JPH11324392A - 制震構造物 - Google Patents

制震構造物

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JPH11324392A
JPH11324392A JP17199098A JP17199098A JPH11324392A JP H11324392 A JPH11324392 A JP H11324392A JP 17199098 A JP17199098 A JP 17199098A JP 17199098 A JP17199098 A JP 17199098A JP H11324392 A JPH11324392 A JP H11324392A
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Abstract

(57)【要約】 (修正有) 【課題】より少ない減衰装置でより高い応答加速度抑制
効果を発揮し、中層建物から高層建物まで適用できるよ
り効率的な制震構造を可能とする。 【解決手段】建物下層部の複数層の水平剛性を意図的に
低剛性に設計し、その部分に減衰装置7を集中配置す
る。建物の下層部分の複数層を利用して免震構造に近い
構造体を構築するもので、免震層に発生する地震時変位
を複数層で分割するこ、従来の耐震構造や制震構造物よ
りは剛性を下げるが、免震装置の水平剛性に対してはそ
の10倍程度の剛性を確保することの2点により、1層
あたりの変形を層間変形角1/100前後の現実的な値
に抑制することが可能となる。これはかつてのソフトフ
ァーストストーリーの概念を複数層に拡張し人為的に大
きな減衰性能を付加することによって実現したものであ
る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】1995年の阪神淡路大震災およ
びその1年前の米国ノースリッジ地震により、それまで
は安全性が高いと考えられていた鋼構造物において、鉄
骨柱が脆性破断したり、柱・梁接合部に多くの亀裂や破
断が発見され、鋼構造物の耐震安全性にも大きな問題点
が存在することが明らかとなった。本発明は、上記問題
を内包する鋼構造が採用されることが多い中層ないし高
層の建築構造物もしくは工作物などの耐震安全性を飛躍
的に高めることが可能な制震構造物の構成方法を提案す
るものである。本発明は、中層以上の建築構造物、特に
高層・超高層建築物を主たる対象としたものであるが、
各種の鉄塔やタワーなどの搭状構造物の耐震安全性向上
にも効果が大きく適用が推奨される。
【0002】
【従来技術】主として高層建築物の耐震・耐風安全性を
高める構造方法として、柱・梁、あるいはブレース等の
斜材等で構成される骨組み構造物に、鋼製ダンパーや粘
性ダンパーなど各種のエネルギー吸収装置を併用する制
震構造が開発・実用化されており、阪神大震災以降、高
層建築物に採用される事例が増加しつつある。
【0003】一方、より厳しい加速度応答に晒される中
低層建築物の耐震安全性向上対策としては、積層ゴム免
震装置を主とする各種の免震装置を用いる免震構造の採
用事例が増加しつつある。
【0004】免震構造は地盤と構造物の間に極端に水平
剛性の低い部分(免震層)を設けてそこに水平変形を集
中させて、構造物に投入される地震エネルギーを免震層
で集中的に吸収する方法に対して、制震構造では、建物
内に投入された地震エネルギーを建物全体に分散配置し
た減衰装置で分散吸収しようとする方法である。また、
従来の耐震設計思想における柱や梁の構造部材の塑性変
形による履歴エネルギー吸収を、より信頼性の高いエネ
ルギー吸収装置に置き換えようという考え方で制震構造
を採用している設計者もいる。
【0005】構造技術の歴史的経緯としては、免震構造
の一形態として構造物の第一層の剛性を低くして柱梁の
塑性変形によるエネルギー吸収により優れた耐震安全性
が実現できるとする”The Soft First
Story”の概念が米国カリフォルニアで提案され、
オリーブビュー病院として実際に建設されたが、197
1年のサンフエルナンド地震において大被害を受け、コ
ンクリート構造のような部材構成ではその大変形が許容
できず、ソフトファーストソトーリーは現実には成立し
えないというのが一般的見解となった。その歴史的経緯
を踏まえた上で、優れた耐震安全性を実現できる方法と
して実用化されているのが、積層ゴム免震装置を主流と
する現在の免震構造である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、既に実現さ
れている制震構造物の耐震性能を飛躍的に改善しようと
するもので、解決すべき課題はつぎの3点である。第一
課題は、制震構造物では免震構造建物に較べてかなり高
い応答加速度が生じることである。制震構造はかなり高
層の建物に採用される場合が多いので、中低層構造物よ
りも加速度応答は有利な条件下にあり、高層建物の中層
部以上では減衰装置の効果により応答加速度をかなり抑
制することが可能である。
【0007】しかし、建物の基礎は地盤と一体化されて
いるため、最下層は地盤と同じ加速度を強制され、低層
部の応答加速度は上層階に向かって次第に低減されてい
くことになる。これは1次固有周期が2秒以上ある高層
建物の場合で、周期が長い高層建物ほど有利となるが、
中低層建物の場合は周期1秒前後あるいはそれ以下の短
周期構造物となり、減衰性能を高めることによって上層
階の応答加速度の増幅は抑制できるものの、免震建物の
ように地盤加速度よりもはるかに小さく抑制することは
理論的にも不可能となる。
【0008】第二点は、免震構造に較べて高めの加速度
応答が生じるために、建物に発生する地震層せん断力も
大きくなり、骨組み構造体の経済的な耐震設計が困難と
なることである。建物に発生する層せん断力は下層ほど
大きな力となるので、特に下層階の層せん断力を小さく
抑制できれば経済的な設計が実現可能となる。従って、
制震構造の第二課題は低層階の地震層せん断力を小さく
抑制できる方法である。
【0009】第3課題は、制震構造によって達成できる
耐震安全性能のレベルアップである。1995年の阪神
淡路大震災、1994年の米国ノースリッジ地震等近年
の地震災害では水平最大加速度が1000cm/s
後、最大速度は100cm/s前後あるいはそれ以上と
いう極めて強い地震動が観測されている。そのような強
い地震動に対して構造物を従来の耐震構造で損傷軽微に
設計することは不可能である。現実に設計されている免
震構造でも、そこまでの安全性能を達成しているものは
多くはないが、設計者の意志と工夫によっては十分達成
可能であり、現実に最大速度100cm/s以上の地震
動入力に対して無損傷設計を達成している例がある。
【0010】一方、阪神大震災以降、制震構造を採用し
ている高層建物が増加しており、従来構造に比較すれば
耐震性能が改善されているが、これまでの実例では設計
地震動の強さは、依然として最大速度50cm/sのま
まであり、最大速度100cm/sレベルの地震動に対
して無損傷という高い安全性を有する設計は実現されて
いない。その第一の理由は、経済的制約の中では制震構
造といえどもこれまでの方法では設計不可能であるから
である。
【0011】以上、本発明が解決しようとする上記の3
課題をまとめると、これまでに実現されている制震構造
物において、在来耐震構造よりは優れているものの免震
構造物よりは一般に劣っている各階の加速度応答を改善
し、建物に発生する地震層せん断力を更に抑制して経済
的な設計を可能とし、近年の直下地震で観測されている
ような最大速度100cm/sレベルの極めて強い地震
動に対しても安全な中・高層建築物を実現できる制震構
造を実用化することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】従来の耐震構造において
は勿論、制震構造および免震構造においてもその構造体
骨組みの設計は、「できるだけ高い水平耐力を確保する
ことが高い耐震安全性を確保することになる」という基
本思想に基づいている。高い水平耐力の確保は必然的に
高い水平剛性の確保に繋がってくる。上部構造体の水平
剛性が高いことは、免震構造では、高次モードを抑制す
る効果があり、各階の応答加速度の抑制に効果がある。
また従来の耐震構造では、応答加速度や層せん断力を引
