非感作マウスの耳介皮膚において、上記指標遺伝子のマウスにおけるカウンターパートの発現レベルに差が見られることも、本発明の指標遺伝子とアトピー性皮膚炎症状との結びつきを裏付けている。
更に本発明者らは、このようにして選択された各遺伝子について、乾癬患者における発現レベルとの比較を試みた。その結果、アトピー性皮膚炎患者および乾癬患者において、特異的に発現レベルが変化している遺伝子群、ならびに両方の患者で共通して発現レベルが変化している遺伝子群とを明らかにした。各疾患に固有の変化が見られる遺伝子群には、各疾患に特異的な診断指標や治療方法の標的遺伝子としての有用性が期待できる。一方、両方の疾患において共通して発現レベルが変化する遺伝子群は、皮膚炎症性疾患に共通の診断指標や治療方法の標的遺伝子としての有用性が期待できる。
以上の知見に基づいて、本発明者らは、各指標遺伝子の発現レベル、あるいは各指標遺伝子によってコードされる蛋白質の活性を指標とすることにより、アトピー性皮膚炎あるいは乾癬の診断、および該疾患のための治療薬のスクリーニングが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は、以下のアトピー性皮膚炎の検査方法、並びにアトピー性皮膚炎治療薬候補化合物のスクリーニング方法に関する。
〔1〕次の工程(1)〜(3)を含む、アトピー性皮膚炎の検査方法であって、指標遺伝子が次のa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である方法。
(1)被検者の皮疹部および/または無疹部から採取された生体試料における指標遺伝子の発現レベルを測定する工程
(2)工程(1)で測定された発現レベルを、指標遺伝子がa)またはb)に記載された遺伝子である場合には、対照として同じ被検者の無疹部から採取された生体試料における指標遺伝子の発現レベルと、また指標遺伝子がc)、c’)、d)、およびd’)のいずれかに記載された遺伝子である場合には、対照として健常者の生体試料における指標遺伝子の発現レベルと比較する工程、および
(3)工程(2)の比較の結果、指標遺伝子がa)、c)およびc’)に記載された遺伝子の場合には対照と比較して発現レベルが高い場合に、また指標遺伝子がb)、d)およびd’)に記載された遺伝子の場合には対照と比較して発現レベルが低い場合に、前記被検者はアトピー性皮膚炎を有すると判定する工程
〔10〕遺伝子の発現レベルを、cDNAのPCRによって測定する〔1〕に記載の検査方法。
〔11〕遺伝子の発現レベルを、指標遺伝子によってコードされる蛋白質の検出によって測定する〔1〕に記載の検査方法。
〔12〕指標遺伝子の塩基配列を含むポリヌクレオチド、またはその相補鎖に相補的な塩基配列を有する少なくとも15塩基の長さを有するオリゴヌクレオチドからなる、アトピー性皮膚炎検査用試薬であって、指標遺伝子が〔1〕におけるa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるアトピー性皮膚炎検査用試薬。
〔13〕指標遺伝子によってコードされる蛋白質のアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体からなる、アトピー性皮膚炎検査用試薬であって、指標遺伝子が〔1〕におけるa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるアトピー性皮膚炎検査用試薬。
〔14〕次の工程を含む、アトピー性皮膚炎の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が〔1〕におけるa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるスクリーニング方法。
(1)指標遺伝子を発現する細胞に候補化合物を接触させる工程、
(2)前記遺伝子の発現レベルを測定する工程、
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、およびc’)群のいずれかの指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またb)群、d)群、およびd’)群のいずれかの指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程
〔15〕細胞が株化皮膚細胞である〔14〕に記載の方法。
〔16〕指標遺伝子の塩基配列を含むポリヌクレオチド、またはその相補鎖に相補的な塩基配列を有する少なくとも15塩基の長さを有するオリゴヌクレオチドと、指標遺伝子を発現する細胞を含む、アトピー性皮膚炎の治療薬候補化合物をスクリーニングするためのキットであって、指標遺伝子が〔1〕におけるa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるキット。
〔17〕指標遺伝子によってコードされる蛋白質のアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体と、指標遺伝子を発現する細胞を含む、アトピー性皮膚炎の治療薬候補化合物をスクリーニングするためのキットであって、指標遺伝子が〔1〕におけるa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるキット。
〔18〕指標遺伝子または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の皮膚における発現強度を上昇させたトランスジェニック非ヒト脊椎動物からなるアトピー性皮膚炎モデル動物であって、指標遺伝子が〔1〕におけるa)、c)、およびc’)、並びに以下のA)またはC)に記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるモデル動物。
〔19〕非ヒト脊椎動物がマウスである〔18〕に記載のモデル動物。
〔20〕指標遺伝子または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の皮膚における発現強度を低下させたトランスジェニック非ヒト脊椎動物からなるアトピー性皮膚炎モデル動物であって、指標遺伝子が〔1〕におけるb)、d)、およびd’)、並びに以下のB)またはD)に記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるモデル動物。
〔21〕非ヒト脊椎動物がマウスである〔20〕に記載のモデル動物。
〔22〕次のi)−iv)のいずれかに記載の成分をマウスに投与する工程を含む、アレルギー性皮膚炎モデル動物の製造方法。
i)〔18〕におけるA)およびC)に記載の遺伝子群から選択されたいずれかの遺伝子を構成する塩基配列を含むポリヌクレオチド、
ii)〔18〕におけるA)およびC)に記載の遺伝子群から選択されたいずれかの遺伝子を構成する塩基配列を含むポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質
iii)〔20〕におけるB)およびD)に記載の遺伝子群から選択されたいずれかの遺伝子を構成する塩基配列を含むポリヌクレオチドのアンチセンスまたはRNAi
iv)〔20〕におけるB)およびD)に記載の遺伝子群から選択されたいずれかの遺伝子を構成する塩基配列を含むポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質に結合する抗体、またはその抗原結合領域を含む断片
〔23〕〔22〕におけるi)−iv)のいずれかに記載の成分を有効成分として含む、マウスにアレルギー性皮膚炎を誘導するための誘導剤。
〔24〕次の工程を含む、アトピー性皮膚炎の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が〔1〕におけるa)〜d)、〔1〕におけるc’)およびd’)、〔18〕におけるA)およびC)、および〔20〕におけるB)およびD)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子、または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子であるスクリーニング方法。
(1)被験動物に候補化合物を投与する工程、
(2)前記被験動物の生体試料における指標遺伝子の発現強度を測定する工程、
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、c’)群、A)群、並びにC)群の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またb)群、d)群、d’)群、B)群、並びにD)群の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程、
〔25〕次の工程を含む、アトピー性皮膚炎の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が〔1〕におけるa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子、または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子であるスクリーニング方法。
(1)指標遺伝子の転写調節領域と、この転写調節領域の制御下に発現するレポーター遺伝子とを含むベクターを導入した細胞と候補化合物を接触させる工程、
(2)前記レポーター遺伝子の活性を測定する工程、および
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、およびc’)群のいずれかの指標遺伝子については前記レポーター遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またb)群、d)群、およびd’)群のいずれかの指標遺伝子については前記レポーター遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程、
〔26〕次の工程を含む、アトピー性皮膚炎の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が〔1〕におけるa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子、または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子であるスクリーニング方法。
(1)指標遺伝子によってコードされる蛋白質と候補化合物を接触させる工程、
(2)前記蛋白質の活性を測定する工程、および
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、およびc’)群のいずれかの指標遺伝子については前記活性を低下させる化合物を、またb)群、d)群、およびd’)群のいずれかの指標遺伝子については前記活性を上昇させる化合物を選択する工程
〔27〕〔14〕、〔24〕、〔25〕、および〔26〕のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を有効成分として含有する、アトピー性皮膚炎の治療薬。
〔28〕指標遺伝子、またはその一部のアンチセンスDNAを有効成分として含むアトピー性皮膚炎の治療薬であって、指標遺伝子が〔1〕におけるa)、c)、およびc’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である治療薬。
〔29〕指標遺伝子によってコードされる蛋白質のアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体を有効成分として含む、アトピー性皮膚炎の治療薬であって、指標遺伝子が〔1〕におけるa)、c)、およびc’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である治療薬。
〔30〕指標遺伝子、または指標遺伝子によってコードされる蛋白質を有効成分として含む、アトピー性皮膚炎の治療薬であって、指標遺伝子が〔1〕におけるb)、d)、およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である治療薬。
〔31〕指標遺伝子を測定するためのプローブを固定したアトピー性皮膚炎の診断用DNAチップであって、指標遺伝子が〔1〕に記載されたa)群〜d)群、並びにc’)およびd’)のいずれかから選択された少なくとも1種類の遺伝子であるDNAチップ。
あるいは本発明は、〔14〕、〔24〕、〔25〕および〔26〕のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を投与する工程を含む、アトピー性皮膚炎の治療方法に関する。また本発明は、〔14〕、〔24〕、〔25〕および〔26〕のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物の、アトピー性皮膚炎の治療用医薬組成物の製造における使用に関する。
加えて本発明は、次の成分(i)または(ii)を投与する工程を含む、アトピー性皮膚炎の治療方法に関する。あるいは本発明は、次の成分(i)または(ii)の、アトピー性皮膚炎の治療用医薬組成物の製造における使用に関する。
(i)上記a)、c)、またはc’)に記載の遺伝子、またはその一部のアンチセンスDNA、
(ii)上記a)、c)、またはc’)に記載の遺伝子によってコードされる蛋白質のアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体
更に本発明は、次の成分(iii)または(iv)を投与する工程を含む、アトピー性皮膚炎の治療方法に関する。あるいは本発明は、次の成分(iii)または(iv)の、アトピー性皮膚炎の治療用医薬組成物の製造における使用に関する。
(iii)上記b)、d)またはd’)に記載の遺伝子、
(iv)上記b)、d)またはd’)に記載の遺伝子によってコードされる蛋白質
また本発明は、以下の乾癬の検査方法、並びに乾癬治療薬候補化合物のスクリーニング方法に関する。
〔32〕次の工程(1)〜(3)を含む、乾癬の検査方法であって、指標遺伝子が次のi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である方法。
(1)被検者の皮疹部および/または無疹部から採取された生体試料における指標遺伝子の発現レベルを測定する工程
(2)工程(1)で測定された発現レベルを、指標遺伝子がi)またはii)に記載された遺伝子である場合には、対照として同じ被検者の無疹部から採取された生体試料における指標遺伝子の発現レベルと、また指標遺伝子がiii)またはiv)に記載された遺伝子である場合には、対照として健常者の生体試料における指標遺伝子の発現レベルと比較する工程、および
(3)(2)の比較の結果、指標遺伝子がi)またはiii)に記載された遺伝子の場合には対照と比較して発現レベルが高い場合に、また指標遺伝子がii)またはiv)に記載された遺伝子の場合には対照と比較して発現レベルが低い場合に、前記被検者は乾癬を有すると判定する工程
〔41〕遺伝子の発現レベルを、cDNAのPCRによって測定する〔32〕に記載の検査方法。
〔42〕遺伝子の発現レベルを、指標遺伝子によってコードされる蛋白質の検出によって測定する〔32〕に記載の検査方法。
〔43〕指標遺伝子の塩基配列を含むポリヌクレオチド、またはその相補鎖に相補的な塩基配列を有する少なくとも15塩基の長さを有するオリゴヌクレオチドからなる、乾癬検査用試薬であって、指標遺伝子が〔32〕におけるi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である乾癬検査用試薬。
〔44〕指標遺伝子によってコードされる蛋白質のアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体からなる、乾癬検査用試薬であって、指標遺伝子が〔32〕におけるi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である乾癬検査用試薬。
〔45〕次の工程を含む、乾癬の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が〔32〕におけるi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるスクリーニング方法。
(1)指標遺伝子を発現する細胞に候補化合物を接触させる工程、
(2)前記遺伝子の発現レベルを測定する工程、
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、i)群またはiii)群の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またii)群またはiv)群の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程
〔46〕細胞が株化皮膚細胞である〔45〕に記載の方法。
〔47〕指標遺伝子の塩基配列を含むポリヌクレオチド、またはその相補鎖に相補的な塩基配列を有する少なくとも15塩基の長さを有するオリゴヌクレオチドと、指標遺伝子を発現する細胞を含む、乾癬の治療薬候補化合物をスクリーニングするためのキットであって、指標遺伝子が〔32〕におけるi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるキット。
〔48〕指標遺伝子によってコードされる蛋白質のアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体と、指標遺伝子を発現する細胞を含む、乾癬の治療薬候補化合物をスクリーニングするためのキットであって、指標遺伝子が〔32〕におけるi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるキット。
〔49〕指標遺伝子または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の皮膚における発現強度を上昇させたトランスジェニック非ヒト脊椎動物からなる乾癬モデル動物であって、指標遺伝子が〔32〕におけるi)群およびiii)群に記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるモデル動物。
〔50〕非ヒト脊椎動物がマウスである〔49〕に記載のモデル動物。
〔51〕指標遺伝子または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の皮膚における発現強度を低下させたトランスジェニック非ヒト脊椎動物からなる乾癬モデル動物であって、指標遺伝子が〔32〕におけるii)群およびiv)群から選択されたいずれかの遺伝子であるモデル動物。
〔52〕非ヒト脊椎動物がマウスである〔51〕に記載のモデル動物。
〔53〕次の工程を含む、乾癬の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が〔32〕におけるi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子、または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子であるスクリーニング方法。
(1)指標遺伝子の転写調節領域と、この転写調節領域の制御下に発現するレポーター遺伝子とを含むベクターを導入した細胞と候補化合物を接触させる工程、
(2)前記レポーター遺伝子の活性を測定する工程、および
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、i)群またはiii)群の指標遺伝子については前記レポーター遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またii)群またはiv)群の指標遺伝子については前記レポーター遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程、
〔54〕次の工程を含む、乾癬の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が〔32〕におけるi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子、または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子であるスクリーニング方法。
(1)指標遺伝子によってコードされる蛋白質と候補化合物を接触させる工程、
(2)前記蛋白質の活性を測定する工程、および
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、i)群またはiii)群の指標遺伝子については前記活性を低下させる化合物を、またii)群またはiv)群の指標遺伝子については前記活性を上昇させる化合物を選択する工程
〔55〕〔45〕、〔53〕、および〔54〕のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を有効成分として含有する、乾癬の治療薬。
〔56〕指標遺伝子、またはその一部のアンチセンスDNAを有効成分として含む乾癬の治療薬であって、指標遺伝子が〔32〕におけるi)またはiii)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である治療薬。
〔57〕指標遺伝子によってコードされる蛋白質のアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体を有効成分として含む、乾癬の治療薬であって、指標遺伝子が〔32〕におけるi)またはiii)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である治療薬。
〔58〕指標遺伝子、または指標遺伝子によってコードされる蛋白質を有効成分として含む、乾癬の治療薬であって、指標遺伝子が〔32〕におけるii)またはiv)に記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である治療薬。
〔59〕指標遺伝子を測定するためのプローブを固定した乾癬の診断用DNAチップであって、指標遺伝子が〔32〕に記載されたi)〜iv)群のいずれかから選択された少なくとも1種類の遺伝子であるDNAチップ。
あるいは本発明は、〔45〕、〔53〕、および〔54〕のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を投与する工程を含む、乾癬の治療方法に関する。また本発明は、〔45〕、〔53〕、および〔54〕のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物の、乾癬の治療用医薬組成物の製造における使用に関する。
加えて本発明は、次の成分(1)または(2)を投与する工程を含む、乾癬の治療方法に関する。あるいは本発明は、次の成分(1)または(2)の、乾癬の治療用医薬組成物の製造における使用に関する。
(1)上記i)またはiii)に記載の遺伝子、またはその一部のアンチセンスDNA、
(2)上記i)またはiii)に記載の遺伝子によってコードされる蛋白質を認識する抗体
更に本発明は、次の成分(3)または(4)を投与する工程を含む、乾癬の治療方法に関する。あるいは本発明は、次の成分(3)または(4)の、乾癬の治療用医薬組成物の製造における使用に関する。
(3)上記ii)またはiv)に記載の遺伝子、
(4)上記ii)またはiv)に記載の遺伝子によってコードされる蛋白質
本発明において、アレルギー性疾患(allergic disease)とはアレルギー反応の関与する疾患の総称である。より具体的には、アレルゲンが同定され、アレルゲンへの曝露と病変の発症に深い結びつきが証明され、その病変に免疫学的な機序が証明されることと定義することができる。ここで、免疫学的な機序とは、アレルゲンの刺激によって白血球細胞が免疫応答を示すことを意味する。アレルゲンとしては、ダニ抗原や花粉抗原等を例示することができる。
代表的なアレルギー性疾患には、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、花粉症、あるいは昆虫アレルギー等を示すことができる。アレルギー素因(allergic diathesis)とは、アレルギー性疾患を持つ親から子に伝えられる遺伝的な因子である。家族性に発症するアレルギー性疾患はアトピー性疾患とも呼ばれ、その原因となる遺伝的に伝えられる因子がアトピー素因である。アトピー性皮膚炎は、アトピー性疾患のうち、特に皮膚炎症状を伴う疾患に対して与えられた総称である。
本発明において、アトピー性皮膚炎の指標とすることができる遺伝子を、AD指標遺伝子という。またAD指標遺伝子がコードするアミノ酸配列からなる蛋白質をAD指標蛋白質という。AD指標遺伝子は特に断らない限り、a)−d)、c’)およびd’)、ならびにA)−D)に記載された遺伝子から選択されたいずれか1つまたは複数の任意の遺伝子を示す用語として用いられる。
本発明のAD指標遺伝子において、次に示す遺伝子群から選択された遺伝子は、前記a)群またはb)群の遺伝子として好ましい。これらの遺伝子は、アトピー性皮膚炎患者の皮疹部における発現レベルがアトピー性皮膚炎患者の無疹部に比べて高い−a)群−、または低い−b)群−AD指標遺伝子群に含まれ、かつ乾癬患者の皮疹部と無疹部の比較においては発現レベルに有意な差が見られなかった遺伝子である。これらのAD指標遺伝子は、アトピー性皮膚炎患者において特異的に発現レベルが変化している遺伝子である。
一方、本発明のAD指標遺伝子において、次に示す遺伝子群から選択された遺伝子は、前記c’)群またはd’)群の遺伝子として好ましい。これらの遺伝子は、アトピー性皮膚炎患者の無疹部における発現レベルが健常者に比べて高い−c’)群−、または低い−d’)群−AD指標遺伝子群に含まれ、かつ乾癬患者の無疹部と健常者の比較においては発現レベルに有意な差が見られなかった遺伝子である。これらのAD指標遺伝子も、アトピー性皮膚炎患者において特異的に発現レベルが変化している遺伝子である。
また本発明において、乾癬の指標とすることができる遺伝子を、乾癬指標遺伝子という。また乾癬指標遺伝子がコードするアミノ酸配列からなる蛋白質を乾癬指標蛋白質という。乾癬指標遺伝子は特に断らない限り、i)−iv)に記載された遺伝子から選択されたいずれか1つまたは複数の任意の遺伝子を示す用語として用いられる。更に、以降、特に疾患を特定せず、単に指標遺伝子または指標蛋白質と記載するときは、前記AD指標遺伝子(およびAD指標蛋白質)と前記乾癬指標遺伝子(乾癬指標蛋白質)の両方を含む用語として用いる。
本発明の乾癬指標遺伝子において、次に示す遺伝子群から選択された遺伝子は、前記i)群またはii)群の遺伝子として好ましい。これらの遺伝子は、乾癬患者の皮疹部における発現レベルが乾癬患者の無疹部に比べて高い−i)群−、または低い−ii)群−乾癬指標遺伝子群に含まれ、かつアトピー性皮膚炎患者の皮疹部と無疹部の比較においては発現レベルに有意な差が見られなかった遺伝子である。これらの乾癬指標遺伝子は、乾癬患者において特異的に発現レベルが変化している遺伝子である。
一方、本発明の乾癬指標遺伝子において、次に示す遺伝子群から選択された遺伝子は、前記iii)群またはiv)群の遺伝子として好ましい。これらの遺伝子は、乾癬患者の無疹部における発現レベルが健常者に比べて高い−iii)群−、または低い−iv)群−乾癬指標遺伝子群に含まれ、かつアトピー性皮膚炎患者の無疹部と健常者の比較においては発現レベルに有意な差が見られなかった遺伝子である。これらの乾癬指標遺伝子も、乾癬患者において特異的に発現レベルが変化している遺伝子である。
本発明における指標遺伝子の塩基配列、およびこの塩基配列によってコードされるアミノ酸配列は公知である。AD指標遺伝子の配列データを得るためのGenBank登録番号を、指標遺伝子の名前とともに後にまとめた。
本発明のアレルギー性疾患の検査方法は、被検者の生体試料における各指標遺伝子の発現レベルを測定し、指標遺伝子が上記a)またはb)に記載された遺伝子である場合には、対照として同じ被検者の無疹部から採取された生体試料における指標遺伝子の発現レベルと、また指標遺伝子が上記c)、d)、c’)、およびd’)のいずれかに記載された遺伝子である場合には、対照として健常者の生体試料における指標遺伝子の発現レベルと比較する工程を含む。指標遺伝子が上記a)、c)、およびc’)のいずれかに記載された遺伝子であれば、対照と比較して発現レベルが高い場合に被検者がアトピー性皮膚炎と判定される。また指標遺伝子が上記b)、d)、およびd’)のいずれかに記載された遺伝子であれば、対照と比較して発現レベルが低い場合に被検者がアトピー性皮膚炎と判定される。
本発明の乾癬の検査方法は、被検者の生体試料における各指標遺伝子の発現レベルを測定し、指標遺伝子が上記i)またはii)に記載された遺伝子である場合には、対照として同じ被検者の無疹部から採取された生体試料における指標遺伝子の発現レベルと、また指標遺伝子が上記iii)またはiv)に記載された遺伝子である場合には、対照として健常者の生体試料における指標遺伝子の発現レベルと比較する工程を含む。指標遺伝子が上記i)またはiii)に記載された遺伝子であれば、対照と比較して発現レベルが高い場合に被検者が乾癬と判定される。また指標遺伝子が上記ii)またはiv)に記載された遺伝子であれば、対照と比較して発現レベルが低い場合に被検者が乾癬と判定される。
発現レベルの比較のためには、通常、たとえば健常者における前記指標遺伝子の発現レベルに基づいて、標準値が設定される。この標準値をもとに、たとえば±2S.D.の範囲が許容範囲とされる。指標遺伝子の測定値に基づいて、標準値や許容範囲を設定する手法は公知である。あるいは、同一患者の無疹部との発現レベルの比較においては、予め無疹部における指標遺伝子の発現レベルを測定して、その患者における無疹部の標準値を決定することができる。標準値を設定した後には、皮疹部の発現レベルのみを測定し、予め決定されたその患者の無疹部の標準値との比較に基づいて、本発明の検査方法を実施することもできる。
被検者における指標遺伝子が上記a)、c)、およびc’)のいずれかに記載された遺伝子である場合には、対照と比較して発現レベルが許容範囲よりも高ければ、被検者はアトピー性皮膚炎であると判定される。同様に、被検者における指標遺伝子が上記b)、d)、およびd’)のいずれかに記載された遺伝子である場合には、対照と比較して発現レベルが許容範囲よりも低ければ、被検者はアトピー性皮膚炎であると判定される。指標遺伝子の発現レベルが許容範囲内であれば、アトピー性皮膚炎である可能性は低いと予想される。
被検者における指標遺伝子が上記i)またはiii)に記載された遺伝子である場合には、対照と比較して発現レベルが許容範囲よりも高ければ、被検者は乾癬であると判定される。同様に、被検者における指標遺伝子が上記ii)またはiv)に記載された遺伝子である場合には、対照と比較して発現レベルが許容範囲よりも低ければ、被検者は乾癬であると判定される。指標遺伝子の発現レベルが許容範囲内であれば、乾癬である可能性は低いと予想される。
本発明において、指標遺伝子の発現レベルとは、該指標遺伝子のmRNAへの転写、並びに蛋白質への翻訳を含む。従って本発明によるアトピー性皮膚炎の検査方法は、指標遺伝子に対応するmRNAの発現強度、あるいは該指標遺伝子によってコードされる蛋白質の発現レベルの比較に基づいて行われる。
本発明におけるアトピー性皮膚炎または乾癬の検査における指標遺伝子の発現レベルの測定は、公知の遺伝子解析方法にしたがって実施することができる。具体的には、例えばこの遺伝子にハイブリダイズする核酸をプローブとしたハイブリダイゼーション技術、または本発明の指標遺伝子にハイブリダイズするDNAをプライマーとした遺伝子増幅技術等を利用することができる。
本発明の検査に用いられるプローブまたはプライマーは、指標遺伝子の塩基配列に基づいてデザインすることができる。指標遺伝子の塩基配列、および該指標遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は公知である。本発明の各指標遺伝子の塩基配列のGenBankアクセション番号は、下記データ1〜データ4およびデータ7〜データ12(ヒト)、およびデータ5〜データ6およびデータ13〜データ14(マウス)に記載したとおりである。また本発明の指標遺伝子の一部については、その塩基配列と塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を以下の配列番号に示した。
なお一般に高等動物の遺伝子は、高い頻度で多型を伴う。また、スプライシングの過程で相互に異なるアミノ酸配列からなるアイソフォームを生じる分子も多く存在する。多型やアイソフォームによって塩基配列が異なる遺伝子であっても、指標遺伝子と同様の活性を持ち、アトピー性皮膚炎に関与する遺伝子は、いずれも本発明の指標遺伝子に含まれる。
また、本発明において、指標遺伝子は、ヒトのみならず、他種におけるホモログも含む。従って、ヒト以外の種における指標遺伝子とは、特に断らないときには、その種に固有の指標遺伝子のホモログ、あるいはその個体に導入されている外来性の指標遺伝子を言う。
本発明においてヒト指標遺伝子のホモログとは、ヒト指標遺伝子をプローブとしてストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる、ヒト以外の種に由来する遺伝子を言う。ストリンジェントな条件とは、一般的には以下のような条件を示すことができる。すなわち、4×SSC、65℃でハイブリダイゼーションさせ、0.1×SSCを用いて65℃で1時間洗浄する。ストリンジェンシーを大きく左右するハイブリダイゼーションや洗浄の温度条件は、融解温度(Tm)に応じて調整することができる。Tmはハイブリダイズする塩基対に占める構成塩基の割合、ハイブリダイゼーション溶液組成(塩濃度、ホルムアミドやドデシル硫酸ナトリウム濃度)によって変動する。従って、当業者であればこれらの条件を考慮して同等のストリンジェンシーを与える条件を実験または経験的に設定することができる。
プライマーあるいはプローブには、指標遺伝子の塩基配列からなるポリヌクレオチド、またはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを利用することができる。ここで「相補鎖」とは、A:T(RNAの場合はU)、G:Cの塩基対からなる2本鎖DNAの一方の鎖に対する他方の鎖を指す。また、「相補的」とは、少なくとも15個の連続したヌクレオチド領域で完全に相補配列である場合に限られず、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上の塩基配列上の相同性を有すればよい。塩基配列の相同性は、BLAST等のアルゴリズムにより決定することができる。
このようなポリヌクレオチドは、指標遺伝子を検出するためのプローブとして、また指標遺伝子を増幅するためのプライマーとして利用することができる。プライマーとして用いる場合には、通常、15bp〜100bp、好ましくは15bp〜35bpの鎖長を有する。また、プローブとして用いる場合には、指標遺伝子(またはその相補鎖)の少なくとも一部若しくは全部の配列を有し、少なくとも15bpの鎖長のDNAが用いられる。プライマーとして用いる場合、3’側の領域は相補的である必要があるが、5’側には制限酵素認識配列やタグなどを付加することができる。
なお、本発明における「ポリヌクレオチド」は、DNAあるいはRNAであることができる。これらポリヌクレオチドは、合成されたものでも天然のものでもよい。また、ハイブリダイゼーションに用いるプローブDNAは、通常、標識したものが用いられる。標識方法としては、例えば次のような方法を示すことができる。なお用語オリゴヌクレオチドは、ポリヌクレオチドのうち、重合度が比較的低いものを意味している。オリゴヌクレオチドは、ポリヌクレオチドに含まれる。
・DNAポリメラーゼIを用いるニックトランスレーションによる標識
・ポリヌクレオチドキナーゼを用いる末端標識
・クレノーフラグメントによるフィルイン末端標識(Berger SL,Kimmel AR.(1987)Guide to Molecular Cloning Techniques,Method in Enzymology,Academic Press;Hames BD,Higgins SJ(1985)Genes Probes:A Practical Approach.IRL Press;Sambrook J,Fritsch EF,Maniatis T.(1989)Molecular Cloning:a Laboratory Manual,2nd Edn.Cold Spring Harbor Laboratory Press)
・RNAポリメラーゼを用いる転写による標識(Melton DA,Krieg,PA,Rebagkiati MR,Maniatis T,Zinn K,Green MR.(1984)Nucleic Acid Res.,12,7035−7056)
・放射性同位体を用いない修飾ヌクレオチドをDNAに取り込ませる方法(Kricka LJ.(1992)Nonisotopic DNA Probing Techniques.Academic Press)
ハイブリダイゼーション技術を利用したアトピー性皮膚炎の検査は、例えば、ノーザンハイブリダイゼーション法、ドットブロット法、DNAマイクロアレイを用いた方法などを使用して行うことができる。さらには、RT−PCR法等の遺伝子増幅技術を利用することができる。RT−PCR法においては、遺伝子の増幅過程においてPCR増幅モニター法を用いることにより、本発明の指標遺伝子の発現について、より定量的な解析を行うことが可能である。
