JPH11229062A - 摺動部材およびその製造方法 - Google Patents

摺動部材およびその製造方法

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JPH11229062A
JPH11229062A JP2880298A JP2880298A JPH11229062A JP H11229062 A JPH11229062 A JP H11229062A JP 2880298 A JP2880298 A JP 2880298A JP 2880298 A JP2880298 A JP 2880298A JP H11229062 A JPH11229062 A JP H11229062A
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JP2880298A
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Katsuyoshi Kondo
勝義 近藤
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Sumitomo Electric Industries Ltd
Original Assignee
Sumitomo Electric Industries Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 耐摩耗性および耐焼付性に優れ、ブリスタの
発生が抑制された摺動部材とその製造方法を提供する。 【解決手段】 摺動部材は、金属板と、その金属板上に
形成された焼結アルミニウム合金とを備えている。焼結
アルミニウム合金は、シリコンと1重量%20重量%以
下の窒化アルミニウムとを含んでいる。また、シリコン
とその窒化アルミニウムとを合せた含有量は35重量%
以下である。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は摺動部材およびその
製造方法に関し、特に、アルミニウム合金粉末を窒素ガ
スの雰囲気中で加熱および焼結することにより直接窒化
反応によって窒化アルミニウムを生成および分散させる
とともに、焼結アルミニウム合金中に潤滑油の溜りとな
る空孔を適正量形成し、さらに、潤滑成分を含有するこ
とにより、耐摩耗性および耐熱性に優れた焼結アルミニ
ウム合金を金属板製裏金に接合した、焼結アルミニウム
合金と金属板とを備えた摺動部材とその製造方法に関す
るものであり、自動変速機用摺動部品や軸受などの潤滑
油が使用される環境下のもとで適用でき、特に、裏金の
材質を高熱伝導性材料に選定することによって自動車、
自動二輪、スノーモービル、水上バイク等に用いられる
内燃機関用アルミニウム合金製シリンダライナーに適用
できる摺動部材およびその製造方法に関するものであ
る。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】従来
の摺動部材およびその製造方法については、たとえば、
「多層摺動材料およびその製造方法」(特公昭55−2
441号)、「複合めっき皮膜付摺動材料」(特開平4
−325697号)、「耐摩耗性に優れたアルミニウム
合金軸受およびその製造方法」(特開平5−33236
4号)、「低剛性ハウジング用アルミニウム合金軸受お
よびその製造方法」(特開平6−104874号)など
がある。これらはいずれも鋼を主とした裏金に焼結アル
ミニウム合金を接合させた多層摺動部材である。この多
層摺動部材の問題点として、鉛(Pb)やカドミウム
(Cd)などの低融点金属を潤滑成分として含有するこ
とによる環境上の問題がある。また、セラミックス系の
硬質粒子のみを多量に含有することによって耐摩耗性の
改善を図っているが、摺動時にその硬質粒子が摺動面か
ら脱落するために、かえって相手攻撃性や耐摩耗性およ
び耐焼付性が低下するといった問題がある。
【0003】このため、高速および高荷重が付与される
過酷な環境下において使用される摺動部品へ、このよう
な多層摺動部材を適用することは困難である。特に、内
燃機関用シリンダライナーでは、高速および高荷重に加
えて、相手材との摺動界面における潤滑油膜が十分に形
成されないような使用環境が生じ得ることから、従来の
焼結アルミニウム合金を用いた多層摺動部材では十分な
耐摩耗性、耐焼付性および耐熱性を有することは極めて
困難である。
【0004】一方、アルミニウム合金の耐摩耗性および
耐熱性を向上するために、急冷凝固法により得られる微
細組織を有した焼結アルミニウム合金を適用した摺動部
材が、シリンダライナー用摺動部材として実用化できる
可能性が見出された。たとえば、「耐熱性、耐摩耗性、
高靱性Al−Si系合金およびそれを使用したシリンダ
ライナー」(特公平6−21309号)、「焼結アルミ
ニウム合金製摺動部材」(特開平1−255641号)
などでは、特殊な合金組成を有するアルミニウム合金粉
末に、微細で球状に近いアルミナ硬質粒子と潤滑成分と
しての黒鉛粉末を混合および添加し、熱間押出法によっ
て形成した内燃機関用シリンダライナー材を提案してい
る。また、「エンジン用シリンダブロックの製造方法」
(特開平1−271053号)では、焼結アルミニウム
合金製シリンダライナーをシリンダブロック本体に鋳込
む方法を提案している。しかしながら、アルミニウム低
圧鋳造法やアルミニウム重力鋳造法により、たとえば、
AC8AやAC8B合金製エンジンブロック本体にシリ
ンダライナーを鋳込む場合には、シリンダライナーは5
00℃を越える高温の下にさらされる。このとき、従来
のアルミニウム合金製シリンダライナーでは次のような
2つの問題が生じた。その1つは、シリンダライナーに
用いるアルミニウム合金の耐熱性が不足するために、エ
ンジンブロック本体に鋳込んだ後のシリンダライナーの
強度や耐摩耗性が低下した。その結果、シリンダライナ
ーとして実際の使用に耐えることができず、たとえば、
使用中に相手材であるピストンやピストンリングとの焼
付(凝着)現象やかじり現象といった問題が生じた。も
う1つの問題としては、ブリスタ(気泡)の問題があ
る。これは、シリンダライナーをエンジンブロック本体
に鋳込む際に、シリンダライナーがアルミニウム溶湯と
直接接触し、500℃を越える高温の下に長時間さらさ
れるために、シリンダライナーの内部から発生するガス
によりエンジンブロックと接するシリンダライナーの表
面に気泡が生じて、発泡した状態となる現象である。こ
のブリスタの発生によって、シリンダライナーの機械的
特性や摩擦摺動特性が低下した。このブリスターの発生
に対しては、シリンダライナーの表面をアルミニウム合
金シースで覆うといった2層構造のシリンダライナーの
適用も有効である。しかしながら、新たな工程の追加に
よる経済性の問題や、シリンダライナーが肉厚となるた
めに、エンジンブロックの大型化といった問題が生じ
た。
【0005】本発明は、上記問題点を解決するためにな
されたものであり、耐摩耗性、耐焼付性および耐熱性に
優れるとともに、ブリスターの発生が抑制された摺動部
材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】発明の構成 本発明者らは種々の実験および検討を行なった結果、耐
摩耗性、耐焼付性および耐熱性に優れた焼結アルミニウ
ム合金を金属板裏金上に接合させた摺動部材を発明し
た。さらに、この摺動部材を円筒形状に成形することに
より内燃機関用シリンダライナーを作製した。そのシリ
ンダライナーでは、アルミニウム合金製エンジンブロッ
ク本体に鋳込んだ際においても、ブリスターが発生せ
ず、強度、耐摩耗性および耐熱性に優れていることが判
明した。本発明に係る摺動部材およびその製造方法の構
成内容を以下に示す。
【0007】本発明の1つの局面における摺動部材は、
金属板と、その金属板上に形成された焼結アルミニウム
合金とを備えた摺動部材であって、焼結アルミニウム合
金はシリコンと1重量%以上20重量%以下の窒化アル
ミニウムとを含み、そのシリコンと窒化アルミニウムと
を合せた含有量が35重量%以下である。
【0008】好ましくは、金属板と焼結アルミニウム合
金との間の金属板の表面に、ニッケル、錫、銅、亜鉛、
コバルトおよび銀からなる群から選ばれる1つのめっき
層を有している。
【0009】好ましくは、焼結アルミニウム合金の熱膨
張率と金属板の熱膨張率との差が、7×10-6/℃以下
である。
【0010】好ましくは、焼結アルミニウム合金は0.
