JPH08510115A - フェロモン系タンパク質代用物を産生するように操作された酵母細胞、ならびにその利用法 - Google Patents

フェロモン系タンパク質代用物を産生するように操作された酵母細胞、ならびにその利用法

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JPH08510115A JP6522167A JP52216794A JPH08510115A JP H08510115 A JPH08510115 A JP H08510115A JP 6522167 A JP6522167 A JP 6522167A JP 52216794 A JP52216794 A JP 52216794A JP H08510115 A JPH08510115 A JP H08510115A
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Abstract

(57)【要約】 酵母細胞がフェロモン系タンパク質(例、α因子の成熟に関与する酵素、a因子の輸送体、フェロモン受容体、等)の代用物およびそれら代用物のポテンシャルペプチドモジュレーターの双方を、代用物の阻害または活性化がそれら酵母細胞をスクリーニングできたり選択できたりする特性に影響するような仕方で発現するように操作される。さまざまな追加的特徴が、そうしたスクリーニングや選択の系のシグナル/ノイズ率を改良する。

Description

【発明の詳細な説明】 フェロモン系タンパク質代用物を産生する ように操作された酵母細胞、ならびにその利用法 本願は1993年3月31日出願の米国特許出願第08/041,431号の一部継続出願であ る。 発明の背景 発明の属する技術分野 本発明は酵母フェロモンあるいはその代用物の翻訳後修飾、転送や応答を含む 、タンパク質に作用する能力についての酵母細胞中での薬剤、特にランダムペプ チドのスクリーニングに関する。 背景技術の説明 薬物のスクリーニング 新らしい分子中に生物学的活性を同定することは、歴史的にインビトロ分析あ るいは動物の個体を使って行われてきた。未だ何も操作されていない[intact] 生物学的存在は、それが細胞であるか全体的な組織であるかを問わず、インビト ロでの抗菌剤、抗カビ剤、抗寄生虫剤、抗ウイルス剤を選択するものとして使わ れてきた。培養された哺乳動物細胞も潜在的な治療用化合物を検出するよう設計 したスクリーニングに使われている。細胞の成長刺激や識別、細胞運動における 変化、特定の代謝産物の生成、細胞内での特定タンパク質の発現、改変させたタ ンパク質機能、改変させた伝導特性など、さまざまな生物学的定量法上の終点が 哺乳動物細胞スクリーニングにおいて開発されている。ガンの化学療法に使われ る細胞障害化合物が、これらの能力を介して、インビトロおよびインビボで腫瘍 細胞の成長を阻害することが同定されている。分散細胞の培養のほかに全体組織 も、筋肉の収縮に起因するもののように、生物学的定量法に役立っている。 インビトロでのテストは、高い効率のスクリーニングを設計することができる 好ましい方法である。つまり少量の多数化合物を短時間の間に、安価にテストす ることができるのである。それともなければ化合物評価の後日の段階のため動物 を保存するのであって、発見相では使わないのであるから、動物個体の使用は労 働集約的で極端に高価になる。 微生物は、哺乳動物の細胞や組織に比しずっと簡単に、迅速な薬物スクリーン に使うための開発ができる。酵母は特に魅力的なテスト系を提供する。この微生 物の広範囲に亙る分析は、酵母およびそれより高次の真核生物の双方における基 本的な細胞プロセスで活性な種々のタンパク質の構造ならびに機能を保存するこ とを露呈した。 細胞受容体のアゴニストとアンタゴニストの探索は、これら分子ターゲットの 鮮やかな特異性のため薬物発見に狙いを定めた奥の深い研究となっている。薬物 のスクリーニングは、機能的受容体を発現する全体細胞を使って行われてきたが 、最近では膜フラクションあるいは精製した受容体を使ったバインディングアッ セイが競合リガンドの化合物ライブラリーをスクリーニングするように設計され ている。WO92/05244(1992年4月2日)で、デューク大学は酵母中に哺乳動物のG -タンパク質結合受容体が発現していることにつき、また、その生物を使ってこ れら受容体のアゴニストおよびアンタゴニストを同定する手段につき記載してい る。 また、酵母は勿論、抗カビ化合物の発見にも使われている。Etienneら(1990 年)は、抗カビを迅速に検出する、広い範囲の抗生物質に極めて敏感にされたサ ッカロマイセス・セレビシエ[Saccharomyces Cerevisiae]突然変異株の利用法 につき記載している。 酵母のフェロモン系タンパク質と、それらタンパク質の代謝機能: 半数体酵母細胞は栄養細胞的な成長能力があるばかりでなく、二倍体細胞を形 成するように交配することができる。半数体細胞のこれら対にされた2タイプ( 両性)をaとαとする。a細胞はドデカペプチドa因子を産生し、α細胞はトリ デカペプチドα因子を産生する。a因子とα因子は相手の性の酵母細胞中に交配 応答を引き出すから、これらは「フェロモン」と呼ばれる。これらフェロモンは 、フェロモンの産生または輸送、あるいはフェロモンに対する応答に特異的に 関与するその他のタンパク質と同様、「フェロモン系タンパク質」と考えられて いる。遺伝子をコードするa因子フェロモンは、α因子受容体遺伝子のように、 a細胞特異的遺伝子で、a細胞特異的遺伝子はa細胞にしか発現されない。遺伝 子をコードするα因子フェロモンは、a因子受容体遺伝子のように、α細胞特異 的遺伝子で、α細胞特異的遺伝子はα細胞にしか発現されない。その他の酵母遺 伝子は半数体特異的遺伝子のセットに属し、半数体細胞(a細胞またはα細胞) 中に発現するが二倍体(a/α)細胞中には発現しない。さらに、胞子形成に関 係する遺伝子も含めて二倍体細胞特異的遺伝子セットも存在する。 真核細胞中、RNAポリメラーゼIIプロモーターは、転写因子TFIID(T ATA結合タンパク質、すなわちTBP)が結合する特別な配列(TATAボッ クス)を含有している。活性転写開始複合体はTFIID、補助開始タンパク質 、およびRNAPol IIを有する。より高次の真核細胞においてと同様、TA TAボックスは酵母プロモーター中で必須の制御配列である。酵母TATAボッ クス結合タンパク質(TBP)は、その哺乳動物TFIIDの機能的代用物とし ての能力により同定されている[Buratowskiら、Nature 334,37(1988);Cava lliniら、Nature 334,77(1988)]。僅かな数の明らかな例外を除いて[ある 種の解糖酵素遺伝子の転写、Struhl、Mol.Cell.Bio1.6,3847(1986)および Ogdenら、Mol.Cell Biol.6,4335(1986)参照]、酵母遺伝子の転写は転写開 始のために最も近いTATAボックスのエレメントおよびTFIID結合を必要 とする。また効率的な転写にとって必要とされるものは、遺伝子特異的な活性化 物質(アクティベーター)タンパク質である。こうした遺伝子特異的な調節タン パク質が転写に影響するメカニズムについては未だ完全に解明されていない。 MCM1p(MCM1遺伝子中にコードされる)は酵母中の非細胞型特異的転 写因子である。MCM1pは単独でまたは別の調節タンパク質と共同してa細胞 特異的遺伝子およびα細胞特異的遺伝子の発現を制御するように挙動する。酵母 の交配型(メイティングタイプ)の遺伝子座は細胞型特異的発現の制御に貢献す る調節タンパク質をコードする。これらのタンパク質はMatalp(MATa 遺伝子にコードされる)とMatα1pおよびMatα2p(MATα座でコー ドされる)である。MCM1pはa特異的遺伝子の制御領域中にある上流活性化 配列[upstream activation sequence(UAS)]に結合することによってa特異 的遺伝子の転写を活性化する。Matα1pとMCM1pとは相互反応して特異 的UAS結合部位に相互が結合することを促進し、α細胞中におけるα細胞特異 的遺伝子の転写を活性化する。Matα2pはMCM1pと連合してα細胞中に おけるa特異的遺伝子の転写を抑制する。Matα1p/Matα2p調節体は 二倍体細胞にだけ発見されている。 酵母はα因子フェロモン、MFα1およびMFα2をコードする2つの遺伝子 を有する。これらの配列中に突然変異がある酵母を分析すると、MFα1は細胞 に産生されたα因子の大半の発生に関与していることを示す。より高次のレベル で発現がMFα2からよりMFα1から起こっている(Kurjan、Mol.Cell.Bio l.5,787(1985)。酵母のMFα1遺伝子はN末端に85aaリーダー配列を有する 165aa前駆体タンパク質をコードする。リーダーは19aaシグナル配列と、3つの オリゴ糖側鎖を付加するための部位を有する66aaとを有する(KurjanとHerskowi tz、Cell 39,933(1982);Singhら、Nuc.Acids Res.11,4049(1983);Jul iusら、Cell 36,309(1984)。13aaα因子の4つのタンデムなコピーが前駆体 のC末端部分に存在する。6-8aaスペーサーペプチドかα因子配列に先行する( 図2)。 発生期のα因子ポリペプチドがER(小胞体)へトランスロケーションすると 、シグナル配列が前駆体タンパク質から開裂してプロα因子を産生する(Emter ら、Biochem.Biophys.Res.Commun.116,822(1983);Juliusら、Cell 36, 309(1984);Juliusら、Cell 37、1075(1984)。KEX2エンドペプチターゼ によるプロα因子の開裂の前にゴルジで付加的なグリコシル化が行われる。この 酵素はスペーサーリピート各々の中で切断し、α因子ペプチドのC末端に付くL ys−Arg配列を残す(Juliusら、Cell 37、1075(1984)。Lys−Arg 配列はKEX−1プロテアーゼの作用によって切除される(Dmochowskaら、Cell 50,573(1987)。α因子ペプチドのN末端に付加されたスペーサー残基はST E13でコードされたジペプチジルアミノペプチダーゼによって切除される(Ju lius ら、Cell 32,839(1983)。上述のタンパク分解過程を経由して各前駆体タンパ ク質から4つのα因子ペプチドが放出され、成熟α因子が細胞から分泌される。 12aa成熟a因子ペプチドの前駆体はMFa1およびMFa2遺伝子中でコード され、各々36aaと38aa残基である(MFa1遺伝子の概略については図5参照) 。前駆体はa因子の1コピーを有しており2つの遺伝子の産物はアミノ酸1個に つき配列が異なっている。a因子の2つの形はa細胞によって等量産生される( Manneyら、in Sexual interactions in eukaryotic microbes,p21,Academic P ess.New york(1981)。a因子のプロセッシングはα因子プロセッシングとは 細かいあらゆる点で異なる工程を踏む。a因子のプロセッシングは細胞質ゾル中 で開始され、ファルネシルトランスフェラーゼによりカルボキシ末端(−CVI A)近くのC末端システイン残基のファルネシル化[farnesylation]を経由す る(Schaferら、Science 245,379(1989);Schaferら、Science 249,1133(1 990)。ファルネシルトランスフェラーゼのα、βサブユニットは各々、RAM 2遺伝子とRAM1遺伝子によってコードされる(Heら、Proc.Natl.Acad.Sc i.88,11373(1991)。ファルネシル化をした後、膜結合エンドプロテアーゼに よって修飾システインに対しC末端をなす3つのアミノ酸をタンパク分解で切除 する。次にカルボキシ末端ファルネシル化システイン残基をさらに修飾する。カ ルボキシ基をSTE14遺伝子の産物でメチル化する。STE14pは膜結合S −ファルネシル−システインカルボキシルメチルトランスフェラーゼである(Hr ycynaら、EMBO.J.10,1699(1991)。a因子のN末端加工のメカニズムはまだ 解明されていない。前駆体のプロセッシングが完了したら、成熟a因子がSTE 6遺伝子の産物、ATP結合カセット(ABC)輸送体によって細胞外の空間に 移動させられる(Kuchlerら、EMBO.J.8,3973(1989)。 正常のS.cerevisiae(出芽酵母)のa細胞では、α因子はG-タンパク質結合 膜受容体STE2に結び付く。G-タンパク質はGαサブユニットとGβγサブ ユニットに解離し、Gβγは未明のエフェクターと結合し、それは次に多数の遺 伝子を活性化する。キナーゼであるSTE20は機能が不明のタンパク質のST E5を活性化する。STE5はSTE11キナーゼを活性化し、後者はSTE7 キ ナーゼを刺激してKSS1及び/又はFUS3キナーゼを誘導する。これらは転 写因子STE12の発現を起動する。STE12は、FUS1(細胞融合),F AR1(細胞周期停止),STE2(受容体),MFA1(フェロモン),SS T2(リカバリー),KAR3(核融合)およびSTE6(フェロモン分泌)な どの交配に関与するさまざまな遺伝子の発現を剌激する。プロセッシング過程で 活性化されるその他の遺伝子にはCHS1,AGα1およびKAR3がある。多 数のタンデム配列TGAAACAが、このプロセッシング過程の多数の遺伝子の 5'-近接領域に見られる「フェロモン応答エレメント」であると認められた。 交配フェロモンへの応答の1つは、細胞周期のG1相にある酵母細胞の遷移停 止[transient arrest]である。これは3つのG1サイクリン[cyclin](CL N1,CLN2,CLN3)全てが不活性化されることを要求する。FUS3は CLN3を不活性化し、FAR1はCLN2を阻害すると考えられている。(C LN1を不活性化する産物については知られていない) 成長停止は多くのさまざまなメカニズムによって終了される。第1にα因子受 容体がフェロモン結合後に内面化され、多数のフェロモン結合部位における遷移 減少をもたらす。第2に受容体のC末端端部がリガンド結合に伴ってリン酸化さ れ、トランスデューサG-タンパク質から受容体を分離させる。第3に、フェロ モンで誘発されたGPA1p(ヘテロトリメリックG−タンパク質のGαサブユ ニット)発現の増加は、GβとGγサブユニットに対するαサブユニットのレベ ルを増加させ、フリーのGβγのレベルを減少させ、それに伴いフェロモン応答 経路の不活性化をもたらす。その他のメカニズムとしては、SST2やBAR1 の発現を減少させ、αサブユニットのリン酸化(おそらくはSVG1による)を もたらす。 シグナル発信はCDC36CDC39CDC72CDC73、SRM1 のような多数の遺伝子の発現により阻害される。これらの遺伝子を不活性化すれ ばシグナル発信経路の活性化となる。 同様なフェロモンのシグナル発信経路をα細胞中に見つけ出すことができるが 、その命名は場合により異なる(例えば、STE2ではなくSTE3のように) 。 その他の酵母もG-タンパク質で仲介された交配因子応答経路を有している。 例えば分裂酵母S.ポンベ[S.pombe]においては、M因子がMAP3受容体に 結合するか、P因子がMAM2受容体に結合する。G-タンパク質の解離はキナ ーセカスケード(BYR2,BYR1,SPK1)を活性化し、キナーゼカスケ ードの活性化は転写因子(STE11)を刺激する。しかしS.pombeでは、Gα サブユニットがシグナルを伝送するのであって、言うまでもなく詳細にはこれ以 外にさまざまな相違点がある。 フェロモン経路突然変異体 フェロモン経路遺伝子の自発的及び誘導的な突然変異の効果について研究され てきている。例えばα因子(MFα1及びMFα2)遺伝子、Kurjan、Mol.Cel l.Biol.,5:787(1985)参照、a因子(MFa1及びMFa2)遺伝子、Micha elisとHerskowitz,Mol.Cell.Biol.8:1309(1988)参照、フェロモン受容体 (STE2及びSTE3)遺伝子、MackayとManny、Genetics,76:273(1974) 、Hartwell、J.Cell.Biol.,85:811(1980)、Hagenら、P.N.A.S.(USA),8 3:1418(1986)参照;FAR1遺伝子、ChangとHerskowitz、Cell,63:999(199 0)参照;およびSST2遺伝子、ChanとOtte、Mol.Cell.Biol.,2:11(1982 )参照、がある。 酵母細胞における外来タンパク質の発現 さまざまな外来タンパク質が、酵母細胞質中に単独で、あるいは酵母分泌経路 の開発を介して、S.cerevisiae中に産生されてきた(Kingsmanら、TIBTECH 5, 53(1987)。こうしたタンパク質としては、例えば、インシュリン様の成長因子 受容体(Steubeら、Eur.J.Biochem.198,651(1991)、インフルエンザウイ ルス赤血球凝集素(Jabbarら、Proc.Natl.Acad.Sci.82,2019(1985)、ラ ット肝臓シトクロムP−450(Oedaら、DNA4、203(1985)および機能的な哺 乳動物抗体(Woodら、Nature 314,446(1985)がある。酵母分泌経路の利用は 、外来タンパク質の忠実な折り畳み[folding],グリコシル化および安定化を もた らす可能性を向上させるので、好ましいことである。このように酵母中に異種タ ンパク質を発現させることは、酵母分泌タンパク質の遺伝子(例えばα因子フェ ロモン、またはSUC2[インベルターゼ]遺伝子)中にコードされたシグナル 配列と外来タンパク質遺伝子との融合を伴うことが多い。 多数の酵母発現ベクターが外来タンパク質の構成的な発現または調節された発 現を可能にするように設計されてきた。構成的プロモーターはホスホグリセリン 酸キナーゼ(PGK1)またはアルコールデヒドロゲナーゼI(ADH1)のよ うな代謝酵素をコードする高度に発現された遺伝子に由来し、調節可能なプロモ ーターはガラクトキナーゼ(GAL1)遺伝子などの多数の遺伝子に由来する。 また、超分泌酵母突然変異体も作ることができる。それらの株は哺乳動物タンパ ク質をより効率的に分泌し、多量の生物学的に活性な哺乳動物タンパク質を酵母 中に生成する「製造」株として利用される(MoirとDavidow、Meth.in Enzymol .194,491(1991)。 さまざまな異種のタンパク質が、商業的利用あるいは生化学研究のために必要 な多量のタンパク質を生産する手段として、酵母細胞に発現されている(Kingsm anら、TIBTECH 5,53(1987)。また、タンパク質が(1)その組織体内に正常時 に発現される同種のタンパク質の機能的な代用物となるか、または(2)特定の 機能を達成するため補助酵母タンパク質と相互反応するか、を判断するため多数 の哺乳動物タンパク質が酵母中に発現されている。こうして変更された結合特異 性をもつヒトTBPが酵母中において転写を開始するよう機能することが判定さ れている[Strubinとstruhl、Cell 68,721(1992)]。また哺乳動物ステロイ ドホルモン受容体[Metzgerら、(1988);SchenaとYamamoto(1988)]および ヒトp53[ScharerとIggo、Acids Res.20,1539(1992)]が酵母中で転写を 活性化することが確かめられた。 HIV−1のgag-pol遺伝子の酵母中における発現は、ウイルス粒子中に正常 時に発生する産物を生み出すようなgagタンパク質前駆体のプロセッシングをも たらす。酵母におけるプロセッシングはウイルスにおける場合と同様、gag-pol 遺伝子内にコードされたプロテアーゼの作用に起因している(Kramerら、Scienc e 231,1580(1986)。 多数の哺乳動物のABC輸送体が酵母中に発現されており、それらがフェロモ ン輸送における酵母Ste6pの代用物となる能力があるかどうかが判定されて いる。このように深く研究されている哺乳動物タンパク質としては、多種薬物抵 抗力に関与するタンパク質であるヒトMdr1(KuchlerとThorner、Proc.Natl .Acad.Sci.89,2302(1992)およびネズミMdr3(Raymondら、Science 25 6,232(1992)があり、また、ヒトCFTR[cystic fibrosis transmembranec conductance regulator](ヒトのう胞性繊維症トランスメンブランコンダクタ ンスレギュレータ)および酵母STE2配列があるキメラタンパク質がa因子フ ェロモンを酵母中に輸送することが確認されている(Teemら、Cell 73,335(19 93)。 a細胞はa因子受容体を、またα細胞はα因子受容体を産生するように操作す ることができる。Nakayamaら、EMBO J.,6:249-54(1987);BenderとSprague, Jr.、Genetics 121:463-76(1989) 非効応のG-タンパク質結合受容体がS.cerevisiae中に機能的に発現されてい る。MarshとHershkowtz、Cold Spring Harbor Symp.,Quant.Biol.,53:557-6 5(1988)はS.cerevisiae STE2をS.Kluyvenから得たその相同体と交換し ている。ドラマチックなことに、哺乳動物のアドレナリン性β受容体とGαサブ ユニットとが酵母中に発現され、その酵母の交配シグナル経路を制御しているこ とが見い出されている。Kingら、Science,250:121-123(1990) デューク大学のWO92/05244(1992年4月2日)は酵母G-タンパク質αサブユニ ットを産生することができないが、共に上述の哺乳動物G-タンパク質αサブユ ニットに「結合する」(つまり相互反応する)哺乳動物G-タンパク質αサブユ ニットと哺乳動物受容体の両者を産生するように操作された、形質変換酵母細胞 について記載している。デューク大学は特に、GAL1プロモーターの制御下に 、配列をコードする最初の63塩基対をSTE2遺伝子から得た11塩基対の非コー ド配列および42塩基対のコード配列と交換するという修飾を施したヒトアトルナ リン性β−2受容体(hβAR)遺伝子で、セブントランスメンブラン受容体( STR)であるhβARを酵母中で発現させることにつき報告している。(ST E2 は酵母のα因子受容体をコードする)。単離した膜が種々の公知のhβARのア ゴニストやアンタゴニストと正しく反応する能力があることが研究によって示さ れたように、デューク大学は修飾したhβARが機能的に膜内に一体化されたこ とを発見している。酵母発現hβARに対するリガンド結合親和性は、自然発生 hβARに観察されるものと殆ど同一であると言われている。 デューク大学は、ラットG-タンパク質αサブユニットを同一細胞、相同の酵 母タンパク質を欠如する酵母株8C中に同時発現させた。リガンド結合はG-タ ンパク質で仲介されたシグナル伝達をもたらした。 デューク大学はこれらの細胞が細胞中のGβγからGαの解離率を左右する能 力を求めて化合物をスクリーニングするのに利用することができることを教えて いる。この目的のためには、細胞は、さらにインジケータ遺伝子(例えばHIS 3またはLacZ)に連結したフェロモン応答プロモーター(例えばBAR1ま たはFUS1)を含有する。そうした細胞をマルチタイタープレート上に置き、 別の化合物を各ウエル中に置く。次にインジケータ遺伝子の発現状態につきコロ ニーをスコアする。 しかしデューク大学の酵母細胞はスクリーニングされる化合物を実際に産生し ていない。その結果、研究者たちは細胞の一定のグループが単一の既知の化合物 だけと接触していることを確認しなければならないので、比較的少しの化合物し かスクリーニングできない。 酵母は、哺乳動物受容体の潜在的なアンタゴニストとしてテストされる外来の ポリペプチド異型体[variants]を発現するように操作されている。変異グルカ ゴン分子をコードするライブラリーが、哺乳動物グルカゴンのコード配列を有す るオリゴヌクレオチド合成中にヌクレオチドをランダムに誤って組み込んだとき に作られた。これらのライブラリーは酵母中に発現され、形質転換された細胞か ら得た培養ブイヨンがラット肝細胞膜にあるグルカゴン受容体に対するアンタゴ ニスト活性につきテストするのに使った(Smithら、1993年)。 ガン細胞の多種薬物抵抗性(MDR)を克服する薬物は、P糖タンパク質を発 現する形質転換酵母細胞を使って同定することができる(株式会社サントリー、 日本特許出願第2257873号、発明の名称「形質転換酵母の膜部分に蓄積されたP 糖タンパク質を含む多種薬物抵抗性関運遺伝子」[Multiple drug resistance-r elating gene-comprises P-glycoprotein accumulated in cell membrane part of transformed yeast])。その薬物は問題の酵母細胞によって産生されなかっ た。 酵母株は、哺乳動物Rasに対する活性を示し、したがって抗腫瘍薬として機 能する可能性があるタンパク質ファルネシルトランスフェラーゼインヒビターを 同定することを可能にすることが考え出されている(Haraら、1993年)。 酵母株におけるマーカー遺伝子 ヒスチジン(HIS3)を栄養要求する酵母株については公知である。Struhl とHill、Mol.Cell.Biol.,7:104(1987);FasulloとDavis、Mol.Ce1l.Biol .,8;4370(1988)参照。HIS3(イミダゾルグリセロールリン酸デヒドラタ ーゼ)遺伝子が、酵母中における選択的マーカーとして使われている。Sikorski とHeiter、Genetics,122:19(1989);Struhlら、P.N.A.S.76:1035(1979)参 照。