JPH10155892A - 医療用高分子ゲル - Google Patents

医療用高分子ゲル

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JPH10155892A
JPH10155892A JP9283159A JP28315997A JPH10155892A JP H10155892 A JPH10155892 A JP H10155892A JP 9283159 A JP9283159 A JP 9283159A JP 28315997 A JP28315997 A JP 28315997A JP H10155892 A JPH10155892 A JP H10155892A
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gly
water
drug
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JP9283159A
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English (en)
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Masao Tanihara
正夫 谷原
Yoshimi Kakimaru
好海 柿丸
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Kuraray Co Ltd
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Kuraray Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 薬剤による細胞毒性やその他の副作用がな
く、疾患部以外の箇所に害を与えずに少量の薬剤の使用
で疾患部を選択的に治癒することのできる、安全で且つ
治癒効果の高い創傷被覆材やドラッグデリバリーシステ
ムなどに用いる医療用材料を提供すること。 【解決手段】 一般式;A−Sp1−E−Sp2−G(式中
Aは水膨潤性高分子ゲル、Sp1は第1のスペーサー、E
は酵素反応で主鎖が切断され得る分解性基、Sp2は第2
のスペーサー及びGは薬剤を示す)で表される結合形態
を有する本発明の医療用高分子ゲルによって上記の課題
が解決され、本発明の前記医療用高分子ゲルを用いる場
合は疾患部に存在する酵素量に応じてその分解性基
(E)が切断されて該酵素量に応じた薬剤が放出される
ので、疾患部以外の部分にダメージを与えることなく疾
患部の治癒を促進できる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、医療用高分子ゲル
に関する。さらに詳しくは、本発明は新規な薬剤放出特
性を有する医療用高分子ゲルに関するものであり、本発
明の医療用高分子ゲルは、創傷被覆材、生体組織接着
材、癒着防止材、骨補強材、薬剤放出基材の構成成分な
どとして医療分野で有効に使用することができる。
【0002】
【従来の技術】従来、外傷や熱傷、潰瘍、褥瘡などの創
傷の治療にはガーゼおよび/または軟膏類が汎用されて
きた。これらは滲出液を吸収し、かつ外部からの細菌な
どの侵入を防ぐ効果がある。近年、創部からの滲出液中
に治癒を促進する種々の増殖因子(bFGF、TGFβ
など)が存在することが明らかになり[Howell, J.M.,C
urrent and Future Trends in Wound Healing, Emerg.
Med. Clin. North Amer., 10, 655−663(1992)等]、
そのような増殖因子を創部に保持して創部治癒促進効果
を示す閉鎖性被覆材が注目されるようになった[Eaglst
ein, W.E., Experience with biosynthetic dressings,
J. Am. Acad. Dermatol., 12,434−440 (1985)]。
また、従来より高分子ゲルは医療分野において各種用途
で用いられており、さらに近年では、高分子ゲルに薬剤
を含有させたドラッグデリバリーシステム(DDS)や
創傷被覆材などが提案されている。
【0003】そして、近年、閉鎖性の創傷被覆材とし
て、ポリウレタンフイルム、ハイドロコロイド、アルギ
ン酸ゲル、ポリビニルアルコールスポンジ、ポリビニル
アルコール含水ゲルなどからなるものが知られるように
なっている。しかしながら、ポリウレタンフイルム、ハ
イドロコロイド、アルギン酸ゲル、などからなるこれら
の閉鎖性の創傷被覆材は、治癒促進効果に優れているも
のの、一度細菌感染を引き起こすと湿潤環境が細菌にと
って好適な培地となるため、細菌が急速に増殖して重度
の感染を起こし大変危険である。そこで細菌感染の予防
や治療のために抗菌剤の全身投与や局部投与が行われ
る。しかし、細菌感染創は一般に血行が悪く、全身投与
では有効量の抗菌剤が創部に到達せず、また局部投与で
は抗菌剤の細胞毒性により治癒が阻害されるという副作
用がある。
【0004】さらに、薬物を含有した創傷被覆材として
は、傷手当て具を構成している不溶性アルギン酸塩と可
溶性アルギン酸塩との混合アルギン酸塩からなる傷接触
パッドに抗微生物剤や局部麻酔剤などの薬剤を含有させ
たもの(特表平4−501067号公報)や、少なくと
も表面に創傷治癒を促進するペプチドを共有結合し及び
/又は殺菌剤を含有させたヒドロゲルを構成成分とする
創傷被覆材(特表平6−500028号公報)が提案さ
れている。そして、前者の特表平4−501067号公
報に記載されている創傷被覆材では、抗微生物剤や局部
麻酔剤などの薬剤をゲルのパッドに含有させることがで
きるとされているが、それらの薬剤はゲルに固定されて
いないため、常に放出されており、細胞毒性などの副作
用が生ずる危険がある。一方、後者の特表平6−500
028号公報に記載されている創傷被覆材では、表面に
創傷治癒促進ペプチドが化学結合されており、この結合
は切断されないため、創傷被覆材に接触している部分で
しか効果が発現しないという欠点がある。
【0005】また、ドラッグデリバリーシステムの具体
例としては、薬剤を封入した脂質微粒子をOHラジカル
により分解する架橋ヒアルロン酸ゲルに含有させたもの
[由井外,Polymer Preprints, Japan,42(8),3186−3
188(1993)参照]や、セルロース粉末に-Phe-、-Tyr
-、-Ile-Tyr-または-Gly-Ile-Tyr-からなるアミノ
酸結合またはペプチド結合を介して pholcodine を結合
させたもの[F.Lapicque & E.Dellacherie,J.Cont
rolled Release,4,39−45(1986)参照]が知られて
いる。そして前者のものでは、OHラジカルの発生する
部位でヒアルロン酸ゲルが分解されて薬剤を封入した脂
質微粒子が放出されるが、OHラジカルが多量に発生す
るのは炎症の一時期および炎症部位のごく一部に限定さ
れるため、適用対象疾患がかなり限定され、しかも脂質
微粒子に封入された薬剤は脂質微粒子から外部の水相に
徐々に放出されるために病巣部位以外においても薬剤が
徐々に放出されてしまい副作用が生ずるという欠点があ
る。また、後者のものでは、-Phe-、-Tyr-、-Ile-T
yr-または-Gly-Ile-Tyr-からなるアミノ酸結合また
はペプチド結合を介してセルロース粉末に結合された薬
剤 pholcodine が酵素による分解作用によって一応放出
されはするが、その薬剤の放出量は固定化前の1/10
00〜1/20000程度と非常に少なく、実用的では
ない。
【0006】
【発明の内容】上記のような状況下に、薬剤による細胞
毒性やその他の副作用が少なく、しかも疾患部以外の箇
所に害を与えずに少量の薬剤の使用で疾患部を選択的に
治癒することのできる、安全で且つ治癒効果の高い創傷
被覆材やドラッグデリバリーシステムなどに用い得る医
療用材料が求められてきた。そして、本発明者らは、上
記した従来の医療用材料に比べて、安全性に優れ、しか
も治癒効果の高い医療用材料を開発することを目的とし
て研究を行ってきた。その結果、下記の一般式(II);
【0007】
【化3】A−B−C−D (II) (式中、Aは水膨潤性高分子ゲル、Bはスペーサー、C
は酵素反応で主鎖が切断され得る分解性基、Dは薬剤を
表す)で表される結合形態を有する医療用高分子ゲル、
すなわち、薬剤(D)が酵素反応で主鎖が切断され得る
分解性基(C)およびスペーサー(B)を介して水膨潤
性高分子ゲル(A)に固定化された医療用高分子ゲル
が、酵素の量に応じた薬剤放出特性を示し、そのため酵
素が産生される病巣において選択的に治療に有効な量の
薬剤の放出が可能であって、病巣以外の部分に副作用を
与えることなく病巣の治療を行えることを見出して先に
出願した(特開平8−24325号)。
【0008】本発明者らは、本発明者らによる上記の発
明を踏まえてさらに検討を重ねてきた。そして、一般
式;A−Sp1−E−Sp2−G(式中、Aは水膨潤性高分
子ゲル、Sp1は第1のスペーサー、Eは酵素反応で主鎖
が切断され得る分解性基、Sp2は第2のスペーサーおよ
びGは薬剤を示す)で表される高分子ゲル、すなわち水
膨潤性高分子ゲルと分解性基の間および該分解性基と薬
剤の間の両方にスペーサーを有する新規な結合形式をな
す医療用高分子ゲルも、酵素の量に応じた薬剤放出特性
を示し、そのため酵素が産生される病巣において選択的
に治療に有効な量の薬剤を放出して病巣以外の部分に副
作用を与えることなく病巣の治療を行えること、しかも
薬剤の放出能および病巣の治療効果において優れている
ことを見出して、本発明を完成した。また、本発明者ら
は、今回本発明者らが発明した2つのスペーサーを有す
る医療用高分子ゲルは、薬剤を結合させる前の状態、す
なわち一般式;A−Sp1−E−Sp2’(式中、A、Sp1
およびEは上記と同じであり、Sp2’は薬剤と結合性の
スペーサー前駆体を示す)で表される高分子ゲルの形態
でも、流通、販売が可能であって、そのスペーサー前駆
体Sp2’に必要なときに薬剤を結合させることによっ
て、病巣の治療に有効に使用できる医療用高分子ゲルと
し得ることを見出した。
【0009】したがって、本発明は、下記の一般式
(I);
【0010】
【化4】 A−Sp1−E−Sp2−G (I) (式中、Aは水膨潤性高分子ゲル、Sp1は第1のスペー
サー、Eは酵素反応で主鎖が切断され得る分解性基、S
p2は第2のスペーサーおよびGは薬剤を示す)で表され
る結合形態によって、薬剤が水膨潤性高分子ゲルに結合
していることを特徴とする医療用高分子ゲルである。
【0011】さらに、本発明は、下記の一般式(I
a);
【0012】
【化5】 A−Sp1−E−Sp2’ (Ia) (式中、Aは水膨潤性高分子ゲル、Sp1は第1のスペー
サー、Eは酵素反応で主鎖が切断され得る分解性基、お
よびSp2’は薬剤と結合性の第2のスペーサー前駆体を
示す)で表される結合形態を有することを特徴とする、
薬剤を、前記の第1のスペーサー(Sp1)、分解性基
(E)および第2のスペーサー(Sp2)[但しSp2は前
