JP3651217B2 - 時計用摺動部品の製造方法およびその製造装置、ならびに時計 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、時計に用いられる精密な小型摺動部品、その製造方法およびその製造装置、並びに前記時計用摺動部品を用いた時計に関する。
【0002】
【背景技術】
従来より、時計においては、長期にわたる信頼性が要求されている。例えば、アナログ式電子腕時計においては、ステップモータに使用されているロータや歯車とこれらを保持する上下の軸受体の摺動部、突っ張りの発生するおそれのある歯車の噛み合い部、またはリューズ切換えにより摺動するおしどりとかんぬきの摺動面等の金属製の摺動部には、注油を行い摩擦力の低減や摩擦防止を図ってきた。
【0003】
注油のできない一部の金属製摺動部品は、その表面に、フッ化炭素を共析させた無電界メッキ被膜あるいは4フッ化エチレン樹脂の蒸着膜を形成し、これらの膜を固体潤滑剤として用いてきた。また、実開昭63−113985号公報に開示された技術のように、時計の特殊な2番車のすべり構造に、4フッ化エチレン系樹脂を分散媒に混合した混合液を用いてコーティングを行う例もある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の注油方式では、低温下での油の粘度上昇によるモータの動作不良、高温下での油の粘度低下による油の拡散流失、長期使用による油の変質劣化、ゴミケバが付着し易い等の課題があり、品質を維持するために定期的な洗浄と注油が必要とされる。
【0005】
注油のいらない固体潤滑方式では、フッ化炭素を共析させたニッケルメッキや4フッ化エチレン系樹脂を共析させた無電界メッキは、金属部品へは適用できるが、近年主流となりつつあるプラスチック部品ではメッキの付着性が悪く使用が困難である。しかも、金属部品に対する4フッ化エチレン樹脂の共析メッキは、コストが浸漬処理の約10倍と非常に高い難点がある。
【0006】
また、4フッ化エチレン樹脂の蒸着による潤滑膜は、凹凸形状が複雑な箇所への付着が難しく、油との併用が必要である。また、実開昭63−113985号公報で示す、腕時計の特殊な構造の2番車への処理に用いられる4フッ化エチレン系樹脂を溶媒に混合した混合液ではバインダーが使われておらず、4フッ化エチレン系樹脂が部品へ付着しにくく、十分な性能が得られないといった課題がある。
【0007】
本発明はこのような課題を解決するものであって、その目的とするところは、潤滑被膜が優れた潤滑性能(低摩擦力・均一性・安定性)を有するのはもちろんのこと、その潤滑性能を長期にわたって保持することができる時計用摺動部品、およびこの時計用摺動部品を比較的簡単にしかも低コストで得ることができる製造方法および製造装置を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、このような時計用摺動部品を用いることにより、摺動部の摩擦力の低減を図り、低消費電力で、低温特性に優れ、長期にわたって信頼性品質を飛躍的に高めた時計を実現することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る時計摺動部品の製造方法は、含フッ素化合物(フッ化水素を除く)を放電によって分解して、フッ素を含む含フッ素処理ガスを形成する第1の工程、および
前記含フッ素処理ガスが収容された処理室内に被処理体を収容し、炭素−炭素二重結合を2以上含む不飽和炭化水素と前記フッ素とを反応させて、前記被処理体の表面に含フッ素有機化合物の被膜を形成する第2の工程、を含み、
前記第2の工程の前に、あるいは前記第2の工程において、前記被処理体の表面をオゾンと接触させることを特徴とする。
【0010】
この製造方法においては、前記第1の工程において、化学的に安定な含フッ素化合物を原料とし、これを放電によって分解して、フッ素を含む含フッ素処理ガスを形成することにより、安全性が高く、かつ管理が容易な処理を行うことができる。含フッ素処理ガス内に含まれるフッ素は、それ自体反応性が高く腐食性の強いもので、これを直接取り扱うことは、安全上の点で問題がある。
【0011】
