JPWO2003066089A1 - メグシンリガンド - Google Patents
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Abstract
Description
本発明は、腎細胞で発現する蛋白質のリガンドに関する。本発明のリガンドは、メサンギウム増殖性糸球体腎炎の治療、および/または予防に応用が可能である。
背景技術
体内の60兆個もの様々な細胞が、本質的に同一のゲノムDNAを有している。正常な生理学的機能のために、これらの遺伝子の発現は、細胞系統、および細胞が受容するシグナルにより厳密に制御されている。従って、個々の細胞型で特異的に発現している遺伝子を解明することは極めて重要である。
メサンギウム(mesangium)は、腎糸球体の毛細管係蹄の小葉中心部に位置し、各小葉を結びつける芯となる組織である。メサンギウムは糸球体基底膜に覆われており、毛細管腔とは内皮細胞によって隔てられている細胞(メサンギウム細胞:mesangial cell)と3層からなる糸球体基底膜の中の内透明層と連続している無形物質(メサンギウム基質:mesangial matrix)から構成されている。
メサンギウム細胞は、腎糸球体の構造および機能の維持に中心的な役割を果たしていることが知られており、また、糸球体腎炎や糸球体硬化症などの糸球体疾患の発症における主要な要因であると考えられている。そして、メサンギウム細胞は、各種腎炎においても中心的な病態生理学的意義を有する。例えば、メサンギウム細胞の増殖、細胞外の糸球体間質マトリックスの蓄積は、慢性腎炎および糖尿病性腎症のような種々の糸球体疾患の患者の糸球体硬化症の重要な病理所見である[D.Schlondorff,Kidney Int.,49,1583−1585(1996);R.B.Sterzel et al.,Glomerular mesangial cells.Immunologic Renal Diseases,pp595−626(1997)]。
ところで、本発明者は、大規模DNA配列決定およびデータベース解析により、メサンギウム細胞で特に強く発現する遺伝子を単離し、その全塩基配列を決定した。そして、メグシンの全長cDNAクローンがコードする380個のアミノ酸からなる新規蛋白質(メグシン)の配列を決定した(WO 99/15652)。さらに、Swiss Protデータベースを用いてFASTAプログラムによるアミノ酸ホモロジー検索を行ったところ、メグシンは、SERPIN(セリンプロテアーゼインヒビター)スーパーファミリー[R.Carrell et al.,Trends Biochem.Sci.,10,20(1985);R.Carrell et al.,Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.,52,527(1987);E.K.O.Kruithof et al.,Blood,86,4007(1995);J.Potempa et al.,J.Biol.Chem.,269,15957(1994);E.Remold−O’Donnell,FEBS Let.,315,105(1993)]に属する蛋白質であることを見出した[T.Miyata et al.,J.Clin.Invest.,102,828−836(1998)]。
様々な組織および細胞をノーザンブロットおよび逆転写ポリメラーゼ連鎖反応で分析したところ、メグシンは、ヒト繊維芽細胞、平滑筋細胞、内皮細胞、ケラチノサイトでは発現が弱く、メサンギウム細胞で特に強く発現していることが判った(即ち、メグシン遺伝子の発現はメサンギウム細胞に特異性を有する)。これらの知見は、さらにin situハイブリダイゼーション[T.Miyata,et al.,J.Clin.Invest.,102,828−836(1998);D.Suzuki,et al.,J.Am.Soc.Nephrol.,10,2606−2613(1999)]およびメグシン特異的抗体を用いた免疫組織化学法[R.Inagi,Biochem.Biophys.Res.Commun.,286,1098−1106(2001)]により確認された。また、IgA腎症患者や糖尿病性腎症患者と健常人とで腎臓組織中のメグシンの発現量を比較すると、IgA腎症患者や糖尿病性腎症患者においてメグシンの発現量が有意に多い[T.Miyata et al.,J.Clin.Invest.,102,828−836(1998)、D.Suzuki et al.,J.Am.Soc.Nephrol.,10,2606−2613(1999)]。また、ラットを用いた実験的メサンギウム細胞増殖性糸球体腎炎モデル(Thy−1腎炎モデル)において、同様なメグシン発現量の上昇が認められた[M.Nangaku et al.,Kidney Int.,60 641−652(2001)]。
メサンギウムの機能におけるメグシンの役割をさらに理解するために、我々はマウスゲノムでヒトメグシンのcDNAを過剰発現させた。2系統のメグシントランスジェニックマウスが得られ、それらは、進行性のメサンギウム基質の拡大、メサンギウム細胞の増殖、および免疫複合体沈着物の増加を示した(WO 01/24628)。これらの知見は、メグシンが、メサンギウムの機能に生物学的に重要な影響を及ぼすことを示す。興味深いことに、メグシンの単一遺伝子操作は、実験的およびヒト糸球体腎炎に存在する初期的なメサンギウム病変を発生させることができる。
発明の開示
このように、セリンプロテアーゼインヒビター(SERPIN)の構造的特徴を有し、腎疾患に深く関与している可能性があるメグシンのトランスジェニックマウスが進行性のメサンギウム基質の拡大、メサンギウム細胞の増殖、および免疫複合体沈着物の増加を示すことから、そのSERPIN活性により腎炎が惹起されている可能性がある。従って、メグシンに対するリガンド(プロテアーゼ)を見出し、特定することは、メサンギウム細胞の生物学的性質の解明、メサンギウム細胞に関連する疾患の原因の究明、ひいては、メサンギウム細胞に関連する疾病の治療、診断等に有効である。
また、メグシンとリガンドとの複合体を特異的に阻害する化合物をスクリーニングは、腎炎治療薬の開発にとって有用なツールとなり得る。
本発明の目的は、メサンギウム細胞に関連する疾病の治療、診断等に有効なメグシンリガンドを提供することである。また、本発明は、試験化合物の、メグシンとメグシンリガンドとの結合に干渉する活性を評価する方法の提供を課題とする。更に本発明は、メグシンとメグシンリガンドとの結合に干渉する活性を有する化合物のスクリーニング方法の提供を課題とする。
