JPH1014574A - 酵素法による有用カロテノイドの製造法 - Google Patents

酵素法による有用カロテノイドの製造法

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JPH1014574A
JPH1014574A JP8168857A JP16885796A JPH1014574A JP H1014574 A JPH1014574 A JP H1014574A JP 8168857 A JP8168857 A JP 8168857A JP 16885796 A JP16885796 A JP 16885796A JP H1014574 A JPH1014574 A JP H1014574A
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carotenoid
substrate
enzyme
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crtz
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D Fraser Paul
ディー. フレーザー ポール
Norihiko Misawa
典彦 三沢
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Kirin Brewery Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【解決手段】 カロテノイド生合成遺伝子を有する微生
物から抽出した酵素液と微量のクロロホルム等の有機溶
媒に溶解させた基質カロテノイドを、極微量のデオキシ
コール酸等の界面活性材を含む緩衝液中で反応させ、反
応後の溶液から生成カロテノイドを採取するカロテノイ
ドの製造法、及び反応後の溶液中の生成カロテノイド量
を定量するカロテノイド生合成酵素の活性測定法。 【効果】 新規なカロテノイドの製造法及びカロテノイ
ド生合成酵素の新規な活性測定法を提供する。本発明の
カロテノイドの製造法は、酵素を用いてin vitroで行う
ので、有用なカロテノイドを容易かつ安価に製造するこ
とができる。また、本発明の活性測定法は、従来活性の
測定が困難であったカロテノイド生合成酵素の活性測定
を容易にし、酵素活性を指標として目的酵素を精製でき
るようにする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、酵素法による有用
カロテノイドの製造法、及びカロテノイド生合成酵素の
活性測定法に関するものである。本発明のカロテノイド
製造法によれば、産業上有用なカロテノイドであるアス
タキサンチン等のキサントフィルを容易かつ安価に製造
することができる。また、本発明のカロテノイド生合成
酵素の活性測定法によれば、従来活性の測定が困難であ
ったカロテノイド生合成酵素の活性測定を容易にし、酵
素活性を指標として目的酵素の精製を可能とする。
【0002】
【従来の技術】カロテノイド(carotenoid、カロチノイ
ドとも呼ばれる)とは、通常、炭素鎖が40のイソプレン
骨格からなる自然界に豊富に存在する天然色素の総称で
ある。現在までに、約600種類のカロテノイドが単離さ
れている(H.Pfander, ed., Keyto Carotenoids. Base
l, Birkhauser, 1987)。カロテノイドは、ステロー
ル、ホパノール、ドリコール、及びその他のイソプレノ
イドと途中まで共通なイソプレン基本生合成経路によっ
て合成される。ヒドロキシメチルグルタリル-CoA(HMG-
CoA)は、メバロン酸を経て、C5のイソペンテニルピロ
リン酸(IPP)に変換され、IPPは異性化反応によりジメ
チルアリルピロリン酸(DMAPP)に変換される。さら
に、DMAPPは、C5のIPPと順次、縮合することにより、C
10のゲラニルピロリン酸(GPP)、C15のファルネシルピ
ロリン酸(FPP)、C20のゲラニルゲラニルピロリン酸
(GGPP)というふうに、炭素数を5つづつ延ばしてい
く。カロテノイドに特異的な生合成経路は、GGPPにおい
てイソプレン基本生合成経路から分岐する。すなわち、
2分子のGGPPが縮合して、最初のカロテノイドである無
色のフィトエン(phytoene)が合成される。フィトエン
は不飽和反応によりリコペン(lycopene)に変換され、
さらに、リコペンは環化反応によりβ-カロチン(β-ca
rotene)に変換される。そして、β-カロチンに水酸基
やケト基などが導入され、ゼアキサンチン(zeaxanthi
n)やアスタキサンチン(astaxanthin)などの種々のキ
サントフィルが合成される。
【0003】カロテノイドの生合成を担う遺伝子の知見
は、ここ7年間位の間に爆発的に進展した。たとえば、
発明者らは、植物常在非光合成細菌Erwinia uredovora
のカロテノイド生合成遺伝子群を、その黄色の色調を指
標に大腸菌にクローニングし、これらの遺伝子のいろい
ろな組み合わせを大腸菌などの微生物に導入、発現させ
ることにより、これらの遺伝子の機能を明かにした。そ
の結果、フィトエン、リコペン、β-カロチン、ゼアキ
サンチン、ゼアキサンチン-β-D-ジグルコシドを生合成
するのに必要な遺伝子群を取得できたことがわかった
(図1)(三沢典彦,「遺伝子レベルで解明されたカロ
テノイド生合成経路」蛋白質 核酸 酵素, 41, 337-346,
1996)。さらに、発明者らは、同様の手法により、海
洋細菌Agrobacterium aurantiacum や緑藻Haematococcu
s pluvialisのカロテノイド生合成遺伝子(群)を大腸
菌にクローニングし、これらの遺伝子の機能を明かにし
た。その結果、アスタキサンチン、カンタキサンチンな
どのキサントフィルを生合成するのに必要な遺伝子を取
得できたことがわかった(図2)(三沢典彦,「遺伝子
レベルで解明されたカロテノイド生合成経路」蛋白質
核酸 酵素, 41, 337-346,1996)。
【0004】前述したカロテノイドの中でも、特に、ア
スタキサンチン、ゼアキサンチンは、赤色や黄色の天然
着色料として、さらに、癌予防や免疫賦活活性などを有
する栄養価改善剤として、食用や飼料用にすでに一部、
実用化され、将来の発展が有望視されているものであ
る。したがって、発明者らが取得したカロテノイド生合
成遺伝子を用いて、これらを外来遺伝子として遺伝子工
学的手法により大腸菌などの微生物を形質転換し発現さ
せることによって、大腸菌などの微生物に、これらの有
用カロテノイドの生合成能を付与することが可能となっ
た。
【0005】一方、カロテノイド生合成酵素の酵素学的
見地からの研究の進展は極端に遅い。その最大の理由
は、カロテノイドの生合成を担う酵素の多くが、膜に埋
めこまれているか、または、膜と結合した、いわゆる膜
酵素であり、細胞を破壊したinvitroの状態では、容易
に活性を失ってしまうことが挙げられる(P. M. Bramle
y, Adv. Lipid Res., 21, 243-279, 1985)。また、酵
素の基質となるカロテノイドのほとんどが、市販されて
いなく、自ら化学的または生物的に合成する必要がある
ことも、酵素学的見地からの研究の進展を困難にしてい
る理由の1つであろう。さらに、化学合成したカロテノ
イドは、しばしば天然に存在しない化合物を含んだり、
目的の立体構造のみを作ることができないという欠点を
有しており、また、生物的に合成する場合では、合成で
きるカロテノイドの種類が限られているという欠点を有
している。さらに上記以外のカロテノイド生合成酵素の
酵素学的見地からの研究の進展を困難にしている理由と
して、カロテノイドが脂溶性であるため水系での効率的
な酵素の利用が難しいことや、基質となるカロテノイド
やカロテノイドの生成産物が光と酸素によって容易に分
解されるというカロテノイド自身の不安定な性質や、カ
ロテノイドは通常異性体や構造類縁体などの多くの種類
の混合物として存在するのでクロマトグラフィーによる
単一のカロテノイドの精製が難しいことなどが挙げられ
る(G. Britton, Methods Enzymol., 111, 113-149, 19
85)。
【0006】カロテノイドの生合成に関与する酵素に関
する研究は、このように非常に困難を伴うものである
が、それでも、以下に示すように、いくつかのカロテノ
イド生合成酵素に対する特異的な活性測定法が開発され
た。
【0007】(1)フィトエン合成酵素(phytoene syn
thase) フィトエン合成酵素は、カロテノイドに特異的な最初の
ステップを触媒する酵素である。フィトエン合成酵素の
基質であるGGPPは水溶性であり、American Radiochemic
als Ltd.(輸入販売元:室町化学工業 (株))からラジ
オラベルされた形で市販されている。典型的なフィトエ
ン合成酵素の反応緩衝液は、ATP(3 mM)、2価カチオン
(たとえばMn2+、1 mM)、界面活性剤(たとえば Twee
n、0.1%(v/v))、[3H]-GGPP(0.25 μCi)、および
酵素液を含むTris緩衝液(pH 7.0-8.0)からなる(P.
