【発明の詳細な説明】
O−脱硫酸化ヘパリン誘導体とその製造法および使用
発明の分野
本発明はO−脱硫酸化ヘパリン組成物、および6−O−脱硫酸化の程度を調節
することができる、該組成物、好ましくは6−O−脱硫酸化ヘパリン組成物の製
造法に関する。該組成物は、癌、脈管(血管)形成、ショック、虚血再還流傷害
、炎症、および再狭窄を含む循環器病を含む種々の疾病を治療するのに有用であ
る。
略語
単糖類またはオリゴマー中に含まれている単糖残基には以下の略語を使用する
。D−グルクロン酸=GlcA、L−イズロン酸=IdoA、D−グルコサミン
=GlcNH2、N−アセチル−D−グルコサミン=GlcNAc、D−グルコ
サミン N−サルフェート=GlcNS、2,5−アンヒドロマンノース=Am
an、および2,5−アンヒドロマンニトール=AManH。
本明細書中に記載のヘパリン組成物の分析において得られた二糖残基を示すの
に使用する略号は以下の通りである。すなわち、ISMSはIdoA(2−サル
フェート)→AManH(6−サルフェート)と定義され、GMS2はGlcA
→AManH(3,6−ジサルフェート)と定義され、ISはIdoA(2−サ
ルフェート)→AManH(6−サルフェート)+IdoA(2−サルフェート
)→AManHと定義される。
各糖残基(以下の適切な略語)を表示する場合、O−連結サルフェート残基の
位置を「S」と該サルフェート残基がその糖残基の酸素と連結している硫酸化の
位置の数字で示す。ヘパリン構造を表示する場合もαおよびβアノマー連結に関
与する位置はヘパリンに通常みられる位置、すなわちα(グルコサミン→ウロニ
ック(ウロン酸))およびβ(ウロニック→グルコサミン)であり、DまたはL
立体配置は通常みられる関係である。サルフェートの位置はサルフェートが結合
している糖の略号の下に示され、すなわち、例えば、IdoA−GlcNS
2S 6S
は、L−イズロン酸およびD−グルコサミンN−サルフェート連結β(1−4)
のそれぞれの糖残基の2および6位にサルフェートが結合しているものを示す。
背景
ヘパリン
ヘパリン/ヘパラン硫酸は、グリコサミノグリカン(GAG)として知られる
1群の多糖類のメンバーである。これら物質は、硫酸化型に認められ、プロテオ
グリカンとして合成されるヘキソサミン残基とアルドウロン酸残基が交互に連な
るコポリマーである。本発明が目的とするヘパラン硫酸とヘパリンの組成物にお
いて、主要なヘキソサミンはN−アセチル化もしくはN−硫酸化グルコサミン(
GlcNAcおよびGlcNS)である。アルドウロン酸は、ヘパリンではほと
んどがL−イズロン酸であり、ヘパラン硫酸ではほとんどがD−グルクロン酸で
ある。ヘパラン硫酸は通常ヘパリンより高い割合のグルクロン酸を有すると考え
られる。組織から分離されるヘパラン硫酸またはヘパリンの調製物における不均
一性の問題は明確な区別を困難にしている。通常のヘパリン(抗凝固剤として使
用される)は分子量5〜25kdであり、通常の方法によって種々の鎖長の混合
物として抽出される。これら方法には、ウシもしくはブタの肺、腸または肝臓の
ような適切な組織の自己分解ならびに抽出、および非多糖組成物の除去が含まれ
る。抽出物中の鎖の分子量は組織中で合成されたヘパリンプロテオグリカンの多
糖鎖中に存在することが知られている60〜100kDより有意に低い。GAG
部分は、配列D−GlcA−D−Gal−D−Gal−D−Xylの四糖連結領
域→蛋白を介してセリンまたはトレオニン残基でペプチドマトリックスに結合し
て合成され、次いでD−GlcA残基にGlcNAcとGlcAが交互に付加す
ることによって伸長する。該ポリマーはあるGlcA残基でエピ化されてIdo
Aを生じ、次いで硫酸化される。
それらの化学的類似性によって、分離された「ヘパリン」は、別の方法ではヘ
パラン硫酸に分類されるかも知れないものをかなりの量含んでいてよい。
修飾脱硫酸化ヘパリン
多くの研究者が脱硫酸化ヘパリンの製造について記載している。これらの脱硫
酸化ヘパリンの製造法は(a)アルカリO−脱硫酸化、(b)酸触媒脱硫酸化、
および(c)加溶媒分解脱硫酸化の大きく3つのカテゴリーに分けることができ
る。
(a)アルカリO−脱硫酸化:種々の条件下でヘパリンをアルカリ処理するこ
とによってO−サルフェート基が失われることが報告されている。Jasejaら(Ca
n.J.Chem.(1989)67:1449)は、ウシ肺ヘパリンの緩やかなアルカリ処理の効果に
ついて詳細に記載した。3つの異なる成分置換が記載され、具体的にはそれらは
すべて2−O硫酸化IdoA残基の成分置換を含んでいた。さらに別の報告(Re
j,R.N.らの、Carbohydr.Res.(1990)200:437、およびPiani,S.らの、J.Carbohy
dr.Chem.(1993)12(4&5):507))が、ヘパリンのアルカリ処理に関するこれら初期
の研究を確認し、発展させてきた。アルカリ処理ヘパリンによって得られるヘパ
リン誘導体は、この成分置換がイズロン酸残基の2−O−サルフェート基の周辺
に特に集中していることから、本明細書に記載の誘導体とは明らかに異なる。
共同所有の米国特許第5296471号(1994年3月22日発行)は、2
−O、3−O脱硫酸化ヘパリンとその誘導体を得るためのヘパリンのアルカリ処
理を開示している。アルカリ処理したヘパリンから得られるこのヘパリン硫酸は
、この成分置換がIdoA残基の2−O−サルフェートとGlcN残基の6−O
−サルフェート基の特に周辺に集中していることから、本明細書に記載の誘導体
とは明らかに異なる。
(b)酸触媒脱硫酸化:酸触媒条件下におけるサルフェート置換基の加水分解
はよく知られている。単糖類におけるサルフェートの加水分解率は、第2級エカ
トリアル(赤道)ヒドロキシル>第2級アクシャルヒドロキシル>第1級ヒドロ
キシルであることが示された(Rees,D.A.の、Biochem.J.(1963)88:343)。ヘパ
リンに関して、酸性条件下(70℃、0.1M HCl)で処理することによっ
てN−S>>2−O−S>6−O−Sの順でサルフェーと基の減少が生じるが、
その際の2−O−Sの減少率は6−O−Sの5倍である(Shively,J.E.らの、Fe
d.Proc.(1977)36:28およびKosakai,M.らの、J.Biochem(1979)86:147)。ヘパリ
ンの酸触媒脱硫酸化は特定条件下で該分子の脱重合ももたらす。
(c)加溶媒分解的脱硫酸化:ヘパリンの加溶媒分解的脱硫酸化はヘパリンを
選択的にN−脱硫酸化する方法として記載された(Inoue Y.らの、Carbohydr.R
es.(1976)46:87)。N−サルフェート基の実質的に完全な加水分解はO−サルフ
ェート基の最小限の減少(<20%)と最小限の脱重合を伴って達成できたこと
が明らかにされた。N−サルフェートを完全に除去すると、抗凝固活性が出発ヘ
パリンの1%以下に低下したことも示された。続く報告(Nagasawa,K.らの、Car
bohydr.Res.(1977)58:47)において、上昇した温度(80〜110℃)の加溶媒
分解条件がヘパリンを含むグリコサミノグリカンを脱硫酸化するのに有用である
ことが示された。これら条件には1〜10%メタノール−DMSOまたは1〜1
0%水−DMSO中のヘパリンのピリミジニウム塩を80〜100℃に加熱こと
が含まれた。別の報告では、反応媒質は、海草由来の硫酸化多糖類を加溶媒分解
的脱硫酸化するためにUsovが記載したように2%ピリジン−DMSOであった(
UsovA.I.らの、Carbohydr.Res.(1971)18:336)。この研究の結果は、完全なN−
脱硫酸化が速やかに達成され、N−脱硫酸化物質はかなり遅い速度でO−デサル
フェートに移行したことを証明した。N−脱硫酸化物質を分離し、N−再アセチ
ル化し、次いで100℃で加溶媒分解処理すると、O−脱硫酸化はより速やかに
完結した(〜1h対>24h)。これらの結果は、遊離アミン基と硫酸エステル
間の相互作用によってO−脱硫酸化率が低下することを示唆した。全サルフェー
ト減少量をモニターする経時反応は、100℃の、1、5および10%メタノー
ル−DMSOならびに80および110℃の、10%メタノール−DMSO、お
よび100℃の、1、5および10%水−DMSOならびに80および110℃
の、10%水−DMSOを含む加溶媒分解条件において述べられた。この生成物
の組成物や生物活性については特徴づけらておらず、この反応の選択性に関する
いかなる考察もなされていない。
加溶媒分解N−脱硫酸化法は日本国特許第51−26987号にも記載され、
NおよびO−脱硫酸化のための加溶媒分解法は日本国特許第52−155690
号に記載された。これら特許(特に52−155690)は、O−脱硫酸化にお
ける選択性、特定の部分的O−脱硫酸化産物の組成物、NおよびO−脱硫酸化産
物のN−再硫酸化、または加溶媒分解からの完全または部分的にO−脱硫酸化さ
れた組成物に関する生物活性について考察していないことに注目すべきである。
Yosizawaは、ヘパリンの硫酸化パターンおよびヘパリンの加溶媒分解的脱硫酸
化の対象に関する一連の論文を発表している(Kosakai,M.らの、J.Biochem.(197
8)83:1567、Kosakai M.らの、J.Biochem.(1979)86:147、およびKosakai,M.らの
、Chemistry and Biology of Heparin(1979)、97-104頁)。ある報告(Kosakai,
M.らのJ.Biochem.(1979)86:147)では、ブタヘパリンは100℃で9時間2%ピ
リジン−DMSOを含む加溶媒分解状態に置かれた。この産物は亜硝酸処理によ
る脱重合、およびペーパー電気泳動とイオン交換クロマトグラフィーによるオリ
ゴ糖分析にによって特徴づけられた(Kosakai,M.らの、J.Biochem.(1978)83:156
7)。この結果は、0.83モルO−サルフェート/グルコサミンが減少し(全
O−サルフェートの約40%を占める、完全に失われたN−サルフェート基を除
く)、グルコサミンからの6−O−サルフェートの相対減少量はL−イズロン酸
からの2−O−サルフェートの減少量より大きかった。分離産物のN−再硫酸化
(Lloydらの、Biochem.Pharmacol.(1971)20:637)は110U/mgの抗凝固活
性または出発ヘパリンの約60%の活性を有する部分的にO−脱硫酸化されたヘ
