JPH07229975A - 時計用摺動部品およびその製造方法、および時計 - Google Patents

時計用摺動部品およびその製造方法、および時計

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JPH07229975A
JPH07229975A JP27750294A JP27750294A JPH07229975A JP H07229975 A JPH07229975 A JP H07229975A JP 27750294 A JP27750294 A JP 27750294A JP 27750294 A JP27750294 A JP 27750294A JP H07229975 A JPH07229975 A JP H07229975A
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 優れた潤滑性能を有すると共に、その潤滑性
能を長期にわたって保持することができる時計用摺動部
品を比較的簡単にしかも低コストで得ること。 【構成】 電子腕時計の摺動部品である、モータ1のロ
ータ4とこのロータ4を支持する軸受体(地板5、輪列
受6)に対して、4フッ化エチレン樹脂固体潤滑粉を付
着させるコーティング処理を施した。処理方法は、粒径
3μm以下の4フッ化エチレン樹脂固体潤滑粉を溶媒に
分散させ、さらにバインダーを適量添加した分散液にこ
れらの摺動部品を浸漬させて行う。 【効果】 微小潤滑粉粒子がバインダーにより部品表面
に付着し、腕時計の回転または摺動により粒子がつぶさ
れ、部品表面に潤滑性皮膜が形成される。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は摺動部品とその製造方
法、中でも時計に用いられる精密な小型摺動部品の製造
方法に係わる。特に油に替わる潤滑として4フッ化エチ
レン系樹脂固体潤滑粉を部品表面にコーティングした時
計用の摺動部品の製造方法およびこの摺動部品を用いた
時計に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より時計においては、長期に渡る信
頼性が要求されている。例えば、アナログ式電子腕時計
においては、ステップモータに使用されているロータや
歯車とこれらを保持する上下の軸受体の摺動部、突っ張
りの発生する恐れのある歯車の噛み合い部、またはリュ
ーズ切換えにより摺動するおしどりとかんぬきの摺動面
等の金属製の摺動部には、注油を行い摩擦力の低減や摩
耗防止を図ってきた。
【0003】注油のできない一部の金属製摺動部品に
は、フッ化カーボンを共析させた無電界メッキを表面に
被覆または4フッ化エチレン樹脂を蒸着し、固体潤滑剤
として用いてきた。また、実開昭63−113985の
ように、時計の特殊な2番車のすべり構造に4フッ化エ
チレン系樹脂を分散溶媒に混合した混合液を用いて、コ
ーティングを行っていた例もある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の
注油方式では、低温下での油の粘度上昇によるモータの
動作不良、高温下での油の粘度低下による油の拡散流
失、長期使用による油の変質劣化、ゴミケバが付着し易
い等の課題があり、品質を維持するために定期的な洗浄
と注油が必要とされる。
【0005】注油のいらない固体潤滑方式では、フッ化
カーボンを共析させたニッケルメッキや4フッ化エチレ
ン樹脂を共析させた無電界メッキは、金属部品へは使用
可能だが、近年主流となりつつあるプラスチック部品は
メッキの付着性が悪く使用不可能である。しかも金属製
部品に対しても4フッ化エチレン樹脂の共析メッキは、
コストが浸漬処理の約10倍と非常に高価である。
【0006】また、4フッ化エチレン樹脂の蒸着による
