JPH11157926A - ジルコニア焼結体および摺動部品 - Google Patents

ジルコニア焼結体および摺動部品

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JPH11157926A
JPH11157926A JP9321664A JP32166497A JPH11157926A JP H11157926 A JPH11157926 A JP H11157926A JP 9321664 A JP9321664 A JP 9321664A JP 32166497 A JP32166497 A JP 32166497A JP H11157926 A JPH11157926 A JP H11157926A
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JP
Japan
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zirconia
sintered body
zirconia sintered
zro
temperature
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Application number
JP9321664A
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English (en)
Inventor
Kazuhiro Shinosawa
和弘 篠澤
Yutaka Abe
豊 阿部
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Toshiba Corp
Original Assignee
Toshiba Corp
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Publication date
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Abstract

(57)【要約】 【課題】特に使用温度条件が大きく変化した場合におい
ても寸法変化が少なく、また摺動部品として使用した場
合においても、相手材とのかじり(スカッフィング)を
起こすことがなく、良好な摺動特性を発揮し得るジルコ
ニア焼結体および摺動部品を提供する。 【解決手段】マグネシア(MgO)を安定化剤として含
有するジルコニア焼結体において、ジルコニア焼結体の
平均結晶粒径が50μm以下であり、立方晶ジルコニア
相中に析出した正方晶ジルコニアと単斜晶ジルコニアと
の総析出結晶量が55〜75モル%であり、かつ正方晶
ジルコニアの析出量に対する単斜晶ジルコニアの析出割
合がモル%比で0.2〜0.5であるジルコニア焼結体
であって、このジルコニア焼結体を温度150℃で24
時間加熱した後に室温下で寸法を測定したときに加熱前
後における寸法変化が±0.02%以内であることを特
徴とする。このジルコニア焼結体は回転式圧縮機用ベー
ン11a,11bや燃料噴射装置用プランジャーなどの
摺動部品の構成材として有用である。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はジルコニア焼結体お
よび摺動部品に係り、特に使用温度条件が大きく変化し
た場合においても寸法変化が少なく、また摺動部品とし
て使用した場合においても相手材とのかじり(スカッフ
ィング)を起こすことがなく良好な摺動特性を発揮し得
るジルコニア焼結体および摺動部品に関する。
【0002】
【従来の技術】シリンダー等の相手材との間に僅かなク
リアランスを保持しながら摺動する摺動部品が、自動車
部品,精密機器,重電設備機器,航空機部品,電子機器
等に広く使用されている。
【0003】図2は自動車用エンジンなどに使用されて
いる燃料噴射装置20の構成を示す縦断面図である。こ
の燃料噴射装置20は円筒状のシリンダー21内を軸方
向に往復動する摺動部品としてのプランジャー22を備
えて構成され、エンジンの吸排気工程に従って上下動す
るロッカーアーム23に連動してプランジャー22がシ
リンダー21内を往復動し、シリンダー21先端部に設
けた燃料の噴射口を開閉して燃料を噴射する機能を有し
ている。上記シリンダー21と摺動部品としてのプラン
ジャー22との径方向のクリアランスは僅かに4〜5μ
m程度と極めて微小である。従来、上記プランジャー2
2の構成材としては、一般にSUJ2材表面に窒化処理
を施して表面を硬化させて耐摩耗性を向上させた金属材
を使用していた。
【0004】摺動部品の他の使用例として、図3および
図4に示すような密閉型のロータリ圧縮機1がある。こ
の圧縮機1は、冷凍機,冷蔵庫,空調機やショーケース
において冷媒を圧縮するための主要機器として装備され
ている。
【0005】この圧縮機1は、ケ―シング2の内部にモ
ータ3aと圧縮要素3bとを内装して構成され、圧縮要
素3bはモータ3から延びる回転軸4を主軸受5と副軸
受6に挿通され、この主軸受5と副軸受6との間に、仕
切板7を介して2基のシリンダ8a,8bを配設し、各
シリンダ8a,8b内において、前記回転軸4に形成さ
れた偏心部9a,9bにそれぞれ円筒状のローラ10
a,10bを嵌合させる一方、図4に示すように偏心回
転するローラ10a,10bに対して常時押し付けて接
触するように、ベーン11a,11bが配設されて構成
される。ベーン11a,11bは、偏心部9a,9bお
よびローラ10a,10bの回転に応じて各ローラ外周
面に摺接しながら往復動し、各シリンダ8a,8b内部
を圧力的に仕切る役割を果している。こうして圧縮機1
は、モータ3の駆動によって前記ローラ10a,10b
をシリンダ8a,8b内において偏心回転させることに