パリンを生じた。この著者らは(1)グルコサミンの6−O−サルフェート置換
基は抗凝固活性に重要な役割を演じず、また(2)イズロン酸の2−O−サルフ
ェートはその有意な減少が活性低下をもたらすことから抗凝固活性に重要である
と結論づけた。彼らはその産物の抗凝固活性の低下を、主に2−O−サルフェー
ト含有量の少ない減少に関連させ、6−O−サルフェートのより大量の減少には
関連させなかった。グルコサミン残基の選択に対する3−O−サルフェートの加
溶媒分解の影響についての結論は、これらの研究が行われたときにその存在と重
要性が知られていなかったために示されなかった。
本発明とYosizawa(Yosakai.,M.とYosizawa,Z.の、Chemistry and Biology of
Heparin(1989)67:1449)の研究を区別する本発明の鍵となる局面は、出発ヘパ
リンの抗凝固活性の60%が維持されたYosizawaの組成物に比べて抗凝固活性が
より広範に低下することであった。本発明組成物は出発ヘパリンの抗凝固活性の
<30%、好ましくは<15%を有する。さらに区別するための特徴としては、
抗凝固活性が有意に低下するにはイズロン酸残基から2−O−サルフェート置換
基が実質的に失われることが必要であるというYosizawaらの観察結果がある。し
かし、本発明において特徴づけられた組成物は6−O−サルフェート置換基の広
範な減少(二糖残基の全6−O位の<34%が硫酸化される)と共に他のO−サ
ルフェート基の比較的少ない減少(二糖残基の全2−O位の67%までが硫酸化
される)は抗凝固活性の実質的な低下をもたらす。
N−脱硫酸化、完全O−脱硫酸化N−再硫酸化、またはN−再アセチル化誘導
体を製造するための多くのヘパリンに関する研究において、加溶媒分解条件が用
いられ、報告されている。多くの報告(Eldor,A.らの、Blood(1987),70:551、Ka
zatchkine,M.D.らの、J.Clin.Invest(1981)67:223、Ishihara,M.らの、Anal.Bio
chem.(1992)202:310、Wright,T.C.Jr.らの、J.Biol.Chem.(1989)264:1534、およ
びSvahn,C.M.らの、Carbohydr.Polym.(1992)18:9)は、N−脱硫酸化ヘパリン誘
導体のヘパリン様生物活性は有意に低下している傾向があることを示している。
N,O−脱硫酸化N−再硫酸化およびN,O−脱硫酸化−N−再アセチル化ヘパ
リンはbFGF結合活性を欠く。活性に対するO−サルフェート基の重要性を検
討するため、多くの生物系において完全O−脱硫酸化化合物が試験されている。
これらのデータによって、以前に報告されたN,O−脱硫酸化ヘパリン誘導体と
本出願に記載のそれらとは明確に区別される。
最近、N,O−bis−(トリメチルシリル)アセトアミドと関連シリル化剤
を用いる種々の単および多糖類の選択的6−O−脱硫酸化を達成するための方法
が報告されている(Matsuo,M.らの、Carbohydr.Res.(1993)241:209)。加溶媒分
解では、該化合物はピリジニウム塩型に変換され、次いでシリル化試薬を含むD
MSO溶液中、80℃で加熱される。本法を用いて処理した多糖類にはグリコサ
ミノグリカンデルマタン硫酸とコンドロイチン硫酸があった。この著者らは該多
糖が単に加溶媒分解的脱硫酸化型でないことを示唆する多くの実験を行っている
がそのメカニズムは明らかでない。Takenoら(Takeno,R.らの、Annual Meeting
of the Japanese Biochemical Society(1993)65:(8):No.1836)は、4−(トリ
メチルシルオキシ)−3−ペンテン−2−オン(TPENON)をシリル化剤に
用いるフノラン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、およびヘパリンを含む
種々の多糖サルフェートのレジオセレクティブな(regioselective)脱硫酸化を
報告した。コンドロイチン硫酸とデルマタン硫酸の両方の処理は6−Oおよび4
−O脱硫酸化を生じ、一方、ヘパリン処理は6−O、2−OおよびN−脱硫酸化
を生じた。この著者らの報告した条件下でヘパリンの非選択的脱硫酸化が観察さ
れたことに注目すべきである。Takashigeら(Takashige,K.らの、Annual Meetin
g of the Japanese Biochemical Society(1993)65(8):No.1835)は、硫酸化単糖
の選択的脱硫酸化について記載したが、硫酸化多糖類の脱硫酸化は示さなかった
。
上記引用文献は6−O脱硫酸化ヘパリン組成物とそのような組成物の製造法に
ついて記載しているが、6−O脱硫酸化の程度を調節する方法を示しておらず、
二糖残基の全6−O位の<34%と全2−O位の67%までが硫酸化されている
組成物を含む、種々に脱硫酸化され得る組成物の製造法については示しも示唆も
していない。
非抗凝固性ヘパリン
非抗凝固性(NAC)ヘパリンの産生について記載した一連の技術文献がある
。ほとんどの刊行物は脱重合したヘパリン/ヘパラン硫酸から生成された抗凝固
性ヘパリンと生成物のサイズによる分別について記載している。一般に用いられ
る方法において、ヘパリン出発物質は、存在しているあらゆるGlcNAc残基
からN−アセチル基を除去する前処理を行うかまたは行わずに、亜硝酸の存在下
で脱重合される。亜硝酸は、適切な条件下で、GlcNSもしくはGlcNH2
残基とウロン酸残基の間の連結を開裂させ、これを介して亜硝酸はグルコサミン
α(1−4)ウロン酸連結を介して連結される。ヘパリンがN−脱アセチル化さ
れている場合、すべてのグルコサミン→ウロン酸残基は感受性であり、完全な脱
重合によって二糖類が生じる。ヘパリンがN−脱アセチル化されていない場合は
、グルコサミンがアセチル化されているグルコサミン→ウロン酸残基は抵抗性で
あり、二糖類の両方と四糖類および少量の、抵抗性の連結を含むより高いオリゴ
糖
が生じる。すべての場合において、二糖または四糖の還元末端のグルコサミン残
基は開裂の過程で2,5−アンヒドロマンノースに変換される。この残基はさら
に対応する2,5−アンヒドロマンニトールに還元されてもよい。これらの方法
はBienkowski,M.J.とConrad,H.E.の、J Biol Chem(1985)260:356-365、Guo,Y.
らの、Anal Biochem(1988)168:54-62、およびGuo,Y.とConrad,H.E.の、Anal Bio
chem(1989)176:96-104に記載されている。これらの後者の方法は、ヘパリンの構
造を解析し、ヘパリン鎖の種々の処理の結果を評価するのに有用である。さらに
、前述の論文に記載の亜硝酸を用いる完全および部分的消化、またはヘパリナー
ゼ消化やペリオデート酸化、次いでβ−除去からのヘパリンの分解産物を用いる
試みがかなりなされている。これらの方法はすべて、治療的に使用する低分子量
のヘパリンを生成することができる。
非抗凝固性の脱重合された低分子量のヘパリンの例は米国特許第499050
2号に記載されている。該特許はペリオデートによるヘパリン処理、次いで塩基
による脱重合、およびペリオデート処理で生成されるアルデヒドの還元を示して
いる。得られる物質は17−33残基を含むポリマーと、式:
IdoA−GlcNAcまたは IdoA−GlcNS
2S 2S
[ここで、グルコサミン残基は任意の方法によって3および/または6位で硫酸
化され、IdoA残基のいくつかがペリオデート酸化によって生じる開裂したI
doAまたはGlcA残基で置き代えられていてもよい]
で示される複数の残基を含むポリマーの混合物を含むとの記載がある。これらの
短縮されたポリマー鎖はATIIIに対する結合部位を欠くが、平滑筋増殖を阻
害することができ、組織修復の促進、アテローム性病変の予防、および転移の発
生の予防を含む生理活性を有すると記載されている。
ペリオデートによるヘパリン/ヘパラン硫酸の処理は他にも報告がある。例え
ば、Fransson,L.A.とLewis,W.の、FEBS Lett(1979)97:119-123にはペリオデート
によるヘパリン/ヘパラン硫酸の処理およびホウ素化水素ナトリウムによる還元
やアルカリ媒質中の断片化に関する種々の条件が記載されている。さらに、Fran
sson,L.A.ら(Carbohydrate Res(1980)80:131-145)は、ペリオデートを用いて
生成された種々の型のヘパリンを化学的に研究した。ある研究において、ペリオ
デートで処理し、次いで塩基中でβ−除去して断片化を引き起こした。さらに彼
らはペリオデートによるヘパリンの処理、次いで鎖の断片化および官能基の部分
破壊を生じる部分酸加水分解について報告した。
非抗凝固ヘパリンの別の例は、Casu,B.らの、Arzneim Forsch/Drug Res(1986)
36:637-642に記載されている。Casuらは、ヘパリンの抗高脂血症(リポ蛋白リパ
ーゼ放出)活性に対するペリオデート酸化の影響について研究した。この研究の
なかで、ヘパリンはペリオデートで酸化され、その産物はボロヒドリドで還元さ
れた。
PCT/SE92/00243は、ヘパリン出発物質より大きな分子量を有し
、ペリオデート酸化、アルカリによる脱重合、次いでボロヒドリド還元によって
生成される非抗凝固性ヘパリンを開示している。
WO93/19096は、オリゴ糖類が、N−硫酸化グルコサミン残基と2−
O硫酸化イズロン酸残基を含む二糖単位を含む10−14二糖単位からなるFG
F成長因子に対する高い特異結合親和性を有するオリゴ糖類を開示している。該
オリゴ糖類は、ヘパリチナーゼによる酵素的脱重合によりヒト線維芽細胞ヘパラ
ン硫酸プロテオグリカンのヘパラン硫酸から生成される(ここで、6−O Gl
cN位は<20%硫酸化されており、2−O IdoA位は100%硫酸化され
ている)。
Maccaranaら(Maccaranaらの、J.of Biol.Chem.(1993)268:23898およびGuimon
dらの、J.of Biol.Chem.(1993)268:23906)はbFGFとヘパリン/ヘパラン誘
導オリゴ糖類の相互作用について記載している。このオリゴ糖類はヘパリンを含
む天然および部分脱硫酸化ヘパリン/ヘパラン硫酸の断片化によって生成される
(ここで、2−O−サルフェート基の約1/3が失われ、6−O−サルフェート
