【発明の詳細な説明】
傷の治癒促進方法およびそのための組成物
本発明は、哺乳類の眼球組織のガラス質もしくはガラス質の抽出物またはガラ
ス質の1種以上の成分を適用する、傷の治癒を誘発、剌激、増進、加速または促
進する方法に関する。また本発明は、皮膚組織に実質的に影響を与えることなく
、肉芽組織の成長と増殖を選択的に刺激することのできるガラス質もしくはガラ
ス質の抽出物またはその1種以上の単離成分を含む、局部用組成物を狙いとした
ものである。
本明細書中では「ガラス質」という言葉は、「硝子体液」の省略名称として用
いるが、これはバラズ(Barasz)およびデンリンガー(Denlinge
r)(1984年)の命名法を採用したものである。ガラス質には、水晶体、毛
様体および網膜によって囲まれた結合組織が含まれる。
本発明を記述するに当たって、皮膚は外側の外皮層と内側の真皮層からなると
考えられる。これら二つの層は第3の皮下組織層の上にある;肉芽組織は皮下組
織層から作られる。ここで「皮膚組織」というのは表皮および真皮組織をいうの
であって、皮下または肉芽組織を言うのではない。
傷に対応して、重なり合っている3つの組織応答の相状態:炎症、肉芽組織の
生成、およびマトリックスの形成と再構築、がある。これらの相状態は図1に示
してある。
炎症相は血管の損傷と関連している。これにより血液細胞および血漿成分が周
囲の組織に浸出し、化学誘引物質(chemoattrantant)とマイト
ジェンの血小板放出をも含む凝血過程を引き起こす。これは更に、血小板同様、
傷治癒の次の相にとって重要な好中球および単球といった血液細胞の傷組織への
侵入を引き起こす(クラーク、(Klarke) 1988年)。
肉芽組織は線維芽細胞、単球誘導性マクロファージ、組織マクロファージおよ
び新しい血管からなる。「肉芽組織」なる語は、その粒状形状に由来するもので
あり、組織学的には多くの新規に形成された血管によるものである。肉芽組織は
慢性の非治癒性の傷のような傷の修復部位または骨の損傷部位で見いだされうる
もので、そこでは肉芽組織は大部分が特定の筋線維芽細胞(以降は「造骨細胞(
osteoblasts)」と呼ぶ)をからなる。傷部位への線維芽細胞の増殖
および新しい血管の成長は同時に且つ相互依存的に生じ、マクロファージおよび
血小板から出てくる化学誘引物質および成長因子によって剌激される。このよう
な化学誘引物質および成長因子にはトロンビン、線維芽細胞成長因子(FGF)
、表皮成長因子(EGF)および血小板誘導成長因子(PDGF)が含まれる(
レイボビッチ(Leibovich)およびロス(Ross)、1975年)。
血管再生(Revascularization)は隣接する血管から成長する
毛細管から起こり、次いで滑らかな筋肉が回復される。この段階は増殖している
治癒組織へ酸素と必須栄養物を供給するので傷治癒にとって重要なところである
。
皮膚が失われた深い傷の場合は、線維芽細胞は皮下層から傷の部位へ移動し、
最初フィブロネクチン(fibronectin)およびヒアルロン酸に富んだ
多量の緩い細胞外マトリックスを蓄積する(カーキネン他(Kurkinene
t al.,)1980年)。傷そのものの内部で線維芽細胞は表現型変調(ph
enotypic modulation)を起こしていわゆる「筋線維芽細胞
(myofibroblast)」となる。筋線維芽細胞はマトリックス合成機
能を失うことなく高い移動度と収縮能をもっている。筋線維芽細胞は肉芽組織の
中で最も数が多い。筋線維芽細胞はアクチンに富んでおり、傷の内部で配列し傷
を閉鎖するために収縮を起こす(ギャビアニ他(Gabbiani et al
.,)1972年)。
再-上皮組織形成は線維増殖と同時に起こり、これはバクテリア感染と組織液
体の消失を防止するための重要な機構である。上皮細胞は、移動と同時に著しい
表現型変化を生じ、細胞の移動度を増加する。多くの他の細胞種同様、表皮細胞
の移動は細胞増殖には依存しない。一旦再上皮組織形成が完了すれば、細胞は元
の表現型に戻る。
傷治癒の第3のオーバーラップ相はマトリックス形成および再構築である。肉
芽組織の細胞外マトリックスの組成および構造は最初に沈着した時間から連続的
に変化し、サイトカイン、例えば腫瘍増殖因子-β〔TGF-β〕によって制御さ
れる(ロバーツ他(Roberts et al.,)1986年)。肉芽組織の
形成中、フィブロネクチン(fibronectin)は、細胞移動のための基
層、筋線維芽細胞が傷の収縮を効果的に行うための結合およびコラーゲンフィブ
リル形成のための融着部位を提供する。コラーゲン種I、IIIおよびVが発生し
、傷の引張強度を発現し、プロテオグリカンは組織の変形に対して復元力を提供
する。
第2期治癒(secondary intention)による治療を必要と
する傷は、表皮も真皮もない、縁が広く離れた傷である。その結果、治癒は基部
から上へおよび縁から内部へと進む。真皮はこの点ではほとんど傷治癒活性を示
さず、結果的に傷部位を満たす肉芽組織の大部分は傷の縁の皮下脂肪からおよび
傷の皮下床から出てくる。上記のように、肉芽組織は皮下組織の周辺結合組織要
素の増殖と移動のよって形成される。;それは第1の例では、肉芽組織は種々の