より、吸込み口12を通り、シリンダ8a,8b内の吸
込みチャンバ13a,13bに吸入したガスを圧縮チャ
ンバ14a,14b方向に移動させながら圧縮して吐出
口15から吐出するものである。
【0006】上記のような圧縮機1においては、主副軸
受5,6と回転軸4、シリンダ8とベーン11、仕切板
7とローラ10など相互に摺接する摺動部における摩耗
が特に顕著になるため、高い耐摩耗性を有する材料で形
成されている。
【0007】従来、この種の材料としては、高速度鋼や
共晶黒鉛鋳鉄の溶解材、さらにより具体的には2.3%
Si−3.4%C−残部Feから成るFC鋳物材、SM
F4030などのSMF−4種材(鉄−炭素−銅系合
金)など耐摩耗性を高めた材料が一般に使用されてい
る。特に高度の耐焼付性および耐摩耗性が要求されるロ
ーラを構成する耐摩耗材料としては、Mo−Ni−Cr
−C−Si−残部Fe合金(モニクロ鋳鉄)が広く利用
され、またベーン材としては表面窒化処理したSUS,
SKH−51、シリンダ材としては、FC200等が一
般に使用されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の
耐摩耗合金材料で摺動部品を形成した圧縮機では耐摩耗
性が不十分であるとともに、次のような問題点が発生す
ることが確認されている。
【0009】すなわち使用環境温度が、局部的に−50
℃から+300℃まで大きく変化するため、ベーンやロ
ーラ等の摺動部品の寸法が熱膨張により変化し、摺動部
材相互の微小なクリアランスが拡大して冷媒の圧縮効率
が低下し、最終的に冷却能力の低下を招来する問題点が
ある。
【0010】また使用温度の上昇に伴い、摺動部品を構
成する合金組織の変態等により、その硬度および耐摩耗
性が低下して圧縮機としての能力が低下してしまう問題
点が確認されている。
【0011】一方、従来の合金材料で形成したプランジ
ャーを使用した燃料噴射装置においては、プランジャー
の耐摩耗性が不十分である上に、使用温度の変化によっ
て、プランジャーとシリンダーとの間の4〜5μm程度
のクリアランスが小さくなり、相互の摺動部品が直接接
触したり、かじり(スカッフィング)を生じて正常な燃
料噴射機能が阻害される問題点もあった。
【0012】そこで、耐摩耗性をさらに改善する目的
で、上記金属材料に代えて窒化けい素やジルコニア焼結
体などのファインセラミックス焼結体を使用することが
試行されている。一般にセラミックス焼結体は、高温ま
で強度低下が少なく、硬度,電気絶縁性,耐摩耗性,耐
熱性,耐腐食性,軽量性等の諸特性が従来の金属材と比
較して優れているため、重電設備部品,航空機部品,自
動車部品,電子機器,精密機械部品,半導体装置材料な
どの電子用材料や構造用材料として広い分野において使
用されている。例えば、マグネシア(MgO)を安定化
剤とする部分安定化ジルコニア(PSZ)焼結体は、優
れた機械的強度を有し、また金属材との熱膨張係数差が
小さいことから、線引用ダイス等の機械部品や治具材と
して使用されている。この適用例は、主として焼結体へ
の安定化剤の添加量および焼結体中における単斜晶の析
出分率に着目して実用化されたものである。
【0013】しかしながら、使用温度が−50℃から+
300℃までの広い範囲で変動し、4〜5μm程度の微
小なクリアランスを保持して摺動部品を組み込むような
装置において、上記のような窒化けい素焼結体やジルコ
ニア焼結体を摺動部品の構成材として適用することは、
以下の理由により事実上困難になりつつある。
【0014】すなわち窒化けい素焼結体で摺動部品を構
成した場合には、金属材料と比較して熱膨張係数が大き
く異なるため、使用温度が低温または高温になると、摺
動部品の組み込み時に設定したクリアランスが増加する
こととなり、圧縮機においては潤滑剤(油)が漏洩した
り、燃料噴射装置においても、燃料が漏洩してしまう問
題点があった。
【0015】一方、例えばイットリア(Y2 3 )を安
定化剤として使用した従来のジルコニア焼結体を摺動部
品材料として使用した場合には、熱膨張係数が金属材に
近いため、上記のような油漏れや燃料漏れなどの不具合
は生じない反面、従来のジルコニア焼結体では、熱,水
分,応力が作用するとマルテンサイト型の変態が焼結体
組織内で起こり体積が膨張する欠点がある。
【0016】すなわち、摺動部品を200℃前後の高温
度域で使用すると、正方晶ZrO2が単斜晶ZrO2
相変態し、摺動部品の寸法が大きく変化してしまう問題
があった。この相変態により摺動部品と相手材とのクリ
アランスが小さくなり、摺動部材が相互に直接接触した
り、かじり(スカッフィング)を生じたり、構成部品が
損傷したりして、いずれにしても装置の要求能力が十分
に発揮できない問題点があった。
【0017】本発明は上記の問題点を解決するためにな
されたものであり、特に使用温度条件が大きく変化した
場合においても寸法変化が少なく、また摺動部品として
使用した場合においても相手材とのかじり(スカッフィ
ング)を起こすことがなく良好な摺動特性を発揮し得る
ジルコニア焼結体および摺動部品を提供することを目的
とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するた
め、本願発明者らはジルコニア焼結体の結晶構造が相変
態や寸法変化に大きな影響を及ぼすことを実験により究
明し、その結晶構造を適正に制御することにより、高強
度であり、かつ大きな温度変化が繰り返して作用した場
合においても、寸法変化が少ないジルコニア焼結体が得
られることを確認した。すなわち本発明者らは比較的に
相変態を引き起こしにくい焼結体であり、マグネシア
(MgO)を安定化剤とする部分安定化ジルコニア(P
SZ)の結晶構造に着目し、立方晶ZrO2 マトリック
スの結晶粒径および、この立方晶ZrO2 マトリックス
