【発明の詳細な説明】
タンパク質キナーゼ阻害剤を含有する癌細胞における多剤耐性を予防するため
の化合物
発明の背景
1.発明の分野
本発明は、癌化学療法の間に腫瘍細胞における多剤耐性の出現を予防する方法
に指向される。特に、本発明は、化学療法薬による多剤耐性(MDR1)遺伝子
の誘発を予防するためのタンパク質キナーゼ阻害剤の使用に関する。ある種の化
学療法薬での引き続いての治療に対して腫瘍細胞耐性を生じるMDR1遺伝子発
現が種々の細胞傷害剤での治療に応答して誘発されることがここに示される。ま
た、タンパク質キナーゼの阻害剤がこの細胞応答を抑制することもここに示され
る。したがって、タンパク質キナーゼ阻害剤は、癌患者において細胞傷害性薬物
治療前および/または該治療と同時に投与した場合、種々の腫瘍細胞における化
学療法薬によるMDR1誘発を予防するのに有用である。
2.関連技術の概要
化学療法は、通常の癌治療の主たる形態である。しかしながら、癌化学療法に
関連する主たる問題は、治療の間に抗癌薬物の細胞傷害性効果に対する耐性を生
じる腫瘍細胞の能力である。腫瘍細胞は、無関係の化学構造および作用機序を有
するいくつかの化学療法薬に対して同時に耐性となることが観察されている。こ
の現象は、多剤耐性と称される。腫瘍細胞における多剤耐性についての最良に記
載された臨床的に重要なメカニズムは、MDR1遺伝子の産物であるP−糖タン
パク質の発現に関連する。
P−糖タンパク質は、細胞膜に位置する広特異性流出ポンプであり、アントラ
サイクリン、ビンカアルカロイド、エピポドフィロトキシン、アクチノマイシン
Dおよびタキソールのごときいくつかの広く使用される抗癌剤を含めた、多くの
脂溶性細胞傷害性薬物の細胞内蓄積を減少させ、それにより、細胞をこれらの薬
物に対して耐性とすることにより機能する(Pastan および Gottesman,1991,A
nnu.Rev.Med.42: 277-286; Roninson(編),1991,Molecular and Cellular B iology of Multidrug Resistance in Tumor Cells
,Plenum Press,New York; S
chinkel および Borst.,1991,Seminars in Cancer Biology 2: 213-226)。
ヒトP−糖タンパク質は、いくつかのタイプの正常な上皮組織および内皮組織
(Cordon-Cardoら,1990,J.Histochem.Cytochem.,38: 1277-1287; Thiebaut
ら,1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84: 7735-7738)、ならびに造血幹細胞
(Chaudhary および Roninson,1991,Cell 66: 85-94)、および成熟リンパ球
の亜集団(Neyfakhら,1989,Exp.Cell.Res.185: 496-505)において発現さ
れる。より重要なことには、MDR1 mRNAまたはP−糖タンパク質は、化学
療法治療の前後双方においてほとんどのタイプのヒト腫瘍において検出されてい
る(Goldsteinら,1989,J.Natl.Cancer Inst.81: 116-124; Noonanら,1990
, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87: 7160-7164)。最も高いレベルのMDR1発
現は、通常、MDR1を発現する正常組織に由来する腫瘍、例えば、腎臓癌、副
腎皮質癌または結腸直腸癌において見出される。他のタイプの充実性(solid)
腫瘍および白血病において、治療前のMDR1発現は、通常、比較的低いか、ま
たは検出不可能であるが、かかる悪性疾患の実質的フラクションは、化学療法へ
の暴露後に高レベルのMDR1を発現する(Goldsteinら,1989,前掲)。本発
明以前には、化学療法後のMDR1発現の増加は、MDR1発現のため化学療法
薬に対して既に本来的に耐性であった稀な予め存在する腫瘍細胞についてのイン
・ビボ選択に由来すると考えられていた。
低レベルのMDR1発現でさえ、数種類のタイプの癌における化学療法の応答
の欠如と関連付けられ(Chanら,1990,J.Clin.Oncol.8: 689-704; Chanら,
1991,N.Engl.J.Med.325: 1608-1614; Mustoら,1991,Brit.J.Haemotol.
77: 50-53)、これは、P−糖タンパク質媒介多剤耐性が臨床薬物耐性の重要な
成分を表すことを示している。多くの臨床的および前臨床実験は、P−糖タンパ
ク質機能を阻害するための薬理学的戦略を指向しているが(Ford および Hait,
1990,Pharmacol.Rev.42: 155-199)、本発明以前には、癌化学療法に関連す
る条件下で癌細胞におけるP−糖タンパク質発現の誘発または上昇調節の原因た
る因子についてほとんど知られていなかった。かかる因子の理解は、ヒト腫瘍に
おけるP−糖タンパク質の出現を予防するための方法の開発についての洞察を与
え、かくして、癌における多剤耐性の発生を低下させ、より効果的な癌化学療法
に導く。
多数の遺伝子導入実験により、MDR1遺伝子の上昇した発現が多剤耐性表現
型を与えるのに十分であることが示されている(Roninson,1991,前掲)。例え
ば、ヒトMDR1 cDNAを担う組換えレトロウイルスで感染されたマウスNI
H 3T3細胞は、それらの表面上のヒトP−糖タンパク質の密度に比例して多
剤−耐性となった;相関は、細胞傷害性選択の存在または不存在によって影響さ
れなかった(Choiら,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88: 7386-7390)。
それにも拘わらず、他の生化学的変化の多剤−耐性細胞との矛盾のない関連は
、これらの改変が、恐らくはP−糖タンパク質の発現または機能に影響を及ぼす
ことによって、多剤耐性における役割を演じているらしいことを示唆した。かか
る変化の最も顕著なものは、細胞傷害性選択の多重工程後に得られた全てではな
いが多くの多剤−耐性細胞系で見い出されたタンパク質キナーゼC(PKC)の
増大した活性である(Aquinoら,1990,Cancer Cmmun.2: 243-247: Fineら,19
88, Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:582-586; O'Brianら,1989,FEBS Lett.2
46: 78-82; Posadaら,1989,Cancer Commun.1: 285-292)。PKC活性化は、
いくつかの薬物−感受性および多剤−耐性細胞系において薬物耐性のレベルを増
大させることを示した(Ferguson および Cheng,1987,Cancer Res.47: 433-4
41;Fineら,1988,前掲; Yuら,1991,Cancer Commun,3: 181-189)。PKC
がP−糖タンパク質をリン酸化できることが報告されているが(Chambersら,19
90, Biochem.Biophys.Res.Commun.169: 253-259; Chambersら,1990,J.B
iol. Chem.265: 7679-7686; Hamadaら,1987,Cancer Res.47: 2860-2865)、
かかるリン酸化が観察された薬物耐性の変化の原因であるか否かは知られていな
い。ある種のPKC阻害剤がいくつかのP−糖タンパク質発現細胞系において多
剤耐性を逆行させたことが示されたが(O'Brianら,1989,前掲; Posadaら,198
9,
Cancer Commun.1: 285-292; Palayoorら,1987,Biochem.Biophys.Res.Comm
un.148: 718-725)、入手できる証拠は、観察された効果のうち少なくともいく
つかがPKC−媒介リン酸化の阻害よりもむしろ試験化合物によるP−糖タンパ
ク質機能の直接的阻害のためであったことを示唆する(Fordら,1990,Cancer R
es.50:1748-1756; Satoら,1990,Biochem.Biophys.Res.Commun.173: 1252
-1257)。これらの研究は、PKC−相互作用剤がP−糖タンパク質のリン酸化
または機能よりもむしろ発現に対する効果を有し得るという証拠を提供しなかっ
た。
いくつかの研究所は、正常細胞および悪性細胞においてMDR1遺伝子発現を
調節する因子を調べた。MDR1同族体の正常な生理学的調節の一例がマウス子
宮内膜で発見されており、そこでは、マウスmdr遺伝子の発現が妊娠開始時にス
テロイドホルモンによって誘発された(Arceciら,1990,Molec.Repro.Dev.2
5: 101-109; Batesら,1989,Molec.Cell.Biol.9: 4337-4344)。ラット肝臓
において、mdr遺伝子の発現は、いくつかの癌原性または細胞傷害性生体異物に
よって誘発可能であることが見い出された;また、同様の誘発が肝臓再生の間に
も観察された(Fairchildら,1987,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84: 7701-770
5; Thorgeirssonら,1987,Science 236: 1120-1122)。さらに、MDR1の齧
歯類同族体は、ある種の細胞傷害性薬物での処置に応答していくつかの細胞系で
誘発された(Chinら,1990,Cell Growth Diff.1: 361-365)。対照的に、細胞
傷害性薬物によるヒトMDR1遺伝子の誘発は、同一実験で試験したヒト細胞系
のいずれにおいても検出されなかった。また、他の研究者は、細胞傷害性薬物で
の処理に際してMDR1誘発を検出していない(Schinkel および Borst.,1991,
Sem.Cancer Biol.2: 213-226)。
しかしながら、いくつかの研究は、ヒトMDR1遺伝子がある条件下でストレ
ス誘発に感受性であり得ることを示した。かくして、いくつかのヒト細胞系にお
けるMDR1発現は、熱ショック、亜ヒ酸塩(Chinら,1990,J.Biol.Chem.2
65: 221-226)またはある種の分化剤(Mickleyら,1989,J.Biol.Chem.264:
18031-18040; Batesら,前掲)での処理によって増加した。いくつかの細胞傷害
性P−糖タンパク質基質は、ヒトMDR1プロモーターからのレポーター遺伝子
の転写を刺激すること(Kohnoら,1989,Biochem.Biophys.Res.Commun.165:
1415-1421; Tanimuraら,1992,Biochem.Biophys.Res.Commun.183: 917-92
4)、および長時間の暴露の後に中皮腫細胞系においてP−糖タンパク質発現を
増加させること(Lightら,1991,Int.J.Cancer 49: 630-637)が報告された
