【発明の詳細な説明】
腫瘍細胞死誘導法
発明の背景 I.本発明の技術分野
本発明は細胞溶解方法または望ましくない細胞の成長阻止方法に関する。殊に
、本発明はFas抗原およびI型TNF受容体(TNF−R1)の双方を発現す
る腫瘍細胞およびウイルス感染細胞を死滅させることまたは成長阻止に関する。II.技術的背景および関連技術
ここ何十年か、ある種の細胞には発達のある時点で死滅すること、すなわち、
「アポトーシス」と命名された過程がプログラムされていることが判ってきた。
アポトーシスにより死滅しつつある細胞は細胞質の濃縮、原形質膜微絨毛消失、
細胞核断片化および約180bpオリゴマーへの染色体DNAの徹底的分解のよ
うな一連の特徴的な形態学的および生化学的変化によって容易に確認できる。ア
ポトーシスは胚の発達と免疫系でのクローン選択と[Itohなど、Cell、
66巻:233〜243頁(1991年)]を含む多数の生理学的過程において
必須であり、未成熟胸腺細胞での糖質コルチコイドホルモンおよびある種の成長
因子の除去[Watanabe−Fukunagaなど、Nature、356
巻:314〜317頁(1992年)]のような種々の刺激により開始される。
bcl−2・P53またはc−mycの過剰発現はアポトーシスを調節すると思
われる。アポトーシスは腫瘍細胞退行に有用なことが観察されており、アポトー
シスの人工的な誘導により腫瘍細胞を破壊できることが提案された。事実、腫瘍
壊死因子−アルファ(TNF−α)および腫瘍壊死因子−ベータ(TNF−β、
リンホトキシン)のような細胞毒性薬と放射線とが感受性腫瘍細胞のアポトーシ
ス死を誘導することが示された[Schmidなど、Proc.Natl.Ac
ad.Sci.USA、83巻:1881頁(1986年);Dealtryな
ど、Eur.J.Immunol.、17巻:689頁(1987年)]。
TNF−αまたはTNF−βが仲介する種々の細胞応答誘導の第一段階は特異
的細胞表面受容体へのそれらの結合である。約55kDa(TNF−R1)およ
び約75kDa(TNF−R2)の異なる2種のTNF受容体が確認されており
[Hohman,H.P.など、J.Biol.Chem.、264巻:149
27〜14934頁(1989年);Brockhaus,M.など、Proc
.Natl.Acad.Sci.USA、87巻:3127〜3131頁(19
90年)]、両型受容体に対応するヒトおよびマウスのcDNAが分離され、配
列決定されている[Loetscher,H.など、Cell、61巻:351
頁(1990年)、Schall,T.J.など、Cell、61巻:361頁
(1990年)(11〜15);Smith,C.A.など、Science、
248巻:1019頁(1990年);Lewis,M.など、Proc.Na
tl.Acad.Sci.USA、88巻:2830〜2834頁(1991年
);Goodwin,R.G.など、Mol.Cell.Biol.、11巻:
3020〜3026頁(1991年)]。
まだ組織的には研究されていないが、大多数の細胞型と組織とは両TNF受容
体を発現していると思われる。TNF受容体2種の各役割を理解しようとして、
数群の研究者がTNF−R1かTNF−R2かのいずれかに特異的なポリおよび
モノクローナル抗体(mAb)を作成した。
TNF−R1に対して特異的なポリクローナルおよびモノクローナル抗体は双
方ともこの受容体に対する特異的アゴニストとして行動すること、および細胞毒
性、繊維芽細胞増殖、対クラミジア耐性、プロスタグランジンE2合成および抗
ウイルス作用[Engelman,H.など、J.Biol.Chem.、26
5巻:14497〜14504頁(1990年);Espevik,T.など、
J.Exp.Med.、171巻:415〜426頁(1990年);Shal
aby,M.R.など、J.Exp.Med.、172巻:1517〜1520
頁(1990年);Wong,G.など、J.Immunol.、149巻:3
350〜3353頁(1992年)]のようなTNF作用数種を引出すことがで
きることが観察されている。TNF−R1へのアゴニスト抗体の持つ抗ウイルス
活性はWongなど、J.Immunol.、149巻:3350〜3353頁
(1992年)に開示がある。加えるに、ネズミTNF−R1とTNF−R2と
の双方に対するポリクローナル抗体が作成され、各々特異的受容体アゴニストと
して作用し、ネズミTNF作用のサブセットを誘導することが証明されている。
ネズミTNF−R1は細胞毒性のシグナル伝達および遺伝子数種の誘導を招く一
方、ネズミTNF−R2は一次胸腺細胞と細胞毒性T細胞系の増殖シグナル伝達
[Tartaglia,L.A.など、Proc.Natl.Acad.Sci
.USA、88巻:9292〜9296頁(1991年)]をすることができる
ことが示された。
Fas抗原(APO−1またはFas受容体とも言う)は細胞表面分子で、腫
瘍壊死因子(TNF)受容体−神経成長因子(NGF)受容体スーパーファミリ
ーに属し、最近、胸腺で自己応答性T細胞に負の選択を行うことが示唆されてい
る。55kDaのTNF−R1がシグナル伝達するものと同様なアポトーシス細
胞死をFas受容体はシグナル伝達できる[Itohなど、Cell、66巻:
233〜243頁(1991年)]。Fas抗原に特異的に結合するアゴニスト
マウスモノクローナル抗体はTNF−αのものと区別できない細胞致死活性を示
すと報告されており、TNF−αの細胞溶解活性はTNF−R1と共同するFa
s抗原により仲介されると示唆された。細胞をTNF−αか抗Fasマウスモノ
クローナル抗体かのいずれかで処理した時にはFas抗原の発現はTNF−R1
とともにダウンレギュレーションされることが報告された。細胞をインターフェ
ロン−αと共処理するとTNF−αおよび抗Fas抗体の細胞溶解作用は増大し
た[Yoneharaなど、J.Exp.Med.、169巻:1747〜17
56頁(1989年)]。これらの発見を文献はFas受容体とTNF−R1受
容体とを共発現する細胞系は共通のシグナル伝達経路を経た細胞致死を仲介する
ことを予測させるものであると解釈している。TNFと抗Fasモノクローナル
抗体とがヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染細胞に細胞致死的であることが示
されたが、しかしながら、抗Fas抗体でなく、TNFがHIV複写を増大した
[Kobayashiなど、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、
87巻:9620〜9624頁(1990年)]。
発明の要約
本発明はFas抗原とTNF−R1とが異なるシグナル経路を通して細胞の死
をシグナル伝達するという予想されなかった発見に基づく。
TNF−α耐性およびTNF−α感受性細胞系多数をアゴニスト抗Fas抗体
による細胞致死についてスクリーニングすることにより、機能的なFasおよび
TNF−R1受容体双方を共発現するある種の腫瘍細胞は、TNF−αまたはT
NF−R1に特異的に結合するアゴニスト抗体ではなくて、Fas抗原に特異的
に結合するアゴニスト抗体により殺されることが観察されている。TNF−αお
よび抗TNF−R1抗体に高度に感受性の別種細胞系はアゴニスト抗Fas抗体
に感受性を示さなかった。例えば、FasアゴニストはFas抗原を高水準で発
現する時でも正常な繊維芽細胞やリンパ球細胞は殺さない。
さらにTNF−R1アゴニストとFasアゴニストの組合せは腫瘍細胞致死能
について相乗的相互作用を示すことが観察されている。TNF−R1、IL−1
(多分、保護蛋白質の誘導による)またはシクロヘキシミド(活性細胞致死性蛋
白質合成を阻害しうる)を特異的に結合するアゴニスト抗体であるTNF−αに
よる前処置は、後続するTNF−αによる細胞致死作用に対して保護したが、抗
Fasアゴニスト抗体によるものは保護しなかったことが観察された。
最後に、TNF−αは多様な生物学的作用をシグナル伝達できる一方、Fas
によるシグナル伝達はもっと特異的に細胞致死に導く。
前記観察をまとめると予想できなかったことにFas抗原とTNF−R1とが
異なるシグナル伝達経路を経て腫瘍細胞致死を誘導していることを示す。
一側面では、本発明はFas抗原と1型TNF受容体(TNF−R1)とを発
現する細胞をTNF−R1アゴニストとFasアゴニストとの有効量で処置する
ことによる細胞溶解または細胞成長阻止の方法に関する。TNF−R1アゴニス
トは、好ましくはTNF−αまたはTNF−αと細胞毒作用が似ている抗TNF
−R1抗体である。Fasアゴニストは、好ましくは細胞致死作用を示す抗体で
ある。
別の側面では、本発明はTNF−R1を特異的に結合する第一の連続的アミノ
酸配列とFas抗原を特異的に結合する第二の連続的アミノ酸配列とを含む双特
異性分子に関する。好適な態様では、双特異性分子は少なくともヒンジ領域およ
びIgG−1、IGg−2、IGg−3免疫グロブリンのCM2およびCM3ドメ
インを含む免疫グロブリン重鎖定常ドメイン配列のような免疫グロブリン配列を
含む。治療的有用性に加え、本発明の双特異性分子は、殊にTNF−R1とFa
s抗原とを発現する悪性腫瘍での細胞型の確認と標識のためにも有用である。
さらに本発明は前記に定義した双特異性分子をコードするヌクレオチド配列に
関する。
さらに別の側面では、本発明はヌクレオチド配列を含み、かつ適当な宿主細胞
中で発現することのできる複製可能な発現ベクターに関する。
さらに他の側面では、本発明は該発現ベクターで形質転換した宿主細胞および
双特異性分子を発現するように形質転換した宿主細胞の培養法に関する。
本発明はまた細胞溶解または細胞成長阻止誘導可能量の前記双特異性分子を医
薬的に許容できる担体と混合して含む医薬組成物に関する。
さらに別の面では、本発明はFas抗原と1型TNF受容体(TNF−R1)
とを含む細胞を前記双特異性分子の有効量で処理することによる細胞溶解法また
は細胞成長阻止法に関する。
図面の簡単な説明
図1はFas抗原とTNF−R1との各構造の模式図である。これにはFas
抗原とTNF−R1とにより仲介される下流の異なるシグナル伝達経路も示す。
TNF−R1は細胞毒性、繊維芽細胞増殖、MnSOD誘導、HLAおよびIC
AM発現、酸素フリーラジカル増加、細胞耐性誘導および抗ウイルス作用を仲介
することが証明されているが、Fas抗原の生物学的作用は細胞毒性の仲介に限
定されていると思われる。
図2aと2bとはFasおよびTNF−R1アゴニストのHUT−78(a)
およびME−180(b)細胞への効果を示す。細胞をTNF−α(1μg/m
L)かFas、TNF−R1またはTNF−R2に対するウサギ血清(1:20
希釈)かいずれかで、または免疫前血清で、CHI存在下に24時間処理した。
次に細胞生存率を表1の説明文に記載したようにして測定した。相対生存率%は