中に析出する正方晶ZrO2 や単斜晶ZrO2 の析出割
合(組成比),粒子径,析出量等を適正に制御すること
により、例えば−50℃から+300℃までの広範囲の
温度変化が繰り返して作用した場合においても、相変態
が効果的に抑止され、寸法変化が少ないジルコニア焼結
体が初めて得られるという知見を得た。
【0019】また上記のような結晶構造を得るために
は、ジルコニア中のY2 3 ,SiO2 などの不純物の
含有量を適性化するとともに、安定化剤であるマグネシ
ア(MgO)の添加量を最適化し、比較的に低温で焼結
することによりZrO2焼結体の粒成長を抑制すること
が好ましいという知見も得た。
【0020】さらにZrO2 焼結体の平均粒径が50μ
m以下となるように焼結条件を制御したり、立方晶Zr
2 マトリックス中に正方晶ZrO2 および単斜晶Zr
2が適正量に析出するように焼結後の降温条件を制御
することにより、高強度で、かつ熱的に安定であり、寸
法変化が少ないジルコニア焼結体が得られるという知見
が得られた。
【0021】また上記のジルコニア焼結体から各種摺動
部品を形成し、僅かなクリアランスを保持するような摺
動部に組み込んだ場合においても、温度変化によって相
手材とのかじりを起こすことが少なく、良好な摺動特性
を発揮し得る摺動部品が初めて得られるという知見も得
られた。
【0022】本発明は上記知見に基づいて完成されたも
のである。すなわち本発明に係るジルコニア焼結体は、
マグネシア(MgO)を安定化剤として含有するジルコ
ニア焼結体において、ジルコニア焼結体の平均結晶粒径
が50μm以下であり、立方晶ジルコニア相中に析出し
た正方晶ジルコニアと単斜晶ジルコニアとの総析出結晶
量が55〜75モル%であり、かつ正方晶ジルコニアの
析出量に対する単斜晶ジルコニアの析出割合がモル%比
で0.2〜0.5であるジルコニア焼結体であって、こ
のジルコニア焼結体を温度150℃で24時間加熱した
後に室温下で寸法を測定したときに加熱前後における寸
法変化が±0.02%以内であることを特徴とする。
【0023】さらに析出した正方晶ジルコニアおよび単
斜晶ジルコニアの結晶粒子径が500nm以下であること
が好ましい。またジルコニア焼結体は安定化剤としてマ
グネシア(MgO)を3〜5重量%含有する他に、ジル
コニア中に不純物として含まれるイットリア(Y
2 3 )が0.3重量%以下,シリカ(SiO2 )が
0.5重量%以下含有されていることが好ましい。さら
にマグネシアの結晶粒径が5μm以下であり、ジルコニ
ア焼結体の粒界に偏析したシリカ(SiO2 )の粒径が
10μm以下であることを特徴とする。
【0024】さらに本発明のジルコニア焼結体をその特
性から規定すると、マグネシア(MgO)を安定化剤と
して含有するジルコニア焼結体において、ジルコニア焼
結体を温度−40℃から+150℃まで加熱し、引き続
いて+150℃から−40℃まで冷却する操作を1サイ
クルとする昇温−降温サイクルを1000サイクル繰り
返して付加する熱サイクル試験を実施したときに、熱サ
イクル試験前後におけるジルコニア焼結体の寸法変化が
±0.02%以内であることを特徴とする。
【0025】また本発明に係るジルコニア焼結体は、燃
料噴射装置用プランジャーまたは回転式圧縮機用ベーン
を構成する材料として好適である。
【0026】さらに本発明に係る摺動部品は、上記各ジ
ルコニア焼結体から構成されたことを特徴とする。
【0027】ここでマグネシア(MgO)はジルコニア
焼結体を部分的に立方晶系の結晶形で安定化させる安定
化剤として機能し、ジルコニア(ZrO2 )焼結体に対
して3〜5重量%(0.22〜0.37mol.% )の割合
で含有される。MgOの含有量が上記範囲外となる場合
には、使用温度の変動に対するジルコニア焼結体の寸法
安定性が損われ寸法変化が大きくなるため、MgO含有
量は上記範囲とするが、3〜3.8重量%の範囲がより
好ましい。MgOの大部分は安定化した立方晶ZrO2
内に固溶したり、または析出して存在するが、ジルコニ
ア焼結体の強度および靭性を高めるために、MgOの結
晶粒径は5μm以下に制御することが好ましい。
【0028】ジルコニア焼結体の平均結晶粒径は、焼結
体全体の強度,靭性,耐熱衝撃性に大きく影響するた
め、本発明では50μm以下とされる。特に−40℃か
ら+300℃までの温度領域において十分な強度と靭性
とを確保するためには、ジルコニア焼結体の平均結晶粒
径を50μm以下とすることが望ましい。
【0029】本発明のジルコニア焼結体においては、相
変態を防止し寸法変化を可及的に抑制するために、立方
晶ジルコニアと正方晶ジルコニアと単斜晶ジルコニアと
の3種の結晶構造が所定比率で混在した微細組織が形成
される。
【0030】すなわち立方晶ジルコニア相中に析出した
正方晶ジルコニアと単斜晶ジルコニアとの総析出結晶量
を55〜75モル%に調整するとともに、正方晶ジルコ
ニアの析出量に対する単斜晶ジルコニアの析出割合をモ
ル%比で0.2〜0.5の範囲に調整する。上記正方晶
ZrO2 および単斜晶ZrO2 の総析出量および析出割
合が上記規定範囲外になると相変態が起こり易く、使用
温度によっては寸法変化が大きい焼結体組織となる。ま
た、単斜晶ZrO2 の析出割合が0.5を超えると、Z
rO2 焼結体の機械的強度が低下してしまう。さらに総
析出結晶量が75モル%を超える場合にも機械的強度が
低下する。
【0031】また上記立方晶ジルコニア相中に析出した
正方晶ジルコニアおよび単斜晶ジルコニアの結晶粒子径
を500nm以下に制御することにより、強度および靭性
が良好なジルコニア焼結体を得ることができる。
【0032】さらにジルコニア焼結体に安定化剤として
マグネシア(MgO)を3〜5重量%含有させる他に、
ジルコニア中に不純物として含まれるイットリア(Y2
3)が0.3重量%以下,シリカ(SiO2 )が0.