。しかしながら、MDR1誘発のかかる報告にも拘わらず、癌化学療法で使用さ
れるいずれかの薬剤への短時間暴露がヒト細胞においてMDR1遺伝子の発現を
誘発できるか否か、およびMDR1誘発が予防できるか否かは判断されていなか
った。
最近、Kiowaら(1992,FEBS Lett.301:307-309)は、フラボノイド、ケルセ
チンの添加が、癌治療で使用されていないが、MDR1プロモーターにおける熱
ショック応答要素によって媒介される転写経路を活性化することが知られている
化合物である亜ヒ酸塩によって誘発される肝癌細胞系におけるMDR1発現の増
加を予防できることを報告した。Kiowaらによって開示されていないが、PKC
活性の阻害は、ケルセチンの生物学的効果のうちの1つである(Gschwendtら,1
984,Biochem.Biophys.Res.Commun.124: 63)。従って、ケルセチンによる
PKC阻害は、部分的には、観察された亜ヒ酸塩によるMDR1誘発の阻害の原
因である可能性がある。しかしながら、熱ショック応答要素によって媒介される
転写応答を阻害するケルセチンの能力がPKC阻害とは無関係であると当業者に
信じられていることは注目すべきである(例えば、Kantengwa および Polla,19
91,Biochem.Biophys.Res.Commun.180: 308-314を参照)。さらにまた、Kio
waらは、非フラボノイドPKC阻害剤が亜ヒ酸塩によるMDR1誘発を阻害でき
る、あるいは、ケルセチンが、熱ショック応答要素−媒介経路を活性化すること
が知られていない化学療法薬またはいずれかの他の薬剤と組み合わせて使用した
場合に、MDR1発現の誘発を阻害できるという示唆を提供していない。
MDR1に加えて、もう1つの多面発現性薬物輸送が最近発見された(Grant
ら,1994,Cancer Res.54: 357-361)。多剤耐性関連タンパク質(MRP)と
称されるこのタンパク質は、MDR1遺伝子によってコードされているP−糖タ
ンパク質輸送体と同様の細胞傷害性の特に化学療法の薬物に対する耐性のパター
ンを与えることが示された。MRP発現の阻害剤は、従前には報告されていない
。
発明の概要
本発明は、癌細胞において多剤耐性の出現を予防するためのタンパク質キナー
ゼ阻害剤の使用、および同一目標に対して有用であろうタンパク質キナーゼ阻害
剤を同定するイン・ビトロ方法に関する。
本発明は、部分的には、P−糖タンパク質によって輸送されるか否かには拘わ
らず、抗癌剤が多様な組織源のヒト腫瘍細胞におけるMDR1遺伝子の発現を誘
発できるという発見に基づくものである。MDR1遺伝子発現の増加は、RNA
レベルおよびタンパク質レベルの双方で観察される。また、MDR1誘発は、P
KCアゴニストでの細胞の処理によっても観察される。さらに、細胞傷害性薬物
またはPKCアゴニストのいずれかによるこの誘発は、タンパク質キナーゼ阻害
剤での細胞の処理によって予防でき、これは、タンパク質キナーゼ―媒介経路が
MDR1遺伝子誘発に関与していること、および、タンパク質キナーゼ阻害剤が
化学療法剤に暴露された癌細胞におけるMDR1遺伝子の発現を予防するのに有
用であることを示す。さらに詳しくは、この阻害性効果は、PKCの阻害と関連
している。というのは、PKCに対して不活性であるタンパク質キナーゼ阻害剤
は、MDR1誘発を抑制しないが、PKCに対して優れた効果を有するタンパク
質キナーゼ阻害剤は、応答を効果的に阻害するからである。
イン・ビトロにおける短時間の暴露によりヒト細胞におけるMDR1発現を誘
発する化学療法薬の能力は、癌化学療法が、予め存在する稀な変異体の選択を通
じるよりもむしろ直接的に多剤耐性を誘発することを示す。かかる直接的誘発は
、患者の薬物治療単位の間に起こるようであり、少なくとも部分的には、未処理
悪性疾患に対する処理悪性疾患におけるMDR1発現の観察された増大した発生
を説明するであろう。したがって、細胞傷害性薬物が関与する化学療法前および
/または該化学療法と同時のタンパク質キナーゼ阻害剤の投与は、MDR1誘発
を予防するにおいて有用であり、かくして、多剤耐性癌細胞の出現を予防し、よ
り好都合な治療結果に導く。
本発明は、PKCアゴニストが正常末梢血液リンパ球(PBL)および腫瘍細
胞においてMDR1発現を誘発することが示される例によって説明される。加え
て、種々の細胞傷害性抗癌剤は、MDR1遺伝子を活性化する能力を有すること
も記載される。最も重要には、タンパク質キナーゼ阻害剤は、特に治療前に検出
可能なP−糖タンパク質をほとんどまたは全く有しない腫瘍細胞において、PK
Cアゴニストまたは細胞傷害性薬物によって媒介されるこのMDR1誘発を予防
することが示される。本発明のこの目的では、「P−糖タンパク質をほとんどま
たは全く〜ない」とは、ある種のよく確立された薬物−感受性細胞系、例えば、
KB−3−1(Noonanら,前掲、参照)において見いだされるように、mRNA
またはタンパク質発現の低いレベルを記載することを意図する。限定されるもの
ではないが、癌の化学療法の間に多剤耐性腫瘍細胞の出現を予防することを含め
た種々の使用がここに記載の本発明に含まれる。
もう1つの具体例において、本発明は、癌細胞において多剤耐性を低下させる
方法、およびこの目標に対して有用であろうタンパク質キナーゼ阻害剤をイン・
ビトロで同定する方法を提供する。本発明のこの態様は、部分的には、ある種の
タンパク質キナーゼ阻害剤が、該阻害剤の不存在下でこのタンパク質を発現する
癌細胞において、MRP(Grantら,1994,前掲)と称される多剤耐性関連タン
パク質の発現を阻害できるという発見に基づいている。本発明のこの態様は、タ
ンパク質キナーゼ阻害剤がこのタンパク質を発現する腫瘍細胞でのMRP発現を
阻害することが示される例によって示される。限定されるものではないが癌化学
療法の間の多剤耐性腫瘍細胞におけるこのタンパク質の発現レベルの低下を含め
た、種々の使用がここに記載する本発明のこの態様に含まれる。
本発明の特別の好ましい具体例は、ある好ましい具体例の以下のより詳細な記
載および請求の範囲から明らかになるであろう。
図面の簡単な記載
図1. H9細胞系のP−糖タンパク質機能および発現に対するホルボールエ
ステル(TPA)、ジアシルグリセロール(DOG)およびスタウロスポリン(
Stau)の効果。
A: 未処理細胞およびTPA−またはDOG−処理細胞による3
時間Rh123蓄積
B: 未処理細胞およびスタウロスポリンとのTPAまたはDOG
前処理で処理した細胞による3時間Rh123蓄積
C: 未処理細胞およびTPA−またはDOG−処理細胞のIgG
2aイソタイプ対照での染色
D: UIC2抗体で染色したCにおけると同一のもの
E: 未処理細胞またはスタウロスポリン単独またはスタウロスポ
リンとのTPAもしくはDOG前処理で処理した細胞のUIC2染色
図2. 様々な細胞系におけるMDR1 mRNA発現に対するTPA、DOG
およびスタウロスポリンの効果のcDNA−PCR分析。各レーンにおいて、上
方のバンド(167bp)は、MDR1に対応し、下方のバンド(120bp)は、
β2−ミクログロブリン特異的PCR産物に対応する。
A: H9細胞におけるMDR1 mRNA発現に対する、スタウロ
スポリン処理を伴うかまたは伴わないTPAまたはDOGの効果
B: TPAによるH9細胞におけるMDR1 mRNAの誘発の時
間経過。2つの負の対照レーンは、cDNAの代わりのRNAなくして水または
リバースクリプターゼ混合物で行ったPCRに対応する。
C: TPAまたはDOGによるK562細胞における、およびT
PAによるMCF-7細胞におけるMDR1 mRNAの誘発
図3. 薬物−誘発MDR1発現のフローサイトメトリー分析
A. 30μMベラパミル(VER)の不在下(左)または存在下
(右)におけるK562細胞からのP−糖タンパク質―輸送蛍光色素の流出。上
部パネル:未処理細胞(−)からのRh
123流出および50μM Ara−C(ARA)で12時間処理した細胞または
10μM Ara−Cで2ないし3日間処理した細胞からのRh123流出。下部パ
ネル:未処理細胞および1μg/mLビンブラスチン(VBL)で36時間処理し
た細胞からのDiOC2(3)流出。
B. Ara−C処理したKG1白血病細胞の増加したP−糖タンパ
ク質発現。左:未処理細胞または10μM Ara−Cで1.5日間処理した細胞に
おけるRh123蓄積。右:抗−P−糖タンパク質UIC2抗体またはIgG2a
イソタイプ対照での同細胞の間接的免疫蛍光標識。
C. 種々の薬物への暴露後に無薬物培地に維持し、DiOC2(3)
(水平軸)およびフィコエリトリン(PE)で間接的に標識したUIC2抗体(
左)またはIgG2aイソタイプ対照(右)(垂直軸)を用いた二重標識によって
分析したK562細胞の等高線密度マップ。上部から下部にかけて:未処理細胞
、60ng/mLアドリアマイシンで3日間処理し、薬物なしで5週間増殖させた
細胞、30μMクロラムブシル(CHL)で5日間処理し、薬物なしで2週間増
殖させた細胞、10μM Ara−Cで3日間処理し、薬物なしで5週間増殖させ
た細胞(この実験は、他のアッセイで使用した二次抗体の半分量を用いた);前
記したごとくAra−Cで処理し、薬物の除去6週間後に蛍光活性化細胞ソーティ
ングによって単離した細胞のRh123−鈍い(dull)集団。
図4. 薬物処理細胞におけるMDR1 mRNA発現のcDNA−PCR分析
。各レーンにおいて、上方バンド(167bp)は、MDR1に対応し、下方バン
ド(120bp)は、別のチューブで増幅させたβ2−ミクログロブリン特異的P
CR産物に対応する。
A. Ara−CによるK562細胞におけるMDR1誘発。細胞を
所定濃度のAra−Cに4.5時間暴露した。未処理細胞に対する細胞増殖は、R
NA抽出と並行したMTTアッセイによって測定した。
B. 種々の薬物で処理したK562細胞におけるMDR1誘発。
薬物暴露の時間を示す。薬物およびそれらの濃度は、以下の通りである:(−)
、未処理細胞;DAU、250ng/mLダウノルビシン;ADR、500ng/mL
アドリアマイシン;VBL、20ng/mLビンブラスチン;VP、1μg/mLエ
トポシド;MTX、200ng/mLメトトレキセート;CDDP、3μg/mLシ
スプラチン;CHL、50μMクロラムブシル;5FU、2μg/mL 5−フル
オロウラシル;HU、30μMヒドロキシ尿素。
C. 未処理または200ng/mLアドリアマイシンまたは10μ
M Ara−Cで2日間処理したKB−3−1癌細胞におけるMDR1誘発
D. 未処理(−)または10μM Ara−Cで4日間処理したE
J癌細胞におけるMDR1誘発
E. K562細胞における薬物誘発MDR1発現の維持。細胞を
60ng/mLアドリアマイシン、10μM Ara−Cまたは200ng/mLメトト
レキセートで3日間処理し、所定の期間、無薬物培地中で培養した。
図5. H9細胞における細胞傷害性薬物によるMDR1 mRNA誘発に対す
るタンパク質キナーゼ阻害剤の効果。各実験において、阻害剤スタウロスポリン
(ST)、H7、イソ−H7(IH7)またはHA1004(HA)を2回添加