潤滑膜は、凹凸のはげしい形状が複雑な箇所への付着が
難しく、油との併用が必要である。また、実開昭63−
113985で示す腕時計の特殊な構造の2番車への処
理に用いた4フッ化エチレン樹脂を溶媒に混合した混合
液ではバインダーが使われておらず、4フッ化エチレン
系樹脂が部品へ付着しにくく、十分な性能が得られない
といった多くの課題がある。
【0007】本発明はこのような課題を解決するもので
あって、その目的とするところは、優れた潤滑性能(低
摩擦力・均一性・安定性)を有するのはもちろんのこ
と、その潤滑性能を長期にわたって保持することができ
る時計用摺動部品を比較的簡単にしかも低コストで得る
ことである。
【0008】また、このような摺動部品を用いることに
より、摺動部の摩擦力の低減を図り、低消費電力で、低
温特性に優れ、長期にわたって信頼性品質を飛躍的に高
めた時計を実現することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の時計用摺動部品
の製造方法は、粒子径が 3μm以下の4フッ化エチレン
系樹脂固体潤滑粉を溶媒に分散し、さらにバインダーを
添加した分散液中に、対象となる摺動部品を浸漬してコ
ーティング処理することにより、4フッ化エチレン系樹
脂固体潤滑粉を摺動部品表面に付着させることを特徴と
する。
【0010】そして、溶媒としてはフッ素系溶媒を用
い、バインダーとしては高分子のフッ素化アクリルポリ
マーを 0.2wt%以下の濃度で添加した分散液を用いるこ
とが望ましい。
【0011】さらに、摺動部品の浸漬コーティング処理
にあたっては、この摺動部品を回転移動させながら行う
ことが望ましい。
【0012】また、本発明の時計用摺動部品は、上述し
たこれらの製造方法を用いて製造することを特徴とす
る。中でも、この時計用摺動部品としては、時計用ステ
ップモータのロータとこのロータを保持する軸受体であ
ることが特に有用である。
【0013】そして、本発明の時計はこれらの時計用摺
動部品を用いることを特徴としている。
【0014】
【作用】4フッ化エチレン系樹脂固体潤滑粉は、それ自
体の潤滑性により、摺動(または摺動回転)する部品表
面の摩擦係数を低下させるものである。
【0015】請求項1記載の発明においては、4フッ化
エチレン系樹脂固体潤滑粉は、粒径が 3μm以下の微粒
子で、この微粒子をバインダーと共に部品表面にコーテ
ィングする。このコーティング処理に際しては、4フッ
化エチレン系樹脂固体潤滑粉を分散した分散液にバイン
ダーを添加することが重要である。
【0016】本発明者らの実験によれば、バインダーを
添加しなくても、4フッ化エチレン系樹脂固体潤滑粉は
対象となる摺動部品の表面にはある程度付着するのでは
あるが、この場合摺動部品の潤滑性能の試験を行っても
比較的短時間のうちに性能が劣化してしまうことが判明
した。これは、4フッ化エチレン系樹脂固体潤滑粉が摺
動部品の表面との分子間力によって結びついているため
であると推察される。このため、4フッ化エチレン系樹
脂固体潤滑粉の付着力が弱く、摺動部品同士が摺動する
うちに4フッ化エチレン系樹脂固体潤滑粉が摺動部品表
面から離脱してしまうものと考えられる。
【0017】本発明者らは、4フッ化エチレン系樹脂固
体潤滑粉の摺動部品の表面への付着力を高める方法につ
いて鋭意研究を重ねた結果、浸漬処理を行うための分散
液にバインダーを添加することで付着力が著しく高まる
ことを見い出し本発明に至ったものである。そして、付
着力が高まったことにより、摺動部品同士の摺擦を受け
ても4フッ化エチレン系樹脂固体潤滑粉が離脱せず、長
期にわたって安定した潤滑性能を保持することが可能と
なった。
【0018】ここで、上述した分散液に分散させる4フ
ッ化エチレン系樹脂固体潤滑粉の粒子径を 3μm以下と
