【発明の詳細な説明】
バクテリアによって誘発される炎症性疾患の治療
関連出願
本件出願は、1993年11月10日付けで出願された特許出願第08/150,635号の一部
継続出願である。この特許出願を本件出願の参考文献とすることを明言する。
発明の背景
本発明は、一般的には歯周疾患の治療法並びに予防法に関する。歯周疾患は歯
を支持する組織の炎症性疾患である。これらの組織は、集合的に歯周組織と呼ば
れ、歯肉、歯根膜、歯根セメント質、および歯槽骨を含む。この歯周組織の炎症
は、多くの国々の成人集団における歯の喪失の主な原因である。
歯周疾患は、一般的に2つの主な、異なる疾患の亜群、即ち歯肉炎および歯周
炎を包含する。歯肉炎は骨の喪失または連結組織付着部の喪失を伴わない歯肉の
炎症によって特徴付けられる。歯肉炎は、溝空隙におけるバクテリアの集積によ
って生ずる。該歯肉は、周囲の歯の支持組織にまで広がることなしに、炎症を生
ずる。歯肉炎はその重度によってランク付けされ、軽度の歯肉炎は、炎症部位の
紅斑によって、臨床的に診断される。軽度の歯肉炎は、穏やかな探り針による検
査の際に、該歯肉の出血を含み、また重度の歯肉炎は歯肉からの自然の出血傾向
によって特徴付けられる。歯肉炎は、歯周炎の前期的症状であるが、必ずしも歯
周炎に導くものではない。
歯周炎は、該歯周組織全体を包含する可能性のある、炎症性疾患である。歯周
炎においては、口内バクテリアが歯の接合部および歯肉に蓄積され、局所的な歯
周組織の炎症を生ずる。この炎症は該歯周組織のコラーゲン線維を劣化させ、歯
の支持体の喪失を生じ、かつ歯と歯肉との間の間隔(歯周または歯肉ポケット)
を徐々に拡大する。この歯周炎が進行するにつれて、該歯周ポケットは深まり、
不十分な歯の支持並びに歯の喪失を招く。
重度の歯周炎に罹患した多くの患者が、これら感染バクテリアの抗原に対する
血清抗体をもつ。歯周炎の進行においてこれら抗体が演ずる役割は、未知である
が、多くの人々は、該抗体が予防性のものであると考えている。高い抗体力価を
もつ患者は、低い抗体力価をもつ患者と比較して、低重度の疾患および障害を受
けた歯を有する。ガンソレイ(Gunsolley)等,J.Periodontol,1987,58,pp.3
14-320およびラニー(Ranney)等,J.Periodontol,1982,53,pp.1-7。補体の
存在下で、血清抗体は食作用を増強し、かつ好中球による歯周病原体の撲滅を強
化する。アンダーウッド(Underwood)等,J.Infect.Dis.,(1993)およびショ
ストロム(Sjostrom)等,Infect.Immun.,1994,62:145-151。歯周治療に伴って
、以前は血清反応陰性であった患者が陽転し、その血清の食作用および好中球に
よる殺菌作用を刺激する能力が増大し、それと同時に抗体力価および結合活性も
増大する。チェン(Chen)等,J.Peridontol.,1991,62: 781-791およびオウ(Ou
)等,Prog.Abstr.Ann.Mtg.Intl.Assoc.Dent.Res.abstr.,2416(1993)。
歯肉溝および拡大された歯周ポケットを占有する大多数のバクテリア種のうち
で、僅かな群のみが推定上の病原体であると考えられている。歯周症の微生物叢
の中で顕著なものは、ポルフィロモナス(Porphyromonas)(バクテロイデス(Bacte roides)ジンジバリス(gingivalis)
である。ポルフィロモナスジンジバリスはグ
ラム−陰性嫌気性バチルスであり、病原体として、成人の歯周疾患に密接に関与
している。ソクランスキー&ハッファジー(Socransky and Haffajee),J.Perio
dontol.,1992,4:322。最近の、歯周疾患のヒト以外の霊長類モデルにおいては
、歯肉縁下微生物叢由来のこの生物の出現が、歯槽骨の喪失の増大に関与してい
た。ホルト(Holt)等,Science,1988,239:55。このデータは、P.ジンジバリス
の微生物学的異常発生が、この疾患の進行に関与している可能性があるとする仮
説に対する根拠を与える。ソクランスキー&ハッファジー(Socransky and Haffa
jee),J.Clin.Periodontol.,1986,13:617。P.ジンジバリスの存在と、該疾患
の慢性的炎症との間の関係は未解明のままである。
この炎症過程の初期段階の一つは、血管裂孔から血管外組織への白血球の移動
である。ラスキー(Lasky),Science,1992,258:964。白血球の移動は、血管内
皮細胞表面上のセレクチン分子の発現を誘発する炎症性刺激によって開始する。
セレクチンの能力インデューサはE.コリリポポリサッカライド(LPS)、腫瘍壊死
因子(TNF)およびインターロイキン-1(IL-1)を含む。低アフィニティーかつ高結
合活性の初期結合が、該白血球上の炭水化物リガンド(例えば、シアリルルイスx
(Lewisx)分子)と、該血管内皮上のセレクチン分子との間で起こる。この低
アフィニティー結合は、該内皮壁に沿った、白血球の「転回(rolling)」を生じ
、該転回は、該白血球のインテグリン分子を介するより安定かつ高いアフィニテ
ィーの結合の発現を可能とし、かつICAMレセプタの該内皮細胞表面上での発現を
可能とする。P-およびE-セレクチン両者の発現はインビトロでは一時的なもので
あることが示されており、かつインビボでも一時的であると考えられている。こ
のことは、これら分子の連続的な発現が、血管から組織裂孔への連続的な排出に
より炎症性の疾患を生じ得るという証拠と一致する。
更に、血管裂孔から歯肉組織への白血球の正常な移動が、明らかに歯周疾患の
予防のために必要とされる。アンダーソン(Anderson)等,J.Infect.Dis.,198
5,152:668およびエゾニ(Etzoni)等,N.Engl.J.Med.,1992,327:1789。白血
球B2インテグリンレセプタCD11/CD18の発現における先天的な欠陥のある患者由
来の白血球は、内皮細胞上の各ICAMレセプタと結合できず、しかも該患者は典型
的に重度の歯周疾患に罹患する。アンダーソン(Anderson)等の上記文献。最近、
E-セレクチンに対する該シアリル−ルイスXリガンドの発現における、先天性の
白血球付着不良が報告されている。エゾニ(Etzoni)等の上記文献。この欠陥は、
重度の歯周疾患を招き、その結果歯周疾患の予防のためには、機能性のセレクチ
ン通路が必要であることが確認された。
歯周疾患を防止するための伝統的な微生物学的並びに免疫学的方法が、病原性
の微生物を排除し、あるいはこれらを非常に低いレベルに維持するために試みら
れている。これらの努力は、抗生物質による治療、並びに極最近の、バクテリア
抗原に対する予防接種による、防御性免疫応答の発現に集中している。ホルマリ
ンで固定化したP.ジンジバリスにより免疫化したヒト以外の霊長類の研究の一つ
において、該生物に対する血清抗体力価の大幅な増大および歯槽骨崩壊の大幅な
低下が明らかにされた。パーソン(Perrson)等,Infect.Immun.,1994,62:1026
-1031。このワクチンは骨の喪失を抑制または阻止し、かつ付着性の喪失を低下
するのに有効であるが、免疫化された動物中の歯肉縁下プラークには、依然とし
て非常に多数のP.ジンジバリスが棲息しており、このことは組織破壊に対する防
御が多因性であり得ることを示唆している。
初期の研究において、エーベルソール(Ebersole)等(Infect.Immun.,1991,5
9:3351-3359)は、ヒト以外の霊長類をP.ジンジバリスおよびプレボテラインタ ーメジア(Prevotella intermedia
)で免疫化した。彼らは、活性な免疫化が、該
微生物に対する全身的な免疫応答を誘導でき、またP.ジンジバリスによる免疫化
が、後の疾患の進行中に、該種の出現を著しく阻害することを示した。しかしな
がら、ほんの僅かな変化のみが免疫化に帰せられ、探り針による検査の際の出血
および固定性の喪失両者が、プラシーボ処理したコントロールにおけるよりも、
免疫化した動物内の結紮糸−誘発性歯周炎領域において高いことを、歯肉縁下プ
ラーク指数は示した。事実、骨密度損失の大幅な増加が、免疫化動物の結紮歯に
見られた。エバーソル(Ebersole)等は、1または複合生態系の数種の微生物によ
る免疫化が、このような多因性の疾患の破壊的事象を悪化させる可能性があるこ
とに注目した。
歯周疾患およびその一時的な進行に係わる微生物的な起源の理解にも拘らず、
該疾患を阻害し、あるいは排除するための手段は、研究者による探究を免れてき
た。全く驚くべきことに、本発明は、グラム−陰性バクテリア感染に関連するこ
のおよび他の慢性的な炎症性疾患の一時的な進行を阻害および緩和し、更に他の
関連する用件を満たす手段を提供する。
発明の概要
本発明は、グラム−陰性バクテリア感染に関連する炎症性疾患状態、特に慢性
的炎症性疾患を治療並びに予防するための方法並びに組成物を提供する。これら
諸疾患の最も一般的なものは、嫌気性のグラム陰性微生物に関連した疾患、例え
ば歯周疾患、即ち歯周炎および歯肉炎、並びに潰瘍である。本発明は、血管内皮
から歯肉組織への白血球の浸潤を阻止する、P.ジンジバリスの能力を阻害する化
合物を投与することにより、哺乳動物中の歯周疾患の進行を阻止する方法を提供
する。
本発明の方法において有用な該化合物は、該微生物のLPS に対して特異的であ
り得、あるいは該LPS 分子、例えばポリクローナル抗体またはモノクローナル抗
体と結合する内皮細胞リガンドに対して特異的であり得、あるいは該LPS-リガン
ド相互作用成分を認識し、結果としてセレクチン発現の免疫抑制性の負作用(dow
n-regulation)を阻害する組成物であり得る。歯周疾患の治療または予防におい
て、典型的には、該化合物は、口腔洗浄剤、エーロゾル、ペーストまたは軟膏と
して該歯周組織に投与される。該化合物またはその混合物は、血管内皮から歯肉
組織または他の罹患した組織への白血球の浸潤を阻止する、P.ジンジバリスのリ
ポポリサッカライドの能力を阻害するのに十分な量で投与される。一態様におい