PCR遺伝子増幅モニター法においては、両端に互いの蛍光を打ち消し合う異なった蛍光色素で標識したプローブを用い、検出対象(DNAもしくはRNAの逆転写産物)にハイブリダイズさせる。PCR反応が進んでTaqポリメラーゼの5’−3’エキソヌクレアーゼ(exonuclease)活性により同プローブが分解されると二つの蛍光色素が離れ、蛍光が検出されるようになる。この蛍光の検出をリアルタイムに行う。検出対象についてコピー数の明らかな標準試料について同時に測定することにより、PCR増幅の直線性のあるサイクル数で目的試料中の検出対象のコピー数を決定する(Holland,P.M.et al.,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:7276−7280;Livak,K.J.et al.,1995,PCR Methods and Applications 4(6):357−362;Heid,C.A.et al.,Genome Research 6:986−994;Gibson,E.M.U.et al.,1996,Genome Research 6:995−1001)。PCR増幅モニター法においては、例えば、ABI PRISM7700(Applied Biosystems社)を用いることができる。
また本発明のアトピー性皮膚炎または乾癬の検査方法は、指標遺伝子によりコードされる蛋白質を検出することにより行うこともできる。このような検査方法としては、例えば、各指標蛋白質に結合する抗体を利用したウェスタンブロッティング法、免疫沈降法、ELISA法などを利用することができる。
この検出に用いる指標蛋白質に結合する抗体は、当業者に周知の技法を用いて得ることができる。本発明に用いる抗体は、ポリクローナル抗体、あるいはモノクローナル抗体(Milstein C,et al.,1983,Nature 305(5934):537−40)であることができる。例えば、指標蛋白質に対するポリクローナル抗体は、抗原を感作した哺乳動物の血液を取り出し、この血液から公知の方法により血清を分離する。ポリクローナル抗体としては、ポリクローナル抗体を含む血清を使用することができる。あるいは必要に応じてこの血清からポリクローナル抗体を含む画分をさらに単離することもできる。また、モノクローナル抗体を得るには、上記抗原を感作した哺乳動物から免疫細胞を取り出して骨髄腫細胞などと細胞融合させる。こうして得られたハイブリドーマをクローニングして、その培養物から抗体を回収しモノクローナル抗体とすることができる。
指標蛋白質の検出には、これらの抗体を適宜標識して用いればよい。また、この抗体を標識せずに、該抗体に特異的に結合する物質、例えば、プロテインAやプロテインGを標識して間接的に検出することもできる。具体的な検出方法としては、例えば、ELISA法を挙げることができる。
抗原に用いる蛋白質もしくはその部分ペプチドは、例えば指標遺伝子もしくはその一部を発現ベクターに組込み、これを適当な宿主細胞に導入して、形質転換体を作成し、該形質転換体を培養して組み換え蛋白質を発現させ、発現させた組み換え蛋白質を培養体または培養上清から精製することにより得ることができる。あるいは、該遺伝子によってコードされるアミノ酸配列、あるいは全長cDNAによってコードされるアミノ酸配列の部分アミノ酸配列からなるオリゴペプチドを化学的に合成し、免疫原として用いることもできる。
更に本発明においては、指標遺伝子の発現レベルのみならず、生体試料における指標蛋白質の活性を指標として、アレルギー性疾患または乾癬の検査を行うこともできる。指標蛋白質の活性とは、該蛋白質が備える生物学的な活性を言う。以下に各蛋白質の有する活性を測定するための一般的な方法を記載する。
[プロテアーゼ]
プロテアーゼサンプルをゼラチンなどの基質を共重合させたSDSポリアクリルアミドゲルで非還元条件下に電気泳動を行い、泳動後に至適緩衝液中で37℃、16時間静置する。16時間後にクマシーブリリアントブルーR250でゲルを染色し、プロテアーゼの泳動位置が染色されないこと、すなわちゼラチンが分解されていることでプロテアーゼ活性を評価できる。
Chen,J.M.らJ.Biol.Chem.266,5113−5121(1991)
[プロテアーゼインヒビター]
プロテアーゼインヒビターをゼラチンなどのプロテアーゼ基質を共重合させたSDSポリアクリルアミドゲルで非還元条件下に電気泳動を行い、泳動後にプロテアーゼを添加した至適緩衝液中で37℃、16時間静置する。16時間後にクマシーブリリアントブルーR250でゲルを染色し、プロテアーゼインヒビターの泳動位置が染色されていること、すなわちゼラチンが分解されていないことでプロテアーゼインヒビター活性を評価できる。
Greene Jら J.Biol.Chem.271,30375−30380(1996)
[転写因子]
転写因子を32Pなどで標識した転写因子の標的配列を含む2本鎖オリゴDNAと共に室温でインキュベートして結合させる。インキュベート後のサンプルはSDSを含まない未変性ポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行い、標識したオリゴDNAの移動度を32Pの放射活性などを指標にして評価する。転写因子にオリゴDNAに対する結合活性があれば、標識したオリゴDNAの移動度が遅くなり、高分子量側にシフトする。標的配列に対する結合特異性は、過剰量の標識をしていない2本鎖オリゴDNAにより転写因子と標識オリゴDNAの結合が阻害されることにより確認できる。
また、転写因子による転写活性化能は、レポーター遺伝子発現ベクターと、転写因子発現ベクターの共形質転換によって、当該転写因子の活性を評価することができる。レポーター遺伝子発現ベクターは、その標的配列の下流にクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などのレポーター遺伝子を連結した発現ベクターである。一方、活性を評価すべき転写因子は、転写因子遺伝子をヒトサイトメガロウイルス(CMV)の応答遺伝子プロモーターなどの下流に連結した転写因子発現ベクターによって発現させることができる。これらのベクターを、HelaやHEK293などの細胞株に共遺伝子導入し、48時間後に細胞破砕液を調製してCATの発現量を調べることにより転写活性を評価できる。
Zhao FらJ.Biol.Chem.276,40755−40760(2001)
[キナーゼ]
キナーゼをmyelin basic proteinを基質として含む緩衝液(20mM HEPES,pH7.5,10mM MgCl2,2mM MnCl2,2mM dithiothreitol,and 25μM ATP)に添加し、更に[γ−32P]ATPを添加して37℃で10分保温する。10分後にLaemmli緩衝液で反応を止め、反応液をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、泳動後にゲルを乾燥させてリン酸化されたmyelin basic proteinの放射活性をX線フィルムにて検出する。
Park SYらJ.Biol.Chem.275,19768−19777(2000)
[フォスファターゼ]
フォスファターゼをp−nitrophenyl phosphate(pNPP)を基質として含む緩衝液(25mM MES,pH5.5,1.6mM dithiothreitol,10mM pNPP)に添加し、37℃で30分間保温する。30分後に1N NaOHを添加して反応を停止し、pNPPの加水分解の結果生じた405nmの吸光度を測定する。
Aoyama KらJ.Biol.Chem.276,27575−27583(2001)
[ケモカイン、ケモカインレセプター]
ケモカインレセプターを強制発現させた細胞を、カルシウム感受性蛍光色素fura−2を含むHank’s balanced salt solutionに懸濁し、ケモカインにより刺激を加える。ケモカイン刺激により引き起こされる細胞内カルシウム濃度の上昇をLS50B(PerkinElmer)などの蛍光検出器で測定する。
Zhou NらJ.Biol.Chem.276,42826−42833(2001)
[サイトカイン、サイトカインレセプター]
サイトカインでサイトカインレセプターを発現する細胞を刺激し、これにより引き起こされる細胞増殖をチミジンの取り込みで評価する。
または、サイトカイン刺激によるサイトカインレセプター下流に位置する転写因子の活性化をルシフェラーゼなどのレポーター遺伝子の発現により評価することもできる。
Piek EらJ.Biol.Chem.276,19945−19953(2001)
[イオンチャンネル]
先端の開口径が数μm2のガラスピペットの先端にイオンチャンネルを含む形質膜を貼り付け、ピペット内外に電位差を与えてその時にチャンネルを通る電流を測定するパッチクランプ法により評価できる。
Hamill,O.P.らPfluegers Arch.391,85−100(1981)
[細胞接着因子]
細胞表面に接着分子を発現させた細胞をそのリガンドをコートしたプレート上でインキュベートし、接着した細胞数を評価する。
Fujiwara HらJ.Biol.Chem.276,17550−17558(2001)
[細胞外マトリックス蛋白質]
細胞外マトリックス蛋白質をコートしたプレートにインテグリンなどの細胞外マトリックス蛋白質に対する受容体を持つ細胞の懸濁液を加え、37℃で1時間培養する。培養後に細胞を固定し、Hoechst 33342などのDNA結合性蛍光色素を加えて反応させる。反応後にフルオロメーターを使用して蛍光強度を測定し、蛍光強度として定量化された接着細胞数を細胞外マトリックス蛋白質の活性として評価する。
Miyazaki KらProc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90,11767(1993)
本発明の検査方法においては、被検者の皮膚組織を試料とする。皮膚組織試料の採取は、被検者に多少の痛みを伴う。一方で、皮膚組織は容易に採取できるため、診断材料としては有用である。
皮膚組織を採取する方法は公知である。皮膚組織は、例えば次のようにして採取することができる。すなわち、まず、局所麻酔薬により採取部位を麻酔する。生検個所の周囲の皮膚を引っ張ってたるみの無い状態とした後、パンチを皮膚の中に埋め込み、回転させて標本分の組織をパンチの中に入れる。パンチを引き出し、切り取られたパンチ内の皮膚を回収する。パンチは、中空の皮膚組織採取用の器具である。たとえば直径3mmの皮膚組織の採取が可能な器具が一般に利用されている。
本発明において、皮膚組織とは、解剖学的には表皮および真皮を含む。皮膚組織には、皮膚固有の細胞のみならず、リンパ球、ランゲルハンス細胞、あるいはマスト細胞などの、皮膚組織において見出される皮膚以外の細胞が含まれる場合がある。これらの皮膚細胞とともに採取される細胞も皮膚組織試料に含まれる。
本発明において、皮疹部における指標遺伝子の発現レベルを決定するために、皮疹部の皮膚組織試料が用いられる。皮疹部とは、急性病変を形成している皮膚を言う。たとえば日本皮膚科学会誌104:1210(1994)に報告されている診断基準にしたがって、急性病変部を判定することができる。具体的には、たとえば次のような臨床所見が急性病変部の指標とされている。
急性病変:紅斑、湿潤性紅斑、丘疹、漿液性丘疹、鱗屑、痂皮
また患者の無疹部における指標遺伝子の発現レベルを決定するために、無疹部の皮膚組織試料が用いられる。患者における無疹部とは、上記病変を伴わない部位の皮膚である。更に、健常者の皮膚における指標遺伝子の発現レベルを決定するには、健常者の皮膚組織が用いられる。本発明における健常者とは、診断すべき疾患を有していないことが明らかなヒトを言う。すなわちアレルギー性疾患の検査においてはアレルギー性疾患を有していないヒトが健常者である。同様に、乾癬の検査方法においては乾癬を有していないヒトが健常者である。健常者は、診断すべき疾患以外の疾患を有することが許容される。しかし、好ましい健常者は、アレルギー性疾患および乾癬のいずれをも有していないヒトである。皮膚組織の採取は、患者の皮膚組織の採取と同様の手法によって採取することができる。指標遺伝子の発現レベルの比較においては、できるだけ同じ部位の皮膚を比較するのが望ましい。しかし同一患者の皮疹部/無疹部の比較においては、同じ部位に無疹部の皮膚を見出すのが困難であるケースも予想される。このようなケースでは、異なる部位の皮膚を比較に用いることもできる。
皮膚組織試料の採取は容易であるため、医療現場における簡便な検査が可能である。例えば、実施例に示す方法によって調製することができる。調製された皮膚組織を破壊してライセートとすれば、指標蛋白質の免疫学的な測定のための試料とすることができる。
上記の生体試料からライセートを調製すれば、指標蛋白質の免疫学的な測定のための試料とすることができる。あるいはこのライセートからmRNAを抽出すれば、指標遺伝子に対応するmRNAの測定のための試料とすることができる。生体試料のライセートまたはmRNAの抽出には、市販のキットを利用すると便利である。また指標蛋白質が血中に分泌されていれば、被検者の血液や血清などの体液試料に含まれる目的とする蛋白質の量を測定することによって、それをコードする遺伝子の発現レベルの比較が可能である。上記試料は、必要に応じて緩衝液等で希釈して本発明の方法に使用することができる。
mRNAを測定する場合には、本発明における指標遺伝子の発現レベルの測定値は、公知の方法によって補正することができる。補正により、細胞における遺伝子の発現レベルの変化を比較することができる。測定値の補正は、上記生体試料における各細胞において、発現レベルが大きく変動しない遺伝子(例えば、ハウスキーピング遺伝子)の発現レベルの測定値に基づいて、本発明において指標遺伝子の発現レベルの測定値を補正することによって行われる。発現レベルが大きく変動しない遺伝子の例としては、β−アクチン、GAPDH等を挙げることができる。
更に本発明は、本発明の検査方法のための試薬を提供する。すなわち本発明は、指標遺伝子の塩基配列を含むポリヌクレオチド、またはその相補鎖に相補的な塩基配列を有する少なくとも15塩基の長さを有するオリゴヌクレオチドからなる、アトピー性皮膚炎の検査用試薬に関する。あるいは本発明は、指標蛋白質を認識する抗体からなる、アトピー性皮膚炎の検査用試薬に関する。本発明の試薬を構成するオリゴヌクレオチドや抗体は、アッセイフォーマットに応じて適当な標識を結合することができる。あるいは本発明の試薬を構成するオリゴヌクレオチドや抗体は、アッセイフォーマットに応じて適当な支持体に固定化しておくこともできる。また本発明の試薬は、前記オリゴヌクレオチドまたは前記抗体の他に、検査や保存に必要な付加的な要素と組み合せて検査用キットとすることもできる。キットを構成することができる付加的な要素を、以下に示す。これらの要素は、必要に応じて予め混合しておくこともできる。また、必要に応じて、保存剤や防腐剤を各要素に加えることができる。
試薬や生体試料を希釈するための緩衝液
陽性対照
陰性対照
標識を測定するための基質
反応容器
アッセイプロトコルを記載した指示書
本発明におけるAD指標遺伝子は、アトピー性皮膚炎患者の皮疹部と同一の患者における無疹部、あるいはアトピー性皮膚炎患者の無疹部と健常者との比較において、各皮膚組織において発現量の変動が確認された。従って、AD指標遺伝子の発現レベルを指標として、アトピー性皮膚炎の検査を行うことができる。
本発明におけるアトピー性皮膚炎の検査とは、たとえば以下のような検査が含まれる。アトピー性皮膚炎が疑われる症状を示しながら、一般的な検査ではアトピー性皮膚炎と判定できない患者であっても、本発明に基づく検査を行えばアトピー性皮膚炎の患者であるか否かを容易に判定することができる。より具体的には、アトピー性皮膚炎が疑われる症状を示す患者において、AD指標遺伝子がa)、c)、およびc’)のいずれかに記載された遺伝子である場合、AD指標遺伝子の発現の上昇は、その症状の原因がアトピー性皮膚炎である可能性が高いことを示している。また、アトピー性皮膚炎が疑われる症状を示す患者において、AD指標遺伝子がb)、d)、およびd’)のいずれかに記載された遺伝子である場合、AD指標遺伝子の発現の低下は、その症状の原因が同じくアトピー性皮膚炎である可能性が高いことを示している。
あるいは、アトピー性皮膚炎が改善に向かっているのかどうかを判断するための検査が可能となる。つまり、アトピー性皮膚炎に対する治療効果の判定に有用である。また、アトピー性皮膚炎と診断された患者において、AD指標遺伝子がa)、c)、およびc’)のいずれかに記載された遺伝子である場合、AD指標遺伝子の発現の上昇は、アトピー性皮膚炎がさらに進行している可能性が高いことを示している。また、アトピー性皮膚炎と診断された患者において、AD指標遺伝子がb)、d)、およびd’)のいずれかに記載された遺伝子である場合、AD指標遺伝子の発現の低下は、同じくアトピー性皮膚炎がさらに進行している可能性が高いことを示している。
更に、発現レベルの違いに基づいてアトピー性皮膚炎の重症度を判定することもできる。すなわち、AD指標遺伝子がa)、c)、およびc’)のいずれかに記載された遺伝子である場合、AD指標遺伝子の発現の上昇の程度は、アトピー性皮膚炎の重症度に相関する。あるいはAD指標遺伝子がb)、d)、およびd’)のいずれかに記載された遺伝子である場合、AD指標遺伝子の発現の低下の程度が、アトピー性皮膚炎の重症度に相関する。
一方本発明における乾癬指標遺伝子は、乾癬患者の皮疹部と同一の患者における無疹部、あるいは乾癬患者の無疹部と健常者との比較において、各皮膚組織において発現量の変動が確認された。従って、乾癬指標遺伝子の発現レベルを指標として、乾癬の検査を行うことができる。
本発明における乾癬の検査とは、たとえば以下のような検査が含まれる。乾癬が疑われる症状を示しながら、一般的な検査では乾癬と判定できない患者であっても、本発明に基づく検査を行えば乾癬の患者であるか否かを容易に判定することができる。より具体的には、乾癬が疑われる症状を示す患者において、乾癬指標遺伝子がi)またはiii)に記載された遺伝子である場合、乾癬指標遺伝子の発現の上昇は、その症状の原因が乾癬である可能性が高いことを示している。また、乾癬が疑われる症状を示す患者において、乾癬指標遺伝子がii)またはiv)に記載された遺伝子である場合、乾癬指標遺伝子の発現の低下は、その症状の原因が同じく乾癬である可能性が高いことを示している。
あるいは、乾癬が改善に向かっているのかどうかを判断するための検査が可能となる。つまり、乾癬に対する治療効果の判定に有用である。また、乾癬と診断された患者において、乾癬指標遺伝子がi)またはiii)に記載された遺伝子である場合、乾癬指標遺伝子の発現の上昇は、乾癬がさらに進行している可能性が高いことを示している。また、乾癬と診断された患者において、乾癬指標遺伝子がii)またはiv)に記載された遺伝子である場合、乾癬指標遺伝子の発現の低下は、同じく乾癬がさらに進行している可能性が高いことを示している。
更に、発現レベルの違いに基づいて乾癬の重症度を判定することもできる。すなわち、乾癬指標遺伝子がi)またはiii)に記載された遺伝子である場合、乾癬指標遺伝子の発現の上昇の程度は、乾癬の重症度に相関する。あるいは乾癬指標遺伝子がii)またはiv)に記載された遺伝子である場合、乾癬指標遺伝子の発現の低下の程度が、乾癬の重症度に相関する。
また本発明は、a)、c)、およびc’)のいずれかに記載のAD指標遺伝子またはAD指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の、皮膚における発現強度を上昇させたトランスジェニック非ヒト動物からなるアトピー性皮膚炎モデル動物に関する。
本発明によって、a)に記載のAD指標遺伝子の発現強度が、アトピー性皮膚炎患者の皮疹部において上昇することが明らかとなった。同様に、c)およびc’)に記載のAD指標遺伝子の発現強度が、アトピー性皮膚炎患者の無疹部において上昇することが明らかとなった。したがって、皮膚において、a)、c)、およびc’)のいずれかに記載のAD指標遺伝子またはAD指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の発現レベルを人為的に増強した動物は、アトピー性皮膚炎のモデル動物として利用することができる。
また本発明は、b)、d)、およびd’)のいずれかに記載のAD指標遺伝子またはAD指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の、皮膚における発現強度を低下させたトランスジェニック非ヒト動物からなるアトピー性皮膚炎モデル動物に関する。
本発明によって、b)に記載のAD指標遺伝子の発現強度が、アトピー性皮膚炎患者の皮疹部において低下することが明らかとなった。同様に、d)およびd’)に記載のAD指標遺伝子の発現強度が、アトピー性皮膚炎患者の無疹部において低下することが明らかとなった。したがって、皮膚において、b)、d)、およびd’)のいずれかに記載のAD指標遺伝子またはAD指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の発現レベルを人為的に低下させた動物は、アトピー性皮膚炎のモデル動物として利用することができる。
また本発明は、i)またはiii)に記載の乾癬指標遺伝子または乾癬指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の、皮膚における発現強度を上昇させたトランスジェニック非ヒト動物からなる乾癬モデル動物に関する。
本発明によって、i)に記載の乾癬指標遺伝子の発現強度が、乾癬患者の皮疹部において上昇することが明らかとなった。同様に、iii)に記載の乾癬指標遺伝子の発現強度が、乾癬患者の無疹部において上昇することが明らかとなった。したがって、皮膚において、i)またはiii)に記載の乾癬指標遺伝子または乾癬指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の発現レベルを人為的に増強した動物は、乾癬のモデル動物として利用することができる。
また本発明は、ii)またはiv)に記載の乾癬指標遺伝子または乾癬指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の、皮膚における発現強度を低下させたトランスジェニック非ヒト動物からなる乾癬モデル動物に関する。
本発明によって、ii)に記載の乾癬指標遺伝子の発現強度が、乾癬患者の皮疹部において低下することが明らかとなった。同様に、iv)に記載の乾癬指標遺伝子の発現強度が、乾癬患者の無疹部において低下することが明らかとなった。したがって、皮膚において、ii)またはiv)に記載の乾癬指標遺伝子または乾癬指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の発現レベルを人為的に低下させた動物は、乾癬のモデル動物として利用することができる。
本発明において機能的に同等な遺伝子とは、指標遺伝子によってコードされる蛋白質において明らかにされている活性と同様の活性を備えた蛋白質をコードする遺伝子である。機能的に同等な遺伝子の代表的なものとしては、被験動物が本来備えている、その動物種における指標遺伝子のカウンターパートを挙げることができる。たとえば前記A)群−D)群に記載の遺伝子は、マウスにおける機能的に同等な遺伝子である。A)群−D)群に記載された遺伝子は、本発明に基づくスクリーニングをマウスを用いて実施するときに望ましい指標遺伝子である。
更に本発明は、a)−d)に記載のAD指標遺伝子のマウスにおけるカウンターパートを明らかにした。a)−d)に記載の指標遺伝子に対するマウスカウンターパートは、それぞれA)−D)として記載した。これらのカウンターパートは、感作マウス耳介皮膚と非感作マウス耳介皮膚における遺伝子の発現レベルを比較したときに、2倍以上の差が見られた遺伝子である。
したがって、これらのカウンターパートの発現レベルの調節や、投与によって、アトピー性皮膚炎モデル動物を作り出すことができる。すなわち本発明は、A)−D)に記載の遺伝子群の発現レベルの調節による、アトピー性皮膚炎モデル動物の製造方法に関する。あるいは本発明は、A)−D)に記栽の遺伝子群によってコードされるタンパク質そのもの、または該タンパク質の抗体を非ヒト動物に投与する工程を含む、アトピー性皮膚炎モデル動物の製造方法に関する。
まず、A)またはC)に記載された遺伝子群は、a)、c)、およびc’)のいずれかに記載の遺伝子群と同様に、発現レベルの上昇によってアトピー性皮膚炎を誘導することができる。あるいはこれらの遺伝子群から選択された遺伝子や、その遺伝子がコードするタンパク質の投与によって、アトピー性皮膚炎モデル動物を作り出すことができる。これらのカウンターパートはいずれもマウスの遺伝子であることから、遺伝子やタンパク質を投与する場合には、マウスに投与するのが望ましい。
また、B)またはD)に記載された遺伝子群は、b)、d)、およびd’)のいずれかに記載の遺伝子群と同様に、発現レベルの抑制によって、アトピー性皮膚炎を誘導することができる。あるいはこれらの遺伝子群から選択された遺伝子の発現や、その遺伝子がコードするタンパク質の活性を抑制することによって、アトピー性皮膚炎を作り出すことができる。発現の抑制には、アンチセンス核酸、あるいはRNAiを利用することができる。タンパク質の活性の調節には、抗体などの活性阻害物質の投与が有効である。すなわち、B)またはD)に記載の遺伝子群を先天的に有する動物、すなわちマウスに、これらの成分を投与することによってアトピー性皮膚炎が誘導される。
該アトピー性皮膚炎モデル動物は、アトピー性皮膚炎における生体内の変化を明らかにするために有用である。更に、該アトピー性皮膚炎モデル動物を使用することにより、指標遺伝子のさらなる機能を解明すること、および該遺伝子を標的とする薬剤を評価することには大きな意義がある。
また本発明によるアトピー性皮膚炎モデル動物は、アトピー性皮膚炎のメカニズムの解明、さらにはスクリーニングされた化合物の安全性の試験に有用である。たとえば本発明によるアトピー性皮膚炎モデル動物が皮膚炎を発症したり、何らかのアレルギー性疾患に関連した測定値の変化を示せば、それを回復させる作用を持った化合物を探索するスクリーニングシステムが構築できる。
本発明において、発現レベルの上昇とは、指標遺伝子が外来遺伝子として導入され強制発現している状態、あるいは被験動物が本来備えている指標遺伝子の転写と蛋白質への翻訳が増強されている状態、並びに翻訳産物である蛋白質の分解が抑制された状態のいずれかを意味する。
本発明において、発現レベルの低下とは、被験動物が備える指標遺伝子の転写と蛋白質への翻訳が阻害されている状態、あるいは翻訳産物である蛋白質の分解が促進された状態のいずれかを意味する。遺伝子の発現レベルは、たとえば実施例に示すようなDNAチップにおけるシグナル強度の差により確認することができる。また翻訳産物である蛋白質の活性は、正常な状態と比較することにより確認することができる。
代表的なトランスジェニック動物は、指標遺伝子を導入し強制発現させた動物、または指標遺伝子をノックアウトした動物、他の遺伝子と置換(ノックイン)した動物等を示すことができる。また、指標遺伝子に対するアンチセンスDNA、リボザイムをコードするDNA、あるいはデコイ核酸として機能するDNA等を導入したトランスジェニック動物も、本発明におけるトランスジェニック動物として用いることができる。その他、たとえば指標遺伝子のコード領域に変異を導入し、その活性を増強あるいは抑制したり、あるいは分解されにくいあるいは分解されやすいアミノ酸配列に改変した動物などを示すことができる。アミノ酸配列の変異として、置換、欠失、挿入、あるいは付加を示すことができる。その他、遺伝子の転写調節領域を変異させることにより、本発明の指標遺伝子の発現そのものを調節することもできる。
特定の遺伝子を対象として、トランスジェニック動物を得る方法は公知である。すなわち、遺伝子と卵を混合してリン酸カルシウムで処理する方法や、位相差顕微鏡下で前核期卵の核に、微小ピペットで遺伝子を直接導入する方法(マイクロインジェクション法、米国特許第4873191号)、胚性幹細胞(ES細胞)を使用する方法などによってトランスジェニック動物を得ることができる。その他、レトロウィルスベクターに遺伝子を挿入し、卵に感染させる方法、また、精子を介して遺伝子を卵に導入する精子ベクター法等も開発されている。精子ベクター法とは、精子に外来遺伝子を付着またはエレクトロポレーション等の方法で精子細胞内に取り込ませた後に、卵子に受精させることにより、外来遺伝子を導入する遺伝子組換え法である(M.LavitranoetらCell,57,717,1989)。
発現ベクターに使用するプロモーターとして、適当な薬剤等の物質により転写が調節されるプロモーターを用いれば、該物質の投与によってトランスジェニック動物における外来性の指標遺伝子の発現レベルを調整することができる。
本発明のアトピー性皮膚炎または乾癬のモデル動物として用いるトランスジェニック動物は、ヒト以外のあらゆる脊椎動物を利用して作成することができる。具体的には、マウス、ラット、ウサギ、ミニブタ、ヤギ、ヒツジ、あるいはウシ等の脊椎動物において様々な遺伝子の導入や発現レベルを改変されたトランスジェニック動物が作り出されている。
さらに本発明は、アトピー性皮膚炎治療薬候補化合物のスクリーニング方法に関する。本発明において、AD指標遺伝子はa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択された遺伝子である。a)に記載の群から選択された遺伝子は、アトピー性皮膚炎患者の無疹部に比較して同一の患者の皮疹部において有意に発現レベルが上昇している。b)に記載の群から選択された遺伝子は、アトピー性皮膚炎患者の無疹部に比較して同一の患者の皮疹部において有意に発現レベルが低下している。c)ならびにc’)に記載の群から選択された遺伝子は、健常者と比較してアトピー性皮膚炎患者の無疹部において有意に発現レベルが上昇している。そしてd)ならびにd’)に記載の群から選択された遺伝子は、健常者と比較してアトピー性皮膚炎患者の無疹部において有意に発現レベルが低下している。
したがって、a)群、c)群あるいはc’)群のAD指標遺伝子については、前記AD指標遺伝子の発現レベルを低下させることができる化合物を選択することによって、アトピー性皮膚炎の治療薬を得ることができる。一方b)群、d)群あるいはd’)群のAD指標遺伝子については、前記AD指標遺伝子の発現レベルを上昇させることができる化合物を選択することによって、アトピー性皮膚炎の治療薬を得ることができる。
本発明によるアトピー性皮膚炎治療薬候補化合物のスクリーニング方法において、AD指標遺伝子として好ましい遺伝子として以下に記載の遺伝子を示すことができる。
これらの遺伝子はいずれも、乾癬患者では発現レベルの変化が見られなかった遺伝子である。つまりアトピー性皮膚炎患者において特異的に発現レベルが変化していた遺伝子と言うことができる。これらのAD指標遺伝子の利用によって、アトピー性皮膚炎症状に特異的な治療効果を評価することができる。
さらに本発明は、乾癬治療薬候補化合物のスクリーニング方法に関する。本発明において、乾癬指標遺伝子はi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択された遺伝子である。i)に記載の群から選択された遺伝子は、乾癬患者の無疹部に比較して同一の患者の皮疹部において有意に発現レベルが上昇している。ii)に記載の群から選択された遺伝子は、乾癬患者の無疹部に比較して同一の患者の皮疹部において有意に発現レベルが低下している。iii)に記載の群から選択された遺伝子は、健常者と比較して乾癬患者の無疹部において有意に発現レベルが上昇している。そしてiv)に記載の群から選択された遺伝子は、健常者と比較して乾癬患者の無疹部において有意に発現レベルが低下している。
したがって、i)群あるいはiii)群の乾癬指標遺伝子については、前記乾癬指標遺伝子の発現レベルを低下させることができる化合物を選択することによって、乾癬の治療薬を得ることができる。一方ii)群あるいはiv)群の乾癬指標遺伝子については、前記乾癬指標遺伝子の発現レベルを上昇させることができる化合物を選択することによって、乾癬の治療薬を得ることができる。
本発明による乾癬治療薬候補化合物のスクリーニング方法において、乾癬指標遺伝子として好ましい遺伝子として以下に記載の遺伝子を示すことができる。
これらの遺伝子はいずれも、アトピー性皮膚炎患者では発現レベルの変化が見られなかった遺伝子である。つまり乾癬患者において特異的に発現レベルが変化していた遺伝子と言うことができる。これらの乾癬指標遺伝子の利用によって、乾癬の症状に特異的な治療効果を評価することができる。
本発明において遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物とは、遺伝子の転写、翻訳、およおび蛋白質の活性発現のいずれかのステップに対して促進的に作用する作用を持つ化合物である。また本発明において遺伝子の発現レベルを低下させる化合物とは、これらのステップのいずれかに対して阻害的に作用する作用を持つ化合物である。
本発明のアレルギー性疾患(または乾痴)治療候補化合物のスクリーニング方法は、in vivoで行うこともin vitroで行うこともできる。このスクリーニングは、例えば以下のような工程にしたがって実施することができる。
(1)被験動物に、候補化合物を投与する工程、
(2)前記被検動物の生体試料における指標遺伝子の発現強度を測定する工程、
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、およびc’)群のいずれか(乾癬の場合はi)群またはiii)群)の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またb)群、d)群、およびd’)群のいずれか(乾癬の場合はii)群またはiv)群)の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程
本発明のスクリーニング方法において、指標遺伝子としては、上記a)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれか(乾癬についてはi)−iv)のいずれか)に記載の群から選択されたいずれかの遺伝子と機能的に同等な遺伝子を利用することができる。本発明において機能的に同等な遺伝子とは、指標遺伝子によってコードされる蛋白質において明らかにされている活性と同様の活性を備えた蛋白質をコードする遺伝子である。機能的に同等な遺伝子の代表的なものとしては、被験動物が本来備えている、その動物種における指標遺伝子のカウンターパートを挙げることができる。
本発明のスクリーニング方法における被験動物としては、例えばアトピー性皮膚炎モデル動物を利用することができる。アトピー性皮膚炎モデル動物は公知である。たとえば人間のアトピー性皮膚炎に近いモデルとして、NC/Ngaマウスを用いた皮膚炎自然発症モデルが報告されている。このマウスの耳介にダニ抗原(5μg/耳)を2−3日間隔で計8回投与すると、2週間以降にはヒトのアトピー性皮膚炎に酷似した症状を誘発することができる。この系に候補化合物を投与し、本発明の指標遺伝子の発現レベルの変化を追跡することによって本発明によるスクリーニングを実施することができる。
このようにして被験動物に薬剤候補化合物を接触させ、被験動物由来の生体試料における指標遺伝子の発現に対する化合物の作用をモニターすることにより、指標遺伝子の発現レベルに与える薬剤侯補化合物の影響を評価することができる。被験動物の由来の生体試料における指標遺伝子の発現レベルの変動は、前記本発明の検査方法と同様の手法によってモニターすることができる。更にこの評価の結果に基づいて、指標遺伝子がa)群、c)群、およびc’)群のいずれか(乾癬の場合はi)群またはiii)群)に記載の遺伝子である場合には発現レベルを低下させる薬剤候補化合物を、指標遺伝子がb)群、d)群、およびd’)群のいずれか(乾癬の場合はii)群またはiv)群)に記載の遺伝子である場合には発現レベルを上昇させる薬剤候補化合物を選択すれば、薬剤候補化合物をスクリーニングすることができる。
より具体的には、被験動物から、皮膚組織試料を採取し、指標遺伝子の発現レベルを候補化合物を接触させない対照と比較することにより、本発明によるスクリーニングを実施することができる。皮膚組織試料の採取方法、および調製方法は公知である。
このようなスクリーニングにより、指標遺伝子の発現に様々な形で関与する薬剤を選択することができる。具体的には、たとえば次のような作用を持つ薬剤候補化合物を見出すことができる。
指標遺伝子がa)群、c)群、およびc’)群のいずれか(乾癬の場合はi)群またはiii)群)に記載の遺伝子である場合:
・指標遺伝子の発現をもたらすシグナル伝達経路の抑制
・指標遺伝子の転写活性の抑制
・指標遺伝子の転写産物の安定化阻害もしくは分解の促進等
指標遺伝子がb)群、d)群、およびd’)群のいずれか(乾癬の場合はii)群またはiv)群)に記載の遺伝子である場合:
・指標遺伝子の発現をもたらすシグナル伝達経路の活性化、
・指標遺伝子の転写活性の促進、
・指標遺伝子の転写産物の安定化や分解の阻害等
また、in vitroでのスクリーニングにおいては、例えば、指標遺伝子を発現する細胞に候補化合物を接触させ、指標遺伝子がa)群、c)群、およびc’)群のいずれか(乾癬の場合はi)群またはiii)群)に記載の遺伝子である場合には発現レベルを低下させる化合物を、指標遺伝子がb)群、d)群、およびd’)群のいずれか(乾癬の場合はii)群またはiv)群)に記載の遺伝子である場合には発現レベルを上昇させる化合物を選択する方法が挙げられる。このスクリーニングは、例えば以下のような工程に従って実施することができる。
(1)指標遺伝子を発現する細胞に候補化合物を接触させる工程
(2)前記指標遺伝子の発現レベルを測定する工程、
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、およびc’)群のいずれか(乾癬の場合はi)群またはiii)群)に記載の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またb)群、d)群、およびd’)群のいずれか(乾癬の場合はii)群またはiv)群)に記載の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程
