JPH08232039A - 低熱膨張鋳鉄 - Google Patents

低熱膨張鋳鉄

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JPH08232039A
JPH08232039A JP1174396A JP1174396A JPH08232039A JP H08232039 A JPH08232039 A JP H08232039A JP 1174396 A JP1174396 A JP 1174396A JP 1174396 A JP1174396 A JP 1174396A JP H08232039 A JPH08232039 A JP H08232039A
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thermal expansion
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cast iron
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JP1174396A
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Takanobu Nishimura
隆宣 西村
Motoo Suzuki
基夫 鈴木
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Toshiba Corp
Original Assignee
Toshiba Corp
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 機械的特性を損なうことなく低熱膨張特性、
一般鋳鉄と同程度の鋳造性ならびに被削性を同時に満足
した低熱膨張鋳鉄を提供する。 【解決手段】 オーステナイト基地鉄中に黒鉛組織を有
する鋳鉄において、重量%で表示した成分組成として少
なくとも炭素1%以上3.5%以下、ケイ素0.3%未
満、ニッケル29%以上34%以下、コバルト4%以上
6%以下を含み残部鉄から成る低熱膨張鋳鉄により低熱
膨張特性、機械的特性、鋳造性ならびに被削性を同時に
兼ね備えた鋳鉄が得られた。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はオ−ステナイト系の
低熱膨張鋳鉄に係り、特に熱膨張率が低く、かつ鋳造
性、被削性、振動吸収能等の特性を同時に満足する低熱
膨張鋳鉄に関する。
【0002】
【従来の技術】周知のように、鋳鉄は工業の基礎材料と
して広く使用されている。その理由はこの材料の鋳造性
が良く、多種多様な複雑形状でも成形できること、切削
加工が容易であること、材料の加工や溶解に要する費用
が比較的安価で小規模な工場でも容易に製造できること
等の長所を有しているためである。
【0003】ところで、最近では新素材を始めとして、
金属以外の有機、無機の様々な材料が開発され、それぞ
れの特性を活かした機能材料が急速に普及しつつある。
特にエレクトロニクス産業の発達に伴い、それに関連す
る工作機械や精密測定機器、成形用金型、科学機器、そ
の他の製造機械類には、より高精度で機能が優れた材料
が要求されるようになった。
【0004】鋳鉄においても、上記要求に応えるための
従来の材料や特質に加えて、熱膨張係数の低減化、振動
吸収能の増大化、および耐熱性、耐食性を付加されたも
のが開発されてきている。その代表的なものがインバ−
鋳鉄(36.5%Ni−Fe合金)、またはその改良材
のニレジストD5(ASTM A439タイプD−5)
鋳鉄である。これらの鋳鉄の代表例の化学成分を下記の
表1に示す
【0005】
【表1】
【0006】インバ−は鉄中にニッケルを34〜37%
(以下、成分組成割合は全て重量%とする。)含有した
ものであり、常温付近(0〜200℃)における熱膨張
係数が1.5×10-6/℃程度と低い値を有する。この
インバ−合金の低膨張性の機構は、一般に「インバ−効
果」と呼ばれる自発生体積磁歪作用に基づくものであ
る。
【0007】またス−パ−インバ−は鉄ニッケル基質中
