JPH086564A - 音圧推定装置 - Google Patents

音圧推定装置

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JPH086564A
JPH086564A JP6133179A JP13317994A JPH086564A JP H086564 A JPH086564 A JP H086564A JP 6133179 A JP6133179 A JP 6133179A JP 13317994 A JP13317994 A JP 13317994A JP H086564 A JPH086564 A JP H086564A
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sound
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Seiji Adachi
整治 足立
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ATR Advanced Telecommunications Research Institute International
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ATR NINGEN JOHO KENKYUSHO KK
ATR Advanced Telecommunications Research Institute International
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 たとえばマウスピースが取付けられる金管楽
器のように因果律が破れる反射関数であっても音圧を精
度よく推定することができるような音圧推定装置を提供
する。 【構成】 音圧推定装置17は、制御部19と推定部2
1とフィルタ23とを含む。推定部21の非線形演算部
25は体積速度Uを線形演算部27に出力し、線形演算
部27は反射関数rcausal(t)を用いてマウスピース
内の音圧pを求めて非線形演算部25に出力する。フィ
ルタ23はマウスピース内の音圧pから管楽器の先端部
の音圧を推定して音圧pout として出力する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、音圧推定装置に関
し、特に、管状の楽器の音を合成するために音圧を推定
することができるような音圧推定装置に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】従来
より、自然楽器の発音モデルをDSP(ディジタルサウ
ンドプロセッサ)などを用いてシミュレートすることに
よって楽音を合成する技術が知られている。
【0003】図21は、従来の楽音合成で必要な音圧推
定装置(物理モデル音源)の概略ブロック図である。
【0004】図21を参照して、音圧推定装置(物理モ
デル音源)1は、非線形演算部3と、線形演算部5とを
含む。非線形演算部3は、管楽器におけるリード(唇)
部をシミュレートする。線形演算部5は、管楽器におけ
る線形部分である共鳴管をシミュレートする。非線形演
算部3は、演奏者の吹奏圧を示す吹奏圧信号preと、
演奏者の唇の緊張度を示すをアンブシュア(embouchur
e) 信号embとが入力される。そして、非線形演算部
3は、線形演算部5に圧力進行波信号po を出力する。
線形演算部5は入力された圧力進行波信号po に基づい
て圧力反射信号p i を非線形演算部3に出力する。した
がって、非線形演算部3は、アンブシュア信号embお
よび吹奏圧信号preのみならず、圧力反射波信号pi
に基づいて進行波信号po を出力する。
【0005】非線形演算部3および線形演算部5によっ
て発振回路が形成され、ディジタルアナログコンバータ
(図面ではDAC)7が圧力波信号などを抽出してアナ
ログ信号に変換し、楽音信号として出力していた。
【0006】特に線形演算部5は、遅延回路、ローパス
フィルタなどを含んでいる。遅延回路は、管楽器の共鳴
管内における圧力波の伝搬遅延をシミュレートするため
のものである。ローパスフィルタは、共鳴管内における
圧力波の伝搬損失をシミュレートするものである。ロー
パスフィルタは、実際の楽器の音にシミュレートされた
音を近づけるために近似を行なうために用いられてい
た。
【0007】しかしながら、ローパスフィルタを用いた
近似では、精度の限界があった。一方、Helmhol
tzによる先駆的な管楽器発音の研究を出発点として、
クラリネットを代表する木管楽器、および金管楽器発音
に関する非線形性を採り入れた研究がこれまでになされ
ている。これによって、楽器および演奏者との協調とし
て理解されるべき発音条件などが詳しく調べられるよう
になった。しかしながら、より強い非線形性が関与する
実際の発音時の波形を求めるためには、これらの研究で
用いられた非線形項を級数展開する方法では不十分であ
る。すなわち、モデル化された方程式系を数値計算法を
用いて解く必要がある。
【0008】このような数値計算法を用いた方法は、た
とえば“Ab Initio Calculations of the Oscillations
of a Clarinet”Acustica 48 71-85(1981) でR.T.
Schumacherによって提案された。Schum
acherは、クラリネットに数値計算法を適用して自
然楽器に見られる発音波形を十分によく近似する結果を
得た。その方法について説明する。
【0009】楽器の特性は入力インピーダンスZinで表
わされる。音の反射を示す反射関数r(t)は、第
(1)式に示されるrhat の逆フーリエ変換で定義され
る。第(2)式に示されるように、反射関数r(t)が
用いられることで、音圧p(t)と体積速度U(t)が
効率よく数値計算される。ただし、第(2)式におい
て、Zc は特性インピーダンスである。
【0010】第(2)式で用いられる反射関数r(t)
は、楽器にパルス音圧進行波が入射されたときに観測さ
れる音圧反射波を表わしている。反射関数r(t)は、
自然楽器の共鳴特性に忠実であることが望まれる。
【0011】しかしながら、実際の自然楽器形状からま
たは測定から得られる楽器入力インピーダンスZinが用
いられて、反射関数r(t)がディジタル計算された場
合には、しばしば因果律が破れる。因果律の破れとは、
t<0で、反射関数r(t)が有限の値を持つことであ
る。このような場合には、因果律の破れた反射関数r
(t)は直接第(2)式に用いられない。それは、第
(2)式の積分区間が0から∞であるためである。した
がって、Schumacherは、因果律の破れない場
合に仮定して、第(2)式によるシミュレーションを行
なっていた。同様に、“Physical Modeling of Wind In
struments ”Compt. Music J. 16 No. 4 57-73(1992)で
提案されているように、D.H.Keefeによって