D. Fraser, M. R. Truesdale, C. R. Bird, W. Schuch,
and P. M. Bramley, Plant Physiol., 105, 405-413,
1994)。この緩衝液中で、適当な時間、反応させた後、
反応液を40〜60℃の石油エーテルで抽出し、薄層クロマ
トグラフィー(TLC)や高速液体クロマトグラフィー(H
PLC)によって生成産物を分析することができる。植物
やカビでは、この方法を用いて比較的高い活性を検出す
ることができる(O. Dogbo, and B. Camara, Proc. Nat
l. Acad. Sci., 85, 7054-7059)。しかし、カロテノイ
ド以外の他の化合物の生合成酵素の標準的活性測定法と
比べて、時間と手間がかかることは特記されるべきであ
る。
【0008】(2)フィトエンデサチュラーゼ 最初のカロテノイドであるフィトエン以降のin vitro
応は、前述したようなカロテノイドそれ自身の性質やそ
の生合成酵素の固有の性質のため、それ以前の反応と比
べて格段に難しくなる。ただし、スイセン(Narcissus
pseudonarcissus)の花から得られた酵素液を利用する
と、例外的に、in vitroでラジオラベルされた基質(た
とえば[14C]-メバロン酸)がフィトエンなどのカロ
テノイドに比較的効率よく変換される(P. Beyer, M. M
ayer, and H. Kleinig, Eur. J.Biochem., 170, 613-61
9, 1988)。一方、通常は、ラジオラベルされたフィト
エンは、in situでカビPhycomyces blakesleeanusのcar
B変異株を用いて合成される(P. D. Fraser, J. de la
Rivas, A. Mackenzie, and P. M. Bramley, Phytochemi
stry, 15, 3971-3976, 1991)。このラジオラベルされ
たフィトエンを用いて、効率は悪いながらも、フィトエ
ンデサチュラーゼ活性の検出を行うことができる。反応
緩衝液は、FADまたはNAD(P)を加えることと界面活性剤
を加えないこと以外は、前述したフィトエン合成酵素の
反応緩衝液と同じである。この活性測定法は、植物常在
細菌Erwinia(P. D. Fraser, N. Misawa, H. Linden,
S. Yamano, K. Kobayashi, and G. Sandmann, J. Biol.
Chem., 267, 19891-19895, 1992)、シアノバクテリア
Synechococcus sp. strain PCC7942 (P. D. Fraser,
H.Linden, and G. Sandmann, Biochemical J., 291, 68
7-692, 1993)、及びカビPhycomyces(P. D. Fraser, a
nd P. Bramley, BBA, 1212, 59-66, 1994)からフィト
エンデサチュラーゼを精製する際に用いられた。また、
同様の活性測定法が、シアノバクテリアAnabaena sp. s
train PCC7120から得られた、ζ-カロチンをリコペンに
変換する酵素であるζ-カロチンデサチュラーゼにも適
応できることが示された(M. Albrecht, H. Linden, an
d G. Sandmann, Eur. J. Biochem., 236, 115-120, 199
6)。
【0009】(3)リコペンシクラーゼ リコペンを環化してβ-カロチンにする酵素であるリコ
ペンシクラーゼの活性測定法は、トマト(S. C. Kushwa
ra, C. Subbarayan, D. Beeler, and J. Porter, J .Bi
ol. Chem., 244, 3635-3642, 1969)、スイセン(P. Be
yer, U .Kronke, and J. Nievelstein, J. Biol. Che
m., 226, 17072-17078, 1991)、及び、赤ピーマン(B.
Camara, and O. Dogbo, Plant Physiol., 80, 172-17
4, 1986)由来の酵素について報告されている。トマト
と赤ピーマン由来のリコペンシクラーゼでは、反応緩衝
液中に界面活性剤のTweenを添加することが必要であ
り、スイセン由来のリコペンシクラーゼでは、反応緩衝
液中にアセトンを添加することが必要であった。これら
の報告では、ラジオラベルされたリコペンが、in situ
でカビPhycomyces blakesleeanusのC9変異株を用いて合
成され、基質として利用されている。また、Erwiniaの
リコペンシクラーゼCrtYの活性測定法も報告されている
(P. D. Fraser, and G. Sandmann, Biochem. Biophys.