する理由について述べる。腕時計などの小型の時計に用
いられるステップモータを構成するロータや歯車、ある
いはこの回転力を伝達する歯車機構や脱進機構などは摺
動部の軸径が 0.2mmと極めて細い。そして、ロータや歯
車の軸、歯車機構、脱進機構とそれらを保持する上下の
軸受体とのクリアランスが 0.01mm(=10μm)程度しか
ない。この部分に、十分な潤滑性能を持たせるために
は、実際の浸漬処理に於て4フッ化エチレン系樹脂固体
潤滑粉を3層程度付着させるのが望ましく、4フッ化エ
チレン系樹脂の粒径が 3μm以上ではクリアランスが無
くなってしまうためである。
【0019】また、請求項2記載の発明においては、溶
媒としてはフッ素系溶媒を用い、高分子のフッ素化アク
リルポリマーを 0.2wt%以下の濃度でバインダーとして
添加した分散液を用いることが望ましい。ここで、溶媒
にフッ素系溶媒を用いたのは、完全な不活性溶媒のため
プラスチック部品、金属部品のいずれも侵さず、4フッ
化エチレン系樹脂と比重が近いため分散し易く、4フッ
化エチレン系樹脂を固定するフッ素化アクリルポリマー
系バインダーとの混合性が最も良いためである。
【0020】さらに、バインダーとして添加するフッ素
化アクリルポリマーは4フッ化エチレン系樹脂固体潤滑
粉より摩擦係数が高い。このため、あまり多くの量を添
加するとバインダーによって潤滑効果が損なわれる恐れ
がある。そして、ロータや歯車等の微小な摩擦力の影響
を受け易い部品では、0.2wt%を越えるバインダー添加
でモータ特性が劣化する可能性がある。従って、必要最
小限の 0.2wt%以下という添加量を規定することが望ま
しい。
【0021】また、請求項3記載の発明においては、分
散液中に対象となる摺動部品を回転移動させながら浸漬
させることにより、摺動部品表面に付着した気泡を取り
除き、均一な4フッ化エチレン系樹脂固体潤滑粉および
バインダーの付着を行わせるものである。ここで、摺動
部品を回転移動させることは別の作用をも有している。
すなわち、4フッ化エチレン系樹脂固体潤滑粉は凝集し
易く、放置しておくとこれを分散させた分散液の底に溜
まってしまう。この凝集作用を防止するために分散液を
攪拌する必要があるが、摺動部品を回転させることによ
り、この攪拌をも行うことが可能となる。
【0022】その後、遠心分離法により余分な処理液
(分散液)の振り切りを行ない、液の凝集による4フッ
化エチレン系樹脂固体潤滑粉の部品への偏析を防ぎ、均
一な4フッ化エチレン系樹脂固体潤滑粉の部品への付着
を可能とする。この微粒子は、バインダーにより精密部
品表面に付着し、時計機械体の回転または摺動により4
フッ化エチレン系樹脂固体潤滑微粒子が押しつぶされ、
潤滑性に富んだ4フッ化エチレン系樹脂被膜を形成す
る。
【0023】
【実施例】以下に、本発明の時計用摺動部品およびその
製造方法、および時計について実施例に基づいて説明す
る。
【0024】図1は指針式電子腕時計のステップモータ
1及び輪列機構2の組立断面図を示す。この電子腕時計
(水晶発振式腕時計)は、特に図示はしないが 32768Hz
という水晶の信号をICで 1Hzの信号に分周しステップ
モータ1の駆動源としている。ステップモータ1はステ
ータ3、ロータ4および図示していないコイルで構成さ
れており、コイルに1秒毎の反転パルス信号が流れると
ステータ3が電磁石となり、2極ロータ4が1パルスあ
たり180゜回転し、電気信号が機械的信号に変換され、輪
列機構2に伝達される。ロータ4は図2に示すように、
ロータ軸17、ロータカナ18、ロータ磁石19等から
成り、ロータ磁石19を覆う形でポリアセタール樹脂で
ロータ軸17およびロータカナ18を一体成形したもの
である。ロータ4の上下の軸は地板5と輪列受6により