3重量%以上7重量%以下の窒素を含み、その窒素は窒
化アルミニウムとして焼結アルミニウム合金中に存在し
ている。
【0011】好ましくは焼結アルミニウム合金の空孔率
は3容積%以上45容積%以下である。
【0012】好ましくは、窒化アルミニウムは焼結アル
ミニウム合金の旧粉末粒界に、厚さ3μm以下の皮膜と
して分散して存在している。
【0013】好ましくは、焼結アルミニウム合金は、
0.05重量%以上のマグネシウムを含んでいる。
【0014】好ましくは、焼結アルミニウム合金は、潤
滑成分として、黒鉛、硫化モリブデン、硫化タングステ
ンおよびフッ化カルシウムからなる群から選ばれる少な
くとも1つの潤滑成分を含有するとともに、その含有量
が10重量%以下である。
【0015】好ましくは、金属板は、焼結アルミニウム
合金を焼結する際の温度よりも高い融点を有している。
【0016】好ましくは、金属板は、アルミニウム、
銅、鉄、チタンおよびそれらの合金からなる群から選ば
れる少なくとも1つの金属からなる。
【0017】好ましくは、金属板はアルミニウム合金か
らなり、そのアルミニウム合金の熱伝導率が150W/
mK以上である。
【0018】好ましくは焼結アルミニウム合金は、シリ
コン、鉄、ニッケル、クロム、マンガンおよびジルコニ
ウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含
有するとともに、その含有量が35重量%以下である。
【0019】好ましくは、焼結アルミニウム合金は、酸
化チタン、酸化ジルコニウム、酸化シリコン、酸化マグ
ネシウム、酸化アルミニウムおよび酸化クロムからなる
群から選ばれる少なくとも1つの酸化物を含有するとと
もに、その含有量が5重量%以下である。
【0020】好ましくは、摺動部材はシリンダライナー
である。好ましくは、焼結アルミニウム合金は、20重
量ppm以下の水素を含んでいる。
【0021】本発明の他の局面における摺動部材の製造
方法は、以下の工程を備えている。所定寸法の金属板を
挿入するための凹部が設けられた型を用いて、金属板を
その型の凹部の底に挿入する。金属板上の型内に、アル
ミニウム合金粉末を充填する。アルミニウム合金粉末が
充填された型を、温度500℃以上の窒素ガスの雰囲気
中にて加熱および保持することにより、焼結アルミニウ
ム合金を生成するとともに、その焼結アルミニウム合金
中に窒化アルミニウムを生成し、かつ、焼結アルミニウ
ム合金と金属板とを拡散接合する。
【0022】好ましくは、焼結工程の後、焼結アルミニ
ウム合金の温度が300℃以下に下がってから型を大気
中に搬出する工程を含んでいる。
【0023】好ましくは、金属板を型に挿入する工程の
前に、その金属板の表面に、ニッケル、錫、銅、亜鉛、
コバルトおよび銀からなる群から選ばれる1つのめっき
層を形成する工程を含んでいる。
【0024】好ましくは、アルミニウム合金粉末を充填
する工程の前に、アルミニウム合金粉末に、潤滑成分と
して、黒鉛、硫化モリブデン、硫化タングステンおよび
フッ化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1
つの潤滑成分を混合する工程を含んでいる。
【0025】好ましくは、アルミニウム合金粉末を充填
する工程の前に、アルミニウム合金粉末に、酸化チタ
ン、酸化ジルコニウム、酸化シリコン、酸化マグネシウ
ム、酸化アルミニウムおよび酸化クロムからなる群から
選ばれる1つの酸化物を混合する工程を含んでいる。
【0026】好ましくは、型として、焼結工程におい
て、アルミニウム合金粉末および金属板と金属結合また
は拡散接合しない型を用いる。
【0027】好ましくは、型として、カーボン、超硬合
金およびおよびセラミックスからなる群から選ばれるい
ずれかの材料からなる型を用いる。
【0028】好ましくは、アルミニウム合金粉末を充填
する工程と焼結工程との間に、アルミニウム合金粉末を
加圧する工程を含んでいる。
【0029】好ましくは、焼結工程において、焼結時の
窒素ガスの雰囲気の露点は10℃以下である。
【0030】好ましくは、型を搬出する工程の後、焼結
アルミニウム合金に圧力を加えることにより、焼結アル
ミニウム合金の空孔率を3容積%以上45容積%以下に
する加圧工程を含んでいる。
【0031】好ましくは、その加圧工程の後、温度45
0℃以上の不活性ガスもしくは還元性のガス雰囲気中ま
たは真空中にて、金属板および焼結アルミニウム合金を
加熱する工程を含んでいる。
【0032】好ましくは、金属板として矩形状の金属板
を用い、焼結アルミニウム合金が内側になるように、摺
動部材を円筒状に曲げ成形する工程と、円筒状に成形さ
れた摺動部材の継目を溶接することにより、シリンダラ
イナーを形成する工程とを含んでいる。
【0033】次に、上述した構成の作用および効果につ
いて以下に記載する。焼結アルミニウム合金中の窒化ア
ルミニウム(AlN)およびシリコンの作用および効果
従来、焼結アルミニウム合金の耐熱性を改善する方法と
して、鉄、ニッケル、クロムなどの遷移系金属元素を溶
湯段階でアルミニウム中に添加したアトマイズ粉末を作
製する方法がある。この方法では、アルミニウム合金中
に生成および分散した遷移元素とアルミニウムとの微細
な金属間化合物が耐熱性に優れていることから、焼結ア
ルミニウム合金の耐熱性を向上することができるのであ
る。しかしながら、300℃を越えるような環境下で
は、金属間化合物が粗大化するために焼結アルミニウム
合金の耐熱性が低下する。また、耐摩耗性を改善するた
めにアルミニウム素地中に分散させるシリコンについて
も、300℃を越える環境下では、耐熱性の改善を十分
に図ることができない。このため、従来の焼結アルミニ
ウム合金では、十分な耐熱性および耐摩耗性を得ること
は困難であった。
【0034】そこで、本発明に係る摺動部材に用いられ
る焼結アルミニウム合金では、窒化アルミニウム(Al
N)を焼結アルミニウム合金中に生成および分散させて
いる。窒化アルミニウムは、500℃を越える高温に対
しても熱的に安定である。このため、従来の焼結アルミ
ニウム合金に比べて、本焼結アルミニウム合金では、優
れた耐熱性および耐摩耗性を発現できることを見出し
た。また、シリコンを含有することにより、焼結アルミ
ニウム合金の耐摩耗性をさらに改善できる効果があるこ
とを見出した。本焼結アルミニウム合金では、従来の粉
末冶金技術にあるように、窒化アルミニウムを粉末(粒
子)として、アルミニウム合金粉末と混合して焼結アル
ミニウム合金中に分散させるのではなく、アルミニウム
合金粉末中のアルミニウム成分と窒素ガスとを500℃
を越える温度の下で反応させることによって、窒化アル
ミニウムをアルミニウム合金中に生成および分散させて
いる。
【0035】その窒化アルミニウムとシリコンの含有量
として、焼結アルミニウム合金全体に対して、窒化アル
ミニウムの含有量は1重量%以上20重量%以下であ
り、かつ、窒化アルミニウムとシリコンとを合せた含有
量が35重量%以下であることが必要である。つまり、
窒化アルミニウムの含有量が1重量%に満たない場合に
は、焼結アルミニウム合金の十分な耐熱性および耐摩耗
性が得られない。一方、窒化アルミニウムの含有量が2
0重量%を越える場合、または、窒化アルミニウムとシ
リコンとを合せた含有量が35重量%を越える場合に
は、焼結アルミニウム合金の耐熱性および耐摩耗性は大
きく向上することはなく、かえって相手材を攻撃すると
いった問題が生じる。また、窒化アルミニウムの生成の
ための窒化反応の時間に長時間を要し経済性の問題が生
じる。
【0036】なお、直接窒化反応法により適正範囲量の
窒化アルミニウムを生成させるためには、アルミニウム
合金粉末中のアルミニウム成分と反応させるために必要
な窒素量として、焼結アルミニウム合金中に0.3重量
%以上7重量%以下の窒素を含有していることが必要で
ある。つまり、窒素の含有量が0.3重量%未満では1
重量%以上の窒化アルミニウムを生成することができな
い。また、窒素の含有量が7重量%を越えると、20重
量%を越える窒化アルミニウムが生成する。
【0037】直接窒化反応法による窒化アルミニウム
(AlN)の特徴と製法 従来の粉末冶金技術によれば、窒化アルミニウム粒子を
添加して得られる窒化アルミニウム分散型焼結アルミニ
ウム合金では、窒化アルミニウム粒子とアルミニウム合
金素地との接触界面には隙間がある。窒化アルミニウム
粒子は素地中に機械的に拘束された状態であるために、
耐熱性の改善効果が少なく、相手材と摩耗および摺動す
る場合に、その窒化アルミニウム粒子が脱落して焼付現
象やかじり現象といった問題が発生する。
【0038】これに対して、本発明の摺動部材に用いら
れる焼結アルミニウム合金においては、焼結過程におい
て、窒化アルミニウムはアルミニウム合金粉末中のアル
ミニウム成分と直接窒化反応して、焼結アルミニウム合
金中の旧粉末粒界に皮膜形状として生成および分散す
る。このため、窒化アルミニウムとアルミニウム合金素
地との接触界面には隙間はなく、窒化アルミニウムはア
ルミニウム素地と結合した構造を有することで強固にア
ルミニウム素地と密着しており、その結果、焼結アルミ
ニウム合金の耐熱性、耐摩耗性および耐焼付性が大幅に
向上する。
【0039】また、直接窒化反応を利用して焼結アルミ
ニウム合金中に生成する窒化アルミニウムは、従来の方
法によって得られた窒化アルミニウムと組織構造が大き
く異なる。具体的には、直接窒化反応法により生成した
窒化アルミニウムでは、その過程において、窒化アルミ
ニウムは圧粉体中のアルミニウム合金粉末の表面から一
方向に繊維状あるいは樹枝状に成長し、その結果、層状
構造の皮膜としてアルミニウム合金中に生成および分散
する。一方、従来の窒化アルミニウム粒子分散型焼結ア
ルミニウム合金では、単結晶構造を有した窒化アルミニ
ウム粒子が分散している。発明者らは、直接窒化反応法
によって生成した窒化アルミニウムは、繊維状あるいは
樹枝状の組織構造を有することにより、従来の方法によ
って得られた窒化アルミニウム粒子に比べて、優れた摺
動性を有していることを見出した。直接窒化反応によっ
て生成した窒化アルミニウムでは、樹枝状に成長する方
向を窒化アルミニウムの厚さ方向とすると、窒化アルミ
ニウムの厚さは3μm以下であることが望ましく、より
好ましくは1μm以下である。すなわち、窒化アルミニ
ウムの厚さが3μmを越える場合には、焼結アルミニウ
ム合金の被削性や靱性が低下する問題が生じる。特に、
被削性の観点からは、窒化アルミニウムの厚さは1μm
以下であることがより好ましい。
【0040】なお、直接窒化反応を促進させるために
は、原料粉末であるアルミニウム合金粉末中にマグネシ
ウムを0.05重量%以上含有する必要がある。アルミ
ニウム合金粉末中のマグネシウムは、焼結過程で400
℃を越えるとアルミニウム合金粉末の表面を覆う酸化ア
ルミニウムの皮膜を還元反応により分解する効果を有し
ている。その結果、窒素ガスと粉末中のアルミニウムの
成分とが反応して容易に窒化アルミニウムを生成するこ
とができる。したがって、直接窒化反応を促進させるた
めには、マグネシウムは必須の添加元素であり、しかも
その含有量としては0.05重量%以上必要である。反
対に、マグネシウムの含有量が0.05重量%未満の場
合には、マグネシウムによる還元反応が十分に生じない
