JPH08112638A - カップ形状品の鍛造成形方法 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】回転鍛造プレスの上型傾角を大きくすることな
く、成形荷重の低減とプレスに作用する横方向荷重の低
減を同時に可能とし、設備の小型化および加工の高速
化、ならびに側壁肉厚の寸法精度の向上が図れるカップ
形状品の鍛造成形方法の提供。 【構成】上型回転軸と下型中心軸との位置関係を示す上
型回転軸偏心比δ／ｄの値が 0.01 〜0.2 となるように
成形型をセッティングし成形することを特徴とするカッ
プ形状品の回転鍛造成形方法。但し、δ：材料上面と上
型回転軸との交点の、下型中心軸からの「上型圧下面方
向」へのずれ量、ｄ：カップ形状品の内径である。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、カップ形状品、例えば
アルミホイール用素材などの回転鍛造成形方法に関す
る。

【０００２】

【従来の技術】近年、加工力が小さく機械や型構造の小
型化が図れ、振動や騒音が少なく、更に型面摩擦が小さ
くて加工限界が向上するなどの長所により、ディスク形
状品の生産に対して回転鍛造法が用いられる例が増えて
きた。この回転鍛造法には上型の転動形式から図１に示
すような揺動ダイ形式（図１（ａ））と下型回転形式
（図１（ｂ））の２通りの方式が用いられており、上型
４と下型３の位置関係については、揺動ダイ形式の回転
鍛造プレスでは上型回転軸２と上型の公転軸１（これは
下型中心軸に一致する）が被成形材料（以下、単に材料
という）５の上面で交わるようにセッティングされ、ま
た下型回転形式の回転鍛造プレスでは、上型回転軸２と
下型中心軸１（これが下型回転軸となる）が材料５の上
面で交わるようにセッティングされる。

【０００３】上型４の転動形式こそ異なるが、いずれの
形式の回転鍛造プレスにおいても材料５と上型４および
下型３の相対運動は同じであり、上記のようにセッティ
ングする目的は上型４と材料５のすべりを最小にするこ
とにある。

【０００４】ところで、最近、ディスク形状品の成形に
用いられていた回転鍛造法をカップ形状品の成形に用い
る試みがなされているが、カップ形状品を回転鍛造成形
する場合の上型と下型の位置関係についても、図２に示
すように前記のディスク形状品を回転鍛造成形する場合
と同様であるため、種々の問題が生じていた。

【０００５】すなわち、カップ形状品の成形はディス
ク形状品成形の場合と異なり後方押出し成形であるため
成形荷重が大きくなり、そのためディスク形状品成形の
場合より容量の大きな回転鍛造プレスが必要となるこ
と。この場合プレスの容量を増さなければ、成形荷重低
減のために加工速度を小さくしなければならないので、
カップ成形に要する時間が長くなる。回転鍛造法は部
分的成形法であり、上型の側面は片側しか材料と接触せ
ず横方向の荷重がプレスに作用するので、回転鍛造プレ
スの横剛性を増す必要があること。この場合、プレスの
横方向剛性を高めなければ、カップ側壁肉厚の寸法精度
が悪化してしまう。一方、荷重低減のためには上型傾
角を大きくする方法があるが、この方法にも（ａ）上型
を傾けるための機構が複雑になること、（ｂ）上型回転
軸の径方向の負荷が増大し、これに対処するための設備
構造が複雑になること、（ｃ）鍛造初期に材料が下型か
ら浮き上がり、疵の発生やカップ高さのバラツキを招く
こと、というような問題があった。

【０００６】

【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、上型
傾角を大きくすることなく成形荷重を低減させて設備の
小型化および加工の高速化を図るとともに、プレスに作
用する横方向荷重を低減してプレスの横剛性を高めるこ
となくカップ側壁肉厚の寸法精度を向上させる、カップ
形状品の回転鍛造成形法を提供することにある。

【０００７】

【課題を解決するための手段】本発明者は、上記の課題
を解決するため鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得
た。なお回転鍛造プレスには揺動ダイ形式のものと下型
回転形式のものがあるが、既に記したようにいずれの形
式の回転鍛造プレスでも材料と下型および上型の相対運
動は同じであるので、以下の説明は下型回転形式で代表
させて行うこととする。

