JPH0673454U - 転がり軸受の密封装置 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】 潤滑剤の滞留を防止し、潤滑寿命の向上を図
る。また、内圧の変動に対しても、回転トルクの増大を
伴うことなく潤滑剤の漏れを確実に防止できるものとす
る。外部からの塵埃等の侵入も防止する。 【構成】 外輪２に固定したリング板状のシール６によ
り内輪１と外輪２との間を密封する。内輪１は外径面に
環状のシール溝１１を有し、シール６は内周部に弾性体
からなる２枚のシールリップ８，９を有するものとす
る。内側リップ８は、内輪１の外径面１ｂよりも外周側
に位置し、先端がシール溝１１の軸受内側の開口縁１１
ａに微小隙間Ｓを介して近接する。内側リップ８の内側
の側面８ａは外径側へ後退する傾斜を持つ。外側リップ
９は、先端がシール溝１１の軸受外側の側面１１ｂに軽
く接触し、かつその接触部分に空気抜きスリット１２を
持つ。スリット１２は、周方向の少なくとも１箇所に設
ける。

Description

【考案の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】

この考案は、潤滑剤の漏れ防止と塵埃の侵入防止とを図る転がり軸受の密封装 置に関する。

【０００２】

【従来の技術】

従来、例えば自動車用エンジンおよび補機用のアイドラー軸受や、支持軸受等 において、外輪に固定したリング板状のシールにより内輪と外輪との間を密封す る密封装置が使用されている。図６はその密封装置における軸受内輪とシールと の関係を示す。内輪５１は、転走面５２よりも幅方向の外側において、内径面に Ｖ形のシール溝５３を有し、シール５４は２枚のシールリップ５５，５６が形成 されている。内側リップ５５はシール溝５３の傾斜した側面に軽微に接触し、内 部からの潤滑剤の漏れを防止する。また、内側リップ５５は、通気用スリット５ ７を設けることで、軸受内の温度上昇による内部圧力を効果的に減じている。こ れにより、内側リップ５５が溝側面から離れることを防止すると共に、軸受内部 が負圧になったときの過大な接触を未然に防ぐ。外側リップ５６は外部からの塵 埃の侵入を防止する。

【０００３】

【考案が解決しようとする課題】

しかし、内側リップ５５が軽微な接触であり、また軸受の内圧に対してシール 溝５３の側面から逃げる方向に接するため、内部潤滑剤の漏れや染み出しに対し て不利である。すなわち、内圧に対して内側リップ５５は、腰部の弾性的な曲げ の剛性のみで形状を保っているため、高い圧力を支えるには限界がある。なお、 内側リップ５５の締め代を予め大きくして接触圧を強く設定したのでは、回転ト ルクの増大につながる。

【０００４】 また、内側リップ５５がシール溝５３の側面に位置するため、シール溝側面と 内側リップ５５との間に溝状のポケット部５８が形成され、このポケット部５８ に潤滑剤が滞留し易い。この滞留した潤滑剤は、再度潤滑に使用されることがな く、有効な封入潤滑剤量が低減して潤滑寿命が低減する。また、このポケット部 ５８の潤滑剤は、内圧の上昇や、内側リップ５５の接触圧が小さいことから、シ ール溝５３の底部に流出し易い。流出した潤滑剤は、軸受外部に漏れて周辺の汚 れの原因となる。

【０００５】 この考案の目的は、潤滑剤がシール溝に滞留することが防止できて潤滑寿命の 向上が図れ、また内圧の変動に対しても、回転トルクの増大を伴うことなく潤滑 剤の漏れを確実に防止でき、外部からの塵埃等の侵入も防止できる転がり軸受の 密封装置を提供することである。

【０００６】

【課題を解決するための手段】

この考案の転がり軸受の密封装置は、外輪に固定したリング板状のシールによ り内輪と外輪との間を密封する密封装置であって、次の構成とする。内輪は、外 径面に環状のシール溝を有し、前記シールは内周部に弾性体からなる２枚のシー ルリップを軸受幅方向の内外に並んで有するものとする。内側リップは、内輪の 外径面よりも外周側に位置し、先端がシール溝の軸受内側の開口縁に微小隙間を 介して近接する。内側リップの内側の側面は外径側へ後退する傾斜を持つ。外側 リップは、先端がシール溝の軸受外側の側面に軽く接触し、かつその接触部分に 空気抜きスリットを周方向の少なくとも１箇所に持つ。