5重量%以下の割合で含まれていることが好ましい。Y
2 3 およびSiO2 はMgOと同様に熱によるZrO
2 結晶の相変態を抑止する効果と、焼結助剤として作用
しZrO2 焼結体を緻密化して強度および靭性を改善す
る効果とを有する。
【0033】Y2 3 およびSiO2 を上記規定量を超
えて添加しても相変態抑制効果および緻密化効果は却っ
て損われ、しかもZrO2 本来の高強度高靭性特性を損
う。上記観点からY2 3 の好ましい含有量はZrO2
焼結体に対して0.01〜0.3重量%の範囲であり、
SiO2 の好ましい含有量はZrO2 焼結体に対して
0.1〜0.5重量%の範囲である。
【0034】但し、シリカ(SiO2 )は焼結体の粒成
長を促進する機能があり、過度の含有は相変態を誘発す
る要因になる。また上記シリカ(SiO2 )や不純物お
よび過剰量の焼結助剤は、粒界層に偏析し易く、ZrO
2 焼結体の相変態を引き起こし易くなる。特に粒界層に
偏析したSiO2 の粒径が10μmを超えると相変態が
顕著になる。そこでZrO2 焼結体の温度による寸法変
化を抑止するためには、偏析したSiO2 の粒径を10
μm以下、好ましくは5μm以下に制御することが望ま
しい。
【0035】本発明に係るジルコニア焼結体は、例えば
以下に示すような手順で製造される。すなわち、Y2
3 ,SiO2 などの不純物の含有量を適性化したジルコ
ニア原料粉末に対して所定量のMgOを添加混合して原
料混合体を調製し、この原料混合体を加圧成形して成形
体とし、得られた成形体を大気雰囲気中で1625〜1
700℃の温度範囲で2〜10時間焼結した後、75〜
150℃/hrの速度で炉冷して製造される。
【0036】上記焼結操作によってジルコニア成形体の
緻密化が進行し、MgOによって部分的に安定化した立
方晶ジルコニアが焼結体中に形成され、さらに焼結操作
完了後の冷却過程において立方晶ジルコニア相中に正方
晶ジルコニアと単斜晶ジルコニアとが析出する。
【0037】特に本発明で指向するように、立方晶,正
方晶および単斜晶の3種のジルコニア結晶構造が所定の
比率で混在するような微細組織を有するZrO2 焼結体
を製造するためには、(1)各ジルコニア結晶の粒成長
を抑制するために、従来法よりも低い温度で焼結を行な
うこと、(2)焼結温度を下げるために焼結助剤の種類
および添加量を適正に制御すること、(3)粒界層に偏
析して相変態を誘起し易い不純物量を厳正に管理低減す
ること、(4)焼結温度,保持時間,昇温速度,冷却速
度などの焼結条件および冷却プロファイルを厳正に管理
し、立方晶,正方晶および単斜晶の各ZrO2 結晶の組
成比率,各構成粒子の粒径を適正に制御することが肝要
である。
【0038】具体的な製造条件の要点を以下に列記す
る。すなわち、(1)各ジルコニア結晶の粒成長を抑制
するために、焼結温度は1625〜1700℃であるこ
と、(2)焼結助剤(安定化剤)は、マグネシアとし、
これの添加量が8〜11mol.% であること、(3)ジルコ
ニア中の不純物量としては、Y2 3 が0.01〜0.
3重量%であり、SiO2 が0.1〜0.5重量%の範
囲であること、(4)最高焼結温度は、1650〜17
00℃の温度範囲であり、最高焼結温度での保持時間は
2〜10時間とし、昇温速度は100〜200℃/hrと
し、また冷却速度は75〜150℃/hrであることが肝
要である。
【0039】上記のように調製されたジルコニア焼結体
は、−50℃から+300℃までの範囲において温度変
化が繰り返し作用した場合においても、寸法変化が少な
く、また三点曲げ強度(抗折強度)が600〜700M
Paとなり、摺動部品として使用した場合に必要十分な
構造強度を有している。
【0040】また、上記ジルコニア焼結体の寸法安定性
を具体的な試験方法によって表すと下記のようになる。
すなわち、ジルコニア焼結体を温度150℃で24時間
加熱した後に室温下で寸法を測定したときに、加熱前後
における焼結体の寸法変化が±0.02%以内である。
【0041】さらに、本発明のジルコニア焼結体に熱サ
イクルを繰り返して付加させた場合の寸法安定性を、他
の具体的な熱サイクル試験(TCT)方法によって規定
すると下記のようになる。すなわち、マグネシア(Mg
O)を安定化剤として含有するジルコニア焼結体におい
て、ジルコニア焼結体を温度−40℃から+150℃ま
で加熱し、引き続いて+150℃から−40℃まで冷却
する操作を1サイクルとする昇温−降温サイクルを10
00サイクル繰り返して付加する熱サイクル試験を実施
したときに、熱サイクル試験前後におけるジルコニア焼
結体の寸法変化が±0.02%以内である。
【0042】このように本発明に係るジルコニア焼結体
は、−50℃から+300℃までの範囲の温度変化を受
けた場合においても、寸法変化が少ないため、相手材と
の間で僅かなクリアランスを保持して摺動する摺動部品
の構成材料として好適である。特に相手材とのクリアラ
ンスが10μm以下であり、かつ温度変化,荷重変化ま
たは他の使用条件の変動に起因するクリアランスの変化
幅が5μm以下であるような高精度の組み込み構造を有
する摺動部品の構成材として極めて有用である。
【0043】特に上記温度範囲を使用環境温度とする燃
料噴射装置用プランジャーや回転式圧縮機用ベーンなど