ために、焼結アルミニウム合金中に所定量の窒化アルミ
ニウムを均一に生成することができない問題が生じる。
【0041】焼結アルミニウム合金中の空孔率 焼結アルミニウム合金の摺動表面に空孔が分散すること
によって、その空孔部分が摺動表面に対して凹状ピット
を形成する。潤滑油中で相手材と接触して摺動する際に
は、その凹状ピットの部分に潤滑油が保持されて、相手
材との摺動界面における油膜切れを防ぎ、優れた耐焼付
性および耐摩耗性を発現させることができる。このよう
な効果を得るためには、焼結アルミニウム合金中の空孔
率は、アルミニウム合金全体に対して3容積%以上45
容積%以下であることが望ましい。空孔率が3容積%未
満では、凹状ピットが十分に形成されないために、油膜
切れを生じ、焼付現象を起こす可能性がある。一方、空
孔率が45容積%を越えると、アルミニウム合金粉末同
士の結合力(焼結性)が低下するために、焼結アルミニ
ウム合金の耐摩耗性が低下する問題が生じる。なお、従
来の焼結アルミニウム合金では、空孔率は多くても15
容積%であった。空孔率が15容積%を越えると焼結ア
ルミニウム合金の強度が低下する問題があったからであ
る。これに対して、本発明の摺動部材では、焼結アルミ
ニウム合金と金属板との一体化によって十分な強度を有
する。
【0042】特に、本摺動部材を適用したシリンダライ
ナーにおいては、0℃以下の極低温域で使用する場合に
は、エンジンの始動時において潤滑油の粘度が大きいた
めに、ピストンとシリンダライナーとの摺動界面に潤滑
油膜が十分に形成されない問題が生じることがある。こ
のような場合でも、本発明の摺動部材に適用する焼結ア
ルミニウム合金では、予め空孔内に多量の潤滑油を保持
している。このため、摺動界面に多少潤滑油膜が形成さ
れなくても、空孔内の潤滑油を利用して焼付現象の発生
を抑制することができることを発明者は見出した。
【0043】焼結アルミニウム合金中の固形潤滑成分の
作用および効果 黒鉛、硫化モリブデン、硫化タングステン、フッ化カル
シウムなどの固形潤滑成分を本発明の摺動部材の焼結ア
ルミニウム合金中に分散させることにより、相手材との
摺動面における摩擦が軽減され、かつ、摺動面に凹状の
潤滑油溜りが形成されて油膜切れが抑制される。これに
より、摺動部材の優れた耐焼付性および耐摩耗性を発現
させることが可能となる。また、0℃以下の極低温域で
使用する場合には、潤滑油の粘度が大きくなり、摺動面
に潤滑油膜が十分に形成されない問題が生じることがあ
る。このような場合でも、本発明の摺動部材に用いられ
る焼結アルミニウム合金では、固形潤滑成分を比較的多
量に含有しているため、その潤滑効果によっても焼付現
象やかじり現象等の発生を抑制することができる。本発
明に係る摺動部材の焼結アルミニウム合金では、黒鉛、
硫化モリブデン、硫化タングステンおよびフッ化カルシ
ウムから選ばれた少なくとも1つの潤滑成分を10重量
%以下含有している。潤滑成分の含有量が10重量%を
越えると、アルミニウム合金の素地を構成するアルミニ
ウム合金粉末同士の結合性(焼結性)が低下するため
に、焼結アルミニウム合金の耐摩耗性が低下する。
【0044】焼結アルミニウム合金中の添加元素の作用
および効果 本発明に係る摺動部材の焼結アルミニウム合金では、窒
化アルミニウム、シリコン、マグネシウム以外に、必要
に応じて、鉄、ニッケル、クロム、チタン、ジルコニウ
ムおよびマンガンからなる群から選ばれる少なくとも1
つの元素を含有している。これにより、焼結アルミニウ
ム合金の耐摩耗性および耐焼付性を向上することがで
き、また、硬度、剛性などの機械的特性を向上させるこ
とができる。各元素を焼結アルミニウム合金中に添加す
るには、次のような手段を用いた。まず、所定の合金組
成を有するアルミニウム溶湯から急冷凝固法によりアル
ミニウム合金粉末を作製した。つまり、アルミニウム合
金溶湯を噴霧法(アトマイズ法)により原料粉末として
のアルミニウム合金粉末を作製した。そのアルミニウム
合金粉末を焼結することにより、所定の組成を有する焼
結アルミニウム合金を含む摺動部材を創製した。
【0045】それぞれの元素を添加することにより、次
のような効果が得られる。 鉄、ニッケル、クロム、チタン、ジルコニウムの添加 これらの金属元素は、アルミニウムと微細な金属間化合
物を形成して、アルミニウムの素地中に分散することに
よって、アルミニウム合金の耐熱性、剛性および硬さを
向上させることができる。耐熱性が改善することによっ
て、摺動時における焼結アルミニウム合金と相手材との
焼付が大幅に抑制される。また、熱的に安定な金属間化
合物が微細かつ均一にアルミニウム合金中に分散するこ
とによって、加熱および焼結時におけるシリコン晶の成
長を抑制することができる。これにより、焼結アルミニ
ウム合金の被削性が大幅に向上する。このような効果を
得るためには、鉄(1〜8重量%)、ニッケル(1〜8
重量%)、クロム(1〜6重量%)、チタン(1〜4重
量%)、ジルコニウム(1〜4重量%)をそれぞれ含有
する必要がある。一方、それらの元素を適正量を越えて
添加した場合には、金属間化合物が粗大化するために、
かえって焼結アルミニウム合金の靱性が低下する。ま
た、プレス等により再圧縮や曲げ成形した際に、焼結ア
ルミニウム合金中に亀裂が発生する問題が生じる。さら
に、アルミニウム合金粉末を製造する際に、アルミニウ
ム合金溶湯の融点が上昇するために、製造コストが上昇
し、アルミニウム合金粉末の価格が高くなるといった経
済性の問題も生じる。
【0046】マンガンの添加 マンガンの場合にも、上記金属と同様に、マンガンとア
ルミニウムとの金属間化合物が形成され、アルミニウム
合金中にその金属間化合物が均一に分散することによ
り、焼結アルミニウム合金の機械的強度および摺動時に
おける相手材との焼付性を向上させる効果がある。これ
らの効果を発現させるためには、マンガンを1重量%以
上添加する必要がある。なお、5重量%を越えるマンガ
ンを添加した場合には、かえって焼結アルミニウム合金
の靱性を低下させる。
【0047】焼結アルミニウム合金中の硬質粒子 本発明に係る摺動部材に用いられる焼結アルミニウム合
金は、必要に応じて、酸化チタン(TiO2 )、酸化ジ
ルコニウム(ZrO2 )、酸化シリコン(SiO2 )、
酸化マグネシウム(MgO2 )、酸化アルミニウム(A
2 3 )および酸化クロム(Cr2 3 )のうちから
少なくとも1つの酸化物球状粒子を5重量%以下含有し
ている。これらの酸化物は、球状の硬質粒子である。こ
れらの硬質粒子は、窒化アルミニウムやシリコンと同様
に、焼結アルミニウム合金中に分散して耐摩耗性および
耐焼付性を向上させる。
【0048】ただし、これら硬質粒子の添加量は、焼結
アルミニウム合金全体に対して5重量%以下であること
が望ましい。5重量%を越える硬質粒子を添加した場合
には、焼結アルミニウム合金の耐摩耗性や耐焼付性は顕
著には向上せず、かえって相手材を攻撃するといった問
題が生じる。発明者は、焼結アルミニウム合金の耐摩耗
性および相手攻撃性の観点から、上記のうち、特に、酸
化チタン、酸化シリコン、酸化マグネシウムおよび酸化
アルミニウムの酸化物球状粒子の添加がより有効である
ことを見出した。
【0049】裏金に用いる金属板 本発明に係る摺動部材は、金属板とその金属板上に形成
された焼結アルミニウム合金とを備えている。その摺動
部材では、型内に所定の形状を有した金属板を挿入し、
その金属板上にアルミニウム合金粉末を給粉および充填
した状態で焼結することにより、金属板としての裏金と
焼結アルミニウム合金とが一体化する。このとき、裏金
用の金属板は焼結時の温度で溶融してはいけない。すな
わち、金属板は、焼結温度以上の融点を有していること
が必要である。そのような金属としては、たとえば、ア
ルミニウム、銅、鉄、チタンまたはこれらの合金を適用
することができ、特に、組成成分についての制約はな
い。これらのうち、アルミニウム合金は軽量、かつ、高
熱伝導であることから、摩擦摺動時に発生する熱が焼結
アルミニウム合金中に停滞することなく放出される。こ
のため、熱引きの観点からアルミニウム合金を適用する
ことは有利である。たとえば、摺動部材をシリンダライ
ナーに適用する場合には、燃焼時の熱はシリンダライナ
ーを介してエンジンブロック本体に伝わる。このとき、
摺動部材の熱伝導率が小さい場合には、熱がシリンダラ
イナー内部に停滞する。特に、長時間エンジンを運転さ
せる場合には、シリンダライナーで発生した熱がエンジ
ンブロックには伝わらずにそのシリンダライナー内部で
停滞することによって、シリンダライナーの熱的な劣化
や潤滑成分の劣化といった問題が生じる。このため、摺
動部材に用いられる裏金には、高熱伝導率が要求され
る。本発明者は、150W/mK以上の熱伝導率を有す
る裏金用のアルミニウム合金板を用いることが、シリン
ダライナー内部の「熱の籠り」の問題を解消する上で極
めて有効であることを見出した。なお、銅合金は150
W/mK以上の熱伝導率を有しているが、軽量化を図る
のが困難である。また、マグネシウム合金は軽量化の観
点からは有利ではあるが、融点が低いために焼結温度が
550℃を越えるような場合には、裏金が大きく変形し
て寸法精度に問題が生じることがある。さらに、エンジ
ンブロック本体にシリンダライナーを鋳込む際には、裏
金によりアルミニウム合金溶湯が焼結アルミニウム合金
に直接接触するのを防ぐことができる。これによって、
焼結アルミニウム合金から発生するブリスタを抑制する
ことができる。
【0050】また、ニッケル、錫、銅、亜鉛、コバルト
および銀からなる選ばれる1つのめっき層を裏金の表面
に施すことにより、裏金と焼結アルミニウム合金との接
合強度を向上させることができる。
【0051】さらに、焼結後に摺動部材が反りおよび変
形を伴うことなく良好な形状および寸法を得るために
は、焼結アルミニウム合金の熱膨張率と裏金用の金属板
の熱膨張率との差が7×10-6/℃以下であることが必
要である。つまり、裏金用の金属板に拡散接合した焼結
アルミニウム合金からなる摺動部材では、両者の熱膨張
率の差に伴う焼結過程におけるそれぞれの収縮量の違い
により、反りおよび変形が生じる。多少の反りおよび変
形は、焼結後のプレス成形やロール圧延等により矯正す
ることができる。しかしながら、顕著な反りおよび変形
を有する摺動部材を矯正すると、接合部で剥離現象が生
じたり、焼結アルミニウム合金中に亀裂が発生するとい
った問題が生じる。このような観点から、両者の熱膨張
率の差は上記した値以下であることが望ましい。なお、
焼結アルミニウム合金の熱膨張率は、添加元素の処理と
含有量により制御することができ、たとえば、窒化アル
ミニウム、シリコン、鉄およびニッケル等により、その
熱膨張率を下げることが可能である。
【0052】摺動部材の製造方法 本発明に係る摺動部材の製造方法を図1および図2に基
づいて説明する。図1および図2を参照して、まず、所
定の形状および寸法に切断した裏金と、この裏金を挿入
することができる大きさの凹部を少なくとも1カ所以上
有する型を準備する。そして、型の凹部の底に金属板
(裏金)を挿入した状態で、型内にアルミニウム合金粉
末を給粉および充填する。このとき、型の凹部の深さと
裏金用の金属板の厚さを一定とすることが望ましい。こ
の場合には、裏金を挿入した状態で型の凹部の深さは一