保持され、その軸径は直径 0.2mmと極めて細く、地板5
または輪列受6とのクリアランスも 0.01mm程度と極め
て少ない。
【0025】ロータ4の回転運動は輪列機構2におい
て、5番車7から秒針14を運針させる4番車8、さら
に3番車9から分針15を運針させる2番車10、次に
図示していない日ノ裏車、そして時針16を運針させる
筒車11へと伝達される。
【0026】本発明の4フッ化エチレン系樹脂固体潤滑
粉の浸漬処理はロータ4と地板5およびロータ4と輪列
受6の摺動部の潤滑に応用した。
【0027】従来は油による潤滑方式を採っていたが、
ロータの軸受部は油の特性を非常に受け易い部分であ
り、低温下では油の粘度上昇によりロータの回転が悪く
なりステップモータの性能が著しく低下する。また高温
下では、油の粘度低下による油の拡散流失が起こり、油
切れによる耐久品質の問題となる。その他にも長期使用
による油の性能劣化やゴミケバ付着による時計の止ま
り、遅れ等の数多くの問題があり、固体潤滑化が切望さ
れている部分である。
【0028】さて次に、上述した時計用摺動部品の製造
方法について説明する。本発明の効果を確かめるため
に、使用した4フッ化エチレン系樹脂固体潤滑粉の最大
粒径とバインダーの濃度の条件をいくつか変えて実験を
行った。実施手順としては、まず4フッ化エチレン系樹
脂固体潤滑粉をフッ素系溶媒中に 1.0wt%の濃度で超音
波攪絆機を用いて分散させ、それにバインダーとしてフ
ッ素化アクリルポリマーを添加した分散液を作成した。
ここで、4フッ化エチレン系樹脂固体潤滑粉は、最大粒
径が 1〜5μmまで 1μm刻みの5水準とし、バインダー
の濃度は 0〜0.5wt%まで 0.1wt%刻みの6水準とし
た。
【0029】次に、コーティングとして被コーティング
部品であるロータ4および地板5、輪列受6を浸漬処理
装置の網籠に入れ装置にセットする。この部品の入った
網籠を分散液中で回転移動させながら浸漬コーティング
処理を行う。網籠を回転させながら浸漬コーティングす
るのは、部品表面に付着した気泡を取り除き均一な4フ
ッ化エチレン系樹脂固体潤滑粉の部品への付着を行うた
めであり、気泡が付いた状態ではその部分への4フッ化
エチレン樹脂の付着が得られない。その後、遠心分離方
式で液の振り切りを行うことにより、余分なコーティン
グ液を取り除き、液の凝集による4フッ化エチレン系樹
脂固体潤滑粉の偏析が起きないようにした。そして、こ
の操作を3回繰り返し十分な付着が行われるようにし
た。
【0030】回転浸漬コーティングと遠心分離法による
振り切りという方式で処理を施したロータ4および地板
5、輪列受6を用いて組み立てた腕時計の初期的な特性
について測定した結果、図3、図4に示すような特性が
得られた。
【0031】図3に示すように、最大粒径 4μm以上の
ものでは、ロータとロータを保持する上下の軸受体と
の、クリアランス(=10μm)以上の厚さで4フッ化エ
チレン系樹脂固体潤滑粉が被コーティング部品表面に付
着することがわかった。このため、組み込み時にロータ
4の上下の軸と地板5、輪列受6の軸穴とのクリアラン
スが無くなってしまい、無理に組み込んでもロータ4は
正常に回転しなかった。従って、最大粒径 3μm以下の
粒子を用いなくてはならない。なお、最大粒径 3μm以
下の粒子を用いた場合は、初期的にはバインダーの添加
量に関わらずロータ4は安定して回転し十分な潤滑性能
を発揮することができた。
【0032】また、図4に示すように添加するバインダ
ー濃度に比例して摩擦係数が上昇することがわかった。
なお、この場合の摩擦係数はロータ4が回転していると
きの軸受体との間の動摩擦係数である。
【0033】そこで、この組立体を輪列耐久試験に投入
しモータ性能の経時変化および摺動部の摩耗状態を調査
した。バインダーを添加しなかった場合は、4フッ化エ
