【発明の詳細な説明】
純粋なポドフィロトキシンの製造方法
発明の分野
この発明は、ポドフィロトキシン(podophyllotoxin)水和物、ポドフィロト
キシンの有機溶媒との包接複合体(inclusioncomplexes)もしくは溶媒化合物、
及びそれらに吸着もしくは吸蔵された有機溶媒を有するポドフィロトキシン相の
ようなポドフィロトキシン含有製品から高純度の結晶性無水ポドフィロトキシン
を製造する方法に関する。
発明の背景
ポドフィロトキシンは、植物抽出物、特に北アメリカ種のポドフィルム ペル
タツム(Podophyllum peltayum)やインド種のポドフィルム エモジ(Podophyl
lum emodi)のようなポドフィルム属の植物における種々の部位、特に根及び根
茎の溶媒抽出によって得られる所謂ポドフィルム樹脂から単離された公知のリグ
ナンである。
ポドフィロトキシンは、性病性疣贅(尖圭コンジローム;生殖性疣贅としても
知られている)を治療するための非常に有効な化学療法剤であることが証明され
ている{例えば、R.K.Beutner及びG.von krog, Seminers in Dermatol.9
(1990)148参照}。ポドフィロトキシンの別の重要な現在の用途は、VP 16-21
3 {エトポサイド(etoposlde)}及びVM 26 {テニポサイ
ド(teniposlde)}として知られている抗癌剤を合成するための原料としての用
途である{例えば、B.F.Issell,Cancer Chemother.Pharmacol.7 (1982)73
参照}。
ポドフィロトキシンのそれ自体薬剤としての用途及び他の重要な薬剤の製造用
原料としての用途により、純粋な形態でのポドフィロトキシンの製造がかなり重
要になった。特許文献には、この明細書に関連する米国特許第4,680,399号(Buc
hardt)及び米国特許第5,057,616号(Jennings et al.)のようないくらかの参
考文献がある。
ポドフィロトキシンは、異なる融点を有するいろいろな多形形態及び種々の溶
媒化合物の形態で存在することが報告されている{例えば、A.W.Schrecker e
t al.,J.Org.Chem.21 (1956)288}。従って、(後者の参考文献における)S
chreckerらは、ポドフィロトキシンの少なくとも4つの結晶性変異を認めた:即
ち、A−水を有するもの(融点161〜162℃);B−溶媒和されていないもの(融
点183〜184℃);C−結晶化の水とベンゼンを有するもの(融点114〜118℃;「
起泡性」);及びD−溶媒和されていないもの(融点188〜189℃)。
ポドフィロトキシンはまた、所謂複合体(「ホスト−ゲスト複合体」又は「包
接複合体」としても知られている)又は溶媒化合物として、水単独のみならず、
水と共にある種の有機溶媒、特にベンゼン、トルエン、ニトロベンゼン、クロロ
ベンゼン、フェノール及びピリジンのような単純芳香族及び芳香族複素環分子を
その結晶構造中に保持することが見い出された{例えば、米国特許第4,680,399
号及びK.V.Andersen et al.,J.Chem.Soc.,
PerklnTrans.2(1990)1871参照}。そのような複合体におけるポドフィロトキ
シン、有機溶媒及び水の間の割合は、しばしば2:1:2である。従って、例え
ば及び例証として、結晶性トルエン複合体(後者の組成を有する)は、およそ10
0,000ppmのトルエンを含有する。
Andersenら(後者の参考文献における)は、X−線回折によって、非溶媒和
ポドフィロトキシン(C22H22O8)が182〜184℃の範囲の融点を有し、ポドフ
ィロトキシン半水和物(C22H22O8・0.5H2O)が162〜164℃の範囲で溶融す
ることを示した。
さらに、この発明に関連して特に重要なことには(下記参照)、いくらかの有
機溶媒は、ポドフィロトキシンの結晶表而に強く吸着されるか又は吸蔵されるよ
うになる。このことは、例えばジクロロメタン及びクロロホルムのようなハロゲ
ン化低級アルカン類に関して、本発明者らによって確認された。そのうえ、この
強さは多くの場合、このような吸着された溶媒分子を有するポドフィロトキシン