そして、前記第2の工程において、炭素−炭素二重結合を2以上含む特定の不飽和炭化水素および前記フッ素とを処理室内に供給することにより、前記被処理体の表面に含フッ素有機化合物の被膜を形成することができる。この反応はかなり低い温度、例えば70〜350℃で容易に進行するため、簡易な工程によって前記被膜を形成することができる。
【0012】
前記含フッ素化合物を放電により分解する際には、大気圧またはその近傍の圧力下で、原料ガスを50kHz以下の低周波数の交流電圧または直流電圧が印加される一対の電極より励起して分解することが好ましい。上述の低周波数の交流電圧または直流電圧を一対の電極間に印加すると、放電電圧のpeak to peak電圧を比較的大きくでき、プラズマ生成用ガスとして一般的に用いられるヘリウム等を供給しなくても、安定して放電を生成することができる。このような安定した大気圧プラズマを生成するのに、必ずしもヘリウムを用いる必要がなくなるので、ランニングコストを低減できる。
【0013】
また、大気圧またはその近傍下で含フッ素処理ガスを形成することにより、処理室内を常圧雰囲気に保つことができ、その結果、被膜を形成する際に、前記不飽和炭化水素の被処理体からの蒸発を防止することができる。
【0014】
また、本発明においては、前記第2の工程の前に、すなわち含フッ素有機化合物の被膜を形成する前に、あるいは第2の工程において、すなわち含フッ素有機化合物の被膜を形成する工程において、前記被処理体の表面をオゾンと接触させることが望ましい。具体的には、酸素あるは酸素を含む原料ガスを用いて前記第1の工程で行われる放電処理によってオゾンを生成し、これを処理室内に供給することによりオゾンと被処理体との接触を達成することができる。このように被膜を形成する前に予め被処理体とオゾンとを接触させることにより、あるいは不飽和炭化水素とフッ素との反応時にオゾンを共存させることにより、被処理体の表面に形成される被膜の密着性を高めることができる。
【0015】
本発明においては、前記不飽和炭化水素を前記被処理体に付着させた後に、該不飽和炭化水素と前記フッ素とを反応させることが望ましい。このように、予め被処理体不飽和炭化水素を付着させることにより、得られる含フッ素有機化合物の膜厚などをより正確に制御することができる。不飽和炭化水素を被処理体に付着させる方法としては、塗布あるいは浸漬などの方法を用いることもできるが、キャリアガスによるバブリングによって気体あるいは微少な液滴状態で被処理体の表面に供給することが望ましい。このようなキャリアガスによる不飽和炭化水素の供給は、被膜の形成をムラなくかつ均一に行うことができる点で有利である。
【0016】
このようなキャリアガスによる不飽和炭化水素の供給方法においては、前記処理室内の温度を前記不飽和炭化水素の沸点以下の温度まで冷却しておくことが望ましい。このように被処理体の温度を制御することにより、被処理体への不飽和炭化水素の付着を容易にし、またその膜厚を正確にコントロールすることができる。そして、その後前記処理室を所定温度に上昇させることにより、不飽和炭化水素とフッ素との反応を促進して、含フッ素有機化合物の被膜を容易に形成することができる。さらに、処理室を所定温度に加熱することにより、含フッ素有機化合物の被膜をより緻密化することができる。このような処理室の温度制御は、用いられる不飽和炭化水素の種類などによって適切な値が選定されるが、少なくともその上限値は、含フッ素有機化合物の被膜の特性に悪影響を与えない範囲で設定される。
【0017】
本発明で用いられる不飽和炭化水素は、炭素−炭素二重結合が2以上、好ましくは3以上含まれる不飽和炭化水素であって、炭素数が7〜15であることが好ましい。このような不飽和炭化水素としては、例えば、デカトリエン、ヘプタトリエン、オクタトリエン、ノナトリエン、デカテトラエンなどを例示することができ、特にデカトリエンが好ましい。
【0018】
また、前記含フッ素化合物としては有機物が好ましく、このような有機物としては、テトラフルオロメタン、ヘキサフルオロエタン、パーフルオロプロパン、パーフルオロペンタンなどのパーフルオロカーボン、C2F2H4などのヒドロキシフルオロカーボン(HFC)、C22Cl4などのフロン、C22Br4などのハロン、などを例示することができ、特にパーフルオロカーボンやHFCが好ましい。また、前記含フッ素化合物としては、NF3、SF6、NH4Fなどの無機物を用いることもできる。