反復6回の平均値±標準偏差を示す。
図3aと3bとはTNF−R1アゴニストではなく、FasによるSW−48
0細胞致死作用を示す。細胞致死作用検定法(a)は表1に記載したものと同一
方法で実施した。細胞をFasアゴニストに(b)に示す種々の時間接触させ、
PBSで5回洗浄し、さらにCHI(1μg/mL)と17時間インキュベーシ
ョンした後、表1の説明文に記載したようにして細胞生存率を測定した。
図4はTNF−R1へのおよびFas抗原へのアゴニスト抗体の相乗的な細胞
毒性を示し、T24細胞(a)、ヒトFas抗原を発現するネズミL929細胞
(b)、およびA172細胞(c)をアゴニスト抗Fasかアゴニスト抗ヒトT
NF−R1抗体かの単独または組合せで、シクロヘキシミド(CHI:10μg
/mL)の存在下に処理し、実施例に記載のようにして分析した。生存百分率は
3回〜6回の反復から得た平均値である。L929細胞では抗ネズミR1抗体を
抗ヒトTNF−R1抗体の代わりに使用した。免疫前血清(1レーン)、抗TN
F−R1(2レーン)、抗Fas(3レーン)および抗TNF−R1と抗Fas
との組合せ(4レーン)の1/100希釈で処理した細胞から核のDNAを分離
した。分子量マーカーとしてラムダファージDNAのHind・III消化物を
用いた(5レーン)。
図5(a)はFasアゴニストではなくTNF−R1での前処理がMA−1細
胞をTNF−α+CHIの細胞致死作用に対して保護すること、(b)TNF−
α誘導保護蛋白質はFasアゴニストの細胞致死作用に対して保護しないこと、
(c)CHI前処理はTNFの細胞致死作用に対して保護するが、Fasアゴニ
ストの細胞致死作用からは保護しないことを示す。致死作用の検定はすべて表1
の説明文に記載したようにして行った。
表1.FasアゴニストまたはTNF−R1アゴニストの種々の腫瘍細胞致死
作用
5%FBS添加F12培地中、細胞2×105個/mLの懸濁液100μLを
96穴プレートの各穴に入れ、24時間後に検定した。被検検体(TNF、TN
F−R1アゴニストまたはFasアゴニストを種々の用量で含む)を第一カラム
に加え、検体をFBS不含シクロヘキシミド(CHI)を含む培地で順次に2倍
希釈した。所定濃度のCHI含有検体適量を付着細胞に添加した。24時間後、
穴を鏡検して90〜100%細胞溶解を確認した。全穴から液体を流去し、付着
した生存細胞を0.5%クリスタルバイオレット20%メタノール溶液で10〜
15分間常温で染色した。0.1M−クエン酸ナトリウム/0.1M−クエン酸
と50%エタノールとで染料を着色細胞から溶出し、540nmでの吸光度を測
定して細胞生存率を定量した。記号(+/−、+、++、+++)は各々約25
、50、75および100%の細胞毒性を示し、記号(−)は10%以下の細胞
毒性を示す。TNF−R1またはFas抗原水準の染色測定法はTNF−R1か
Fas抗原かに対する精製ウサギポリクローナル抗体を利用して前記同様に実行
した。全細胞系は最初はアメリカンタイプカルチャーコレクションから入手した
もので、マイコプラズマ不含である。全培地には5%ウシ胎仔血清(FBS)、
1%L−グルタミン、ペニシリン100U/mLおよびストレプトマイシン10
0μg/mL(Gibco)を添加した。細胞は5%CO2大気中、37℃でイ
ンキュベーションした。組み換えヒトTNF−α(4×107U/mg)はGe
nentech製造グループから入手した。ヒトTNF−R1に対するウサギ抗
血清は前報と同じで[Tartaglia,L.A.とGoeddell,D.
V.、J.Biol.Chem.、267巻:4304〜4307頁(1992
年)]、可溶性IgG−ヒトFas抗原に対するウサギ抗血清はG.Benne
tt氏(Genentech)からの恵与品で、A蛋白質カラム精製品である。
発明の詳細な説明 1.定義
用語「TNF−R1」は欧州特許417563(1991年3月20日発行)
に開示されたアミノ酸配列を持つヒト1型TNF受容体およびこのTNF−R1
受容体の天然起源対立遺伝子および変異型のような、いかなる種からのいかなる
TNF−R1全長自然型アミノ酸配列をも含むポリペプチド分子の一員を示す。
この定義は殊に天然起源、試験管内合成または組み換えDNA技術法を含む遺伝
子操作から得られた可溶性のTNF−R1受容体ならびに様々な糖鎖付加型およ
び非糖鎖付加型自然型TNF−R1を包含する。非ヒト哺乳類(ネズミ、ウシ、
ウマ、ブタなど)種からのTNF−R1受容体は、例えばハイブリド化プローブ
としてヒトDNA配列から得たプローブを用いる種間ハイブリド化により各非ヒ
ト哺乳類cDNAライブラリーからTNF−R・cDNAを分離して取得するこ
とができる。
用語「Fas受容体」、「Fas抗原」、「Fas」および「APO−1」は
互換的に使用され、いかなる種からのいかなるFas全長自然型アミノ酸配列を
も含む一群のポリペプチド分子を示し、Itohなど、Cell、66巻:23
3〜243頁(1991年)が開示したヒトFas抗原およびWatanabe
−Fukunagaなど、J.Immunol.、148巻:1274〜127
9頁(1992年)が報告したマウスFas抗原アミノ酸配列および自然型Fa
s抗原の天然起源対立遺伝子および変異型を包含する。この定義は、殊に天然起
源、試験管内合成または組み換えDNA技術を含む遺伝子操作から得た自然型配
列Fas受容体および様々な糖鎖付加型および非糖鎖付加型の自然型Fas受容
体を包含する。非ヒト哺乳類(ネズミ、ウシ、ウマ、ブタなど)からのFas抗
原は、例えばハイブリド化プローブとしてヒトDNA配列から得たプローブを用
いる種間ハイブリド化により各非ヒト哺乳類cDNAライブラリーからFas・
cDNAを分離して取得することができる。
用語「アゴニスト」は本発明の目的のための定義では、TNF−R1およびF
as受容体の各々に特異的に結合し、また、結合時には標的細胞致死または成長
阻止を誘導できる抗体および他の分子を包含する。この用語は特異的にTNF−
α、TNF−β(一緒にしてTNFと記載)のようなTNF−R1の天然起源お
よび変異型リガンドおよびTNFに細胞毒性が似ているアゴニスト抗TNF−R
1抗体ならび業界公知または以下に記述するFas受容体の天然起源および変異
型リガンドおよび標的細胞を溶解または成長阻止することのできるアゴニスト抗
Fas抗体を含む。
「相乗作用」、「相乗的」およびこれらの文言の文法的変異型は本発明の文脈
では権威のある定義[Goodmanなど、「治療薬の薬理学的基礎」、McM
illan・Publishing・Co.Inc.、New・York(19
80年)]に従って定義する。これはXとY軸にそって成分2種各々の所定の生
物学的応答に必要な用量をプロットする「イソボログラム」構築の立場から最も
容易に理解できる。単なる相加的効果は一成分が減少すると、他成分が増加する
直線を形成する一方、相乗的効果は一成分の小さな増加が他成分量の急激な増加
を補償するような凹曲線の形成により認識することができる。
用語「腫瘍壊死因子」と「TNF」とはギリシャ文字の接辞がない時はTNF
−αとTNF−β(リンホトキシン)との双方の集合的呼称で、Pennica
など、Nature、312巻:721頁(1984年)により開示されたアミ
ノ酸配列を持つヒトTNF−α、Grayなど、Nature、312巻:72
4頁(1984年)に記載されたリンホトキシンとも呼ばれるヒトTNF−β、
および、厳格条件下に対応自然型アミノ酸配列とハイブリド化することができる
限り、TNF−αおよびTNF−β分子のアミノ酸配列変異型を包含するいかな
る種からのいかなるTNF−αまたはTNF−βの全長自然型アミノ酸配列をも
含む一群のポリペプチド分子を示す。この定義には殊に、天然起源、試験管内合
成または組み換えDNA技術を含む遺伝子操作で得た自然型配列TNF−αおよ
びTNF−βも包含する。アミノ酸配列変異型は、好ましくは配列相同性少なく
とも約65%、さらに好ましくは配列相同性少なくとも約75%を自然型TNF
−αまたはTNF−βアミノ酸配列のいかなるドメインとも共有する。この定義
には特異的に自然型および変異型TNF−αおよびTNF−βの様々な糖鎖付加
型および非糖鎖付加型を包含する。非ヒト哺乳類(ネズミ、ウシ、ウマ、ブタな
ど)種からのTNF分子は、例えばヒトDNA配列から得たプローブをハイブリ
ド化プローブとして用いる種間ハイブリド化により各非ヒト哺乳類cDNAライ
ブラリーからFas・cDNAを分離して取得できる。TNFは1個またはそれ
以上の結合部位を持っていてもよい。例えばヒトTNF−α(hTNF−α)は
受容体相互作用部位3個所を持つと記載されている[VanOstadeなど、
The・EMBO・J.、10巻:827頁(1991年)]。本発明ではTN
F−R1への全受容体結合部位の結合は不要であるが、受容体結合部位1個以上
との相互作用は結合と生物学的作用とを最大にするためには好適である。
「厳密条件」は50%ホルムアミド、5×SSC(150mM−NaCl、1
5mM−クエン酸三ナトリウム)、50mM−燐酸ナトリウム(pH7.6)、
5×デンハルト溶液、10%硫酸デキストランおよび変性剪断鮭精子DNA20
μg/mLを含む溶液中、42℃で一夜インキュベーションする。続いてフィル
ターを約65℃の0.1×SSCで洗浄する。
用語「アミノ酸」はすべての天然起源L−α−アミノ酸を示す。アミノ酸は一
文字または三文字表記法で示される:
Asp D アスパラギン酸 Ile I イソロイシン
Thr T スレオニン Leu L ロイシン
Ser S セリン Tyr Y チロシン
Glu E グルタミン酸 Phe F フェニルアラニン
Pro P プロリン His H ヒスチジン
Gly G グリシン Lys K リジン
Ala A アラニン Arg R アルギニン
Cys C システイン Trp W トリプトファン
Val V バリン Gln Q グルタミン
Met M メチオニン Asn N アスパラギン
これらのアミノ酸は化学構造およびそれらの側鎖の性質に従って分類しうる。
それらは荷電および非荷電の2群に分類される。これらの群はそれぞれアミノ酸
をもっと詳細に類別するサブグループに分類される。
I.荷電アミノ酸
酸性残基:アスパラギン酸、グルタミン酸
塩基性残基:リジン、アルギニン、ヒスチジン
II.非荷電アミノ酸
親水性残基:セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン
脂肪族残基:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン
非極性残基:システイン、メチオニン、プロリン
芳香族残基:フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン
用語「アミノ酸配列変異型」は自然型アミノ酸配列と比べてアミノ酸配列がい
くらか異なる分子を示す。
「相同性」は自然型対応アミノ酸配列内での残基と同一な、対象アミノ酸配列
内での残基の百分率として定義されるが、要すれば配列を相同性百分率が最大に
なるように並べ、さらに間隙を入れた後に比較する。この並べ方とコンピュータ
プログラムは当業者によく公知である。
変換変異型は自然型配列内のアミノ酸残基少なくとも1個を除去し、その代わ
りに異なるアミノ酸を同じ位置に挿入したものである。変換は単一、すなわち分
子内のアミノ酸1個のみが変換されたもの、または多重、すなわち同一分子内の
アミノ酸2個またはそれ以上が変換されているものでありうる。
挿入変異型は自然型配列内の特定位置にあるアミノ酸に直接隣接してアミノ酸
1個またはそれ以上が導入されたものである。アミノ酸に直接隣接するとは、ア
ミノ酸のα−カルボキシかα−アミノ官能基かに結合していることを意味する。
欠失変異型は自然型アミノ酸配列内のアミノ酸1個またはそれ以上を欠失した
ものである。通常、欠失変異型は分子の特定領域内でアミノ酸1個か2個かを欠
失したものである。
用語「糖鎖付加変異型」は糖鎖付加形が自然型対応物のそれとは異なる糖蛋白
質を示すために使用する。ポリペプチドの糖鎖付加は典型的にはN−結合かO−
結合かである。N−結合はアスパラギン残基側鎖への炭水化物基の付加を示す。
アスパラギン−X−セリンおよびアスパラギン−X−スレオニン[式中、Xはプ
ロリン以外のアミノ酸である]のトリペプチド配列はアスパラギン側鎖への炭水
化物基の酵素的付加のための認識配列である。O−結合糖鎖付加は糖の一種であ
るN−アセチルガラクトサミン、ガラクトースまたはキシロースのヒドロキシア
ミノ酸、最も通常には、セリンまたはスレオニンへの付加を示すが、5−ヒドロ
キシプロリンまたは5−ヒドロキシリジンもO−結合糖鎖付加に関与しうる。自
然型対応物と比較して炭水化物基の位置および/または性質が相違するTNF−
R1またはFasアゴニスト蛋白質もこの発明の範囲内である。
抗体(Ab)および免疫グロブリン(Ig)は同じ構造的特性を有する糖蛋白
質である。抗体は特定の抗原に結合特異性を示す一方、免疫グロブリンは抗体と
抗原特異性を持たない他の抗体様分子との双方を含む。後者に属する種類のポリ
ペプチドは、例えば、リンパ系により低水準で、また骨髄腫により高水準で産生
される。
自然型抗体と免疫グロブリンとは通常、同一軽(L)鎖2個と同一重(H)鎖
2個とからなる約150000ダルトンのヘテロテトラマー糖蛋白質である。各
軽鎖は重鎖にジスルフィド共有結合1個で結合する一方、アイソタイプの異なる
免疫グロブリン重鎖の間ではジスルフィド結合の数は異なっている。各重鎖およ
び軽鎖は規則的な間隔を置いて鎖内ジスルフィド橋を持つ。各重鎖は一端に可変
ドメイン(VH)1個、続いていくつかの定常ドメインを持つ。各軽鎖は一端に
可変ドメイン(VL)を、他端に定常ドメインを持ち、軽鎖の定常ドメインは重
鎖の第一定常ドメインと並び、軽鎖の可変ドメインは重鎖の可変ドメインと並ん
でいる。特定アミノ酸残基が軽鎖および重鎖にある各可変ドメインの間のインタ
ーフェースを形成すると信じられる[Clothiaなど、J.Mol.Bio
l.、186巻:651〜663頁(1985年);NovotnyとHabe
r、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、82巻:4592〜45
96頁(1985年)]。
可変性は抗体の可変領域全体に均一に分布しているのではない。それは軽鎖と
重鎖と双方の可変領域内にある相補性決定領域(CDR)または超可変領域と呼
ばれる部分3個に集中している。可変ドメインにある高度に保存された部分は枠
組構造領域(FR)と呼ばれる。自然型重軽両鎖の可変ドメインは各々FR領域
4個を含み、多くはCDR3個で結合されてβ−シート配置を取り、そのCDR
は、ものによってはβ−シートの一部を構成しながら、β−シート構造を結合し
て環状結合を形成する。各鎖のCDRはFR領域により互に近傍位置に保たれ、
他鎖のCDRとともに抗体の抗原結合部位形成に役立っている[Kabat,E
.A.、「免疫学的有意蛋白質の配列」、National・Institut
e・of・Health、Bethesda、MD(1987年)]。定常ドメ
インは抗体の抗原への結合に直接関与はしないが、抗体依存性細胞毒性における
抗体の関与のような種々のエフェクター機能を示す。
抗体のパパイン消化でFabと命名された同一の抗原結合断片2個ができる。
そのFabは抗原結合部位1個と容易に結晶する能力に因んで「Fc」と名付け
られた断片1個とを持つ。ペプシン処理は抗原結合部位2個を持ち、なお抗原を
交差結合できるF(ab’)2断片を与える。
「Fv」は完全な抗原認識部位および結合部位を含む最小の抗体断片である。
この領域は重鎖1個および軽鎖1個の可変ドメインが堅固で非共有的に会合して
いる二量体から構成される。各可変ドメインにあるCDR3個づつが相互作用を
してVH−VL二量体表面の抗原結合部位を決めるのはこの配位である。総合的に
は、このCDR6個が抗体に抗原結合特異性を与える。しかしながら、可変ドメ
イン1個(または、Fvの半分で、抗原特異性CDRを3個しか含まないもの)
でさえ全結合部位よりも親和性は低いが抗原を認識して結合する能力がある。
Fab断片も軽鎖の定常ドメインと重鎖の第一定常ドメイン(CH1)とを含
む。Fab’断片はFab断片とは重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に抗体
ヒンジ領域からのシステイン1個またはそれ以上を含む数残基が付加されている
点で異なっている。この文では、Fab’−SHは定常領域のシステイン残基が
遊離チオール基を持つFab’である。F(ab’)2抗体断片は元来、断片間
にヒンジシステインを持つFab’断片のペアとして生産された。抗体断片が異
なる化学結合をしたものも公知である。
いかなる脊椎動物種からの抗体(免疫グロブリン)の軽鎖もその定常ドメイン
のアミノ酸配列に基づいて明らかに異なる型2種であるカッパとラムダ(λ)の
うち1種に分類できる。
重鎖定常領域のアミノ酸配列によって、免疫グロブリンを異なるクラスに分類
できる。免疫グロブリンには主なクラスが5個:IgA、IgD、IgE、Ig
GおよびIgMがあるが、これらのうちいくつかはさらにサブクラス(アイソタ
イプ)、たとえばIgG−1、IgG−2、IgG−3とIgG−4;IgA−
1とIgA−2に分割しうる。異なるクラスに属する免疫グロブリンに対応する
重鎖定常領域は各々α、デルタ、イプシロン、γ、μと呼ばれる。異なるクラス
に属する免疫グロブリンのサブユニット構造と3次元配位とはよく公知である。
IgA−1とIgA−2とは通常二量体または多量体の型をとるIgAの単量体
サブクラスである。腸管中の免疫細胞は主にIgA多重体(二量体と多量体ポリ
マーを含めて、ポリIgAと呼ばれる)を生産する。このポリIgAは「結び付
け」または「J」鎖と呼ばれるジスルフィド結合したポリペプチドを含み、サブ
ユニット5個からなるJ鎖含有多重体IgM(ポリIgM)と共に絨毛を通して
輸送されることができる。
用語「抗体」は最広義に使用し、特に単一抗TNF−R1および抗Fasアゴ
ニストモノクローナル抗体およびポリエピトープ特異性を持つ抗TNF−R1お
よび抗Fasアゴニスト抗体組成物も含む。
用語「モノクローナル抗体」はここでは実質的に均一な抗体、すなわちその集
団を構成する個々の抗体が、僅かに存在しうる天然起源の可能性ある変異を除い
て同一である集団から得られた抗体を示す。モノクローナル抗体は高度に特異性
があり、単一の抗原性部位に対して特異的である。さらに、典型的には異なる決
定因子(エピトープ)に対して特異性のある異なる抗体を含む通常(ポリクロー
ナル)抗体処理物とは対照的に、各モノクローナル抗休は抗原上の単一決定因子
に対して特異的である。その特異性に加え、モノクローナル抗体はそれらがハイ
ブリドーマ培養により合成され、他の免疫グロブリンを夾雑しない点で有利であ
る。
ここにモノクローナル抗体には起源である種または免疫グロブリンのクラスま
たはサブクラスにかかわらず、それらが所期の生物学的作用を示す限り抗体断片
(たとえば、Fab、F(ab’)2、Fv)と同様、抗TNF−R1または抗
Fas抗体の可変(超可変を含む)ドメインと定常ドメイン(たとえば「ヒト株
化」抗体)(それらの内1個だけがTNF−R1またはFasに対するものであ
る)を、または軽鎖と重鎖を、またはある種からの鎖と他種からの鎖をスプライ
シングすることにより、または非異種蛋白質との融合により、製造したハイブリ
ッドおよび組み換え抗体を含む[たとえばCabillyなど、米国特許481
6567;MageとLamoyi、「モノクローナル抗体生産技術および応用
」中、79〜97頁(Marcel・Dekker・Inc.、New・Yor
k、1987年)参照]。
こうして修飾辞「モノクローナル」は実質的均一な抗体集団から得られる抗体
の特性を示すもので、特定製法による抗体生産が要件であると解釈すべきではな
い。例えば、本発明で使用するモノクローナル抗体はKohlerとMilst
ein、Nature、256巻:495頁(1975年)により初めて記載さ
れたハイブリドーマ法により製造されてもよく、または組み換えDNA法[Ca
billyなど、米国特許4816567]により製造されてもよい。
ここに抗体は、好ましくはTNF−R1およびFas抗原の細胞外ドメイン中
のエピトープに対するものである。
本発明の範囲内に包含される抗体はTNF−R1受容体およびFas受容体と
錯体形成後、各々標的細胞の致死作用または成長阻止作用を誘導するサブクラス
またはアイソタイプに属する。本発明の実施に好適なモノクローナル抗TNF−
R1アゴニスト抗体はWongなど、J.Immunol.、149巻:335
0〜3353頁(1992年)が記載し、981、982、983、984、9
85、986、993、994、1002、1011、1015および1021
と命名し、ヒトTNF−R1へのアフィニティーで精製したモノクローナル抗体
12種を含む。これらの抗体は超免疫BALB/cマウス後跂足蹠内でRIBI
アジュバント(RIBI・ImmunoChem.Research、Hami
lton、MT)中、可溶性TNF−R1(sTNF−R1)で生産し、排出す
る鼠径および膝窩リンパ節細胞とマウス筋原細胞系X63−Ag8.653[K
earney,J.F.など、J.Immunol.、123巻:1548〜1
550頁(1979年)]とを融合させた。抗体を蛋白質A−セファロース(R
epligen・Corp.Cambridge MA)と確立されたアフィニ
ティークロマトグラフィー法[Goding,J.W.、J.Immunol.