製品をアルコールのような他の溶媒を用いて単純再結晶化しても、一般的に吸着
された溶媒が十分に除去されない。本発明者らは、特別な生成物が純粋な結晶性
で無水で溶媒フリーのポドフィロトキシンに対する正確な範囲の融点を示すとい
う単なる事実だけでは、吸着されるか又は吸蔵される溶媒が無いという保証にな
らないことを見い出した。それは、有意な含量の吸着されたハロカーボン溶媒を
有するいくらかのポドフィロトキシン製品が、完全に純粋なポドフィロトキシン
における正確な融点間隔
を示すことが見い出されたからである。
これらの種々の形態、溶媒化合物及び「溶媒吸着物」の存在を認識するための
過去の種々の研究における失敗により、かなりの混乱並びに結果の誤解がおきた
。さらに、むしろ医薬的観点から重要なことには、米国特許第4,680,399号及び
米国特許第5,057,616号に記載されているようなポドフィロトキシンを製造する
ための重要な特許文献の方法は、とりわけ単離手順の後段でのハロカーボン溶媒
の使用を開示しており、これらの文献には、このような溶媒が(他の点で純粋な
)ポドフィロトキシンの結晶によって強く保持されるという事実に関する何らか
の知見を指摘する開示はない。
米国特許第5,057,616号は、(ジクロロメタンのような)ハロカーボン溶媒か
らの沈澱及びそれに続く典型的にケトン/エーテル混合物からの再結晶化によっ
て作られる、純粋であるという生成物が、“幾分か低い融点を示すことがあり”
、正確な融点を示す生成物を得るために、かなり入念でかつ時間のかかるさらな
る結晶化及び減圧乾燥手順を用いることが必要であることを開示している(第5
欄第62〜65頁参照)。米国特許第4,680,399号においては、ポドフィルム樹脂か
らポドフィロトキシンを単離する最初の段階で、単純芳香族・芳香族複素環分子
とのポドフィロトキシン複合体(上記参照)の結晶化特性を利用し、例えばその
ような複合体のクロロホルム溶液から得られた生成物の(エチルアセテート又は
水性エタノールのような溶媒からの)単純再結晶化によって、「特に高純度の」
ポドフィロトキシンが単離されている。
純粋な無水ポドフィロトキシンを製造するための最初の報告された試みと思わ
れるものは、ポドフィロトキシン水和物の「無水エタノール」からの再結晶化に
よるもので、W.R.Dunstan及びT.A.Henryによってなされた{J.Chem.S
oc.(1898)209}。しかしながら、「減圧デシケーター」中で溶媒を蒸発させ
ることによって得られた結晶は、157゜Cで溶融し、これらの結晶の水の添加に
よるアルコールからの再結晶化では、水和した形態でのポドフィロトキシンが得
られた。これらの著者は、「水和した物質」をその融点(117℃)で数分間加熱
し、生じた生成物を乾燥クロロホルムに溶解し、その混合物がわずかに濁るまで
軽石油を加えることによって、「無水ポドフィロトキシン」の製造を記載してい
る。放置することにより、「無水ポドフィロトキシン」が結晶化した。
Schreckerらは、減圧下137℃で水和ポドフィロトキシンを加熱することを含
む手順による「非溶媒和」(無水)ポドフィロトキシンの製造を記載している{
J.Org.Chem.21(1956)288}。しかしながら、この方法は、無水ポドフィ
ロトキシンの大規模な製造には実行不可能であるだけでなく、現在の知識に基づ
けば、問題の高温でのポドフィロトキシンの長い処理によって、そのような温度
でのポドフィロトキシンの熱不安定性のために、少なくとも有意なエピ化が起こ
ることは明らかである{例えば、O.Buchardt et al.,J.Pharm.Sci.75(1
986)1076参照}。
上述に基づいて、高くかつ再現可能な純度を持ち、かつ医薬的に許容されない
有機溶媒を含まない無水ポドフィロトキシンを、水和物、有機溶媒との包接複合
体、又は別の溶媒含有ポドフィロ
トキシン相のようないずれかの容易に得られるポドフィロトキシン中間製品から
製造する直接の方法が必要であることが明らかである。この発明は、この要求を
満たすものである。
発明の記載
従って、この発明は、ポドフィロトキシン水和物、ポドフィロトキシンの有機