本発明者らは、種々のセリンプロテアーゼおよび組換えメグシンを用いて、メグシンと複合体を形成する酵素、並びにメグシンにより活性が阻害される酵素を精査した結果、線溶系酵素の1種であるプラスミンおよびトリプシンがこれらの作用を有することを見出し、本発明を完成した。メグシンがSERPINスーパーファミリーに特徴的な構造を有することは知られていたが、実際にセリンプロテアーゼの阻害作用を有することは確認されていなかった。また、多くのプロテアーゼの中で、どのプロテアーゼを阻害するのかについての知見も得られていなかった。すなわち本発明は、以下のメグシンリガンド、およびメグシンリガンドを用いたメサンギウム増殖性糸球体腎炎の治療および/または予防方法、ならびにスクリーニング方法に関する。
〔1〕プラスミンおよび/またはトリプシンを有効成分とするメグシンリガンド。
〔2〕有効成分として、セリンプロテアーゼ、またはセリンプロテアーゼと機能的に同等な蛋白質を含む、メサンギウム増殖性糸球体腎炎の治療、および/または予防のための医薬組成物。
〔3〕次の工程を含む、試験化合物のメグシンとメグシンリガンドとの結合に干渉する活性を評価する方法であって、メグシンリガンドが、セリンプロテアーゼ、またはその断片である方法。
1)メグシン、メグシンリガンド、および試験化合物を、メグシンとメグシンリガンドが複合体を生成する条件下において、次のa)−d)に記載のいずれかの順序で接触させる工程、
a)試験化合物とメグシンとを接触後に、更にメグシンリガンドと接触させる、
b)メグシンリガンドの存在下で、試験化合物とメグシンとを接触させる、
c)メグシンリガンドとメグシンとを接触後に、更に試験化合物と接触させる、または
d)メグシンリガンドと試験化合物を接触後に、更にメグシンと接触させる
2)試験化合物がメグシンとメグシンリガンドとの複合体の生成に与える影響を評価する工程
〔4〕セリンプロテアーゼが、プラスミンまたはトリプシンである〔3〕に記載の方法。
〔5〕〔3〕に記載の方法によって試験化合物のメグシンとメグシンリガンドの複合体生成に与える影響を評価し、試験化合物不存在下での複合体生成に比較して複合体の生成を阻害する化合物を選択する工程を含む、メグシンとメグシンリガンドとの複合体生成を阻害する活性を有する化合物のスクリーニング方法。
〔6〕〔5〕に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物をメグシンと接触させる工程を含む、メグシンの活性阻害方法。
〔7〕〔5〕に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を含むメグシンの活性阻害剤。
〔8〕〔5〕に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を有効成分として含む、メサンギウム増殖性糸球体腎炎の治療、および/または予防のための医薬組成物。
〔9〕メグシンまたはメグシンと機能的に同等な蛋白質を有効成分として含む、プラスミンおよび/またはトリプシンの活性阻害剤。
〔10〕メグシンまたはメグシンと機能的に同等な蛋白質を、プラスミンおよび/またはトリプシンに接触させる工程を含む、プラスミンおよび/またはトリプシンの活性阻害方法。
本明細書における「治療」は、「治療」が適用される疾患または状態のどちらかの進行を遅らせるかまたは逆行させるか、あるいはこのような疾患または状態のどちらかを緩和することを意味する。また、本明細書に於ける「予防」は、「治療」が適用される疾患または状態のどちらかに至らない状況を保持することを意味する。
本明細書におけるメサンギウム増殖性糸球体腎炎とは、腎メサンギウム細胞の増殖とメサンギウム基質の増加を伴う腎疾患を意味する。このような腎疾患には、たとえばIgA腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、SLE(systemic lupus erythematosus)腎症、糖尿病性腎症、あるいはクリオグロブリン腎症等が知られている。
本発明は、メグシンリガンドに関する。メグシンリガンドとは、メグシンに結合しその機能に干渉する物質を言う。本発明者は、メグシンが特定のプロテアーゼに結合してその酵素活性を阻害することを見出した。
本発明者が見出したメグシンリガンドとは、セリンプロテアーゼであるプラスミンおよびトリプシンである。したがってメグシンリガンドとは、メグシンのセリンプロテアーゼに対する阻害作用に干渉する活性を有する物質と定義することができる。メグシンリガンドは、メグシンの作用の調節に有用である。メグシンは先に述べたとおり、メサンギウム細胞の増殖などを病態とする腎機能障害の原因となることが明らかにされている。したがって、メグシンの作用に干渉する物質は、メグシンの過剰発現に起因する腎機能障害の治療に有用である。
セリンプロテアーゼとは、活性中心にセリンを有する蛋白質加水分解酵素を言う。活性中心を構成するアミノ酸配列は、一般にAsp−Ser−Glyである。メグシンがSERPINに特徴的な構造を有することは明らかにされていたが、実際にセリンプロテアーゼに結合してその酵素作用を阻害することは知られていない。本発明における望ましいセリンプロテアーゼとして、プラスミンおよびトリプシンを示すことができる。
また本発明におけるセリンプロテアーゼの断片とは、セリンプロテアーゼを構成するアミノ酸配列における、メグシンとの結合に必要な領域を構成するアミノ酸配列を含む断片を言う。本発明におけるセリンプロテアーゼの断片は、任意のセリンプロテアーゼのライブラリーを調製し、メグシンと結合することができる断片を集めて、そのアミノ酸配列を解析することにより、明らかにすることができる。
セリンプロテアーゼの断片は、たとえばプロテアーゼで消化することにより得ることができる。あるいは、セリンプロテアーゼをコードするcDNAを単離し、その断片を発現させることによって、セリンプロテアーゼの断片を得ることもできる。遺伝子断片は、たとえば、目的とする領域をPCRで増幅することにより、調製される。
本発明のメグシンリガンドであるプラスミンは、L−アルギニンやL−リシンのペプチドとエステルを加水分解し、特にフィブリンを可溶化する線溶酵素として知られている。しかしプラスミンがメグシンに対するリガンド活性を有することは知られていなかった。また、トリプシンは、L−アルギニルやL−リシルのカルボキシル基の結合したペプチド、アミド、エステルなどを加水分解するセリンプロテアーゼである。トリプシンも、メグシンに対するリガンド活性を有することは知られていなかった。
また本発明は、有効成分として、セリンプロテアーゼ、またはセリンプロテアーゼと機能的に同等な蛋白質を含む、メサンギウム増殖性糸球体腎炎の治療、および/または予防のための医薬組成物に関する。また本発明は、セリンプロテアーゼ、またはセリンプロテアーゼと機能的に同等な蛋白質を投与する工程を含む、メサンギウム増殖性糸球体腎炎の治療、および/または予防のための方法に関する。あるいは本発明は、セリンプロテアーゼ、またはセリンプロテアーゼと機能的に同等な蛋白質の、メサンギウム増殖性糸球体腎炎の治療、および/または予防のための医薬組成物の製造における使用に関する。本発明の医薬組成物に用いるセリンプロテアーゼは、たとえばプラスミン、あるいはトリプシンを示すことができる。