本発明において、指標遺伝子を発現する細胞は、指標遺伝子を適当な発現ベクターに挿入し、該ベクターを適当な宿主細胞に導入することにより得ることができる。利用できるベクター、および宿主細胞は、本発明の指標遺伝子を発現し得るものであればよい。宿主−ベクター系における宿主細胞としては、大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等が例示でき、それぞれ利用できるベクターを適宜選択することができる。
ベクターの宿主への導入方法としては、生物学的方法、物理的方法、化学的方法などを示すことができる。生物学的方法としては、例えば、ウイルスベクターを使用する方法、特異的受容体を利用する方法、細胞融合法(HVJ(センダイウイルス)、ポリエチレングリコール(PEG)、電気的細胞融合法、微小核融合法(染色体移入))が挙げられる。また、物理的方法としては、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、ジーンパーティクルガン(gene gun)を用いる方法が挙げられる。化学的方法としては、リン酸カルシウム沈殿法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、プロトプラスト法、赤血球ゴースト法、赤血球膜ゴースト法、マイクロカプセル法が挙げられる。
本発明のスクリーニング方法においては、指標遺伝子を発現する細胞として、皮膚細胞に加えて、ランゲルハンス細胞、マスト細胞、T細胞、好酸球、B細胞、好中球、あるいは好塩基球等の皮膚組織に見出される細胞を用いることができる。
ヒト表皮角化細胞(ケラチノサイト)の初代培養細胞NHEK(Normal Human Epidermal Keratinocyte)に対してTGF−βあるいはsodium butyrateにより刺激を加えることにより分化を誘導することができるという報告がある(例えばGeng Wangら、EXPERIMENTAL CELL RESEARCH 198,27−30(1992))。分化に伴いcornified envelope(CE)という細胞内構造物が形成される。CEの形成あるいはCE構成分子(involucrin,loricrinなど)の遺伝子発現を指標として分化を確認することができる。こうして分化した細胞は、本発明におけるスクリーニングに有用である。
皮膚組織に見出される細胞として、皮膚細胞、T細胞、好酸球、マスト細胞、好塩基球、B細胞、ランゲルハンス細胞、好中球を利用することもできる。株化皮膚細胞は、均質な細胞を大量に入手できること、培養が容易なことなどの点で、本発明のスクリーニング方法に好適である。以下に本発明に利用できる皮膚細胞株の例を示す。
−株化皮膚細胞:HaCaT,A431(ATCC CRL−1555)
−株化T細胞:Jurkat(ATCC TIB−152),Molt−4(ATCC CRL−1582),H9(ATCC HTB−176)
−株化好酸球:AML14.3D10
−株化マスト細胞:HMC−1
−株化好塩基球:KU−812
−株化B細胞:DND39,Raji(ATCC CCL−86)
−(株化)ランゲルハンス細胞:MUTZ−3
−(株化)好中球:HL−60(ATCC CCL−240)
株化にカッコをつけたものは、使用に先だって上記株化細胞から分化させる。ランゲルハンス細胞(Allan J.MastersonらBlood 2002 Jul 15;100(2):701−3)、あるいは好中球(Santos−Beneit AMらJ Leukoc Biol 2000 May;67(5):712−24)の分化は公知である。
スクリーニングの方法は、まず前記株化皮膚細胞に候補化合物を接触させる。その後、該株化皮膚細胞における指標遺伝子の発現レベルを測定し、候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、およびc’)群のいずれか(乾癬の場合はi)群またはiii)群)に記載の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またb)群、d)群、およびd’)群のいずれか(乾癬の場合はii)群またはiv)群)に記載の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する。
なお本発明のスクリーニング方法において、指標遺伝子の発現レベルは、該遺伝子がコードする蛋白質の発現レベルのみならず、対応するmRNAを検出することにより比較することもできる。mRNAによって発現レベルを比較するためには、蛋白質試料の調製工程に代えて、先に述べたようなmRNA試料の調製工程を実施する。mRNAや蛋白質の検出は、先に述べたような公知の方法によって実施することができる。
さらに本発明の開示に基づいて本発明の指標遺伝子の転写調節領域を取得し、レポーターアッセイ系を構築することができる。レポーターアッセイ系とは、転写調節領域の下流に配置したレポーター遺伝子の発現量を指標として、該転写調節領域に作用する転写調節因子をスクリーニングするアッセイ系をいう。
すなわち本発明は、次の工程を含む、アトピー性皮膚炎または乾癬の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が、a)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれか(乾癬の場合はi)−iv)のいずれか)に記載の群から選択されたいずれかの遺伝子、または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子である方法に関する。
(1)指標遺伝子の転写調節領域と、この転写調節領域の制御下に発現するレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞と候補化合物を接触させる工程、
(2)前記レポーター遺伝子の活性を測定する工程、および
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、およびc’)群のいずれか(乾癬の場合はi)群またはiii)群)に記載の指標遺伝子については前記レポーター遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またb)群、d)群、およびd’)群のいずれか(乾癬の場合はii)群またはiv)群)に記載の指標遺伝子については前記レポーター遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程
転写調節領域としては、プロモーター、エンハンサー、さらには、通常プロモーター領域に見られるCAATボックス、TATAボックス等を例示することができる。
またレポーター遺伝子としては、CAT(chloramphenicol acetyltransferase)遺伝子、ルシフェラーゼ(luciferase)遺伝子、成長ホルモン遺伝子等を利用することができる。
あるいは本発明における各指標遺伝子の転写調節領域を、次のようにして取得することもできる。すなわち、まず本発明で開示したcDNAの塩基配列に基づいて、BACライブラリー、YACライブラリー等のヒトゲノムDNAライブラリーから、PCRまたはハイブリダイゼーションを用いる方法によりスクリーニングを行い、該cDNAの配列を含むゲノムDNAクローンを得る。得られたゲノムDNAの配列を基に、本発明で開示したcDNAの転写調節領域を推定し、該転写調節領域を取得する。得られた転写調節領域を、レポーター遺伝子の上流に位置するようにクローニングしてレポーターコンストラクトを構築する。得られたレポーターコンストラクトを培養細胞株に導入してスクリーニング用の形質転換体とする。この形質転換体に候補化合物を接触させ、候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、およびc’)群のいずれか(乾癬の場合はi)群またはiii)群)に記載の指標遺伝子については前記レポーター遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またb)群、d)群、およびd’)群のいずれか(乾癬の場合はii)群またはiv)群)に記載の指標遺伝子については前記レポーター遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択することにより本発明のスクリーニングを行うことができる。
in vitroでの本発明によるスクリーニング方法として、指標蛋白質の活性に基づくスクリーニング方法を利用することもできる。すなわち本発明は、次の工程を含む、アトピー性皮膚炎の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子がa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれか(乾癬の場合はi)群−iv)群)に記載の群から選択されたいずれかの遺伝子、または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子である方法に関する。
(1)指標遺伝子によってコードされる蛋白質と候補化合物を接触させる工程、
(2)前記蛋白質の活性を測定する工程、および
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、およびc’)群のいずれか(乾癬の場合はi)群またはiii)群)に記載の指標遺伝子については前記活性を低下させる化合物を、またb)群、d)群、およびd’)群のいずれか(乾癬の場合はii)群またはiv)群)に記載の指標遺伝子については前記活性を上昇させる化合物を選択する工程
本発明における指標蛋白質が有する活性を指標として、a)群、c)群、およびc’)群のいずれか(乾癬の場合はi)群またはiii)群)に記載の指標遺伝子については、その活性を阻害する活性を有する化合物をスクリーニングすることができる。このようにして得ることができる化合物は、a)群、c)群、およびc’)群のいずれか(乾癬の場合はi)群またはiii)群)に記載の各指標遺伝子の働きを抑制する。その結果、皮膚において発現が誘導された指標蛋白質の阻害を通じて、アトピー性皮膚炎(または乾癬)を制御することができる。
またb)群、d)群、およびd’)群のいずれか(乾癬の場合はii)群またはiv)群)に記載の指標遺伝子については、その活性を促進する活性を有する化合物をスクリーニングすることができる。このようにして得ることができる化合物は、b)群、d)群、およびd’)群のいずれか(乾癬の場合はii)群またはiv)群)に記載の指標遺伝子の働きを促進する。その結果、皮膚において発現が阻害された指標蛋白質の促進を通じて、アトピー性皮膚炎(または乾癬)を制御することができる。
これらスクリーニングに用いる被験候補物質としては、ステロイド誘導体等既存の化学的方法により合成された化合物標品、コンビナトリアルケミストリーにより合成された化合物標品のほか、動・植物組織の抽出物もしくは微生物培養物等の複数の化合物を含む混合物、またそれらから精製された標品などが挙げられる。
本発明による各種のスクリーニング方法に必要な、ポリヌクレオチド、抗体、細胞株、あるいはモデル動物は、予め組み合わせてキットとすることができる。これらのキットには、標識の検出に用いられる基質化合物、細胞の培養のための培地や容器、陽性や陰性の標準試料、更にはキットの使用方法を記載した指示書等をパッケージしておくこともできる。
本発明のスクリーニング方法によって選択される化合物は、アトピー性皮膚炎の治療薬として有用である。あるいは、a)、c)、およびc’)のいずれかに記載のいずれかのAD指標遺伝子の発現を抑制することができるアンチセンスDNAも、アトピー性皮膚炎の治療薬として有用である。
さらに、a)、c)、およびc’)のいずれかに記載されたいずれかのAD指標遺伝子によってコードされる蛋白質を認識する抗体も、アトピー性皮膚炎の治療薬として有用である。a)、c)、およびc’)のいずれかに記載されたAD指標遺伝子は、アトピー性皮膚炎患者の皮疹部において発現が上昇する遺伝子である。したがってこれらの遺伝子の発現、あるいはこれら遺伝子によってコードされる蛋白質の機能を抑制することによって、アトピー性皮膚炎の治療効果を期待することができる。
加えてb)、d)、およびd’)のいずれかに記載されたいずれかのAD指標遺伝子、並びに該遺伝子によってコードされる蛋白質そのものも、アトピー性皮膚炎の治療薬として有用である。
また本発明のスクリーニング方法によって選択される化合物は、乾癬の治療薬として有用である。あるいは、i)およびiii)に記載のいずれかの乾癬指標遺伝子の発現を抑制することができるアンチセンスDNAも、乾癬の治療薬として有用である。
さらに、i)またはiii)に記載されたいずれかの乾癬指標遺伝子によってコードされる蛋白質を認識する抗体も、乾癬の治療薬として有用である。i)またはiii)に記載された指標遺伝子は、乾癬患者の皮疹部において発現が上昇する遺伝子である。したがってこれらの遺伝子の発現、あるいはこれら遺伝子によってコードされる蛋白質の機能を抑制することによって、乾癬の治療効果を期待することができる。
加えてii)またはiv)に記載されたいずれかの乾癬指標遺伝子、並びに該遺伝子によってコードされる蛋白質そのものも、乾癬の治療薬として有用である。
本発明のアレルギー性疾患または乾癬の治療薬は、スクリーニング方法によって選択された化合物を有効成分として含み、生理学的に許容される担体、賦形剤、あるいは希釈剤等と混合することによって製造することができる。本発明のアレルギー性疾患または乾癬の治療剤は、アレルギー症状または乾癬の改善を目的として、経口、あるいは非経口的に投与することができる。
経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤、あるいは懸濁剤等の剤型を選択することができる。注射剤には、皮下注射剤、筋肉注射剤、あるいは腹腔内注射剤等を示すことができる。
また、投与すべき化合物がタンパク質からなる場合には、それをコードする遺伝子を遺伝子治療の手法を用いて生体に導入することにより、治療効果を達成することができる。治療効果をもたらすタンパク質をコードする遺伝子を生体に導入し、発現させることによって、疾患を治療する手法は公知である。
あるいはアンチセンスDNAは、適当なプロモーター配列の下流に組み込み、アンチセンスRNA発現ベクターとして投与することができる。この発現ベクターをアレルギー疾患患者の単核球細胞へ導入すれば、これらの遺伝子のアンチセンスを発現し、当該遺伝子の発現レベルの低下によってアレルギーの治療効果を達成することができる。単核球細胞への発現ベクターの導入としては、in vivo、あるいはex vivoで行う方法が公知である。
投与量は、患者の年齢、性別、体重および症状、治療効果、投与方法、処理時間、あるいは該医薬組成物に含有される活性成分の種類などにより異なるが、通常成人一人あたり、一回につき0.1mgから500mgの範囲で、好ましくは0.5mgから20mgの範囲で投与することができる。しかし、投与量は種々の条件により変動するため、上記投与量よりも少ない量で充分な場合もあり、また上記の範囲を超える投与量が必要な場合もある。
また本発明は、a)群〜d)群、並びにc’)群およびd’)群のいずれかから選択された少なくとも1種類のAD指標遺伝子を測定するためのプローブを固定したアトピー性皮膚炎の診断用DNAチップを提供する。あるいは本発明は、i)群〜iv)群のいずれかから選択された少なくとも1種類の乾癬指標遺伝子を測定するためのプローブを固定した乾癬の診断用DNAチップを提供する。
測定すべき指標遺伝子の種類は任意である。指標遺伝子の数が多いほど、多くの指標に基づく判断が可能となる。一般に、より多くの指標を測定する方が、診断の確度は高まる。また、複数の指標遺伝子を測定する場合には、性質の異なった遺伝子を選択するのが有利である。発現レベルの変動のメカニズム、あるいは遺伝子によってコードされる蛋白質の機能などが異なると考えられる遺伝子は、相互に性質の異なる遺伝子と言うことができる。更に、a)−d)並びにc’)およびd’)に記載されたAD指標遺伝子とi)−iv)に記載された乾癬指標遺伝子とを測定対象とすることによって、アトピー性皮膚炎と乾癬の両方を同一のDNAチップによって検査することもできる。
指標遺伝子の組み合せの例として、次のような例を示すことができる。次に示すような指標遺伝子の組み合せは、アレルギーの検査の精度の向上に貢献する。
[プロテアーゼとプロテアーゼインヒビターで構成される群に含まれる指標遺伝子から選択された2以上の遺伝子]
プロテアーゼとプロテアーゼインヒビターとは、組織の崩壊と構築のバランスの指標となる。すなわち、本発明における指標遺伝子のうち、プロテアーゼ群に含まれる遺伝子と、プロテアーゼインヒビターに含まれる遺伝子から選択された遺伝子について、その遺伝子検出用のプローブを集積して、アトピー性皮膚炎検査用チップとすることができる。各群に含まれる指標遺伝子は、明細書の最後に示した指標遺伝子のリストから見出すことができる。例えば、MMP−3(Matrix Metalloproteinase−3)とTIMP−1(Tissue Inhibitor of MMP−1)の不均衡により皮疹が慢性化するような報告もあることから、プロテアーゼとプロテアーゼインヒビターの組み合せはアレルギー性疾患の指標遺伝子の組み合せとして意義がある。
[サイトカイン、サイトカインレセプター、ケモカイン、ケモカインレセプター、CD抗原、抗体、および抗体レセプターで構成される群に含まれる指標遺伝子から選択された2以上の遺伝子]
これらの組み合せは、いずれも相互にリガンドとレセプターの関係にある物質の組み合せである。免疫応答は、これらの物質間の相互作用の結果と見ることもできる。したがって、これらの指標遺伝子を組み合せることによって、皮膚組織が免疫学的にどのような状態にあるかを判断できる可能性がある。指標遺伝子としては、リガンドとレセプターの関係にある分子の両方を選択しても良いし、本発明における指標遺伝子としていずれか一方しか示されていない場合には、いずれか一方のみを指標遺伝子として選択することもできる。
[サイトカイン、細胞外マトリックス蛋白質、細胞骨格系の蛋白、細胞間接着分子、および転写因子で構成される群に含まれる指標遺伝子から選択された2以上の遺伝子]
細胞外マトリックス蛋白質としてはコラーゲンなどを示すことができる。細胞骨格系の蛋白は、ケラチン、small prolin rich protein、involucrinなどを含む。また、細胞間接着分子には、カドヘリン、デスモコリンなどが含まれる。そして、転写因子としては、jun、fos、あるいはmycを示すことができる。これらの指標遺伝子の発現レベルを観察することによって、皮膚組織の分化、炎症部位の再構築(修復)の度合を評価できる可能性がある。
[酵素に含まれる指標遺伝子から選択された2以上の遺伝子]
酵素に含まれる指標遺伝子を選択することによって、皮膚細胞(epidermal keratinocyteやdermal fibroblast)でどのような代謝が行われているかを知ることができる。例えば、脂質メディエーターやバリア機能を支える脂質分子の代謝については脂質代謝酵素の発現レベルから判断することができる。脂質代謝酵素には、たとえばphospholipase A2、cyclooxygenase−2、prostagrandin D2 synthase、あるいはFatty acid desaturase 1,2などが含まれる。
あるいは、より精度の高い検査を実現するために、a)群およびb)群を構成する遺伝子から選択された任意の複数の遺伝子の組み合せについて、選択された遺伝子を検出することができるプローブを集積したアトピー性皮膚炎検査用チップは有効である。具体的には、a)群から通常10以上、たとえば30以上、好ましくは50以上、より好ましくは60以上、更に好ましくは80以上、あるいは100以上の遺伝子を選択することができる。一方b)群からは、通常10以上、たとえば30以上、好ましくは50以上、より好ましくは60以上、更に好ましくは80以上の遺伝子を選択することができる。
同様に、より精度の高い検査を実現するために、c)群、d)群、c’)群、およびd’)群を構成する遺伝子から選択された任意の複数の遺伝子の組み合せについて、選択された遺伝子を検出することができるプローブを集積したアトピー性皮膚炎検査用チップは有効である。具体的には、c)群および/またはc’)群から通常10以上、たとえば30以上、好ましくは50以上、より好ましくは60以上、更に好ましくは80以上の遺伝子を選択することができる。一方d)群および/またはd’)群からは、通常10以上、たとえば30以上、好ましくは50以上、より好ましくは60以上、更に好ましくは70以上の遺伝子を選択することができる。
また、a)群から選択された遺伝子とc)群および/またはc’)群から選択された遺伝子の組み合せからなるアトピー性皮膚炎検査用チップも、検査精度を高めるために有効である。同様に、b)群から選択された遺伝子とd)群および/またはd’)群から選択された遺伝子の組み合せからなるアトピー性皮膚炎検査用チップも、検査精度を高めるために有効である。
更に前記i)〜iv)に記載された乾癬指標遺伝子を組み合わせることによって、本発明による乾癬検査用チップを得ることができる。乾癬指標遺伝子は、前記のアトピー性皮膚炎検査用チップと同様にして組み合わせることができる。なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行った。すなわち、アトピー性皮膚炎患者の皮疹部と同一の患者における無疹部、およびアトピー性皮膚炎患者の無疹部と健常者の皮膚との間で発現レベルに差が見られる遺伝子を明らかにし、アトピー性皮膚炎反応との関連性を明らかにすることにより、アトピー性皮膚炎治療の新たな標的を見出すことができると考えた。
このような考えに基づき、本発明者らは、アトピー性皮膚炎患者の皮疹部と同一の患者における無疹部、およびアトピー性皮膚炎患者の無疹部と健常者の皮膚との間で発現状態の違う遺伝子を探索した。遺伝子の発現状態を比較する生体試料としては、被検者の皮膚組織を選択した。実際に炎症が起きている皮膚組織検体には病態形成に重要なリンパ球などが多く浸潤しており、皮膚局所における遺伝子発現解析を行えばアトピー性皮膚炎の病態の解明につながると考えられる。
本発明者らは、アトピー性皮膚炎患者の皮疹部と同一の患者における無疹部並びに健常者の皮膚で発現している遺伝子について、ジーンチップを用いて発現プロファイルを比較した。2倍以上の発現変動のあった遺伝子を選別し、遺伝子の発現レベルを測定した。そして、以下のa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択された指標遺伝子の発現が変動していることを確認した。更に本発明者らは、これらの指標遺伝子のマウスカウンターパートについて、マウス皮膚炎モデルにおける発現レベルを解析し、マウスの皮膚炎に関連する指標遺伝子としてA)〜D)のいずれかの群に記載の指標遺伝子を選択した。
a)〜d)、並びにc’)およびd’)、そしてA)〜D)のいずれかに記載した各指標遺伝子の塩基配列は既知である。a)〜d)の各指標遺伝子によってコードされる蛋白質の機能は、後に記載するデータ1〜データ4のReferenceの項に示した論文に記載されている。加えて、c’)およびd’)の各指標遺伝子によってコードされる蛋白質の機能は、後に記載するデータ7およびデータ8のReferenceの項に示した論文に記載されている。またA)およびB)の各指標遺伝子によってコードされる蛋白質の機能は、データ5およびデータ6の、そしてC)およびD)の各指標遺伝子によってコードされる蛋白質の機能は、データ13およびデータ14のReferenceの項に示した論文にそれぞれ記載されている。あるいは本発明による乾癬の検査方法における乾癬指標遺伝子i)〜iv)の塩基配列、および該指標遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は公知である。本発明の各指標遺伝子の公知の塩基配列のGenBankアクセション番号は、下記データ9〜データ12(ヒト)に記載したとおりである。更にi)〜iv)の各指標遺伝子によってコードされる蛋白質の機能は、後に記載するデータ9〜データ12のReferenceの項に示した論文に記載されている。これらの遺伝子群の中にはアトピー性皮膚炎との直接的な関連性について報告されている遺伝子もあるが、多くの遺伝子についてはアレルギー性疾患との関連を示す報告はない。また、アトピー性皮膚炎との関連性が報告されている遺伝子についても、同じタイミングで共発現変動する他の遺伝子との組み合わせという観点では報告はない。同様に乾癬の指標遺伝子についても、その検査や治療剤のスクリーニングの指標として有用であることは報告されていない。
アトピー性皮膚炎患者の皮疹部と同一の患者における無疹部、およびアトピー性皮膚炎患者の無疹部と健常者との間において、指標遺伝子の発現レベルに変動が観察されたという事実は、本発明の指標遺伝子とアトピー性皮膚炎症状との深い結びつきを表している。また、ダニアレルゲン感作マウスの耳介皮膚とダニアレルゲン非感作マウスの耳介皮膚において、上記指標遺伝子のマウスにおけるカウンターパートの発現レベルに差が見られることも、本発明の指標遺伝子とアトピー性皮膚炎症状との結びつきを裏付けている。
更に本発明者らは、このようにして選択された各遺伝子について、乾癬患者における発現レベルとの比較を試みた。その結果、アトピー性皮膚炎患者および乾癬患者において、特異的に発現レベルが変化している遺伝子群、ならびに両方の患者で共通して発現レベルが変化している遺伝子群とを明らかにした。各疾患に固有の変化が見られる遺伝子群には、各疾患に特異的な診断指標や治療方法の標的遺伝子としての有用性が期待できる。一方、両方の疾患において共通して発現レベルが変化する遺伝子群は、皮膚炎症性疾患に共通の診断指標や治療方法の標的遺伝子としての有用性が期待できる。
以上の知見に基づいて、本発明者らは、各指標遺伝子の発現レベル、あるいは各指標遺伝子によってコードされる蛋白質の活性を指標とすることにより、アトピー性皮膚炎あるいは乾癬の診断、および該疾患のための治療薬のスクリーニングが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は、以下のアトピー性皮膚炎の検査方法、並びにアトピー性皮膚炎治療薬候補化合物のスクリーニング方法に関する。
〔1〕次の工程(1)〜(3)を含む、アトピー性皮膚炎の検査方法であって、指標遺伝子が次のa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である方法。
(1)被検者の皮疹部および/または無疹部から採取された生体試料における指標遺伝子の発現レベルを測定する工程
(2)工程(1)で測定された発現レベルを、指標遺伝子がa)またはb)に記載された遺伝子である場合には、対照として同じ被検者の無疹部から採取された生体試料における指標遺伝子の発現レベルと、また指標遺伝子がc)、c’)、d)、およびd’)のいずれかに記載された遺伝子である場合には、対照として健常者の生体試料における指標遺伝子の発現レベルと比較する工程、および
(3)工程(2)の比較の結果、指標遺伝子がa)、c)およびc’)に記載された遺伝子の場合には対照と比較して発現レベルが高い場合に、また指標遺伝子がb)、d)およびd’)に記載された遺伝子の場合には対照と比較して発現レベルが低い場合に、前記被検者はアトピー性皮膚炎を有すると判定する工程
〔10〕遺伝子の発現レベルを、cDNAのPCRによって測定する〔1〕に記載の検査方法。
〔11〕遺伝子の発現レベルを、指標遺伝子によってコードされる蛋白質の検出によって測定する〔1〕に記載の検査方法。
〔12〕指標遺伝子の塩基配列を含むポリヌクレオチド、またはその相補鎖に相補的な塩基配列を有する少なくとも15塩基の長さを有するオリゴヌクレオチドからなる、アトピー性皮膚炎検査用試薬であって、指標遺伝子が〔1〕におけるa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるアトピー性皮膚炎検査用試薬。
〔13〕指標遺伝子によってコードされる蛋白質のアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体からなる、アトピー性皮膚炎検査用試薬であって、指標遺伝子が〔1〕におけるa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるアトピー性皮膚炎検査用試薬。
〔14〕次の工程を含む、アトピー性皮膚炎の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が〔1〕におけるa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるスクリーニング方法。
(1)指標遺伝子を発現する細胞に候補化合物を接触させる工程、
(2)前記遺伝子の発現レベルを測定する工程、
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、およびc’)群のいずれかの指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またb)群、d)群、およびd’)群のいずれかの指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程
〔15〕細胞が株化皮膚細胞である〔14〕に記載の方法。
〔16〕指標遺伝子の塩基配列を含むポリヌクレオチド、またはその相補鎖に相補的な塩基配列を有する少なくとも15塩基の長さを有するオリゴヌクレオチドと、指標遺伝子を発現する細胞を含む、アトピー性皮膚炎の治療薬候補化合物をスクリーニングするためのキットであって、指標遺伝子が〔1〕におけるa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるキット。
〔17〕指標遺伝子によってコードされる蛋白質のアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体と、指標遺伝子を発現する細胞を含む、アトピー性皮膚炎の治療薬候補化合物をスクリーニングするためのキットであって、指標遺伝子が〔1〕におけるa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるキット。
〔18〕指標遺伝子または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の皮膚における発現強度を上昇させたトランスジェニック非ヒト脊椎動物からなるアトピー性皮膚炎モデル動物であって、指標遺伝子が〔1〕におけるa)、c)、およびc’)、並びに以下のA)またはC)に記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるモデル動物。
〔19〕非ヒト脊椎動物がマウスである〔18〕に記載のモデル動物。
〔20〕指標遺伝子または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の皮膚における発現強度を低下させたトランスジェニック非ヒト脊椎動物からなるアトピー性皮膚炎モデル動物であって、指標遺伝子が〔1〕におけるb)、d)、およびd’)、並びに以下のB)またはD)に記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるモデル動物。
〔21〕非ヒト脊椎動物がマウスである〔20〕に記載のモデル動物。
〔22〕次のi)−iv)のいずれかに記載の成分をマウスに投与する工程を含む、アレルギー性皮膚炎モデル動物の製造方法。
i)〔18〕におけるA)およびC)に記載の遺伝子群から選択されたいずれかの遺伝子を構成する塩基配列を含むポリヌクレオチド、
ii)〔18〕におけるA)およびC)に記載の遺伝子群から選択されたいずれかの遺伝子を構成する塩基配列を含むポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質
iii)〔20〕におけるB)およびD)に記載の遺伝子群から選択されたいずれかの遺伝子を構成する塩基配列を含むポリヌクレオチドのアンチセンスまたはRNAi
iv)〔20〕におけるB)およびD)に記載の遺伝子群から選択されたいずれかの遺伝子を構成する塩基配列を含むポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質に結合する抗体、またはその抗原結合領域を含む断片
〔23〕〔22〕におけるi)−iv)のいずれかに記載の成分を有効成分として含む、マウスにアレルギー性皮膚炎を誘導するための誘導剤。
〔24〕次の工程を含む、アトピー性皮膚炎の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が〔1〕におけるa)〜d)、〔1〕におけるc’)およびd’)、〔18〕におけるA)およびC)、および〔20〕におけるB)およびD)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子、または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子であるスクリーニング方法。
(1)被験動物に候補化合物を投与する工程、
(2)前記被験動物の生体試料における指標遺伝子の発現強度を測定する工程、
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、c’)群、A)群、並びにC)群の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またb)群、d)群、d’)群、B)群、並びにD)群の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程、
〔25〕次の工程を含む、アトピー性皮膚炎の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が〔1〕におけるa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子、または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子であるスクリーニング方法。
(1)指標遺伝子の転写調節領域と、この転写調節領域の制御下に発現するレポーター遺伝子とを含むベクターを導入した細胞と候補化合物を接触させる工程、
(2)前記レポーター遺伝子の活性を測定する工程、および
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、およびc’)群のいずれかの指標遺伝子については前記レポーター遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またb)群、d)群、およびd’)群のいずれかの指標遺伝子については前記レポーター遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程、
〔26〕次の工程を含む、アトピー性皮膚炎の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が〔1〕におけるa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子、または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子であるスクリーニング方法。
(1)指標遺伝子によってコードされる蛋白質と候補化合物を接触させる工程、
(2)前記蛋白質の活性を測定する工程、および
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、およびc’)群のいずれかの指標遺伝子については前記活性を低下させる化合物を、またb)群、d)群、およびd’)群のいずれかの指標遺伝子については前記活性を上昇させる化合物を選択する工程
〔27〕〔14〕、〔24〕、〔25〕、および〔26〕のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を有効成分として含有する、アトピー性皮膚炎の治療薬。
〔28〕指標遺伝子、またはその一部のアンチセンスDNAを有効成分として含むアトピー性皮膚炎の治療薬であって、指標遺伝子が〔1〕におけるa)、c)、およびc’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である治療薬。
〔29〕指標遺伝子によってコードされる蛋白質のアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体を有効成分として含む、アトピー性皮膚炎の治療薬であって、指標遺伝子が〔1〕におけるa)、c)、およびc’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である治療薬。
〔30〕指標遺伝子、または指標遺伝子によってコードされる蛋白質を有効成分として含む、アトピー性皮膚炎の治療薬であって、指標遺伝子が〔1〕におけるb)、d)、およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である治療薬。
〔31〕指標遺伝子を測定するためのプローブを固定したアトピー性皮膚炎の診断用DNAチップであって、指標遺伝子が〔1〕に記載されたa)群〜d)群、並びにc’)およびd’)のいずれかから選択された少なくとも1種類の遺伝子であるDNAチップ。
あるいは本発明は、〔14〕、〔24〕、〔25〕および〔26〕のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を投与する工程を含む、アトピー性皮膚炎の治療方法に関する。また本発明は、〔14〕、〔24〕、〔25〕および〔26〕のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物の、アトピー性皮膚炎の治療用医薬組成物の製造における使用に関する。