【0019】
さらに、本発明においては、前記第2の工程において、被処理体は、振動または回転などの移動を伴って処理されることが望ましい。このように被処理体が移動することにより、被膜をより均一に形成することができる。
【0020】
本発明に係る製造装置は、含フッ素化合物(フッ化水素を除く)を放電によって分解してフッ素を含む含フッ素処理ガスを形成する処理ガス生成手段、
被処理体が収容され、前記処理ガス生成手段から供給される含フッ素処理ガスのフッ素と、炭素−炭素二重結合を2以上含む不飽和炭化水素とを反応させて、前記被処理体の表面に含フッ素有機化合物の被膜を形成する処理室、および
キャリアガスによるバブリングによって前記不飽和炭化水素を前記処理室に供給するための原料ガス供給部、を含むことを特徴とする。
【0021】
そして、前記処理ガス生成手段は、50kHz以下の低周波数の交流電圧または直流電圧を出力する電源、および、前記電圧が印加される一対の電極を有し、大気圧またはその近傍下でプラズマを誘起するプラズマ発生部、を含むことが望ましい。
【0022】
さらに、本発明の製造装置は、前記処理室に、キャリアガスによるバブリングによって前記不飽和炭化水素を供給するための原料ガス供給部を有することが望ましい。
【0023】
また、本発明の製造装置は、前記処理室を温度制御するための冷却部および前記処理室を加熱するための加熱部を有することが望ましい。
【0024】
上記製造方法によって形成された被膜は、優れた潤滑性能(低摩擦力・均一性・安定性)を有し、さらにその潤滑性能を長期にわたって保持することができるので、摺動部の摩擦力の低減を図り、低消費電力で、低温特性に優れ、かつ長期にわたって信頼性品質を飛躍的に高めた時計用摺動部品を得ることができる。
【0025】
そして、上述した時計用摺動部品は、時計の摺動あるいは摺動回転する部品に適用され、例えばステップモータのロータとこのロータを保持する軸受体などに好適に使用することができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の時計用摺動部品の製造方法およびこの方法に好適に用いられる製造装置について、図面を参照して具体的に説明する。
【0027】
図1は、本発明に係る製造装置の一例を模式的に示す図である。この例の製造装置は、被膜形成装置100、プラズマ発生部200および原料ガス供給部300を有している。
【0028】
前記被膜形成装置100は、処理される時計用摺動部品(被処理体)Wが収容される処理室110、この処理室110内に設置され、内部の雰囲気を均一にするためのファン120、前記処理室110を冷却するための冷却部130および前記処理室110を加熱するための加熱部140を有する。また、前記処理室110には、排気管150が接続されている。
【0029】
前記冷却部130は、例えば、冷却水または冷却ガスを循環させるポンプ、冷却水または冷却ガスを導くパイプ、前記処理室110内の温度を制御するための、温度センサおよび温度制御部などの手段から構成される。前記加熱部140は、例えば、発熱部、前記処理室110内の温度を制御するための、温度センサおよび温度制御部などの手段から構成される。そして、前記冷却部130および加熱部140は、処理室110内の温度をできるだけ均一に変化させるために、処理室110の周囲に沿って設けられていることが望ましい。
【0030】
前記プラズマ発生部200は、大気圧またはその近傍の圧力化でプラズマを生成するものである。このプラズマ発生部200は、図2に示すように、一対の電極62aおよび62bの間に多孔質絶縁体64が配置されることで、各電極62a,62bが対向配置されている。一方の電極62aには電源50が接続され、他方の電極62bは接地されて、50kHz以下の比較的低周波数の交流電圧または直流電圧が各電極間に印加される。
【0031】