またFUSI−HIS3融合につきStevensonら、Genes Dev.,6:1293(199 2)参照。 ペプチドライブラリー ペプチドライブラリーは、ターゲットとの相互反応を可能にする形式でペプチ ドの極めて多様な多数のコレクションを同時に表示するシステムである。これら ペプチドは溶液(Houghten)、ビーズ(Lam)、チップ(Fodor)、バクテリア( Ladner USP 5,223,409)、胞子(Ladner USP 409)、プラスミド(Cull)あるい はファージ(Scott,Devlin,Cwirla,Felici,Ladner 409)の形で提供される 。これらシステムの多くはペプチドの最大長さとかペプチドの構成(例、Cys の排除)などによって限定されている。担体が近接しているなどの立体因子は結 合にとって障害となるおそれがある。通常、スクリーニングは人為的に提供され たターゲットにインビトロで結合させるためのものであって、生きている細胞中 に細胞のシグナル伝達経路を活性化したり阻害することではない。細胞表面受容 体はターゲットとして使われるが、スクリーニングはペプチド結合が受容体のコ ンフォメーションにおけるアロステリック変化を引き起こしたかを明らかにしな い。 Ladnerの米国特許第5,096,815号は、所望のDNA結合活性を有する新規のタ ンパク質またはポリペプチドを同定する方法について記載している。多数のさま ざまな潜在的結合タンパク質をコードする半ランダム(種々様々の)DNAを発 現可能な形態で適当な宿主細胞中に導入する。そのタンパク質またはポリペプチ ドの結合が選択可能な条件下で遺伝子にとって有害である遺伝子産物の発現を阻 害するようにターゲットDNA配列が遺伝子操作されたオペロンに組み込まれる 。したがって選択条件下に生き残る細胞はターゲットDNAに結合するタンパク 質を発現する細胞である。酵母細胞をテストに使うことができるが、バクテリア 細胞が好ましい。タンパク質とターゲットDNAとの相互反応は細胞内でのみ起 こり、ペリプラズム中では起こらないのであって、ターゲットは核酸であってフ ェロモン系タンパク質代用物ではない。 細胞タンパク質中の機能ドメインをランダムペプチド配列で置換することは、 機能の達成にとって必要な特定の配列要件を何らか決定することを可能にする。 細胞内でタンパク質がどこに偏在するかに作用する認識現象の詳細については殆 ど知られていないが、ミトコンドリアターゲット配列の配列変化およびタンパク 質分泌シグナル配列に対する抑制は、ランダムペプチドを使って解明されている (Lemireら、J.Biol.Chem.264,20206(1989)およびKaiserら、Science 235 ,312(1987),respectively)。 本明細書において引用された参考文献は全て引用によって明細書中に組み込ん だものとする。しかし参考文献はいずれも先行技術とされるものではない。 発明の概要 本発明では、酵母細胞が酵母フェロモンの翻訳後の修飾、輸送、認識またはシ グナル変換(トランスダクション)に関与する酵母タンパク質の代用たり得る外 因性タンパク質を、少なくとも一定の条件下でなら酵母タンパク質の上記役割を 十分に遂行することができるように発現するように操作される。便宜上、このよ うな酵母タンパク質を「フェロモン系タンパク質」[pheromone system protein s](PSP)と呼び、それと同族の非酵母タンパク質をPSP代用物と呼ぶこ とに する。 酵母細胞のフェロモン系は、酵母フェロモンに対する細胞の応答が少なくとも 部分的に代用PSPの活性によって決定されるように導かれる。好ましい実施例 では、応答が代用PSPの活性に本質的に完全に依存性であるような同族酵母P SPは機能的形態で産生されない。 このような酵母細胞は、代用物が同族酵母PSPの代用となる能力を阻害また は活性化する薬物を検出可能な程度に同定するのに使うことができる。インヒビ ターをスクリーニングするために通常は機能的な代用物が発現され、インヒビタ ーの存在は細胞応答の低下によって示される。アクティベーターをスクリーニン グするには、酵母中で機能的な代用物または通常は酵母中で機能的ではないが活 性化され得るような代用物(バックグラウンドを最小にするために後者の方が好 ましい)が使われ、アクティベーターは細胞応答の上昇によって検出される。 好ましい実施例においては、候補の薬物はペプチドで、酵母細胞は代用PSP と共に候補の薬物を発現するように操作される。 もう一つの考えは野生型酵母細胞については、フェロモン分泌および応答を達 成するには、α細胞およびa細胞の両方が提供されなければならない。好ましい 実施例(複数)においては、α細胞がα因子受容体を発現するように操作される か、a細胞がa因子受容体を発現するように操作される。これら修飾された細胞 は「自己刺激的」なので、「オートクリン」[autocrine]であると考えられて いる。フェロモン受容体の代用物およびその代用受容体の異種の[heterologous ]ペプチドアゴニストの両方を発現する細胞も、同時に産生されたアゴニストに 応答するので、「オートクリン」と考えられている。 PSPに属するものは無数あるが、いくつか例を示すことは有用であろう。 ファルネシルトランスフェラーゼとカルボキシメチルトランスフェラーゼ: 発現後、a因子はRAM1pおよびRAM2pによってファルネシル化され、 そしてSte14pによってカルボキシメチル化される。こうした修飾は活性に とって必要である。 RAM1pおよびRAM2pはヘテロダイマーの哺乳動物のファルネシルトラ ンスフェラーゼのサブユニットに相同で、哺乳動物Rasタンパク質の膜会合に 必要なものである。もし酵母細胞が哺乳動物ファルネシルトランスフェラーゼを 発現するように操作されたとすれば、機能的a因子が生成されたか否かを判定す ることによってその酵素と相互反応する薬物を同定するのに使うことができるで あろう。同様に、Ste14pは哺乳動物カルボキシメチルトランスフェラーゼ に相同で、低分子量G-タンパク質(Ras Rho,Rab)の機能を制御す る調節的役割を果たす。 プロテアーゼ: PSPは、KEX2、STE13あるいはKEX1のような酵母プロテアーセ でもよい。酵母α因子フェロモンは、これらプロテアーゼにより前駆体タンパク 質を制御下で限定的にタンパク質加水分解することによって生成される。酵母細 胞は、ペプチドリンカーが代用の非酵母プロテアーゼの開裂部位に対応して開裂 が成熟α因子(またはその機能的相同体)を遊離するように組み込まれる酵母α 因子の不活性前駆体を発現するように操作されてもよい。例えばPSP代用物は 、α因子前駆体中の酵母プロテアーゼ開裂部位に代わるHIVプロテアーゼの開 裂部位があるHIVプロテアーゼでもよい。前駆体とHIVプロテアーゼとが酵 母細胞中に同時に発現される。HIVプロテアーゼによるタンパク質の加水分解 は成熟α因子の生成およびシグナル変換の開始を起動するであろう。この系はH IVプロテアーゼのインヒビターを同定するのに使うことができる可能性がある 。 好ましくは天然に発生する酵母細胞と異なり本発明の酵母細胞は、酵母の半数 体の1タイプだけが分析を必要とする全てであるように、α因子前駆体を発現す るだけでなく、α因子受容体を発現するように操作されるのがよい。 ABC輸送体: Ste6はa因子の排出に必要な酵母ABC輸送体である。この酵母細胞はa 因子および外来のABC輸送体の両者を発現するように操作される。この輸送体 は、それ自身ではa因子を輸送することができないが、問題の薬物の存在下なら 輸送できるものか、あるいは既に機能的となっているものである。 好ましくはこの酵母細胞は、a因子だけでなく、a因子受容体も発現するよう に操作される。 G-タンパク質の結合した受容体: PSPは酵母フェロモン受容体でもよい。その代用物は非酵母の、G-タンパ ク質の結合した受容体である。フェロモンシグナル変換経路との結合を達成させ るためには外来の、またはキメラのGαまたはGβγサブユニットを供給するこ とが必要であろう。 操作された酵母細胞は、アンタゴニストもアゴニストもスクリーニングするの に使用することができる。アゴニストをスクリーニングするのに使うときは、酵 母フェロモンが機能的な形で産生されないことが好ましい。 タンパク質キナーゼ: PSPは、フェロモンに対する細胞応答に関与するFUS1,KSS1,ST E11またはSTE7タンパク質のようなタンパク質キナーゼでもよい。PSP 代用物は、例えば、哺乳動物のマイトジェン(分裂促進因子)で活性化されるタ ンパク質キナーゼである。代用タンパク質キナーゼを発現するように操作された 酵母細胞は、そのアクティベーターまたはインヒビターをスクリーニングするの に使うことができる。 サイクリン: PSPはCLN1,CLN2,あるいはCLN3のようなサイクリンでもよい 。サイクリンは細胞周期を介して細胞の進行を調節する。ヒトC、D1およびE サイクリンは、機能的に酵母のCLNタンパク質の代わりになることができる。 哺乳動物サイクリンのインヒビターは癌の化学療法に有用である。代用サイクリ ンを発現するように操作された酵母細胞は、その活性を阻害(あるいは促進)す る分子を同定するのに利用することができる。 ペプチドライブラリー 他の研究者たちは酵母細胞を受容体アゴニストおよびアンタゴニストとして外 来薬物のスクリーニングをしてきたが、酵母細胞は薬物と受容体の両方を産生し なかった。受容体を産生するが薬物は産生しないように操作された酵母細胞は有 効でない。それらを利用するには、薬物が作用を有するか否か検知するために、 各薬物を十分な濃度で多数の細胞に接触させなければならない。したがってミク ロタイタープレートウエルまたは試験管が各薬物ごとに使われなければならない 。薬物は前以て合成され、酵母細胞に対する作用を判定するのに十分な程に純粋 でなければならない。酵母細胞が薬物を産生するときは、その有効濃度はより高 いものである。 好ましい実施例では酵母細胞は、多様なペプチドがPSP代用物と相互反応す る能力につき同時に分析できるように、好ましくは少なくとも107の異種のペ プチドを有する「ペプチドライブラリー」を集合的に産生するものがよい。 特に好ましい実施例では、ペプチドライブラリーの少なくともいくつかのペプ チドがペリプラズム中に分泌され、そこでペプチドは外因性受容体の「細胞外」 結合部位と相互反応する。こうしてそれらは細胞受容体との薬物の臨床的相互反 応をよりよく模倣するものとなる。この実施例は、(フェロモン分泌を必要とし ない分析においてなら)フェロモン分泌を阻害し、それによってペプチドとシグ ナルペプチダーゼのフェロモンおよびその他の分泌系構成要素との間の競合を回 避させることによって、さらに改良することもできる。 シグナル変換の検出 酵母細胞はまた、酵母細胞のフェロモンシグナル変換経路が、より容易に疑わ れている薬物の活性に関し検出できる証拠を提供するように操作することができ る。この種の実施例においては、薬物は同じ酵母細胞から産生されるペプチドで ある必要はなく、全然ペプチドでなくともよい。 既述のように、野生型酵母におけるフェロモンシグナル経路の活性化順序の1 段階は生育停止である。G-タンパク質結合受容体あるいはその他のフェロモン 系タンパク質のアンタゴニストにつき試験するときは、この生育停止という正常 応答を、フェロモン応答経路の阻害されている細胞を選ぶのに利用することがで きる。つまり既知のアゴニストと活性が未知のペプチドとの双方にさらされた細 胞は、ペプチドが中性であるかアゴニストであるときは生育停止されるが、ペプ チドがアンタゴニストのときは成長は正常に続けられるからである。こうして生 育停止応答はアンタゴニストとして機能するペプチドを発見するのに利用するこ とができる。 しかしG-タンパク質結合受容体またはその他のフェロモン系タンパク質のア ゴニストとして機能することができるペプチドを探すときは、フェロモン応答経 路の活性化後の生育停止は次の理由から好ましくない効果である。すなわちペプ チドアゴニストに結合する細胞は成長を停止するが、ペプチドに結合しなかった 周囲の細胞は成長し続ける。すると問題の細胞は成長し過ぎてしまうか、それら の検出が周囲の細胞によって曖昧にされてしまい、問題の細胞の同定を不明確に してしまう。そこでこうした問題を解消するため本発明は細胞を次のように操作 することにつき開示している。すなわち、1)生育停止はフェロモンシグナル経 路の活性化の結果として生じない(例、FAR1遺伝子を不活性化することによ り)、2)選択的な成長上の利点が経路を活性化することによって付与される( 例、フェロモン応答プロモーターで制御しながら選択的条件を整えつつ栄養要求 変異株をHIS3遺伝子で形質転換することによって)。 勿論、外因性受容体(またはその他のPSP代用物)が本質的に継続的にペプ チドにさらされることが望ましい。残念なことにこれはフェロモン経路の刺激に 対する脱感作[desensitization]をもたらすおそれがある。脱感作は、機能タ ンパク質をもはや産生しないようにSST2遺伝子を突然変異(欠失も含む)さ せることによって、あるいは脱感作に関与するその他の遺伝子、例えばa細胞の 場合はBAR1、a細胞またはα細胞のいずれかの場合もSVG1のような遺伝 子を突然変異させることによって、回避することができる。 内因性のフェロモン受容体(またはその他の同族PSP)が酵母細胞によって 産生されるとしたら、分析は、フェロモン受容体と相互反応するペプチド(また はその他の同族PSP)と外因性受容体(またはその他のPSP代用物)と相互 反応するペプチドとを識別することできなくなる。したがって内因性遺伝子は欠 失されるか、その他何らかの方法で無機能的にされていることが望ましい。 特許請求の範囲の記載は、好ましい実施例の記載としてここに言及することで 明細書に組み込む。 図面の簡単な説明 図1は、酵母のオートクリンシステムの発展における連続的な段階を示す概略 図である。 交配フェロモンの正常の合成および放出の概略は図1の1aに示される。2個 の遺伝子MFα1およびMFα2が、成熟α因子を代表するトリデカペプチドの 各々4個および2個のリピートを有する前駆体タンパク質(MFα1pおよびM Fα2p)をコードしている。これら前駆体は小胞体(ER)中のシグナル配列 を開裂することで開始され、リーダーペプチドのグリコシル化ならびにプロテア ーゼKEX2p,STE13p,KEX1pによる開裂の両者を伴う一連の酵素 反応によってタンパク質分解処理される。その結果、成熟α因子の分泌があり、 これらα因子はa細胞の表面に正常に発現するSTE2pに結合すると同時に、 a細胞中に生育停止などの多数の変化を誘起する。するとa細胞はa因子の前駆 体(MFa1pおよびMFa2p)をコードする2個の遺伝子MFα1およびM Fα2を発現する。これらの前駆体は、RAM1およびRAM2によるファルネ シル化、(一応RAM3pと同定されたタンパク質による)3個のC末端アミノ 酸のタンパク質分解トリミング、STE14pによる新たに露出したC末端シス テインのカルボキシメチル化、および一応STE19pと同定された活性による N末端リーダー配列のタンパク質内部分解除去[endoproteolytic removal]を 経由する。成熟a因子がSTE6p経由で細胞から排出されると、α細胞の表面 に発現したSTE3pに結合し、それらの成長を阻止する。 第1段階(図1の1b)はSST2,FAR1およびHIS3が不活性化され ている酵母株の発育に係り、fus1::HIS3のような適当なリポーター構 造物がα細胞およびa細胞双方のゲノムに組み込まれる。α細胞は正常に発現し たSTE3pをSTE2pで置換することによって改変され、a細胞は正常に発 現されたSTE2pをSTE3pで置換することによって修飾される。その結果 できた株は外因性フェロモン非存在下でヒスチジンが不足している培地に成長す る。 第2段階(図1の1c)は、まず細胞中でMFa1およびMFα2の不活性化 、そして第1段階で生長したa細胞中のMFa1およびMFa2の不活性化に係 る。こうした修飾はヒスチジンに対して栄養要求性の株をもたらす。次に、適当 な発現プラスミドが導入される。α因子をコードするオリゴヌクレオチドを含む 発現プラスミドpADC−MF(図4参照)は、α細胞に、ヒスチジンが不足し ている培地で成長する能力を付与する。a因子をコードするオリゴヌクレオチド を含むこの発現プラスミドpADC-MFa(図6参照)はa細胞に、ヒスチジ ンが不足している培地で成長する能力を付与する。 第3段階(図1の1d)は、発現プラスミドを挿入するのに第2段階で生長し た細胞を使う。しかし真のフェロモンをコードするオリゴヌクレオチドを有する プラスミドを使わないで、ランダムまたはセミランダムのオリゴヌクレオチドを 含有する発現プラスミドで酵母が形質転換される。ヒスチジンが不足する培地に 成長することができる形質転換細胞は広がっていき、それらのプラスミドは挿入 されたオリゴヌクレオチトの配列を決定するために単離される。 図2はMFα1の突然変異誘発に使われるプラスミドの概念図である。MFα 1を有する1.8kb EcoRIフラグメントが、MFα1のマイナス鎖を有する1 本鎖DNAを合成するようにpALTERのEcoRI部位にクローニングされ る。図はプロモーター、転写ターミネーター、および前駆体タンパク質のさまざ まなドメイン、即ちシグナルペプチド、プロペプチド、成熟α因子の4つのリピ ート、およびこれらリピートを分離する3つのスペーサー、を有するMFα1の さまざまな領域を表している。MFa1領域のブロック図の上側にはシグナルペ プチドとプロペプチドのアミノ酸配列、図の下側にはフェロモンリピートとスペ ーサーのアミノ酸配列を示している。前駆体タンパク質のタンパク質分解プロセ ッシング部位は矢印で示され、各タンパク質分解活性は異種の矢印で表されてい る。 図3はMFα発現カセットの構築に使われるプラスミドの概念図である。pA AH5はMFα発現カセット中に挿入される合成オリゴヌクレオチドの発現を引 き出すのに使われるADC1プロモーターを有する。ADC1プロモーターを有 するBamHIからHindIIIへの1.5kbフラグメントが、酵母中のハイコピーなエピソ ームとして機能するプラスミドであるpRS426にクローニングされ、pRS −ADCを産生する。pRS−ADCは次のようにして突然変異させられたMF α1配列の受容体となる。即ち、成熟α因子をコードするMFα1の領域が、A flIIおよびBglII末端を有するオリゴヌクレオチドを受容することができる 制限部位と交換される。AflIIおよびBglII末端を有するオリゴヌクレオチ ドの挿入は、オリゴヌクレオチドによってコードされた配列の上流のMFα1シ グナル配列とリーダー配列とを有するタンパク質をコードするプラスミドを生成 する。MFα1シグナル配列とリーダー配列は、成熟α因子の分泌に正常時に使 われる経路を介してこの前駆体タンパク質のプロセッシングを指示する。 図4はMFα1中にランダムオリゴヌクレオチドを発現させるのに使われる構 造体の概念図である。39個のランダム塩基対(図の最上段に示される)領域が あるオリゴヌクレオチドがMFa1発現カセットのAflIIおよびBglII部位 にクローニングされる。これらのオリゴヌクレオチドはランダム配列のトリデカ ペプチドと終結コドンが後に連続する、MFα1中のα因子の最初のリピートの すぐ次のN末端の6個のアミノ酸をコードする。これらの構造体で形質転換され ウラシルが欠損する培地に成長する能力をもつものとして選択された酵母が、1 3個のランダムアミノ酸が続くMFα1リーダー(プリとプロの両方のペプチド )からなるタンパク質を発現するためADC1プロモーターを使う。リーダー配 列のプロセッシングによりトリデカペプチドの分泌をもたらす。 図5はMFα1の突然変異誘発に使われるプラスミドの概念図である。MFα 1を有するBamHIの1.6kbフラグメントが、MFα1のマイナス鎖を有する 1本鎖DNAを合成することができるように、pALTERのBamHI部位に クローニングされる。図はプロモーター、転写ターミネーター、および前駆体タ ンパク質のさまざまなドメイン、即ち、リーダーペプチドと、成熟a因子のペプ チド成分を表し、そのC末端のシステインがプロセッシング中にファルネシル化 されカルボキシメチル化されるドデカペプチドと、そして前駆体のプロセッシン グ過程で除去される3個のC末端アミノ酸、を有するMFa1のさまざまな領域 を示す。MFα1の領域のブロック図の上段は第1次翻訳産物のアミノ酸配列で ある。 図6はMFa1中にランダムオリゴヌクレオチドを発現させるために使われる 構造体の概念図である。33個のランダム塩基対(図の最上段に示される)領域 があるオリゴヌクレオチドが、MFa1発現カセットのXhoIおよびAflII 部位にクローニングされる。これらのオリゴヌクレオチドはランダム配列のモノ デカペプチドと、前駆体のプロセッシング中にファルネシル化されカルボキシメ チル化されるシステインと、プロセッシング中にタンパク質分解で除去される3 個のアミノ酸(VIA)と、終結コドンとが後に連続する、成熟a因子の最初の アミノ酸のすぐ次のN末端の7個のアミノ酸をコードする。これらの構造体で形 質転換され、ウラシルの欠損する培地に成長する能力によって選択された酵母は 、11個のランダムアミノ酸とC末端テトラペプチドCVIAが続くMFa1リ ーダーからなる前駆体タンパク質を発現するADC1プロモーターを使う。この 前駆体をプロセッシングするとC末端がファルネシル化されカルボキシメチル化 された、11個のランダムアミノ酸と1個のC末端システインからなるドデカペ プチドの分泌をもたらす。 図7。オートクリンMata株は分泌し、α因子によるシグナル発信に応答す る。 酵母のα因子フェロモンをコードする合成オリゴヌクレオチドが、Mata細 胞中に発現された。これらの細胞は正常時はa因子フェロモンを発現するのであ るが、内因性a因子コード遺伝子が切除されてこの発現が阻止された。これらの 細胞によるα因子の発現と放出はフェロモンシグナルの発信に関して、それらに 「オートクリン」を付与する。成熟α因子を有するペプチドが酵母の分泌経路経 由で細胞外環境に輸送するため、これらの細胞中でプロセッシングを受けた。フ ェロモンシグナル発信はα因子がMata細胞中に発現されたSte2受容体に 結合することによって開始された。これらの実験に使用された株を背景にフェロ モンによるシグナル発信をすることは、ヒスチジンを欠く培地で応答細胞を成長 さ せることになる。α因子を発現しない対照細胞のバックグラウンドの成長はHI S3インヒビター、アミノトリアゾールの濃度を高めることによって防止される 。 図8。オートクリンMATa株が分泌し、a因子でシグナル発信に応答する。 Mata細胞中の合成フェロモンをコードするオリゴヌクレオチドを含有する プラスミドから酵母a因子が発現された。これらの実験に使われたこの酵母は正 常時に発現されるSte2タンパク質をa因子Ste3の受容体と交換すること によって「オートクリン」された。これらの細胞中でa因子ペプチドをプロセッ シングを受け、内因性Ste6タンパク質のATP依存性トランスメンブラン輸 送体によって細胞外環境に輸送された。Ste3に結合したときにこれらの細胞 によって放出されたa因子により開始されるフェロモンのシグナル発信は、ヒス チジンを欠く培地における細胞の成長によって示される。a因子を発現すること ができない対照細胞のバックグラウンドの成長(これらのα細胞はフェロモンを コードするプラスミドを欠いている)は、HIS3インヒビターのアミノトリア ゾール濃度を高めることによって防止される。 図9は、突然変異体ヒトMDR1(G185V突然変異)を有するプラスミド pYMA177を示す。 プラスミドpYMA177はKarl Kuchlerにより構築されたもので、突然変異 体ヒトMdr1タンパク質と酵母a因子フェロモン前駆体の両方を同時に過発現 することができる(KuchlerとThorner、Proc.Natil.Acad.Sci.89,2302(19 92)。 好ましい実施例の詳細な説明 本発明は遺伝子操作された酵母細胞中に発現されたペプチド、特にペプチドラ イブラリー中にあるものを、フェロモン系タンパク質およびこれら酵母細胞によ って産生されたPSP代用物と相互反応するペプチドの能力如何にかかる分析に 関する。 本発明の目的のためには、「外因性」タンパク質を、アミノ酸配列が問題の酵 母細胞によって天然に産生されたタンパク質とは十分に相違するものとしてその 最も近い同族体を酵母細胞以外の細胞で産生されたタンパク質とする。このよう な同族体タンパク質を産生する細胞としては、微生物細胞(酵母細胞以外の)、 植物細胞、または動物細胞がある。動物細胞の場合は、無脊椎動物(例、コンチ ュウまたはセンチュウ)または脊椎動物(例、トリ、サカナ、哺乳動物、特にヒ ト)由来のものとなる。タンパク質は例えば、正常ヒトのクロモソームによって コードされているか、ヒト細胞中に感染し複製するウイルスのゲノムによってコ ードされているかにかかわらず、ヒト由来のものと考えられる。 フェロモン系タンパク質代用物の「アクティベーター」は、適切な酵母細胞中 においてフェロモン系タンパク質代用物をより活性化させ、それによって該細胞 の生または修飾されたフェロモンシグナル経路を介して形質導入されたシグナル を検出可能な程度にまで上昇させる物質である。この代用物は最初は非機能的だ が、アクティベーターの作用の結果機能的になるものか、または最初から機能的 だが、アクティベーター効果でその活性が高められるものである。アクティベー ターの作用のモードは、例えば代用物に結合するなど、直接的であっても、ある いは例えば代用物と相互反応する別の分子に結合するなど、間接的なものでもよ い。PSP代用物がフェロモン受容体の代替をし、アクティベーターがフェロモ ンの役割を担当するときは、アクティベーターをその受容体のアゴニストと呼ぶ のが慣例である。 