記第2のスペーサー前駆体(Sp2')と薬剤とが結合した
ときに形成される第2のスペーサーを示す]を介して水
膨潤性高分子ゲルに結合させ得る医療用高分子ゲルであ
る。
【0013】
【発明の実施の形態】以下に本発明について詳細に説明
する。上記の一般式(I)または一般式(Ia)で表さ
れる結合形態を有する本発明の医療用高分子ゲルでは、
その水膨潤性高分子ゲル[以下「水膨潤性高分子ゲル
(A)」ということがある]は、水で膨潤した状態であ
っても、水で膨潤する前の乾燥した状態であっても、ま
たは完全には水で膨潤していないが水を多少含んだ状態
であってもよく、したがって本発明の医療用高分子ゲル
には、水で膨潤したもの、乾燥したもの、または水を多
少含むもののいずれもが包含される。そして、本明細書
中で医療用高分子ゲルについて説明する際に、アミノ酸
残基を略号によって記述することがあるが、本明細書に
おけるアミノ酸残基の略号とその内容については下記の
表1に示すとおりである。
【0014】
【表1】 略 号: アミノ酸残基 略 号: アミノ酸残基 Ala :L−アラニン残基 Leu :L−ロイシン残基 Arg :L−アルギニン残基 Lys :L−リジン残基 Asn :L−アスパラギン残基 Phe :L−フェニルアラニン残基 Asp :L−アスパラギン酸残基 Pro :L−プロリン残基 Cys :L−システイン残基 Ser :L−セリン残基 Gln :L−グルタミン残基 Thr :L−トレオニン残基 Glu :L−グルタミン酸残基 Trp :L−トリプトファン残基 Gly :グリシン残基 Tyr :L−チロシン残基 His :L−ヒスチジン残基 Val :L−バリン残基 Ile :L−イソロイシン残基 Nle :L−ノルロイシン残基
【0015】また、本明細書においては、常法にしたが
ってペプチドのアミノ酸配列を、そのN−末端のアミノ
酸残基が左側に位置し、C−末端のアミノ酸残基が右側
に位置するように記述する。また、D体のアミノ酸残基
の場合には略号の後(右側)に(D)を付記して記述す
る。
【0016】上記の一般式(I)または一般式(Ia)
で表される本発明の医療用高分子ゲルにおいて、その水
膨潤性高分子ゲルは、血液、血漿、細胞間液などの体
液、または生理食塩水などの体液類似液に膨潤する高分
子ゲルであって、しかも生体親和性を有する高分子ゲル
である。本発明では、水膨潤性高分子ゲル(A)を構成
する高分子素材として、前記した体液や体液類似液に膨
潤し且つ生体親和性のものであればいずれも用いること
ができ、例えば、アルギン酸、キチン、キトサン、ヒア
ルロン酸、セルロースおよびこれらの誘導体などの多糖
類;ゼラチン、コラーゲン、カゼイン、アルブミンなど
の蛋白質;ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポ
リリジンなどのポリペプチド;ポリビニルアルコール系
重合体、エチレン/ビニルアルコール共重合体、ポリビ
ニルピロリドン(PVP)、ポリアクリル酸およびこれ
らの誘導体などの合成高分子を挙げることができる。前
記した高分子素材はその1種、または2種以上の混合物
を、共有結合、疎水結合、水素結合、静電結合などの結
合形態で結合ないし架橋させることによって、水膨潤性
の高分子ゲルを形成する。
【0017】例えば、アルギン酸、ポリアクリル酸、ポ
リアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、それらの誘導体
などのようなカルボキシル基を有する高分子素材におい
ては、Ca2+イオンなどの多価金属イオンを添加するこ
とにより静電結合架橋ゲルが得られる。また、前記した
アルギン酸やその他のカルボキシル基を有する高分子素
材と、キトサン、ポリリジンなどのアミノ基を有する高
分子素材を混合することによっても静電結合架橋ゲルが
得られる。さらに、ゼラチン、ポリビニルアルコール系
重合体、それらの誘導体などの高分子素材では、それら
の水溶液または有機溶媒溶液を冷却することにより、水
素結合架橋ゲルが得られる。また、エチレン/ビニルア
ルコール共重合体、ポリアクリル酸、それらの誘導体な
どのような水混和性有機溶媒に溶解する高分子素材で
は、水混和性有機溶媒に溶解したそれらの溶液を水中に
投入することにより水素結合および/または疎水結合架
橋ゲルが得られる。
【0018】さらに、アルギン酸、ポリアクリル酸、キ
トサン、蛋白質、ポリリジン、ポリアスパラギン酸、ポ
リグルタミン酸、ポリビニルアルコール、それらの誘導
体などのような反応性の基を有する高分子素材では、リ
ジンのオリゴマー、エチレンジアミン、グリセリン、コ
ハク酸、シュウ酸などの多官能性化合物と共有結合を形
成させることにより、共有結合架橋ゲルが得られる。ま
たそれらの高分子素材では、アルキル化オリゴペプチ
ド、脂肪酸、脂肪族アミン、脂肪族アルコール、それら
の誘導体などの疎水性化合物を結合させることにより、
疎水結合架橋ゲルが得られる。また、ポリアクリル酸、
ポリビニルアルコール系重合体、ポリビニルピロリド
ン、これらの誘導体などの合成高分子素材では、それら
の重合の際に、ビスアクリルアミド、エチレングリコー
ルビスメタクリレートなどの多官能性モノマーを共重合
させることにより、共有結合架橋ゲルが得られる。
【0019】上記した種々の高分子ゲルのうちでも、本
発明の医療用高分子ゲルでは、水膨潤性高分子ゲル
(A)として、ポリビニルアルコール系重合体を高分子
素材としてなる水素結合架橋ゲルおよび/または疎水結
合架橋ゲルが好ましく用いられる。その場合のポリビニ
ルアルコール系重合体としては、平均重合度が1500
以上で、ケン化度が60〜100%のものが好ましく用
いられ、特に平均重合度が4000以上であると、得ら
れるゲルの強度が高くなるためより好ましく、平均重合
度が10000以上のポリビニルアルコール系重合体か
らなるゲルを用いるのがさらに好ましい。ゲル強度が高
い点で、ダイアッド表示によるシンジオタクティシティ
ーが50%以上のポリビニルアルコール系重合体からな
るゲルが好ましく、該シンジオタクティシティーが53
%以上のポリビニルアルコール系重合体からなるゲルが
より好ましい。なお、ここでいうダイアッド表示による
シンジオタクティシティーの具体的な内容は下記の実施
例の項で説明するとおりである。
【0020】本発明で好ましく用いられる上記したポリ
ビニルアルコール系重合体のゲルとしては、限定される
ものではないが、例えば、本出願人の出願に係る下記の
(イ)および(ロ)のポリビニルアルコール系重合体か
ら主としてなるゲルを挙げることができ、それらのゲル
は安定性、柔軟性、透明性、耐熱性、耐湿熱性、強度な
どの点で優れた特性を備えている。
【0021】(イ) 下記の一般式(i);
【0022】
【化6】 (式中、R1は水素原子または1価の炭化水素基であ
り、R2およびR3はそれぞれ独立して1価の炭化水素基
であるか又はR2とR3が一緒になってそれらが結合して
いる炭素原子と共に環を形成するか、或いはR1、R2
よびR3が一緒になってそれらが結合している炭素原子
と共に環を形成している)で示される構造単位を5〜5
0モル%有し、かつ下記の数式;
【0023】
【数1】 θ=[OH、VES]/2[OH][VES] (式中、[OH、VES]はポリビニルアルコール系重
合体が有するメチレン炭素のうちで水酸基が結合したメ
チン炭素とアシルオキシ基が結合したメチン炭素に挟ま
れたもののモル分率を示し、[OH]はビニルアルコー
ル単位のモル分率を示し、そして[VES]は上記の一
般式(i)で表される構造単位のモル分率を示す)で表
されるブロックキャラクター(θ)が0.6以下である
粘度平均重合度300以上のポリビニルアルコール系重
合体(特開平8−206188号公報)。
【0024】 ;(ロ) 上記の一般式(i)で表
される構造単位を0.05〜0.50のモル分率で含有
し、且つ下記の一般式(ii);
【0025】
【化7】 [式中、Xは、式−CO−Y、式−Yまたは式−CO−
COOHで表される基(前記式中Yは、カルボキシル
基、スルホン酸基、アミノ基およびリン酸基から選ばれ
る少なくとも1種の極性基で変性された炭化水素基、ま
たはカルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基およびリ
ン酸基から選ばれる少なくとも1種の極性基を有する基
で変性された炭化水素基を示す)であるか、或いはそれ
が結合している酸素原子と共にリン酸基を形成してい
る]で表される構造単位の少なくとも1種を、0.00
01〜0.5のモル分率、好ましくは下記の数式;
【0026】
【数2】 {(1−Cest)×Cest}×0.01≦Cpol<{(1−Cest)×Cest}×2.0 [式中、Cpolは上記の一般式(ii)で表される構造単
位のモル分率、そしてCestは上記の一般式(i)で表
される構造単位のモル分率を示す]を満足するモル分率
で含有するポリビニルアルコール系重合体(特願平8−
185466号)。
【0027】生体組織や細胞の表面は親水性の糖鎖の存
在により多量の水を含んだゲル様の構造を有している。
一方、水で膨潤した高分子含水ゲルも多量の水を含み、
生体と類似した構造を持つので優れた生体適合性を示
す。しかし、高分子含水ゲルの水膨潤率が高すぎるとゲ
ルの物理的な強度が低下するので、本発明の医療用高分
子ゲルにおける水膨潤性高分子ゲル(A)は、平衡状態
にまで水で膨潤させたときの高分子含水ゲルの重量が、
水を含有させる前の高分子素材の乾燥重量の1〜100
0倍の範囲になるものが好ましく、1〜200倍の範囲
になるものがより好ましい。
【0028】そして、上記の一般式(I)で表される本
発明の医療用高分子ゲル[以下これを「医療用高分子ゲ
ル(I)」ということがある]では、第1のスペーサー
(Sp1)[以下「第1スペーサー(Sp1)」という]を
介して、酵素反応で主鎖が切断され得る分解性基(E)
[以下単に「分解性基(E)」ということがある]が水
膨潤性高分子ゲル(A)に結合し、その分解性基(E)
に更に第2のスペーサー(Sp2)[以下「第2スペーサ
ー(Sp2)」という]を介して薬剤が結合している。 また、上記の一般式(Ia)で表される本発明の医療用
高分子ゲル[以下これを「医療用高分子ゲル(Ia)」
ということがある]では、第1スペーサー(Sp1)を介
して、分解性基(E)が水膨潤性高分子ゲル(A)に結
合し、その分解性基(E)に第2のスペーサー前駆体
(Sp2')[以下「第2スペーサー前駆体(Sp2')」と
いう]が結合している。この医療用高分子ゲル(Ia)
では、その第2スペーサー前駆体(Sp2')に薬剤を結
合させることによって、上記の医療用高分子ゲル(I)
が形成される。なお、医療用高分子ゲル(I)および医
療用高分子ゲル(Ia)を総称して単に医療用高分子ゲ
ルということがある。また、本明細書でいう「主鎖」と
は、薬剤を水膨潤性高分子ゲル(A)に結合させるのに
直接関与する原子から構成される結合鎖を意味し、した
がって主鎖のいずれかの箇所で切断が生じたときには薬
剤が医療用高分子ゲルから解離する。
【0029】本発明の医療用高分子ゲルにおける、酵素
反応で主鎖が切断され得る分解性基(E)としては、病