このように、電源50にて比較的低周波数の交流電圧を出力させている理由は下記の通りである。すなわち、従来より大気圧プラズマを生成するためには、比較的プラズマの立ち易いヘリウムガスを大量に必要としていた。この場合には、一対の電極間に印加される交流電圧の周波数を、商用周波数である13.56MHzとすることができた。しかしながら、高価なヘリウムガスを要せずに、空気または窒素等の雰囲気では、商用周波数である13.56MHzの交流電圧では大気圧プラズマを生成することができなかった。本実施の形態では、0〜50kHzの比較的低周波数の交流電圧または直流電圧を一対の電極に印加することで、大気圧プラズマを安定して生成できることを確認している。この理由は、低周波数の交流電圧の場合、そのpeak to peak電圧を大きくでき、結果としてプラズマの生成に寄与するエネルギーを確保できるからと推測される。
【0032】
前記プラズマ放電部200には、原料ガス供給管210を介して、含フッ素化合物(フッ化水素を除く)および必要に応じて加えられる酸素が、窒素ガスなどのキャリアガスと共に供給される。プラズマ放電部200で放電処理して得られる、フッ素を含む含フッ素処理ガスは、ガス供給管220を介して処理室110に供給される。
【0033】
原料ガス供給部300は、原料となる炭素−炭素二重結合を2以上含む不飽和炭化水素が収容される容器310、この容器310内に先端が導入されるキャリアガス供給管320、および前記不飽和炭化水素を含むキャリアガスを前記処理室110に供給するための供給管330を有する。
【0034】
次に、図1に示す製造装置によって被膜を形成する方法について述べる。
【0035】
まず、冷却部130によって処理室110の被処理体Wが所定温度、すなわち原料である不飽和炭化水素が被処理体Wの表面に付着する程度の温度、例えばバブリング温度より低い温度に設定される。処理室110の温度は、例えば不飽和炭化水素としてデカトリエンを用いた場合には、−30℃〜40℃に設定される。
【0036】
そして、キャリアガス供給管320を介してキャリアガス(窒素)が容器310に供給され、容器310内の不飽和炭化水素を含む原料をバブリングすることにより、この不飽和炭化水素が含まれる原料ガスが処理室110内に供給される。そして、この原料ガスは十分に冷却された被処理体Wに接触することによって液化し、被処理体Wの表面に不飽和炭化水素の被膜が形成される。このように原料である不飽和炭化水素をキャリアガスと共に供給することにより、複雑な形状を有する被処理体Wであっても均一な被膜が形成され、さらに被処理体Wの温度および原料ガスと被処理体Wとの接触時間をコントロールすることにより被膜の膜厚を規定することができる。
【0037】
一方、原料ガス供給管210を介してプラズマ発生部200に、少なくもと含フッ素化合物(フッ化水素を除く)を含むガスを供給し、プラズマ放電部200を前述した条件で作動させることにより、プラズマ放電によってフッ素を含む含フッ素処理ガスが形成される。この含フッ素処理ガスをガス供給管220を介して処理室110に供給することにより、フッ素と被処理体Wの表面に付着した不飽和炭化水素とが反応して、含フッ素有機化合物が形成される。この含フッ素有機化合物の被膜は、後述する実験例からも明らかなように、優れた潤滑性および密着性を有する。
【0038】
(実験例)
次に、本発明によって形成された含フッ素有機化合物の被膜の特性について行った実験例について述べる。
【0039】
潤滑性;
被膜の潤滑性を示す特性として、複数種のサンプルについて動摩擦係数を調べた。その結果を表1および図3に示す。ここで、動摩擦係数は、ガラス板と含フッ素有機化合物の被膜との動摩擦係数である。この動摩擦係数は、ガラス板上に、含フッ素有機化合物の被膜を形成したサンプルを、前記被膜をガラス面に接するように置き、サンプルの上方から荷重をかけながら横方向に引く方法によって測定され、動摩擦係数は、(横方向の引き力/上方からの荷重)で表したものである。
【0040】
サンプル(6種)は、含フッ素処理ガスを生成するための窒素ガス、テトラフルオロエチレンおよび酸素の流量を、表1に示すように設定して求めたものである。不飽和炭化水素としては、デカトリエン(C1016)を用い、これを表1に示すCF4の流量条件と同じ条件で供給した。また、処理温度(処理室110内の雰囲気の温度)は、まず25℃で20分間、その後、昇温速度40℃/分で100℃まで上昇させた後、100℃で20分間保持させた。
【0041】
処理後の被処理体を調べたところ、表面に被膜が形成されていることが確認された。この被膜について、FT−IRによる分析の結果、C−Fに由来する吸収が確認された。
【0042】