も、反射関数r(t)が自然楽器の楽器入力インピーダ
ンスZinから計算せずに、因果律を満たすすなわち、t
<0でr(t)=0が満たされるような簡略化された模
式的な反射関数r(t)が仮定されて第(2)式による
シミュレーションが行なわれていた。その結果、反射関
数の因果律が破れる場合には、自然楽器からの発せられ
る楽音に近い音色が得られなかった。
【0012】ゆえに、本発明は、上記のような問題を解
決し、自然楽器から発せられる楽音を合成するために音
圧を精度よく推定することができるような音圧推定装置
を提供することである。
【0013】
【数2】
【0014】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明に係る音
圧推定装置は、その一端付近に内部断面形状の変化があ
る管状の楽器の音を合成するために音圧を推定する音圧
推定装置であって、内部断面形状の変化によって生じる
音圧を推定する推定手段を備えている。
【0015】請求項2の発明に係る音圧推定装置では、
請求項1の推定手段は、一端に流入されるべき流体の流
量変化を推定する流量変化推定手段と、推定された流量
変化に基づいて内部断面形状の変化に応じた音圧を推定
する音圧推定手段とを備え、音圧推定手段は、推定され
た流量変化を表わす信号に所定の係数を乗算し、その信
号を順次遅延させるとともに音の反射を表わす第(3)
式の反射関数rcausal(t)の所定の値を乗算する複数
の遅延段と、係数が乗算された信号および各遅延段の出
力を加算して推定された音圧を表わす信号として出力す
るとともに、係数が乗算された信号を推定された音圧を
表わす信号に加算して各遅延段に出力するループ手段と
を含んでいる。
【0016】請求項3の発明に係る音圧推定装置では、
請求項1の推定手段は、一端に流入されるべき流体の流
量変化に基づいて音圧の進行波を表わす音圧進行波信号
を求めて出力する進行波信号出力手段と、出力された音
圧進行波信号に基づいて音圧の反射波を表わす音圧反射
波信号を求めて出力する反射波信号出力手段と、進行波
信号出力手段および反射波信号出力手段の出力を加算し
て音圧を求める第1の加算手段とを備え、反射波信号出
力手段は、進行波信号出力手段の進行波信号を順次遅延
させるとともに、音の反射を表わす第(3)式の反射関
数rcausal(t)の所定の値を乗算する複数の遅延段
と、各遅延段の出力を加算して反射波信号として出力す
る第2の加算手段とを含んでいる。
【0017】請求項4の発明に係る音圧推定装置は、そ
の一端付近に内部断面形状の変化がある管状の楽器の音
を合成するために音圧を推定する音圧推定装置であっ
て、一端に流入されるべき流体の流量変化U(t)と内
部断面形状の変化に応じた音圧p(t)との関係によっ
て導かれる音の反射を表わす反射関数r(t)が時間t
<0で有限の値を有することに応じて、反射関数r
(t)を第(3)式の反射関数rcausal(t)に変更
し、楽器入力インピーダンスZinおよび特性インピーダ
ンスZc を含む第(4)式に基づいて内部断面形状の変
化に応じた音圧p(t)を推定する推定手段を備えてい
る。
【0018】請求項5の発明に係る音圧推定装置では、
反射関数r(t)は、第(1)式のrhat の逆フーリエ
変換で定義される。
【0019】請求項6の発明に係る音圧推定装置は、さ
らに、請求項1または4の推定手段が推定した音圧に応
じて楽器の他端での音圧を推定する他端音圧推定手段を
備えている。
【0020】
【数3】
【0021】
【作用】請求項1の発明に係る音圧推定装置は、管状の
楽器の音を合成するために、推定手段によって管状の楽
器のその一端付近の内部断面形状の変化によって生じる
音圧を推定できる。
【0022】請求項2の発明に係る音圧推定装置は、推
定手段の流量変化手段によって一端に流入されるべき流
体の流量変化を推定し、音圧推定手段の複数の遅延段に
よって推定された流量変化を表わす信号に所定の係数を
乗算し、その信号を順次遅延させるとともに音の反射を
表わす第(3)式の反射関数rcausal(t)の所定の値
を乗算し、音圧推定手段のループ手段によって係数が乗
算された信号および各遅延段の出力を加算して推定され
た音圧を表わす信号として出力するとともに、係数が乗
算された信号を推定された音圧を表わす信号に加算して
各遅延段に出力して、推定された流量変化に基づく内部
断面形状の変化に応じた音圧を推定する。
【0023】請求項3の発明に係る音圧推定装置は、推
定手段の進行波信号出力手段によって一端に流入される
べき流体の流量変化に基づく音圧の進行波を表わす音圧
進行波信号を求めて出力し、反射波信号出力手段の複数
の遅延段によって進行波信号出力手段の進行波信号を順
次遅延させるとともに音の反射を表わす第(3)式の反
射関数rcausal(t)の所定の値を乗算し、反射波信号
出力手段の第2の加算手段によって各遅延段の出力を加
算て反射波信号として出力し、第1の加算手段によって
進行波信号出力手段および反射波信号出力手段の出力を
加算して音圧を求める。
【0024】請求項4の発明に係る音圧推定装置は、推
定手段によって管状の楽器の一端に流入されるべき流体
の流量変化U(t)と一端付近の内部断面形状の変化に
応じた音圧p(t)との関係によって導かれる音の反射
を表わす反射関数r(t)が時間t<0で有限の値を有
することに応じて、反射関数r(t)を第(3)式の反
射関数rcausal(t)に変更し、楽器入力インピーダン
スZinおよび特性インピーダンスZc を含む第(4)式
に基づいて内部断面形状の変化に応じた音圧p(t)を
推定する。
【0025】請求項5の発明に係る音圧推定装置は、第
(1)式のrhat の逆フーリエ変換で定義される反射関
数r(t)を用いて音圧を推定する。
【0026】請求項6の発明に係る音圧推定装置は、他
端音圧推定手段によって、推定手段が推定した音圧に応
じた楽器の他端での音圧を推定する。
【0027】
【実施例】まず、音圧推定装置の実施例を説明する前
に、音圧推定装置で必要とされる原理について説明す
る。
【0028】前述した因果律が破られる管楽器として
は、金管楽器がある。したがって、その因果律を破る原
因とされるマウスピースおよび演奏者の唇のモデルであ
る振動体を例にとって原理について説明する。
【0029】図1は、マウスピースおよび振動体の一例
である唇との関係を示した図である。
【0030】図1を参照して、マウスピース9には、唇
11が接触している。唇11は、一部が開口しており、
口腔13から空気のような流体がマウスピース9側に流
入される。したがって、このような金管楽器の発音を記
述する3つの変数は、マウスピース9内の音圧p(t)
と、口腔13から唇11の唇開口部15に向かって流入
されてマウスピース9に流入される単位時間当りの気流
量(体積速度)U(t)と、唇11の変位を表わす位置
座標x(t)または角度θ(t)である。以下では、こ
れら3つの変数が3つの方程式を満たすモデルについて
説明する。第1番目の方程式は、口腔13で得られる吹
奏圧p0 とマウスピース9内の音圧p(t)との圧力差