溶媒との包接複合体もしくは溶媒化合物、又はそれらに吸着もしくは吸蔵された
1以上の有機溶媒を有するポドフィロトキシン相であるか、もしくはそれらを含
むポドフィロトキシン製品から結晶性無水ポドフィロトキシンを製造する方法を
提供する。その方法は、
I)ポドフィロトキシン製品が、(i)ポドフィロトキシンの有機溶媒との包
接複合体もしくは溶媒化合物、又は(ii)有機溶媒が吸着もしくは吸蔵されてい
るポドフィロトキシン相からなる場合に:
ポドフィロトキシン製品を、包接複合体又はポドフィロトキシン相に存在する
有機溶媒とアゼオトロープを形成する第一の非芳香族非ハロゲン化有機溶媒に溶
解し、次いで130℃を越えない温度で生じた溶液から溶媒を蒸発させ、
II)適切な場合には、こうして得られた生成物に対して工程I)の溶解/蒸発
手順を1回以上繰返し、
III)(a)工程I)が行われなかったときには最初のポドフィロトキシン製
品を;又は(b)工程I)が行われたときには工程I)から得られた生成物か、
もしくは工程II)が行われたときには工程II)からの生成物を、大気圧下で130
℃を越えない沸点を有し、
かつ多くてせいぜい約1%(V/V)の水を含む第二の非芳香族非ハロゲン化溶
媒に溶解し、
IV)生成する溶液を、結晶の沈澱が実質的に終わるまで冷却し続けてポドフ
ィロトキシンの結晶を沈澱させ、
V)沈澱した結晶を単離し、
VI)単離した結晶を、乾燥手順の間上昇するが常に結晶が焼結するか又は溶
融する温度より低い温度で、融点が183〜184℃の範囲になり、かつ第二の溶媒の
残量が多くてせいぜい500ppmになるまで乾燥し続ける
ことからなる。
従って、例えば、この発明の方法は、適切であるならば、原料として、上述し
た範疇のポドフィロトキシンを含む溶媒含有もしくは水和した材料のいずれかに
属する2以上の物質の混合物を用いて行うことができる。
この発明の工程において原料として用いるのに適切なポドフィロトキシン水和
物としては、例えばポドフィロトキシン半水和物(上記参照)又はポドフィロト
キシン二水和物のような文献に報告されている他の水和物が挙げられる。
この発明の工程において原料として用いるのに適切な包接複合体もしくは溶媒
化合物には、芳香族又は芳香族複素環分子(例:ベンゼン、トルエン、o−,m
−及びp−キシレン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン又はニトロベンゼン、フ
エノール、ピリジン、又は例えば錯体化剤として用いるための米国特許第4,680,
399号に開示されたいずれか他の芳香族及び芳香族複素環分子)又は非芳香族分
子(例:2−ブタノール)を含有する複合体のような、
上記の型の複合体が含まれる。
吸着もしくは吸蔵された有機溶媒を有する適切なポドフィロトキシン相として
は、例えば吸着されたハロアルカン類(例:クロロホルム、ジクロロメタン又は
ジクロロエタンのようなクロロ置換低級アルカン類)を含む材料のような、この
明細書で提供される実施例において言及されかつ用いられた型の材料が挙げられ
る。
先の記載に基づいて明らかなように、ポドフィロトキシン含有原料が包接複合
体であるか又は吸着もしくは吸蔵された有機溶媒を含む材料であるときにこの発
明の工程において最初に行われる溶解/蒸発手順の役割は、それ自体芳香族でな
くかつハロゲン化されていない第一の溶媒とのアゼオトロープ形成を通してポド
フィロトキシンと結合した溶媒(類)を除去することである。
ある場合には、この溶解/共沸蒸発手順を一回行えば十分であるが、通常は、
複合体を形成するかもしくは吸着された有機溶媒(類)の十分な除去を確実にす
るために、問題のポドフィロトキシン製品を、トータルで少なくとも2回、又は
3回そのような手順に付す(即ち、溶解/蒸発手順を少なくとも1又は2回繰り
返す)のが適切であろう。この発明の工程におけるように、共沸蒸発中の温度が
130℃を越えないことを確実にすることによって、例えばポドフィロトキシンの
エピ化生成物が形成される危険が最小になる。
ある場合には、特に比較的に低沸点の第一の非芳香族非ハロゲン化溶媒につい
て、単純に大気圧下で溶液を沸騰させることが、ポドフィロトキシン製品の溶液