表1および図3より、本発明に係る製造方法により被処理体の表面に被膜が形成され、さらに、この被膜はテトラフルオロエチレンおよび酸素の割合により動摩擦係数が変化することがわかる。また、サンプル5および6からわかるように、含フッ素処理ガスに酸素が含まれないと動摩擦係数は小さくなり、潤滑性が向上することがわかる。また、被膜を形成しない比較例のサンプルの動摩擦係数は、0.25(μ)であった。
【0043】
【表1】
Figure 0003651217
【0044】
(被処理体の保持手段)
図4(A)および(B)は、被処理体Wの保持手段の一例を示す部分断面図である。この保持手段400においては、処理室110内にメッシュ状の容器410が所定方向(この例の場合には上下方向)に振動可能に保持されている。
【0045】
すなわち、容器410は支持部420に固定され、この支持部420の下面には第1の磁石体430が固定されている。さらに、前記支持部420は、3個のアーム440a,440b,440cによって支持固定されている。そして、これらのアーム440a〜440cは、処理室110の壁面110aに対して傾斜した状態で設けられ、その一端が該壁面110aに固定され、他端が前記支持部420にピン結合されている。また、前記磁石体430に対向して、処理室110の壁面110aを介して第2の磁石体450が形成され、この磁石体450はモータ460によって回転駆動される。すなわち、前記保持手段400は磁石結合によって回転可能に保持されている。
【0046】
従って、第2の磁石体450が回転することにより、アーム440a〜440cによって保持された第1の磁石体430と支持部420とを上下振動させることができる。その結果、容器410内の被処理体Wは振動・回転される。このように被処理体Wが振動・回転することにより、被処理体Wの表面に形成される被膜が均一となる。
【0047】
また、図4に示す保持手段の代わりに、図5に示す保持手段500を用いてもよい。この保持手段500は、メッシュ状の壁面を有する回転ドラム510、この回転ドラム510を支持するシャフト520a,520b、およびこれらのシャフト520a,500bを保持する支持部530a,530bを有する。各支持部530a,530bの端部にはそれぞれ第1の磁石体540a,540bが形成され、これらの磁石体540a,540bに対向して、処理室110の壁面110bを介して磁石体550a,550bが設けられている。これらの磁石体550a,550bは、それぞれモータ560a,560bによって回転駆動される。
【0048】
このような保持手段によっても、第2の磁石体550a,550bを回転駆動することにより、磁石結合によって回転ドラム510が回転する。その結果、回転ドラム510内に収容された被処理体Wが回転移動することになる。
【0049】
(ファンの回転機構)
また、前記ファン120も同様に磁石結合によって回転駆動することができる。すなわち図6に示すように、ファン120に第1の磁石体122を連結し、この第1の磁石体122に対向して、処理室110の壁面110cを介して第2の磁石体124を設け、この第2の磁石体124をモータ126によって回転駆動することにより、前記ファン120を回転させることができる。
【0050】
図4〜図6に示したように、被処理体Wの保持機構あるいはファンの回転機構を磁石結合によって構成することにより、処理室110の密閉度を向上させることができる。
【0051】
(時計用摺動部品への適用例)
次に、本発明に係る製造方法が適用される時計用摺動部品の好適な例について述べる。
【0052】
(a)ステップモータ
図7は、指針式電子腕時計のステップモータ1および輪列機構2の組立断面図を示す。この電子腕時計(水晶発振式腕時計)は、特に図示しないが32768Hzという水晶の信号をICで1Hzの信号に分周してステップモータ1の駆動源としている。ステップモータ1はステータ3、ロータ4および図示しないコイルで構成されており、コイルに1秒毎の反転パルス信号が流れるとステータ3が電磁石となり、2極ロータ4が1パルスあたり180°回転し、電気信号が機械的信号に変換され、輪列機構2に伝達される。
【0053】