の摺動部品の構成材として上記ジルコニア焼結体を使用
した場合には、摺動部における寸法変化が少なく、かじ
りの発生もなく良好な摺動特性を長期に亘って維持する
ことができる。
【0044】上記構成に係るジルコニア焼結体および摺
動部品によれば、立方晶ジルコニアと正方晶ジルコニア
と単斜晶ジルコニアとの3種の結晶構造が所定比率で混
在する微細組織を有しているため、−50℃から+30
0℃までの範囲において使用温度が変化した場合におい
ても、寸法変化が少ない。したがって、このジルコニア
焼結体を、上記温度環境条件下で使用する燃料噴射装置
用プランジャーや回転式圧縮機用ベーンなどの高精度の
摺動部品に適用した場合には、温度変化によるかじりが
発生するおそれがなく、長期間に亘って良好な摺動特性
が得られる。
【0045】
【発明の実施の形態】次に本発明の実施形態について以
下の実施例および比較例に基づいて、より具体的に説明
する。
【0046】実施例1〜4および比較例1〜4 重量%でHfO2 を1.82%と,SiO2 を0.17
%と,Fe2 3 を0.04%と,NaO2 を0.04
%と,Al2 3 を0.02%と,CaOを0.03%
と,TiO2 を0.13%と,Y2 3 を0.15%と
を含有し、比表面積が5.75m2 /gであり、50%
粒径が1.20μmであるジルコニア原料粉末を用意し
た。一方、Mgの化学組成の純度が99.9%である高
純度のマグネシア(MgO)粉末を用意した。
【0047】次に、このジルコニア原料粉末に対して、
表1に示すようにMgO粉末を8〜11mol.% となるよ
うに配合し、混合体をスプレードライヤーにて乾燥造粒
して、それぞれの組成を有する造粒粉を調製した。さら
に各造粒粉を1ton/cm2 の加圧力を作用させるラバープ
レス法により加圧成形し、直径12mm×長さ70mmの各
成形体をそれぞれ形成した。
【0048】次に得られた各成形体をエアー雰囲気中で
15℃/min の昇温速度で加熱し最高温度450℃で脱
脂処理し、しかる後に100℃/Hrの昇温速度で表1
に示す最高焼結温度1625〜1750℃に加熱し、そ
の最高焼結温度にて3時間保持して焼結した。焼結完了
後、200℃までの冷却速度を、表1に示すように75
〜200℃/Hrの範囲で変化させて焼結体を冷却し、
それぞれ実施例1〜4および比較例1〜4に係るZrO
2 焼結体を製造した。
【0049】こうして製造した各ZrO2 焼結体に#4
00レジンボンドダイヤモンド砥石を使用して円筒研削
加工を施して、直径8.5mm×長さ50mm,真直度およ
び真円度がそれぞれ0.001mm以下,軸部表面粗さが
0.2〜0.3μmRaである円柱体状の試験片を調製
した。そして各試験片について、密度を測定するととも
に、支持スパンが30mmでクロスヘッド速度(C.H.
S)が0.5mm/minである三点曲げ試験を実施し抗折
強度を測定した。密度は室温(25℃)における水排除
量と重量とから算出した。
【0050】また各ZrO2 焼結体の研摩面についてX
RD解析を実施し、各結晶方位からの回折X線の面積強
度(I)を測定し、各ZrO2 焼結体の立方晶ZrO2
相中に析出した正方晶ZrO2 の析出量(Ct)および
単斜晶ZrO2 の析出量(Cm)をそれぞれ下記
(1),(2)式に基づいて算出し、得られた値を合計
して総析出量を求めるとともに、正方晶ZrO2 に対す
る単斜晶ZrO2 の析出割合(Cm/Ct)を計算し
た。
【0051】
【数1】
【数2】
【0052】さらにZrO2 焼結体の相変態性を評価す
るために、前記のように調製した円柱体状のZrO2
結体試験片に、−40℃から+150℃の温度域におけ
る熱サイクル試験(TCT)を実施し、TCT前後にお
ける軸径の成長量(変化量)を測定し、寸法変化割合を
測定した。なお、TCT前後における円柱体状試験片の
軸径は、温度が20±0.05℃で、かつ湿度が60±
0.1%に調整された恒温室内で精密に測定した。
【0053】また熱サイクル試験は、図1に示すように
各試験片を−40℃から+150℃に加熱して15分間
保持し、引き続いて+150℃から−40℃に冷却して
15分間保持するまでを1サイクルとする昇温−降温サ
イクルを繰り返して1000サイクル付加して実施し
た。TCT後における軸径の成長量および寸法変化割合
を表1に示す。
【0054】さらにZrO2 焼結体の相変態性に影響を
及ぼす因子と考えられるZrO2 焼結体のTCT前の平
均結晶粒径と,析出した正方晶ZrO2 の析出量(C
t)に対する単斜晶ZrO2 の析出量(Cm)の比(C
m/Ct)とを測定算出した。なおZrO2 焼結体の平
均結晶粒径は、前記円柱体状試験片の断面を鏡面になる
までラップ研摩し、研摩面を大気中で温度1450℃で
1時間保持するサーマルエッチング処理を実施した後
に、倍率200倍の金属顕微鏡を使用して表面観察して
測定した。測定結果を表1に併せて示す。
【0055】また各ZrO2 焼結体から厚さ1.0mmの
薄片を作製し、イオンミリング法により電子線が透過可
能な厚さまで薄片化した後に、透過型電子顕微鏡を使用
して析出した正方晶ZrO2 および単斜晶ZrO2 の結
晶粒子径を測定し、下記表1に示す結果を得た。
【0056】
【表1】