き上げるため、設計思想としては矛盾しているが、一般
の設計においては地震時の動的応答を無視し建物の加速
度応答を意に介しないため、その矛盾点が浮き彫りにな
ってこない。
【0013】一方、制震構造においては、構造体の水平
剛性を高めることは、耐震構造と同様に地震時の加速度
応答を高め、地震層せん断力を大きくすることに繋がる
ため、制震構造の採用によって地震応答を抑制しようと
いう基本思想と矛盾することになるが、どの設計者も建
物各階の水平剛性を積極的に低下させようとはおらず、
そもそも、「積極的に水平剛性そのものを設計する」と
いう設計思想を有していない。それは、建物に作用する
地震力を一定に設定した上で建物を耐力を設計する静的
震度法の設計手法に長年慣れ親しんできたために「少し
でも強い方が安全である筈だ」という思いこみに束縛さ
れているためである。
【0014】本発明は、地震応答を抑制するためには、
「地震応答を設計する」ことが必要であり、地震応答を
設計するためには、動的な地震応答を決定する「構造物
の剛性と減衰の両者を同時に設計しなければならない」
という基本思想に基づいている。そして、構造物の地震
応答を抑制するためには、免震構造のように極端に水平
剛性の低い層を設けて地盤と構造物を絶縁し、地盤の震
動が直接構造物に伝達されないようにすることが理想で
あるが、建物の高層化、その他の事由により免震構造の
採用が不可能であり、柱は地盤もしくは基礎構造体に固
定せざるをえないという条件下での解決方法を提案する
ものである。
【0015】免震構造では地震動の作用によって免震層
に大きな水平変形が発生する。その変形量は地震動の強
さと免震層の性能によるが、最大速度50cm/s程度
の地震動では通常20cm〜30cm程度、最大速度1
00cm/s程度の地震動を想定すると40cm〜60
cm程度の水平変形が発生することになる。
【0016】基礎固定の建物で建物で上部構造体の地震
応答を抑制しようとしたソフトファーストストーリー
は、このような大変形を到底許容できず、厳しい地震動
の洗礼を受けて歴史から姿を消し、免震構造として初め
て現実のものとなったのは上述のとおりである。本発明
は、中高層建物など多層構造物の下層階を複数層利用す
ることによって、ソフトファーストーストーリーでは実
現困難であった大変形を許容できる制震構造物、いわば
基礎固定条件のままで免震構造物を構成しようとするも
のである。ソフトファーストストーリーの概念を拡張発
展させて多層構造物に適用可能として、免震構造物と同
様の効果を生み出すもので、本発明の構造方式を「複数
低層階低剛性制震構造(LSS制震構造(Lower
SoftStories)」と名付ける。
【0017】これまで、建物に発生する地震層せん断力
を建物重量との関係で表現した層せん断力係数の概念は
あったが、建物剛性を建物の支持重量との関係で表現す
る概念は存在しなかった。本発明では、建物各階の水平
剛性Kiをその層以上の建物重量Σwiの関数として表
現する。即ち、Ki=αxΣwiと表現し、αを「水平
剛性係数」(Stiffness Coefficie
nt)と命名する。本発明は、水平剛性係数αの概念を
導入し、αをある範囲に限定することによって、建物に
発生する層せん断力係数と応答加速度を制御可能とした
ものである。
【0018】因みに、最下層の水平剛性係数を「基本剛
性係数α」(Base Stiffness Coe
fficient)と名付けると、わが国これまでの一
般的設計では中低層建物の耐震構造ではα≧(0.1
〜0.3)、高層建物では鉄骨造でα=0.06〜
0.15程度、コンクリート系でα=0.10〜0.
20程度、免震構造の免震層はα=0.01〜0.0
01程度に設計されている。本発明は、これまでの構造
物には殆ど存在しない領域の剛性係数α=0.10〜
0.01の剛性を有し、且つその低剛性部分に大きな減
衰性能を付与した構造物とすることにより、これまでに
存在しなかった高性能の制震構造物を実現するものであ
る。
【0019】
【実施例】以下、図面を参照しながら、本発明の実施例
について説明する。
【0020】図1は、従来の耐震構造による中高層建物
の概念図を示したもので、(1)は柱と梁を剛接合した
骨組み構造物でわが国では純ラーメン構造と呼ばれる最
も一般的な構造形式である。(3)はこれに耐震要素と
してのブレース(斜材)を組み合わせたもので、ブレー
スや耐震壁を組み合わすことにより、建物全体の水平剛
性と水平耐力を高めることができる。(2)は、これら
従来の耐震構造物の振動特性を表現するために、建物各
階の重量を床位置の質点に、骨組み各階の剛性を各質点
を結ぶバネとして簡明に表現したもので、多質点系のマ
スバネモデルと呼ばれるものである。
【0021】このような従来の多層骨組み構造物の各階
に、各種のダンパーと呼ばれるエネルギー吸収装置を組
み込んで、建物の減衰性能を高めたものがこれまでに実
用化されている制震構造物あるいは制振構造物と呼ばれ
る構造方式である。(1)は壁形状の粘性減衰装置「制
震壁」を採用した例で、(3)は鋼製ダンパーなどの履
歴ダンパーや摩擦ダンパーを取付用壁板を介して設置し
た例である。この他にもブレース材を利用してダンパー
を取り付けたものなどいくつかの設置方法が実用化され
ている。(2)は、その振動モデルの概念を示したもの
で耐震構造の振動モデルにダンパーを表現するエネルギ
ー吸収要素が付加されている。
【0022】制震構造物用のダンパーとしては、鋼材や
鉛などを利用する金属の履歴ダンパー、摩擦ダンパー、
粘性材料やオイルなどの流体を利用する粘性ダンパー、
粘弾性材料を利用する粘弾性ダンパーなど各種の減衰装
置が開発されているが、どのような減衰装置を採用する
場合でも、これまでに実現されている上記の制震構造物
には以下の問題点が内在している。
【0023】その問題点をわかりやすくするために、構
造物の特性によりA・B2つのグループにわけて説明す
る。Aグループは、中低層の建物で、階数では通常15
階程度まで、1次固有周期が1.5秒程度以下の建物の
場合である。このような建物に地震力などの水平外力が
作用した場合、柱の伸縮に起因する各階の上下方向の変
位は小さく、図3の(1)に示すように各階は水平方向
に平行移動する変形モードを示す。この変形様式はせん
断変形が卓越する変形モードと言われる。
【0024】一方、建物の階数が高くなるに伴って、水
平外力が作用した時の柱の伸縮変形が大きくなり、この
柱の軸方向変形のために発生する水平変形が無視できな
くなる。この柱の伸縮によって発生する水平変形を曲げ
変形と呼び、図3の(2)に示すようにこの曲げ変形が
卓越する変形モードとなる建物をBグループとする。一
般には階数で20階建て以上、1次固有周期で2秒以上
の高層建物がこの変形モードとなりやすいが、それ以下
の中層建物でもペンシルビルのように細高い形状の場合
は曲げ変形卓越型となる場合がある。
【0025】Aグループは、通常周期1.5秒以下の短
周期構造物であるため、ベースシア係数C≧0.2で
設計されている。建物の階高をh=3m〜4m、設計地
震力作用時の層間変形角をγ≦1/200とすると第1
層の水平剛性はKl≧(0.20〜0.1)・ΣWi
(t/cm)程度で設計されていることになる。2次設
計による保有水平耐力の要求条件を満足するために、現
実の設計ではKl≧0.2・ΣWi(t/cm)となっ
ている例が多い。
【0026】このような剛性を有する建物に大地震が作
用した場合、その応答層間変形角が階高の1/100以
下に抑制されたとしてもベースシア係数C≧(0.4
〜0.6)となり、上層階には更に高い加速度が発生す
るために、各階の応答加速度はAmax≧500(Ga
l)となり、現実の在来耐震構造では、容易に1000
(Gal)を上回り、制震構造を採用した場合でも50
0(Gal)以上〜1000(Gal)近傍の応答加速
度が発生すると覚悟しなければならない。
【0027】図4の(1)に示す上記の建物に対して、
本発明の請求項1では建物下層部の複数階の水平剛性を
0.01Σwi≦Ki≦0.10Σwi(ton/c
m)の範囲に限定する。そのため建物の変形モードは図
4の(2)に示すように変化する。実際の設計では、
の条件に対して少し余裕をもって、Ki=(0.04〜
0.02)xΣwi(t/cm)程度に設計するのが望