し、1回目は、対応する薬物の添加の直前、および2回目は、明記した期間の後
に添加した。
A. 未処理または50μM Ara−Cで22時間処理したH9細
胞。該阻害剤は、実験の最初および16時間後に所定濃度で
添加した。
B. 未処理または200ng/mLアドリアマイシンで22時間処
理したH9細胞。同量の阻害剤(0.03μMスタウロスポリン、10μM H7
、HA−1004およびイソ−H7)を実験の開始時および16時間後に添加し
た。
C. 未処理または40ng/mLビンブラスチンまたは200ng/m
Lメトトレキセートで36時間処理したH9細胞。同量の阻害剤(0.1μMス
タウロスポリン、50μMH7)を実験の開始時および24時間後に添加した。
図6. Ara−Cまたはアドリアマイシン―処理K562細胞におけるビンブ
ラスチン耐性
A. 未処理およびAra−C(ARA)−またはアドリアマイシン
(ADR)−処理細胞におけるビンブラスチンによる増殖阻害。細胞を図3Cに
おけるごとく処理し、薬物の不在下で6週間増殖させた。ビンブラスチン阻害剤
アッセイは、10日間行った。
B. 未処理細胞およびAra−C処理細胞のRh123−鈍い集団
およびRh123−鮮やかな集団におけるビンブラスチンによる増殖阻害。Ara
−C処理細胞を薬物から取り出した6週間後にRh123流出方法によって染色
し、蛍光−活性化細胞ソーティングによってRh123−鈍い集団およびRh12
3鮮やかな集団に分けた。Rh123−鈍い集団は、純度>60%であり(図3
C)、Rh123−鮮やかな集団は、純度90−95%であった。ソーティング
の1週間後、ビンブラスチン阻害アッセイを7日間行った。
図7. Ara−CまたはTPAでの処理によって誘発されたMDR1 mRNA
発現のタンパク質キナーゼ阻害剤による阻害のcDNA−PCR分析。各レーン
において、上方バンド(167bp)は、MDR1に対応し、
下方バンド(120bp)は、別のチューブにおいて増幅されたβ2―ミクログロ
ブリン特異的PCR産物に対応する。
A. Ara−CによるH−9細胞におけるMDR1誘発に対するチ
ルホスチン(tyrphostin)の効果。細胞を25μM Ara−C(レーン3および
4)と共に、またはAra−Cおよび50μMチルホスチンA25(レーン5およ
び6)と共に、またはAra−Cおよび50μMチルホスチンB46(レーン7お
よび8)と共に10時間インキュベートした。チルホスチンの各々は、Ara−C
の添加の16時間前にそれらの各H−9細胞培養に添加した。負の対照レーン(
レーン1および2)は、Ara−Cおよびいずれかのタンパク質キナーゼ阻害剤の
不在下で一晩インキュベートしたH−9細胞培養を表す。
B. Ara−CによるH−9細胞におけるMDR1誘発に対する硫
酸ネオマイシンの効果。細胞を25μM Ara−C(レーン3および4)と共に
、またはAra−Cおよび4mM硫酸ネオマイシン(レーン5および6)または1
0mM硫酸ネオマイシン(レーン7および8)と共に10時間インキュベートし
た。各濃度の硫酸ネオマイシンは、Ara−Cの添加の45分前に各H−9細胞培
養に添加した。負の対照レーン(レーン1および2)は、Ara−Cおよび硫酸ネ
オマイシンの不在下で一晩インキュベートしたH−9細胞培養を表す。
C. Ara−CによるH−9細胞におけるMDR1誘発に対するエ
ルブスタチン類似体の効果。細胞を25μM Ara−C(レーン3および4)と
共に、またはAra−Cおよび32μM(レーン5および6)または64μM(レ
ーン7および8)のエルブスタチン類似体である2,5−ジヒドロキシ桂皮酸メ
チルと共に10時間インキュベートした。各濃度のエルブスタチン類似体は、A
ra−Cの添加の45分前に各H−9細
胞培養に添加した。負の対照レーン(レーン1および2)は、Ara−Cおよびい
ずれかのタンパク質キナーゼ阻害剤の不在下で一晩インキュベートしたH−9細
胞培養を表す。
D. Ara−CによるH−9細胞におけるMDR1誘発に対するカ
ルホスチンCの効果。細胞を25μM Ara−C(レーン3および4)と共に、
またはAra−Cおよび0.1μMカルホスチンC(レーン5および6)または1
μMカルホスチンC(レーン7および8)と共に10時間インキュベートした。
各濃度のカルホスチンCは、Ara−Cの添加の45分前に各H−9細胞培養に添
加した。負の対照レーン(レーン1および2)は、Ara−Cおよびいずれかのタ
ンパク質キナーゼ阻害剤の不在下で一晩インキュベートしたH−9細胞培養を表
す。
E. Ara−CによるH−9細胞におけるMDR1誘発に対するケ
レリトリンの効果。細胞を25μM Ara-C(レーン3および4)と共に、また
はAra−Cおよび1μMケレリトリン(レーン5および6)または5μMケレリ
トリン(レーン7および8)と共に10時間インキュベートした。各濃度のケレ
リトリンは、Ara−Cの添加の45分前に各H−9細胞培養に添加した。負の対
照レーン(レーン1および2)は、Ara−Cおよびいずれかのタンパク質キナー
ゼ阻害剤の不在下で一晩インキュベートしたH−9細胞培養を表す。
F. TPAによるH−9細胞におけるMDR1誘発に対するスタ
ウロスポリンおよびエルブスタチン類似体の効果。細胞をTPA(10ng/mL
、レーン3および4)と共に、またはTPAおよびエルブスタチン類似体2,5
−ジヒドロキシ桂皮酸メチル(32μM、レーン5および6)またはTPAおよ
びスタウロスポリン(30nM、レーン7および8)と共に
一晩インキュベートした。エルブスタチン類似体またはスタウロスポリンは、各
々、TPAの添加の45分前に各H−9細胞培養に添加した。負の対照レーン(
レーン1および2)は、TPAおよびいずれかのタンパク質キナーゼ阻害剤の不
在下で一晩インキュベートしたH−9細胞培養を表す。
図8. MRP mRNA発現のタンパク質キナーゼ阻害剤による誘発のcDN
A−PCR分析。各レーンにおいて、上部バンド(292bp)は、MRPに対応
し、下部バンド(120bp)は、別のチューブにおいて増幅されたβ2−ミクロ
グロブリン特異的PCR産物に対応する。
A. 薬物処理H−9細胞におけるMRP mRNA発現阻害。細胞
を30μMスタウロスポリン(レーン3および4)、5μMケレリトリン(レー
ン5および6)、32μM 2,5−ジヒドロキシ桂皮酸メチル(エルブスタチ
ン類似体;レーン7および8)または10mM硫酸ネオマイシン(レーン9およ
び10)と共に10時間インキュベートした。負の対照レーン(レーン1および
2)は、いずれかの薬物の不在下で一晩インキュベートしたH−9細胞培養を表
す。
発明の詳細な説明
本発明は、癌細胞における多剤耐性表現型の出現を予防するためのタンパク質
キナーゼ阻害剤の使用に関する。細胞傷害性薬物によるMDR1誘発およびかか
る誘発を予防するタンパク質キナーゼ阻害剤の能力の発見は、以下の実施例にお
いて充分に説明され例示される。検討を明確にするために、本発明は、特にヒト
腫瘍細胞系のパネルにおけるPKC活性に対して、有効な効果を有する種々のタ
ンパク質キナーゼ阻害剤に関して記載する。しかしながら、本発明は、同様に、
いずれかのタンパク質キナーゼ阻害剤を用いて、他の化学療法薬で処理された種
々のイン・ビトロ細胞系およびイン・ビボ腫瘍に適用することもできる。ある種
のタンパク質キナーゼ阻害剤の特定の具体例は、以下に記載するごとく例示され
る。当該技術分野で知られているか、または当該技術分野で知られている方法を
用いて製造された、本明細書に記載する特定のタンパク質キナーゼ阻害剤の種々
の類似体のいずれもここに記載するごとき本発明によって包含されると解される
。
1.MDR1遺伝子発現の誘発
有効なPKC活性化因子であるTPA(12−o−テトラデカノイルホルボー
ル−13−アセテート)、およびPKCの生理学的刺激剤であるジアシルグリセ
ロールは、正常ヒトPBLにおいて、および種々のタイプの白血病または充実性
腫瘍に由来する細胞系において、MDR1遺伝子発現を増加させることが下記実
施例1および2において示される。TPAの効果は、治療前にP−糖タンパク質
を発現した試験細胞系の全てにおいて、および治療前に検出可能なP−糖タンパ
ク質を有しないいくつかであるが全てではない他の細胞系において、観察される
。しかしながら、MDR1発現は、ここに記載したごとく試験したものよりも高
い濃度のTPAにより非応答性細胞系において誘発されることも起こり得る。T
PAおよびジアシルグリセロールの観察された効果は、ヒト細胞におけるMDR
1発現がPKC媒介シグナル変換経路を介して調節されることを示す。
PKCアゴニストで処理された細胞におけるMDR1発現の増加は、P−糖タ
ンパク質およびMDR1 mRNAの両方のレベルで観察される。MDR1 mRN
Aの増加した定常状態レベルは、増加した転写または減少したmRNA分解に影
響を及ぼす。ヒトMDR1遺伝子の主な下流プロモーター(Uedaら,1987,J.B
iol.Chem.,262: 505-508)は、TPAによる転写の刺激の原因となるAP−1
部位を含有する(Angelら,1987,Cell,49: 729-739; Leeら,1987,Cell 49:
741-752)。AP−1部位およびその周辺配列は、ヒトMDR1遺伝子およびそ
の齧歯類相同体との間で保存される(Hsuら,1990,Molec.Cell Biol.10: 359
6-3606; Teeterら,1991,Cell Growth Diff.2: 429-437)。ハムスターpgpl遺
伝子のAP−1配列は、そのプロモーターの実質的な正の調節因子であることが
示された(Teeterら,1991,Cell Growth Diff.2: 429-437)が、相同性マウス
mdrla(mdr3)の対応する要素は、負の調節因子効果を有する(Ikeguchiら,199
1,DNA Cell Biol.10: 639-649)。かくして、ヒトMDR1プロモーターのA
P−1要素は、PKCアゴニストによるMDR1発現の刺激の直接的原因であ
る。
PKC媒介経路によるMDR1遺伝子発現の誘発は、増加したP−糖タンパク
質発現のために選択された多剤耐性細胞系がしばしば上昇したレベルのPKCを
含有したという以前の発見(Aquinoら,前掲; Fineら,前掲; O'Brianら,前掲;
Posadaら,前掲)を説明する。PKC活性の増加は、増加したMDR1遺伝子
発現の原因である初期事象を表すことができた。しかしながら、この解釈は、P
KCにより誘発されたP−糖タンパク質のリン酸化がさらにP−糖タンパク質活
性を増加させることができたことを除外しない。後者の仮説についての証拠は、
異種プロモーターから転写されたMDR1 cDNAでのトランスフェクション後
に得られたMCF−7細胞の多剤耐性サブラインにおける薬物耐性のレベルが高
レベルのPKCαを発現するベクターの誘導により増大させられることができた
ことを見いだしたYuら(1991,Cancer Commun.3: 181-189)の研究の結果であ
る。PKCαトランスフェクタンスにおける増加した耐性は、発現レベルの明ら
かな変化なしで増加したP−糖タンパク質リン酸化により行われた。