【0057】上記表1に示す結果から明らかなように、
正方晶ZrO2 および単斜晶ZrO2 の総析出量が55
〜75mol.% の範囲であり、正方晶ZrO2 の析出量
(Ct)に対する単斜晶ZrO2 の析出量(Cm)の比
(Cm/Ct)が0.2〜0.5の範囲であり、またZ
rO2 焼結体の平均粒径が50μm以下であり、さらに
析出した正方晶ZrO2 および単斜晶ZrO2 の結晶粒
子径が500nm以下であるように、3種の結晶構造が所
定比率で混在した微細組織を有する各実施例のZrO2
焼結体によれば、抗折強度が大きく、かつ耐相変態性に
優れ、温度による寸法変化が少ないZrO2 焼結体が得
られた。
【0058】次に安定化剤としてのマグネシア(Mg
O)の他に、イットリア(Y2 3 )やシリカ(SiO
2 )などの化学成分を添加してZrO2 焼結体を調製し
た場合において、それらの添加剤がZrO2 焼結体の寸
法安定性および耐相変態性に及ぼす影響について、以下
の実施例および比較例に基づいて説明する。
【0059】実施例5〜8および比較例5〜9 前記表1に示す各実施例のうち、TCT前後における焼
結体の寸法変化割合が0.005%と最も良好な耐変態
性を示した実施例2に係るZrO2 焼結体の製造条件に
ほぼ準拠して処理し、それぞれ表2に示すように、実施
例5〜8および比較例5〜9に係るZrO2 焼結体を調
製した。すなわち、実施例2において使用したZrO2
原料粉末に対して、10mol.% のMgO粉末を添加する
とともに、Y2 3 粉末およびSiO2 粉末を表2に示
す割合でそれぞれ添加して各原料混合粉とし、この原料
混合粉を造粒後、成形し、得られた各成形体を実施例2
と同様な条件で処理してそれぞれ実施例5〜8および比
較例5〜9に係るZrO2焼結体を製造した。
【0060】次に得られた各ZrO2 焼結体を円筒研削
加工して円柱体状の試験片とし、各試験片について三点
曲げ強度試験を実施して抗折強度を測定する一方、実施
例2と同様な熱サイクル試験(TCT)を実施して、T
CT前後における試験片の寸法(軸径)成長量および寸
法変化割合を測定して下記表2に示す結果を得た。
【0061】
【表2】
【0062】上記表2に示す結果から明らかなように、
2 3 成分およびSiO2 成分を所定の範囲内で含有
させた各実施例に係るZrO2 焼結体においては、抗折
強度も高く、かつTCT前後における寸法変化割合が小
さく、優れた耐相変態性を有することが判明した。
【0063】一方、比較例5,6,9から明らかなよう
に、SiO2 成分はZrO2 焼結体の粒成長を促進する
機能があると考えられ、その過度の含有は相変態を誘発
する要因になっていると考えられる。また比較例7〜9
に係る焼結体の寸法変化割合から明らかなように、Y2
3 は安定化剤としての役割を果す一面もあるが、熱に
対して不安定であり、マグネシア含有の部分安定化ジル
コニア(MgO−PSZ)と比較して相変態性が高い傾
向が見られ、Y2 3 の過度の含有はZrO2焼結体の
寸法安定性に対するマイナス要因となっていることが確
認できた。
【0064】次に前記実施例5,6,8に係るZrO2
焼結体を研摩−加工して、図2に示すような燃料噴射装
置用プランジャーを摺動部品として調製し、各プランジ
ャーをディーゼルエンジンの燃料噴射装置に組み込み、
3000時間以上のエンジン試験を実施した。
【0065】一方、比較例として従来のSUJ2材の表
面に窒化処理を施した同一寸法の金属製プランジャーを
調製し、同様に燃料噴射装置に組み込み、エンジン試験
を実施した。
【0066】ここでエンジン試験時における燃料噴射装
置のプランジャー摺動部の運転温度は−40〜+150
℃とし、エンジン回転数が1000r.p.m.であり、ディ
ーゼルエンジン油による油潤滑という条件に設定した。
そして各プランジャーにスカッフィング(かじり)が発
生するまでの装置の連続稼動時間を測定して下記表3に
示す結果を得た。
【0067】
【表3】
【0068】上記表3に示す結果から明らかなように、
従来の金属製プランジャーを組み込んだ場合において
は、25時間,200時間という短時間内に摺動部の寸
法膨脹によるかじり(スカッフィング)が発生し、燃料
噴射量が大幅に減少し、所定のエンジン出力を得ること
ができなかった。
【0069】一方、安定化剤としてマグネシア(Mg
O)を含有する実施例5,6,8に係る部分安定化ジル
コニア(MgO−PSZ)から成るプランジャーを組み
込んだ場合には、いずれも3000時間以上に亘る連続
稼動後においても、かじりの発生はなく、良好な摺動特
性が得られた。
【0070】次に、前記実施例5,6,8に係るZrO
2 焼結体を所定形状に研削研摩加工して、図3〜図4に
示すようなロータリー圧縮機用ベーン11a,11b
を、それぞれ摺動部品として調製した。そして鋳鉄から
成るローラ10a,10bとシリンダー8a,8bと上
記ベーン11a,11bとを組み合せて、図3〜図4に
示す冷媒圧縮用のロータリー圧縮機を構成し、1000
0時間に亘る稼動試験を実施した。
【0071】一方、比較例として従来のステンレス鋼
(SUS)材の表面に窒化処理を施した同一寸法の金属
製ベーンを調製し、同様にロータリー圧縮機を構成し、
稼動試験を実施した。