逆に、フェロモン系タンパク質代用物の「インヒビター」は、適切な酵母細胞 中において、PSP代用物をより不活性化させ、それによって形質導入シグナル を検出可能な程度にまで減少させる物質である。この減少作用は全体的であって も部分的であってもよい。PSP代用物がフェロモン受容体の代替であって、イ ンヒビターが受容体との結合をフェロモンと競い合うときは、このインヒビター を「アンタゴニスト」と呼ぶのが慣例である。 「モジュレーター」とは「アクティベーター」と「インヒビター」の双方を含 む概念である。 代用PSPタンパク質は、それ単独でも薬物で修飾された後でも、酵母PSP の機能または操作された酵母細胞内で類似の機能を果たすことができるならば、 酵母細胞に「機能的に相同」である。代用PSPタンパク質は酵母細胞と同様な 有効性があることは必要でないが、酵母タンパク質のフェロモン系関連活性中の 少なくとも一つが、その少なくとも10%の有効性をもっているのが望ましい。 また、代用PSPタンパク質は酵母タンパク質と同じ作用スペクトルをもってい ることは必要でない。例えばそれが受容体である場合、内因性受容体がするのと 完全に異なるリガンドに応答するか、何らか共通のリガンドおよび新しいリガン ドに応答するだろう。表2の受容体は、G-タンパク質結合受容体ではあるがた とえ酵母フェロモンに応答せず、未修飾の内因性G-タンパク質に結合しないか もしれないとしても、酵母フェロモン受容体と機能的に相同であると考えられる 。これは「類似機能」と考えられる。 PSP代用物は機能的になるように薬物で何らかの方法で修飾されなければな らないタンパク質であってもよい。例えばその薬物はPSP代用物のコンフォメ ーションにアロステリック変化を引き起こすことができるか、代用物の一部分を 切除することができ、そのタンパク質の残り[balance]は機能的分子になる。 PSP代用物は酵母細胞中に別の修飾、例えば外因性G-タンパク質結合受容 体と相互反応するキメラGαサブユニットの発現、がなされて初めて機能的にな るものでもよい。 アミノ酸配列に関して「実質的に相同」と言われるときは、配列上実質的に同 一または類似でありコンフォメーションに相同性を起こし、類似の生物学的挙動 を起こす配列を指す。この用語は配列の共通な進化を示唆するものではない。 「実質的に相同」な配列とは、所望の活性に関与するものとして知られている 領域において、少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、配列が同一で あることを典型的には指す。最も好ましくは、末端のもの以外の残基5個より多 くが異ならないものを言う。好ましくは配列上の多様性は、少なくとも上記領域 においては「保存的修飾」というべきものであるのがよい。ここで「保存的修飾 」とは次のように定義される。即ち(a)以下に定義されるようなアミノ酸の保 存的な置換、(b)末端、ドメイン境界間、比較的高い移動度のループその他の セグメ ントにおけるアミノ酸の1箇所または複数箇所の挿入または切除。末端を除いて 、好ましくは約5個を越えないアミノ酸が特定の座に挿入または切除されるのが よく、この修飾は活性にとって重要な結合部位を含んでいると知られている領域 以外についてのものがよい。 保存的置換とは次の5群中の1群中で交換することを言う。即ち、 I.小さな脂肪族の、無極性または微極性の残基 Ala,Ser,Thr(Pro,Gly) II.極性、負電荷の残基:およびそれらのアミド Asp,Asn,Glu,Gln III.極性、正電荷の残基: His,Arg,Lys IV.大きい脂肪族の、無極性残基: Met,Leu,Ile,Val(Cys) V.大きい芳香族の残基: Phe,Tyr,Trp 残基Pro,Gly,Cysは括弧で括られているが、これはそれらが特別な コンフォメーション上の役割を担っているからである。Cysはジスルフィド結 合の形成に関与する。Glyは鎖に柔軟性を与える。Proは鎖に剛性を与え、 αヘリックスを阻害する。これらの残基はポリペプチドの一定の領域においては 必須であるかもしれないが、それ以外の領域なら交換可能である。 2個の調節DNA配列(例、プロモーター)は、ヌクレオチド配列において相 当部分が同一である結果、同様な調節的効果をもっているなら、「実質的に相同 」である。典型的には「実質的に相同」な配列とは、少なくとも所望の調節作用 に関与するとして知られている領域において、少なくとも50%、より好ましく は少なくとも80%が同一なものを言う。 本書において「オートクリン細胞」とは、その細胞のフェロモン系経路を刺激 することができる物質を産生する細胞を言う。野生型αならびにa細胞はオート クリンではない。しかしα因子およびα因子受容体の両方、またはa因子および a因子受容体の両方を機能的な形で産生する酵母細胞はオートクリンである。さ らに、フェロモン系経路を活性化する(例えばG-タンパク質結合受容体を活性 化することによって)能力につきスクリーニングされるペプチトを産生する酵母 細胞は、「オートクリン細胞」と呼ばれる。尤もそれらは「想定上のオートクリ ン細胞」と呼んだ方がより正確であるが。勿論、多数の異なるペプチドが産生さ れる細胞ライブラリーにおいては、細胞の1個または2個以上が厳格な意味での 「オートクリン」である可能性もある。 ファルネシルトランスフェラーゼ 酵母a因子の活性はそのファルネシル化(Ram1pとRam2pからなるタ ンパク質ファルネシルトランスフェラーゼによって仲介される)、第1次翻訳産 物のC末端の3個のアミノ酸のタンパク質分解開裂(現在未明の酵素によって仲 介されて)およびC末端システインのカルボキシメチル化(Ste14pにより 仲介)を必要とする。酵母と哺乳動物ファルネシルトランスフェラーゼは構造的 また機能的に類似している(Gomez Rら、Biochem.J.289:25-31,1993; Kohl N Eら、J.Biol.Chem.266:18884-8,1991)。配列相同性が酵母ファルネシルト ランスフェラーゼ(各々、RAM2,RAM1)のαサブユニット、βサブユニ ットをコードする遺伝子と、哺乳動物のファルネシルトランスフェラーゼのαサ ブユニット、βサブユニットをコードする遺伝子との間に存在する(Kohl NEら 、J.Biol.Chem.266:18884-8,19991; Chen WJら、Cell 66:327-34,1991)。 哺乳動物ファルネシルトランスフェラーゼのβサブユニットとRam1pはアミ ノ酸配列が37%同一であることが観察されている(Chen WJら、Cell 66:327-3 4,1991)。 ファルネシルトランスフェラーゼのインヒビターをスクリーニングすることの 重要性は、さまざまな癌に関与している哺乳動物細胞の成長と分化[differenti ation]に係る卓越したレギュレーターである哺乳動物p21rasが、ファル ネシルトランスフェラーゼの代替物であって、p21rasのファルネシル化が その活性にとって必要であるという事実により示唆される。事実、ファルネシル タンパク質トランスフェラーゼの合成オーガニックインヒビターはras依存性 細胞 の形質転換を選択的に阻害することが確かめられている(Kohlら、Science 260 ,1934(1993)。ファルネシルトランスフェラーゼの2つのサブユニットのうち βサブユニットは、ファルネシル化を促進することが明確に分かっているので、 インヒビターにとって一層魅力的なターゲットである。これと対蹠的にαサブユ ニットは、Rho/RacファミリーのヘテロトリメリックG-タンパク質と小 分子量G-タンパク質とのGγサブユニットの修飾に関与する酵素であるゲラニ ルゲラニルトランスフェラーゼIと共有されている。βサブユニットはファルネ シル化に貢献するが、哺乳動物ファルネシルトランスフェラーゼはp21ras のほかにもさまざまな代替物を有している。これら他の代替物、例えばラミンタ ンパク質、トランスデューシンγ[transducin-γ]、ロドプシンキナーゼのフ ァルネシル化に対するβサブユニットのインヒビター効果は、潜在的なファルネ シルトランスフェラーゼインヒビターの設計法および使用法に関して考察される 。 相同な哺乳動物遺伝子が酵母Ram1pを機能的に代替するということは未だ 確認されていないが、これはram1突然変異体およびファルネシルトランスフ ェラーゼのβサブユニットをコードする哺乳動物遺伝子を発現するベクターとを 使って公式にテストすることができる。もし哺乳動物βサブユニットがRam1 pの代わりに機能することができるなら、試験細胞は(Rasのファルネシル化 の結果)生育可能で、かつ、(a因子のファルネシル化の結果)交配に適格なも のであろう。 ファルネシルトランスフェラーゼのβサブユニットをコードする哺乳動物遺伝 子がram1を相補する[complement]のであれば、酵母は哺乳動物ファルネシ ルトランスフェラーゼの潜在的インヒビターを発見するテスト系を提供するもの になろう。特にMATa酵母のテスター細胞は次のことを行うことができる。即 ち、(1)RAM1の代わりに哺乳動物ファルネシルトランスフェラーゼのβサ ブユニットのために遺伝子を運ぶ、(2)cAMPの存在下で、菌株にRas機 能の喪失に対する抵抗性を与えるcam突然変異を行う、(3)Ste3pの異 種発現によってそれらが排出するa因子に応答する、(4)それらがガラクトー ス含有培地で成長できないようにオートクリンa因子に応答する。後者の特徴は 、フェロモン応 答プロモーターの制御下でのGAL1の発現、および突然変異されたGAL7ま たはGAL10遺伝子を含むように操作された細胞を要求する。、GAL1の発 現は、GAL7またはGAL10遺伝子のいずれかにおける突然変異を含む株に ガラクトースが存在するとき有毒である。フェロモン応答経路経由でのシグナル 発信は、細胞をそのように操作されたガラクトース感受性にする。ファルネシル トランスフェラーゼのβサブユニットを阻害する化合物に上記株をさらすことは 、これらの細胞にガラクトースおよびcAMP含有の培地に成長する能力をそれ ら細胞に付与するであろう。 ファルネシルトランスフェラーゼのβサブユニットをコードする哺乳動物遺伝 子(およびその遺伝子の修飾体すべて)がram1を相補することができないと きは、野生型Ram1pを哺乳動物ファルネシルトランスフェラーゼの潜在的エ フェクターの代用ターゲットとして使うことができる。具体的には(1)cAM Pの存在下にRAS機能の喪失に抵抗性の株を作るcam突然変異を行う、(2 )Ste3pの異種発現のためにそれらが排出するa因子に応答する、(3)そ れらがガラクトース含有培地に成長することができないようにオートクリンa因 子に応答する。ファルネシルトランスフェラーゼのβサブユニットを阻害する化 合物にこのような株をさらすと、ガラクトースおよびcAMP含有培地に成長す る能力をそれらの細胞に付与する。 上記のような戦略では、ファルネシルトランスフェラーゼのインヒビターを、 例えばSte4−Ste18複合体のエフェクターによる相互反応を阻害するこ とによってa因子に対するネガティブ応答を直接にブロックするか、あるいはフ ァルネシルトランスフェラーゼに関与しないメカニズムによってa因子の産生を ブロックする化合物から識別することが好ましい。対照はそのような虚偽の陽性 [positive]を同定する。候補となる試薬を、α因子を分泌し分泌されたa因子 に応答するように操作されたMATa株でテストするが、それは上述したような ネガティブセレクション(陰性選択)スキーム中でガラクトース含有培地に成長 することができないことによって知ることができる。こうした株は野生型Ram 1pを発現する。これらの細胞をガラクトースおよびcAMP含有培地に成長さ せる ことができる試薬はどんなものでもファルネシルトランスフェラーゼのインヒビ ターとして作用することはないだろう。 上記のテストを経た候補化合物は、ファルネシルトランスフェラーゼではなく 、Ste14p,Ste6pその他のa因子の成熟および排出に関与するタンパ ク質をターゲットすることによって作用することができる。(しかし細胞の生存 に影響するプロセスを阻害する化合物は虚偽のポジティブを起こさないであろう ということに注意されたい。例えば、a因子前駆体のC末端トリペプチドの内部 タンパク質分解的[endoproteolytic]切除に関与するプロテアーゼはタンパク 質のGgおよびRho/Racファミリーのメンバーのプロセスに関与する可能 性が高いので、この酵素のインヒビターはテスター細胞の成長を許さないことが ある)。a因子の産生に関与するタンパク質の中でファルネシルトランスフェラ ーゼだけがRAS機能の主要な決定因子でもある。この効果があるため、ram 1突然変異体は30℃で成長するのに不完全で37℃では全く成長不能である( He Bら、Proc Natl Acad Sci 88:11373-7,1991)。テスター細胞(上記の)は ガラクトース含有培地±cAMP上に候補インヒビターの存在下で成長すること ができる。テスト化合物がファルネシルトランスフェラーゼを阻害するのであれ ば、ガラクトース±cAMP上に成長可能であるがcAMP非存在下でのガラク トース上には成長不能である。この差は37℃のときに最も顕著であろう。逆に テスト化合物がa因子産生に関与するその他のタンパク質を阻害するのであれば 、細胞はcAMPの存否に拘わらずにガラクトース含有培地に成長するであろう 。 上記テストを経た化合物はファルネシルトランスフェラーゼのインヒビターで ある可能性がある。これは確認することができ、インヒビターの有効性は直接イ ンビボ酵素アッセイで判定することができる。上述の戦略はRam1pに影響す るファルネシルトランスフェラーゼインヒビターを同定するものであることに注 意されたい。Ram2pをブロックする試薬はあらゆる条件下で成長することが できない可能性がある。実際ram2空白null突然変異は、おそらくはRam2 pがゲラニルゲラナルトランスフェラーゼIの成分としても機能 するものであるという理由から、致死的である(He Bら、Proc Natl Acad Sci 8 8:11373-7,1991)。 カルボキシメチルトランスフェラーゼ 酵母において、a因子、Rasタンパク質、およびたぶんRho/Racタン パク質のC末端アミノ酸のメチル化はSte14pによって触媒される。MAT a ste14突然変異体はa因子の活性のためのカルボキシメチル化の必要性 を反映して交配することできないが、ste14の分裂は致死的でなく、細胞の 増殖率に影響しない。カルボキシメチル化はRasタンパク質とSte18p( Gγサブユニットの酵母の相同体)の機能がなくても済ませられるようである。 酵母中のRas機能はカルボキシメチル修飾がなくても耐えることができるよう に見えるが、それでも哺乳動物メチルトランスフェラーゼのインヒビターが哺乳 動物p21rasの活性を変えることができる可能性はある。 酵母ste14突然変異が相同の哺乳動物遺伝子またはその修飾された変種に よって相補されることができるか否か決定することができるであろう。遺伝子型 としてはSte14である酵母中にメチルトランスフェラーゼをコードする哺乳 動物遺伝子を発現するエピソームのベクターを使うことができる。この株は正常 のa因子受容体の代わりにa因子受容体を発現する修飾されたMATa株で、そ の細胞によって分泌されるa因子はヒスチジンを欠く培地にオートクリン成長を するように組み込まれたfus1−HIS3構造体を有している。哺乳動物メチ ルトランスフェラーゼがSte14pに代って機能することができるなら、その テスター細胞を交配することができるであろう。すなわち、哺乳動物メチルトラ ンスフェラーゼはste14突然変異体中に活性a因子を合成することを可能に するであろう。 もしメチルトランスフェラーゼをコードする哺乳動物遺伝子がste14を相 補するなら、テスター株は哺乳動物メチルトランスフェラーゼの潜在的インヒビ ターをテストするために行うことができる。1実施例ではテスターMATa酵母 株は、(1)STE14の代わりに哺乳動物カルボキシメチルトランスフェラー ゼ遺伝子を有している、(2)Ste3pの異種的発現のためにそれらが排 出するa因子に応答する、(3)上記のネガティブGAL1選択スキームにおけ るようにガラクトースを含む培地にそれらが成長できないようにオートクリンa 因子に応答する。このような株がメチルトランスフェラーゼ阻害化合物にさらさ れていることは、それらの細胞にガラクトースを含む培地に成長する能力を付与 することになる。 カルボキシメチルトランスフェラーゼ活性のインヒビターを、例えばSte4 −Ste18複合体とそのエフェクターとの相互反応を阻害することによってa 因子に対するネガティブ応答を直接にブロックするか、あるいはメチルトランス フェラーゼに関与しないメカニズムによってa因子の産生をブロックする化合物 から識別することが好ましい。つぎの対照による実験はそのような虚偽のポジテ ィブを同定する。候補となるインヒビターを、ガラクトースを含む培地に成長す ることができないことを見ることで、a因子を分泌しその分泌されたa因子に応 答するように操作されたMATa株でテストする。ガラクトース含有培地でこれ らの細胞を成長させることができる試薬はカルボキシメチルトランスフェラーゼ のインヒビターとして挙動することはないであろう。上記のテストを経た候補の 化合物はa因子の成熟化および輸送に関与するカルボキシメチルトランスフェラ ーゼ、ファルネシルトランスフェラーゼ、Ste6p、その他のタンパク質をタ ーゲットするであろう。この化合物のターゲットを識別するためには、インビト ロ生化学とインビボ遺伝子分析の組合せを適用することができよう。というのは カルボキシメチルトランスフェラーゼとファルネシルトランスフェラーゼは共に 候補試薬の効果をテストするのにインビトロで分析できるからである。さらに、 もしターゲットがSte14pであるなら、ハイコピープラスミドにおけるそれ の過度発現は、インビボでその化合物の効果に抵抗性を付与するであろう。 プロテアーゼ 成熟酵母α因子は、成熟哺乳動物メラニン細胞刺激ホルモン(MSH)または カルシトニンが前駆体ポリタンパク質から由来するのと殆ど同じ様にポリタンパ ク質前駆体から由来する13アミノ酸ペプチドである。酵母ゲノム中の2 個の遺伝子がプレプロ-α-因子、MFα1およびMFα2をコードする。MFα 1は次の構造のポリペプチド中に埋め込まれた成熟α因子の4つのコピーを含む 前駆体ポリペプチドをコードする。すなわち疎水性プレ配列/親水性プロ配列/ α因子/α因子/α因子/α因子である。MFα2は成熟α因子のコピーを2個 しか含まない同様な構造のポリタンパク質前駆体をコードする。 プレ-プロ-α-因子は細胞質中で合成されてから、その細胞質から小胞体に輸 送され、そしてS.Cerevisiaeの古典的分泌経路を経てゴルジに輸送される。プ レプロ-α-因子のシグナル配列はシグナルペプチダーゼによるERへの移動中に 切断され、アスパラギンと結合したオリゴ糖が加えられ(ER中で)、分泌経路 を移動するときに前駆体のプロセグメント上に(ゴルジ中で)修飾される。ゴル ジに到着すると、タンパク質分解の3つの歴然としたプロセスが起こる。第1に 、Kex2プロテアーゼが各α因子リピートのアミノ末端近くの二塩基残基(− KR−)で切断する。Kex2は哺乳動物細胞におけるフェロモンプロセシング に関与するズブチリシン様のエンドプロテアーゼPC2及びPC1/PC3に相 同である(Smeekensとsteiner、1990年; Nakayamaら、1991年)。その他の哺乳 動物Kex2様プロセシングをするエンドプロテアーゼとしては、ヒト肝細胞ガ ン[hepatoma]から単離されるPACE、睾丸性生殖細胞中に発現されるPC4 、消化管ペプチドのプロセシングのための候補プロテアーゼのPC6がある(Ba rrら、1991年; Nakaykamaら、1992年; Nakagawaら、1993年)。Kex2様タン パク質は哺乳動物細胞内の組織特異性エンドプロテアーゼの大きなファミリーを なすものと考えられる。 Kex2が未成熟α因子ペプチドを放出し終わると、2種の別のプロテアーゼ が作用してプロセシングを完結する。Kex1は、Kex2による切断後に残っ たカルボキシ−末端−KRを切除する特異性カルボキシペプチダーゼである。そ の哺乳動物の対応するカルボキシペプチダーゼBとEのように、Kex1はカル ボキシ−末端の塩基性残基を有するペプチド基質にきわめて特異的である。生ず る最終的なタンパク質分解プロセシングは、各α因子ペプチドのアミノ末端にお けるシングペーサージペプチドの切除である。これはSTE13遺伝子の生成物 、 ジペプチジルアミノペプチダーゼAによって完成される。この酵素はIV型ジペプ チジルアミノペプチダーゼで、インビトロで−x−A−または−x−p−部位の いずれか一方のカルボキシル側を開裂することができる。 その他のIV型ジペプチジルアミノペプチダーゼは動物細胞中のさまざまなプレ ペプチドのプロセシングにおいて活性であると考えられている(Kreil 1990)。 また、酵母Kex1とKex2ならびにそれらの哺乳動物対応物間には、天然[ native]酵素を欠く哺乳動物細胞中に発現するときは、両方の酵母酵素はタンパ ク質分解により内因性前駆体を開裂するという点で機能的に類似していると考え られることが証明されている(Thomasら、1988年、1990年)。それなら酵母プロ テアーゼKex1、Kex2およびSte13pの哺乳動物同族体が酵母中に発 現するとき、それらは適当な開裂部位のある合成α因子フェロモン前駆体をプロ セシングするように機能する可能性があるように考えられる。酵母中でそのよう に機能すると考えられるヒトプロテアーゼにはPC2およびPC1/PC3(そ の他のKex2同族体),カルボキシペプチダーゼBおよびE(Kex1同族体 )、そしてIV型ジペプチジルアミノペプチダーゼ(Ste13p同族体)がある 。 酵母は合成α因子をプロセシングすることができるプロテアーゼのインヒビタ ーを発見するための安易な分析系を提供する。酵母は潜在的インヒビターおよび 外因性プロテアーゼの双方を発現するように操作することができるし、好ましく は後者の酵母同族体を発現しないように操作することもできる。 さらにプロテアーゼインヒビターを同定する酵母フェロモンプロセシングを利 用するこの手段は、適当な開裂認識部位が合成α因子前駆体中にあるならば、酵 母中で機能するように発現することができるプロテアーゼを包含するように拡張 することもできる。この後者のアプローチにおいては、新規のタンパク質分解作 用が酵母に加わり、これらの酵素はα因子成熟経路中でプロテアーゼの代わりに なるのであって、Kex1、Kex2またはSte13pの「触媒同族体」にな るのではない。成熟α因子の生成は選択された酵母酵素を認識する部位を合成M Fα遺伝子から切除し、その新規なプロテアーゼを認識する配列を挿入すること によって新規なプロテアーゼの活性に依存することができるようになる。 こうした戦略を介してインヒビターを同定することができる酵素には、例えば 、HIV−1プロテアーゼその他の伝染性パーティクルの成熟に関与するウイル シングでコードされるプロテアーゼ、肺疾患[pulmonary disease]および炎症 性腸疾患に関与すると信じられている好中球エラシングターゼ、トロンビン作用 障害および血液凝固障害に関係するXa因子、およびジペプチジルペプチダーゼ IVでCD4+細胞のHIV−1の推定上の第2受容体であるCD26がある。、 また、腫瘍細胞による組織侵潤や転移に関与する金属プロテアーゼ(例、コラゲ ナーゼ)およびセリンプロテアーゼは適切な治療ターゲットである。これを支持 するものとして、金属プロテアーゼの組織由来インヒビターの投与は動物モデル において転移を減少させる結果をもたらした(Schu1tzら、1988年)。コラゲナ ーゼもまた慢性関節リウマチのような炎症性プロセシングを伴う結合組織の破壊 に関係している。 本発明をプロホルモンコンバーターゼ[prohormone convertase]PC1の調 節因子を求めてスクリーニングする利用法については図8に記載してある。 外因性ABC輸送体 細胞外環境に輸送されるべく運命づけられている大半のタンパク質は、細胞質 における翻訳開始、小胞体の管腔への輸送、ゴルジを介しての分泌小胞への通過 、その後の細胞からの排出という分泌経路を経る。その他のタンパク質は、「A BC輸送体」による媒介を含む別のメカニズムによって細胞を離れる。ABC輸 送体は進化論的に保存されたタンパク質のファミリーを形成し、同じような全体 的構造をなし、細胞膜を通して大や小の分子の輸送に関与する(Higgins 1992年 )。このタンパク質ファミリーのメンバーの特徴的成分はATPに結合するよく 保存された配列である(Higginsら、1986年、Hydeら、1990年)。これらの内在 膜タンパク質は、そのヌクレオチドの加水分解からエネルギーを得て分子を輸送 するATPアーゼである。このファミリーは、アミノ酸、糖、オリゴ糖、イオン 、重金属、ペプチドの輸送体である50以上の原核および真核のタンパク質、ま たはこのスーパーファミリー[superfamily]に属する他のタンパク質を含む。 代表的 なトランシングメンブラン輸送体は表1に示してある。典型的にはABC輸送体 がATP加水分解のエネルギーを使って濃度勾配により細胞膜を通して基質をポ ンプする。いくつかは基質を取り込み、他はそれを排出する。Higgins、Ann.Re v.Cell,Biol.,8:67-113(1992)参照。 ABC輸送体の原型構造は、各々が膜を6回横切るものと予測されている推定 上の2つの疎水性の膜スパニング配列と、輸送のためにATP加水分解に結合す る2つのヌクレオチド結合ドメインとからなる、膜関連の4つのドメインを含ん でいる。原核生物においては、ABC輸送体のドメインは別々のポリペプチドに 存在することが多い。ドメイン融解のさまざまな並べ換えが記載されている。