加えて本発明は、次の成分(i)または(ii)を投与する工程を含む、アトピー性皮膚炎の治療方法に関する。あるいは本発明は、次の成分(i)または(ii)の、アトピー性皮膚炎の治療用医薬組成物の製造における使用に関する。
(i)上記a)、c)、またはc’)に記載の遺伝子、またはその一部のアンチセンスDNA、
(ii)上記a)、c)、またはc’)に記載の遺伝子によってコードされる蛋白質のアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体
更に本発明は、次の成分(iii)または(iv)を投与する工程を含む、アトピー性皮膚炎の治療方法に関する。あるいは本発明は、次の成分(iii)または(iv)の、アトピー性皮膚炎の治療用医薬組成物の製造における使用に関する。
(iii)上記b)、d)またはd’)に記載の遺伝子、
(iv)上記b)、d)またはd’)に記載の遺伝子によってコードされる蛋白質
また本発明は、以下の乾癬の検査方法、並びに乾癬治療薬候補化合物のスクリーニング方法に関する。
〔32〕次の工程(1)〜(3)を含む、乾癬の検査方法であって、指標遺伝子が次のi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である方法。
(1)被検者の皮疹部および/または無疹部から採取された生体試料における指標遺伝子の発現レベルを測定する工程
(2)工程(1)で測定された発現レベルを、指標遺伝子がi)またはii)に記載された遺伝子である場合には、対照として同じ被検者の無疹部から採取された生体試料における指標遺伝子の発現レベルと、また指標遺伝子がiii)またはiv)に記載された遺伝子である場合には、対照として健常者の生体試料における指標遺伝子の発現レベルと比較する工程、および
(3)(2)の比較の結果、指標遺伝子がi)またはiii)に記載された遺伝子の場合には対照と比較して発現レベルが高い場合に、また指標遺伝子がii)またはiv)に記載された遺伝子の場合には対照と比較して発現レベルが低い場合に、前記被検者は乾癬を有すると判定する工程
〔41〕遺伝子の発現レベルを、cDNAのPCRによって測定する〔32〕に記載の検査方法。
〔42〕遺伝子の発現レベルを、指標遺伝子によってコードされる蛋白質の検出によって測定する〔32〕に記載の検査方法。
〔43〕指標遺伝子の塩基配列を含むポリヌクレオチド、またはその相補鎖に相補的な塩基配列を有する少なくとも15塩基の長さを有するオリゴヌクレオチドからなる、乾癬検査用試薬であって、指標遺伝子が〔32〕におけるi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である乾癬検査用試薬。
〔44〕指標遺伝子によってコードされる蛋白質のアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体からなる、乾癬検査用試薬であって、指標遺伝子が〔32〕におけるi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である乾癬検査用試薬。
〔45〕次の工程を含む、乾癬の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が〔32〕におけるi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるスクリーニング方法。
(1)指標遺伝子を発現する細胞に候補化合物を接触させる工程、
(2)前記遺伝子の発現レベルを測定する工程、
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、i)群またはiii)群の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またii)群またはiv)群の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程
〔46〕細胞が株化皮膚細胞である〔45〕に記載の方法。
〔47〕指標遺伝子の塩基配列を含むポリヌクレオチド、またはその相補鎖に相補的な塩基配列を有する少なくとも15塩基の長さを有するオリゴヌクレオチドと、指標遺伝子を発現する細胞を含む、乾癬の治療薬候補化合物をスクリーニングするためのキットであって、指標遺伝子が〔32〕におけるi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるキット。
〔48〕指標遺伝子によってコードされる蛋白質のアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体と、指標遺伝子を発現する細胞を含む、乾癬の治療薬候補化合物をスクリーニングするためのキットであって、指標遺伝子が〔32〕におけるi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるキット。
〔49〕指標遺伝子または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の皮膚における発現強度を上昇させたトランスジェニック非ヒト脊椎動物からなる乾癬モデル動物であって、指標遺伝子が〔32〕におけるi)群およびiii)群に記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるモデル動物。
〔50〕非ヒト脊椎動物がマウスである〔49〕に記載のモデル動物。
〔51〕指標遺伝子または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の皮膚における発現強度を低下させたトランスジェニック非ヒト脊椎動物からなる乾癬モデル動物であって、指標遺伝子が〔32〕におけるii)群およびiv)群から選択されたいずれかの遺伝子であるモデル動物。
〔52〕非ヒト脊椎動物がマウスである〔51〕に記載のモデル動物。
〔53〕次の工程を含む、乾癬の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が〔32〕におけるi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子、または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子であるスクリーニング方法。
(1)指標遺伝子の転写調節領域と、この転写調節領域の制御下に発現するレポーター遺伝子とを含むベクターを導入した細胞と候補化合物を接触させる工程、
(2)前記レポーター遺伝子の活性を測定する工程、および
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、i)群またはiii)群の指標遺伝子については前記レポーター遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またii)群またはiv)群の指標遺伝子については前記レポーター遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程、
〔54〕次の工程を含む、乾癬の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が〔32〕におけるi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子、または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子であるスクリーニング方法。
(1)指標遺伝子によってコードされる蛋白質と候補化合物を接触させる工程、
(2)前記蛋白質の活性を測定する工程、および
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、i)群またはiii)群の指標遺伝子については前記活性を低下させる化合物を、またii)群またはiv)群の指標遺伝子については前記活性を上昇させる化合物を選択する工程
〔55〕〔45〕、〔53〕、および〔54〕のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を有効成分として含有する、乾癬の治療薬。
〔56〕指標遺伝子、またはその一部のアンチセンスDNAを有効成分として含む乾癬の治療薬であって、指標遺伝子が〔32〕におけるi)またはiii)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である治療薬。
〔57〕指標遺伝子によってコードされる蛋白質のアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体を有効成分として含む、乾癬の治療薬であって、指標遺伝子が〔32〕におけるi)またはiii)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である治療薬。
〔58〕指標遺伝子、または指標遺伝子によってコードされる蛋白質を有効成分として含む、乾癬の治療薬であって、指標遺伝子が〔32〕におけるii)またはiv)に記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である治療薬。
〔59〕指標遺伝子を測定するためのプローブを固定した乾癬の診断用DNAチップであって、指標遺伝子が〔32〕に記載されたi)〜iv)群のいずれかから選択された少なくとも1種類の遺伝子であるDNAチップ。
あるいは本発明は、〔45〕、〔53〕、および〔54〕のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を投与する工程を含む、乾癬の治療方法に関する。また本発明は、〔45〕、〔53〕、および〔54〕のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物の、乾癬の治療用医薬組成物の製造における使用に関する。
加えて本発明は、次の成分(1)または(2)を投与する工程を含む、乾癬の治療方法に関する。あるいは本発明は、次の成分(1)または(2)の、乾癬の治療用医薬組成物の製造における使用に関する。
(1)上記i)またはiii)に記載の遺伝子、またはその一部のアンチセンスDNA、
(2)上記i)またはiii)に記載の遺伝子によってコードされる蛋白質を認識する抗体
更に本発明は、次の成分(3)または(4)を投与する工程を含む、乾癬の治療方法に関する。あるいは本発明は、次の成分(3)または(4)の、乾癬の治療用医薬組成物の製造における使用に関する。
(3)上記ii)またはiv)に記載の遺伝子、
(4)上記ii)またはiv)に記載の遺伝子によってコードされる蛋白質
本発明において、アレルギー性疾患(allergic disease)とはアレルギー反応の関与する疾患の総称である。より具体的には、アレルゲンが同定され、アレルゲンへの曝露と病変の発症に深い結びつきが証明され、その病変に免疫学的な機序が証明されることと定義することができる。ここで、免疫学的な機序とは、アレルゲンの刺激によって白血球細胞が免疫応答を示すことを意味する。アレルゲンとしては、ダニ抗原や花粉抗原等を例示することができる。
代表的なアレルギー性疾患には、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、花粉症、あるいは昆虫アレルギー等を示すことができる。アレルギー素因(allergic diathesis)とは、アレルギー性疾患を持つ親から子に伝えられる遺伝的な因子である。家族性に発症するアレルギー性疾患はアトピー性疾患とも呼ばれ、その原因となる遺伝的に伝えられる因子がアトピー素因である。アトピー性皮膚炎は、アトピー性疾患のうち、特に皮膚炎症状を伴う疾患に対して与えられた総称である。
本発明において、アトピー性皮膚炎の指標とすることができる遺伝子を、AD指標遺伝子という。またAD指標遺伝子がコードするアミノ酸配列からなる蛋白質をAD指標蛋白質という。AD指標遺伝子は特に断らない限り、a)−d)、c’)およびd’)、ならびにA)−D)に記載された遺伝子から選択されたいずれか1つまたは複数の任意の遺伝子を示す用語として用いられる。
本発明のAD指標遺伝子において、次に示す遺伝子群から選択された遺伝子は、前記a)群またはb)群の遺伝子として好ましい。これらの遺伝子は、アトピー性皮膚炎患者の皮疹部における発現レベルがアトピー性皮膚炎患者の無疹部に比べて高い−a)群−、または低い−b)群−AD指標遺伝子群に含まれ、かつ乾癬患者の皮疹部と無疹部の比較においては発現レベルに有意な差が見られなかった遺伝子である。これらのAD指標遺伝子は、アトピー性皮膚炎患者において特異的に発現レベルが変化している遺伝子である。
一方、本発明のAD指標遺伝子において、次に示す遺伝子群から選択された遺伝子は、前記c’)群またはd’)群の遺伝子として好ましい。これらの遺伝子は、アトピー性皮膚炎患者の無疹部における発現レベルが健常者に比べて高い−c’)群−、または低い−d’)群−AD指標遺伝子群に含まれ、かつ乾癬患者の無疹部と健常者の比較においては発現レベルに有意な差が見られなかった遺伝子である。これらのAD指標遺伝子も、アトピー性皮膚炎患者において特異的に発現レベルが変化している遺伝子である。
また本発明において、乾癬の指標とすることができる遺伝子を、乾癬指標遺伝子という。また乾癬指標遺伝子がコードするアミノ酸配列からなる蛋白質を乾癬指標蛋白質という。乾癬指標遺伝子は特に断らない限り、i)−iv)に記載された遺伝子から選択されたいずれか1つまたは複数の任意の遺伝子を示す用語として用いられる。更に、以降、特に疾患を特定せず、単に指標遺伝子または指標蛋白質と記載するときは、前記AD指標遺伝子(およびAD指標蛋白質)と前記乾癬指標遺伝子(乾癬指標蛋白質)の両方を含む用語として用いる。
本発明の乾癬指標遺伝子において、次に示す遺伝子群から選択された遺伝子は、前記i)群またはii)群の遺伝子として好ましい。これらの遺伝子は、乾癬患者の皮疹部における発現レベルが乾癬患者の無疹部に比べて高い−i)群−、または低い−ii)群−乾癬指標遺伝子群に含まれ、かつアトピー性皮膚炎患者の皮疹部と無疹部の比較においては発現レベルに有意な差が見られなかった遺伝子である。これらの乾癬指標遺伝子は、乾癬患者において特異的に発現レベルが変化している遺伝子である。
一方、本発明の乾癬指標遺伝子において、次に示す遺伝子群から選択された遺伝子は、前記iii)群またはiv)群の遺伝子として好ましい。これらの遺伝子は、乾癬患者の無疹部における発現レベルが健常者に比べて高い−iii)群−、または低い−iv)群−乾癬指標遺伝子群に含まれ、かつアトピー性皮膚炎患者の無疹部と健常者の比較においては発現レベルに有意な差が見られなかった遺伝子である。これらの乾癬指標遺伝子も、乾癬患者において特異的に発現レベルが変化している遺伝子である。
本発明における指標遺伝子の塩基配列、およびこの塩基配列によってコードされるアミノ酸配列は公知である。AD指標遺伝子の配列データを得るためのGenBank登録番号を、指標遺伝子の名前とともに後にまとめた。
本発明のアレルギー性疾患の検査方法は、被検者の生体試料における各指標遺伝子の発現レベルを測定し、指標遺伝子が上記a)またはb)に記載された遺伝子である場合には、対照として同じ被検者の無疹部から採取された生体試料における指標遺伝子の発現レベルと、また指標遺伝子が上記c)、d)、c’)、およびd’)のいずれかに記載された遺伝子である場合には、対照として健常者の生体試料における指標遺伝子の発現レベルと比較する工程を含む。指標遺伝子が上記a)、c)、およびc’)のいずれかに記載された遺伝子であれば、対照と比較して発現レベルが高い場合に被検者がアトピー性皮膚炎と判定される。また指標遺伝子が上記b)、d)、およびd’)のいずれかに記載された遺伝子であれば、対照と比較して発現レベルが低い場合に被検者がアトピー性皮膚炎と判定される。
本発明の乾癬の検査方法は、被検者の生体試料における各指標遺伝子の発現レベルを測定し、指標遺伝子が上記i)またはii)に記載された遺伝子である場合には、対照として同じ被検者の無疹部から採取された生体試料における指標遺伝子の発現レベルと、また指標遺伝子が上記iii)またはiv)に記載された遺伝子である場合には、対照として健常者の生体試料における指標遺伝子の発現レベルと比較する工程を含む。指標遺伝子が上記i)またはiii)に記載された遺伝子であれば、対照と比較して発現レベルが高い場合に被検者が乾癬と判定される。また指標遺伝子が上記ii)またはiv)に記載された遺伝子であれば、対照と比較して発現レベルが低い場合に被検者が乾癬と判定される。
発現レベルの比較のためには、通常、たとえば健常者における前記指標遺伝子の発現レベルに基づいて、標準値が設定される。この標準値をもとに、たとえば±2S.D.の範囲が許容範囲とされる。指標遺伝子の測定値に基づいて、標準値や許容範囲を設定する手法は公知である。あるいは、同一患者の無疹部との発現レベルの比較においては、予め無疹部における指標遺伝子の発現レベルを測定して、その患者における無疹部の標準値を決定することができる。標準値を設定した後には、皮疹部の発現レベルのみを測定し、予め決定されたその患者の無疹部の標準値との比較に基づいて、本発明の検査方法を実施することもできる。
被検者における指標遺伝子が上記a)、c)、およびc’)のいずれかに記載された遺伝子である場合には、対照と比較して発現レベルが許容範囲よりも高ければ、被検者はアトピー性皮膚炎であると判定される。同様に、被検者における指標遺伝子が上記b)、d)、およびd’)のいずれかに記載された遺伝子である場合には、対照と比較して発現レベルが許容範囲よりも低ければ、被検者はアトピー性皮膚炎であると判定される。指標遺伝子の発現レベルが許容範囲内であれば、アトピー性皮膚炎である可能性は低いと予想される。
被検者における指標遺伝子が上記i)またはiii)に記載された遺伝子である場合には、対照と比較して発現レベルが許容範囲よりも高ければ、被検者は乾癬であると判定される。同様に、被検者における指標遺伝子が上記ii)またはiv)に記載された遺伝子である場合には、対照と比較して発現レベルが許容範囲よりも低ければ、被検者は乾癬であると判定される。指標遺伝子の発現レベルが許容範囲内であれば、乾癬である可能性は低いと予想される。
本発明において、指標遺伝子の発現レベルとは、該指標遺伝子のmRNAへの転写、並びに蛋白質への翻訳を含む。従って本発明によるアトピー性皮膚炎の検査方法は、指標遺伝子に対応するmRNAの発現強度、あるいは該指標遺伝子によってコードされる蛋白質の発現レベルの比較に基づいて行われる。
本発明におけるアトピー性皮膚炎または乾癬の検査における指標遺伝子の発現レベルの測定は、公知の遺伝子解析方法にしたがって実施することができる。具体的には、例えばこの遺伝子にハイブリダイズする核酸をプローブとしたハイブリダイゼーション技術、または本発明の指標遺伝子にハイブリダイズするDNAをプライマーとした遺伝子増幅技術等を利用することができる。
本発明の検査に用いられるプローブまたはプライマーは、指標遺伝子の塩基配列に基づいてデザインすることができる。指標遺伝子の塩基配列、および該指標遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は公知である。本発明の各指標遺伝子の塩基配列のGenBankアクセション番号は、下記データ1〜データ4およびデータ7〜データ12(ヒト)、およびデータ5〜データ6およびデータ13〜データ14(マウス)に記載したとおりである。また本発明の指標遺伝子の一部については、その塩基配列と塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を以下の配列番号に示した。
なお一般に高等動物の遺伝子は、高い頻度で多型を伴う。また、スプライシングの過程で相互に異なるアミノ酸配列からなるアイソフォームを生じる分子も多く存在する。多型やアイソフォームによって塩基配列が異なる遺伝子であっても、指標遺伝子と同様の活性を持ち、アトピー性皮膚炎に関与する遺伝子は、いずれも本発明の指標遺伝子に含まれる。
また、本発明において、指標遺伝子は、ヒトのみならず、他種におけるホモログも含む。従って、ヒト以外の種における指標遺伝子とは、特に断らないときには、その種に固有の指標遺伝子のホモログ、あるいはその個体に導入されている外来性の指標遺伝子を言う。
本発明においてヒト指標遺伝子のホモログとは、ヒト指標遺伝子をプローブとしてストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができる、ヒト以外の種に由来する遺伝子を言う。ストリンジェントな条件とは、一般的には以下のような条件を示すことができる。すなわち、4×SSC、65℃でハイブリダイゼーションさせ、0.1×SSCを用いて65℃で1時間洗浄する。ストリンジェンシーを大きく左右するハイブリダイゼーションや洗浄の温度条件は、融解温度(Tm)に応じて調整することができる。Tmはハイブリダイズする塩基対に占める構成塩基の割合、ハイブリダイゼーション溶液組成(塩濃度、ホルムアミドやドデシル硫酸ナトリウム濃度)によって変動する。従って、当業者であればこれらの条件を考慮して同等のストリンジェンシーを与える条件を実験または経験的に設定することができる。
プライマーあるいはプローブには、指標遺伝子の塩基配列からなるポリヌクレオチド、またはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを利用することができる。ここで「相補鎖」とは、A:T(RNAの場合はU)、G:Cの塩基対からなる2本鎖DNAの一方の鎖に対する他方の鎖を指す。また、「相補的」とは、少なくとも15個の連続したヌクレオチド領域で完全に相補配列である場合に限られず、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上の塩基配列上の相同性を有すればよい。塩基配列の相同性は、BLAST等のアルゴリズムにより決定することができる。
このようなポリヌクレオチドは、指標遺伝子を検出するためのプローブとして、また指標遺伝子を増幅するためのプライマーとして利用することができる。プライマーとして用いる場合には、通常、15bp〜100bp、好ましくは15bp〜35bpの鎖長を有する。また、プローブとして用いる場合には、指標遺伝子(またはその相補鎖)の少なくとも一部若しくは全部の配列を有し、少なくとも15bpの鎖長のDNAが用いられる。プライマーとして用いる場合、3’側の領域は相補的である必要があるが、5’側には制限酵素認識配列やタグなどを付加することができる。
なお、本発明における「ポリヌクレオチド」は、DNAあるいはRNAであることができる。これらポリヌクレオチドは、合成されたものでも天然のものでもよい。また、ハイブリダイゼーションに用いるプローブDNAは、通常、標識したものが用いられる。標識方法としては、例えば次のような方法を示すことができる。なお用語オリゴヌクレオチドは、ポリヌクレオチドのうち、重合度が比較的低いものを意味している。オリゴヌクレオチドは、ポリヌクレオチドに含まれる。
・DNAポリメラーゼIを用いるニックトランスレーションによる標識
・ポリヌクレオチドキナーゼを用いる末端標識
・クレノーフラグメントによるフィルイン末端標識(Berger SL,Kimmel AR.(1987)Guide to Molecular Cloning Techniques,Method in Enzymology,Academic Press;Hames BD,Higgins SJ(1985)Genes Probes:A Practical Approach.IRL Press;Sambrook J,Fritsch EF,Maniatis T.(1989)Molecular Cloning:a Laboratory Manual,2nd Edn.Cold Spring Harbor Laboratory Press)
・RNAポリメラーゼを用いる転写による標識(Melton DA,Krieg,PA,Rebagkiati MR,Maniatis T,Zinn K,Green MR.(1984)Nucleic Acid Res.,12,7035−7056)
・放射性同位体を用いない修飾ヌクレオチドをDNAに取り込ませる方法(Kricka LJ.(1992)Nonisotopic DNA Probing Techniques.Academic Press)
ハイブリダイゼーション技術を利用したアトピー性皮膚炎の検査は、例えば、ノーザンハイブリダイゼーション法、ドットブロット法、DNAマイクロアレイを用いた方法などを使用して行うことができる。さらには、RT−PCR法等の遺伝子増幅技術を利用することができる。RT−PCR法においては、遺伝子の増幅過程においてPCR増幅モニター法を用いることにより、本発明の指標遺伝子の発現について、より定量的な解析を行うことが可能である。
PCR遺伝子増幅モニター法においては、両端に互いの蛍光を打ち消し合う異なった蛍光色素で標識したプローブを用い、検出対象(DNAもしくはRNAの逆転写産物)にハイブリダイズさせる。PCR反応が進んでTaqポリメラーゼの5’−3’エキソヌクレアーゼ(exonuclease)活性により同プローブが分解されると二つの蛍光色素が離れ、蛍光が検出されるようになる。この蛍光の検出をリアルタイムに行う。検出対象についてコピー数の明らかな標準試料について同時に測定することにより、PCR増幅の直線性のあるサイクル数で目的試料中の検出対象のコピー数を決定する(Holland,P.M.et al.,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:7276−7280;Livak,K.J.et al.,1995,PCR Methods and Applications 4(6):357−362;Heid,C.A.et al.,Genome Research 6:986−994;Gibson,E.M.U.et al.,1996,Genome Research 6:995−1001)。PCR増幅モニター法においては、例えば、ABI PRISM7700(Applied Biosystems社)を用いることができる。
また本発明のアトピー性皮膚炎または乾癬の検査方法は、指標遺伝子によりコードされる蛋白質を検出することにより行うこともできる。このような検査方法としては、例えば、各指標蛋白質に結合する抗体を利用したウェスタンブロッティング法、免疫沈降法、ELISA法などを利用することができる。
この検出に用いる指標蛋白質に結合する抗体は、当業者に周知の技法を用いて得ることができる。本発明に用いる抗体は、ポリクローナル抗体、あるいはモノクローナル抗体(Milstein C,et al.,1983,Nature 305(5934):537−40)であることができる。例えば、指標蛋白質に対するポリクローナル抗体は、抗原を感作した哺乳動物の血液を取り出し、この血液から公知の方法により血清を分離する。ポリクローナル抗体としては、ポリクローナル抗体を含む血清を使用することができる。あるいは必要に応じてこの血清からポリクローナル抗体を含む画分をさらに単離することもできる。また、モノクローナル抗体を得るには、上記抗原を感作した哺乳動物から免疫細胞を取り出して骨髄腫細胞などと細胞融合させる。こうして得られたハイブリドーマをクローニングして、その培養物から抗体を回収しモノクローナル抗体とすることができる。
指標蛋白質の検出には、これらの抗体を適宜標識して用いればよい。また、この抗体を標識せずに、該抗体に特異的に結合する物質、例えば、プロテインAやプロテインGを標識して間接的に検出することもできる。具体的な検出方法としては、例えば、ELISA法を挙げることができる。
抗原に用いる蛋白質もしくはその部分ペプチドは、例えば指標遺伝子もしくはその一部を発現ベクターに組込み、これを適当な宿主細胞に導入して、形質転換体を作成し、該形質転換体を培養して組み換え蛋白質を発現させ、発現させた組み換え蛋白質を培養体または培養上清から精製することにより得ることができる。あるいは、該遺伝子によってコードされるアミノ酸配列、あるいは全長cDNAによってコードされるアミノ酸配列の部分アミノ酸配列からなるオリゴペプチドを化学的に合成し、免疫原として用いることもできる。
更に本発明においては、指標遺伝子の発現レベルのみならず、生体試料における指標蛋白質の活性を指標として、アレルギー性疾患または乾癬の検査を行うこともできる。指標蛋白質の活性とは、該蛋白質が備える生物学的な活性を言う。以下に各蛋白質の有する活性を測定するための一般的な方法を記載する。
[プロテアーゼ]
プロテアーゼサンプルをゼラチンなどの基質を共重合させたSDSポリアクリルアミドゲルで非還元条件下に電気泳動を行い、泳動後に至適緩衝液中で37℃、16時間静置する。16時間後にクマシーブリリアントブルーR250でゲルを染色し、プロテアーゼの泳動位置が染色されないこと、すなわちゼラチンが分解されていることでプロテアーゼ活性を評価できる。
Chen,J.M.らJ.Biol.Chem.266,5113−5121(1991)
[プロテアーゼインヒビター]
プロテアーゼインヒビターをゼラチンなどのプロテアーゼ基質を共重合させたSDSポリアクリルアミドゲルで非還元条件下に電気泳動を行い、泳動後にプロテアーゼを添加した至適緩衝液中で37℃、16時間静置する。16時間後にクマシーブリリアントブルーR250でゲルを染色し、プロテアーゼインヒビターの泳動位置が染色されていること、すなわちゼラチンが分解されていないことでプロテアーゼインヒビター活性を評価できる。
Greene Jら J.Biol.Chem.271,30375−30380(1996)
[転写因子]
転写因子を32Pなどで標識した転写因子の標的配列を含む2本鎖オリゴDNAと共に室温でインキュベートして結合させる。インキュベート後のサンプルはSDSを含まない未変性ポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行い、標識したオリゴDNAの移動度を32Pの放射活性などを指標にして評価する。転写因子にオリゴDNAに対する結合活性があれば、標識したオリゴDNAの移動度が遅くなり、高分子量側にシフトする。標的配列に対する結合特異性は、過剰量の標識をしていない2本鎖オリゴDNAにより転写因子と標識オリゴDNAの結合が阻害されることにより確認できる。
また、転写因子による転写活性化能は、レポーター遺伝子発現ベクターと、転写因子発現ベクターの共形質転換によって、当該転写因子の活性を評価することができる。レポーター遺伝子発現ベクターは、その標的配列の下流にクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などのレポーター遺伝子を連結した発現ベクターである。一方、活性を評価すべき転写因子は、転写因子遺伝子をヒトサイトメガロウイルス(CMV)の応答遺伝子プロモーターなどの下流に連結した転写因子発現ベクターによって発現させることができる。これらのベクターを、HelaやHEK293などの細胞株に共遺伝子導入し、48時間後に細胞破砕液を調製してCATの発現量を調べることにより転写活性を評価できる。
Zhao FらJ.Biol.Chem.276,40755−40760(2001)
[キナーゼ]
キナーゼをmyelin basic proteinを基質として含む緩衝液(20mM HEPES,pH7.5,10mM MgCl2,2mM MnCl2,2mM dithiothreitol,and 25μM ATP)に添加し、更に[γ−32P]ATPを添加して37℃で10分保温する。10分後にLaemmli緩衝液で反応を止め、反応液をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、泳動後にゲルを乾燥させてリン酸化されたmyelin basic proteinの放射活性をX線フィルムにて検出する。
Park SYらJ.Biol.Chem.275,19768−19777(2000)
[フォスファターゼ]
フォスファターゼをp−nitrophenyl phosphate(pNPP)を基質として含む緩衝液(25mM MES,pH5.5,1.6mM dithiothreitol,10mM pNPP)に添加し、37℃で30分間保温する。30分後に1N NaOHを添加して反応を停止し、pNPPの加水分解の結果生じた405nmの吸光度を測定する。
Aoyama KらJ.Biol.Chem.276,27575−27583(2001)
[ケモカイン、ケモカインレセプター]
ケモカインレセプターを強制発現させた細胞を、カルシウム感受性蛍光色素fura−2を含むHank’s balanced salt solutionに懸濁し、ケモカインにより刺激を加える。ケモカイン刺激により引き起こされる細胞内カルシウム濃度の上昇をLS50B(PerkinElmer)などの蛍光検出器で測定する。
Zhou NらJ.Biol.Chem.276,42826−42833(2001)
[サイトカイン、サイトカインレセプター]
サイトカインでサイトカインレセプターを発現する細胞を刺激し、これにより引き起こされる細胞増殖をチミジンの取り込みで評価する。
または、サイトカイン刺激によるサイトカインレセプター下流に位置する転写因子の活性化をルシフェラーゼなどのレポーター遺伝子の発現により評価することもできる。
Piek EらJ.Biol.Chem.276,19945−19953(2001)
[イオンチャンネル]
先端の開口径が数μm2のガラスピペットの先端にイオンチャンネルを含む形質膜を貼り付け、ピペット内外に電位差を与えてその時にチャンネルを通る電流を測定するパッチクランプ法により評価できる。
Hamill,O.P.らPfluegers Arch.391,85−100(1981)
[細胞接着因子]
細胞表面に接着分子を発現させた細胞をそのリガンドをコートしたプレート上でインキュベートし、接着した細胞数を評価する。
Fujiwara HらJ.Biol.Chem.276,17550−17558(2001)
[細胞外マトリックス蛋白質]
細胞外マトリックス蛋白質をコートしたプレートにインテグリンなどの細胞外マトリックス蛋白質に対する受容体を持つ細胞の懸濁液を加え、37℃で1時間培養する。培養後に細胞を固定し、Hoechst 33342などのDNA結合性蛍光色素を加えて反応させる。反応後にフルオロメーターを使用して蛍光強度を測定し、蛍光強度として定量化された接着細胞数を細胞外マトリックス蛋白質の活性として評価する。
Miyazaki KらProc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90,11767(1993)
本発明の検査方法においては、被検者の皮膚組織を試料とする。皮膚組織試料の採取は、被検者に多少の痛みを伴う。一方で、皮膚組織は容易に採取できるため、診断材料としては有用である。
皮膚組織を採取する方法は公知である。皮膚組織は、例えば次のようにして採取することができる。すなわち、まず、局所麻酔薬により採取部位を麻酔する。生検個所の周囲の皮膚を引っ張ってたるみの無い状態とした後、パンチを皮膚の中に埋め込み、回転させて標本分の組織をパンチの中に入れる。パンチを引き出し、切り取られたパンチ内の皮膚を回収する。パンチは、中空の皮膚組織採取用の器具である。たとえば直径3mmの皮膚組織の採取が可能な器具が一般に利用されている。
本発明において、皮膚組織とは、解剖学的には表皮および真皮を含む。皮膚組織には、皮膚固有の細胞のみならず、リンパ球、ランゲルハンス細胞、あるいはマスト細胞などの、皮膚組織において見出される皮膚以外の細胞が含まれる場合がある。これらの皮膚細胞とともに採取される細胞も皮膚組織試料に含まれる。
本発明において、皮疹部における指標遺伝子の発現レベルを決定するために、皮疹部の皮膚組織試料が用いられる。皮疹部とは、急性病変を形成している皮膚を言う。たとえば日本皮膚科学会誌104:1210(1994)に報告されている診断基準にしたがって、急性病変部を判定することができる。具体的には、たとえば次のような臨床所見が急性病変部の指標とされている。
急性病変:紅斑、湿潤性紅斑、丘疹、漿液性丘疹、鱗屑、痂皮
また患者の無疹部における指標遺伝子の発現レベルを決定するために、無疹部の皮膚組織試料が用いられる。患者における無疹部とは、上記病変を伴わない部位の皮膚である。更に、健常者の皮膚における指標遺伝子の発現レベルを決定するには、健常者の皮膚組織が用いられる。本発明における健常者とは、診断すべき疾患を有していないことが明らかなヒトを言う。すなわちアレルギー性疾患の検査においてはアレルギー性疾患を有していないヒトが健常者である。同様に、乾癬の検査方法においては乾癬を有していないヒトが健常者である。健常者は、診断すべき疾患以外の疾患を有することが許容される。しかし、好ましい健常者は、アレルギー性疾患および乾癬のいずれをも有していないヒトである。皮膚組織の採取は、患者の皮膚組織の採取と同様の手法によって採取することができる。指標遺伝子の発現レベルの比較においては、できるだけ同じ部位の皮膚を比較するのが望ましい。しかし同一患者の皮疹部/無疹部の比較においては、同じ部位に無疹部の皮膚を見出すのが困難であるケースも予想される。このようなケースでは、異なる部位の皮膚を比較に用いることもできる。
皮膚組織試料の採取は容易であるため、医療現場における簡便な検査が可能である。例えば、実施例に示す方法によって調製することができる。調製された皮膚組織を破壊してライセートとすれば、指標蛋白質の免疫学的な測定のための試料とすることができる。
上記の生体試料からライセートを調製すれば、指標蛋白質の免疫学的な測定のための試料とすることができる。あるいはこのライセートからmRNAを抽出すれば、指標遺伝子に対応するmRNAの測定のための試料とすることができる。生体試料のライセートまたはmRNAの抽出には、市販のキットを利用すると便利である。また指標蛋白質が血中に分泌されていれば、被検者の血液や血清などの体液試料に含まれる目的とする蛋白質の量を測定することによって、それをコードする遺伝子の発現レベルの比較が可能である。上記試料は、必要に応じて緩衝液等で希釈して本発明の方法に使用することができる。
