JPH11225753A - ルシフェラーゼの結晶、その製造方法及び三次元構造 - Google Patents

ルシフェラーゼの結晶、その製造方法及び三次元構造

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JPH11225753A
JPH11225753A JP5421098A JP5421098A JPH11225753A JP H11225753 A JPH11225753 A JP H11225753A JP 5421098 A JP5421098 A JP 5421098A JP 5421098 A JP5421098 A JP 5421098A JP H11225753 A JPH11225753 A JP H11225753A
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crystal
dimensional structure
substrate
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JP5421098A
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Kozo Hirokawa
浩三 廣川
Naoki Kajiyama
直樹 梶山
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Kikkoman Corp
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 酵素の活性中心及び活性中心近傍の残基をタ
ーゲットとした部位特異的変異によるルシフェラーゼの
効率的な改良が可能となる、ルシフェラーゼの結晶、そ
の製造方法及びルシフェラーゼの三次元構造を提供する
こと。 【解決手段】 基質存在下で、ルシフェラーゼ溶液に沈
殿剤としてポリエチレングリコールを添加し、蒸気拡散
法によりルシフェラーゼを結晶とする。このルシフェラ
ーゼの結晶は、基質とルシフェラーゼとが複合体を形成
してなり、X線結晶構造解析によりその三次元構造を側
鎖のレベルまで解明し得る品位を有する甲虫類(coleopt
era)由来のルシフェラーゼの結晶である。 この結晶を
用いて、X線結晶構造解析を行うことにより、ルシフェ
ラーゼの三次元構造を得る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ルシフェラーゼを
変異操作によって改良する上で、非常に有用な情報とな
り得るルシフェラーゼの三次元構造を知るために必要な
ルシフェラーゼの結晶、その結晶の製造方法及びそのル
シフェラーゼの三次元構造に関する。
【0002】
【従来の技術】ルシフェラーゼは下記に示すように、A
TP、Mg2+及び酸素分子の存在下でルシフェリンの酸
化を触媒し、これに伴い光を発生させる。 ルシフェリン+ATP+O2 →オキシルシフェリン+
AMP+ピロリン酸+CO2+光 従来、この反応を用いた分析法は、非常に高感度なAT
P検出用として用いられている。
【0003】ルシフェラーゼはColeopteraの体から直接
取得が可能であり、あるいはルシフェラーゼをコードす
る遺伝子を保有する生物からの発現により取得が可能で
ある。これまでに、ルシフェラーゼをコードする遺伝子
は、ゲンジボタル [Luciolacruciata]、ヘイケボタル
[Luciola lateralis]、北アメリカのホタル[Photinusp
yralis]、東ヨーロッパのホタル[Luciola mingrelica]
及びツチボタル[Lampyris noctiluca]などからクロー
ニングされている。
【0004】現在までに、ルシフェラーゼをコードする
遺伝子の変異による酵素の改良がさまざまに試みられて
きた。その例としては、耐熱性が向上したルシフェラー
ゼ(特開平5−244942)、野生型とは異なる色を
発するルシフェラーゼ(特開平3−285683)など
が挙げられる。しかしながら、これらの変異はすべて部
位非特異的なランダム変異により得られたものであっ
て、三次元構造に基づいた部位特異的な変異により得ら
れたものではない。
【0005】最近、北アメリカのホタルルシフェラーゼ