Res. Commun., 185, 9-15, 1992)。しかし、いずれの
方法も測定される活性値が低かった。
【0010】β-カロチン等のカロチンに水酸基やケト
基などの酸素を含む反応基が導入されることにより、キ
サントフィル(分子中に酸素を含むカロテノイド)に特
異的な生合成が始まる。in vitroでそのような反応に関
与する酵素の活性を測定する方法は、ほとんど報告され
ていない。最近、この反応の基質の1つである、ラジオ
ラベルされたβ-カロチンの合成が、in situでカビPhyc
omyces blakesleeanusのC115変異株を用いて可能になっ
た。これを用いて、Erwinia(P. D. Fraser, and G. Sa
ndmann, Biochem. Biophys. Res. Commun., 185, 9-15,
1992)やSynechococcus(P. D. Fraser, M. Albrecht,
and G. Sandmann, J. Chromatgr., 645, 265-272, 199
3)の水酸基導入酵素であるβ-カロチンハイドロキシラ
ーゼの活性の測定が行われた。また、コールドのβ-カ
ロチン(β-カロチンは合成されたものがたとえばSigma
社から市販されている)を用いて、Erwiniaの同酵素の
活性の測定が行われた(B. S. Hundle, D. A. O'Brien,
P. Beyer, H. Kleinig, andJ. E. Hearst, FEBS Let
t., 315, 329-334, 1993)。また、赤ピーマンには、カ
プサンチンやカプソルビンといったカロテノイドが多く
含まれている。Bouvierらは、このカプサンチン−カプ
ソルビン生合成酵素(CCS)を精製する際に、赤ピーマ
ンの組織を用いてラジオラベルされた基質であるアンテ
ラキサンチンやビオラキサンチンを用いて、同酵素の活
性の検出を行った(F. Bouvier, P. Hugueney, A. d'Ha
rlingue, M. Kuntz, and B. Camara, Plant J., 6, 45-
54, 1994)。しかしながら、報告されたこれらの酵素活
性測定法はいずれも測定される活性値が非常に低い。ま
た、これらの報告以外に、キサントフィル合成酵素の活
性をin vitroで測定した報告は存在していない。したが
って、効率のよいキサントフィル合成酵素の活性測定法
に関する報告は存在しないし、酵素法による有用キサン
トフィルの製造法に関する報告も存在していなかった。
有用キサントフィルであるアスタキサンチンのin vitro
での合成の報告が無いのは言うまでもない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】以上、述べてきたよう