からそれらの中における少なくともほとんどの溶媒を蒸発させる適切な方法であ
ることが証明され
た。この場合には、すでに概説した理由のために、問題の溶媒が、大気圧下で13
0℃を越えない沸点を有するべきであることは明らかである。しかしながら、沸
点は、100℃を越えないのがより好ましい。
また、一般的に好ましくは、溶媒は、例えばロータリーエバポレーター等を用
いて減圧下で蒸発することにより除去することができる。この方法における減圧
下での蒸発はまた、それらの大量が溶液を沸騰することによって除去された後に
残留する溶媒を本質的に完全に除去するために用いるのが適切である。この場合
には、適切であるならば、溶媒それ自体は大気圧下で130℃を越える沸点を持っ
ていてもよいことはもちろんのことである。
適切な第一の非芳香族非ハロゲン化溶媒は、例えば一価の直鎖もしくは分枝状
C1〜C5アルカノール類(アルコール類)、炭素数5個までのカルボン酸エステ
ル類、及び炭素数4又は5の環状エーテル類のなかにみることができる。
より特別に、適切な第一の非芳香族非ハロゲン化溶媒は、以下のなかから選択
することができる:メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノ
ール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−ぺンタノール、3−ペンタノール
及びtert−ペンチルアルコールのようなC1〜C5アルカノール類;エチルアセ
テート、1−プロピルアセテート、2−プロピルアセテート、1−ブチルアセテ
ート、sec−ブチルアセテート、tert−ブチルアセテート、メチルプロピオネ
ート及びエチルプロピオネートのようなモノカルボン酸エステル類;及びテロラ
ヒドロフラン及びテト
ラヒドロピランのような環状エーテル類。
上記のように、第二の非芳香族非ハロゲン化溶媒は、一般的に約1容量%(V
/V)を越えない含水量を有するべきである。約2%のようなわずかに高い含水
量を有するある溶媒は、この発明の目的のために適切であると証明することがで
きるが、一般的な規則として、問題の溶媒は、ポドフィロトキシン半水和物(こ
の明細書においてPX・1/2H2Oと略す)のような水和物が結晶化するあらゆる
危険を防ぐために、できるだけ低い含水量を有することが好ましいのは明らかで
あろう。例えば、このような状況において特に適切な溶媒は、一般的に0.5%V/
V以下の水を含む品質で得ることができる無水エタノール(この明細書で提供さ
れる実施例参照)である。
一般的に、第二の非芳香族非ハロゲン化溶媒は、一価の直鎖もしくは分技状C2
〜C5アルカノール類(アルコール類)、炭素数5個までのカルボン酸エステル
類、及び炭素数4又は5の環状エーテル類のなかから選択されるのが適切であろ
う。従って、多くの場合において、第一及び第二の非芳香族非ハロゲン化溶媒と
して一つのかつ同じ溶媒を用いることが可能であろう。
実験により、最も単純な一価のアルカノール即ちメタノールが、第二の非芳香
族非ハロゲン化溶媒として用いるのにおそらく適さないことが示された。そのう
え、試験により、アセトン(ケトン)及びアセトニトリルを含むいくらかの他の
可能な候補者もまた、この目的のためには適さないことが示されている。従って
、このことに基づいて、低級ケトン類又はニトリル類が、一般的に第二
の非芳香族非ハロゲン化溶媒として用いることが可能であるとは思われないが、
それにもかかわらずやはり、それらは第一の非芳香族非ハロゲン化溶媒として適
用可能である。
適切な第二の非芳香族非ハロゲン化溶媒の特別な例は、以下のなかから選択す
ることができる:エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタ
ノール、2−ブタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール及びtert−ペン
チルアルコールのようなC2〜C5アルカノール類;エチルアセテート、1−プロ
ピルアセテート、2−プロピルアセテート、1−ブチルアセテート、sec−ブチ
ルアセテート、tert−ブチルアセテート、メチルプロピオネート及びエチルプロ