の三次元構造が発表された (Conti,E.,Fr
anks,N.P.and Brick,P.(199
6)Structure.4,287〜298参照)。
しかし、これは基質を含まないルシフェラーゼの結晶の
構造解析であるため、活性中心の構造については、あい
かわらず不明のままであった。そのため酵素の性質を改
良する際、活性中心と活性中心付近の残基をターゲット
とした部位特異的変異による改良は不可能であり、依然
としてランダム変異法を用いた、確率のみに依存する不
確かな改良方法に頼らざるを得ないというのが現状であ
る。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】上記のように、ルシフ
ェラーゼは高感度なATP検出用に用いられているが、
例えば基質との親和性を向上させる等の酵素の改良によ
るさらなる高感度化が期待されている。また、特定の残
基を変異させることにより、例えば耐熱性の向上、所望
の色の発光色を得るなどのような改良も期待されてい
る。しかし、上記のような改良された酵素を得るため
に、ランダム変異を行うことには種々の問題点がある。
すなわち、基質との親和性、耐熱性、発光色などの微妙
なパラメーターの差を有する有用な変異体を、ランダム
変異法により得られた多数の変異体の中から選出するに
は多大の労力を要するという欠点がある。
【0007】本発明の目的は、ルシフェラーゼを変異操
作によって効率よく改良する上で非常に有用な情報とな
り得る、ルシフェラーゼの三次元構造を知るために必要
な、高品位のルシフェラーゼの結晶、その結晶の製造方
法、並びに該結晶を用いてX線結晶構造解析により得ら
れるルシフェラーゼの三次元構造を提供することであ
る。そしてそのルシフェラーゼの三次元構造は、該三次
元構造に基づき部位特異的変異を行うことによって効率
よく有用な変異型ルシフェラーゼを作り出すことができ
るので、極めて有用である。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、ATPの
高感度な酵素的測定法などに好適な、特公開平5−24
4942号公報記載の耐熱性のゲンジボタル由来ルシフ
ェラーゼ(以下T−M−2という)を素材として用い、
該酵素の三次元構造を解明し得る高品位の該酵素の結晶
を得るべく鋭意検討を重ねた結果、結晶化の際に、基質
存在下で、ルシフェラーゼ溶液にポリエチレングリコー
ルを沈澱剤として用いることにより、基質と該ルシフェ
ラーゼとが複合体を形成してなり、本発明の目的を達成
し得る品位を有したルシフェラーゼの結晶を得ることに
成功した。そして、その結晶にX線を当てることによっ
て、分解能約2.3ÅのX線回折強度データが得られる
ことを確認した。
【0009】さらに、本発明者らは、前記ルシフェラー
ゼの結晶についてX線結晶構造解析を行うことにより、
その三次元構造を明らかにすることが可能であることを
実証し、これらの知見に基づき本発明を完成するに至っ
た。すなわち、本発明は、基質とルシフェラーゼとが複
合体を形成してなり、X線結晶構造解析によりその三次
元構造を側鎖のレベルまで解明し得る品位を有すること
を特徴とする、甲虫類(coleoptera)由来のルシフェラー
ゼの結晶である。上記の基質はルシフェリン、オキシル
シフェリン、ATP、AMP及びそれらの誘導体であ
る。そして上記の甲虫類としてはゲンジボタル(Luciol
a cruciata)が挙げられる。
【0010】そして、前記結晶において、例えばルシフ
ェラーゼがゲンジボタル由来であり、その複合体の構成
基質がATPである場合、その結晶の空間群がP211
1であり、格子定数がa=100.8Å、b=10
9.5Å、c=53.6Åであり、α=β=γ=90°
であるルシフェラーゼの結晶である。
【0011】さらに、本発明は、基質存在下で、ルシフ
ェラーゼ溶液に沈殿剤としてポリエチレングリコールを
添加し、蒸気拡散法により結晶化することを特徴とす
る、前記ルシフェラーゼの結晶の製造方法である。
【0012】さらにまた、本発明は、前記ルシフェラー
ゼの結晶を用いて、X線結晶構造解析を行うことによっ
て得られるルシフェラーゼの三次元構造である。
【0013】このようにして得られた本発明のルシフェ
ラーゼの結晶に基づいて得られるルシフェラーゼの三次
元構造を用いれば、その活性中心の残基の配置が明らか