PKCは、種々の適応的、増幅的および分化的プロセスに関連した種々のシグ
ナル変換経路における中枢的な役割を演じる。PKCアゴニストが正常細胞およ
び悪性造血細胞においてMDR1発現を誘発することが判明したとしても、PK
C媒介経路を介して作用する造血増殖因子を用いて同一の結果が達成されなかっ
た。さらにまた、PKCアゴニストは、造血源の細胞系だけではなく上皮源の細
胞系においてもMDR1発現を誘発し、これは、MDR1発現のPKC媒介調節
が一般的な生理学的役割を有することを示している。
PKC媒介メカニズムは、UV照射またはアルキル化剤によるDNA損傷に対
する転写応答に関係した(Kainaら,1989,in N.W.Lambert およびJ.Laval(
編),DNA Repair Mechanisms and Their Biological Implications in Mammalia n Ce1ls
,Plenum Press,New York; Papathanasiou および Fornace,1991,pp
.13-36 in R.F.Ozols(編),Molecular and Clinial Advances in Anticanc er Drug Resistance
,Kluwer Academic Publishers,Boston,MA)。PKC活性
化は、シトシンアラビノシドなどの他の細胞傷害性薬物に対する細胞応
答にも関連していた(Kharbandaら,1991,Biochemistry Cancer Res.49: 6634
-6639)。かくして、MDR1発現のPKC媒介誘発は、細胞傷害性化学療法薬
によって生産された損傷を含む種々のタイプの細胞損傷に対する一般的なストレ
ス応答の一部であることができた。
本発明は、ヒト白血病および充実性腫瘍誘導細胞系におけるMDR1発現が癌
化学療法において用いられる多くの種々の細胞傷害性薬物への短時間暴露によっ
て誘発されることができることを記載する(下記実施例3を参照)。mRNAレ
ベルおよびタンパク質レベルの両方でのMDR1誘発は、P−糖タンパク質輸送
薬剤(アドリアマイシン、ダウノルビシン、ビンブラスチン、エトポシド)また
はP−糖タンパク質により輸送されない化学療法薬(メトトレキセート、5−フ
ルオロウラシル、クロラムブシル、シスプラチナム、ヒドロキシ尿素および1−
β−D−アラビノアラノシルサイトシン(Ara−C)、有効な抗白血病薬(Khar
bandaら,1991,Biochemistry 30: 7947-7952)など)のいずれかで処理された
細胞の亜集団において観察された。MDR1発現は、第2グループの薬物に対す
る耐性を提供しないので、および、MDR1誘発は、短時間の薬物暴露後に達成
されることができた(多くの場合、1未満の細胞発生)ので、これらの発見は、
MDR1発現細胞についての細胞傷害性選択が観察されたMDR1発現の増加の
原因ではなかったことを示す。MDR1誘発は、明らかな細胞損傷と同時に検出
可能になった。このことは、特定の薬剤に対する直接応答よりもむしろかかる損
傷の間接的な結果であるらしいということを示す。
最も重要には、細胞傷害性薬物での処理により誘発されたMDR1発現は、薬
物の除去後に消滅しなかったが、無薬物培地において培養された細胞において少
なくとも数週間維持された。薬物の不在下で増殖するP−糖タンパク質陽性細胞
は、分化状態の変化を示さなかった。これは、薬物誘発MDR1発現が細胞を染
色することまたは終末に分化することに限定されない安定な現象である。増加し
たMDR1発現に加えて、薬物処理細胞は、ビンブラスチン、P−糖タンパク質
輸送薬物に対する耐性の2〜3倍増加を示した;かかる耐性は、詳細には、MD
R1発現細胞に関連していた。薬物処理細胞は、P−糖タンパク質により輸送さ
れない化学療法薬であるクロラムブシルに対する増加した耐性も示した。後者の
発見は、薬物耐性のいくつかの他の臨床的に関連したメカニズムが細胞傷害性薬
物での処理後にMDR1発現と一緒に誘発されることを示唆する。
ひとまとめにして考えてみると、これらの発見は、癌化学療法において用いた
種々の薬物でのヒト腫瘍細胞の処理が、従前に思われていたように予め存在する
遺伝的変異体の選択によるよりもむしろ直接的にMDR1発現を誘発することが
できることを示唆する。得られた多剤耐性の増加は、安定であり、イン・ビトロ
およびイン・ビボの両方での化学療法薬に対する応答を減少させるのに充分であ
る。MDR1発現の薬物媒介誘発は、癌化学療法の間に生じ、少なくとも部分的
には、薬物処理ヒト腫瘍におけるMDR1発現の発生の観察された増加の原因で
あると思われる。したがって、本発明は、臨床的に関連する条件下でのMDR1
誘発の最初の証拠を提供し、PKCがかかる誘発においてある種の役割を演じる
ことを示唆する。後者の仮説は、PKCの誘発を介して癌化学療法の間のMDR
1誘発を予防する化学療法プロトコールの基礎を提供する。
2.MDR1誘発を予防するためのタンパク質キナーゼ阻害剤の使用
本発明は、タンパク質キナーゼ阻害剤、特に、PKCに対して有効な活性を有
するタンパク質キナーゼ阻害剤が癌細胞におけるMDR1遺伝子発現の誘発を予
防する能力を有することを示す。例えば、PKCの有効であるが非選択的な阻害
Sci. 10: 218-220)は、TPA、ジアシルグリセロール、ならびにAra−C、ビ
ンブラスチン、メトトレキセートおよびアドリアマイシンを含む多くの化学療法
細胞傷害性薬物で処理されたP−糖タンパク質陰性細胞におけるMDR1誘発を
予防することがここに示される(30nMの濃度で用いた場合)。H7(50μ
M)、カルホスチンC(1μMの濃度、白色光照明と併せて用いた)およびケレ
リトリン(5μM)を含む種々の他のタンパク質キナーゼ阻害剤は、化学療法薬
によるMDR1誘発を予防することも示す。
Ara−Cでの処理により誘発されたMDR1発現の阻害は、従前にタンパク質
キナーゼCについての特異性を有すると理解されていなかった阻害剤を用いても
示された。かかる阻害剤の例としては、エルブスタチンおよびエルブスタチンの
類似体ならびに硫酸ネオマイシンが挙げられる。エルブスタチン、および2,5
−ジヒドロキシ桂皮酸メチルなどのその類似体は、表皮増殖因子受容体トロシン
キナーゼを阻害する能力を有することが知られている(Umezawa および Imoto,
1991,Meth.Enzymol.201: 379-385)。このエルブスタチン類似体は、32μ
Mの濃度でAra−C誘発MDR1発現を完全に阻害することが判明した(下記実
施例4を参照)。このエルブスタチン類似体は、抗PKC活性と一致する公知の
PKCアゴニストであるTPAでの感受性細胞の処理により誘発されたMDR1
発現を阻害することも判明した(下記実施例4および図7Fを参照)。エルブス
タチン類似体に加えて、タンパク質チロシンキナーゼの阻害剤として知られてい
る2つの他の化合物、チルホスチン(tyrphostin)A25およびチルホスチンB
46は、50〜100μMの濃度で、Ara−C誘発MDR1発現を阻害すること
も判明した。
抗菌化合物である硫酸ネオマイシンは、10mMの濃度で誘発細胞と接触した
場合、Ara−C誘発MDR1発現を阻害することが判明した。この濃度のネオマ
イシンは、ヒトH9細胞上で細胞毒性を示さず、臨床的に達成可能な濃度の範囲
内であると思われる。この化合物は、化学療法を受けている患者に対する一般的
な利益を有するものであるという長所を有し、ヒトにおける細菌性腸感染の治療
のために広範囲に用いられてきた。
関心のあることには、エルブスタチン(Bishopら,1990,Biochem.Pharmacol
. 40: 2129-2135)および硫酸ネオマイシン(Chauhanら,1990,FASEB J.4: A1
779)は、共に、タンパク質キナーゼC阻害剤であることが報告されている。
これらの発見は、タンパク質キナーゼ阻害剤、特にPKC阻害剤がMDR1誘
発に関係しているという証拠を提供し、MDR1遺伝子活性化を予防するために
タンパク質キナーゼ阻害剤を用いる可能性を示唆する。
しかしながら、他のタンパク質キナーゼ阻害剤がAra−C誘発MDR1発現を
阻害するのに無効であることが判明した。これらとしては、PKC阻害剤D,L
−threo−スフィンゴシンが挙げられる(5μMの濃度で用いる場合;より高い
濃度は、細胞毒性を誘発した)。これは、MDR1誘発を阻害しなかった試験さ
れたPKC阻害剤だけであり、これは、観察された細胞毒性が有効な阻害濃度の
この化合物の投与を予防したことを示唆する。チロシンキナーゼ阻害剤であるヘ
ルビマイシンAが0.35〜3μMの範囲の濃度でAra−CによるMDR1誘発
を阻害するのに無効であることも判明した。もう1つのチロシンキナーゼ阻害剤
であるゲニステインは、150μMの濃度で、Ara−C誘発MDR1発現を非常
に弱く阻害した。
スタウロスポリンは、P−糖タンパク質に直接結合するP−糖タンパク質阻害
剤である(Satoら,1990,Biochem.Biophys.Res.Commun.173: 1252-1257)
。しかしながら、いくつかのP−糖タンパク質陽性細胞系において、スタウロス
ポリンは、単独で用いると、P−糖タンパク質発現を有意に増加させた。さらに
、公知のPKC阻害剤である2つのP−糖タンパク質結合化合物であるシクロス
ポリンAおよびベラパミルは、P−糖タンパク質陽性細胞系のいくつかにおいて
P−糖タンパク質発現を増加させた。これらの薬剤およびスタウロスポリンは、
一般的な、現在知られていないメカニズムを介して作用する。これらの結果は、
タンパク質キナーゼ阻害剤が、腫瘍細胞の大きなフラクションにおいて既にP−
糖タンパク質を発現している腫瘍におけるよりもP−糖タンパク質陰性またはほ
ぼ陰性の腫瘍における方がMDR1の増加を予防するためにより有効に用いられ
ることを示唆する。しかしながら、スタウロスポリンが少数の造血細胞系におけ
るP−糖タンパク質発現を増加させたという発見が、PKC阻害剤によるP−糖
タンパク質発現の増加がP−糖タンパク質陽性腫瘍細胞の一般的な性質であるこ
と、およびP−糖タンパク質陽性腫瘍を有する患者が薬物により誘発される腫瘍
細胞における多剤耐性のさらなる増加を予防するためにタンパク質キナーゼ阻害
剤の使用により利益を得ることができないことを示さないということに注意すべ
きである。
P−糖タンパク質陰性充実性腫瘍または白血病は、当該技術分野でよく知られ
ている技術を用いて、患者の腫瘍の生検材料、外科的または血液標本の分析によ
り同定することができる(Roninson,前掲)。これらの技術としては、限定され
ないが、P−糖タンパク質特異的抗体での免疫細胞化学アッセイ、免疫組織化学
アッセイまたは免疫蛍光アッセイ;P−特異的タンパク質輸送蛍光色素での生体
染色;MDR1特異的核酸プローブでのノーザンドットブロットまたはスロット
ブロットハイブリダイゼーション;またはMDR1 mRNAのcDNA−PCR
分析が挙げられる。前記アッセイのいくつかの研究されている例は、下記実施例
1および3に記載する。タンパク質または機能に基づくアッセイによりP−糖タ