を受けて唇11の唇開口面積を通過する気流が満たす流
体力学の方程式である。第2番目の方程式は、周囲の圧
力が与えられることで強制振動する唇11の運動方程式
である。第3番目の方程式は、体積速度U(t)によっ
てマウスピース9に発生する音圧p(t)を与える楽器
の特性を表わす積分方程式である。
【0031】次に、第1番目の方程式である気流の方程
式について説明する。唇開口部15での気圧がplip
図1では表わされている。気流は、1次元流であると仮
定する。楽声合成に使われる1質量または2質量モデル
と同じように口腔13から唇開口部15間の気流圧縮部
にエネルギー保存則、唇開口部15とマウスピース9間
の気流膨張部に運動量保存則が適用される。これらの保
存則は、第(5)式および第(6)式で表わされる。た
だし、ρは空気の平均密度、Slip は唇開口面積、dは
唇の厚さ、Scup はマウスピース入口の面積を表わす。
また、気流膨張部では気流の慣性項は無視されている。
唇開口面積Slip は唇の変位に比例するため、第(5)
式および第(6)式は3変数p(t)、U(t)、x
(t)(またはθ(t))の間の非線形関係を表わして
いる。
【0032】次に、第2の方程式のために、唇のモデル
について説明する。唇11のような弾性体を取扱いため
には、本来、質量・復元力が空間上に分布した連続体が
考えられる必要がある。しかしながら、Martin,
Hallの楽器吹奏時の唇振動ストロボ撮影によって示
されているようにマウスピース9に当てられた唇11は
一体となって振動している。このことは、モデル化にあ
たって唇11を1つの質量を持つ振動子として取扱って
も少なくとも第1近似としては間違っていないことを示
している。復元力も変位に対して非線形なものが考えら
れることはできるが、ここでは簡単のためフックの法則
に従う力のみを考える。また、両唇11の運動の振幅に
差が見られるが、簡単のため同じ振幅として取扱う。
【0033】唇11の運動モデル化にあたって必要な2
つ目は、運動の方向である。長い間、金管楽器の発音時
には吹奏圧が上昇した場合、両唇は開く方向に運動する
と信じられてきた。すなわち、外向き振動のみが実現さ
れているものと信じられてきた。ところが、実吉などの
提案とそれに続くマウスピース9内の音圧p(t)と唇
振動との同時測定によって、吹奏圧上昇時に、両唇11
が閉じる方向に運動することがわかってきた。すなわ
ち、内向き振動も生じることがわかってきた。したがっ
て、以下では両方の振動の可能性があるため、2つの唇
のモデルを採り上げる。
【0034】1番目の唇のモデルは、唇11を表わす調
和振動子の運動が気流の方向に対して垂直な方向のみ許
されるモデルである。このモデルは、声帯の振動がモデ
ル化される場合に使われている。この1番目のモデルを
1質量モデルと呼ぶ。この1質量モデルが内向き振動を
実現することは、気流が開口部15を流れる際にBer
noulli効果により、その気圧plip が下がり両唇
11が閉じる方向に動くことからわかる。唇の質量を
m、弾性係数をk、唇開口部15の幅をbとすると、唇
11の運動方程式は、第(7)式のように表わされる。
第(7)式において、r′は唇運動の減衰係数である。
減衰係数r′は、唇共鳴のQ値と、第(8)式によって
関係づけられている。第(7)式の右辺第1項は減衰
力、第2項は外力、第3項は復元力を表わしている。平
衡時の唇開口部15の間隔をx0 として、唇の変位xが
−x0 /2を下回った場合、すなわち、両唇11が閉じ
て接触しているときには第(7)式の第3項による復元
力の他に、x+x0 /2に比例する復元力が加わる。唇
開口面積Slip は、Slip =max{b(x0 +2
x),0}で与えられる。
【0035】2番目の唇のモデルは、マウスピース9の
リムに当たっている1点を支点としてカップ内へ向かっ
て回転運動する唇11である。この場合、唇11は、主
として吹奏圧p0 とマウスピース9内の圧力pの差によ
って駆動されるため、外向き振動が実現される。この第
2番目の唇のモデルをhingeモデルと呼ぶ。リムか
ら唇11の先端までの長さをl、気流に垂直な面と平衡
時の唇11のなす角度をθ0 とすれば、唇11の運動方
程式は、第(8)式で表わされる。第(8)式の右辺第
1項は減衰力、第2項は圧力差による外力、第3項はB
ernoulli力、第4項は復元力を表わしている。
第(7)式で表わされる1質量モデルと同じく両唇接触
時には、θ−θclに比例する復元力が加わる。ただし、
θclは唇閉止時の角度である。このhingeモデルの
場合、唇開口面積Slip は、Sli p =max{2bl
(cosθcl−cosθ),0}で与えられる。また、
このhingeモデルでは、流体力学的体積速度Uに唇
11の運動に起因する体積速度bl2 dθ/dtが加わ
る。表1に、以下で必要とされるパラメータを示す。た
だし、Elliot and Bowsherの測定結
果から唇の質量mおよび唇の弾性係数kは唇の固有周波
数flip に対してそれぞれ反比例、比例するものと仮定
している。
【0036】
【数4】
【0037】
【表1】
【0038】次に、楽器の入力インピーダンスと反射関
数について説明する。前述したように、楽器の特性は入
力インピーダンスZinで表わされる。反射関数r(t)
は、Schumacherによって、第(1)式のr
hat の逆フーリエ変換で定義されていた。この反射関数
r(t)によって、第(2)式が、音圧p(t)と体積
速度U(t)の関係を効率よく表わしていた。したがっ
て、第(2)式を従来例と同様に用いる。ただし、反射
関数r(t)は、後で詳しく説明するが、再定義し直
す。
【0039】次に、この原理を裏付けるための実験につ
いて説明する。入力インピーダンスZinを得るためには
2つの方法が考えられる。1つ目は、既存の楽器を用い
て測定を行なう方法であり、2つ目は、楽器の管を簡単
な形状の構成要素に分割し各要素に対する伝達行列の積
から数値計算により求める方法である。この実験では、
後者の方法のうちR.コセによる截頭円錐を要素として
用いる方法を使った。したがって、管を伝わる波と管壁
の摩擦による粘性抵抗および管壁を伝って失われる熱損
失が考慮される。また、ベルからの放射損失を求めるた
めには、そこから自由空間に球面波が放射されるものと
して仮定して計算が行なわれる。
【0040】楽器形状のデータは、モダントランペット
の形状データが得られなかったため、バロックトランペ
ット(D管)のデータを全体の長さが約145cmにな
るようにその円筒形状部を短縮したものが計算に用いら
れた。このバロックトランペットの開口部は長さ約30
cmの円錐部と約5cmのベルがついており、開口端の
直径は約12cmであった。また、モダン楽器のマウス
ピースに比べ、やや大きいがほとんど同じ形状のマウス
ピースのデータがそのまま用いられた。
【0041】図2(a)は、周波数f(kHz)に対す
る|Zin/Zc |の値を示したグラフであり、図2
(b)は、周波数f(kHz)に対するZinの位相を示
したグラフである。ここで、Zinは、楽器入力インピー