に4〜6%のコバルトを合金化して調製されたものであ
り、常温付近における熱膨張係数が0.5×10-6/℃
とインバ−よりさらに低い優れた特性を有している。
【0008】しかしながら、上記のインバ−およびス−
パ−インバ−は、共に鋳造性、被削性や振動吸収能が低
いため、かなり狭い分野に限定して実用化されているに
過ぎない。
【0009】また表1の番号3,4,5欄に示すような
鋳鉄系低膨張材も開発実用化されている。例えばニレジ
ストD5は汎用のダクタイル鋳鉄とほぼ同等の炭素、ケ
イ素、マンガンを含有した鉄中に34〜36%のニッケ
ルを合金化して形成され、黒鉛組織を有する鋳鉄にイン
バ−と同量のニッケルを合金化することによって、鋳鉄
の長所である鋳造性、被削性、防振性を保持しつつ、さ
らに耐熱耐食性を兼ね備え、さらに「インバ−効果」に
よる低膨張性を付与したものである。
【0010】同様な材料として、ノビナイト鋳鉄が特公
昭60−51547号公報に開示されている。この合金
鋳鉄は汎用のダクタイル鋳鉄中に、ス−パ−インバ−と
同量のニッケルおよびコバルトを合金化することによ
り、鋳造性、被削性と低膨張性とを兼ね備えるように構
成したものである。
【0011】しかしながら、上記ニレジストD5および
ノビナイト鋳鉄は、汎用のダクタイル鋳鉄と同程度の炭
素、ケイ素、マンガンを含有しているため、インバ−や
ス−パ−インバ−が有する低膨張性が損なわれている。
すなわち、本願発明者等の実測によると、それぞれの熱
膨張係数は5×10-6/℃、4×10-6/℃と大きな値
となっている。
【0012】しかし上記の鋳鉄合金では、近年の一層の
熱膨張係数の低減に対する要望には十分対応できず、最
近の精密機器や高精度、FRP用金型材等に対しては、
さらに低い熱膨張係数の材料が必要となっている。
【0013】本願発明者等は上記の要請に対応すべく、
熱膨張係数が従来の4×10-6/℃を下廻り、かつ鋳造
性、被削性、振動吸収能を兼ね備えた材料を提供するた
めに、各合金元素の含有量と熱膨張係数、機械的性質と
の関係を、数多くの実験および統計的分析法により明ら
かにし、新規な低熱膨張鋳鉄を発見し、特願昭62−2
68249号として出願した。
【0014】上記低熱膨張鋳鉄は表1の最下欄に示す組
成を有する。すなわちオ−ステナイト基地鉄を有する鋳
鉄において、成分組成として炭素1.0%以上3.5%
以下、ケイ素1.5%以下、ニッケル32%以上39.
5%以下、コバルト1.0%以上4%未満を含み上記ニ
ッケルとコバルトとの合計含有量を41%以下にした鋳
鉄を用いることにより、(1)熱膨張係数が2×10-6
/℃程度と低く、(2)優れた鋳造性、被削性、振動吸
収能および機械的強度を備えた低熱膨張材料を提供でき
ることを初めて見い出した。
【0015】すなわち本願発明者等は、種々実験を繰り
返した結果、炭素1〜3.5%、ニッケル32〜39.
5%を含んだ鋳鉄にコバルトを1〜4%添加すると共
に、ケイ素添加量を1.5%以下、好ましくは1%以下
に低く設定したときに熱膨張係数が非常に小さく、しか
も鋳造性、加工性も良好な鋳鉄が得られることを発見し
た。この低膨張鋳鉄の開発により、より高精度の加工品
を提供することが可能となった。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、機器の
大型化、高精度化がさらに進展し従来の低熱膨張鋳鉄で
も充分対応できない事態も発生しつつある。例えば、近
年の衛生放送等の通信技術の発展に伴い、その送受信設
備に使用するパラボラアンテナ等は非常に大型化し低熱
膨張性はもとより、その加工精度、即ち、鋳造性、被削
性、振動吸収能および機械的強度などに極めて高いもの
が要求されている。例えば、アンテナ反射体としては、
高い剛性と耐食性とを有するカ−ボン繊維強化プラスチ
ック(CFRP)が一般に採用されている。ところが、
このCFRPの熱膨張係数は約1.5×10-6/℃と極
めて小さいため、成形後においても製品の高い寸法精度
を確保するためには、成形用金型を同程度の熱膨張係数
を有する材料で構成する必要がある。したがって熱膨張
係数が従来のものより、さらに小さく、少なくとも1.