量の炎症細胞と共に毛管ループおよび線維芽細胞からなる。
速やかな機能回復をもたらし、深く広い第2期徴候の傷の部位に傷跡が残らな
いようにするための臨床的必要性および慢性非治癒性第2期徴候の傷の治癒を開
始し、加速するための必要性から、人に試みるために非常に多くの物質が試験に
用いられてきた。
これらの物質は多くのソースから得られたもので一般的には成長因子の組み合
わせがはっきりしない(バン・ブラントおよびクラウスナー(Van Brun
t and Klausner)、1988年;ブックレー他(Buckleye
t al.,)、1985年)。
傷治癒を加速する試みとして、血小板誘導傷治癒処法(PDWHF)が局部に
使用されてきた。PDWHFを、これにこの処方中にある成長因子を組み合わせ
ることによって、慢性非-治癒性皮膚傷の治癒を刺激することも考えられる。あ
る研究は、PDWHFが異なる病因による傷に等しく良く効くことを示している
(ナイトン他(Knighton et al.,)、1988年)。
人を対象とした広範な研究で、カーター他(Cater et al.,)(19
88年)は3種の粗調製品:オ−トロガス血清、豚のリゼイト(豚のケラチン細
胞から得られた)および子牛血小板リゼイト、を用いた。3種はいずれも非-治
癒性の、強く潰瘍化した傷のある患者に試験し、ある程度の成功を見た(カータ
ー他、1988年)。
哺乳類の眼の抽出物についてもその潜在的な傷治癒特性が試験されてきた。英
国特許第1342761号では、眼の全抽出物が角膜の傷の瘢痕化を強めること
が示された。更に英国特許第1603034号には、抽出物、例えば表皮層の細
胞の再生を助けるガラス質からの組織再生抽出物の水溶液を開示している。表皮
細胞への同じ効果が米国特許第4,670,257号明細書でも開示されており
、そこでは例えばガラス質からの、眼球組織の水性塩抽出物を用いている。
皮膚の表皮層や真皮層でなく、肉芽組織を選択的に標的として傷の治癒を加速
することのできる物質を同定し開発する必要性がある。このような物質は傷の治
癒管理、特に表皮および真皮のなくなった第2期治癒傷の傷治癒管理に多大の進
歩をもたらすであろう。これらの物質はまた損傷した骨の治癒の間に肉芽組織を
促進するためにも有用であろう。
したがって、本発明のひとつの態様は皮膚組織に対して肉芽組織を選択的に加
速成長させることのできる哺乳類眼球組織からのガラス質処方を提供する。ガラ
ス質処方は、単離したガラス質、ガラス質抽出物または必要とする活性をもつガ
ラス質のひとつ以上の成分を含んでいてもよい。ガラス質抽出物は水性抽出物で
あってもよいし、または塩抽出物であってもよい。
ガラス処方は一般的には局部投与に適した形態で適用する。本発明のこの態様
では、哺乳類眼球組織のガラス質またはその抽出物を含む局部組成物が提供され
、局部組成物として上記ガラス質またはその抽出物は表皮および真皮組織に対し
て肉芽組織の成長を選択的に加速する。
便宜上、ガラス質の「抽出物」という表現は、ガラス質から単離および/また
は生成された1種以上の活性成分をいう。更に短縮した呼び方として、本発明の
ガラス質処方および局部組成物を今後ガラス質ベースの治癒処方(VBHF)と
呼ぶ。「局部組成物」という用語はここではその最も広い意味で用いられ、皮下
組織の1種以上の層および直接骨損傷部への組成物の適用を含む。
「表皮組織」という表現はその最も広い意味で用いられ、特にケラチン細胞を
目的としている。「真皮組織」という表現もまたその最も広い意味で用いられ、
皮膚線維芽細胞を含む。皮下/肉芽組織もまたその最も広い意味で用いられ、血
管平滑筋細胞および筋線維芽細胞を含む。本発明はVBHFは血管平滑筋と筋線
維芽細胞の増殖を刺激するが、実質的に皮膚線維芽細胞およびケラチン細胞を刺
激しないという発明者らの驚くべき発見に一部基づいている。
本発明の好ましい態様では、哺乳類眼球組織のガラス質またはその抽出物を含
む局部組成物を提供しており、このガラス質またはその抽出物は血管平滑筋およ
び/または筋線維芽細胞の成長を選択的に刺激するが、皮膚線維芽細胞および/
またはケラチン細胞を実質的に剌激しない。その選択的効果は好都合なことにそ
して特にイン・ビトロで観察され且つ評価される。
「ガラス質抽出物」という言葉は哺乳類眼球組織から単離したガラス質、次い
で少なくとも1段階の精製または分別を受けたガラス質、またはその中の何らか
の活性成分を含む。哺乳類とは一般には、子牛、羊、馬または豚のような家畜類
、または山羊またはマウス、兎またはテンジクネズミのような実験用動物である
。本発明の最も好ましいガラス質源は子牛からのものである。
もう一つの態様では、ガラス質は分別され、単離され精製された成分の一種以
上または成分混合物は、ガラス質またはその抽出物同様肉芽組織および皮膚組織
に選択的効果がある。
本発明のこの態様では、哺乳類ガラス質またはその抽出物から単離可能な成分
を提供し、これらの成分は血管平滑筋細胞または筋線維芽細胞のような肉芽組織
の成長を加速しまたは促進することができるが、ケラチン細胞および真皮由来の
線維芽細胞のような皮膚細胞にはほとんど増殖効果をもたない。この成分は単離
され精製されたものであることが好ましく、これは本組成物が、重量、活動度、