定となるため、その凹部に充填されるアルミニウム合金
粉末の重量は常に一定となる。その結果、焼結して得ら
れる焼結アルミニウム合金の厚さも一定に管理すること
ができる効果が得られる。また、アルミニウム合金粉末
の粒度分布を調整することにより、充填粉末の見かけ密
度(AD値)を制御できることから、焼結アルミニウム
合金の空孔率を適正範囲(3容積%〜45容積%)に管
理することも可能である。
【0053】ただし、この他に焼結アルミニウム合金の
空孔率を制御する手段としては、たとえば、アルミニウ
ム合金粉末を型内に充填した状態で、さらにプレス等で
加圧および圧縮することが有効である。これによって、
3〜45容積%の範囲内で空孔率を調整することができ
る。特に、加圧力を制御することによって、15〜25
容積%のより緻密な焼結アルミニウム合金を作製するこ
とが可能である。
【0054】次に、アルミニウム合金粉末が充填された
状態にある型全体を焼結炉に搬入するとともに、500
℃以上の温度の窒素ガス雰囲気中で加熱および保持する
ことにより型内でアルミニウム合金粉末同士を焼結す
る。このとき、同時にアルミニウムと窒素ガスとの直接
窒化反応により窒化アルミニウムが生成する。この窒化
アルミニウムは、焼結アルミニウム合金中の旧粉末粒界
に皮膜として均一に存在する。焼結時における温度とし
て、500℃より低い温度では、直接窒化反応が十分に
進行しないために、焼結アルミニウム合金中に所定量の
窒化アルミニウムを均一に生成することができない。ま
た、所定量の窒化アルミニウムを生成させるために長時
間の直接窒化反応が必要となるといった経済性の問題が
生じる。また、焼結時における窒素ガスの雰囲気の露点
は10℃以下に管理する必要がある。窒素ガスの雰囲気
の露点が10℃を越えると、窒素ガスの雰囲気中に含ま
れる水分とアルミニウム合金粉末とが酸化反応を起こし
てアルミニウムの表面に酸化アルミニウムの皮膜が形成
される。このため、直接窒化反応が抑制されるとともに
アルミニウム合金粉末同士の焼結現象も阻害されてしま
う。このため、十分な強度および耐摩耗性を有する焼結
アルミニウム合金を得ることが困難となる。
【0055】なお、焼結過程において、焼結アルミニウ
ム合金は裏金である金属板と拡散接合によって一体化す
る。また、型内で焼結するために、焼結アルミニウム合
金の寸法および形状を対応する型の凹部の寸法と実質的
に一致させることができる。したがって、本製造方法に
よれば高い寸法精度を有する焼結アルミニウム合金を創
製することができる。
【0056】また、焼結過程においては、型とアルミニ
ウム合金粉末との間に金属結合が生じてはならない。ま
た、型と金属板との間に金属結合が生じてはいけない。
すなわち、それぞれの界面に拡散および焼結現象が生じ
てはならない。このためには、型の材料として、カーボ
ン、WC系の超硬合金またはSiC、Si4 3 、Al
2 3 、ZrO2 などのセラミックスからなる材料が有
効である。
【0057】さらに、本発明の摺動部材の製造方法によ
れば、たとえば図3(a)に示すように、型内に金属板
としての裏金を挿入することができる凹部を設け、しか
も、そのような型を複数個積み重ねた状態で焼結炉にて
焼結することが望ましい。この場合には、1回の焼結工
程によって多数の摺動部材を作製することができる。こ
れに対して、図3(b)に示すような従来の製造方法に
よれば、1枚の大きな金属板シート上に粉末を給粉した
状態で焼結炉に挿入されて、シート状の摺動部材が作製
される。そして、摺動部材として使用するために、打抜
き工法やレーザ加工法によって所定の大きさに切断され
る。したがって、このような従来の製造方法では、シー
ト状の摺動部材を切断するために切断代が生じ歩留りが
低下する。また、金属板シート端部におけるアルミニウ
ム粉末の充填量にばらつきが生じるために作製された摺
動部材の端部を除去する必要があるなどの問題が生じ
る。
【0058】次に、焼結過程が終了し焼結炉から大気中
に型を搬出する際には、焼結アルミニウム合金の酸化現
象を抑制する観点から、焼結アルミニウム合金の温度が
300℃以下に達した後に焼結炉から搬出するのが望ま
しい。
【0059】本発明に係る摺動部材の製造方法では、焼
結工程後に焼結アルミニウム合金に加圧および圧延等の
処理を施すことによって、焼結アルミニウム合金の空孔
率を3〜45容積%に調整することも可能である。たと
えば、得られた摺動部材を再度、プレス加圧成形または
ロール圧延等を施すことによって、焼結アルミニウム合
金の空孔率を3〜20容積%にまで低減することがで
き、より緻密な焼結アルミニウム合金を創製することが
できる。
【0060】さらには、450℃以上に保持された不活
性ガスの雰囲気または還元性ガスの雰囲気または真空中
で、摺動部材を再度加圧および保持することによって、
焼結アルミニウム合金の強度を向上することができるこ
とを本発明者は見出した。このとき、450℃未満の温
度では、十分な焼結現象が進行しないために強度および
耐摩耗性の改善効果が十分に得られない。また、不活性
ガスの雰囲気、還元性ガスの雰囲気または真空中以外の
雰囲気で加熱すると、焼結アルミニウム合金中の旧粉末
粒界において、酸化現象が進行するために、強度および
耐摩耗性が十分に得られないことがわかった。
【0061】内燃機関用シリンダライナーとしての摺動
部材の製造方法 本発明の摺動部材を用いてシリンダライナーを創製する
場合の製造工程を図4に示す。図4を参照して、シリン
ダライナーを形成するための所定の寸法を有する矩形状
の裏金としての金属板を準備する。上述した製造方法に
よって、金属板上に焼結アルミニウム合金が結合した2
層の摺動部材を作製する。得られた摺動部材をプレス成
形または圧延などにより、焼結アルミニウム合金の面が
ピストンと摺動するシリンダライナーの内面側となるよ
うに円筒形状に曲げ成形を施す。その後、円筒の外側の
金属板表面からレーザ溶接または電子ビーム溶接によっ
て、隣接する摺動部材の両端部を溶接することにより隙
間のないシリンダライナーを創成する。なお、本発明に
係る摺動部材をシリンダライナーに適用する場合には、
その摺動部材の厚さを1〜2mm程度の範囲内で均一に
薄肉化することができることから、従来のように熱間押
出法等によって作製したシリンダライナーと比べて、軽
量化、材料費および機械加工費の削減の効果が得られ
る。
【0062】エンジンブロックにシリンダライナーを鋳
込んだ際に発生するブリスタの抑制の効果 焼結アルミニウム合金性シリンダライナーをアルミニウ
ム合金製エンジンブロック本体に鋳込む際には、アルミ
ニウム溶湯が直接シリンダライナーに接触するために、
シリンダライナーは500℃を越える高温の下に長時間
さらされる。このため、従来の焼結アルミニウム合金か
らなるシリンダライナーでは、焼結アルミニウム合金内
部から発生するガスによってシリンダライナーの表面ま
たは内部にブリスタ(気泡)が生じた状態となる。本発
明者は、本発明に係る摺動部材からなるシリンダライナ
ーをエンジンブロック本体に鋳込んだ際には、外周側に
位置する金属板がアルミニウム溶湯と接触して、内周側
の焼結アルミニウム合金がアルミニウム溶湯に直接接触
するのを抑制することができることを確認した。また、
アルミニウム低圧鋳造法やアルミニウム重力鋳造法など
により、500℃を越える高温の下にシリンダライナー
が長時間さらされる場合においても、シリンダライナー
にブリスタが発生しないためには、焼結アルミニウム合
金中の水素の含有量を20重量ppm以下にすることが
望ましいことが判明した。その水素の含有量を低減させ
る方法としては、本摺動部材を製造する過程において、
水素ガス成分を十分に除去する方法が有効であることを
見出した。具体的には、焼結過程における500℃以上
の高温条件の下で、十分に水素ガス成分を除去すること
ができ、水素の含有量を20重量ppm以下に低減する
ことができた。さらに、焼結時の温度を500℃よりも
高い温度または焼結時間を長くすることによって、焼結
アルミニウム合金中の水素の含有量を10重量ppm以
下に低減できることが判明した。
【0063】
【実施例】実施例1 シリコン16重量%、鉄3重量%、ニッケル2重量%、
マグネシウム1重量%および残部がアルミニウムからな
るエアアトマイズ・アルミニウム合金粉末(平均粒径3
5μm)を原料粉末とした。裏金として純アルミニウム
板(寸法50×50×1mm)を準備した。また、裏金
を挿入するための凹部(縦50.5mm、横50.5m
m、深さ3mm)を有するカーボン材を型として準備し
た。カーボンの型の凹部に裏金を挿入した後、原料粉末
を充填した状態で型全体を窒素ガス雰囲気に制御された
焼結炉(温度545℃、露点−20℃)に搬入した。原
料粉末の温度が545℃に達した後、その温度を維持し
た状態で6分〜6時間、加熱および保持することによ
り、直接窒化反応法により窒化アルミニウムの皮膜を焼
結アルミニウム合金中に生成および分散させるととも
に、焼結アルミニウム合金とアルミニウム製の裏金とを
接合した2層摺動部材を作製した。そして、カーボン型
内の焼結アルミニウム合金の温度が200℃に下がった
後に、型を焼結炉から搬出した。
【0064】また、比較例の1つとして、窒化アルミニ
ウムを含有しない焼結アルミニウム合金を含む摺動部材
を作製した。つまり、水素ガスの雰囲気に制御された焼
結炉(温度545℃、露点−45℃)内で1時間加熱お
よび保持することにより作製した。
【0065】それぞれ得られた摺動部材における焼結ア
ルミニウム合金中の窒化アルミニウムの生成量(重量
%)、窒素含有量(重量%)、水素含有量(重量pp
m)および空孔率(容積%)を評価した。その結果を下
の表1に示す。また、それぞれ得られた摺動部材の焼結
アルミニウム合金ま摩擦摺動特性を図5に示すチップオ
ンディスク式摩擦試験器を用いた評価した。なお、試験
は図5に示された条件の下で行ない、80℃に制御され
た潤滑油中における焼結アルミニウム合金の摩耗量、相
手材の摩耗量(相手攻撃性)および焼付現象の有無等を
評価した。その結果を下の表2に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】本発明例(No.1〜5)においては、表
1に示されているように、窒化アルミニウムの含有量、
窒化アルミニウムとシリコンとを合せた含有量、窒素の
含有量および空孔率は、本発明が規定する適正範囲を満
足している。その結果、これらの焼結アルミニウム合金
では、表2に示すように、相手材との焼付およびかじり
現象が生じることがなく、優れた摩擦摺動特性が確認さ
れた。一方、比較例(No.6〜9)では次のような問
題が生じた。比較例(No.6)では、焼結時間が短い
ために、本発明が規定する含有量の範囲の窒化アルミニ
ウムが生成せず、また、アルミニウム粉末同士が十分に
焼結しないために、十分な耐摩耗性を得ることができな
かった。また、焼結時間が短いために、焼結アルミニウ
ム合金と裏金とが十分に強固に拡散結合することができ
ず、試験後に裏金から焼結アルミニウム合金が剥離し
た。比較例(No.7)では、窒化反応による窒化アル
ミニウムの生成量および窒化アルミニウムとシリコンと
の合計含有量が、本発明が規定する適正量を越えたため
に、相手材を攻撃する結果となった。比較例(No.