巣部位に存在する酵素によって特異的にその主鎖が切断
され得る基であればいずれでもよく、医療用高分子ゲル
を適用する病巣部位などに応じて、分解性基(E)の種
類も異なり得る。病巣部位に存在する酵素には、例え
ば、エラスターゼ、カテプシンG、カテプシンE、カテ
プシンB、カテプシンH、カテプシンL、トリプシン、
ペプシン、キモトリプシン、γ−グルタミルトランスフ
ェラーゼ(γ−GTP)などのペプチド加水分解酵素、
ホスホリラーゼ、ノイラミニダーゼ、デキストラナー
ゼ、アミラーゼ、リゾチーム、オリゴサッカラーゼなど
の糖鎖加水分解酵素、アルカリホスファターゼ、エント
リボヌクレアーゼ、エンドデオキシリボヌクレアーゼな
どのオリゴヌクレオチド加水分解酵素、または病巣部位
に存在する前記以外の酵素によって主鎖が特異的に切断
されるものであればいずれも採用できる。
【0030】限定されるものではないが、医療用高分子
ゲルにおける分解性基(E)としては、例えば、-Arg
-、-Ala-、-Ala(D)-、-Val-、-Leu-、-Lys-、-
Pro-、-Phe-、-Tyr-、-Glu-などのアミノ酸残基;
配列番号1で示される-Ile-Glu-Gly-Arg-、配列番
号2で示される-Ala-Gly-Pro-Arg-、配列番号3で
示される-Arg-Val-(Arg)2-、-Val-Pro-Arg-、-
Val(D)-Pro-Arg-、-Gln-Ala-Arg-、-Gln-Gl
y-Arg-、-Asp-Pro-Arg-、-Gln-(Arg)2-、-Phe
-Arg-、-(Ala)2-、-Ala-Ala(D)-、配列番号4
で示される-(Ala)2-Pro-Val-、-(Val)2-、-
(Ala)2-Leu-、-Gly-Leu-、-Phe-Leu-、-Val-
Leu-Lys-、配列番号5で示される-Gly-Pro-Leu-G
ly-Pro-、-(Ala)2-Phe-、-(Ala)2-Tyr-、-
(Ala)2-His-、配列番号6で示される-(Ala)2-P
ro-Phe-、-Ala-Gly-Phe-、-Asp-Glu-、-(Glu)
2-、-Ala-Glu-、-Ile-Glu-、配列番号7で示される
-Gly-Phe-Leu-Gly-、-(Arg)2-、-Phe-Pro-Ar
g-、-Phe(D)-Pro-Arg-、-Tyr-Pro-Arg-、-Ty
r(D)−Pro−Arg−などの2〜6量体のオリゴペプ
チド;D−グルコース、N−アセチルガラクトサミン、
N−アセチルノイラミン酸、N−アセチルグルコサミ
ン、N−アセチルマンノサミンまたはこれらのオリゴ
糖;オリゴデオキシアデニン、オリゴデオキシグアニ
ン、オリゴグアニン、オリゴシトシン、オリゴウリジン
などのオリゴリボ核酸などを挙げることができる。
【0031】上記したうちでも、分解性基(E)は、酵
素による切断のされ易さ、体内に入った場合の安全性な
どの点から、アミノ酸または2〜6量体のオリゴペプチ
ドからなる残基であるのが好ましく、また酵素による切
断部位(該オリゴペプチド残基のカルボキシル基末端)
はArgであることが好ましい。より具体的には、分解性
基(E)は、-Val-Pro-Arg-、-Val(D)-Pro-Ar
g-、-Phe-Pro-Arg-、-Phe(D)-Pro-Arg-、-Ty
r-Pro-Arg-、-Tyr(D)-Pro-Arg-から選ばれるオ
リゴペプチド残基であることがより好ましい。特に、該
切断部位からN−末端方向へ3番目のアミノ酸(p3)
は芳香族アミノ酸、例えばフェニルアラニン、チロシン
などであることが好ましく、なかでもPhe(D)、Tyr
(D)などのD芳香族アミノ酸であることが好ましい。
より具体的には、分解性基(E)としては、-Phe-Pro
-Arg-、-Tyr-Pro-Arg-、-Phe(D)-Pro-Arg-、
-Tyr(D)-Pro-Arg-が好ましく、なかでも-Phe
(D)-Pro-Arg-、-Tyr(D)-Pro-Arg-が特に好
ましい。
【0032】また、分解性基(E)は、酵素による切断
性を増大させるために、酵素反応で主鎖が分解され得る
基の1種以上を2個以上直列に結合した基であってもよ
く、そのような分解性基(E)の例としては、配列番号
8で示される-Val-Pro-Arg-Gly-Val-Pro-Arg-G
ly-Val-Pro-Arg-、配列番号9で示される-Phe-Pro
-Arg-Gly-Phe-Pro-Arg-、-Phe(D)-Pro-Arg-
Gly-Phe(D)-Pro-Arg-などを挙げることができ
る。
【0033】さらに、本発明の医療用高分子ゲル(I)
および医療用高分子ゲル(Ia)における第1スペーサ
ー(Sp1)、第2スペーサー(Sp2)および第2スペー
サー前駆体(Sp2')は、酵素と分解性基(E)との反
応性を制御する働きを有するものであり、それらのスペ
ーサーおよびスペーサー前駆体自体は酵素によって分解
されない。第1スペーサー(Sp1)および第2スペーサ
ー(Sp2)としては、病巣部位に存在する酵素が分解性
基(E)と適切に反応し得るように作用するものであれ
ば、その種類や構造などは特に制限されない。また、医
療用高分子ゲル(Ia)における第2スペーサー前駆体
(Sp2')の場合は、薬剤と結合してそのような第2ス
ペーサー(Sp2)を形成し得るものであれば特に制限さ
れない。スペーサーが存在しない場合には、酵素による
分解性基(E)の分解反応が著しく低下することが本発
明者らにより確認されており、そのためスペーサーの存
在は医療用高分子ゲルに結合している薬剤を病巣部で高
分子ゲルから分離させて有効に作用させるのに重要な役
割を果たしており、そのため、医療用高分子ゲル(I)
の適用患部などに応じて、各々に適した長さを有するス
ペーサーを採用するのがよい。
【0034】一般的には、スペーサーとして、炭素原
子、窒素原子および酸素原子のうちで主鎖の形成に関与
している原子の数の合計が少ないものを用いた場合に
は、水膨潤性高分子ゲル(A)の立体障害などによっ
て、分解性基(E)に対する酵素の反応性が低下して薬
剤の放出が減少する傾向があり、通常、スペーサーの主
鎖を構成する原子の数の合計が3個以下であると治療に
有効な量の薬剤が放出されない場合が多い。一方、スペ
ーサーの主鎖を構成する原子の数の合計が増大すると分
解性基(E)に対する酵素の反応性が増大して薬剤の放
出量が増加させることが可能である。しかし、スペーサ
ーの主鎖を構成する原子の数の合計が20個を超える
と、スペーサーがターン構造やα−ヘリックス構造など
の高次構造を採ることとなって分解性基(E)に対する
酵素の分解作用が低下することがあり、さらにはスペー
サー内および/またはスペーサー間の疎水性相互作用な
どによってスペーサーが凝集して、やはり分解性基
(E)に対する酵素の分解作用が低下することがある。
【0035】したがって、分解性基(E)に対する酵素
の分解作用を適当なものに調節して、薬剤が過不足なく
適当な量で放出され得るようにするためには、第1スペ
ーサー(Sp1)、第2スペーサー(Sp2)および第2ス
ペーサー前駆体(Sp2')とも、炭素原子、窒素原子およ
び酸素原子のうち主鎖に含有される原子の数が4個以上
の分子鎖であるのが好ましく、4〜20個の分子鎖であ
るのがより好ましく、6〜18個の分子鎖であるのが更
に好ましい。
【0036】また、第1スペーサー(Sp1)、第2スペ
ーサー(Sp2)および第2スペーサー前駆体(Sp2')
のいずれの場合も、一般に、スペーサーが水酸基などの
極性基を有していると、分解性基(E)に対する酵素の
分解作用が高くなって、薬剤の放出量の増大する傾向に
ある。さらに、スペーサーの種類や構造によっては、分
解性基(E)に対する酵素の反応性が大きくなり過ぎ
て、必要以上の薬剤が放出されてしまうこともあるの
で、適用箇所に適したスペーサーを選択するのが望まし
い。
【0037】本発明の医療用高分子ゲルでは、水膨潤性
高分子ゲル(A)と分解性基(E)との間に第1スペー
サー(Sp1)を介在させ且つ分解性基(E)と薬剤との
間に第2スペーサー(Sp2)を介在させてあるので、そ
れらの2つのスペーサー(Sp1)と(Sp2)の種類、構
造、主鎖の長さをなどを選んで組み合わせることによっ
て、第1スペーサー(Sp1)のみを有している場合に比
べて、分解性基(E)に対する酵素の切断作用の選択性
を一層向上させることができ、病巣部位の種類や病巣部
位の状態に一層適合した医療用高分子ゲルを得ることが
できる。 さらに、本発明の医療用高分子ゲルは、第1スペーサー
(Sp1)と第2スペーサー(Sp2)を有していることに
よって、薬剤が分解性基(E)に直接結合しにくい場合
にも、第2スペーサー(Sp2)として適当なものを選択
することによって薬剤の結合を容易に行うことができ、
かかる点においても、第1スペーサー(Sp1)のみを有
している場合に比べて、結合させ得る薬剤の範囲を広げ
ることが可能であり、医療用高分子ゲルの応用範囲や有
用性を増大させることができる。
【0038】第1スペーサー(Sp1)および第2スペー
サー(Sp2)としては、例えば、置換基を有していても
よいメチレン基、エーテル結合、ペプチド結合、イミノ
結合、炭素−炭素間二重結合などを有する線状の分子鎖
(結合)を挙げることができる。より具体的には、第1
スペーサー(Sp1)および第2スペーサー(Sp2)の例
として、−CO−(CH2)2−CO−、-CO−(CH2)2
−CO−NH−CH2−CO−、−CH2−CO−NH−
(CH2)2−NH−CO−(CH2)2−CO−、−CH2
CH(OH)−CH2−NH−CO−(CH2)2−CO−、
−CH2−CH(OH)−CH2−NH−(CH2)2−NH−
CO−(CH2)2−CO−、−NH−(CH2)2−NH−C
O−CH2−NH−CO−(CH2)2−CO−、−NH−
(CH2)2−NH−CO−CH2−NH−CO−(CH2)3
−CO−、−CO−(CH2)2−NH−CO−CH2−N
H−CO−(CH2)2−CO−、−NH−(CH2)2−NH
−CO−CH2−NH−CO−(CH2)2−CO−、−N
H−(CH2)2−NH−CO−CH2−NH−CO−(CH
2)3−CO−、−NH−(CH2)2−NH−CO−CH(C
3)−NH−CO−(CH2)2−CO−、−NH−(C
2)2−NH−CO−CH(CH2OH)−NH−CO−
(CH2)2−CO−、配列番号10で示される-Gly-Phe
-Pro-Ala-Gly-Gly-、配列番号11で示される-Gly
-Tyr-Pro-Ala-Gly-Gly-、配列番号12で示される
-Gly-Phe-Pro-Ala-、-Gly-Phe-、-Gly-Gly-な
どを挙げることができる。
【0039】上記したうちでも、第1スペーサー
(Sp1)および第2スペーサー(Sp2)がそれぞれ−C
O−(CH2)2−CO−、−CO−(CH2)2−CO−NH
−CH2−CO−、−NH−(CH2)2−NH−CO−C
2−NH−CO−(CH2)2−CO−、−NH−(CH2)
2−NH−CO−CH2−NH−CO−(CH2)2−CO
−、配列番号10で示される-Gly-Phe-Pro-Ala-Gl
y-Gly-、配列番号11で示される-Gly-Tyr-Pro-Al