ピオネートのようなモノカルボン酸エステル類;及びテロラヒドロフラン及びテ
トラヒドロピランのような環状エーテル類。
第二の非芳香族非ハロゲン化溶媒中におけるポドフィロトキシン生成物の溶解
は、問題の溶媒における大気圧下での沸点を越えない温度で加熱することにより
適切に達せられる。加熱温度は、好ましくは100℃を越えるべきではない。いく
らかの溶媒について、約65℃の温度で加熱することによりポドフィロトキシン生
成物を溶解することが、非常に適切であることが証明された。
この発明の工程の最終段階において結果として起こる第二の非芳香族非ハロゲ
ン化溶媒の揮発の容易さの観点から特に、溶媒は、110℃を越えない、より好ま
しくは大気圧下で100℃を越えない沸点を有することが有利であることが見い出
された。また、溶媒中におけるポドフィロトキシン生成物の溶解が、溶媒の沸点
で加熱することにより起こるとき、溶媒の沸点はまた、110℃を越えな
い、より好ましくは100℃を越えないことが有利である。それは、このことが、
エピ化生成物又は他の分解生成物が形成されるどんな危険でも最小にするからで
ある。
実施の観点から、一般的に、第二の非芳香族非ハロゲン化溶媒は、例えば問題
の溶媒が少なくとも10%V/V程度まで水を溶解することができるように、十分
に水と混和できるか、又は少なくとも有意な程度の水との混和性を示すのが有利
である。さらに、この程度の混和性が、約0℃の温度でも適用されるのが有利で
ある。
ポドフィロトキシン結晶を第二の非芳香族非ハロゲン化溶媒溶液から沈澱させ
るために、例えば水−氷混合物を用いることによって、溶液を約0℃の温度まで
冷却するのが有利であることが見い出された。これらの条件下で溶媒自体の結晶
化が起こり得ないことを確実にするために、溶媒は、冷却浴の温度より低い、例
えば適切にはマイナス5℃より低く、好ましくはよりいっそう低い例えばマイナ
ス30℃より低い凝固点を有するべきである。
上記のようなこの発明の基本工程により、良好な収量の高純度の結晶性無水ポ
ドフィロトキシンが得られるが、重要かつ非常に驚くべきことには、無水ポドフ
ィロトキシンの収量を、溶媒と、指示された方法で冷却することによって得られ
た結晶との混合物に水を加え、次いで生じた混合物を、結晶のさらなる沈澱が実
質的に終わるまでさらに冷却することによって、非常に多大に改良することがで
きることが見い出された。水を添加する前の冷却された混合物中における大量の
無水ポドフィロトキシンの種晶の存在により、比較的大量の添加水の存在にもか
かわらず、無水形態の形成は、水を添加した後に確実に持続するであろう。
従って、例えば典型的に約80%(用いた原料生成物のポドフィロトキシン含量
に基づいて)の無水ポドフィロトキシンの最終収量が、水和ポドフィロトキシン
から始めて、かつ上記の方法において水を加えないで得ることができるのに対し
て、水を添加すると、ほとんど定量的収量、典型的に96〜98%(この明細書での
実施例参照)を得ることができる。
上述の方法において加えられるべき水の量は、あまり重要であるとは思われな
い。例えば、第二の非芳香族非ハロゲン化溶媒の容量に等しい容量の水を用いる
のが適切である。一般的に、約1:2の溶媒:水の容量比が、非常に満足した結
果を与えることが見い出された。このことは、水と問題の第二の非芳香族非ハロ
ゲン化溶媒が、これらの割合で完全に混和性でない場合でさえも適用される(例
えば溶媒としてエチルアセテートを用いる場合;この明細書での実施例参照)。
この発明の方法で用いられる乾燥手順は、所望により、一般的に、減圧下即ち
周囲(大気)圧より低い圧で行うことができ、この点で、約0.5mmHgまで低
い圧を用いるのが適切である。
使用する乾燥手順は、例えば、単離されたポドフィロトキシン結晶がまず比較
的低温で乾燥される予備乾燥工程に付され、その後、それらがより高い温度で乾
燥される最終乾燥工程に付される、2段階手順として行われるのが非常に適切で
ある。周囲圧条件は、この点で、一般的に全く十分なものである。
それにもかかわらず、上述の条件、即ち乾燥のどんな段階における温度でも通
常その段階での結晶の融点より低いことを満足することが重要である。このこと