ては、該化合物は特異的にP.ジンジバリスのリポポリサッカライドに結合するモ
ノクローナル抗体であり、また他の態様においては、該化合物は、P.ジンジバリ ス
または本明細書に記載される他の原因微生物、例えばH.ピロリ(pylori)のリポ
ポリサッカライドの成分を特異的に分解する酵素である。本発明の方法において
有用な該化合物は、P-またはE-セレクチンと結合する抗体を介して、該感染した
組織、例えば歯周組織または歯肉組織をターゲットとすることができ、ここで該
抗体はP-およびE-セレクチン両者と結合することのできる二官能性の抗体であり
得、また幾つかの態様においては、該化合物は直接該抗体と結合する。
他の態様によれば、本発明はLPS の該能力を減衰する化合物をスクリーニング
する方法を提供する。ここで、該LPS は血管内皮からの白血球の浸潤を阻害する
。この方法は、セレクチン分子を発現することのできる細胞、例えばHUVEC と、
選択された生物、例えばP.ジンジバリス由来のLPS とを、セレクチン発現のLPS-
誘発阻害性を阻害する能力についてスクリーニングされた該化合物の存在下また
は不在下で、接触させることを含む。セレクチンの発現を、例えばE.コリLPS 、
腫瘍壊死因子、またはインターロイキン-1に暴露することにより刺激し、また該
化合物の存在下もしくはその不在下でのセレクチンの発現を測定し、かつセレク
チン発現のLPS-誘発阻害性を減衰もしくは阻害する該化合物の能力を測定する。
この方法は、テストした該LPS 分子を阻害し、もしくは分解する高い能力をもつ
AOAHの変異体をスクリーニングするのに特に有用である。
本発明は、また嫌気性または微好気性グラム−陰性バクテリア感染に関連した
慢性的な炎症性疾患、例えば歯周疾患、慢性的胃炎または胃十二指腸潰瘍に対す
る宿主の感受性を、診断する方法を提供する。この方法は、セレクチンを発現す
ることのできる該宿主細胞、例えば内皮細胞と、該疾患関連バクテリア、例えばP.ジンジバリス
またはヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)のLPS と結
合するリガンドに対して特異的な、診断マーカーとを接触させる工程含む。該リ
ガンドの存在が、セレクチン発現のLPS-媒介阻害性に対する該宿主の感受性の指
標であり、従って慢性的炎症性疾患を表す。
図面の簡単な説明
第1図は、変動する濃度のE.コリ(ATCC 29552)によるE-セレクチン発現の刺激
およびP.ジンジバリス(ATCC 33277)によるE-セレクチン発現の相対的な欠如を示
す図である。
第2図は、全バクテリアを使用したE-セレクチン発現の結果を示す図であり、E.コリ
ATCC 29552、P.ジンジバリス ATCC 33277、H.ピロリATCC 43504を5回の
別々の実験において検討した。P.エルギノーザ(aeruginosa) ATCC 27313 を2回
の別々の実験において検討した。平均および該平均からのアッセイ間の標準偏差
を示してある。
第3図は、LPS 処方物によるE-セレクチン発現の刺激を示す図である。各アッ
セイは、少なくとも4つの異なる場合について実施した。平均および該平均から
のアッセイ間の標準偏差を示してある。
第4図は、バクテリア細胞壁処方物によるE-セレクチン発現の刺激を示す図で
ある。各実験は、少なくとも3つの異なる場合について実施したが、同一の結果
を与えた。これらデータは、3回実施した典型的な実験の平均として示されてい
る。
第5図は、E.コリ、P.ジンジバリスの種々の菌株およびB.フォルシタス(forsy thus
)由来のLPS 処方物の、ヒト臍帯血管内皮細胞によるE-セレクチン発現に及
ぼす効果を示す図である。
第6A図は、P.ジンジバリスLPS 処方物の、種々の濃度のE.コリLPS により誘発
されたE-セレクチン発現の阻害能力を示す図である。
第6B図は、P.ジンジバリスLPS の、腫瘍壊死因子(TNF)によって誘発されたE-
セレクチン発現に及ぼす効果を示す図である。
第7図は、E.コリLPS により誘発されたE-セレクチン発現の、P.ジンジバリス
LPS による阻害を、P.ジンジバリスLPS のポリサッカライド(“LPS-PS”)画分ま
たは脂質Aによる相対的な阻害の欠如と比較して示した図である。
第8図は、P.ジンジバリスに対して調製された、種々の希釈率のウサギ抗血清
の、P.ジンジバリス(ATCC 33277)LPS が、HUVEC 上でのE-セレクチンのE.コリLP
S-媒介正作用(up regulation)を阻害する能力を遮断する能力を証明する図であ
る。
第9図は、種々のLPS 処方物で処理したHUVEC に対する好中球の付着を示す図
である。最大結合(2000単位)においては、約50% の好中球が結合した。3回の
別々の実験を実施した。平均および該平均からのアッセイ間の標準偏差を示して
ある。
第10図は、増大する濃度のP.ジンジバリスLPS が、単球走化性誘起作用性タン
パク質1(MCP-1)RNA 発現を阻害することを示す図であり、該発現はE.コリLPSに
よってヒト歯肉線維芽細胞中で刺激される。
第11図は、E.コリLPS はK軽鎖発現を誘発するが、P.ジンジバリスLPS はネズ
ミBリンパ腫系70 Z/3においてこれを誘発しなかった。P.ジンジバリスLPS は、
該E.コリLPS のK軽鎖発現を誘発する能力を阻害できた。
第12図は、P.ジンジバリスLPS に対するモノクローナル抗体の、E.コリによっ
て誘発された好中球付着に及ぼす効果を証明している。
特別な態様の説明
本発明は、嫌気性グラム−陰性バクテリア感染に関連した、慢性的炎症性の疾
患状態を治療並びに予防するための方法並びに組成物を提供する。これら疾患の
うちで、最も顕著なものは、歯周疾患、即ち歯周炎および歯肉炎、並びに潰瘍で
ある。多くのグラム−陰性微生物に関連して、これら疾患に関連するバクテリア
は外部バクテリア膜中にリポポリサッカライド(“LPS”)をもつ。腸内細菌科の
膜の中で、LPS は強力な炎症媒介体であり、また内毒素ショックに導くことさえ
あ
り得る。慢性の炎症性疾患に関与するグラム−陰性嫌気性細菌のLPS が一般的に
低毒性であるということは、パラドックスであった。
本発明の一局面として、グラム−陰性嫌気性細菌由来のLPS が、正常な炎症過
程の初期局面、即ち血管内皮からの白血球の移動を強力に阻害できることが、今
や見出された。該グラム−陰性の嫌気性バクテリアによる、該血管内皮からの正
常な炎症経路の阻害または崩壊は、宿主侵襲の全く新規なメカニズムを表す。
白血球の移動阻害は完全ではないが、歯周炎、歯肉炎等は好中球およびリンパ
球に富むので、本発明は、P.ジンジバリス等の幾つかのバクテリアが、ある形態
の炎症隠蔽を含む、宿主の忌避戦略に適合することを立証する。より毒性の低い
かつ免疫抑制性のLPS を含むことにより、これらのバクテリアは、通常該免疫系
による検出並びに排除に導く分子を変更した。本発明はこれらの炎症による正常
な免疫機能の阻害を防止もしくは無効にして、有害なバクテリアにより誘発され
た炎症をもつ部位における免疫機能を回復する方法およびそのための組成物、並
びに宿主組織を著しく破壊するバクテリアー誘発性炎症応答に感受性の宿主を診
断する方法を提供する。
本発明は、正常な炎症応答の崩壊を阻害する能力を提供し、該応答は幾つかの
グラム−陰性バクテリア、特にヒト宿主を包含する哺乳動物の宿主における慢性
疾患と関連するグラム−陰性嫌気性バクテリアのLPS により媒介される。LPS は
、血管内皮細胞の表面上でのセレクチン分子の発現を阻害して、白血球特に好中
球の、血管外組織および感染部位への正常な流れを阻止することが示された。バ
クテリア感染を防止し、あるいはこれを克服するためには、好中球および他の白
血球による十分な応答が必須である。本発明に従って血管内皮を介するこれら白
血球の移動の抑制を解消しあるいは阻止して、より「正常な」免疫応答を可能と
することにより、該グラム−陰性細菌による感染は、所望のように公知の治療法
によってより容易に治療できる。E-セレクチン(ELAM)およびP-セレクチン(GMP14
0/PADGEM)を包含する、該セレクチン細胞表面糖タンパク質をコードする遺伝子
をクローニングし、かつ配列決定した。例えば、ベビラッカ(Bevilacqua)等,Sc
ience,1989,243:1160およびジョンストン(Johnston)等,Cell,1989,56:1033
をそれぞれ参照のこと。これらを本発明の参考文献とする。
本発明は、典型的に病的炎症性疾患に関連する嫌気性グラム−陰性バチルスに
よる、広範な感染の予防並びに治療を目的とする。このような感染の最も顕著な
ものの一つは、歯周疾患、特に歯肉炎および歯周炎と関連する。これらの疾患は
、典型的には多菌性感染と関連しているが、これら疾患に関連する微生物叢の中
で特に顕著なものはバクテロイデス属(例えば、B.メラニノゲニカス(melaninoge
nicus))、ポルフィロモナス(Porphyromonas)属(例えば、P.ジンジバリス、P.イ ンターメジア(intermedia)
)、プレボテラ属(例えば、P.デンティコラ(dentico la
)、P.ロエシュイ(loescheii))、エイケネラ(Eikenella)属(例えば、E.コロ デンス(corrodens)
)およびウォリネラ(Wolinella)属(例えば、W.レクタ(recta
))の構成員である。
微好気性グラム−陰性バチルスによる感染に関連した、本発明に従って治療並
びに予防することのできる他の病的な炎症性疾患は、慢性的胃炎または胃十二指
腸潰瘍を包含し、これらは最近ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)に
よる慢性的感染に関連していることが分かったものである。
もう一つの態様において、本発明は、シュードモナダセアエ(Pseudomonadacea
e)族の生物による感染の治療に関する。これらのグラム−陰性バクテリアは、典