【０００７】

【作用】

内側リップが内輪の外径面よりも外周側に位置し、その内側の側面が外径側へ 後退するように傾斜しているため、軸受内部の潤滑剤は内側リップにより内輪の 転走面側へ導かれる。そのため、封入潤滑剤が潤滑に有効に利用され、潤滑寿命 が向上する。また、このように内側リップが内輪の外径面よりも外周側に位置し 、その先端がシール溝の開口縁に近接するため、シール溝の底へ潤滑剤が流出す ることが防止される。

【０００８】 外側リップは、シール溝の軸受外側の側面に接触するため、内圧が上昇しても シール溝側面との確実な接触を維持する。そのため、シール溝の底に潤滑剤の流 出が生じていても、さらに軸受外部へ流出することが外側リップにより防止され る。外側リップは、外部からの塵埃等の侵入も防止する。また、外側リップは、 空気抜きスリットが設けられているため、内圧の上昇が軽減されてシール溝側面 への押付け圧力の増加が軽減され、一定トルクを保持することができる。

【０００９】

【実施例】

この考案の一実施例を図１および図２に基づいて説明する。図１（Ａ）は、こ の密封装置を備えた深溝玉軸受を示す。内輪１と外輪２の間に、転動体３および その保持器４を設け、両側の幅面付近で内外輪１，２の間を各々密封する一対の シール６が、外輪２の内径面に設けたシール取付溝５に固定してある。内輪１の 外径面にはシール６と対応してＶ溝状のシール溝１１が環状に形成されている。 シール６は、芯金１０にゴム等からなる弾性体７を被覆したリング板状のもので あり、その弾性体７の部分で、内周部に２枚のシールリップ８，９が軸受幅方向 の内外に並んで形成されている。

【００１０】 図１（Ｂ）に拡大して示すように、各シールリップ８，９は、いずれも芯金７ よりも内径側に延びている。シール６の内側リップ８は、内輪１の外径面１ｂよ りも外周側に位置し、先端がシール溝１１の軸受内側の開口縁１１ａに微小隙間 Ｓを介して近接する。この隙間Ｓは、各部の寸法ばらつきや組立ばらつきを考慮 しても常に非接触となる程度の大きさに設計する。内側リップ８の内側の側面８ ａは、外径側へ後退する傾斜を持つ。傾斜角は３０°程度が好ましい。

【００１１】 外側リップ９は、先端の外側面に突出した突出縁部９ａがシール溝１１の軸受 外側の側面１１ｂに軽く接触し、かつその突出縁部９ａに径方向に開通する空気 抜きスリット１２（図２参照）が周方向の少なくとも１箇所に設けられている。 外側リップ９は、そのリップ長さとリップ腰部の肉厚の比率を、例えば 3.3／１ としてある。なお、この前後の比率でも使用可能である。外側リップ９は、自然 状態では略垂直となるように形成してあり、溝側面１１ｂへの接触により僅かに 内側へ撓んでいる。接触部における内側への撓み、すなわち締め代は、例えは０ ．１８mm程度を目標に設計してある。この締め代は、後述の解析結果から分かる ように０．３mm程度でも可能である。

【００１２】 この構成によると、内側リップ８が内輪１の外径面１ｂよりも外周側に位置し 、その内側の側面８ａが外径側へ後退するように傾斜しているため、軸受内部の 潤滑剤は、シール溝１１の付近で滞留することなく、内側リップ８により内輪１ の転走面１ａ側へ導かれる。そのため、封入潤滑剤が潤滑に有効に利用され、潤 滑寿命が向上する。また、このように内側リップ８が内輪１の外径面１ｂよりも 外周側に位置し、その先端がシール溝１１の開口縁１１ａに近接するため、シー ル溝１１の底へ潤滑剤が流出することが防止される。

【００１３】 外側リップ９は、シール溝１１の軸受外側の側面１１ｂに接触するため、内圧 が上昇しても溝側面１１ｂとの確実な接触を維持する。そのため、シール溝１１ の底への潤滑剤の流出が生じていても、さらに軸受外部へ流出することが外側リ ップ９によって防止される。そのため、外部の付属品を潤滑剤で汚したり、油分 の付着で悪影響を及ぼすことが防止される。例えば、プーリ用軸受に使用した場 合、ベルトを油で劣化させることが未然に防止される。外側リップ９は、外部か ら塵埃や水等が侵入することも防止する。また、外側リップ９は、空気抜きスリ ット１２が設けられているため、内圧の上昇を軽減してシール溝側面１１ｂへの 押付け圧力の増加を軽減する。そのため、回転トルクを一定に保持することがで きる。 なお、シール溝１１の形状は、従来の各種の軸受と同じで良く、そのため従来 のシールとの切り換えも可能で、部品共通化によるコスト低下が期待できる。