本発明において、セリンプロテアーゼと機能的に同等な蛋白質とは、メグシンに結合してメグシンのセリンプロテアーゼに対する阻害作用を調節する活性を有する蛋白質を言う。このような蛋白質としては、たとえばセリンプロテアーゼの、メグシンとの結合ドメインを含む断片を示すことができる。セリンプロテアーゼの断片は、蛋白質の切断によって得ることができる。酵素的な、あるいは化学的な反応によって、特定のアミノ酸配列を切断するための方法が公知である。
更に、セリンプロテアーゼをコードする塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるアミノ酸配列からなり、かつメグシンのセリンプロテアーゼに対する阻害作用を調節する活性を有す蛋白質は、本発明における機能的に同等な蛋白質に含まれる。ストリンジェントな条件下で特定配列にハイブリダイズすることができる配列は、特定配列がコードする蛋白質と類似した活性を持つものが多いと考えられる。ストリンジェントな条件とは、一般的には以下のような条件を示すことができる。すなわち、4×SSC、65℃でハイブリダイゼーションさせ、0.1×SSCを用いて65℃で1時間洗浄する。ストリンジェンシーを大きく左右するハイブリダイゼーションや洗浄の温度条件は、融解温度(Tm)に応じて調整することができる。Tmはハイブリダイズする塩基対に占める構成塩基の割合、ハイブリダイゼーション溶液組成(塩濃度、ホルムアミドやドデシル硫酸ナトリウム濃度)によって変動する。したがって、当業者であればこれらの条件を考慮して同等のストリンジェンシーを与える条件を経験的に設定することができる。
あるいは本発明における機能的に同等な蛋白質には、セリンプロテアーゼを構成するアミノ酸配列に対して、FASTAやBLASTによるホモロジー検索によって好ましくは85%以上、より好ましくは95%以上のホモロジーを持つアミノ酸配列からなる蛋白質が含まれる。
本発明において、機能的に同等な蛋白質には、該蛋白質を構成するアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、メグシンに結合してメグシンのセリンプロテアーゼに対する阻害作用を調節する活性を有する蛋白質が含まれる。
プラスミンの前駆体であるプラスミノゲンのアミノ酸配列とそれをコードするcDNAの塩基配列は公知である(J.Biol.Chem.1990 Apr.15;265/11:6104−11;GenBank Accession No.NM_000301)。またトリプシンについても、同じくその前駆体であるトリプシノゲンのアミノ酸配列とそれをコードする塩基配列が明らかにされている(Gene 1986;41/2−3:305−10;GenBank Accession No.M22612)。
蛋白質におけるアミノ酸の変異数や変異部位は、その機能が保持される限り制限されない。変異数は、一般に30%以内、または20%以内、たとえば10%以内である。より好ましい変異数は、全アミノ酸の5%以内、または3%以内である。特に好ましい変異数としては、全アミノ酸の2%以内、あるいは全アミノ酸の1%以内を示すことができる。本発明の機能的に同等な蛋白質には、複数のアミノ酸として数個のアミノ酸の変異を置換する場合が含まれる。数個とは、たとえば5、更には4または3、あるいは2、更には1のアミノ酸を言う。
蛋白質の機能を維持するために、置換されるアミノ酸は、置換前のアミノ酸と似た性質を有するアミノ酸であることが好ましい。例えば、以下に示すような各グループに属するアミノ酸は、そのグループ内で互いに似た性質を有するアミノ酸である。これらのアミノ酸をグループ内の他のアミノ酸に置換しても、蛋白質の本質的な機能は損なわれないことが多い。このようなアミノ酸の置換は、保存的置換と呼ばれ、蛋白質の機能を保持しつつアミノ酸配列を変換するための手法として公知である。
非極性アミノ酸:Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Met、Phe、およびTrp
非荷電性アミノ酸:Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn、およびGln
酸性アミノ酸:Asp、およびGlu
塩基性アミノ酸:Lys、Arg、およびHis
このような蛋白質は、当該蛋白質をコードする遺伝子を適当な発現ベクターDNAに組み込んで、他の原核細胞または真核細胞の宿主を形質転換することによって、発現させることができる。発現ベクターとしては、例えば大腸菌の場合は、pET−3[Studier & Moffatt,J.Mol.Biol.189,113(1986)]等が、COS細胞の場合はpEF−BOS[Nucleic Acids Research 18,5322(1990)]、pSV2−gpt[Mulligan & Berg,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.78,2072(1981)]等が、CHO細胞の場合はpVY1[国際公開第89/03874号公報]等がそれぞれ挙げられる。また、目的とする遺伝子に他のポリペプチドをコードする遺伝子を連結して融合蛋白質として発現させることにより、精製を容易にし、その後目的蛋白質を切り出すことも可能である。融合させる蛋白質としては、ヒスチジンタグ、c−mycタグ、MBP−タグ、あるいはGST−タグ等が知られている。これらのタグを融合させた状態でインサートを発現させることができるベクターは市販されている。
加えて本発明は、次の工程を含む、試験化合物のメグシンとメグシンリガンドとの結合に干渉する活性を評価する方法に関する。本発明の評価方法において、メグシンリガンドとは、セリンプロテアーゼ、またはその断片を言う。セリンプロテアーゼとしては、たとえばプラスミンやトリプシンを示すことができる。
1)メグシン、メグシンリガンド、および試験化合物を、メグシンとメグシンリガンドが複合体を生成する条件下において、次のa)−d)に記載のいずれかの順序で接触させる工程、
a)試験化合物とメグシンとを接触後に、更にメグシンリガンドと接触させる、
b)メグシンリガンドの存在下で、試験化合物とメグシンとを接触させる、
c)メグシンリガンドとメグシンとを接触後に、更に試験化合物と接触させる、または
d)メグシンリガンドと試験化合物を接触後に、更にメグシンと接触させる
