JPH0669487B2 - 生体細胞の成長並びに機能分化の促進・制御方法 - Google Patents

生体細胞の成長並びに機能分化の促進・制御方法

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JPH0669487B2
JPH0669487B2 JP3042272A JP4227291A JPH0669487B2 JP H0669487 B2 JPH0669487 B2 JP H0669487B2 JP 3042272 A JP3042272 A JP 3042272A JP 4227291 A JP4227291 A JP 4227291A JP H0669487 B2 JPH0669487 B2 JP H0669487B2
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cell
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潤 福田
卓志 広野
慶一 鳥光
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東京大学長
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、人工素子、例えば細胞
培養容器、人工臓器器材等の人工素子の特定構造を有す
る表面を生体細胞又は生体組織に接触させて、これらの
細胞や組織に増大した親和性と減少した防御反応とを発
現させると共に、成長並びに機能分化を促進・制御する
方法に関し、細胞工学、組織培養学、医学並びに人工臓
器学等に跨がる技術分野において利用されるものであ
る。
【0002】従来、動物細胞、植物細胞、細菌の細胞、
カビ細胞等、各種生体細胞の増殖・分化・発生等を人工
環境下でコントロールする細胞培養技術の進歩は、2種
類の異なった技術改良、即ち、細胞と直接接触する培養
用容器の改良と、細胞に栄養を供する培地の改良とに依
っている。これらの内、過去におけるアプローチの主流
は後者であった。
【0003】特開昭60-18174号公報には、セラミック焼
結体などの多孔質体を骨欠損部に補綴材として充填し、
コラーゲン繊維並びに骨破壊細胞に対する多孔質体のバ
イオフィルターとしての作用を利用して新生骨を誘起す
る方法が提案されている。しかしながら、この方法は骨
成育阻害物質の侵入を阻止することによる消極的新生骨
誘起方法であって、生体細胞または生体組織と直接接触
する物体の表面形状を改良することによって積極的にそ
の成長速度を増大あるいは抑止したり、成長の方向を制
御したりする効果を奏するものではない。
【0004】一方、特開昭61−176339号公報には、骨内
埋入部に多数の通孔で連通した段違い交叉構造を形成し
たブレード型骨内インプラントが提案されている。この
提案はインプラントの脱落、ガタツキを防止するための
機械的結合力の増大を目的としたもので、前記同様に生
体細胞や生体組織の成長速度の増大あるいは抑止、成長
方向の制御などの効果を発揮させることを意図したもの
ではない。
【0005】また従来、生体中に長時間埋め込むことを
意図した人工臓器等の医療用器材は、結合組織細胞との
反応性や親和性を高め、いわゆる防御反応を下げること
を狙い、その材質や巨視的形状の改良に主力が注がれて
きた。
【0006】しかして現在使用されている前記培養容器
や人工臓器においては、その巨視的な形状(板状、皿
状、筒状、等)も、そしてその材質も極めて多岐に亘る
が、それら容器や器具の表面で、細胞に直接接触し、細
胞増殖等に直接関わる部分の形状は、さほど工夫が凝ら
されぬまゝに放置され、殆どが平滑な表面加工を施して
あるか、あるいは、材料本来の平坦な表面形状のまゝで