に、カロテノイドの生合成に関与する酵素のin vitro
の酵素活性測定法は、わずかながら存在するものの、基
質の変換効率が悪く、かなりの時間と手間がかかるとい
う欠点を有していた。特に、フィトエン以降では、カロ
テノイド生合成酵素をその活性のみを指標にして精製す
ることは不可能であった。他の化合物の生合成酵素の場
合では、活性測定法が存在すれば、精製できるのが当た
り前であると考えられているくらいである。カロテノイ
ドの場合は、もともと組織中に多量に存在するカロテノ
イド生合成酵素、または、組換え大腸菌で高生産された
カロテノイド生合成酵素を、その量を指標にSDS-ポリア
クリルアミドゲル電気泳動法などで精製し、その活性の
確認を、前述した活性測定法により行うといった利用法
くらいしかなかった。ましてや、カロテノイド生合成酵
素を用いて、カロテノイドの基質を効率よくカロテノイ
ドのプロダクトに変換する(酵素法)ことは不可能であ
った。特に、カロテノイド生合成の後半であるキサント
フィルの生合成酵素の酵素法的利用は絶望的であると考
えられていた。したがって、アスタキサンチンやゼアキ
サンチンといった産業上有用なキサントフィルは、化学
合成法によっても、生物的発酵法によっても安価に製造
することができなく、さらに、酵素法の利用は全く考え
られなかったのである。本発明は、カロテノイド、特に
キサントフィルの生合成酵素の酵素的利用法およびその
関連技術を提供することを目的とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】キサントフィルの生合成
に直接関与する遺伝子、すなわち、海洋細菌Agrobacter
ium aurantiacumまたはAlcaligenes sp. strain PC-1の
オキシゲナーゼ(ケトラーゼ)遺伝子であるcrtW、また
は、緑藻Haematococcus pluvialisのオキシゲナーゼ
(ケトラーゼ)遺伝子であるbkt、または、海洋細菌Agr
obacterium aurantiacumまたはAlcaligenessp. strain
PC-1のヒドロキシラーゼ遺伝子であるcrtZ、または、植
物常在細菌Erwiniaのヒドロキシラーゼ遺伝子であるcrt
Z(三沢典彦,「遺伝子レベルで解明されたカロテノイド
生合成経路」蛋白質 核酸 酵素, 41, 337-346, 1996、
または、S. Kajiwara, T. Kakizono, T. Saito, K. Kon
do,T. Ohtani, N. Nishio, S. Nagai, and N. Misawa,
Plant Mol. Biol., 29, 343-352, 1995、または、N. Mi
sawa, Y. Satomi, K. Kondo, A. Yokoyama, S. Kajiwar
a, T. Saito, T. Ohtani, and W. Miki, J. Bacterio
l., 177, 6575-6584, 1995)を有する大腸菌を培養し、
菌体を集めた。これらの菌体から従来行われていたよう
な方法で酵素液を抽出し、基質と混合しても酵素活性は
ほとんど検出できなかった。そこで、これらの菌体を用
いて、菌体からの酵素液の抽出法、基質となるカロテノ
イドの酵素液への添加法、酵素反応を促進する有効成分
の有無などを鋭意検討した結果、従来法には見られなか
った画期的な効率のカロテノイドの変換法を実現させ、
本発明を完成するに至った。
【0013】即ち、本発明は、カロテノイド生合成遺伝
子を有する微生物から抽出した酵素液と、基質とするカ
ロテノイドを反応させ、反応後の溶液から生成するカロ
テノイドを採取するカロテノイドの製造法であって、
1)基質とするカロテノイドをクロロホルム、エタノー
ル、又は酢酸エチルに溶解させ、2)クロロホルム、エ
タノール又は酢酸エチルの最終濃度を0.6〜5%と
し、3)酵素液と基質とするカテノイドをコール酸、デ
オキシコール酸、又はCHAPSを含む緩衝液中で反応
させ、4)コール酸、デオキシコール酸、又はCHAP
Sの最終濃度を0.01〜1%とすることを特徴とする
カロテノイドの製造法である。
【0014】また、本発明は、カロテノイド生合成遺伝
子を有する微生物から抽出した酵素液と、基質とするカ
ロテノイドを反応させ、反応後の溶液から生成するカロ
テノイド量を定量するカロテノイド生合成酵素の活性測
定法であって、1)基質とするカロテノイドをクロロホ
ルム、エタノール、又は酢酸エチルに溶解させ、2)ク
ロロホルム、エタノール又は酢酸エチルの最終濃度を
0.6〜5%とし、3)酵素液と基質とするカテノイド
をコール酸、デオキシコール酸、又はCHAPSを含む
緩衝液中で反応させ、4)コール酸、デオキシコール
酸、又はCHAPSの最終濃度を0.01〜1%とする
ことを特徴とするカロテノイド生合成酵素の活性測定法
である。
【0015】以下、本発明を詳細に説明する。最初に本
発明のカロテノイドの製造法について説明する。本発明
のカロテノイドの製造法は、カロテノイド生合成遺伝子
を有する微生物から抽出した酵素液と、基質とするカロ
テノイドを反応させ、反応後の溶液から生成するカロテ
ノイドを採取してカロテノイドを製造するが、その際、
1)基質とするカロテノイドをクロロホルム、エタノー
ル、又は酢酸エチルに溶解させ、2)クロロホルム、エ
タノール又は酢酸エチルの最終濃度を、0.6〜5%と
し、3)酵素液と基質とするカテノイドを、コール酸、
デオキシコール酸、又はCHAPSを含む緩衝液中で反
応させ、4)コール酸、デオキシコール酸、又はCHA
PSの最終濃度を0.01〜1%とする。
【0016】「カロテノイド生合成遺伝子」としては、
例えば、crtZcrtWbktなどを挙げることができる。
crtZ遺伝子」は、最初、植物常在細菌Erwinia uredov
oraから、β-カロチンをβ-クリプトキサンチンを経て
ゼアキサンチンに変換する酵素(β-カロチン-3,3'-ヒ
ドロキシラーゼ)をコードする遺伝子として単離された
ものである(N. Misawa, M. Nakagawa, K. Kobayashi,
S. Yamano, Y. Izawa, K. Nakamura, andK. Harashima,
J. Bacteriol., 172, 6704-6712, 1990)。その後、Er
winia herbicola(B. S. Hundle, D. A. O'Brien, P. B
eyer, H. Kleinig, and J. E. Hearst, FEBS Lett., 31
5, 329-334, 1993)、海洋細菌Agrobacterium aurantia
cumおよびAlcaligenes sp. strain PC-1 (N. Misawa,
Y. Satomi, K. Kondo, A. Yokoyama, S. Kajiwara, T.
Saito, T. Ohtani, and W. Miki, J. Bacteriol., 177,
6575-6584, 1995)からも同様の機能を有する遺伝子が
単離され、これらもcrtZ遺伝子と命名された。これらの
crtZ遺伝子がコードする酵素(CrtZ)は、機能が同じで
あるだけでなく、図3に示したように、いずれも高い相
同性を有していた。海洋細菌同士であるA. aurantiacum
Alcaligenes PC-1間には90%のアイデンティティー
が、Erwinia同士であるE. uredovoraE. herbicola
には67%のアイデンティティーが観察された。さらに、
海洋細菌とErwinia間でも、53〜56%のアイデンティテ
ィーという高い相同性が観察された。したがって、ここ
で言うCrtZ(crtZ)とは、今までに知られている以上の
4つのCrtZ(crtZ)以外に、これらと機能が同じで比較
的高い相同性のある酵素(遺伝子)を含むものである。
なお、上記の4つのCrtZの機能は、β-カロチン(β-イ
オノン環)をβ-クリプトキサンチンを経てゼアキサン
チン(3-ヒドロキシ-β-イオノン環)に変換する以外
に、4-ケト-β-イオノン環を3-ヒドロキシ-4-ケト-β-
イオノン環に変換できる活性があることが、その後の遺
伝子を利用した研究でわかった(図2参照)(N. Misaw
a, Y. Satomi, K. Kondo, A. Yokoyama, S. Kajiwara,
T. Saito, T. Ohtani, and W. Miki, J. Bacteriol., 1
77, 6575-6584, 1995、または、三沢典彦, 近藤恵二,
梶原将, 横山昭裕,「キサントフィルの合成に有用なDNA
鎖およびキサントフィルの製造法」出願番号 特H06-235
917, 出願日 1994年9月5日)。したがって、CrtZは、た
とえば、カンタキサンチンを基質とした場合、フェニコ
キサンチンを経てアスタキサンチンを生成することがで
きる(図2参照)。Erwinia uredovora由来のcrtZ遺伝
子、Agrobacterium aurantiacum由来のcrtZ遺伝子、Alc
aligenes PC-1由来のcrtZ遺伝子を有する大腸菌は、そ
れぞれFERM BP-2377(寄託日:平成1年4月11日)、FE
RM BP-4505(寄託日:平成5年12月20日)、FERM BP-47
61(寄託日:平成6年7月27日)という番号で工業技術
院生命工学工業技術研究所に寄託されている。
【0017】「crtW遺伝子」は、最初、海洋細菌A. aur
antiacumおよびAlcaligenes PC-1から、β-カロチンを
エキネノンを経てカンタキサンチンに変換する酵素(β
-カロチン-4,4'-オキシゲナーゼ)をコードする遺伝子
として単離されたものである(N. Misawa, S. Kajiwar
a, K. Kondo, A. Yokoyama, Y. Satomi, T. Saito, W.M
iki, and T. Ohtani, Biochem. Biophy. Res. Commun.,
209, 867-876, 1995)。両者の酵素(CrtW)間には、
図4に示すように、75%のアイデンティティーという高
い相同性が観察された。その後、crtW遺伝子と類似する
遺伝子が、淡水性緑藻Haematococcus pluvialisから単
離され、bktと名付けられた(S. Kajiwara, T. Kakizon
o, T. Saito, K. Kondo, T. Ohtani, N. Nishio, S. Na
gai, andN. Misawa, Plant Mol. Biol., 29, 343-35
2)。海洋細菌のCrtWとBKT(bkt遺伝子にコードされる
酵素)間には、37%のアイデンティティーという意義深
い相同性が観察された。なお、これら、3つの酵素の機
能は、β-カロチン(β-イオノン環)をエキネノンを経
てカンタキサンチン(4-ケト-β-イオノン環)に変換す
る以外に、3-ヒドロキシ-β-イオノン環を3-ヒドロキシ
-4-ケト-β-イオノン環に変換できる活性があること
が、その後の遺伝子を利用した研究でわかった(図2参
照)(N. Misawa, Y. Satomi, K. Kondo, A. Yokoyama,
S. Kajiwara, T. Saito, T. Ohtani, and W. Miki, J.
Bacteriol., 177, 6575-6584, 1995、または、三沢典
彦, 近藤恵二, 梶原将, 横山昭裕,「キサントフィルの
合成に有用なDNA鎖およびキサントフィルの製造法」出
願番号 特H06-235917, 出願日 1994年9月5日、または、
梶原将, 三沢典彦,近藤恵二, 「ケト基導入酵素、それ
をコードするDNAおよびケトカロチノイドの製造法」出
願番号 特H06-223798, 出願日 1994年9月19日)。した
がって、CrtW及びBKTは、たとえば、ゼアキサンチンを
基質とした場合、4-ケト-ゼアキサンチンを経てアスタ
キサンチンを生成することができる(図2参照)。A.au
rantiacum 由来のcrtW遺伝子、Alcaligenes PC-1由来の
crtW遺伝子、Haematococcus pluvialis由来のbkt遺伝子
を有する大腸菌は、それぞれFERM BP-4505(寄託日:平
成5年12月20日)、FERM BP-4761(寄託日:平成6年7
月27日)、FERM BP-4757(寄託日:平成6年7月26日)
という番号で工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託
されている。なお、ここで示した酵素の機能は、いずれ
も組換え大腸菌を用いて遺伝子レベルでin vivoで決定
されたものである。酵素(エンザイモロジー)レベルで
のCrtZ, CrtW, BKTの機能の分析(in vitro分析)は、
本発明により始めて行われたものであり、酵素のKmやVm
ax等を決定することにより、各種カロテノイド基質の親
和性の差などが始めて明かにされた。
【0018】「カロテノイド生合成遺伝子を有する微生
物」としては、上記遺伝子を有するErwinia uredovor
aErwinia herbicolaAgrobacterium aurantiacumA
lcaligenes sp. strain PC-1、Haematococcus pluviali
sなどを用いることができるほか、上記遺伝子を導入し
た微生物を用いることもできる。微生物としては、大腸
菌が一般的であるが、これ以外でも酵母や動物細胞等、
種々の宿主ベクター計が確立されており、それらの系を
用いてもよい(たとえば、石田功、安東民衞 編、遺伝
子発現実験マニュアル、講談社, 1994 参照)。また、
遺伝子導入に用いるベクターは、本実施例では、pUC や
pBluescript ベクターを用いたが、pET ベクターやpGEX
ベクター等のベクターを用いることもできる(たとえ
ば、石田功、安東民衞 編、遺伝子発現実験マニュア
ル、講談社, 1994 参照)。
【0019】「微生物からの酵素液の抽出」は、常法に
従って行うことができ、特別の方法を用いる必要はな
い。「酵素液と基質とするカロテノイドの反応」は、基
質とするカロテノイドをクロロホルム、エタノール、又
は酢酸エチルに溶解させ、コール酸、デオキシコール酸
又はCHAPSを含む緩衝液中で行う。クロロホルム等
の有機溶媒の濃度が高いと酵素活性が阻害されるので、
酵素・基質混合液中のクロロホルム等の濃度(最終濃
度)は、0.6〜5%とするのが好ましい。また、コー
ル酸、デオキシコール酸又はCHAPSの濃度は、0.