チレン系樹脂固体潤滑粉が十分に付着せず、ある程度付
着したものも耐久試験を実施すると比較的短時間で容易
に脱落してしまう(このため摺動部品の摩耗が進み、安
定した回転動作ができなくなってしまった)。しかし、
バインダーを添加したものは4フッ化エチレン系樹脂固
体潤滑粉の付着力が高まり、耐久試験後も脱落するもの
は少なかった(このため摺動部品はそれほど摩耗してい
なかった)。なお、バインダー添加量 0.1〜0.5wt%と
した場合のいずれであっても摺動部品の摩耗の度合いに
大きな違いはなかった。
【0034】さて次に、モータ性能についてであるが、
これはバインダーの添加量によってその径時変化に差が
生じた。図5は耐久試験後のモータの起動電圧を測定し
たものである。図からわかるように、バインダーの添加
量とモータの起動電圧は比例する関係にあり、バインダ
ーの添加量が 0.3wt%以上になると急激に起動電圧が上
昇する傾向がある。モータの起動電圧の上昇はモータ性
能の劣化を示すものであって、特に腕時計のような電池
で駆動される時計においては駆動するための電源にあま
り余裕がないので、できるだけ低電圧でモータを駆動で
きることが望ましい。そのため、モータ起動電圧は腕時
計などにとっては重要な品質ファクターである。従っ
て、この図5からバインダーの添加量は 0.2wt%以下で
あることがより望ましいことがわかる。
【0035】バインダーの添加量とモータ起動電圧との
関係(図5に示す関係)については以下のように説明す
ることができる。
【0036】バインダーの添加量が増加すると、摺動部
品の表面における4フッ化エチレン系樹脂固体潤滑粉に
対するバインダーの割合が高まる。バインダーの摩擦係
数はこの潤滑粉より高いので、このバインダーが4フッ
化エチレン系樹脂固体潤滑粉の潤滑効果を損なうことに
なる。その結果が図4に示す摩擦係数の上昇となって現
れる。摩擦係数の上昇は摺動部品の回転の妨げとなる
が、ロータの場合はその影響が特に顕著に現れる。すな
わち、腕時計のような小型の機器に用いられるモータは
非常に小さく、このモータのロータ4の回転トルクが微
小なためである。この回転トルクが極めて小さいために
摩擦の影響を特に強く受けやすく、ちょっとした摩擦係
数の変動であってもロータ4の回転の安定性に大きく影
響する。その結果がモータ性能として起動電圧の急激な
変動となって現れるわけである。
【0037】時計においては、上述したようなモータの
ロータ部以外にも様々な摺動部品が用いられる(これら
の例については後述する)が、いずれの摺動部品もこの
ロータよりはトルクが大きい。もちろん、本発明は時計
に用いられるいかなる摺動部品であっても適用すること
ができるのであるが、特に摩擦係数の変動の影響を受け
易い、トルクの微小なモータのロータ部に用いると非常
に有効である。
【0038】さて、上述した考察に基づき様々な条件で
実験を行ったところ、バインダー濃度 0.2wt%以下、4
フッ化エチレン系樹脂固体潤滑粉の最大粒径 3μm以下
という条件で浸漬コーティングした部品を用いて組み立
てた腕時計では、10年以上の輪列耐久性能を確保でき、
摺動部の摩耗もほとんど無く、10年分の加速試験動作後
も初期と同様のモータ性能を維持している事が確認され
た。特にバインダー濃度 0.1〜0.2wt%、4フッ化エチ
レン系樹脂固体潤滑粉の最大粒径 2μm以下という条件
の組合せでは、15年以上の加速動作試験後も初期と同様
のモータ性能が確保できた。
【0039】また、従来の潤滑油による方式では潤滑油
の温度特性により、低温下に於けるモータ性能の低下が
避けられなかったが、本方式によるものでは、低温下に
於いても常温と同様のモータ性能が得られた。すなわ
ち、耐久性に加えて耐環境性においてもその効果が大き
いことが判明した。
