JPH0657462A - ステンレス鋼酸洗処理後の粒界腐食防止方法 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】 粒界鋭敏化したステンレス鋼においても粒界
腐食のない良好な表面性状を安定的に達成する。 【構成】 ステンレス鋼の連続酸洗処理工程において鋼
帯の表面に付着した酸洗生成物や付着液を除去するため
のスクラバーにおいて、付着液や汚染物質の混入により
洗浄水が劣化（酸性法、Ｃｌ^- 濃度Ｕｐ）することに対
して、ｐＨ≧２，Ｃｌ^- ≦１０^-2mol/ｌに洗浄液を管理
することにより、洗浄水劣化時のスクラバー内での粒界
腐食発生を回避する。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、酸洗処理後のステンレ
ス鋼の表面で発生し易い粒界腐食の防止方法に関するも
のである。

【０００２】

【従来の技術】ステンレス鋼帯はその製造過程で圧延、
焼鈍を繰り返しながら製造されるが、その際生成した酸
化スケールは緻密で強固なＣｒ₂ Ｏ₃ あるいはＦｅＯ・
Ｃｒ₂Ｏ₃ より成る皮膜として鋼帯表面を覆っている。
そのため、連続酸洗ラインあるいは連続焼鈍ラインに組
み込まれた酸洗処理装置では、酸化スケールを除去する
ために、通常ショットブラスト、溶融アルカリ塩浸漬あ
るいは中性塩電解法等の機械的あるいは化学的な予備的
脱スケールと酸洗処理を組み合わせる方法が採用されて
いる。従来、ステンレス鋼の酸洗液には、鋼種に応じて
塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸の水溶液あるいはそれらの混
酸の水溶液を使用されている。

【０００３】ところが酸洗処理後の鋼板の表面にはＦ
ｅ，Ｃｒ，Ｎｉ等を溶解した金属の水酸化物を主体とす
るスマットと呼ばれる酸洗生成物に覆われ、また、さら
にその上に酸洗液が付着している。付着したスマットや
酸洗液が乾燥すると鋼板の表面が黒っぽくなり、また付
着した酸洗液によって鋼板表面の一部が溶かされて酸洗
後の鋼板の表面外観を著しく悪化するため、酸洗処理完
了後直ちにスクラバーにて洗浄水をかけながらブラッシ
ングすることが不可欠な製造条件となっている。

【０００４】ステンレス鋼は、１３％以上のＣｒを含有
することによってその表面に強固な不動態皮膜を形成
し、高い耐蝕性を発揮する鋼種であるが、その製造過程
において結晶粒界部でＣｒ濃度が低くなる粒界鋭敏化と
呼ばれる現象が起こる。これは、粒界部にてＣｒ
₂₃Ｃ₆ ，Ｃｒ_n Ｆｅ_23-nＣ₆ 等のクロム炭化物の形成に
Ｃｒが消費される際に、結晶粒内から粒界部へのＣｒの
拡散が遅いために、粒界部のＣｒ濃度が低下したＣｒ欠
乏層と呼ばれる領域が形成される現象である。例えば代
表的なＣｒ系ステンレスのＳＵＳ４３０においては結晶
粒内のＣｒ濃度１７％に対して粒界部のＣｒ濃度は７〜
８％程度にまで低下する。その結果、粒界部では充分な
不動態皮膜を形成することができなくなり、前述したよ
うな酸洗処理を施す際に、耐蝕性の低い結晶粒界部のみ
が選択的に溶解され、粒界腐食と呼ばれる欠陥を生じ
る。その対策として、酸洗液には溶削速度のＣｒ濃度依
存性が無い溶液、すなわち、粒界Ｃｒ欠乏層の選択的溶
解を起こさない溶液が適用されている。

【０００５】従来、粒界Ｃｒ欠乏層の選択的溶解による
粒界腐食の防止に関しては酸洗中の粒界腐食発生が重視
されて酸洗液条件（組成、液温）の適正化のみが検討さ
れてきたが、スクラバーの中で発生する粒界腐食の防止
方法については全く検討がなされていなかった。

【０００６】

【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の事情
に鑑み、連続酸洗ラインのスクラバーにおいて発生する
粒界腐食を防止し粒界腐食のない良好な表面性状を安定
して製造するステンレス鋼の酸洗処理法を提供すること
を目的とするものである。

【０００７】

【課題を解決するための手段】その要旨は、連続酸洗処
理工程で酸洗処理してステンレス鋼の表面に付着した酸
洗生成物や酸洗液を、スクラバーにおいてｐＨ：２以上
の洗浄水またはＣｌ^-濃度：１０^-2mol/ｌ以下の洗浄水
あるいはこれらの混合洗浄水を浸漬しながらかつブラッ
シングし除去するステンレス鋼酸洗処理後の粒界腐食防
止方法である。

【０００８】以下、本発明について詳細に説明する。金
属の溶解反応は、（１），（２）式に示すように、金属
がイオン化する際に生じる電子を（２）式に示す水素発
生反応が消費することによって起こる。したがって、液
中の水素濃度が高くなる、すなわち洗浄水が酸性化した
場合はスクラバー内でも鋼板の溶解が起こる。すなわ
ち、鋼板に付着してドラッグアウトした酸洗液が洗浄水
に混入してスクラバー洗浄水が酸性化した場合あるいは
そのスクラバー洗浄水を循環使用して酸性化が助長され
た場合にも、溶削速度が小さいながらも鋼板の溶解が起
こる。