ましい。このように設計された階高h=3mの建物に大
地震が作用し、層間変形角γ=1/100程度の変形が
発生した場合の層せん断力係数はCi=Kixδ/Σw
i=0.06〜0.12となり、応答加速度が100
(Gal)前後に抑制されることになる。
【0028】請求項1の剛性設定により、建物に作用す
る地震層せん断力と各階の応答加速度は格段に抑制され
ることが判ったが、残された問題は各階に発生する層間
変形が許容値以内に抑制されることである。免震構造お
よびソフトファーストストーリーの概念は、この低剛性
層を1層のみとし、1層で全入力エネルギーを吸収しよ
うとするために、厳しい地震動入力に対しては数十cm
レベルの大きな水平変形が発生することになる。
【0029】これに対して本発明は、この低剛性層を複
数層設け、免震構造において免震層に発生する水平変形
を複数層で分割することによって1層の水平変形を小さ
くする。また、免震構造の水平剛性係数はα=0.0
1〜0.001であるのに対して、本発明による制震構
造の水平剛性係数はα=0.10〜0.01の範囲に
制限している。即ち、免震構造の約10倍の水平剛性を
確保して、免震構造よりも発生変位をかなり小さく抑制
できる条件を導入した上で、この低剛性層に減衰装置を
集中配置して大きなエネルギー吸収性能を付与してい
る。
【0030】この高剛性大減衰による変位抑制効果と発
生変位を複数層で分割することによって、過酷な地震動
入力に対しても層間変位を数cm程度以下に抑制するこ
とが可能となり、最大入力速度100cm/sレベルの
過酷な地震動に対しても安全な制震構造物を実現するこ
とが可能となる。
【0031】本発明は、図3の(2)に示すような建物
全体の変形モードが曲げ変形卓越型となる高層建物にお
いても優れた制震構造物を実現できる。図5は粘性減衰
壁の作動原理を示したものである。図5(1)は上下階
に固定された装置の立面図を示しており、図5の(2)
のように、上下階の相対的水平運動(せん断変形)に対
して減衰抵抗力を発生する。ここでもし、建物全体の曲
げ変形が発生すると図5の(3)に示すように層間変位
の多くが装置の回転変形によって消費されることにな
り、装置抵抗力の発生に有効な相対的ずれ変形が小さく
なり、装置の効果が低下してしまう。これは粘性減衰壁
を例として説明したが、上下階間の水平相対変位差を利
用する減衰装置には全て共通するメカニズムであり、曲
げ変形モードを抑制し、水平せん断モードを卓越させる
ことが減衰装置を有効に作動させる重要なカギとなる。
【0032】図6の(1)は、曲げ変形が支配的となる
高層建物の変形モードを示している。この建物に本発明
を適用し例えば下層部5層の水平剛性を低下させた場
合、上層階に対して相対的に水平剛性の低い下層階の層
間変位が大きくなり、建物の変形モードは図6の(2)
のように変化する。下層階の水平剛性が低いため建物に
発生する層せん断力が小さくなり、その結果、上層階に
発生する応答加速度が抑制される。その結果、建物全体
の転倒モーメントが小さくなり、柱に発生する軸力が小
さくなるために、曲げ変形が小さくなり、水平層間変位
に占めるせん断変形成分の割合が大きくなり、減衰装置
の効き方が向上する。
【0033】本発明では、水平剛性を低下させた下層部
分に減衰装置が集中配置される。この部分は層間変位が
大きくなり、層間速度差の大きくなるために、粘性型・
粘弾性型および履歴型いずれのタイプの減衰装置にとっ
ても効果発現が大きくなる。各階の水平剛性が均一に設
計され、各階ほぼ同じ層間変位・層間速度差を生じる通
常の設計骨組みの全層に減衰装置を配置する従来の方法
は、減衰効果発現の効率が悪く、多くの減衰装置を必要
とする。
【0034】図6の(3)は、地震動作用時における本
発明による制震建物の効果を理解しやすく表現したもの
である。通常は、建物の変形を地盤を基準座標とみなし
て(2)のように表現しているが、地震動は地盤そのも
のが運動する現象であり、地震発生前の絶対座標系から
見ると、(3)に示すように本発明の建物は急激な地盤
の水平移動に対して下層部分の低剛性層が大きく変形し
地動に追従していく。これにより、建物上層部分は非常
に小さい移動で済むことになり、大きな加速度が発生せ
ず、地震力の発生も小さく抑えられることがわかる。
【0035】以上のとおり、本発明を中層以上の建物に
適用した場合、建物の水平変形モードがせん断変形型の
中層建物、あるいは曲げ変形卓越型の高層建物であって
も、いずれに対しても制震装置の効果発現が極めて効率
的になり、地震時応答加速度や層せん断力が小さく抑制
され、効果的な制震構造物を実現することができること
がわかる。
【0036】請求項1における第二の条件Ki≦(1.
0/n).Σwi(ton/cm)は、層数20層以上
の高層建物となった場合に、地震応答抑制効果をより高
める推奨条件として示したものである。実際の設計にお
いては、両条件を勘案しながら、本発明の制限範囲内で
できるだけ低剛性をめざすのが良い。
【0037】これまでに実現されている制震構造物で
は、制震装置によって付加されている減衰性能が1次モ
ードに対してh=10%程度ないしそれ以下のものが多
い。しかし、本発明者は、これまでの数多くの数値解析
等により、厳しい地震応答を効果的に抑制するために
は、1次モードに対する減衰性能がh=30±10%程
度(20%〜40%)が最も理想的な範囲であることを
割り出している。従って、本発明で建物下層部に集中配
置する制震装置は、1次モードに対してh=20%〜4
0%の減衰性能を付与することをめざし、少なくとも1
0%程度以上の減衰性能を付与することが必要と判断し
ている。本発明では、少なくとも2層以上(m≧2)の
低剛性層を前提としているため、最少の2層(=2)の
場合にはh=20%以上、m=4層でh=10%以上の
減衰性能を与えることを本発明の成立条件としたもので
ある。
【0038】請求項2は、本発明の制震構造物に採用す
る減衰装置の種類を規定したもので、性能発現に最も効
果が高い装置として、粘性型および粘弾性型の減衰装置
を採用する場合を示している。
【0039】また、性能発現からはやや効果がわるくな
るが、経済性や装置メーカーが多いことなどの現実的条
件からは、鋼材や鉛などを利用する金属材料の履歴ダン
パーあるいは摩擦ダンパーの採用も考えられる。この条
件を示したものが請求項3である。
【0040】請求項4は、本発明の制震構造物の成立条
件となる水平剛性の低い下層部分の構成方法を示したも
のである。通常、柱・梁等で鋼製される骨組み構造体
は、柱梁交差部を剛接合とすることを耐震設計の重要条
件としている。この固定観念に支配されている限り、本
発明の低剛性層を実現することは不可能と言わざるをえ
ない。本発明では、わが国で設計されている通常の建物
に較べてはるかに低い水平剛性を地震応答特性上最も理
想的な水平剛性の目標値と定め、これを実現するため
に、柱・梁接合部にふんだんにピン接合を導入する。ピ
ン接合位置は、通常梁端部の柱接合位置に設けるが、最
下層の柱下端は必要に応じてピン柱脚とする。
【0041】柱梁接合部において、完全なピン接合を構
成するのはかなり高価になる場合がり経済的条件により
採用困難な場合には、鉄骨梁のウエブのみをボルト接合
とするなどの疑似ピン接合を採用することも許容でき
る。この場合、請求項4に規定するとおり、接合部の曲
げ耐力を梁部材の曲げ耐力の1/2以下に制限すること
を本発明の条件とする。
【0042】以上、本発明による「複数低層階低剛性制
震構造(LSS制震構造)」の構成例を図7の(1)に
示す。この例は、14階建て建物において下層5層を低
剛性層とし、ここに制震装置として粘性減衰壁(制震
壁)を集中配置している。尚、この低剛性層以外の上層
には風応答の抑制効果や2次モードの抑制のために、若
干の制震装置を配置することもある。図7の(2)は、
その地震応答解析のための振動解析モデルの概念を示し
たものである。
【0043】図8(1)は、低剛性層を構成するため
に、梁端部や柱最下部の柱脚等に配置するピン接合部の
配置例を示したもので、図8(2)は、このピン接合導
入によって水平荷重に対しては梁が存在しないのと同じ
効果となり、水平剛性が低下することを示したものであ
る。
【0044】
【発明の効果】本発明の「LSS制震構造」の効果を示