【0040】次に、その他の実施例として3つの例を挙
げる。
【0041】・3番車に適用した例 図6は、腕時計の3番車20のカナと2番車21の歯車
の噛み合いを表す部分断面図である。リューズを図の矢
印方向に引き出すことにより、3番車20の下ほぞが実
線から点線へと移動する特殊な構造で、3番車20のカ
ナと2番車21の歯車の噛み合いが外れる。リューズを
元に戻すと、確率的に3番車20のカナ先端と2番車2
1の歯車先端が正常に噛み合わず突っ張ることがある。
この突っ張った状態のままで放置しておくと3番車20
のカナが曲がり、時計の止まり、遅れとなってしまう。
そこで、3番車20に本発明の処理を施す。このことに
より3番車20のカナ先端の摩擦係数を低減させること
ができ、2番車21の歯車先端との突っ張り発生確率を
小さくすることができる。本発明者らの実験によると、
本発明の処理を施さなかった場合に比べてその発生確率
をおよそ 10分の1以下にすることができた。
【0042】・曜星車、曜修正伝え車に適用した例 図7と図8は腕時計のカレンダー部の輪列部品である曜
星車22と曜修正伝え車23との歯車の噛み合いを表す
部分平面図と部分断面図である。リューズを回し曜日修
正すると、曜星車22と曜修正伝え車23の摩擦による
突っ張り感があり、製品として問題となることがあっ
た。曜星車22と曜修正伝え車23の少なくともどちら
か一方の部品に、本発明の処理を施すことにより、歯先
の摩擦係数の低減が可能となり、突っ張り感をなくすこ
とができた。
【0043】・ボールベアリングに適用した例 図9はおよび図10は自動巻発電時計に用いられている
ボールベアリングの部分平面図と部分断面図である。ま
た、図11はこのボールベアリングをサブアセンブルし
た回転錘受24を自動巻発電時計に組み込んだ状態を示
す部分断面図である。回転錘25が内輪26を軸にして
回転するとボールベアリングも回転する。この時ボール
27と外輪28、押え輪29および内輪26との摩擦が
起こり各部品の接触面が摩耗する。ボールベアリングに
本発明の処理を施したところ、ボール27と内輪26、
外輪28、押え輪29との各接触面の摩擦係数の低減が
可能となり、回転錘が安定してしかもスムーズに回転す
るようになった。この結果、巻き上げ耐久性能、発電効
率が向上した。
【0044】また、これら3つの例以外にも例えば、腕
時計の切り換え部品として使用されるカンヌキとオシド
リや、2番車の歯車とカナなど様々な摺動部品であって
も適用することができ、その潤滑性能を向上させること
ができる。
【0045】このように、本発明の製造方法によって製
造された摺動部品は、腕時計のステップモータのロータ
とロータを保持する軸受けの摺動部の潤滑のみならず、
歯車どうしの突っ張り等の、特に低荷重部の潤滑に有効
である。
【0046】
【発明の効果】以上述べたように、本発明によれば以下
のような効果を有する。
【0047】請求項1記載の発明によれば、4フッ化エ
チレン系樹脂固体潤滑粉付着力を高めることができるの
で摺動部品同士の摺擦を受けても離脱せず、優れた潤滑
性能を長期にわたって安定して保持することが可能とな
った。
【0048】請求項2記載の発明によれば、溶媒にフッ
素系溶媒を用いているので、対象となる摺動部品の材質
に特に制限がなく、また、4フッ化エチレン系樹脂固体
潤滑粉が分散し易く、さらに、バインダーとの混合性も
良い。従って、比較的簡単に安定した付着を行うことが
でき、製造コストを低く抑えることができる。
【0049】また、バインダーの添加量を適切に設定す
ることにより、潤滑性能と耐久性とを好ましく両立させ
ることができる。
【0050】請求項3記載の発明によれば、4フッ化エ
チレン系樹脂固体潤滑粉およびバインダーを摺動部品の
表面に均一に付着させることができる。さらに、4フッ
