JPH065092B2 - 粘性せん断抵抗を利用した塔状構造物用振動減衰装置 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】 イ．発明の目的 〔産業上の利用分野〕 この発明は、地震動・風等の強制外力により塔状構造物
に生ずる振動を吸収する塔状構造物用振動減衰装置に関
し、更に詳しくは、粘性せん断抵抗を利用する塔状構造
物用振動減衰装置に関する。

〔発明の背景〕

高層タワー、展望塔等の塔状構造物は振動エネルギーが
大きいことに加え、固有周期が大きく、振幅が大きいと
いう振動特性を有する。このため当該構造物の振動特性
を改善するため、振動減衰装置が付加される。

この場合における該減衰装置として、ストロークが大
きい（±１ｍ程度）こと、大きな振動エネルギーに対
処できるとともに減衰特性が良好なこと、長期間の使
用の耐久性に優れること、等が要請される。

従来の油圧式ピストン・シリンダー式減衰装置（以下単
に油圧式ダンパーという）は減衰特性は良好であるもの
の、ストロークを大きくすることにより種々の技術的困
難が生ずる。

すなわち、該油圧式ダンパーはケーシングと加力用ロッ
ドと圧力を発生するためのピストンとからなり、加力用
ロッド及びケーシングは所要のストロークに応じ決定さ
れるものであるが、大ストロークになるとロッドはもと
よりケーシング自体も長大なものとなり、ロッドの圧縮
座屈強度の問題やケーシング内面の加工性に問題が生じ
る。この他、従来よりシール損傷による性能信頼性に欠
け、頻繁な維持管理（保守）が必要とされることにな
る。

〔発明が解決しようとする課題〕

そこで、本発明はこの種の構造物用減衰装置において、
振動減衰特性が良好な粘性せん断型の減衰装置に着目
し、該粘性せん断抵抗力を発生させる部位を回転型とす
ることによりストロークの大きさに制限を受けない機構
とし、また、ストロークの大きさに関してはラックとピ
ニオンとの連動機構を採用してストロークの大きさに如
何ようにも対応できるものとしたものである。

具体的には、大きな振動エネルギーを効果的に吸収で
き、振幅の大きさに対して随意に対応でき、この種の減
衰装置の小型化を達成することを目的とする。

更には、シール部を廃することもその目的の一つとす
る。

ロ．発明の構成 〔課題を解決するための手段〕 本発明は具体的には、次の構成を採る。

すなわち、強制振動力を受けて大周期・大振幅をもって
振動する塔状構造物としての大質量体の被緩衝体と、該
被緩衝体に水平方向への相対変位可能に設置される小質
量体の緩衝作用体との間に介装される振動減衰装置であ
って、前記緩衝作用体とともに移動する固定体ケーシン
グは、内側面が円周壁面を有する外筒と、底板と、外側
面が円周壁面の円柱状の固定体とからなり、前記外筒の
内側面と固定体の外側面とにより所要間隔を保って上方
に向けて開放する環状空間が形成され、回転体は、回転
軸部と該回転軸部に一体的に固定された抵抗板部とから
なり、前記回転軸部はその上部を固定体ケーシングの上
端よりも突出されるとともに前記固定体上の中心位置に
軸受を介して回転自在に支持され、前記抵抗板部は前記
環状空間内の所要の間隔を保って配され、前記環状空間
内には粘性体が自由液面を保って充填され、前記回転体
の回転軸部の上部にはピニオンが固定され、前記ピニオ
ンに噛合するラック部材は水平長手方向に延設され、そ
の適宜位置において被緩衝体に取り付けられてなる、こ
とを特徴とする。

上記構成において、粘性体としては、通常の粘性体、例
えばシリコン油の外に、特に減衰特性の向上を図るべく
高粘度の粘性体、例えばポリイソブチレン、ポリプロピ
レン、ポリブテンなどの高分子粘性体、あるいはアスフ
ァルトなどが使用される。

本装置は被緩衝体に対しては相対運動自在に取り付けら
れ、そのラック部材を被衝撃体に固定（ピン結合もしく
は剛結合）して取り付けられる。

〔作用〕

被緩衝体は地震動、風等の外力を受けて振動を始める。
該外力が小さければ被緩衝体の振幅は小さいが、外力が
大きくなれば振幅は次第に大きなものとなる。

被緩衝体の振動はラック部材に伝えられ、ラック部材以
外の本装置の部分は被緩衝体とは相対的変位が自由な状
態となっているので、ラックとピニオンとの間に噛み合
い運動が起こる。