a-Gly-Gly-、配列番号12で示される-Gly-Phe-Pr
o-Ala-、-Gly-Phe-、-Gly-Gly-のうちのいずれか
であるのが好ましい。 第1スペーサー(Sp1)と第2スペーサー(Sp2)は同
じであっても、または異なっていてもよいが、第1スペ
ーサー(Sp1)が−CO−(CH2)2−CO−または−C
O−(CH2)2−CO−NH−CH2−CO−であり、第
2スペーサー(Sp2)が配列番号10で示される-Gly-
Phe-Pro-Ala-Gly-Gly-、配列番号11で示される-
Gly-Tyr-Pro-Ala-Gly-Gly-、配列番号12で示さ
れる-Gly-Phe-Pro-Ala-、-Gly-Phe-、-Gly-Gly
-のうちのいずれかであるのが更に好ましい。
【0040】また、医療用高分子ゲル(Ia)における
第2スペーサー前駆体(Sp2')としては、上記で挙げ
たスペーサーにおいて、その末端(右末端基)が薬剤と
反応性の残基となっているものが好ましく採用される。
【0041】第1スペーサー(Sp1)、第2スペーサー
(Sp2)、第2スペーサー前駆体(Sp2')および分解
性基(E)は、それぞれの基の内容にしたがって、通常
の有機合成法によって調製することができる。例えば、
それらがオリゴペプチド残基である場合は、ペプチドの
合成において通常用いられている方法、例えば、固相合
成法または液相合成法によって調製できる[例えば、日
本生化学会編「続生化学実験講座2 タンパク質の化学
(下)」第641〜694頁(昭和62年5月20日)
(株式会社東京化学同人発行)参照]。また、それらの
オリゴ糖残基である場合は糖鎖の合成ないし抽出におい
て通常用いられている方法によって調製できる[例え
ば、日本生化学会編「新生化学実験講座3 糖質I」第
95〜140頁および第421〜438頁(1990
年)(株式会社東京化学同人発行)参照]。さらに、そ
れらがオリゴ核酸残基である場合は、核酸の合成ないし
抽出において通常用いられている方法によって調製でき
る[例えば、日本生化学会編「新生化学実験講座2 核
酸III」第254〜269頁(1992年)(株式会社
東京化学同人発行)、および日本生化学会編「新生化学
実験講座2 核酸I」第147〜168頁(1991
年)(株式会社東京化学同人発行)参照]。
【0042】本発明の医療用高分子ゲルにおいて第2ス
ペーサー(Sp2)を介して結合される薬剤[以下「薬剤
(G)」ということがある]は、医療用高分子ゲルの用
途に応じて適宜選択することができ、特に制限されな
い。本発明の医療用高分子ゲルを創傷被覆材、生体組織
接着剤、癒着防止材として用いる場合は、薬剤として、
例えば、消毒剤、抗生剤などの抗菌剤;アクトシン、プ
ロスタグラジンE1(PGE1)などの血行改善剤;ス
テロイド、インドメタシンなどの消炎鎮痛剤;形質転換
成長因子(transforming growth factorβ:TGF
β)、血小板由来成長因子(platelet-derived growth
factor:PDGF)、繊維芽細胞成長因子(fibroblast
growth factor:FGF)などの成長因子;ウリナスタ
チン、tissue inhibitor of metalloproteinase(TI
MP)などの酵素阻害剤などが用いられる。また、本発
明の医療用高分子ゲルを骨補強材として用いる場合は、
例えば、骨誘導因子(bone morphogenetic protein:B
MP)、TGFβ、甲状腺ホルモン(parathyroid horm
one:PTH)などの骨細胞成長因子、インターロイキ
ン1(IL−1)阻害剤、ビスホスホネート、カルシト
ニンなどの骨吸収抑制因子などが用いられる。また、本
発明の医療用高分子ゲルを薬剤放出基材として用いる場
合は、例えば、ネオカルチノスタチン、アドリアマイシ
ンなどの抗癌剤;ステロイド、非ステロイド性抗炎症剤
などの抗炎症剤などが挙げられる。
【0043】本発明の医療用高分子ゲルでは、病巣部位
において産生される酵素の量に応じて分解性基(E)の
切断が行われて該酵素の量に応じて薬剤が放出されるた
め、薬剤の固定化量を厳密に制御する必要はないが、病
巣部位において治療効果が発現されるのに最低限必要な
量以上の薬剤が固定化されている必要がある。薬剤の固
定化量は、水膨潤性高分子ゲルへの第1スペーサー(S
p1)の導入率によって制御することができる。第1スペ
ーサー(Sp1)の導入量が少なすぎると有効な量の薬剤
を固定化できないので好ましくない。一方、第1スペー
サー(Sp1)の導入量が高すぎると水膨潤性高分子ゲル
の性質が変化することがあるので好ましくない。水膨潤
性高分子ゲルへの第1スペーサー(Sp1)の導入率は薬
剤の種類や分解性基(E)の酵素による分解のされ易さ
などに応じて異なり得るが、一般的には、水膨潤性高分
子ゲル(水で平衡状態にまで膨潤した状態の高分子ゲ
ル)の1ml当たりの第1スペーサー(Sp1)の導入率
が0.05μmol以上であることが好ましく、0.2
〜50μmolであることがより好ましい。水膨潤性高
分子ゲルへの第1スペーサー(Sp1)の導入率は、例え
ば中間生成物のアミノ基の量をニンヒドリン法[Sari
n,V.K.et al.,Anal.Biochem.,117,145−157
(1981)参照]で定量することによって測定し得る。
【0044】そして、本発明の医療用高分子ゲルでは、
分解性基(E)、第2スペーサー(Sp2)、第2スペー
サー前駆体(Sp2')および薬剤は、第1スペーサー
(Sp1)を経て水膨潤性高分子ゲル(A)に結合されて
いるため、分解性基(E)の導入率、第2スペーサー
(Sp2)の導入率、第2スペーサー前駆体(Sp2')の
導入率および薬剤の導入率は、第1スペーサー(Sp1
の導入率によって規制(決定)され、一般には第1スペ
ーサー(Sp1)の導入率と同じであるか、またはそれ以
下のものとなる。
【0045】本発明の医療用高分子ゲルでは、薬剤を、
第1スペーサー(Sp1)、分解性基(E)および第2ス
ペーサー(Sp2)を介して、共有結合によって水膨潤性
高分子ゲルに固定化することが好ましく、その際の固定
化方法としては、固定化酵素、アフィニティクロマトグ
ラフィーなどにおいて通常採用されている公知の活性化
方法および反応方法を用いることができる。限定される
ものではないが、例えば、1−エチル−3−(3−ジメ
チルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩、ジシク
ロヘキシルカルボジイミドなどの縮合剤を用いる脱水縮
合反応、アルカリ触媒を用いる脱炭酸反応、エポキシ基
のアンモノリシス反応、エステル交換反応、ウレタン結
合形成反応などを採用して固定化する(結合させる)こ
とができる。一般的には、第2スペーサー(Sp2)と薬
剤とがエステル結合、エーテル結合またはペプチド結合
によって結合されていると、分解性基(E)が酵素の作
用によって分解されて薬剤が放出されたときに薬剤の化
学構造に大きな影響を与えることがなく、薬効が有効に
発揮されるので好ましい。
【0046】また、本発明では、上記した一般式(I)
または一般式(Ia)で表される結合形態を有する医療
用高分子ゲルが形成される限りは、反応の順序は特に制
限されず、一般式(I)で表される医療用高分子ゲル
(I)を例に採ると、例えば、 (1) 水膨潤性高分子ゲル(A)に対して、第1スペ
ーサー(Sp1)、分解性基(E)、第2スペーサー(S
p2)および薬剤(G)をこの順番で次々に反応させる方
法; (2) 第1スペーサー(Sp1)、分解性基(E)、第
2スペーサー(Sp2)および薬剤(G)をこの順番で予
め結合させておいてそれを水膨潤性高分子ゲル(A)に
結合させる方法; (3) 水膨潤性高分子ゲル(A)に第1スペーサー
(Sp1)を予め結合させておいたものに対して、分解性
基(E)、第2スペーサー(Sp2)および薬剤(G)の
3者をこの順番で予め結合させておいたものを結合させ
る方法; (4) 水膨潤性高分子ゲル(A)に第1スペーサー
(Sp1)と分解性基(E)をこの順番で予め結合させて
おいたものに対して、第2スペーサー(Sp2)と薬剤
(G)の2者を予め結合させておいたものを結合させる
方法; (5) 水膨潤性高分子ゲル(A)に第1スペーサー
(Sp1)の一部(途中の結合まで)を結合させておいた
ものに対して、第1スペーサー(Sp1)の残りの部分に
分解性基(E)および第2スペーサー(Sp2)を予め結
合させておいたものを結合させ、最後に第2スペーサー
(Sp2)に薬剤(G)を結合させる方法;などによっ
て、医療用高分子ゲル(I)を得ることができる。 上記した方法のうちでも、(3)および(5)の方法
が、結合効率がよいので好ましい。
【0047】本発明の医療用高分子ゲルは、必要に応じ
て、Ca2+などのような薬理作用を有する金属イオン、
グリセリン、ポリエチレングリコールなどのゲル柔軟化
剤、安定化剤などのような薬理学的に通常許容される添
加物を含んでいてもよい。また、本発明の医療用高分子
ゲルは、ブドウ糖液や生理食塩水などのような生理学的
に許容され得る溶液で適宜膨潤させて用いてもよく、そ
の際に該溶液は薬理学的に許容される種々の添加剤を含
んでいてもよい。また、本発明の医療用高分子ゲルを体
液などの滲出量の多い箇所に使用する場合は乾燥状態で
用いてもよい。 さらに、医療用高分子ゲルに固定化する薬剤が湿潤状態
で安定性があまり高くない場合は、薬剤を固定化した医
療用高分子ゲルを乾燥した状態で保存したり、流通させ
てもよい。
【0048】本発明の医療用高分子ゲルの使用形態や投
与形態などは特に制限されず、例えば、創面に対する被
覆材、接着材、癒着防止材などの外用材、骨補強材、薬
剤徐放基材などとして用いることができる。そして、骨
補強材として用いる場合は、例えば骨腔内投与、骨折部
位断面への投与などの投与形態が採用でき、また薬剤徐
放基材として用いる場合は、例えば、皮下投与、腹腔内
投与、関節内投与、経皮投与、経口投与、脈管内投与な
どの投与形態を採用することができる。
【0049】本発明の医療用高分子ゲルは、その使用目
的や投与形態などに応じて、例えば、シート、フイル
ム、繊維、織布、不織布、編布、網状物、液状、粉末
状、スポンジ状、塊状などの任意の形態を採ることがで
きる。例えば、本発明の医療用高分子ゲルを平板状、微
粒子状などの形態にし、そのままで、またはポリウレタ
ン樹脂やシリコン樹脂などのフイルムと貼り合わせて、
粘着剤を添加または塗布して創傷被覆材とすることがで
きる。本発明の医療用高分子ゲルから得られる創傷被覆
材は、含水率が高く、柔軟であるので、創部に対する物
理的な刺激が少なく、患者に与える苦痛が少ない。しか
も、保水性が良好なので、創傷被覆材の交換回数が少な
くてすみ、貼り換えによる患者の苦痛、看護の手間、創
部のダメージが軽減でき、その上滲出液中の治癒促進因
子を良好に保持して、その機能を妨げず創部の治癒を促
進することができる。
【0050】本発明の医療用高分子ゲルは、上記の一般
式(I)に示されるように、薬剤がスペーサーおよび分
解性基(E)を介して水膨潤性高分子ゲル(A)に固定
化されていることによって、患部に存在する酵素の作用