01〜1%とするのが好ましい。
【0020】この方法を持ってすれば、最終産物のカロ
テノイドと共に、生合成中間体のカロテノイドも少量提
供することができる。たとえば、β-カロチンを基質と
して酵素法によりアスタキサンチンを作りたい場合、生
合成中間体のカロテノイドとして、少量のカンタキサン
チンやフェニコキサンチン等も得ることができる。この
ように生合成中間体が混ざるのはまさしく自然界の姿で
あり、化学合成法でアスタキサンチンを作る場合は不可
能であった。さらに、酵素法により合成したアスタキサ
ンチンの立体構造は広く天然に存在する3S,3'S型であ
り、化学合成法でこの立体構造のみを得ることは不可能
であった。したがって、本発明の方法を持ってすれば、
in vitro反応でありながら、天然型のカロテノイドを提
供することができるのである。
【0021】
【発明の実施の形態】
【0022】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明す
る。本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるも
のではない。
【0023】〔実施例1〕プラスミド 本研究に使用したプラスミドは、海洋細菌Agrobacteriu
m aurantiacumのオキシゲナーゼ(ケトラーゼ)遺伝子
であるcrtWを含むプラスミドpAK916(N. Misawa, S. Ka
jiwara, K. Kondo, A. Yokoyama, Y. Satomi, T. Sait
o, W. Miki, andT. Ohtani, Biochem. Biophy. Res. Co
mmun., 209, 867-876, 1995、または、三沢典彦, 近藤
恵二, 梶原将, 横山昭裕,「キサントフィルの合成に有
用なDNA鎖およびキサントフィルの製造法」出願番号 特
H06-235917, 出願日 1994年9月5日)、A.aurantiacum
ヒドロキシラーゼ遺伝子であるcrtZを含むプラスミドpA
K96NK(N. Misawa, Y. Satomi, K. Kondo, A. Yokoyam
a, S. Kajiwara, T. Saito,T. Ohtani, and W. Miki,
J. Bacteriol., 177, 6575-6584, 1995、または、三沢
典彦, 近藤恵二, 梶原将, 横山昭裕,「キサントフィル
の合成に有用なDNA鎖およびキサントフィルの製造法」
出願番号 特H06-235917, 出願日 1994年9月5日)、海洋
細菌Alcaligenes sp. strain PC-1 のオキシゲナーゼ
(ケトラーゼ)遺伝子であるcrtWを含むプラスミドpPC1
7-3(N. Misawa, S. Kajiwara, K. Kondo, A. Yokoyam
a, Y. Satomi, T. Saito, W. Miki, and T. Ohtani, Bi
ochem. Biophy. Res. Commun., 209, 867-876, 1995、
または、三沢典彦, 近藤恵二, 梶原将,横山昭裕,「キサ
ントフィルの合成に有用なDNA鎖およびキサントフィル
の製造法」出願番号 特H06-235917, 出願日 1994年9月5
日)、Alcaligenes sp. strain PC-1 のヒドロキシラー
ゼ遺伝子であるcrtZを含むプラスミドpPC13(三沢典彦,
近藤恵二, 梶原将, 横山昭裕,「キサントフィルの合成
に有用なDNA鎖およびキサントフィルの製造法」出願番
号 特H06-235917, 出願日 1994年9月5日)、緑藻Haemat
ococcus pluvialisのオキシゲナーゼ(ケトラーゼ)遺
伝子であるbktを含むプラスミドpUCBKT、及び、植物常
在細菌Erwinia uredovoraのヒドロキシラーゼ遺伝子で
あるcrtZを含むプラスミドpCRT-Zである。これらのプラ
スミドは、いずれも、大腸菌ベクターpUC(宝酒造から
購入)またはpBluescript II(Stratageneから購入)を
材料として用いており、各種カロテノイド遺伝子はベク
ター内のlacZ遺伝子のプロモーターの転写のリードスル
ーを受ける方向に挿入されている。
【0024】プラスミドpAK916、pAK96NK、pPC17-3、pP
C13の構造および作製法は前述した参考文献に詳細に記
述されている。プラスミドpUCBKTは、H. pluvialisbk
t遺伝子のcDNAを含むプラスミドpHP51(S. Kajiwara,
T. Kakizono, T. Saito, K.Kondo, T. Ohtani, N. Nish
io, S. Nagai, and N. Misawa, Plant Mol. Biol.,29,
343-352 )を鋳型として用いたPCR法により、BKTのN末
のDNA配列を改変した。すなわち、塩基番号264のATG
が、pUC19のHindIII部位の後、一塩基置いてすぐに続く
ようにデザインされた。このことにより、下記のよう
に、8個のアミノ酸配列からなるpUC19のlacZのリーダー
配列がBKTタンパク質に付いた融合タンパク質が合成さ
れる。
【0025】 pUC19 → --- ATG ACC ATG ATT ACG CCA AGC TTG ATG CCA TCC GAG TCG --- Met Thr Met Ile Thr Pro Ser Leu Met Pro Ser Glu Ser --- → BKT
【0026】プラスミドpCRT-Zは、プラスミドpCAR25
(N. Misawa, M. Nakagawa, K. Kobayashi, S. Yamano,
Y. Izawa, K. Nakamura, and K. Harashima, J. Bacte
riol.,172, 6704-6712, 1990)から単離した、E. uredo
voracrtZ遺伝子を含むSphI(5599) - EcoRI (6505) 断
片を、pUC18のEcoRI - SphI部位に挿入することにより
作製した。
【0027】〔実施例2〕培養条件 実施例1で示した各々のプラスミドを用いて大腸菌(Es
cherichia coli)JM109を形質転換したものを培養し、3
0〜50%のグリセリン懸濁後、-70〜-80℃のディープフ
リーザー内で菌株を保存した(グリセロール保存)。前
培養は、グリセロール保存したものから1白金耳を、15
0 μg/mlのアンピシリンを含む2 x YT培地(1.6% トリ
プトン、1% 酵母エキス、0.5% NaCl)5 mlに植菌し、
30℃で約12時間、170 rpmで回旋培養することにより行
った。本培養は、前培養液5 mlを、150 μg/mlのアンピ
シリンと0.1 mMのIPTGを含む2 x YT培地 500 ml(2 L
三角フラスコ中)に植菌し、28℃で、4〜5時間、200 rp
mで回旋培養することにより行った。この時、OD600 nm
は約1.5に達した。集菌は、4℃、6,000 gで10分間、遠
心分離することにより行った。菌体量は、湿重量で2〜3
gであった。
【0028】〔実施例3〕粗酵素液の調製 実施例2で得られた菌体は、氷中で、プロテアーゼカク
テル(phenylmethylsulfonylfluoride (PMSF) 0.1 mM、
Leupeptin 1μg/ml、Pepstatin 1 μg/ml、いずれもSi
gma製、x 1,000 保存液から希釈して用いる)、1 mM DT
T、5〜10% グリセロールを含む100 mM Tris HCl (pH8.