すために、10階建て建物を例として在来耐震構造、
従来型制震構造、LSS制震構造の3構造で設計
し、3建物の地震応答解析を行い、その耐震安全性能を
比較する。3建物の建物諸元を表1に示す。比較的階数
の低い10階建てを選択した理由は、高層建物になるほ
ど固有周期が長くなり制震効果を発揮させるのは容易で
あり、固有周期が短い建物ほど高い制震効果を実現する
のが難しいからである。
【0045】
【表1】
【0046】建物は、各階重量1000(ton)の1
0階建て建物であり、在来耐震構造による1次固有周期
はTl=0.85秒である。建物の有する減衰定数はh
=3%としている。従来型制震構造は、建物各階にh=
20%相当の内部粘性減衰を付与したものとした。本発
明のLSS制震構造では、第1層から第5層までの水平
剛性を各階ki=200(t/cm)とした。これはK
i=0.02Σwi(1階)〜0.033Σwi(5
階)に相当し、本発明の条件0.01Σwi≦Ki≦
0.08Σwiを満足している。この低剛性層にh=3
0%相当の粘性減衰を付与しているが、その減衰係数の
絶対値は、従来型制震構造の32%(1階)〜41%
(5階)であり、しかも6階以上の上層部には減衰装置
が配置されていないので、建物全体の減衰装置(制震
壁)の量は、従来型制震構造の僅かに22%となってい
る。
【0047】図9に建物の振動モードを示す。(1)は
耐震構造および従来型制震構造の場合でその1次固有周
期はTl=0.85秒,(2)はLSS制震構造の振動
モードで下層部の低剛性層の影響によりTl=2.74
秒に固有周期が伸びている。
【0048】この3建物に、地震動が作用した場合の地
震応答解析結果を図10〜13に示す。入力地震動はE
L CENTRO(1940)地震動のNS成分とし、
その強さは最大入力速度Vmax=50cm/s最大加
速度はΛmax=511(cm/s)の場合である。
【0049】図10は、3建物各階の最大応答加速度を
示している。在来耐震構造の中層階以上では800ガル
〜1600ガルという極めて大きな加速度が生じるのに
対して、従来型制震構造では各階とも400ガル〜70
0ガル程度と在来耐震構造の約1/2に加速度が抑制さ
れている。しかし、本発明のLSS制震構造建物の応答
加速度は地盤面の500ガルから中層階へ向けて急激に
減少しており、中層階以上の加速度は150ガル程度と
免震建物ないしはそれ以上の圧倒的に優れた応答加速度
抑制効果が発揮されている。
【0050】図11は、各階の応答層間変位を示してい
る。LSS制震構造低層階の層間変位は4cm〜3cm
であり、低い水平剛性にも拘わらず階高4mに対して層
間変形角は1/100以下に収まっている。
【0051】図12は建物各階に発生する層せん断力、
図13は層せん断力係数を示している。在来耐震構造の
層せん断力は1階で9000(ton)、せん断力係数
で0.9であるの対して、従来型制震構造ではその約4
0%程度に低減されており、制震構造の効果が評価でき
る。しかし、LSS制震構造の1階の層せん断力は僅か
に800(ton)と在来耐震構造の1/10以下
(8.9%)であり、建物に作用する地震力が圧倒的に
小さくできることがしめされている。従って、LSS制
震構造を採用すれば、作用地震力が小さくなるため、構
造体骨組みの設計が容易となり、耐震安全性能が向上す
るのみでなく、経済的な設計も可能になることがわか
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】 在来耐震構造による建物構造体の構成方法 (1)純ラーメン構造骨組み (2)振動解析モデル概念図 (3)ブレース付きラーメン構造骨組み
【図2】 従来型制震構造建物の構成方法 (1)粘性減衰壁による制震構造の構成例 (2)従来型制震構造の振動解析モデル概念図 (3)履歴型ダンパーによる制震構造の構成例
【図3】 構造体骨組みの水平変形モード (1)せん断変形卓越型の変形モード (2)曲げ変形卓越型の変形モード
【図4】 本発明による水平変形モードの変化(せん
断変形卓越型骨組みの場合) (1)従来型骨組みでの水平変形モード (2)本発明の適用による水平変形モード
【図5】 減衰装置の作動原理(粘性減衰壁の場合) (1)粘性減衰壁の設置要領(立面図) (2)水平せん断変形による装置の作動と減衰性能の発
現 (3)回転変形による減衰装置の作動効果の低下
【図6】 本発明による水平変形モードの変化と効果
の説明(曲げ変形卓越型骨組みの場合) (1)従来型骨組みでの水平変形モード (2)本発明の適用による水平変形モード(地盤に固定
した座標系でみた変形) (3)同上水平変形モードの地震動作用時の意味(絶対
座標系でみた変形)
【図7】 本発明によるLSS制震構造の構成例 (1)粘性減衰壁によるLSS制震構造の構成例 (2)LSS制震構造の振動解析モデル概念図
【図8】 LSS制震構造の低剛性層の構成方法 (1)減衰装置の配置とピン接合位置の配置例 (2)梁端ピン接合による剛性低下効果の説明図
【図9】 10階建て設計例建物の振動モード (1)在来型耐震構造及び従来型制震構造骨組みの振動
モード (2)LSS制震構造骨組みの振動モード
【図10】 最大応答加速度の比較(入力 EL CE
NTRO NS Vmax=50cm/s)
【図11】 最大応答層間変位の比較(入力 EL C
ENTRO NS Vmax=50cm/s)
【図12】 最大応答層せん断力の比較(入力 EL
CENTRO NS Vmax=50cm/s)
【図13】 最大応答層せん断力係数の比較(入力 E
L CENTRO NS Vmax=50cm/s)
【符号の説明】
1:柱 2:床および
梁 3:ブレース 4:質点 5:ばね(構造体骨組みによる各階水平剛性のモデル) 6:ダッシュポット(減衰装置のモデル) 7:減衰装置(粘性減衰壁) 8:減衰装置
(履歴型ダンパー) 9:層間変位 10:水平変形モード(せん断変形卓越型) 11:水平変形モード(曲げ変形卓越型) 12:本発明LSS制震構造建物の水平変形モード(地
盤座標系でみた場合) 13:本発明LSS制震構造建物の水平変形モード(絶
対座標系でみた場合) 15:地動の動き 16:柱脚ピン接合部 19:梁端ピン接合による水平荷重に対する見かけ上の
階高上昇の説明図 20:梁端ピン接合部 22:減衰装置下側の床梁 23:減衰装
置上側の床梁 24:減衰装置下階の変位 25:減衰装
置上階の変位 29:梁端ピン接合による梁の水平剛性消失の説明図 31:在来型耐震構造・従来型制震構造建物の1次モー
ド 32:在来型耐震構造・従来型制震構造建物の2次モー
ド 33:在来型耐震構造・従来型制震構造建物の3次モー
ド 41:LSS制震構造建物の1次モード 42:LSS制震構造建物の2次モード 43:LSS制震構造建物の3次モード 51:在来型耐震構造建物の最大応答値 52:従来型制震構造建物の最大応答値 53:LSS制震構造建物の最大応答値 60:下層部の低剛性層範囲 71:粘性減衰壁の外壁鋼板 72:粘性減
衰壁の内壁鋼板 81:減衰装置取付用壁板 91:回転によって生じる層間変位 92:層間変
位の水平せん断成分 93:回転角θ
─────────────────────────────────────────────────────
【手続補正書】
【提出日】平成11年5月6日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正内容】
【書類名】 明細書
【発明の名称】 制震構造物
【特許請求の範囲】
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】1995年の阪神淡路大震災およ
びその1年前の米国ノースリッジ地震により、それまで
は安全性が高いと考えられていた鋼構造物において、鉄
骨柱が脆性破断したり、柱・梁接合部に多くの亀裂や破
断が発見され、鋼構造物の耐震安全性にも大きな問題点
が存在することが明らかとなった。本発明は、上記問題
を内包する鋼構造が採用されることが多い中層ないし高
層の建築構造物もしくは工作物などの耐震安全性を飛躍
的に高めることが可能な制震構造物の構成方法を提案す
るものである。本発明は、中層以上の建築構造物、特に
高層・超高層建築物を主たる対象としたものであるが、
各種の鉄塔やタワーなどの搭状構造物の耐震安全性向上