となり、それによって改良型の酵素を得るために変異さ
せるべき残基を絞りこむことができる。つまり、本発明
によれば、ランダム変異による確率的な変異操作に頼ら
ず、部位特異的変異によって特定の残基を任意のアミノ
酸に置換し、得られた少数の変異体について細かな比較
検討を行って、基質との親和性などの優れた変異体を選
抜することが可能となった。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明のルシフェラーゼ結晶を得るための素材と
しては、ルシフェラーゼ活性を有するColeoptera、例え
ばゲンジボタル [Luciola cruciata]、ヘイケ ボタ
ル[Luciola lateralis]、北アメリカのホタル[Photinu
s pyralis]、東ヨー ロッパのホタル[Luciola mingr
elica]及びツチボタル[Lampyris noctiluca]などより
生産されるいずれのルシフェラーゼでも用いることがで
きる。具体的には上記ルシフェラーゼ活性を有するCole
opteraから常法にしたがって精製して得たもの(例えば
特公平8−8863号、特公平8−8864号公報など
参照)、市販のもの(例えば SIGMA CHEMI
CAL CO. 製「LUCIFERASE」)、ある
いはルシフェラーゼをコードする遺伝子または変異遺伝
子を取得し、原核細胞もしくは真核細胞にて発現させて
これを精製したもの(例えば特開平1−34286号、
特公平7−71485号公報など参照)などが用いられ
る。以下に、一例としてルシフェラーゼをコードする遺
伝子を含有するDNAの調製、及び該ルシフェラーゼの
大腸菌(Escherichia coli)での発現
と精製について述べる。
【0015】ルシフェラーゼをコードする遺伝子として
は、Coleoptera由来のものであれば如何なるものでもよ
く、例えば前記したゲンジボタル、ヘイケボタル、北ア
メリカのホタル、ツチボタルなど由来のものが挙げられ
る。なお、野生型ゲンジボタルルシフェラーゼ遺伝子及
びその組み換え体DNAは特公平6−12995号公報
に記載の方法、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼ遺伝
子及びその組み換え体DNAは特公平8−2305号及
び特公平7−112434号公報に記載の方法、さらに
は、ゲンジボタルに由来する耐熱性変異ルシフェラーゼ
遺伝子及びその組み換え体DNAは特開平5−2449
42号公報に記載の方法などにより得られる。
【0016】上記のようにして得られたルシフェラーゼ
遺伝子を含有するDNAを常法により、バクテリオファ
ージ、コスミドまたは原核細胞もしくは真核細胞の形質
転換に用いられるプラスミド等のベクターに組み込み、
おのおののベクターに対応する宿主を常法により、形質
転換・形質導入することができる。前記ルシフェラーゼ
生産能を有するエッシェリシア(Escherichi
a)属に属する菌株を用いてルシフェラーゼを生産する
には、この菌株を通常の固体培養法で培養してもよい
が、液体培養法を採用して培養するのが好ましい。
【0017】また、上記菌株を培養する培地としては、
例えば、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、コーンステ
ィープリカーあるいは大豆もしくは小麦麹の浸出液など
の1種以上の窒素源に、リン酸二水素カリウム、リン酸
水素二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウ
ム、塩化第二鉄、硫酸第二鉄あるいは硫酸マンガンなど
の無機塩類の1種以上を添加し、更に必要により糖質原
料、ビタミンなどを適宜添加したものが用いられる。な
お、前記培地の初発pHは、その使用菌株にもよるが、
通常pH7〜9に調節するのが適当である。また培養は
20〜42℃、好ましくは37℃前後で4〜24時間、
好ましくは6〜8時間、通気攪拌深部培養、振盪培養、
静置培養などにより実施するのが好ましい。
【0018】培養終了後、該培養物よりルシフェラーゼ
を採取するには、通常の酵素採取手段を用いて得ること
ができる。例えば常法により、菌体を超音波処理、磨砕
処理などをするか、リゾチームなどの溶菌酵素を用いて