によって、分解性基(E)の主鎖が切断されて、薬剤を
円滑に放出させることができる。さらに、前記したよう
に、本発明の医療用高分子ゲルでは、一般式(I)に示
すように第1スペーサー(Sp1)と第2スペーサー(S
p2)の2つのスペーサーを、水膨潤性高分子ゲル(A)
と分解性基(E)との間、および分解性基(E)と薬剤
との間にそれぞれ介在させてあることにより、分解性基
(E)に対する酵素の切断作用の選択性を一層向上させ
ることができ、病巣部位の種類や病巣部位の状態に一層
適合した医療用高分子ゲルを得ることができ、しかも薬
剤が分解性基(E)に直接結合しにくい場合にも、第2
スペーサー(Sp2)として適当なものを選択することに
よって薬剤の結合を一層容易に行うことができる。それ
に対して、薬剤が分解性基(E)を介して水膨潤性高分
子ゲル(A)に直接固定化されている場合は酵素による
分解性基(E)の主鎖の切断(分解)反応の速度が著し
く低減して治療に有効な量の薬剤が放出されない。ま
た、分解性基(E)を用いずにスペーサーのみを介して
薬剤を水膨潤性高分子ゲル(A)に結合させた場合には
酵素による分解作用が働かず患部での薬剤の放出は達成
されない。
【0051】限定されるものではないが、例えば、分解
性基(E)として好中球が産生する酵素(エラスター
ゼ、カテプシンGなど)で切断される分解性基[例え
ば、-(Ala)3-、配列番号4で示される-(Ala)2-Pro-
Val-、配列番号6で示される-(Ala)2-Pro-Phe-等の
オリゴペプチド]を有し且つ抗炎症剤や抗菌剤などの薬
剤を固定化してなる本発明の医療用高分子ゲルを用いる
ときは、好中球が浸潤し、活性化されている炎症部位で
のみ、そこに存在する酵素量に対応して上記した分解性
基の切断が行われて薬剤が放出され、抗炎症作用または
抗菌作用が発現される。
【0052】また、例えば、細菌が産生する酵素(Stap
hylococcal serin proteinase、Staphylococcal cystei
ne proteinaseなど)や、酵素活性化作用を有する物質
(Staphylocoagulaseなど)によって活性化される酵素
(Thrombinなど)で切断される分解性基[例えば、-As
p-Glu-、-Ala-Gly-Phe-、-Val-Pro-Arg-、-Val
(D)-Pro-Arg-、-Phe-Pro-Arg-、-Phe(D)-Pro-
Arg-、-Tyr-Pro-Arg-、-Tyr(D)-Pro-Arg-な
ど]を有し且つゲンタマイシンやノルフロキサシンなど
の抗菌剤を固定化してなる本発明の医療用高分子ゲルを
用いるときは、細菌感染発生時に感染部位でのみ抗菌剤
が放出されて抗菌作用が発現する。
【0053】さらに、例えば、分解性基(E)として酸
性条件下で活性化される酵素(カテプシンE、ペプシン
など)で切断される分解性基[例えば-(Ala)2-Phe-、
配列番号6で示される-(Ala)2-Pro-Phe-、-Ala-Gl
y-Phe-、-Phe-、-Tyr-など]を有し且つアクトシン、
PGE1などの血行改善剤を固定化してなる本発明の医
療用高分子ゲルを用いるときは、血行不良部位でのみ血
行改善剤が放出されて、血行が改善する。また、例え
ば、分解性基(E)として癌細胞が産生する酵素[例え
ばアルカリホスファターゼ、γ−グルタミルトランスフ
ェラーゼ(γ−GTP)、カテプシンB、カテプシン
H、カテプシンHなど]で切断される分解性基[例え
ば、配列番号7で示される-Gly-Phe-Leu-Gly-、-
(Arg)2-、-Phe-Arg-、リン酸ジエステル結合など]
を有し且つ抗癌剤を固定化してなる本発明の医療用高分
子ゲルを用いるときは、癌細胞およびその近辺でのみ抗
癌剤が放出されて抗癌作用が発現する。
【0054】要するに、上記で例示したいずれの場合に
も、分解性基(E)の分解をもたらす酵素が産生されて
いない正常部位や、該酵素が産生されていない時期に
は、分解性基(E)の切断(分解)が行われず薬剤の放
出がないか又は極めて少ないので、薬剤の毒性に基づく
副作用を最小限に抑えることが可能である。本発明の医
療用高分子ゲルが低毒性であることは、毒性試験におい
て確認されている。また、本発明の医療用高分子ゲルは
保存状態での安定性が高いことも確認されている。した
がって、本発明の医療用高分子ゲルは、上記したような
特性を活かして、創傷被覆材、生体組織接着材、癒着防
止材、骨補強材、薬剤放出基材の構成成分として有用で
あり、擦過傷、切創、挫創などの一般創傷、採皮創、削
皮創などの人為的な皮膚欠損創、切開創などの手術創、
熱傷、潰瘍、褥瘡などの創傷部位における炎症の治療と
治癒促進;手術後の創面や臓器の接着;手術後の創面と
他組織の癒着防止;骨粗鬆症や骨折などにおける骨の補
強;悪性新生物などの治療などに適用可能である。
【0055】以下に、実施例により本発明について具体
的に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定され
るものではない。
【0056】《参考例1》[水膨潤性高分子ゲル(ポリ
ビニルアルコール系重合体ゲル)の調製] (1) 撹拌機を備えた反応容器に、ピバリン酸ビニル
200gおよびメタノール70gを仕込み、系を窒素ガ
スで置換した。別途、メタノール5gに重合開始剤とし
て2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.04gを
溶解した溶液を調製して窒素ガスで置換した。前記の反
応容器を昇温し、内温が60℃に達したところで、前記
で調製した重合開始剤の溶液を添加して重合を開始さ
せ、同温度に保って5時間重合を行って、重合率が40
%に達した時点で、系を20℃に冷却して重合を停止さ
せた。系にt−ブタノールを徐々に添加しながら減圧下
で未反応のピバリン酸ビニルを留去して、ポリピバリン
酸ビニルのt−ブタノール溶液を回収した。これにテト
ラヒドロフランの適量を加えて減圧下にt−ブタノール
を留去して、ポリピバリン酸ビニルのテトラヒドロフラ
ン溶液(濃度45.7重量%)を得た。 (2) 撹拌機と還流冷却管を備えた反応器に、上記
(1)で得たポリピバリン酸ビニルのテトラヒドロフラ
ン溶液の50gを入れ、60℃に加温して窒素ガス置換
し、60℃に保って、別途調製し窒素置換した水酸化カ
リウムの25%溶液20gを添加して充分に撹拌した。
系は約30分でゲル化したが、さらに60℃に60分間
保った後、酢酸5.5gおよびメタノール5.5gを系
に加えて水酸化カリウムを中和した。次いで、ゲルを粉
砕した後、メタノールによるソックスレー洗浄を行っ
て、構造単位(i)(ビニルエステル単位)を含有する
部分ケン化ポリビニルアルコール系重合体を得た。
【0057】(3) 上記(2)で得られた構造単位
(i)を有する部分ケン化ポリビニルアルコール系重合
体における構造単位(i)のモル分率およびビニルアル
コール単位のモル分率を下記の方法により測定したとこ
ろ、構造単位(i)のモル分率=0.19およびビニル
アルコール単位のモル分率=0.81であった。
【0058】[構造単位(i)およびビニルアルコール
単位のモル分率の測定]上記(2)で得られた構造単位
(i)を有する部分ケン化ポリビニルアルコール系重合
体0.01gを重水素化ジメチルスルホキシド1.0g
と重水素化クロロホルム0.2gの混合溶媒に溶解して
日本電子社製のNMR測定装置「JNM−GSX27
0」を用いて、そのプロトンNMR測定を行って、ポリ
ビニルアルコール系重合体中における構造単位(i)の
モル分率、およびビニルアルコール単位のモル分率を測
定した。
【0059】(4) また、上記(2)で得られた部分
ケン化ポリビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度
を下記の方法で測定したところ、1650であった。
【0060】[部分ケン化ポリビニルアルコール系重合
体の粘度平均重合度の測定]上記(2)で得られた部分
ケン化ポリビニルアルコール系重合体2gを10gのメ
タノールに溶かした後、水酸化カリウム1.6gを加え
て、60℃の温度で120分間加熱して、ポリビニルア
ルコール系重合体中の構造単位(i)を含めてそのエス
テル結合を完全にケン化した。その結果得られた完全ケ
ン化ポリビニルアルコール1gに、無水酢酸30g、ピ
リジン6gを加えて封管した後、110℃で5時間加熱
して、ポリビニルアルコール中の水酸基を完全に酢化し
た後、n−ヘキサンを加えて酢化により生成したポリ酢
酸ビニルを沈殿させた。次に沈殿物をアセトンに溶解
し、n−ヘキサンで沈殿させる操作を2回繰り返して精
製した。その結果得られた精製ポリ酢酸ビニル0.4g
をアセトン80gに溶かして、30℃におけるその極限
粘度[η]を測定し、下記の数式に基づいて粘度平均
重合度を求めた。
【0061】
【数3】 P={[η]×(1000/7.94)}(1/0.62) (式中、Pは部分ケン化ポリビニルアルコール系重合体
の粘度平均重合度を示す。)
【0062】(5) また、上記(2)で得られた構造
単位(i)を有する部分ケン化ポリビニルアルコール系
重合体のシンジオタクティシティーを下記の方法で測定
したところ、下記の数式で求められるダイアッドタク
ティシティー表示によるシンジオタクティシティーは6
1%であった。
【0063】
【数4】 ダイアッドタティシティー=S+(H/2) (式中、SおよびHはそれぞれプロトンNMRから求め
られるトライアッドタクティシティーにおけるシンジオ
タクティシテシおよびヘテロタクティシティーを示
す。)
【0064】[シンジオタクティシティーの測定]粘度
平均重合度の測定に用いたのと同じ上記の精製したポリ
ビニルアルコール0.01gを重水素化ジメチルスルホ
キシド1gに溶解し、その溶液のプロトンNMRスペク
トルにおける水酸基プロトンのシグナルより求められる
トライアッドタクティシティーでのシンジオタクティシ
ティーおよびヘテロタクティシティーを日本電子社製の
NMR測定装置「JNM−GSX270」を用いて測定
し、上記の数式によって、ダイアッドタクティシティ
ー表示によるシンジオタクティシティーを求め、これを
もって構造単位(i)を有する部分ケン化ポリビニルア
ルコール系重合体のシンジオタクティシティーとした。
【0065】《実施例1》[医療用高分子ゲルの製造] この実施例1では、水膨潤性高分子ゲルが上記の参考例
1の(2)で得られたポリビニルアルコール系重合体よ
りなるゲルであり、第1スペーサー(Sp1)が−CO−
(CH2)2−CO−NH−CH2−CO−であり、分解性
基(E)が−Phe(D)-Pro-Arg-であり、第2スペー
サー(Sp2)が配列番号10で示される-Gly-Phe-Pr
o-Ala-Gly-Gly-であり、薬剤がゲンタマイシンであ
る、下記の化学式(III)で表される医療用高分子ゲル
を製造した。
【0066】
【化8】 [式中、PVAは水膨潤性高分子ゲル(ポリビニルアル
コール系重合体ゲル)を示す。]
【0067】(1) 上記の参考例1の(2)で得られ
た部分ケン化ポリビニルアルコール系重合体10gをジ
メチルスホキシド300gに溶解し、無水コハク酸1.