抗体結合または他の便利な方法により測定して少なくとも20%、より好ましく
は少なくとも35%、更に好ましくは少なくとも45%、なお好ましくは少なく
とも55〜65%、もっと好ましくは少なくとも75〜90%の成分を含むこと
を意味する。
本発明のVBHFは更にその組成物に加えられる一種以上の外因性因子を含ん
でもよく、これもまた傷治癒過程に役立つであろう。本発明のこの態様で考えら
れるこのような外因性因子には、PDWHF、FGF、EGFまたはインシュリ
ン様成長因子(IGF)、一種以上の抗生物質または他の抗菌剤またはビタミン
E、Dおよび/またはKのようなビタミン類が含まれるが、これに限定されるも
のはない。またVBHFは医薬的に許容できるキャリアおよび/または希釈剤を
含んでもよい。
VBHFは直接局部に付けてもよいし、あるいは泡剤(medicatedf
oam)、ゲル、クリームまた液体の中に組み込んで使用してもよい。あるいは
また包帯、手当用品、ガーゼまたは縫合糸のような固体マトリックス中に組み込
んでもよい。VBHFは単離したまたは精製したものであってもよいし、または
凍結または冷結真空乾燥されたものであってもよく、この場合には使用前に元へ
戻す。
VBHFに組み込んで役に立つであろう従来の薬剤を記載するためには、ブリ
ティッシュ・ファーマコペイア(British Pharmacopoeia
)(1980年)を参考にするのが便利である。
本発明のVBHFは、糖尿病、抹消血管疾患または圧縮ただれ、床ずれに関係
ある潰瘍、種々のやけどような真皮組織の損傷、皮下組織/肉芽組織の加速成長
を必要とする術後の皮膚を失った皮膚損傷、骨の損傷の際の肉芽組織の加速治癒
、皮膚移植に先立つ皮下組織/肉芽組織の加速成長のような肉芽組織の成長を必
要とする傷の第2期治癒の傷の治癒に特に有用であると考えられる。
本発明のこの態様では、動物の傷の治癒を刺激し、増強し、加速しまたは促進
する方法が意図されており、この方法には傷を先に説明した効果的な量のVBH
Fと、傷が治療するに充分な時間と条件下で接触することを含む。
このような傷は一般に上記の第2期治癒によって治癒される。効果的な量とは
傷治癒を剌激し、増強し、加速しまたは促進するに有効なVBHFの量であり、
これは血管平滑筋細胞または筋線維芽細胞を刺激し、ケラチン細胞または皮膚線
維芽細胞には実質的に効果的な刺激がないということで評価するのが便利である
。上記の「傷」という言葉は骨の損傷も含んでいる。
治療の対象となる動物はひと、先に説明した家畜動物類、先に説明した実験動
物類、愛玩動物(例えば、犬または猫)または捕獲した野生動物であってもよい
。しかし最も好ましい動物はひとである。
傷治癒プロトコルにはVBHFの一回きりの適用も含まれるし、または治療す
べき傷、傷の大きさおよび患者の治癒能力によって1時間ごと、1日2回、数日
ごと、毎週、数週間ごと、または毎月のように何回かの適用も含んで良い。この
方法はまた更に抗生物質または他の抗菌剤、麻酔薬または他の傷治癒促進剤の一
種以上と共に治療することを含んでいてもよい。VBHFは単離して使用しても
よいし、濃縮または希釈を必要とするかも知れない。ここで意図している希釈は
1:2から1:10の大きさであるが、好ましくは1:2から1:5である。V
BHFを濃縮する場合は、凍結真空乾燥または濾過を含むいくつかの方法で行っ
てもよく、濃縮の範囲は2から10倍である。
もうひとつの態様では、VBHFは凍結真空乾燥を行うなどして非液体形態で
使用してもよい。このような形態は包帯、手当用品、ガーゼまたは縫合糸のよう
な固体マトリックスへ適用するのに特に有用であるかもしれない。
本発明を更に限定を意味するものでない以下の図および/または実施例によっ
て記述する。図面の簡単な説明
図1は傷治癒の段階を示す図式表現である。
図2は血管平滑筋細胞への三重水素で標識したチミジンの結合に及ぼすVBHF
の効果の図式表現である。
図3は筋線維芽細胞への三重水素で標識したチミジンの結合に及ぼすVBHFの
効果の図式表現である。
図4は造骨細胞への三重水素で標識したチミジンの結合に及ぼすVBHFの効果
の図式表現である。
図5は皮膚線維芽細胞への三重水素で標識したチミジンの結合に及ぼすVBHF
の効果の図式表現である。
図6はケラチン細胞への三重水素で標識したチミジンの結合に及ぼすVBHFの
効果の図式表現である。
図7は血管内皮への三重水素で標識したチミジンの結合に及ぼすVBHFの効果
の図式表現である。
図8は血管平滑筋の増殖に及ぼすVBHFの効果を示す図式表現である。
図9は筋線維芽細胞の増殖に及ぼすVBHFの効果を示す図式表現である。
図10は皮膚線維芽細胞の増殖に及ぼすVBHFの効果を示す図式表現である。
図11はケラチン細胞の増殖に及ぼすVBHFの効果を示す図式表現である。
図12は血管内皮の増殖に及ぼすVBHFの効果を示す図式表現である。
図13は血管平滑筋細胞の移動に及ぼすVBHFの効果を示す図式表現である。
図14は筋線維芽細胞の移動に及ぼすVBHFの効果を示す図式表現である。
図15は皮膚線維芽細胞の移動に及ぼすVBHFの効果を示す図式表現である。
図16はケラチン細胞の増殖に及ぼすVBHFの効果を示す図式表現である。
図17は血管平滑筋の形態に及ぼすVBHFの効果を示す写真表現である。