にも効果が大きく適用が推奨される。
【0002】
【従来技術】主として高層建築物の耐震・耐風安全性を
高める構造方法として、柱・梁、あるいはブレース等の
斜材等で構成される骨組み構造物に、鋼製ダンパーや粘
性ダンパーなど各種のエネルギー吸収装置を併用する制
震構造が開発・実用化されており、阪神大震災以降、高
層建築物に採用される事例が増加しつつある。
【0003】一方、より厳しい加速度応答に晒される中
低層建築物の耐震安全性向上対策としては、積層ゴム免
震装置を主とする各種の免震装置を用いる免震構造の採
用事例が増加しつつある。
【0004】免震構造は地盤と構造物の間に極端に水平
剛性の低い部分(免震層)を設けてそこに水平変形を集
中させて、構造物に投入される地震エネルギーを免震層
で集中的に吸収する方法であるのに対して、制震構造
は、建物内に投入された地震エネルギーを建物全体に分
散配置した減衰装置で分散吸収する方法である。また、
従来の耐震設計思想における柱や梁の構造部材の塑性変
形による履歴エネルギー吸収を、より信頼性の高いエネ
ルギー吸収装置に置き換えようという考え方で制震構造
を採用している設計者もいる。
【0005】構造技術の歴史的経緯としては、免震構造
の一形態として構造物の第一層の剛性を低くして柱梁の
塑性変形によるエネルギー吸収により優れた耐震安全性
が実現できるとする″The Soft First
Story″の概念が米国カリフォルニアで提案され、
オリーブビュー病院として実際に建設されたが、197
1年のサンフェルナンド地震において大被害を受け、鉄
筋コンクリートのような脆性部材では勿論、鋼構造部材
でもその大変形は許容できず、ソフトファーストソトー
リーは現実には成立しえないというのが一般的見解とな
った。その歴史的経緯を踏まえた上で、優れた耐震安全
性を実現できる方法として実用化されているのが、数十
センチメートル以上もの水平変形を許容できる積層ゴム
免震装置を主流とする現在の免震構造である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、既に実現さ
れている制震構造物の耐震性能を飛躍的に改善しようと
するもので、解決すべき課題はつぎの3点である。第一
課題は、制震構造物では免震構造建物に較べてかなり高
い応答加速度が生じることである。制震構造はかなり高
層の建物に採用される場合が多いので、中低層構造物よ
りも加速度応答は有利な条件下にあり、高層建物の中層
部以上では減衰装置の効果により応答加速度をかなり抑
制することが可能である。
【0007】しかし、建物の基礎は地盤と一体化されて
いるため、最下層は地盤と同じ加速度を強制され、低層
部の応答加速度は上層階に向かって次第に低減されてい
くことになる。これは1次固有周期が2秒以上ある高層
建物の場合で、周期が長い高層建物ほど有利となるが、
中低層建物の場合は周期1秒前後あるいはそれ以下の短
周期構造物となり、減衰性能を高めることによって上層
階の応答加速度の増幅は抑制できるものの、免震建物の
ように地盤加速度よりもはるかに小さく抑制することは
理論的にも不可能となる。
【0008】第二点は、免震構造に較べて高目の加速度
応答が生じるために、建物に発生する地震層せん断力も
大きくなり、骨組み構造体の経済的な耐震設計が困難と
なることである。建物に発生する層せん断力は下層ほど
大きな力となるので、特に下層階の層せん断力を小さく
抑制できれば経済的な設計が実現可能となる。従って、
制震構造の第二課題は低層階に発生する地震層せん断力
を小さく抑制できる方法である。
【0009】第3課題は、制震構造によって達成できる
耐震安全性能のレベルアップである。1995年の阪神
淡路大震災、1994年の米国ノースリッジ地震等近年
の地震災害では水平最大加速度が1000cm/s
後、最大速度は100cm/s前後あるいはそれ以上と
いう極めて強い地震動が観測されている。そのような強
い地震動に対して構造物を従来の耐震構造で損傷軽微に
設計することは不可能である。現実に設計されている免
震構造でも、そこまでの安全性能を達成しているものは
多くはないが、設計者の意志と工夫によっては十分達成
可能であり、現実に最大速度100cm/s以上の地震
動入力に対して無損傷設計を達成している例がある。
【0010】一方、阪神大震災以降、制震構造を採用し
ている高層建物が増加しており、従来構造に比較すれば
耐震性能が改善されているが、これまでの実例では設計
地震動の強さは、依然として最大速度50cm/sのま
まであり、最大速度100cm/sレベルの地震動に対
して無損傷という高い安全性を有する設訃は実現されて
いない。その第一の理由は、経済的制約の中では制震構
造といえどもこれまでの方法では設計不可能であるから
である。
【0011】以上、本発明が解決しようとする上記の3
課題をまとめると、これまでに実現されている制震構造
物において、在来耐震構造よりは優れているものの免震
構造物よりは一般に劣っている各階の加速度応答を改善
し、建物に発生する地震層せん断力を更に抑制して経済
的な設計を可能とし、近年の直下地震で観測されている
ような最大速度100cm/sレベルの極めて強い地震
動に対しても安全な中・高層建築物を実現できる制震構
造を実用化することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】従来の耐震構造において
は勿論、制震構造および免震構造においてもその構造体
骨組みの設計は、「できるだけ高い水平耐力を確保する
ことが高い耐震安全性を確保することになる」という基
本思想に基づいている。高い水平耐力の確保は必然的に
高い水平剛性の確保に繋がってくる。上部構造体の水平
剛性が高いことは、免震構造では、高次モードを抑制す
る効果があり、各階の応答加速度の抑制に効果がある。
また従来の耐震構造では、応答加速度や層せん断力を引
き上げるため、設計思想としては矛盾しているが、一般
の設計においては地震時の動的応答を無視し建物の加速
度応答を意に介しないため、その矛盾点が浮き彫りにな
ってこない。
【0013】一方、制震構造においては、構造体の水平
剛性を高めることは、耐震構造と同様に地震時の加速度
応答を高め、地震層せん断力を大きくすることに繋がる
ため、制震構造の採用によって地震応答を抑制しようと
いう基本思想と矛盾することになるが、どの設計者も建
物各階の水平剛性を積極的に低下させようとはしておら
ず、そもそも、「積極的に水平剛性そのものを設計す
る」という設計思想を有していない。それは、建物に作
用する地震力を一定に設定した上で建物の耐力を設計す
る静的震度法の設計手法に長年慣れ親しんできたために
「少しでも強い方が安全である筈だ」という思いこみに
束縛されているためである。
【0014】本発明は、地震応答を抑制するためには、
「地震応答を設計する」ことが必要であり、地震応答を
設計するためには、動的な地震応答を決定する「構造物
の剛性と減衰の両者を同時に設計しなければならない」
という基本思想に基づいている。そして、構造物の地震
応答を抑制するためには、免震構造のように極端に水平
剛性の低い層を設けて地盤と構造物を絶縁し、地盤の震
動が直接構造物に伝達されないようにすることが理想で
ある。しかし、現実の構造物設計では、建物の高層化や
その他の事由により免震構造の採用が不可能であり、柱
は地盤もしくは基礎構造体に固定せざるをえないという
条件に制約されることも多く、本発明はこのような制約
条件下での解決方法を提案するものである。
【0015】免震構造では地震動の作用によって免震層
に大きな水平変形が発生する。その変形量は地震動の強
さと免震層の性能によるが、最大速度50cm/s程度
の地震動では通常20cm〜30cm程度、最大速度1
00cm/s程度の地震動を想定すると40cm〜60
cm程度の水平変形が発生することになる。
【0016】基礎固定の建物で上部構造体の地震応答を
抑制しようとしたソフトファーストストーリーは、この
ような大変形を到底許容できず、厳しい地震動の洗礼を
受けて歴史から姿を消し、免震構造という形で初めて現
実のものとなったのは上述のとおりである。本発明は、
中高層建物など多層構造物の下層階を複数層利用するこ
とによって、ソフトファーストストーリーでは実現困難