5×10-6/℃以下であり、かつ機械的特性も優れた材
料が必須となっている。
【0017】本発明は上記の課題を解決するためになさ
れたものであり、特にCFRP成形用金型材料として更
に一層優れた鋳造性、被削性および振動吸収能を保有
し、かつ熱膨張係数が使用温度0〜200℃の範囲にお
いて4×10-6/℃以下、好ましくは3×10-6/℃以
下であり、特にCFRP成形金型用材料としては熱膨張
係数が1.5×10-6/℃以下となる特性を同時に満足
する低熱膨張鋳鉄の製造方法を提供することを目的とす
る。
【0018】
【課題を解決するための手段】本発明は以上の観点から
鋳造性、被削性を改善するために鋳造仮定において黒鉛
が合金組織内に晶出できる最小限の成分条件を数多くの
実験分析を経て見い出し、同時に低熱膨張性を得るため
の最適成分条件を発見することにより、上記目的を達成
するものである。
【0019】すなわち、本発明に係る低熱膨張鋳鉄は、
オ−ステナイト基地鉄中に黒鉛組織を有し、重量%で表
示した成分組成として少なくとも炭素1%以上3.5%
以下、ケイ素0.3%未満、ニッケル29%以上34%
以下、コバルト4%以上6%以下を含み残部鉄から成る
ことを特徴とする。
【0020】なお好ましくは上記成分組成に加えてマン
ガンを1%以下、好ましくは0.5%以下、マグネシウ
ムを0.1%以下を含有させた低熱膨張鋳鉄である。上
記成分組成範囲は発明者等による各種の実験および分析
によって初めて得られた下記の結果に基づいて設定され
たものである。
【0021】まず第1の結果として、熱膨張係数と各元
素の含有量との関係を求め、下記(1),(2)式の関
係を得た。 熱膨張係数(×10-6/℃) =14.905+0.1[固溶C量](%) +1.49×[Si量](%) −0.32×[Ni量](%) −0.70×[Co量](%) +1.35×[Mn量](%)・・・・・(1) 熱膨張係数(×10-6/℃) =−2.14+1.75[固溶C量](%) +2.11×[Si量](%) +0.14×[Ni量](%) +0.28×[Co量](%) +0.25×[Mn量](%)・・・・・(2) ところで、Fe−Ni系合金の熱膨張係数とNi量との
関係は図1に示すように、Ni含有量が約36%付近で
熱膨張係数が極小となる。したがって(1)式はNi含
有量が熱膨張係数の極小点より低い領域での各合金元素
の熱膨張係数に対する分析の結果として得られた関係式
である。
【0022】一方、(2)式はNi含有量が極小点より
高い領域での各合金元素の熱膨張係数に対する分析によ
り得た関係式である。上記(1)式および(2)式中の
各係数を比較すると、Si量(%)の係数が最も大き
い。つまり、ケイ素含有量が正の相関を持って熱膨張特
性に最も大きな影響を及ぼすことがわかる。
【0023】したがって、ケイ素量を極力低減すること
によって、より低い熱膨張係数が得られることが理解で
きる。またFe−Ni合金における炭素含有量が熱膨張
係数に与える影響については、従来含有炭素全体量が大
きく影響すると考えられていた。しかしながら、本発明
者等の実験により、影響を与えるのは含有炭素量全体で
はなく、固溶している炭素量のみであるという事実が発
見された。
【0024】そして、上記ケイ素量および固溶炭素量を
所定範囲に低減化することにより熱膨張特性をより改善
できることを初めて見い出した。次に、第2の結果とし
て、NiとCoとの合計含有量を変化させた場合におけ
る温度と熱膨張係数との関係は図2に示すように、各N
i+Co量の割合に応じて熱膨張係数の温度依存性が急
に立ち上がる屈曲点Bが現われ、その屈曲点Bに対応す
る温度(以下屈曲点温度という。)が高温側に変化する
という事実である。
【0025】すなわち図2から明らかなように、Ni+
Co量が増加すると屈曲点温度が高温側へ移行し、その
結果、常温から200℃までの実用温度範囲において熱
膨張係数が高くなる。逆に、屈曲点温度が325℃以
下、好ましくは200〜250℃になるように成分組成
を設定すると、実用温度範囲(0〜200℃)におい