【０００８】カップ形状品を回転鍛造法で成形する場
合、従来法では、既に図２で示したように上型回転軸２
は上型４と材料５とのすべりが最も小さくなる位置に、
すなわち上型回転軸２と下型中心軸１が材料５の上面で
交わるようにセッティングされる。この場合の材料５の
接線方向速度と上型４の接線方向速度を比較して図３に
示すが、圧下による材料の伸びを無視すると、上型と材
料の相対速度はほとんどない。従って、材料には外向き
の力がほとんど作用することはない。

【０００９】これに対し、上型回転軸と材料上面の交点
を後で詳しく説明する下型中心軸から「上型圧下面方
向」へずらすことにより、下記〜の知見を得たので
ある。

【００１０】材料には外向きの力が作用して外向きの
メタルフローが促進されるため、後方押出し成形性が改
善されて成形荷重が低減する。なおこの効果は既に周知
である上型傾角を増加させる方法では得ることはできな
い。

【００１１】上型の径が減少し、これにより上型側面
とカップ側壁内面との接触面積が減少するため横方向荷
重が低減し、更に、上型側面と材料内面の摩擦力が低減
するため成形荷重も低減する。

【００１２】前記のとの相乗効果でカップの成形
性が極めて良好となるばかりか、設備の小型化と加工の
高速化およびカップ側壁肉厚の寸法精度が向上する。

【００１３】上記知見に基づく本発明は下記に示すカッ
プ形状品の鍛造成形方法を要旨とする。

【００１４】上型回転軸と下型中心軸との位置関係を示
す上型回転軸偏心比δ／ｄの値が、0.01 〜0.2 となる
ように成形型をセッティングし成形することを特徴とす
るカップ形状品の回転鍛造成形方法。

【００１５】但し、δ：材料上面と上型回転軸との交点
の、下型中心軸からの「上型圧下面方向」へのずれ量(m
m) ｄ：カップ形状品の内径(mm)

【００１６】

【作用】以下、本発明について、下型回転形式で代表さ
せて、その作用効果とともに詳細に説明する。

【００１７】先ず、図４に示すように（上型は図示せ
ず）、『上型回転軸２と材料上面Ｐ２との交点Ｂを下型
中心軸１から「上型圧下面方向」へずらす』と言うこと
を、『交点Ｂを下型中心軸１と上型回転軸２を含む平面
である面Ｐ１上を下型中心軸１に直角で、かつ下型中心
軸１に対して上型回転軸２が傾いている方向であるＤ１
の方向へずらす』ということと定義する。

【００１８】上記の定義に従って上型回転軸と材料上面
との交点を下型中心軸から「上型圧下面方向」に移動さ
せると、図５に示すように材料の接線方向速度と上型の
接線方向速度に差があるため相対的な速度が生じ、この
ため材料に外向きの力が作用する。

【００１９】このため材料の外向きのメタルフローが促
進されるので、後方押出し成形性が向上して成形荷重が
低減することとなる。

【００２０】更に、上記の上型回転軸と材料上面との交
点の下型中心軸から「上型圧下面方向」への移動によっ
て、上型の径を小さくすることができるので、上型側面
とカップ側壁内面との接触面積が減少することとなり、
これによって横方向荷重が低減するし、更には上型側面
と材料内面の摩擦力が低減して成形荷重も低減すること
となる。

【００２１】斯くして上型回転軸と材料上面との交点を
下型中心軸から「上型圧下面方向」に移動させること
で、上型傾角を増加させることなく、成形荷重の低減と
横方向荷重の低減を同時に達成することが可能となり、
成形荷重の低減によって設備の小型化と加工の高速化
が図れ、更に、プレスに作用する横方向荷重の低減に
よってプレスの横剛性を高めることが必要でなくなるの
で、横剛性を高めることなくカップ側壁肉厚の寸法精度
を向上させることができるのである。

【００２２】但し、上型回転軸と下型中心軸との位置関
係を示す上型回転軸偏心比δ／ｄ（ここで、δ：材料上
面と上型回転軸との交点の、下型中心軸からの「上型圧
下面方向」へのずれ量(mm)、ｄ：カップ形状品の内径(m
m)）の値が0.01を下回る場合には、上型の回転中心を移
動した効果はほとんど生じず、また 0.2より大きい場合
には材料が圧下初期に下型から移動して離れてしまい正
常な加工が不可能となる。従って、上型回転軸偏心比δ
／ｄの値は、0.01〜0.2 の範囲に制限した。