あり、表面の微細構造に着目した改良または研究は未だ
提案された例を見ない。
【0007】更に、生体細胞や組織の成長方向を制御す
る技術、例えば、神経突起の成長を方向付ける技術とし
て従来は、細胞をフィブロネクチン、ラミニン、コラー
ゲン、ポリオルニチン、 NGF (神経成長因子)等の化学
物質に沿って、あるいはそれらの存在部位に向かって成
長させることにより配向成長させるというものがあっ
た。この方法では、これらの化学物質を、個々の分子に
方向性を与えて配置させなければならず、従って、極め
て高度の技術を必要とするばかりか、これらの手法は、
化学物質の不活性化に伴い、特性が失われるという安定
性における難点があった。
【0008】また、従来の方法の一つとして、生体組織
および細胞での電場による電界方向への成長誘引も知ら
れているが、この方法では電場の生体組織に与える影響
が充分解明されていない等の問題があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明者等は、従来等
閑視されていた、人工素子の表面における微細構造がそ
れと接触する生体組織や細胞に特異な性質並びに挙動を
与えることを解明し、上述の種々の問題点を解決するこ
とに成功し本発明を完成したものである。
【0010】本発明の第一の目的は、接触する生体細胞
ならびに組織が、増大した親和性と減少した生体防御反
応とを示す表面を具えた人工素子、例えば細胞・組織等
の培養容器、医療用器材等を提供するにある。
【0011】本発明の別の目的は、特定構造の人工素子
を用いて、効果の持続性と安全性とを以って細胞増殖の
制御、細胞成長の制御、更には神経再生の制御を可能に
せんとするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】上述の目的は、幅約0.1
〜1000μm 、深さ約0.1 〜1000μm の寸法を有する互い
に実質的に平行な多数の細条溝を刻設した表面を具えて
なる人工素子の上記表面を、結合組織、神経細胞、グリ
ア細胞、シュワン細胞、皮膚細胞、筋肉細胞、腎臓細胞
および肝臓細胞よりなる群から選ばれる生体細胞または
生体組織に接触せしめることを特徴とする生体細胞の成
長並びに機能分化の促進・制御方法によって達成され
る。
【0013】すなわち、本発明によれば、細胞培養用容
器あるいは医療用器材などの人工素子において、結合組
織、神経細胞、グリア細胞、シュワン細胞、皮膚細胞、
筋肉細胞、腎臓細胞および肝臓細胞よりなる群から選ば
れる生体細胞または生体組織と接する表面に幅約0.1 〜
1000μm 、深さ約0.1 〜1000μm の寸法を有する互いに
実質的に平行な一方向性を有する多数の細条溝を機械的
または化学的手法によって刻設することによって、細胞
や組織に対する接着性や選択性を増し、細胞の増殖を制
御することが可能となるもので、かかる細条溝に沿って
配向した細胞の成長や細胞群の形成を行わせることもで
きる。
【0014】
【作用】以下本発明の構成をその作用と共に詳述する。 本発明方法に適用する人工素子の生体細胞または組織と
接触する表面部分は、多数の互いに実質的に平行な細条
溝を有してなる。かかる細条溝は、幅、深さともに0.1
μm 〜1000μm の範囲の実質的に平行な条溝とするが、
幅深さは均一であったり規則的形状を備えている必要は
ない。すなわち人工素子の材質、形状に従って微細条溝
の深さや幅は上記範囲内で適宜に変化し得る。条溝断面
形状も、V形、U形、ばち形等任意に選定し得る。更に
条溝は直線、曲線、波状のいずれの平面形状でもよい。
【0015】上記細条溝の形状・配列は、前記範囲内の
幅および深さを具えた直線細条溝を互いに実質的に平行
に配置することによって細胞増殖の制御、細胞成長の制