mRNAを測定する場合には、本発明における指標遺伝子の発現レベルの測定値は、公知の方法によって補正することができる。補正により、細胞における遺伝子の発現レベルの変化を比較することができる。測定値の補正は、上記生体試料における各細胞において、発現レベルが大きく変動しない遺伝子(例えば、ハウスキーピング遺伝子)の発現レベルの測定値に基づいて、本発明において指標遺伝子の発現レベルの測定値を補正することによって行われる。発現レベルが大きく変動しない遺伝子の例としては、β−アクチン、GAPDH等を挙げることができる。
更に本発明は、本発明の検査方法のための試薬を提供する。すなわち本発明は、指標遺伝子の塩基配列を含むポリヌクレオチド、またはその相補鎖に相補的な塩基配列を有する少なくとも15塩基の長さを有するオリゴヌクレオチドからなる、アトピー性皮膚炎の検査用試薬に関する。あるいは本発明は、指標蛋白質を認識する抗体からなる、アトピー性皮膚炎の検査用試薬に関する。本発明の試薬を構成するオリゴヌクレオチドや抗体は、アッセイフォーマットに応じて適当な標識を結合することができる。あるいは本発明の試薬を構成するオリゴヌクレオチドや抗体は、アッセイフォーマットに応じて適当な支持体に固定化しておくこともできる。また本発明の試薬は、前記オリゴヌクレオチドまたは前記抗体の他に、検査や保存に必要な付加的な要素と組み合せて検査用キットとすることもできる。キットを構成することができる付加的な要素を、以下に示す。これらの要素は、必要に応じて予め混合しておくこともできる。また、必要に応じて、保存剤や防腐剤を各要素に加えることができる。
試薬や生体試料を希釈するための緩衝液
陽性対照
陰性対照
標識を測定するための基質
反応容器
アッセイプロトコルを記載した指示書
本発明におけるAD指標遺伝子は、アトピー性皮膚炎患者の皮疹部と同一の患者における無疹部、あるいはアトピー性皮膚炎患者の無疹部と健常者との比較において、各皮膚組織において発現量の変動が確認された。従って、AD指標遺伝子の発現レベルを指標として、アトピー性皮膚炎の検査を行うことができる。
本発明におけるアトピー性皮膚炎の検査とは、たとえば以下のような検査が含まれる。アトピー性皮膚炎が疑われる症状を示しながら、一般的な検査ではアトピー性皮膚炎と判定できない患者であっても、本発明に基づく検査を行えばアトピー性皮膚炎の患者であるか否かを容易に判定することができる。より具体的には、アトピー性皮膚炎が疑われる症状を示す患者において、AD指標遺伝子がa)、c)、およびc’)のいずれかに記載された遺伝子である場合、AD指標遺伝子の発現の上昇は、その症状の原因がアトピー性皮膚炎である可能性が高いことを示している。また、アトピー性皮膚炎が疑われる症状を示す患者において、AD指標遺伝子がb)、d)、およびd’)のいずれかに記載された遺伝子である場合、AD指標遺伝子の発現の低下は、その症状の原因が同じくアトピー性皮膚炎である可能性が高いことを示している。
あるいは、アトピー性皮膚炎が改善に向かっているのかどうかを判断するための検査が可能となる。つまり、アトピー性皮膚炎に対する治療効果の判定に有用である。また、アトピー性皮膚炎と診断された患者において、AD指標遺伝子がa)、c)、およびc’)のいずれかに記載された遺伝子である場合、AD指標遺伝子の発現の上昇は、アトピー性皮膚炎がさらに進行している可能性が高いことを示している。また、アトピー性皮膚炎と診断された患者において、AD指標遺伝子がb)、d)、およびd’)のいずれかに記載された遺伝子である場合、AD指標遺伝子の発現の低下は、同じくアトピー性皮膚炎がさらに進行している可能性が高いことを示している。
更に、発現レベルの違いに基づいてアトピー性皮膚炎の重症度を判定することもできる。すなわち、AD指標遺伝子がa)、c)、およびc’)のいずれかに記載された遺伝子である場合、AD指標遺伝子の発現の上昇の程度は、アトピー性皮膚炎の重症度に相関する。あるいはAD指標遺伝子がb)、d)、およびd’)のいずれかに記載された遺伝子である場合、AD指標遺伝子の発現の低下の程度が、アトピー性皮膚炎の重症度に相関する。
一方本発明における乾癬指標遺伝子は、乾癬患者の皮疹部と同一の患者における無疹部、あるいは乾癬患者の無疹部と健常者との比較において、各皮膚組織において発現量の変動が確認された。従って、乾癬指標遺伝子の発現レベルを指標として、乾癬の検査を行うことができる。
本発明における乾癬の検査とは、たとえば以下のような検査が含まれる。乾癬が疑われる症状を示しながら、一般的な検査では乾癬と判定できない患者であっても、本発明に基づく検査を行えば乾癬の患者であるか否かを容易に判定することができる。より具体的には、乾癬が疑われる症状を示す患者において、乾癬指標遺伝子がi)またはiii)に記載された遺伝子である場合、乾癬指標遺伝子の発現の上昇は、その症状の原因が乾癬である可能性が高いことを示している。また、乾癬が疑われる症状を示す患者において、乾癬指標遺伝子がii)またはiv)に記載された遺伝子である場合、乾癬指標遺伝子の発現の低下は、その症状の原因が同じく乾癬である可能性が高いことを示している。
あるいは、乾癬が改善に向かっているのかどうかを判断するための検査が可能となる。つまり、乾癬に対する治療効果の判定に有用である。また、乾癬と診断された患者において、乾癬指標遺伝子がi)またはiii)に記載された遺伝子である場合、乾癬指標遺伝子の発現の上昇は、乾癬がさらに進行している可能性が高いことを示している。また、乾癬と診断された患者において、乾癬指標遺伝子がii)またはiv)に記載された遺伝子である場合、乾癬指標遺伝子の発現の低下は、同じく乾癬がさらに進行している可能性が高いことを示している。
更に、発現レベルの違いに基づいて乾癬の重症度を判定することもできる。すなわち、乾癬指標遺伝子がi)またはiii)に記載された遺伝子である場合、乾癬指標遺伝子の発現の上昇の程度は、乾癬の重症度に相関する。あるいは乾癬指標遺伝子がii)またはiv)に記載された遺伝子である場合、乾癬指標遺伝子の発現の低下の程度が、乾癬の重症度に相関する。
また本発明は、a)、c)、およびc’)のいずれかに記載のAD指標遺伝子またはAD指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の、皮膚における発現強度を上昇させたトランスジェニック非ヒト動物からなるアトピー性皮膚炎モデル動物に関する。
本発明によって、a)に記載のAD指標遺伝子の発現強度が、アトピー性皮膚炎患者の皮疹部において上昇することが明らかとなった。同様に、c)およびc’)に記載のAD指標遺伝子の発現強度が、アトピー性皮膚炎患者の無疹部において上昇することが明らかとなった。したがって、皮膚において、a)、c)、およびc’)のいずれかに記載のAD指標遺伝子またはAD指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の発現レベルを人為的に増強した動物は、アトピー性皮膚炎のモデル動物として利用することができる。
また本発明は、b)、d)、およびd’)のいずれかに記載のAD指標遺伝子またはAD指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の、皮膚における発現強度を低下させたトランスジェニック非ヒト動物からなるアトピー性皮膚炎モデル動物に関する。
本発明によって、b)に記載のAD指標遺伝子の発現強度が、アトピー性皮膚炎患者の皮疹部において低下することが明らかとなった。同様に、d)およびd’)に記載のAD指標遺伝子の発現強度が、アトピー性皮膚炎患者の無疹部において低下することが明らかとなった。したがって、皮膚において、b)、d)、およびd’)のいずれかに記載のAD指標遺伝子またはAD指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の発現レベルを人為的に低下させた動物は、アトピー性皮膚炎のモデル動物として利用することができる。
また本発明は、i)またはiii)に記載の乾癬指標遺伝子または乾癬指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の、皮膚における発現強度を上昇させたトランスジェニック非ヒト動物からなる乾癬モデル動物に関する。
本発明によって、i)に記載の乾癬指標遺伝子の発現強度が、乾癬患者の皮疹部において上昇することが明らかとなった。同様に、iii)に記載の乾癬指標遺伝子の発現強度が、乾癬患者の無疹部において上昇することが明らかとなった。したがって、皮膚において、i)またはiii)に記載の乾癬指標遺伝子または乾癬指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の発現レベルを人為的に増強した動物は、乾癬のモデル動物として利用することができる。
また本発明は、ii)またはiv)に記載の乾癬指標遺伝子または乾癬指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の、皮膚における発現強度を低下させたトランスジェニック非ヒト動物からなる乾癬モデル動物に関する。
本発明によって、ii)に記載の乾癬指標遺伝子の発現強度が、乾癬患者の皮疹部において低下することが明らかとなった。同様に、iv)に記載の乾癬指標遺伝子の発現強度が、乾癬患者の無疹部において低下することが明らかとなった。したがって、皮膚において、ii)またはiv)に記載の乾癬指標遺伝子または乾癬指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の発現レベルを人為的に低下させた動物は、乾癬のモデル動物として利用することができる。
本発明において機能的に同等な遺伝子とは、指標遺伝子によってコードされる蛋白質において明らかにされている活性と同様の活性を備えた蛋白質をコードする遺伝子である。機能的に同等な遺伝子の代表的なものとしては、被験動物が本来備えている、その動物種における指標遺伝子のカウンターパートを挙げることができる。たとえば前記A)群−D)群に記載の遺伝子は、マウスにおける機能的に同等な遺伝子である。A)群−D)群に記載された遺伝子は、本発明に基づくスクリーニングをマウスを用いて実施するときに望ましい指標遺伝子である。
更に本発明は、a)−d)に記載のAD指標遺伝子のマウスにおけるカウンターパートを明らかにした。a)−d)に記載の指標遺伝子に対するマウスカウンターパートは、それぞれA)−D)として記載した。これらのカウンターパートは、感作マウス耳介皮膚と非感作マウス耳介皮膚における遺伝子の発現レベルを比較したときに、2倍以上の差が見られた遺伝子である。
したがって、これらのカウンターパートの発現レベルの調節や、投与によって、アトピー性皮膚炎モデル動物を作り出すことができる。すなわち本発明は、A)−D)に記載の遺伝子群の発現レベルの調節による、アトピー性皮膚炎モデル動物の製造方法に関する。あるいは本発明は、A)−D)に記栽の遺伝子群によってコードされるタンパク質そのもの、または該タンパク質の抗体を非ヒト動物に投与する工程を含む、アトピー性皮膚炎モデル動物の製造方法に関する。
まず、A)またはC)に記載された遺伝子群は、a)、c)、およびc’)のいずれかに記載の遺伝子群と同様に、発現レベルの上昇によってアトピー性皮膚炎を誘導することができる。あるいはこれらの遺伝子群から選択された遺伝子や、その遺伝子がコードするタンパク質の投与によって、アトピー性皮膚炎モデル動物を作り出すことができる。これらのカウンターパートはいずれもマウスの遺伝子であることから、遺伝子やタンパク質を投与する場合には、マウスに投与するのが望ましい。
また、B)またはD)に記載された遺伝子群は、b)、d)、およびd’)のいずれかに記載の遺伝子群と同様に、発現レベルの抑制によって、アトピー性皮膚炎を誘導することができる。あるいはこれらの遺伝子群から選択された遺伝子の発現や、その遺伝子がコードするタンパク質の活性を抑制することによって、アトピー性皮膚炎を作り出すことができる。発現の抑制には、アンチセンス核酸、あるいはRNAiを利用することができる。タンパク質の活性の調節には、抗体などの活性阻害物質の投与が有効である。すなわち、B)またはD)に記載の遺伝子群を先天的に有する動物、すなわちマウスに、これらの成分を投与することによってアトピー性皮膚炎が誘導される。
該アトピー性皮膚炎モデル動物は、アトピー性皮膚炎における生体内の変化を明らかにするために有用である。更に、該アトピー性皮膚炎モデル動物を使用することにより、指標遺伝子のさらなる機能を解明すること、および該遺伝子を標的とする薬剤を評価することには大きな意義がある。
また本発明によるアトピー性皮膚炎モデル動物は、アトピー性皮膚炎のメカニズムの解明、さらにはスクリーニングされた化合物の安全性の試験に有用である。たとえば本発明によるアトピー性皮膚炎モデル動物が皮膚炎を発症したり、何らかのアレルギー性疾患に関連した測定値の変化を示せば、それを回復させる作用を持った化合物を探索するスクリーニングシステムが構築できる。
本発明において、発現レベルの上昇とは、指標遺伝子が外来遺伝子として導入され強制発現している状態、あるいは被験動物が本来備えている指標遺伝子の転写と蛋白質への翻訳が増強されている状態、並びに翻訳産物である蛋白質の分解が抑制された状態のいずれかを意味する。
本発明において、発現レベルの低下とは、被験動物が備える指標遺伝子の転写と蛋白質への翻訳が阻害されている状態、あるいは翻訳産物である蛋白質の分解が促進された状態のいずれかを意味する。遺伝子の発現レベルは、たとえば実施例に示すようなDNAチップにおけるシグナル強度の差により確認することができる。また翻訳産物である蛋白質の活性は、正常な状態と比較することにより確認することができる。
代表的なトランスジェニック動物は、指標遺伝子を導入し強制発現させた動物、または指標遺伝子をノックアウトした動物、他の遺伝子と置換(ノックイン)した動物等を示すことができる。また、指標遺伝子に対するアンチセンスDNA、リボザイムをコードするDNA、あるいはデコイ核酸として機能するDNA等を導入したトランスジェニック動物も、本発明におけるトランスジェニック動物として用いることができる。その他、たとえば指標遺伝子のコード領域に変異を導入し、その活性を増強あるいは抑制したり、あるいは分解されにくいあるいは分解されやすいアミノ酸配列に改変した動物などを示すことができる。アミノ酸配列の変異として、置換、欠失、挿入、あるいは付加を示すことができる。その他、遺伝子の転写調節領域を変異させることにより、本発明の指標遺伝子の発現そのものを調節することもできる。
特定の遺伝子を対象として、トランスジェニック動物を得る方法は公知である。すなわち、遺伝子と卵を混合してリン酸カルシウムで処理する方法や、位相差顕微鏡下で前核期卵の核に、微小ピペットで遺伝子を直接導入する方法(マイクロインジェクション法、米国特許第4873191号)、胚性幹細胞(ES細胞)を使用する方法などによってトランスジェニック動物を得ることができる。その他、レトロウィルスベクターに遺伝子を挿入し、卵に感染させる方法、また、精子を介して遺伝子を卵に導入する精子ベクター法等も開発されている。精子ベクター法とは、精子に外来遺伝子を付着またはエレクトロポレーション等の方法で精子細胞内に取り込ませた後に、卵子に受精させることにより、外来遺伝子を導入する遺伝子組換え法である(M.LavitranoetらCell,57,717,1989)。
発現ベクターに使用するプロモーターとして、適当な薬剤等の物質により転写が調節されるプロモーターを用いれば、該物質の投与によってトランスジェニック動物における外来性の指標遺伝子の発現レベルを調整することができる。
本発明のアトピー性皮膚炎または乾癬のモデル動物として用いるトランスジェニック動物は、ヒト以外のあらゆる脊椎動物を利用して作成することができる。具体的には、マウス、ラット、ウサギ、ミニブタ、ヤギ、ヒツジ、あるいはウシ等の脊椎動物において様々な遺伝子の導入や発現レベルを改変されたトランスジェニック動物が作り出されている。
さらに本発明は、アトピー性皮膚炎治療薬候補化合物のスクリーニング方法に関する。本発明において、AD指標遺伝子はa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択された遺伝子である。a)に記載の群から選択された遺伝子は、アトピー性皮膚炎患者の無疹部に比較して同一の患者の皮疹部において有意に発現レベルが上昇している。b)に記載の群から選択された遺伝子は、アトピー性皮膚炎患者の無疹部に比較して同一の患者の皮疹部において有意に発現レベルが低下している。c)ならびにc’)に記載の群から選択された遺伝子は、健常者と比較してアトピー性皮膚炎患者の無疹部において有意に発現レベルが上昇している。そしてd)ならびにd’)に記載の群から選択された遺伝子は、健常者と比較してアトピー性皮膚炎患者の無疹部において有意に発現レベルが低下している。
したがって、a)群、c)群あるいはc’)群のAD指標遺伝子については、前記AD指標遺伝子の発現レベルを低下させることができる化合物を選択することによって、アトピー性皮膚炎の治療薬を得ることができる。一方b)群、d)群あるいはd’)群のAD指標遺伝子については、前記AD指標遺伝子の発現レベルを上昇させることができる化合物を選択することによって、アトピー性皮膚炎の治療薬を得ることができる。
本発明によるアトピー性皮膚炎治療薬候補化合物のスクリーニング方法において、AD指標遺伝子として好ましい遺伝子として以下に記載の遺伝子を示すことができる。
これらの遺伝子はいずれも、乾癬患者では発現レベルの変化が見られなかった遺伝子である。つまりアトピー性皮膚炎患者において特異的に発現レベルが変化していた遺伝子と言うことができる。これらのAD指標遺伝子の利用によって、アトピー性皮膚炎症状に特異的な治療効果を評価することができる。
さらに本発明は、乾癬治療薬候補化合物のスクリーニング方法に関する。本発明において、乾癬指標遺伝子はi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択された遺伝子である。i)に記載の群から選択された遺伝子は、乾癬患者の無疹部に比較して同一の患者の皮疹部において有意に発現レベルが上昇している。ii)に記載の群から選択された遺伝子は、乾癬患者の無疹部に比較して同一の患者の皮疹部において有意に発現レベルが低下している。iii)に記載の群から選択された遺伝子は、健常者と比較して乾癬患者の無疹部において有意に発現レベルが上昇している。そしてiv)に記載の群から選択された遺伝子は、健常者と比較して乾癬患者の無疹部において有意に発現レベルが低下している。
したがって、i)群あるいはiii)群の乾癬指標遺伝子については、前記乾癬指標遺伝子の発現レベルを低下させることができる化合物を選択することによって、乾癬の治療薬を得ることができる。一方ii)群あるいはiv)群の乾癬指標遺伝子については、前記乾癬指標遺伝子の発現レベルを上昇させることができる化合物を選択することによって、乾癬の治療薬を得ることができる。
本発明による乾癬治療薬候補化合物のスクリーニング方法において、乾癬指標遺伝子として好ましい遺伝子として以下に記載の遺伝子を示すことができる。
これらの遺伝子はいずれも、アトピー性皮膚炎患者では発現レベルの変化が見られなかった遺伝子である。つまり乾癬患者において特異的に発現レベルが変化していた遺伝子と言うことができる。これらの乾癬指標遺伝子の利用によって、乾癬の症状に特異的な治療効果を評価することができる。
本発明において遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物とは、遺伝子の転写、翻訳、およおび蛋白質の活性発現のいずれかのステップに対して促進的に作用する作用を持つ化合物である。また本発明において遺伝子の発現レベルを低下させる化合物とは、これらのステップのいずれかに対して阻害的に作用する作用を持つ化合物である。
本発明のアレルギー性疾患(または乾痴)治療候補化合物のスクリーニング方法は、in vivoで行うこともin vitroで行うこともできる。このスクリーニングは、例えば以下のような工程にしたがって実施することができる。
(1)被験動物に、候補化合物を投与する工程、
(2)前記被検動物の生体試料における指標遺伝子の発現強度を測定する工程、
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、およびc’)群のいずれか(乾癬の場合はi)群またはiii)群)の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またb)群、d)群、およびd’)群のいずれか(乾癬の場合はii)群またはiv)群)の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程
本発明のスクリーニング方法において、指標遺伝子としては、上記a)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれか(乾癬についてはi)−iv)のいずれか)に記載の群から選択されたいずれかの遺伝子と機能的に同等な遺伝子を利用することができる。本発明において機能的に同等な遺伝子とは、指標遺伝子によってコードされる蛋白質において明らかにされている活性と同様の活性を備えた蛋白質をコードする遺伝子である。機能的に同等な遺伝子の代表的なものとしては、被験動物が本来備えている、その動物種における指標遺伝子のカウンターパートを挙げることができる。
本発明のスクリーニング方法における被験動物としては、例えばアトピー性皮膚炎モデル動物を利用することができる。アトピー性皮膚炎モデル動物は公知である。たとえば人間のアトピー性皮膚炎に近いモデルとして、NC/Ngaマウスを用いた皮膚炎自然発症モデルが報告されている。このマウスの耳介にダニ抗原(5μg/耳)を2−3日間隔で計8回投与すると、2週間以降にはヒトのアトピー性皮膚炎に酷似した症状を誘発することができる。この系に候補化合物を投与し、本発明の指標遺伝子の発現レベルの変化を追跡することによって本発明によるスクリーニングを実施することができる。
このようにして被験動物に薬剤候補化合物を接触させ、被験動物由来の生体試料における指標遺伝子の発現に対する化合物の作用をモニターすることにより、指標遺伝子の発現レベルに与える薬剤侯補化合物の影響を評価することができる。被験動物の由来の生体試料における指標遺伝子の発現レベルの変動は、前記本発明の検査方法と同様の手法によってモニターすることができる。更にこの評価の結果に基づいて、指標遺伝子がa)群、c)群、およびc’)群のいずれか(乾癬の場合はi)群またはiii)群)に記載の遺伝子である場合には発現レベルを低下させる薬剤候補化合物を、指標遺伝子がb)群、d)群、およびd’)群のいずれか(乾癬の場合はii)群またはiv)群)に記載の遺伝子である場合には発現レベルを上昇させる薬剤候補化合物を選択すれば、薬剤候補化合物をスクリーニングすることができる。
より具体的には、被験動物から、皮膚組織試料を採取し、指標遺伝子の発現レベルを候補化合物を接触させない対照と比較することにより、本発明によるスクリーニングを実施することができる。皮膚組織試料の採取方法、および調製方法は公知である。
このようなスクリーニングにより、指標遺伝子の発現に様々な形で関与する薬剤を選択することができる。具体的には、たとえば次のような作用を持つ薬剤候補化合物を見出すことができる。
指標遺伝子がa)群、c)群、およびc’)群のいずれか(乾癬の場合はi)群またはiii)群)に記載の遺伝子である場合:
・指標遺伝子の発現をもたらすシグナル伝達経路の抑制
・指標遺伝子の転写活性の抑制
・指標遺伝子の転写産物の安定化阻害もしくは分解の促進等
指標遺伝子がb)群、d)群、およびd’)群のいずれか(乾癬の場合はii)群またはiv)群)に記載の遺伝子である場合:
・指標遺伝子の発現をもたらすシグナル伝達経路の活性化、
・指標遺伝子の転写活性の促進、
・指標遺伝子の転写産物の安定化や分解の阻害等
また、in vitroでのスクリーニングにおいては、例えば、指標遺伝子を発現する細胞に候補化合物を接触させ、指標遺伝子がa)群、c)群、およびc’)群のいずれか(乾癬の場合はi)群またはiii)群)に記載の遺伝子である場合には発現レベルを低下させる化合物を、指標遺伝子がb)群、d)群、およびd’)群のいずれか(乾癬の場合はii)群またはiv)群)に記載の遺伝子である場合には発現レベルを上昇させる化合物を選択する方法が挙げられる。このスクリーニングは、例えば以下のような工程に従って実施することができる。
(1)指標遺伝子を発現する細胞に候補化合物を接触させる工程
(2)前記指標遺伝子の発現レベルを測定する工程、
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、およびc’)群のいずれか(乾癬の場合はi)群またはiii)群)に記載の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またb)群、d)群、およびd’)群のいずれか(乾癬の場合はii)群またはiv)群)に記載の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程
本発明において、指標遺伝子を発現する細胞は、指標遺伝子を適当な発現ベクターに挿入し、該ベクターを適当な宿主細胞に導入することにより得ることができる。利用できるベクター、および宿主細胞は、本発明の指標遺伝子を発現し得るものであればよい。宿主−ベクター系における宿主細胞としては、大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞等が例示でき、それぞれ利用できるベクターを適宜選択することができる。
ベクターの宿主への導入方法としては、生物学的方法、物理的方法、化学的方法などを示すことができる。生物学的方法としては、例えば、ウイルスベクターを使用する方法、特異的受容体を利用する方法、細胞融合法(HVJ(センダイウイルス)、ポリエチレングリコール(PEG)、電気的細胞融合法、微小核融合法(染色体移入))が挙げられる。また、物理的方法としては、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、ジーンパーティクルガン(gene gun)を用いる方法が挙げられる。化学的方法としては、リン酸カルシウム沈殿法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、プロトプラスト法、赤血球ゴースト法、赤血球膜ゴースト法、マイクロカプセル法が挙げられる。
本発明のスクリーニング方法においては、指標遺伝子を発現する細胞として、皮膚細胞に加えて、ランゲルハンス細胞、マスト細胞、T細胞、好酸球、B細胞、好中球、あるいは好塩基球等の皮膚組織に見出される細胞を用いることができる。
ヒト表皮角化細胞(ケラチノサイト)の初代培養細胞NHEK(Normal Human Epidermal Keratinocyte)に対してTGF−βあるいはsodium butyrateにより刺激を加えることにより分化を誘導することができるという報告がある(例えばGeng Wangら、EXPERIMENTAL CELL RESEARCH 198,27−30(1992))。分化に伴いcornified envelope(CE)という細胞内構造物が形成される。CEの形成あるいはCE構成分子(involucrin,loricrinなど)の遺伝子発現を指標として分化を確認することができる。こうして分化した細胞は、本発明におけるスクリーニングに有用である。
皮膚組織に見出される細胞として、皮膚細胞、T細胞、好酸球、マスト細胞、好塩基球、B細胞、ランゲルハンス細胞、好中球を利用することもできる。株化皮膚細胞は、均質な細胞を大量に入手できること、培養が容易なことなどの点で、本発明のスクリーニング方法に好適である。以下に本発明に利用できる皮膚細胞株の例を示す。
−株化皮膚細胞:HaCaT,A431(ATCC CRL−1555)
−株化T細胞:Jurkat(ATCC TIB−152),Molt−4(ATCC CRL−1582),H9(ATCC HTB−176)
−株化好酸球:AML14.3D10
−株化マスト細胞:HMC−1
−株化好塩基球:KU−812
−株化B細胞:DND39,Raji(ATCC CCL−86)
−(株化)ランゲルハンス細胞:MUTZ−3
−(株化)好中球:HL−60(ATCC CCL−240)
株化にカッコをつけたものは、使用に先だって上記株化細胞から分化させる。ランゲルハンス細胞(Allan J.MastersonらBlood 2002 Jul 15;100(2):701−3)、あるいは好中球(Santos−Beneit AMらJ Leukoc Biol 2000 May;67(5):712−24)の分化は公知である。
スクリーニングの方法は、まず前記株化皮膚細胞に候補化合物を接触させる。その後、該株化皮膚細胞における指標遺伝子の発現レベルを測定し、候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、およびc’)群のいずれか(乾癬の場合はi)群またはiii)群)に記載の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またb)群、d)群、およびd’)群のいずれか(乾癬の場合はii)群またはiv)群)に記載の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する。
なお本発明のスクリーニング方法において、指標遺伝子の発現レベルは、該遺伝子がコードする蛋白質の発現レベルのみならず、対応するmRNAを検出することにより比較することもできる。mRNAによって発現レベルを比較するためには、蛋白質試料の調製工程に代えて、先に述べたようなmRNA試料の調製工程を実施する。mRNAや蛋白質の検出は、先に述べたような公知の方法によって実施することができる。
さらに本発明の開示に基づいて本発明の指標遺伝子の転写調節領域を取得し、レポーターアッセイ系を構築することができる。レポーターアッセイ系とは、転写調節領域の下流に配置したレポーター遺伝子の発現量を指標として、該転写調節領域に作用する転写調節因子をスクリーニングするアッセイ系をいう。
すなわち本発明は、次の工程を含む、アトピー性皮膚炎または乾癬の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が、a)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれか(乾癬の場合はi)−iv)のいずれか)に記載の群から選択されたいずれかの遺伝子、または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子である方法に関する。
(1)指標遺伝子の転写調節領域と、この転写調節領域の制御下に発現するレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞と候補化合物を接触させる工程、
(2)前記レポーター遺伝子の活性を測定する工程、および
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、およびc’)群のいずれか(乾癬の場合はi)群またはiii)群)に記載の指標遺伝子については前記レポーター遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またb)群、d)群、およびd’)群のいずれか(乾癬の場合はii)群またはiv)群)に記載の指標遺伝子については前記レポーター遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程
転写調節領域としては、プロモーター、エンハンサー、さらには、通常プロモーター領域に見られるCAATボックス、TATAボックス等を例示することができる。
またレポーター遺伝子としては、CAT(chloramphenicol acetyltransferase)遺伝子、ルシフェラーゼ(luciferase)遺伝子、成長ホルモン遺伝子等を利用することができる。
あるいは本発明における各指標遺伝子の転写調節領域を、次のようにして取得することもできる。すなわち、まず本発明で開示したcDNAの塩基配列に基づいて、BACライブラリー、YACライブラリー等のヒトゲノムDNAライブラリーから、PCRまたはハイブリダイゼーションを用いる方法によりスクリーニングを行い、該cDNAの配列を含むゲノムDNAクローンを得る。得られたゲノムDNAの配列を基に、本発明で開示したcDNAの転写調節領域を推定し、該転写調節領域を取得する。得られた転写調節領域を、レポーター遺伝子の上流に位置するようにクローニングしてレポーターコンストラクトを構築する。得られたレポーターコンストラクトを培養細胞株に導入してスクリーニング用の形質転換体とする。この形質転換体に候補化合物を接触させ、候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、およびc’)群のいずれか(乾癬の場合はi)群またはiii)群)に記載の指標遺伝子については前記レポーター遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またb)群、d)群、およびd’)群のいずれか(乾癬の場合はii)群またはiv)群)に記載の指標遺伝子については前記レポーター遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択することにより本発明のスクリーニングを行うことができる。
in vitroでの本発明によるスクリーニング方法として、指標蛋白質の活性に基づくスクリーニング方法を利用することもできる。すなわち本発明は、次の工程を含む、アトピー性皮膚炎の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子がa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれか(乾癬の場合はi)群−iv)群)に記載の群から選択されたいずれかの遺伝子、または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子である方法に関する。
(1)指標遺伝子によってコードされる蛋白質と候補化合物を接触させる工程、
(2)前記蛋白質の活性を測定する工程、および
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、およびc’)群のいずれか(乾癬の場合はi)群またはiii)群)に記載の指標遺伝子については前記活性を低下させる化合物を、またb)群、d)群、およびd’)群のいずれか(乾癬の場合はii)群またはiv)群)に記載の指標遺伝子については前記活性を上昇させる化合物を選択する工程
本発明における指標蛋白質が有する活性を指標として、a)群、c)群、およびc’)群のいずれか(乾癬の場合はi)群またはiii)群)に記載の指標遺伝子については、その活性を阻害する活性を有する化合物をスクリーニングすることができる。このようにして得ることができる化合物は、a)群、c)群、およびc’)群のいずれか(乾癬の場合はi)群またはiii)群)に記載の各指標遺伝子の働きを抑制する。その結果、皮膚において発現が誘導された指標蛋白質の阻害を通じて、アトピー性皮膚炎(または乾癬)を制御することができる。
またb)群、d)群、およびd’)群のいずれか(乾癬の場合はii)群またはiv)群)に記載の指標遺伝子については、その活性を促進する活性を有する化合物をスクリーニングすることができる。このようにして得ることができる化合物は、b)群、d)群、およびd’)群のいずれか(乾癬の場合はii)群またはiv)群)に記載の指標遺伝子の働きを促進する。その結果、皮膚において発現が阻害された指標蛋白質の促進を通じて、アトピー性皮膚炎(または乾癬)を制御することができる。
これらスクリーニングに用いる被験候補物質としては、ステロイド誘導体等既存の化学的方法により合成された化合物標品、コンビナトリアルケミストリーにより合成された化合物標品のほか、動・植物組織の抽出物もしくは微生物培養物等の複数の化合物を含む混合物、またそれらから精製された標品などが挙げられる。
本発明による各種のスクリーニング方法に必要な、ポリヌクレオチド、抗体、細胞株、あるいはモデル動物は、予め組み合わせてキットとすることができる。これらのキットには、標識の検出に用いられる基質化合物、細胞の培養のための培地や容器、陽性や陰性の標準試料、更にはキットの使用方法を記載した指示書等をパッケージしておくこともできる。
本発明のスクリーニング方法によって選択される化合物は、アトピー性皮膚炎の治療薬として有用である。あるいは、a)、c)、およびc’)のいずれかに記載のいずれかのAD指標遺伝子の発現を抑制することができるアンチセンスDNAも、アトピー性皮膚炎の治療薬として有用である。
さらに、a)、c)、およびc’)のいずれかに記載されたいずれかのAD指標遺伝子によってコードされる蛋白質を認識する抗体も、アトピー性皮膚炎の治療薬として有用である。a)、c)、およびc’)のいずれかに記載されたAD指標遺伝子は、アトピー性皮膚炎患者の皮疹部において発現が上昇する遺伝子である。したがってこれらの遺伝子の発現、あるいはこれら遺伝子によってコードされる蛋白質の機能を抑制することによって、アトピー性皮膚炎の治療効果を期待することができる。
加えてb)、d)、およびd’)のいずれかに記載されたいずれかのAD指標遺伝子、並びに該遺伝子によってコードされる蛋白質そのものも、アトピー性皮膚炎の治療薬として有用である。
また本発明のスクリーニング方法によって選択される化合物は、乾癬の治療薬として有用である。あるいは、i)およびiii)に記載のいずれかの乾癬指標遺伝子の発現を抑制することができるアンチセンスDNAも、乾癬の治療薬として有用である。
さらに、i)またはiii)に記載されたいずれかの乾癬指標遺伝子によってコードされる蛋白質を認識する抗体も、乾癬の治療薬として有用である。i)またはiii)に記載された指標遺伝子は、乾癬患者の皮疹部において発現が上昇する遺伝子である。したがってこれらの遺伝子の発現、あるいはこれら遺伝子によってコードされる蛋白質の機能を抑制することによって、乾癬の治療効果を期待することができる。