型的に宿主における免疫抑制状態の存在中に感染を生じ、公知の抗生物質療法で
治療することは極めて困難である。これらの生物由来のLPS は血管内皮細胞によ
るセレクチンの発現を阻害し、結果としてバクテリアが正常な宿主の防御に暴露
され難くしている。本発明によるセレクチン発現の相対的な欠如の防止または軽
減は、より正常かつ効果的な宿主の免疫応答を、別々にまたは他の治療様式との
組み合わせによって、可能とする。臨床的に正常な歯周組織は、高いレベルでの
E-セレクチンおよび炎症性ケモカイン(chemokine)MCP-1の発現性をもつことが報
告されている。バクテリアプラークに極近接した、これら炎症媒介体の高い発現
性は、臨床的に正常な組織の低レベルでの炎症状態と一致している。局所的環境
、例えば歯周組織における直接的なE-セレクチン発現を遮断する、P.ジンジバリ ス
LPS の能力は歯根表面の転移増殖に寄与でき、かつ歯周疾患において見られる
バクテリアブルームを生ずる。このことは、可能な説明として与えられるもので
あって、その説明はこれに限定されない。更に、通常広範囲の他のバクテリアに
よ
り誘発される炎症の阻害は、これらの病巣に見られる、特徴的に多数の異なるバ
クテリアに対して寄与する可能性がある。
本発明によれば、該内皮細胞上での該免疫抑制性のLPS とその対応するリガン
ドとの相互作用を阻害できる化合物が、より効果的な免疫応答、即ち白血球およ
び特に好中球の、該感染生物が攻撃しかつ破壊できる血管外組織への移動を可能
とする上で効果的である。該内皮細胞上での、該嫌気性または微好気性バクテリ
アLPS の該リガンドとの相互作用に対する効果的な阻害剤である化合物が、スク
リーニングアッセイ等において同定される。
該LPS-リガンド相互作用の特に有用な阻害剤および結果として効果的な慢性的
炎症性疾患過程の効果的な媒介物は、該LPS または対応するリガンドに対して特
異的な抗体またはその結合フラグメントである。かくして、本発明の組成物およ
び治療において使用される該抗体または他の化合物は、セレクチン発現のバクテ
リアLPS-媒介阻害、例えば以下の実施例においてP.ジンジバリスLPS について立
証されるような、E.コリLPS-誘発セレクチン刺激の阻害を、阻害しまたは無効に
する能力をもつことが明らかなものである。
かくして、本発明において有用な該抗体およびその結合フラグメントはポリク
ローナルまたはモノクローナル抗体何れであってもよいが、モノクローナル抗体
であることが好ましい。ポリクローナル抗体である場合、これらは抗血清または
単一特異性抗体であり得、例えば動物をP.ジンジバリスで免疫することにより製
造される精製抗血清あるいはその精製されたLPS であり得る。しかしながら、好
ましくは該抗体はモノクローナル抗体であって、個体への外来性のタンパク質の
投与を最小化する。該嫌気性または微好気性グラム−陰性バクテリアLPS 分子ま
たはその内皮細胞リガンドの種々の成分に結合するモノクローナル抗体は、周知
のプロトコールに従って調製できる。例えば、スケア(Skare)等,J.Biol.Chem
.,1993,268:16302-16308および米国特許第4,918,163号および同第5,057,598号
を参照のこと。これらを本発明の参考文献とする。
例えば、インビボ治療用の組成物の一成分として、ヒトに投与するためには、
該モノクローナル抗体は実質的にヒト由来のものであって、免疫原性を最小とす
ることが好ましく、また実質的に純粋なものである。「実質的にヒト由来」とは
、
該組成物の該免疫グロブリン部分が、一般的に少なくとも約70%のヒト抗体配列
、好ましくは少なくとも約80%のヒト抗体配列、および最も好ましくは少なくと
も約90-95%あるいはそれ以上のヒト抗体配列を含むことを意味する。「抗体」に
言及する場合、該分子が該内皮細胞上に存在する該LPS またはLPS リガンドとの
結合能を保持している限りにおいて、場合により非−免疫グロブリン配列が該分
子中に存在してもよいものと理解すべきである。
ヒト細胞上に存在するリガンドに対するヒトモノクローナル抗体の生成は、公
知のヒトモノクローナル抗体技術では困難であるので、非−ヒトモノクローナル
抗体、例えば該LPS とのアフィニティー相互作用を介して、細胞から精製された
リガンドについて作成した、ネズミのモノクローナル抗体からの抗原結合領域(
例えば、F(ab')2、可変部または超可変部(相補性決定部))を、ヒト定常部(Fc
)またはフレームワーク部に、組み換えDNA技術を使用して移し、実質的にヒト分
子を生成することが望ましい。このような方法は、当分野において一般的に知ら
れており、例えば米国特許第4,816,397号、EP公開第173,494号および同第239,40
0号に記載されている。これらを本発明の参考文献とする。また、ヒトリガンド
または嫌気性もしくは微好気性バクテリアLPS 抗原に特異的に結合する、ヒトモ
ノクローナル抗体またはその部分をコードするDNA配列を、ヒューズ(Huse)等,S
cience,1989,246:1275-1281およびWO90/14430(これらを本発明の参考文献と
する)に概説された一般的なプロトコールに従って、ヒトB細胞由来のDNA ライ
ブラリーをスクリーニングし、次いで所定の特異性をもつ抗体(または結合フラ
グメント)をコードする配列をクローニングし、かつ増幅することにより、単離
することができる。更に別の態様においては、一本鎖結合ポリペプチドを製造す
ることができ、これは免疫抑制性の嫌気性または微好気性バクテリアLPS または
その対応する細胞リガンドに結合する。これらの一本鎖ポリペプチドは、該LPS
抗原またはその内皮細胞リガンドに結合するモノクローナル抗体の、重鎖および
軽鎖の可変領域をクローニングし、かつ接合することにより製造できる。一本鎖
結合ポリペプチドの製造方法は、例えば米国特許第4,946,778号(これを本発明
の参考文献とする)に詳述されている。
免疫抑制性の嫌気性または微好気性バクテリアLPS 分子またはその細胞性リガ
ンドに結合することができ、かつ対応するバクテリアの該免疫抑制作用を阻害す
るが、免疫グロブリン分子から誘導されない他の化合物は、確立されたプロトコ
ールに従って単離できる。例えば、LPS-特異的またはLPS/リガンド−特異的ポリ
ペプチドは、ランダムなまたは半−ランダムなポリペプチドの莫大なライブラリ
ーをスクリーニングすることにより単離できる。このポリペプチドライブラリー
は、ファージコートタンパク質の成分として(例えば、スコット&スミス(Scott
and Smith),Science,1990,249:386;ドーワー(Dower)等,WO 91/19818)、
ポリリボソームの一部として(例えば、カワサキ(Kawasaki),WO 91/05058)また
はリボソームの存在なしに(ゴールド(Gold)等,WO 93/03172)(これら文献各
々を本発明の参考とする)発現させかつ単離できる。所定の選択手順に従って、
該結合分子を一旦同定すれば、該分子を本明細書に記載するようにして、例えばE.コリ
LPS 、TNF またはIL-1によって引き起こすことができるような、セレクチ
ン発現の正作用の抑制(例えば、P.ジンジバリスによる)を阻害する能力につい
てテストされ、従ってかかるバクテリアに関連する慢性的炎症過程を治療し、も
しくは予防する上で有用である。一旦該モノクローナル抗体、LPS-またはリガン
ド−結合ポリペプチドが同定されれば、これは製造の目的で大量に発現させるこ
とができる。
本発明の方法は、また有効な化合物を同定するためのスクリーニングアッセイ
で使用することも可能である。一プロトコールによれば、該化合物は、セレクチ
ン発現のP.ジンジバリスまたはH.ピロリLPS-誘発阻害を改善する能力につきスク
リーニングされる。セレクチン分子、例えばE-またはP-セレクチンを発現できる
細胞と、バクテリアLPS 、例えばP.ジンジバリスのLPS とを、セレクチン発現のP.ジンジバリス
LPS-誘発阻害を阻害する能力につきスクリーニングされる化合物
の存在下または不在下で、接触させる。セレクチン発現は、該テストすべき化合
物の存在下または不在下で刺激され、かつ測定される。次いで、該化合物の、セ
レクチン発現のP.ジンジバリスLPS-誘発阻害を阻害する能力を測定する。セレク
チンを発現する該細胞は、有利にはヒト臍帯の内皮細胞(HUVECs)であり、また選
択発現は、好ましくはE.コリLPS により誘発されることが好ましいが、腫瘍壊死
因子、インターロイキン-1または他の刺激体をテストすることもできる。
免疫抑制性の嫌気性または微好気性バクテリアLPS 分子またはその細胞性リガ
ンドと結合し、かつ対応するバクテリアの該免疫抑制作用を阻害する化合物、例
えばモノクローナル抗体が、広範な治療並びに予防的セッティングにおいて有用
である。これら化合物を組成物として投与して、かかるバクテリアによる感染に
関連した慢性的炎症性疾患、例えば歯周炎、歯肉炎、慢性胃炎または胃十二指腸
潰瘍等の予防および/または治療する。
好中球、単球および血管内皮細胞は、アシルオキシアシルヒドロラーゼ(“AOA
H”)、即ちバクテリアLPS を無毒化する酵素を含むことが知られている。AOAHを
含有する好中球の存在または感染組織への精製されたAOAHの放出は、該感染のよ
り迅速な消散を容易化する。ヒト好中球からのAOAHの単離並びに精製は、例えば
米国特許第5,013,661 号(これを本発明の参考文献とする)に記載されており、
例えばPCT 公開 WO 92/04444および米国特許第5,281,520 号(これらを本発明の
参考文献とする)に記載されているような、組み換えDNA 技術による、AOAH分子
のクローニングおよび発現を含む。AOAHは、セレクチン例えばE-セレクチンまた
はP-セレクチンと結合する抗体を介して、慢性的バクテリア感染部位をターゲッ
トとすることができる。このターゲット抗体はモノクローナル抗体であることが
好ましく、また融合タンパク質として該AOAH分子と直接結合し、あるいは例えば
抗−セレクチン抗体またはその結合フラグメントにより攻撃されるリポソームに