ンパク質陰性であることが明らかであるいくつかの細胞系が、cDNA−PCR
によりアッセイされると、MDR1 mRNAの検出可能なレベルをなおも示すこ
とに注意すべきである(表Iを参照)。これは、タンパクまたは機能に基づくア
ッセイがタンパク質キナーゼ阻害剤の使用により利益を得ると思われる腫瘍の同
定のための主要な規準として好ましいことを示す。別法としては、cDNA−P
CRまたは他のMDR1 mRNA測定のための方法は、K562細胞のレベルま
たはわずかに(例えば、2倍)高いレベルでのMDR1 mRNA発現がP−糖タ
ンパク質陰性腫瘍をなおも示すという理解を伴って用いられる。
ここで試験したタンパク質キナーゼ阻害剤は、それらの阻害活性において非選
択的であることが知られているが、すなわち、それらの作用がPKCに対して特
異的ではないが、ここに記載する研究は、PKC活性を阻害するそれらの能力が
MDR1誘発の予防における臨界因子であるという証拠を提供する。例えば、ス
タウロスポリン、H7、ケレリトリン、硫酸ネオマイシンおよびカルホスチンC
を含む多くの有効なPKC阻害剤は、細胞傷害性薬物によりMDR1誘発を阻害
する能力を有する。対照的には、PKCに対して不活性であるタンパク質キナー
ゼ阻害剤であるHA1004は、MDR1誘発を予防するのに全体的に無効であ
ることが示されている。したがって、PKCに対する特異性とは無関係なPKC
を阻害する能力を有するいずれのタンパク質キナーゼ阻害剤も、癌細胞における
MDR1誘発を予防するのに有用であると思われる。
したがって、蛍光色素蓄積、MDR1 mRNAについてのcDNA−PCRま
たはP−糖タンパク質特異的抗体での染色法などの下記実施例3に記載される方
法によって測定されるような化学療法薬によるMDR1の誘発を予防する能力を
有するタンパク質キナーゼ阻害剤は、本発明のプラクティスで用いられる。かか
る阻害剤は、化学療法薬による治療の前および/または該治療と同時に、充実性
腫瘍または白血病を有する癌患者において投与される。癌化学療法で一般的に用
いられる抗癌剤は、この方針の範囲内に包含され、限定されないが、Ara−C、
アドリアマイシン、ダウノルビシン、ビンブラスチン、エトポシド、メトトレキ
セート、5−フルオロウラシル、クロラムブシル、シスプラチンおよびヒドロキ
シ尿素が挙げられる。
本発明前に、PKCを阻害する能力を有する多くの化合物が、癌化学療法にお
ける有効な使用のためにイン・ビトロおよびイン・ビボで研究された。しかしな
がら、かかる化合物は、正常な細胞に対して腫瘍についての選択的な増殖阻害を
示した(Powis および Kozikowski,1991,Clin.Biochem.24: 385-397; Gruni
ckeら,1989,Adv.Enzyme Regul.28: 201-216)が、それらは、癌細胞におい
てMDR1発現を予防する能力を有することが示されたり示唆されたりしなかっ
たことに注意すべきである。イン・ビトロでの研究は、PKC阻害剤の抗増殖効
果がそれらのPKC阻害活性とほぼ同一の投与量で生じたことを示した(Grunic
keら,前掲)。イン・ビボで試験した化合物としては、スタウロスポリンおよび
そのベンゾイル誘導体CGP 41 251が挙げられ、これらは、ヌードマウス
においてこれらの最大許容投与量(MTD)(MTDは、スタウロスポリンにつ
いて1mg/kgであり、CGP 41 251について250mg/kgであった)の1
/10で抗腫瘍効果を示すことが判明している(Meyerら,1989,Int.J.Cance
r 43: 851-856)。イン・ビボでの抗腫瘍活性を有することが示された他のスタ
ウロスポリン類似体としては、UCN−01(Takahashiら,1987,J.Antibot
.40:1782-1784)および8−N−(ジエチルアミノエチル)レベッカマイシン(
BMY 27557)(Schuringら,1990,Proc.Amer.Assoc.Cancer Res.31
: Abs.2469)が挙げられる。後者の化合物については、腹腔内投与のための至
適投与量は、1回の注射につき12mg/kgで1日に9回の注射で投与され
る合計108mg/kgから単投与64mg/kgの範囲であった。
抗癌剤として活発に研究されたPKC阻害剤の他のグループは、ヘキサデシル
ホスホコリン、ET−18−OCH3、イルモホシン、SRI 62−834およ
びBM 41440を含むエーテル脂質類似体からなる(Powis および Kozikows
ki,1991,Clin.Biochem.24: 385-397; Grunickeら,前掲)。これらの薬剤の
いくつかは、臨床試験で用いられた。経口投与のためのこれらの試験において確
立されたMTDは、イルモホシンについて200mg/日(Berdelら,1988,Proc
.Amer.Assoc.Cancer Res.29: Abs.2050)およびBM41440について体
重1kg当たり5mg(Hermannら,1987,Lipids 22: 962-966)である。ヘキサデ
シルホスホコリンは、3〜128週間にわたって投与された、患者当たり0.2
〜38.5gの範囲の投与量で、乳癌の皮膚転移の治療のために局所的に用いられ
た(Ungerら,1990,Cancer Treat.Rev.17: 243-246)。このグループの化合
物は、自己骨髄移植のための瀉下剤(purging agent)としても試験された(Vog
lerら,1991,Exp.Hematol.99: 557 Abs.)。
他のPKC阻害剤であるスラミンは、寄生虫病の治療において用いられており
、抗腫瘍剤として臨床試験において評価されている。14日目の最後に300μ
g/mLのピークに達するように設計された速度でのスラミンの連続注入は、ホル
モン−難治性前立腺癌において活性を示した(Meyersら,1992,J.Clin.Oncol
. 10: 875-877)。PKC阻害剤の他のクラスのメンバーであるフラボノイドケ
ルセチンは、20mg/kgで腹腔内投与されると、ヌードマウスにおいてP−糖タ
ンパク質によって輸送されない薬物であるシスプラチンの抗腫瘍効果の効力を増
すことが示された(Grunickeら,前掲)。
表皮増殖因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤エルブスタチンは、イン・ビボで
抗腫瘍活性を有することが報告された(Imotoら,1987,Japanese J.Cancer Re
s.78: 329-332; Toiら,1990,Eur,J.Cancer 26: 722-724)。エルブスタチ
ンが細胞傷害性薬物によるMDR1誘発を阻害する能力を有するという証拠は、
全く報告されなかった。
実施例2および4に記載するスタウロスポリンを除いて、前記化合物のうち、
細胞傷害性薬物によるMDR1誘発を予防する能力について試験されたものはな
かったが、本発明に記載される結果は、それらがかかる効果を有すると思われる
ことを強く示した。というのは、それらの全てがPKCを阻害する能力を有する
からである。これらのPKC阻害剤および他のPKC阻害剤についてのイン・ビ
ボ動物および臨床試験データの有効性は、当業者が化学療法の間の多剤耐性の出
現を予防するために慣用の抗癌剤と合わせてかかる化合物を用いることができる
ようにする。これらの化合物は、反復注射によって、連続注入によって、または
、局所治療として、体重1kg当たり薬物1〜250mgの投与量範囲で化学療法薬
治療と一緒に投与される。
本発明のこれらの態様に加えて、イン・ビトロアッセイは、化学療法薬による
MDR1遺伝子発言の誘発を予防する能力を有する化合物の迅速な同定について
記載される。例えば、H−9またはK562白血病細胞系は、標準的な組織培養
条件下、10〜25μM Ara−Cまたは200ng/mLビンブラスチンに暴露す
る10〜36時間前に約30分間(1時間にわたる培養の時間が充分であるが、
図2Bを参照)試験化合物で処理し、次いで、対照と比較して、試験化合物で処
理した培養物における薬物によるMDR1誘発を評価する。かかるアッセイによ
って、化学療法薬によるMDR1誘発を予防する能力を有すると同定された試験
化合物は、ここに記載されタンパク質キナーゼ阻害剤と同様の方法で患者治療の
ために用いられる。
3.MRP発現を阻害するためのタンパク質キナーゼ阻害剤の使用
本発明は、タンパク質キナーゼ阻害剤が、多剤耐性関連タンパク質(MRP;
Grantら,前掲)と称されるタンパク質の発現を阻害する能力も有することを示
す。MDR1と対照的に、下記実施例5および図8に記載するようなcDNA−
PCR実験によって証明されるように、H9ヒトT−細胞白血病細胞などのある
種のヒト腫瘍細胞は、MRP遺伝子の強い発現を示す。かかる細胞のある種のタ
ンパク質キナーゼ阻害剤での処理の結果、MRP発現の劇的な減少を生じる。H
―9細胞におけるMRP発現を阻害する能力を有することが示された化合物とし
ては、スタウロスポリン(100nMの濃度で)、硫酸ネオマイシン(10mM)
、
ケレリトリン(1〜5μM)およびエルブスタチン類似体である2,5−ジヒド
ロキシ桂皮酸メチル(32μM)が挙げられる。
かくして、本発明は、癌化学療法患者に対する2つの関連する利益活性を有す
る多くの薬剤を提供するものてある。これらの薬剤は、化学療法薬によるMDR
1遺伝子の活性化を予防し、これにより、MDR1陰性腫瘍を有する患者の化学
療法の間のMDR1媒介多剤耐性の出現を抑制する。さらに、これらの薬剤は、
MRP発現を減少させ、これにより、MRP陽性腫瘍におけるMRPによって媒
介された多剤耐性を減少させる。これらの薬剤のうちの1つである硫酸ネオマイ
シンは、一般的に用いられる抗生物質であるというさらなる長所を有しており、
これは、臨床的によく特徴付けられており、この使用は、癌化学療法患者におけ
る偶発性細菌感染に抗するための利益を付加した。
以下の実施例は、本発明の特定の具体例およびその種々の使用を説明するもの
である。これらの実施例は、説明目的のためだけに挙げられており、本発明を限
定しようとするものではない。
実施例1
タンパク質キナーゼ阻害剤は、正常な細胞および腫瘍細胞における
タンパク質キナーゼCアゴニスト媒介MDR1誘発を予防する
1.物質および方法
1.1.細胞系および薬物処理
健康なボランティアから、インフォームドコンセント後に静脈穿刺により正常
なヒトPBLを採取し、次いで、Histopaque−1077(ミズーリ州セントル
イスのシグマ・ケミカルズ・カンパニー(Sigma Chemical Co.))中で密度勾
配遠心分離により低密度単核細胞の単離を行った。KG1細胞系は、20%ウシ
胎児血清(FCS)および2mM L−グルタミン、100ユニット/mLペニシ
リンおよび100μg/mLストレプトマイシン(ニューヨーク州グランドアイラ
ンドのギブコ・ラボラトリーズ(GIBCO Laboratories))を有するイスコ
ブの修飾ダルベッコ培地中に維持した。MCF−7、EJ、KB−3−1、He
LaおよびHT−1080細胞系は、10%FCSおよび2mM L−グルタミ