2)試験化合物がメグシンとメグシンリガンドとの複合体の生成に与える影響を評価する工程
本発明の、試験化合物のメグシンとメグシンリガンドの結合に干渉する活性を評価する方法は、メグシンとメグシンリガンドの結合に干渉する化合物のスクリーニングに有用である。すなわち本発明は、上記評価方法によって試験化合物のメグシンとメグシンリガンドの複合体生成に与える影響を評価し、試験化合物不存在下での複合体生成に比較して複合体の生成を阻害する化合物を選択する工程を含む、メグシンとメグシンリガンドとの複合体生成を阻害する活性を有する化合物のスクリーニング方法に関する。
本発明のスクリーニング方法によって、メグシンとメグシンリガンドとの結合に干渉する化合物が選択される。このような化合物は、メグシンの活性の制御に用いることができる。より具体的には、このような化合物をメグシンに対する活性阻害剤、あるいはメグシンの活性阻害方法に用いることができる。すなわち本発明は、前記スクリーニング方法によって選択された化合物を含む、メグシンの活性阻害剤に関する。加えて本発明は、前記スクリーニング方法によって選択することができる化合物を投与する工程を含む、メサンギウム増殖性糸球体腎炎の治療、および/または予防のための方法に関する。あるいは本発明は、前記スクリーニング方法によって得ることができる化合物の、メサンギウム増殖性糸球体腎炎の治療、および/または予防のための医薬組成物の製造における使用に関する。また本発明は、前記スクリーニング方法によって選択された化合物をメグシンと接触させる工程を含む、メグシンの活性阻害方法に関する。本発明によって、メグシンがセリンプロテアーゼに対して、阻害剤として作用することが明らかにされた。本発明においてメグシンの活性とは、セリンプロテアーゼに結合してその酵素作用を阻害する活性を言う。
メグシンの過剰発現によってもたらされる腎糸球体の形態学的、あるいは生理的な異常は、メグシンの機能、すなわちプロテアーゼに対する阻害作用に起因すると考えられる。したがって、メグシンの活性を阻害する化合物は、メグシンの作用による糸球体の異常を抑制するための治療薬あるいは予防薬として有用である。
本発明の評価方法、あるいはスクリーニング方法において、メグシンリガンドとしては、セリンプロテアーゼ、またはその断片から選択されるいずれかの蛋白質を用いることができる。たとえばセリンプロテアーゼであるヒトのプラスミンやトリプシンは、既知の蛋白質である。これらの蛋白質の調製方法は公知である。また、プラスミンやトリプシンの精製蛋白質が市販されている。
一方、これらのセリンプロテアーゼと機能的に同等な蛋白質には、たとえばその断片を利用することができる。蛋白質の断片は、酵素的、化学的、あるいは物理的な作用によって、全長蛋白質を切断し、目的とする活性を有する断片を精製することにより得ることができる。あるいは断片として必要なアミノ酸配列を有するオリゴペプチドを、ペプチド合成によって得ることもできる。機能的に同等な蛋白質としては、具体的にはたとえばメグシンとの結合ドメインを構成するアミノ酸配列を含む蛋白質を示すことができる。たとえば以下に示すプラスミンとトリプシンの活性中心を構成するアミノ酸配列を含むペプチドは、セリンプロテアーゼと機能的に同等な蛋白質として用いることができる。
プラスミン:
トリプシン:
本発明のスクリーニング方法は、メグシンとメグシンリガンドの一方を固相に、他方を標識しておくことにより、より容易に実施することができる。固相としては、マグネットビーズや反応容器内壁などが用いられる。標識には、蛍光物質、発光物質、あるいは酵素活性物質等の公知の標識成分を用いればよい。標識は、メグシン(またはメグシンリガンド)に直接結合させることもできるし、アビジン・ビオチン結合などの親和性反応を利用して間接的に結合させることもできる。
本発明において、メグシン、メグシンリガンド、および試験化合物は、メグシンとメグシンリガンドとが複合体を生成する条件下で接触させる。本発明において、メグシンとメグシンリガンドとが複合体を生成できる条件とは、具体的には、たとえば、生理的なpHと塩濃度、そして複合体の生成に適した温度により規定される。より具体的には、pH6−8を与える緩衝液中で、生理食塩水と同程度の塩濃度と、20−40℃の温度とすれば、メグシンとメグシンリガンドとが複合体を生成することができる。
メグシン、メグシンリガンド、および試験化合物は、前記a)−c)のいずれかに記載の順序で接触させることができる。
a)試験化合物とメグシンとを接触後に、更にメグシンリガンドと接触させる場合には、試験化合物によるメグシン/メグシンリガンド間の結合阻害を評価することができる。また、b)メグシンリガンドの存在下で、試験化合物とメグシンとを接触させる場合には、試験化合物による競合阻害を評価することができる。競合阻害のためには、阻害の対象となる成分に対して、その結合パートナーが過剰量となるように、反応成分の量の比を調整する。
更にc)メグシンリガンドとメグシンとを接触後に、更に試験化合物と接触させる場合には、メグシン/メグシンリガンド間の結合の、試験化合物による置換活性を評価することができる。あるいは、d)メグシンリガンドと試験化合物を接触後に、更にメグシンと接触させる場合には、試験化合物の、メグシンの結合の妨害作用を評価することができる。このとき選択される試験化合物は、メグシンリガンドのメグシン結合サイトの修飾によって、メグシンリガンドへのメグシンの結合を妨げる作用を有する。
たとえば、メグシンのアミノ酸配列中N末端から334−347位に相当するアミノ酸配列TEATAATGSNIVEKからなるオリゴペプチドP1−14は、プラスミンへの結合により、メグシンによる酵素活性の阻害作用を抑制することを確認している。このようなペプチドの活性は、a)、b)若しくはd)に記載したような順序で前記3つの成分を接触させることによって検出される。
これらのいずれの接触順序によっても、メグシン/メグシンリガンド間の結合に干渉する活性を見出すことができる。これらの、結合阻害活性、競合阻害活性、そして置換活性は、いずれもメグシン/メグシンリガンド間の結合に干渉する活性に含まれる。
次に、このような反応の結果生成される次のような複合体のレベルを指標として、試験化合物がメグシンとメグシンリガンドとの複合体の生成に与える影響が評価される。
A:メグシンとメグシンリガンドからなる複合体
B:メグシンと試験化合物の複合体
C:メグシンリガンドと試験化合物の複合体
これら複合体の生成のレベルは、複合体を構成するいずれかの成分を標識しておくことによって、容易に測定することができる。たとえばメグシンが固相上に固定されており、メグシンリガンドを標識して用いる場合、固相および/または液相の標識の活性を指標として、AおよびBの複合体の生成レベルを知ることができる。あるいはメグシンやメグシンリガンドにタグを付加しておき、このタグに対する親和性物質を結合させてpull down assayを実施することもできる。タグには、ヒスチジンタグやHAタグ等が用いられる。