間接的に含まれるものであり得る。該AOAHは、二官能特異性をもつ、即ちE-セレ
クチンおよびP-セレクチン両者と結合できる抗体と結合できる。
他の例においては、これら生物(例えば、P.ジンジバリス)から調製された免
疫抑制性でしかも比較的低毒性のLPS も、十分な量で投与して、該内毒素ショッ
クを治療し、もしくは少なくとも改善することができ、ここで該内毒素ショック
は、しばしばより毒性の高いLPS 部分をもつグラム−陰性生物、例えばE.コリ、
エンテロバクター(Enterobacter)、サルモネラ(Salmonella)等による急性感染と
関連している。治療の目的で投与されたLPS は、患者内でその毒性を更に減じ、
一方で該感染生物のLPS によるセレクチン発現の刺激を阻害する能力を保持する
ように改質することができる。
セレクチン分子の発現を阻害する該LPS 分子またはその模擬体も、他のセレク
チン−媒介炎症、例えば幾つかの皮膚疾患、例えば肺の急性炎症(成人呼吸困難
症候群)中の乾癬および接触性皮膚炎、再灌流傷害等における皮膚中のリンパ球
の蓄積に関連するもの等の阻害のための薬剤として使用することができる。
本発明明細書で使用する用語「治療(treatmentまたはtreating)」は、(1)これら
疾患に罹患し易いと思われるが、これらに罹患したと診断されていない対象中で
の該疾患の発生を予防すること、(2)これら疾患を阻害、即ちその発病を阻止す
ること、または(3)これら疾患の症状を改善または緩和する、即ち該疾患状態の
回復をもたらすことを包含する。例えば、これら疾患と関連する慢性的バクテリ
ア感染に関連して、本発明の治療は、感染部位における好中球の数を増大し、そ
の結果該感染バクテリアまたはその有害な成分の食作用または破壊作用を増進す
るであろう。
本発明において有用な、該モノクローナル抗体または他の化合物は、薬理組成
物の成分として配合でき、該組成物は製薬上有効な担体と共に、該モノクローナ
ル抗体またはその結合フラグメントの少なくとも1種を、治療上または予防上有
効な量で含有する。例えば、該LPS に対するモノクローナル抗体またはその結合
フラグメントは、該LPS 分子上の種々のエピトープ、あるいは細胞表面上の該LP
S リガンド上のエピトープ、あるいは他の細胞レセプタ、例えばE-またはP-セレ
クチンと結合する種々の抗体と組み合わせて、治療用の「カクテル」を形成する
ことができる。
本発明の方法において有用な薬理組成物を調製するに際して、製薬担体を使用
することができ、該担体は、該抗体またはその結合フラグメントもしくは本明細
書に記載の方法に従って同定された治療用化合物を患者に放出するのに適した、
任意の適合性で無毒の物質である。滅菌水、アルコール、脂質、ワックス、不活
性固体およびリポソームさえも該担体として利用可能である。製薬上許容される
アジュバント(緩衝剤、分散剤)も、本発明の薬理組成物に配合できる。該抗体
およびその薬理組成物は腸管外投与、即ち静脈内、動脈内、筋肉内または皮下投
与にとって特に有用である。特に、歯周疾患、即ち歯周炎および歯肉炎の治療ま
たは予防においては、局所投与も効果的であり得、ここでは該化合物は口腔洗浄
液、ペースト、軟膏(salve)、軟膏(ointment)またはゲル中に含まれ、罹患した
組織に直接適用される。投与用の処方物中の、抗体等の化合物の濃度は広範囲、
即ち約0.5 重量%未満、通常少なくとも1重量%から15〜20重量%あるいはそれ
以上で変えることができ、また選択された特定の投与形式にとって好ましい、流
体体積、粘度等に基づいて主として選択されるであろう。投与可能な組成物の実
際の調製法は、当業者には公知または明らかであり、例えばレミントンズファー
マシューティカルサイエンス(Remington's Pharmaceutical Science),第17版、
マック出版社、イーストン,PA(1985)に、より詳細に記載されている。これを
本発明の参考文献とする。
グラム−陰性嫌気性または微好気性バクテリアのLPS に関連する免疫抑制を阻
害するのに有用な本発明の化合物は、予防または治療の目的で投与できる。予防
の目的での処置においては、該組成物は歯周疾患または他の慢性的なバクテリア
−誘発性炎症性疾患、例えば慢性胃炎または胃十二指腸潰瘍に罹り易い患者に投
与される。疾患の再発およびその続発を防止するために、該組成物は、毎日の、
毎週のあるいは他の計画立てられた持続療法によって投与することができる。こ
の養生は、また服用量およびその有効性、意図した用途並びに患者の一般的な健
康状態に依存するであろう。治療に当たる医師または歯科医は投与濃度および投
与のパターン、即ちその投与経路および単一回投与か複数回投与かを選択するで
あろう。
治療用途においては、グラム−陰性嫌気性または微好気性バクテリアのLPS に
関連する免疫抑制を阻害するのに有用な本発明の化合物は、既に歯周炎または歯
肉炎、あるいは他の慢性的バクテリア−誘発性炎症性疾患、例えば慢性胃炎また
は胃十二指腸潰瘍に罹患している患者に、該感染およびその結果としての炎症過
程を少なくとも部分的に停止させるのに十分な量で投与される。これを達成する
のに十分な量は「治療上有効な投与量」として定義される。この用途に対して有
効な量は、使用する化合物、その投与経路、該疾患の重度および患者の健康の一
般的状態に依存するであろう。該感染バクテリアの免疫抑制性成分を阻害するの
に有効な、本発明の化合物の量の決定は、当分野で周知の標準的な経験法を通し
て実施できる。セレクチン刺激の阻害の無効化または単なるセレクチン発現の刺
激、好中球および他の白血球の移動、およびその結果としての本発明の組成物の
有効性は、種々の周知のインビトロ診断手順により追跡できる。
本発明は、また嫌気性または微好気性グラム−陰性バクテリア感染と関連する
慢性炎症性疾患、例えば歯周疾患、慢性胃炎または胃十二指腸潰瘍に罹り易い宿
主を診断する方法をも提供する。この方法は、セレクチンを発現することのでき
る該宿主の細胞、例えば内皮細胞と、該疾患関連バクテリア、例えばP.ジンジバ リス
またはヘリコバクターピロリのLPS に結合するリガンドに対して特異的な診
断マーカーと接触させる工程を含む。該リガンドの存在は、該宿主の、セレクチ
ン発現のLPS-媒介阻害、即ち慢性炎症性疾患に対する感受性の尺度である。
以下の実施例は、本発明を例示するために与えられるのであって、本発明を限
定するためのものではない。
実施例I
本実施例では、歯周組織の重要な病原体であるP.ジンジバリスの、E-セレクチ
ン(炎症経路の初期キー成分)の発現を刺激する能力を調べた。これら成分間の
関係を理解するためには、該疾患を更に理解しかつ治療する必要がある。全く予
想外のことに、P.ジンジバリスはE-セレクチン発現を刺激しなかった。
まず、全バクテリアの、ヒト臍帯内皮細胞(HUVEC)上でのE-セレクチン発現を
刺激する能力を調べた。E-セレクチン発現を、種々の濃度のE.コリATCC 29552お
よびP.ジンジバリスATCC 33277により刺激した。0111:B4 血清型LPS を含む、E. コリ
ATCC 29552は、ATCCから入手し、またP.ジンジバリス菌株は、シアトル,WA
のユニバーシティーオブワシントンデパートメントオブペリオドンティックス(U
niversity of Washington Department of Periodontics)のDr.アーロン(Aaron)
から入手した。
ATCC 33277以外に、数種のP.ジンジバリス菌株、381 、A7A1-28 、A7436 およ
び5083をも検討した。(ナッシュ(Nash)等,Manual Clinical Microbiology,第
121 章,1226(Amer.Soc.Microbiol.),ワシントンD.C.(1991))に記載の如く、
ビタミンKおよびヘミンを補充したブルセラブラッド(Brucella Blood;ディフコ
(Difco))寒天培地上でバクテリアを培養した。適切な微好気性、嫌気性または好
気性条件下で、該培養物を37℃にて72時間インキュベートした。培養物を、4 mM
のL-グルタミン、90μg/mlのヘパリン、1mMのピルビン酸ナトリウム、1mg/mlの
ヒト血清アルブミンを補充したメジア(Media)199 中に無菌的に懸濁し、同一の
培地で、予め定めた換算ファクタから計算され、指定された細胞数に希釈した。
5%のプールしたヒト血清(ジェミニバイオプロダクツ(Gemini Bioproducts)社)
を添加し、フィブロネクチンで予め被覆した96ウエルプレート(コスター(Coste
r),平底)に塗布された、第四継代培養HUVEC の単層に、バクテリア懸濁物を添
加した。4時間のインキュベーションの後に、該プレートを洗浄し、かつE-セレ
クチンの存在につきアッセイした。各アッセイは、3種の異なる状況において、
2度実施した。典型的なアッセイの結果を第1図に示した。内皮細胞の生存性は
、製造業者により記載された如く(生存/死亡TM生存性/細胞毒性アッセイ(Live
/DeadTM Viability/Cytotoxicity Assay)MP85,モレキュラープローブズ社(Molec
ular Probes Inc.),1991)、カルセイン(calcein)法によって4時間インキュベ
ーションした後、2つのプレートについて測定した。
第1図に示した如く、E.コリ全細胞はE-セレクチン発現の強力な誘発体であっ
た。E.コリとは逆に、該内皮細胞へのP.ジンジバリスの添加は、E-セレクチン発
現を与えなかった。検査した全てのP.ジンジバリス菌株は、E-セレクチン発現を
刺激しなかった。検査した株は、P.ジンジバリスが歯周疾患における主な病原体
として機能できることを実証するのに以前に使用されたサルの株(5083)並びに感
染の囓類モデルにおいて最も高毒性であることが分かっている株(A7436)をも含
めた。
バクテリア刺激後の該内皮細胞層の顕微鏡観察は、内皮細胞形状における何の
変化もまたは細胞数の減少も示さなかった。内皮細胞の生存性に関するより定量