0) 緩衝液(再懸濁緩衝液)に懸濁した。1 g(湿重量)
の菌体あたり、1 mlの再懸濁緩衝液を加えた。4℃に放
置することにより、細胞懸濁液を均一にしてから、これ
を、内圧が500 psiの条件でフレンチプレスに通した。
次に、得られた懸濁液 1 ml あたり 10 mg/ml のDNase
2μlを加え、氷中で約30分間放置した。その間に、懸濁
液の粘度は低下した。このようにして得られた無細胞抽
出液は、そのまま、あるいは、10,000 g で5分間遠心分
離して細胞残さを除いてから、粗酵素抽出液(粗酵素
液)として使われた。通常は、調製したての新鮮な粗酵
素抽出液を用いて以後の実験を行ったが、-70℃〜-20℃
で保存することも可能であった。その際、酵素活性は元
の80%に低下した。
【0029】〔実施例4〕インキュベーションの条件 カロテノイドの基質のin vitro変換系は最終量がわずか
600 μlの反応液で行うことができた。そこでは、DTT
(1 mM)、デオキシコール酸 (0.1% w/v)、ATP (3mM)、Fe
SO4 (0.5 mM)、2-オキソグルタル酸 (0.5 mM)、アスコ
ルビン酸 (5 mM)、カタラーゼ (1 mg/ml) を含む0.4 M
Tris HCl (pH8.0) 緩衝液(反応緩衝液)(濃度はいず
れも最終濃度)が用いられた。この反応緩衝液は、100
倍濃度の反応緩衝液ストック(Tris HCl (pH8.0) のみ
0.4 M、-20℃で保存)と 0.4 M TrisHCl (pH8.0) を用
いて調製した。ATPとカタラーゼの添加は必ずしも必要
なかった。多量(たとえば 5 ml)の反応液を調製する
場合は、必要な溶液を少しずつ滴下するようにして加え
ている必要がある。典型的には、まず250 μlの反応緩
衝液をインキュベーションチューブ(たとえば Iwaki d
isposable culture tubes 16 x 100 mm, code 9834-161
0)に入れ、次に、350 μlの無細胞抽出液(粗酵素液、
全タンパク質量 1.9 mg/ml)を加え、混合させた。最後
に、クロロホルムに溶解させたカロテノイドの基質 5
μl を加え、すぐにボルテックスにかけ、混合させた。
インキュべーションは、暗黒下、28℃、120回転/分
で、約1時間行った。600 μlのメタノールを加えるこ
とにより反応をストップさせ、抽出を行うまで、−70℃
でインキュベーション混合液を保存した。
【0030】なお、反応緩衝液にFe2+、2-オキソグルタ
ル酸、アスコロビン酸を加えることは、3,3'-ヒドロキ
シラーゼ(A.aurantiacum, Alcaligenes PC-1, E.ured
ovoraのCrtZ)および4,4'-オキシゲナーゼ(ケトラー
ゼ)(A.aurantiacum, Alcaligenes PC-1 のCrtW, H.
pluvialisのBKT)の活性を効率的に引きだすのに必要で
あった。したがって、これらの酵素は鉄と分子酸素要求
性の酵素であることがわかる。したがって、ここで示し
た以外のカロテノイド生合成酵素を用いる場合は、F
e2+、2-オキソグルタル酸、アスコロビン酸の変わり
に、その酵素が必要とする補酵素等を用いればよい。
【0031】〔実施例5〕抽出と分析法 カロテノイドの基質や生成物は、インキュベーション混
合液に1.2 mlのクロロホルム(HPLCグレード)を加え、
ボルテックスにかけ、2,500 gで5 分間遠心分離するこ
とにより抽出した。カロテノイドを含む上層(クロロホ
ルム層)を別の容器に移した後、1.2 mlのクロロホルム
で下層(水/メタノール層)の抽出をさらに行い、先の
容器に加えた。このクロロホルム層を窒素下で乾燥させ
た後、窒素ガスを充填した状態で、分析を行うまで、−
70℃、暗黒下で保存した。
【0032】上記のサンプル(in vitro産物)は、HPLC
で分離し、オンラインのフォトダイオードアレイ検出器
(PDS)でモニターすることにより分析した。装置は、W
aters社の自動グラジエントコントローラー、2台の510
ポンプ、996PDA、ミレニアム2010Jシステムからなっ
た。日常最もよく使った条件は、C18カラム(3.9 x 300
mm; Nova-pak HR 6 μ C18; waters)を用い、アセトニ
トリル/メタノール/2-プロパノール(90/6/4)で展
開した。カロテノイドの同定は、その保持時間と可視ス
ペクトルを標品と比較することにより行った。その結果
を表1に示した。標品は、既報の方法(N. Misawa, Y.