ダンスであり、Zin=p/Uで表わされる。Zc は、特
性インピーダンスであり、前述したようにZc =ρc/
cup で表わされる。
【0042】図2(a)の縦軸である|Zin/Zc
は、無次元の値となっており、特性インピーダンスZc
に対して入力インピーダンスZinが何倍であるかが示さ
れている。特性インピーダンスZc は、マウスピース入
口の面積Scup の断面形状で無限に長い管状楽器の場合
のインピーダンスを示しているため、|Zin/Zc |に
よって、マウスピースの形状によっていかにピークが発
生しているかが得られる。図2(a)から、ピークは等
間隔でほぼ並んでいる。周波数の低い順にピークの名前
を、Pd、A3 、E4 、A4 、C# 5 、E5 と名付け
る。ピーク間隔の不均一性は計算に用いたトランペット
開口部の形状がモダン楽器のそれに比べて単純化されて
いるためと思われる。また、カップの共鳴周波数である
650Hz付近に最大のピークが見られる。この傾向は
マウスピースを有する金管楽器の特徴をよく表わしてい
る。
【0043】図2(b)で示されているarg[Zin
は、Zin=p/Uであるため、pとUとの位相差を示し
ている。この楽器入力インピーダンスZinおよび特性イ
ンピーダンスZc によって、第(1)式から、rhat
得られる。このrhat が逆フーリエ変換されることで反
射関数r(t)は計算される。ただし、金管楽器形状に
対する計算の場合には、カップによる(内部断面形状の
変化)による時刻t=0直後の急激な反射と数値計算に
伴う有限切断周波数(サンプリング周波数)のため因果
律が破れる。その結果、本来ゼロであるはずのt<0に
おける反射関数r(t)の値が有限となり、第(2)式
で示した関係から音圧P(t)を得ることができなくな
る。すなわち、図2(a)および図2(b)に示した音
響特性が得られなくなる。そこで、反射関数r(t)
を、第(3)式に示す反射関数rca usal(t)のように
再定義する。このような再定義の根拠としては、因果律
の破れた反射関数r(t)の偶関数成分については、t
=0で連続なため、有限切断周波数の影響が少ないと思
われるためである。
【0044】
【数5】
【0045】図3は、反射関数rcausal(t)の時間に
対するグラフである。
【0046】図3を参照して、反射関数rcausal(t)
では、時刻7〜9msecにかけて楽器の開口部からの
反射がみられる。その後、楽器開口部、マウスピースス
ロート部を往復した反射がみられる。また、時刻ゼロ付
近のピークとその後に続く負の値を持つ反射は、それぞ
れマウスピースを構成するカップおよびスロートによる
反射である。このゼロ付近のピークが、前述したように
因果律を破った原因の1つであった。
【0047】次に、第(3)式で定義された反射関数r
causal(t)に基づく音圧推定装置について説明する。
【0048】図4は、この発明の一実施例による音圧推
定装置の概略ブロック図である。図4を参照して、音圧
推定装置17は、制御部19と、推定部21と、フィル
タ23とを含む。推定部21は、非線形演算部25と、
線形演算部27とを含む。非線形演算部25および線形
演算部27は、制御部19によって制御される。したが
って制御部19は、非線形演算部25に吹奏圧p0 、リ
ード(唇)唇固有振動数flip 、リード(唇)Q値、平
衡時のリード(唇)開口長さx0 などのパラメータを出
力する。また、制御部19は、線形演算部27に反射関
数rcausal(t)の離散サンプル値r1 ,r2 ,…,r
n をパラメータとして与える。
【0049】このように制御される非線形演算部25
は、管楽器に対しては、リード(唇)の振動およびリー
ド開口部を通過する気流をシミュレートする。また、線
形演算部27は、楽器共鳴管の音響特性をシミュレート
する。非線形演算部25は、線形演算部27の出力であ
るマウスピース内の音圧pが入力されると、リード開口
面積を計算し、さらにその開口部を通過し、マウスピー
スに流入する体積流Uを線形演算部27に出力する。線
形演算部27は、入力された体積流Uに応じて、楽器共
鳴管の結果生じるマウスピースの音圧pを非線形演算部
25に出力する。非線形演算部25および線形演算部2
7の間でのループ結合によって、発振系が構成される。
【0050】そして、線形演算部27の出力であるマウ
スピース内の音圧pがフィルタ23に入力されて、フィ
ルタ23は楽器の終端部での音圧を計算して音圧信号P
outとして出力する。
【0051】図5は、図4の線形演算部27の回路図で
ある。線形演算部27は、乗算器29と、加算器31,
33と、遅延回路D1 〜Dnと、乗算器r1 〜rn とを
含む。
【0052】非線形演算部25の出力である体積流Uを
表わす信号が乗算器29に入力されて、乗算器29は特
性インピーダンスZc を乗算する。そして、乗算器29
の出力は加算器31,33に入力される。この信号Zc
Uにより、圧力進行波po と圧力反射波pi の和がシミ
ュレートされる。加算器31には、乗算器21の出力信
号のみならず、後で説明する加算器33の出力信号であ
る音圧pを表わす信号が入力されている。したがって、
加算器31は、Zc Uおよびpから圧力進行波po の2
倍を出力する。その出力は、複数の遅延段を構成する遅
延回路D1 〜D n に入力される。
【0053】遅延回路D1 〜Dn は、シリアルに接続さ
れている。遅延回路D1 〜Dn のそれぞれでは、1サン
プリング時間だけ信号が遅延される。その結果、遅延回
路D 1 〜Dn の出力のそれぞれが入力される乗算器r1
〜rn には、1サンプリング時間からnサンプリング時
間の遅れを持つ信号が入力される。乗算器r1 〜rn
は、第(3)式で定義された反射関数rcausal(t)の
離散サンプル値がそれぞれ乗算される。そして、乗算器
1 〜rn の出力は加算器33に入力される。加算器3
3に入力される前の乗算器r1 〜rn の各信号は、各遅
れ時間の間に楽器共鳴管内に伝搬し、マウスピースに戻
ってきた圧力反射波pi の2倍をシミュレートしてい
る。加算器33は、乗算器r1 〜rn の出力を加算し
て、マウスピース内の圧力進行波po と圧力反射波pi
の和である音圧を加算器31に出力してループ回路を形
成するとともに、非線形演算部25に音圧pを出力す
る。
【0054】線形演算部27は、結果的に、第(3)式
で定義される反射関数rcausal(t)を含む第(4)式
を実現している。
【0055】図6は、この発明の他の実施例による音圧
推定装置の概略ブロック図である。図6を参照して、音
圧推定装置35は、図4に示した音圧推定装置17と同
様に制御部19と、フィルタ23とを含み、推定部37
をも含む。推定部37は、非線形演算部39と、線形演
算部41と、加算器43とを含む。
【0056】前述したように制御部19は、非線形演算
部39および線形演算部41を制御する。したがって、
制御部19は、非線形演算部39に吹奏圧po ,リード
(唇)唇固有振動数flip ,リード(唇)Q値,平衡時