【0072】ここで稼動試験時に使用した冷媒は規制外
フロン(HFC134a)であり、圧縮機ケーシング内
の温度は135℃であった。そして10000時間運転
後における各ベーンの先端摺動面の摩耗量を測定して下
記表4に示す結果を得た。
【0073】
【表4】
【0074】上記表4に示す結果から明らかなように、
安定化剤としてマグネシア(MgO)を含有する実施例
5,6,8に係る部分安定化ジルコニア(MgO−PS
Z)から成るベーンを摺動部品として組み込んだ場合に
は、従来材(SUS+窒化処理)から成る金属製ベーン
を使用した場合と比較して、ベーン先端の摺動面の摩耗
量が1/4〜1/10にまで減少し、優れた耐摩耗性を
発揮した。また寸法膨張によるかじりも発生せず、さら
にベーンの摩耗による冷媒の圧縮効率の低下が比較例よ
りも少ないため、長期に亘って一定の冷凍能力を保持す
ることができた。
【0075】実施例9 実施例1において使用したジルコニア原料粉末にMgO
粉末を4重量%の割合で添加し、ボールミルで混合する
と同時に粉砕を行なって所定粒度に調製した後に、さら
に有機バインダーを5重量%添加し、この混合体をスプ
レードライヤー法によって乾燥造粒した。得られた造粒
粉を1ton/cm2 の成形圧力で金型成形することにより、
直径12mm×長さ60mmの成形体とした。
【0076】次に、上記成形体を大気中で450℃に加
熱して脱脂後、温度1675℃で3時間焼結した。焼結
完了後、毎時100℃の降温速度で焼結体を冷却して実
施例9に係るジルコニア焼結体を調製した。
【0077】この焼結体の結晶組織構造を調査するた
め、ZrO2 焼結体素材から試験片を切り出し、その表
面を鏡面研摩した後に、大気中で温度1500℃に加熱
して1時間保持するサーマルエッチング処理を実施し、
しかる後に試験片表面を顕微鏡観察してZrO2 焼結体
の平均結晶粒径を測定した。また焼結体素材から厚さ
0.1mmの薄片を作成し、さらにイオンミリング法を使
用して電子線が透過可能な厚さまで薄片化した。この薄
片化した試料を透過型電子顕微鏡(TEM)観察して結
晶構造を求めるとともに、立方晶ZrO2 中に析出した
正方晶ZrO2 および単斜晶ZrO2 の平均粒径および
各結晶相が占める面積割合を画像解析装置で測定した。
【0078】さらに、熱サイクルを繰り返して付加させ
た場合の寸法変化割合を調査するためZrO2 焼結体試
験片を温度試験装置内に配置して、温度−40℃から+
150℃の温度範囲で昇温−降温する熱サイクルを90
0回繰り返して付加する熱サイクル試験(TCT)を実
施し、TCT前後における試験片の長さの変化を測定
し、試験前における寸法に対する試験後における寸法の
比を寸法変化割合として測定した。
【0079】その結果、実施例9に係るZrO2 焼結体
の結晶組織構造は、マトリックスとなるZrO2 焼結体
の平均結晶粒径は45μmであり、また正方晶ZrO2
および単斜晶ZrO2 の平均結晶粒子径は320nmであ
り、その両者の総析出量は65モル%であった。またT
CT前後における焼結体の寸法変化割合は0.001%
であった。
【0080】さらに得られたZrO2 焼結体を所定の棒
形状に研摩加工することにより、図2に示すような燃料
噴射装置用プランジャーを摺動部品として作製した。こ
のプランジャーを図2に示すようなディーゼルエンジン
用燃料噴射装置に組み込み、2ヶ月間のエンジン連続試
験を実施した。エンジン試験の条件は、摺動部の運転温
度が−40℃から+150℃までの範囲であり、プラン
ジャーの往復運動速度は1000r.p.m.であり、潤滑は
ディーゼルエンジン油による方式とした。そして2ヶ月
間のエンジン試験にも拘らず、プランジャーの寸法膨張
によるかじりが発生することなく、所定量の燃料噴射を
容易に制御することが可能になった。
【0081】比較例10 実施例1において使用したジルコニア原料粉末にMgO
粉末を2.9重量%の割合で添加し、ボールミルで混合
すると同時に粉砕を行なって所定粒度に調製した後に、
さらに有機バインダーを5重量%添加し、この混合体を
スプレードライヤー法によって乾燥造粒した。得られた
造粒粉を1ton/cm2 の成形圧力で金型成形することによ
り、直径12mm×長さ60mmの成形体とした。
【0082】次に、上記成形体を大気中で450℃に加
熱して脱脂後、温度1800℃で3時間焼結した。焼結
完了後、毎時50℃の降温速度で焼結体を冷却して比較
例10に係るジルコニア焼結体を調製した。
【0083】この焼結体の結晶組織構造を調査するた
め、ZrO2 焼結体素材から試験片を切り出し、実施例
9と同様にしてZrO2 焼結体の平均結晶粒径を測定し
た。また薄片化した試料を透過型電子顕微鏡(TEM)
観察して結晶構造を求めるとともに、立方晶ZrO2
に析出した正方晶ZrO2 および単斜晶ZrO2 の平均
粒径および各結晶相が占める面積割合を画像解析装置で
測定した。
【0084】さらに、熱サイクルを繰り返して付加した
場合における焼結体の寸法変化割合を調査するため、実
施例9と同様にして熱サイクル試験(TCT)を実施
し、TCT前後における寸法変化割合を測定した。
【0085】その結果、比較例10に係るZrO2 焼結
体の結晶組織構造では、マトリックスとなるZrO2
