JPH0999A - イネ科植物およびイネ科植物への共生菌の導入方法 - Google Patents

イネ科植物およびイネ科植物への共生菌の導入方法

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JPH0999A
JPH0999A JP7172906A JP17290695A JPH0999A JP H0999 A JPH0999 A JP H0999A JP 7172906 A JP7172906 A JP 7172906A JP 17290695 A JP17290695 A JP 17290695A JP H0999 A JPH0999 A JP H0999A
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Japan
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plant
endophyte
symbiotic
artificially
symbiotic bacterium
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JP7172906A
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Naoya Hiruma
直也 比留間
Satoshi Shinozaki
聡 篠崎
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Mayekawa Manufacturing Co
Original Assignee
Mayekawa Manufacturing Co
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  • Breeding Of Plants And Reproduction By Means Of Culturing (AREA)
  • Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)

Abstract

(57)【要約】 [目的] 形質が改善されたイネ科植物を提供すること
を目的とする。 [構成] 耐虫性インドールアルカロイドを生産する共
生菌から成るエンドファイトをイネ科植物に人工接種し
て人為的に導入し、接種したエンドファイトをイネ科植
物に共生させて感染させるようにしたものである。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は共生菌を人為的に導入し
て成るイネ科植物、およびイネ科植物への共生菌の導入
方法に関する。なおここで共生菌は糸状菌から成るもの
であって、以降エンドファイトと称する。
【0002】
【従来の技術】イネ科植物について、従来から行なわれ
ている育種、栽培方法としては、人工交配法、選抜法、
突然変異法、細胞融合法、遺伝子導入法等が存在する。
近年のバイオテクノロジーの進展によって、これまで1
0年以上要した育種期間は数年に短縮されてきている。
とくに形質転換技術である遺伝子導入法は、アグロバク
テリウムによる方法、エレクトロポレーション法、パー
ティクルガン法等が存在し、多くの作物への応用が実施
されている。
【0003】しかし主要穀物が含まれるイネ科において
は、上記の遺伝子導入法は効率が非常に低いことが指摘
されている。アグロバクテリウム法では、イネ科植物へ
のアグロバクテリウムの感染が困難なために、遺伝子導
入が非常に難しい。またエレクトロポレーション法で
は、イネ科植物のプロトプラストからの再生系の開発が
必須であり、再生が可能であったとしても、培養変異等
によって、本来の植物の形質を損うことが知られてい
る。
【0004】またパーティクルガン法は、遺伝子をラン
ダムに植物体または培養物に導入するために、与えられ
た植物がキメラになる場合が多いことが知られている。
【0005】イネ科植物において、細胞融合や遺伝子導
入を含む細胞育種法は、煩雑な操作を必要とし、その効
率も低いために、実用レベルでの開発に成功した例は非
常に少ない。
【0006】ところで自然界に存在する野生の植物の中
には、内部共生菌である糸状菌、すなわちエンドファイ
トが共生している植物が存在する。植物体の組織中に、
とくに細胞間隙と呼ばれる細胞と細胞との間の間隙で生
育している。
【0007】このようなエンドファイトは共生する糸状
菌であって、宿主の植物に対して悪影響を及ぼさないば
かりか、宿主植物に対して有用な物質を提供し、環境ス
トレスに対して抵抗性を有する植物を提供するこに貢献
している。
【0008】すなわちエンドファイトは共生している植
物の耐虫性(Siegelら、1987 Ann.Re
v.Phytopathol、25:293−31
5)、耐病性(Gwinn and Gavin、19
92 Plant Disease 76:911−9
14)、環境ストレス(乾燥等)耐性(Arachev
altaら、1989 Agron. J. 81:8
3−90)、生長促進(Latchら、1985 N.
Z.J. Agric. Res. 28:165−1
68)等を向上させることが公知となっている。とくに
エンドファイトが感染したペレニアルライグラスにおい
ては、このエンドファイトが生産する忌避物質やアルカ
ロイドによって耐虫性が向上することが知られている。
【0009】またニュージーランドのライチ(Latc
h)らは、ペレニアルライグラスのエンドファイトを収
集調査し、家畜に対して毒性が少なく耐虫性に優れたエ
ンドセーフと呼ばれているエンドファイトの探索を試み
ている。
【0010】しかしこのようなエンドファイトが共生し
ている多くの植物は、有用性に乏しい野生植物であっ
て、エンドファイトの有効性を有用なイネ科植物に導入
する必要性が生じている。そこで主要牧草であるペレニ
アルライグラスへのエンドファイトの導入がこれまで試
みられてきた。その技術は人工交配法と人工接種法とに
大別される。
【0011】人工交配法は、エンドファイトに感染して
いる植物を母親として有用形質を花粉によって導入する
方法であるが、従来の方法においては交配の可能な種
間、品質間の導入に限定されている。また人工接種法で
は、植物体や培養組織に分離培養したエンドファイトを
接種感染させる方法である。
【0012】人工接種法は、人工交配法と比較すると、
導入の範囲が拡大されるが、しかしエンドファイトの栽
培法、接種時の条件、植物体の条件等の手法的な問題か
ら、ペレニアルライグラスに限定されていた。また感染
効率を向上させるために接種する植物体側の組織にカル
スを利用する方法が報告されている。この手法によれ
ば、カルスからの植物体の再生系の開発が要求されるた
めに、やはりペレニアルライグラスへの導入例に止まっ
ている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】従来の細胞育種法にお