本酵素を抽出するか、またはトルエンなどの存在下で振
盪もしくは放置して自己消化を行なわせ、目的の酵素を
菌体外に排出させる。この溶液をろ過、遠心分離などし
て固形部分を除去し、必要によりストレプトマイシン硫
酸塩、プロタミン硫酸塩あるいは硫酸マンガンなどによ
り除核酸した後、これに硫安、アルコール、アセトンな
どを添加して分画し、沈澱物を採取し、これを水に対し
透析した後、真空乾燥して粗酵素標品を得る。
【0019】そして粗酵素標品は、さらに酵素の単離精
製の常法に従って、例えば(1)DEAE−セルロース
のカラムクロマトグラフィ−、(2)硫安分画、(3)
QAE−セファデックスのカラムクロマトグラフィ−、
(4)TSK−GELブチル−トーヨーパール650C
〔東洋ソーダ(株)製〕の疎水クロマトグラフィ−、
(5)セファデックスによるゲルろ過などの方法、また
はその他の方法を必要に応じて組み合わせることによ
り、高度に精製されたルシフェラーゼ標品とすることが
でき、この標品は、以下に示す結晶化における素材とし
て用いられる。
【0020】次いで、ルシフェラーゼの結晶化について
述べる。一般的に蛋白質の結晶化は決して容易ではな
い。結晶化の最適条件が比較的簡単に見つかるものもあ
るが、多くの蛋白質の場合は、種々の条件検討を通じて
初めてX線結晶構造解析に供することのできる結晶が得
られる。また、いかなる条件でも結晶化しない蛋白質も
決して少なくはない。そして、蛋白質の結晶が得られな
ければX線結晶構造解析を行うことはできず、したがっ
てX線結晶構造解析以外の方法で三次元構造を決定して
いかなければならない。
【0021】現在、蛋白質の三次元構造を決める方法と
して、NMR(nuclear magnetic r
esonance 核磁気共鳴)を利用することも可能
である。NMRでは試料を結晶化する必要はなく、蛋白
質溶液の状態でデータをとることができる。しかし、N
MRで構造を決めることが可能なのは事実上分子量1万
以下の化合物に限定される。したがって、分子量の大き
なルシフェラーゼを含む大部分の蛋白質については、X
線結晶構造解析に頼らざるを得ないのが現状である。
【0022】また、X線結晶構造解析の際、蛋白質の結
晶であればいかなるものでも解析可能であるわけではな
い。そのX線回折装置の能力によって違いはあるが、測
定に供し得る蛋白質の結晶の条件としては、透明性が高
いこと、単一性が高いことなどが求められる。いずれに
してもX線を当てた際に高分解能の回折強度データが得
られる品位であることが重要である。特に、蛋白質を構
成する各アミノ酸の側鎖の向きまで含めた構造解析を行
うのであれば、2.5Åくらいの分解能が必要とされ
る。
【0023】本発明のルシフェラーゼの結晶化には、ま
ず結晶化の素材となるルシフェラーゼの濃度が5〜10
0mg/mlであることが好ましい。そしてこれに基質
としてルシフェリン、オキシルシフェリン、ATP、A
MP及びそれらの誘導体、例えばデヒドロルシフェリ
ン、GTPなどのうちの一種以上を適当量加えた条件下
で結晶化を行う。
【0024】本発明のルシフェラーゼの結晶化に利用さ
れる沈澱剤としては様々なものを用いることができ、例
えば硫酸アンモニウムなどの無機塩類、ポリエチレング
リコール類、エタノールなどの有機溶媒などが挙げられ
る。本発明においては、それらのうちでもポリエチレン
グリコールが、結晶化が容易に行えることから、好まし
く用いることができ、例えばポリエチレングリコール1
000〜10000が特に好ましい。
【0025】上記条件における結晶化の実施態様として
は、ハンギングドロップ法、シッティングドロップ法、
透析法、シーディング法などの公知のいかなる手法でも
よいが、好ましくは蒸気拡散法の一種であるシッティン
グドロップ法が好適に用いられる。このシッティングド
ロップ法は、密閉系において蛋白質を含む低濃度の沈殿
剤溶液から高濃度の沈殿剤溶液に水が拡散していく原理
を利用したものであり、一般的に用いられる結晶化方法
である。
【0026】上記のようにして得られる結晶の外観、及
び結晶の最小単位である単位格子の種類・サイズ、格子
内の分子の数・対称性などはその結晶に固有のものであ
り、同一の蛋白質でも沈澱剤の種類が違えば異なる結晶
が得られることがある。ただし、同一の蛋白質であれ
ば、結晶の外観が異なっていても分子の三次元構造は同