基全てが失われる)。該6−O−位は、本出願に記載の、全6−O位の34%ま
でと全2−O位の67%までが硫酸化されている組成物とは異なり、完全に脱硫
酸化されたことに注目すべきである。
最後に、Jaseja,M.らの、Can.J.Chem.(1989)中、67:1449-1456に記載の2−O
脱硫酸化ヘパリン組成物は抗凝固活性が低下している。
非抗凝固性ヘパリンは当該技術分野で知られているが、当該技術分野では、二
糖残基の全6−O位の約<34%と全2−O位の67%までが硫酸化されている
、非抗凝固性ヘパリンの実質的な生成法は開示されていないことに注目すること
が重要である。
非抗凝固性ヘパリンの生物学的特性
NACヘパリンは、非抗凝固活性の他にある他の新規の生物学的特性を持って
いる。そのいくつかを下記に示す。
ヘパラナーゼの阻害
身体全体への腫瘍細胞の転移による拡散は、腫瘍細胞によって分泌され、基底
膜成分を分解し、それによって循環を介して腫瘍細胞を転移させる酵素によって
促されると考えられる。そのような酵素の1つが、ヘパラン硫酸グリコサミノグ
リカンを分解するエンド−β−D−グルクロニダーゼ、すなわちヘパラナーゼで
ある。ヘパラン硫酸は実質細胞の基底膜の主要成分である。
PCT特許出願WO92/01003は、ある非抗凝固性ヘパリンがヘパラナ
ーゼインヒビターとして作用し、転移性細胞変異体の肺への転移増殖を減らすか
予防するのに有効かも知れないことを示している。非抗凝固性ヘパリンはN−脱
硫酸化、次いでN−アセチル化によるか、またはN,O脱硫酸化、次いでN−再
硫酸化によってヘパリンから製造された。このヘパリン誘導体は、部分的にO−
脱硫酸化される本発明の組成物と違って完全にO−脱硫酸化されたことに注目す
べきである。
血管形成の阻害
血管形成は、新たな血管が形成される過程である。それは関節炎を含むある疾
病や腫瘍の転移・増殖と関連があるかも知れない過程である(MitchellとWilksの
、Annual Reports in Medicinal Chemistry(Academic Press 1992)27:139参照)
。
血管新生を刺激または阻害する化合物は当該技術分野で知られたいくつかのア
ッセイを用いて同定することができる。おそらく、使用する最も最初のアッセイ
は、
ニワトリしょう尿膜(CAM)アッセイである。このアッセイを用いて、あるヘ
パリノイドは、ある血管静止(angiostatic)ステロイドと共に投与すると血管
形成を阻害することが示されている(FolkmanとIngberの、Ann.Surg.(1987)206:
374およびFolkmanらの、Science(1983)221:719)。
bFGFの阻害
ヘパリンまたはあるNACヘパリンはbFGFに結合すると同時にbFGFの
細胞分裂促進活性を調節することが知られている。あるヘパリンまたはヘパリン
様分子のbFGF結合特性はこの刊行物に記載されている。例えば、5〜15%
の抗凝固活性を有する組成物は十分な2−O−サルフェート置換イズロン酸残基
を保持し、ヘパリンとほぼ同等(IC50〜1μg/mL)にRO−12UC細胞
のヘパラン硫酸(IC501−2μg/mL)鎖にbFGFが結合するのを阻害す
る能力を維持する。ヘパリン様にbFGFと相互作用するこの能力は、特に5〜
15%の抗凝固活性と少なくとも28%、好ましくは49%の2−O−サルフェ
ート含有量を有する組成物において、bFGF関連ヘパリン活性が実質的に保持
されることを示している。より広範に2−O−サルフェートが失われている組成
物は、その細胞増殖阻害と細胞増殖刺激特性に関して独特な傾向を示す。ある組
成物は、ヘパリンに比べてbFGF依存性細胞増殖を阻害する能力の低下を示す
が、実質的に同等のbFGF依存性細胞の増殖刺激能を有する。bFGF刺激活
性の選択性に対するこの予期しない傾向は、ある組成物が血管形成、血管新生、
再血管新生、側副血管の発達、および傷の治癒を刺激する選択的薬剤として有用
かも知れない。
bFGFに対するヘパリノイドの影響を測定するためのアッセイは当該技術分
野で知られている。細胞ベースの競合結合アッセイはIshihara,M.らの、Anal Bi
ochem(1992)202:310-315に記載されている。
血小板阻害
ヘパリンの最もよく知られている特性は抗凝固活性であり、これは、ヘパリン
の、動物における出血時間を延長する能力によって示される。これは、ヘパリン
がその特異的抗トロンビンIII結合領域を介してプロテアーゼプロインヒビタ
ー抗トロンビンIIIに結合することによって生じる。これによっても最終的に
血液凝固カスケードがブロックされる。ヘパリンは抗トロンビン効果を有するこ
とも知られており、この少なくとも一部は、ヘパリンの血小板凝集阻害能による
ものである。ある患者では、血小板凝集との干渉は有意な出血傾向の原因となる
。あるNACヘパリンは非抗凝固活性を有し、血小板凝集を阻害する(例えば、
共同所有の米国特許出願第753299号(出願日1991年9月3日)またはPC
T特許出願第US92/02516号(出願日1992年3月27日)参照)。
抗血栓症活性
ヘパリンおよびヘパリン誘導体の抗Xa活性は発色体アッセイを用いて測定さ
れる(Odegard,O.R.らの、Haemostasis(1976)5:265およびWalenga,J.M.らの、CR
C Critical Reviews in Clinical Laboratory Sciences(1986)22(4):361)。非
分画ヘパリンからの誘導体の活性は出発ヘパリンより実質的に低下している。こ
の活性低下は第Xa因子の主要な阻害経路であるATIIIに対するこれら組成
物の親和性の低下を示唆する。
ヘパリンおよびヘパリン誘導体の抗IIa活性はアッセイキットと発色性基質
を用いて測定される(Walenga,J.M.らの、CRC Critical Reviews in Clinical L
aboratory Sciences(1986)22(4):361)。非分画ヘパリンからの誘導体の活性は
出発ヘパリンより実質的に低下している。このことは、これら組成物が第IIa
因子阻害の2つの主要なメカニズムであるATIIIとヘパリン補助因子IIの
両方に対する親和性を失っていることを示すものであろう。
平滑筋細胞増殖の阻害
血管壁における平滑筋細胞の増殖は血管の損傷に反応して、そしてある疾病の
状態に関連して生じる(Austin,G.E.らの、J Am Coll Cardiol(1985)6:369-375
)。この細胞の増殖は、細胞それ自身と共に、例えばアテローム性動脈硬化症、
腎性高血圧症、肺性高血圧症、血管炎、および術後血管再狭窄の病理学的病変を
形成する、過剰の蛋白または他のマトリックス分子の産生による負の影響を有す
ることがある。すなわち、ヘパリン/ヘパラン硫酸はこれら疾病の治療に適用性
がある。
ショックの阻害
あるNACヘパリンはある型のショック、循環血液量減少性ショックおよび関
連症候群を治療するのにも有用である。一般に、循環血液量減少性ショックは、
不十分な有効循環血液量をもたらす血液の再分布または心拍出量もしくは血液量
の減少による細胞と組織の広範囲の還流減少と説明することができる。
循環血液量減少性ショックおよびこの状態を研究するためのモデルは、Chaudr
yとAyalaの、「Immunological Aspects of Hemorrhage」(R.G.Landes Co.,Aust
in,Texas,1992)中に記載されている。
類似の一連の出来事は、炎症性反応の鍵となるメディエーターが循環血液量減
少性ショックを引き起こすそれと同じではないと思われることを除いて(そして
これが最も重要である)、敗血症性ショックと関連がある。敗血症性ショックに
おける初期血液量の減少は、エンドトキシン刺激性の好中球の活性化および炎症
に介在するサイトカイン(TNF)IL−1およびIL−6、IL−10、TG
F−βなど)の放出後の血液の貯留(プーリング)の結果として生じる。
循環血液量減少性ショックと敗血症性ショックは異なる疾病であることを念頭
におくことが重要である。循環血液量減少性ショックは、循環器系に対するあら
ゆる外傷を含む多くの出来事(例えば、銃撃による傷、交通事故による傷害、火
傷、および刺傷など)によって生じ得る循環器系の全身虚脱である。一方、敗血
症性ショックは細菌感染によって生じる。したがって、上記のごとく、これら疾
患の原因は大きく違っているようである。
虚血/再還流傷害(I/RI)は血流量が減少した状態(虚血)の後に炎症介
在性の細胞と臓器の損傷が生じる別の例である。
循環血液量減少性ショックに関連した血管損傷とそれによって生じる種々の臓
器への好中球と白血球の浸潤は、組織損傷と最終的に多臓器不全(MOF)およ
び急性呼吸困難症候群(ARDS)を引き起こす。破壊的な物質とメディエータ
ーは数多くあり、サイトカイン、酵素、種々の他の炎症性物質が含まれる。MO
FおよびARDSは重篤なショックにおいて生じることがあり、死に至ることが
多い。ショックに対して有効な治療剤に関して、該治療剤は微小血管構造および
種々の臓器(肝臓、腎臓、心臓、脾臓および腸)を機能不全から防護しなければ
ならない。出血性ショックとI/R傷害において消化管の機能と腸の機能を防護
または回復する重要性が報告されてきており、これらは敗血症の合併症の減少お
よび長期の生存と相関がある。
本発明の要約
本発明は、ヘパリンのO−脱硫酸化法、好ましくは6−O−脱硫酸化ヘパリン
組成物の製造方法を1つの目的としている。この方法では6−O−脱硫酸化の程
度を調節することによって、所望の量と分布の硫酸化を有する組成物を生成する
ことができる。
本発明の第二の目的は、二糖残基の全6−O位の約<34%が硫酸化されると
共に他のO−サルフェート基の一部が失われている(二糖残基の全2−O位の6
7%が硫酸化される)実質的に断片化していないヘパリン組成物である。この組
成物は、実質的な抗癌作用、実質的に抗凝固活性がないこと、血小板凝集阻害、
bFGFのヘパラン硫酸への結合の阻害、およびヘパラナーゼと血管形成の阻害
という独特の特性を持っている。
本発明の第三の目的は、二糖残基の全6−O位の約12〜26%と全2−O位
の約28〜50%が硫酸化されている、実質的に断片化していないヘパリン組成
物である。
本発明の第四の目的は、二糖残基の全6−O位の<13%と全2−O位の約1
4〜28%が硫酸化される、実質的に断片化していないヘパリン組成物である。