A:DMEM+0.5%v/vのFCS;
B:DMEM+0.5%v/vのFCSと1:2希釈VBHF;
C:DMEM+0.5%v/vのFCSと1:4希釈VBHF
図18は筋線維芽細胞の形態に及ぼすVBHFの効果を示す写真表現である。
A:DMEM+0.5%v/vのFCS;
B:DMEM+0.5%v/vのFCSと1:2希釈VBHF;
C:DMEM+0.5%v/vのFCSと1:4希釈VBHF
図19は皮膚線維芽細胞の形態に及ぼすVBHFの効果を示す写真表現である。
A:DMEM+0.5%v/vのFCS;
B:DMEM+0.5%v/vのFCSと1:2希釈VBHF;
C:DMEM+0.5%v/vのFCSと1:4希釈VBHF
図20はケラチン細胞の形態に及ぼすVBHFの効果を示す写真表現である。
A:DMEM+0.5%v/vのFCS;
B:DMEM+0.5%v/vのFCSと1:2希釈VBHF;
C:DMEM+0.5%v/vのFCSと1:4希釈VBHF
実施例1
ガラス質の単離
屠殺したばかりの子牛の眼から次のようにしてガラス質を取り出す。好ましく
は以下に概略説明した方法はすべてフード内の層流中で行う。
(i)眼の外側を70%v/vエタノール中で洗浄する。
(ii)19Gの針を付けたシリンジを水性ガラス質液の入っている窪みに差し
込み、水性ガラス質液を収集する。
(iii)角膜の回りをメスで切開し、角膜を取り出す。
(iv)鉗子を用いて水晶体を取り出す。
(v)次いでガラス質を無菌の10mlシリンジ中に収集する。
(vi)次にシリンジとその中身を−70℃で凍結する。
実施例2
ガラス質ベースの治癒処方剤の調製
実施例1の方法によりVBHFを単離して用い、または付加的成分として、一
種以上の医薬的に許容できるキャリアおよび/または希釈剤、ベクロメタゾン(
Beclomethasone)またはセトリミド(Cetrimide)のよ
うな乳化成分または塩水溶液、蛋白質、抗生物質、炭水化物から選ばれる成分を
加える。それに代わるものとしてまたはそれに加えて、ガラス質は不要な成分を
除くためにまたは必要な活性成分を単離し精製するために分別する。
VBHFを調製したら、それをそのまままたは凍結してまたは冷結真空乾燥し
て保存または輸送する。
実施例3
傷の治療
(i)傷を創縁切除し、感染があれば適当な抗生物質または抗菌剤を適用して
そ
れを除く。
(ii)傷を0.9%w/v無菌塩水溶液中で洗浄する。
(iii)VBHFの1mlのアリコートをシリンジ中から使用し、傷の上に均
等にかける。
(iv)プラスチックを裏張るしたガーゼ(傷と同じ大きさに切ってある)を0
.9%w/vの無菌塩水溶液で湿らせ、これを傷の上に置く。
(v)ガーゼの上からプラスチックのラップで覆う。
(vi)治療は12時間毎に繰り返す。
実施例4
皮膚移植片の調製
(i)肉芽組織の適当な層ができるまで、実施例3のステップ(i)から(v
)を行う。
(ii)それから成長しつつある真皮組織に皮膚移植片を適用することができる
。
(iii)必要ならVBHFによる治療を続ける。
実施例5
虚血潰瘍の治療
病院環境で臨床治療を行った。患者は左脚部下方に5cm×3cmの潰瘍があ
る以外は健康な72才の男性であった。潰瘍は6カ月にわたって行われてきた種
々の専売の手当用品に答えることができなかった。加えて、この治療期間中皮膚
移植も行われてきたが、結果として患者は何回も入院を必要とした。このような
治療法はいずれも不成功であった。傷は表皮と真皮の組織を欠いており、広範な
肉芽組織成長による第2期の治癒を必要とした。
患者は、実施例3で概略説明したVBHFの適用を12時間毎に行う治療法を
開始した。この治療の結果、患者の潰瘍は14日たって完全に治癒し、18カ月
の試験期間中全く再発はなかった。
実施例6
糖尿病潰瘍の治療
病院環境で臨床治療を行った。患者は右脚下部に7cm×4cmの慢性潰瘍が
ある以外は健康な76才の男性であった。25年にわたって種々の専売の手当用
品と皮膚移植法が行われたが治癒は完全でなく、その間潰瘍は再発していた。傷
の治癒を成功させるためには肉芽組織の成長加速が必要であった。
患者は実施例2に概要説明したVBHFを局部適用して治療を開始した。この
治療法の結果、患者の潰瘍は12日後には90%治癒し、22日後には完全に治
癒した。そして17カ月の試験期間中、潰瘍の再発はなかった。
実施例7
外傷後の潰瘍の治療
最初病院環境で臨床治療を行い、後には自宅で患者自体が行った。患者は外傷
後の潰瘍が治っていない48才の女性であった。
潰瘍は5cm×5cmの大きさで左脚部の下部にあった。種々の手当用品を用
いた方法では潰瘍の治癒に進展はなく、新しい皮膚の成長も求められなかった。
それに加えて、5年間の潰瘍病歴中、繰り返し皮膚移植により短期間傷は回復し
たが、皮膚移植片はいずれも退化してしまった。傷は上皮と真皮の両方の組織を
含む表皮組織がなく、傷治癒がうまく行くためには肉芽組織成長を必要とした。
患者は実施例3に概略説明したVBHFの局部適用を含む治療法を開始した。
この治療の結果、潰瘍は21日後完全に治癒した。
実施例 8
糖尿病潰瘍の治療
82才の女性患者に病院環境で臨床治療を行った。患者は次の2個の潰瘍をも
っていた:ひとつは右足前部(5cm×2cm)、他方は右脚部の裏側(10c