Methods、20巻:241〜253頁(1978年)]とを用いて腹水液
から精製した。抗TNF−R1モノクローナル抗体981および982を生産す
る細胞系は1993年2月11日にアメリカンタイプカルチャーコレクション、
12301、Parklawn・Drive、Rockvill、MD、USA
(ATCC)に各々寄託番号ATCC・HB11266とHB11267の下に
寄託した。この寄託は特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブタペス
ト条約とそれに付随する規則(ブダペスト条約)の規定の下に行った。
細胞致死活性(細胞溶解性)を持つ抗Fasモノクローナル抗体は業界公知で
ある[例えばYoneharaなど、J.Exp.Med.、169巻:174
7頁(1989年)およびKobayashiなど、Proc.Natl.Ac
ad.Sci.USA、87巻:9620〜9624頁(1990年);Koe
hlerなど、Ultratruct.Pathol.、14巻:513〜51
8頁(1990年)参照]。
「双特異性分子」は特異性2種を持つポリペプチドを定義するために用いる。
特異性(「結合ドメイン」)2種を提供するアミノ酸配列は互いに直接融合させ
るか、または「リンカー」でつなげてもよい。このリンカーはつなげる各ドメイ
ン2種が受容体を結合する能力またはその交差リンカー剤が誘導するリンケージ
を損なわずにリンクできる交差共有リンカー剤の残基であればよい。試薬選択法
および製造法の指針を含む交差共有リンカー剤の総説はTae,H.Jr.、に
よるMeth.Enzymol.、580〜609頁(1983年)とその引用
文献に記載がある。入手可能な交差リンカー剤多種からの特定目的用最適試薬の
選択は当業者の技術範囲内にある。一般にゼロ長のホモまたはヘテロ双機能性交
差リンカー剤が本発明の双特異性分子製造用には好適である。ゼロ長交差リンカ
ー剤は付帯的物質の導入なしに両結合ドメインを直接的につなげる。ジスルフィ
ド結合形成を触媒する試薬はこのカテゴリーに属する。他の例にはカルボキシと
一級アミノ基との縮合を誘導してアミド結合を形成するカルボジイミド、クロロ
ギ酸エチル、ウッドワード試薬K1、カルボニルジイミダゾールなどのような試
薬がある。ホモ双機能試薬は同一官能基2個を持ち、ヘテロ双官能試薬は不同官
能基2個を含む。無数のヘテロ双官能交差リンカー剤には一級アミン反応性基と
チオール反応性基とを含む。ホルミルからチオールへの結合用新規ヘテロ双官能
リンカーがHeindel,N.D.など、Bioconjugate・Che
m.、2巻:427〜430頁(1991年)]に開示した。好適な態様では交
差共有リンカー剤はジスルフィド(−S−S−)、グリコール(−CH[OH]
−CH[OH]−)、アゾ(−N=N−)、スルホン(−S[=O2]−)また
はエステル(−C[=O]−O−)橋を形成できる試薬中から選択される。他の
解決法では、結合ドメインをオリゴサッカライドで結合する。ポリペプチドリガ
ンド上のオリゴサッカライドからアルデヒドへの化学的または酵素的酸化は分子
上に独特な基を与え、これが例えばアミン、ヒドラジン、ヒドラジドまたはセミ
カルバジドを含む化合物と反応することができる。ポリペプチド分子内の糖鎖付
加部位は解明されており、酸化オリゴサッカライド基を経る選択的なカップリン
グ法は他のカップリング法より均一な生産物を与え、リガンドの受容体結合性能
への悪影響が少ないと期待される。炭水化物基特異的ヘテロ双官能的交差リンカ
ー剤は、例えば4−(4−マレイミノロフェニル)酪酸ヒドラジドである。HC
l(MPBH)および3−(2−ピリジルジチオ)プロピオニルヒドラジド(P
DPH)はPierce・Chemical・Company、Rockfor
d、Illinoisから商業的に購入できる。MPBHもChamowなど荷
より、J.Biol.Chem.、267巻:15916〜15922頁(19
92年)に開示された。結合配列2個以上と種々のリンカー配列とのカップリン
グ、たとえば交差リンカー剤も可能であって、本発明範囲内にあると理解する。
さらに別の態様では、本発明の双特異的分子では結合ドメインがポリペプチド
リンカー配列で結合しており、それ故にそれらの受容体に対して一本鎖多機能ポ
リペプチド分子として提示される。ポリペプチドリンカーは機能的結合ドメイン
をそれらが独立に固有の三次元配位を決められるように離れさせる機能を持って
いる「スペーサー」として機能する。ポリペプチドリンカーは通常約5から約2
5残基の間、好ましくは少なくとも約10、さらに好ましくは少なくともアミノ
酸15個を含み、親水性の比較的非構造領域を与えるアミノ酸残基群からなる。
二次的構造が殆どまたは全くないアミノ酸配列リンカーはよく機能する。所望な
らば特異的切断剤(たとえばプロテアーゼ)により認識される独特の切断部位1
個またはそれ以上をポリペプチドリンカー内に含める。スプーサー内の特定のア
ミノ酸は変えられるが、しかしながら、システインは避けるべきである。スペー
サー配列は螺旋構造のように所期構造を絞って設計することができる。適当なポ
リペプチドリンカーとこのリンカーを含む多機能蛋白質の製法とは、例えばWO
88/09344(1988年12月1日発行)に開示されている。
さらに別の特別の態様では、結合ドメインを両親媒性の螺旋構造により結合す
る。遺伝子制御蛋白質内のアミノ酸ロイシン(Leu)の反復コピーが蛋白質分
子2個を一緒に「閉じこめめる」歯として役立ち、二量体を与えることができる
ことが知られている。ロイシンジッパーは蛋白質C/EBPの小さいセグメント
を仮想的なα螺旋に適合させた時に初めて発見された。驚いたことに、この蛋白
質のアミノ酸7個毎に構成していたロイシンはカラムを作った。続いて、C/E
BP関連蛋白質2個の構造が確認されて同様な機能を持つことが証明された。そ
の一つGCN4は酵母の遺伝子制御蛋白質であり、他方はプロトオンコジーンj
unの産物である。ジッパー領域は結合する時平行に会合し、すなわち分子上に
並んでいるロイシンは交互に並ぶことが証明された。また、非同一蛋白質がジッ
パーになってヘテロ二量体を与えることも見出された。このようなロイシンジッ
パーは本発明範囲内の双特異性分子を製造するためには殊に適当である。別に、
両親媒性螺旋構造の配列は本質的にPack,P.とPluckthun,A.
が、Biochemistry、31巻:1579〜1584頁(1992年)
に記載した螺旋4本の束構造を取りうる。本発明の目的のためのリンカーとして
役立つことのできる分子、たとえばロイシンジッパーのような分子ジッパーに関
するさらに詳細は、例えばLandschulz,W.H.など、Scienc
e、240巻:1759〜1764頁(1988年);O’Shea,E.K.
など、Science、243巻:538〜542頁(1989年);McKn
ight,S.L.、Scientific・American、54〜64頁
、1991年4月;Schmidt−Dorr,T.など、Biochemis
try、30巻:9657〜9664頁(1991年);Blondel,A.
とBedouelle,H.、Protein・Engineering、4巻
:457〜461頁(1991年);Pack,P.とPluckthun,A
.、前出、およびこれらの報告中の引用文献を参照のこと。
好適な態様において、リンカーは、好ましくは双特異的抗体または免疫アデシ
ンになる免疫グロブリン配列を含む。
ここで用いる用語「免疫アデシン(adhesin)」は免疫グロブリン定常
ドメインのエフェクター機能を持つ非相同性蛋白質の結合特異性を結合する抗体
様分子(「アデシン」の一種)を示す。構造的に免疫アデシンは抗原認識以外の
所期結合特異性と抗体結合部位(すなわち「非相同性」)とを持つアミノ酸配列
および免疫グロブリン定常ドメイン配列の融合を含む。免疫アデシン分子のアデ
シン部分は典型的には、少なくとも受容体またはリガンの結合部位を含む連続的
アミノ酸配列である。免疫アデシン内にある免疫グロブリン定常ドメイン配列は
IgG−1、IgG−2、IgG−3、IgG−4サブタイプ、IgA(IgA
−1およびIgA−2を含む)、IgE、IgDまたはIgMのようないかなる
免疫グロブリンからも得られうる。
ここで用いる文言「双特異性免疫アデシン」は結合特異性少なくとも2種を持
つ免疫アデシンを示し、その一つは抗体の抗原結合部位でありうる。双特異的免
疫アデシンはWO89/02922(1989年4月6日発行)またはEP31
4317(1989年5月3日公開)に本質的に記載されているように一般には
ヘテロ多重体、殊にヘテロ−二量体、−三量体または−四量体、に会合できる。
本発明の双特異性分子内の所期特異性2種を与える結合ドメインは、好ましくは
免疫グロブリンの可変ドメインと置き換わる一方で、それらをキメラ重鎖を含む
免疫グロブリンが得られるように免疫グロブリン重鎖および軽鎖の配列の間に挿
入することもできる。この態様では、各免疫グロブリンの各アーム内のヒンジ部
とCH2ドメインとの間かCH2とCH3ドメインとの間かのどちらかで免疫グ
ロブリン重鎖の3’−末端に結合配列は融合している。同様な構築はHooge
nboom,H.R.などが、Mol.Immunol.、28巻:1027〜
1037頁(1991年)に報告している。