す なわちE.coliのヒドロキサム酸鉄輸送体は1個のペプチド中に2つの膜スパニ ングドメインを有しており、同じ生物体のリボーシング輸送体は1個の分子に2 つのヌクレオチド結合ドメインを有している。主要組織適合遺伝子複合体[majo r histocompatibility complex](MHC)ペプチド輸送体は、Tap1、Ta p2という2つのポリペプチドからなる。各タンパク質のN末端は疎水性の膜ス パニングドメインを有するが、C末端はATP結合配列を有している。Tap1 とTap2は一緒になって機能的複合体を形成する。分裂酵母シゾサッカロマイ セス・ポンベ[Schizosaccharomyces pombe]中に発現された耐重金属タンパク 質のHMT1は、1個の疎水性ドメインとC末端ATP結合配列を有するポリペ プチドからなる(Ortizら、1992年)。HMT1輸送体はホモダイマーとして機 能するものと考えられる。サッカロマイセス・セレビシエ[Saccharomyces cere visiae]Ste6のa因子輸送体が、2つの膜スパニングドメインと2つのヌク レオチド結合ドメインを有する1個のポリペプチドとして発現される。Ste6 が2つの半分子[half-molecule]として発現するとき、明らかに形成されるタ ンパク質複合体は、野生型のポリペプチド1個の機能より50%大きいレベルを 保持する(BerkowerとMichaels、1991年)。Mdr1,CFTR、MRPなどそ の他の真核ABC輸送体でも、4つのドメインがポリペプチド1個の中に含まれ ている。こうしてABC輸送体はたった1個のマルチドメインポリペプチドであ るのか、あるいは各々が1つまたは2つのドメインを有する2つまたはそれ以上 のポリペプ チドからなるのかもしれない。 一般に輸送体は疎水性ドメイン各々につき6つのトランスメンブランセグメン トを有し、全体で12のセグメントとなっている。トランスロケーション複合体 の形成にとって必要なトランスメンブランセグメントの最小数は10であると考 えられる。したがってS.チフィムリウム[S.typhimurium]のヒスチジン輸送体 は、その疎水性ドメインの各々からのN末端トランスメンブランセグメントを欠 いているので、ドメイン1つにつき5つのトランスメンブランセグメントを有し ている(Higginsら、Nature 298,723-727(1982)。E.coliマルトース輸送体 のMalFタンパク質は、2つの追加のトランスメンブランセグメントでこの疎 水性ドメインにつき全体で8つのトランスメンブランセグメントを有する疎水性 配列のN末端延長体を有している(Overduinら、1988年)。しかし、このN末端 延長体はこの輸送体の機能を失うことなく切除することもできる(Ehrmannら、1 990年)。機能トランスロケーターの形成に必要なセグメント数はこうした研究 によって示唆されてはいるが、トランスメンブランセグメント自体の正確な構造 に関するデータは存在しない。これらの配列はαらせん形をもっていると推定さ れているが、まだ証明されたわけではなく、形質膜内のトランスロケーション複 合体の全体構造はまだ解明されていない。 脂質二重層をスパンするには最低20個のアミノ酸が必要で、トランスメンブ ランセグメントを形成すると考えられている配列は疎水性スケール[hydrophobi city scale]を使って同定されている。疎水性スケールは個々のアミノ酸残基に つき各分子の疎水度を示す値を出している(KyteとDoolittle、1982年; Englema nら、1986年)。こうした値は実験データ(種々の溶剤中でのアミノ酸の溶解度 測定、可溶性タンパク質中での側鎖の分析)および理論上の考察に基づくもので 、合理的な精度で新規の配列中の2次構造を予想することを可能にしている。疎 水性測定を使った分析は、トランスメンブランらせんと一致している疎水的特性 を有するタンパク質配列のストレッチがあることを示す。 僅かの例外を除いて、2種の異なる輸送体のトランスメンブランドメイン間に はアミノ酸配列上の有意な類似性は殆ど、あるいは全く見られない。こうした配 列類似性の欠如は、それら疎水性ドメインの見かけ上の機能に矛盾するものでは ない。これらの残基は、形質膜を通過すると考えられている疎水性αらせん構造 を形成することができるにちがいないが、多くのアミノ酸残基は疎水性でαらせ ん形成に貢献することができる。 まだ説明できないことであるのだが、相当程度の配列類似性が酵母STE6、 ヒトMDRおよびE.coli HlyBヘモリシン輸送体のトランスメンブランドメ インを比較して認められている([Grosら、Cell 47,371(1986);McGrathとV archavsky,Nature 340,400(1989);Kuchlerら、EMBO J.8,3973(1989)] 。その他の配列類似性は、げっし類動物P−糖タンパク質のトランスメンブラン ドメインの場合のように、遺伝子重複で説明することができる(Endicottら、19 91年)。S.typhimuriumのヒスチジン輸送体のトランスメンブランドメインはア グロバクテリウム・ツメファシエンス[Agrobacterium tumefaciens]のオクト ピン取込系のそれと相同性を有している。後者の2つの輸送体は化学的に類似の 基質を移送(トランスロケート)する(Valdivaら、1991年)。 突然変異輸送タンパク質の研究は、基質の認識におけるトランスメンブラン配 列の役割に向けられている。こうしてp-ニトロフェニル-α-マルトシドをトラ ンスロケートする能力を得るE.coli中のマルトース輸送体は、トランスメンブ ランドメインに変異を有する(Reyesら、1986年)。MDRのトランスメンブラ ンセグメント11における突然変異はその輸送体の基質特異性を変化させること 、またCFTRのトランスメンブランドメインにおける荷電残基の突然変異は、 そのイオン選択性を変化させることが確認されている(Andersonら、1991年)。 輸送機能に関係する膜外のループ配列についていくつかの側面が解明されつつ ある。多数の細菌輸送体中には、トランスメンブランセグメント4、5に結合す る細胞質ループ上の短い保存されたモチーフ[motif]が存在する。この配列は これら輸送体タンパク質のATP結合ドメインと相互反応すると仮説的に考えら れている。この保存された配列の突然変異は輸送機能を無くする(Dassa 1990年 )。細胞質ループもまた基質認識に関係するものかもしれない。このように酵母 a因子輸送体のトランスメンブランセグメント7および12に続く配列は、a因 子受 容体Ste3pの配列に類似し、フェロモン基質と相互反応することができる( Kuchlerら、1989年)。実際、細胞質ループにおける突然変異は所与の輸送体の 基質特異性を変えることが知られている。トランスメンブランセグメント2と3 の間のループにあるヒトMDRのG185V突然変異は、その輸送体のビンブラ スチンおよびコルヒチンとの相互反応を変える(Choiら、1988年)。 ATP結合ドメインは約200のアミノ酸長で、異なる輸送体からのドメイン は通常、30〜50%の配列同一性となっている。保存された配列は多数のヌク レオチド結合タンパク質と連係する「ウォーカーモチーフ」[Walker motifs] を有している。Walkerら、EMBO J.1:945-951(1982)。配列保存はATP結合 ドメインの長さを超えて伸び、ウォーカーモチーフに限定されない。また1輸送 体のATP結合ドメインどうしは、2つの別の輸送体からのドメインよりも大き い配列同一性を示す。しかし保存されたATP結合ドメインを有するタンパク質 の全部が輸送に関与するものではない。細胞質酵素UvrAはDNA修復におい て機能し、酵母のEF−3タンパク質は延長因子である。それでもこれらタンパ ク質双方は配列比較によって同定可能なATP結合カセットを有している。 ATP結合ドメインはきわめて親和性で、輸送体の場合、これらタンパク質の 膜スパンニングドメインと会合することによって膜の細胞質面に在留してしまう ように見える。トランスメンブランドメインとATP結合ドメインとの間で相互 反応する点については未だ実験的に決定されていない。ヌクレオチド結合ドメイ ン構造モデルは、ループ配列が構造体の核から伸びて膜を通過する親水性配列と インターフェイスすることを示している(Hydeら、1990年; Mimuraら、1991年) 。1つはアデニル酸シクラーゼに、もう1つはras p21構造に基礎をおく 2つの構造モデルが、加水分解中にATPと相互反応するように位置するウォー カーAモチーフ(グリシンに富むループ)をもつ5つのβシートからなる1つの コアヌクレオチド結合折り畳みを予言している。また、ループ構造(1モデルで は2つのループ、もう1つのモデルでは1つの大きいループ)は、核から伸びて ATP結合ドメインを輸送体の別のドメインに結合するものと予言されている。 結合配列は、最も普通にはコンフォメーション変化を介して、ATP加水分解の エ ネルギーを輸送に関係する分子のタンパク質に伝達する。 Ste6機能が交配に必要であるが、このタンパク質は酵母が生き残るには必 要でない(WilsonとHerskowiz、1984年; Kuchlerら、1989年; McGrathとVarshav sky、1989年)。Ste6は構造的に哺乳動物MDRに相同である。しかも2種 の哺乳動物MDRタンパク質、すなわちネズミMdr3とヒトMdr1は、ST E6のために切除される細胞中の酵母輸送体を機能的に代替することが証明され ている(Raymondら、1992年; KuchlerとThorner、1992年)。STE6のために 切除された酵母株は、外因性ABC輸送体の機能をモジュレートする化合物を捜 し出すスクリーニング設計の開始点となる。 ABC輸送体機能のモジュレーターを同定するには2つの異なる酵母スクリー ニングを使うことができる。1例ではa因子を輸送する哺乳動物タンパク質が輸 送体機能の潜在的インヒビターをターゲットとして働く。このように酵母株はa 因子の輸送体中に酵母Ste6タンパク質を代替する例えば哺乳動物MDR1の ような機能的輸送体を発現するべく操作される。しかもこの株はオートクリン的 に、すなわち例えば細胞がガラクトース含有の媒体上に生育することができない ように、a因子に応答するように操作される。こうしたネガティブセレクション は、GAL7またはGAL10遺伝子の突然変異体を含む株のバックグラウンド においてフェロモン応答プロモーターの制御下でGAL1遺伝子を発現すること に依存性である。上記のような株バックグラウンドでのガラクトース存在下にお けるGAL1の発現は細胞に有毒である。a因子輸送体が存在しないときはフェ ロモン応答経路をシグナルが伝わることは、有毒遺伝子の結果的発現が止まるの と同様に止まってしまうだろう。テスト化合物の存在下、または特異的ランダム ペプチドの発現後即時の細胞成長は、輸送機能の阻害および潜在的治療の同定を シグナル発信するだろう。 MDRインヒビターに加えて、a因子のa因子受容体との相互反応の障害とな る化合物を同定することができる。このような化合物は、野生型Matα株にお けるa因子由来の生育停止の阻害によって識別することができる。化合物はまた フェロモン応答経路上の別の箇所で衝突してシグナル送信を阻害するかもしれず 、 このような化合物は野生型Matα株でのシグナル伝達を阻止するであろう。 2番目のスクリーニングでは、a因子またはa因子様ペプチドを輸送すること が最初からできない突然変異体の異種輸送体(例、突然変異体CFTR)が内因 性Ste6のために切除されたオートクリン酵母中に発現させることができる。 これらの細胞は、細胞が産生するa因子に対するオートクリン応答ができるであ ろう。こうしてフェロモン応答プロモーターは選択培地で生育する能力を付与す る遺伝子の発現をコントロールする。このような細胞は輸送体の欠点を訂正する 化合物を同定することを可能にし、細胞外空間にフェロモン類似体を排出する機 能をそれに付与する。こうして突然変異体タンパク質を安定させ、正常のプロセ ス、輸送、形質膜への局在化および機能を可能にする、治療的ペプチドその他の 種類の化学的化合物を同定することができる。この方法は成功すれば、遺伝子治 療において予想されるように、欠陥の処理訂正及び/又は所在探知によって突然 変異体タンパク質の機能を回復することによって、ある種の突然変異体遺伝子を 正常配列と「交換」する必要性をなくすることもできる。 突然変異輸送体の「アクチベーター」に加えて、内因的に発現されたフェロモ ンによる輸送がないときにa因子受容体からシグナル送信を開始することができ る化合物も同定することができる。このような化合物は野生型Matα株におけ る生育停止の原因となる能力によって識別される。化合物はまた、フェロモン経 路上の別の箇所に衝突し、a因子の存在しないときに野生型Matα株中にシグ ナル発信開始する能力を介して識別することができる。 好ましい実施例では、酵母細胞によって産生される外因性タンパク質は表1に 挙げた外因性ABC輸送体のうちの1つとなっている。 外因性G-タンパク質結合受容体 疾患を癒したり症状を解消したりする薬物にとっては、場合により薬物は適切 な細胞に輸送され、的確な「スイッチ」を作動しなければならない。細胞のスイ ッチは「受容体」と呼ばれる。ホルモン、成長因子、神経伝達物質その他のたく さんの生体分子は正常時には、特異的細胞受容体と相互反応することにより挙動 し ている。薬物は所望の薬効をもたらすため特定の受容体を活性化したりブロック したりする。細胞表面受容体は「外部」シグナル(リガンドの受容体への結合) の伝達を「内部」シグナル(細胞質代謝経路のモジュレーション)に媒介する。 多くの場合、伝達は次のシグナル送信カスケード手順で行われている。 ・ アゴニスト(リガンド)が特定のタンパク質(受容体)の細胞表面に結合 する。 ・ リガンド結合の結果、受容体はその細胞膜中における伝達タンパク質を活 性化させるアロステリック変化を呈する。 ・ 細胞内で形質導入タンパク質が所謂「二次メッセンジャー分子」の生成を 活性化する。 ・ この二次メッセンジャー分子が、特定の遺伝子を「スイッチオン」または 「オフ」する力がある細胞内で一定の調節タンパク質を活性化するか、ある代謝 過程を変更する。 こうした一連の過程は各々の細胞応答をするため特定の方法で結合されている 。特定のリガンドに対する応答は、細胞が発現する受容体如何に依存している。 、例えば、αアドレナリン性受容体を発現する細胞中のアドレナリンに対する応 答は、βアドルナリン性受容体を発現する細胞中での応答とは反対のものとなる 。 上記の「カスケード」は単純化された手順なのであって、その変形が実際には 行われる。例えば、受容体はそれ自身の伝達タンパク質として挙動するとか、伝 達タンパク質が「二次メッセンジャー」の仲介なしに細胞内のターゲットに直接 作用するなどである。 真核細胞に見られるシグナル伝達カスケードの1ファミリーは、ヘテロトリマ ーの「G-タンパク質」を利用する。たくさんの異なるG-タンパク質が受容体と 相互反応することが知られている。G-タンパク質のシグナル送信系には3要素 がある。受容体自体、GTP結合タンパク質(G-タンパク質)、そして細胞内 ターゲットのタンパク質である。 細胞膜はスイッチボードとしての機能をする。異なる受容体から到着するメッ セージは、その受容体が同一型のG-タンパク質に作用するのであれば、単一の 効果を生ずることができる。一方、1個の受容体を活性化するシグナルは、その 受容体が異なる種類のG-タンパク質に作用するのであれば、あるいはそのG-タ ンパク質が異なるエフェクターに作用することができるのであれば、2以上の効 果を生起することができる。 それらが静止している状態では、α、β、γのサブユニットからなるG-タン パク質は、ヌクレオチドのグアノシン二リン酸(GDP)と複合されたもので、 受容体と接触している。ホルモンまたはその他の一次メッセンジャーが受容体に 結合すると、その受容体はコンフォメーションを変化させ、これはそのG-タン パク質との相互反応を変える。これはαサブユニットをしてGDP、さらに一層 豊富なヌクレオチドのグアノシン三リン酸(GTP)を放出するように刺激し、 G-タンパク質を活性化してそれと交替する。するとG-タンパク質は解離しαサ ブユニットをなお複合しているβおよびγサブユニットから分離させる。経路次 第でGαサブユニットまたはGβγ複合体のいずれかが、エフェクターと相互反 応する。このエフェクター(しばしば酵素である)は次に、不活性前駆体分子を 細胞質を介して拡散する活性の「二次メッセンジャー」に変換し、代謝カスケー ドをトリガーする。数秒後、GαはGTPをGDPに変換し、これによってそれ 自体を不活性化する。不活性化されたGαはGβγ複合体と再び会合する。 何千とまでは言わないまでも何百という受容体が、ヘテロトリマーのG-タン パク質経由でメッセージを伝達するのであるが、そのうち少なくとも17個の明 確な形が単離されている。最大の可変性はαサブユニットにおいて見られるもの であるが、いくつかの異なるβとγの構造についても報告されている。またいく つかの異なるG-タンパク質依存性エフェクターもある。 大半のG-タンパク質結合受容体は形質膜を7回貫通する1本のタンパク質鎖 でできている。このような受容体は7トランスメンブラン受容体[seven-transm embrane receptor](STR)と呼ばれることが多い。同一リガンドに結合する 多数の全く異なった受容体など百種以上のさまざまなSTRが発見されており、 さらに多数の別種のSTRが発見されようとしている。 またその天然のリガンドが知られていないSTRも同定されている。こうした 受容体は「孤児」G-タンパク質結合受容体と呼ばれる。例えばNeoteら、Cell 7 2,415(1993);Koubaら、FEBS Lett.321,173(1993);Birkenbachら、J.V irol.67,2209(1993)によりクローニングされた受容体などがある。 本発明の「外因性G-タンパク質結合受容体」は、本発明の目的のために遺伝 子操作される野生型の酵母細胞にとって外因性のG-タンパク質結合受容体の全 てを指す。このような受容体は植物または動物の細胞受容体であろう。植物細胞 受容体への結合のためのスクリーニングは、例えば除草剤の開発にとって有益で あろう。動物の受容体の場合は、無脊椎または脊椎の動物由来となろう。無脊椎 受容体なら、昆虫受容体が好ましく、これは殺虫剤の開発に役立つであろう。受 容体はまた、脊椎動物のそれであってもよく、好ましくは哺乳動物の受容体で、 最も好ましくはヒト受容体である。外因性受容体はまた、7トランスメンブラン セグメント受容体も好ましい。 適切な受容体としては、これらに限定する意味ではないが、ドーパミン性、ム スカリン的コリン作用性、αアドレナリン性、βアドレナリン性、オピオイド( δ及びμを含む)、カナビノイド、セロトニン性、およびGABA性の受容体が ある。これら以外の適切な受容体は表2に挙げてある。ここに「受容体」と言う ときは、自然発生のもの突然変異発生のもの双方を含む意である。 これらG-タンパク質結合受容体の多数は、酵母のa因子およびα因子受容体 のように、形質膜内に存在すると推定される7つの疎水性アミノ酸に富む領域を 有している。遺伝子が単離されたもので、発現ベクターが構築される具体的なヒ トG-タンパク質結合STRも表2に挙げられたものの中にある。このようにそ れらの遺伝子は酵母中で機能するプロモーターに、また酵母中で機能するシグナ ル配列に制御可能に連結される。適切なプロモーターとしてはSte2,Ste 3、およびgal10がある。適切なシグナル配列としてはSte2,Ste3 、その他酵母細胞により分泌されたタンパク質をコードする遺伝子の配列がある 。好ましくは遺伝子のコドンは酵母中での発現に最適化されているのがよい。Ho ekemaら、Mol.Cell.Biol.,7:2914-24(1987);Sharpら、14:5125-43(1986 )参照。 STRの相同についてはDohlmanら、Ann.Rev.Biochem.,60:653-88(1991) に論述がある。STRを比較すると、相同性のはっきりした空間的パターンが判 別できる。トランスメンブランドメインは、しばしば最も類似しているが、N末 端領域とC末端領域ならびにトランスメンブランセグメントVとVIとを接続して いる細胞質ループは、より多様である。 異なるSTR領域の機能的意味については点変異(置換と欠失の両方)を導入 することによって、また異なるが関連のあるSTRのキメラを構築することによ って研究されてきた。個々のセグメントに対応する合成ペプチドについてもその 活性につきテストされている。アフィニティラベルがリガンド結合部位を同定す るのに利用されている。 酵母中に発現される外来の受容体は酵母膜中に機能的に融合し、そこで外因性 酵母G-タンパク質と相互反応する、と考えられる。より可能性があるのは、受 容体が修飾される必要があるか(例、そのV−VIループを、酵母STE2または STE3受容体のループと置き換えることによって)、あるいは共存可能なG- タンパク質が供給されるか、である。 野生型の外因性G-タンパク質結合受容体が酵母中で機能的にすることができ ないときは、それをこの目的のために突然変異させる。外因性受容体のアミノ酸 配列および酵母受容体のアミノ酸配列について比較し、同定された相同性が高低 の領域を比較する。その後、試験的突然変異を行ってリガンドまたはG-タンパ ク質の結合に関与する領域を膜中における機能的融合に必要な領域から識別する 。それから外因性受容体を後者の領域中で、機能的融合が行われるまで、その酵 母受容体に一層近似するものに突然変異させる。機能達成にとってこれが十分で ないときは、突然変異はG-タンパク質結合に関与する領域で行われる。リガン ド結合に関与する領域で行われる突然変異は最後の手段としてのみ行われ、保守 的代替物を可能な限り生成することによってリガンド結合を保存するようにする 。 好ましくは酵母ゲノムは、内因性a因子およびα因子の受容体を機能的形で生 成することができないように修飾される。そうしないとポジティブ分析スコアは 、問題の受容体ではなく、内因性G-タンパク質結合受容体を活性化するペプチ ド の能力を反映するものになるかもしれない。 G-タンパク質 PSP代用物が外因性G-タンパク質結合受容体であるときは、酵母細胞は、 その外因性受容体に活性化され、次に酵母エフェクターを活性化することができ るG-タンパク質を産生することができるものでなければならない。内因性酵母 G-タンパク質が、外因性受容体とネイティブに会合してカップリングを起こす 「同族」のG-タンパク質に十分に相同となることは有り得ることである。しか しより有り得ることは、外因性受容体と的確に相互反応することができる外来G αサブユニットを産生する酵母細胞を遺伝子操作することが必要であるというこ とであろう。例えば酵母G-タンパク質のGαサブユニットが、外因性受容体と ネイティブに会合していたGαサブユニットによって(あるいはそれと同族のG αサブユニットと実質的に相同のタンパク質によって)置き換えられるのである 。 DietzelとKurjan、Cell,50:1001(1987)はラットGαが酵母Gβγ複合体に 機能的に結合されることを証明した。しかしラットGai2は、かなり過剰発現 しているときしか相補せず、GaOは全く相補しなかった。Kangら、Mol.Cell .Biol.,10:2582(1990)。したがってある種の外来Gαサブユニットでは、酵 母Gαを簡単に置き換えることはできそうもない。 好ましくは酵母Gαサブユニットは、例えば少なくとも20アミノ酸、より好 ましくは少なくとも40アミノ酸の、その酵母Gαのアミノ末端の対応する残基 と実質的に相同なタンパク質が、哺乳動物(またはその他の外因性)Gαの本体 [main body]と実質的に相同な配列に融合されているキメラGαサブユニット によって置き換えられるのがよい。40アミノ酸は示唆される1開始点ではある が、酵母Gβγに結合するのに必要な最短長および外因性受容体への結合を保持 共存する最大長を決定するのに、これより短いか長い部分もテストされてよい。 現時点では、Gαサブユニットのカルボキシ末端にある最終の[final]10な いし20のアミノ酸だけが受容体との相互反応にとって必要とされていると考え られている。 このキメラGαサブユニットは外因性受容体および酵母Gβγ複合体と相互反 応し、それによってシグナル伝達を可能にしている。内因性酵母Gβγの使用が 好ましいのであるが、外来のまたはキメラのGβγがシグナルを酵母エフェクタ ーに伝達することができるものなら、それを代わりに使うことも可能である。 タンパク質キナーゼ マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPキナーゼ)およびそのアクテ ィベータのMAPキナーゼキナーゼ即ちMEKは、哺乳動物細胞における細胞内 シグナル伝達に関する主要分子であると考えられている。MAPK、セリン/ス レオニンタンパク質キナーゼ,の活性は、チロシンとスレオニンの残基における 二重に特異的なMEKによるそのリン酸化に依存することが証明されている。次 にMEK活性は、ある系におけるその機能がプロト腫瘍遺伝子産物Raf1pに よって行われる第三のキナーゼ、MAPキナーゼキナーゼキナーゼ、即ちMEK K、によるセリンとスレオニンに対するそのリン酸化に依存する。 S.cerevisiaeフェロモンシグナル送信経路の必須部分は、STE11,ST E7,およびFUS3/KSS1遺伝子(後の対は全く異なり、機能的に余分で ある)の産物からなるタンパク質キナーゼカスケードからできている。機能に関 する研究は、活性がSTE11pによるそれのリン酸化によって調節されるST E7pによるチロシンおよびスレオニンのリン酸化に対するFUS3p活性の依 存性を確認している。