本発明のスクリーニングに必要な要素は、予め組み合せられたキットとして供給することができる。本発明に基づくスクリーニング用キットには、メグシン、およびメグシンリガンドを必須の構成要素として、更に反応容器、希釈液、陰性対照、陽性対照、あるいは各要素を利用してスクリーニングを実施するための手順を記載した操作説明書を同梱することができる。また必要に応じて、スクリーニングに用いる標識成分の検出に必要な基質化合物などを組み合せることもできる。
本発明の評価方法、あるいはスクリーニング方法において、試験化合物としては、例えば、天然または合成化合物、各種有機化合物、天然または合成された糖類、蛋白質、ペプチド、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、あるいは菌体成分などを挙げることができる。
また、セリンプロテアーゼの活性中心部位の立体構造を維持あるいは模倣することによって、メグシンの基質特異性を満たすことができる化合物は、メグシンとの結合活性を有する化合物の候補とすることができる。セリンプロテアーゼの活性中心としては、たとえばオキシアニオンホールを示すことができる。
また本発明は、メグシンまたはメグシンと機能的に同等な蛋白質を有効成分として含む、プラスミンおよび/またはトリプシンの活性阻害剤に関する。本発明により、メグシンのリガンドがプラスミンとトリプシンであることが明らかとなった。メグシンはこれらのセリンプロテアーゼに結合して、その酵素活性を阻害する。したがって、メグシンはセリンプロテアーゼの活性阻害剤として有用である。更に、メグシンと機能的に同等な蛋白質も同様に、セリンプロテアーゼの活性阻害剤として用いることができる。
ヒト・メグシンは、配列番号:1に示す塩基配列を持つDNAによってコードされる蛋白質である。ヒト・メグシンのアミノ酸配列は、配列番号:2に示す。本発明のメグシンは、ヒト・メグシンのみならず、ヒト・メグシンと機能的に同等な蛋白質を対象とすることができる。このような蛋白質としては、たとえば他の種におけるメグシンのホモログを示すことができる。メグシンのホモログには、たとえばラット・メグシン、そしてマウス・メグシンの構造が本発明者によって明らかにされている(WO 99/15652)。ラットメグシンの塩基配列、並びにアミノ酸配列を配列番号:3、および配列番号:4に、そしてマウス・メグシンの塩基配列、並びにアミノ酸配列を配列番号:5、および配列番号:6に示す。
また、一般に、真核生物の遺伝子はヒトインターフェロン遺伝子で知られているように多形現象を示すことが多い。この多形現象によって、アミノ酸配列に1個あるいはそれ以上のアミノ酸の置換を生じても、通常蛋白質の活性は維持される。また一般に、1個または数個のアミノ酸の改変では、蛋白質の活性は維持される場合が多いことが知られている。従って、配列番号:2、配列番号:4、および配列番号:6のいずれかに示されるアミノ酸配列を人工的に改変したアミノ酸配列からなる蛋白質をコードする遺伝子は、該蛋白質がプロテアーゼに結合してその活性を阻害する限り、すべて本発明に利用することができる。
以下、ヒト、ラット、あるいはマウスに由来するメグシンと、その生物学的に同等な機能を有する蛋白質を総称してメグシン類と記載する。しかしながら、本発明によるメグシンリガンドをヒトのプロテアーゼの活性制御に利用するため、あるいはヒトにおける治療剤に有用な化合物のスクリーニングを行うためには、ヒト・メグシンのDNAを用いるのが有利である。ヒト・メグシンに対する影響を、より忠実に反映できる可能性が期待できるためである
プラスミンは線溶酵素であることから、その活性を阻害するメグシンには、血液凝固の促進作用が期待できる。またトリプシンの阻害剤は、膵炎の治療などに用いられている。したがって、トリプシン阻害作用を有するメグシンには、膵炎の治療剤としての有用性が期待できできる。
本発明によって、以下のような有効成分のいずれかを含有するメサンギウム増殖性糸球体腎炎を治療および/または予防するための医薬組成物が提供された。
セリンプロテアーゼ、またはセリンプロテアーゼと機能的に同等な蛋白質、
メグシンとメグシンリガンドとの複合体の生成に干渉する化合物(この化合物は、前記スクリーニング方法によって選択される)
あるいは本発明によって、メグシンまたはメグシンと機能的に同等な蛋白質を有効成分として含む、セリンプロテアーゼの阻害剤が提供された。本発明の阻害剤は、セリンプロテアーゼの活性の制御を目的とする医薬組成物に利用することができる。
これらの医薬組成物は、そのままあるいは水に希釈する等の各種処理を施して使用することができ、医薬品、医薬部外品等に配合して使用することができる。この場合の配合量は病態や製品に応じて適宜選択されるが、通常全身投与製剤の場合には、0.001〜50重量%、特に0.01〜10重量%とすることができ、0.001重量%より少ないと満足する予防または治療作用が認められない可能性があり、また、5重量%を越えると製品そのものの安定性や香味等の特性が損なわれる可能性があるので好ましくない。
本発明のメグシンリガンドは、製剤学的に許容される塩として製剤中に含有されていてもよい。薬剤学的に許容される塩としては、例えば無機塩基、有機塩基等の塩基との塩、無機酸、有機酸、塩基性または酸性アミノ酸などの酸付加塩等が挙げられる。
無機塩基としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、アンモニウム等が挙げられる。有機塩基としては、例えば、エタノールアミン等の第一級アミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン等の第二級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、トリエタノールアミン等の第三級アミン等が挙げられる。
無機酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等が挙げられる。有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、乳酸、トリフルオロ酢酸、フマール酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、安息香酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等が挙げられる。塩基性アミノ酸としては、例えば、アルギニン、リジン、オルニチン等が挙げられる。酸性アミノ酸としては、例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸等が挙げられる。