64gおよびピリジン0.64gを加えて70℃で4時
間反応させた。その結果得られた溶液約330gを、2
5cm×25cmの大きさのポリスチレントレイに流延
し、静かに水中に浸漬することにより、水膨潤性高分子
ゲルに第1スペーサー(Sp1)の一部(途中まで)が結
合した中間体を得た。
【0068】(2) 上記(1)とは別に、431A型
全自動ペプチド合成機(アプライドバイオシステムジャ
パン製)を用いて、Fmocケミストリーにより、Gly
-Phe(D)-Pro-Arg(Mtr)-Gly-Phe-Pro-Ala-Gly
-Gly-HMPresinを得た。これを、5%の水、5%の
チオアニソール、7.5%のフェノール、2.5%のエ
タンジチオールを含むトリフルオロ酢酸10mlで6時
間処理して得られた溶液を、ジエチルエーテルに加えて
生じる沈殿をさらに数回ジエチルエーテルで洗浄して、
第1スペーサー(Sp1)の残りの部分、分解性基(E)
および第2スペーサー(Sp2)が結合した、Gly-Phe
(D)-Pro-Arg-Gly-Phe-Pro-Ala-Gly-Gly-を得
た。 なお、上記式中、Arg(Mtr)はNg−4−メトキシ−
2,3,6−トリメチルベンゼンスルフォニル−L−ア
ルギニンを表し、HMPresinは4−ヒドロキシメチル
−フェノキシ−メチル基を0.89ミリモル/g(樹
脂)の割合で有するスチレン−ジビニルベンゼン共重合
体(スチレンとジビニルベンゼンの構成モル比:99対
1)からなる粒状樹脂(米国アプライド・バイオシステ
ムズ社製、HMPレジン)を表す。
【0069】(3) 上記(1)で得られた水膨潤性高
分子ゲルに第1スペーサー(Sp1)の一部が結合した中
間体10gを、ジメチルホルムアミドで洗浄してゲル中
の水分をジメチルホルムアミドに置換した。次いで、N
−ヒドロキシコハク酸イミド0.45gと1−エチル−
3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド
塩酸塩(EDC・HCl)1.8gを加えて一晩振盪し
た。水で数回洗浄した後、上記の(2)で得られたGly
-Phe(D)-Pro-Arg-Gly-Phe-Pro-Ala-Gly-Gly-
の50mgとジイソプロピルエチルアミン9μlを加え
て、さらに一晩振盪して、水膨潤性高分子ゲルに第1ス
ペーサー(Sp1)、分解性基(E)および第2スペーサ
ー(Sp2)がこの順番で結合した中間体[すなわち薬剤
を結合させるための医療用高分子ゲル(Ia)]を得
た。この中間体はそれ自体で貯蔵、流通が可能であっ
た。
【0070】(4) 上記(3)で得られた中間体[医
療用高分子ゲル(Ia)]を水で数回、さらに0.05
Mの炭酸水素ナトリウム水溶液で1回洗浄した後、0.
6gのゲンタマイシンと0.2gのEDC・HClを加
えて、さらに一晩振盪した。次いで、水で十分に洗浄し
て、水膨潤性高分子ゲルに第1スペーサー(Sp1)、分
解性基(E)、第2スペーサー(Sp2)および薬剤(ゲ
ンダマイシン)がこの順番で結合した上記の化学式(II
I)で表される医療用高分子ゲルを得た。
【0071】《実施例2》[医療用高分子ゲルの製造] この実施例2では、水膨潤性高分子ゲルが上記の参考例
1の(2)で得られたポリビニルアルコール系重合体よ
りなるゲルであり、第1スペーサー(Sp1)が−CO−
(CH2)2−CO−NH−CH2−CO−であり、分解性
基(E)が配列番号8で示される-Val-Pro-Arg-Gly
-Val-Pro-Arg-Gly-Val-Pro-Arg-であり、第2ス
ペーサー(Sp2)が-Gly-Gly-であり、薬剤がゲンタ
マイシンである、配列番号13で示される下記の化学式
(IV)からなる医療用高分子ゲルを製造した。
【0072】
【化9】 [式中、PVAは水膨潤性高分子ゲル(ポリビニルアル
コール系重合体ゲル)を示す。]
【0073】(1) すなわち、実施例1の(1)と同
様にして、水膨潤性高分子ゲルに第1スペーサー
(Sp1)の一部(途中まで)が結合した中間体を調製し
た。 (2) 上記(1)とは別に、実施例1の(2)と同様
にして、431A型全自動ペプチド合成機を用いて、F
mocケミストリーにより、実施例1の(2)における
Gly-Phe(D)-Pro-Arg(Mtr)-Gly-Phe-Pro-Ala-
Gly-Gly-HMPresinの代わりに、配列番号14で示
されるペプチドの位置14のアミノ酸(Gly)にHMP
resinが結合したGly-Val-Pro-Arg(Mtr)-Gly-Val
-Pro-Arg(Mtr)-Gly-Val-Pro-Arg(Mtr)-Gly-G
ly-HMPresinをつくり、これを実施例1の(2)にお
けるのと同様に処理して、第1スペーサー(Sp1)の残
りの部分、分解性基(E)および第2スペーサー
(Sp2)が結合した、配列番号15で示されるGly-Va
l-Pro-Arg-Gly-Val-Pro-Arg-Gly-Val-Pro-Ar
g-Gly-Gly-を得た。 (3) 実施例1の(3)と同様にして上記(1)で得
られた水膨潤性高分子ゲルに第1スペーサー(Sp1)の
一部が結合した中間体に、上記の(2)で得られた配列
番号15で示されるGly-Val-Pro-Arg-Gly-Val-P
ro-Arg-Gly-Val-Pro-Arg-Gly-Gly-を結合させ
て、水膨潤性高分子ゲルに第1スペーサー(Sp1)、分
解性基(E)および第2スペーサー(Sp2)がこの順番
で結合した中間体[すなわち薬剤を結合させるための医
療用高分子ゲル(Ia)]をつくり、この中間体に実施
例1の(4)におけるのと同様にしてゲンタマイシンを
結合させて、上記の化学式(IV)で表される医療用高分
子ゲルを得た。
【0074】《実施例3》[医療用高分子ゲルの製造] この実施例3では、水膨潤性高分子ゲルが上記の参考例
1の(2)で得られたポリビニルアルコール系重合体よ
りなるゲルであり、第1スペーサー(Sp1)が−CO−
(CH2)2−CO−NH−CH2−CO−であり、分解性
基(E)が配列番号9で示される-Phe-Pro-Arg-Gly
-Phe-Pro-Arg-であり、第2スペーサー(Sp2)が-
Gly-Gly-であり、薬剤がゲンタマイシンである、配列
番号16で示される下記の化学式(V)からなる医療用
高分子ゲルを製造した。
【0075】
【化10】 [式中、PVAは水膨潤性高分子ゲル(ポリビニルアル
コール系重合体ゲル)を示す。]
【0076】(1) すなわち、実施例1の(1)と同
様にして、水膨潤性高分子ゲルに第1スペーサー
(Sp1)の一部(途中まで)が結合した中間体を調製し
た。 (2) 上記(1)とは別に、実施例1の(2)と同様
にして、431A型全自動ペプチド合成機を用いて、F
mocケミストリーにより、配列番号17で示されるペ
プチドの位置10のアミノ酸(Gly)にHMPresinが
結合した-Gly-Phe-Pro-Arg-Gly-Phe-Pro-Arg-
Gly-Gly-HMPresinをつくり、これを実施例1の
(2)におけるのと同様に処理して、第1スペーサー
(Sp1)の残りの部分、分解性基(E)および第2スペ
ーサー(Sp2)が結合した、配列番号17で示される-
Gly-Phe-Pro-Arg-Gly-Phe-Pro-Arg-Gly-Gly-
をつくった。 (3) 実施例1の(3)と同様にして上記(1)で得
られた水膨潤性高分子ゲルに第1スペーサー(Sp1)の
一部が結合した中間体に、上記の(2)で得られた配列
番号17で示される-Gly-Phe-Pro-Arg-Gly-Phe-
Pro-Arg-Gly-Gly-を結合させて、水膨潤性高分子ゲ
ルに第1スペーサー(Sp1)、分解性基(E)および第
2スペーサー(Sp2)がこの順番で結合した中間体[す
なわち薬剤を結合させるための医療用高分子ゲル(I
a)]をつくり、この中間体に実施例1の(4)におけ
るのと同様にしてゲンタマイシンを結合させて、上記の
化学式(V)で表される医療用高分子ゲルを得た。
【0077】《実施例4》[医療用高分子ゲルの製造] この実施例4では、水膨潤性高分子ゲルが上記の参考例
1の(2)で得られたポリビニルアルコール系重合体よ
りなるゲルであり、第1スペーサー(Sp1)が−CO−
(CH2)2−CO−NH−CH2−CO−であり、分解性
基(E)が-Phe(D)-Pro-Arg-であり、第2スペーサ
ー(Sp2)が配列番号12で示される-Gly-Phe-Pro-
Ala-であり、薬剤がノルフロキサシンである、下記の