いては、煩雑な操作と熟練とを要する一方、形質転換や
細胞融合によれば、培養変異等の理由によって、導入形
質または導入形質以外の形質に影響を及ぼすために、実
用化が困難であった。
【0014】また遺伝子導入法において、遺伝子導入に
際し、植物の形質や形態に及ぼす遺伝子が解明されてい
ない場合には、それらの形質を導入することが不可能で
あった。
【0015】とくに環境ストレス等の複雑な要因に関連
する形質は、遺伝子導入法等の手法では、導入すること
ができなかった。また細胞育種法等によって作出された
植物は、多くの場合に種子稔性の低下が認められてい
る。これはイネ科植物において、種子稔性の低下が収量
の低下を招くために致命的な欠陥になる。
【0016】このような現状に鑑みて、エンドファイト
を利用した育種法、あるいは形質の改善は、上記の問題
を解決するための全く新しい手法である。
【0017】エンドファイトの植物への導入において、
人工交配による方法では、宿主の植物が交配可能な範囲
に限定され、一般的には種内の導入に止まざるを得な
い。またエンドファイト側の親(母親)の不要な形質が
後代に導入されるために、必ずしも有用な植物になると
は限らない。
【0018】また人工接種法においては、エンドファイ
トの探索、培養系の検討等から、ペレニアルライグラス
に限定されており、他の有用なイネ科植物への応用が全
くなされていない。さらにカルス接種法においては、導
入植物の再生系の開発が不可欠である。また接種時にお
いても、エンドファイトの感染効率を向上させる接種条
件が開発されていない。
【0019】エンドファイトの種類において、現在有用
なエンドファイトは、ペレニアルライグラス、トールフ
ェスク、メドウフェスクからしか探索されておらず、導
入の大きな障害となっている。とくにこれらのエンドフ
ァイトは外来の種であり、日本に在来の植物から、日本
の環境に適応したエンドファイトはこれまで発見されて
いない。
【0020】
【発明の目的】本発明はエンドファイトに感染していな
いイネ科植物にエンドファイト、とくに耐虫性インドー
ルアルカロイドを生産するエンドファイトを人為的に導
入して成るイネ科植物、および該エンドファイトを人工
的にイネ科植物に導入する方法を提供することを目的と
する。
【0021】
【課題を解決するための手段】本発明は、糸状菌から成
る共生菌、すなわちエンドファイトに感染しておらず、
あるいはまた感染されたエンドファイトが除去された植
物にエンドファイトを人為的に導入して成るイネ科植物
に関するものである。ここでイネ科植物に人為的に導入
されるエンドファイトは耐虫性インドールアルカロイド
を生産する共生菌である。なお耐虫性とともに、耐病
性、乾燥等の環境ストレス耐性、生長促進性等の性質を
有するエンドファイトであることを妨げない。
【0022】このようなエンドファイトは、自然界に生
育する植物中に共生するエンドファイトを探索して発見
するとともに、少なくとも耐虫性の検定を行ない、検定
によって耐虫性が確認されたものを人為的に導入する。
エンドファイトが存在する植物は、自然界に、カヤツリ
グサ科、イグサ科等に存在することが知られている。
【0023】発明者らによって探索培養されたエンドフ
ァイトであって、Acremonium sp. Po
−001、Acremonium sp. M−00
4、またはAcremonium sp. M−002
(生工研寄託菌FERM P−14798、FERM
P−14799、およびFERM P−14800)は
何れも耐虫性インドールアルカロイドを生産する共生菌
であって、イネ科植物に導入して共生させることができ
るエンドファイトである。
【0024】またこのようなエンドファイトが導入され
る植物として、イネ科植物であってしかも有用な植物で
ある次のような植物であってよい。すなわち、Agro
pyron、Agrostis、Andropogo
n、Anthoxanthum、Arrhenathe
rum、Avena、Brachypodium、Br
omus、Chloris、Cynodon、Dact
ylis、Elymus、Eragrostis、Gl
yceria、Hierochloe、Hordeu
m、Oryza、Panicum、Paspalum、
Phalaris、Phleum、Poa、Setar
ia、Sorghum、Triticum、Zea、Z
oysiaの何れかの属の植物であってよい。すなわち
本発明に係るイネ科植物はこのような属に属するイネ科
の植物であって、エンドファイトが人為的に導入された
イネ科植物に関するものである。ここではその後代も含
まれるものである。
【0025】このようなエンドファイトが人為的に導入
されるイネ科植物に既にエンドファイトが共生している
場合には、そのエンドファイトを除去するとともに、そ
の後に上記の耐虫性インドールアルカロイドを生産する
エンドファイト導入させることになる。
【0026】次にイネ科植物への共生菌、すなわちエン
ドファイトの導入方法について説明すると、この方法は
自然界等に存在する植物に共生しているエンドファイト
を分離して人工増殖を行ない、人工増殖されたエンドフ
ァイトをイネ科植物に人工接種する。そして接種された
エンドファイトをイネ科植物に共生させて感染させるこ
とによりイネ科植物へのエンドファイトの導入が行なわ
れる。
【0027】ここでエンドファイトを人工接種する工程
において、とくにエンドファイトの分生子を用いるよう
にしてよい。また生工研に寄託されている上記のエンド
ファイトの何れかを人工接種するようにしてよい。また
イネ科植物に対するエンドファイトの導入は、必ずしも
1種類のエンドファイトである必要はなく、2種類以上
のエンドファイトを導入してもよい。
【0028】このようなエンドファイトの導入方法をさ
らに詳細に説明する。
【0029】段階1 エンドファイトの存在の有無と
分離工程 (1)エンドファイトの検出工程 探索等によって採取した植物の葉および葉鞘部分の表皮
を剥ぎ、アニリンブリー染色液にて染色し、組織内のエ
ンドファイトを光学顕微鏡下にて検出し、エンドファイ
トの存在の有無を確認する。
【0030】(2)エンドファイトの分離・培養工程 エンドファイトが確認された植物片を滅菌処理後、エン
ドファイト分離培地へ置床し、数ケ月間培養を行なう。
【0031】(3)エンドファイトの分離工程 分離されたエンドファイトを宿主によって分類する。あ
るいはまた平板培養法を用いて環境条件を変化させた状
態で培養を行ない、形態的な部分で分類する。また液体
培養を行ない、形態的な部分で分類する。またスライド
カルチャーを行ない、形態的な部分で分類する。またP
CR法を用いて、DNAレベルでの分類を行なう。
【0032】段階2 アルカロイドの分析工程 菌単体もしくは植物体との共生下において、エンドファ
イトから生産されるアルカロイドを分析し、とくに耐虫
性の確認を行なう。なおこのときに併せて耐病性、環境
ストレス耐性、生長促進性等についての分析を行なうこ
とを妨げない。