本発明の第五の目的は、6−O−脱硫酸化の程度を調節し、所望の量と分布の
硫酸化を有する組成物を製造することができる6−O脱硫酸化ヘパリン断片また
はヘパリン断片の製造法である。
本発明の第六の目的は、6−O−脱硫酸化の程度を調節し、所望の量と分布の
硫酸化を有する組成物を製造することができる、ヘパリンから実質的に断片化し
ていない6−O脱硫酸化ヘパリン組成物の製造法、好ましくはヘパリンのN−サ
ルフェート位を実質的かつ完全に、また6−Oおよび2−O位を選択的に脱硫酸
化し、次いで該アミノ位をN−再硫酸化することからなる方法である。
本発明の第七の目的は、6−O脱硫酸化の程度を調節し、ヘパリンのピリジニ
ウム塩型への変換、次いでN−脱硫酸化と6−O脱硫酸化、次いでN−再硫酸化
を含む加溶媒分解的脱硫酸化反応を介して所望の量の硫酸化を有する組成物を製
造することができる、ヘパリンから6−O脱硫酸化ヘパリン断片組成物を製造す
る方法を示すことである。
本発明の第八の目的は、6−O脱硫酸化の程度を調節し、加溶媒分解的脱硫酸
化反応を介して所望の量の硫酸化を有する組成物を製造することができる、6−
O脱硫酸化ヘパリン断片組成物の製造法である。
本発明の第九の目的は、実質的に断片化していない6−O脱硫酸化ヘパリンま
たは6−O脱硫酸化ヘパリン断片組成物を動物宿主に投与することによって、再
狭窄、癌、血管形成、ショック、虚血再還流傷害、炎症、および循環器病を含む
疾病を予防または治療する方法である。
本発明のこれらおよび他の目的は、以下に示す本発明の詳細な説明によってよ
り完全に理解されよう。
図の簡単な説明
図1は、85℃と100℃における生成物の重量平均分子量[MW]wに対す
る加溶媒分解反応の影響を示す。生成物の重量平均分子量[MW]wは実質的に
変化しておらず、実質的に断片化していない生成物を生じている。
図2は、同じ条件下でのヘパリンのスペクトルに対する組成物1A(i)、2
A(i)および3(iii)のH−1およびH−5におけるシフトを示す。
図3Aは加溶媒分解O−脱硫酸化の影響を示し、データは、特定のO−サルフ
ェート基の相対的重要性を対比するために、70℃における加溶媒分解経時反応
に対するパーセントaPTT、2−O硫酸化IdoAを含む二糖類のパーセント
、および6−O硫酸化GlcNを含む二糖類のパーセントで表している。これら
の反応条件下では2−O−サルフェートの実質的な損失を伴うことなく、選択的
な6−O脱硫酸化が生じる。抗凝固活性は反応時間の経過中に、かなり速やかに
出発ヘパリンの約50%まで低下し、6−Oサルフェート基が失われた後、抗凝
固活性は約10%にまで低下した。
図3Bは、加溶媒分解O−脱硫酸化の影響を示し、データは、特定のO−サル
フェート基の相対的重要性を対比するために、100℃における加溶媒分解経時
反応に対するパーセントaPTT、2−O硫酸化IdoAを含む二糖類のパーセ
ント、および6−O硫酸化GlcNを含む二糖類のパーセントで表している。生
成物組成物の抗凝固活性は非常に急速に4時間後<10%まで低下した。
図4Aは、加溶媒分解O−脱硫酸化の影響を示し、データは、70℃+Cu(
II)時間経過での硫酸銅(II)存在下の加溶媒分解反応に対するパーセント
aPTT、2−O硫酸化IdoAを含む二糖類のパーセント、および6−O硫酸
化GlcNを含む二糖類のパーセントで表している。抗凝固活性は72時間後に
出発活性の30%にしか達せず、Cu(II)の存在によって顕著な影響を受け
た。
図4Bは、加溶媒分解O−脱硫酸化の影響を示し、データは、100℃+Cu
(II)時間経過での硫酸銅(II)存在下の加溶媒分解反応に対するパーセン
トaPTT、2−O硫酸化IdoAを含む二糖類のパーセント、および6−O硫
酸化GlcNを含む二糖類のパーセントで表している。Cu(II)存在下の1
00℃における経時反応の二糖プロフィールは、Cu(II)非存在下の加溶媒
分解に比べてわずかな変動しか示さなかった。該プロフィールは、抗凝固活性の
全体的に遅い低下を示し、これはおそらくGMS2に関連した効果よりISMS
とISMの緩徐な変換と関連があるものと思われる。
図5は、70、85および100℃の加溶媒分解反応における経時反応からの
生成物の抗凝固活性を示す。抗凝固活性の低下は、反応温度によって劇的な影響
を受けた。
図6Aは、RO−12UC細胞に対するbFGFの結合を測定するためのアッ
セイにおける組成物1A(ii)の影響の結果を示す。組成物1A(ii)から
のヘキサ、オクタ、デカおよびドデカマーはヘパリンオリゴ糖類とほぼ同様にR
O−12UC細胞に対するbFGFの結合を阻害した。
図6Bは、bFGF誘導ACE細胞増殖を測定するためのアッセイにおける組
成物1A(ii)の影響の結果を示す。組成物1A(ii)からのヘキサ、オク
タ、デカおよびドデカマーは、ヘパリン誘導オリゴ糖類に比べてbFGF誘導A
CE細胞増殖の阻害活性が2倍低かった。
図6Cは、bFGF誘導ACE細胞刺激を測定するためのアッセイにおける組
成物1A(ii)の影響の結果を示す。ヘパリンと組成物1A(ii)のデカマ
ーおよびドデカマーはほぼ同等の活性を示したが、一方、ヘパリンと組成物1A
(ii)のヘキサマーとオクタマーは実質的に不活性であった。
図7Aは、静脈内経路で投与したときの抗再狭窄アッセイにおける組成物1A
(ii)の影響の結果(%閉塞でプロット)を示す。組成物1A(ii)で処理
した動物において閉塞の54%の減少(p<0.05)が見られた。
図7Bは、静脈内経路で投与したときの抗再狭窄アッセイにおける組成物1A
(ii)の影響の結果(%新血管内膜でプロット)を示す。組成物1A(ii)
で処理した動物において血管内膜領域の40%の減少(p<0.05)が見られ
た。
図8は、皮下経路で投与したときの抗再狭窄アッセイにおける組成物2A(i
i)の影響の結果を示す。組成物2A(ii)の投与により、ビークルコントロ
ールに比べて新血管内膜領域の減少が生じた。
本発明の実施法
本発明は、その最も一般的な形において、実質的に断片化していない6−O脱
硫酸化ヘパリンまたは6−O脱硫酸化ヘパリン断片からなる組成物と該組成物の
製造法に関する。この方法により、二糖残基の全6−O位の約<34%が硫酸化
されると共に他のO−基の一部が失われる(二糖残基の全2−O位の67%まで
が硫酸化される)ように、6−O脱硫酸化のパーセントを調節することができる
。
本明細書を通して、科学刊行物、特許または特許出願を引用した。これらの引
用文献は本出願の一部を構成する。
本明細書を通して用いる技術用語を簡単に説明することによって本発明の理解
が促されるであろう。
「ヘパリン/ヘパラン硫酸」または「ヘパリン」は、ヘパリンを抗凝固剤とし
て製造するための通常の方法で組織から得られた調製物、あるいは組織から得ら
れるものに対応する合成された調製物をいう(本明細書の一部を構成する、Conr
ad,H.E.の、Heparin and Related Polysaccharides、N.Y.Academy of Sc.,(6
月7日、1989)の56巻、18頁参照)。この調製物は、ヘパリンの特徴であるイズ
ロン酸(IdoA)とヘパラン硫酸の特徴であるD−グルクロン酸(GlcA)
の残基を含んでいてもよい。しかし、GlcAとIdoAはいずれも両者に存在
するが、それらは異なった割合の量で存在している。ヘパラン硫酸がよりヘパリ
ン様になるにつれてIdoA/GlcA比は上昇する。既述の背景の項に記載の
ごとく、D−グルクロン酸のL−イズロン酸への変換は、ヘパラン−タイプの中
間体のGlcA残基の5炭素がエピマー化した結果である。そのようなエピマー
化と変換に関するこの一連の工程は、当該技術分野で理解されている。完全な変
換が起こっていない程度に、該調製物においてヘパラン硫酸の特性は維持されて
いる。ヘパリン調製物のポリマー鎖の正確な性質は一般に決定されておらず、製
造物ごとに異なるため、用語「ヘパリン/ヘパラン硫酸」または「ヘパリン」は
、生じた混合物の範囲に及ぶことを意図している。おそらく、ヘパラン硫酸とヘ
パリンとを区別する主な特徴は後者が抗凝固活性を有することである。
ヘパリン断片または低分子量のヘパリンとは、多くの試薬のいずれかおよび平
均分子量5〜30kdのヘパリンを平均分子量2〜6.5kdの組成物に脱重合
する方法によって処理されているヘパリンをいう。そのような試薬と方法は当該
技術分野で知られており、例として亜硝酸脱重合、ベンジル化に続くアルカリ脱
重合、パーオキシダーゼ脱重合、アルカリ処理、およびヘパリナーゼによる酵素
的脱重合が含まれる(Hirsh,J.とLevine,M.の、Blood(1992)79:1-17参照)。
「ヘパリン/ヘパラン硫酸」または「ヘパリン」調製物は、所望であればヒト
組織を含む種々の哺乳動物組織から得ることができる。一般に、ブタまたはウシ
起源のものが用いられ、血管新生組織が好ましい。好ましいヘパリン出発材料の
供給源は、ブタ腸粘膜であり、この組織供給源から調製した「ヘパリン」と呼ば
れる調製物は市販品として利用可能である。一般に、ヘパリン出発物質は、選択
した組織を自己分解させ、該組織をアルカリ抽出し、次いで蛋白を凝固させ、次
いで酸化により上清からヘパリン−蛋白コンプレックスを沈澱させることによっ
て選択した組織供給源から製造される。該コンプレックスはエタノールやアセト
ンもしくはその混合物のような極性非水性溶媒を用いて再沈澱させることによっ
て回収され、エタノールのような有機溶媒で抽出して脂肪を除去し、トリプシン
のような蛋白分解酵素で処理して蛋白を除去する。ヘパリン出発物質を調製する
のに適した方法は、例えはCharles,A.F.らの、Biochem J(1936)30:1927-1933に
記載されており、Coyne,E.の、Chemistry and Biology of Heparin(1981)Elsevi
er Publishers,North Holland,New York,Lunblad,R.L.ら編中に開示されている
ようなこの基本的方法を改良したものが知られている。
一般に、非修飾ヘパリンにおいて、GlcNの6−O位の85%が硫酸化され
、IdoAの2−O位の70%が硫酸化される。ヘパリンにおけるサルフェート
の含有量と分布は幾分変化しやすいとも理解される。本発明は出発ヘパリン/ヘ
パラン硫酸または他のNAC−ヘパリンのO−硫酸化のレベルと分布を変化させ
、抗凝固活性は低下しているが、他の活性は保持されている組成物を得るのに有