本発明の医薬組成物の投与方法として、経口投与、静脈内投与以外に、経粘膜投与、経皮投与、筋肉内投与、皮下投与、直腸内投与等が適宜選択でき、その投与方法に応じて、種々の製剤として用いることができる。以下に、各製剤について記載するが、本発明において用いられる剤型はこれらに限定されるものではなく、医薬製剤分野において通常用いられる各種製剤として用いることができる。
また、医薬組成物を構成する有効成分がDNAによりコードされうるものであれば、該DNAを遺伝子治療用ベクターに組み込み、遺伝子治療に利用することもできる。投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、鼻腔内投与、気管支内投与、筋肉内投与、皮下投与、経口投与、患部への直接投与などの方法で行うことができる。投与量は、患者の体重、年齢、健康度、あるいは投与方法などの条件によって変動するが、当業者であれば適宜適当な投与量を選択することができる。
<全身投与製剤>
メサンギウム増殖性糸球体腎炎に対する治療および/または予防のために用いる場合には、メグシンリガンドの経口投与量は、0.03mg/kg〜30mg/kgの範囲が好ましく、より好ましくは0.1mg/kg〜10mg/kgである。全身投与を行う場合、たとえば静脈内投与の場合には、有効血中濃度が0.2μg/mL〜20μg/mL、より好ましくは0.5μg/mL〜10μg/mLとなるように投与量を調節すれば良い。投与最は、年齢、性別、または体重等により調節する。
経口投与を行う場合の剤型として、散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤およびシロップ剤等があり、適宜選択することができる。また、それら製剤について徐放化、安定化、易崩壊化、難崩壊化、腸溶性化、易吸収化等の修飾を施すことができる。また、口腔内局所投与を行う場合の剤型として、咀嚼剤、舌下剤、バッカル剤、トローチ剤、軟膏剤、貼布剤、液剤等があり、適宜選択することができる。また、それら製剤について徐放化、安定化、易崩壊化、難崩壊化、腸溶性化、易吸収化等の修飾を施すことができる。
上記の各剤型について、公知のドラッグデリバリーシステム(DDS)の技術を採用することができる。本明細書に言うDDS製剤とは、徐放化製剤、局所適用製剤(トローチ、バッカル錠、舌下錠等)、薬物放出制御製剤、腸溶性製剤および胃溶性製剤等、投与経路、バイオアベイラビリティー、副作用等を勘案した上で、最適の製剤形態にした製剤を言う。
DDSの構成要素には基本的に薬物、薬物放出モジュール、被包体および治療プログラムから成り、各々の構成要素について、特に放出を停止させた時に速やかに血中濃度が低下する半減期の短い薬物が好ましく、投与部位の生体組織と反応しない被包体が好ましく、さらに、設定された期間において最良の薬物濃度を維持する治療プログラムを有するのが好ましい。薬物放出モジュールは基本的に薬物貯蔵庫、放出制御部、エネルギー源および放出孔または放出表面を有している。これら基本的構成要素は全て揃っている必要はなく、適宜追加あるいは削除等を行い、最良の形態を選択することができる。
DDSに使用できる材料としては、高分子、シクロデキストリン誘導体、レシチン等がある。高分子には不溶性高分子(シリコーン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチルセルロース、セルロースアセテート等)、水溶性高分子およびヒドロキシルゲル形成高分子(ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリレート架橋体、ポリアクリル架橋体、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、水溶性セルロース誘導体、架橋ポロキサマー、キチン、キトサン等)、徐溶解性高分子(エチルセルロース、メチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合体の部分エステル等)、胃溶性高分子(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースナトリウム、マクロゴール、ポリビニルピロリドン、メタアクリル酸ジメチルアミノエチル・メタアクリル酸メチルコポリマー等)、腸溶性高分子(ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、酢酸フタルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、アクリル酸系ポリマー等)、生分解性高分子(熱凝固または架橋アルブミン、架橋ゼラチン、コラーゲン、フィブリン、ポリシアノアクリレート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリβヒドロキシ酢酸、ポリカプロラクトン等)があり、剤型によって適宜選択することができる。
特に、シリコン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、メチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合体の部分エステルは薬物の放出制御に使用でき、セルロースアセテートは浸透圧ポンプの材料として使用でき、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロースは徐放性製剤の膜素材として使用でき、ポリアクリル架橋体は口腔粘膜あるいは眼粘膜付着剤として使用できる。
また、製剤中にはその剤形(経口投与剤、注射剤、座剤等の公知の剤形)に応じて、溶剤、賦形剤、コーティング剤、基剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、溶解補助剤、懸濁化剤、粘稠剤、乳化剤、安定剤、緩衝剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤、矯味剤、芳香剤、着色剤等の添加剤を加えて製造することができる。
これら各添加剤について、それぞれ具体例を挙げて例示するが、これらに特に限定されるものではない。溶剤としては、精製水、注射用水、生理食塩液、ラッカセイ油、エタノール、グリセリン等を挙げることができる。
賦形剤としては、デンプン類、乳糖、ブドウ糖、白糖、結晶セルロース、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、トレハロース、キシリトール等を挙げることができる。コーティング剤としては、白糖、ゼラチン、酢酸フタル酸セルロースおよび上記記載した高分子等を挙げることができる。