用語「双特異的抗体」はここでは異なる抗原結合部位2種を含む抗体分子を示
すために使用する。双特異的抗体は双特異性免疫アデシンについて前記したよう
にヘテロ多重体、殊にヘテロ−二量体、−三量体または−四量体として会合しう
る。
単一および双特異性免疫アデシンの可能な構造の図示はその構築で単量体を会
合させるために利用しうる種々の構造の鎖または塩基性ユニットおよび免疫グロ
ブリンのヘテロおよびホモ多重体とともに、例えば1992年5月26日発行の
米国特許5116964に開示されている。
双特異的免疫アデシンおよび抗体は1990年2月21日公開のEP3550
68および1991年5月2日公表のPCT出願公表WO91/05871に開
示されている。
場合によっては、Y形免疫グロブリンのアームの一つで第一重鎖定常ドメイン
(CH1)を欠失するか、または免疫グロブリン軽鎖に共有結合する性能が除か
れるように変化させる(すなわち軽鎖結合部位を欠失するか不活性化する)、一
方、別のアームではCH1ドメイン内の軽鎖結合部位を維持して免疫グロブリン
軽鎖に共有結合させる双特異性免疫アデシン三量体を製造するのが有利である。
各アーム内では互いに異なる重鎖定常ドメイン配列を融合して「結合ドメイン」
(重鎖可変ドメインに代わって)とする。結合ドメインの一つはTNF−R1ア
ゴニストからであり、他の結合ドメインは前記Fasアゴニストである。得られ
る構造は第一結合ドメインに融合した免疫グロブリン重鎖定常ドメイン配列と異
なる結合ドメインに融合し、免疫グロブリン軽鎖に共有結合した第二免疫グロブ
リン重鎖定常ドメイン配列とから構成される異なる結合特異性2種を持つ三重体
(ヘテロ三量体)である。この双特異性三重体構造はヘテロ三重体構造よりも製
造と精製とが有利である。
ヘテロ三量体2個またはそれ以上が相互に共有結合的にリンクして多重体構造
を形成しうる。一般にこれらの会合した双特異性免疫アデシンは公知のユニット
構造を持つであろう。3鎖ユニットが同様に反復すればさらに高分子量の免疫グ
ロブリンとなる。
表現「(免疫グロブリン)軽鎖結合部位を欠失した免疫グロブリン重鎖定常ド
メイン配列」は正常には軽鎖が結合する配列エレメントが欠失したか、またはそ
の結合が不可能なまで十分に変化(変異)した免疫グロブリン重鎖定常ドメイン
配列を示すために使用される。好適な態様では全CHIドメインを欠失するが、
正常には軽鎖がジスルフィド結合するか相互作用で非共有結合する部分が欠落す
れば免疫グロブリン定常ドメインの短い切れ端も適当である。あるいは、免疫グ
ロブリン重鎖定常ドメインの軽鎖結合領域を免疫グロブリン軽鎖と共有または非
共有結合できないように変異(変換または挿入)してもよい。
TNF−R1アゴニストまたはFas受容体アゴニストアミノ酸配列の免疫グ
ロブリン配列への融合を含む二重特異性を持っている直線状融合蛋白質は実質的
にTrauneckerなどが、EMBO、10巻:3655〜3659頁(1
991年)に記載したようにして製造しうる。
用語「をコードする核酸分子」、「をコードするDNA配列」および「をコー
ドするDNA」はデオキシリボ核酸の鎖に沿ったデオキシリボヌクレオチドの順
序または配列を示す。これらデオキシリボヌクレオチドの順序がポリペプチド鎖
に沿ったアミノ酸の順序を決定する。それで、DNA配列はアミノ酸配列をコー
ドする。
核酸が他の核酸配列と機能的関係に配置されている時には、核酸は「操作可能
にリンク」している。例えば、もしポリペプチドの分泌に関与する前蛋白質とし
て発現されれば前配列または分泌リーダー用のDNAはポリペプチドをコードす
るDNAに操作可能に結合しており、もし配列の転写に影響するならプロモータ
ーまたはエンハンサーはコード配列に操作可能に結合しており、また、もし翻訳
を促進するように配置されていればリボソーム結合部位はコード配列に操作可能
に結合している。一般に、「操作可能にリンク」するとはリンクしているDNA
配列が連続的であって、分泌リーダーの場合は、連続的であって読み枠内にある
ことを意味する。しかしながら、エンハンサーは連続的でなくてもよい。リンク
は適当な制限部位で連結反応により行われる。この部位が存在しなければ、合成
オリゴヌクレオチドのアダプターまたはリンカーを常法に従って使用する。
用語「複製可能な発現ベクター」と「発現ベクター」とは外来DNA断片が挿
入されていてもよい、通常は二本鎖のDNAを示す。外来DNAは宿主細胞には
天然には見当たらないDNAである非相同DNAとして定義される。ベクターは
外来または非相同性DNAを適当な宿主細胞内に輸送するために使用する。宿主
細胞に入ると、ベクターは宿主染色体DNAとは独立して複製することができ、
ベクターを数コピーとその挿入(外来)DNAとが作成されうる。加えて、ベク
ターは外来DNAをポリペプチドに翻訳するために必要なエレメントを含む。こ
うして外来DNAがコードするポリペプチド分子多数が迅速に合成される。
本発明では表現「細胞」、「細胞系」および「細胞培養物」は互換的に使用さ
れ、これらはすべて子孫を含む。すべての子孫のDNA成分が故意または偶然の
変異のために必ずしも正確に同一ではないこともありうることも理解される。初
めに形質転換した細胞について検索したものと同一の機能または生物学的性質を
持つ変異子孫も含まれる。2.TNF−R1アゴニストの入手
TNF−αとTNF−βとはTNF−R1の天然起源リガンドであり、当業者
に公知で商業的に購買できる。例えばTNF−αはEP168214にその組み
換え宿主細胞培養物内での合成法とともに記載がある。TNF−β(以前はリン
ホトキシンと呼ばれていた)と適当な組み換え合成法とはEP164965に記
載がある。これらの出願に記載されているTNF−αとTNF−βとは本願でも
使用する細胞毒性アミノ酸配列と糖鎖付加変異型とも含む。
TNF−R1を特異的に結合し、TNFに細胞毒作用が似ているポリおよびモ
ノクローナル抗体は記載をされており[たとえば、Engelmanなど、J.
Biol.Chem.、265巻:14497〜14504頁(1990年)参
照]、ATCCや他の寄託機関から入手できる。
Fas抗原を特異的に結合し、感受性癌細胞でアポトーシス細胞死を促進する
抗体は当分野で公知である[たとえば、Yoneharaなど、J.Exp.M
ed.、169巻:1747〜1756頁(1989年)参照]。
以下にこのような抗体調製に使用できる常用技術を概説する。これらと類似技
術との詳細は、例えばCabillyなど、米国特許4816567;Mage
とLamoyi、前出;Sambrookなど、「分子クローニング:実験室指
針」、2版、Cold・Spring・Harbor・Laboratory・
Press、New・York、1989年;および「分子生物学における最近
のプロトコール」、Ausubelなど編、Green・Publishing
・Associates・and・Wiley−Interscience、1
991年のような一般的教科書に見出される。
抗TNF−R1および抗Fas受容体抗体は、これら受容体により仲介される
細胞致死作用または細胞成長阻止作用のアゴニストとして作用し、当業界公知の
いかなる方法によっても生産しうる。例えば、本発明に従って使用されるモノク
ローナル抗体はKohlerとMilstein、Nature、256巻:4
95頁(1975年)によって最初に記載されたハイブリドーマ法または組み換
えDNA法[Cabillyなど、前出]により調製しうる。
ハイブリドーマ法では、マウスまたはハムスターのような他の適当な宿主動物
をヒトTNF−R1またはFas受容体蛋白質で皮下、腹腔内、または筋肉内経
路で免疫して免疫に使用した蛋白質に特異的に結合して抗体を生産するか生産す
ることのできるリンパ球を誘発する。あるいは、リンパ球は試験管内でも免疫し
うる。次にリンパ球をポリエチレングリコールのような適当な融合剤を使用して
骨髄腫細胞と融合してハイブリドーマ細胞を形成する[Goding,J.「モ
ノクローナル抗体:原理と実践」、59〜103頁、Academic・Pre
ss、1986年]。
こうして調製したハイブリドーマ細胞を、好ましくは融合していない骨髄腫親
細胞の成長または生存を阻止する物質1種またはそれ以上を含む適当な培地内に
植種、成育させる。例えば、もし骨髄腫親細胞がヒポキサンチングアニンホスホ
リボシル転移酵素(HGPRTまたはHPRT)を欠損していれば、ハイブリド
ーマ培養用の培地に典型的にはヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジン
を含め(HAT培地)、これらの物質がHGPRT欠損細胞の成長を阻止する。
好適な骨髄腫細胞は効率的に融合し、選択された抗体生産細胞による抗体の安
定で高水準な発現を支持するもので、HAT培地のような培地に感受性である。
これらの中で、好適な骨髄腫細胞系はSalk・Institute細胞配布セ
ンター、San・Diego、CA、USAから入手できるMOPC−21およ
びMPC−11マウス腫瘍から誘導されたものおよびアメリカンタイプカルチャ
ーコレクション、Rockville、MA、USAから入手できるSP−2細
胞のようなネズミの骨髄腫系である。ヒトモノクローナル抗体生産用ヒト骨髄腫
およびマウス−ヒトヘテロ骨髄腫細胞系も記載されている。Kozbor、J.