8)では、窒化反応による窒化アルミニウムの生成量お
よび窒化アルミニウムとシリコンとの合計含有量が、本
発明が規定する適正量を越えたために、相手材を攻撃す
る結果となった。比較例(No.9)では、水素ガス雰
囲気中で焼結を行なったために焼結アルミニウム合金中
に窒化アルミニウムが生成せず、このため、十分な耐摩
耗性が得られずに相手材との焼付現象が生じた。なお、
No.1〜5およびNo.7〜9の試験片においては、
裏金と焼結アルミニウム合金とは強固に拡散結合してい
ることが試験終了後に確認された。
【0069】実施例2 シリコンX%、鉄5重量%、マグネシウム0.5重量%
および残部がアルミニウムからなる組成を有するエアア
トマイズ・アルミニウム合金粉末(平均粒径42μm)
を原料粉末とした。なお、アルミニウム合金粉末中のシ
リコンの含有量(X)は下の表3に示す値である。裏金
としてニッケルめっき(めっきの厚さ8〜10μm)を
施した軟鋼板(寸法50×50×0.5mm)を準備し
た。また、この裏金を挿入することができる凹部(縦5
0.5mm、横50.5mm、深さ2mm)を有するA
2 3 系セラミックスを型として準備した。アルミナ
型の凹部に裏金を挿入した後、原料粉末を充填した状態
で型全体を窒素ガスの雰囲気に制御された焼結炉(温度
545℃、露点−20℃)に搬入した。原料粉末の温度
が545℃に達した後、その温度を維持した状態で、
0.5〜3時間加熱および保持することより、直接窒化
反応により窒化アルミニウムの皮膜を焼結アルミニウム
合金に生成および分散させるととも、焼結アルミニウム
合金と裏金とを接合した摺動部材を作製した。そして、
アルミナ型内の焼結アルミニウム合金の温度が250℃
に達した後に、アルミナ型を焼結炉から搬出した。
【0070】また、比較例の1つとして、窒化アルミニ
ウムを含有しない焼結アルミニウム合金を有する摺動部
材も作製した。つまり、水素ガスの雰囲気に制御された
焼結炉(温度545℃、露点−45℃)内で1時間加熱
および保持することにより作製した。
【0071】それぞれ得られた摺動部材における焼結ア
ルミニウム合金中の窒化アルミニウムの生成量(重量
%)、窒素含有量(重量%)および空孔率(容積%)を
評価した。その結果を下の表3に示す。また、それぞれ
得られた摺動部材における焼結アルミニウム合金の摩擦
摺動特性を、図5に示すチップオンディスク式摩擦試験
器を用いて評価した。試験の条件として、図5に示され
た条件を用いた。そして、80℃に制御された潤滑油中
における焼結アルミニウム合金の摩耗量、相手材の摩耗
量(相手攻撃性)、焼付現象の有無等を評価した。その
結果を下の表4に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】本発明例(No.1〜7)においては、表
3に示されているように、窒化アルミニウムの生成量、
窒化アルミニウムとシリコンとを合せた含有量、窒素含
有量および空孔率は、本発明が規定する適正範囲を満足
している。このため、表4に示すように、それぞれ相手
材との焼付およびかじり現象が生じることなく、優れた
摩擦摺動特性を有していることが確認された。一方、比
較例(No.8〜11)では、次のような問題が生じ
た。比較例(No.8〜10)では、焼結アルミニウム
合金中の窒化アルミニウムとシリコンとの合計含有量
が、本発明が規定する適正量を越えたために、相手材を
攻撃する結果となった。比較例(No.11)では、水
素ガス雰囲気中で焼結を行なったために、焼結アルミニ
ウム合金中に窒化アルミニウムが生成せず、このため
に、十分な耐摩耗性が得られず、相手材との焼付現象が
生じた。
【0075】なお、試験終了後のすべての摩擦試験片に
おいて、ニッケルめっき層を有する軟鋼製の裏金と焼結
アルミニウム合金とは強固に拡散結合していることを確
認した。
【0076】実施例3 シリコン12重量%、鉄3重量%、クロム1重量%、マ
グネシウム0.5重量%および残部がアルミニウムから
なるエアアトマイズ・アルミニウム合金粉末(平均粒径
40μm)に、下の表5に示す所定の比率(重量%表
示)の固形潤滑成分を添加した混合粉末を原料粉末とし
た。裏金として純アルミニウム板(寸法50×50×1
mm)を準備した。また、この裏金を挿入することがで
きる凹部(縦50.5mm、横50.5mm、深さ3m
m)を有するカーボン材を型として準備した。カーボン
型の凹部に裏金を挿入した後、原料粉末を充填した状態
で型全体を窒素ガスの雰囲気に制御された焼結炉(温度
560℃、露点−18℃)に搬入した。原料粉末の温度
が560℃に到達した後、その温度を維持した状態で1
時間加熱および保持することにより、直接窒化反応法に
より窒化アルミニウムの皮膜を焼結アルミニウム合金に
生成および分散させるとともに、焼結アルミニウム合金
とアルミニウム製の裏金とを接合した摺動部材を作製し
た。そして、カーボン型内の焼結アルミニウム合金の温
度が250℃に達した後に焼結炉から搬出した。
【0077】それぞれ得られた摺動部材の焼結アルミニ
ウム合金中の窒化アルミニウムの生成量(重量%)およ
び空孔率(容積%)を評価した。その結果を下の表5に
示す。また、得られた摺動部材の焼結アルミニウム合金
の摩擦摺動特性を、図5に示すチップオンディスク式摩
擦試験器を用いて評価した。試験の条件としては、図5
に記載された条件の下で行ない、80℃に制御された潤
滑油中における焼結アルミニウム合金の摩耗量、相手材
の摩耗量(相手攻撃性)、焼付現象の有無などを評価し
た。その結果を下の表6に示す。
【0078】
【表5】
【0079】
【表6】
【0080】本発明例(No.1〜9)においては、表
5に示すように、本発明が規定する適正範囲を満足する
窒化アルミニウムの含有量、窒化アルミニウムとシリコ
ンとを合せた含有量および空孔率を有する焼結アルミニ
ウム合金中に、本発明が規定する固形潤滑成分を適正量
含有している。このため、表6に示すように、たとえ
ば、潤滑成分を含有しない場合(No.9)に比べて、
耐摩耗性および相手攻撃性はより改善されており、優れ
た摩擦摺動特性を有していることが確認された。また、
本発明例(No.1〜5)に示すように、固形潤滑成分
の含有量の増加に伴って、耐摩耗性および相手攻撃性の
改善効果が認められる。
【0081】一方、比較例(No.10〜12)では、
固形潤滑成分の含有量が、本発明が規定する適正範囲を
越えているために、焼結アルミニウム合金における粉末
同士の焼結性が低下し、このために、耐摩耗性の低下が
認められた。
【0082】実施例4 下の表7に示された組成を有するアルミニウム合金粉末
(平均粒径48μm)を原料粉末とした。また、裏金と
して純アルミニウム板(寸法50×50×1mm)を準
備した。この裏金を挿入することができる凹部(縦5
0.5mm、横50.5mm、深さ3mm)を有するZ
rO2 系セラミックスを型として準備した。セラミック
ス型の凹部に裏金を挿入した後、原料粉末を充填した状
態で型全体を窒素ガスの雰囲気に制御された焼結炉(温
度550℃、露点−14℃)に搬入した。原料粉末の温
度が550℃に到達した後、その温度を維持した状態で
1〜4時間加熱および保持することにより、焼結アルミ
ニウム合金とアルミニウム製の裏金とが拡散接合した摺
動部材を作製した。そして、セラミックス型内の焼結ア
ルミニウム合金の温度が200℃に達した後に焼結炉か
ら搬出した。得られた摺動部材の焼結アルミニウム合金
中の窒化アルミニウムの生成量(重量%)を評価した。
その結果を下の表7に示す。
【0083】
【表7】
【0084】本発明例(No.1〜6)では、本発明が
規定する適正範囲を満足するマグネシウムを含有するア
ルミニウム合金粉末を用いることにより、焼結過程にお
いて直接窒化反応を十分に促進させることができた。こ
れにより、摺動部材の焼結アルミニウム合金中の窒化ア
ルミニウムの量は本発明が規定する適正量を満足し、し
かも経済性よく比較的短時間(1hr)で生成させるこ
とができた。
【0085】一方、比較例(No.7〜9)では次のよ
うな問題が生じた。比較例(No.7)では、マグネシ
ウムを含有しないために、焼結過程において窒化反応が
進行せず、このために、窒化アルミニウムが得られなか
った。比較例(No.8)では、マグネシウムの含有量
が0.03重量%であり、このために、本発明例のアル
ミニウム合金粉末を用いた場合に比べて同一焼結条件下
で生成する窒化アルミニウムの量が少なく、かつ、焼結
アルミニウム合金の表層部に多くの窒化アルミニウムが
生成しており、焼結アルミニウム合金全体においては窒
化アルミニウムが不均一に生成するといった問題が生じ
た。比較例(No.9)では、マグネシウムの含有量が
0.03重量%であり、このために、焼結時間(窒化反
応時間)を4hrにしても、本発明例のアルミニウム合
金粉末を用いた場合に比べて、生成できる窒化アルミニ
ウムの量が少ないという問題が生じた。
【0086】実施例5 シリコン12重量%、鉄2重量%、ニッケル2重量%、
マグネシウム1重量%および残部がアルミニウムからな
るエアアトマイズ・アルミニウム合金粉末(平均粒径4
5μm)を原料粉末とした。裏金として、下の表8に示
す材質またはめっき層を施した金属板(寸法30×50
×1mm)を準備した。この裏金を挿入することができ
る凹部(縦30.5mm、横50.5mm、深さ3m
m)を有するカーボン材を型として準備した。カーボン
型の凹部に裏金を挿入した後、原料粉末を充填した状態
で型全体を、表8に示す条件に管理された窒素ガス雰囲
気の焼結炉に搬入した。原料粉末の温度が焼結炉の設定
温度に到達した後に、その温度を維持した状態で1時間
加熱および保持することにより、直接窒化反応法によっ
て窒化アルミニウムの皮膜を焼結アルミニウム合金に生
成および分散させるとともに、焼結アルミニウム合金と
裏金とを接合した摺動部材を作製した。そして、カーボ
ン型内の焼結アルミニウム合金の温度が室温(23℃)
に達した後に焼結炉から搬出した。
【0087】得られた摺動部材における焼結アルミニウ
ム合金中の窒化アルミニウムの生成量(重量%)、摺動
部材の外観および裏金と焼結アルミニウム合金との接合
部のせん断強度を評価した。その結果を下の表8に示
す。
【0088】
【表8】
【0089】本発明例(No.1〜12)では、焼結温
度以上の融点を有する金属板を裏金として使用すること