ン、100ユニット/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシン
を有するDMEM中に維持した。
1mM Ara−C(シグマ(Sigma))の貯蔵溶液を無菌リン酸塩緩衝化生理食
塩水(pH7.2)中で調製し、使用するまで−20℃で貯蔵した。100〜10
00μg/mL TPA(シグマ(Sigma))および30mM 1,2−ジオクタノイ
ルグリセロール(DOGまたはDiC8)(オレゴン州ユージーンのモレキュラー
プローブズ(Molecular Probes))の貯蔵溶液は、ジメチルスルホキシド(D
MSO)中で調製し、−30℃で貯蔵した。ケレリトリン、カルホスチン(calp
hostin)C、2,5−ジヒドロキシ桂皮酸メチル、チルホスチン(tyrphostin)
A25、チルホスチンB46、ヘルビマイシンAおよびゲニステイン(全て、カ
リフォルニア州ラジョーラのカルビオケム(Calbiochem)から入手した)なら
びにD,L−threo−スフィンゴシン、スタウロスポリン(staurosporine)およ
びH7(全て、シグマ(Sigma)から入手した)の貯蔵溶液は、適切な濃度でD
MSO中で調製した。硫酸ネオマイシン(カルビオケム(Calbiochem))を無
菌脱イオン水に溶解させた。DMSO溶液を用いる対照実験は、DMSOがP−
糖タンパク質機能または発現に対して効果を有しないことを示した。観察される
細胞傷害性に依存して、種々の細胞系の処理のために、種々の濃度のTPAを用
いた。PBLは、1ng/mL TPAで処理し、H9およびK562細胞は、10
ng/mL TPAで処理し;KG1aおよびKG1細胞は、100ng/mL TPA
で処理し、他の細胞系は、10ng/mL TPAで処理した。同様に、種々の細胞
系のために種々の濃度のDOGを用いた。かくして、PBLは、75μM DO
Gで処理し、H9およびK562細胞は、75μM DOGで2時間おきに2回
処理した。フローサイトメトリー分析またはRNA抽出の前に8〜12時間、細
胞をTPAまたはDOGに暴露した。スタウロスポリン(シグマ(Sigma))を
KG1a細胞について100nMの濃度で用い、他の細胞系については30nMで
用いた:TPAまたはDOGの添加の30分前に細胞に添加した。
1.2.フローサイトメトリーアッセイ
ローダミン123(Rh123)蓄積アッセイにより、P−糖タンパク質活性
をアッセイした。このアッセイについては、薬物処理細胞または薬物未処理細胞
を3回洗浄し、100ng/mL Rh123(シグマ(Sigma))を含有する培地
中、37℃で1.5〜2時間インキュベートした。次いで、細胞を洗浄し、ヨウ
化プロピジウム(PI)で染色し、分析するまで氷上に維持した。単層で増殖す
る細胞を、pH7.4のリン酸塩緩衝化生理食塩水(PBS)中、20mMエチレ
ン−ジアミン四酢酸(シグマ(Sigma))で懸濁させ、Rh123染色前に3回
洗浄した。いくつかの実験において、Rh123蓄積の代わりにRh123流出ア
ッセイ(Chaudhary および Roninson,1991,Cell 66: 85-94)を用いた。
P−糖タンパク質特異的マウスIgG2aモノクローナル抗体(mAB)UIC
2(Mechetner および Roninson,1992,Proc Natl .Acad.Sci.USA 89: 5824ー
5828)を用いて、細胞表面上でのP−糖タンパク質発現を分析した。マウスIg
G2aイソタイプ対照抗体は、シグマ(Sigma)から入手した。UIC2 mAB
またはイソタイプ対照体によるPBLの染色のために、106細胞を該抗体10
μgで4℃で30分間染色し、2回洗浄した後、FITCコンジュゲートヤギ抗
マウスIgG2a抗体(ニュージャージー州フェアローンのフィッシャー・サイ
エンティフィック(Fisher Scientific))10μgで30分間染色し、PBS
+2%FCSで1:2に希釈した。次いで、細胞を氷冷PBS+2%FCSで2
回洗浄し、PIで染色し、分析するまで氷上に維持した。他の細胞タイプの染色
のために、106細胞当たり二次抗体2μgを用いる以外は、実質的に同一のプロ
トコールを用いた。いくつかの実験では、二次抗体としてフィコエリトリン(P
E)コンジュゲートヤギ抗マウスIgG2aを用いた;かかる場合、PIは添加
しなかった。コールター・エピックス・753・フロー・サイトメター(Coult
er Epics 753 Flow Cytometer)でフローサイトメトリー分析を行った。
1.3.RNA抽出およびcDNA−PCR分析
小規模ドデシル硫酸ナトリウム抽出法(Peppel および Baglioni,1990,BioT
echiques 9: 711-713)により約106細胞からRNAを抽出した。別法とし
ては、TRIzol法(ギブコ/ビーアールエル(GIBCO/BRL)から商業
的に入手可能)を用いて細胞からRNAを単離した。MDR1およびβ2−ミク
ログロブリンcDNA配列のcDNA合成およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
増幅は、実質的に開示に従って行った(Noonanら,1990,Proc.Natl.Acad.US
A 87: 7160-7164; Noonan and Roninson,1991,in Roninson(編),Molecular a nd Cellular Biology of Multidrug Resistance in Tumor Cells
,Plenum Press
,New York,pp.319-333)。すなわち、Krug および Berger(1987,Meth. Enz
ymol.152: 316-324)の方法を用いて、cDNAを調製した。ランダムヘキサマ
ーをcDNA合成のためのプライマーとしてのオリゴ(dT)の代わりに用いた
(商業的に入手可能なキット(例えば、メリーランド州ゲイザスバーグのギブコ
/ビーアールエル(GIBCO/BRL)から)は、ランダムヘキサマーを用い
てcDNAを作成するために好都合に変形することができる)。次いで、以下の
プライマーを用いてPCR法を行う:
β2M(センス) 5'-ACCCCCACTGAAAAAGATGA-3'(配列番号1)
β2M(アンチセンス) 5'-ATCTTCAAACCTCCATGATG-3'(配列番号2)
MDR1(センス) 5'-CCCATCATTGCAATAGCAGG-3'(配列番号3)
MDR1(アンチセンス) 5'-GTTCAAACTTCTGCTCCTGA-3'(配列番号4)
(ここで、β2Mは、β2ミクログロブリンを表す)。94℃で3分間の変性、6
0℃で30秒のプライマーアニーリング、および72℃で1分間のプライマー伸
長からなるサイクル1回、次いで、94℃で30秒の変性、60℃で30秒のプ
ライマーアニーリング、および72℃で1分間のプライマー伸長からなるサイク
ル19回、次いで、94℃で30秒の変性、60℃で30秒のプライマーアニー
リング、および72℃で5分間のプライマー伸長からなる最終サイクルからなる
方針の下、β2M実験についてPCRを行った。増幅を19サイクルから25サ
イクルに延長した以外は、β2Mについてと同一のプロトコールを用いてMDR
1 cDNA配列を増幅させた。さらに、cDNA−PCR増幅プロトコールは、
以下の変形を含んだ:(i)試料を最初に94℃に加熱した後、PCR混合物に
Taq DNAポリメラーゼを添加した。(ii)種々の処理タイプに付される細胞
における差動RNA分解について説明するために、種々の調製物におけるcDN
A鋳型の最初の量を補正するためのプライマー規準としてPCRの22〜28サ
イクルの後に得られたβ2ミクログロブリン特異的結合の収量を用いた。オート
ラジオグラフィーにより、32P標識PCR生成物を検出した。
実施例2
リンパ系細胞分化誘発剤により処理された細胞における
P−糖タンパク質発現の機能的アッセイ
機能的アッセイを用いて、P−糖タンパク質輸送蛍光ミトコンドリア色素であ
るRh123の細胞蓄積のフローサイトメトリー分析に基づき、リンパ系分化ま
たは活性化を誘発する種々の薬剤で処理したヒトPBLにおけるP−糖タンパク
質活性の変化を検出した。このアッセイでは、P−糖タンパク質をあまり発現し
ない細胞は、Rh123で鮮やかに染色されるが、高レベルのP−糖タンパク質
活性を有する細胞は、Rh123−鈍い(dull)を表す。P−糖タンパク質に対
する明らかな効果は、カルシウムイオノフォアA23187、IL−1αまたは
IL−2で処理した細胞において観察されなかった。対照的に、PBLのホルボ
ールエステルTPAによる処理は、Rh123−鈍い細胞の数の有意な増加の原
因となる。Rh123−鈍い集団の増加は、30μMベラパミル(P−糖タンパ
ク質阻害剤)の添加により予防することができた。TPAの最もよく知られてい
る細胞効果は、PKCの刺激であるので、細胞透過可能なジアシルグリセロール
およびPKCの生理学的刺激剤であるDOGを試験して、PBLにおけるRh1
23蓄積に対する効果を測定した。PBLのDOGによる処理により、PBLに
よるRh123の蓄積が減少することが判明した。
P−糖タンパク質活性に対するPKC刺激剤の観察された効果がP−糖タンパ
ク質発現の増加によるものであるかを決定するために、ヒトMDR1遺伝子によ
ってコードされているP−糖タンパク質の細胞外エピトープを認識したmAB U
IC2による間接免疫蛍光標識により、未処理のPBLおよびTPA処理PBL
を染色した。TPA処理は、細胞表面上のP−糖タンパク質のレベルを顕著に増
加させた。P−糖タンパク質の増加は、MDR1 cDNA配列のポリメラーゼ連
鎖
反応(PCR)増幅法により検出されるようなTPA処理PBLの全集団におけ
るMDR1 mRNAレベルの対応する増加を伴った。かくして、TPAにより誘
発されるP−糖タンパク質活性の増加は、少なくとも一部分は、mRNAおよび
タンパク質のレベルでのMDR1遺伝子発現の活性化によるものであった。
PBLは、多くの異なるサブタイプの異種集団からなるので、一連の白血病由
来のクローナル細胞系を、TPAによる処理後のP−糖タンパク質発現の変化に
ついて試験した。表Iにまとめるように、TPA処理前にP−糖タンパク質につ
いて正であった全ての細胞系は、TPAに暴露した後、P−糖タンパク質発現の
大きな増加を示した。このグループとしては、ヒトKG1およびKG1a(幹細
胞性白血病細胞系)が挙げられ、その相対的に高いレベルのP−糖タンパク質は
、正常な造血幹細胞(Chaudhary および Roninson,前掲)ならびにネズミE1
4胸腺腫およびLBRM 33リンパ腫細胞系におけるこのタンパク質の発現を
反映すると思われた。
検出可能なP−糖タンパク質を発現しなかった細胞系のうち、H9およびL5
62白血病細胞系は、TPAまたはDOGのいずれかによるMDR1 mRNAお
よびP−糖タンパク質のクリアーカット(clear−cut)誘発を示した。フローサ
イトメトリーアッセイは、TPAまたはDOGによるこれらの細胞系の処理によ
り、P−糖タンパク質を発現した主な細胞集団の出現が生じたことを示した(図