Immunol.、133巻:3001(1984年);Brodeurなど、
「モノクローナル抗体製造技術および応用」、51〜63頁(Marcel・D
ekker,Inc.、New・York、1987年)。
ハイブリドーマ細胞が成長する培養培地をTNF−R1またはFas受容体に
対して特異的なモノクローナル抗体の生産について検定する。好ましくは、ハイ
ブリドーマ細胞が生産するモノクローナル抗体の結合特異性は放射免疫検定(R
IA)または酵素免疫吸着測定(ELISA)のような免疫沈降反応または試験
管内結合検定により測定する。本発明の方法または組成物中で使用するモノクロ
ーナル抗体は検体中に存在するTNF−R1またはFas受容体と優先的に免疫
沈降反応するものか、結合検定でTNF−R1またはFas受容体に優先的に結
合するもので、感受性標的細胞内で細胞毒作用を示すものである。
ハイブリドーマ細胞が所期の特異性、親和性および作用を示す抗体を生産する
ことを確認した後、クローンを限定希釈法によりサブクローンし、標準法で成育
させてもよい(Goding,J.、前出)。この目的のために適当な培養培地
には、例えばダルベッコの修正イーグル培地またはRPMI−1640培地を含
む。さらに、このハイブリドーマ細胞を動物内での腹水癌のように生体内で成育
させてもよい。
サブクローンが分泌するモノクローナル抗体は適当に培養培地、腹水液または
血清から、例えば蛋白質A−セファロース、ヒドロキシルアパタイトクロマトグ
ラフィー、ゲル電気泳動、透析またはアフィニティークロマトグラフィーのよう
な通常の免疫グロブリン精製操作で適当に分離する。モノクローナル抗体の精製
法は当業者公知であって、例えば「分子生物学における最近のプロトコール」、
前出、の11.11章とその引用文献に開示されている。
ハイブリドーマ上清液中に存在する特異的な抗体の量は固相放射免疫検定(R
IA)か直接的な酵素免疫吸着測定(ELISA)かのいずれかによって定量で
きる。固相放射免疫検定では予めIFN−γまたはIFN−γ受容体で被覆した
マイクロタイター穴中で順次希釈した抗血清をインキュベーションする。結合し
た抗体を125I標識抗免疫グロブリン抗体を採用して検出する。次に抗血清内の
特異的な抗体の量を既知濃度の特異的抗体で作成した標準曲線から定量する。未
知抗血清および標準抗体を平行して検定する。アイソタイプを定量するために用
いるRIA操作およびELISA操作のプロトコールは、例えば「分子生物学に
おける最近のプロトコール」、前出、V章およびその引用文献に見出される。
本発明の方法に使用するモノクローナル抗体をコードするDNAは常法(たと
えば、ネズミ抗体の重鎖と軽鎖とをコードする遺伝子を特異的に結合できるオリ
ゴヌクレオチドプローブを使用して)を用いて容易に分離し、配列決定される。
前記ハイブリドーマ細胞は好適なDNA源として役立つ。分離したDNAは発現
ベクターに入れ、これをサルのCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CH
O)細胞または骨髄腫細胞のような通常は免疫グロブリン蛋白質を生産しない宿
主細胞に移入して組み換え宿主細胞内のモノクローナル抗体合成を行う。
TNFのようないかなる自然型または組み換えTNF−R1アゴニスト種のア
ミノ酸配列、糖鎖付加変異型および共有結合誘導体も業界公知の方法により調製
される。一般に、TNFをコードするDNAの特定の領域または部位は変位誘発
の標的にされ、これを達成するために採用する一般的方策は部位特異的変位誘発
と呼ばれる。変異は制限エンドヌクレアーゼ(DNAを特定位置で切断)、ヌク
レアーゼ(DNAを分解)および/またはポリメラーゼ(DNA合成)のような
DNA修飾酵素を使用して行われる。DNAの制限エンドヌクレアーゼ消化に続
き、Sambrookなど、前出、の15.3章に記載されているような連結反
応を用いれば欠失体を作成しうる。
オリゴヌクレオチド特異的変位誘発はTNFの変換変異型を生産するための好
適な方法である。これは本発明で使用することのできる欠失および挿入変異型の
便利な調製のためにも使用しうる。この技術はAdelmanなど(DNA、2
巻:183頁[1983年])が記載したように当業者によく知られている。オ
リゴヌクレオチドはCreaなど(Proc.Natl.Acad.Sci.U
SA、75巻:5765頁[1978年])が記載したような当業界でよく公知
の技術を用いて容易に合成される。この技術で使用する一本鎖鋳型の生産はSa
mbrookなど、前出、の4.21〜4.41章に記載されている。
PCR変位誘発も本発明方法で使用できるTNF変異型を作成するために適当
である。PCR技術は、例えば1987年7月28日発行の米国特許46831
95;Sambrookなど、「分子クローニング:実験室指針」、2版、Co
ld・Spring・Harbor・Laboratory・Press、Ne
w・York、1989年の14章;または「分子生物学における最近のプロト
コール」、Ausubelなど編、Greene・Publishing・As
sociates・and・Wiley−Inerscience、1991年
の15章に開示されている。
ここでTNF変異型をコードするDNAを以後のクローニングと発現とのため
に複製可能な発現ベクターに挿入する。多数のベクターが入手可能であるが、適
当なベクターの選択は(1)DNA増幅(クローニング)に使用するか発現に使
用するか、(2)ベクターに挿入すべきDNAの大きさ、および(3)そのベク
ターで形質転換する宿主細胞、に依存して決まる。各ベクターはその機能と適合
性のある宿主細胞に依存して種々の成分を含む。ベクター成分は、これに限定さ
れるものではないが、一般に次の1個またはそれ以上を含む:シグナル配列、複
写開始点、マーカー遺伝子1個またはそれ以上、エンハンサーエレメント、プロ
モーターおよび転写終止配列。
適当なベクターは標準的組み換えDNA操作を使用して調製される。分離した
プラスミドとDNA断片とを切断し、仕立て(tailored)、所定の順序
で連結して所期ベクターを作成する。
連結後、外来遺伝子を挿入したベクターを適当な宿主細胞内に形質転換する。
ベクター上のtetおよび/またはamp耐性遺伝子があって耐性化されていれ
ば、通常は形質転換細胞をテトラサイクリン(tet)またはアンピシリン(a
mp)抗生物質上での成育により選択する。もし連結混合物が真核宿主細胞内に
形質転換されていれば、形質転換細胞は前記DHFR/MTX系で選択しうる。
形質転換細胞を培地上で成育させ、次にプラスミドDNA(プラスミドは目的外
来遺伝子に連結したベクターを示す)を分離する。このプラスミドDNAを次に
制限地図作成および/またはDNA配列決定により分析する。DNA配列決定は
一般にMessingなど、Nucleic・Acids.Res.、9巻:3
09頁(1981年)の方法かMaxamなど、Methods・of・Enz
ymology、65巻:499頁(1980年)の方法かのどちらかで行う。
多細胞生物は変異型TNFを生産する宿主として好適である。無脊椎動物も脊
椎動物も双方とも細胞培養は可能であるが、脊椎動物細胞培養、殊に哺乳類培養
物は好適である。多細胞真核細胞に加え、糸状菌または酵母のような真核細胞微
生物は変異型TNFを生産するために適当である。サッカロミセスセレビシエま
たは通常イーストは低級真核細胞宿主微生物の中で最も普通に用いられる。原核
細胞は殊にDNA多量の迅速生産、部位特異的変位誘発に使う一本鎖DNA鋳型
の生産、多数変異体の同時検索のため、および作成した変異体DNA配列決定の
ためには有用である。適当な原核宿主細胞は、これに限定するものでないが、種
々の大腸菌株を含む。
ここに変異型TNFアミノ酸配列を調製するために適当な技術と材料との詳細
は、例えば1992年4月28日発行の米国特許5108901および欧州公開
146354に開示されている。
自然型TNFの糖鎖付加変異型およびそのアミノ酸配列変異型も当業界公知の
技術により生産される。ポリペプチドの糖鎖付加は典型的にはN−結合またはO
−結合である。O−結合糖鎖付加部位は、例えばポリペプチドアミノ酸配列への
セリンまたはスレオニン残基1個またはそれ以上の付加または変換により修飾し
うる。簡単のために変化は通常はDNA段階で、実質的には変異型アミノ酸配列
調製用公知技術を用いて行う。
TNFまたはその変異型アミノ酸配列への化学的または酵素的なグリコシドの
結合も炭水化物置換基の数またはプロファイルの修正または増加のために使用し
うる。これらの操作はO−結合(またはN−結合)糖鎖付加ができるポリペプチ
ドを調製する必要がない点で有利である。使用する結合様式に依存して、糖を(
イ)アルギニンとヒスチジン、(ロ)遊離カルボキシル基、(ハ)システインの
それらのような遊離ヒドロキシル基、(ニ)セリン、スレオニンまたはヒドロキ
シプロリンのそれのようなスルフヒドリル基、(ホ)フェニルアラニン、チロシ
ンまたはトリプトファンのような芳香族残基、または(ヘ)グルタミンのアミド
基、に結合させる。これらの方法はWO87/05330(1987年9月11
日公表)およびAplinとWriston、CRC・Crit.Rev.Bi
ochem.、259〜306頁(1981年)に記載されている。
TNFまたはその変異型アミノ酸配列上に存在する炭水化物部分は化学的また
は酵素的に除去しうる。化学的脱糖鎖にはトリフルオロメタンスルホン酸または
均等な化合物との接触を要する。この処理は結合糖類を除き全部または殆どの糖
が切断されるが、ポリペプチドは無傷のままに残る。化学的脱糖鎖はHakim
uddinなど、Arch.Biochem.Biophys.、259巻:5
2頁(1987年)とEdgeなど、Anal.Biochem.、118巻:
131頁(1981年)とによって記載されている。Thotakuraなど、
Meth.Enzymol.、138巻:350頁(1987年)が記載してい
るように、炭水化物部分は種々のエンドおよびエキソグリコシダーゼによって除
去できる。Duskinなど、J.Biol.Chem.、257巻:3105
頁(1982年)が記載しているように糖鎖付加はツニカマイシンによって抑制
される。ツニカマイシンは蛋白質−N−グリコシダーゼ結合形成を阻害する。
糖鎖付加変異型も適当な宿主細胞の選択により生産できる。例えば、酵母は糖
鎖の付加を導入するが、これは哺乳類系のそれとは明らかに異なる。同様に、種
(たとえば、ハムスター、ネズミ、昆虫、ブタ、ウシまたはヒツジ)または組織
(たとえば、肺、肝臓、リンパ系、間葉または表皮)の異なる起源を持つ哺乳類
細胞は選択変異型の起源よりも糖鎖付加変異型を導入する能力について日常的に
検討される。
アゴニスト抗TNF−R1抗体のアミノ酸配列および糖鎖付加変異型は同様な
方法で作ることができる。
TNFの共有結合誘導体およびそのアミノ酸配列および糖鎖付加変異型の使用
は本発明の範囲内にある。これらの修飾はTNFまたは変異TNFの標的アミノ
酸残基を所望の側鎖または末端残基と反応できる有機誘導体化試薬と反応させる
ことにより、または所望の組み換え宿主細胞内で機能する翻訳後修飾結合機構に
より導入される。共有結合誘導体化は分子の半減期、安定性などのような性質を
改良し、または改良するかもしれない。この修飾は当業者技術の範囲内であって
過重な実験なしに実施できる。翻訳後誘導体化のいくつかは発現したポリペプチ
ドへの組み換え宿主細胞の作用の結果である。グルタミニル残基とアスパラギニ
ル残基とは頻繁に翻訳後脱アミド化されて対応するグルタミル残基とアスパルチ
ル残基となる。他に、これらの残基は穏やかな酸性条件下に脱アミド化される。
これらの残基の両型も本発明の範囲内にある。他の翻訳後修飾はプロリンとリジ
ンの水酸化、セリルとスレオニル残基ヒドロキシル基の燐酸化、リジン、アルギ
ニンおよびヒスチジン側鎖α−アミノ基のメチル化[T.E.Creighto
n、「蛋白質:構造と分子の性質」、W.H.Freeman・Co.、San
・Francisco、79〜86頁(1983年)]、N−末端アミンのアセ
チル化および、場合によってはIFN−γのC−末端カルボキシルのアミド化を
含む。
他の共有結合誘導体は米国特許4640835、4496689、43011
44、4670417、4791192、4179337、5116964に記
載されている様式でポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールまたは
ポリオキシアルキレンのような非蛋白質高分子に共有結合するIFN−γを含む。
特異的な変異型TNFは、細胞毒性作用が自然型TNFに類似している連続的
TNFアミノ酸配列と免疫グロブリンのような安定な血漿蛋白質との融合物を包
含する。得られる分子はTNF−免疫グロブリンキメラまたは、より最近では免
疫アデシンと呼ばれる。
通常、TNFの受容体結合ドメインの連続的アミノ酸配列C末端は免疫グロブ
リンの可変領域の代わりに定常領域の連続的アミノ酸配列N末端に融合している
が、しかしながら、N末端融合も可能である。
典型的にはこの融合では免疫グロブリン重鎖の定常領域にある少なくとも機能
的に活性なヒンジ部、CH2およびCH3ドメインを保持する。融合は定常ドメ
インにあるFc部分のC末端または重鎖のCH1のN末端に直接または軽鎖の対
応領域でも行われる。これは通常、適当なDNA配列を構築し、組み換え細胞培
養物中で発現することにより達成される。あるいは、この構造は種々の公知方法
に従って合成しうる。
融合が起きた正確な部位は重要な問題ではない;特定部位はよく公知であり、
生物学的作用、分泌または結合特性を最適化するために選択しうる。