であった大変形を許容できる制震構造物、いわば基礎固
定条件のままで免震構造物を構成しようとするものであ
る。ソフトファーストストーリーの概念を拡張発展させ
て多層構造物に適用可能として、免震構造物と同様の効
果を生み出すもので、本発明の構造方式を「複数低層階
低剛性制震構造(LSS制震構造(Lower Sof
t Stories)」と名付ける。
【0017】これまで、建物に発生する地震層せん断力
Qiを建物重量との関係で表現した層せん断力係数Ci
(=Qi/Σwi)の概念はあったが、建物剛性Kiを
建物の支持重量との関係で表現する概念は存在しなかっ
た。本発明では、建物各階の水平剛性Kiをその層以上
の建物重量Σwiの関数として表現する。即ち、Ki=
αXΣwiと表現し、α(=Ki/Σwi)を「水平剛
性係数」(Stiffness Coefficien
t)と命名する。本発明は、水平剛性係数αの概念を導
入し、αをある範囲に限定することによって、建物に発
生する層せん断力係数と応答加速度を制御可能としたも
のである。
【0018】因みに、最下層の水平剛性係数を「基本剛
性係数α」(Base Stiffness Coe
fficient)と名付けると、わが国のこれまでの
耐震構造の中低層建物では、鉄筋コンクリート造でα
≒0.3〜0.7程度、鉄骨造ではα≧0.15、高
層建物では鉄骨造でα=0.07〜0.15程度、コ
ンクリート系でα=0.10〜0.20程度、免震構
造の免震層はα=0.01〜0.001(多くはα
=0.005〜0.001)程度に設計されている。本
発明は、これまでの構造物には殆ど存在しない領域の水
平剛性係数α=0.10〜0.01の剛性を有し、且
つその低剛性部分に大きな減衰性能を付与した構造物と
することにより、これまでに存在しなかった高性能の制
震構造物を実現するものである。
【0019】
【実施例】以下、図面を参照しながら、本発明の実施例
について説明する。
【0020】図1は、従来の耐震構造による中高層建物
の概念図を示したもので、(1)は柱と梁を剛接合した
骨組み構造物でわが国では純ラーメン構造と呼ばれる最
も一般的な構造形式である。(3)はこれに耐震要素と
してのブレース(斜材)を組み合わせたもので、ブレー
スや耐震壁を組み合わすことにより、建物全体の水平剛
性と水平耐力を高めることができる。(2)は、これら
従来の耐震構造物の振動特性を表現するために、建物各
階の重量を床位置の質点に、骨組み各階の剛性を各質点
を結ぶバネとして簡明に表現したもので、多質点系のマ
スバネモデルと呼ばれるものである。
【0021】このような従来の多層骨組み構造物の各階
に、各種のダンパーと呼ばれるエネルギー吸収装置を組
み込んで、建物の減衰性能を高めたものがこれまでに実
用化されている制震構造物あるいは制振構造物と呼ばれ
る構造方式である。図2の(1)は壁形状の粘性減衰装
置「制震壁」を採用した例で、(3)は鋼製ダンパーな
どの履歴ダンパーや摩擦ダンパーを取付用壁板を介して
設置した例である。この他にもブレース材を利用してダ
ンパーを取り付けたものなどいくつかの設置方法が実用
化されている。(2)は、その振動モデルの概念を示し
たもので耐震構造の振動モデルにダンパーを表現するエ
ネルギー吸収要素が付加されている。
【0022】制震構造物用のダンパーとしては、鋼材や
鉛などを利用する金属の履歴ダンパー、摩擦ダンパー、
粘性材料やオイルなどの流体を利用する粘性ダンパー、
粘弾性材料を利用する粘弾性ダンパーなど各種の減衰装
置が開発されているが、どのような減衰装置を採用する
場合でも、これまでに実現されている上記の制震構造物
には以下の問題点が内在している。
【0023】その問題点をわかりやすくするために、構
造物の特性によりA・B2つのグループにわけて説明す
る。Aグループは、中低層の建物で、階数では通常15
階程度まで、1次固有周期が1.5秒程度以下の建物の
場合である。このような建物に地震力などの水平外力が
作用した場合、柱の伸縮に起因する各階の上下方向の変
位は小さく、図3の(1)に示すように各階は水平方向
に平行移動する変形モードを示す。この変形様式はせん
断変形が卓越する変形モードと言われる。
【0024】一方、建物の階数が高くなるに伴って、水
平外力が作用した時の柱の伸縮変形が大きくなり、この
柱の軸方向変形のために発生する水平変形が無視できな
くなる。この柱の伸縮によって発生する水平変形を曲げ
変形と呼び、図3の(2)に示すようにこの曲げ変形が
卓越する変形モードとなる建物をBグループとする。一
般には階数で20階建て以上、1次固有周期で2秒以上
の高層建物がこの変形モードとなりやすいが、それ以下
の中層建物でもペンシルビルのように細高い形状の場合
は曲げ変形卓越型となる場合がある。
【0025】Aグループは、通常周期1.5秒以下の短
周期構造物であるため、ベースシア係数C≧0.2で
設計されている。建物の階高をh=3m〜4m、設訃地
震力作用時の層間変形角をγ≦1/200とすると第1
層の水平剛性はK1≧(0.20〜0.1)・ΣWi
(t/cm)程度で設計されていることになる。2次設
計による保有水平耐力の要求条件を満足するために、現
実の設計ではK1≧0.2・ΣWi(t/cm)となっ
ている例が多い。
【0026】このような剛性を有する建物に大地震が作
用した場合、その応答層間変形角が階高の1/100以
下に抑制されたとしてもベースシア係数はC≧(0.
4〜0.6)となり、上層階には更に高い加速度が発生
するために、各階の応答加速度はAmax≧500(G
al)となり、現実の在来耐震構造では、容易に100
0(Gal)を上回り、制震構造を採用した場合でも5
00(Gal)以上〜1000(Gal)近傍の応答加
速度が発生すると覚悟しなければならない。
【0027】図4の(1)に示す上記の建物に対して、
本発明の請求項1では建物下層部の複数階の水平剛性を
0.01Σwi≦Ki≦0.10Σwi(ton/c
m)の範囲に限定する。そのため建物の変形モードは図
4の(2)に示すように変化する。実際の設計では、
の条件に対して少し余裕をもって、Ki=(0.04〜
0.02)xΣwi(t/cm)程度に設計するのが望
ましい。このように設計された階高h=3mの建物に大
地震が作用し、層間変形角γ=1/100程度の変形が
発生した場合の層せん断力係数はCi=Kixδ/Σw
i=0.06〜0.12となり、応答加速度が100
(Gal)前後に抑制されることになる。
【0028】請求項1の剛性設定により、建物に作用す
る地震層せん断力と各階の応答加速度は格段に抑制され
ることが判ったが、残された問題は各階に発生する層間
変形が許容値以内に抑制されることである。免震構造お
よびソフトファーストストーリーの概念は、この低剛性
層を1層のみとし、1層で全入力エネルギーを吸収しよ
うとするために、厳しい地震動入力に対しては数十cm
レベルの大きな水平変形が発生することになる。
【0029】これに対して本発明は、この低剛性層を複
数層設け、免震構造において免震層に発生する水平変形
を複数層で分割することによって1層の水平変形を小さ
くする。また、免震構造の水平剛性係数はα=0.0
1〜0.001(多くはα=0.005〜0.00
1)であるのに対して、本発明による制震構造の水平剛
性係数はα=0.10〜0.01の範囲に制限してい
る。即ち、免震層の10倍以上の水平剛性を確保して、
免震構造よりも発生変位をかなり小さく抑制できる条件
を導入した上で、この低剛性層に減衰装置を集中配置し
て大きなエネルギー吸収性能を付与している。
【0030】この免震構造より遙かに高剛性で且つ大減
衰による変位抑制効果、および発生変位を複数層で分割
することの2方法によって、過酷な地震動入力に対して
も層間変位を数cm程度以下に抑制することが可能とな
り、最大入力速度100cm/sレベルの過酷な地震動
に対しても安全な制震構造物を実現することが可能とな
る。
【0031】本発明は、図3の(2)に示すような建物
全体の変形モードが曲げ変形卓越型となる高層建物にお
いても優れた制震構造物を実現できる。図5は粘性減衰
壁の作動原理を示したものである。図5(1)は上下階
に固定された装置の立面図を示しており、図5の(2)
のように、上下階の相対的水平運動(せん断変形)に対
して減衰抵抗力を発生する。ここでもし、建物全体の曲