ラックの直進運動はピニオンにより回転運動に変換さ
れ、ピニオンを固定する回転体の回転軸部ひいては抵抗
板部を回転させる。

ケーシングは固定されているので、該回転軸部の回転に
より該ケーシングの外筒及び固定体と抵抗板部との間に
相対運動が生じ、また、外筒の内面と抵抗板部との外
面、固定体の外面と抵抗板部の内面の対抗面間には粘性
体が充填されているから、二面間の相対運動によって当
該部位が抵抗力（せん断力すなわち粘性せん断抵抗）が
発生する。

従って、回転する抵抗板部は抵抗力を受け、これに連結
された回転軸部・ピニオンひいてはラック部材が制動力
を受け、被緩衝体の振動を止める。

なお、粘性せん断抵抗は間隙に反比例し、流体の浸って
いる部分の面積及び２面の相対速度に正比例するから、
流体の浸っている部分の面積や相対速度が大きいほど、
そして環状空間の間隔は小さいほど大きな制動力を得る
ことができる。

粘性体は自由液面を有するので、抵抗力の発生に伴う内
圧の高まりは生じない。

そして、粘性体に高粘度の高分子粘性体を用いるとき、
この傾向は一層顕著になる。すなわち、この粘性体は非
ニュートン流体特性、即ち擬塑性流体特性（流体の速度
が大きくなる程高粘度から低粘度に変化して流動し易く
なり、抵抗力の増加の度合が小さくなる現象。）を示
し、振動する構造物に対し、効果的な減衰特性を発揮す
ることになる。

〔実施例〕

本発明の塔状構造物用振動減衰装置の実施例を図面に基
づいて説明する。

第１図〜第４図はその一実施例の塔状構造物用振動減衰
装置Ｈを示す。

ここに、１は円筒形の固定体ケーシングであって、外筒
２、底板３及び固定体（ステーターともいう）４からな
る。

外筒２は円筒体をなし、その上面にはフランジ２ａが形
成されている。該外筒２の内側面２ｂは円周壁面を形成
する。該外筒２は少なくとも内側面２ｂが滑らかな円周
壁面であればよく、外面はどのような形状であってもよ
い。

底板３の四隅には取付け孔３ａが穿設されている。

固定体４は円柱体をなし、その外側面４ａは円周壁面に
形成され、上面４ｂは水平面に形成されるとともにその
中心部には凹部５が形成されている。該固定体４は本実
施例では中実の態様を採るが、中空の態様を採ることは
自由である。

６は外筒２の円周内壁面２ｂと固定体４の円周外壁面４
ａとの間に形成された環状空間である。該環状空間６は
上方へ向けて開放されている。

７は回転体（ローターともいう）であって、回転軸部８
と抵抗板部９とからなる。

回転軸部８はその下端部を固定体４の凹部５内に軸受１
０を介して鉛直に建て込まれ、該回転軸部８の上部はケ
ーシング１の上方に突出しピニオン取付け部を形成す
る。

抵抗板部９は回転軸部８の中間位置に水平に固設された
円盤状の水平面板９Ａと該水平面板９Ａから下方に垂設
された円筒状の垂直面板９Ｂとからなる。水平面板９Ａ
は固定体ケーシング１の固定体４の上面４ｂより所要の
間隔を保って配され、垂直面板９Ｂは固定体ケーシング
１の環状空間６の中間位置に配される。

なお、９ａは水平面板９Ａの外面、９ｂはその内面、９
ｃは垂直面板９Ｂの外面、９ｄはその内面である。

１２はケーシング１の上部を覆う蓋体である。該蓋体１
２の中央には軸受１３を抱持する孔１２ａが設けられ、
該軸受１３は回転体７の回転軸部８を軸支する。該蓋体
１２には後記するラックフォロアー及びラック受けベア
リングを載置するマウント１２ｂが一体的に固設されて
いる。

Ｌは固定体ケーシング１内に自由液面をもって充填され
た粘性体である。該粘性体Ｌは少なくとも回転体７の水
平面板９Ａの上面９ａに一致する位置まで充填される。

しかして、固定体ケーシング１内には外筒２の内側面２
ａと垂直面板９Ｂの外面９ｃとの対向面、固定体４の外
側面４ａと垂直面板９Ｂの内面９ｂとの対向面、固定体
４の上面４ｂと水平面板９Ａの内面９ｂとの対向面及び
それらの対向面間に介在する粘性体Ｌとで「粘性せん断
抵抗発生部」が構成される。

１５はピニオンであって、回転体７の回転軸部８の上部
に取り付けられる。該ピニオン１５と回転軸部８との取
付けは本実施例図示のキー１６による他、スプライン係
合その他の適宜固定手段を採りうるものである。１５ａ
はピニオンの歯部である。