は、一般的に、ポドフィロトキシ
ンの結晶が、20℃から第二の非芳香族非ハロゲン化溶媒の大気圧下での沸点まで
の間の温度で、予備乾燥された結晶の融点が120℃を越えるまで予備乾燥される
場合に見られる。
次いで、結晶のさらなる乾燥は、好ましくは第二の非芳香族非ハロゲン化溶媒
の大気圧下での沸点から130℃までの間の温度で、結晶の融点が183〜184℃の範
囲内になるまで行われるべきである。結晶に付着するか、さもなくば結晶と結合
した(例えばサンプルのガスクロマトグラフ分析によって決定された)第二の溶
媒の残量は、多くてせいぜい500ppmである。
予備乾燥段階の温度は、好ましくは、25〜50℃の範囲内であるべきであり、一
般的には、約40℃の温度が特に適切であるように思われる。1−及び2−プロパ
ノール、1−ブタノール及びエチルアセテートのようなある溶媒については、こ
の温度での(約8時間のような)より短時間の乾燥で十分であるように思われる
けれども、一般的には、約40℃で約24時間の間予備乾燥すると、優れた結果が得
られるように思われる。しかしながら、たとえこの段階での乾燥結晶が、この発
明の工程に従ってより高温でさらに乾燥するのに適切であるとしても、約40℃で
乾燥した後テトラヒドロフランによって例示されるある溶媒を用いて製造された
結晶の融点が、120℃に全く達することができないことは、ここで述べられるべ
きである。
結晶のさらなる乾燥温度は、好ましくは、105〜115℃の範囲内であるべきであ
り、一般的に、特に24時間の間行われるときには、約110℃の温度が特に適切で
あるように思われる。
この明細書での開示から明らかなように、この発明の工程にお
いて原料として用いられるポドフィロトキシン製品が、ポドフィロトキシン水和
物であるとき、溶解/共沸蒸発手順を行うことは必要ではない。従って、この発
明の工程の特に好ましい具体例において、ポドフィロトキシン製品は、(PX・
1/2H2Oのような)ポドフィロトキシン水和物であり、その工程は:
A)ポドフィロトキシン水和物を、約65℃の温度で無水エタノールに溶解し、
B)生じた溶液を、約0℃でポドフィロトキシンの結晶の沈澱が実質的に終わる
まで冷却し続けてポドフィロトキシンの結晶を沈澱させ、
C)工程B)からの混合物に水を加え、生じた混合物を、約0℃の温度でポドフ
ィロトキシンの結晶のさらなる沈澱が実質的に終わるまでさらに冷却し、
D)ポドフィロトキシンの沈澱した結晶を単離し、
E)ポドフィロトキシンの単離した結晶を、約40℃の温度で24時間予備乾燥し、
F)ポドフィロトキシンの予備乾燥した結晶を、約110℃の温度で24時間さらに
乾燥する
工程からなる。
この発明は、以下の実施例によってさらに例証されるが、この発明はこれらに
限定されない。
下記実施例に関連してなされた種々の測定に用いた装置は、以下のようである
。
1HNMR及び13CNMRスペクトルは、Brucher AM 250ス
ペクトロメーターで記録された。
化合物のIRスペクトル(臭化カリウムディスクにおける)は、Perkin−El
mer 500スペクトロメーターで記録された。
融点は、Reichart融点顕微鏡を用いて決定された。
旋光度は、光学活性からAA10旋光計を用いて決定された。
生成物の純度は、Spherisorb S5 ODSカラムを付したSpectra Physics 8
000計を用い、1ml/minの流速で、メタノール、0.09M リン酸二水素カリウ
ム(pH 6.5)及びアセトニトリル(10:9:1)からなる溶離液を用いて、高速液
体クロマトグラフィー(HPLC)によって決定された。
溶媒残量(以下の実施例10〜16参照)は、Varian 3400ガスクロマトグラフを
用いて、ガスクロマトグラフィー(GC)によって以下のようにして決定された
。アルカン及びハロゲン化アルカン溶媒について
サンプル容量:1μlのアセトン溶液(100.0mgの問題のポドフィロトキシ
ン製品をアセトンで1.00mlに調製)
GC標準物質:5μlのクロロホルム及び5μlのジクロロメタンをアセトン
で100.00mlに調製した標準溶液の適当な希釈溶液
カラム:TENAX60−80mesh (1.8m×3mmi.d.)