のリード(唇)開口長さxoなどのパラメータを出力す
る。また、制御部19は第(3)式で定義された反射関
数rcausal(t)の離散サンプル値r0 ,r1 ,r2
…,rn をパラメータとして出力する。
【0057】非線形演算部39は、管楽器の場合にはリ
ード(唇)の振動およびリード開口部を通過する気流を
シミュレートするが、図4に示した非線形演算部25と
異なり、音圧進行波信号po を線形演算部41に出力す
る。線形演算部41は、楽器共鳴管の音響特性をシミュ
レートするが、図4に示した線形演算部27と異なり音
圧反射波信号pi を非線形演算部39に出力する。非線
形演算部39は、音圧反射波信号pi が入力されたこと
に応じて、その信号pi と保持していた音圧進行波信号
o と加算して、マウスピース内の音圧pを演算する。
音圧pを表わす信号から、リード開口面積を計算し、さ
らにその開口部を通過し、マウスピースに流入される体
積流Uをシミュレートする。一方、入力された音圧反射
信号piには特性インピーダンスZc の逆数が乗算さ
れ、その信号と体積流Uが加算された結果が音圧進行波
信号po として出力される。
【0058】また、線形演算部41は、音圧進行波信号
o が入力されたことに応じて、楽器共鳴の結果生じる
音圧反射波信号pi を出力する。これによって、非線形
演算部39と線形演算部41とによるループ結合が構成
され、第(4)式を満たす発振系が構成される。
【0059】そして、加算器43には音圧進行波信号p
o と音圧反射波信号pi とが入力される。加算器43
は、その結果、フィルタ23にマウスピース内の音圧p
を表わす信号を出力する。なお、非線形演算部39で音
圧Pを求めるので、加算器43を用いることなく、音圧
Pが非線形演算部39からフィルタ23に入力されても
よい。
【0060】フィルタ23は、前述したようにマウスピ
ース内の音圧pを表わす信号から楽器終端部での音圧信
号を計算して、音圧信号pout として出力する。
【0061】図7は、図6の線形演算部41の回路図で
ある。線形演算部41は、遅延回路D1 〜Dn と、乗算
器r0 〜rn と、加算器45とを含む。
【0062】非線形演算部39によって入力される音圧
進行波信号po は、遅延回路D1 〜Dn に順次入力され
るとともに、乗算器r0 に入力される。遅延回路D1
nは、それぞれ1サンプリング時間だけ信号を遅延さ
せる。そして、遅延回路D1〜Dn のそれぞれは、乗算
器r1 〜rn に1サンプリング時間からnサンプリング
時間の遅れを持つ信号を出力する。したがって、乗算器
0 〜rn には、それぞれ0サンプリング時間からnサ
ンプリング時間の遅れを持つが信号が入力される。乗算
器r0 〜rn は、第(3)式で定義した反射関数r
causal(t)の離散サンプル値ri (i=0,…,n)
を遅延回路D1 〜Dn のそれぞれの出力に乗算する。乗
算器r0 〜rn のそれぞれは、加算器45に乗算された
結果を表わす信号を出力する。加算器45に入力される
それぞれの信号は、各遅れ時間の間に楽器共鳴管内を伝
搬しマウスピースに戻ってきた圧力反射波をシミュレー
トしたことを示す信号である。加算器45は、入力され
た信号のそれぞれを加算することにより、0サンプリン
グ時間からnサンプリング時間遅れの間に楽器共鳴管内
を伝搬し、マウスピースに戻ってきた圧力反射波信号p
i を非線形演算部39に出力する。
【0063】このようにして、乗算器r0 〜rn のそれ
ぞれでは、第(3)式で定義された反射関数r
causal(t)の離散サンプル値が乗算されて、シミュレ
ートが行なわれる。
【0064】次に、図4および図6に示した音圧推定装
置の原理を説明するうえで、反射関数rcausal(t)が
再定義されたことによる音圧推定の効果について説明す
る。
【0065】図8は、管楽器の形状から得られる音響特
性を示したグラフであり、図8(a)は、周波数f(k
Hz)に対する|Zin/Zc |の値を示したグラフであ
り、図8(b)は、周波数f(kHz)に対する位相a
rg[Zin](deg)を示したグラフである。
【0066】図9は、図8に示す音響特性から得られる
反射関数のt=0からt=50msecまでの反射関数
を示したグラフであり、図9(a)は、反射関数r
(t)を示したグラフであり、図9(b)は、図9
(a)の反射関数r(t)におけるt<0の値を0にし
た場合の反射関数rtrun(t)を示したグラフであり、
図9(c)は、第(3)式で定義される反射関数r
causal(t)を示したグラフである。
【0067】図10は、図9に示した反射関数のt=0
付近での状態を示したグラフであり、図10(a)は、
図9(a)に対応したグラフであり、図10(b)は、
図9(b)に対応したグラフであり、図10(c)は、
図9(c)に対応したグラフである。
【0068】図11は、反射関数rtrun(t)を用いた
場合の音響特性を示したグラフであって、Zin=(1+
hat(trun) )/(1−rhat(trun) )を用いた場合
(ただし、rhat(trun) はrtrun(t)のフーリエ変
換)の音響特性を示したグラフであり、図11(a)
は、図8(a)に対応したグラフであり、図11(b)
は、図8(b)に対応したグラフである。
【0069】図12は、反射関数rcausal(t)を用い
た場合の音響特性を示したグラフであって、Zin=(1
+rhat(causal) )/(1−rhat(causal) )を用いた
場合(ただし、rhat(causal) はrcausalのフーリエ変
換)の音響特性を示したグラフであり、図12(a)
は、図8(a)に対応したグラフであり、図12(b)
は、図8(b)に対応したグラフである。
【0070】図13は、反射関数rcausal(t)を用い
た場合の音響特性を示したグラフであって、第(4)式
での演算式を用いて線形演算部のみをシュミレートした
場合の音響特性を示したグラフであり、図13(a)
は、図8(a)に対応したグラフであり、図13(b)
は、図8(b)に対応したグラフである。
【0071】図8に示す音響特性から得られる反射関数
r(t)は、図10(a)に示すように、t<0で有限
の値を有している。すなわち、t<0で、反射関数r
(t)は、ゼロで一定でない。したがって、第(4)式
の演算式による演算を行なうために、図10(b)に示
すようにt<0で強制的に0で一定値とした場合の反射
関数が従来の方法では用いられる必要があると思われ
る。本発明では、図10(c)に示すようにt<0での
反射関数r(t)の値が折返されてt>0に加えられて
いる。このような反射関数r(t),rtrun(t),r
causal(t)は、図10では、明らかに違いがあるが、
図9に示すようにt=0からt=50msecでは、あ
まり違いが見られない。
【0072】しかしながら、図11に示すような反射関
数rtrun(t)を用いた場合の音響特性は、図8に示す
音響特性と全く異なっている。これは、図10(b)に
示すようにt<0で強制的に反射関数の値を0にしたた
めである。図11に示す音響特性は、反射関数r