ロータ4は、図8に示すように、ロータ軸17、ロータカナ18、ロータ磁石19等から成り、ロータ磁石19を覆う形でポリアセタール樹脂でロータ軸17およびロータカナ18を一体形成したものである。ロータ4の上下の軸は地板5と輪列受6により保持され、その軸径は直径0.2mmと極めて細く、地板5または輪列受6とのクリアランスも0.01mm程度と極めて少ない。
【0054】
ロータ4の回転運動は輪列機構2において、5番車7から秒針14を運針させる4番車8、さらに3番車9から分針15を運針させる2番車10、次に図示していない日ノ裏車、そして時針16を運針させる筒車11へと伝達される。
【0055】
本発明の含フッ素有機化合物の被膜は、ロータ4と地板5およびロータ4と輪列受6の摺動部の潤滑に応用することができる。図7において、符号12は中心パイプを示し、符号13は文字板を示す。
【0056】
(b)3番車
図9は、腕時計の3番車20のカナと2番車21の歯車の噛み合いを表す部分断面図である。リューズを図の矢印方向に引き出すことにより、3番車20の下ほぞが実線から点線へと移動する特殊な構造で、3番車20のカナと2番車21の歯車の噛み合いが外れる。リューズを元に戻すと、確率的に3番車20のカナ先端と2番車21の歯車先端が正常に噛み合わず突っ張ることがある。この突っ張った状態のままで放置しておくと3番車20のカナが曲がり、時計の止まりや遅れとなってしまう。そこで、3番車20に本発明の被膜処理を施す。このことにより、3番車20のカナ先端の摩擦係数を低減させることができ、2番車21の歯車先端との突っ張り発生確率を小さくすることができる。
【0057】
(c)曜星車、曜修正伝え車
図10および図11は、腕時計のカレンダー部の輪列部品である曜星車22と曜修正伝え車23との歯車の噛み合いを表す部分平面図および部分断面図である。リューズを回し曜日修正すると、曜星車22と曜修正伝え車23の摩擦による突っ張り感があり、製品として問題となることがあった。曜星車22と曜修正伝え車23の少なくともどちらか一方の部品に、本発明の被膜処理を施すことにより、歯先の摩擦係数の低減が可能となり、突っ張り感をなくすことができた。
【0058】
(d)ボールベアリング
図12および図13は、自動巻発電時計に用いられているボールベアリングの部分平面図および部分断面図である。また、図14はこのボールベアリングをサブアセンブルした回転錘受24を自動巻発電時計に組み込んだ状態を示す部分断面図である。回転錘25が内輪26を軸にして回転するとボールベアリングも回転する。この時ボール27と外輪28、押え輪29および内輪26との摩擦が起こり、各部品の接触面が摩擦する。ボールベアリングに本発明の被膜処理を施したところ、ボール27と内輪26、外輪28、押え輪29との各接触面の摩擦係数の低減が可能となり、回転錘が安定してしかもスムーズに回転するようになった。この結果、巻き上げ耐久性能、発電効率が向上した。
【0059】
また、本発明の被膜処理は、これらの例以外にも、例えば、腕時計の切り換え部品として使用されるカンヌキとオシドリや、2番車の歯車とカナなど様々な摺動部品であっても適用することができ、その潤滑性能を向上させることができる。
【0060】
このように、本発明の製造方法によって製造された摺動部品は、腕時計のステップモータのロータとロータを保持する軸受けの摺動部の潤滑のみならず、歯車どうしの突っ張り等の、特に低荷重部の潤滑に有効である。
【0061】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る製造方法および製造装置を模式的に示す図である。
【図2】図1に示すプラズマ発生部の一例を示す図である。
【図3】6種のサンプルについて求めた動摩擦係数を示す図である。
【図4】(A)は被処理体の保持手段の一例を示す部分断面図であり、(B)は保持手段の平面図である。
【図5】被処理体の保持手段の他の構成例を示す部分断面図である。
【図6】ファンの取付構造を示す部分断面図である。
【図7】本発明の製造方法が適用された時計用摺動部品の一例としてステップモータおよび輪列部を示す部分断面図である。
【図8】図1に示すステップモータ部の拡大部分断面図である。
【図9】本発明の製造方法が適用された時計用摺動部品の一例を示す、腕時計の3番車カナと2番車の歯車噛み合いの様子を示す部分断面図である。
【図10】本発明の製造方法が適用された時計用摺動部品の一例を示す、カレンダー付き腕時計の曜修正伝え車と曜星車の噛み合いを示す部分平面図である。