により、焼結アルミニウム合金と裏金との良好な2層接
合体を得ることができる。しかも、本発明に規定にする
錫、銅、亜鉛、コバルト、銀、ニッケルなどのめっき層
を金属板の表面に施すことにより、接合部におけるせん
断強度は向上しており、めっき層を設けることにより、
より強固に焼結アルミニウム合金と裏金との拡散接合が
可能であることが確認された。
【0090】一方、比較例(No.13、14)では、
裏金としてマグネシウムを用いるとともに、焼結温度を
550℃以上に設定したために、裏金が変形し、摺動部
材全体が変形および反りを生じた。また、一部で焼結ア
ルミニウム合金と裏金との剥離が生じた。
【0091】実施例6 シリコン15重量%、鉄5重量%、ジルコニウム0.5
重量%、マグネシウム1重量%および残部がアルミニウ
ムからなるエアアトマイズ・アルミニウム合金粉末(平
均粒径40μm)を原料粉末とした。裏金として純アル
ミニウム板(寸法50×50×1mm)を準備した。こ
の裏金を挿入することができる凹部(縦50.5mm、
横50.5mm、深さ3mm)を有するWC系超硬を型
として準備した。この超硬型の凹部に裏金を挿入した
後、原料粉末を充填した。この後、図6に示された本発
明の製造工程に従って、摺動部材を作製した。そして得
られた摺動部材における焼結アルミニウム合金中の窒化
アルミニウムの生成量(重量%)、空孔率(容積%)お
よび摩擦摺動特性を評価した。なお、摩擦摺動特性は、
図5に示したチップオンディスク式摩擦試験器を用いて
行なった。
【0092】なお、基本工程は図6に示された工程Aで
ある。つまり、型の凹部に原料粉末を充填した状態で型
全体を窒素ガスの雰囲気に制御された焼結炉(温度55
0℃、露点−18℃)に搬入する。そして、所定時間加
熱および保持することにより、直接窒化反応によって7
重量%の窒化アルミニウムの皮膜を焼結アルミニウム合
金に生成および分散させるとともに、焼結アルミニウム
合金とアルミニウム製裏金とを接合した摺動部材を作製
した。そして、超硬型内の焼結アルミニウム合金の温度
が200℃に達した後に焼結炉から搬出した。また、必
要に応じて、工程Bに示すような、焼結前の圧粉成形の
工程や、工程Cまたは工程Dに示すような、焼結後の再
圧縮、圧延または再焼結等の工程を追加した。以上の結
果を下の表9に示す。
【0093】
【表9】
【0094】本発明例(No.1〜6)では、本発明が
規定する製造方法における基本工程としての「工程A」
により作製した摺動部材(No.1)と比較して、本発
明が規定する他の製造方法(工程B〜工程D)により作
製した摺動部材における焼結アルミニウム合金(No.
2〜6)では空孔率が低減することにより、アルミニウ
ム粉末同士の結合性が改善され、このために、焼結アル
ミニウム合金の耐摩耗性がより向上していることが判明
した。
【0095】一方、比較例(No.7〜9)では、次の
ような問題が生じた。比較例(No.7)では、工程D
において、再圧縮および圧延後の再焼結工程を大気中で
行なったために、焼結アルミニウム合金中の旧粉末粒界
において酸化現象が進行し、本発明例(No.5)に比
べて耐摩耗性の改善効果が十分でないことが判明した。
比較例(No.8)では、工程Dにおける再圧縮および
圧延後の再焼結工程の温度が適正温度よりも低い400
℃であるために、焼結アルミニウム合金における旧粉末
同士の結合性が十分に改善されず、本発明例(No.
6)に比べて耐摩耗性の改善効果が十分に得られないこ
とが判明した。比較例(No.9)では、工程Dにおけ
る再圧縮および圧延後の再焼結工程の温度および雰囲気
が、本発明が規定する適正範囲を満足しないために、焼
結アルミニウム合金中の旧粉末粒界において酸化現象が
進行し、本発明例(No.6)に比べて耐摩耗性の改善
効果が十分でないことが判明した。
【0096】実施例7 シリコン12重量%、ニッケル2重量%、マグネシウム
1重量%および残部がアルミニウムからなるエアアトマ
イズ・アルミニウム合金粉末に黒鉛粉末を添加した混合
粉末を原料粉末とした。裏金として純アルミニウム板
(寸法50×50×1mm)を準備した。黒鉛粉末の含
有量を混合粉末の全体に対して8重量%とした。裏金を
挿入することができる凹部(縦50.5mm、横50.
5mm、深さ3mm)を有するカーボン材を型として準
備した。このカーボン型の凹部に裏金を挿入した後、原
料粉末を充填した。そして、図6に示す本発明の製造工
程Bに従い、下の表10に示された空孔率の異なる焼結
アルミニウム合金とアルミニウム板とが接合された摺動
部材を作製した。なお、焼結アルミニウム合金の空孔率
は、原料粉末を型の凹部に充填した後に加圧工程におけ
る付与圧力により調整した。また、加圧後の型全体を窒
素ガスの雰囲気に制御された焼結炉(温度550℃、露
点−18℃)に搬入した。そして、所定時間加熱および
保持することにより、直接窒化反応による5重量%の窒
化アルミニウムの皮膜を焼結アルミニウム合金に生成お
よび分散させた。そして、カーボン型の焼結アルミニウ
ム合金の温度が200℃に達した後に焼結炉から搬出し
た。ただし、表10の本発明例(No.5、6)および
比較例(No.8)では、焼結アルミニウムの空孔率を
小さくするために、焼結後に、本発明が規定する適正条
件を満足する再加圧、圧延および再焼結工程を追加し
た。
【0097】得られた摺動部材の焼結アルミニウム合金
中の窒化アルミニウムの生成量(重量%)、空孔率(容
積%)を評価した。また、低温における摩擦摺動特性を
評価するために、図5に示したチップオンディスク式摩
耗試験器を用いて、潤滑油の温度を−5℃に制御して摩
擦摺動試験を行なった。その結果を下の表10に示す。
【0098】
【表10】
【0099】本発明例(No.1〜6)では、摺動部材
の焼結アルミニウム合金中の空孔率が、本発明が規定す
る適正範囲を満足するため、たとえ、潤滑油の粘度が小
さい低温状態においても、焼結アルミニウム合金中の黒
鉛粉末による潤滑効果に加えて、焼結アルミニウム合金
の摺動面に分散して形成された空孔部による潤滑油溜り
によって、相手材との摺動面において油膜を保持するこ
とができた。これにより、相手材との焼付現象やかじり
現象などの発生が抑制され、優れた摩擦衝動特性を有し
ていることがわかった。特に、空孔率が低減するに伴
い、焼結アルミニウム合金の耐摩耗性がより向上してい
ることが判明した。
【0100】一方、比較例(No.7、8)では次のよ
うな問題が生じた。比較例(No.7)では、焼結アル
ミニウム合金中の空孔率は49容積%であり、このため
に、焼結アルミニウム合金中のアルミニウム合金粉末同
士の結合性(焼結性)が低下し、その結果、摩擦試験中
に試料が欠損し、相手材との焼付およびかじり現象が発
生した。比較例(No.8)では、焼結アルミニウム合
金中の空孔率は1容積%であり、このために、空孔部に
おける油溜りによる潤滑効果が十分に得られず、相手材
との摺動界面において潤滑油膜切れを生じた。その結
果、相手材との焼付およびかじり現象が発生した。
【0101】実施例8 シリコン6重量%、鉄3重量%、ニッケル3重量%、ジ
ルコニウム1重量%、マグネシウム0.7重量%および
残部がアルミニウムからなるエアアトマイズ・アルミニ
ウム合金粉末(平均粒径44μm)を原料粉末とした。
裏金として、0.5重量%のマグネシウムを含むアルミ
ニウム合金板(寸法30×50×1mm)を準備した。
この裏金を挿入することができる凹部(縦30.5m
m、横50.5mm、深さ3mm)を有するカーボン材
を型として準備した。カーボン型の凹部に裏金を挿入し
た後、原料粉末を充填した状態で型全体を、下の表11
に示すような条件に管理された窒素ガスの雰囲気の焼結
炉に搬入した。原料粉末の温度は焼結炉の設定温度に到
達した後、その温度を維持した状態で1〜8.5時間加
熱および保持することにより、直接窒化反応によって窒
化アルミニウムの皮膜を焼結アルミニウム合金に生成お
よび分散させるとともに、焼結アルミニウム合金と裏金
とを接合した摺動部材を作製した。なお、焼結炉から型
を搬出する際のカーボン型内の焼結アルミニウム合金の
温度についても下の表11に示す。
【0102】得られた摺動部材の焼結アルミニウム合金
中の窒化アルミニウムの生成量(重量%)と酸素の量
(重量%)とを評価した。また、図5に示すチップオン
ディスク式摩耗試験器において、潤滑油の温度を80℃
に制御して、摩擦摺動試験を行なった。その結果を下の
表11に示す。
【0103】
【表11】
【0104】本発明例(No.1〜7)では、本発明が
規定する適正な焼結条件(温度、露点)を満足するた
め、顕著な酸化現象が生じることなく、直接窒化反応に
より生成した窒化アルミニウム皮膜を焼結アルミニウム
合金中に均一に分散することができた。その結果、相手
材との焼付現象やかじり現象等が伴うことなく、優れた
摩擦摺動特性を有していることが判明した。特に、露点
が低下するに従い、酸化現象が抑制され、一方で窒化反
応がより進行するために、同一の加熱時間においても窒
化アルミニウムの生成量が増加し、その結果、焼結アル
ミニウム合金の耐摩耗性がより向上していることが判明
した。
【0105】一方、比較例(No.8〜12)では次の
ような問題が生じた。比較例(No.8)では、焼結温
度が450℃であり、このために、十分な窒化アルミニ
ウムが生成できず、焼結アルミニウム合金の摩擦摺動特
性が低下した。比較例(No.9)では、焼結温度が4
88℃であり、このために、十分な窒化アルミニウムが
生成できず、焼結アルミニウム合金の摩擦摺動特性が低
下した。比較例(No.10)では、焼結時の露点が1
5℃であり、このために、焼結アルミニウム合金の酸化
が進行し、また、十分な窒化アルミニウムが生成され
ず、焼結アルミニウム合金の摩擦摺動特性が低下した。
比較例(No11)では、焼結時の露点が25℃であ
り、このために、比較例(No.10)に比べて焼結ア
ルミニウム合金の酸化現象がより進行し、また、窒化ア
ルミニウムが生成されず、焼結アルミニウム合金の摩擦
摺動特性が低下した。比較例(No.12)では、焼結
時の露点が12℃であり、このために、十分な窒化反応
を起こすことができない。このため、必要な窒化アルミ
ニウムの量を生成させるためにより長い時間焼結させる
ことが必要となり、経済性の問題が生じた。
【0106】実施例9 シリコン17重量%、鉄5重量%、ニッケル2重量%、