trun(t)のフーリエ変換rhat(trun) からZin=(1
+r hat(trun) )/(1−rhat(trun) )を用いて計算
される音響特性であった。
【0073】これに対し、図12に示すような反射関数
causal(t)を用いた場合の音響特性は、図8に示す
音響特性と精度よく一致している。図12に示す音響特
性は、図10(c)に示す反射関数rcausal(t)のフ
ーリエ変換rhat(causal) からZin=(1+r
hat(causal) )/(1−rhat(causal) )を用いて計算
された音響特性であった。したがって、rtrun(t)を
用いる方法およびrcausal(t)を用いる方法を比較す
ると、明らかに、反射関数rcausal(t)を用いた場合
の方が、精度よく音響特性を再現している。図13に示
す音響特性は、反射関数rcausal(t)を用いて、フー
リエ変換でなく、第(4)式で定義された演算式を用い
てシュミレートした音響特性であった。図13に示され
るような音響特性も、図8に示される音響特性と精度よ
く一致している。したがって、反射関数rcausal(t)
を用いた第(4)式の演算式に基づく図4または図6に
示す音圧推定装置がいかに効果があるかがわかる。
【0074】このように、反射関数rcausal(t)を用
いる場合には、音響特性が精度よく再現される。特に、
数値計算上だけでなく、第(4)式に表わされる演算式
を用いて線形演算部をシュミレートしても、音響特性は
精度よく再現される。
【0075】次に、図1から図3を用いて説明した原理
の続きとして、マウスピースのみならず唇のような振動
体をも考慮した実験結果について説明する。すなわち、
時間領域シミュレーションについて説明する。第(4)
式に示される方程式が前方オイラー法によって差分化さ
れたものを用いて、シミュレーションが行なわれた。音
の強さが中程度(mf)の発音の場合の吹奏圧を図2
(a)に示すPdからE 5 のインピーダンスピークに対
して順に20,20,25,30,35,40kdyn
/cm2 とした。唇のQ値は、hingeモデルのA4
ピークに対して8.0に選んだが、それ以外はすべて
5.0と置いた。唇の固有周波数を60から800Hz
まで20Hzずつ変化させ、発音周波数が求められた。
唇の平衡位置を表わすx0 またはθ0 は両唇が長時間接
触することのないよう、また唇の変位が最大の振幅を得
るように調整した。
【0076】図14は、唇の固有周波数に対して発音周
波数をプロットした図である。図14に示すように、h
ingeモデルおよび1質量モデルのどちらの唇モデル
でも発音がみられる。理論から予想されるように1質量
モデルでは、各ピーク位置よりも低い周波数で発音され
ている。逆に、hingeモデルでは、高い周波数で発
音されている。また、唇の固有周波数は1質量モデルで
は各ピーク位置よりも同じかやや高い。これに対して、
hingeモデルでは高音域の音を発音するとき、唇の
固有周波数がかなり低い。発音条件は楽器のインピーダ
ンスZinと易動度Gの絶対値および位相のバランスによ
って決定される。hingeモデルで唇の固有周波数が
低いのは、その場合にしか位相の条件が満たされないた
めである。
【0077】図15は、1質量モデルとhingeモデ
ルとの発音の違いを示すグラフであり、図15(a)
は、1質量モデルの時間に対する音圧p(kdyn/c
2 )を示したグラフであり、図15(b)は、1質量
モデルの時間に対する体積速度U(cm3 /sec)を
示したグラフであり、図15(c)は、1質量モデルの
時間に対する唇の変位x(mm)を示したグラフであ
る。また、図15(d)は、hingeモデルの時間に
対する音圧p(kdyn/cm2 )を示したグラフであ
り、図15(e)は、hingeモデルの時間に対する
体積速度U(cm3/sec)を示したグラフであり、
図15(f)は、hingeモデルの時間に対する唇の
変位θ(deg.)を示したグラフである。
【0078】図15(a)〜(c)に示すように、1質
量モデルの場合には、argZin=argp−argU
=81.0,argG=argx−argp=−34.
2になる。すなわち、音圧pと体積速度Uとの間では、
位相差が81.0あり、音圧pと唇の変位xとの間では
位相差が−34.2ある。また、hingeモデルの場
合には、argZin=−52.0,argG=argθ
−argp=16.2となっている。すなわち、音圧p
と体積速度Uとの間には位相差が−52.0あり、音圧
pと唇の変位θとの間には位相差が16.2ある。これ
らの符号から、1質量モデルでは内向き発振、hing
eモデルでは外向き発振が行なわれていると思われる。
また、線形理論から導かれる位相条件argZin+ar
gG=0は、この発音では満たされていない。
【0079】図16は、図2(a)に示すインピーダン
スピークPdからC# 5 での発音波形を示したグラフで
ある。図16(a)〜(e)は1質量モデルに対応した
グラフであって、図16(a)は、インピーダンスピー
クPdに対応したグラフであり、図16(b)は、イン
ピーダンスピークA3 に対応したグラフであり、図16
(c)は、インピーダンスピークEo に対応したグラフ
であり、図16(d)は、インピーダンスピークA4
対応したグラフであり、図16(e)は、インピーダン
スピークC# 5 に対応したグラフである。図16(f)
〜(j)はhingeモデルに対応したグラフであっ
て、図16(f)は、インピーダンスピークPdに対応
したグラフであり、図16(g)は、インピーダンスピ
ークA3 に対応したグラフであり、図16(h)は、イ
ンピーダンスピークE4 に対応したグラフであり、図1
6(i)は、インピーダンスピークA4 に対応したグラ
フであり、図16(j)は、インピーダンスピークC#
5 に対応したグラフである。
【0080】図16(a)〜図16(e)および図16
(f)〜図16(j)で示されるように、低音域から高
音域に変化するにつれて、倍音成分が少なくなってい
る。ただし、hingeモデルの高音域は例外である。
これは、この場合に唇の固有周波数がピーク位置に比べ
て低いことが原因となって低音域と異なる発振体制が生
じているためと思われる。
【0081】ところで、図16(a)に示す波形は、音
名D2 に相当する。図16(b)の波形は、音名F3
相当する。図16(c)の波形は、音名Eb 4 に相当す
る。図16(d)の波形は、音名Ab 4 に相当する。図
16(e)の波形は、音名B 5 に相当する。図16
(f)の波形は、音名Bb 2 に相当する。図16(g)
の波形は、音名Bb 3 に相当する。図16(h)の波形
は、音名F4 に相当する。図16(i)の波形は、音名
4 に相当する。図16(j)の波形は、音名C# 5
相当する。
【0082】音名D2 ,F3 ,Eb 4 ,Ab 4 ,B
5 は、図2(a)に示すインピーダンスピーク名Pd,
3 ,E4 ,A4 ,C# 5 ,E5 に一致すべきだが、1
質量モデルでは音が下がり半音から1音半程度ずれてい