基剤としては、ワセリン、植物油、マクロゴール、水中油型乳剤性基剤、油中水型乳剤性基剤等を挙げることができる。結合剤としては、デンプンおよびその誘導体、セルロースおよびその誘導体、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、トラガント、アラビアゴム等の天然高分子化合物、ポリビニルピロリドン等の合成高分子化合物、デキストリン、ヒドロキシプロピルスターチ等を挙げることができる。
滑沢剤としては、ステアリン酸およびその塩類、タルク、ワックス類、小麦デンプン、マクロゴール、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。
崩壊剤としては、デンプンおよびその誘導体、寒天、ゼラチン末、炭酸水素ナトリウム、セルロースおよびその誘導体、カルメロースカルシウム、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースおよびその塩類ならびにその架橋体、低置換型ヒドロキシプロピルセルロース等を挙げることができる。
溶解補助剤としては、シクロデキストリン、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。懸濁化剤としては、アラビアゴム、トラガント、アルギン酸ナトリウム、モノステアリン酸アルミニウム、クエン酸、各種界面活性剤等を挙げることができる。
粘稠剤としては、カルメロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、トラガント、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム等を挙げることができる。乳化剤としては、アラビアゴム、コレステロール、トラガント、メチルセルロース、各種界面活性剤、レシチン等を挙げることができる。安定剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸、トコフェロール、キレート剤、不活性ガス、還元性物質等を挙げることができる。緩衝剤としては、リン酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、ホウ酸等を挙げることができる。
等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖等を挙げることができる。無痛化剤としては、塩酸プロカイン、リドカイン、ベンジルアルコール等を挙げることができる。保存剤としては、安息香酸およびその塩類、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、逆性石けん、ベンジルアルコール、フェノール、チロメサール等を挙げることができる。
矯味剤としては、白糖、サッカリン、カンゾウエキス、ソルビトール、キシリトール、グリセリン等を挙げることができる。芳香剤としては、トウヒチンキ、ローズ油等を挙げることができる。着色剤としては、水溶性食用色素、レーキ色素等を挙げることができる。
上記したように、医薬品を徐放化製剤、腸溶性製剤または薬物放出制御製剤等のDDS製剤化することにより、薬物の有効血中濃度の持続化、バイオアベイラビリティーの向上等の効果が期待できる。しかし、メグシンリガンドは生体内で失活化または分解され、その結果、所望の効果が低下または消失する可能性がある。従って、メグシンリガンドを失活化または分解する物質を阻害する物質をメサンギウム増殖性糸球体腎炎の治療および/または予防のための医薬組成物と併用することにより、成分の効果をさらに持続化させ得る。これらは製剤中に配合してもよく、または別々に投与してもよい。当業者は適切に、メグシンリガンドを失活化または分解する物質を同定し、これを阻害する物質を選択し、配合あるいは併用することができる。
製剤中には、上記以外の添加物として通常の組成物に使用されている成分を用いることができ、これらの成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
発明を実施するための最良の形態
〔実施例1〕
(組換えメグシン)
組換えヒトメグシンは、公知の方法[R.Inagi,et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,286,1098−1106(2001)]により精製された。すなわちメグシントランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の培養上清からメグシンを得た。PCRを用いた変異導入により、メグシンcDNAの全長コード領域のN末端側にC−mycタグおよびヒスチジンタグを連結した。タグで標識されたメグシンcDNAを、哺乳動物発現ベクターpREP9(Invitrogen、オランダ、ベルギー)にクローン化した。6ウェルプレートに播いて37℃で5%CO2インキュベーターで培養したCHO細胞に、ヒトメグシンcDNAを含むpREP9をLipofectamine試薬(GIBCO)を使って形質転換した。安定な形質転換体を0.5mg/mLのgeneticin disulfate(和光純薬工業)で選択した。そして、(His)6アフィニティーカラムを用いて培養上清から、C−myc−ヒスチジンタグ結合メグシン組換え体を精製した。
(実験1.メグシン−セリンプロテアーゼ複合体形成試験)
メグシンのP17−P8配列(EGTEATAAT)は、阻害性SERPINのコンセンサス配列として保存されている[T.Miyata,J.Clin.Invest.,102,828−836(1998)]。そこで、インビトロ複合体形成による、セリンプロテアーゼにおけるメグシンの活性を評価した。メグシンとの複合体形成を試験するためのセリンプロテアーゼとして、プラスミン、カリクレイン、エラスターゼ、トリプシン(Sigma、St Louis、MO)、組織プラスミノーゲンアクチベーター(t−PA:Biopool、Ventura、CA)およびトロンビン(Calbiochem、La Jolla、CA)を使用した。また、比較するセリンプロテアーゼインヒビターとして、アンチトロンビンIII(ATIII)、α1−アンチトリプシン(α1−AT)、α2−アンチプラスミン(α2−AP)、およびプラスミノゲンアクチベーターインヒビター1(PAI−1)を使用した。
上記で得た精製メグシンを、リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)中、2:1モル比のセリンプロテアーゼとそれぞれ37℃で30分間インキュベートし、非還元条件下でSDS−PAGE分析を行い、クマジーブリリアントブルー(CBB)染色、またはヒツジ抗ヒトt−PA抗体(Cedarlane、Ontario、カナダ)を用いたイムノブロット分析(t−PA用)により検討した。