御、さらには神経再生の制御を可能とするのみならず、
生体組織や細胞を容易且つ確実に、しかも適合性よく所
望の方向に成長させ得るという驚くべき作用が確認され
た。すなわち、結合組織性細胞は溝の中に、反対に神経
細胞等は畝の上に成長する性質が顕著に現れ、条溝に沿
った配向成長が達成される。
【0016】さらに上記性質は人工素子の表面の細条溝
に生活活性物質、好ましくは、例えばコラーゲン、ポリ
−L−リシン、ポリ−L−オルニチン、ラミニン、フィ
ブロネクチン、チックプラズマ、LB因子(人工脂質膜)
および NGF(神経成長因子)よりなる群から選ばれる物
質を被着することによってさらに増強することができ
る。
【0017】上述の細条溝を刻設する人工素子の材質は
特に限定されないが、通常、石英ガラス;硬質ガラス;
軟質ガラス;有機高分子材料、例えばポリスチレン、ポ
リ塩化ビニル等のプラスチック、コラーゲン、セルロー
ス、寒天、等;金属;セラミックス、例えば SiN、BN、
アパタイト等;シリコーンゴム;半導体、例えばSi、G
e、GeAs、InP 、GaSe、InSe等;より選ばれる少なくと
も一種であり、また生体高分子、例えばコラーゲン板、
プラズマクロットの表面等も包含する。
【0018】本発明方法に適用する人工素子、例えば容
器、器材等の全体の巨視的形態は、特に規定しない。す
なわち、板状、皿状、球状、繊維状、筒状、粒子状等目
的、用途に応じて任意に形成し得るが、少なくとも生体
細胞または組織と接する部分の表面に上記細条溝を具え
ることが肝要である。一般に、細胞培養容器または人工
臓器等の医療器材に適合される人工素子は、平板、円形
の皿、太さ10μm 〜10cmの円柱状または繊維状、直径 1
00μm 〜10cmの球、あるいは外径10μm 〜10cmの中空円
筒形状等である。
【0019】かような細条溝を施した表面には、従来の
未加工の表面には見いだし得なかった細胞増殖性、細胞
接着性ならびに細胞配列制御性等が付加されるという特
異な作用を発揮する。これらの作用は素子の前記材質の
相異によって差があり、また素子の巨視的な形状によっ
てもその程度に変化が認められる。更に素子と相対する
細胞や組織の種類、由来する動物の種類、性別、年齢等
によっても変化するものである。しかしながら、素子の
作用である表面の細条溝構造に伴って生ずる特異な性質
は、上記諸要因の影響を超えて普遍的且つ顕著であっ
て、本発明の目的を十分に達成することができる。
【0020】図1は、微細条溝加工を施した石英ガラス
板上における細胞の成長を模式的に示した斜視拡大図で
ある。
【0021】同図において、石英ガラス板1上に断面U
型の直線微細条溝2の複数本を互いに平行に刻設し、そ
の面に生体細胞を接触して培養すれば、神経細胞NCは微
細条溝間の畝3の表面部分に、畝に沿って神経突起AXを
再生させるが、グリア細胞などの結合組織細胞GCは条溝
2の中に条溝に沿って突起を成長させる。
【0022】図2は同様にガラス平板1上に刻設した微
細条溝2に沿って細胞Cの成長する様子をイラストして
示したものである。更に図3には、プラスチック繊維
1′表面に繊維軸に実質的に平行に刻設した微細条溝2
に沿って細胞Cが成長する状態を示している。
【0023】本発明方法に用いる人工素子に細条溝を刻
設するには、フォトレジスト法、レプリカ法、スクラッ
チ法、プレス法、エッチング法等を適宜に応用すること
ができる。例えば、図2に示したようなガラス皿、ガラ
ス板等の表面の加工にはフォトレジストを用いたリソグ
ラフィー技術を適用することがよく、また図3の繊維表
面あるいはガラス球表面並びにガラス管内部表面の微細
加工には主として三つの方法が用いられる。すなわち、
(1)上述のリソグラフィー法、(2)リソグラフィー
で加工したガラス板のレプリカを取る方法、および