キャリヤーガス:窒素
キャリヤーガスの流速:30ml/min
温度:注入:150℃;オーブン:100℃;検出器:250℃
検出:β−粒子を放出する放射活性ニッケルアイソトープを用いる電子捕獲検
出器芳香族溶媒について
サンプル容量:1μlのアセトン溶液(100.0mgの問題のポドフィロトキシ
ン製品をアセトンで1.00mlに調製)
GC標準物質:5μlの無水エタノール及び5μlのトルエンをアセトンで10
0.00mlに調製した標準溶液の適当な希釈溶液
カラム:PORAPAK Q 80-100 mesh (1.8m×4mmi.d.)
キャリヤーガス:窒素
キャリヤーガスの流速:40ml/min
温度:注入:150℃;オーブン:230℃;検出器:250℃
検出:フレームイオン化検出器メタノール及びエタノールについて
サンプル容量:1μlのアセトン溶液(100mgの問題のポドフィロトキシン
製品をアセトンで1.00mlに調製)
GC標準物質:5μlのメタノール及び5μlの無水エタノールをアセトンで
100.00mlに調製した標準溶液の適当な希釈溶液
カラム:PORAPACK Q 80−100 mesh (1.8m×4mmi.d.)
キャリヤーガス:窒素
キャリヤーガスの流速:40ml/min
温度:注入:150℃;オーブン:230℃;検出器:250℃
検出:フレームイオン化検出器
実施例1〜9水和ポドフィロトキシンからの無水ポドフィロトキシンの製浩
実施例1
融点162℃のポドフィロトキシン半水和物(PX・1/2H2O){700g;Schr
eckerら(J.Org.Chem.21(1956)288)によって記載された方法における水
性エタノールからの結晶化によっ
てポドフィルム樹脂から得られた}を、20分間約65℃に加熱撹拌しながらフラス
コ中の無水エタノール(1400ml;0.5%V/V以下の水を含有する)に溶解した
。生じた溶液を氷水中で冷却すると、結晶性材料が沈澱した。沈澱化が実質的に
終わったとき、精製水(2100ml)を撹拌しながら加えた。生じた混合物を、氷
水中で冷却しながら2時間放置した。結晶性沈澱を、焼結ガラスロート(D2)
で濾過することによって単離し、氷冷したエタノール/水(1:2V/V)でフ
ィルターを洗浄した。結晶を、40℃で24時間、次いで110℃でさらに24時間乾燥
オーブン中で乾燥した。生じた無水ポドフィロトキシン(686g)は、183〜184℃
の融点を有し、かつHPLCによる99%より高い純度を有していた。
[a]D 20=−133.4゜(c=1、CHCl3)。生成物は、GCによって証明さ
れたように、500ppmより低いエタノールを含有していた。
生成物の1H NMR、13C NMR及びIRスペクトルは、文献で報告された
ものと同一であった{例えば、Buchardt et al., J.Pharm. Sci. 75(1986)
1076参照}。
実施例2〜9
無水ポドフィロトキシンを、以下の表1Aに列挙された溶媒を用いて、実施例
1に記載の方法と類似の方法で製造した。列挙した溶媒の各々は、1%V/V以
下の水を含有していた。7gのPX・1/2H2Oを各々のケースの原料として用
いた。その後の実験により、問題の溶媒と水との混合物で洗浄すると一般的に満
足すべき結果が得られることが示されているけれども、氷冷したエタノー
ル/水を、(実施例1におけるように)フィルターの最終洗浄のために用いた。
使用する溶媒中における含水量が低いことの重要性をさらに例証するために、
表1A及び1Bは、それぞれ99%V/Vエタノール(即ち、含水量1%V/V)及
び96%V/Vエタノール(即ち、含水量4%V/V)を用いて得られた結果をさら
に含んでいる。溶媒として96%V/Vエタノール(融点163〜165℃)を用いる実