m×10cm)であった。どちらの潰瘍も糖尿病が原因となっている抹消血管限
定の結果であった。潰瘍は5カ月にわたる種々の専売の手当用品と高圧治療の効
き目がなかった。裏側の潰瘍は腱を通って浸透し、脚の切断も有り得るものであ
った。
患者は右脚部裏側の潰瘍に対して、VBHF(実施例3に概要を記載した)の
局部適用を含む治療法を開始した。右足前部の潰瘍にはコントロールとして1規
定の塩水溶液を適用した。14日後、右脚裏側の潰瘍は肉芽組織が広範に成長し
たが、右足前部の潰瘍は変化がなかった。右脚裏側の潰瘍は次いで実施例4に概
略説明した治療法を開始した。どちらの場合でも、肉芽組織が速やかに成長し、
22日後右足前部の潰瘍は完全に治癒し、一方右足前部の潰瘍は38日後に完全
に治癒した。
実施例9
VBHFの選択的効果
1.細胞源血管平滑筋細胞
12週令のウサギの大動脈を標準法(ギャンベルおよびキャンベル(Camp
bell and Campbell)、1993年)による酵素分散(enz
ymatic dispersion)することによって、血管平滑筋細胞を得
た。細胞は牛の胎児の0.5%v/vの血清を加えたダルベコ’ズ・ミニマル・
エッセンシャル・メディアム(Dulbecco’s Minimal Ess
ential Mediumu)(DMEM+0.5%v/vFCS)中で培養
した。筋線維芽細胞
筋線維芽細胞を、コーンオイル中の1%v/vハズ油1ml、次いで20ml
の空気をラットに皮下注射することにより誘導したセリェの肉芽腫パウチ(Se
lye’s granuloma pouch)(セリェ、1953年)を酵素
分散して得た。細胞はDMEM+0.5%v/vFCS中で培養した。皮膚線維芽細胞
ひとの皮膚線維芽細胞をシドニー大学(ニュー・サウス・ウエールズ、オース
トラリア)のレベッカ・メイゾン(Rebecca Mason)博士から入手
し、DMEM+0.5%v/vFCS中で培養した。ケラチン細胞
ひとのケラチン細胞(表皮)を、ケラチン成長媒体(KGM)と共にシドニー
大学(ニュー・サウス・ウエールズ、オーストラリア)のレベッカ・メイゾン(
Rebecca Mason)博士から入手した。実験用に細胞をDMEM中で
培養した。内皮細胞
内皮細胞をホリガン等(Horrigan et al.,)の方法(1988
年)で子牛の大動脈から単離し、RPMI+0.5%v/vFCSの媒体中で培
養した。
2.VBHF
VBHFを氷上に置いたプラスチックシリンジ中で実施例1および2にしたが
って調製した。
VBHFを必要なときまで凍結して保存し、使用時に、DMEM+0.5%v
/vFCSまたはRPMI+0.5%v/vFCS(内皮細胞)のどちらかの中
で、1:2、1:4、1:8および1:16に順次希釈した。汚染を抑制するた
めにペニシリンGを用いた。
3.3H-チミジンの結合血管平滑筋細胞
DMEM+10%v/vFCS中に置いた24ウエル(well)の植物中へ
5×104細胞/ウエルの細胞を植え付けた。細胞は18時間ぴったりとくっつ
けたままにし、それから細胞をDMEM+0.5%v/vFCS中で完全に洗浄
した。次いでウエルを6グループに分割して、1グループ4個のウエルとし、次
の条件下に置いた:
1.DMEM+0.5%v/vFCS
2.DMEM+0.5%v/vFCS+1:2VBHF
3.DMEM+0.5%v/vFCS+1:4VBHF
4.DMEM+0.5%v/vFCS+1:8VBHF
5.DMEM+0.5%v/vFCS+1:16VBHF
DMEM+0.5%v/vFCSを含むウエルはVBHFを加えたものに対し
てコントロールとして作用した。
細胞は更に37℃で24時間インキュベートし、その時点で各ウエルに0.5
mCiの3H-チミジン(アメルシャム(Amersham))を加えた。4時間
のインキュベート後、細胞を2.5cmのガラスマイクロファイバー製フィルタ
ー(ワットマンインターナショナル、英国)上で採取し、洗浄し、3mlの水で
3回溶解(Iyse)した。フィルターを風乾し、それから7mlのベックマン
・レディー・セイフ(Beckman Ready Safe)発光体を加えた
シンチレーションびんに入れた。ベックマン・LS6000TA・β-カウンタ
ー中で、ブランクに比較して試料のカウントを計測した。
各実験条件の4個のウエルを平均し、コントロール(DMEM+0.5%v/
vFCS)と統計的に比較した。分散のワンウエイ解析のためにシグマスタット
(Sigmastat)統計プログラムを利用した。
1:2および1:4希釈のVBHFはこれらの実験の各々において(図2)、
平滑筋細胞への3H-チミジン吸収をコントロールよりも約6.4倍刺激した。1
:8および1:16希釈のものも3H-チミジン吸収を刺激したが、その程度は少
なく、投与量に依存していた。3H-チミジンの吸収の刺激は試験したすべての希
釈物にとって意味のあるものであった。希釈比1:2および1:4のVBHFは
ポジティブのコントロール(DMEM+10%v/vFCS)よりも更に3H-チ
ミジン吸収を刺激した(図2)。筋線維芽細胞
細胞を5×104細胞/ウエル個植え付けた。プロトコルは上記のものと同じ
であった。
1:2希釈のVBHFは3つの実験の各々において、コントロール以上(1.