Satomi, K. Kondo, A. Yokoyama, S. Kajiwara, T. Sai
to, T. Ohtani, and W. Miki, J. Bacteriol., 177, 65
75-6584, 1995)で、組換え大腸菌や海洋細菌Agrobacte
rium aurantiacumから抽出し、精製することにより得ら
れており、マス、NMR、CD等のスペクトルにより確認さ
れたものである。ただし、カンタキサンチンは、Carl R
oth社より購入したものを用いた。これらの標品は、ま
た、in vitro変換のためのカロテノイドの基質としても
使われた。
【0033】
【表1】
【0034】〔実施例6〕カロテノイドの基質を溶かす
溶媒の種類の検討 実施例4におけるインキュベーションの条件の中で、酵
素液に加える前に、カロテノイドの基質を前もってクロ
ロホルムに溶かしたが、それは以下の検討に基づいてい
る。
【0035】カロテノイドの基質に水を加えたり、その
ままの乾燥させた状態で、カロテノイドの基質を酵素液
に加えても反応は全く進まなかった。そこで、前もっ
て、アセトン、メタノール、ジエチルエーテル、クロロ
ホルム、エタノール、酢酸エチルという溶媒に溶かして
から、酵素液に加えてみた。その結果を表2に示す。す
べての溶媒で反応がある程度進むことがわかった。クロ
ロフォルム、エタノール、酢酸エチルが比較的高い値を
示したが、その中でも、クロロホルムが一番優れている
ことがわかった。
【0036】
【表2】
【0037】以上の結果は、以下のような反応条件で得
られた。A. aurantiacum CrtZを含むプラスミドpAK96NK
を有する大腸菌から調製した酵素液に2 μgのカンタキ
サンチン(Carl Roth製)を加えて反応を行った。総蛋
白量は350 μg/インキュベーション液、溶媒量はイン
キュベーション液の1%であった。同様な結果が、A. a
urantiacum CrtWを含む酵素液(pAK916を含む大腸菌か
ら調製)にβ-カロチン(Sigma製)を加えた時、A. aur
antiacum CrtZ(pAK96NKを含む大腸菌から調製)を含む
酵素液にβ-カロチンを加えた時、A. aurantiacum CrtW
(pAK916を含む大腸菌から調製)を含む酵素液にゼアキ
サンチン(組換え大腸菌から精製)を加えた時に得られ
た。
【0038】〔実施例7〕カロテノイド基質を溶かす溶
媒量の検討 実施例4におけるインキュベーションの条件の中で、酵
素液に加える前に、カロテノイドの基質を前もって5 μ
l(インキュベーション混合液全体量の0.8%に相当)の
クロロホルムに溶かしたが、それは以下の検討に基づい
ている。
【0039】A. aurantiacumのCrtZとCrtW活性を指標と
して、前もって基質を溶かすのに最適な溶媒量の検討を
行った。その結果を表3に示す。クロロホルムの濃度が
インキュベーション混合液全体量の10%および21%に達
した時 、それぞれ、CrtZの活性(3,,3'-ヒドロキシラ
ーゼ)およびCrtWの活性(4,,4'-オキシゲナーゼ)は検
出されなくなった。最適な溶媒量は、CrtZ、CrtWとも
に、0.8%であった。なお、これより少ない溶媒量で
は、カロテノイドの基質を十分に溶かすことはできなか
った。
【0040】
【表3】
【0041】〔実施例8〕界面活性剤の検討 実施例4におけるインキュベーションの条件の中で、界
面活性剤として、0.1%(w/v)のデオキシコール酸を用
いているが、それは以下の検討に基づいている。
【0042】界面活性剤として、Tween 60, Triton X-1
00, NP40, デオキシコール酸(deoxycholic acid, Sigm
a)を用い、濃度を0.01%〜1.0%まで変えて、最適条件
の検討を行った。その結果、いずれの界面活性剤でも、
0.1%(w/v)が最も優れていた。界面活性剤の中では、
デオキシコール酸が最も優れており、A. aurantiacum
CrtZ(pAK96NKを含む大腸菌から調製)およびCrtW(pAK
916を含む大腸菌から調製)を用いた時、両者ともに、
カロテノイドの基質(それぞれ、カンタキサンチン及び
β-カロチン)から産物(それぞれ、アスタキサンチン
及びカンタキサンチン)へ50%以上の変換率を示した。
【0043】そこで、デオキシコール酸とよく似た構造
を持つ界面活性剤であるコール酸(cholic acid, Sigm
a)とCHAPS(Sigma)を用いて、同様の実験を行ったと
ころ、両者とも、0.1%で最大の変換効率を示した。コ
ール酸は、デオキシコール酸と同様の効果を示したが、
CHAPSはデオキシコール酸より劣っていた。したがっ
て、デオキシコール酸の変わりにコール酸を用いること
もできる。
【0044】〔実施例9〕タンパク質量の検討A. aurantiacum のCrtZとCrtW活性を指標として、最適な
タンパク質量の検討を行った。CrtZ、CrtWともに、タン
パク質量が増えるにしたがって、活性が増大したが、2
μgのβ-カロチンを基質として用いた場合、CrtZおよび
CrtWタンパク質量がそれぞれ、300 μgおよび150 μgに
達した時、飽和に達した。
【0045】〔実施例10〕種々のカロテノイド基質を
用いた3,3'-ヒドロキシラーゼ活性の検討 種々のカロテノイドがA. aurantiacumのCrtZ(pAK96NK
を有する大腸菌から調製)の基質として認識されるかど
うかを調べた。基質として、フェニコキサンチン及びカ
ンタキサンチンを用いた場合は、効率よく、アスタキサ
ンチン(後者の場合はフェニコキサンチンを経て)に変
換された。なお、ここで合成されたアスタキサンチンの
立体構造は、3S,3'S型であることがCDにより確認され
た。基質として、3-ヒドロキシエキネノン、3'-ヒドロ
キシエキネノンを用いた場合は、効率よく、4-ケトゼア
キサンチンに変換された。さらに、基質として、エキネ
ノンを用いた場合は、3'-ヒドロキシエキネノン、3-ヒ
ドロキシエキネノンを経て、効率よく4-ケトゼアキサン
チンに変換された。変換効率は、いずれの場合も約50%
であった。基質として、β-カロチン(all-trans型, Si
gma製)を用いた場合は、β-クリプトキサンチンを経て
ゼアキサンチンに変換された。なお、生合成中間体を経
る場合はいずれの場合も、最終産物以外に、多少の生合
成中間体の蓄積が認められた。たとえば、基質としてカ
ンタキサンチンを用いた場合は、最終産物のアスタキサ
ンチン(80%)とともに、フェニコキサンチン(20%)
の蓄積が認められた。以上の実験により明かにされたA.