【００１４】 図３は、この実施例と従来の各種のシール付軸受とにつき、リップ締め代とト ルク値との関係を示したグラフである。同グラフは、有限要素解析の結果を示す 。曲線ａは、この実施例おいて外側リップ９のリップ長さとリップ腰部の肉厚の 比率を 3.3／１とした場合の解析結果を示す。曲線ｂ〜ｄは、いずれも一般的に 多数使用されている従来の各種接触シールの解析結果を示す。同図からわかるよ うに、従来の各例では、リップ締め代が０．１８〜０．２５程度を過ぎると急激 にトルク値が大きくなるのに対して、この実施例のものではリップ締め代が０． ３５程度となるまでリップ締め代とトルク値とが略比例関係を保ち、急激に大き くなることがない。したがって、この実施例のものは、加工誤差や組立誤差等に よりリップ締め代にばらつきが生じても、トルク値が急激に大きくなることがな く、トルク値を一定に保ち易いことがわかる。

【００１５】 図４および図５は、各々この考案の他の実施例を示す。これらの例は、いずれ も外輪２の外径部に鍔部２ｃを一体に延出させ、外輪２自体をベルト用プーリと して形成してある。図４の例では、内輪１にもスリーブ部１ｄを一体に延出させ てある。図５の例の場合は、内輪１は通常の幅とし、別体のスリーブ１４の外周 に嵌合させてある。いずれも、シール６による密封装置の構造は同じである。こ のように、この考案の転がり軸受の密封装置は、各種構成の転がり軸受に適用す ることができる。

【００１６】

【考案の効果】

この考案の転がり軸受の密封装置は、シールに設けた２枚のリップにおける内 側リップを内輪の外径面よりも外周側に位置させ、その先端をシール溝の開口縁 に近接させると共に、内側リップの内側の側面を外径側へ後退するように傾斜さ せたため、シール溝付近で滞留を生じさせず、潤滑剤を転走面側へ良好に導くこ とができる。そのため長寿命化が図れ、またシール溝の底への潤滑剤の漏れを防 止することができる。 また、外側リップをシール溝の軸受外側の側面に接触させ、その接触部分に空 気抜きスリットを設けたため、シール溝の底から軸受外部に潤滑剤が流出するこ とが防止でき、また外部からの塵埃等の侵入が防止できる。しかも、外側リップ の接触は、内圧の変動に対する押付け力の変動が小さく、確実なシール性および 一定のトルク保持が図れる。

【図面の簡単な説明】

【図１】（Ａ）はこの考案の一実施例にかかる密封装置
を備えた転がり軸受の部分断面図、（Ｂ）はその部分拡
大図である。

【図２】同軸受のシールを示す部分正面図である。

【図３】同実施例と各種従来例とにつき、リップ締め代
とトルク値との関係を示す解析結果のグラフである。

【図４】この考案の他の応用例の断面図である。

【図５】この考案のさらに他の応用例の断面図である。

【図６】従来例の断面図である。

【符号の説明】

１…内輪、２…外輪、３…転動体、６…シール、８…内
側リップ、９…外側リップ、１０…芯金、１１…シール
溝、１２…空気抜きスリット

Claims (1)

【実用新案登録請求の範囲】
1. 【請求項１】 外輪に固定したリング板状のシールによ
   り内輪と外輪との間を密封する転がり軸受の密封装置で
   あって、内輪は外径面に環状のシール溝を有し、前記シ
   ールは内周部に弾性体からなる２枚のシールリップを軸
   受幅方向の内外に並んで有し、内側リップは内輪の外径
   面よりも外周側に位置して先端がシール溝の軸受内側の
   開口縁に微小隙間を介して近接し、かつ内側リップの内
   側の側面は外径側へ後退する傾斜を有し、外側リップは
   先端がシール溝の軸受外側の側面に軽く接触し、かつそ
   の接触部分に空気抜きスリットを周方向の少なくとも１
   箇所に持つ転がり軸受の密封装置。