２０はラック部材（軸方向移動部材）であってラック２
１とラック保持部材（アングル）２２とからなる。ラッ
ク２１はその一側面にピニオン１５の歯部１５ａに噛合
する歯部２１ａを有する。アングル２２はラック２１を
保持して、ボルト・ナットあるいは溶接等によりラック
２１を固定する。

２４はラックフォロアーであって、回転固定軸２４ａと
ローター２４ｂとからなる。回転固定軸２４ａは蓋１２
のマウント１２ｂに植設され、また、ローター２４ｂは
該固定軸２４ａに対して回転自由とされるとともにラッ
ク部材２０のアングル２２の側面２２ａに当接される。
しかして、該ラックフォロアー２４はピニオン１５とラ
ック２１とのかみ合い運動によって生ずるラック部材２
０の軸直角方向への反力に対抗し、両者のかみ合いを保
持する機能を果す。

２６はラック受けベアリングであって、蓋１２のマウン
ト１２ｂに設置され、ラック２１の下面に当接され、ラ
ック部材２０を滑動自在に支持する。

２８はラック部材２０の端部に配された被緩衝構造物と
の連結を図るラック取付け部材である。該ラック取付け
部材２８はアングル部材よりなり、その一辺をラック部
材２０にボルト・ナットをもって固定され、他の一辺を
被緩衝構造物に連結されている梁部材Ｉにボルト・ナッ
トにより固定される。

梁部材Ｉはラック部材２０の上方位置に配され、本装置
Ｈと該梁部材Ｉとの相対移動においても両者は衝突する
ことがないように配慮される。

本実施例装置の設置の態様を示す。

本装置Ｈの固定ケーシング１側はその底板３を介して緩
衝作用体（小質量体）に載置され固定される。ラック部
材２０の端部はラック取付け部材２８を介して被緩衝体
（大質量体）に連結（剛結合又はピン結合）される。緩
衝作用体は被緩衝体の上に可動支承を介して相対的運動
可能に載置されている。

次に、本実施例装置Ｈの作用について述べる。

今、被緩衝体に地震、風その他の原因による変位を惹起
する外力が加わったとすると、ラック部材２０は被緩衝
体と同じ方向に変位する。該被緩衝体と本装置Ｈとは相
対変位可能な関係となっているので、ラック部材２０と
ピニオン１５との間に相対的運動が生じ、ラック部材２
０の直進運動はピニオン１５により回転運動に変換され
る。

ピニオン１５の回転はそのまま回転体（ローター）７の
回転になるが、固定体ケーシング１は停止しているので
両者（回転体７と固定体ケーシング１）の対向面間（９
ｂと４ｂ、２ｂと９ｃ、９ｄと４ａ）に相対的運動が生
じる。

そして、これらの対向面間には粘性体Ｌが充填されてい
るので、二面間に当該相対運動によって抵抗力（粘性せ
ん断抵抗）が発生し、回転体７は該抵抗力を受けてピニ
オン１５を介してラック部材２０に制動力を与える。

粘性体Ｌは自由液面を有するので、抵抗力の発生に伴う
内圧の高まりは生じない。

ラック部材２０への制動はそのまま被緩衝体の運動を減
衰させる。

次いで、被緩衝体が逆方向に変位すれば、逆の関係によ
り該緩衝体は逆方向に減衰力を受けることになる。

第５図に展望塔における本装置による振動特性を示す。

第５図(ａ)は展望塔に本装置を設置した一態様図であ
る。

ここに、Ｊは展望塔、Ｊ１はその展望室であって、被緩
衝体（大質量体）に対応する。Ｋは展望室Ｊ１の上部に
載置された緩衝体（小質量体）であって、本装置Ｈはこ
の緩衝体に組み込まれたものか、あるいは該緩衝体その
ものである。Ｅは地盤である。

該緩衝体Ｋは展望室Ｊ１上に可動支承Ｎをもって被緩衝
体と相対運動自在に載置されるとともに、そのラック部
材を展望塔Ｊに連結させる。

第５図(ｂ)はこの展望塔における振動系のモデル（模型
図）を示す。ここに、Ｍは展望塔本体の大質量体の質量
であり、k1は該大質量体のばね定数、c1は該大質量体の
粘性抵抗係数、ｍは展望塔に設置された緩衝体すなわち
小質量体の質量であり、k2は該小質量体のばね定数、c2
は該小質量体の粘性抵抗係数、である。

小質量体ｍすなわち緩衝体Ｋの粘性抵抗係数c2は本発明
装置による付加された粘性抵抗であって、この粘性抵抗
の増大により本装置を設置した構造物の振動特性は著し
く改善されるものである。