【0033】段階3 エンドファイトの導入工程 分離したエンドファイトを目的あるいは対象とするイネ
科植物へ人工的に導入する。導入に当って対象となる植
物に既にエンドファイトが存在する場合には、除去処理
を予め行なう。エンドファイトの導入方法は、植物体に
直接接種する方法と、植物体を1度カルス等の未分化の
細胞にした後に接種し、カルスから植物体を再生させる
方法がある。これらはエンドファイトの導入の対象とな
る植物の種類に応じて任意に選択されてよい。
【0034】段階4 導入確認工程 エンドファイトを導入した個体は、外植片を染色液で染
色し、光学顕微鏡下において顕境し、さらに酵素免疫測
定法を用いてエンドファイトの存在あるいは感染の有無
を検出する。
【0035】段階5 エンドファイトおよびエンドフ
ァイト導入植物の検定工程 (1)拮抗作用検定工程 in Vitroで対象となる病原菌に対して平板培養
法にて対峙培養を行なう。
【0036】(2)耐虫性検定工程 エンドファイトを導入して共生させた植物と、エンドフ
ァイトが存在しないかエンドファイトが除去された植物
等を用い、虫害の対象となる昆虫を飼育し、人工的に食
害試験を行なう。同時に自然発生による食害の調査をも
行なう。
【0037】(3)耐病性検定工程 エンドファイトを導入した植物と、エンドファイトが存
在しないか除去された植物とを用い、病害の対象となる
病原菌を用い、2種類の植物に対して人為的に病原菌の
接種を行なって発病の程度により、病害抵抗性検定を行
なう。同時に自然発生による病害について調査を行な
う。
【0038】(4)環境ストレス抵抗性検定工程 エンドファイトを導入した植物とエンドファイトが存在
しないかエンドファイトを除去した植物とを用い、人工
的に環境条件を変化させ、乾燥などの環境ストレスに対
する抵抗性を調査する。
【0039】(5)線虫抵抗性検定工程 エンドファイトを導入した植物と、エンドファイトが存
在しないかエンドファイトを除去した植物を用い、線虫
による被害の程度を調査する。
【0040】(6)生育量調査工程 エンドファイトを導入した植物とエンドファイトが存在
しないかエンドファイトを除去した植物を用い、同一環
境条件下での生育量の差を測定する。
【0041】(7)後代を用いた検定工程 エンドファイトが存在する種子を採集し、発芽させ、エ
ンドファイトの存在を確認後、上述の各検定を行なう。
【0042】
【実施例】
(1)エンドファイトの検出 野生イネ科植物であって自生するAgrostis属、
Poa属、Phleum pratenseの種子を播
種し、発芽120日以上経過した植物体から次の方法で
エンドファイトの検出を行なった。
【0043】上記のそれぞれの植物の葉および葉鞘部分
の表皮を剥ぎ、光学顕微鏡下において組織内のエンドフ
ァイトの有無の確認を行なった。この確認はスライドガ
ラスに、乳酸5ml、グリセリン10ml、水5ml、
アニリンブルー水溶液0.02gの染色液を数滴滴下す
る。そして葉鞘部分を剥がし、裏面表皮をピンセットで
葉脈方向に向って剥いだ。剥ぎ取った表皮をスライドガ
ラスの上に置き、カバーガラスで覆い、ガスバーナの炎
で沸騰させ、光学顕微鏡下において組織を観察した。こ
の条件でエンドファイトが存在すれば菌糸が青色に呈色
するために、これによってエンドファイトの検出が行な
われる。
【0044】図1に示す写真はAgrostis属に共
生するエンドファイトであって後述するAcremon
ium sp. M−004(寄託番号FERM P−
14799)を光学顕微鏡によって拡大して観察した写
真である。
【0045】(2)エンドファイトの分離 上記の(1)項でエンドファイトが確認されたAgro
stis属、Poa属、Phleum pratens
eの植物体から以下の方法でエンドファイトの分離を行
なった。
【0046】植物体からのエンドファイトの分離は、葉
および葉鞘部分を水洗後、70%エタノール水溶液に1
0秒間浸漬し、次に2.5%次亜塩素酸ナトリウム水溶
液に10分間浸漬した後、滅菌水で3回洗浄し、エンド
ファイト分離培地上に置床し、25℃暗条件下で培養を
行なった。
【0047】分離培地は、pH5.6に調整したPDA
(ポテト デキストロース アガー)培地を121℃、
15分で滅菌後、さらに必要であれば100mg/lの
カナマイシン硫酸塩を添加し、直径9cmのプラスチッ
クシャーレに20mlずつ分注して使用した。
【0048】置床後約3〜8週間後に外植片から菌糸が
分離され、形成されたコロニーを直径が5mmのコルク
ボーラにて取出し、同PDA培地に移植して増殖を行な
った。
【0049】(3)平板培養法による菌叢でのエンドフ
ァイトの分類同定 PDA培地へ移植した菌糸は、25℃の暗条件下におい
て培養し、形成される菌叢を調査した。調査の結果、A
grostis属より分離したエンドファイトは形成さ
れた菌叢から3種類のタイプに分類された。すなわち表
面が白色でわた状のコロニーがドーム状に隆起していく
タイプ(001)、中央が褐色の粘土状で、外周が白色
でわた状のコロニーで培地中に淡白色の物質を拡散しな
がら増殖し、3種類の中でも増殖が非常に遅いタイプ
(002)、さらに前者の中で白色・わた状のコロニー
が初めややドーム状に隆起した後、偏平に広がっていく
タイプ(004)の3種類であった。
【0050】これらの内PCRを用いたDNAの分析結
果から、001と004は同一のものと判断し、Agr
ostis属からは2種類のエンドファイトが分離され
た。
【0051】Poa属からは1種類のエンドファイトが
分離された。培地上での菌叢は、わた状で黄白色のコロ
ニーを形成していた。
【0052】Phleum pratenseからは1
種類のエンドファイトEpichloё typhin
a(以下E.typhinaという)が分離された。菌
叢は表面が白色で、菌糸は一部束になり、中央からS字
を描くように増殖し、分離されたエンドファイトの中で
最も増殖が良好であった。
【0053】これらの内Agrostis属より分離し
た002、004、Poa属より分離したエンドファイ
トを工業技術院生命工学工業技術研究所へ寄託を行なっ
た。菌の表示および受託番号は以下に示す通りである。
【0054】Agrostis属より分離したエンドフ
ァイト002 Acremonium sp. M−0
02 FERM P−14800 Agrostis属より分離したエンドファイト004
Acremonium sp. M−004 FER
M P−14799 Poa属より分離したエンドファイト Acremon
ium sp.Po−001 FERM P−1479
8 (4)温度による増殖の差 寄託を行なった上記のエンドファイトおよびE.typ
hinaを25℃の暗条件下のPDA培地で2ケ月間培
養後、コロニーを直径が5mmのコルクボーラで取出
し、PDA培地およびCMA(コーンミールアガー)培
地へ移植し、5℃、10℃、15℃、20℃、25℃、
および30℃の温度条件下でそれぞれ2ケ月間培養し、