7倍)に筋線維芽細胞への3H-チミジンの吸収を刺激した(図3)。他の希釈比
のもの(1:4、1:8および1:16)はいずれも3H-チミジン結合にそれほ
どの増加は認められなかった。皮膚線維芽細胞
細胞を5×104細胞/ウエル個植え付けた。プロトコルは上記のものと同じ
であった。
1:4および1:8希釈のVBHFは皮膚線維芽細胞への3H-チミジンの結合
を相当減少させたが、1:2および1:16希釈のVBHFは全く効果がなかっ
た(図5)。ケラチン細胞
プロトコルは上記のものと同じであった。
1:4、1:8および1:16希釈のVBHFは結合を減少させたが、1:2
希釈のものは全く効果がなかった(図6)。内皮細胞
プロトコルはコントロールの媒体がRPMI+0.5%v/vFCSである以
外は上記の通りであった。
すべての希釈倍率のVBHFについて、内皮細胞への3H-チミジンの結合をか
なり減少させた(図7)。
4.細胞増殖
細胞増殖に及ぼす希釈率1:2、1:4、1:8および1:16でのVBHF
の効果を評価するために実験を行った。細胞を板状に広げ(plate out
)、18時間ぴったりくっつけたままにした。次いで実験時間ゼロでの細胞の数
を測定するためにヘモサイトメータ(haemocytometer)を用いて
4個のウエルをカウントした。残りのウエルはDMEM+0.5%v/vFCS
(または内皮細胞の場合はRPMI+0.5%v/vFCS)で洗浄し、それか
ら次のような適当な媒体を供給した:
1.DMEM+0.5%v/vFCS
2.DMEM+0.5%v/vFCS+1:2VBHF
3.DMEM+0.5%v/vFCS+1:4VBHF
4.DMEM+0.5%v/vFCS+1:8VBHF
5.DMEM+0.5%v/vFCS+1:16VBHF
内皮細胞の場合は、上記の1から5のプロトコルはRPMI+0.5%v/v
FCSを用いて行った。
実験はそれぞれの細胞タイプにつき、1条件当たり4個のウエルを用いて行っ
た。細胞のカウントは血管平滑筋細胞と筋線維芽細胞では2日目、皮膚線維芽細
胞と内皮細胞では3日目、そしてケラチン細胞では5日目に行った。これは細胞
タイプの違いによる増殖速度の違いを反映していた。血管平滑筋細胞
平滑筋細胞の数は1:2および1:4希釈のVBHFが存在する場合は2.5
倍とかなり増加したが、1:8および1:16倍希釈の場合は効果がなかった(
図8)。筋線維芽細胞
筋線維芽細胞の数は1:2希釈のVBHFの場合のみコントロールよりかなり
増加した(図9)。皮膚線維芽細胞
どの希釈率のVBHFでも皮膚線維芽細胞の数はほとんど変化はなかった(図
10)。ケラチン細胞
同様に、ケラチン細胞の数も、どの希釈率のVBHFでもほとんど変化はなか
った(図11)。内皮細胞
1:2、1:4および1:8希釈のVBHFでは内皮細胞の場合増殖妨害が見
られた(図12)。ゼロ日目の細胞数は4.08±0.51×104細胞/ウエ
ルであったが、1:2倍希釈のVBHFの場合、3日目では6.78±0.45
×104細胞/ウエルであり、RPMI+0.5%v/v血清だけの場合は3日
目で25.09±3.19×104細胞/ウエルであった。成長妨害効果は投与
量依存性があり、1:16希釈のVBHFの場合には細胞数はコントロールであ
るRPMI+0.5%v/vFCSのレベルになった(図12)。
5.細胞移動
5種類の細胞タイプについて、1×105細胞/mlの濃度でDMEM+10
%v/vFCS(内皮細胞の場合はRPMI+15%v/vFCS)中に懸濁さ
せ、次いで各ウエルの中心に置いた環状のウエルインサートの中へ200μlを
ピペットで入れた。細胞を層全面(confluent)中へ終夜ぴったりとく
っつけたままにしておき、インサートを取り除き、細胞を充分に洗浄して、実験
媒体を加えた。
それぞれの細胞をタイプにつき、各実験条件当たり4個のウエルを用いた。実
験条件は上記と同じであった(1〜5)。
インサートを取り除き、実験媒体を加えたら、細胞を7日間にわたって細胞の
中心のサークルから半径方向への移動を自由に行わせた。3日目に新しい媒体と
VBHFを加えた。7日目に細胞は中和緩衝剤処理した10%ホルマリン中で固
定し、1%v/vのトルイジンブルーで染色した。細胞によって覆われた培養基
質の面積をポイントカウンティングモルフォメトリー(point count
ing morphometry)によって測定し、全ウエル表面のパーセント
として表した。各細胞タイプ当たり4個のウエルは、実験時間ゼロで固定し、染
色した。血管平滑筋細胞
1:2および1:4希釈のVBHFの存在では、血管平滑筋細胞の移動はDM
EM+0.5v/vFCSを含むコントロールウエルよりもかなり増加した(図
13)。その効果は投与量依存性であった。
血管平滑筋細胞は単層として成長しないで、細胞成長が刺激される状況では細