加えてii)またはiv)に記載されたいずれかの乾癬指標遺伝子、並びに該遺伝子によってコードされる蛋白質そのものも、乾癬の治療薬として有用である。
本発明のアレルギー性疾患または乾癬の治療薬は、スクリーニング方法によって選択された化合物を有効成分として含み、生理学的に許容される担体、賦形剤、あるいは希釈剤等と混合することによって製造することができる。本発明のアレルギー性疾患または乾癬の治療剤は、アレルギー症状または乾癬の改善を目的として、経口、あるいは非経口的に投与することができる。
経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤、あるいは懸濁剤等の剤型を選択することができる。注射剤には、皮下注射剤、筋肉注射剤、あるいは腹腔内注射剤等を示すことができる。
また、投与すべき化合物がタンパク質からなる場合には、それをコードする遺伝子を遺伝子治療の手法を用いて生体に導入することにより、治療効果を達成することができる。治療効果をもたらすタンパク質をコードする遺伝子を生体に導入し、発現させることによって、疾患を治療する手法は公知である。
あるいはアンチセンスDNAは、適当なプロモーター配列の下流に組み込み、アンチセンスRNA発現ベクターとして投与することができる。この発現ベクターをアレルギー疾患患者の単核球細胞へ導入すれば、これらの遺伝子のアンチセンスを発現し、当該遺伝子の発現レベルの低下によってアレルギーの治療効果を達成することができる。単核球細胞への発現ベクターの導入としては、in vivo、あるいはex vivoで行う方法が公知である。
投与量は、患者の年齢、性別、体重および症状、治療効果、投与方法、処理時間、あるいは該医薬組成物に含有される活性成分の種類などにより異なるが、通常成人一人あたり、一回につき0.1mgから500mgの範囲で、好ましくは0.5mgから20mgの範囲で投与することができる。しかし、投与量は種々の条件により変動するため、上記投与量よりも少ない量で充分な場合もあり、また上記の範囲を超える投与量が必要な場合もある。
また本発明は、a)群〜d)群、並びにc’)群およびd’)群のいずれかから選択された少なくとも1種類のAD指標遺伝子を測定するためのプローブを固定したアトピー性皮膚炎の診断用DNAチップを提供する。あるいは本発明は、i)群〜iv)群のいずれかから選択された少なくとも1種類の乾癬指標遺伝子を測定するためのプローブを固定した乾癬の診断用DNAチップを提供する。
測定すべき指標遺伝子の種類は任意である。指標遺伝子の数が多いほど、多くの指標に基づく判断が可能となる。一般に、より多くの指標を測定する方が、診断の確度は高まる。また、複数の指標遺伝子を測定する場合には、性質の異なった遺伝子を選択するのが有利である。発現レベルの変動のメカニズム、あるいは遺伝子によってコードされる蛋白質の機能などが異なると考えられる遺伝子は、相互に性質の異なる遺伝子と言うことができる。更に、a)−d)並びにc’)およびd’)に記載されたAD指標遺伝子とi)−iv)に記載された乾癬指標遺伝子とを測定対象とすることによって、アトピー性皮膚炎と乾癬の両方を同一のDNAチップによって検査することもできる。
指標遺伝子の組み合せの例として、次のような例を示すことができる。次に示すような指標遺伝子の組み合せは、アレルギーの検査の精度の向上に貢献する。
[プロテアーゼとプロテアーゼインヒビターで構成される群に含まれる指標遺伝子から選択された2以上の遺伝子]
プロテアーゼとプロテアーゼインヒビターとは、組織の崩壊と構築のバランスの指標となる。すなわち、本発明における指標遺伝子のうち、プロテアーゼ群に含まれる遺伝子と、プロテアーゼインヒビターに含まれる遺伝子から選択された遺伝子について、その遺伝子検出用のプローブを集積して、アトピー性皮膚炎検査用チップとすることができる。各群に含まれる指標遺伝子は、明細書の最後に示した指標遺伝子のリストから見出すことができる。例えば、MMP−3(Matrix Metalloproteinase−3)とTIMP−1(Tissue Inhibitor of MMP−1)の不均衡により皮疹が慢性化するような報告もあることから、プロテアーゼとプロテアーゼインヒビターの組み合せはアレルギー性疾患の指標遺伝子の組み合せとして意義がある。
[サイトカイン、サイトカインレセプター、ケモカイン、ケモカインレセプター、CD抗原、抗体、および抗体レセプターで構成される群に含まれる指標遺伝子から選択された2以上の遺伝子]
これらの組み合せは、いずれも相互にリガンドとレセプターの関係にある物質の組み合せである。免疫応答は、これらの物質間の相互作用の結果と見ることもできる。したがって、これらの指標遺伝子を組み合せることによって、皮膚組織が免疫学的にどのような状態にあるかを判断できる可能性がある。指標遺伝子としては、リガンドとレセプターの関係にある分子の両方を選択しても良いし、本発明における指標遺伝子としていずれか一方しか示されていない場合には、いずれか一方のみを指標遺伝子として選択することもできる。
[サイトカイン、細胞外マトリックス蛋白質、細胞骨格系の蛋白、細胞間接着分子、および転写因子で構成される群に含まれる指標遺伝子から選択された2以上の遺伝子]
細胞外マトリックス蛋白質としてはコラーゲンなどを示すことができる。細胞骨格系の蛋白は、ケラチン、small prolin rich protein、involucrinなどを含む。また、細胞間接着分子には、カドヘリン、デスモコリンなどが含まれる。そして、転写因子としては、jun、fos、あるいはmycを示すことができる。これらの指標遺伝子の発現レベルを観察することによって、皮膚組織の分化、炎症部位の再構築(修復)の度合を評価できる可能性がある。
[酵素に含まれる指標遺伝子から選択された2以上の遺伝子]
酵素に含まれる指標遺伝子を選択することによって、皮膚細胞(epidermal keratinocyteやdermal fibroblast)でどのような代謝が行われているかを知ることができる。例えば、脂質メディエーターやバリア機能を支える脂質分子の代謝については脂質代謝酵素の発現レベルから判断することができる。脂質代謝酵素には、たとえばphospholipase A2、cyclooxygenase−2、prostagrandin D2 synthase、あるいはFatty acid desaturase 1,2などが含まれる。
あるいは、より精度の高い検査を実現するために、a)群およびb)群を構成する遺伝子から選択された任意の複数の遺伝子の組み合せについて、選択された遺伝子を検出することができるプローブを集積したアトピー性皮膚炎検査用チップは有効である。具体的には、a)群から通常10以上、たとえば30以上、好ましくは50以上、より好ましくは60以上、更に好ましくは80以上、あるいは100以上の遺伝子を選択することができる。一方b)群からは、通常10以上、たとえば30以上、好ましくは50以上、より好ましくは60以上、更に好ましくは80以上の遺伝子を選択することができる。
同様に、より精度の高い検査を実現するために、c)群、d)群、c’)群、およびd’)群を構成する遺伝子から選択された任意の複数の遺伝子の組み合せについて、選択された遺伝子を検出することができるプローブを集積したアトピー性皮膚炎検査用チップは有効である。具体的には、c)群および/またはc’)群から通常10以上、たとえば30以上、好ましくは50以上、より好ましくは60以上、更に好ましくは80以上の遺伝子を選択することができる。一方d)群および/またはd’)群からは、通常10以上、たとえば30以上、好ましくは50以上、より好ましくは60以上、更に好ましくは70以上の遺伝子を選択することができる。
また、a)群から選択された遺伝子とc)群および/またはc’)群から選択された遺伝子の組み合せからなるアトピー性皮膚炎検査用チップも、検査精度を高めるために有効である。同様に、b)群から選択された遺伝子とd)群および/またはd’)群から選択された遺伝子の組み合せからなるアトピー性皮膚炎検査用チップも、検査精度を高めるために有効である。
更に前記i)〜iv)に記載された乾癬指標遺伝子を組み合わせることによって、本発明による乾癬検査用チップを得ることができる。乾癬指標遺伝子は、前記のアトピー性皮膚炎検査用チップと同様にして組み合わせることができる。なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
図1は、アトピー性皮膚炎患者および健常人皮膚組織におけるIL−4遺伝子の発現量を示すグラフである。図中、縦軸はIL−4遺伝子のコピー数、横軸は解析に用いた皮膚組織の症例を示す。
図2は、アトピー性皮膚炎患者および健常人皮膚組織におけるIL−13遺伝子の発現量を示すグラフである。図中、縦軸はIL−13遺伝子のコピー数、横軸は解析に用いた皮膚組織の症例を示す。
図3は、アトピー性皮膚炎患者および健常人皮膚組織におけるIL−γ遺伝子の発現量を示すグラフである。図中、縦軸はIL−γ遺伝子のコピー数、横軸は解析に用いた皮膚組織の症例を示す。
図2は、アトピー性皮膚炎患者および健常人皮膚組織におけるIL−13遺伝子の発現量を示すグラフである。図中、縦軸はIL−13遺伝子のコピー数、横軸は解析に用いた皮膚組織の症例を示す。
図3は、アトピー性皮膚炎患者および健常人皮膚組織におけるIL−γ遺伝子の発現量を示すグラフである。図中、縦軸はIL−γ遺伝子のコピー数、横軸は解析に用いた皮膚組織の症例を示す。
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。
〔実施例1〕 アトピー性皮膚炎患者皮膚組織における、アフィメトリックス社ジーンチップによるディファレンシャル発現解析
アトピー性皮膚炎患者の皮膚組織で発現変動している新しい治療標的遺伝子あるいは診断に有用な遺伝子を見出すことを目的として、アトピー性皮膚炎患者の無疹部、急性病変部と健常人の正常皮膚で発現している遺伝子について、ジーンチップを用いたディファレンシャルな発現比較解析を行った。
(1) 皮膚検体の入手
アトピー性皮膚炎患者12例、健常人4例から同意を得て、患者からは無疹部と急性病変部を、健常人からは正常皮膚を、各部位からそれぞれ3個の皮膚検体(直径3mm)を採取した。急性病変部位は日本皮膚科学会の診断基準(日本皮膚科学会誌104:1210(1994))に基づき判定した。皮膚を採取したアトピー性皮膚炎患者の臨床情報を表1に示す。
(2) ヒト皮膚からのジーンチップ解析用のRNA調製
採取した3個の皮膚biopsy(直径3mm)をIsogen(日本ジーン;和光純薬)に浸漬し、ウルトラタックスT8ホモジナイザー(IKA社)を使用してホモジナイズした。ホモジナイズ以降の操作はIsogenのマニュアルに従い、total RNAを抽出した。クロロホルムを加え、攪拌遠心して水層を回収した。次にイソプロパノールを加え、攪拌遠心して沈殿を回収した。沈殿は75%エタノールでリンス、遠心を行い、沈殿をtotal RNAとして回収した。回収したtotal RNAはRNeasy Mini kit(QIAGEN)を用い、そのマニュアルに従って更に精製した。
(3) ジーンチップ用のcDNA合成
Total RNA 2−5μgから、T7−(dT)24(Amersham Pharmacia Biotech)をプライマーとして、Affymetrix社のExpression Analysis Technical Manualの方法に従い、Superscript II Reverse Transcriptase(Life Technologies社)を用いて逆転写し、1本鎖cDNAを作製した。
T7−(dT)24プライマーは、以下のようにT7プロモーターの塩基配列に(dT)24を付加した塩基配列からなる。
次に、Expression Analysis Technical Manualに従い、DNA Ligase,DNA polymeraseIおよびRNaseHを加え、2本鎖cDNAを合成した。cDNAをフェノール・クロロホルム抽出後、Phase Lock Gelsに供し、エタノール沈殿により精製した。
さらに、Bio Array High Yield RNA Transcription Labeling Kitを用い、ビオチンラベルしたcRNAを合成した。RNeasy Spin column(QIAGEN)を用いてcRNAを精製し、熱処理により断片化した。
そのうち10μgのcRNAをExpression Analysis Technical Manualに従いHybridization Cocktailに加えた。これをDNAチップに入れ、45℃で16時間ハイブリダイゼーションした。DNAチップとしてはGene Chip(R)Human Genome U95Av2(Affymetrix社製)を用いた。
DNAチップを洗浄した後、Streptavidin−Phycoerythrinを加え染色した。洗浄後、normalヤギIgGとビオチン化ヤギ抗ストレプトアビジンIgG抗体の混合液をアレイに加えた。さらに、蛍光強度を増強する目的で、再度Streptavidin−Phycoerythrinを加え染色した。洗浄後、スキャナーにセットし、DNAチップ解析ソフトにて解析した。
(4) DNAチップ解析
DNAチップ解析ソフトであるSuiteを用いて発現蛍光強度を測定し、データ解析を行った。まず全てのチップについてAbsolute analysisを行い、用いたサンプル各々の遺伝子発現量を測定した。
1 transcriptに対応するチップデータの解析は、プローブセットのパーフェクトマッチとミスマッチの蛍光強度を比較して、positiveとnegativeを決定した。Positive Fraction,Log Avg,Pos/Negの値から判定されるAbsolute CallであるP(present)、A(absent)、およびM(marginal)の3区分の判定を行った。用語定義は以下に示した。
Positive Fraction;Positiveなペアの割合
Log Avg;パーフェクトマッチとミスマッチのプローブセルの蛍光強度比の対数の平均
Pos/Neg;Positiveペア数とNegativeペア数の比
また、パーフェクトマッチとミスマッチのプローブセルの蛍光強度の差の平均値であるAverage Difference(Avg Diff)も計算した。
サンプル間の遺伝子発現を比較する場合には、Gene Chip Analysis Suite User Guideに従いComparison analysisを行った。各チップの全プローブセットの蛍光強度の平均値が一定になるように蛍光強度を補正した。
アトピー性皮膚炎患者の無疹部と急性病変部間で発現変動する遺伝子の解析
11例の各患者の無疹部における遺伝子発現と急性病変部における遺伝子発現をComparison analysisによって比較解析し、急性病変部で無疹部と比べて2倍以上発現が増加している遺伝子、1/2以下に発現が減少している遺伝子を選択した。患者ごとに選んできた遺伝子について、今度は11例の患者のうち6例以上で共通変動している遺伝子を選択した。選択した遺伝子の遺伝子名と各症例における発現プロファイルを表2〜表9に示した。複数のアトピー性皮膚炎患者で共通変動しているこれらの遺伝子はアトピー性皮膚炎の病態形成に重要な役割を果たしていると考えられ、診断マーカーや治療のターゲットとしての重要性が示唆される。
アトピー性皮膚炎患者の急性病変部と無疹部間の比較で、急性病変部で発現が増加していた遺伝子を示した。表中に記載されている、↑↑↑↑は変動が50倍以上、↑↑↑は10〜50倍、↑↑は3〜10倍、↑は2〜3倍、−は変動なし、↓↓↓↓は1/50倍以下、↓↓↓は1/50〜1/10倍、↓↓は1/10〜1/3倍、↓は1/3〜1/2倍であることを示す。
アトピー性皮膚炎患者の無疹部と健常人の正常組織間で発現変動する遺伝子の解析
12例の各患者の無疹部における遺伝子発現と健常人1例の正常組織における遺伝子発現をComparison analysisによって比較解析し、患者無疹部で健常皮膚と比べて2倍以上発現が増加している遺伝子、1/2以下に発現が減少している遺伝子を選択した。患者ごとに選んできた遺伝子について、今度は12例の患者のうち7例以上で共通して発現が増加している遺伝子、12例の患者のうち8例以上で共通して発現が減少している遺伝子を選択した。選択した遺伝子から、健常人3例間の比較により健常皮膚において発現が安定しない遺伝子を除いた。最終的に選択した遺伝子の遺伝子名と各症例における発現プロファイルを表10〜表12および表13〜表15に示した。健常人と比べてアトピー性皮膚炎患者の皮膚で発現が増減している遺伝子はアトピー性皮膚炎発症の一因となっている可能性があり、皮疹ができてから治療するのではなく、皮疹ができる前に治療するための診断マーカーや治療のターゲットとして重要であると考えられる。
(5) 統計解析
アトピー性皮膚炎患者の無疹部と急性病変部の比較解析の場合は、チップ解析時のAverage Difference値を用い、ウィルコクソン符号付順位和検定(Wilcoxon signed−ranks test)を行った。統計解析により算出されたp値は表2〜表9に記載した。
〔実施例2〕 ヒトのアトピー性皮膚炎とマウス皮膚炎モデルの比較
ヒトアトピー性皮膚炎の無疹部と皮疹部間で発現変動している遺伝子とマウス皮膚炎モデルの非感作皮膚と感作皮膚間で発現変動している遺伝子を比較解析した。両者の間で共通して変動している遺伝子群を選ぶことができれば、その遺伝子についてノックアウトマウスあるいはトランスジェニックマウスを作製することにより、皮膚炎病態におけるその遺伝子の重要性を評価することができる。
また、その遺伝子が液性因子あるいは膜蛋白質をコードしている場合には、中和抗体、液性因子そのもの、あるいは可溶性レセプターなどを実験動物に投与することができる。その結果、遺伝子改変マウスを利用した場合に比べて短期間で、その遺伝子のヒト皮膚炎病態における重要性を評価できる。ヒトのアトピー性皮膚炎の皮膚検体を用いた遺伝子発現解析によって見出された病態関連遺伝子の重要性を評価する目的で、マウス皮膚炎モデルの遺伝子プロファイルを解析し、ヒトのアトピー性皮膚炎と比較した。
(1) NC/Ngaマウス皮膚炎モデルの作製
SPF NC/Ngaマウス(♂・6週齢)の耳介部と背部皮膚にダニ抗原(Dermat ophagoides pteronyssinus 5μg/部位)を3日間隔で計9回皮内投与した。耳浮腫の測定と背部皮膚の症状を週1回の割合で観察した。血中のtotal IgE濃度については、ダニ抗原投与前、投与開始14日後、28日後に採血を行い、マウスIgE測定キット(ヤマサ醤油)にて測定した。コントロールとして非感作群を取り、各群20匹(10匹:ダニ抗原投与開始14日後解剖、10匹:ダニ抗原投与開始28日後解剖)で試験を行った。
ダニ抗原投与14日後解剖および28日解剖のいずれの試験においても非感作群では耳浮腫は認められなかった。一方、感作群ではダニ抗原投与1週間後より明らかな耳の肥厚を示し、2週間後以降高値を維持した(表16)。また、血中のtotal IgE濃度は、感作群においてダニ抗原投与2週間後より濃度の上昇が認められた(表17)。これらの結果に加え、病理学的検査の結果、感作群の耳介皮膚では、表皮の肥厚、真皮と皮下組織には炎症性細胞浸潤(好中球、好酸球ならびにリンパ球)、浮腫、結合組織の増生およびマスト細胞の脱顆粒等が軽度から中等度の変化で観察され、皮膚炎病態を形成していることが確認できた。
(2) マウス皮膚からのジーンチップ解析用のRNA調製
非感作マウスおよび感作マウス(感作後14日と28日)より耳介皮膚および背部皮膚を回収し、Isogen(日本ジーン;和光純薬)に浸漬し、ホモジナイザー(NS−310E;(株)日音医理科器械製作所)を使用して氷冷下にホモジナイズした。ホモジナイズ以降の操作はIsogenのマニュアルに従い、total RNAを抽出した。クロロホルムを加え、攪拌遠心して水層を回収した。次にイソプロパノールを加え、攪拌遠心して沈殿を回収した。沈殿は75%エタノールでリンス、遠心を行い、沈殿をtotal RNAとして回収した。回収したtotal RNAはRNeasy Mini kit(QIAGEN)を用い、そのマニュアルに従って更に精製した。
(3) ジーンチップ用のcDNA合成
1群10匹の各個体の耳介から抽出したtotal RNAをまとめ、そのtotal RNA2−5μgから、T7−(dT)24 −(Amersham Pharmacia Biotech)をプライマーとして、Affymetrix社のExpression Analysis Technical Manualの方法に従い、Superscript II Reverse Transcriptase(Life Technologies社)を用いて逆転写し、1本鎖cDNAを作製した。
T7−(dT)24プライマーは、以下のようにT7プロモーターの塩基配列に(dT)24を付加した塩基配列からなる。
次に、Expression Analysis Technical Manualに従い、DNA Ligase,DNA polymeraseIおよびRNaseHを加え、2本鎖cDNAを合成した。cDNAをフェノール・クロロホルム抽出後、Phase Lock Gelsに供し、エタノール沈殿により精製した。
さらに、Bio Array High Yield RNA Transcription Labeling Kitを用い、ビオチンラベルしたcRNAを合成した。RNeasy Spin column(QIAGEN)を用いてcRNAを精製し、熱処理により断片化した。
そのうち10μgのcRNAをExpression Analysis Technical Manualに従いHybridization Cocktailに加えた。これをDNAチップに入れ、45℃で16時間ハイブリダイゼーションした。DNAチップとしてはGene Chip(R)Murine Genome U74Av2,Bv2,Cv2(Affymetrix社製)を用いた。
DNAチップを洗浄した後、Streptavidin−Phycoerythrinを加え染色した。洗浄後、normalヤギIgGとビオチン化ヤギ抗ストレプトアビジンIgG抗体の混合液をアレイに加えた。さらに、蛍光強度を増強する目的で、再度Streptavidin−Phycoerythrinを加え染色した。洗浄後、スキャナーにセットし、DNAチップ解析ソフトにて解析した。
(4) DNAチップ解析
DNAチップ解析ソフトであるSuiteを用いて発現蛍光強度を測定し、データ解析を行った。まず全てのチップについてGene Chip Analysis Suite User Guideに従いAbsolute analysisを行い、用いたサンプル各々の遺伝子発現量を測定した。
1 transcriptに対応するチップデータの解析は、プローブセットのパーフェクトマッチとミスマッチの蛍光強度を比較して、positiveとnegativeを決定した。Positive Fraction,Log Avg,Pos/Negの値から判定されるAbsolute CallであるP(present)、A(absent)、およびM(marginal)の3区分の判定を行った。用語定義は以下に示した。
Positive Fraction;Positiveなペアの割合
Log Avg;パーフェクトマッチとミスマッチのプローブセルの蛍光強度比の対数の平均
Pos/Neg;Positiveペア数とNegativeペア数の比
また、パーフェクトマッチとミスマッチのプローブセルの蛍光強度の差の平均値であるAverage Difference(Avg Diff)も計算した。
サンプル間の遺伝子発現を比較する場合には、Gene Chip Analysis Suite User Guideに従いComparison analysisを行った。チップ間の補正は、各チップの全プローブセットの蛍光強度の平均値が一定になるように補正を行った。
ダニ抗原感作皮膚と非感作皮膚間で発現変動する遺伝子
感作マウス耳介皮膚における遺伝子発現と非感作マウス耳介皮膚における遺伝子発現をComparison analysisによって比較解析し、感作14日後あるいは28日後のマウス耳介皮膚において非感作耳介皮膚と比べて2倍以上発現が増加している遺伝子(データ5)および1/2以下に発現が減少している遺伝子(データ6)を選択した。これら遺伝子群とヒトのアトピー性皮膚炎の無疹部と急性病変部間で発現変動した遺伝子群を比較した結果を表18〜表20に示した。共通変動を示した遺伝子については、このマウス皮膚炎モデルにおいてノックアウトマウスあるいはトランスジェニックマウスを作製することにより、皮膚炎病態における重要性を評価することができる。また、液性因子や膜蛋白質については皮膚炎モデルマウスに中和抗体を投与、あるいは液性因子そのものや可溶性膜蛋白質を投与することにより、その遺伝子の重要性を評価できる。
以上の解析の結果に基づいて、アトピー性皮膚炎の指標とすることができる遺伝子として次に示す遺伝子を同定した。これらの遺伝子は、いずれも本発明における指標遺伝子として用いることができる。以下に示す各遺伝子のデータは、いずれも、左から順に次の情報を記載している。各情報はスラッシュ(/)で区切って示している。また指標遺伝子は、各遺伝子の機能にしたがって、分類した。分類された機能を=で示した。
「遺伝子名およびシンボル」
「プローブ」(GeneChipにおけるプローブID)
「プローブの塩基配列のデザインのために用いられた塩基配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「各指標遺伝子の塩基配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「各指標遺伝子によってコードされるアミノ酸配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「Reference」(当該遺伝子を報告した論文、および塩基配列を配列表に記載したものについてはその配列番号)
また以上の解析の結果に基づいて、アトピー性皮膚炎の指標とすることができるマウス由来の遺伝子として次に示す遺伝子を同定した。これらの遺伝子は、いずれも本発明における指標遺伝子として用いることができる。以下に示す各遺伝子のデータは、いずれも、左から順に次の情報を記載している。各情報はスラッシュ(/)で区切って示している。各遺伝子の機能は、対応するヒト遺伝子の記載に基づいて明らかにすることができる。
「マウス遺伝子名およびシンボル」
「プローブ」(GeneChipにおけるプローブID)
「プローブの塩基配列のデザインのために用いられた塩基配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「各指標遺伝子の塩基配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「当該遺伝子の塩基配列を示す配列番号」
「各指標遺伝子によってコードされるアミノ酸配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「当該遺伝子によってコードされるアミノ酸配列を示す配列番号」
「Reference」(当該遺伝子を報告した論文)
「対応するヒト遺伝子のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「対応するヒト遺伝子の遺伝子名」
〔実施例3〕アトピー性皮膚炎患者皮膚組織における、アフィメトリックス社ジーンチップによるディファレンシャル発現解析2
アトピー性皮膚炎患者の皮膚組織で発現変動している新しい治療標的遺伝子あるいは診断に有用な遺伝子を見出すことを目的として、アトピー性皮膚炎患者の無疹部、急性病変部と健常人の正常皮膚で発現している遺伝子について、ジーンチップを用いたディファレンシャルな発現比較解析を行った。
アトピー性皮膚炎患者12例、健常人7例から同意を得て、患者からは無疹部と急性病変部を、健常人からは正常皮膚を、各部位からそれぞれ3個の皮膚検体(直径3mm)を採取した。急性病変部位は日本皮膚科学会の診断基準に基づき判定した。皮膚を採取したアトピー性皮膚炎患者の診療情報は上記表1に示した通りである。
ヒト皮膚からのジーンチップ解析用のRNA調製、ジーンチップ用のcDNA合成、DNAチップ解析は実施例1に従って行った。
アトピー性皮膚炎患者の無疹部と健常人の正常組織間で発現変動する遺伝子の解析2
12例の各患者の無疹部における遺伝子発現と健常人7例の正常組織における遺伝子発現の比較にDNAチップ解析ソフトであるGeneSpring4.2(Silicon Genetics社)を用いた。GeneSpring User Manualに従い、Affymetrix社解析ソフトSuite4.0によるAbsolute Analysisの結果をGeneSpringに取り込んだ。同一チップ上の全ての遺伝子について各遺伝子のAverage Difference値をそのmedian値で割り、チップ内補正値(補正値A)を得た。さらに各遺伝子について、使用した全てのチップにおける補正値Aをそのmedian値で割ることにより補正値Bを得た。補正値Bを用いてマン・ホイットニ検定(Mann−Whitney’s U test)を行い、患者無疹部と健常皮膚間で発現量に有意差のある遺伝子を選択した。
選択した遺伝子群について、更に、患者無疹部と健常皮膚における各遺伝子の発現量の平均値を比較して2倍以上差のある遺伝子を選択した。患者無疹部に比較して健常皮膚で発現の高い遺伝子については健常人7例のうち4例以上でP(present)となる遺伝子のみを選択し、患者無疹部で発現の高い遺伝子については患者12例のうち7例以上でPとなる遺伝子のみを選択した。結果を表21〜表24に示した。
以上の解析の結果に基づいて、アトピー性皮膚炎の指標とすることができる遺伝子として次に示す遺伝子を同定した。これらの遺伝子は、いずれも本発明における指標遺伝子として用いることができる。以下に示す各遺伝子のデータは、いずれも、左から順に次の情報を記載している。各情報はスラッシュ(/)で区切って示している。また指標遺伝子は、各遺伝子の機能にしたがって、分類した。分類された機能を=で示した。
「遺伝子名およびシンボル」
「プローブ」(GeneChipにおけるプローブID)
「プローブの塩基配列のデザインのために用いられた塩基配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「各指標遺伝子の塩基配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「各指標遺伝子によってコードされるアミノ酸配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「Reference」(当該遺伝子を報告した論文、および塩基配列を配列表に記載したものについてはその配列番号)
〔実施例4〕 アトピー性皮膚炎患者の皮膚組織と乾癬患者の皮膚組織間での遺伝子発現の比較
代表的な2つの炎症性皮膚疾患の炎症局所における遺伝子発現を比較することにより、アトピー性皮膚炎特異的な変動を示す遺伝子、乾癬特異的な変動を示す遺伝子、両疾患で共通変動する遺伝子を同定することができる。実施例1で選択された遺伝子群の中からアトピー性皮膚炎病態において特異的な発現変動を示す遺伝子を選択することを目的に、乾癬患者の皮膚組織における遺伝子発現解析を行い、アトピー性皮膚炎患者の皮膚組織における遺伝子発現解析結果と比較した。
乾癬患者6例から同意を得て、無疹部と病変部を各部位からそれぞれ3個の皮膚検体(直径3mm)を採取した。
ヒト皮膚からのジーンチップ解析用のRNA調製、ジーンチップ用のcDNA合成、DNAチップ解析は実施例1に従って行った。
アトピー性皮膚炎患者と乾癬患者の無疹部と皮疹部間で発現変動する遺伝子群の比較
6例の乾癬患者の無疹部における遺伝子発現と皮疹部における遺伝子発現をComparison analysisによって比較解析を行い、無疹部と比べて皮疹部で2倍以上発現が増加している遺伝子、1/2以下に発現が減少している遺伝子を選択した。患者ごとに選んできた遺伝子について、今度は6例の患者のうち4例以上で共通変動している遺伝子を選択した。これらの遺伝子群について、Comparison analysis後のAverage Difference値を用いてウィルコクソン符号付順位和検定(Wilcoxon signed−ranks test)を行い、p値を算出した。選択した遺伝子群と実施例1で行ったアトピー性皮膚炎患者の無疹部と皮疹部間の比較で発現変動が認められた遺伝子群を比較することにより、アトピー性皮膚炎と乾癬で共通変動する遺伝子、アトピー性皮膚炎でのみ発現変動を示す遺伝子、乾癬でのみ発現変動を示す遺伝子を同定した。
アトピー性皮膚炎と乾癬で共通変動した遺伝子群を表25〜表38に、アトピー性皮膚炎でのみ発現変動を示した遺伝子群を表39〜表52に、乾癬でのみ発現変動を示した遺伝子群を表53〜表66に示した。
健常人の正常組織とアトピー性皮膚炎患者および乾癬患者の無疹部間で発現変動する遺伝子群の比較
6例の乾癬患者の無疹部における遺伝子発現と健常人7例の正常組織における遺伝子発現の比較にDNAチップ解析ソフトであるGeneSpring4.2(Silicon Genetics社)を用いた。GeneSpring User Manualに従い、Affymetrix社解析ソフトSuite4.0によるAbsolute Analysisの結果をGeneSpringに取り込み、同一チップ上の全ての遺伝子について各遺伝子のAverage Difference値をそのmedian値で割り、チップ内補正値(補正値A)を得た。さらに各遺伝子について、使用した全てのチップにおける補正値Aをそのmedian値で割ることにより補正値Bを得た。補正値Bを用いてマン・ホイットニ検定(Mann−Whitney’s U test)を行い、患者無疹部と健常皮膚間で発現量に有意差のある遺伝子を選択した。選択した遺伝子群について、更に、患者無疹部と健常皮膚における各遺伝子の発現量の平均値を比較して2倍以上差のある遺伝子を選択した。
患者無疹部に比較して健常皮膚で発現の高い遺伝子については健常人7例のうち4例以上でP(present)となる遺伝子のみを選択し、患者無疹部で発現の高い遺伝子については患者6例のうち4例以上でPとなる遺伝子のみを選択した。選択した遺伝子群と実施例3で行った健常人正常組織とアトピー性皮膚炎患者無疹部間の比較で発現変動が認められた遺伝子群を比較することにより、アトピー性皮膚炎と乾癬で共通変動する遺伝子、アトピー性皮膚炎でのみ発現変動を示す遺伝子、乾癬でのみ発現変動を示す遺伝子を同定した。
アトピー性皮膚炎と乾癬で共通変動した遺伝子群を表67〜表69に、アトピー性皮膚炎でのみ発現変動を示した遺伝子群を表70〜表72に、乾癬でのみ発現変動を示した遺伝子群を表73〜表75に示した。各疾患特異的に発現変動するとして同定した遺伝子については、他方の疾患における発現プロファイルも表中に併記した。各疾患特異的変動遺伝子として同定した遺伝子の中には、他方の疾患においても統計的に有意な変動を示しているように見える遺伝子が認められるが、これらの遺伝子は全て我々の選択基準を満たさないものであった(2倍以下の変動倍率で有意差が認められたか、あるいはGeneChipの検出限界以下の定量値を用いた統計解析で有意差が認められた遺伝子)。
以上の解析の結果に基づいて、乾癬の指標とすることができる遺伝子として次に示す遺伝子を同定した。これらの遺伝子は、いずれも本発明における指標遺伝子として用いることができる。以下に示す各遺伝子のデータは、いずれも、左から順に次の情報を記載している。各情報はスラッシュ(/)で区切って示している。また指標遺伝子は、各遺伝子の機能にしたがって、分類した。分類された機能を=で示した。
「遺伝子名およびシンボル」
「プローブ」(GeneChipにおけるプローブID)
「プローブの塩基配列のデザインのために用いられた塩基配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「各指標遺伝子の塩基配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「各指標遺伝子によってコードされるアミノ酸配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「Reference」(当該遺伝子を報告した論文、および塩基配列を配列表に記載したものについてはその配列番号)
〔実施例5〕 ヒトのアトピー性皮膚炎とマウス皮膚炎モデルの比較
ヒトのアトピー性皮膚炎の皮膚検体を用いた遺伝子発現解析によって見出された病態関連遺伝子の重要性を評価する目的で、マウス皮膚炎モデルの遺伝子発現解析を行い、ヒトのアトピー性皮膚炎との比較を行った。
DNFB反復塗布接触性皮膚炎モデルマウスは、永井らの方法(J Allergy Clin Immunol 1997 Dec;100(6 Pt 2):S39−44)に従って作製した。
BALB/cマウス(♂・7〜10週齢)の耳介部に週1回の割合で合計5回、vehicle(アセトンとオリーブオイルを3:1の割合で混合した溶媒)に溶解した0.15%のDinitrofluorobenzene(DNFB)溶液25μlを塗布した。
2回目のDNFB塗布24時間後から耳介の浮腫が観察され、3、4、5回と塗布回数を重ねるに従って塗布24時間後の浮腫率も増加した。一方、vehicle塗布群では耳浮腫は観察されなかった。また、血中の特異的IgEおよびtotal IgE濃度は、DNFB塗布群で5回目のDNFB塗布4時間後の測定でDNFB塗布前(試験開始時)に比べて著しい上昇が認められたのに対し、vehicle塗布群では上昇が認められなかった。更に、病理組織学的解析の結果、5回目のDNFB塗布24時間後の耳介皮膚組織には炎症性細胞浸潤(好中球、好酸球など)、表皮の肥厚が認められ、皮膚炎病態の形成が観察できた。
DNFB塗布、Vehicle塗布群からそれぞれ2匹の個体を選択し、1、3、5回目の塗布前と塗布4時間後の耳介皮膚を採取した。マウス皮膚からのジーンチップ解析用のRNA調製、ジーンチップ用のcDNA合成、DNAチップ解析は実施例2に従って行った。