温度差による菌叢の変化を調査した。なお条件は総て暗
条件下において行なった。
【0055】この結果、総てのエンドファイトは25℃
で最も良好な増殖を示し、30℃の高温下でも比較的良
好な増殖を示した。また5℃以下ではコロニーはほとん
ど形成されなかった。
【0056】(5)液体増殖培養 FERM P−14798、FERM P−1479
9、FERM P−14800、E.typhinaを
25℃暗条件下においてPDA培地で2ケ月間培養後、
コロニーを直径が5mmのコルクボーラで取出し、30
0mlの振とうフラスコにPD(ポテト デキストロー
ス ブロース)培地を100ml入れ、121℃で15
分間滅菌したものに各フラスコに1個ずつ入れ、25℃
で150r.p.m.の往復振とうを行なった。
【0057】この結果総ての菌は1ケ月間でフラスコ一
杯に増殖した。さらにここから1mlずつ取出し、フレ
ッシュなPD培地へ継代し、同条件で培養したところ、
FERM P−14800で培養4日目から分生子を形
成し、その形成量は5〜10日でピークに達した。
【0058】(6)スライドカルチャーによる菌糸の状
態 スライドガラス上に厚さが2〜3mmのPDA培地を載
せ、その上で菌糸を増殖させて菌糸の形態と分生子の形
成を調査した。なおこの培養は25℃、暗条件下におい
て行なった。
【0059】この結果FERM P−14798、FE
RM P−14799、E.typhinaのエンドフ
ァイトの菌糸は皆ほぼ直線状に伸長し、しばしば束状集
塊を形成しながら増殖するのが確認された。図2に示す
写真はPDA培地上で増殖されたFERM P−147
99の菌糸の顕微鏡写真である。これに対してFERM
P−14800のエンドファイトは、菌糸が激しく波
状にうねりながら伸長し、しばしば束状集塊を形成し、
さらにはそれらがS字状に描くように増殖するのが確認
された。
【0060】菌糸は総て無色であって、幅が1〜2μm
で総てに隔壁が観察された。分生子は、総てのエンドフ
ァイトで容易に形成することが可能であった。
【0061】分生子は菌糸の先端あるいは側面より直立
した単生のフィアライドの先端に形成され、ほとんどが
単生の分生子であった。図3に示す写真はPDA培地上
で形成されたFERM P−14799の菌糸の分生子
の顕微鏡写真である。
【0062】分生子の色は総て無色で、細胞数も1細胞
性であった。分生子の形状は、E.typhinaでや
や楕円形のものが観察されたものの、ほとんどが腎臓形
の形状をなし、大きさは3〜8×1〜3μmであった。
また形成されたフィアライドは総て円筒形で先端に行く
に従って細くなり、隔壁により菌糸から区切られてい
た。
【0063】(7)熱処理によるエンドファイトの除去 エンドファイトが存在する種子から熱処理によってエン
ドファイトを除去する操作を次のようにして行なった。
【0064】1mlのエッペンドルフチューブに水1m
lを注入し、ドライブロックにて57℃に保温した。種
子をエッペンに10粒ずつ入れ、57℃で5分間処理を
行なった。そして処理後直ちに水に移して冷却した。
【0065】次に必要であれば35℃硫酸で3時間処理
した後、70%エタノール水溶液に10秒間浸漬し、次
に2.5%次亜塩素酸ナトリウム水溶液に10分間浸漬
した後、滅菌水で3回洗浄して風乾した。
【0066】(8)酵素免疫測定法(ELISA)によ
るエンドファイトの検出 種子や植物片から次のような方法によってエンドファイ
トの検出を行なった。
【0067】植物の外植片の生重量0.5gに緩衝液を
入れ、乳鉢で磨砕し、抽出液を得た。50μlの抽出液
をマイクロプレートのウェルへ入れ、室温において30
分間吸着させた。そして未結合の抗原を洗浄した。
【0068】ウェル内をブロッキング液(3%脱脂粉乳
溶液)で満たし、30分後に洗浄した。また抗エンドフ
ァイトのウサギ抗血清(1次抗体)をウェルに加え、室
温で60分間反応させた。そして未結合の抗体を洗浄し
た。
【0069】希釈した2次抗体(アルカリホスファター
ゼ標識したヤギ抗ウサギIgG抗体)をウェルに加え、
室温で60分間反応した。未結合の抗体を洗浄した。こ
の後基質溶液にウェルを加え、アルカリホスファターゼ
反応を起させた。そして0.5NのNaOHで反応を停
止し、405nmで吸光度を測定した。この結果エンド
ファイトが存在する種子および植物体には呈色反応があ
ったが、エンドファイト存在しない種子および植物体か
らは反応が見られなかった。
【0070】(9)植物体を用いた人工接種 分離したエンドファイトの内、FERM P−1479
8、FERM P−14799、FERM P−148
00を用いてサンプルとする種物へ人工接種を行なっ
た。なおエンドファイトが存在する植物の種子は予め
(7)項の方法によってエンドファイトを除去し、一部
を(8)項の検出方法で確認した後使用した。
【0071】またここで用いられたサンプルの植物は次
の通りである。
【0072】Agrostis属 Agrostis
sp.、A.stolonifera、A.giga
ntia、A.tenuis Poa属 Poa sp.、P.pratense 上述のエンドファイトは(5)項の方法によって増殖し
た後フレッシュなPD培地へ移植し、同条件下で5〜1
2日間培養したものを用いた。接種はMS(Muras
hige−skoog)培地に3.0%シュークロスと
0.7%ゲランガムを加えたMS基本培地において発芽
させ、1〜2週間後に植物体もしくは長期培養している
ものはランナーおよび分げつ株をメスで切断し、(5)
項で液体培養した菌糸を1ml滴下した。
【0073】これらを25℃および30℃の暗条件下で
数週間培養した後、16時間照明下に移すかあるいは直
ちに16時間照明下に移して培養し、緑色に生長してき
た個体を同組成の培地に移植して1ケ月間培養した。
【0074】それらの個体に対して、(1)項と(8)
項の方法を用いてエンドファイトの導入を確認した結
果、FERM P−14798、FERM P−147
99、FERM P−14800は総て植物への導入が
確認された。
【0075】また感染効率は25℃よりも30℃の方が
明らかに高かった。
【0076】(10)カルスを用いた人工接種 Agrostis属の植物体のカルスの誘導を行なっ
た。材料としてAgrostis sp.、A.sto
loniferaを使用し、MS基本培地にAgros
tis sp.、A.stoloniferaについて
は2.0mg/lのPIC(ピクロラム)と0.2mg
/lのBAP(6−ベンジルアミノプリン)を添加し、
カルス誘導培地とした。
【0077】MS培地において発芽直後の種子を各カル
ス誘導培地へ移植し、25℃の暗条件下において2ケ月
間培養することにより、再分化能を有するカルスを得
た。なおAgrostis sp.は(7)項の方法を
用いて予め感染しているエンドファイトの除去処理を行
なった種子を使用した。
【0078】FERM P−14799、FERM P
−14800を用いてAgrostis sp.、A.