1)。これらの変化は、TPA処理細胞またはDOG処理細胞におけるMDR1
mRNAの定常レベルの増加に匹敵する(図2Aおよび2B)。図2Bに示すと
おり、MDR1 mRNAは、TPAの添加の2時間後にH9細胞中で検出可能に
なり、少なくとも5時間まで増加し続けた。これは、TPAに対する迅速な応答
を示し、これらの細胞におけるTPAによるMDR1の転写可能な活性化と一致
する。
TPA処理後のMDR1発現の増加は、造血細胞に限定されないが、低レベル
のP−糖タンパク質を発現したEJ膀胱癌細胞およびMDR1発現がTPA処理
なしでは検出不可能であったMCF−7乳癌細胞を含むいくつかの充実性腫瘍誘
導細胞系においても観察された(図2C)。表Iにまとめるように、試験したP
―糖タンパク質陰性細胞系のほとんどは、TPAの固定濃度(20ng/mL)で
処理されただけであり、高いTPA濃度に対する応答能について試験されなかっ
た。
MDR1遺伝子発現は、Rh123蓄積についての機能的アッセイ(F)、U
IC2抗体染色(A)またはMDR1 mRNAについてのcDNA−PCRアッ
セイ(R)により評価され、相対的な値として表された。細胞がRh123また
はUIC2染色アッセイにより検出可能なP−糖タンパク質を発現せず、MDR
1 mRNAレベルがKB−3−1細胞のものほど高くない場合、細胞は、陰性で
あると考えられた。
PKCアゴニストによりMDR1遺伝子発現の誘発を妨害しようとする試みに
おいて、有効なタンパク質キナーゼ阻害剤であるスタウロスポリンを用いて、種
々の細胞系を処理した。予想外にも、スタウロスポリン単独で、P−糖タンパク
質に対して既に陽性であった細胞系(KG1、KG1a、マウスEL4およびL
BRM33細胞系)においてP−糖タンパク質の有意な増加を生じた。P−糖タ
ンパク質阻害剤およびPKCの阻害剤であることが知られている2つのさらなる
化合物、シクロスポリンAおよびベラパミルは、KG1およびEL4細胞におけ
るP−糖タンパク質発現および/または色素流出を増加させることも判明した。
P−糖タンパク質陽性細胞系におけるP−糖タンパク質発現に対するPKC阻害
剤の効果により、かかる細胞におけるスタウロスポリンとPKCアゴニストとの
間の相互作用を分析することが困難になった。しかしながら、スタウロスポリン
は、P−糖タンパク質陰性H9細胞においてMDR1発現を誘発しなかった。T
PAまたはDOG処理の30分前のスタウロスポリンのH9細胞への添加は、フ
ローサイトメトリー(図1)およびcDNA−PCRアッセイ(図2A)により
証明されるように、これらの薬剤によりMDR1誘発を完全に破壊した。スタウ
ロスポリンは、正常なPBLにおけるTPAおよびDOGの効果をも示した。
実施例3
タンパク質キナーゼ阻害剤は、腫瘍細胞における
細胞傷害性薬物媒介MDR1誘発を予防する
1.物質および方法
1.1.フローサイトメトリーアッセイ
K562細胞を、10%ウシ胎児血清を補足したDMEM 5mL中、37℃で
10分間、100ng/mL Rh123または10ng/mLのDiOC2(3)、別のP
−糖タンパク質輸送色素(Chaudhary および Roninson,前掲)で染色した。2
回洗浄した後、該細胞を、前記に従って(Chaudhary および Roninson,前掲)
、無色素培地5mL中、37℃で3時間(Rh123について)または2時間(D
iOC2(3)について)、色素を流出させた。二重標識実験において、染色のため
に培地5mL中DiOC2(3)3ng/mLを用いた。3μMベラパミルの存
在下および不在下で各流出アッセイを行った。KG1細胞を、37℃で3時間、
培地5mL中、100ng/mL Rh123で染色し、流出なしで分析した。KG1
細胞2×105個当たり、一次抗体(シグマ(Sigma)からのUIC2またはマ
ウスIgG2aイソタイプ対照)2μgおよびヒツジ抗マウスIgGのPEコンジ
ュゲートF(ab')2フラグメント(シグマ(Sigma))である二次抗体10μg
を用いて間接免疫蛍光標識(前掲のChaudhary および Roninsonの開示に従って
)を行った。開示されているとおり(Chaudhary および Roninson,前掲)、フ
ローサイトメトリー分析およびフローソーティングを行った:生存不可能な細胞
は、異常なサイズもしくは粒度に基づいて、または、フィコエリトリンを用いな
い実験において、ヨウ化プロピジウムの蓄積により、分析から排除された。
1.2.増殖阻害アッセイ
ウエル当たり細胞3,000個で96ウエルのマイクロタイタープレート中で
二重に細胞を平板培養し、種々の薬物の増加する濃度において増殖させた。7〜
10日後の細胞増殖をMTTアッセイにより分析した(Pauwelsら,1988,J.Vi
rol.Meth.20: 309-321)。
1.3.MDR1誘発阻害アッセイ
ウエル当たり細胞3,300個で6ウエルのファルコン組織培養プレート中で
細胞を平板培養した。Ara−CまたはTPAの12時間前に添加したヘルビマイ
シンA、ならびにAra−CまたはTPAの添加によるMDR1誘発の16時間前
に添加したチルホスチンA25およびB46を除いては、試験しようとするタン
パク質キナーゼ阻害剤の各々をAra−CまたはTPAの添加によるMDR1誘発
の45分前に適切な最終濃度で添加した。cDNA−PCR分析のために収穫す
る前にMDR1誘発剤を添加した後、37℃/5%CO2で、細胞を一晩(TP
A)または10時間(Ara−C)インキュベートした。
さらに、ある薬物の分析は、付加された要求を強要した。カルホスチンCを用
いる実験のために、直接白色光照明下、細胞をインキュベートした。D,L―thr
eo−スフィンゴシンを用いる実験のために、該細胞培養培地を、37℃で1時間
、ゆっくりと連続的に混合しつつ、適切な濃度の薬物で前処理した。この前
処理後、薬物で補足した培地中、細胞を再懸濁させ、前記に従って45分間イン
キュベートした。
インキュベーション期間の終了後、各培養物を25μM Ara−Cで処理し、
さらに10時間インキュベートした。別法としては、各培養物を16nM(10n
g/mL)TPAで処理し、12時間または一晩インキュベートした。
前記実施例1の記載に従って、薬物で処理した各培養物について、または、A
ra−CまたはTPA単独の不在下または存在下でインキュベートした対照培養に
おけるcDNA−PCR分析を行った。
実施例4
タンパク質キナーゼ活性化因子および阻害剤で処理した細胞における
P−糖タンパク質発現の機能的アッセイ
前記実施例1および2に記載の研究は、腫瘍細胞における多剤耐性応答の活性
化におけるPKCの重要な役割を示す、PKCアゴニストがMDR1発現を誘発
することができることを示した。PKCは、種々のタイプの細胞傷害性ストレス
に対する細胞応答にも関係しなかった(Papathanasiou および Fornace,1991,
in R.F.Ozols(編),Molecular and Clinical Advances in Anticancer Drug R esistance
,Kluwer Academic Publishers,Boston,MA,pp.13-36)。特に、P
KCは、Ara−Cでの処理により活性化される。したがって、P−糖タンパク質
により輸送されないAra−CがK562白血病細胞におけるP−糖タンパク質機
能に対する効果を有するかを試験するために実験を行った。図3Aにおいて説明
したとおり、K562細胞のAra−Cへの12〜72時間の暴露により、Rh1
23を流出した3〜17%細胞の亜集団が出現した。Rh123流出は、P−糖
タンパク質阻害剤ベラパミルに対して感度が高かった。Rh123−鈍い細胞の
出現を、cDNA配列のポリメラーゼ連鎖反応増幅により検出されたように、Ar
a−C処理K562細胞におけるβ2−糖タンパク質に対してMDR1 mRNA発
現の投与依存性増加により比較した(図4)。
K562細胞においてMDR1発現を誘発させる能力について、多くの他の化
学療法薬を試験した。アドリアマイシン、ダイウロルビシン、ビンブラスチン、
シスプラチンおよびヒドロキシ尿素は、全て、MDR1 mRNA発現(図4B)
および処理細胞の3〜10%までのRh123またはDiOC2(3)流出(図3A
)を誘発することが判明した。これらの薬物の最初の4つだけは、P−糖タンパ
ク質によって輸送される(Roninson,前掲)。MDR1誘発に必要な短時間の薬
物暴露と一緒にこの結果は、MDR1発現細胞についての細胞傷害性薬物選択が
P−糖タンパク質陽性亜集団の出現の原因ではなかったことを示す。
細胞傷害性薬物のMDR1発現を誘発する能力は、K562細胞に限定されな
かった。Ara−Cは、Rh123蓄積またはモノクローナル抗体UIC2との免
疫反応性により検出されるように、薬物処理前にP−糖タンパク質の有意な量を
含有するKG1白血病細胞においてP−糖タンパク質を増加させた(図3A)。
Ara−Cは、また、H9 T細胞白血病(図5)、KB−3−1類表皮癌(図4
C)およびEJ膀胱癌(図4D)におけるMDR1 mRNA発現をも活性化させ
たが、誘発の大きさは、癌細胞系において多少低下させられた。さらに、MDR
1 mRNA発現は、アドリアマイシン、ビンブラスチンおよびメトトレキシエー
トでの処理によりH9細胞において(図5)、および、アドリアマイシンでの処
理によりKB−3−1細胞において(図4C)誘発された。しかしながら、P−
糖タンパク質誘発は、これらの薬物で処理したHL60白血病細胞において検出
されなかった。全ての場合、MDR1誘発は、明らかな細胞損傷と同時に検出可
能になり、これは、細胞腫脹、増加した量、変形した細胞の形状、および増殖阻
害により証明された(図4A)。さらに、いくつかの方法のための薬物の不在下
でのいくつかの細胞系の連続通過により、MDR1発現を少し増加させ、これは
、未処理細胞におけるMDR1 mRNAの基本レベルにおける変異性の原因とな
る。
また、薬物誘発MDR1発現が細胞傷害性薬物処理後に維持されるかをアッセ
イした。この目的のために、K562細胞を、Ara−C、アドリアマイシン、ク
ロラムブシルまたはメトトレキセートの細胞傷害性濃度で3〜5日間処理し、次
いで、薬物の不在下で増殖させた。種々の時点で、生存している細胞におけるM
DR1発現を、UIC2による色素流出および免疫蛍光標識により(図3C)、
または、cDNA−PCRにより(図4E)分析した。処理細胞の亜集団におけ
るMDR1発現は、薬物の除去後、少なくとも数週間(Ara−C処理集団におい
て11週間まで)維持された。P−糖タンパク質陽性K562細胞は、それらの
サイズ、粒度および分化関連抗原性マーカーの発現の有意な変化を示さなかった
。Ara−Cまたはアドリアマイシンの除去の6週間後の多剤耐性細胞の存在もま
た、ビンブラスチン、P−糖タンパク質基質での増殖阻害アッセイによって示さ
れた。ID10値の約2〜3倍の増加により特徴付けられるビンブラスチン耐性は
、特に、細胞のRh123−鈍い亜集団と関連した(図6)。かくして、薬物処
理は、処理細胞の亜集団におけるMDR1発現の保持された誘発およびその関連