(3)微小な粒子あるいは繊維の切断面により表面にス
クラッチ条溝を付ける方法である。更にまた、シリコー
ンゴム、プラスチックチューブ等の表面あるいはコラー
ゲンを素材とする繊維、プレート、チューブ等の表面の
微細加工はガラスチューブのレプリカをとる方法か、あ
るいはスクラッチ法によることがよい。
【0024】図4はレプリカ法によりプラスチック、シ
リコンゴム等に微細構造を転写する方法の概要を説明す
るもので、微細条溝構造を刻設した金属ないしは石英ガ
ラス板等の素材による原型4をもって基材1に転写した
シリコンゴム等のレプリカ5を人工素子として実用に供
する。
【0025】図5は繊維状の材料の表面に微細条溝を刻
設する方法の一例を示すもので、内壁に軸方向の微細条
溝を刻設した金属またはガラス円筒を原型4′として、
内部に繊維を通過させ矢印方向に引抜くことにより表面
に微細条溝2を刻設した繊維1′よりなる人工素子が得
られる。
【0026】図6はスクラッチ法の典型的態様を示すも
ので、硬質材料よりなる櫛の歯状または鋸歯状の原型
4″を、それよりも硬度の小さいプラスチック、ゴム、
その他各種材質の板1の表面に圧接して、原型4″と板
1とを矢印方向に相対運動せしめ、板表面にスクラッチ
性の傷を付けることにより、微細条溝を刻設する。
【0027】
【実施例】次に本発明を更に実施例について説明する。実施例1 成熟マウスの脊髄後根神経節細胞を採取し、細胞を単離
するためにトリプシン、コラゲナーゼ等の酵素で処理し
た後、幅 0.5μm 、深さ 0.2μm の微細条溝を刻設した
石英ガラス上および、微細条溝を有しない平滑面の石英
ガラス上でそれぞれ培養した。培養液は、ハムス(Hams)
F-12 培養液とダルベッコ(Dulbecco)MEM 液との1:1
混合液にプロゲステロン、インシュリン、トランスフェ
リンを適宜添加したものである。培養は、5%の二酸化
炭素を含む空気中37℃で無血清条件下に24〜48時間行な
った。培養の結果、神経突起がガラス板上で再生した状
態を図7および図8に示す。
【0028】微細条溝を設けない石英ガラス上における
神経突起の再生は図8に示すように、軸索再生が起こる
が、その方向は一定しない。一方、微細条溝を刻設した
(微細条溝は可視光線の解像限界以下の深さ 0.2μm 、
幅 0.5μm であるため観察されていない)石英ガラス上
では、図7に示す如く微細条溝の方向に沿って配向した
軸索再生が観察される。この場合、条溝から外れて突起
を伸ばすものも認められるが、その長さは溝方向の突起
の20%以下に留まる。
【0029】ソーダガラス、プラスチック、コラーゲ
ン、アパタイト等の材料にそれぞれ微細条溝加工を施し
た素子を用い、神経細胞の種類、動物の種類、年齢並び
に神経周囲組織の種類を変えて、上記同様の方法で培養
した結果、若干の差異は認められるものの上記同様の結
果が観察された。
【0030】実施例2 受精後15日目のニワトリ胎児の脊髄後根神経節細胞と脊
髄中の運動神経細胞を別々に取り出し、幅5μm 、深さ
2μm の条溝加工したプラスチック板の溝の両端で同時
に培養した。その結果、脊髄後根神経節細胞と運動神経
細胞は条溝に沿って成長し、それらの間で、高い効率で
シナプス結合を形成した。このとき、脊髄後根神経節細
胞に加えた電気刺激は運動神経細胞においても検出さ
れ、シナプス結合に特有なしきい値特性が得られた。
(神経繊維、細胞に対する再生促進性)
【0031】実施例3 本発明方法に適用する素子のなかで、材質がガラスもし
くはプラスチックでその表面に幅2−10μm 、深さ0.5
−1μm の溝を有するものの上で、成熟マウスの脊髄後
根神経節細胞を、実施例1の方法で培養した。但し、本
例では、培地にFCS (牛胎児の血清) を加え、84時間培
養する。脊髄後根神経節には神経細胞の他シュワン細胞