用である。
「NAC−ヘパリン」または「NAC」は、利用可能な市販のヘパリンを1ま
たはそれ以上の化学薬品で処理して得られる、実質的に非抗凝固性の、非断片化
ヘパリン組成物をいう。
アルキルアミンが炭素数1〜6の、塩の形のアルキル基のアミンを表すアルキ
ル−またはサイクリックアミン塩、およびサイクリック−アミン塩類は、窒素が
ピペリジン、モルホリンおよびピリジンのような複素環の一部をなす塩の形の該
アミン、好ましくはピリジニウム塩形を表す。
本明細書に記載し、クレームしている組成物の二糖分析法はGuoとConradの、A
nal.Biochem.(1988)168:54-62に記載のものであることに注目することが重要で
ある。そのような方法は1〜2%以内の誤差で特定の二糖類を検出することがで
きる。
「6−O−脱硫酸化ヘパリン」は、6−O位が主に脱硫酸化され、2−O位の
一部が脱硫酸化されている、実質的に非抗凝固性の非断片化ヘパリン組成物をい
う。
「実質的に断片化していないかまたは非断片化の」とは、生成物の重量平均分
子量[MW]wが実質的に変化していない、すなわち、生成物の重量平均分子量
「MW]wが出発物質の重量平均分子量[MW]wの75%またはそれ以上であ
る組成物を示す。
本発明の方法はその一般的な形において、断片化していないヘパリンまたはヘ
パリン断片の6−O脱硫酸化の程度を調節し、所望のパーセントの脱硫酸化を有
する6−O脱硫酸化ヘパリン断片または実質的に断片化していない6−O脱硫酸
化ヘパリンの組成物を得るのを可能にする。
一般に、好ましい組成物は以下のごとく定義される。
(i)二糖残基の全6−O位の<34%と全2−O位の51〜67%が硫酸化
されている、出発抗凝固活性の<30%を有する組成物1および1A。組成物1
Aは、二価のカチオン、好ましくは銅の存在下で、ヘパリンが選択的に加溶媒分
解O−脱硫酸化された生成物である。組成物1および1Aの活性には、血管形成
と細胞増殖を含むbFGF関連活性の阻害が含まれる。
(ii)組成物2および2Aは、二糖残基の全6−O位の12〜26%と全2
−O位の28〜50%が硫酸化されている、出発抗凝固活性の5〜15%を有す
る。組成物2Aは、二価のカチオン、好ましくは銅の存在下で、ヘパリンが選択
的に加溶媒分解O−脱硫酸化された生成物である。組成物2および2Aの活性に
は、血管形成と細胞増殖を含むbFGF関連活性の阻害が含まれる。
(iii)二糖残基の全6−O位の<13%と全2−O位の14〜28%が硫
酸化されている、<5%の抗凝固活性を有する組成物3および3A。組成物3A
は、二価のカチオン、好ましくは銅の存在下で、ヘパリンが選択的に加溶媒分解
O−脱硫酸化された生成物である。組成物3および3Aの活性には、ヘパリンと
同等の選択的なbFGF関連細胞増殖刺激特性が含まれる。
簡単には、この方法は市販品として利用可能なヘパリン、好ましくはMing Han
ヘパリン、165U/mg、または低分子量ヘパリン(LMWヘパリン)とも呼
ばれるヘパリン断片を塩の形に変換し、次いで、ほぼ完全なN−脱硫酸化をもた
らす加溶媒分解脱硫酸化および最も重要には部分的O−脱硫酸化を生じさせるこ
とからなる。次に、反応物質をN−再硫酸化し、上記組成物を得る。本明細書に
開示されている組成物中のO−脱硫酸化の程度は、反応温度、反応時間、加溶媒
分解溶媒組成物、ヘパリン塩型の溶液濃縮物、および反応溶液中の他の逆のイオ
ンの存在に依存する。これらの反応パラメータを調節し、最適な選択的6−O脱
硫酸化ヘパリン組成物を得る。
好ましくは、この方法は市販品として利用可能なヘパリン、好ましくはMing H
anヘパリン、165U/mg、または低分子量ヘパリン(LMWヘパリン)とも
呼ばれるヘパリン断片をアルキル−またはサイクリック−アミン塩、好ましくは
ピリジニウム塩型に変換し、60〜110℃で、適切な長さの時間1〜10%水
(またはメタノール)を含むDMSO中のピリジニウムヘパリン溶液を加熱する
ことからなる。分離された生成物は、ほぼ完全にN−脱硫酸化され、O−サルフ
ェート含有量および特に6−O−サルフェート含有量が減少する。これら中間体
は、続く、論文(Lloydらの、Biochem.Pharmacol.(1971)20,637-648)に記載の
適切な条件(典型的にはアルカリ水性媒質(pH9)中のトリメチルアミン−3
酸化硫黄コンプレックス(または同等の試薬)による処理を含む)を用いる続く
N−再硫酸化によって本発明の最終産物に変換される。これにより、出発ヘパリ
ンのO−サルフェート含有量だけが減少している生成物をもたらす実質的に完全
なN−再硫酸化が達成される。
ヘパリンの酸触媒脱硫酸化によって得られたヘパリン誘導体は、酸触媒反応に
おけるO−脱硫酸化の順序(2−O−S>6−O−S)が本明細書に開示の組成
物のO−脱硫酸化の順序(6−O−S>2−O−S)と反対であるため、本明細
書に記載の誘導体とは明らかに異なる。
ヘパリン中の6−O−サルフェート基が抗凝固活性に決定的であることは報告
されていない。しかし、本発明において特徴づけられる組成物において、6−O
−サルフェート置換体の広範な減少(二糖残基の全6−O位の<34%が酸化さ
れている)と他のO−サルフェート基の部分的な減少(二糖残基の全O−位の6
7%までが硫酸化されている)は抗凝固活性の実質的な低下をもたらすことが確
証されている。
標識型の本発明の非抗凝固性組成物
本発明の組成物には、所望により蛍光、放射性同位元素、または酵素標識を施
すことができる。炭水化物または関連部分に標識をカップリングするための通常
の技術を用いることができる。そのような技術は当該技術分野でよく確立されて
いる(例えば、米国特許第4613665号参照)。本発明の標識混合物は、疾
病部位の同定や競合イムノアッセイ、およびin vivoでの該組成物の薬物動態の
追跡手段として用いてもよい。この目的に適した放射性同位元素標識には、水素3
、ヨウ素131、インジウム111、テクネチウム99、およびリン32が含まれる。適
切な酵素標識には、アルカリホスファターゼ、グルコース−6−ホスファターゼ
−デヒドロゲナーゼ、および西洋ワサビパーオキシダーゼが含まれる。特に好ま
しい蛍光標識には、フルオレセインとダンシルが含まれる。3タイプすべての種
々の標識が当該技術分野で知られている。
投与および使用
本発明の非抗凝固性ヘパリン組成物は、再狭窄、癌、血管形成、ショック、虚
血再還流傷害、炎症、循環器病、および血小板凝集、ヘパラナーゼまたは血管形
成活性によって発生もしくは悪化する疾病を含む種々の病気を治療または予防す
るための治療的応用に有用である。本発明の6−O脱硫酸化ヘパリン組成物は、
その抗凝固活性によって、血管形成が基礎となる疾病の有益な治療に好ましく応
用されよう。そのようなクラスの疾病の1つに網膜症がある。このクラスの1つ
に、本発明の組成物によって好ましく治療される糖尿病性網膜症がある。本発明
の組成物の別の応用は、癌、特に転移性および侵襲性癌の、好ましくは患者の身
体全体への癌の拡散と増殖を促すかまたはそのために必要な血管形成を阻害する
治療または予防である。
本発明の組成物のさらに別の応用は、例えば、循環血液量減少性ショックおよ
び敗血症性ショックを含むショックの治療または予防である。循環血液量減少性
ショックのような多くの疾病のメカニズムは複雑であり、多くの原因の結果であ
る。したがって、本明細書で用いている「治療」は、1またはそれ以上の原因も
しくは結果と干渉することによって治療される個体に有益な影響を与える方法論
を示す。循環血液量減少性ショックの「治療」には、おそらく、ショックの原因
を完全かつ実質的に除去することなく、症状の発現を予防、遅延またはいくぶん
減少させることが含まれることが理解される。したがって、本発明の組成物によ
る治療は、治療される個体が最終的にショックで死亡したとして寿命を延ばし、
そして/または治療の質を改善するかもしれない。
本発明の組成物は、該疾病を発現するリスクの高い患者におけるそのようなシ
ョックを予防するのに応用することもできる。例えば、ある容態では、出血、外
傷、火傷、多尿症、嘔吐、および下痢を含む循環血液量減少性ショックを発生す
るリスクが高い(Circulatory Shock,(1992)91:7参照)。すなわち、これら容態
の1つによって入院している患者には、循環血液量減少性ショックの発現を予防
するために本発明の組成物を投与してよい。その結果、本出願全体の内容は、循
環血液量減少性ショックを治療する方法についてなされているが、そのような用
語がショックの予防を含むことも当業者なら理解しよう。
好ましい治療的組成物は1、1A、2、2A、3および3Aの断片からなるこ
とに注目すべきである。それらのサイズの減少によって、そのような断片は好ま
しい生物学的利用能(バイオアベイラビリティ)と薬物動態特性を示す(Hirsh,
J.とLevine,M.の、Blood(1992)79:1-17参照)。
実質的に断片化されていない6−O脱硫酸化ヘパリンまたは6−O脱硫酸化ヘ
パリン断片の投与は、通常、グリコサミノグリカン組成物に適した経路によって
なされ、一般的には、注射によるような全身投与が含まれる。
長期間にわたる連続注射を容易に続けることができることから、静脈注射が特
に好ましい。腔内投与によるかまたは浸透圧ポンプや埋め込み物(インプラント
)を用いる外膜投与による血管系内への導入も好ましい。通常のインプラントは
、コラーゲン、ポリラクテート、およびポリラクテート/ポリグリコシド混合物
などのような生物分解性物質が含まれる。これらはパッチまたはビーズとして製
剤化してもよい。通常の用量範囲は、5〜30、好ましくは7〜14日の期間に
わたって、一定に0.1〜10mg/kg/時の範囲である。特に好ましい用量
は約0.3mg/kg/時または70kgの成人に対して21mg/時もしくは
約500mg/日である。
他の投与法はあまり好ましくないが、より便利かもしれない。低濃度の皮下投
与または静脈投与よりわずかに高用量の経口投与、または局所的傷害に対する経
膜もしくは経皮または他の局所投与も有効かも知れない。おそらく血管移殖物質
に含まれる支持マトリックスのような連続的放出用具を介した局所投与は外傷の
位置に近づきやすく、特に有用である。
前記の投与法に適した製剤は、当該技術分野で知られており、製剤の適切な概
要はRemington's Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,