化学式(VI)で表される医療用高分子ゲルを製造した。
【0078】
【化11】 [式中、PVAは水膨潤性高分子ゲル(ポリビニルアル
コール系重合体ゲル)を示す。]
【0079】(1) すなわち、実施例1の(1)と同
様にして、水膨潤性高分子ゲルに第1スペーサー
(Sp1)の一部(途中まで)が結合した中間体を調製し
た。 (2) 上記(1)とは別に、実施例1の(2)と同様
にして、431A型全自動ペプチド合成機を用いて、F
mocケミストリーにより、Gly-Phe(D)-Pro-Arg-
Gly-Phe-Pro-Ala-HMPresinをつくり、これを実
施例1の(2)におけるのと同様に処理して、第1スペ
ーサー(Sp1)の残りの部分、分解性基(E)および第
2スペーサー(Sp2)が結合した、Gly-Phe(D)-Pro
-Arg-Gly-Phe-Pro-Ala- をつくった。
【0080】(3) 実施例1の(3)と同様にして、
上記(1)で得られた水膨潤性高分子ゲルに第1スペー
サー(Sp1)の一部が結合した中間体10gに、上記の
(2)で得られたGly-Phe(D)-Pro-Arg-Gly-Phe-
Pro-Ala-50mgを結合させて、水膨潤性高分子ゲル
に第1スペーサー(Sp1)、分解性基(E)および第2
スペーサー(Sp2)がこの順番で結合した中間体[薬剤
を結合させるための医療用高分子ゲル(Ia)]を得
た。
【0081】(4) 上記(3)で得られた中間体[医
療用高分子ゲル(Ia)]を水で数回、さらにジメチル
ホルムアミドで数回洗浄してゲル中の水分をジメチルホ
ルムアミドに置換した。その後、0.46gのN−ヒド
キシコハク酸イミドと1.8gの1−エチル−3−(3
−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩
(EDC・HCl)を加え、一晩振盪した。ジメチルホ
ルムアミドで数回洗浄した後、20mlのジメチルホル
ムアミドに溶解した100mgのノルフロキサシンとジ
イソプロピルエチルアミン20μlを加えて、一晩振盪
した。ジメチルホルムアミド、水で十分に洗浄して、水
膨潤性高分子ゲルに第1スペーサー(Sp1)、分解性基
(E)、第2スペーサー(Sp2)および薬剤(ノルフロ
キサシン)がこの順番で結合した上記の化学式(VI)で
表される医療用高分子ゲルを得た。
【0082】《実施例5》[医療用高分子ゲルの製造] この実施例5では、水膨潤性高分子ゲルが上記の参考例
1の(2)で得られたポリビニルアルコール系重合体よ
りなるゲルであり、第1スペーサー(Sp1)が−CO−
(CH2)2−CO−であり、分解性基(E)が配列番号5
で示される-Gly-Pro-Leu-Gly-Pro-であり、第2ス
ペーサー(Sp2)が-Gly-Gly-であり、薬剤がTGF
βである、配列番号18で示される下記の化学式(VI
I)からなる医療用高分子ゲルを製造した。
【0083】
【化12】 [式中、PVAは水膨潤性高分子ゲル(ポリビニルアル
コール系重合体ゲル)を示す。]
【0084】(1) すなわち、実施例1の(1)と同
様にして、水膨潤性高分子ゲルに第1スペーサー
(Sp1)の一部(途中まで)が結合した中間体を調製し
た。 (2) 上記(1)とは別に、実施例1の(2)と同様
にして、431A型全自動ペプチド合成機を用いて、F
mocケミストリーにより、配列番号19のペプチドの
位置7のアミノ酸(Gly)にHMPresinが結合したGl
y-Pro-Leu-Gly-Pro-Gly-Gly-HMPresinをつく
り、これを実施例1の(2)におけるのと同様に処理し
て、第1スペーサー(Sp1)の残りの部分、分解性基
(E)および第2スペーサー(Sp2)が結合した、配列
番号19で示されるGly-Pro-Leu-Gly-Pro-Gly-G
ly-をつくった。
【0085】(3) 実施例1の(3)と同様にして、
上記(1)で得られた水膨潤性高分子ゲルに第1スペー
サー(Sp1)の一部が結合した中間体1gに、上記の
(2)で得られた配列番号19で示されるGly-Pro-L
eu-Gly-Pro-Gly-Gly-の5mgを結合させて、水膨
潤性高分子ゲルに第1スペーサー(Sp1)、分解性基
(E)および第2スペーサー(Sp2)がこの順番で結合
した中間体[薬剤を結合させるための医療用高分子ゲル
(Ia)]を得た。
【0086】(4) 上記(3)で得られた中間体[医
療用高分子ゲル(Ia)]を水で数回、さらにジメチル
ホルムアミドで数回洗浄してゲル中の水分をジメチルホ
ルムアミドに置換した。その後、46mgのN−ヒドキ
シコハク酸イミドと0.18gの1−エチル−3−(3
−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩
(EDC・HCl)を加え、一晩振盪した。水で5〜6
回洗浄した後、1mlの水に溶解した1μgのTGFβ
を加えて一晩振盪した。水で十分に洗浄して、水膨潤性
高分子ゲルに第1スペーサー(Sp1)、分解性基
(E)、第2スペーサー(Sp2)および薬剤(TGF
β)がこの順番で結合した上記の化学式(VII)で表さ
れる医療用高分子ゲルを得た。
【0087】《比較例1》[医療用高分子ゲルの製造] この比較例1では、水膨潤性高分子ゲルが上記の参考例
1の(2)で得られたポリビニルアルコール系重合体よ
りなるゲルであり、このゲルにスペーサー;−CO−
(CH2)2−CO−および薬剤(ゲンタマイシン)がこの
順序で結合した、下記の化学式(VIII)で表される医療
用高分子ゲルを製造した。
【0088】
【化13】 [式中、PVAは水膨潤性高分子ゲル(ポリビニルアル
コール系重合体ゲル)を示す。]
【0089】すなわち、実施例1の(1)と同様にして
水膨潤性高分子ゲルに第1スペーサー(Sp1)が結合し
た中間体をつくり、この中間体10gを水で数回、さら
に0.05Mの炭酸水素ナトリウム水溶液で1回洗浄し
た後、2.4gのゲンタマイシンと0.8gのEDC・
HClを加えてさらに一晩振盪した。次いで、水で十分
に洗浄して、水膨潤性高分子ゲルにスペーサーと薬剤
(ゲンタマイシン)がこの順序で結合した上記の化学式
(VIII)で表される医療用高分子ゲルを得た。
【0090】《参考例2》[医療用高分子ゲルの製造] この参考例2では、水膨潤性高分子ゲルが上記の参考例
1の(2)で得られたポリビニルアルコール系重合体よ
りなるゲルであり、このゲルにスペーサー:−CO−
(CH2)2−CO−NH−CH2−CO−、分解性基:-V
al-Pro-Arg-、および薬剤:ゲンタマイシンがこの順
番で結合した、下記の化学式(IX)で表される医療用高
分子ゲルを製造した。
【0091】
【化14】 [式中、PVAは水膨潤性高分子ゲル(ポリビニルアル
コール系重合体ゲル)を示す。]
【0092】(1) すなわち、実施例1の(1)と同
様にして、水膨潤性高分子ゲルに第1スペーサー
(Sp1)の一部(途中まで)が結合した中間体を調製し
た。 (2) 上記(1)とは別に、実施例1の(2)と同様
にして、431A型全自動ペプチド合成機を用いて、F
mocケミストリーにより、配列番号20で示されるペ
プチドの位置4のアミノ酸(Arg)にHMPresinが結
合したGly-Val-Pro-Arg(Mtr)-HMPresinをつく
り、これを実施例1の(2)におけるのと同様に処理し
て、第1スペーサー(Sp1)の残りの部分および分解性
基(E)が結合した、配列番号21で示されるGly-Va
l-Pro-Argをつくった。
【0093】(3) 実施例1の(3)と同様にして、
上記(1)で得られた水膨潤性高分子ゲルに第1スペー
サー(Sp1)の一部が結合した中間体10gに、上記の
(2)で得られた配列番号21で示されるGly-Val-P
ro-Argの50mgを結合させて、水膨潤性高分子ゲル
に第1スペーサー(Sp1)および分解性基(E)がこの
順番で結合した中間体を得た。
【0094】(4) 上記(3)で得られた中間体に、
実施例1の(4)におけるのと同様にしてゲンタマイシ
ンを結合させて、水膨潤性高分子ゲルに第1スペーサー
(Sp1)、分解性基(E)および薬剤(ゲンタマイシ
ン)がこの順番で結合した上記の化学式(IX)で表され
る医療用高分子ゲルを得た。
【0095】《試験例1》[疑似感染創滲出液による薬
剤放出試験] (1) 実施例1〜4、比較例1および参考例2の医療
用高分子ゲルの0.1gをそれぞれ量り採り、各々に、
150μlのPBS(0.15MのNaClを含む0.