stoloniferaのカルスを利用した人工接種を
行なった。各カルスは上述の誘導培地で誘導したもので
あって、得られたカルスを植物ホルモン無添加のMS基
本培地移植した。
【0079】移植後直ちにカルスをメスで切傷し、
(5)項で増殖させた菌糸を1カルス当り50μl滴下
した。またAgrostis sp.についてはFER
M P−14799とFERM P−14800の2種
類のエンドファイトの導入を行なった。
【0080】カルスは25℃および30℃の暗条件下で
数週間培養した後に、16時間照明下に移すかあるいは
直ちに16時間照明下に移して培養し、再生してできた
個体をフレッシュなMS培地に移植し、1ケ月間培養し
た。これらの(1)項と(8)項の方法を用いてエンド
ファイトの導入を確認した結果、FERM P−147
99、FERM P−14800の総てについて菌糸の
着色および呈色反応を示し、エンドファイトの導入が確
認された。
【0081】また感染効率は25℃より30℃の方が高
く、明らかに有意な差であった。また(9)項の植物体
に直接導入する方法と比較しても、感染効率が高かっ
た。
【0082】またFERM P−14799とFERM
P−14800の2種類のエンドファイトの導入を行
なって得られた個体の表面に付着したエンドファイトを
完全に除去し、(2)項の方法と同様の方法によって分
離を行なった結果、FERMP−14799およびFE
RM P−14800の双方のエンドファイトが同一の
外植片から分離され、複数のエンドファイトの導入が可
能になっている。
【0083】(11)分生子の大量生産 液体培地で分生子の形成が確認されるFERM P−1
4800を用い、分生子の大量生産を行なった。FER
M P−14800を(5)項と同様の方法によって培
養し、フレッシュなPD培地に移植し、分生子の形成能
がピークに達する5〜10日後に培養液を20ml取出
し、20μmのメッシュを2枚重ねしたもので不要な菌
糸を除去し、ろ液を10mlの遠沈管に入れて1000
r.p.m.で10分間遠心分離した。遠心分離後の上
清みを捨てて1mlのPD培地を添加し、分生子懸濁液
を得た。
【0084】(12)分生子を用いた接種法 FERM P−14800の分生子懸濁液を(11)項
のカルス接種法を用いて、Agrostis sp.、
A.stoloniferaに人工接種を行なった。得
られた個体を(1)項と(8)項の方法で検定した結
果、Agrostis sp.、A.stolonif
eraともに高頻度にエンドファイト導入個体が確認さ
れ、それは菌糸を用いた接触法である(10)項の方法
と比較しても有意な差であった。
【0085】(13)対峙培養 FERM P−14799、FERM P−14800
を用い、平板培養条件下において対峙培養を行なった。
対象となる病原菌には、Rhizoctonia so
lani、Gaeumannomyces grami
nis、Sclerotinia homoeocar
pa、Curvularia sp.、Helmint
hosporium sp.を用いた。
【0086】対峙培養の方法は、直系が9cmの減菌シ
ャーレにPDA培地を入れ、シャーレ中央に直系が5m
mのコルクボーラで抜いたエンドファイトコロニーを1
つ植付け、1ケ月間培養後にコロニー中央から半径3c
mのところに同病原菌のコロニーを植付け、25℃の暗
条件下で3週間培養した。
【0087】この結果、FERM P−14799およ
びFERM P−14800の何れについても、総ての
菌に対して一時的に菌の伸長を阻害し、中でもFERM
P−14800に関しては、Rhizoctonia
solani、Curvularia sp.に対し
て強い拮抗作用を示した。
【0088】(14)植物体からのアルカロイド分析 エンドファイトが存在する試料として、FERM P−
14800をAgrostis sp.に導入した個体
MI−14800と、エンドファイトを除去したAgr
ostis sp.の個体MFとを用い、以下の方法で
アルカロイドの分析を行なった。
【0089】上記のそれぞれの試料の植物の葉および葉
鞘部分を凍結乾燥後、100mgをサンプルとして乳鉢
に入れて磨砕し、メタノールとクロロホルムを各1.5
mlずつ加えて混合し、遠沈管へ回収した。そして18
℃で30分間ゆっくり混合し、n−ヘキサンと水を3m
lずつ加え、30分間撹拌した。2000r.p.m.