胞は多層となって成長することができる。これは1:2および1:4希釈のVB
HFが存在する場合およびポジティブコントロールの場合に顕著であり、トルイ
ジンブルーによる染色も培養基質の面積のより広い範囲にわたるだけでなく、強
度も著しく強かった。筋線維芽細胞
1:2希釈のVBHFの場合のみ、筋線維芽細胞の移動をコントロールよりも
かなり刺激した(図14)。皮膚線維芽細胞
VBHFのどの希釈倍率についてもコントロールと比べて、皮膚線維芽細胞の
外方向への成長に顕著な差はなかった(図15)。ケラチン細胞
同様に、どの希釈倍率のVBHFでもケラチン細胞の移動に効果はなかった。内皮細胞
7日後に細胞で覆われた培養基質の面積は、VBHFを加える前の日数ゼロ時
点のものよりも小さくなっており、1:2および1:4希釈倍率のVBHFは内
皮細胞にとって毒性があるようであった。その効果は、1:8および1:16で
は毒性効果はより少なく、投与量依存的である。
6.細胞形態
VBHFによって誘発される細胞の形、大きさまたは配向の何らかの変化を観察
するために、各細胞タイプにつき4個のウエルを次のものに曝した:
1.DMEM+0.5%v/vFCS
2.DMEM+0.5%v/vFCS+1:2希釈VBHF
3.DMEM+0.5%v/vFCS+1:4希釈VBHF
内皮細胞の場合は、1〜3はRPMI+0.5v/vFCSを用いて行った。血管平滑筋細胞
1:2および1:4希釈のVBHFが存在する場合はいずれも、平滑筋細胞の
数はコントロール(DMEM+0.5%v/vFCS)よりもはっきり増加した
が、細胞が全面にわたっていること以外は、細胞の形、大きさまたは配向の変化
はほとんどなかった(図17)。筋線維芽細胞
これに対して、筋線維芽細胞の形は1:2希釈VBHFが存在する場合、コン
トロールの平べったい細胞(図18A)から自動性細胞特有の長く伸びたリボン
型へと変化した(図18B)。その程度はより少ないが1:4希釈VBHFの場
合も同様であった(図18C)。皮膚線維芽細胞
皮膚線維芽細胞の形態は、1:2または1:4希釈のVBHFまたは0.5%
v/vFCSが存在しても特に変化はなかった(図19)。ケラチン細胞
ケラチン細胞を最初培養した時は、細胞は平らで、表皮様であり単層成長して
いた。二つの区別できる細胞集団が明瞭に存在し、全面単層で一様に広がったよ
り大きい細胞のより小さい集団が存在した。増殖と移動のすべての研究をこの表
現型の細胞について行ったところ、1:2および1:4希釈のVBHFは形態に
効
果がなかった。結果を図20に示した。
実施例10
造骨細胞の増殖に及ぼすVBHFの効果
ひとの胎児の造骨細胞様の細胞の培養物をVBHFを用いて処理し、イン・ビ
トロでの造骨様細胞の細胞分裂速度を変調するビタミンD 1,25(OH)2D3
およびTGF-βによりもたらされる効果と比較した。
試験パラメータとして48時間処理後の細胞の数および細胞への[3H]-チミ
ジンの結合を比較することが含まれている。ふたつのコントロール処理と比較し
て既知および未知の処理を試験した。第1のものは処理を行わず、第2のコント
ロールにはダルベコのPBSを用いてその初期濃度の75%w/vに希釈してお
いた媒体中で培養した細胞を含んだ。
組成物は氷の上で受け取り、0-4℃の冷凍庫中に保存した。
第1次細胞培養物(長い骨の繊維性小柱(trabecular)の端からの
もの)FBC200893の入った2個のフラスコをトリプシン処理(trip
sinise)し、細胞を洗浄し、BGJ媒体(GIBCO)1ml中に6×1
04細胞の濃度で再懸濁し、ホスホアスコルベートと10%v/vFCSを補充
した。細胞は24ウエルの培養物プレート中の1mlアリコート中に終夜放置し
た。
媒体は翌日アスパイアー(aspire)し、1ml/ウエルの2%v/vF
CSを補充したBGJ媒体と入れ替えた。種々のファクターを培養物へ持ち込む
方法の概要を表1に記載した。4個のものについて実施した処理は24のウエル
のプレートの列(column)にランダムに配置した。
各々の処理の培養物を48時間インキュベートし、その後培養物は細胞濃度ま
たは[3H]-チミジン結合の測定に供した。
処理の結果としての細胞培養物の違いはマイクロ・ソフト・エクセルのパッケ
ージのANOVAを用いて評価した。処理間の差の有意性はテューキー(Tuk
ey)の多重相関(multiple comparison)法を用いてp<
0.05レベルで行った。
0.5ng/ml濃度のTGF-βによる細胞の処理は細胞の形態に影響を与
えた。培養物はPBSまたは無処理(Nil treatment)のいずれの
処理によるものよりもより全面的であるように見えた。TGF-βで処理した培
養物は立方体形態をもった細胞のパーセントがより高いようであったが、PBS
コントロール培養物は繊維芽細胞形態をしている細胞が支配的であった。