反応混合液はまた、逆相チップ(H4 Protein Chip(商標):Ciphergen Biosystems、Fremont、CA)に供され、風乾された。チップをシナピン酸と反応させた後、表面改良型/飛行時間型質量分析計(SELDI−TOF−MASS)(Ciphergen SELDI Protein Biology System II)により質量分析した。
(実験2.MCAアッセイ)
プラスミン活性へのメグシンの阻害活性を評価するため、精製メグシンを0.2MのTris−HCl(pH8.0)中、様々なモル比のプラスミンと37℃で30分間インキュベートし、1mMの合成蛍光プラスミン基質、Boc(t−butyloxycarbonyl)−Glu−Lys−Lys−MCA(4−methyl−coumaryl−7−amid)(ペプチド研究所、大阪、日本)と反応させ、次いでλex=380nmおよびλem=460nmにおいて、ペプチド−MCAからAMCへの切断の蛍光測定を行った。アンチプラスミン(Sigma)を対照として使用した。
不活化メグシンの調製のためには、0.25Mのクエン酸三ナトリウムおよび10mMのTris−HCl(pH7.4)中、60℃で15時間、精製メグシンをインキュベートした。
(実験結果1.複合体形成試験)
SDS−PAGEでは、組換えメグシンに対して、プラスミンまたはトリプシンを混合させた時に、複合体の生成を示す新たなバンドが出現した。しかし、他のセリンプロテアーゼでは新たなバンドは認められなかった(図1、表1)。表中、◎○×の順にバンドの濃さを示し、×はバンドが見られなかったことを示す。
また、メグシンのプラスミンへの結合は、SELDI−TOF質量分析によっても確認された。すなわちメグシンとプラスミンの反応混合液において、ピークは分子量120,163.7Daの位置に同定され、それはメグシン(47,061.4Da)及びプラスミン(73,264.7Da)の合計値と一致し、メグシン−プラスミン複合体と推定された(図3)。複合体形成は、組換えメグシンが熱により不活化された時には観察されなかった(図示せず)。
(実験結果2.MCAアッセイ)
さらに、MCAアッセイを用いたプラスミンの酵素活性に対するメグシンの阻害作用を図2および表2に示す。表中、○△×は順に阻害の強さを示し、×は阻害が見られなかったことを示す。特に図2から明らかなように、オボアルブミン(△)およびアルブミン(▲)がプラスミン活性を阻害しなかったのに対し、メグシン(○)は特異的にプラスミン阻害活性を示した。また、不活化されたメグシン(●)はプラスミン阻害活性を示さなかった。
これらの実験結果はメグシンとプラスミンが複合体を形成することを示唆している。
産業上の利用の可能性
本発明により、メサンギウム増殖性糸球体腎炎の治療、および/または予防のための医薬組成物が提供される。また、化合物におけるメグシンのメグシンリガンドへの結合阻害能をスクリーニングする方法であって、試験化合物およびメグシンリガンドを、該試験化合物およびメグシンリガンドが複合体を生成するような条件下において接触させる工程を含む、上記方法が本発明により提供される。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
図1は、非還元条件下でのSDS−PAGE、その後のCBB染色(左および中央のパネル)あるいは抗t−PA抗体を用いたイムノブロティング(右パネル)を示す写真である。メグシンはプラスミンへの機能性結合が確認されたが、t−PAやトロンビンのような他のセリンプロテアーゼには結合しないことを示す。*は、複合体のバンドを示す。
図2は、MCAアッセイの結果を示す図である。◇:基質のみ、□:プラスミン、■:プラスミン+アンチプラスミン(1:2)、○:プラスミン+メグシン(1:10)、●:プラスミン+不活化メグシン(1:10)、△:オボアルブミン、▲:アルブミン。
図3は、SELDI−TOF質量分析の結果を示す図である。上から順に、プラスミンのみ、メグシンのみ、そしてメグシンとプラスミンの混合物を解析した結果を示す。
Claims (10)
- プラスミンおよび/またはトリプシンを有効成分とするメグシンリガンド。
- 有効成分として、セリンプロテアーゼ、またはセリンプロテアーゼと機能的に同等な蛋白質を含む、メサンギウム増殖性糸球体腎炎の治療、および/または予防のための医薬組成物。
- 次の工程を含む、試験化合物のメグシンとメグシンリガンドとの結合に干渉する活性を評価する方法であって、メグシンリガンドが、セリンプロテアーゼ、またはその断片である方法。
1)メグシン、メグシンリガンド、および試験化合物を、メグシンとメグシンリガンドが複合体を生成する条件下において、次のa)−d)に記載のいずれかの順序で接触させる工程、
a)試験化合物とメグシンとを接触後に、更にメグシンリガンドと接触させる、
b)メグシンリガンドの存在下で、試験化合物とメグシンとを接触させる
c)メグシンリガンドとメグシンとを接触後に、更に試験化合物と接触させる、または
d)メグシンリガンドと試験化合物を接触後に、更にメグシンと接触させる
2)試験化合物がメグシンとメグシンリガンドとの複合体の生成に与える影響を評価する工程 - セリンプロテアーゼが、プラスミンまたはトリプシンである請求項3に記載の方法。
- 請求項3に記載の方法によって試験化合物のメグシンとメグシンリガンドの複合体生成に与える影響を評価し、試験化合物不存在下での複合体生成に比較して複合体の生成を阻害する化合物を選択する工程を含む、メグシンとメグシンリガンドとの複合体生成を阻害する活性を有する化合物のスクリーニング方法。
- 請求項5に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物をメグシンと接触させる工程を含む、メグシンの活性阻害方法。
- 請求項5に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を含むメグシンの活性阻害剤。
- 請求項5に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を有効成分として含む、メサンギウム増殖性糸球体腎炎の治療、および/または予防のための医薬組成物。
- メグシンまたはメグシンと機能的に同等な蛋白質を有効成分として含む、プラスミンおよび/またはトリプシンの活性阻害剤。
- メグシンまたはメグシンと機能的に同等な蛋白質を、プラスミンおよび/またはトリプシンに接触させる工程を含む、プラスミンおよび/またはトリプシンの活性阻害方法。
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