的な評価を、カルセイン-AM の加水分解を測定することにより実施した。この試
薬は、バクテリア細胞ではなく真核細胞中に存在するエステラーゼによって媒介
される加水分解を検出する。このE-セレクチン発現の欠如を、内皮細胞毒性によ
るものとすることはできない。というのは、これらバクテリアのより高い濃度に
おいてさえ、これらのパラメータによってアッセイされた如く、毒性を示さない
からである。
これらの結果は、P.ジンジバリスが、明らかに歯周疾患に見られる炎症性病巣
と関連してはいても、これがE-セレクチンを刺激し得ないことを実証している。
実施例II
実施例Iと同様に、本例では、E-セレクチンの発現を刺激する、P.ジンジバリ ス
、E.コリ、S.ティフィムリウム(typhimurium)、P.エルギノーザ(aeruginosa)
およびH.ピロリの相対的な能力を調べる。
HUVEC(クロネティックス(Clonetics),サンジエゴ,CA)を、4mMのL-グルタミ
ン、90μg/mlのヘパリン、1mMのピルビン酸ナトリウム、30μg/mlの内皮細胞成
長刺激剤(バイオメディカルプロダクツ社(Biomedical Products),ベッドフォー
ド,MA)および20% の子牛血清(ハイクロン社(Hyclone),ローガン,UT)を含有
するHUVEC 成長用培地メジア(Media)-199(ギブコ(Gibco),ガイザースバーグ,MD
)中に維持した。細胞は第四継代において使用した。第二または第三継代におけ
る細胞を使用して実施した初期の実験は、該E-セレクチン応答において何等明確
な差を示さなかった。HUVEC(1.4×104/ウエル) を、バクテリア細胞またはバク
テリア細胞精製物によって刺激する前日に、M-199 成長培地中の、フィブロネク
チンで予め被覆した96ウエル平底プレート(コスター(Coster),プリーソントン
,CA)に塗布した。
使用したバクテリアは、E.コリATCC 29552、JM 83、MC 1061 、MC 4100(Dr.ソ
マービル(Somerville),ブリストル−マイヤーズスクィブ(Bristol-Myers Squib
b)、P.ジンジバリス株ATCC 33277、株381 A7A1-28、A7436 および5083、P.エル ギノーザ
ATCC 27313、バクテロイデスホルシシス(Bacteroides forsythis)株、
およびH.ピロリATCC 43504を包含した。
ヒトE-セレクチン発現アッセイのために、該アッセイの当日に、バクテリア培
養物(平板培養成長細胞由来のもの)を、M-199 刺激培地(4mMのL-グルタミン
、90μg/mlのヘパリン、1mMのピルビン酸ナトリウム、1mg/mlのヒト血清アルブ
ミン、および5%のプールした正常なヒト血清(ジェミニバイオプロダクツ(Gemin
i Bioproducts)社)を補充したメジア(Media)199)中に懸濁し、同一の培地で、
予め定めた換算ファクタから計算された所定の細胞数にまで希釈した。各バクテ
リア菌株に対する換算ファクタは、バクテリア計数のための標準的な手順により
3
回実施した、プレート計数分析によって測定した。HUVEC を血清を含まないM-19
9 刺激培地で洗浄し、次いでバクテリア処方物を該HUVEC 単層に添加し、かつ5%
CO2の下で37℃にて4時間インキュベートした。この刺激時間の経過後、培地を
除去し、細胞を冷PBS で2度洗浄し、0.5%グルタルアルデヒドで固定(冷PBS 中
)し、4℃にて10分間静置した。3%のプールした山羊血清(シグマ社(Sigma),セ
ントルイス,MO)および0.02M のEDTA(遮断バッファー)を含むPBS で4回洗浄
した。この最後の洗浄後に、0.2-0.3 mlの遮断バッファーを各ウエルに添加し、
これらのプレートを一夜4℃にて保存した(この遮断段階は、1時間後に完了す
るが、便宜的に一夜のインキュベーションを日常的に利用した)。この遮断バッ
ファーを除去し、遮断バッファー中0.25μg/ml濃度の、抗−E-セレクチンモノク
ローナル抗体(R&Dシステムズ(R and D Systems),ミネアポリス,MN)0.1 ml
を各ウエルに添加し、該プレートを37℃にて1時間インキュベートした。これら
プレートを4回遮断バッファー中で洗浄し、遮断バッファーで希釈した、F(ab')2
山羊抗−マウスIgG 特異的HRP 結合二次抗体(ジャクソンイムノリサーチラボ
ラトリーズ(Jackson Immunoresearch Labs),ウエストグローブ,PA)0.1 mlを各
ウエルに添加した。プレートを37℃にて1時間インキュベートし、4回遮断バッ
ファーで洗浄し、0.1 mlの色素原試薬(基質バッファー中のTMB,ジェネティック
システムズ(Genetic Systems),レッドモンド,WA)を添加した。この反応を、ウ
エル当たり0.1 mlの1N H2SO4を添加して停止させ、該プレートを450/630 nmにて
、ELISA リーダー(バイオテックインスツルメンツ(BioTek Instruments),ウイ
ノースキー,VT)により読み取った。内皮細胞の生存性は、該カルセイン-AM 法
によって4時間インキュベートした後、2枚のプレートにつき測定した。
全バクテリアの、HUVEC 上でのE-セレクチンの発現を刺激する能力に関する結
果を第2図に示した。E.コリ細胞はE-セレクチン発現の強力な誘発体であった。H.ピロリ
およびP.ジンジバリスは極めて貧弱なE-セレクチン発現の誘発体であっ
た。該アッセイのために添加した最大のバクテリア濃度において、低レベルのE-
セレクチンのみが観測された。E.コリと同様に、P.エルギノーザは、このアッセ
イにおいて殆ど最大レベルのE-セレクチン発現を誘発したが、対数表示で約3倍
のバクテリアを必要とした。E-セレクチン刺激の度合いは、単一の属内の種々の
種において一致した。例えば、E.コリATCC 25922の数種の異なる菌株およびS.テ ィフィムリウム
(第1表)は、E.コリATCC 25922について示した如く、同様なド
ーズ応答曲線を示した。P.ジンジバリスの5種の異なる菌株を調べたが、E-セレ
クチン発現を誘発しなかった。調べられた菌株(但し、第2図には示されていな
い)は、P.ジンジバリスが歯周疾患における主な病原体として機能し得ることを
実証するのに使用したサルの株(5083)、感染の囓歯類モデルにおいて特に強力な
毒性をもつ株(A7436)およびA7A1-28 および381 と命名された2種の他の株を含
んでいた。P.エルギノーザの2種の異なる株は同様なドーズ応答曲線を与えた(
第2図および第1表)。バクテリア刺激後の該内皮細胞層の顕微鏡観察は、この
アッセイで使用したバクテリア濃度において、内皮細胞形状に何等の変化も生じ
ず、または細胞数における減少も示さなかった。
内皮細胞生存性のより定量的な評価は、カルセイン-AM の加水分解を測定する
ことにより決定した。この試薬は、バクテリア細胞ではなく真核細胞中に存在す
るエステラーゼによって媒介される加水分解を検出する。H.ピロリおよびP.ジン ジバリス
による貧弱なE-セレクチン刺激は、内皮細胞毒性によるものとすること
はできなかった。というのは、これらパラメータでアッセイされたように、これ
らのバクテリアは高濃度においてさえ、毒性ではなかったからである。IL-1βを
、内皮細胞の、バクテリアの存在下でのE-セレクチンの発現能力に関する付随的
なコントロールとして加えた。IL-1βの濃度範囲0.03〜20 ng/mlにおいて、10% P.ジンジバリス
全細胞は、該内皮細胞単層の、E-セレクチン発現能力に何の影響
も与えなかった。逆に、カルセイン-AM 加水分解アッセイは、108 cfu/ml以上のE.コリ
濃度が有害であることを示した。
単離されたLPS 処方物の、E-セレクチン発現を直接刺激する能力をも調べた。
同様な実験は、以下の実施例III においても詳細に記載される。また、第3図に
示した如く、E.コリLPS に対する有意なE-セレクチン応答を達成するためには、
血清が必要であった。このE.コリLPS に対する応答は強力であり、1ng程度で有
意な発現を生ずる。逆に、かつ全細胞について得られたデータと同様に、H.ピロ リ
およびP.ジンジバリスから得たLPS はE-セレクチン発現を誘発しなかった。ま
た、全細胞について得られた結果と同様に、P.エルギノーザは、E.コリと等価な
レベルのE-セレクチン発現を達成するためには、かなり多量のLPS の使用を必要
とした。第3図に示されたデータに加えて、P.ジンジバリスの3種の追加の菌株
(A7A1-28、A7436 および5083)から得たLPS およびB.フォルシタス(forsythus)か
ら得たLPS も、E-セレクチン発現を刺激しなかった(1ng/mlにおいて、最低3回
の別々の実験を各LPS について実施した)。これらのLPS 処方物を、添加された
ヒト血清の存在下または不在下で調べた場合に、E-セレクチンの刺激は全く観測
されなかった。P.エルギノーザATCC 27316から得た細胞壁は、同様にかなり低い
応答を示した。H.ピロリATCC 43504またはP.ジンジバリスATCC 33277から得た細
胞壁も、E-セレクチン発現を誘発できなかった(第4図)。カルセイン-AM 加水
分解アッセイは、これらの処方物が、該アッセイ中該内皮細胞に対して無害であ
ったことを示した。
実施例III
P.ジンジバリスのLPS のE-セレクチン発現を刺激する能力を、本例の一連の実
験において検討した。更に、同様に成人の歯周疾患に関連すると考えられている
関連する微生物バクテロイデスフォルシシアス(Bacteroides forsythias)をも検
討した。
E-セレクチン発現に及ぼす種々のLPS 処方物の効果を、上記実施例Iに記載の
ように、濃度0.0001、0.001 、0.01、0.1 および1.0 μg/mlの、HUVEC 単層にLP
S 処方物を添加することにより測定した。E.コリ由来のLPS はシグマ社(0111:B4
)から入手し、LPS はP.ジンジバリス 33277およびA7A1-28 から、ウエストファ