本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明
の基本的技術思想の範囲内で種々設計変更が可能であ
る。すなわち、以下の態様は本発明の技術的範囲内に包
含されるものである。

垂直面板９Ｂを複数とし、これらを同心状に配する
とともに、該垂直面板９Ｂ間には固定ケーシング１に固
設された中間筒３０を介在させる態様（第６図参照）。

１本のラック部材２０に複数の本装置を配する態様
（第７図参照）。該態様によれば、個々の本減衰装置の
容量を増大することなく、被緩衝体の大型化に対処する
ことができる。

第７図(ａ)はラック部材２０の同一側に本装置Ｈ１，Ｈ
２，Ｈ３を配したもの、第７図(ｂ)はラック部材２０の
両側に本装置Ｈ４，Ｈ５，Ｈ６を配したものを示す。

ハ．発明の効果 本発明の塔状構造物用振動減衰装置は、上記構成よりな
り、作用を奏するものであるので、以下の特有の効果を
有する。

ラック部材の直進変位はピニオンにより回転体（ロ
ーター）の回転変位に変換され、機構的に連動するもの
であるが、回転体の大きさを決める要因は被緩衝体ひい
てはラック部材のストロークとは無関係であり、このた
め、回転体ひいては粘性せん断抵抗発生部の寸法設計の
幅が大きくなる。換言すれば、回転体等の小型化を達成
することができる。

ストロークの長大化に対してはラック部材の延長で
対処でき、油圧式ダンパーの欠点である装置全体の大型
化を回避することができる。

粘性体に抵抗力を発生させても粘性体は自由液面を
有し、該粘性体内部の圧力が高まらないことから、従来
の油圧式ダンパーに必要とするシール材が不要となり、
かつ、それらの損傷に起因する性能の低下がない。

【図面の簡単な説明】

図面は本発明の塔状構造物用振動減衰装置の実施例を示
し、第１図はその一実施例の一部断面側面図（第３図の
Ｉ−Ｉ線断面図）、第２図は第１図のII方向矢視図、第
３図は第２図のIII-III線断面図、第４図はラック部材
端部の取付け構造の一例を示す取付け説明図（第３図の
IV−IV線断面図）、第５図(a)(b)は本発明の振動減衰装
置の適用例を示す展望塔の概略図及びその振動モデル
図、第６図は本発明装置の他の実施例を示し、第７図
(a)(b)は本発明装置の配設態様の変形例を示す。 １…固定体ケーシング、２…外筒、３…底板、４…固定
体、６…環状空間、７…回転体、８…回転軸部、９…抵
抗板部、１２…蓋体、１５…ピニオン、２０…ラック部
材、Ｌ…粘性体。

Claims (3)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】強制振動力を受けて大周期・大振幅をもっ
   て振動する塔状構造物としての大質量体の被緩衝体と、
   該被緩衝体に水平方向への相対変位可能に設置される小
   質量体の緩衝作用体との間に介装される振動減衰装置で
   あって、 前記緩衝作用体とともに移動する固定体ケーシングは、
   内側面が円周壁面を有する外筒と、底板と、外側面が円
   周壁面の円柱状の固定体とからなり、 前記外筒の内側面と固定体の外側面とにより所要間隔を
   保って上方に向けて開放する環状空間が形成され、 回転体は、回転軸部と該回転軸部に一体的に固定された
   抵抗板部とからなり、 前記回転軸部はその上部を固定体ケーシングの上端より
   も突出されるとともに前記固定体上の中心位置に軸受を
   介して回転自在に支持され、 前記抵抗板部は前記環状空間内に所要の間隔を保って配
   され、 前記環状空間内には粘性体が自由液面を保って充填さ
   れ、 前記回転体の回転軸部の上部にはピニオンが固定され、 前記ピニオンに噛合するラック部材は水平長手方向に延
   設され、その適宜位置において被緩衝体に取り付けられ
   てなる、 ことを特徴とする塔状構造物用振動減衰装置。
2. 【請求項２】抵抗板部は回転軸部に固設される円盤状の
   水平面板と該水平面板より垂設される円筒状の垂直面板
   とからなり、前記水平面板は固定体の上面より所要間隔
   を存して配され、垂直面板は環状空間内に配されてなる
   特許請求の範囲第１項に記載の振動減衰装置。
3. 【請求項３】複数の垂直面板が同心状に水平面板の下部
   に配され、垂直面板間には固定体ケーシングに固設され
   る中間筒が配されてなる特許請求の範囲第２項に記載の
   振動減衰装置。