【００２３】

【実施例】Ｓ４５Ｃ鋼（JIS G 4051 (1979) ）の外径が
φ２００ｍｍの鋼片を１２５０℃に加熱後スケール除去
し、その後種々の条件で、外径がφ３００ｍｍ、肉厚ｔ
が１０ｍｍ（内径ｄがφ２８０ｍｍ）の鋼製カップ形状
品を回転鍛造成形し、成形の状況を調査した。回転鍛造
法の試験条件を表１および図６に、また試験結果を表１
に示す。

【００２４】上型回転軸偏心比δ／ｄが本発明の範囲内
であれば、成形荷重が低減し、また上型側面と材料の接
触角ψ（図６参照）が小さくなるため上型側面と材料の
接触面積が減少するので、プレスに作用する横方向荷重
が低減し、このため、肉厚のバラツキΔｔが改善されて
いることが明らかである。また回転鍛造成形時の圧下速
度を２倍としても、従来の偏心無しの場合より荷重が低
く、更に、この場合でも肉厚のバラツキΔｔは改善され
ており、本発明法の効果の大きいことが明らかである。

【００２５】上型回転軸偏心比δ／ｄが本発明の範囲を
下回る場合には、荷重低減効果がほとんど無く（試験番
号２）、また上型回転軸偏心比δ／ｄが本発明の範囲を
上回る場合には、回転鍛造の初期に材料が型の上で大き
く動き、疵の発生とカップ高さの不均一を生じた（試験
番号６）。

【００２６】また、上型傾角αを５度から１０度に増加
させた場合、成形荷重は従来法に比べて低減したが、鍛
造初期に材料が下型から浮き上がり、カップ高さが不均
一となった。

【００２７】

【表１】

【００２８】

【発明の効果】本発明方法によれば、回転鍛造プレスの
上型傾角を大きくすることなく、成形荷重の低減とプレ
スに作用する横方向荷重の低減を同時に達成することが
可能であるため、設備の小型化および加工の高速化、な
らびにプレスの横剛性を高めることなくカップ側壁肉厚
の寸法精度を向上させることができ、カップ形状品成形
法として産業上の効果は極めて大である。

【図面の簡単な説明】

【図１】回転鍛造法における上型と下型の位置関係を示
す図である。上型の転動形式が、（ａ）は揺動ダイ形
式、（ｂ）は下型回転形式の場合である。

【図２】カップ形状品の回転鍛造法における上型と下型
の位置関係を示す図である。

【図３】上型回転軸と下型中心軸が材料上面で交わるよ
うにセッティングした場合の、材料の接線方向速度と上
型の接線方向速度を比較して示す図である。

【図４】上型回転軸と材料上面との交点を下型中心軸か
ら「上型圧下面方向」へずらすことの説明図である。

【図５】上型回転軸と材料上面との交点を下型回転軸か
ら「上型圧下面方向」へずらしてセッティングした場合
の、材料の接線方向速度と上型の接線方向速度を比較し
て示す図である。

【図６】実施例における回転鍛造法の試験条件を示す図
である。

【符号の説明】

１：下型中心軸（これは上型公転軸、下型回転軸に一
致）、２：上型回転軸、３：下型、４：上型、５：材
料、Ｂ：上型回転軸と材料上面との交点 Ｐ１：下型中心軸および上型回転軸を含む平面、Ｐ２：
材料上面、Ｐ３：上型の材料圧下面、Ｄ１：上型回転軸
と材料上面との交点を下型中心軸からずらす方向、δ：
材料上面と上型回転軸との交点の、下型中心軸からのず
れ量、ｄ：カップ形状品の内径、ｔ：カップ形状品の肉
厚、ψ：上型側面と材料の接触角、α：上型傾角、

Claims (1)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】上型回転軸と下型中心軸との位置関係を示
   す上型回転軸偏心比δ／ｄの値が、０．０１〜０．２と
   なるように成形型をセッティングし成形することを特徴
   とするカップ形状品の回転鍛造成形方法。 但し、δ：材料上面と上型回転軸との交点の、下型中心
   軸からの「上型圧下面方向」へのずれ量(mm) ｄ：カップ形状品の内径(mm)