好適な態様ではTNF−R1が結合する部位を含む連続的アミノ酸配列のC末
端が免疫グロブリン、たとえば免疫グロブリンG1(IgG−1)のエフェクタ
ー機能を含む抗体(殊にFcドメイン)C末端部分のN末端に融合する。前記の
通り、全重鎖の定常領域を結合部位を含む配列に融合することはできる。しかし
ながら、より好ましくはパパイン切断部位(化学的にIgGFcを決定する;残
基216、重鎖定常領域の第一残基は114とする[Kobetなど、前出]、
または他の免疫グロブリンの類似部位)の少し上流にあるヒンジ領域に始まる配
列をこの融合に使用する。TNF−免疫グロブリン融合(免疫アデシン)の構築
に使用した免疫グロブリンの重鎖定常ドメイン配列は軽鎖結合部位がなくてもよ
い。これは通常は軽鎖が結合している免疫グロブリンの重鎖配列エレメントを除
くことまたはその結合が不可能になるまで十分に変えることにより達成すること
ができる。それである態様ではCH1ドメインは完全に欠落することができる。
殊に好適な態様ではTNF分子のTNF−R1ドメイン1個またはそれ以上を
含むアミノ酸配列をIgG−1、IgG−2、IgG−3またはIgG−4重鎖
のヒンジ領域とCH2、CH3;またはCH1、ヒンジ部、CH2およびCH3
ドメインに融合する。
ある態様では、TNF−免疫グロブリン融合分子(免疫アデシン)は会合して
モノマー、二量体または多量体、特に二量体または四量体となる。一般にこれら
会合免疫アデシンは対応する免疫グロブリンのそれらと類似の公知ユニット構造
を持つであろう。IgG、IgAおよびIgEは、この基本的4鎖構造ユニット
(免疫グロブリン重鎖−軽鎖ペア2個の二量体)の型で存在する。高分子量免疫
グロブリンでは4鎖ユニットが反復している。IgMは一般に互いにジスルフィ
ド結合で保たれる基本4鎖ユニットの五量体として存在する。IgAグロブリン
および、時にはIgGグロブリンも血清内では多量体型でも存在しうる。多量体
の場合には、各4鎖ユニットは同一でも相違していてもよい。
TNF−免疫グロブリンキメラでは免疫グロブリン部分が全て同一の免疫グロ
ブリンに由来する必要はない。異なる免疫グロブリンの種々の部分を結合して、
TNFに関して前記したようにして、免疫アデシン分子の性質を最適化するため
に、自然型免疫グロブリンの変異型および誘導体を作ることができる。例えば、
IgG−1のヒンジ部をIgG−3のものに変換した免疫アデシン構築物は機能
を持ち、IgG−1重鎖全体を含む免疫アデシンのものと同様な薬動力学を示す
ことが見出された。
他の安定な血漿蛋白質を含む融合蛋白質は当業者に公知の方法により製造でき
る。例えば、安定な血漿蛋白質としてのヒト血清アルブミン(HSA)N末端側
断片を含む融合蛋白質は1990年11月28日公開のEP399666に開示
されている。3.双特異性抗体と免疫アデシン
モノおよび双特異性免疫アデシンの可能な構造を図示する模式図は、例えば、
1992年5月26日発行の米国特許5116964に鎖またはその構築におい
て単量体と免疫グロブリンのヘテロおよびホモ多量体とを会合するために利用し
うる種々の構造の基本ユニットとともに開示されている。
双特異的免疫アデシンおよび抗体も1990年2月21日公開のEP3550
68と1991年5月2日公表のPCT出願WO91/05871とに開示され
ている。
特定的な態様において、特異性2種を持つ融合蛋白質はTNFアミノ酸配列を
抗Fas抗体である抗体の重鎖3’末端に融合することで作られる。TNFアミ
ノ酸配列は、例えば免疫グロブリン重鎖のヒンジ部とCH2ドメインとの間か、
またはCH2とCH3ドメインとの間のどちらかに挿入しうる。キメラ免疫グロ
ブリン重鎖TNF遺伝子を次に免疫グロブリン軽鎖分泌トランスフェクトーマ細
胞系に導入し、所期抗体の軽鎖を生産した。同様な構造の構築物はHoogen
boom,H.R.、Mol.Immunol.、28巻:1027〜1037
頁(1991年)により報告された。
免疫グロブリン配列を含む二重特異性を持つ直線状融合蛋白質(TNF−R1
アゴニストおよびFasアゴニストのアミノ酸配列を含む)は本質的にTrau
neckerなど、EMBO、10巻:3655〜3659頁(1991年)に
より記載されているようにして調製しうる。TrauneckerなどはFvC
D3、CD4とC−カッパとのN末端ドメイン2個を含み、Janusin(C
D4−FvCD3−Cカッパ)と呼ばれる単鎖ポリペプチドを設計した。この双
特異性直線状分子は抗カッパ・アフィニティーカラムを用いて精製した。本発明
範囲内の直線状双特異性分子も類似の工法で製造できる。
本発明の双特異性免疫アデシン(またはTNF免疫グロブリン分子)に(重鎖
)定常ドメイン配列を提供する免疫グロブリンの選択は、主にそれを構築しよう
とする動機に依存する選択の問題である。もしアゴニストの血漿中半減期の延長
を考慮するなら、IgG−1、IgG−2およびIgG−4アイソタイプの免疫
グ
ロブリンはいずれも生体内半減期21日を持つので良い候補であるが、IgG−
3は生体内半減期7日である。ある場面で得失点となる相違は、例えば、補体の
活性化である。IgG−1、IgG−2およびIgG−3はいずれも補体を活性
化するが、しかしながらIgG−2は補体活性化ではIgG−1より明らかに弱
く、単核細胞または好中球のFc受容体には結合しない。一方、IgG−3はI
gG−1よりも良い補体活性化を示す。IgG−1は血清学的に定義されたアロ
タイプ部位4個のみを持ち、その2個(Glm1および2)はFv部分にあって
部位2個(Glm1および17)中、アロタイプの1個は非免疫原性である。対
照的にIgG−3には血清学的に定義されたアロタイプが12種あり、これらは
全てFc部分にあって、そのうち3種(G3m5、11および21)のみが非免
疫原性アロタイプである。長期間にわたり反復する治療的適用のためにはIgG
−1に由来する定常ドメイン配列を持つ免疫アデシンが好適である。双特異性免
疫アデシン分子のアーム2本内に異なるクラスまたはアイソタイプからの免疫グ
ロブリンを使用することも可能である。また種々のクラスまたはアイソタイプか
らの免疫グロブリンの配列を、双特異性分子の同じアーム内に結合するか、単ま
たは双特異性免疫アデシンの両アーム内に結合することも可能である。
双特異性免疫アデシンまたは抗体は前記詳述したように組み換えDNA技術の
標準的手段により調製しうる。他の別法はEngelsなど、Angew.Ch
em.Int.Ed.Engl.、28巻:716頁(1989年)が記載した
方法の一つを用いてキメラをコードする遺伝子を化学的に合成することである。
これらの方法にはトリエステル、ホスファイト、ホスホロアミダイトおよびH−
ホスホネート法、PCRおよび他のオートプライマー法、および固体担体上での
オリゴヌクレオチド合成を含む。4.医薬組成物
本発明のTNF−R1アゴニスト、Fasアゴニストおよび双特異性分子は通
常医薬組成物として通常当業者公知の方法、例えばRemingtonの「医薬
品科学」、Mack・Publishing・Company、Easton、
Pennsylvania、15版、1975年参照、で用量型に製剤化して投
与される。本発明のアゴニストと双特異性分子は哺乳類、好ましくはヒトに、医
薬的に許容でき、ヒトに一括注射または所定時間連続点滴で静脈内、筋肉内、皮
下、関節内、滑液内、硬膜下内腔、経口的、局所的または吸入的な経路で投与し
うるものを含む用量型として投与する。
それらの用量型は医薬的に許容しうる本質的に非毒性で非治療的な担体をも含
む。そのような担体の例には、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニ
ウム、レシチン、ヒト血清アルブミンのような血清蛋白質、燐酸塩のような緩衝
物質、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物酸の部分グリセリ
ド混合物、水、塩または硫酸プロタミン、燐酸水素ニナトリウム、燐酸水素カリ
ウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩のような電解質、コロイド性シリカ、三ケイ酸マ
グネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース由来物質およびポリエチレング
リコールを含む。局所またはゲル型剤の担体にはカルボキシメチルセルロースナ
トリウムまたはメチルセルロースのようなポリサッカライド、ポリビニルピロリ
ドン、ポリアクリレート、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ブロッ
クポリマー、ポリエチレングリコールおよびウッドワックスアルコールを含む。
全ての投与法にわたって通常のデポ剤の使用は適当である。この剤型は、例えば
マイクロカプセル、ナノカプセル、リポソーム、貼付剤、吸入剤、鼻用スプレー
および舌下錠を含む。抗体はこの基剤中に典型的には約0.1mg/mLから1
00mg/mL濃度で製剤化され、例えばアポトーシスを誘発するために199
1年7月25日公表のPCT特許出願公表WO91/10448に記載のように
して投与する。
TNFは前記のような生理学的に許容しうる担体と混合することにより投与用
に製剤化する。TNFを必要な補助成分とともに無菌等張製剤に入れる。TNF
用製剤は好ましくは液体であり、通常、常用の安定化剤および/または添加剤を
含む生理食塩水またはデキストロース溶液である。組成物は最終的に溶液にする
ための凍結乾燥粉末であってもよい。食塩水は適当な担体であるが、他の常用の
非経口投与用溶液または緩衝液も使用できる。
TNF−R1アゴニストとFasアゴニストとによる処置は所望の順序で同時
または順次に行いうる。要すれば、TNF−R1アゴニストとFasアゴニスト
を同一の医薬的製剤中に混入しうるが、しかしながら、そのような組合せで発揮
される効果と相乗作用は混合法および少なくとも比較的短時間内の一時的処理法
とは無関係なことは明らかである。
TNF単独投与時の治療的有効用量はヒト患者では単回あたり約1から250
μg/m2であり、好ましくは約1から10μg/m2であり、最も好ましくは約
10μg/m2であるが、TNF用量は患者、採用したTNFのたとえばその活
性と生理学的半減期のような性質、製剤中のTNF濃度、投与速度、被療患者の
臨床的寛容度、患者の病理学的状態などに依存することは医師にとっては明らか
である。実施者は所与TNFについての臨床経験に沿って治療用量を調節すれば
よい。ここでは、抗TNF−R1と抗Fasアゴニスト抗体とは単独投与時には
同じような用量範囲で有効であると信じられる。
本発明によれば、TNF−R1アゴニストおよびFasアゴニストは組合せて
(同時投与および任意順序の順次投与を含む)の形で投与する。もしTNF−R
1アゴニストとFasアゴニストとが特定標的細胞の致死に相乗効果を発揮する
なら、組合せ内各成分の有効用量は単独時よりも低下する。TNF−R1アゴニ
ストおよびFasアゴニストは典型的には相乗作用を達成するために約0.1:
100〜100:0.1、好ましくは約0.1:10〜10:0.1、最も好ま
しくは約1:1の百分比率で投与する。勿論、これらの比率は治療経験から割出
した修正をすべきものである。
TNF−R1アゴニストおよびFasアゴニストによる細胞致死作用に対して
殊に感受性のある細胞型は当業者に公知であり、TNF−R1とFas抗原とを
発現するリンパ球様細胞悪性疾患、たとえば、成人T細胞白血病を含むB細胞や
T細胞リンパ球の様々な悪性腫瘍ならびに肺繊維芽細胞、頸部癌細胞、乳癌細胞
その他の悪性腫瘍を含む。ただし、これらはTNF−R1とFasとの双方を発
現するものとする。
本発明の詳細をさらに以下の非限定的実施例から明らかにする。
実施例 材料と方法
細胞および試薬
細胞系はアメリカンタイプカルチャーコレクションから入手し、マイコプラズ
マ不含である。ヒトおよびネズミのTNF−R1に対するウサギ抗TNF−R1
抗血清は以前に報告されている[TartagliaとGoeddel、J.B
iol.Chem.、267巻:4304頁(1992年);Tartagli
aなど、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、88巻:9292頁
(1991年)参照]。アゴニスト抗体は各受容体の可溶性細胞外ドメインに対
して作成した。抗血清の力価は直接酵素免疫吸着測定(ELISA)により定量
した。精製可溶性受容体に対して50%結合を与えるアゴニスト抗TNF−R1
抗体の希釈率は1:109000であった。Fas抗原の細胞外ドメインを含む
組み換えFas−IgG融合蛋白質を使用してウサギ抗Fas抗血清を作った。
抗Fas抗血清の力価は直接ELISA定量では1:80000であった。
表面受容体発現の検出
細胞表面TNF−R1とFas抗原の存在は抗Fasおよび抗TNF−R1抗
血清およびPE−複合ヒツジ抗ウサギ免疫グロブリン(Caltag)を用い、
Epics・Eliteフローサイトメーターにより分析する免疫螢光法により
測定した。
細胞毒性検定
5%ウシ胎仔血清(FBS)添加F12またはRPMI−1640培地中2×
104細胞懸濁液各100μLを検定24時間前に96穴板の各穴に添加した。
検体に種々の用量の抗Fasおよび抗TNF−R1抗体およびサイクロヘキシミ
ド(CHI)10μg/mLを加えて標的細胞に添加した。38.4℃で17〜
24時間後、細胞を0.5%クリスタルバイオレットの20%メタノール溶液で
染色した。細胞生存率を染色した細胞から0.1M−クエン酸ナトリウム/0.