るため、同一の音名となっていない。同様に、音名Bb
2 ,Bb 3 ,F4 ,A4 ,C# 5 もインピーダンスピー
ク名Pd,A3 ,E4 ,A4 ,C# 5 ,E5 と一致すべ
きだが、hingeモデルの場合、音が上がり半音から
1音半程度ずれたため、音名は一致していない。すなわ
ち、それぞれの共鳴モードでの発音でありながら、イン
ピーダンスピーク名と合成音の音名とが一致していな
い。
【0083】図17は、図16に示した各倍音に対する
振幅を示した図である。特に、図17(a)は、図16
(a)〜(e)に示される1質量モデルでの各倍音に対
する振幅をプロットした図であり、図17(b)は、図
16(f)〜(j)に示されるhingeモデルでの各
倍音に対する振幅をプロットした図である。
【0084】図17(a)において、○は、図16
(b)に示す音名F3 の振幅を示している。×は、図1
6(c)に示される音名Eb 4 に対する振幅を示してい
る。+は、図16(d)に示される音名Ab 4 での振幅
を示している。*は、図16(e)に示される音名B5
での振幅を示している。
【0085】図17(b)において、○は、図16
(g)に示される音名Bb 3 での振幅を示している。×
は、図16(h)に示される音名F4 を示している。+
は、図16(i)に示される音名A4 での振幅を示して
いる。*は、図16(j)に示される音名C# 5 での振
幅を示している。
【0086】図17(a),(b)からわかるように、
Elliot and Bowsherが導いた倍音次
数に対して対数振幅が一定に減る傾向が全体としては見
られる。ただし、特に図17(b)のhingeモデル
の高音域(*で示される音名C# 5 など)では、一定に
減る傾向は見られていない。
【0087】次に、音の強さによって音圧波形がどのよ
うに変わるかを調べるために、ピークA3 で吹奏圧p0
を5(pp),20(mf),60(ff)kdyn/
cm 2 に変化させてシミュレーションを行なうことにつ
いて説明する。
【0088】図18は、ピークA3 で異なる吹奏圧によ
る音圧波形を示した図である。図18(a)は、1質量
モデルにおける吹奏圧p0 =5(pp)kdyn/cm
2 について示した図である。図18(b)は、1質量モ
デルにおける吹奏圧p0 =20(mf)kdyn/cm
2 について示した図である。図18(c)は、1質量モ
デルにおける吹奏圧p0 =60(ff)kdyn/cm
2 について示した図である。図18(d)は、hing
eモデルにおける吹奏圧p0 =5(pp)kdyn/c
2 について示した図である。図18(e)は、hin
geモデルにおける吹奏圧p0 =20(mf)kdyn
/cm2 について示した図である。図18(f)は、h
ingeモデルにおける吹奏圧p0 =60(ff)kd
yn/cm2 について示した図である。
【0089】図19は、図18に対応した発音時の各倍
音次数に対する振幅を示した図である。図19(a)
は、図18(a)〜(c)に対応する1質量モデルの場
合を示した図である。図19(b)は、図18(d)〜
(f)に対応したhingeモデルを示した図である。
【0090】図19(a)において、×は、図18
(a)に示す吹奏圧p0 =5(pp)kdyn/cm2
について示した図である。○は、図18(b)に示した
吹奏圧p 0 =20(mf)kdyn/cm2 について示
した図である。+は、図18(c)に示した吹奏圧p0
=60(ff)kdyn/cm2 について示した図であ
る。図18(b)においても、×は、図18(d)に対
応し、○は、図18(e)に対応し、+は、図18
(f)に対応する。
【0091】図18および図19を参照して、ピークA
3 で、吹奏圧p0 を異ならせても、対数振幅が倍音次数
に対して線形に落ちていく傾向が見られる。ただし、図
19に示されるグラフからは、対数振幅の線形に落ちて
いく傾きが音のレベルが上がるにつれて緩くなるかどう
かは明らかでない。
【0092】図14を再度参照して、同一ピークに対す
る発音で唇の固有周波数の変化に伴い発音周波数がかな
り変化している。特に、ピークA3 での発音に対し、1
質量モデルでは4度、hingeモデルでは2度変化が
生じている。
【0093】図20は、インピーダンスピークA3 で唇
の固有振動数を変化させたときの発音音圧波形を示した
図である。図20(a)〜(c)は、1質量モデルに対
しての図であり、図20(d)〜(f)はhingeモ
デルに対しての図である。図20(a)は、発音周波数
に最も近い音名としてEb 3 と名付けられる図である。
図20(b)は、発音周波数に最も近い音名としてF3
と名付けられる図である。図20(c)は、発音周波数
に最も近い音名としてAb 3 と名付けられる図である。
図20(d)は、発音周波数に最も近い音名としてA3
と名付けられる図である。図20(e)は、発音周波数
に最も近い音名としてBb 3 名付けられる図である。図
20(f)は、発音周波数に最も近い音名としてB3
名付けられる図である。
【0094】このような同一インピーダンスA3 であっ
ても、1質量モデルでは図20(a)〜(c)に示すよ
うに、Eb 3 ,F3 ,Ab 3 となり、インピーダンスピ
ークA3 から音名がずれている。同様に、hingeモ
デルでは図20(d)〜(f)に示すように、インピー
ダンスピークA3 であっても、音名A3 ,Bb 3 ,B 3
のようにインピーダンスピークA3 から音名がずれてい
る。このような音程の変わりやすさは、楽器のインピー
ダンスピークの位置間隔の不均一性が原因であると思わ
れる。一般に、系の非線形性によって、異なる倍音間の
カップリングが生じる。ピーク位置が完全に等間隔に並
んだ楽器では、基本周波数がピーク位置付近にあればそ
の倍音も他のピーク位置に一致する。そのため、その位
置で鋭く安定した発振体制ができあがる。これに対し
て、不均一なピーク位置を持つ楽器では、基音の周波数
がピーク位置がずれていても、別のピーク位置が倍音の
周波数に一致すれば発音が可能となる。したがって、図
20に示すように発音が可能となっていた。
【0095】そこで、実際にどの倍音がインピーダンス
ピークに一致しているかは、表2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】表2からわかるように、1質量モデルEb
3 では、第4次、F3 には第3・5次、Ab 3 は第1次
(基音)倍音が発振体制に寄与している。また、hin
geモデルA3 では第3・4次、Bb 3 には第4次、B
3 は第4・5次倍音が発振体制に寄与している。
【0098】楽器のような時間送りフィードバックのあ
る系では、全く同じパラメータの下での発音であって
も、過去の履歴(ヒステリシス)によって異なる発音が
得られる。実際、クラリネットの人工吹鳴の実験でこの
ヒステリシスが観測されている。この実施例で示したシ
ミュレーションでは、異なる2つ以上の発音するパラメ
ータは得られていない。しかし、あるパラメータ(p0
=5kdyn/cm2 ,x0 =0.01cm,Q=5.