で10分間遠心処理した後、有機層と水層と分取した。
【0090】分取した水層部分は3mlをBioRad
AG2×8とAnalytichem Bond E
lut CBA のカラムで精製し、濃縮後80%メタ
ノールを100μl添加し、メルクのシリカゲル60を
使用した薄層プレートに各サンプルを20μlずつ滴下
し、展開溶媒として、クロロホルム:メタノール:酢
酸:水を20:10:1:1の割合で混合したものを使
用し、展開した後にTLC(薄層クロマトグラフ)法に
より分析を行なった。
【0091】有機層部分は1mlのエッペンドルフチュ
ーブにサンプルを200μlで、遠心エバポレータにて
一度溶媒を完全に蒸散させた後に、クロロホルムを20
0μl添加し、ペレットを溶解した。そして2%酒石酸
を150μl添加し、10〜15分間混合した。この後
に10000r.p.m.で3分間遠心し、4MのNa
OHでpHをを9〜10に調整した。そしてクロロホル
ムを200μl添加し、10〜15分間混合した。そし
てこの後に1000r.p.m.で3分間遠心分離し
た。
【0092】クロロホルム層を分取し、濃縮した後に薄
層プレートにはメルクのシリカゲル60を使用し、各サ
ンプルを20μlずつ添加し、展開溶媒としてクロロホ
ルム:メタノールを9:1の割合で混合したものを使用
し、TLC法によって分析を行なった。
【0093】水層および有機層の抽出物は、展開後、U
Vで確認し、Ehrlich試薬(p−ジメチルベンズ
アルデヒド1.0gを96%エタノールに溶解したも
の)Dragendorff試薬を用い、呈色反応とR
f値を測定した。
【0094】この結果MI−14800の水層抽出物は
UV下でRf0.43に反応があり、Ehrlich試
薬を用いた場合には青紫色のスポットが、Dragen
dorff試薬を用いた場合には、オレンジ色のスポッ
トが同様の位置に確認され、試薬による呈色反応とRf
値とからこれがインドールアルカロイドであることを確
認した。
【0095】また有機層抽出物は、UV下でRf0.3
0、0.37、0.52、0.58の4つのスポットに
反応があり、Ehrlich試薬を用いた場合に、青紫
色のスポットが、Dragendorff試薬を用いた
場合にオレンジ色のスポットが同様の位置に確認され、
試薬による呈色反応とRf値とからこれらがインドール
アルカロイドであることを確認した。しかしエンドファ
イトの存在しないMFでは、Ehrlich試薬、Dr
agendorff試薬を用いた場合に、水層、有機層
ともに呈色反応は見られず、これらのインドールアルカ
ロイドは、菌単体もしくは植物との共生下でのみ生産さ
れものであることが確認された。
【0096】(15)シバツトガに対する抵抗性検定 エンドファイトが存在する植物とエンドファイトが存在
しない植物を用い、シバツトガに対する抵抗性検定を行
なった。検定の試料として、エンドファイトが存在する
ものは、FERM P−14800をAgrostis
sp.に導入した個体MI−14800と、FERM
P−14799をAgrostissp.に導入した
個体MI−14799と、実生するAgrostis
sp.より得た実生個体MWと、FERM P−148
00をAgrostis stoloniferaに導
入した個体PCI−14800と、FERM P−14
799をAgrostis stoloniferaに
導入した個体PCI−14799とを用いた。
【0097】これに対してエンドファイトが存在しない
試料として、エンドファイトを除去したAgrosti
s sp.の個体MFと、同じくエンドファイトを除去
したAgrostis stoloniferaの実生
個体PCとを用いた。
【0098】材料の調整を以下の方法によって行なっ
た。MWおよびPCは種子を70%エタノール水溶液で
10秒間浸漬し、次に2.5%次亜塩素酸ナトリウム水
溶液に10分間浸漬した後に、滅菌水で3回洗浄し、風
乾してMS基本培地に移植し、発芽後1ケ月間培養し
た。
【0099】MI−14799、MI−14800およ
びPCI−14799、PCI−14800は(10)
項の方法を用いて作製したものを、MS基本培地に移植
して1ケ月間培養した。
【0100】MFは(7)項の方法によってエンドファ
イトを除去した後に、種子を70%エタノール水溶液に
10秒間浸漬し、次に2.5%次亜塩素酸ナトリウム水
溶液に10分間浸漬した後に滅菌水で3回洗浄し、風乾
してMS基本培地に移植し、発芽後1ケ月間培養したも
のを用いた。なお材料は総て(1)項および(8)項に
より検定したものを用いている。
【0101】これらの材料を6×6×10cmのプラン
トボックスに培養土20gと水5mlとを添加し、滅菌
後の材料を10個体ずつ植込み、25℃で16時間日長
条件下で1週間培養したものを材料2とした。
【0102】シバツトガの卵を70%エタノールに10
秒間浸漬し、滅菌水で3回洗浄し、風乾させたものを材
料2の各プラントボックスに約200粒ずつ播いた。
【0103】この結果卵は1週間でふ化し、食害が始ま
った。シバツトガの幼虫は初めに材料2の総てを食害し
たが、エンドファイトが存在するMI−14799、M
I−14800、PCI−14799、PCI−148
00およびMWは食害が止まり、MFおよびPCが3〜
4日で完全に食害されたのに対し、MI−14799、
MI−14800,PCI−14799、PCI−14
800およびMFは総て初期の食害だけであった。また
MWとMI−14799、MI−14800は同様の効
果であった。
【0104】(16)スジギリヨトウに対する抵抗性検
定 スジギリヨトウの幼虫を各プラントボックスに2匹ずつ
入れ、(15)項と同様の方法で調整した材料を用い、
食害に対して調査を行なった。
【0105】この結果、幼虫は直ちに食害を始め、1/
3程度まで食害が進んだ時点でエンドファイトが存在す
るMI−14799、MI−14800、PCI−14
799、PCI−14800およびMWは食害が止ま
り、MFおよびPCが2日で完全に食害されたのに対
し、MI−14799、MI−14800、PCI−1
4799、PCI−14800およびMWは1/3程度
の食害だけであった。
【0106】(17)Rhizoctonia sol
aniに対する抵抗性検定 PDA培地上で2週間培養したRhizoctonia
solaniの菌叢から5mm角のコロニーを切出し
(15)項と同様の材料を用い、各プラントボックス当
り5片ずつ土中へ埋込み、28℃で16時間日長条件で
1ケ月間培養した。
【0107】この結果、エンドファイトの含有しないP
CおよびMFは接種1週間目から葉腐れが始まり、3週
間で植物体は完全に枯死したのに対し、エンドファイト
を含有するMI−14799、MI−14800、PC
I−14799、PCI−14800およびMWは葉枯
れが始まるのが2週間後と遅く、葉の表面に菌糸がクモ
の巣状に存在するのが観察されるものの、病害の進行も