aurantiacumのCrtZの速度論的パラメーターを表4に示
す。
【0046】
【表4】
【0047】以上の結果より、A. aurantiacumのCrtZの
最適な基質は以下の順になる。3-ヒドロキシエキネノン
>カンタキサンチン>フェニコキサンチン=3'-ヒドロ
キシエキネノン>エキネノン>>β-カロチン。
【0048】〔実施例11〕種々のカロテノイド基質を
用いた4,4'-オキシゲナーゼ活性の検討 種々のカロテノイドがA. aurantiacumのCrtW(pAK916を
有する大腸菌から調製)の基質として認識されるかどう
かを調べた。基質として、4-ケトゼアキサンチン及びゼ
アキサンチンを用いた場合は、アスタキサンチン(後者
の場合は4-ケトゼアキサンチンを経て)に変換された。
基質として、3-ヒドロキシエキネノン、3'-ヒドロキシ
エキネノンを用いた場合は、フェニコキサンチンに変換
された。基質として、エキネノンを用いた場合は、効率
よく(変換効率は50%位)、カンタキサンチンに変換さ
れた。基質として、β-カロチン(all-trans型, Sigma
製)を用いた場合は、効率よく(変換効率は50%以
上)、エキネノンを経てカンタキサンチンに変換され
た。なお、生合成中間体を経る場合はいずれの場合も、
最終産物以外に、多少の生合成中間体の蓄積が認められ
た。たとえば、基質としてβ-カロチンを用いた場合
は、最終産物のカンタキサンチン(90%)とともに、エ
キネノン(10%)の蓄積が認められた。以上の実験によ
り明かにされたA. aurantiacumのCrtWの速度論的パラメ
ーターを表5に示す。
【0049】
【表5】
【0050】以上の結果より、A. aurantiacumのCrtWの
最適な基質は以下のようになる。β-カロチン>>エキ
ネノン>4-ケトゼアキサンチン=3-ヒドロキシエキネノ
ン>>ゼアキサンチン。
【0051】以上の知見により、使う基質と作りたい産
物が決まれば、A. aurantiacumのCrtZ, CrtWを用いる場
合、効率的な反応を選択することが可能となる。たとえ
ば、安価なβ-カロチンを基質として用いて、産業上有
用なカロテノイドであるアスタキサンチンを作りたい場
合は、β-カロチンにまずCrtWを作用させ、カンタキサ
ンチンに変換してから、次にCrtZを作用させ、アスタキ
サンチンを合成するのが効率的である。
【0052】〔実施例12〕A. aurantiacum以外のカロ
テノイド生合成酵素の検討 実施例6〜11では、海洋細菌A. aurantiacumのCrtZま
たはCrtWを用いたが、それ以外の生物由来のカロテノイ
ド生合成酵素についても同様に検討を行った。すなわ
ち、海洋細菌Alcaligenes sp. strain PC-1由来のCrtZ
(プラスミドpPC13を有する大腸菌から調製)およびCrt
W(pPC17-3を有する大腸菌から調製)、植物常在細菌Er
winia uredovora由来のCrtZ(pCRT-Zを有する大腸菌か
ら調製)、緑藻Haematococcus pluvialis由来のBKT(pU
CBKTを有する大腸菌から調製)である。いずれの酵素
も、実施例2〜5に示した方法で、A. aurantiacumのCr
tZまたはCrtWと同様に効率的に機能することがわかっ
た。ただし、表6に示したように、4,4'-オキシゲナー
ゼであるAlcaligenes sp.のCrtW、H. pluvialis のBKT
の場合は、基質との親和性においてA. aurantiacumのCr
tWとほぼ同じであったが、3,3'-ヒドロキシラーゼの場
合であるAlcaligenes sp.のCrtZ、E. uredovoraのCrt
Z、A. aurantiacumのCrtZ間には、基質との親和性にお
いて差が見られた。すなわち、Alcaligenes sp.のCrtZ
は、同じ海洋細菌であるA. aurantiacumのCrtZとほぼ同
じ基質の親和性を示したが、E. uredovoraのCrtZは、海
洋細菌のCrtZと違って、カンタキサンチンよりβ-カロ
チンに強い基質親和性を示した。したがって、たとえ
ば、安価なβ-カロチンを基質として用いて、有用なカ
ロテノイドであるゼアキサンチンを作りたい場合は、海
洋細菌のCrtZよりErwinia由来のCrtZの方が効率的であ
る。
【0053】
【表6】
【0054】
【発明の効果】本発明は、カロテノイドの新規な製造法
及びカロテノイド生合成酵素の新規な活性測定法を提供
する。本発明の製造法は、酵素を用いてin vitroで行う
ので、有用なカロテノイドを容易かつ安価に製造するこ
とができる。また、本発明の活性測定法は、従来活性の
測定が困難であったカロテノイド生合成酵素の活性測定
を容易にし、酵素活性を指標として目的酵素を精製でき
るようにする。
【図面の簡単な説明】
【図1】植物常在細菌Erwinia uredovoraのカロテノイ
ド生合成経路と遺伝子産物(酵素)の機能を示す図であ
る。
【図2】海洋細菌Agrobacterium aurantiacumのカロテ
ノイド生合成経路 と遺伝子産物(酵素)の機能を示す
図である。
【図3】海洋細菌A. aurantiacum (Aa)、Alcaligenes
sp. strain PC-1(Al)、E. uredovora(Eu)、Erwini
a herbicola(Eh)のCrtZのアミノ酸配列と相同性を示
す図である。
【図4】海洋細菌A. aurantiacum (Aa)、Alcaligenes
sp. strain PC-1(Al)のCrtW、緑藻Haematococcus pl
uvialis(Hp)のBKTのアミノ酸配列と相同性を示す図で
ある。4ケ所の高相同性領域が下線で示されている。
フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 (C12N 9/00 C12R 1:19) (C12N 1/21 C12R 1:19)

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 カロテノイド生合成遺伝子を有する微生
    物から抽出した酵素液と、基質とするカロテノイドを反
    応させ、反応後の溶液から生成するカロテノイドを採取
    するカロテノイドの製造法であって、1)基質とするカ
    ロテノイドをクロロホルム、エタノール、又は酢酸エチ
    ルに溶解させ、2)クロロホルム、エタノール又は酢酸
    エチルの最終濃度を0.6〜5%とし、3)酵素液と基
    質とするカテノイドをコール酸、デオキシコール酸、又
    はCHAPSを含む緩衝液中で反応させ、4)コール
    酸、デオキシコール酸、又はCHAPSの最終濃度を
    0.01〜1%とすることを特徴とするカロテノイドの
    製造法。
  2. 【請求項2】 カロテノイド生合成遺伝子を有する微生
    物から抽出した酵素液と、基質とするカロテノイドを反
    応させ、反応後の溶液から生成するカロテノイド量を定
    量するカロテノイド生合成酵素の活性測定法であって、
    1)基質とするカロテノイドをクロロホルム、エタノー
    ル、又は酢酸エチルに溶解させ、2)クロロホルム、エ
    タノール又は酢酸エチルの最終濃度を0.6〜5%と
    し、3)酵素液と基質とするカテノイドをコール酸、デ
    オキシコール酸、又はCHAPSを含む緩衝液中で反応
    させ、4)コール酸、デオキシコール酸、又はCHAP
    Sの最終濃度を0.01〜1%とすることを特徴とする
    カロテノイド生合成酵素の活性測定法。
  3. 【請求項3】 カロテノイド生合成遺伝子が、crtZcr
    tW、もしくは、bkt遺伝子、またはそれらとハイブリダ
    イズする遺伝子である請求項1または請求項2に記載の
    方法。
  4. 【請求項4】 微生物が、大腸菌である請求項1または
    請求項2に記載の方法。
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