一であると考えられる。また、ホモロジーの高い酵素で
あれば、同一の条件でほぼ同一の結晶が得られる可能性
もある。このような方法により、X線結晶構造解析に供
してその酵素の三次元構造を側鎖レベルまで解明し得る
品位を有する本発明のルシフェラーゼの結晶を得ること
ができる。
【0027】上記のようにして得られたルシフェラーゼ
の結晶に、X線を当てて回折強度データを得るには、通
常の実験室レベルのX線回折装置としては、R−AXI
SIIc((株)リガク製)などが用いられる。そし
て、そのデーター処理にはプロセス(PROCESS)
(Sato,M.,Yamamoto,M.,Imad
a,K.,Katsube,Y.,Tanaka,N.
and Higashi,T.(1992)J.App
l.Cryst.25,348〜357参照)などのプ
ログラムが用いられる。
【0028】また、得られたX線回折強度データの処理
により、この時点で結晶学的パラメーターをほぼ特定す
ることが可能であり、基質存在下で作成したルシフェラ
ーゼの結晶、例えばATPの存在下で作成したT−M−
2の結晶は、斜方晶系に属しており、空間群がP211
1であり、格子定数はa=100.8Å、b=10
9.5Å,c=53.6Åであり、α=β=γ=90°
である。そして計算によって導き出される前記結晶の溶
媒含有率は51. 5%であり、非対称単位中にルシフ
ェラ−ゼ分子を1分子含むものと推定された。また、前
記データの分解能は2.3Åであり、側鎖の向きも含め
た三次元構造の決定が可能なレベルにあった。
【0029】次いで、上記のようにして得られたX線回
折強度データに基づいてその結晶を構成する分子の電子
密度図を導き出すためには、分子置換法や重原子同形置
換法による位相の決定が必要となる。当該分子とホモロ
ジーの高い北アメリカボタル由来の蛋白質分子の構造が
明らかにされているので、分子置換法を行い分子構造を
決めることにした。
【0030】分子置換法にて良好な初期位相が得られれ
ば、その電子密度図を描くことができる。その電子密度
図は各種のDM(Density Modificat
ion)処理を行うことによって、よりクリアな電子密
度図に変換することができる。なお、この電子密度図に
おいて、基質に相当する電子密度が得られていれば、基
質と複合体を形成した該分子のモデルの構築が可能とな
る。
【0031】上記のようにして得られた電子密度図に基
づいて該分子のモデリングを行う際にも、種々のプログ
ラムを用いることが可能であるが、好ましくは例えばプ
ログラムTURBO−FRODO(Jones,A,
T.(1978)J.Appl.Cryst.11,2
68〜272参照)などを用いて、三次元グラフィック
ス上にて該分子のモデルの構築を行う。
【0032】さらに、構築された分子のモデルは種々の
プログラムを用いて精密化(リファインメント)する必
要があるが、例えばX−PLOR(Brunger,
A.T.,Kuriyan,J.&Karplus,M
(1987)Science35,458〜460参
照)などのプログラムによる精密化と、プログラムTU
RBO−FRODOを用いた修正作業とを駆使して、よ
り正解に近い構造へと近づけていくことができる。精密
化の指標となるR因子の値が20%以下になることが目
標とされている。
【0033】
【実施例】以下、実施例により本発明をさらに詳細に説
明するが、本発明の技術的範囲はかかる実施例によって
なんら限定されるものではない。 実施例1(ATP存在下でのルシフェラーゼの結晶化) 結晶化の素材としては、ゲンジボタル由来の耐熱性ルシ
フェラーゼT−M−2を用いた。上記ルシフェラーゼT
−M−2の発現及び精製は、特公開平5−244942
号公報記載の方法に従い、先ず大腸菌(E.coli)
JM101(pGLf37 T−M−2)(FERM
BP−3452)を、10リットルのLB−amp培地
(バクトトリプトン 1%(W/V)、酵母エキス
0.5%(W/V)、NaCl 0.5%(W/V)、
及びアンピシリン(50μg/ml))中で、37℃で
18時間振盪培養したのち、8,000r.p.m.で10分
間の遠心分離操作により湿潤菌体を50g得た。回収し
たこの菌体を、0.1M KH2PO4(pH7.8)、
2mMEDTA、1mMジチオスレイトール、及び0.