やグリア細胞が含まれ、これらの細胞は培養中に増殖す
る。本発明素子の上では神経細胞は90%以上溝の上で生
育し、逆に神経以外の細胞は90%以上溝の下で増殖す
る。この性質の違いから神経細胞と他の細胞をたやすく
分離することができ、それぞれをわけて収集することが
できる。(セルソーターの機能)
【0032】実施例4 受精後15日目のニワトリより入手した繊維芽細胞、シュ
ワン細胞、皮膚細胞、骨格筋肉細胞、腎臓細胞、肝臓細
胞、を本発明方法に適用すべく加工した素子上で培養す
ると、特異な細胞増殖並びに細胞配置を示し、素子形状
と細胞選択性、細胞成長刺激性に固有の関係があること
が判明した。とりわけ、細胞配置に特徴のある臓器由来
の細胞組織の培養に著明な効果が認められた。これらの
特徴は、また、細胞の由来する動物の種類、年齢、培養
方法によっても大きく左右された。それぞれの細胞に最
適の素子材質、溝形状、幅、深さなどがあたえられた。 (異なる種類の細胞に対する選択性)
【0033】実施例5 石英ガラス板上に幅10μm 、深さ3μm の微細条溝を所
定範囲に刻設し、その範囲外は平滑表面のまゝに残し
た。その上に前記実施例1と同様な方法で細胞培養を行
なったところ、図9に示す如く、条溝のある部分6にお
いては、神経細胞や結合組織の成長は条溝に沿って起こ
るが、条溝加工の施されていない部分7においては、そ
の成長は一定していなかった。
【0034】実施例6 前記実施例5で用いた石英ガラス板を用い、同実施例と
同様の方法で神経細胞を含まない単一種類の細胞(結合
組織細胞)の培養を行なった。図10に示すごとく、条溝
加工を施した部分6と、施さない部分7とでは、細胞成
長の配向性に顕著な差が生ずるとともに、細胞接着性、
細胞選択性等にも差が見られた。
【0035】
【発明の効果】本発明は、細胞培養容器あるいは医療用
器材において、結合組織、神経細胞、グリア細胞、シュ
ワン細胞、皮膚細胞、筋肉細胞、腎臓細胞および肝臓細
胞よりなる群から選ばれる生体組織または生体細胞と接
する表面に前記寸法の互いに実質的に平行な多数の細条
溝を機械的または化学的に刻設することによって、細胞
や組織に対して接着性や選択性を増し、細胞の増殖を制
御し、更にこの細条溝を直線状細条溝とすれば、細胞や
組織を条溝に沿って配向成長させることができ、より性
質の優れた培養容器あるいは医療器材のための素子とな
すことができる。
【0036】即ち、本発明方法の効果は次の通りに要約
される。 1.細胞の成長促進効果 A.細胞分裂を促進し細胞増殖を加速する効果。 本発明方法により細胞を培養すると、細胞分裂に要する
時間が短くなり、単位時間(例えば1日)内に増殖する
細胞数が少なくとも2倍以上に増加する。この際、細胞
分裂に伴う様々な現象、例えば細胞の核DNAや、蛋白
質の合成量の増加等が同時に観察される。このような効
果は細胞分裂能力の優れた細胞、即ち、肝臓細胞、腎臓
細胞、皮膚細胞、血管形成細胞に顕著である。
【0037】 B.細胞を成長させる効果。 細胞分裂能力の無い細胞や、分裂能力の少ない細胞につ
いては、細胞を大きくしたり、あるいは細胞が伸ばして
いる繊維を長くする効果が認められる。特に、神経細胞
についてはその繊維が2〜5倍の長さとなり、骨格筋肉
繊維については長さが2〜3倍となるとともに直径が2
〜4倍となる。
【0038】 2.細胞機能の分化促進効果 生体内では、細胞は単独でその役割を果たすだけではな
く、周囲の細胞と協調し、機能を分担しつつ役割を果た
している。本発明方法に用いる素子は、従来の素子には
認められなかったこのような高度な機能を発現させ得る
ことが確認された。
【0039】 A.本発明方法により肝臓細胞や腎臓細胞を培養する
と、細胞数が増えるのみならず、細胞の高度な機能の発
現が促進される。