01Mリン酸緩衝液;pH7.4)、50μlの黄色ブ
ドウ球菌培養上清、およびヒト血漿50μlを加えて、
37℃で一晩振盪した。この上清75μlを直径8mm
の濾紙に染み込ませて、2×106個の黄色ブドウ球菌
を接種したブレイン−ハート−インヒュージョン寒天培
地プレート(直径10cm)にのせて、37℃で終夜培
養した。濾紙の周囲に生じる細菌生育阻止円の直径を測
定した。 (2) 一方、同じ大きさの濾紙に75μlのゲンタマ
イシン水溶液(10μg/ml)を染み込ませ、2×1
6個の黄色ブドウ球菌を接種したブレイン−ハート−
インヒュージョン寒天培地プレート(直径10cm)に
のせて、37℃で終夜培養して濾紙の周囲に生じる細菌
生育阻止円の直径を測定した。 (3) 上記(2)で得られた阻止円の直径と上記
(1)で得られた阻止円の直径の比から、上記(1)にお
いて上清中に放出された抗菌剤の量を計算して、1時間
当たりの抗菌剤の放出量を求めたところ、下記の表2に
示すとおりであった。
【0096】
【表2】 抗菌剤放出量(μg/gゲル・1hr) 実施例1 1.0 実施例2 0.5 実施例3 0.6 実施例4 0.8 比較例1 0 参考例2 0.2
【0097】《試験例2》[ラット細菌感染創の治癒試
験] (1) ラット背部に直径が約2cmのポケット創を作
製し、109個の黄色ブドウ球菌を10mg/mlのモ
ンモリロナイト水溶液とともに植え付けた。48時間後
に創部を生理食塩水で洗浄し、実施例1で得られた医療
用高分子ゲルまたは比較例1で得られた医療用高分子ゲ
ルを、それぞれ1gの割合でポケット創中に挿入した。
24時間後に創部の組織を一定量採取して、PBS中で
ホモジェナイズし、さらに一定割合で希釈したPBS溶
液をブレイン−ハート−インヒュージョン寒天培地プレ
ート(直径10cm)に均一に塗布した。37℃で終夜
培養して生じるコロニーの数から組織中の細菌数を測定
したところ、実施例1で得られた医療用高分子ゲルを挿
入した創部の細菌数は6.7×104±8.9×104
/g組織であった。一方、比較例1で得られた医療用高
分子ゲルを挿入した創部の細菌数は1.2×107±
1.1×106個/g組織であった。 (2) 一方、ポケット創中に医療用高分子ゲルを挿入
しない外は上記の(1)と同様に行った場合の創部にお
ける細菌数は1.1×108±2.0×107個/g組織
であった。 (3) したがって、上記(1)および(2)の結果か
ら、医療用高分子ゲルを用いない場合に比べて、実施例
1の医療用高分子ゲルを用いた場合には細菌数が約1/
1000に減少していたが、比較例1の医療用高分子ゲ
ルを用いた場合には約1/10にしか減少していなかっ
たことがわかる。
【0098】《試験例3》[炎症性滲出液モデル酵素
(コラーゲナーゼ)によるTGFβの放出試験] 実施例5で得られた医療用高分子ゲル0.1gに、0.
1U/mlのコラーゲナーゼのPBS溶液1mlを加え
て37℃で2時間振盪した。TGFβ測定EIAキット
[ジェンザイム ダイアグノスティックス社製「PRE
DICTA(登録商標) Human TGF−β1
LISA KIT」]を用いて上清中のTGFβ濃度を
測定した。その結果、上清中のTGFβ濃度から計算さ
れた1時間当たりのTGFβ放出量は約7ng/gゲル
であった。
【0099】
【発明の効果】本発明の医療用高分子ゲルは、薬剤がス
ペーサーおよび分解性基(E)を介して水膨潤性高分子
ゲル(A)に固定化されているので、患部に存在する酵
素量に応じて分解性基(E)の主鎖が切断されて、該酵
素量に応じた薬剤放出特性を示すために、酵素が産生さ
れる病巣においてのみ治療に有効な薬剤を放出すること
が可能であり、薬剤による副作用を最小限に抑制しなが
ら病巣の治癒を円滑に行うことができる。
【0100】さらに、本発明の医療用高分子ゲルでは、
第1スペーサー(Sp1)と第2スペーサー(Sp2)の2
つのスペーサーを、水膨潤性高分子ゲル(A)と分解性
基(E)との間、および分解性基(E)と薬剤との間に
それぞれ介在させてあるので、分解性基(E)に対する
酵素の切断作用の選択性を一層向上させることができ、
病巣部位の種類や病巣部位の状態に一層適合した医療用
高分子ゲルを得ることができ、しかも薬剤が分解性基
(E)に直接結合しにくい場合にも、第2スペーサー
(Sp2)として適当なものを選択することによって水膨
潤性高分子ゲル(A)への薬剤の固定化を一層円滑容易
に行うことができる。
【0101】本発明の医療用高分子ゲルは、上記した特
性を活かして、創傷被覆材、生体組織接着材、癒着防止
材、骨補強材、薬剤放出基材の構成成分として有用であ
り、擦過傷、切創、挫創などの一般創傷、採皮創、削皮
創などの人為的な皮膚欠損創、切開創などの手術創、熱
傷、潰瘍、褥瘡などの創傷部位における炎症の治療と治
癒促進;手術後の創面や臓器の接着;手術後の創面と他
組織の癒着防止;骨粗鬆症や骨折などにおける骨の補
強;悪性新生物などの治療などに適用することができ
る。
【0102】
【配列表】
【0103】配列番号:1 配列の長さ:4 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列 Ile Glu Gly Arg
【0104】配列番号:2 配列の長さ:4 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列 Ala Gly Pro Arg
【0105】配列番号:3 配列の長さ:4 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列 Arg Val Arg Arg
【0106】配列番号:4 配列の長さ:4 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列 Ala Ala Pro Val
【0107】配列番号:5 配列の長さ:5 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド
【0108】配列番号:6 配列の長さ:4 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列 Ala Ala Pro Phe
【0109】配列番号:7 配列の長さ:4 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列 Gly Phe Leu Gly
【0110】配列番号:8 配列の長さ:11 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド
【0111】配列番号:9 配列の長さ:7 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド
【0112】配列番号:10 配列の長さ:6 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド
【0113】配列番号:11 配列の長さ:6 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド
【0114】配列番号:12 配列の長さ:4 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列 Gly Phe Pro Ala
【0115】配列番号:13 配列の長さ:13 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列の特徴 特徴を表す記号:modified-site 存在位置:1 他の情報:Valは基−CO−(CH2)2−CO−NH−C
2−CO−を介してポリビニルアルコール系重合体ゲ
ルが結合したVal 特徴を表す記号:modified-site 存在位置:13 他の情報:Glyはゲンタマイシンが結合したGly 配列 Val Pro Arg Gly Val Pro Arg Gly Val Pro Arg Gly Gly 5 10
【0116】配列番号:14 配列の長さ:14 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列の特徴 特徴を表す記号:modified-site 存在位置:4,8,12 他の情報:ArgはNg−4−メトキシ−2,3,6−トリ
メチルベンゼンスルホニル基で変性されたArg 配列 Gly Val Pro Arg Gly Val Pro Arg Gly Val Pro Arg Gly Gly 5 10
【0117】配列番号:15 配列の長さ:14 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列 Gly Val Pro Arg Gly Val Pro Arg Gly Val Pro Arg Gly Gly 5 10
【0118】配列番号:16 配列の長さ:9 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列の特徴 特徴を表す記号:modified-site 存在位置:1 他の情報:Pheは基−CO−(CH2)2−CO−NH−C
2−CO−を介してポリビニルアルコール系重合体ゲ
ルが結合したPhe 特徴を表す記号:modified-site 存在位置:9 他の情報:Glyはゲンタマイシンが結合したGly
【0119】配列番号:17 配列の長さ:10 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド
【0120】配列番号:18 配列の長さ:7 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列の特徴 特徴を表す記号:modified-site 存在位置:1 他の情報:Glyは基−CO−(CH2)2−CO−を介して
ポリビニルアルコール系重合体ゲルが結合したGly 特徴を表す記号:modified-site 存在位置:7 他の情報:Glyは形質転換成長因子(TGFβ)が結合
したGly
【0121】配列番号:19 配列の長さ:7 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド
【0122】配列番号:20 配列の長さ:4 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列の特徴 特徴を表す記号:modified-site 存在位置:4 他の情報:ArgはNg−4−メトキシ−2,3,6−トリ
メチルベンゼンスルホニル基で変性されたArg 配列 Gly Val Pro Arg
【0123】配列番号:21 配列の長さ:4 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列 Gly Val Pro Arg

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 下記の一般式(I); 【化1】 A−Sp1−E−Sp2−G (I) (式中、Aは水膨潤性高分子ゲル、Sp1は第1のスペー
    サー、Eは酵素反応で主鎖が切断され得る分解性基、S
    p2は第2のスペーサーおよびGは薬剤を示す)で表され
    る結合形態によって、薬剤が水膨潤性高分子ゲルに結合
    していることを特徴とする医療用高分子ゲル。
  2. 【請求項2】 下記の一般式(Ia); 【化2】 A−Sp1−E−Sp2’ (Ia) (式中、Aは水膨潤性高分子ゲル、Sp1は第1のスペー
    サー、Eは酵素反応で主鎖が切断され得る分解性基、お
    よびSp2’は薬剤と結合性の第2のスペーサー前駆体を
    示す)で表される結合形態を有することを特徴とする、
    薬剤を、前記の第1のスペーサー(Sp1)、分解性基
    (E)および第2のスペーサー(Sp2)[但しSp2は前
    記第2のスペーサー前駆体(Sp2')と薬剤とが結合した
    ときに形成される第2のスペーサーを示す]を介して水
    膨潤性高分子ゲルに結合させ得る医療用高分子ゲル。
  3. 【請求項3】 第1のスペーサー(Sp1)、第2のスペ
    ーサー(Sp2)および第2のスペーサー前駆体(Sp2')
    が、炭素原子、窒素原子および酸素原子のうち主鎖に含
    有されている原子の数が4個以上の分子鎖である請求項
    1または2の医療用高分子ゲル。
  4. 【請求項4】 酵素反応で主鎖が切断され得る分解性
    基(E)が、2〜8量体のオリゴペプチドに由来する基
    である請求項1〜3のいずれか1項の医療用高分子ゲ
    ル。
  5. 【請求項5】 水膨潤性高分子ゲルがポリビニルアルコ
    ール系重合体からなる請求項1〜4のいずれか1項の医
    療用高分子ゲル。
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Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2007132785A1 (ja) * 2006-05-16 2007-11-22 Keio University 臓器癒着防止剤およびそれを用いた癒着防止方法
JP2013071907A (ja) * 2011-09-27 2013-04-22 Hitachi Chemical Co Ltd 薄膜フィルム及びその製造方法

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JPWO2007132785A1 (ja) * 2006-05-16 2009-09-24 学校法人慶應義塾 臓器癒着防止剤およびそれを用いた癒着防止方法
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