て、低い熱膨張係数を得ることができる。
【0026】本発明者等は、この屈曲点温度と各元素量
との関係を実験で求め、下記(3)式を得た。 屈曲点温度(℃) =22.5×[Ni(%)+Co(%)] −22×Mn(%)−600.3・・・・・(3) (3)式からMnを添加することにより屈曲点温度をよ
り低温度領域に移行させることが可能であるという知見
が得られた。
【0027】次に第3の結果として固溶炭素量および炭
化物量を低減することによって、鋳造性、切削加工性が
改善され、さらに振動吸収能を大きくすることが可能と
なることが判明した。
【0028】すなわち、固溶炭素以外の炭素は黒鉛ある
いは炭化物として存在する。そのうち、黒鉛晶出量が大
である程、鋳造時の収縮巣が少なく、切削加工性、つま
り被削性を良好とし、また振動吸収能が大となる。一
方、炭化物が析出した場合は、逆にミクロ巣発生の要因
となり、被削性も悪くなる。したがって、可及的に固溶
C量と炭化物の析出量を低くし、黒鉛晶出量を高くする
ことが重要となる。
【0029】さらに第4の結果として固溶炭素量と機械
的強度との関係式が下記(4)〜(7)式の通りに得ら
れた。 引張強さ(kgf/mm2 ) =19.6+93[固溶C量](%)・・・・・(4) 耐力(kgf/mm2 ) =4.8+135.5[固溶C量](%)・・・・・(5) ヤング率(kgf/mm2 ) =6982.5+19750[固溶C量](%)・・・・・(6) 硬さ(HB) =128.6+133[固溶C量](%) ・・・(7) 前記(1),(2)式より熱膨張係数を低下させるため
には固溶C量を低減することが望ましいが、上記(4)
〜(7)式から明らかなように機械的強度を向上させる
ためには、固溶C量をある程度増加させることが必要で
あるしたがって、低熱膨張特性と良好な機械的特性とを
同時に満足させるための最適な組成範囲が決定される。
【0030】最後に第5の結果として固溶炭素量と含有
炭素全量との関係は、従来は正の相関をもって増減する
ことが考えられていたが、本発明者らの実験結果によれ
ば図3に示すように、固溶炭素量は全炭素量が増加する
に伴って低下することが初めて確認されている。
【0031】これは、全C量が高いと凝固初期に晶出す
る黒鉛量が増し、その近辺の固溶Cが安定な黒鉛になる
サイトを提供する役目を果たすため、凝固終了時の固溶
C量が低減し、同時に炭化物となるCが少なくなるもの
と考えられる。この図3における固溶C量と全C量との
関係式を(8)式に示す。
【0032】 [固溶C量](%) =0.65−0.20[全C量](%)・・・・・(8) この(8)式の関係を(1)〜(7)式に代入すること
によって全炭素量(全C量)と各特性値との関係式が導
出される。
【0033】以上の実験結果から得た知見に基づいて本
願発明に係る低熱膨張鋳鉄の成分組成を決定した。次に
各元素の含有量の範囲およびその限定理由について、よ
り詳細に説明する。
【0034】まず炭素含有量は1〜3.5重量%、好ま
しくは1.2〜3重量%、さらに好ましくは2.2〜
2.3重量%に設定される。鋳鉄中の炭素は黒鉛として
晶出した炭素と、鉄中に固溶した炭素とに分かれる。本
発明の目的である鋳造性、被削性、低熱膨張性を高める
ためには、可及的に黒鉛晶出量を大きくして固溶炭素量
を小さくすることが要点となる。
【0035】鋳鉄中の全炭素量と固溶炭素量との関係
は、図3および(8)式で明らかであり、全炭素量を高
める方が本発明の目的に沿っている。しかしながら、固
溶炭素量と黒鉛晶出量は、鋳鉄材の機械的性質に大きな
影響を及ぼす。すなわち、ヤング率と全炭素量との関係
は(6)式に(8)式を代入して下記(9)式として得
られる。
【0036】 ヤング率(kgf/mm2 ) =19820−3950[全炭素量](%)・・・・・(9) すなわち全炭素量を高めるとヤング率が低下することが
わかる。
【0037】ところで、本発明の製造方法により得られ
た低熱膨張鋳鉄の適用対象製品としてはCFRP用金型