【０００９】 Ｍ→Ｍⁿ⁺＋ｎｅ^- （Ｍ＝Ｆｅ，Ｃｒ，Ｎｉ ｅｔｃ） （１） ２Ｈ⁺ ＋２ｅ^- →Ｈ₂ （２） 一方、Ｃｌ^- ，Ｆ^- 等のハロゲンイオンはステンレス鋼
の不動態皮膜を破壊する作用があり、ハロゲンイオン濃
度が腐食の形態および腐食速度に大きな影響をおよぼ
す。したがって、塩酸系の酸洗液を使用する際のドラッ
グアウトした酸洗液の混入あるいは水処理過程における
異物混入等によって洗浄水への酸の混入による酸性化お
よびハロゲンイオンの洗浄水への混入が起こった時、そ
れが腐食形態に大きく影響する。

【００１０】図１は硫酸水溶液に少量の塩酸を添加した
液中のｐＨとＣｌ^- 濃度を変えた場合における粒界腐食
発生の有無を示すが、ｐＨ条件、Ｃｌ^- 濃度を制御する
ことによって粒界腐食の発生は認められない。したがっ
て、スクラバーの洗浄水もｐＨ条件、Ｃｌ^- 濃度条件を
決定することにより粒界腐食の発生を回避できるが、ｐ
Ｈ０以下の強酸性条件においてはスクラバー内にて後半
の溶解（＝酸洗）が起こることが懸念され、工業的に実
施することは望ましくない。

【００１１】しかるに本発明は、連続酸洗処理工程で酸
洗処理して酸洗生成物や酸洗液を付着したステンレス鋼
の表面に上記した洗浄水に浸漬（該洗浄水を噴射）しな
がらかつブラッシングし、酸洗生成物等を除去し、ステ
ンレス鋼表面の粒界腐食を防止する。

【００１２】

【実施例】次に本発明の実施例について説明する。 （実施例１）ＳＵＳ４３０熱間圧延板を３段の連続酸洗
槽を通して塩酸浸漬酸洗処理において、第３槽の塩酸濃
度が１００ｇ／ｌ（→比重１０４０ｇ／ｌ）、鋼板に付
着した酸洗液のドラッグアウト量が１０ｇ／ｍ² 片面、
通板速度５０ｍ/min、板幅１ｍの場合に、単位時間当た
りの塩酸持ち出し量が（５０ｍ/min）×（１ｍ）×（１
０ｇ／ｍ² 片面）×（２面）／（１０４０ｇ／ｌ）×１
００ｇ／ｌとなり、約９６ｇ/minで、これは約２．６４
mol/min に相当する。そこで、鋼板上での塩酸濃度を１
×１０^-2mol/ｌ以下とするために、（２．６４mol/min)
／（１×１０^-2mol/l)＝２６４ l/min以上の洗浄水を使
用して酸性化を抑制した洗浄水をステンレス鋼板に噴射
しながらスクラバーで洗浄した結果、洗浄水の劣化に起
因した粒界腐食発生のない平滑な表面性状のステンレス
鋼板を安定的に得ることができた。

【００１３】（実施例２）ＳＵＳ４３０熱間圧延板を３
段の連続酸洗槽を通す硫酸浸漬処理において、陰イオン
交換樹脂筒を通過させてＣｌ^- を除去した水をスクラバ
ー洗浄水を供給したところ、洗浄水の劣化起因に起因し
た粒界腐食発生のない平滑な表面性状をもつステンレス
鋼板を安定的に得ることができた。

【００１４】（実施例３）ＳＵＳ３０４熱間圧延板をス
プレー酸洗装置を用いた塩酸・硝酸スプレー酸洗処理に
おいて、酸洗後の鋼板を洗浄するスクラバー内で水に水
酸化ナトリウム溶液を添加してｐＨを８±１の弱アルカ
リ性に維持して酸性化を防止した洗浄水を鋼板に噴射し
ながら洗浄した結果、洗浄水の劣化起因に起因した粒界
腐食発生のない平滑な表面性状を安定的に得ることがで
きた。

【００１５】

【発明の効果】本発明によって連続酸洗処理設備におい
て酸洗後の鋼板表面のスマットや付着酸を除去するため
のスクラバー内にて発生する粒界腐食を防止し、粒界腐
食のない平滑な酸洗表面を安定的に得ることが可能とな
る。

【図面の簡単な説明】

【図１】ｐＨとＣｌ^- 濃度を変えた硫酸−塩酸水溶液が
ステンレス鋼の粒界腐食に及ぼす影響を示す。

Claims (1)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 連続酸洗処理工程で酸洗処理してステン
   レス鋼の表面に付着した酸洗生成物や酸洗液を、スクラ
   バーにおいてｐＨ：２以上の洗浄水またはＣｌ^- 濃度：
   １０^-2mol/ｌ以下の洗浄水あるいはこれらの混合洗浄水
   を浸漬しながらかつブラッシングし除去することを特徴
   とするステンレス鋼酸洗処理後の粒界腐食防止方法。