げ変形が発生すると図5の(3)に示すように層間変位
の多くが装置の回転変形によって消費されることにな
り、装置抵抗力の発生に有効な相対的ずれ変形が小さく
なり、装置の効果が低下してしまう。これは粘性減衰壁
を例として説明したが、上下階間の水平相対変位差を利
用する減衰装置には全て共通するメカニズムであり、曲
げ変形モードを抑制し、水平せん断モードを卓越させる
ことが減衰装置を有効に作動させる重要なカギとなる。
【0032】図6の(1)は、曲げ変形が支配的となる
高層建物の変形モードを示している。この建物に本発明
を適用し、例えば下層部5層の水平剛性を低下させた場
合、上層階に対して相対的に水平剛性の低い下層階の層
間変位が大きくなり、建物の変形モードは図6の(2)
のように変化する。下層階の水平剛性が低いため建物に
発生する層せん断力が小さくなり、その結果、上層階に
発生する応答加速度が抑制される。その結果、建物全体
の転倒モーメントが小さくなり、柱に発生する軸力が小
さくなるために、曲げ変形が小さくなり、水平層間変位
に占めるせん断変形成分の割合が大きくなり、減衰装置
の効き方が向上する。
【0033】本発明では、水平剛性を低下させた下層部
分に減衰装置が集中配置される。この部分は層間変位が
大きくなり、層間速度差が大きくなるために、粘性型・
粘弾性型および履歴型いずれのタイプの減衰装置にとっ
ても効果発現が大きくなる。これに対して各階の水平剛
性が均一に設計され、各階ほぼ同じ層間変位・層間速度
差を生じる通常の設計骨組みの全層に減衰装置を配置す
る従来の方法は、減衰効果発現の効率が悪く、多くの減
衰装置を必要とする。
【0034】図6の(3)は、地震動作用時における本
発明による制震建物の効果を理解しやすく表現したもの
である。通常は、建物の変形を地盤を基準座標とみなし
て(2)のように表現しているが、地震動は地盤そのも
のが運動する現象であり、地震発生前の絶対座標系から
見ると、(3)に示すように本発明の建物は急激な地盤
の水平移動に対して下層部分の低剛性層が大きく変形し
地動に追従していく。これにより、建物上層部分は非常
に小さい移動で済むことになり、大きな加速度が発生せ
ず、地震力の発生も小さく抑えられることがわかる。
【0035】以上のとおり、本発明を中層以上の建物に
適用した場合、建物の水平変形モードがせん断変形型の
中層建物、あるいは曲げ変形卓越型の高層建物であって
も、いずれに対しても制震装置の効果発現が極めて効率
的になり、地震時応答加速度や層せん断力が小さく抑制
され、効果的な制震構造物を実現することができること
がわかる。
【0036】請求項1における第二の条件Ki≦(1.
0/n)・Σwi(ton/cm)は、層数20層以上
の高層建物となった場合に、地震応答抑制効果をより高
める推奨条件として示したものである。実際の設計にお
いては、両条件を勘案しながら、本発明の制限範囲内で
できるだけ低剛性をめざすのが良い。
【0037】これまでに実現されている制震構造物で
は、制震装置によって付加されている減衰性能が1次モ
ードに対してh=10%程度ないしそれ以下のものが多
い。しかし、本発明者は、これまでの数多くの数値解析
等により、厳しい地震応答を効果的に抑制するために
は、1次モードに対する減衰性能がh=30±10%程
度(20%〜40%)が最も理想的な範囲であることを
割り出している。従って、本発明で建物下層部に集中配
置する制震装置は、1次モードに対してh=20%〜4
0%の減衰性能を付与することをめざし、少なくとも1
0%程度以上の減衰性能を付与することが必要と判断し
ている。請求項1の減衰性能に対する条件=「減衰定数
h≧50/m(%)且つh>10%」は、本発明は少な
くとも2層以上(m≧2)の低剛性層を前提としている
ため、最少の2層(=2)の場合にはh=25%以上、
m=3層でh=17%以上、m≧5層でも必ずh>10
%の減衰性能を与えることを本発明の成立条件としたも
のである。尚、この場合の減衰定数は、骨組み剛性と減
衰装置性能の和として実現される当該層の復元力特性
(履歴ループ)から求まる減衰定数を意味している。
【0038】請求項2は、本発明の制震構造物に採用す
る減衰装置の種類を規定したもので、性能発現に最も効
果が高い装置として、粘性型および粘弾性型の減衰装置
を採用する場合を示している。
【0039】また、性能発現からはやや効果がわるくな
るが、経済性や装置メーカーが多いことなどの現実的条
件からは、鋼材や鉛などを利用する金属材料の履歴ダン
パーあるいは摩擦ダンパーの採用も考えられる。この条
件を示したものが請求項3である。
【0040】本発明の制震構造物の成立条件となる水平
剛性の低い下層部分を構成する方法について以下に説明
する。通常、柱・梁等で鋼製される骨組み構造体は、柱
・梁交差部を剛接合とすることを耐震設計の重要条件と
している。この固定観念に支配されている限り、本発明
の低剛性層を実現することは不可能と言わざるをえな
い。本発明では、わが国で設計されている通常の建物に
較べてはるかに低い水平剛性を地震応答特性上最も理想
的な水平剛性の目標値と定め、これを実現するために、
柱・梁接合部にふんだんにピン接合を導入する。ピン接
合位置は、通常梁端部の柱接合位置に設けるが、最下層
の柱下端は必要に応じてピン柱脚とする。
【0041】柱梁接合部において、完全なピン接合を構
成するのはかなり高価になる場合がり経済的条件により
採用困難な場合には、鉄骨梁のウエブのみをボルト接合
とするなどの疑似ピン接合を採用することも許容でき
る。
【0042】以上、本発明による「複数低層階低剛性制
震構造(LSS制震構造)」の構成例を図7の(1)に
示す。この例は、14階建て建物において下層5層を低
剛性層とし、ここに制震装置として粘性減衰壁(制震
壁)を集中配置している。尚、この低剛性層以外の上層
には風応答の抑制効果や2次モードの抑制のために、若
干の制震装置を配置することもある。図7の(2)は、
その地震応答解析のための振動解析モデルの概念を示し
たものである。
【0043】図8(1)は、低剛性層を構成するため
に、梁端部や柱最下部の柱脚等に配置するピン接合部の
配置例を示したもので、図8(2)は、このピン接合導
入によって水平荷重に対しては梁が存在しないのと同じ
効果となり、水平剛性が低下することを示したものであ
る。
【0044】
【発明の効果】本発明の「LSS制震構造」の効果を示
すために、10階建て建物を例として在来耐震構造、
従来型制震構造、LSS制震構造の3構造で設計
し、3建物の地震応答解析を行い、その耐震安全性能を
比較する。3建物の建物諸元を表1に示す。比較的階数
の低い10階建てを選択した理由は、高層建物になるほ
ど固有周期が長くなり制震効果を発揮させるのは容易で
あり、固有周期が短い建物ほど高い制震効果を実現する
のが難しいからである。
【0045】
【表1】
【0046】建物は、各階重量1000(ton)の1
0階建て建物であり、在来耐震構造による1次固有周期
はT1=0.85秒である。建物の有する減衰定数はh
=3%としている。従来型制震構造は、建物各階にh=
20%相当の内部粘性減衰を付与したものとした。本発
明のLSS制震構造では、第1層から第5層までの水平
剛性を各階ki=200(t/cm)とした。これはK
i=0.02Σwi(1階)〜0.033Σwi(5
階)に相当し、本発明の条件0.01Σwi≦Ki≦
0.08Σwiを満足している。この低剛性層にh=3
0%相当の粘性減衰を付与しているが、その減衰係数の
絶対値は、従来型制震構造の3割〜4割(1階で0.3
2〜5階で0.41)に過ぎず、しかも6階以上の上層
部には減衰装置が配置されていないので、建物全体の減
衰装置(制震壁)の量は、従来型制震構造の僅かに1/
5程度(=22%)になっている。
【0047】図9に建物の振動モードを示す。(1)は
耐震構造および従来型制震構造の場合でその1次固有周
期はT1=0.85秒,(2)はLSS制震構造の振動
モードで下層部の低剛性層の影響によりT1=2.74
秒に固有周期が伸びている。
【0048】この3建物に、地震動が作用した場合の地
震応答解析結果を図10〜13に示す。入力地震動はE
L CENTRO(1940)地震動のNS成分とし、
その強さは最大入力速度Vmax=50cm/s最大加
速度はAmax=511(cm/s)の場合である。