ル&ジャン(Westphal and Jann)のメソッズインカルボハイドレートケミストリ
ー(Methods in Carbohydrate Chemistry),5: 83-91,R.L.ウイスラー(Whistler)
編,アカデミックプレス社,N.Y.に記載された、フェノールウォーター(phenol
water)法によって精製し、LPS はB.フォルシシアスおよびP.ジンジバリス株5083
から、冷Mg/ETOH 手順(ダルボ&ハンコック(Darveau and Hancock),J.Bacterio
l.,1983,155:831-838)によって精製した。全てのLPS 処方物は、dH2O中に懸濁
した。LPS 処方物は、混入核酸およびタンパク質を含まないものであることが確
認されており、糖および脂肪酸組成についてガスクロマトグラフィーに掛けられ
た。該LPS 処方物の組成は、以前に報告された諸特徴と一致した。各アッセイは
3種の異なる状況につき2回宛て実施した。
典型的なアッセイの結果を第5図に示した。E.コリLPS からの有意なシグナル
を得るのに必要とされた濃度の1000倍高い濃度におけるこれらLPS 処方物につい
ては、何等のE-セレクチンの刺激も観測されなかった。
LPS により誘発されるE-セレクチン発現に対しては、血清の存在が必要である
とされている(フレイ(Frey)等,J.Ex.Med.,1992,176:1665;パギン(Pugin)
等,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1993,90:2744)ので、血清が、該内皮細胞へ
の該LPS の提示を妨害する可能性を検討した。E-セレクチン刺激を、ヒト血清の
不在下および56℃にて30分間加熱して不活性化された血清の存在下で実施した。
血清の不在下または加熱−不活性化血清の存在下において、E.コリLPS よりも10
00倍高い濃度が、NHS による刺激と比較した場合に、有意のE-セレクチン応答
を得るのに必要であった。しかしながら、今回もP.ジンジバリスLPS に対するE-
セレクチン応答は観測されなかった。
実施例IV
P.ジンジバリス由来のLPS がE-セレクチン正作用を刺激し得ないことが実証さ
れたので、E.コリLPS およびTNF の何れによっても刺激された、E-セレクチンの
正作用を遮断するP.ジンジバリスLPS の能力をも測定した。
E.コリおよびP.ジンジバリス由来のLPS 処方物を混合し、次いで内皮細胞に添
加した。実施例III に記載の如く、菌株ATCC 33277から得たP.ジンジバリスLPS
を、それぞれ第6A図または第6B図に示したように、E.コリLPS またはTNF の2種
の処方物と、内皮細胞に添加する前に種々の比率で混合した。E-セレクチンのア
ッセイは実施例Iに記載のように実施した。3種の別々の実験は同様な結果を与
えた。典型的な実験の結果を図示した。
第6A図に示した如く、E.コリLPS の10〜100 倍高いP.ジンジバリスLPS の比率
は、E-セレクチンの刺激を有意に阻害した。第6B図に示したように、同様な混合
実験を、P.ジンジバリスLPS と腫瘍壊死因子を使用して実施した場合、E-セレク
チン発現の阻害は何等観測されなかった。
次いで、該P.ジンジバリスLPS のどの部分が、選択的にE-セレクチン発現を阻
害する能力を担うかを決定するために、研究を行った。P.ジンジバリスLPS は、
1%の酢酸の存在下で30分間の加水分解により、選択的にその脂質Aとポリサッカ
ライド成分(LPS-PS)とに分解された。画分を遠心分離によって分離し、ガスクロ
マトグラフィーによってその脂質および炭水化物含量について分析した。各処方
物の組成は以前に報告されたデータと一致した。E.コリLPS(10ng/ml)を、第1図
(コントロール)に記載した如く内皮細胞の単層に添加し、同一の量のE.コリLP
S を、10μg/mlのP.ジンジバリスLPS 、LPS-PSまたは脂質-Aの何れかと混合し、
E-セレクチン発現について分析した。
第7図は、該P.ジンジバリスLPS 画分によるE-セレクチン発現の阻害研究の結
果を示す。3種の別々の実験において、10μg/mlの量で添加した場合には、単離
された脂質Aもしくはポリサッカライド成分の何れも、10 ng/mlのE.コリLPS に
よるE-セレクチンの活性化を阻止できなかった。100 倍過剰の濃度で添加した場
合に、これらの画分が阻止不能であったことは、該LPS 分子の両成分がE-セレク
チン発現の阻害のために必要であり得ることを示唆している。しかしながら、該
加水分解手順によるLPS キー成分の選択的分解は排除されなかった。
P.ジンジバリスLPS は、またアクチノバチルスアクチノマイセーテムコミタン ス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)
およびサルモネラティフィムリウム (Salmonella typhimurium)
LPSによるE-セレクチン発現を阻止した。
他の実験において、P.ジンジバリスLPS は、レプトトリチアバッカリス(Lepto trichia buccalis
)(ATCC 14201)、E.コリ ATCC 29552 、ヘモフィラスパライン フルエンザエ(Haemophilus parainfluenzae)
(BMS C128)、ナイセリアフラベッセ ンス(Neisseria flavescens)
(ATCC 13120)、エイケネラコローデンス(Eikenella corrodens
)(ATCC 23834)およびフソバクテリウムニュークリエータム(Fusobact
erium nucleatum)(ATCC 25586)から得た細胞壁によって刺激されたE-セレクチン
発現を阻止することが示された。
実施例V
P.ジンジバリスに結合する抗体を、P.ジンジバリスLPS により媒介されるE-セ
レクチン発現の阻害を阻止または無効にする能力につき検討した。
内皮細胞を10 ng/mlのE.コリLPS で刺激した。第8図の最後の欄に示したよう
に、該内皮細胞に添加する前に、P.ジンジバリスLPS を該E.コリLPS と混合しな
い場合には、E-セレクチン応答が観測された。しかしながら、該内皮細胞に添加
する前に、0.5 μg/mlのP.ジンジバリスLPS を該E.コリLPS と予備混合した場合
には、第8図に「P.g.LPS」と表示した第一の欄に示した如く、E-セレクチン応
答は完全に阻害された。
次いで、予備免疫したおよび免疫したウサギ血清(全P.ジンジバリスで免疫化
した)の種々の希釈物を、E.コリおよびP.ジンジバリスLPS 処方物と共にインキ
ュベートした。予備免疫したおよび免疫したウサギ血清を1/12.5に希釈し、次い
で血清または内皮細胞成長因子なしに、順次「エンドコウ(Endochow)」(M-199,ギ
ブコ(Gibco),4 mMのL-グルタミン、90μg/mlのヘパリン、1mMのピルビン酸ナト
リウムを含む)に、数回に渡り2倍希釈した。この希釈した血清を、同一の培地
中のP.ジンジバリスLPS(濃度1 μg/ml)と1:1 で組み合わせ、この混合物を室温
にて約1時間維持した。次に、該ウサギ血清/P.ジンジバリスLPS 混合物100 μ
lを、100 μlのE.コリ0111:B4 LPS(最終濃度10ng/ml)と混合した。次に、100
μlのこの混合物をHUVECs(予め血清を含まない培地で1回洗浄した)に添加し
て、5%CO2 の条件下で、37℃にて4時間、E-セレクチン発現を刺激した。刺激後
、該培地をプレートから除去し、該細胞を2度冷PBS(ウエル当たり100 μl)で洗
浄した。100 μl の0.5%グルタルアルデヒド(冷PBS 中)をウエル各々に添加し
、プレートを4℃にて10分間冷却した。次いで、プレートを、正常な山羊血清3%
および0.02 Mの EDTA(ウエル当たり200-300 μl)を含むPBS を使用して4回洗浄
した。最後の洗浄の後、200-300 PBS/山羊血清/EDTA をウエル各々に添加し、該
プレートを4℃にて一夜保存した。全ての抗体を上記のPBS/山羊血清/EDTA 中に
希釈した。次いで、遮断試薬を該ウエルから除去し、100 μl の一次抗体(通常
マウス抗−ELAMモノクローナル抗体,0.25g/ml)を添加した。プレートを37℃に
て1時間インキュベートし、次いでPBS/山羊血清/EDTA(200-300μl/ウエル) で
4回洗浄し、次に100 μl/ウエルの二次抗体(ジャクソンラボラトリー(Jackson
Labs)製のF(ab')2山羊抗−マウスIgG,Fc 特異的,HRP 複合体[#115-036-071])
を添加した。プレートを37℃にて1時間インキュベートし、次いで4回PBS/山羊
血清/EDTA で洗浄し、100 μl/ウエルの色素原試薬(基質バッファー中に希釈し
たTMB)を添加した。約20分間発色させ、該反応を100 μl/ウエルの1NH2SO4を添
加して停止させ、該プレートを450/630 nmにて読み取った。
第8図に示した如く、抗−P.ジンジバリス血清濃度が増大するにつれて、予備
免疫した血清に比して、該E-セレクチンのシグナルにおける増加が観測された。
このことは、該抗−P.ジンジバリス抗体が、P.ジンジバリスLPS の、E.コリLPS
により媒介されたE-セレクチン発現を阻止する能力を阻害できたことを示す。実施例VI
: P.ジンジバリスおよびH.ピロリは内皮細胞に対する好中球の付着を促
進しない
本実施例では、E.コリとは対照的に、P.ジンジバリスが、ヒト内皮細胞の好中
球への付着を誘発しないことを実証する。本実施例は、またP.エルギノーザが好
中球付着の極めて貧弱な誘発体であり、H.ピロリが好中球の内皮細胞に対する付
着を誘発しないことを実証する。
ヒト好中球処方物に関して、血液は正常で健康なボランティアから、ヘパリン
含有シリンジを使用して、静脈穿刺によって得た。好中球は、製造業者の説明に
従って、ポリモルフプレプ(PolymorphprepTM)を含む密度勾配遠心分離(ニコメ