DNFB反復塗布耳介皮膚(接触性皮膚炎病変部)で発現変動する遺伝子とヒトアトピー性皮膚炎皮膚組織で発現変動する遺伝子の比較
DNFB塗布耳介皮膚における遺伝子発現とVehicle塗布耳介皮膚における遺伝子発現をComparison analysisによって比較解析し、DNFB塗布1、3、5回目のそれぞれで塗布前と塗布4時間後の比較で2倍以上発現が増加している遺伝子および1/2以下に発現が減少している遺伝子を急性病変部で変動する遺伝子として選択した。また、3回目および5回目のDNFB塗布前と1回目の塗布前の比較で2倍以上発現が増加している遺伝子および1/2以下に発現が減少している遺伝子を慢性病変部で変動する遺伝子として選択した。
これら遺伝子群とヒトのアトピー性皮膚炎の無疹部と急性病変部間で発現変動した遺伝子群を比較した結果を表76〜表82に示した。共通変動を示した遺伝子については、このマウス皮膚炎モデルにおいてノックアウトマウスあるいはトランスジェニックマウスを作製することにより、皮膚炎病態における重要性を評価することができる。また、液性因子や膜蛋白質については皮膚炎モデルマウスに中和抗体を投与、あるいは液性因子そのものや可溶性膜蛋白質を投与することにより、その遺伝子の重要性を評価できる。
また以上の解析の結果に基づいて、皮膚炎に関連するマウス由来の遺伝子として次に示す遺伝子を同定した。これらの遺伝子は、いずれも本発明における指標遺伝子として用いることができる。以下に示す各遺伝子のデータは、いずれも、左から順に次の情報を記載している。各情報はスラッシュ(/)で区切って示している。各遺伝子の機能は、対応するヒト遺伝子の記載に基づいて明らかにすることができる。
「マウス遺伝子名およびシンボル」
「プローブ」(GeneChipにおけるプローブID)
「プローブの塩基配列のデザインのために用いられた塩基配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「各指標遺伝子の塩基配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「当該遺伝子の塩基配列を示す配列番号」
「各指標遺伝子によってコードされるアミノ酸配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「当該遺伝子によってコードされるアミノ酸配列を示す配列番号」
「Reference」(当該遺伝子を報告した論文)
「対応するヒト遺伝子のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「対応するヒト遺伝子の遺伝子名」
〔実施例6〕 正常ヒト表皮角化細胞においてIL−4、IL−13あるいはIFN−γ刺激により発現変動する遺伝子群とアトピー性皮膚炎患者の皮膚組織において発現変動する遺伝子群の比較
IL−4、IL−13およびIFN−γはアトピー性皮膚炎の病態形成に重要なサイトカインであり、IL−4およびIL−13はアトピー性皮膚炎患者の急性病変部において無疹部に比べて発現が増加していること、またIFN−γはアトピー性皮膚炎患者無疹部において健常人の正常組織に比べて発現が低下していることが報告されている。我々は入手した患者および健常人の皮膚組織におけるIL−4、IL−13およびIFN−γの発現を定量的PCRにて検討した。
(1) 定量的PCR用のcDNA合成
皮膚検体から抽出したtotal RNAをDNase(ニッポンジーン)処理し、oligo(dT)1 2−18(GIBCO BRL)をプライマーとして逆転写したcDNAを鋳型とした。同時に、コピー数を算出する標準曲線のために両プライマーで増幅される塩基配列領域を含むプラスミドクローンを各々の遺伝子について準備し、その段階希釈を鋳型として反応を行った。定量的PCRの反応液組成は表83に示した。
(2) IL−4、IL−13およびIFN−γ遺伝子の皮膚組織における発現解析
IL−4、IL−13およびIFN−γ遺伝子の皮膚組織における発現量を定量的に評価するために、ABI7700(Applied Biosystems)を用いて定量的PCRを行った。ABI7700による測定に用いたプライマーおよびTaqManプローブは、各遺伝子の配列情報に基づいてPrimer Express(PEバイオシステムズ)により設計した。使用した全てのTaqManプローブの5’末端はFAM(6−carboxy−fluorescein)で、また3’末端はTAMRA(6−carboxy−N,N,N’,N’−tetramethylrhodamine)で標識した。
また、試料中のcDNA濃度の差を補正するため、補正用内部標準としてβ−アクチン(β−actin)遺伝子、およびグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)遺伝子について同様の定量解析を行い、それら遺伝子のコピー数を基に補正して、目的遺伝子のコピー数を算出した。各遺伝子のフォワードプライマー(F)、リバースプライマー(R)、およびTaqManプローブ(TP)に用いたオリゴヌクレオチドの塩基配列は、以下に示すとおりである。各指標遺伝子の塩基配列に対応するGenbankのアクセッション番号を、遺伝子名に続けて表示した。
GAPDHにより補正した各遺伝子の発現量(copy/5ng total RNA)を図1〜3に示す。図1〜3に示すように、我々が網羅的遺伝子発現解析に使用した検体においても複数の症例で、IL−4およびIL−13は患者無疹部に比べて皮疹部で高発現しており、IFN−γは患者無疹部に比べて健常人正常組織で、また患者無疹部に比べて皮疹部において高発現していることが確認された。
続いて、ヒト表皮角化細胞(ケラチノサイト)をIL−4、IL−13あるいはIFN−γで刺激を行い、それぞれの刺激によりケラチノサイトで発現が変動する遺伝子を選択し、更にヒト皮膚組織を用いた網羅的発現解析結果との比較を行い、共通変動遺伝子の選択を行った。
(3) ヒト表皮角化細胞(ケラチノサイト)のIL−4、IL−13あるいはIFN−γ刺激実験
市販の正常ヒト表皮角化細胞(Neonatal Normal Human Epidermal Keratinocytes,pooled:NHEK−Neo Pooled(Bio WHITTAKER社))を、細胞密度が3500細胞/cm2になるようにフラスコ(底面積75cm2)に播種し、15mL/フラスコのKGM SingleQuots培地(Bio WHITTAKER社)で培養を開始した。播種した翌日に培地交換を行い、それ以後1日おきに培地交換をしながら培養を継続した。細胞密度が50%コンフレント以上になった時点(播種後6日目)で細胞をトリプシン処理により回収し、6ウェルプレートに細胞密度1〜2×105細胞/ウェル、培地量2mL/ウェルとなるように継代した。
6ウェルプレートに継代した翌日または翌々日に、培地交換を行うとともに培養系にそれぞれのサイトカインを加え(IFN(SIGMA社 cat.#I−1520);200U/mL、IL−4(PeproTechEC社 cat.#200−04);10ng/mL、IL−13(PeproTechEC社 cat.#200−13);50ng/mL)、刺激培養を開始し、以降経時的(刺激後6時間、12時間、24時間、48時間)にサンプリングを行った。回収した細胞はRNA抽出用試薬ISOGEN(ニッポンジーン社)1mL/ウェルに溶解し、−80℃にて保存した。
(4) 遺伝子発現解析用total RNAの調製
サイトカイン刺激後の細胞をIsogen試薬に溶解し、以降はそのマニュアルに従ってtotal RNAの調製を行った。細胞溶解液にクロロホルムを加え、攪拌遠心して水層を回収した。次にイソプロパノールを加え、攪拌遠心して沈殿を回収した。沈殿は75%エタノールでリンス、遠心を行い、沈殿をtotal RNAとして回収した。
(5) ジーンチップ解析用のcDNA、cRNAの合成
Total RNA 2−5μgから、T7−(dT)24(Amersham Pharmacia Biotech)をプライマーとして、Affymetrix社のExpression Analysis Technical Manualに従い、Superscript II Reverse Transcriptase(Life Technologies社)を用いて逆転写し、1本鎖cDNAを作製した。
T7−(dT)24プライマーは、以下のようにT7プロモーターの塩基配列に(dT)24を付加した塩基配列からなる。
次に、DNA Ligase,DNA polymeraseIおよびRNaseHを加え、2本鎖cDNAを合成した。cDNAをフェノール・クロロホルム抽出後、Phase Lock Gelsに供し、エタノール沈殿により精製した。
さらに、BioArray High Yield RNA Transcription Labeling Kitを用い、ビオチンラベルしたcRNAを合成した。合成したcRNAはRNeasy Spin column(QIAGEN)を用いて精製を行い、アルカリ処理により断片化を行った。
(6)GeneChipを用いた遺伝子発現解析
Expression Analysis Technical Manual(Affymetrix)に従い、断片化したcRNA(10μg)を用いてハイブリダイゼーションカクテルを作製し、これをチップに入れて45℃で16時間ハイブリダイゼーションさせた。チップにはGeneChip(R)Human Genome U95Av2(Affymetrix社)を用いた。ハイブリダイズした後にチップを洗浄し、Streptavidin−Phycoerythrinを加えて染色した。洗浄後、normalヤギIgGとビオチン化ヤギ抗ストレプトアビジンIgG抗体の混合液をアレイに加えて反応させた。更に、蛍光強度を増強する目的で、再度Streptavidin−Phycoerythrinを加え染色した。洗浄後、チップをスキャナーにセットして蛍光強度を読み取った。
読み取った蛍光強度は、DNAチップ解析ソフトであるSuite4.0を用いてデータの解析を行った。データの解析はGeneChip Analysis Suite User Guideに従って行った。
まず全てのチップについてAbsolute analysisを行い、用いたサンプル各々の遺伝子発現量を測定した。また、全てのtranscriptに対して、それぞれのプローブセットのパーフェクトマッチとミスマッチの蛍光強度を比較し、Absolute CallであるP(present),A(absent)およびM(marginal)の3区分の判定を行った。
サンプル間(チップ間)の遺伝子発現を比較する場合にはComparison analysisを行った。チップ間の補正は、各チップの全プローブセットの蛍光強度平均値が一定になるように補正を行った。
IL−4、IL−13あるいはIFN−γ刺激によりケラチノサイトにおいて変動する遺伝子群とアトピー性皮膚炎患者の皮膚組織で変動する遺伝子群との比較
それぞれの刺激を加えて48時間後のケラチノサイトにおける遺伝子発現と刺激を加えずに48時間培養したケラチノサイトの遺伝子発現をComparison analysisにより比較解析を行い、各刺激により発現変動する遺伝子のリストを作成した。そのリストをアトピー性皮膚炎患者の無疹部と皮疹部間で変動する遺伝子群と比較を行った結果を表84〜表94に、健常人の正常組織とアトピー性皮膚炎患者の無疹部間で変動する遺伝子群と比較した結果を表95〜表102に示した。
IL−4、IL−13およびIFN−γは実際にアトピー性皮膚炎患者の皮膚組織において発現変動が認められていることから、これらのサイトカインが表皮ケラチノサイトに作用して患者皮膚組織における遺伝子発現プロファイルに影響を及ぼしている可能性は充分考えられる。実際、患者皮膚組織におけるこれらサイトカインのプロファイルと矛盾すること無く、サイトカイン刺激ケラチノサイトと患者皮膚組織で共通変動する遺伝子が数多く見出された。このような解析は患者皮膚組織で変動している他のサイトカインを用いて同様に行うことができ、AD病態関連遺伝子の発現を誘導あるいは抑制可能な因子を推測することができる。
〔実施例1〕 アトピー性皮膚炎患者皮膚組織における、アフィメトリックス社ジーンチップによるディファレンシャル発現解析
アトピー性皮膚炎患者の皮膚組織で発現変動している新しい治療標的遺伝子あるいは診断に有用な遺伝子を見出すことを目的として、アトピー性皮膚炎患者の無疹部、急性病変部と健常人の正常皮膚で発現している遺伝子について、ジーンチップを用いたディファレンシャルな発現比較解析を行った。
(1) 皮膚検体の入手
アトピー性皮膚炎患者12例、健常人4例から同意を得て、患者からは無疹部と急性病変部を、健常人からは正常皮膚を、各部位からそれぞれ3個の皮膚検体(直径3mm)を採取した。急性病変部位は日本皮膚科学会の診断基準(日本皮膚科学会誌104:1210(1994))に基づき判定した。皮膚を採取したアトピー性皮膚炎患者の臨床情報を表1に示す。
(2) ヒト皮膚からのジーンチップ解析用のRNA調製
採取した3個の皮膚biopsy(直径3mm)をIsogen(日本ジーン;和光純薬)に浸漬し、ウルトラタックスT8ホモジナイザー(IKA社)を使用してホモジナイズした。ホモジナイズ以降の操作はIsogenのマニュアルに従い、total RNAを抽出した。クロロホルムを加え、攪拌遠心して水層を回収した。次にイソプロパノールを加え、攪拌遠心して沈殿を回収した。沈殿は75%エタノールでリンス、遠心を行い、沈殿をtotal RNAとして回収した。回収したtotal RNAはRNeasy Mini kit(QIAGEN)を用い、そのマニュアルに従って更に精製した。
(3) ジーンチップ用のcDNA合成
Total RNA 2−5μgから、T7−(dT)24(Amersham Pharmacia Biotech)をプライマーとして、Affymetrix社のExpression Analysis Technical Manualの方法に従い、Superscript II Reverse Transcriptase(Life Technologies社)を用いて逆転写し、1本鎖cDNAを作製した。
T7−(dT)24プライマーは、以下のようにT7プロモーターの塩基配列に(dT)24を付加した塩基配列からなる。
次に、Expression Analysis Technical Manualに従い、DNA Ligase,DNA polymeraseIおよびRNaseHを加え、2本鎖cDNAを合成した。cDNAをフェノール・クロロホルム抽出後、Phase Lock Gelsに供し、エタノール沈殿により精製した。
さらに、Bio Array High Yield RNA Transcription Labeling Kitを用い、ビオチンラベルしたcRNAを合成した。RNeasy Spin column(QIAGEN)を用いてcRNAを精製し、熱処理により断片化した。
そのうち10μgのcRNAをExpression Analysis Technical Manualに従いHybridization Cocktailに加えた。これをDNAチップに入れ、45℃で16時間ハイブリダイゼーションした。DNAチップとしてはGene Chip(R)Human Genome U95Av2(Affymetrix社製)を用いた。
DNAチップを洗浄した後、Streptavidin−Phycoerythrinを加え染色した。洗浄後、normalヤギIgGとビオチン化ヤギ抗ストレプトアビジンIgG抗体の混合液をアレイに加えた。さらに、蛍光強度を増強する目的で、再度Streptavidin−Phycoerythrinを加え染色した。洗浄後、スキャナーにセットし、DNAチップ解析ソフトにて解析した。
(4) DNAチップ解析
DNAチップ解析ソフトであるSuiteを用いて発現蛍光強度を測定し、データ解析を行った。まず全てのチップについてAbsolute analysisを行い、用いたサンプル各々の遺伝子発現量を測定した。
1 transcriptに対応するチップデータの解析は、プローブセットのパーフェクトマッチとミスマッチの蛍光強度を比較して、positiveとnegativeを決定した。Positive Fraction,Log Avg,Pos/Negの値から判定されるAbsolute CallであるP(present)、A(absent)、およびM(marginal)の3区分の判定を行った。用語定義は以下に示した。
Positive Fraction;Positiveなペアの割合
Log Avg;パーフェクトマッチとミスマッチのプローブセルの蛍光強度比の対数の平均
Pos/Neg;Positiveペア数とNegativeペア数の比
また、パーフェクトマッチとミスマッチのプローブセルの蛍光強度の差の平均値であるAverage Difference(Avg Diff)も計算した。
サンプル間の遺伝子発現を比較する場合には、Gene Chip Analysis Suite User Guideに従いComparison analysisを行った。各チップの全プローブセットの蛍光強度の平均値が一定になるように蛍光強度を補正した。
アトピー性皮膚炎患者の無疹部と急性病変部間で発現変動する遺伝子の解析
11例の各患者の無疹部における遺伝子発現と急性病変部における遺伝子発現をComparison analysisによって比較解析し、急性病変部で無疹部と比べて2倍以上発現が増加している遺伝子、1/2以下に発現が減少している遺伝子を選択した。患者ごとに選んできた遺伝子について、今度は11例の患者のうち6例以上で共通変動している遺伝子を選択した。選択した遺伝子の遺伝子名と各症例における発現プロファイルを表2〜表9に示した。複数のアトピー性皮膚炎患者で共通変動しているこれらの遺伝子はアトピー性皮膚炎の病態形成に重要な役割を果たしていると考えられ、診断マーカーや治療のターゲットとしての重要性が示唆される。
アトピー性皮膚炎患者の急性病変部と無疹部間の比較で、急性病変部で発現が増加していた遺伝子を示した。表中に記載されている、↑↑↑↑は変動が50倍以上、↑↑↑は10〜50倍、↑↑は3〜10倍、↑は2〜3倍、−は変動なし、↓↓↓↓は1/50倍以下、↓↓↓は1/50〜1/10倍、↓↓は1/10〜1/3倍、↓は1/3〜1/2倍であることを示す。
アトピー性皮膚炎患者の無疹部と健常人の正常組織間で発現変動する遺伝子の解析
12例の各患者の無疹部における遺伝子発現と健常人1例の正常組織における遺伝子発現をComparison analysisによって比較解析し、患者無疹部で健常皮膚と比べて2倍以上発現が増加している遺伝子、1/2以下に発現が減少している遺伝子を選択した。患者ごとに選んできた遺伝子について、今度は12例の患者のうち7例以上で共通して発現が増加している遺伝子、12例の患者のうち8例以上で共通して発現が減少している遺伝子を選択した。選択した遺伝子から、健常人3例間の比較により健常皮膚において発現が安定しない遺伝子を除いた。最終的に選択した遺伝子の遺伝子名と各症例における発現プロファイルを表10〜表12および表13〜表15に示した。健常人と比べてアトピー性皮膚炎患者の皮膚で発現が増減している遺伝子はアトピー性皮膚炎発症の一因となっている可能性があり、皮疹ができてから治療するのではなく、皮疹ができる前に治療するための診断マーカーや治療のターゲットとして重要であると考えられる。
(5) 統計解析
アトピー性皮膚炎患者の無疹部と急性病変部の比較解析の場合は、チップ解析時のAverage Difference値を用い、ウィルコクソン符号付順位和検定(Wilcoxon signed−ranks test)を行った。統計解析により算出されたp値は表2〜表9に記載した。
〔実施例2〕 ヒトのアトピー性皮膚炎とマウス皮膚炎モデルの比較
ヒトアトピー性皮膚炎の無疹部と皮疹部間で発現変動している遺伝子とマウス皮膚炎モデルの非感作皮膚と感作皮膚間で発現変動している遺伝子を比較解析した。両者の間で共通して変動している遺伝子群を選ぶことができれば、その遺伝子についてノックアウトマウスあるいはトランスジェニックマウスを作製することにより、皮膚炎病態におけるその遺伝子の重要性を評価することができる。
また、その遺伝子が液性因子あるいは膜蛋白質をコードしている場合には、中和抗体、液性因子そのもの、あるいは可溶性レセプターなどを実験動物に投与することができる。その結果、遺伝子改変マウスを利用した場合に比べて短期間で、その遺伝子のヒト皮膚炎病態における重要性を評価できる。ヒトのアトピー性皮膚炎の皮膚検体を用いた遺伝子発現解析によって見出された病態関連遺伝子の重要性を評価する目的で、マウス皮膚炎モデルの遺伝子プロファイルを解析し、ヒトのアトピー性皮膚炎と比較した。
(1) NC/Ngaマウス皮膚炎モデルの作製
SPF NC/Ngaマウス(♂・6週齢)の耳介部と背部皮膚にダニ抗原(Dermat ophagoides pteronyssinus 5μg/部位)を3日間隔で計9回皮内投与した。耳浮腫の測定と背部皮膚の症状を週1回の割合で観察した。血中のtotal IgE濃度については、ダニ抗原投与前、投与開始14日後、28日後に採血を行い、マウスIgE測定キット(ヤマサ醤油)にて測定した。コントロールとして非感作群を取り、各群20匹(10匹:ダニ抗原投与開始14日後解剖、10匹:ダニ抗原投与開始28日後解剖)で試験を行った。
ダニ抗原投与14日後解剖および28日解剖のいずれの試験においても非感作群では耳浮腫は認められなかった。一方、感作群ではダニ抗原投与1週間後より明らかな耳の肥厚を示し、2週間後以降高値を維持した(表16)。また、血中のtotal IgE濃度は、感作群においてダニ抗原投与2週間後より濃度の上昇が認められた(表17)。これらの結果に加え、病理学的検査の結果、感作群の耳介皮膚では、表皮の肥厚、真皮と皮下組織には炎症性細胞浸潤(好中球、好酸球ならびにリンパ球)、浮腫、結合組織の増生およびマスト細胞の脱顆粒等が軽度から中等度の変化で観察され、皮膚炎病態を形成していることが確認できた。
(2) マウス皮膚からのジーンチップ解析用のRNA調製
非感作マウスおよび感作マウス(感作後14日と28日)より耳介皮膚および背部皮膚を回収し、Isogen(日本ジーン;和光純薬)に浸漬し、ホモジナイザー(NS−310E;(株)日音医理科器械製作所)を使用して氷冷下にホモジナイズした。ホモジナイズ以降の操作はIsogenのマニュアルに従い、total RNAを抽出した。クロロホルムを加え、攪拌遠心して水層を回収した。次にイソプロパノールを加え、攪拌遠心して沈殿を回収した。沈殿は75%エタノールでリンス、遠心を行い、沈殿をtotal RNAとして回収した。回収したtotal RNAはRNeasy Mini kit(QIAGEN)を用い、そのマニュアルに従って更に精製した。
(3) ジーンチップ用のcDNA合成
1群10匹の各個体の耳介から抽出したtotal RNAをまとめ、そのtotal RNA2−5μgから、T7−(dT)24 −(Amersham Pharmacia Biotech)をプライマーとして、Affymetrix社のExpression Analysis Technical Manualの方法に従い、Superscript II Reverse Transcriptase(Life Technologies社)を用いて逆転写し、1本鎖cDNAを作製した。
T7−(dT)24プライマーは、以下のようにT7プロモーターの塩基配列に(dT)24を付加した塩基配列からなる。
次に、Expression Analysis Technical Manualに従い、DNA Ligase,DNA polymeraseIおよびRNaseHを加え、2本鎖cDNAを合成した。cDNAをフェノール・クロロホルム抽出後、Phase Lock Gelsに供し、エタノール沈殿により精製した。
さらに、Bio Array High Yield RNA Transcription Labeling Kitを用い、ビオチンラベルしたcRNAを合成した。RNeasy Spin column(QIAGEN)を用いてcRNAを精製し、熱処理により断片化した。
そのうち10μgのcRNAをExpression Analysis Technical Manualに従いHybridization Cocktailに加えた。これをDNAチップに入れ、45℃で16時間ハイブリダイゼーションした。DNAチップとしてはGene Chip(R)Murine Genome U74Av2,Bv2,Cv2(Affymetrix社製)を用いた。
DNAチップを洗浄した後、Streptavidin−Phycoerythrinを加え染色した。洗浄後、normalヤギIgGとビオチン化ヤギ抗ストレプトアビジンIgG抗体の混合液をアレイに加えた。さらに、蛍光強度を増強する目的で、再度Streptavidin−Phycoerythrinを加え染色した。洗浄後、スキャナーにセットし、DNAチップ解析ソフトにて解析した。
(4) DNAチップ解析
DNAチップ解析ソフトであるSuiteを用いて発現蛍光強度を測定し、データ解析を行った。まず全てのチップについてGene Chip Analysis Suite User Guideに従いAbsolute analysisを行い、用いたサンプル各々の遺伝子発現量を測定した。
1 transcriptに対応するチップデータの解析は、プローブセットのパーフェクトマッチとミスマッチの蛍光強度を比較して、positiveとnegativeを決定した。Positive Fraction,Log Avg,Pos/Negの値から判定されるAbsolute CallであるP(present)、A(absent)、およびM(marginal)の3区分の判定を行った。用語定義は以下に示した。
Positive Fraction;Positiveなペアの割合
Log Avg;パーフェクトマッチとミスマッチのプローブセルの蛍光強度比の対数の平均
Pos/Neg;Positiveペア数とNegativeペア数の比
また、パーフェクトマッチとミスマッチのプローブセルの蛍光強度の差の平均値であるAverage Difference(Avg Diff)も計算した。
サンプル間の遺伝子発現を比較する場合には、Gene Chip Analysis Suite User Guideに従いComparison analysisを行った。チップ間の補正は、各チップの全プローブセットの蛍光強度の平均値が一定になるように補正を行った。
ダニ抗原感作皮膚と非感作皮膚間で発現変動する遺伝子
感作マウス耳介皮膚における遺伝子発現と非感作マウス耳介皮膚における遺伝子発現をComparison analysisによって比較解析し、感作14日後あるいは28日後のマウス耳介皮膚において非感作耳介皮膚と比べて2倍以上発現が増加している遺伝子(データ5)および1/2以下に発現が減少している遺伝子(データ6)を選択した。これら遺伝子群とヒトのアトピー性皮膚炎の無疹部と急性病変部間で発現変動した遺伝子群を比較した結果を表18〜表20に示した。共通変動を示した遺伝子については、このマウス皮膚炎モデルにおいてノックアウトマウスあるいはトランスジェニックマウスを作製することにより、皮膚炎病態における重要性を評価することができる。また、液性因子や膜蛋白質については皮膚炎モデルマウスに中和抗体を投与、あるいは液性因子そのものや可溶性膜蛋白質を投与することにより、その遺伝子の重要性を評価できる。
以上の解析の結果に基づいて、アトピー性皮膚炎の指標とすることができる遺伝子として次に示す遺伝子を同定した。これらの遺伝子は、いずれも本発明における指標遺伝子として用いることができる。以下に示す各遺伝子のデータは、いずれも、左から順に次の情報を記載している。各情報はスラッシュ(/)で区切って示している。また指標遺伝子は、各遺伝子の機能にしたがって、分類した。分類された機能を=で示した。
「遺伝子名およびシンボル」
「プローブ」(GeneChipにおけるプローブID)
「プローブの塩基配列のデザインのために用いられた塩基配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「各指標遺伝子の塩基配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「各指標遺伝子によってコードされるアミノ酸配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「Reference」(当該遺伝子を報告した論文、および塩基配列を配列表に記載したものについてはその配列番号)
また以上の解析の結果に基づいて、アトピー性皮膚炎の指標とすることができるマウス由来の遺伝子として次に示す遺伝子を同定した。これらの遺伝子は、いずれも本発明における指標遺伝子として用いることができる。以下に示す各遺伝子のデータは、いずれも、左から順に次の情報を記載している。各情報はスラッシュ(/)で区切って示している。各遺伝子の機能は、対応するヒト遺伝子の記載に基づいて明らかにすることができる。
「マウス遺伝子名およびシンボル」
「プローブ」(GeneChipにおけるプローブID)
「プローブの塩基配列のデザインのために用いられた塩基配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「各指標遺伝子の塩基配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「当該遺伝子の塩基配列を示す配列番号」
「各指標遺伝子によってコードされるアミノ酸配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「当該遺伝子によってコードされるアミノ酸配列を示す配列番号」
「Reference」(当該遺伝子を報告した論文)
「対応するヒト遺伝子のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「対応するヒト遺伝子の遺伝子名」
〔実施例3〕アトピー性皮膚炎患者皮膚組織における、アフィメトリックス社ジーンチップによるディファレンシャル発現解析2
アトピー性皮膚炎患者の皮膚組織で発現変動している新しい治療標的遺伝子あるいは診断に有用な遺伝子を見出すことを目的として、アトピー性皮膚炎患者の無疹部、急性病変部と健常人の正常皮膚で発現している遺伝子について、ジーンチップを用いたディファレンシャルな発現比較解析を行った。
アトピー性皮膚炎患者12例、健常人7例から同意を得て、患者からは無疹部と急性病変部を、健常人からは正常皮膚を、各部位からそれぞれ3個の皮膚検体(直径3mm)を採取した。急性病変部位は日本皮膚科学会の診断基準に基づき判定した。皮膚を採取したアトピー性皮膚炎患者の診療情報は上記表1に示した通りである。
ヒト皮膚からのジーンチップ解析用のRNA調製、ジーンチップ用のcDNA合成、DNAチップ解析は実施例1に従って行った。
アトピー性皮膚炎患者の無疹部と健常人の正常組織間で発現変動する遺伝子の解析2
12例の各患者の無疹部における遺伝子発現と健常人7例の正常組織における遺伝子発現の比較にDNAチップ解析ソフトであるGeneSpring4.2(Silicon Genetics社)を用いた。GeneSpring User Manualに従い、Affymetrix社解析ソフトSuite4.0によるAbsolute Analysisの結果をGeneSpringに取り込んだ。同一チップ上の全ての遺伝子について各遺伝子のAverage Difference値をそのmedian値で割り、チップ内補正値(補正値A)を得た。さらに各遺伝子について、使用した全てのチップにおける補正値Aをそのmedian値で割ることにより補正値Bを得た。補正値Bを用いてマン・ホイットニ検定(Mann−Whitney’s U test)を行い、患者無疹部と健常皮膚間で発現量に有意差のある遺伝子を選択した。
選択した遺伝子群について、更に、患者無疹部と健常皮膚における各遺伝子の発現量の平均値を比較して2倍以上差のある遺伝子を選択した。患者無疹部に比較して健常皮膚で発現の高い遺伝子については健常人7例のうち4例以上でP(present)となる遺伝子のみを選択し、患者無疹部で発現の高い遺伝子については患者12例のうち7例以上でPとなる遺伝子のみを選択した。結果を表21〜表24に示した。
以上の解析の結果に基づいて、アトピー性皮膚炎の指標とすることができる遺伝子として次に示す遺伝子を同定した。これらの遺伝子は、いずれも本発明における指標遺伝子として用いることができる。以下に示す各遺伝子のデータは、いずれも、左から順に次の情報を記載している。各情報はスラッシュ(/)で区切って示している。また指標遺伝子は、各遺伝子の機能にしたがって、分類した。分類された機能を=で示した。
「遺伝子名およびシンボル」
「プローブ」(GeneChipにおけるプローブID)
「プローブの塩基配列のデザインのために用いられた塩基配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「各指標遺伝子の塩基配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「各指標遺伝子によってコードされるアミノ酸配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「Reference」(当該遺伝子を報告した論文、および塩基配列を配列表に記載したものについてはその配列番号)
〔実施例4〕 アトピー性皮膚炎患者の皮膚組織と乾癬患者の皮膚組織間での遺伝子発現の比較
代表的な2つの炎症性皮膚疾患の炎症局所における遺伝子発現を比較することにより、アトピー性皮膚炎特異的な変動を示す遺伝子、乾癬特異的な変動を示す遺伝子、両疾患で共通変動する遺伝子を同定することができる。実施例1で選択された遺伝子群の中からアトピー性皮膚炎病態において特異的な発現変動を示す遺伝子を選択することを目的に、乾癬患者の皮膚組織における遺伝子発現解析を行い、アトピー性皮膚炎患者の皮膚組織における遺伝子発現解析結果と比較した。
乾癬患者6例から同意を得て、無疹部と病変部を各部位からそれぞれ3個の皮膚検体(直径3mm)を採取した。
ヒト皮膚からのジーンチップ解析用のRNA調製、ジーンチップ用のcDNA合成、DNAチップ解析は実施例1に従って行った。
アトピー性皮膚炎患者と乾癬患者の無疹部と皮疹部間で発現変動する遺伝子群の比較
6例の乾癬患者の無疹部における遺伝子発現と皮疹部における遺伝子発現をComparison analysisによって比較解析を行い、無疹部と比べて皮疹部で2倍以上発現が増加している遺伝子、1/2以下に発現が減少している遺伝子を選択した。患者ごとに選んできた遺伝子について、今度は6例の患者のうち4例以上で共通変動している遺伝子を選択した。これらの遺伝子群について、Comparison analysis後のAverage Difference値を用いてウィルコクソン符号付順位和検定(Wilcoxon signed−ranks test)を行い、p値を算出した。選択した遺伝子群と実施例1で行ったアトピー性皮膚炎患者の無疹部と皮疹部間の比較で発現変動が認められた遺伝子群を比較することにより、アトピー性皮膚炎と乾癬で共通変動する遺伝子、アトピー性皮膚炎でのみ発現変動を示す遺伝子、乾癬でのみ発現変動を示す遺伝子を同定した。
アトピー性皮膚炎と乾癬で共通変動した遺伝子群を表25〜表38に、アトピー性皮膚炎でのみ発現変動を示した遺伝子群を表39〜表52に、乾癬でのみ発現変動を示した遺伝子群を表53〜表66に示した。
健常人の正常組織とアトピー性皮膚炎患者および乾癬患者の無疹部間で発現変動する遺伝子群の比較
6例の乾癬患者の無疹部における遺伝子発現と健常人7例の正常組織における遺伝子発現の比較にDNAチップ解析ソフトであるGeneSpring4.2(Silicon Genetics社)を用いた。GeneSpring User Manualに従い、Affymetrix社解析ソフトSuite4.0によるAbsolute Analysisの結果をGeneSpringに取り込み、同一チップ上の全ての遺伝子について各遺伝子のAverage Difference値をそのmedian値で割り、チップ内補正値(補正値A)を得た。さらに各遺伝子について、使用した全てのチップにおける補正値Aをそのmedian値で割ることにより補正値Bを得た。補正値Bを用いてマン・ホイットニ検定(Mann−Whitney’s U test)を行い、患者無疹部と健常皮膚間で発現量に有意差のある遺伝子を選択した。選択した遺伝子群について、更に、患者無疹部と健常皮膚における各遺伝子の発現量の平均値を比較して2倍以上差のある遺伝子を選択した。
患者無疹部に比較して健常皮膚で発現の高い遺伝子については健常人7例のうち4例以上でP(present)となる遺伝子のみを選択し、患者無疹部で発現の高い遺伝子については患者6例のうち4例以上でPとなる遺伝子のみを選択した。選択した遺伝子群と実施例3で行った健常人正常組織とアトピー性皮膚炎患者無疹部間の比較で発現変動が認められた遺伝子群を比較することにより、アトピー性皮膚炎と乾癬で共通変動する遺伝子、アトピー性皮膚炎でのみ発現変動を示す遺伝子、乾癬でのみ発現変動を示す遺伝子を同定した。
アトピー性皮膚炎と乾癬で共通変動した遺伝子群を表67〜表69に、アトピー性皮膚炎でのみ発現変動を示した遺伝子群を表70〜表72に、乾癬でのみ発現変動を示した遺伝子群を表73〜表75に示した。各疾患特異的に発現変動するとして同定した遺伝子については、他方の疾患における発現プロファイルも表中に併記した。各疾患特異的変動遺伝子として同定した遺伝子の中には、他方の疾患においても統計的に有意な変動を示しているように見える遺伝子が認められるが、これらの遺伝子は全て我々の選択基準を満たさないものであった(2倍以下の変動倍率で有意差が認められたか、あるいはGeneChipの検出限界以下の定量値を用いた統計解析で有意差が認められた遺伝子)。
以上の解析の結果に基づいて、乾癬の指標とすることができる遺伝子として次に示す遺伝子を同定した。これらの遺伝子は、いずれも本発明における指標遺伝子として用いることができる。以下に示す各遺伝子のデータは、いずれも、左から順に次の情報を記載している。各情報はスラッシュ(/)で区切って示している。また指標遺伝子は、各遺伝子の機能にしたがって、分類した。分類された機能を=で示した。
「遺伝子名およびシンボル」
「プローブ」(GeneChipにおけるプローブID)