タンパク質キナーゼCに応答する第2のタンパク質キナー ゼカスケードは、S.cerevisiae中に同定されている。この経路が妨害されると 、酵母細胞は低い浸透圧によって成長能を失う。その成分は交配経路カスケード の成分と同程度にまで性格付けされていないが、配列分析はBCK1pがMEK Kであること、MKK1p/MKK2pはMEKであること、そしてMPK1p はMAPKであることを同定している。 キナーゼのシグナル経路は真核生物中に保存されていると思われる。したがっ て有意の配列相同性がゼノパス[Xenopus]MAPキナーゼと次の酵母キナーゼ 遺伝子、即ちFUS3,KSS1,MPK1(S.cerevisiae),およびSpk 1 (Schizosaccharomyces pombe)の産物との間に見られる。また哺乳動物MEK はSTE7(S.cerevisiae)とByr1(S.pombe)の産物に相同であること が発見されている([Crewsら、Science 258,478(1992)])。ある種のキナ ーゼ間の機能的な相同性は、酵母キナーゼ欠失突然変異体で異種キナーゼ遺伝子 を置き換えることによって確認されている。このようにXenopus MAPキナーゼ はS.cerevisiae中でのmpklΔ突然変異体を相補する(しかしこのキナーゼは同 じ生物中におけるFus3pまたはKss1p機能を代替しない)([Leeら、M ol.Cell.Biol.13,3067(1993)]。哺乳動物およびXenopus MAPキナーゼ はS.pombe中におけるSpk1機能を代替する([Neimanら、Molec.Biol.Cel l.4,107(1993);Gotohら、Molec.Cell.Biol.13,6427(1993)]。ウサ ギMAPキナーゼキナーゼはS.pombe中のbry1欠陥を相補するが、それはR af1キナーゼと共に発現したときだけである。したがって後者はMEKの直接 のアクティベータと思われる(Hughesら、Nature 364,349(1993)。 ヒトMEKのモジュレーターをスクリーニングするために本発明を実施するこ とについては実施例9に記載している。 サイクリン 哺乳動物タンパク質キナーゼファミリーの別のメンバーで、細胞周期による進 化に活性なものが酵母での細胞周期キナーゼ突然変異体の相補性[complementat ion]によって同定されている。酵母中のDNA合成ならびに有糸分裂に向かう 進行を制御するタンパク質であるp34cdc2(S.pombe)およびp34cd c28(S.cerevisiae)のヒト相同体が、S.pombeにおけるcdc2突然変異 の相補によって同定されている([LeeとNurse、Nature 327,31-35(1987)] 。第2のヒトp34相同体のCDK2が、S.cerevisiaeにおけるp34cdc 28突然変異の機能相補によって同定されている([ElledgeとSpottswood、EMB O J.10,2653(1991)]。p34の活性化は、サイクリンと呼ばれる調節サブ ユニットとそれとの会合によって決まる。サイクリン発現の厳格な制御、および 一旦発現されたこれらタンパク質に固有の不安定性は、p34キナーゼの活性化 と細胞周期の進 行を調節することに貢献している。 多数の推定上のG1ヒトサイクリンが、フェロモンのシグナル経路における酵 母G1サイクリン、CLN1,CLN2,CLN3を代替する能力の有無で同定 されている。こうしてヒトサイクリンC,D,Eがcln酵母を生育停止から救 済する能力によって同定された([Lewら、Cell 66,1197(1991)]。その他の 種類のヒトサイクリンが酵母中のCLNタンパク質を機能的に代替することがで きることも証明されている。ヒトサイクリンA,B1,B2(有糸分裂の制御に 正常時に関係するサイクリン)も、S.cerevisiae中でG1サイクリンとして機 能する([Lewら、Cell 66,1197(1991)]。 ある種のサイクリンはp34キナーゼのレギュレーターを定期的に蓄積してい る(ヒト中にp34cdc2およびS.cerevisiae中にp34cdc28)。p 34キナーゼは酵母からヒトへ機能保存され、細胞がその細胞周期中の数箇所の チェックポイントを経て進行するようになっているならSTARTと呼ばれるも のも含めて、このスレオニン/セリン特異的タンパク質キナーゼの活性が必要と される。STARTはG1相の後期に現れる、静止状態と増殖状態との間の細胞 スイッチングポイントである。キナーゼは真核生物に機能保存されている調節サ ブユニットである特定のサイクリンと会合することによって細胞周期中の不連続 な時点で活性化される。3つのサイクリン、CLN1、CLN2,CLN3がS .cerevisiae中のSTARTを介する進行に操作すると考えられる(Hadwigerら 、1989年; Cross、1988年; Nash、1988年)。CLNタンパク質の配列は、哺乳 動物A-およびB-型サイクリンの配列にある程度相同である。これらのタンパク 質は哺乳動物細胞周期のS相(DNA合成)およびM相(有糸分裂)を調節する と考えられている。 異なる種で同定されたサイクリンタンパク質の配列比較は、一般に中央のサイ クリン配列を含むが、酵母G1サイクリンのアミノ末端付近に位置する約87残 基のドメイン内に高度の配列が保存された領域を示している。この保存されたド メインは「サイクリンボックス」と呼ばれる。殆どのサイクリンが分有する相同 の第2領域は、プロリン、グルタミン酸、セリン、スレオニン、およびアスパラ ギン酸の残基に富む、PESTモチーフと呼ばれる塩基性アミノ酸に囲まれたC 末端配列である(Rcogersら、1986年)。PESTモチーフは不安定なタンパク 質中に見られるもので、構成的なユビキチンに仲介された分解をシグナルするも のと考えられている。サイクリンAとBの分解は、他の哺乳動物サイクリンには 分有されていない異なった配列「分裂破壊[mitotic destruction]モチーフ」 (Glotzerら、1991年)経由でシグナルされる。 酵母CLNタンパク質とヒトA,B,C,D,Eサイクリンとの間で行われた 配列比較は、評価できる相同性が存在することを示している(Lewら、1991年) 。サイクリンボックスなどの最も保存された領域では、ヒトサイクリンCはヒト サイクリンD,Eおよび酵母CLNタンパク質の双方に対する18%の配列同一 性を示す。ヒトサイクリンD,Eは酵母CLNに対するよりもヒトA-およびB- 型サイクリンにより深く(33%の同一性)関係していると思われる。 今日までに同定されたヒトサイクリンは全て酵母サイクリンを機能的に代替す るであろう。実際、哺乳動物サイクリンC、D1およびEは酵母中の欠陥CLN 機能を相補する能力で同定されている(Lewら、1991年)。哺乳動物A-およびB -型サイクリンも酵母中のCLNタンパク質を機能的に代替するので、この能力 は哺乳動物サイクリンをG1中で挙動するものと決定的に特徴づけることができ ない。しかしサイクリンC,D1,Eは哺乳動物細胞中でG1に発現されること が証明されており、細胞周期中のサイクリンEの発現パターンは酵母G1サイク リンに見られる発現パターンと最も近い並列関係にあることが証明されている( Lewら、1991年、Koffら、1991年)。 哺乳動物細胞では、サイクリンC mRNAはG1中に初期に蓄積するが、サ イクリンEはその相の後期に蓄積する。DサイクリンmRNAレベルはヒト細胞 中に発現パターンを追跡するには不十分なので、このサイクリンの役割は明確で ない(Lewら、1991年)。マウス細胞では、D1遺伝子のCYL1が、G1相に 発現され、D1遺伝子はコロニー刺激因子1によって調節されるものと思われる (Matsushimeら、1991年)。D1サイクリンの発現はきわめて成長因子依存性で あるから、内部的細胞周期制御メカニズムの一部をなすものではなく、外部的シ グナルに対する応答によってだけ発生するものであろう(Scherr 1993年)。あ る種の副甲状腺アデノーマに過剰発現するPRAD1遣伝子は、D1遺伝子と同 一のものである(Motokuraら、1991年)。、D1は多形性神経膠細胞系統中に過 剰発現され(Xiongら、1991年)、遺伝子増幅による脱制御[deregulation]に 委ねられることが知られている(Lammieら、1991年; KeyomarsiとPardee、1993 年)。D1の脱制御は、ある種のリンパ腫、扁平上皮癌および乳癌に見られる未 解明のメカニズムにより生起される(Bianchiら、1993年)。このタンパク質は 細胞成長の活性化に関与するものであるから、この遺伝子の脱制御された発現は 癌的な事態と思われる。E-型サイクリンがヒト細胞におけるG1からSへの遷 移に機能することに関していくつかの証明がある。このサイクリンはG1中のヒ トリンパ球の抽出物中にあるp34cdc2タンパク質に結合し活性化するもの で、このタンパク質はHeLa細胞中のヒストンH1キナーゼ活性と会合し、サ イクリンE mRNAがHeLa細胞中の後期のG1に特異的に発現される(Le wら、1991年)。 p34 cdc2は種々の基質をリン酸化することにより細胞周期中の個別的 な遷移点で作用するものと仮説されている。こうしたリン酸化活性は、その細胞 の周期を通して差別的に発現されたサイクリンとのキナーゼの会合に明確に現れ ている。こうしたさまざまなサイクリンはキナーゼの基質特異性を変更するか、 あるいはその触媒効率を変更する(PinesとHunter,1990年)。cdc2キナー ゼの明らかに可能性が認められる基質は、細胞周期段階特異性の遺伝子転写を制 御する転写因子である。 酵母中の3種のCLN遺伝子のいずれか1つを破壊しても細胞成長にあまり作 用しないが、CLN遺伝子全部が破壊すると細胞はG1中で停止する。また、交 配フェロモンに応答してCLNタンパク質が阻害され、酵母細胞成長が停止する 。その産物はサイクリン活性を阻害する2種の遺伝子がS.cerevisiae中に同定 されている。FAR1およびFUS3遺伝子の産物は各々、CLN2およびCL N3の機能を阻害する。フェロモンのシグナルがあると、Far1pとFus3 pのレベルが高まり、G1サイクリンは蓄積せずCDC28pキナーゼが不活性 の まま止まり、細胞成長はG1中に停止する。観察すると、サイクリンタンパク質 のインヒビター、サイクリンとキナーゼとの産物会合のインヒビター、またはキ ナーゼのインヒビターは、細胞成長停止を助長できることが分かる。 比較してみると、阻害できないサイクリンは無制御の陽性成長レギュレータと して機能するように思われる。CLNタンパク質のハイレベルな発現は、酵母細 胞内にあって生死に係わる状態である。サイクリンD1の制御された発現が染色 体破壊、染色体の転座あるいは遺伝子増幅によって喪失してしまうことは、哺乳 動物細胞中の腫瘍原性を促進する(Xiongら、1991年; Lammieら、1991年; Bianc hiら、1993年)。またサイクリン発現の制御およびサイクリン機能の制御を阻止 する出来事は、G1チェックポイントのバイパス接続および細胞成長の調節不全 [dysregulate]につながるように思われる。細胞増殖を促進するようにG1中 で作動するサイクリンタンパク質は、細胞成長の制御を目的とする治療にとって 理想的なターゲットとなる。そのような治療の鑑識のための酵母経路中における 代替の候補となる代用タンパク質には、ヒトサイクリンC,D,およびEがある 。これらのタンパク質は全て、哺乳動物細胞周期のG1相中に正常時に発現する もので、増殖させる細胞にとっての仲介物として候補となるものである。 G1中に作用しS相への進入を阻止するものとして知られる化合物の例は、形 質転換成長因子β[transforming growth factor β](TGF-β)とラパマイ シン[rapamycin]である。免疫抑制剤ラパマイシンは、サイクリンE結合キナ ーゼの活性を阻害する。このマクロライドはIL-2-刺激されたTリンパ球の増 殖を阻止するようにG1中で作用する(Scherr 1993年)。TGF-βはミンク肺 の上皮細胞中でG1からS相への進行を阻止することが証明されている(Howeら 、1991年)。TGF-βは、たぶんキナーゼがサイクリンEと共に形成する複合 体の安定性を減殺することによって、キナーゼの活性化に干渉するものと思われ る(Koff 1993年)。 不活性CLN1,CLN2,CLN3遺伝子およびGal1プロモーター起動 のヒトCLN配列(DL1 cells、Lewら、Cell 66,1197(1991)参照)をコー ドする一体化されたキメラ遺伝子を有する酵母細胞株がテスター株として役立つ 。 Gal1プロモーターは、細胞がガラクトースの存在下で成長するときハイレベ ルな発現を可能にするが、このプロモーターは細胞がグルコース上で成長すると きは抑制される。このように操作された酵母細胞は機能サイクリンの発現がない ためグルコース上で生育できない。しかしこれらの酵母細胞はヒトサイクリン配 列の発現があるので、ガラクトースを含有する培地では増殖する。この株をサイ クリン機能のインヒビターにさらすと、ガラクトース培地上でも成長不能な細胞 をもたらす。つまり細胞はガラクトースの有無に拘わらず生育停止する。この表 現型は外因的に適用されたサイクリンインヒビターの存在を示すインジケーター の役割を果たすことができるが、ランダムペプチドライブラリーのメンバーから 候補インヒビターを同定するスクリーンとしては役立たないであろう。別の方法 で生育する集合体における細胞サブセットの生育阻止は、インジケーター系とし ては無益である。したがって哺乳動物サイクリンのランダムペプチドインヒビタ ーを同定するには、2段階のスクリーニングが必要と思われる。 (1)FieldおよびSong(Nature 340,245(1989))による記載の2つのハイ ブリッド系は、酵母中のタンパク質−タンパク質の相互反応を検出することがで きる。GAL4タンパク質はガラクトースで生育する酵母中での転写に係る有力 なアクティベータである。GAL4の転写活性化能力は、特異的DNA配列(U ASG)に結合することができるN末端配列、および転写アクティベータを有す るC末端ドメインの存在に左右される。タンパク質「A」をコードする配列は、 GAL4タンパク質のDNA結合ドメインをコードする配列に融合される。第2 のハイブリッドタンパク質は、GAL4トランスアクチベーションドメインをコ ードする配列をタンパク質「B」をコードする配列に融合することによって生成 することができる。タンパク質「A」とタンパク質「B」が相互反応すると、こ の相互反応はUASG含有遺伝子の転写を活性化するのに必要なGAL4の2つ のドメインの一体化に役立つ。両方のハイブリッドタンパク質をコードするプラ スミドを同時発現するほかに、この2ハイブリッド系を使ったタンパク質−タン パク質相互反応の検出にとって適切な酵母株は、UASG配列からの転写を検出 可能なGAL1−lacZ融合を有する。これらの株も内因性GAL4およびG AL4の 陰性レギュレータであるGAL80を欠失させるべきである。 上述の2ハイブリッド系の1変形例の中には、GAL4 DNA結合ドメイン がヒトサイクリン配列に融合するものも考えられる。また、ランダムペプチドを コードするオリゴヌクレオチドをGAL4トランスアクチベーションドメインを コードする配列に連結反応させることも考えられる。これら2つのハイブリッド タンパク質をコードするプラスミドで適当な酵母株を同時形質転換し、β−ガラ クトシダーゼを発現する酵母のためのスクリーニングをすることは、ヒトサイク リンとの相互反応が可能なランダムペプチド配列を発現する酵母を同定可能にす る可能性がある。この可能性があるペプチド同定こそ、このスクリーニングの第 1段階における目標である。 (2)問題のヒトサイクリンとの相互反応が可能なランダムペプチドが同定さ れたら、スクリーニングの第2段階に入る。第2段階はヒトサイクリンに結合す るだけでなく、その相互反応を介して細胞周期依存性キナーゼのサイクリンによ る活性化を阻害し、それによって細胞増殖を阻害するペプチドを同定することを 可能にする。このようにして候補ペプチドが、上述したようにしてCLN1,C LN2,CLN3を欠くがヒトCLN配列を発現する酵母中に、個々に発現され る。これらのペプチドは、その発現がガラクトースにおけるテスター株の生育を 許すものではないのであって、サイクリンインヒビターと考えることができる。 潜在的なサイクリンインヒビター同定のための、この2段階方式の利点は、第 1段階で選択されたランダムペプチド配列がヒトサイクリンタンパク質と相互反 応する高い可能性があることである。ガラクトースにおけるテスター酵母の生育 停止を誘発するという事後的に判定されるこの配列の能力は、生育停止がサイク リンに対するペプチドの直接的効果によるもので、例えば細胞周期依存性のキナ ーゼのような別のタンパク質の効果によるものではないことの強力な示唆である 。強力ではあるが、このような結果は決定的なものではなく、サイクリン機能に 対する阻害効果の証明がインビトロの生化学分析で得ることができるのであろう 。 スクリーニングと選択 マーカー遺伝子は、その発現がスクリーニング可能すなわち選択可能な表現型 変化を起こす遺伝子である。この変化が選択可能であるなら、表現型変化はマー カー遺伝子を発現する細胞とこれを発現しない細胞との間の成長率または残存率 における差をなす。またこの変化がスクリーニング可能であるなら、表現型変化 は細胞の検出可能な特徴に差をなし、これによってマーカーを発現する細胞はそ うでない細胞から識別できるであろう。選択(セレクション)の方がスクリーニ ングより好ましい。 マーカー遺伝子はマーカー遺伝子の発現がGタンパク質の活性に依存するよう に酵母フェロモン経路に結合され得る。この結合はマーカー遺伝子をフェロモン 応答プロモーターに制御可能に連結することによって行われる。「フェロモン応 答プロモーター」とは、必ずしもフェロモン自体ではなく、酵母フェロモンシグ ナル伝達経路の産物によって調節されるプロモーターをいう。1実施例では、こ のプロモーターはフェロモン経路によって活性化されるが、この場合は選択にと って、マーカー遺伝子の発現はその細胞にとって有益な結果となる。好ましいマ ーカー遺伝子はイミダゾールグリセロールリン酸デヒドラターゼ(HIS3)で ある。フェロモン応答プロモーターが有益な遺伝子に制御可能に連結されたら、 その細胞はアゴニストをスクリーニングするか選択するのに有益であろう。逆に 有害な遺伝子に連結された場合には、その細胞はアンタゴニストをスクリーニン グまたは選択するのに有益となる。 あるいは、フェロモン経路によって抑制されるものでもよい。この場合はその 細胞にとって有害な産物の発現を阻止する。フェロモン抑制プロモーターのとき は、このプロモーターを有害遺伝子に連結することによってアゴニストをスクリ ーニングし、あるいは有益遺伝子に連結することによってアンタゴニストをスク リーニングする。 抑制は、フェロモン誘発プロモーターを、mRNAの翻訳を阻害するように( コードする領域であるか近接領域であるかに無関係に)マーカー遺伝子にコード されたmRNAの少なくとも一部分にアンチセンスなmRNAをコードする遺伝 子に制御可能に連結することによって行われる。抑制はまたフェロモンにより誘 導されるプロモーターをDNA結合リプレッサータンパク質をコードする遺伝 子に連結し、適当なオペレーター部位をそのプロモーター中またはマーカー遺伝 子の別の適当な領域に組み込むことによって行うことができる。 陽性として選択(ポジティブセレクション)可能な適当な遺伝子には次のもの がある。URA3、LYS2、HIS3、LEU2、TRP1;ADE1、2、 3、4、5、7、8;ARG1、3、4、5、6、8;HIS1、4、5;IL V1,2,5;THR1,4;TRP2,3,4,5;LEU1,4;MET2 、3、4、8、9、14、16、19;URA1、2、4、5、10;HOM3 、6;ASP3;CHO1;ARO2、7;CYS3;OLE1;INO1、2 、4,PRO1、3。その他の数え挙げることができない遺伝子が潜在的な選択 可能マーカーである。上記のものはよく調べられた生合成経路に含まれている。 非常に高感度で広範囲の発現レベルを通じて選択することができるので、イミ ダゾールグリセロールリン酸デヒドラターゼ(IGPデヒドラターゼ)遺伝子( HIS3)が好ましい。最も単純な場合、この細胞は活性がないときにヒスチジ ンを栄養要求する(生育のためにヒスチジンを要求する)。活性化はこの酵素の 合成をすることになり、細胞はヒスチジンに対して原栄養株的になる(ヒスチジ ンを要求しなくなる)。こうして選択はヒスチジン非存在下における生育につい てのものとなる。ヒスチジン原栄養株性にはIGPデヒドラターゼは1細胞につ き僅かな分子しか必要でないので、分析は非常に高感度である。 より複雑な分析法では、細胞はIGPデヒドラターゼ活性を阻害する薬物のア ミノトリアゾール(AT)に対する抵抗性について選択することができる。HI S3を発現する低いが固定的なレベルの細胞は、この薬物に感受性だが、高いレ ベルの細胞は耐性である。AT量はHIS3発現の基礎レベル(そのレベルがい かほどであるかを問わず)で細胞阻害するように選択できるし、またより少ない 発現レベルの細胞の生育を可能にするように選択できる。この場合、選択はヒス チジン非存在、そして適切なATレベルでの生育となる。 適当な分析では、所謂、逆選択的ないし陰性選択(ネガティブセレクション) の遺伝子が使われる。適当な遺伝子としては、URA3(オロチジン-5’-リン 酸脱炭酸酵素;5−フルオロオロチック酸),LYS2(2−アミノアジピン酸 還 元酵素;唯一の窒素源としてのαアミノアジピン酸での生育を阻害する),CY H2(リボソームタンパク質L29をコードする;シクロヘキシミド−感受性対 立遺伝子が抵抗性対立遺伝子より優勢),CAN1(アルギニンパーミアーゼを コードする;null対立遺伝子はアルギニンアナログであるカナバニンに対する耐 性を付与する),その他の劣性薬物耐性マーカーがある。 酵母フェロモン応答経路の誘導に対する自然応答は、細胞に生育停止させるこ とである。これが経路を誘導するリガンド/受容体対のアンタゴニストを選択す る好ましい方法である。オートクリンペプチドアンタゴニストは経路の活性化を 阻害するから、細胞は生育することができるようになる。したがってFAR1遺 伝子は内因性の逆選択マーカーと考えることができる。FAR1遺伝子はアゴニ スト活比につきスクリーニングするときは好ましくは不活性化される。 マーカー遺伝子はまたスクリーニング可能な遺伝子たり得る。スクリーニング される特性は、細胞形態学上、代謝その他スクリーニング可能な特徴上の変化で ある。適切なマーカーとしては、βガラクトシダーゼ(Xgal,C12FDG, サケ−gal,マジェンタ−Gal(後者の2つはBiosynth Agから得られる ))、アルカリフォスファターゼ、西洋ワサビパーオキシダーゼ、エクソ-グル カナーゼ(酵母exb1遺伝子の産物;非必須、分泌物);ルシフェラーゼ;ク ロラムフェニコールトランスフェラーゼがある。上記のうちのあるものは分泌さ れるように操作することができる(βガラクトシダーゼを除いて)。スクリーニ ングできる好ましいマーカー遺伝子は、βガラクトシダーゼである。この酵素を 発現する酵母細胞は無色の基質Xgalを青の色素に変換する。繰り返すが、プ ロモーターはフェロモン誘導性またはフェロモン阻害性であってよい。 酵母細胞 酵母は、Gタンパク質媒介のシグナル伝達経路を有する培養可能な種であれば どんなものでもよい。適切な種としては、クルイベライ・ラクティス[kluyvere ilactis ],シゾサッカトマイセス・ポンベ[Schizosaccharomyces pombe],お よびユスティラゴ・マイディス[Ustilago maydis];サッカロマイセス・セレ ビシエ[S accharomyces cerevisiae ]が好ましい。GαまたはGβγのいずれも「エフェ クター」のアクティベータとなる。種によってはGαで活性化されたエフェクタ ーもGβγで活性化されたエフェクターも共に存在すると考えられる)。ここで 「酵母」とは、厳格な分類学上の意味における酵母(即ち、単細胞生物)だけで なく、交配経路に媒介されるフェロモン応答のある酵母様の多細胞真菌も含む意 である。 本発明の酵母細胞は、外因性Gタンパク質結合受容体その他のPSP代用物と 相互反応する能力の有無につきペプチドをテストするのに使われる。酵母細胞は 外因性Gタンパク質結合受容体(またはその他のPSP代用物)及び相補的Gタ ンパク質(薬剤による活性化が必要ならPSP代用物がフェロモン系で機能する のに必要な他のPSP)の双方に発現するものでなければならず、これらの分子 は「読み出された情報」がフェロモン応答経路(これが読み出された情報を改善 するように修飾されることがある)によって可能な方式で提供されるものでなけ ればならない。 可能な読み出し情報にとっては、遺伝子発現レベルが、結合された外因性受容 体に結合するシグナルの有無に感受性であるように、選択またはスクリーニング が可能な特性をコードする遺伝子をGタンパク質媒介のシグナル伝達経路に結合 させるものでなければならない。こうした遺伝子は、生育停止に関与する遺伝子 など、既にその経路中にある無修飾の遺伝子であってもよい。また正常時には経 路の一部になっていない「フェロモン応答」プロモーターに制御可能に連結され た酵母細胞でもよい。あるいはそのように連結された異種の遺伝子でもよい。適 切な遺伝子およびプロモーターについては既に上述した。 選択やスクリーニングを行うには酵母細胞は適切な表現型をもっていなければ ならないということが理解される。例えば野生型HIS3遺伝子を有する酵母中 にフェロモン応答キメラHIS3遺伝子を導入することは遺伝子選択を無効にす るものとなろう。このように栄養選択を行うには栄養要求株が必要である。 本発明の酵母細胞は以下に掲げる特徴の1または2以上をもっている。 (a)内因性FAR1遺伝子が不活性化されている。 (b)内因性SST2遺伝子及び/又はその他の脱感作に関与する遺伝子が不活 性化されている。 (c)内因性フェロモン(a因子またはα因子)受容体遺伝子が不活性化されて いる。 (d)内因性フェロモン遺伝子が不活性化されている。 「不活性化」とは機能を有する遺伝子産物の生成が阻止または阻害されること を言う。不活性化は、遺伝子の欠失、発現が起こらないようなプロモーターの突 然変異、あるいは遺伝子産物が不活性になるようなコード配列の突然変異などに よって行われる。不活性化は部分的でも全体的でもよい。 不活性化されたスーパーセンシティビティ関連[supersensitivity-related] 遺伝子突然変異体は、従来の遺伝子スクリーニングによって同定することができ る。far1遺伝子は、α因子/Xga1で青色を保持する(fus1−lac Zで)α因子耐性突然変異体として同定された。far2はfus3と同じであ ることが分かった。スーパーセンシティブな突然変異株は、Xga1上でfus 1−lacZを発現する構成的な弱い青色のコロニー、ないし弱いフェロモン分 泌体とよりよく交配することができる株、と同定することができる。 (a)α因子およびa因子の遺伝子、(b)α因子およびa因子の受容体、(c )FAR1遺伝子、(d)SST2遺伝子、そして(e)FUS1プロモーター、 のDNA配列については、以下に掲げる参考文献中に報告されている。 MFa1andMFa2: AJ Brake、C Brenner、R Najarian、P Laybourn、とJ Merryweather。タンパク質輸送および分泌におけるフェロモンa因子を交配す る酵母ペプチドの前駆体をコードする遺伝子の構造。Gething M-J,ed.Cold Sp ring Harbor Lab,New York,1985. MFα1andMFα2: Singh,A.EY Chen、JM Lugovoy、CN Chang、RA Hitz emanら、1983年。サッカロマイセス・セレビシエはαフェロモンをコードする全 く異なる2遺伝子を有している。Nucleic Acids Res.11:4049; J KurfanとI He rskowitz、1982年。酵母フェロモン遺伝子(MF)の構造:推定上のα因子前駆 体は成熟α因子の4つのタンデムコピーを有している。Cell 30:933。 STE2andSTE3: AC BurkholderとLH Hartwell、1985年。酵母α因子受 容体:STE2遺伝子配列から推論される構造特性。Nucleic Acids Res.13:84 63; N Nakayama、A MiyajimaとK Arai、1985年。サッカロマイセス・セレビシエ からの細胞型特異的な無菌遺伝子、STE2およびSTE3のヌクレオチド配列 。EMBO J.4:2643; DC Hagen、G McCaffreyとGF Sprague,Jr.、1986年。酵母S TE3遺伝子がペプチドフェロモンa因子の受容体をコードすることを証明する 。遺伝子配列と予想される受容体の構造を示唆する。Proc Natl Acad Sci 83:14 18。 FAR1: F ChangとI Herskowitz、1990年。酵母の負の生育因子による細 胞周期停止に必要な遺伝子の同定。FAR1はG1サイクリン,CLN2のイン ヒビター。Cell 63:999。 SST2: C DietzelとJ Kurjan、1987年。サッカロマイセス・セレビシエ SST2遺伝子:フェロモン減感作のモデル、の配列とフェロモン調節。Mol Ce ll Biol 7: 4169。 FUS1: J Trueheart、JD BoekeとGR Fink、1987年。酵母接合中の細胞融 合に必要な2つの遺伝子:フェロモン誘導表面タンパク質の証明。Mol Cell Bio l 7:2316。 さまざまな必須的および任意的な特徴が、例えば次の手段の1または2以上 によって、酵母細胞に分有されている。即ち、所望の特徴の1又は2以上を有す る自然発生突然変異体の分離;化学的または放射線処理による酵母の突然変異後 に行う選択;遺伝子を導入し、修飾し、欠失する酵母細胞の遺伝子操作などであ る。 以上のほかにPSP代用物インヒビター/アクティベータのスクリーニングデ バイスとして使われるように設計されるべき酵母株中に望ましい顕示的な特徴に ついては、各分子ターゲットを具体的に考察する節で論述する。 ペプチド ここに「ペプチド」とは、2以上のアミノ酸の鎖であって、隣接するアミノ酸 がペプチド結合(−NHCO−)で結合されているものを言う。したがって本発 明のペプチドとしては、オリゴペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質があ る。好ましくは本発明のペプチドは、2〜200、より好ましくは5〜50のア ミノ酸長である。最小ペプチド長はアクティベータ又はインヒビターとして十分 な有効性を得る必要性如何によって主に決定される。最大ペプチド長は、活性ペ プチドが同定された後の合成便宜上の問題にすぎない。 同族PSPが酵母フェロモン受容体であった初期の研究においては、13−ア ミノ酸ペプチドが成熟酵母α因子の長さとして特に好まれた。 ペプチドライブラリー 「ペプチドライブラリー」とは、たくさんのさまざまな配列のペプチドのコレ クションであって(典型的には1000以上の異なる配列)、いくつかの活性に つき同時にテストされるとしたら、「陽性の」ペプチドの特性を示すことが可能 な方法で、本質的に同時的に調製されるものを言う。 本発明のペプチドライブラリーは、本質的に各々の細胞が1つの、通常ただ1 つだけの、ライブラリーの中のペプチドを発現する、そのような酵母細胞培養の 形式をとる。もし各々の細胞が異なる配列のペプチドを産生することができると したら、このライブラリーの多様性は最大にされるのであるが、ある程度の繰り 返しをもつようにライブラリーを構築することが一般に賢明である。 本発明では、このライブラリーのペプチド(複数)は異なる配列のDNA分子 の混合物でコードされている。各々のペプチドをコードするDNA分子はベクタ ーDNA分子と連結反応され、その結果得られた組換えDNA分子を酵母細胞に 導入する。どのペプチドをコードするDNA分子が特定の細胞に導入されるかは 偶然の問題なので、どのペプチドがその細胞を生成するかは予測不能である。し かし混合物調製の方法に関する知識に基づき、ペプチドライブラリー中のペプチ ド混合物に関するある程度の統計的予測は可能である。 ライブラリーのペプチドにつき不変および可変の残基から構成されていると説 明することが便利である。n番目の残基がライブラリーの全ペプチドにつき同じ であるなら、それを不変と呼ぶ。ペプチドごとにn番目の残基が変わっているな ら、その残基は可変と呼ばれる。ライブラリーのペプチドは少なくとも1つ、通 常2以上の、可変残基をもつ。可変残基は遺伝子コードされた2から20全部の アミノ酸のいずれかの部分で変えられており、このペプチドの可変残基は同じ又 は異なる方式で変化している。しかも特定の残基位置に可能なアミノ酸の発生頻 度も同じか異なっている。ペプチドはまた、1または2以上の不変残基を有して いる。必要なDNA混合体を調製するには2つの原則的方法がある。第1の方法 によれば、DNAは1時に1塩基ごとに合成される。変化を欲するときは、遺伝 子暗号によって指令された塩基位置で、ヌクレオチドの適切な混合物が発生期の DNAと反応するのであって、通常のポリヌクレオチド合成の純粋なヌクレオチ ド試薬と反応するのではない。 第2の方法ではアミノ酸の変化をより正確にコントロールする。第1に、トリ ヌクレオチド試薬を調製する。これらトリヌクレオチド各々はペプチドライブラ リー中に入れられるアミノ酸の中の1(ただ1つ)コドンである。特定の可変残 基を合成するときは、混合物を適切なトリヌクレオチドから作り発生期のDNA と反応させる。 必要とされる「縮重した」DNAができたら、後述するように、それをペプチ ド発現を確実にするのに必要なDNA配列に結合し、完成したDNA構造体を酵 母細胞中に導入しなければならない。 発現 酵母細胞中でペプチドをコードする遺伝子を発現するには、酵母中で機能的な プロモーターを必要とする。適切なプロモーターとしては、メタロチオネイン、 3−ホスホグリセン酸キナーゼ(Hitzemanら、J.Biol.Chem.255,2073(1980 )、または下記のようなその他の解糖酵素(Hessら、J.Adv.Enzyme Reg. 7,1 49(1968);とHollandら、Biochemistry 17,4900(1978)のためのプロモータ ーがある。即ち、エノラーゼ、グリセルアルテヒド−3−リン酸デヒドロゲナー ゼ、 ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グ ルコース−6−リン酸イソメラーゼ、3−ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビ ン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ 、そしてグルコキナーゼである。酵母での発現に使うのに適切なベクターおよび プロモーターについてはR.Hitzemanら、EPO Publn.No.73,657に詳しい。生育 条件によってコントロールされる転写という別の長所をもっているその他のプロ モーターは、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソシトクロムC、酸性ホスファ ターゼ、窒素代謝に関係する分解酵素、および上記のメタロチオネインとグリセ ルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、それにマルトースとガラクトース の利用に関与する酵素のプロモーター領域である。最後に、2つの半数体交配型 の1つにだけ活性なプロモーターは、ある条件下では適切なものである。これら 半数体特異的プロモーターの中でフェロモンプロモーターMFa1とMFα1が 特に興味深い。 PSP代用物のサブセットのために考案されたスクリーン(例、キナーゼ、サ イクリン)では、ランダムペプチド配列は酵母フェロモンと一緒に(同じコンテ キストで)発現される必要はなく、また細胞外の空間に分泌または排出されるよ うに操作される必要もない。ランダムペプチドのライブラリーは、さまざまな態 様で発現される。例えばタンパク質/タンパク質相互反応をシグナルするように 設計された2つのハイブリッドタンパク質系におけるようなキメラタンパク質の 部分として、などである。ランダムペプチドは必ずしも酵母フェロモンを代用す る必要はないが、フェロモンとフェロモン受容体間の相互反応のフェロモン経路 を下流に向けることができるものでなければならない(キナーゼまたはサイクリ ンのランダムペプチドインヒビターにおけるように)。 適切な発現プラスミドを構築するに当たっては、これらの遺伝子あるいは酵母 中に効果的に発現するこれら以外の遺伝子と関係する終結配列も、異種起源コー ド配列の発現ベクター3’に連結反応してポリアデニル酸化およびmRNAの終 結をする。 ベクター ベクターは酵母細胞中で複製可能なものでなければならない。それは宿主ゲノ ムに組み込まれるDNAでもよく、したがってクロモソームDNAの一部分とし て複製されるか、プラスミドの場合のように自律的に複製するDNAであっても よい。後者の場合は、ベクターは宿主中で機能的な複製起源を有していなければ ならない。組み込みベクターの場合は、そのベクターは例えば宿主配列に相同の 配列、あるいはインテグラーゼをコードする配列のような組み込みに役立つ配列 を有するのがよい。 酵母細胞中で複製することが可能であることのほかに、多くの遺伝子操作が便 利に行われているように、もしベクターが細菌細胞中で複製できるなら便利であ る。酵母細胞および細菌細胞の両方で複製可能なシャトルベクターには、YEp ,YIp,およびpRSシリーズがある。 ペリプラズム分泌 酵母細胞の細胞質は形質膜と呼ばれる脂質二重層で結合されている。この形質 膜と細胞壁との間にペリプラズム空間がある。酵母細胞によって分泌されたペプ チドはさまざまなメカニズムにより形質膜を通過して、ペリプラズム空間に入り 込む。するとこの分泌されたペプチドは遊離して、ペリプラズム中にあるその他 の分子または形質膜の外表面に現れるその他の分子と相互反応する。ペプチドは 次に細胞へ再取込みされて細胞壁から培地中に拡散するか、ペリプラズム空間内 で分解してしまう。 ペプチドライブラリーは、それが連結される発現系の性質によって決まるが、 2つの全く異なるメカニズムのいずれか1つによってペリプラズム中に分泌され る。1系においてペプチドは、α因子前駆体中に存在するそれのように、小胞体 およびゴルジ体を介して分泌を指示する酵母シグナル配列に構造的に連結する。 これは受容体タンパク質が形質膜へ至るのと同一ルートなので、受容体およびペ プチドライブラリーの双方を発現する細胞の中に、分泌経路を通過する間に特定 のペプチドがその受容体と相互反応する機会がある。このことはオートクリン活 性を呈する哺乳動物細胞中において起こることが仮定されていた。こうした相互 反応は通過(トランジット)中に連結されたフェロモン応答経路の活性化をもた らす傾向があり、これはペプチドアゴニストを発現するこれら細胞を同定するこ とをなお可能にする。外部から加えられた受容体アゴニストに対するペプチドア ンタゴニストを探す場合に、ペプチドアンタゴニストと受容体は双方とも細胞の 外部に揃って運び出されるのであるから、この系はなお有効である。このように ペプチドアンタゴニストは、受容体が外部から加えられたアゴニストによって刺 激されることを防止するように正しく、かつ、タイミングよく位置しているため 、アンタゴニストを産生するこうした細胞は選択可能である。 ペプチドをペリプラズム空間に運ぶもう一つのメカニズムは、STE6/MD R1類のATP依存性輸送体を使うものである。この輸送経路およびタンパク質 またはペプチドをこの経路に向けるシグナルは、小胞体に基づく分泌経路ほど十 分に性質について解明されていない。それにも拘わらず、ペプチドをER/ゴル ジ体経路を移動させる必要なく、これらの輸送体は一定のペプチドを形質膜を直 接横切って効果的に排出することができる。a因子プロ配列および末端テトラペ プチドのコンテキストのなかでライブラリーを発現することによってこの経路か ら少なくともペプチドのサブセットが分泌できると、我々は予測している。この 系の期待できる長所は、受容体およびペプチドが、両方とも細胞の外部表面に運 ばれない限り、接触することはないということである。このようにこの系は細胞 の外側から正常時に運ばれているアゴニストおよびアンタゴニストの状態を厳格 に模倣している。上述の経路のいずれかを使うことは、本発明の範囲内の行為で ある。 本発明はペリプラズマ分泌を要件としないか、またはもしその分泌がある場合 は、何らかの具体的な分泌シグナルまたは輸送経路を要件としないものである。 実施例1: オートクリン酵母株の作製 この実施例においては、半数体細胞がそれら自身のフェロモンに応答するよう に操作されているパイロット実験について記載する(図1)。(一般にここに述 べる実施例において機能遺伝子は大文字で表し、不活性化遺伝子は小文字で表し ている)この目的のため、我々は以下のように設計した組み換えDNA分子を構 築した。即ち、 (1)STE3の転写を正常に指示する転写制御因子の下流にSTE2のコー ド領域を置く。これはS.cerevisiaeのゲノムSTE3を、STE3転写制御エ レメントによってSTE2のコード配列が駆動される配列と置き換えることを可 能にするプラスミド中で行われる。 (2)STE2の転写を正常に指示する転写制御因子の下流にSTE3のコー ド領域を置く。これはS.CerevisiaeのゲノムSTE3を、STE2転写制御因 子によってSTE3のコード配列が駆動される配列と置き換えることを可能にす るプラスミド中で行われる。 STE2遺伝子の配列については既知である。Burkholder A.C.とHartwell L .H.、1985年、STE2、Nuc.Acids Res.13,8463; Nakayama N.、Miyajima A .、Arai K.、1985年、STE2 STE3 EMBO J.4,2643参照 STE2遺伝子全体を含む4.3kb BamHIフラグメントをプラスミドYEp 24−STE2(カリフォルニア大学のJ.Thornerから入手)から切り出し、p ALTER(Protocold and Applications Guide,1991,Promega Corporation ,Madison,WI)中にクローニングする。STE2の−鎖(マイナス鎖)を鋳型 として使って、SpeI部位をSTE2のATGの7ヌクレオチド(nts)上 流に次の突然変異誘発性オリゴヌクレオチドで導入した(突然変異の塩基には下 線を引き、開始コドンは太文字で表してある)。 2番目のSpeI部位をSTE2終結コドンのすぐ下流に次の突然変異誘発性オ リゴヌクレオチドで同時に導入した(突然変異の塩基には下線を引き、終結コド ンは太文字で表してある)。 コード領域に直接隣接しているSpeI部位を有するSTE2を含む、得られた プラスミドのBamHIフラグメント(Cadus 1096)を次に、酵母組み込みベク ターYIp19にサブクローニングしてCadus 1143を得た。STE3配列も公知 である。Nakayama N.、Miyajima A.、Arai K.、1985年、STE2 STE3 E MBO J.4,2643; Hagen D.C.、McCaffrcy G.、Sprague G.F.、1986年 STE3 Proc.Natl.Acad.Sci.83,1418。STE3はpBLUESCRIPT−K S II中に3.1kbフラグメントとしてクローニングされたものがDr.J.Broachか ら入手可能である(Stratagene,11011 North Torrey Pines Road,La Jolla,C A 92037)。STE3をM13mp18 RF(Cadus 1105を生成)およびpU C19(Cadus 1107を生成)両方の中にKpnI−XbaIフラグメントとして サブクローニングした。Cadus 1107中の2つのSpeI部位をDNAポリメラー ゼIクレノウフラグメントでうめたSpeIで消化して取り除き、ブラントエン ド連結反応で再び環状化した。STE3のマイナス鎖を含む1本鎖DNAをCadu s 1105を使って得、SpeI部位をSTE3の開始コドンの9nts上流、およ び終結コドンの3nts下流に、次の突然変異誘発性オリゴヌクレオチドと共に 、各々、導入した。 米国BiochemicalのT7-GENプロトコルを使って突然変異誘発を行った(T7-GEN In Vitro Mutagenesis Kit,Descriptions and Protocols,1991,United States Biochemical,P.O.Box 22400,Cleveland,Ohio 44122)。その結果得たCadus 1141の複製型をAflIIおよびKpnIで消化し、2つの新しく導入されたSp eI部位にはさまれたSTE3の全コード領域を含む約2kbのフラグメントを単 離し、AflII−およびKpnI−で消化されたCadus 1107の約3.7kbのベク ターフラグメントと連結反応させてCadus 1138を産生した。Cadus 1138をXba IおよびKpnIで消化し、STE3含有の2.8kbフラグメントを酵母組込型 XbaI-およびKpnI消化のプラスミドpRS406に連結反応させた(Sik orski,R.S.とHieter,P.1989年「サッカロマイセス・セレビシエ中のDNA の効率的操作のために設計されたシャトルベクターと酵母宿主株との系」Geneti cs 122:19-27 to yield Cadus 1145)。 Cadus 1143のSpeIフラグメントをCadus 1145のSpeIフラグメントと置 き換えて、STE3をコードする配列がSTE2発現エレメントの制御下に置か れているCadus 1147を産生した。同様にしてCadus 1145のSpeIフラグメント をCadus 1143のSpeIフラグメントと置き換えて、STE2をコードする配列 がSTE3発現エレメントの制御下に置かれているCadus 1148を産生した。ポッ プイン/ポップアウト置換法(Rothstein,R.、1991年[19]DNA、Methods in Enzymology194:281-301)を使ってMATa細胞中でゲノムSTE2をs te2−STE3ハイブリッドと置き換えるためCadus 1147を使い、MATα細 胞中でゲノムSTE3をste3−STE2ハイブリッドと置き換えるためCadu s 1148を使った。Cadus 1147、1148は選択可能なマーカーURA3を有している 。 フェロモン誘発性のFUSIプロモーターの制御下にHIS3を発現するよう に操作されている交配型aの半数体酵母をCADUS 1147で形質転換し、UR A3を発現する形質転換体を選択した。これら形質転換体はSte2pおよびS te3pの両方を発現するが、それらを5−フルオロオロチン酸上にプレートし 、そこに異種起源の組み込まれたSTE3を残して内因性STE2を失ったクロ ーンを選択できるようにした。こうした細胞はヒスチジンを欠く培地に生育する 能力を示し、フェロモン応答経路のオートクリン刺激のあることを示している。 同様に、フェロモン誘発性のFUSIプロモーターの制御下にHIS3を発現 することができる交配型αの半数体をCADUS 1148で形質転換し、組み込ま れたSTE2で内因性STE3を置き換えるように選択した。これらの細胞はヒ スチジンを欠く培地に生育する能力によって、フェロモン応答経路のオートクリ ン刺激があることを示した。 実施例2: 株の育種 本例では、フェロモン応答経路のオートクリン活性化を示すクローンの選択を 促進する酵母株が構築される。適切な酵母株を構築するために我々は、上述のY Ip−STE3およびpRS−STE2のノックアウトプラスミドと、FAR1 ,SST2,およびHSI3のノックアウトに利用できるプラスミド、および研 究 機関で一般に入手可能な突然変異株を使うことにする。下記の半数体株は、Meth .Enzymmol 194:281-301,1991に記載の1段階または2段階のノックアウトプロ トコルを使って構築できる。即ち、 株1と2は、それらのフェロモン応答経路をそれらが分泌するフェロモンでオ ートクリン刺激する結果、ヒスチジンを欠く培地に生育できる能力如何につきテ ストされる。このテストが成功したら、株1は内因性MFα1およびMFα2を 不活性化するように改変される。その結果得られた株3のMATα far1 sst2 ste3::STE2::ste3 FUS1::HIS3 mfa 1 mfa2は、選択可能な表現型をもはや示さない(つまり株はヒスチジンを 栄養要求する)。同様に株2は内因性MFa1およびMFa2を不活性化するよ うに修飾される。その結果得られた株4のMATa far1 sst2 st e2::STE3::ste2 FUS1::HIS3 mfa1 mfa2は 、ヒスチジンを栄養要求する。株5および6の使用法については例3および4に 述べる。 実施例3: ペプチドライブラリー 本例では、ペプチドがペリプラズム中に分泌または輸送されるようにペプチド をコードする合成オリゴヌクレオチドが発現される。 (1)成熟α因子をコードするMFα1領域を、AflIIおよびBglII端を 有するオリゴヌクレオチドを受けることができる制限部位で、1本鎖の突然変異 生 成を介して置き換える。AflIIおよびBglII端を有するオリゴヌクレオチド を挿入すると、MFα1シグナルおよびオリゴヌクレオチドによってコードされ た配列の上流にリーダー配列を有するタンパク質をコードするプラスミドを産生 する。このMFα1シグナルとリーダー配列は、成熟α因子の輸送に正常時に使 われる経路を介して、これらの前駆体タンパク質のプロセッシングを指示する。 pDA6300(J.Thorner,カリフォルニア大学)から1.8kb EcoRI フラグメントとして得たMFα1遺伝子を、AflIIおよびBglII端のあるオ リゴヌクレオチドを受け止める部位を構築して、成熟α因子をコードする領域を 除去するオリゴヌクレオチド誘発突然変異生成を行う準備として、pALTER (図2参照)中にクローニングする。この突然変異生成は、鋳型としてマイナス 株および次の突然変異誘発性のオリゴヌクレオチドを使って行われた。即ち、 同時にHindIII部位が次のオリゴヌクレオチドによりMFα1開始コドンの 7nts上流に導入された。即ち、 その結果得たプラスミドCadus 1214は、MFα1開始コドンの上流7ntsにH indIII部位、MFα1リーダーペプチド中のKEX2プロセッシング部位を コードする箇所にAflII部位、そしてリーダーコーディング配列から正常時の 終結コドンまで(この終結コドンを含む)の全配列の代わりにXhoIおよびB glII部位を有する。したがってCadus 1214の1.5kb HindIIIフラグメン トは、酵母中に発現され、内因性α因子によって正常時に移動される経路から分 泌されるオリゴヌクレオチドのクローニング部位を提供する。 ADH1プロモーターおよび5’フランキンク配列をなす配列をpAAH5か ら1.5kb BamHI−HindIIIフラグメントとして得(Ammerer,G.、1983 年[11]ADCI Academic Press,Inc.,Meth.Enzymol.101,192-201)、高 コピーの酵母プラスミドpRS426中に連結反応させた(Christianson,T.W ら、1992年、Gene 110:119-122)。(図3)得たプラスミド中の単一のXho I部位を除去してCadus 1186を得た。