2mg/mlプロタミン硫酸からなる緩衝液900ml
に懸濁し、さらにこれに、10mg/mlのリゾチーム
溶液100mlを添加し、氷中に15分間放置した。次
にこの懸濁液を、メタノール、ドライアイス浴中で完全
に凍結させ、次いで温度25℃に放置し、完全に解凍し
た。さらに12,000r.p.m.で5分間遠心分離操作を
行うことにより、上清として粗酵素液1リットルを得
た。
【0034】このようにして得た粗酵素溶液を常法によ
り硫酸アンモニウムを用いて塩析し、30%〜60%飽
和で生成した沈澱物を12,000r.p.m.で10分間遠
心分離処理し、その沈澱物を、25mMトリス緩衝液
(pH7.8)〔25mMトリス(ヒドロキシ)アミノ
メタン−塩酸緩衝液に、1mMメチレンジアミン4酢酸
2ナトリウム及び10%飽和となるごとく硫酸アンモニ
ウムを添加して得た緩衝液〕に溶解させて溶液を得た。
【0035】次いで前記溶液を、上記した25mMトリ
ス緩衝液(pH7.8)で平衡化されたウルトロゲル
(Ultrogel)AcA34(LKB社製)カラム
中を通過させてゲル濾過クロマトグラフィーを行い、活
性区分を得た。このようにして得た区分を、10mMリ
ン酸緩衝液(pH7.5)〔10mMリン酸1水素ナト
リウム−リン酸2水素ナトリウム溶液に、0.1M塩化
ナトリウム及びエチレングリコール10%(W/V)を
添加した緩衝液〕を用いて透析を行い、得られた溶液を
前記の10mMリン酸緩衝液(pH7.5)で平衡化さ
れたヒドロキシーアパタイトHPLC(東洋曹達工業社
製、TSKgelHA−1000)カラムに吸着させ、
10〜100mM迄のリン酸緩衝液(pH7.5)によ
るリニアグラジエント(Liner Gradien
t)溶出を行うことにより活性区分を得た。この活性区
分を100mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)を用
いて透析を行い、純化された耐熱性ルシフェラーゼT−
M−2を得た。
【0036】上記の精製方法により純化されたT−M−
2ルシフェラーゼを用いて、以下のように結晶化を行っ
た。先ず、 T−M−2ルシフェラーゼ溶液(20mg
/ml)に、7.6mMのATP及び13.3mMのM
gSO4を加えてサンプル溶 液とした。一方、100
mMのトリス塩酸緩衝液(pH8.5)中で、ポリエチ
レングリコール4000の濃度が17%〜32%(W/
V)の範囲内で1%刻みとなるように濃度調整した沈澱
剤溶液を作った。この沈澱剤溶液に0〜1.1% のβ
−オクチルグルコシド、0.2MのLiSO4、及び1
0.8mMのβ-メル カプトエタノールを加え、リザ