PA、最新版に記載されている。
本発明の組成物は、放射性標識、蛍光標識、クロモホア、または酵素のような
通常の方法を用いて標識してもよく、そのような組成物を投与した後の生物試料
中の該組成物の量をアッセイするのに用いてもよい。生物試料中の分析物の競合
アッセイの適切なプロトコールは当該技術分野でよく知られており、標識競合物
との混合物中、通常、免疫グロブリンやその断片のような分析物と反応する特定
の結合パートナーで試料を処理することを含む。下記のごとく本発明に従って製
造される抗体は、この目的に有用である。抗体に対する分析物と競合物の結合は
、結合コンプレックスを除去し、このコンプレックスまたは上清のいずれかの標
識物をアッセイすることによって測定することができる。分別は、特定の結合パ
ートナーを固体支持体とあらかじめ結合させることによってより容易に行うこと
ができる。そのような技術は当該技術分野でよく知られており、そのような競合
アッセイに利用できるプロトコールは本明細書に詳細に記載するにはあまりに数
が多く、よく知られて過ぎている。
抗体の作製は、6−O脱硫酸化ヘパリンまたは6−O脱硫酸化ヘパリン断片を
適当な動物宿主に直接注射するか、または該組成物を適切な担体とカップリング
させ、カップリングさせた物質を適切なアジュバントと共に標準的免疫プロトコ
ールにより哺乳動物または他の脊椎対象に投与することによって行ってよい。適
切な免疫原性担体には、例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)
、破傷風トキソイド、ウシ血清アルブミン(BSA)のような種々の血清アルブ
ミン、およびロタウイルスVP6蛋白のようなあるウイルス蛋白が含まれる。次
い
で、これらカップリングした物質を、ウサギ、ラット、またはマウスのような対
象に反復注射により投与し、標準的イムノアッセイ法によって抗体価をモニター
する。得られる抗血清はそれ自体を使用してもよく、また免疫によって生じた抗
体分泌細胞を標準的技術を用いて不死化し、6−O脱硫酸化ヘパリンまたは6−
O脱硫酸化ヘパリン断片と免疫反応性であるモノクローナル調製物の供給源とし
て使用してもよい。
6−O脱硫酸化ヘパリンまたは6−O脱硫酸化ヘパリン断片と担体を結合する
方法は当該技術分野で知られている。該組成物は、例えば、Pierce Chemical Co
mpany,Rockford,IL.から市販されているようなホモ−またはヘテロニ機能性リン
カーによって、担体と結合してもよい。あるコバレントなリンカーは米国特許第
4954637号に記載されている。
ネズミまたはヒトモノクローナル調製物はKohlerとMillsteinの、Nature(1975
)256:495およびFendlyらの、Hybridoma(1987)6:359に記載の不死化細胞との融合
のような当該技術分野でよく知られている方法を用いる動物の末梢血リンパ球や
は牌細胞をin vivoまたはin vitroで不死化することによって得ることができる
。in vitro法は一般に、Luben,R.とMohler,M.の、Molecular Immunology(1980)1
7:635、Reading,C.の、Methods in Enzymology(1986)121:18(パート1)、また
はVoss,B.の、Methods in Enzymology(1986)121:27に記載されている。組換えお
よび/またはヒト化抗体は当該技術分野で知られた方法を用いて作製してもよい
。
6−O脱硫酸化ヘパリンまたは6−O脱硫酸化ヘパリン断片の特性
上記のごとく、ヘパリンおよび非抗凝固性ヘパリンは生物学的に活性である。
本発明の組成物の生物学的特性を決定し、これらをヘパリンまたは既知の非抗凝
固性ヘパリンの該特性と比較するためにあるアッセイを実施した。6−O脱硫酸
化ヘパリンの特に顕著な特性はin vivoの毒性が低いことである。試験した特性
と使用したアッセイは下記の実施例に詳細に記載されている。
以下の実施例は例示であって本発明を限定しようとするものではない。例えば
、当業者は下記のものと置き換えることができ、実施例に記載の範囲内に入る物
質および方法があることを知るであろう。
実施例1
6−O脱硫酸化ヘパリンの製造
表1は組成物1、1A、2、2A、3および3Aを合成するのに用いる反応条
件を挙げている。組成物に対する反応温度と時間の影響および加溶媒分解の推移
からの生成物の抗凝固活性に関する詳細な実験は、銅の非存在下(各図3Aおよ
び3B)と銅の存在化(各図4Aおよび4B)の両方で、70および100℃で
実施した。全ての他の反応パラメーターは、結果を適切に比較できるように一定
に保った。一般に、ピリジニウムヘパリン2.0gを水10mLに溶解し、次い
でDMSO 90mLで希釈した。この溶液を温度調節した油浴中で一定に撹拌
しながら加熱した。部分標本(10mL)を示した時間間隔で回収し、5%重炭
酸ナトリウム5mLを含むチューブに移して冷却した。すべての部分標本を12
時間0.1M酢酸ナトリウム溶液10倍容で2回、次いで蒸留水で徹底的に透析
した。
N−再硫酸化:ヘパリン誘導体中の遊離アミン機能性の緩やかかつ選択的なN
−硫酸化を達成するための反応条件は、Lloydら(Biochem.Pharmacol.,(1971)20
,637-648)が報告しているものと同様であった。該ヘパリン誘導体または加溶媒
分解生成物は、50〜60℃で24時間、0.1M水性炭酸ナトリウム中、過剰
の(3〜5モル等量)TMA/SO3またはピリジン/SO3で処理された。過剰
の硫酸化試薬は完全な反応を保証するために、通常、反応の時間経過にわたって
3回に分けて加えられる。反応後、溶液を蒸留水で徹底的に透析し、濾過し、凍
結乾燥した。
一般に、目的とする組成物は以下のごとく定義される。
(i)二糖残基の全6−O位の<34%および全2−O位の51〜67%が硫
酸化されている、出発抗凝固活性の<30%を有する組成物1および1A。組成
物1Aは、二価カチオン、好ましくは銅の存在下における、ヘパリンの選択的な
加溶媒分解O−脱硫酸化の産物である。組成物1および1Aの活性には、血管形
成および細胞増殖を含むbFGF関連活性の阻害が含まれる。
(ii)二糖残基の全6−O位の12〜26%および全2−O位の28〜50
%が硫酸化されている、出発抗凝固活性の5〜15%を有する組成物2および2
A。組成物2Aは、二価カチオン、好ましくは銅の存在下における、ヘパリンの
選択的な加溶媒分解O−脱硫酸化の産物である。組成物2および2Aの活性には
、血管形成および細胞増殖を含むbFGF関連活性の阻害が含まれる。
(iii)二糖残基の全6−O位の<13%および全2−O位の14〜28%
が硫酸化されている、出発抗凝固活性の<5%を有する組成物3および3A。組
成物3Aは、二価カチオン、好ましくは銅の存在下における、ヘパリンの選択的
な加溶媒分解O−脱硫酸化の産物である。組成物3および3Aの活性には、ヘパ
リンと同様の選択的bFGF関連細胞増殖刺激特性が含まれる。
構造的特性:反応の時間経過から分離されたすべての試料は種々の方法を用い
て分析された。分析は通常、N−再硫酸化産物について行われた。図1は85℃
および100℃における該産物の重量平均分子量[MW]wに対する加溶媒分解
反応の影響を示す。該産物の重量平均分子量[MW]wは実質的に変化せず、実
質的に断片化していない産物を生じる。
1H−nmr分光光度法:Na2CO3を添加してpH>90に補正したD2O中
の溶液のN−再硫酸化生成物について行ったとき、部分O−脱硫酸化産物の30
0MHz 1H−nmr特性が最も有効であった。最も有益なこれらのスペクトル
の2つの性状はIdoAからの2−O−サルフェートの損失の結果、IdoAH
−1およびIdoA H−5のシフトが生じることである。これらの共鳴は6−
O−サルフェートの減少にはあまり比較的反応しない。同じ条件下でヘパリンの
スペクトルに比べて>90%GlcN 6−O−サルフェートおよび<20%2
−O−サルフェートが失われている組成物3に関する1H−1および1H−5のシ
フトを図2に示す。
二糖組成物:この産物の組成物分析は、Guo,Y.とConrad,H.E.のAnal.Biochem.
(1989)176:96およびGuo,Y.とConrad,H.E.の、Anal.Biochem.(1988)168:54に記載
の二糖分析法を用いて達成された。簡単には、試料をヒドラジンで処理してこの
物質を完全に脱N−アセチル化し、次いでこれを順次pH1.5および4.0で
亜硝酸処理した。これらの条件はヘパリン様ポリマーの、GlcN残基がそれぞ
れのアンヒドロマンノース残基に変換されている構成二糖類への完全な変換をも
たらした。この二糖混合物のNaB3H4による還元により親ポリマーの構成物を
完全に分析するのに適した標識二糖類を得た。
逆相イオン−ペアリングHPLC(Guo,Y.とConrad,H.E.の、Anal.Biochem.(1
989)176:96)を用いて、試料中のモノ(ISM、IMSおよびGMS)および脱
硫酸化二糖類(ISMSおよびGMS2)を定量した。非硫酸化二糖類はこれら
の産物にも存在しており、ペーパー電気泳動(Shively,J.E..とConrad,H.E.の、
Biochem.(1976)15:3943)を用いて定量された。非−、モノ−および脱硫酸化二
糖類の相対量は、HPLCおよびペーパー電気泳動のデータから計算した。
抗凝固活性:活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)は、化学的また
は粒状アクチベーターのいずれかを用い、第XII因子を介する固有の系の活性
化に基づくクエン酸化血しょうベースの凝固アッセイを用いて決定された。AP
TTアッセイはJ.M.Walengaらの、「In Vitro Evaluation of Heparin Fraction
s:Old vs.New Methods」CRC Critical Reviews in Clinical Laboratory Syste
ms 22,362に詳述されており、この内容は本明細書の一部を構成する。
APTT値はヘパリンに対する値を100%とするヘパリンのパーセントで計
算した。図3Aは、加溶媒分解O−脱硫酸化の影響を示し、データは特定のO−
サルフェート基の相対的重要性を対比するために、70℃の加溶媒分解経時反応
におけるパーセントaPTT、パーセント2−O−硫酸化二糖含有量、およびパ