マグネシウム1重量%および残部がアルミニウムからな
るエアアトマイズ・アルミニウム合金粉末(平均粒径4
2μm)に黒鉛粉末を添加した混合粉末を原料粉末とし
た。黒鉛粉末の含有量は混合粉末全体に対して6重量%
とした。裏金として、純アルミニウム板、アルミニウム
合金板または厚さ10μmの錫めっき層を有する軟鋼板
(いずれも寸法204×83×1mm)を準備した。こ
の裏金を挿入することができる凹部(縦204.5m
m、横83.5mm、深さ2.5mm)を有するカーボ
ン材を型として準備した。このカーボン型の凹部に裏金
を挿入した後、原料粉末を充填した。型全体を、下の表
12に示すような条件に管理された窒素ガスの雰囲気の
焼結炉(露点−22℃に管理)に搬入した。原料粉末の
温度が焼結炉の設定温度に到達した後に、その温度を維
持した状態で1〜4時間加熱および保持することによ
り、焼結アルミニウム合金と裏金とを接合した摺動部材
を創製した。その後、その摺動部材を常温でプレス加工
またはロール圧延することにより、焼結アルミニウム合
金の空孔率を15容積%となるように調整した。その
後、窒素雰囲気中で温度500℃、焼結時間1時間の再
焼結工程を施した。
【0107】得られた摺動部材の焼結アルミニウム合金
の側が内面になるように曲げ成形を行ない、直径65m
m×全長83mmの円筒を作製した。その円筒の接合端
部を電子ビーム溶接により、隙間がないように溶接を行
ない、シリンダライナーを作製した。
【0108】また、比較材として、同一組成を有する混
合粉末を成形、固化および窒化反応するとともに、熱間
押出法によって、円筒状焼結アルミニウム合金を作製し
て、機械加工を施すことにより、直径65mm×全長8
3mm(肉厚1.5mmおよび5mm)のシリンダライ
ナーを創製した。
【0109】これらのシリンダライナーをアルミニウム
低圧鋳造法により、アルミニウム合金製エンジンブロッ
ク本体に鋳込んだ後に、シリンダライナーを構成する焼
結アルミニウム合金の組成観察を行ない、ブリスタ(気
泡)の有無を確認した。その結果を下の表12に示す。
【0110】
【表12】
【0111】本発明例(No.1〜6)では、アルミニ
ウム低圧鋳造法によりアルミニウム合金製エンジンブロ
ックにシリンダライナーを鋳込んだ場合には、シリンダ
ライナーの外周側の裏金がアルミニウム溶湯と接触する
ために、焼結アルミニウム合金が直接アルミニウム溶湯
と接触することを防ぎ、その結果、焼結アルミニウム合
金の内部にはブリスタは発生せず、シリンダライナーと
して十分使用できることが確認できた。
【0112】一方、比較材(No.7〜8)では、アル
ミニウム低圧鋳造法によりエンジンブロック本体に鋳込
んだ際に、焼結アルミニウム合金が直接アルミニウム溶
湯と接触するために、焼結アルミニウム合金等にはブリ
スタが発生し、特に、シリンダライナーの肉厚が1.2
mmの場合には、鋳込み時におけるアルミニウム溶湯か
らの熱伝導によって長時間高温の下にさらされるため
に、シリンダライナーの断面全域においてブリスタの発
生が確認された。また、シリンダライナーの薄肉化のた
めに十分な強度および剛性を有していないために、エン
ジンブロック本体に鋳込んだ際にシリンダライナーが変
形した。
【0113】次に、ブリスタの発生しなかった本発明例
の摺動部材からなるシリンダライナーを鋳込んだエンジ
ンブロックを用いて、100時間の耐久試験を実施し
た。なお、ピストン材として溶製アルミニウム合金(J
IS AC8A)からなるピストン材を用いた。また、
比較材(No.9)として、溶製アルミニウム合金(J
IS AC8A材)を用いたシリンダライナーを作製
し、その摺動面に耐摩耗性や耐焼付性改善する目的で硬
質クロムめっきを施した。さらに、この場合におけるピ
ストン材において、シリンダライナーと摺動する外周表
面に鉄めっきを施したものを準備した。比較材(No.
10)として、FC鋳鉄材を用いた同形状のシリンダラ
イナーを作製してエンジンブロック本体に鋳込んだ。耐
久試験後にシリンダライナーおよびピストンの摺動面の
損傷状況を観察し、摩耗や凝着(焼付)の有無を評価し
た。その結果を下の表13に示す。なお、用いた裏金の
熱伝導率も表13に示す。
【0114】
【表13】
【0115】本発明の摺動部材からなるシリンダライナ
ーでは、内燃機関用シリンダライナーとしての耐摩耗性
を十分に有しており、また、ピストンに鉄めっきを施さ
なくても摩耗や凝着を生じることがなく、相手材(ピス
トン側)への攻撃性も少なく、現行の鋳鉄材あるいは硬
質クロムめっきを施した溶製アルミニウム合金製シリン
ダライナーと同等であり、シリンダライナーとして十分
使用できる性能を有していることが判明した。
【0116】ただし、本発明が規定する適正範囲内の熱
伝導率を有するアルミニウム合金裏金を用いた摺動部材
からなるシリンダライナー(No.1、2、5)では、
摺動時に発生した熱がシリンダライナーを介してエンジ
ンブロック全体に伝わり、シリンダライナー内部で熱の
籠りが生じていないことが判明した。しかしながら、熱
伝導率の小さい裏金を用いた場合(No.3、4、6)
では、発生した熱がエンジンブロックには伝導せずに、
シリンダライナー内部にこの熱が籠るために、潤滑油の
温度が上昇するといった現象が確認された。特に熱伝導
率の小さい軟鋼を裏金に用いた場合には、潤滑油が早期
に劣化する傾向が確認された。
【0117】以上のことから、本発明に係る焼結アルミ
ニウム合金と裏金とからなる摺動部材は、硬質クロムめ
っきなどの表面処理を施さなくても、シリンダライナー
としての耐摩耗性および耐焼付性を十分に有しており、
また、相手材のピストン側にも鉄めっき処理などを施す
ことなく使用できるといった経済性の面においても優れ
ていることが判明した。
【0118】実施例10 本発明が規定する製造方法として、図6の工程Cに示さ
れた工程に基づいて、本発明の焼結アルミニウム合金と
裏金とを有する摺動部材を作製した。その焼結アルミニ
ウム合金の熱膨張率α1と裏金の熱膨張率α2とを下の
表14に示す。また、焼結後のプレス加圧またはロール
成形後の外観を評価した結果を表14に併せて示す。な
おこの表14において、焼結アルミニウム合金の熱膨張
率と裏金の熱膨張率との差をΔαと記す。
【0119】
【表14】
【0120】本発明例(No.1〜5)では、焼結アル
ミニウム合金の熱膨張率と裏金の熱膨張率との差Δα
が、本発明が規定する適正範囲を満足しているため、焼
結後における摺動部材の反りおよび変形量は小さく、プ
レス成形またはロール圧延を施しても摺動部材の接合部
における両者の剥離現象や、焼結アルミニウム合金内で
の亀裂の発生などは認められず、良好な摺動部材が得ら
れた。
【0121】一方、比較例(No.6、7)では、焼結
アルミニウム合金の熱膨張率と裏金の熱膨張率との差Δ
αが、本発明が規定する適正範囲を越えているため、焼
結後の摺動部材の反りおよび変形をプレス成形またはロ
ール圧延により矯正した際に、摺動部材の接合部におけ
る両者の剥離現象や焼結アルミニウム合金内における亀
裂の発生が確認された。
【0122】実施例11 シリコン12重量%、鉄5重量%、ニッケル2重量%、
マグネシウム1.5重量%および残部がアルミニウムか
らなるエアアトマイズ・アルミニウム合金粉末(平均粒
径42μm)を原料粉末とした。裏金として、表面にニ
ッケルめっきを施したSPCC鋼板(寸法50×50×
1mm)を準備した。この裏金を挿入することができる
凹部(縦50.5mm、横50.5mm、深さ3mm)
を有するカーボン材を型として準備した。カーボン型の
凹部に裏金を挿入した後、原料粉末を充填した状態で型
全体を窒素ガス雰囲気に制御された焼結炉(温度550
℃、露点−18℃)に搬入した。原料粉末の温度が55
0℃に到達した後に、その温度を維持した状態で加熱お
よび保持することにより、直接窒化反応によって窒化ア
ルミニウム皮膜を焼結アルミニウム合金に生成および分
散させるとともに、焼結アルミニウム合金とSPCC鋼
板裏金とを接合した摺動部材を作製した。そして、カー
ボン型の焼結アルミニウム合金の温度が200℃に達し
た後に焼結炉から搬出した。
【0123】また、比較例の1つとして、窒化アルミニ
ウムを含有しない焼結アルミニウム合金を有する摺動部
材を作製した。つまり、水素ガスの雰囲気に制御された
焼結炉(温度545℃、露点−45℃)内で1時間加熱
および保持することにより作製した。
【0124】そして、摺動部材を面圧6t/cm2 の条
件でプレス成形し、窒素ガス雰囲気中で500℃1時間
の再焼結を施した後、円筒形状にロール成形することに
より軸受サンプルを作製した。
【0125】得られた摺動部材における焼結アルミニウ
ム合金中の窒化アルミニウムの生成量(重量%)および
空孔率(容積%)を評価した。その結果を下の表15に
示す。また、軸受としての摩擦摺動特性を軸受試験器を
用いて評価した。なお、相手材としてS45C鋼材のシ
ャフトを用い、試験過程における摩擦係数μおよび相手
材との焼付現象の有無などを評価した。その結果も下の
表15に示す。
【0126】
【表15】
【0127】本発明例(No.1〜9)では、窒化アル
ミニウムの含有量、窒化アルミニウムとシリコンとを合
せた含有量および空孔率は本発明が規定する適正範囲を
満足している。このため、表15に示すように種々の摺
動条件下においても、相手材との焼付およびかじり現象
が生じることがなかった。また、摩擦係数も0.05〜
0.01であり、優れた摩擦摺動特性を有していること
が確認された。一方、比較例(No.10、11)で
は、窒化アルミニウムを含有しないために十分な耐摩耗
性を有することができず、その結果、相手材との焼付現
象を誘発し、また、摩擦係数の増加も確認された。
【0128】なお、本発明に係る焼結アルミニウム合金
と金属板とを備えた摺動部材は、シリンダライナーの他
に、一般用ベアリング軸受けやコンロッド用ベアリング
キャップへも適用することができることを発明者らは確
認している。
【0129】今回開示された実施例はすべての点で例示
であって制限的なものではないと考えられるべきであ
る。本発明の範囲は上記で説明した範囲ではなく、特許
請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意
味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図