施例9で得られた生成物は、半水和物であった(この明細書の他の場所での記載
参照)。
表1Aには、溶媒の詳細とそれらの使用量、各々のケースにおいて結晶化を完
全にするために加えた水の量、及び各々のケースにおいて製造された無水ポドフ
ィロトキシン生成物の収量と融点が記載されている。
表1Bには、空気乾燥後ではあるけれども40℃で乾燥する前の各々の製造され
たポドフィロトキシン相の最初の融点、40℃での乾燥の継続時間、40℃で乾燥し
た後の各々の生成物の融点、及び110℃での乾燥の継続時間が記載されている。
実施例10〜16有機溶媒を合有するポドフィロトキシン製品からの無水ポドフィロトキシンの製 造
実施例10
ポドフィロトキシン:トルエン:水包接複合体{1:0.5:1;700g;Anders
enらにより製造されたもの、J.Chem. Soc. Perkin Trans. 2(1990)1871}
を、20分間約65℃に加熱撹拌しながらフラスコ中の96%(V/V)エタノール(2
000ml)に溶解した。次いで、溶媒を、約55℃減圧下(15mmHg)で蒸発さ
せることによって除去した。生じた生成物を、上記と同様の方法で96%(V/V
)エタノール(1500ml)に再溶解した。溶媒を、上記のような減圧下での蒸発
により再び除去した。後者の再溶解/蒸発手順をさらに1回繰り返した後、残さ
を約65℃で加熱しながら無水エタノールに溶解した。
生じた溶液を氷水中で冷却すると、結晶性材料が沈澱した。沈澱化が実質的に
終わったとき、精製水(2100ml)を撹拌しながら加えた。生じた混合物を、氷
水中で冷却しながら2時間放置した。結晶性沈澱を、半融ガラスロート(D2)
で濾過することによって単離し、氷冷したエタノール/水(1:2V/V)でフ
ィルターを洗浄した。結晶を、40℃で24時間、次いで110℃でさらに24時間乾燥
オーブン中で乾燥した。生じた無水ポドフィロトキシン(678g)は、183〜184℃
の融点を有し、かつHPLCによる99%より高い純度を有していた。[a]D 20
=−134.1゜(c=1、CHCl3)。生成物は、GCによって証明された
ように、500ppm
より低いエタノールを含有していた。
生成物の1H NMR、13C NMR及びIRスペクトルは、文献で報告された
ものと同一であった(上記実施例1参照)。
実施例11〜16
無水ポドフィロトキシンを、以下の表2に列挙された残留有機溶媒を含む種々
のポドフィロトキシン製品から始めて、それらに特定された溶解溶媒を用いて、
実施例10記載の方法に類似の方法で製造した。表2にはまた、各々のケースにお
いて得られた無水ポドフィロトキシン生成物の収量と融点が記載されている。
残留ベンゼン又はヘキサン/ベンゼンを含むポドフィロトキシン製品は、Sch
reckerら{J.Org.Chem.21(1956)288}記載の方法によって製造した(生成物B
及びC2)。残留メチレンクロリド又はクロロホルムを含有するポドフィロトキ
シン製品は、別のポドフィロトキシン製品(例えば、PX・1/2H2O、又は例
えばヘキサン及び/又はベンゼンを含有するポドフィロトキシン製品)の各々メ
チレンクロリド及びクロロホルム溶液からの沈澱により、類似の方法で得た。
7gのポドフィロトキシン製品を各々のケースにおいて用い、溶媒及び洗浄媒
体を、実施例10と同じ相対量で用いた。
全てのケースにおいて、最終生成物は、GCによって証明されたように、最初
の残留有機溶媒を25ppmより少ない量で含有していた。GC測定値はまた、実
施例11、12、13及び15により得られた生成物が500ppmより少ないエタノール
を含有し、実施例14及び16により得られた生成物が500ppmより少ないメタノ
ールを
含有していたことも証明した。