化エチレン系樹脂固体潤滑粉の凝集を防止することがで
き、十分な付着性を確保することができる。
【0051】請求項5記載の発明によれば、腕時計など
の駆動源であるステップモータの、ロータとロータを保
持する軸受体の表面に本発明の製造方法を適用すること
により、優れたモータ性能を長期にわたって保持・安定
させることができる。さらに、温度特性(耐環境性)に
も優れたモータが得られる。
【0052】また、請求項6記載の発明によれば、この
ような摺動部品を用いることにより、低消費電力で、低
温特性に優れ、長期にわたっての信頼性品質を飛躍的に
高めることができる時計を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の電子腕時計のステップモー
タおよび輪列部の部分断面図。
【図2】 図1に示すステップモータ部の拡大部分断面
図。
【図3】 4フッ化エチレン系樹脂固体潤滑粉の最大粒
子径と摺動部品表面への最大付着量の関係を示すグラ
フ。
【図4】 潤滑処理液(分散液)に添加したバインダー
濃度とロータ・軸受体との間の摩擦係数の関係を示すグ
ラフ。
【図5】 潤滑処理液(分散液)に添加したバインダー
濃度とモータの起動電圧の関係を示すグラフ。
【図6】 腕時計の3番車カナと2番車の歯車噛み合い
の様子を表す部分断面図。
【図7】 カレンダー付腕時計の曜修正伝え車と曜星車
の噛み合いを示す部分平面図。
【図8】 カレンダー付腕時計の曜修正伝え車と曜星車
の噛み合いを示す部分断面図。
【図9】 自動巻発電時計に用いられているボールベア
リング機構部の部分平面図。
【図10】 自動巻発電時計に用いられているボールベ
アリング機構部の部分断面図。
【図11】 ボールベアリング機構部を組み込んだ自動
巻発電時計の部分断面図。
【符号の説明】
1.ステップモータ 2.輪列機構 3.ステータ 4.ロ−タ 5.地板 6.輪列受 7.5番車 8.4番車 9.3番車 10.2番車 11.筒車 12.中心パイプ 13.文字板 14.秒針 15.分針 16.時針 17.ロータ軸 18.ロータカナ 19.ロータ磁石 20.3番車 21.2番車 22.曜星車 23.曜修正伝え車 24.回転錘受 25.回転錘 26.内輪 27.ボール 28.外輪 29.押え輪

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 粒子径が 3μm以下の4フッ化エチレン
    系樹脂固体潤滑粉を溶媒に分散し、さらにバインダーを
    添加した分散液中に、対象となる摺動部品を浸漬してコ
    ーティング処理することにより、前記4フッ化エチレン
    系樹脂固体潤滑粉を前記摺動部品表面に付着させること
    を特徴とする時計用摺動部品の製造方法。
  2. 【請求項2】 前記溶媒としてフッ素系溶媒を用い、前
    記バインダーとして高分子のフッ素化アクリルポリマー
    を 0.2wt%以下の濃度で添加した分散液を用いることを
    特徴とする請求項1記載の時計用摺動部品の製造方法。
  3. 【請求項3】 前記摺動部品を回転移動させながら浸漬
    コーティング処理することを特徴とする請求項1または
    2記載の時計用摺動部品の製造方法。
  4. 【請求項4】 請求項1〜3のいずれかに記載の製造方
    法を用いて製造することを特徴とする時計用摺動部品。
  5. 【請求項5】 前記時計用摺動部品は、時計用ステップ
    モータのロータとこのロータを保持する軸受体であるこ
    とを特徴とする請求項4記載の時計用摺動部品。
  6. 【請求項6】 請求項4または5記載の時計用摺動部品
    を用いることを特徴とする時計。
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