薬物耐性を導く。Ara−Cおよびアドリアマイシン処理K562細胞は、P−糖
タンパク質により輸送されない化学療法的アルキル化剤であるクロラムブシルの
細胞傷害性効果に対して未処理細胞よりも耐性があることも判明した。この結果
は、臨床的に関連した薬物耐性の他の経路またはメカニズムが化学療法薬での処
理後にMDR1発現と一緒に誘発されることを示す。
PKCが細胞傷害性薬物によるMDR1誘発に関係したことを示すために、種
々のPKC阻害剤を用いて、H9細胞におけるMDR1 mRNA誘発を遮断した
。これらの化合物の添加は、cDNA−PCRにより検出されるようなAra−C
、アドリアマイシン、メトトレキセートおよびビンブラスチンによるMDR1誘
発ならびにAra−C処理細胞による色素流出アッセイを有効に遮断した。PKC
について観察された阻害の特異性を研究するために、H7(PKCについてIC50
=6.0μM、タンパク質キナーゼAについてIC50=3.0pM)およびHA
1004、非PKC特異的タンパク質キナーゼ阻害剤(PKCについてIC50=
40μM、タンパク質キナーゼAについてIC50=2.3μM)(Hidakaら,198
4, Biochemistry 23: 5036-5041)の増加する投与量の効果を比較した。図5A
に示すとおり、H7は、10μM以上の濃度でAra−CによるMDR1誘発を阻
害したが、HAI004は、60μMでさえ有意な阻害を示さなかった。これら
の結果は、細胞傷害性によるMDR1誘発におけるPKCについての役割と一致
した。
タンパク質キナーゼ阻害剤の、細胞傷害性薬物およびPKCアゴニストによる
MDR1誘発を抑制する能力をさらに評価するために、H−9ヒトT細胞白血病
細胞をcDNA−PCRアッセイにおいて用いて、タンパク質キナーゼ阻害剤の
存在下、誘発されたMDR1 mRNA発現レベルを試験した。これらのアッセイ
の結果を図7に示し、表IIにまとめる。MDR1は、10ng/mL TPAにおけ
る一晩のインキュベーションにより図7に示される細胞において誘発された;2
5μM Ara−Cとの10時間のインキュベーションを用いて、図7A〜7Eに
おけるように分析した全ての他の細胞培養物においてMDR1発現を誘発した。
2つのエルブスタチン類似体(チルホスチンA25およびB46)を、図7A
に示すように、A25誘発MDR1 mRNA発現を阻害する能力について試験し
た。これらの化合物(チルホスチンA25、レーン5および6;チルホスチンB
46、レーン7および8)は、共に、50〜100μMの濃度でH−9細胞と一
緒にインキュベートした場合、Ara−C誘発MDR1発現を強く阻害する能力を
示した。
抗菌剤硫酸ネオマイシンを、Ara−C誘発MDR1発現に対する阻害能力につ
いて試験した。この化合物は、10mMの濃度で25μM Ara−Cで誘発された
細胞におけるMDR1発現を阻害することが判明した。これらの結果は、硫酸ネ
オマイシンが、臨床的に関連しており、達成可能な濃度で、MDR1阻害能を有
することを示す。
エルブスタチン類似体2,5−ジヒドロキシ桂皮酸メチルの、H−9細胞の2
5μM Ara−Cによる処理により誘発されたMDR1発現を阻害する能力を図
7Cに示す。これらの結果は、このエルブスタチン類似体が、32μMおよび6
4μMで,MDR1発現を実質的に同一の程度までに阻害することを示す。
Ara−Cの阻害は、図7Dに示されるカルホスチンCと白色光での直接照明と
の組合せによりMDR1発現を誘発した。この化合物は、1μMの濃度で存在す
る場合、MDR1発現を阻害する能力を有することが判明した(レーン7および
8);この化合物の阻害能は、用いた濃度が0.1μMに減少した場合に非常に
低下した(レーン5および6)。
Ara−C誘発MDR1発現の漸進的投与量依存性阻害は、PKC阻害性ケレリ
トリンについて示され、図7Eに示される。この化合物を用いる阻害の投与量依
存性は、レーン5および6(1μMケレリトリン)ならびにレーン7および8(
5μMケレリトリン)におけるMDR1特異的結合の強度の比較によって見られ
る。
図7Fは、公知のPKCアゴニストであるTPAによるMDR1の発現の誘発
について、30nMスタウロスポリン(レーン7および8)または32μM2,
5−ジヒドロキシ桂皮酸メチル(エルブスタチン類似体)の存在下、H−9細胞
のインキュベーションの結果を示す。TPA単独(レーン3および4)は、前記
の結果と一致する、MDR1発現の容易に検出可能なレベルを有効に誘発した。
PKC阻害剤であるスタウロスポリンおよび2,5−ジヒドロキシ桂皮酸メチル
は、共に、TPA誘発MDR1発現を完全に阻害した。これらの結果は、表皮細
胞増殖因子チロシンキナーゼを阻害することが知られているエルブスタチン類似
体がPKC阻害活性を有するという従前の観察と一致する(Bishopら,前掲)。
多くの他のタンパク質キナーゼ阻害剤は、Ara−C誘発MDR1発現を阻害す
る能力をあまり有しないことが判明した。これらの化合物は、これらの化合物と
しては、D,L−threo−スフィンゴシン(5μMで試験した;高濃度は、細胞傷
害性を誘発した)およびヘルビマイシンA(0.35〜3μMの濃度で試験した
)が挙げられる。タンパク質キナーゼに対して10倍弱い効果を有するpH7の
構造類似体であるIso−H7で、有意な阻害が観察されなかった(Pelosinら,1
990,Biochem.Biophys.Res.Commun.169: 1040-1048)。Ara−C処理K56
2細胞で類似の結果が観察された。別のタンパク質キナーゼ阻害剤であるゲニス
テイン(150μM)は、Ara−C誘発MDR1発現を非常に弱く阻害すること
が判明した(表II)。
これらの結果は、多くのタンパク質キナーゼ阻害剤のうちある種のものおよび
特にタンパク質キナーゼC阻害剤が細胞傷害性薬物またはタンパク質キナーゼC
アゴニストによる癌細胞の処理によって誘発されたMDR1発現を阻害する能力
を有することを示した。本明細書に示したデータは、P−糖タンパク質によって
輸送されないものを含む種々の化学療法薬が、予め存在する遺伝的変異体の選択
によるよりもむしろ直接MDR1発現を阻害したことを示した。薬物誘発MDR
1発現は、処理細胞の亜集団に限定され、P−糖タンパク質輸送薬物の耐性の適
度な増加(K562細胞の場合、約2〜3倍)に関連した。この増加は、イン・
ビボでの化学療法への応答を低下させるのに、および、高レベルの薬物耐性を有
する遺伝的突然変異体の選択を増強させるのに充分である。MDR1発現の薬物
媒介誘発は、癌化学療法の間に生じ、処理した腫瘍におけるMDR1発現の増加
した事件の大きな原因となる。したがって、PKC阻害剤がMDR1誘発を予防
することができるというデモンストレーションは、癌細胞の高度な根絶を達成す
るために、癌化学療法において細胞傷害性薬物との組み合わせでかかる薬剤を用
いて示唆された。
実施例5
タンパク質キナーゼ阻害剤は、腫瘍細胞においてMRP発現を予防する
1.物質および方法
1.1.MRP発現阻害アッセイ
ウエル当たり細胞3,300個で6ウエルのファルコン組織培養プレート中で
細胞を平板培養し、適切な濃度の薬物中でインキュベートした。試験しようとす
るタンパク質キナーゼ阻害剤の各々を適切な最終濃度で添加し、次いで、該細胞
を、5%CO2の雰囲気下、37℃で10時間インキュベートした。
前記実施例1に記載に従って、薬物で処理した各培養物について、または、薬
物なしでインキュベートした対照培養物中でのcDNA−PCR分析を行った。
PCR法は、以下のプライマーを用いて行った。
β2M(センス) 5'-ACCCCCACTGAAAAAGATGA-3' (配列番号1)
β2M(アンチセンス) 5−ATCTTCAAACCTCCATGATG-3' (配列番号2)
MRP(センス) 5'-GGACCTGGACTTCGTTCTCA-3' (配列番号5)
MDR1(アンチセンス) 5'-CGTCCAGACTTCCTTCATCCG-3'(配列番号6)
(ここで、β2Mは、β2ミクログロブリンを表す)。94℃で3分間の変性、6
0℃で30秒のプライマーアニーリング、および72℃で1分間のプライマー伸
長からなるサイクル1回、次いで、94℃で30秒の変性、60℃で30秒のプ
ライマーアニーリング、および72℃で1分間のプライマー伸長からなるサイク
ル19回、次いで、94℃で30秒の変性、60℃で30秒のプライマーアニー
リング、および72℃で5分間のプライマー伸長からなる最終サイクルからなる
方針の下、β2M実験についてPCRを行った。MRP cDNA配列は、94℃
で3分間の変性からなるサイクル1回、94℃で30秒の変性、62℃で30秒
のプライマーアニーリング、および72℃で1分間のプライマー伸長からなるサ
イクル26回、次いで、72℃で5分間のプライマー伸長からなるサイクル1回
からなるプロトコールを用いて増幅させて、292bpのMRP特異的増幅フラグ
メントを得た。32P標識PCR生成物は、オードラジオグラフィーによって検出
した。
実施例6
タンパク質キナーゼ活性化因子および阻害剤で処理した細胞における
MRP発現の機能的アッセイ
H−9細胞を用いて、多剤耐性関連タンパク質MRPの発現について種々のタ
ンパク質キナーゼ阻害剤の効果を分析した(Grantら,前掲)。これらの実験の
結果を図8に示す。MRP mRNA発現を薬物の不在下でH−9細胞において評
価した場合、これらの細胞は、MRP遺伝子を強く発現することが判明した(図
8、レーン1および2)。MDR1とは対照的に、25μM Ara−Cにおける
H−9細胞のインキュベーションは、MRP発現のわずかな減少を生じた(デー
タは、示さない)。スタウロスポリン(100nM;レーン3および4)、ケレ
リトリン(1〜5μM;レーン5および6)、2,5−ジヒドロキシ桂皮酸メチ
ル(32μM;レーン7および8)または硫酸ネオマイシン(10mM;レーン
9および10)とのインキュベーションの後、MRP発現を強く阻害した。
これらの結果は、種々のタンパク質キナーゼ阻害性化合物が細胞傷害性薬物誘
発MDR1発現および多剤耐性表現型関連MRP遺伝子の発現の両方を阻害する
能力を有することを示す。これらの結果は、かかるタンパク質キナーゼ阻害剤が
、化学療法を受けている癌患者における多剤耐性の出現を予防するのにおいて大
きな有用性を有することを強く示す。
本発明は、例示した具体例によっては範囲を限定されず、該具体例は、本発明
の個々の態様を説明しようとするものである。実際、本明細書に示され記載され
たものに加えて本発明の種々の変形例は、前記説明および添付した図面から当業
者に明らかになるであろう。かかる変形例は、以下の請求の範囲の範囲内になる
。
本明細書に挙げられた全ての文献は、出典明示により本明細書の一部とする。
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フロントページの続き
(72)発明者 シュティル,アレキサンダー・エイ
アメリカ合衆国60607イリノイ州シカゴ、
サウス・ルーミス717番
(72)発明者 ローニンソン,イゴール・ビー
アメリカ合衆国60091イリノイ州ウィルメ
ット、リンカーン・レイン2731番