【0049】図10は、3建物各階の最大応答加速度を
示している。在来耐震構造の中層階以上では800ガル
〜1600ガルという極めて大きな加速度が生じるのに
対して、従来型制震構造では各階とも400ガル〜70
0ガル程度と在来耐震構造の約1/2に加速度が抑制さ
れている。しかし、本発明のLSS制震構造建物の応答
加速度は地盤面の500ガルから中層階へ向けて急激に
減少しており、中層階以上の加速度は150ガル程度と
免震建物ないしはそれ以上の圧倒的に優れた応答加速度
抑制効果が発揮されている。
【0050】図11は、各階の応答層間変位を示してい
る。LSS制震構造低層階の層間変位は4cm〜3cm
であり、低い水平剛性にも拘わらず階高4mに対して層
間変形角は1/100以下に収まっている。
【0051】図12は建物各階に発生する層せん断力、
図13は層せん断力係数を示している。在来耐震構造の
層せん断力は1階で9000(ton)、せん断力係数
で0.9であるの対して、従来型制震構造ではその約4
0%程度に低減されており、制震構造の効果が評価でき
る。しかし、LSS制震構造の1階の層せん断力は僅か
に800(ton)と在来耐震構造の1/10以下
(8.9%)であり、建物に作用する地震力が圧倒的に
小さくできることが示されている。従って、LSS制震
構造を採用すれば、作用地震力が小さくなるため、耐震
安全性能が向上するのみでなく、構造体骨組みと減衰装
置の両者が経済的に設計できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 在来耐震構造による建物構造体の構成方法 (1)純ラーメン構造骨組み (2)振動解析モデル概念図 (3)ブレース付きラーメン構造骨組み
【図2】 従来型制震構造建物の構成方法 (1)粘性減衰壁による制震構造の構成例 (2)従来型制震構造の振動解析モデル概念図 (3)履歴型ダンパーによる制震構造の構成例
【図3】 構造体骨組みの水平変形モード (1)せん断変形卓越型の変形モード (2)曲げ変形卓越型の変形モード
【図4】 本発明による水平変形モードの変化(せん
断変形卓越型骨組みの場合) (1)従来型骨組みでの水平変形モード (2)本発明の適用による水平変形モード
【図5】 減衰装置の作動原理(粘性減衰壁の場合) (1)粘性減衰壁の設置要領(立面図) (2)水平せん断変形による装置の作動と減衰性能の発
現 (3)回転変形による減衰装置の作動効果の低下
【図6】 本発明による水平変形モードの変化と効果
の説明(曲げ変形卓越型骨組みの場合) (1)従来型骨組みでの水平変形モード (2)本発明の適用による水平変形モード(地盤に固定
した座標系でみた変形) (3)同上水平変形モードの地震動作用時の意味(絶対
座標系でみた変形)
【図7】 本発明によるLSS制震構造の構成例 (1)粘性減衰壁によるLSS制震構造の構成例 (2)LSS制震構造の振動解析モデル概念図
【図8】 LSS制震構造の低剛性層の構成方法 (1)減衰装置の配置とピン接合位置の配置例 (2)梁端ピン接合による剛性低下効果の説明図
【図9】 10階建て設計例建物の振動モード (1)在来型耐震構造及び従来型制震構造骨組みの振動
モード (2)LSS制震構造骨組みの振動モード
【図10】 最大応答加速度の比較 (入力 EL
CENTRO NSVmax=50cm/s)
【図11】 最大応答層間変位の比較 (入力 EL
CENTRO NSVmax=50cm/s)
【図12】 最大応答層せん断力の比較(入力 EL
CENTRO NSVmax=50cm/s)
【図13】 最大応答層せん断力係数の比較(入力 E
L CENTRO NSVmax=50cm/s)
【符号の説明】 1:柱 2:床および梁 3:ブレース 4:質点 5:ばね(構造体骨組みによる各階水平剛性のモデル) 6:ダッシュポット(減衰装置のモデル) 7:減衰装置(粘性減衰壁) 8:減衰装置
(履歴型ダンパー) 9:層間変位 10:水平変形モード(せん断変形卓越型) 11:水平変形モード(曲げ変形卓越型) 12:本発明LSS制震構造建物の水平変形モード(地
盤座標系でみた場合) 13:本発明LSS制震構造建物の水平変形モード(絶
対座標系でみた場合) 15:地動の動き 16:柱脚ピン接合部 19:梁端ピン接合による水平荷重に対する見かけ上の
階高上昇の説明図 20:梁端ピン接合部 22:減衰装置下側の床梁 23:減衰装
置上側の床梁 24:減衰装置下階の変位 25:減衰装
置上階の変位 29:梁端ピン接合による梁の水平剛性消失の説明図 31:在来型耐震構造・従来型制震構造建物の1次モー
ド 32:在来型耐震構造・従来型制震構造建物の2次モー
ド 33:在来型耐震構造・従来型制震構造建物の3次モー
ド 41:LSS制震構造建物の1次モード 42:LSS制震構造建物の2次モード 43:LSS制震構造建物の3次モード 51:在来型耐震構造建物の最大応答値 52:従来型制震構造建物の最大応答値 53:LSS制震構造建物の最大応答値 60:下層部の低剛性層範囲 71:粘性減衰壁の外壁鋼板 72:粘性減
衰壁の内壁鋼板 81:減衰装置取付用壁板 91:回転によって生じる層間変位 92:層間変
位の水平せん断成分 93:回転角θ

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 柱・梁・ブレース・耐震壁などで構成さ
    れる建築物・土木構造物・工作物などの構造物で3層以
    上を有するn層の多層構造物において、下層部分のm層
    (2≦m≦(n/2))部分の水平剛性Kiをその直上
    階の水平剛性よりも低く、且つその層が支える上部の重
    量(その層以上の層重量の累計重量)Σwi(ton)
    に対して、0.01Σwi≦Ki≦0.10Σwi(t
    on/cm)、若しくは0.01Σwi≦Ki≦(1.
    0/n)・Σwi(ton/cm)の範囲となるように
    構成し、その低層部の低剛性層に減衰定数h≧40/m
    (%)となるように減衰装置を配置したことを特徴とす
    る制震構造物。
  2. 【請求項2】 上記請求項1の構造物に配置する減衰装
    置に、粘性減衰壁、オイルダンパー等の粘性減衰装置、
    もしくは高減衰ゴム、各種高分子材料で構成される粘弾
    性材料を主体とする粘弾性減衰装置を採用していること
    を特徴とする制震構造物。
  3. 【請求項3】 上記請求項1の構造物に配置する減衰装
    置に、低降伏点鋼やその他の鋼材を主体として構成した
    鋼製ダンパー、鉛を主たるエネルギー吸収材料として用
    いた鉛ダンパー、摩擦を利用する摩擦ダンパー等を採用
    していることを特徴とする制震構造物。
  4. 【請求項4】 上記請求項1の制震構造物を構成する骨
    組み構造体において、下層部分の低い水平剛性を実現す
    るために、柱脚部、柱・梁接合部の梁端部に曲げモーメ
    ントを伝達せず回転自在のピン接合、若しくは伝達でき
    る曲げモーメントが梁部材の曲げ耐力の1/2以下の接
    合方法を、部材接合部の全部もしくは一部に混在させて
    いることを特徴とする制震構造物。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2010261240A (ja) * 2009-05-08 2010-11-18 Shimizu Corp 既存高層建物の制震改修工法
CN102002987A (zh) * 2010-11-15 2011-04-06 沈阳建筑大学 内藏加强肋的开孔式双层钢板耗能墙系统
JP2012117327A (ja) * 2010-12-02 2012-06-21 Shimizu Corp 制振構造
JP2015055267A (ja) * 2013-09-10 2015-03-23 株式会社竹中工務店 中間免震構造物
CN107217751A (zh) * 2017-06-03 2017-09-29 福州大学 用于隔震层的变刚度抗风支座及其安装方法
CN107916722A (zh) * 2016-10-25 2018-04-17 广东省建筑设计研究院 一种用于高烈度地区的框架结构体系

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