Cadus 1214の1.5kb HindIIIフラグ メントをHindIII消化したCadus 1186中に挿入した。このカセット中にクロ ーニングされる配列の発現はADH1プロモーターから開始する。得られたCadu s 1215と命名されたプラスミドは、AflΠとBclIで消化することにより、 これらの制限エンドヌクレアーゼ末端を有するオリゴヌクレオチトを受容するよ うに調製することができる。オリゴヌクレオチドがMFα1シグナルおよびリー ダーペプチトのコンテキスト中に発現される(図4)。 2つの1本鎖オリゴヌクレオチド配列(下記参照)を合成し、アニーリングし 、繰り返して埋めて、変性し、再度アニーリングして、AflIIとBclIで消 化すると発現ベクターCadus 1215のポリリンカーに連結反応することができる2 本鎖オリゴヌクレオチドを形成する。これら2つの1本鎖オリゴヌクレオチドは 次の配列を有している。即ち、 ここでNは任意に選択されるヌクレオチド、nは任意に選択される整数である。 得られたプラスミドで形質転換された酵母は、α因子分泌経路から、アミノ酸配 列がNおよびnを具体的に選択することによって決定されるペプチドを分泌する (図4)。 (2)成熟a因子をコードするMFa1領域は、1本鎖突然変異生成を経てX hoIおよびAflII末端を有するオリゴヌクレオチドを受け止めることができ る制限部位で置き換えられる。XhoIおよびAflII端のあるオリゴヌクレオ チドの挿入は、そのオリゴヌクレオチドによってコードされる配列の上流にMF a1リーダー配列を有するタンパク質をコードするプラスミドを生成する。この MFa1リーダー配列は、これらの前駆体タンパク質をプロセッシングすること を成熟a因子の輸送のために正常時に使われる経路を介して指示する。 pKK1からBamHIフラグメントとして得たMFA1(J.ThornerとK.K uchler)をpALTER(Promega)のBamHI部位中に連結反応させた(図 5)。下記のオリゴヌクレオチドを使い、MFA1のマイナス鎖を鋳型として使 っ て、オリゴヌクレオチド誘発変異によりHindIII部位をMFA1開始コドン の5’に挿入した。即ち、 MFA1配列の代わりに合成オリゴヌクレオチドを後にクローニングするために 短いポリリンカーを導入するのに2番目のオリゴヌクレオチドを同時に使った。 これらのMFA1配列は21アミノ酸リーダーペプチドのC末端の5つのアミノ 酸を終結コドンまでコードする。 得られたプラスミドCadus 1172の1.6kb HindIIIフラグメントは、MFA 1開始コドンおよびリーダーペプチドのN末端の16個のアミノ酸をコードする 配列を含み、オリゴヌクレオチドの挿入のためのXhoI、SacIおよびAf lII部位がある短いポリリンカーがそれに続く。Cadus 1172の1.6kb Hind IIIフラグメントをHindIII消化Cadus 1186(上記)に連結反応させ、このカ セット中にクローニングされた配列の発現をADH1プロモーターの制御下に整 える。ポリリンカー中のSacI部位をベクター中にある第2のSacI部位を 除去することによって特殊なものにした。得られたCadus 1239と命名されたプラ スミドは、MFa1リーダーペプチドのコンテキスト中に発現されるので、Xh oIとAflIIとで消化することにより、これらの制限エンドヌクレアーゼ末端 を有するオリゴヌクレオチドを受容するように調製することができる(図6)。 2つの1本鎖オリゴヌクレオチド配列(下記)を合成し、アニーリングし、繰 り返して埋めて、変性し、再度アニーリングして、AflIIとBclIIで消化す ると、発現ベクターCadus 1239のポリリンカーにクローニングすることができる 2本鎖オリゴヌクレオチドを形成する。これらクローニングに使われる2つの1 本鎖オリゴヌクレオチドは次の配列を有している。即ち、 ここでNは任意に選択されるヌクレオチド、nは任意に選択される整数である。 得られたプラスミドで形質転換された酵母は、a因子輸出のために正常時に使わ れる経路経由で、アミノ酸配列がNおよびnを具体的に選択することによって決 定されるファルネシル化されカルボキシメチル化されたペプチドを輸送する(図 6)。 実施例4: ペプチドの分泌/輸送 この例は酵母が、内因性フェロモンの分泌および輸送のために正常時に使われ る経路を介してオリゴヌクレオチドでコードされるペプチド(この場合それらの フェロモン)を分泌または輸送するように、酵母を操作する能力を証明する。 オートクリンMATa株CY588: MFα1のコンテキスト中でペプチドを発現するように設計されたMATa株 (MFα1発現ベクター、Cadus 1215を使って)が構築された。この株の遺伝子 型、すなわち我々がCY588と呼ぶものは、MATabar1 far1−1 fus1−HIS3 ste14::TRP1 ura3 trp1 leu 2 his3である。bar1突然変異は、α因子を消化し、クローニングされ たオリゴヌクレオチドによってコードされるペプチドを消化できるプロテアーゼ を産生するこの株の能力を除去する。far1突然変異は、正常時にフェロモン 応答経路の刺激に続く生育阻止を無効にする。組み込まれたFUS1−HIS3 ハイブリッド遺伝子はフェロモン応答経路の活性化の選択可能なシグナルを供給 する。そして最後にste14突然変異はFUS1−HIS3読み出しのバック グラウンドを低下させる。MFα細胞中のMFa1前駆体のプロセッシングに関 与する酵素もまたMATa細胞中に発現されるのであるから(SpragueとThorner 、in The Molecular and Cellular Biology of the Yeast Saccharomyces: Gene Expression 、1992年、Cold Spring Harbor Press)、CY588細胞はプラス ミドCadus 1215から発現されたオリゴヌクレオチドによってコードされるペプチ ドを分泌することができるにちがいない。 酵母α因子のコンテキストにおけるペプチドの分泌: 以下をテストするための実験を行った:1.合成オリゴヌクレオチドにコード されるペプチドの発現のためのベクターとして機能するCadus 1215の能力;2. α因子分泌経路を介してのペプチド分泌を指示するように設計されるオリゴヌク レオチドの適格性;3.これらのペプチドを分泌するCY588の能力;4.選 択培地に生育することによってフェロモン応答経路を刺激するペプチドに対する CY588の応答能力、以上。これらの実験は13アミノ酸α因子をコードする オリゴヌクレオチドを使って行った。つまり、Cadus 1215(上記)中にクローニ ングされるオリゴヌクレオチドの縮重配列(NNN)nをこのフェロモンをコー ドするように特定した(n=13)。CY588を得られたプラスミド(Cadus 1219)で形質転換し、ウラシルを欠く培地で選択された形質転換体を、一定の濃 度幅のアミノトリアゾールで補足したヒスチジン欠損培地に移した(バックグラ ウンド生育を減少させるのに助けとなるHIS3遺伝子産物のインヒビター)。 図7に示される結果は、Cadus 1215によるMFα1のコンテキストに発現された 合成オリゴヌクレオチドは、CY588にアミノトリアゾールで補足されたヒス チジン欠損培地に生育する能力を付与したことを示している。総合すると、これ らのデータは次のことを示している。即ち、1.CY588はCadus 1215にクロ ーニングされCadus 1215から発現された合成オリゴヌクレオチドの(NNN)n 配列によってコードされるペプチドの分泌にとって適格である;また、2.CY 588はオートクリンにおいて、そのフェロモン応答経路を刺激する分泌ペプチ ドに、この場合STE2に結合するα因子によって、応答することができる。 オートクリンMata株CY599: MFA1のコンテキスト中にペプチドを発現するように設計されたするMAT a株(MFA1発現ベクターのCadus 1239を使って)を構築した。CY599と 命名されたこの株の遺伝子型は、MATa mfa1 mfa2 far1−1 his3::fus1−HIS3 ste2−STE3 ura3 met1 ade1 leu2 である。この株では、ハイブリッド遺伝子でSTE2を 置き換えるのにCadus 1147(上記)を使った。このハイブリッド遺伝子は、ST E3をコードする領域が正常時にSTE2の発現を生起する発現エレメントの制 御下にある。その結果、a因子受容体はα因子受容体に置き換わる。a因子をコ ードする遺伝子はこの株から除去される。far1突然変異は生育停止を無効に し、この無効は正常時にフェロモン応答経路の刺激に続く。そしてFUS1−H IS3ハイブリッド遺伝子(HIS3座で組み込まれた)は、フェロモン応答経 路の活性化に関する選択可能シグナルを供給する。CY599細胞は、内因性酵 母輸送体Ste6の発現によってCadus 1239から発現されたオリゴヌクレオチド でコードされたa因子ペプチドまたはa因子様ペプチドを輸送することができる ものと期待された。 酵母a因子経路によるペプチドの輸送: 次のことをテストする実験を行った。即ち、1.合成オリゴヌクレオチドにコ ードされるペプチドの発現のためのベクターとして機能するCadus 1239の能力; 2.正常時にはa因子により使われる経路を介してファルネシル化され、カルボ キシメチル化されたペプチドの輸出を指示する、設計されるオリゴヌクレオチド の適格性;3.これらのペプチドを排出するCY599の能力;4.選択培地で 生育することによってフェロモン応答経路を刺激するペプチドに対するCY59 9の応答能力、以上。これらの実験は12アミノ酸a因子をコードするオリゴヌ クレオチドを使って行った。具体的には、Cadus 1239(上記)中にクローニング されるオリゴヌクレオチドの縮重配列(NNN)nがa因子フェロモンのペプチ ド成分をコードする(n=12)。CY599を得られたプラスミド(Cadus 12 20)で形質転換し、ウラシルを欠く培地で選択された形質転換体を、一定の濃度 幅のアミノトリアゾールで補足したヒスチジン欠損培地に移した。図8に示され る結果は、Cadus 1220によるMFA1のコンテキストに発現された合成オリゴヌ クレオチドは、CY599にヒスチジン欠損培地における向上されたアミノトリ アゾール耐性成長を付与したことを証明している。総合すると、これらのデータ は次のことを示している。即ち、1.Cadus 1220および設計されたオリゴヌクレ オチドは、 その合成オリゴヌクレオチドの(NNN)n配列によってコードされるファルネ シル化、カルボキシメチル化ペプチドの発現および排出を指示することにおいて 適格である;また、2.CY599はオートクリンにおいて、そのフェロモン応 答経路を刺激するファルネシル化、カルボキシメチル化ペプチドに応答すること ができる。この場合STE3にa因子が結合しシグナルが発生する。 実施例5: 概念の証明 この実施例は、機能的なフェロモン類似体として挙動するペプチドを発見する ためのオートクリン系の利用法について証明するものである。同様に、この系は 何らかのフェロモン受容体代用物と生産的に相互反応するペプチドを発見するの に利用することができる。 CY588(上記の例5の株5参照)は、機能的なα因子類似体(図4)の単 離のためのランダムトリデカペプチドをコードするオリゴヌクレオチドを含有す るCADUS1215で形質転換される。CY599(上記例2の株6参照)は 、機能的なa因子類似体(図6)の単離のためのランダム配列のオリゴを含有す るCADUS1239で形質転換される。形質転換後に、ヒスチジン欠損培地で 生育することができるいずれかの株のコロニーはプラスミドDNAの調製のため 増殖させ¨、発現プラスミド中にクローニングされたオリゴヌクレオチドの塩基 配列を決定し、フェロモン受容体を活性化すると推定されるペプチドのアミノ酸 配列を決定する。このプラスミドは次に、フェロモン受容体を活性化するペプチ ドをコードする能力を確認するために、同種同系株[isogenic strain]中にト ランスフェクションされる。こうした実験が成功裡に完了したら、フェロモン応 答経路に結合する膜受容体を活性化することができるペプチドを発見するための 系の可能性について証明することになろう。 発現プラスミドCADUS1215によって発現されるべきランダムオリゴヌ として構築され、トリデカペプチドをコードする。ここでNは何らかのヌクレオ チド、Kは40:60の比率のTまたはGのいずれか(Proc Natl Acad Sci 87: 6378、1990年; ibid 89:5393、1992年)、AflIIとBclI部位は下線を引い てある。このオリゴヌクレオチドは次のように設計されている。即ち、AflII とBclI部位はオリゴをCADUS1215のAflIIとBclI部位に挿入 することができ;オリゴの5’端にあるAflII部位の5’のHindIII部位 は、オリゴのクローニングに将来の柔軟性があるようにされていて;野生型配列 に存在し、三重らせんを形成することができるGAGGCTとGAGAのリピー トの実質的な反復[the virtual repeat]は、コードされたアミノ酸を変更する ことなく変えられる。上記のランダムオリゴヌクレオチドは実際には次の2つの オリゴから構築されるであろう。即ち、 ここでMは40:60の比率をなすAまたはCのいずれかである。オリゴはお互 いにアニーリングされ、繰り返し埋められ、変性され、再度アニーリングされる (Keyら,Gene 1993年)。二重鎖産物がAflIIとBclIで切断され、Afl IIとBclI消化されたCADUS1215中に連結反応させられる。、Afl II/BclI連結はランダム重合体[randomers]の翻訳を終結させるTGA終 結コドンを作り出す(図4)。AflオーバーハングのTA成分のため、オリゴ は4℃でAflII−およびBclI−消化のpADC−MFαに連結反応する。 発現プラスミドCADUS1239で発現されるランダムオリゴヌクレオチド として構築され、モノデカペプチドをコードする。ここでKは40:60比のT またはGのいずれか(Proc Natl Acad set 87:6378,1990; ibid 89:5393,1992 参照)、XhoIとAflII部位は下線を引いてある。CADUS1239のX hoIとAflII部位にクローニングするときは、ADH1プロモーターの制御 下に発現されるプロペプチドは、ランダムアミノ酸が続き、CVIA(野生型a 因子のC末端テトラペプチド)が続くMFa1の全リーダーペプチドを有してい る。プロペプチドのプロセッシングにより、ファルネシル化されカルボキシメチ ル化されたC末端のシステインが続く11個のランダムアミノ酸を有しているド デカペプチドが分泌される。 上述の工程を経てCADUS1239中における発現のためのオリゴヌクレオ チドは実際上次の2つのオリゴから構築される。即ち、 ここでMは40:60比のAまたはCのいずれかで、XhoIとAflII部位に は下線を引いてある。 実施例6: ATP−依存性トランスメンブラン輸送体の 機能を調節する分子を発見することができるように 設計された薬物スクリーニング: 関連タンパク質ヒトMdr1,ヒトCFTRおよびヒトMRPをコードするク ローニングされたDNAを使用できることは、これらの分子を発現する酵母株の 構築を可能にする。得られた株はこれらのタンパク質の機能を探査するのに、ま た、化学療法に対する細胞耐性またはイオン輸送に係る機能を阻害したり促進し たりすることができる分子を発見するのに使うことができる。本分析は、酵母S te6を代用することができるヒトタンパク質を発現するオートクリン酵母から 酵母交配フェロモンa因子の輸送を利用する。 A.これらの実験に使うため、Karl Kuchler(ウィーン大学)から下記のMF a1およびMdr1含有プラスミドを入手した。即ち、 (1)pYMA177(Cadus 1067である)。図9参照。 (2)YEp351中にMFa1をコードする配列を含むpKK1;a因子は 増加されたプラスミドコピー数のためこのプラスミドから過剰発現される。 (3)pHaMDR1(wt)はレトロウイルスベクター中の野生型Mdr1 cDNAを供給する(当初はMichael Gottesman,NIHから入手した)。 B.これらの実験で使用するためCadusで構築したプラスミド: MFa1配列を有する1.5kb BamHI−BglIIフラグメントをpYMA 177から取り出し、BamHI消化したpYMA177に連結反応させてCadu s 1079を産生した。野生型ヒトMdr1(G185)配列を含有する965bpフラ グメントを単離するため、Cadus 1079をBglIIで消化した。965bp BglIIフ ラグメントをBglII消化したCadus 1093に挿入してCadus 1097を産生した。 Cadus 1097構築物の存在をジデオキシヌクレオチドを使って配列決定することに より立証した。Cadus 1164を産生するため、pYMA177をBamHIで消化 しMFa1コード配列を除去するため再環化させた。pYMA177から得た70 0bp BglΠ−BamHIフラグメントをpYMA177の大きいBamHI− BglIIフラグメントに連結反応させることによってCadus 1165を構築した。こ れは1.6kb MFaBamHIフラグメントとヒトMdr1(G185V)をコ ードする965bp Bglフラグメントの両方を除去する結果をもたらす。得られる プラスミドはCadus 1165である。 pHaMDR1からの野生型ヒトMdr1をコードする配列を有する965bp B glIIフラグメントをBglII消化したCadus 1165に連結反応させてCadus 1176 を得た。 pRS426(Cadus 1019)はURA3コントロールプラスミドとして機能す る。 これらの実験に使われる最終プラスミド列は次の通りである。 酵母におけるヒトMdr1構築物発現の証拠: URA3コントロールプラスミド(pRS426=1019)のほかにCAD USプラスミド1065、1079、及び1097が酵母のura3-,ste6-株に形質転 換された(WKK6=CY20=MATaura3−1 leu2−3,112 his3−11,15 trp1−1 ade2−1 can1−100 s te6::HIS3、Karl Kuchlerから入手)。個々の形質転換体はSD−UR A培地で一晩のうちに成長し、約5×106の細胞を含む菌層を3mlのYPD重 層寒天中にあるYPDプレート上に注いだ。寒天の上面が固化後に殺菌フィルタ ーディスクをプレート上に被せ5mlのDMSOまたは5mMのDMSOに溶かした バリノマイシンをフィルターディスク上に垂らした。この分析によってWKK6 細胞中のプラスミド1079から得た突然変異Mdr1の発現はバリノマイシン に対する弱い耐性を付与したが、プラスミド1097から得た野生型Mdr1の 発現は完全な耐性を付与した。 2つの細胞系におけるa因子輸送体によるMdr1活性を分析する試み: さまざまなヒトMdr1構築物で形質転換されたWKK6を交配しようとする いくつかの試みは全て失敗した。これは交配欠陥の部分的な相補性が見られるマ ウスmdr3遺伝子を使った公の実験と対照的である(Raymondら、1992年)。 さまざまなMdr1構築物(1019、1065、1079、1097)を有するWKK6細胞 をa因子に超感受性なMatα細胞(CY32=MAT 1eu2−3,112 trp−289 ura3−52 his3*1 sst2*2 GAL+) の菌層にパッチ形成することによって「ハロー」分析を行った。ハローは全てS TE6+細胞で産生されたものよりずっと小さかったが、ハローのサイズにおけ る僅差が次の相対的順序で観察された。即ち、1097>1079〜1065>1019。これは a因子がSTE6のために欠失された酵母中に発現した野生型ヒトMdr1タン パク質によって輸送できるが、ハロー分析は迅速な薬物のスクリーニングに受け 入れられやすいとは考えられないことを示している。 ハロー分析はインジケータの菌層中にある細胞の生育停止によるste6-M dr1株から分泌のa因子を検出する。別の、そしてより高感度な方法はフェロ モンシグナルの転写応答を利用するものである。HIS3遺伝子(CY104= MATα ura3 leu2 trp1 his3 fus1−HIS3 c an1 ste14::TRP1)に関与するa因子のある株は、さまざまなプ ラスミドを有しているSTE6+(CY19=W303−1a=MATa ur a3−1 leu2−3,112 his3−11,15 trp1−1 ad e 2−1 can1−100)またはste6-(WKK6=CY20=MA Ta ura3−1 leu2−3,112 his3−11,15 trp1 −1 ade2−1 can1−100 ste6::HIS3)株でクロスス トリークされる。このクロスストリークは、a因子で刺激されたらCY104イ ンジケータ株だけが生育するようにヒスチジンおよびトリプトファンを欠くプレ ート上で行う。この方法によって見られるa因子分泌の順番はCY58>CY6 1〜CY62〜CY63>CY60である。ここでCY58=CY19(STE 6+,1019),CY60=CY20(ste6-,1019),CY61=C Y20(ste6-、1065),CY62=CY20(ste6-,1079) そしてCY63=CY20(ste6-,1097)である。このようにSTE 6+とste6-とのa因子生産における差との因子の過剰生産の有無はこの系で 検出できるが、a因子のスクリーニングにおけるMdr1活性は検出できない。 これらの実験では、ste6-のa因子過剰生産株からつくられたシグナルがa 因子分泌または溶菌細胞から得たa因子の放出のための別の経路に起因するもの なのか否か不明である。 オートクリン系におけるa因子輸送体によるMdr1活性の分析: Mdr1媒介のa因子輸送体を検出する単一株の系を、感受性と再生産性を改 善し、溶菌細胞から放出されるa因子の潜在的な虚偽シグナル(細胞の濃度依存 現象)を除くために、構築した。ヒスチジンを欠く培地での生育によってa因子 に応答することができ、a因子分泌に対する唯一の障害は機能的なSTE6遺伝 子を有しない株(CY293=MATa ura3 leu2 trp1 hi s3 fus1−HIS3 can1 ade2−1 ste2−STE3 s te6::TRP1)を構築した。事実、この株の機能的なSTE6遺伝子を含 有していない直接の前駆体は、3mMアミノトリアゾールを含有するHIS培地 に積極的に生育できるが、CY293は全然生育しなかった。HIS3酵素の競 合的なインヒビターであるアミノトリアゾールの添加は、これらの株のバックグ ラウンド成長を減少させるのに必要である。 Mdr1含有プラスミドをCY293中に導入し、その形質転換体を0.1ま たは0.33mMのアミノトリアゾールを含有する−HISプレート上にストリ ークした。このようにしてできた成長パターンは1097>1067>1065〜1176>1164 〜1019であった。CY293のSTE6+親株は、それらの形質転換体のどんな ものより著しく激しい成長を示した。しかしヒトMdr1媒介のa因子分子はこ のオートクリン系中に明確に検出できる。1097で形質転換されたCY293 は、Mdr1活性を阻害する薬物(−HIS+アミノトリアゾールで生育減殺す る)は勿論、Mdr1タンパク質の活性を促進する薬物(−HIS+アミノトリ アゾールで生育増進する)をスクリーニングするのに使うことができる。後者の 場合、対照はMdr1依存の仕方で酵母生育を阻害する化合物を同定するように 設計されていなければならない。 オートクリン酵母発現Mdr1の改良 上記の結果はヒトMdr1タンパク質がa因子を、酵母STE6タンパク質が するよりも非効率的に輸送していることを示している。ヒトMdr1によってよ り効率的に輸送されるが、a因子受容体(STE3タンパク質)に対するアゴニ スト活性を保持する突然変異a因子分子を単離する試みがなされるであろう。こ れをするのに、a因子をコードする配列が、「汚れた」ヌクレオチドを使って化 学合成されa因子発現カセットに挿入されるであろう。「汚れた」合成の例は、 Gが正常時に現れているa因子配列中の位置に70%のG、およびA,T,C各 々の10%からなる混合物からヌクレオチドを取り込むことである。このように して作ったオリゴヌクレオチドを使って、ペプチドの多様なライブラリーを酵母 中に発現させ、STE3タンパク質にシグナルする能力を保持するがヒトMdr 1による輸送の好ましい基質ともなるペプチドを同定するためのスクリーニング を行うことができる。 この系の第2の改良点は、フェロモン誘発性の「陰性選択(ネガティブセレク ション)」マーカーを追加することであろう。例えばFUS1プロモーターをG AL1をコードする配列に接続することができる。GAL1の発現は、GAL7 またはGAL10遺伝子のいずれかにおける突然変異がある株中にガラクトース が存在するとき、有毒である。オートクリンMdr1株のコンテキストでは、こ の選択系は細胞をガラクトース感受性にしてしまう。Mdr1タンパク質がa因 子を分泌する能力を阻害する化合物の追加は、この株をガラクトース含有培地に 生育することを可能にする。この選択系は致死率による虚偽の陽性を排除する。 対照はまたフェロモン応答経路におけるそれ以外の地点で妨げる化合物を同定す るようにも設計されていなければならない。 この系の第3の改良点は、哺乳動物MDR遺伝子と均等に機能する酵母遺伝子 の不活性化に関係することである。多面発現的薬物耐性[Pleiotropic drug res istance](PDR)に関係する遺伝子のネットワークが酵母中に同定されてい る。この修飾は、細胞内のターゲットとの化合物の相互反応を分析するために設 計される酵母のスクリーニングに有益であろう。 