【図11】カレンダー付き腕時計の曜修正伝え車と曜星車の噛み合いを示す部分断面図である。
【図12】本発明の製造方法が適用された時計用摺動部品の一例を示す、自動巻発電時計に用いられるボールベアリング機構部の部分平面図である。
【図13】自動巻発電時計に用いられるボールベアリング機構部の部分断面図である。
【図14】ボールベアリング機構部に組み込んだ自動巻発電時計の部分断面図である。
【符号の説明】
100 被膜形成装置
110 処理室
120 ファン
130 冷却部
140 加熱部
150 排気部
200 プラズマ発生部
300 原料ガス供給部
400,500 被処理体保持手段

Claims (10)

  1. 含フッ素化合物(フッ化水素を除く)を放電によって分解して、フッ素を含む含フッ素処理ガスを形成する第1の工程、および
    前記含フッ素処理ガスが収容された処理室内に被処理体を収容し、炭素−炭素二重結合を2以上含む不飽和炭化水素と前記フッ素とを反応させて、前記被処理体の表面に含フッ素有機化合物の被膜を形成する第2の工程、を含み、
    前記第2の工程の前に、あるいは前記第2の工程において、前記被処理体の表面をオゾンと接触させることを特徴とする時計用摺動部品の製造方法。
  2. 含フッ素化合物(フッ化水素を除く)を放電によって分解して、フッ素を含む含フッ素処理ガスを形成する第1の工程、および
    前記含フッ素処理ガスが収容された処理室内に被処理体を収容し、炭素−炭素二重結合を2以上含む不飽和炭化水素と前記フッ素とを反応させて、前記被処理体の表面に含フッ素有機化合物の被膜を形成する第2の工程、を含み、
    前記不飽和炭化水素を前記被処理体に付着させたのち、前記フッ素と反応させることを特徴とする時計用摺動部品の製造方法。
  3. 請求項1または2において、
    前記含フッ素処理ガスは、前記含フッ素化合物を、大気圧またはその近傍下で、50kHz以下の低周波数の交流電圧または直流電圧が印加される一対の電極により励起して分解して得られることを特徴とする時計用摺動部品の製造方法。
  4. 請求項において、
    前記不飽和炭化水素は、キャリアガスによるバブリングによって前記処理室に供給されることを特徴とする時計用摺動部品の製造方法。
  5. 請求項において、
    前記不飽和炭化水素は、前記処理室内において、バブリング液の温度まで冷却されることにより前記被処理体に付着され、その後前記処理室の温度を上昇させて重合されることを特徴とする時計用摺動部品の製造方法。
  6. 請求項において、
    前記処理室の温度を、20℃から100℃まで変化させることを特徴とする時計用摺動部品の製造方法。
  7. 請求項1ないし請求項のいずれかにおいて、
    前記不飽和炭化水素は、炭素数が7〜15であることを特徴とする時計用摺動部品の製造方法。
  8. 含フッ素化合物(フッ化水素を除く)を放電によって分解してフッ素を含む含フッ素処理ガスを形成する処理ガス生成手段、
    被処理体が収容され、前記処理ガス生成手段から供給される含フッ素処理ガスのフッ素と、炭素−炭素二重結合を2以上含む不飽和炭化水素とを反応させて、前記被処理体の表面に含フッ素有機化合物の被膜を形成する処理室、および
    キャリアガスによるバブリングによって前記不飽和炭化水素を前記処理室に供給するための原料ガス供給部、を含むことを特徴とする時計用摺動部品の製造装置。
  9. 含フッ素化合物(フッ化水素を除く)を放電によって分解してフッ素を含む含フッ素処理ガスを形成する処理ガス生成手段、
    被処理体が収容され、前記処理ガス生成手段から供給される含フッ素処理ガスのフッ素と、炭素−炭素二重結合を2以上含む不飽和炭化水素とを反応させて、前記被処理体の表面に含フッ素有機化合物の被膜を形成する処理室、
    前記処理室を冷却するための冷却部、および
    前記処理室を加熱するための加熱部、を含むことを特徴とする時計用摺動部品の製造装置。
  10. 請求項1ないし請求項のいずれかに記載の製造方法によって製造された計用摺動部品を用いることを特徴とする時計
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