遅く、植物体が完全に枯死することはなく、明らかに有
意な差で抵抗性を示した。
【0108】(18)Curvularia sp.に
対する抵抗性検定 PDA培地上で1ケ月間培養したCurvularia
sp.の菌叢から表面に形成された分生子をニードル
でかき取り、滅菌液に懸濁し、5000〜10000個
/mlに濃度を調整し、(15)項と同様の材料を用
い、植物体の表面全体に噴霧あるいは塗布し、28℃で
16時間日長条件下で1ケ月間培養した。
【0109】この結果総ての植物体で培養4日目から葉
先の枯れが見られ始めた。PC、MFでは葉全体の3/
4程度葉枯れが進行したのに対し、エンドファイトを含
有するMI−14799およびPCI−14799では
1/3程度で病徴は停止し、MI−14800およびP
CI−14800およびMWにおいては、微少な病斑が
形成されるに止まった。
【0110】(19)乾燥に対する抵抗性検定 直径が12cmであって高さが10cmの透明ポットに
アルミ箔を施して1cm大の石を3cmの高さに敷き詰
め、その上に川砂を7cmの高さに入れたポットに(1
5)項で調整した材料2を1株ずつ分離して植付け、2
5℃16時間照明下で管理した。
【0111】十分に水を与えながら2週間ほど培養し、
完全に根が土壌中に活着したのを確認した後に、ポット
の中の水分が抜けるまで監視し、目視により水分がなく
なった時点で100mlの水を添加する処理を繰返して
1ケ月間行なった。
【0112】この結果エンドファイトが存在しないPC
およびMFでは、始めの水分がなくなった時点でしおれ
が顕著に現われ、1回目の灌水後も植物体の再生はあま
り見られず、2回目の灌水以降はほとんどが枯死した。
【0113】これに対してエンドファイトを含有するM
I−14799、MI−14800、PCI−1479
9、PCI−14800およびMWは、始めの水分が少
なくなった時点でエンドファイト感染植物独特の葉が針
状に巻く現象を生じ、1ケ月間植物体は緑色の状態で維
持され、乾燥に対して明らかに有意な差が得られた。
【0114】(20)温室内ポット検定 直径が12cmで高さが10cmのポットに1cm大の
石を約3cmの高さに敷き、その上に川砂を約7cmの
高さに入れたポットに(15)項で調整した材料2を1
株ずつ分離し植付け、温室内に移し、順化栽培を行なっ
た。栽培条件は毎朝の灌水と1ケ月に1度ハイポネック
スを500倍で与える処理を同一に行ない、3ケ月後に
植物体をポットから取出し、根部に付着した土壌を洗浄
し、地上部の草丈と根量、生体重、病害の発生を測定し
た。
【0115】この結果、Agrostis sp.では
エンドファイトを含有するMI−14799、MI−1
4800、MWは何れもエンドファイトの存在しないM
Fと比較して、草丈、根量、生体重ともに上回り、また
分げつも旺盛であり、増殖に対して明らかに有意な差か
得られた。
【0116】A.stoloniferaでは、エンド
ファイトを含有するPCI−14799およびPCI−
14800は、エンドファイトが存在しないPCと比較
して草丈、根量、生体重ともに上回り、またランナーの
増殖が旺盛な点や、Fusarium spp.による
葉枯れや、Curvularia spp.やDrec
hslera spp.による葉枯れ病の発生も明らか
に少なかった。
【0117】(21)刈り込みを行なわない圃場検定 (15)項で調整した材料と同様のものを圃場に移植
し、生育調査を行なった。1×1mの区画に各植物を5
株ずつ植付けて刈込み処理は行なわず、4月から9月ま
での6ケ月間栽培を行なった。
【0118】この結果、Agrostis sp.、
A.stoloniferaともにエンドファイトが存
在しないMF、PCでは、Puccinia spp.
によるサビ病が大量発生したのに対し、エンドファイト
を含有するMI−14799、MI−14800、PC
I−14799、PCI−14800およびMWは、少
量の夏胞子が観察されたが、病徴が一面に広がることは
なかった。またMFおよびPCで、葉色の悪化した部分
の根部から多数のネコブセンチュウが採取されたのに対
し、MI−14799、MI−14800、PCI−1
4799、PCI−14800およびMWは、少量のセ
ンチュウが観察されただけであった。
【0119】(22)ターフ化による圃場検定 (15)項で調整した材料と同様のものを30×60c
mのイネ育苗箱に砂とバーミキュライトを混合した土壌
を2cmの高さに均一に入れ、各材料ごとに高密度に植
付けて定期的に10mmの高さで刈込みを行ない、3ケ
月間温室内にて栽培を行なった。
【0120】3ケ月後の育苗箱の苗は圃場に移植し、生
育調査を行なった。1×1mの区画に各育苗苗を5枚ず
つ植付けて刈込みと展圧処理を行ない、4月から9月ま
での6ケ月間栽培を行ない、生育調査を行なった。
【0121】この結果、A.stoloniferaで
は、エンドファイトが存在しないPCに5月から6月に
かけて、Gaeumannomyces gramin
isによるテイクオールパッチが大量発生し、7月から
8月にかけてRhizoctonia solaniに
よるブラウンパッチと、Sclerotinia ho
moeocarpaによるダラースポットが大量発生し
たのに対し、エンドファイトを含有するPCI−147
99およびPCI−14800ではこれらの病害による
病徴は初期の20cm程度の小さなパッチのみで短期間
に回復し、ダラースポットに関してはほとんど病斑が見
られないほどに病害の発生に有意な差が見られた。
【0122】またエンドファイトが存在しないPCで
は、根部にコガネムシの幼虫による被害がかなり見られ
たが、PCI−14799およびPCI−14800に
おいては、ターフの根部にはコガネムシの幼虫による被
害は観察されなかった。
【0123】Agrostis sp.ではエンドファ
イトの存在しないMFで、7月から9月にかけてRhi
zoctonia sp.による葉腐病、Curvul
aria spp.、Helminthosporiu
m spp.による葉枯れ病、Pythium sp
p.による赤焼病、ピシウムブライトが発生したが、エ
ンドファイトを含有するMI−14799、MI−14
800、MWは発生初期の小さなパッチが見られたもの
の、それらは短期間で消滅し、病害の発生と回復力に有
意な差が見られた。
【0124】また7月中旬と9月中旬にシバツトガの自
然発生に伴う食害が観察された。すなわち日没とともに
ターフ上に無数のシバツトガが産卵のために飛来した。
飛来のピークからおよそ3〜4日目からエンドファイト
の存在しないPCおよびMFでシバツトガの幼虫による
食害が観察され始め、1週間後にはターフのおよそ2/
3が食害された。
【0125】これに対してエンドファイトに感染したM
I−14799、MI−14800、PCI−1479
9、PCI−14800およびMWは、産卵直後に葉の