【0040】即ち、肝臓の細胞については、解毒に直接
かかわる酵素、例えばベータグルクロニダーゼの活性が
5倍以上に上昇する。このような特種酵素活性の上昇
は、従来の培養環境では実現されていなかったものであ
る。
【0041】また、腎臓の細胞については、細胞の尿生
成・排泄の機能と直接関わる複数の酵素の活性上昇が認
められる。
【0042】更に、皮膚細胞については、多重の細胞が
配列することによると思われる角質蛋白の合成の増加
や、基底膜成分蛋白の合成促進等、より分化した皮膚構
造の形成を促していると考えられる様々な現象が観察さ
れる。
【0043】 B.細胞分裂を生ずることが少ない筋肉細胞や神経細胞
についても、機能の分化を促進して、高度な機能を発現
する。
【0044】神経細胞については、既に述べたような神
経繊維の成長の方向付けをするだけでなく、神経の特殊
な機能、即ち神経回路網の形成に伴う機能が発現する。
即ち、神経細胞が化学伝達物質を合成するための酵素、
例えば、コリンアセチラーゼ、カテコラミン合成酵素の
活性が増加する。また、培養液中における化学伝達物質
の放出が数倍増加する。更に神経細胞内で神経機能が高
度化したことを示す各種酵素の増加が認められる。
【0045】筋肉細胞については、その長さや直径が増
加するだけでなく、筋肉の収縮機能増加を示すクレアチ
ンリン酸化酵素の活性が上昇する。
【0046】以上要するに、 (1)従来のような細胞培養
法を用いた時には殆ど観察されない現象が、本発明素子
を用いると観察されること、 (2)かかる現象は、細胞の
機能が非常に分化したことを示すと共に、生体内で働い
ている状態に近付いていることを示すものと考えられ
る。
【0047】本発明方法に用いる素子は、従来公知の手
法、すなわち単に培養容器、医療器材等の表面に成長誘
引性の化学物質を塗布したり、熱や放電によって加工す
るのではなく、素子表面に特定の細条溝構造の機械的ま
たは化学的加工を施すものであるから、加工技術も比較
的簡単容易であり、また大量生産も可能であるのみなら
ず、安定した作用、特性を長期間維持することができ
る。
【0048】また、従来の方法の一つとして、生体組織
及び細胞での電場による電界方向への成長誘引も知られ
ているが、この方法では電場の生体組織に与える影響が
十分解明されていない等の問題があった。本発明に適用
される素子は、これらの解明の一助をなす素子として利
用されるとともに、その特性をセルソーターとしても利
用出来る。
【0049】とりわけ、この素子は、その細胞選択性並
びに細胞配列制御性に特に優れており、特異な細胞配列
の必要な臓器、器官に留置する医用器材の素子たりう
る。すなわち、従来、生体中に長時間埋めこむことを意
図した医療用器材は、生体の、いわゆる防御反応を下げ
る事を狙い、材質や形状の改良に主力がそそがれてきて
いた。しかし本発明にかかる素子は、表面加工の方法に
よって、特異な細胞群に特異な調和性を持たせるととも
に、素子表面に細胞の配列を制御する特異な細胞選択性
を持っているため、その性質を利用して、各種の医療用
機材の表面被覆用の素子として利用出来る。とりわけ結
合組織細胞との反応性、親和性が高いので、素子の材質
と、溝加工の工夫により、生体防御反応の低い特性を持
つ医療用器材として応用できる。
【0050】以上説明したように、本発明は、化学物質
や電場を用いた場合に考えられる様な問題点がなく、簡
便にかつ確実に所望の方向に生体組織及び細胞を育成で
きるという利点がある。従って、本発明は特異的なシナ
プス形成等のバイオテクノロジーや損傷の治癒促進等の
医療、細胞からの物質を抽出する新しい方法を提供する
等、物質生産にも応用できるものである。
【0051】特に強調しておきたいのは、本発明が、培
養容器材質、大きさ、形状等に制限されず、従来進めら