ドファルマ(Nycomed Pharma)AS,オスロ,ノルウェイ)を使用して単離した。混
入した赤血球は、マグヌソン(Magnuson)等,J.Immunol.,1989,143:3025-3030
(これを本発明の参考文献とする)に記載されているように溶解した。この好中
球処方物の一部を染色し、純度についてチェックし、残りの細胞を蛍光標識のた
めに、4×106細胞/ml に懸濁した。好中球を製造業者の指示に従って、BCECF-A
M(モレキュラープローブズ社(Molecular Probes Inc.),オイゲン,OR)で標識
した。具体的には、好中球を、暗室中で、DMSO中で15分間、10mMのBCECF-AMと共
にインキュベートし、5%の FBSを含有する等体積のRPMIを添加し、該細胞を遠心
分離した。好中球をPBS 中で洗浄し、次いで1%のFCS を含有するRPMI中に2×106
細胞/ml で懸濁し、暗室中に保存した。
この好中球付着アッセイのために、マグヌソン(Magnuson)等の上記文献に記載
された基本的手順に従った。4×104 HUVEC/ウエルを96ウエルのプレートに添加
したことを除き、E-セレクチン発現アッセイについて上記した如く、HUVEC 単層
を調製した。HUVEC 単層を、E-セレクチン発現アッセイについて上記した如く、
LPS または細胞壁処方物で4時間刺激した。この4時間の刺激の後、該HUVEC 単
層を5% FCS含有PBS で洗浄し、標識された好中球を添加した(母液0.1ml,約2×
105 細胞/ウエルに相当)。この好中球/HUVEC処方物を箔で覆い、振盪器上で穏
やかに周囲温度にて30分間攪拌した。30分後に、付着しなかった好中球を注意深
く吸引することにより除去し、5% FCS含有PBS で2回洗浄した。洗浄後に、50mM
のトリス(Tris),pH 8および1% SDSを含有する溶液0.1 mlを該HUVEC 単層に添加
し、該プレートを、485 nmで励起し、かつ535 nmで発光する、フルオレッセンス
コンセントレーションアナライザー(Fluorescence Concentration Analyzer)(バ
クスターサイエンティフィックプロダクツ(Baxter Scientific Products),フィ
ラデルフィア,PA)により読み取った。各アッセイにおいて付着した全好中球の
割合を、蛍光強度に対してプロットした変動する量の溶解した好中球につき標準
曲線を作成することにより、測定した。日常的には、ほぼ最大の結合(20,000単
位)において、約50%の好中球が結合した。
この結果は、E.コリは好中球付着の強力な誘発剤であるが、P.ジンジバリスお
よびH.ピロリLPS を検討した場合には、これは検出されず、またP.エルギノーザ
LPS に内皮細胞を暴露した後に、有意な好中球付着の低下が生じる(第9図)こ
とを示した。
E-セレクチン発現とは逆の、好中球付着の検討は、P.ジンジバリスまたはH.ピ ロリ
から得たバクテリア処方物が、E-セレクチンとは独立したメカニズムで、好
中球付着を促進するか否かを決定することを可能とする。好中球付着の欠如は、
これら生物がE-セレクチンとは独立したメカニズムで、内皮細胞付着を誘発でき
ないことを実証している。実施例VII:
P.ジンジバリスは、ヒト歯肉線維芽細胞由来の単球走化性誘起作用
性タンパク質のE.コリ-LPS誘発を阻害する
本実施例では、P.ジンジバリスLPS が、ヒト歯肉線維芽細胞からの単球走化性
誘起作用性タンパク質(MCP-1)の生産を刺激しないことを実証する。MCP-1 は、
炎症性の刺激に応答して合成されるケモカインであり、白血球を炎症部位に誘導
するものと考えられている。MCP-1 は、正常な歯周組織内で発現されることが示
されており、また好中球の存在のためにこうむる損傷から、宿主組織を保護する
役目を果たすと考えられている。
これらの実験において、10 nm/mlのE.コリ-LPSは強力なMCP-1 mRNAの誘発物質
であり、一方1μgのP.ジンジバリスLPS はMCP-1 mRNAの発現をもたらさなかっ
た。更に、50 nm/mlのP.ジンジバリスLPS は、E.コリによって誘発されたMCP-1
発現を遮断することができた。これらのデータは、P.ジンジバリスLPS に関する
観測を、ヒト歯肉線維芽細胞およびケモカイン発現に及ぼす阻害作用を含むまで
に、拡張する。
一次ヒト歯肉線維芽細胞(HGF-60)を10% のFBS 、ピルビン酸ナトリウム、グル
タミン、ペニシリンおよびストレプトマイシンを補充したDMEM培地中で成長させ
た。初期継代培養細胞を、100 mm培養皿当たり1〜2×106 細胞なる密度で塗布
し、種々の濃度のE.コリ(10ng/mlE.コリ LPS 011:B4,シグマ(Sigma) 社)またはP .ジンジバリス
(1000 ng/ml P.ジンジバリスLPS)もしくはこれら両 LPSの混合物
で、2% FCS中で、18〜24時間処理した。該細胞を、引き続きRNA の単離のために
収穫した。
チョムチンスキー&サッチ(Chomczynski and Sacchi),1987,162:156-159 の
一段階グアニジウムチオシアネート−フェノール−クロロホルム法によって全RN
A を単離した。該文献を本発明の参考とする。RNAStat-60溶液(テル−テスト(T
el-Test)“B”社、フレンズウッド,TX)を用いて、該皿上で直接細胞を溶解し
、RNAStat-30キット(テル−テスト(Tel-Test)“B”社)および製造業者のプロ
トコールを使用した、カラム精製により該RNA をmRNAについて富化した。
RNA サンプル(15 μg/レーン)を、1×MOPSバッファー中で、6%のホルムアル
デヒドを含有する1.0%垂直スラブアガロースゲル上で泳動させた。ゲルは70-75V
にて4時間稼働し、電気泳動されたRNA を、20×SSC 中で一夜、ハイボンド(Hyb
ond)-N膜(アマーシャムライフサイエンス(Amersham Life Science))に移した。
次いで、ブロットをUVストラタリンカー(Stratalinker;ストラタジーヌ(Stratag
ene)社)を使用して架橋し、50% のホルムアミド、4Xデンハーツ(Denhardts)、5X
SSC、1% SDS、10mMTris-HCl(pH 7.5)および50μg/mlのサケ精液DNA を含有する
バッファー中で、42℃にて4時間、予備ハイブリッド化した。
ノーザンブロットを、MCP-1 に対する[32P]標識プローブを使用してハイブリ
ッド化した。このプローブは、MCP-1 コードcDNAフラグメントによる[32P]dCTP
を使用した、ランダム感作標識によって得た。ハイブリダイゼションは、1mlに
つき1〜2×106cpmの32P 標識プローブを含む予備ハイブリダイゼションバッフ
ァー中で、42℃にて一夜実施した。引き続き、ブロットを65℃にて、0.2X SSC、
0.1% SDS中で洗浄し、オートラジオグラフィー処理するか、あるいはモレキュラ
ーダイナミックスホスホルイメージャー(Molecular Dynamics Phosphorimager)
上で走査させた。次いで、画像を定量化した。
第10図に示された結果は、E.コリLPS が、P.ジンジバリスLPS の不在下でイン
キュベートした際に、強いシグナルを形成することを立証している。しかしなが
ら、細胞をP.ジンジバリスLPS(1000ng/ml)と共にインキュベートした場合には如
何なるシグナルも観測されなかった。E.コリLPS と50 ng/mlのP.ジンジバリスLP
S との同時のインキュベーションは、MCP-1 RNA のE.コリLPS 媒介発現の、殆ど
完全な阻害を結果した。
実施例VIII: P.ジンジバリスはK軽鎖発現を阻害する
本実施例は、P.ジンジバリスLPS の阻害作用が、免疫グロブリン産生細胞の阻
害をも包含することを実証し、このことはこのような生物の免疫抑制作用が広範
な関連性をもつ可能性のあることを示唆している。
マウス細胞系70 Z/3はプレBリンパ腫細胞系であり、その初期段階における免
疫グロブリン発現は凍結されており、従って構造的にはその表面上に発現された
μ重鎖をもつが、κ軽鎖を含まない。ミラー(Miller)等,Mol.Cell Biol., 199
1,11:4885-4894(これを本発明の参考文献とする)。κ軽鎖はE.コリLPS によっ
てその発現を誘発できる。
本実施例においては、70 Z/3細胞を、X軸上に示した濃度のE.コリLPS と共に
インキュベートし、また10μg/mlのP.ジンジバリスLPS と共に同時インキュベー
トした。18時間のインキュベーション後に、該細胞表面上でのκ軽鎖の発現を、
蛍光活性化細胞選別(FACS)によって調べた。結果を平均の蛍光として示す。
P.ジンジバリスLPS はこれを刺激しなかったが、寧ろE.コリLPS の、マウス70
Z/3細胞中のκ軽鎖発現を刺激する能力を阻害する傾向を示した。第11図に示し
たように、濃度0.1ng/mlのE.コリLPS は、免疫蛍光法により測定されたように、
κ軽鎖の発現を刺激したが、10μg/mlのP.ジンジバリスLPS はκ軽鎖の発現を与
えなかった。更に、P.ジンジバリスLPS は、該細胞に添加する前に、LPS サンプ
ルを予め混合した場合には、E.コリにより誘発されたκ軽鎖発現を阻止できた。
従って、これらのデータは、P.ジンジバリスLPS の阻害作用を、免疫グロブリン
産生細胞を含めるまでに拡張する。実施例IX
: モノクローナル抗体はE-セレクチンおよび好中球付着のP.ジンジバリ
ス媒介阻害を遮断する
本実施例では、P.ジンジバリスLPS に対するモノクローナル抗体が、E.コリお
よびP.ジンジバリスLPS に暴露されたヒト内皮細胞上での、E-セレクチン発現を
殆ど正常な状態に回復することを実証する。
これらの実験は、本質的に上記実施例Vに記載のように実施した。但し、P.ジ ンジバリス
LPS と結合するモノクローナル抗体7F12およびP.ジンジバリスLPS と
結合しないモノクローナル抗体ACE12-3B4 を検討した。この実験においては、0.