などであるが、このような構造材として使用する場合に
は、ヤング率は最低9000kgf/mm2 定度の値が
必要とされる。
【0038】したがって(9)式から必要とされる全炭
素量は2.8%以下となる。またアルミニウム合金程度
のヤング率でも使用可能な構造部材への適用を考慮する
と、全炭素量は3.5%まで上限値として拡大すること
ができる。
【0039】さらに後述する各実施例の結果からも明ら
かなように全炭素量を1.2〜2.8%の範囲に設定し
たときに、特に引張り強度などの機械的性質を損なうこ
となく、低い熱膨張係数および優れた鋳造性、被削性お
よび振動吸収能を同時に満足する低熱膨張鋳鉄が得られ
る。このときの全炭素量の範囲に対応する固溶炭素量を
第3図に示す関係式のグラフから求めると、0.09%
以上0.43%未満の範囲となり、固溶炭素量の範囲を
0.09%以上0.43%未満の範囲に設定することが
本発明に係る鋳鉄の低熱膨張性、鋳造性、被削性および
振動吸収能等の要求特性を同時に満足させる上で極めて
重要である。
【0040】また熱膨張係数と各合金元素との関係を
(1)式と(8)式から下記(10)式のように導出す
ることができる。 熱膨張係数(×10-6/℃) =14.97−0.02×[全C量](%) +1.49×[Si量](%) −0.32×[Ni量](%) −0.70×[Co量](%) +1.35×[Mn量](%)・・・・・(10) (10)式から明らかなように全炭素量が大きいほど熱
膨張係数が低い材料が得られるため、全炭素量は可及的
に高い値に設定することが望ましい。しかしながら、第
3図に示す結果から明らかなように全炭素量が3.5%
を超えると、固溶炭素が減少し、機械的強度が低下する
とともに鋳造性が低下する。
【0041】一方、全炭素量の下限値について、黒鉛晶
出性や熱膨張係数との関係から決定される。すなわち健
全な黒鉛組成が得られる全炭素量の下限は約1%であ
る。1%未満であると凝固時における黒鉛核の生成が不
十分となり、炭化物を形成し、被削性を大きく損うこと
となる。
【0042】そのため全炭素量は1%以上、3.5%以
下、好ましくは2.0%以上、3.0%以下に設定され
る。また固溶炭素量は0.09%以上、0.43%未満
に設定される。
【0043】次にケイ素含有量は0.3%未満に設定さ
れる。(10)式に示す関係式において、ケイ素量の係
数が最も大きく、ケイ素量が熱膨張係数に及ぼす影響が
大きい。したがってケイ素量が低いほど、低い熱膨張係
数が得られる。また、ケイ素は黒鉛晶出促進のために必
要な元素でもあるが、一般鋳鉄とは異なり本発明に係る
低熱膨張鋳鉄には、0.3%未満の添加で十分であるこ
とが判明した。
【0044】例えば、通常の鋳造現場においては鉄−5
0%ケイ素合金を接種剤として使用しているが、この場
合の添加量は最大0.5%(ケイ素として0.25%)
で十分である。尚、接種剤として黒鉛粒子を使用すれ
ば、ケイ素量は極微量であっても十分な黒鉛組成が得ら
れることも確認された。
【0045】次にマンガンの含有量は1%以下に設定さ
れる。マンガンを添加することにより第2図に示す屈曲
点Bが低温側に移行し、常温から200℃までの実用温
度領域における熱膨張係数を低下させる効果がある。し
かし含有量が1%を超えると熱膨張係数を逆に増大させ
る。
【0046】そのため添加量は1.0%以下、好ましく
は0.5%以下に設定される。次にNi含有量は29〜
34%に設定される。Ni含有量は29%未満または3
4%を超えるといずれも熱膨張係数が増大することにな
るため、上記範囲に設定される。
【0047】またCo含有量は4〜6%の範囲に設定さ
れる。Co含有量が4%未満であると熱膨張係数が高く
なる一方、6%を超えると図2に示す屈曲点が高温側に
移行することになり、常温から200℃までの実用温度
領域における熱膨張係数を増大させることになる。
【0048】ここでNi含有量およびCo含有量の適正
範囲は、前記炭素、ケイ素、マンガンの含有量によって
影響を受ける。熱膨張係数を極小とするNi含有量は、