0)で過去の履歴によって発音する場合としない場合が
あることがわかった。また、変わった発音としては、2
つのピークA4 とC# 5 に対して同時に発音する例が得
られた。
【0099】以上のことをまとめる。まず、本発明に必
要な反射関数rcausal(t)が音圧推定にいかに効果が
あることが図8〜図13に示すグラフにより明らかにな
った。
【0100】さらに、2つの唇モデルを用いて、どちら
のモデルでも発音が実現されることが示された。シミュ
レーションによって得られる音は自然楽器音と同じよう
に、音のピッチが上昇するにつれ倍音を含んだ音から純
音に近い音に変化することが示された。また、音の強弱
に対しても自然楽器音に見られるのと同じような音質の
変化を示すことができた。さらに、系の非線形性を通し
て複数の楽器インピーダンスピークの協同作用を伴った
発振体制による発音が見られた。
【0101】なお、反射関数rcausal(t)を用いるこ
とによる音圧推定の効果は、金管楽器のマウスピースの
ように断面形状が管楽器内部に進むにつれて小さくなる
ような形状のみに限定される必要はない。すなわち、楽
器の一端の断面形状が広がっていてもよく、たとえば断
面形状が一定に増大する円すい管であっても反射関数r
causal(t)は効果を発揮する。これは、インピーダン
ス変化のある所では反射が起こるためである。すなわ
ち、断面積Sの変化により、管の特性インピーダンスZ
c =ρc/Sが変化し、反射が起こるためである。
【0102】したがって、楽器は、金管楽器に限定され
るものではなく、マウスピースのように内部断面形状の
変化が生じている部分を有する楽器であれば、木管楽器
でもよい。
【0103】また、反射関数rcausal(t)の定義とし
て、必ずしもt=−∞からt=0までの区間がt=0か
らt=+∞までの区間に折返される必要はない。すなわ
ち、t=0の近傍であって、t<0での反射関数r
(t)の値が有限の値を有する区間までが折返されても
よい。
【0104】
【発明の効果】以上のようにこの発明によれば、楽器の
一端付近に内部断面形状のある楽器の音を合成するため
の音圧を極力精度よく推定できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】マウスピース、唇および口腔の状態を示した図
である。
【図2】楽器の入力インピーダンスを示したグラフであ
る。
【図3】反射関数を示したグラフである。
【図4】この発明の一実施例による音圧推定装置を示し
た概略ブロック図である。
【図5】図4の線形演算部の回路図である。
【図6】この発明の他の実施例による音圧推定装置を示
した概略ブロック図である。
【図7】図6の線形演算部の回路図である。
【図8】楽器の形状から得られる楽器の音響特性を示し
たグラフである。
【図9】t=0から50(msec)までの反射関数を
示したグラフである。
【図10】t=0付近での反射関数を示したグラフであ
る。
【図11】反射関数r(t)をt=0とした反射関数r
trun(t)を用いた場合の音響特性を示したグラフであ
って、逆フーリエ変換およびフーリエ変換を用いた場合
の音響特性を示したグラフである。
【図12】反射関数rcausal(t)を用いた場合の音響
特性を示したグラフであって、逆フーリエ変換およびフ
ーリエ変換を用いた場合の音響特性を示したグラフであ
る。
【図13】反射関数rtrun(t)を用いた場合の音響特
性を示したグラフであって、逆フーリエ変換および第
(4)式を用いた場合の音響特性を示したグラフであ
る。
【図14】唇の固有振動数と発音振動数の関係を示した
グラフである。
【図15】マウスピースでの音圧p、体積速度U、唇の
変位x(またはθ)の波形を示したグラフである。
【図16】図2(a)の異なるインピーダンスピーク
(PdからC# 5 )への発音音圧波形を示したグラフで
ある。
【図17】図2(a)の異なるインピーダンスピーク
(PdからC# 5 )への発音時の各倍音次数に対する振
幅を示したグラフである。
【図18】吹奏圧p0 が5(pp),20(mf),6
0(ff)kdyn/cm2 による異なるレベルでの発
音音圧波形を示したグラフである。
【図19】吹奏圧p0 が5(pp),20(mf),6
0(ff)kdyn/cm2 の異なるレベルでの発音時
の各倍音次数に対する振幅を示したグラフである。
【図20】図2(a)の同一インピーダンスピーク(A
3 )で唇の固有振動数を変化させたときの発音音圧波形
を示したグラフである。
【図21】従来の音圧推定装置(物理モデル音源)の概
略ブロック図である。
【符号の説明】
17,35 音圧推定装置 21,37 推定部 23 フィルタ 25,39 非線形演算部 27,41 線形演算部

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 その一端付近に内部断面形状の変化があ
    る管状の楽器の音を合成するために音圧を推定する音圧
    推定装置であって、 前記内部断面形状の変化によって生じる音圧を推定する
    推定手段を備えた、音圧推定装置。
  2. 【請求項2】 前記推定手段は、 前記一端に流入されるべき流体の流量変化を推定する流
    量変化推定手段と、 前記推定された流量変化に基づいて前記内部断面形状の
    変化に応じた音圧を推定する音圧推定手段とを備え、 前記音圧推定手段は、 前記推定された流量変化を表わす信号に所定の係数を乗
    算し、その信号を順次遅延させるとともに音の反射を表
    わす第(1)式の反射関数rcausal(t)の所定の値を
    乗算する複数の遅延段と、 前記係数が乗算された信号および前記各遅延段の出力を
    加算して前記推定された音圧を表わす信号として出力す
    るとともに、前記係数が乗算された信号を前記推定され
    た音圧を表わす信号に加算して前記各遅延段に出力する
    ループ手段とを含む、請求項1記載の音圧推定装置。
  3. 【請求項3】 前記推定手段は、 前記一端に流入されるべき流体の流量変化に基づいて音
    圧の進行波を表わす音圧進行波信号を求めて出力する進
    行波信号出力手段と、 前記出力された音圧進行波信号に基づいて音圧の反射波
    を表わす音圧反射波信号を求めて出力する反射波信号出
    力手段と、 前記進行波信号出力手段および前記反射波信号出力手段
    の出力を加算して音圧を求める第1の加算手段とを備
    え、 前記反射波信号出力手段は、 前記進行波信号出力手段の進行波信号を順次遅延させる
    とともに音の反射を表わす第(1)式の反射関数r
    causal(t)の所定の値を乗算する複数の遅延段と、 前記各遅延段の出力を加算して反射波信号として出力す
    る第2の加算手段とを含む、請求項1記載の音圧推定装
    置。
  4. 【請求項4】 その一端付近に内部断面形状の変化があ
    る管状の楽器の音を合成するために音圧を推定する音圧
    推定装置であって、 前記一端に流入されるべき流体の流量変化U(t)と前
    記内部断面形状の変化に応じた音圧p(t)との関係に
    よって導かれる音の反射を表わす反射関数r(t)が時
    間t<0で有限の値を有することに応じて、前記反射関
    数r(t)を第(1)式の反射関数rcausal(t)に変
    更し、楽器入力インピーダンスZinおよび特性インピー
    ダンスZc を含む第(2)式に基づいて前記内部断面形
    状の変化に応じた音圧p(t)を推定する推定手段を備
    えた、音圧推定装置。
  5. 【請求項5】 前記反射関数r(t)は、第(3)式の
    hat の逆フーリエ変換で定義される、請求項4記載の
    音圧推定装置。
  6. 【請求項6】 さらに、前記推定手段が推定した音圧に
    応じて前記楽器の他端での音圧を推定する他端音圧推定
    手段を備えた、請求項1または4記載の音圧推定装置。 【数1】
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
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JPH01289995A (ja) * 1988-05-17 1989-11-21 Matsushita Electric Ind Co Ltd 電子楽器
JPH05143079A (ja) * 1991-05-09 1993-06-11 Yamaha Corp 楽音合成装置および管楽器

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