ーセント6−O−硫酸化二糖含有量で表す。ここでみられる傾向は、6−O脱硫
酸化が2−O−サルフェートの実質的な減少を伴うことなく選択的に生じるとい
う観察結果を支持する。この抗凝固活性は、反応の時間経過にわたって、出発ヘ
パリンの約50%までかなり急速に低下し、おおよそ6−Oサルフェート基の減
少傾向がみられた後に、より徐々に約10%に低下した。
100℃で実施例1の記載に従って実施した加溶媒分解反応からの生成物の抗
凝固活性(図3B)は、4時間後に<10%まで非常に速やかに低下した。12
時間までに、最初の2−O−サルフェート含有量の〜40%がISM二糖単位の
形を有するにも関わらず、この活性は最初の活性の<1%となった。
加溶媒分解反応に対する銅の影響:70℃および100℃の、硫酸銅(II)
存在下における加溶媒分解反応に対するパーセントaPTT、パーセント2−O
硫酸化二糖含有量、およびパーセント6−O硫酸化二糖含有量に対する加溶媒分
解O−脱硫酸化の経過時間の影響は、それぞれ図4Aおよび4Bにグラフで示す
。
70℃+Cu(II)の経過時間(図4A)において、抗凝固活性は、72時
間後出発活性の30%にしか達せず、Cu(II)の存在によって著しい影響を
受けた。より後の時点における抗凝固活性の保持は、ISMSが約5%上昇した
ことによるか、Cu(II)が存在しないときのようにGMS2が完全には失わ
れないことによるかも知れない。図4Aにみられる傾向は、6−O脱硫酸化が、
2−O−サルフェートの実質的な減少を伴うことなく選択的に生じるという観察
結果を支持する。
Cu(II)存在下における100℃の経時反応の二糖プロフィールはCu(
II)非存在下における加溶媒分解に比べてわずかな変化しか示さなかった(図
4B)。抗凝固活性プロフィールは、おそらくGMS2に関連するいかなる影響
よりも遅いISMSおよびISMの変換と相関する、活性のより遅い全体的な低
下を示した。
Cu(II)存在下における85℃の加溶媒分解経時反応を実施し、初期デー
タはCu(II)存在下における70および100℃での反応に基づいて予想さ
れた傾向を支持した。
70、85および100℃におけるすべての経時反応からの産物の抗凝固活性
は図5にグラフで示す。明らかに、抗凝固活性の低下は、反応温度による劇的な
影響を受けた。Cu(II)イオンの存在は、より低温でより有効なaPTTに
対する保護効果を示した。
100℃の加溶媒分解は、いくらかの2−O脱硫酸化を伴う6−O−サルフェ
ートの減少率の劇的な増加をもたらすと、図3Bから結論することができる。<
25%の6−O−サルフェート含有量と>90%の2−O−サルフェート含有量
を有する組成物が4時間の反応時間で得られ、出発ヘパリンの抗凝固活性の<1
0%を有していた。上記のごとくCu(II)存在下で加溶媒分解を行うと8時
間後に同様の組成物が得られた(図4B)。これらの結果は、2−O−サルフェ
ートの有意な減少は抗凝固活性の有意な低下にとって必要ではないことも示して
いる。
実施例2
抗血管形成活性
血管形成を刺激または阻害する化合物は当該技術分野で知られた種々の方法を
用いて確認することができる。上記実施例1に記載のごとく生成された組成物2
A(i)および3(iii)はニワトリしょう尿膜(CAM)アッセイを用いて
試験された。このアッセイは、試料の血管新生阻害効果を評価した以外は、Cast
ellotらの、J.of Cellular Physiology(1986)127:323-329の記載に従って実施し
た。ハイドロコーチゾン50μgまたはハイドロコーチゾンと種々の量の6−O
脱硫酸化ヘパリンを含有するアガロースペレットをCAM上で3〜4日間インキ
ュベーションした後、結果をスコアにつけた。
表2はその結果を示す。組成物2A(i)は血管形成活性を有することが明ら
かである。より広範なO脱硫酸化産物である組成物3(iii)はより弱い活性
を示した。血管静止活性は該ペレット周囲の部分的にクリアーなゾーン、または
無血管ゾーンで定義される。すべての場合において、各ヘパリノイド濃度におけ
るペレットはハイドロコーチゾン50μgを含んでいた。
表2の括弧内の数字は、無効、部分的クリアリング(clearing)、もしくは非
脈管ゾーンを示すとスコアづけした全胎児のパーセントである。例えば、組成物
2A(i)50μg/mLは5胎児で効果がなく、8胎児で部分的クリアリング
を示した。したがって、これらの条件下では胎児の38.5%で効果がなく、6
1.5%が部分的クリアリングを示した。
実施例3
組成物2A(iii)および3(ii)のヘパラナーゼ阻害活性
ラット肝癌細胞系からのヘパラナーゼを用いて組成物2A(iii)および3
(ii)のヘパラナーゼ阻害活性を試験した。この細胞系はGerschensonらの、S
cience(1970)170:859-861に記載されている。
肝癌細胞からのヘパラナーゼの分離法と該酵素活性のアッセイ法は当業者に知
られている。以下の方法と物質を使用した。
コンフルエントのラット肝癌細胞培養を標準的細胞培養フラスコに増殖させ、
0.25Mショ糖と0.14MNaClを含む50mMヘペス溶液(pH7.4
)10mLで3回洗浄した。次に、0.14MNaCl、6mMアジ化ナトリウ
ムおよびあるプロテアーゼインヒビターを含む50mM MES緩衝液(pH5
.2)1mLを加え、ディスポーザブルの細胞スクレイパーを用いてフラスコか
ら細胞を回収した。MES緩衝液には以下のプロテアーゼインヒビターが存在し
た:0.2μg/mLアプロチニン、0.5μg/mLロイペプチン、100μ
g/mLダイズトリプシンインヒビター、1mM PMSF、2mM EDTA(
ナトリウム塩)、および15mM D−糖酸1,4ラクトン(エクソグルクロニ
ダーゼインヒビター)。
7mL Dounceホモゲナイザーに細胞を加えてエタノール/ドライアイス浴中
で3回凍結/融解し、きっちりした乳棒を用い15ストロークによりホモゲナイ
ズした。得られる細胞溶解物を2mL遠心管に入れ、4℃、16000×gで30分
間遠心した。上清を取り出し、上清の蛋白濃度をMacro BCA蛋白アッセイを用い
て測定した。BSAを標準品に用いた。
セチルピリジニウムクロリド(CPC)沈澱により非開裂N−3Hアセチル化
すい臓ヘパラン硫酸から誘導した可溶性N−3Hアセチル化すい臓ヘパラン硫酸
断片を測定することによってヘパラナーゼ活性を定量した。N−3Hアセチル化
すい臓ヘパラン硫酸は約12000の重量平均分子量またはMwを持っていた。以下
の手順を用いた。
上記のごとく分離した、蛋白10μgを含むラット肝癌細胞上清を、上記のプ
ロテアーゼインヒビター、0.14M NaClおよび6mMアジ化ナトリウム
を含む50mM MES緩衝液(pH5.2)で30μLとし、これをシリコン
化1.5mL微量遠心管(チューブ)に加えた。次いで、0.14M NaCl
を含む200mM MES緩衝液(pH5.2)10μL中の3H−アセチル化す
い臓ヘパラン硫酸(93ng、30000cpm)をラット肝癌細胞上清を含むチューブ
に加えた。種々の濃度の組成物2A(iii)および3(ii)を含む蒸留水1
0μLを加えた。アッセイは各インヒビター濃度につきトリプリケートで行った
。3つの「0」タイムポイント(時)を、インヒビターを添加していないコント
ロールとして設けた。最高濃度のインヒビターが完全な放射性標識ヘパラン硫酸
基質の沈澱に影響しないことが以前に知られていた。
この酵素基質インヒビター混合物を微量遠心器で遠心し、次いでチューブを3
7℃で30分間インキュベーションした。「0」時を氷上で維持した。適当な時
間の後、反応チューブに以下のものを加えて反応を止めた。
1)水性ヘパリン溶液(0.33mg/mL)150μL
2)100mM酢酸ナトリウム(pH5.5)200μL
3)CPC(水中、0.6%)100μL
次に、このチューブを渦巻状に撹拌し(vortexed)、室温で60分間インキュ
ベーションし、次いで5415Cエッペンドルフ遠心器にて4000×g、10分間
遠心した。上清を取り出し、液体シンチレーションカウンターで3Hをアッセイ
した。
組成物2A(iii)は、ヘパリンとほぼ同様の、ラット肝細胞からのヘパラ
ナーゼの阻害効果を示した。デュプリケートの実験において、相対IC501.0
±0.1が得られた。わずかにより脱硫酸化された類似体である組成物3(ii
)はわずかに低い活性を示し、相対IC50は0.9±0.1であった。したがっ
て、これらの結果は、本発明の6−O脱硫酸化ヘパリン組成物がペパリナーゼイ
ンヒビターであることを立証している。
実施例4
bFGF結合アッセイにおける組成物1A、2A、3および3Aの活性
経時反応からの選択的産物の相互作用は、Ishihara,M.らの、Analytical Bioc
hemistry(1992)202:310およびIshihara,M.らの、J.Biol.Chem.(1993)268:4675に
記載のin vitroの細胞ベースのアッセイにおいてbFGFと相互作用する能力を
評価した。表3は、組成物1A(i)と(ii)、2A(i)、(ii)と(i
ii)、3(i)、(ii)と(iii)、および3A(ii)のbFGF関連
特性を支持するデータを含む。組成物1Aおよび2Aは、ヘパリンと同様に阻害
および刺激し、一方、組成物3および3Aは阻害特性は低いが、刺激特性は維持
していることに注目することが重要である。
これらbFGF関連特性は、さらに選択的6−O脱硫酸化ヘパリン誘導体由来
のオリゴ糖の研究から得られたデータによって裏づけられる。組成物1A(ii
)をヒドラジン分解し、該ポリマーをN−脱アセチル化し、次いでサイズと構造
が限定されたオリゴ糖類を調製した。次に、この試料をpH4で10分間亜硝酸
にて処理し、N−硫酸化グルコサミン残基を有する断片の混合物を得た。次いで
この反応混合物をpH3でインキュベーションし、さらに脱重合を完結させた。
得られるオリゴ糖類は、アルカリ条件で、ホウ化水素ナトリウムを用いて還元さ
れた。
オリゴ糖類はBio-Gel P-10(BioRad)カラム(3×200cm)を用いるゲル
濾過クロマトグラフィーによって分別された。カラムを0.5M重炭酸アンモニ
ウムで平衡化および溶出し、分画のウロン酸をカルバゾール法でアッセイした。
次にオリゴ糖プールをP−10カラムを用いて再度クロマトグラフィーにかけ、
さらにサイズの均一性を確実なものとした。次いで、10mMトリス(pH7.