実験の結果、下記(11)式によって与えられる。
【0049】 極小点のNi含有量(%) =35−0.29×[Co量](%) −6.0[0.65−0.2全C量](%) +0.57[Mn量](%) +0.45[Si量](%)・・・・・(11) ここで前述の理由により、全炭素量を1.5%、ケイ素
量を0%、マンガン量を0%とすると、極小点のNi含
有量(%)は下記(12)式で与えられる。
【0050】 極小点のNi含有量(%) =33−0.29×[Co量](%)・・・・・(12) 一方、NiとCoとの合計含有量は、図2に示す熱膨張
係数曲線における屈曲点Bに対応する温度(屈曲点温度
θ)と、その熱膨張係数値とに影響を及ぼす。屈曲点温
度θ以下の範囲では、熱膨張係数の温度変化は小さい一
方、屈曲点温度θを超える範囲では大きく上昇してしま
う。
【0051】ここで屈曲点温度θと、NiおよびCoの
合計含有量との関係を実験により明らかにした結果、下
記(13)式を得た。 屈曲点温度θ(℃) =22.5×[Ni量(%)+Co量(%)] −600.7 ・・・・・(13) ここで常温から約200℃までの実用温度領域において
使用するCFRP用金型を適用対象にすると仮定し、屈
曲点温度θを200〜250℃に設定すると、NiとC
oとの合計含有量の適正範囲は下記(14)式によって
与えられる。
【0052】 Ni量(%)+Co量(%) =36〜38(%)・・・・・(14) そして上記(14)式および(12)式との関係から、
最適Ni量は29〜33%、最適Co量は4〜6と算出
され、この範囲に成分組成が設定される。
【0053】またマグネシウムは、黒鉛を球状化して晶
出させるために必要な元素であり、その含有量は0.1
重量%以下に設定される。含有量は0.1%をこえる
と、炭化物を形成するため好ましくない。したがってマ
グネシウム含有量は0.04〜0.1%の範囲が好まし
い。
【0054】
【発明の実施の形態】次に本発明の実施例について図表
を参照して説明する。 (実施例1)図4,図5に示すようなCFRP用成型用
金型を鋳造した。この金型は縦70cm、横65cm、
厚さ6cm、重量130kgである。溶解は300kg
容量の高周波電気炉を用い、下記の表2に示す材料を溶
解した。
【0055】
【表2】
【0056】成分組成は下記の表3に示すように、炭素
2.0%、ケイ素0.15%、マンガン0.03%、ニ
ッケル30%、コバルト6%、マグネシウム0.05
%、残部が不純物を含むオ−ステナイト系鋳鉄である。
【0057】また、1インチのキ−ルブロック用砂鋳型
にて試験片を採取し、各特性値を測定した結果を表4に
示す。表4において熱膨張係数は1.5×10-6/℃、
引張強さ40kgf/mm2 、伸び22%、ヤング率1
2000kgf/mm2が得られた。
【0058】この得られた金型はCFRPの予備成形体
を200℃で加熱しながらプレス成形する工程に使用さ
れる。CFRPの熱膨張係数は1.0〜1.5×10-6
/℃であるため、この係数値に近い本実施例の金型を使
用することによりCFRP製品の寸法精度を大幅に向上
することができた。
【0059】以上のように、本実施例の成分組成による
鋳鉄によれば、ほぼ一般鋳鉄と同程度の鋳造性、被削
性、機械的性質を同時に満足し、かつインバ−合金に近
い低膨張係数を得ることができる。なお、図3に示され
る全炭素量の範囲に対応する固溶炭素量の関係式のグラ
フは、Si量が0.15%の本実施例から導き出された
ものである。
【0060】(実施例2)表3に示すように、全C量を
1.2%、Si量を0.05%とした。この組成の鋳鉄
は特に低熱膨張特性を追及した場合のものである。すな
わちSi量を0.05%とすることにより、さらに低い
熱膨張係数が得られた。またマトリックス中に固溶する
C量が高くなるため、引張り強さ、耐力および硬さも優
れていた。尚、黒鉛の晶出量が比較的少ないので、鋳造
性、被削性および振動吸収能がやや劣るが許容範囲内で
ある。
【0061】(実施例3)表3に示すように、全C量を