1M−クエン酸と50%エタノールで染料を溶出し、540μmで吸光度を測定
して細胞生存率を定量した。HuT−78、JurkatおよびSu−4のよう
な非接着性細胞系の場合には、Cell・Titre・96キット(Prome
ga)を用いて細胞生存率を定量した。
核DNAの分離
10mM−トリス−HCl(pH7.5)500μL、0.1M−NaCl、
5mM−MgCl2および0.5%NP−40中、4℃で1分間、細胞108個を
溶菌した。溶菌物を14Kで1分間マイクロ遠心分離して核をペレット化した。
核を200mM−トリス−HCl(pH8.5)、100mM−EDTA、プロ
ティナーゼK200μg/mL、1%SDSによって2時間65℃で処理した。
DNA標本をフェノール/クロロホルム(1:1)で抽出した。RNase・A
(100μg/mL)により37℃で1時間処理後、DNAをフェノール:クロ
ロホルムで抽出し、エタノール沈降させた。DNA標本約10μgを1%アガロ
ースゲル電気泳動し、臭化エチジウムによって染色し、紫外線照射下に撮影して
分析した。結果と考察
TNF−R1がシグナル伝達するものと非常に類似したプログラムされた細胞
死をFas抗原がシグナル伝達することができることは以前に証明されている。
Fas抗原とTNF−R1とが細胞致死作用をシグナル伝達する経路が同一か相
違するかを決定するために、われわれはアゴニスト抗Fasポリクローナル抗体
(以下、Fasアゴニストと称する)による細胞致死作用について、TNF耐性
およびTNF感受性細胞系多数を検索した。
この検索で、SW480とHut−78細胞はFasアゴニストに高度に感受
性であることを確認した。抗Fasアゴニスト抗体は有意にHUT−78細胞を
殺したが、免疫前血清は無効であった(図2a)。この血清中の作用は可溶性の
IgG−HuFas免疫アデシンにより中和される。興味深いことに、HUT−
78細胞はTNF−αまたは抗TNF−R1アゴニスト抗体によっては殺されな
い。TNF−αは効率的にHUT−78細胞にMnSODを誘導するのだから、
TNF−αがHUT−78細胞致死能を持たないのは機能のあるTNF−R1が
不在のためではない。それ故、機能性FasおよびTNF−α受容体双方を共発
現する細胞内ではFas受容体のみが細胞毒性をシグナル伝達することができる
ことになる。同様な結果はSW−480細胞についても観察された(図3aおよ
び3b)。
われわれは、TNF−αと抗TNF−R1アゴニスト抗体とには高度に感受性
であるが、Fasを特異的に結合するアゴニスト抗体には感受性を示さない細胞
系数種を確認した(図2bおよび表1)。
ME180(頸部癌)、A549(肺繊維芽)、MCF(乳癌)、HeLa(頸
部癌)およびWI−38(肺繊維芽)のようなヒトの腫瘍細胞系はTNF−R1
アゴニストにより効果的に殺すことができたが、Fasアゴニストには感受性が
なかった(表1)。Fasアゴニスト耐性細胞系数種ではFas受容体の発現が
比較的低水準であったが、これが耐性を説明するかも知れない。これはHeLa
細胞の場合に、ヒトFas・cDNAの移入によってこれら細胞が表面に高水準
のFas抗原を発現すればFasアゴニストに感受性になることで証明された。
しかしながら、これではフローサイトメーターにより高水準にFas抗原を発現
すると判断されているME−180およびWI−38細胞系の耐性は説明できな
い。それ故、ME−180およびWI−38細胞は両者共TNF−R1とFas
抗原とを共発現するが、これらはTNF−R1からのシグナル伝達に対してのみ
選択的に感受性である。
前記研究は、FasおよびTNF−R1が異なるシグナル伝達経路を利用して
プログラムされた細胞死を仲介するモデルを支持する。共通の下流効果に導いて
いく経路が違っている証拠にはこの他にシグナル伝達2種の相乗性がある。ヒト
膀胱癌T24細胞はTNF−R1とFasとのアゴニスト両方に非感受性である
ことが見出された(図4a)。単独投与の場合には、最高濃度を用いてもTNF
−R1およびFasアゴニストによるT24細胞の細胞致死は10%以下であっ
た。しかしながらFasとTNF−R1アゴニストとの双方を組合せると殆ど大
部分の細胞を比較的低濃度で殺した(図4)。TNF−R1とFasアゴニスト
との間のこの驚異的な相乗作用はFasとTNF−R1とが異なるシグナル伝達
経路を利用するとの見解を強く支持する。同様な相乗的結果はヒトFas抗原c
DNA(図4b)とヒト膠芽腫A172細胞系(図4c)とを移入されて発現し
ているネズミL929細胞のように抗TNF−R1と抗Fas抗体との両方にい
くらか感受性のある細胞系についても見出された。相乗作用はSW−480、M
E−180およびWI−38細胞(資料未記載)でも見出され、この相乗現象が
一般的で、Fas抗原はME−190およびWI−38細胞でもシグナル伝達を
することができることを示唆する。
おそらく保護蛋白質の合成阻害によってCHIは細胞多種のTNFの細胞致死
作用に対する感受性を劇的に強化する。驚いたことに、3時間CHIでMA−1
細胞を前処理すると、後続するTNF−α処理による致死作用から細胞を保護し
た(図5a)。対照的に、CHI前処理はMA−1細胞を後続するFasアゴニ
ストによる細胞致死作用からは保護しなかった。
活性な細胞致死蛋白質に加えて、TNFまたはIL−1が誘導するMnSOD
のような保護蛋白質も後続するTNF−αによる致死作用に対して細胞を保護す
ることが示されている。そこで、われわれはTNF−α前処理が後続するFas
拮抗剤+CHI処理による細胞致死作用に対して保護するかどうかに興味を持っ
た。図5bはMA−1細胞のTNF+CHI細胞致死作用がTNF−α前処理に
よって完全に阻害できることを示す。この誘導耐性はTNF受容体のダウンレギ
ュレーションに起因するものでなく、またIL−1のそれに似ている。しかしな
がら、TNF−α前処理はMA−1細胞を後続するFasアゴニスト+CHIに
よる致死作用に対して保護しなかった(図5c)。対照的に、Fasアゴニスト
によるMA−1細胞の前処理ではTNFが誘導する同様な保護効果をシグナル伝
達することができなかった(図5b)。これらのデータはTNF−R1とFas
とが仲介する細胞致死作用の伝達経路が異なることの追加的証拠を提供する。
Fas抗原は以前にはTNF−R1が仲介するものと区別できないプログラム
された細胞死をシグナル伝達することが判り、細胞内ドメイン内の相同的構造が
このシグナル伝達を仲介するのであろうと示唆されていた。Fasもこれら多様
な作用をシグナル伝達できるかどうか確認するため、われわれはFasとTNF
−R1との各種細胞応答の誘導能を両受容体を共発現する細胞系内で調査した。
われわれはTNF−R1が持つ生物学的活性を誘導する周知の能力、たとえば細
胞増殖、抗ウイルス活性、MnSODの誘導、およびICAM、をFasは共有
していないことを見出した。TNFが多様な細胞応答を誘導する一方で、Fas
抗原を経るシグナル伝達はある種のT細胞および腫瘍型に特異的にアポトーシス
による死を招くものと思われる。標的腫瘍に保護を誘発しないので、この高度に
特異的な抗Fas抗体の作用はFas抗原のアゴニスト(抗体またはFasリガ
ンドのような)は効果的抗腫瘍治療を導きうることを示唆する。さらにTNF−
R1とFas抗原とが仲介するアポトーシスの異なる経路を理解すれば、最終的
にはこれら受容体2種が端緒を開く相乗的作用により癌または他の疾患の有効な
治療法に到るであろう。
前記は、殊に好適な態様を示したが、本発明はこれに限定されないものと理解
されると思われる。当業者には本発明の全範囲から離脱せずに、開示された態様
に種々修飾を施しうることは自から明らかである。そのような修飾は全て本発明
の範囲に含めるとの意向を持つものである。
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(51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI
C07K 16/24
16/30
19/00 8318−4H
C12N 5/10
C12P 21/02 L 9452−4B
C 9452−4B
21/08 9358−4B
9455−4C A61K 37/02 ADU