結体の平均結晶粒径は75μmと粗大であり、また正方
晶ZrO2 および単斜晶ZrO2 の平均結晶粒子径は6
60nmと過大であり、その両者の総析出量は75モル%
であった。またTCT前後における焼結体の寸法変化割
合は0.021%であった。
【0086】さらに得られたZrO2 焼結体を所定の棒
形状に研摩加工することにより、図2に示すような燃料
噴射装置用プランジャーを摺動部品として作製した。こ
のプランジャーを図2に示すようなディーゼルエンジン
用燃料噴射装置に組み込み、エンジン連続試験を実施し
た。エンジン試験の条件は、摺動部の運転温度が−40
℃から+150℃までの範囲であり、プランジャーの往
復運動速度は1000r.p.m.であり、潤滑はディーゼル
エンジン油による方式とした。その結果、短期間のうち
に、プランジャーの寸法膨張によるかじりが発生し、燃
料噴射量が大幅に減少し、所定のエンジン出力を長期間
保持することが困難であった。
【0087】
【発明の効果】以上説明の通り、本発明に係るジルコニ
ア焼結体および摺動部品によれば、立方晶ジルコニアと
正方晶ジルコニアと単斜晶ジルコニアとの3種の結晶構
造が所定比率で混在する微細組織を有しているため、−
50℃から+300℃までの範囲において使用温度が変
化した場合においても、寸法変化が少ない。したがっ
て、このジルコニア焼結体を、上記温度環境条件下で使
用する燃料噴射装置用プランジャーや回転式圧縮機用ベ
ーンなどの高精度の摺動部品に適用した場合には、温度
変化によるかじりが発生するおそれがなく、長期間に亘
って良好な摺動特性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】熱サイクル試験(TCT)における昇温−降温
パターンを示すグラフ。
【図2】本発明に係るZrO2 焼結体を部品材料として
適用できる燃料噴射装置の構造を示す縦断面図。
【図3】密閉型ロータリ圧縮機の構造を示す縦断面図。
【図4】図3に示す圧縮機のロータ部を示す平断面図。
【符号の説明】
1 圧縮機 2 ケ―シング 3a モータ 3b 圧縮要素 4 回転軸 5 主軸受 6 副軸受 7 仕切板 8,8a,8b シリンダ 9,9a,9b 偏心部 10,10a,10b ローラ 11,11a,11b ベーン 12 吸込み口 13a,13b 吸込みチャンバ 14a,14b 圧縮チャンバ 15 吐出口 20 燃料噴射装置(インジェクター) 21 シリンダー 22 プランジャー(摺動部品) 23 ロッカーアーム

Claims (8)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 マグネシア(MgO)を安定化剤として
    含有するジルコニア焼結体において、ジルコニア焼結体
    の平均結晶粒径が50μm以下であり、立方晶ジルコニ
    ア相中に析出した正方晶ジルコニアと単斜晶ジルコニア
    との総析出結晶量が55〜75モル%であり、かつ正方
    晶ジルコニアの析出量に対する単斜晶ジルコニアの析出
    割合がモル%比で0.2〜0.5であるジルコニア焼結
    体であって、このジルコニア焼結体を温度150℃で2
    4時間加熱した後に室温下で寸法を測定したときに加熱
    前後における寸法変化が±0.02%以内であることを
    特徴とするジルコニア焼結体。
  2. 【請求項2】 析出した正方晶ジルコニアおよび単斜晶
    ジルコニアの結晶粒子径が500nm以下であることを特
    徴とする請求項1記載のジルコニア焼結体。
  3. 【請求項3】 ジルコニア焼結体は安定化剤としてマグ
    ネシア(MgO)を3〜5重量%含有する他に、イット
    リア(Y2 3 )を0.3重量%以下,シリカ(SiO
    2 )を0.5重量%以下含有することを特徴とする請求
    項1記載のジルコニア焼結体。
  4. 【請求項4】 マグネシアの結晶粒径が5μm以下であ
    り、ジルコニア焼結体の粒界に偏析したシリカ(SiO
    2 )の粒径が10μm以下であることを特徴とする請求
    項3記載のジルコニア焼結体。
  5. 【請求項5】 マグネシア(MgO)を安定化剤として
    含有するジルコニア焼結体において、ジルコニア焼結体
    を温度−40℃から+150℃まで加熱し、引き続いて
    +150℃から−40℃まで冷却する操作を1サイクル
    とする昇温−降温サイクルを1000サイクル繰り返し
    て付加する熱サイクル試験を実施したときに、熱サイク
    ル試験前後におけるジルコニア焼結体の寸法変化が±
    0.02%以内であることを特徴とするジルコニア焼結
    体。
  6. 【請求項6】 ジルコニア焼結体が燃料噴射装置用プラ
    ンジャーであることを特徴する請求項1または5記載の
    ジルコニア焼結体。
  7. 【請求項7】 ジルコニア焼結体が回転式圧縮機用ベー
    ンであることを特徴とする請求項1または5記載のジル
    コニア焼結体。
  8. 【請求項8】 請求項1または5記載のジルコニア焼結
    体から構成されたことを特徴とする摺動部品。
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