ーバー溶液とした。
【0037】結晶化は公知のシッティングドロップ法に
より、以下の通り行った。先ず、前記のリザーバー溶液
を、組織培養用のリンブロ・プレート(Linbro
plate,24穴)の各穴に650μlずつ入れた。
次に、マイクロブリッジを各穴の中央に置き、そのマイ
クロブリッジの上面に前記サンプル溶液を10μlの
せ、すぐに同量(10μl)の前記リザーバー溶液を加
え、手早く攪拌し、蛋白質溶液とした。最後にリンブロ
プレートの穴をシーリングテープにより密閉した。リザ
ーバー溶液中には蛋白質溶液中の2倍の濃度のポリエチ
レングリコールが含まれる計算になるので、蛋白質溶液
中の水は徐々に蒸発してリザーバー溶液中に拡散してい
く。また、蛋白質溶液中のポリエチレングリコール濃度
は徐々にリザーバー溶液のそれに近づいていき、溶けき
れなくなった蛋白質が徐々に結晶化した。そして20℃
で2日以上静置することにより結晶が成長し、前記ポリ
エチレングリコールの各濃度のものから、本発明の目的
に叶った、大きいもので約0.8×0.6×0.1mm
に達するT−M−2の結晶を得た。なお、この結晶は、
後述するごとく、基質であるATPと複合体を形成して
なるルシフェラーゼの結晶であることが確認された。
【0038】実施例2(X線回折強度データの収集) 結晶に、X線を当てて回折強度データーを収集するため
のX線の発生器には、RIGAKU RU−300
((株)リガク製)、また検出器としては、20×20
cmのイメージングプレートを用いたR−AXIS I
Ic((株)リガク製)を使用した。そしてX線回折実
験に供する結晶としては、実施例1で得られたT−M−
2の結晶のうち、大きくて単一性の高い結晶を選定し
た。測定には0.6×0.45×0.1mm程度の大き
さの結晶を供した。この結晶の光学顕微鏡により観察
し、スケッチした図を図1に示す。前記したT−M−2
の結晶を、直径1.5mmのガラスキャピラリー中に封
入し、ゴニオメーター上に粘土で固定した。X線の波長
は1.54Å、カメラ長は115.2mmとし、温度は
20〜22℃で X線回折強度データーの収集を行っ
た。得られたX線回折強度データーの処理にはプログラ
ム・プロセス(PROCESS)を用いた。イメージン
グ・プレートにて検出されたT−M−2の結晶のX線回
折像の一部を図2に示す。
【0039】得られたX線回折強度データの処理によ
り、特定した結晶学的パラメーターを以下に示す。本発
明による前記T−M−2の結晶の属する晶系は、前記の
図1に示すごとく斜方晶系であり、空間群はP211
1であり、格子定数はa=100.8Å、b=109.