される。
【0130】
【発明の効果】本発明に係る焼結アルミニウム合金と金
属板とを備えた2層構造の摺動部材では、焼結アルミニ
ウム合金が適正量の窒化アルミニウムと空孔とを有して
いる。これにより、摺動部材は、耐摩耗性、耐焼き付き
性および耐熱性に優れ、たとえば、潤滑油が使用される
環境下において、自動変速機用摺動部品や軸受けなどの
摩擦摺動部品に適用することができる。特に、裏金の材
質として、比較的熱伝導率の高い材質を適用することに
より、本摺動部材は、自動車、自動二輪車、スノーモビ
ルまたは水上バイクなどに用いられる内燃機関用アルミ
ニウム合金製シリンダライナーに適用することができ
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に係る摺動部材の製造方法を示
すフロー図である。
【図2】本発明の摺動部材の製造工程を示す図である。
【図3】(a)は、本発明の焼結方法を示す図であり、
(b)は、従来の焼結方法を示す図である。
【図4】本発明の摺動部材を用いた内燃機関用のシリン
ダライナーの製造方法を示す図である。
【図5】本発明の実施例において、チップオンディスク
式摩擦試験の方法を示す図である。
【図6】本発明の実施例に係る摺動部材の各製造工程を
示す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI C22C 32/00 C22C 32/00 R F02F 1/00 F02F 1/00 D F16J 10/04 F16J 10/04

Claims (27)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 金属板と、 前記金属板上に形成された焼結アルミニウム合金とを備
    えた摺動部材であって、 前記焼結アルミニウム合金は、シリコンと1重量%以上
    20重量%以下の窒化アルミニウムとを含み、 前記シリコンと前記窒化アルミニウムとを合せた含有量
    が35重量%以下である、摺動部材。
  2. 【請求項2】 前記金属板と前記焼結アルミニウム合金
    との間の前記金属板の表面に、ニッケル、錫、銅、亜
    鉛、コバルトおよび銀からなる群から選ばれる1つのめ
    っき層を有する、請求項1記載の摺動部材。
  3. 【請求項3】 前記焼結アルミニウム合金の熱膨張率と
    前記金属板の熱膨張率との差が、7×10-6/℃以下で
    ある、請求項1または2に記載の摺動部材。
  4. 【請求項4】 前記焼結アルミニウム合金は0.3重量
    %以上7重量%以下の窒素を含み、 前記窒素は、窒化アルミニウムとして前記焼結アルミニ
    ウム合金中に存在する、請求項1〜3のいずれかに記載
    の摺動部材。
  5. 【請求項5】 前記焼結アルミニウム合金の空孔率は、
    3容積%以上45容積%以下である、請求項1〜4のい
    ずれかに記載の摺動部材。
  6. 【請求項6】 前記窒化アルミニウムは、前記焼結アル
    ミニウム合金の旧粉末粒界に厚さ3μm以下の皮膜とし
    て分散して存在している、請求項1〜5のいずれかに記
    載の摺動部材。
  7. 【請求項7】 前記焼結アルミニウム合金は、0.05
    重量%以上のマグネシウムを含む、請求項1〜6のいず
    れかに記載の摺動部材。
  8. 【請求項8】 前記焼結アルミニウム合金は、潤滑成分
    として、黒鉛、硫化モリブデン、硫化タングステンおよ
    びフッ化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも
    1つの潤滑成分を含有するとともに、その含有量が10
    重量%以下である、請求項1〜7のいずれかに記載の摺
    動部材。
  9. 【請求項9】 前記金属板は、前記焼結アルミニウム合
    金を焼結する際の温度よりも高い融点を有する、請求項
    1〜8のいずれかに記載の摺動部材。
  10. 【請求項10】 前記金属板は、アルミニウム、銅、
    鉄、チタンおよびそれらの合金からなる群から選ばれる
    少なくとも1つの金属からなる、請求項1〜9のいずれ
    かに記載の摺動部材。
  11. 【請求項11】 前記金属板はアルミニウム合金からな
    り、 前記アルミニウム合金の熱伝導率が150W/mK以上
    である、請求項1〜9のいずれかに記載の摺動部材。
  12. 【請求項12】 前記焼結アルミニウム合金は、シリコ
    ン、鉄、ニッケル、クロム、マンガンおよびジルコニウ
    ムからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含有
    するとともに、その含有量が35重量%以下である、請
    求項1〜11のいずれかに記載の摺動部材。
  13. 【請求項13】 前記焼結アルミニウム合金は、酸化チ
    タン、酸化ジルコニウム、酸化シリコン、酸化マグネシ
    ウム、酸化アルミニウムおよび酸化クロムからなる群か
    ら選ばれる少なくとも1つの酸化物を含有するととも
    に、その含有量が5重量%以下である、請求項1〜12
    のいずれかに記載の摺動部材。
  14. 【請求項14】 前記摺動部材はシリンダライナーであ
    る、請求項1〜13のいずれかに記載の摺動部材。
  15. 【請求項15】 前記焼結アルミニウム合金は、20重
    量ppm以下の水素を含む、請求項14記載の摺動部
    材。
  16. 【請求項16】 所定寸法の金属板を挿入するための凹
    部が設けられた型を用いて、金属板を前記型の凹部の底
    に挿入する工程と、 前記金属板上の前記型内に、アルミニウム合金粉末を充
    填する工程と、 前記アルミニウム合金粉末が充填された前記型を、温度
    500℃以上の窒素ガスの雰囲気中にて加熱および保持
    することにより、焼結アルミニウム合金を生成するとと
    もに、前記焼結アルミニウム合金中に窒化アルミニウム
    を生成し、かつ、前記焼結アルミニウム合金と前記金属
    板とを拡散接合する焼結工程とを備えた、摺動部材の製
    造方法。
  17. 【請求項17】 前記焼結工程の後、前記焼結アルミニ
    ウム合金の温度が300℃以下に下がってから前記型を
    大気中に搬出する工程を含む、請求項16記載の摺動部
    材の製造方法。
  18. 【請求項18】 前記金属板を前記型に挿入する工程の
    前に、 前記金属板の表面に、ニッケル、錫、銅、亜鉛、コバル
    トおよび銀からなる群から選ばれる1つのめっき層を形
    成する工程を含む、請求項16または17に記載の摺動
    部材の製造方法。
  19. 【請求項19】 前記アルミニウム合金粉末を充填する
    工程の前に、 前記アルミニウム合金粉末に、潤滑成分として、黒鉛、
    硫化モリブデン、硫化タングステンおよびフッ化カルシ
    ウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの潤滑成分
    を混合する工程を含む、請求項16〜18のいずれかに
    記載の摺動部材の製造方法。
  20. 【請求項20】 前記焼結アルミニウム合金粉末を充填
    する工程の前に、 前記アルミニウム合金粉末に、酸化チタン、酸化ジルコ
    ニウム、酸化シリコン、酸化マグネシウム、酸化アルミ
    ニウムおよび酸化クロムからなる群から選ばれる少なく
    とも1つの酸化物を混合する工程を含む、請求項16〜
    19のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
  21. 【請求項21】 前記型として、前記焼結工程におい
    て、前記アルミニウム合金粉末および前記金属板と金属
    結合または拡散接合しない型を用いる、請求項16〜2
    0のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
  22. 【請求項22】 前記型として、カーボン、超硬合金お
    よびおよびセラミックスからなる群から選ばれるいずれ
    かの材料からなる型を用いる、請求項16〜21のいず
    れかに記載の摺動部材の製造方法。
  23. 【請求項23】 前記アルミニウム合金粉末を充填する
    工程と前記焼結工程との間に、前記アルミニウム合金粉
    末を加圧する工程を含む、請求項16〜22のいずれか
    に記載の摺動部材の製造方法。
  24. 【請求項24】 前記焼結工程において、焼結時の前記
    窒素ガスの雰囲気の露点は10℃以下である、請求項1
    6〜23のいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
  25. 【請求項25】 前記型を搬出する工程の後、 前記焼結アルミニウム合金に圧力を加えることにより、
    前記焼結アルミニウム合金の空孔率を3容積%以上45
    容積%以下にする加圧工程を含む、請求項17〜24の
    いずれかに記載の摺動部材の製造方法。
  26. 【請求項26】 前記加圧工程の後、 温度450℃以上の不活性ガスもしくは還元性のガス雰
    囲気中または真空中にて、前記金属板および前記焼結ア
    ルミニウム合金を加熱する工程を含む、請求項25記載
    の摺動部材の製造方法。
  27. 【請求項27】 前記金属板として矩形状の金属板を用
    い、 前記焼結アルミニウム合金が内側になるように、前記摺
    動部材を円筒状に曲げ成形する工程と、 前記円筒状に成形された前記摺動部材の継目を溶接する
    ことにより、シリンダライナーを形成する工程とを含
    む、請求項16〜26のいずれかに記載の摺動部材の製
    造方法。
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WO2002053899A1 (fr) * 2000-12-07 2002-07-11 Yamaha Motor Co., Ltd. Moteur a combustion interne

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