3)中の0.2M塩化ナトリウムで平衡化したQ−セファロース(Pharmacia)
カラム(1×5cm)で各オリゴ糖を分画化した。ローディングした後、結合し
ていないオリゴ糖を緩衝液20mLで洗浄除去し、残るオリゴ糖類を塩化ナトリ
ウムの線形グラジエント(0.2〜2.0M NaCl)で洗浄除去した。生じ
た各イリゴ糖類プールをQ−セファロースに対する親和性の異なる6つの異なる
サブプールに分け、このサブプールを最高濃度のNaClで溶出し、次いで1000
MWCO透析膜(Spectrum)を用いて蒸留水で透析した。カタバゾールアッセイ
を用いてすべてのカラム分画の物質をモニターした。既述の二糖分析法を用いて
各オリゴ糖プールの組成物の分析を行った。
これらオリゴマーは主に構造(IdoA2S−GlcNS)からなることを特
徴とするが、一方、ヘパリンからの対応するオリゴマーは(IdoA2S−Gl
cNS6S)であろう。組成物1A(ii)からのヘキサ、オクタ、デカ、およ
びドデカマーは、ヘパリンオリゴ糖類とほぼ同様にRO−12UC細胞に結合す
るbFGFを阻害した(図6A)が、bFGF誘導ACE細胞増殖の阻害活性は
二倍低かった(図6B)。ヘパリンと組成物1A(ii)のデカマーとドデカマ
ーは、bFGF誘導ACE細胞刺激アッセイのほぼ同等の活性を示したが、一方
両者のヘキサマーとオクタマーは実質的に不活性であった(図6C)。
実施例5
リストセチン誘導血小板凝集に対する組成物2A(i)の影響
Sobelらの、J.Clin.Invest.(1992)87:1787-1793およびKeltonらの、Tromb Res
(1980)18:477-483の記載に従ってvWFの存在下でリストセチン誘導血小板凝集
に対する組成物2A(i)の影響を測定した。
実験は以下のごとく行った。血小板の豊富な血しょうは、300〜500gの
雄のモルモットのクエン酸化全血を低速遠心し、赤血球細胞を沈澱させて調製し
た。モルモットをメトキシフルランで麻酔した。上層を回収し、これを用いて血
小板凝集に対するヘパリノイドの影響を測定した。残りの赤血球細胞が豊富な血
しょうを高速遠心して血小板プール血しょう分画を調製し、これをアグレゴメー
ターのブランクに用いた。血小板の豊富な血しょう200μLと血小板の乏しい
血しょう200μLからなる試料400μLをデュアル凝固モジュール(Payton
)2チャンネルアグレゴメーターの光路に置き、37℃で10分間種々の濃度の
ヘパリノイド被験物質またはPBS緩衝液コントロールとプレインキュベーショ
ンした。試料を1000rpmで連続的に撹拌した。リストセチン(ストック溶液、125
mg/mL0.9%無菌生理食塩水中)6μLを加えて凝集を誘発し、血小板プ
ール血しょうをブランクに用い、凝集を光通過量の変化で記録した。
組成物2A(i)およびヘパリンは最高濃度を1000μg/mLとし、残りは二
倍連続希釈とする種々の濃度で試験した。
結果はEC70濃度、すなわち70%凝集を阻害するのに有効な濃度で表した。
組成物2A(i)のEC70濃度はヘパリンを1として、それとの比で表した。組
成物2A(i)のEC70濃度は0.5であった。
したがって、組成物2A(i)はヘパリンより少ない程度(50%)で血小板
凝集を阻害し、これはおそらく出血の可能性の減少を示す。
実施例6
抗血栓症活性に対する組成物2A(iii)および3(ii)の影響
発色体アッセイを用いて測定した組成物2A(iii)および2(ii)の抗
Xa活性はヘパリンに比べて劇的に低下した。通常、分画化していないヘパリン
からの誘導体は出発ヘパリンの<15%の活性を示した。この活性の低下は、第
Xa因子の主な阻害経路である、ATIIIに対するこれら組成物の親和性の減
少を示唆する。
アッセイキットと発色体基質を用いて測定した組成物2A(iii)および3
(ii)の抗IIa活性はヘパリンに比べて劇的に低下した。通常、分画化して
いないヘパリンからの種々の誘導体は出発ヘパリンの<5%の活性を示した。こ
れらの結果は、これらの組成物が第IIa因子の主な2つの阻害メカニズムであ
るATIIIおよびヘパリンコファクターIIの両方に対する親和性が低下した
ことを示している。
実施例7
組成物1A(ii)の抗再狭窄活性
静脈内(IV)投与法を用い、以下のアッセイ法によって組成物1A(ii)
の抗再狭窄活性を試験した。
Sprague Dawley雄ラット(体重350〜375g、n=8)をすべてのバルーン傷害
実験に用いた。
無菌0.2μm濾紙ディスクであらかじめ濾過した薬剤またはビークル(乳酸
化リンゲル)を満たして浸透圧ミニポンプを準備した。ポンプの調節器を一本の
シラスティックチューブ(0.025”×0.047”i.d.)に接続した。
この方法はラットに移植する前の24時間と、バルーン傷害前の48時間実施し
た。移植前にポンプを37℃で18〜24時間インキュベーションした。化合物
の用量はポンプ速度4.99μL/時で0.3mg/kg/時に調節した。
バルーン傷害の前日に、動物にメトキシフルランを吸入させ、次いでキシラジ
ン1.4mg/kg、アセプロマジン0.7mg/kg、およびケタミン36m
g/kgを容量0.7mL/kgで筋肉内注射することによって麻酔した。頚部
および腰背部領域を剃毛した。
無菌的方法を用いて、左総頚動脈および左外側頚動脈を分離した。バルーンカ
テーテルに生理食塩水を満たし、左外側総頚動脈を介して左総頚動脈内に挿入し
た。このカテーテルを大動脈弓(約4cm)まで通した。カテーテルを膨張させ
(0.1〜0.3mL)、膨張させたまま徐々に引き抜いた。この工程を左総頚
動脈で合計3回繰り返した。右総頚動脈をコントロール側とし、膨らませない(
傷害を与えない)かまたは化合物で処理した。
まず、左浅咬筋の位置を確認し、長い先の丸いはさみを用いて背部につながる
トンネルを設けた。そのトンネル内に浸透圧ポンプを置いた。左頚静脈を分離し
、ポンプからのカテーテルを左頚静脈内に挿入した。縫合糸を用いてカテーテル
と頚静脈を適所に固定した。最初に頭端、次いで尾端をこま結びした。頚静脈と
カテーテルが共に確実に適所にあるように十字結び縫合を行った。外科手術後は
外
科用ステイプルを用いて閉じた。
動物を麻酔し、ヘパリン80mg/kg(濃度80mg/mL生理食塩水中)
をボーラス静脈内注射してヘパリン化した。心臓を切断して動物を安楽死させ、
血管を摘出した。左および右総頚動脈を摘出し、小ペトリ皿(6×1.5cm)
に入れ、Tyrode溶液1mLでフラッシュした。Tyrode溶液を37℃の水浴に入れ
た。外部の結合組織をかん子ですいて注意深く除去した。あらかじめラベルを付
けた、37%ホルマリン1〜2mLを含む15mL遠心管に血管を移した。血管
をセンチメートル単位で測定し、動物と血管の種類に従って写真撮影した。
術後4日目に試験グループ(組成物1A(ii)処理動物)中の1頭が、ポン
プのチューブの挿入部位周囲の出血によって死亡した。さらなるデータポイント
はテクニカルエラーによって失われた。
図7Aは、%閉塞でプロットした、静脈内投与経路を用いた抗再狭窄アッセイ
における組成物1A(ii)の影響の結果を示す。組成物1A(ii)で処理し
た動物において、閉塞の54%の減少(p<0.05)が観察された。
図7Bは、%新血管内膜でプロットした、静脈内投与経路を用いた抗再狭窄ア
ッセイにおける組成物1A(ii)の影響の結果を示す。組成物1A(ii)で
処理した動物において、血管内膜領域(面積)の40%の減少(p<0.05)
が観察された。
実施例8
組成物2A(ii)の抗再狭窄活性
2週間毎日皮下投与したときの、再狭窄アッセイにおける組成物2A(ii)
の有効性の測定。
Harlan Laboratoriesから得た雄のSprague Dawleyラット(体重350〜37
5g)を以下の実験に用いた。乳酸化リンゲル溶液中の製剤化された組成物2A
(ii)の用量20mg/kg/日を頚背部に皮下投与した。コントロール動物
にはビークルのみを投与した。その翌日に、実施例9に記載に従ってすべての動
物にバルーン傷害を与えた。動物には、14日間毎日ビークルまたは組成物2A
(ii)の皮下注射を行った。バルーン傷害後14日目に動物を屠殺し、すべて
の動物から左頚動脈を取り出し、次いで組織学的薄切を行い、形態分析を行った
。外膜、内側、新血管内膜、および内腔領域を直接測定した。他の測定値は実施
例9の記載に従って計算した。
組成物2A(ii)で処理した後のバルーン傷害後14日目の頚動脈の新血管
内膜サイズの測定値は、新血管内膜領域が20%減少していることを示した(図
8および表5)。組成物2A(ii)処理動物において、パーセント新血管内膜
およびパーセント閉塞の同様の減少が認められた(表5)。
これら実験動物において、注射部位の皮内出血や動脈の閉塞といった組成物2
A(ii)の皮下投与の副作用の徴候はみられなかった。
実施例9
組成物2A(ii)の抗再狭窄活性
組成物2A(ii)の有効性は、実施例9に記載のIV投与法を用いる抗再狭
窄活性を治療または予防するのに有用であることを示すであろう。
Sprague Dawley雄ラット(体重350〜375g)がバルーン傷害実験に用い
られよう。
浸透圧ミニポンプは、無菌0.2μm濾紙ディスクであらかじめ濾過した薬剤
またはビークル(乳酸化リンゲル)を満たして準備する。ポンプの調節器を一本
のシラスティックチューブ(0.025”×0.047”i.d.)に接続する
。この方法はラットに移植する前の24時間と、バルーン傷害前の48時間実施
する。移植前にポンプを37℃で18〜24時間インキュベーションした。化合
物の用量はポンプ速度4.99μL/時で0.3mg/kg/時に調節した。
バルーン傷害の前日に、動物にメトキシフルランを吸入し、次いでキシラジン
1.4mg/kg、アセプロマジン0.7mg/kg、およびケタミン36mg
/kgを容量0.7mL/kgで筋肉内注射することによって麻酔した。頚部お
よび腰背部領域を剃毛した。
無菌的方法を用いて、左総頚動脈および左外側頚動脈を分離した。バルーンカ
テーテルに生理食塩水を満たし、左外側総頚動脈を介して左総頚動脈内に挿入し
た。このカテーテルを大動脈弓(約4cm)まで通した。カテーテルを膨張させ
(0.1〜0.3mL)、膨張させたまま徐々に引き抜いた。この工程を左総頚
動脈で合計3回繰り返した。右総頚動脈をコントロール側とし、膨らませない(
傷害を与えない)かまたは化合物で処理した。
まず、左浅咬筋の位置を確認し、長い先の丸いはさみを用いて背部につながる
トンネルを設けた。そのトンネル内に浸透圧ポンプを置いた。左頚静脈を分離し
、ポンプからのカテーテルを左頚静脈内に挿入した。縫合糸を用いてカテーテル
と頚静脈を適所に固定した。最初に頭端、次いで尾端をこま結びした。頚静脈と
カテーテルが共に確実に適所にあるように十字結び縫合を行った。外科手術後は
外科用ステイプルを用いて閉じた。
動物を麻酔し、ヘパリン80mg/kg(濃度80mg/mL生理食塩水中)
をボーラス静脈内注射してヘパリン化した。心臓を切断して動物を安楽死させ、
血管を摘出した。左および右総頚動脈を摘出し、小ペトリ皿(6×1.5cm)
に入れ、Tyrode溶液1mLでフラッシュした。Tyrode溶液を37℃の水浴に入れ
た。外部の結合組織をかん子ですいて注意深く除去した。あらかじめラベルを付
けた、37%ホルマリン1〜2mLを含む15mL遠心管に血管を移した。血管
をセンチメートル単位で測定し、動物と血管の種類に応じて写真撮影した。
組成物2A(ii)で処理した動物において、閉塞および脈管内膜領域の有意
な減少が観察されよう。組成物2A(ii)はIV投与法を用いる抗再狭窄活性
を治療または予防するのにかなり有用であろう。これらの知見は、既述の実施例
の知見を支持するであろうし、本発明の化合物には種々の投与法があることを強
調する。
本出願人が本出願人の発明であると考えるものについて記載してきたが、当業
者は本発明が添付したクレームの範囲以外のものに限定されるものと解釈すべき
でない。
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(72)発明者 石原 雅之
東京都東大和市立野3丁目1253 生化学工
業株式会社東京研究所内