7 μg/mlのP.ジンジバリスLPS または3.3ng/mlのE.コリ011B:4 LPSを、別々にま
たは組み合わせとして、内皮細胞に添加した。更に、モノクローナル抗体ACE 12
-3B4(これはE.コリ LPSと結合する)またはモノクローナル抗体7F12を、LPS 処
方物の組み合わせに添加した。マウスポリクローナル血清(P.ジンジバリスLPS
によって感作したマウス由来のもの)およびプレブリード(prebleed)血清をもLP
S 処方物の組み合わせに添加した。
これらの結果は、P.ジンジバリスLPS を該内皮細胞に添加した場合には、全く
刺激が観測されないかあるいは僅かに観測されるに過ぎないことを示した。E.コ リ
LPSを添加した場合には、有意なE-セレクチン応答が観測された。P.ジンジバ リス
LPS とE.コリ LPSとの組み合わせを添加した場合には、該ELISA シグナルは
殆どバックグラウンド(0.2)にまで低下した。負のコントロール抗体(ACE12-3B4)
またはマウスのポリクローナルプレブリード血清を該組み合わせに添加した場合
には、このシグナルにおける僅かな増加が達成された。P.ジンジバリスLPS に対
するモノクローナル抗体(7F12)またはP.ジンジバリスLPS で免疫することにより
生成したマウスポリクローナル血清を、この組み合わせに添加した場合には、該
シグナルにおけるより高い増加が観測された。これらのデータは、P.ジンジバリ ス
LPS に対する抗体が、このLPS の、E-セレクチン発現を阻止する能力を阻害で
きることを実証している。
次いで、P.ジンジバリスLPS に対するモノクローナル抗体の、好中球結合のP. ジンジバリス
−媒介阻害を遮断する能力を測定した。この実験は、本質的に実施
例VIにおいて上記したようにして実施した。この好中球結合アッセイは、モノク
ローナル抗体(精製モノクローナル抗体は10μg/mlの濃度で添加した)の添加に
よって実施した。モノクローナル抗体4B2 はP.ジンジバリスLPS(これはP.エルギ ノーザ
LPS と結合する)と結合せず、モノクローナル抗体7F12、6E12および5B9
は全てP.ジンジバリスLPS と結合する。この実験において、1μg/mlのP.ジンジ バリス
LPS を内皮細胞あるいは10 ng/mlのE.コリ0111B:4 LPS 単独または組み合
わせレーンに添加した。更に、モノクローナル抗体4B2 またはモノクローナル抗
体7F12、6E12および5B9 を、LPS 処方物の組み合わせに添加した。
得られた結果は、P.ジンジバリスLPS が好中球の内皮細胞への付着を促進しな
いことを示した。逆に、E.コリ LPSは、内皮細胞のヒト好中球との結合能を大幅
に増大できた。P.ジンジバリスLPS とE.コリ LPSとの組み合わせを添加した場合
には、該内皮細胞のヒト好中球への結合能の大幅な低下が見られ、このことはP. ジンジバリス
LPS がE.コリ LPSの好中球結合促進能力を阻害できることを確証し
ている。更に、H.ピロリ LPSは、好中球付着のE.コリLPS-媒介刺激を阻害すると
いう点で、P.ジンジバリスと類似する。P.ジンジバリスLPS とE.コリ LPSとの組
み合わせに、負のコントロール抗体を添加した場合、好中球結合に及ぼされる効
果は何等観測されなかった。逆に、P.ジンジバリスLPS に対するモノクローナル
抗体を、P.ジンジバリスLPS とE.コリ LPSとの組み合わせに添加した場合には、
好中球結合の有意な増加が観測された。これらのデータは、P.ジンジバリスLPS
に対するモノクローナル抗体が、好中球結合のP.ジンジバリスLPS による阻害を
遮断できることを実証している。
実施例X:P.ジンジバリスはインビボでの急性炎症を誘発しない
本実施例では、E.コリ LPSまたは微生物の注入により生ずるインビボでの急性
炎症性応答とは対照的に、この急性応答を発生しないことを実証する。
急性炎症は、脈管系における白血球の辺縁化およびその反応部位における組織
への白血球の移動により特徴付けられる。白血球輸送のこの過程は、活性化され
た白血球ばかりか、活性化された内皮細胞をも含む。急性炎症のマウスモデルが
種々のケモカインおよび細胞付着分子に対して発現されたmRNAの細胞的なおよび
一時的なパターンを検討するために確立された。
これらの研究においては、強力な炎症媒介体であるE.コリリポポリサッカライ
ド(LPS)0.2 mgを、マウスに筋肉内注射し、次いで4または24時間目に殺した。
該注射した筋肉を切除し、低温切断(cryosectioned し、内皮への白血球結合お
よびその後の血管外組織部分へのその移動にとって重要な、内皮細胞上に誘発さ
れる細胞付着分子であるE-およびP-セレクチンmRNA、あるいは線維芽細胞炎症性
ケモカイン(FIC)、もしくはケモカインのC-C またはβ−亜群の一員である、単
球走化性誘起作用性タンパク質1(MCP-1)mRNAの発現を検出するための、その場
でのハイブリダイゼションのために準備した。
E.コリLPS(0111:B4:シグマ社)0.2 mgを、Balb/cマウスのヒ腹筋内注射した。
コントロールマウスには塩水を注射した。バクテリアを用いた研究に対しては、E.コリ
(D471 菌株)およびポルフィロモナスジンジバリス(Porphyromonas gingiv alis)
(菌株 33277 P.ジンジバリス)を、それぞれトリプチカーゼ寒天平板上
で一夜およびブルセラブラッド(Brucella blood)寒天平板上で嫌気的に5日間成
長させた。平板培養したバクテリアを所定の濃度で懸濁し、動物を102、105、107
個のE.コリまたは106、108、1010個のP.ジンジバリスで注射した。各動物に注
射した細胞数は、標準的な方法により実施した生きたコロニー計数により確認し
た。
マウスを4または24時間目に殺し、その筋肉を切除した。凍結切断のために、
筋肉をOCT 化合物中に埋設し、低温切断した。パラフィン切断のため、筋肉を、
まず4%パラホルムアルデヒド中で固定し、次いで埋設し、かつ切断した。
その場でのハイブリダイゼション用のプローブは、cDNAから生成したリボ核酸
プローブまたは公知のcDNA配列から設計されたオリゴヌクレオチドプローブであ
った。該MCP-1 リボプローブは、TA PCRベクター(インビトロゲン(Invitrogen))
内のマウスMCP-1 cDNAから作成した。鋳型は、ユニバーサル(Universal)およびM
13 逆プライマーを使用して、該プラスミドから直接PCR により調製した。フェ
ノール/クロロホルム抽出およびイソプロパノール沈殿後に、250 bpのフラグメ
ントを、Sp6 RNA ポリメラーゼによる転写用の鋳型として使用して、アンチセン
スプローブを生成した。IL-1βcDNAを、ホフマン−ラロッシュ(Hoffman-LaRoche
),ナットリー,NJから入手した。オリゴヌクレオチドプローブについては、プロ
ー
ブのカクテルを使用した。E-セレクチンの場合には、2種のオリゴ体、即ちレク
チン結合ドメインに対するものおよびEGF 領域に対するものを使用した。P-セレ
クチンに対するオリゴ体も、確実な補体ドメインのもの以外にこれら領域に対し
て作成した。3種のオリゴプローブも、FIC およびMCP-1 のコード領域に対して
作成した。パラフィンおよび凍結切断部位を、サンデル(Sadell)等,J.Cell Bi
ol.,1991,114:1307-1319およびアイナー(Aigner)等,Virch.Archiv.B Cell
Pathol.,1992,62:337-345(これらを本発明の参考文献とする)に記載のように
、その場でのハイブリダイゼションのために調製した。
E.コリLPS を注射した筋肉内でのセレクチンmRNA発現に関する結果は、以下の
通りであった。オリゴヌクレオチドプローブ(E-またはP-セレクチンに対する2
または3種の非−重複放射性標識されたオリゴヌクレオチドプローブのカクテル
を使用した)を使用した、一連の切断部のその場でのハイブリダイゼションは、E.コリ
LPS(0.2mg)を注射した後4時間目に採取した、筋肉の凍結切断部由来の内
皮細胞中における、E-またはP-セレクチンmRNAの発現を示した。かくして、炎症
の誘発後4時間目には、E-またはP-セレクチンmRNAが、筋内膜の毛細管および筋
周膜の大きな血管の内皮細胞内で、強く発現された。セレクチンmRNAに対する強
力なハイブリダイゼションが、同様に24時間後の炎症を受けた筋肉の切断部内で
観測された。コントロールとしてPBS を注射した筋肉は、多分注射針の装入によ
って引き起こされたと思われる炎症を表す、組織の狭い通路に沿った細胞におい
てのみ、正反応の細胞が見られた。
リボ核酸プローブを使用したその場でのハイブリダイゼションも、E.コリLPS
(0.2mg)を注射した後4時間目に採取した、筋肉の凍結切断部由来の炎症細胞内
での、単球走化性誘起作用性タンパク質-1(MCP-1)mRNAの発現を示した。PBS の
注射後4時間目に採取した筋肉の凍結切断部はMCP-1 mRNAがないことを示し、従
ってコントロールとして機能した。3種のオリゴヌクレオチドプローブのカクテ
ルを使用したその場でのハイブリダイゼションは、同一のパターンのハイブリダ
イゼションを与えた。かくして、4時間後には、単球走化性誘起作用性タンパク
質-1(MCP-1)mRNAが、特異的放射性標識リボ核酸プローブを使用することにより
、白血球中に検出された。単核細胞であるが、多形核細胞ではないこれらサンプ
ル
においては、MCP-1 mRNAの発現は、筋肉束間(筋周膜)および個々の線維間(筋
内膜)の連結組織隔膜中の組織部分全体に渡り豊富であった。逆に、24時間後に
は、MCP-1 mRNA発現細胞の数は減少するように思われた。
次いで、急性炎症のこの動物モデルを、E.コリの作用と、P.ジンジバリスの注
入による作用との比較のために使用した。リボ核酸プローブを使用した筋肉組織
中のその場でのハイブリダイゼションは、107個のE.コリを注入した後4時間経
過後に採取した筋肉のパラフィン切断部における、単球走化性誘起作用性タンパ
ク質-1(MCP-1)mRNAの発現を示した。高倍率は、PMN ではなく、単球中でのMCP-1
mRNAの発現を示した。MCP-1 の発現は、1010個のP.ジンジバリスの注入4時間
経過後に採取した筋肉の凍結切断部においては、僅かな細胞中でのみ観測された
。
E.コリ−およびP.ジンジバリス−注入筋肉中におけるIL-1のmRNA発現も、リボ
核酸プローブを使用したその場でのハイブリダイゼションによって検出された。
IL-1mRNAの発現は、105個のE.コリの注射後4時間目に採取した筋肉の凍結切断
部で検出されたが、IL-1の発現は、108個のP.ジンジバリスの注射後4時間目に
採取した筋肉の凍結切断部には観測されなかった。
線維芽細胞炎症ケモカイン(FIC) のmRNA発現も、E.コリ−およびP.ジンジバリ ス
−注入筋肉中で測定した。オリゴヌクレオチドプローブを使用したその場での
ハイブリダイゼションは、105個のE.コリの注射後4時間目に採取した筋肉の凍
結切断部における、FIC mRNAの発現を示した。しかしながら、FIC の発現は、108
個のP.ジンジバリスの注射後4時間目に採取した筋肉の凍結切断部には観測さ
れなかった。
かくして、この系を使用することにより、E.コリの注射後4時間目に採取した
筋肉部分由来の単球はMCP-1 mRNAを発現するが、より高いドーズでP.ジンジバリ ス
を注射した筋肉由来の細胞においては、比較的僅かな細胞のみが、このmRNAを
発現した。同様に、E.コリを注射した筋肉由来の炎症性細胞は、IL-1および線維
芽細胞炎症性ケモカイン(FIC)をも発現したが、P.ジンジバリスを注射した筋肉
由来の細胞はこれらを発現しなかった。これらのデータは、E.コリは該動物中で
急性炎症を誘発したが、P.ジンジバリスは誘発しないことを実証している。これ
らの結果は、インビトロでの観測結果と一致しており、またP.ジンジバリスが、
哺乳動物の炎症系によってあまり識別されない細胞壁およびLPS 組成を発現する
ことを示唆している。
以上、本発明を例示の目的で幾分詳細に、かつ理解の明確化の目的で実施例を
説明してきたが、添付した請求の範囲内で、幾つかの変更並びに改良を実施する
ことが可能であることは明白である。