「プローブの塩基配列のデザインのために用いられた塩基配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「各指標遺伝子の塩基配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「各指標遺伝子によってコードされるアミノ酸配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「Reference」(当該遺伝子を報告した論文、および塩基配列を配列表に記載したものについてはその配列番号)
〔実施例5〕 ヒトのアトピー性皮膚炎とマウス皮膚炎モデルの比較
ヒトのアトピー性皮膚炎の皮膚検体を用いた遺伝子発現解析によって見出された病態関連遺伝子の重要性を評価する目的で、マウス皮膚炎モデルの遺伝子発現解析を行い、ヒトのアトピー性皮膚炎との比較を行った。
DNFB反復塗布接触性皮膚炎モデルマウスは、永井らの方法(J Allergy Clin Immunol 1997 Dec;100(6 Pt 2):S39−44)に従って作製した。
BALB/cマウス(♂・7〜10週齢)の耳介部に週1回の割合で合計5回、vehicle(アセトンとオリーブオイルを3:1の割合で混合した溶媒)に溶解した0.15%のDinitrofluorobenzene(DNFB)溶液25μlを塗布した。
2回目のDNFB塗布24時間後から耳介の浮腫が観察され、3、4、5回と塗布回数を重ねるに従って塗布24時間後の浮腫率も増加した。一方、vehicle塗布群では耳浮腫は観察されなかった。また、血中の特異的IgEおよびtotal IgE濃度は、DNFB塗布群で5回目のDNFB塗布4時間後の測定でDNFB塗布前(試験開始時)に比べて著しい上昇が認められたのに対し、vehicle塗布群では上昇が認められなかった。更に、病理組織学的解析の結果、5回目のDNFB塗布24時間後の耳介皮膚組織には炎症性細胞浸潤(好中球、好酸球など)、表皮の肥厚が認められ、皮膚炎病態の形成が観察できた。
DNFB塗布、Vehicle塗布群からそれぞれ2匹の個体を選択し、1、3、5回目の塗布前と塗布4時間後の耳介皮膚を採取した。マウス皮膚からのジーンチップ解析用のRNA調製、ジーンチップ用のcDNA合成、DNAチップ解析は実施例2に従って行った。
DNFB反復塗布耳介皮膚(接触性皮膚炎病変部)で発現変動する遺伝子とヒトアトピー性皮膚炎皮膚組織で発現変動する遺伝子の比較
DNFB塗布耳介皮膚における遺伝子発現とVehicle塗布耳介皮膚における遺伝子発現をComparison analysisによって比較解析し、DNFB塗布1、3、5回目のそれぞれで塗布前と塗布4時間後の比較で2倍以上発現が増加している遺伝子および1/2以下に発現が減少している遺伝子を急性病変部で変動する遺伝子として選択した。また、3回目および5回目のDNFB塗布前と1回目の塗布前の比較で2倍以上発現が増加している遺伝子および1/2以下に発現が減少している遺伝子を慢性病変部で変動する遺伝子として選択した。
これら遺伝子群とヒトのアトピー性皮膚炎の無疹部と急性病変部間で発現変動した遺伝子群を比較した結果を表76〜表82に示した。共通変動を示した遺伝子については、このマウス皮膚炎モデルにおいてノックアウトマウスあるいはトランスジェニックマウスを作製することにより、皮膚炎病態における重要性を評価することができる。また、液性因子や膜蛋白質については皮膚炎モデルマウスに中和抗体を投与、あるいは液性因子そのものや可溶性膜蛋白質を投与することにより、その遺伝子の重要性を評価できる。
また以上の解析の結果に基づいて、皮膚炎に関連するマウス由来の遺伝子として次に示す遺伝子を同定した。これらの遺伝子は、いずれも本発明における指標遺伝子として用いることができる。以下に示す各遺伝子のデータは、いずれも、左から順に次の情報を記載している。各情報はスラッシュ(/)で区切って示している。各遺伝子の機能は、対応するヒト遺伝子の記載に基づいて明らかにすることができる。
「マウス遺伝子名およびシンボル」
「プローブ」(GeneChipにおけるプローブID)
「プローブの塩基配列のデザインのために用いられた塩基配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「各指標遺伝子の塩基配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「当該遺伝子の塩基配列を示す配列番号」
「各指標遺伝子によってコードされるアミノ酸配列のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「当該遺伝子によってコードされるアミノ酸配列を示す配列番号」
「Reference」(当該遺伝子を報告した論文)
「対応するヒト遺伝子のデータベース(GenBank)アクセッションナンバー」
「対応するヒト遺伝子の遺伝子名」
〔実施例6〕 正常ヒト表皮角化細胞においてIL−4、IL−13あるいはIFN−γ刺激により発現変動する遺伝子群とアトピー性皮膚炎患者の皮膚組織において発現変動する遺伝子群の比較
IL−4、IL−13およびIFN−γはアトピー性皮膚炎の病態形成に重要なサイトカインであり、IL−4およびIL−13はアトピー性皮膚炎患者の急性病変部において無疹部に比べて発現が増加していること、またIFN−γはアトピー性皮膚炎患者無疹部において健常人の正常組織に比べて発現が低下していることが報告されている。我々は入手した患者および健常人の皮膚組織におけるIL−4、IL−13およびIFN−γの発現を定量的PCRにて検討した。
(1) 定量的PCR用のcDNA合成
皮膚検体から抽出したtotal RNAをDNase(ニッポンジーン)処理し、oligo(dT)1 2−18(GIBCO BRL)をプライマーとして逆転写したcDNAを鋳型とした。同時に、コピー数を算出する標準曲線のために両プライマーで増幅される塩基配列領域を含むプラスミドクローンを各々の遺伝子について準備し、その段階希釈を鋳型として反応を行った。定量的PCRの反応液組成は表83に示した。
IL−4、IL−13およびIFN−γ遺伝子の皮膚組織における発現量を定量的に評価するために、ABI7700(Applied Biosystems)を用いて定量的PCRを行った。ABI7700による測定に用いたプライマーおよびTaqManプローブは、各遺伝子の配列情報に基づいてPrimer Express(PEバイオシステムズ)により設計した。使用した全てのTaqManプローブの5’末端はFAM(6−carboxy−fluorescein)で、また3’末端はTAMRA(6−carboxy−N,N,N’,N’−tetramethylrhodamine)で標識した。
また、試料中のcDNA濃度の差を補正するため、補正用内部標準としてβ−アクチン(β−actin)遺伝子、およびグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)遺伝子について同様の定量解析を行い、それら遺伝子のコピー数を基に補正して、目的遺伝子のコピー数を算出した。各遺伝子のフォワードプライマー(F)、リバースプライマー(R)、およびTaqManプローブ(TP)に用いたオリゴヌクレオチドの塩基配列は、以下に示すとおりである。各指標遺伝子の塩基配列に対応するGenbankのアクセッション番号を、遺伝子名に続けて表示した。
GAPDHにより補正した各遺伝子の発現量(copy/5ng total RNA)を図1〜3に示す。図1〜3に示すように、我々が網羅的遺伝子発現解析に使用した検体においても複数の症例で、IL−4およびIL−13は患者無疹部に比べて皮疹部で高発現しており、IFN−γは患者無疹部に比べて健常人正常組織で、また患者無疹部に比べて皮疹部において高発現していることが確認された。
続いて、ヒト表皮角化細胞(ケラチノサイト)をIL−4、IL−13あるいはIFN−γで刺激を行い、それぞれの刺激によりケラチノサイトで発現が変動する遺伝子を選択し、更にヒト皮膚組織を用いた網羅的発現解析結果との比較を行い、共通変動遺伝子の選択を行った。
(3) ヒト表皮角化細胞(ケラチノサイト)のIL−4、IL−13あるいはIFN−γ刺激実験
市販の正常ヒト表皮角化細胞(Neonatal Normal Human Epidermal Keratinocytes,pooled:NHEK−Neo Pooled(Bio WHITTAKER社))を、細胞密度が3500細胞/cm2になるようにフラスコ(底面積75cm2)に播種し、15mL/フラスコのKGM SingleQuots培地(Bio WHITTAKER社)で培養を開始した。播種した翌日に培地交換を行い、それ以後1日おきに培地交換をしながら培養を継続した。細胞密度が50%コンフレント以上になった時点(播種後6日目)で細胞をトリプシン処理により回収し、6ウェルプレートに細胞密度1〜2×105細胞/ウェル、培地量2mL/ウェルとなるように継代した。
6ウェルプレートに継代した翌日または翌々日に、培地交換を行うとともに培養系にそれぞれのサイトカインを加え(IFN(SIGMA社 cat.#I−1520);200U/mL、IL−4(PeproTechEC社 cat.#200−04);10ng/mL、IL−13(PeproTechEC社 cat.#200−13);50ng/mL)、刺激培養を開始し、以降経時的(刺激後6時間、12時間、24時間、48時間)にサンプリングを行った。回収した細胞はRNA抽出用試薬ISOGEN(ニッポンジーン社)1mL/ウェルに溶解し、−80℃にて保存した。
(4) 遺伝子発現解析用total RNAの調製
サイトカイン刺激後の細胞をIsogen試薬に溶解し、以降はそのマニュアルに従ってtotal RNAの調製を行った。細胞溶解液にクロロホルムを加え、攪拌遠心して水層を回収した。次にイソプロパノールを加え、攪拌遠心して沈殿を回収した。沈殿は75%エタノールでリンス、遠心を行い、沈殿をtotal RNAとして回収した。
(5) ジーンチップ解析用のcDNA、cRNAの合成
Total RNA 2−5μgから、T7−(dT)24(Amersham Pharmacia Biotech)をプライマーとして、Affymetrix社のExpression Analysis Technical Manualに従い、Superscript II Reverse Transcriptase(Life Technologies社)を用いて逆転写し、1本鎖cDNAを作製した。
T7−(dT)24プライマーは、以下のようにT7プロモーターの塩基配列に(dT)24を付加した塩基配列からなる。
次に、DNA Ligase,DNA polymeraseIおよびRNaseHを加え、2本鎖cDNAを合成した。cDNAをフェノール・クロロホルム抽出後、Phase Lock Gelsに供し、エタノール沈殿により精製した。
さらに、BioArray High Yield RNA Transcription Labeling Kitを用い、ビオチンラベルしたcRNAを合成した。合成したcRNAはRNeasy Spin column(QIAGEN)を用いて精製を行い、アルカリ処理により断片化を行った。
(6)GeneChipを用いた遺伝子発現解析
Expression Analysis Technical Manual(Affymetrix)に従い、断片化したcRNA(10μg)を用いてハイブリダイゼーションカクテルを作製し、これをチップに入れて45℃で16時間ハイブリダイゼーションさせた。チップにはGeneChip(R)Human Genome U95Av2(Affymetrix社)を用いた。ハイブリダイズした後にチップを洗浄し、Streptavidin−Phycoerythrinを加えて染色した。洗浄後、normalヤギIgGとビオチン化ヤギ抗ストレプトアビジンIgG抗体の混合液をアレイに加えて反応させた。更に、蛍光強度を増強する目的で、再度Streptavidin−Phycoerythrinを加え染色した。洗浄後、チップをスキャナーにセットして蛍光強度を読み取った。
読み取った蛍光強度は、DNAチップ解析ソフトであるSuite4.0を用いてデータの解析を行った。データの解析はGeneChip Analysis Suite User Guideに従って行った。
まず全てのチップについてAbsolute analysisを行い、用いたサンプル各々の遺伝子発現量を測定した。また、全てのtranscriptに対して、それぞれのプローブセットのパーフェクトマッチとミスマッチの蛍光強度を比較し、Absolute CallであるP(present),A(absent)およびM(marginal)の3区分の判定を行った。
サンプル間(チップ間)の遺伝子発現を比較する場合にはComparison analysisを行った。チップ間の補正は、各チップの全プローブセットの蛍光強度平均値が一定になるように補正を行った。
IL−4、IL−13あるいはIFN−γ刺激によりケラチノサイトにおいて変動する遺伝子群とアトピー性皮膚炎患者の皮膚組織で変動する遺伝子群との比較
それぞれの刺激を加えて48時間後のケラチノサイトにおける遺伝子発現と刺激を加えずに48時間培養したケラチノサイトの遺伝子発現をComparison analysisにより比較解析を行い、各刺激により発現変動する遺伝子のリストを作成した。そのリストをアトピー性皮膚炎患者の無疹部と皮疹部間で変動する遺伝子群と比較を行った結果を表84〜表94に、健常人の正常組織とアトピー性皮膚炎患者の無疹部間で変動する遺伝子群と比較した結果を表95〜表102に示した。
IL−4、IL−13およびIFN−γは実際にアトピー性皮膚炎患者の皮膚組織において発現変動が認められていることから、これらのサイトカインが表皮ケラチノサイトに作用して患者皮膚組織における遺伝子発現プロファイルに影響を及ぼしている可能性は充分考えられる。実際、患者皮膚組織におけるこれらサイトカインのプロファイルと矛盾すること無く、サイトカイン刺激ケラチノサイトと患者皮膚組織で共通変動する遺伝子が数多く見出された。このような解析は患者皮膚組織で変動している他のサイトカインを用いて同様に行うことができ、AD病態関連遺伝子の発現を誘導あるいは抑制可能な因子を推測することができる。
本発明は、以下のa)−d)、c’)およびd’)、並びにA)−D)の各群に示すアトピー性皮膚炎の指標遺伝子を提供する。
a)皮疹部における発現レベルがアトピー性皮膚炎患者の無疹部に比べて高い指標遺伝子群:
b)皮疹部における発現レベルがアトピー性皮膚炎患者の無疹部に比べて低い指標遺伝子群:
c)およびc’)アトピー性皮膚炎患者の無疹部における発現レベルが健常者の発現レベルに比べて高い指標遺伝子群:
d)およびd’)アトピー性皮膚炎患者の無疹部における発現レベルが健常者の発現レベルに比べて低い指標遺伝子群:
A)以下の遺伝子からなる、ダニアレルゲン感作マウスの耳介皮膚における発現レベルがダニアレルゲン非感作マウスの耳介皮膚に比べて高い指標遺伝子群:
B)以下の遺伝子からなる、ダニアレルゲン感作マウスの耳介皮膚における発現レベルがダニアレルゲン非感作マウスの耳介皮膚に比べて低い指標遺伝子群:
C)DNFB反復塗布接触性皮膚炎モデルマウスの耳介皮膚における発現レベルがDNFB反復塗布前のマウスの耳介皮膚に比べて高い指標遺伝子群:
D)DNFB反復塗布接触性皮膚炎モデルマウスの耳介皮膚における発現レベルがDNFB反復塗布前のマウスの耳介皮膚に比べて低い指標遺伝子群:
各遺伝子の発現レベルを指標とすることにより、アトピー性皮膚炎の検査方法、アレルギー性疾患モデル動物の作成、および該疾患の治療のための化合物をスクリーニングすることが可能となった。
加えて本発明は、以下のi)〜iv)の各群に示す乾癬の指標遺伝子を提供する。
i)乾癬の患者において皮疹部における発現レベルが無疹部に比べて高い指標遺伝子群:
ii)乾癬の患者において皮疹部における発現レベルが無疹部に比べて低い指標遺伝子群:
iii)乾癬患者の無疹部における発現レベルが健常者の発現レベルに比べて高い指標遺伝子群:
iv)乾癬患者の無疹部における発現レベルが健常者の発現レベルに比べて低い指標遺伝子群:
本発明の各指標遺伝子は、その発現の変化が病態と結びついている。したがって指標遺伝子の発現や、指標遺伝子によってコードされる蛋白質の活性を調節することによってアトピー性皮膚炎または乾癬の治療が可能となる。例えば患部や患者の皮膚において発現が上昇する遺伝子の場合には、発現やその活性を阻害することが、アトピー性皮膚炎または乾癬の治療戦略のターゲットとなる。逆に発現が低下する遺伝子の場合には、発現や活性を促進することが、アトピー性皮膚炎または乾癬の治療戦略のターゲットとなる。また、これらの指標遺伝子は、アトピー性皮膚炎または乾癬の治療におけるモニタリングのための新しい臨床診断指標としての有用性が期待できる。
本発明によって提供された各指標遺伝子は、アレルゲンの種類に関わらず、簡便にその発現レベルを知ることができる。従って、アレルギー反応の病態を総合的に把握することができる。
また本発明によるアトピー性皮膚炎の検査方法は、生体試料を試料としてその発現レベルを解析することができるので、患者に対する侵襲性が低い。しかも遺伝子発現解析に関しては、微量サンプルによる高感度な測定が可能である。遺伝子解析技術は、年々ハイスループット化、低価格化が進行している。従って本発明によるアトピー性皮膚炎の検査方法は、近い将来、医療現場における重要な診断方法となることが期待される。この意味で本発明の指標遺伝子の診断的価値は高い。
a)皮疹部における発現レベルがアトピー性皮膚炎患者の無疹部に比べて高い指標遺伝子群:
b)皮疹部における発現レベルがアトピー性皮膚炎患者の無疹部に比べて低い指標遺伝子群:
c)およびc’)アトピー性皮膚炎患者の無疹部における発現レベルが健常者の発現レベルに比べて高い指標遺伝子群:
d)およびd’)アトピー性皮膚炎患者の無疹部における発現レベルが健常者の発現レベルに比べて低い指標遺伝子群:
A)以下の遺伝子からなる、ダニアレルゲン感作マウスの耳介皮膚における発現レベルがダニアレルゲン非感作マウスの耳介皮膚に比べて高い指標遺伝子群:
B)以下の遺伝子からなる、ダニアレルゲン感作マウスの耳介皮膚における発現レベルがダニアレルゲン非感作マウスの耳介皮膚に比べて低い指標遺伝子群:
C)DNFB反復塗布接触性皮膚炎モデルマウスの耳介皮膚における発現レベルがDNFB反復塗布前のマウスの耳介皮膚に比べて高い指標遺伝子群:
D)DNFB反復塗布接触性皮膚炎モデルマウスの耳介皮膚における発現レベルがDNFB反復塗布前のマウスの耳介皮膚に比べて低い指標遺伝子群:
各遺伝子の発現レベルを指標とすることにより、アトピー性皮膚炎の検査方法、アレルギー性疾患モデル動物の作成、および該疾患の治療のための化合物をスクリーニングすることが可能となった。
加えて本発明は、以下のi)〜iv)の各群に示す乾癬の指標遺伝子を提供する。
i)乾癬の患者において皮疹部における発現レベルが無疹部に比べて高い指標遺伝子群:
ii)乾癬の患者において皮疹部における発現レベルが無疹部に比べて低い指標遺伝子群:
iii)乾癬患者の無疹部における発現レベルが健常者の発現レベルに比べて高い指標遺伝子群:
iv)乾癬患者の無疹部における発現レベルが健常者の発現レベルに比べて低い指標遺伝子群:
本発明の各指標遺伝子は、その発現の変化が病態と結びついている。したがって指標遺伝子の発現や、指標遺伝子によってコードされる蛋白質の活性を調節することによってアトピー性皮膚炎または乾癬の治療が可能となる。例えば患部や患者の皮膚において発現が上昇する遺伝子の場合には、発現やその活性を阻害することが、アトピー性皮膚炎または乾癬の治療戦略のターゲットとなる。逆に発現が低下する遺伝子の場合には、発現や活性を促進することが、アトピー性皮膚炎または乾癬の治療戦略のターゲットとなる。また、これらの指標遺伝子は、アトピー性皮膚炎または乾癬の治療におけるモニタリングのための新しい臨床診断指標としての有用性が期待できる。
本発明によって提供された各指標遺伝子は、アレルゲンの種類に関わらず、簡便にその発現レベルを知ることができる。従って、アレルギー反応の病態を総合的に把握することができる。
また本発明によるアトピー性皮膚炎の検査方法は、生体試料を試料としてその発現レベルを解析することができるので、患者に対する侵襲性が低い。しかも遺伝子発現解析に関しては、微量サンプルによる高感度な測定が可能である。遺伝子解析技術は、年々ハイスループット化、低価格化が進行している。従って本発明によるアトピー性皮膚炎の検査方法は、近い将来、医療現場における重要な診断方法となることが期待される。この意味で本発明の指標遺伝子の診断的価値は高い。
Claims (59)
- 次の工程(1)〜(3)を含む、アトピー性皮膚炎の検査方法であって、指標遺伝子が次のa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である方法。
(1)被検者の皮疹部および/または無疹部から採取された生体試料における指標遺伝子の発現レベルを測定する工程
(2)工程(1)で測定された発現レベルを、指標遺伝子がa)またはb)に記載された遺伝子である場合には、対照として向じ被検者の無疹部から採取された生体試料における指標遺伝子の発現レベルと、また指標遺伝子がc)、c’)、d)、およびd’)のいずれかに記載された遺伝子である場合には、対照として健常者の生体試料における指標遺伝子の発現レベルと比較する工程、および
(3)工程(2)の比較の結果、指標遺伝子がa)、c)およびc’)に記載された遺伝子の場合には対照と比較して発現レベルが高い場合に、また指標遺伝子がb)、d)およびd’)に記載された遺伝子の場合には対照と比較して発現レベルが低い場合に、前記被検者はアトピー性皮膚炎を有すると判定する工程
- 遺伝子の発現レベルを、cDNAのPCRによって測定する請求項1に記載の検査方法。
- 遺伝子の発現レベルを、指標遺伝子によってコードされる蛋白質の検出によって測定する請求項1に記載の検査方法。
- 指標遺伝子の塩基配列を含むポリヌクレオチド、またはその相補鎖に相補的な塩基配列を有する少なくとも15塩基の長さを有するオリゴヌクレオチドからなる、アトピー性皮膚炎検査用試薬であって、指標遺伝子が請求項1におけるa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるアトピー性皮膚炎検査用試薬。
- 指標遺伝子によってコードされる蛋白質を認識する抗体からなる、アトピー性皮膚炎検査用試薬であって、指標遺伝子が請求項1におけるa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるアトピー性皮膚炎検査用試薬。
- 次の工程を含む、アトピー性皮膚炎の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が請求項1におけるa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるスクリーニング方法。
(1)指標遺伝子を発現する細胞に候補化合物を接触させる工程、
(2)前記遺伝子の発現レベルを測定する工程、
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、およびc’)群のいずれかの指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またb)群、d)群、およびd’)群のいずれかの指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程 - 細胞が株化皮膚細胞である請求項14に記載の方法。
- 指標遺伝子の塩基配列を含むポリヌクレオチド、またはその相補鎖に相補的な塩基配列を有する少なくとも15塩基の長さを有するオリゴヌクレオチドと、指標遺伝子を発現する細胞を含む、アトピー性皮膚炎の治療薬候補化合物をスクリーニングするためのキットであって、指標遺伝子が請求項1におけるa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるキット。
- 指標遺伝子によってコードされる蛋白質を認識する抗体と、指標遺伝子を発現する細胞を含む、アトピー性皮膚炎の治療薬候補化合物をスクリーニングするためのキットであって、指標遺伝子が請求項1におけるa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるキット。
- 非ヒト脊椎動物がマウスである請求項18に記載のモデル動物。
- 非ヒト脊椎動物がマウスである請求項20に記載のモデル動物。
- 次のi)−iv)のいずれかに記載の成分をマウスに投与する工程を含む、アレルギー性皮膚炎モデル動物の製造方法。
i)請求項18におけるA)およびC)に記載の遺伝子群から選択されたいずれかの遺伝子を構成する塩基配列を含むポリヌクレオチド、
ii)請求項18におけるA)およびC)に記載の遺伝子群から選択されたいずれかの遺伝子を構成する塩基配列を含むポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質
iii)請求項20におけるB)およびD)に記載の遺伝子群から選択されたいずれかの遺伝子を構成する塩基配列を含むポリヌクレオチドのアンチセンスまたはRNAi
iv)請求項20におけるB)およびD)に記載の遺伝子群から選択されたいずれかの遺伝子を構成する塩基配列を含むポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質に結合する抗体、またはその抗原結合領域を含む断片 - 請求項22におけるi)−iv)のいずれかに記載の成分を有効成分として含む、マウスにアレルギー性皮膚炎を誘導するための誘導剤。
- 次の工程を含む、アトピー性皮膚炎の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が請求項1におけるa)〜d)、請求項1におけるc’)およびd’)、請求項18におけるA)およびC)、および請求項20におけるB)およびD)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子、または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子であるスクリーニング方法。
(1)被験動物に候補化合物を投与する工程、
(2)前記被験動物の生体試料における指標遺伝子の発現強度を測定する工程、
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、c’)群、A)群、並びにC)群の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またb)群、d)群、d’)群、B)群、並びにD)群の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程、 - 次の工程を含む、アトピー性皮膚炎の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が請求項1におけるa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子、または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子であるスクリーニング方法。
(1)指標遺伝子の転写調節領域と、この転写調節領域の制御下に発現するレポーター遺伝子とを含むベクターを導入した細胞と候補化合物を接触させる工程、
(2)前記レポーター遺伝子の活性を測定する工程、および
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、およびc’)群のいずれかの指標遺伝子については前記レポーター遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またb)群、d)群、およびd’)群のいずれかの指標遺伝子については前記レポーター遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程、 - 次の工程を含む、アトピー性皮膚炎の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が請求項1におけるa)〜d)、並びにc’)およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子、または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子であるスクリーニング方法。
(1)指標遺伝子によってコードされる蛋白質と候補化合物を接触させる工程、
(2)前記蛋白質の活性を測定する工程、および
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、a)群、c)群、およびc’)群のいずれかの指標遺伝子については前記活性を低下させる化合物を、またb)群、d)群、およびd’)群のいずれかの指標遺伝子については前記活性を上昇させる化合物を選択する工程 - 請求項14、請求項24、請求項25、および請求項26のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を有効成分として含有する、アトピー性皮膚炎の治療薬。
- 指標遺伝子、またはその一部のアンチセンスDNAを有効成分として含むアトピー性皮膚炎の治療薬であって、指標遺伝子が請求項1におけるa)、c)、およびc’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である治療薬。
- 指標遺伝子によってコードされる蛋白質を認識する抗体を有効成分として含む、アトピー性皮膚炎の治療薬であって、指標遺伝子が請求項1におけるa)、c)、およびc’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である治療薬。
- 指標遺伝子、または指標遺伝子によってコードされる蛋白質を有効成分として含む、アトピー性皮膚炎の治療薬であって、指標遺伝子が請求項1におけるb)、d)、およびd’)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である治療薬。
- 指標遺伝子を測定するためのプローブを固定したアトピー性皮膚炎の診断用DNAチップであって、指標遺伝子が請求項1に記載されたa)群〜d)群、並びにc’)およびd’)のいずれかから選択された少なくとも1種類の遺伝子であるDNAチップ。
- 次の工程(1)〜(3)を含む、乾癬の検査方法であって、指標遺伝子が次のi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である方法。
(1)被検者の皮疹部および/または無疹部から採取された生体試料における指標遺伝子の発現レベルを測定する工程
(2)工程(1)で測定された発現レベルを、指標遺伝子がi)またはii)に記載された遺伝子である場合には、対照として同じ被検者の無疹部から採取された生体試料における指標遺伝子の発現レベルと、また指標遺伝子がiii)またはiv)に記載された遺伝子である場合には、対照として健常者の生体試料における指標遺伝子の発現レベルと比較する工程、および
(3)(2)の比較の結果、指標遺伝子がi)またはiii)に記載された遺伝子の場合には対照と比較して発現レベルが高い場合に、また指標遺伝子がii)またはiv)に記載された遺伝子の場合には対照と比較して発現レベルが低い場合に、前記被検者は乾癬を有すると判定する工程
- 伝子の発現レベルを、cDNAのPCRによって測定する請求項32に記載の検査方法。
- 遺伝子の発現レベルを、指標遺伝子によってコードされる蛋白質の検出によって測定する請求項32に記載の検査方法。
- 指標遺伝子の塩基配列を含むポリヌクレオチド、またはその相補鎖に相補的な塩基配列を有する少なくとも15塩基の長さを有するオリゴヌクレオチドからなる、乾癬検査用試薬であって、指標遺伝子が請求項32におけるi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である乾癬検査用試薬。
- 指標遺伝子によってコードされる蛋白質を認識する抗体からなる、乾癬検査用試薬であって、指標遺伝子が請求項32におけるi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である乾癬検査用試薬。
- 次の工程を含む、乾癬の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が請求項32におけるi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるスクリーニング方法。
(1)指標遺伝子を発現する細胞に候補化合物を接触させる工程、
(2)前記遺伝子の発現レベルを測定する工程、および
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、i)群またはiii)群の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またii)群またはiv)群の指標遺伝子については前記遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程 - 細胞が株化皮膚細胞である請求項45に記載の方法。
- 指標遺伝子の塩基配列を含むポリヌクレオチド、またはその相補鎖に相補的な塩基配列を有する少なくとも15塩基の長さを有するオリゴヌクレオチドと、指標遺伝子を発現する細胞を含む、乾癬の治療薬候補化合物をスクリーニングするためのキットであって、指標遺伝子が請求項32におけるi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるキット。
- 指標遺伝子によってコードされる蛋白質を認識する抗体と、指標遺伝子を発現する細胞を含む、乾癬の治療薬候補化合物をスクリーニングするためのキットであって、指標遺伝子が請求項32におけるi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるキット。
- 指標遺伝子または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の皮膚における発現強度を上昇させたトランスジェニック非ヒト脊椎動物からなる乾癬モデル動物であって、指標遺伝子が請求項32におけるi)群およびiii)群に記載の群から選択されたいずれかの遺伝子であるモデル動物。
- 非ヒト脊椎動物がマウスである請求項49に記載のモデル動物。
- 指標遺伝子または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子の皮膚における発現強度を低下させたトランスジェニック非ヒト脊椎動物からなる乾癬モデル動物であって、指標遺伝子が請求項32におけるii)群およびiv)群から選択されたいずれかの遺伝子であるモデル動物。
- 非ヒト脊椎動物がマウスである請求項51に記載のモデル動物。
- 次の工程を含む、乾癬の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が請求項32におけるi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子、または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子であるスクリーニング方法。
(1)指標遺伝子の転写調節領域と、この転写調節領域の制御下に発現するレポーター遺伝子とを含むベクターを導入した細胞と候補化合物を接触させる工程、
(2)前記レポーター遺伝子の活性を測定する工程、および
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、i)群またはiii)群の指標遺伝子については前記レポーター遺伝子の発現レベルを低下させる化合物を、またii)群またはiv)群の指標遺伝子については前記レポーター遺伝子の発現レベルを上昇させる化合物を選択する工程、 - 次の工程を含む、乾癬の治療薬のスクリーニング方法であって、指標遺伝子が請求項32におけるi)〜iv)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子、または指標遺伝子と機能的に同等な遺伝子であるスクリーニング方法。
(1)指標遺伝子によってコードされる蛋白質と候補化合物を接触させる工程、
(2)前記蛋白質の活性を測定する工程、および
(3)候補化合物を接触させない対照と比較して、i)群またはiii)群の指標遺伝子については前記活性を低下させる化合物を、またii)群またはiv)群の指標遺伝子については前記活性を上昇させる化合物を選択する工程 - 請求項45、請求項53、および請求項54のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を有効成分として含有する、乾癬の治療薬。
- 指標遺伝子、またはその一部のアンチセンスDNAを有効成分として含む乾癬の治療薬であって、指標遺伝子が請求項32におけるi)またはiii)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である治療薬。
- 指標遺伝子によってコードされる蛋白質を認識する抗体を有効成分として含む、乾癬の治療薬であって、指標遺伝子が請求項32におけるi)またはiii)のいずれかに記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である治療薬。
- 指標遺伝子、または指標遺伝子によってコードされる蛋白質を有効成分として含む、乾癬の治療薬であって、指標遺伝子が請求項32におけるii)またはiv)に記載の群から選択されたいずれかの遺伝子である治療薬。
- 指標遺伝子を測定するためのプローブを固定した乾癬の診断用DNAチップであって、指標遺伝子が請求項32に記載されたi)〜iv)群のいずれかから選択された少なくとも1種類の遺伝子であるDNAチップ。
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