上に植付けられた卵が確認されたが、その後は食害が全
く見られず、シバツトガの食害に対して明らかに有意な
差が見られた。
【0126】(23)エンドファイト導入植物の後代を
用いた耐虫性検定 エンドファイトの人工接種を行なったMI−1480
0、PCI−14800の種子を回収し、それらを発芽
させた後、(1)項と(8)項の方法によってエンドフ
ァイトの存在した株を選抜し、(15)項の方法と同様
の方法によりシバツトガ対する抵抗検定を行なった。な
お対象区にはMFとPCとを用いた。
【0127】この結果シバツトガの幼虫は始め総ての植
物を食害したが、MI−14800およびPCI−14
800の実生個体は食害が止まり、MFとPCが3〜4
日で完全に食害されたのに対し、MI−14800およ
びPCI−14800の実生個体は初期の食害だけであ
って、(15)項の結果と同様の結果が得られ、エンド
ファイト存在により得られる効果は種子を通して後代へ
伝搬した場合も同様であることが確認された。
【0128】
【発明の効果】以上のように本発明は、糸状菌から成る
共生菌、すなわちエンドファイトが存在しない植物にエ
ンドファイト、とくに耐虫性インドールアルカロイドを
生産するエンドファイトを人為的に導入して成るイネ科
植物および人工的にイネ科植物に対してエンドファイト
を導入するための方法に関するものである。
【0129】従って本発明によれば、イネ科植物に対し
て人為的に耐虫性を有するインドールアルカロイドを導
入させてイネ科植物に対して少なくとも耐虫性を付与す
ることが可能になる。さらにエンドファイトの人為的な
感染によって耐病性と環境ストレス耐性とをも付与する
ことが可能になり、イネ科植物の形質の改善につながる
ことになり、あるいはまた優れた形質を有する有用なイ
ネ科植物を提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】植物に共生するエンドファイトを染色して観察
した顕微鏡写真である。
【図2】PDA培地上で増殖された菌糸の顕微鏡写真で
ある。
【図3】PDA培地上で形成された分生子の顕微鏡写真
である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 C12N 15/09 9162−4B C12N 15/00 A (C12N 1/14 C12R 1:645)

Claims (8)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】糸状菌から成る共生菌が存在しない植物に
    糸状菌から成る共生菌を人為的に導入して成るイネ科植
    物。
  2. 【請求項2】前記イネ科植物に導入された共生菌が耐虫
    性インドールアルカロイドを生産する共生菌であること
    を特徴とする請求項1に記載のイネ科植物。
  3. 【請求項3】前記イネ科植物に導入された共生菌がAc
    remonium sp. Po−001、Acrem
    onium sp. M−004、またはAcremo
    nium sp. M−002(生工研寄託菌FERM
    P−14798、FERMP−14799、またはF
    ERM P−14800)であることを特徴とする請求
    項1に記載のイネ科植物。
  4. 【請求項4】共生菌が導入されるイネ科植物が、Agr
    opyron、Agrostis、Andropogo
    n、Anthoxanthum、Arrhenathe
    rum、Avena、Brachypodium、Br
    omus、Chloris、Cynodon、Dact
    ylis、Elymus、Eragrostis、Gl
    yceria、Hierochloe、Hordeu
    m、Oryza、Panicum、Paspalum、
    Phalaris、Phleum、Poa、Setar
    ia、Sorghum、Triticum、Zea、Z
    oysiaの何れかの属の植物であることを特徴とする
    請求項1に記載のイネ科植物。
  5. 【請求項5】植物に共生している糸状菌から成る共生菌
    を分離して人工増殖する工程と、 人工増殖された共生菌をイネ科植物に人工接種する工程
    と、 人工接種した共生菌をイネ科植物に共生させて感染させ
    る工程と、 をそれぞれ具備するイネ科植物への共生菌の導入方法。
  6. 【請求項6】共生菌の分生子を前記接種する工程で人工
    接種することを特徴とする請求項5に記載のイネ科植物
    への共生菌の導入方法。
  7. 【請求項7】前記イネ科植物に人工接種する共生菌がA
    cremonium sp. Po−001、Acre
    monium sp. M−004、またはAcrem
    onium sp. M−002(生工研寄託菌FER
    M P−14798、FERM P−14799、また
    はFERM P−14800)であることを特徴とする
    請求項5に記載のイネ科植物への共生菌の導入方法。
  8. 【請求項8】1種の共生菌または2種類以上の共生菌を
    人工導入することを特徴とする請求項5に記載のイネ科
    植物への共生菌の導入方法。
JP7172906A 1995-06-15 1995-06-15 イネ科植物およびイネ科植物への共生菌の導入方法 Pending JPH0999A (ja)

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JP7172906A JPH0999A (ja) 1995-06-15 1995-06-15 イネ科植物およびイネ科植物への共生菌の導入方法
US08/661,774 US5880343A (en) 1995-06-15 1996-06-11 Grass and method of introducing endophytic fungi into a grass
DE69623203T DE69623203T2 (de) 1995-06-15 1996-06-13 Gras und Verfahren zum Einbringen von endophytischen Pilzen
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JP2001231365A (ja) * 2000-02-22 2001-08-28 Japan Forage Seed Association 共生菌に感染したイタリアンライグラスおよびイタリアンライグラスへの共生菌の導入方法
JP2007084476A (ja) * 2005-09-21 2007-04-05 Hiroshima Pref Gov イネシンガレセンチュウの防除方法および共生菌

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