VBHFで処理した培養物はTGF-βで処理した培養物と同じ形態および同
じ培養物表面被覆状態であった。これらふたつの処理を受けた培養物は十分全面
的であるように見えた(培養物表面を全面的に被覆している)。
ANOVAを95%信頼限界(confidence interval)で
使用した結果、VBHFおよびTGF-βで処理した培養物とPBSで処理した
培養物の間には細胞数に統計的有意差があった。
3H-チミジン結合の結果は図4に示してある。
ANOVAを用いてこれらのデータを解析した結果、未処理2%FCS補充B
GJ媒体中に保持した培養物と媒体がダルベコのPBSで元の濃度の75%に希
釈した培養物とのチミジン結合速度の間には有意差はないことがわかった。PB
Sで処理した培養物とVBHFで処理した培養物との間には有意差がある(p<
0.05)。
PBSを用いて培養媒体を元の濃度の75%に希釈することは、未処理コント
ロールと比較した場合、ひとの胎児の骨に由来する細胞の細胞数または細胞分裂
分裂の速度に及ぼす効果はほとんどなかったようである。これらの組成物を使用
するには培養媒体をその通常の濃度の75%へ希釈することを必要としたので、
したがって、培養媒体をPBSで75%に希釈したものは、提供された組成物の
効果を評価するためのコントロールとしてより適当であると考えられた。
TGF-βはファクターが使用される系に依存して骨細胞に多くの効果を及ぼ
すことが明らかになってきている。本研究では、TGF-βは細胞増殖を減じ、
それに相当してチミジン結合を減少する。TGF-β処理によるこの細胞分裂の
妨害は恐らく本研究で用いた細胞密度に関係したであろう。低い細胞濃度では造
骨細胞様細胞の培養は初期の分化段階、したがって細胞分裂が速い段階にある細
胞が支配的になる傾向がある。このような場合には、TGF-βの主効果は細胞
にこの分化段階の進行を促進させ、同時に細胞分裂の速度を低下させる。逆に骨
細胞培養物の濃度が高いときには細胞は分化する傾向がある。このため細胞分裂
の速度を減少することになる。このような培養物をTGF-βで処理するときは
、培養物は細胞分裂を増加する傾向がある。このことはTGF-βが異なった条
件下で細胞分裂の速度に異なる影響を与えることを説明している。
本研究に於ける分化の状態は細胞形態の観察によって定性的に評価することが
できる。培養物中で分化した造骨細胞はより立方体形態を示し、一方分化の少な
い細胞は培養した線維芽細胞に似ている。培養物中で立方体の形をした細胞のパ
ーセンテージが増すにつれて、TGF-βとVBHFとは細胞形態に影響するよ
うになる。分化状態を評価するより定性的な方法はアルカリホスファターゼの生
産のような分化の生化学的な標識を測定することである。
VBHFで処理した細胞はコントロール培養物の細胞よりもより立方体であり
、より大きかった。更に、この組成物で処理した培養物は48時間後には完全に
全面的であった。VBHFによる骨細胞培養物の処理は、48時間のインキュベ
ーション期間中ずっとコントロール培養物と比べてかなり細胞数が少ないようで
あった。しかし、48時間の終了時点ではチミジン結合の刺激が見られた。
48時間の終了時点での細胞数(処理期間中の増殖の尺度である)と48時間
処理の最後の4時間にわたって測定したチミジン結合との間の違いは、ふたつの
異なる時間帯での細胞の活性を反映しているのかもしれない。VBHFは分化効
果をもっているということが有り得る。これらの培養物中での細胞の分化のあと
、チミジン結合として測定した増殖活性が増加するのかもしれない。この増殖の
増加は最初の48時間を越えたある時間範囲に対しては細胞の増加によっては測
定できないかもしれない。
参考文献:
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フロントページの続き
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DK,ES,FR,GB,GR,IE,IT,LU,M
C,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF,CG
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TD,TG),AT,AU,BB,BG,BR,BY,
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U,JP,KP,KR,KZ,LK,LU,LV,MG
,MN,MW,NL,NO,NZ,PL,PT,RO,
RU,SD,SE,SK,UA,US,UZ,VN
(72)発明者 デイビー、ピーター・ジェームズ
オーストラリア連邦2122ニュー・サウス・
ウェールズ、イーストウッド、クランウィ
リアム・ストリート31番