5Å、c=53.6Åであり、α=β=γ=90°であ
る。また計算によって導き出される前記結晶の溶媒含有
率は51.5%であり、非対称単位中にルシフェラーゼ
分子を1分子含むものと推定された。また、前記データ
の分解能は2.3Åであり、側鎖の向きも含めた三次元
構造の決定が可能なレベルにあった。
【0040】実施例3(AMP及びルシフェリン存在下
でのルシフェラーゼの結晶化) AMP及びルシフェリンとで複合体を形成してなるルシ
フェラーゼの結晶化を行うため、実施例1におけるサン
プル溶液中に加える7.6mM ATPの代わりに、
9.1mMのAMP及び2.3mMのルシフェリンを加
え、これ以外は実施例1に示したと同様にして結晶化し
た。その結果、大きいもので0.4×0.3×0.1m
mに達するT−M−2の結晶が得られた。
【0041】実施例4(電子密度図の作製) 実施例2により得られたX線回折強度データに基づき、
該結晶を構成する分子の電子密度図を導き出すため、分
子置換法によって位相を決定した。ついで、分子置換法
にて得られた初期位相を用いて、T−M−2の結晶の電
子密度図を描いた。これをさらにDM処理を施すことに
よって、よりクリアな電子密度図に変換した。なお、D
M処理のオプションとして、ソルベント・フラッターリ
ング及びヒストグラム・マッチングなどを用いた。ま
た、この電子密度図には、基質のATPに相当する電子
密度も確認された。
【0042】実施例5(モデリングと精密化) 実施例4で得られた電子密度図に基づいて、プログラム
TURBO−FRODOを用いてモデリングしてT−M
−2分子の三次元構造の構築を行った。このT−M−2
分子の三次元構造は、基質ATPの電子密度が得られて
いるため、ATPと複合体を形成していると考えられ
る。構築したT−M−2分子のモデルは、プログラムX
−PLORを用いてさらに精密化した。そしてX−PL
ORによる精密化とプログラムTURBO−FRODO
を用いた修正作業とを駆使して、構造の修正を繰り返し
た。精密化の指標となるR因子の値は28.7%まで下
がった。
【0043】このような過程を経て得られたATPと複
合体を形成してなるT−M−2の三次元構造のモデルを
図3に示す。この三次元構造から、ルシフェラーゼの活
性中心を推測することができる。したがって本発明によ
り、その三次元構造に基づいた活性中心及び活性中心近
傍の残基をターゲットとした、部位特異的変異による酵
素の改良が可能となり、効率的に部位特異的変異させた
有用な変異型ルシフェラーゼを得ることができる。
【0044】
【発明の効果】本発明のルシフェラーゼの結晶は、X線
回折実験を行うことによって分解能約2.3ÅのX線回
折強度データを得られるに十分な品位を有しており、ル
シフェラーゼの三次元構造を側鎖のレベルまで解明でき
る。ルシフェラーゼは、高感度のATP測定に用いられ
ている非常に有用な酵素であり、その三次元構造を明ら
かにすることによって、その酵素の活性中心及び活性中
心近傍の残基をターゲットとした部位特異的変異による
ルシフェラーゼの効率的な改良が可能となるので、本発
明は産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1における、ATPと複合体を形成し
てなる、ルシフェラーゼの結晶を示すスケッチ図。
【図2】 実施例2における、イメージング・プレート
にて検出された、ATPと複合体を形成してなる、ルシ
フェラーゼのX線回折像の一部を示す図。
【図3】 実施例5における、ATPと複合体を形成し
てなる、ルシフェラーゼの三次元構造を示すモデル図。

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 基質とルシフェラーゼとが複合体を形
    成してなり、X線結晶構造解析によりその三次元構造を
    側鎖のレベルまで解明し得る品位を有することを特徴と
    する、甲虫類(coleoptera)由来のルシフェラーゼの結
    晶。
  2. 【請求項2】 基質がルシフェリン、オキシルシフェ
    リン、ATP、AMP及びそれらの誘導体である、請求
    項1記載のルシフェラーゼの結晶。
  3. 【請求項3】 甲虫類がゲンジボタル(Luciola cru
    ciata)である請求項1又は2記載のルシフェラーゼの
    結晶。
  4. 【請求項4】 結晶の空間群がP2111であり、
    格子定数がa=100.8Å、b=109.5Å、c=
    53.6Åであり、α=β=γ=90°である、請求項
    3記載のルシフェラーゼの結晶。
  5. 【請求項5】 基質存在下で、ルシフェラーゼ溶液に
    沈殿剤としてポリエチレングリコールを添加し、蒸気拡
    散法により結晶化することを特徴とする、請求項1、
    2、3又は4いずれかの項に記載のルシフェラーゼの結
    晶の製造方法。
  6. 【請求項6】 請求項1乃至4のいずれかの項に記載
    のルシフェラーゼの結晶を用いて、X線結晶構造解析を
    行うことによって得られるルシフェラーゼの三次元構
    造。
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