れていた素材の材質、形状の改良を損なうことなく、巨
視的形状を変えることなく、むしろ、従来技術のうえ
に、付け加わる技術として利用されるということであ
る。本発明による、微細な表面加工により、現有の培養
容器、医療用器材に、それまでになかった性質であると
ころの細胞選択性や、細胞増殖制御性がくわわり、一層
性能が高まると考えられる。さらに、本発明に適用する
素子は、その元の材質にあまり規定されず、一種類ない
しは多種類の材質よりなる容器、器材に適応が可能であ
り、従来考えられなかった性質をもつ新たな容器、医療
用器材が生まれる可能性が高く、下記の用途において将
来性が期待される画期的発明といえる。
【0052】 1) 人工臓器、生体内に留置する医用器材。とりわけ
人工血管、人工心臓、ペースメーカーの表面素子とし
て。また、神経縫合、移植用の材料、素子として。 2) バイオチップ、バイオコンピューター。 3) 細胞分離装置 (セルソーター)、細胞クローン化装
置 4) 臓器移植、脳、神経移植用器材
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明方法により人工素子上に生体細胞
が成長する状態を説明する拡大斜視図である。
【図2】図2は本発明方法により人工素子上に生体細胞
が成長する状態を説明する平面図である。
【図3】図3は本発明方法により人工素子上に生体細胞
が成長する状態を説明する斜視図である。
【図4】図4は本発明方法に適用する人工素子を製作す
る方法を説明するための概要側面図である。
【図5】図5は本発明方法に適用する人工素子の別の具
体例を製作する方法を説明するための斜視図である。
【図6】図6は本発明方法に適用する人工素子の更に別
の具体例を製作する方法を説明するための斜視図であ
る。
【図7】図7は本発明方法に適用する人工素子上に神経
突起が再生する状態を示す顕微鏡写真より写生した図で
ある。
【図8】図8は従来公知の人工素子上に神経突起が再生
する状態を示す顕微鏡写真より写生した図である。
【図9】図9は本発明方法の効果を示すための顕微鏡写
真より写生した図である。
【図10】図10は本発明方法の効果を示すための顕微鏡
写真より写生した図である。
【符号の説明】
1 ガラス板 1′プラスチック繊維 2 微細条溝 3 畝 4 原型 4′原型 4″原型 5 レプリカ

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 幅約0.1 〜1000μm 、深さ約0.1 〜1000
    μm の寸法を有する互いに実質的に平行な多数の細条溝
    を刻設した表面を具えてなる人工素子の上記表面を、結
    合組織、神経細胞、グリア細胞、シュワン細胞、皮膚細
    胞、筋肉細胞、腎臓細胞および肝臓細胞よりなる群から
    選ばれる生体細胞または生体組織に接触せしめることを
    特徴とする生体細胞の成長並びに機能分化の促進・制御
    方法。
  2. 【請求項2】 細条溝表面に更に生活活性物質を被着し
    た請求項1記載の方法。
  3. 【請求項3】 生活活性物質がコラーゲン、ポリ−L−
    リシン、ポリ−L−オルニチン、ラミニン、フィブロネ
    クチン、チックプラズマ、人工脂質膜(LB膜等)、神経
    成長因子よりなる群から選ばれる請求項1または2記載
    の方法。
  4. 【請求項4】 前記人工素子が石英ガラス、硬質ガラ
    ス、軟質ガラス、有機高分子材料、金属、セラミック
    ス、シリコーンゴム、半導体よりなる群から選ばれた少
    なくとも一種の物質を含んでなる請求項1、2または3
    記載の方法。
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