ヒトMdr1を発現する改良されたオートクリン酵母株は、このタンパク質の 輸送機能を阻害する分子の化合物ライブラリーをスクリーニングするのに利用さ れるであろう。また、ランダムペプチドをコードするオリゴヌクレオチドを有す るMfα発現カセットが、オートクリンMdr1株中に発現されて、a因子また はa因子類似体のMdr1による輸送を阻害することができるペプチドを同定す るであろう。 実施例7: 野生型ヒトCFTRに輸送される酵母a因子の類似体の同定 この実施例は、例えば突然変異ヒトCFTRタンパク質のような、機能不全A TP依存性トランスメンブラン輸送体による輸送を促進することができる分子を 同定するオートクリン酵母株の利用法につき記載するものである。野生型ヒトC FTRタンパク質は、生a因子フェロモンを輸送することにより、酵母中でのS te6機能の代用とはならない(John Teem、未発表の観察)。突然変異CFT R機能を促進する分子を発見するためにオートクリン酵母株を最大限に開発する ため、CFTRによる輸送の基質として働くことができるa因子様ペプチドが同 定される。フェロモンシグナル発信を開始するためには、a因子類似体は、フェ ロモン受容体のSte3に機能的に結合もしなければならない。CFTR輸送基 質は、Ste6発現を欠失されているが野生型ヒトCFTRタンパク質は発現す るオートクリン酵母中にランダムに突然変異されたMFa発現カセットを発現さ せることによって同定される。 オートクリン酵母における突然変異ヒトCFTRタンパク質の発現: a因子様ペプチドフェロモンのCFTRによる輸送は、曩胞性繊維症[cystic fibrosis](CF)突然変異を含有するCFTRタンパク質の輸送機能を増大す る化合物を同定するのに使われるスクリーニングの設計の基礎として役立てられ る。Ste6/CFTRキメラを使ったTeemら(1993)による研究に基づき、突 然変異CFTRはa因子類似体を効率的に輸送するものとは期待できない。Teem ら(1993)は、ヒトCFTRの第一のヌクレオチド結合トメインをコードする配 列のさまざまな部分を酵母STE6の類似配列で置換してキメラタンパクを作製 している。キメラタンパク質は酵母中に発現されると生酵母a因子を輸送する。 しかしCF突然変異(△F508)の導入はこれらのタンパク質が酵母フェロモ ンを輸送する能力を減殺する。Teemらはまた、酵母中に復帰変異株、つまりa因 子を輸送するCF突然変異を有するキメラの能力を保持する第2位の突然変異を 有するタンパク質を同定した。復帰変異株突然変異を哺乳動物細胞中に発現され た欠陥あるCFTRタンパク質中に導入することは、△F508タンパク質のプ ロセッシングとチャネルの欠陥を一部分減少させた。 CFTRによる輸送の基質として機能する酵母a因子の類似体の同定で、st e6配列を含有するキメラタンパク質を生成する必要もなく、突然変異体を酵母 に発現されたヒトCFTRタンパク質中に直接導入することができる。これは潜 在的なCF治療術をヒトCFTR分子全体にターゲッティングすることを可能に する。興味のある突然変異としては、△551DのほかにG551D,N130 3K,△1507がある。これらの突然変異は自然発生的なもので、感染した患 者に曩胞性繊維症を起こし、CFTRの輸送およびプロセッシングまたはそのタ ンパク質の機能調節のいずれかに影響するようである(WelshとSmith 1993)。 これらの突然変異はまたCFTRの最も一般的な変形例の一つに位置付けられる 。CFTRによる輸送のための基質として機能するペプチドを同定することがで きない場合には、キメラSte6/CFTRタンパク質と変形されなかったa因 子が酵母のオートクリン株に基づくスクリーニングに利用することができる。こ れらの株はスクリーニングの実際においてはっきりと利点を提供する、即ち、大 規模オートメーションのための容易な適用性、フェロモンのシグナル発信に関す る従来の酵母交配細胞の分析に比較して簡単で向上された感度、活性ペプチド構 造を同定する今日の技術を採用できる可能性などである。 突然変異CFTRによるa因子様ペプチドの輸送を促進する化合物の同定: 突然変異ヒトCFTRタンパク質を発現するオートクリン株は肥沃な培地で生 育することができるが、a因子類似体の不適格な輸送やシグナル発信のために、 選択(ヒスチジン欠損)培地で効率的に生育しない。これらの株におけるフェロ モンシグナル発信は、His3酵素の転写を制御するFUS1プロモーター配列 からの発現を開始する。His3の発現はヒスチジン欠損培地における生育にと って必要である。これらの株は、突然変異CFTRのa因子類似体を輸送しヒス チジン欠損培地で酵母を生育させる能力を持っていない状態を逆転させる分子を 同定する化合物のライブラリーをスクリーニングするのに使われる。あるいは活 性化合物はa因子受容体Ste3に直接シグナル発信することができるか、別の 場所でフェロモン応答経路と相互反応することができる。適切な制御はこれらの 可能性から適当なものを区別する。 突然変異CFTRによる輸送を促進するランダムペプチドの同定: ランダムペプチドをコードするオリゴヌクレオチドを含有するプラスミドは、 突然変異ヒトCFTRを有するオートクリン酵母中に発現される。α因子に基づ いた発現カセットを使って発現されるこれらのペプチドは、酵母分泌経路経由で 細胞外環境に輸送される。関心のあるペプチドは、ヒスチジン欠損培地における 突然変異CFTR含有株の生育を可能にする能力の有無によって同定される活性 ペプチドは、突然変異ヒトCFTRによるa因子類似体の輸送を可能にする。あ るいはペプチドはフェロモン応答経路の別の箇所で相互反応することができる。 適切な制御はこれら可能な結果各々を区別する。 実施例8: 酵母KEX2のためのプロホルモンコンバーターゼ [prohormone convertase]PC1の代用物の予言的例 哺乳動物プロホルモンコンバーターゼPC1/PC3およびPC2は、プロオ ピオメラノコルチン(POMC)のタンパク質分解プロセッシングに関係してい る。PC1は副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)とβリポトロピンを選択的に放 出し、PC2はβエンドルフィン、接合ペプチド[joining peptide](JP) を 含有するN末端の伸びたACTH、およびαメラノサイト刺激ホルモン(α−M SH)またはデス(dcs-)アセチルα−MSHのいずれかを選択的に放出する( Benjannet,S.ら、1991年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:3564-3568; Seide h N.G.ら、1992年、FEBS Lett.310,235-239)。例えば、哺乳動物PC1が キメラプレ-プロ-POMC/α因子ペプチドをプロセスし、成熟α因子の分泌お よびオートクリン方式でのヒスチジンのプロトトロフィー(原栄養性)にスクリ ーニングする株を刺激することを可能にする酵母株について記載する。オートク リン株は次のようにして構築される。即ち、1.酵母KEX2が破壊される。2 .酵母KEX2活性が哺乳動物PC1の活性と置き換えられる。3.PC1によ って認識される二塩基分割部位を有する新規のMFα構築物が発現する。4.成 熟α因子の産生にPC1活性が要求される。5.株の生育が成熟α因子の産生に よって刺激される。以上である。 この例のための親株の遺伝子型は、MATa bar1::hisG far 1−1 fus1−HIS3 ste14::TRP1 ura3 trp1 leu2 his3である。最初にこの株のKEX2対立遺伝子が、切除される 開始コドンから終結コドンまでの全コーディング領域でKEX2座の両側領域を コードする組み込みプラスミド(pkex2△)を使って破壊される。親株への トランスフェクションがその後に行われるBsu36Iによるpkex2△の開 裂は、このプラスミドのKEX2座への組み込みをもたらす。形質転換はウラシ ル原栄養性への変換としてスコアされる。URA+形質転換体をその後5−フル オロオロチン酸含有のプレートへ移動するとkex1△対立遺伝子を有するコロ ニー成長をもたらす。組み込みはサザーンブロット分析およびKEX2座を囲む オリゴヌクレオチドプライマーを使ったコロニーPCRで確認することができる 。このkex1△株は外因的に添加されたα因子の存在下でヒスチジン欠損培地 に生育することができるが、Cadus 1219(URA3 2mu−ori REP3 AmpR f1−ori α因子)から発現したプレ-プロ-POMC/α因子 キメラのプロセッシングはKEX2活性を要求するので、Cadus 1219でひとたび トランスフェクションされるとヒスチジン欠損培地でオートクリン式で生育する こ とができない。 株をスクリーニングするときは、PC1活性がα因子ペプチドの成熟に切除さ れたKEX2活性に代わって代用される。マウスから得たPC1 cDNA(入 手番号M69196)(Kornerら、1991年、Proc.Natl.Acad.Sci USA 88:6834-6838 )が753アミノ酸のタンパク質をコードするものとして発見された。PC1を コードする配列はハイコピー複製プラスミド(Cadus 1289)中にクローニングさ れる。このプラスミドで形質転換された酵母細胞はロイシン欠損培地に生育する 能力を得て、PGKプロモーターが存在するためハイレベルなPC1タンパク質 を発現する。 ヒトPOMC(入手番号K02406; Takahashi,H.ら、1983年Nucleic Acids Re search 11:6847-6858)のプレプロ領域をコードするハイブリッド遺伝子と成熟 α因子の1つのリピートのコーティング領域は次のようにして構築される。即ち 、ヒトPOMCのプレプロ領域をHindIII部位の5’端およびBbsI部位 の3’端でVENTポリメラーゼと次のプライマーを使って増幅する。即ち、 (HindIII部位には下線が引いてある。開始コドンはイタリック体の太字) および、 (BbsI認識に下線が引いてある)。このときアミノ酸配列−SSGAGQ −を3’端にBbsIと残し、−KR−二塩基開裂配列にオーバーハングを残 す。α因子のコーディング領域はCadus 1219からBbsI部位の5’端とBgl II部位の3’端で次のプライマーを使って増幅される。即ち、 (BbsI部位には下線が引いてある)および (BglII部位には下線が引いてある、終止コドンは太字) POMCのプレプロセグメントをコードするPCRフラグメントをHindIII およびBbsIで切断されゲル精製され、α因子をコードするPCRフラグメン ト はBbsIとBglIIで切断されてゲル精製され、Cadus 1215がBglIIと部分 的にHindIIIで切断され、pAlterポリリンカー配列を有するHindI II−BglII制限ベクターがゲル精製される。2つのPCR産物とHindIII −BglΠで消化されたCadus 1215との3部連結反応は、最初の104アミノ酸 残基がPOMCからで残りの17はα因子からのハイブリッドPOMC/α因子 遺伝子を産生する。PC1開裂部位周辺のこのハイブリッド遺伝子は、 である。ここでPOMCから与えられた残基には下線が引いてある、また二塩基 開裂部位は下線付の太字、成熟α因子の配列はイタリックで表してある。二塩基 開裂部位と成熟α因子のアミノ末端トリプトファンとの間に並列しているテトラ ペプチド−EAEA−は、ste13pのジペプチジルアミノペプチダーゼ活性 によって除去される。 PC1をコードするプラスミドとPOMC/α因子プラスミドとを遺伝子型M ATa bar1::hisG far1−1 fus1−HIS3 ste1 4::TRP1 ura3 trp1 leu2 his3を有するkex2△ 株中に導入することは、POMC/α因子プラスミドでコードされたα因子のコ ピー1個のアミノ末端側にPC1に媒介された二塩基モチーフの開裂に依存性の オートクリン成長をもたらす。つまりこの株のオートクリン挙動はPC1の発現 によるものである。哺乳動物PC1の代わりにPC2を発現させることによって 適切な負の制御を行う。α因子遺伝子の上流に挿入されるPOMCの開裂部位は PC2によって認識されない。したがってα因子遺伝子の5’端に付加するPO MCからの開裂部位を上手に選択することによってPC1に対するPC2依存性 プロセッシングに特異性の株を構築することが可能である。この株のオートクリ ン成長を破壊するが、この株がヒスチジン含有培地で生育するときは生育阻害効 果をもたない化合物またはランダムペプチドは、PC1活性の潜在的インヒビタ ーである。 実施例9: 酵母STE7のヒトMEK (MAPキナーゼキナーゼ)による置換の予言的例 哺乳動物キナーゼのインヒビターとして作用する化合物のスクリーニングを開 発するためSTE7活性がなくて酵母発現ベクター中にヒトMEKを有する酵母 株を構築することができる。また、後述するように、この株はリポーター能も備 えている。 酵母STE7遺伝子を破壊するためには次のアプローチをとることができる。 即ち、マルチコピーE.coliベクターのpBluescriptKS+を、 5’ノンコーディングのため、またコーディング領域の把握可能な部分のため、 削除されたSTE7配列とプロモーター配列とを含むように操作する。|ste 7配列を酵母URA3遺伝子を含有するBluescriptベースのプラスミ ドであるpRS406|ClaI中にサブクローニングして、得たプラスミドで あるpRS406|ClaI|ste7を次のようにして野生型STE7遺伝子 を破壊するのに使った。即ち、pRS406|ste7をClaIで消化し、酵 母株CY252(遺伝子型 MATa ste14::TRP1 fus1−H IS3 far1−1 ura3 leu2 trp1 his3 ade2− 1 met1)をウラシル原栄養性に形質転換するのに使う。5−フルオロオロ チン酸含有の培地にUra+形質転換体をその後に移すと、ste7|対立遺伝 子含有のコロニーをもたらす。このことはサザン分析およびαフェロモンで刺激 されるとヒスチジンが不存在のときはその株は生育できない事実によって確認さ れている。 酵母細胞中にヒトMEKを発現することができるプラスミドを構築するために 、次のオリゴヌクレオチドを構築する。即ち、 鋳型としてのヒトcDNAとのポリメラーゼ連鎖反応[polymerase chain react ion](PCR)に使うと、これらのプライマーはヒトMEKをコードするDN Aの増幅を指示する。ヒトMEK遺伝子を酵母発現ベクターに挿入ため、PCR 産物をEsp3IおよびXbaI(上記の太字配列)で消化し、従前にNcoI お よびXbaIで消化しておいた酵母−E.coliシャトルプラスミドCadus 12 89に連結反応させる。得られたプラスミドは酵母細胞中で自律的に複製し、酵母 leu2突然変異体にロイシン原栄養性を付与して、構成的なPGK1プロモー ターからのMEKの発現を指示する。 上記PGK1−MEKプラスミドがCY252−ste7|細胞中に導入され ると、フェロモン応答経路中でSTE7を機能的に置き換えるMEKの能力があ るため、αフェロモンでインキュベーションされたときヒスチジンの非存在下で 生育する能力を回復し、これによって染色体中に存在するfus1−HIS3融 合を刺激する。そうしたらヒスチジン非存在の条件下にαフェロモン依存性の生 育を逆転することができるが、ヒスチジンの存在下では非特異的毒性効果をもた ない化合物を求めてスクリーニングすることができる。 オートクリンの実施例では、作られる酵母細胞ste7|は、次の遺伝子型で ある。即ち、MAT bar1::hisG far1−1 fus1−HIS 3 ste14::trp1::LYS2 ura3 trp1 leu2 h is3 lys2(CY588trp)。次の手順はCY252に関する上記の ものと全く同一である。即ち、CY588trpste7|を構築後、生成され た細胞を、分泌αフェロモンを発現することができるプラスミドは勿論、MEK を発現するプラスミドで形質転換する。この形質転換した株(CY588trp ste7|[MEK/MFα])はヒスチジンを欠くが多量(20 22222 222222222mM)の3−アミノトリアゾールを含有する培地で生育する ことができる。この株のこの培地での生育は両方のプラスミドの存在(各々が必 要だが、どちらも十分でない)に厳密に依存している。この生育を阻止する化合 物は、外因的に付加されたαフェロモンは不要であるという例外はあるが、上述 のようにテストし得る。 またCY588trpste7|[MEK/MFα]は細胞質的にターゲット されたランダムペプチドを発現するプラスミドライブラリーで形質転換できる。 MEKの機能に干渉するものは、ヒスチジンのない(そして潜在的に3−アミノ トリアゾールを含有する)培地にレプリカ培養することで同定される。このよう な阻害ペプチドを発現する細胞はHis−である。こうしたスクリーニングは、 fus1−URA3のような陰性選択の可能性があるリポーター構築物を付加す ることでストリームライン化することができる。この場合阻害ペプチドはターゲ ット株に、5−FOA−(減少させられたfus1−URA3のある細胞用)ま たはガラクトース(ga110−バックグラウンドで減少させられたfus1− GAL1のある細胞用)を有する培地での生育能力を付与する。 確認試験には、ランダムペプチドの存在下におけるMEK、または潜在的ME Kインヒビターとして同定されるその他の分子、の活性に関する生化学的分析が ある。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI (C12P 21/02 C12R 1:865) (81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE, DK,ES,FR,GB,GR,IE,IT,LU,M C,NL,PT,SE),AU,CA,JP (72)発明者 ブローチ、ジム アメリカ合衆国、10128 ニューヨーク州、 ニューヨーク、エイティエイツス ストリ ート 360 イースト、アパートメント 2エイ (72)発明者 マンフレディ、ジョン アメリカ合衆国、10014 ニューヨーク州、 ニューヨーク、グリーンウッチ ストリー ト 666、アパートメント 556 (72)発明者 クライン、クリスティーン アメリカ合衆国、10014 ニューヨーク州、 ニューヨーク、グリーンウッチ ストリー ト 666、アパートメント 556 (72)発明者 マーフィー、アンドリュー、ジェイ. アメリカ合衆国、07043 ニュージャージ ー州、モントクレア、ウインザー プレイ ス 17 (72)発明者 ポール、ジェレミー アメリカ合衆国、10964 ニューヨーク州、 パリセイズ、ルート 9ダブリュ 197 (72)発明者 トゥルーハート、ジョシュア アメリカ合衆国、10960 ニューヨーク州、 サウス ニヤック、サウス ブロードウエ イ 212 【要約の続き】

Claims (1)

  1. 【特許請求の範囲】 1.(a)少なくとも一定の条件下で、酵母細胞のフェロモン系において、相当 する酵母フェロモン系タンパク質が自然に行う機能を行う酵母フェロモン系タン パク質の異種起源代用物と、(b)異種起源のペプチドと、を発現する、フェロ モン系を有する酵母細胞であって、これによって上記ペプチドが上記代用物の上 記フェロモン系との相互反応を調節するとき、その調節が選択可能またはスクリ ーニング可能であることを特徴とする酵母細胞。 2.内因性フェロモン系タンパク質が機能を有する形態で生成されるものでない ことを特徴とする請求項1に記載の酵母細胞。 3.ペプチドが細胞によってペリプラズム空間中に分泌され、そこからそれが上 記代用物と相互反応することを特徴とする請求項1に記載の酵母細胞。 4.ペプチドが開裂可能なリーダーペプチドと成熟ペプチドからなる前駆体ペプ チドの形で発現し、リーダーペプチドが上記細胞の野生型フェロモンのリーダー ペプチドに実質的に相同であることを特徴とする請求項3に記載の酵母細胞。 5.野生型リーダーペプチドがサッカロマイセス・セレビシエα因子またはa因 子のペプチドである請求項4に記載の酵母細胞。 6.野生型フェロモンが分泌されないことを特徴とする請求項4に記載の酵母細 胞。 7.ペプチドが非分泌型でも発現されることを特徴とする請求項3に記載の酵母 細胞。 8.細胞が野生型株に比較してそのフェロモンシグナル経路を反復または引伸ば された刺激を通して非感受性にする傾向が減少した突然変異株であることを特徴 とする請求項1に記載の酵母細胞。 9.SST2遺伝子が機能的に発現されないことを特徴とする請求項8に記載の 酵母細胞。 10.FAR1遺伝子が機能的に発現されないことを特徴とする請求項1に記載 の酵母細胞。 11.フェロモンシグナル経路によって活性化される選択可能なマーカーをさら に有することを特徴とする請求項1に記載の酵母細胞。 12.上記選択可能なマーカーが外来の選択可能な遣伝子に制御可能に連結され た内因性フェロモン応答プロモーターと実質的に相同なフェロモン応答プロモー ターを有していることを特徴とする請求項11に記載の酵母細胞。 13.選択可能な遺伝子がIGPデヒドラターゼ遺伝子であることを特徴とする 請求項12に記載の酵母細胞。 14.相同の野生型プロモーターがFUS1プロモーターであることを特徴とす る請求項12に記載の酵母細胞。 15.細胞がサッカロマイセス・セレビシエ種に属するものであることを特徴と する請求項1に記載の酵母細胞。 16.フェロモン系タンパク質がファルネシルトランスフェラーゼであることを 特徴とする請求項1に記載の酵母細胞。 17.フェロモン系タンパク質がカルボキシメチルトランスフェラーゼであるこ とを特徴とする請求項1に記載の酵母細胞。 18.フェロモン系タンパク質がキナーゼであることを特徴とする請求項1に記 載の酵母細胞。 19.酵母フェロモン系タンパク質が、前駆体タンパク質の開裂によって酵母フ ェロモンの成熟型の生成に関与するプロテアーゼで、その代用物もまたプロテア ーゼであることを特徴とする請求項1に記載の酵母細胞。 20.細胞中に生成された前駆体タンパク質がそれ自身酵母フェロモン前駆体タ ンパク質の代用物で、該代用物前駆体タンパク質が前記代用物プロテアーゼによ って認識される認識部位を有するアミノ酸配列を有し、上記認識部位が酵母フェ ロモン系プロテアーゼによって認識される部位とは異なるが、上記代用前駆体タ ンパク質は酵母フェロモンの成熟型を生成する代用プロテアーゼによって開裂さ れるものであることを特徴とする請求項19に記載の酵母細胞。 21.野生型酵母フェロモン前駆体タンパク質が生成されないことを特徴とする 請求項20に記載の酵母細胞。 22.酵母フェロモン系タンパク質が酵母フェロモンの膜輸送に関与するABC 輸送体で、その代用物もABC輸送体であることを特徴とする請求項1に記載の 酵母細胞。 23.前記ペプチドが輸送を阻害しない限り、代用物は酵母フェロモンを輸送す るものであることを特徴とする請求項22に記載の酵母細胞。 24.上記ペプチドの助けがあったときだけ代用物が酵母フェロモンを輸送する ものであることを特徴とする請求項22に記載の酵母細胞。 25.酵母フェロモン系タンパク質が酵母フェロモン受容体であることを特徴と する請求項1に記載の酵母細胞。 26.ペプチドが代用物受容体のアゴニストであることを特徴とする請求項25 に記載の酵母細胞。 27.ペプチドが代用物受容体のアンタゴニストであることを特徴とする請求項 25に記載の酵母細胞。 28.Gタンパク質のGαサブユニットがキメラであることを特徴とする請求項 25に記載の酵母細胞。 29.Gαサブユニットのアミノ末端部分が酵母Gタンパク質のGαサブユニッ トと実質的に相同で、その残部が異種起源のGタンパク質のGαサブユニットの 相当部分と実質的に相同であることを特徴とする請求項28に記載の酵母細胞。 30.フェロモン系タンパク質がサイクリンであることを特徴とする請求項30 に記載の酵母細胞。 31.酵母細胞が非フェロモン応答性のスクリーニング可能なマーカーを有して いることを特徴とする請求項30に記載の酵母細胞。 32.酵母細胞が集合的にペプチドライブラリーを発現することを特徴とする複 数の請求項1に記載の酵母細胞からなる酵母培養体。 33.フェロモン系タンパク質の非酵母代用物の活性の調節についてペプチドを 分析する方法であって、上記代用物および上記ペプチドを機能的に発現する請求 項1の酵母細胞を供給し、該ペプチドによってフェロモンシグナル経路が活 性化されたのか阻害されたのかを決定するステップを含むことを特徴とする方法 。 34.細胞がフェロモン応答性選択可能マーカーを有し、該細胞は所望の活性効 果または阻害効果を有するペプチドの発現について選択されるものであることを 特徴とする請求項33に記載のペプチド分析方法。 35.細胞がフェロモン応答性スクリーニング可能マーカーを有し、該細胞は所 望の活性効果または阻害効果を有するペプチドの発現についてスクリーニングさ れるものであることを特徴とする請求項33に記載のペプチド分析方法。 36.非酵母フェロモン系タンパク質代用物の活性についてペプチドライブラリ ーを分析する方法であって、その細胞が各々上記ライブラリーのペプチドおよび 上記代用物を機能的に発現する請求項32に記載の酵母培養体を供給し、該培養 体がペプチドライブラリー全体を集合的に発現し、該培養体の各細胞中で上記ペ プチドによってフェロモンシグナル経路が活性化されたのか阻害されたのかを決 定するステップを含むことを特徴とする方法。 37.代用物がヒトMdr1であって、この代用物がα因子を輸送するときだけ ヒスチジンのない培地で細胞が生育し、代用物がα因子を輸送するときだけ細胞 がガラクトース感受性で、内因性の多面発現性薬物耐性の遺伝子が不活性化され ていることを特徴とする請求項34に記載の方法。
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