1.0%、Si量を0.10%とした。Mn量が0.6
%と比較的高いため、熱膨張係数がやや高くなるが許容
範囲内であった。他の特性については実施例2と同様の
挙動を示した。
【0062】(実施例4)表3に示すように、全C量を
3.0%、Si量を0.20%と設定した。全C量を
3.0%と高く設定した為、黒鉛の晶出量が多く、被削
性および振動吸収能に特に優れた特性を示した。また、
Ni量とCo量の合計が38%であり、(13)式から
計算できるように熱膨張係数曲線の屈折点温度はおよそ
250℃付近であるため、室温から200℃の温度範囲
では優れた低膨張特性を示した。
【0063】(実施例5)表3に示すように、全C量を
1.5%、Si量を0.28%と設定した。この場合、
表4に示すように熱膨張係数がやや高くなるが許容範囲
であった。
【0064】(比較例1)表3に示すように、炭素含有
量を0.71%と極めて低く設定した。他の成分は上記
実施例と近似させた。この場合には、表4に示すよう
に、加工性、鋳造性および振動吸収能が悪い。
【0065】(比較例2)表3に示すように、炭素含有
量を3.6%と高く設定した。他の成分は上記実施例と
近似させた。この場合には表4に示すように、伸び、強
度が低下し、また鋳造欠陥が多い。
【0066】(比較例3)表3に示すように、シリコン
含有量を1.2%と高く設定した。他の成分は上記実施
例と近似させた。この場合には表4に示すように、熱膨
張係数が高過ぎる。
【0067】(比較例4)表3に示すように、ニッケル
含有量を28.0%と低く設定した。他の成分は上記実
施例と近似させた。この場合には表4に示すように、熱
膨張係数が高くなる。
【0068】(比較例5)表3に示すように、ニッケル
の含有量を37.0%と高くした。他の成分は上記実施
例と近似させた。この場合には表4に示すように、熱膨
張係数が高くなる。
【0069】(比較例6)表3に示すように、コバルト
の含有量を3.5%と低くした。他の含有量は上記実施
例と近似させた。この場合は表4に示すように、熱膨張
係数が高くなる。
【0070】(比較例7)表3に示すように、コバルト
含有量を8.2%と高くした。他の成分は上記実施例と
近似させた。この場合は表4に示すように、熱膨張係数
が高くなる。
【0071】(比較例8)表3に示すように、ニッケル
とコバルトとの合計含有量を42.5%と高くした。他
の成分は上記実施例と近似させた。この場合は表4に示
すように、熱膨張係数が高くなる。
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
【発明の効果】以上のように、本発明に係る組成成分の
鋳鉄よれば、機械的強度を損なうことなく低熱膨張特
性,一般鋳鉄と同程度の鋳造性ならびに被削性を同時に
満足することができ極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】Ni含有量と熱膨張係数との関係を示す図であ
る。
【図2】Ni鋳鉄におけるNiとCoとの合計量をパラ
メ−タとし、温度と熱膨張係数との関係を示す図であ
る。
【図3】全炭素量と固溶炭素量との関係を示す図であ
る。
【図4】実施例1で鋳造したCFRP成形用金型の形状
を示す図である。
【図5】図4におけるIVb−IVb矢視断面図であ
る。

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 オ−ステナイト基地鉄中に黒鉛組織を有
    する鋳鉄において、重量%で表示した成分組成として少
    なくとも炭素1%以上3.5%以下、ケイ素0.3%未
    満、ニッケル29%以上34%以下、コバルト4%以上
    6%以下を含み残部鉄から成ることを特徴とする低熱膨
    張鋳鉄。
  2. 【請求項2】 成分組成としてマンガン1%以下、マグ
    ネシウム0.1%以下を含む請求項1記載の低熱膨張鋳
    鉄。
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